ゾンビ娘「レイ○されました」賢者「人聞きの悪いこと言わないで…」(33)


  ※ 前スレ

    ゾンビ娘「レイ○されました」賢者「人聞きの悪いこと言わないで」
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    収まりきらなかった。


  夢を見ていた。

  誰かが見るはずだった、誰かが見ていた、そんな夢を。

  少し前、赤色に沈めた意識の中で見た、小さくて愛しい……迷子の夢。

   ――――
      ―――
       ―‐――――

ゾンビ娘「ここは……?」

  いったいどこだろう。

  どこかの森の中?
 淀みなく流れる小川の、その分水嶺の上に私は立っている。

  雰囲気だけで言えば、
 ■■様と再会した日に見た夢と似ている。

  けれど、こんな風景を見たことは無い。

  生物の姿を探して辺りを見回すと、
 ちょうど自分の真後ろに、人の姿があった。

  「………」

  誰だろう? 枝分かれした小川のその畔で、小さな子が足を抱えて泣いていた。


  思わず、私は声をかけた。

ゾンビ娘「……どうしたんですか?」


  「………………。 ――…っ、……」

  私の声に反応したその子は、濡れた瞳を精一杯見開いた。
 驚いたように固まって、動かずに私の顔を覗き込むその顔は、幼い。

  しかし、それはきっと彼なんだと、私は確信できた。


ゾンビ娘「どうして、泣いているんですか?」

  幼子に問い掛けるように、私は目線を合わせる。

  「      」

  対する彼は、無音を口にした。

  言葉が、私に届かない。

  けれど、なんと言っているのか、
 何を零したのか、解ったような気がする。

  「どうして……」と、顔を歪め……――その目から自身の弱さをさらけ出した。


  「    ッ      っ!!    、          っっ!?
      っ   っ              、        っ!!?」


  彼は、ただ泣いていた。

  想いの丈を全て、吐き出していた。
 嘘を吐き続けていたその口から、本心を吐き出していた。


  何を言っているのか聞こえるはずが無いのに、不思議と泣き声だけは聞こえていた。

  「もういやだ」「疲れたんだ」って。

  輪郭が定まらない酷く曖昧な身体で。年相応の高い声で泣いている。
 自信が無く、自身が無いその声は、彼の姿に比例するように弱々しく、そして儚げだった。


ゾンビ娘「ねぇ、■■様……」

  流れ出る彼の弱さに、そっと手を添える。
 彼の泣いた顔なんて、初めて見たような気がする……。

ゾンビ娘「あなたは私に、全部を見せてくれていたわけじゃ、ないんですね……」


  ……ごめんなさい。

  私は何の根拠も無いのに、あなたが強い人だなんて、勘違いしていた。


  どうして今まで、そんな勘違いを抱えたまま平然としていられたのだろう。

  自身を省みた羞恥で、身体が火照る。

  けれど、指先に触れる雫はそれ以上に熱く、
 添えた掌が「君との約束を守りたかった」と呟く彼の言葉を支えた。

ゾンビ娘「……はい」


  私を支え続けた別れ際の一言が、私という存在が、彼を苦しめていた。
 始まりはきっと私にあって、終わりもまた、私にあった。それが彼をここまで弱らせた。

  だから私には、何も言う権利なんて―――。

  そう、私は思っていたはずなのに…。



  「こんなに苦しいなら……あんな約束、しなければよかった……」



           ――― ぺちっ

  気がついたら、彼の弱さを受け止めていた手が、彼の頬を打ち付けていた。

ゾンビ娘「…ぇ、あ……」


  一度手を上げてしまうと、自分では止めることができない。

  頬を、腕を、胸を。何度も叩いては、次第に力が抜けていく。
 弱々しい力で叩き続けて、その場へ押し倒した彼に馬乗りになる。


ゾンビ娘「…ぁ……?」

  そこまでして、最も致命的な力が抜けた。
 視界が歪んで、彼の身体に雫が跳ねる。咄嗟に顔を覆っても、既に見られていた。


  小さな夢の空間で、二人の子供が泣いている。


  辛いからじゃない。
  苦しいからじゃない。
  私が悲しんでいいわけでもない。

  それでも。どうしても。


ゾンビ娘(私が人として生きる時間をくれた言葉を、否定して欲しくなかった……!)


  すすり泣くことしか出来なくて、溢れる涙をひたすらに隠し続けた。

  2人の涙が混ざり合って、分水嶺を流れていく。
 涙が新しい流れになるまで、2人の子供はずっと泣き続けていた。










           ―――ス…


ゾンビ娘「……?」

  「………」

  ふと、彼の手が私の髪を梳る。
 その左肩に、私のつけた花が咲いているのが見えた。

  途端に、こんな時でも慰められてばかりの自分を情けなく思う。


ゾンビ娘(どうして私はいつも、■■様から貰ってばかりなんでしょう……)


  失くした記憶の代わりも、この気持ちも。
 みんなみんな、何もかもが■■様から私に教えてくれたもの……。

  この命だって、いったいいくつ貰ったのか、今更数え切れない。


ゾンビ娘「ねぇ、■■様? 私は、貴方に何が返せますか……?」

  もちろん私の問いが届いていることなんて無いのでしょう。
 これまでも、そして今も、彼はちぐはぐな答えを用意している。


  彼は、「自身が無い、不甲斐ない足取りでも、自分の足で歩んでみる」と言った。


ゾンビ娘(だったら、私に出来ることはただ一つ)


  歩みを続けるその横で、精一杯勇気付けよう。
 「がんばれ」じゃ味気なくて、きっとそれだけでは物足りない。

  足取りが覚束ないなら寄り添おう。自信が無いなら背中を押そう。

  そして最後に―――


ゾンビ娘「自身が無いなら、名前を呼んであげます」



  あなたの、名前は―――

―――――――
―――――
―――


ゾンビ娘「" アルト "」


賢者「それ、は……?」

ゾンビ娘「なんて顔してるんですか……。自分の名前に、違和感でも?」

賢者「いいや、そうじゃないよ…そうじゃない、けど……」


  上擦って、情けない声が出る。

  この抑えきれない感情には、なんと名付ければよいのだろう?

  彼女の口から、初めて「僕」の名が呼ばれた。ただそれだけ。
 その名が「僕」であるという確証は無いのに、僕の空隙にかちりと納まる。

  代替でも贋作でもない、僕だけの名前だった。


賢者「どうして……その名を…」

  こう言っては何だけど、教えたことは無かったはずだ。

  いや、教えたことはあったのかもしれない。
 ただ、それを忘れているだけで。無かったことにされているだけで。


  これは、そういう契約だったはずなのだ。


  僕はもうかつての『賢者』ではない。半分、魔王が混ざってしまっている。
 だから、勇者としての名前を剥奪された。その名は、無かったことにされてしまった。

  そして管理者としての「僕」は、名付けられることなくこの世界に産み落とされた。


  なのに、それなのに……。
 彼女が呼んだその名は、僕のための名前だと確信できる。

  名前は、甦りの際、何の抵抗も無く女神に捧げた。

  ろくでなしの母親に名付けられたそれに、何の思い入れも無いと手放した。
 しかし、「僕」という自我を構成するものの中で、以外にもコレは多くを占めていたのかもしれない。

  いつからか分からなくなっていた『自身』が、形作られていった。


  彼女はそれを見て、人懐っこい笑みを浮かべる。
 教える側に回ることがそんなにも嬉しいのか、自慢げに口を開いた。

ゾンビ娘「知りませんでした? 骨っ子以外、全員知って――― 」


           ―――ギギ、ッ

  その時、不意に何かが破綻する音が響く。
 ゾンビ娘が言い切るのを待たず、僕らの顔は凍りついた。

  彼女の身体が、急に軽くなった。





  ―――「ここまでですね」

  ―――「ここまで、だね」


  絡めた視線が心をつなぐ。

  その背中で燃えているから、
 その背中に触れているから、互いに分かってしまった。


  理を外れかねない力。

  刻印の再生を以ってしても……命を繋ぎ留める限界がやってきていた。


ゾンビ娘「ごほ…っ」

  一気に血の気が引いて、ゾンビ娘の顔が蒼白になっていく。

  新しく吐き出したそれが唇に紅を引きながら、
 涙で潤む彼女の瞳は、じっと僕だけを見つめていた。


ゾンビ娘「ッ、は…っ ―――ね、賢者様…… 顔、もっと近くで、見た…いです……」

賢者「……こう?」

  虚ろになっていく瞳の、
 その睫毛が数えられるほど、顔を寄せる。

  咳き込む度、顔に血生臭い息と飛沫がかかる距離。

  頬に添えられた掌が力無くずり落ち、肩の辺りで引っ掛かった。


ゾンビ娘「…んー、ケホッ ……なみ、だ…で、グシャグ シャじゃないですか……」

  もう少し何とかしろとでも言いたげな、不満の声。
 「無茶を言うな」と笑い掛けて、僕もゾンビ娘に言い返した。


賢者「そう言う君だって、お互い様じゃないか」

ゾンビ娘「あ~? そう、いうこと…言います……?」

賢者「…仕返しだよ。いつも…みたいな?」

ゾンビ娘「仕返し……」

  次第に死相に近づいていく彼女の顔が、少しだけ柔らかく歪む。
 苦しみを忘れたようなその表情は、見惚れるほどに健気な、恋する少女のもの。

  彼女はそのまま、首に回した手で賢者を引き寄せた。


ゾンビ娘「じゃ、あ…… 私も『仕返し』…ですっ」

賢者「ん、む……!?」


  一呼吸の合間すらつかず届けられた、唇への柔らかい感触。


  塞がれた二枚舌の減らず口に、血の味が広がる。
 まるであの時僕がしたような、有無を言わさぬ強引な口付けだった。


  ―――ただ、僕のしたそれとの差異が一つだけ。

賢者「ッッ!?」

  重ねただけでは飽き足らず、
 唇を割り開いて、口の中にゾンビ娘が入ってきた。

  根底にあるのは、死に瀕した彼女の
 「少しでも長く、深くつながっていたい」という願い。

  賢者にだってそれは分かっている。


  だから、応えた。

           ―――ちゅ、ち、ぢゅる……

ゾンビ娘「んっ ふ…… コフッ んぅ……っ」

  精一杯、我慢しているのだろう。
 けれど、彼女は時折押さえ付けた様に咳き込んで、溶けた鉄を流し込んでくる。

  それを不快に思うことは微塵も無く、
 ただひたすらに、彼女の血を味わい続けた。

  ………思えば、彼女との色事はいつも血の匂いがする。


  薄い舌が粘膜をくすぐる度、どろどろに溶けた鉄が、唾液と混ざって糸を引く―――。


ゾンビ娘「…っは―――」

  しばらくして、崩れ落ちるように解放された。
 口の端には、血とも唾液ともつかぬ赤い泡が付着している。

  彼女が始めて、彼女が終わらせ……彼女が終わった。

  名残惜しそうに喉を鳴らしたきり、ゾンビ娘は動かなくなった……。


    「――――」

賢者「………」

  確かめるように、彼女の身体を強く抱き締める。

  温かくて、柔らかくて。
 眠っていると言われれば、信じてしまいそうになる。

  それでも、抱き締めたゾンビ娘の瞳は、もう何も映していなかった。


  少しずつ死んでいく心をどうすることもできず、
 冷めて塵になっていく赤色を、指先でぬちぬちと捏ね繰り回す。


  君も、カードも、ウィップも……みんな居なくなってしまったこの世界に、僕が心から笑える日は来るのだろうか。

  呆けたように見上げた秋の空で、鈍色の雲が丘の向こうに覗いていた。


  見下ろしたゾンビ娘の顔は、別れた日のように笑っている。

  僕も同じように、その凶刃を掴むことが出来たのなら……。


           ―――ザァァァァァァァァ……

  詮無きことを巡らせる間に、風が彼女を冷ましていった。


賢者「うぁ…あ……」

  嫌だ…… こんなのは嫌だ……

  心の中で繰り返しても、結果は変わらない。
 何度リセットしても口付け以前に戻れず、結末はすべて彼女の死に収束する。

  その度に彼女は満足そうに笑い、僕は悲しみに暮れた。


  そうか、これが君の抱えた、残された側の想いなのか……。

  僕は納得して、項垂れた。

  彼女は最期に、僕の腕の中で眠った。
 いつかのように青白い顔と腐った身体で起き上がってくることは、二度と無い。


  渇いていく掌の代わりに……カラカラだったはずの僕の舌が、潤っていた。


また来週。おやすみなさい。


続ききになるー

最初は本当に楽しかったけど骨犬あたりが国?とかを守るあたりになって全く面白くなくなったよね。
話の書き方とかも含めて読むのが面倒くさくなる書き方。

>>19ちょっと表に出ろ

>>22
でも実際そう思うよ。
初期は冒険活劇じゃないけどファンタジーって感じで尚かつ読みやすく楽しかったけど今はなんか文学を中途半端にこじらせた人が書いたような文書

確かに強く否定できないな実際読んでると少し疲れる。
ただ面白いとは思うよ。疲れるけど。

更新早くしてくれー

まだかなー待ってるよー

もう1ヶ月以上待ってるのかー

叩かれすぎてダウンしてると見た

ほす

まだかしら

こういうところで書く以上そういうのもヒント?
として受けるようにした方が色々と楽になると思うぞ
保守

保守

今さら気づいたけどこれ地の文が多すぎなんじゃね?
保守

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