~魔王城前~
戦士(女)「ようやくここまで来たわね。」
賢者(男)「そうですね。本当はゆっくり感傷に浸りたいところですが、ここは敵地の真っ只中、気を緩めないでください。」
勇者(男)「・・・」
僧侶(女)「勇者様、どうかなさいました?」
勇者「・・・いや、戦士のように感傷に浸っていただけさ・・・」
賢者「おしゃべりはこの辺にして入りましょう。こんなところで襲われて全滅してしまっては目も当てられません。」
僧侶「勇者様、足元に気をつけてくださいね。」
勇者「ああ、僧侶もね。」
戦士「アタシには何も言ってくれないのか?」
僧侶「魔物の気配がありませんね。」
戦士「シカトかよ。」
賢者「王者の余裕・・・というやつでしょうか。魔王が強いから護る必要がないということかもしれません。」
僧侶「勇者様はどう思われますか?」
勇者「賢者の言うとおりだろうね。余計な戦闘をしないでいいのはありがたいよ。」テクテク
僧侶「そうですよね///」
戦士「それにしたって気は抜けないな。」
僧侶「あの扉、大きくて禍々しい感じがします。」
賢者「あれが王座の間でしょうか。」
戦士「ん?扉の前に誰かいるな。」
???「ようこそいらっしゃいました。勇者御一行様ですね。」
勇者「あなたは?」
???「私は魔王様の側近をさせてもらっております。この扉の奥に魔王様がお待ちです。心の準備をお忘れのないように。」
戦士「あんたは戦わないのか?」
側近「私にあなた方を倒せる実力はありません。誠に遺憾ではありますが魔王様にお任せいたします。」
勇者「・・・」
僧侶「勇者様、どうなさいました?」
戦士「ここに来て怖くなったか?その気持ちは十分わかるぞ。」
賢者「そうかもしれませんが、覚悟を決めましょう。」
勇者「・・・ああ、そうだな。みんな、こんなところでわがままを言うのはよくないって言うのはわかっている。だけど聴いてほしい。・・・この先は僕一人で行く。」
戦士「ちょ、なに言ってるんだお前!」
賢者「いくら勇者でも1人で魔王に挑むのは無謀です!死に行く気ですか!」
僧侶「そうですよ勇者様。そんな危ないことさせられません!」
勇者「・・・ダメなんだ。魔王とは本気でやらないといけない・・・僕の本当の姿を、みんなには見せたくない・・・」
戦士「本当の姿?どういうこと?」
賢者「魔王を倒す得策があるということですか?」
勇者「・・・まあ、そんなところさ・・・」
僧侶「そ、それでも心配です・・・やっぱり1人では・・・」
勇者「たのむ!この通りだ。」
戦士「勇者・・・」
賢者「勇者・・・そこまで・・・」
僧侶「勇者様、頭を上げてください。私は勇者様の意思を尊重します。」
戦士「・・・勇者がそこまで言うならな・・・なにかあるんだろう・・・わかったよ。好きにしな。」
賢者「僧侶、戦士・・・もし危険を感じたら有無を言わさず助けに行きますよ。」
勇者「みんな・・・ありがとう。・・・それじゃあ行って来る。」
戦士「は~。本当に考えがあるのかね?」
賢者「あんな勇者は見たことないですから・・・おそらくは何かあるんでしょう。」
僧侶「勇者様・・・」
側近「・・・よろしければ、別室からになりますが中の様子を観戦なさいますか?」
戦士「おわっ、びっくりした。まだいたのか。」
賢者「中の様子が見れるのですか?」
側近「ええ。」
僧侶「ぜひお願いします!」
賢者「僧侶、罠かもしれないのに軽率ですよ。」
僧侶「罠でも何でも、行ってみるだけの価値はあると思います。それにこちらは3人、大抵は対処できますし。」
戦士「そうは言ってもよ、勇者は自分の姿を見ないでくれって言っていたんだし、ここでおとなしく待っていたほうがいいんじゃないのか?」
僧侶「戦士様がそうしたいのであればそうして下さい。私は1人でも見に行きます!」
賢者「僧侶・・・仕方がありません。戦士、一緒に行きましょう。正直気乗りすることではありませんが、僧侶を1人にする事はできません。」
戦士「はぁ、わかったよ。ホント僧侶は勇者のこととなると目の色がかわるんだから。」
側近「では、こちらへ・・・」
~魔王城・王座の間隣室~
側近「こちらです。」
僧侶「これは・・・隣の部屋が・・・」
賢者「この壁はいったい・・・」
戦士「ガラス張りなのか?」
側近「この壁は特殊なクリスタルでできていて、こちら側からは向こう側が見えていますが、向こう側からはこちらのほうが見えません。普通の壁に見えています。」
賢者「マジックミラーってやつですか。最近発見された特殊なクリスタルと聞いていましたが・・・」
側近「人間界では近年発見されたものかもしれませんが、この城は数百年前に建てられました。その時からあるようです。」
戦士「は~あっちからは何も見えてないのか~。不思議なものもあったんだな~。」
賢者「しかしなぜこんなものを王座の間の隣室に?」
側近「詳しいことはわかりませんが、建てた当時の魔王がひどく高齢であったために緊急事態が起きても言いように医療班をここに置いていたようです。ひどい医者嫌いだったとかで。」
僧侶「それよりも勇者様は・・・」
賢者「・・・左の扉から入ってきましたね。あれから10分近くたっているのにゆっくり来たみたいですね。」
戦士「それじゃあ右にある王座に座っているのが魔王か。ここからだと影になっていて姿が見えないな。」
僧侶「勇者様・・・」
~魔王城・王座の間~
勇者「・・・」
勇者「長いこと旅をして、ようやくここまで来た・・・」
???「そう・・・それはご苦労なことで・・・」
勇者「正直魔王の討伐だとか、世界の平和のためだとかどうでもいい。」
???「へぇ・・・それじゃあ何のためにここへ・・・?」
勇者「もちろん、君に逢いに来るためさ・・・」
勇者「まーちゃん」
魔王(女)「ゆうくん」
勇者・魔王「逢いたかった」
~魔王城・王座の間隣室~
僧侶「え・・・え・・・えぇえぇえぇえええええぇぇぇぇぇ~~~~~!!!???」
賢者「これはいったい・・・」
戦士「どういうことなんだ?」
賢者「魔王が女性だったというのも驚きなのですが、なぜ勇者様と抱き合ったいるのでしょうか?」
戦士「勇者と魔王はそういう関係だったということか?」
僧侶「ゆ、勇者様・・・」
側近「皆様が考えているような深い関係ではありませんよ。」
賢者「何か知っているのですか?」
側近「ええ。魔王様と勇者殿は幼馴染というやつです。」
戦士「幼馴染・・・魔族と人間が・・・か?」
側近「魔王様は見ての通り人間族と見た目に違いがほとんどありません。そのため幼い時は勇者様の村のはずれで暮らしておりました。」
賢者「幼い頃に共に過ごしていた・・・そんなことがあるんですね。」
側近「特に問題は無かったのですが、魔族というのがばれてしまう前に魔王様はほかの土地へと引っ越されました。そのときお二人はまたいつか、逢おうという約束をしていたようです。」
戦士「それでこうやって逢ったのが勇者と魔王としてだなんて、運命は残酷だとしか言えないな。」
賢者「・・・勇者はいつから魔王が幼馴染であると気づいていたのでしょうか?」
側近「勇者殿は存じ上げませんが、魔王様は勇者殿が旅に出始めたときからわかっておりました。」
戦士「ずっとドキドキしながら待っていたってのか。それを聞くと、その辺の乙女となんら変わらないな。少しうらやましい。」
賢者「うらやましいって・・・意外と可愛いこといいますね。」
戦士「と、ともかく・・・勇者と魔王が幼馴染だというのはわかった。」
僧侶「違うよ・・・」
賢者「え?」
僧侶「勇者様が魔王と幼馴染なんてそんなことないじゃないですか・・・」
僧侶「そうですよ・・・私たちは幻覚を見せられているんですね・・・そうなんですね・・・」
僧侶「あなたが幻覚なんか見せているんですね・・・」
賢者「僧侶!」
側近「危ないですね。襲い掛からないでください。」
戦士「僧侶落ち着け!誰も幻覚になんかかかっていない。」
側近「このロープでそこの椅子に縛っておいてください。」
賢者「あ、二人が離れましたよ。」
~魔王城・王座の間~
魔王「本当はずっとこうしていたかったけど、そうもいかないわね。」
勇者「ああ、そうだね。」
勇者「一応聞こう。おとなしく降伏する気は無いのか?」
魔王「愚問ね。そんなことするくらいなら最初からしているわ。」
魔王「貴方こそ、私と手を組む気は無い?貴方とならこの世界を完全に征服できるわ。もちろん貴方の仲間たちの命の保障もするし、もし世界の全てを掌握したそのときには貴方に特別なものをあげる。」
勇者「世界の半分でもくれるのかい?」
魔王「ふふ、そんな安いものじゃないわ。世界を掌握したそのときは・・・私をあげるわ。」
勇者「!!」
~魔王城・王座の間隣室~
僧侶「な、何を言っているんですかあのアバズレは~!!」
戦士「落ち着け僧侶!あばれるな!」
側近「椅子も床に固定してしまいましょう。」
僧侶「け、賢者様!このままでは勇者様が魔王の魔の手に落ちてしまいます。」
賢者「いや、案外いいかもしれません。」
僧侶「そ、そんな・・・賢者様は勇者様に魔に落ちろと・・・」
賢者「そうじゃないですよ。うまくいけばこれ以上魔物と争わないでいいかもしれないと思ったんですよ。」
僧侶「ど、どういうことですか?」
賢者「勇者と魔王が夫婦となることができればこれまで争ってきた両族の架け橋となることができます。時間はかかるでしょうけど和平にできるのではないかと・・・」
僧侶「それじゃあ勇者様には犠牲になれと・・・」
戦士「犠牲って事は無いんじゃないのか?勇者も魔王のことを好きみたいだし。」
賢者「そういうことです。後は勇者様がどう答えるかですが・・・」
勇者『まーちゃん、その誘いはうれしいけれども、乗ることはできない。』
僧侶「勇者様!」
賢者「おや?断るんですね。」
僧侶「やっぱり勇者様は魔王を打ち滅ぼすために・・・」
勇者『君が選ぶ道は2つに1つ。1つは降伏し人間族と魔族、和平条約を結び・・・・・・僕と結婚する道。』
魔王『へえ。』
僧侶「な、何言っているんですか勇者様~~~!!」
賢者「ほほう。そうきましたか。確かに魔王提示した条件では人間族は滅ぼされてしまうかもしれませんからね。」
勇者『もう1つは、力ずくでねじ伏せられて不平等条約を結ばされ、僕と結婚させられる道。どっちを選ぶ?』
賢者「ククク、どっちにしても結婚はするんですね。」
僧侶「あ、あんなの、あんなの勇者様じゃありません!そうです、勇者様は混乱させられているんです。」
戦士「おぉぉ、椅子も固定したのに動こうとするな。しかし、確かに今まで見てきた勇者とはまるで違うな。」
賢者「あれが本来の勇者なのかどうかはわからないですが、確かに僕たちには見せたくは無かったでしょうね。」
戦士「まあ、覗かれてるなんて知ったら恥ずかしすぎて逃亡しそうだな。」
僧侶「勇者様~・・・」
賢者「さて、お互いの意見は一部を除いて相容れないものとなりましたが、どうするのでしょうか。」
~魔王城・王座の間~
魔王「やっぱり話し合いでは決着がつきそうに無いわね。」
勇者「そうすると、力ずくでやらなくちゃいけないのか・・・」
魔王「ええ、そうね。でもそれも仕方の無いこと。なぜなら・・・」
勇者「僕が勇者で、君が魔王だから・・・か・・・」
魔王「それに魔族の社会は弱肉強食。強きものが絶対の権力を持つ。私もそうやって魔王になったの。」
勇者「なるほど。まあ、小さい頃から強かったしね。納得できるよ。」
魔王「そうね。でも貴方も強かったじゃない。私には負けてたけど。フフフ。」
勇者「ふん。小さい頃の話をされてもね。」
魔王「それじゃあ、どっちが強いか試してみないと。」
勇者「ふー、結局そうなるのか。」
魔王「・・・」
勇者「・・・」
魔王「氷乱波!」
勇者「炎の精霊よ!わが剣に宿り業火の力を与えよ!」
魔王「雷暗激蹴!」
勇者「大地の精霊よ!我が周囲を被い弾き返せ!」
勇者「やっぱり反則だよな。詠唱無しで魔法が使えるんだから。」
魔王「貴方の精霊もなかなかじゃない。それよりなんで剣を鞘に収めるの?」
勇者「僕のとっておきを見せてあげるよ。大地の精霊よ、我が手に集いて弓となれ。水の精霊よ、風の精霊よ、魔力を紡ぎ糸となれ。」
勇者「雷の精霊よ、わが手に集いて矢となれ。炎の精霊よ、矢じりに宿り焼き尽くせ。」
勇者「豪靭の弓、速爆の矢・・・精霊たちの力を全てつぎ込んで造った僕の最強の武器だよ。」
魔王「すごい魔力・・・」
勇者「今の僕じゃこれを造れるのは1度きり・・・でもこの矢は放たれた瞬間目標を貫き焼き尽くす。」
魔王「それならこっちも最大呪文で応戦しないとね。」
魔王「冥界の王よ、契約のもと冥界の力を地上に召喚せよ!冥暗消波!!」
勇者「(詠唱なしで魔法を使えるのに詠唱をして魔力を補ったって事は本当に最大呪文で来たみたいだね。それならこの矢を放っても大丈夫かな・・・)」
魔王「(やっぱりこの呪文は詠唱なしでは発動できない・・・それでもこれじゃないとあの矢の魔力は抑え切れない・・・抑えられる・・・かな・・・)」
勇者「行くよ。」
魔王「速!!くっ!」
魔王「くぅぅぅぅぅぅ!」
魔王「お、抑えられた・・・あれ、ゆうくんは・・・」
勇者「・・・終わりだよ。」
魔王「い、いつの間に後ろに・・・」
勇者「最大の攻撃は、最大の隙を生む。そう教えてくれたのは君だったよね、まーちゃん。」
魔王「油断していた・・・まさか最大攻撃を目くらましに使うなんて・・・」
勇者「どうするのまーちゃん。僕の剣は君の首筋を捕らえている。どんな魔法であろうと発動する前に首を切り落とすことができる。」
魔王「わかったわ・・・降参する・・・」
勇者「・・・」
魔王「ゆ、ゆうくん・・・こ、降参するって・・・」
勇者「本当に降参するんならその手に溜めている魔力を解除しなよ。」
魔王「あ、ばれてた?」
勇者「それで何回やられたと思っているの?」
魔王「は~、今度こそ本当に降参するわ・・・本当に強くなったね、ゆうくん。」
勇者「まーちゃんもね。」
~魔王城・王座の間隣室~
賢者「終わったようですね。」
戦士「とりあえず勝ったみたいだな。」
僧侶「勇者様、勇者様~!!」
側近「それでは私たちも隣の部屋に向かいましょうか。」
賢者「そうですね。これからのことを話し合わないと。」
戦士「見ていたことを話したら勇者どんな顔するかな~?」
僧侶「速くこのロープといてください!」
賢者「・・・」
戦士「・・・」
側近「・・・」
僧侶「・・・」
僧侶「・・・」
僧侶「・・・」
僧侶「ちょっと!置いていかないでください!ロープを解いてください!!賢者様!戦士様!」
~魔王城・王座の間~
魔王「ゆうくん。」
勇者「まーちゃん・・・こうしているのは嬉しいけどとりあえずこれからのこと決めないと・・・」
側近「失礼します魔王様。」
勇者「え、だ、だれ?」
賢者「魔王の側近だそうですよ、勇者。」
勇者「け、賢者!」
戦士「焦っている割には魔王と離れようとしないんだな。」
勇者「!」
魔王「ゆうくん、恥ずかしがらなくったっていいじゃない。どうせ隣で見ていたんだろうし。」
勇者「え?」
賢者「見ていました。」
戦士「見ていた見ていた。」
勇者「・・・めっちゃ恥ずかしい事言ったの見ていたのね」
側近「いいじゃないですか。もともと相思相愛なんですから。」
勇者「知らない人にも見られていた。」
勇者「・・・あれ?僧侶は?」
戦士「うるさいから隣の部屋においてきた。」
賢者「今僧侶がいると話し合いができませんから。」
側近「そんなわけで魔王様・・・いえ、前魔王様、これからどうなさいますか?」
勇者「前魔王?」
魔王「さっきも言ったでしょ。魔族は実力社会。私に勝ったゆうくんが新しい魔王だよ。」
勇者「えっと・・・人間が魔王になっていいの?」
側近「人間が魔王になったという記録はありませんね。そもそもそんな記録があったら当の昔に争いは終わっていたと思いますし。」
勇者「それって・・・僕が魔王になったということは人間族と魔族の争いは終わるって事だよね・・・」
側近「すぐにとは行かないかもしれませんが、少なくとも面倒な条約なんか結ばなくてもすむかもしれません。」
勇者「それじゃあ、一回人間王のところに戻ってこのことを報告しないと。」
魔王「それじゃあ私も一緒に行く~。」
側近「前魔王様は魔界全域に人間界との終戦を宣言してください。一緒にいたいのはわかりますが、まだ仕事が山のように残っています。」
魔王「もー、わかったわよ。引っ張らないでいいわよ。」
賢者「それじゃあ、僧侶を回収して人間王に報告に行きましょう。」
戦士「むしろ置いて行っていいんじゃないのか?色々うるさいだろうし。」
勇者「かわいそうなことしちゃだめだよ。」
賢者「(むしろ勇者のためにもなりそうですが、まあそっちの話し合いもしたほうがいいですからね。)」
勇者「それじゃあまーちゃん、人間王に報告に行ってくるね。」
魔王「ええ。私は争いをやめるように魔界中に伝えてくるわ。すぐには無理かもしれないけどこれで平和が訪れるわ。」
賢者「それでは行きますよ。」
~魔王城・王座の間隣室~
賢者「僧侶、聞こえていたと思いますけど人間王のもとに報告に行きますよ?」
僧侶「うぅ~、置いてきぼりにされたかと思いました~。」
戦士「お前がいると暴れて話しが進まなそうだったからな。」
勇者「何があったのかわよくわからないけど・・・僧侶も見ていたの?」
僧侶「・・・はい・・・勇者様は本当に魔王のことを・・・」
勇者「あ・・・うん・・・」
賢者「そういう話も含めて向こうで話し合いますよ。」
勇者「それじゃあ行こうか。」
~魔王城・外~
側近「これを人間王にお渡しください。前魔王様からの手紙です。」
賢者「それじゃあ皆さん捕まってください。」
戦士「・・・」
勇者「・・・」
僧侶「・・・」
賢者「戦士、いつも言ってますがそんなに強く掴まないでも大丈夫ですから。転送、人間王城へ!」
~人間王城・謁見の間~
人間王「勇者よ、よく戻った。何かあったのか?」
勇者「はい、魔王を倒すことが出来ました。これを。」
人間王「お、おう・・・倒した魔王から手紙を送られるのはなんとも奇妙な感じがするな。」
人間王「・・・なるほど、よくわかった。それで、勇者はどうするんだ?」
勇者「どうするといいますと?」
人間王「ん、いや、手紙が2通あってな、1通は勇者に負けたから今後のことは勇者に任せると言う内容。そしてもう1通が勇者と魔王の結婚式の招待状だが?日時は未定になっているが。」
賢者「思ったより手際がいいですね。」
戦士「あたしたちには無いのかね?招待状。」
僧侶「うぅ~・・・」
勇者「あの・・・まあ・・・そのつもりです・・・」
人間王「まあ、なんとも言いがたい・・・魔族との結婚などいいものだとは思わないが、勇者がそれで言いというのであればこれ以上は何も言わん。」
人間王「しかし、うまく行けば魔族との交流がうまくいくかもしれないな。」
勇者「ありがとうございます。」
人間王「本当はこの後宴でも開きたいところだが、勇者は早く行きたいところがあるんじゃないのか?」
勇者「あ、うう・・・」
賢者「確かに宴の席はありがたいのですが、実際は魔王が降伏したというだけに過ぎません。まだ魔族との争いは続いていることです。これからは魔族との争いを鎮めていかなければ。」
人間王「そうか。その役も引き受けてくれるのか?」
賢者「もちろん。ですよね、勇者。」
勇者「は、はい。」
人間王「それでは頼むぞ。だが今日はもう遅い。城下町の宿屋に部屋と取ってもらったからゆっくり休むといい。」
勇者「ありがとうございます。」
~城下町・宿屋・勇者の部屋~
勇者「はぁ~・・・なんかいろいろあって疲れた・・・」
僧侶「あ、あの・・・勇者様・・・いまよろしいですか?」
勇者「僧侶、どうしたの?」
僧侶「あの・・・うう・・・」
勇者「?・・・僧侶、僕はみんなに感謝している。」
僧侶「はい。」
勇者「結局はさ、僕のわがままで連れまわしちゃったようなものだったね。」
僧侶「いえ、私は勇者様のお役に立ちたくてついて来ました。・・・ですが勇者様、私は勇者様のお役に立つだけでは満足できません。」
勇者「僧侶・・・」
僧侶「勇者様、私は勇者様のことが好きです。」
~城下町・宿屋・廊下~
賢者「とうとう告白しましたね。答えはわかっているだろうに。」
戦士「そうであっても伝えたい思いがあるんだろ。」
賢者「そうかもしれませんが、まだこれから共にやることがあるというのに変な空気をかもし出していたらやりづらいと思いませんか?」
戦士「それもそうだな。勇者がなんて断るかが気になるところだな。」
賢者「そんなにひどい言い方はしないと思いますけどね。」
~城下町・宿屋・勇者の部屋~
勇者「僧侶・・・ごめん、君の気持ちは嬉しいけど、知ってると思うけど僕はまーちゃん・・・魔王が好きなんだ。だから君の気持ちには答えられない。」
僧侶「・・・いえ、私の方こそごめんなさい。」
勇者「僧侶・・・」
僧侶「ごめんなさい!」
~城下町・宿屋・廊下~
賢者「痛い!」
戦士「勢いよく出てきたな。・・・そして自分の部屋に入っていった。」
賢者「予想は出来ていましたが、予想以上に扉を勢いよく開けられました。」
戦士「どうする?慰めに行ったほうがいいのか?」
賢者「行かないほうがいいでしょう。下手な慰めは逆に傷つけてしまう場合があります。それは勇者も同じです。」
戦士「それじゃあ、寝るか?」
賢者「寝ましょう。明日になって泣き止んでいることを願いましょう。」
~翌日・城下町・入り口~
賢者「おはようございます、勇者。」
勇者「賢者・・・おはよう。」
賢者「昨日は色々と大変でしたね。僧侶のことも。」
勇者「聴いてたのね。」
賢者「ええ。パーティ内の空気が悪くなるのは嫌なもので。」
戦士「おはよ~・・・」
勇者「戦士、おはよう。」
賢者「おはようございます。」
戦士「勇者も平気そうだな。」
勇者「戦士も聞いていたのね。・・・僕も?僧侶は平気だったの?」
戦士「宿屋出てくる前に僧侶に部屋の前から声かけただけなんだが普通に返事していたよ。」
勇者「ならいいんだけど・・・」
僧侶「おはようございます、皆様。」
勇者「おわっ!僧侶、おはよう・・・」
僧侶「おはようございます、勇者様。」
賢者「立ち直ったみたいですね。それではいったん魔王城へ行きましょう。これからのことはあちらで。掴まって下さい。」
勇者「・・・」
僧侶「・・・」
戦士「・・・」
賢者「ですから戦士、強く掴まないでいいですから。転送、魔王城へ!」
~魔王城・王座の間~
側近「お帰りなさい、魔王様。お早いお帰りですね。」
勇者「・・・あ、僕に言ってるの?」
側近「ええ、今の魔王は貴方様ですから。」
賢者「それで魔王・・・いえ、前魔王は?」
側近「まだ寝ております。昨夜は遅くまで各地を回り、争いをやめるように通達していましたので。」
勇者「あと人間族と争っているのは?」
側近「少なくとも今は1箇所、魔界と人間界の境、狭間の平野ですね。」
勇者「それじゃあそこに行って争いを治めればいいのかな?」
側近「そうですね、魔王様のお仲間に行ってもらってもよろしいですか?すでに魔王城の精鋭が治めに向かっていますが心配な面もありますので。」
賢者「そうですか。それなら早速行きましょう。」
僧侶「それでは行ってまいります。」
戦士「暴れるか~。」
賢者「戦士、強く掴まなくてもいいですって・・・転送、狭間の平野!」
側近「魔王様には他にやっていただかなければならないことがあります。」
勇者「その魔王様ってやめて・・・やることって?」
側近「では勇者様とお呼びします。昨夜、前魔王様が各地に通達のした際、やはり納得がいかないというものが現れました。」
側近「それは予想通りのことですが。不服なら現魔王である勇者様に挑戦するように通達してあります。」
勇者「え?」
側近「ですので速ければ今日にでも挑戦者が現れると思います・・・」
勇者「えっと・・・何人くらい来るのかな・・・?」
側近「そうですね・・・おそらく不服と思っているのは5人かと。」
???「魔王はいるか~!!人間などという貧弱な魔王は!!」
側近「早速来ましたね。あの声は竜族の剛竜ですね。竜族の若きエースです。」
勇者「えっと・・・僕1人でやるの?」
側近「ええ。魔族の王座を賭けた立会いは1対1です。それをわかっているから前魔王様と1対1でやられたのでは?」
勇者「知らない知らない・・・というより、もしあの時4人で戦っていたらどうなっていたの?」
側近「そうですね、魔王の交代が無い以外特に変わりは無かったと思います。1対1でなければ正式な立会いとみなされませんので。」
勇者「・・・恥ずかしいなんていってないで協力してもらえばよかった・・・」
剛竜「ここか!魔王、俺と戦え!」
側近「それでは勇者様、終わった頃にまた来ます。」
勇者「え・・・ほんとに・・・」
剛竜「なにぐずぐずしている!こちらから行くぞ!!ガァァ!」
勇者「おっと、いきなり炎だなんて・・・」
~魔王城・廊下~
側近「・・・勇者様なら大丈夫だとは思いますが・・・」
魔王「う~ん。朝早くからうるさいわね~。」
側近「前魔王様、おはようございます。あんまり朝早くはありませんが。」
魔王「いったい何をしているの?」
側近「勇者様が魔王の座を賭けた立会いをしております。」
魔王「そう。なら着替えてくるわ。そんなに時間がかからずに終わるでしょう。」
側近「信用・・・なさっているのですか?」
魔王「もちろん。」
~魔王城・王座の間~
勇者「はぁ・・・思ったより手ごわかった。」
剛竜「なぜ・・・止めを刺さない・・・」
勇者「これ以上無益な戦いはしたくないんだ。降りかかる火の粉は払うけど、殺生はしたくない。」
剛竜「甘いな・・・人間の魔王は・・・」
魔王「たとえ甘くても、今の魔王の実力は本物です。」
勇者「まーちゃん!」
剛竜「前の魔王か・・・確かに力は本物だな。身にしみて理解したよ。」
剛竜「俺ら竜族以下眷族は現魔王の配下につく。一族で一番強い俺が負けたんだ。無用な争いを好まないと言うのなら従おう。」
勇者「人間とも仲良く出来る?」
剛竜「それは約束できないな。もともと考え方が違う。お互いの領地を侵食しない限りはこちらからは手を出さない。それでいいだろう?」
勇者「そうだね。いきなり仲良くしろというのは無理か。」
剛竜「それじゃ、俺は帰るぜ。このことを報告しなきゃなんねぇからな。」
魔王「ゆうくん、よかった無事で。」
勇者「無事ね・・・昨日はまーちゃんと戦ったというのに朝きたらいきなりこれだよ・・・勘弁してほしい・・・」
魔王「私の時もそうだったよ。やっぱりいきなり魔王が交代したって言っても聞かないものなんだね。」
勇者「連戦はやめてほしい・・・」
???「魔王はいるか!先ほど竜族のものとすれ違ったが俺はあんなやつとは違うぞ!!」
勇者「もう来たよ・・・」
魔王「あれは獣王族の靭虎ね。」
勇者「やらなきゃダメなの・・・?」
~狭間の平野~
兵士長(人間)「そ、それでは本当に魔王を倒したのですね・・・」
賢者「ええ。これ以上争う必要はありません。魔族側もあちらの代表者が状況を伝えているはずです。」
戦士「暴れられるのかと思ったのに両族疲弊して冷戦状態だしつまんないな~。」
僧侶「いいじゃないですか。おかげで話がスムーズに進みました。」
賢者「とりあえずここは大丈夫でしょう。」
戦士「魔王城に戻るか?」
賢者「う~ん。どうしましょうかね。勇者と魔王の邪魔はしたくないですしね。」
戦士「あ~それもそうだな。」
僧侶「そうですね。フフフ」
賢者「(・・・なんか怖いですね・・・)」
戦士「(・・・なんか怖いな・・・)」
~魔王城・寝室~
魔王「大丈夫、ゆうくん?」
勇者「大丈夫じゃないよ・・・結局5人連戦させられるんだもの・・・」
魔王「すごかったね、竜族の剛竜、獣族の靭虎、鳥族の風雀、岩機族の鉄械、死兵族の骸凱・・・若きのエースと呼ばれている精鋭ばかりだったからね。」
魔王「さすがに魚族は来なかったわね。地上で戦えないのもいるから。」
勇者「来ないならありがたいよ・・・これで僕は正式に魔王と認められたということなのかな?別に認められたいわけじゃないけど・・・」
魔王「そう思っていいんじゃないかな?よっぽどの無知か命知らずじゃない限り来ないと思うよ。」
勇者「そう・・・後は賢者たちが帰ってくるのを待つだけかな。」
魔王「うまくいっていればいいね。」
勇者「うまくいくかな?」
魔王「表面上は、うまくいくんじゃないかな?ただそれを続けていくのは簡単なことじゃないと思うけど・・・」
勇者「簡単じゃないかもしれないけど、今の僕には仲間もいるし、まーちゃんもいる。」
魔王「えへへ。」
勇者「まーちゃん、改めて言うね。僕と結婚してほしい。」
魔王「・・・プロポーズされるの2回目だね。」
勇者「そうだね。僕の気持ちは君と離れ離れになっていても変わらなかった。」
魔王「私も・・・ずっと・・・寂しかった・・・」
勇者「だいじょうぶ、これからはずっと一緒だから。」
魔王「うん・・・それよりゆうくん・・・ここでプロポーズしたって事は・・・」
勇者「はい?」
魔王「その、そういうことだよね・・・でも結婚するんだしね・・・」
勇者「ちょっと待って、なんで服を脱いでいるの?まーちゃん?」
魔王「私初めてだから上手に出来ないけどがんばるからね。」
勇者「ちょっと待って、まーちゃん、ちょっと、待って待って待って~~~~!!」
~魔王城・王座の間~
側近「?なにやら勇者様の叫び声が聞こえたような・・・」
賢者「戻りまし・・・すごい有様ですね。」
側近「王座の立会いの結果です。もちろん勇者様が全戦防衛ですが。」
勇者『まーちゃんストップストップ~!!』
賢者「今度は何でしょうか?」
側近「先ほどから響いているのですが、まったく検討がつきません。」
賢者「なにやらカルチャーギャップに驚いているように聞こえるのですが?」
側近「カルチャーギャップですか・・・あ、もしかして・・・」
賢者「何か心当たりが?」
側近「魔族には多種多様な種族がいるため人間には思いもよらないようなしきたりや儀式があります。」
側近「その中で、前魔王様の種族の古い仕来りなのですが、男性が寝室で疲弊しながらプロポーズを行うことは婚礼の前でも相手の女性以外契りを交わさないことを約束するから俺と3日3晩相手をしてくれというものがあります。」
側近「今一番考えられるのはそれですね。」
賢者「・・・無茶苦茶もいいところですね。」
側近「ですから申したではないですか。人間には思いもよらないって。」
賢者「思いもよらないというより、理解できません。しかし、勇者がそのことを知らず、寝室で疲弊しながらプロポーズしたということですね。」
側近「そういうことだと思います。・・・勇者様の声が聞こえなくなりましたね。おそらく観念したのでしょう。」
賢者「そうなると、3日は出てこないということですか?」
側近「そうなりますね。そういえばほかの2人は?」
賢者「それぞれ故郷に里帰り中です。」
側近「そうでしたら賢者殿もお帰りになられては?少なくとも3日は勇者様とお会いできませんし。」
賢者「そうですね。2人にもそう伝えておきます。」
側近「それではまた・・・」
~戦士の故郷・西森の町~
戦士「そんな感じでさ、勇者が魔王と婚約したんだよ。」
戦士母「人間と魔族が婚約だなんて前途多難でしょうね。」
戦士「そうかもしれないけど、平和の架け橋になるならいいんじゃないかな。」
戦士父「それはいいけど、お前は相手がいるのか?」
戦士「あ、あたしにそんな相手なんかいないよ!」
戦士父「(この反応は・・・)」
戦士母「(誰かいるわね)」
~僧侶の故郷・南港街~
僧侶「神父様、ただいま帰りました。」
神父「僧侶、お帰りなさい。話は聞いているよ。全て終わったのですね。」
僧侶「・・・本当の平和はまだこれからです。ですが勇者様が必ず。」
神父「そうですか。それよりも、何か打ち明けたいことがあるのではないですか?私にではなくても、われらが父には、話しておいたほうがいいのでは?」
僧侶「神父様・・・」
神父「気持ちの整理もあるでしょう。私はこの場を去りましょう。」
僧侶「・・・」
~賢者の故郷・廃村~
賢者「ただいま戻りました、お父さん、お母さん。」
賢者「これで争いは無くなっていくと思います。私のような孤児はいなくなるでしょう。」
賢者「確かにこの村は魔族との争いで焼き払われました。実際、魔族を恨んでいた時期もあります。しかし師匠に会い、勇者と旅をしたことでその感情も薄れました。」
賢者「結局魔族の方々も私たちと同じだったのですから。」
賢者「私はこれから勇者を手伝い平和のために尽力を尽くします。見守っていてください。お父さん、お母さん。」
賢者「・・・いけませんね。悲しみの涙は捨てるように師匠に言われていたのに。」
賢者「さて、2人を迎えに行きますか。」
~戦士の故郷・西森の町~
賢者「戦士の家はあそこでしたね。」
賢者「失礼します。」
戦士「け、賢者!?」
賢者「迎えに来ました・・・よ・・・なんですか、その格好は?」
戦士「りょ、料理中だったんだよ!いいじゃねえか自分の家なんだし!」
賢者「いえ、すいません。見慣れないエプロン姿だったもので・・・でもそっちのほうが普段の鎧姿より似合っていますね。」
戦士「に、似合って・・・お、お世辞なんか言ってんじゃないよ!」
賢者「お世辞ではないんですが・・・」
戦士「そ、それより急ぐのか?」
賢者「?特に急ぎませんよ。」
戦士「それなら昼飯食っていけよ。もうすぐ出来るから。」
賢者「そんな、悪いですよ」
戦士父「いやいや、若者が遠慮しちゃいかん。」
戦士母「そうですよ。ぜひ食べていってください。」
賢者「あ、お久しぶりです・・・」
戦士父「(この男が戦士の・・・)」
戦士母「(戦士の旅の時の様子も聞きたいし今日は泊まって行ってもらいましょう)」
戦士「す、すぐ用意するからな。待っていろ。」
~僧侶の故郷・南港街~
僧侶「・・・われらが父よ、われらが母よ・・・教えにそむき、己の幸せのためだけに他の者の幸せを願えなくなっている私をお許しください。」
僧侶「・・・勇者様・・・やはり私はあなたのことを諦められません。たとえ勇者様に嫌われることとなったとしても、私は貴方の一番近くで貴方をお守りしたい・・・」
僧侶「・・・たとえ貴方が・・・」
~戦士の故郷・西森の町~
賢者「(結局戦士の家に泊まる羽目になってしまった。昨夜はお父さんに戦士のことをどう思っているのかと色々と聞かれるし・・・)」
戦士「なんかごめんな、うちの両親強引で。・・・昨日は夜遅くまで父さんと何を話していたんだ?」
賢者「いえ、旅の道中の戦士の様子を聞かれていました。」
戦士「そ、そうか。ホントごめんな。」
賢者「いえ、いいんですよ。なんかああいうの、初めてですから。」
戦士「え?」
賢者「家族のことを思ってあれこれ聞いてくるなんて、私にはわからないことですから。」
戦士「あ、そうか・・・ごめん・・・」
賢者「謝らないでください。特に気にするようなことではありませんから。」
賢者「確かに私には家族はいませんが、今はみんなが家族だと思っています。勇者がいて、僧侶がいて、戦士、貴女がいて。」
賢者「大切な家族ですよ。」
戦士「賢者・・・」
戦士父「・・・」
戦士母「なにやっているの?お父さん。扉に耳つけたりして。」
戦士父「いや、外で戦士と賢者君が話しているようだからちょっと気になってな。」
戦士母「なにやっているの・・・」
戦士父「いやでも賢者君、戦士のことを大切な家族だって。これはプロポーズなんじゃないのか?」
戦士母「あらあら、本当にそうなら嬉しいことじゃない。」
賢者「さて、僧侶のところへ行きますか。」
戦士「あ、そ、そうだな。」
賢者「あ、いつも言っていますが強く掴まないでも大丈夫ですからね。振り落とされるのが心配だというのなら私に密着してください。それなら絶対振り落とされませんから。」
戦士「み、密着って・・・そ、そんな・・・」
賢者「早くしないと日が暮れてしまいますよ?」
~僧侶の故郷・南港街~
賢者「僧侶のいた教会はここでしたね。」
戦士「でっかい教会だな~。さすがは都会だ。」
賢者「入りましょう。」
賢者「失礼します。僧侶いますか?」
僧侶「あ、賢者様、戦士様。」
賢者「お祈りの最中でしたか?」
僧侶「いえ。もう終わりましたので。」
戦士「それじゃあ魔王城に戻るのか?」
賢者「そうですね。あれから4日たちましたし、戻っても大丈夫でしょう。」
戦士「?なんかあったのか?」
賢者「いえ、魔族のしきたりで3日ほど勇者と会えない状況だったものですから。」
戦士「しきたりね・・・どうせいちゃいちゃしているだけじゃないの?」
賢者「(本当に男女の機微に関しては妙に理解が早いというのか、勘が良いというのか・・・)」
賢者「それじゃあ、魔王城へ行きましょうか。」
~魔王城・王座の間~
賢者「勇者いますか?」
勇者「あ、賢者。おかえり。」
戦士「とりあえず狭間の平野のいざこざは抑えたぞ。」
勇者「うん。話は聞いているよ。ありがとう。」
僧侶「勇者様、お疲れのようですけど大丈夫ですか?」
勇者「あ、うん。大丈夫だよ。腰が痛いけど・・・」
賢者「(側近さんの話は本当だったんですね・・・)それよりもこれからのことなのですが・・・」
魔王「ゆうくん、結婚式のことなんだけど、どっちのドレスが・・・あら、お帰りなさい。」
賢者「(勇者と違っていきいきしていますね。魔族とするのは大変そうだ。)」
賢者「そういえば、それが残っていましたね。」
戦士「いつやるんだ?」
側近「そうですね・・・争いの後処理やその後のことを考えると早いほうが良いですね。・・・来週なんてどうでしょうか?」
戦士「おわっ!いつも突然現れるな!」
側近「どうなさいますか?」
戦士「無視かい。」
魔王「私は良いと思うわよ。ゆうくんはどう?」
勇者「僕も別にかまわないけれど・・・」
側近「それでは詳細の日時はこちらで調整して各地に招待状を送っておきます。誰か特別に招待状を送っておいたほうが良い方はいますか?」
勇者「僕はみんながいれば特には・・・」
魔王「あれ?ご両親は?」
勇者「ん・・・まーちゃんが引っ越した後にはやり病でね・・・」
魔王「そうだったの・・・知らなかったとはいえごめんなさい・・・」
勇者「気にすること無いよ。」
側近「それでは招待状を出してまいります。」
戦士「音も無く歩いて出て行った。気配を感じないなんて気味の悪いやつだな。」
魔王「そう言わないであげてください。ああやってひっそり移動するのが魔王の側近だと思っているみたいなので。」
戦士「そんなものかね。」
賢者「それより、勇者は色々と準備で忙しいでしょうが、私たちはどうしましょうか?」
戦士「確かにやることが無いな。ここで勇者の護衛でもしてるか?」
僧侶「里帰りも済んでしまいましたしね。ここで待っていればいいじゃないですか。」
賢者「そうですね。案外あっさり時間が過ぎるかもしれませんし。」
~1週間後・魔王城~
賢者「結局あっという間に時間が過ぎて結婚式当日となりましたね。」
戦士「あっという間とは言うけど、実際は結構ばたばたしていたけどな。」
僧侶「そうですね。結婚式の準備のほかに人間族と魔族の微妙な争いを鎮めに行ったり忙しかったですね。」
賢者「とりあえずこれで一段落・・・だといいんですけどね。」
僧侶「そうですね。・・・・・・それでは私は勇者様の準備のお手伝いに行ってきます。」
賢者「・・・ええ、お願いします。」
戦士「・・・賢者どうかしたのか?」
賢者「いえ、何でも・・・」
~魔王城・婚礼の間・新郎控室~
僧侶「勇者様、失礼します。」
勇者「あ、僧侶。どうかしたの?」
僧侶「いえ、何かお手伝いできることは無いかなと思いまして。」
勇者「僕のほうはもう大丈夫だよ。心の準備はまだだけど。ハハハ・・・」
僧侶「フフフ、大丈夫ですよ。勇者様でしたらどんな物事もそつなくこなせますよ。」
勇者「ありがとう、僧侶。」
僧侶「・・・勇者様・・・」
勇者「うん?」
僧侶「ごめんなさい!」
勇者「ぐ・・・僧侶・・・なんで・・・」
僧侶「ご、ごめんなさい勇者様・・・でも私、勇者様のことを誰にも渡したくありません・・・たとえ勇者様がどのような姿になっても・・・勇者様にどんなに恨まれようとも・・・私は勇者様の一番側にいたい・・・」
勇者「そ・・・僧侶・・・」
賢者「やはり行動を起こしましたか」
僧侶「け、賢者様!?」
賢者「周りをよく見てください。」
僧侶「周り・・・ゆ、勇者様が・・・」
賢者「側近さんに言って勇者様は別の場所に控えてもらっています。この部屋に入ってから貴方が見ていたのは私がかけた魔法の幻影。」
僧侶「な、なぜ・・・」
賢者「なぜ貴方の行動がわかったか・・・ですか?」
僧侶「・・・」
賢者「まあ、勘ですかね。貴方の勇者への浸透ぶりは最初からでしたからね。」
僧侶「・・・私をどうするつもりですか?」
賢者「眠ってもらいます・・・貴方を説得するのは不可能でしょうし貴方の考えが改まるまで・・・ね・・・」
僧侶「そ、それは・・・」
賢者「おやすみなさい・・・夢の中では勇者の側にいられるといいですね・・・永久の安らぎを・・・」
僧侶「う・・・ゆ、勇者・・・様・・・・・・・・・」
賢者「おっと、とりあえず結婚式が終わるまでここに寝ていてもらいましょうか。」
賢者「・・・勇者にはなんて言えばいいのでしょうか・・・」
~魔王城・婚礼の間~
戦士「賢者と僧侶はどこ行ったんだ?もう式は始まったのに・・・」
賢者「・・・遅くなりました。」
戦士「賢者!どこ行っていたんだ?僧侶は?」
賢者「僧侶が疲れてしまったようなので奥の部屋で休ませていました。」
戦士「僧侶が?疲れていても式には出そうだけどな。」
賢者「眠ってしまいましたのでしょうがありません。それより・・・」
側近「それではこれより、婚礼の儀を始めます。」
側近「新郎勇者様、汝は前魔王様を妻としいついかなる時も変わることなく愛し続けることを誓いますか?」
勇者「誓います」
側近「新婦前魔王様、汝は勇者様を夫としいついかなる時も変わることなく愛し続けることを誓いますか?」
魔王「誓います」
側近「それでは誓いのキス・・・の前に差し出がましいようですが私がこの場をお借りして話をさせていただきます」
側近「人間が魔王になると言う事は前代未聞であります」
側近「おそらくこの二人の今後はどうにもならないくらい困難なことが待ち構えていることでしょう」
側近「そして、おそらくこの二人だけでは困難に太刀打ちできません」
側近「出席者の皆様、どうかお二人にお力をお貸しください」
側近「・・・側近という立場でありながら差し出がましい申し出をお許しください」
勇者「ありがとう、側近さん」
魔王「後で私が言おうとしたのに・・・でもありがとう」
側近「それでは新郎新婦のお二方、誓いのキスを・・・」
勇者「まーちゃん・・・側近さんの言う通りいろいろと大変なことが起こるかもしれないけどずっと愛しているからね」
魔王「ゆうくん・・・私も、ずっと愛してる・・・んん・・・」
側近「それではここに、新たな夫婦が誕生したことを認めます」
~???~
賢者「それから披露宴は盛大に行われました」
賢者「側近さんの言う通り、これから二人が進む道はいばらの道でしょう」
賢者「しかし、自分をはじめ多くの人間や魔族が二人を助けることでしょう」
賢者「・・・一番最初にした手助けが誰にも気づかれないままになるとは悲しいものですね」
賢者「そして僧侶、あなたは勇者が結婚した悲しみで姿を消したと周りは思っています」
賢者「さあ、あなたにかけた眠りの呪いはあなたが改心すれば目を覚ませるかもしれませんが・・・」
賢者「それは自分たちが生きているうちに目を覚ませますかね」
賢者「さて、長い期間あなたの夢の中にお邪魔して私が勇者と会った時から勇者の結婚式の時まで思い出を話してきましたがどうですか?」
賢者「もしかしたらただ単にあなたを苦しめただけかもしれませんね」
賢者「でもまあ、その苦しみも今日で終わりですよ」
賢者「私はこれ以上あなたの滑に入り込むことはしません」
賢者「後はあなたが自分で改心して目を覚ましてください」
賢者「・・・返事はなしですか・・・それでは・・・さようなら・・・」
賢者「・・・あのままだと永遠に眠り続けるかもしれませんね・・・」
賢者「せっかく気を使って勇者の故郷の近くに祠を作ってあげたというのに・・・」
戦士「賢者・・・なにぼーっとしてるんだ?」
賢者「いえ、少し眠いのでぼーっとしてました」
戦士「そうか・・・それなら子供たちを寝かせて寝ようか」
賢者「そうですね。明日は勇者一家とピクニックですしね」
戦士「それと、子供たちがパパのお話聞きたいってうるさいからよろしくね」
賢者「そうですか…それじゃあ今日は眠り姫の話でもしますか」
おわり
2年位前に9割がた書いて放置してたのを発掘して完成させた
後悔はしていない
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