約束 咲-Saki- (31)
京太郎主軸なので嫌いな人はブラウザバック推奨
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「もうすぐ卒業だな。最後に俺と打ってもらえないか?」
そう切り出したのは清澄高校麻雀部唯一の男子部員、須賀京太郎である。現在、部室には彼を含めた3年生部員しかいない。卒業前に3年生全員(と言っても4人しかいないのだが)で部室に集まろうと提案したのは、快活な性格で当時の主将であった竹井久が引退してからはすっかりムードメーカーとして定着した片岡優希であった。元々仲の良かった女子3人は、引退してからもちょくちょく後輩の指導と称して部で集まることをしていたのだが、京太郎だけは引退してからは部室に近寄ることをしなかった。進路についても彼一人が理系コースを選択し、ほかのメンバーは文系進学を希望したことも理由に挙げられるのだろうが、彼の幼馴染であった宮永咲だけは理解はしているものの感情として納得がいかず、直接問い詰めたりもした。
しかし、彼の返事は決まって「ゴメンな。忙しいんだ」と言う極めてそっけないものであった。また、3年になってから主将になった原村和も気にしてはいたのだが、自身の受験勉強もあったりで中々コンタクトを取ることはしなかった。勿論思う所がなかったわけではない。だが、既に自分も引退した身であり、仲が悪かったわけではないのだが、元々男性が苦手だったり麻雀以外での接点が京太郎とは少なかったことも拍車をかけた。
そんな状況を見かね、全員とそれなりのコミュニケーションを取っていた優希は、皆が進学などが落ち着いたこのタイミングを狙って、とは言ってもだいぶ遅くなってしまったのだがわだかたまりを解消したいと思い、部室に集まってもらったということだ。尤も京太郎以外のメンバーは優希が声を掛ければすぐ集合できたので、京太郎の都合に合わせての話であるということは、優希以外は知らなかったりするのだが。
「いきなり、と言うわけでもないですね。私たちは引退したとはいえ麻雀部員ですから」
「京ちゃんと最後に麻雀打ったのって2年のインターハイが終わったくらいの時だったっけ?」
「それなのに私たちと打とうなんて勇気あるんだじょ」
三者三様の反応ではあったが、京太郎は彼女たちの歩んできた険しい道のりを誰よりも理解している。麻雀においては絶対に自分が届くことはない領域にいることも。
「あぁ。トップを取れたら一つだけ頼みたいことがあるんだ」
ふっと陰りを見せた京太郎の表情を3人が見逃すことはなかった。何かしらの覚悟を以って彼は自分たちを打つ事にしたのだろう。先の通り、2年生の夏の大会が終わったころから彼は完全に裏方に徹していた。同じ部員なのだから遠慮せずに打ったらどうだと主将として和も声を掛けたが、そのころから彼が卓に着くことはなかった。引退した時の彼の反応を見て、無理矢理にでも打たせるべきだったと和は咲と話したりもしていたのだが、京太郎が引退まではずっと姿勢を崩すことはなかったのだからその時点ではどうしようもなかった。
そしてやっと彼が卓に戻ってきたのだと喜んでみたのだが、その複雑な心境を理解することは現時点では和にも咲にもできなかった。
「おっけーだじぇ!!」
唯一、優希だけは反応が違った。ぶっちゃけると親友である和でこの手の経験は慣れている。彼女に較べれば男子高校生の感情など大したものではないし、自分も彼とは犬とか言ったりしてたこともあるが親友だと思ってる。だから言葉よりも牌を通じて語れば良い。
(ありがとうな。優希)
麻雀部においては幼馴染の咲より、主将の和よりも気遣う事もなく、対等に付き合えた親友だと京太郎も思っている。そんな彼女の心遣いに京太郎は素直に感謝した。
読みづらい。せめて間を空けろよ
それぞれ場に合った文体というものがあるから改行しよう!
いそいそと京太郎と優希は卓の準備をしているのを見て、和も手伝う。咲だけは気持ちの整理がつかない。
(なんで今になって…。私があれだけ言っても京ちゃんが打つ事はなかった。いや、こうして最後だけど一緒に麻雀部に居てくれることは嬉しい。でも…)
「咲さん。準備できましたよ」
「あっ!!うん」
(完全にトリップしてたよ。京ちゃんが条件を付けたんだから私も…)
「京ちゃん。なら私たちも同じ条件で打っていいのかな?」
「あぁ。和と優希が良いなら構わない」
「私もいいですよ」
「私も構わないじぇ」
「25,000点。トビありの頭ハネ、アリアリ、数えあり、ダブルなしでよかったな。じゃあ、始めようか」
京太郎の宣言で高校最後の闘牌が開始した。
(やはりと言うか開幕のタチ親は優希が引いたか。俺もかなり配牌では良い状態だがどこまで戦えるか)
京太郎の初手は234の三色同順が既に形として揃っており、2シャンテンであることから通常の対戦相手であれば大きくリードしている状態だ。しかし、この3年ですっかり全国名門校となった牽引役のこの3人が相手では彼の人生の中で最も良いだろうこの配牌でもどこまで戦えるのかは不安が付きまとう。ましてや自分は優希の下家。彼女の聴牌から最初に捨て牌を選択しなければならないのだ。
「ふっふっふ」
不敵な笑みを優希は浮かべてただが、取り敢えず開幕早々の天和やダブル立直はないようだ。順々に河に牌が並んでいく。
(3順目にして聴牌か。優希も出だしは良さそうな感じだったが押してみるか)
「立直!!」
牌を横に倒し卓に千点棒を置く。結局聴牌形は萬子1,4,7の安めありの三面張となった。1萬は和が一枚切っていることもあり、この面子では出上がりは期待できなくとも多少は山に眠っているだろうという見通しである。
「京太郎にしては頑張ったがどうかな?」
咲と和は安全牌で様子見しているのに対し、優希はあっさりと牌をツモ切り。山に積まれた牌に右腕を伸ばすと同時にツーっと京太郎の首筋に汗が伝う。
「ツモ!!」
自摸った『5萬』を倒し、その後自分の牌を倒す。
「あれ?京ちゃん。それミス和了りじゃない?」
「おっと。盲牌した感じだと4萬だと思ったんだがな。悪い、ミスだわ」
(…。まさかだじぇ)
あっけらかんと罰符を払う京太郎を見て優希は驚愕した。自分の和了り牌は5萬であり手替わりで跳満もあったのでダマ聴をしていたからだ。それでも現状満貫はあったのだから損失は4000点少なく済んでいる。まだ早い順目でのチョンボだから優希の聴牌気配は咲も和も何となくだが察知はしていた。だが、5萬がソレだとは知らない2人は久しぶりに牌を握った京太郎らしいミスだと思うくらいだった。勿論、やられた優希も偶然だと思ってはいる。いるのだが、彼女の知る普段の雰囲気とは纏う空気が違っている。判別がつくまでは京太郎への警戒レベルを挙げておく必要性を優希は理解した。
(やっぱりか。幾らなんでも俺が不用意すぎた)
優希の自分を見る表情からこの5萬が当たりであったことを確信する。大会中などは2年時以降、弱った時の表情などを浮かべることは減ったのだが、ブランクと同じ部員同士で気が抜けている部分があったのだろう。裏方で彼女たちを観察し続けた京太郎にはすぐに認識できた。
罰符による一本場はあっさりと優希が満貫を自摸、続く二本場は嶺上開花、門前清自摸和の2飜で咲が和了った。
「咲ちゃんにあっさり潰されたじぇ」
「放っとくと東一局で終わっちゃうからね」
東二局は京太郎の親であったが、全く奮うことなく優希の高得点を察知した咲が和に差し込んで東三局。
(ここで点数失うとキツいな)
親の咲と優希の調子がよさそうだと気が付いた京太郎は、この局は完全にオリに回ることにした。既に10,700点と危険水域に入っている。戦う時は決めている以上、この局は生き残ることが彼にとっては最優先であった。
(5順目、河にはヤオ九牌以外は並んでいないが…)
逡巡した京太郎だが、どの道オリると決めていたので刻子となっていた南を捨てる。こちらから加槓を行えば咲が有効牌を引ける確率を削ることができるのは、全国大会での闘牌や普段の練習を見て知っていた。だが、行えば今度は優希が面前で裏ドラ期待の立直をしてくる。今日は今のところ大人しい和も前に出てくる可能性が出てくる。故に和了りを目指さない京太郎がこの時点で選択できた牌は南しかなかった。
「チー」
咲の捨て牌を和が喰らい取る。一人が確実に勝負から降りている。優希は聴牌している可能性が高いが、咲がまだ聴牌していないと読んだ和は、カンチャンになっていた4索を鳴く。
(確率として十分に勝算がありますからね)
「ロン。3,900」
2順して優希が和に振り込んでしまい次局へ。
(まだだ。まだ待つんだ)
南場が勝負所だと考えている京太郎は、この局も降りる。闘牌を持ちかけてきたのに完全に勝負気配のない京太郎を見て、3人はやや落胆したがミス和了りの影響だと考えた。
(やっぱりあれは偶然だったんだじぇ。なら…)
「ツモったじょ!!3,000、6,000!!」
しっかりと手造りをする時間ができた。京太郎の気配が東一局のままだったら優希も様子を見ながら手を進めていただろうが、やはり一人警戒から外れるだけでも打ちやすさは段違いであった。ましてや彼女は南場で失速する打ち手だ。3年間の中で大分南場も安定して打てるようになったとは言え、後半戦を咲や和相手に互角に戦えるほどの集中力はいまだに完成されてはいない。だからここで確実に点数を稼いでおく必要があったのだ。
(良し!!これで後半戦は何とかなるじぇ)
(何とか耐えきれたか。けど残り7,700点。見極めが重要になってくるな)
京太郎も何とか東局を生き残ることができたが、ダントツでラストなのだ。実力でも運量でも彼女たちに劣っていることはわかっているのだ。
(それでも、今日だけは勝ちたい。絶対に)
勝負である以上、全員が勝つつもりでいるわけだが、京太郎だけは他の3人とは違う気持ちで臨んでいる。それは彼女たちも勝負を挑まれたのだから理解はしている。自分たちは競技として麻雀をしているのに対し、京太郎は全く違う何かとして麻雀をしている。その心情を把握することは未だ出来ていないが、気持ちだけは自分たちと拮抗、いや、凌駕している事を東場が終わった時の彼の引き締まった顔を見て理解した。
(逃げていたわけじゃなかったみたいだね京ちゃん。恐らく優希ちゃんが南場に弱いことを計算に入れての戦略かな?振り込んではいないからミス和了りの点数がなければまだ射程圏だったと思うけどね。それに優希ちゃんも私たちも京ちゃんの計算通りにいくわけじゃないよ)
(須賀君の様子を振り返ってみれば、かつて牌を扱ってた頃に比べて何でしょう?姿勢がよくなったというか芯が出てきた気がします。東場での侮りは間違ってたみたいですね)
(京太郎の最初のアレはどうやら今の様子を見た限り確信だったみたいだじぇ。狙ってくるとしたら自分か。返り討ちだじょ!!)
三様の評価であったが、京太郎の今のレベルが自分たちの知っている彼の打ち方とはだいぶ異なっていることはよく理解できた。勿論、解釈は各々で異なるのだが。
南一局、『耐えてきた』京太郎に漸く東一局同様良い手が入った
。
(七対子2シャンテンか。狙ってみるか)
ドラを二枚抱えての七対子を狙う京太郎だが、それをあざ笑うかのように優希から先制の立直が入った。
(京太郎!!これで終わりだじょ!!)
(ここは攻める!!)
確率も読みも関係ない。不要な牌を切る。七対子だから防御に回りやすい手であることは3年間の部活生活で理解している。だが、『あの頃』から向かい合ってなかった過去と決別する、戦うべき時が今なのだ。
「通るなら立直!!」
3順危険牌を切り続けた京太郎の口から聴牌宣言が出たことで、咲も和もオリる事にした。
(いつもの須賀君と変わらない切り方ですがこれは…)
それから2順過ぎ、優希がツモ切った字牌で京太郎が和了った。
「ロン、8,000!!」
(これで16,700か。3位の咲とは多分6,000点位の差な筈。和もどっこいどっこいの点数だから優希を何とかしないとな)
(むー。和了られたじょ。次は取り返す)
南2局は割と大人しく打っていた咲も和も立直をしてきた。戦える手ではなかった京太郎は親ではあるものの素直に身を引いた。だが、京太郎からの直撃を貰ってやる気十分な優希も彼女らから出遅れたものの立直をした。
「後追いの方が有利だじぇ!!」
トップ目が立直をする必要性は全くないのだが、やる気が牌に出てしまっている以上、優希が引くことはない。見方によっては意味なく点数を削るリスクを増やしているだけなのだが、彼女はそうは考えず相手、詰まる所京太郎の気持ちを折りに行くことをこの時は優先した。
(昔だったらここで諦めちまってたよな。けど今は違うぜ!!)
安牌を切る。昔の様に運のせいにして闘牌自体を放棄するなんて恥ずかしい真似は、今日は絶対にこの3人の前では見せられない。京太郎の必死な気持ちが伝わったのかそうでないかは定かではないが、危険牌を拾うこともなく和が1000,2000の手で和了した。
「私も20,000点今ので切っちゃったよ。でも負けるつもりはないよ」
ついに咲が足に手を掛けた。彼女が実力を発揮するときは決まって靴下を脱いだ時だった。
「咲さんズルいです。もう部室を片付けてエトペンはないのに…」
「そーだじょ。タコスもないんだじぇ」
「あはは。そういう事もあるよ」
(…。ここからが正念場か。出来れば咲が本気を出す前にトップまで出たかったが。また耐える時間が必要そうだな)
咲が本気になった一局目は絶対にケアする必要がある。特に自分が一段どころか圧倒的に実力が下なのだからミスは許されない。親っパネで飛んでしまう以上、京太郎にできることは咲の親の出だしには絶対に振り込まない事であった。
案の定、跳満を聴牌していた咲に、優希が槓材を与えて責任払い。続く一本場で優希も咲から満貫を和了り、女子3人はほぼ横並び、相変わらず京太郎がラスである。
オーラスが開局した。点数が拮抗しているとは言え、トップ目に躍り出た咲は1,000点で上がれば30,500点となり勝ちが決まる。
(咲さんの動きは嶺上開花に注意しておくことがまず重要ですね。私も手は軽いですが平和手で鳴くには微妙であることとドラがないことが悔やまれますね。2飜か、或いは40符あれば逆転ですが)
和の勝利条件もそう難しいものではないが、1飜30符では30,000点を超えないためもう一局を打つ必要が出てくる。この段階では京太郎は跳満ツモでも届かない。そして彼が勝つつもりで麻雀を打っていることは和も認めている。故に点差が開いているため障害としてはカウントする必要がないことも同時に意味していた。
(これじゃあまったく戦うどころじゃない。けど諦めるもんか!!)
京太郎の配牌は全くと言っていいほど良くはなかった。7シャンテンとバラバラに手が入ってしまい、何をどう処理していくかすらすぐには決められない。
(とりあえず一色を目指す。やれることはやるしかない!!)
(ドラが風牌の南で対子。鳴くのは無理かもしれないけど和了り切るじぇ!!)
(うん。1筒が刻子だ。いけるかな?)
「あ、俺は14,700」
「29,500だよ」
「27,600だじぇ」
「私は28,200点です」
本来はこのタイミングではないのだが、オーラスの点数申告をしてオーラスの幕が開けた。
勝ち目の薄い京太郎が一色狙いで切り出していることは3人も承知している。倍満が要るのだからかなりの無茶をしていかなければならない。彼女たちにとってはもう他人を警戒するよりもいかに早く自分が上がるかのほうが優先されている。隙があるというよりはもうそれしかやれることがないのだ。
そして最初に手が入ったのは咲だった。明らかに手出しの牌が多くなっていたのを見て聴牌気配を京太郎も含めて知得した。
(私も聴牌…。でも、咲ちゃんに1筒切るとか…。でもここで迂回したら和ちゃんに持ってかれると思うじょ…。行くしかない!!)
「立直だじぇ!!」
「それカ「ロンです」
咲のカンを制するように和がロンの声を掛けた。
「…1,500点、です」
「和ちゃん、なんで立直しなかったの?」
「咲さんの待ちが割と読みやすい形でしたしこちらも高め2,000点でしたから。何より1筒が出てくるとは思ってませんでしたので」
「咲ちゃんの代名詞みたいな牌だから出したくはなかったんだじぇ…」
「ギリギリ30,000は超えなかったんだな。和了り止めはするのか?」
「まさか。勝ちますよ」
「そいつは重畳。だが、負けるつもりはないぜ」
咲も優希も勝つと宣言したところで一本場が始まった。
(東一局に続き三色手がまた入ったのか。そして純チャンにいけるならドラ含みと立直で跳満か。悪くはない)
必要なところをほぼ無駄ヅモなく掴んでくる。
(なんだろう。牌が思い通りに動くというか牌の一部がなんとなくわかる様な気がする)
京太郎にとっては不思議な体験だが、別に特別なオカルトと言うほど特殊な現象とは言えない。なぜなら引退までずっと誰よりも世話をしてきた卓と牌だ。その傷であったり染みであったり、そういった要素を直感で判別しているのだ。ガン牌と言われればその通りであるし、自覚がないのだからオカルトだと本人が思えばそれまでなのだが、兎に角、京太郎はおぼろげながらもある程度の牌が何なのかを理解していた。
(咲が聴牌した。待ちは1筒単騎で三暗刻。どんだけ1筒が手牌に来る確率が高いんだよ。で、和は1シャンテン。優希はまだかかりそうだな)
手牌の中張牌を続けて処理し、自身も聴牌までどうにか漕ぎ付けた。待ちは8索だが、ツモっても7飜であり逆転には届かない。だが、京太郎が躊躇うことはなかった。
「立直!!」
「それカン!!」
咲が京太郎の切った牌を大明槓する。嶺上から拾った牌も槓材であったため加槓するものの、ドラを増やすことは出来たが、和了ることができなかった咲は仕方なくツモった牌をそのまま河に並べた。
「ツモ!!」
室内に一際高い声が響いた。
………
「じゃあ約束通り頼み事を聞いてもらいたいんだ」
勝負に勝ったのは京太郎だった。結局あれだけ槓ドラが捲られたにもかかわらず、乗ったのは一枚。ギリギリの倍満での勝利であった。
「でも何を?あ、エッチなのはダメだよ!!」
「っ!!バカか!そうじゃないんだよ。和、これを受け取ってほしいんだ」
京太郎が差し出したのは一通の便箋。退部届であった。
「これは?今ここで受理しようにももう私たちは卒業ですよ?」
「どういう事なの京ちゃん」
「あぁ。今日を最後に麻雀からは身を引こうと思っていたんだ」
「もう二度と打つつもりはないって事なのか?」
この異性の親友との接点がなくなることに尋ねた優希だけでなく咲も和も不安でいっぱいになった。
「そのつもりだ」
「待ってよ!!麻雀が嫌だった私をもう一度打てるように導いてくれたのは京ちゃんだよ!!なんでっ!!」
「順番に説明してった方がいいな。咲、俺がハンドボールを中学でやってたのは知ってるよな」
「う、うん」
「県予選の決勝までいったんだけどさ。自分の中で限界を造っちまったんだよ。もう俺は上にはいけないってね。怪我したことも相まっての話だけどずっと燻ってたんだ」
「もしかしてハンドボール部に」
「大学ではそのつもりさ。2年の時のインハイが終わってからはずっと身体は苛めてたから大学で通用しないまでも入部くらいはできるレベルまでは鍛えてるつもりさ」
そういった京太郎をよく見ると、確かに以前より首回りが太かったりすることに気が付く。部活が終わってからこの一年半、受験勉強の傍ら彼はずっと自主トレーニングを続けていた。
「部長、じゃなかった竹井先輩と染谷先輩にも相談はしたんだ。足手まといになってる俺が部活にいてもいいのかって事とハンドボールへの未練に。麻雀は好きだし、今だから言うが和への下心もあったよ。隙と言うよりは憧れだけどね。まぁ、兎に角ハンドへの気持ちが捨てられないけどこの学校にはハンド部もない。なら大学でやり直してみたらって話になってな。部活に関しては麻雀部が好きなら残ってほしいという先輩たちとの約束だったんだ。勿論、お前らと一緒にいたかったってのもあるが、やっぱりそれは麻雀を打つ選手としてじゃなかったんだ」
「それで選手ではなくサポートに回ったということですか?」
自分への下心があったことくらいは流石に和も気付いてい。だからと言って男女の関係になるとかはなかったが、今の京太郎を見ていると良い男を袖に振る行為だったのかもしれないと少しだけ後悔した。目標に向かって真っすぐな人間が魅力的に見えるのは、自分もそうだったからだろう。
「あぁ、本当なら和たちにも相談するべきだとは思ったんだ。けどさ、現役選手の気持ちを萎えさせることなんてできないだろ?引退した後だって後輩は部室にいるんだ。下手な空気は作れないさ」
「でも、京ちゃん私たちに勝ったんだよ?一応全国区3人を相手にして。なのに辞めちゃうなんて勿体ないと思う」
「うーん。多分次やったら確実に俺が負けるさ。多分と確実っておかしいか。きっともう一度ハンドに戻れって神様からのお告げが下りてきたんだと思う。だから勝てたんだよ」
「勝ち逃げとかずるいじぇ。今じゃなくていいからいつか遠い未来でもう一度打つってのはダメなのか?」
「そうだな。二度と触らないって言ったけどそれじゃ勝ち逃げだもんな。何時かまた4人が揃えばいいんじゃないか?」
「京ちゃんが麻雀辞めちゃうのは残念だけど、またいつかこの面子で打ってくれるなら嬉しいな」
「私もです。約束ですよ?」
「あぁ。約束だ」
月日が流れ、JHリーグに一人のプロが誕生した。
彼はインタビューでこう答えたそうだ。
「自分が今ここに立っていられるのは、かけがえのない友人がいたからこそです。あいつらとの約束を今こそ実現したいと思います」
「約束とはなんですか?誰との約束なんですか?」
「高校の部活仲間とです。きっとまた会おうって約束してたんですよ」
「成程、大学時代で急成長を遂げた強さの一端は絆あってのものだということですね」
「はい。だからあいつらには感謝をしてもし足りませんよ。見ているかわからないかもしれないけど、ありがとう」
その時の笑顔は、最後に約束をした時と同じとびっきりのものだった。
終幕
>>4-5
>>2修正
「もうすぐ卒業だな。最後に俺と打ってもらえないか?」
そう切り出したのは清澄高校麻雀部唯一の男子部員、須賀京太郎である。現在、部室には彼を含めた3年生部員しかいない。卒業前に3年生全員(と言っても4人しかいないのだが)で部室に集まろうと提案したのは、快活な性格で当時の主将であった竹井久が引退してからはすっかりムードメーカーとして定着した片岡優希であった。元々仲の良かった女子3人は、引退してからもちょくちょく後輩の指導と称して部で集まることをしていたのだが、京太郎だけは引退してからは部室に近寄ることをしなかった。進路についても彼一人が理系コースを選択し、ほかのメンバーは文系進学を希望したことも理由に挙げられるのだろうが、彼の幼馴染であった宮永咲だけは理解はしているものの感情として納得がいかず、直接問い詰めたりもした。
しかし、彼の返事は決まって「ゴメンな。忙しいんだ」と言う極めてそっけないものであった。また、3年になってから主将になった原村和も気にしてはいたのだが、自身の受験勉強もあったりで中々コンタクトを取ることはしなかった。勿論思う所がなかったわけではない。だが、既に自分も引退した身であり、仲が悪かったわけではないのだが、元々男性が苦手だったり麻雀以外での接点が京太郎とは少なかったことも拍車をかけた。
そんな状況を見かね、全員とそれなりのコミュニケーションを取っていた優希は、皆が進学などが落ち着いたこのタイミングを狙って、とは言ってもだいぶ遅くなってしまったのだがわだかたまりを解消したいと思い、部室に集まってもらったということだ。尤も京太郎以外のメンバーは優希が声を掛ければすぐ集合できたので、京太郎の都合に合わせての話であるということは、優希以外は知らなかったりするのだが。
「いきなり、と言うわけでもないですね。私たちは引退したとはいえ麻雀部員ですから」
「京ちゃんと最後に麻雀打ったのって2年のインターハイが終わったくらいの時だったっけ?」
「それなのに私たちと打とうなんて勇気あるんだじょ」
三者三様の反応ではあったが、京太郎は彼女たちの歩んできた険しい道のりを誰よりも理解している。麻雀においては絶対に自分が届くことはない領域にいることも。
依頼出しときます
乙
本気でやめて教師エンドでもよかったと思っている
>>25
勝手に優希が動いて気が付いたらこうなってました。
元々は決別ってタイトルだったので自分でもなんでこうなったと思ってます。
>>2の厚みがヤヴァイ
>>24
つまんねーから二度と書くなしね
乙です
良かった
>>30
ありがとう
改めて読むと「~た」の過去形文章が多すぎて読み辛かったかもしれないですがそう言って貰えるとありがたいです
このSSまとめへのコメント
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