【ラブライブ】海未「花陽と歩く帰り道」 (182)

うみぱな
地の文
百合要素あり
前作あり(のぞりん)

以上のことが大丈夫な方はぜひお付き合いください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455969755

――――――



海未「花陽?」

花陽「ふぇ?」



日も沈みかけた帰り道。
隣を歩く花陽にふと声をかけると、気の抜けた返事が返ってきました。


海未「……大丈夫ですか?」

花陽「あ、うんっ、ご、ごめんね」


わたわたと。
慌てたように謝る花陽。

練習をハードにしすぎたでしょうか?

そう訊ねると、花陽は首をブンブンと横に振りました。


花陽「そ、そういうわけじゃないの」

海未「……そう、ですか」

花陽「…………うん」

海未「…………」


なら、どうしたのですか?
とは、流石の私も聞きません。

海未ちゃんはにぶいです、と。

ことりにそう言われ続けた私でも、そのくらいは分かっています。

花陽がボーッとしてある理由なんて分かりきっています。

だから、私は


花陽「…………」

海未「…………」


ただ歩きます。
花陽の隣で。
花陽の歩幅に合わせて。



花陽がどこかに行ってしまわないように……。



――――――

――――――

良さげ

――――――


今から一ヶ月と少し前のことです。


凛と希が恋人になりました。


以前から希は凛のことが気になっていて、凛も希のことを好きになっていたようで。

ただ、凛はそれをまったく自覚しておらず、ただただモヤモヤとした思いを抱えていました。
そのせいで悩み、元気がなくなっていたのを覚えています。

……え?
なんで私がそんなに詳しいのか、ですか?


それは、私がその様子を見ていたからです。


凛に巻き込まれる形で、ですが……。

とにかく。
そのまま何もしなければ、凛は自分の想いに気付かずにいたでしょう。
そうなれば、モヤモヤとした何かを抱え込んだままになっていたでしょうけれど……。


…………。


正直な話。
私としては、それでもよかったのだと思います。

……いいえ。
その方がよかったのだと思っています。
だって、そうでしょう?


そのまま、何事もなければ。
きっと花陽が元気をなくすことはなかったでしょうから。


……はい。
分かっていますよ。
凛が想いに気付かない方がよかった、なんて。
そんなことはないんですよね。

私だってそんなこと、分かっています。
それを思うのは、花陽に失礼ですから。



凛への恋心を押し殺して。
それでも凛の恋を叶えようとした花陽。



私がこんなことを思うのは、そんな貴女の尊い行いを否定することと同義で。
あの日貴女が見せた涙を汚すことと同義で。

けれど、思わずにはいられないんですよ。



この結末ではあまりにも――



――――――

――――――



海未「――報われないではないですか」



自室に敷いた敷布団の上。
私は独白のように、言葉を続けた。

……いえ。
独白ではありませんね。
ちゃんと相手がいますから。


海未「ね、ハナヨ?」

「…………」


同意を求めても、そこに横になる彼女は返事を返すことはありません。


「…………」

海未「まぁ、当然ですよね」


相手はぬいぐるみなのですから。


ハナヨ「……」


最近作った手のひらサイズのぬいぐるみ。

いつだったか、ことりに教えてもらった作り方を思い出しながら作った彼女。
花陽をモデルに作った彼女を、私は『ハナヨ』と名付けました。
……そのままですが。

裁縫なんてあまりしないから、少し歪な出来。
黒い糸で形作った眉なんて、まるで困ったように、垂れ下がっています。

これはこれでカワイイよ♪

きっとことりならそう言うでしょうが……。


海未「ぬいぐるみくらいは、満面の笑顔でいてほしかったんですけどね……」

ハナヨ「…………」


そう呟いても、ハナヨの頭を撫でてみても、彼女の表情は変わらない。
困ったように眉を落としたまま。



海未「…………ねぇ、花陽」

海未「貴女は、どうやったら笑顔を見せてくれるんですか?」



目の前の彼女にそう問いかけます。
もちろん、ハナヨからその答えが返ってくるわけもなく……。

かといって、私にそれを直接花陽に訊ねる勇気もありません。



海未「どうすればいいんでしょうか……」



ここ一ヶ月の花陽の無理したような笑顔を思い出して。
私は目の前の彼女よりもさらに眉を顰めたのでした。


――――――

――――――

――――――



「――――ゃん」

海未「…………」

「――未ちゃん?」

海未「…………」

「もうっ!!」



「海未ちゃんっ!!」



海未「っ!?」


自分の名前を大声で呼ばれて、我に返りました。
目の前には、



穂乃果「海未ちゃん!」

ことり「だいじょうぶ?」


海未「穂乃果……ことり……」


二人の幼馴染みがいました。


ことり「めずらしいね、海未ちゃんがボーッとしてるなんて」

海未「……昨日、少し考え事をしていまして」

ことり「寝不足?」

海未「…………はい」


心配そうに私の顔を覗き込むことりに頷きます。
私としたことが、授業中に上の空になるなんて……。
穂乃果じゃないんですから……はぁぁぁ。


穂乃果「む? なんか、穂乃果バカにされたような気がする」

海未「気のせいですよ」


こういうときばかり鋭い穂乃果の言葉を軽く流して、


海未「はぁぁぁ……」


またため息。

まったく。
授業中に意識を飛ばしてしまうような自分の弛み具合に呆れてしまいます。



穂乃果「ふっふっふっ、海未ちゃん?」


と、今度は穂乃果が私の顔を覗き込んできました。
ことりと違い、ニヤニヤとした表情で。


海未「……なんですか、穂乃果」

穂乃果「こほんっ!」


穂乃果「『授業中に寝るなんて! 弛みすぎですっ!!』」


海未「…………」

穂乃果「ふふんっ!」


得意気な表情で私に向かってそう言う穂乃果。
……誰の真似ですか、誰の。


穂乃果「さぁ、誰だろうねぇぇ?」


わざわざ口にはしなかった質問に答える穂乃果。
無駄に鋭いというかなんというか……。

いつもそれを言われている相手に、言い返すことが出来て、さぞご満悦でしょうね。
その表情から嫌でも伝わってきますよ。


海未「…………」


いつも寝ている貴女にそれを言う資格はありません、とか。
それでは、穂乃果はさぞかし授業に集中して取り組んでいたのでしょうね、とか。

まるで鬼の首を取ったかのように得意になっている穂乃果に、本来ならばお説教のひとつでもしたいところなのですが……。



海未「……はぁぁぁ」



ダメですね。
今はその気も起きません。
ため息が出るだけです。

中途半端ですが
今日はここまで。
言葉がうまく出てこない……。

少し更新



ことり「……海未ちゃん」


ふと気づくと、ことりの心配そうな顔がありました。


ことり「ほんとに……だいじょうぶ?」

海未「……大丈夫ですよ」


心配そうな表情で私の顔を覗き込むことりに、そう答える。

……えぇ。
私は大丈夫ですとも。
本当に心配すべきなのは、私なんかより――



穂乃果「……花陽ちゃんのこと?」

海未「っ」



ズバリ、でした。

まるで私の心のなかを読んだかのように、そう言う穂乃果。
さっきまでのふざけた様子とは一転、真剣な眼差しをこちらに向けてきます。


ことり「花陽ちゃん?」

穂乃果「うん。最近、花陽ちゃんたまにボーッとしてるなって」

ことり「あ、そっか。だから、海未ちゃん、練習中に花陽ちゃんのこと気にしてたんだね」

穂乃果「うーん、確かに心配だよね、花陽ちゃん」

ことり「……うん」


うんうんと、頷く穂乃果たち。
すでに、私への心配は花陽への心配に刷り変わっていました。



海未「…………」


花陽に元気がない理由を考えれば、本当は黙っているべきなのだと思います。
花陽がそう決めて、納得したんですから。
それに、きっと時間が解決してくれる問題だと思いますから。

けれど……。



『ご、ごめんね、海未ちゃん』



なぜでしょうか。
笑顔を浮かべて謝る花陽の姿を思い出すと、妙に胸がざわつくのは……。


海未「……っ」



ことり「海未ちゃん……」

海未「あっ、すみません」

穂乃果「…………」


また、ことりに心配をかけてしまいました。

いけませんね。
……よしっ!
切り替えましょう!
切り替えて……私は……。



穂乃果「ね、海未ちゃん!」



と、思考を遮るように穂乃果が声をあげました。

穂乃果?
突然のことに困惑しながら、その名前を呼びます。
すると、穂乃果は身を乗り出して、こう言いました。



穂乃果「花陽ちゃんのこと! どうにかしよう!」



――――――

――――――


どうにかしよう、なんて。
あまりにざっくりしていて。

けれど、私はそれに頷いたのです。

どうにかしなくては……いえ。
どうにかしたい。
そう思ったから。


あのまま、元気のない花陽を見ているのは嫌なんです。
そのためなら、出来ることはします。


穂乃果に私はそう言ったのです。

……………………。

…………そう。
確かにそうは言ったのですが……。


――――――

――――――



花陽「…………」

海未「…………」


花陽と二人の帰り道。

チラリ。
横目で花陽を見ます。
様子に変わりはなく、どこかボーッとした様子です。

そして、


海未「…………っ」


これを使いましょう!

そう言われて、ことりに渡された例のモノ。
カバンの中に入れたそれに意識を向けます。
勝手に飛んでいっていたりしなければ、ちゃんと入っているはずです。


海未「…………」


花陽もいる。
例のモノも持っている。

問題は――



海未「あ、あの! 花陽!」

花陽「……えっ、あっ、なに?」

海未「…………」

花陽「?」

海未「…………」



海未「い、いえ……何でもありません」



花陽「?」



問題は、私がこれを渡せるかですっ!

ことりから貰った例のモノ。
それすなわち――

―― 回想 ――



海未「水族館のペアチケット……ですか?」



ことり「うん♪ お母さんが知り合いの人から貰ったものなんだけど、よかったら使って?」

穂乃果「あ、これ! 今度できるやつだよね! え!? まだオープンしてないんじゃなかった!?」

ことり「うん。お母さんの知り合いがそこのスタッフみたいで……。関係者だけで先行公開するんだって」

穂乃果「ほえぇぇ……開店前セールみたいな感じ?」

ことり「そ、それは違うような……」

海未「そ、そんな、悪いですよ!」

ことり「……ううん。お母さんも忙しいみたいでいけないから」

海未「で、では、ことりが使えば……」

ことり「3人分なら使ったんだけど、ね?」

穂乃果「?」

海未「……あっ」

ことり「だから! ね?」

海未「……ですが!」

ことり「海未ちゃんっ――」



ことり「――おねがぁい♪」

海未「っ、こ、ことり、それはずるいです……」



ことり「えへへ♪ ちゃんと花陽ちゃんを元気づけてあげてね?」

海未「…………はい。必ず」

ことり「うん♪」


穂乃果「……うーん」

海未「穂乃果?」

ことり「穂乃果ちゃん? どうかしたの?」

穂乃果「……ねぇ、海未ちゃん」

海未「はい?」

穂乃果「えっと、大丈夫?」

海未「大丈夫? なにがです?」

穂乃果「いや、えっとぉ……」

海未「?」



穂乃果「ちゃんと、誘えるかなぁって」



海未「は? 一体なにを言って――」

穂乃果「だってっ! 想像してみてよ! 水族館のペアチケットだよ?」

海未「……はい。それがなにか?」

穂乃果「水族館だよ? ペアだよ?」

海未「…………はい」

穂乃果「しかも、結構レアなオープン前のところだよ!」

海未「………………はい」

穂乃果「そこに一緒に行くなんて、なんだか――」



穂乃果「――デートみたいだよね」

海未「!?!?」


――――――

『海未ちゃん、見てみて! 可愛いお魚だよ』

『え? そ、そんなことっ///』

『~~っ///』

『あ、あの……そのっ///』

『う、海未ちゃん……あ、あのねっ』

『花陽、実は海未ちゃんのことが――』

――――――


ことり「こんな感じかなぁ?」

穂乃果「うん」

海未「な、なっ!?」



海未「あっ、ありえませんっ!!」



――――――


「じゃあ、渡せるよね!」
「もちろんです!」

穂乃果の言葉に即座に返事を返した私でしたが……。


海未「は、はにゃよっ!」

花陽「は、はいっ」

海未「…………」

花陽「…………」

海未「…………なんでも、ありません」

花陽「そ、そっか」


この通りです。

言いかけて、躊躇って。
その繰り返し。

そうこうしている間に……。



花陽「今日も、ありがとう、海未ちゃん」

海未「あっ、い、いえ!」



いつの間にか、いつもの別れ道に着いてしまっていました。

噫無情。
結局、渡せずじまい。
これじゃあ、二人の危惧した通りではないですか……。


海未「…………」

花陽「いつも……その……ごめんね?」


心のなかで自分の不甲斐なさを嘆いていると、どうやら変に勘違いしてしまったようで、花陽がそんな風に謝ってきました。


花陽「毎日送ってもらっちゃて……海未ちゃんも疲れちゃうよね」

海未「い、いえ! そういうことでは――」

花陽「……ううん。ごめん、海未ちゃん……」

海未「は、花陽っ、そんな、顔をあげてください!」

花陽「…………」


俯く花陽。
私の言葉はたぶんもう届いていません。

あぁ……。
そういうことではないんです、花陽。
私が思っていたのは……。


海未「あ、あの、ですね……」

花陽「っ、ご、ごめんね……帰るねっ」

海未「は、花陽っ!!」


私が言葉を見つけ出すより先に、そのまま花陽は走り去ろうとしました。

待ってくださいっ!
そう呼び止めても、花陽は止まりません。

きっとこのまま帰してしまったら、花陽はまた――。

私の脳裏に浮かぶのは、花陽の姿。
いつか見た、一人で泣きそうになっていた花陽の表情。


海未「――っ」


酷く不快なざわつき。
それを感じて、体が反射で動く。



―― ガシッ ――


花陽「え?」



気付くと私は、花陽の腕を掴んでいました。


花陽「え!? 海未ちゃん……?」

海未「花陽!」


驚いた声をあげる花陽。
花陽の名前を呼ぶ私も内心パニックです。

このままだと逃げられてしまう!
その前に誘わなくては!

そんな強迫観念にも似た思いでパニックを起こす私。
困惑する花陽の心中など考えもせず、矢継ぎ早にこう言いました。



海未「今度の日曜日なのですが!」

海未「近日オープンする水族館を知っていますかっ?」

海未「実はそこのチケットが偶然手に入りまして!」

海未「というわけで、今度の日曜日! 水族館に行きましょうっ!!」

花陽「え、えっと??」



最早自棄になり、勢いだけの誘いです。

恐らく花陽も、その勢いに気圧されたのでしょう。
混乱した様子で、何度もまばたきをしながら。
……けれど、確かに、



花陽「………………う、うん」



確かに、頷いたのでした。



――――――

今日はここまで。

海未ちゃんがんばれ

なんか見たことあるなと思ったが
もしかして前作はトリプルカウンターののぞりんか?

期待

まだかな

待ってくださっている方がいるようでありがたいです。
リアル多忙のため更新遅いですが……。
>>22
トリプルカウンターの人間です。

少しだけですが更新します。

――――――



海未「わ、渡してしまいました……」



自分の部屋でポツリと呟きます。

は、はぁぁぁ。
緊張しました……。


海未「まだ……手が震えてますね」


勢いと……いえ、勢いだけの誘い。
我ながらよく誘うことができたと思います。

ねぇ?
ハナヨ?


ハナヨ「……」


手のひらの上のハナヨを撫でます。
そのハナヨは困った顔で私を見つめてきて……。


海未「…………」


その表情を見つめていると、


海未「……よかったのでしょうか?」


そんな言葉が口をついて出てきました。

なんで?
自分に問いかけると、その答えはすぐに見つかりました。

不安、なんですね。

あの時、目の前の彼女がいつかの泣き顔と重なって見えた。
だから、あの場で花陽を呼び止めたのです。
そうしなかったら花陽はきっと……。

けれど、



海未「できるのでしょうか、私に……」



私に、花陽を元気づけることなど。
本当に、できるのでしょうか……。


ハナヨを枕元にそっと置いてから、横になります。

ひとつため息をついて。
カバンから例のチケットを取り出して。
またため息をついて。

それから、私は静かに目を閉じました。



――――――

――――――



真姫「元気を出させるのにどうすればいいか?」

真姫「知らないわよ、そんなの」



元気のない人を元気づけるためにはどうすればいいか?

花陽にチケットを渡した2日後。
練習前の時間、二人だけしかいない部室でそれを真姫に尋ねると、そんな答えが返ってきました。
といっても、答えになっていないのですが……。


海未「えぇと……」

真姫「っていうか、いきなりなによ?」

海未「……いえ、大したことではないのですが」


口ではそう言いますが、私にとっては大したことです。
あれから2日間、必死に花陽を元気づける策を考えました。
ですが、私だけでは全然考えつかず、今に至ります。

藁にも縋る思いで聞いたのですが……。


真姫「なによ、その顔?」

海未「……いえ」

真姫「っ、悪かったわね! どうせ私、友達いないわよっ!」

海未「…………」


いえ。
別にそんなことは言ってないんですけれど……。


真姫「で、本当はなんでそんなこと聞いてきたの?」

真姫「穂乃果? それとも、ことり?」

海未「…………」


当たり前のように、二人の名前を出す真姫。

まぁ、私がそんなことを聞くのは幼馴染み関連だろうと考えるのは当然ですよね。
けれど、残念ながらそれはハズレです。


海未「……いえ、本当になんでもないんですよ」


さすがに花陽のことを言うのは……。
そう思って、私は場を濁そうとしたのですが――



真姫「じゃあ、花陽?」



海未「え?」


思わず聞き返します。
まさか、真姫からその名前が出てくるとは思いませんでしたから。

驚いた私の様子を見て、なにかを察したようで、真姫は続けました。


真姫「穂乃果でもなくて、ことりでもない」

真姫「なら、花陽しかいないでしょ?」


しか、って?
な、なんでそんな自信をもってるのですか……。


真姫「幼馴染みではないなら、最近仲のいい花陽じゃないの?」

海未「……えぇと……はい」

真姫「やっぱりね」


ふふんと、真姫は得意気な表情です。
その上、


真姫「凛関係?」


と、ズバリその原因まで言い当てるとは……。


真姫「はぁぁぁ、流石に分かるわよ」

真姫「凛と希が付き合い出して、それからでしょ? 花陽の元気がなくなり始めたの」

真姫「それに、クラスでの凛と花陽の様子を見てればね」


それに気づかないのは、そういうことに疎い海未の方だと思っていたんだけどね。

呆気に取られている私を見て、真姫はそう言って肩をすくめました。


真姫「…………で?」

海未「はい?」


その真意を掴みかねて首をかしげると、真姫はまた呆れたようにため息を吐きました。
それから、


真姫「どうするの? 花陽を元気づける方法考えついてないんでしょ?」

海未「は、はい……」


真姫の言葉に頷きます。
その後、沈黙が続いて……。


真姫「…………」

海未「…………」


それから、ポツリと、真姫はこう言いました。


真姫「……一緒に考える?」

海未「っ!!」



海未「はいっ!」



――――――

今日はここまで。
前作はイケメンな海未ちゃんでしたが……。

リアル多忙で更新遅いですがお付き合いいただけたら幸いです。


真姫ちゃんやさしい

毎日送っていってりゃ普通にバレるだろうなww

少しだけ更新。

――――――



真姫に相談を持ちかけてから数日。
私と真姫はさまざまな案を考えました。
その中から現実的なものと実現が難しいものを精査していって……。

そして、そう。
明日です。
ついに日曜日がやってきます。

水族館のチケットは渡してありますし、私の分のチケットもしっかりとここにあります。
それに、水族館の場所もインターネットを使って確認済みです。
近くにご飯の美味しいお店もあるようですしね。

そう抜かりはありません。
……ただ一点を除いては。

……はい。
結論から言いましょう。


真姫と案を出し合い、実現できそうなものを精査していった結果――


――――――

海未「もしもし、真姫ですか?」

『……えぇ』

海未「夜分遅くに申し訳ありません」

『別に大して遅くもないから大丈夫よ』

海未「……は、はい」

『…………』

海未「…………」

『…………』

海未「明日、ですね」

『……えぇ、そうね』

海未「…………」

『…………』

海未「どうしましょうか……」

『……また考える?』

海未「い、いえ……恐らく今までと同じようになってしまうと思います……」

『……そう、よね』

海未「…………」

『……ごめん、海未』

海未「い、いえっ! 私が恥ずかしがって真姫の案をことごとく却下してしまったせいです!」

『…………』

海未「……真姫?」

『……うん。決めたわ』

海未「えぇと、なにを決めたのですか?」

『海未』

海未「はい?」

『明日、花陽とは何時に待ち合わせ?』

海未「9時ですが……それが……?」

『なら、9時前に海未の家に行くわ』

海未「???」



『渡したいものがあるのよ』



――――――

――――――



ついにやってきた日曜日。
待ち合わせ場所である駅前の時計の針は、今の時刻、8時20分を指していました。

ふむ。
約束の時間まであと40分ですか……。

花陽を待たせないように。
そう思って、少し早めに来たつもりですが……。


海未「少し早すぎましたかね?」


この時間ではやっていてもコンビニくらいです。
コンビニで時間を潰す、という手もありますが……。

花陽のことです。
きっと待ち合わせには余裕をもって来るでしょう。
ですから、ここを離れてしまっては結果的に花陽を待たせることになってしまうかもしれません。
なので、


海未「しばらく待ちますか」


そう言って、駅前に設置してあるベンチに座ります。

40分。
一人でただ過ぎるのを待つには、短いとは言えない時間ですね。
一人ならば、ですが。



『まったく……海未も律儀よね』

海未「わざわざ私にこんなものを渡す真姫には敵いませんよ」



耳につけたイヤホンから聞こえる真姫の言葉に、そう返します。

一人で待つには長い40分という時間ですが、幸いなことに今は真姫がいます。
電話の向こうに、ですけれど。

今日の朝のことです。
私の家にやって来た真姫は、小型のマイクとイヤホン、それから謎の機械を持ってきました。
そして、それを私に渡して、こう言いました。


「出来るだけサポートするわ」


真姫によると、謎の機械は小型の通信機のようなもので、それを使って、私と花陽の会話をその場で聞いて、対策を考えるとのことでした。

もちろん、そこまでしてもらうわけには、と思い、断ろうとしたのですが……。


「これくらいさせて。一緒に考えるとか言ったのに、なにも出来なかったし……」


そんな風に、真姫には珍しいしゅんとした表情で言われてしまっては、首を縦に振る以外の選択肢を選ぶことはありえません。



『――海未?』

海未「……っ、あ、はいっ!」

『大丈夫?』

海未「すみません。少し考え事をしていたもので……」


真姫の声に、我に返りました。

とにかく、そんな経緯で今に至ります。

なにはともあれ、真姫の申し出はありがたいのです。

もともと、私は穂乃果とことり以外の友人はあまり多くありません。
まして休日に二人で遊びに出かけるような友人というのは、幼馴染みを除けばほぼいないに等しいのです。
なので、正直にいうと、同じμ'sのメンバーであるとはいえ、花陽と二人だと、どう振る舞えばよいのか不安がありました。

だから、


海未「……真姫、頼りにしています」

『っ、えぇ、この真姫ちゃんに任せなさい!』


自信満々の真姫。
そんな真姫がリアルタイムでアドバイスをしてくれるということに、安心を感じます。


『さ、確認するわよ?』

海未「はい」

『マイクはつけてある?』

海未「はい。花陽からは見えないように、私の襟の裏側に着けています」

『なら、オーケーね。イヤホンは?』

海未「それも大丈夫です。……それにしても、このイヤホン本当に小さいですね」

『そうしないとバレるでしょ? だから、ワイヤレスのものを選んだわけだし』

海未「ふふっ、真姫には頭が上がりませんね」

『っ、別に気にしないでいいからっ!!』


声の調子から、真姫が照れているのが分かって少しだけおかしくなります。

なによ!
そう言う真姫に、軽く謝って……。


……さて。
準備は万端です!
さぁ!
どこからでもかかってきなさい、花陽!




「あ、海未ちゃん」



海未「っ!!」


ふと後ろの方から聞こえてきた声に、体が少し跳ねました。
き、来ましたね


海未「……花陽が来ました。よろしくお願いします、真姫」

『了解よ。任せて』


ポツリと囁くように話すと、真姫もそれに応じてくれました。

さぁ、気合を入れるのです!
園田海未!
今日の私の頑張りが明日からの花陽の元気に繋がることになるのですから!
失敗は許されません!

そう意気込みながら、立ち上がります。


海未「すぅ……はぁ……」

『いい? まずは、花陽を褒めなさい! きっとお洒落をしてくるはずよ』

海未「……はい」


深呼吸をひとつして、小声で応答。
いざ!
気合を入れて、私は振り向きました。
そこには――




花陽「ごめんね? 遅れちゃいましたっ」




白のワンピースを身に纏い、息を整えながらニコリと微笑む花陽がいました。


海未「…………」

花陽「待たせちゃったよね?」

海未「…………」

花陽「あ、あの、海未ちゃん?」

海未「はっ!? す、すみません!」


花陽に顔を覗き込まれて、やっと我に返ります。
なぜかボーッとしてしまいました。
なぜでしょうか……?


花陽「海未ちゃん」

海未「! すみません!」


いけません!
今日は花陽を元気づけるためのお出掛けなのですから、ボーッとしている暇などありません!
気を引き締めなさい、私!


海未「ま、待っていませんから、大丈夫ですよ」

花陽「う、うん? なら、いいんだけど……海未ちゃん、大丈夫?」

海未「は、はい! 大丈夫です!」


声が裏返りながらも、どうにかそう返事をしました。
うぅぅぅ……。
なんででしょうか。
なんだか調子が狂いますね。


『海未!』

海未「っ!」

『ほら! ちゃんと褒めてあげなさいよ?』

海未「……」


そうでした。
せっかく真姫からアドバイスを貰っているのです。
実行しましょう!

そう意気込み、私は今一度、目の前の花陽をじっと見つめました。


海未「…………」

花陽「……?」


白のワンピース。
私はあまりファッションに詳しくはないのですが、全体的にふんわりしていて、なんとなく花陽のイメージにピッタリです。

……さて。
では、私の作詞で培った能力を駆使して、素晴らしい誉め言葉を花陽に贈りましょう!


海未「花陽!」

花陽「うん?」

海未「ええと、ですね……」

花陽「うん、なに? 海未ちゃん」

海未「……………………」

花陽「???」

海未「その、ですね……」



海未「かわいらしい、と思います……」



花陽「あっ、えへへ、ありがとう」

海未「~~っ」


なぜですかっ!?
おかしいです!
なんでこんな語彙力のない、まるで小学生のような言葉しかでないのです!?
穂乃果ではないのですからっ!


『海未……』


イヤホンから聞こえる声に呆れの感情が混じるのを感じ取りながら。



海未「っ、行きましょう! 花陽っ!」

花陽「え? あ、うんっ」



ボーッとして、言葉も出てこない自分に違和感を覚えつつ。
こうして、花陽との休日が始まったのです。



――――――

今日はここまで。
見てくださってる方もいらっしゃるようですが、更新遅くて申し訳ないです。
だらだらと待っていていただけると幸いです。


トリプルカウンター?ってなんぞ?
それで検索しても出てこないんだが…
URL教えてくれ

レス感謝です。
本日できれば更新します。

前作のトリプルカウンター貼っておきます。
【ラブライブ】凛「三種の返し技にゃ!!」
【ラブライブ】凛「三種の返し技にゃ!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433327958/)

うみぱなと聞いて

楽しみにしているんだ
早く書きなさい

――――――



待ち合わせの後、花陽と二人で電車に乗って。
結局、件の水族館についたのは、10時少し前でした。
予定より30分も早く出発したので当然と言えば当然ですが。
ともあれ、水族館が始まるまで時間はまだあります。

ふと周りを見ます。
まだオープン前ということもあって、私達の他には人はあまりいません。
なので、他の人に遠慮することはないのですが……。


花陽「…………」

海未「…………」


待っている二人の間には会話はありません。
花陽は、準備してあったのか水族館のパンフレットを読んでいました。
そして、私は……。


『ねぇ、海未?』

海未「……」

『マイクの故障かしら。まったく会話が聞こえてこないんだけど?』

海未「…………」


真姫がそう言ってきました。
いえ、私達というよりは、さっきからいまいち調子のでない私に、でしょうけど。

真姫の皮肉。
なかなか手厳しいです……。


海未「…………」

花陽「…………」


今度は周りではなく、花陽の様子を窺います。

可愛らしく清楚な花陽。
……ふむ。
かわいいですね。

…………ではなく!
最近のようなどこかボーッとした様子は見られません。
今の花陽は、水族館のパンフレットをじっくりと見ていました。


花陽「へぇ、ご飯もおいしそうだね」

海未「…………」


展示ではなく、もう昼食に目がいっているのはなんとも花陽らしいですね。

楽しみに……してくれているのでしょうか。

それならばいいのです。
今回の目的は、花陽を元気づけることですから。
……いえ。
まだ油断はなりません。
今日は、そう。
花陽に嫌なことを思い出させないようにしなくては!


花陽「海未ちゃん!」

海未「は、はい!?」

花陽「ほら、もう入れるみたい」


花陽が指差す方を見ると、チケットを持った何組かが水族館へ入っていくのが分かりました。
時計を見ると、短針はすでに10の文字を越えています。

…………さて。



海未「では行きましょうか、花陽」

花陽「うん!」



――――――

――――――



花陽「わぁ、小さくてかわいい♪」

海未「カクレクマノミですね」

花陽「あっ、少し前に映画になったお魚だよね」

海未「はい、そうですね」

花陽「ふふっ、2匹で仲良く泳いでる。かわいいね♪……でも、なんで2匹だけなんだろう?」

海未「カクレクマノミはペアになると、同種を攻撃する性質があるんですよ」

花陽「へぇ、そうなんだぁ」

海未「なので、2匹で買うのが望ましいらしいです」

花陽「うーん、2匹だけならこんなに仲良いのにねぇ」



――――



花陽「ほぇぇ……お、おおきいです……」

海未「そ、そうですね……」

花陽「マンボウ、だよね? 本物を見るのは始めてかも?」

海未「私もです」

花陽「よくテレビとかで、海面で日光浴するの見るよね」

海未「えぇ。確か、皮膚の殺菌でしたか。それにマンボウは皮膚が弱く、水槽にぶつかっただけでも傷ついてしまうほどらしいです」

花陽「え!? そんなになの?」

海未「だから、広い水槽じゃないと飼育できないようですね」

花陽「た、大変なんだね」



――――――

――――――



花陽「わっ!?」

海未「おぉ、迫力ありますね」

花陽「う、うん! ガラス越しでもやっぱり怖いかも」

海未「ですが、どこか可愛らしさもあります」

花陽「そ、そうかな?」

海未「えぇ。よく見るとつぶらな瞳をしていますから」

花陽「う、うーん? 花陽はやっぱり怖いかなぁ……」

海未「鮫、といえば、獰猛なイメージがありますからね。ただ人に危害を加えるような種は全体の1割程度のようですよ?」

花陽「あれ? そうなんだぁ、思ったより少ないかも?」

海未「テレビに取り上げられる鮫、ホホジロザメやイタチザメは特に獰猛な種ですからね。危険なイメージはそこから来ているのでしょう」

花陽「うん……言われてみれば……ちょっとかわいいかな?」

海未「ふふっ、分かっていただけたようで何よりですよ」



――――――



花陽「マグロだぁ」

海未「あちらには鰯の群れもいますね」

花陽「あれは……カツオかな?」

海未「ここまで大きな水槽にこれだけの魚が泳いでいると流石に圧巻ですね」

花陽「ほぇぇぇ……」

海未「…………」

花陽「…………なんだか見てたら、お腹減ってきちゃった」

海未「えっ……」



――――――

――――――



海未「さて、これで大方見終わりましたかね」



パンフレットを見ると、これ以上は特に見る場所はないようで。
私は花陽にそう言いました。


花陽「うん! 楽しかったね、海未ちゃん」

海未「……えぇ、そうですね」


楽しかったですかと聞く前に、花陽はそう言って、笑います。

……そう、ですか。
それなら、


海未「それなら、よかったです」

花陽「それに海未ちゃん、とっても物知りで、お魚のことたくさん教えてもらっちゃったよ」

海未「い、いえ。それほどでもありませんよ」


……本当に、よかった。
予習してきた甲斐がありました、えぇ。


『……海未?』

海未「え、はい!」

花陽「?? 海未ちゃん?」

海未「あ、いえ! なんでもありません、気にしないでください」

花陽「う、うん?」


答えてしまってから、気づきます。
不覚でした。
前半こそ真姫は私に話しかけていましたが、後半はほぼなにも言ってこなかったので、すっかりそれを忘れて返事をしてしまいました。
幸い、花陽は気にしてないようですが……。


『……はぁ、なにしてるのよ』

海未「…………」


呆れる真姫に謝る代わりに沈黙を返します。

もちろんその間も、花陽は話をしていて。
カニが大きかったことや深海魚が不気味だったことを楽しそうに話していました。
私もそれに相槌をしながら話をして。

それを聞いていたのでしょう。
真姫はポツリとこう呟きました。



『花陽、楽しそうね』

海未「…………」

『ほんと、よかったわ』



心底ほっとしたような声色の真姫。

私がいなくても大丈夫だったわね。
なんて、笑いながら言います。


海未「……いいえ」

『? 海未?』


そんなこと、ないですよ。
真姫がいてとても助かりました。

花陽もいるので、大きな声では言えませんけど。
それでも、緊張でガチガチだった私を励ましてくれたのは他でもない真姫なのですから。
だから、



海未「ありがとう……ございます……」

『っ、べつにっ』



小さな声で、真姫だけに伝わるようにそう告げます。
本当に、感謝してますよ、真姫。



『それでっ? これからどうするの?』


照れ隠しなのか、捲し立てるように尋ねてくる真姫。

まさか帰るわけないわよね?
まだお昼になったばかりよ?


海未「……花陽」

花陽「え? なに? 海未ちゃん?」


真姫の質問に答える代わりに、花陽の名前を呼びます。

お昼時。
もちろん帰るわけありません。
むしろここからが本番と言っても過言ではないでしょう。


海未「お腹、減っていませんか?」

花陽「え、あっ、えっとぉ……はい///」


私の問いに、恥ずかしそうに頷く花陽。


『なるほどね』


イヤホン越しの真姫の納得したような声を聞きながら、



海未「ご飯の美味しいお店が近くにあるみたいなんですが……」

花陽「っ!!」

海未「そこで昼食にしませんか?」



花陽の答えはわざわざ言うまでもなく、ですよね?

そうして私は、『予習』の重要性をその身で感じつつ。
目を輝かせる花陽を連れて水族館を後にしたのでした。



――――――

今日はここまで。

三連休中は更新なしか…
はよ

待ってるからはよこい!

私が来た。
少しですが更新します。

――――――


昼食を食べ終え、それから町の中を回りました。
いつの間にか夕陽が周りを照らしています。


海未「もう、こんな時間ですね」

花陽「……うん」


帰らなくてはいけませんね。

そんな私の言葉に花陽はコクリと頷きます。
その表情は……。


海未「花陽?」

花陽「…………」

海未「…………」

花陽「あっ、ご、ごめんね?」


俯いた花陽は、私の視線に気付き、謝りました。


海未「…………」


……また、なのですか。
今日、私は花陽を元気づけるために、遊びに来たはずなのに……。

いつかの屋上と同じ。
いつもの帰り道と同じ。
そんな表情を花陽は浮かべてしまっている。


海未「……っ」


やはり私では――。

――――――



花陽「っ、海未ちゃんっ!」



――――――

花陽の声。
私の名前を口にしました。


海未「……花陽?」


それに答えるように、彼女の名前を呼び返します。
すると、花陽は



花陽「今日はありがとう」

花陽「花陽、とっても楽しかったです♪」



そう言って、ニコリと微笑みました。

あれ?
花陽はまだ元気がないはずでは……?
でも……?

突然のことで、理解の追い付いていない私。
えぇと?
と、間の抜けた返事を返してしまって。


花陽「水族館も、ご飯屋さんも」

花陽「一緒にショッピングも行けて」

花陽「……」

花陽「すごく楽しくて、うん……元気がでたよ」


元気がでた。

混乱する私に不意打ちのようにかけられたのはそんな言葉。
求めていた言葉。


海未「……それは、よかった、です」


今の私にはそう返すのが精一杯でした。
全く気の効かない返答になってしまいましたが、


花陽「うん♪ ありがとう、海未ちゃん」


花陽が笑っているのです。
えぇ、よしとしましょう。

しばらく他愛のない話をしながら歩いて。


花陽「ここで大丈夫だよ」

海未「あ、はい」


気づけば、いつもの別れ道。
ふふっ。
やはり、楽しい時間は早く過ぎてしまうものなのですね。


海未「では、気を付けて帰ってください」


少しだけ緩む頬を引き締めて、花陽にそう言います。
と、そんな私に花陽はペコリと頭を下げました。


花陽「今日は……本当にありがとう」

海未「いえ、花陽が楽しんでくれてなによりです」

花陽「……それじゃあ、また明日。学校でね」

海未「はい」


そのまま去っていく花陽。
もちろん、その姿が見えなくなるまで見送って。
それから――



海未「…………よし」



ガッツポーズ。

らしくない。
それは分かっているのですが……。
せずにはいられませんでした。
だって、そうでしょう?



これで、花陽が元気になるのですから。



――――――

――――――



………………。



そう。
花陽はきっと元気になる、と。

鈍い私は、そう思っていたのです。



人の感情の機微にも。
色恋の話にも。


鈍い。


ことりにも真姫にもそう言われました。
まったく本当にその通りで。
それを私は否定することが出来ません。
その資格はありません。

……もしも。
もしも、私が鈍くない人間だったならば。
私は感じ取ることが出来たはずなのですから。



花陽の気持ちと、笑顔の理由を。



それを汲み取っていたならば、きっと結末は変わっていたはずです。

もちろん、鈍くて鈍い私には、そんなこと知る由もないことなのですが……。



――――――

今日はここまで。
レス感謝。
更新遅くて申し訳ない。
ペース上げられるよう善処します。

おつおつ

乙です

本日更新予定。

待ってました

――――――



海未「助けてください……」

真姫「…………」



放課後の音楽室。
二人での曲作りの最中、私は真姫に助けを求めました。
とは言っても、助けを求めたのは、決して作詞のことではなく……。



真姫「花陽が積極的すぎる? ナニソレ、イミワカンナイ」



そう。
花陽のことです。


海未「私にも分かりませんよ……」


ため息と一緒にそんな言葉を吐き出します。

真姫にした相談。
水族館に遊びに出かけた次の日から、花陽の様子が変だということ。
それは今までのように、上の空とか元気がないというわけではなく。
いえ、むしろ元気がありすぎるというか……。


真姫「要領を得ないわね」

海未「要領……得ませんか」

真姫「えぇ、分かんないわ」


第一、積極的ってなにによ?

真姫にそう尋ねられて思わず黙ります。
うぅぅ……。
確かに、これで察してくれるほど真姫も鋭くはない、ですよね。


真姫「……なんか馬鹿にされた気がするんだけど」

海未「気のせいです」

真姫「……」


とにかく!
私が言いたいのはですねっ!!



海未「花陽はここ最近――」

海未「スキンシップが多いのですっ///」


―― 回想 ――



とある休み時間には――。



花陽「海未ちゃん」

海未「花陽?」

花陽「あ、あの……英語の辞書貸してくれないかな?」

海未「えぇ、構いませんよ」

花陽「ごめんね? 忘れちゃって……」

海未「たまにはそういうこともありますよ…………はい、どうぞ」

花陽「あ、ありがとうっ」



―― ギュッ ――



海未「!?」

花陽「……えへへ」


――――――


とある昼休みには――。



海未「お弁当、ですか?」

花陽「うん! 作ったんだけど……」

海未「……いただいても?」

花陽「うんっ♪」

海未「それでは――」



花陽「はい、あーん♪」



海未「なっ!?」

花陽「……海未ちゃん?」

海未「は、はなよ!? それは、そのっ!!」

花陽「……あっ、うん……そう、だよね……」

海未「っ」


海未「あ、あーん……」


花陽「!! あーん♪」

海未「……っ」

花陽「どう、かな?」

海未「美味しい、です///」

花陽「えへへ、よかったです」

海未「……は、はい///」



―― 回想終了 ――

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


海未「――という感じなのですが……///」

真姫「ヴぇぇ……」

海未「ま、真姫?」

真姫「はっ!? ごめん、あまりに甘すぎて……」

海未「うぅぅぅ……///」


だ、だから嫌だったのです!
その反応は予想できましたから!


真姫「それにしても……すごいわね」

海未「は、はい。すごいんです……」


積極的すぎる。
そう言った意味がやっと理解してもらえたの
でしょう。
真姫は髪先をくるくると弄りながら、こう言いました。


真姫「花陽らしくないわね」

海未「……はい」


花陽らしくない。
その言葉に私は頷きました。


海未「元々、花陽はそこまでスキンシップをとるタイプではありませんし」

真姫「そうね。ま、教室ではいつも通りだけど……」

海未「…………え?」

真姫「海未?」


教室ではいつも通り?


海未「なら――」

真姫「……海未?」

海未「……いえ、なんでもありません」

真姫「?」



なら――。

その後に続く言葉は、きっと私の思い上がりです。
第一、鈍い鈍いと言われている私が気づくことなんて……ありませんから。

だから、今頭をよぎったその考えはきっと――。



真姫「とにかく、花陽を元気づけるって目的は果たせたんだからいいんじゃない?」

海未「……そうですね」



真姫の言う通り。

花陽が元気になった。
今はそれだけで十分です。


海未「さて、そろそろ下校時刻ですね」

真姫「……え? あぁ」


時計を見ると、あと20分で完全下校時刻でした。
作詞ノートを閉じて、席を立ちます。


真姫「結局、進まなかったわね」

海未「えぇ」


真姫の言葉に、苦笑を返します。

申し訳ありません。
私が話を始めてしまったから。

そう言うと、


真姫「べつにいいわよ。たまには、こういうのも必要らしいわ」


絵里が言ってた。

真姫は微笑みながら、そう返してきて。
私もそれに頷いたのでした。

………………。

……さて。
そろそろ本当に帰らなくてはいけません。



海未「……では、私は花陽を迎えに行ってきますね」



作詞ノートを閉まった鞄を持ち、そのまま音楽室の出口へ。


真姫「じゃあね、海未。また明日」


また明日。

真姫の言葉に、そう返して。
私は音楽室を後にしました。



――――――

――――――



真姫「……迎えに行くって」

真姫「はぁ、それをさも当たり前のように言うんだもの」

真姫「海未、貴女も結構積極的というかなんというか……」

真姫「ま、自覚はないんでしょうけど」


真姫「……それにしても」



真姫「花陽が自分からスキンシップ、ねぇ」



真姫「………………」

真姫「……杞憂ならいいんだけど」



――――――

――――――



花陽「ご、ごめんねっ! 着替えるの時間かかっちゃってっ」



パタパタと小走りで校門にやって来た花陽。


海未「ふふっ」

花陽「海未ちゃん?」

海未「襟が折れてしまっていますよ?」


そう言って、花陽の制服の襟を直します。
よほど急いでいたのでしようね。


花陽「あ、ありがとう」

海未「いいえ、気にしないでください。それでは、行きましょうか」

花陽「うん」


今日もまたゆっくりと。
二人の帰り道を歩き始めます。

いつものように。
二人の話題は練習や授業中のことです。


海未「はぁぁぁ」

花陽「どうしたの?」

海未「いえ、また授業中に穂乃果がですね……」

花陽「眠ってた?」

海未「はい……。何度も何度も言っているのですが……」

花陽「うーん。穂乃果ちゃんらしいと言えばらしいけど」

海未「まったく、それでは困ります!」

花陽「……今度、花陽からも言ってみる?」

海未「!! そうですね。穂乃果も後輩から言われれば、流石に堪えるでしょうから」

花陽「うん、じゃあ、言ってみるね?」

海未「助かります、花陽」

花陽「ううん。うーん、練習だと穂乃果ちゃんすごく頼りになるんだけど」

海未「まぁ、それはそれなんでしょう。穂乃果の中では……。あ、そういえば今日の練習はどうでしたか?」

花陽「あ、うん。今日はこの間作ったあの曲の振り付けを練習したんだ」

海未「あぁ……あの曲は確かに難しいですからね」

花陽「うん。花陽もサビの入りの部分が苦手で……」

海未「サビの入り……あぁ、あそこですか」

花陽「う、うん……どうしても足がもつれちゃうんだ」

海未「そうですね……あそこは左足をあらかじめ少し引いておくと楽なんです」

花陽「そうなの?」

海未「はい。今度意識してみてください」

花陽「うん! やってみます!」

花陽「……海未ちゃんの方はどうだったの?」

海未「え?」

花陽「新曲、真姫ちゃんと一緒に作ってくれてたんだよね」

海未「あっ、そ、そうですねっ!」

花陽「?」

海未「作ってました作ってました!」

花陽「えぇと……順調そう?」

海未「……順調、というわけではありませんが」

花陽「なにかあったの?」

海未「……そうですね。少しだけ行き詰まりを感じています」

海未「イメージがまだ明確になっていないせいだとは思いますが……」

花陽「……大丈夫?」

海未「は、はい! 心配には及びません! 必ずいい詞を書いてみせます!」

花陽「そっか……」

海未「は、はい」

花陽「…………」

海未「…………」


花陽「あっ、もう……」

海未「え?」



花陽の声で気づきます。

いつの間にか。
私達はいつもの別れ道に着いていて。


海未「それでは、また明日」

花陽「うん。また明日」


いつもならば、その一言で花陽は帰っていって。
私はそれを見送る。
それがいつものことでした。
けれど……。


花陽「…………」


今日は違っていました。
花陽は少し俯いたまま、そこを動きません。


海未「花陽?」

花陽「…………」


私の呼び掛けにも黙ったままです。


えぇと?
どうしたのでしょうか?
もしかして、具合でも悪いのでは?

そう思い、私は声をかけた――


海未「はな――」


――のですが、



花陽「…………」

―― キュッ ――



海未「…………え?」



私の声に返ってきたのは、声ではなく、温もりで。
手から伝わる温もり。

それは、花陽の手から伝わってくるものでした。


海未「は、はなよ?」

花陽「あ、あのねっ、海未ちゃんの詞は全部いいよっ!」

海未「え、あっ、ありがとうございますっ」

花陽「だから、きっと大丈夫ですっ!!」


―― パッ ――

花陽「そ、それじゃ、また明日っ!」



それだけを言って、花陽はそのまま去っていきました。


海未「…………」


残された私は、突然のことに固まってしまって


海未「ふふっ」


いるわけではなく。

作詞が芳しくない。
恐らく花陽はそれを心配してくれたのでしょうね。

手に残った微かな温もり。
そこからじんわりと花陽の優しさを感じました。

そのせいでしょう。
思わず笑みが零れていて。


海未「ありがとうございます、花陽」


あとはそれだけを花陽が去っていった道へ呟いて。
私は帰路に就きました。


ふふっ。
今日は帰ったら、ハナヨを撫でてあげることにしましょうか。



――――――

一旦ここまで。
可能ならば今日中にもう少しだけ更新します。

本日はこれ以上は書けなさそうです。
更新はまた次の機会に。
レス感謝です。

おつ

乙です
かよちんと海未ちゃんの優しさが伝わってきて暖かい気持ちになる

おつ
真姫ちゃんの杞憂なら…が気になるところ

おつ
待ってるぞ

土曜日更新予定。

待ってます

午後に更新します。

待ってました

うみぱなこそ至高

――――――



希「海未ちゃん急にごめんなぁ」

海未「いえ、構いませんが……」



とある休み時間のことです。
先輩が呼んでる。
クラスメイトにそう言われ、廊下に出てみればそこにいたのは希でした。


海未「珍しいですね。希が2年生の教室に来るなんて」


どうかしたのですか?

私の言葉に、希は、


希「ちょっと、ね」


きょろきょろと周りを見渡しながら、そう答えました。


海未「?」

希「ここで話せることでもないし……生徒会室行こか」

海未「……はい」



――――――

――――――


場所は変わって生徒会室。


希「人もいないみたいやし」

海未「……人気がないほうが好都合というわけですか」


わざわざ人のいない生徒会室に私を連れてきた希に訝しげな視線を送ります。
いったいなにを……?


希「あぁ、ごめんごめんっ、そんな睨まんといて!」

海未「とは言われましても……」


なにか悪いことを企んでいるのでは?
例えばドッキリ?
凛辺りと共謀して私を嵌めるつもりでは?

さらに視線を厳しくする私。
そんな私に希は珍しく焦った様子で


希「今回は真面目な話やって!」

海未「…………」

希「ドッキリとか、わしわしとかやない!」

海未「………………」

希「相談! 相談したいことがあるんよ!」

海未「はぁぁ、分かりました。この場は信じましょう」

希「海未ちゃん!」


狼少年、もとい狼少女にも慈悲は必要です。

まぁ、それに希があまりにも必死でしたから。
これは恐らく、本当に真面目な話なのでしょう。


海未「それで、相談とは?」

希「うん、実はな……」



希「凛ちゃんと……花陽ちゃんのことで」



海未「っ!! 凛と花陽のこと!? な、なにかあったのですかっ!?」

希「うわっ!? 海未ちゃん、ちょっ!?」

海未「あっ……」


思わず詰め寄ってしまってから、はたと我に返りました。
すみませんと謝ってから、席に座ります。


希「大丈夫やけど……」

海未「…………」



凛と花陽のこと。
希からそれが出てきたとき、私の脳裏にはまたあの光景が浮かんでいました。

屋上で泣く花陽。

それを考えるだけで、いてもたってもいられなくなってしまって……。

いけません。
冷静に、冷静に。
深呼吸をひとつして……。


海未「すみません。冷静になりました。続けてください」

希「……うん」


私の言葉に頷いて、希も席に座りました。
それから、ゆっくりと話し始めます。


希「ねぇ、海未ちゃん」

希「最近、ウチが花陽ちゃんと話してるの見たことある?」

希「うん。そうやね……あんまり喋らんようになってる」

希「仕方ないんやけどね」

希「ウチは花陽ちゃんから凛ちゃんをとっちゃった、言わば敵だから……」

希「…………」

希「ふふっ、ありがとな、そう言ってくれるとありがたいやん」

希「でも、それも仕方ない。少しずつでもいいからって思ってたんやけどね」

希「…………ん?」

希「あぁ、ここからが本題。凛ちゃんと花陽ちゃんの話や」

希「ウチ3年やし、あんまり休み時間に他の教室に行くことはないんだけど、たまたま1年生の教室にいったときがあった」

希「そのとき、凛ちゃんと花陽ちゃんが話してるのを見たんよ」

希「…………ううん。話せてなかったのを見たって言った方が正しいね」

希「……そう。話せてなかった」

希「花陽ちゃんな」



希「凛ちゃんを避けてるみたいなんよ」



希「うん。凛ちゃんが話そうとしても、それを避けるようにいなくなってて……」

希「……たぶんここのところずっとなんだと思う」

希「凛ちゃんも諦めてるみたいな表情やったから……」

希「…………」

希「もちろん、花陽ちゃんに避けるな、なんて言えない」

希「……花陽ちゃんは、凛ちゃんにその……」

希「……うん」

希「だから、花陽ちゃんの気持ちも分かる、つもりよ」

希「だけど……」

希「…………」


そこで、希は俯いてしまいました。
希が言いたいことは分かりました。


海未「希、それはいつ頃のことですか?」

希「……えぇと、つい最近やね」

海未「そうですか……」


希の言葉を聞いて。
私は――。


海未「……分かりました」

希「え?」

海未「希、私に任せていただけないでしょうか?」

希「えぇと……お願いできる?」

海未「はい」


私は頷きます。
それと同時に、チャイムが鳴り……。

私は少しだけ笑顔を見せた希とともに、生徒会室を後にしました。



――――――

――――――


海未:起きていますか?

はなよ:うん

海未:今度の日曜日なのですが

はなよ:?

海未:どこかにでかけませんか?

はなよ:!

海未:場所は…まだ考えてはないのですが

はなよ:はなよがスタンプを送信しました。

海未:ありがとうございます

はなよ:はなよがスタンプを送信しました。

海未:後日また連絡しますね

はなよ:えへへ

海未:?

はなよ:デートだね♪

はなよ:海未ちゃん?

はなよ:おーい

海未:デートではありまさん

海未:たた出掛けるだけでふ!

はなよ:フフフ

はなよ:かわいい♪

海未:おやすみなさい

はなよ:あ

はなよ:逃げちゃった…

はなよ:海未ちゃーん

海未:また明日

はなよ:えへへ

はなよ:また明日です♪


――――――

――――――



海未「……はぁぁ」


携帯を置いてため息をひとつ。
私はそのまま敷布団の上に倒れこみました。
行儀がよくないのは分かっています。
けれど、


海未「デートではありませんから……」


ポツリと呟きます。

…………。


『デートみたいだよね』

海未「っ、違いますっ!!」


フラッシュバックする穂乃果に言われた言葉。
ぶんぶん、と首を振っても、


『えー! だって、日曜日に二人で出掛けるんだよ?』

『デートじゃん! ね? ことりちゃん?』

『ウンウン、ことりもそれはデートだと思います♪』

海未「…………」


ついには、ことりまで出てきました。


『でも、意外だよね。海未ちゃんが自分から誘うんだもん』

『ふふふっ、それだけ花陽ちゃんのことが……やんやん♪』

海未「……勝手に人の脳内で話をしないでください、二人とも……」

海未「…………」

海未「…………いなくなりましたか」


私の一言で、勝手なことを言っていた二人は消えました。
と言っても、二人の声は私の妄想の産物でしかないんでしょうけれど。

海未「…………はぁ」

ハナヨ「…………」


ゴロンと寝返りを打つと、目の前にはぬいぐるみのハナヨがいて。
あの困ったような表情で私を見つめてきます。


海未「……デート、ではありませんからね?」

ハナヨ「…………」


返事を返すはずもないハナヨにまで、念を押すようにそう言い……。


海未「はぁ、なにをしてるんですか……」


またため息を吐きました。
呆れてしまう、今の私に。


海未「本当に、何をしてるんでしょうか」


その言葉は今の自分に向けたもので。
今までの自分に向けたものでもあって。


海未「結局、花陽を元気づけることはできていなかったんですね」


……いえ。
元気づけることはできていたのかもしれません。
けれど、それはあくまでも表面上だけ。
私はそれを見て、安心していたというのだから……。



海未「鈍い、のですね」



鈍いのだ、私は。
それは自覚しなくてはなりません。

鈍くて鈍くて。
どうしようもない私。

そんな私に出来るのは、きっと――。



海未「待っていてください、花陽」

ハナヨ「…………」



決意表明のように、私は呟いて。
ハナヨの頭を軽く撫でるのでした。


海未「…………」


さぁ、来るべき日曜日のために今日は――。



海未「おやすみなさい」

ハナヨ「…………」



――――――

一旦ここまで。

乙です
みんな笑顔で幸せになってほしいなぁ~

――――――


希からの相談を受けて、私はすぐに動きました。
花陽に話を聞くため、日曜日に一緒に出掛けることを提案して。
それからもうひとつ。


海未「時間をとっていただいてありがとうございます、真姫」

真姫「……話って、なに?」


いつかと同じ、放課後の音楽室。
私は真姫と向かい合っていました。
もうそれなりにいい時間で、夕日が部屋を照らしています。


海未「…………」

真姫「…………」


暫しの沈黙。
それを破ったのは、



真姫「花陽と凛のこと、かしら」



真姫でした。

恐らく私の表情やその雰囲気からその答えを導きだしたのでしょう。
全くその通り。
私が聞きたい二人のことを真姫は口にしました。


海未「話が早いです。真姫、教えてください」

海未「花陽は凛のことを……」


真姫「えぇ、避けてるわ」



希の言うことを疑っていたわけではありません。
けれど、やはり二人と同じ1年生の真姫からその言葉を聞くと……。


海未「っ、そう、ですか……」


堪えるものがある。

もちろん分かってはいます。
凛と花陽の今の関係を考えたら。

花陽の告白を凛が断った。
そして、凛は希を選んだ。

そうなれば、二人の関係は変わってしまうのだと。
もちろん、分かってはいます。
けれど、


真姫「信じたくない?」

海未「……はい」


ただ頷きます。
私や穂乃果、ことりと同じ……いえ、それ以上に仲の良かった二人が……。


真姫「練習中は取り繕っているけどね」

真姫「教室ではよくあることよ」

海未「…………」


真姫は事も無げにそう言います。
よくある、と。

例えば、休み時間はいつも教室にいなかったり。
例えば、お昼は教室では食べないようにしていたり。

ふとそれを聞いて思い出しました。
そういえば、水族館の件を相談したとき真姫は言っていたではないですか。

クラスでの凛と花陽の様子を見ていれば、私の悩んでることなど分かる。

そう言っていたではないですか。

……そう。
真姫は、それを見ていたわけで。
だから、私の悩みの原因が花陽のことであると見抜いたわけで。


海未「っ」


それを考えたら、私のなかに沸々とドス黒い感情が沸き上がってきて……。

なら……。
真姫、貴女は――。


海未「……真姫は……」

真姫「…………」

海未「あの二人をどうにかしたいと思わなかったのですか……」

真姫「……っ、それは」


口を突いて出た言葉。
真姫に向けたその言葉は、まるで真姫を責めるような言葉。


海未「あなたは、二人を一番近くで見ていたんですよ」

真姫「……っ、それはそうだけど」

海未「なら、もっと早くに教えてくれればよかったのです……」

真姫「あ、うっ……」


分かっている。

花陽と一緒だった自分を棚に上げて。
花陽の変化を察知できるチャンスを与えられておきながら、それを無駄にしている自分を正当化して。
にも拘らず、私は今、真姫を責めてしまっている。


海未「……真姫」


駄目です。
自分で自分を止めることが出来ない。

花陽に避けられた凛のことを考えたら。
それに心を痛める希のことを考えたら。
そして、花陽のことを考えたら。

止められない。
それを言ってしまったら、私はもう――なのに。



海未「貴女はっ――」

真姫「――っ」


――――――



「海未ちゃんっ、ダメっ!!」

「それ以上はダメにゃっ!!」



――――――


海未「あっ……」


その先を言おうとしたその瞬間に、止められました。
音楽室の入口。
そこにいたのは、



穂乃果「凛ちゃん! 真姫ちゃんを!」

凛「了解にゃ!」



穂乃果と凛。
二人の姿でした。


凛「真姫ちゃんっ!!」

真姫「っ、凛ッ、ごめんっ、私は――」

凛「よしよしにゃ~。気にすることないよ~!」

真姫「っ、ごめ、んっ……」

凛「…………」


呆然とする真姫に凛はそのまま駆け寄り、撫でています。
そして、穂乃果は


海未「……穂乃果」

穂乃果「…………」



―― バチンッ ――



海未「っ!?」


なにが起こったのか、分かりませんでした。
唯一分かったのは、頬の痛みと穂乃果の表情だけ。

痛い、ですよ、穂乃果。
それになんで……。



穂乃果「……海未ちゃんの大バカッ!!!」



なんで、怒っているのですか……?


穂乃果「海未ちゃん!」

海未「……はい」

穂乃果「海未ちゃんはなにがしたいのっ!!」

海未「…………え?」

穂乃果「真姫ちゃんに八つ当たりしたいのっ!?」

海未「…………」

穂乃果「答えてよっ!!」

海未「…………いいえ、違い、ます」


それを言われて、私は真姫の方に目を向けます。

真姫は、凛に抱き締められて……泣いていました。

ち、違います。
私はこんなことをしたいじゃ……。



穂乃果「なら、なにがしたいの?」

海未「……私は――」



穂乃果の言葉を聞いて。
問いかける。

私はなぜ花陽を毎日送って帰るのか。
私はなぜ花陽を遊びに誘ったのか。
私はなぜ真姫をこんなに責めてしまったのか。

私はなぜ今、こんなに不安なのか。


海未「…………」

穂乃果「…………」


……あぁ。
忘れていました。

私がこんなにも感情的になる理由。
問いかけるまでもありません。

なにがなんでも成し遂げたかった、したかったこと。
それは――



海未「私は、花陽の心からの笑顔が見たいんです」




そのために私は花陽を元気づけたかったんでした。

花陽と一緒に帰って。
花陽と一緒に遊んで。
穂乃果やことりに相談をして。
真姫に手助けをしてもらって。
希と約束をして。

いつの間にかそれは義務感に刷り変わっていました。
だから、私はこんな間違いを――。



海未「真姫」

真姫「っ、な、なによ……」

海未「すみませんでした」


そう言って、私は頭を下げる。
もちろんこの程度で許されることではないことは分かっています。
けれど、しなくてはいけません。


海未「…………私が愚かでした」

真姫「………………」

海未「自分のことを棚に上げて、真姫を責める私は最低です。自分ばかりが花陽のことを考えているつもりになっていました」

海未「……辛いのは真姫も同じだったのに……」


そうです。
クラスで、一番近くで見ていたからこそ。
一番辛かったはずですよね。
二人をどうにも出来ないもどかしさや無力感を、真姫はたぶん一番感じていたはずで……。


海未「…………真姫」

真姫「……ん、なに?」

海未「…………真姫を責めてしまったこと、簡単には許してもらえるとは思いません」

真姫「…………」

海未「だから、あることをして償います」

真姫「……あること?」

海未「はい」



ひとつ頷いて、私は頭を上げました。
そして、


海未「……真姫」


真姫の目を見て。
決意表明のように。
私はこう言ったのです。



海未「私が花陽を元気にさせてみせます!」

海未「そして、必ずあなたの親友の笑顔を取り戻してみせます!!」



――――――

――――――



もう迷いはありません。

回りくどいことも。
小賢しい策も。
そんなものはもう必要ありません。

どうせ私は鈍いのですから。
鈍いなら鈍いなりに、ただ遮二無二にぶつかるだけです!


待っていなさい、花陽!
必ずあなたを笑顔にさせますからねっ!!



――――――

今日はここまで。
次回更新は1週間以上空くかと思います。
だらだらとお待ちください。

覚悟を決めた海未ちゃんは強いと思います。


展開速くね?
見るけどさ

乙です
待ってます

ほんとに1週間空いたな
待ってるよ

下げ忘れスマン

希少なうみぱな期待

レス感謝です。
リアル多忙のため更新は早くても土曜になりそうです。
一応ご報告だけしておきます。

待ってます

土曜日か
まだ先だな
公式供給ないしssだけが救い

少し更新。

――――――



花陽「はぁはぁ……ご、ごめんね、海未ちゃんっ!」



日曜日。
花陽は待ち合わせの時間から少しだけ遅れてやって来ました。


海未「気にしないでください。少し遅れただけですし」

花陽「……でもっ!」

海未「それより……はい、ハンカチです。清潔なものですから、どうぞ使ってください」

花陽「あっ、ありがとう」


額にうっすらと浮かんだ汗を拭く花陽。

本当に急いできたようです。
遅れた、とは言っても10分ほど。
そこまで急がなくても……。

まぁ、それも花陽らしさでしょうか。

それにしても……。


海未「花陽が遅れるなんて珍しいこともあるものですね」


なにかあったのですか?

何気なくそう訊ねます。
私の言葉に花陽は、


花陽「…………えっと」


少し俯きました。
……またまずいことを聞いてしまったのかもしれません。

……ふぅ、よし!


海未「……いえ、答えなくても構いませんよ」

花陽「あっ」

海未「それよりも、早速行きましょうか。せっかく花陽と一緒なのですから」


失策はもう気にしない。
気にしている暇はない。
私は鈍い。

だから、切り替えます。
切り替えて、ニコリと笑う。

そう。
今日は花陽と楽しく過ごすのですから!
早く動かなければ勿体ないですよね?
それに――



海未「さぁ、花陽!」

花陽「っ、うんっ」



花陽が話したくないのならば無理に聞くことはしません。



もちろん今は、ですが……。



――――――

――――――


海未「花陽はどこか行きたいところはありますか?」


二人で歩き始めてすぐに私はそう訊ねました。

ノープランはダメです!

なんて。
ことりに怒られてしまいそうな計画。
計画というよりも無計画ですね。

けれど、もちろんこれには理由があります。
こういうことに疎い私では、花陽を元気づけられるプランなど到底考えられるわけがありません。

だから、聞く。
花陽本人に。


花陽「え? 花陽の?」

海未「はい。花陽の行きたいところです」

花陽「え、えっと……ちょっと待っててぇ」


と、そのまま花陽は難しい顔をして考え始めました。
この光景を見たら、本当にみんなに呆れられそうですけれど……。
そんな風に心の中で苦笑を浮かべていると、


花陽「……あ」


ふと花陽が声を上げました。
どこか思い付いたのでしょうか?


海未「花陽?」

花陽「えっ、あ、うん。その、ね?」


モジモジとして。
どこか言いにくそうな花陽。

そうですね。
ここは……。


海未「遠慮はいりません。私から誘ったのですから、どこへでも行きましょう!」

花陽「うん……それじゃあ……」


――――――

――――――



海未「は、は、はっ!!」



海未「破廉恥ですっ!!!」



それをしっかりと掴みながら、私は大声を上げました。

な、なんなのですか、これはっ!?
顔が真っ赤になってるのが自分でもわかりますよっ!!


花陽「えへへ、かわいいよ、海未ちゃん♪」


そう言って、携帯のカメラを向ける花陽。
って!?


海未「やめてくださいっ!」

花陽「う、海未ちゃん! それじゃあ、撮れないよ?」

海未「撮らないで結構ですっ!!」


花陽の携帯をそのまま没収します。
これでこの姿は撮られることはないですね。
ほっと息をつく私に、花陽はこう言いました。



花陽「せっかく可愛いチャイナドレス姿なのに……」

海未「い、言わないでくださいっ///」



そう。
今の私は、その……ち、ちゃいな服で花陽の目の前に立っているのです。

というのも、花陽が行きたいと言ったのが、このお店。
コスプレができるコスプレカフェ、だそうです。
花陽曰く、一人では来る勇気がなくて、とのこと。

……確かに。
私から誘って、行先を委ねたのですから、それを尊重し優先するのは当然のことです。
しかし。
しかしっ!!


海未「な、なぜ、私だけ……///」

花陽「えっ、えっとぉ……花陽がするのは、その……」

海未「花陽がするのは?」

花陽「…………」

海未「…………」

花陽「……は、恥ずかしいです///」


……………………。
………………。


花陽「う、海未ちゃん……?」

海未「…………」

花陽「……あ、あの?」



海未「……ふ、ふふふふ」



花陽「ひ、ひぃっ!?」

そうですか。
花陽は恥ずかしいと分かっておきながら、私にこんな辱しめを。
なるほどなるほど。

………………。

ふふふふふふふふ……。
わかりました。
えぇ!
分かりましたとも!
私のすべきことが!


海未「花陽?」

花陽「は、はいっ!?」

海未「私が花陽の衣装を選びますよ」

花陽「えっ!? あ、あの、花陽は……」




海未「え・ら・び・ま・す・よ」




花陽「は、はい」



さぁ!
なにがいいでしょうか?
定番のメイド服がいいでしょうか?
ナース服も悪くはないです。
音乃木坂では見られないセーラー服も捨てがたいですが……。
やはり私と同じスリットの深いチャイナドレスもいいですね。


海未「ふふふふふ、悩みますね」

花陽「だ、だれかたすけてぇ……」

海未「花陽、なにか言いましたか?」

花陽「いえ、なにも……」



――――――

――――――


海未「申し訳ありませんでしたっ!!」

花陽「え、えっと、海未ちゃん?」


平謝りです。
ひたすらに謝ります。
あまりの恥ずかしさに暴走していたとはいえ、あんな……。


海未「強引に着替えさせてしまって……」

花陽「あはは……あれはたしかにちょっと恥ずかしかったけど……」

海未「うぐっ、す、すみませんっ!」

花陽「えっ!? あっ、そんなに謝らないで、海未ちゃん」

海未「ですがっ――」


花陽「海未ちゃん」


と、その先の言葉は花陽が見せたそれを見て、引っ込んでいきます。
それはコスプレカフェで二人で撮った写真でした。
そこには、


花陽「花陽も、えっと……楽しかったから」

海未「……えぇ、楽しそうに笑ってますね」


チャイナドレス姿の私達が、携帯の画面のなかで真っ赤な顔でポーズを決めていました。


花陽「あとで、送るね?」

海未「はい、お願いします」

花陽「…………うん」

海未「…………」

花陽「…………」


ふと花陽を見ます。
花陽は画面を見つめていて……。
その表情はうまく読み取れません。

楽しいのはきっと本当なのでしょう。
ただそれはもしかすると……。


海未「花陽」

花陽「――あっ、うん! なに、かな?」


私の呼びかけに、我に返ったように反応する花陽。
それからニコリと笑います。


海未「…………」

花陽「? 海未ちゃん?」

海未「いえ、すみません。なんでもありません」

花陽「えっと……?」

海未「それより! お昼にしませんか? 花陽の好きなGOHANYAで!」

花陽「え、あっ、うん」

海未「さぁ! 行きましょう! あまり遅いと混んでしまいますからね」

花陽「うんっ!」


花陽をそう促して。
私達はまた歩き出しました。


――――――

今日はここまで。
突如時間が空いたので更新しました。
今度の土曜日更新予定。
もう少しで終わりますのでお付き合いいただけたら幸いです。

乙です
続き待ってます

昨日は更新できませんでしたので
本日三時頃から更新します。

――――――



花陽「おいしかったぁぁ」



GOHANYAでサバの味噌煮定食に加え、白米の特盛を食べた花陽。
ニコニコとご満悦の様子です。
しかし、あの量を食べ切るとは……。


海未「練習メニューを考えないといけないでしょうか」

花陽「え?」

海未「いえ、なんでもありません」


いけません。
今は花陽と出かけているのです。
練習メニューの増量を考えるのはあとにしましょう。


花陽「……な、なんだか寒気が……」

海未「え? 体調悪いのですか?」

花陽「うーん、そういう感じじゃないと思うんだけど……」

海未「……無理はしないでくださいね」

花陽「うん、ありがとう」


見たところ顔色も良さそうですし、確かに風邪ではなさそうですね。
第一、病人はあんなに食べませんよね、ええ。

……さて。


海未「次は何処に行きましょうか?」

花陽「え、うーん……」


コスプレ喫茶にGOHANYA。
あまり遅くなってもいけませんから、時間的に回れるのはあと1つか2つほどでしょう。


花陽「あっ」

海未「思い付きましたか?」


今後の予定について思考を飛ばしていると、ふと花陽が声を上げました。
どうやら次の目的地を思いついた、というよりは見つけたようで。


花陽「あそこ、入りたいな」


そう言って、指差す先。
そこには、大型のペットショップがありました。


海未「ペットショップ、ですか?」

花陽「うん。けっこう楽しいよ?」

海未「ふふっ、分かりました。それでは向かいましょうか」



――――――

――――――



海未「もふもふです! もふもふですよ、花陽!」

花陽「そうだね! もふもふだぁ」


ペットショップに入って早速向かった犬コーナー。
そこで偶然ペットショップの店員の方に犬を触らせてもらっていました。

それにしても、


海未「本当に肌触りがいいです! はぁぁぁぁぁ……」


なでなで。
なでなでなで。


花陽「海未ちゃんって犬好きなの?」

海未「そうですね。人懐っこさといいますか、愛情を返してくれるのは、やはりとても嬉しいものですから!」

花陽「そっかぁ」


私の様子を見て、優しく微笑む花陽。
って!


海未「はっ、す、すみません! 私ばっかり楽しんでしまって……」

花陽「ううん、花陽も楽しいから大丈夫だよ?」

海未「そ、そうですか? それならよいのですが……」


うぅぅ。
暴走しかけてしまいましたね。
やはり私ばかり楽しんでしまっている気もします。


海未「花陽? 花陽が見たい生き物はいますか?」

花陽「え、あ、うーん……」

海未「花陽?」

花陽「……」

海未「?」

花陽「……インコとかハムスターが見たいかも?」

海未「あ、はい! では、そちらに!」

花陽「うん」

二人でハムスターのケージの前へ。
1、2、3……。
沢山のケージがそこにはありました。


海未「……可愛いです」

花陽「ふふっ、うん」


二人で1つのケージを覗き込みます。

中にいたのは、一匹のハムスター。
頬袋いっぱいに、エサを詰め込んでいる最中でした。


海未「どうやら昼食の時間だったようです」

花陽「うん、一生懸命食べてる」


その様子を見ていて、私はふと、


海未「……花陽に似ています」

花陽「え!?」


そんなことを口にしていました。

口を突いて出た言葉でしたが、ふむ。
確かに花陽のようです。


花陽「ハムスターと花陽が?」

海未「えぇ、見てください」

花陽「?」

海未「ほら、とても幸せそうに食べていますよ」

花陽「……うぅぅぅ、そこまで花陽食い意地張ってないよぉ///」

海未「ふふふっ」


恥ずかしそうに赤くなる花陽。
それを見て微笑ましくなりました。


花陽「……あうあう///」

海未「……ふふっ、さて」


小鳥の方はどうでしょうか。
きっとハムスター同様可愛らしいでしょう!


海未「花陽? 小鳥も見てみま――」



(・8・)「……」

海未「……」



花陽「海未ちゃん? どうしたの?」

海未「い、いえ。花陽? 小鳥ではなく、水生生物を見に行きましよう!」

花陽「え!? えぇ!? 」


――――――

――――――


それから、亀や熱帯魚を見て回って。
気づけばもうほとんどのコーナーを見終わってしまいました。


海未「花陽、それではそろそろ出ましょうか?」


…………あれ?


海未「花陽?」


振り返る。
そこには花陽の姿はありませんでした。

……どうやらはぐれてしまったようです。
大型のペットショップ、とは言っても迷子になるほどではありませんし……。


海未「仕方がないですね」


少しだけ息をつき、歩を進めます。

もしかしたら、小鳥のコーナーでしょうか?
結局見ていませんでしたし。


海未「…………」


……いませんね。
では、犬のコーナー?


海未「……ここでもない」


水生生物はさっき見ましたし……。
爬虫類のコーナーでは終始驚いていた花陽のことです。
そこにはいないでしょう。
では、どこに?


――――――

――――――


少しだけ歩いて。
やっと見つけた花陽は、ある生き物のケージの前でその子を見ていました。


花陽「…………」


花陽!
と、声をかけようとして、止まる。

花陽が見ていたのは――。



花陽「にゃー?」

ニャーニャー

花陽「えへへ……」



子猫。
黄色がかった毛色の子猫を見つめる花陽。


花陽「可愛いなぁ、やっぱり……」

海未「…………」



ポツリと花陽は呟きました。

花陽?
それはその子を見て言っているのですよね?
ならば、なぜそんな切なそうな表情をしているんですか?



花陽「……可愛い」

海未「…………」



――――――

一旦ここまで。

かよちん…
乙です

――――――


その後、雑貨屋で少しだけ買い物をして。
店を出て時計を見ると、短針は6の上にちょうど重なっています。

帰りましょうか。

花陽にそう提案し、歩き出す。
いつものように花陽には車道側は歩かせません。


花陽「…………」

海未「…………」


いつもより静かな帰り道。
1日で沢山話した反動ではないでしょうけれど。
とかく静かな二人でした。

そして、


花陽「あっ」

海未「いつもの別れ道、ですね」

花陽「……うん」

海未「…………」

花陽「…………」


そこに着いても、そのまま沈黙が続きます。
いつもとは少し違う、静かな一時。
それを破ったのは、



海未「花陽」



私でした。

自分でも意外……というわけではなく。
私は決めていたのです。
もし、花陽の問題を今回出かけたことだけで解決できないならば、私は――。


花陽「うん、なに?」

海未「これから時間はありますか?」

花陽「え? あ、うん……」

海未「可能であれば、なのですが……」



海未「これから私の家に来ませんか?」



――――――


今、花陽と凛の問題を解決できるのは、きっと私だけ。
自惚れではなく、歴然とした事実です。
花陽に一番近いのは私なのですから。

だから、覚悟を決めましょう。


私は花陽を笑顔にしたい。


その願いを叶えるためならば、どんなことをしてでも……。
そう、例えば。
私が嫌われてしまっても構いません。


――――――

今日はここまで。

乙です


前作もそうだったがなんか胸が苦しい…
海未ちゃんも自己犠牲だけはやめてくれ

やっと追いついた…うみぱなは珍しいな

もう少ししたら更新します。

待ってました

――――――



花陽は私の提案に頷きました。
言葉少なにコクリと頷き、そして――



海未「お茶でよかったですか?」

花陽「うん、ありがとう」


そして、今、私の部屋に花陽と二人きり。
花陽にお茶を渡し、そのまま花陽の向かい側に座ります。


花陽「…………フーフー」

海未「…………」


花陽はふぅふぅとお茶を冷ましています。
だから、視線はそちらに集中していて。

……ふぅ。
音をたてないように深呼吸をひとつ。
聞くのならば早い方がいいですよね。
……といっても、もう随分と遅くなってしまいましたが。

それもきっと、今日で終わりです。


海未「……すぅ、はぁ」


今度は大きく息を吸って吐いて。
私はそれを口にしました。



海未「花陽、話があります」

海未「大事な話です」



言えました。
予想していたよりもずっと落ち着けています。



花陽「大事な話?」



花陽も落ち着いている様子です。


海未「……はい」

花陽「えぇと、なに?」

海未「…………」

花陽「海未ちゃん?」


今から言うことを考えると少し心が痛みます。
……いえ、だいぶですね。

しかし、前に進むためには。
花陽の笑顔を見るためには。



海未「凛とのことです」



それを言わなくてはいけない。

花陽「…………」


その名前を出した途端に俯く花陽。


海未「花陽」

花陽「…………」

海未「……花陽」

花陽「……うん」


やっと返ってきた返事は弱々しいもの。


海未「凛を避けている、のでしょう?」

花陽「…………」


沈黙。
けれど、それが肯定を意味しているのは理解できました。


海未「蒸し返すようで……ほんとうに、その……申し訳ないです」

花陽「…………」

海未「で、ですが! 今の状態はよくないと思うのです」

花陽「…………」

海未「きっと花陽のためにもなりませんっ!」

花陽「…………」


もちろん、そう簡単に気持ちの整理がつくとも思っていません。

幼馴染み。
私は恋心に関してはまだピンときません
ですが、幼馴染みという関係の重みは知っています。
今まで一緒に、傍にいた大切な人が離れていく。
それはきっと想像以上に辛いことで……。
況して、それが想い人なら尚のことなのでしょう。
けれど、


海未「酷なことを言っているのは自分でも分かっています」

花陽「…………」

海未「ですが、お願いです、花陽!」



海未「凛と普通に話を――」



と、そこまで言って気づきます。
花陽の反応がないことに。


海未「花陽?」

花陽「…………」


今まで俯いていた花陽は。
私が名前を呼ぶのに反応して、顔をあげました。

彼女が浮かべていた表情は、




花陽「ふふっ」




なぜか笑顔でした。


海未「え……?」


花陽が笑った理由。
それを想像する前に、次の言葉がかけられる。


花陽「……ごめんね」


次は謝罪の言葉。


海未「……えぇと」

花陽「海未ちゃんに心配かけちゃったよね」

海未「い、いえ、そんなことは……」

花陽「ううん。心配させちゃったよ」


ほんとうにごめんね。
そう言って、花陽は困ったように笑います。

困惑したまま、理解が追い付いていない私に笑いかけながら、花陽は話す。


花陽「水族館のときも、今日も。海未ちゃん、花陽のことすごく考えていてくれて、うん……嬉しかった」

海未「…………花陽」

花陽「うん、もう花陽は大丈夫です!」


海未ちゃんにいっぱい元気をもらったから!

そう言って、ニコリと笑う花陽。
……そう、なのですか?


花陽「うん♪」

海未「…………」

花陽「もう花陽は大丈夫。だって――」

――――――




花陽「花陽には海未ちゃんがいるから」




海未「――え?」



――――――

かよちん…




―― ドンッ ――



花陽の言葉を聞くと同時に、背中に軽い衝撃がありました。
加えて視界も変わる。
毎晩見ている風景、つまり、いつの間にか私は天井を見上げていました。

ただ、いつもと違うのは、



海未「……はなよ?」

花陽「えへへ♪ 海未ちゃん♪」



目の前に花陽がいること。

そこでやっと理解が追い付きました。
私は花陽に押し倒されてしまったのですね。
…………。
…………って!?


海未「は、はな、よっ!?」

花陽「うん、海未ちゃん♪」

海未「い、いったいなにをっ!?」

花陽「……えへへ」


花陽は答えません。
ニコニコと微笑むだけ。

って!?
近いですっ///


海未「あ、あの……花陽、顔が、その……」

花陽「?」

海未「近いのでは……///」

花陽「……これでも遠いくらいだよ?」

海未「えっ?」

花陽「ほんとはこれくらい……」

海未「っ、あ、なっ……///」


そう言って、花陽は更に顔を近づけてきて――


花陽「ねぇ、うみちゃん?」


そのまま、すぐ目と鼻の先で、花陽は私の名前を呼びます。
花陽の吐息が、頬にかかる。


海未「な、なんですか……///」

花陽「うみちゃん……」

海未「花陽っ、そのっ///」


顔が熱い。
きっと真っ赤になっている。
それを花陽は見ているはずなのに、花陽はまだ近づいてきます。
そして、



―― ギュッ ――



海未「~~っ///」

花陽「……これがいいです」


体が重なる。
文字通り重なって、私と花陽のからだの間には隙間なんてもうなくて……。


花陽「うみ、ちゃん……」

海未「っ、んっ/// やめっ!?」


密着状態。
花陽は私に抱きついているから、その声はまるで耳元で囁かれているように感じてしまいます。
こ、こんなのっ!!


花陽「…………うみちゃん」

海未「~~っ、はなよっ、みみもとでしゃべってはダ……っ///」

花陽「花陽とこうしてるの……いや、ですか」

海未「いや、ではないですが……ひゃっ///」


嫌、ではないのは本当です。
こうしていると確かにくすぐったいけれど、とてもあたたかくて安心することも事実です。

…………。
けれど、これはっ!!


海未「っ、はれんち……ですっ」


そうは言うものの。
もうその言葉に力がないのは自覚していました。
同時に体の力が抜けていくことも。
だから、もう抵抗はできません。

にもかかわらず、



花陽「……………………」



花陽はまだしっかりと私の体を抱き締めていました。


海未「…………はなよ」

花陽「…………」

海未「…………」

花陽「…………」


長い沈黙です。
私の呼びかけにも反応せず……いえ、私が名前を呼ぶたびに、花陽は体をビクッと震わせていました。


海未「…………」

花陽「…………」

海未「…………」

花陽「…………」


数秒?
それとも、数十秒?
もしかしたら、もっとかもしれません。
抱き締められた体勢のまま待ちました。
ただ静かに。



花陽「海未ちゃん」

海未「はい。なんですか、花陽」



お互いの顔を見ずに、名前を呼び合って。
それから、花陽は耳元で静かに囁きました。




花陽「私、海未ちゃんのことが好き」






『好き』



花陽が口にしたその言葉。
先輩としての私に宛てたものでも、μ'sとしての私に宛てたものでもないことくらいは、流石の私でも分かりました。


海未「…………」


なにも答えない私に構わず、花陽は言葉を紡いでいきます。


花陽「海未ちゃんはね」

花陽「優しいよ」

花陽「ずっと近くにいて……いてくれて、すっごく感じてた」

花陽「海未ちゃんが花陽にくれた優しさ」

花陽「慣れてないこともがんばってやってくれてるのがわかったよ」

花陽「花陽に元気になってほしい」

花陽「そんな気持ちが伝わってきたんだ」

花陽「だから、かな?」

花陽「海未ちゃんといるとね? なんだかあったかくて、少し元気になれたんだ」

海未「…………」


そう、ですか。
私は花陽を元気にできていたんですね。
ならば、私は――


花陽「…………ねぇ、海未ちゃん?」

花陽「花陽は海未ちゃんのおかげで元気になれたよ」

海未「…………」

花陽「……でも、まだ足りないです」

花陽「私がちゃんと元気になるためには、まだ……足りないの」

花陽「きっと海未ちゃんがずっと一緒にいてくれたら、花陽は元気になれるよ。今までのことちゃんと忘れて、幸せになれるよ」

花陽「だから、海未ちゃん――」

――――――




花陽「花陽の恋人になってください」




――――――

――――――



花陽の笑顔を見たい。


私はそのために頑張ってきました。
花陽の言う通り、慣れないことでも花陽を元気づけるためだと考えたら不思議と頑張ろうという気になれたのです。


その花陽が、私に恋人になってほしいと言っている。


そうしなくては足りないのだと。
幸せになれないのだと。
そう言っています。


ならば、私はどうするべきなのでしょうか?


恋愛というものは、やはり私にとってはいまいちピンとくるものではありません。
ですが、花陽のことは嫌いでは……。
いえ、きっと『好き』なのでしょう。
そうでなくては、抱き締められて、ここまで緊張はしないはずですから。
ならば、私は花陽と恋人に……?

…………。

こうやって、理屈で考えるのは私の悪い癖です。
自分の心を客観視で見ても、本当のことなど分かるはずないのに……。
こんなことまでしても自分が分からない私はやはり鈍いのでしょう。

…………。


けれど、最後の最後でやっと分かりました。


自分の気持ちは相も変わらず分からないままですが……。
それでも。
抱き締められているからでしょうか?
耳元で声が聞こえるからでしょうか?
ここまで近づいてやっと。



やっと、花陽の本心に触れることができました。



だから、私は答えます。
花陽の告白に。

私の答えは――。



――――――

――――――



海未「すみません、花陽」

海未「私は花陽の恋人にはなれません」




――――――


花陽「っ」

花陽「あ……そ、そうだよね……花陽なんかじゃ……」

海未「違います。そう言う意味じゃありませんよ、花陽」

花陽「えっ、え?」


抱き締めた力が一瞬緩みます。
その隙をついて、私は花陽の体とともに起き上がりました。

そして、花陽の顔を見ながら言葉を続けます。




海未「『今は』恋人にはなれません」

花陽「『今は』……?」

海未「はい」



それが私の答えでした。


海未「もちろん、花陽のことは憎からず思っています」

海未「ですが、今の私ではそれが一体どんな類いの好意なのか分からないのです」

海未「ですから、このまま流されて花陽と恋人になるのは不誠実ですし、余計に花陽を傷つけてしまいかねないと思ったんです」


花陽の目を見て、私はそれを話しました。
私の気持ちが分かるまでは、と。

けれど、花陽は納得できないようで。


花陽「っ、それでもっ!!」

花陽「花陽はそれでもいいですっ!! 海未ちゃんが傍にいてくれるならっ!」


泣きそうな表情で、花陽は訴えかけます。

……それだけなら。
私の気持ちだけの理由なら、きっとここで折れてしまうのでしょう。

ただ今は違う。
それだけではありませんから。


海未「花陽、さっき自分が言った言葉を覚えていますか?」

花陽「え?」

海未「今までのこと『ちゃんと忘れて』幸せになれるよ、と」

花陽「あっ……」




海未「ねぇ、花陽」

海未「貴女はまだ好きなんですよね、凛のことが」



もう少しで完結というところですが今日はここまで。
次回は金曜の更新を予定しています。

乙です
待ってます
かよちん…


シリアスなところ悪いけどかよちんに押し倒される海未ちゃんを想像すると妄想がはかどるわww

本日の夜に更新できたらします。

待ってました


花陽「っ」


私の言葉に狼狽する花陽。

その反応を見れば、流石の私でもわかります。
私の言葉が真実なのだと。


花陽はまだ凛のことが好きなのだと。


海未「花陽」

花陽「っ、うん」

海未「確かに、ここで私が頷けば、私たちは恋人になれるのでしょう。ですが、それが本当に花陽の幸せになるのですか?」

花陽「え?」


もし、私と花陽が恋人になったならば。
今日のような一時を、いつでもどこでも送れるのです。
それはきっと素敵に違いありません。

けれど――


海未「私はここ最近、貴女を一番近くで見てきました。誰よりも近くで……」

海未「だから、分かるんですよ」

海未「貴女の表情を隣で見てきたから」



海未「……花陽」

海未「貴女は今でも凛の面影を求めているんですよね」



告白をして。
けれど、フラれてしまって。
彼女は他の女の子と付き合った。

それでも、花陽の中には、凛が残っている。

凛への思い。
それが、決して聡くはない私でも分かったのです。
だから、それは恐らく……。


花陽「…………」

海未「……花陽」

花陽「…………」

海未「…………花陽?」


私の呼びかけにも花陽は答えません。
…………えぇと。


海未「恐らく、なのですが」

花陽「…………」

海未「今の状態で、私と……その、付き合ったとしても、花陽は幸せになれないと思うのです」

花陽「…………」

海未「むしろ、傷つけてしまうかもしれませんし……」


こんなことを言ってしまう人間ですから……。
本当に、花陽を幸せにできる自信はないですよ……。

そんな言葉をポツリ、ポツリと続けます。
後半は半分弱音のようになってしまっていますが……。

って、いけません!
これでは何の話をしていたのか分からなくなってしまいますね。


海未「……すみません。つまり、私が言いたかったのは――」


今は付き合えない。
私自身が納得できませんし、花陽のためにもならないことが分かっていますから。

それを言おうとして、言えませんでした。
なぜなら、




―― チュッ ――

海未「っ!?」




唇が塞がれていたから。


海未「~~っ///」

花陽「っ、んっ……はぁっ」


頭は真っ白。
なにが起こっているのかを理解した時にはもう、花陽は私から離れていました。


花陽「…………えへへ」

海未「な、な……なにをっ///」

花陽「キス、しちゃったね///」

海未「は、はっ///」


破廉恥です。
その言葉も出てきません。
ただ、照れて笑う花陽を呆然と見ることしかできません。


花陽「ねぇ、海未ちゃん?」

海未「…………」

花陽「花陽はもういいのっ」

花陽「たしかに、凛ちゃんのことは好きだよ。でも、それは大切な…………お友達として」

花陽「今好きなのはね、海未ちゃんなんだ」

花陽「花陽に優しくしてくれる海未ちゃんだけ……だもんっ」

海未「……花陽?」


花陽の言葉を聞きながら。
少しずつ冷静さが戻ってきました。
覚めていく頭で、視界で花陽を見つめる。


花陽「花陽ね……海未ちゃんのこと好きなんだよ?」

花陽「こんなことしちゃうくらいね……好き、なのっ」

花陽「キス、初めてだったよ?」

海未「…………花陽」



花陽「ねぇ、海未ちゃんっ……やっぱり花陽はねっ――」



冷静さを取り戻して、やっと気付く。
いつから、だったんでしょうか?
目の前で微笑む花陽は、




花陽「――凛ちゃんのことっ、好きだったの……っ」




微笑みながら泣いていました。

かよちん…


花陽「最初はねっ、もう忘れなきゃって!」

花陽「りんちゃんは希ちゃんをえらんだからっ!」

花陽「もうりんちゃんからはなれなきゃって、おもってた……っ」

花陽「けどっ、やっぱりね……花陽は凛ちゃんが好きでっ、わすれられなかった……」

花陽「りんちゃんは、ずっと友だちで、大切なひとで――」



花陽の独白。
大切な思い出を語るように花陽は語る。

凛と初めて会ったときのこと。
凛と子猫を助けようとしたときのこと。
凛と遅くまで遊んだこと。
凛に助けられたこと。
凛と一緒に泣いたこと。
凛とμ'sに入ったときのこと。

花陽の思い出には、いつも凛がいた。

笑いながら。
泣きながら。
話して話して話して話して……。



――――――

――――――



花陽「……すぅ、すぅ」

海未「……眠ってしまいましたね」



あれから一時間ほど経った現在。
花陽は、布団の上で横になり、穏やかな寝息をたてていました。

楽しかった思い出も、辛い気持ちも。
きっと思いの丈をすべて吐き出して、疲れてしまったのでしょう。


海未「…………」


なでなで。
布団の横で花陽の頭を撫でます。
嫌がるわけでもなく、それを受け入れる花陽。
……って、寝ているのですから当然でしょうか。


花陽「……んっ、すぅ」

海未「…………」

花陽「…………すぅ」



海未「…………ごめんなさい」



ポツリ、と。
目の周りを赤く張らした花陽を撫でながら。
思わず溢れたのはそんな言葉でした。

それは、私の鈍さ故に、花陽の気持ちに気づけなかったことへの謝罪。
そして、花陽を追い詰めてしまったことへの謝罪です。

海未「……私は自惚れていました」

海未「一番近くにいる私にしか花陽を元気付けることはできないだろう、と」

海未「……けれど、それはきっと花陽の負担になっていたんですよね」

海未「私が花陽を元気付けようとしていたから、花陽も元気になろうとしていた」



空元気を装っていた。
花陽が積極的になっていたのは、きっとそれが原因なのでしょう。
私がかけているのは励ましではなく、プレッシャーだったのです。

私への義理立てと忘れられない凛への思い。

それが花陽の心を縛って、すり減らしていった。

そのことに今頃、花陽の心が決壊してから気付いたのですから……。
あぁ、本当に私は、


海未「鈍くて、愚かしいです」


嫌気が差します。


海未「…………」


こんな私はきっと――。




花陽「……う、みちゃ……」




……本当に愚か者です、私は。
また独り善がりに間違えるところでした。

私が離れたら、花陽はきっとまた無理をする。
だからといって、私はもう花陽を無理に元気付けることは絶対しません。


海未「…………」

花陽「……すぅすぅ」


ならば、私が出来ることはただひとつです。

――――――



ねぇ、花陽。

私はまだ恋が一体どのようなものなのか理解できません。
だから、貴女の思いを受け入れるのはできないのです。

けれど、貴女を放っておくことも出来ません。
貴女から離れるのは嫌なのです。

…………。

わがままですよね?
けれど、どちらもまだ譲れそうにはありませんから。

だから。
だから、今はせめて――。



――――――

――――――



海未「花陽?」

花陽「ふぇ?」



日も沈みかけたいつもの帰り道。
隣を歩く花陽にふと声をかけると、気の抜けた返事が返ってきました。


海未「……ふふっ、どうかしたのですか? ずいぶん気の抜けた声でしたが」

花陽「あぅ……///」


顔を赤くする花陽。
それが夕日とは無関係であることは容易に分かりました。

練習をハードにしすぎたでしょうか?

そう訊ねると、花陽は首をブンブンと横に振りました。


花陽「そ、そういうわけじゃなくて……」

海未「……えぇと、なら、どうしたのですか?」


そう尋ねます。
自分が鈍いことは身をもって知っていますから。
聞かずに後悔するよりは、うっとおしく思われた方がずっといいです。

と、私の質問を受けて、花陽は可愛らしく唸りながらこう答えました。


花陽「……うぅぅぅ。た、ただ、今日の晩ごはんはなにかなって……///」

海未「……ふふっ」

花陽「わ、笑わないでぇぇ///」


花陽らしいですね。

なんて言って、笑って。
それに花陽が少しだけ膨れて。
二人でただ歩きます。

…………。

こんな風に、私は決めたのですから。
ただただ、花陽の傍にいると。


海未「…………」

花陽「…………」


ふと沈黙が流れます。
特別なことではありません。
あの出来事があってから、帰り道はたまにこんな風になることがあります。
もちろん気まずいということはなく、どこか安心できる沈黙です。

……あ、そういえば。


海未「あ、花陽」

花陽「えっ?」

海未「花陽、今日の練習頑張っていましたね」

花陽「あ、そのっ、うん……」


今日の練習を思い出し、そんな言葉を口にしました。
と、そこでなにかを疑問に思ったようで


花陽「今日、ユニット練習だったよね?」


花陽はそう言いました。
……あぁ、そうでしたね。


海未「花陽たちの様子を覗いてたんですよ。ほら、今日は希もいませんでしたから」

花陽「あ、そっか……」


おかげで私は花陽の可愛らしい姿を見ることができましたから。
ふふっ、希に感謝、ですかね?


花陽「うぅぅぅ……」

海未「花陽?」


不意に、花陽が俯いてしまいました。

……??
……!!


海未「あ、誤解しないで下さい! いつもは頑張っていないというわけではないんですよっ!?」


花陽を慌てながら、そう言います。
いけません!
たぶん誤解をさせてしまいました……。

花陽がいつもは頑張ってないなんて!
そんなことありえませんっ!!


花陽「……ふふっ」


って、あら?
なんで花陽は笑っているのでしょう?


花陽「ごめんなさい……」


と、思ったら、謝られました。
……えぇと?
……まぁ、でも……。



海未「ふふっ、やっと笑ってくれました」

海未「今日はあまり笑ってなかったみたいでしたから」

花陽「え……あっ」

花陽「……うん。今日はその……」

海未「……凛のことですか?」

花陽「う、うん」


今日の凛は希が部活に来れないことで、少し落ち込んでいました。
だから、きっと花陽もそれにつられてしまったのでしょう。

凛ちゃんが寂しそうだと、やっぱりわたしも寂しい気持ちになるんだ。
フラれちゃった身だけど、やっぱり幼馴染みとして凛ちゃんはすごく大切な人だから。

花陽は微笑みながら、そう話しました。
いつかよりは穏やかで、どこかスッキリしたような表情です。



きっとまだなにか思うところはあるのでしょう。
あれだけ強い思いがあったのですから。

けれど、今の花陽はそれを受け入れて、その上で凛の気持ちにも寄り添っています。
それは……。


海未「はぁぁぁぁ」


思わず大きなため息を吐いてしまいます。

未練がましい?
いえいえ、そういうわけではないんです。


花陽「え? じゃあ……」


首をかしげる花陽。
まったく……そういうところが……。



海未「花陽は……本当に優しすぎますよ」



たぶん、今の私は困ったような表情を浮かべていることでしょう。

……もう。
本当に、困ってしまいますよ。



―― ナデナデ ――

花陽「あ……」



花陽の頭を撫でます。


花陽「…………」

海未「…………よしよし」


海未「――さて」

花陽「あっ……」


少しして、私は花陽の頭を撫でるのを止めました。
えぇ、これ以上はダメですからね。


海未「そろそろ帰りましょうか。もう、すぐそこですし」

花陽「…………」


いつもの別れ道。
名残は惜しいですが、今日はここまでです。
そうは言っても、明日もあるわけですが……。

…………名残惜しい、ですか。
そう思ってしまうのはきっと――。



―― トクン ――



いいえ、傍にいるだけ。
傍にいるだけですから。


花陽「……えへへ」

海未「…………花陽?」

花陽「あっ!な、なに?」

海未「大丈夫ですか? なにやら胸を押さえていますが……」

花陽「あ、うんっ! 大丈夫だよっ」


そうは聞きながらも、内心は少し焦ります。
もしかして、花陽に気付かれたのでは、と……。
そういうわけではなさそうですが……。


海未「そうですか? なにかあったらすぐ電話するんですよ」

花陽「……うん。ありがとう、海未ちゃん」


ありがとう。
そう言って笑う花陽の姿は――。



―― ギュッ ――



って、えっ?
……えぇぇぇ!?



海未「は、花陽!?」



突然、感じる温もりにしどろもどろになってしまいます。
なにがなにやら理解が追い付く前に、花陽はパッと離れて、こう言いました。



花陽「えへへっ……また明日、海未ちゃん♪」



駆けていく花陽。
その後姿を見て、さっきの温もりを思い出して。



―― トクン ――



胸の鼓動をまた感じてしまいました。

……あぁ、やはりそうなんでしょうね。
傍にいるだけ。
そう誓ったのにも関わらず……はぁ。

鈍い私でも、なんとなく分かってしまいました。
これはそういうことなのでしよう。



海未「また明日、花陽」



ポツリと呟いたその言葉は、夕陽の朱に吸い込まれるように溶けていきました。




この想いを伝えるのは、そう遠くない将来。
今度はきっと私から――――。




―――――― fin ――――――

以上で
『海未「花陽と歩く帰り道」』完結になります。

レスをくださった方
読んでくださった方
稚拙な文章及び2ヶ月もの長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。

以下過去作です。
よろしければどうぞ。
前作
【ラブライブ】凛「三種の返し技にゃ!!」
【ラブライブ】凛「三種の返し技にゃ!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433327958/)
過去作
【ラブライブ】穂乃果「テニスをしよう!」
【ラブライブ】穂乃果「テニスをしよう!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451052732/)
【ラブライブ】花陽「凛ちゃんと」凛「かよちん」
【ラブライブ】花陽「凛ちゃんと」凛「かよちん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440673282/)

次回はことぱなのゆるいお話か頭おかしい系のお話を書きたいと思っています。
よろしければまたお付き合いください。
では、また。

乙です

乙でした!

乙です
かよちんも海未ちゃんも幸せになってほしい

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