前作 渋谷凛「アイドルになった」 水本ゆかり「一緒にがんばりましょう」
渋谷凛「アイドルになった」 水本ゆかり「一緒にがんばりましょう」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454008481/)
の、続きです。
新入りアイドル渋谷凛が、他の駆け出しアイドル5人とともになんやかんややっていくお話だということさえわかっていれば、前作を読まずともなんとかなると思います
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454790300
凛「おはようございます」
ゆかり「おはようございます、凛さん」
ゆかり「今、お茶を淹れますね」
凛「今日のおやつは?」
ゆかり「親戚のおじさまからいただいたクッキーを持ってきました。紅茶と一緒にどうぞ」
凛「うん」
凛「………」
ゆかり「~~♪」←準備中
凛「……なんか慣れてきちゃったけど、至れり尽くせりだよね。ここの事務所」
晶葉「至れり尽くせりなのはゆかりがいるからだ。他の部署ではこうはいかないさ」
凛「部屋に入るなりお茶とお菓子が自動的に出てくるなんて、ここくらいか」
晶葉「感謝しなければ、だな。おかげで私の発明も捗るというものだ」カチャカチャ
凛「そうだね」
凛「あ。そういえば、この前の饅頭、まだ残ってなかったっけ」
晶葉「ああ、あれならあそこだよ」
麗奈「勝負よ、つかさ!」
つかさ「賭けは?」
麗奈「ゆかりが持ってきたお饅頭の残り!」
つかさ「よし、乗った」
麗奈「今日の勝負は……ポーカー!」ジャジャーン
つかさ「なるほど。この前のオセロと違って運が絡むゲームにしてきたか」
麗奈「ククク、今日こそアンタをぎゃふんと言わせてやるわ!」
凛「よく言われるけどさ、『ぎゃふん』って実際に言った人見たことないよね」
晶葉「確かに」
晶葉「どうする? 今から飛び入り参加すれば饅頭を勝ち取れるかもしれないぞ」
凛「別に、そこまで欲しいわけじゃないからいいかな」
ゆかり「凛さん。クッキーと紅茶、用意できました」
凛「クッキーも来たし」
晶葉「そうか」
麗奈「ツーペア」
つかさ「スリーカード」
麗奈「5のスリーカード!」
つかさ「こっちはクイーンのスリーカード」
麗奈「ぐぬぬ……」
麗奈「あ、来た! 7のフォーカード! これでつかさもおしまいよっ!」
つかさ「………」
麗奈「どうよ、さすがにこれには勝てないでしょ」
つかさ「………」
つかさ「それはどうかな?」
麗奈「なんですって?」
つかさ「アタシのドローしたカードは……スペードの10、ジャック、クイーン、キング、エース!」
つかさ「今、5枚のカードがすべて揃った!」
麗奈「ば、バカな! ロイヤルストレートフラッシュ! 奇跡を起こしたっていうの!?」
つかさ「饅頭クラッシュ!」
麗奈「ぎゃふん!」
つかさ「『ぎゃふん』ってリアルで言うヤツ初めて見たわ」
ゆかり「相変わらず仲がよろしいですね。つかささんと麗奈さん」
凛「ほんとにね」モミモミ
ゆかり「んっ……もう少し、右をお願いします」
凛「ここ?」モミモミ
ゆかり「あっ、そこです……いい気持ち」
晶葉「どうしたんだ? いきなり肩もみを始めて」
凛「日頃の感謝をこめてだよ」
ゆかり「あっ……ふぅ……んっ♪」
凛(なんか声が艶めかしいんだけど……)
麗奈「あーもう! また負けた!」
つかさ「ほら」ポイ
麗奈「わっとと……あ、お饅頭。なんで」
つかさ「やる」
麗奈「い、いらないわよ! そんなお情けみたいな」
つかさ「違う違う、別にお情けじゃねえよ」
つかさ「アタシ、3回目でイカサマやってたから」
麗奈「……へ?」
つかさ「初めて試してみたけど、案外バレないもんだな。ハハハ」
麗奈「はあああっ!?」
つかさ「怒ったか?」
麗奈「イカサマならアタシにもやり方教えなさいよ! 他の子相手にやるから」ウシシ
つかさ「お前ならそう言うと思ってた」ククク
凛「ああいう反応になるのが麗奈らしい」
晶葉「さすがにロイヤルストレートフラッシュは偶然ではなかったか」
ゆかり「つかささんなら、普通に出せてしまいそうな雰囲気がありますけど」
つかさ「ま、わりと簡単だから麗奈にもできるだろ。ちなみに誰相手にやるわけ」
麗奈「そうね……いつもイタズラの邪魔されてるし、真奈美あたりをぎゃふんと言わせたいわね!」
真奈美「ほう、そうか。標的は私か」
麗奈「そうそう……ってうわああっ!? 真奈美!?」
つかさ「おっす」
真奈美「おはよう」
P「おはよう、みんな」
晶葉「助手も一緒か」
真奈美「つかさ。あまり麗奈に妙なことは教えるなよ?」
つかさ「トランプのイカサマくらい平気だろ。芸みたいなもんっしょ」
真奈美「まあ、そのくらいなら、状況を弁えさえすればかまわないが」
麗奈「ほっ」
真奈美「ただし、私は相手が妙な動きをしたらすぐにわかるから、イカサマは通用しないぞ?」
麗奈「ちぇー、つまんないの!」
つかさ「やるね。動体視力のなせる業ってやつ?」
P「さあ、みんなそろそろ休憩も終わりにしよう」
P「つかさと麗奈はダンスレッスン」
つかさ「やるか」
麗奈「レイナサマの華麗なテクニックを見せてあげるわ!」
P「ゆかりと真奈美さんは、俺が撮影の現場まで送ります」
真奈美「頼んだよ」
ゆかり「頑張りましょう」
P「そして、晶葉と凛はボイストレーニングだ」
晶葉「うむ!」
凛「はい……」
P「……凛、大丈夫か? ちょっと元気がないみたいだけど」
凛「あ、ごめん。歌、まだ自信がなくて」
凛「ダンスのほうは、それなりな感じなんだけど……」
麗奈「確か、もうすぐ曲のレコーディングして、その後初ライブだっけ」
凛「うん……それまでに、なんとかしないと」
P「でも、あまり気負いすぎないように。トレーナーさんの言うことをよく聞いて、無理だけはしないようにしてくれ」
凛「……はいっ」
晶葉「では行こう、凛」
P「みんな、今日も一日がんばろう」
晶葉「しかし、歌に自信がないとは少し意外だな」
晶葉「この前みんなで行ったカラオケでは、音程がとれていたように思えたが」
凛「カラオケで歌う歌と、アイドルとして歌う歌は違うよ」
凛「なんていうか……私の声を、たくさんの知らない人に聞かれるんだって思うと、どうしたらいいのかわからなくなるんだ」
晶葉「緊張する、ということか?」
凛「それもあるけど……うーん」
凛「ごめん。やっぱりよくわからない」
凛「でも……私がカラオケで出す歌声と、アイドルの人がステージで出す歌声。なにか、違うと思うんだ」
晶葉「ふむ……感覚的な話は、私の得意分野ではないからな」
晶葉「だが心配するな!」
凛「晶葉……」
晶葉「私も歌は苦手だからな!」
凛「………」
凛「それのどこに心配しなくていい要素が?」
晶葉「ともに歩む仲間がいるということだ」
晶葉「天才である私ですら苦労しているのだから、君が悩むのも当然! こう考えれば少しは楽じゃないか!」
凛「……傷の舐めあいみたいな?」
晶葉「うぐっ」
凛「なんて、冗談だよ。冗談」
凛「二人ともうまくなれば、傷なんてなくなるよね」
晶葉「う、うむっ。そうだな、私はそれが言いたかったんだよ」
凛「ありがと、晶葉」
晶葉「礼なんて必要ないさ。それより、早くいかないとトレーナーに叱られてしまうぞ」
凛「そうだね。行こう」
凛(やるしかない、か……不安は、どうしてもあるけど)
真奈美「励ましてはあげないのか?」
P(運転中)「はい?」
真奈美「凛のことさ。思い悩んでいる様子だったが、あまり踏み込むつもりがないように見えたからね」
ゆかり「大丈夫でしょうか。私、心配です」
P「そのことですか」
真奈美「エールを送るなら、『君ならできる』とかが一般的か」
P「まあ、考えなくはなかったんですけど……その役目は、トレーナーさんにお任せすることにしました」
真奈美「トレーナーに?」
P「ええ。事務所を出る前に連絡しておいたんです。今日あたり、ちょっと励ましてあげてくださいって」
P「俺はいつも凛のレッスンを見ているわけじゃないので。普段からあの子の歌声を聞いてくれている人のほうが、より的確に褒めたり励ましたりできると思ったんです」
P「凛も、自分の練習している姿を知っている人にいろいろ言ってもらえた方が、より言葉を信じられるでしょうし」
真奈美「なるほど。よく考えているんだな」
続き楽しみにしてた
真奈美「私はてっきり、励ましの言葉を思いつかなかっただけかと思っていた」
P「そんないい加減じゃないですよ、俺は」
真奈美「知っているさ。今のは軽いジョークだ」
P「ひどいな~」ハハ
ゆかり「Pさん、みなさんのことを大事にしてくださっているんですね」
P「それはそうだよ。責任持って預かる身なんだから」
ゆかり「ですけど……私は、Pさんに励ましの言葉をもらえれば、それが一番力になります」
P「まあ、俺とゆかりはそれなりに付き合いが長いからな」
真奈美「ゆかりに深く信頼されているようだな。ラブラブじゃないか」
ゆかり「ら、ラブラブ……そういうのでは、ない……と思いますが」カアァ
真奈美「ハハハ、照れているぞ。あつあつだな」
P「真奈美さん。あんまりからかわないであげてください」
真奈美「わかった。このくらいにしておこう」
真奈美「あとは、Pと二人で飲む時に酒の肴にでも」
P「俺をからかう気は満々なんですね……」
真奈美「それはそれとして。ゆかりは、初ライブの時はどうだった? 凛のように悩んだりしたのか」
ゆかり「私ですか?」
ゆかり「そうですね。初めてステージに立つ時は、やはり緊張しました。フルートの演奏会とは、また違ったプレッシャーがあったので」
ゆかり「けれど、Pさんが本番直前にフルートを持ってきてくださって」
真奈美「ほう」
ゆかり「それを吹いているうちに、だんだんと心が落ち着いてきて……」
P「そのまま寝ちゃったのは計算外だったな」
真奈美「リラックスしすぎだろう……自分のフルートの音色で眠るなんて相当だぞ」
ゆかり「うふふ♪ そんな、照れてしまいます」
真奈美「別に褒めたわけではないのだが……」
麗奈「つーかーれーたー!」
ベテトレ「こら小関! まだ休憩じゃないぞ!」
麗奈「ちょっとだけ休ませて! 朝につかさに負けたから精神が疲れてて」
つかさ「オイ、アタシに責任なすりつけんな」
ベテトレ「ダメだ、もう少しだけ続けるぞ! 振りつけが身体に染みこんでから休め!」
麗奈「うぎゃー!」
ベテトレ「よし、では今日はここまで!」
麗奈「あの鬼トレーナー……今度絶対仕返ししてやるんだからっ!」ゼーゼー
麗奈「Pだって無理はするなって言ってたのに!」
つかさ「あんな下手な言い訳できる時点で余裕あるって判断されたんだろ。アタシもその判断間違ってねえと思うわ」
麗奈「なんですってぇ~?」ジトー
つかさ「ほら、ポカリ」
麗奈「ごくごくごく……だいたいアンタはいつも偉そうに……ごくごくぷはーっ」
つかさ「忙しい口だな。レッスンの後にそんだけ動けば十分元気だっつの」ハハッ
つかさ「打たれ強さはあるんだから、このままやってりゃ大物になるかもな」
麗奈「かもじゃなくて、アタシはなるのよ! 世界ナンバーワンアイドルになって、全人類がアタシにひれ伏す時が来るわ!」
麗奈「その時になって、泣いて謝ったって許してやんないんだから!」
つかさ「なんでアタシがお前に泣いて謝らなきゃならないんだ」
つかさ「全人類が頭下げても、アタシだけは下げないつもりなんで、ヨロシク」
麗奈「言ったわね? 見てなさいよっ!」
つかさ「おーおー、見といてやるわ」
つかさ「……あいつも、お前くらい元気ならいいんだろうけどな」
麗奈「……あいつって?」
つかさ「凛。デビューがいよいよ目の前に見えてきて、若干焦ってるだろ、あいつ」
麗奈「ああ、凛か。デビュー前にビビるなんて情けないわねー」
つかさ「しゃーねえよ。みんながみんな、麗奈みたいに怖いもの知らずじゃない。イージーにはいかないわけよ、これが」
つかさ「プロのステージが現実に近づいて、リスクばかりが頭の中を駆け巡る。ポジティブに考えようとすればするほど、逆に忘れようとしている嫌なことがクリアーに思考に出てくる」
つかさ「で、負のスパイラルに陥りかける。そういう面倒な時期なんだよ」
麗奈「………」
つかさ「なに」
麗奈「いや……なんか詳しいわね。やけに実感こもってるっていうか」
つかさ「……別に。人間の思考をリサーチするのも、上に立つ者の仕事なんで」
麗奈「ふーん」
つかさ「将来世界の支配をたくらんでるヤツとは思えないくらいの無関心ぶりだな……」
午後
凛「………」ボーー
晶葉「また歌のことで悩んでいるのか」
凛「あ……ごめん、なに?」
晶葉「なかなか重症のようだな。トレーナーも本番までにはうまくいくだろうと言っていたし、気にしすぎはよくないぞ」
凛「……そうだね」
凛「なんか、うまく気持ちをコントロールできなくて。今まで何かに打ち込んだことって、ほとんどなかったからかな」
晶葉「そういう時は気分転換だ!」
晶葉「私もロボの発明がうまくいかない時は、別の装置の開発で気を紛らすからな」
凛「発明の気晴らしを発明でやるんだ……でも、気分を変えるのは大事、か」
晶葉「これから舞台の手伝いだ。適当に身体を動かすにはちょうどいいさ」
凛「裏方の仕事か……気分転換には悪くないね。行こうか」
晶葉「ふんぬっ……お、重い」
凛「私が持つよ。晶葉はそっちの荷物お願い」
晶葉「すまないな。どうにも力仕事は苦手で……ロボを持ってくればよかった」
凛「そんなことしたら、他の人が珍しがって仕事にならなくなるかも」
晶葉「それもそうか……よっと。うん、この重さなら大丈夫」
楓「せいいっぱいに、精が出ますね……うーん、スランプ」にゅっ
晶葉「うわっ!」
凛「あ、あなたは……高垣楓さん?」
楓「こんにちは。渋谷凛さんに、池袋晶葉さん」
凛「知ってるんですか、私達のこと」
楓「この間、美嘉ちゃんがそちらのお部屋にうかがったらしいので。その時に、お名前も一緒に覚えちゃいました」
晶葉(高垣楓と城ヶ崎美嘉……確か、同じプロデューサーの管轄だったな。そういうことか)
楓「それに、あの人もいますし」ボソッ
凛(あの人?)
晶葉「そういえば、そんなこともあったか……あちらが落し物を届けに来ただけなのに、麗奈たちが妙な勘違いをしたらしい」
凛「変な印象残しちゃったんじゃないかな」
楓「美嘉ちゃんは面白い子達って言ってましたよ」
晶葉「interestingではなく、文字通りfunnyの意味での『面白い』なんだろうな……」
凛「アイドルとしては微妙な評価だね」
楓「それじゃあ、二人とも」
楓「頑張ってくださいね♪」ウインク
凛「っ」キュン
晶葉「っ」キュン
楓「うふふっ」
凛「……行っちゃった」
晶葉「あれがトップアイドルのオーラか……なんというか、最後の一言だけでときめいてしまったぞ」
凛「大人の女らしさってやつなのかな? あれで歌もうまいんだよね」
晶葉「……人気が出るのも当然、ということだな」
つかさ「ふーん、女らしさね」
真奈美「確かに、彼女には男女問わず人を惹きつける魅力があるな」
凛「同じ女なのにキュンと来ちゃった」
晶葉「間近で見ると効果抜群だな」
麗奈「ま、レイナサマのセクシーさには敵わないけどね!」
つかさ「マジで?」
麗奈「マジ!」
つかさ「マジのマジで?」
麗奈「ま、マジよマジ!」
麗奈「……晶葉、セクシーになれる機械とかないの?」ボソボソ
つかさ「聞こえてるっての」
晶葉「残念ながらそんな機械は作れない」
凛「珍しいね。晶葉がそんなこと言うなんて」
晶葉「こればかりは発明ではどうしようもない。開発する私自身が、女らしさのなんたるかを理解していないのだから、作りようがないのだよ」
真奈美「科学の力でもできないことがあるということだな」
晶葉「だからこそ、面白いとも言える」
晶葉「アイドルには、科学とはまた違った楽しさ、未知の可能性がある。私はそれを味わいたいんだ」
つかさ「ゆかりー、あの飴どこだっけ」
ゆかり「そこの棚に置いてありますよ」
つかさ「おー、あったあった。サンキュ」ヒョイパク
麗奈「アンタ、カレー味の飴なんてよく食べられるわね」
凛「ゆかりのお父さんがもらったものらしいけど、結局つかさの口にしか合わなかったみたいだね」
つかさ「結構イケると思うんだけどなあ。メーカー自体は普通によく聞くトコだから、作りはしっかりしてるぞ?」
つかさ「水分補給が必要になるのが欠点だけど」
ゆかり「気に入ってもらえてよかったです」
真奈美「ふむ……ここのメンバーで女らしさがあると言えば、やはりゆかりになるか」
ゆかり「女らしさ、ですか?」キョトン
真奈美「その首をかしげる動作とか、だな」
晶葉「確かに、髪をかき上げる時とか、ひとつひとつの動きにかわいらしさがあるな」
ゆかり「私は、特に意識などはしていないのですけれど……褒めていただけるのは、うれしいです」ウフフ
つかさ「ゆかりのすげえところは、全部無意識でやってることだよな。自分の魅力の活かし方を知った時にはどうなることか」
凛「恐ろしいね」
麗奈「恐ろしいわね」
ゆかり「はぁ……?」
つかさ「ゆかり。一度でいいから、今から言うことやってみろ」
ゆかり「はい?」
つかさ「ごにょごにょ」
ゆかり「ふむふむ」
ゆかり「少し恥ずかしいですけど……そのくらいなら、かまいませんよ」
つかさ「んじゃ、頼むわ」
麗奈「なに頼んだの?」
つかさ「ゆかりにあざといことやらせたらどうなるかと思ってな」
つかさ「アタシのセンスを信じろ。きっと破壊力がある」
ゆかり「それほどのものとは思えませんが……いきます」コホン
ゆかり「ゆっかゆっかりーん♪」ニコッ
凛「」ズキューン
晶葉「」ズキューン
麗奈「」ズキューン
真奈美「」ズキューン
つかさ「」ズキューン
ゆかり「ふう。やはりちょっぴり恥ずかしいですね……あら、みなさん?」
麗奈「……はっ!? 今いったいなにが」
晶葉「か、顔が熱い」
凛「これが……恋?」
真奈美「私としたことが、思わずときめいてしまったよ」
つかさ「我ながら自分の才能が怖いわ。とんでもないもん生み出しちまったわ、これ絶対バズるわ……」
ゆかり「?」ポワポワ
翌日
凛「ふう……」
凛(今日も、あんまり納得いく声出せなかったな……なんか、違う気がする)
凛「はあ」
楓「ため息をつくと、幸せが逃げちゃいますよ?」
凛「あ……高垣さん」
楓「楓、でいいですよ」
凛「えっと。じゃあ、楓さん」
楓「はい♪」
凛「………」
凛「楓さんって、すごいですよね」
楓「あら。いきなり褒められちゃった」
凛「どうしたら、うまく歌えるようになるんでしょう」
楓「歌で、何か悩んでいるのかしら」
凛「はい。少し」
楓「……少し?」
凛「……実は、かなり」
楓「ふふ、正直でよろしい」
楓「アイドルの歌って、カラオケで歌うものとは違うのよね」
凛「あ……」
楓「どうかした?」
凛「いえ。続けてください」
楓「そう……それでね。何が違うのかなーって考えたら、やっぱり一番は『誰のために歌うか』だと私は思うの」
凛「誰のために?」
楓「友達と行くカラオケは、『いい点数をとるため』とか『叫んでストレス発散』とか、基本は自分だけのために歌うもの」
楓「でも、アイドルの歌は違う。CDなら、CDを買った人のために。ライブなら、声援を送りに来てくれた観客の人達のために、私達は歌う」
凛「自分じゃない、誰かのために歌うってことですか?」
楓「そうね。だから、私達は歌にメッセージをこめなくちゃいけない」
楓「その歌に、どんな気持ちをこめているのか。何を伝えたいのか……そこをしっかりと決めて、歌に乗せることが大切」
楓「どんなメッセージをこめるかは……人それぞれだから、凛ちゃんは凛ちゃんなりの答えを見つけてね?」
凛「私なりの………」
凛「そっか。そういうことだったんだ」
楓「どうかしら。少しはお役にたてた?」
凛「はい。なんだか、やらなきゃいけないことがわかってきた気がします」
楓「そう、よかったわ」
楓「この悩みって、人によって感じ方が違うのよね。意識せずに乗り越えちゃう人もいるし、うーんと考え込んじゃう人もいる」
凛「ありがとうございます。楓さんのおかげで、なんとかなるかも」
楓「ううん。お礼なんていいわ」
楓「きっと遅かれ早かれ、あなたは今のと同じアドバイスを聞いていたと思うから」
凛「え?」
楓「うふふ♪」
楓「初めてのライブは緊張すると思うけど、頑張って」
楓「凛ちゃんのありのままの姿を、ありありと表現すれば、きっとうまくいくわ」
楓「それじゃあ、またね」
凛「あ、はい。また……」
凛「ただいま」
P「おかえり。歌の練習、どうだった?」
凛「あー、うん。いつもと変わらず、かな」
P「………」
P(そろそろ、俺が偉そうなこと言っても受け入れてくれるかな)
P「凛――」
凛「あのっ」
P「?」
凛「私……探してみる。自分が歌に乗せたい気持ち」
凛「そうしたら、きっと……何か、見えてくると思うから」
P「………」
P「凛。それ、誰かから聞いたのか?」
凛「うん。高垣楓さんに、さっき偶然会って」
P「……そうか」
P「よかったな。少し、悩みが晴れたような顔してるぞ」
凛「そうかな。でも、これから答えを見つけなくちゃいけないから。まだまだだよ」
P「……頑張れ」
凛「うん。頑張る」
美嘉「へえ。渋谷さんと話してたんだ」
楓「面白い子だったわ。将来、ぐんと人気が出るかもしれないわね」
卯月「楓さんがそう言うってことは、きっとすごい子なんですね! 私もちょっと気になります」
楓「ええ……でも、まだまだかしら」
美嘉「まだまだ……そりゃまあ、ライブだってやってないんだし」
楓「『あり』のままの姿を、『ありあり』と。これに気づかないようでは、まだまだね」キリッ
卯月「あ、あはは……」
美嘉(なんの根拠にもなってないし……)
数日後
つかさ「ほい、ほい、ほいっ!」ヒラヒラヒラ
晶葉「おおっ! これだけスカートを揺らしているのに下着が見えないぞっ」
ゆかり「わあ、すごいです」パチパチ
つかさ「どうよ? これが『見えそうで見えないスカートの中身』を実現するテクニック」
つかさ「一昨日と昨日で編み出した、アタシの新しい女らしさ、ってな」
凛「無駄に器用な真似を……」
麗奈「でも、確かに男は惹きつけられそうね」
真奈美「女らしさを磨くためには、自分の身体に自信を持つことが大切だと思う」
つかさ「ま、そうだな。自信がなきゃ、見せることもためらってしまう……それじゃあ女らしさを十分出せないってことか」
真奈美「うん、そうだ」
真奈美「だから、君達も私と一緒に身体を鍛えよう!」
凛「え?」
真奈美「自分の身体に自信を持つためには、それ相応に引き締まった身体を持つ必要がある。そのためにはトレーニングだ!」
真奈美「さあ、今から走りにいくぞ!」ガシッ
凛「うわっ」
晶葉「ちょっ」
つかさ「諦めろ。その人、普段は大人の思考で隠しちゃいるけど、基本的には筋肉論者だ」
凛「そんなあ」
真奈美「ふむ……もうひとりくらいは連れて行けるか」
つかさ「さーて、アタシはちょっと急用が」
麗奈「デーモン・ハンド!」ドンッ
つかさ「きゃっ」フラフラッ
真奈美「む? つかさ、自ら駆け寄って来るとは……ランニングに志願するということだな!」
つかさ「麗奈ァ!」
麗奈「ククク、日頃の恨みよ!」
ゆかり「……皆さんが走られるのでしたら、私も一緒にやってみましょうか」
凛「ゆかり、そんな無理しなくていいんだよ」
ゆかり「大丈夫です。真奈美さんも、私達の体力は把握しているでしょうし」
晶葉「把握したうえでギリギリを要求してきそうではあるがな」
真奈美「ゆかりも参加か。これならもう、全員一緒に走った方がスッキリするな」
麗奈「へ?」
真奈美「麗奈、君も」
麗奈「あ、アタシ急用が」
がしっ
つかさ「地獄スクラッパー……!」ククク
麗奈「ぎゃーっ!」
真奈美「よし、これでコースを一周したな」
凛「つ、疲れた……」
晶葉「やはり、私は頭脳派だな……ぜー、ぜー」
ゆかり「でも、一生懸命走るのもたまにはいいですね」
麗奈「ひー、ひー」
つかさ「だんだんこの距離走ることに慣れてきた自分が怖ぇ」
真奈美「つかさは私と一緒にもう一周だ!」
つかさ「なんで!?」
真奈美「まだまだ余裕そうだからな! はっはっは!」タッタッタッ
つかさ「チクショー!」ダッ
凛「文句言いつつも二週目行くんだ、つかさ」
麗奈「だいぶ体育会系に染まりつつあるわね」
晶葉「一種の洗脳か……」
凛「その後も、いつものように個性的なメンバーにあっちこっち振り回される日々」
凛「そんな時間の中で、私はずっと、自分の歌のことを考え続けた」
凛「楓さんに言われたこと。その意味を、答えを」
凛「そして……いよいよ、デビューライブの時がやってきた」
凛「小さな会場だったけど……その日の私にとっては、武道館サイズに見えた。冗談じゃなく」
凛「………」
凛「ふうーっ」
P「大丈夫か?」
凛「……プロデューサー」
P「なんだ」
凛「一応、エチケット袋用意しといてくれる?」
P「吐きそうなのか!?」
凛「一応だよ、一応。大丈夫……だと思う。きっと、たぶん、おそらく」
P「そこまで装飾つけると、もはや大丈夫とは言えないんじゃないだろうか」
凛「そ、そんなことないよ。私はただ」
P「……とにかく、落ち着いて」ポン
凛「……プロデューサー」
P「俺が花屋で君を見つけて、スカウトして。そして君はアイドルになることを決めて、今日まで頑張ってきた」
P「その成果を全部出し切れ、なんてことまでは言わない。ただ、今の凛を……渋谷凛を、観客席のみんなに見せてあげてくれ」
凛「……いいの? それで」
P「ああ。それで、十二分だ」
凛「そっか」
P「よし、そろそろ出番だ」
晶葉「おーい。ステージ、温めておいたぞ」
凛「……ありがと」
凛「行ってくる」
凛(楓さんに言われてから、ずっと考えてきたこと。私が、自分の歌に何をこめるのか)
凛(いきなりスカウトされて、やたらキャラの濃い、でもいい人達と知り合って)
凛(アイドルやること決めて、その人達と一緒に頑張って)
凛(やたらめったら濃密な時間を振り返って、こう思った)
凛(……私は、この日々を経てどう変わったのだろう?)
ベテトレ『渋谷、また同じところで遅れているぞ! もう一回!』
凛『は、はい!』
凛(スパルタなトレーナーさんにダンスをしこまれて)
トレーナー『はい。じゃあ今やったところ、もう一度繰り返してみて』
凛『あーあーあーあーあー♪』
凛(ボイストレーニングは、呼吸の仕方から練習させられた)
凛(他にもあれこれやってきて、私はこのステージに立っている)
凛「皆さん、はじめまして。渋谷凛です」
凛(少しは輝けるようになったのかな。それとも、なんにも変わっていないのかな)
凛(それを確かめたい。だから)
凛(だから……今の私を見てほしい。私の歌を、聞いてほしい)
凛(それが、私の伝えたいこと……自分勝手かもしれないけど、本当の気持ち)
凛「聞いてください。『Never say never』」
一生懸命、思いを込めて歌います――
真奈美「――そうか。わかった、お疲れ様」
ピッ
真奈美「晶葉と凛のライブ、上手くいったそうだ」
麗奈「じゃあ、凛も大丈夫だったのね」
真奈美「いいパフォーマンスだったそうだ。観客も拍手で応えてくれたと、Pがうれしそうに言っていた」
ゆかり「よかったです……安心しました」
つかさ「………」
麗奈「つかさ、聞いてんの? ライブ、うまくいったって」
つかさ「ん? あー、そうか」
麗奈「反応うすっ!」
真奈美「いや、そうでもないさ。見ろ、口元が緩んでいて」
つかさ「ゆかり! さっさと『ゆっかゆっかりーん』の完成度を高める練習するぞっ」
ゆかり「は、はいっ」
真奈美「……追及するのはやめておいてやるか」
真奈美「なんにせよ……おめでとう。凛」
真奈美「ここからがスタートだ。ともに頑張っていこう」
おわり
読んでくれた方々に感謝を
とりあえず凛も本格的にアイドルデビューしました。あとゆかりが必殺技を習得しました
一話に一度はTCGネタ挟まないと気が済まないらしい
乙
毎回素晴らしいものをありがとう
よく使ってた呪文出てきてそっちも嬉しい
おつおついつも楽しみに読んでるよ
凛のNevar say nevarは本当に好きカラオケで必ず歌う
まだ続くよな?
続いてくださいなんでも(ry
おつおつ
このシリーズいいなぁ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません