僕達の平穏は、あっという間に、あまりにも儚く崩れ去った。
僕たち魔族の住む村は、魔王の城がそびえ立つ山を超えた場所にある。ゲーム風に言えば隠しステージ、といったといおろだろうか。
とはいえ村には大したものはなかった。確かに僕たち魔族は人か同族を食らって生きるとこしかできない。
だから人間が僕らを外敵として駆除するのもわかる。
だけど・・・
あそこまでやるのはあんまりじゃないか。
魔王の城が墜ちたという知らせを聞き、家族や村のみんなは三日三晩悲しみに暮れていた。
そんな中、あの女騎士とその仲間がこの村にもやってきたのだ。
魔王の訃報があったためあまりはしゃいだりこそしなかったが、
母と父、それに4歳になったばかりの妹。
そして僕の四人家族は朝の食卓を囲みいつもと変わらない日常を
送っていた。
そんななか、遥か遠くから悲鳴が聞こえてくる。
家族で顔を見合わせ首を傾げ、
だがそれでも一度は気のせいだろうということで収まった。
だがそれは見当違いだった。
数秒後もっと近い場所で第二の悲鳴が聞こえ、更に連鎖する叫び声はクレッシェンドをかけるように大きくなっていく。
全てを悟った父が「逃げるぞ!」と勝手口を開くよりも早く玄関のドアが蹴破られた。
勝手口の方にも回り込まれており、
父は短剣で右胸を刺され倒れていた。
「団欒を邪魔して悪いが・・・ここで死んでもらう」
玄関から入ってきた勇者が冷酷な顔でそう言い放つと、
妹の髪を引っ張り胸の高さまで持ち上げていた。
妹は泣き叫びながら身をよじり抵抗するが、首短剣を突き立てられると同時に妹は痙攣の後頭を垂れ動かなくなった。
「うちの子をおおおおお!」
母が勇者に掴みかかるが、数発膝蹴りを入れられうつ伏せに倒れる。
勇者はその母のせに馬乗りになると、
背中をメッタ刺しにし始めた。
父を刺した女騎士が中に入ってくる。
僕は動けなかった。突然の事態に頭がまっしろになり、
声を殺すが涙だけは流して、小便を漏らしていた。
しかし、
こちらにツカツカと歩み寄る女騎士の足にしがみつくものがいた。
父だった。
「はぁ?」
女騎士が煩わしいことこの上ないという表情で父を見おろす。
みたところまだ16か17の少女だった。
華奢な体つきに整った目鼻。
だがその顔にはぞっとするような表情がはりついていた。
「やめろ・・・うちの子だけは・・・なにがあっても・・・」
「ああもううるさい。そういうのいいから」
血反吐を吐きながらも女騎士にしがみつく父。
しかし女騎士は容赦なく父の頭に剣を突き立てる。
「さぁーて・・・」
女騎士が父の手を振り払いこちらに近づいてくる。
「クッ・・・」
今この瞬間までたっぷりと愛情を注いで育ててくれた心優しい母。
僕に世界の色々なことを教えてくれ、
最期まで必死で僕を守ろうと戦ってくれた父。
仲もよく笑顔が可愛らしかった初めての妹。
それをこいつらは虫けらのように殺した。
許せなかった。許してはいけなかった。
だけど・・・もうどうすることも出来ない。
女騎士が僕の手前で止まり、僕の眉間に
剣の切っ先を向ける。
もうなにをするべきかは分かっていた。
「・・・せ」
「うん?」
女騎士がきょとんとした表情でなんと言ったか聞く。
「・・・殺せ。もういい。そのために来たんだろ」
大粒の涙が頬を伝う感触を味わいながら、僕はそれだけ言った。
今自分に出来ること。
それは潔くこの場で息絶えることだった。
しばらくして勇者となにやら話していた女騎士がこちらに向き直る。
「ふうん。殺されたいんだ?」
そう言うと同時に女騎士は僕の首めがけ剣を振るった。
そのまま撥ねられるものかと思っていたが、それは寸止めだった。
そこからの記憶はどうにも曖昧だ。
だけど寸止めを食らって気絶していたらしいことは分かる。
頭では覚悟は出来ていたが、体の方はそれに伴っていなかったらしい。
「いい格好ね」
そして今、僕はひざ立ちになった状態で
万歳をするような形で天井から吊るされたロープに両手を縛り付けられ、
そしてその前にはあの女騎士が立っていた。
つづけて
口を開けようとしたが舌がざらっとした感触の何かに阻まれてしゃべることができない。
そこで布で猿ぐつわまでされていることに気づいた。
「おはよう。何か質問はあるかな?」
女騎士はしゃがむと相変わらずゴミを見るような目でこちらを見つめ、
短剣で猿ぐつわを切り落とす。
その美しい瞳に宿る光は、
新しいおもちゃを与えられた子供のそれにも見えた。
「よっよくも父さんを...!母さんや妹を!!!
この縄を解け!!!!!」
怒りに任せ感情を吐き散らす。
頭に血が上り自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
自分でも途中から何を言っているのかよくわからなくなっていた。
ただすぐ目の前にあった女騎士の顔がある時を境に歪み、
次の瞬間強烈なビンタを食らっていた。
その後女騎士はすぐさま立ち上がり、
額に蹴りを入れてきた。
「汚ったないわねえ・・・顔に唾飛んだんだけど。自分の立場分かってんのかしら?」
「たち・・・ば・・・?」
また泣きそうになった。震えが止まらない。
僕がなにをしたというのだ。
人間を食うのはそんなに悪いことなのか?
他の種族を食らうなんてお前らだってやっているじゃないか。
一瞬で女騎士の表情が無邪気なものに変わり、その場を歩き回りながらなにやら独り言を言い始めた。
「まぁー...説明もなしにいきなりこんな状況に置かれてたらやっぱり訳わかんないか。
分かった。
じゃあ一番気になってそうなあんたのご両親と妹さんのついてだけれど~」
「もうめんどくさいからあの後家ごと焼き払っちゃった♪
死体が今どんな状態かは知らないしどうでもいいわ」
!?
・・・
うつむく。僕は何も言えなくなった。
そして、何も無くなってしまった。
父や母、妹が死んでしまった。
それだけでなく、4人で暮らしていた証拠ともいえる家まで灰にされた。
そう考えると、たった10年間の人生
それでも沢山のあの家と家族の思い出が溢れ出した。
また泣いてしまう。情けない。
無力な自分が憎い。
「ちょっと。いつまでもぐずつかないでよ。めんどくさい」
そういって女騎士が近寄り、僕の前髪を掻き上げ強引に前を向かせる。
また女騎士と目があう。
じっとみていると今更だがなんとなく分かった。
この人は多分善人なんかじゃない。
栗色の艶やかな肩まで伸びた髪。
透き通るように白い肌。
ぱっちりとしたブルーの瞳。
身長は160cm後半ほどだろうか。
見た目だけで言えば申し分なかった。
だけれどニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、
その表情からは世間一般でいう勇者の試合など欠片も感じられなかった。
×試合
○慈愛
マダー?
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