男「ピアス」 (8)
いつからだろう、素直に生きられなくなったのは。
『世の中は僕の持つ本性を嫌う』そう思わずにはいられなくなったのはいつだっただろうか。
ニードルを滅菌パックから取り出し、消毒液に浸す。
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きっと母の差別的な性格の所為だろう。
健康であれば何でも——を謳う一方で、
怠け者は糾弾し、異常性愛者は人間として扱わない。
不自由はしていないが、抑圧は次第に憤りや不満へと変わり、
禁忌はいつでも甘い匂いでこちらを破滅へと誘っている。
『惰性や臆病さが人間を生につなぎ止めているんだ』
大学の頃、ある女の子がそう言っていたのを覚えている。
僕の中にある重たい言葉はどれもこれも女性由来のものだ。
果たして僕だけがそうなのだろうか、親友はそんな話題には乗ってもくれない。
『女』
生を生み出す存在であり、弱者であり社会的強者であり美しい存在。
奴等はいつだって死と繋がっている。
美しい女にじっと見られると、僕はまるで死に覗かれている気分になる。
時折、僕は一人に耐えきれなくなって『普通の』繋がりを持つ。
『あなたの全てを受け入れてあげる』
いつだって甘い声でそれは言う。
(受け入れる?馬鹿馬鹿しい)
そんな僕こそ馬鹿だ。
欲望の捌け口に対してさえ期待して、疑ってかかるのだから。
『大丈夫、あなたはありのままでいいのよ』
人間が言う、優しげな言葉の八割は時間の経過で嘘になる。
結局、生身の女に魅了され、舞い上がる。
舞い上がるから、バテて尽きてしまう。
『あなたは一人で大丈夫、強い人』
大丈夫、最初から君と居てもひとりでした。
自分の本当の望みぐらい分かっている。
このトラウマのような自己愛から開放され、
少しでも自分を認め、好きになりたいのだ。
『でも、それはとても難しくて、今でも夢の残滓を噛み締めながら、
残りの人生を臼で挽くように働き潰すだけ』
『このままだとあなたは一生ひとりよ?』
『自分も、他人も愛せないまま』
『好きでもない『普通』を愛すフリをしながら』
『社会の歯車になる覚悟なんて出来てないのに、働かれる会社も可愛そう』
うるさい。
ピアスニードルを自分の耳たぶに押し当て、貫く。
血が垂れる。
『いいの?明日も仕事なのに』
ファーストピアスで出来たばかりの穴を塞ぎ、深呼吸をする。
『こんなことして変われるつもりでいるなんてさあ……甘いんじゃない?』
甘いのだろう。でも、痛みというのものはきっと変化のきっかけになるはずだ。
願わくば、いい方に。
終わりです。お目汚し失礼しました。
だからなに?
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