絵里「100秒後の未来……?」 (34)

希「うん。うちな、それくらいの近い未来のことなら予知できるようになったんよ」

絵里「まさか。いくら何でもそれは信じられないけど。それって、また新しい占いの話?」

希「うーん。占いとはちょっと違うかな。とにかく見えるって言うか……例えば、あそこにいる真姫ちゃん」

絵里「真姫がどうしたの?」

希「真姫ちゃんは今から100秒後に、「イミワカンナイ!」と言う」

絵里「ええ?まさかそんな……」

希「まあ見ててみ」

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真姫「……何よ?二人で私の顔を見て」

希「別に、なーんもないよ」

真姫「ウソばっかり。絶対、二人で私の話、してたでしょ」

絵里「ほ、ほんとに何でもないの。ただちょっと……」

真姫「ちょっと何よ」

希「まあまあ真姫ちゃん。ほんまに大した話やないから」

真姫「……ならいいけど」

希「それはそうと、真姫ちゃんは、あんまりスピリチュアルな話には興味ないんやったっけ」

真姫「興味ないって言うか……非科学的なことは信じてないだけ」

絵里「た、例えばなんだけど。未来予知とか、ほんとにあると思う?」

真姫「……未来予知?」

絵里「ええ」

真姫「馬鹿馬鹿しい。そんなもの、あるわけないじゃない」

絵里「そ、そうよね?真姫もそう思うわよね……?」

真姫「何よ。希はともかく、エリーがそんな怪しげな話題を持ち出すなんて」

絵里「……いや、実はね。真姫がこれから口にするセリフを当ててみせるって、希が言うもんだから」

真姫「私の……?」

希「うちには100秒後の未来が見えるんよ」

真姫「それでさっきは私の顔をチラチラ見てたのね」

絵里「でも、真姫の言うとおりね。そんなこと、やっぱりあり得ないわ」

真姫「当たり前でしょ」

希「そうかなぁ?」

真姫「まったく。くだらない話をするのは勝手だけど、よりにもよって私の未来予知だなんて……ほんと、イミワカンナイ」

絵里「あっ」

真姫「えっ?」

希「ちょうど100秒……やろ?」

絵里「そんな……まさか」

真姫「何よ。どういう事?」

希「うちにはなんでもお見通し、っていう事や」

真姫「!じゃ、今のセリフを言い当てたってこと?」

希「ま、そういうことやね」

真姫「……でも、ちょっと待って。今の場合、私は二人の会話に誘導されただけの気がするけど」

絵里「そう言われればそうね。それに、よく考えてみればあのセリフは真姫の口癖みたいなものだし……」

真姫「そ、そんなにいつも言ってないとは思うけど」

絵里「とにかく。これだけじゃ、まだ何とも言えないわね」

希「もう、疑り深いなあ。じゃ、もういっぺんやってみよか」
スッ

希「……あそこにいる海未ちゃんは、100秒後に「にっこにっこにー」をやる」

絵里「!それは、いくらなんでも……」

真姫「さすがにあり得ないわね」

絵里「にこの持ちネタだということもあるけど、海未の性格的にどう考えても……」

希「でも見えたんやなあ、これが」

真姫「まあ、お手並み拝見といきましょうか。あ、今度は海未に話しかけるのはナシよ」

絵里「……それはそうと、何だか機嫌が悪そうね、海未」

ガチャッ
穂乃果「ごめん海未ちゃん、待たせちゃって」

海未「……遅かったですね、穂乃果」

穂乃果「で、話って何?」

海未「先ほどの練習の件で、気づいたことがありましたので」

穂乃果「あれ……穂乃果、ちゃんとできてなかった?」

海未「はっきり言って、全くダメだったと言わざるを得ません」

穂乃果「あちゃー……海未ちゃんは厳しいなあ。でも、言われたように踊ったよ?」

海未「確かに、表面的な動きはきちんと押さえられていました。しかし……うわべだけではダメなんです」

穂乃果「うわべだけ……?」

海未「はい。さっきの穂乃果のダンス……心のどこかに、まだ照れがあるように見えました」

穂乃果「!!うっ……」

海未「その点、やっぱりにこは凄いです。ステージの上では、全く動きに迷いがない……見習って欲しいものです」

穂乃果「でも、あのダンス……ちょっと激しすぎて恥ずかしいんだもん」

海未「言い訳は聞きたくありません」

穂乃果「でも、海未ちゃんだって……」
ブツブツ

海未「……何か言いましたか?」

穂乃果「う、海未ちゃんだって、にこちゃんみたいにはやれないでしょ……?穂乃果ばっかり、そんなに怒らなくても」

海未「そんなことはありません。私は、やるときはちゃんとやります」

穂乃果「……じゃあ、証拠見せてよ」

海未「は?」

穂乃果「にこちゃんみたいに照れずにやれるってとこ、穂乃果に見せて」

海未「し、しかし、ここで踊るわけにはいきませんから」

穂乃果「別にダンスじゃなくてもいいよー?それとも、そんなこと言って逃げようとしてるだけなのかな……?」

海未「!!そ、そこまで言われては……!いいでしょう。何をやって見せれば満足なのですか」

穂乃果「えーっと、じゃあねえ……」


絵里「!こ、この流れは……」

真姫「まさか……」

海未「……分かりました。行きますよ……!?」

穂乃果「ほら、早く!」

海未「……」
スーッ

海未「に、にっこにっこにー……!!」


絵里「!」

真姫「!」


海未「にっこにっこにー!にっこにっこにっこにー!」

穂乃果「わ、分かったよ海未ちゃん!もう分かったから」

海未「ハア、ハア……」

穂乃果「まさかほんとにやるなんて……」

海未「分かりましたか、穂乃果……?このように、ステージの上ではいっさいの恥じらいを捨てて」

穂乃果「う、うん。勉強になったよ、海未ちゃん……」


希「……どう?」

絵里「これは……」

真姫「信じがたいけど、あながちインチキとも言えないわね」

絵里「不思議なこともあるものね……」

希「ま、こんなの序の口やけどね。もっとチカラを磨いて、そのうちμ'sの未来を見通せるようになりたいなあ」

—30分後。


海未「じゃあ、私たちはお先に失礼しますね」

真姫「私も帰るわ。お先に」

希「はい、お疲れさん」

絵里「お疲れさま」

希「……ほな、うちらも帰ろか?絵里ち」

絵里「!あ、えっと……今日はちょっと片付けものをして帰るから、先に帰ってて」

希「片付けもの……?」

絵里「う、うん。いろんな雑用とか……」

希「そうなんや。ほな、うちも先に帰らせてもらうね。お疲れー」

バタン

絵里「……」

絵里「……はぁ」

絵里「今日も気持ちの整理がつかなかったわ……」

絵里「希に対する特別な感情に気づいてから、はや一ヶ月」

絵里「希は知っているのかしら。私のこの想い……」

絵里「……」

絵里「まさか、ね。だって、ずっとただの友達だったんだもの。それに、女どうしで……なんて」

絵里「私自身が一番驚いてるくらい……」

絵里「でも、ずっとこんな気持ちを抱えたままでいるのは辛いわ」

絵里「二人きりの帰り道で、胸に秘めたこの想い……何度ぶつけようと思ったことか」

絵里「でも、いつもその勇気が持てなかった」

絵里「今日こそは伝えたい……そう思って家を出たのに」

絵里「気がつけば、希のスピリチュアルトークにすっかりペースを乱されて……」

絵里「結局、心の準備ができないまま」

絵里「中途半端な気持ちで一緒に帰るのも辛いし、ちょっと一人で落ち着いて考えたかったんだけど」

絵里「……」

絵里「はぁ……」

ガチャッ

絵里「!?だ、誰……?」

希「あ、やっぱりまだいた」

絵里「の、希……?」

希「?どうしたん、そんなに慌てて」

絵里「べ、別に。それより、希こそ家に帰ったんじゃ」

希「……そのつもりやったけど、絵里ちの様子が気になってな」

絵里「わ、私は別に」

希「ならいいけど」

絵里「……」

希「……隣に座ってもいい?」

絵里「え?」
ドキッ

希「よいしょ、と」

絵里「あ……」
ドキドキ

希「……もう、すっかり秋やねえ」

絵里「そ、そうね」

希「学園祭、上手くいくとええね」

絵里「うん……」

希「……」

絵里「……」

絵里(ど、どうしよう)

絵里(誰もいない部室に、二人っきり)

絵里(全く心の準備ができてはいないけど)

絵里(ひょっとしたら、今こそ気持ちを伝えるチャンスなのかも……)

絵里(……)

絵里(でも、希は私の想い……受け止めてくれるかしら)

絵里(これまでの二人の関係を壊してしまったら……取り返しがつかない)

絵里(それだけじゃないわ。μ'sの活動にも支障が出ちゃうかも)

絵里(どうしよう……)

希「絵里ち」

絵里「!な、何……?」

希「勘違いやったらゴメンやけど……何か、言いたいことがあるんちゃうの?」

絵里「!!」

希「悩みごと?もし、うちでよかったら……」

絵里「な、悩みと言うか……」

希「あ。ちょっと待って」

絵里「……?」

希「……うち、絵里ちが何言うか分かっちゃった」

絵里「!!ほ、ほんとに……?」

希「うん。うちのチカラはさっき見たやろ?」

絵里「それは……でも、さすがにこんなことまで」

希「信じない……?」

絵里「……」

希「……じゃあ、こうしよっか」

スッ

絵里「白紙のカード……?」

希「うちは、100秒後に絵里ちが何を言うか分かってる。だから、それに対するうちの返事をこのカードに書くね」

絵里「……!」

希「じゃ、ここにカードを置くよ。ただし……100秒過ぎるまで、このカードは開けちゃダメ」

絵里「それって……どういうこと?」

希「まあ、もっぺんテストしてみたいってとこかな。うちのチカラがほんものかどうか」

絵里「……」

希「じゃあ、数えるね。時間……」

絵里(何を……考えているのかしら。希……)

絵里(私の気持ちも知らずに……また不思議なことを言いだして)

絵里(……)

絵里(でも……もし希のチカラが本物だったら……?)

絵里(私がこれから口にする言葉を本当に予知していて……ちゃんと私の想いを知ったうえで、こんなことをやってるのだとしたら……?)

絵里(そうだとしたら、このカードには……希の答えが書いてある)

絵里(私の気持ちに対する、希の答えが……)

絵里(でも……)

絵里「ね、ねえ希?」

希「んー?」

絵里「もしかしたら……何も言わないかも知れないわよ、私。100秒たっても、いつまでたっても……」

希「……そうだったとしても、うちにはそれも見えてるから。絵里ちが何も言わないと予知している場合は、そのカードには何も書いてないよ」

絵里「……」

希「あと、50秒……やね」

絵里(ああ、どうすればいいの……)

絵里(希は、私をからかっているのかしら)

絵里(始めからカードには何も書いてなくて……私が何を言いだすのか、試そうとしてるだけかも知れない)

絵里(でも……さっき見た感じだと、確かに希のチカラは本当みたいだった。信じられないけど……)

絵里(そうだとすると、やっぱりカードの裏には希の答えが……)

希「……あと40秒」

絵里(イエスなの?それとも……)

絵里(知りたい。希の答えを……知りたい)

絵里(でも、やっぱりからかわれているだけだったら……?私がこんな想いを秘めているなんて、希は夢にも思ってないんだとしたら……)

希「あと30秒」

絵里(待って。よく考えるのよ)

絵里(カードはもう……伏せられてる)

絵里(私が何を言おうと、言うまいと、カードに書かれた内容は……変えられない)

絵里(そうよ。希が何を書いたとしても、書いていないとしても、それはもうこのカードの裏にあって変わらないんだわ)

絵里(だったら……このまま黙っていればいいんじゃないかしら)

絵里(これから私が想いを伝えようと、口をつぐんでいようと、今さらカードの内容には関係ないんだもの)

絵里(なら、時間が来たら黙ってめくってしまえばいいのよ。簡単なことじゃない……)

希「20秒」

百秒…えらい微妙な…

絵里(そもそも、いくら希が不思議なチカラを持ってるんだとしても)

絵里(人間なんてほんの気まぐれで行動したり、直前で心変わりしたり。それを予知なんて、できっこない)

絵里(だって私自身にすら……これから自分が何を言うのか、言わないのか、分からないんだもの)

絵里(……それに)

絵里(もし私の気持ちを伝えたら、希との友情や、色々なものを失う可能性がある)

絵里(そうなるかどうかは、もちろん未知数だけど)

絵里(はっきりしているのは……私が今ここで勇気を出して、希への想いを口にしたとしても)

絵里(それとも、その言葉を胸にしまったままにしたとしても)

絵里(……得られるものは同じ、ってこと)

絵里(カードの内容はもう、変わらない)

絵里(だとしたら、今は……勇気を出す必要なんて、ない……)

希「あと……10秒」

絵里(……)

絵里(……本当に?)

絵里(本当に、それでいいの?)

絵里(だって、希がもし全部見透かしていたら)

絵里(私が今みたいに考えて、何も言わないだろうと予知して……それでカードを白紙にしていたとしたら)

絵里(私が想いを伝える勇気を持ってさえいれば、カードに書かれていたかも知れない言葉が……こんな気後れのせいで永遠に失われてしまうのだとしたら)

希「5秒……」

絵里(……)

絵里(……馬鹿な私)

絵里(そうよ。こんなことで迷うくらいなら、誰かを好きになる資格なんて……ない)

絵里(カードの裏がどうなってるかなんて、関係ないわ)

絵里(大事なのは……私が、私の気持ちを、言葉にするということ)

絵里(その先の未来に何が待ち受けていようと……想いを伝える勇気を持つこと)

絵里(例え傷つくことになったとしても……)

希「3秒」

絵里「……希」

希「2秒」

絵里「私、あなたのことを」

希「1秒」

絵里「ずっと前から—」

希「……絵里ち」

絵里「え?」

希「—キスしよっか」
グイッ

絵里「—!」

ギュー……

希「……」

絵里「……」

バッ

絵里「の、希……!」
ハァハァ

希「時間切れ、やね……」

絵里「あなた、私の……」

希「今回も、当たったやろ?うちの予知……」

ピラッ

絵里「!カードは白紙……」

希「でも、真姫ちゃんにはきっとズルって言われるんやろなあ。うちが絵里ちの唇をふさいじゃったんやから……」

絵里「あなた……気づいてたの?私の気持ち……」

希「……どうなんやろ」

絵里「え?」

希「もしかしたら、と思ったり。そんなはずない、と思ったり……」

絵里「……」

希「絵里ちの気持ちを知りたいという思いと、知るのが怖いという思いの間で、ずっと揺れ動いてて……こんなこと思いついたんも、正々堂々と気持ちを確かめる勇気がなかったから……」

絵里「そうだったの……」

希「……でも、よかった」

絵里「え?」

希「もし、あのまま……あのまま二人とも黙っていたら、きっと今ごろはいつも通り友達として部室を出て……」

絵里「……そして、卒業までずっと友達のまま……」

希「それでもいいと思ったこともあったけど」

絵里「そうね。私もそうだった……」

希「……」

絵里「好きよ。希」

希「うちも……」

—30分後。学校の外。


絵里「じゃあね、希。また明日」

希「うん。学園祭に向けて頑張ろな。ほな—」

絵里「あ。待って、希」

希「え?」

絵里「さっきのことだけど……希には、やっぱり見えてたの?あの結末が」

希「まさか。未来のことなんて、うちにも分からへんよ」

絵里「え?でも—」

希「真姫ちゃんや海未ちゃんのあれか?あれは、みんなの事をよく観察してた結果や。まあ、タロット占いの力も借りたけど、あそこまで的中したのはたまたまかな」

絵里「—だとしても、さっきだって当てたじゃない。めくったカードの裏は、白紙だった……」

希「そう、カードは白紙」
ピラッ

希「—うちらの未来のようにね」

絵里「私たちの、未来……?」

希「未来なんて、誰にも見えないんよ。だってそれは、まだ何にも描かれてない、真っ白な紙みたいなもんなんやもん」

絵里「なるほど。そういうことね」

希「だから、ね、絵里ち。これから二人で一緒に描いていこう?好きな言葉を、好きな模様を」

絵里「—ええ。そうね。時間はたっぷりあるんだもの。ゆっくりと、少しづつ彩っていきましょう」



絵里「今はまだ真っ白な—私たち二人の、未来を」

—おしまい—
最後まで読んでいただきありがとうございました

良かった
乙です

めっちゃワクワクする序盤がただの百合にもっていく布石なんか…

乙でした
良いのぞえりありがとう!

乙!つまらなかった!

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