魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」 (107)

若干女性向けかもです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446021731

魔姫「…しつっこいわねぇ~」

魔姫は翼を広げ、全速力で宙を飛ばしていた。
だが彼女を追う者を振り切れず、段々苛立ちも増してくる。

魔姫「あーもうっ! わかったわよ、話くらいは聞いてあげるわ!!」

魔姫が地上に降り立つと、1人の男が姿を現した。

ハンター「…よう、化物」

魔姫「あーら、またアンタ? これで何回目のアタックかしら? 相当、私に惚れ込んでいるみたいねぇ」

覚えのある顔だった。この男には、何度か追われたことがある。
いつもは魔姫の逃げ切りという形で追いかけっこは終わるのだが、今日は地形が悪いのか調子が悪いのか、どうも振り切れなかった。

魔姫「で? 何か用かしら」

ハンター「とぼけるな。俺は残党狩りのハンター…王子の命令により、お前を捕らえる」

魔姫「あぁそう」

魔姫はそれを聞いても動揺しなかった。

魔姫「いいわ、遊んであげる。せっかく時間をとってあげるんだから、退屈させるんじゃないわよ」

ハンター「ふん」

ハンターは愛用のダガーを取り出し、構える。

ハンター「生意気な小娘が――思い知れ」

魔姫「こちらの台詞よ」

片や憎々しいと言わんばかりに眉間にしわを寄せ、片や相手を弄ぶかのような笑みを浮かべ――戦いの火蓋は切られた。

一旦話は遡る。
それはハンターと魔姫が鬼ごっこを始める前のこと。

その日、ハンターは王子に呼ばれ、城を訪れていた。


王子「知っての通り、勇者が魔王を討伐したのはつい先日のことだが――」

王子「まだ世界は完全に平和とは言えない。何故なら魔王軍の残党が世界中に散らばり、新たな魔王に君臨しようとする者が後を絶たないからだ」

王子「今日は君に依頼がある…魔王軍残党を30匹近く狩ってきたという、腕利きハンター君」

ハンター「もったいぶらずに話してもらおうか」

無愛想に言ったが、王子は意に介していないようで「ふふっ」と笑いを漏らした。

ハンターは心の中で舌打ちする。
どうせ残党狩りの依頼だろう。依頼に不要な長い前置きやおべっかは、彼にとって気に入らない話題だ。
それにさっきから、作り物のような美しい顔に、作り笑いのような不自然な笑顔を浮かべる王子に、不快感を抱いていた。

王子「頼もしいね。君への依頼は標的のハンティング…ただし『生け捕り』限定だ」

王子「かなり手強い相手だよ。君といえど、簡単に狩れる相手ではないだろうねぇ」

ハンター「なら勇者に任せてはどうだ。あいつより頼りになる男もいないだろう」

王子「いやぁ。勇者は確かに強いけど『捕まえる』となると君の方が適任だ。それに勇者の性格上…逃げる獲物を捕らえるのは、好かないだろうからね」

ハンター「……」

王子「じゃあ期待しているよ、ハンター君」




ハンター「はああぁぁ――っ!!」

ハンターは一気に距離を詰め、ダガーを振り回す。
素早い――風を切らんばかりの攻撃を、魔姫は舞うように回避する。

魔姫(近接攻撃を得意とするスピード型ねぇ…そういう奴は紙装甲ってのが定番だけれど)

魔姫「てや――っ!!」バリバリバリィッ

腹に一発、電圧をお見舞いする。
大抵の人間ならこれで倒れるが――

ハンター「…それがお前の全力か?」

腹部全体を焦がした服の焼け具合に反して、ハンターはピンピンしている。

魔姫「ご立派。そりゃ私に派遣される程のハンターだものね、並の人間よりは強くないと困るわ」

ハンター「なめているのか…!」シュッ

魔姫「フンッ」ヒョイ

魔姫はハンターの攻撃を回避し、一旦上空に飛んだ。

魔姫「せっかちねぇ。余裕のない男はモテないわよ?」

ハンター「仕事だからな。今日は逃げきれると思うな」

魔姫(返答もつまんないわね~。もういいわ、この男と遊ぶのは)

近接攻撃型なら、飛んでいる相手には手を出せまい…なら、どう片付けてやろうか。
ゆっくり考えようと思ったその時――『それ』は起こった。

魔姫「――っ!?」

魔姫の体は、何者かに足を掴まれたかのように下降していく。
急に、体が重くなったのだ。

魔姫(何これ…重力の魔法……!?)

その魔法は自分だけにかけられたらしく、ハンターは平然と立っている。
ハンターから魔力は感じない。ならこの魔法は、一体誰が――?

ハンター「…そのまま仕留めてやろう」

魔姫「……ふん、これ位で有利になったつもり?」

ハンター「何」

魔姫「こういう時の攻略法はね…」

魔姫は全身の魔力を滾らせる。
そして――

魔姫「倍の魔力を返してやればいいのよっ!!」


――ドカアアァァン


魔姫による魔力の放出により、そこら一帯のものは吹き飛ばされた。





ハンター「く…」

大木に体を強打したハンターは痛みを堪えながら立ち直す。
だが既に、魔姫は姿を消した後だった。

ハンター「逃げられたか……」

とその時、物陰から出てきた1人の女性が、ハンターに近づいてきた。

助手「ハンター様」

ハンター「悪いな、助手…お前のサポートを無駄にしてしまった」

助手「いいえ…。彼女は私以上に強力な魔力の持ち主です。捕らえるには容易い相手ではないでしょう」

ハンター「そうだな」

そう返事したが、ハンターは諦めたわけではなかった。
いけ好かない王子に依頼された相手とはいえ、相手は魔物――それだけで彼が追うには十分な理由だ。

ハンター「次はこうはいかんぞ…魔王の娘よ」

>廃館


魔姫「ただいま~」

山の奥にある廃館に戻ってきた魔姫を、1人の少年が出迎えた。

猫耳「お帰り魔姫。今日は遅かったね?」

魔姫「えぇ。『残党狩り』に遭遇してね」

猫耳「にゃっ!? け、け、ケガはない!?」

魔姫「フフン、私が残党狩りごときに遅れを取るように見えて?」

猫耳「そんなのわかんないよぉ~…」

魔姫「私は無事に帰ってきたわ、安心しなさい。そんなことよりお風呂の準備はできている?」

猫耳「え、あ、夕飯の準備に手間取って…」

魔姫「だったら無駄口叩いてないで働きなさい、私はお風呂に入りたいの!!」

猫耳「ひえっ」

魔姫に怒鳴られた猫耳は慌ててお風呂の準備に取り掛か…ろうとして、

猫耳「うにゃっ」ドスン

顔面から転んだ。

猫耳「ご、ごめっ、今すぐやるからっ……」

魔姫「…もう、ばかね本当。慌てなくていいのよ」

魔姫はしゃがんで、猫耳の頭をポンと叩く。

魔姫「私が襲われたと聞いて動揺しているんでしょ? この通り、私は大丈夫だから…ね?」

猫耳「うん…」グスッ

魔姫の穏やかな声を聞いた猫耳はようやく安心できたのか、涙目になった。
そんな猫耳の頭を、魔姫は「ばか」と呟きながら優しく撫でてやっていた。

猫耳「へぇ、魔姫が人の顔を覚えてるなんて珍しいねぇ」

2人きりの夕食時。早速、今日出会ったハンターの話が話題に上がった。
魔姫も話したい話題ではなかったが、猫耳がしつこく聞いてきたのだ。

魔姫「王子に雇われたって言ってたし、実績ありのハンターでしょうね」

猫耳「にゃー…魔姫、そういうのは相手しない方がいいよ」

魔姫「そうね。あんなつまらない男、もう2度とごめんだわ」

猫耳「…でも、どうして魔姫が狙われるんだろう……」

魔姫「そりゃ私は魔王の一人娘、可憐なる魔物のお姫様だし? いい女は狙われるものよ」

猫耳「変だよ」

魔姫の冗談交じりの言葉に、猫耳は真面目に答えた。

猫耳「だって魔姫、何も悪いことしてないじゃん……人を殺したことだって、1度もないのに!」

魔姫「…そういうものなのよ、猫」

魔姫は、そうとしか答えることができなかった。

魔姫「すやすや」



その晩、久々に魔王城にいた頃の夢を見た。


魔姫『あん、もうつまんなあぁぁいっ!!』

魔王『姫や、あまり父を困らせないでおくれ』オロオロ

魔物の王である父は過保護な親で、自分は甘やかされて育ったものだ。
だけれど時代は物騒なもので、人間との争いや、定期的に起こる反乱で、国は荒れていた。
その為か、父は自分を、外の世界に出してくれなかった。

魔王『外の世界は危ないのだ、姫。どうか城内で安全に暮らしてほしい』

魔姫『何よ! だったら人間との戦争なんてやめちゃえばいいのに!』

魔王『それはできないのだ…人間も魔物も、生きていく為に領土を広げる必要があるからな』

曽祖父の時代から続いている争いは、もう和解という手段で終わることはできない程、大きくなっていた。
そう教えられてきたけれど、不自由している身には納得できない。

魔姫『もういい、猫と遊んでくるわ。お父様なんて嫌い!』

そして自分は、いつも父を困らせていた。




魔姫「ふわぁ…あぁ夢か。あらやだ、まだこんな時間じゃない、起きて損したわ~…」

魔姫「……お父様…」

魔姫「私…ひどいこと言ってばかりで、親孝行できなかったわね……」

>民家


ハンター「只今」

母親「あらお帰り。今日は遅かったのねぇ」

助手「起きていらっしゃったのですか奥様」

ハンター「母様、先に寝ていて良かったのに」

母親「貴方が心配で眠れないわ。ハンター稼業は危険ばかりですものね」

ハンター「…今日は獲物を逃したので、代わりにバイトをしていました。これを当面の生活費にして下さい」

母親「あらあら。ありがとうねぇ、大事に使わせてもらうわ」

ハンター「今依頼されている獲物を捕らえれば…倍以上の報酬が入ります」

母親「そうなの。でもねぇ、お金の為に命を賭けることはないのよ。慎ましい生活で構わないから、貴方には無事に過ごしていてほしいわ」

ハンター「…これは俺の選んだ道です。俺は、死にません」


ハンターは上着を助手に渡し、自室に向かう。

元いた屋敷から、こんな粗末な民家に越してきたのは何年前のことか…。

ハンター稼業は大物を捕まえれば莫大な報酬が入るが、仕事柄収入は安定しない。
今の生活は母親に、貧困という苦労をかけている。
慣れない手つきで内職に打ち込むその手は、痛々しい程に荒れている。

それもこれも、全て魔物がこの世にいるせいで――

ハンター(化物共を狩り尽くし、元の生活を取り戻す…それが俺のできる、最大の孝行だ)

今日はここまで。
実際の所、女性向けの定義がよくわかっていない。
明日から10レスずつくらいの更新になります。

男だけど毎回楽しんでるよ。
期待。

まきちゃん

>翌日


猫耳「魔姫ぇ~…本当に行くの?」

魔姫「えぇ、3日前から計画してたんですもの。あんたも行くわよ、ほら支度して」

猫耳「わかったよー…」

魔姫「楽しみねぇ、お祭り!」

今日は首都の方で祭りがあるので、魔姫も遊びに行くつもりだ。

猫耳(昨日みたく残党狩りに会うかもしれないってのに…)

懲りない様子の魔姫に猫耳は呆れたが、魔姫が言って聞く性格じゃないことはわかっているので、諦めの心境である。

魔姫「どうかしら~?」

魔族の特徴であるとがった耳を隠す為の、どでかい帽子とリボン。
その頭装飾が浮かないように合わせた衣装もフリフリしていて、何というか……。

猫耳「うん、目立つね」

魔姫「何よぅ。似合ってるね~とか、可愛いね~とか、気の利いた感想はないわけ?」

猫耳「魔姫は地味な格好してても人目を引く位可愛いんだから、派手な格好すべきじゃないと思うにゃー」

魔姫「言うわねぇ、猫ちゃん。オホホ気分がいいわ」

猫耳「うんうん、じゃあこっちに着替えようか」

魔姫「んー、お祭りには地味だけど…でもまぁ、これもいいわね」バサッ

猫耳「僕の前で着替えないでよ……」

魔姫「何か言った? さ、行くわよ」

ボンッ 猫耳「にゃーん」

猫耳は小さな猫の姿になり、魔姫の持つバスケットに入る。
忘れ物はないと確認すると、魔姫は翼を広げて飛び立った。


魔姫「この辺でいいかしらね」

魔姫は街外れの森に降り立つ。あまり街に近い所で降りたら、人に見つかる危険性があるのだ。

猫耳「街の方から音楽が聞こえてくるね」

猫耳は少年の姿に戻り、帽子を被って耳を隠す。
魔姫と猫耳。両者とも耳を隠して並ぶと、人間の姉弟に見えなくもない。

魔姫「せっかくのお祭りだもの、楽しまなきゃ! 行くわよ、弟!」

駆けていくと、街は既に賑わっていた。
楽隊が音楽を奏で、屋台が立ち並び、大道芸人が子供達の歓声を集めている。

魔姫「よーし、屋台で食べ歩きするわよーっ!!」

猫耳「早速食い気かぁ」

魔姫「まずは焼きそばと焼き鳥は外せないでしょ、あとトロピカルドリンクと、デザートも…片っ端から行きましょう!!」

猫耳「わかったわかった、人ごみで走らないの」

魔姫「~♪」

猫耳(…まぁいいか、楽しそうだし)

魔姫「これ、美味しい~。もう1回並んで別の味買ってこようかな~」

たらふく食べた後デザートに突入し、魔姫は幸せ一杯な顔を見せていた。

猫耳「ねー。手作り工芸品のお店もあるけど、ああいう所は行かないの?」

魔姫「あら弟ぉ、行きたかったの? なら普段のご褒美に、何か買ってあげるわ」フフ

猫耳「本当? 普段からこき使われてる甲斐があったよー」

魔姫「なぁーんですってぇ~!」

猫耳「わー、お姉ちゃんが怒った~」

おどけた様子で猫耳は魔姫から逃げた。

が。

ドンッ

猫耳「あ、ごめんなさ……――っ!?」

魔姫「――っ!?」

そのぶつかった相手を見て、2人は硬直した。



勇者「いや大丈夫。気をつけてね」


魔王――魔姫の父を討った、勇者だった。



猫耳「…………」

猫耳が固まっている間に、勇者は去っていった。

魔姫「…ばれなかったわよね?」

猫耳「うーん…。勇者は僕の顔、知らないと思うし……」

魔姫「そう。それじゃお店の方に行きましょうか」

猫耳「ちょっ。…もぉ~、魔姫は危機感ないにゃー」

魔姫「ばれなきゃいいだけよ。さて、どの店から行く?」

猫耳「えーと…じゃあ編み物のお店……」

魔姫「オッケー、じゃあ行きましょう」

>一方


勇者「よ、お待たせ」

ハンター「…よう」

勇者「お前、何その戦闘用装備~。祭りの中でスッゲー浮いてんの~」ケラケラ

ハンター「うるさい」

勇者「ところでどうした、俺に用事って」

勇者はハンターに飲み物を渡し、ベンチに腰掛けると話を切り出した。
勇者は世界を救った英雄だというのに、その飾らない雰囲気のせいか、周囲の人は誰も彼に気付かなかった。

ハンター「先日、王子より残党狩りの依頼が下された」

勇者「へぇ。王子直々の依頼なんてスッゲーじゃん」

ハンター「だが、何度も標的を取り逃がしている。昨日は交戦もしたが、全くダメだった。…奴は強い」

勇者「その割にお前、ピンピンしてんねー。全力で戦ったー?」ケラケラ

ハンター「茶化すな」

生真面目なハンターとおちゃらけた勇者は、こういう部分が合わない。
イラッとしつつもハンターは話を続ける。

ハンター「殺してもいいのならまだ手段はあるが、王子からは生け捕りと指定された。勇者、お前に頼むのは癪だが、協力を願いたい」

勇者「うーん。俺、倒すのは得意だけど、捕まえるのは専門外なんだよなー…。まぁ平和の為なら、協力するけど」

ハンター「そうか。殺さない程度に弱らせてくれれば良い」

勇者「ん。ところで依頼されたターゲットって、どんな奴?」

ハンター「人相書きがある。…これだ」

ハンターはポケットから折りたたんだ人相書きを取り出し、勇者に手渡す。

勇者「どれどれ…」カサ

ハンター「まぁお前も魔王城に乗り込んだ時に顔を見たかもしれんが…」

勇者「ああああぁぁぁぁぁっ!?」

ハンター「!?」ビクッ

勇者「ま、ま、魔姫さんじゃん!!」

ハンター「そう、魔王の一人娘だ。何だ、知ってるのか」

勇者「し、しし知ってるも何も!! あれは、魔王城に乗り込んだ時だ…」

~回想~

勇者『あぁ、魔王城は広いなぁ…魔王、どこだーっ』

魔姫『そっちじゃないわ』

勇者『!? だ、誰だ!!』

魔姫『私は魔姫。魔王の一人娘よ。貴方、勇者でしょう』

勇者『…そうだ』

魔姫『お父様はあちらの廊下を右に曲がった突き当たりにいらっしゃるわ。間違えずに行きなさい』

勇者『…いいのか、そんなこと教えて』

魔姫『構わないわ。お父様は魔物の頂点に君臨する魔王…そんな相手に、体力を消耗した状態で行くのは失礼ってものよ』

勇者『……』

魔姫『魔王と勇者の頂上決戦だもの。小細工なしの勝負に勝てないようでは、それまでの男だったってだけの話。それじゃあね』バサッ

勇者『………』

勇者(な、何て高潔で、美しい人なんだ!!)

~回想終了~



勇者「ってことがあったんだ!」

ハンター「そうか…ふん、傲慢な娘だな。それで勇者、その魔姫の生け捕りだが…」

勇者「悪い、ハンター! 俺、協力できねぇ!」

ハンター「何だと」

勇者「実は……」

そして次に続く言葉を聞いた時、ハンターは能面のような顔になった。


勇者「――俺、恋しちまったんだ。魔姫さんに」

ハンター「…………」

勇者「おのれ王子めぇ~、魔姫さんを捕らえてどうしようってんだ~。ハッ!! まさか王子、俺の為に……!!」

ハンター「阿呆。化物に恋する勇者があるか!!」

勇者「魔姫さんは化物じゃねぇ、お前も見たはずだ! あの美しさは天使……いや、女神!!」

ハンター「目を覚ませぇ~っ!!」

ハンターは勇者の肩を揺さぶったが、彼の目の中のハートマークが消える気配はない。
こいつ、もうダメだ…ハンターは早々に諦めた。

ハンター「…なら仕方ない。だが俺は引き続き魔姫を追う」

勇者「ハンター稼業も安定しねーだろ。騎士団に入れば? 俺が推薦してやるよ、王子と友達だし」

ハンター「騎士団は、守る為の集団だ。俺には向かん」

勇者「…なぁ、お前は何の為に戦ってるの?」

ハンター「決まっている」

この手で今まで何十匹もの魔物を狩ってきた。それは金の為でもあるが、最大の目的は……。

ハンター「魔物をこの世から消す為だ…!」

憎々しげに言ったハンターの様子に、勇者は苦笑を浮かべる。

勇者「…やっぱ相容れないね、俺とお前」

オウム「緊急指令! 緊急指令!」バッサバッサ

勇者「わわぁ!?」

唐突なオウムの襲来に、勇者はベンチから転げ落ちそうになった。

ハンター「あぁ、こいつは…王子からの伝達用オウムだな」

勇者「お、おう」ドキドキ

ハンター「どうしたんだ」

オウム「標的ガ来テイル! 至急、出動セヨ!」

ハンター「…こんな祭りに? わかった…そいつの元まで案内しろ」

勇者「死ぬなよハンター」

ハンター「…何でお前がついて来るんだ?」

勇者「そりゃ魔姫さんに恋する男として…!! あ、安心して。戦いは邪魔しねーよ」ニヒッ

ハンター「……お前、俺がボコられるのを期待しているんだろう」

勇者「どうだか~♪」

ハンター(こいつ……)

魔姫「良かったわねぇ、いい感じのひざ掛けが見つかって」

猫耳「これで寒い時期もぬくぬくだにゃ~」

魔姫「私もいい買い物ができたし、大満足だわ~」

猫耳「魔姫、僕がトイレ行ってる間に何買ったの?」

魔姫「ふふん、秘密~。それより、夜はナイトパレードをやるそうよ。それまでどこかで時間を…」

ハンター「悪いが、そうはいかんな」

魔姫「…っ!?」

猫耳「!!」

ハンター「よぉ…化物」

勇者(ま、ま、魔姫さんだああぁぁ!! おおぉ、普段着姿もお美しい…!!)ホワーン

魔姫「あらアンタ。…それに勇者も」

猫耳(まさか、こいつが昨日会ったっていうハンター…? 最悪なコンビが来た!!)

ハンター「俺の用事は…わかっているな? できれば人のいない場所で済ませたい」

魔姫「そうね…せっかくのお祭りをブチ壊すのは気が引けるものね」

ハンター「街外れの森だ。…そこでケリをつける」

>森


魔姫「…で、ここで暴れようっての?」

ハンター「あぁ。今日は逃がさんぞ」

ハンターは早速ダガーを構えた。
猫耳はそんなピリついた空気に萎縮し、魔姫に耳打ちする。

猫耳「逃げようよ魔姫…やり合っても何も得しないよ」

魔姫「逃げても逃げても、こいつは追って来るわ。なら早々に叩きのめして、諦めさせてやるわよ」

ハンター「叩きのめすだと…なめやがって」

勇者(あぁ魔姫さん…自信に溢れた雰囲気、お美しい)

魔姫「行くわよっ、粘着ストーカー!!」ヒュッ

魔姫は翼を広げ、全速力でハンターに突っ込む。
爪を伸ばし胸を狙う――が、ハンターは持ち前の素早さで回避。

ハンター「捉えた!」ガシッ

ハンターは魔姫の腕を掴む。
この手を離さなければ、上空に逃がしやしない。

勇者「あ、おまっ! 魔姫さんの手をっ、この裏切り者! スケベ!」ギャーギャー

ハンター(うるせぇ)

ハンター「はぁっ!」

至近距離でハンターはダガーを魔姫の首筋に振り下ろし、峰打ちでの打撃ダメージを狙う。
だが――

魔姫「ふんっ」ガシッ

魔姫はハンターの手首を掴み、攻撃を止めた。そして。

魔姫「はあぁっ!」バキッ

ハンター「――っ」

みぞおちに蹴りが放たれる。
想像以上のダメージに、ハンターは咳き込む。

ハンター「ゴホッ、女の癖に何て力だ…流石は化物か」

魔姫「あら失礼、人間の殿方には刺激が強すぎたかしら?」

ハンター「調子に乗るな!」ブンッ

ハンターは魔姫を地面に投げつけた――が魔姫は体勢を変え、着地する。
それと同時、ハンターが魔姫に突っ込んできた。

ハンター「覚悟オォッ!!」

魔姫「……」

とっさのことで魔姫は体勢を変えられない。
このまま、ダガーが魔姫に振り下ろされようとしていた――が。

ドゴオオォォン

ハンター「――」

ハンターは思い切り吹っ飛ばされた。

魔姫「学習能力がないのねぇ…昨日と全く同じ技でやられるなんて」フゥ

ハンター「くぅ……」

衝撃波に吹っ飛ばされ、地面に体を強く打ったハンターは全身の痛みに悶える。
だが、魔姫が近づいてくる足音が聞こえ――痛みに耐え、立ち上がった。

魔姫「呆れた、まだやろうっての?」

ハンター「フゥ……殺さないように配慮してたが、そうもいかないようだな……!!」

ハンターはヨロヨロになりながら、魔姫と対峙する。
そんな様子に魔姫は呆れていたが――ハンターが懐に手を入れているのが目に入った。

ハンター「殺す気で戦って、ようやく対等…今度は容赦せん!」


そう言って、ハンターは鎖のようなものを取り出した――が。


勇者「やめとけ、アホ」ドカッ

ハンター「ぐあっ!?」

魔姫「!?」

勇者の飛び蹴りがハンターを制止した。
ハンターは勢いよく転がったが、勇者は涼しい顔をしている。

ハンター「グ…何しやがる、勇者…!! 邪魔しないと言っただろう…!!」

勇者「そうだっけ? ま、いいや。あのな、魔姫さんだって手加減して戦ってくれてるんだぞ。お前が殺す気でやった所で、魔姫さんにかなうもんか」

魔姫「その通りね、そのハンターじゃ相手にならないわ。今度は貴方がやるの、勇者?」

勇者「いーや。俺は悪者としか戦いませんのでね」

魔姫(あら)

意外な返答だった。
てっきり、勇者はハンターと組んでいると思っていた。だから、魔姫は力を温存していたのだが。

ハンター「何を言っている、勇者! 相手は魔物、人間の敵だぞ!」

勇者「俺は、全ての魔物が敵だとは思ってねーよ」

ハンター「人間と魔物は相容れん……目を覚ませ、勇者」

勇者「お前こそ目を覚ませ。憎しみが大きくなりすぎて、何も見えなくなってるぞ」

勇者は困ったようにため息をついた。

勇者「お前の父親を殺した魔物は、魔姫さんじゃない。それは確実だ」

魔姫(父親を殺した……?)

勇者「お前が戦う理由がただ金の為ってんなら止めねーよ。でも、憎しみを糧に命を賭けるのはやめろ。そんなんで死んだら、お前の母さん悲しむぞ」

ハンター「お前に、何がわかる…!」

勇者「お前の動機で魔物全体を敵視するなら、俺はどうなるんだよ」

そう言うと勇者は、チラッと魔姫に視線を向けた。

勇者「俺は魔王――魔姫さんの父親を殺したんだぞ。だから俺が魔姫さんに憎まれるのは仕方ないことだ。でも、魔姫さんが人間全体を憎んだら、憎しみの連鎖が生まれる。…それは間違ってるだろ?」

ハンター「黙れ! 俺の父を殺した魔物と、お前は違う……!」

魔姫「ちょっと」

よくわからない話が進んでいることが、魔姫は気に入らなかった。
それに、だ。

魔姫「何を勘違いしてるの貴方は。私が貴方を憎んでいるですって?」

勇者「えっ?」

魔姫「別に、憎んでいないわ。お父様は貴方との戦いに敗れただけ…。魔王である以上、それも運命だったのよ」

勇者「……」

魔姫「でも、そこのハンターが魔物を憎む理由もわかったわ。償いにもならないけど…これ」ヒュンッ

ハンター「!?」パシッ

魔姫から投げられたものを、ハンターは反射的にキャッチした。
魔姫が投げたもの…それは、見事な宝石のブローチだ。

魔姫「事情はよくわからないけど、その格好から見ると、あんた貧乏してるんでしょ? それを売ってお母さんに美味しいものでも食べさせてあげなさい」

ハンター「な…! 俺に施しをしようというのか、見くびるな!」

魔姫「違うわよ。私を討伐して受け取る報酬の代わりにしろって言ってるの。賄賂よ、賄賂」

そう言うと魔姫はくるっと振り返った。

魔姫「帰るわよ、猫。ナイトパレードって気分でもなくなったわ」

猫耳「あ、うん」

ハンター「……」

魔姫が飛び立っていく姿を、ハンターは追わず、ただ見ていた。
胸が締め付けられ、自分への苛立ちが抑えられない。

ハンター「くそっ…」

勇者「負けて悔しいか。そうやって男の子は成長していくんだよ~」

ハンター「違う!」

負けたことは当然悔しかったが、それ以上に悔しいことがある。

ハンター「あの女…お前を憎んでいないと言っていたな」

勇者「……うん」

ハンター「…あの女、俺よりガキのくせに……」

父親が殺されたことを、『魔王と勇者の戦い』であると割り切れている。
頭でわかっていても、憎しみの感情が生まれたっておかしくないのに。

ハンター「…魔姫……」

勇者「かっこいいよなぁ~」

ハンター「!?」ブッ

勇者「やはり魔姫さんは高潔なお方だぁ。もう愛を通り越して信者になっちゃいそうだよな~」メロメロ

ハンター「おっ、お前と一緒にするなぁ!!」ブンブン

猫耳「…ねぇ魔姫」

魔姫「なぁに?」

猫耳「さっき言ったのは、本音?」

魔姫「…えぇ、本音よ」

勇者を憎んでなどいない。
勿論、人間を憎む気もない。

魔姫「憎むとしたら――両種族が争わなければならなかった、この時代かしらね」

決着をつける以外で争いを収束させる方法なんてなかった。
もしかしたらあったのかもしれないが、それを実行する力が誰にもなかったのだ。

魔姫「勇者の言った通りよ。私が勇者や人間を憎めば、どこかで憎しみの連鎖が生まれる。…そんなこと、望んでいないわ」

自分を狙う者がいれば戦うが、積極的に争う気などない。
人間に報復を考えている魔物はまだいるだろうけれど、自分もそうなろうとは思わない。

それより、今大事なことは――

魔姫「生きてる限り、精一杯楽しみたいのよ…今まで自由が無かった分、ね」

猫耳「…うん、そうだね!」

今日はここまでです。
明日も更新します。

姫かっこ可愛い

いい世界観だ…

>城


王子「ククク、無様なやられっぷりだったねぇ」

ハンターが城を訪れると、どこかで戦いを見ていたような口ぶりで王子が出迎えた。
相変わらず、その胡散臭い笑顔は、見ていて不快になる。

ハンター「…俺では力不足のようだ。他の奴に頼め」

王子「そうだよねぇ。自分より年下の女の子に手玉に取られるなんて、いい加減心が折れるよね~」

ハンター「……」クッ

図星なので何も言い返せない。

王子「あぁ、誤解しないで。僕は君に失望なんてしていないよ。むしろ…嬉しいんだよ」

ハンター「嬉しいだと?」

王子「そう…やはり彼女は素晴らしい。強く、美しく、高潔な――僕の、理想の女性だ」

ハンター(…こいつも勇者と同類か)

生け捕りとの指定で薄々勘付いてはいたが、やはりそういうことらしい。
しかし勇者にそれが知れたらどうなるのか…まぁ、ハンターの知ったことではないが。


ハンターは必要以上のことに興味を持たなかった。だから、気付かなかった。


王子「心が折れている所申し訳ないんだけど、もう1回だけ挑んでみてくれないかな?」

ハンター「…何か策があるのか?」

王子「あるよ」ニッコリ


王子がその笑顔の裏で、ドス黒い感情を抱いていることに――

王子「これを君に渡しておくよ」

ハンター「これは…?」

ペンダントだ。
はめられているのは魔石の類だ、ということくらいならわかる。

王子「勇者が魔王に挑む際にも同じものを渡したんだけどね。戦闘力強化の効果があるんだよ」

ハンター「あの勇者にこんなものを渡すとはな。よほど心配だったのか」

王子「友達だからね。勿論、勇者の強さは信頼しているよ」

勇者は自分と会う前から、王子と友達同士だ。
昔の王子は病弱で、兄貴分の勇者に頼りきりだったと聞いたことはある。
病弱が治った今でも、友情はそのまま変わらないのだろう。大事な親友が魔王討伐に向かうと聞いたら、心配するのが当たり前か。

王子「それで、今夜には魔姫様の住処を襲撃してほしい」

ハンター「簡単に言うな。奴の居場所の特定にどれだけ骨が折れると思っている」

王子「大丈夫、さっきの戦いで仕掛けはしておいた」

ハンター「仕掛け?」

王子「オウムに魔姫様を追わせている。…これで、魔姫様の住処が特定できる」

ハンター「なるほどな…」

今まで賢者に、魔王に近い魔力を探知させ、そうやって魔姫を追っていた。
だがそれならもう、その必要はない。

ハンター「俺は一旦家に戻る。…居場所が特定できたら知らせろ」

王子「…期待しているよ、ハンター君」

ハンターを見送る王子の笑顔は相変わらず涼しいもので、内面を探らせようとはしなかった。

猫耳「ありゃ、雨だ」

夕飯の支度をしていた猫耳は、窓の外を見て呟いた。

猫耳「雨ならパレードは中止かも。良かったね魔姫、降る前に帰ってきて」

魔姫「そうね」

猫耳「あ、魔姫、それ」

魔姫は祭りで買ったものを、箱から出して眺めていた。

猫耳「オルゴールだ。綺麗だね~」

魔姫「見た目もいいけど、音楽もいいのよ」

猫耳「へぇ、鳴らしてもいい?」

魔姫「いいわよ」

猫耳はオルゴールのゼンマイを回す。
すると、聞き覚えのある音楽が流れ始めた。

猫耳「あ、これは…」

魔姫「私が子供の頃…お父様が歌ってくれた、子守唄よ」

魔王の声とオルゴールの音にギャップはあるが、それでも耳に馴染んだ優しいメロディは変わらない。

魔姫「作曲したのは人間だそうよ。お父様ったら、人間の作った歌を口ずさむなんてね」フフ

猫耳「僕も好きだよ、この音楽。…人間の文化って、いいものが沢山あるよね」

魔姫「そうよね」

父が討たれ、人間の社会に溶け込むようになってから、沢山の文化に触れてきた。
人間の街を歩いて、人間の作った服を着て、人間の作る料理を食べて、人間の書いた本を読んで…。

魔姫「人間と魔物の間で、もっと文化の交流をするべきだったのよ」

猫耳「そうだよね。魔物の文化だって、人間に馴染むものがあるよね」

魔物同士でも、人間同士でも、争いは起こる。
種族の壁というのは、実は些細な問題だったのではないか…と思うことがある。

魔姫「…両種族に足りなかったのは、歩み寄りだったのかもね。だって、歩み寄れば……」

互いの素晴らしい部分を知り、尊重し合うことができたかもしれない。
今、自分がこうしてオルゴールの音に聞き惚れているのと同じこと。人間の文化に触れて、魔姫は人間が好きになった。

魔姫「…時が遡るなら、お父様にそう言ってやりたかったわ」

猫耳「そうだねー」

2人はしばらくオルゴールのメロディを、繰り返し繰り返し聞いていた。




魔姫「ふあぁ、今日は疲れたわー…」

風呂に入った後に本を読んでいたが、どうも内容が頭に入ってこない。
色々あって、よっぽど疲れているのだろう。

猫耳「早めに寝なよ魔姫」

魔姫「そうねー…今日は一緒に寝る?」

猫耳「なーに言ってんだよぅ」

魔姫「何、今更恥ずかしがってるの。よく一緒に寝てた仲じゃない」

猫耳「それは昔の話だよ。ほら、変なこと言ってないで寝なよ」

魔姫「フフ、はいはい」

魔姫は部屋に戻りベッドに入った。
だがいざ横になると、すんなり眠れなかった。

魔姫(どうしようかしらー…あ、そうだ。こういう時に子守唄を…)

魔姫はオルゴールを取りに一旦起き上がった。

その時――

魔姫「――っ」

気配を察知した。

魔姫「猫っ」バタバタッ

猫耳「うん? どうしたの魔姫?」

魔姫「屋敷の近くに何者かが侵入したわ」

猫耳「にゃっ!?」

魔姫は屋敷の周辺300メートル以内に仕掛けをしていた。
外から何者かが来たら、わかるようになっている。

この山は人里から離れた場所にあり、足場も悪く、人が踏み入れることはほとんどない。まして、こんな深い場所に来るなど――

猫耳「…こんな時間にこんな所に来る奴なんて、遭難者か、あるいは…」

魔姫「…私目当ての残党狩りでしょうね」

魔姫はそう言って窓辺に立つと、バサッと翼を広げた。

魔姫「せっかくこの場所気に入っていたのに、バレたなら引っ越しね。…でもその前に、まずは侵入者を撃退してくるわ」

猫耳「気をつけてね、魔姫…!!」

ハンター「…魔姫は侵入を察知したのだろうか?」

助手「はい。我々が仕掛けの中に足を踏み入れたので、察知したのは間違いないでしょう」

ハンター「そうか。奴は察知して逃げるか、それとも――」

魔姫「あら、またアンタ?」

魔姫はハンターの姿を見て、呆れるように言った。
大して強敵ではないが、このしつこさだけは評価したい所だ。

魔姫「まだ懲りないのねぇ。徹底的に痛めつけらないと、わからないのかしら?」

ハンター「悪いな…これも仕事でね」

仕事――そう割り切る。
魔物を憎んでいるのは変わらないが、さっきの件でハンターの中では、魔姫はその対象外になっていた。
憎しみの対象ではない相手を攻撃するのはあまり好きじゃないが――それでも仕事は仕事だと、ハンターは構える。

ハンター(王子から預かったこのペンダント…どれだけの力を発揮するのか、わからないが…)

ハンター「行くぞ…」ダッ

魔姫「…っ!」

一瞬にして魔姫との距離が詰まる。
そしてハンターはダガーを振った。

魔姫「…くっ!」

魔姫は咄嗟に、後方へ跳躍した。
魔姫は焦っている――ハンターは手応えを感じた。

魔姫(何…!? あいつ、素早さが格段に上がったわ)

魔姫「……っ」ササッ

魔姫はハンターの攻撃を紙一重でかわし続けていた。

ハンター「ハァッ!!」

魔姫「っ!」バッ

魔姫が攻撃をかわし、ダガーが後ろの木を切った。
その一擊はまるで、斧で切ったかのように、木を大きくえぐった。

魔姫(こいつ、こんなに力強かった…!? 近距離は危険だわ、距離を取って――)

ハンター「そうはさせん」

魔姫「くっ!」

魔姫の狙いを読んでいるかのように、ハンターは魔姫の動きにぴったりくっついてきた。
これでは距離を取れない。それに――

魔姫(こいつ…どんどん素早くなってない!?)

時間がたつにつれ、魔姫には余裕が無くなっていく。
かわすのに精一杯で、攻撃に転じる隙がない。

魔姫(こんな力を隠し持っていたの…? いつの間に、こんなに強く…)

ハンター「……」

ハンターは手応えを感じていた。
体がいつもより軽い。力がみなぎってくる。

今まで自分を手玉に取っていた魔姫を、手玉に取ることができる――

ハンター「ふ、ふふっ――」

笑えてくる。それは嬉しさのせいか、可笑しさのせいか。

ハンター「ははははははは!!!」

魔姫「!?」

笑えて笑えて、仕方なかった。
理由なんてどうでもいい。

ハンター「倒す、お前を、ははっ、メチャクチャに、ははははは!!!」

力がみなぎればみなぎる程、彼の心は愉快だった。


助手「ハンター…様……?」

魔姫(な、なにコイツ…完全にイッちゃってる人じゃないの!?)

ハンター「うらああああぁぁっ!!」シュッ

魔姫「くぅっ!!」

今の攻撃は本当にギリギリだった。
これ以上ハンターが素早くなれば、完全にやられる。

魔姫(冗談じゃない! っていうか…絶対におかしいわ、どうしてこんな短時間にどんどん強くなるのよ!?)

流石に魔姫も、尋常ではないと気付く。
何か小細工をしているに違いない――そう戸惑いつつも、考えている余裕などない。

――と、その時。

ハンター「ハアアァァッ!!」

魔姫「――んっ!」

攻撃をギリギリかわしたその時、ハンターの上着が軽くめくれ、あるものが目に入った。

魔姫(あの魔石は――)

そして一瞬にして理解した。
ハンターが急に強くなったのは、そういうことかと。

魔姫「…っ、バカな男ね、本当!!」

魔姫は攻撃をかわしながら、素早く手に魔力を溜めた。

魔姫「いつか絶対…借りを返しなさいよねっ!!」

そして、手に溜めた魔力を放出した。

ハンター「ははははははは――っ」

攻撃に夢中になっていたハンターは、それを「避ける」という思考回路に至らなかった。
そして――

ハンター「――」

魔姫が放った魔力がハンターの首をかすめ――そして、ペンダントの鎖を切った。
だが、それと同時――

魔姫「――っう!!」

ハンターの拳が腹に直撃したのは、魔力を放ったと同時だった。
強化されたその拳の威力は凄まじく…。

魔姫「む…り……」ドサッ

魔姫はそこに倒れ込み、意識を失った。


助手(勝負がついたか…)

ハンター「……っ」ドサッ

助手「ハンター様…!?」

倒れたハンターに駆け寄る。

ハンター「グッ…カハッ」

助手「!?」

ハンターは口から血を噴いていた。
魔姫の攻撃はハンターに当たっていない――なのに、何故?

その時、足音が近づいてきた。


「よくやってくれた、ハンター君」パチパチ

助手「貴方は……」

王子「内心ヒヤヒヤしたけどね…魔姫様を傷ものにしてしまわないか、って」

助手「王子様……」

どうしてここに王子が…だがそれを口にする前に、王子は歩み寄ってきた。

王子「確か…ハンター君の助手だね?」

助手「…はい」

王子「彼が目覚めたら、これを渡しておいてくれ」

助手「これは――」

渡された袋には、報酬と思われる金銭が詰まっていた。
その額は軽く見ただけで、相場の倍以上と思われる。

王子「さて」

王子は倒れている魔姫を抱え上げた。
魔姫に向ける目はいかにも淫靡なもので――助手は生理的に嫌悪感を抱く。

王子「僕は一足先に戻らせてもらうよ…目を覚ます前に、彼女を城にお連れしたいからね」

助手「……」

去っていく王子を助手は止めはしなかった。
それよりも、倒れて血を吐いているハンターが心配で、彼に寄り添う。

助手(この魔石…)

鎖のちぎれたペンダントを拾い、しばらくそれを見つめていた。

今日はここまで。
テンポ良くいきたいものです。

王子ヤンデレか。
戦闘テンポ良いな、他のssにも見習って貰いたいくらい。

胸糞展開があるなら言ってくれ
見るの辞めるから

>>44
どういったものを胸糞と捉えるかは読み手によって違うのでお答え致しかねます。すみません。

『姫…私の可愛い姫……』


誰…?


『魔王の娘に生まれた姫…。貴方にはこの先、普通の女の子以上に、様々な苦難が待ち受けているでしょう』

『でも、心を着飾って――強い心を持つのです』


心を、着飾る……?


『常に強い意思、高潔な魂、堂々とした態度でいるのです』


あぁ、思い出した。この言葉は――


『そうすれば、絶対に幸せになるから――負けないで、私の可愛い姫…』



魔姫「お母様…」

魔姫「ん…」

自分の声で目が覚めた。
見覚えのない天井を見上げ、状況がよく理解できない。

目が冴えると同時に、少しずつ思い出していく――ハンターが襲撃してきて、自分は負けて…。

魔姫「…っ、ここは!?」

周辺を見渡して更に混乱する。
魔姫が目を覚ましたのは大きなベッドの上。窓のない部屋は広く豪華なもので、まるでここは――

王子「ここは城の一室だよ」

魔姫「!?」

魔姫が起きるのを見計らったかのようなタイミングで、王子が部屋に入ってきた。
王子は嬉しそうに、作り物のような美しい顔に、ニコニコ笑いを浮かべている。

何て胡散臭い笑顔――魔姫の抱いた第一印象はこうだ。

王子「自己紹介が遅れました、魔姫様。僕は王子――この国の、第二王子だよ」

魔姫「そんなことはどうだっていいわ。この状況、どういうことかしら?」

魔姫は苛立ちを隠さず、目は笑わず口元だけに笑みを浮かべた。

魔姫「ハンターから聞いたわ、私を捕らえるよう命じたのはアンタなんですってね。私を捕らえて、どうするつもりかしら?」

王子「魔姫様…」スッ

だが王子は魔姫の不快感など意に介していない様子で、魔姫に向かって跪く。

王子「ずっと、お慕いしていたよ…是非、僕の花嫁になってくれないかな」

魔姫「…」ドカッ

魔姫は無言で王子に蹴りを入れた。
が、王子は涼しい顔で、蹴りを片手で止める。

王子「ふふ、流石魔姫様。手が痺れる程のこの威力…そこらの女性の力では、こうはいかないだろうね」

魔姫「気持ち悪いわアンタ」

魔姫「女を口説く才能ないわね。こんな所に無理矢理連れてきて、イエスと答える女がいるもんですか」

王子「僕も、その自覚はしているよ。でも、僕は――」

魔姫「っ!」

王子は魔姫の目の前に立つ。
至近距離で上から見下ろされ、威圧感を感じる。

王子「君を手に入れたいと思った…どんな手段を使ってもね」

魔姫「…だから、気持ち悪いのよ!」

痛い目に合わせてやろうと、魔力を練る――が、

魔姫(…っ、魔力が放出できない!?)

王子「あぁ、言い忘れていた。この部屋には仕掛けがあってね、魔法は使えないんだよ」

魔姫「…そう」

考えているものだ。少なくとも、あのハンターよりは賢いようだ。
だが、その程度で魔姫は怯まない。

魔姫「とにかく! もう2度と顔を見せるんじゃないわよ!」

魔姫はバサッと翼を広げる。
ドアもは遠い。なら天井を突き破って外に出よう――とした。が、

王子「魔姫様、それはいけないよ」

魔姫「…っ!!」

魔姫が飛び立つと同時、王子も高く跳躍した。

王子「手荒な真似をするけど――」バッ

魔姫「くっ!」ビシッ

王子から伸びた手を肘でガードし、魔姫は弾き飛ばされる。
王子は即座に天井を蹴飛ばし、魔姫を追ってきた。

王子「ごめんね、魔姫様!」

魔姫「!!」

王子に両手を掴まれる。
その力は強く、振りほどけそうにない。

魔姫「離しなさい…! 本当に殺すわよ!」

王子「ふふ魔姫様…強がっていても、手が震えているよ?」

魔姫「…っ!」

見抜かれた――怖いに決まっている。こんな知らない場所で、得体の知れない男に、魔力と動きを封じられて。だが、それを悟られたのも、心底悔しかった。

王子「高貴で高飛車な君も、可愛らしい1人の女の子なんだね」

魔姫「いや……っ」

魔姫は強気姿勢を崩さずに抵抗する。
それでも振りほどけなくて、少しずつ怯えが顔に現れ始めていた。

王子「知れば知る程、夢中になりそうだよ。あぁ、魔姫様――」

だが王子は、そんな魔姫の様子を楽しむかのように――

魔姫「やめっ、や――」

王子「――」



無理矢理に、魔姫の唇を奪った。

魔姫「…っ、離せっ!」ドカッ

王子「っ」

魔姫は正面から、王子の腹に蹴りを入れた。
王子がひるんだのと同時、後ろに逃げて距離を取る。

王子はしばらく、そんな魔姫を見つめていて――魔姫はその目つきに恐怖心を覚えたが――やがて、

王子「ふぅ、これ位にしておくかな」

そう言って王子は引き下がった。

王子「あぁ魔姫様。逃げ出そうとは考えない方がいいよ。あまりおイタするようじゃ、僕にも考えがあるからね」

魔姫「……っ、うるさい、消えなさい!」

王子「ふふっ、それじゃあね」

そう言うと王子は部屋を出た。
魔姫はドアに耳を当て、王子が遠ざかっていく足音を確認する。

魔姫「……」ドサッ

気が抜けたのか、魔姫はそこに膝をついた。

魔姫(キス……)

魔姫(奪われた……初めてだったのに……)

魔姫「う、ううぅっ」


ぽたぽた涙が落ちる。
大事にしていたものを、こうも簡単に奪われて。

魔姫「最低、最低、最低ーっ!」

八つ当たりのように壁を何度も殴る。

この感情を怒りだけに収められたらどれだけ楽か。
今は怒り以上に、辛い気持ちが抑えられない。

魔姫「ううぅ…あああぁぁぁっ!!」

遂に、床に伏してしまった。
大声で泣いても、叫んでも、どうしようもないとはわかっているけれど。

その時、静かにドアが開いた。

「いたいた。良かったぁ」

魔姫「……えっ?」

猫耳「僕だよ、僕!」

魔姫「ね、猫ぉ!?」

部屋に入ってきた猫の姿に、魔姫は驚きの声をあげた。

猫耳「魔姫、しーっ、しーっ」

魔姫「ね、猫…あんた、どうやって…」

猫耳「うん。ハンター達が馬を使っていたからね。その積荷に紛れて来たんだ。城が広くて、ここ来るのに苦労したけど…」

猫耳は少年に姿を変える。
その見慣れた顔に安心して、魔姫はようやく笑いを浮かべた。

魔姫「ばかね…こんな危険を犯して」

猫耳「何てことないよ。それより魔姫、ひどいことされたの?」

魔姫「………」

思い出して暗い気分になって、また涙が溢れてくる。

猫耳「にゃにゃっ!? どうしたの魔姫ぇ!?」オロオロ

魔姫「王子に奪われたの。……初めての、キス」

猫耳「にゃっ」

猫耳は素っ頓狂な声をあげた。
自分が情けない。だけど今は、慰めの言葉が欲しかった。
そんなこと、何てことないって言ってほしくて。それが、本音じゃなくても。

猫耳「…魔姫、初めてじゃないよ」

魔姫「……え?」

魔姫はその言葉にキョトンとする。

猫耳「魔姫のファーストキス…僕だよ?」

魔姫「え、えぇっ!?」

そして返ってきたのは、予想外の言葉だった。

魔姫「あっ、あんた!? いつの間に私の唇を!?」

猫耳「魔姫ぇ…子供の頃の話だよ。結婚式ゴッコって言って、魔姫の方からしてきたんだよ」

魔姫「そう…だったっけ?」

覚えていない。
だけど、猫耳はそんな嘘をつける奴じゃないし…。

猫耳「子供の頃の話だからノーカウントかもしれないけどさ…」

猫耳は恥ずかしそうにうつむきながら言った。

猫耳「…でも魔姫が泣くくらいなら、僕とのをカウントした方がいいかなって…だめ?」

魔姫「…ふふっ」

少し、可笑しくなった。

魔姫「駄目なわけないじゃない。そっか…教えてくれてありがとう、猫」

今はその気遣いが、何よりも嬉しくて。

魔姫「…でもここにいると危険よ、猫。見つからない内に、外に出た方がいいわ」

猫耳「魔姫を置いて逃げられないよ」

魔姫「大丈夫よ、私が下手なことをすると思ってるの?」

猫耳「にゃー…」

魔姫「絶対にここから逃げ出してみせるわ。…だから猫、安全な場所にいて。お願い」

猫耳「うん…わかった」

猫耳は再び猫の姿に変化した。

魔姫「ところで猫、今は何時くらい? ここ、窓が無くて時間がわからないのよ」

猫耳「今は朝だよ。大体9時頃かな」

魔姫「ありがとう。…逃げ出すには、まだ早いわね」

猫耳「魔姫、気をつけてね」

魔姫「えぇ、猫もね」

そう言って魔姫は猫耳を見送る。
猫耳に元気を貰った。だから挫けずに、逃げ出す方法を考えねば。


王子『あぁ魔姫様。逃げ出そうとは考えない方がいいよ。あまりおイタするようじゃ、僕にも考えがあるからね』


魔姫(上っ等じゃない…私を怒らせたこと、後悔するといいわ!!)

>一方…


王子「フ……」

王子は玉座に戻り、魔姫との回想にふけていた。
蹴られた腹はまだ痛む。だが、その痛みが心地よい。

王子「遂に手に入れたぞ……」

魔王の一人娘は強く、美しく、気高く――そんな彼女を、ずっと追い求めていた。

王子「フフ…あはは、アハハハハハハハッ!!!」

喜びに狂い、笑った。
今、彼女は自分と同じ屋根の下にいる。その事実の、何と興奮することか。

王子「あぁ魔姫様…僕はきっと、君を――」

ハンター「おい王子」

王子「おや」

無礼なことに、妄想の最中にハンターがやってきた。
だが王子は、上機嫌で彼を迎える。

王子「もう怪我はいいのかい、ハンター君。君のお陰で全てが上手くいきそうだよ。ありがとう」

ハンター「そんなことはどうでもいい」

目的を果たしたというのに、ハンターは不服そうに言った。

ハンター「この仕事に関わった者として聞きたい」

王子「何かな?」

ハンター「王子…あんたはあの女を捕らえて、どうするつもりだ」

王子「おやおや。君は優秀だけど、無粋な奴だねぇ」

王子は実に愉快そうに笑った。

王子「助手君に預けた報酬は確認したかな、ハンター君」

ハンター「答えを…」

王子「相場の倍以上にあたる報酬を払ったんだ。あとは『大人の対応』を取るのが礼儀ってものだよ、ハンター君」

ハンター「…っ!」

王子「まぁ君、元々は裕福な家庭で育ったお坊ちゃんだもんねぇ。多少の世間知らずくらいは大目に見るさ」

ハンターはそれ以上何も言えず、そのまま城を出てきた。

ハンター(くそ…あの王子、何企んでやがる……)

勇者「いよっ、ハンター!」ドカッ

ハンター「いぎっ!?」

城前の広場にやってきた時、勇者がハンターの陰鬱な気分など無視してタックルをかましてきた。
完全に油断していたハンターはモロに喰らい、地味にダメージを受ける。

勇者「おおぅ、ごめん。ハンターならぶつかる前に気付いて、ガードするか避けるかするかなーって思ってたから」

ハンター「いや…」(いてて…)

勇者「ボーっとしちゃって、どした? 悩み事なら聞くぞ?」

ハンター「……」

魔姫を捕らえたことを勇者に言っていいものか。
勇者の魔姫への想いを王子が知っているのかはわからないし、下手に伝えれば2人を仲違いさせてしまうだろう。
それに自分は、2人の仲違いには一切関わりたくない。

ハンター(『大人の対応をしろ』…か)

ハンター「いや何でもない。寝不足で疲れているだけだ」

勇者「おいおい、ちゃんと寝ろよ。健康第一だぞ!」

ハンター「わかってる。それじゃ」


ハンター(しかし、本当に体調が優れん。体力には自信があるんだがな…)

助手「ハンター様」

ハンター「助手。どうかしたか」

助手「はい。あのペンダントについて調べてみたのですが……」

ハンター「………っ!!」

今日はここまで。
猫耳可愛いよ猫耳。

おつ
王子様が良いキモさを醸し出してる

魔姫「…何よ、懲りずにまた来たの?」

王子「いやぁ、魔姫様と紅茶を楽しみたくてねぇ」

睨みつけるこちらをまるで意に介していないようで、王子は優雅に紅茶をすする。
魔姫はというと、警戒し紅茶に口もつけられないでいた。

王子「魔姫様は紅茶はお嫌いかな?」

魔姫「そうね。少なくともあんたの顔を見ながらだと、どんな飲み物も最低の味になるわ」

王子「傷つくなぁ。僕、そんなにまずい顔をしているかな?」

魔姫「えぇ、最低の顔だわ」

王子「いいねぇ、魔姫様に言われるとゾクゾクするよ」

魔姫「顔以上に中身が最低ね」

しかし王子は笑顔を崩さない。
何を言っても喜んでいるのだろうと思うと、気持ちが悪い。

王子「なら、ポットとカップは置いていくよ。お代わりは、部屋の外の番兵に言ってね」

魔姫「あら嬉しい、もう出て行ってくれるのね。もう2度と来ないで頂きたいわ」

王子「ハハッ、それじゃあまた」パタン

魔姫(『また』じゃないわよ、来るなって言ってるのよ)

魔姫「紅茶の時間…ってことは今は3時くらいかしらね」




魔姫(…そろそろいい時間かしらね)

大分待ちくたびれた。最後の食事が夕飯だとすると、それから5、6時間は経過したように思える。
時刻は恐らく深夜――なら、今が逃げ時。

魔姫(これ以上、あんな気持ち悪い奴と同じ城にいるのは御免だわ!)

魔姫は深く深呼吸する。
そして意を決して…

魔姫「でりゃあ!!」ドカッ

番兵A「!?」

勢いよく、ドアを蹴破った。

番兵A「逃げようというのか、そうはいかんぞ!」

番兵B「かかれーっ!」

魔姫「フン、見張りはたった2人」

なめられたものだ。ますます、あの馬鹿王子が憎たらしい。

魔姫(部屋の外でも魔封じの効力は続いているわね…)

番兵A「喰らえっ…」

魔姫「魔法が使えないからって…」

魔姫は体勢を低くする。
そう、魔法が使えないからといって、戦えないわけじゃない。

魔姫「喰らえ――ッ!!」ドカッ

番兵A「ガハッ」

蹴飛ばされた番兵は吹っ飛んでいった。
まさかその細い足で男を吹っ飛ばせるとは思っていなかったらしく、もう1人の番兵は怯んでいた。

番兵B「ひぃ…」

魔姫「悪いけど私は機嫌が悪いの。馬鹿王子の味方するってんなら、容赦しないわよ!!」

魔姫(さっ、ボヤッとしてる場合じゃないわ)ダッ

あっと言う間にもう1人の番兵を倒した魔姫は、そのまま走る。
油断はできない、せめて魔法が使える場所まで――

魔姫(窓があれば外に飛んでいけるんだけど)

長い廊下の間に、部屋は存在しない。もしかしてここは地下なのかもしれない。
そういえば猫耳も、城が広くて苦労したと言っていた。

進む先に分かれ道。どちらが正しい道かなんてわからない。なら、考えていても無駄。

魔姫(直感で――右っ!)

魔姫「――っ!」

そして、足を止める。

王子「やぁやぁ魔姫様…こんな時間にお散歩かな?」

魔姫(最悪だわ…)

魔姫は自分の勘の悪さを恨んだ。

王子「魔姫様なら、早々に行動に出ると思ったよ。ふふ、わかりやすい所が可愛いねぇ」

魔姫「あんたみたいのに好かれて逃げない女なんかいないわよ、ばーか!」

王子「そういう生意気な所も好きだけど…言ったよね、おイタするようなら考えがあるって」

魔姫「知ったことか!」

魔姫が動くと同時、王子も動いた。
距離が縮められ、逃げてもいつか追いつかれる――なら、正面からぶつかるのみ。

魔姫「だぁっ!」

王子が間合いに入ると同時、魔姫は王子の腹を殴った。
手応えは十分――だが、王子の表情から笑みは消えない。

王子「効くなぁ…。じゃこれはどうかな!」シュッ

魔姫「フン!」バッ

王子の手が伸びると同時、魔姫は跳んで距離を取る。
力は王子の方が上。掴まれては終わり。

魔姫(けど、魔法が使えない今、距離を取ってばかりもいられない――)ダッ

魔姫は一気に跳躍し、王子との距離を縮めた。
そして――

魔姫「でりゃああああぁぁぁ!!!」

腹、肩、脚――連続の打撃を叩き込む。
反撃を許さない、怒涛のラッシュだった。

魔姫「せやあぁっ!!」

最後に一発、トドメの蹴り。
王子は吹っ飛び、壁に全身をぶつけた。

魔姫「どう、効いたでしょ!」

王子「フフフ…」ユラァ

魔姫「!?」

王子「容赦ないなぁ。でも、死なないように手加減してくれたんだ?」ニコッ

魔姫(う、嘘でしょ!?)

気絶する程のダメージを叩き込んだつもりだ。
なのにこの王子は、平然と立ち上がった。人間の耐久力とは、とても思えない。

魔姫(こ、こいつ…何者!?)

王子「でも、流石に僕も怒っていいかなぁ?」

王子は笑みを浮かべたまま、ゆっくり近づいてくる。
間合いに入ったら即攻撃――魔姫は緊張しながらも、構えていた。

王子「僕は魔姫様の実力を舐めてはいない…だから容赦はしない」

王子はそう言いながら剣を抜く。

王子「結構痛いかもしれないけど――ごめんね?」ニコッ

魔姫「――っ!!」

王子は魔姫と距離を詰めると、剣を振る。
魔姫は瞬時に回避したが、頭上の風切り音で切れ味を悟った。

魔姫(な、何、私のこと殺すつもり!?)

王子「流石、魔姫様…じゃあ、これはどうかな?」ブンッ

魔姫「くっ!」バッ

次から次へと繰り出される攻撃を回避する。王子と距離を取ろうとするが、その距離は広がらない。

魔姫「でりゃっ!」バキィ

隙を見つけて攻撃を叩き込んでみても――

王子「ハアァーッ!!」ブンッ

魔姫(き、効いてない!?)サッ

攻撃、防御、素早さ…王子の弱点がどこにも見つからない。
そして――

ガッ

魔姫「…っ!!」

魔姫は壁際に追い詰められ、顔スレスレの壁に、剣が突き刺さっていた。

王子「ふぅ、捕まえた♪ 魔姫様、負けを認めるね?」

魔姫「…っ、誰が!!」

頭の中では負けだとわかっている。
だけどそれを認めるのは癪だった。

王子「フゥー、強情だなぁ。ま、魔姫様が認めなくても、負けは負けなんだけどね」

魔姫「…!」

王子はゆっくり顔を近づけてくる。
その瞬間、魔姫の頭の中でキスされた時のことがフラッシュバックした。

魔姫「…」ペッ

王子「…っ」

魔姫「誰があんたなんかに屈するもんですか…! あんたに触れられる位なら、死んだ方がマシ!」

王子「…本当、強情だね」

唾を拭う王子の顔から笑いが消えた。

王子「やっぱり、痛い目に遭わないと駄目みたいだね…!!」

魔姫「…っ!!」

そして王子の手が、魔姫に伸び――

ドスッ

王子「…っ!?」

魔姫「え…っ!?」

魔姫の目の前で光るのは、血に染まった銀の刃――ダガーだ。ダガーが、王子の腕に突き刺さっていた。
このダガー、見覚えがある…。

と、その時。

王子「……!!」

王子の体に鎖が巻き付いた。よく見ると鎖には刺がついていて、王子の体の至る所で血が滲んでいる。

「ボーッとするな!」グイッ

魔姫「あ…」

そして手を引かれ、魔姫はようやく状況を理解した。

ハンター「こっちだ、走れ!」

魔姫「あんた…!!」

ハンターが、自分を助けに来たのだと。

魔姫「あんた、どうして…」

長い廊下を走りながら、魔姫はハンターに尋ねた。

ハンター「…借りを返しただけだ」

魔姫「あら、どんな借りかしら?」

ハンター「とぼけるな。…魔石のことだよ」

ハンターはそう言って懐からペンダントを取り出した。
魔姫が壊した鎖はそのままになっている。

ハンター「これは使用者の力を上げる代わりに、使用者の生命力と理性を吸い込むそうだな…。賢者が調べてくれた」

魔姫「…そうよ。そんなものを装備するなんて、どうかしてるわよ」

ハンター「王子に渡されたんだ。…お前が鎖を壊さなかったら、俺はどうなっていたことか…」

魔姫「ふん。お節介を焼いたばっかりに、こうして捕まっちゃったわ」

ハンター「だからこうして逃げる協力をしているだろう。これでチャラにしろ」

魔姫「足りないわね~」

ハンター「そう言うな。俺もかなり自分の立場を悪くしているんだ」

ハンターはさらりと言ったが、確かにそうだ。相手はこの国の王子。その王子に危害を加えたとなると、打ち首ものではないか。
そうなればハンターは逃げるしかなくなり、人間社会での居場所が無くなってしまう…。

魔姫(こいつ、それをわかってて来たの…?)

ハンター「…あそこの階段を上れば、魔封じは解ける」

魔姫「そう」

階段まであと少し――という所だった。


王子「よくもやってくれたねぇ?」

ハンター「!」

魔姫「げっ」

階段から王子が現れた。
先ほどの鎖で全身に怪我を負っていたが、その立ち姿は平然としている。

それどころか、大きく剣を振り上げ――

王子「戻って頂くよ魔姫様…そしてハンター、お前は殺す!!」バッ

王子は一擊を叩き込んできた。
床が大きくえぐれる。2人ともとっさに回避したが、王子の剣はしつこくハンターを追う。

王子「まずはお前からだ、裏切りやがって!」

ハンター「くっ!!」

一方的な攻撃にハンターは回避するしかできない。

魔姫(あれだけのダメージを負いながら…あの王子、何者なの!?)

ハンター「…おい、何ボサッとしてやがる! さっさと逃げろ!!」

王子「ハアァ!!」ズシュッ

ハンター「ぐぁっ……」

王子の剣がハンターの胸元を切り、ハンターは床に膝をつく。

王子「フフ…さぁ魔姫様、邪魔者はいなくなった…さぁ!!」

魔姫「い…いや……」

魔姫はガタガタ震えた。
得体の知れない王子が、ただただ怖くて。逃げ場を失い、足が動かない。

王子「絶対に逃がさないよ…僕の……魔姫様ぁっ!!」

魔姫「……っ!!」




「魔姫ぇーっ!!」


魔姫「…えっ?」

王子「…!?」

突然上から降ってきた何かが、王子の視界を塞いだ。
上から降ってきたもの、それは――

猫耳「魔姫に、ひどいことするなー!!」

王子「くっ…離れろ!」

魔姫「ね、猫!?」

どうして猫が――って、今はそんなこと考えている場合じゃない。

猫耳「逃げろ魔姫、早く、今の内に!!」

魔姫「ば、ばか言ってんじゃないわよ! あんた、どうして……!」

先に外に出ていろと言ったはずだ。なのに――いや、わかっている。猫耳は、自分を置いて逃げるような奴じゃない。
わかっていたはずなのに――

猫耳「魔姫、お願いだ、早く……」

魔姫「冗談じゃ……」

ハンター「言い争ってる場合か…!」グイッ

魔姫「ハンター…!」

ハンターは大量の血を流しながらも、しっかり魔姫の手を握った。

ハンター「逃げるぞっ!!」

魔姫「待って…猫、猫っ!」

ハンターに手を引かれ、階段を駆け上がる。
やがて猫耳達の姿が見えなくなる――だけど遠くで、悲鳴が聞こえた。


猫耳「ああぁ――っ!!」

魔姫「猫――っ!!」


今すぐ駆けつけたいのに、魔姫はハンターの手を振りほどくことすらできなかった。

今日はここまで。
猫ぉー。

猫は犠牲になったのだ...乙

乙乙




ハンター「ようやく…外に出られたな…」

魔姫「…っ」

逃亡が終わり、ようやくハンターは魔姫の手を離した。
だが魔姫の方は、言いたい文句が溜まっている。

魔姫「あんたねぇ! 何て強引な…」

ハンター「後にしろ…」

魔姫「え?」

ハンターは突然、その場にドサッと倒れた。

魔姫「え、ちょっ!?」

ハンター「無理してたんだよ…察しろ」

魔姫「無理してたって…ちょっと、追っ手が来たらどうするの!?」

ハンター「………」

ハンターは目を開けない。息はしている…ということは、気絶しただけか。
魔姫はその場にへたりこむ。ハンターにぶつけるつもりだった感情も吐き出せぬまま、頭の中でぐるぐるしている。

魔姫「勝手に気絶してるんじゃないわよ…。あんたをこのまま放っておけないじゃない…」

魔姫はハンターに寄り添う。
王子にやられた傷が深く、このままにしておいては危険に見える。
だが魔姫は回復魔法を使えないし、治療の仕方もわからない。

魔姫「どうしろってのよ…」

そう、途方に暮れている時だった。

助手「脱出に成功したようですね」

魔姫「あ、あんた…」

物陰から助手が姿を現した。

助手「ハンター様より外で待機しているよう仰せつかっておりました。どうやら重傷を負われたようですね」

魔姫「…言っておくけど私は頼んでないからね、ここまでしろなんて」

助手「責任を感じる必要はありませんよ。誰も貴方を責めません」

魔姫「だ、誰が責任なんて感じるもんですか! こいつが勝手に…」

助手「ハンター様…命に別状はないようですね。"回復魔法”」

助手が傷口に手をかざすと、傷はみるみる塞がっていく。
これで一安心だ。

魔姫「…良かったわね。私はもう行くわ」

助手「お待ち下さい」

魔姫「何よ?」

助手「ハンター様を運ぶのを手伝って下さい。追っ手に見つかってはまずいので」

魔姫「………」

不服に思いながらも、魔姫はそれを承諾した。

魔姫(全く…女の子が男を背負うなんて、どういうシチュエーションよ)

助手「あそこです」

魔姫「あら」

助手に案内されやってきたのは、人里離れた屋敷だった。
屋敷と言っても外観からしてボロボロで、廃館のような雰囲気だ。

魔姫「あんたら、こんなとこで生活してるわけ?」

助手「いえ。家はありますが、この状況では戻れないでしょう。あれはハンター様のねぐらの1つです」

魔姫「ふぅん…。そういえばハンターってお母さんいるんでしょ、残してきて大丈夫なの」

助手「城に乗り込む前に避難済です。ご心配には及びません」

魔姫「あぁ、そう……」

ギシギシ軋む床を歩き、部屋のベッドにハンターを寝かせる。
呑気に寝息をたてるハンターが憎らしい。

助手「ありがとうございました。奥の部屋が空いてますので、貴方もお休み下さい」

魔姫「結構よ。もう私は行くわ」

助手「どこへ行くのですか?」

魔姫「…どこだっていいじゃない」

助手「失礼」

魔姫「え…っ!?」

助手は魔姫に手を差し出す――と同時に、

魔姫「きゃあぁっ!?」ドサッ

その手から放たれた衝撃波に、魔姫は倒れた。

助手「いつもの貴方ならこの程度、防御できたはずです。今はお疲れで力も出せないのでしょう」

魔姫「………」

助手「体をお休め下さい。万全の力を出せない状態で捕まっては、ハンター様のされたことが無駄になります」

魔姫「…わかったわよ」

何も反論できず、魔姫は廃館で体を休めることにした。

魔姫「……」

眠ることができない。
休まなければいけないとわかっているのに、ぐちゃぐちゃな感情が頭を支配していた。

魔姫(猫……)

猫耳は生きているだろうか。
感情がぐちゃぐちゃしている時は、いつも猫耳が側にいてくれた。どんなに苦労をかけても、絶対に自分の側からいなくなることはなかった。

魔姫「王子……猫に何かあったら殺すからね…!!」

ハンター「落ち込み方も可愛げがないな」

魔姫「えっ」

隙間だらけの壁の向こうから声がしてから、ドアが開いた。

ハンター「助かったようだな、互いに」

魔姫「あらあんた、命拾いしたの」

ハンター「…悪かったな、生きてて」

ハンターはそう言うと部屋に入ってきて、魔姫の隣に腰を下ろす。

魔姫「ちょっと、勝手に何やってんのよ。デリカシーのない奴ね」

ハンター「何だ。慰めはいらなかったか?」

魔姫「え?」

ハンター「鼻のすする音が俺の部屋まで届いて睡眠どころじゃなかった。…それとも、鼻風邪か?」

魔姫「…っ!」

どれだけボロ家なのだ、ここは。

魔姫「何よ、あんたのせいじゃない! そもそもあんたが私を捕まえに来なければ、今頃…!!」

ハンター「悪かった」

魔姫「っ」

ハンターはあっさりと頭を下げた。

ハンター「非を認める。現状は、俺のせいだ」

魔姫「……何よ」

ぐちゃぐちゃの感情を、八つ当たりのような形でハンターにぶつけようとしたのに。

ハンター「王子から依頼を受けた時も、俺は深く考えていなかった…その結果がこれだ。この頭の悪さに、自分で呆れている」

魔姫「そうよ…もっと考えて行動しなさいよ」

こうも簡単に頭を下げられては、感情をぶつけにくて。

ハンター「お前を襲った挙句、お前に助けられて…わかっている。あの程度では、お前に何も返せていない」

悪いのは王子だって、わかっているのに。

ハンター「俺にできるのは、この命をお前に捧げることだけだ――」

魔姫「…ばかじゃないの」

猫耳といい、こいつといい、勝手だ。
自分を助ける為に勝手に行動して、勝手に傷ついて。肝心の自分は、そんなこと望んでいないというのに。

魔姫「あんたのチンケな命なんていらないわよ。死にたいなら私の関係ない所で勝手に死になさい!」

ハンター「それもそうだな、悪かった」

ハンターはフッと笑った。
彼が何を考えているのか、魔姫にはさっぱりわからない。

ハンター「あの猫坊主なら無事だろう」

魔姫「!」

脈絡もなくハンターはそう言った。

ハンター「あの猫坊主はお前を誘い出す餌になる。だから、王子も殺しはしないはずだ」

魔姫「どうしてそう言い切れるの」

ハンター「王子の性格の悪さを考えれば、それくらい想像がつく」

魔姫「…確かにね。それなら近い内に、王子は猫を餌にして罠を仕掛けてくるはずだわ」

ハンター「その時になって万全の力が出せずに捕まってはどうしようもないな。だから体を休めておけ」

魔姫「…そうね」

少なくとも、猫耳が生きているだろうという希望が見えただけでも、多少は気が晴れた。
でもそう考えたら今すぐにでも猫耳を助けに行きたくてウズウズして…。

ハンター「何だ、これでも眠れんのか」

魔姫「そうね…どうも眠れそうにはないわ」

ハンター「添い寝でもしてやろうか」

魔姫「……」

本気なんだか冗談なんだかわかりやしない。そもそもこのハンター、冗談を言うタイプには見えなかったが。

魔姫「結構よ。あんたこそさっさと寝なさいよ、死に損ない」

ハンター「本当にひどいなお前は」

魔姫「ひどいのは、あんたの冗談のセンスよ」

ハンターを追い出し、魔姫は横になると布団を被った。
今度は声が誰にも聞こえないように…。

魔姫「月は夜を照らし~…」

口ずさむのは子守唄。父が歌ってくれた思い出の歌。この歌は心を落ち着かせてくれる。

魔姫(待っててね猫…絶対、助けるから……)

そう強く決意する。歌を何度か繰り返す内、魔姫は自然と眠りについた。

>城下町


勇者「何だー…?」

夜中トイレに目を覚ました勇者だが、何だか窓の外が騒がしい。
兵たちが外を走り回り、何だかバタバタしている。

勇者「何かあったのか…!?」

勇者は夜間着の上に上着を羽織り、手には剣を持って、外に出た。

勇者「おい、どうしたよ」

兵士「あ…勇者様。実は…捕らえていた魔物が脱走しまして」

勇者「何だって! それなら町に避難勧告を出せよ!」

兵士「いえ…あの魔物は、町を襲わないはず」

勇者「はい??? じゃあ何で君ら、そんな焦ってんの」

兵士「王子様の命令です…。王子様はあの魔物に、大変ご執着されていまして…」

勇者「王子が…? 何、どんな魔物?」

兵士「聞く所によると…魔王の娘だとか」

勇者「!!?!?」

勇者(どういうこったよ…王子の奴、魔姫さんを捕らえていたのか? で、逃げたって…)

勇者は城に駆け込んだ。
別に、王子に文句を言うつもりはない。魔姫は勇者の想い人ではあるが、勇者にとっては王子の方が付き合いの長い親友だ。
だからこの機会に、どういうつもりで魔姫を追っているのかを聞いてみようと思った。

勇者(あ、王子だ)

謁見の間の扉が少し開いていて、そこに王子の姿を見つけた。

勇者「王子ー…」

王子「…許さん」

勇者「え?」

勇者はそこで足をピタリと止めた。

王子「人間め…見つけ出して、ハラワタを引きずり出してやる…。『我』の邪魔をする者は、1人残らず……」

王子は勇者が覗いていると気付いていない様子だ。
その低くかすれた声も、禍々しい形相も、勇者の知る王子とはかけ離れている。

勇者(どうしちまったんだよ、王子……)

勇者は戸惑い、王子に声をかけられずにいた。

>翌日


魔姫「…さーてと」

目が覚めたのは、まだ薄暗い時間。昨晩は4時間くらいしか寝ていない。だが魔姫の調子は良い。
試しに空に一発魔法を放ってみれば、魔法は大きな花火となって魔姫を祝福した。

魔姫「フフッ。やっぱり、これくらい景気良くいかないとねぇ」

窓辺で魔姫はバサッと翼を広げる。
気分は爽快だ――だってこれから、憎たらしい男をボコボコにできるのだから。

魔姫(王子は只者じゃない。正直、魔力が戻ったからって勝てるとは限らない。でも…)

魔姫「危険は承知! ここで逃げたら女がすたるってものよ! 仕掛けられる前に、こっちから仕掛けてやるわ!!」

そして魔姫は飛び立つ。向かうは王城、一直線。

ドガアアァァン

王城の朝は、不穏な爆発音で始まった。
当直の兵士たちがざわつき始め、城内は騒がしくなる。

兵士「あっ、王子!」

既に正装に着替えていた王子が廊下に出てきた。
あまり眠っていないはずだが、顔色は良い。

兵士「只今、爆発の発生源を探っております!」

王子「…必要ないよ」

兵士「え……?」

王子「フフ…戻ってきてくれたんだ」

王子はそう言うと迷いなく、ベランダに足を進めた。
勢いよくベランダのドアを開けると――いた。

王子「ご機嫌よう…僕の愛しい人」

魔姫「あらご機嫌よう、相変わらず反吐の出る面ねぇ」

魔姫は上空で翼を広げ、王子を見下ろしていた。

王子「その傲慢さもまた愛しい…今日こそは僕のものになってもらうよ」

魔姫「猫はどこ」

魔姫は王子の言葉を無視して言った。
王子はやれやれ、といった様子でため息をつく。

王子「こちらで預かっているよ」

魔姫「返しなさい。じゃないと…」

魔法を放つ。狙いは、城の屋根――
屋根は爆発と共に、粉々に粉砕された。

魔姫「城全体をこうするわよ」

王子「おや、これは参ったね。さーて、どうしようか……」

――ドカアァァン

魔姫は無言でもう1発魔法を放ち、今度はバルコニーを破壊した。

王子「考える時間もくれないわけか。わかった、あの猫を返そう」

王子が兵を呼び、何か耳打ちする。
少しして兵士は、小さなゲージを持って戻ってきた。

魔姫「猫!!」

ゲージの中には、猫の姿の猫耳がいた。
何やらグッタリしていて、魔姫の呼びかけにも反応しない。

魔姫「あんた…猫に何したの!?」

王子「ちょっと痛めつけただけだよ。殺してはいない。…あ、でもこのまま放置したら、どうかわからないけどね」

魔姫(…王子の奴は私刑決定だわ)

ゲージから猫耳が出され、床に置かれる。

王子「さ、取りにおいで」

魔姫「あんたはここから消えて」

猫耳を拾いに行った時に何かを仕掛けられるのは目に見えている。
しかし、王子は涼しい笑みを浮かべたままだ。

王子「そうはいかないね、魔姫様が何をしでかすかわかったもんじゃない。…ま、取りに来ないのなら、それでいいけど」

魔姫(くっ)

猫耳は王子の側にいる。もし自分が下手なことをすれば、猫耳に危害を加えられるかもしれない。
行くしかない――王子の間合いに入るとわかっていても。

魔姫(上等…返り討ちだわ)

決心し、魔姫はベランダへ降り立った。
一歩、もう一歩、王子との距離が近づく。

あとわずか、絶対に警戒を解かないで――

――ガキィン

王子「おやおや魔姫様、大した勘だね」

魔姫「バレバレなのよ、バカの思考回路は」

魔姫は硬い宝石のブローチで、王子の剣を受け止めていた。

今日はここまで。
明日の更新で完結予定。

ブローチで剣を止めるとかカッコよすぎ

魔姫「まぁ丁度いいわ。あんたは許さないと、さっき決めたばっかりなのよね」

王子「へぇ? だったらどうするの?」

魔姫「こうするのよーっ!!」

王子「――っ」

手から衝撃波を放つ。
これで吹っ飛んでくれたら――と目論んだが、王子はその場に踏みとどまった。

王子「うん、いい目覚ましになったよ」

魔姫「相変わらず、人間離れした耐久力だこと」

王子「今度はこっちから攻めるよ!!」

王子は間合いを詰め、剣を叩き込んできた。
防御と回避を繰り返し、魔姫はバサッと上空へ飛んだ。

王子「逃がさないよ!」バッ

魔姫「追ってくると思ったわ」

魔姫はニヤリと笑った。
あの部屋でやり合った時と違い、ここは室外。空中での勝負は魔姫に有利。

魔姫「行っけええぇぇ、突風の刃!」

王子「…っ!」

四方八方から、風の刃が王子に突き刺さる。
空中では回避も防御もしようがなく、王子の全身から血が噴き出る。

落下の際、王子は体勢を整えられず、全身を床に強く叩きつけた。

魔姫(かなりのダメージを与えられたはず…)

手応えは十分にあった。

しかし…

王子「あぁ~、容赦ないなぁ。殺す気?」

魔姫「はあぁ!?」

王子は何事もなかったかのように立ち上がる。これには、魔姫も素っ頓狂な声をあげた。
急所を避けたとはいえ、命を奪う一歩手前程度のダメージは与えたつもりだ。

王子「さぁ、戯れを続けようか。僕は楽しいよ、魔姫様」

だというのに、剣を構える王子はまるで――

魔姫「あんた、まさか…痛みを感じないの!?」

王子「さぁ、どうだろうねぇ」

曇りのない笑顔から、真相は読めない。

王子「でも魔法を使われたら、流石にこちらが不利だねぇ。…少し頭を使うことにするよ」ダッ

魔姫「あっ!?」

王子はこちらとは違う方向に駆けた。
その先にいるのは――猫耳だ。

魔姫「しまった!」

王子「さぁ~て…」

王子は猫耳に向かって剣を振り下ろす。

魔姫「させるか――っ!!」

助けは間に合う。間に合うけど――

魔姫(猫に気を取られて、そこを攻撃される!!)

魔姫が使える遠距離からの魔法は攻撃範囲が広く、王子に向けて放てば猫耳を巻き込む。だから、接近するしかない。
危険だと、わかってはいた。だけど、猫耳を見捨てるなんて選択肢はなかった。

魔姫「猫っ…」

間に合った。王子と猫耳の間に入り込むことはできた。
だがその時既に、王子は攻撃準備を万端にしており――

王子「捉えたよ、魔姫様ああぁぁっ!!」

魔姫「――っ!!」




ハンター「全く…世話が焼ける」

王子「っう!?」

魔姫「…えっ!?」

王子が横に転げていった。
魔姫の目の前にはハンター。たった今、彼が、王子に飛び蹴りをお見舞いしたのだ。

ハンター「おい、怪我はないか」

魔姫「え、えぇ」

ハンター「この猫か」

ハンターは猫耳を拾い上げる。
それと同時、王子が起き上がった。

王子「ハンター…自分からノコノコ来るとはなぁ…!! 裏切りおって、殺す! 殺してやる!!」

ハンター「…っ!!」

自分めがけて突っ込んでいく王子から、ハンターは即座に逃げ出した。
だが王子とハンターの距離はあっと言う間に縮まり…。

ハンター「チッ!!」

ハンターは猫耳をベランダから放り投げた。
と同時――

ハンター「…っ!!」

王子の剣がハンターの腹を破った。
剣を抜くと、大量の血を流してハンターは倒れた。

魔姫「ハンター!!」

ハンター「カハッ…猫坊主は…」


助手「受け取りましたよ、ハンター様!」


ベランダの下で、助手が猫耳を抱えていた。

王子「さて…首を切り落としてやろうか、裏切り者め……」

魔姫「…っ、させるかああぁぁっ!!」

王子「――っ」

魔姫の放った衝撃波で、王子は吹っ飛んでいった。
あの王子なら、これも大したダメージにならずに戻ってくると思うが…。

魔姫「あんた! 何でこんな無茶を!」

ハンター「…仕方ないだろう」

ハンターは腹と口から血を流しながらも、平然とした態度で言った。

ハンター「言っただろう、お前に命を捧げると」

魔姫「いらないって、言ったのに……」

ハンター「そう言うな。俺程度の力でも、猫坊主を助ける程度はできた。…これで俺を許せ」

魔姫「許すも何も…感謝してるわよ、ばか!!」

ハンター「そうか」

ハンターはフッと笑った。
そしてベランダの手すりに掴まり、何とか立ち上がる。

ハンター「これで何の懸念も無くなっただろう。思い切り戦え」

そう言うとハンターはベランダから飛び降りた。
ドスンという音と同時に「いてえっ!」と声が聞こえたが、とりあえず生きているようだ。あとは、助手の回復魔法で助かるだろう。

問題はこちらだ――

王子「よくもやってくれたねぇ」

案の定、王子はピンピンしながら戻ってきた。
だが――ハンターの言う通り、何の懸念も無くなった。

魔姫「これで本当の本気を出せるわぁ…」ゴゴゴ

王子「え?」

魔姫「覚悟なさい馬鹿王子! 後悔する位、痛めつけてやるから!!」

魔姫は思い切り、魔力を滾らせた。

王子「これは…!!」

魔姫を中心に床がひび割れる。空気が周囲を突き刺し、戦いを見ていた兵士達がざわつき始めた。
翼を広げていないというのに魔姫は宙に浮かび始めた。髪が逆立ち、赤い目はただ一点――王子を捉えている。


猫耳「出た…魔姫の究極技だ」

助手の回復魔法を受け、目を覚ました猫耳はそう言った。
只者ではない魔力を感じ取り、助手は自分達を守るように『壁』を作った。


王子「これが…これが、魔王の血を受け継ぐ者の……!!」

王子は身震いしながらも歓喜していた。
危険だと本能が悟っている。それでもここから離れたくない。麻痺しているせいか、魅了されたせいか、それはわからない。

王子「来てよ魔姫様ぁっ! 僕が受け止めてあげるよ、さぁ、さぁ、さああぁぁ!!」

魔姫「はああぁぁ――っ!!」


そして――一瞬のことだった。

魔姫が王子に体当たりした瞬間、空気が破裂した。

2人を中心に城は破壊され、周囲にいた兵士達も吹っ飛ばされた。

衝撃の波が城の周囲に爆風を巻き起こし、地面を揺らした。


賢者「何て凄まじい威力……!!」

ハンター「あー…可愛い顔してても、やっぱ化物か」

猫耳「魔姫…!!」

魔姫「…呆れた」

王子「フ、フフ……」

魔姫「あんた、本当に何者よ……」

王子は床に伏しながらも、まだ笑っていた。
命を奪うつもりはなかったから、足を狙った。だから彼の足はもう使い物にならないはずなのに、それでも立とうともがいている。

魔姫「ま、これでもう追ってはこれないでしょ。私はもう帰るわよ」

王子「まだだ…!!」

王子は剣を床に突き立て、無理矢理立ち上がった。
その様子はあまりにも痛々しく、魔姫も流石に心配になってきた。

魔姫「そのままだとあんた、出血多量で死ぬわよ!? 私、王子殺しの罪人なんて冗談じゃないわよ!!」

王子「罪なものか…魔姫様は僕と結ばれ、そして……僕の野望は、叶うんだ!!」

魔姫「野望? 何を言っているの…?」

王子「魔姫様ぁ…」

ギラつく王子の目。その目にこもっているのは『執念』と『執着』。
あまりにも異様なその感情に、魔姫は身震いした。

王子「僕は、僕は僕は僕は!! 絶対に、絶対に諦めないよ、魔姫様、魔姫様、魔姫様あああぁぁぁ!!!」

魔姫「ひっ……」

ざくり。


王子「……は?」


それは、唐突すぎる一擊だった。

王子「何…これ?」

王子の胸を、刃が貫いていた。

魔姫「あんた……」

あまりもの急展開に頭がついて行かず、魔姫はその剣を突き刺した人物に声をかけた。
だがその相手は、この空気にも関わらず――


勇者「ごめんごめん、寝坊した! 遅れて登場、勇者様!」


陽気に、呑気に、名を名乗った。

王子「カハ…っ!!」

心臓を刺されたのか、王子は大量の血を吐いてその場に倒れた。
顔色はどんどん青くなり、目は光を失っていく。

兵士「お、王子様が…」

兵士「勇者様が、王子様を殺した!!」

兵士達はざわめき、そして王子を殺した勇者を取り囲んだ。


猫耳「…これ、どういう状況?」

ハンター「俺が知るか」

助手「勇者様、何故…」



魔姫「ちょっと勇者!! 何で殺したのよ!?」

勇者「王子は俺の親友だから――」

魔姫「はっ……?」

勇者「だからこれ以上、我慢ならなかったんだよ…おい正体現せ、化物!!」

王子の遺体に怒鳴りつける勇者。
すると――

王子?「フ、フフフフ……」

魔姫「!?」

王子の体から黒い「もや」が出てきた。
作り物のように美しかった王子の顔は、見る影もなくドロドロに溶けていく。
そしてその「もや」は魔物の形を作り――


悪魔王「久しいな…魔姫よ」

魔姫「な、何者!?」

猫耳「あ、悪魔王…!!」

ハンター「何だ、あいつは!?」

猫耳「何年か前、魔物の国で大きな反乱が起きた。その反乱軍の戦闘に立っていたのが、あの悪魔王だ」

助手「何故、王子様の体に…」

猫耳「悪魔王は魔王様に敗北し、姿を消した……。追っ手の目を欺く為に、王子の体を乗っ取ったんだ!!」


悪魔王「王子の体を乗っ取り、魔姫を手に入れ――この世界を掌握するつもりだったのだが……」

魔姫「…なるほど、ようやく執着された理由がわかったわ」

王子――いや悪魔王の狙いは、自分に受け継がれる魔王の力だったのだ。
自分から力を吸収し、ついでに子でも孕ませれば、恐ろしい血筋を持った子が生まれる。

悪魔王「もう王子の体は使い物にならん。こうなれば……」

魔姫「っ!」

悪魔王は魔姫を睨む。
こうなれば、この姿で魔姫をものにする――そう言う目だ。

魔姫(くっ…さっきので力をほとんど使ってしまったわ…!!)

勇者「魔姫さん、ここは俺に任せて」

魔姫「勇者!」

勇者は魔姫の前に出た。

勇者「てめぇ~…よくも、王子の体で好き勝手してくれたな?」

悪魔王「勇者か…王子の体が乗っ取られていると気付かずに、よく親友が名乗れたものだな?」

勇者「黙れ」

勇者は低く重い声で悪魔王を威嚇する。
その声に込められた怒りに、魔姫もビクッと肩を鳴らした。

勇者「病弱だった王子が回復したのは、お前が体を乗っ取ったからか?」

悪魔王「我に体を差し出したのは、王子の方だぞ? 王子は自分の病弱な体を嫌っていたからなぁ」

勇者「お前が弱みにつけ込んだんだろ、ゼッテェ許さねぇ!!」

ハンター「やれ勇者。そいつは魔王より格下だ、お前なら倒せる」

悪魔王「それはどうかな」ニヤリ

勇者「何が言いたいんだ?」

悪魔王は「ククッ」と含み笑いすると、ある物を手に召喚し見せつけてきた。
あれは――王子がハンターに渡した魔石だ。

悪魔王「お前が魔王を討てたのは、この魔石の力によるものだ! 魔石を持たぬお前の力など知れているわ!!」

勇者「…あぁ、あの魔石か」

悪魔王「勇者よ、まずは貴様から死ねええぇ――っ!!」


悪魔王は全身に魔力を滾らせ、勇者に襲いかかった――




勇者「…誰が死ぬかああぁぁっ!!」

悪魔王「―――っ!?」

悪魔王はしばらく、自分の体を見ていた。
信じられないのも無理はない――

体は、見事に真っ二つだ。


悪魔王「な……っ!?」


切り口から「もや」が発生し、悪魔王の体を侵食していく。そのもやはどんどん、空気の中に消えていった。
それが、血が通らぬ体を持つ悪魔王に訪れる『滅び』である。

勇者「あの魔石なぁ…」

既に戦いは終えたと言わんばかりに、勇者は剣を鞘に収めた。

勇者「俺、家に忘れて行ったんだよな。使ってねぇわ、1回も」

悪魔王「な…っ!?」

悪魔王は信じられないといった顔をした。

勇者「俺に小細工なんていらないんだよ。とっとと消えろ、小物が!!」

悪魔王「馬鹿…な……」


そして、悪魔王の体は全てもやに侵食され、肉体は消滅した。

魔姫「勇者…王子は……」

勇者「…うん」

勇者は王子の亡骸に視線を落とす。

勇者「あの小物に体を乗っ取られなかったら、王子はもっと早く病気で死んでいたかもしれない。…どの道、死は避けられなかったんだよ」

そう言いながらも勇者の顔は憂いていた。
自分の手で親友を葬った…その心境は、いかなるものか。魔姫には、想像がつかない。

勇者「…でも体を乗っ取られてからも、王子は俺の前では昔の王子だった。王子にはちゃんと、王子の意識も残っていた…。俺はそう信じたい」

魔姫「…そうね」

だとしたら…。

ハンター「王子が魔姫に向けていた執着は悪魔王のものだろうが…魔姫への想いは、王子のも混ざっていたかもしれんな」

魔姫「……」

今となっては、それはわからないけれど。

この事件は目撃者が多数いた為、勇者は王子殺しの罪に問われることはなかった。
息子を失った国王の悲しみは、盛大な葬儀という形で晴らされた。

ハンター「そしてお前はまた世界から持て囃される、と」

勇者「もう勘弁してくれ、魔王を倒した時点で俺の仕事は終わってるっての」

ハンター「まだ、そうとは言えんぞ。…世界が完全に平和になるまで、な」

勇者「俺が生きている間に、そうなるのかねぇ」

まだまだ魔王軍の残党は残っている。
中には新たな魔王として君臨しようと潜んでいる者もいるだろう…悪魔王のように。

ハンター「新たな魔王は生み出させん。…俺たち、残党狩りを生業とする者がいる限りな」

勇者「……お前、大分いい顔になったよ」

少し前のハンターは、魔物のことを口にするだけで、憎悪が顔に浮かんでいた。

勇者「俺はお前に1つ謝らないといけない」

ハンター「何だ?」

勇者「憎しみを糧に命を賭けるな――以前お前にそう説教したけど、俺は…」

ハンター「…あぁ」

憎しみの感情で悪魔王を葬った。それは、以前のハンターと変わりはない。

ハンター「そんな顔をするな、勇者。…お前や魔姫が、憎しみに囚われた俺を変えてくれたんだ」

勇者「ハンター…」

ハンター「…これからもお互い、戦っていこうぜ…平和の為に」

勇者「…そうだな!」

勇者とハンターは、互いに拳を合わせた。

魔姫「あらあら、2人とも仲が良いのねぇ」

ハンター「魔姫か」

勇者「魔姫さんっっっ!!」ピシッ

魔姫「感謝するわ勇者。あんたが国王に進言してくれたお陰で、私は残党狩りの対象外になったわ」

猫耳「これでもうコソコソ隠れて生活しなくて済むねぇ」

勇者「そりゃ、もうっ!! 魔姫さんの為ならこの勇者、例え命を投げ打ってでも……」

魔姫「今は人間よりも、下手な身内の方が厄介ね。悪魔王より強い力を持った奴はまだまだいるわ」

猫耳「氷山の一角だろうねぇ」

ハンター「勇者、こいつら聞いてないぞ」

勇者「俺は、俺は魔姫さんのことが…っ!!」

ハンター「お前も話を聞け!!」ユッサユッサ

魔姫「宣言するわ!! 私は魔王の娘として、平和に尽力しましょう!!」

ハンター「お、そうか。まぁ気をつけろよ、悪魔王みたくお前そのものを狙う奴もいるだろうし…」

魔姫「何を言っているのハンター、あんたもよ」

ハンター「は?」

魔姫「私も残党狩りハンターを始めるから、助手を宜しく」

ハンター「………」

ハンター「はあああぁぁぁ!?」

勇者「はあああぁぁぁ!?」

ハンター「な、な、何を言ってやがる!? 何で俺が助手なんだ!?」

魔姫「あら、アンタ私に命を捧げるって言ったじゃない」

勇者「あっ、てめぇ!! 抜けがけで魔姫さんに告白しやがってえええぇぇ!!」

ハンター「それはもう返しただろ!?」

猫耳「『命捧げた』んだから、死ぬまで有効だにゃ」

ハンター「そんなんありかよ!? てか何で俺が助手なんだよ!?」

魔姫「それもそうね。じゃあ…下僕」

ハンター「もっと悪い!!」

勇者「いいないいなぁ…俺も魔姫さんの下僕になっちゃおうかなぁ」

ハンター「プライドを持て英雄!!」

助手「ハンター様…」

ハンター「あぁ助手!! お前もおかしいと思うよな!?」

助手「『ハンターへ 雇い主さんが見つかったんですって? それはとても心強いわね、母さんも安心です。くれぐれも雇い主さんに失礼がないようにね? 母より』 以上、奥様よりお預かりしたお手紙です」

ハンター「お前ええええぇぇ、母様にまで根回し済みか!?」

魔姫「さ、行きましょうか。猫、情報は入手しているわね?」

猫耳「うん、きのこの山で魔物が通行人を襲っているそうだよ。早速、ゴー!」

勇者「お供します、地獄の果てまでも!」

助手「きのこの山ですか…私はたけのこの里の方が好きですね」

ハンター「話を聞け、お前らああああぁぁぁ!!」


平和、それは私が最も強く願うもの。何世紀にも渡って争いを続けていたこの世界に平和が訪れるのは、難しいことなのかもしれない。
だが平和という目標があれば、魔物と人間は手を取り合える。それを自分達が証明してみようではないか。



魔姫「さぁ~て…皆、私について来なさい!!」


fin

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
ここから先は乙女ゲーみたく猫耳と勇者とハンターそれぞれルート分岐しry


過去作も宜しくお願いします
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

楽しかった
乙!

結構イッチのSS楽しみにしてるよ

乙。面白かった
いつもサックリまとまってて羨ましい


かなり面白かった
あとサイトでアラサー賢者のスピンオフ見れて幸せ

>>100>>101>>102>>103
リアルにクッションに顔埋めてしまった程嬉しいです、ありがとうございます!!(*´∀`*)

分岐ルート待ってる

介護ヘルパーSSを読んで初任研受けることにしたよ

とりあえず乙
面白かったよ

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