女性P(オリジナル)とアイドル達のお話
百合。R-18になるかは希望があれば――なので、苦手な人は一応注意
設定は無茶苦茶、キャラもちょっとおかしいかも。アニメ観てないのでご了承を
安価要素時折あり
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デュンヌとは期待
アイドルのプロデュース。それは奥が深いです。
プロデュースする人物によって手法が異なり、時に正解である手段を選んでも、不正解となることもあります。
流れを予想し、ある程度の結果は予測できますが――運が大きく影響する仕事とも言えるでしょう。
それは何故か。
私は、人の心が関わっている仕事だからだろうと思っております。
人の心はどんなに追求しても、真に解明できないであろう複雑なもの……。
だから結果がどうしようもない流れ、運というものに作用されるのです。
どんなプロデュースをするのか。
その正解なんてこの世にないのかもしれません。
社長「さて……というわけで、君には我らがアイドル五人――彼女達をとある方針で売りだしてもらいたい」
前置きはこれくらいにして。
私は今、プロダクションの社長に呼びだされておりました。
私が働いているプロダクション――102プロ。
数年前はまったくの無名プロダクションでしたが、最近ではそこそこ有名になってきた会社です。
その目醒しい成長ぶりはまさに『成長株』とでも言えるでしょう。
まったく誇らしいことであります。自画自賛。
で、そんなプロダクションの雑居ビル二階。その一室。ソファーと社長のデスクが置かれた簡素な社長室兼応接室。
テーブルを挟んで向こうのソファーに座る社長は、のほほんとした顔で首を小さく傾げました。
社長「大丈夫かね? 由里代 睦花(ゆりしろ むつか)くん」
ちょっと可愛い感じの中年男性。おっとりとした雰囲気が親しみやすく、人畜無害という単語が自然と思いうかぶサラリーマン風の彼は、返事をしない私へと優しく問いかけます。
――いかんです。ぼんやりしてました。
睦花「はい。続きをよろしくお願いします」
社長「妙にかしこまっているが……緊張してる?」
睦花「……少しだけ」
私が答えると社長は笑いました。
普段はもっとフレンドリーな私。そんな、べらべら喋る私がたった一言二言。きっと緊張は喋らずとも一目瞭然でしょう。
社長「そんなに構えることはない。なに、簡単な話さ。君はいつも通りアイドルをプロデュースし、彼女達をサポートしてやってくれ。今回はそれにちょっとした条件がつくだけの話だ」
ソファーに寄りかかり、相も変わらず暢気な口調の社長。
そう言われると、いつもと変わらないような気がしました。
私はプロデューサー。することはきっと、これからも変わらないのでしょう。
睦花「そうですね……。ぜひ私に任せてください」
社長「うん、頼もしい返事だ。それでこそ我が社の第一プロデューサー」
睦花「あはは……」
第一だったんですか……うふふ。
社長「それでは、肝心の詳細の話といこうか」
詳細。ユニットのメンバーだったり、新方針の内容だったり……でしょう。
私は自然とメモとペンを取り出して、表情を引き締めます。
大丈夫。私はプロデューサー。数年の経験はきっと結果につながってくれるはず。
どんなプロデュースだって――
社長「今回のユニットは君との百合要素をウリに」
睦花「却下です」
――前言撤回。駄目ですこれ。
考える前に口が動いておりました。そして言った後の結論も完全一致という。駄目駄目です。
社長「だめ?」クビカシゲ
睦花「駄目です! 馬鹿ですか! その可愛い子ぶった仕草も!」
社長「そうか……。しかしだ。最近は百合というものがウケている。流行に乗っかるのも悪くはないと思うのだ」
社長は私の訴えに、至極真面目な顔をして返答します。
いい年齢の男性が真顔で百合などと口走る光景は、言い様のない違和感がありました。
睦花「安易に乗っては反感を買うだけですよ。にわかは淘汰されるものです。特にメディアにのる人は」
私は額に手を当て、嘆息。
確かに、そのジャンルは流行っています。
人々の嗜好は幅広い。
ネットの普及でその幅は正直、すさまじいことになっているのですが――こと同性愛は、他の嗜好と比べ歴史が長いような気もします。
昔から流行っていた、と言ってもいいでしょう。それが様々なツールを経て、更に勢力を増したと。
そんな要素に乗っかれば、まぁ、人気になるのは当然のこと。
ですが、大きな波に乗る困難は誰もが分かっています。
力が大きく、乗り切るための力が必要で、もし落っこちれば高いところから海面に叩きつけられる――それは現実も同じこと。
安易に大きな流行に乗っては怪我をするだけ。当然のこと。社長もそれは分かっているでしょうに。
社長「その点は心配ない。我らがアイドルは天然モノ……人知れず流行の波を生み出している。乗る側ではない人間だ」
呆れる私の前で、社長は不敵な笑みを浮かべました。
生み出す側で、乗る側ではない。どういうことでしょうか。
睦花「ええ……っと、どういう意味です?」
社長「流行にはファンの方から乗ってもらうのだ。こちらはアイドルの姿をありのまま提供するだけ。反感を持たれる確率はほんの僅かになる……はずだ」
自信なさげなのが不安。
睦花「いまいち意味は分かりませんが……分かりました。とりあえず話だけは聞きましょう」
渋々、私は社長の営業方針を聞くことに。
百合の力は私も理解していたし、もし利用できるならしておきたいところ。
リスクが少ない状態でそれができるなら、私も言うことなしです。
社長から聞いた話は前代未聞の衝撃的な内容でした。
ユニットに参加するのはプロデューサーラブなアイドル達。
最近スカウトして、レッスンに励んでいた彼女達を普通にアイドルデビューさせ、活動させる。
――ここまでは、普通と言えば普通です。けれど様々な問題がありました。
で、問題一つ目。
そのユニットには、現在活動しているアイドル、そしてプロデューサーである私も入る。
『アイドル達が好きな、プロデューサー』という役柄で。
これは由々しき問題です。他のアイドルが聞いたら馬鹿にされることうけあいです。
突然公表されるプロデューサーの存在に、ファンが何を思うのか……嗚呼、想像しただけで恐ろしい。
問題二つ目。
ユニット、及び私達をモデルにした同人作品(全年齢)を全面的に許可――するらしいです。
もうね、馬鹿という言葉も出てこないですよ。
全年齢及び、私達の事務所のある雑居ビルの僅かなスペースでのみ販売だから、まだちょっとだけマシですよ? 審査もありますし。
でもですね、全年齢でもキスしたりひどい目に遭ったり、果ては朝チュンしたりする可能性もあって……私達は本の中でどんな目に遭うことか。
ちなみに利用料は無料。
人権というものは、どこにいったのでしょう。利用料を払われるのも釈然としませんけど。
問題三つ目。
あくまでも社長が百合は天然物だと言い張るところです。
私はそんなに好かれることをしてきたような気はしません。
それに天然天然と言ってますけど、私自身がそんな自覚ないのだから矛盾もいいところです。
睦花「――全体的に馬鹿としか言いようがないですね。社長はそろそろ椅子を降りるべきです。おすすめします」
あれこれと話を聞いて、やっぱり結論は同じ。
脳内睦花はA~Zまで揃って否決です。
社長「社長相手に容赦がないね……。まぁ、その反応は予測済みだ」
睦花「でしょうね」
芸能界に関わる人なら、どれももれなくアウトだと分かるでしょう。
社長「だがもうアイドル達の了承も得て、決定事項だ。すまないな」
どうやらユニットの人権よりも先に、私の人権がすっ飛んでいたらしいです。
目の前でやたらいい顔をしているこいつもすっ飛ばしてやろうかと一瞬思うけれど、そんな気力もなく。
睦花「……最初からこれを狙っていたんですか?」
社長「いや? もしそうなら、潰れかけてなんてなかったさ」
睦花「ですよね……はぁ」
深く、ふかーくため息。
プロデューサーとして歩みだして数年。やっと自信がついてきたと思ったら、これ。真面目な人間が損するとは、まさにこのこと。
いやでも、普通ならサーフィンボードに磔にされてビックウェーブに乗らされるようなこと、されないですよね。
これも、私の選択故の出来事。私がみんなの笑顔を望んだ結果。
今までも困難は乗り越えてきたのだ。やるしかないでしょう。
睦花「分かりました。やってみます」
嗚呼さらば、世間体……人権。あとその他諸々。
いつか社長もここに加えてやろうこのやろう。
社長「そうか、ありがとう。――では、入ってきてくれ」
社長が手をたたく。
するとその合図を待っていたのか、部屋へと入ってくるアイドル達。
私もよく見知った面々です。
まさか今日、その日にすぐ顔を合わせることになるとは。
あっけにとられる私の前、横に並んだ五人は挨拶をはじめました。
卯月「プロデューサーさん、よろしくお願いします!」
まず一人目。島村卯月ちゃん。
アイドルらしく可愛らしさ、明るさを前面に出した子です。
性格は素直でいい子で……ああ、何故彼女がこんな色モノユニットに……社会は残酷と言わざるを得ません。
菜々「同じく、ナナのこともよろしくお願いしますね、プロデューサー!」
二人目、安部菜々ちゃん。
彼女は私と長いこと付き合ってきた仕事仲間です。
アイドルに一生懸命で、楽しんでいて、見ていてとっても羨ましくなる素敵な少女。
彼女がこのユニットに入ってくれていることに、落胆する私がいる反面、ホッとしている自分もいます。
彼女ならば、この仕事も立派にこなしてくれるでしょう。
まゆ「よろしくお願いします。睦花さんとお仕事……これで、一日ずっと一緒ですね」
三人目。佐久間まゆちゃん。
他の子達と比べると元気があまりないけど、今日は普段より明るいような気がします。
スカウトからずっとレッスンを頑張ってくれて……いつもちょっと距離が近いような気がしますが、いい子です。
このユニットでもきっと頑張ってくれるでしょう。
楓「プロデューサー。頑張りますので、これからよろしくお願いします」
四人目。高垣楓ちゃん。
大人っぽい落ち着いた雰囲気の彼女。ユニットにいてくれるだけで安定感が増すことは言うまでもないでしょう。
特に語ることがないくらい優秀で、本来ならこんなユニットに入るような女性じゃないでしょうに。
心「はぁとのこともよろしくね、プロデューサー☆」
五人目。佐藤心――はぁとちゃん。
彼女もまた、スカウトからこっちのプロダクションに来て本格的なデビューを待っていた子で……こんなユニットに巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思ってます。
でも、それほど不機嫌っていう顔ではないですね。安心。むしろ明るい顔をしてるような。
メンタルの強さはかなりのものですし……彼女に頼る場面は多くなりそうです。
睦花「ふむ……」
集まった面々を前に、私は考えます。
このユニット……成功するかは一か八かなのに、随分と力を入れているような……。
あと、全体的にキュートな印象のアイドルで構成されてますね。ユニットのイメージはそれで固定ということでしょうか。
個性というか、年齢というか、そういうことはおそらく気にしたら負けです。うん。
果たして彼女らを無事、プロデュースできるのでしょうか。
ちょっと心配になり、私は部屋に集まったアイドル達を見ます。
不安しかないユニット。新しい仕事。
そのはずなのに彼女達の表情は明るく、希望に満ちておりました。
彼女達は私を信用してくれている。その信頼の程度は分かりませんけど、そう思えました。
なら、私が迷うことはないのです。
睦花「みなさん、これからよろしくお願いします。プロデューサーとして、ユニットの一員として、精一杯頑張りますので」
私が言うと、みんなは元気よく返事をしました。
不安要素しかないお仕事……これから、どうなるのでしょうか。
とりあえず、他に犠牲者が出ないように社長には厳しく言い聞かせておきましょう。
【今回はここまで】
【↓1~5くらいまで、追加参加キャラを募ろうかと。書けないと思ったものは下にずれる、自分に優しいシステム】
気持ち悪い屑百合豚だな。はよしね
美優さん
早くも百合シネ先輩登場とは、なかなか前途有望なSS
追加はみくで
涼ちゃん
智絵里で
渋谷
カワイイ幸子
『【三船美優】
【前川みく】
【松永涼】
【緒方智絵里】
【渋谷凛】
【輿水幸子】
の六人が後々追加メンバーで登場と決定』
その日の夜。
私達はユニット結成を祝って食事会を開催しました。
一応アイドルなので、個室のあるお店で、ひっそりと。けれど華やかに。
これからの前途を祝して、みんなで士気を高めようということです。
なので、それなりに大事なイベントではあるのですが――
睦花「なんで居酒屋の個室……」
場所がちょっとアレでした。
社長とアイドル五人、それと私。
結構な人数ですが私達が通された個室はそれなりに広く、ゆうゆうと過ごせるスペースはあります。
けど――やっぱり、雰囲気が違うような気がするのです。
座敷スタイルで座布団の上に座り、部屋の中心には長テーブル。
和風な部屋の壁にはお酒やら、おつまみのポスター。
『Lily』なんてそのまんま――げふん、洒落たユニット名の女の子達が居酒屋で食事会という名の呑み会……頭が痛い。
睦花「社長、もう少しお店なんとかならなかったんですか?」
このお店をあらかじめ予約していたという社長へ、私は文句を言います。
上座の社長はへらっと笑い、視線を斜め横へ。
社長「ん? なったけど、ここがいいという子がいてね」
楓「だめ……でしたか?」
……なんとなく、そんな気はしました。
飄々とした表情で尋ねる楓ちゃんに、私は苦笑。楓ちゃんなら仕方ないという気すらしてくるから不思議です。
卯月「大丈夫ですよ。私、こういうところは初めてでわくわくします!」
菜々「最近来れないので――じゃなくて、ナナも初めてでわくわくしちゃいますっ」
心「はぁともこっちの方が楽だわー」
まぁみんなも嫌がってはいないみたいだし、大丈夫ですかね。
睦花「ま、今回は場所については不問にしますか。はぁとちゃん、足はしっかり。スカートも直して」
心「え? おっとと☆」
むしろリラックスしすぎなくらいですし。
睦花「まゆちゃんは大丈夫ですか?」
右隣のはぁとちゃんのスカートを直し、私はその逆、左隣にいるまゆちゃんに声をかけます。
まゆ「まゆは睦花さんと一緒なら文句なしです」
睦花「そうですか。良かった」
やっぱりまゆちゃんはいい子です。距離近いのがすごく気になりますけど。
みんな一人分は間隔が空いているのに、真隣ですからね。
社長「では、早速注文といこうか。好きに注文してくれていいよ。コースメニューじゃないからね」
楓「太っ腹ですね……!」
社長「ふふふ、大切なイベントだから奮発はするさ」
睦花「色々微妙なラインですけどね」
まぁでも、コースだと飲み物とか食べ物とか決められてて、がっかりすることがありますよね。
値段の差もすごいですし、太っ腹といえばそうなのかも。
社長から配られたメニューを開く私達。
可愛らしいアイドル、中年男性がそろって居酒屋でメニューを開く……すごくシュールです。
卯月「メニューいっぱい……何を頼めばいいんだろう」
心「なんでもバンバンいっちゃえ☆ はぁとも社長の財布を薄くするぞ☆」
卯月「うーん……あっ! なら私ははぁとさんの頼んだものをもらってもいいですか?」ウワメヅカイ
心「きゃーっ、卯月ちゃんカワイイッ♪ 全メニューくれ☆」
睦花「おい」
油断も隙もないです。
満面の笑みで言うはぁとちゃんにツッコミを入れます。
確かに卯月ちゃんは可愛くて、甘やかしたくなりますけど。
さてと。私はメニューに視線を戻し、注文を定めます。
こうして、遠くに喧騒を感じながらのんびりするのは割りと好きなのかもしれません。
妙に落ち着く自分を感じます。
自嘲。なんとなく私はメニューから目を離し、前のアイドル達を見やります。
楓「ナナさんはまずビール……あ、ジュースですね」
菜々「楓さん? なんで気を遣ったふうな感じなんですか?」
楓「気のせいですよ。えっと……私もジュースで……」メソラシ
菜々「完璧に気を遣ってますよね! なんで気を遣うんですか!?」
――この二人はコントを繰り広げていると。
ナナちゃん、頑張ってください……。プロデューサーは応援しています。
まゆ「睦花さん、これなんてどうですかぁ? あとこれ。美味しそうですよ」
睦花「全部アルコール度数高いんですけど……」
まゆ「大丈夫ですよ、まゆが介抱しますから。身体が動かなくても」ハァハァ
睦花「怖いんですけど」
で、私には興奮気味のまゆちゃんが。
なんでしょうね、私達の呑み会が居酒屋で良かったと思えてしまう、この程度の低さといいますか雰囲気といいますか。
おしゃれな場所で落ち着いて、なんて縁がないように思えます。
下手したら立ち飲みの居酒屋でもぴったりかもしれません。
社長「ふふ、中々仲がよさそうだ」
楓「そうですね……。みなさん、趣向は同じですから。あと、いい洒落です、社長」サムズアップ
社長「うむ」サムズアップ
楽しげに笑う社長、楓ちゃんの台詞に一瞬私の方へみなさんの視線が集まります。
『趣向』の直後にみなさんにチラ見されたような……。
社長「心配はなさそうだ。さて、では二日後。ネットの生放送の仕事、頑張ってくれたまえ」
アイドル達『はいっ!』
睦花「はい――って、なんですと!?」
メニューをテーブルにバーン。
不意打ちの如くのほほんとした雰囲気の中、突如聞こえた不穏な単語に私は叫びます。
ネットの生放送? え? 聞いてないんですけど。
睦花「えと、二日後? なんです? その仕事」
社長「新ユニットの発表会だよ。あとプロデューサー、君の姿も世間に公表する」
睦花「また急な……ナナちゃんのことは大丈夫なんですか?」
二日後いきなりナナちゃんの想い人――という体の私が出てきたら、ナナちゃんファンはえらいことになると思うんですけど。
私の身の危険はおろか、ナナちゃんだって危ない目に遭うかもしれません。
社長「大丈夫さ。気にしなくていい」
菜々「自信満々ですね、社長。ナナもまだちょっと不安なんですけど……」
心「社長がこう言うなら大丈夫でしょ☆」
楓「ですね。信用しています」
意外と人望がある社長である。
人の権利をはるか遠くにぶん投げる男なのですけども。
まぁ、私も社長のことはそれなりに信用しています。
潰れかけから一緒に会社を立て直した仲なのですから。
けれど、問題は他にもありまして……。
卯月「二日後……ですよね」
まゆ「近いですよね。レッスンをしてきたとはいえ」
そう、発表会とはいえ、彼女らはアイドル。
それなりに準備が必要になるはずなのです。
いきなり二日後だなんて、酷な話というもの。まだお若いお二人は不安そうです。
菜々「大丈夫ですよ! 二人とも頑張ってますし、先輩もいますか――」
心「そうそう♪ こういうのは勢いが大事だぞ☆ マジで☆」
楓「ありのままで、どんと行きましょう」
菜々「で、ですね」
……ナナちゃん、頑張って。
胸を張っていた彼女が二人の勢いに押され縮こまるのを見、私は苦笑。
ナナちゃん、まとめようとしてくれているけど……手に余るように見えます。ちょっと心配。
社長「では仕事の話はやめといて……注文といこうか」
楓「……待ってました」
目を静かに輝かせる楓ちゃん。
社長の言葉を合図に、私達はわいわいと呑み会ムードにもどります。
二日後……果たして、仕事はうまくいくのでしょうか。
私も準備しておかないといけませんよね。
睦花「……はしゃぎすぎですね」
呑み会終わり。
プロダクションの社長室に社長を突っ込んでおき、会社から出ると私は深く息を吐きました。
――うっ、お酒くさい。
菜々「お疲れ様です、ご主人様」
伸びをしていると、横から声が。見ればナナちゃんがいました。
睦花「ん、ナナちゃんこそ。疲れてませんか?」
菜々「全然です。ナナ、まだまだいけますよ!」
睦花「そですか。あ、他の方はどうしました?」
にっこりと笑う彼女へ、ふと思い出し問いかけます。
すっかり酔いつぶれた社長を連れ、一度居酒屋からここへ移動して……解散ということになったのですが、今は私とナナちゃんしかいないようですし。
もし一人で帰るような子が出たら、若い女の子ばかりですしちょっと不安です。
特にはぁとちゃんがひどく酔っていたので、色々心配。卯月ちゃんが餌食になっていましたし。
菜々「みんなタクシーで帰りましたよ。社長が用意してくれたみたいです。ナナはプロデューサーの付き添いで」
睦花「むむ……抜け目ない」
お金かかってますねぇ……でも安心です。
ホッと安堵。視線を菜々ちゃんから、プロダクション前の道へと移します。
プロダクションの前。流石は都会というべきか、夜だというのに車が道路をぶんぶんと行き来しております。
夜の闇を照らす建物の明かりと街頭、車のライト。
――ちょうど、一年くらい前でしょうか。
すっかり見慣れた夜の景色。涼しい爽やかな春の夜風に当たり、ナナちゃんとお話をしたのは。
菜々「あれから一年ですね」
奇しくもナナちゃんも同じことを考えていたようです。
睦花「早いものです。デビューから一年。無名の状態から、今に至るまで……色々ありましたね」
菜々「はい。あっという間で……とっても楽しい時間でした」
苦しいこともあったはずでしょう。
けれどそう語るナナちゃんの横顔は、本当に楽しそうな笑顔で。
私のプロデュースにちょっとは自信を持ってもいいのかな、なんて。
菜々「プロデューサーにアイドルの世界に連れて行ってもらって、沢山のものをナナは貰いました」
菜々「今度は、ナナがみんなに教える番ですよね。ユニットのリーダーとして」
大人びた横顔。
アイドルを一年経験した彼女の目には、どんな景色が見えているのでしょうか。
睦花「あ、ナナちゃんがリーダーだったんですね」
菜々「はいっ。プロダクションで一番アイドル歴が長いので」
菜々ちゃんがリーダーですか。
最初を思い返すと、感慨深いですね……。
我が子の成長を実感する親というのはこういう気持ちなのでしょう。誇らしいような、寂しいような。
それにしても、一年の経歴が一番長いプロダクション……まだまだ、ですね。
菜々「プロデューサー。社長室でも言いましたけど――これからも、ナナをよろしくお願いします」
睦花「ええ。当然です。プロデューサーとして、ナナちゃんのファンとして、全力を尽くします」
笑顔で顔を合わせ、私たちは頷きます。
睦花「――ところで」
――さて。お互いの信頼を確認したところで、私は気になっていたことを問いかけることに。
睦花「ナナちゃんは何故あんなユニットに参加を決めたのですか?」
菜々「――え?」
きょとん、と効果音が出そうな顔でナナちゃんは口を開いたままに。
数秒の硬直を経て、彼女は顔を真っ赤に染めました。
菜々「い、言わせるんですか!?」
睦花「ええ、だって斬新な設定でしょう? プロデューサーのことが好きなアイドルだなんて。それに同性ですし。マニアックでしょう」
菜々「あ、あれー……? 社長のあの説明を聞いたなら分かってるはずなのに、おかしい……」
睦花「聞いてたんですか」
菜々「ドアに耳をつけて、みんなで」
こくり、と小さく頷くナナちゃん。
ええと、社長の説明を聞いていれば分かるはずなんですよね。
顎に指を当て私は深く考えます。
睦花「説明……聞いてもさっぱりでしたし、ありえないと思ってましたし……」
菜々「いやあの、天然ものと社長が言ってましたよね?」
睦花「ましたね。え? それって本当のことなんですか? 天然という体、とかいう話では?」
菜々「ないです。――あぁ、自分で言ってて恥ずかしいっ」
ついには顔を手で覆い、うつむいてしまうナナちゃん。
ふむ、なるほど。有り得ないからそういった設定や体だと思ったのですが、どうやら本当に天然だったらしいです。
ということは、ですよ。
睦花「大変なことになるような……」
菜々「理解してなかったんですか」
いないいないばあのように、顔を覆っていた手をパカっと開いたナナちゃんが、すっかり冷めた目を私に向けます。
睦花「私なんかに、そんな話有り得ないと思いまして。しかし、そうですか。参加した皆さんが私のことを……」
ナナちゃんに卯月ちゃん、まゆちゃん、楓ちゃん、はぁとちゃん。
五人のアイドルが私を……百合が流行しているのは、どうやら現実もそうみたいです。驚き。
睦花「モテモテですね、私」マガオ
菜々「間違ってないんですけど、なんか腹立ちます」
いいじゃないですか。どこぞのハーレム主人公みたいにとぼけたりはしないんですから。誠実な方です。
菜々「なんかプロデューサー、リアクションが薄いですね……。も、もしかして、興味がないとか?」
睦花「それは分かりませんけど、脳内は結構パニックです」
まゆちゃんはともかく、他の人なんてそんな素振りないですからね。
睦花「まぁ、とにかく……仕事はしっかりしないといけませんから。頑張りますよ」
菜々「……はぁ。プロデューサーは時々抜けてますよね。大変なご主人様です」
睦花「でも好きなんですよね?」
菜々「うっ!? や、やめてください!」
からかって言うと、顔を真っ赤にさせるナナちゃん。
いつもの明るい彼女も可愛いけど、こういう照れる顔もかわいいですね。
睦花「と、遊ぶのはほどほどに……」
菜々「遊んでたんですか!」
はい。
睦花「皆さんが私のことを好いてくれているならば、応えないといけませんね」
顔をキッと引き締め、私は真面目に言いました。
一歩ナナちゃんに近づき、彼女の肩に手を起きます。
すると目の前のナナちゃんがびくんと身体を跳ねさせ、反応をしました。
睦花「ナナちゃん……」
菜々「ふえ!? な、なんですかプロデューサー!?」
みるみるうちに頬が赤く染まるナナちゃん。
戸惑ってはいるようですけど、嫌がる素振りはなく。なんか勘違いされてそうなので、私は正直に告げることに。
睦花「……ちょっと気持ち悪くて」
菜々「――え?」
菜々ちゃんの時間が一瞬停止しました。
睦花「応えないと云々の話はあの一文で終わりです。不覚なことに呑み過ぎたみたいで……私にもタクシーを呼んでくれると有り難いです。よろしく!」
菜々「『よろしく!』じゃないですよ! またからかうようなことして!」
睦花「でもナナちゃん以外には頼る人いませんし……お願いします」
菜々「もう……。タイミングが絶妙なんですよね」タメイキ
ぶつぶつと文句を言いつつも携帯電話でタクシーを呼んでくれるナナちゃん。
やはりナナちゃんは優しくていい子です。
こんな子が私のことを好きでいてくれるのだから、嬉しいというか、なんていうか。
――いつか私の気持にも整理をつけないといけませんよね。五人もいるんですし……。
今はまだ、自分がどうしたいのかは分かりません。
でも、こうしてナナちゃんと一緒にいて、からかって、甘えて……。
彼女と一緒にいると、心が安らぐのは確かなこと。ずっと一緒にいたいと思うのも、また事実。
ナナちゃんは勇気を出してユニットに参加することを決めたのでしょう。
なら、私だって少しは勇気を出して、素直な気持ちを告げてもいいかもしれません。
通話を終え、携帯電話をしまうナナちゃん。彼女のことをじーっと見つめ、私は口を開きます。
睦花「ナナちゃん、おっぱい触ってもいいですか?」
菜々「放置しますよ、プロデューサー」
絶対零度のごとく冷たい台詞と目。
口にするべきではない素直な気持ちもあるんだなぁと思いました。
あと、ナナちゃんのそういう目も可愛い以下略。
【今回はここまで】
屑百合豚はよしね
乙
>>38
てめえが[ピーーー]やゴミ屑野郎
>>40
落ち着け、百合豚死ね先輩がきたってことは名作の証だよ
翌日。
朝になると私はいつもより念入りに身支度をし、自宅を出ました。
マンションのポスト。銀色のそれに映る自分の姿が目に入り、立ち止まります。
睦花「落ち着かんです……」
肩ほどまでの長さのゆるふわな金髪。
宝石みたいに綺麗な蒼い瞳。
我ながら悪くない、可愛らしい感じの顔立ち。
――うん、まだまだいけますね。
今年で21……ですが、現役現役。アイドル達と横に並んでも、一般人には見えない……はず。
自分の容姿にそれなりに自信はありますけど、やっぱり可愛いみんなを見ていると断言することはできません。
睦花「ま、子供っぽくはありますよね」
美優「ですが……そこが睦花さんのいいところだと……思います」
睦花「――ふわぁっ!?」
横からかかる声、いつの間にかポストに映っている人影に私は思い切り身体を跳ねさせます。
しれっとした顔で私の横に立っているのは、三船美優ちゃん。
あまり表情を変化させない落ち着いた雰囲気の女性で、彼女も我らがプロダクションのアイドルです。
出会った当初はなにを考えているのかすら分かりませんでしたが、今では以心伝心レベル。顔を見ているだけでなんとなく考えていることが分かってしまうレベルです。
美優「本当、今日は特別かわいいといいますか……写真、いいですか……?」
――すみません。前言を撤回させてください。
表情を変えずにしゅばっとスマホを取り出す美優ちゃんに、私は苦笑。
まだまだ美優ちゃんについて知らないことは多そうです。
睦花「いいですよ。おはようございます、美優ちゃん。今日はおはやいですね」
美優ちゃんの希望で私と彼女は同じマンションに住んでおります。
なので顔を合わせることは多々あるのですが、朝の6時に遭遇するとは。
記憶が確かならば初めてのことでしょう。
美優「おはよう……ございます。はい……。……今日は、プロデューサーさんに文句を言おうと思いまして……」カシャカシャ
睦花「文句ですか?」
珍しいです。美優さんが私に文句……喜んじゃいけないところですけど、感慨深いです。
でも、なんでしょう? 最近彼女は社長の指示に従ってアイドル活動をしているはずなのですが。
美優「新ユニットの……話です」
なんででしょう。話の雲行きがちょっと……。
睦花「新ユニットの? ええと、なんです?」
美優「言わないと、分かりませんか……?」ニコ
スマホをしまい、口元のみに微笑を浮かべる彼女。
真顔から笑顔に。その変化は普通なら好ましいものでしょう。
ですが、今の美優ちゃんからは威圧するオーラしか感じられませんでした。
なんで私は、朝から浮気が見つかった夫みたいな立場に立っているのでしょうか。
睦花「残念ながら私には分かりかねます……」
美優「睦花さんが……ある一点で残念なのは、分かってましたが……一層、残念です……」
なんか彼女の毒舌レベルが私史上稀に見ない成長具合なのですが。
睦花「えと、新ユニット何か不快でしたか?」
美優「……不快……というよりは、あなた個人への……憤りです」
私の考える状況がどんどん悪化してきております。
けれども私は彼女が何故私に怒っているのか、さっぱり分かりませんでした。
彼女の営業イメージへの影響……とかですかね? 風評に少なからず影響はあるでしょうし。
美優「…………分かりませんか?」
静かな問いに首肯。
間を空けず頷いた私を見て、美優ちゃんは口元の笑みを再び無表情へと戻しました。
美優「なら……いいです。プロダクションに行けば、分かりますから……」
なにやら意味深なお言葉。
話はそれで終わりらしく、美優ちゃんはゆっくりと歩き出しました。
……怖い。でも、行かないといけませんよね。
今日はユニット揃っての発表会の事前練習。私も行かないと。
睦花「――にしても」
美優ちゃんの横を歩きながら、小さく呟きます。
――それにしても、プロダクションに行けば分かるとはどのような意味なのでしょう?
さながら気分はミステリーものの主人公。
あれこれ考察を重ね――結論はさっぱり。頭脳は主人公というよりはモブレベルです。
さてさて。脳内でふざけながら移動することしばらく。我らがプロダクションに到着。
雑居ビルの階段を上がり、ドアを開きます。
いつものにおい。プロダクションのかぎ慣れたかおりに自然と笑顔を浮かべ、私は元気よく挨拶をします。
睦花「おはようござ――」
みく「Pチャアアアアン!」ダダダダダ
睦花「いぎゃあああ!?」
朝の爽やかな風景が一気に阿鼻叫喚のカオスな状況に。
不意打ちの如く横から衝撃を受け、私は絶叫しながら転倒します。
なに!? 何事!?
涼「あ、コラみく。睦花サン大丈夫か?」
睦花「みく? あ、みくちゃんですか」
そこへやってきた涼ちゃんの声。
いいにおいに柔らかな感触。
誰かが私に飛びついてきたのは分かっていましたが、誰だかははっきり分かりませんでした。
でもみくちゃんなら納得です。そういうことしそうですし。
睦花「私は大丈夫ですよ。みくちゃん、どうしたんですか? 私にかまってほしくなったとか?」
頭を撫でつつ言うと、私にぎゅーっと抱きついていたみくちゃんが顔を上げました。
みく「そうじゃないにゃ」テレテレ
涼「みく、顔がにやけてるぞ」
みく「ゴロゴロ……え? ――はっ!? そうにゃ、今日はそうじゃないにゃ!」
顎の下を撫でられていたみくちゃんが我に返ります。
どうやら他に用があったらしいです。
美優「今日は……なのね……」
凛「つまりいつもは撫でてもらってると」
みく「ああもうそんなことはどうでもいいにゃ!」
智絵里「そ、そうだよ。今日は……睦花さんに抗議するんだから」
幸子「うんうん。ガツンと言ってやりましょう」
いつの間にか私の周囲にアイドル達が勢揃いしていました。
美優ちゃんに涼ちゃん、みくちゃん、凛ちゃん、智絵里ちゃん、幸子ちゃん。
一見するとまったく共通点がないメンバーですけど……どういうことです?
みく「今日はPチャンに文句があってみんなここに来たにゃ」
凛「みく、その前にプロデューサーの上からどいたら?」
睦花「私はかまいませんけど。おーよしよし」
みく「ふにゃっ!? Pチャン、みんな見てるにゃ」
睦花「撫でてるだけですから大丈夫ですよ。ほれほれ」
みく「Pチャン、くすぐったいにゃー。やめてよー」キャッキャ
智絵里「みくちゃん?」
涼「みく」
みく「ごめんなさいにゃ……」
嫌がってる素振りはなかったですけど、あっさりと私の上から離れるみくちゃん。
一瞬身体がぞわりとするような、威圧感がどこからかきたような……。気のせい?
睦花「さてと……皆さん揃って、なんでしょう?」
いい大人が会社の床で寝ているわけにもいきません。
身体を起こすと私は服を軽く払い、髪を撫で皆さんを順番に見ます。
凛「新ユニットのこと。美優さんから聞いてない?」
睦花「聞きましたけど、なにでそんなに文句があるのかさっぱりで」
肩を竦めて言い、美優さんへ視線を向けます。
美優「……皆さんを見れば、分かると思いましたが……。……ここに来ても……さっぱりみたいです……」
幸子「相変わらず睦花さんは鈍いですね。カワイイボクを見て、まだ何も分かりませんか?」
睦花「まったく分かりませんね。仕事くれってことですか?」
ずこっと幸子ちゃんがリアクション。いい反応です。
智絵里「えっと、そうじゃないです……。私達、その……」
涼「睦花サンのメンバー選出について意見があるんだ」
頬をほんのりと赤くさせ言い淀む智絵里ちゃんに目配せし、涼ちゃんが言葉の先を続けます。
――メンバー選出? なんですかその野球みたいな。
睦花「なんです? 私これからペナントレースでも?」
みく「Pチャン発言が突拍子もないにゃ」
凛「新ユニット。そのメンバーの選び方に異議があるんだけど」
睦花「あぁ、そういうことですか」
美優「普通……それしかないような」
ですよね。ノリで言ってしまいました。
幸子ちゃんのリアクションが良かったからですかね。
睦花「でも私選んでませんよ?」
幸子「え?」
睦花「新ユニットの話だって昨日初めて聞いて、なんだこのやろうと思ったところです」
アイドル達『……』
――あ、あれ? だんまり?
みんな真顔で黙ってしまい慌てる私。
何を言ったらいいのやら。迷っていると、不意に凛ちゃんが口を開きました。
凛「みんな、集合」
それを合図に皆さんが私に背を向け、半円の円陣を組みます。
そしてこそこそこと内緒話。
みく「どういうことにゃ。Pチャンが選んだんじゃないの?」
智絵里「そう……なのかな? 社長さん、睦花さんが選んだって言ってなかったような……」
幸子「そういえばそうでしたね。いつも通り、プロデューサーのプロデュースだと思ってたんですけど」
美優「早とちり……ということ……ですね」
涼「なんだそれ。勘違いで全員集合ってすごい恥ずかしくない?」
凛「……だね。それにしても、ユニットに参加する形のプロデューサーが昨日話を聞くなんて」
智絵里「可哀想です……。睦花さんも被害者……だよね」
美優「そうね……心配だわ。あの人、無理するから……」
幸子「っていうか、従順すぎるんですよね」
涼「だな。言うことほぼ何でも聞くから」
みく「犬にゃ」
凛「社長とプロダクションのね」
睦花「……」
あのー、皆さん。聞こえているんですけど。
自分も流石に昨日の決断はあっさりしすぎていると思いましけど、まさか犬呼ばわり――は否定できませんね。
私もあの社長のこと、それなりに信用しているみたいです。
ひたむきに働けるぐらいには。
みく「つまり文句は社長に言ったほうがいいってことだよね?」
内緒話終わり。
バッとみんなが私へ顔を向けます。
睦花「え、ええ。ですが、なんで皆さんそこまで? そんなにメンバー選出が不服ですか。トレード希望ですか」
涼「……ここまでいくと腹立つな」
智絵里「あはは……」
凛「安心してプロデューサー。私達、プロデューサーに文句があるんじゃないって分かったから、今から社長に文句言ってくるよ。ユニットのことと、プロデューサー酷使についても」
美優「そうですね……がつんと……」
幸子「社長の独断ということですからね。文句があって然るべきです。カワイイボクと皆さんに任せてください」
みく「さぁ、みんな行くにゃ!」
智絵里「お、おーっ」
おおう……皆さん意気込んでらっしゃる。
一列に並んで、まるで隊列を組んでいるかのようにぞろぞろと社長室へ入っていく面々。
これから彼女達に責められるであろう社長を、ちょっと気の毒に思ってしまいます。ざまあみろです――げふん。可哀想☆
睦花「……なんだったんでしょう?」
静かになったところで、考えてみます。
結局、なんの文句だったのでしょうか。
メンバー選出が原因だとは聞きましたが。
それだけ聞くと仕事くれって意味合いに思えるんですけどねぇ。
まゆ「おはようございます、睦花さん」
睦花「あ、まゆちゃん。おはようございます」
首をかしげていると、まゆちゃんがプロダクションの奥の方から出てきます。
まゆ「皆さん、色々大変ですねぇ……気持ちはよく分かります」
物憂げな表情。心から同情するような目で、彼女は社長室を見ました。
私のすぐ横というおなじみのポジションで。
睦花「分かるんですか?」
まゆ「むしろ分からないんですか?」
ばっさりと返されました。
まゆちゃんにしては珍しい、私を責めるみたいな厳し目のお言葉です。
睦花「……実は、ちょっと心当たりがあるんですよね」
まゆ「なんですか?」
睦花「自意識過剰かとも思いましたが……」
まゆ「今更ですよ?」
――まぁ、いつもの私を知る人ならそう言いますよね。
まゆちゃんに言われるとは思いませんでしたけど。
睦花「あの皆さんも私のこと、結構好きなのでは? と」
それなら、私があのユニットのメンバーを選んだと勘違いをし文句を言いたくなるのも分かります。
私が照れ気味で言った言葉に、まゆちゃんはクスッと笑みをこぼしました。
まゆ「分かってるじゃないですか」
睦花「分かってるんですけど、認めたくないというか、照れくさいというか」
まゆ「ふふ、睦花さんは照れ屋さんですね」
睦花「そうですね。否定はしません。皆さんに好かれるのは、嬉しくはあるんですけど慣れなくて」
まゆ「皆さんの愛は深いですからねぇ。でも勿論まゆが一番睦花さんのことが愛してますよ」
睦花「……ありがとうございます」
言われ慣れたまゆちゃんのこの台詞も、今は本気なのだと分かってしまって――ちょっと恥ずかしいです。
でもすごい納得で、彼女に関してはあまり驚く気持ちはありません。
まゆ「睦花さんもまゆのこと、一番ですよね?」
よく見るとすごい気迫ですし。
見とれてしまいそうな笑顔でこの雰囲気なのですから、恐ろしいといいますか、一途といいますか。
睦花「ええ、一番ですよ」
まゆ「本当ですか?」パアァ
睦花「皆さん同着一位ですね」
まゆ「……」プクー
あ、ふくれました。
睦花「そういうお仕事ですからこればっかりは仕方ないですね。我慢してください」
まゆ「今は口だけでもいいのに……」
頭を撫でて言うと、まゆちゃんは小さく嘆息。
『今は』なんて言うのが少し意味深。
まゆ「でも、いいです。近いうちにまゆに振り向いてくれますから……」
で、すぐににっこりと笑顔。
――うーん、とっくにまゆちゃんの方には振り向いているんですけどね。まゆちゃんの隣にみんながいるだけで。
菜々「おはようございまーす!」
卯月「おはようございます!」
なんて、言おうとしているところで他のアイドル達がやってきます。
壁の時計を見れば、もう通知してあった集合時間。
そろそろ打ち合わせを含めたリハーサルの時間であります。
睦花「さて、仕事を頑張りますか」
まゆ「はい。睦花さんが望むなら」
不安なら練習。これ基本です。
さぁ、頑張ると致しましょう。
【今回の更新はここまで】
屑百合豚はよしね
(投稿乙です!)
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