エルフ「人間の男…」(43)
男「くっ、殺せ!」
エルフ「えっ、なんで」
男「魔族に捕まるなんて恥だ…ひとおもいに殺せ!」
エルフ「酷い言われようね…てか魔族を毛嫌いしている人間なんて今時珍しいわよ」
男「貴様らは野蛮で残忍な種族だ。現にこうやって俺を卑劣な罠で…」
エルフ「これ、猪用の罠なんだけど。むしろどうやってかかったのよ、器用すぎるんだけど」
男「くっ、はずせ!」
エルフ「今やってるでしょ、じっとしてなさいよ…」
カチャカチャ
エルフ「はい、はずれた」
男「やっと自由になれた」
エルフ「まったく、この辺は狩猟用の罠がいくつかあるから、気をつけなさいよ。注意書きを読まないのも悪いんだからね」
男「むっ、すまない」
エルフ「あら、意外に素直」
男「確かに不用意に森に入った俺が悪かった。この辺はエルフ族の領地なのだな」
エルフ「まぁね」
男「では、俺はこれで失礼する」
エルフ「ちょい待ち。足、怪我してるでしょ。手当しなきゃ」
男「む、確かに。だがこれくらい…」
エルフ「駄目駄目、小さな怪我でも化膿して悪化する事があるんだから。いいからうちまで来なさい」
グイグイ
男「うぬぅ…」
・ ・ ・ ・ ・
~エルフの里~
男「ここがエルフの里か…こう言っては悪いが、昔ながらのというか、田舎というか…」
エルフ「ホント悪い言い方ね。確かに、近代的じゃないわよね」
男「今やゴブリンでさえ高層マンションに住む時代だからな…」
エルフ「まー魔族も随分変わったわよね、良くも悪くも人間界との交流の結果ね」
男「良くも悪くも、か…」
エルフ「…」
男「…ん?」
エルフ「あ、いや…なんか気分悪くさせちゃったのかなーなんて」
男「…色々あってな。まぁさっきの態度はすまなかった。決して魔族全てが悪いわけじゃないと分かってはいるのだがな…」
エルフ「…」
テクテク
カチャリ
エルフ「ただいまーって誰もいねーか」
男「…」
エルフ「っと、何か言ってよ。ボケが空振るのって恥ずかしいんだから」
男「…なんというか、一人暮らしなんだろう?仮にも…その…お前は…女性なのだろう、男の俺なんかを…」
エルフ「…ぷっ」
男「ぬっ?」
エルフ「あはははは!魔族でも一応女の子扱いしてくれるんだ。へーきへーき、別にオスの一匹や二匹」
男「オスって…」
エルフ「何、まさか襲うつもりだったりすんの?」
男「なななな、失礼な事を言うな!」
エルフ「あはははは、こう見えても護身の心得くらいはあってね。危ない輩はチョチョイのチョイで消し炭くらいにはできるんだから」
男「消し炭…」
ガクブル
エルフ「火属性の魔法が得意なの、火力の加減が苦手なのが玉にキズだけどね」
男「ひぃっ」
エルフ「あはははは、何もしなけりゃ燃やさない燃やさない」
男(こいつを怒らせたら死ぬな…)
エルフ「って、それより怪我。消毒するからそこ座って」
男「あ、あぁ」
エルフ「えーっと救急箱は、と…」
ガサゴソ
エルフ「あったあった、で、消毒液、ガーゼ…」
テキパキ
・ ・ ・ ・ ・
エルフ「ん、よし」
男「あ、ありがとう」
エルフ「どーいたしまして」
男「…」
エルフ「…」
男「で、では俺はそろそろ…」
エルフ「ついでじゃん、ご飯食べてきなよ」
男「いや、これ以上世話になるわけには…」
エルフ「…」
男「…?」
エルフ「…そっか」
男「…」
エルフ「ごめんねーいろいろズケズケと…ちょっとね、寂しかったのかなー私、なんて」
男「?」
エルフ「ここ、エルフの里っていったけどさ、実は他には誰も住んでいないの。他の家はもう無人。空き家なんだ」
男「道理で…いやに静かだったわけだ」
エルフ「何年くらいになるかな、一人で住んでるんだよね」
男「一人で…」
エルフ「他のエルフはさ、都会暮らしに憧れてみんな出て行っちゃった。しょうがないよね、今まで精霊や魔法しか知らない暮らしをしていて、あんな科学と機械の技術を見ちゃったら…憧れちゃうよね」
エルフ「私はさ、ここが好きだから離れられなかった。離れたくなかった。だから…意地もあったんだろうね」
男「そうか…」
エルフ「なんていうか、誰かと話すなんて久しぶりで…へへ…つい舞い上がっちゃったのかなーあはははは…はは…」
ジワッ
男「お、おいおい、無くやつがあるかよ…」
アワアワ
エルフ「ん…ごめんごめん…あーやだなーなんかこんなに弱かったかなー私」
ポロ…ポロポロポロ
エルフ「あ…あはははは…ぐずっ…うぇぇっ…うぅ…」
エルフ「あ゛~~~~~」
この人序盤はまともなことが多いんだけどなぁ
序盤からまともじゃないのも多いから……
・ ・ ・ ・ ・
男「…落ち着いたか?」
エルフ「うん…」
ズズッ
男「まったく…女の涙ってのは…馴れなェもんだ」
エルフ「うん?」
男「いや、何でもない」
エルフ「はぁー、なんか恥ずかしいトコ見られちゃったなぁ」
男「ま、いろいろ張りつめていたモンが切れたんだろ。一人ぼっちはさみしいもんな」
エルフ「うん…ホント、さみしい」
キュッ
エルフ「さみしいもんだよ…」
ジッ
ウルウル
男(うっ、この目は…苦手だ…だから女っつーのは…はぁ)
男「…飯。ご馳走してくれンだろ?」
エルフ「あ…うん、嫌じゃ、なかった、ら…」
男「その言い方は…ずりぃな…」
エルフ「ごめん…」
男「謝らなくていいよ。ちょっとずるいくらいが女は可愛いもんさ」
エルフ「うん…って、可愛い!?」
カァァ
男「おいおい、なんだ、おだてに弱いのか」
エルフ「だだだ、だって、かかかか可愛いだなんて…」
男「はぁ…やっぱり苦手だ」
ぽつりと吐き出された言葉は
あるはずのない行き先を探して
くるくる回って、やがて消えた。
誰かが何かを思って生まれた言葉は
いつも、こんな風に
届く事無く、消えては消える。
【その偶然は実に厄介なもので…】
続く
可愛い
チョロかわいいね
・ ・ ・ ・ ・
エルフ「…はぁ」
男「落ち着いたか」
エルフ「ん、ありがと。で、ごめん」
男「気にしろ。もっとあやまれ」
エルフ「んなーっ、何それー!」
ムキーッ
男「はは、ちったァ元気になったか」
ハナ ツン
エルフ「むぅ…」
男「さて、と」
ガタ
エルフ「あ…」
男「ンな顔すんなって、帰るなんていわねーから」
エルフ「え、じゃあ…」
男「飯、作ンの手伝うから。こう見えても料理が趣味でね」
エルフ「へぇ、意外…」
男「台所案内してくれよ」
エルフ「あ、うん」
テクテクテク
エルフ「こっちこっち」
男「おう」
男「おっ、すげぇな、鍋や包丁の種類…おぉ、でけぇオーブン…随分豪華なキッチンだな」
エルフ「へへー、私も料理にはこだわってるからねー」
フフン
男「あっ、これ、あの有名メーカーの…」
エルフ「あ、分かる?これがねー…」
ワイワイ ガヤガヤ
・ ・ ・ ・ ・
エルフ「じゃじゃーん」
ズラッ
男「調子に乗って作り過ぎたな…食いきれんな、これが」
エルフ「ま、後で考えたらいいじゃない。食べよ食べよ」
男「おう」
パクリ パクリ
エルフ「んん!おいし!」
男「そうだろそうだろ、その唐揚げは自信作でな」
エルフ「はー、アレを隠し味に使うと、こんなにおいしくなるんだぁ」
男「ンフフフフ」
エルフ「ねぇねぇ、これ食べてよ」
男「ん、煮物か…ほう、冷たい…味もすっきりしていて、面白いな」
エルフ「えへー」
ニパァ
男「お、おぅ…」
その笑った顔が
まるで子供のように無邪気で
不覚にも胸が高鳴ってしまった。
【気をつけよう 不意の笑顔の ときめきに】
エルフ「ん?」
キョトン
男「ん、いや、何でもない」
エルフ「んー?」
・ ・ ・ ・ ・
エルフ「はーお腹いっぱい」
男「しっかし、食べてしまったな…もう満腹で動けんくらいだが」
エルフ「やー久しぶりだなーこんなに沢山食べたの。いやー満足満足」
男「見かけによらず食うのな、お前」
エルフ「でしょー、って…ねぇ?」
男「ん?」
エルフ「お前、じゃないんだけどなー私の名前はー」
男「ん、あぁ…」
エルフ「…」
ジッ ジーッ
男(めっちゃ見てるよ…これは察しろって事なんだろうな…はぁ、やっぱりこいつはずりぃや)
男「…で、何て呼びゃあいいんだい?」
エルフ「!」
ニパァ
エルフ「エル!私の名前は、エル!エルフのエル!」
男「…」
エルフ「…」
男「…エル」
エルフ「!」
ニパァ
エルフ「もっかい!もっかい!」
男「…はぁ」
男(まぁはしゃいじゃってもう…しかし、これが本当の彼女なんだろうな。最初会ったときの刺々しさが無い…この見た目より幼い無邪気な性格が…)
エルフ「んふー」
ニコニコ
・ ・ ・ ・ ・
カチャカチャ
エルフ「~♪」
ジャー
男(鼻歌まじりに洗い物をしている…ご機嫌だな)
ズズッ
男(で、俺は食後のコーヒーを飲んでいる訳だ。ま、こういうのも悪くない、か)
ズズッ
エルフ「フンフーン♪」
ジャー
男(…しかし、いよいよ帰るタイミングを逃したな…泊まっていけ、とか言うんだろうな…いや、それは…しかし…)
モンモン
【一人相撲 過度な期待か 自惚れか】
なんか標語みたいになってる…
ナレーターさんの今の流行は標語か……
【友三 心の俳句】
・ ・ ・ ・ ・
【夜も更けて 話す言葉もなくなって 視線が重なり さらにだんまり】
エルフ「…」
男「…」
シーン
男(気まずい…さて、どうしたもんか…もうこのタイミングで帰るとは言えないし)
エルフ「あ、の…」
男「お、おぅ」
エルフ「宿の当てはあるのかなー、なんて…」
男「…無い。そもそも、当ても予定も…無いようなもんだ」
エルフ「えっ…?」
男「まぁ、なんだ、色々あって。放浪してんだ、俺ァ」
エルフ「そ、そうなんだ、ふーん…」
乙!
男「あれ、あんま興味ないか」
エルフ「ん、あー…なんつーか、訊かない方がいいのかなーなんて」
男「へぇ、気遣いできるんだな、意外と」
エルフ「ありがと。最後の一言さえなければ…ね…」
ボゥッ
男「あぁごめんなさい頼むから火炎魔法は止めて…止めて」
エルフ「君さーよくそうやって息を吐くように酷いこと言えるね」
男「まぁお調子者の自覚はあるが…まぁなんだ、こんな会話の仕方しかできないんだよ」
エルフ「難儀だねぇ」
男「まぁな」
エルフ「…で」
男「おぅ」
エルフ「あの、さ…んーと、と、泊まっていきなよ…どうしてこんなとこまで来たとか、色々…色々、ちょっと訊きたい、かな…とか…」
男「…いいのか?」
エルフ「んー、この流れでやっぱダメ、ってーのも、ねぇ?」
男「そうか…」
エルフ「ん」
男「じゃあ、お願いします…で、いいか」
エルフ「ん」
男「…」
男(やれやれ、なんだかおかしなことになったな…ま、なんだっていいか。今の俺ァ、雲みてぇなもんだしな…)
【気まぐれに立ち寄り いつ去ろうか】
【とどまるのも また気まぐれか】
続く
乙!
チョロいわぁ
このエルフさんチョロインだわぁ乙
このあとめちゃくちゃまぐわった。
完
てのはダメかね
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