二宮飛鳥「空の月に手を伸ばして」 (35)
アイマス(主にデレ)×ぼくの地球を守って(ボクを包む月の光)
最近別のSSを書き始めたばかりなのに節操無く見切り発車
便宜上346プロという名称と設定を使っているけど、
アニメとは別の世界線のお話っつーことでお願いしまむら
◆
飛鳥「……ねえ、プロデューサー。月にはどうしたら行けるのかな?」
P「月? ……だったら、宇宙飛行士にでもなりゃいいんじゃないのか?
まあ、もしかするとお前が大人になる頃には、特に訓練を受けてない一般人でも
宇宙に行けるようになってるのかもしれないけど……
……しかし、何で急にそんな事を?」
飛鳥「……いや、特に理由はないんだ。
ただ、最近……月を眺めていると、どうにも心が騒ぐというか……
すぐ近くにあるように見えるのに、手を伸ばしても届かない……
そんな距離感にもどかしさを覚えるというか……」
P「……要するに『月に行きたい』って事か。
ほんと、お前の言い回しって無駄に回りっくどいよな」
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飛鳥「思春期の14歳なんてみんな多かれ少なかれこんな感じだろう?
キミにだって、思い当たる節があるだろうに」
P「やめろ。古傷をほじくり返すな。
……ところで、今コンポから流れてる曲……小林亜梨子か?」
飛鳥「ああ……この前のイベントでご一緒させて貰ってからこっち、すっかり彼女のファンになってしまってね。
あの穏やかで、しかしそれでいて力強い歌声を聞いていると……まるで、
地球の大気に包まれているような、あるいは母の胸に抱かれて眠っているような、そんな気持ちになれるんだ」
P「要するに『彼女の歌声を聴いてると心が穏やかになる』って事だな」
飛鳥「……ねえ、プロデューサー。ボクの発言を一々要約するのはやめてもらえないかな」
P「それが嫌ならもっと端的でわかりやすい発言を心がけるんだな。
しかし、意外だな。お前はもっと騒がしい音楽の方が好みだとばかり思っていたが」
飛鳥「別に騒がしい音楽が好きなんじゃなくて、
好きになった曲がたまたまそういう曲調であることが多いってだけだよ。
特定のジャンルに傾向しすぎて、本当に自分の好きな曲を見逃してしまうなんて、勿体無いだろう?」
P「どこぞのにわかロッカーに聞かせてやりたいねえ、そのセリフ」
飛鳥「にわか……ああ、李衣菜さんの事か。
あの人は普段からロックロック言ってる割に意外とミーハーだから、
結構ジャンル問わずに色々な曲を聴いてるみたいだけどね」
P「へえ、そんなんだ」
飛鳥「以前仕事で一緒になった時に色々と話をさせて貰ってね……
そういえば、小林亜梨子をボクに勧めてくれたのも彼女だったっけ──
とても面白いことに、彼女もさっきのボクと同じような事を言っていたよ。
その時の李衣菜さん、凄く儚げで……まるで普段とは別人のようだったな」
P「儚げ……あいつがか? 何というか、想像もつかないな……
……っと、そろそろ営業に出なきゃいけない時間だな。
お前はこれからレッスンだったっけ?」
飛鳥「ああ。……最近はソロでの仕事も増えてきたからってトレーナーさんがやけに張り切っててね、
どれだけハードなトレーニングをさせられるのかと思うと、今から正直気が重いよ」
P「それだけ期待されてるって事だろ。……ま、無理しない程度に頑張ることだな」
飛鳥「そっちこそ、あんまりスカウトに精を出しすぎて憲兵のお世話になったりはしないようにね」
P「はいはいわかってますよー……っと。んじゃ、行ってくるわ」
飛鳥「ん。行ってらっしゃい」
◆
飛鳥「ああ……疲れた。さっさと寮に帰ってゆっくりとお湯にでも浸かるとしよう」
飛鳥「……今日の月も綺麗だ。満月……は確か昨日だったから、今日は、十六夜の月」
飛鳥(……本当に不思議な気分だ。こうやって月を眺めながら歩いていると……
何かとても大切な事を……絶対に忘れてはいけないことを忘れてしまっているような、
ボクの中にいる知らない誰かが『私を月に連れて行ってくれ』と悲痛な声で叫んでいるような、
そんな錯覚さえ覚えてくる)
飛鳥(……そういえば、月に対して特別な感情を抱くようになったのは、
李衣菜さんに小林亜梨子のCDを借りて、聴いてからだっけ……
ふふ、ひょっとしたらあの人……実は地球人じゃなくて、月の住人だったりして……)
飛鳥「……まさかね。菜々さんじゃあるまいし」
「────」
飛鳥「……ん?」
飛鳥「歌声……? 噴水の方から?
一体誰が……」
李衣菜「────」
飛鳥「……あれは、李衣菜さん?
歌っているのは……小林亜梨子のデビュー曲か……」
飛鳥(しかし……この歌い方……まるで、小林亜梨子の生き写し……
という程ではないけれど、要所要所……細かい部分が妙に似ている……
いつもの元気で快活な歌い方もいいけど、中々どうしてこういうのも似合うじゃないか)
飛鳥(しかし……あの悲しげな、切なそうな表情。
前にも一度見たことがある……
まるで、彼女の体の中に、誰か別の人格でも入っているかのような……)
ヒラ…
飛鳥「……ん?
桜の花びら……? もう五月も半ばだというの……に……」
飛鳥(──顔を上げると、
そこには、
季節外れの、
満開の桜の木が──)
『あーあ。またやらかしちゃったのね、────』
『全く、あんたったらまたべそかいて……しょうがないわね。
あたしも一緒に怒られてあげるから、ついてきなさい』
李衣菜「あれ……飛鳥ちゃん?」
飛鳥(……気づくと、歌は止まっていた。
さっきまでの儚げな雰囲気は何処へやら、
彼女はいつもの変わらない様子でボクに声を掛けてくる)
飛鳥(あれだけ鮮やかに咲き誇っていた桜の花はいつの間にか綺麗さっぱり消えており、
残っているのは青々と生い茂る葉っぱだけ)
飛鳥(……今のは、白昼夢……だったのだろうか。
夜に見るそれを白昼夢と呼ぶのが適切かどうかは、知らないけれど)
飛鳥「……どうも。こんばんは、李衣菜さん」
李衣菜「こんばんは。……随分と疲れた様子だけど、
ひょっとして今までレッスンだった?
最近お仕事増えてきたから、トレーナーさんにみっちり絞られたんでしょ」
飛鳥「ええ、まあ。……李衣菜さんは、ここで自主練かい?」
李衣菜「うーん。まあ、半分はそんな感じかな」
飛鳥「半分?」
李衣菜「もう半分は……何というか。
仕事先でちょっと、本当に些細な事が原因でなつきちと喧嘩しちゃってさ。
それで憂さ晴らしに歌ってたって訳」
飛鳥「へえ……」
李衣菜「しかし、恥ずかしいな……正直、変だと思ったでしょ?
私がこういう、しんみりした感じの歌を唄ってるだなんてさ……」
飛鳥「……いや、そんな事はないよ。
確かに、普段のキミのイメージとはかなり離れていたとは思う。
だけど、ちゃんと曲の雰囲気を意識して歌うことが出来ていたし、別に変だとは感じなかったかな」
李衣菜「そ、そうかな?」
飛鳥「ああ。
……案外、普段歌ってるロック調の曲よりも向いているかもしれないね?」
李衣菜「うーん。さすがにそんな事はないと思うけど……
あ、そうだ。飛鳥ちゃん。どうせならもう一曲聴いていかない?
実はもう一つ、練習してる歌があってさ」
飛鳥「勿論。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだよ」
李衣菜「へへ……じゃあ、行くよ。
……まだ練習してる途中だから少しとちっちゃうかもしれないけど、
笑わないでね?」
李衣菜「────」
飛鳥(彼女が歌い始めた瞬間──まるで、空気が──世界が変わったかのような感覚)
李衣菜「────」
飛鳥(今、この瞬間──この、何の変哲もない広場の一角は、
多田李衣菜の世界<ステージ>と化していた)
飛鳥(……小林亜梨子の歌声が母の慈愛だとすれば、
李衣菜さんの歌声は、隣人に対する親愛……だろうか。
誰かの隣に寄り添い、支え、励ましてくれる……そんな歌声──)
李衣菜「────」
飛鳥(……ボク──、いや、あたしは、ボクは、この歌声を、
どこか、 で──
聴いたこと ある──
……ない?)
飛鳥(あれ……何か急に、体に、力が……入らな……)グラ…
李衣菜「──、 飛鳥ちゃん!?」
ドサ…
飛鳥(──ああ、桜が。
季節外れの、桜が、咲いて──)
飛鳥(桜だけじゃない。この広場にある草木全てが、
彼女の歌に呼応して、その生命を奮い立たせている──)
李衣菜「飛鳥ちゃん! 飛鳥ちゃん!」
飛鳥(あれ、李衣菜さん──額に、アザ、が──
まるで、────みたい……)
李衣菜「ああああ、どうしよう。こういう時は……きゅ、救急車!?」
──ああ。そんな顔をしないでよ、────。
あたしは、あんたの泣きべそ顔が、何よりも苦手なんだ──
◆
「……おはよう、────。」
「今日ね、あたし、夢を見たのよ」
「本当の本当におかしな夢。
あたし、その夢の中で、アイドルとして活動しててね──」
「何よりおかしいのは……その夢の中だとあたしはあんたより少し歳下で……
事務所の後輩として、あんたに世話焼かれてるのよ。
ほんと、傑作だと思わない?」
「……ねぇ。────。
何か言ってよ」
「あたしばっかり喋って、バカみたいじゃない。
ねぇってば……」
「キウ=ウィ──」
◆
飛鳥「……知らない天井……ではない、か」
飛鳥「ここは……事務所の医務室?」
飛鳥「そうか、ボク……李衣菜さんの歌を聴いてたら急に意識が遠くなって……」
飛鳥「時間は……午後の10時……大体2時間くらい眠っていたのか」
飛鳥「……何か、変な夢を見てしまったな」
飛鳥「所謂明晰夢……って奴かな。
あんなにリアルで、五感が確りと働いている夢、初めて見た……」
飛鳥「しかし……あのカプセルの中で眠っていた女性の額のアザ……
意識を失う前に見た李衣菜さんの額にも、あれと同じものが付いていた、ような」
李衣菜「あ、飛鳥ちゃん。目ぇ覚めた?」ヒョコッ
飛鳥「あ……李衣菜さん」
李衣菜「気分は大丈夫? どこか痛い所はない?」
飛鳥「ああ、うん。大丈夫。
えっと……キミがボクをここまで運んで来てくれたのかい?」
李衣菜「あーうん。そうだよ。ちょっと通りすがりの人の力を借りたけどね。
いやあ……私が歌ってる時に飛鳥ちゃんが急に倒れるもんだから、
もしかして私の歌が原因!? って本当に焦っちゃったよ……」
李衣菜「ちょっと様子を見た感じ、病気とかじゃなくて本当にただ寝てるだけっぽかったから、
とりあえず病院じゃなくて医務室に連れてきたんだけど……
どうやらそれで正解だったみたいだね」
飛鳥「……ふむ。どうやら、キミには本当に心配と、手間を掛けさせてしまったらしいね……
ありがとう。そして、ごめんなさい。……この御礼は、いつか必ずさせて貰うよ」
李衣菜「別に気にしなくていいって。
後輩が困ってたら助けるのは、先輩の務めだからね」
飛鳥「だけど……」
李衣菜「そこまで言うなら……そうだね。
ほら、最近346カフェに新しいメニューが出来たじゃん。
今度オフの日が合った時にそれを奢ってくれればいいかな」
飛鳥「……わかったよ。
それじゃあ、それで手打ちといこうじゃないか」
李衣菜「じゃあ、私はそろそろ家に帰るよ。
……色々と落ち着いてからでいいから、後で今後のスケジュールについてメールで教えてね?
それじゃ、また今度。お大事に──」
飛鳥「ああ。また今度……
っと、その前に一つ聞いてもいいかい?」
李衣菜「ん、なに?」
飛鳥「さっき、ボクが意識を失う直前、キミの額にキチェが浮かんでいたような気がするんだけど……
……キミは、それについて自覚はしているのかい?」
李衣菜「────……」
飛鳥「……李衣菜さん?」
李衣菜「ねえ、飛鳥ちゃん……君、今なんて言ったの?」
飛鳥「なんて……って……キミの額にキチェが、って……
……キチェ?」
飛鳥(あまりにも自然に口をついて出たから気づかなかったけれど……
『キチェ』とは一体何だ?)
飛鳥(なぜボクは、それをあたかも既知の単語であるかのように、
何の疑問も持たずに口から滑らせた?)
(──いや、何を言っているのよ、『あたし』は。
あたかもも何も、本当に既知の単語に決まっているじゃない)
飛鳥(そうだ。『ボク』は、この言の葉の意味を知っている。
キチェ──サージャリムの御使であるキチェ・サージャリアンの証)
(キチェ・サージャリアンは特殊なESP(サーチェス)を使う事が出来、
動植物と心を通わせたり、歌う事によって、植物の成長を促したりする事が出来る──
さっきこの子が桜の花を見事に咲かせてみせたみたいにね)
飛鳥(でも『ボク』は、これらの知識を一体どこで学習したんだ?
これまで地球で……KKで暮らして来た14年間で、こんな単語、見た覚えも聞いた覚えもない)
(そりゃそうでしょ、『あたし』。
だってこれは、まだ『あたし』がシアで暮らしていた時に、
お母様に読んで貰ったご本で学んだものなんだから──)
李衣菜「──落ち着いて、飛鳥ちゃん!」
飛鳥「ッ……! あたし、いや……ボクは、一体……」
李衣菜「……急に覚醒しちゃったせいで、頭がまだおっついてない、か。
……ごめんね、飛鳥ちゃん。やっぱり、君が倒れたのは私のせいみたいだ」
飛鳥「え、いや、そんな事、は……」
李衣菜「そんな事ある、の。
……ねえ。飛鳥ちゃん。これから大事な話をしなくちゃいけないから……」
李衣菜「……今晩は君の部屋に泊まってもいいかな?」
◆
李衣菜「……大丈夫? 落ち着いた?」
飛鳥「……何とか、ね。
まだ少し……整理が付いていない事もあるけれど……」
飛鳥「……教えてくれ、李衣菜さん。
さっきボクの頭の中を駆け巡った、ボクが本来知る筈のない、
だけど何故か知っている知識と、記憶……」
飛鳥「ボクの中で強く自分の存在を誇示してくる、ボクではないボク……」
飛鳥「あれは一体、何なんだ?」
李衣菜「…………
何というか、物凄く荒唐無稽な話になっちゃうけど、笑ったりしないでね?」
飛鳥「……笑わないさ。こんな衝撃的な体験をしたんだ、
今なら何を言われたって受け入れられるよ」
李衣菜「それじゃ、単刀直入に言うよ。
……君の言う記憶が私のそれと同じものだっていうのなら……
それはきっと、君の『前世』の記憶、なんだと思う」
飛鳥「前世……?」
李衣菜「そう。……私達、前世では宇宙人だったんだ」
飛鳥「……宇宙人」
李衣菜「……飛鳥ちゃん。ちゃんとついてこれてる?」
飛鳥「……ああ。大丈夫だよ。
……何となくだけど、少しずつ思い出して来ている、から」
飛鳥「そう、ボクは……『あたし』は……地球……KKに移住する為に……
星間戦争によって滅びに瀕した母なる星系から旅立った、宇宙船のクルーだったんだ」
飛鳥「乗組員は全部で10人。みんな、今のボクと同じくらいの子どもで……
船には月面の現地捜査員への支援物資や、彼らと親しかった人物達からの遺言(メッセージ)が積み込まれていた。
……今思い出せるのはこれくらい、かな」
李衣菜「……驚いた。覚醒から本当に間もないのに、
もうそこまで記憶を取り戻しちゃうだなんて」
李衣菜「普通は、夢で自分の前世の記憶を追体験する形で
少しずつ思い出していくものなんだけど……」
飛鳥「まあ、思い出せたのは殆ど知識ばかりで……
エピソードの方は、今一ハッキリしないけどね」
飛鳥「唯一確りと思い出す事ができたのは、さっき夢の中で見た……
SF漫画に出てくるようなカプセル……生体ポッド? の中で死んだように眠る……いや、あれは本当に死んでいるのか。
そう、生体ポッドの中で眠るキチェを額に浮かべた女性に向かって、
夢の中のボク……『あたし』が、悲しげに話しかける光景(シーン)だけ……」
李衣菜「…………」ピク
李衣菜「ねえ、飛鳥ちゃん。……その記憶の中で、その……眠っていた女の人……
前世の君は、何て呼んでたの?」
飛鳥「……え? ああ、確か……そう。
『キウ=ウィ』と──……李衣菜さん?」
李衣菜「…………っ」ブワァ
李衣菜「……やっと、やっと会えた──」
李衣菜「『チュウ=ヒ』──」ダキツキッ
飛鳥「ちょ、李衣菜さん!?」ビクゥッ
李衣菜「…………ヒグッ……グスッ」ポロポロ…
飛鳥「…………」
飛鳥「……不思議だね。こんなシチュエーション、初めて遭遇する筈なのに……
何でか……昔、何度もこういう事があったような気がするよ」背中ポンポン
飛鳥(しかし……ボクの前世と、李衣菜さんの前世は、
一体どういう間柄だったんだろう……)
飛鳥(……まさか、765プロの事務員さんが好きそうな感じの、所謂『百合』的な……)
飛鳥(…………)
飛鳥(…………う、ううむ)カオマッカ
飛鳥(……今は深く考えないようにしよう。
李衣菜さんが言うことが本当なら、夢の中で嫌でもその内に思い出す筈だから……)頭ナデナデ
◆
飛鳥(……あの後。
泣き疲れて眠ってしまった李衣菜さんをベッドに寝かしつけたボクは、
何となく彼女と一緒の部屋にいるのが気まずくなり、ラウンジのソファで横になっていた)
飛鳥「……ダメだ。全然眠気が来ない」
飛鳥(さっき少し眠ってしまったから、というのも原因の一つだろうけど……
何よりボクは、この自分の身に突如降って湧いて来た非日常的な出来事に、
まるで子どものように興奮してしまっていた)
飛鳥(……いやまぁ、実際子どもなんだけど)
「あ、あれ……飛鳥……さん?」
飛鳥「……ん?
ああ、小梅か。こんばんは」
小梅「こ、こんばんは……
え、えと……ど、どうしたんですか……こ、こんな時間に」
飛鳥「……なんて説明するべきかな。
まあ、色々あって、少し部屋に居辛くなっちゃってね」
小梅「へ、部屋に……?
ひょ、ひょっとして、ゴキブリが、出た、とか……?」
飛鳥「いや、そういう訳じゃないけれど……そういうキミは?」
小梅「え、えっと……さ、さっきまで、142'sのみんなと、
私の部屋で、え、映画を見てたんだけど……
そ、その、幸子ちゃんが、トイレから、出てこなくなっちゃって……」
飛鳥「ああ。それで、共用トイレを使う為に下まで降りてきた、と」
小梅「う、うん……」
飛鳥「……まあ、映画もいいけど夜更かしは程々にね。
……なんて、ボクにだけは言われたくないだろうけど。
キミ達だって、もう少し身長が欲しいとは思っているんだろ……う……」
小梅「……?(首かしげ」
半透明の女の子『……?』フヨフヨ
飛鳥「」
半透明の女の子『……ん?
あれあれ、そこのカッコイイお姉ちゃん。
ひょっとして、私の事見えてるの?』フヨフヨ
飛鳥「」
小梅「……え?」
小梅「あ、飛鳥さん……
あ、あの子のこと……み、見えるように……なった?(キラキラ」
飛鳥「…………」
飛鳥「そう……みたい、だね(顔真っ青」
あの子『もう。そんなに怖がらなくてもいいのに。
私は小梅ちゃんの友達に手を出すほど節操なしじゃないわよう』
飛鳥「……そ、そうか。
……ご、ごほん」
飛鳥「……ボクは二宮飛鳥。僭越ながら小梅の友人をさせて貰っているよ。
……キミの名前は、何て言うんだい?」
あの子『よろしくね、飛鳥お姉ちゃん。
私の名前は……ごめん、思い出せないや。なんせ、死んでから結構時間が経っちゃってるからねー
ま、適当にあの子とかその子とか……好きなように呼んでいいよー』
飛鳥「ああ、わかった。こちらこそよろしく」
小梅「で、でも……飛鳥さん……こ、この前までは……
あの子の事……見えてませんでした、よね……?
な、何で急に……?」
飛鳥「あーまあ……うん」
飛鳥(……思い当たる節はある、けど。
……あの話は、軽々しく他人に伝えてもいいのだろうか)
飛鳥(……まあ、明日李衣菜さんに相談してからにしよう。
とりあえず今は適当に対応しておくか……)
飛鳥「ええっと、実は……」
◆
飛鳥(……あの子の話術が意外に上手だったせいで随分と長く話し込んでしまい、
彼女らと別れた頃にはもうすっかり夜は明け、空が朝焼けで紅く染まっていた)
飛鳥(『レッスン帰りに広場で頭を強く打ったから、もしかしたらそれが原因かもしれない』
と伝えた時には、物凄く心配されてしまったけれど……
言い訳をするにしてももう少し内容を考えるべきだったかな)
飛鳥(現在の時刻は午前5時ジャスト。
李衣菜さんはそろそろ目を覚ましただろうか?)
飛鳥「ただいま……(小声」
シーン…
飛鳥「……反応はなし、か」
李衣菜「すぅ……すぅ……」
飛鳥(……確かに。こうやって寝顔を見ていると……
夢の中の女性……キウ=ウィの面影がなくもないような気がしてくる)
飛鳥(そういえば、ボクはまだ前世の自分の顔を見たことがなかったっけ。
李衣菜さん達と同じで、やっぱりボクとどこか似ていたりするのだろうか)
飛鳥「ふあぁ……」
飛鳥「……なんだか、今になって急に眠くなってきたな。
幸い今日は仕事もレッスンも入っていない筈だし、とりあえず昼頃まで眠ってしまおう……」
李衣菜「すぅ……すぅ……」
飛鳥「…………
……仕方がない。床で寝るか(ゴロン」
飛鳥(『前世の夢』……か)
飛鳥(…………)
飛鳥(……とりあえず、あの二人の関係がどんなものなのか、
早い所ハッキリさせたい、な──……)
マダー?
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