塩見周子「赤ずきん?」 喜多見柚「ゆずずきん!」 (23)

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「柚は準備、オッケーだよ!」


はーい。それでは赤ずきんの、はじまりはじまり……。



こほん。


むかしむかしあるところに、とても可愛らしい女の子がいました。


その女の子は、おばあさんからもらった赤いずきんを頭に……。


「パーカー!」


えっ?


「柚はパーカーがいいなっ」


え、えっと……じゃあ、パーカーにしますね。


その女の子は、おばあさんからもらった赤いパーカーをよく着ていました。


フードをかぶった姿がとってもよく似合っていたので……。


「ゆずずきん!」


……そう、みんなからゆずずきんと呼ばれていました。


「やった! ゆずずきんだっ♪」


ある日の事でした。お母さんが、ゆずずきんを呼んで言いました。


……あれっ、これも私の台詞ですか?


「そうだよー。ほら、早く早く」


「あっ、駄目だよおおかみサン! まだ出番じゃないよ!」


「ごめんごめん。出番来なくてヒマでさー」



いいですか? では、続けますね。


「赤ず……ゆずずきん、おばあさんが病気になってしまったの」


……あれ、おばあさん役って私ですよね?


「細かいことは、気にしないっ」


「そうそう。あたし達4人しかいないし」


そ、そうですか……そうですよね。よしっ!


「おばあさんのお見舞いに行ってきてくれるかしら。きっと喜ぶわよ」


「はーいっ! 柚におまかせっ」


「ありがとう、ゆずずきん。でもお母さん、用事があって一緒には行けないの」


「へーきへーき! 柚一人でも、大丈夫大丈夫っ♪」


「それじゃあ、このケーキとワインを持って行ってね。おばあさんも喜ぶわ」


ですが、ゆずずきんが一人でおばあさんの所に行くのは、これが初めてです。


お母さんは、ゆずずきんのことが心配で心配でなりませんでした。


「いい、ゆずずきん? 途中で道草をしてはいけませんよ」


「それから、おおかみには気を付けてね? 何を言われても、信じては駄目よ」


「はーいっ! ゆずずきん、行ってきまーす!」


ゆずずきんは元気よく、おばあさんの家へと出掛けて行きました。




……こんな感じで、良かったんでしょうか?


「うんうん、演技派って感じ。さすが泰葉だねー」


ふふ……ありがとうございます。


「泰葉チャン、本当にお母サンみたい!」


えっと……それは、喜んでいいのかな……?


……おばあさんの家は、赤ずきんの家から歩いて30分くらいの森の中にあります。


「こーんこんっ……あ、間違った。わおーん。おおかみだぞー」


楽しそうに歩いていたゆずずきんでしたが、そこにおおかみが近づいていました。


「……おっ、ゆずずきんだ。おーい、ゆずずきーん」


「あれ、おおかみサンだ。こんにちは、おおかみサン!」


おおかみはにこにこしながら、ゆずずきんに近づきます。


「こんなところに一人で来て、どしたのゆずずきん?」


「へへっ、よくぞ聞いてくれました! 柚はこれから、おばあサンのお見舞いに行くんだー♪」


「へぇー。ゆずずきんは偉いね。えらいえらい」


「ありがとっ、おおかみサン!」


おおかみは少し考えたあとに、にやりと笑ってゆずずきんに尋ねました。


「そのバスケットには、何が入ってるの?」


「ケーキとワインだよっ。おばあさんに持って行くんだー」


「なるほどなるほど。ゆずずきんのおばあさんって、どこに住んでるん?」


「このまままっすぐ! あと10分くらい?」


おおかみは、さらに考えました。


おばあさんの家を探して、おばあさんを食べてしまうには、もう少し時間が必要そうです。


「んー、なるほどね。ゆずずきん、いいこと教えてあげるよ」


「いいこと?」


「ゆずずきん、おばあさんにお花を持っていったらいいんじゃない? おばあさん喜ぶよー」


「あっ、確かに! ありがとおおかみサン!」


「さらに今なら……はい。うちの実家の和菓子まで付けちゃう」


「おおー……いいの、おおかみサン?」


「ん、いーのいーの。和菓子はゆずずきんにあげたんだから、お花でも見ながらのんびり食べなよ」


「へへっ、ありがとうおおかみサン!」


「それじゃ頑張ってねー。あたしはお散歩してこよっかな」


ゆずずきんはおおかみと別れて、さっそくお花を……。


「んっ……生八つ橋うまー♪」


……お花を見ながら、のんびりしていました。


ゆずずきんと別れたおおかみは、おばあさんの家に来ていました。


「へへっ、おばあさんの家はここだなー?」


とんとん、とドアを叩くと……あっ、私ですよね。


「はいはい、どなたでしょう?」


と、おばあさんの声がしました。


「ん、あたしあたし。ゆずずきんだよー。おばあさんのお見舞いに来たんだ」


それを聞いたおばあさんは、うれしそうに言いました。


「おや、ゆずずきんだったのね。いらっしゃい、鍵はかかっていないから、勝手に入っておくれ」


「はいはーい。それじゃあ遠慮なく……どーん!」


おおかみはドアを蹴破ると、ベッドに寝ていたおばあさんに飛びかかり……あっ、周子さん、待って! やめっ……!


「ふっふー……お腹すいたーん♪」


あっ、周子さ、そこはダメ……ひゃぁっ!?


ゆっ、柚ちゃっ、あとは任せ……ひゃっ、や、やめっ! あはっ、あははっ、くすぐったい、ですってばっ!


「えぇー……仕方ないなぁ」


「えーっと……がぶーっ! おおかみサンはおばあサンを食べてしまいました!」


「それからおおかみサンは、おばあサンの着ていた服を着て……」


「おおっ?」


やっ、ダメです! ダメですからね!?


「ダメだよ周子サン?」


「ちぇー」


「おばあサンになりすましたおおかみサンは、おばあサンのベッドに潜り込みました!」




「……大丈夫、泰葉チャン?」


ええ、なんとか……いっぱいくすぐられましたけど……。


「はい、泰葉チャン落ち着いて……」


ありがとう、柚ちゃん……ふう、あとは私がやりますね。


一方その頃、ゆずずきんは……。


「うーん、お花はこれくらいでいいカナ? そろそろおばあさんの家に行かなきゃ!」


やっとおばあさんの家に行くことを思い出しました。


「おばあサン、大丈夫かなー?」


その時、たまたま通りかかった猟師がゆずずきんに声を……あれ、乃々ちゃんは?


「あれっ、さっきまでここに……あーっ! いなくなってる!」


「また机の下とか……って、ここにはいないね」


ちょっと探してみましょうか。別の机かもしれませんし。



「あっ、いたいた。乃々ちゃんみーっけ」


「うぅ……なんでまた、もりくぼは猟師なんですか……ぜったいに猟師なんて向いてないんですけど……」


「まあまあ、乃々チャン。気にしない気にしないっ」


そうですよ。それに乃々ちゃんの衣装、とても似合ってますよ!


「あ、あぅ……」


気を取り直して……ゆずずきんがおばあさんの家に向かおうとした、その時でした。


「あ、あの……」


「あれ、どうしたの猟師サン?」


「この辺りにおおかみが現れるって聞いて、来たんですけど……というか、さっきおおかみと話しているのを見たんですけど……」


「そうだよ! やさしいおおかみサンだったかも? 生八つ橋くれたし」


「おおかみに餌付けされてるんですけど……」


「……あっ!? 確かに!」


「その、おおかみは嘘を付きますし、危ないので近づかないでほしいんですけど……」


「はーいっ! 分かりました!」


「もしおおかみを見つけたら……私に教えてください。私がもっとすごい猟師さんに伝えるので……」


「おおー……って、猟師サンはおおかみサンと戦わないの?」


「おおかみとか怖いですし……もりくぼにはむーりぃー……」


「そんなぁ、それじゃあおおかみサンと出会ったらどうするの?!」


「撃ちますけど……」


「えっ」


「死にたくないですし……」


おおかみを探しに行った猟師と別れ、ゆずずきんはおばあさんの家に着きました。


「あれっ? ドアがないよ?」


ゆずずきんは疑問に思いました。でも……


「おや、ゆずずきんかい? 今ちょっと換気をしてるんだ、入っていいよー」


「なるほどー。それじゃ、おじゃましますっ♪」


あっさり入ってしまいました。


「こんにちは、おばあサン! 具合は大丈夫?」


「あー、うん。もう大丈夫だよ。それより、そのバスケットのケーキが食べたいなー」


「はーい……って、おばあサン? どうしてケーキを持ってきたのが分かったの?」


「あっ」


おおかみは冷や汗を浮かべました。


それもそのはず、おばあさんはゆずずきんがケーキを持ってくることなんて知りません。


おばあさんになりすましたおおかみは、どうするのでしょうか。


「えーと、そう。あたしは鼻がいいからね」


「……そうだっけ?」


ゆずずきんは、おばあさんがいつもとは違うことにようやく気付きました。


「あっ! おばあサンの耳、とっても大きい!」


「それは、ゆずずきんの声をよく聞くためだよ」


「おばあサンの肌、すごく真っ白!」


「あたし、日焼けしたら赤くなっちゃうんだー」


「おばあサンの髪、サラサラできれい!」


「でしょ? よく聞かれるけど、地毛なんだよねー」


「えっと、それから……なんだっけ、泰葉チャン?」


……口ですよ、ゆずずきん。


「あ、そうそう♪ おばあサンの口は、どうしてそんなに大きいの?」


「おっ、ようやく聞いてくれたね。それは……」


「お前を食べるためだからだーっ!」


「わぁーっ!?」




おおかみはそう言うと、大きな口を開けてゆずずきんを食べてしまいました。


「へへへ、いただきまーすっ」


「お、お手柔らかに……ひぁっ!? しゅ、周子サン、そこはダメっ!」


「ほれほれー、ここかー? ここがええのんかー?」


「ひゃっ、くすぐったいってば! あはっ、あはははっ! やめてよ周子サンっ、あっ、ひゃぁぁぁっ!」


「あ、あの、もりくぼ帰っていいですか……」


……乃々ちゃん、私を一人にしないでください!


「でも……これは、ちょっと……」


……こほん。周子さん、そろそろ続けてもいいですか?


「あ、ごめんごめん」


「うぅ……ひどいよ周子サン……」


……えー、残念ながらゆずずきんはおおかみに食べられてしまいました。


「はー、美味しかったーん♪」


おおかみはおばあさんとゆずずきんを食べて、お腹がいっぱいです。


なんだか、眠くなってきました。


「ふぁぁー……んー、眠くなってきたなー」


おおかみはベッドに横たわると、すっかり眠ってしまいました。




「ぐがー、ぐおー」


「なんだか嫌な音が聞こえるんですけど……すっごく棒読みないびきなんですけど……」


たまたま近くを通った猟師が、おばあさんの異変に気付いたようです。


「えぇ……行きたくないんですけど……帰っていいですか……」


……乃々ちゃん、お話が進みませんから早く私達を助けて下さい!


「は、はいぃ……」


「あ、あの、おばあさんはいますか……というかドアが外れてるんですけど……」


猟師はびくびくしながら、銃を構えて中に入りました。


ベッドに近づくと……。


「ぐおー、ぐがー」


「ひぃっ、お、お、おおかみ、おおかみ……!!!」


突然おおかみに出くわした猟師でしたが、なんとかこらえました。


「すー、はー、すー、はー……え、えっと……どうしたらいいんでしょう……」


「ぐがー、すぴー」


猟師は、おおかみのお腹がとっても大きくなっていることに気付きました。


それにおばあさんの姿も、ゆずずきんの姿も見えません。


「あ、あれ……?」


おばあさんやゆずずきんは、おおかみに食べられてしまったのでは、と猟師は考えました。


「あ、あわわ……大変なんですけど……」


もしかしたら、おばあさんやゆずずきんはまだ生きているかもしれません。


「でも……た、助けるの……むーりぃー」


「乃々チャン、頑張って!」


「ぐー、ぐー」


「えっと……おおかみのお腹を切れば出てきますか……」


いいえ、もっといい方法を猟師は思いつきました!


「えっ?」


おおかみのお腹を思いっきりくすぐったら、おばあさんやゆずずきんがお腹から出られるかもしれません!


「ちょっ、泰葉! 台本とちが……」


今です、乃々ちゃん! 柚ちゃん!


「へへっ、周子サンかくごっ!」


「あっ、柚!? 泰葉!?」


今です、乃々ちゃん! 私達が押さえているうちに!


「ねっ、乃々ちゃん? ちょっと待とうよ、台本通りに……」


「えっと……もりくぼは食べられたくないので……」


「あっ、ちょ、乃々ちゃ……ひゃぁっ?!」





「あっ、あははっ、の、乃々ちゃ、やめっ、あたし、逃げられないのにっ、やっ、あっ、ひゃぁっ!」


「……」


「ちょっ、激しっ、やんっ! 待って、待って待って! あっ、あぁ……んっ!」


乃々ちゃん……いいえ、猟師のおかげで、おばあさんとゆずずきんはおおかみのお腹から出られました。


「……なんだかすごく喜びづらい気がする!」


「あの、周子さん、ごめんなさい……もりくぼも生きるのに必死なので……」


「あぅぅ……もうお嫁に行かれへん……」


「え、えっと……元気だしてください……」


おばあさんとゆずずきんを吐き出した衝撃で、おおかみは気絶してしまいました。


「や、やられたー。ばたんっ」


「やった! 柚、ふっかーつ!」


「あら、ありがとうねぇ、猟師さん」


「い、いえ……私は特に、何もしてませんけど……」


そして、おばあさんはゆずずきんに言いました。


「ゆずずきんや、庭にある石をいっぱい持ってきてちょうだい。悪いおおかみは、こらしめないといけないからねぇ」


「はーいっ!」


「え、もう十分こらしめれたんだけど……」


ゆずずきんが庭にある石を持ってくると……あ、どうしましょう。


「おおかみのお腹が開いてないから、石が詰め込めないんですけど……」


じゃあ食べさせましょう。


「えっ」


「くらえーっ!」


「わぁーっ!?」


こうしておおかみのお腹には石が詰め込まれました。


ゆずずきんとおばあさん、猟師はこっそり隠れて、おおかみが起きるのを待ちました。


「ふぁぁ……ん、よく寝たーん」


喉が乾いたおおかみは、川へ水を飲みに行きました。


「あれ、お腹が重い……食べ過ぎたかなー」


「ま、いっか……うわーっ」


おおかみが水を飲もうとしたその時、お腹の石が重くておおかみはバランスを崩してしまいました。


そしてそのまま川にどぼん、と落ちてしまいました。


「わー、お腹が重くて泳げなーい」


それを見た三人は、ほっと一安心。


悪いおおかみをこらしめて、大喜びです。


「やったーっ!」


「せ、正義は勝ちますけど……」


「これでめでたしめでたしだねっ!」


ゆずずきん、なにか忘れていませんか?


「えっ? なんだろ……あ、ケーキとワイン!」


違います。


「えー……?」


ほら、お母さんから言われたでしょう?


道草をしない、おおかみには気をつけて、って……。


「あ、確かに!」



……こほん。ゆずずきんはお母さんの言いつけを思い出しました。


そして、道草をしないこと、おおかみには気を付けることを自分に言い聞かせたのでした。


めでたしめでたし……。


――――――――――――――――――――


泰葉「めでたしめでたし……」


柚「……」


周子「……」


乃々「……」



柚「……柚たち、結構いけるかも!?」


周子「思いつきだったけど、結構楽しかったねー。あ、ケーキ食べよ?」


泰葉「そうですね……でもみんな、台本無視してませんでしたか?」


周子「でも泰葉だってアドリブしてたでしょ?」


乃々「元はと言えば周子さんが悪いのでは……?」


柚「周子サン、次はくすぐり禁止だよ?」


周子「あー、うんうん。流石にあたしも懲りたからね」


泰葉「それじゃあ、次は何をやりましょうか!」


乃々「ま、またやるんですか……」




ワイワイガヤガヤ……


P「……」


P「……そろそろ、机の前を返してくれないかなぁ」

以上で終わりです。
ありがとうございました

乙々

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