モバマスSSです。
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「柚は準備、オッケーだよ!」
はーい。それでは赤ずきんの、はじまりはじまり……。
こほん。
むかしむかしあるところに、とても可愛らしい女の子がいました。
その女の子は、おばあさんからもらった赤いずきんを頭に……。
「パーカー!」
えっ?
「柚はパーカーがいいなっ」
え、えっと……じゃあ、パーカーにしますね。
その女の子は、おばあさんからもらった赤いパーカーをよく着ていました。
フードをかぶった姿がとってもよく似合っていたので……。
「ゆずずきん!」
……そう、みんなからゆずずきんと呼ばれていました。
「やった! ゆずずきんだっ♪」
ある日の事でした。お母さんが、ゆずずきんを呼んで言いました。
……あれっ、これも私の台詞ですか?
「そうだよー。ほら、早く早く」
「あっ、駄目だよおおかみサン! まだ出番じゃないよ!」
「ごめんごめん。出番来なくてヒマでさー」
いいですか? では、続けますね。
「赤ず……ゆずずきん、おばあさんが病気になってしまったの」
……あれ、おばあさん役って私ですよね?
「細かいことは、気にしないっ」
「そうそう。あたし達4人しかいないし」
そ、そうですか……そうですよね。よしっ!
「おばあさんのお見舞いに行ってきてくれるかしら。きっと喜ぶわよ」
「はーいっ! 柚におまかせっ」
「ありがとう、ゆずずきん。でもお母さん、用事があって一緒には行けないの」
「へーきへーき! 柚一人でも、大丈夫大丈夫っ♪」
「それじゃあ、このケーキとワインを持って行ってね。おばあさんも喜ぶわ」
ですが、ゆずずきんが一人でおばあさんの所に行くのは、これが初めてです。
お母さんは、ゆずずきんのことが心配で心配でなりませんでした。
「いい、ゆずずきん? 途中で道草をしてはいけませんよ」
「それから、おおかみには気を付けてね? 何を言われても、信じては駄目よ」
「はーいっ! ゆずずきん、行ってきまーす!」
ゆずずきんは元気よく、おばあさんの家へと出掛けて行きました。
……こんな感じで、良かったんでしょうか?
「うんうん、演技派って感じ。さすが泰葉だねー」
ふふ……ありがとうございます。
「泰葉チャン、本当にお母サンみたい!」
えっと……それは、喜んでいいのかな……?
……おばあさんの家は、赤ずきんの家から歩いて30分くらいの森の中にあります。
「こーんこんっ……あ、間違った。わおーん。おおかみだぞー」
楽しそうに歩いていたゆずずきんでしたが、そこにおおかみが近づいていました。
「……おっ、ゆずずきんだ。おーい、ゆずずきーん」
「あれ、おおかみサンだ。こんにちは、おおかみサン!」
おおかみはにこにこしながら、ゆずずきんに近づきます。
「こんなところに一人で来て、どしたのゆずずきん?」
「へへっ、よくぞ聞いてくれました! 柚はこれから、おばあサンのお見舞いに行くんだー♪」
「へぇー。ゆずずきんは偉いね。えらいえらい」
「ありがとっ、おおかみサン!」
おおかみは少し考えたあとに、にやりと笑ってゆずずきんに尋ねました。
「そのバスケットには、何が入ってるの?」
「ケーキとワインだよっ。おばあさんに持って行くんだー」
「なるほどなるほど。ゆずずきんのおばあさんって、どこに住んでるん?」
「このまままっすぐ! あと10分くらい?」
おおかみは、さらに考えました。
おばあさんの家を探して、おばあさんを食べてしまうには、もう少し時間が必要そうです。
「んー、なるほどね。ゆずずきん、いいこと教えてあげるよ」
「いいこと?」
「ゆずずきん、おばあさんにお花を持っていったらいいんじゃない? おばあさん喜ぶよー」
「あっ、確かに! ありがとおおかみサン!」
「さらに今なら……はい。うちの実家の和菓子まで付けちゃう」
「おおー……いいの、おおかみサン?」
「ん、いーのいーの。和菓子はゆずずきんにあげたんだから、お花でも見ながらのんびり食べなよ」
「へへっ、ありがとうおおかみサン!」
「それじゃ頑張ってねー。あたしはお散歩してこよっかな」
ゆずずきんはおおかみと別れて、さっそくお花を……。
「んっ……生八つ橋うまー♪」
……お花を見ながら、のんびりしていました。
ゆずずきんと別れたおおかみは、おばあさんの家に来ていました。
「へへっ、おばあさんの家はここだなー?」
とんとん、とドアを叩くと……あっ、私ですよね。
「はいはい、どなたでしょう?」
と、おばあさんの声がしました。
「ん、あたしあたし。ゆずずきんだよー。おばあさんのお見舞いに来たんだ」
それを聞いたおばあさんは、うれしそうに言いました。
「おや、ゆずずきんだったのね。いらっしゃい、鍵はかかっていないから、勝手に入っておくれ」
「はいはーい。それじゃあ遠慮なく……どーん!」
おおかみはドアを蹴破ると、ベッドに寝ていたおばあさんに飛びかかり……あっ、周子さん、待って! やめっ……!
「ふっふー……お腹すいたーん♪」
あっ、周子さ、そこはダメ……ひゃぁっ!?
ゆっ、柚ちゃっ、あとは任せ……ひゃっ、や、やめっ! あはっ、あははっ、くすぐったい、ですってばっ!
「えぇー……仕方ないなぁ」
「えーっと……がぶーっ! おおかみサンはおばあサンを食べてしまいました!」
「それからおおかみサンは、おばあサンの着ていた服を着て……」
「おおっ?」
やっ、ダメです! ダメですからね!?
「ダメだよ周子サン?」
「ちぇー」
「おばあサンになりすましたおおかみサンは、おばあサンのベッドに潜り込みました!」
「……大丈夫、泰葉チャン?」
ええ、なんとか……いっぱいくすぐられましたけど……。
「はい、泰葉チャン落ち着いて……」
ありがとう、柚ちゃん……ふう、あとは私がやりますね。
一方その頃、ゆずずきんは……。
「うーん、お花はこれくらいでいいカナ? そろそろおばあさんの家に行かなきゃ!」
やっとおばあさんの家に行くことを思い出しました。
「おばあサン、大丈夫かなー?」
その時、たまたま通りかかった猟師がゆずずきんに声を……あれ、乃々ちゃんは?
「あれっ、さっきまでここに……あーっ! いなくなってる!」
「また机の下とか……って、ここにはいないね」
ちょっと探してみましょうか。別の机かもしれませんし。
「あっ、いたいた。乃々ちゃんみーっけ」
「うぅ……なんでまた、もりくぼは猟師なんですか……ぜったいに猟師なんて向いてないんですけど……」
「まあまあ、乃々チャン。気にしない気にしないっ」
そうですよ。それに乃々ちゃんの衣装、とても似合ってますよ!
「あ、あぅ……」
気を取り直して……ゆずずきんがおばあさんの家に向かおうとした、その時でした。
「あ、あの……」
「あれ、どうしたの猟師サン?」
「この辺りにおおかみが現れるって聞いて、来たんですけど……というか、さっきおおかみと話しているのを見たんですけど……」
「そうだよ! やさしいおおかみサンだったかも? 生八つ橋くれたし」
「おおかみに餌付けされてるんですけど……」
「……あっ!? 確かに!」
「その、おおかみは嘘を付きますし、危ないので近づかないでほしいんですけど……」
「はーいっ! 分かりました!」
「もしおおかみを見つけたら……私に教えてください。私がもっとすごい猟師さんに伝えるので……」
「おおー……って、猟師サンはおおかみサンと戦わないの?」
「おおかみとか怖いですし……もりくぼにはむーりぃー……」
「そんなぁ、それじゃあおおかみサンと出会ったらどうするの?!」
「撃ちますけど……」
「えっ」
「死にたくないですし……」
おおかみを探しに行った猟師と別れ、ゆずずきんはおばあさんの家に着きました。
「あれっ? ドアがないよ?」
ゆずずきんは疑問に思いました。でも……
「おや、ゆずずきんかい? 今ちょっと換気をしてるんだ、入っていいよー」
「なるほどー。それじゃ、おじゃましますっ♪」
あっさり入ってしまいました。
「こんにちは、おばあサン! 具合は大丈夫?」
「あー、うん。もう大丈夫だよ。それより、そのバスケットのケーキが食べたいなー」
「はーい……って、おばあサン? どうしてケーキを持ってきたのが分かったの?」
「あっ」
おおかみは冷や汗を浮かべました。
それもそのはず、おばあさんはゆずずきんがケーキを持ってくることなんて知りません。
おばあさんになりすましたおおかみは、どうするのでしょうか。
「えーと、そう。あたしは鼻がいいからね」
「……そうだっけ?」
ゆずずきんは、おばあさんがいつもとは違うことにようやく気付きました。
「あっ! おばあサンの耳、とっても大きい!」
「それは、ゆずずきんの声をよく聞くためだよ」
「おばあサンの肌、すごく真っ白!」
「あたし、日焼けしたら赤くなっちゃうんだー」
「おばあサンの髪、サラサラできれい!」
「でしょ? よく聞かれるけど、地毛なんだよねー」
「えっと、それから……なんだっけ、泰葉チャン?」
……口ですよ、ゆずずきん。
「あ、そうそう♪ おばあサンの口は、どうしてそんなに大きいの?」
「おっ、ようやく聞いてくれたね。それは……」
「お前を食べるためだからだーっ!」
「わぁーっ!?」
おおかみはそう言うと、大きな口を開けてゆずずきんを食べてしまいました。
「へへへ、いただきまーすっ」
「お、お手柔らかに……ひぁっ!? しゅ、周子サン、そこはダメっ!」
「ほれほれー、ここかー? ここがええのんかー?」
「ひゃっ、くすぐったいってば! あはっ、あはははっ! やめてよ周子サンっ、あっ、ひゃぁぁぁっ!」
「あ、あの、もりくぼ帰っていいですか……」
……乃々ちゃん、私を一人にしないでください!
「でも……これは、ちょっと……」
……こほん。周子さん、そろそろ続けてもいいですか?
「あ、ごめんごめん」
「うぅ……ひどいよ周子サン……」
……えー、残念ながらゆずずきんはおおかみに食べられてしまいました。
「はー、美味しかったーん♪」
おおかみはおばあさんとゆずずきんを食べて、お腹がいっぱいです。
なんだか、眠くなってきました。
「ふぁぁー……んー、眠くなってきたなー」
おおかみはベッドに横たわると、すっかり眠ってしまいました。
「ぐがー、ぐおー」
「なんだか嫌な音が聞こえるんですけど……すっごく棒読みないびきなんですけど……」
たまたま近くを通った猟師が、おばあさんの異変に気付いたようです。
「えぇ……行きたくないんですけど……帰っていいですか……」
……乃々ちゃん、お話が進みませんから早く私達を助けて下さい!
「は、はいぃ……」
「あ、あの、おばあさんはいますか……というかドアが外れてるんですけど……」
猟師はびくびくしながら、銃を構えて中に入りました。
ベッドに近づくと……。
「ぐおー、ぐがー」
「ひぃっ、お、お、おおかみ、おおかみ……!!!」
突然おおかみに出くわした猟師でしたが、なんとかこらえました。
「すー、はー、すー、はー……え、えっと……どうしたらいいんでしょう……」
「ぐがー、すぴー」
猟師は、おおかみのお腹がとっても大きくなっていることに気付きました。
それにおばあさんの姿も、ゆずずきんの姿も見えません。
「あ、あれ……?」
おばあさんやゆずずきんは、おおかみに食べられてしまったのでは、と猟師は考えました。
「あ、あわわ……大変なんですけど……」
もしかしたら、おばあさんやゆずずきんはまだ生きているかもしれません。
「でも……た、助けるの……むーりぃー」
「乃々チャン、頑張って!」
「ぐー、ぐー」
「えっと……おおかみのお腹を切れば出てきますか……」
いいえ、もっといい方法を猟師は思いつきました!
「えっ?」
おおかみのお腹を思いっきりくすぐったら、おばあさんやゆずずきんがお腹から出られるかもしれません!
「ちょっ、泰葉! 台本とちが……」
今です、乃々ちゃん! 柚ちゃん!
「へへっ、周子サンかくごっ!」
「あっ、柚!? 泰葉!?」
今です、乃々ちゃん! 私達が押さえているうちに!
「ねっ、乃々ちゃん? ちょっと待とうよ、台本通りに……」
「えっと……もりくぼは食べられたくないので……」
「あっ、ちょ、乃々ちゃ……ひゃぁっ?!」
「あっ、あははっ、の、乃々ちゃ、やめっ、あたし、逃げられないのにっ、やっ、あっ、ひゃぁっ!」
「……」
「ちょっ、激しっ、やんっ! 待って、待って待って! あっ、あぁ……んっ!」
乃々ちゃん……いいえ、猟師のおかげで、おばあさんとゆずずきんはおおかみのお腹から出られました。
「……なんだかすごく喜びづらい気がする!」
「あの、周子さん、ごめんなさい……もりくぼも生きるのに必死なので……」
「あぅぅ……もうお嫁に行かれへん……」
「え、えっと……元気だしてください……」
おばあさんとゆずずきんを吐き出した衝撃で、おおかみは気絶してしまいました。
「や、やられたー。ばたんっ」
「やった! 柚、ふっかーつ!」
「あら、ありがとうねぇ、猟師さん」
「い、いえ……私は特に、何もしてませんけど……」
そして、おばあさんはゆずずきんに言いました。
「ゆずずきんや、庭にある石をいっぱい持ってきてちょうだい。悪いおおかみは、こらしめないといけないからねぇ」
「はーいっ!」
「え、もう十分こらしめれたんだけど……」
ゆずずきんが庭にある石を持ってくると……あ、どうしましょう。
「おおかみのお腹が開いてないから、石が詰め込めないんですけど……」
じゃあ食べさせましょう。
「えっ」
「くらえーっ!」
「わぁーっ!?」
こうしておおかみのお腹には石が詰め込まれました。
ゆずずきんとおばあさん、猟師はこっそり隠れて、おおかみが起きるのを待ちました。
「ふぁぁ……ん、よく寝たーん」
喉が乾いたおおかみは、川へ水を飲みに行きました。
「あれ、お腹が重い……食べ過ぎたかなー」
「ま、いっか……うわーっ」
おおかみが水を飲もうとしたその時、お腹の石が重くておおかみはバランスを崩してしまいました。
そしてそのまま川にどぼん、と落ちてしまいました。
「わー、お腹が重くて泳げなーい」
それを見た三人は、ほっと一安心。
悪いおおかみをこらしめて、大喜びです。
「やったーっ!」
「せ、正義は勝ちますけど……」
「これでめでたしめでたしだねっ!」
ゆずずきん、なにか忘れていませんか?
「えっ? なんだろ……あ、ケーキとワイン!」
違います。
「えー……?」
ほら、お母さんから言われたでしょう?
道草をしない、おおかみには気をつけて、って……。
「あ、確かに!」
……こほん。ゆずずきんはお母さんの言いつけを思い出しました。
そして、道草をしないこと、おおかみには気を付けることを自分に言い聞かせたのでした。
めでたしめでたし……。
――――――――――――――――――――
泰葉「めでたしめでたし……」
柚「……」
周子「……」
乃々「……」
柚「……柚たち、結構いけるかも!?」
周子「思いつきだったけど、結構楽しかったねー。あ、ケーキ食べよ?」
泰葉「そうですね……でもみんな、台本無視してませんでしたか?」
周子「でも泰葉だってアドリブしてたでしょ?」
乃々「元はと言えば周子さんが悪いのでは……?」
柚「周子サン、次はくすぐり禁止だよ?」
周子「あー、うんうん。流石にあたしも懲りたからね」
泰葉「それじゃあ、次は何をやりましょうか!」
乃々「ま、またやるんですか……」
ワイワイガヤガヤ……
P「……」
P「……そろそろ、机の前を返してくれないかなぁ」
以上で終わりです。
ありがとうございました
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