天津風「遠回しな我儘」 (27)
<指令室>
提督「ふう、溜まった書類の処理も一区切りついたな」
天津風「ご苦労様、あなた」
提督「天津風、付き合ってくれてありがとな。お前がいなかったらこの山のような書類は今頃どうなっていたか…」
天津風「もう、指揮能力は高いのに、こういう仕事はサボって溜めちゃうんだから」
提督「返す言葉もないな」
天津風「反省の言葉を返してほしいんだけどね」
提督「…うん、そろそろ休憩しようじゃないか」
天津風「はあ、全くもう…。まあいいわ、休憩にしましょう」
提督「よしきた、たまには俺が茶を入れよう」
天津風「あら?あなたに私の淹れるお茶より美味しいお茶を淹れられるのかしら?」
提督「…うん、茶を頼むよ天津風」
天津風「ふふ、じゃあ少しだけ待っててね」
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。。。。。。。。。。。。。
天津風(茶葉の量は、普通より少し多め)
天津風(お湯の温度は、沸騰したお湯に氷を一個溶かした温度)
天津風(浸出時間は、少し長めにして、甘みと渋みを強く出す)
天津風(これが、あの人の好みの味)
天津風(私だけが淹れられる、味)
天津風「…よし、完璧」
天津風(仏頂面なあの人が、このお茶を飲んで少しだけ見せる、綻んだ顔)
天津風(そんな顔を見ることが出来るのは、きっと私だけで)
天津風(その顔は、私が大好きな、あの人の表情)
天津風(だから、その表情を見られるこの時間は、私が楽しみにしている時間)
天津風「お茶、淹れたわよ」
提督「ああ、ありがとう。それじゃあ頂くと…」
ガチャ!!!
島風「提督たーだいまー島風帰投したよー!!」
雪風「しれぇ!雪風も帰投しました!!」
時津風「たっだいまー時津風もー」
提督「ん、お帰り」
天津風「お帰りなさいっていうか、あなた達もうちょっと静かに入りなさいよ」
時津風「うるさいのはこの二人だけだよー」
島風「それよりも!今日は私がMVPだよMVP!提督、ご褒美にかけっこしよ!しよ!」
雪風「雪風も島風ちゃんと同じくらい頑張りました!」
時津風「あ~じゃあ私も頑張ったよ~だからさ、ご褒美を~へいっへーいっ!」
天津風「私たちは今休憩中、ご褒美の話は後にして頂戴」
島風「天津風には聞いてないよ~だ」
時津風「よ~だ」
雪風「よ~だぁ!」
天津風「なんですって~!?」
提督「まあ落ち着け天津風、いいぞ島風、かけっこするか」
島風「やったー!」
天津風「ちょ!」
天津風「あ、あなた何言ってるの!さっきまであんなに仕事して疲れてるっていうのに!」
時津風「そうだよしれー、あたしはご褒美にアイスが食べたいんだよー」
天津風「時津風は黙ってて!っていうかさりげなく要求しない!」
提督「まあいいじゃないか、こいつらも頑張ったんだし、ご褒美くらいあげないとな」
天津風「でも…」
雪風「しれぇ!雪風はあんみつが食べたいです!」
提督「ああいいぞ、それじゃあ島風とかけっこした後みんなで間宮のとこにでもいこう」
雪風「やったー!しれぇ!ありがとうございます!幸運の女神のキスを感じちゃいます!」
提督「天津風も一緒にいこう、少し長めの休憩ってことでさ」
天津風「…私は行かない、疲れてるから」
提督「天津風…」
島風「提督!はやくいこうよ~」ガシッ
提督「おっと、待て待て引っ張るな今行くから…」
時津風「まてなーい」ギュー
雪風「はやく行きましょうしれぇ!」ギュー
ギィ
バタン
天津風「…」
天津風(ああもう!何よあの子達ほんっとうに我儘なんだから!)
天津風(あの人は仕事で疲れているっていうのに、休憩中にまで我儘いうことないじゃない!)
天津風(せっかく、美味しいお茶も淹れたっていうのに!)
天津風(…あの人と二人でお茶を飲むこの時間を、楽しみにしていたのに)
天津風「…」
天津風「ああ、もう…」
天津風(結局、あの子達と同じじゃない)
天津風(私は、あの子達が羨ましい)
天津風(あの人に、あんなに率直に、素直に、我儘を言えるあの子達が)
天津風(そして、あの人はそんなあの子達の我儘をすんなりと受け入れる)
天津風(私も、あの人に率直に、素直に、我儘を伝えたい)
天津風(『私と、一緒にお茶を飲みましょう』と)
天津風(だけど、私にはそれが出来ない)
天津風(出来ないから、そうなるように、努力した)
天津風(仕事をしっかりこなせるようになって、秘書艦としてあの人の傍に長くいられるよう努力した)
天津風(あの人の好みのお茶も淹れられるよう試行錯誤した)
天津風(全ては私の我儘の為、率直に伝えることの出来ない私が出来る唯一の方法)
天津風(そんな、私の遠回しな我儘)
天津風(そんな遠回しな、あの人が気づけないくらいに遠回しな我儘…)
天津風(あの人が気づけないのに、どうやって受け入れてもらえるというのだろう)
天津風(私は、あの人が気づけないくらいに遠回しに我儘を伝え、受け入れてもらえないことに苛立ち)
天津風(そして、率直に我儘を伝え、受け入れられているあの子達に、嫉妬している…)
天津風「はぁ…」
天津風「なんて、面倒で、我儘な女なんだろう…私」
天津風(自分が、嫌になる)
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
~数時間後~
天津風「…」zzz
天津風「…ん」
天津風「あれ…私いつの間にか、寝ちゃってた…?」
提督「起きたか、天津風」
天津風「あなた…あ!し、仕事!」ガバッ!
提督「ああ、それならもう終わらせたよ」
天津風「え!?」
提督「天津風、疲れてたんだろ?だから起こすのも悪いと思ってな」
天津風「べ、別に疲れてなんか…それにあなたこそ」
提督「俺の疲れなんて大したことないさ、気にするな」
天津風「で、でも私は秘書艦として…」ハッ
仕事をしっかりこなせるようになって、秘書艦としてあの人の傍に長くいられるよう努力した
天津風「…ごめんなさい、秘書艦失格ね…」
提督「だから、気にするなって」
天津風「ごめん、なさい…」
提督「…」
提督「まあ、起きたばっかで喉が渇いたんじゃないか?この茶でも飲め、な?」コト
天津風「…ありがとう」
天津風「…」チョピ
天津風「っ!?」
天津風(…ま、不味い)
提督「やっぱ、不味いか。やっぱお前のようにはいかないな…」
天津風「え、これあなたが…」
提督「ああ、茶飲みたくて、試しに自分で淹れてみたんだが…」
提督「どうにも上手くいかなくてな、不味い茶しか淹れられなかったんだ」
提督「こんな不味い茶だと、碌に休憩もとれやしない」
提督「仕事だって、天津風が分かりやすく書類をまとめてくれなかったら、こんなに早く終わらなかった」
天津風「…?」
提督「あ~だからな…」ポリポリ
提督「やっぱり、俺にはお前が淹れた茶と、お前が、必要みたいなんだ」
天津風「え…」
提督「なあ天津風、これは、俺の我儘だ」
提督「これからも、俺の傍で、俺の為に、茶を淹れてくれないか?」
エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
天津風「…!」
受け入れてくれた
私の遠回しな我儘を
あの人は、受け入れてくれた
自身の我儘として
私の我儘を、受け入れてくれたのだ
気づいているのかはわからない
本当は気づいていないのかもしれない
けど、けど
ああ、なんて
なんて、遠回しな受け入れ方なんだろう
天津風(ああ…どうしよう)
初めて、受け入れてもらえたから
天津風(嬉しい…)
感情が、昂ぶる
天津風(嬉しい、嬉しい!)
感情が、抑えられない
天津風(こんなにも、こんなにも、嬉しいことが、あるなんて…!)
提督「天津風?」
天津風「ええ…ええ!私も、私も…!」
天津風「あなたの傍で、あなたの好きなお茶を、淹れてあげたい…」
天津風「あなたと、一緒にいたい…」
提督「…ありがとう天津風、俺の我儘、受け入れてくれて」
天津風「ううん、いいの…私の方こそ、ありがとう…」
私の遠回しな我儘に、彼は遠回しに受け入れてくれる
天津風「…仕事、終わったんでしょ?じゃあ早速お茶、淹れてあげる」
そんな遠回しな、少し面倒な私達
天津風「これから一緒に、二人でお茶しましょう」
だけど、それはきっと、私たちの理想の形
提督「…ああ、そうだな。頼むよ天津風」
遠回しで、面倒で、だけど素敵な
天津風「うんと、うーんと美味しいお茶、淹れてあげる」ニコッ
二人だけの我儘
終わり。
じゃあの
乙
こんなきれいな話ひさびさに読んだ
乙ですの
いい雰囲気だ
乙
こんなに嬉しいことはない
このSSまとめへのコメント
こういう雰囲気大好きです。
和みます