モバP「籠の中の鳥」 (18)
モバマスSSです。
かごめかごめ。かごの中の鳥はいついつでやる?
「かごの中の鳥…」
その歌を聴いた時、言いようのない感覚に襲われた。
籠の中に入れられた鳥。
私と同じ。
どこまで頑張っても自分の力ではどうにも出来ない。
そして、それを理解する度に頑張ることを止めて、ただ人の望むような愛玩動物になる。
「同じ…」
こんなところでシンパシーを感じてもしょうがないのだが感じずにいられなかった。
何かをしようと思っても、仕事が先回りをする。
不満げな顔をしていてもカメラを向けられれな反射的に笑顔に変わる。
向こうからすれば体のいい人形扱いだ。
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「どうやって笑うんだっけ?」
鏡の前で自分の頬をつまみながら独り言を呟く。
ここにはカメラはない。
思い通り、自分の笑顔を自分に見せてあげればいい。
たったそれだけのことが出来なかった。
ぐにぐにと頬をマッサージしてみても無表情に戻ってしまう。
試しに自分の映っている雑誌を見て笑顔を真似しても、どこか歪で気分が悪くなるような笑顔だった。
誰かに言われれば出来るのに。
そう考えて時点でハッとして鏡を見直す。
そこには無表情の人形のような顔があった。
親の言いなり。
事務所の言いなり。
唯々諾々とやれば、万事上手くいっていた。
それでも、一抹の不安があった。
数年前、ほとんど覚えていないが、事務所には同じ年の子が一杯いたはずなのだ。
たまに事務所に顔を出しても常に顔見知りが何人かいて、僅かな時間でも遊んでいたはずだった。
だけど、ある日を境にそんなことはなくなってしまった。
同じ年の子は日に日に少なくなり、遂には事務所に顔を出しても会うことは片手で数えられるほどになった。
ある日、そんな疑問を親にぶつけてみた。
みんなはどこに行ったの?と。
親は曖昧な笑顔で答えをはぐらかしたのを覚えている。
そして、その日から更にレッスンが厳しくなった気がした。
それからしばらくして、私は、芸能人としてそれなりのキャリアを積み国民的とは言われないまでも、知ってる人は知っているレベルになっていました。
両親が思う通りに成長し、型に嵌められたような私が一人歩きして得た名声だった。
勿論、悪いことばかりではないのは事実だ。
ただ、雑誌などを見て褒められてもそれは自分によく似た別人。
そんな風に思うことが日に日に多くなってきた。
ジキルとハイドではないが、いつしか私というものはなくなり、見ている人が思い描く私が私になっていく気がしていた。
そのことは分かっていた。
だけど怖かったのだ。
今の生活が崩れるのが。
だって、私はこの生き方しか知らないから。
誰かに求められ、それに忠実に答えるという生き方しか。
わかっていた。認めたくはなかっただけで。
忠実に要求に答え、自分の力では何も出来ないと籠を作る度に、いつしか夢や希望、上を見ることを止めて、下を見ながら現状に満足していた自分を。
久々の休みに気分転換で街に繰り出していた。
趣味のドールハウスに必要な材料を買いに来ていたのだ。
ふと、この箱庭の中にいるドールは何を考えているのだろうと考えることがある。
箱庭以上の外を知らないから幸せなんだろうという結論に至り、買い物を続けていた。
「すみません」
そんな時、声を掛けられてしまった。
恐らくファンだろう。
悪気はないに違いない。
極力失礼のないように慣れた動作で不満げな顔を隠し笑顔で応対する。
「はい?なんでしょうか?」
振り向くとそこにはスーツ姿の男性が立っていた。
普段見ている人たちに比べて随分と若く感じられた。
こんな人も私のことを知っているのだと思うと少しだけ誇らしくなった。
「いや、ですね。私こういうものなんですけど…」
若い男はそう言って名刺を差し出す。
その時点で私は興味を失っていた。
なんだ。そういうことか。
スカウトか。
誇らしく思った数瞬前の自分が恥ずかしくなった。
「私、そういうのは遠慮してるんですけど…」
「そうですか…。あ、でも一応貰っといてください」
流石にそう言われてしまうと断るのも悪いので見る気もない名刺を受取ると一度だけ頭を下げて買い物に意識を戻した。
「アイドルの事務所なんです」
後ろで声が聞こえた。意に介さず買い物を続ける。
「いつか機会があれば来てください」
まだ何か言っていた。そこまで大きい声ではないが、これではカップルの修羅場そのものではないか。
そろそろほかの買い物客の目が痛いからやめて欲しい。
「私自身がステージに立って何かすることは出来ません。だけど、アイドルと一緒に歩いていくことは出来ます。それでは失礼しました」
そうとだけ言い残して彼は消えた。
一体なんだったんだろう。
「一緒に歩くか…」
そんな簡単に物事が上手くいくのだろうか。
もう買い物をする気分じゃなくなっていた。
買い物に使う予定だった時間を使って見る予定のなかった名刺に目を通す。
CGプロ。
知らない名前だった。
調べてみると何人かアイドルは所属しているみたいだ。
事務所に行く気はないが、少しだけ話を聞いてみようと言う気になった。
聞いてみたいことがあったから。
「すみません。先ほど名刺をいただいた者ですが——」
早速約束を取り付ける。
場所は何があってもいいように行きつけの喫茶店に指定した。
ここなら何が起きても店員さんが味方になってくれるので心強かった。
「あ、すみませんお待たせしましたか?」
「いいえ。お気になさらずに」
まるで飼い主を見つけた犬のような笑顔で私を見つけると前の椅子に座った。
「単刀直入にお聞きします」
「はい。どうぞ」
「私を誰だか知っていますか?」
「えっと……」
彼はそこで言い淀む。知らないのだろうか。
「すみません…」
彼は申し訳なさそうに頭を下げる。
正直知られていないことに少しだけ落胆したが、それ以上に別の疑問が頭を過った。
「あの、それじゃ…。なんで私になんか声を掛けたんですか?」
こんな私に。
自分じゃ何も出来ない私に。
「えーっとですね。笑顔が素敵だったからです」
「は?」
思わず声が出てしまった。
それが嘘だとすぐに分かったから。
だって誰も見ていないときにさえ笑えないのだ。
それとも、声を掛けられた時の作り笑顔が素敵とでも言いたいのだろうか。
どちらにしろ皮肉を言っているように聞こえた。
「嘘は嫌いです」
「嘘じゃないよ。いや、何て言うかな…」
そこで突然彼は考える素振りを見せる。
何かを悩んでいるかのようだ。
そして意を決したように私を見つめた。
「えーと、正確には…声を掛ける前の笑顔は素敵だったよ。自然で」
「私、笑ってましたか?」
「うん。だからこそ声を掛けようと思ったわけで」
「なるほど…」
予想外の答えに動揺しながら、砂糖をたっぷりと入れたコーヒーに口を付ける。
甘くて苦い味が口の中に広がる。
「その顔を見てこれだっ!って思ったんだよ。その笑顔を他の人に分けてやって欲しいんだ」
「いや、でも、私そんな感じじゃないですし…」
「勿論、一人でそんなことをやれなんて言いません。一緒に頑張っていきませんか?」
一緒に。
久々にそんな言葉を聞いた気がする。
今までは足の引っ張り合いはあったけど、誰かと一緒に何かをしようと言われたのは久々だった。
自然と口が綻ぶ。
胸のあたりがじんわりと温かくなったのを感じた。
「そう、その顔ですよ」
「そ、そうですか…」
「はい。俺…いや、私にはあなたがステージで輝く姿が見えます」
彼はそういって手を差し出す。
傷ついた社会人の手だった。
籠のカギは目の前にあった。
私がそれを手に取れば籠は崩れ、青空が広がるだろう。
16年もいたんだ。
そろそろ自分の足で歩いてもいいはずだ。
だって私は人形じゃないんだから。
「言っておきますけど、私をアイドルにしようと思ったら大変ですからね」
「一緒に頑張りましょう」
本当に分かっているのか疑問だったが、そんなことも些細なことだと感じられた。
「私は一人じゃ何も出来ないかもしれません。もしかしたら、人形に戻ろうとしてしまうかもしれません。だから支えて下さい。一緒に歩いて下さい。私は信じます。だから、あなたも私を信じて下さい」
私はその手を強く握った。
私が本当のアイドルになるのはまた別の機会にでも。
おしまいです。
言葉通り、また続きは書き溜めてから投稿したいと思います。
見て下さった方ありがとうございました。
乙
これはあの人かな
おつにょわ
これからが楽しみ
岡崎先輩?
岡崎先輩っす。書き忘れてました。
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