【未来話】堕落人 (8)
それは魔物と呼ばれる生き物が存在する世界での話、魔物は人間を襲い、人々は困り果てていました。
人間は剣術のみを扱うのに対して、魔物は魔法という謎の技を使えるので、為す術がありません。
しかし、唯一魔物に対抗出来る人間が存在しました。
それは人々を通じてこう呼ばれる様になりました。
“勇ましき者”、勇者と——
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とある街道沿い、昼の日差しが照りつける街中はなんとも騒がしく、人々は活気に満ちていました。
勇者「あーもー、ちっとも売れねぇよ」
そう呟く彼の開く屋台には雑草の束と川原の石ころ、しかし札には“薬草”と“精霊石”と表記され、双方高い値がついていました。
勇者「そこのお人、薬草はいらないかい? 今なら安くするぜ?」
彼が旅の人に声を掛けましたが、返ってきたのは吐き捨てた唾でした。
それもその筈、薬草と雑草の違いは歴然、形状も色合いも全く違うので余程の阿呆で無い限り間違える筈が無いのです。
しかし何故、かの勇者とあろう者がそんな詐欺行為をしているのか。
それにはなんとも浅い理由がございました。
それは三日前程のお話、勇者がまだ女のヒモという肩書きを持っていた頃でございました。
彼は幼少から自らの美貌を巧みに使う事に長けており、成人を迎える頃には複数人の女性のヒモとして暮らし、女、酒、賭け事に塗れた大変堕落した生活を送っておりました。
そんなある日、女を抱いて得た金で風俗に行こうとした彼の両脇を、二人の兵士が取り囲み、瞬く間に連行されてしまいました。
彼をよく知る人物は“とうとう何かしでかしたか”とか“ようやく豚箱入りか”等、まるで予想していたかの様な口振り。
それだけ彼は良く思われていない訳だが、そんな人物達の予想を覆す、とんでもない情報が皆の耳に入りました。
今まで自堕落に生きてきた彼が、国王が設けた特別役職【勇者】に選ばれてしまったのです。
未だ謎の多い魔物を調査する事を目的とされた役職で、武器屋や宿屋の大幅な割引と、村人の安心サポートが保証されるなんとも高待遇なもの。
しかし、彼は勇者になる事を拒否しました。
国王には“私に人類を背負う覚悟なんてありません”と潔く断っている。
しかし、本音では“宿屋の割引は魅力的だが、堂々と娼婦が呼べねぇ”等と、なんとも下衆な理由でした。
しかし国王に上手く乗せられて、なんとも呆気なく乗せられ、後先考えず引き受けてしまいました。
それに対して深く反省していましたが、彼には不安の種がまだありました。
るせえよ 俺達今 悪魔限界皆無なんだ サラシナ物理だ 6400p
彼は戦闘経験が無い事は勿論、部具になど一度だって触れた事すら無いのです。
しかし持ち前の頭脳を生かして、仲間を募集して戦闘面を任せ、自分は経済面を担当すればいいという、ヒモ丸出しの考えに至りました。
けれども今までヒモとして暮らしていた彼は、経済的な知識に貧しいのは必然的、そもそも彼は強き者のヒモとして居ればいいという魂胆でした。
いや まだ サラシナ物理だ 8500p
勿論いくら肩書きが高位であろうが、明らかに非力な人間に着いて行く者なんて滅多に居らず、酒場に来た彼はアウェーな空気を感じて、誰も仲間に引き入れる事無く去りました。
それから彼は別の街に行く為の資金を稼ぐ為に商売を始めるが、当然素人の猿真似以下とも言えるやり方は客の目に留まる事無く、現在に至ります。
勇者「くそ、本当なら女から金を巻き上げれば済む話なんだがなぁ」
そんな事をすれば一気に噂が広がる事を理解しているのか、ヒモ時代の女性とは全く会わないよう心掛けているようです。
?「おい、そこの」
そんな勇者に声を掛けてくれる者が現れました。
勇者「へいらっしゃい! 何かお探しで?」
駐屯兵「紛い物を売り付けているアホがいると聞いてな、取り敢えずこい」
勇者「そんなぁあああああ!!!!!」
勇者は連れていかれました。
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