勇者「逃げるは恥だが役に立つ」 (19)


魔王城――

魔王「来たか、勇者」

勇者「魔王! 今こそ山ごもりの成果を見せてやる!」

魔王「バカめ……返り討ちにしてくれるわ!」

勇者「いくぞっ!」

魔王「カアアッ!」

ズガァンッ!!!


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勇者「ぐはっ……! 完全に競り負けた……!」ドサッ

魔王「ガッハッハ……なんと情けない攻撃だ」

勇者「連続斬り!」ヒュバババッ

魔王「ふん」ヒュバババッ

ギギギギギンッ!

勇者「全て弾かれただと!?」

魔王「この程度か? どうやらパワーもスピードもワシの方が上のようだな……」

勇者「こうなったら……!」

魔王「どうするつもりだ? 命乞いでもするか? それとも逃げるか?」


勇者「逃げる!」ダダダッ

魔王「な……!」

魔王「この恥知らずめが!」バババッ

勇者「くそっ、回り込まれてしまった……!」

魔王「いったばかりだろう! スピードもワシの方が上だと!」

勇者「……」


勇者「もう一度逃げる!」ダダダッ

魔王「バカめが!」バババッ

勇者「くっ……!」

魔王「諦めろ、お前にはもうワシに殺される以外の道は残されていない」


勇者「逃げる!」ダダダッ

魔王「またか!」バババッ



勇者「くそぉっ!」ダダダッ

魔王「無駄だ!」バババッ



勇者「もう一回!」ダダダッ

魔王「往生際の悪い奴だ!」バババッ


勇者「助けてくれぇ!」ダダダッ

魔王「逃がすか!」バババッ



勇者「ひいいっ!」ダダダッ

魔王「いい加減にしろ!」バババッ



勇者「戦いたくない!」ダダダッ

魔王「待てい!」バババッ



ダダダッ バババッ ダダダッ バババッ ダダダッ バババッ ダダダッ バババッ


勇者「いくら逃げても回り込まれてしまう……!」

魔王「ようやく観念したか」

勇者「……そろそろかな」

魔王「なにをほざいておる? ――トドメを喰らわせてくれる!」

魔王「!?」ガクンッ


魔王「な……!?」

魔王「ワシの足が……足が動かんだと!?」

魔王「し、しかも……」

魔王「苦しい……! 呼吸が苦しい!」ゼヒュッゼヒュッ

魔王「貴様、何をしたァッ!?」

勇者「なにって……逃げてただけだよ」


勇者「もっとも……」

勇者「仮に俺が一度の逃げにつき10m走ってたとして……」

勇者「お前が回り込むには半円を描くように走らなきゃならないから」

勇者「ざっくり計算すると10×3.14÷2で、15.7m走る必要がある」

勇者「つまりお前の足への負担やスタミナ消費は俺の約1.5倍にもなる」

勇者「加えて俺は、山ごもりという高地トレーニングで足腰とスタミナを重点的に鍛え上げてきた……」

勇者「俺にはまだ体力に余裕があるが、お前はもうすっからかんのようだな……」

勇者「それじゃいくらパワーやスピードがあっても、生かせはしないだろう」


魔王「く、くそっ……こうなったら呪文で……」ゼヒュッゼヒュッ

魔王「闇の波動よ……ハァ……我が声に応え……ハァ……」

魔王(と、唱えられん……!)

勇者「無理無理、そんなに息が上がってちゃ。沈黙状態みたいなもんだ」

勇者「俺が逃げる時、背後から魔法をブチ当ててればよかったのにな」

勇者「まあ、お前の性格なら、スピードを誇るために回り込んでくるだろうってのは分かってたけど」

魔王「ぐっ……!」


勇者「んじゃ、そろそろトドメ刺すか」チャキッ

魔王「ゆ、勇者、お前……こんな勝ち方して……は、恥ずかしく……ないのかァ!」

勇者「そりゃもちろん恥ずかしいよ」

勇者「できれば真っ向勝負で勝ちたかったし、逃げるなんて勇者のやることじゃない」

勇者「だが……」

ザシュッ!

勇者「……役には立ったようだな」





―おわり―

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