勇者「……これが伝説の剣か?」
妖精「そうよ! 神界の言い伝えによれば、どんなものでも切り裂けるとか!」
魔法使い「さっそく地面から抜いてみて下さいよ、勇者さん!」
勇者「ああ、分かってる」ガシッ
勇者「よいしょぉっ!」グイッ
ズボッ
勇者「……抜けた! 結構あっさりだったな」
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勇者「伝説の剣……なるほど、頑丈そうだし、軽くて扱いやすいな」ヒュンヒュン
パラパラ…
魔法使い「だけど、肝心の切れ味はどうなんでしょうか?」
妖精「あそこにある岩で試してみたら?」
勇者「そうだな!」
勇者「とりゃあ!!!」
ズバッ!
勇者「うおお……! まるでケーキ切るみたいに岩が斬れた……!」パラパラ…
魔法使い「す、すごい……!」
妖精「やったぁ! これなら絶対魔王を倒せるわよ!」
勇者「ああ!」
勇者「だけど、さっきから刃からパラパラと粉みたいなのが落ちてるのが気になるな」パラパラ…
魔法使い「サビじゃないですか? なにしろ古い剣ですから」
勇者「なるほど……まあ、切れ味は問題ないし、放っておいていいか」
勇者「ただ、一つ不満があるとすれば、剣があるなら伝説の盾も欲しかったところだな」
妖精「コラコラ、贅沢いわない!」
勇者「分かってるって! それじゃ、いよいよ魔王を倒しに行くぞ!」
―魔王城―
魔法使い「ハァ、ハァ……残る魔力で魔王の動きを鈍くしました! 今ですっ!」
魔王「ぐっ……!?」
勇者「よくやった! 覚悟しろ、魔王!」ジャキッ
勇者「でやぁぁぁぁぁっ!!!」
ズバァッ!
魔王「ぐ、ぐはぁぁぁっ……!」
勇者(やった……ついに魔王を倒した!)パラパラ…
魔王「お、おのれぇ……! ぬかったわ……!」
魔王「だが……ワシには分かる……分かるぞ!」
魔王「人間の世に、ワシがもたらすはずだった混沌より、さらに恐ろしい混沌が訪れるであろうことが!」
魔王「この目でそれを見ることができず、残念だわ……!」
魔王「フハハハ、ハハハ、ハハ……ハ……」ボシュゥゥゥゥゥ…
勇者「……人間の世に、混沌?」
魔法使い「なぁに、あんなの負け惜しみですよ!」
妖精「そうよ、世界に平和が戻ったのよ!」
勇者「そうだよな! さぁ、王様たちのもとに帰ろう!」パラパラ…
――
――――
国王「勇者よ、魔法使いよ、あっぱれな働きであった!」
国王「おぬしらには約束通り、多大な恩賞を授けよう!」
国王「どうかこれからも国のために、その力を生かして欲しい」
勇者「ははーっ!」
魔法使い「ありがとうございます!」
勇者「ふぅ~、これでめでたしめでたし、か」
勇者「オレは故郷近辺の領主になるけど、魔法使いは魔法学校を作るのか?」
魔法使い「はい、昔からの夢でしたから!」
勇者「妖精、神からの使いとして、色々助けてくれてありがとう」
勇者「でも、神界に戻らなきゃならないんだろ? 寂しくなるな……」
妖精「うん……だけどもう人間界は大丈夫! あなたたちがいるんだから!」
勇者「ああ、平和な世界を築いてみせるよ!」
魔法使い「色々とありがとうございました!」
妖精「こっちこそ楽しかったわ。じゃあねー!」
――
――――
勇者(ったく、近頃盗賊団だの強盗団だのが増えてやがる。また討伐に行かなきゃ)
勇者(世界が平和になったから、今まで魔物にビビってた悪党どもが動き出したんだな)
勇者(魔王を倒せばなにもかも解決! ……ってわけにはいかないよな、やっぱり)
ドンドンッ!
勇者「ん? どうぞ!」
魔法使い「大変です、勇者さん!」ガチャッ
勇者「おお、魔法使いか。久しぶりだな。魔法学校の経営はどう――」
魔法使い「そんな話をしてる場合じゃないんです!」
勇者「え……?」
勇者「なんだよ、一体なにがあった?」
魔法使い「実際に見た方が早いです! さあ、飛びますよ!」
勇者「ええ!? ちょっと待て、外出用の服に着替え――」
魔法使い「転移魔法発動!」
バシュッ!
シュンッ!
勇者「ったく、あわただしいな……どうしたってんだ」
魔法使い「勇者さん、ここがどこか分かります?」
勇者「ここは……たしか、旅の途中立ち寄った平原だな」
魔法使い「あちらをご覧ください」
勇者「…………?」
勇者「ゲ!?」
ワサワサ… ニョキニョキ…
勇者「なんだこりゃ……」
勇者「伝説の剣が増殖しまくってるぅぅぅぅぅ!!!」
勇者「魔法使い! これは一体どういうことなんだよ!?」
魔法使い「ボクにも分かりませんよ! ボクも生徒からの情報で、これを知ったんです!」
勇者「もう世間に知れ渡ってるのか?」
魔法使い「いえ、まだです。みんな怖がって近寄ってもないそうです」
魔法使い「だけど、興味を持って引き抜く人が出るのも時間の問題でしょうね」
妖精「大変よー!」ビュンッ
勇者「妖精!」
魔法使い「妖精さん!」
妖精「神界で、大変なことが分かったの!」
勇者「まさか、この伝説の剣大量増殖についてか?」
妖精「そうなの!」
魔法使い「それで……なにが分かったんです?」
妖精「実はね……あの伝説の剣は植物だったのよ!」
勇者「な、なんだと!?」
魔法使い「武器ではなく、木や草の類だったわけですか!」
妖精「それも、とんでもなくタチの悪い、ね」
妖精「あの植物……剣は自分から積極的に種をばら撒くことはできないんだけど」
妖精「人に抜かれて振り回されることで、大量の種をばら撒くのよ」
勇者「種を……?」
魔法使い「あっ……」
勇者「どうした、魔法使い」
魔法使い「いつも剣からパラパラ落ちてたあの粉は、種だったんですね!」
妖精「その通り!」
勇者「ゲッ、マジかよ……」
魔法使い「あの粉が、全部剣になりつつあるってことですか……」
勇者「そんなことになったら世界がヤバイ!」
魔法使い「で、ですよね。生態系が……」
勇者「そういうヤバさじゃねえよ!」
勇者「もしも、平和になった世でひと稼ぎしようとしてる悪党どもが」
勇者「あんな何でも斬れるような剣を手にしてみろ……!」
勇者「あちこちで、とんでもない惨劇が発生するぞ! オレにだって止められるかどうか……」
妖精「そうなのよ!」
勇者「それに、まともな善人だって、あの剣の切れ味を目の当たりにしたら」
勇者「どんな曲がり方するか分からねえ!」
魔法使い「ど、どうしましょう!?」
勇者(魔王め……あいつ、伝説の剣の正体を知ってたんだな!)
勇者(だから、死に際にあんな言葉を……!)
妖精「ごめんなさい……」
妖精「私が事情も知らないまま、伝説の剣まであなたたちを導いたからこんなことに……」
勇者「いや、気にするな。あの剣がなきゃ魔王を倒すのは難しかっただろうし」
魔法使い「そうですよ! 妖精さんは神の使いとして、ベストを尽くしてくれたんですよ!」
妖精「……うん」
勇者「それより今は、この増殖しまくった剣をどうするか考えなきゃな」
勇者「こうなったら全部引っこ抜くしか……」
妖精「ダメよ! そんなことしたら、さらに種をばら撒くことになっちゃう!」
魔法使い「だったら焼き尽くせば……!」
妖精「それもダメなの。あの剣の頑丈さはあなたたちが一番よく分かってるでしょ」
勇者「た、たしかに……! 魔王の魔法攻撃にすら耐えたからな……」
魔法使い「この繁殖力、駆除のしにくさ……妖精さんがいうようにとんでもないタチの悪さですね……」
勇者「だけど、放っておくわけにはいかない!」
勇者「魔王を倒したら世の中がもっとひどくなりました、なんてオチはごめんだ!」
勇者「引っこ抜くのも魔法もダメなら……薬しかないな」
魔法使い「草木を枯らす薬をばら撒くんですか?」
勇者「いや、そんなことしたらただの自然破壊になっちまう」
勇者「それに、既存の薬剤じゃあの剣には通用しないだろ」
妖精「なら、どうするつもり?」
勇者「作るんだよ……オレたちでこの剣を枯らす薬品を!」
勇者「妖精、もう一度神界に戻って、伝説の剣の情報をかたっぱしから入手してくれ!」
勇者「もしかしたら、あの剣の弱点に関するヒントがあるかもしれない!」
妖精「分かったわ!」
勇者「情報が揃ったら、薬品作り開始だ!」
勇者「材料はオレがどんな危険な場所にも乗り込んで揃えるから、魔法使い、調合は頼む!」
魔法使い「分かりました!」
妖精「神界から、あの剣の情報が載ってる文献を持ってきたわ!」ドサッ
魔法使い「ありがとうございます、妖精さん!」
魔法使い「ふむふむ……」ペラ…
勇者「どうだ?」
魔法使い「……どうやら、あの剣にもかろうじてつけいるスキはありそうです!」
魔法使い「太古の大昔にも、似たような事件があったそうですから! そこからなんとか手がかりを……」
勇者「頼むぞ!」
……
……
魔法使い「勇者さん、悪魔の森でこの薬草を、デンジャーマウンテンでこの岩塩を」
魔法使い「ヘルバレーでこのキノコを入手してきて下さい!」
勇者「任せとけ!」
勇者「あ~、迷った迷った!」ガサガサ…
勇者「迷った末にやっと見つけたぞ! 悪魔の森にある薬草!」
勇者「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
勇者「この岩塩を削って、持ち帰ればいいんだな」ガリガリ…
勇者「……よっと!」ガシッ
勇者「ヘルバレーの絶壁で、キノコゲット!」
……
……
勇者(やれやれ、下手すりゃ魔王討伐の冒険よりきつかったよ……)
魔法使い「ありがとうございます、勇者さん!」
魔法使い「ここからはボクに任せて下さい!」
魔法使い「これらの材料を調合して、伝説の剣を駆除できる薬品を作ってみせます!」
ゴリゴリゴリゴリゴリ…
勇者「あ~……しんどかった」
妖精「お疲れ様、肩揉んであげるわ」モミモミ…
魔法使い「できました! 完成です!」
勇者「よくやった! だけど、本当にいけるのか?」
魔法使い「ご覧の通りです」パッパッ
シナシナ…
勇者「すげえ! 薬を振りかけたとたん、あの頑丈な剣が一気に力を失った!」
妖精「さっすが魔法使い君!」
魔法使い「これを量産して、剣が生えてしまった地域に散布すれば、伝説の剣を根絶できるはずです!」
勇者「よぉーし、悪党どもがあの剣の存在に気づく前にカタをつけるぞ!」
――
――――
勇者「よし! 伝説の剣はあらかた駆除できたな!」
魔法使い「はい!」
妖精「あなたたちの迅速な行動のおかげよ!」
勇者「一応、剣を一振りだけ残しておいたから、これは神界にて厳重に管理しといてくれ」
妖精「分かったわ!」
魔法使い「剣としての性能はすごいから、いざという時、役に立つかもしれませんからね」
勇者「ただ……少し複雑な気分だよ」
魔法使い「勇者さん?」
勇者「この剣のおかげで、オレたちが魔王を倒せたのは事実なのに」
勇者「オレたちの都合で剣を引き抜いて、増えちゃったからオレたちの手で駆除をする……」
勇者「なんとも都合のいい話だな、と思ってさ」
妖精「勇者……」
魔法使い「だけど、それは仕方のないことですよ。生存競争というのはそういうものです」
魔法使い「剣は増殖したかった。ボクら人間はそれを阻止したかった。結果、ボクらが勝った」
魔法使い「それだけの話です。勇者さんが気に病むようなことではありません」
勇者「……少し気が楽になったよ」
勇者「さすが学校の先生、まとめ方がうまいな!」
魔法使い「からかわないで下さいよ……」
勇者「これで……魔王亡き後の後始末もカタがついたってとこだな」
魔法使い「そうですね。とりあえずひと段落でしょう」
妖精「あ、そうだ! せっかくだからこの薬品に名前をつけてあげたら?」
勇者「そうだな。また必要になるかもしれないし、名無し薬じゃ不便だな」
魔法使い「でしたら殺剣剤とか? うーん、イマイチだな……」
妖精「ソードコロリとか! ちょっとふざけすぎか……」
勇者「だったら、こういうのはどうだ?」
勇者「伝説の剣による攻撃を防いで、世界を守ってくれたんだから――」
勇者「名前は『伝説の盾』ってことで!」
― 終 ―
以上で完結となります
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