貴音「月下祭と万歩計」 (114)

木枯らしが窓を叩く、11月。
午後2時、事務所。

P「貴音、話がある」

貴音「何でしょう?」

P「今日からコレを持ち歩きなさい」

貴音「はて、これは」

P「万歩計だ。カロリー計算もしてくれる優れモノだぞ」。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417794235

P「貴音、お前は最近食べ過ぎだ」

貴音「食べすぎだなんて。適量を取っているまでです」

P「……今日は何杯ラーメン食べたんだ」

貴音「4杯程ですが」

P「ベビーラーメンも含むと?」

貴音「……6杯程」

P「食いすぎだよ!」

貴音「べびぃらぁめんを数に入れるからです!」

P「ベビーラーメン差し引いても食いすぎだっての!」

P「とにかく。万歩計で体調管理をしてもらうぞ」

P「食べたモノは腹の中から消えるわけじゃないんだ」

P「消費したカロリーだけ、必要な量を取ってほしい」

貴音「そんな、あんまりです。プロデューサー!」

貴音「私とらぁめんを繋ぐ細い縁を断ち切るというのですか」

P「貴音は最近細麺が好きだったな」

貴音「あれは真、美味なものです」ウットリ

P「まあそういうわけだ。雪歩、真、これからスタジオ入りだ準備しろー」<ハーイ

貴音「お、お待ちください。私まだ納得できておりません!」

貴音「あいどるたるもの、普段から自制の念を忘れてはいないのですから」

貴音「それに私はこの体型を維持しています。一体何が問題なので、」

P「貴音っ!」ガシッ

貴音「は、はい」

P「俺はな、貴音が心配なんだよ。お前は大切な765プロの仲間なんだ」

貴音「……はい」

P「俺は、貴音にもっと自分を大切にしてほしい」ジー

貴音「あ、あの、お顔がちか///」テレッ

P「真、雪歩、準備できたな! よしいくぞっ」<ワカリマシター

ガラガラ、バタン。

貴音「……いけずなお方」

ζ*'ヮ')ζ < それから数時間ほど経ちましてー

ガチャッ
貴音「……ただいま戻りました」グゥ

貴音「うぅ、空腹です」

貴音「本当ならばニ十郎にて軽食を取る予定だったのですが」ググゥ

万歩計「272kcal」

貴音「ちっとも消費できていないではないですか……」

貴音「……腹中の虫が治まりません」グググゥ

貴音「……」キョロキョロ

貴音「……」

貴音「事務所には今、誰もいませんね」スチャ

貴音「ならばっ」

響「ふふん♪ ふふん♪ お仕事終わったぞー」

響「今日も楽チンだったなー、自分ってば完璧さー」ジュイッ

響「みんなーたっだいまー!」ガチャ

貴音「ふんっふんっ」万歩計フリフリ

響「た、かね? ……何してるの?」

貴音「はっ! 響!?」

響「あはははー、貴音ってば自分の手を使って歩数稼いでたの?」

貴音「ち、違うのです、響。これには事情が」

響「貴音もそういうことするんだな。あはははは」

貴音「っ! これっ響。あまりからかうものじゃありませんっ!」

響「むふ、むふふふ。ごめんごめん」

響「食い意地が貴音の魅力さー」

貴音「……」

響「悪かったさー。だからそんな怖い顔しないでよ」

響「それにしても万歩計だなんて、どうしたの? むふっ」

響「ふぅん、貴音の体調管理か。貴音の食事好きは今に始まったことじゃないのにね」

貴音「そうなのです。何故、あのお方はこのような事をわたくしにさせるのでしょう」

響「むぅ。貴音って本当に食べても太らないよね。うらやましいぞー。何か秘訣があ
の?」

貴音「そのような物は特に。規則正しい生活を心がければ、心身共に健全になりますよ」

響「規則正しい生活……早寝早起きとか?」

貴音「そうですね。私は30分程の月光浴の後、床に入りますが」

響「30分!? はー、貴音ってばやっぱりすごいなー」

貴音「……私にしてみれば、小食な響が羨ましいのですが」

響「そうだっ! 今日はスーパームーンなんだぞっ!」

貴音「すぅぱぁ? なんですか、いきなり」

響「月が最も地球に近づく日なんだ! 月光浴が貴音のスタイルの秘密なら、自分にもチャンスあるもんねー」

貴音「……なるほど、どうりで近頃食欲が湧いて出てくるのですね」

響「? 何の話だ、貴音」

響「そうだっ。最近、家族が皆太り気味なんだぞ」

響「スーパームーンの光を浴びたら、みなたちまちやせ細るかもしれないなっ」

響「よーし、そうと決まったらさっそくお月見の準備だー」

貴音「あっ、響」

ドタドタガチャ、バタン

「あっ、プロデューサー! おつかれさまー!」

「気をつけて帰れなー」

「はーい」

ガチャ
P「お、貴音残ってたか」

貴音「……あ、プロデューサー」

お姫ちんは食いしん坊かわいい!

P「さて、資料も片づけたし……事務所には貴音だけか」

貴音「……」クギュー

P「(ありゃ相当まいってるな)」

P「(うーむ、仕方ないか)」

P「貴音、まだ用事があるのか? 俺はもうあがるけど、良かったら飯でも食って帰らないか?」

貴音「!! 本当ですか!」パァァァ

P「おういいぞ。(無理して体壊されても困るしな)その代わりラーメン以外で、ヘルシーなものだぞ」

貴音「ええ、ええ! あなた様とお食事できるのであればっ、どのようなものでも構いません」

P「はは。現金な奴め。ホント食べるのが好きだよな貴音は」

(響「食い意地が貴音の魅力さー」)

貴音「っ」

貴音「……」

P「よし、じゃあ行くか。美味そうな定食屋を見つけたんだ」

貴音「やはり、行きません」

P「駅の方にあるんだーって、え? 貴音、行かないって」

貴音「……申し訳ありません。わたくしも帰ります」スタスタ

P「って、ちょっと待てって、貴音?」スタスタ

@街路。空は藍色。点々と星が灯る。

P「お、おい、歩いて帰るつもりか? もうすぐ暗くなるぞ?」

貴音「ええ。歩いて帰ります」スタスタ

P「ちょっ、夜道は危ないって。というか、もしかして機嫌悪いのか?」

貴音「いえ、そのようなことは」スタスタ

P「じゃあ、ちょっと止まれって」

貴音「わかりました」スタスタ

P「おおう! 立ち止まったまま足踏みしとる!?」

P「な、何してるんだよ?」

貴音「見ての通り」スタスタ

貴音「歩行ですか?」スタスタ

P「……万歩計、気にしてんのか」

貴音「……わたくしにも忍耐力があるということを知ってもらおうと思いまして」スタスタ

貴音「皆はわたくしがらぁめん無しでは生きていけないと、勘違いをされているようです」スタスタ

P「(……他の連中と何かあったな、こりゃ)」

貴音「話は以上ですか? わたくしはかろりぃ消費をしなくてはなりませんので。では」スタスタ……

P「だから待てって。ああもう!」

P「夜道は危ないから、送ってくぞ貴音?」

貴音「……」スタスタ

P「ほらっ、貴音。月が昇ってきたぞ。すげーでっけー」

貴音「……」スタスタ

P「今日はスーパームーンなんだぞ? 知ってたか」

貴音「……」スタスタ

P「(無視ですかい)」グスン

@高級っぽい車の中

「はぁ、事務所にはもう誰もいなかったわね」

「まったく……あれ? あの二人は」

「新堂、車を停めて。あそこの二人を乗せてあげて」

「にひひっ。良いタイミングね」

伊織「ちょっとー、アンタ達ー」

P「ん? 伊織? っと、こんばんわ新堂さん」

新堂「お久しぶりでございます。Pさん」

伊織「まったく事務所に誰もいないなんて。アンタ達は伊織ちゃんのスペシャルなお誘いを無碍にする所だったのよ」

P「高級車ブン回して何処行くつもりだったんだ?」

伊織「鈍感なアンタも知ってるでしょ? 今日はスーパームーンよ!」

伊織「月が最も冴え冴えと光る夜なの。そんなエレガントなムーンの観賞パーティを開くからアンタ達も来なさい」

P「おおう、そりゃすごいな。水瀬のパーティなんてさぞ立派なんだろうな」

伊織「当然! 水瀬財閥の総力を挙げた夜行会よ。凄くないわけないじゃないの」

伊織「ところで貴音? さっきからダンマリで、どうかした?」

貴音「……」

P「伊織」チョイチョイ

伊織「何よ」スッ

P「(いま、貴音はちょいとご機嫌斜めなんだ)」ヒソヒソ

伊織「(この子が? ちょっと珍しいわね。でも、それなら)」ヒソヒソ

伊織「貴音、今日のパーティ、なんと立食パーティなの。秋の味覚をたっぷり用意したわ」

貴音「……」ピクッ

伊織「それになんと、月になぞらえたスペシャルメニューも用意してるのよ。にひひっ。どう? 来たくなった?」

貴音「……」

P「だってさ貴音、すごいな! それに立食だって! 立ちながらの食事は腹に堪らなくて良さそうだよな」

貴音「……そうでしょうか?」

P「そうさっ! 人間立ってるだけでもカロリー消費してるんだぞ」

貴音「……」

P「なっ、貴音。せっかくの誘いだし」

貴音「わかました。ただし、食べ過ぎは自重します」

P「お、おう! よかったー、伊織誘ってくれありがとな」

伊織「……何かまた面倒な事になってそうだけど。ま、いいわ」

伊織「今日はお祭りだもね。楽しまなきゃ損だもの」

伊織「ほら、さっさと乗りなさい。出して、新堂」

新堂「はい、お嬢様」

@水瀬家高級車内

P「(さすが水瀬家マイカー。ドリンクサーバーまでついてるし)」

伊織「少し喉が渇いたわね」カチャ、トポトポ

P「(でも中身はやっぱオレンジジュースなのね)」

伊織「ほら、アンタ達にもご馳走するわ。果樹園直送の果汁100%オレンジジュースよ。有り難く頂きなさいっ♪」

貴音「ありがとうございます。では、頂きます」クイッ

P「(オレンジジュースっていうと、100g辺り40kcal位だっけ」ボソッ

貴音「っ!? ぶふっ、ゴホ、ゴハっ」ゲホゲホ

伊織「きゃっ! ちょ、ちょっと貴音? 大丈夫!?」

P「おおう! 悪い貴音! ついつい口に出ちゃって」

貴音「~~~~~っ」ペシペシペシ

P「悪かったから叩くなって」

伊織「……」

伊織「なにイチャついていんのよ」ジトー

伊織「そうだ、新堂。ラジオをつけてくれるかしら」

新堂「わかりました、お嬢様」

ラジオ「~~~♪」

P「ん? そっか今日の時間は」

貴音「……亜美と真美のらじおの日でしたね」ケホッ

伊織「そうよ。こうして聞いとかないと次の日うるさいのよ」マッタク

P「……」

伊織「! なーに朗らかな笑みを浮かべてんのよ、キモいわね!」ゲシッ

ラジオ「んっふっふっふ~、今夜も始まったよん」

伊織「ほらっ。始まったんだから黙って聞きなさい!」

@某ラジオスタジオ

亜美「全国のにーちゃん! ねーちゃん! 準備はできたー?」

真美「ラジオ在る所に双海あり! 壁あるところに千早お姉ちゃんあり!」

亜美真美「765☆Radio Starsのはじまりはじまり~~」

亜美「メンパソの亜美だよ→」

真美「パソメンの真美だよ→」

春香「それで、わた春香さんが、ってあわわ」ドンガラガッシャーン

亜美「いきなりかましてくれたはるるんが今夜のゲストでーす」

真美「座りながらこけるなんて。こやつやりおる……っ」

亜美「まあ、良い自己紹介になっていーんじゃない?」

真美「はるるんはドジっ子だもんね」

春香「ちょっと二人とも! 好き勝手言って!」

真美「だってそーでしょ。兄ちゃん姉ちゃんに、はるるんの事もっと知ってもらわないと」

亜美「そーそー、亜美たちはラジオ番組じゃあ、はるるんの先輩なんだかんね」

春香「うぅ。そりゃ私は二人と違って冠番組を持ってないけど。間違ったイメージを持たれてるのは不服だよ……」

亜美「間違いなくこのラジオ聴いている人ははるるんをドジっ子認定したよ」

春香「ふっふっふ」

春香「こういった事態も予想して、コレを準備してきましたー」ジャ-ン

真美「おお! それなになに」

春香「チーズケーキでーす。リスナーの皆さん、わた春香さんは料理もできる家庭的な女の子なんですよ♪」

真美「わーい、ここで食べちゃっていいの?」

春香「もちろん! その為に作ったからんだから」

亜美「はるるんのふともも~」

春香「ははは(つっこむまいぞ)」

春香「それでね、二人とも今日は何の日か知ってる?」

真美「なんだっけ?」モキュモキュ

春香「スーパームーンですよ、スーパームーン!」

真美「月がめっちゃ地球に近づくっていうアレ?」

春香「そうそう。そこで月にちなんでチーズケーキを作って来たのです!」

亜美「チーズケーキが? なんではるるん?」

春香「それはね。月はチーズで出来てるからなんだよ♪」

春香「月って住む国によって色んな見方があるの」

春香「例えば、日本ならウサギがお餅をついているっていうよね」

春香「そんな月の見方の一つに、月はチーズで出来ているっていうのがあるんだ」

亜美「へ→」モグモグ

真美「ん~、めっちゃ美味しいよ、はるるん!」

春香「ありがとう! へへ、今日はお砂糖と塩を間違えないように苦労したって、違うでしょ!?」

春香「時事ネタっていうトークの基本を用意してきたっていうのにスルーしちゃうの!? (出典:人との会話に困らない技術)」

亜美「じじいネタって、そんなのは兄ちゃんにしてあげてよ」

真美「そうそう、真美たちピッチピチなんだぞ→」

春香「もー! 二人とももっと私に興味示してよ! せっかくのラジオデビューなんだよ!」

真美「んもう。はるるんは我儘だなあ、じゃあもっと興味魅かれるような話してよ」

春香「なんて横暴な。……でもこれがラジオのメインパーソナリティだから許される暴挙なのね」

春香「いつかは私もこの座を」フフフ

春香「わかりました! じゃあ取っておきのネタを話しましょう」

春香「(ホントは夏にとっておきたいかったけど)」

春香「月にまつわる小話を一つ!」

亜美「ねえ真美、なんか始まったよ?」モグモグ

真美「いーんじゃない? 食べながら聞いてようよ」モグモグ

春香「ではでは、聞いてください!」

亜美真美「わー……」パチ…パチ…

春香「ある所に大きな湖がありました。そこへ夜毎、孤独で飢えた男が月を見に訪れるのです」

亜美「ある所って? どこ? ブラジル?」

真美「↑た男って? アゲ↑アゲ↑ってこと?」

春香「んもう! 二人ともこれはお話なの! 細かい所につっこんじゃダメ!」

春香「ふう、続けるわよ?」

春香「男はね、腹ペコだから、月を食べに来てたの」

真美「はるるんは真美たちを子どもだと思ってるでしょ」

亜美「月なんて食べられるはずないじゃん」

春香「まあまあ、もうちょっとだけ聞いて?」

春香「男は腹ペコで腹ペコでしょうがなかったの」

春香「だから、仕方なく湖の水でお腹を満たしていた」

春香「それで月が水面に映った所を掬い取って口にしたの」

真美「ほうほう、だからその兄ちゃんは月を食べてるつもりだったんだ」

春香「そう、男の国で月はチーズで出来ていると言われていたから」

春香「そうやって男は毎晩毎晩、空腹を紛らわせていた。するとどうなると思う?」

春香「まんまるだった月はどんどん欠けていくよね」

春香「男が少し月を掬って飲むと、次の日には月が欠ける」

春香「男にはまるで自分が月を食べているように感じられたんだ」

春香「すると途端に月が惜しくなった。まだまだ食べ足りなかったから」

亜美「んっふっふ~。その兄ちゃんはちょっとお間抜けさんなんだね→」

春香「亜美、ほんとうにそう言える? 男はずっと食べ物がない生活を送ってたのよ」

春香「お腹がペコペコで死んじゃいそうな時に、空想に浸りたい男の気持ちを想像してみて?」

亜美真美「……」

春香「(ふふふ、がっつり双子のハートは掴めたようね)」

春香「(これからどんどん行っちゃいますよ!)」

春香「当然だけど最後には水面から月は消えてしまった」

春香「でもね、男は月の味が忘れられなかった」

春香「自分の妄想だって知っているのに、湖の水は仄かにチーズの味がしたの」

春香「そしてまた、男は次の満月を待った」

春香「そうやって訪れた次の満月の夜、湖にはある異変があったの」

真美「な、なにがあったの?」

亜美「はるるん! じらさないでよ→」

春香「丁度、満月が浮かぶ水面上に、綺麗な女の顔があったの」

春香「月の見方の話、さっきしたよね」

春香「その中には月を女の横顔に見立てる物もあった」

春香「男はたちまち、月面の乙女に恋してしまったの」

春香「男は孤独だったから」

春香「そして、更に違いはあった」

亜美「ごくり」

春香「湖にはチーズの匂いがたちこめていた」

春香「男は喜んで湖の水を飲んだわ。もちろん月の映る部分は除けて」

春香「そんな事をしても、結局また月は欠けてしまう」

春香「日毎に女の横顔がどんどん影に覆われていった」

春香「男はすごく苦しんだわ」

春香「自分はチーズに加えて、美しい女性まで失ってしまうのか」

春香「ってね」

春香「そうして男は考えに考え抜いた結果、湖に身を投げ、死のうとしたの」

真美「うあうあ~ ダメだよ、命は大切にしなきゃ!」

春香「男ももう限界だったのね。これ以上空腹に耐えることも難しかったし」

春香「女の横顔が崩れていくのを見てられなかった」

春香「だから、男は湖に飛び込んだ」

春香「飛び込む」

春香「目の前、水面に映った月が迫る」

春香「月面に女の横顔」

春香「迫る」

春香「女の輪郭がはっきりわかる」

春香「迫る」

春香「そして」

春香「女がこちらを向いた」

春香「月の影だと思っていた部分は、水気でふやふやに爛れた肌だった」

春香「男は慌てふためくけど、すばやく伸びた女の指に捕まれて動けない」

春香「そして、女は口をゆがめると、男を水底へと引き込んだ」

春香「男はチーズの匂いに包まれて」

春香「月の底へと沈んでいったの……」

春香「はい、おしまい♪」

亜美「」

真美「」

春香「(私のトークスキルに仰天して言葉も出ないって感じね)」

春香「ちょっと、二人とも! これで終わりですよ、お・わ・り!」

春香「(これで私も晴れてラジオのメインパーソナリティデビュー、ふふふ)」

春香「どうしたの? ほら、チーズケーキまだ残ってるよ?」

亜美真美「」

@水瀬家車内

伊織「……春香、完全に空気読み違えてるわ」

伊織「そもそも話がツッコミどころ多すぎなのよ」

伊織「というか、エレガントな月が出る目出度い夜になんて話してくれてのよ!」ムキー

伊織「アンタ達もそう思うでしょ?」

貴音「あああ、あな、あなたさまぁぁああ」ヨジヨジ

P「こら貴音。俺によじのぼってくるなって」

伊織「……」

伊織「……なにイチャついてんのよ」ジトー

@再び某ラジオスタジオへ

亜美「……いよ」

春香「それにしても素敵だよね? 国によって見える月の形が違うなんて。え? 何? 亜美?」

亜美「すごいよ! はるるん! お月さまって食べられるんだねっ」

真美「こりゃ真美たちも是非とも食してみたいものだぜ」

伊織「……流石、亜美と真美ね」

貴音「月には物の怪なんていないのですよ? 聞いてますか、あなた様?」グスン

P「わかったから。もうハグはよしてくれ。……呼吸が、しづらい」

伊織「……」ジトー

新堂「到着しました。お嬢様」

伊織「……ええ、わかったわ。ほらっ! アンタらはとっとと離れなさい!」

ラジオ、電源オフ

亜美「そうと決まったらさっそくお月見だねっ」

真美「そいえばいおりんが今日はお月見パーティをするっていってたよ」

亜美「んっふっふ~ ならなら、話ははやいね」

真美「じゃ、ラジオははるるんに任せたっ」

春香「任せされたっ、ってええ!?」

春香「メインパーソナリティの二人がいなくなっちゃったらどうするのよ!」

亜美「でもでも~、亜美たちまだ子どもだから」

真美「もう働けない時間帯なのだよ」

春香「……え。あ、ディレクターさんもマキの合図してる」

亜美「ということで、765☆Radio StarsのメンパソはこれからはるるんにCHANGE!!!!」

真美「真美たちはお月さまを食べに行っちゃうよ→」

春香「ちょっと、ちょっと待ってよ二人とも! 私独りじゃ荷が重いというか」

真美「ん~? 大丈夫だよ、ほら、千早お姉ちゃんもいるし」

春香「ホントだ。扉の外でディレクターさんと話してるみたいだけど……」

春香「なんか千早ちゃん怒ってない?」

亜美真美「ではでは、私たちはさらばじゃ! レッツラゴー」シュタッ

扉>ガチャ

千早「さっきのラジオ導入部はなんなんですかっ!」

春香「ち、千早ちゃん?」

千早「壁って! 何なんですか壁って! 公共の電波に乗る内容なんですよ!」」

ディレ「って、言ってもねー。あの双子ちゃんの歯に衣着せないトークは評判なのよ?」

ディレ「まあまあ落ちつきなさいって千早ちゃん」

千早「これが落ちついていられますか! 壁って、壁って! くっ。くっ」

春香「わわ。千早ちゃん! これ流れちゃってる、ラジオ流れちゃってるから!」

ワーワーギャーギャー

@水瀬財閥パーティ会場

客>ガヤガヤ

P「おおう、やっぱすげーな」

P「お、あそこにいるのは○○TVの社長に、そんでもってミュージシャンまでいるじゃないか」

伊織「もう、騒々しいわね。恥ずかしいからキョロキョロすんじゃないわよ」

伊織「……一応、言っておくけど」

伊織「ゴマすろうとして呼んだわけじゃないから。お父様の仕事の関係で」

P「わかってるよ。伊織はすごいなあって素直に思ってだけさ」

伊織「ふ、ふーん。そりゃそうでしょ。スーパーアイドル伊織ちゃんのパーティなのよ」

伊織「ま、アンタもそこら辺で楽しんでなさい。私はちょっとお父様に挨拶してくるから」

伊織「あー、貴音。まあパニックは起こさないようにね」スタスタ…

P「? わかった」

P「……さて」

P「貴音、いい加減腕から離れてくれないか?」

P「人の目があるんだから、謹んでくれないと」

貴音「と、申されましても」ブルブル

貴音「あれをご覧になってください」オソルオソル

P「ん? 一体何があるって」

P「あー」

P「池があるな。それもキレーに満月が映ってる」

P「……やってくれたよ春香」

P「貴音、あのお願いだから少し」

貴音「……」ピッタリ

P「(飯食いたいんだけど)」

貴音「……」ウルウル

P「(ハァ、会場から少し離れるか)」

P「そういえば、伊織が飯をついでに持ってきてくれるみたいだったぞ」

P「良かったな。貴音」

貴音「……プロデューサー。ですけれど、万歩計はまだ」

万歩計「336kcal」

P「……」

P「悪かったよ、貴音。無理してまで食事制限するつもりはないと思うんだ」

P「食べていいぞ。落ち込んでる貴音を見たくないっていう俺の本音もあるしな」ハハハ

貴音「……」

P「そんな顔するなって。な、飯でも食えば元気になるさ」

P「水瀬のシェフが作った豪華なディナーを食べれば嫌な気分も治るだろ?」

貴音「……は」ボソッ

P「ん?」

貴音「あなた様は」

貴音「あなた様はわたくしが食事を頂けば、それだけで喜ぶと思ってはいませんか?」

P「いやいや、そんなつもりは」

貴音「それに、さっきと言っている事が違います。あれほどらぁめんはダメだと言ったではないですか」

貴音「わたくしは、そう簡単に意思を曲げは」クギュルー

P「……」

貴音「……」

P「ほら、腹の虫は正直だぞ。堅意地張らないで食べよう」

伊織「あら、こんなとこにいたのね」

P「ほらっ、伊織もやってきたし」

貴音「……」

P「あー俺腹減ってたんだ。ありがとな、伊織。うまそうな匂いだ。ん? これって」

貴音「……この匂いは」ハッ

伊織「……あの」

伊織「チーズ料理しなかったの」

貴音「」バッターン

P「おいっ!? 貴音っ!?」

新堂「四条様は奥の中庭でお休み頂いております」

伊織「ふぅ、ありがとう、新堂」

伊織「まずかったわ。貴音ってあそこまで怪談話ダメだったのね」

P「あの、貴音は?」

新堂「お気を失われただけです。ご心配はありませんよ」

P「そうですか」ホッ

伊織「まったく、アンタがちゃんと見てあげてなくてどうすんのよ」

P「……チーズ持ってきたのは伊織だろ?」

伊織「むっかー、私の所為にするわけ!?」

伊織「仕方ないでしょ。チーズ料理がディナーのメインなんだから」

伊織「それもこれも、春香のラジオが!」ムキー

伊織「……まあいいわ。アンタは貴音の傍にいてあげなさい」

伊織「せっかくのパーティだけど、仕方ないわ」

P「悪かったよ、伊織」

伊織「何謝ってんの。辛気臭い顔で会場に居られても困るの。それだけよ」

P「ありがとうな」

伊織「お礼言うのもやめてってば!」

水瀬父「おや」

水瀬父「Pくんじゃないか」

P「あ、水瀬さん。どうもこんばんわ」

水瀬父「ふふ。仲が良いようだな伊織と」

伊織「お父様! やめてください!」///

水瀬父「どうだろう。少し世間話でも如何かな?」

水瀬父「何、堅い話ではないんだ。伊織の仕事の様子を知りたいのだよ」

P「(まあ少しだけなら良いか)」

P「ええ。わかりました」

@水瀬パーティ会場、付近

亜美「んっふっふ~、みてみて真美。めっちゃ月綺麗だよ→」

真美「あ、あそこに丁度良い壁が」クッ

真美「んしょっと。おおー、やっぱここであってた→」ヨジヨジ

亜美「ほんとだ、いおりんのパーチー会場だよ」

亜美「ん~良い匂いがするねえ。はやく食べに行こうよ」

真美「ちょっと亜美ー。我々の任務を忘れたのか?」

亜美「そうだったそうだった」

真美「では、この釣竿でっ」スチャ

亜美「月を一本釣りじゃーい!」

亜美「ちょうどプールがあって、月が浮かんでるね」

真美「絶好のドローイングポイント!!」

真美「さっすがいおりんのパーチーだね。プールまでついた会場なんて豪華!」

亜美「でもでもー、あのおっきなお月さまを食べちゃうのは亜美たちだもんね→」

亜美「ところで亜美。釣竿でプールのお月さまを釣り上げるのは良いけど」

亜美「肝心のエサはどうするの? 亜美、飴玉しか持ってないよ?」

真美「んっふっふ~。実はとっておきのエサを用意したのだ→」

亜美「え!? なになに? 何を用意したの?」

真美「さっき事務所に寄った時、これを持ってきたのさ!」ペラッ

亜美「写真?」

真美「そそ。こっちが兄ちゃんの写真で」

亜美「そっちは社長の写真? なんでコレがエサになるのさー」

真美「亜美、さっきのはるるんの話、よく思い出してみて?」

真美「月にはキレーでボインなレデーが住んでるっしょ?」

亜美「あ、そうだったそうだった」

真美「キレーなレデーには、ナイスガイが相場っしょ」

亜美「わかった! にーちゃんと社長の写真で、レデーを釣り上げるわけですな」

亜美「それにしても、この写真。事務所のどこにあったの?」

真美「んー? ピヨちゃんの机の中だよ」

真美「なんか前に、この写真を互いに擦り合わせてピヨピヨ言ってたの知ってたから」

真美「社長×プロデューサーとか言ってた」

亜美「うあうあ~、亜美算数は苦手なんだよ→」

亜美「とにかくその写真を針にくっつけて、っと」プスッ

真美「さてさて、じゃあさっそく、そこのプールにスローインッ」ヒュッ

真美、塀の上からプールに向けて釣針を落とす。

亜美「真美すごい! ちゃんとお月さまの上に落ちたよ」

真美「んっふっふ~。当然っしょ。765の釣キチと言えば真美だもんげ」

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亜美「(あれ? プールサイドで寝てる女の人がいる)」

亜美「(暗くてよく見えないや)」

亜美「(お姫ちんに似てるような。ま、いっか)」

@水瀬パーティ会場

水瀬父「はっはっは。そうか伊織がか」

P「ははは、笑っちゃいますよね。でもまたそこがかわい、痛っ」

伊織「ばっ! 何言ってのよ/// お父様も笑わってないで!」ゲシッゲシッ

水瀬父「む。伊織、いつもお世話になっている人にそんな言い草はないだろう?」

水瀬父「765プロダクションの仲間は大切にするべきだ」

水瀬父「彼らがいたからこそ、今のお前があるんだろう?」

P「いえいえ。俺がやったのは助力だけ。ここまで走れたのは紛れもなく伊織の実力ですよ」

水瀬父「ふふ。まったく良いプロデューサーだな、君は」

P「そんなことは。水瀬さんのような娘想いの父親に俺は憧れますよ」

P、水瀬父 < ハハハハ

伊織「……やりにくいわ」

水瀬父「そういえば、丁度この時間は765プロのラジオ番組がやってるんじゃないか?」

水瀬父「今日は特番らしく放送時間がいつもより長いとか」

水瀬父「スピーカーもあることだし。ラジオに切り替えるか」

伊織「ちょっ! お父様、余計なことはされなくても」

P「いいですね。今日はウチの天海春香がメインパーソナリティなんですよ」

水瀬父「あの元気な子だね。それはいい」

伊織「……こうなったら止まらないんだから」

水瀬父「良いだろう? 娘の仕事をもっとよく知りたいんだ」

伊織「お父様……」

水瀬父「よし。皆さま! ご歓談の最中、申し訳ありません!」

客<ナンダ、ナンダー?

水瀬父「料理は楽しんで頂けているでしょうか」

水瀬父「いつまでもジャズやクラシックばかりで耳に煩くなってきた頃ではありませんか?」

客<ハハハ

水瀬父「では、ここで少し趣向を変えてみようじゃありませんか」

水瀬父「私の大切な娘の、その大切な仲間の仕事振りを是非とも会場の皆さまに聞いて頂きたく思います」

伊織「ちょっとお父様!」

P「まあ、いいじゃないか。お父さんも良かれと思ってくれてるんだろう?」

伊織「お父さん言うなっ」ゲシッ

客<オーイイゾイイゾー

P「ほら、お客さんも聴きたいみたいだし」

伊織「……もう」ハー

水瀬父「皆さま、ありがとうございます。繰り返すようですが、私の大切な娘の仲間です」

水瀬父「彼女たちのラジオ番組はきっとこの満月のように、我々に煌めきを与えてくれるでしょう」

水瀬父「はは、まったく親バカが過ぎますね」

伊織「お父様ったら///」

客<ワーワー、ハヤクキキターイ

水瀬父「うむ」

水瀬父「では、新堂、ラジオに切り替えてくれ」

新堂「ただいま」ポチッ

スピーカー「ザー、パチッ」

スピーカー「壁壁壁かべええ。見る人見る人なんだっていうんですか!!!」

P「」

伊織「」

水瀬父「」

新堂「」

客一同「」

@某ラジオスタジオ

千早「壁壁壁かべええ。見る人見る人なんだっていうんですか!!!」

春香「千早ちゃん! 声聞こえちゃってるよ。何いってるの!?」

千早「72!? 春香までそんな事言うの!」キエエエエエイ

春香「わ、落ちついて、落ちつて、あ――」ドンガラガッシャーン

ディレ「これは悪夢よ」プルプル

千早「春香まで、くっ、わたしのこと、くっ、馬鹿にして、くっ、くっ、くっ」

ディレ「もうめちゃくちゃだ! 春香ちゃん! 一段飛ばしで歌のリクエストに!」

春香「わわっ。そうだよ、私が、しっかりしないと」

春香「だって、私は天海春香だから」キリッ

春香「じゃあ、お歌のコーナー行きます!」

春香「こちらのお便りをお読み上げっ!」シュバッ

春香「ラジオネーム”みうら”さんのリクエスト。レッドツェッペリンより、胸いっぱいの愛を」

千早「嫌みか、みうらっ!」

@水瀬家パーティ会場 プールサイド

スピーカー「どんがらがっしゃーん」

貴音「…………ん」

<歌のお便りですっ

貴音「はて、ここは」

<レッドツェッペリン、胸いっぱいの愛を

<嫌みか、みうらっ

<♪ユーニードクーリンッ♪

貴音「面妖な!」

貴音「私はここで一体なにを。……目の前にぷーるがありますね」ポケー

貴音「ともあれ。ここで寝ているわけにはいきません」スクッ

貴音「プロデューサーはいずこへ?」

貴音「おや、あれは?」ジー

貴音「水面に何か浮いてますね。なんでしょうか」ジジー

貴音「人の顔のような……」ハッ

貴音「もしや」チノケヒク

@水瀬家パーティ会場付近、塀の上。

真美「どんどん社長の写真が濡れちゃってるね」

亜美「ますます、黒さに磨きがかかっていきますな→」ケラケラ

@水瀬家パーティ会場、プールサイド

貴音「あれは、ひひ人のかお」プルプル

貴音「そして黒いっ あ、あまりにもおおお」

貴音「ああ、そしてチーズの匂いがぁ」

貴音「あなたさまぁ!? どこですか? 貴音は、貴音はここに居ります!」

貴音「わたくしを、わたくしをたすけてください」ブルブル

亜美「そろそろ月も引っかかったんでないかい、真美隊員」

真美「らじゃ→亜美隊員。そんじゃ引き上げるよー」釣竿、グイー

写真プラーン

貴音「はやあああ、人の顔がああああ」

すぅっと空へ浮かんでいく写真と釣り糸。

真美「あ、やば」ヒラッ

釣針から社長の写真だけ落下。

亜美「社長よ、兄ちゃんを残して逝くのか。貴官の犠牲は忘れん!」

貴音「!? アレはあなた様!? 何故、月へ昇って? まさか、あなた様も」

コラー、オマエタチナニシテル。

貴音「待ってくださいあなた様。私を置いていかないください」

コリャマズイヤー、アミチャーン。ソダネ、マミン。スタコラッサッサー

貴音「わたくしを独りにしないでください。あなた様がいないと寒くて堪らないのです、怖くて堪らないのです」

ソイジャネー

貴音「行ってしまわれた。わたくしを置き去りにして」ペタン

コラー

貴音「あなた様」ホロ

貴音「あなたさまああ」ポロポロ

P「どうした! 貴音!」

貴音「!? あなた様?」スクッ

P「おい、貴音、あぶな」

貴音「ひゃっ」ズルっ

P「間にあえ!」ギュゥ

ドボーン。

@水瀬家別宅。暖炉前。

貴音「くしゅん」

伊織「まったくあんた等は――」クドクド

真美「ごめんってばいおりん。もう怒んないでよ」

亜美「そうだよ→ 律っちゃんみたいだぞ!」

伊織「悪戯が過ぎるのよ。アンタ達は!」

P「もうそれぐらいにしてやれって伊織」

貴音「くしゅん」タラッ

P「鼻水垂れてるぞ、貴音」フキフキ

貴音「申し訳ありません」ズビビ

伊織「アンタは甘すぎなの!」

P「二人とも貴音にちゃんと謝っただろ。それ以上どうしろっていうんだ?」

亜美「うう。ごめんね、お姫ちん」

真美「驚かせちゃって、ごめんなさい」

貴音「いいのです。亜美、真美。わたしの見間違えが起こした過ちなのです。気にする必要はありませんよ」

真美「お姫ちん」ウルッ

亜美「ごめんなさいー」ダキッ

P「……どうする、伊織?」

伊織「……」

伊織「まったく、しょうがないわね」ハー

亜美「いおりん!」パァァァ

伊織「あんた等これに懲りたら悪戯も大概にしなさいよ」

亜美「いおりん、ありがとう!」

真美「二人とも大好きっ!」

伊織「こら! だ、だきつかないでよっ」

貴音「ふふ。真、楽しいものです」

P「やれやれ」

ヤイノヤイノ

@水瀬パーティ会場前

伊織「ホントにアンタらはいいの? 車に乗らなくて」

P「おう、俺は貴音と歩いて帰るから」

貴音「はい」

伊織「そう。じゃあアンタがちゃんと貴音を連れて帰るのよ」

P「わかってるよ」

亜美「明日、また事務所でねえ、兄ちゃん、お姫ちん!」

真美「バハハーイ」

P「そっちも気をつけてな」

P「ふー」テクテク

P「今日は大変だったな。貴音」

貴音「……」テクテク

P「(まだカロリーの事気にしてんのかな)」

P「(はぁ、貴音のストレスになるような事させるんじゃなかった)」

P「(ん? でも)」

P「そういや貴音、万歩計を見てみろよ」

P「今夜の騒ぎで結構カロリー消費したんじゃないか?

貴音「……もう、いいのです」

P「よかないだろ? せっかく頑張ったんだから見せてみろって」スッ

貴音「あ」

P「って、あれ? なんだこれ」

P「画面が消えて……まさか」

貴音「……」フルフル

P「プール落ちた時壊れちゃったのか……」

貴音「……」ホロホロ

P「わー、貴音泣くなって!」

貴音「いえ、これでいいのです。私の日頃の食事が、プロデューサーの心配を招いたのですから」ポロポロ

貴音「伊織も、響も、亜美も、真美もずっと小食で」

貴音「それに比べわたくしは」

貴音「真、はしたない女性です。プロデューサーが心配されるのも無理のない話」

貴音「ほんとうに、はしたない」ポロポロ

P「っ」

P「貴音、ちょっと待ってろ」ダッ

貴音「ぷろでゅーさー?」グスッ



@コンビニ前

P「悪い、待ったか?」

貴音「いえ、それより、こんびにで一体何を」

P「なんだとおもう? じゃーん。ほら貴音、カップ麺だ」

貴音「四つもですか!!」

P「内二つは俺が食べる」

P「これをカロリー換算すると……、まあいいか」

P「とにかく、これでお揃いだな」

貴音「……プロデューサー」

P「ダイエットを強要するような真似してすまなかった」

P「それに俺は知ってるよ。食い意地だけじゃない貴音の魅力を」

貴音「……」

P「優しい心の持ち主だってこと、実は泣き虫なこと、怖いものが苦手で、ちょっとドジなこと」

P「貴音の可愛いトコ、ちゃんと俺は知ってるから。だから心配すんな」

貴音「……」プルプル

P「それにさ。貴音が食事してるのを見るの、好きだし」

貴音「あなた様っ」ダキ

P「お、おい。こんなとこで」

貴音「お願いです、もう少しだけ、もう少しだけお傍に」ギュウ

P「やれやれ(深夜で人通りも少ないし、いっか)」

@深夜。コンビニの縁石に座る二人。

まだ温かさが残るカップ麺の容器を両手で握りしめ、
仄かな温かさを感じている。

頭上には大きすぎる月が、まばゆい影を落としていた。

貴音「月が綺麗ですね」

囁きに似た声が、しんとした空気によく響く。

P「そうだな」

P「でも、ラジオの春香の話で、ちょっと苦手になったじゃないか?」

貴音は少し眉を潜め、顔を覗き見る。拗ねた子どもの目だ。

貴音「……あなた様はいけずです」

P「はは、冗談だよ」

貴音「それに、月の逸話ならわたくしだって負けません」

P「ほほう、随分と自信ありげじゃないか。聞かせてくれよ」

貴音「ふふん。いいでしょう。では」

貴音「あなた様は、満月を望月と呼ぶことをご存知ですか?」

貴音「月が地球を挟んで太陽と一直線になる時」

貴音「月は望の位置にあると言います」

P「月が太陽の影に隠れない時、満月、つまり望月になるんだな」

貴音「そうです」

貴音「そして、今宵のように望月が最も近づく日」

貴音「すーぱーむーんと呼ばれる今宵は」

貴音「望月、すなわち望みが、この星に最も近づく日なのです」

貴音「こんな夜に願掛けすればきっと望みが叶う」

貴音「そんな話を昔、じいやに聞いた事があります」

P「へぇ。なんだか、素敵な考え方だな」

P「貴音の地元ではそんな話があるのか?」

貴音「ふふ。そうですよ」

P「……そんな日に、俺は。はぁ、後悔しても仕方ないけど」

P「今日は、悪かったな」

貴音「ふふ、何を言っているのです。今、貴音は幸福です。

P「そういってくれると嬉しいよ」

貴音「世辞や嘘じゃありません」

貴音「それにわたくしの望みは、もう叶いましたよ?」

貴音「これもすーぱーむーんの御陰なのかもしれません」

貴音「素敵な殿方とらぁめんを食せる事、それは何にも代えがたい幸福です」

P「P冥利に尽きる話だ」

貴音「そういう意味ではありませんのに」

P「?」

貴音「全く、あなた様は本当にいけずなお方」

いつの間にか握った容器から暖かさは消えていた。
けれど、不思議と冷たさは感じない。

肩先が触れ合いそうな距離。
冴え冴えした月光が二人の隙間を埋める。

照らされた横顔を盗み見ると、
月の光はぬくもりを帯び、
いつまでもこの場所に留まっていたくなる。

地球に最も月が近づく夜は、そんなでした。

@後日、事務所内。

律子「新ラジオの企画はこれよっ」

律子「春香と千早、絶叫カタストロフ! これは売れる!」グッ

律子「春香のまったく意図せずの、あるいは計算し尽くされた悪気無き悪意!」

律子「そして普段からお澄まし顔の千早の心のシャウト! なんておいしいギャップなの」

千早「いやよ、私はそんな仕事!」

律子「なにいってるの! 私たちは仕事を選べるような身分じゃないでしょう?」

春香「千早ちゃんの言う通りだよぉ。それにラジオの仕事なんて私にはまだ敷井が高」

千早「敷井=部屋と部屋の隔たり=壁。春香、いい加減にして!」

春香「いい加減にしてほしいのはこっちだよ!?」

律子「いいわあ、これは売れるわ」ハハハ

亜美「んっふっふ~朝から元気いっぱいで何より」

真美「まったく年長組には真美たちの落ちつきっぷりんを見習ってほしいよ」

春香「元はといえば、亜美! 真美!」キッ

亜美「おんやー、こりゃ雲行きが怪しくなってきたね」

真美「んじゃ逃げますか亜美!

亜美「へい、おやびん!」

コラー、ドンガラッ、クッ、ワタシノオタカラガー

P「ウチは朝から騒がしいな」ヤレヤレ

貴音「プロデューサー」チョイチョイ

P「どした?」

貴音「こちらをお返しいたします。ありがとうございました」スッ

P「おお、万歩計か。悪いなわざわざ」チャッ

P「うん、やっぱりその方がいいよ、貴音は」

貴音「それで、その」モジモジ

P「?」

貴音「今宵も」

P「ん?」

貴音「今宵も、外を歩きませんか」

貴音「その。あなた様も一緒に歩いてくれると、わたくしの体調管理になって良いとおもうのです」

P「俺が万歩計代わりってわけか?」

貴音「あ、いえ。そういうつもりでは」タジタジ

P「うん、いいよ。今夜はらぁめん、食べに行くか」

貴音「あなた様!」

P「それにしても、スーパームーンっていうお祭り日和に連れてけば良かったよ」ガックシ

貴音「そんなことはありません」

貴音「あなた様と一緒なら、いつだって祭りのように浮足だってしまうのですから」

貴音「ですから」

貴音「ずっと。お傍に置いてくださいね」

おしまい。

乙です

詩的な綺麗さ漂ういいはなしだった
おつ!

ありがとうございます。
次は響を書きたいのでまた良かったら読んでください。

HTML化依頼だしました。

おつ!

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