P「やきもち」 (29)
これは、ありふれた話なのだろう。
決して日常ではないけれど、探せ
ばいくらでもある話なのだろう。
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P「……それにしても、綺麗な星空だよなぁ……」
貴音「ええ……ですが月もまた、まこと美しく……」
貴音の隣で、皆を見ながらビールを飲む。
こうしていると、なんだか貴音と夫婦になったような気分になるな……。
そう、まるで公園で遊ぶ子供をベンチに背中を預けて見守る夫婦のようだ。姿勢もちょうど、そんな感じだし。
律子「ちょっとプロデューサー! 空を見るのは後にして、こっちを手伝ってください!」
P「ああ、すまんすまん」
俺たちは今、765プロの屋上で月見をしている。
最初は貴音が、二人で月を見ようと提案してきたのだが、いつの間にか皆で集まってバーベキューをすることになっていた。
まあ、花より団子、月より肉だ……貴音も喜んでいるしな。
春香「プロデューサーさん! はい、あーん!」
P「え」
美希「あ! 待つの春香! ハニーにあーんってするのはミキなの!」
P「お、おい」
春香が俺に食べさせようとし、それを美希が阻止する。最近よく見る光景だ。
伊織「あいつらも飽きないわね……」
小鳥「ふふ、喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない」
やよい「でも、やっぱり喧嘩はよくないですよー」
春香「だいたい美希はプロデューサーさんに迷惑かけすぎだよ!」
美希「迷惑なんかじゃないの! それに、それを言うなら春香の方が迷惑かけてるって思うな!」
P「おいおい、あんまり火の近くで暴れるなよ……っておい!」
あずさ「きゃっ!」
春香「あ……」
美希「あ……」
律子「『あ……』じゃないわよ! 何やってんの!」
あずさ「り、律子さん、私なら大丈夫ですから……」
律子「あずささんは早く着替えないと! 風邪ひいたらどうするんですか!ほら行きますよ」
あずさ「は、はい~」
律子があずささんを連れて下に降りて行く。まあ、あずささんは律子の担当アイドルだからな……大事にしてるんだろ。
P「はあ……全く、だから言っただろ? あずささんにかかったのが水だったからまだよかったものの……」
春香「……ごめんなさい」
美希「……ごめんなさいなの」
P「これがコーヒーとかだったら染みになるんだぞ? もしも熱い物だったら火傷してたかも──」
貴音「よいではないですか。春香も美希も、反省しております」
P「……まあ、そうだな」
貴音「とは言え、二度とこのようなことが起こらぬよう、手を打っておかねばなりませんね……春香、美希、プロデューサーから離れ、あちらの方で仲良くしているのです」
春香「うう……はい……」
美希「…………はいなの」
春香と美希がフェンスの方に歩いていく。あのフェンス、もたれかかると背中が痛くなるんだよな……。
P「…………」
貴音「どうかしましたか?」
P「なあ貴音、あそこまでする必要はなかったんじゃないか?」
貴音「いいえ、あの二人は邪魔をしたのです。このぐらい当然の罰というもの」
P「そう……か」
「「きゃあああああぁぁぁぁ……!」」
悲鳴が聞こえた。
それに前後して、金属の軋む音と、金属が叩きつけられた音。
そして、何かが落ちた音。
ぐしゃ、とかべちゃ、とか……そんな様な音が聞こえた気がした。
伊織「嘘……」
やよい「……は、春香さんと、美希さんが……」
千早「春香っ!?」
見れば、春香と美希がいなくなっていた。
そしてフェンスも、一部なくなっていた。
P「……音無さん! みんなを事務所に連れて行ってください!」
小鳥「あ……は、はい!」
走り出して、携帯を取り出し救急車を呼びながら、階段をかけ降りる。
電話の向こうから、救急か消防かを尋ねる声が聞こえる。
P「救急です! 人が屋上から転落して……場所は……」
質問に答えながら降り、ビルから出ると、『それら』はあった。
頭が割れ、脳のようなものを飛び散らせた。
手足が普段曲がらない筈の、おかしな方向に曲がった。
少しずつ、血だまりを広げている。
さっきとはうってかわって、生気の無い眼をしていて、表情がない。
恐らく普段言われているそれとは違う意味で、『人形の様』な。
そんな『物』が、二つ、落ちていた。
それから先は、大体想像できるだろう。
野次馬の好奇の目から必死で彼女達を守り、しばらくして着いた救急車に乗り、病院まで付いて行った。
医師から話を聴き、やがてやってきた彼女達の両親に事情を説明し、事務所に帰った。俺にできることは、既になかった。
翌日からはマスコミの対応に追われ、忙しかった。
他のアイドルの皆もしばらくはオフにした。
警察によると、フェンスの老朽化により留め具が外れていたことが原因だそうで、事件性は無く、事故として扱うらしい。
……俺のせい、なのだろうか。
俺が、春香と美希の好意に対してはっきりと返事をしていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
だが、今更どうしようもない。
例えそれを追求した所で、誰も幸せにはならない。
俺にできるのは、これ以上の犠牲者がでないようにすることだ。
後に、俺は結婚した。
以前から付き合っていた彼女が、ようやく頂にたどり着いたからだ。
着物が似合う、自慢の妻だ。
短いですがこれで終わりです
読んでくださった方ありがとうございました
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