絵里「あなたも私も」 (37)
※ラブライブSS
※地の文
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今日はバレンタインデーだったかしら。
授業の終わった放課後の廊下で、ふと疑問に思う。
荷物を持って帰ろうとロッカーを開けてみると、目に映るのは未開封のお菓子たち。
それが全てチョコレート類のお菓子だと気付き、ちょっと嬉しいと思っちゃうのは、私の好物がチョコレートだから。
──なんだけど、私、こんなの入れておいた記憶は無いのだけれどね。
「空箱だったらイタズラなんでしょうけど……まだ空いてないし──プレゼントかしら」
私のファンからのプレゼント! ……なんて、前向きに捉えてみる。
でも、実際それくらいしか思いつかないのよね。お菓子をもらう理由なんて。
私の誕生日はもう過ぎてるし、バレンタインなんて2月よ? あと3ヶ月もあるじゃない。
携帯を取り出して、今日の日付を確認する。
ほら、11月11日。何も間違っていない。
何か特別な日、というわけでも──
「……11月11日?」
ロッカーに詰められたお菓子のパッケージをもう一度よく見てみる。
ああ──そういうことね。
少し薄い、長方形の赤い箱。
商品名は、『ポッキー』
11月11日──なるほど、ポッキーの日、か。
正確には、ポッキー&プリッツの日、というらしいのよね。
何故かプリッツの存在が忘れられて、ポッキーの日、と言われることが多いみたいで──
現にロッカーに入っていたお菓子は全てポッキーだったし。
オトノキでもプリッツの存在は薄いものになってしまっているみたい……大丈夫、私は覚えているわ。
……まぁ、ポッキーの方が好きだけど。
いいじゃない、チョコ好きなんだもん。
さて、どうしたものかと、複数あるポッキーの箱を一つ一つ手に取り、ちょっとした確認。
手紙は──付いていないみたいね。良かった。
自慢じゃないけれど、私って校内でも、結構人気がある方で。
たまーに、こうやってプレゼントをもらうという事態があって、それだけならいいのだけれど……手紙が付いていたりする時もあって。
何の手紙かって? そりゃあ、ねえ?
ラブレターってやつ。
女子高なのにね。
私を慕ってくれるのは本当に嬉しいことなのだけれど……これがまた、難しい。色々な意味で。
全ての箱に手紙が付いていないことを確認して、持って帰ろうと鞄に入れようと、ふと気付いた。
9箱ある。
「……1人で全部、もいいけど」
鞄に箱を入れながら、思わずニヤけて。μ'sの皆を思い浮かべる。
今日はポッキーでお菓子会、なんてのもいいかもね。
部室に向かう途中、廊下を全速力で駆け抜ける子を見つけた。
オレンジ色の髪の毛を揺らしながら、走っている途中私に気付いたようで、進路を変えて一直線に向かってくる。
これは生徒会長として、厳重注意ね。
「えーりーちゃん!!」
「穂乃果ー? 廊下は走ってはいけません!」
ビシッと人差し指を突き立てて、穂乃果のおでこをツンと突く。
注意されたのが予想外だったのか、穂乃果は一瞬ギョッとして表情で、突かれたおでこをさすって言う。
「うぇ……ごめんなさーい。もう、絵里ちゃんたら海未ちゃんみたいなこと言ってー……あっ!!」
言い掛けて、思い出したように続ける。
「そう! 海未ちゃん!! 海未ちゃんどこかで見てない!? 全然見つからないの!」
「海未? いえ、見てないけれど……弓道部に用事とかじゃない?」
思い当たる節はそれくらいかな。
今でこそ弓道部は休部中の海未だけど、よく後輩の指導に駆り出されたりしているし。人気者なのよね。
だけど穂乃果はブンブンと大きく首を振って、軽く地団太を踏む。
「違う違う! ぜーったい違う!! ていうか、穂乃果わかってるもん! 海未ちゃんは今逃げてるの!!」
「誰から?」
「穂乃果から!!」
ドン! と、漫画なら効果音が付きそうな雰囲気で、親指で自身を指差す穂乃果。
あら、男前。なんて軽い冗談を言わせてもらえる隙もなく、穂乃果の口は止まらない。
「絵里ちゃん今日は何の日か知ってるでしょ?」
「ええ、あれでしょ? ポッキーの日。気付いたのはさっきだけど」
「そうそうそれ! ポッキーの日!! あのね、海未ちゃん、穂乃果と約束したんだよ。
『ポッキーの日になったら、ポッキーゲームをします』って!! そう約束したのに! 逃げちゃったんだよー!!
うわーん! 海未ちゃんのウソツキー! 口だけ星人ー!!」
口だけ星人て……なんか久しぶりに聞いた気がするわ。死語じゃない? それ。
穂乃果を落ち着かせて、もう少し詳しく事情を聞いてみると──まぁ、今言ったとおり、ポッキーゲームをする約束を海未が破った、
という話なんだけれどね。
……なんとなく、海未が逃げた理由が分かる気がする。
ポッキーゲームって知ってるかしら?
誰かと2人で、ポッキーの端と端を咥えあって食べ進んで行き、先に口を離したほうが負けっていうゲーム。
このゲーム、お互いの顔がすっごく近づくのよね。それこそ、キスしちゃうんじゃないかってくらいに。
ね、海未にこれができると思う?
「ポッキーゲームがやりたいなら、ことりが相手じゃだめなの?」
「えー、だって、ことりちゃんとはよくやってるし……」
サラッと凄い発言したわよこの子。
「だから、海未ちゃんともやりたいのに、いっつも恥ずかしいってやってくれないから。今日まで我慢したのに……むー」
「なるほどねぇ……」
恥じらいというものが無いのか、と一瞬思ったけれど、これはきっと穂乃果の愛情表現なのよね。
幼馴染の2人が本当に大好きだから、自分が面白いと思ったことは一緒にやりたいって、そういう想いが溢れに溢れて、
暴走しちゃってる感じ。
海未も素直になっちゃえばいいのに。
「今日じゃないと占いの効果が出ないのに! もう!! 意地でも捕まえちゃうんだからね!
絵里ちゃん、海未ちゃん見つけたら、是非ご協力をお願いいたします!」
それじゃ! と見事な敬礼を披露して、再び廊下を駆け抜けていく穂乃果。
廊下を走るなという私の注意なんて、もう頭からはすっぽ抜けてお空の彼方に飛んでいってしまったみたい。
やれやれと苦笑いしながら、私も再び部室へと歩き始めた。
「……ん? 占い?」
脳裏に不安がよぎる。
──────
──
部室の扉をガチャリと開けて、しまったと思ってからはもう遅く。
先客がいる可能性がある場合は必ずしているはずのことを、この時に限って忘れるんだから、私ってばおっちょこちょいよね。
ノックをし忘れて入った部室には、着替え中の花陽。
「ひゃあああ」
花陽の可愛らしい鳴き声のような悲鳴が私を襲い、思わず「ごめんなさい!」と部室の外に飛び出して。
扉を閉めて背中を向けていると、「ど、どうぞー」と、小さな声が聞こえて、仕切り直すように部室へ入る。
練習着に着替え終えた花陽の頬が少しばかり赤く見えたのは、気のせいかしら。
「えー、っと、その、ごめんね? 覗くつもりじゃなかったのよ?」
「そんな、気にしなくていいよぉ。わ、私の方こそごめんね、変な声出しちゃって……あはは」
お互い照れたように笑う。
「……ていうか、私たち皆いつも一緒に着替えてるじゃない」
「えへへ、そうだよね」
「不思議ねぇ」
雰囲気やその場の状況次第で、人の反応というのは多種多様で面白い。
──それにしたって、さっきの私の反応、まるで男の子みたいだったんじゃない?
友達の女の子の着替えをうっかり見ちゃって慌てて目を逸らす男の子。
どこかの漫画で見たことがあるような無いような。ラブコメ物の定番のシチュエーションを自分が体験することになるなんて。
漫画ではここから恋が始まったりするものだけど……残念、私も花陽も女の子。
「まだ花陽だけなのね。凛と真姫は、教室?」
「真姫ちゃんは音楽室だと思うけど……凛ちゃん、用事があるから先に行っててーって、どこか行っちゃったんだ」
「どこかって……どこかしら?」
「どこだろうね……」
首を傾げて。
ノラネコの行き先なんて、予想する方が難しいわよね。
生徒会室に忘れ物をしたのを思い出して、再び私は1人、廊下を歩いている。
穂乃果は海未を見つけたかしら。恐らく、ことりも一緒に探してるはずだから、もうそろそろって気がするけど。
真姫は音楽室。凜は行方不明。希とニコも行方不明。
まとまりないなあ、この部活……
少し気になったので、真姫がいるはずの音楽室に寄り道してみることにして。
真姫が音楽室に向かう理由は、大抵はピアノを弾くためだから。近くに行けばメロディが聞こえてくる……と思うんだけど。
無音なのよね。もしかして、入れ違いで部室に行っちゃったかな。
音楽室の扉を開けると。
「真姫ちゃぁーん!! 死んじゃイヤにゃーっ!!」
ピアノの鍵盤に正面から突っ伏している真姫と。
動かない真姫を必死に起こそうと涙目の凛がいた。
意味がわからない。
「……凛? なにやってるの」
「あー!! 絵里ちゃん! あのね、真姫ちゃんが倒れて動かなくなっちゃって……なんで!?」
「こっちのセリフよ」
落ち着かせて、事情を聞くと。
「あのね、今日ってポッキーの日でしょ? それで凛、真姫ちゃんとやろーって思って──
こう、真姫ちゃんに一本あげて、咥えたところに凛がすかさずパクっとサクサクサクー! ってやってたら……倒れちゃったにゃ」
「……」
天然っていうのはこうも恐ろしいものだったかしら。
きっと初めてだったのね、真姫。初めてのポッキーゲームで、相手の食べるスピードが尋常じゃなく速かったから──
ほら、見なさい凛。真姫の顔、真っ赤。
「凛。あなたが責任もって、ちゃんと部室まで連れてくること。わかった?」
「えぇー!? 凛だけじゃ無理無理! おぶってなんていけないし、起きたら絶対怒られちゃうにゃー!!」
「自業自得! 私はこれから生徒会室に行くから、また後で、部室で会いましょう」
「鬼ー!!」
音楽室の扉は無情にも閉められる。閉めたのは私だけど。
「真姫ちゃん真姫ちゃん」と必死に呼びかける声に後ろ髪を引かれつつも、再び生徒会室へと足を向けて。
「いいことが起こるって占いで出てたのにー! あんまりだにゃー!!」
脳裏に不安の波が押し寄せる。
ポッキーの日って、意識する人が意外と多いのね。
私のロッカーにポッキーを入れた人たちもそうだし、μ's内でも既に5人。……内2人は被害者って呼んだ方がいいのかもしれないけど。
そしてもう1人、こういうイベントごとが大好きな、それでいて自分だけではなく周りにも変な影響を与えようとする遊び人がいる。
穂乃果と凛が口にした、占いという言葉で、まあ、誰だかは想像に容易いわよね。
生徒会室の扉を前で立ち止まって、もしかして、という当たってほしくもない予想を1つ。
扉を開ける。
ああ、やっぱりいた。
「んん~?」
とぼけた声を出してこっちを見る。
生徒会室のデスクには、押し倒されているニコ。そして口にポッキーを一本咥えて上から覆い被さっている希。
ニコはなんとか押しのけようと腕を突っぱねているけれど、希は微動だにせず、といった感じで。
「……なにをやっているのかしら?」
今日の私、尋ねてばっかりね。
「なにいうとるんエリち。ポッキーゲームに決まってるや~ん。なぁ、ニコっち」
「ど~き~な~さ~いぃ~!!」
頭が痛くなる。
まったくもう、この子は……あなた生徒会副会長よね?
「いいから、机から降りなさい」
「ええ~」
「おーりーなーさーいっ」
ちぇ~、っとつまらなさそうに、脹れたように、渋々とニコから離れて。
拘束を解かれたニコは待ってましたと言わんばかりに飛び起きて。
「ありがと、絵里! 助かったわ!」
黒髪のツインテールを揺らしながら脱兎の如く生徒会室を飛び出していった。
「あ~あ、逃げられちゃったやんかー。エリちのいけず」
「なーにがいけずよ、ホントにもう」
起き上がった希の格好を見て、また1つため息。
リボンは曲がってるわ制服のボタン全開ではだけてるわ……これじゃ不良よ、不良。
生徒会の学生が不良だなんて聞いたこともないわ。ホントに頭いたい。
身嗜みを整えてあげると、希はにへらと笑って。ありがとなー、なんて言う。
オホンと一つ、わざとらしく咳払いをして、とぼけた顔で笑っている希を軽く睨む。
「あのね、希。あなた副会長なんだから、そんな率先して風紀を乱すようなことしたらダメじゃない。
私以外の人が入ってきたらどう言い訳するつもりだったのよ?」
「も~う、エリちったら、そんな頭固いこと言わんといて~。
なんや、μ'sのみんなと一緒になってから、少しはやわっこくなったかなぁって思ってたのになあ。
言い訳なんてする必要ないよ。お互い合意の上やし」
「合意している人が『助かった!』なんて言って飛び出していくのかしら?」
「イヤよイヤよも好きのうちって言うやろ?」
「はあ~……」
なんだかお小言言うのも面倒になってきた。
「ウチとしては、エリちとのトロントロンに濃厚なプレイでもウェルカムなんやけど、ごめんなぁ、
今日はニコっちとじゃないとアカンって、このカードがウチに告げるんや。
な? そういう訳なんで、ウチはニコっちを追いかけま~す。ほな、また後で~」
制服のポケットからカードを1枚取り出し、ヒラヒラと動かして。
この子私の言ったこと何一つ理解してない……いや、理解した上でスルーしているのね。あまりにも自身の欲望に忠実すぎる。
そのまま何事もなかったかのように出て行こうとするものだから、私は待ったをかけて。
希は「な~に?」と振り返る。
「あなた今日、あの子たちに何か吹き込んでない?」
「吹き込んだって、人聞き悪いなぁ。いっつも遊んでるみたいに、占いの結果を教えてあげただけよ? ポッキーゲームの相性占い。
穂乃果ちゃんと凛ちゃんだけ、ちょーっとばかり炊きつけたけど……あ、もしかしてエリち、それを聞くってことは~、
何か面白いことあったん? 教えて教えて~」
「……穂乃果が妙に張り切って海未を探してた。凛が突っ走って真姫がトマトになってたわ」
ケラケラと希は笑い出す。よかったねー。後で真姫に怒られなさい。
占いは私たち全員を対象にやったみたい。
でも私はその結果を教えてもらってないのだけど──
「エリちのお相手? それはなぁ、エリちの賢い頭脳でズバッと推理したら、わかるやろ?
ちなみにヒントを1つ言っとくと、2年生はトリオやで」
ほな~、と間延びした一言を添えて、希はニコの逃げた方向へと向かっていく。
2年生はトリオ? そりゃあ3人いるんだからトリオなのは当たり前じゃない──
って、そういう意味じゃないのよね。3人でゲームをしなさいってこと。
ふむ、となれば、もう私のお相手は判明したも同然で。
でもそれを実行に移すかと言えば……希に「風紀が乱れる」なんて言った手前、会長である私が同じ轍を踏んでどうするのかと。
──とりあえず部室に戻ろう。
希に翻弄されて忘れかけていた忘れ物を持って、生徒会室を後にする。
──────
──
「あら?」
「ひっ……あっ、絵里でしたか……」
少し歩いたところで、穂乃果の探し人を見つけた。何をそんなに怯えているの、海未。
「海未、穂乃果が探していたわよ?」
「知っています……。ちょっと今は、その……」
「逃げてるんでしょ? 穂乃果、『海未ちゃんとポッキーゲームやる! やるったらやる!!』って張り切ってたわ」
海未の表情が一層険しくなり、キョロキョロと挙動不審に周りを見渡す。
「うぅ……聞いていたんですね。それなら、絵里。是非私に協力してください。
穂乃果には私の居場所を伝えないよう──」
「ええ、わかったわ」
おもむろに携帯を取り出す。
タップ、スライド、タップ。メール画面、オープン。
「でも海未。穂乃果との約束だったんでしょう? ポッキーゲームをするって。
そりゃあ、軽い口約束なんでしょうけど、約束は約束。破るなんて海未らしくないわよ?
そんなに嫌なの?」
「い、嫌というか……。だって、恥ずかしいじゃないですか! ポッキーなんて、普通に食べればいいのに、
あんなに顔が近くに寄って……万が一間違いでも起こってしまったら」
宛先入力、文章入力。
「間違いって、何かしら~?」
「そっ、それは……その、き……きき……ぅ」
「んー? よく聞こえないわ。もっと大きな声で」
送信。
「うぅぅ~……もう! 絵里はイジワルです!!」
「ええ、私、イジワルなの」
生徒会長失格の瞬間かしら。
ほら、海未。あなたの待ち人が来たわ……いえ、ハンターね。
「うぅーーーみぃーーーちゃぁーーーーーん!!!」
校内に響き渡りそうな大声で名前を呼ばれて、海未はビクッと跳ねて。
恐る恐る振り返り、向こうから全速力で駆け抜けてくる穂乃果を見て、悲鳴を上げた。
「ほ、穂乃果ぁ!? な、なぜこんなに早く……ああ!!」
海未は気付いたみたい。携帯をチラつかせて、ニヤニヤ笑ってる私を見たら、そりゃあ気付くか。
ワナワナと指差してうろたえる海未は、普段のギャップと相まって、なんていうか可愛らしい。
「絵里ぃ!! 私を売りましたね……!!」
「あ、売ってはいないのよ? ただ私、先に穂乃果から協力お願いしますって言われてたから、ね?
ミッションコンプリートってこと。ふふ、ごめんなさいね」
「くっ!」
海未は私の言葉を聞くや否や、駆け出して私の横を抜けていく。
そうね、穂乃果はあっちから来てるんだもの。反対側に逃げるのは当たり前──なんだけど。
残念、海未。あなたを探しているの、穂乃果だけじゃないのよ?
「海未ちゃんみーっけっ」
「なぁっ!?」
「ナイスことりちゃん! 挟み撃ち成功だね!!」
穂乃果とことりに挟まれ、海未は為す術もなく立ち止まった。
こういうの、なんて言ったかしら──前門の虎、後門の狼、だっけ?
ああ、この場合は……前門の犬、後門の鳥ってところかしら。随分可愛らしくなったわね。
海未にとっては、逃げようのない最悪の門番たちだろうけど。
打ちひしがれた海未は、そのまま穂乃果にがっちりと掴まれ、ついに降参したようだった。
「やーっと捕まえたよ海未ちゃん! さあ行くよ! 1箱分使うまで逃がさないもん!」
「穂乃果ちゃんずる~い。ことりもやりたいから半分ずつにしようよっ」
「あ、そっか、ごめんごめん。それでは、絵里ちゃん隊員! ご協力ありがとうございました!」
「ありがとぉ、絵里ちゃん」
虚ろな目をした海未を引き摺りながら、穂乃果とことりは意気揚々と帰っていって。
取り残された私は、これでよかったのだろうか、と若干の疑問を残すけれど。
……まぁ、いいことした、ということにしておきましょう。
海未、頑張って!
──────
──
部室に戻って、再び花陽と2人になる。
見てきた様子じゃ、みんな集まるのはもう少し時間がかかりそう。
まとまりない部活だなぁ、なんてさっきは思ったけど、みんなしてポッキーゲームに振り回されてるんだから、
ある意味まとまりがあると言えるのかしら。さすがμ'sよね。
──ね、それなら。
真の団結力を発揮するために、ここにいる私と花陽もそうあるべきだと、そういう結論に至るわけで。
別に何もおかしなことは言っていないでしょう?
私たちだけ仲間はずれなんて、そんなの寂しいじゃない。
……え? 風紀?
過去のことよ。
「ねぇ花陽。今日って何の日?」
「え? 今日……今日は、11月11日だよね。えぇっと……あ、そういえば、1が並んでるから──
ポッキーとプリッツに見立てて、ポッキー&プリッツの日って言うんだよね?」
両手の人差し指をぴょこんと立てて、ニコニコ笑顔の花陽。
そう、ポッキー&プリッツの日。プリッツのこと、忘れられてないみたい。
私は鞄からポッキーを1箱取り出す。
「そうそう。それでね、誰からかはわからないんだけど、ポッキーもらっちゃって。たくさんあるから、一緒に食べない?」
「わぁ~、ありがとぉ。私ポッキー好きなんだ~」
箱を開けて、1袋を花陽に差し出す。
袋を開けて、ポッキーを1本手に取り、口へ運んでパクッと咥えるの見て。花陽の両腕に掴みかかる。
──さぁ、ショウタイムよ。
「ぅん!?」
「じっとしててね~」
花陽の口にはポッキーが咥えられたまま、状況を理解できずか目をパチクリとさせて。
「花陽。ポッキーゲームって知ってる?」
私の問いに、花陽はコクンと頷く。
知っているのなら話は早い。私はニヤリと笑って、花陽の口から伸びているポッキーの端をパクリと咥える。
これで、ポッキーゲームのセッティングは完了。
後は──食べ進むだけよ。
サクリ──
1つ、食べ進む。
花陽の顔が目の前にある。
お互いキョロキョロと視線を動かすわけでもなく、瞬き1つもなく、ただジッと見ているだけ。
紫色の瞳が微かに潤んで、とても綺麗。
サクリ──
また1つ。
顔が更に近づいて、膨らんだ前髪がくっつきそう。
花陽の体が小刻みに震えているのがわかる。
怖いのかしら。
謝りたいけど──今は無理。
サク、サクサク──
花陽は一度も食べ進まない。
食べているのは私だけ。ああ、ほら、もうすぐ鼻先がくっついちゃう。
離さないの?
このままだと本当に──
しちゃうわよ?
「ぴゃぁぁぁ」
子犬のような鳴き声が聞こえたと思ったら。
花陽は口を離して、顔を真っ赤にして……倒れちゃった。
残った数センチのポッキーをサクッと食べ終えて、倒れた花陽を揺さぶってみる。
「花陽ー? おーい──」
返事がない。
ふう、と1つ、息を吐いて。
「──やりすぎちゃった?」
──────
──
「もーホントに信じられない! 有無を言わさずいきなりあんなことする!? ちょっと凛、聞いてるの!?」
「だからゴメンって何度も言ってるのにー! かよちーん、真姫ちゃんの怒りが静まらないにゃー!」
「あぅぅぅう……」
「なんや、人のこと言っといてエリちもやることやってるやーん。花陽ちゃんをこーんな骨抜きにするなんてなぁ」
「勢いって怖いわねー……ていうかニコ、大丈夫なの? すごいやつれてない?」
「希ィ……覚えてなさいよ……」
「なーんだ、みんなもポッキーゲームやってたんだね! ね、海未ちゃん! やってよかったでしょ?」
「うぅ……もうお嫁にいけません……」
「よしよし、大丈夫だよ~。穂乃果ちゃんとことりがいるから」
部室でみーんな集まって。
鞄に詰めてた9箱のポッキーで、9人の小さなお菓子会。
振り回したり振り回されたり。なんだかおかしなひと時だったわ。
ポッキーゲームって、本来は異性同士でやるのがセオリーって聞くけど。
別に女の子同士でも、いいんじゃない?
それに海未が言う様に、万が一の事故? があったとしても──まぁ、みんなとなら、いいかなって。
ふふ。
私って、そっちの気があるのかしら。
なんて物思いに耽っていると。急に穂乃果が立ち上がって。
「よーし、みんな! こんなにポッキーがあるんだし……
全員でポッキーゲームしようよ!!」
「ええぇーーーっ!!」
あーらら。
私たちのポッキーの日は、まだまだ終わりそうにないみたい──
おしまい
ありがとうございました
まんこ
乙
乙
乙
花陽かわいい
乙
タイトルのせいでまどマギのあるシーンを思い出した
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