弟「ヘタレな兄が夜這ってきたけどヘタレだった」(52)


日暮れをとっくに過ぎた夜半の事だった。

野鳥も昆虫も草木も寝静まった深い夜に
弟を眠りから目覚めさせたものがあった。

「なにごと」

眠気で重い身体を起こした。部屋は暗い。
目を細めて闇の中を探った。

鈍った五感に意識を集中させる。
感覚が研ぎ澄まされて鋭敏になった。


水深一万メートルの深海に潜った気分だった。
遥か遠くに水面のざわめきを感じた。

弟は永久の無音で息をひそめ続けた。
魚が背びれ、尾ビレで掻きわけて生んだ水の流れ。

穏やかな水流に乗った海藻が僅かに息づく気配。
いかなる生物もその場に留まるだけで空間に影響を与える。

なるほど。なるほど、と弟は理解した。
視野を極端に狭める暗黒に隠れる生き物を見つけた。

弟は口の端を歪めて静かに笑顔を浮かべた。

その微笑は音のない世界に向けてではなく、
闇に擬態し損ねた憐れな動物に見せてだった。


「兄よ。この時間だぞ」

水の流れが大きく動いた。

勢いに押された海草がたじろぐ。

三分も待てば闇夜に塗りつぶされた室内から
ようやくまともな呼吸音が聞こえてきた。

酸素を欲しがる苦しげな息遣いだった。

「すまない。気の迷いだ」

後に続く許してくれという言葉は小さかった。
戦意を削がれた兄が明確に体の向きを変える気配がした。

しかし弟は逃さなかった。獲物の尾っぽを捕まえていた。


優位にあるのは、体格が小さく非力な弟の方だった。

罪の意識に委縮する兄を、さらにみっつの言葉で脅した。

「このまま帰ってしまえば後悔する」
「兄も僕も今晩のすれ違いを必ず悔やむ」
「なにも言わずに出ていってしまえば、怖れる明日が来る」

光から隔絶された洞穴は、
再び水深一万メートルの圧倒的な深海の闇に戻った。

魚はヒレを動かして滞留を選んだ。
体を傾けていた海藻が頭をもたげて正しく揺れ始めた。


「よくないことをしようとした。とてもよくないことを」

「そのよくないこととはなんだ」

「聞かないでくれ。今ならあやまちを犯さずにすむ」

ふたりの間を流れる水が圧縮されて固く重たくなった。

自らの足で領海におもむき、弟の安息に踏み込んだ兄が、
自らの意思で間違いがあったことを認めて退去を選んでいる。

よくないこととはなんだ、と尋ねるのは愚問だった。

野鳥も昆虫も草木も寝静まった夜半に
一匹の雄が一匹の雄の寝床に近寄る。


半分だけ眠たくなった思考の鈍る頭でも、
それが意味するものを精確に理解するのは容易かった。

「怖いか、兄よ」

広大な闇に向かって弟は問うた。

確信を突くはずだった声は、無様にも空振りをした。
けれどもその空振りは、水流の軌道をはっきりと捻じ曲げた。

「危険だと知っていながら、どうして足を止めさせる」

「危惧すべきものはない。しかし夜が明ければ怖くなる」

「この晩の出会いをなかったことには」

「兄の息遣いを聞いた。その脈動を忘れることなんてできない」


「生涯かけての願いだ。償いもする。今夜のことは忘れてくれ」

つばを飲み込む音が闇の中から聞こえてきた。
聞き漏らしてしまいそうになるほどの微小な音だった。

大きくうねった水の流れが正常に戻ることはない。
それを弟は知っていた。そしてそれを怖れていた。

無防備に朝を迎えれば、さらに不吉な流れが深海を通ることになる。

水底はとても敏感だった。

何ごとにも左右されやすい性質を持っていた。

「このまま帰らせてくれ。さもなければ俺は」

「僕は兄とすれ違いになることだけが恐ろしい。死ぬほど恐ろしい」


膝をついた気配がした。
闇に蠢くその影が、非力で無力で他力な存在になった。

「あらゆる言葉を持ち出しても肯定できない過ちになる」

「正当化など必要ない。秘匿に徹すればいい」

「けれど、もし知られたら」

「他者にも理解する知能くらいある。頭ごなしに否定はしない」

弟は前のめりになって腕を伸ばした。

小さく暖かな手が、うねって渦巻く不穏な
とぐろの水流を遮って兄の頬に触れた。


「許される間違いもある。この道もそのひとつ」

頬からあごにかけて手を動かす。

「禁忌と言われようとも、いつか世界は受け入れる」

指先が唇に触れると、それから名残惜しそうに、
さも誘うかのようにゆっくりと手を引いた。

「ひとりふたりではない。地球世界が僕らの渇望を受容する」

兄は咄嗟に顔から離れた手を握った。
汗ばんだ手のひらが緊張状態にあることを報せた。


「種への叛逆であってもか。世の理に反旗を翻してもか」

「必ず」

弟は短く答えた。兄の手が酷く震えていた。

「布団に入るといい。入らなければこの話が無駄になってしまう」

非力で無力で他力な兄は、掴んだ手に引かれて布団へと導かれた。
温柔な感触だった。人肌由来の温もりに包まれた兄は一息ついた。

「情けないと思うか」

弟は首を振って否定した。
兄の顔が鼻先の触れある距離にまで近付く。


「思わない。思ったとしても、軽蔑ではなく愛おしさに違いない」

兄ははっとして息をのんだ。

「僕の我慢にも限界がある。それが今日になりそうだ」

弟の両手が兄の顔を挟むように頬に添えられた。

一秒を百分割するほどの遅く緩やかな時間の流れを
兄に感じさせながら、柔らかい感覚が口をふさいだ。

目を瞠って隣に横たわる弟の顔を見つめた。
細く開かれた目から、暗闇に慣れて
膨らんだ瞳が兄を見返していた。

弟の行動は慰めや同情といった憐みではなかった。


ふた回り歳が離れた弟は、禁忌に触れたいと
暴れる欲求を抑圧する苦しみを兄と同じだけ抱えていた。

長い時間をかけて重なりあった唇を離すと、
兄は最後の確認となる言葉を弟に投げた。

「俺が望むものが等しい世への間違いであるように」
「お前が求めていたものも等しく間違っている」
「それでも退かないと約束できるか」

物陰で丸くなる猫を引きずり出して太刀を突きつけるように、
冷たく鋭利な視線に暴力的な気迫を込めて兄は尋ねた。


しかし弟は返事を迷わなかった。
猫は太刀にすり寄って、親しげににゃあと一声鳴いた。

「退くものか。たとえ世界への謀反と罵られようとも」

弟は真っ直ぐ睨む視線を避けることなく答えた。

兄は返す言葉を失って目を閉じた。
思い付く限りの脅しは全て試したつもりだった。

どれに対しても弟は正面から見据えて偽りなく本心を口にした。
ドロリと粘る欲望に逆らうなと非力で無力で他力な兄を諭すのだ。

布団の下で弟が優しく手を握ってきた。
兄はもうどうしようもなくなった。


もう考えて抵抗するだけ無駄なのだろうと思い始めた。
残った少ない理性で弟への欲望を押しのけても、
近いうちにまた寝床へと戻ってきてしまう気がした。

ならば、今が絶好の好機だと考えた。
その思考に至るまでの発言は端から端まで全てが茶番で、
理性の留め金を外すための理由作りとしか思えなかった。

「僕はもう辛抱ならない。兄が欲しい」

兄の首筋に粘液を滴らせた舌が這った。
前人未到の深海に潤沢な唾液がぬらりと光った。

兄は弟を抱き寄せて、同じように首に口をつけた。
扇情的な細い喘ぎ声が耳の傍から発せられると、
頭のどこかにある理性の留め金が外れる音も聞こえてきた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


平坦な胸を武骨な手がさすった。
若草が茂る平野を速足の馬が駆けるような
軽快なリズムでありながら荒々しさを感じさせた。

「ああ、兄よ。そんなに激しくしなくても」

「お前の体は幾度も見てきた。なのに、こんなっ」

「んあっ、……く、ふぅっ」

兄は言葉を区切って、背後から首筋に強く噛みついた。
痺れた痛みが太い血管を伝って脳に上った。

「こんなにもお前の体を官能的だと思ったことはない」


縄張りの印としてつけた歯型を愛おしそうに舐めた。
弟はびくりと体を震わせてゆっくりと息を吐く。

達するには十分すぎる甘美な刺激に細かく息づく。

太い指が平野に盛り上がる低い丘に触れた。
頂上を囲む色の濃い縁をゆっくりと指でなぞる。

弟はもどかしそうに切なげな息を吐いた。

「どうして意地が悪い」

「思うままに愛したいからだ」

兄は答えると、不意打ちにつま先でピンと乳頭をはじいた。
弟は突然の刺激に体を丸めて片目をつむった。


ずるいなと思った。

指の動きひとつで神経を掌握された気がして、
血のつながった兄を産まれて初めて恨んだ。

その感情は嫉妬だったかもしれない。

兄と同じだけ懊悩していたのに、その時が
来れば一方的にいじめられてしまっているのだ。

それなのに満足してしまっている自分がいる。
自分だって長年想ってきた兄にもっと触れたい。

そのはずなのに非力で無力で他力だった兄は、
水を得た魚のごとく、手練手管の限りを尽くして
弟の体を篭絡しにかかっている。


「悪くないかもしれないと思い始めている」

考えていた言葉がぽろりと口からこぼれた。
兄は山彦の真似をして言葉を繰り返すと、
途端に乱暴になった弟の上着を剥ぎ取った。

「こらえるものがないのだからそうだろう」

弟の背後から体の正面に回る。
そして起伏の少ない華奢な体に口づけした。

無防備になった弟が胸を反らしたのは本能だった。
柔らかくしぼんでいた乳首を吸い上げられた。


意思とは関係無しにはしたなく悶える声があがった。
兄は容赦なくぬるりとした唾液を塗り広げた。

身をよじらせて大きく息を吐く。

兄の舌が躊躇なく体を這うごとに、
快感神経が敏感になっていくのを自覚した。

兄の名を呼びながら孤独に耽る快楽とは質が格段に違った。

乳首を指先で激しく責められて上ずりの声が出そうになる。
目を閉じて喘ぎかけたとき、またもや情熱的に唇を奪われた。

弟の後頭部をごつごつとした手で抑えて抱き寄せる。
兄の舌が口を強引に押し開き、唾液と吐息を運び入れた。


「あむ、ちう……ちゅ、ぷはっ。そ、そんな乱暴に、んむっ?!」

口による息継ぎは許されなかった。
口腔内に二人分の熱情が溜まった。

始めから終わりまでの主導権を兄に渡してしまった。

兄の唇が自身のそれから離れてもしばらくは、頭の中も
視界も湯けむりが充満したようにぼんやりとしていた。

朝靄のような冷えた温度ではなく、
のぼせたときに似た熱を抱えた眩暈だった。

肩で呼吸をしながらぼんやりと天井を見上げる。
そこで上半身を弄んでいた兄の姿が無いことに気付いた。


部屋を出ていったわけでもない。
姿を探そうとして上半身を起こそうとすると、
それよりも早くに下半身が持ち上がった。

「うわっ」

「脱がすぞ」

「ま、待って!」

心の準備はまだ整っていない。

それなのに、兄は承諾を得ることなく
寝間着を下着ごと引きずり下ろした。


肉頭からトランクスの股間部にかけて、
透明な先走り液が淫靡な橋を作った。

「もうこんなに膨らませていたのか」

あまりにも恥ずかしい。
弟は顔を手で覆い隠した。

思わず硬直した陰茎に力が入る。
陰茎が根元からひくひくと小刻みに揺れた。

「僕の、まだ小さいから……その……」

「謙遜するには立派なイチモツだ。誇ったらどうだ」


「うあっ!」

弟が答える暇はなかった。
兄は肉茎の猛々しさを称えてすぐに、
実弟の隆々と天を向いた肉頭を頬張った。

頂点から傘の裏にかけて丹念にしゃぶった。
鈴口を舌先で掘れば弟の腰が跳ね上がる。

口から溢れた唾液を塗り込むように
陰茎を上下に強く激しくしごく。

カリの裏側に舌を潜らせてぐるりと周回すると、
弟の股関節から足のつま先までが痙攣を起こした。


「こんなの、すぐに……ぐっ、い……ああっ!」

裏手で敷布団を必死になって握り締めて腰を震わせる。

腰から下がふたつ目の意思を有したかと思うほど、
途絶えることなくビクビクと小刻みに震え続けた。

もっと辱めろと言わんばかりに腰が浮かびあがる。

兄は肉頭に唾液を絡めてねぶり、
肉幹のしごきに緩急をつけて、
陰嚢をじっくりと揉みしだいた。


「もう、イっ、兄っ! 兄ぃっ!」

「いつでもいいぞ。好きな時に吐き出せ」

弟の背中が高く持ち上がった。
太鼓橋のように大きく弓なりに弧を描く。

持ち上がった腰が崩れ落ちてしまわぬように、
背中を左手で下からしっかりと押さえた。

兄は雄の本質をすぐにでも吹きだそうと
いきり立つ肉頭から幹の方へと口を移した。

居場所を失った右手が陰嚢を撫でてさらにくだる。


そして臀部を何回か揉んで愛でると、
中指を突き立てて菊門に差し込んだ。

排出口から異物を挿入された不快感に
弟は目を瞠って小さな悲鳴を上げた。

陰茎への警戒が薄れたところで剛直を甘噛むと
驚きに硬度が増して、歯の間でビクンと脈を打った。

固く締める肛門をぐりぐりとほじくる。

無理矢理に指をねじ込んで深部を犯すほど
弟は息遣いと声を荒げて喘ぎながら拒んだ。


「いっ、ぎ……ぐぅっ! あっ、あ、あぁっ!」

肉銛を食むために兄が膝立にならなければ
いけない程に、弟は大きく身をのけ反らせた。

それからの絶叫は言葉にならなかった。

言語として成り立たない声を出しながら

絶頂に達した弟は、弓なりに背を反ったまま
二回三回と体全体を強く身体を震わせた。

優しく噛まれていた陰茎の胴回りが一瞬だけ膨らみ、
ふぐりに溜め込んでいた白濁の熱を盛大に放出した。

排出は一度だけでは収まりきらなかった。


陰部を咥えていた兄の顔を白色に汚してもなお、
満足できずに性器は脈打ちながら雄の匂いを吐き出し続けた。

短く見てもたっぷりと十秒は続いた射精を終えて
精根が尽きた弟は、弧の形になっていた身体を
ゆっくりと落として柔らかな布団に沈めた。

感じたことのない充足感が身を包んだ。

体全体に等しく重力を感じながらも
無重力の中に身を置いているような気分だった。

「はあはあ……へ、へへ……すごかった、よ」

まるで現実内の出来事ではないように思えた。


精力を搾りだされた弟には、ほどよい徒労感があった。

これ以上の満足は後にも先にもない気がした。
おそらくは生涯で最上級の幸せを使ってしまった。

本当にそうだとしても弟に後悔はなかった。
後悔はない。けれども気がかりはあった。

「兄よ。僕はもう満ち足りた」

行為を終えたばかりだというのに、
身体を這う兄の手に不穏な気配を感じた。

悪い予感ほどよく当たる。
脇腹から胸部、そしてあごから耳へ。


弟の輪郭を慈しむような動きで手が登ってきた。
細い両腕を上から布団に押し付けて兄は言った。

「俺のがまだ終わっていない」

緊張が抜けた弟の陰茎に熱を帯びて硬くなった何かが触れた。
それは兄の腕を彷彿とさせるたくましさを感じ取らせた。

「分かった。僕も舐めよう。同じように口で楽しませれば」

「その必要はない」

言葉を途中で遮り、弟の体をくるりと引っくり返した。
暖かい抱擁を受けていた背中が空気に触れて肌寒さを感じさせた。


尻肉に熱棒をあてがわれて、ぞくりと寒気がした。
弟の腰を掴みあげて腰を突き上げさせる。

両手で左右の肉を掴んで開く。

中指でほぐしていた穴は空気を吸い込んで、
餌を欲しがって水面に顔を出す金魚のように
ぱくぱくと口の開け閉めを繰り返した。

「これではまだ狭いな」

「ん、ぐぅっ?!」

再び中指が狭い尻穴に浸入した。


弟が絶頂を迎えてもなおいじくり回されていた
排泄孔は、兄の太い中指を根本まで容易く飲み込んだ。

早々と二本目の人差し指も挿入される。

背中に得体のしれない生き物が潜り込んで
暴れのた打ち回っているような錯覚を覚えた。

「兄よっ。ダメ……だ。これ、頭が、ヘンに……なる」

弟は息も絶え絶えになって抗議の声をあげた。
この距離で聞こえていないはずがない。

それなのに兄は口を閉ざしたまま答えようとしなかった。


それどころかだった指に薬指を加えた三本の
指で弟の体内を縦横無尽に動き回りかき乱した。

挙動も段々と苛烈なものになり、弟の思考を蝕んでいく。
括約筋が緩んでいく猛烈な違和感に布団を噛み締めた。

背筋に並々ならぬ不快感が宿り付いた。

背中の中心から四方八方にもぞもぞと
根を生やしたかと思えば、ぐるりととぐろを巻く。

言葉では言い表せない不快さが我が物顔で
背の上に鎮座し、耐えがたい苦しみを味わわせた。


兄の太くごつごつとした指による責め苦は、
十五分もの時間をかけてようやく終わった。

「この眺めを待っていた。逆さ富士にも勝る絶景だ」

兄は満足げな表情で弟の臀部をぺしりと叩いた。

「あ、あーっ、あぁーっ」

すっかりと緩んでしまった肛門がわずかに狭まる。

弟はだらしなく開いた口端から唾液がこぼして
枕に色の濃い水玉を作っていた。


目は開いているが焦点は定まっていない。
起きながらにして夢を見ているような
恍惚とした表情を浮かべていた。

兄は意識を失いかけている弟の腰を掴んで高さを合わせた。

膝立をしたときに隆々と勃起した熱棒が
弟の腰の位置になるくらいに微調整を施す。

そうこうして挿入しやすい場所を見つけると、
兄は今一度弟の腰を掴み直した。

ひくひくと物欲しそうに震える
菊門に熱棒をあてがってやる。


それだけで弟の体はひとりでに快感を
察知してぶるりと身震いを起こした。

どちらの準備も整った。
兄はいきり立っている肉茎を上から抑えて角度を変えた。

そして弟の開いたふたつ目の口に近付けて、

「おほっ?! おっ! おおぉーっ!!」

いきなり奥の深い部分まで一息に貫いた。

あまりの衝撃に獣じみた嬌声が弟の口から漏れた。
肉棒と摩擦した挿入部と腸壁が、一同に熱を迸らせた。


その刺激は肛門から脊髄に飛び移って
上へと駆けのぼり脳を強く叩いた。

快楽主義者が欲する強烈な脳内麻薬が瞬間的に
大量に放出され、弟の視界がぱつぱつと明滅した。

一度突いただけで弛んでいた肛門がきゅっと締まり
兄の肉銛をぎりぎりときつく締め上げた。

「こんなに……強く、たまらない!」

痛みの中に快感を見出した兄は、噛みきらんとする
凶暴な狭まりから陰茎を強引に引き抜いて再び叩き込む。

肉と肉がぶつかる淫乱な響きが闇の中でこだました。


「あっ! は、ぐぅっ! あ、あっ、ああっ!」

腸粘膜が擦られるごとに体内も挿入口も敏感になっていく。
制御しきれない快感に足ががくがくと震えだし、
型崩れした甘い声が勝手に咽喉奥から溢れ出た。

「どこだ! どこがいい!」

「も、もっと、もっと深くの……あ、そこ、がっ!」

腰と尻肉がぶつかり合うたびに弟の体がびくんと跳ねる。
弟はうつ伏せになって布団に顔を埋めた。

どこかに力を込めていないとすぐにでも
バラバラに壊れてしまいそうな気がした。


しかし兄は、弟の脇の下に腕を通して上半身を抱き起こした。

「ひ、いっ?! あっ! ん、ぐっ! ううっ!」

すがりついていたものから引き剥がされた弟は、
背後から身体を支える兄の腕を力強く握り締めた。

激しい交わりに、弟は歯を食いしばった。

何度も息を吸い込もうとも、突き上げとともに
肺に溜まっていた酸素が押し出された。

射精の瞬間に脳内を巡り回る悦楽とは
比べ物にならない快感に、全身から汗が噴き出る。


「兄っ! 兄ぃっ! もう! また、僕っ!」

名前を呼ばれた兄が弟の下腹部に手を回すと、
さっき果てたはずの肉棒に活力が戻っていた。

今度こそ兄弟で一緒に達したい。
兄弟がいる人間ならば起こりえる当然の欲求だった。

兄は腰と尻を撃ち鳴らしながら、弟の雄のみなぎりをしごき始めた。

前と後ろを同時に責め立てられてしまった弟は、
ふるふると首を振って快楽地獄からの救済を兄に懇願した。

「兄っ、これ、やだっ! お願いっ! 壊れる! 壊れちゃうっ!」


性に実直で冷酷な兄は腰の動きをいっそうに早めた。
選択肢をもぎ取られた弟は、泣き喚く以外に道はなかった。

性行為によって生み出される無限の悦びが
脳内回路をショートさせて思考する能力を奪い去る。

肛門をほじくられ、陰茎を擦られる快悦は
弟を快楽への頂点へと一気に引き上げさせた。

視界も脳も白色で塗りつぶされてしまった。
受容力の限界値を越えた快感に伏して従うしかない。

全身で感じている快楽に抗えられなくなった弟は、
口から舌を出して、眉尻を垂らし、大きく目を見開いた。


まさしく快感の隷属と呼ぶにふさわしい淫らな表情で
最後を迎えるための咆哮をあげた。

「イくっ!! 兄っ、僕また、イくっ! イくよっ!!」

「イけ! 俺も、お前とっ! ぐ、うあっ! ああっ!!」

「イきゅっ! イっ! あっ! ああっ!! あああああっ!!」

堤体が決壊したときのような放精が二本の肉棒から行われた。
兄の精液を取り込んだ弟が布団に精を撒き散らす。

全身から汗を垂れ流して布団に倒れ込んだふたりには、
聖域の噴水で水浴みをした精霊を思わせる神秘さがあった。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


全身が溶けていたような心地よい眠りから
兄を目覚めさせたのは、窓から入ってきた陽光だった。

ふたつの窓を覆っていたカーテンは開けられ、
輝かしい朝日を室内に招き入れていた。

「ようやく起きたかい」

重いまぶたをなんとか持ち上げる。
弟は椅子に座って足を組んで小説を開いていた。

弟はとても静かな表情で文字を読んでいた。
まるで昨晩の熱い営みが夢であったかのような穏やかさだった。


兄は口を開いて、しかし何も言うことができずに閉ざした。
なんて声をかければいいのか分からなかった。

ありがとうは違う。気持ちよかったでもない。
どんな言葉を選んでも正解に届かない気がした。

正解を引けなかったにしても、弟は欲望を受け入れてくれた。

ならば言葉足らずでも、ここで何かしら
感謝や感想を口にすべきではなかろうか。

けれども間違えた言葉を選んでしまった場合は
相手の機嫌を損ねさせてしまう恐れもある。


寝て覚めたことで無力で非力で他力に戻った兄に、
弟は呆れて深くため息をついた。

読みかけのページに目印のスピンを挟んで席から立つ。

ベッドの上で頭を抱えて動かなくなった兄の
横に腰をおろすと、腕をどかして唇を合わせた。

無理して言葉の中から答えを探す必要なかった。
その考えに到らなかった兄は、自身の浅慮を悔やむとともに、
唇を重ねてきた弟を感謝の気持で優しく抱きしめた。

おわり

Q、なんか途中から文体が違うんだけど
A、頑張れなかった 力尽きた ごめん

すごく抜きたくなった、訴訟

ノンケ編頼む

なぜそこを兄と妹にしないのだ
憤慨

だがそれがいい

なぜ男なんだ…

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