阿良々木暦「心が強くてニューゲーム」 (404)
「ねぇ、ちょっと。起きなさい!阿良々木くん!」
「は、羽川!?」
あれ、ここはどこだ?
僕はたしか、火憐と月火、それに神原を布団に寝かせて、その後に自分の家に帰ってから、それから……………
「どうしたの?そんな驚いた顔しちゃて。ちゃんと今日の朝、文化祭の出し物の案を一緒に考えるって言ったはずだけど……………さては阿良々木くん、私の話ちゃんと聞いてなかったわね?」
「えっ?…………いや、聞いてた聞いてた。チョー聞いてたよ」
文化祭?ああそっか、これ夢だ。多分あの後、家に帰って寝ちゃったんだな。それで昔の夢を見てるんだ。
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「文化祭っていっても、私達、もう三年生だからね。さして……………」
羽川の話を聞き流しながら、僕はこれからの事を考えていた。
まあ、夢の中に、あれからもこれからもあったもんじゃないのだけれど。
さて、どうするかな。正直、現在昼夜を問わず、それこそ一日中受験勉強に勤しんでいる身としては、夢の中くらいこのゆったりとした時間に身を任せるのが一番良いと思うんだけれど。
でも、折角なんだから……………
「参考までに、阿良々木くんは、去年一昨年、文化祭の出し物、何だった?」
「お化け屋敷と、喫茶店。いたって平凡といってもいいかもな」
「平凡だね。凡俗といってもいいかも」
「そこまでは言うな」
「あはは」?
「それじゃあ羽川。僕も参考までに聞いておきたいことがあるんだけどさ」
「ん?なにかな?」
「羽川って好きな奴とかいるのか?」
結局、一時は羽川の事が好きなんじゃないかとも思っていたけれど、こんな単純なことさえ、僕は聞いた事がなかったんだよな。
まあ、答を知ってしまっている身としては、正直罪悪感が半端ないけど、それでも折角の夢なのだから、言えなかった事を言いたくもなる。
「阿良々木くん。おふざけでもそういう事、女の子に気安く聞いちゃ駄目だよ」
怒られた。
普通に注意された。
なんだか、羽川にこうやって叱られるのも久しぶりだな。
やべ、なんかちょっとテンション上がってきた。
「いや、気安く聞いたのは悪かったけどさ、けど真面目な話、実際のところどうなんだ?」
「えっ?えっと……………うーん」
うわ、照れてる羽川って超かわいい。
…………いやいやまてまて、落ち着くんだ阿良々木暦。
僕がしたいのは照れてる羽川を眺める事じゃないだろう。
「あっいや、言いたくないんだったら別に良いんだけどさ。けど、もし好きな人がいるんだったら、遠回しにじゃなくて、きちんと自分の気持ちを伝えないと駄目なんだぜ」
「え?あ、うん。その忠告は有り難く受け取っておくけれど。それにしても、急にどうしたの?阿良々木くんが自分からそんなこと言うなんて、なにかあったの?」
「いや、別に大した理由じゃないんだ。ただ、今朝の占いで、親友にアドバイスをすると吉っていってたらさ」
「私を親友だと言ってくれるのは素直に嬉しいけどさ。けど、それを実行するのは少しばかり遅い気がするんだけど」
「だな。悪かったよ、下らない事言って」
これは夢なのだから、こんな事には何の意味もないし、ましてや、羽川に自分から告白させようとしてるわけでもないのだけれど。それでもやっぱり、これは、これだけは言っておきたかった。
それからはまあ、前の通りというか、現実の通りというか、とにかく羽川と文化祭の案を練りつつ、戦場ヶ原の事を羽川に聞いた。
「…………あー。そうだ、思い出した」
「え?」
「僕、忍野に呼ばれてるんだった」
「忍野さんに?なんで?」
「ちょっと、借金の返済をね」
「ふうん」
羽川は以前よりは納得したような反応を見せる。
それでも、やはり不審に思うところがあるようだ。
これだから本当、頭のいい奴の相手は苦手なんだ。
けど、今考えてみると、この察しの悪さもこのころの羽川翼なのだろう。
「というわけで、僕、もう帰らなくちゃいけないんだった。羽川、後、任せていいか?」
「埋め合わせをすると約束できるなら、今日はいいわ。阿良々木くん。大変かもしれないけど、代金はきちんと払わなきゃね」
「ああ、分かってるよ。じゃあ、後は任せる」
「忍野さんによろしくね」
「伝えとくよ」
さて、どうしたもんか。
この後はいよいよ、あいつの登場なのだから。
いろんな意味で気を引き締めていかないと。
「羽川さんと何を話していたの?」
教室から出ると、案の定、後ろから戦場ヶ原が声をかけてきた。
だが、今回は振り向かない。
振り向いたら、どんなことになるのかを僕は身をもって体験している。
「別に、ただの世間話さ」
「そう」
まるで、僕の答など初めから聞くきがないと言わんばかりに素っ気ない返事が返ってくる。
かと思うと、なかなか振り向かない僕に業を煮やしたのか、戦場ヶ原は僕に近づいてきて、そして、
「嘘をつく人には、お仕置きが必要ね」
「………………………っ!」
戦場ヶ原は、後ろから僕の耳、それも耳たぶではなく骨がある部分をホッチキスで挟み込んだ。
「好奇心というのは全くゴキブリみたいね。人の触れられたくない秘密ばかりに、こぞって寄ってくる。鬱陶しくてたまらないわ。神経にふれるのよ、つまらない虫けらごときが」
「虫けらって……………」
ああ、そういえば更正する前のこいつってこんなんだったな。まったく、これのどこに需要があったというのだろう。
「何よ。右側が寂しいの?だったらそう言ってくれればいいのに」
「いや、そんなことは一言も…………」
「だまらっしゃい」
ホッチキスを持っている左手と反対の手が振り上げられる。
なんだ、こんどは何をされるんだ?
なんて、半ば自棄っぱちになっていると、どうやら今度は、右の耳たぶをハサミで挟まれたよだ。
怖い。
一度同じ目に遭っているからこそ、こいつに躊躇が無いことは分かってるしな。
けど、一度こいつに傷つけられないと僕の不死がアピールできないし。
さて、どうしたもんかな。
「全く私も迂闊だったわ。『階段を昇る』という行為には人一倍気を遣っているというのに、この有様」
「なんだよ。もしかして、バナナの皮でも落ちてたか?」
「は?何を言っているのかしら。そんなバカみたいな理由で私が転ぶと思っているの?もしかして、私の事をバカにしているの」
戦場ヶ原の手に力が加わっているのが分かる。
ちくしょー。何あいつこんなシリアスな場面で嘘ついてるんだよ!
こんなところで貴重なガハラジョーク使ってんじゃねぇよ!
「気付いているんでしょう?」
戦場ヶ原は僕に問う。
あの時と、全く同じ目つきで。
「重さが、無い」
「そう、理解が早くて助かるわ」
「けど、全くないっていうわけでもないんだろう?」
戦場ヶ原の台詞を先取りしてみる僕。
どうすればこの場を丸く収められるかわからないけれど、とにかく、先手を取っていくしかない。
「ええ、そうよ」
「お前くらいの身長・体格だったら、平均体重は五十キロくらいなんだろうけど」
「適当な事を言わないでちょうだい。私くらいの平均体重は、四十キロ後半強よ」
やっぱり、そこは譲らないんだな。
「でも、実際の体重は、五キロ」
「重さ。想さ。重い、想い」
「あら、何か言ったかしら?」
僕がダメージを受けない為にはこの辺りか。
ここで、戦場ヶ原に少しでも興味を持たせれば、あるいわ。
「怪異」
「は?」
「怪異って言うんだよ、そういうの」
「………………………」
ぱないの!
戦場ヶ原からの反応はない。多分、僕の言葉の真意を掴みかねているんだろう。
それでいい、それは、僕の言葉をきちんと聞いてくれている証拠だ。
「お前がいつそんな体に成ったかわからないけど、それでも、そうなったからには何かしらのきっかけがあるはずなんだ」
「……………………………」
「その体に成る直前に、何かに遭わなかったか?なんでも良いんだ。そう、例えば、蟹とか」
「……………………………」
戦場ヶ原はなおも言葉を返さない。それに、顔にも別段驚いたような表情は浮かべていない。
まったく、このころのお前って、本当鉄火面みたいだよな。
「蟹。蟹に遭ったのよ」
おもむろに戦場ヶ原はそう口を開いた。
もちろん、僕はこれからこいつが話す事を知っているのだから、それこそ、忍野みたいに見透かしたような、もう知っているのだから見透かすという言い方は違うんだけれど、とにかくそういう事は出来たが、それは止めておいた。
こいつは、忍野みたいに見透かしたような奴が嫌いなのだ。
「そして、重さを、根こそぎ持っていかれたわ」
「だったら」
だったら、お前の力になれるかもしれないと、僕はそう言った。
当然、僕の話を戦場ヶ原は信じようとしなかった。
優しささえも敵対行為と見なす。
このころの彼女は、そんな奴だったのだから。
だから、どうにか言葉を繋ぎ、ホッチキスとハサミから僕の両耳を解放して、今朝、と言っていいのかわからないけれど、とにかく忍がそうしたように、自分の皮膚を引っ掻いて自らの不死性をアピールし、どうにか忍野のところについてきてくれるとなるまでに、いくばかの時間がかかったのは言うまでもない。
「それじゃあ、私は先に校門に向かうから、少ししたらついてきてちょうだい」
と、戦場ヶ原は最後にそう言った。
いきなり心が強い阿良々木さんとかなんか新鮮だな
「えっ?なんでだよ、一緒に行けばいいじゃないか」
「嫌よ。あなたのような人と校舎内を一緒に歩いているところを誰かに見られたりしたら、それこそ切腹ものよ」
「いや、そこまでは言わなくても」
「もちろん、この場合切腹するのは、あなた一人なのだけれど」
「………さいで」
「忍野、忍野さん?」
「そう。忍野メメ」
「忍野メメ、ね。なんだか、さぞかしよく萌えそうな名前じゃない」
「その手の期待はするだけ無駄だぞ。三十過ぎの年季の入った中年だからな」
なんて、そんな風に忍野の説明をしながら、自転車の二人乗りで忍野の居る廃墟へと向かった。
「ふうん、阿良々木くん。二人乗りするの上手いのね、誉めてつかわすわ」
「そりゃどうも」
まあ、あの頃に比べて二人乗りのコツみたいなものは掴めたし、なんだかんだ言ってもこのママチャリに乗るのは半年ぶりだから上手く行くかは心配だったのだが、やはり人間、自転車の乗り方というものはなかなかどうして忘れにくいらしい。
「けど、これくらいでいい気にならない事ね。あなたのその二人乗り技術はまだまだ発展途上よ。なおも精進が必要だわ」
「お前は一体、誰目線なんだよ」
なんで、そんなことお前に言われなくちゃならないんだよ。
そもそも、二人乗りの技術を向上させようなんて、羽川にばれたら叱られちまう。
あいつは、道路交通法には厳しいのである。
「ほら、ここだよ」
そんな事を話しているうちに、学習塾跡地にたどり着いた。
夢とはいえ、忍野との対面は半年以上ぶりだった。
まったく、皮肉なものである。
つい先程、探せと言われた男に、まさか夢の中で会うことになるなんて。
「おお、阿良々木くん。やっと来たのか」
なんて、相変わらずの台詞で忍野は僕達を迎えた。
一応、戦場ヶ原からは文房具を預かった。
今の戦場ヶ木が僕の事を信用していないのと違って、僕は戦場ヶ原の事を信用しているけれど、それでも、けじめはけじめ。
大事にしなければ。
とは言っても、正直なところ、このころの戦場ヶ原を信用しているからこその処置という側面が非常に強いのだけれど。
その、戦場ヶ原は、やっぱり明らかに引いていた。
「なんだい。阿良々木くん、今日はまた違う女の子を連れているんだね。きみは会うたんびに違う女の子を連れているなあ。全く、ご同慶の至りだよ」
「…………いきなり押し掛けたのは悪かったよ。けど、お前の力が必要なんだ。助け………いや、手を貸してくれないか?」
「なんだい、阿良々木くんがそんな態度をとるなんて珍しいな。なんだか、調子狂っちゃうよ。うん?」
忍野は。
戦場ヶ原を、遠目に眺めるようにした。
その背後に、何かを見るように。
「…………初めまして、お嬢さん。忍野です」
「初めまして。戦場ヶ原ひたぎです」
そんな感じで、軽く挨拶が終わったところで、前の反省をいかしてあらかじめ戦場ヶ原の身に起こったかとを、知っているとはいえ、形だけ聞いた事を忍野に話そうとした。
「えっと、忍野。今回力になってほしいのは、こいつなんだけど…………」
「こいつ呼ばわりしないで」
予想通り戦場ヶ原は、毅然とした声で言った。
「センジョウガハラサマが………」
「片仮名の発音はいただけないし、そもそも、そんな呼び方、私は求めていないわ」
「じゃあ、何て呼べばいいんだよ」
「女王様と呼びなさい」
「ガハラ女王」
目を突かれた。
「失明するだろうが!」
「失言するからよ」
はあ。どうやら僕は、こいつのホッチキスからは逃れられても、暴力と毒舌から逃れられないみたいだ。
まあ、今のは僕が悪いんだけど。
「そんなことより」
戦場ヶ原は忍野に向かい合った。
「私を助けてくださるって、聞いたのですけれど」
「助ける?そりゃ無理だ。きみが勝手に一人で助かるだけだよ、お嬢ちゃん」
「………………………」
うわ。
戦場ヶ原の顔が強張ってく。
しまったな。そう言うこともさっき教えておけばよかった。
「えっと、じゃあまず僕が簡単に説明するから…………」
「余計な真似を。殺すわよ」
「………………………」
戦場ヶ原が、またも、大枠を語ろうとした僕を遮った。
「自分で、するから」
「…………ああ」
「自分で、できるから」
どうやら、こいつの場合に限って言えばだけれど、僕の反省も、無意味のようだった。
二時間後。
僕は、忍野と吸血鬼改め忍の居ついている学習塾跡を離れ、戦場ヶ原の家にいた。
今回は、あらかじめ知ってた、というか何度も来たことがあるから驚くなんてことなかったけれど、それでもやっぱり戦場ヶ原は、
「母親が怪しい宗教に嵌まってしまってね」
なんて、そんな事を言った。
だからこれは、やっぱり言い訳だったんだろう。
誰へ対しての?
もちろん、自分に対しての。
「戦場ヶ原…………」?
「なによ」
「……………いや、なんでもない」
嫌な質問なんて、するべきじゃない。嫌な答が返ってくるだけなのだから。
ましてや、中途半端な慰めの言葉なんて、それこそ論外だ。
どれだけ僕がこいつと仲良くなろうと。恋人になろうと、それでも、深入りするべきではないことが、してはいけないことがある。
僕にわかる話じゃない。
知ったような口を叩くべきでもないのである。
ともかく、僕は戦場ヶ原の家でお茶を飲みながら、戦場ヶ原が風呂から出てくるのを待っていた。
もちろん、今回はきちんと着替えを用意させた。その辺に、抜かりはないはず。
戦場ヶ原の家を見渡す。
僕には既に、慣れた景色だった。
しかし、なるほど。最初の時こそ、僕は五百万だったなんて、文句を言ったりもしたけれど、それは、あの忍野の得意の見透かしで、戦場ヶ原が払えるギリギリの金額を要求したのかもしれなかった。
「シャワー、済ませたわよ」
戦場ヶ原が脱衣所から出てきた。
すっぽんぽんで。
「っ!なんで裸なんだよ!」
「そこをどいて頂戴。服が取り出せないわ」
「だったら、お前のその両手にもっている布は、一体なんなんだよ!」
「まあ、服といっても、私が取り出したいのは下着なのだけれど」
平然と、戦場ヶ原が、濡れた髪を鬱陶しそうにしながら、僕が背にしていた衣装箪笥の一番下の段を指さす。
「服を着ろ!」
「だから今から着るのよ」
「なんで今から着るんだ!」
「下着を忘れたからよ」
「だったらまずその服を着てから下着をつければいいだろうが!」
「嫌よ、ノーブラとか、ノーパンとか。なんで私がゴミのような阿良々木くんの、阿良々木くんのようなゴミの前でそんな格好しなければならないのかしら?」
「なんで全裸はオッケーなんだよ!それと、僕はゴミじゃねえ!」
ああ、なんでこうなるんだよ。
こいつ、やっぱりわざとやってるんじゃないか?
「なによ、阿良々木くん。まさかあなた、私のヌードを見て欲情したのではないでしょうね」?
「仮にそうだったとしても僕の責任じゃない!」
「心配しなくとも」 ?
白いシャツを水色のブラジャー上から羽織る戦場ヶ原。もう何をしても無駄なような気がして、僕は戦場ヶ原をただ、眺めるようにする。
「羽川さんには内緒にしておいてあげる」
「羽川って」
「彼女、阿良々木くんの片恋相手じゃないの?」
「それは違う」
「そうなんだ。よく話しているから、てっきりそうなんだと思って、鎌をかけてみたのだけれど」
「日常会話で鎌をかれるな」
「うるさいわね。処刑されたいの」
「何のどんな権限を持ってんだよ、お前は」
女王様か?
女王権限を持っていると言うのだろうか?
「よく話しているのは、向こうが僕に話しかけてくれているだけだよ」
勝手に話しかけてきているだけとは、冗談でも言えなかった。彼女の気持ちを、知ってしまっているのだから。
「ふん。羽川さんもさぞや大変でしょうね。委員長だからといって、友達のいないゴミにまで気を配らなければならないなんて」
「確かに、羽川は僕に気を配っているかもしれないが、しかし戦場ヶ原、友達ならお前にだっていないだろ」
「あら、私にも友達くらいいるわ」
「えっ、嘘」
あれ、こいつに友達なんていなかったはずだけれど。ここが夢だからか?
「私の友達は、沈黙と無関心だけよ」
「……………………… 」
そんな友達ならいらない。
戦場ヶ原は、やっぱり上半身から着替えてしまうつもりらしく、下半身には手をつけずにシャツの上からカーディガンを着ようとした。
「髪」
「えっ?」
「髪を乾かしてからの方がいいんじゃないか?」
「そんな事言って、少しでも私の薄着を長く見ていたいだけじゃないのかしら?ああい嫌だ嫌だ。これだから童貞は困るわ」
そう言いながらも、戦場ヶ原はカーディガンを着ずに髪を乾かし始めた。
こいつは、いちいち僕の言葉に悪態を返さないと気がすまないのかよ。
「羽川さんも、忍野さんの、お世話になったのね?」
「ああ。だから、一応信頼、してもいいと思うぜ。見た目はあんなんだけど、それでも、頼りになるやつなのは間違いないから。僕一人の証言じゃなく、羽川もそうだっていうんなら、お前も少しは安心できるんじゃないか?」
支援
「そう。でもね、阿良々木くん」
戦場ヶ原は言う。
「悪いけれど、私はまだ、忍野さんの事を半分も信頼できてはいないの。それを簡単にできるほど、今までの私の人生は幸福じゃなかった」
ありったけの嫌みを込めて、戦場ヶ原は言った。
「だから、だからね、阿良々木くん。私は、たまたま階段で足を滑らせて、たまたまそれを受け止めてくれたクラスメイトが、たまたま春休みに吸血鬼に襲われてあて、たまたまそれを救ってくれた人が、たまたまクラスの委員長にも関わっていて…………そして、たまたま私の力になってくれるだなんて、そんな楽天的な風には、どうしたって、ちっとも思えないの」
「楽天的ねえ」
「そうじゃなくて?」
「かもしんね。でも、いいんじゃねえの?」
「別に、楽天的でも」
「………………………」
「悪いことをしてるわけじゃないし、そりゃ、ちょっとはズルしてるかもしれなあけれど、そんなのあんまり、気にしなくてもいいんじゃないか」
「悪いことを…………しているわけじゃない、か」
「だろ?」
「まあ、そうね」
戦場ヶ原は、しかし、そう言ったあとで、
「本当に、少しのズルとは、限らないのだけれどね」
「……………………」
「おい、カーディガンが裏返しで、しかも後ろ前だぞ」
「あら、本当ね。やっぱり、服を着るのは得意じゃないは」
「それに関しては、単純にお前の不注意だと思うのだけれど、やっぱり、重いのか?」
「ええ、そうね。こればっかりは、飽きることはあっても慣れることはないわ。けれど、意外に気がまわるのね。誉めてつかわすわ」
「そりゃどうも」
「ひょっとしたらだけど、頭の中に脳味噌が入っているのかもしれないわね」
「人間なんだから当たり前だろ」
「いえ、阿良々木くん。申し訳ないのだけれどさすがの私も、微生物を人間と呼ぶほどの器量は持ち合わせてはいないのよ」
「その台詞に対してのツッコミは二つ!僕は微生物じゃないっていのが一つ。そして、微生物にだって脳味噌があるというので二つだ!」
「微生物に脳味噌は無いわよ」
「え?ないのか?なかったっけ…………」
「微生物の多くは単細胞生物で、単細胞生物には明確に脳味噌と定義されている部分は無いのよ」
「そうだっけか……」
うーん。やっぱり生物は苦手だな。ひょっとしたら僕には、こんな呑気に夢を見ているだけの余裕さえ、ないのかもしれない。
「やれやれ、馬脚を露わしたわね、阿良々木くん。全く、あなたに脳味噌という存在を少しでも期待してしまった私が軽率だったわ」
「いや、そこは当然に期待してろよ!」
「ふむ。決めたわ」
戦場ヶ原は、白いシャツに白いカーディガン、そして、白いスカートを穿き、ようやく着衣を終えたところで、言った。
「もしも全てがうまく行ったら、北海道へ蟹を食べに行きましょう」
「もしかして、僕も連れていってくれるのか?」
「当選でしょ」
「了解」
「脳味噌の無い阿良々木くんには、蟹の味噌だけ食べさせてあげるわ」
「…………………」
そういえば、そんな約束もしたな。
受験が成功したあかつきには、二人でお祝いに北海道へ行くっていうのも、良いかもしれないな。
「ま、結界みたいなものだよ。よく言うところの神域って奴ね。そんな気張るようなもんじゃない。お嬢様ちゃん、そんな緊張しなくったっていいよ」
零時を少し回った頃、僕と戦場ヶ原は忍野に案内されて、三階の教室の中の、一つに入った。
「緊張なんて、していないわ」
「そうかい。そりゃ重畳だ」
言いながら、教室の中に入る。
「お嬢様ちゃん、目を伏せて、阿良々木くんがしてるみたいに、頭を低くしてくれる?」
「え?」
「神前だよ。ここはもう」
そして、三人、神床の前に、並ぶ。
二度目だとはいっても、おかしくなってしまいそうな感じだ。
自然、構えてしまう。
「なあ、忍野」
「なんだい?阿良々木くん」
「もしもの時は、僕が戦場ヶ原の盾になればいいんだよな
「はっはー。なんだい、今日の阿良々木くんは、やけに物分かりが良いね。何かいいことでもあったのかい」
「まあ、そうならないのが一番なんでけど
、もしもということもあるからね。その時はそうしてもらうことになるよ」
「分かった」
「阿良々木くん」
戦場ヶ原がすかさず言った。
「わたしのこと、きっと、守ってね」
「何故いきなりお姫さまキャラに!?」
「これは勅命よ」
「お前はいつまで女王キャラを引っ張るきだよ!」
忍野は供物の内からお神酒を手にとって、それを戦場ヶ原に手渡した。
「え…………何ですか?」
戸惑った風の戦場ヶ原。
「お酒を飲むと、神様との距離を縮めることができる、そうだよ」
「……未成年です」
「酔うほどは飲まなくていいんだってさ」
「……………………」
結局、戦場ヶ原はそれを一口、飲み下した。それを見取って、戦場ヶ原から返還された杯を、元あった場所に、忍野が返す。
「さて。じゃあ、まずは落ち着こうか」
「落ち着くことから、始めよう。大切なのは、状況だ。場さえ作り出せば、作法は問題じゃない。最終的にはお嬢ちゃんの気の持ちよう一つなんだから」
「気の持ちよう…………」
「リラックスして。数を数えてみよう。一つ、二つ、三つ………」
別に
僕がそうする必要はないので、僕は気持ち、戦場ヶ原の方に寄った。
神様から守りやすいように。
壁に、なりやすいように。
「落ち着いた?」
「………はい」
「そう、じゃあ、質問に答えてみよう。きみは、僕の質問に、答えることにした。お嬢ちゃん、きみの名前は?」
「戦場ヶ原ひたぎ」
「通っている学校は?」
「私立直江津高校」
「誕生日は?」
「七月七日」
淡々と。
変わらぬペースで。
呼吸音や、心臓の鼓動すら、響きそうな静寂。
「初恋の男の子はどんな子だった?」
「言いたくありません」
「今までの人生で」
忍野は変わらぬ口調で言った。
「一番、辛かった思いでは?」
「……………………」
そろそろだな。
そう思い、いよいよ僕は覚悟を決める。
途中、戦場ヶ原に、何があっても顔を上げるなと言えばいいんじゃないかとも思ったが、しかし、忍野の言った通り、何があるかわからないのである。
だったら、タイミングをずらさない為にも何も言わないのが正解だ。
なんて考えていると、いよいよ、あの場面に差し掛かった。
「あっ、ああああああっ!」
「何か、見えるのかい?」
「み、見えます。あのときと同じ、あのときと同じ大きな蟹が、蟹が見える」
どうやら、戦場ヶ原には、蟹が見えているらしが、何度立ち会っても、
「阿良々木くんには、何か見えるかい?」
「見え、ない」
見えるのは、ただ。
揺らぐ明かりと。
揺らぐ影。
蛇のときと同じで。
そんなものに、意味はない。
「だそうだ」
戦場ヶ原に向き直る忍野。
「本当は蟹なんて見えて、いないんじゃないかい?」
「い、いえ、はっきり。見えます。私には」
「だったら言うべきことが、あるんじゃないか?」
「言うべき、こと」
そのとき。
やはり戦場ヶ原は、顔を上げてしまった。
それを僕は、ろくに確認もせずに、戦場ヶ原の前に躍り出る。
わくわく
「あ、阿良々木くん!」
戦場ヶ原の前に躍り出た僕は、しかし、見えない何かに押されるようにして、戦場ヶ原の横を掠める形で教室の一番後ろに、掲示板に、叩きつけられた。
そのまま、落ちない。
足がつかない。
張り付けられたごとく、そのままだ。
十字架に張り付けられた、吸血鬼のごとく。
「はっはー。やっぱり、今日の阿良々木くん一味違うね。いや、僕はきみのことを見直したよ。さすがは、僕のベストフレンドだ」
なんて、場違いな風に軽口を叩く忍野に対して、僕の方といえば、今にも意識を失いそうだった。
どきどき
「くっ…………くはっ………………」
「仕方がないな。やれやれ、せっかちな神さんだ、まだ祝詞も挙げてないっていうのに。気のいい奴だよ、本当に。何かいいことでもあったのかな」
「お、忍野さん」
「わかっているよ、お嬢ちゃん。やむをえん、方向転換だ。まあ、僕としては最初から、別にどっちでもよかったんだ」
ため息混じりにそう言って、つかつかと、しかししっかりとした足取りで、僕の方に向かってくる。
そして、ひょいっと手を伸ばし。
僕の顔の、少し前辺りをつかみ。
軽く、引き剥がした。
「よっこらせ」
「がはっ!…………ぐ、忍野の………」
「大丈夫かい?阿良々木くん」
なんて、そんな声が聞こえてようやく前を見ると、そこでは、忍野が神を、踏みつけにしていた。
忍野は、自分の足元を見遣る。
価値を測るような細い目で。
「蟹なんて、どんなにでかかろうが、つーかでかければでかいほど、引っ繰り返せば、こんなもんだよな。どんな生物であれ、平たい身体ってのは、縦から見たところで横から見たところで、踏みつけられるためにあるんだとしか僕には考えられないぜ。といったところで、さて、どうする?お嬢ちゃん」
そしていきなり、状況が今だ飲み込めず立ち尽くしている戦場ヶ原に声をかけた。
「どうするって…………」
「始めからもういっぺんやり直すって手も、あるにはあるんだけれど、手間がかかるよ。僕としては、このままぐちゃりと踏み潰してしまうのが、一番手っ取り早いんだけれど」
「…………………………」
「ああ、安心してくれ。そうしたって、お嬢ちゃんの悩みは、形の上では解決するから」
「形の、上で……………」
「それにね、お嬢ちゃん。僕は蟹が、とてつもなく嫌いなんだよ」
食べにくいからね、と。
忍野はそう言って、
足を
足に力を。
「待って」
忍野の陰から声がした。
言うまでも無く、戦場ヶ原だった。
先程とは違い、きちんした目付きで、姿勢で、戦場ヶはそう言った。
「待ってください。忍野さん」
忍野は意地悪な笑みを浮かべ、戦場ヶ原野の呼び掛けに答えた。
「待つって、何をさ。お嬢ちゃん」
「ごめんなさい、阿良々木くん」
戦場ヶ原は言った。
「私を守ってくれてありがとう。ちゃんとできなくてごめんなさい。でも、」
そして、戦場ヶ原は忍野に視線を変えた。
「今度は、ちゃんと、できますから。自分で、一人で、できるから」
足を引いたりしない。
踏んだままだ。
しかし忍野は、踏み潰すこともせず、
「じゃあどうぞ、やって御覧」
と、戦場ヶ原に言った。
「ごめんなさい」
先程僕に言った言葉を、しかし、先程とは違って、土下座の形で。
まずは、謝罪の言葉だった。
「それから、ありがとうございました」
そこに、感謝の言葉が続いた。
「でも、もういいんです。それは、私の気持ちで、思いで、私の記憶ですから、私が、背負います。失くしちゃ、いけないものでした」
ズルをしてごめんなさいと、もう一度謝ったあとに、最後に、
「お願いです。お願いします。どうか、私に、私の重みを、返してください」
最後に、祈りのような、懇願の言葉。
「どうかお母さんを、私に、返してください」
だん。
忍野の足が、床を踏み鳴らした音だった。
おそらく、当たり前のようにそこにいて、当たり前にそこにいない形へと、戻ったのだろう。
還ったのだろう。
「…………ああ」
身じろぎせず、何も言わない忍野メメと。
全てが終わったことを理解しても、姿勢を崩すことなく、そのままわんわんと声を上げて泣きじゃくり始めた戦場ヶ原ひたぎを、阿良々木暦は、壁にもたれ掛かるような、そんな姿勢で眺めるように見ていて。
ああ、ひょっとしたらどんなことをしようと、きっと、戦場ヶ原のこの涙だけは、なくならない、これからの彼女に必要な、そんな涙なのかもしれないと、ただぼんやり、考えていた。
「何も変わらないなんてことはないわ」
なんて、ことの後始末が終わった辺りで、そんな話になった。
赤く泣き腫らした目で、僕に向かって。
戦場ヶ原は、そんなことを言った。
「少なくとも、大切なの友達が一人できたわ」
「僕のことか?」
なんて、そんな風におどけてみせる僕に対して、やはり戦場ヶ原は、照れもなく、それに、遠回しでもなく、堂々と、戦場ヶ原は、胸を張った。
「あなたのことよ」
「改めて、ありがとう、阿良々木くん。私は、あなたにとても、感謝しているわ。今までのこと、全部謝ります。図々しいかもしれないけれど、これからも仲良くしてくれたら、私、とても嬉しいわ」
不覚にも、こんなことを言ったらまたぞろバカップルなどと言われるかもしれないが、それでも僕は。
夢が覚めたら、真っ先にこいつに会いに行こうと。
そんなことを、思った。
後日談というか、今回のオチ。
翌日、いつもとは違い二人の妹、火憐と月火に叩き起こされることなく、珍しく自力で起きた僕は、やけに服が重く感じた。
まさかとは思い、前のようにダイニングの前の、洗面所に向かった。
そこにあるのは、ヘルスメーター。
乗った。
ちなみに、僕の体重は受験肥りして、現在五十九キロ。
メーターの数値は、五キロを指していた。
「…………おいおい」
なるほど、これで戦場ヶ原に朝から会いに行く口実ができたと思うことにしよう。
体重はまあ、影縫さんにでも、あとで相談するしかないか。
なんて、そんなことを考えながら、僕はひどく重く感じる携帯電話を手に取った。
化物語のSSもっと増えないかな
よく分からんがいい雰囲気だった
終わったみたいな雰囲気を醸し出してるけど終わってないだろ?
乙
いい感じだったよ
おもしろかったです
乙
いや 終わってないでしょ
マイマイにつづく?
乙
面白い
続きに期待!
セクハラだけでマイマイ終わるぞこれ
正弦さんに会ってるみたいだから憑後かな?
続きに期待
>>1です
マイマイはやるつもりではいますが、時間がかかってしまうと思うので、気長に待っていてください
待ってる
乙つ木さん!
きたい
つづくのか
やったー
化物語スレか。期待
「戦場ヶ原ひたぎ様です」
「蟹を食べにくいなんて言う人がいるけれど、それじゃあまるで、食べるのが簡単な生き物がいるみたいじゃない」
「生き物の命を奪っているのに、その事について簡単だ難しいなどと言う人は、この人間は食べづらいと思われながら、肉食獣にでも食われてしまえばいいのに」
「ここで一句」
「思い出も
重さもなくす
蟹に遭い」
「次回、心が強くてニューゲーム其ノ貳」
「阿良々木暦、ぶっ殺す」
超期待
面白いわ
超期待
次回タイトル振るってるな
「あらあら、これはこれは。公園のベンチに上に犬の死体が捨てられていると思ったら、なんだ、阿良々木くんじゃないの」
なんて、そんな声で意識が覚醒する。
どうやら、僕はまた昔の夢を見ているようだ。
「何よ。ただの挨拶じゃない。冗談よ。阿良々木くん、ユーモアのセンスが決定的に欠如しているんじゃないの?」
「いや、お前のはユーモアじゃくてただの悪口だ」
なんて、そんな話をしながら、戦場ヶ原は僕の座っているベンチの方に寄ってきた。
「ところで、阿良々木くん。こんなところで、一体全体、何をしているの?私が休んでいる間に学校を退学にでもなってしまったのかしら?家族にはそんなこと話せないから、学校に通っている振りをしてて、公園で時間を潰しているとか、だとすれば…………」
「それ、リストラされたお父さんじゃねえか。……………まあ、そんな大した理由じゃないよ。今日はちょっと、家にいづらいだけ」
「そう。学校だけではなく、家でまで居場所を無くしてしまった阿良々木くんは、自分の存外が許される場所を探し求めている、という訳ね」
「いや、そんな重い話じゃねえよ!」
「ね。阿良々木くん。もし暇をしているのなら、隣、構わないかしら?」
「いいよ。けど、なんで?」
「あなたとお話がしたいわ」
本当に、こういう物言いは直截的なんだよな。
普段の会話も、これくらい簡単明瞭ならいいのだけれど。
「では遠慮なく」
なんて、そんなことを言いながら、予想通り戦場ヶ原は、僕に密着する形でベンチに座った。
「この間のこと」
そんな状況で、位置関係で。
戦場ヶ原は平然とした風に言った。
「くどいようだけれど、最後にもう一度、お礼を言わせてもらおうと思って」
「…………ああ。いや、お礼だなんて、そんなの、別にいいよ。考えてみたら、僕、何の役にも立ってないしな」
「そんなことないわ」
なんて、予想外のことを戦場ヶ原は言った。
「え?」
「あなたはきちんと、私を守ってくれた」
一瞬、意味が分からなかった。
しかし、よく考えてみると、ちょっと前にそんな夢を見た気がする。
なんだ?この夢、前のの続きみたいなものなのか?
「実際、私は阿良々木くんが助けてくれる確率なんて、ほんの一割くらいだとしか思っていなかったわ」
「………………………………」
期待値が低すぎる、と意義を申し立てたいのはやまやまだったが、しかし、現実では僕は実際何もできなかったので、ここは甘んじて受け入れることにした。
「けれど、あなたは本当に私を守ってくれた。私は、とても感謝しているのよ」
「だったら、礼は忍野に言っとけよ。それだけでいいと思うぜ」
「忍野さんのことは、また別の話だわ。それに、忍野さんには、規定の料金を支払うことになっているしね。十万円だったかしら」
「ああ。バイトするんだっけ」
「いらっしゃいませ、こんにちは。こちらでお持ち帰りですか?」
「店で食う選択肢を与えろ。是が非でも帰そうとするな」
「でもほら、私ってやっぱり、労働には不向きだから」
「自覚があるのは自覚がないのよりいいことだと言ってやりたいところだが、お前のはそれ以前の問題だ」
「まあ、お金のことはちゃんとするわ。だから、忍野さんのことは、また別、ということ。それで、私は、阿良々木くんには、忍野さんとは違う意味で、お礼を言いたいの」
「だから、別にそんなのはいいって。そんな恩に感じられるほどのことはしたとも思ってないし、忍野風に言うなら、『戦場ヶ原が一人で助かるだけ』なんだから、僕に対して、恩を感じるとか、そういうのは、やめにしとこうぜってこと。これから仲良くやっていきにくくなるだろ」
「仲良く、ね」
戦場ヶ原は言った。
「でも、私はあなたが何と言おうと、あなたにお返しがしたいと思うのよ。そうでないと、私はいつまでも、阿良々木くんに、引け目のようなものを感じてしまうの」
「それが終わってから、対等な友達同士になれる、ってことか?」
「ええ、そうよ。物分かりがよくて助かるわ」
「だから、阿良々木くん。何か私にして欲しいことはないかしら?一つだけ、何でも言うことを聞いてあげるは?」
「…………………………」
さて、どうするかな。
これは夢なんだから、火憐のことを相談してもしょうがないし。
だったら、夢がないと言われるかもしれないけれど、
「じゃあ」
「なにかしら?」
「僕に、勉強を教えてくれないか?」
何度。
何度、もっと早くに勉強を始めればよかったと、思ったことか。
本当に、夢の中でまでこんな願いかよとも思うかもしれないが、しかし、今の僕には切実な願いなのだ。
「その程度ならお安い御用よ。けど………」
「けど、なんだよ?」
戦場ヶ原は少し躊躇うような、気をつかうよな様子をみせてから、
「脳味噌の無い阿良々木くんに、高校生の勉強を教えるのは、少し自信がないわね」
「だから、脳味噌くらいあるっつってんだろ!」
なに無駄に躊躇う仕草とかしてんだよ!
ふざけんな!
「え?脳味噌が無いことがばれて退学になったんじゃ……………」
「だから退学になんてなってねえ!」
「まあ、冗談よ。ちゃんと、勉強なら教えてあげるわ」
「そりゃ、ありがたいね」
「それに、実際のところ、このままだと阿良々木くんが退学、というのは、あながち冗談ではすまなくなりそうだしね」
「……………………………」
「けど、本当にそれだけでいいのかしら?私はあなたに、一週間語尾に『にゅ』とつけて会話して欲しいとか、一週間下着を着用せずに授業を受けて欲しいとか、てっきりそんなお願いをされるとばかり思って、覚悟していたのだけれど、なんだか興醒めだわ」
「お前は僕をなんだと思ってるんだよ!」
捨てちまえ、そんな覚悟。
「ああでも、これは頼みごととは違うんだけど、もう一つだけ」
「やれやれ、チャンスを与えるとすぐこれだわ。これだから素人童貞は困るわね」
「…………………」
一体全体こいつは僕にどうしてほしいんだよ。
「それで、一体なんなのかしら?」
「ああ、頼みごととはやっぱり違って、約束みたいなもんなんだけど」
「約束?」
「お前って、まあ僕もそうなんだけど。普通の人とは違う境遇に身を置いただろ」
吸血鬼に襲われて。
蟹に願った。
「だから、人と意見が違ったとき、間違っているのは自分だ。おかしいのは自分なんだって、そう思うこともあるかもしれない。僕もそう思ってた。」
おかしいのは自分、異常なのは自分。
今の戦場ヶ原には、そんな考え方が、桁違いなほど強固に、根付いてしまっている。
「けど、それは違うんだ。人と意見が食い違うなんてことは、よくあることなんだ。お前には蟹が見えて、僕や忍野には見えなかったみたいにさ」
「だから、約束だ」
「……………………………」
「戦場ヶ原。見えていないものを見えている振りしたり、見えているものを見えていない振りしたり、おかしいのは自分だって決めつけたり、そういうのは今後一切、なしだ。なしにしよう。おかしなことは、ちゃんとおかしいと言おう。そういう気の遣い方はやめよう。経験はけいけんだから、知っていることは知っていることだから、多分、僕もお前も、これからずっと、そういうものを背負っていかなくちゃならないんだから。そういうものの存在を、知ってしまったんだから。だから、もしも意見が食い違ったら、そのときは、ちゃんと話し合おう。約束だ」
怪異と行き遭ってしまった人間は、残りの一生、どうしたって、それを引き摺って生きることになる。
そんなこと、今の僕が言えたことでは、全然ないのだけれど。
「お安い御用よ」
なんて、僕からの勉強の頼みごとを受けたときみたいに。
戦場ヶ原は、今の段階ではまだ僕の真意は、ひょっとしたらまだ伝わってないのかもしれないと思うほどに。
あっさりと、涼しい顔で頷いた。
「そうか」
そんな風に、戦場ヶ原と話している内に。
僕達が座っているベンチから、広場を挟んで反対側、公園の隅っこの方、鉄製の看板、案内図、この辺りの住宅地図を眺めている、少女の人影が一つ。
八九寺真宵の登場である。
「なあ、戦場ヶ原」
「なにかしら、顔がおかしな阿良々木くん」
「なんだと!」
「あら、約束通りおかしなことを指摘したつもりだったのだけれど」
「…………………………」
「約束通りなら、これから、何故阿良々木くんの顔はなぜおかしいのか、ということについて話し合うのね。最初から、中々難しい問題ね」
「僕が言ってるのはそういうことじゃねえよ!」
こいつ、本当に僕の言いたいことが伝わってないんじゃないか?
「冗談よ。それで、なにかしら?」
「お前、さっきから冗談ばっかりだな………」
「あそこいる、女の子、見えるか?」
「あそこって?」
「ほら、あの地図のところ」
そう言って、僕は住宅地図を指差した。
正確には、その地図の前に立っている八九寺真宵を。
「いえ、なにも見えないわ」
「そうか、僕には見えるんだよ。ツインテールで、大きなリュックサックを背負ってる、小さな女の子が」
道に迷っている、女の子が。
「そう。でも、やっぱり、私には見えないわ」
戦場ヶ原ははっきりと、そう言った。
「それでいいんだよ」
それで、いいんだ。
「その女の子、道に迷っているみたいなんだ。だから、声をかけてこようと思うんだけど」
「ふうん。それはいいのだけれど、大丈夫なの?だって、私には見えないってことは、おそらく怪異なんでしょ?」
戦場ヶ原は、相変わらずの無表情で、しかし、僕のことを心配するようなことを言った。
「大丈夫だろ。それじゃあ、ちょっと行ってくるから、ここで待っててくれ」
「ええ。分かったわ」
八九寺真宵を見つけたとき、僕がどんなことを思ったかというと、単純にうれしかった。
例え夢の中でも、彼女にまた会えることがうれしかった。
いくらあいつが、悲しくないように別れを演出してくれたとはいえ、それでも僕はあいつと別れることが、辛かった。
だから、僕は例え夢の中だろうと、最終的には、消えてしまうことになろうと。
あいつをまた、自分の家に帰してやろうと。
親のところに、帰してやろうと。
そう、心に誓った。
大事なのは、ファーストコンタクトだ。
このころの八九寺は、僕のことをまだ知らないのだから。
驚かせるのはまずいだろう。
そう思い、僕は足音を消し(?)、抜き足差し足忍び足で(!?)、対象から気付かれないように細心の注意を払いながら(!!)、八九寺の背に近付いた。
幸いなことに、地図とにらめっこしている八九寺は、僕に気付かない。
僕は。
僕は背後から、そんな八九寺のスカートを全力でまくった。
スカートがリュックごと、彼女の上半身を覆う形になる。
「ぎゃーっ!」
当然、八九寺は悲鳴をあげる。
なんだか、本当に懐かしい気分になる。
しかし、八九寺は僕の体に噛みつくことなどなく。
ただそのまま、後ろを振り向きもせずに、全力のダッシュ。
子供ダッシュ。
「あっ!しまった!」
なんて、全然締まらない話だけれど、夢の中での、僕と八九寺のファーストコンタクトは、失敗に終った。
「どうしたの……………?阿良々木くん」
戦場ヶ原が、僕の大声を聞きつけてこちらに歩いてきた。
「いや、声をかけようとしたら、逃げられちゃってさ」
「まあ、犬の死体に見えるような人が近付いてきたら、誰でも逃げ出すわ。かくいう私も、そうとう我慢して、あなたの側にいるのよ」
「そうなのか!?」
まあ、正確には僕の顔を見る前に逃げていったのだけれど。
……………見られてないよね?僕の顔。
「それで、これからどうするのかしら?」
「どうするって………………」
まあ、八九寺は多分またここに戻ってくるだろうけど、少し時間があるしな。だったら、あんまり怪異のことを知ったような口を聞くのも嫌だし、取り敢えずは、
「忍野のところに行って、あの子のこと、聞いてこようと思うんだけれど」
「そう。じゃあ、私も行くわ」
「そうか。じゃあ、二人で行くとするか」
けど、忍野にはなんて言えばいいんだろう。
まだ、あいつが人を迷わせる怪異だってことは、全然分かんない状況だしな。
まあでも、案外あいつなら、迷子の怪異ってだけで八九寺のこと、見透かせるのかもしれないな。
「やあ、阿良々木くん。遅かったね、待ちかねたよ」
なんて、相変わらずのそんな対応で、忍野メメは僕達のことを出迎えた。
「それに、今日はツンデレちゃんも一緒なんだね。どうしたんだい?」
ツンデレちゃんと呼ばれた戦場ヶ原は、かなり不機嫌そうな顔をしていたけれど、どうやら呑み込んでくれたようだ。
「怪異を見たんだ。それで、お前なら何か分かるじゃないかと思ってな」
「ふうん。いいよ、話して御覧。前回、ツンデレちゃんのときに阿良々木くんは、けっこう頑張ってたしね」
「そうか。じゃあ、今日の公園でのことなんだけれど…………………」
「へえ。迷子の怪異、ね」
忍野には、八九寺が僕には見えて、戦場ヶ原には見えなかったこと。八九寺がどうやら道に迷っているらしいことを話した。
「それにしても、阿良々木くん。きみはまたやっかいなことに首を突っ込んでいるね。前回、僕はきみのことを少し見直したけど、やっぱり、そういう所は変わらないね」
「いや、そりゃお前を頼り過ぎている部分はあるかもしれないけれど、それでも、知ってしまったんだから、見過ごすことなんて、僕にはできないよ」
「はっはー。まったく、きみは相変わらずだね。何かいいことでもあったのかい?」
なんて、そんなことを言いながらも、忍野は、八九寺のことを、迷い牛のことを話だした。
「まず、その女の子。八九寺ちゃんって言うんだっけ?」
「ああ、そうだよ。八九寺真宵。リュックにそう書いてあったから、多分間違いない」
「そう。その八九寺ちゃんなんだけど、多分、迷い牛だよ」
「迷い牛。ああ、そういえばあいつ、どことなく蝸牛みたいなやつだったけれど、蝸牛にも牛って字は入っているよな」
「へえ、さすがね、阿良々木くん。そんな難しいことまで知っているなんて、ひょっとしたら、私が勉強を教える必要なんてないんじゃないかしら?」
「お前…………今絶対僕のことバカにしただろ」
まあ、今のは僕が調子に乗ったんだけど。
「それで、迷い牛ってのは、どういう怪異なんだ?」
そういえば、僕は迷い牛のこと、こいつに面と向かって聞いたことはなかったな。
「まあ、簡単に言うと、迷い牛ってのは、人を迷わせる怪異だよ。名前の通りね」
「人を、迷わせる」
「そう。迷い牛は、ついてきた人を迷わせる。だから、対処法は簡単さ。ツンデレちゃんのときみたいに、めんどくさいことなんてなにもない」
「だって、迷い牛についていかなければいいだけなんだから。その子どっかに行っちゃったんだろ?だったら、深追いしないのが一番だよ」
なんて、忍野はやっぱりそんなことを言った。
けど、それじゃ、駄目なんだ。
それじゃ、なんの解決にもならない。
「けど、それじゃあ八九寺はどうなるんだ?」
「ん?おかしなこと聞くね。そんなの、今のままに決まってるじゃないか」?
なんてことを、忍野は当然のように言う。
今のまま。
誰にも気づかれず、誰も寄せ付けない。
戦場ヶ原とは違うけれど。
優しさすらも、拒絶する。
「でも忍野。迷い牛をいうのは、いってみれば幽霊みたいなもんなんだろ?だったら、成仏させる方法だってあるんじゃないか」
「なんだい阿良々木くん。随分とおかしなことを言うんだね。君と八九寺ちゃんは、言ってみれば関係のない、ただの赤の他人だろ?そこまでする意味はないんじゃないかい?」
「それとも、阿良々木くん。自分のことと委員長ちゃんとツンデレちゃんと、三つ立て続けに怪異を解決しちゃったもんだから、ちょっと調子コイちゃってるんじゃないの?」
「別に、僕は調子コイちゃってねえよ」
「それに、関係なくなんかないさ。僕はあいつを助けたいと思ったんだ。無関心じゃなければ、それはもう、無関係なんかじゃない」
忍野に言わせれば、人は一人で勝手に助かるだけかもしれないが。
それはけっして、人を助けたいと思ってはいけないというわけではなく。
僕みたいな奴が、人を助けたいと思うのは無理なことかもしれないし、無茶なことかもしれないけれど、それでもやっぱり、無駄ではないはずなのだから。
「だから忍野。迷い牛を、八九寺真宵を成仏させる方法を教えてくれないか?」
「阿良々木くん、私、まだ昼食をとっていないの。だから、先にあの公園に行っててもらえるかしら」
結局。
結局忍野は、僕に迷い牛の対処法を教えてくれた。
最終的には、僕はその方法を知っているのだから、忍野を無視して行動することもできたのだけれど。やっぱり、忍野を納得させてから動くのが本当なんじゃないかと思っていたので、取り敢えずは一段落だ。
まあ、結果的に納得というか、忍野が折れてくれた形になったのだけれど。
そんな訳で、今は取り敢えず戦場ヶ原と一緒にあのもといた公園に帰る途中だった。
「ああ、分かった。じゃあ僕は、お前が来る前にせいぜい八九寺と打ち解けておくよ」
「ええ、そうしてちょうだい。そこのところは、どうしたって私は力になれないから」
そういえば、こいつって子供嫌いなんだったな。
まあそれ以前に、こいつには八九寺のことが見えないのだけれど。
「別に構わないさ。僕の我儘に、お前まで付き合わせちゃってるんだから。道案内をしてくれるだけで充分だよ」
「そう。それじゃあ、せいぜい頑張ってちょうだいね」
そう言って、戦場ヶ原と僕は一旦別れた。
そして今まさに、公園に着いた僕の視界には、相も変わらず迷子の少女。
八九寺真宵が、そこにいた。
やっぱり、最初はフレンドリーに行くべきだよな。ただでさえ、ついさっき謎の変態にスカートを捲られたばかりなのだから。ここは、警戒心を与えないように、
「よっ。どうした、道にでも迷ったのか?」
懐かしい、利発そうな顔立ちの八九寺は、まずじっと僕を、吟味するように見て、それから口を開いた。
「話しかけないでください。あなたのことが嫌いです」
「……………………」
大丈夫だ。これくらい何でもない。傷ついている暇はない。
「迷子なんだろ?どこに行きたいんだ?」
「……………………………」
「そのメモ、ちょっと貸してみろよ」
「……………………………」
「……………………………」
………………………………。
「てい」
頭を叩いた。
不意打ちではなく、正面から、グーで。
「な、何をするんですかっ!」
しゃべってくれた。
ありがたい。
「グーで叩かれたら、誰だって文句の一つも言いますっ!」
「いや………………叩いたのは悪かったよ。でも、知ってるか?命という漢字の中には、叩くという漢字が含まれているんだぜ」
「意味がわかりませんっ」
「命は叩いてこそ光り輝くってことさ」
「目の前がちかちかと輝きましたっ」
残念だけど、やっぱり誤魔化せないか。
「いや、マジでごめんって。えっと、僕の名前は、阿良々木暦っていうんだ」
「暦ですか。女の子みたいな名前ですね」
「………………うん。よく言われる」
「で、お前はなんて名前なんだ?」
「わたしは、八九寺真宵です。わたしは八九寺真宵といいます。お父さんとお母さんがくれた、大切なお名前です」
「ふうん…………」
「とにかく、話しかけないでくださいっ!わたし、あなたのことが嫌いなんですっ!」
さて、どうするか。戦場ヶ原が来る前に、打ち解けてなきゃなんねえし。やっぱり、暴力は不味いよな。
僕ももう、いい大人なのだから。ここは頭を使って、
「八九寺ちゃん。今度アイスクリームを食べさせてあげるから、ちょっと僕と公園で話さないか?」
「行きますっ!」
………………分かってはいたけれど、さすがにこれはちょろすぎて泣けてくる。
「阿良々木さん。私を案内してくれるんじゃなかったのですか?」
僕達はさっき戦場ヶ原とそうしていたように、ベンチに並んで二人で座っていた。
「ああ、でもちょっと待ってくれ。もう少ししたら、ここら辺の道に詳しい奴が来るから。それまで、僕とお喋りでもしていようぜ」
なんて、本当は僕がこいつと話したいだけなのだけれど。
「ふーんだっ。話しませんっ。黙秘権を行使しますっ」
まあやっぱり、最初はこんなもんだろうけど。
「話さねーと、連れていってやんねーぞ」
「別に頼んでませんっ。一人で行けますっ」
「でもお前、迷子だろ?」
「だったら、なんですかっ」
「あのな、八九寺、後学のために教えてやるけれど、そういうときは、誰かを頼ればいいんだよ」
「自分に自信が持てない阿良々木さん辺りはそうすればいいですっ。気の済むまで他人に頼ってくださいっ。でも、わたしはそんなことをする必要がないんですっ。わたしにとってはこの程度、日常自販機なんですからっ!」
「へえ…………定価販売なんだな」
なんて、そんな風に言いはしたものの。
道に迷い、人を拒絶することを、いつからこいつは、日常としてしまったのだろう。
それが日常となるまでに、一体どれほどの人間を、拒絶したのだろう。
「それに、わたしはどうやっても、たどり着けませんから」
「…………………………」
八九寺は、僕に聞かせるつもりではなく、ただの独り言として、そう呟いた。
「わかりましたよ、お嬢様。お願いですどうかわたくしめと、会話をしてはくださいませんか」
「言葉に誠意がこもってませんっ」
…………………………………。
「やあ」
チョップした。
八九寺の頭に、見事にヒットした。
「酷いですっ!PTAに訴えますっ!」
「へえ。PTAに」
「PTAはものすごい組織なんですよっ!阿良々木さんみたいな何の権力も持たない未成年の一般市民なんてっ、指先一つでポポイのポイですっ!」
「指先一つか、そりゃ怖いな。ところで八九寺、PTAとは何の略か知ってるか?」
「え?それは………………」
わからないだろう、再び黙り込んでしまう八九寺。
まあ、当然だろう。僕だって、少し前までしらなかったのだから。
「PTAってのは、parent-Teacher Associationの略で、親と教師の会という意味なんだぜ」
「なるほど。阿良々木さん、見直しましたっ」
「そりゃ嬉しいよ」
知識は身を助けるなんてよく言うけれど、なるほど、勉強って大事だな。
「そういえば、阿良々々木さんは………」
「々が一個多いぞ!」
「失礼。噛みました」
「気分の悪い噛み方してんじゃねえよ………」
「仕方がありません。誰だって言い間違いをすることくらいはあります。それとも阿良々木さんは生まれてから一度も噛んだことがないというのですか」
「……………そうだな、僕が言い過ぎた。悪かったよ、八八寺」
「寺が一つ少ないですっ!」
「失礼。噛みました」
「がうっ!」
八九寺はいきなり、僕の腕に噛みついてきた。
「甘い!」
しかし、僕はその攻撃をあらかじめ読んでいたので、八九寺の肩を抑えて、それを防いだ。
「がうっ!がうがうっ!」
「どうどう、落ち着け八七寺」
「ふしゃーーー!」
なんて、そんな風にじゃれあって(?)、ある程度親交も深まったところで、
「あら、売れない、冴えない、つまらないの三拍子が揃った、まったく面白くない大道芸人が公園で暴れていると思ったら。なんだ、阿良々木くんだったの」
お待ちかねの、戦場ヶ原ひたぎの登場である。
「…………思ったよりも早かったな」
「昼はあまり食べない方なのよ。それより、迷い牛の八九寺ちゃんは見つかったのかしら?」
「ああ、今もここにいるぜ」
「えっ!?」
なんて、そんな風に驚いたのは、しかし戦場ヶ原の方ではなく、八九寺の方だった。
「阿良々木さん。わたしがなんなのか、知っているんですか?」
「ああ、大丈夫だ。分かってるから。そこんとこも含めて、お前をちゃんと、目的地まで送り届けてやるさ」
「阿良々木さん……………」
「それじゃあ、戦場ヶ原。道案内を頼むぜ」
「その前に、少しいいかしら、阿良々木くん」
そう言って、戦場ヶ原は改めて僕の方を向いた。
「八九寺ちゃんは、今もそこにいるのよね?」
「ああ、いるぜ。見えないかも知れないけど、ちゃんと、ここにいる」
「そう。じゃあ八九寺ちゃん、あなたがどうしてそこに行きたいのかを教えてもらえるかしら?」
「………………意外だな。お前がそんなことを気にするなんて」
本当に意外だった。現実でも、こいつは八九寺に興味を抱いているようには、見えなかったけど。
「別に、私はただ、阿良々木くんと違って、見ず知らずの人を助けるのはごめんなだけよ。けど、無関心じゃなければ無関係じゃないのでしょ?だったら、」
だったら、事情くらいは聞くわよ、と。
戦場ヶ原は、言った。
「そうか」
「分かりました。わたしのことを話します。阿良々木さん、わたしが話すことを戦場ヶ原さんにも伝えてあげてください」
「ああ。任せておけ」
それから、八九寺は、自分自身のことを語り始めた。
自分が何故そこに行きたいと思っているのか。
自分の家庭になにがあったのか。
どうして、自分は迷い牛になってしまったのか。
戦場ヶ原は、ただ黙って八九寺の。正確には、八九寺のことを伝えている僕の話を聞いていた。
思えば、戦場ヶ原は、八九寺の話について、色々と思うところがあるのかもしれない。
「ありがとう、八九寺ちゃん。無駄な時間をとらせてしまったわね」
戦場ヶ原は、見えないはずの八九寺に向かって、お礼を言った。
考えてみれば、現実の戦場ヶも、やっぱり八九寺に興味があったのかもしれない。
いくら僕には、興味が無さそうに見えたところで、自分の目で見たこと、自分で感じたことだけが、真実とは限らないのだから。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。早くしないと、日が暮れてしまいそうだし」
「そうだな。小学生は、日が暮れる前に家に帰らないとな」
そう言って、戦場ヶ原を先頭にし、僕らは八九寺の、長い帰り道を歩き出した。
「そういえば、阿良々木くん」
八九寺の帰り道を、ちょうど半分くらい歩いたところで、戦場ヶ原は突然口を開いた。
「他の女の匂いがしたのだけれど、私がいない間に、誰かと会ったのかしら?」
「他の女?」
あ、そういえば、夢の中では羽川と会っていないな。
「いや、僕は知らないな。八九寺、僕が来る前に、誰か公園に来なかったか?」
「ええ、ちょうど阿良々木さんと同じくらいの年の方が来ました」
「それって、どんな奴だった?」
「うーん。一言で言うならば、見るからに学校の委員長をやっているような女の人でしたね」
「戦場ヶ原、八九寺が、僕ら二人がいない間に羽川が来たんだってさ」
そうか。現実とは違い、僕らは二人で公園を離れてしまったから、僕が羽川と会うタイミングがなかったんだ。
「なるほど、たしかにあの香りは、羽川さんかしらね」
「ああ、やっぱり女って、シャープの香りとかで分かるのか?」
「ある程度はね」
何をわかりきったことをという風な戦場ヶ原。
「阿良々木くんが腰の形で女子を区別できるのと、同じようなものと考えてくれていいわ」
「なるほどですっ」
「そんな特殊な能力を披露した憶えはねえし、八九寺も変な相槌をうつんじゃねえ!」
「え?あれ?できないの?」
「できないんですか?阿良々木さん」
「意外そうなリアクションをするな!」
「お前は座りのいい立派な骨盤をした安産型だからきっと元気な赤ちゃんが産めると思うぜ、うえっへっへっへって、この間、私に言ってくれたじゃない」
「忘れちゃったんですか?阿良々木さん」
「ただの変態野郎じゃねえか!」
ああもう。ステレオ再生すげえ苛つく。
何が悲しくて女子高生と小学生に、こうまで言われなくてはならないのだろうか。
「そう、羽川さん。来てたのね」
戦場ヶ原は、急に話題を戻した。
「らしいな」
「そういえば、その羽川さんという方。なにやら少し落ち込んでいたように見えましたが」
「落ち込んでいた?羽川が?」
なんだろう、現実では、そんな素振りは見せていなかったけれど。家でなにかあったのだろうか?
「それにしても、阿良々木くん。一度逃げられたにも関わらず、よく八九寺ちゃんと打ち解けられたわね」
「一度、逃げた?」
八九寺は、戦場ヶ原の言葉に首を傾げる。
まずい。ここであの事がばれたら、僕の体がどうなるか分かったもんじゃないぞ。
「阿良々木さん、どういうことですかっ。説明を要求しますっ!」
「いや、えっと、それは………………」
「まさか、先程わたしのスカートを捲った変態は、阿良々木さんだったんですかっ!阿良々木さん絶命を要求しますっ!」
絶命を要求。
おそらく、説明をいい間違えたと思うのだが、それでも、今の僕はそれくらい要求されても仕方ない状況だった。
「まあそれは、ほら、僕って妹が二人もいるからさ、それで、小さい子の相手は慣れてるんだよ。ははっ、ははは」
「……………八九寺ちゃん。阿良々木くんが何か隠しているのなら、攻撃に移りなさい」
「がうっ!」
戦場ヶ原の命令とともに、八九寺は僕の手に噛みついた。
「痛ェ!いきなり何すんだこのガキ!」
「うぎぎぎぎぎぎぎっ!」
「痛い!痛い痛い痛いって!」
あっという間に、乱闘になる僕と八九寺。しかし、不味いな。早くこの状況を何とかしないと、こんどは戦場ヶ原が攻撃してくる危険だってあるのだ。
仕方ない、ここは奥の手だ!
「八九寺ちゃん。放してくれたら、あとでお小遣いをあげよう」
戦場ヶ原に聞こえないように、八九寺にそう囁いた。
「放しますっ!」
「………………………」
自身の変態行為を隠すために、小学生にお金をちらつかせることで、口止めをする男子高校生がそこにいた。
ていうか、僕だった。
てか、これって普通に犯罪じゃね?
「何をしているの。遊んでないで早く行くわよ」
「………………………」
いや、お前がけしかけたんじゃねえかよ。まあ、僕としては、深く追及されなくてかなり助かったのだけれど。
とか、そんなことを言っている間に、
「ここね。ここで間違いないわ」
ついに、僕達は目的地にたどり着いた。
「う、うあ」
隣から、八九寺の嗚咽が聞こえた。
八九寺は、泣いていた。
しかし、やはり俯いてはおらず、しっかりと、前を見て。
更地の上、家があっただろう、その方向を見て。
「う、うあ、あ、あ…………」
そして。
たっ、と、八九寺は、僕の脇を抜けて、駆けた。
「ただいまっ、帰りましたっ」
大きなリュックサックを背負った女の子の姿は………すぐにぼやけて、かすんで、薄くなって………僕の視界から、あっと言う間に、消えてしまった。
「………お疲れ様でした、阿良々木くん。そこそこ、格好よかったわよ」
やがて戦場ヶ原が言った。
いまいち感情のこもらない声で。
「僕は、別に何もしてないよ。むしろ今回働いたのは、お前だろ」
「確かにそうだけれど………そうかもしれないけれど、そういうことではなく、ね。しかし、まあ、更地になっているとは驚いたわ。一人娘が自分を訪ねてくる途中で交通事故にあって。いたたまれなくなって、引っ越したってところなのかしらね。当然、それ以外にも、理由なんて、考えようと思えば色々と考えられるけれど」
「まあな。けど、そこら辺は、僕達が考えても仕方のないことだろ」
「それもそうね」
そう言って、戦場ヶ原は例の更地を見つめた。やはり、彼女は彼女なりに思うところがあるのだろう。
「今日のことで、私はようやく、阿良々木くんのことを実感できたわ」
そう言って、戦場ヶ原は視線を更地から僕に移した。
「阿良々木くんのことを、私は誤解していたみたい。いえ、誤解じゃないか。薄々というか、重々、それはわかっていたことだけどね。幻想が消えたっていうのかな、こういうのは。阿良々木くん。先週の月曜日、私は些細な失敗から、阿良々木くんに、私の抱えていた問題がバレちゃって……………そうしたら阿良々木くんは、その日の内に、即日に………私に、声を掛けてくれたわよね」
力になれるかもしれないと言って。
戦場ヶ原に、呼びかけた。
「正直、私はその行為の意味を計りかねていたのよ。阿良々木くんは、ひょっとして、私だから助けてくれたのかしら?なんて思っていたわ」
「けど、そうじゃなかった。そうじゃなかったのよ」
だって阿良々木くん。誰でも助けるんだもん、と。
戦場ヶ原は、そう言った。
「少なくとも、私なら、一度話しかけて逃げられた相手を、しかも幽霊の相手を、助けようとは思わないし、無関係じゃないなんて、言い切れはしないわ」
あなたがそう言ったからよ、と。
戦場ヶ原は淡々と言葉を紡いだ。
しかし、その顔はどこか微笑んでいるような、そんな顔に、僕には見えた。
「ずっと一人でいると、自分が特別なんじゃないかって思っちゃうわよね。一人でいると、確かに、その他大勢には、ならないもの。でも、それはなれないだけ。笑っちゃうわ。怪異に行き遭ってから二年以上、私の抱えている問題に気付いた人は、実のところ、たくさんいたけれど…………最終的にどんな結果になろうとも、阿良々木くんみたいなこは、阿良々木くんだけだったから」
「当たり前だろ。僕は僕だけなんだから」
「そうね。その通りだわ」
戦場ヶ原は微笑んだ。
さて、どうしたもんか。これからの展開は、ある程度予想がつくけれど。
まあでも、その予想通りに動く必要はないよな。
「まあ、でも、僕のことを勘違いしてたっていうんだったら、これから正していけばいいんじゃないか?」
戦場ヶ原にとって、僕とこんなに話したのなんて、その月曜日と火曜日、それに今日…………だけなのだから。
たかだか三日だけである。
クラスが三年、同じだとはいっても………
ほとんど他人みたいなものだった。
「そうね」
戦場ヶ原は反論せずに頷いて、言う。
「だから、もっと、あなたと、話したい」
もっと、たくさんの時間を。
知るために。
「だから、阿良々木くん。私は………………ねえ、ちょっと、聞いてるの?阿良々木くん」
「夕日」
「え?」
「ちょっと、夕日に見蕩れてた」
「……………似合わないわね」
「そう言うなって。なあ、戦場ヶ原。見蕩れるの蕩れるって、すごい言葉だと思わないか?…………………………」
なんて、そんな風に、僕の方から言ってみるのも、僕のやりたかったことの一つなのだ。
後日談というか、今回のオチ。
翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされる前に、僕は家を出た。
あいつとの約束を果たす為に。
「鬼いちゃん。ついでに、僕にもハーゲンダッツを買ってくれないかい?」
「なんでついてきた」?
「知らない仲じゃないしね」
なんて、そんなことを言う斧乃木ちゃんとあいつの分、二人分のアイスを買って、僕達は、目的地に向かった。
目的地。八九寺真宵のお墓に。
場所自体は、随分前から八九寺に聞いていたけれど、僕の気持ちの整理がつかないまま、いつの間に、忘れていた。
だから、あの夢は、いいきっかけになった。
「ほら、八九寺。約束のアイスだぞ」
お供え物にアイスだなんて、常識を考えてかなりおかしいし、もしも八九寺の親が見たらなんて思うかわからないけれど。
でも、まあ、約束は約束だしな。
「鬼いちゃん。そろそろ帰らないと。僕がいなくなっていることに、妹さんが気づいたら大変なんじゃないのかい?」
「………………………」
だったらなぜついてきた。
けど、斧乃木ちゃんに言われなければ、僕はいつまでもここに居座ってしまいそうなので、だから今日は、ここら辺が潮時だろう。
「じゃあな、八九寺。お小遣いは、だからまた今度ってことで」
次に来るのは、そうだな。合格したことを伝えるため、来るとしよう。
乙です
すごく面白いです
おつおつ
すげえ面白い
原作途中までしか読んでないんだけど斧乃木ちゃんと仲良くなったの?
夢は夢、現実は現実で並列進行なのか
おつおつ
乙、面白い
並列進行っぽいけど、そしたら阿良々木君が起きてる間の夢の世界ってどうなってるんだろう
まさしくその時間帯は存在しないのかね、まあ面白いからどうでもいいんだが
乙
>>137
そこら辺は>>1にもよくわかっていませんので、あまり気にしないで頂けるとありがたいです。
この阿良々木くんは、憑物語と暦物語のラストの間くらいの時間にいるので、ネタバレが嫌な人は読まない方がいいです。
物語の性質上、あっ、このやり取り面白いな、と思ったものが、そのまま原作の引用だったりするので、ご了承ください。
まさかのi love you なし
ちょいまち、下手すると暦とひたぎが付き合ってないことになりうるのか?まよいマイマイでの告白がないせいで?
今回の夢のほうはこよこよから告白したってことでしょ
原作読んでないからわかんないんだけど
暦は最後までガハラさんを愛するの?
ここで聞くなよ
暦物語、買おうぜ
暦物語ちょうど買ったところだから読んでからスレ読みに戻ってこようと思ったけど
憑物語が抜けてることに>>139で気づいて、容易には戻ってこれなさそう
スレの夢話が全編分余さず描かれて完結してHTML化されるころには戻ってくるわ
「まよいまよっ!次回予告をお聞きの皆さん、コンバトラー!」
「この世に蔓延するあらゆる不正に物申したい、人読んで、物申しの申し子こと私ですが、いかがお過ごしでしょうか?」
「今日は“アイスクリーム”にモンスーン!
我々の日常生活に深く溶け込んでいるアイスクリームですが、しかしどうでしょう」
「私のような子供が言うならまだしも、大の大人が『アイスクリーム食べたい』などと言うのは、些か幼稚に聞こえませんか?」
「ただアイスと言えば、そこまで幼稚には聞こえませんから、このば場合、悪いのはクリームという単語でしょう。これはいけません。アイスクリームだけにいただけません!」
「そこで僭越ながら不肖私が、アイスクリームを大人っぽく言い換えることを提案します」
「ソフトクリームならぬ、アイスハード!」
「………………固そうですっ!食べにくそうですっ!」
「次回、心が強くてニューゲーム其ノ參」
「みーんなで噛むまよ!」
来たか……!
「まよいまよっ!次回予告をお聞きの皆さん、コンバトラー!」
「この世に蔓延するあらゆる不正に物申したい、人読んで、物申しの申し子こと私ですが、いかがお過ごしでしょうか?」
「今日は“アイスクリーム”にモンスーン!
我々の日常生活に深く溶け込んでいるアイスクリームですが、しかしどうでしょう」
「私のような子供が言うならまだしも、大の大人が『アイスクリーム食べたい』などと言うのは、些か幼稚に聞こえませんか?」
「ただアイスと言えば、そこまで幼稚には聞こえませんから、このば場合、悪いのはクリームという単語でしょう。これはいけません。アイスクリームだけにいただけません!」
「そこで僭越ながら不肖私が、アイスクリームを大人っぽく言い換えることを提案します」
「ソフトクリームならぬ、アイスハード!」
「………………固そうですっ!食べにくそうですっ!」
「次回、心が強くてニューゲーム其ノ參」
「みーんなで噛むまよ!」
大切な予告なので
二回言いました
大切だよね、予告(白目
「あ…………ありゃりゃ木さん」
「…………………人の名前をうっかり八兵衛みたいに言うな。僕の名前は阿良々木だ」
「可愛らしいと思いますが」
「すげえヘタレな奴みたいだ」
………………また、昔の夢か。
最近こういうの多いな。昔の夢をよくみるなんて、なんかおじいちゃんみたいだな。
今回は…………おそらく神原の時の夢だろう。
「阿良々木さん、今日はどちらに?」
「ん。一旦家」
「一旦?するとその後、お出かけですか」
「まあ、そんな感じ………………本当は、戦場ヶ原と勉強する約束だったんだけど、ちょっと、急用が入っちゃってな」
「戦場ヶ原さん…………………」
八九寺は腕を組んで、すっと俯く。
「フルネームは、戦場ヶ原ひたぎ……………なんだけど。ほら、お前を道案内してくれたあの…………………」
「ああ、あのツンデレの方ですか」
「…………………………」
思い出すのが早いというより、そもそも忘れてなどいないといった風に、八九寺は答えた。
まあ、夢の中に限っては、二人は気があっているように思えた。
攻撃的ベクトルが僕に向かっているときなんか特に。
……………嫌な気のあいかただった。
考えようによっては、八九寺が、羽川と阿良々木暦被害者の会を結成するよりも、戦場ヶ原と阿良々木暦撲滅の会を結成する方が僕にとっては厄介かもしれない。
というか、そんな会が結成されれば、一週間もしない内に本当に僕が消されそうだけれど。
「ふうむ」
と唸ってみせる八九寺。
「あれ、でも……確か、この間聞いた話によると、その、まあ、何と言えばよいのでしょうか、えーっと」
八九寺はどうやら、慎重に言葉を選んでいるようだ。
つーかまあ、こいつが何を言うつもりなのか、僕は知っているのだけれど。
「八九寺、ここでボケは必要ないぞ。普通に言え普通に」
「はあ。つまらない人間ですね、阿良々木さんは。では、お言葉に従いまして、普通に言うとしましょう。確か、阿良々木さんと戦場ヶ原さんって、男女交際されていましたよね」
「……………うん、まあ」
普通にするのがつまらないとか言うんじゃねえよ。
お前はどっかの中学生か。
「では、勉強を教えてもらうなんて言っても、そんなのはただの口実にしかならなくて、お二人で乳繰り合ってしまうだけではないですか?」
「そんなことねえよ。ちょっと前から、僕は戦場ヶ原に定期的に勉強を教えてもらってるけれど、あいつ、そういうところには、やたらめったら厳しい奴だから」
「ああ、そういえば、あの方、馬鹿が嫌いそうですよね」
「ああ。けどまあ、結局、急用が入ってそれはなくなったんだけどな」
そういえば、どうやって戦場ヶ原にその事伝えよう。直接言うと、あいつ何言い出すか分かんねえし。
もちろん、約束を破る気はないけれど、それは明日詳しく話せばいいしな。
「なあ八九寺、お前って今暇か?」
「ええまあ。暇潰しの方法に、阿良々木さんとの会話を選択するくらいには暇ですが」
「そうか。じゃあお前今日、予定でいっぱいなのか。そりゃ残念だ」
「いえ。今日は今までで一二を争うくらいに暇ですね」
僕は八九寺の頭を叩いた。
八九寺は僕の脛を蹴り返した。
痛みわけ。
相身互い。
「それで、わたしが暇だといったらどうなのですか?」
「いや、ちょっと頼み事をしたいんだけど」
「頼み事、ですか」
あんまりいい選択とはいえないけれど、他にいい方法も思い付かないしな。
「ああ。戦場ヶ原に、急用が入ったから今日の勉強会には行けないって、そう伝えてくれないか?多分まだ、学校にいるはずだから」
「えっと。ちょうどわたしも、あの方にこの間のお礼がしたいと思っていたのでそれは構いませんが、それくらい、ご自分で電話でもすれはよいのでは?」
「酷いこと言うな、八九寺。それは僕に、死ねと言ってるのと同義なんだぜ」
この頃の戦場ヶ原との約束をドタキャンするなんて、はっきり言って正気の沙汰じゃない。
「いや、そんな風に自信満々に言われましても」
どんな男女交際ですか、と八九寺はもっともなことを言う。
「しかし、阿良々木さん。わたしは別に構いませんが、戦場ヶ原さんは、わたしのことが見えるのでしょうか?」
「いや、それは大丈夫だと思うぜ。そこんところは間違いない」
今の八九寺は、迷い牛としての機能を果たしていない。
嘘を、ついているのだから。
迷い牛としてのキャラ設定。家に帰りたくない人にだけ見える、という特性も、だから発動されていない。
今の八九寺は、それこそ、霊感と呼ばれるようなものがあれば、それだけで見ることができるのだ。
それが、一度怪異と関わったことのある戦場ヶ原なら、なおさら。
「そうですか。それでは、わたしはこれで」
と、そんな風に。
去っていった八九寺と入れ替わるようにして、背後から、足音が聞こえてきた。
「やあ、阿良々木先輩。奇遇だな」
宣誓でもするように、胸に手を置いて。
そして、にっこりと、軽く微笑みながら、神原駿河は、そう言った。
「こんな仕組まれた奇遇がありえるか」
さて、どうしたもんか。僕の急用ってのは、まあ、今日の内にこいつから事情を聞くってことなんだけど。
考えても仕方ないか。なに、こいつのことだ。多分こいつの家に行きたいと言っても拒みはしないだろうけど。
視線を戻すと、神原は、深々と感じ入っているように、何度も何度も繰り返し、頷いていた。
「……………どうしたんだよ」
「いや、阿良々木先輩の言葉を思い出していたのだ。心に深く銘記するためにな。『こんな仕組まれた奇遇がありえるか』、か………思いつきそうでなかなか思いつきそうにない、見事に状況に即した一言だったなあ、と。当意即妙とはこのことだ」
「………………………」
「うん、そうなのだ」
そして、神原は言った。
「実は私は阿良々木先輩を追いかけてきたのだ」
「だろうな。知ってたよ」
「そうか、知っていたか。さすがは阿良々木先輩だ、私のような若輩がやるようなことは、全てお見通しなのだな。決まり悪くて面映ゆい限りではあるが、しかし素直に、感服するばかりだぞ」
「…………………………」
なんか、懐かしいな。
今でこそ打ち解けたからそうでもないけれど、この頃のこいつって、ただただ可能な限り僕のことを持ち上げてたよな。
………………これはちょっと、面倒くせえな。
「で、神原。今日は何の用なんだ?」
「ああ、そう………………」
ここまで常にはきはきと、淀みなく応答してきた神原は、ここで初めて、言葉に迷った。
しかしそれも一瞬、結局、すぐに頬に微笑みをたたえて、
「………今朝の新聞の国際面、読んだろう?ロシアのこれからの政治情勢について、阿良々木の意見を聞きたいんだ」
なんた、神原の口から出たのはそんな言葉だった。
それは、こいつの聞きたいことなんかではなく。
それは、こいつのやりたいことなんかではなく。
彼女の……………戦場ヶ原ひたぎのことでも、なかった。
「………………そうじゃないだろ」
「ああ、インドの話の方が阿良々木先輩の好みだったかな?」
呟くような僕の言葉に対し、しかし神原は、なおもそんなことを言った。
「ただ、私は残念ながらこの通り、体育会系、アウトドア系の人間なものでな、IT関連は………………」
「神原!」
「……………………………」
思わず、語気を荒くしてしまった僕を見て、神原は喋るのを止めた。
「そんなことじゃないだろ。お前の用ってのは」
「……………………………」
「神原、言いたいことがあるなら言ってくれ。伝えたいことがあるなら話してくれ。僕は馬鹿だから、遠回しなやり方じゃ、お前が何を言いたいか、伝えたいか、したいか、わかんねえよ」
「阿良々木先輩はさすがだな。見事な洞察力だ。まるで探偵小説の主人公のようだぞ」
なんて、そんな風なことを言った後に神原は、
「うむ。そうなのだ、阿良々木先輩。実は、相談したいことがあるのだけれど、阿良々木先輩が多忙の身であることは重々招致しているが、どうか、私の家まで、付き合って欲しい」
と、言った。
「ああ、いいよ」
そんなわけで、僕達二人は、正確に言うならば自転車を漕いでいる僕と、それにランニングで並走している神原は、神原宅に向かっていた。
僕は夢の中でまで、こいつの部屋を掃除することになるのか、とか。
そんなことを、考えながら。
「さて、何から話したものかな、阿良々木先輩。なにぶん私はこの通り口不調法なもので、こういう場合の手順というのはよくわからないのだが……………」
神原の家を着き、言ってはなんだがあのごみ溜めのような部屋を掃除した後、神原はそう切り出した。
「最初からでいいよ。なんでも、お前が言いたいこと、全部言えばいい」
「そう言ってもらえると、私としては有り難いな。しかし………阿良々木先輩は、突拍子もないことを、信じることができるタイプの人間かどうか、最初に質問しておきたいのだが」
まあ、それは当然か。神原は、戦場ヶ原のことは知っているけど、僕の身体のことは、何も知らないんだから。
「ああ、大丈夫だ。僕は自分の目で見たものしか信じないよ。だから、見たものは全部、信じてきた。戦場ヶ原のことも、勿論な」
「……なんだ、そこまでバレていたのか」
言われても、さして悪びれる風もなく、後ろめたさもそれほど感じさせず、神原は、「しかし」と言う。
「誤解しないで欲しい。私は、戦場ヶ原先輩とのことを知りたくて、ここ最近、阿良々木先輩について回っていたというわけではないんだ」
「…………だろうな」
「さすがは阿良々木先輩。私の行動など、全てお見通しというわけだな」
「別に、そんなんじゃないさ」
「それで、早速なのだが、阿良々木先輩に、見て欲しいものがあるのだ」
そう言って、神原は自分の左手の包帯をほどいていった。
「正直に言って、あまり人に見られたいものではないのだが、まあ、そんなことも言ってられまい」
包帯の下から現れたのは、真っ黒い毛むくじゃらの、骨ばった左手。
猿の手。
否、悪魔の手だった。
「まあ、こういうことなのだが」
「悪魔の手」
僕は言った。
僕の思ったことではなく、真実を。
「悪魔の手……………みたいだ」
「ほう」
神原は、何故か………感嘆したような表情をした。
あれ、おかしいな。まだこの時点でこいつは、これを猿の手だと認識していたはずなんだけど。
しかも、僕としては、一見してこれを悪魔の手と言うのは、ちょっと無理があるんじゃないかと思っていたくらいなんだけれど。
「阿良々木先輩は、やはり計り知れないほどの慧眼だな。恐れ入った、持っている目がまるで違う。凡俗極まりない私などには、全く思いつかないような答えを導き出してしまうのだな」
「………………………………」
「だが、私はこの手に全く別の解釈を見いだしていたのだ。ウィリアム・ウィマーク・ジェイコブスの短編小説のタイトルなのだが………『猿の手』私はてっきりこれを猿の手だと思っていたのだが」
「いや、多分それは、悪魔の手で間違いないよ。『猿の手』に、自分の手その物が猿の手になるような話はなかったはずだ」
…………って、忍野が言ってたし。
「そうか、悪魔の手。なるほどな…………」
神原は、左手を、ぐーぱーにしながら、そう呟いた。
「この通り、今は、思い通りに動くのだが…………しかし、思い通りに動かなくなるときがあるのだ。いや、違うな。思いに反して動くようになる、というのだろうか…………」
「トランス」
神原の説明に、僕は割り込んだ。
「トランス状態。って奴だよ、それ。知ってる?……………人間に憑依するタイプの怪異は、肉体と精神を、ざくざくに凌辱するから」
「猿の手のことといい、物知りだな、阿良々木先輩は。そうか、怪異というのか、こういうのは……………」
「まあ、僕も、とりたてて詳しいというわけじゃないんだが。そういうのに詳しい奴が、いて」
「うん。そうか、阿良々木先輩が大きな人でよかった。この腕を見せた段階で逃げ出されでもしていたら、話はできなかったからな。それに、少なからず、傷ついていたと思う」
「幸い、だから、突拍子もないことには、色々と慣れてるからさ、安心しろよ。戦場ヶ原のことも、勿論な」
……………僕が吸血鬼だって事前情報は、与えない方がいいよな。もしこいつがそれを知れば、一度目の遭遇の時点で、現実みたいに止めを刺すことを焦らないなんてこともなくなっちまうし。
「けど、神原。問題はそこじゃなくて、その先だろ」
問題は、神原が木乃伊に。
悪魔の手に、願ったこと。
「阿良々木先輩はさすがだな。常に先を見通そうとするその心構え、常に目先のことで手一杯の私も、見習いたいところだ 」
「それでは、本題に入らせてもらおうと思う」
戦場ヶ原ひたぎへの羨望。
阿良々木暦への嫉妬。
「私はレズなのだ」
「…………………」
ずっこけた。
藤子不二雄先生の漫画みたいにずっこけた。
僕は、お前のことを甘くみていたよ。
そういえば、そんな話もしたっけか。
出だしこそそんな風だったけれど、その後、神原は戦場ヶ原に対しての思いを話始めた。
戦場ヶ原と一緒にいた二年間。
それよりも重かった、戦場ヶ原がいなかった一年間。
そして、戦場ヶ原に、拒絶されたこと。
「あなたのことなんて友達とも思っていなければ後輩とも思っていない……………今も昔も。そんなことを、はっきり言われた」
神原は、下を向く。
「けど、戦場ヶ原だって、お前のこと、本気で嫌いになったわけじゃないと思うぜ。ただ、お前に迷惑をかけたくなかっただけで…………………」
「優しいな、阿良々木先輩は」
僕の慰めを、神原は遮った。
「でも…………私は自分の無力さを思い知ったのだ。心のどこかで、私なら戦場ヶ原先輩の側にいれると。たとえ、他の人が拒絶されても、私のことは必要としてくれると、そう、思っていた。」
神原は、なおも下を向いたまま、言葉を繋いだ。
「しかし、そばにいるだけで癒せるなんて、思い上がりも甚だしかった。戦場ヶ原先輩はむしろ…………そばに、誰もいて欲しくなかったのだ」
戦場ヶ原は、しかしどうだろう。
あいつは、確かに独りが寂しくない人間なのかもしれない。
けれど。
独りが寂しくない、と。
独りでいたいは、違う。
人付き合いが嫌いなのと、人間嫌いが違うように。
「だから私は、それ以来、戦場ヶ原先輩には、近付かなかった。それが、戦場ヶ原先輩が私に望んだ、唯一のことだったからな。勿論、戦場ヶ原先輩のことを忘れることなんてできるわけがなかったけれど」
「…………でも、私が身を引いて、何もしないことで、少しでも戦場ヶ原先輩が救われるというのなら…………それを私はよしとできる」
「神原、けどそれは………………」
逃げているだけで。
辛い現実から、目を背ける自分を正当化しているだけで。
けれど、そんなことを僕に言えるわけがなく。
僕に言う資格など、あるわけがない。
戦場ヶ原を思うこいつの気持ちは、全部、本物なのだから。
「一年は、それでやり過ごしたのだ。それで我武者羅になって、バスケットボールにより熱中できたのは、果たして、よかったのか悪かったのか………」
神原は、自嘲気味にそう笑った。
重い。
想い。
「でも……………そんな一年が経って、私は、阿良々木先輩のことを、知ってしまった」
「……………………………」
「いてもたってもいられず、一年ぶりに、私は、自発的に、戦場ヶ原先輩を…………訪れた。訪れようとした」
「戦場ヶ原先輩は…………阿良々木先輩と、朝の教室で、蝶々喃々と、話していた。中学時代でも私に見せてくれたことがないような、幸せそうな、笑顔でな」
いつの間にか、神原は顔を上げていた。
しかし、その顔は、さっきまでのような爽やかな笑顔ではなく。
僕を睨むような、そんな顔で。
「わかるか?」
「阿良々木先輩は、私がしたくてしたくてしょうがなかったのに諦めていたことを…………まるで当然のように、やっていたのだ」
「………………………」
「最初は、嫉妬した」
一言一言、区切るように言う神原。
「途中で、思い直そうとして」
溢れる感情を、抑えるような声で。
「最後まで、嫉妬した」
そう締めくくった。
「………………………」
「どうして私じゃ駄目だったのかと思った。阿良々木先輩に嫉妬したし、戦場ヶ原先輩に失望した。男だったらいいのかと思った。私が女だから駄目なのかと思った。友達や後輩はいらないけれど、恋人なよかったのかと。だったら……………」
「だったら、私でもいいはずじゃないか」
後輩で、年下の女の子だと思っていても、性格的に逆上して僕につかみかかってくるようなことはないだろうとわかっていても。
これが夢だとわかっていても。
それでも、怯んでしまうような、それは、剣幕だった。
「そして……………そんな自分に呆れ果てた。そんなのは全部、私のエゴだった」
「そうしていれば、戦場ヶ原先輩に、褒めてもらえるとでも思っていたのか?馬鹿馬鹿しい。偽善にもほどがある。でも、それでも………………私は、昔みたいに…………戦場ヶ原先輩に、優しくして、もらいたかったのだ。偽善でも何でも、戦場ヶ原先輩のそばにいたい………だから」
と。
神原は、自分の右手で、自分の左手に触れた。
毛むくじゃらの、悪魔の手に、触れた。
「だから私は、この手に、そう願ったんだ」
「じゃあ、また明日。迎えにくるから」
結局、その日の内に、神原を忍野のところに連れてはいかなかった。?
というかそれは、時間的に無理だった。
時刻はまもなく日が沈もうとしているような時だったので、忍野のところに行く途中で、神原が悪魔。レイニーデビルになってしまう可能性があったからだ。
「しかし、阿良々木先輩。大丈夫なのか?私が言うのもなんだが、今夜辺り、私が阿良々木先輩のことを襲ってしまうかもしれないのだぞ?」
そんな風に、僕のことを心配する神原。
もしかしたら、心配しているのは僕じゃないかもしれないけれど。
「大丈夫だって。そこは、心配ないよ」
「……………そうか。うむ、ではまた明日」
だから現在、僕は家に帰る途中。とは言っても、神原に家まで乗り込まれても来ても困るし。だから、適当にぶらぶらしながらの、そんな帰り道だった。
「さて、どうしたもんか」
これから僕がする予定のことは二つで、どちらを先にするかを決めかねていた。
先に、羽川に電話をするか、戦場ヶ原に電話をするか。
羽川には用事がなくても電話をしたいし、聞きたいこともある。
戦場ヶ原には、今回のことを伝えなきゃならない。まあ、正直怖いけど。
「まあ、迷ってても仕方ないか」
そう思って、戦場ヶ原からの電話やメールから逃れるために電源を切っていた携帯の電源を入れる。
すると、案の定、
メール三十六件
電話二十四回
…………………決めた、羽川を先にしよう。
「もしもし?」
「はい、お待たせしました、羽川です」
「……………………」
やっぱり、携帯電話でその台詞は、ちょっとおかしくないか?
「どうしたの?阿良々木くんが私に電話をかけてくるなんて、珍しいね」
「ああ、お前にちょっと訊きたいことがあってさ」
「訊きたいこと?別にいいけど。あ、文化祭の出し物の件?でも、実力テストが終わるまでは、文化祭のことについてはあんまり考えない方がいいんじゃないのかな。せっかく、戦場ヶ原さんに………………」
「……相槌くらい打たせてくれ」
本当、話を勝手に進める奴だよな。
思い込みが激しい上に、一瀉千里によく喋る。
「ヴァルハラコンビ」
「え?」
「羽川って、戦場ヶ原や神原と同じ中学だったんだろ?だったら、ヴァルハラコンビってのも知ってるだろ?」
「そりゃ、勿論、知ってるけど?なに、それがどうかしたの?」
「いや、まあ、ちょっと興味があってさ」
「それは、ヴァルハラコンビの名前に興味があるってこと?それとも、ヴァルハラコンビの関係、みたいなことに興味があるのかな?」
「……………後者、かな」
「そう。でも、私は大したことなんて知らないのよ」
「それでもいいんだ。ほんとに、ちょっと気になったってだけだから」
羽川からヴァルハラコンビのことを聞くのは二度目だったが、それでも、聞いておきたかった。
おそらく、あいつを説得することになるから、そのために。
昔の、あいつらのことを、知っておきたかった。
「あ、そういえばさ、ヴァルハラコンビって誰が名付けたのか、お前知ってる?」
「うん。知ってる。神原さんが自分でつけたんだよね」
可愛いとこあるよね、彼女、と。
羽川は笑いながらそう言った。
「お前は何でも知ってるな」
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」
それは、いつも通りのやり取りだった。
「………………私が知ってるのはこれくらいだよ」
「そっか。サンキューな、羽川」
「でも、阿良々木くん。あんまり恋人の昔を探るみたいなことは、しない方がいいと思うよ?興味半分面白半分にならないよう、阿良々木くん、その辺りは、きちんと節度を守ってね」
「わかってるよ。………………あ、そうだ」
「なに?」
「母の日のことなんだけどさ」
母の日。
八九寺は、落ち込んだ様子の羽川を見たと言っていた。
あれは、本当なのだろか。
「うーん。私、その日にその公園に行った記憶、ないけどな」
「えっ、そうなのか?」
おかしいな。八九寺が間違えたってことか?
まあでも、手がかりが委員長っぽいってだけだからな。
そういうこともあるか。
「いや、それならいいんだ。じゃあな」
「え、あ、うん。それじゃあ、また明日」
『おまえんちのちかくのふみきりにる、たすけ』
あらかじめ作っておいた文面を戦場ヶ原に送信する。
よく考えたら、レイニーデビルを追い払うには、戦場ヶ原ひたぎという存在が、必要不可欠だった。
だから、あいつの家の踏切辺りで待機していた僕は、怪異の気配がしたと同時に戦場ヶ原にメールをすることにしたのだ。
そこが、距離的に遠すぎず近すぎずの距離だった。
最初からレイニーデビルのスペックを分かっているから、前回よりは時間が稼げるとは思うが、今の僕は、吸血鬼の能力が使えない状態だ。
時間を稼ぐといっても、そんなに長くは無理だろう。
「よう、神原。一時間ぶり」
黒い長靴な、左右のゴム手袋。
レイニーデビル。
神原駿河が、やって来た。
何のために?
勿論、僕を殺すために。
「あ…………………」
何て、そんなことを考えている内に、凄まじい早さで突進してきた神原によって、僕のマウンテンバイクは本当に、あっという間にスクラップと化してしまった。
「くっ!」
続いて、僕自身が吹っ飛ばされる。
何度体験しても、慣れることのない感覚。
どれほど場数を踏んでも関係ない。
とても夢とは思えないような痛みが、全身を襲う。
しかし、やはり神原は、ゆっくりと近づいてくる。
彼女は、レイニーデビルは、何も急ぐ必要も焦る必要もないと思っているのだから。
これはやっぱり、吸血鬼のことを教えなくて正解だったな。
この分なら、ギリギリ間に合うか?
「……………………………!」
案の定、神原は方向転換した。
そうするや否や、瞬間、駆け出して……
あっという間に姿を消した。
「よかった。間に合ったか」
「阿良々木くん」
上から、声をかけられた。
少し、息が切れていて、一目で部屋着とわかるような格好で。
戦場ヶ原は、来てくれた。
「…………よお、ご無沙汰」
「ええ、ご無沙汰ね」
心なしか、言葉に棘がある気がする。
やっぱ、怒ってるよな。
「私との約束をすっぽかすなんて、極刑ものの罪悪よ、阿良々木くん」
「ああ………悪かったよ。それで、八九寺には会えたか?」
「ええ。思っていたよりも、随分と好感が持てる子供だったわ」
「…………そうか」
そりゃ、よかったよ。
「子供嫌いの私にしては珍しく、ね。まあ、そんなことより」
戦場ヶ原は言う。
「何があったのかしら、阿良々木くん。当然、説明してもらえるんでしょうね?」
「ああ、明日。全部説明するよ。今日起こったこと、全部」
ちゃんと、話し合おう。
「それで、阿良々木くんは、いったい私に何を話してくれるのかしら?」
次の日、学校が終わった後すぐに、戦場ヶ原の家に行った。
怪異のこと、神原のことを、話し合うために。
………………………それしても、夢の中で日を跨いじゃったよ。そもそも、夢の中っていう設定に無理があったんじゃ………………
「何を黙っているのよ」
「………ん、ああ、悪い」
「昨日、僕がお前との約束を破って、何をしてたかっつうと、神原。神原駿河の家に行ってたんだ」
「………………………」
沈黙が返ってくる。
いや、何も返ってってこない。
沈黙が、耐え難い。
「神原駿河か。懐かしい名前だわ」
「…………そっか」
「それにしても………神原?えらく親しげに呼ぶじゃない」
瞬間で、戦場ヶ原の目つきが剣呑なものへと変化した。普段、全く感情のこもらない戦場ヶ原の瞳が、やにわ物騒な光を放つ。
「いやいやいやいや!親しげになんて全く思っていない。僕は戦場ヶ原一筋だ!」
「あらそう。気持ちのいいことを言ってくれるわね」
お前、怖いよ。
冗談みたいな情の深さだな。
「少し熱くなってしまったかもしれないわ。ともあれ、神原の話だったわね」
戦場ヶ原は相変わらずの手順で、当然のように話を戻す。
「それで、阿良々木くんは私との約束をすっぽかして、神原駿河といったいどんなことをしていたのかしら」
当然のように話を戻した戦場ヶ原だったが、しかし、目つきは変わらず剣呑なままだった。
その後、僕は戦場ヶ原に、昨日何があったのかを伝えた。勿論、神原のことも。
あいつが何を思っていたか。
あいつが何を望んだのか。
あいつが何を願ったのか。
悪魔に、願ったのか。
戦場ヶ原は僕に、中学時代のあいつのことを話した。
部活動の枠を越えて付き合いがあったこと。
僕よりも早く、自身の秘密に気がついたこと。
それを、拒絶したこと。
「つまり、昨日阿良々木くんに怪我を負わせたのは、その悪魔が憑依した神原なのね」
戦場ヶ原は、そう言った。
「まったく。私のダーリンになんてことをしてくれるのかしら」
「……………………………」
「まあ、あいつが願ったのは、僕を殺すとかそんなんじゃなくて、ただ、昔みたいお前と一緒にいたいって……」
しかし、悪魔は持ち主の意思に反する、意思にそぐわない形で願いを叶える。
そのかわりに、願いは何だって叶えてくれる。
だって、魂と引き換えなのだから。
「そう、迷惑かけるわね、阿良々木くん。そうね、それについては、私ができる釈明は一つもないわ」
「別に、迷惑になんか思ってねえよ。ただ、あいつの件を解決するのに、お前に一役買ってもいたいとは、思ってるけど」
「別にいいわよ」
「え?」
戦場ヶ原は、僕の予想を大きく裏切り、即座に頷いた。
「だって、そうしなければ阿良々木くんは殺されてしまうんでしょ?かといって、あなたが諦めるわけがない。だったら……」
何でもするわ、と。
拍子抜けするほどに、あっさりとそう言った。
「そっか。そりゃ、助かるよ」
「けど、それで私と神原が昔のように仲良く、なんてことにはならないわよ」
「…………………」
「今現在、私とあの子は赤の他人よ」
「けど、大事な後輩だったんだろ」
「だから、それは昔の話。私は、戻るつもりはないのよ」
「今回、阿良々木くんに協力するのは、あなたに死んでほしくないからと、人間関係を清算し切れていなかった私の責任をとるためよ」
けして、神原とまた仲良くなろうと思ってのことじゃない、と。
戦場ヶ原は言った。
「お前が昔に戻る気がなくても、取り戻せるものくらい、あるんじゃないか?」?
「…………………………」
「神原は、お前の大事な後輩で、友達なんだろ?だったらそれは、僕の大事な後輩で、友達だってのと同じだ」
失ったのではなく、捨てたのかもしれない。
けれどそれは、結果からすれば同じことで。
だったら僕は、それを取り戻して欲しいと思う。
「なあ、戦場ヶ原。僕はお前に、失ったものを取り戻して欲しいと。捨てたもの拾って欲しいと。そう、思ってる。だって……………」
だってそれは、僕には絶対にできないことだから…………………
「たとえ、全部じゃなくてもいい。そんなことは、言わない。けど、仲のいい後輩くらい、仲のいい友達くらい、いてもいいんじゃないか?」?
「戦場ヶ原ひたぎ。お前の魅力は、僕一人で独占するのには惜しすぎるよ」
「ふふ。嬉しいことを言ってくれるじゃない」
ずっと、沈黙を貫いていた戦場ヶ原は、ようやく口を開いた。
「分かった分かった分かりました。いいでしょう、阿良々木くんのお願いとあれば仕方ないわね」
戦場ヶ原は、表情を崩さず、しかし、極めて愉快そうに言う。
「それにしても、阿良々木くんの動向を探るのも、これで容易くなったは。神原は勿論、八九寺ちゃんにも、昨日お願いしておいたから」
「え?」
「阿良々木くん。あなたの動向はこれから、四六時中私に筒抜けだと思いなさい」
戦場ヶ原は、おそらく、今日一番の微笑みで、そう言った。
戦場ヶ原との話を終えた後、僕は、神原の家に向かい、神原と合流してから、忍野のいる廃屋に向かった。
戦場ヶ原は、そこには同行していない。
戦場ヶ原いわく、
「あの子も、事が解決する前からいきなり私に会って、それで何となく仲直り、なんてことは望んでいないと思うの。だから、準備が整ったら呼んでちょうだい」
だ、そうだ。
まあ僕も、そこまで口出しするつもりはないので、だから、僕達は二人で、忍野のところへ向かった。
「で…………その人は、忍野メメという名前なのか?メメは、片仮名でいいのか?」
「ああ。とはいえ、名前ほど可愛らしい奴じゃないぞ。というか、言ったけど、アロハ趣味のおっさんだぞ。変な期待はしないでくれ。それに、今回はあいつの力は借りなくてすみそうだから」
そう。今回、忍野メメの力を借りる気は、というか、借りる必要はなかった。
借りるのはただ、あの学習塾跡の教室だけ。
「そうなのか?しかし、阿良々木先輩。こう言ってはなんだが、私の左腕。悪魔の手は、そう簡単に解決できるものなのか」
「ああ、うん。まあ、そこのところは、僕に任せておいてくれ」
「了解した」
神原は頷いた。
まあ、今回働くのは、いや、今回働くのも、戦場ヶ原なんだけど。
その事は、まだ、神原には言っていない。
言ってしまったら、意味がない。
しかしまあ、こんなの、また忍野に嫌みを言われるんだろうな。
あいつは、被害者とか加害者とか、そこら辺には厳しいやつだし。
「うん………しかし、戦場ヶ原先輩の抱えていた問題が、既に解決していたというのは、素直によかったと思う。私が礼を言うのもおかしな話なのかもしれないが、阿良々木先輩には、心から感謝させていただきたい」
「だからそれは、僕じゃなくて、戦場ヶ原のお陰だよ。あいつが一人で、勝手に助かっただけなんだ」
僕や忍野がしたことなど、たかが知れている。
揺るぎなく、それだけのこと…………
「そうか…………そうかもしれない。でも、一つ聞かせてくれ、阿良々木先輩」
「なんだ?」
「戦場ヶ原先輩が阿良々木先輩に惹かれた理由はわかった。嫉妬や失望が、それには不釣合いなのだということも…………うん、わかったつもりだ」
「でも、阿良々木先輩は戦場ヶ原先輩の、どういうところに惹かれたのだろうか?二年以上、ただのクラスメイト、口も利いたことのないただのクラスメイトだったというのに 」
「別に、お前が納得できるような立派な理由なんてないさ。ただ、なんとなく、好きかなーって思って、好きだなーって感じて、好きだってわかる。そんな感じ」
僕の答えに対して、神原は神妙、なるほど、などと言いながら頷いた。
いや、僕自身こんな気持ち全然わかんないのだけれど。
そんな感心するとこか?
「それで、どうして、そんなことを訊くんだよ、神原」
「うん。つまりだな、もしも阿良々木先輩が、戦場ヶ原先輩の身体目当てなら、私が代われると思うのだ」
「………………………………」
「私は、そこそこ可愛いと思うのだ」
「自分で言うな」?
本当、謙虚なのか自信家なのかわかんねえよ、お前。
「…………でもな、神原。真面目な話、どんなに頑張っところで、お前じゃ、戦場ヶ原の代わりにはなれないよ」
「………………………」
代わりにはなれない。
別に、このことだけをいっているのではなく。
「お前は戦場ヶ原じゃないしな。誰かが誰かの代わりになんてなれるわけがないし、誰かが誰かになれるわけなんかねーんだよ。なれるのは、誰かじゃなくて、なにかにだけ。戦場ヶ原は戦場ヶ原ひたぎだし、神原は神原駿河なんだから」
いくら好きでも、いくら憧れてても、いくら憧れても。
「…………そうだな」
沈黙の後、頷く神原。
「阿良々木先輩の言う通りだ」
「ああ、無駄口叩いてないで.もう行こうぜ」
「遅いよ、阿良々木くん。待ちくたびれて、もう少しで寝ちまうところだった」
そんな風に、僕達を出迎えた忍野との挨拶もそこそこに、僕は忍野に、学習塾跡で一番広い教室を借り、そこに神原を連れていった。
「悪いんだけど、ここで夜まで待ってくれるか?神原」
「ああ、まあ、それはいいが。しかし、それではまた、昨日のように阿良々木先輩を……………」
「大丈夫だから。不安なのはわかるけど、今は僕を信じてくれ」
そう言うと、神原はすんなりとは言えないとのの、最終的には納得してくれた。
その後、僕は戦場ヶ原を電話で呼び出し、忍野に今回のことを説明した。
「それにしても、阿良々木くん。よく、レイニーデビルのことを知ってたね」
「いや別に、そのレイニーデビルって怪異のことを知ってたわけじゃないさ。ただ、前に羽川から猿の手や悪魔の手の話を聞いてて、だから、なんか違和感みたいなものを感じてさ」
「違和感、ね」
「ああ。そんで、猿の手以外で何でも願いを叶えてくれるのは、やっぱり、悪魔の方なのかなって」
「へえ、阿良々木くんにしては上出来だよ。こりゃあ、僕の阿良々木くんに対する認識を改める必要がありそうだね」
忍野は言う。
「けどさ、そりゃちょっと、いくら阿良々木くんでも優しすぎなんじゃないかい。勿論、今回は阿良々木くんが僕の手を借りずにことを終わらせるっつうんだから、僕としてはあんまりうるさいこと、言いたくないんだけどね」
「……どういう、意味だよ」
「猿の手や、悪魔のことを知ってるならさ、当然、悪魔の手がどんな願いを叶えるのかも知ってるはずだろ」
いつものように、人を見透かすような態度で、忍野は言った。
レイニーデビルは、人の暗黒面を見抜き、惹起し、引き出し、結実させる。
僕を殺そうとしたのも、だからそれは、紛れもなく神原駿河の、意思なのだ。
そして僕は、そのことを神原には伝えていない。
「あの子。百合っ子ちゃんは、確実に、明確に、どうしようもないほどに加害者なんだよ。その罪を、自覚もしないってのは、自覚をさせないってのは、僕からすれば、甘いと言わざるおえないね」
「……………それは、後回しだよ」
「………………………」
「今回のことは、ただ、僕の可愛い彼女と、僕の可愛い後輩を、仲直りさせようって、それだけのことなんだよ。だから、難しいことは、このことが終わってから。ちゃんと、僕から伝えるよ」
それが、出過ぎた真似をした僕の、せめてもの後始末。
「はっはー、言うようになったね、阿良々木くん。何かいいことでもあったのかい?」
「いいことなら、だから、これからあるよ」
僕の言葉を聞いて、満足したように忍野は言う。
「まあ、阿良々木くんの考えなんて、僕の知ったことじゃない。阿良々木くんがそう決めたなら、好きにすればいいよ」
「ああ、そうさせもらうさ。………………世話かけるな」
「いいよ」
そんな風に、忍野との話が終わったとき、見計らったようなタイミングで、戦場ヶ原が教室に入ってきた。
「一つだけいいかしら?阿良々木くん」
戦場ヶ原が忍野にこの前の代金を払った後、僕達二人は、神原の待つ教室に向かった。
「なんだよ、戦場ヶ原」
「どうして、自分を殺そうとした相手まで、阿良々木くんは助けようとするのかしら?神原はあなたを、憎むべき対象として、捉えていたのでしょ」
「それは、だからさっき言ったろ。あいつは、僕にとっても可愛い後輩なんだよ。それに…………」
「それに?」
「………生きてりゃ、誰かを憎むことくらいあるだろうさ。殺されるのはそりゃ御免だけれど、神原が、お前に憧れてたっていうのが、その理由だっていうなら……………」
怪異にはそれに相応しい理由がある。
それが理由だっていうならば…………
「別に、許せるしさ」
「そう」
戦場ヶ原言う。
「つまらないことを聞いたわね。そんなの、阿良々木くんがなんて言うかなんて………」
わかりきってたことなのに、と。
そう戦場ヶ原は言った。
「それじゃ、そろそろいい時分だろうから、行くとするか」
「そうね。後輩が間違ったことをしたならは、それを正してやるのが先輩の務めというものよ」
「そうだな」
「調子に乗った後輩には、お仕置きが必要よ」
「……………お手柔らかにな」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
「……………………」
教室の中には、雨合羽の悪魔がただ一人。
深い洞のような、雨合羽のフードの内側から…………
直接精神に響くように、訴えるように、聞こえてくる。
「私を無視して、随分とはしゃいでいるわね神原。不愉快だわ」
感情の読めない表情、平坦な声で。
戦場ヶ原は、神原に声をかけた。
「私の彼氏を傷つけるなんて、万死に値するわ」
戦場ヶ原は、言葉を発しながら。
一歩一歩、神原に向かって歩いていく。
「……でも、あなたは大事な後輩だし、阿良々木くんも、あなたのことを許すと言っているから」
「特別に、許してあげようかしら」
戦場ヶ原の動きに合わせて、神原はずるずると、後ずさっていく。
「まったく、彼女の人間関係にまで口を出すなんて、とんだお節介な彼氏もいたものだわ」
「……………………」
「まあでも、大きなお世話も余計なお節介もありがた迷惑も、阿良々木くんにされるなら、そんなに悪くはないのかもしれないわ」
そして、戦場ヶ原は、ついに神原を教室の角に追い詰めた。
「神原、久し振り。早速だけれど、私のダーリンに次に手を出したら、あなたを殺すわよ」
戦場ヶ原は言った。
そして、彼女の旧知である神原駿河を、戦場ヶ原は、自分の身体をゆっくりと覆いかぶせる形で、組み敷くようにする。
「……戦場ヶ原先輩」
フードの内側から、ぼそりと。
響くような、訴えるような声。
フードの内側から覗いたの、一人の少女の顔だった。
私は、と、しゃくりあげながら。
彼女は、彼女の想いを口にする。
「私は、戦場ヶ原先輩が、好きだ」
「そう、私はそれほど好きじゃないわ」
戦場ヶ原は平坦にそう言った。
「それでも、そばにいてくれるかしら」
まったく、これは僕の夢の中だというのに、見事なまでに脇役だ。
いつもながら、あつらえたような三枚目を演じたものである。
けどまあ、それでいいのだろう。
いつだってどこだって、強く逞しい彼女達は。
僕とは違って、本当の意味で、一人で勝手に、助かることができるのだから。
後日談というか、今回のオチ。
翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされた僕は、勉強の合間を縫って、神原の家に出掛けた。
今日は半月に一度の掃除の日だった。
「そういえば、神原。悪いんだけど、来月辺りは僕、受験間近だからさ、部屋の掃除に来れないから」
「そうか。うむ、わかった。それでは、次に阿良々木先輩が来るときには、大掛かりな掃除になるな。洗剤や染み抜きはこちらで用意しておこう」
「なぜ僕が来ない間に、自分で部屋を掃除するという選択肢がないんだよ」
まあいいや、今度こいつの家に来るときには、戦場ヶ原と一緒に来よう。
そうすればこいつも、少しは自分で部屋を片付けるかも、しれないしな。
乙
乙
あららぎよみこさん これ自分が何度死ぬか分からないから仕方ないね
すごく面白い。乙です。
乙
乙
「神原駿河だ。
趣味趣向から”神原まっするが”と呼ぶ者もいるが、まぁ好きに呼べばよい」
「ダッフルコートを犬の犬種だと思ったり、デリカテッセンをツンデレの最上級だと思ったり、パラリーガルをイケてるお姉ちゃんだと思ったりするボーンヘッドは誰にでもあるけれど、しかし、自己贔屓をするわけでもないが、モロヘイヤをすごい平野だと思っていたのは、バスケ界広しといえどもこの私だけだろう」
「ところで「贔屓」って言葉、貝が多すぎるよな……お前は貝物ランドの王子さまか!」
「次回かれんビー 其ノ肆」
「神原まっするがはやっぱりやめてくれ!」
今回は、アイデアが浮かばなかったので、予告は丸パクリですが、勘弁してください。
後、なでこスネイクは、今までより少し短くなります。
失礼、かみました。
「次回、心が強くてニューゲーム其ノ肆」
乙
乙
楽しみだな
かれんビーまで跳ぶの?
いいスレを見つけてしまった
楽しみに待ってます!
「どうした?阿良々木先輩」
「ん、いや…………」
また夢か。
ここは…………
「それにしても、こんな山道で人間とすれ違うとは、意外だったな。阿良々木先輩の手前口には出せなかったが、私はてっきりこの階段、死道だと思っていたぞ。それに、随分と可愛い女の子だった」
ああ、やっぱりそうなのか。
千石撫子。
夢の中でさ、僕には合わせる顔なんて、ないんだけどな。
「ま、登ろうぜ」
と、僕は神原に言った。
「上から人が来たってことは、とりあえず上に何かがあるってのは確かなことだ」
「うむ。それもそうだな」
「と言いつつ、阿良々木先輩は立ち止まったまま私の胸から目が話せないようだった。なんだかんだ言っても男の本能には逆らえないようである」
「なんでお前がモノローグを語る!?」
「今回は番外編だから私が語り部なのだ」
「そんなわけないだろ!」
ていうか、お前の語り部すげえ真面目な感じだったじゃん。
ほんと、全然十八禁に指定されるような描写もなかったし。
「むう。なかなかうまくいかないものだ、こうすれば、阿良々木先輩くらい軽く虜にできると思っていたのに」
「そんなことを思っていたのか………」
「ところで、阿良々木先輩。さっきは聞きそびれてしまったのだが、山に行って、それからどうするのだろう?」
「いや、その質問をするのは随分と遅いと思うんだけど…………………ほら、忍野からの仕事だよ」
「忍野?ああ、忍野さんか」
そう聞くと、神原が複雑な顔をした。この後輩にしては珍しい反応だが、まあ、さもありなんという感じだ。
忍野メメ。
こっちの神原は、直接忍野に助けられてはいないものの、手を貸してもらってはいないものの、それでも、今後の相談などは結局忍野から話すことになったのだ。
「ああ。あの山の中に、今はもう使われていない小さな神社があるそうなんだけど、そこの本殿に、お札を一枚、貼ってきてくれ。っていう、そういう仕事」
「………なんだそれは」?
不思議そうに聞き返してくる神原。
「お札というのも不可解だが、しかし、そんなの、忍野さんが自分でやればいいのではないか?あの人は基本的に暇なのだろう?」
「僕もそう思うけど、まあ、『仕事』だよ。僕はあいつに世話になったとき、洒落にならないような多額の借金をしちまってるからな。……………お前だってそうなんだぜ?神原」
「え?」
「あいつはあれでもれっきとした専門家なんだから。ロハで相談に乗ってくれるほど甘くはないさ。世話になった分は、働いて返さなきゃ」
「ああ、それで………」
神原は得心いった風に頷く。
僕はそんな神原の言葉を「そう」と、継いだ。
「だから、僕はお前を呼び出したってわけ。昨日、忍に血ィ飲ませに行ったとき、忍野に頼まれてな。お前も一緒に連れて行くよう、忍野から言われたんだ」
「ふむ。なるほど、借りたものは返さなければならないというわけか」
「そういうこと」
「わかった。そういうことならば是非もない」
神原はぎゅうっと、強く、僕の腕に抱きついてきた。
その行為の意味は複雑そうで推し量ることができないが、どうやら、何かを決意したらしい。
まあ、そういう意味では、貸し借りとかに関しては、神原駿河、とても義理堅い性格なんだよな。
「私の左腕は」
突然、神原は言った。
「忍野さんの話では、二十歳までに、治るそうだ」
「へえ、そうなのか」
「うん。まあ、このまま何もしなければ、だが」
「そりゃよかったな。二十歳過ぎりゃ、またバスケットボールができるってことじゃないか」
「そうだな。勿論、身体がなまっては望みも潰える。そのための自主トレはかかせないが」
と、神原。
そして続ける。
「阿良々木先輩は………どうなのだ?」
「僕か?」
「阿良々木先輩は………一生、吸血鬼なのか?」
「…………僕は」
一生。
一生………吸血鬼。
人間もどき。
人間以外。
「僕は………一生吸血鬼だよ。なんだかんだ言って、この能力に頼っちゃってるからな。まあ、慣れればむしろ、得なくらいだよ」
「私は強がりが聞きたいのではない。阿良々木先輩。忍野さんから聞いた話では……忍という少女を助けるために、阿良々木先輩は吸血鬼に甘んじているとのことだったが」
「……………………」
忍野、それにしても、口が軽いな。
まあ、相手が『左腕』の神原だからこそ、参考すべき先例として、あえてその話をしたんだろうけど。
「そんなことはないよ。忍のことは………まあ、責任だ。助けるなんて、そんな格好いいもんじゃないよ」
バルログさん
「それに、お前だって、今は直ぐその左腕を治してやるって言われても、拒否するんじゃないのか」
それが、彼女の責任なのだから。
「私のことをあまり買い被らないで欲しいのだが、まあ、そうだな。阿良々木先輩の言う通りだ」
「けど、僕の場合、吸血鬼の力に頼っちまってるってのは、本当なんだけどな」
自嘲気味に、僕は言った。
「そうか…………出過ぎたことを聞いてしまったな」
「そんなことねえよ。神原、僕のことを心配してくれてんだろ?」
「…………まあ」
「大丈夫だ。心配には及ばないよ」
本当は、全然大丈夫なんかじゃないのだけれど、でも後輩の前でくらい、格好をつけたって、いいだろう。
そこから五分ほど歩いて、僕達は神社の入口にたどり着いた。
「そうだ、バルカン後輩」
「なんだ?らぎこちゃん」
「ここの神社って、忍野が言うにはなんか良くないものが溜まってるみたいだからさ、お前は気分が悪くなるかもしれないんだ」
「そうか、では私は休憩できる場所を探しておくとしよう。なにもお札を二人で貼りに行く必要もないだろうしな」
「ああ、じゃ」
そう言って、僕は神原に背を向け、草を踏み分けるようにして建物の方に向かった。
そして、前と同じように本殿に札を貼って、神原を探した。
すると、やはり神原は重箱を脇に置いて。
呆けているように………佇んでいる。
「神原!」
声をかけ、肩に手を置く。
「ひゃうんっ!」
びくっと震えて、神原は振り向いた。
「あ、ああ…………なんだ、阿良々木先輩か」
「なんだ、どうしたんだよ?随時可愛い悲鳴をあげるじゃねえか」
「いや……………阿良々木先輩」
神原は、正面を指さした。
「あれを、見てくれ」
「………………………」
僕は言われた通り、神原の指さす方向を見た。
そこには予想通り、切り刻まれた蛇がいた。
ぐねぐねと長い、にょろりとしたその身体の節々を、刃物で五等分されて殺された、一匹の蛇の死体があった。
「悪い、羽川……………そろそろ予算枠を越超えそうだ」
神原と神社に行った次の日。僕は羽川と一緒に学校の近くにある大型書店に足を運んでいた。
「へ?予算枠って?」
「一万円」
「あー。参考書って割りと高いからね。内容を鑑みれば、しょうがないことではあるけれど」
羽川と、こうやって面と向かって話すのは久し振りだな。
最近あいつ、全然日本に帰って来ねえし。
「でも」
羽川は唐突に言った。
「私は、少し、嬉しいな」
「………何が?」
「阿良々木くんが、参考書選びを手伝って欲しいとかさ、そんなこと、言い出すなんて」
「まあ、いつまでも戦場ヶ原に頼りっぱなしってわけにもいかないしな」
「ああ、戦場ヶ原さんにマンツーマンで勉強見てもらったんだっけ?」
「そう。なんか、戦場ヶ原に勉強見てもらってさ、久し振りに勉強の仕方がわかったっていうか、思い出したんだよ」
「へえ、そういうことなら、私も全面的に協力させてもらうわ」
「……………………………」
全面的に協力。
しかし、この頃の彼女は、本当に戦場ヶ原が僕に勉強を教えていることを、快く思っていたのだろうか?
…………思っていたに決まっている。
彼女は、自分の気持ちを抱えながらをも、それが出来てしまうほどに、完璧だったのだから。
「はい。これでぴったり一万円」
「サンキュー。大事にさせてもらうよ」
その後、僕はやっぱり羽川に神原の事を問い詰められた。
「でもなー。僕、戦場ヶ原から、神原の面倒をちゃんと見るように、言われてるんだよな。神原の方も、同じようなこと言われてるみたいだし」
「それは、そうね。こんな感じなんじゃない?」
羽川は、そっと、その両手を僕の頭に伸ばしてきた。それぞれの手で、左右から僕の頭を触り、固定する。
「…………………………」
「はい、どうぞ」
羽川は両手で僕の頭の角度を調節し、僕を見上げるようにした自分の顔と、ぴったり正面に、向かい合うようにする。
「羽川。あまり僕を見くびらないでくれ。僕は、そんなに軽くねえよ」
前よりも少しは、強く濃くなれたはずだ。
「へえ、意外だな。誰にでも優しい阿良々木くんなら、結構引っ掛かると思ったんだけど」
羽川は、僕の頭から両手を離して、そんなことを言う。
意外そうな顔していたが、そこに取り乱した様子は………………なかった。
「お前が言いたいことはよくわかったよ。これからは気をつけるって」
「うん。戦場ヶ原さんも、その方が安心できると思うよ」
「ああ、そうだな」
「………、痛っ」
と。
そこで突然、羽川は右手を、今度は自分の頭部に添えた。
「大丈夫か?」
「いや、ちょっと……頭痛が」
「頭痛………」
でも、今の段階でこいつの問題をどうにかすることは、多分出来ないよな。
こいつの場合、僕が何らかのアクションを起こせるのは、あの猫が表に出てきてからだ。
「ああ、大丈夫大丈夫」
「羽川、誘っておいてなんだけど、今日はもういいから。帰って休んどけ」
「………うん。ごめんね、阿良々木くん」
そう言って。
羽川は、逃げるように、本屋さんから出て行った。
…………まあここまで来たら、どうせあいつの夢も見るんだろうな。
あいつのことは、その時にどうにかしよう。
羽川と別れた後、僕は呪術・オカルトコーナーに向かった。
千石撫子と、接触するために。
案の定、そこには帽子を被った女の子の姿があった。
「………千石」
『暦お兄ちゃんなんて、大嫌いだよ!』
不意に、そんな言葉が頭をよぎった。
ああ、もう、今はそんなこと考えている場合じゃないだろ!
「………あっ」
僕がそんなことを考えているうちに、いつのまにか千石の姿が消えていた。
…………しかたない、また、神原と一緒にあそこに向かうとしよう。
そう思って直ぐに、僕は神原の携帯に電話をかけた。
呼び出し音が五回くらい。
「神原駿河だ」
「神原駿河。得意技は二段ジャンプだ」
「嘘をつけ。あれは人間業じゃない」
「ん。その声と突っ込みは阿良々木先輩だな」
「………いや、そうだけどさ」
声と突っ込みで判断すんじゃねえよ。
間違い電話とかかかってきたらどうすんだ。
「神原、暇だったら、ちょっと手伝って欲しいんだけど」
「ふふ」
なんだか不敵に笑う神原。
「暇であろうとなかろうと、阿良々木先輩に望まれたとあっては、たとえそこがどこであっても私は向く所存だぞ。理由など聞くまでもない、場所さえ教えてもらえれば私はすぐさまそこへ行く」
「そうか、悪いな。昨日行った神社。そこの階段に入る前の歩道で、待ち合わせだ」
「わかった。ちょうど、自室でのいやらしい本を読んでのいやらしい妄想に一段落ついたところなのだ」
「…………………………」
自分から言うんじゃねえよ。
せっかくこっちが聞かないようにしてたのに。
「えっと、位置的には…………お前の方が近いだろうけど、僕は自転車だから、多分先について待っている」
「困るなあ、阿良々木先輩。この私が尊敬している阿良々木先輩を待たせるわけがないだろう。私の信用も地に落ちたものだな。よかろう、絶体に私が先に着く」
「変な意地を張られても、僕が困るんだが………まあ、なるたけ急いでくれ。ああ、長袖長ズボン、忘れずにな」
「わかった。阿良々木先輩の仰せの通りに」
「じゃ、よろしく」
僕が神社の入口に着いたときには、案の定神原はそこにいた。
「で、阿良々木先輩。私は何をすればいい?」
「ああ、そうだな。まずは………」
「脱げばいいのか?」
「何でそうなるんだよ!」
「いや、阿良々木先輩が望むのならば、脱がせてくれても構わないが」
「受動態か能動態かの話をしてんじゃねえよ!」
お前は僕の中学一年生の頃の妄想が具現化した姿なのか!?
「では、何をすればいい。遠慮せずにはっきり言ってくれ。私は無骨な人間だからな、遠回しに言われても、まろどっこしい………まろどっこ…………まろどっと」
「まどろっこしいなあ、おい!」
「申し訳ない。しろどもろどになってしまった」
「確かにしどろもどろだが!」
「で、なんだ」
「この上に、僕の昔の知り合いがいるんだが」
僕は階段を指さす。
「うん?」
「昨日、この階段を昇る途中ですれ違った女の子の、憶えてるよな」
「うん。ちっちゃくて可愛らしい女の子だった」
「…………………………」
「で………その子が、今日もここの神社に来ていると?」
「そういうことだ。多分な」
「うーん。いまいち状況が掴めないのだが」
「うん。まあ、それは後で話すよ。ともかく、お前に頼みって言うのは、その、昔の知り合いとは言え、声、掛けづらくてなだから………」
「なるほど。阿良々木先輩の言いたいことはわかった。阿良々木先輩の慧眼には恐れ入る、確かに私は、年下の女の子には強いぞ」
「だろうな。お前を呼んで正解だったよ」
「だか、そうなると…………」
神原は真剣な口調になって、言った。
「阿良々木先輩がそういう以上、勿論、手伝うにやぶさかではないが、阿良々木先輩は、当然、昨日のあれ、含んでいるのだろう?」
「まあ、そうだ」
「じゃあ、そういうことなんだな」
「ああ」
「やれやれ」
神原は、仕方なさそうに、肩を竦めた。
「阿良々木先輩は誰にでも優しい、という戦場ヶ原先輩の言葉は、どうやら本当らしいな」
「別に、そんなんじゃねえよ。ただ、気になったことをほっといて、それで助けられるばすの相手を助けられなくなっても、あんまり面白くねえしな」
「だが、それは、阿良々木先輩が必ずしも助ける必要はないのではないか?」
「……………………」
「いいのだ。独り言だ。いや、失言だった。では行こう、阿良々木先輩。早くしないと、彼女が用事を済ませてしまうかもしれない」
用事。
おまじないの、解除。
「ああ……………そうだな」
そして、神原とまた少し歩いた後、僕達は神社にたどり着いた。
「………………千石っ!」
僕は、千石の姿を捉えた瞬間、思わずそう呼びかけてしまった。これでは、神原にわざわざ来てもらった意味がない。
「やめろ、千石っ!」
「あ………」
千石は、僕を見た。
「暦お兄ちゃん………」
やめてくれ。
千石。
たとえ夢の中でだって、僕はお前に、そう呼んでもらう資格なんて、ないのだから。
「遅かったね。待ちかねたよ」
と、忍野は見透かしたような言葉で、僕を迎えた。
僕は火のついていない煙草をくわえた変人、もとい恩人、軽薄なアロハ野郎こと、忍野メメと、向かい合っていた。
一人で、である。
神原と千石には、僕の部屋で待機してもらっている。
やっぱり、千石を、出来ることなら忍野とは会わせたくなかった。
無論、千石からはきちんと、事情は聞いてきたから、前回のような失敗はおかさないつもりだ。
……………いや、どうなのだろう。
どんなに理由を並び立てたところで、結局僕は、千石といるのが辛くて、いたたまれなくて、だからここに一人で来たのかもしれない。
「それじゃあ早速、その妹的存在のお嬢ちゃんについての話をしようか。聞いている限り、切羽つまっているみたいだし」
「ああ、無事なのは、両腕と、首から上だけだ」
「うん、そりゃまずいね。それも、巻きついている蛇が二匹なら、なおさらね」
「………………………」
人を呪わば穴二つ。
しかし、今回空いている穴は三つある。
その後、僕は千石の事を忍野に話し、蛇切縄の対処するための、お守りを二つ貰った。
ちやんと、二つ。?
「これを使えば、千石は助かるし、千石を呪った奴のところに蛇が返ることもないんだな?」
僕は、今日何度目かの質問を、忍野にした。
「うん、そうだよ。けど、阿良々木くん。やけにそこのところを強調するね。何かいいことでもあったのかい?」
忍野は、僕を見てそう言った。
「今回、その千石ちゃんは完全なる被害者だからね。僕としては、出来るだけ力になりたいと思うんだけど、どうやら、阿良々木くんが気にしてるのは、そういうことじゃないみたいだね」
忍野は、なおも続ける。
「阿良々木くんは相変わらず優しいね。いや、そこまでいくと、もうただの物好きかな?どっちにせよ、加害者のことまで考えるなんて、バランサーの僕としては理解できないぜ」
忍野は、そう言って笑った。
本当に、つまらなそうに。
「別に、僕はただ、生きていれば誰だって、人を恨むこともあるだろうし、ましてやそいつらはまだ中学生なんだぜ。その二人だって、本気で千石に死んでほしいって願ったわけじゃ……………」
僕のその言葉を、しかし忍野は遮った。
「本気だったか、殺意があったかどうかなんて、この際関係ないと、僕は思うけどね。実際、千石ちゃんが死にそうになっているという事実は存在するんだから」
「…………………………」
「まあ、どのみちそのお守りを使えば、心配しなくても、呪い返しなんてことは起きないよ」
「………そうか」
「別に、前にも言ったかもしれないけど、阿良々木くんが何を思おうと僕の知ったことじゃない。ただ…………」
「ただ?」
忍野は、言葉を繋いだ。
「阿良々木くん。誰かを助けようとする気持ちは、そりゃ素晴らしいことだけどね。けど、あんまり誰も彼もどれもそれも助けようとしてたら、いつか痛い目みるぜ」
「………………………」
「いざという時に、誰を助けるべきなのかを、ちゃんと考えなきゃ駄目だ」
誰を助けるべきなのか。
……………助けるべき、相手。
おしのがおしーの
「はっはー。僕としたことが、ちょっと喋り過ぎちゃったかな。別に、何もいいことなんて、なかったんだけどな」
忍野はそう茶化すようにして、会話を締めくくった。
相変わらず、こいつは見透かしたような態度ばかりをとるやつだな。
けど、
「わかったよ。お前の言いたいことは。肝に命じておくよ」
「わかればいいよ。僕だって、いつまでもここに住んでるわけじゃないからね」
忍野は、軽薄なままの口調で、そう言った。
「それも、ちゃんと理解はしてるさ」
「理解はしているけど、分かってはいない、かな。阿良々木くんは、ほっといていいものまで、どうにかしようとする傾向にあるからね」
「………でも」
それでも。
「知ってしまったら、どうしようもないだろ。そういうものがあるってことを、僕はもう、嫌っていうほど知ってしまっているんだから」
「はっはー、いっそ、委員長ちゃんみたいに、全部、忘れちゃえればよかったかい?忍ちゃんのこととかさ」
「そんなこと、無理に決まってるだろ」
羽川みたいには、いかないのだ。
「まあでも、常に意識はしてなくちゃ駄目だよ。忍ちゃんは、人間じゃないんだから。変な感情移入はするべきじゃない」
「それは、忍野…………」
「それに」
忍野は言った。
「阿良々木くんは、いつだってその気になれば………忍ちゃんを見捨てればいつだって、完全な人間に戻れるんだってこと…………僕としては、それも、忘れないでいて欲しいな」
「忘れないさ。僕は、そんな選択肢を選ばないと決めたことを、忘れない」
「あっそ」
忍野は、これで話は終わりだと言わんばかりに、いや、実際終わりなのだけれど、露骨に話を切り上げた。
「それじゃ、早くその千石ちゃんのとこに行ってやれよ。早くしないと助かるものも助かんなくなっちまうぜ」
学習塾跡を出、僕は寄り道をせずに、自宅へ帰った。
そして再度、今度は三人で北白蛇神社へと向かった。
「千石」
「あ、何……暦お兄ちゃん」
びくっと反応する千石。
怒られると思ったのかもしれない。
「お前、本当はその痕、痛いんだってな」
「あ…………」
千石の顔が、さっと真っ青になった。
「そ、その………怒らないで、暦お兄ちゃん」
「別に、責めてるわけじゃないさ。ただ、大丈夫なのかなって、思っただけ」
「そ、その」
ぎゅっと、帽子を深く被り直す千石だった。
顔を隠すように。
見られたくないかのように。
「締め付けられるようで、痛いけど……我慢できないほどじゃないよ」
「我慢しなきゃいけないのが、そもそもおかしいんだよ。痛いときは痛いで、いいんだ」
「その通りだぞ」
神原が横から口を挟んできた。
「縛られるだけならまだしも、縛られっぱなしというのは、存外、肉体的にはきついものだ。蛇だろうが縄だろうがな」
「縛られるだけがまだしもになる理由も、暗に精神的なきつさを除外した理由も、僕にはわからねえよ、神原」
千石はそんなやり取りに、やはり忍び笑い。
よかった。自分が千石の前でちゃんと喋れてるか不安だったけど、どうやら問題ないみたいだ。
「よし………着いたぞ」
一番前を歩いていた僕が、当然、一番乗りだった。
神社跡。
神が居座る前の。
人が死ぬ前の。
「神原。気分は大丈夫か?」
「うん。思ったより平気だ」
「何か馬鹿なこと言ってみろ」
「私は車の中で本を読んで、酔って気分が悪くなるのが好きだ」
「何か面白いことを言ってみろ」
「仕方ないではないか!やらなければお金をくれないと脅迫さるたのだ!」
「何かエッチなことを言ってみろ」
「好きな女の子が処女かと思ったら猩々だった」
「よし」
やっぱ、最後が微妙なんだよな。
「じゃ、とっとと準備するか」
「そうだな」
前回と同じように、土に木の棒で線を引き、懐中電灯同士を繋いで、スクエアを形成した。
いわゆる結界といつやつだ。
そして、そのスクエアの内部に………千石が這入る。
一人で。
スクール水着ではなく、月火の目を盗んで拝借した薄手の服で。
「阿良々木先輩。薄着の服ならば、わざわざ妹さんから借りなくても、私が持っていたのに」
「スクール水着なんて着せれるか。年下の女の子に神社でスクール水着を着せるとか、どんな変態だって話だ」
「そうか?私には、そのシチュエーションはすごく味が出ると思えるがな」
「なんでこの場面で、味なんて出さなきゃならないんだよ」
「それに、阿良々木先輩が購入した本の中には、そのようなシチュエーションのものもあったと思うのだが?」
「……………………………」
お前、どんだけ僕のことストーカーしてんだよ。
ていうか、なんで僕はそれに気づかないんだよ。
いくらなんでも鈍すぎるだろ。
神原との掛け合いはそのくらいにして、僕は千石に、忍野から渡された二つのお守りを、千石に手渡した。
「で、真ん中に座って………シートの上な。そのお守りを力一杯握って、目を閉じて、呼吸を整えて…………祈れば、いいんだってさ」
「祈るって………何に?」
「何かに。多分、この場合は………」
蛇。
蛇神。
蛇切縄。
自分、自身に。
「わかった………頑張る」
「おう」
「暦お兄ちゃん………ちゃんと見ててね」
「……ああ」
「撫子のこと………ちゃんと見ててね」
「…………任せとけ」
僕は結界から外に出て、蚊取り線香の設置を終えた神原と並んで、少し離れた位置から回り込むように、千石の正面に移動した。
「じゃ…………」
と。
千石は既に目を閉じていた。
両手をぎゅっと、胸の前で握り締めている。
儀式は、既に、始まっていた。
「しかし、阿良々木先輩は本当に、手当たり次第、人助けを行うのだな」
儀式を見守る最中、神原は言った。
「まあ、できる限りは、助けたいと思うよ。それが、甘えでも、無責任でも、自己満足でも」
自己満足に甘んじる覚悟。
果たして、火憐には偉そうに言ったものの、僕にはそれが、できているのだろうか?
「戦場ヶ原先輩はそんな阿良々木先輩のことを好きなんだと思うし、そういうところが阿良々木先輩の魅力なのだと私も思う。でも、願わくば」
神原は言った。
「もしも、それでも誰か一人を選ばなくてはならない状況が訪れれば、そのときは迷わず、戦場ヶ原先輩を選んであげて欲しいな」
忍野は、誰か一人を考えておけと言った。
神原は、誰か一人は戦場ヶ原にして欲しいと言う。
「………………………」
それはきっと、
「自分を犠牲にするのは、阿良々木先輩の自由だけれど、戦場ヶ原先輩のことは、大事にしてあげて欲しい。…………まあ、本当は、私にこんなことを言う資格はないのだろうけどな」
「いや、それはきっと、それはお前だからこそ、言えることだろう」
「………なら、いいのだが」
「心配には及ばないよ。僕はあいつのことを、一生背負うって決めてるからな」
「そうか。あ…………阿良々木先輩」
あれ、と神原は、正面を指した。
首元から、鱗痕が消えていく。
鎖骨から、鱗痕が消えていく。
二匹の蛇切縄が、千石から、離れていく。
「滞りなく、進みそうだな」
「うん」
「本当に、よかった」
「暦お兄ちゃん…………」
儀式は、何事もなく、無事に終わった。
さすがに二匹の蛇となれば、全て消えるのに多少時間はかかったが、それでも結果は上出来と呼べる部類だった。
蛇が去り、
意識を取り戻したらしい千石が、僕と神原のところへ、覚束ない足取りで、近付いてきた。
しかし、それで彼女が苦しくなくなるわけではなく。
泣かなくていいわけでも、ない。
「暦お兄ちゃん。助けてくれて、ありがとう」
だから、やめてくれ。
千石。
お願いだから、ありがとうなんて、そんな聞くに堪えない言葉…………言わないでくれ。僕に、お前からそんなことを言ってもらう資格はない。
僕は、あろうことか、お前を本気で、殺そうとしたのだから。
後日談というか、今回のオチ。
翌日、二人の妹、火憐と月火に叩き起こされた僕は目を覚ました後、散歩に出かけた。
目的地もなく、ぶらぶらと歩いてるつもりだったが、ふと立ち止まると、そこは、千石撫子の家。
「暦お兄ちゃん?」
なんて、そんな声が聞こえるわけもなく、僕は直ぐに、その家を通り過ぎた。
すると、二人の中学生くらいの女の子とすれ違った。
何気なくその女の子達に目をやると、二人は、千石の家に入っていた。
とても、楽しそうに。
友達と遊ぶのが、待ちきれないといった様子で。
「よかったな」
本当にいい。
最高だ。
声を上げて、笑いたいくらいに。
声を上げて、叫びたいくらいに。
>>230
はい?
>>ていうか、お前の語り部すげえ真面目な感じだったじゃん。
ああ、花物語のやつか確かに偽物語でのやり取り通り阿良々木さんのが変態なんじゃってがっかり感だったね
乙
素晴らしい
原作読んでない俺だけどすき
この夢物語とも言うべきssは原作の何処まで行く予定?
>>269
化物語で終わりです
乙
おつ
アニメしか見ていない自分にはわからん所がちらほら
「な?でこだYO?」
「今日もブラザーたちに、ご機嫌の予告をお届けするよ!」
「ツイスターゲームを漢字で書こうシリーズ!」
「撫子は撃墜の「墜」に「星」って書いてツイスターゲーム」
「いったいいくつの星があのゲームで落とされてきたのかな?」
「いつの日か、『撃墜王』って呼ばれてみたいものだよね」
「シャルウィゴーでチェケラウ!」
「次回、心が強くてニューゲーム 其ノ伍」
「こっちの方が、台詞が多い気がする………」
今回は、最終回ではなく、短編に近いものです。
今さらですが、名前をつけることにしたので、気にしないでください。
それと、私事ですが、夢物語の>>1さん、見てくれていて光栄です。
おつおつ両方見てるよ
両方の作者が両方のファンてなんか微笑ましいな
乙
両方見てる
なでこかわいいYO
「どうしたの、阿良々木くん。随分と無口じゃない」
ここは…………車の中か。
隣に戦場ヶ原がいて、運転席には、戦場ヶ原のお父さんがいる。
「阿良々木くん。初めてのデートだから緊張するのはもっともだけれど、でも、そんなことじゃ、持たないわよ。夜は長いのだから」
「ああ、わかってるよ」
この日は、僕にとっての記念すべき日。
それと同時に、悪夢のような一日だった。
だが、今回は違う。あいつが僕を苛めて楽しむの、あいつが楽しいならそりゃいいんだけど、でも、やられっぱなしの僕じゃない!
「ねえ阿良々木くん」
戦場ヶ原が平坦な口調で言う。
「私のこと、好き?」
「ああ、好きだぜ。僕は戦場ヶ原のことが大好きだ」
負けじと僕も平坦な口調で言った。
「戦場ヶ原?それは私のことを指しているのかしら。それとも、お父さんのことを指しているのかしら」
「あ、いや、それはもちろ…………」
「お父さん。良かったわね。阿良々木くんがお父さんのこと、大好きだって」
「ひたぎさん!僕はひたぎさんのことが大好きです!」
くっ、油断した。
だが、まだまだこれからだ。
「なによ、慌てちゃって。それじゃあまるで、阿良々木くんはお父さんのことが嫌いみたいじゃない」
戦場ヶ原は、直も攻撃の手を緩めない。
本当、楽しそうだなあ。
お前が楽しそうだで、僕は満足だよ!
「いや、そんなことは………」
「お父さん。阿良々木くんはお父さんのことが嫌いらしいわよ」
「だから、そんなことは言ってない!」
戦場ヶ原父は、僕達のやり取りに無反応。
いや、何回か話してみたけど、全然、無愛想ってわけじゃないんだよな。
娘のことを第一に考える。
それは、父親としては当たり前のことかもしれないけれど、それでも、当たり前のことを当たり前にできる人で、正直、尊敬する。
「………………………」
「あら。また静かになっちゃったわね。少しいじめ過ぎたかしら」
戦場ヶ原は僕の方を向いて言う。
「阿良々木くんって反応がいいから、ついつい凹ましたくなっちゃうのよ」
「その台詞に何より凹むよ………」
全く。
いつまでたっても、僕はこいつに敵わないんだな。
…………いや、例え敵わなくても、引き分けくらいには持ち込めるかもしれない。
「お前は、僕のどういうところが好きなんだ?」
「優しいところ。可愛いところ。私が困っているときにはいつだって助けに駆けつけてくれる王子様みたいなところ」
「へえ、そりゃありがたいな」
僕は、できるだけ平静を装って答えた。
あいつが僕のリアクションを見て楽しむというのなら、僕は平静を装うまでだ。
そうすれば、少なくとも僕の負けではないだろう。
………………いや、そもそも何の勝負だって話なのだが。
「ふん、つまらないわね。せっかく私が褒めてあげているのだから、もっと喜びなさいよ」
「別に、僕は充分喜んで………」
「お父さん。もしかしたら私、初恋の人に愛されていないかもしれないわ」
「わーい。ひたぎさんに褒められたぞ。すげえ嬉しい!」
「あらそう」
…………いや、お前それはずるいだろ。
なんでもかんでも父親にチクるんじゃねえよ。
そうまでして僕を苦しめたいのか。
「そういえば」
と、戦場ヶ原は言った。
自分の都合でぽんぽん話題を変える奴だ。
「そういえば、ゴミ……いえ、阿良々木くん」
「今お前、自分の彼氏をゴミと言いかけたか?」
「何を言っているの、いわれのない言いがかりはやめて頂戴。そんなことより阿良々木くん、この前の実力テスト、どうだったの?」
「あん?」
「ほら、私が、私の家で、二人きりで、機会があるこどに、昼となく夜となく、散々面倒見てあげたじゃない」
「………………………」
だから、何故わざわざそんな言い片をする………。
つーか、夢の中テストの点数なんて知らないのだけれど。
まあ、適当に答えればいいか。
「何をいい惜しんでいるの。早く具体的な点数を教えなさい。勿体ぶっているようだと、身体中の関節を全部逆向きに折り曲げて、なんだか逆に格好いいみたいな体型にしてあげるわよ」
「その体型に格好いい要素はひとつもねえよ!」
「格好悪い?」
「格好悪いなんてレベルの話じゃない!」
「(笑)?」
「笑えねえよ!」
「さあ、ブリッジと勘違いされて封鎖されないうちに、早く教えなさい」
「いや、言ってやったみたいな顔してるけど、それ、全然上手くないから」
ともあれ、僕は戦場ヶ原に適当に点数を伝えた。
記憶にある点数より、気持ち高めで。
「まあ、それなりね。少し前から勉強を始めていたことを含めても、妥当な数字ね」
「妥当ね」
「ええ。妥当過ぎてつまらないわ。もしも悪い点数だったら、半殺しにするつもりだったのに」
「お前はいったい、何がどうなったら満足するんだよ!」
「笑のヒントを、そう簡単に他人に求めるものではないわよ、阿良々木くん」
「僕はお前の退屈しのぎの為にテストを受けているわけじゃない!」
それにしも、
進学。
大学受験。
ああ、本当にこのころから、真面目に勉強してればなあ。
後、一ヶ月か…………
「まあでも、これなら少しは神原と遊んであげる時間がとれるかもね」
戦場ヶ原は、強いて平坦な口調で言った。
強いて平坦にしたと、わかる口調だった。
「阿良々木くんだって、神原とは遊びたいって思うでしょう?」
「そりゃな。面白い奴だし」
ちょっと面白過ぎるけど。
それに。
「お前が神原と仲良くしてるのを見ると、僕がこんなことを思うのは筋違いで、余計なお世話かもしれないけれど、それでも、嬉しいよ」
「そう。それなら、今度、三人で遊びましょうか」
「ああ、そうしようぜ」
そんなことを言っている内に、時間経過。
気付けば、いつの間にか僕達が乗る車は高速道路を降りていた。
「もう少しね」
同じように窓の外を確認し、戦場ヶ原は言った。
「あと十分くらい、かしら。時間的にも、丁度いい…………か。さすが私ね」
「………………………」
いや、だからそれは戦場ヶ原父の手柄だと思うだけれど。
お前、車の中で僕と喋ってただけじゃん。
「うるさいわね」
「え?何も言ってないじゃん」
「呼吸音や心音がうるさいと言っているのよ」
「いや、それは死ねと言っているんだ?」
そんなやり取りをしている内に、僕達の乗る車は、駐車場へとたどり着いた。
「阿良々木くん、とか言ったね」
「あ、はい」
目的地に到着した後、案の定、僕と戦場ヶ原父を車に残して戦場ヶ原は行ってしまった。
……………やっぱり、気まずいな。
「そうか」
と、頷く戦場ヶ原父。
「娘を、よろしく頼む」
「……………………」
「なんちゃって」
と。
戦場ヶ原父は続けた。
………この場合は、やっぱり笑うべきなのだろうか?
僕にどうしろというのだ。
「ひたぎの母親のことは、もう聞いているね」
「はい」
「じゃあ、ひたぎの病気のことも」
「……………………」
「まあ、それだけじゃないし、無論、仕事ばかりにかまけていた僕の責任も少なからずあるが…………ひたぎはすっかり、心を閉ざした人間になってしまった」
「ええ、よく知っています」
それは、よく知っている。
一年次と二年次。
三年次の一ヶ月。
そして、今でさえ、こちらの彼女は、心を開いているとは……………言えない。
「その辺りのことについては、言い訳のしようがないな。子供がやったことは親の責任だが、親がやったことに、子供には何の責任もないんだから」
「責任、ですか…………」
「母親のことがあるからな。それに、病気のこともある。あの子は人を愛する側の人間だが、愛し方がわからない」
だから、好きになる努力をしたい、と。
彼女は言ったのだろう。
それは、彼女なりの手探りでの、愛し方。
「ひたぎは愛する側の人間だから」
戦場ヶ原父は言う。
「だから、しかるべき相手には、全体重をゆだねる。全力で甘える。愛するっていうのは、求めるってことだからね」
「愛し、愛されたい…………」
「だから、あの子は心の中でずっと叫んでいた。私を見て、と」
「……………………」
「そして、きみはそんなあの子を見つけた。見つけただけではなく、見続けようとした。してくれた。阿良々木くんには、本当に感謝しているよ」
思い入れを込めて、静かに語る戦場ヶ原父。
「……随分高く買ってもらっているようで、恐縮ですけれど………でも、そんなの、たまたまだと思いますよ」
「そうかい?ひたぎの病気を治すのにも、きみが一役買ってくれあと聞いているが」
「だから…………別に、それは僕じゃなくても、よかったんだと思います。ひたぎさんを見つけたのがたまたま僕だっただけで、たまたまそこに居合わせただけで、僕以外の誰でもよかったんだと思います」
「それでいいんだよ。必要なときにそこにいてくれたという事実は、ただそれだけのことで、何にも増して、ありがたいものだ」
戦場ヶ原父は。
今日初めて、笑ったようだった。
「あれは自慢の娘だ。僕は娘の見る眼を信用している。あれが連れてくる男なら、間違いないだろう」
「………………………」
「娘をよろしく頼むよ、阿良々木くん」
「…………はい」
「目を開けていいわよ」
あの後すぐに、戦場ヶ原は車に戻ってきたので、僕は戦場ヶ原の言われるがままに、得に抵抗することもなく、例の、お勧めのスポットに案内された。
「…………………………………………うおお」
目の前に広がるのは、満天の星。
降るような星々。
何度見ても、心を奪われる。
「どうかしら、阿良々木くん」
「すごいな。正直、言葉にならない」
「語彙が足りないのね」
感動に水を差す毒舌だった。
しかし、やはりその程度で。
彼女の吐く毒ですら、この星空の下ではその程度で。
「あれがデネブ。アルタイル。ベガ。有名な夏の大三角、ね」
僕は、彼女が指差す星を辿り、覚えながら、空を見る。
「あの辺りがへびつかい座よ。だから、へび座は、あの辺りに並んでいる星になるわね」
戦場ヶ原が、夜空を指をさして、滔々と説明する。
「あそこのひときわ明るい星がスピカ……だから、あの辺りはおとめ座ね。あっちにかに座…………は、ちょっと判別しづらいかしら」
「いや、わかるよ。続けて」
「そう」
戦場ヶ原はそうやって、一つ一つ、見える限りの星座と、それにまつわるエピソードとを、語ってくれた。それは、一度聞いたことがあるにも関わらず、やっぱり、とても心地よかった。
「そんなこんなで、なにはともあれ」
あらかた、星座の解説を終えて。
戦場ヶ原は、平坦に言った。
「これで、全部よ」
「何がだ?」
星空を見上げたままで言う戦場ヶ原。
「勉強を教えてあげられること。可愛い後輩と、ぶっきらぼうなお父さん。それに、この星空。私が持っているのは、これくらいのもの。私が阿良々木くんにあげられるのは、これくらいのもの。これくらいで、全部」
「全部…………」
「まあ、厳密に言えば、毒舌や暴言があるけれど」
「それはいらない!」
「それに、私自身の肉体というのもあるけれど」
「それは……………」
「それは、無理にはいらないよ。お前の、好きなときでいい」
「そう。そう言ってもらえると、私も楽になるわ」
戦場ヶ原は続ける。
「いつか、いつか絶対に何とかするから、少しだけ、それは待っていて欲しいの」
「構わないさ。僕はお前のことを、一生背負うって決めてるんだから」
僕が生きている限り。
彼女が生きている限り。
ずっと。
「ねえ阿良々木くん」
戦場ヶ原が平坦に言う。
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
「私も好きよ。阿良々木くんのこと」
「ありがとう」
「私のどういうところが好き?」
「全部好きだ。好きじゃないところはない」
「そう。嬉しいわ」
「お前は、僕のどういうところが好きなんだ?」
「嬉しいよ」
そして。
戦場ヶ原は、照れも衒いもまるで滲ませず、言った。
「キスをします」
「………………………」
「違うわね。こうじゃないわ。キスを………キスをして………いただけませんか?キスをし………したらどうな………」
「戦場ヶ原」
「…………………」
「キスをしよう」
「……………はい」
後日談というか、今回のオチ。
翌日の夜、僕は戦場ヶ原を連れだって、例の神社。北白蛇神社まで来ていた。
星を、見るために。
「へえ、こんなところからも、こんなに綺麗に星が見えたのね」
「ああ、ここって結構空に近いし。さすがに、あそこまでとは言わなくても、なかなかのもんだろ?」
「ええ、さすがはいなか町ね」
「いや、そこは僕を褒めてくれよ」
「だって、どうせ阿良々木くんが自分でこの場所を見つけたわけじゃないのでしょう?」
「…………………」
まあ、その通り。
影縫さんから聞いたんだけどな。
「それにしても、冬の大三角がよく見えるわね」
「ん?どこだ?」
「あそこよ」
そう言って、戦場ヶ原はあの時のように、星空を指差した。
「あれがシリウス。ブロキオン。ベルギウス………………」
僕はそれを忘れないように、目で追いながら、眺めていた。
おつおつ
すげえ面白かった
偽物語も気が向いたら書いて欲しいぜ
乙
面白かった
阿良々木君かっこいいな
けど、偽物語で暦がやり直せる事なんてなくないか?
楽しかった乙
乙
乙
おつ
忍楽しみ
本編との違いがみつけられなかった
それはヤバいな
すいません。
話がほとんどできていない上に、風邪をこじらせてしまったので、最終話は一週間後くらいになりそうです。
本当に申し訳ありません。
構わない
落ちる前に書いてもらえばかまわんよ
お大事に
「羽川翼です」
「電子辞書が台頭し始めた頃には『電子辞書では調べたい言葉の意味しか分からないが、紙の辞書だったら調べたい言葉だけじゃなく、周りの言葉の意味も知ることが出来るんだよ』なんて言われてましたけど、最近じゃ電子辞書もリンク機能が発達してきたので、紙の辞書よりよっぽど周りの言葉の意味が分かるようになっちゃいましたね」
「完全に机上の市民権を得たというか、今じゃ戦場ヶ原さんが武器に使っても不思議じゃないかも」
「迂闊に熱中すると、最初に調べていた言葉が何だったか忘れちゃうところは同じですけれど。辞書は電子化できても人間は電子化できないのかな?」
「次回、心が強くてニューゲーム 其ノ陸」
「残念ながら、最終回です」
えぇ!?
よかろう
待つわ
「何よ」
戦場ヶ原は言った。
「阿良々木くん、どこかに行くの?」
「ちょっとそこまで」
「何をしに行くの?」
「人道支援」
「あらそう」
取り澄ましたものだった。
さすがは戦場ヶ原ひたぎ。
たとえ夢の中でも、僕のことはわかっているようだ。
「いいわ。行ってらっしゃい、阿良々木くん。本来ならばあり得ないことだけれど、特別に情けをかけて、私が代返しておいてあげる」
「四十人ぽっちの高校の授業で代返なんて、何の意味もないと思うが…………まあいいや」
「それじゃ」
「ええ。頑張ってちょうだい」
そうやって、戦場ヶ原と別れた僕は、駆け足で自転車置き場へと向かった。
羽川翼の為に。
羽川翼に恩を返す為に。
浪白公園に向かって、一人自転車を漕いだ。
大丈夫。
忍の居場所はわかってるから、失敗することはないだろう。
まあ、僕のすることなんて、出来ることなんてのは、その場しのぎでしかなくて、結局は、あいつが一人で助からなきゃいけないのだけれど。
そんなことをぼんやりと考えながら、自転車を漕いでいると、不意に目の前に虎が。
一頭の虎が、表れた。
「え、嘘だろ?なんで、お前がここに…………」
おかしい。
なんでこいつが、今出てくるんだよ。だってこいつは、夏休み明けに羽川が…………
『ふん』
そう言って。
僕が混乱している間に、虎は、苛虎は僕の前から姿を消した。
どうする?
予想外だな。今苛虎が出てくるなんて、どうすればいい?
………………とりあえずは、羽川のところに向かうか。
僕の知ってるのとは、今までにないくらいに違ってきてるけど、まあ、これは夢なんだし、そういうこともあるだろう。
そう思って僕は、再度自転車に乗って、急いで羽川のところに向かった。
「………あ、阿良々木くん」
羽川は、パジャマにハンチング帽をかぶる、といつ出で立ちで僕を迎えた。
「よっ」
勿論僕の方は、自転車をきちんと駐輪場に止めてきた。
出会い頭注意を受けるのって、なかなかへこむしな。
「ごめんね、阿良々木くん」
羽川の前にまで行き至ると、謝られた。
労いの言葉こそ、やっぱりなかったが。
「学校、サボらせちゃって」
「いや、それはいいよ。それより、何があったんだ?」
僕としては、予想はついているのだけれど。
「あの、阿良々木くん。ゴールデンウィークのこと、さ。私………思い出したんだけど」
「そうか」
慎重に言葉を選ぶ風にして、羽川は言う。
「いや、そうじゃないのかな。忘れてることがあるのを、思い出したって感じだね…………何があったのかは、どんなに頑張っても、ぼんやりとしか思い出せないんだけど」
「ああ、まあ、そうだろうな。究極的なところまでは、思い出すのは無理なはずだよ」
そもそも、忘れていることを思い出すことさえ、無理だったはずなのに。
それなのに。
「けど、羽川。僕をこうして呼び出したってことは、思い出したってだけじゃ、ないんだろう?」
「そうよ」
「怪異か」
「そう………だから」
と、僕を見る羽川。
「阿良々木くんには、忍野さんのところまで、道案内、頼んでもいいかしら」
「ああ、それはいいよ。けどその前に、二、三、質問させてもらっていいか?」
「え…………いいけど、なんで?」
「最終的に丸投げにするにせよ、話の骨子は整理しておかないとさ。自分達にできることは自分達でなんとかしようとする姿勢は、常に保っとかなきゃ」
それに、今回は苛虎のこともある。
僕の知っている事情とは、少しばかり違うかもしれないのだから。
「あ………そうだね」
納得した風の羽川だった。
「いいよ。じゃあ、何でも訊いて」
その後、僕は前の時と同じようなことを、羽川に聞いてみた。
しかし、羽川から聞けた話からは、なぜ苛虎が今ここで表れたのか、わからなかった。
おそらくそれは、羽川が都合よく。都合の悪いことを忘れてしまっているからだろう。
忘れて、押し付けて。
ずるを、しているから。
「よし。じゃあ、話も整理できたし、忍野のところにゆくとしよう。………まさか羽川、自転車の二人乗りは法律違反だなんて、そんなこと、言わないよな?」
「言いたいところだけれど」
羽川はベンチから立った。
「見逃してあげる。阿良々木くんに学校サボらせたのと、これとで、チャラね」
「いや、それでチャラになるのはおかしくないか?」
両方お前の都合じゃん。
「大変だよね、阿良々木くんは」?
羽川が、二人乗りをしてしばらくしたところで、僕に向かって、そんなことを言ってきた。
「色んな人の、色んな面倒、見なくちゃいけなくて」
「別に、見なくちゃいけない、とかじゃないさ。僕がただ、自己満足でやってるだけ」
「それはそうかも知れないけど。でも、全部…………怪異がらみだったんだね。思い出した」
羽川は言った。
「始まりは、春休みに阿良々木くんが吸血鬼に襲われたところ、か………あそこから全部が始まったんだね」
「怪異自体はずっと、当たり前のようにそこにあるもので………ある日突然、表れたわけじゃないんだけどな」
「阿良々木くん………知ってる?」
「知ってるって、何を」
「吸血鬼の特性の一つなんだけどね………魅了って言って、吸血鬼は人間を虜にしちゃうんだ」
「…………………」
「その目で見つめることによって、異性を虜にするのよ。吸血鬼と人間って種族が違うから、異性っていう言い方が、この場合適切かどうかはわからないけれど」
「…………………」
「………ごめんね」
羽川が言う。
「今、私、意地悪なこと言ったよね」
「別に、気にしないよ。それぐらい」
お前は何でも知ってるな、とは。
やっぱり、言えなかった。
「おや。阿良々木くんじゃないか」
学習塾跡に到着した僕逹に、忍野は正面から声をかけた。
「それに、委員長ちゃん………だよね。僕は女性に髪型を変えられちゃうと誰だかわからなくなっちゃうんだけど、うん、その眼鏡は間違いなく委員長ちゃんだ。はつはー、委員長ちゃんは久し振り、阿良々木くんは一日振り」
忍野は、多分ここで撤退の準備をしていたのだろう。
この町から、去る準備を。
「ふうん。そういうことかい。阿良々木くん」
見透かしたように、忍野は言う。
「本当にきみは、三歩歩けば面倒ごとを引き込んでくるな。ある意味才能だよ、それ」
「まあいいや。早く這入っておいでよ、阿良々木くんも、委員長ちゃんも。そこのフェンスの破れ目からさ。いつものように、四階で話をしよう」
「ああ………わるいな」
とりあえず、忍野の言う通りにする。
四階の教室に着いた瞬間に、忍野は不意打ちで羽川の頭を帽子の上から軽くはたいた。
軽くはたいた。
だけなのに、羽川は崩れ落ちた。
両膝をつき、かくんと、うつ伏せに倒れる。
糸が切れたように。
「事情は既に阿良々木くんの方で終えてくれたらしいからね。ちょっと手順を省略させてもらったよ」
「そうか……」
「おっと、ほら、もう、来たぜ、阿良々木くん。色ボケ猫のお出ましだ」
見れば。
うつ伏せに倒れた羽川の、その、長い髪が変色していく。
変色。
いや、退色か。
純粋な黒から、白に近い銀へ。
すうぅーっと、生気が抜けていくように。
「……………………」
「にゃはははは」
そして彼女は、
猫のように目を細め、猫のようににたりと笑う。
「また会えるとは驚いたにゃあ、人間。懲りもせずに俺のご主人のおっぱいに欲情してやがったみたいで、相変わらずお前は駄目駄目にゃ。食い殺されたいのかにゃん?」
「……………………………」
自分のキャラ設定とポジショニングを、一つの台詞の中でとてもわかりやすく説明しながら。
ブラック羽川は、再臨した。
僕と忍野は、突如姿を見せたブラック羽川を、一瞬の手際で縛り上げて、一通り話を聞き出したところで、縛り上げたブラック羽川をその教室に放置して、他の教室に移動した。
「………でも、今回は、お前の責任でもあるわけだろう?アフターケアが足りないと思うぞ」
「まあ、そういう風にも言えるよね」
やはり、忍野は反論しない。
「忍野、訊きたいことがあるんだが」
「奇遇だねえ。僕も阿良々木くんから、訊かれたいことがあったんだよ」
「忍はどうした」
「うん、それそれ」
むかつくくらいに、爽やかな笑顔と共に、忍野は答えた。
「忍ちゃん、自分探しの旅に出ちゃった」
「………そうか」?
「ん?なんだい、阿良々木くん。やけに冷静じゃないか。僕はきみのことだから、もっと慌てふためくと思ってたんだけどな」
「別に、ただ何となくだけど、そういう予感がしただけ」
「………そうかい」
忍野は言った。
「じゃあ、僕は忍を探してくるよ。あいつがいなきゃ、今回のこと、片がつかないしな」
「結局はその場しのぎの姑息療法なんだけれどね。まあでもそこは、委員長ちゃんの成長次第かな」
成長。
怪異に魅せられない、十分な強さ。
しかし、忍野は前回、羽川のストレスの原因は両親のことだって言ってたよな。
まあ、さすがにあいつも、人の色恋沙汰まで見透かせるわけでもないか。
「そうだ、忍野」
「なんだい、阿良々木くん」
「せっかく縛り上げたんだけどさ、ブラック羽川。連れてってもいいか?同じ怪異同士の方が、もしかしたら探しやすいかもしれないし」
実際は、忍を探す必要なんてないのだけれど。
苛虎のことを、ブラック羽川ならばなにか知っているかもしれない。
同じ一人の少女から、生まれた怪異なのだから。
「まあ、彼女達は同じだからね。その方法は、割りとまともなんだけどさ……」
忍野は、軽い口調で続ける。
「もしかしたら、阿良々木くん。きみ、怪異に慣れたつもりでいるんじゃないかい?」
「…………そんなことは、ないよ」
「そうかい、それならいいんだけどね。けど、阿良々木くん。一応言っておくけれど、怪異は怪異、人間は人間、だよ」
「………………………」
「一緒にはならないし、なれない。何があっても相容れない。その事だけは、忘れないでいくれよ」
忍野は言った。
「…………わかった」
「それじゃあ、そろそろ行きなよ。僕は僕の方で、色々とやることがあるから手は貸せないけど、頑張りなよ」
「ああ、それじゃあな、忍野」
「うん。またね、阿良々木くん」
なんて、やはり忍野は別れの言葉を口にしなかった。
本当は、また会う気なんてないくせに。
まあでもしかし、僕はこいつに、会いにいかなきゃいけないんだよな………
忍野と別れた後、ブラック羽川を連れて、とりあえずは学習塾跡を出た。
しかし、目立つブラック羽川を連れて昼間から街中を歩けるはずもなく、人通りの少ないところで、苛虎のことを聞くことにした。
「にゃんだ。気付いていたのかにゃ」
「気付いてた、つーか、直接会ったんだよ。けど、その様子じゃ、やっぱりなにか知ってるみたいだな」
「まあにゃ。というか、今回俺が出てきた目的は、ご主人のストレスの発散ということと、あの虎を引っ込めることにゃ」
「え、そうなのか?」
「ああ。あいつの存在は、ご主人の望むところではないからにゃ」
「………そうか」
「ストレスっていうのは、やっぱり、僕が原因なんだよな?」
「なんだ。自覚があったのかにゃ」
「まあ、な」
「そこまでわかってるんだったら、ご主人と付き合ってやればいいにゃん。そうすれば、俺もあの虎も消えるし。どうせ、お前は相手にゃんて誰でもいいんだろ?」
「そんなことはないよ。それに、それは羽川が自分で言うべきことだ」
声に、出すべきだった。
自分の気持ちを、ちゃんと伝えるべきだった。
「お前に頼ったのは、羽川の弱さなんだ。苦しい役目を、お前に押し付けたに過ぎない」
「言うじゃにゃいか」
ブラック羽川は、僕を揶揄するように、嘲る。
「まあでも、それは確かに俺がとやかく言うべきことじゃないにゃ」
ブラック羽川は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
正直、僕はここでブラック羽川と、またぞろ一戦交えることになるかもしれないと覚悟していたので、その反応は意外だった。
「俺はどうせ、あの吸血鬼にエナジードレインをされれば直ぐに消えるにゃ」
「ああ。だから問題は、あの虎はいったいなんなのかってことだ 」
本来ならば、苛虎がここで出てくるわけがない。
だってあれは、羽川の家族への嫉妬が原因となっているはずだから。
「なあ、猫。あの虎のこと、教えてくれないか」
怪異には、それに相応しい理由がある。
この時点で出現した苛虎には、いったいどんな理由があるというのだろか。
「俺も、全部を全部知っているわけじゃにゃいが………」
そう前置いて、ブラック羽川は語り始めた。
「まずご主人は、ガキのころから。俺という存在が生まれるずっと前から、自分に都合の悪い記憶を忘れることができたにゃ」
嫌な想いを消す。
そうしないと、弱く幼い彼女は、生きていけかったから。
普通の女の子に、なれないと思ったから。
「あの虎は、そういう、ご主人が忘れた負の感情から生まれた怪異にゃ」
「………忍野は、そのことに気付いてたのかな」
「さあにゃ。だが、気付いていたとしても、問題無いとは思っていただろうにゃ」
「どうしてだ?」
「本来のペースにゃらば、負の感情が溜まりきらないうちに、ご主人は俺や忘却に頼らない強さを身に付けていたはずだからにゃ」
ブラック羽川は、続けて言った。
「しかし、ここ最近イレギュラーなことが起こってにゃ、そのペースが崩れたにゃ」
イレギュラーなこと。
前回は、家族への嫉妬。
だったら、今回は、いったいなんだというのだろうか。
「そのイレギュラーなことってのは、いったいなんなんだよ?」
「はっ!そんなこと、お前のことに決まっているにゃ」
「それって、どういう意味だよ。僕が羽川に、なにか酷いことをして、それを羽川が忘れようとしたせいで、あの虎が出てきたって言うのかよ」
そんなこと、した覚えはないのだけれど。
むしろ、夢の中ではうまくやっていたはずなのに。
「酷いこと、というのとは少し違うにゃ。ご主人にとってそれは、ショックなことだったんだにゃ」?
ショックなこと。
忘れなければならないほどに。
忘れて怪異が生じてしまうほどに。
大きな、心の傷。
「教えてくれ猫。その、イレギュラーなことってのを、詳しく」
僕に関することで羽川がショックをうけたというのならば、僕はそれを、知らなければならないのだから。
?
「まあ、お前にはそれを聞く資格があるんだろうにゃ」
ブラック羽川は言った。
「きっかけは、二ヶ月だか三ヶ月前にお前が言った言葉にゃ」
「…………それって」
「お前はご主人に、好きな奴がいるなら自分の思いを伝えろ、と言ったにゃ」
確かに、僕はこの夢を見始めたときに、そんなことを言った。
羽川に、後悔をして欲しくなかったから。
「お前がそれをどんな気持ちで、どんな想いで言ったかは知りゃないが、知ろうとも思わにゃいが、ご主人はその言葉を真に受けたんにゃ」
けど、結局羽川からは、なんのアクションもなかったはずだ。
「いや、それは違うにゃ」
ブラック羽川は、僕の言葉に首を振った。
「違うって、どういうことだよ。それって、羽川思いを伝えたけれど、僕がそれに気付かなかったってことなのか?」
「いや、それも違う。正確には、ご主人はお前に思いを伝えようとしたが、それは失敗したのにゃ」
「失敗?それって……」
「母の日」
ブラック羽川は唐突に言った。
「母の日。ご主人はお前に思いを伝えようとしたのにゃ。ご主人の類稀ない頭脳をフルで活用し、お前が昼間っから一人であの公園にいると予想し、実際にその公園に行った」
しかし、その羽川予想は見事に外れた。
いや、現実の通りならばむしろ羽川の予想は当たっていて、そのはさすがと言わざるおえないが、それでも。
それでも、僕はその公園にいなかった。
なぜなら、戦場ヶ原ひたぎと一緒に、迷い牛の対処法を忍野に聞きに行っていたから。
「ご主人が何を思ってその日に行動を起こそうとしたのか、俺にはわからにゃいが、とにかく、ご主人の思惑は外れた」
おそらく羽川は気付いていたのだろう。
その日が、運命の日だと。
その日が、最後のチャンスだと。
ああ、だから八九寺が見た羽川は落ち込んでいたのか。
あれ、でも羽川はたしか…………
「ご主人は、そのことに酷く落ち込んだにゃ。落ち込んで、嫌になって、そして後になって、お前と他の女と付き合ったことを知って」
全てを忘れたにゃ、と。
ブラック羽川は、僕の疑問に答えるように言った。
そういうことか。
だから、電話をしたときに羽川はそのことを知らないと言ったのか。
記憶を、忘却したから。
嫌なものを、押し付けたから。
ずるを、したから。
「自分がお前に告白しようとしたことも、それが失敗に終わったことも、お前に言われたことも、全部ご主人は忘れたにゃ」
そして、僕が忠告する前に元通り。
結局、何も変わらずに。
ただ、強く正しいだけの彼女に。
「けど、きっかけってことは、他にもなにかあるんだろ?」
「ああ。今のはあくまできっかけにゃ。あの虎が生まれる引き金になったのは、つい最近のことにゃ」
「つい、最近?」
「それは、ほんの少し前のこと。あの本屋でのことだにゃ」
「詳しい経緯は知りゃないが、ご主人はお前に迫った。もちろんそれは、本気でのことではなく、お前を試すためにやったことのようだがにゃ」
「ご主人は、お前は誰にでも優しいから、瀕死の吸血鬼を自分の身を犠牲にしてまで助けようとするぐらいに甘い奴だから、お前は自分のことを拒否しないと思っていたにゃ」
しかし、羽川のその予想はまたも外れることとなった。
僕は、しっかりと羽川の行いを拒否した。
あいつに、僕の成長を知って欲しかったから。
けど、僕の行動もまた、またも裏目に出ることになり……………
「そして、ご主人は思い至るにゃ。誰にでも優しいお前が、しかし、いつの間にか自分などでは揺るがないほどに他の女を好きになっていると」
ブラック羽川はたんたんと続けた。
「そこでご主人は、かつてないほどの嫉妬をその女に抱いた。そして、抱いた瞬間にその感情を忘れたにゃ」
「そんで、その嫉妬を元にあの虎が生まれたってことか」
「まあ、それだけってわけでもにゃい。ガキのころからの積み重ねってのもあるが、でも、大元はそれにゃ」
「そうか………」
結局。
僕が色々気を回しても、結果は同じこと。
全て羽川の心の弱さが原因とはさすがに言えないけれど。
けどやっぱり、問題を解決するには羽川が成長するしかないことも事実なのだ。
「それで、お前はどうするつもりなんだ」
「にゃ?」
「お前の目的は、あの虎を消すことなんだろ、だったら、それの方法とか考えてないのか」
「俺は、あの吸血鬼に俺とおにゃじように、エナジードレインしてもらうのが一番だと思うにゃ」
「けどそれじゃ、どのみち根本的な解決にはならないぞ」
その方法だと、苛虎は半年もしない内にまた表れてしまう。
「それでもいいと思うにゃ。今回は間に合わにゃかったが、ご主人は近いうち俺らに頼らにゃい強さを手に入れるはずにゃ。だからそれまでに、俺が出来るのは、精々時間稼ぎくらいなもんだからにゃ」
「………………お前、なんだかんだ言って羽川に甘いよな」
「当たり前にゃ」
当然だと言わんばかりに、ブラック羽川は頷いた。
「それじゃあ、虎はエナジードレインで消すって方向でいいな」
「ああ。けど、人間。吸血鬼がどこにいるのか、お前は知ってるのか?家出したんだろ、そいつ」
「そこん所は、大丈夫だ。ちゃんと目星はついてるよ」
目星はついてるっていか、ほとんど正解を知っちゃってるようなものなんだけれど。
果たして忍は、僕のこの言葉を、影の中で、どんな気持ちで聞いているのだろうか。
「そろそろ時間もいい頃合いだな。こっからは共闘といこうぜ」
「ふっ。これがほんとの鬼と猫の…………にゃ?うーん、にゃんだろう」
「何も思いついていないなら勢いで喋ろうとするんじゃねえ!うまいこと言えない奴がうまいこと言おうとしている図ほど痛ましいものこの世にはないんだよ!」
まったく、せっかくここまで終始シリアスなムードで来たのに台無しじゃねえかよ。
「分かったわ」
「…………いや、まだ僕何も言って無いんだけど」
あの後、僕は今回苛虎がどこを狙うのかを考えた。
候補は四つ。
阿良々木暦。
戦場ヶ原ひたぎ。
その二人の家。
今回の羽川は、別に家族や居場所に嫉妬しているわけではないので、最後の選択肢は考えなくていい。
また、朝僕が苛虎と出会った時にあっちに何のアクションもなかったので、僕という選択肢も除外。
そうすると、標的は必然的に戦場ヶ原ひたぎになるので、僕は戦場ヶ原ひたぎに電話をかけた。
ちなみに、ブラック羽川には先に学校に向かわせた。
「戦場ヶ原、僕の話を聞いてくれ」
「土下座されちゃしょうがないわな」
「してねえよ!」
「で、なに?」
「お前、まだ学校にいるのか?」
「ええ、今日は、かなり遅くまで帰れないでしょうね」
「そうか。詳しくは話せないんだけど、僕がもう一度連絡するまで、学校から出ないでくれないか」
「それは、阿良々木くんが朝言っていた、人道支援となにか関係があるのかしら?」
「ああ」
「羽川さんが学校を休んでるけど、それとも関係が?」
「いい勘してるな。その通りだよ」
「分かったわ、阿良々木くん。その人道支援とやらに、精を出しなさい。阿良々木くんのやり方を貫けばいいわ。こっちは、私に任せなさい」
「そうだな………じゃあ」
僕は言った。
戦場ヶ原を信じて。
「学校は任せた。いい文化祭にしようぜ」
「そうね。そうしたいわ」
いつも通りの平坦な口調。
全く、感情を滲ませないけれど。
それでもそれはやっぱり、戦場ヶ原の声だった。
「じゃあ、また連絡する」
「ああ、阿良々木くん。一つだけ、いいかしら」
「なんだよ」
「ツンデレサービス」
最後に、戦場ヶ原は言った。
平坦な口調で。
「勘違いしないでよね、別に阿良々木くんのことが心配なわけじゃないんだから。でも、帰ってこなかったら、許さないんだからね」
ぶちっと、電話は向こうから切られた。
本当に、勝手な奴だよ。
でも、やっぱり僕は、そんなあいつのことが大好きなんだ。
どうしようもないくらい。
帰るに決まっているだろう。
そうして、待たれているのなら。
「………安心して、任せられるよ」
とにかく。
そろそろ僕も、急いだほうが良さそうだ。
ここまで来て、間に合わなかったなんて笑えない。
「よお、虎。迎えに来たぜ。一緒に消えよう」
予想通り、苛虎は戦場ヶ原ひたぎを狙って表れた。
僕とブラック羽川は、校門の前で苛虎と向かい合うようにして、並んで立ったていた。
『どけ』
苛虎は言った。
『吾輩はそこにいる女を燃やす。お前達は邪魔だ』
「………は」
『燃やす。燃やすぞ。どけ』
「………そんにゃことを、ご主人は望んでいにゃいにゃ」
『ふん』
苛虎は、ブラック羽川の言葉を一笑に切り捨てる。
『その女が望んでいようと望んでいまいと吾輩の知ったことではない。その女をご主人と呼ぶのはお前の勝手だが、吾輩にとってはその女はなんでもない。ただの』
発火現象の水源でしかない。
苛虎はそう言った。
「発火現象の水源って…………言葉がおかしいだろ」
思わず、突っ込んでしまった。
しかし、苛虎からの反応はない。
当然だけど、面白いことを言おうとしたわけでは、ないらしい。
「とにこかく、どくのは、お前の方にゃ」
ブラック羽川の言葉に、苛虎は怪訝そうな顔をする。
『なぜだ。この、そのにいる女を燃やしたいという気持ちは、他ならぬお前のご主人から流れてきた気持ちだぞ』
そうなんだろうな。
この虎にとっては、それだけが真実だ。
いや、それは誰にとっても、真実だ。
羽川が戦場ヶ原に嫉妬した。
それは真実だ。
だけど………
「だけど、その嫉妬を我慢しようとした気持ちだって、真実にゃんだ、虎。お前はそっちを無視している」
ブラック羽川は、僕の思っていることを口にした。
『くどい。我慢した結果、その女は吾輩という怪異を生み出したのだろう。ならば自業自得だ。吾輩の炎はそんな事情を忖度しない』
燃やすだけだ。燃えるだけだ。
全てを洗い流すように、水に流すように。
全焼させるだけだ。なかったことに。
なかったことにするだけだ、と。
苛虎は僕達に一歩近付いてきた。
「猫。バトンタッチだ。ここから、僕に任せてくれ」
「ああ、そうさせてもらうにゃ」
『ふん』
僕の言葉を、苛虎は嘲笑う。
『お前のような人間に、何が出来るというのだ』
瞬間、虎の前脚が僕に触れる。
「ぐああああああああああああっ!」
熱い。熱い。熱い。
熱い。熱い。熱い。
太陽に触れている気分だった。
燃え盛る、嫉妬の炎。
『人間如きが、吾輩に対抗しようなど、無理なのだ。無茶なのだ。無駄なのだ』
苛虎は、僕から脚を放して、邪魔な石を避けるように、方向を少し変えた。
「待てよ」
『くどいぞ』
「無理なのかもしれない。無茶なのかもしれない。でも、無駄なんかじゃない。友達の為に頑張ることが、無駄なわけねえだろうが!」
ふらつく足取りで、苛虎の前に回りこんで、僕は言う。
「忍!」
最高のパートナーの名前を呼ぶ。
「世界を滅ぼすとか、自殺するとか、もしかしたら僕に愛想を尽かしちまったのかもしれないけど。でも、もう少し、僕に時間をくれないか!」
「お前が今日を生きてくれる限り、僕もまた、今日を生きていくから。必ず、長生きしてみて良かったって、思えるようにするから!」
声を上げて、僕は叫ぶ。
影の中まで、しっかりと声が聞こえるように。
思いが伝わるように。
「だから、助けてくれ。忍!」
瞬間、だった。
僕の影から、一人の少女が飛び出した。
そして、そのまま着地することなく、苛虎の体に牙をたてる。
熱さなどものともせず、首元にがぶりつく。
『ぐ………ぐああ』
僕の前で、虎が唸る。
苛虎が唸る。
『ああああああああ…………痛い。痛い。痛い。熱い。熱い。熱い。痛い』
ほどなくして、苛虎は姿を消した。
嫉妬の炎は、取り敢えずは燃え尽きた。
「にゃはは。それじゃあ次は、俺の番だにゃ」
ブラック羽川は言った。
「じゃあにゃ、人間。もう二度と会わにゃいことを、願ってるぜ」
「ああ、僕もだ。けど、もしもまた羽川に何かあったら、羽川を助けてやってくれ」
「そんにゃこと、お前に言われるまでもないにゃ」
「そうだな」
そんなこと、わざわざ僕が言わなくとも、分かり切っていることだ。
ブラック羽川は、何があろうと、絶対に羽川の敵にはならない。
最後まで、味方でいるだのだろうから。
後日談というか、今回のオチ。
翌日の夜。大学受験の前日に、羽川から電話がかかってきた。
どうやら、僕を叱咤激励するためらしい。
羽川の、期待という名のプレッシャーをこれでもかというくらい受け取った僕は、雑談に最近見た昔の夢のことを話してみた。
「夢っていうのはね、阿良々木くん。自分が成長してるってことを実感させてくれる効果があるらしいよ」
「成長?」
「うん。阿良々木くん、夢の中では今まで失敗したことも、全部上手くやれちゃったんじゃないかな」
「まあそりゃ、一回体験してることだからな。一度クリアしたゲームを、レベルはそのままで最初からやってるようなもんだ」
「それが、成長を実感するってことなんだよ」
「………お前はなんでも知ってるな」
「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」
それは、いつも通りのやり取りだった。
みてるにゃも
「でも、阿良々木くん。いくら上手くいっても、夢の中の方が良いなんて、思っちゃ駄目だよ」
「あ?」
「阿良々木くんが、生きてるのも、これから生きていくのも、両方現実なんだから。現実逃避なんて、阿良々木くんはしないだろうけど、一応、ね」
「ああ、分かってるよ」
「よろしい。それじゃ、あんまり阿良々木を夜ふかしさせるわけにもいかないから、この辺で。阿良々木くん、頑張ってね。早く寝なさいよ」
そう言って、電話切れた。
まったく、お前は僕の母親かよ。
まあいいや。羽川の言う通り、早めに寝るとしよう。
僕が成長したというなら、大学受験に合格して初めて、それを実感できるはずだから。
戦場ヶ原にも、羽川にも、僕を成長させてくれた人に、その成果を見せなければならないよな。
そう思いながら、僕は眠りについた。
もちろん、昔の夢は、見なかった。
おもしろかった
これにて、終了です。
見てくれた人、乙をくれた人、有難うございました。
当初はひたぎクラブで止めるつもりでしたが、つい長々と続けてしまいました。
かねてから聞かれている、化物語以外のものは書かないのかといものに関しては、考えていますが、多分無いでしょう。
なぜなら、偽物語以降の阿良々木くんは、けっこう上手いことやっていて、これといってやり直すことが無いからです。
なので、もしこの続きを書いて欲しいという人がいれば、意見を下さい。
最後に、いままで見てくれて本当に有難うございました。
さすがです!シュミラクラさん!
乙です!マタタビさん!
乙です
すごいおもしろかった!
乙です
面白かった
乙です
乙
乙
乙。
乙
乙
乙です
このSSは化物語のSSでトップクラスの面白さだと思った
乙
よかった
乙
俺は続きが見たいけどな
猫物語白で羽川の心が強くてニューゲームとか見たくない?
偽物語以降は時系列考えると難しいけどね
続きがみたいかといわれれば見てみたいです
このスレが面白かったのって原作をちょくちょくパクってるからだろ。
>>1の実力じゃない。
話も原作の順序を変えてるだけじゃん。
強くてニューゲームってもともとの話があってこそだからな
ただしそれをパクリしたからって必ずしも面白くなるわけじゃないぜ
同じ結果にならないからこそ書く人の力量も必要だしな
ともあれ面白かった乙
強くてニューゲーム物を書いたやつが今までに何人火傷したと思っているんだ……
まさか全部が面白くなると思っているわけじゃないよな……?
おもしろかった
気が向いたら羽根川バージョン読みたいわ
乙カレー
おつう
乙
乙
よかったよ
乙
続きも見たいね
出来ればまとめお願いします
終わってから批判とか行儀のいい奴だ
まあこの作品自体が原作をなぞる形式だし仕方ない
>>1はそつなくまとめれてたし面白かったと思うがな
乙です
とても面白かったです
また見たいな!
猫物語白のも見たいから誰かアイデア出してくれ
作者が言うなら分かるが
私も書きたいので誰かアイデア出してくれwww
このスレってエレファント速報でけっこう叩かれてるけど、他のスレもそんなもんなの?
まとめ民なんて気にするだけ無駄
>>387
心が弱くてニューゲームって話なら考えたけど、書く気ある?
あるならプロット付きでお渡しするよ
まとめの目を気にするとかわけわかんねえ
折角申し出てくれたのに申し訳ありませんが、勢いで書きたいとは言ったものの、学校のテストが近く部活も最近忙しいので、いつ書けるかわからず、そのアイデアを使うかもわからないので、それでもよかったらください。
>>392
どうぞ。地の文、苦手なんで多分自分では書く事ないだろうから
プロット、長くなると思うけど、ここに書いて大丈夫?
そっちでHTML依頼してくれるなら、制作速報に新スレ立てて書いとくけど
うpロダに上げて渡せばよくね
>>393
製作速報の方にお願いします。
あと、タイトルを教えてください。
>>395
はいよ。化物語SSを作るスレ、とかにしとく。
とりあえず、今から作ってくるわ
>>396
ありがとうございます
>>1です。
ただ今、化物語と戯言のクロスを書き溜めていて、上手くいけば近いうちに出来るので、良かったら見て下さい。
そういえばHTML化の依頼出してなかったのか
おおお
まってるぜ!
戯言とか俺得すぎるw
ここに誘導貼るまで依頼出さないって事かな?
人物語 ヒトシキオーガ
人物語 ヒトシキオーガ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1373722894#)
物語シリーズと人識のクロスです。
良かったら見て下さい。
>>403
今まで気づきませんでした。
ありがとうございます。
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