人物語 ヒトシキオーガ (156)
人殺しというのは、おそらく人類史上最悪の部類に入る罪だと僕は思う。
ある一個人が、その他の個人の意識と、意志と、未来と夢と希望、そして命を摘み取る行為に、僕は嫌悪感を示さずにはいられない。いや、大抵の人はそうだと思うけれど。
しかし、もしも誰かに、何故人を殺してはいけないのか?という質問を投げかけられた時に、それに即答できる人は残念ながら少ないのではないだろうか。
自分がされて嫌なことは相手にもしない。法律で禁止されているからしてはいけない。駄目なもの駄目。答が出てきたとしても、その程度が関の山なんじゃないだろうか。
いや、別にその答が間違っているわけではなく、むしろ正論だろう。正しくて、正しくて、そして薄い。
まるで、僕という人間のように。
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では逆に、人殺し、殺人者の方の意見はどうなのだろうか。
幸か不幸か、なんてそんな言葉を前置きするのが馬鹿馬鹿しくて嫌になるくらいに不幸なことに、僕は忍野がこの町から出て行く少し前に、一人の殺人鬼と出会った。
零崎人識という名の殺人鬼と、出会ってしまった。
けれど、その人が何故人を殺すのかなんて僕にわかる訳もなく、やっぱりそんなことは考えても意味の無いことなのだう。
だから僕らは、人殺しはしてはいけないことだと、ただ素直に、愚直に、実直に、考えていればいいのだと思う。
さて、戯言が長くなってしまったけれど、何故僕がこんな話をし始めたかというと、まあ、特に深い意味はないというのが正直なところで、先日ニュースでやってた事件は、あの人がやったなかな、とか不意に思った程度のものなのである。
だから、これから語るのはただの僕の独り言みたいなものなので、興味がない人は聞いてもらわなくても構わない。
さあそれでは、零崎の話を始めるとしよう。
神原駿河の問題が解決した数日後、千石との再開の数日前の六月某日。僕は夜道を自転車を漕いで進んでいた。
例の廃墟にいる吸血鬼の成れの果て。忍野忍に血を与えるためだ。
既にこれは僕の生活のなかに組み込まれたいる行動で、なんならルーチンワークといっても過言ではないことなのだけれど、今日は少しいつもと違った。
「ん?」
僕が自転車を漕いでいる数メートル先に、こちらの行く手を通せんぼするようにして、一人の男の人が立っていた。
「えっと………僕に何か用ですか?」
僕の問いかけに、その男の人は
「ちょいと道を聞きたいんだが」
と言って
「つっても別にあんたに人生を説いてもらおうとか、そう言う事じゃない」
と続けた。
それが僕、阿良々木暦と、零崎人識とのファーストコンタクトだった。
「はあ………」
なんだろう。嫌な予感がする。この人とはあまり関わり合いにならない方がいいかもしれない。
見たところ、こんな髪の色を染めただけで即不良扱いされるような田舎町では、下手したら姿を見られただけで警察に通報されるんじゃないかと思うほど派手な格好をしてるから、この近くの人じゃないんだろうけど。
「ここら辺に、雨風しのげる廃墟みたいな所があるって聞いたんだが、そこがどこだかあんた知ってるか?」
男は言った。
廃墟っていったら、あの学習塾跡のことか?
けど、そんなことを聞いてどうするのだろうか?
「えっと、心当たりなら有りますけど」
「マジでか?ついてるな俺。じゃあ悪いんだけど、あんたそこまで案内してくんないか?」
「えっと、僕もちょうどそこに行く途中なんでそれはいいんですけど、そこに何しに行くんですか?」
初対面で厚かましい人だなと思いつつ、僕は男に聞いた。
「ああ。俺は今全国を旅してるんだけどさ、しばらくここら辺にいようと思ってんだ。んで、だからここら辺で拠点に出来そうな場所を探してたんだ」
全国を旅してるって、僕とそう年も変わらなさそうなのに凄いな。
けど、拠点にするってことは、あそこで寝泊まりするってことだよな?だったら、忍野に許可とか…………
いや、いらないか。別にあそこはあいつの家ってわけじゃないんだし、それにあそこは結構広いからな。問題ないだろう。
「そういうことなら、わかりました。案内します。けどそこには、もう既に一人寝泊まりしてる奴がいるんですけど」
「別に構わねえよ、そいつが嫌がらなければな。こっちは室内で寝れるだけで有難いんだ」
「そうですか。じゃあ、えっと、ここから少し距離がありますけど………」
「そっか。なら歩いて行こうぜ。野郎同士で自転車の二人乗りなんて勘弁だしな」
「…………………」
いや、それはまったくこの人の言う通りなのだけれど、けどそれは自転車を所持していて、なおかつ道案内をする側である僕の方から言い出すことじゃないのか、普通。
この人、思った以上に自分勝手な人なのかもしれない。
「どうした?早く行こうぜ」
僕の考えをよそに、男は既に歩みを進めていた。
僕はそれを、自転車を押して追いかけた。
「あの、僕の名前は阿良々木暦と言います。あなの名前を聞いてもいいですか?」
「ああ、俺は零崎人識ってんだ。変わった名前だろ?」
男、零崎さんは、笑いながらそう言った。
「零崎さんは、なんで全国を旅なんてしているんですか?」
学習塾跡へと向かう道中、僕は零崎さんに質問した。
聞けば零崎さんの年齢は、二十歳やそこらだと言う。
そんな人が、どうしてそんなことをしているのか、気になったのである。
「あ?んー。別に大した意味はないんだけどな。俺、放浪癖があるんだわ」
「………放浪癖って、凄い癖ですね」
危うくツッコミをいれそうになったが、そこは自重して、僕はそう返した。
「まあ今回の旅は、強いて言うなら自分探しの旅ってやつかな」
「…………………」
うわーーー。
自分探しの旅って、春休みの僕じゃあるまいし、そんなこと本当にする人いんのかよ。
いや、冗談だよな?
「自分探し、ですか」
「ああ。自分がなんの為に生まれてきたのかとか、なんの為に生きてるのかとか、そもそも生きてるってなんのかとか、あんただって、ちょっとは考えたことあんだろ?」
「そりゃまあ、生きてるってなんなのかっていうのは、わりとよく考えますけど」
「だろ?その疑問に、自分なりの答を出すために、色んな奴を…………色んな奴と出会いながら旅をしてんだよ」
なんだろう。今、零崎さん露骨に言葉を言い直したけど、何を言おうとしたのだろうか。
色んな奴を………?
まあ、ただの言い間違えかも知れないし、それに、この人の雰囲気に乗せられかけてるけど、つい数分前に関わった人の事をいちいち詮索してもしょうがなしな。
「それで、答は見つかりましたか?」
「あ?いや、全然全く見つからねえな。かはは。人生を説いてもらうつもりはねえとは言ったが、だからと言って人生に迷い無しってわけにもいかねえな」
「………そうですか」
まあ、自分の人生に迷いが無い奴なんて、よっぽどの超人か、よっぽど脳天気なのかどちらかだろう。
「まあ、そんなくだらねえ話はどうでもいいさ。それより、その学習塾跡にはまだ着かねえのか?」
「もう少しですよ。ほら、あそこです」
そう言って、僕は右斜め前を指した。
ここから歩いて多分あと五分程で着くだろう。
「………見えねえんだが」
「え?」
見えない?どういう事だ?
別に忍野が張ってる結界は、視覚に作用するものじゃないしな。
あ、そうか。塀だ。
零崎さんは、こう言ってはなんだがかなり背が低い。どれぐらいかと言うと、僕より十センチほど低い。
だから、塀が邪魔をして僕が指差してる方向が見えないんだ。
身長に若干のコンプレックスを抱いている僕としては、この行動は配慮が足りなかったなと、後悔を禁じえない。
「おい、ちょっと待て。何だその同情心に満ちた目は。………まさか、俺の身長が低くて塀より先が見えてないとでも思ってんのか?」
「え、違うんですか?」
「ざけんな!俺の身長は別にそこまで低かねえよ!つーか、お前だって低い方のくせに人の事憐れんでんじゃねえ!」
「す、すいません」
会って十分足らずの人を怒らせてしまった。
僕って、そんなに考えている事が顔に出やすいのだろうか?
なんにせよ、反省しなければ。
「そうじゃなくてよ。こんな月も出てねえ夜に、こんな明かりの少ねえ田舎町の外れじゃ、暗すぎてんな遠くまで見れねえって意味だよ」
「…………………」
「あんた、よくそんな遠くまで見れるな」
「……ああ、僕、夜目がけっこう効く方なんですよ」
そうか、そっちか。
さっきのは、吸血鬼の後遺症が残ってる僕だから見えたのか。
普通の人には、こんな、暗い所でそんな先まで見えないよな。
「まあ、流石にここまで近づけば見えるけどな。ここだろ?雨風凌げる場所っつーのは」
気がつくと、僕達はいつの間にか学習塾跡に着いていた。
「はい、そうです。えっと、僕は元々ここに居る奴。忍野っていうんですけど、そいつ会いに行くんで」
「そうか。じゃあ俺も行くわ。一応、挨拶みたいな事もしときたいし」
「わかりました。じゃあ行きましょう。結構ボロボロなんで、足下とか気を付けてくださいね」
「おう」
僕は手頃な場所に自転車を駐輪してから、零崎さんを伴って、いつも忍野のいる教室を目指して階段を上っていった。
「待ちかねたよ、阿良々木くん」
教室に入った矢先に、いつものように見透かしたようなことを言って、忍野は僕達を迎えた。
「おや、今日は女の子じゃなくて、男の人を連れているんだね。もしかして、阿良々木くんにはそういう趣味があるのかな?」
「僕にそんな趣味はねえよ。つーか、僕がいつも女の子を連れている奴みたいに言うのは止めろ」
「連れてるじゃないか」
全くこいつは。僕と一緒に人がいるとわかった途端にこれだもんな。
ほんと、いい性格してんな、こいつ。
「まあいいや。そんなことより阿良々木くん。君と一緒にいるその人はいったい誰なんだい?」
「ああ、この人、寝泊まりできる場所を探してるんだってさ」
「そういう事だ。俺は零崎人識っつーんだ。悪いけど、何日かこの廃墟に居座らせてもらうぜ」
零崎さんは、僕の言葉に続いて言った。
「ふうん。そういうことなら構わないよ。そもそも、ここは僕の土地ってわけじゃないしね。好きに使いなよ」
「そうかい。じゃあ、遠慮なく使わしてもらうぜ」
そう言うやいなや、零崎さんは教室から出ていこうとした。
「んじゃ、俺はもう寝かせてもらうとするわ。道案内サンキューな、助かったぜ」
そう言って、零崎さんは姿を消した。
「はあ。阿良々木くん、君はどうしてこうも頻繁に厄介事を拾ってくるんだい?」
忍野は言った。
「いや、厄介事ってことはないだろ。たしかに、勝手に連れて来るのは悪いかとも思ったけどさ。お前が自分で言った通り、ここはお前の場所ってわけじゃないんだし」
いつも僕が、厄介事を忍野に丸投げしているのを否定できないのは痛い所だけれど、それでも今回のことは怪異も絡んでないし、そこまで嫌がることでもなくないか?
「うーん。僕が言いたいのは、そういうことじゃないんだけどね」
僕の言葉に対して、しかし忍野は若干否定的だった。
「まあ、いいや。で、阿良々木くん。今日はどういう用事なんだい?まさか流石の阿良々木くんも、道案内のためだけにここに来るなんてことはないだろう」
「なんの用って、忍に血をやるためだよ。決まってるだろ」
「あー、やっぱりそうだよね」
「なんだよそれ。つーか、忍はどこにいるんだ?さっきから姿が見えないけど」
教室を見渡しても、あの幼い吸血鬼の姿はなかったし、ここに来る途中にも、あいつのことを見かけなかった。
「おい忍野。忍はどこ行ったんだ?」
「悪いんだけどね、阿良々木くん。忍ちゃんは、もう他の部屋で寝ちゃってるよ」
「は?なんで忍がこんな真夜中に寝てんだよ」
成れの果てとはいえ、それでも忍はれっきとした吸血鬼だ。
本来夜行性である吸血鬼が、今の時間寝ているわけないし、僕もそれを見越してこの時間にここに来たんだけれど。
「忍ちゃんね。僕がさっき彼女のミスタードーナツを食べちゃったから、機嫌悪くなってふて寝しちゃったんだよ」
「何やってんだよ、お前」
本当に大人気ないというか、なんというか。
つーか、そろそろこいつわかっててやってるんじゃないか?
「そんなわけだからさ、悪いんだけど阿良々木くん。忍ちゃんに血をあげるのは、明日にしてくれないかい。無理に起こして、さらに機嫌が悪くなっちゃってもなんだしさ」
「はー。わかったよ。今日のところは出直すとするよ」
「悪いね。それじゃあ、夜道に気を付けて」
「ああ、それじゃあな」
そう言って、僕は教室を後にして、帰路へとついた。
阿良々木暦が学習塾跡を出てから数時間後、零崎人識は行動を開始していた。
行動。忍野メメの殺害。
それは別に特別な意味を持ったことなどではけっしてなく、ただの一人の殺人鬼としての、当然の、必然の行いだった。
強いて言うならば、彼の言葉通り、自分探しの一貫なのである。
先ほど暦に対して、嫌がらなければ構わないと言ったものの、それは忍野メメに滞在を拒否された場合には、その場で零崎を始めていただけのことなのだ。
「しっかし、ほんとにボロボロだな。あのおっさん、よくこんな所で何ヶ月も寝泊まりできんな」
そう呟きながら、人識は数時間前、メメと最初に会った教室に辿り着いた。
「さてと、それじゃあいっちょ、殺し……」
「ん?零崎くんじゃないか。そんな所に突っ立って、何か僕に用かい?」
「っ!?」
後ろから突然声をかけられた人識は、振り返ると同時に手にナイフを握って振りかぶった。
しかし、結果としてそのナイフは宙を切った。
メメは咄嗟に、というほど慌てた様子もなく楽々とそれをかわしたのである。
「てめえ、いったいぜんたい何者だよ」
「はっはー。別に、僕はただのアロハのおっさんだぜ。何者、だなんて聞かれるほど大した人間じゃないさ」
「かはは。傑作だぜ。何にもねえ田舎町だと思ったが、やっぱ俺ついてるな」
そう言って、人識は両手にナイフを持って臨戦態勢へと入った。
「おいおい、最近の若い子は物騒だな。ったく、何かいいことでもあったのかい」
「はっ、こんな田舎町であんたみたいなのに会えたのは、たしかにいいことかもしんねえな」
「そいつは光栄だね」
「それじゃあ気を取り直して、殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」
そう言うと同時に、生粋の零崎、零崎人識は忍野メメに向かって突っ込んでいった。
今日はここまでです。
今回は、書き溜めがあまりないので、少しずつ投下していきます。
そんなに長くはならない予定なので、良かったら最後まで見て下さい。
学習塾跡から家に帰って来た僕は、特に何をするでもなくそのまま眠った。
そして次の朝、いつものように二人の妹達。火憐と月火に叩き起こされた僕は、いつものように学校へと向かった。
ちなみに、ふと気になったので、家を出る前に火憐に昨日零崎さんが言っていた事を聞いてみた。
「なあ火憐ちゃん。火憐ちゃんの人生に迷いってあるか」
「何だよ兄ちゃん。朝っぱらから藪から蛇に」
「それを言うなら藪から棒だ」
まあ、状況としては間違っちゃいないんだけどな。
「ただの雑談だよ。んで、どうなんだ?」
「そんなもん、あたしの答えは決まってるぜ。決まり決まってるぜ。兄ちゃん。兄ちゃんは知らねーかもしんねーけど、雑談ってのは暇を潰す為のもんなんだぜ。そんな簡単な問いじゃ、あたしとの雑談で暇を潰すことなんてできねえよ」
………………………。
朝っぱらからテンション高すぎだろ、こいつ。
自分からしといてなんだけど、質問してから数十秒で質問したことを後悔している僕がいる。
というか、後悔しかしてなかった。
「いいからさっさと答えやがれ。こっちは朝の貴重な時間を潰してやってるんだよ。もっと兄に気を使え」
「なんだよ。兄ちゃんは可愛い妹との朝の会話も楽しめないほど心が狭いのかよ。つーか、質問してきたのは兄ちゃんのほうだろ」
「え、そうだっけ?」
とぼけてみた。
何かもう、色々面倒臭い。
「え、違ったっけ?」
「………………………………」
いや、そこは自信を持ってくれよ。
こっちがとぼけておいてなんだけど、お前の記憶力は鳥並か。
お前の頭に付いてるポニーテールは、もしかしたらトサカなのか?
「ま、いっか。それじゃあいよいよあたしの答えだ。有り難く聞けよ、兄ちゃん」
恐るべきことに、火憐は僕がとぼけたことについてを、「ま、いっか」の一言で済ませてしまった。
あー。もういいや。
ここは、僕の最初の質問を覚えていたことを、むしろ褒めてやるべきかもしれない。
「ズバリ。我が人生に迷いなし。それが私の答えだ!」
「へえー」
どうしてろう。
本当に、自分から質問しておいてなんなんだけれど、驚くほどに興味が薄れてしまった。
というか、火憐がこう答えることくらい、最初から分かり切っていたことだし。
あーあ。無駄な時間を使っちゃったな。
「そっか。じゃ、行ってきます」
「えっ、そんだけ!?」
「うん。そんだけ」
そう言って、僕は靴を履いて外へ出た。
「ちょっと待てって兄ちゃ…………」
無視。
火憐の追撃を逃れて、僕は学校へと自転車を進めた。
すいません。
上のは、火憐ではなく火憐ちゃんでした。
訂正します。
その日の午後。学校の授業を終えた後、僕は昨日に引き続いて再び学習塾跡へと向かっていた。
本来ならば、夜中に訪れるのが普通なのだけれど、しかし、今回忍はまだ夜になる前に寝てしまったとのことなので、この時間ならばちょうど起きているのではないかという予想した上での行動だ。
大学受験を密かに志す僕は、学校の授業で居眠りなんてもってのほかで、昨夜の睡眠不足もあってかなり寝不足だったが、それでも必死に睡魔と戦いながら自転車を漕いでいる途中、僕は八九寺を発見した。
八九寺真宵。
背中に大きなリュックサックを背負った小学五年生の女の子。
「おっと」
僕はペダルを漕ぐ足を止める。
うーん。
前に会ったのは、たしか神原の事が終わる前だったかな?
そうなると、実に一週間ぶりの再開となるわけだが。
なんだか、実際に経った時間よりも長く会っていない気がするな。
んー、んー、んー………。
忍の所に行かなきゃいけないしな。
そもそも、こないだあいつ僕が厄介事に巻き込まれそうになるのを見るな否や逃げやがったしな。
そんな奴に、わざわざ声をかけるのもいかがなものか。
というか、あいつだって僕に声をかけられた迷惑だろうしな。
もう面倒だし、無視してそのまま追い越してしまおうか。
でも、そうだな、良く考えたら、こんな時間に押しかけたら、忍野だって迷惑かもしれないよな。
ほら、あいつの仕事って、だいたい夜に行われるものだし。昨夜も、僕が帰った後なにか一仕事有ったということも考えられるし。もしそうだとしたら、今の僕よりも睡眠不足かもしれない。
普段ならあいつの迷惑なんて大して気にしないのだけれど、昨夜勝手に零崎さん連れて行っちゃったしな。
そこら辺を鑑みれば、このまま自転車を漕いで行くよりも、時間潰しがてら歩いて行った方がいいかもしれないな。
けど、そうなると流石に八九寺を無視するわけにもいかないよな。
やれやれ、仕方ないな。
年上のおっさんに気を使うのも楽じゃない。
別にそうするつもりなんて微塵も、これっぽっちもなかったけれど、道中の暇つぶしがてら、あいつに話しかけてやるか。
僕は再び自転車に乗って、思いっ切りペダルを漕いで八九寺に近寄り、自転車から八九寺のリュックサックに飛び付いた。
「はちくじいい!会いたかったぞ、この野郎!」
「きゃーっ!?」
悲鳴を上げる少女八九寺。
しかし構わず、僕は八九寺を振り向かせ、彼女の平べったい胸に頬擦りを繰り返す。
「はははは、可愛いなあ、可愛いなあ!もっと触らせろもっと抱きつかせろ!」
「きゃーっ!きゃーっ!ぎゃーっ!」
「こらっ!暴れるな!胸を揉みにくいだろうが!」
「ぎゃああああああああああっ!」
八九寺は大声で悲鳴を上げ続け、
「がうっ!」
と、僕に噛み付いてきた。
「がうっ!がうっ!がうがうっ!」
「痛え!何すんだこいつ!」
痛いのも。
何すんだこいつも、僕の方だった。
「しゃーっ!」
八九寺は僕の腕に、一生消えないんじゃないかと思うほどの深い傷を残し、やっとのことで僕から離れた。
「ふしゃーっ!ふしゃーっ!」
しかし、なおも八九寺は僕に向かって威嚇の声を出し続けた。
まあ、当然か。
「ほらほら、落ち着け。僕だぞ。よく見ろ。」
「ん……ああ………」
ここで、八九寺はようやく警戒をといてくれた。
「いばら木さんじゃないですか」
「人を納豆が有名な県庁所在地が水戸の県と一緒にするな、僕の名前は阿良ヶ木だ」
「失礼。噛みました」
なんて一連のやり取りをした後、僕は倒れてしまった自転車を起して、八九寺と並んで歩きだした。
「で、阿良々木さん」
八九寺は僕に訊ねてきた。
「今日はどちらに?見たところ、学校帰りのようですが、たしか阿良々木さんのお宅とは方向が違いますよね」
「ああ、ちょっと忍野のところまでな」
「なるほど。学校が終わっても遊んでくれる友達がいない阿良々木さんは、暇を潰すために泣く泣く、世界でたった一人の阿良々木さんの男友達である忍野さんのところに行こうとしる。というわけですか」
「ふざけんな!何が悲しくて放課後に暇を潰しであんなアロハのおっさんに会いにいかなきゃいけないんだよ!そして、世界でたった一人の男友達とか言うんじゃねえ!」
「おや。では、阿良々木さんには忍野さんの他にも男友達がいると?」
「それは……………いないけど」
くっ、何が悲しくて自分よりかなり年下の女の子に友達がいないなんて残酷な現実を突きつけられなければいけないんだ。
八九寺の奴、可愛い顔に反してなかなか厳しい事を言う。
「いえ、厳しいも何も同性の友達くらい、誰にだっていると思いますが」
「止めろ。それ以上悲しいことを言わないでくれ」
今日の八九寺は、いつになく厳しかった。
やっぱり、自転車から飛び付いたのがまずかったのかな?
「というか、阿良々木さんには何故か異性の友達はいるんですよね。もしや、ハーレムでも作るおつもりですか?」
「作んねえよ、そんなもん」
「そうですよね。ハーレムを作る暇があったら、同年代同性の友達の一人くらい作ろうとしますよね」
「ほっとけ!」
「まあ、阿良々木さんのハーレムに相応しい名称を、近い内に考えておきましょう」
「ハーレムに名称なんて必要ないし、そもそもハーレムなんて作ってねえよ!」
「そういえば、八九寺」
「はい?なんでしょう」
「お前って幽霊なんだからさ、それを利用して遠くに言ってみたりとかしないのか?」
零崎さんが言っていたことを、せっかくなので八九寺にも聞いてみた。
「遠くに、ですか?」
「ああ。ほら、幽霊なんだから時間ならあるだろ。だから、しようと思えば日本一周くらいできるんじゃないのか?」
「えーと、それはどうでしょうね」
僕の問に、八九寺は首をひねった。
「いくら浮遊霊に二階級特進したと言っても、私は元が地縛霊ですからね。そもそも、怪異にそんな自由な行動が出来るんですかね?」
「うーん、どうだろうな。なんか、旅をする怪異ってのも、いたような気がするけど」
「それに、私は極度の方向音痴にして生粋の迷子っ子ですからね。ちょっとでも遠出をしようものなら、直ぐに迷子になってしまう自信がありますよ」
「生粋の迷子っ子って…………」
どんな迷子だよ。いや、まあちょっとかっこよさげだけどさ。
というか、そんなことに自信を持つなよ。
悲しくてならないのだろうか?
「どれくらい自信があるかというと、徒歩で北海道に行こうとして、間違ってハワイに行ってしまうくらいの自信ががあります!」
「………………………」
小学五年生の八九寺少女は、どうやら地理があまり得意でないらしい。
疲労やかかる時間を無視しても、徒歩でハワイには行けないだろ。
いくら、現在世界全体でグローバル化が進んでるとはいえ、海を歩いて渡るのは少なくとも今現在では無理だろう。
「いえ、そういうことではなくてですね」
「ん?」
八九寺は僕の心中を読み取った風に言った。
「私は幽霊なので呼吸をする必要がないんです。だから、しようと思えば海底を歩くこともできるんですよ」
「あ、そっか」
なるほど。それこそ、幽霊だからこそできることだな。
実際は全然そんなことはないんだろうけど、ちょっと羨ましいと思ってしまった。
「まあでも、方向音痴の私のことですから、きっと海底でも迷ってしまって、陸に上がって来る頃には浦島太郎状態かもしれませんね」
「それはやだなー!」
つーかお前、どんだけ自分の方向音痴に自信を持ってるんだよ。
「ふふふ。そうなれば、晴れて私は物語の主役と同じ位置に立てるわけですか」
八九寺は笑いながら言った。
嫌な笑い方だった。
「いや、お前は今の立ち位置でも充分においしいと思うけどな」
「そんなことは、阿良々木さんが主人公だから言えるんですよ!阿良々木さんには、雑談でしか物語に関われない役回りの気持ちなんてわかりませんよ!」
「お前が何を言ってるのか、僕にはさっぱりわからないな!」
小学生にして、話の中での役回りを気にする少女。
八九寺真宵。
ある意味、向上心が高いとも言えるかもしれないが。
「それで、話を戻しますけど、やっぱり私はたとえできたとしても、あまり旅には興味がありませんね」
「なんでだよ。楽しそうだと僕は思うけどな」
「私は、この町が好きですからね。阿良々木さん達がいるこの町が。だから、無理にここを出ていこうとは思いませんよ」
「そいつは…………なんていうか、光栄だな」
「ええ、光栄に思っておいてくださいね」
八九寺は、微笑んで言った。
「それでは、今日はこの辺りで」
「ああ。またな」
「ええ。また会いましょう」
そう言って、八九寺は僕から離れて行き、直ぐに見えなくなってしまった。
「あれ、いつの間にか着いてたのか」
八九寺との会話が楽しくて気づかなかったが、どうやらいつの間にか学習塾に着いてたようだ。
「うん。時間もちょうどだし、行くか」
そう呟いて、僕は昨夜と同じようにボロボロになっている階段を上りはじめた。
阿良々木暦が学習塾跡に着く少し前。
四階にある一つの教室には、ロープで身を拘束された零崎人識と、その横で火の着いていないタバコを咥えて立っている忍野メメの姿があった。
「おいおっさん。いい加減、このロープを解きやがれ」
「はっはー。そういうわけにはいかないね。殺人鬼くん。いつ君がまた暴れだすか、わかったもんじゃないからさ」
「ちっ。俺が暴れたって、あんたを殺すどころか、まともに傷つけることだってできねえんだから別にいいだろうが」
昨夜の戦いは、結果だけを言えばメメの勝利だった。
しかし、戦いが終わりロープで身を拘束された後でも、人識は単純な戦闘能力で自分がメメに劣っているとは思っていなかった。
「つーか、なんだよあのお札や数珠は。てめえは呪い名かっつーの」
人識がメメに突っ込んでいった後、メメは人識の攻撃をかわして距離をとると、数珠を手に持ち呪文を唱え始めた。
すると、人識の身体からは力が抜けていき、その隙にメメは人識の顔にお札を貼った。
すると、人識の意識は薄れていき、気がついた時には夜が明けていて、身体にはロープが巻かれていたのだ。
「さあて、なんのことだかね」
とぼけた風に忍野は言った。
「ほんと、いったいてめえは何者なんだよ。誤魔化してねえで、いい加減それくらい教えやがれ」
「僕かい?あるときは謎の風来坊、あるときは謎の旅人、あるときは謎の放浪者、あるときは謎の吟遊詩人、あるときは謎の高等遊民」
「全部謎じゃねえか、ふざけんな!」
「あーも、どうでもいいわ」
人識はそう言って、教室の床に寝転んだ。
「んで、俺をどうするつもりなんだ?」
「どうするって、なにがだい?」
「本当に俺が暴れて困るってんなら、さっさとこっから追い出しゃいいだろ。それをしねえで、しかも生かしたまま捕らえておくってことは、俺になにか用があるんだろ?」
「用っていうか、頼み事をしたいんだけど」
「頼み事だ?」
「うん。実は、阿良々木くんと一緒にとある場所に行って欲しいんだけど、まあそれは、阿良々木くんが来てから詳しく話すよ」
「…………断る、っつったら?」
「さて、どうしようかな」
忍野は笑いながら言った。
「はあ、わーったよ。負けた手前あんま偉そうなこともできねえしな」
「そいつは良かったよ。ん、どうやら、ちょうど阿良々木くんが来たみたいだね」
今日も短いですが、ここまでです。
ちなみに、この後どうするかは、まだあまり決まっていません笑
「えっ、零崎さん?」
「やあ、待ってたよ。阿良々木くん」
いつものように忍野に迎えられた僕は、しかし、いつもとは違った光景を目にしていた。
忍野の近くには、零崎さんがいたのである。
いや、そのこと自体は別に問題ない。
それはたしかにいつもと違う光景ではあるが、おかしな光景ではない。
問題は、零崎さんの身体がロープでぐるぐる巻になっているということだ。
「おい忍野。これはいったいどういうことなんだよ」
「あー、俺のことなら気にしないでいいぜ」
「いや、そう言われても………」
昨夜知り合ったばかりとはいえ、知り合いがロープで身体を拘束されていれば、気にならないわけがない。
「阿良々木くん。気になるの気持ちはわかるけど、今はちょっと僕の話を聞いてくれないかい」
「いや、でも………」
「まあまあ。話っていうのは、阿良々木くんに頼みたい事があるんだよね」
「頼みたい事?」
なんだろう。
忍野が僕に頼み事をすんなんて珍しいな。
もしかしたら、零崎さんがああなってるのと、なにか関係でもあるのか?
「うん。実はちょっと、北白蛇神社ってところまで行って欲しいんだ」
「北白蛇神社?」
どこだ、そこ。
聞いたことないな。
「まあ、詳しい場所とかは後で教えるよ。取りあえず、阿良々木くんには殺人鬼くんと一緒に、そこまで行って来てくれないかい」
「殺人鬼くん!?」
「あっ、それ俺の事な」
零崎さんは、当然のことのように言った。
いやまあ、そりゃ話の流れからそれが零崎さんのことだっていうのはわかるけど、なんだってそんな物騒な呼び名がついてるんだよ。
「ああ、それも気にしなくていいよ」
忍野は、相変わらずの見透かしたような態度で言った。
「………わかったよ。けど、零崎さんとその神社に行くだけでいいのか?」
「うん。それだけ」
「おいちょっと待て。それ、俺が行く意味あんのかよ」
零崎さんは、不満そうに言った。
「うーん。まあ、あるっちゃあるね」
「なんだよ、それ。」
ほんと、なんだよ、それ。である。
「それじゃあ、殺人鬼くん。悪いんだけど、僕はこれから二人で話したいことがあるから、教室の外でちょっと待っててくれるかい」
「はあ………。わかったよ。じゃあ、さっさとこのロープを解いてくれ」
「いや、それは出来ないね」
「ちっ。だったら、移動するから助けろ」
「助けない。きみが一人で勝手に助かるだけだよ、殺人鬼くん」
「ざけんじゃねえ!いいから、外に出てって欲しかったらさっさとロープ解きやがれっ!!」
零崎さんが怒るのももっともだった。
というか、やっぱりあのロープは忍野がやったのか。
僕がいない間に、いったいなにがあったんだ?
結局、見るに見かねた僕が、零崎さんが外に出るのを手伝った。
ちなみに、忍野が逃げるかもしれないと言うので、申し訳ないと思ったが、ロープは解かなかった。
「それで、話っていうのは、やっぱり怪異のことなのか?」
「そうだよ。阿良々木くんにしては、珍しく察しがいいね」
「ほっとけ」
まったく。どうやらこいつといい、八九寺といい、いちいち僕をバカにしないと話を進めない癖でもあるらしい。
いや、僕どんだけバカにされないといけないんだよ。
「それで、今回の頼み事に、どういう風に怪異が関係してるんだ」
「それはね、その北白蛇神社なんだけどさ。どうやら、そこによくないものが溜まってるみたいなんだよね」
「よくないもの?」
「ほら、最近、怪異の王である忍ちゃんがこの町に来ただろ。それによって、そこに霊的な乱れみたいなものが生じてるかもしれないんだよね」
怪異の王。
吸血鬼の王。
「強すぎる力はそこにあるだけで場を狂わす。みたいなことなのか?」
「その理解の仕方で、間違ってないよ」
忍野は続けて言った。
「だから、阿良々木くんには、そこに行って実際によくないものが溜まってるのかどうかを確かめて来て欲しいんだ。忍ちゃんに血を吸ってもらえば、そういうの、肌で感じ安くなると思うからさ」
「……わかった。行ってみるよ。けど、それ本当に零崎さんを連れて行く意味なくないか?」
意味がない、というよりは、しないほうがいいことなんじゃないか?
一般人を巻き込むなんて、それこそ忍野が絶対にやらなさそうなことなのだけれど。
「まあそこは、僕にも思うところがあるんだよ」
「まあ、お前がそう言うんだったらいいんだけどさ」
忍野のことだし、きっとなにか考えでもあるのだろう。
「それじゃあ、話もまとまったことだし、早速今から行って欲しいんだけど。阿良々木くん、時間は大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫だよ」
「じゃあ僕は、殺人鬼くんのロープを解いてるからさ、その間に忍ちゃんに血を吸ってきてもらいなよ。彼女今、三階の廊下にいるからさ」
「そうさせてもらうよ」
「事が終わったら、ロープのこととかちゃんと教えるよ」
忍野の声を背に受けながら、僕はその教室を後にした。
「殺人鬼くん、話は終わったから、もう戻ってきてくれないかい」
メメは、隣の教室に向かって声を出した。
「だ、か、ら!縛られたままじゃ動けねえって何回言わせんだよ!」
「やれやれ、仕方ないね」
人識から怒鳴り返されたメメは、眠そうな目を擦りながら隣の教室に移動した。
「ほら、これでいいだろ」
そして、人識を拘束していたロープを解いた。
「最初からそうしやがれ」
「はっはー。元気いいな。何かいいことでもあったのかい」
「いいことなんてなんもねえことくらい、てめえが一番わかってるだろうが!」
「なあ、あいつはなんでお前の頼みを請けたんだ?」
二人で元いた教室に戻った後、人識はメメに問いかけた。
「俺があんたの頼みを聞くのは、まあしょうがないとして。あいつには、何かお前の言う事を聞く理由があんのか?」
別段興味があったわけでもないが、見たところ普通の高校生である暦が、こんな廃墟で暮らす半ばホームレスみたいなメメの頼みを聞くことを、人識は若干不思議に思っていた。
「ああ、僕は阿良々木くんにちょっとばかし貸しがあってね。それを返して貰う為に、時々こうして頼みを聞いてもらってるんだよ」
「貸しだ?」
「うん。ざっと五百万」
「五百万!?」
「そうだよ。五百万」
人識の驚嘆の声に対して、メメは相変わらずかったるそうに答えた。
「あんた、悪どい商売でもしてんのかよ」
「失礼だな。僕がしてあげた事に対する、正当な対価だよ」
「正当ねえ。それにしても、かはは。そいつは傑作だな」
平凡そうな高校生が、五百万もの借金を背負っている。
人は見かけに寄らない。
そのことが、人識には面白く思えた。
「まあ、別に期限もないし催促もしないから、踏み倒そうと思えば踏み倒せるんだけどね。そういうとこだけ、阿良々木くんは真面目だから」
「いや、そんだけの大金じゃ、逆に踏み倒す気も起きねえだろうよ」
「つーか、なんで昨夜のこと、あいつに言わなかったんだ」
「昨夜のこと?」
「いや、そこでとぼけるのは流石に無理があるだろ」
人識は、呆れ顔で言った。
「自分を殺そうとした奴と一緒に行かせるなんて、あいつのことが心配じゃねえのかよ」
「はっはー。お人好しが過ぎる阿良々木くんには、いい薬だよ」
「随分厳しいんだな。いやまあ、別にあいつのことを襲うつもりはねえーけどさ」
「それに、その事を言ったら阿良々木くんが君の事を怖がって、一緒に行ってもらえなくなるじゃないか」
「だから……なんでそこまでして、俺とあいつを一緒に行かせたがるんだよ」
「行けばわかるよ」
「………あっそ」
「忍野の。準備できたぞ」
メメと人識の会話に一段落ついた所で、暦が教室に戻ってきた。
いつもよりもさらに短いですが、今日はここまでです。
ここから、矛盾してるところが出てくるかもしれませんが、そこは勘弁してください。
それと、私はレスのつき具合でやる気が極端に上がるタイプなので、出来ればレスをつけてくれると有難いです。
「なあ、あんたは俺達が何しに行くのか、あのおっさんに聞いたのか?」
僕達は、学習塾を出て北白蛇神社へと向かっていた。
もちろん、徒歩でだ。
「いや、あいつは結局適当な事を言うばかりで、肝心なことはなに一つ教えてくれませんでしたよ」
まあ、怪異の事を話すわけにもいかないし、ここはとぼけておくか。
「かはは。あんたも大変だな。あんな奴の頼みを聞かなきゃならねえなんて」
「仕方ないんですよ。あいつには、ちょっとばかり借りがありますからね」
「今時の高校生は金持ちだな。五百万をちょっとって」
零崎さんは、笑いながら言った。
あの野郎。どうしてそう、いつもいつも余計なことしか言わないんだよ!
「……訂正します。あいつには、ちょっとばかり洒落にならないくらいの借りがあるんで、仕方ないんですよ」
「たしかにその額は、ちょっと洒落になってねえわな」
零崎さんには、少なからず図々しい印象があったので、もしかしたら五百万の理由を聞かれるかもしれないとも思ったけれど、そんなことはなかった。
どうやら、野次馬心みたいなものは、あまり持ち合わせていないようである。
「けど、いくらあいつの頼みを聞かなきゃいけない立場っつっても、なにも知らされないままで、不安じゃねえのかよ。もし、ヤバい仕事とかだったら、どうすんだ?」
「それは………」
考えてもみなかった。
忍野が僕に、零崎さんが言うところのヤバい仕事ってのを任せる事だって、可能性としては充分に有り得ることなのに。
まったく。どうやら僕は、気づかない内に、自分が考えている以上に、あいつの事を信頼してしまっているのかもしれない。
「それは………まあちょっとは不安にもなりますけど、それでも僕はあいつの事、結構信用してますからね。今回の頼み事だって、そこまで危険なことではないと思いますよ」
というかまあ、内容的には神社に行って帰って来るだけなのだから、危険もなにもないだろう。
「信用………ねえ」
僕の言葉に、零崎さんは何故か含みのある笑い方をしながら、頷いた。
「まあ、あんたがそう言うんだったら心配なさそうだな。まっ、俺もちょっとは腕っぷしに自信があるし、なんかあったら助けてやんよ」
「……ありがとうございます」
とは言ったものの、零崎さんの小柄な身体を見る限り、失礼だがとても強そうには見えなかった。
「………あんた、結構失礼なヤツだな」
「………すいません」
どうやら、思ったことがまた顔に出てしまっていたらしい。
反省、反省。
「そういえば、昨日の話なんですけど」
「ん?」
「僕の知ってる奴、ていうか、妹なんですけど、そいつに、自分の人生に迷いがあるか聞いてみたんですよ」
正直あいつら、今回の場合は上の方の妹のことなど、恥ずかしすぎて話題に上げたくはなかった。
けれど、例の神社までにはまだ距離をがあるし、間をもたせるにはちょうどいいと思ったのだ。
まあ、あいつが役に立つ場面なんてほとんど無いようなものだし、だったら、精々笑い話の種として使わせてもらおう。
「へえ、あんた妹いたのか」
「ええ、恥ずかしいくらいにガキっぽい妹が二人ほど」
「で、そいつは一体なんて言ったんだ」
「あいつは、我が人生に迷いなし、なんて格好つけて言ってましたよ」
「かはは。言うねえ。そういうの、嫌いじゃねえぜ。まあ、けっして羨ましいとは、思わねえけどな」
「にしても、あんたお兄ちゃんだったのか。まあ、そう見えるっちゃそう見えるな」
「そういう零崎さんは、兄弟とかいるんですか?」
「ああ、いるぜ。うっとおしい兄貴が一人な」
零崎さんは言った。
「ったく、こっちだってもういい大人だっつーのに、恥ずかしげもなくベタベタと子供扱いしてきやがる」
「ははは」
うーん。
僕も、零崎さんはどことなく弟っぽいイメージがあったのだけれど、どうやらそれは当たっていたようだ。
「なあ、兄貴ってのはみんなそういうもんなのか?」
零崎さんは訊ねてきた。
「いや、そういうわけでもないと思いますけど……」
「じゃあ、あんたのとこはどうなんだよ」
「僕のとこは、まあ、あんまり仲がよくないですからね。妹同士の仲はいいんですけど」
「ふうん。まあ、家族の関係も、人それぞれってわけか」
零崎さんは、言った。
気のせいか、若干家族という単語に含みをもたせていた気がするけれど。
「それにしても、ちょっと意外だな。あんた、どっちかってーと優しいお兄ちゃんって感じだぜ」
かはは、と。
零崎さんは、笑いながら言った。
「………その言い方は、あまり嬉しくありませんね」
「なんつーか、お人好しって感じがするんだよ、あんたは」
「よく知り合いにも言われますよ、それ。けど、僕ってそんなにお人好しですか?」
「少なくとも、普通の奴は俺みたいな奴の頼みを聞いたりはしねえよ」
「そう、ですかね」
言われてみれば、零崎さんってかなり奇抜な格好してるから、近寄りがたくはあるよな。
「ああ、そうだよ。学校行ってんだから、怪しい奴に話しかけられても無視しなさいって、習わなかったのか?」
怪しい奴っていう自覚はあったんだな。
「あいにく、僕はあまり真面目な学生とは言えませんからね」
「それでも、義務教育過程を終了してるだけマシだぜ」
「まあでも、このままだと本気で最終学歴が中卒になっちゃうんで、最近は真面目にやってますけどね」
僕の言葉に、そいつは傑作だ、と。
零崎さんは言った。
「そういや、あんたに会うちょっと前のことなんだが」
北白蛇神社が有るという山に辿り着いたぼくたちは、山道の階段を登っていた。
そんな時、今度は零崎さんの方から話を振ってきた。
「なんか、変な女に会ったんだよな」
「変な女?」
どうしよう、この時点で既に心当たりが何人かいるのだけれど。
「ああ。俺があの廃墟を探してる時、いきなり後ろから声かけてきてな。おい、あんた。怪しい奴だな。さては、悪物だな!とか言ってきやがったんだよ」
「………………………………」
「めんどくせーから無視してたんだがよ。自分のことを正義だなんだ言って、しまいには追いかけてきやがる」
「………それで、なにかされましたか?」
「いや、何かされる前に逃げたよ。振り切るのに、多少時間はかかったけどな」
「……えっと、その女の人は、自分の事をどういう風に名乗っていましたか?」
聞きたくなかった。
だが、聞かずにはいられなかった。
もしかしたら、まったくの他人かもしれないしな。
うん。
「あ?いや、名前は言ってなかったが。ああ、そういえば、ファイヤーシスターズ。とかなんとか言ってたな。あんた知ってるか?」
あいつ………………。
いっちょ前に警察の職務質問みたいなことしてんじゃねえよ!
お前はいったい何様だ!
前言撤回。
お前の話は、笑い話にもならないよ!
「いや、全然知りませんね」
「ん?そういや、あんたよく見るとあの女と顔が似てんな。もしかして、あんたの妹なんじゃねえの?」
そう言って、零崎さんは僕の方に顔を近づけてきた。
鋭い。
「気のせいですよ。気のせいですって。ほら、世界には自分と同じ顔をした人が三人はいるって言うじゃないです。他人の空似ってやつですよ」
対する僕は、しどろもどろになりながらも零崎さんの言葉を否定した。
流石に、そんな奴が妹だとは思われたくなかった。
「そうかあ?」
零崎さんは、まだ若干疑ってるようだったが、それでも僕の顔を凝視するのは止めてくれた。
「そうですよ。だいたい、そんな奴が妹だったら、仲が悪いくらいじゃすみませんって。それこそ、家族の縁を切りますよ」
嘘を嘘で固めるというのは、こういう事をいうのだろうか?
「まあそりゃそうだな。けど、案外うちの兄貴はそういう妹を欲しがりそうだな。つーか、あいつは妹ならなんでもいいのか」
零崎さんは、自分の言った言葉にうんざりしているようだった。
「零崎さんのお兄さんは、妹を欲しがってるんですか?」
「ああ、困ったことにな。ったく、妹なんてそう簡単にできるわけねえっつーの」
「ははは。僕の妹だったら、分けてあげたいくらいですけどね」
「かはは。そいつは、あんたの妹が気の毒すぎるぜ」
「お、やっと着いたか」
「これ、なんですか?」
「俺に聞くなっつーの」
階段を昇り切った先にあったそれは、事前に神社だと聞いていなければ神社だと思えないような、荒れ果てた様相を呈していた。
「で、取りあえず来たはいいものの、俺らはここで何をすりゃいいんだ?」
「僕に聞かないでくださいよ」
「いや、ここはあんたに聞く流れだろ」
そう言われても、どうしたものか。
肌で感じられる、なんて忍野は言ってたけれど、今のところそれっぽいのは特にないんだよな。
何をすればいいのか分からず、取りあえず辺りを見回していると。
不意に。
零崎さんの直ぐ後ろに、それ、は現れた。
「っ!?」
そこに現れたのは、真っ赤な鬼だった。
否。
現れたというよりは、それは初めからそこにあったように、立っていた。
どこにでもいるし、どこにもいない。
初めからいたのか、それとも、今でもいないのか。
とにかく、赤鬼。
手には日本刀を持った赤鬼が、こちらを向いて、立っていた。
「なんだよ…………こいつ…………」
どうやら、零崎さんもそれに気付いたようだ。
零崎さんにも、どうやらそれは見えるらしい。
「ぐはっ!?」
「零崎さんっ!!」
そんな悠長な事を考えている場合では、どうやらなかったらしい。
零崎さんが赤鬼を認識した次の瞬間。
赤鬼は、日本刀を持っていない方の手で、零崎さんを薙ぎ払った。
薙ぎ払われた零崎さんは、不意を突かれたせいかろくに受け身もとれずに地面に転がり、そのまま意識を失ってしまった。
当たり前だ。
誰だって、突然現れた正体不明の化物に襲われたらそうなるだろ。
赤鬼は、零崎さんが起き上がってこないのを確認すると、今度は僕の方に向かって日本刀を振り下ろした。
「くそっ!」
僕は間一髪でその攻撃を避けると、倒れた零崎さんの方に向かって走った。
取りあえず、今は逃げる時だ。
相手の正体もわからないままじゃ、どうしようもない。
相手は怪異だ。
僕なんかが立ち向かって、勝てるわけがない。
僕は零崎さんの華奢な身体を背負うと、一目散に階段に走った。
「えっ?」
階段の一歩目を踏み出そうとしたけれど、いつまでたっても右足が地面に着かない。
「ぐああああああっ!」
どうやら、あの鬼に右足を切られてしまったようだ。
僕は、右下半身の膝から下を失ったせいでバランスを崩し、なんとか零崎さんを抱き抱えながら、階段を真っ逆さまに落下していった。
今日はここまでです。
遂に書き溜めがなくなってしまったので、次はもう少し先になります。
「…………あ」
ここでこうやって目を覚ますのは、いったい何度目だろう。
気がついたら、僕はあの学習塾跡の教室に寝ていた。
「なんか、ゴールデンウィークの時と似てるな」
「おや、お目覚めかい?阿良々木くん」
ただ、その時とは違い僕の隣にいたのは、金髪の幼女ではなく、アロハのおっさんである、忍野メメだった。
「忍野………」
「なんだい阿良々木くん。もしかして、僕じゃ不満だったかな?」
忍野はふざけてそう言った。
「さて、それじゃあ何があったのか聞かせてもらおうか。約束通り、僕も阿良々木くんに、何が起こっているのか教えてあげるからさ」
僕は、北白蛇神社で起こった事を忍野に伝えた。
そもそも、語るべき事はそんなには多くない。
だからこそ、丁寧に、細部まで、覚えている事全てを忍野に話した。
「ふうん、なるほどね。やっぱりそうなったか」
「おい忍野。一人で納得してんじゃねえよ。約束通り、僕にも何が起こってるのか教えてくれ」
なるほどね、ってことは。こいつはああなることが最初から分かっていたのか?
分かっていたなら、何故僕達を行かせたんだ。
ぐるぐると頭の中で考え事がまとまらない僕に忍野は、
「分かってるよ、そう急ぐなって。それで、阿良々木くんは何が知りたいんだい?」
「何がって、そりゃ全部だよ。………じゃあまず、僕は何でここにいるん?」
僕の記憶が正しければ、今頃僕は階段の一番下にいるはずなのだけれど。
「ああ、それなら簡単だよ。殺人鬼くんがきみをここまで運んできたんだ。その後直ぐ、気絶しちゃったんだけどね」
「そうか……」
取りあえず、零崎さんは無事のようだ。
どうやら、助けようとしたつもりが逆に助けられてしまったらしい。
「今は隣の教室で眠ってるよ。後でちゃんとお礼を言っておくんだね」
「ああ。そうするよ」
「じゃあ次。あの鬼はなんなんだ?」
問題はそこだ。
あの鬼は何故現れた?
何故僕達を襲った?
これからあいつは、また僕達を襲うのか?
「あれは簡単に言えば、殺人鬼くんの内にあったものだよ?」
「は?零崎さんの?」
何がなんだか、わけがわからない。
「あー、もう面倒だし、まとめて全部話しちゃおうか」
だったら最初からそうしろよ。
そう強く思ったが、ここで話の腰を折るのもなんなので、ここは黙って忍野の話を聞くことにした。
「その鬼は、わかりやすく言えば殺人鬼くんに憑依していたんだ」
忍野はそう話始めた。
「憑依?」
「うん。いつからなのかは、僕にもわからないけど。とにかく、阿良々木くんがここに殺人鬼くんを連れて来たときに、僕はそれに気付いたんだよ」
「ちょっと待てってくれ忍野。憑依っていうのは、羽川でいう触り猫みたいなものなのか?」
「そうだね、そのとおりだよ。もっと言うと、殺人鬼くんはそれを無意識に制御していたんだよね」
「無意識にってことは、やっぱり零崎さんはあの鬼のことを…………」
「うん。知らないはずだよ」
そうだろう。
鬼の事を知っているのなら、あの時にあんなに驚くわけがない。
「普通ああいう怪異は、怪異のことを知っていようと知っていなかろうと、そう簡単に制御できるようなものじゃないんだけど。いや、殺人鬼くんは大したものだよ」
忍野は、そう言って笑った。
「じゃあ忍野。零崎さんは、あの鬼を制御していたんだろ?だったら何で、急にあの鬼は零崎さんを襲ったんだ」
あれはどう見ても、制御できているようには見えなかった。
となると、暴走?
「それを言う前にまずは鬼、という怪異について、簡単に説明しておこうか」
「ああ、頼むよ」
「まあ、鬼なんてものは阿良々木くんだって知っているだろう。童話とかにもよく出てくるしね」
桃太郎、一寸法師、ぱっと思いつくのはそれくらいか。
「けど、童話とは違ってその鬼は一筋縄ではいかないんだよね」
忍野は続けた。
「鬼の存在理由っていうのは殺人なんだ」
「殺人?」
「そう。殺害ではなく殺人っていうところがポイントなんだ。鬼は人しか殺さない」
「人しか殺さない、だって?」
なんだか、物騒な話になってきたな。
「じゃあ、のんびりしている暇はないんじゃないか?あの鬼が他の人を襲う前に早くなんとかしないと」
「落ち着けよ。それは大丈夫だ。ちょと細工をしておいたからね。しばらくの間はあそこから動けないから」
「…………………………」
そういう事は先に言っておくべきなんじゃないか?
ほんとにこいつは、意地が悪い。
「時に阿良々木くん。阿良々木くんが切られたっていう足の調子はどうだい?」
「なんだよ、急に」
不思議に思いながらも、僕は切られた部分を確かめる。
傷は………なくなっていた。
切られた足は元に戻り、触ってみてもなんともなかった。
「治ってる、な」
「だろうね」
「けど忍野。それが何だっていうんだよ」
あの日、僕は忍に血を吸ってもらっていた。
流石に瞬間的に治るっていうのは無理かもしれないけれど、それでも少し時間があればあの程度の傷は治ってしまう。
「いや、殺人鬼くんに聞いた話だけどね。阿良々木くんをここに運ぼうとした時にはもう、傷なんてなかったそうだ」
「………………………」
「二人の話を聞いた限りだと、階段から落ちてから直に殺人鬼くんは目覚めたらしい。じゃあ何故阿良々木くんの傷は治っていたのかと言うと」
忍野は言った。
「それは単純に、鬼と阿良々木くんの相性が良かったからなんだよね」
「それは、鬼と吸血鬼の相性が良いってことなのか?」
「その通りだよ。吸血鬼ってのは、殺しても死なないっていうのが売りなわけだからね。だから状況的には、阿良々木くんの人間性を感じ取って鬼は攻撃してきたけど、吸血鬼性によって助けられたって感じかな」
「………そうか」
「はっはー。だから今の阿良々木くんは、怪異にも人間だと認識されているんだよ。どうだい、少しは気が楽になったんじゃないかな?」
「別に、結局は吸血鬼の力に助けられてるんだから。やっぱり僕は、中途半端な化物だよ」
「阿良々木くんは相変わらずだね」
忍野は少し、悲しそうに笑った。
「つまるところ、今回はどうすればいいんだ?」
いくらあの鬼が北白蛇神社から動けないといっても、それはあくまで短時間での話だ。
いつまでもあのままにしておくわけにはいかないだろう。
「今回は、僕も正直悩んだんだよ」
「悩んだって、そんなに厄介な怪異なのかよ」
僕の問いに、忍野は首を振った。
「良識のある大人として、そいて阿良々木くんの友達としては、ゴールデンウイークの時みたくきみに手出しはさせないつもりだったんだ」
「忍野………」
「けど、バランサーとしての立場で考えた結果、今回は阿良々木くんにも手伝ってもらうことにしたよ」
きみにも非が無いわけじゃないしね、と忍野は続けた。
「それはいいよ。初めからそのつもりだ。だから問題は、僕はどうすればいいかってことで………」
「阿良々木くん、悪いんだけどさ」
僕の話を止めて。
忍野は言った。
「僕、嘘をついてたんだよね」
「つまり、あの鬼は俺の内にあったもので、それが暴走して出てきやがったと」
暦を学習塾跡に運んできた後、人識とメメは暦を休ませた部屋の隣にいた。
「んで、てめぇが俺をあそこに行かせた理由は、あの鬼がいつ暴走してもおかしくない状態だったから、わざと狙って、意図的に、対処しやすい状況であの鬼を出すためだったってわけか」
「まあ、あの場所にそういう力があるかどうかを確かめる為でもあったんだけどね。それにしても、理解が早くて助かるよ。思ったよりも落ち着いていてなによりだ。誰かさんにも見習わせたいもんだね」
ニヤニヤ笑うメメとは対照的に、人識の顔に笑みはなかった。
「理解なんてしてねえよ。つーか、できるわねぇだろ。落ち着いていて見えるのだって、ただ、そう見えるってだけだ」
「まあ、そうだろうね」
「で、俺はこれからどうすればいいんだ?てめえはあいつをどうすればいいのか、知ってるんだろ?」
「へえ………」
「なんだよ」
「いや、そういう所は阿良々木くんに似てるなって思ってね。普通は、こういう状況で能動的になにかしようとは、なかなか思えるもんじゃないんだけど」
「そりゃ能動的にもならざるおえねーだろ。あいつは、俺の物だっていならな」
「そうかい。まあ、殺人鬼くんが出来ることは、結構単純なんだけどね」
「だったら、さっさと教えてくれ。後は自分でやるからよ」
「まず、あの鬼が暴走したのは、殺人鬼くんの身体が器としてボロボロになってきてるせいなんだよ」
「………あいつは、俺が器じゃ納得できなくなったってことか。けっ、勝手な野郎だぜ」
「あちらとしては、殺人鬼くんの身体が駄目にならない内に、自分勝手に暴れたいんだろうね」
「………………………………」
「だから、きみがやるべきことは、あの鬼に自分が器だと認めさせることだよ」
「なんだ、思ったより簡単そうなんだな。俺はてっきり、てめえが使ってた札やらなんやらを使わなきゃなんねえのかと思ってたんだが」
そこで初めて、人識は笑った。
「はっはー。頼もしいね、まったく」
「とにかく、殺人鬼くんには今からもう一度あの神社に行ってもらって、あの鬼を屈服させて来てもらうよ。それがきみの仕事だ」
「わかったよ。んじゃ、そろそろ行ってくるとするかね。さっさと落し物拾って、こんな町とはおさらばさせてもらうぜ」
「この町は嫌いかい」
「退屈しねえのはいいんだけどな。得体の知らねえもんがいるようなところは、流石の俺でもごめんだぜ」
「そうかい、僕は面白いと思うけどね」
「かはは」
会話を終えて、一応寝ている暦に気を遣ったのか、扉を静かに開けて、人識は学習塾跡を出ていった。
今日はここまでです。
亀進行でダラダラやっていますが、果たして見てる人いますかね?
需要ありますかね?
まあ、人はいなくとも完結はさせますけどね。
そろそろこの物語も終わるんで、最後まで見てくれれば嬉しいです。
長々と愚痴を失礼しました。
果てして見てる人いますかね?って
いるってわかってて聞いてんだろ!?この野郎
>>118、119
すいません。
ちょっと色々あって疲れてて、これ本当に面白いか?と疑問に思ってしまいました。
見てくれてありがとうございます。
「はっ……はっ……」
空は既に真っ暗闇になっていて、まるで零崎さんと最初に会った時みたいだった。
僕は限界まで忍に血を吸ってもらった後にすぐ、再び北白蛇神社へ向かった。
本来ならば、今の状態の僕は息を漏らさずに走れるのだが、この後のことを考えるとこれがベスト。
息を切らさず、呼吸を乱さず、小刻みに呼吸する。
怪異との大立ち回りが控えているのだから、ここで全力で走って無駄な体力を使うわけにはいかない。
忍野は言っていた。
「阿良々木くんにやってもらうのは、シンプルなことだよ」
「まあ、だからって簡単ってわけでもないんだけどね」
「殺人鬼くんが鬼と対峙する時は、鬼を自らの内に呼び込まなきゃならない」
「対峙している間、殺人鬼くんの意識はなくなっちゃうから、勝手に動きだすかもしれないんだ」
「結界の効果もそろそろ終わっちゃうし、そのままにしておくのはマズイ」
「そこで阿良々木くんの出番だよ」
「きみにしてもらうのは、いわば殺人鬼くんが鬼と対峙している間の時間稼ぎだよ」
「意識がない。殺人鬼くんと鬼がせめぎ合っている状態の時、目の前に阿良々木くんが現れれば、まず間違いなく襲われるだろう」
「逆に言えば、阿良々木くんを殺さない限り、他の人は狙わない」
「鬼は、人を殺しすことを存在理由とした怪異だからね」
「殺せない人間なんて、いてはいけない」
「けど、阿良々木くんなら」
「阿良々木くんなら、殺されない。まあ、殺されるかもしれないけど、でも、死なない」
「斬られても。突かれても。噛み千切られても」
「はっはー。まるでプラナリアみたいだね」
「おいおい、そう睨まないでくれよ。悪かった。撤回するって」
そんな風に、いつもの軽い口調で忍野は言った。
まったく、他人事にもほどがあるだろ。
「人を、殺す怪異か」
そういえば、吸血鬼と鬼には共通点もあるよな。
どっちも鬼だし。
人間という種族を対象になにかするっていうのも…………。
いや、怪異ってのはたいてい人相手に何かするよな。
そうやって、零崎さんと僕との共通点を無理矢理見つけようとするのは、駄目だ。
あの人が鬼を制御するのに、自らの意志はなかったはずだ。
自分の意志で選んで、関わって。
今もなお、関わり続けている僕とは、決定的に違うのだから。
だから、他人と自分を重ねて、自分の罪を軽くしようするのは、駄目だ。
「零崎………さん?」
北白蛇神社に着いた僕の目の前に、それは立っていた。
神原駿河と較べると、怪異とその身体を一つにしているのにも関わらず、外見に大きな差異は見受けられなかった。
ただし。
たった一つ。
その手に、恐ろしく人を殺しやすそうな刀を握っている以外は。
もちろん、僕は刀について詳しいわけでもないし、また、刀とはどれも人を殺すという意味合いも含まれているだろう。
けど、その刀が他のそれとは圧倒的に違うことが、一目でわかった。
それは、戦闘のためでも殺戮のためでも、はたまた殺害のためでもない。
どこまでも、殺人のための刀だった。
「……………………………」
僕がそんな事をボケっと考えている内に、どうやら、鬼は僕に気付いたようだ。
「やるしか、ないよな」
鬼はゆっくりとこちらに近付いてくる。
まるで獲物を見定めるように。
今回僕がやることは、時間稼ぎだ。
そういえば、零崎さんが失敗したら、鬼が僕を殺せないと判断するまで戦い続けるしか、殺され続けるしかないらしい。
そして、もしそう判断されても、鬼が消えると同時に零崎人識という個人も消えてしまうとか。
………………………。
失敗した時のことは考えるな。
そこは、零崎さんを信じるしかない。
今は目の前のあいつに集中を……………
「ぐっ!?」
いつの間にか。
「がああああああああああっ!?」
またぞろ僕は片足を失っていた。
『我は零崎』
声が聞こえた。
『お前の内にある物であり、者だ』
聞こえた。というよりは、頭に直接響いてきているようだ。
『お前は、何故ここに来た』
声は問いかけた。
「何故ってそりゃ、落し物を拾いに来てやったんだよ」
人識は答えた。
「ったく。勝手に住み着いておいて勝手に出てってんじゃねえよ」
『ならば、何故拾いに来た』
声はなおも問う。
『お前にとって、我は必要ではないだろう。拾いになど来ずに、そのまま捨て置けば良いのだ。そうすれば、我はお前を追いかけず、別の器を探したものを』
「あ?お前、俺の身体を乗っ取らなくてもいいのかよ」
『無論だ。お前の身体を乗っ取っても先は短い。ならば新しい器に移り、今度こそ好き勝手にやるのが一ば』
「却下だ。んなもん」
『……………………』
「お前は俺の物なんだ。勝手に出て行こうとするんじゃねえよ。大人しく元に戻りやがれ」
『何故そこまで拘る。今までお前は我がいる事を知らなかったのだろう。いや、違う。他の零崎とは違い、己の内に我がいないと思っていた』
『そうにも関わらず今更、何故お前は我に拘るのだ』
「確かに、俺は今までお前のことなんて知らなかった。だから、ちょっと前の俺なら、お前のことなんて置いてったかもな」
「だがよ」
一度言葉を区切り、
「今の俺はお前のことを知っちまった。知っちまったもんは、無かったことになんかできねえよ」
「兄貴も、大将も、曲識の兄ちゃんも。皆背負ってる物を、俺だけ捨てるなんてこと、俺はしねえよ。やっと、お前が俺の内にいることを、知れたんだからな」
人識はそう言った。
『なるほどな。捨てたくないのはどうやら我ではなく、家族との共通点の方らしい』
「うっせえよ」
『…………いいだろう。我はお前の内に戻るとしよう』
「いいのかよ。俺が言うのもなんだが、簡単すぎねえか?」
『ふん、所詮は気まぐれだ。別にお前の内にいることが不満だったわけではない』
「そうなのかよ」
『そんな事より、零崎人識。捜し物は見つかったか?』
「あ?…………かはは、さあな。だがよ…………」
「手掛かりくらいは、掴めた気がするぜ」
『そうか』
ならば良い。
そう言って、声は消えた。
それと同時に、人識の意識は覚醒する。
「じゃあな、優しい赤鬼ちゃん」
「はあっ…………くそ、まだか」
結局の所。
最初の一撃で足を切られてから、どうにか態勢を立て直したものの。あの鬼に対して僕は防戦一方だった。
いや、時間稼ぎにはそれで問題ないのだけれど、それでも、攻撃に撃っでることをしないのとできないのでは、精神的余裕がまるで違う。
それは、吸血鬼と鬼の相性とか、そんなものは関係無しで。
圧倒的な戦闘力の差が、僕と鬼との間にあった。
何度切られた。
何度突かれた。
何度殺された。
………………………。
僕はあと、何度殺されればいい?
けど、諦めるわけにはいかない。
これは、僕の責任だ。
自分で拾って来た厄介事は、自分で片付けないとな!
覚悟を決め、今度こそ攻撃にうってでようとしたとき。
「っ!?」
目の前の鬼が、突然光に包まれた。
みるみるうちに、手に持っていた刀が形を無くしていく。
「零崎さんっ!」
そして、光が消えると、そこには鬼。
ではなく、零崎人識が立っていた。
「かはは。その傷どうしたんだよ、傑作な身体になってんぜ、あんた」
いや、傑作な身体って…………
「冗談だよ。悪かったな俺のために」
「それにしても、あんたよくその傷で死なねえな。ったく、あのアロハといいあんたといい、本当に何者なんだよ」
「僕は……………」
昔なら、僕はこの問いになんと答えただろうか?
今の僕だって、今の自分が好きってわけではけしてないのだけれど。
「僕は、ただの中途半端な化物ですよ」
そうやって。
物怖じせずに答えられるようなるくらいには、成長したと思っても、いいのだろうか?
「そりゃ、傑作だあな」
そこで僕の意識は、どうやら限界を迎えたようだ。
後日談というか、今回のオチ。
あれから数日後、事のあらましを聞くために僕は忍野の元へと向かった。
あの日、僕はまたぞろ零崎さんに運ばれて学習塾跡に辿り着いたらしい。
本当は、そこで色々なことを忍野に聞ければ良かったのだけれど、忍野に言われ、一度家に帰ることにした。
まあ、その後二人の妹達にたっぷり説教をされたことは、いちいち明記することでもないだろう。
ともかく、忍野の話によると、零崎さんは僕を運んできた後直にこの町を出たらしい。
この町で、答が見つかったのかもしれないし、見つからなかったのかもしれないけれど。
いつかあの人が、答を見つけれたらと、そう思った。
「ご苦労様、阿良々木くん。ひとまず今回の事はこれでおしまい。後日、百合っ子ちゃんともう一度あそこに行ってもらうんだけど。もちろん、その時は借金を減らしてあげるからさ」
「わかったよ」
「それにしても、今回は本当によく頑張ったね阿良々木くん」
「別に、僕はただ自分で拾って来た厄介ごとなんだから、自分で方を付けなきゃと思っただけだよ。それが僕の責任だからな」
「あー」
忍野は、僕の言葉に生返事を返した。
なんだ?僕、なにか変なこと言ったか?
「そのことなんだけどさ。責任っていうのは、そういうことじゃなくてね」
忍野はその時、僕に隠していたことを教えてくれた。
まったく。
「答の探し方、雑じゃないですか?」
驚き過ぎて、そう笑うことしか、僕にはできなかった。
「ふうん。その鬼も、ずいぶんと優しい怪異だったんだね。きみが答を見つけられるように、自分自身を見つめさせたんだろ?」
「さあな。あいつは気まぐれだっつってたし。ほんとの所は俺にもわかんねえよ」
「そうかい。それで、答は見つかりそうなのかい?」
「どうだろうな。まあでも、一歩前進ってところだぜ」
「それにしても、あいつには迷惑かけたな」
「ん?阿良々木くんのことかい?だったら、気にしなくていいよ。阿良々木くんにも責任、というかちょっとした罰を与えないとね」
「なんだ?あいつ何かしたのか?」
「はっはー、何を言っているんだい殺人鬼くん。阿良々木くんがきみを拾って来たせいで、僕は殺されかけたんだぜ」
「あー、そういやそうだな」
「ほんと、あれは優しさなんかじゃないんだよね。きみの鬼とは大違いだよ」
「かはは、そう言ってやるなよ。お前だってあいつのこと、嫌いなわけじゃないんだろ?」
「まあ、そうなんだけどね。けど、いい加減こういうのが自分の身を滅ぼすだけじゃ済まないってこと、わかってほしいよね」
「心配してんのかよ。優しいんだか厳しいんだかわかんねえな。つーか、結局あんたはわかないことだらけだな」
「まあいいや。俺はそろそろ行くわ。あいつにも宜しく言っといてくれ」
「わかったよ。伝えておく」
「んじゃな」
人識はそう言って、町を後にした。
やはりメメは、人識の別れの言葉に対し、なにも返さなかった。
終了です。
やっぱり、クロスは難しいですね。
前作でオリジナル要素が少ないと指摘され、これを書いたのですが、どうだったでしょうか?
完全なオリジナルだと、話が続かなくて困りますね。
それでは、今まで見てくれてありがとうございました。
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