「近頃、女性が刃物で口を切り裂かれる事件が多発してるな」
「怖いわよねぇ~」
「いったいどんな奴が犯人なんだろう……」
「もしかしたら、犯人は妖怪とか魔物の類だったりしてな!」
「まっさかぁ~!」
男(ハァ~……)
男(今日もまた課長に怒られちゃった)
男(ま、楽勝で契約取れるみたいなこといっといて、あのザマだからな……)
男(契約どころかあやうく出入り禁止になるとこだった……)
男(我ながら情けない……)
男(あ~もう、今日はとっとと帰ってビール飲んで寝よう!)
男「……ん?」
口裂け女「ウフフ……」
男「!」
男(なんだこいつ、口が耳元ぐらいまで裂けてるぞ……)
男(こいつ、まさか……“口裂け女”ってやつか!?)
口裂け女「アタシ、キレイ?」
男「口が小さいな」
口裂け女「!?」
男「俺は口がデカイ女が好みなんだ」
男「アンタ、顔はなかなかだが、ちょいとばかり口が小さい」
男「というわけで裂かせてくれるか?」
口裂け女「じょ、冗談じゃないわよ!」
男「いや、冗談なんかじゃない」
男「裂かせてもらう」グイッ
口裂け女「あだだだだっ! 口を引っぱるな!」パシッ
口裂け女「まったく……おかしな男なんだから」
口裂け女「だったら、もっと他の女をターゲットにしなさいよ!」
口裂け女「どうせ口を裂くつもりなら、もっと美女の口を裂いた方がいいでしょ!」
男「う~ん、分かってないなぁ、君は」
男「たとえばデブ専の男がいたとしよう」
男「この男の好みは、100kg以上のデブ女だ」
男「こんな男が40~50kgの女を見て、食指が動くと思うか?」
口裂け女「動くわけないでしょ」
男「じゃあ……この男が体重90kgの女を見たとしたらどうだ?」
口裂け女「!」
男「どうせならあと10kg太らせて」
男「自分好みの女に仕立て上げたい、ってなるに決まってる……!」
男「ってわけで、裂かせてくれ」
口裂け女「裂くな!」
口裂け女「これ以上裂いたら、口の両端が一周して円になっちゃう!」
男「うん、それも悪くない」
口裂け女「ううっ……!」
口裂け女(なんなのこいつ、付き合ってらんないわ!)
口裂け女「もういいわ、さよなら!」ダッ
ササッ
口裂け女「ふぅ……」
口裂け女(アタシは元々人を驚かせるだけの魔物だったのに……)
口裂け女(アタシが人を殺す、みたいな変なウワサ話ができちゃってからは)
口裂け女(なるべくコソコソと生活していたけど……)
口裂け女(もうウワサも消えたし、久しぶりに人間を驚かせようと思ったら)
口裂け女(すっかり調子を狂わされちゃった)
口裂け女「どれ……もうどこかに行ったかしら」チラッ
男「……」キョロキョロ…
男「ふぅ~、助かったぜ!」
男「口裂け女なんて初めて見たなぁ」
男「とっさに『もっと口をでかくしろよ!』ってやり返したら大成功! 追い返せた!」
男「攻撃は最大の防御、ってことだな!」
男「俺ってホント口は冴えてるんだよなぁ~、中身は伴わないけど!」
男「さ、帰るか!」
男(だけど……)
口裂け女「……」
口裂け女「ゆ、許さん!」
口裂け女「アイツ、このアタシをコケにしやがったのね!」
口裂け女(まぁいいわ、あの男は油断して明日もここを通るはず!)
口裂け女(そしたら、また現れてやる!)
口裂け女(今度はうんと酷い目にあわせてやるわ! うんとね!)
期待
翌日──
口裂け女(なかなかやってこないわね)
口裂け女(仕事ができそうな男じゃなかったし、チンタラ残業でもしてるのかしら)
口裂け女(仕方ないから、そこらの男で予行演習でもしましょうか)
口裂け女(お、ちょうど白衣を着た男がやってきたわ)
口裂け女「ねぇ、そこのあなた」
白衣「なんだ?」
口裂け女「アタシ、キレイ?」
白衣「口が小さいな」
口裂け女「ふんっ、どうやらそうやってアタシを追い返すって手口が流行ってるようね!」
口裂け女「いつだったかのポマード連呼みたいに!」
口裂け女「だけどもう引っかからないわよ! たっぷり怖がらせてやる!」
白衣「あとほんの少しだ……」
白衣「あとほんの少しだけ口を裂けば、ぼくが理想とする女性になる……」ニタァ…
口裂け女「!?」ビクッ
白衣「ぼくはねェ……今まで何人もの女の口を裂いてきたけど」
白衣「どうにもうまく裂けなくてねぇ……。ムズかしいんだよねぇ……」
白衣「だからいつも中途半端で終わってしまった……」
白衣「だけど君なら、もうそこまでキレイに裂けているのだから、うまく裂けるはず!」
白衣「裂かせてくれェッ!」ジャキッ
口裂け女(ちょっ、こいつ……ノコギリなんて持ち歩いてるの!?)
白衣「さぁ、裂かせてくれェ!」
ヒュッ!
口裂け女「きゃああっ!」サッ
白衣「惜しい……だけど次は外さないよ」ニタァ…
口裂け女(うう……アタシのような魔物は相手が怖がらないと力を発揮できない!)
口裂け女(どうすればいいの!?)
白衣「今度こそ、裂かせて──」
「待ったァ!!!」
白衣「む!?」
口裂け女「え!?」
男「そこまでだ!」
男「お前が最近ニュースで話題になってる“口裂き男”だな?」
男「もっとも、お前はれっきとした人間のようだがな」
白衣「……なんだお前は? まさかぼくのジャマをしようっていうのか?」
男「いっとくが、俺は空手10段、柔道10段、剣道10段、書道10段だ!」シュシュッ
白衣「な、なんだと……!?」
男「だから降参しろ!」
白衣「せっかく理想に近い女性を見つけたってのに……くそぉっ!」
バキィッ!
男「ほげっ!」ドサッ…
白衣「え……? 軽く小突いただけなのに……」
白衣「なんだよ、空手だの柔道だのは、真っ赤なウソだったのか……」
男「いだだだ……!」
口裂け女「ちょ、ちょっと……しっかりしてよ!」
白衣「ビックリさせやがって……」
白衣「男の口なんかどうでもいいが、まずはお前から口を裂いてやる!」
ヒュッ!
男「ひいいいっ! いやだぁぁっ!」
ガブッ!
白衣「こ、こいつ腕に噛みついてきやがった……!」
白衣(しかも、噛む力だけはメチャクチャ強い! ひきはがせない……!)グッグッ…
口裂け女(今だわ!)
口裂け女(今のヤツなら、噛まれて戸惑ってるから心にスキがあるはず!)
口裂け女(いくら大きい口が好きでも、震え上がるような笑顔で怖がらせてやる!)
口裂け女「アタシ、キレイィ!?」ニヤァァァ…
白衣「!?」ビクッ
白衣「うぎゃあああああああっ!!!」
ドサッ……
白衣「……」ピクピク…
口裂け女「ふうっ、やったわね。とんでもない人間だったわ」
男「この世で一番恐ろしいのは人間、とはよくいったものだね」
男「こいつは当分起きないだろうし、あとで警察に突き出そう」
口裂け女「でも……昨日はアタシのこと追い返したのに、なんで助けてくれたの?」
男「なぜって……可愛い女の人がピンチだったら放っておけないだろ」
口裂け女「アタシが可愛い? ウソばっかり!」
男「ウソじゃないよ」
男「昨日はビックリしたけど、俺は君に出会ったことで」
男「俺の好みのタイプもこいつみたいに“口が大きい女”だって気づいたのさ」
男「それにさ……実は俺も、君の仲間みたいなものだしね」
口裂け女「!」ハッ
口裂け女「そうか、あなたも魔物なのね!?」
男「そのとおり、人間社会に溶け込んで生活してるけど俺も魔物なんだよ」
男「ちなみに自己紹介すると──」
口裂け女「いわなくていいわ、あなたが何者か当ててあげる」
口裂け女「“口だけ男”でしょ?」
男「え、なんで分かったの!?」
口裂け女(そりゃ分かるっての……)
口裂け女「アタシが口が裂けた女なら、あなたは口だけの男」
口裂け女「ようするに、さっきのもお世辞ってわけでしょ?」
口裂け女「アタシが可愛いわけないものね」
男「いや、それはちがう!」
口裂け女「!」
男「俺はたしかにその場しのぎのことばかりいう魔物だけど──」
男「さっきのはウソじゃない! 口だけじゃない!」
男「俺は真剣に君に恋をしているんだ! 付き合いたいんだ!」
男「ウソだと思うなら、こいつの持ってるノコギリで口を裂いたっていい!」グッ…
口裂け女「ちょ、ちょっとやめてよ!」
口裂け女「分かったわ……信じてあげる」
男「じゃあ……付き合ってくれるのかい!?」
口裂け女「ええ、いいわよ……。アタシも仲間に出会えて嬉しいしね」
口裂け女「ただし……アタシにはでまかせとかお世辞とかいわないでよ」
男「分かってるさ」
男「君にだけはお世辞もでまかせも、口が裂けてもいわないよ!」キリッ
口裂け女「だ~か~ら、そういうのがうさんくさいってのよ……」
~ END ~
おしまい
この発想はなかった乙
乙
え、男は本当に魔物なの?
乙乙
口裂け女可愛い
かわ乙
よかった乙乙
乙!
イイハナシダナー
乙
いいカップルだ
乙
おつ
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