男「ビール冷やしとけっていったろ!」妻「ごめんなさい……」 (38)

― 会社 ―

友人「なぁ、今日お前んちに寄っていいか?」

男「え、どうして?」

友人「決まってんだろ! お前の奥さんを一度見せて欲しいんだよ!」

友人「なぁ、いいだろ?」

男「うーん、かまわないけど……」

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男「ただし、一つだけ条件がある」

友人「条件?」

男「なにがあっても、絶対に妻をかばったりしないでくれよ」

友人「……? ああ、分かったよ」

男「じゃあ、メシを食いに来てくれよ」

友人「え、メシもいいのか? サンキュー!」

― 駅 ―

友人「ところでさ、奥さんに電話しなくてもいいのか?」

男「ああ、大丈夫だ」

友人「ふうん……」

― 男の自宅 ―

男「帰ったぞ!」

友人「お邪魔します」

男「今すぐ俺たちのメシを用意しろ」



妻「あらあなた……お友だちが来るなんて聞いてないわよ」

妻「お夕飯、二人分しか用意してないのに」

友人「だったらオレはこれで帰るよ」

男「なにをいう、食べていけ!」

友人「えっ、でも……」



男「二人分しかないのなら、お前が食べなきゃいい話だ! そうだな?」

妻「はい……」

犬「くぅ~ん……」



友人「ひいっ!? 犬ゥ!?」ビクッ

男「ウチの犬だよ。お前、犬が苦手なのか?」

友人「あ、ああ……すまない」

食卓――

妻「とりあえず、ビールでも……」

男「――ん、なんだこれは!? 全然冷えてないじゃないか!」

男「ビールはいつもキンキンに冷やしとけっていったろ!」

妻「ごめんなさい……」

友人(冷えてると思うけどなぁ……厳しいなぁ)

妻「はい……枝豆」コトッ

男「枝豆!? もっと豪華なツマミを用意しとけ! バカが!」

男「気がきいてないにもほどがある!」

妻「ごめんなさい……」



友人「……」

妻「はい……ご飯」

男「なんだこれは!? こんな貧相なおかずしかないのか!?」

男「せっかく友達が来てくれたのに恥ずかしいだろうが!」

妻「ごめんなさい……」



友人「……」

友人「おい、いい加減にしろよ!」

男「!」

友人「急に家に寄らせてくれなんていったオレが悪いんだからさ……」

男「あ、いや……なにも本気で妻を嫌ってるわけじゃ……」

妻「あっ、ダメ!」

男「しまったァ!」

妻「あなた……」ウットリ…

男「お前……」デレ…





友人(え、なに? この色っぽいムードは……)

友人(さっきまでのギスギスした雰囲気がウソのような……)

男「本当は隠しておきたかったんだが……」

男「こうなった以上……まだ理性が残ってるうちに、説明しとこう……」

男「実は、俺と妻の愛し合いっぷりは磁石のN極とS極みたいなもんなんだ」

友人「へ、磁石?」

男「油断してると、すぐにくっついてしまう……愛し合ってしまう……」

男「だから……常にいがみ合ってないと、嫌い合ってないといけないんだ……」



男「ああっ、もう我慢できない!」ガバッ

妻「あなたぁぁぁぁぁ!」ガバッ

男「うおおおおおおおおっ!」

妻「あなたああああああっ!」





友人「……」

友人(こりゃ当分止まらないだろうな。下手すりゃ明日、会社休むかも……)

友人「夫婦喧嘩は犬も食わぬっていうが、夫婦交尾はどうだ?」

犬「くぅ~ん……」

友人「やっぱり食わないか」

友人「ところで……オレ、さっきは犬嫌いっていったけど」

友人「あれは自分の欲求を抑えるためのウソなんだ。本当は犬が大好きなんだ」ニヤ…

犬「!」ピクッ

犬「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」フリフリ…

友人「どうやらオレとお前も、N極とS極の関係にあったようだな……!」



友人「うおおおおおおおおっ!」ガバッ

犬「ワオォォォォ~~~~ン!」ガバッ







おわり

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