絵里「台風の夜に」 (66)
思いついただけ
低気圧のせいで頭の頭痛が痛いとなげくPKEをちょこちょこ投下する予定
台風11号は近畿地方にいるのに、東京で低気圧?とかは野暮だよ!
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私は台風が嫌い。
だって、低気圧がくるから。
低気圧だと体の節々が痛くなる人がいるという。
私もその一人だ。
ちなみに私は、体の節々ではなく……
絵里「亜梨沙ぁ……頭の頭痛が痛いのぉ……」
ひどい頭痛がするの。
亜梨沙「お姉ちゃん……それ、お腹の腹痛が痛いって言ってるようなもんだよ」
絵里「???何かおかしなこと言ったかしら?」
今回の台風は夜間に日本上陸、寝ている私を痛めつけた。
現在、午前2時。
望遠鏡担いで踏切に行くにはちょうどいい時間かもしれないけど、こんな天気じゃ天体観測どころじゃないわね。
むしろ変態だと観測されちゃうわ。
眠れなくて暇だから亜梨沙を起こしたけど、なんだか不機嫌そうな顔。
亜梨沙「もう……意味わからないこと言わないでよ。おやすみ……」
再び眠りについてしまいました。
亜梨沙に寝られてしまい、何もやることがなくなってしまったわ……
とりあえずテレビをつけたけど、どこもL字の枠が入って電車や飛行機の運行状況とか、どこそこの河川が反乱したとか、
そんなテロップを垂れ流して、命知らずとも言えるリポートをしている人が「大変な雨、風です!」って喚いてるだけ。
……つまんないの。
部屋にもどり、本を読もうにも頭が痛くて集中できないし、キルトを編もうにも同じく集中できない。
もう!なんなのよ低気圧って!!
カーテンをめくり、外の様子を見ると……
ゴォッ!っと風が窓にあたり、一瞬遅れて雨がザザザッっと音を立てて。
はぁ。夜風に当たろうもんなら、瞬間で濡れ鼠ね……
暇つぶしにスマホを見ても、メールも着信もなにも面白いことはないし。
ベッドに入っても頭が痛くて眠れそうにもないわね……
この!台風め!どっか行きなさいよ!!
まぁ、不幸中の幸いにして明日は日曜日だし……このまま台風がすぎるまで起きててもいいんだけど、することがないのよね。
それに明日は台風の影響を考えて、練習もお休み。
かと言って、誰かと遊ぶ予定も立ててなくって……
それに明日になって誰か誘おうにも、多分雨よね。
いわゆる、暇人。
もう!ヒマよ!ヒマヒマヒマーチカ!!
そうだ、寝れないときはストレッチするとイイって聞くわね。
寝起きの鈍った体を伸ばしてほぐし、さあやるわよ!!
まずは腕と足を上に上げて、手首と足首の力を抜きながら筋肉をゆるめるように振る。
楽に見えるけどこれ、意外と腹筋にクるのよね……
次に抱えた膝を胸に引きつけながら、腰からおしり、背中の筋肉を伸ばす。
……おしりの筋肉が伸びる前に、膝が胸に当たるんだけど。
にこくらいまでペッタンコだったら、ちゃんと背筋まで伸びるのかしら?
次は両膝を立てて、左右それぞれにゆっくり倒す。
コツは肩を浮かせないようにする……だったかしら?
これも腹筋にクるわね……!!
うつ伏せになり、腕立ちで上体を反らす。
顎を上げないのがポイントだけど、案外……背筋がキツイっ!
まっすぐにするのは得意だけど、反らすのはあんまり……なのよね。
手を前に伸ばし、おしりを後ろに引きながら、腰から背中の筋肉を伸ばす。
まるでジャパニーズ土下座みたいな格好だけど、これは肩甲骨から脇が伸びるからこのストレッチは好き。
んー!っと伸ばしている時。
ガチャ
亜梨沙「お姉ちゃん、雨の音がうるさくて……」
絵里「……あ」
ストレッチは見られて恥ずかしいものではないハズなのに、この格好だと妙に恥ずかしくなるのはなぜ!?
亜里沙やで
亜里沙「お、お姉ちゃん!?それってまさか、土下座ってやつでしょ!?」
亜里沙「日本式謝罪ではハラキリの次くらいに重い謝罪方法、それが土下座!!」
亜里沙「もしかして、誰かに土下座するための練習なのっ!?それなら私も一緒に謝りにいくから……っ!」
絵里「ち、違うのよ。これは……」
亜里沙「まさか、ハラキリを要求されてるの!?」
絵里「だ、だから……」
亜里沙「ううう……お姉ちゃんのためなら、私だった腹切るよ!!」
絵里「話を聞きなさいっ!」
亜里沙「なーんだ、ただのストレッチだったんだ」
絵里「タイミングが悪かったのよ……」
絵里「ていうか、私のために切腹だなんて。やめてよね、もう」
亜里沙「びっくりしすぎて、私も目が冴えちゃったよ」
絵里「ノックもしないで勝手に入ってくる悪い子は、朝まで起きてなさい」
亜里沙「ええっ!?ご、ごめんなさい……」
絵里「……ふふっ、冗談よ」
絵里「そうは言っても、私も頭が痛くて寝付けないのよね……」
亜里沙「あ、だからストレッチしてたんだ」
絵里「そうよ。……そうだ亜里沙、一緒にストレッチしない?」
亜里沙「うん、いいよ。でも、二人でやるストレッチって……」
絵里「あるかもしれないけど、私は知らないわね……」
亜里沙「ちょっと調べてみよっか」
絵里「……」
亜里沙「……」
絵里「ないわね」
亜里沙「ものの見事に一人用のストレッチばっかりだね……」
絵里「ま、しょうがないわね。一人用のを一緒にしましょうか」
亜里沙「あはは、それしかなさそうだね」
絵里「そういえば、亜里沙って体は柔らかいほうだっけ?」
亜里沙「うーん、お姉ちゃんと違ってバレエとかやってなかったし、普通くらいかな」
絵里「どれくらいか、ちょっと見せて?」
亜里沙「えーっと、前屈でいいかな?」
ヒョイ
亜里沙「っ……くぅっ……」プルプル
絵里「……ダメね、全然ダメね」
亜里沙「っはぁー!!やっぱり、指先が地面に付くくらいが精一杯だよ……」
絵里「堅いのねぇ……」
絵里「ストレッチの前に、軽く体をほぐしましょうか」
亜里沙「うん、お願い。でも、どうやるの?」
絵里「そうねぇ……まずは亜里沙、その座布団に座って」
絵里「それで、腕を上に上げて?ばんざーいってするみたいに」
亜里沙「こう?」
絵里「ちょっと痛かったらごめんね」
ガシッ
亜里沙「え、ちょ……」
絵里「ハァァァァァルァアアショォォォォォォォォウ!!!!」
亜里沙「ぎやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ボキボキゴキゴキベキベキ
亜里沙「ぐすっ……ひどいよお姉ちゃん……信じてたのに……」
絵里「なんだかその言い方、誤解を招くわね……」
絵里「それにほら、肩が軽くなったんじゃない?」
亜里沙「え?……あ!!すごい!!」
絵里「ふふん、こんなもんよ」ドヤチカ
亜里沙「絶対に脱臼させに来たと思ったよ……」
絵里「優しくやろうとするから効果が薄いのよ。ちょっと思い切らないと、本当の効果なんて発揮されないわ!」
亜里沙「もし脱臼したら?」
絵里「…………まぁ、そこまでの力はないと思ってるわ」
亜里沙「その間が怖いんだけど」
絵里「次は足ね!!」
亜里沙「股関節脱臼とか、なんかいろいろ疑われるから優しくしてね?」
絵里「…………最大限の努力はするわ」
亜里沙「保証してよ!!」
絵里「責任は取るわ!!!」
亜里沙「はぁ……」
絵里「まずは仰向けになって膝を抱えて。あ、片足ずつね」
亜里沙「こう?」
絵里「抱えてない方の足は伸ばしてて」
亜里沙「くっ……この時点でちょっとキツイかも……」
絵里「で、私が上から覆いかぶさるようにして……」
亜里沙「お、お姉ちゃん!?足、絡まって……」
絵里「大丈夫、優しくするわ」
亜里沙「うん……」
絵里「スッパスィィィィィバァァァァァァァァ!!!」
亜里沙「あんぎゃあああああああああ!!!!!」ミシミシベキベキ
絵里「どう?腰周りとか、結構快適じゃない?」
亜里沙「あ、本当だ……股関節と貞操がピンチだと思ったのに」
絵里「ね?信用してよかったでしょ?」
亜里沙「……うん、ありがとう、お姉ちゃん!!」
絵里「さて、ここからが本番のストレッチだけれども……」
亜里沙「」ウトウト
絵里「……まぁ、この様子じゃストレッチはいらないみたいね」
絵里「ほら、亜里沙?自分の部屋に戻りなさい?」
亜里沙「うん……そうするね……」
絵里「ちょっと、フラフラじゃないのよ。全く……つかまりなさい?」
亜里沙「え……きゃっ!?」
亜里沙(お姫様だっこ……!!)
絵里「あら、亜里沙……また軽くなった?その年頃は、もっと食べなきゃダメよ?」
亜里沙「あはは……な、夏バテしちゃったのかな///」
絵里「さあ、部屋についたわ。ごめん、手がふさがってるから、扉開けて?」
亜里沙「あ、ここまででいいよ。夜中にごめんね?」
絵里「いいのよ、私もそろそろ寝付けそうだし」
亜里沙「そ、それじゃ一緒に……」
絵里「お休みなさい、亜里沙」
ふぅ……なんかかんややって、もう4時前!?
結構時間食っちゃったかなぁ……
ストレッチ後の心地いい疲れが襲ってきて、どうやら眠れそう。
亜里沙には少しだけ意地悪しちゃったけど、きっと許してくれるわよね?
普段じゃ滅多に起きてない時間に、妹と二人でストレッチするなんて、なかなかニクいじゃないのよ、台風効果。
いつの間にか雨も風も収まって、小ぶりになってる。
台風の度にこんなことが起こるんだったら……少しは台風が好きになれそうね。
でも、もうちょっと勢力は弱くていいのよ?
うーん、と伸びをする。
起きるのは10時頃でいいかしらね?
スマホにタイマーをセットし、ベッドに潜り込むと、頭痛が戻ってくる……
けど、疲れの心地よさには勝てないみたいね。
ふわあ……ああ。背筋が伸びる感じが気持ちいいわ。
それじゃあ、おやすみなさい。
絵里「台風の夜に」 fin
これで終わりですか!?
>>24
これ以上をご所望ですか!?贅沢モンめっ!
出かけるけど、帰ってきたらなんか書くかもね。
まじかよ!
ありがとう、待ってる
乙
そして期待
私は台風が好き。
激しく吹き付ける風に乗って、激しく叩きつける雨。
雨と風が全てを洗い流してくれるような、そんな気がするから。
台風が去った後の町並みが好き。
暴風雨に耐えた街はどこか清々しく、8月も半ばでも新しい気持ちにさせてくれる。
今来ている台風の暴風圏内ではないこの街は、まだ雨足は弱く、風も時折強く吹く程度だ。
雨音をBGMに、新曲を練り始める。
海未からもらった歌詞は、どうやらエリーのソロ曲らしい。
こんな雨の日にぴったりな、少し悲しい感じのする歌詞。
歌詞にあるような星は見えないけど、いつか撮った夜空の写真を見て、網膜に星を投影する。
透き通った星空と雨と風。
ちぐはぐなイメージを一つにする。
…………うん。弾けそう。
鍵盤に手を掛け、頭の中にあるイメージを音に乗せる。
それを私の手が鍵盤を伝って、空気を振動させる。
いけそう!
ことり「わぁ~!楽しみっ!!」
この子さえいなければ、もっと集中できると思うけれど。
真姫「あのねぇ、ことり……もうちょっと静かにしてくれるかしら?」
ことり「あ、ごめんなさい……」
真姫「あ、別に怒ってるわけじゃないのよ?」
ことり「ううん、うるさかったのは本当だもん。『しー』だね?」
そう言ってウィンクし、人差し指を口元にあてる。
その仕草が無邪気で可愛くて、私の頬が紅潮していくのを感じる。
……天然と小悪魔って、紙一重なのかしらね?
静かにしてくれたことり。
おかげで、離しかけてたイメージを再びつかむことができた。
頭の中でできたイメージは画像になり、映像になり、それに音を付け足す。
空は昼なのに、地面は夜。
そんなだまし絵を見たことがあるけれど、どうしても思い出せない。
……紡いできた音が、ピタリと止まってしまう。
ことり「……ん?どうかしたの?」
真姫「ねぇ、ことりって美術とかに詳しい?」
ことり「うーん、どうだろ……詳しいよ!って言える程詳しくはないかも」
真姫「そう……」
ことり「どうかしたの?」
真姫「この曲のイメージが、とある絵画……というか、だまし絵?っていうのかしら。その絵のイメージなんだけど、」
ことり「タイトルが思い出せないとか?」
真姫「そのとおりよ……ああもう!モヤモヤするっ!」
ことり「もしかしたら力になれるかもよ。教えて?」
真姫「えーっとね……確か、そう一軒家。一軒家の絵なの」
ことり「それは……一杯ありそうだね」
真姫「まだ説明は終わってないわよ」
真姫「それで、空は昼なんだけど、家のある地面付近は暗い夜なの」
ことり「あー、見たことある!!」
真姫「でっしょー!?」
ことり「エッシャーじゃないかな……?」
真姫「また有名どころ出したわね……」
そう言ってスマホを弄りだすことり。
いつものことりなら、二人でいるときにスマホをいじることは絶対にないのだが、調べてくれているのだろう。
何やら難しい顔で画面をスライドさせ続けているが、お目当てのモノにはたどり着けないようだ。
ことり「あ!!」
真姫「!!見つけたの!?」
ことり「……電池、切れちゃった……」
まぁ、時間も時間だし、電池だって切れるだろう。
なにせ今は、夜の9時。
そして外は台風が迫り、そんなに遠いわけではないけど、ことりを帰すには気が引ける距離。
極めつけは、私の両親が今日は外泊していて、車で送ってあげることもできないこと。
となると、必然的に泊まってもらうことになった。
……はぁ。
どうしてこんなことになったんだっけ?
少しだけ今日の出来事を振り返ってみることにした。
土曜日の練習は台風が接近しているため、中止。
その替わり、ミーティングという名のダベリ会はあった。
海未とエリーで考えたという、エリーのソロ曲歌詞をもらって、今晩から曲作りをするということを話した。
作曲の都合で歌詞の一部を変えてもらうかもしれないので、二人には家に来てもらうようにお願いしたが、
絵里「台風って、嫌いなのよ……頭の頭痛が痛くなるじゃない?」
海未「私も、家の台風対策で土嚢を積んだり雨戸を取り付けたり、少し忙しいので……」
それなら、一人で気楽に作曲して、後で相談する……つもりだったが。
ことり「あ、それじゃあことりがお邪魔しちゃダメかな?」
真姫「ことりが?いいけど、どうしたの?」
ことり「μ'sの新曲の衣装とかについて、真姫ちゃんのイメージを聞かせてほしくて」
真姫「ごめん。今日はエリーのソロを考える予定なの」
ことり「ライブやるとき、全員のソロ曲をやるよね?その時にみんなでソロ用の衣装も考えたかったんだ♪」
真姫「でも、今日は親がいなくて、」
ことり「それじゃ、ご飯も作ってあげるね!」
真姫「ていうか今晩は台風最接近よ!?」
ことり「きゃー、台風こわーい♪こんな日は誰かと一緒にいたいなぁ……」チラッチラッ
真姫「……もう、好きにしたら?」
ことり「やったー!」
こんな感じで、半ば強引にことりが泊まりに来たのだった……
おお
真姫とことりか
真姫「ことりは……リンゴじゃないのね。ごめん、充電器ないかも……」
ことり「そっかぁ。絵が探せると思ったけど、残念」
そういえば、私の部屋に買ってもらったけど使ってないタブレットがあったような……
少し待っててと言い残し、部屋に向かう。
部屋に入るなり、すっかりオブジェと化したタブレットの埃を払い、充電を確認する。
……確認するまでもないわね。充電器さしっぱなしだったもの。
真姫「はい、お待たせ。これ使ったらどう?」
ことり「あっ、タブレット!しかもこれ、薄いほうだね!」
真姫「買ってもらったけど、使い道がなくて放置してたのよ。電池残量は気にしなくていいから、気の済むまで調べたら?」
ことり「くすくす……やっぱりあの絵のこと、気になるんだね?」
真姫「……まぁ、モヤモヤしてるとイメージが離れていくからね」
>>34 ご期待に添えなかったらごめんよ
テーブルをはさんで向かい合わせ、一つのタブレットを一緒に覗き込む。
あれじゃない、これじゃない。
検索ワードがどうとか、フィルタをかけて絞り込むとか、そんな話をしながら探していると。
ことり「……あれっ?この絵って……」
真姫「ん?どうかした?」
ことり「確か、この森の中を馬が闊歩する絵って、同じ人が書いてたような……」
真姫「……そうなの?この絵は見たことあるけど、それは知らなかったわ」
ことり「ええと、作者は……ルネ・マグリット……」
ピーンと来た!
漫画やアニメだったら豆電球が頭上に出てきてるわ!!
真姫「あーっ!!!そうよ、マグリットよ、マグリット!!!」
真姫「思い出した、『光の帝国』よ!!!」
ことりから奪うようにタブレットを私の方に寄せ、検索します。
光の帝国、っと……
間違ってないはずだけど、実物を見ないとイメージがわかないのよ!!
真姫「ビンゴ……!やった、やったわことり!!」
ことり「おめでとう、真姫ちゃん」
ことり「これで作曲は進みそうかな?」
真姫「ええ、もうこれでばっちりよ!」
頭の中にあるイメージ、星空と雨音と風。
それを連想させる、マグリットの『光の帝国』。
目を閉じ、すぅ、と細く深く呼吸する。
私のなかで音がはじけ飛ぶ。
イメージが氾濫する。
音の洪水が止まらない。
音を紡ぎ、五線譜が次々と埋まっていく。
荒削りだが、一区切りがついた……と、思う。
どのくらい作業を続けただろう?
外の雨は風と共に強くなり、音ノ木坂の街を洗っていく。
ふう、と一息ついたとき。
ことり「お疲れ様でした♪」
真姫「ひゃあっ!?」
ことり「あー、すっかり没頭して、ことりのこと忘れてたなー?」
ごめんねことり、すっかり忘れて作曲してたわ……
なんて、素直に言えるわけないじゃない。
真姫「い、いきなり声かけられたら驚くに決まってるじゃない!!」
ことり「さっきからずっと一緒にいるのに、驚くの?」
真姫「え、えっと……」
言葉が出てこない。
けど、ことりの悲しそうな顔は見たくないのよね……
よし、今日は寝る。
続きもオチも考えてないけど、明日書く。
期待
乙
もう続くだけで満足なのにこの二人の絡みとか大満足ですわ
マグリットね
昔は結構好きだった
乙
真姫「しゅ……集中!そう、集中してる最中だったのよ!」
ことり「一息ついたようにみえたけど?」
くすくす、と笑われる。
これってもしかしなくても、からかわれてる、わよね?
言い訳は効かない……のかも。
真姫「……ごめん、没頭してて忘れてました」
ことり「はい、素直で大変よろしい♪」
頭を撫でられる。
まぁ……撫でられるのは嫌いじゃないけどさ。
自分の顔が再び紅潮していくのがわかる。
それでも精一杯の抵抗で、ムスッとした顔を作るけど、ことりはそれこそが照れ隠しだと言わんばかりにニコニコしている。
自分のことながら、そんなにわかりやすいのかしら……?
ことり「曲は大体できたみたいだね?」
真姫「うん……でもやっぱり、歌詞を一部直したいところがあるのよね」
ことり「というと?」
真姫「些細な部分よ、語尾とか、言い回しとか」
ことり「そこにまで気を配るんだね?」
真姫「気を配るっていうか……歌詞ありきで作曲しているんじゃなくて、曲ありきで歌詞を直してるから……私はまだまだだなぁ、って、痛感するのよ」
ことり「そんなことないと思うんだけどなぁ……」
真姫「そんなことあるのよ。海未だってエリーだって、自分の想いを込めた歌詞を、私の一存で変えられてしまうのよ?」
真姫「私は作詞をしたことがないからわからないけど、それは多分、自分の想いを修正されるようで、あんまり気持ちいいものじゃないと思うの」
ことり「それは……うん。そうかもしれない。けどね?」
ことり「μ'sのみんなは、歌詞の些細な部分を変えたくらいでどうのこうの言わないと思うよ」
ことり「だって真姫ちゃんは、その歌詞に曲を乗せて、より良いものにしようとしてるんだよね?」
ことり「それなら、誰だって文句は言わないし、ことりが誰にも文句を言わせないよ」
真姫「……」
なぜだろう。
心のどこかがスッとした。
私の気持ちを真っ向から否定されたはずなのに、こんなにも晴れやかな気持ち。
そう思ったとき……なにか一つ、腑に落ちるものがあった。
けどそれの正体がわからなかった。
その全貌を解明する前に、もう一つ思い至ることがある。
……あぁ、もしかして私は、今までことりと距離を置いていたのかしら?
ことりと二人で喋る機会がなかったから、ことりとまっすぐに向き合ったことがなかったから知らなかったけど。
こんなにもお人好しで、人懐っこくて、みんなに気配っていて、
こんなにも、暖かい人なんだ……
それに気づいたとき、私の口から言葉が漏れていた。
いつも照れくさくて、いつも言えなかったけど、いつも思っていた言葉が、
いつもと違って、自然と言えた。
真姫「ありがとう、ことり」
おおきてる
ことり「いいえ、どういたしまして♪」
そう返すことりはいつも通りだったけど、それを聞いた私はいつも通りではいられなかった。
……三度目の紅潮と、怒り顔を作るのを失敗した。
口角が上がりっぱなしで、多分とてもみっともない顔になっていたと思う……
真姫「も……もう!」
プイッっと顔を背けるが、耳の熱さが、それは無駄だと教えてくれる。
……なんなのよ!?こんなに照れ隠し下手だったっけ!?
イミワカンナイ!!
その時、窓を叩く風と、それに煽られた雨が窓を叩く音が聞こえる。
もしかして、暴風圏内に入った?
時計を見ると、午前2時。
はぁ……私は一体、何時間ことりを放置して没頭してたのよ!?
真姫「うわ……すごい雨ね」
ことり「今晩中に過ぎてくれるといいんだけど……ふわぁ……」
真姫「あ、こんな時間まで付き合わせちゃってごめんね?」
ことり「え?……うわあ、2時!?真姫ちゃん、5時間も集中してたの!?」
真姫「だからごめんってば!」
ことり「ううう……夜ふかしはお肌の敵だよぉ……アイドルの敵だよぉ……」
真姫「す、スキンケアなら私の貸すから!っていうかことりの肌はケアが必要ないくらい綺麗じゃない!!」
ことり「くすくす……なーんちゃって!」
真姫「へ……?あ、嘘泣きだったの!?」
ことり「もしかして真姫ちゃんって、騙されやすい?あ、だからだまし絵とかで騙されないように特訓してたんだね?」
真姫「そのこじつけはなんなのよ……ああもう、いいからお風呂入っちゃいなさい!」
ことり「はーい♪……あ、でもその前に!」
真姫「ん?なによ?」
ことり「今できたばかりの曲、聞かせてほしいな!」
真姫「えぇ!?さっきまで散々聞いてたんじゃないの?」
ことり「さっきまでは作曲途中でしょ?最初から最後まで、通して聞きたいの!」
ことり「ねぇ……おねがぁい♪」
くっ……!!これが噂に聞く『おねがぁい♪』攻撃!?
これは強烈ね……ていうか、別に断る理由もないし?
って、こんな風に思っちゃうあたり、既にお願い攻撃の術中なのかしら……
真姫「まぁ……別にいいわよ?」
ことり「やったぁ!」
真姫「でも、まだ練習すらしてないから、完璧には弾けないわよ。それでもいいの?」
ことり「うん、そっちのほうがいいな」
真姫「そっちの……って、完璧じゃないほうが?どうして?」
ことり「だって練習を重ねたら、今の演奏は聞けないんでしょ?それなら、これから弾いてもらうのは、私が聞くのが最初で最後だよ」
ことり「なんだか、とっても特別な感じがしない?」
真姫「……まぁ、ことりがそれがいいって言うなら……」
さっき書き込んだ五線譜を見つめなおす。
……こんな落書きのような譜面、外にはとても持ち出せないわね……
頭に浮かんだイメージに出来上がったメロディを乗せ、鍵盤の上を指先が踊る。
海未とエリーが書いた綺麗な字を目で追い、腹から喉を震わせて、空気の振動を起こす。
幾度も書き直した譜面は自分でも読みづらく、躓いたり間延びしたり、完璧とはとても言えない演奏。
それでも私は、この一度きりの演奏をことりのために完奏した。
ふぅ、とため息。
ことりは本当にこんな拙い演奏でよかったのかな……?
パチパチパチパチ……
ことり「すっごい綺麗な曲だね!!でもこの歌詞って……」
真姫「うん……どういう気持ちで書いたのかわからないけど、ちょっと悲しい曲よね」
ことり「その悲しさを悲しさとして、ストレートに表現してる……うん、ことりはこの曲、すっごい好きになりそう」
真姫「そう言ってもらえると、作曲した甲斐があるわね」
ことり「えへへ、この曲を聴いたのは、ことりが最初だねっ♪」
真姫「残念、それは私よ?だって、頭の中にメロディができているんだもの」
ことり「ぶー、作曲者は聴いたうちにはいりませーん」
真姫「なによそれ!全く……ほら、お風呂入っちゃいなさい!」
ことり「はーい♪……あ、そうだ!ねぇねぇ真姫ちゃん真姫ちゃん!!」
真姫「なによ……」
ことり「一緒にお風呂入ろ?」
真姫「それはダメ」
ことり「えぇ~?いいじゃん、女の子同士なんだし、恥ずかしがることもないよー?」
真姫「ダメったらダメなのっ」
ことり「うぅ……おねが」
真姫「ごめんっ!……流石にちょっと疲れてるから、一人で入りたいのよ」
真姫「また今度泊まりに来た時、一緒に入りましょ?ね?」
ことり「むー!真姫ちゃんの意地っ張りー!今度は絶対に引きずり込んでやるんだからー!!」
真姫「はいはい、期待しないで待ってるわよ……って、そっちはキッチンよ!お風呂はこっちー!!」
真姫「……はぁ、ヤバかった……」
そう、ヤバかった。
だって今日の私はなんかおかしい。
普段ならこんなにも慌てたり、表情が作れなくなることなんて絶対にないのに、ことりの前では全部が引っペがされる。
お人好しで人懐っこいとかことりのことを思ったけど、それに一つ追加しとくわ。
とても魅力的な女性、ってね。
ことり「ふぅ~、いいお湯でした♪」
真姫「上がった?それじゃあ今度は私が入ってくるから、部屋に上がってて」
ことり「はーい、お邪魔しまーす」
真姫「……覗かないでね?」
ことり「覗くくらいなら、堂々と見に行くもん!」
真姫「鍵掛けとくわ」
ことり「あーん冗談だよー!」
真姫「……油断ならないわね」
チャプン、と湯船に浸かる。
ああ……溶けていきそう。
流石に5時間も集中しっぱなしだと、疲れてるのね……
ことりと一緒にお風呂入るといろいろヤバいっての以外に、疲れていたからというのも本当。
ゆらゆらと揺れる水面を見つめ、一つ思い返す。
ことりから私の気持ちを否定されて、晴れやかになったあの気持ち。
何かが腑に落ちたけど、それの正体がわからなかった。
それは少し違っていた。
何かが腑に落ちたのではなくて、きっと私が恋に墜ちたのだろう。
お風呂から上がり、自分の部屋へ向かう。
そして、部屋の前で足が止まってしまう。
この扉の向こうには、ことりがいる。
恋してしまったと気づいた相手がいる。
……はぁ。こんなの、伝えようがないじゃないのよ。
至って平静な気持ちを装い、扉を開ける。
真姫「お待たせ、ことり」
ことり「あ、真姫ちゃんお帰りー」
真姫「少し長湯しちゃったわね」
ことり「ううん、大丈夫。タブレットで遊んでたから」
真姫「そういえば貸しっぱなしだったわね」
ことり「真姫ちゃんもゲームとかやるんだね?」
真姫「そりゃ、おもちゃのつもりで買ってもらったものだしね」
ことり「3時も過ぎちゃったし、そろそろ寝よっか?」
真姫「ちょっと待ってて。まだ髪乾かしてなくて……」
ことり「あ、それじゃあことりがやってあげる!」
真姫「ええ!?いや、それは……」
ことり「一緒にお風呂入ってくれなかったんだし、それくらいはいいでしょ?」
真姫「……まぁ、いいけど」
ことまきっていいですね
ことり「わぁ!やっぱり真姫ちゃんの髪って綺麗だねー!」
真姫「ありがと。でもことりのほうが髪長いのに、よくそんなに綺麗な髪でいられるわね」
ことり「でもことり、くせっ毛だから……」
真姫「あら、それを言ったら私だってかなりのクセよ?」
ことり「でも真姫ちゃんのはふわふわで、気持ちいーよねー」
ことり「私は……ううっ……」
真姫「トサカっぽいクセも可愛いわよ?それにほら、理事長も同じようなクセついてるじゃない。遺伝よ、きっと」
ことり「うーん……私はあんまり好きじゃないんだけど……」
真姫「そうなの?私は好きよ」
言ってからハッとする。
な、なに言ってるのよ、西木野真姫!
ことりの前だと素直になれるけど、そこまで素直じゃなくても……!ああもう!恥ずかしい!!
ことり「えへへ。そう言ってもらえると嬉しいな。ありがとう、真姫ちゃん♪」
真姫「……っ!」
ことり「はい、このくらいでいいかな?」
真姫「あ、ありがと……」
天然と小悪魔は紙一重とは言ったけれど、ことりはどっちでもなく、『天然の小悪魔』をやってるわね。
器用なことしてるけど、本人には自覚ないんでしょうね。
もう、やられるこっちは照れっぱなしじゃない……
ことり「ふわぁぁぁ……っと、はしたなかったかな」
真姫「まぁ、もうじき4時だし、しょうがないんじゃない?私もそろそろ眠いし……」
ことり「うーん、せっかく真姫ちゃんの部屋きたんだから、もうちょっとあそびたい……ふわぁ……」
真姫「限界みたいじゃないのよ。それじゃ、お客さん用の布団用意するわね」
ことり「うん、ありがとー……」
よかった……!一緒に寝ようとか言われなくてよかった!!
そんなことしたら、理性が耐えられる自信がないもの。
さて、お客さん用の布団って……あれ?
そういえば、どこにあるのかしら?
真姫「ごめん、ことり……」
ことり「ん?どうしたの?」
真姫「お客さん用の布団、どこにしまってあるかわからないの……」
ことり「えっと、それじゃあ……」
真姫「うん、私はソファで寝るから、ことりはベッドを使って頂戴」
ことり「ええっ!?それはダメだよ!それならことりがソファで……」
真姫「それこそダメ!お客さんをソファで寝かせるなんて、絶対にダメ!」
ことり「それじゃあことりが床で寝る!」
真姫「なにそれイミワンナイ!!」
ことり「ていうか、一緒にベッドで寝ればいいんだよっ!」
真姫「……」
出てしまった。
出て欲しくない案が。
正直、これを否定してしまっては、ことりを悲しませることになりそうな気がする。
朝まで私の理性が耐えてくれるかしら……?
せめて枕くらいは使ってと申し出たけど、お気に入りの枕以外では逆に寝付けないそうで、
仕方なく私が腕枕をしている。
ていうか、なんで腕枕を強要してくるのよ……
もちろん腕枕をしている以上、普通に寝るよりも密着している。
半ば抱きしめているにも近い格好をしているけれど、私の理性は耐えてくれている。
ベッドに入るなり、ことりは早々に寝息をたて始めたので、ますます腕枕をやめるタイミングがなくなってしまった。
……いい匂いがする。これって、ことりの……?
次第に私の意識も遠のき、そのままの格好で寝てしまった。
翌朝。
というか、もう10時だけれど。
ことりを起こさないよう気をつけながらベッドを抜け出し、音ノ木坂の街を見下ろす。
私は台風が好き。
雨と風が全てを洗い流してくれるような、そんな気がするから。
私は台風が去った後の町並みが好き。
暴風雨に耐えた街は雨に濡れ、輝いて見える。
ことりに私の気持ちを否定された時に晴れやかな気持ちになった。
それは、この台風が去った後の町並みを彷彿とさせたから、かな。
うーん、と伸びをする。
雨に打たれた街は先週までの熱気を全て奪われ、今朝は清々しい空気が満ちている。
ピアノが置いてある部屋の窓を全開にし、空気を入れ替える。
昨晩の楽譜を見て、やっぱり今はこっちではなく、あの曲を弾きたい気分。
私の部屋でまだ寝ていることりを起こさないように、優しいタッチで鍵盤の上を指が踊る。
元々フォルテが少ない曲だけど、気持ち的にはメゾピアノ。
まだ夢の中の寝坊助な、私のお姫様へ贈ろうか。
この気持ちを曲ではなく言葉にして伝えられるのはいつ?
愛してるばんざーい!
おまけ fin
おまけのほうが長いって何事だ。
疲れた、そろそろ腰据えて長編書きたい。
おつー
乙!いいものをありがとう
乙
ありがとう
文章は頑張りましょうってところだけど、雰囲気はすげぇよかったよ、乙!
謎の上から目線
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