書き溜めはまったくありません。のろのろ進行。
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─ 192 ─
きっと別の世界の、とある未来でのこと。
どうしてか荒れ果てた大地に、怪物が一匹、ぽつり。
怪物は何が何だかわかりません。それもそのはず、彼はいつの間にかそこにいただけなのです。
生まれた記憶も、今まで生きてきた記憶も、全く無く。
まるでたった今、急にそこに生まれたかのようでした。
けれども何もわからないかといえば、そうでもなく。
歩けばのしのしと音がする。ものを投げれば勝手に落ちるし、水に触れば少し冷たい。そんなことくらいはわかっていました。
なので、特に行く宛てはなくとも、とりあえず彼はのしのしと歩き出しました。
空は、まるで大地を包むようにどんより曇り。
地面は、少し歩くたびに何かを踏み砕いたような音がするほど、人工物のようななにかがばらばらに散乱し。
そして人影はおろか、生物すらも見当たらず。
怪物は、少し困惑していました。
─ 180 ─
半日ほど歩いたところで、怪物はなにやら町のようなものを見つけました。
ひょっとしたら何かがわかるかもしれない。と、早歩きに変わります。のしのしのし、のしのしのし。
町にだいぶ近付いたあたりで、先ほどまでの荒れ果てた大地よりは幾分かマシな、ある程度は整った地面を歩けるようになりました。
けれどもやはり、何かが散乱しているのには変わらず、ぐしゃり、ぱきん、べこり、と最早聞き飽きた音は依然鳴り止みません。
少しして町に入ったあとも、それは変わらなかったのです。
人は家に住む。それは怪物もわかっていることで、町に入ったあとにどうするかといえば、もちろん町中の家を探し回り、人を探す、ということ。
まず最初に訪ねたのは、すぐ近くにあったごく普通の民家。
幸い、どういうわけか言葉はわかる怪物は、人との話し方なんかよりも、己の外見の恐ろしさを気にしていました。
顔は自分では見ることができませんが、腕や胴や足を見る限りでは、まず大きさはふつうの人間よりも一回りも大きいくらいで。
四肢の筋肉の付き方は明らかに人間のそれではなく。
なんでも掴めそうな、これまた一回り大きい手には、なんでも砕くことができるほどの力を込めることができると、怪物はすでに理解していました。
怪物は、恐ろしいほどの力持ちだったのです。
そんな怪物を、普通の人間が怖がることくらい、彼にだって、誰にだってわかります。
なので、もし人が出てきたら、まず第一声は『安心して、あなたを傷つけたりはしない』にしようと決めていました。
しかし、結局それを言う機会もなく、ただただ待つばかりの時間は流れていきました。
きっと人は住んでいないのだろう。なにせこんなにガレキか何かが散乱している町だ。きっとどこかに引っ越したんだ。
と思った怪物は、少し申し訳ないと思いつつも、ドアを無理やりこじ開けて民家に入ることにしました。
ドアとその縁との間にある、狭い狭い溝。そこを押し広げながら、無理やり指を突っ込んでいきます。めりめりと、木の折れていく音。
奥のほうまで指が入ったところで、今度はドアをがしりと掴み、鍵などおかまいなしに思い切りこじ開けました。今度は、ばきん、と木の砕ける音。
怪物は、入り口に対して大きめなその身体を少しひねって家に入りました。
玄関に入ると、道が左右に分かれていたので、怪物は、なんとなく右の通路へ進みました。
どうやら先はリビングのようで、広い部屋がちらりと見えます。
のしのし、のしのし……と進み、その部屋に入ろうとした正にその時、その足音はぴたりと止みました。
怪物は見てしまったのです。
首に引っ張られてるかのように、ぶらぶらと揺れている頭と胴体を。
いえ、それは怪物が一瞬で考えただけのことに過ぎません。
彼が見たのは、つまり首吊りをした人だったのです。
自殺。
怪物だって知っています。
だからこそ、すぐに家を飛び出たのでしょう。
彼に感情が人並みにあったからこそ、それを見た途端に気分が悪くなったのです。
そして、なんなんだ、なんなんだ、と混乱しました。
すぐにわかったのは、この町で何かがあったということ。
けれど、それが何なのかは全くわからなかったのです。
だから、彼は再び、他の民家を訪ねるのを始めました。
二度と無理やり家には入らないと誓いながら。
それから、何件、何十件と民家を訪ねて回りました。
もうすぐ夜なのか、もともと暗かった空がいっそう暗くなります。
もう、このままぼーっと過ごしてしまおうか。と怪物は思いました。
しかしその時。少し向こうの民家の2階に、ぱっ、と明りが灯ったのです。
彼は無性に嬉しくなりました。
人がいるかもしれない、何かわかるかもしれない。
そして何より、彼はさびしかったのです。
怪獣は走り出しました。先ほどまでの、のしのしという音ではありません。
ずん、ずん、ずん………彼が通りすぎるたびに、いくつかのガレキがころころとバランスを失って転げ落ちます。
怪獣としては、本当に小走り程度だったのですが、彼は腕力だけではなく、脚力までもが凄まじかったのです。
大きく、ごつごつとした身体が、風をびゅんびゅん切っていきます。
あっという間に、その民家の前に辿り着きました。
すんませんちょいと用事です。多分明日あたりにでも続きを書こうかと。
期待
今気づいたんですけど>>7で「怪物」が「怪獣」になっちゃってました。脳内修正でお願いします。
─ 174 ─
大声を出すのは、むしろ相手を怖がらせてしまうのではないか。と考えた怪物は、その家のドアを軽くノックしました。
しかし力の強い彼のことです。そのノックは思いのほか大きな音を立ててしまいました。どん、どん。
ああ、しまった。これではやはりこの家の人を怖がらせてしまう。……怪物は、不安になりながら、何かしらの返答を待ちます。
1、2分ほどした時でしょうか。ふと、2階のベランダから、扉がからからと開く音が聞こえたのです。
怪物はそれはもう嬉しくなり、のしのしとベランダの見える位置まで下がります。
そして、扉の向こうから、ぺた、ぺた、と裸足で歩く音が聞こえ、ひょこっ、と少年が顔を出しました。
少年は、無言で目をぱちくりしながら怪物の方を見つめています。
ああ、人だ、まだ居た。怪物は、何時間か前に言おうとしていた言葉をもう一度思い出し、そして口をゆっくり開けます。
それと同時に、少年も、ゆっくりと口を開け。
「あ───」
「あ───」
「安心して、あなたを傷つけたりはしない」
「あなた、誰?」
二人とも、第一声が重なってしまいました。
少しの間が空いて、また口を開いたのは少年の方でした。
「えっと……とりあえず、上がって。鍵、開いてるから」
そう言うと、扉の向こうへぺたぺたと戻り、扉を閉めました。
怪物は、ゆっくりと進み、ドアノブに手をかけます。
そして、壊さないように、慎重にノブを下げ、ゆっくりとドアを開けました。
家の中は真っ暗で、明りが灯っているのは2階だけのようです。
やはり彼にとって狭い入り口を通り、玄関に入ると、2階へのものと思われる階段を見つけました。
こちらも彼の身体がぎりぎり入るくらいの幅で、少し身体を斜めに傾けながら、階段に足をかけ、上ります。
のし、のし、ぎし、ぎし、のし、のし、ぎし、ぎし。階段を上がるたび、彼の重さに木が軋む音が聞こえます。
それを聞いたのでしょう。少年は、一足先に階段の上で、壁に寄りかかって待っていました。
先ほどとは違い、間近で見るその怪物の容姿に、少年は少し怯えます。
「……こっち」
怪物が階段を上りきるのを見たところで、少年はそう言い、壁に手をかけながら向こうにある扉の開いた部屋へ歩いて行きました。
怪物も、それに続きます。一応、ある程度の距離を置いて。
部屋の入り口に立ったところで、少年が、
「いいよ、入って」
と言ったので、ゆっくり、できるだけ怖がらせないように、怪物は部屋へ入りました。
怪物が部屋に入ると、少年は、ふらふらとした足取りで、真っ先にベッドへ向かいました。
そして、ベッドに手を置き、そのままぱたりと横たわってしまったのです。
怪物はそれを見て、ぎくりとしました。ひょっとしたらこの少年、具合が悪いのかもしれない。と。
「だ──大丈夫か」
怪物が呼びかけると、少年は仰向けになり、そして手の甲を額に当てて答えます。
「ああ………歩くと、少し疲れるんだ。大丈夫、少し待っていて」
怪物はおずおずと腰を下ろし、少年が何かしら言うのを、少し俯いて待ちます。
少しすると、少年が深呼吸を始めました。
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」
それを聞き、怪物はふたたび顔を上げ、少年の方を見ました。
少年は、ベッドに対して横向きに寝ていた身体を、ゆっくりと正しい向きに変え、そして怪物の方を見て言います。
「起きているとしんどいから……何か話すならこのままでいいかな」
怪物はすぐ答えます。
「ああ、そのままで、大丈夫」
「助かるよ」
少年が言い、そして続けます。
「それで──あなたは、誰?」
怪物は、困った顔をしました。
そうです、彼は自分が何なのかわからないのです。
なので、偽ることなく、そのまま答えました。
「俺、は………わからない、自分が何なのかも、よくわからない」
少年も困惑しました。どうやら、予想していた答えと違ったようです。
「え………宇宙人じゃないの?」
そう言った少年に、怪物はそのまま質問をします。
「宇宙人?」
「ほら……偵察に来た宇宙人、とか……」
偵察に来た宇宙人……? と、怪物はますます混乱します。
宇宙人、という単語は、彼は知っていました。どうやら、そのあたりの一般常識は心得ているようです。
しかし、それはあくまで空想や仮説に過ぎないものだということも、わかっていました。
少年は、続けます。
「もしかして、アレとは違う星の宇宙人……?」
「…………?」
どんどん理解できない方向へ進む話に、怪物は全くついて行けません。
このままではらちが明かないので、怪物は、一旦話の流れを止めることにしました。
「ま……待ってくれ、どういうことか、まったくわからない」
それを聞いて、少年は、怪物に自らを説明してもらう方がきっと早い、と思ったのでしょう。
「……ごめん、一方的すぎた。そっちから何か、聞かせてくれないかな?」
しかし、怪物は自分の名前すらわかりません。なので、1日ほど前からの出来事を話すことにしました。
「わかった」
怪物が答え、少年が静かに続きを待ちます。
「まず──1日と、半日くらい前。この町から大分離れた、どこかの荒れ地に………俺はいた」
「まるでその時に現れたみたいに、何もわからなかった。名前も、今までのことも」
「だから、歩いて………この町に辿り着いて、人を探そうと思った。でも、最初に入った家に……」
そこまで言い、怪物はあの光景を思い出して気分が悪くなり、一瞬話すのが止まります。
「……首を吊って、自殺している人がいた」
そう言うと、少年は察したように「ああ……」と呟きます。
「すぐに家を飛び出て、そのあと、何時間も町中の家を探した」
「そして、さっき、この家で君を見つけた」
少年は、話が終わったのを理解し、今度は簡単に聞きます。
「じゃあ……記憶喪失の、謎の……生物?」
怪物、と言わなかったのは、もしかしたら怪物を怒らせてしまうかもしれない、と少し怖がったからなのでしょう。
そんな少年の気遣いに気づいた怪物は、
「怪物で、いい。……俺も、自分が明らかに人じゃないことくらい、わかってる」
と、少し暗いトーンで答えます。
そして、いざ自分の聞きたかったことを問います。
「それより………なぜ、こんなに町中が荒れていて、人も全くいないのか、聞かせてほしい」
少年も、「わかった」と承諾しました。
そして、本当に何も知らない怪物に、まるでタイムスリップしてきた過去の人間に物事を教えるかのように、話し始めます。
「……理由は、たった一つなんだ」
それは、嫌な思い出でも語るような口調。
「今から、約1年前」
「地球に、宇宙人の乗り物と思われるものと、その操縦者の一匹の宇宙人が、落下してきたんだ」
怪物は、信じられない、と考えながら、しかし黙々と聞き続けます。
「世界中でニュースになった。でも、たいていの一般人……僕もだけど、それをほとんど信じてはいなかったんだ」
「でも、それを完全に信じたのは次の日のこと」
「どうやら、その宇宙人はしばらくしてから周囲の人間を無差別に殺傷したみたいでね。もちろんその時には大量に集まっていた軍隊に……殺された」
「そして、その宇宙人の母星でも、そのことは伝わったみたいなんだ。……だから」
「巨大な宇宙船を、地球に送り込んできた」
怪物は、冗談かと思いました。しかし、少年のその口調から、すべて真実なのだと受け入れました。
「でも、その時に攻撃を受けて、こんな、この町みたいなことになったんじゃないんだよ」
「その宇宙船は、ただ全人類に伝言を届けにきただけだったらしいんだ」
少年は、怪物を見ていた頭を、天井の丸い蛍光灯へ向けて向きを変え。
そして、その蛍光灯をまるで地球に見立てたかのように、それに向けて腕を上げ、指を銃の形にして向けて、言いました。
「……一年後に、地球を破壊するレーザーを撃つ、ってね」
そう言うと、腕から力をふっと抜き、ベッドの上にぼさりと落とします。
「あとは、わかるでしょ?そんなことになったら、世界中はパニック。町じゃ強盗、殺人が大量に起きたんだ」
怪物は、ようやく見つけた理由に、驚愕しました。そして、少年の話を先読みするように言います。
「………そして、こんなことに」
「……うん」
少年はそう頷き、話の終わりを示しました。
そこで怪物は気付きました。この少年には、自分とは違い、親や兄弟がいたはずだ。と。
そして、もしかして、と思いました。
「もしかして────」
でも、彼の心を傷つけることになってしまうのではないか、と思った怪物は、あえてそこで聞くのをやめました。
少年は、それを察し、自ら話します。
「気にしないで。……僕の家族のこと、でしょ?」
怪物は、申し訳なさそうに、こくり、と頷きました。
「うちには両親と僕1人、つまり3人家族だったんだ───けど、1年前、その知らせがあって少しして、親は2人ともどこかへ出かけた。『外の様子を見てくる』……って言ってね」
「まあ………わかってると思うけど、その後、一度も戻ってきてないよ。いやに荷物がまとまっていたし、きっと僕を置いて逃げたんだろうね」
怪物は少年の心境を悟り、申し訳ないことを話させてしまった、と後悔しました。
しかし、1つ気になった点があった怪物は、あえて聞いてみたのです。
「つらい事を、話させてしまった……すまない。けど、どうして君の両親は、君を置いて……」
少年は端的に、既に諦めているかのように答えました。
「僕さ───その時から、重い病気にかかってたんだ。治せないし、身体はどんどん衰弱して、世話も大変……」
「極めつけは、うちの親が比較的冷たい人だったってことかな。あと1年で世界が終わるっていうのに、息子の世話でバタバタしていられるか、って感じだと思うよ」
軽く話す少年とは真逆に、怪物は、なんて酷い人間なんだ、と心の奥底から思いました。
怪物の心は、その見た目とは裏腹に、とても人間らしかったのです。
その両親に怒りを覚えるとともに、少年に同情をしました。
「……つらく、ないのか」
「…………人間、案外すぐ慣れるものだよ」
言葉ではそう言いますが、きっと少年は辛いのでしょう。
怪物もわかっていました。だから、こんな暗い話より、何か話を変えよう、と思ったのです。
「そ、そうだ………そういえば、君は、俺の姿、怖くないのか?てっきり、人間は怖がるものかと、思っていた」
少年は、んー、と少し悩み、
「いや、最初は怖かったけど………いや、今も見た目だけならちょっと怖いかな。でも、思ったより人間らしいし、なにより僕を襲ったりしないから、そこまでじゃない」
……よかった。怪物は心底安心しました。
そして、少年も怪物に話題を振ります。
「ねえ、少し僕の話し相手をしてくれないかな。しばらく1人だったから、話すにも話せなかったことが、たくさんあるんだ」
怪物は喜んで答えました。
「もちろん。俺も、少し寂しかった」
─ 169 ─
それからしばらく、少年と怪物は談笑していました。
だんだんと少年のことや、自分の知らなかったこの世界のことを知り、うれしくなる怪物。
だんだんと怪物のことを理解し、そして仲良くなろうとする少年。
二人は、徐々に打ち解けていったのです。
そしてそんな時、だいぶ暗くなる空をふと見た怪物は、あることを思い出しました。
約1年前に、1年後に地球に向けてレーザーを撃つ。と。
ということは、ひょっとしてもうすぐなんじゃないか。と思ったのです。
なので、楽しい話の流れを申し訳なさそうに切り、少年に聞きました。
「な、なあ………急になんだが、そのレーザーが撃たれるまで、あと、何日くらいなんだ?」
少年は、ああ、と言い、壁にかかっている時計を見ます。
「もうこんな時間だったんだ……ほら、あとちょっとで、日付も変わる」
怪物も、そちらの方向を見ます。確かに、あと数秒で0時ぴったりになるところです。
そして、3本の針が「12」を指す瞬間に、少年は怪物の問いに答えます。
「あと、1週間だよ」
かちり、と針が同時に動きます。
─ 168 ─
~ 168時間で君にしてあげられるいくつかのこと ~
今日はここまで。
前置きが長々しくなってしまったようです。
これはかなり期待
面白そうだ
期待
あまりに短い、残された時間。
怪物はすぐに悟りました。ああ、きっと自分は、自分の正体さえわからないまま、滅んでいくんだろう、と。
けれど、そんな事を考えたのも束の間、怪物はすぐに少年のことを気にし始めました。
重病で、親に見離され、長い間、一人きり。
残された時間は、1週間。
ただ自分の正体がわからないだけの自分と、今まで一人ぼっちで寂しい思いをしてきた少年。
自分だから、他人だから、という贔屓を抜きにしても、自分のことよりも少年のことが不憫で仕方がありませんでした。
詳しい理屈など知ったことではない、あまりに可哀想で、理不尽だ。怪物は、やせ細った少年をちらと見て、そう思いました。
そして唐突に、ある考えが浮かびました。
何か、何かしてあげたい。この少年が、せめて少しでも後悔無く、死んでゆけるように。と。
そして自分にも、後悔のないように。と。
「何か、やりたい事とか、ないか」
決断するや否や、怪物はすぐに少年に問いました。
1しゅう
少年は、急な質問に対し、聞き返します。
「急にどうしたの?」
しまった、唐突すぎた。思った怪物は、簡単に自分のやりたいことを説明し始めます。
「俺ははじめ、自分が何なのか知りたかった、探りたかった。でも、もう止めた。それ以上にやりたい事ができた」
「あくまで俺の、自己満足のため、君に、後悔なくこの1週間を過ごしてほしい、と思ったんだ」
少年は、一瞬嬉しそうな顔をしましたが、すぐに俯いて、今度は少し無理に笑顔を作って答えました。
「……ありがとう、すごく嬉しいよ。でも、僕なんかのために1週間使っちゃうなんて、もったいないし、なんだか悪いよ」
そんなことはない、と怪物が言いかけたのを遮るように、少年が続けます。
「今日は、話に付き合ってくれてありがとう、久しぶりに楽しかったよ。1週間前に、楽しい思い出ができて、十分さ。だから、自分のために、好きなこと、やりたいことをしなよ」
……無理をしてる、きっと自分のことを気にかけてくれているんだろう。怪物はすぐに気が付きました。
だからこそ、ここで退く訳にはいかなかったのです。
「君に喜んでもらえることを、したい。それが、俺のやりたいことなんだ。だから、お願いだ、自分勝手でも、君のためにやらせてくれ」
4行目消し忘れました、とりあえず続けます
少年は、俯いたまま言います。
「本当に、それでいいの?自分が誰なのかわからないまま死んじゃうなんて、悲しいとは思わない?」
怪物はすぐに答えます。
「確かに、悲しいかもしれない。けど、君が、寂しい思いをして死んでいくのは、もっと悲しい」
怪物は、こんな醜い自分の正体を知っても、仕方がないと思っていました。
少年は、申し訳なさそうに、しぶしぶと、しかし先ほどまで俯いていた顔をしっかりと怪物の方に向かせ、言いました。
「じゃあ……お願いするよ。……でも、それ以外に何かしたいことが見つかったら、そっちを優先してほしい」
怪物は、嬉しそうにこくりこくりと頷きました。
「もちろんだ、ありがとう。最高の、最期の1週間にしてみせるよ」
「うん、よろしく」
そう言うと、少年は今度こそ、無理に作ったものではない笑みを見せました。
怪物も、その醜い顔をかすかに動かしました。きっと、彼もにこりと微笑んだのでしょう。
「……それで、何かやりたいことはあるのか?」
怪物は、改めて聞きなおします。
「えっと……」
少年が、少し気恥ずかしそうに言います。
「正直、いっぱいある」
「なら、やりがいがあっていいな」
想定外の反応に、少年は聞き返します。
「面倒じゃない?」
怪物は、当然のように言います。
「全然、そんなことはない」
じゃあ、と少年は切り出しました。
「久しぶりに……家の外、歩いてみたいな。……ううん、見てみるだけでもいい」
よしきたと、怪物は張り切りました。
「なら、俺の腕か肩にでも座ればいい、俺が歩いて回ろう」
「じゃあ……うん、そうさせてもらう。……けど、今からは、ちょっと無理かもね」
時計をちらと見て少年が言います。
怪物も時計を見ました。なるほど、確かに、とすぐに納得します。
「もう1時か」
─ 167 ─
その後、ひとまず少年と怪物は眠ることにしました。
少年は怪物に布団を貸そうかと訪ねましたが、あっても無くても、このごつごつした身体じゃ変わらないさ、と怪物は言い、床に寝転がりました。
無意識のうちに時間を浪費してしまう睡眠なんて、この残り少ない時間の中ではあまりしたがらないものでしょう。
しかし、彼らは、翌日の朝がとても楽しみで楽しみで、そんなことはお構いなしにすぐに眠りに就きました。
時間は、その間も、無慈悲に、平等に流れていきました。
静まり返った部屋の中で余計濃く音が聞こえる時計の音は、まるで全人類と一匹の怪物の、命のカウントダウンのようで。
今はまだ、それをまっすぐに聞くことは、彼らにはできませんでした。
すいません眠いんでこのあたりで。
期待作
これはい・・・・・・あれ?最終カキコが19日前!?
トリップつけとけ
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