【鬼滅の刃】もう嘘はつけない【ぎゆしの】 (23)

エイプリルフールネタ
キメ学設定です

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「…卒業式はこの前終わったはずだが?」

 久しぶりの再開にも関わらず、無愛想に冨岡先生が言う。

「えぇ、だから今日は忘れ物を取りに来ただけですよ」

 嘘だ。忘れ物なんてない。けれどいいのだ。今日はエイプリルフール。嘘をついてもいい日なのだから。

「全く…わざわざこんな日に来なくても…カナエ先生に持って帰ってもらえば良かっただろう」

 その通りだ。反論のしようがない。けれど私は、嘘をついてでも今日冨岡先生に会わなければならないのだ。今日、冨岡先生に告白しなければならない。

「ところで先生、どうですか?キメツ学園の生徒ではなくなった私は?」
「…それは卒業式の日に散々言ったはずだが?」
「いえいえ、卒業式が終わったと言っても三月の間はここの生徒でしたから」

 そう、私はもう女子高生ではないのだ。つまり、もう告白をしても、付き合ってもなんの問題もない。だから今日、年度が変わったその日に告白をしようと決めていた。早くしないと、誰かに先を越されてしまう。こう見えて、冨岡先生は人気があるのだ。

全く、こんな無愛想な人の何がいいのだろう、無闇にライバルを増やさないでほしいと他人事のように考えていると冨岡先生が口を開いた。

「全く…教室でいいのか?」
「はい、お手数をおかけします」

 教室で、二人っきりになったら告白するのだ。自信ならある。コミュニケーションが致命的に苦手な冨岡先生のフォローをしてきたのは私だし、お昼ご飯だって一緒に食べた。大好物の鮭大根をお弁当にして持っていったこともある。だからきっと大丈夫…そんなことを考えていると…

『冨岡先生、冨岡先生、お客様がお越しです。至急職員室まで』

 教室に向かう廊下に放送が鳴り響く。計画に水をさされてしまった。冨岡先生は、一瞬どうしようか考えてから口を開く。

「…鍵を渡しておく。先に行って探していればいい」

 用事が終われば俺も行く。そう言って、冨岡先生は職員室に戻って行った。

「はぁ…まさかこんなタイミングで…」

 鍵を開け、ガラリとドアを鳴らして教室に入る。つい先日まで、みんなと一緒に過ごした教室。この部屋の中が世界の全てだと思っていた教室が、知らない顔に変わっていた。もうこの部屋は私たちのものではないのだ。

「…遅いですね」

 当然探すべき忘れ物などない私は暇を持て余す。けれど、私が何もしていないことを差し引いても相当な時間がかかっている…何か嫌な予感がする。

「…見に行きますか」

 勝手知ったる学校なのをいいことに、鍵を閉め、職員室の方向へ向かう。しかし、冨岡先生は職員室に辿り着く前に見つかった。

「と、冨岡先生!ずっと…ずっと前から好きでした!つ、付き合ってください!」

 なんと、あろうことか中庭で告白をされているではないか。私は思わず見つからないように隠れてしまった。そっと相手の顔を見る。クラスは違うが、同じ学年の女の子だ。そういえば、彼女も冨岡先生が好きだと言っていた。放送で流れたお客様とは彼女のことだったのか。なんということだ、先を越されてしまった。

「…悪いが君の想いに応えることはできない」

 冨岡先生が断る。私はほっと胸を撫で下ろす。良かったまだチャンスはある。けれど、次の瞬間、彼女が信じられない言葉を放った。

「は、はは…う、嘘ですよ…冨岡先生、エイプリルフールです」
「…なんだ、そうだったのか」

 ひっかかりましたねと、続ける彼女の目は全然笑えていなかった。そっちの方がよっぽど嘘だ。振られたショックをごまかしているだけではないか。けれど、私の方はその一言で告白ができなくなってしまった。こんなタイミングで告白なんてしたら、私の告白まで嘘だと思われてしまう。

「すまないな、人を待たせているから、失礼する」

 冨岡先生がこっちにやってくる。いけない、早く立たないと。立って気持ちを切り替えなければ。

「なんだ、胡蝶。忘れ物は見つかったのか?」
「…ッ」

 悔しくてたまらない。ずっと前から好きだった?そんなの私だって同じだ。いや、私の方がずっとずっと、それこそ前世から冨岡さんのことが好きだった。

 鬼がいない世に生まれ、もう毒を飲むことも、無理な鍛錬をする必要もなくなった。お互いに姉の仇など討たなくても良い世の中になった。だから、きっと今度こそ想いを伝えられる。きっと今度こそ一緒に笑い合える。そう思っていたのに、あの子が自分を守るためだけについた嘘のせいで…悔しくてたまらない。

「はい、見つかりました。ありがとうございます」

 とにかく今日のところは出直そう。そして、また明日、頃合いを見て告白すれば良いのだ。大丈夫。前世から何年も何年も待ってきたのだから。高々一日ではないか。待つことなんて慣れっこだ。そう思っているはずなのに。

「胡蝶…」
「見ないでください!」

 何故か涙が止まらない。ダメだ、早く泣き止まないと、冨岡先生に迷惑がかかる。早く泣き止め、感情の制御ができないのは未熟者だ。

「胡蝶…」

 冨岡先生はなおも優しく声をかけてくる。本当に空気が読めない。こっちは優しくされればされるほど、涙が溢れて止まらないと言うのに。そんな乙女心など解さないのだろう。

「…昼休みは十二時からだ」
「…はい?」

 冨岡先生の発言が突拍子もないのはいつものことだけれど、今回のは本当に意味がわからない。

「…俺は嘘をつくのは嫌いだ」
「冨岡先生…どういう意味ですか?」
「…だから、エイプリルフールは午前中までだろう?」
「え?」

 まさか、冨岡先生がそんなことを知っているとは思わず驚いて声を出してしまった。

「だから、十二時にもう一度来い。今度は忘れ物をしたなんて嘘はつかなくていい」
「そ、それは…」
「それに…」
「それに?」
「告白は、男の俺からしたい」

 告げられた言葉に私は固まってしまう。こんなに幸せなことがあってもいいのだろうか。ひょっとして、これは冨岡先生がいつもの仕返しについた嘘なのではないだろうか。

「じゃあ、俺は仕事に戻る」

 そう言って冨岡先生は戻っていく。その後ろ姿の赤い耳を見て、嘘ではないと確信した。そうだ、彼は前世から嘘がつけるような人間じゃなかった。

「どうしよう…」

 次に会う時には、エイプリルフールは終わっている。もう嘘は使えない。『冨岡先生に告白してもらいに来ました』なんて、言えるだろうか。
 残り時間は約三時間。その間に嘘ではない理由を考えないといけない。

終わり

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