島村卯月「この剣と魔法の世界に平和を取り戻す」 (995)

 アイドルマスターシンデレラガールズのキャラクターをファンタジー世界で活躍させてみた。
異世界ワープものではなく、まさに直接その世界に彼女達がいる設定なので、
イメージと異なる役職、若干の性格改変、言動があります、ご注意ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405913544

 険しい山々に囲まれた、外部から孤立している大きな地域があった。
いや、地域というよりも隔離されたひとつの世界といっても差し支えがないほどの大きさ、
さまざまな種族や国、文化や技術が入り乱れた空間ではありとあらゆる意志が生まれ、
それぞれが自身や仲間と共に信念を貫くための行動を起こす。
……結果、競争が生まれ、徐々に平和が乱される。

今は小さい、国全土には広がらない抗争、しかし確実に波紋は広がる。

 ――――とある、才に優れた一人の人物が居た。
その力を持って、数少ない仲間と共に争いを抑えた。
しかし活動できる範囲には限界があり、隙間から漏れ出す火種を全て消すことはできない。
やがて、その人物は全ての力を使い“願いを叶える経典”を作り上げ、その番人となる。

 全ての人物が使いこなせるわけではない、厳しい制約をくぐり抜けられる人物を探さなければならない。
『今の世界』の現状を、良くも悪くも変えられる人物の手に経典を授ける、それが番人の役目。

 次に経典を授けられる人物は、誰か?



――駄目、この世界線の住人は……閉塞状態を破る事は出来なかった。

次は誰に、この経典“シンデレラ”を授けよう……?

正義に手渡せば平和に向かう。悪に手渡せば、それはそれで多くの正義が目を覚ます。

大事なのはズルズルと衰退を続ける現状を大きく変える風、それが必要……!

強い、願いを求める意志と、実際にそれを遂行できる人物……

……この世界線から、感じる




・・

・・・

凛「…………」

卯月「見張り、疲れたでしょ? 代わるよ?」

凛「ありがとう。でも、私達が何か村のために出来る事って、これぐらいだから」

卯月「だからって、一人でずーっと見てるわけにもいかないでしょ? 私とミオちゃんもいるんだから交代交代!」

凛「……分かった、肝心な時に体調崩したら、それこそ本末転倒だもんね。休んでくるよ」

卯月「うんうん、しばらくは私に任せて!」



卯月「……はぁ。とは言ったものの、これからどうなるんだろう?」

卯月「今は対応できても、そのうち抵抗もできない相手が攻めてきたら……」

卯月「私じゃ、守りきれないかな?」

――…………

愛梨「……こんにちは」

卯月「え? だ、誰……!?」

愛梨「私はアイリ。……この経典を授けるに値する人物を探して旅をしています」

卯月「……何かの組織への勧誘ならお断りします」

愛梨「勧誘……あながち間違ってはいないかもしれませんが、これは重要な事です。……そちらに行っても?」

卯月「駄目です! これ以上近づくなら私が相手を――――」

愛梨「では、この場で構いません」

卯月「……へ?」

愛梨「私は侵略者ではありません。……それに、そう遠くない未来、この地は戦火に堕ちるでしょう」

卯月「そ、そんな事、私がさせません!」

愛梨「私から見て、あなたには実力と経験が足りない」

卯月「っ……!」

愛梨「……しかし、環境には恵まれています。いい師と友に会えたようですね」

――ドサッ

愛梨「この経典は、あなたの力になるでしょう、うまく使って下さいね……?」

フッ……

卯月「え、ちょっと! ――――消えちゃった……本、置いて行っちゃったけど何だろう、罠……とか?」

未央「やっほー! しぶりんからしまむーが一人と聞いてお邪魔しに来ちゃった!」

卯月「あ、ミオちゃん……あっ!」

未央「ん? 何この分厚い本、しまむーこんなの読むの? へー、ペラペラと……」

卯月「読んで大丈夫なの!? 変な罠とかない!?」

未央「だって普通の本だよ?」

卯月「かもしれないけど……ああ、ちょっと説明するから一旦閉じて!」




・・

・・・

未央「誰か知らない人が置いていった?」

卯月「うん……なんだか『この経典が力になる』とかなんとか言ってたような」

未央「なにそれ、怪しい宗教?」

卯月「には見えなかった……とも言い切れないような」

未央「じゃ、気にしない気にしない! 貰っておけばいいんじゃないかな、呪いの道具とかだと困るけど……
   お金の請求するつもりならこんなへんぴな村に来ないって!」

卯月「の、呪いとかやめてよ! 何か変な言葉でも書いてあったの!?」

未央「いんや、なーんにも書いてない、真っ新……お?」



―― ~ Cinderella ~



未央「しん……で、れら?」

卯月「何か書いてたの?」

未央「シンデレラ、だって。聞いた事ある?」

卯月「童話?」

未央「だよねぇ」

未央「でもこれ以外何も書いてないみたい」

卯月「……置いていったものを捨てるのも嫌かな」

未央「じゃあ持って帰っちゃおう!」

卯月「そうするしかない、かな」




・・

・・・


凛「あれ、帰ってきたの?」

未央「ちょっとトラブルというか、どうしたもんかなー、って事案が発生してね」

卯月「リンちゃんって、これが何か分かる?」

凛「その分厚い本? ……やめてよ、私がそんな辞書みたいな話の本知ってるわけないじゃん」

卯月「本……なのかな、これ。見て欲しいんだけど、何も書いてないんだよ?」

未央「ただ、シンデレラって文字だけ、それ以外はなーんにもない」

凛「シンデレラって、童話?」

未央「それしか思い当たる節はないけど、でもそれだけじゃないみたいなんだよ」

卯月「うん、さっき村の入り口で――」

凛「怪しい」

未央「でしょー?」

卯月「ちょ、ちょっと! 持って帰ろうって言ったのはミオちゃんで……」

凛「もっと警戒しなきゃ駄目だよ、ただでさえこんな状況なのに」

卯月「……ごめん」

凛「この村を狙う誰かの策略の可能性があるなら、この本は村長さんに管理して貰おうよ」

未央「捨てるのも嫌だし!」

凛「ミオ、一応そっちも怒った方がいい? 私」

未央「なんで!?」

凛「なんでじゃないよ! 本を開けたのはミオでしょ? 危ない事をして……!」

未央「ごめんごめんしぶりんー! 肘で小突かないで!」





村長「……あなた達、これをどこで!?」

卯月「えっ……?」

未央「も、もしかして誰かの私物だった!? ちちち違いますって! 私達盗んでなんか――」

村長「……言い方が悪かったわね。誰かの物とかじゃないの、いや……誰かの物なんて代物じゃないのよ」

凛「この本が何か、既に知ってるんですか?」

村長「そうね、こんな辺境の村で教えても仕方がない知識だったから言う時期を逃したけど……
   モノを知っている人なら候補としてすぐに挙がるほどの代物よ」

卯月「そんなに!? でも、すごいお宝かもしれないそれを私は人から貰ったっていうのは変じゃないですか……?」

村長「実はそこがこの本、いや、経典を本物である確証なの」

村長「経典に書かれたシンデレラ、正式名称“灰姫の経典”は、この世界で作られた確かな物資、
   でも技術、魔法、科学も、全てを用いても説明がつかない謎の力が込められている物なのよ」

村長「そして、同じような“人類を越えた技術”が使われている道具は、この世に十あると言われている」

卯月「……あっ! そのお話なら聞いたことがあるような」

凛「この本の事、知ってたの?」

卯月「本じゃなくて……でも言われてみれば、この本は確かに――」

卯月「十大秘宝、でしたっけ?」

村長「正解。十大と言われながら、正確な用途含む詳細が完全に判明しているのは、たったの三つ」

卯月「十個のうち、一つは名称すら分からないとか……」

未央「それって九大秘宝でいいんじゃないの?」

卯月「存在はしているらしいよ」

村長「ま、それに関してのお勉強は今度ってことで……肝心の“灰姫の経典”、これなんだけど」

凛「ウヅキ、名前が分かったって事は詳細も分かるの?」

卯月「いや……ちょっと」

未央「でもでも、秘宝とか言われてるなら凄い力があるんじゃないの?」

村長「ええ、あるわよ。この経典が持つ力は……ずばり、願いを叶える力」





未央「ええええええ!? こ、この本にそんな力が!?」

凛「とてもそうには見えないけど……」

村長「偽物じゃない理由も一緒に説明するわ。この経典は誰かの手に渡った後、常に消滅する。
   そして、新たな人へと“届けられる”、ある人物の手によって……」

未央「それがさっき言ってた変な人?」

卯月「変な人、って言っちゃったけど……」

村長「……届けに来るのは、かつて世界の抗争を終息させようと動いた、英雄と呼ばれたうちの一人」

村長「そのリーダー格、アイリ」

凛「アイリ……ああ、あの。 ……ウヅキ、会ったんだ?」

卯月「そうみたい……」

凛「過去の偉人を、知らないのはどうかと思うな」

卯月「ご、ごめん」

村長「……とにかく、本人から手渡されたなら本物。で、問題はどうしてあなたに渡されたか、よ」

未央「しまむーが貰ったなら好きに使っていいんじゃない? 大金持ちの最強になれるよ!」

村長「あ、駄目よ? この経典は預かるから」

未央「へっ?」

村長「別に私が使うわけじゃないのよ、この経典にも謎が多いから」

凛「謎が多いと、どうして私達が持ってはいけないって事になるの?」

村長「願いが叶う、それは紛れもなく人知を超えた力よ。何の代償も無しに使える訳がない」

凛「前例は?」

村長「無いわね、でも代償が無いと考える方が変じゃないかしら? そういう意味で、私は誰にもこれを使わせない」

卯月「無条件で願いが叶うなら……もっとこの本を巡って争いが起きるよね」

未央「じゃあ何か要求されちゃうんだ、よかったー、変に願い事してなくて……危険察知能力あるかもね、私!」

卯月「私が何か言う前に本開いたじゃん」

未央「あは、あはは……」




・・

・・・


卯月(結局、あの経典は村長さんが預かっちゃいました)

卯月「願い……って言っても、特に叶えたいものなんて無いし」

卯月「最後までミオは『この自己流派を世に広めるんだー』って経典に噛り付いてたけど」

卯月「さっきの人がアイリさんか……」

卯月(私もそのうち、英雄なんて呼ばれるくらい有名になれるかな……いや、私だけじゃなくて、三人で)

卯月「陽が沈んできたね……夜遅くに森を出歩く人なんていないし、そろそろ引き上げようかな……」

卯月「……!」

卯月(何か、聞こえた!)

卯月「アイリさん……じゃないよね。獣でもない、慎重に近づいてる……?」

卯月(まさか……敵襲?)

――ガサッ

卯月「――そこっ!」

――バシュン!

卯月「……反応は無い? 魔力は打ち込んだはずだけど」



凛「どうしたの? 声が聞こえたけど」

卯月「あっ、リンちゃん……気を付けて、誰かがいるかもしれない」

凛「動物じゃなくて、人?」

卯月「たぶん……そんな気配がする」

凛「ミオも呼んできた方がいい?」

卯月「いや、大丈夫……かな? 襲撃、って時間帯じゃないし」

凛「夜に森を出歩くのは危ないから、確かにそうかも。だとすると、何?」

卯月「森で迷った人?」

凛「かもしれないね――」

――ドシュッ!

凛「危ない!」

卯月「あっ!?」

――キィン!

卯月「あ、ありがとう」

凛「弓矢。完全に人だね、それも……」

卯月「攻撃してきた……!」

凛「ウヅキ、私がここで相手をするから村に報告してきて」

卯月「駄目! 相手が一人とは限らないから危ないよ!」

凛「でも連絡はしなきゃ、その方が危険だよ」

卯月「じゃあ私が残るからリンちゃんが!」

凛「だからそれだと一人になって危ないから――」



未央「しぶりんおっそーい、しまむーの様子見てくるって言っていつまで喋ってるのさー」

凛「ミオ! いいところに来た……けど、その前にここは危ない! 気を付けて!」

未央「危ない? それってどういう――」

――ドシュッ!

凛「しまっ……!」

卯月「ミオちゃん避けて!」

未央「ん? ……げっ!?」

――パシィッ!

未央「っ~……危ない危ない。何これ、矢?」

未央「って、ああっ! とっさに使っちゃったよリング……今日はそんなに作ってないのにー!」

卯月「いや、今使わなかったら直撃だったよ?」

未央「むー、誰だ! 出てこい! このミオ=ホンダが成敗してくれるっ!」

――ガサッ

弓男「なんだこのガキは……矢を蹴り飛ばしたり素手で掴み取ったり……」

剣男「部隊からはぐれたものの、新たな国が見つかって手柄だと思ったのにな」



凛「……近くの抗争の兵隊みたいだね」

卯月「はぐれた、って事は……幸い、戦火が目の前に来てるって事じゃないみたいだけど」

凛「どのみち逃がしちゃ駄目……この村の存在が知られたら、もっと大きな部隊が来る可能性もある」

未央「じゃあやっつけないとね! 村長さんに私たちの実力を評価してもらうチャンスだよ!」

――ダッ!

凛「相手は二人だけど、はぐれたのが二人とは限らない……地の利はこっちにある、逃がさない!」

――シュッ

卯月「あっ! 待って二人共!」

――タタッ



剣男「見張りが近づいてきたぞ」

弓男「ここで俺達がドンパチする必要は無いな、戦力的にもだ……退くぞ!」

凛「逃げられると」

未央「思わないでね!」

卯月「早いよ二人共ー!」

剣男「……ふんっ!」

――ブンッ!

未央「うわっち!?」

剣男「なんだ、俺の所は一人か……なら逃げるより仕留めた方が早いか?」

未央「やる気? 私強いよ?」

剣男「戦場では男の方が多く狩り出されるんだ、意味が分かる……かっ!」

――ブンッ!

未央「でもね、国のトップは女性のが多いんだよっと!」

――バシィッ!

剣男「っと……へへ、弓矢を素手で掴んだ時は驚いたが、所詮この程度の攻撃なら痛くも痒くもないぜ」

未央「私も出来ることなら使いたくないんだよ? 補充が面倒だし」

剣男「余裕見てたら痛い目見るぜ!」

未央「おっと危ない!」

剣男「さて、いつまで避けられるか――」

未央「避けるのは得意じゃないからね……勿体ないけど、行くぞぉぉ!!」

カッ――バキィッ!!

剣男「うっ、おっ!?」

未央「ふぅー……爽快爽快」

剣男(こいつ……拳だけで鉄製の剣を叩き折りやがった……!)

未央「……これで反撃は無いから温存できるね」

剣男「さっきから温存とか勿体ないとか、何も武器を持ってないくせになんなんだ……! ……くそっ!」

――スチャッ

未央「え、短刀とか卑怯じゃーん!」

剣男「うるせぇ! これでトドメ――」

未央「また折らなくちゃ……いいや、面倒だし、直接行っちゃうよ!」

剣男(向かってきた!? だがこっちの方が先に攻撃でき――)

未央「吹っ飛べぇぇええ!!」

――キィン!!

剣男(アイツの腕が光っ……早――!?)

未央「加速ッ!!」

ドッ……バキィッ!!

剣男「が――――」



未央「やりすぎたかなぁ。でも一個ぶんしか使ってないんだけど」

未央(あの男の人を殴って吹っ飛ばした衝撃で、一直線に木がなぎ倒されて行っちゃった)

未央「一見か弱い女の子だけど、代々伝わるこの輪っか、『パワーリング』を使って爆発的な力を発揮するのだ!
   弓矢も掴み取れるほど繊細な動きとスピード、木ごとなぎ倒すパワー!」

未央「消耗品だから自分で補充しないといけないのが欠点だけど……って、聞いてないよね」

未央「私は終わったけど、もう一人はどこに言ったんだろう?」

:ミオ=ホンダ(本田 未央)
 同上、ウヅキの幼馴染かつ同じ村の住人。
持ち前の明るい性格でポジティブかつムードメーカー。一見何も特殊な技術才能を持たない彼女だが
『パワーリング』と呼ばれる強力な腕力強化を可能とする古代の道具を扱うことができる数少ない人物。

凛「また会ったね」

弓男「チッ、先回りか……木の上で待機とは余裕だな?」

凛「ウヅキは撒いたみたいだけど、私から簡単には逃げられないと思って」

――ドシュッ! キィン!

凛「遅いよ」

弓男「遅いって、ボウガンだぞボウガン」

凛「そう言う名前なんだ、確かに弓とは少し違うみたいだけど……でも、関係ない!」

弓男(跳んだ!?)

凛「倒す」

弓男「危ねっ……!」

凛「そこっ!」

弓男(とにかく距離を離さねぇと……どっからでも蹴りが飛んできやがる)

――ダッ!

凛「逃がさない――」

弓男「へっ、走って追いかけてきやがったな! 体が前に傾いた瞬間は蹴りが飛んでこねぇだろ!?
   その妙に光ってるブーツがお前の武器だろ? 蹴りしかやってねぇしな!」

凛「後者は当たり、これが私の武器……だけど、ここから攻撃できないとは言ってないよ」

弓男「ん!? 消え――」

凛「下だよ」

弓男「馬鹿な――ぐはっ!?」

凛「『シュート』!」

弓男(ぐっ……無理矢理前転から足を上に振りぬいて……俺をカチ上げやがった!)

凛「空中なんて不慣れでしょ、弓も構えてる暇は無さそうだね」

弓男「ま、まだ……!」

凛「言われてからじゃ、遅いよ!」

――ガッ!!

弓男「お――」

凛「バイバイ」

――グシャッ!



凛「地面に向かって叩きつけただけだから、死んでないとは思うけど」

凛「蹴りだけでも、弓矢に対抗できるでしょ?」

:リン=シブヤ(渋谷 凛)
 ウヅキの幼馴染、同じく戦火の迫る村に住む住人。
クールな性格と外見、しかし戦闘面では己の肉体と、それを補助する武器のみで勝負を挑むホットな一面も。
常に身に着けているブーツに嵌められた蒼い宝玉が彼女の力の源、華麗な足捌きで相手を圧倒する。

卯月「誰もいないっ!!」

卯月「追いかけてた人も見失うし、私全然活躍してない……」

卯月「……いったん戻ろうかな」



卯月「入口に帰ってきたけど……二人は帰って来てないみたい」

卯月「本格的に何もなく終わっちゃうよ……で、でも丁度いい機会だし、村に報告を……
   いやいやいや、相手が二人とも限らないしリンちゃんとミオちゃんから逃れて帰ってくる相手もいるかも」

卯月「そうと決まれば私はここから動かないよ!」

卯月「……」

卯月(……)

卯月「…………んっ?」

――ガサガサッ

卯月「ふふ、このまま誰も来なくてオチ担当なんて予感がしてましたけど、誰かが来たようですね?」

卯月「私がいる限り、村への侵略は許しませ……ん……?」

――ガサガサガサガサ

卯月(気配が……多い……!)

――サッ

卯月(か、隠れてどうするのウヅキ! 入口で見張っておかないと――)

卯月(…………いや、あまりにも気配が多すぎる!?)



男A「偵察が帰って来ないから様子を見に来たが……村の守りは居なくなっている」

男B「同時に偵察も居なくなったのはどういう訳だ」

男C「森へ引きつけたのか? だとしたら村の守りは相当お粗末だが」



卯月(二人、三人……いや、十人以上……!?)

卯月(人数は決して多くない、でもさすがに私一人じゃ……)

卯月(村に戻らなきゃ――)

――パキッ

男A「ん?」

卯月「しまっ……!」

男B「誰かいるぞ!」

卯月「こうなったら……いけっ!」

男C「なん――ぐおっ!」

卯月「たぁー!!」

――ドゴッ!

男B「女……!?」

男A「しかも直接攻撃して来やがった!」

男C「痛っ……子供の力じゃねぇぞ……多少なりとも戦闘の心得がある」

卯月(あまり効いてない……! だからといって退くには遅い……!)

卯月「纏めて……飛んでけー!!」

――ピキィン! ガガガガ……!

男A「な、なんだこりゃ――」

男B「地面に沿ってデケぇ衝撃波……! うおっ――」

卯月「魔力を地面に打ち付けて、その衝撃波で纏めて吹き飛ばす……!
   村を守るのはこれからの私達、この技、名付けて『ジェネレーションウェイブ』!」

――ドドドド!!

男C「ぐおおおお!!」



卯月(っ……でも、全員に標準は向けられなかった、まだ残っている敵がいるはず――)

男D「この女……! 魔法の使い手なら接近戦は――ぐふっ!?」

卯月「毎日リンちゃんとミオちゃんの戦い方を見てるから、私にも真似できる!」

――ドガッ!

男E「じゃあ遠距離はどうだ!」

卯月(弓! さすがに受け止めたり弾いたりするのは――)

男E「喰らえ!」

――ヒュッ

男E「んっ――ぐはッ!?」

男F「なんだ今のは……!?」

??「うちの切り込み隊長の蹴りだよ、侵入者の皆さん、っと!!」

――ドガァッ!!

男F「ぐふぁっ!?」

凛「ごめん、遅れた」

未央「ひーふーみー、こりゃあいっぱい居るね……もう、またリングが減っちゃうよ」

卯月「二人とも!」

凛「思っていたよりも多いね」

未央「でーもー? 私たち三人なら?」

卯月「……だ、大丈夫!」

男A「チッ、増えてやがる」

男C「入口で手間取ってたら気づかれるぞ! 戦闘員はこいつ等だけだ、さっさと村本体を叩け!」

凛「通さないけどね」

卯月「どうしてこんな大部隊に……!?」

凛「さぁね、それだけ戦火が近いって事かな……!」

未央「ぜー……ぜー……それにしても――」

男B「数で押してるのに突破できないだと……」

卯月「本気で頑張ってるのに誰も倒せないなんて……」

凛「これが実戦かな……私達は経験不足ってこと……」

男A「持久戦は有利だが、あまり時間を掛けるのはよくない、一気に行くぞ!」

卯月「来た――っと!?」

――ガクン

凛「ウヅキ!?」

卯月(膝がっ……!? 体力が尽きてた……?)

男C「チャンス!」

未央「危ない!」

――キィン!

男C「チッ、だが!」

男D「数では勝ってんだよ!」

――バシッ!

未央「うわわっ!?」

凛「ミオ――」

男B「人の心配をしてる場合じゃねぇぞ!」

凛「しまっ……!」

――ガスッ!

凛「っう!?」

男E「相手が怯んだ! 今のうちに突破だ!」

卯月「リンちゃん! ミオちゃん! ……くっ、私が――」

男A「邪魔だ!」

――ドゴッ!

卯月「あっ……ぐぅ!?」

卯月(一人、ふた……駄目、止められない――――)

凛「い、行かせない……待て――」

男E「さっきはよくも蹴り飛ばしてくれたな、お前の相手は俺だ!」

――バキッ!

凛「っあぅ!?」

未央「しぶりん! こっの……!」

――ガシッ

未央「なに……っ!?」

男F「ようやく帰ってきた、さっきのはいい一撃だったぜ……?」

未央「うっそ、割と全力だったのに――」

男F「オラッ!!」

未央「がふっ!?」

卯月「うっ……くっ、私が……止めなきゃ…………えっ?」

卯月(攻撃が、来ない……静か……)

卯月(……!?)

卯月「そう、か……私には、誰も……」

卯月(止めるまでもない、って事……?)



――ドォン



卯月(村の方角から……!?)

卯月「立たなきゃ……立って、止めに行かなきゃ……っあ」

――ドサッ

卯月「はぁっ、はぁっ……!」

卯月(こんな所で、私は一人で何を……? リンちゃんと、ミオちゃんも助けに行かないと駄目なのに)

――バタッ

卯月「っ……村長さん……私は……!」

ドガッ! ガタン

卯月「ひっ!? ……あっ、あれは…………」

卯月(村長が保管するって言ってた……経典…………あれ、なんでこんなトコに……?)



――無償で願いが叶うはずがない、代償を求められる。



卯月(そんなことは……もう、どうでもいい)

卯月(これが目の前にあって、この現状……)

卯月「私は、どうなってもいいから……願いを叶える経典さん…………この村と、私の仲間を救って――――」




・・

・・・

卯月「…………えっ!?」



――ようこそ、シンデレラの館……ではなく、空間へ。



卯月「あなたは……!」

愛梨「二度目ですね、ウヅキさん」

卯月「あっ、あの、あのっ、ここは……?! 皆は……?!」

愛梨「落ち着いて、まだ時間は経過していませんし場所も変わっていません」

卯月「変わってないって……こんな、変な色のふわふわした……ええっ?」

愛梨「言い方を変えましょうか、ここは……場所は変わっていません、あなたの村です」

愛梨「ですが、あなたの持っていた経典により作られた空間、と言いましょうか」

卯月「あの本……!」



愛梨「普段はこの場所へ人を招く事はありませんが、あなたの願いは返答に急を要する」

卯月「私の願い……もしかして」

愛梨「あれ、自分で言っていたじゃありませんか。……この村と、私の仲間を救って、と」

卯月「叶えてくれるんですか!?」

愛梨「ウヅキさん次第、としか言いようがありません」

卯月「っ……だ、大丈夫です。覚悟は出来てます! 私はどうなっても――」

愛梨「あ、えっと、そういう意味ではありません。私が何かするではなく、ウヅキさんの頑張り次第、ということです」

卯月「それは……どういうことですか?」

愛梨「……この経典の名前、他で聞いたことはありませんか?」

卯月「それは、童話です。魔女によって綺麗なお姫様になって、王子様と結ばれる話です……でも、それとどういう関係が?」

愛梨「願いを叶える、確かそう説明されていましたね?」

卯月「はっ、はい、村長さんからはそう……願いを叶えるという大きすぎる力は簡単に使えるはずがない、
   絶対に何か大きなリスクを支払う羽目になる、だから軽々しく使うなって」

愛梨「そこが少し違います」

愛梨「もう一つ、童話の解釈も私とは異なりますね」

卯月「えっ……?」

愛梨「魔女は確かに主人公を姫に飾り立てましたが、魔法が切れた彼女を探した王子は、
   その後の普段の彼女を見て幻滅しましたか?」

愛梨「見事、結ばれました。これは彼女自身の魅力が元からあったから、です」

卯月「……やっぱり、世界は才能で決まるんですか?」

愛梨「こういう考え方も出来ませんか? 彼女は確かに魅力はあった、でもそれに気づいていなかっただけ。
   どんな境遇の人でも、磨けば光る才能があると」

卯月「ですけど……」

愛梨「きっかけは必要です、それが童話では魔女だっただけ。
   ……この経典は、願いを叶えると言われていますが、実はそんな万能の力はありません」

愛梨「所有者の『才能』を見抜き、提示された『願い』を叶えるために必要な『手順』を教えるだけです」

愛梨「だからこそ、願いを叶える障害が高い、代償を支払う……などと言われてきました」

卯月「……」

愛梨「可能な願いしか叶えられない。ね? 十大秘宝なんて言われているけど、そんなに凄い経典じゃないでしょ?」

卯月「可能な……お願いしか叶えられない?」

愛梨「そう」

卯月「じゃあ、私が今、この不思議な空間にいるということは?」

愛梨「あなたの思っている通りです。村を守りたい、みんなを救いたい、あなたなら経典に頼らなくても可能です」

愛梨「……ですが、可能なだけで、実際にどう動けばいいか、何をすればいいか、それが分からない」

愛梨「経典に、もう一度願ってください……『あなたは村を、仲間を救いたい』ですか?」

卯月「…………はい!」

愛梨「承りました……経典は、あなたにシンデレラとなるための願いを叶えましょう……!」



:ウヅキ=シマムラ(島村 卯月)
 戦火が迫る、小さな村の住人。
平々凡々な身体能力に秘められた大きな魔力の才をとある冒険者に見出され、他に類を見ない“友愛属性”を操る魔法使い。
戦闘は得意とも苦手とも言い切れない、魔法使いにも関わらず周囲の人間に影響されてか身体強化による接近戦を好む。

:アイリ(十時 愛梨)
 かつて戦火の鎮圧に取り組んだ英雄の一人、国内でもトップクラスの魔法技術を持ち、経典を作った一人。
大きな力を経典に与える代償として彼女含む英雄達は何らかの力を失っている。
愛梨は強大な魔力こそ多少の損失で済んだが“実体”を失い、世界へ介入する方法が経典を介してのみになった。

 戦火を自分達で抑えきれないと悟った彼女達は“未来の才ある人物”に自分の力を利用してもらおうと
経典を製作、いくつもの世界線を巡って、可能性のある人を探す。
いずれ経典とそれを授ける人物の手によって平和な世界が戻ってくることを願って。

卯月「……はっ!」

卯月(今のは何だったんだろう……本当に、願いが叶うの?)

卯月「…………そうだ! 二人を探さないと!」

――タッタッタッ



卯月「ふっ……ふっ……」

卯月(私、まだ……走れる……! 落ち込んだ気持ちがいけなかったんだ……!)

卯月「前を向けば、走れる!」



凛「っく、けほっ……」

男E「そろそろ体力切れか?」

凛(こんなに神経と体力を削るなんて……本当の勝負が……!)

男E「行くぜ!」

凛「く……!」

卯月「させないっ!!」

――キィン!

凛「う、ウヅキ!?」

卯月「大丈夫!? 私はもう、大丈夫だから!」

男E「なんだなんだ、もう復活してきやがった……だが、それでも限界のはず――」

卯月「私は! みんなを! 守る!!」

――ゴォオッ!!

卯月「魔力を手に……振りぬく!『スマイリングハート』!!」

男E「所詮女の一撃は軽――」

――ズガァンッ!!

男「…………っはっ!?」

凛(いつも見ているものより……強い!?)

卯月「はぁ、はぁ……やった……!」

凛「ウヅキ……今のは……」

卯月「リンちゃんを、守りたかったから!」

凛(……ウヅキらしいや)

卯月「……はっ、こうしちゃいられない! ミオちゃんの方にも行かなきゃ!」

凛「それは急がないと……!」



未央「無い!」

男F「急に重てぇ一撃が来なくなったな? 先のものに比べて軽いぜ?」

未央(使いすぎた……というより、長期戦に向いてないなぁ私っ……!)

男F「おらっ!」

未央(っー……!)

――ドドドド

男F「んっ?」

――ズドドドドドド!!!

男F「うおおおお!?」

未央(これはしまむーの……って、どこから――デカっ!?)

未央「あわわっ!」

男F「ぐぅおおお!!」

――ドガァン!!



未央「いつものより……大きい……?」

卯月「ご、ごめん! 巻き込む所だったっ!」

未央(あんなに遠くからこの大きさの衝撃波を……!?)

卯月「……怒ってる?」

未央「え? あ、いやいや! 助けてくれてすっごいありがと! もうリング残ってなくてね……明日いっぱい作っておかなきゃ……」

凛「……個々の課題は見つかったね」

卯月「まだまだ力不足だったよ、私たちは……」

凛「そうかな……ウヅキは真の力、出せたんじゃない?」

卯月「えっ?」

卯月(アイリさんの……お願いのおかげかな? ……お願い、はっ!)

卯月「そ、そうだ! まだ何人かが村に向かってるんだよ! 早く追いかけなきゃ!」

未央「まずい、そうだったね……」

凛「早く戻ろう、私たちがなんとかしなきゃ――」

凛「到着した……でも、静か……?」

未央「誰も来てない、はずはないのに……」

卯月「……? 待って、何か声が――」

??「ぁぁぁあああ!!」

未央「いっ!?」

――ドシャァッ!!

未央「っ……あれ、何? なにが飛んできたの?」

凛「これ……人、しかも――」

男A「な、そんな…………」

卯月「さっきの人……! どういう事? 村は静かで戦ってる様子なんて無いのに――」

??「おかえり、まぁそんなボロボロになっちゃて……無理せず任せてくれてもいいのに」

凛「村長!」

村長「ウヅキ、リン、ミオ。……無事だったからよかったけど、反省はあるわよね」

卯月「う……は、はい」

村長「ならよろしい、それが次のステップアップにもなるからね。でも無茶は駄目よ?それと――」

村長「夜盗はこれで全員?」

未央「は、はいっ! 私たちが見たのはこれで全員!」

凛「村の外で二人、ここに四人なら全員」

村長「じゃあ……変ね。もしかして……私の保管していた経典が消えたのだけど、正直に言ってね?」

村長「誰か、持ち出して……使った?」

凛「まさか、盗まれた?」

未央「私は使ってないよ!?」

卯月「…………はい」

未央「ほら、私たち三人は――――えっ?」

卯月「私が、村を守って……皆を助けたい、って」

凛「ウヅキ!?」

未央「そんな、一人で背負い込むことないんだよ!」

村長「…………何か、他に大事なことは?」

卯月「ありません! これ以外は、本当にないんです! 何かを要求されることも、失うことも……!」

卯月「この経典は、何でも願いが叶うものじゃなかったんです……努力の方向を、教えてくれるものです!」

凛「努力の……」

未央「方向?」

村長「……じゃあ、その願いを叶える途中、ってこと?」

卯月「そう、なります」

村長「あら、じゃあ……私が保管するのはよろしくないわね。次の指示があるんでしょう?
   仲間と共に、成長するまでのシンデレラストーリーが」

卯月「えっ、と、確認していないので……!」

村長「じゃあ今すぐ確認しなさい、そして……村を守れるほどになったら、帰ってきなさい」

卯月「えっ?」



村長「この村の中だけで一人前には慣れない、おそらく他の地に向かえと指示があるはずよ、あなたの言う通りなら」

未央「しまむー! 早く確認! 本は?」

卯月「そ、それが私は持ってなくて……あっ!」

――ガサッ

凛「経典……? あんな草陰に、さっきまであったっけ?」

卯月「きっとアイリさんだ……必要な時だけ、指示がある時だけ出てきてくれるんだ」

未央「ところで、願ったのは自分の強さだけかなしまむー?」

凛「私たちは、ただ守られるだけ?」

卯月「え、えええ? だ、だってあの時は緊急だったし……!」

村長「心配ないと思うわよ? とりあえず指示を見てみなさい、私の予想が当たってたら、最初の支持はすぐに達成できる」

卯月「……? あ、開けるよ」



~ ウヅキ=シマムラ、リン=シブヤ、ミオ=ホンダと共に行動しろ ~

卯月「本当だ……」

凛「ふふ、これで三人一緒に行けるね?」

未央「ああっ、でも村の守りは……」

村長「私がいるじゃない、心配される程ヤワじゃないわよ?」

卯月「絶対、すぐに帰ってきますからね!」

村長「遅くてもいいから、必ず帰ってきてね? じゃないと心配して眠れないから、ね?」



凛「次の指示が……来たみたいだよ」

未央「おおっ? 次が、私たちの冒険の始まりの一歩なんだね!?」

卯月「出てきた……次の指示は……!」



~ かつての中心、現在でも物流や技術の中心を担う、魔法の栄える地区『旧都区』へ向かえ ~

~ 最先端の科学技術が揃う、近未来の建物で囲まれた地区『未来区』へ向かえ ~

~ 広大な森、山、湖などの大自然に覆われた様々な文明の集う地区『発祥区』へ向かえ ~



未央「三つ?」

凛「要するに、全ての地域を周ってこい、ってこと?」

卯月「いや、他にも解釈があるよ? たとえば、一人ずつバラバラに一斉に出発するとか……」

未央「嫌だよ!? さっそくバラバラとか! 確かに効率的だけど!」

卯月「じゃあこれは『とにかく全ての地域を見て回れ』ってことかな」

村長「先に言っておくけど、この村は旧都区にある。そして発祥区とそれなりに近い位置だよ」

卯月「ということは近い順に、旧都区の探索を進めるべき? 行って何をするかも分からないから近い方が……」

未央「いやいや、これは私達の経験のためなんだから行った事のない場所に行くべきだよ? 幸い、発祥区の方は少し近いし!」

凛「行った事のない、なら一番遠い代わりに一番ここの文化と違う未来区に行くべきだと私は思うな、経験って点から見てもそれがベスト」



卯月「うーん……どこに行く?」

 Part1としてここで一区切りです。
全てのストーリーを構想しているわけではないのですが、役割が既に決まっている人物が何人かいます。
そこに該当しない限りは「このアイドルを出して欲しい」や、今回のラストのように、情報は少ないですが
「どこへ向かうか」「何をするか」などの要望感想にはなるべく答えていきたいです。
SS形式は初ですが、ここまで目を通していただきありがとうございました。

レイアース

はじめての冒険なら物流とかある場所の方がベターかな…

怪盗頼子を希望します

若林智香を、出してください!

 少しでも書けたら、段階的にですが投稿していくスタイルにさせていただきます。
今後、一定期間ストーリーが進むごとにいくつかの選択肢を提示させていただきます、
その際にご要望の多いルート、無ければこちらが書き易い選択肢のもとにお話が進みます。

 キャラのご要望に関しては、ストーリーの構成上すぐに登場とはいかない場合が多い事をご了承ください。
代わりに、そのキャラが関連する方向へと話を進める選択肢を多く取り入れる予定です。

 翌日、進路を決めた三人が人と獣の寝静まる朝方、村を出た。
目指すは同地区内で最も近い、とされている――この村には外部の情報がほとんどない――『イスカ』という村。
名前を頼りに場所を探り、ウヅキが魔法で即興で作った方位磁針もわずかな狂いを見せ、
途中多少の怪我を負い、ようやくそれらしき所にたどり着いた頃には太陽が頂点から下降を始めたところだった。



~ 旧都区『イスカ』 ~



卯月「だ、大冒険だった……ね」

凛「まだ一区間歩いただけのはずなのに、これは予想以上……」

未央「しぶりんの案で未来区まで行ってたら、きっと今頃死んでるね私は」

卯月「……まず、どうする?」

凛「どうするもなにも、経典を見ないと」

卯月「あ、そうだね……」

――ペラッ

未央「割と大きい本だからね、荷物が邪魔なら私が持ってあげてもいいよ?」

卯月「いいや、これは私が持たないと……んしょ。……何も増えてないね」

凛「進展なし、か。もしかして村を出ただけじゃ駄目なんじゃない?」

未央「え、そりゃそうじゃない? 村を出ただけで強くなれるわけないよ」

凛「そうじゃなくて……指示に従った瞬間に次の指針を出してくれると思ってたんだけど」

卯月「確かに、旧都区に向かえって条件? は満たしたはずなのに」

未央「……全部回れ、ってことじゃないよね?」

凛「だとしたら……一度に条件として提示されると思うな」

未央「よかったぁー……もしそうだったら私は倒れるー……」

卯月「じゃあ、何をするかは自分達で見つけなきゃダメなのかな」

凛「他の可能性としては……実は『もう何かが起き始めている』かもね」

卯月「どういうこと?」

凛「あまり詳細に何が起きるかを書くと、私達の特訓にならない。
  じゃあ何かが起きる最低ラインの事が書いてあるとして、つまりそういうこと」

未央「おぉう……なんだかよくわかんないけど、ひとまずその何かが起きるまで待機?」

凛「……かもね。どうする? 初めての村以外の場所、いろいろしたい事は、あるよね」

未央「おっ! 冒険っぽくなってきたね! じゃあ早速探検だ!」

卯月「私もいろいろ見て回りたいよ!」

――…………

卯月「――でも、その前に、お腹が減ったかも……」

未央「……目標変更! 私も同意! ご飯食べるところを探そう!」




・・

・・・


未央「食べた」

卯月「のはいいんだけど……」

凛「これ、どうする?」

――ジャラジャラ

卯月「外では食べるのも道を通るのにも“お金”がいる、って聞いて」

凛「一文無しを避けるために村長から貰ってきたコレだけど」



村長「ああ、お金? 確かに失念していたわね。これを持って行きなさい、役に立つから」



未央「お金そのものとは言ってなかったねぇ……これ、綺麗だけど」

卯月「宝石でいいのかな」

凛「確かにお金にはなるけど、お金そのものが最初から欲しかったね……これ、どこでお金に替えられるの?」

未央「さぁ……お店、とか?」

凛「それがどこかって話なんだけど」

未央「分かんないよっ! じゃあ私探してくるよ!? いつ帰ってくるか分からないけどね!?」

凛「そんな言い方ないでしょ!?」

卯月「わーわー! こんなところで喧嘩しないでっ!」



店員「あのっ!」

卯月「あわわ! す、すいません! ご迷惑おかけします! もしかしたら後でもう一回かけるかもしれません!」

店員「あ、いえ、他にお客は今はいないので構いませんが」

店員「……そのアゲート、どこで手に入れましたか!?」

卯月「あげ……えと? ど、どれですか?」

店員「それです! ちょっと見せてもらっても?」

卯月「あ、ど、どうぞ……」

店員「うん……こんな純度、大きさ、簡単に見つからないのに……」

凛「……?」

未央「えっと、店員さん?」

店員「あ、失礼しました、私物なのに申し訳ないです!」

店員「私はトモカ。トモカ=ワカバヤシです、以前は鉱石や宝石のハンターだったのですが、今では用心棒の店員です」

卯月「は、初めまして……私はウヅキ=シマムラです、近くの村から初めて出てきたもので……
   こっちの二人はリンちゃんとミオちゃんです」

凛「……どうも」

未央「よろしく……?」

 たった数行で申し訳ありません、とにかく隙を見て順次更新させていただきます。

智香「じゃあ修行って事かな?」

卯月「平たく言えば……そうなりますね」

未央(あれ? そうだっけ?)

凛(違うけど本当の事を言うわけにもいかないでしょ?)

智香「ふーん……アタシも昔はそんな感じだったよ! って言っても、ここ数年の話だけどね!」

卯月「好きなんですか? こんな、鉱石とか」

智香「特別好き……ってわけではないけど、身近に冒険心をくすぐられた物がこれだったからかな、思い入れはあるよ!」

智香「とにかく旅に出る切っ掛けだったからね、あの時は元気だったよ……」

凛「今はそうじゃない?」

智香「そんな事はないよ? ただ力の入れる方向を変えたってだけ!」

卯月(……切り出す?)

未央(――しかないよね?)

卯月「えっと……トモカさん、でした?」

智香「うん、何かな?」




・・

・・・

卯月「――というわけで……この石で、なんとか立て替えて貰えませんか!」

智香「ちょ、ちょちょちょ、ちょーっと待ってね、落ち着いて聞いて」

未央「あー、やっぱり駄目かぁ……どうしようしぶりん、私達の旅路が早くも崖っぷちだよ」

凛「最悪、誰か一人置いて換金するところを探さなくちゃ――」

智香「違う違う! 受け取るのは是非受け取りたいんですけど、ただ……全然アタシの所持金と釣り合わなくて」

卯月「どういうことです?」

智香「このお食事代どころか、けっこうなお釣りが返ってきますよ! それをアタシが払えません」

凛「じゃあ……別に、いいよね?」

卯月「うん、お金が必要なわけでもないし……あるぶんだけで構わないよ」

智香「い、いや、それもとっても魅力的ですが商人も兼任していた過去の良心が……!」

未央「いいですって! 受け取ってくださいって!」

智香「あー! さすがにそれは受け取れませんよー!」

??「では、お店がお代金の代わりに少し援助しましょうか?」

卯月「……?」

智香「あっ、ツバキさん?」

椿「ふふっ、綺麗な宝石ね。トモカちゃん、これはここのお店の何回分のお食事になるかしら?」

智香「ええ? それは……もう、けっこうな回数になっちゃいますよ?」

椿「あら、すぐに数えられる回数じゃない?」

智香「そりゃあもう……特に、ツバキさんはお食事代なんてほとんど取らないから……」

椿「他の人とお喋り出来るだけで充分ですよ?」

卯月「あの、ツバキさん……ですか? 私達本当に大丈夫なんで……!」

椿「そう? じゃあ……さっきの話だと、しばらく修行で村を出ているって、言ってたみたいだけど」

未央「そ、そうそう! そうだよ!」

椿「じゃあ、ここにしばらく滞在するつもりならお店、いつでも来てくれて構わないですよ。サービスしてあげるからね?
  何百回分のお食事でも差し上げちゃいますから」

凛「えっ、それも何だか悪いよ……」

椿「その代わり、お話いっぱい聞かせてくれるかしら、これからとこれまで?」

:トモカ=ワカバヤシ(若林 智香)
 駆け出し冒険者として、過去に見惚れたひとつの宝石を目的に国中を旅する。
その過程で商人とハンターの素質を開花させ、当初の目的こそ達成できなかったが
安息の地、そして自分の力が役に立つ場として『イスカ』にたどり着き、ツバキの店の従業員として働いている。
用心棒のつもりで手を貸したが、もっぱら商人の方の才を使うことになっていた。

:ツバキ=エガミ(江上 椿)
 旧都区『イスカ』の村に趣味が高じて一件の店を構えている。
もともと商売目的で始めた店ではないためサービスがよく、意図せず話題の店としてしばしば評判が上がる。
最低限の経営はトモカに任せて、本人はのんびりと過ごしているのみ。

卯月「――というわけで。……これ、さっきも言ったような気はしますが、つまりそういうことなんです」

椿「それでこの村の方へ?」

凛「いえ、どこへ向かっても良かったんだけど……成り行きかな」

椿「そう、じゃあ……あまり向いていなかったかもね、この村には」

未央「えっ? こんな平和な場所なのに? 静かで、争いなんて起きそうにないけど……」

凛「修行には平和すぎる、って事?」

智香「そういうわけではないんだよね、はい紅茶」

椿「あら、ありがとうね」

智香「ツバキさんも少しは仕事してください!」

椿「ごめんね、これが私の仕事なの」

智香「はいはい、そうでしたねーっと」

椿「あらあら…………それで、静かな場所って言ったけど、本当はもっと賑やかな村だったのよ、ここは」



椿「少し前まで、それはもう賑やかで、お喋りもたくさん、楽しかった」

椿「でも、聞いたことがあるかもしれないけど世界中で起きている戦火はこんなところまで影響があって、ね」

卯月(こんなに、すぐ近くまで……!)

椿「皆はここは危ない、って隣の村へ避難した。でも私はこのお店を続けたかったの、なぜでしょうね……
  ここにいても、私の楽しみはほとんど残っていないのに」

凛「…………」

未央「……戦火は、国を巻き込むほど大きいもの?」

椿「いいえ、幸い本当の戦火の波にアテられた程度の、小さな小さな争い……でも、いつ火が大きくなるかは一触即発」

椿「この機に、大きな侵略を企てている地区があるみたい……聞いた事は?」

卯月「いや、全然……」

椿「『発祥区の飛び地』、これは聞いたことが?」

未央「んっ? なーんかどこかで聞いたような……」

凛「ミオが? 気のせいだよきっと」

未央「んなっ! 失礼だなー、私だって二人が知らない事を知ってる可能性あるじゃん?」

卯月「それ……村長さんから『気をつけておけ』って聞かされたような」

未央「ほら! 多数決! 知らない方が変なんだよわーい!」

凛「……外行こうか」

未央「おっけー」

卯月「じゃないよ!? 座って二人とも!」

椿「『発祥区の飛び地』っていうのは、発祥区のエリアから離れた場所にあるにも関わらず、発祥区に該当する地域の事」

智香「普通はちゃんと分けられてるんだけどね、発祥区は『未開の地』って意味も含まれているから、こうやってバラけちゃう

こともあるんだよ」

卯月「あっ、トモカさん……」

智香「他にお客もいないし、アタシも混ぜてね」

椿「つまり、発祥区は旧都区でも未来区でもない場所、って言った方が正しい……そうだったよね」

智香「そうそう。で、実はその発祥区の飛び地がこの近辺にあるって噂でね」

凛「噂?」

智香「そう! それが不思議なところ! この近くにあるのはあるらしいんだけど、なーぜか見つからないんだって!」

未央「本当にあるのかなー、そんな場所なんて」

椿「明確な証拠はない。でも、可能性は極めて高いって発表だった」

智香「例えば、アタシの知識の観点から言うと、その地域にあるはずのない鉱石が大量に見つかったとか、
   周囲の町や村に一切目撃証言がないまま消えた住人とか、一種のオカルトだよこんなの」

椿「仮に、その場所を見つけたら……見つけて侵略した人のものになる」

卯月「それが、さっきの大きな侵略……?」

智香「ご名答、しかも聞いて驚き、侵略を企ててるのは未来区のトップクラスのグループって噂!」

凛「そんな集団が、この村の近くにあるかもしれない飛び地を見つけたら……」

未央「そりゃあ…………逃げるね。いつ“ついでに”とかで攻め込まれてもおかしくないよ」

卯月「…………」

――ガサ ドサッ

卯月「あっ、荷物が……!」

凛「ちょっと、話の途中なのに何やって……ウヅキ、それ」

卯月「えっ? あっ!」

――バサバサバサッ

未央「本が……新しい文字!?」



~ 『イスカ』近辺の飛び地に迫る戦火を止めろ ~

智香だ!

卯月「……新しい情報を手に入れたら、増えたってこと?」

凛「そう考えるのが普通かな。それにしても、出来る事しか提示しないと言いつつ……これは……」

未央「今の私たちに出来るの?」

卯月「アイリさんの言葉を信じなきゃ! 私達は、絶対に出来るんだから!」

未央「そ、そうだね! そのための願いだもんね!」



椿「……えっと、それは?」

卯月「あっ」

智香「本にしては古そうな、しかもどこかで見たような……もしよかったら見せてもらっても――」

未央「あああーっ! 大丈夫です! 人に見せられるものはあまり書いてないので! だよね!?」

卯月「え、あ、う、うん! 修行の日記帳みたいなものです! 私達だけの!」

智香「あー、じゃあ調べるのは無粋だよねっ、ごめんごめん」

凛(危ない……)

未央(でもどうするのしぶりん、この指示に従うにしても手がかりが――)

椿「……あら、もうこんな時間」

智香「本当ですね。じゃあ一旦……そうだ、三人とも少し時間があったりする?」

凛「時間? 特に予定は無いけど」

智香「じゃあ少し、アタシのお仕事のお手伝いをしてくれてもいい?」

卯月「見回り?」

智香「そう。一人もいないってわけじゃないけど、この村から皆が避難したせいで、誰もいない家とかがそれなりにあってね」

智香「そんな村を狙う、火事場泥棒みたいな輩もいるんだよ」

卯月「パトロールですか? 不審者が居ないかどうかの」

智香「だいたいそんな感じかな。普段は一人だからその間ツバキさんを一人にするし、時間もかかるんだけどせっかくだからね」

卯月「大丈夫です! 一緒に頑張りましょう!」

智香「よし、じゃあアタシはこっちから見て回るから!」

卯月「それじゃあ私はこっちから……」




・・

・・・


卯月「……人は、居ないわけじゃないね。でも、トモカさんが言うには普段はもっと多いって」

卯月「どの地域も、戦火の影響はあるんだ」

卯月(それにしても……最初の明確な指令が他の地区を救うことなんて、私に出来るのかな?)

卯月(ううん、弱気になっちゃ駄目。リンちゃんやミオちゃんみたいに、私も強くなって――)

――タッタッタッ

卯月「んっ?」

??「うわっ!」

――ドンッ! ガシャッ

卯月「きゃっ……あ、ごめんなさい!」

??「いたたた……ち、ちゃんと前見て歩けよなっ!」

卯月(……すごい格好)

??「聞いてるのかっ!?」

卯月「へ? あ、ごめん……あわわ、荷物が」

??「……ほら」

卯月「あっ、ありがとう……」

卯月(口調は攻撃的だけど、ちゃんと拾ってくれるんだ)

??「その……ウチもちゃんと見てなかったし、おあいこだからな!」

卯月「私も、考え事してたから……名前は?」

??「うん?」

卯月「私はウヅキ=シマムラ、この村の出身じゃないんだけど、あなたもだよね?」

??「そ、そうだけど。別にいいじゃん……な、なんか文句あるのかっ!」

卯月「いやいや! 今も荷物拾ってくれてるし、手伝ってくれた人の名前は知っておきたいだけかな、って」

??「…………ウチの名前は、ミレイだよ」

卯月「ミレイちゃんって言うんだ」

美玲「ち、ちゃん……ウチはそれなりに長生きしてるんだぞっ! 引っ掻くぞ!?」

卯月(かわいい。……特徴的な装いとか、今の発言からすると、人間族じゃない?)

美玲「ほら、盛大に散らかしちゃったからなっ……早く片付けるんだよっ!」

卯月「分かってるよ。ところで、ミレイちゃんはこの村に何の用事で?」

美玲「別に、この村に用事があるわけじゃないよ。隣の地区に行くのがウチの目的」

卯月「隣……発祥区か未来区?」

美玲「え? 隣は未来区と……あっ、そ、そうだぞ未来区ってところに行くのが目的!」

卯月「ここからだとかなり遠いよ?」

美玲「大丈夫! 体力には自信があるんだぞ、これでも村で二番目!」

卯月「元気なのはいいことだよ」

美玲「やっぱり子供扱いしてるだろっ!? ウチは長く続く集落の…………」

卯月「……? どうしたの?」

美玲「……いや、なんでもないぞ。じゃあウチは先を急ぐから」

卯月(なんだろう、雰囲気が変わったような)

卯月「うん、じゃあ気を付けてミレイちゃ――はうっ!」

――ビターン

美玲「ドジとか、よく言われてないのか?」

卯月「……そんなはずは、ないです」

美玲「せっかく直した荷物が、またバラバラに落ちてるこの状態でもそう言うの?」

卯月「はい、大丈夫です。でも、拾うのを手伝ってください……」

美玲「特別だからなっ、これはウチのせいじゃないからな!」

美玲「これと、これと。……んっ?」

――バサッ

美玲「……!?」

卯月「よいしょ……あ、ミレイちゃん、散らばった荷物はここに入れてくれていいから……あっ」

卯月(ミレイちゃんが持ってるのは……経典! また落としたんだ私)

卯月(返してもらわないと――)

美玲「おいっ!!」

卯月「え?」

美玲「こ、これっ……どこで手に入れたんだっ!?」

美玲(願いが叶うお宝、見た目は本だけど凄い力があるって、ウチが知ってる情報だ……!)

美玲(頼りにはしてなかったけど、こんな簡単に見つかるならこの力を借りるんだっ!)

美玲「この本……ウチに譲ってくれないか!?」

卯月「……そんな、真っ白の本を? メモなら代わりの物があるよ」

卯月(この反応……もしかして)

美玲「ああ、そんな用途じゃなくて……とにかく、必要ないなら譲ってほしいんだよっ!」

卯月「何に使うの?」

美玲「それは……べ、別にいいじゃんか!」

卯月「何を隠してるの? ……これは本だから、読む以外に使わないでしょ?」

卯月「私が“使う”と聞いて、読む以外に答えなかった……ミレイちゃん、この本の正体、知ってるでしょ?」

美玲「ぅう!……じゃあ、これはホンモノなんだなっ?」

卯月「……本物だよ、それは。だから、渡せない!」

美玲「だと思った……ただ一つ、ウチの願いを叶えさせてくれるだけでも――」

卯月「それは無理だよ、この本は……願いを無条件に叶えてくれるものじゃなかった」

美玲「ウチは覚悟出来てるっ!」

卯月「いいや、覚悟なんて必要ない……必要なのは、時間と努力」

美玲「はぁ……? いや、でもウチだって大切な……!」

卯月「私も一緒。故郷を守るために、今願いを叶えている途中」

美玲「途中って、すぐに叶うものじゃないのか!?」

卯月「そこを説明すると長いんだけど――」




・・

・・・


卯月「……願いは叶うけど、道を示してくれるだけ。代わりに、道は私が折れない限り、正しく導いてくれる」

卯月「まだ始まったばかりの旅だけど、ね」

美玲「……でも、叶うのは叶うんだな?」

卯月「そう、だね」

美玲「じゃあ……やっぱりウチが貰う……!」

――ブンッ!

卯月「っく!」

美玲「ウチは覚悟出来てる! ……ひ、人の大事な願いより、もっと大事な願いがあるんだっ!」

美玲「さぁ、かかってこい! ウチの爪で引っ掻いてやる!!」

支援。

卯月(これも試練の一つなのかもしれない……だったら、なおさら負けるわけには!)

卯月「本当にいいんですね!?」

美玲「それはウチが必要なものなんだ!」

卯月(会話は平行線で、すぐに解決は無理……なら、せめて取り返さなくちゃ!)

卯月(今、経典はミレイちゃんが左手で抱えてる。武器はあの服装と一体化した爪、だったら……!)

卯月「攻撃するのはこっち側から!」

美玲(魔法!?)

――バシュッ! ドガッ!

卯月(避けた……早い!)

美玲(見たことない属性……それに、重い!)

美玲「なんだその……魔法っぽくないぞ! 撃ったっていうより、投げたみたいな!」

卯月「そういう種類のものなんです! たあっ!」

美玲「近づいて……?!」

――ガッ!

美玲「止めるっ……!」

卯月(蹴りは止められた、けど!)

卯月「リンちゃんの真似っ!」

――グォンッ!

美玲「うわぁっ!?」

卯月「うわわっ!」

――ドサッ! ドサッ!

卯月「痛っ……やっぱクリーンヒットは無理かぁ……でも」

美玲「本がっ!」

卯月(蹴っちゃってゴメン……とりあえず、離れた場所に経典は飛ばした、取りに行ったら隙が出来るから……)

美玲「なんなんだオマエっ……魔法使いじゃないのか!? 急に近づいて直接攻撃したり、思いっきりすっ転びながら蹴り上げたり……!」

卯月「転んだわけじゃないんだけどな……再現度はその程度だったと……」

卯月「でも、これで一旦仕切り直しです、経典は今私にもミレイちゃんの手にも無い」

美玲「うー……」

美玲「……知らないぞ!? ウチは逃げながら戦う気だったけど、もうウチの手には無いからなっ!」

美玲「倒してから……持って帰る!」

――ダッ!

卯月「来たっ!」

美玲「たぁあっ!!」

――ブンッ!

卯月(かなり大振り……当たれば危ないけど、これなら!)

美玲「もう一回――」

卯月「そこです!」

――バシィッ!!

美玲「っ~~!?」

卯月「一直線の速度は、友達にもっと早くて力強い人が居てね……!」

卯月「今度はこっちがもう一発!」

美玲「くうっ!」

――クンッ…… シュッ!

卯月(あの姿勢から避けた!?)

美玲「そうかそうか、ただスピードだけじゃダメかっ! なら……!」

美玲「全力でやるッ!!」

卯月(大丈夫! 振りかぶった爪に合わせて……このタイミングで――)

――ヒュッ

卯月「あれっ!?」

美玲「後ろだッ!」

――ザクッ!!

卯月「っう! いつの間に……!?」

卯月(今の、消えた……は言い過ぎとしても、瞬間的に加速した……!)

美玲「何度でも行くぞッ!!」

卯月「また突進……!」

卯月(先に反応しないと後ろからの攻撃は完全に防げない、そのまま来るか後ろに回り込んでくるか……!)

――ダンッ!

美玲「りゃああ!!」

卯月「飛ん……違う!」

卯月(この勢いで思い切り引っ掻いてくる……!)

美玲「後ろを警戒してたらこれは止められないだろッ!!」

卯月「反撃はできますっ!」

――ザシュッ!! バキッ!

卯月「きゃあっ!!」

美玲「痛ったッ……!!」

美玲(なんで反撃できるんだオマエっ……!?)

卯月(ミオちゃんの攻撃のが重い、大丈夫……!)

卯月「まだ、やりますか……!?」

美玲「そっちこそ!」

――ダッ!

美玲(正面からの攻撃は全部迎え撃つつもりだ、なら後ろから!)

――ヒュッ

美玲「はああっ!!」

卯月「――後ろ!」

美玲「え……っ!?」

――ブンッ!

卯月「私と戦いたくない、って性格だったからね……! 私が正面から全部反撃するつもりと察したら、後ろから来るよね?」

卯月「加減はするけど、結構痛い……よっ!!」

――ドゴォッ!!

美玲「っぅぐ!? ……あぅ」

卯月「…………」

美玲「けほっ……ウチは頑丈なんだ……まだ大丈夫……!」

卯月(やっぱり、退けない願いを持って……でも、私達も一緒!)

美玲「やああっ!」

卯月(次はどっちから……よく見て――)

――フッ

卯月「上、に居ないなら……後ろッ!」

卯月(このまま蹴っ飛ばします!)

――ブンッ!

卯月「……あ、れ!?」

美玲「こっちだ!」

卯月(後ろから声!? てことは正面だった……!? でも前にも上にも居なか――)

――ズシュッ!!

卯月「いっつ……!?」

美玲「その場で姿勢を低くしただけ……消えたように見えた?」

卯月(足の甲……! 牙!?)

美玲「ウチの服に付いてるものはほとんどが武器だよ。そのぶっとい牙も」

卯月「く!」

卯月(こっちの機動力を奪いに来た……? それにしては距離をとったし、このチャンスに攻撃してくる気配もない……?)

――カラン……

卯月「……来ないの? あと、この武器もすぐ抜けた、回収しなくていいの?」

美玲「今行ったら攻撃するだろ?」

卯月「別に、いつでも攻撃はするつもりです……!」

美玲「…………どうかな?」

期待しつつ、智香再登場待機。

――グラッ

卯月「っ、あ……れ……?」

美玲「……出来れば、使う前に終わらせたかったけど、駄目だった。オマエ、強いからな……」

美玲(立……てない?)

――ドサッ

美玲「本当はウチのものじゃないけど……村から持ってきた、毒牙」

卯月「毒……?」

卯月(なら……治せる!)

卯月「解毒……魔法は覚えてる……っ!?」

卯月(え? 該当しない……いったい何の毒……!)

美玲「知ってるぞ、解毒の魔法は最初に何の毒か調べてから適切な種類を撃たなきゃいけないって……」

美玲「だから、未知の毒には対応できないって知ってるぞ……!」

卯月(特性を知ってる……! 完全に、解毒を術を持っている相手を想定した戦術……!)

美玲「もちろん解毒の薬はあるからな、ウチの持ってるこの瓶に入ってる!」

美玲「……その経典と、交換しろ!」


美玲「これで治すしか方法はないぞ……ウチは嘘はつかないからな……!」

卯月「う、く……」

卯月(痛みは無いけど……力が抜けて……!)

美玲「あと数分で取り返しがつかなくなるからな……! たった一言、ウチに渡すと言ってくれたら……!」

卯月「ぅ……!」

美玲「さぁ、早く!」

卯月「…………嫌」

美玲「……え?」

卯月「渡さない……あれは、私達の……希望……!」

美玲「……な、何でだ! べ、別にオマエが渡すと言わなくてもウチは今すぐに本を持って行ってもいいんだぞ!?」

卯月「だったら……今持って行って……!」

美玲「そ、れは……」

卯月「無理なんでしょ……? だって、さっきから……優しいもん、ミレイちゃん……」

美玲「うぅ……!?」

卯月「攻撃の時にも、わざわざ後ろとか言ってくれたし……毒も最初から使わなかったし……」

卯月「何より、経典をさっさと盗めばいいのに……こうして薬を渡そうと……」

美玲「ち、違う! ウチは……本当に持って行くぞ!?」

卯月「……えへへ……それも、困る、かな……」

卯月(う……本当に……瞼が重い…………)

卯月(また、二人の足手纏いになっちゃう……)



――バッ

卯月(…………?)

卯月「んっ……」



美玲「分かってるよっ! ウチが甘いのは、ウチが一番よく知ってる!」

美玲「でも、それでも、ウチは決めたんだ……だから。解毒薬は飲ませた、代わりに……本は貰っていく!」

美玲「これで、ちゃんと交換だからな……!」

――タッタッタッ



卯月(やっぱり…………優しいじゃん)

卯月「でも、うぅ……」

卯月(経典が、私達の手から……)




・・

・・・

智香「まだ帰ってきてない?」

未央「しまむーずるいよぉ、私だって村の探検に行きたいのー」

椿「まぁまぁ……お手伝いも今は特に必要ではありませんので、構いませんよ」

未央「本当!? じゃあしまむー探しのついでに一緒に行こうしぶりん!」

凛「そうだね、一応は知らない土地だしあまり夜遅くに出歩くことになると面倒……」

未央「じゃあ決まり! トモカさんお店番お願いします!」

智香「元はアタシが店番……って、お手伝いしてもらったんですかツバキさん?」

椿「いや、何かさせてくれって頼まれて……ね?」

智香「ね? じゃないですよ、お代金は大きすぎるぶん貰っちゃったんですからこれ以上手伝わせちゃ駄目です!」

椿「はーい」

凛「それじゃあ、行こっか」

未央「うん! ……あ、念のため予備のリング持ってくるから少し待ってて!」



凛「ちょっとだけ、先に見て回ろうかな……ミオに伝えてくれますか?」

椿「分かりました、後から追いかけるように伝えますよ」

凛「……ミオの少し待ってては長いから」

智香「あー、そういうこと?」

凛「時間帯のせいか、まったくの無人から、まばらに人は見つかる程度にはなったけど……」

凛「それでも村の規模から考えると少ないのかな」

凛「ウヅキはどこまで言ったんだろう。……こっちは無いかな、村の外れ、森になっちゃう」

――タッタッタッ

凛「んっ」

美玲「うわっ!」

――ヒョイ

凛「っと、危なかった。怪我してない?」

美玲「う、うん、大丈夫……」

凛(ずいぶん珍しい格好してる、森の方角から来たってことは、そういう事かな?)

凛「本当に? なんだかすごく息切れしてるけど」

美玲「だ、大丈夫だって……ウチはその、体力には自信あるから、な!」

凛「そっか、じゃあ気を付けて」

美玲「うん! って、あれ? ウチの荷物!?」

凛「もしかしてそこに落ちてる袋?」

美玲「そうそうそう! 見つけてくれてありがとな!」

凛「はい、コレ……」

凛(ん……? この大きさの袋に、入ってるのは一つだけ? 中は見えないけど……本か何か――――)

――バッ

美玲「ありがと! じゃあウチはこれで……!」

凛「あ、ちょっと!」

――タッタッタッ

凛「……行っちゃった、まだこれ以外にも落ちてるものがあったのに」

凛「よっぽど慌ててたのか、それともここに落ちてる装飾品は関係ないのかな」

凛「紫、いや……桃色の髪留め、かわいい」

凛「…………あれ?」

凛(これ、私どこかで……見たことがある……?)

――村長さんから貰ったんだよ!


凛「あ……!」

凛(帰ってきていない……それと、慌てて荷物を探してたあの子……その場所に落ちた髪留め……!)

凛「…………」

――ダッ



美玲「……」

――タッタッタッ

美玲「っ……」

――タタタ……

美玲「……くうっ!」

――ダンッ!

美玲「……物にあたったってしょうがないじゃないかっ! ウチが決めた事だから、割り切らないと……!」

美玲「この本は、ウチには必要なんだよ……だから、奪ったって――」



??「ふーん……」

美玲「っう!?」

――スチャッ

美玲(追いかけてきた!? いや、いくらなんでも回復が早すぎる……じゃあ別の――)

美玲「く、来るなら……来いっ! 誰にも渡さないぞ!」

??「渡さない?」

――ヒュンッ! ビシッ!

美玲「うわ……っ!?」

――ザクッ!

美玲(突然すぎて見えなかった……凄い速度でウチの脇を掠めて……毒牙が弾かれた)

美玲(直接狙われてたら、絶対に避けられてない……!)

??「武器は飛ばした、木の枝に刺さっちゃったね」

美玲「まだだッ! 不意打ちされただけだッ! 今度は返り討ちにしてやるッ! 姿を見せろ!」

??「爪か……さっきの武器といい、遠距離で戦う気がないなら――」

――スッ

凛「私が相手になれる」

美玲「……!?」

凛「一応聞くね、間違ってはいないと思うけど。……袋の中身、確認させて」

美玲「……駄目だ」

凛「言い方が悪かったかな。許可を求めてる訳じゃない、確認するって言ってるんだよ」

――ドゴッ!

美玲「……っが!?」

美玲(いつ攻撃され――!?)

凛「袋の中身……やっぱり。どうしてウヅキが持ってるはずの経典がここにあって……ウヅキが帰ってきてないのかな?」

凛「ねぇ、私の仲間なんだ」

凛「…………ウヅキに、何した?」

美玲「う、わあああ!?」

――ブンッ!

美玲(当たらなかった! でも距離は離れて――)

凛「そう、それが返事?」

凛「じゃあこっちからも、やらせてもらうよ!」

――ドッ!

美玲(飛び込んで来たっ……!)

凛「はああっ!!」

美玲「このぉっ!!」

――ギィンッ!

凛(弾かれた?)

美玲「てやぁッ!」

――ザシュッ!

凛「っ……!」

美玲(浅い、でも一発入った! ここから手を休めずに……!)

美玲「うりゃ! このっ! たあっ!」

――キンッ! バシッ! ガキィッ!

凛「経典が何か知っているの?」

美玲「その本の事!? なら知ってるッ! 願いが叶うお宝だ!」

凛「叶えたい願いがあるの?」

美玲「当たり前だッ! ウチがなんとかしなきゃ、皆が困るんだ! だから、その本をウチに――」

凛「私達も同じ」

――ガッ!

美玲「わっ!?」

美玲(軸足を崩され……倒れ――)

凛「大人しくして」

――ドッ!

美玲「ぎゃうっ!?」

凛「……あんたは地面にうつ伏せ、私はその上の背中」

凛「勝負あり、でいいでしょ?」

 今日中にもう一度更新して、次の展開を少しだけ左右する選択肢を用意したいと思っています。
安価の自由要望は力量で捌ききれない可能性があったので、多少の調整が聞く程度の
選択肢という方法を取らせていただきます。

――カランッ

凛「何の音……?」

美玲(……うっ!?)

――バッ!

美玲「このっ!!」

凛(最初に持っていた……!?)

――ガッ!

凛「……木の上に刺さってたのがちょうど落ちてきた、なるほどね」

美玲(とっさに振りかざして、感触はあった……! でも、毒が届いたかどうかは……!)

美玲「く……!」

凛「…………?」

美玲「うー……」

凛(膠着状態……妙、だね)

美玲(……届かなかった、のか?)

凛「…………っ」

美玲「!!」

凛「ぐっ……! う……何を……!?」

美玲「ふ、ふふ! ちょっと時間がかかって心配したけど、ちゃんと刺さったみたいだな!」

凛「これは……っ!?」

美玲「毒牙、即効性で満足に動けないだろ? ただ、安心していいよ、あのウヅキって人と一緒」

美玲「ウチは殺しにきたんじゃない、解毒薬は置いていく。……すぐに追いつかれないように、ちょっと遠くに置くけど」

凛「ウヅキも……? っく!」

――ブンッ!

美玲「本を投げた? ま、ちょっと遠くに飛んだところでオマエが動けないならウチは拾うだけだぞ」

凛「ウヅキは……無事なの?」

美玲「無理やり飲ませたからね、解毒薬は。毒が結構回っちゃったから、すぐに動くのは無理だと思うけどね」

美玲「……はぁ」

――スタスタ

美玲「よっと。これはウチが必要なものなんだ、手放せない……だから、その薬と交換だ! ウチは本を貰っていく!」

凛「無事……なんだね?」

美玲「そーだよ、今度はオマエが早く飲まないと。……本と交換で命が手に入るなら、いいだろ!?」

凛「無事なら、まだ許す」

――ヒュンッ

美玲「え――」

美玲(嘘だ、なんで……)

凛「ごめん、その交換は成立しないよ」

美玲「なんで動けるんだ! オマエは――」

――ドガァッ!!

美玲「ッがうっ!?」

――ガシャァン!!

凛「……私の武器はこのブーツ、そこに掠っただけの牙なんて刺さらない」

美玲「げほっ!……お、おかしいだろっ……だって、倒れたじゃないか……毒で――」

凛「あれは演技。どうも、せっかく私の拘束から逃れたのに向かってくるわけでもなく逃げるわけでもなく……」

凛「しかも、一番気にするべき経典を狙うでもない、ずっと……私を見てた」

美玲「だからなんだ……っ、戦ってる相手だ……見るだろ普通っ……!」

凛「そうかな? 出来れば戦いたくない、そんな気配がずっと漂ってるよ、あんた」

凛「戦いたくない人が様子を見ている、私を見て。なら……何か変化を待っているはず」

凛「私に対して何かした? 魔法は使ってる様子がなく、じゃあ……その牙、そして、毒」

美玲「全部……バレてたのか、ウチの戦法……」

美玲「でも、なんで、ウチは戦いたくない気配なんか出してたか……っ!?」

凛「……別に、よく考えたら出してなかったかもね」

美玲「じゃあ……どうして!?」

凛「ウヅキの名前を出した時……かな。凄い焦って攻撃してきたね、何かを吹っ切るみたいに」

凛「その時思った、って事にしておいて。……戦った相手を心配して、その事を後悔してる。……優しいんだね」

美玲「…………もうだめ」

美玲「ウチの……負けだよ……!」

卯月「ぐすっ…………」

卯月(なんて、謝ったらいいんだろう……)

凛「……居た」

卯月「リンちゃ――ああっ!?」

凛「大事なものなんだから、失くしちゃ駄目だよ」

卯月「と、取り返してくれ……じゃなくて、本っっ当にごめんなさい! 私がもっと、しっかりしてたら……!」

凛「三人でちゃんと行動しなかった私も悪かった……奪われる可能性なんて考えてなかったから、ウヅキは悪くない」

卯月「でも、でも……実際に……うぇぇん……」

凛「わかった、わかったから……じゃあウヅキの失敗、でもこれから少しづつ強くなるために、村を守るために……」

卯月「私達は旅をしてる……うん、頑張る……頑張るよ、私!」

美玲「…………」

??「おおよそ二十四時間、ほぼ一日」

美玲「うわっ!?」

??「願った者の手から経典が離れた時間がそれを超えると、経典は所有者を失います」

美玲「だ、誰だオマエ! 引っ掻くぞ!?」

??「私はアイリ、経典の番人です。……残念ですが、あなたは願いを叶える事はできません」

美玲「……分かってるよ、そんな事。ウチは、負けたんだから」

愛梨「ですが、彼女達があなたの願いを叶える事はできます」

美玲「……何だって?」

愛梨「彼女達の願いは、あまりにも長い道筋……途中、様々な他の“願い”と交差し、合流し、正しい方角へ……」

美玲「おいっ! どういうことなんだそれっ!」

愛梨「合流地点は、目の前です」

――フッ

美玲「ちょ……消えた……!」

卯月「……誰かの声?」

美玲「あっ……」

卯月「さっきの……!」

凛「……もう回復したの?」

美玲「……丈夫だからね。でも、もう奪いに来たんじゃないぞ」

美玲「ウチと一緒で、そっちにも守るべき何かがあるんだって……ウチはそれに負けただけだから」

凛「…………」

卯月「ミレイちゃん……」

美玲「怒ってるか?」

卯月「怒ってはいないよ。でも、ちょっと怖かったし、なにより落ち込んだ」

美玲「……ごめん」

卯月「謝らなくても……自業自得だから、私の」

凛「……で、謝りに来たってわけじゃないよね? 目的は何?」

卯月「ちょっとリンちゃん……」

美玲「いや、信じてもらえないかもしれないけど……何もないんだ」

美玲「村に帰るにも、ウチは自分で勝手に飛び出してきて……今更帰るのも……」

卯月「勝手に出てきた……それは、すぐに戻るべきだよ!」

凛「ウヅキ?」

卯月「皆、心配してるから、絶対に!」

美玲「そう、かな……?」

卯月「村のために戦うつもりだったんでしょ? それで、この経典を見つけて……入手もした」

卯月「得意だけど、好きじゃない戦いをしてまでも……!」

卯月「村のためにそこまでしてくれるミレイちゃんを、村が嫌ってるはずがないよ……!」

美玲「…………」

凛(私達も……村長さんと仲がいいもんね)

卯月「そうだ……もしよかったら、私達を案内してよ! この経典に関する情報もあるかもしれないし……」

卯月「村が危ないなら、私達の力もあった方がいいでしょ?」

美玲「えっ? い、いいのか? ウチはオマエを――」

卯月「もう終わったことだから大丈夫!」

美玲「う、うー……いや、だけどな……二人だろ?」

卯月「いや、三人だよ、ここにはいないけどもう一人――」

凛「……あっ」

卯月「うん? リンちゃんどうしたの?」

凛「…………忘れてた」




・・

・・・

未央「ふーん……私がいない間にそーんな色々な事があったわけだー……」

未央「私なんかしぶりんに置いて行かれた後、望んでいた探索を行ったわけだよー、一人で、一人で。ロンリーね?」

凛「緊急の用事だったから……」

未央「じゃあ私も呼んで欲しかったなー! 拗ねちゃうよ? 私拗ねちゃうもん」

智香「さっきからずっとこの調子だよ」

卯月「放っておいたのは謝るから……機嫌直して……」

未央「むー」

椿「ところで、その子はどちら様?」

美玲「ウチはミレイだ。……色々あって、付いてきた」

卯月「あ、そうそう……かくかくしかじかで、お手伝いすることになったんだよ」

未央「お手伝い、って?」

美玲「それは――」

未央「私達と、同じ」

卯月「だから……いいよね?」

未央「当たり前じゃん! 争いの種が残っていて平和は掴めないよね!」

凛「ところで、その村って近いの? 名前は?」

美玲「名前……ウチの村に名前は……特に決まってないよ」

卯月「えっ? ……どんな小さな村だったとしても、地図に名前を記さなきゃいけないから名前はあるでしょ?」

美玲「地図? 村の皆は基本的に外に行かないから必要ないぞ?」

卯月「そういう理由じゃなくて、村に名前が無いと地図で見つけられないんだよ」

卯月「私は使えないんだけど、地図を作って目的地を記す魔法があって……あっ」

凛「どうしたの?」

卯月「……もしかして」

――ガサッ

卯月「この経典に記された『イスカ』近辺の飛び地に迫る戦火を止めろ、って……!」

凛「まさか……この流れが、全て……」

未央「す、すごい……繋がった、繋がったよしまむー!」

美玲「それは……な、なんだ? 経典は願いを叶えるんじゃ……」

凛「願いまでの道筋を教える、ってさっき言ったでしょ? つまり、こういうことなんだよ」

美玲「飛び地に迫る戦火、これがウチの村の事……」

卯月「だとしたら、私達が守る“必要性”が出てきた、これで貸し借りは無しだよ!」

美玲「な、何かウチは貸しを受けっぱなしな気がするけど」

凛「気にしちゃ駄目、好意的に捉えておいて」

美玲「うー……わ、分かった」

椿「……私達から離れた場所で、何の会議でしょうね」

智香「聞かれたくない事なんでしょうか? ちょっと気になっちゃうなー」

椿「あの子も、この辺りに住んでそうな雰囲気があるのに、見た覚えがないなんて」

智香「雰囲気って、そんなものあるんですか?」

椿「えっと……気持ち、気がしただけですよ」

智香「またまた、その感性に惹かれて集まったアタシですよ? その気、絶対何かありますって」

椿「褒めても何も出ませんよ。あ、お菓子なら出せます」

智香「それはアタシが用意したものですっ! ……いただきますけど」

卯月「じゃあ早速……ミレイちゃんの村へ――」

美玲「あ、そのことなんだけど……ウチの村は他と交流を絶ったからこそ、ひっそりと続いてる小さな村だ」

美玲「だから、多くの人を呼べない、呼びたくない……ただでさえ、攻めてくる相手に勘付かれたくない……!」

凛「……つまり、三人は多いって事?」

美玲「二人でも多い……ウチ一人が見張る事ができるのは一人だけ、村の皆も同じ事を言うと思う……」

未央「私達部外者だからね……それもしょうがない、か」

美玲「それで……一人、ウチが案内すればいい人を選んでほしい!」

卯月「一人だけ……他の二人はここで待機……」

椿「いいのよ、私のお店で寝泊まりしてくれて」

凛「ツバキさん……!?」

智香「そーそー、人手……は、今はいらないかもしれないけど、アタシも二人だけだと延々とツバキさんに付き合わされるから」

椿「あら……不満だった?」

智香「言葉のアヤでーす。……だから、こっちは大丈夫だよ」

未央「じゃあ、問題はひとつ解決! そして肝心の……」

凛「誰が行くか……誰が、残るか……!」

卯月「私は経典を持ってるし、一番お話がスムーズに進められると思う……」

凛「私は……実際に手合わせしたからね、実力は証明できる、力になれるよ」

未央「何もしてないからなー、出番欲しいなー、目立ちたいなー……」

美玲「本は……持って来てくれると確かに話しやすいけど、それだと残った二人が何をすればいいかわからなくなるんじゃないのか?」

卯月「あ、そっか……それも考えなきゃ……」

凛「でも更新されるとは限らないんでしょ? 可能性を考えるより、目の前の案件を想定した方がいいかも」

卯月「……分かった、じゃあ――」



 卯月が行く・凛が行く・未央が行く

※ここでお話の流れを委ねさせていただきます。
 三人のうち支持が多かった人物が向かうことになります、特にコメントがなかった場合、こちらが決めさせていただきます。

 集計は一日程度を考えて、その間に話が進まない代わりにサイドストーリーを書かせていただきます。

いきなり主人公(笑)になりそうな雰囲気だし卯月で

当然だけど、智香は選べないから……ここは、ちゃんみおで!

話の流れ考えると卯月が適任かな?

 あと数票、もしくは今日いっぱいで方針を決定したいと思います。
代わりに宣言通り、少し横道に逸れたお話を。

Side Ep.1 友愛属性

 万能といえば聞こえはいい。実際はどうだろう、私は平凡だった。

ちょっと優れていた魔力も、ものの見事に持て余す。

体力は極端にあるわけじゃないけど、私よりもっと動けるリンちゃんとミオちゃんが居る。

短所を補うにしても、言うほど低くない値のため上げ幅が少ない、じゃあ長所を伸ばす……私の長所?

さっきも言ったけど魔力の才能はあるって、貯蔵量が人よりとっても多いらしい。

でも、それをうまく放出する実力が無かった。……私はただ、多く持っているだけ、使いこなせない。

村一番の実力者、村長さんはどちらかというと肉体派、だから私にアドバイスは出来ない、

どんどん二人と差が開く。置いていかれるのが怖い。


――何を悩んでるの?


 珍しい、村への来訪者。ちょっと派手な服装をした人が私に話しかけた、なんでもお見通しといった風に。

彼女も私と同じ、魔法の才能があった。でも私と逆、まったく別の悩みを持っていたらしい。

あらゆる術式を習得し、使いこなせた……が、彼女を阻んだのは素質、魔力の貯蔵量。

他者に大きく劣るそれのために、多大な苦労と挫折を味わったとか……

 でも、目の前のこの人はそんな風にみえない、とってもすごい魔法使い、どうやって?

やっぱり、私も努力が足りないのかな?


――長所が無いなら、作っちゃえばいい


 最初は意味がよく分からなかったんです、たしかに私にはたった一つの才能と呼べるかも怪しい部分しかないです。

でも、作るってどういうことなんだろう?

……答えは、その人が村を出る直前に分かりました。


――これ、よーく見ておくように


 それはもう、すごい量の紙束です。

いくら日数はあったとはいえ、日中普通にお話したり一緒に歩いたり、それ以外の時間だけでここまでの量を……

はい、私のために……この人は、なんと魔法の属性を一つ作ってしまったんです。

いつも使っている術式をわざわざ私に合うように改変して、苦手な術式は私の有り余る魔力を使って

簡易に行えるように……って。

 しっかり使いこなせよ、とだけ言って、あの人は村を離れました。

そこから私は全力で読み込み、覚え……使いこなしました。

魔法の名前は書かれていませんでしたが、三人で話し合った結果、私にピッタリの名前を考えてくれました。


――ウヅキは友達思いだからね


 他にも、私に長所はあったって、気づかせてくれました。

……この魔法は、教えてくれた人と私達三人の仲間の意味を込めて“友愛”と名づけます。

あの人にお礼を言いたいけど、もう一度会えるかな?

Side Ep.2 理由

智香「ところでそのブーツ」

凛「……これ?」

智香「そう、あまり見かけない武器だったから気になってね」

凛「気が付いた時には、って言えば大げさかもしれないけど、いつの間にか私の武器だったよ」

智香「ふーん……さっきアタシが鉱石とかを集めてた、って言ったけど、そこにくっついている石もその一種なんだよね」

凛「飾りじゃないとは思ってたけど、やっぱり意味はあったんだ」

智香「知らないで使ってたの?」

凛「外そうとか思ったことはないし、調べようと思ったことも無かったかな」

智香「うーん、自分の武器はちゃんと知っておいた方がいいと思うけど……」

凛「……この石、何か力があるの?」

智香「鉱石は奥が深いよ! 名前の付くものなら絶対に何らかの力を持ってるからね」

智香「で、その石は『アイオライト』だね。平常心、正しい方向へ導く指針……その他諸々」

凛「ふぅん……」

智香「入手は難しくないはずだけど、その大きさはあんまり見たことがないかな」

凛「……やっぱり、合ってる?」

智香「触れ合った期間は短いけど、アタシはそう思うかな」

凛「じゃあ、大切に使うよ」

智香「そうした方がいいよ、長く使ったものだからね」

凛(正しい方向へ導く指針、か……)

智香は詳しいなあ。
乙!

Side Ep.3 消耗品

未央「よーし、今日の分は終わり!」

卯月「……すごい量だね、相変わらず。これ、全部常に持っているんだよね?」

未央「正確には『いつでも取り出せる』ようにしてるだけかな?」

未央「私はほら、このパワーリングが無いとうまく戦えないし」

凛「そんな事はないと思うけど……あった方が強いのは分かるよ」

未央「しまむーと比べて貧弱な私の魔力は、このリングを収納する空間の維持にだけ使われているのだ!」

凛「だから素質はあるのに魔法は使わないんだ、リングを……収納?」

未央「うむ、だから私は服の内側から作り置きしたリングを何個も何個も取り出せる……この通り!」

卯月「うわっ! いっぱい出てきた! なんだか手品師みたい!」

凛「そんなに作り置きがあるなら毎日増やさなくてもいいんじゃ……」

未央「ところがそうはいかないよ? リングは私の魔力で作る、一日で自由に使える魔力は私の場合少ないからね」

未央「一日に作れるだけ作って、保管しておくのだ」

卯月「大変なんだね……」

未央「そうでもないんだよー、私の強さの秘訣だからねー」



凛「ところで、これって私達も使えるの?」

未央「……そういえば考えたことはなかったかな」

卯月「前にミオちゃんはリングを『昔に失われた道具』って言ってたよね? ということは昔は普通に使われてた武器……?」

凛「だとすると、使えないこともなさそうだね」

未央「ちょ、ちょっと怖い展開だよ……もし二人が使いこなせたら私の存在意義がリング生成マシーンになっちゃうよ!」

凛「そ、それはないんじゃないかな……ミオはミオだから」

卯月「でも一回試してみよ? もしもの時の手段になるかも!」

未央「じゃあ……一回だけ、はい二人とも」

――カチャッ

卯月「よーし……で、どうやって使うの?」

未央「特に難しい技術はいらないよ、使った時の様子を思い浮かべてグッと振りぬけばいいよ!」

凛「じゃあ、この木に向かって……」

卯月「私は腕に付けて……振り抜――」

――ゴッ!

――ドゴォッ!! メキッ……

未央「っ~~! ……おお、すごい音と……しぶりんは大木ごと倒しちゃった……凄いよ二人と――あれ?」



卯月「い……痛ったぁ……何も殴ってないのに、素振りなのに肩が……!」

凛「木は倒せたけど……っ! これは、ダメかも……」

未央「えっ!? どうしたの二人とも!?」

卯月「ミオちゃん! これ私達使えない! 腕壊れちゃうよ!!」

凛「よく普通に何個も何個も使えるね……改めてミオは凄いって思った……」

未央「……? よ、よくわかんないけど褒められてる、のかな? ありがと……」


未央(その次の日、動けないくらい二人は筋肉痛だったって。……このリングが失われた道具になった理由ってまさか、ね?)

やっぱり卯月かなあ

 トリップとやらのテストです、これで大丈夫でしょうか。
そして、コメントありがとうございます、私的にも卯月がとても不憫な役を与えてしまったので、
ここから挽回していきたいと思います。

 夜の間に更新はおそらくありません、午後の四時までには続きが来ると思います。

 多少遅れました、では少しだけ続きを。卯月さんが向かうことに。

 村を出て、最初の到達点である『イスカ』で三人は二人の住人と出会い、
元冒険者のトモカと村の住人ツバキ、二人が経営する店にお世話になる。
そして、新たに経典が示した道はイスカ近辺の飛び地に迫る戦火を止めろ、という内容だった。

 指針が決まった瞬間に波乱も起きた。一度は経典がウヅキの手を離れてしまったのだ。
なんとかリンが奪還に成功し、経典を奪ったミレイとも和解し、事は急展開を見せる。
彼女が救おうとした村こそ、経典が示した目的地。



~ 旧都区『イスカ』 ~



卯月「私が行く!」

未央「あれ、ここは私に譲ってくれる番じゃないの?」

凛「そういう決め方はしてないんだよミオ」

卯月「……やっぱり、これを持ってる私が行った方がいいし、何より私は今、助けられてばかりだから」

凛「分かった、ウヅキが決めたなら私は何も言わないよ」

未央「危なくなったらすぐ連絡するんだよー」

美玲「……どうやってだ?」

未央「そこはほら、頑張って!」

卯月「うん、無理かな……」

卯月(私は今、ミレイちゃんと二人……もうこの経典は手放さない……!)

美玲「……なぁ」

卯月「なに?」

美玲「ウチが提案しておいてなんだけど、一人だけにしてウチが何かする、って考えなかったのか?」

卯月「何かっていうのは……これを奪うって事?」

美玲「ま、まぁ他にも……あるんじゃないかな、とにかくそっちが不利になること」

卯月「その時はその時、って今までは考えてたんだけど……私一人の問題じゃないからね、しっかり考えておかなきゃ」

美玲「万が一、万が一だぞ? 絶対にしないけど、こう、ウチが今襲い掛かったら……」

卯月「もう同じ失敗はしない」

美玲「…………強いな、オマエは」

卯月「何か言った?」

美玲「言ったけど無視していいよ、それより……そろそろ到着するぞ」



卯月「もう? そんなに歩いてないけど……」

美玲「入口が一か所しかないんだ、だから他の村が近くにあっても見つかってない、って長が言ってた」

――ガサガサッ

卯月(……? 少し迂回すれば通りやすい道があるのに、わざわざ草が密集した所を?)

卯月「ねぇ、あっちの方が――」

美玲「そう思ってくれる人が多いから、この村は大丈夫なんだろうな。言っただろ?入口は一か所だけ……!」

――ガサッ

卯月「……あれっ!?」

美玲「ここがウチの住んでるところだ!」

卯月(さっきまでこの森にこんなに開けた空間は無かったはず……! 簡素だけど、私の村みたいな家もあるし……!?)

卯月「どういう仕組み……?」

美玲「さぁ……とにかくわかんないけど、このおかげでウチ含む皆は平穏に暮らしてるんだ」

卯月「……あれ? よく見たら……他の人の姿が見えないけど?」

美玲「え? それは変だな……この時間にみんな寝てるなんて有り得ないし……」

美玲「おーい! 誰もいないのかー!?」

卯月「…………まさか」

――シュッ

美玲「んっ!?」

卯月「今の……!」

??「とおっ!!」

卯月(上っ!?)

――バシィッ!

??(弾いた!?)

卯月「敵襲! 反撃を……このっ!」

――シュバッ!

??「っと、と……」

卯月「回避は早い……でも、逃がさな――」

美玲「ま、待って! 落ち着いて二人とも!」

卯月「ミレイちゃん……?」

??「…………」

美玲「その人はウチが連れてきた! だから脅されて来たとかそんなんじゃないぞ!」

卯月「……知ってる人? ……人?」

卯月(ミレイちゃんと同じ、ちょっと特別な服装に……あれは……)

??「……どこに」

美玲「え? 今何て――」

??「今まで勝手にどこまでいってたにゃ!!」

――バシィッ!!

美玲「痛っ! た、叩くことないだろっ!?」

??「いーや許さないにゃ、どれだけ皆が心配して……その前に、誰にゃ?」

卯月「……理由あってこの場所に、ミレイちゃんに案内してもらって来ました。ウヅキ=シマムラです」

??「ミレイに? ……一応、この集落の代表のミクだにゃ」

みく「それで、目的は何かにゃ。内容によればこっちにも考えがあるにゃ」

美玲「違うぞ! 決して侵略目的で来たとかじゃない! この人は、ウチのために協力してくれるって……!」

卯月「……今、他に人がいないのは私とミレイちゃんが一緒にいるのを見て、避難させたんでしょうか?」

みく「否定はしないにゃ」

卯月「じゃあ……このまま、三人でお話しできる場所まで構いませんか? ……あまり、聞かれたい話じゃないんです」

みく「……みくの家で構わないなら、案内するにゃ」

美玲「……」

みく「勝手に持って行った事は許すにゃ。でも、心配かけさせた罪は重いにゃ」

美玲「……悪かったよっ」

みく「後で皆に元気な姿見せてくるといいにゃ、で、本題……」

みく「まず、こっちが迷惑かけたみたいだから謝る。申し訳にゃい」

卯月「いや、そんな、もう解決したことだし、こうしてここに来る事も出来ましたから……」

みく「そう言ってくれるとこっちも幾分か気は楽になるにゃ、悪気は……無いといえば嘘、私欲はあったけど……」

卯月「村のためなら私欲じゃありませんよ」

みく「……話は聞いていると思うけど、この集落は徐々に招かれざる客が来るにゃ」

みく「今は少数でみくやミレイが追い払う形になってるけど、一度漏れた情報はそう簡単に収まらない」

みく「そのうち、あの入口も大きな部隊に発見、報告されておしまいにゃ」

卯月「相手は、いったいどこなんですか?」

みく「本気? いくら本物の経典の指示といっても一国を相手にするのは無茶じゃないかにゃ?」

卯月「一国……そんなに大きい相手……!」

みく「ああ、言っちゃったにゃ。じゃあもう話すにゃ、相手は……『未来区』の総本山にゃ」

卯月「…………はっ?」

美玲「……ウチが最初に向かおうとしてたの、覚えてる?」

卯月「え……ち、ちょっと待って、整理させてください……」

みく「侵略戦争じゃない、規模はそんなに大きくないにゃ。ただ、開発と比例して土地が必要なんだろうね」

みく「『未来区』は、発祥区の飛び地と呼ばれる、ここみたいな僻地をどんどん開発するみたいにゃ」

卯月「そんな巨大な、区まるごとの組織が相手なのに……他がどうして動いていないんですか?」

卯月「これじゃ平和なんて欠片もあるはずが……でも、極端に荒れてるわけでもないなんて」

みく「それは分からないにゃ、何にせよ……未来区が相手というのは確かにゃ」

卯月「その確証は?」

みく「直接の証拠はないにゃ。でも……」

――バンッ!

住人「また襲撃が! ……あっ」

みく「いや、大丈夫、この人は悪い人じゃないにゃ」

卯月「襲撃!? ってことは……私、手伝います!」

みく「いんや大丈夫……で、どうだった?」

住人「数は三……今までより増えましたが、内容は同じです」

みく「うむ、報告ありがとにゃ。……さて、せっかくだから一緒に説明する、付いてくるにゃ」

卯月「え、え?」

美玲「またこれか……」

卯月「……これって」

みく「さすがに人を拘束すると許容量が持たないし、無力化した後に手に入る副産物にゃ」

卯月(武器……でも、これはどうみても……旧都や発祥区で見るようなものじゃない……)

みく「未来区は魔法技術が衰退している代わりに、才能に左右されない武器そのものの技術が発展してるにゃ」

美玲「それがこの……何だっけ」

卯月「確か、銃火器?」

みく「一般の部隊が剣でも槍でもなく、銃火器を持ってるなんて聞いたことないにゃ、だからこそ……」

卯月(たしかに、これは大きな組織と考えても問題ないかも……)

美玲「人数も間隔も、どんどん悪い方向に……」

みく「情報はどんどん相手側に伝わる、人自体は外に帰しているから仕方ないにゃ」

みく「無力化した後、場所を特定されないように努力は怠っていにゃいけどね」

卯月(それでも……解決にはなってない、悪化する一方。だからミレイちゃんは……)

卯月「何にせよ、相手を知る事が大事です。本当に総本山が相手とは限らないんじゃないですか?」

みく「最悪の事態を基準に想定するのは長の努めにゃ」

卯月「ですけど……ただ悲観するだけなのもどうかと」

卯月「少しでもいい方向に向かわせないと!」

みく「出来たら苦労はしないにゃ……情報も人手も現状維持でいっぱいいっぱい」

卯月「……じゃあ、私が人手になりますから!」

卯月「元々外から来た私なら、外へ調べに行くことも出来ます。何か情報はないんですか?」

美玲「といっても……人は帰してるし、ここにある武器しかないぞ?」

美玲「武器なんて、どの国が何を使ってるかわからないし、同じ武器を採用してるところだってあるだろ?」

卯月「うん…………ということは、やっぱり手がかり無しかな……この銃にも、変わったところは――」

――チャリン

卯月(……ん?)

みく「ああ、それはただのネームタグだったにゃ」

卯月「名前……? 本当だ、持ち主の名前が書いてある……」

美玲「持ち物に名前を書くのは普通だよね」

卯月「そうだけど……これも立派な特徴かな?」

みく「名前から相手を特定するのは無理じゃないかにゃ?」

卯月「そうじゃなくて……武器を個人の所有物として認めているってことじゃないかな、これは」

卯月「だから名前をつけさせて……それに、名前が三人分、これは襲ってきた人数ですよね?」

卯月「全部、ネームタグは同じ……これ、立派な手がかりですよ?」

美玲「そうかもしれないけど、どうやって探すんだ?」

卯月「それは……後で考えるとして、とにかくこの共通した、銀のフレームに小さな突起が付いたタグ……」

――チャリン

 続きは深夜になると思います、中途半端なところで申し訳ありません。

 本編更新が間に合わないので、Side短編更新になります。

Side Ep.4 長であり、師であり、姉。

凛「そういえばさ」

未央「何?」

凛「私達に戦いの基本を教えてくれたのは村長でしょ?」

卯月「私は……半分くらいは別の人だけどね」

未央「私も半分は違う人かなぁ」

凛「私は全部、それにそうは言っても二人とも半分は村長からでしょ?」

未央「そうだねー、そう考えるとやっぱり頼りになるっていうか……」

凛「それで思ったんだけど……私達、どれくらい村長の事を知ってる?」

卯月「どれくらい……って?」

未央「あ、私聞いたことあるよ、出身は発祥区だって」

卯月「え? 私達の村って旧都区の一部じゃ……」

凛「もしかして元は発祥区の飛び地だったのかな……そこを村にして、旧都区に組したとか」

未央「有り得るねー、ってことはけっこう長生きしていらっしゃる?」

卯月「年齢……は、聞いた事ないよ?」

凛「人間族じゃないなら細かい年齢は分からなくても、長生きとは分かるよ」

未央「『ミオ=ホンダ』みたいな苗字と名前に分かれた人は人間族だったっけ?」

卯月「あ、そういう判断の仕方だったんだ」

凛「……知らなかったの?」

卯月「あはは……誰にでも苗字はあって、言う人と言わない人がいるんだと思ってたよ……」

未央「リーダーの一般常識が心配です」

卯月「ちょ、ミオちゃん! 私これでも二人より普通の知識はあると思うな!」

未央「分かった分かったって!」

凛「それで……本題に戻るけど、他に村長に関しての情報は?」

未央「うーん……戦い方もしぶりんみたいな直接的で、特に変わった点は無いし……」

卯月「あ、それで、結局年齢は?」

凛「さぁ、何歳か確定は出来ないね……でも、私は村長の苗字は聞いた事がない」

未央「んー……そういや私もないなぁ」

卯月「私もだ! ってことは……村長さん、すごい力を持った別種族なんてことも……」

凛「それは……無いとは言い切れないけど、考えなくていいんじゃないかな?」

未央「もしそうだったらちょっと怖いし……? それに、そんなすごい種族なら普段から名乗ってるよ!」

卯月「……だね。だって普段から村長さんは自分を『お姉さん』って言うくらいフレンドリーな人だし……!」

――チャリン




・・

・・・


凛「名前?」

武装兵士A「そうだ、個人が扱いやすいように改造しても問題が起きないようにってな、個人所有にしたんだ」

武装兵士B「これだけの量の武器を一人一人に渡すあたり、器がデカいよな」

未央「そんな大部隊の人たちが、なんでこんなところに?」

椿「私としては、久しぶりの団体様で嬉しいですけどね」

智香「喋ってないで手伝って下さーい!」

未央「あっ、ごめんごめん!」

凛「……で、武器からして未来区の住人が、どうしてここに?」

武装兵士A「指揮は部隊長が執っている、俺達はついてきただけだから直接聞いてみてくれ」

凛「その隊長はどこに?」

武装兵士A「ああ、そこに居る」

凛「……あの人?」

凛(こんな大部隊を動かすのは相当の実力者だと思うけど……)

凛(部下が目的を知らない、ってのはどうなのかな?)

??「むー……」

凛(部下と接触せず一人で……書類の束? 作戦の概要かな……)

??「……ん、何か用?」

凛「いや、真剣な目で見てたからつい……気にしないで」

??「そう? じゃあ気にしないー」

凛(私とそんなに変わらないように見えるけど……いや、見た目で判断しちゃ駄目)

??「…………」

凛「…………」

??「……なーんて、冗談だよじょーだん! もっと軽く話しかけてくれていいよー?」

凛「え、あ……はい」

凛(……軽すぎる)



凛「ここには一体何の案件で?」

??「うーん……ま、話してもいいかな、むしろ言った方がいいかも」

??「実は上からの命令じゃなくて、単独で行動中なんだよ」

凛「上からじゃない……?」

凛(てことは、上下関係のあるそれなりの組織の一員……?)

??「だから部下に責任が回らないように、真の目的は教えてないんだよ」

凛「その目的ってのは……」

??「……このあたりで、たびたび行方不明者が出てる」

凛「え? そんな風には見えないけど……」

??「村の活気が無いのはそれが理由じゃないの?」

凛「私は『近くの戦火が激しくなってきた』からって聞いたけど……」

??「ん、じゃあそれもあるっぽい? でも、行方不明者の話はマジだよ、被害は多い」

凛(ツバキさんとトモカさんはそんな事言ってなかった……)

凛(隠している……? もしくは、情報が嘘か……)

??「行方不明者じゃなくて、ちゃんと帰ってきた人もいるんだけどね……それはそれで被害がある」

??「ずいぶん雑な誘拐劇みたいで、武器は奪われるし……一番不思議な点は、全員記憶が曖昧になってるんだよ」

凛「記憶?」

??「って言っても大層なものじゃないよ? 発見された場所と、意識があるうちの行動の証言が合わなくなってるの」

??「例えば、確かに東方へ向かって進軍していたはずなのに……発見された場所は村を挟んで西側だったり」

??「行方不明ってのも、案外自分の現在地を正しく把握できなくて……って事かもね」

凛(……どういう事だろう)

??「どういう事、って思ったでしょ? それがさっぱり、目的も分からない」

??「目的が不明な以上、無差別でうちの部隊にたまたま指針が向いただけだって、ち……じゃなくて隊長は言うんだけど」

??「さすがに……ね、ここまでされて黙ってるわけにはいかないから」

凛「それで、単独行動で解決に動いた……」

??「ご名答! ……ってことで、村の人に注意はしてもらいつつも、他言は控えてね?」



凛「注意って言われても、具体的な対策も何も分からないよ、もう少し教えてくれない?」

凛(これは、ちゃんと仕入れた方がいい情報かもしれない。私達の解決すべき問題の、新しい障害かも……)

??「んー……うーん……確かに、情報渋って被害が他の人に及んだらそれはそれで問題が……」

凛「他の人?」

??「あ、そうそう、被害が出てるのは基本的にその地域に住んでる人じゃなくて部外者が中心」

??「でも、そのうちあなたみたいな村の人たちに被害が出ないとも言い切れない」

凛(私も部外者だけど……村の人と勘違いしてるみたいだし、このままでいいか)

凛「じゃあ、危ない場所とかは? そこに近づかないようにすればいい、みたいな」

??「それくらいなら……この村から丁度南の方角、そこで被害が集中しているよ」

??「森が広がってるところだね、でも村の人はそっちに用事はほとんどないから大丈夫かな?」

??「未来区は反対の北側だし、旧都区や発祥区に向かうにも真南を通る必要は無いし!」

凛「南……か」

凛(…………確か、ミレイを追いかけたのも、ウヅキが向かったのもそっちだったような)

未央「しーぶりーん! こっち手伝ってよー!」

凛「ああ、ごめんごめん……それじゃあ私は――」

??「おっけー、気をつけてねー! ……って、わっ!」

――ガシャン! ガサガサッ

未央「あちゃー、突然の強風が」

??「紙がー! 部外秘の書類がー!」

凛(大声で言うべき事じゃないような)

??「集めて! 手伝ってー!」

未央「もちろん! ぱっぱと集めちゃうよー!」

凛「……あ、これも落としてるよ」

――チャリン

凛(さっきの人達も言ってた名前のタグかな……でも、タグだけ?)

凛「……ユイ?」

唯「ごめんごめん! それもゆいのー!」

凛「ユイ=オオツキさん? で、合ってるかな?」

唯「別に名前を覚えても良い事ないよー? 立場が上なわけでもないし、コネなんてないんだからね?」

凛「……私達に被害が来たら、頼る事にするよ」

唯「そだねー、その時は連絡してねー」




・・

・・・


未央「行方不明?」

凛「っていう事件がこの近くで起きてるらしいよ」

未央「でもトモカさんもツバキさんもそんな事言ってなかったよ?」

凛「だから、情報がそもそも偽物か、村に広まってない情報か……もしくは」

未央「……もしくは?」

凛「村が……この村自体が、加担しているとか」

未央「ま、またまたー……こんなに私たちに良くしてくれてる人がそんなわけ――」

凛「でも、普通パッと会っただけの私達にここまで?」

未央「しぶりんは考えすぎ、もっと親切心に適応しなきゃ駄目だよ?」

凛「……そうだね」

未央「でも真偽はともかく、しまむーにも伝えなきゃ駄目だね。あとミレイちゃんにも」

凛「巻き込まれたら大変だもんね、ただでさえあの子の村は危機が迫っているし……でも、どうやって伝えよう?」

未央「んー……しまむーってどっちに行ったっけ?」

凛「南」

未央「場所は?」

凛「さぁ……」

みく「念のため、確認したいことがあるにゃ」

卯月「なんですか?」

みく「ミレイから色々聞いた事は、確かかにゃ?」

卯月「どこまで話したか、どんな内容かは分かりませんが……気になる事がありました?」

みく「一度、この目で経典を見ておきたい……それと、持ち物を確認したいにゃ」

卯月「持ち物を?」

みく「見た通り聞いた通り、ここは隠れ里のような集落……例えば発信機やこの場所を記録する装置が無いかのチェックにゃ」

みく「自分の意思じゃなくとも、誰かがそっちの持ち物に仕掛けているなんて可能性もあるにゃ」

卯月「そういう事ですか……でも、この経典以外に持ち物はありませんよ?」

みく「え?」

卯月「外の仲間……友達に、手持ちの荷物は預けて来ました」

卯月「経典は、証明のためと私が持っているべきものなので私が管理していますが」

みく「そう……なんにも持ってないかにゃ」

卯月「はい、だから特別気をつけるものも無いです! ……一応調べますか?」

みく「そうさせてもらうにゃ」

卯月(確認されてる間に、この村を散歩しようかな)

卯月「……見た感じ、私の村よりちょっとだけ自然の感じが強いね」

卯月「それと……周りと頭上が完全に木で覆われていて、外がまるで見えない」

卯月(入口があんな形だったし、結界の中……ってことなのかな?)

美玲「ん? ここで何してるんだ?」

卯月「あ、ミレイちゃん。なんでもないよ、ただの散歩」

美玲「そっか。ここはどう? いいところだろっ?」

卯月「うん、綺麗な村……森に囲まれてて、守られてるって感じがする」

美玲「実際に守られてるからな! ここからは見えないけど、あの大木の裏に滝もあるんだぞ?」

卯月「そうなの? 滝なんて見たことがないから、後で見に行くよ」

美玲「滝って言っても、地下から沸いた水が木の中を通って、幹から漏れ出してるだけなんだけどね」

卯月「そっちの方が神秘的だよ! 後じゃない、今すぐ見に行こう、気になってきたよ」

卯月「……歩きながら聞くけど、村の出入り口はあの場所だけ?」

美玲「そうだぞ、だから滅多に侵入なんてされないはずだったんだけど……」

卯月「例えば、村の中から出入り口以外の場所を進んでいったらどうなるの?」

美玲「それはウチも試したことがあるぞ! 出入り口以外の森を進んでも、反対側から出てくるだけだったよ」

卯月「本当に結界の中みたいだね……じゃあ、木で覆われた上方向に進むとどうなるの?」

美玲「上?」

卯月「空が見えてないけど光は漏れてきてるから、外に出られるんじゃないの?」

美玲「あー……それは駄目だね」

卯月「駄目なの?」

美玲「うん。枝が細すぎて、ウチでも乗ったら折れちゃう、上に進むのは無理だよ」

卯月「そっか……」

卯月(やっぱり出入り口は一つ、か)

卯月「見学は一通り終わったけど……チェックは終わったかな?」

卯月「ごめんくださ……あれ? 村長さんは?」

みく「今帰ったにゃ」

卯月「あ、おかえりなさい……外から?」

みく「……二回目」

卯月「え?」

みく「一日に二回も来るなんて、そろそろ本当に危ないにゃ」

卯月「えぇ!? また……襲撃が!?」

みく「これにゃ」

――ガチャン

卯月「またこの武器……それに」

みく「さっきとは違う名前のタグ、つまり別人にゃ」

卯月「それも四人分……今までこんなことは?」

みく「無いにゃ、それどころか急すぎるペースアップにゃ」

みく「多くても一日一回……普段は数日に一度が普通……」

卯月「…………」

みく「…………」

卯月「そ、その……頑張ります!」

みく「一体何をにゃ……とにかく、空回りして無駄な労力を費やすのだけはやめておくにゃ」

卯月「はい……」




・・

・・・


唯「…………早速、ね」

武装兵士A「はっ……共に行動した四人が被害、そのうち一名が帰還しましたが……」

唯「いつも通り?」

武装兵士A「……被害の頻出する南方面へ向かい、その後は村に近い北西の方角から帰還」

唯「念の為、全員に持たせていた方位指針は?」

武装兵士A「武器と一緒に紛失です」

唯「……この様子だと、他の三人もかな。発祥区ほどじゃなくても旧都区の森でも、指針無しに歩き回るのは危険だよ」

唯「一人が帰還出来たのは運が良かったからかな……」

唯(こっちの対策を尽く……目的はわからないけど、敵意があるのは確実……)

唯(その割に……命は奪わない、何故なの? ……どんどん情報が揃うのに、不気味)

椿「……難しい顔してる」

未央「お店なんだから笑顔で食事して欲しいねー」

凛「ユイさんは真剣なんだから……邪魔しない」

未央「はーい。でもさ、いったいぜんたい何が目的なんだろうね?」

凛「それは当然、この行方不明事件の元凶を探しに来てるんでしょ、さっき言ったじゃん」

未央「そうじゃなくて、元凶側の動機」

椿「私も今知ったばかりです、そんな事件があったなんて……」

未央「村人は被害が出てないっていうか、出る前に既に別件で避難してるじゃん?」

凛「そうだね……」

智香「経験論だけどさ」

椿「あら、心当たりがあるのかしら?」

智香「あくまで可能性。村人を襲わずに兵団を襲うってのは、普通に考えてリスクが高いんだよ」

未央「そりゃあ抵抗の度合いも違うもんね」

智香「それでもターゲットに選ぶ理由はひとつだけ、何か分かる?」

凛「何か……恨みがあるとか」

智香「それも可能性として存在する、でもそれだとすぐにあのユイって人が気づくよね、簡単な動機だし」

凛「じゃあ他の理由が?」

智香「引っ張るほど意外な理由、って訳じゃないんだけど、もっと単純に……物盗りだよ」

未央「盗賊?」

智香「ただの村人より、あの人たちみたいなしっかりした装備を持ってる相手を襲って、奪う」

智香「それだと全てが説明がつくよ」

椿「確かに、武器は盗まれてるって言ってますからね」

未央「装備もほとんど帰ってきてないし」

凛「相手を帰しているのは、調査のための増援部隊をさらに狙うため……って事?」

智香「帰す場所を散らしているのはアジトがバレないように、って、これはあまり意味がなさそうだけど」

未央「結局狩場はバレてるし。じゃあユイさんたちが来たのは盗賊たちの思惑通りってこと?」

智香「かもね。こんな大きな部隊が来るのは計算通りか分からないけど、よっぽど腕に自信があるのかな?」

凛(盗賊団が潜んでいる……確かに、可能性はありそう)

凛(…………あれ?)

凛(もしそうだったとして……狙われるのは、ツバキさんやトモカさんみたいな、村人じゃない……)

凛「…………気のせい、だよね」

智香の迷推理。

普段からPCが自動的に再起動を多々繰り返すのですが、今日は特に収まる気配が無いので更新が夜中か明日になります。
直らない場合は別のパソコンを準備します。

焦らずどうぞ。
まってます。



・・

・・・


凛「遅いね」

未央「というかさ、何をやったら帰ってくるんだっけ?」

凛「それは……経典の存在を示して、共闘の交渉を終えたら?」

未央「だといいけど。もし仮にしぶりんが他と交流を絶っている村の長として君臨してたとしてね?」

未央「部外者を私が連れてきて、願いが叶う経典を持ってて、でも使わせてくれなかったらどうする?」

凛「どういう事?」

未央「今のしまむーの状況だと思うんだけど」

凛「……経典の力は見せてもらわないと分からないからね、でも私は信用するよ、未央が連れてきた人なら」

未央「そりゃありがたい! ……って、そうじゃなくて」

凛「違うの?」

未央「違うよ! じゃあもう一つ条件増やす! 私達の間に、そんなに強い絆がなかったとしたら?」

凛「無かったとしたら……それは、決められないね」

未央「その連れてきた人を信用するわけにも、追い出すわけにもいかないよね?」

未央「次に取る行動は?」

凛「次? ん…………交流を絶っているから外に情報を出す訳にも行かないし、帰せないね」

凛「でも、仲間の手前いくらその人物が黒の可能性があっても口封じはしないよ」

未央「……ってことは? というか結構怖い考えなんだねしぶりん」

凛「仮定の話だって。という事は……」

凛「ウヅキがそうなってる可能性があるってこと?」

唯「ねぇ」

未央「ほ?」

唯「さっきから、誰の話してるの?」

未央「誰って、今ここにいないお友達のしまむーの話ですが何か?」

唯「シマムー? 変わった名前だね? その人はどこに?」

凛「ちょっと用事があって、一人で外出中」

唯「こんな時間まで一人? 引率もなしに? 危ないなー、せっかく警戒に来てるのにそんな事されちゃ困るなー」

未央「その情報がもう少しだけ早かったら考慮はしたと思うけどね」

凛「するだけで、止めるわけじゃないけど」

唯「そんなに大事な用事? どこまで行ったの?」

未央「いやいや、心配するような距離じゃありませんって、きっと寄り道してるんだそうに違いないよ」

唯「近い距離……そっか、ありがと。じゃあこの予想は当たってるかもしれない……」

未央「予想?」

唯「お友達、近い距離でしょ? 近くに隣接する村へ向かったのかな?」

未央「あれ、近くに他の村なんてあったっけ?」

唯「んっ……?」

凛(ミオ!)

未央「あっ、そ、そそそそうだよ! すぐ近くのなんとか……名前忘れちゃったけどその村!」

唯「……そう。でもどうやらお友達はその村には着いてないみたいだよ?」

唯「この村を起点に、ぐるっと囲んだ放射線状に一定距離まで見逃さず行進……結果、身元不明の人物には遭遇しなかった」

凛「もうそんな大規模な捜査を?」

唯「手早い行動は大事だよー? それで、その件に関しては二通りのゆいの考えがあるよ」

唯「まず一つ、あなた達がゆいに嘘ついてるか。知られちゃまずい事でもしてるのかな?」

未央(……どう答えればいいの?)

凛(本当の事を言うわけにはいかない……経典の事もだけど、ミレイに迷惑が掛かる)

未央(あ、そっか)

唯「黙ってるってことは――」

凛「違う、ウヅキも私もミオも、知られちゃまずい事、悪事は働いていないよ」

未央(正義の行動だけど説明できないんだよねー……)

唯「じーっ……」

凛「…………」

唯「ん、信じる」

未央(ほっ)

唯「でもそうなると、こっちはこっちで厄介な事があるんだよ?」

凛「……巻き込まれた、って言いたいのかな。でもウヅキはそんなに柔じゃない」

唯「ゆいの部下が何人も巻き込まれてる」

凛「狙われる程の動機もない」

唯「そもそも無差別で、物盗りの可能性も高い」

凛(……会話の流れが良くないね)

未央(どういう事?)

凛「とにかく……ウヅキは大丈夫だから」

唯「普通なら、頼ってくるはずなんだけどね、やっぱり何か隠してない?」

唯「こんな情報を聞いて、友達が消息不明なら……探して、って頼まない?」

未央「まだ消息不明とは決まってないでしょ?」

唯「可能性があるなら、友達の為を思えば普通こう来ると思うんだけど……」

凛(……どうする?)

未央(どうするって……何を?)

凛(この後、十中八九聞かれる)

唯「じゃ、ひとまずそれは置いといて、先にこっちから話すね?」

唯「ゆいの予想だと、そのウヅキって子は例の加害者グループのアジトに近づいたかもしれない」

凛(ほら来た)

唯「隠れ家があるかもしれない、だから詳しく話してくれないかな?」

唯「この近くで……そんな噂、聞いた事無い?」

未央(ミレイちゃんの村の事……!)

凛(当然、話すと相手側を敵と思っているこの人たちと衝突は避けられない)

未央(じゃあ知らぬ存ぜぬで通らない?)

凛(そう言うと多分、こう返してくる)



唯「じゃあ外は危険だから、ゆい達と村で一緒に行動しよう!」



凛(断れない、断ったら余計に悪化する)

未央(やましい事してるんじゃないかって事だね)

凛(それもあるけど、私達が動けない間にあの人たちは部下が動く、そうなると……)

未央(一緒じゃん! このままだとウヅキに情報を伝える手段も無いし、もっと悪くなるとミレイちゃんに迷惑が!)

凛(迷惑で済めばいいけど。……あの人の部下は間違いなくミレイ達の住人が襲ってると思う)

未央(え? それってどういう事? もしかして物盗りの集団って――)

凛(違う、この問題……悪者はいないんだよ)

凛(ミレイ達は火の粉を追い払ってるだけ、ユイ達は襲われたという事実を見て安全を確保するため)

凛(……飛び地に迫る戦火、もしかして導火線は私達が引いちゃったかもしれない)

未央(でも、私達が来る前から指示は出ていたし、実際に既に襲われた可能性だって……!)

凛(襲われてはいたと思う、でも一番大きい相手がそれを嗅ぎつけて来るまでの時間に解決が出来なかった)

凛(選んだルートは、とても険しいね)

唯「……どうかな?」

凛「噂……どの程度のものまで?」

唯「なんでも」

凛(下手に黙っても、あちら側が既に情報を掴んでいたら……)

未央(村の存在をひた隠しにした私達も共犯なんてことに?)

凛(最悪はそうなる)

凛「……近くに、隠れ家があるって」

未央「え? 言っちゃうの?」

唯「それが、隠してた事? の割には、雑な情報だね……もうちょっとあるでしょ?」

未央「ここからはそっちで探してよ! こっちだって言えない事情が――」

凛「いいよ、この人の言う通り……そろそろウヅキも心配になる、いくらなんでも」

唯「そりゃ当然だよ、その口ぶりからすると、やっぱりそこに行ってるの?」

凛「うん。……方角は北、そこに隠された財宝があるって」

未央(…………は?)

唯「お宝探し?」

凛「悪い?」

唯「いや、なんというか……思ってたのと違っただけ」

凛「でも奥まで探索するつもりは無いよ、ただそういう遊びをしてただけ」

唯「奥?」

凛「正確には地下だね、最奥にお宝なんて噂があるけど……危ないから近づかないように約束したんだけど」

凛「ね、三人で別々に入口を探しに行って、帰ってくる遊びだよ」

未央「う、うん? そうだったね、そうそう、遊び遊び!」

唯「じゃあ……誰かに襲われたってより、好奇心で奥に入ったって可能性もある……うーん」

凛「……言ったんだから、探してくれるんだよね?」

唯「それは頼んでるのかな?」

凛「ここまで聞いておいて、放置するの?」

唯「うーん…………分かった、じゃあ早速その地下ってのを探すから、二人はここにいるように!」




・・

・・・


未央「なんであんな嘘を? 私、びっくりして話を合わせるの遅れちゃったよ!」

凛「……今のうち、あの集団は反対側の北へ向かったから、私達も出発しよう」

未央「へ? 出発って……あ、分かった!」

凛「うん、今のうちに……ウヅキに会いに行こう」

未央「私達が先に、ミレイちゃんの村を探す。二つが衝突するより早く!」

凛「交渉を間違える危険があったり、真意が分からないユイさん達のグループより現実的だよね」

凛「問題があるとしたら、村の場所かな」

未央「これは本気で探さなきゃね……見つけられるかな?」

凛「見つけないと、抗争は回避できない……何が何でも、探さなきゃ」

 応援のコメントがあるだけで、励みになります、わざわざありがとうございます。
一回の更新あたりの量が少ないなど、内容がわかりにくい点などがあれば改善に努めます。

現在、一人で向かった島村さんとはなんだったのか状態ですが、ここから出番はありますのでどうか……
若林さんと古澤さんで最初に頂いたリクエスト(無計画故に以降のリクエストは考えていませんでしたが)、
なんとかどこかで挟みたいとは思っていますが古澤さんのキャラの都合上、序盤には向いていないので
もう少し後になるやもしれません。

乙ですっ☆
智香再登場を、期待してます。

--- * ---
 とっても智香推しですね……得たポジション的に登場回数は多くなりそうですが、あまりに偏重しないように努力します。
そしてとても今更なのですがこのストーリー、これからの話に関する注意と方針を書かせていただきます。

・名前は同じでも設定・口調が公式と変化が見られる登場人物がいます。
・あなたの好きなキャラクターが大きな負傷を負う可能性もあります。
・Pに該当するキャラやオリジナルのキャラクターはモブを除き、絶対に主要人物になりませんし登場もしません。
・以上の都合上、好きなキャラが大きな『悪役』を担う可能性があります。
・サイマスとグリマスのキャラクターは登場させません、申し訳ありませんがこれはシンデレラガールズ準拠です。
・登場させたからには、キャラの出番は一度で終わらせません。
・この注意事項は増減添削される可能性があります。

 現段階でも、後の追加でも、納得できないもしくは気に入らない、許せない点がある場合は
申し訳ありませんがブラウザバックを推奨させていただきます。
では、本編の続きをどうぞ。

--- * ---




――ハラリ

卯月「あれっ?」

――バサバサッ

卯月「経典が……何かを合図している」

卯月「うん、見るよ、すぐに……」



~ 閉塞した地に向かう侵入者を排除しろ ~



卯月「これは……なんで……?」

卯月「私がこの村に来たからもう大丈夫じゃないの?!」

卯月(指示から逸れた行動をした? でも思い当たる節は無い……じゃあこれが必然?)

卯月「抗争を、止める事が目的……そのはずなのに……!」

卯月「ミクさんやミレイちゃんの情報が彼女達の手によって漏れた?」

卯月「でもこれは私の指示じゃない、ミクさん達個人の意志の行動……干渉してない」

卯月(……いや、待って。じゃあ最善の策は、その迎撃姿勢を私が止める事だった?)

卯月(違う、違うはず。そもそも相手は侵略を試みている大国の可能性もあるなら交渉なんて出切っこない!)

卯月「……何が正解だったの?」

卯月「ううん、立ち止まってられない……今は明確な指示が出てる、これに従わなくちゃ……!」

――タタッ

美玲「おおっ、また会った……って、そんなに急いでどこに行くんだ? もうこの先は外だけど」

卯月「そのすぐ外に用事があるの! ……てっとり早く、これを見て」

――バサッ

美玲「もしかして、経典に何か……!」

卯月「そのまさかだよ……それに、割とまずい情報……!」

美玲「し、侵入者……なんでだよっ! なんでこのタイミングで……!」

卯月(これじゃ、本当に私が連れてきたみたいになっちゃう……)

卯月「でもどうしてこっちに侵入者が来るなんて……尾行されてた?」

美玲「有り得ない、いつもそれだけは一番警戒してるんだ!」

卯月「……とにかく、侵入を拒めって事は誰かがここを目的地にしてるって事!」

美玲「そいつの侵入を止めたらいいんだな……任せとけっ!」

卯月「ミクさんに報告はどうしよう?」

美玲「ここに二人しか居ないから……相手を見てからにしよう、複数人が相手で対処出来そうにないなら応戦!」

卯月「そうじゃないならミレイちゃんが報告に行って!」

美玲「ウチが? って、普通そうか。じゃあ外に出るぞ……!」

――ガサッ

卯月「まだ誰もここには来てないみたい」

美玲「ここで待つのか? 入口の近くだから出来れば避けたいんだけど」

卯月「そうだね……目の前はまずいからちょっとだけ離れよっか」

美玲「どっち方向にだ?」

卯月「えー……どっちにする?」

美玲「どっちって……そっか、どこから来るか分かってないんだったな……」

卯月「ミレイちゃん、どっちに何があるかってのは分かる?」

美玲「北の方角にウヅキ達の居た村があるって事しか調べてないぞ」

卯月「村から侵入者……悪意のある人が村を普通に通過してくるなんて、あり得るかな?」

美玲「いや、相手は未来区の組織なんだぞ? 別に村を通ってきてもおかしいことはなさそうだけど」

卯月「むむ……組織が相手とは決まったわけじゃないけど……可能性を考えよう!」

卯月「決めました! 北上しましょう!」

美玲「よし、わかった!」

未央「南……しかないんだったね、情報」

凛「とにかく探すしかない。ミオ、隠れ里がどんな隠れ方しているか、なんて資料は見た事ある?」

未央「初耳過ぎて驚いたよそんな資料があるなんて」

凛「ごめん、私も焦ってるんだと思う」

未央(しぶりんが壊れかけてるのは何でだろう)

凛「……こういう時、ウヅキの決断力は尊敬するよ」

未央「間違う時も多いけどね」

凛「私は今、どこを探すべきかの決断も出来てない。手がかりなんて無いから、何を選んでも大差ないのに」

未央「材料を見つけてから動く……のは、普通なことだと思うし長所ですらあると思うけど」

凛「時間があって、手がかりが見つかる糸口がある時の話だよ。今は緊急で時間もない、とにかく考えるより動かなきゃ駄目」

凛(……それが分かってるのに)

未央「じゃ、じゃあさ、とにかく棒きれの倒れた方向でもなんでもいいから、適当に決めよう?」

凛「そうしよう……どれがいいかな」

未央「悩まないの! 考えるより動くって言ったところ!」

凛「ごめん……」

未央「あの木の枝でいいね? よっと」

――バキッ

未央「よしと……ん?」

――ガサッ

卯月「!?」

美玲「誰か居るぞ!」

卯月「慌てないで! まず誰かを確認しないと――」

美玲「こんなところまで普通の人は来ない、だから先手を打ってもいいはずだぞ!」

美玲「それに相手がとんでもなく強い可能性もあるなら、最初の一撃が勝負だって皆も言ってたぞ!」

卯月「むむ……じゃあ、せめて武器の有無だけでも確認してからね! 人違いは大変だからね!?」

美玲「分かった。木の上から確認してくるよ」

――シュッ

――ガサッ

――…………サッ

美玲「一人……武器は、持ってるようには見えないけど」

美玲「あれ、どこかで見たような――」

??「……せーのッ!!」

――ドガァン!!

美玲「うわ!?」

美玲(木が折れ……!!)

卯月(何の音!? くっ、今行くよミレイちゃん!)

――ダダダッ!!



――ガキィン! バシィッ!

卯月「……あれ!?」

凛「ウヅキ!?」

未央「おろ?」

美玲「見た顔だな……! とりあえず、この手をどけて……」

未央「あ、ごめん」

卯月「二人とも!? どうしてここに!?」

凛「ウヅキこそ、ミレイと一緒に集落へ向かったんじゃ……」

卯月「事情があって外へ出たんだよ!」

凛「事情……でも、丁度いい、私達もウヅキに伝えなきゃいけないことが……」

美玲「未来区の部隊と部隊長が!?」

未央「村に侵入者が!?」

凛「私達も、場所を教えてもらえば協力は出来るけど」

卯月「それは是非お願いしたいし、一緒に協力して話を進めたいんだけど……」

凛「何か問題が?」

美玲「村の場所の事なら……もうそんなことを言ってられない、ウチが説得するよ」

卯月「なら問題は……一つ解決したね」

未央「二つ目問題もあるの?」

卯月「うん……さっき言った『侵入者を排除しろ』なんだけど……」

卯月「侵入者の定義、って何かな?」

美玲「そりゃあ村へ侵攻してくる、今聞いた未来区から来た部隊だろっ!?」

未央「まだ確定はしてないし、そうには見えないんだけど……」

凛「こっちの要求は通りそう?」

卯月「互いに敵意を向ける方向が間違っている可能性があるから、攻撃を止める事?」

美玲「それこそ説得できないぞ! 万が一を考えると防衛解除なんて無茶だ……!」

凛「このままだと交戦は避けられなくなる……せめて両方を知っている私達が防衛に加わるのがベストだと思う」

卯月「…………私もそう思う、でも……それが出来ないかもしれない」

未央「なんで!? ミレイちゃんは村に私達を入れてもいいように説得してくれるって――」

卯月「経典は『侵入者を排除しろ』って言ったんだよ……?」

凛「……そうか!」

凛「敵意ある相手じゃなくて、村へ入ろうとする人物を止めろって事なら……」

卯月「リンちゃんや、ミオちゃんも『侵入者』になる、と私は思う」

美玲「じゃあ、結局ウチがどう頑張っても二人は村に呼べないのか?」

卯月「私はそう予想したけど、三人はどう思う?」

未央「どう思う、って……」

美玲「可能性があるなら……」

凛「私とミオは、これ以上進めないね……」

卯月「結局、ベストは……」

未央「とにかくこのままだとユイさんが捜査を続けた結果村を見つけるかもしれない!」

凛「それで、集落の防衛線に引っかかって交戦……その可能性がゼロとは言えない」

美玲「かといって防衛線を緩めるのは無理だぞ!」

卯月「……そのユイさんって人を止めるのは?」

未央「方法がまったく思いつかないし説得する材料も無いけど……」

凛「それしかない、か……ウヅキは村へ戻るんだよね」

卯月「正確にはこのあたりで侵入者の侵入を防ぐために見回りかな」

美玲「ウチは入口を見張っておく!」

未央「……村に入らなければいいんだよね? じゃあ私はしまむーと一緒に森を見て回る!」

未央「交渉は、私だと力になれそうもないから……ここで一緒に頑張るよ!」

凛「じゃあ私がユイさんと、か……大役だね」

卯月「頑張って、としか言いようがないけど……が、頑張ってね!」

凛「そっちもね。……侵入者が誰かは分からないけど、弱くはないに決まっているから、気をつけてね」

卯月「分かってる……!」

未央「じゃあ各自持ち場に……解散だよ!」

おお、更新してる。乙です。
ここから全員、別ルートか。期待。

Side Ep.5 経典が不運を招いた世界線

 経典を渡す相手を間違った……訳ではないと自負しています、

全ては可能性で、いつもと違った選択になれば、それは既に新たな可能性を見たということで成功です。

しかし結果論で言えば、望まれる結末ではなかったとして、それは失敗と言える時はありました。



 ある人物は、既に重ねた罪により多くの罪を重ね、最後には望み叶わぬまま……

自業自得といえばそれで済むのでしょうか? それで片付けるには、あまりに救いのない――



 極希に、彼女が救われる世界線に遭遇することがあります。

……つまり、普段は彼女は救われない。経典の前に姿を現した瞬間、彼女か経典の持ち主、どちらかは倒れる。

救われた世界線の彼女は、不本意ながらも大きな貢献を生みます……そして、間接的にもう一人の救いが訪れる。



 またある人物は、経典を見つけてしまったばかりに、別の希望を見つけてしまったばかりに……

その世界線では……全ての可能性の中でも珍しく、数多に存在する反乱を見事に治める……

これだけ聞けば、最も平和な世界ですね。

その代償として、経典を持つ彼女は深い絶望へ……

頼れる仲間と、慕う民と、良き理解者と、得るはずだった信頼と、平等に訪れるはずの解放が、同時に去った。



 さらに他の人物は、ほとんどの世界線で発生する悲劇を見事回避した。

……その結果、新たに可能性として発覚してしまった、先の悲劇を上回る強大な悲劇。

どちらかといえば、その人物に対する悲劇ではありませんね、これは……私、アイリに訪れた悲劇です。

見つけたくはなかった、その結論。

――この人物は世界の平和の為に、生きていることは許されない。



 私が経験した世界線の中で、最も悲劇を産んだ線ですか?

それは…………私の生きていた時代、でしょうか?

 ちょうどガチャが更新されましたね、私は12%チケットとプラチケからそれぞれ一ノ瀬さんと本田さんのSRを引けました。
それでは筆が進んだので更新させていただきます。
----------------



・・

・・・


美玲「……交渉の成否で事態がおっきく変わるのか」

美玲「ウチもついていくべきだったかな?」

美玲「いやいやいや、ウチが何を説明できるんだ……それより、ここで大人しく待ってた方が全然いいよ」



??「見っけ」

美玲「……お?」

――ダンッ

美玲(地面を蹴る音、近づいてくる音、そして……)

――シュッ

美玲「空気を……斬る音ッ!?」

――ギィン!!

??「おろ?」

美玲「なんだオマエ!? 敵か! 敵だな!?」

美玲(気づくのが遅れた……どころじゃない、いつ近づいて……!)

??「ところで、誰かなー?」

美玲「はぁ!? 攻撃を仕掛けておいて――」

??「でも受け止めたって事はそれなりの人だよね?」

――スチャッ

??「これなーんだ」

美玲「……じゅ――!?」

――ダァン!!

美玲「っあう!?」

??「あれれ、やっぱこれ使うの苦手だなー」

??「でも……被害の多い南で、この辺の資料にない種族で、それなりの実力者っぽい」

唯「もしかして、ゆいが探してる人だったりする?」



美玲「ユイ……!?」

美玲(さっき二人が言ってた、未来区から来た部隊の!)

唯「もしかしてゆいの事知ってる? あはは、ゆいも有名になったかな?」

美玲「ここに入るなァッ!!」

――ブンッ!

唯「入るな、って事は入る所があるんだね?」

唯「通してもらうよ!」

美玲「そっちが帰れッ!!」

――ドシュン!!

――バサバサッ

卯月「…………見つからない!」

~ 閉塞した地の侵入者を排除しろ ~

卯月「ミオちゃんもまだ見つけてないだろうし、しっかり探さなきゃ……」

卯月「……そうだ、一旦ミレイちゃんの所へ戻って情報を聞こう」



凛「居ない……って?」

武装兵士「そうです……けど、何か要件があるなら伝えておきますが」

凛「それじゃ遅い……どっちに向かったか言ってた!?」

武装兵士「被害の多い南方向を重点的に探せと……」

凛(南!? 私達の行った方角……しかも、私は北と伝えたのに……!?)

凛「まさか……くっ!」



未央「むむ、誰かが通った後だ!」

未央「草が掻き分けられてて……足跡が二つ、てことは相手は単独じゃないね」

未央「靴の先はこっちに向いているから、進行方向はこっち……こっちってどっち?」

未央「私、絶賛迷子中で、どっちの村がどの方向にあるか分かっていないんだよね」

未央「とりあえず、逆方向に進んでみますか! もしかしたら尾行前のアジトに到着するかも!?」

――カランッ

美玲「……お」

唯「一回止めたから二回目も大丈夫と思った?」

美玲「あれ……なんで、え……」

唯「ゆいの剣は普通の剣だよ、とっても細いだけ」

唯「斬るのは苦手、でも真っ直ぐ相手に向かって刺せば……」

美玲(ウチの爪ごと……腕とっ、肩まで……ッ!?)

唯「裁縫みたいに貫いちゃったね」

美玲「ぐっ、う! まだ……左手が――」

唯「させない!」

――ドンッ!

美玲「いでっ!?」

唯「防御を貫く自信はあってもダメージを与える自信はそんなにないんだよ」

唯「だから、ほいっと……こんなものでいいかな?」

――ザクッ!

唯「ちょっと、寝ててね」




・・

・・・


卯月「あれっ? ここ、こんな道だっけ……?」

卯月「……違う! 木が、変に倒れてたり傷ついてたり、目印?」

卯月「もしかして侵入者が……でも、どれにしちゃあ的確すぎる……」

卯月(村の場所はリンちゃんやミオちゃんも、確信を持って調べてたわけじゃない)

卯月「侵入者は外から来る、なのに、さっきから警戒してる私達に引っかからないのは……!?」

卯月(経典……さっきみた状態と変わってない)

~ 閉塞した地の侵入者を排除しろ ~

卯月「……ん?」

卯月「村の侵入者を排除……村への、じゃなかったっけ……?」

卯月「これじゃあ意味が変わってきちゃうよ、えーとこの場合……」

卯月「……もう『村に侵入者は居る』……!?」



――ダダダダッ



――ドサッ



――ガサッ ガサガサッ



卯月「ぷはっ! こんなにひどい道だったっけ……!?」

卯月(……ミオちゃんが倒した木! なぜか何本か倒れた木が増えてるけど、これがあるってことはここがさっきの……!)

卯月「ミレイちゃん!? どこにいるの!?」

――シン……

卯月「静か。……じゃ駄目!」

卯月(誰もいない……!?)

凛「ミオ!?」

未央「しぶりん!? あれ、なんでこっちから来るの?」

凛「こっちは村の方角だよ」

未央「むむ、じゃあこの侵入者は村から来た事に……やっぱりユイさんが?」

凛「見たの!?」

未央「いや、森の中で足跡を見つけたらか追跡してみたんだけど、駄目だった」

凛「こっちも駄目、ユイさんは既に出発した後……こっち側にね」

未央「南に? しぶりんが北って言ったのに?」

凛「バレてたのかな…………いや、待って」

凛(侵入者、足跡、誰にも会わなかったミオ……)

凛「あっ……!」

――ダダッ

未央「え、ちょ!? しぶりーん!?」

凛「早く戻るよ! ウヅキとミレイの所へ!!」

未央「ええええ!? 交渉はどうするの!?」

凛「もう時間切れだよ……ユイさんは、私達の後ろをついて来てたんだ……!!」

未央「そんなまさか!?」

凛「足跡は私達のだ、だから二つ……! これを辿ればさっきの場所に戻れるはず!」

――ドォン!

卯月「っしょ……村の入口の木ってどれだっけ!? こんなにいっぱい倒木があったら分かんないよ!」

卯月(でも、見つけなきゃ……中で何かが起きてる、手遅れになる……!)

卯月「これでもない、これでもない! ミレイちゃんが居たらなぁ…………あっ!」

卯月(薄い色の交差した木の枝、それに脇を塞ぐ雑木林……!)

卯月「この間を潜れば村の中に入れ――――」



――ゴオオッ!!!!

……なに、これ。



赤い、苦しい、熱い。 熱い、熱い……?



卯月「あ、う、わあああああ!!?」

――ゴロゴロゴロ……

卯月「熱っ! な、なにこれっ……! なんで、どうして……!?」

卯月(空間が丸ごと……燃えてる……!!)

凛「足跡はここで切れてる……」

未央「ここで誰かの声が聞こえたから木の上を伝って行ったんだよね……」

凛「ただ……何か変だよ……この森はこんな表情じゃなかった……!」

未央「急成長する森!?」

凛「もっと簡単に考えよう……ユイが荒らしまわったか、誰かと交戦したんだ」

未央「もしかしてしまむーが……」

凛「無いとは言えないけど、それより確率が高いのはここに残ってたミレイだ」

未央「そ、そっか! じゃあ早く応援に行かないと!」

凛「村もこの辺りにあるはず……纏まって探すよ」

未央「了解! おーい! ミレイちゃーん! しまむーっ!!」

――ガシャアン!!

卯月「危なっ……!」

卯月「もう、ああ、うあああっ!!」

――ドンッ!

卯月(どこかで選択を間違えた? いや、今回は想定なんて出来ないほどの……結局救えない、またなの?)

卯月「どのみち……また、こうなっちゃった……っ!」

――ゴシャアッ!!

卯月「大木っ……!」

卯月「はぁ、はぁ……もう、入口は火の海だよ……!」

卯月(この空間はループしてる、外に出る場所はあの一箇所だけ……でも、出られない!)



――スタスタスタ

卯月「どうしよう、どうしようっ……!」

??「まずは涙を拭いては如何ですか」

卯月「っく!?」

――ブンッ!

??「あ、驚かせちゃいました……私です」

卯月「アイリ……さん。……す、いません、私は、次は大丈夫って言いながら三回も……失敗を!」

愛梨「それについてですが、本来こういった事には口出ししないのですが……」

愛梨「ウヅキさん、経典が示した指示はなんでした?」

卯月「村の……侵入者を排除です」

愛梨「それもですが、もっと初めの……最初に、何を言われました?」

卯月「最初……」

~ 『イスカ』近辺の飛び地に迫る戦火を止めろ ~

卯月「……やっぱり、防げませんでしたよ」

愛梨「ウヅキさん、戦火とは具体的に何だと思いますか?」

卯月「今のこの状況です!! これが戦火でなくてなんなんですか!?」

愛梨「落ち着いて……! 戦火、最も避けるべき事態は既に通過しました」

卯月「ひっく……え?」



愛梨「フェアではないですが、あまりにも不運な勘違いを引き起こしやすい運命線ばかり選ぶもので……」

愛梨「不躾ながら、補足に参りました」

卯月「どういう、事?」

愛梨「経典は段階的に試練を与えます、最初からこの規模の村落としを止めろとは言いません」

卯月「だから、いったいどういう――」

愛梨「この集落の陥落を避けられる運命が最初から用意されていなかったのです」

卯月「は……? で、でも最初の指示は!」

愛梨「迫る戦火を止めろ、であって……起きた戦火を沈める必要はありません……!」

卯月「じゃあ、黙って見過ごせって事ですか!? ミレイちゃんも、ミクさんも……!」

愛梨「そこで次の指令です。……侵入者の排除が、戦火を沈めることになります」

愛梨「……詳細は伏します、これ以上の協力はオーバーです」

愛梨「ですが、これだけは覚えていてください……大きな失敗を犯していないうえで起きた不幸は、必然の出来事」

愛梨「あなたが原因として気に病むことはありません……」

卯月「え、ええ? もう、意味が分からないよっ……!」

愛梨「では……冷静になってから、お友達と意味を考えてください。まずは、侵入者を排除するのが今のあなたの使命」

愛梨「難しく考えては行けません。考えてから行動するのもオススメしません、それはあなたの役目じゃない」

愛梨「まず動く、好機を取りこぼさない内に……!」

――スッ



卯月「…………いったい――」

――ッ ……ィン!

卯月「!?」

――キィ  ン  ッ

卯月(炎に混じって……何か聞こえる……!)

卯月「まだ何かここで起きてる……誰かが争ってるなら……まだ私の行動が遅くないなら……止めなきゃ!!」

――キンッ! カキィン!

唯「あはっ! あはははっ!!」

みく「にゃああああ!!」

――ガキンッ! ギィンッ!!

みく「埒があかないにゃ……!」

唯「どこ行くのー? そもそもどこへ行けるのー? 他の住民はどこー? 聴いてるのー?」

みく(自分も外へ出れにゃいはず……何の余裕にゃ?)

唯「ところでさー、結構強いじゃん? ゆいと一緒に働かないー?」

みく「自分が何をしたか、周りを見るにゃああ!!」

――ダッ!  ガキィン!!

唯「ゆいは褒めてもらいたくてやってるだけだよ? 期待にそれ以上の成果で返す事が一番褒めてくれる!」

みく「それとこれに何の関係があるにゃ!」

唯「この前、ゆいが褒めて欲しい人がリーダーから指令を貰ってたんだよね」

唯「なんでも『周囲に実害を産む可能性のある土地』を治める事だって、すごいよね」

みく「……みく達は危害なんて加えにゃい!」

唯「嘘だね! この村に近づく人を襲ってたのは誰かな!?」

――ギィンッ!

みく「攻撃じゃないにゃ、防衛にゃ」

唯「じゃあ過剰防衛に窃盗と拉致誘拐もしくは監禁行方不明、その後は考えた事ある? 命を落とした人もいるだろうね?」

みく「…………」

唯「あは、結局? ねぇ結局? 黙っちゃうのかな!?」

みく(しまっ……早)

――ダダダッ!

卯月「とあああっ!!」

みく「何にゃ!?」

唯「あうっ!?」

――ガシャアン!!

卯月「間に合っ……痛っ!」

みく「あんた、まだここに居たのかにゃ……部外者だからさっさと逃げるにゃ」

卯月「嫌です! 助けに戻ってきたんです!」

みく「ここはもう駄目にゃ、もうここに助けられるものはないにゃ」

卯月「まだ、みくさんを助けられます!!」

みく「そう来るかにゃ……ただの飾りだけ、この通り村を守れなかった長を救って何になるにゃ」

みく「それでも何か手伝いたいなら……避難している場所に姿を見せなかった、ミレイを探すにゃ」

卯月「ミレイちゃん……外にはいなかったはず……!」

みく「尚更まずい情報を聞いた。……みくよりミレイを探すにゃ、それが一番みくが助かるにゃ」

卯月「わ、分かりました……!」

――ガシャン!

唯「痛いなぁ……また一人増えたんですか……?」

卯月「ユイさん!」

唯「ん? ……本当に誰? この村の住人っぽくないね、まさか外と繋がりがあった?」

卯月「正解です!」

みく「半分だけにゃ」

唯「……なんでもいいや、どのみち逃げられない、ゆいが入口から火を放ったからね!」

卯月「ユイさんも逃げられないのでは?」

唯「ゆいは熱いの平気だからね」

みく(……どこかに逃走手段はあるはずにゃ)

卯月(検討は? 村に隠し通路とかがあるならミレイちゃんと一緒にそこを通って――)

みく(残念ながらそんなものはないにゃ)

唯「ほらっ!」

――ギンッ!

みく「話してる余裕も暇も無いにゃ……!」

唯「何で貫通しないのー?」

みく「経験値!」

――ガッ!

唯「あー! ゆいの剣がー! 待ってー!」

みく「今のうちにゃ、みくはこの子の相手をするから行けないにゃ」

卯月「分かりました……!」

卯月(どこかで動けない状況と考えて……一番可能性の高いのは……!)



――グシャアッ!

卯月「っつ……綺麗だった滝も、木が燃えてて歪な形……」

卯月(居るとしたら、いや……居て欲しいのがここ……!)

卯月「ミレイちゃん! 居るなら返事をして!!」

――ゴオッ!

卯月「きゃあっ!」

卯月(ここも危ない……! 水場があっても火の勢いが凄い……!)

卯月「ミレイちゃ……熱っ!」



――カンッ カンッ

卯月「……!」

卯月「火の音じゃない……硬質の何かがぶつかった音、しかも近く――」

卯月「石、と爪! その下だね!」

――ガバッ

美玲「えへへ、濡れた岩の下に居るなんて……虫みたい、だろ?」

卯月「っ……!」

卯月(一直線に……貫かれた傷……!)

美玲「大丈夫、だぞ……立てる、立てるから……でも支えて動かしてくれっ……」

卯月「も、もちろん! 早くここから出よう!」

――ザッ ……ガッ

卯月「えっ?」

美玲「逆……ウチが行きたいのはそっちじゃない……」

卯月「そっちじゃない……って、出口と広場はこっち――」

美玲「ウチの育った村だ……炎なんかウチが消してやるから……手伝ってくれよっ……!」

卯月「ミレイちゃん! そんな事言ってる場合じゃ――」

美玲「ウチが止められなかったからこうなったんだっ! せめて何かさせてくれよっ!!」

卯月「駄目だよ! 私はミレイちゃんを助けに来たんだから!」

美玲「離して、離してくれ! ウチは一人でもやる! 離さないと恨むぞ! 引っ掻くぞ!!」

卯月「引っ掻いても恨んでも許さなくてもいい! 今は、助かることが重要なんだよ!?」

卯月「引っ張ってでも、離さないからね!?」

美玲「う、うぅ……!」

卯月(……ミレイちゃんの怒りの矛先は、私が止めなきゃ)

卯月(アイリさんは私に責任はないみたいなことを言ってたけど、私はスパっと割り切れない)

卯月(これも、経験になるかな……苦い思い出だけど)



――ゴオオッ!!

唯「あっつーい!」

みく「平気なのは嘘かにゃ」

唯「当たり前でしょー……にしても粘るね」

みく「逃げられないなら、せめて視界から逃がさないにゃ。絶対に、ここから脱出させにゃい」

唯「おー怖い、じゃあ続き続き!」

みく(余裕すぎるにゃ、これは逃走手段を隠し持っていると考えて間違いにゃい)

みく(……もしくは、本当に頭のネジが外れちゃってるか、こっちは考えたくないにゃ)

唯「いっくよー! ……うん?」

――ドドド……

――ドドドドドッ!!

卯月「炎を巻き込んだスペシャルバージョンのウェイブ!!」

唯「いいっ!?」

――ゴオオッ!!

みく「にゃっ……!」

美玲「ウチは無事だぞっ!」

卯月「遅れました! こっちはどうです!?」

みく「悪いけど平行線のままにゃ、今の一撃で何か変わってたらいいけどにゃ……」

――ビッ ビーッ

美玲「……何の音だ?」

卯月「電子音……! ここで新しい武器!?」

唯「違うよ」

――ビーッ ビーッ ビー……ガチャッ

唯「こちらゆいだよ。もうそろそろ限界っぽいかな、そっちは大丈夫?」

??『……ああ、転送か?』

卯月「今……!」

美玲「転送って、何の事だ?」

みく「にゃるほど……それが切り札かにゃ」

唯「…………」



唯「誰?」

卯月「えっ?」

みく「にゃ?」

美玲「なぁ、転送って何だ?」

??『……何の冗談かな』

唯「ゆいはちなったんに通信したはずだけど、何で違う人が出るのかな?」

??『おいおい、違う人が出て驚くのは分かるが“誰?”はないだろう』

唯「誰?」

??『…………この場に誰か、他の者は居るか?』

卯月(答えるべきか、どうか……)

みく「……複数人、敵対している人物がここにいるにゃ」

??『そうか。では改めて名乗る必要があるな……』



??『私はそこにいるユイ含む、組織の代表を受け持っている……アキハだ』

みく「アキハ……やっぱり」

晶葉『その様子だと心当たりはあるようだ。……最初に言っておくべき事があるな』

晶葉『……こちらの部下が勝手な事をした、申し訳ない』

唯「え?」

卯月「えっ……?」

みく「……」

美玲「……な、な……」



美玲「ふっざけんなよッ!! ここまでしておいて何が申し訳ないだッ!!」

乙ですっ☆
晶葉がファンタジーに出ると、雰囲気あるな。

美玲「周り見てみろッ! 住んでた家も、広場も、全部だ!!」

晶葉『こちらからそっちは見えない』

美玲「だったらオマエが来いッ!!」

晶葉『……ずいぶん酷い様子だそうだがユイ』

唯「そりゃあね、燃えちゃってるもん」

晶葉『そうか…………』

晶葉『……ユイ、私はいつ君に指令を出したかな』

唯「ゆいには言ってないよ、ちなったんが受けてたのを聞いたの」

晶葉『彼女が受けた命を、なぜ君が遂行している、代理で受けたのか?』

唯「いいや、違うよ? でもいずれはやる事なんだから誰がやっても同じ」

唯「ちなったんが別の場所に行ってる間、ゆいが自分で探せば効率も二倍だよ」

晶葉『その結果がこれか』



晶葉『嫌な予感はしたんだ、秘密裏に行動した時から……あの時止めておけば――』

みく「ちょっといいかにゃ」

晶葉『……構わない』

みく「さっきから話が見えないにゃ、みくにも分かるように説明を求めるにゃ」

晶葉『説明、というほどでもない。……確かに私は命じた、どの支配下でもない土地の統治を』

晶葉『しかしそこにいるユイにではない、彼女の上官にあたるチナツという人物に命じた』

晶葉『それも、無法地帯となっているようなコントロールの聞かない場所だけを狙えとも――』

美玲「じゃあなんでここがこうなってるんだよッ!!」

唯「人は襲うわ物は盗む、挙句に帰していると言って森に放り出す? それが野蛮じゃない一族って言えるの!?」

美玲「それは最初にそっちが――」

みく「止めるにゃミレイ、ここで話しても無駄にゃ」

晶葉『……とにかく、どちらが正しいとは判断しかねるが、私の管理不足が第一だ』

晶葉『死傷者は……何人だ』

みく「ゼロ。……これでホッとしたらぶっ飛ばすにゃ」

晶葉『無論だな……では無事なのは何人だ?』

みく「無事? オマエ、いったい何を言ってるにゃ? さっきの話聞いてたかにゃ?」

晶葉『っ…………そうだった』

唯「結局さー、ゆいはどうなんの?」

晶葉『もう黙っていろ、これ以上話をややこしくしないでくれ』

唯「えー、なんで?」

晶葉『……もう話を進める、この発信機は緊急離脱の装置としても対応している』

晶葉『先程の話を聞く限り、脱出路が断たれているようだ、この装置を使うから全員を集めてくれ』

晶葉『こちらは何人だろうと許容できるほどの余裕はあるつもりだ』

みく「信じろっていうのかにゃ」

晶葉『今は……そうしてもらう他は無いな』

美玲「ウチは信じないぞ! だってオマエらは敵だ!」



卯月(…………様子を見てたら、話が飛躍しすぎた)

卯月(つまり、ユイさんが独断で動いてたのをトップのアキハさんって人が勘付いて、助けに来たってこと?)

卯月「従えてる……のかな? 経典の指示通りに」

晶葉『まずはそこから離れる事が先決だ……全ての話はその後、いくらでも聞こう』

みく「……分かったにゃ」

唯「え? 助けるの? ゆいだけ転送すれば収まるのに」

晶葉『後で貴様にも話がある』

唯「ゆいにも? ってゆーか、喋り方怖いよ?」

晶葉『気にするな、怒りの矛先は私自身だから』

――ガヤガヤ……

みく「……という事にゃ。言いたい事は山ほどあると思うけど……みくが向こうから無事を伝えたら、追ってきて欲しいにゃ」

美玲「本当に行くのか!? 罠だったりしないだろうな!」

晶葉『大丈夫だ、緊急脱出に罠など付ける必要がない』

卯月「……あっ」

卯月「この脱出装置、あなたの住む未来区に飛ぶ事しか出来ないんですか?」

晶葉『緊急の移動装置だからな……場所を指定できない代わりに軽いコストで運用できている、一旦こちらに来て貰う他はない



卯月(だとすると……リンちゃんとミオちゃんにこの事は伝えられない……)

みく「時間がないにゃ、ここも安全な場所じゃないからにゃ」

美玲「転送……本当に人が移動するなんて出来るのか?」

卯月「移動魔法はとんでもなく高度だけど一応存在するよ」

晶葉『……解説すべきだろうか? すまないが私は魔力の心得は皆無だ、これは全て技術の賜物だ』

卯月「え? でも、科学技術で空間転移なんて……」

晶葉『説明すると長くなる、だが可能であるとだけ言おう、準備が出来たら通信機を手に取ってくれ』

――スッ

みく「……これでいいかにゃ」

晶葉『問題ない、ではこちらに転送する』

――ドシュン!



美玲「うわっ!?」

卯月「消えた……」

晶葉『……完了だ、当人に代わる』

――ガチャ ガチャッ

みく『こちらみくにゃ。確かに移動は完了した……問題はないにゃ』

みく『あんたがアキハかにゃ?』

晶葉『そうだが』

みく『そう、なら……』

――ガッ ガシャァン!!

美玲「な、なんだ!?」

卯月「大丈夫ですかみくさん!?」

みく『みくは何も問題ないにゃ。ただ、皆の気持ちを代弁しておいただけにゃ』

晶葉『……げほっ、がはっ!』

みく『互いに恨み恨まれるのはみくだけでいいにゃ、だから今からこっちに来る人は……』

みく『ただ、この人に助けてもらった、とだけ認識してから来るにゃ』

美玲「な、なんだよそれ! ウチだってこいつとそいつにはたくさん言いたい事が――」

みく『駄目にゃ。後で刺されるのはみくだけの特権にゃ』

卯月「…………」

晶葉『言い返せん……痛っ……』

みく『皆は一切そっちを恨まない、代わりに……みくは絶対許さないにゃ』

晶葉『……当然だな』

美玲「くぅ……」

卯月「みくさん……が、決めた事だから、邪魔しちゃ駄目なんだよ」

美玲「分かってる、分かってるんだけど……」

卯月「順番だからね、ほら……移動しないと」

――……バシュン!!




・・

・・・

凛「さっきの場所……!」

未央「もう結構時間経っちゃったよ! 入口らしき穴とかある!?」

凛「分からない……でも探さないと、ウヅキが危ないかもしれない!」

未央「かもしれないじゃなくてもう確定事項でもいいかもしれない!」

凛「どこか怪しい個所を見つけたらすぐに――」

――ピッ

凛「……?」

――ピッ ピシッ

凛「ねぇ、何か聞こえない?」

未央「何が?」

――ピシッ ピキッ

未央「んっ? 何か言った?」

凛「言ったけど、たぶんその音じゃなくて……何かこう、ヒビが入ったような音」

未央「あ、ピキピキって鳴ってる?」

――ピキッ ビシッ

凛「まさか、崖?」

未央「いやいやいやいや、ここは森の真ん中だから落ちることはないって!」

凛「じゃあこの音は何?」

未央「さぁ……あ、でもアレに似てるね?」

凛「アレ、って?」

――ビキビキッ バリッ

未央「氷が割れる時の音」

凛「氷……割れる……」



――バキッ


ゴオオオオオッ!!!!!

凛「っう?!」

未央「えええええ!?」

――ビュオオッ!!

凛「なにこの風圧っ……わっ!?」

未央「燃えてる!? 熱っ!? なになになになに!?」



――ガバッ

智香「何の音!?」

椿「何か……外が明るくありませんか?」

智香「今は夜だよ、なんであんなに明るい……!?」

智香「森が……何あれ、とんでもない大きさの火柱……!?」

椿「いったい森で何が……!」

智香「と、とにかく、緊急連絡です! あの規模の火災は区単位の災害です!」

椿「分かった、旧都の警戒拠点へ無線番号は?」

智香「そこに書いています! アタシは残ってる村人に伝えてきます!」



――ガッ!ドンッ!

凛「っくう!?」

未央「あだっ!?」

凛「ぐ……突然の大爆発、大火事、そして風圧でかなり飛ばされた……」

未央「ど、どうすんの!? あれじゃ近づけないって!」

凛「そうだ、あの爆心地がミレイの村って可能性もある……」

――ザッザッ

未央「い、行くの!?」

凛「行かなきゃ……」

未央「それは分かってるけど、確証も何もないよ!?」

凛「それでも行かなきゃ……可能性があるなら!」




・・

・・・

――バシュン!

卯月「……本当に飛べた」

卯月(発信機にも、この空間にも魔力が微塵も感じられない……本当に、魔法じゃない……?)

美玲「ウヅキ! 無事!?」

卯月「うん、全然大丈夫……あっ」

美玲「心配しなくてもウチは大丈夫、怪我は元々治るのが早いからな!」

美玲「……まだ、気に入らない案件はあるけどな」

卯月「それは……我慢しなきゃ」

卯月「で、今はみんな何してるの?」

美玲「これからの……どうするか、って会議中」

卯月「ミレイちゃんは参加しなくていいの?」

美玲「どう決まっても従うだけだよ、皆が決めた事ならしょうがないし」

晶葉「君で最後だな?」

卯月「……あれ、まだユイさんが居たはずですが」

晶葉「被害者側はということだよ……改めて、私はアキハだ」

卯月「ウヅキ=シマムラです」

晶葉「今回は……本当に、申し訳ない」

卯月「ああ、あのっ、頭下げないでくださいよ!」

晶葉「いや、これは全員にやっていることだ、私がもう少し事態を把握していれば――」

卯月「そうじゃなくて、ええっと……私は村の人じゃないんですよ!」

晶葉「だとしても巻き込んだ現場に居たのは事実だろう」

卯月「ですけど……!」

晶葉「旅の途中なら、突然ここに呼んだのも不利益になっている、謝罪は惜しまない」

卯月「……あ、それなら……一つお願いがあります!」

晶葉「出来る限り答えよう」

卯月「友達が、あの村の近くにいるんです、ここに呼ぶ事はできませんか?」

晶葉「ここに呼ぶ……か。すまない、私ではそれは出来そうにない、できそうにないが……」

晶葉「少し無茶をすれば、連絡を取ることは恐らく可能だ」

卯月「それでも大丈夫です」

晶葉「目的の場所に通信媒体があることが条件だが、たしか近くの村に情報電報があるだろう?」

卯月「情報……なんです?」

晶葉「情報電報だ。少し前まで新聞という世界の近況を把握するに優れた媒体が出回っていたが」

晶葉「それに取って代わられた、新たな情報源だ」

卯月「そんなものが……」

晶葉「情報電報は、情報元から配信された情報を受け取るだけの媒体だが、私ならそこへアクセスが出来る」

晶葉「少しだけ使わせてもらうとしよう、この『イスカ』という村で構わないか?」

卯月「お願いします!」

晶葉「よし、じゃあこの通信機を少し操作して……む?」

――バチッ

晶葉「……このタイミングでか」



卯月「どうしたんです? これで通信出来るですよね?」

晶葉「出来るはずだったのだが……誠に申し訳ない、エネルギー不足のようだ」

美玲「エネルギー?」

晶葉「小一時間で使用できる、少し待ってくれ」

卯月「あの、早めの方がいいんです! 何か方法はありませんか?」

晶葉「……あるにはあるが、少し危険だからお勧めはしない」

卯月「危険?」

――ガチャッ

晶葉「エネルギーは蓄積された力を吸収することで回復する、だから時間がかかる」

晶葉「だが人が直接エネルギーを送り込めば、短時間で蓄積が可能だ」

美玲「……これが、その装置ってことか?」

晶葉「そうだ、この部分に人体を接触させることでエネルギーを送り込むのだが」

美玲「よっしまかせろ! ウチが一瞬で溜めてやるから――」

晶葉「あ、待て!」

――ガッ ギュイン

美玲「うわ……ぅ……なん……なんだこ……れ?」

卯月「ミレイちゃん!?」

晶葉「……吸収速度の調節ができないから、一気に体力が持って行かれる」

美玲「うぎぎぎ……体重いぞ……!」

晶葉「そして変化効率が少し悪い。……今ので、最低量の二割も賄えていないな」

美玲「こ、こんなの使えないぞ……!」

晶葉「だからお勧めしないといったのだ」

晶葉「そういうわけだ、通常の方法で蓄積を行うから少し待っていてくれ」

卯月「蓄積できればすぐに連絡できますか?」

晶葉「可能だ」

卯月「……なら、私の魔力でやってみましょう!」

晶葉「何?」

卯月「魔力だけはいっぱいあります!」

晶葉「そうか、君は魔術の心得があるか、確かにエネルギーとして使えないこともないが、今のを見ていただろう?」

卯月「試してみましょう! これを持っていればいいんですか?」

晶葉「そうだが……魔力はエネルギーとしての効率は想像より悪い、そのためしばらく供給を続ける必要がある」

美玲「ずっと持っておかなくちゃ駄目なのか?」

晶葉「完結に言えばそうなる、肉体エネルギーよりも体力の消耗は緩やかだがそれでも……」

卯月「……大丈夫です! それに早くしないとリンちゃんやミオちゃんが村を離れる可能性だって!」

晶葉「分かった、そこまで言うのなら止める必要が無い、少し待っていろ」




・・

・・・


――Prrrrr……

智香「……えっ?」

椿「情報電報の音かしら?」

智香「この時間に? 速報か何かかな……」

椿「そもそもこんな音だった?」

智香「いや……違ったような、でも現に受信していますし、受け取りますね」

――カチッ



晶葉『……こちら、ウヅキ=シマムラの代理の者で名をアキハと言う。これを聞いているのはトモカ、ツバキのいずれかで間違

いないか?』

椿「え……?」

智香「誰? いたずらなの?」

晶葉『答えが来ない。時間が惜しい、違うのかそうなのかを言ってくれ』

智香「アタシがいるよ、正真正銘トモカ=ワカバヤシ」

晶葉『よかった、では次に近くにリン=シブヤもしくはミオ=ホンダがすぐ近くに居るなら参加してもらって構わないか?』

智香「……何が目的?」

晶葉『悪意はない、ただし時間も無い。この場に居ない、もしくは出る気がない場合でもこの伝言は伝えておく』

晶葉『「私は今、未来区中央の"ウィキ"に居る、無事だから安心して! それで、二人もここに来て欲しいの!」……だ』

智香「え? ちょっと待った! ウィキってここからどれくらい離れてると思ってるの!?」

晶葉『およそ三日か四日だな、理由を話している暇はないが、確かに伝えた』

椿「ウヅキちゃんが何でそんなところに……?」

智香「これは、罠なの?」

晶葉『罠ではない、しかし来て貰わないと困る。……そろそろ危険だ、勝手だが打ち切らせてもらう』

――ブッ

智香「あっ……途切れた」

椿「……何だったのかしら」

智香「そもそも専用の信号しか受信しないはずの情報電報に割り込んできた段階で……」

――名をアキハと言う。

智香「いや、まさか……可能な人物だけど、どうして?」

椿「……それで、伝言は二人に伝えた方がいいのかしら?」

智香「帰って来次第、考えましょう……」

――カチッ

晶葉「……長く話しすぎたな、これでも飲むといい」

卯月「これは?」

晶葉「愛飲している栄養ドリンクのようなもの……ん、ちょっと待てよ」

美玲「何だ何だ? まさか内容を伝え忘れたとか?」

晶葉「その点は問題ない、怪しまれはしたが名前も出したし言われた通りの事を伝えた、聞いていただろう」

晶葉「今私が疑問に思っているのは……君だ」

卯月「私? 何か間違った事しちゃいました!?」

晶葉「なぜ普通に立って喋って、私と会話できている?」

卯月「何故って……」

美玲「そういや変だぞ! ウチは全然動けなかったのに!」

晶葉「ちゃんと手は触れていたのか? ……いや、当たり前だな、じゃないと通信が出来ているはずもない」

卯月「最初にガクンと来ましたけど……その後は別に何も……」

晶葉「何だと?」

――カチャッ

晶葉(……エネルギーが、最大値まで溜まっている?)

晶葉「馬鹿な……」

美玲「えっ、まさか壊れたのか?」

晶葉「違うな…………なぁ君、この後は連絡した相手が来るまで待機なのだろう?」

卯月「今のところはですけど」

晶葉「ならば……少し君を調べさせてもらってもいいか? いや、もちろん礼はさせてもらうからな」

美玲「なんか怪しいぞウヅキ」

卯月「あはは……え、遠慮させていただきます……」

晶葉「実に興味深かったのだが、仕方ない」

晶葉(魔力が豊富、では済まれされない量だ。我々の一団にもこれほどの貯蔵量を誇る者は居るまい)


:ミレイ(早坂 美玲)
 旧都区『イスカ』近辺に、地図に映らず部外者を招かない飛び地、名も無き発祥区に住む亜人・獣人族。
特徴的な装束に仕込まれた武器、主に目立つ爪を駆使して戦う。
集落の中でも屈指の実力者で、勉学以外の事象に対しては積極的に取り組む。
突如、外部からの襲撃が増した異変に対して対策の会議が纏まらないうちに毒牙含む諸々を勝手に持ち、村を飛び出した。
見た目や言動から感じることはできないが、人間族ではないためかなり長生き。


:ミク(前川 みく)
 『イスカ』近辺の、ミレイの住む土地の長として皆に慕われている人物。
亜人種ではあるが獣人族ではなく、獣を彷彿とさせる出で立ちは全て装飾による補助である。
その格好をする理由として、獣人族への憧れがあり、姿形や戦法を模倣しているという過去がある。


:ユイ=オオツキ(大槻 唯)
 未来区中心部の統括を行う一団の部隊長、直属の上官のチナツに好意があり、その相手からも大きな寵愛を受けている。
部下からの評価も高く、上官からの期待と成果も優秀で非常に優れた人物だが、期待以上の成果を常に目指そうとして
少々過度な行動を取ることも多く、それを咎める人物も少ないため常識に欠けた一面も存在する。


:アキハ(池袋 晶葉)
 未来区最大戦力と呼ばれる一団を纏める科学者。
本来自身は国の統治など興味がなく、旧都区出身のため関連もないが科学技術研究のための支援の対価として
チナツが彼女をスカウト、その知識量と人柄が頂点に彼女を立たせた。

* ----------
 前回も言ってしまった気がしますが、もう少しで今回の章が終了します。
そして次回、ピックアップするキャラクターは三人のうちいずれかを予定しています、
久々のアンケートで誰に向かって進むかを決定したいと思います。

 それに伴って、別のアンケートなのですが、更新たびに安価でよく見かけるような小さな選択肢で
物語に参加型の方針にしたほうが楽しめるのでしょうか?
他にも、現在は中心人物をニュージェネ三人に据えていますが、他の舞台を用意して平行に話を
進めたほうが話が豊富に広がるから、誰か用意すべきか?とも考えています。
中心が複数になった場合、キャラの登場機会やルートは増えますが別ルート同士で登場したキャラが
もう片方のルートと絡む頻度が下がるという欠点もあります。

 現行の話でも『ちょっと意味がわからない部分がある』や『場面転換の印が欲しい』、
『台本形式じゃなくて普通の次の文方式でも構わない』など、ご意見がありましたらどうぞ。

 ちなみに、次の三人を決定する方式はキャラの名前を出さず、OPのような短編を提示して
どの続きを追っていきたいか、という方式にします。
* ----------

同時進行にすると読む方は混乱するし書く方も散漫になるんじゃないかな
とりあえず本編を完結した方がいいと思う
これまだアンケートは始まってないってことでおけ?

参加型はテンポ悪くなりそうだから進行のネタ困ったらでいいんじゃないかな

乙ですっ☆
私も話が拡散するよりは、核となる物語が進んだ方がいいと思います。

他の安価スレを見ていると参加や分岐が主流と思っていたので、このご意見は参考になりました。
では、中心人物を大きくズラさない、現行のままで制作を進めさせていただきます。

アンケートは次回更新に実施する予定です。



・・

・・・


凛「こんな大規模な火災、有り得ない……!」

未央「急に出てきたんだもん! バーンって! ドーンって!」

凛「火事というより爆発だよ、明らかに変だよ、一瞬でこんなに満遍なく……」

凛「まるで『閉じ込めてた火事が解放された』みたいな……」

未央「森の中に結界? そーんな神秘的な場所には見えないけど、一応ここは旧都区だし」

凛「だからこそ……ここで、何かがあったはず……」

未央「……この大火事の情報なら村に戻った方がいろいろ手に入るんじゃない?」

未央「さすがに色々な人の目についてるだろうし、専門的な人も動くでしょ?」

凛「ウヅキとミレイも戻ってるかもしれない……いや、戻っていて欲しいね」

未央「…………」

凛「地表に見えてない、見つけられなかった村なんだよ? きっと、地下だよ」

凛「地下ならあの火事には巻き込まれないから」

未央「地下で爆発だったとしたら?」

凛「…………探しようがないよ」

凛「なら、今可能性の高い方に動く。戻ろう」

未央「……伝言!?」

凛「ウヅキから!?」

智香「そうなのはそうなんだけど、ちょっと事情が特殊で……」

未央「しまむーは何処に?」

椿「それが……本人からじゃなくて代理から通信機を使って連絡が来たの、しかもその代理が……」

智香「アキハ。名前、聞いた事ある?」

未央「……?」

凛「……?」

智香「あちゃあ。……未来区の最大勢力、その一団のトップだよ」

凛「区の最大勢力の頂点……どうしてそんな人から連絡が?」

未央「イタズラじゃないの?」

椿「きちんと名前指定をしてきたのよ。国のトップに名前が知れ渡っているほどの人かしら、二人は」

未央「んなわきゃない」

凛「相手が偽者の可能性は?」

智香「割り込んできた通信先は情報電報、これは一昔前の新聞を電子化した科学技術の代物でね」

智香「一定の通信しか受け付けないはずなんだけど、簡単に介入してきたよ」

椿「科学技術に長けた人物、その点でも彼女は本人の可能性が高い、科学者だし」




・・

・・・


凛「……そう、そんな伝言が。ウヅキが居る事と言っている事が全て真実だとして」

未央「結局の疑問は『何故詳しい説明が出来なかったか』と『どうしてそんな場所にウヅキが行くことになってるか』だね」

椿「行ってみなきゃ分からないけど、行くの?」

未央「私としてはあの火事に巻き込まれてないって事が分かっただけでも十分だよ」

凛「私達をわざわざ嘘をついてまで呼ぶ必要が感じられないから、全部本当なんだろうね」

智香「そうね……ところで現場近くに居たみたいだけど、あの炎は結局何なの?」

未央「さっぱりです」

智香「こっちも情報待ちかぁ……通信、壊れてませんよねコレ」

椿「大丈夫、じゃないかしら?」

凛「本当に短い間でしたが、ありがとうございます」

椿「ゆっくりしていってもいいのに……とは言えませんね」

智香「まだお代金がいっぱい溜まってるから、すぐ戻ってきてよー?」

未央「受け取ってくれてもいいんですよー? あ、どっちしても絶対戻っては来るからね!」

凛(……とにかく、次の指針が私達二人じゃ分からない、ウヅキと早く合流しないと)

椿「未来区はここから東の方角が最短、道筋も複雑じゃないから安心して」

智香「早めの出発は悲しいけど、今なら得策だよ。そのうち昨日の事件の影響でいろんな調査隊が来るからややこしいよ」

未央「げ、巻き込まれる前に行こうしぶりん」

凛「うん……ちょっと心細いかな」

未央「おやおや、そんな発言は似合わないよ、それはしまむーの台詞だ」

凛「じゃあ、言って貰うために早く合流しなきゃ」

未央「そうそう、それを言うのがしぶりんだよ」

凛「……何か違う」




・・

・・・

卯月「へー、この機械は警備のためのロボットなんですか」

晶葉「まだ完全に完成はしていない、動作は未だ不安定だから一般には手配出来ないのだがな」

卯月「それでも、この建物内の警備は出来てるんですよね?」

美玲「凄いんだなオマエ」

晶葉「天才と他称される以上はこれぐらいな、高水準なロボットを早く作りたいものだ」

美玲「作ってないのか?」

晶葉「途中だ、しかしこのクオリティ以上を求めるとなると時間が掛かる」

卯月「それでも私にはさっぱりなものを作るなんてすごいですよ! このロボット、名前とかあるんですか?」

晶葉「未来区製造領地内警備機械その一三だ」

美玲「お、おう……」

卯月「かわいくない! かわいくないですよ!?」

晶葉「名前というより製造番号だが、名前など必要ないだろう、数を作るのだから」

卯月「一般に広めるんでしょう? 親しみやすさは大事だと思いますけど」

晶葉「では例えばどんな名前だ?」

卯月「うーん……まもるくんとか」

晶葉「子供か、なんだその名前は」

卯月「ばっさり!?」

晶葉「そのようなネーミングでは駄目だな、やはり付ける必要はない」

美玲「どっちもどっちだとウチは思うけどな……」

卯月「ミオちゃんならちゃんと考えてくれそうだなぁ」

晶葉「ま、そんな事はどうでもいい、暇そうなら協力してくれてもいいだろう?」

卯月「またその話ですか……?」

――コツ コツ コツ

晶葉「……結局、逃げられてしまったな」

晶葉「あの魔力貯蔵量は並大抵のものではない、是非とも調べさせて欲しかったが」

――ザッ

晶葉「ん……帰っていたのか、成果はどうだ?」

??「その前に話があるわ」

晶葉「奇遇だな、私もだ。……こちらから先に話して構わないか?」

晶葉「君の部下のユイの事だ」

??「奇遇ね、私もよ」

晶葉「そんな事だろうと思った。しかし今回は度が過ぎている、監視はどうなっていたんだ? 答えてくれチナツ」

千夏「監視? そんな指令を受けた覚えはないわね」

晶葉「彼女のこれまでの行動を考えると、その言葉が相応しい」

千夏「行動ね、こちらの指令の常に上の成果を出そうとしている結果よ?」

晶葉「良い様に言うんじゃない、物事には適材適所というものがある」

晶葉「君には君の、彼女には彼女の役割がある。人の指令にまで結果を出そうと介入してくる必要はない」

千夏「ユイの行動は無駄と?」

晶葉「君には確かに発祥区の飛び地含む、中立地帯の解放もしくは制圧を頼んだ」

晶葉「だが同時に条件も提示したな? 害悪と判断した地域にのみ侵攻を許すと」

千夏「じゃあ今回の件は問題ないでしょう? 実際に部隊に被害が出ている」

晶葉「今回の類義語を教えてやろう、当たり屋というらしいぞ」

晶葉「自給自足の地に大軍で押しかけたら反抗するに決まっているだろう、それで被害だと? 笑わせる」

晶葉「……話は以上だ」

千夏「じゃあ私から。それを踏まえてユイをどうする気?」

晶葉「一団の発足から共に居た君なら分かるだろう」

千夏「分からないわね、ユイに非があるとは思えないから、何もしないのかしら?」

晶葉「何もしないわけには行かないが、即断即決出来るほど事は簡単ではない」

千夏「何かはするのね? 今までそんな事はなかったのに」

晶葉「今まで無かった事だから、何かする必要が出てきたんだ」

千夏「……そう」

晶葉「納得してくれたか? それなら――」



千夏「予定と少し誤差があったけど、ま……いいでしょう」

晶葉「……?」

千夏「さよなら」

――ドスッ

千夏「……あら」

千夏「消えちゃったわね……でも、手応えはあったし、何より……剣に付着した血は本物ね」

千夏「てことは、緊急離脱の一種かしら。どっちにしろ、戦闘能力は高くないから追わなくてもいいわね」

千夏「さて、こうなったからには早く準備を進めないといけないわね」




・・

・・・


晶葉「…………」

晶葉「……はは、どういう事だ?」

晶葉「どうして私の居住区で、この装置が発動する状況になった?」

晶葉「どうして……ふふ、今日はよく負傷する日だな」

晶葉「ふむ……緊急離脱、私専用に作っていたから上手く動作するか確認をしていなかったが、ちゃんと起動したではないか」

晶葉「きちんと私はラボに転送された。やはり私は天才だな…………だが」

晶葉「……残念だ、お前を私の手で完成させる事は出来なかった」


――チャリン


晶葉「しかし未完成で終わらせるつもりはないぞ……最後の手段だな」

晶葉「よく聞け私の発明……結局、自力で『意志を持つ人型の機械』を完成させる事は叶わなかった」

晶葉「だが他力で、お前を完成させる。……この歯車、ただの金属の部品に見えるだろう?」


――カチッ


晶葉「私が持っている理由は、聞かないでくれ。世の中には十大秘宝と呼ばれる人知を超えた物質がある」

晶葉「これは『創造の歯車』というらしい、調査を重ねたが原理は一切不明だが……」

晶葉「組み込んだ機械に対して、製作者の理想通りの効果を生み出す」


――ガコッ


晶葉「…………大量破壊兵器などに使われると大惨事だな」

晶葉「だから、完成したお前の最初の使命は『自身の命を守る事』だ」

晶葉「そして……私の代わりに、この国に迫る脅威を全て打ち破れ」


――パチッ


晶葉「……誰も聞いていないとは分かっているのだが、悲しいものだ」

晶葉「最後の言葉は独り言か」

晶葉「……げほっ」


――…………

晶葉「……そうだ、人型の機械として初の完成品だ、お前に私から……プレゼントだ」

晶葉「名前……名前を、授ける」

晶葉「元々は複数制作のつもりだからな、ナンバリングで済ませるつもりだったのだが……」


――……ピクッ


晶葉「……彼女、ウヅキとミレイ、ミク以下村の住人には悪い事をしてしまった」

晶葉「悔やんでも仕方がない、もう私には時間がない」

晶葉「自分のしたい事をしても構わないよな?」


――カタン


晶葉「名前か……うっ……少し頭が鈍ってきた、早くするとしよう」

晶葉「ナンバー……ワンは在り来たりだな。そうだ、一番という意味と期待を込めて、エースというのはどうだ?」

晶葉「ナンバーA、いいだろう?」


――……


晶葉「……駄目だな、これではウヅキと大差ないではないか」

晶葉「親しみやすさか…………ああ……名案を思い……ついたぞ」

晶葉「ナンバーエース……No.A…………お前は、私の作品第一号の名は……『ノア』だ……!」


――ドサッ




・・

・・・

千夏「ええ……そう動いて頂戴」

唯「あー、ちなったん! やっと会えたよ!」

千夏「ユイ、今回はどうだったの?」

唯「うん、経過はよかったんだけどアキハに止められちゃった、もうちょっとだったのにー」

千夏「でも単独行動はいただけないわね」

唯「えー? ちなったんも同じ事言うのー?」

千夏「そうじゃないわ、せめて私に連絡してくれないとカバーができないじゃない」

唯「でも誰にも言わずに出来ましたー、って持ってくる方がいいでしょ?」

千夏「ちゃんと事が完了したらそれでもいいわね、ただ相手はちゃんとチェックすること」

唯「はーい。ところでゆいはアキハに呼ばれて探してるんだけど、見なかった?」

千夏「彼女はラボへしばらく篭るそうだわ」

唯「へー、じゃあ会えそうにないね、場所も分からないし一度入ったらなかなか出てこないし!」

千夏「だから自由にしてていいわよ、これから私は用事があるから、また後でね」

唯「おっけー!」

千夏「……さて、国の指揮を私に委任させる準備ね、次はここに通信を――」

――ビシュッ

千夏「……熱……!?」

――カシャン

千夏(通信機が切られ……じゃない、どこから攻撃された!?)

千夏「まさか、アキハ……?」

??「いいえ、違うわ」

千夏(誰の声……!?)

??「一つ目、自分の命を守る。二つ目、国を守る。あなたは二つ目を侵害している」

――ピッ

のあ「……国の中心は、アキハでなければならない。あなたの行動は、それに反する」

千夏「誰かしら、アキハにあなたのような知り合いはいないはずだけど」

のあ「私はNoA。古くからアキハと共に居て、つい最近彼女を知る事が出来た」

千夏「言っている意味が分からないわね、でも敵なら排除する準備があるわよ」

のあ「それは認められない……手は、既に打たれている」

千夏「何を……」

――Prrrrr……

のあ「部屋の通信機、鳴ってるわよ……どうぞ」

千夏「……こちらチナツよ、要件は?」



――この通信は、全員に共通して個別に配信されている、代表のアキハだ。

千夏「……!?」

のあ「通信……アキハは不足の事態に備えて、私にこのデータを発信するように命じていた」

のあ「内容は、私の存在についてと、自身の状態についてよ」



晶葉『緊急の事案が発生した。これから少し私は身を隠す、全ての連絡は私が完成させたロボを通じて行う』

晶葉『急な決定で申し訳ないと思っているが、了承してくれ』



のあ「この場合のロボは私、つまり全指揮を任されたのは私……」

のあ「あなたが根回しするよりも早くね」

――カシャン

千夏「……馬鹿な、こんな通信を信じるわけが」

のあ「人望の才はあなたがアキハに対して認めた点、だから頂点に据えたのでしょう」

千夏「…………そうだったわね、じゃあ」

――ヒュンッ

千夏「あなたは機械なのね? じゃあその事実が広まる前に、ここで貴女を壊せば指揮は元通り……」

千夏「適当なロボットを見繕って、彼女の指令として私が全権を担えばいい」

のあ「それは認められない……私を壊す事はアキハによって禁止されている」

千夏「アキハアキハと煩いわね……大人しくその座から降りればいいものを……妙な遺産を残して!」




・・

・・・

卯月「……なんだか、周りが賑やかだね?」

美玲「部屋中の通信機が鳴ってたけど、何かあったのか? 出た方がよかったか?」

卯月「勝手に出るのはまずいよ……もう鳴ってないけど」

卯月「でも何かあったのかな?」

美玲「さぁな、ここで何が起きようがウチは知ったことじゃない!」

美玲「いっそ滅んじゃえばいいんだ」

みく「……ミレイ、これからここでアテが見つかるまで特別に保護してもらう立場にゃ、あまり口に出すのは控えるにゃ」

卯月「あ、お話は終わったんですか?」

みく「お話? いや、みくは誰とも話してないにゃ」

卯月「え? てっきり姿が見えないので一緒に居なくなったアキハさんの所に行ってたのかと……」

みく「ここに来た時以降は会ってないにゃ、いろいろ言いたい事もあるのに」

美玲「ウチだっていっぱいあるぞ!」

みく「さっき言ったでしょ、文句を言うのはみくの役目、他は素直に好意を受け取っておくにゃ」

美玲「でも……」

みく「その分、大抵の要求は飲んでもらうようにするにゃ、無茶振りでもなんでもしてやるにゃ」

卯月(こ、怖い)

みく「手を出さない代わりに、それ以外の全てを奪うつもりで行くにゃ」

美玲「なるほどそういうことか!」

――コンコン

唯「んー? 入っていいよー?」

――ガチャ

千夏「ユイ……」

唯「あれ? ちなったんどうしたの? もう用事はないって言ってなかったっけ」

千夏「ちょっとね……この部屋に来てから誰か接触した?」

唯「誰も来てないよ? 通信機も置いてないから本当に誰とも会ってないし会話もしてないよ」

千夏「そう、じゃあ……まだ、聞いていないのね」

唯「……? 何か新しい指令?」

千夏「指令……そうね、指令」

唯「ゆいの力が必要!?」

千夏「ええそうよ、今すぐに出ても大丈夫?」

唯「うん、いつでもいいよ! すぐ準備する!」

千夏「……荷物は多めにね、ここに何も残さなくていいように。私も一緒に出るから、誰もここを守る人が居ないの」

唯「そっか、泥棒は怖いもんね」

千夏(想定の外ってレベルじゃないわね……まったく、どうしてこうなったのかしら)

――ガタッ

千夏「っ……」

唯「どしたの?」

千夏「なんでもないわよ……さ、早く出発するわよ」

唯「はーい。ところでどこに行くの? アキハに言わなくていいの?」

千夏「行き先……どこにしようかしらね……」

千夏(また一から、か……)



のあ「……去るなら止めはしないし、邪魔もしない」

のあ「国を守る命であり、脅威を駆逐する命ではない」

のあ「今、この国には全てを知る味方は私だけ。今、国を最初から支えていた人物は誰もいない」

のあ「…………」



:チナツ=アイカワ(相川 千夏)
 未来区中心部の総括を行う一団の部隊を全て統括する師団長、そして実質のナンバー2。
全ての管理こそアキハが指揮をとっているが、その基盤を立ち上げて当のアキハを引き入れたのは彼女。
本人の実力や頭脳は特別優れたものがある、しかしその行動力は寵愛する部下であるユイが中心にある。


:No.A(高峯 のあ)
 アキハが完成させた意志を持つ人型機械、製作者が姿を消すと同時に未来区に現れた。
主人の命に従って国に迫る脅威を事前に察知し、取り除くのが役目。
実質未来区の全権を得ているが、決して悪用はせずにアキハの不在を悟られないように振舞う。

 ……というわけで、ようやくここで一区切りです。あ、もちろん完結ではありません、旅はまだ始まったばかりです。
少々損な役回りのキャラクターも登場したように見えないこともないですが少し遅れた注意書きに出た通り、
このような役のキャラも存在してしまいます、ですが“これで出番が終わり”ではありません。

 そして、第一章がオープニング、第二章がミレイ編だとすれば次は第三章になります。
現在、三つの候補があり、どこから描写していくかを少しアンケートのような形にしていきたいと思います。
もちろん選ばれなかったキャラが今後登場しない、という事はありません。
決定するのは“主人公グループが接触する順番”だけです。

 三人はそれぞれ本家で言うところのCuCoPaで分けました。
……少し新しい試みとして、アンケートと言っておきながら名前は出しません。
ただ“オープニング”を見せるだけです、『この続きがみたい』や『このエピソードはあのキャラっぽいから見てみたい』と
皆様で予想して、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
では、以下に続く短編3つがアンケートの対象です。

Side Ep.6 踏み外す瞬間

 未来区の住人は魔法の才に乏しい。
しかし勘違いしてはいけない、皆無ではなく乏しいだけであり、使いこなせる人物は存在する。
むしろ“持っている者”が少ない故に、個々のポテンシャルは相当高い。
この区では、才能を持つ天才型は自然と地位が高まる、必然魔力を持つ未来区出身人物というだけで
大きなアドバンテージを得た人物たちも、それなりの地位が確約されている。

 だからこそ、その選ばれた人物が集まる魔法学校において、
ただ“素質があるだけ”の彼女は他と大きく差が開き……


――エリートの名を汚すな

――君には素質はあるが才能がない

――どうして努力した俺じゃなくてお前がそこに居るんだ


 しかし彼女は、非難の嵐を受けても学校を去ろうとはしなかった。
憧れ、大魔法使いになるための最も高いハードル、運という障害は越えている、
それ以降も努力を怠ったつもりはない、目標に向かって一直線。

 天才は努力を笑う、そして、そのうち実害が起きる。
面白おかしく、いつまでたっても開花しない彼女を惑わせ……

  「このままだと、いつまでたっても見習いかもね」

 炊きつけ……

  「知ってる? あの立入禁止区域って、試練を越えた者だけが手に入る杖が眠ってるんだってさ」

  「あんたでも一気に優等生かもねー?」

 決して自身に責任の矛先が向かないように、自主的に向かわせた。
優等生は、劣等生の足掻く様を見て愉しむ。



??「絶対に……杖を持ち帰って、私の努力を証明する……!」



 その勇気の一歩は、上る階段を間違えた。

Side Ep.7 好奇心の連鎖

 ここは旧都区の僻地、隣接する村から数歩離れた場所に一軒の家。
家とは言ったがそれなりに大きな建物で、その辺の大家族でも余裕を持って生活が可能だろう。
しかしこの家で行われているのは生活ではない、授業だ。

……三日前までは。

 断っておくが、決してネガティブな理由ではない。
戦火が家を襲ったわけでも、持ち主が離れたわけでも、負傷者が出たわけでもない。
しいて言うなら、そこにいるべき人数が圧倒的に不足している。

 噂の三日前、一人の少女が唐突に村を出た。
理由は本人の口から明かさなかったが、数時間後の調査であっさりと判明した。

 翌日、その少女を追ってもう一人が村を出た。
こちらはご丁寧に一通の書置きを残して、しかし誰にも了承を得ずに。

 さらに翌日、一人と二人が便乗した。
人数が少ないと楽しくないから追いかけるとは一人の弁。
みんなを追いかけようと、残る一人を強引に連れだしたのは最後の二人。
残されたのは五人を保護し、教育を行っていた一人のみ。

「……あらあら」

 さてどうしましょう?
五人の子供が自由に歩き回るには、この世界では聊か平和が欠けていた。

Side Ep.8 落として落ちて落とされて

――ぁぁぁぁぁあああああ!!!!!

 普通、九割九分九厘の人はその光景を見て我が目を疑うだろう。
そして同じだけの人が、過程は把握できずともこの後の結末を想像し、接触を避けるだろう。
あなたは、突然空高くから落ちてきた一人の少女に対して、どうリアクションを取る?

――ズンッ

 空から自由落下している物体は必ず地面に着地する、状態は異なるが。
もちろん彼女も例外ではない、ギャグマンガによく見られる人型の穴なども無い、クレーターもない。
ただ、地面と衝突した少女がそこにいた。

 居るのだ、普通に。
人体が遥か上空から地面に叩きつけられて、形状を保っていることすら奇跡なのに――

「……やってしまいました!」

 何事もなかった――怪我はしたらしい――ように声を上げて立ち上がり。

「無い、無いです!」

 突如慌てて。

「くっ……これも、これもこれも使えません!!」

 さらに慌てて。

「……探しますか」

 急に落ち着いて。



 たまたまその光景を見ていたとある住民が言った、不可思議な化物が襲来したと思ったが……
あまりにも小柄な子供で、行動も知的とは言えないし未知の生命体のようなミステリアスさも無かった。

あれを形容するとしたら……化物では駄目。 強いて言うなら、天使だった。

その3が幸子っぽいから見てみたい

2番目が気になる

2はロリとありさてんてー、3は幸子っぽいなかな?
1が一番誰か分からないから見たい

その2が見てみたいです。

もしかしたらを期待して1で

 予想していたよりも早く多くお答えをいただけたので少々補足、付け加えさせていただきます。

・その2のように複数人が登場していても、あくまで中心は一人です。
・中心はCuCoPaの三択ですが、属性は上から順番に並んでいません。
・8/4日の0時に締切をさせていただきます、その時刻以前に本編の更新はありません。
・同数になった場合は“同数になった”票が先に入っていた方を優先とさせていただきます。

現在
①:2票
②:2票
③:1票
そして最多の2票目が先に投票された①が優先されています。

二票目が先に入ったのは2じゃないかなーって

ご指摘ありがとうございます、見直したはずなのに……
③②①②①の順番で投票されているので②が優先されますね。

確かに誰かわからん分、1が気になる

微妙な呪いをかける人な気がする

自分は2にいれたけど、中心となって搭乗するのがひとりかとなると、やっぱてんてーかな?

>>195>>196
中心となって登場するのがCuCoPaの三択で、どう見ても3がCuの幸子だから違うんじゃないかな

>>197
なるほど、一理ある。
あまり先読み予想はしちゃいけないかもだけど、てんてーでないとすると……

Side Ep.9 

……何だ…………い、今の爆発……?

すぐ近くだ……おっきいぞ……



ま、まぁ…………関係ない、けどな……

出る必要もない……ここで余生を過ごすがよかろう……フヒ……



あ、でも……爆発なら……燃えてるな……ここ、森だった

地下なら、火は来ない……けど、よくない……



……はっ……ちょっと暑くなってきたぞ、駄目、ダメだぞ

私はいいけど……湿度が…………



なんだなんだ……私はここで皆と過ごしたいだけなんだけど…………

だ、駄目か? 邪魔する、許してくれないのか……?

ここを……出て行けってことか?



私はここが、ここがいいんだ……フヒヒ……!

ヒャーッハァ! なんだ? さっきから! ボッチに場所すら与えない気か!?

いいよ! そんなに言うなら出てやるよ!

ただし、今度こそ私が閉じこもる為にだがなァ!!



---------- * ----------
 ちょっとずつ経過が気になっちゃって見に来ちゃいます。
アンケートの投票、ご協力いただいて誠にありがとうございます、誰が誰かの考察も、
悩んでいただける(?)のは頑張った甲斐があります。

 現在、有効票は
>>186 >>187 >>188 >>189 >>190 と、>>194 もIDが重複していないのと数字が書かれているので有効票でしょうか?
というわけで①が現在の有力候補です、ここから他のルートに二票加わらない限りはこの方向で決定です。

 ご協力ありがとうございます、ではその①へ話が進行します。
その②とその③のルートが誰だったかは、次のアンケートへシフトしたいと思います。
前回のミレイ編が長くなってしまったので、簡潔に話を纏めるテストとして、なるべく短く一パートを済ませる
努力を行います、では本編をどうぞ!

---------- * ----------
 経典の指示に従い、ミレイの住む村に発生した問題の解決を試みる。
ただし、その指示は決して『侵略を防ぐ』事ではなかった。

 結果、望んでいた結末にはならなかった。
解決はした、そもそも問題となる空間が消滅したことと、
攻撃する者、防衛する者、両者がその場から居なくなったから。





――コツン コツン コツン

??「誰か……居る訳ない……」

??(どうしよう……乗せられるままに、勢いで入っちゃったけど……本当に私に出来るのかな)

??(立入禁止って事は、中は危ないってことだし……)

――ガラッ

??「ひっ!?」

――カランッ、コンッ、コン、コンッ……

??「落ち着いて私……石につまづいただけ、その音が響いただけ」

??(……この洞窟、どんどん下に広がっていく。どこまで続いてるんだろう?)

??「一応階段はある……これで降りよう」

??(杖があれば、きっと皆が私を認めてくれる……落ちこぼれなんて言わせない……そこから駆け上がる!)

――コツン コツン コツン

??(真っ暗……!)

??「懐中電灯じゃ足元が見えにくいよ……照明の魔法、使おうかな」

??「いや……使うのは緊急の時だけ! ただでさえ魔力の貯蔵が少ないって言われるのに……!」

??「とにかく進まないと……」

――フッ

??「ひぇあ!? ま、真っ暗! なんで!?」

??(壊れた!? そんな……ついさっき皆から受け取ったばかりなのに……!)

??「も、もしかして私が進むのが遅いから……電池が切れちゃった……?」

??「どうしようどうしよう……照明の魔法がどこまで使えるかも分からないし道があとどれくらい続くかも分からない……」

??「でもこのまま帰っても……臆病だって言われちゃう……!」

??(……進まなきゃ!)

――ズルッ

??「え、ちょっ……きゃあああ!?」




・・

・・・

 午後の授業を始める……なんだ、彼女は欠席か? 理由を知っている者は?

さぁー、サボりじゃないですかね?

 普段からいつも一緒にいるだろう? 何も聞いていないのかね。

知らないものは知りませんねー

 そうか……では今日の講義は前回の続きから――



??「……う」

??(いったいどうなって……はっ、そうだ! 足を踏み外して、下に落ちちゃったんだ)

??「懐中電灯!? ……ああ、もう点かないんだった、しかもどこにあるか分かんなくなっちゃった……」

――……ヴンッ

??「えっ……?」

??「今何か、白い……何かが見えた?」

??(そんなわけ無い……ここは真っ暗で、私の手も見えないくらいなのに)

――ポウッ

??「……!?」

??(今のはハッキリ見えた……こんな場所に、灯が……)

??「……行こう!」

――コツン コツン コツン



??「わぁ……」

??(光ってる……これが、もしかして…………!)

??「やった、偶然かもしれないけど……一番奥にたどり着いたんだ、私一人で……!」

――ヴヴヴ……

??「この杖……黒いのに、淡く光ってる……魔法の媒体が直接魔力を帯びてる……」

??「本当に、すごい杖なんだ……」

??(……取っても、いいよね?)

――グッ



・・

・・・


――――久しく、この封の地から解き放たれた



??「誰……!? まさか、皆が見てた……?」



――――ここには魔力の制限が掛かる罠があるはずだ



??「……?」



――――なるほど……元々の素質が悪いなら、引っ掛かるはずもない



??「っ……だ、誰……!?」



――――誰でもない、我はただの道具だ

――――しかしお前が望めば、その塵芥のような素質も光る原石にする事ができる



??「えっ……?」



――――手に取れ、さすれば道は開ける



??「…………私でも、大魔法使いになれるの?」

??「もう、皆の後を追うのは嫌……!」



――――ならば手に取れ



??「…………」

――コクリ



――――その優等生気取りを、見返してやろうではないか……!

――ガシッ  ゴオオ……

??「わっ……! これ……はっ……!?」



――――伊達に魔杖とは呼ばれていない、限りない力をお前に授ける



??(凄い……! これなら、私でも……!)

??「漲る、魔力の源泉……!」

??(……え?)



――――……代わりに、お前には我を使役するための誓約を掛けよう……!



??(なにそれっ……聞いていない……!?)



――――何、難しいことではない……お前から奪うものは……



言語――



・・

・・・


??「う、うん…………はっ!」

――チチチ……

??(洞窟の外……の、ベンチ……私、寝てたの?)

??(じゃあもしかして、さっきの話は全部夢……!?)

――カランッ

??「……!」

??(違う……これはあの杖……真っ黒だけど……力は感じる! 本物!)



教師「……おや君は、どうしたんだこんなところで講義にも出ずに」

??「すまぬ、私は深き禁忌の地に入りて未知なる伝器を求め旅を…………?」

教師「……は? なんだって?」

??「い、否! 私はただ万世に通ずる言の葉を発しているのみ! ……何!?」

教師「ふざけているのかね?」

??「断じて違う! 私は、私は……!?」

教師「……疲れているなら今日の講義は休み給え、こんなところで寝ているのも疲れのせいだろう、蘭子君?」

蘭子「な……何だと……」



蘭子(私……一体どうなっちゃったの……!?)

 今回の投稿はここまでです。
話は未来区で行われるため、主に出番を得るのは卯月と美玲になります。

その他、ご質問には答えさせていただきます、ご感想はとても励みになります。

乙です
まさかの蘭子、これは期待

おつです!

なるほど蘭子だったか…
いきなり他ではあまり見ない椿さんやちなったんが来たりするから
てっきり千鶴あたりを抜擢かと思ってた



先輩とかゆきのんは出ないかなー(ぼそ

なるほどそういうことだったのか


熊本弁はそういうことだったのか…

 この時間帯の更新はありません、申し訳ないです。
そして>>205にて蘭子の名前が漢字で呼ばれているのはミスです、彼女だけ漢字名ということはありません。
劇中でキャラは愛称でない限り、カタカナ名を使っています、他にも漢字で呼ばれているシーンがあれば、それはミスです。

文頭の名前は漢字表記されていますが、これはここにもカタカナ表記を用いると見づらいうえに
キャラの把握に手間取ってしまうので特例として漢字表記を用いています。
みくの呼ばれ方や自称がコロコロ変わっているのは、私も把握しきれていないというミスです。

蘭子のパートは前述した通り短く纏めるのが目標ですが、名前が出るキャラは多い予定です。
具体的には、晶葉の一団の“残りの面子”が判明するため。
決定しているのは例外として後から登場したのあさんを除くと
Cuが晶葉、Coが千夏ともう一名、Paが唯ともう一名。 Cuが少なくてバランスが悪いですね……

四人でセット(推定)のせいで公式に人数バランスが悪い
フリルドスクエアさんやセンゴクランブの悪口はやめるんだ



・・

・・・


美玲「平和だなー! イラっとするなー!」

卯月「……さすがに外でそんなこと言うのは」

美玲「建物の中だと長が『文句を言っていいのはみくだけにゃ』とか言って押さえつけちゃうもん」

美玲「ウチだって言いたい事はいっぱいあるやい……ま、理由は分かるから、控えるけどさ」

卯月「それにしても……ここ、私が住んでた場所と全っ然違う……これが未来区?」

美玲「ウチも同意見、地面は硬いし魔法じゃないのにおっきい鉄の塊が動いてるし」

卯月「なんだか、自然が少ない……落ち着かないね」

美玲「アキハに頼んでみるかな」

卯月「出来るのかな……? あ、向こうの方に森が見えるよ!」

美玲「本当!? よーし、久々の自然だー!」



美玲「じゃなかったな」

卯月「違ったね……また大きい建物、広い」

美玲「他と雰囲気が違う、自然のとは違うけど……魔力を感じる」

卯月「あ、ミレイちゃんも? 実は私も、ちょっと変な感じだけど」

美玲「……ま、どうでもいいや! 不自然な自然だけど植物には変わりないな! ちょっと触れて登ってくる!」

卯月「ちょ、勝手に敷地内に入るのは……!」

美玲「へーきへーき! 立入禁止なら立入禁止って書いてあるだろっ! よいしょっと」

卯月「わぁ、早い」

美玲「高いぞー! ……でも、変な感じだな、こんなに高い木の上にいるのに、ちっとも周りは見渡せない」

卯月(……高い建物に囲まれちゃってるからね)

美玲「うーん…………」

――ヒョイ

卯月「もういいの?」

美玲「……つまんない、すぐ降りるから待ってて」

卯月「そっか……仕方ないよね、こんな場所だし……えいっ!」

美玲「わっ!?」

卯月「実は私も登るのは得意だよ、よいしょっと」

――サッ サッ

美玲「おおっ」

卯月「まだ高い木は他にもある、建物より高いのはないけど……せめて高さだけでも満足しよ?」

美玲「……よしっ! ウチも負けないからな!」

卯月「私も!」

卯月(落ち込んでても仕方ないんだよ、いつかは前を向かなきゃ……リンちゃんとミオちゃんを見習って!)

卯月(経典を取られたのは……うん、だから前を向かなきゃ、前を……)

――キィン

卯月「前……は? え? なにこの光……」

――ピシッ

卯月「あっ! あわっ! あわわわ――」

美玲「うわっ! ウヅキ下にはウチがっ……!」

――ドシーン

卯月「あいたたた……あ、ご、ごめんっ!!」

美玲「きゅう……」

卯月「太陽の光、かな? 思わず手を離しちゃって……」

??「違います、私が落としました。……ここは学校の敷地内です、公園ではありません」

卯月「あ、学校……ご、ごめんなさい、木を見ると反射的に」

??「はぁ……とにかく、ここは魔術学校です、あまり騒がないように」

卯月「魔術? あれ、でもここは未来区……」

??「未来区の住人にも、優れた魔術の適性を持つ人物は存在します。私も、一応はそう言われています」

卯月「へぇ……あ、じゃああなたはここの生徒の人ですか?」

??「………………」

――ゴオオッ

卯月「っわぁ!?」

――ツルッ ドスン!

美玲「うぎゃっ!?」

卯月「あ!? ミレイちゃん大丈夫!?」

美玲「重いぞ……!」

卯月(今の……魔法? じゃない、ただ魔力を生み出しただけ……それであの勢い……?)

卯月(私なんかより、よっぽど……遥かに扱いが上手い……!)

??「生徒に見えたのは見た目ですか?」

卯月「え? あ、いや、あはは……」

??「私は、特別講師としてここに呼ばれたから来ただけです、生徒ではありません……!」

卯月「せ、先生!? ご、ごごごごごめんなさい!!」

??「……分かってくれたら構いません、私も慣れていますから」

――ザッ ザッ

卯月「あ……あの、お名前は?」

??「私ですか? 覚えていても得はしませんよ、そんなに位が高い人ではありません」

卯月「構いません! その、魔法の技術、すごかったです!」

??「……ありがとう」

??「私は……未来区出身、今は臨時講師……名前は、ヤスハと言います」

先輩きたーやったぜ

あげちゃった
すまん

我が嫁の出番がきたぁぁぁぁ!



・・

・・・


泰葉「……ふぅ」

教師「遠路はるばるご苦労さまです」

泰葉「いいえ、これも仕事の一環なので」

泰葉「…………」



泰葉(つまらない……)

泰葉(生徒が悪い訳じゃない)

泰葉(じゃあ何が……人に教える事?)

泰葉「……駄目、それはただの責任転嫁。原因も理由も私だから」

泰葉(少し、歩こう)



泰葉「……誰も来ない」

泰葉(自意識過剰……かな、少しは自信があったはずなのに)

泰葉「ここの生徒達も自信に溢れている、良く言えば出世欲? 悪く言えば……プライドの塊」

泰葉「私と一緒で……全然違う……」

泰葉「ただ、言われた事が出来た、を繰り返してただけの私……」

泰葉(私の通った跡に、何が残っている?)



――……ゾクッ

泰葉「!?」

――バッ!

泰葉「今のは!? 攻撃……じゃない、ただの魔力……」

泰葉(……でも、何? 今の一瞬だけ……それに、張り付くような……密度)

泰葉「感じたのに……発信源が分からないなんて……」



教師「ここに居ましたか」

泰葉「……少し、散歩をしていました。ところで、今何かを感じませんでしたか?」

教師「感じた、とは?」

泰葉「いえ……すいません、忘れてください」

泰葉(あの魔力を、魔術学校という場所にも関わらず誰も感じてない……? 騒いでいない?)

教師「……?」

泰葉「次の予定まで時間がありますよね」

教師「ええ、およそ二時間弱」

泰葉「それなら……あの場所、見学に行っても?」

教師「あの場所、と申しますと……その指先にある施設は学内の寮ですな、しかしそちらで宜しいのですか?」

泰葉「寮……生徒の居住区、はい、大丈夫です」

教師「校舎内ではなく、独立した寮の方もございます。独立した寮には特待生が住んでいます」

泰葉「という事は、今私が示した場所は……一般寮?」

泰葉(……一般の生徒があの魔力を? ますます気になる)

教師「許可などは必要ありません、時間までご自由に散策下さい」

泰葉「分かりました」

泰葉「……何の変哲もない……普通の未来区らしい構造の建物」

泰葉(でも、近づいた結果……さっきよりハッキリと感じる)

泰葉「やっぱり気のせいじゃない……少しだけ残っている、張り付くような魔力の気配」

泰葉「一本の廊下のあちこちに残ってる……部屋は左右に等間隔、私が居た方角はこっちの右手側……」

泰葉「じゃあ右手側の部屋に、あの魔力を持った人が?」

泰葉(一部屋ずつ調べるのは不可能……どうしよう)



――ゾクッ!



泰葉「ッ!?」

泰葉(近い!! どこから……!!)

――ヒュィィン……!

泰葉「魔力の収束する音っ……!」

泰葉(これは、明らかな……まずい、間に合……!)



――ドガァアン!!




・・

・・・

美玲「むぎゅう……」

卯月「大丈夫……?」

美玲「あー、うん……大丈夫大丈夫……ウチは頑丈だからな……」

美玲「そんでさっきの人は誰だったんだ?」

卯月「ヤスハさん?」

美玲「名前は聞こえたぞ、何してる人?」

卯月「今は臨時講師って聞いたけど……もともとの仕事、なんなんだろう」

美玲「聞いてなかったのかー。でも臨時って事はウチらと一緒だろ?」

卯月「え? 何が?」

美玲「この建物に普段から居る人じゃないって事」

卯月「あ、ああ……そういうこと?」

美玲「へへん、注意されてそのまま帰るミレイじゃないんだよね、もうちょっと探検しよう!」

卯月「えぇ? 本当に怒られちゃうよ?」

美玲「今度は見て回るだけだからきっと大丈夫だって!」



――ダンッ!

美玲「ウマイな!」

卯月「なんで食堂?」

美玲「ウチらの財布は未来区の財源とほぼイコールなんだぞ、使わなきゃ」

卯月「そういう問題じゃなくて……食堂ってこんなオープンな感じだったっけ……?」

美玲「違うの?」

卯月「少なくとも私のイメージとは……」

美玲「じゃ、ここがたまたま例外だったんだな! ラッキーだ! 食べる?」

卯月「前向きだね……うん、食べる」

美玲「……で、二人が合流するまで待機かぁ」

卯月「私はね。ミレイちゃんはもう、ここに住むんだよね?」

美玲「それ以外無いし、みんなもそうしてる」

美玲「結局、願いを叶えるなんて出来ないのかな」

卯月「そんな事は……ないはず。それに、努力した過程が、私は大事だと思う」

美玲「ウヅキも長とおんなじ事言う、ウチにはそれはよく分からないぞ……頑張っても、駄目な時は駄目だもん」

卯月「……難しいかなぁ」

美玲「難しいから、そういうのは他の人に任せるんだウチは。やりたい事だけやるぞ」

卯月(ものすごい食べてる……変な目で見られてないかな? 周りに)

――ガサッ



卯月「……今の音?」

美玲「そっちから聞こえたぞ、荷物が落ちたんじゃないのか?」

卯月「荷物……あっ!?」

――バサバサッ

卯月「ここから音が聞こえた時はたいてい……経典!」

美玲「おぉ? 新しい何かか?」

卯月「今確認する! リンちゃんとミオちゃんが居ないから私一人でやらなくちゃ……えーっと……」



~ 闇を封印するのは光と、それを映す硝子 ~

卯月「…………???」

美玲「……???」

卯月「あれ……経典の指示って、こんなのだっけ……?」

美玲「指示!? これ指示なのか!? 歌詞みたいになってるぞ?」

卯月「具体的に何をすればいいかも分かんない……でも、封印?」

美玲「闇って、敵か?」

卯月「だとすると光と、映す硝子……? を、用意しろって事?」

美玲「光と硝子って何だ?」

卯月「分かったら苦労はしないんだけど……そもそも闇って一体なに――」



――ドガァアン!!




・・

・・・

蘭子「逃れられぬ異形の言霊……!」

蘭子(なに、何なの……? この杖のせい? 言葉が上手く……出ない?)

蘭子「我が結界は何人足りとも寄せ付けぬ……しかし、知恵を授かる儀式に触れる事は出来ぬ……」

蘭子(慌てて部屋に帰ってきた……ここなら誰も来ないけど、こんな状態じゃ授業にも行けない……!)

蘭子(相談する……相手も居ない)

蘭子(自力でなんとかするしかないの?)

――カランッ



蘭子(立入禁止の場所に入った罰なのかな……)

蘭子「……黙する魔杖、然れど力は劣らず」

蘭子(声が聞こえてたはずなのに、聞こえなくなっちゃった。でも、力は感じる)

蘭子(元々……私、あんまり好かれてないから、こうなっちゃっても大丈夫?)

蘭子「大丈夫……否! 我が劣っても、禁忌に頼るべからず!」

蘭子(違う、やっぱり……力が手に入っても、これは“なりたい私”じゃない……!)



蘭子「我の手を離れようとも呪縛からは逃れられぬ」

蘭子(どうやって、杖を手に入れる前の状態に戻ろう……)

蘭子(そもそも、この杖に意思があったように見えたけど……反応がないし、聞けない)

蘭子(手に入れる前の状態……)

蘭子「……破壊……?」

蘭子(壊せば……いい? 捨ててもダメなら、壊せば……!)

蘭子「即断即決……魔杖よ、塵に還るがいい!」

――ブンッ!



――パキィン! ……ゾクッ

蘭子「え……あ、っう!?」

――ピキッ バリィッ!

蘭子「かっ……は!? な、にぃ……!?」

蘭子(痛い痛い痛い! 体が……割れ……あああああ!!)



蘭子「はぁ……はぁ……はぁ……」

蘭子(壊すのは駄目……! 理由はわからない、でも……杖と私に響くダメージが……同じ……)

蘭子「……杖が、少し壊れたのみ」

蘭子(完全に壊す前に……こっちが持たない…………どうしよう?)

――シュワアアア……



蘭子「……む?」

蘭子(杖の水晶体にヒビ……そこから何か漏れてる……?)

蘭子(……ってこれ、なにか良くないんじゃ!?)

――キィン!!

蘭子「っう!?」

蘭子(頭が……声が、響く……!?)

――――今、漏れ出しているのは精神力。 心を防護する障壁。



蘭子(また、最初に聞こえた声……!?)



――――洞窟外では魔力が満ちぬ、代わりにその言葉を枷に、お前から魔力を貸し借りしていた。

――――だが、障壁が漏れ出したお前には、その必要もない。



蘭子「何を……ぐうっ!?」



――――直接、支配下に置くことができる。



蘭子「う……ぐ……去れ、我から……離れろっ……!!」



――――そういう訳には行かない。……どうした、皆を見返したかったのではないのか?

――――今なら可能だ、襲え、潰せ、示せ。



――――ああ、この理性が邪魔なのか? ならば、崩してやる。



――パキィン!



蘭子「あ…………」



――――さぁ、新しい宿主は、どこまで持つかな? その新たな躰を世界に知らせろ。



蘭子「……ふ、ふふ……あはははは!!」

――ゴオオオオオ!

――ドガァアン!!



男生徒「うわぁっ!?」

女生徒「きゅ、急に寮の壁が壊れ……えっ!?」

――ザッ ザッ

男生徒「ラン……じゃない……!?」

女生徒「だ、誰……!?」

蘭子「ふふ、ふふふ…………」



蘭子「闇に、飲まれよ!」



・・

・・・


みく「…………! ……?」

みく(爆発音? ……ここも平和じゃないってことかにゃ)

みく「しかし派手な音……場所は、ここからじゃ見えないかにゃ?」

――ガヤガヤ

みく「ま……さすがにここの本部も騒がしくなるかにゃ」



――現場はどこだ!

――南方から連絡が!



みく「とりあえず対応速度はさすが、南の方向という事は……」

みく(……いや、関わってないよね?)



――パチリ

のあ「…………」

のあ(反応しなかった……? 私が?)

のあ「では、驚異と認められない……何故?」



・・

・・・


警備員「原因を調査中です! 近づかないでください!」

美玲「すごい音がしたと思ったら追い出されたぞ……」

卯月「でも明らかに異変があったって事だよ、煙出てるもん!」

美玲「そりゃそうだけど、仮にさっきの経典の内容だったとして何をどうすればいいのか全然わからないぞ!?」

卯月「とにかく行かなきゃ! 通してください!」

警備員「駄目です! 関係者以外立入禁止です! 直に本部から応援が来るので騒ぎは収まります!」

卯月「それじゃ手遅れになるかもしれないんですよ!」

美玲「入れないとそもそも手がかりも手に入らないかも……ウヅキ、どうするの?」

卯月「どうするって、通るしかないんです! ここしか手がかりが無いから……!」

警備員「だから駄目です!」

卯月「ち、力づくでも……は、駄目、さすがに駄目……どうしよう……アイリさんもう少しヒントが欲しいよ……」



――ザッ

騎士「何事ですか!?」

警備員「分かりません……魔術学校の一般寮エリアから爆発と煙が上がっているとの報告です」

騎士「一般寮? 誰かが実験を失敗したのでは?」

警備員「壁が壊れる規模の爆発は大事です、外壁の強度はかなりのものに設定しているはず……」

騎士「……分かりました、では私達が向かいます、生徒の避難は?」

警備員「ひとまず一般寮含む近辺の空間には立入禁止区域を設定しましたが……」

騎士「しましたが、何です?」

卯月「この中に! 用事が!」

騎士「あの場所にお友達が?」

卯月「理由は説明できないんですけど、とにかくあそこに行かなきゃ駄目なんです!」

騎士「はぁ……? いや、危ないですよ?」

卯月「危なくてもです!」

警備員「そもそも今は立入禁止です、野次馬なら帰って!」

卯月「違うんです! とにかく入りたいんです!」

美玲(不審者だこれ…………)



美玲「ま、でも……重要な事なら通るしかないね。ウチに任せて」

卯月「え?」

警備員「君もだ、ここは立入禁止……」

美玲「上に伝えてくれよな! ウチはアキハから直接“たいていの事はしていい”と言われたから……」

美玲「ここに入ってもいいはずだな!」

――ズイッ   ザッ ザッ



――ガッ

警備員「何を訳の分からない事を……ほら、帰った帰った」

――ポイッ

美玲「…………」

美玲「うがー! なんでだー!」

卯月「えっと、何をしようとしてたか説明してくれる……?」

美玲「ウチらは被害者だろ!? あのアキハって奴がなんでもできる権利をくれたじゃん!」

卯月「初耳かな……」

美玲「とにかくそれっぽいのは貰った! だからウチが言えばここは通れるはずなの!」

卯月「その“なんでもできる”っていうのは生活面じゃないかな……」

騎士「とにかく……何度もこっちが言ってる通りここは関係者以外立入禁止にしますから」

美玲「ウチも関係者になる権利はあるぞー!」

騎士「じゃあそれを証明できるものをせめて……」

??「証明……彼女はそれを持たない、なぜなら与えていないから。でも、言っている事は本当」



――ザッ

のあ「通信は聞いていたかしら」

騎士「……どなたですか?」

のあ「仲介役、アキハと全員を繋ぐ……代理の者よ」

騎士「代理? その話は聞いた通りですが……指令はロボを通じて行うと聞いています」

騎士「直接仲介人が来るとは聞いていませんが?」

のあ「ロボット……そうね、私はそれに該当する」

美玲「ロボ? でもアキハのところで見たのと全然印象が違うぞ……?」

卯月「あの時、高水準なロボットは完成してないって言ってたような」

のあ「私は完成してからまだ間もない。先程、生を受けたばかり」

騎士「なら、尚更……あなたがアキハさんに作られたという証明は?」

のあ「……これに、見覚えはあるかしら」

――ガチャッ

美玲「うわ、開いたぞ!?」

卯月「本当に機械なんだ……中身、よく分からない構造……」

のあ「内部に使われている部品……一つ一つの詳細が分からなくとも、これで十分」

――カチリ……カチリ……

美玲「なんか、似合わない部品があるぞ……でっかい、なんだコレ?」

騎士「それは…………! 本物……ですか?」

のあ「私が存在しているのが証拠」

騎士「……そう、ですね」

美玲(どういう意味?)

卯月(さぁ……歯車? あれが、何かの証明になったのかな?)



騎士「認めます、あなたがアキハの代理の……」

のあ「No.A……ノアよ」

騎士「ノア……ここに来たという事は、指令ですか?」

のあ「いいえ、私は機能の一つとして脅威を探知する力がある」

のあ「でも、この事件に関しては反応しなかった……故障ではない、なぜか反応しない」

騎士「そんな機能……未来を察知するようなものですよ? 存在するんですか?」

のあ「私の原動力、見たでしょう。……それ以上は説明は出来ない」

騎士「…………」

のあ「原理の説明は省く、とにかくそういう力があると認識しなさい」

のあ「そして今回反応しなかった理由……恐らく、私が出るまでもない事象」

騎士「……そりゃあ、そうでしょう? この程度の問題なら私達だけで大丈夫です!」

のあ「そう……なら、任せる。その前に……」

のあ「二人、客人が居るみたいね」

美玲「ウチ?」

卯月「私?」

警備員「すいません、すぐに追い出しますので」

のあ「いいえ、その必要はない。その子が権利を持ってるのは事実」

警備員「えっ?」

美玲「話が分かるじゃん! 言った通りだろウチの!?」

騎士「ど、どういう事ですか!?」

のあ「事が終わってから説明する、全部隊に」

美玲「……よし、公認も貰ったし、堂々と中に入れるぞ!」

卯月「う、うん! 急がなきゃ!」

のあ「待ちなさい」



美玲「なんだ? まだなにかあるのか?」

のあ「あなたは問題ない、権利を有している。ただし、お友達は権利を持たない」

卯月「え……私ですか?」

美玲「ウヅキが行かなきゃ意味がないんだ! ウチの付き添い、ウチがいいって言うからいいんだろ!?」

のあ「部外者まで効果は及ばない」

美玲「部外……!」

警備員「……では、あなたはこちらへ」

のあ「待ちなさい。権利を持たないと言っただけ……入ってはいけないとは言っていない」

卯月「……え?」

のあ「ミレイ、あなたは単体で侵入する権利を持つ。ただしウヅキ、あなたは持たない」

のあ「……しかしミレイの権利により、同行させることは不可能ではない」

美玲「なんだ……大丈夫なのか? じゃあ……」

のあ「一人、こちら側の同行者を付ける」

卯月「同行者……もしかして、そのためにノアさんは?」

のあ「私ではない……彼女が、役目」

美玲「彼女?」

卯月「この場に……彼女……」

――クルッ

騎士「……私、ですか?!」



のあ「ここに居る人員と、効率を考えた結果、適任よ」

騎士→??「わ、私が……? いや、いやいやいや……どうして目的も素性も分からない二人を護衛しなければ?」

美玲「護衛なんてなくてもいいんだけど」

のあ「他にすぐ人員を用意できるのかしら?」

??「出来ませんけど、ならそもそも侵入させなければいいんですよ!」

美玲「無理にでも通るからな! ウチのが権力が上だ!」

??「……何を考えてこんな権利を与えたのですかアキハは」

のあ「あなたの思っているより、数段重い事象の元……とにかく任せたわよ」

??「……分かりました、分かりましたよ!」

卯月「と、とりあえず……行っていい、って事かな?」

??「そう言われたので仕方なくです」

??「ですが、理由も正確に述べないまま事件現場に向かうあなた達を自由にさせるつもりはありません」

卯月(経典……は、さすがに言えないからね……説明も出来ないし)

美玲「ウチらも大人しく見張られるつもりはないね!」

??「私も見逃すつもりはありません、ただの火事場泥棒目的なら……討ちます」

卯月(この人怖い……)

??「ノア、監視は私の自由にさせてもらって構いませんね、その結果の行動も」

のあ「二人が倫理に反する行動を取った時に限る」

??「充分です、では二人にはこれをお渡しします」

――カチャリ

美玲「……これ、何?」

??「発信機です、常に持っている事、これは譲れない条件です。それと、これも」

――スチャッ カチャリ チャリン

??「あなた達は監視対象、傷つける訳には……不本意ですが、ある程度守ります」

??「左から魔法耐性、物理耐性、衝撃耐性と斬撃耐性……私が作ったものなので効果は保証します」

卯月「えっと……何ですかコレ?」

??「……聞いていなかったのですか? 左から順番に」

卯月「聞いていました、その上で分からないから聞いているんですけど……」

??「はぁ……装備品に特殊効果を付けるという文化は聞いた事がありますか?」

??「私は所属の関係で騎士として分類されていますが、元は付与魔術士エンチャンター志望です」

??「だからこうして私の手で作られた装備を渡すと」

美玲「いや、そういう意味じゃないって……」

卯月「装備品って……これ……」

――カチャッ

卯月「…………眼鏡」

??「何か問題が?」

なんて汎用性のないエンチャンター…何者なんだ(棒)

もうホント、メガネの一言でバレバレっていうねwwwwwwww

一体何条さんなんだ……

卯月「問題しかないです! ……あ、もしかして持ってるだけでいいとか」

??「そんなわけないでしょう! 眼鏡をなんだと思っているんですか!?」

卯月「そっくりそのままお返しします……」

美玲「じゃあどうやって使えばいいんだ?」

??「かければいいんです」

美玲「ウヅキ、話が通じないよこの人」

卯月「かけるって……」

??「こうですよ、こう!」

――カチャリ

美玲「見えにくくないかソレ」

??「二桁まではかけても問題ありません」

卯月「うわぁ……」



のあ「適当に無視しておきなさい、付き合っていたら視界が持たない」

卯月「……そうさせていただきます」

のあ「彼女はハルナ=カミジョウ、主に主要地区の警備を任せている人材」

のあ(ちなみに……チナツ=アイカワは国外への進行および侵攻の担当)

春菜「今紹介に預かった、付与魔術士希望の騎士、ハルナです、まぁまぁ眼鏡を」

美玲「いらないって!」

春菜「そうですか……じゃあ私が眼鏡をかけます、グループのうち一名が装着していたら効果を発揮するので」

卯月(じゃあ最初からハルナさんがかけてれば……そもそも何で眼鏡……)

春菜「さて、では行きましょう。警備の方、これ以上人を通さないように」

警備員「は、はい!」

春菜「では二人とも、私から離れないように」

――ザッ ザッ ゴンッ

春菜「あいたっ」

美玲「前見えてないじゃないかっ!!」

――シュゥゥゥ……

蘭子「…………」

女子生徒「っー……!?」

男子生徒「け、結界……助かった……?」

蘭子「我の覇道を妨げるのは……」

泰葉「喧嘩……には見えませんね」

――ズズッ……

泰葉(実際に結界を通じて触れて……何? この魔力は……)

泰葉「この場が危ないと自覚していて、自分に非がないと思うなら逃げてください」

男子生徒「は、はい!」

――ダダッ

蘭子「フッ!」

――ゴオッ!!



――ピキィン! ビシッ

蘭子「む……邪魔をする」

泰葉(今のも、私の結界にヒビが。本当に一般寮に所属する生徒?)

泰葉「いったい何が目的ですか?」

蘭子「知れた事! 何人たりとも障害にはさせぬ!」

――ゴオオッ

蘭子「深淵!!」

泰葉(さすがに目の前だと感じる……でも、この魔法……魔力が集約されすぎていて、外にほとんど漏れていない……!)

――カッ

泰葉「一点に魔力を留める技術……素晴らしいです、これでは外部の人間が魔力であなたに気づくことも出来ないでしょう」

泰葉「だからこそ、なぜこういった行動を取っているのかが気になる」

蘭子「結界士……魔力を断絶する障壁!」

泰葉「私は結界専門ではありませんが」

――ヒュイン

蘭子「氷なる牙……!?」

泰葉「ただの氷の弾丸です」

――ズガガガガ!!!



泰葉「専門ではなく、一通り全て扱えます。……それだけなんですけどね」

泰葉「……やりすぎたでしょうか。攻撃と防御、両方に通じている術者は少ないですから、今の攻撃を止められたか」

――パリッ

泰葉「!?」

蘭子「裁きの雷!!」

泰葉「反撃……くっ?!」

――シュイン バリバリッ!!

泰葉(結界に通電した!?)

蘭子「その障壁では防げぬ!!」

泰葉「っあ……!!?」



――ぁあっ!?

卯月「い、今の声!?」

美玲「ウチにも聞こえたぞ!」

春菜「誰かが交戦中のようです、なるべく下がって私の後ろに行くか眼鏡をどうぞ」

美玲「話しかけてる所悪いけどそれはウチじゃなくて観葉植物だぞ」

春菜「またまたご冗談を、眼鏡似合ってますよ」

美玲「それは消火器だぞ……」

卯月「とにかく、誰かが危ないなら急いで向かわなきゃ!」

美玲「闇と光と硝子、いったい何の事なんだろう、っと」

春菜「あ、待って下さい! 眼鏡をおいてどこへ行くんですか」

――ガンッ

春菜「あいたっ、眼鏡が!」

美玲「もう置いていくぞ!?」



――パリッ ビリッ

泰葉(結界を通して私に直接攻撃……何ですかそのデタラメな魔法は……!)

蘭子「身を隠そうとも無駄!」

泰葉「場所はバレてましたか……!」

蘭子「裁きの雷!!」

泰葉「防御できないなら、反射する!」

――ブゥン

泰葉「来なさい!」

蘭子「……ふふ」

泰葉「何が可笑しい!」

蘭子「如何なる障壁でも、裁きの前には無力!」

泰葉(この自信……!?)

――ピリッ キンッ……

泰葉(反射壁に魔法が触れた、ここから普通なら跳ね返せるはず……)

――キンッ……バチッ!!

泰葉(跳ね返らな……!?)

泰葉「くっ!!」

――バリィッ!!

蘭子「裁きの刹那、術を閉じたか……」

泰葉「落ち着いて……私は……最年少の魔術最高位!」

泰葉「こんなところで立ち止まっているわけには!」

――キイイン

泰葉「行って!」

蘭子「二度も通用しない!」

泰葉「同じ手ではありません!」

――パシュン

蘭子「拡散!?」

泰葉「少々建物の破壊が進みますが、これなら避けようがないでしょう!」

――ドガガガガ!!

美玲「こっちから聞こえたぞ!」

卯月「この上……施設としては、一般寮だって。生徒の居住区……?」

美玲「避難は済んでるらしいからな、いったいここで何が行われてるの……お?」

――ゴオッ! ドカッ!

美玲「ぐえっ!?」

泰葉「っぐぅ!?」

卯月「ミレイちゃ……ヤスハさん!?」

泰葉「あなた方は……!? ここは危険です、私があの人物を食い止めますから二人は……」

美玲「うがー! ウチはこんなんばっかりだぞ今日! さっさと退いてく……れ……な、なんだぁ!?」

――ゴゴゴゴ

卯月「真っ黒の……闇!?」

泰葉「くっ! 闇属性には……!」

――シュオオオン

卯月「眩しっ……!?」

泰葉「光……これで、潰します!」

――パァン!!



蘭子「……闇が飲まれたか」

泰葉「全力で撃ち込んだにも関わらず、相殺が精一杯とは……」

美玲「なんだなんだ、どうなってんだ!?」

泰葉「あの人物が、この騒動の原因です……いったい誰なのか、目的は? 全て、分かりませんが敵意は向けられています」

泰葉「分かったら早く……この場から離れてください」

卯月「…………」

卯月(黒と闇……そして、ヤスハさんの白と光……これは、間違いない……経典の指示した状況!)

硝子……ああ

卯月「今回の指令は、具体的に私が何かを成すんじゃない……闇と光を硝子の前に引き合わせる事……!」

卯月「問題は、硝子……これがいったい何の事なのか……」

蘭子「案山子の如く立ち尽くすか! 灼熱の太陽!」

泰葉「危ない!」

――ゴオッ

卯月「あ……っぶない……手から火球も飛ばせるなんて、闇だけじゃない?」

蘭子「大魔導師に不可能は無い!」

泰葉「いい加減にしなさい、これ以上危害を加えるなら……私も、あなたを再起不能にするしかない!」

泰葉「私も、加減は苦手ですから……行くとなれば全力です」

卯月(……! まずい、最後の鍵が分かる前に決着がついてしまうと……指示通りにはならない!)

卯月(でもその反面……あの魔法使いの人が闇だとして、ヤスハさんが光なら……)

卯月(彼女を抑える、封印するという意味で制圧はこのままでも可能なはず……)

卯月「まだ、完全なゴールが何なのか……見えない……?」

美玲「ど、どうするんだ? ウチら協力するべきなのか?」

卯月「いや……今回は、私が何かするんじゃない……三つを引き合わせる事」

美玲「三つ? あそこに書いてた内容の事?」

卯月「問題は硝子が何のことか……そんな道具があるのかな?」

卯月「……そうだ、心当たりがあるか聞いてみよう。ハルナさ……あれ?」

美玲「さっきから居ないぞ?」

卯月「えぇ!? ど、どこに行ったの!?」

美玲「さぁ……ったく、眼鏡を変な使い方するからだろ!」

卯月「私たちに渡すつもりだったのに、なんで度入れちゃったんだろ……」

美玲「ま、居ないなら居ないでいいだろ? 監視が無くなったから自由に動けるぞ!」

卯月「そうだけど……硝子、硝子……いや、そんなわけ無い……」



――ガシャン!

泰葉「ふっ……! ん、まだ居たのですか……あなた方が居ると集中できないのですが」

美玲「そ、そうか? どうするんだウヅキ?」

卯月「集中できない……ヤスハさん、彼女をどうするつもりですか?」

泰葉「放っておくと何をするか分かりませんからね……手荒ですが、徹底的にやります」

卯月(……なんだろう、何か……駄目な気がする!)

卯月「ミレイちゃん……戻ろう!」

美玲「お、うん、じゃあ……」

卯月「違うよ……下にじゃなくて、ハルナさんを探しに!」

美玲「よし! ……って、なんでだ?」

卯月「まだ分からないけど……新しく関わった人はもうハルナさんしかいない……」

卯月「あの人が、何かこの事態のキーを持ってるはず……ヤスハさんと彼女の二人だけでここを仕切らせちゃ駄目!」

美玲「……? そう言うなら、とにかく探せばいいんだな!?」

――ダダッ

蘭子「真摯なる決闘……!」

泰葉「ようやく二人だけになりましたが……あなたは一体何者ですか?」

蘭子「我は漆黒の堕天使、不条理なるこの世に制裁を!」

泰葉「……先程から、その言語はどこのものでしょうか? 言葉は理解できる、しかし内容は認識できない」

泰葉「ただただ、不気味です」

蘭子「知らぬ者には、ただ不気味に映る……それもまた魔王の素質!」

泰葉「……いいでしょう、その追求は後にします。まずは、大人しくしていただけると」

――バキッ パキッ

蘭子「む……?」

泰葉「少し遊びの時間を頂いたので“切り替える”余裕がありました。ここからは、こちらから攻めます」

蘭子「その氷なる牙は効かぬ!」

泰葉「試してみましょう」

蘭子「凍土の魔術を貫け、黒き翼の弾丸!!」

――ドガガガガ!!

――パァン

泰葉「……多彩ですね」

蘭子「食い止める事が出来たのみ……!」

泰葉「では、徐々にギアを上げましょう!」

蘭子「我は滅びぬ!!」

美玲「ったく! どこに消えたんだあの眼鏡剣士!」

卯月「階段を上がってきただけなのに……ハルナさーん!?」

美玲「ウヅキ! やっぱり放っておいたほうがいいんじゃないのか?」

卯月「そういうわけには……あっ!」

――ゴンッ

春菜「あたっ……あわわ眼鏡が」

卯月「やっと見つけた! ハルナさん!」

春菜「あれ、いつのまに後ろへ? 私が眼鏡を落とした一瞬に背後に回るとはやりますね」

美玲「オマエが話しかけてるのは柱時計だけどな」

春菜「やはり魔法学校というだけあって構造が複雑ですね、この探索用の眼鏡をどうぞ」

卯月「それはいいですから早く来てください! なにかきっかけがつかめるかもしれないんです!」

春菜「わっ! 引っ張らないでください! 眼鏡が外れますから!」

美玲「もう外せー!」

――パラパラ……

泰葉「後で学園長に謝らなければ……いくらなんでも、やりすぎました」

蘭子「力を得た我と同格だと、貴様何者!?」

泰葉「ただの臨時講師ですよ」

蘭子「戯言を! 今の我には魔の領地にも追随を許さぬ力を持つ!」

泰葉「学校内では、という解釈で構いませんね? それなりに言葉が読み取れるようになりました」

蘭子「通じぬなら、更なる魔術で制圧する!」

――ドゴォッ!!

蘭子「いでよ荒れ狂う地龍!」

泰葉(召喚……ではない、地面が龍の形状に変化しただけ。しかし物理攻撃に近い術も扱うとなれば)

――ヒュン

蘭子「ぬ!」

泰葉「接近戦はどうですか? 肉弾戦は専門ではありませんが、強化式は扱えます」

――ピキンッ

泰葉「……!?」

蘭子「我に近づく事は許さぬ! 堕天使の瞳に魅入られよ!」

泰葉(拘束っ……!?)

蘭子「今一度貫け、黒き翼の……」

――ビィン



春菜「眼鏡照射ー!」

泰葉「何事……!?」

蘭子「一縷の閃光っ!」

――カッ

春菜「ハルナ到着です。さて、あなたが騒動の原因ですか?」

泰葉「私じゃない……いや、半分は私かもしれません」

春菜「ほう、では残りは?」

――ゴオオッ!  ガッ!

春菜「火の玉……しかし私の眼鏡によって生み出された防御壁の前では無力、出てきなさい!」

蘭子「…………」

春菜「おや……あなたは」

蘭子「久しき旧友」

春菜「ランコちゃんじゃないですか、数年ぶりですね、まぁまぁ眼鏡を……」

――ギュイン

春菜「へぶっ!?」

――ズザァッ ドゴッ

美玲「うげっ!」

卯月「ミレイちゃん!?」

春菜「痛たた……昔より問答無用率が高くなっています……あ、失礼、眼鏡要ります?」

美玲「なんだなんだ? 今日のウチはこんなんばっかか……あと眼鏡は要らない……」

春菜「そうですか、残念です。ところでどうしたんですその口調とこの様子とその服装、ずいぶん印象が変わりましたけど?」

蘭子「生まれ変わった、我は漆黒の堕天使として名を広める!」

春菜「へぇ……私は以前のランコちゃんの方が好きですけど、今なら眼鏡かけてくれます?」

卯月「あの! もしかしてあの人を知っている……!?」

春菜「ええ、古いお友達です。ここしばらく会っていない間にずいぶん変わったみたいですけど」

卯月「なら……あの子を、助けてください!」



春菜「ふむ、話が見えませんが……何にせよ、道を間違ったように見える友人を救うのは友人の務めですよね?」

――ガラッ

泰葉「……待ってください」

卯月「ヤスハさん!」

泰葉「助ける……その言い方だと、何か彼女に対する情報を持っているように聞こえます」

泰葉「そもそも最初から、あなた方二人は部外者にも関わらず……いったい何なんですか?」

卯月「えっと……そ、それは……」

春菜「まぁまぁいいじゃないですか、私はこの二人のおかげで現場に来れましたし」

泰葉「それと貴女は?」

春菜「この国の部隊長所属のハルナ=カミジョウです、お近づきの印にこれを」

泰葉「国の衛兵……なるほど、分かりました」

春菜「眼鏡……」

蘭子「友とて容赦はしない、覇道に飲まれて消えよ!」

――ゴオオオオ……

春菜「おっと! 見違える程唱える呪文も立派になりましたね!」

泰葉「言ってる場合ですか……! まだ強くなるなんて、これはもう一度防御に“振り直す”必要が……」

蘭子「闇に飲まれよ!!」



――ズンッ!!!



卯月「っ……こ、校舎が……!」

美玲「二人は無事……なのか!?」

――ピシッ パリンッ

春菜「素晴らしい防御壁ですね、私の眼鏡の障壁でも耐えられなかった魔術を!」

泰葉「真面目にやってください……それに、私の障壁もギリギリで耐えただけです……その証拠に、割れました」

卯月「ハルナさん! ヤスハさん!」

春菜「私達は無事だから、二人はさっさと退がっちゃってください、危ないですよ?」

卯月「そういうわけにも行きません……見届けなくちゃいけないんです!」

春菜「どうして頑なにこの場に残る必要があるんですか? 眼鏡なら後で差し上げますから」

卯月(確かに、この場に留まるだけの口実がない……でも、経典の事を言っても信じてもらえるかどうか……!)

卯月(……経典?)



卯月「ハルナさん! あなたは“硝子の眼鏡”を持っていますか!?」

泰葉「……はぁ?」

春菜「なんですかその素敵なモノは、非常に悔しいですが存じ上げませんね!」

春菜「ですが……硝子、と言われてふと関係ない事に気づきました」

蘭子「…………」

――キラッ

春菜「ランコちゃん、その杖……どうしたんです? 持ち手の水晶が割れているみたいですが?」

蘭子「関係ない……知る必要もない」

春菜「そうですか? 私の知っている限り、ランコちゃんは真面目な子だったんでねぇ……」

春菜「壊れた杖なんて使わないし、いや、そもそも……」

春菜「私の眼鏡には、その杖はとても恐ろしいものに見えますが……?」

泰葉「……見えるのですか? 何か、普通では見えないものが」

春菜「いやいや、お友達の勘ですよ。しかし、妙な確信があります……言われて、感じませんか?」

泰葉「杖ですか……? ……魔力が集約されていますが、別段不審な点はないです」

美玲「ウチにはさっぱりだぞ……ウヅキも?」

卯月「杖……魔法……!」

卯月「わかった、違和感の正体……!」

泰葉「違和感……?」

卯月「はい。私も魔法は使います、ヤスハさんもですよね?」

卯月「ただ、術式は道具を介さない……私もヤスハさんも杖なんて持ってませんよね?」

泰葉「確かに持っていませんが…………あれ?」



卯月「気づきましたか?」

泰葉「あの子、杖を持ってるのに…………魔法は、杖から出さない?」

蘭子「……!」

卯月「少なくとも、私が見た火の玉は手から飛ばしました……杖は、魔法を補助する道具です」

春菜「ランコちゃんは言っちゃなんですが、そんなに術式組むのが得意ではありませんからねぇ」

春菜「手助けのための杖は大事にしますし、そもそも持っていないとまともに戦えないですよ」

泰葉「……もう少しその情報を早くお願いします」

春菜「いやはや申し訳ない、お詫びにこちらの眼鏡を」

泰葉「結構です……では、あの杖に何か秘密が……?」

春菜「そのようです、この点に気づいたのは彼女たちのおかげですね?」

泰葉「非常に遠まわしにですけどね……」

蘭子「この杖を奪うつもりか、だがそうはいかない!!」

――キイイン!!

泰葉「無力化は制圧よりも困難です」

春菜「大丈夫です、人手と眼鏡は豊富ですから!」

泰葉「封印式、少し時間がかかります……ハルナさん、そしてお二方。お時間、構いませんか?」

卯月「はい、ウヅキは大丈夫です!!」

美玲「よっしゃ! 久々に暴れてやる!!」

春菜「私も大丈夫です、この眼鏡と友人にかけて、お仕事完遂させていただきます、眼鏡だけに!」

蘭子「全て……蹴散らしてくれる……!!」

卯月(杖、これが原因できっと……ハルナさんの知っているランコさん……? の、何かが変わった……!)

卯月(そしてこの人達は、私たちの旅の何かきっかけになるはず……だから、経典はここへ導いた!)

卯月(ここで会った三人とも、誰ひとり欠けさせてはいけない!)

春菜「ところで、わざわざ封印式を? 杖が原因と考えるのならば破壊するの方が簡単では?」

泰葉「万が一を考えています、大きな力の代償として杖と身体を共鳴させている……可能性がないこともない」

泰葉「その場合、杖の直接破壊は彼女に甚大なダメージを負わせる危険性があります」

美玲「封印、ってのは大丈夫なのか? 全員無事じゃないとダメなんだぞ!」

泰葉「大丈夫だからこの選択をしました。……私一人で、この話を聞いていなかったら間違いなく杖は破壊していたでしょう」

美玲(……一応、ウヅキの理想通りかな?)

卯月(間違った道ではない、次はここから!)

泰葉「言った通り、切り替える時間と術式を組む時間を下さい」

卯月「切り替え?」

泰葉「……説明は後です、とにかく数分間お願いします」

美玲「任せろっ!」



蘭子「使者が増えようとも標的は一人! 轟け雷光!!」

――バリィッ! パシュッ

蘭子(止まった!?)

春菜「お手製の眼鏡バーリヤーです、魔法はある程度受け止めます!」

蘭子(この雷は術者から送られる魔力を伝って、障壁ごと巻き込む術……)

蘭子「その映し眼が術者……故に我が雷光が届かぬか」

春菜「映し眼じゃないです、眼鏡です。原理は分かりませんが、お得意の貫通雷は私には効かないようで!」

泰葉(なぜ眼鏡だけ解読出来たのですか)

蘭子「しかし強度は有限! ならば塵に還るまで雷光を打ち鳴らそうぞ!」

――ギィン!

蘭子「む!」

美玲「空間に壁があるぞ!?」

卯月「シールドも張っている……ミレイちゃん一旦退いて!」

蘭子「逃がさぬ!」

卯月(接近戦は防御壁、さっきまで感じなかったけど一対複数になった瞬間に……)

卯月「目的は時間稼ぎ……気を引かせるのは私にも! いっけぇ!!」

――バギッ! ピシッ

蘭子「なっ!?」

卯月「く……ヒビは入ったけど割るまでは行かなかった……」

泰葉(ヒビを入れただけ? ……そもそも、ヒビが入った?)

蘭子「馬鹿な……我の防御癖に亀裂が入るだと!」

春菜「薄くなったのならその隙を狙いましょう!」

蘭子「くっ!」

春菜「貫く眼鏡照射ー!」

――パンッ

春菜「あれっ?」

蘭子「その程度の攻撃では破れぬ!」

春菜「おおっと危ない」

泰葉(……威力は同程度なのに、防御壁が受けたダメージが違いすぎる。何か法則が?)

美玲「ウチもやるぞ! たああっ!!」

――ガキィン!

美玲「硬ったッ! なんだよコレー!」

蘭子「小賢しい!」

――ビュンッ

泰葉(彼女に至っては二人の攻撃より遥かに威力がある……なのに、ヒビが広がりすらしない?)

泰葉「直接の威力が、障壁を削る要因にはならない……」



卯月「こっちの壁も、たあっ!」

――ビシッ! ピキッ

蘭子「そんな馬鹿な……第二の障壁には蓄積が無いはず……!」

春菜「一撃とは景気がいいですねぇ、封印式が組まれる前に制圧できるのでは?」

蘭子「くっ、この様な所で足踏みするわけには! 滅せよ!」

卯月「私に狙いを……!」

美玲「ウヅキ!」

蘭子「灼熱の太陽!」

――ガッ!

卯月「っ!? だ、大丈夫だよ! この隙にもう一回攻撃する!」

蘭子「何度もさせぬ!」

――ピキンッ

卯月「あぅ!? か、体が動かな……」

泰葉「まずい! さっき私にやった魅了術!」

泰葉(術式を放置して助けに……いや、この場所からでは……)

美玲「危ない!!」

蘭子「闇に飲まれよ!!」

――ゴオッ ザシュッ!!

卯月「っ…………あ、あれ……」

――ドォン ドオンッ!

卯月(二箇所から音……違う、私に向かって飛んできた魔法が……逸らされた? 誰の手で?)

蘭子「何……! 我の渾身の闇が……斬り払われただと……!」

泰葉「魔法を斬るなんて……」

――ギラッ



春菜「いやいや、間に合ってよかったですけども」

卯月「ハルナさん!? け、剣……持ってるだけじゃなかったんですか!?」

春菜「そうですよ? 私にはこのお手製の眼鏡があるので武器としては不要です」

春菜「しかし咄嗟だったもので、不本意ながら一閃させていただきましたよ」

美玲「おいっ! そんなに剣の腕があるなら最初から使えよっ!」

春菜「私から眼鏡を奪うつもりですか!? これはあくまで私の付与魔術士としての戦いの補助です!」

泰葉(確かに単体で力を持ちにくい付与魔術士は相方が居たり代わりの武器を持っていたりしますが……)

泰葉(この人、代替品の扱いが上手すぎる……!)

春菜「……まぁ安心してください、ここからは私の眼鏡ズが頑張りますから」

卯月「安心できないんですけど……」

泰葉「ハルナさん!」



春菜「はいなんでしょう、眼鏡は後でお渡ししますけど」

泰葉「……今の隙に、術式は組めました。後は防御壁を取り去るだけです」

美玲「よし! じゃあウチらも一気に攻撃に……」

泰葉「それですが、お二人は補助でお願いします……障壁に攻撃を加えるのは、ウヅキさんです」

卯月「……私!?」

泰葉「あの障壁に効果的な打撃を与えたのはあなただけ、原理は分からないけど……それに賭けます」

卯月「私……はい、頑張ります!」

蘭子「密かなる契約、結ばせぬ!」

――ドンッ!

泰葉「作戦会議の暇もありませんか、ですが概要は伝えました!」

美玲「よっし! 行くぞ!!」

蘭子「灼熱の太陽!!」

――ドシュッ!

美玲(さっきから、同じ技しか使ってこないな? もしかして……魔力が切れてるのか?)

美玲「大技ばかり使ってると!」

――ギィン!

蘭子「くっ!」

美玲「あちゃー、やっぱり削れない……なんでだろうな? だけど……」

春菜「まだ第二の波が続きますよ!」

蘭子「おのれ! いでよ吹き上がる風刃!」

――ゴオッ!

春菜「ここに来て新しい術ですか、ですが……眼鏡があれば大丈夫です!」

蘭子「人知を超える万能の映し眼……!?」

春菜「褒め言葉ですよね、それっ!」

――カッ!



蘭子「ぅう!? 堕天使の瞳が……!」

春菜「その眼は厄介そうなので、単純な光は防御壁では防げませんよね?」

蘭子「これしき……全てを打ち落とせば問題ない……!」

――ガシャァン!!

卯月「撃ち落とされるよりも早く、攻撃すれば問題ありませんね!?」

蘭子「壁が……!?」

――スッ

泰葉「近づいて、よく見れば…………なるほど、禍々しい魔力の杖ですね」

蘭子「な……離せ!」

泰葉「離しません、まずは」

――ガッ!

蘭子「うぁ!?」

泰葉「身長の都合で申し訳ない、そこで寝ていて下さい」

美玲(あの人怖いぞ……)

蘭子「返せっ……返……して……!」

泰葉「……すぐ済みます、形状が気に入っただけで選んでいるなら、術式の後に普通に使えますよ」

春菜「やれやれ、杖のせいでこうなったのなら誰に責任を取らせればいいんでしょうか」

泰葉「修理費用なら出しますから、お金なんて使う時がありませんでしたから、余っています」

卯月(お金持ち発言……)

春菜「そうじゃなくて、原因の説明をどう周囲に広めればいいか……」

泰葉「現場を見たのは私達だけでしょう? ……ああ、一般生徒もいましたね、どうにかしておいてください」

春菜「私がですか? ……うーん、分かりましたよ、その代わりに」

泰葉「眼鏡」

春菜「分かってるなら大丈夫です」

美玲「よし、これで一件落着だな?」

卯月「うん! 何も間違っていない、何も失わずに完遂できたはず……」

泰葉「……少し時間がかかりそうですが、問題ありません。まずは杖と彼女の繋がりを絶たないと」

――キンッ



蘭子「……!」

卯月「ん?」

蘭子「駄目……その杖は……!」

蘭子「単体で……意思……があるっ!」

卯月「え?」

――パァン!

卯月「わあっ!?」

美玲「うわ、なんだ!?」

春菜「杖……ほう、ランコちゃんが手にしたのは思ったよりも厄介なものだったと……?」

泰葉(ぐっ……何事? 送り込んだ魔力が、押し戻された……!)

蘭子「その杖は……学校の、立入禁止区域で手に入れたものです!」

春菜「お、いつもの口調ですね? やっぱり杖が原因でしたか。なにはともあれお帰りなさいませ、眼鏡をどうぞ」

蘭子「久しぶり……いつも通り、だね」

春菜「そちらは随分と変わったようですね。ルールを破るような人じゃなかったと思いますが?」

蘭子「……反省、してます。ただ、皆を見返したくて……!」

泰葉「言い訳は後で聞きます! 杖が自らの意志を持つという事は……なるほど、封印式が押し戻された訳です」

卯月「杖……倒れてますけど、どうすればいいんですか?」

美玲「ウチが持ってこようか……?」

泰葉「駄目です、迂闊に触れてはいけない……しかし、このまま放置するわけにも……」

泰葉(魔力が足りないから……あの溢れ出る魔力を押さえつけるにはどうすれば……!)



春菜「ふむ、そもそもあなたが封印式に失敗した理由はなんでしょう?」

泰葉「……単純に、私の魔力量が足りなかったせいです。内部から溢れる力に押し戻されました」

春菜「なるほど、という事は魔力があれば大丈夫なんですね?」

泰葉「理論上はそうですが……残念ながら、少し足りないという程度ではありません……たぶんここの四人を合わせても……」

春菜「ならば大丈夫です、この子がいます」

――ポンッ

卯月「……え?」

春菜「さっきのランコちゃんの障壁で思い出したのですが……説明できます?」

蘭子「は、はい! えっと、私は本来の防御の魔法が上手く扱えないせいで……少し質の異なる壁を張っているんです」

泰葉「質の違う?」

蘭子「普通の防御壁が一定の衝撃に耐えるタイプですが、私の使っているのは“つぎ込んだ魔力ぶん”の衝撃に耐えるものです



美玲「……あれ、それって一緒じゃないか?」

泰葉「いえ、全然違います……前者は常に100の衝撃に耐える壁を、後者はその数値を自由に変化させることが出来ます」

泰葉「しかし……術式が簡単な代わりに、消費する魔力は桁違いのはず」

泰葉「1の消費で100の壁は作れますが、この方法だと100注ぎ込まなければ同じ強度は作れません」

春菜「説明になってしまいましたが、そういうことです」

蘭子「とにかく壁を作る、というテストの時にこの方法を学んで……1で1の壁を作っていました」

泰葉「そして今、魔力が途方もなく増大したせいで100を大きく超える強度を……」

春菜「この壁は衝撃ではなく魔力で削れます、だから私の攻撃や彼女の攻撃では上手く削れなかった」

美玲「そうだぞ、硬いのなんの」

卯月「でも私は……魔法で強化した、魔力を使った攻撃だったから削れた?」

春菜「そういうわけです。でも、それだけであんなにヒビは入らないでしょう……つまり!」

――スチャッ

春菜「……ほう、この眼鏡を通して魔力の貯蔵量を調べる! なるほどなるほど、とんでもない貯蔵量です」

――パッ

春菜「これ以上見ていたら、この眼鏡が壊れちゃいます」

泰葉「異常な貯蔵量……? まったくそんな気配は感じませんでしたが」

春菜「それは使い方が下手なせいでしょう」

卯月「う、言い返せない…………で、でも、魔力は確かにたくさんあります!」

泰葉「なら……少々お借りしてもよろしいですか?」

卯月「ええ、ぜひ!」



――シュイン

泰葉「……!?」

卯月「どう、ですか? 足りますか?」

泰葉(足りるなんてものじゃない……これは…………!)

――シュゥゥゥ……

泰葉「……数分掛かると思っていましたが、一瞬で終わりました」

卯月「足りたんですね! よかった!」

泰葉(余りすぎて……術式が数段強化できるほどです)

――カランッ

泰葉「……はい、お返しします」

蘭子「ふ、触れても大丈夫ですか?」

泰葉「ええ、好ましい予想外のおかげで、杖を使うにあたってマイナス要素だけを都合よく封じることが出来ました」

卯月「?」

蘭子「あ、ありがとうございます……という事は?」

泰葉「杖そのものの力は大きいです。努力次第で、適切に力を引き出すことが可能でしょう」

春菜「よかったじゃないですか、努力は得意ですよね?」

蘭子「はい、上手く使いこなしてみせます……!」

泰葉「……ああ、それにあたって一つだけ問題点が」

――ガシッ

蘭子「苦難乗り越えし先に見据える大魔導師への道……いざ行かん!」

美玲「……お?」

蘭子「…………?」

泰葉「その言語は杖の魔力を使役するための制約のようなもので……解除は出来ませんでした」

春菜「つまり、杖を使っている間はずっとその言葉ですか?」

泰葉「……そうなります」

卯月「それって大丈夫なんですか!?」

蘭子「……構わぬ! これも何かの宿命、私はこの枷と共に参ろう!」

蘭子「時に……たった一つ、私の願いを聞いてはくれぬか」

泰葉「私に……?」

――カランッ

蘭子「私に、魔法を教えてくれませんか!?」

泰葉「……その杖と、努力があれば、教えを請う必要はないと思いますが」

春菜「分かってませんなー、まぁまぁ眼鏡をどうぞ」

泰葉「結構です……それよりも、分かってないとはどういう事ですか?」

春菜「ご覧の通りです。校舎の惨状と、さっきチラと聞こえた目撃者がいるという情報」

春菜「あなたがランコちゃんを置いていった場合、恐らくここで学ぶ事は叶わないでしょう」

蘭子「っ……」

美玲「そ、そんなの、杖のせいだからどうにかできないのか!?」

春菜「では杖のせいだとして、私はそれを没収せねばなりません。そうなると……結局同じですね」

泰葉「私に引き取れと……?」

春菜「理由付けは簡単です、要監視にでもすればよくないですか? 私もその手の交渉なら簡単ですし」

蘭子「私からも……お願いします!」

卯月「わ、私も!」

美玲「え? じ、じゃあウチも……」

泰葉「……ランコさんでした?」

蘭子「はい!」

泰葉「これは……ただ単に気まぐれと、杖をこの場に中途半端に留めてしまったが故の、妙な期待を抱かせた反省です」

泰葉「素直に全て封印しておけば、こんな事にはならなかったでしょう」

蘭子「…………」

泰葉(この状況を作ったのも、ウヅキさんが原因……でも)

泰葉「タダでは教えません、それなりの条件があります」

蘭子「条件?」

泰葉「私は、自分の存在意義に自信を持てません。ただ、起伏の何もない日々を過ごしているだけ……何も生まない」

卯月「そんなことは……現に、今日だってヤスハさんがいなきゃ……!」

泰葉「だからです。今日、初めて感謝と達成感、存在意義を感じました」

泰葉「私は……あなたに魔法を教える。代わりに……ランコさん、あなたは私の存在意義になってください」

蘭子「…………!」

泰葉「私を、必要としてください。それだけで、私は救われます」

蘭子「は、はい!」



:ヤスハ=オカザキ(岡崎 泰葉)
 史上最年少で魔術協会幹部生となった魔術師、幼き頃から才能を発揮し、言われるがままに地位に上り詰める。
一方で才能に成長が追いつかず、持て囃された才能も周囲に追いつかれてしまう現状に焦っている。
そうして徐々に必要とされず、協会でも孤立していたがつい最近、何かを成す為に一念発起、
一名の魔術士候補生を連れるようになった。


:ハルナ=カミジョウ(上条 春菜)
 未来区中心部を拠点に活動する一団の部隊長、チナツの同僚に位置するが彼女とは交流が浅い。
眼鏡に独特の価値観を持ち、挙句戦闘に活用する武器として用いるためにわざわざ付与魔術士の資格を得る。
ただし魔術士としての才能は乏しく、やる気と実績がまるで釣り合わない。
一方で剣術の腕は非常に優れており戦闘の際に用いることは少ないが、こちらで戦った方が圧倒的に強い。


:ランコ=カンザキ(神崎 蘭子)
 魔術学校に通う魔術士候補生。未来区出身には珍しい魔術の才を持ち、大魔法使いを目指して勉学に励むが
最低ラインの才しか持たない彼女は学内でも下位層に位置し、周囲からも浮いた存在となっている。
ある事件をきっかけに呪術の杖を手にし、一時期は本人の意思と異なる振る舞いをしていたが
同時に後の魔術の師と遭遇、学園を去り修行に向かう。

---------- ----------
蘭子編が完結……短いながらもやりたい事は出来たと思います。
コメントは一つ一つ全て反応して返すという事はしていませんが、ちゃんと読ませていただいています。

そして今回も話が分岐しますが、ルート選択用の短編が完成していないので
数時間後にもう一度三つ、掲示させていただきます。
前回は①の蘭子が採用され、残る②と③の選択肢はそのまま、しかし場面は進んでいる形になっています。
……が、②は卯月サイドで描写されるストーリーだったため、次は凛と未央に話を持っていきたいので
選択肢から外させていただきます、ご了承ください。

それでは、また11時ごろ? を目標に、続きを。

岡崎最高!!

イケメン過ぎる

先輩がすげえ素敵だった
きっといい師弟になれる(こなみ)


しかしあれか、ハルナは聖戦の系譜ジャムカ父のラナオウ様的なステータスか

 少し遅れましたが、今回の選択肢三つを提示させていただきます。
どれを選んでも凛と未央の場面へ変化しますが、その二人が卯月と合流前に遭遇するのが誰か、という分岐と思ってください。
前回と同じように投票先が同数になった場合は“同数になった”票が先に入っていた方を優先とさせていただきます。
締切は月曜日いっぱい、もしくはどこかの選択肢が五票ほど入った場合に決定します。

Side Ep.10 天使と天使

「返して下さい!」

「返すもなにも自分で見つけたものです!」

「だからあなたが見つけたものが元々ボクのものなんです!」

 天使を追いかけたら、別の天使に遭遇した。
いや、天使と定義する基準は全然違ったのだが……方や上空から舞い降りた見た目は少女。
そして今、その少女と対峙しているのは身長はあまり変わらないが、見た目は大きく異なる。

 紛れもない、羽。
背中から生えたそれは紛れもない本物、これでは天使と呼んでも差し支えがないだろう。
……しかしなんだろう、見ている限り二人は争っているようだ。

「ああもう、実力行使にしますよ!? ボクだってやる事があるんです!」

 その瞬間、一人目の方の天使がますます天使になる。
小さな羽と僅かに白く光る身体、大地から離れる足……浮いている!?

「こっちにも、この力でやりたい事が……いや、この力は運命なんです!」

 二人目の天使も……こちらは大きな跳躍で一気に上空へ!
入れ替わりに空から舞い降りる不思議な光、あれは一体なんなんだ……!

「なっ……ぼ、ボクが全力を出せないとはいえそこまで力を扱えるなんて、や、やりますね!」

「この力は……周囲に広めてはならない! 秘密を知る人は、消えてもらいますっ!」

「だから元々ボクの力ですって――」

 光は一瞬で急降下、最初の天使に向かって突進して……消えた。
正確には接触と同時に吹き飛んで、共に追いかけて飛んでいったというか……

 結局、争いの理由はなんだったんだ?
うーむ……ただの凡人には理解ができないな。

Side Ep.11 逃亡者

 争う事は悲しいものと思っていたが、今回ばかりはその事に感謝しつつ……
たった一人、布一枚を身に纏い、薄暗い森を駆け抜ける。

 今は彼女を囲うご主人様と呼ばれる人物も被害の処理に忙しい、散り散りに逃げ去った彼女達の事など二の次だろう。
しかし確実に魔の手から逃れられるかといえば、答えはノーだ。
布の内側、首元に微かに見える彼女の容姿に似合わない装飾は枷、再び牢獄に繋ぎ留めるための発信機。

 常日頃、牢獄の中から連れ去られる仲間の姿を見ている、枷が外れるのは誰かの手に渡った時のみ。
ではどうすれば誰かの“モノ”になることができるのか?

 記憶を辿る、枷の錠と交換で渡した対価は何だったか?
私達の“新たな飼い主”は、いったい何を払ったか?

 そうだ、この目に映した記憶が確かなら、綺麗な光る宝石、金銀財宝、つまりお金。
ならばお金を稼げば、自分で自分を買えばこの枷から逃れられますか?



 深い緑を背景に、金色の髪が靡く。

Side Ep.12 逆鱗

「まいったね、こりゃあ……」

 森の中、一人の少女の声が響く。
上空から陽が差す明るい場所、大きく開けたその空間には簡素な一軒の小屋と陽光を照り返す澄んだ湖。
……しかし、その湖を見て、少女は顔を顰めていた。

「次はこう来たと……本っ当にまいったね」

 見た目だけは美しい湖。昨日までは見た目以外も全てが美しい水源だった、だからこそ彼女はこの地に住居を構えた。
だが今はどうだ、遠目にはいつもと変わらない姿を映し出すが近くでよく見てみると……

「……無差別にも程があるよ」

 僅かに虹色に光る水面、岸には水辺の生き物“だったもの”が漂着。
表面を見渡すと水の流れに漂う白い固形物……この現状を見た誰もが“まともじゃない”と言葉を出すだろう。

 ついこの間、この地にも小さな戦火が訪れた、ほんの小さな戦火。
その国は領地を広げようと乱暴に暴れまわる途中、誰の手にも渡っていないこの地を発見し、攻撃した。
弱肉強食の世界で彼らが犯したミスは、その地に住む唯一の住民である彼女が想像を遥かに超えた実力者であった事。

 たった一人に制圧されてしまっては威厳が保てない、しかし正面から立ち向かう力も度胸も無い。
一度追い返された小さな国家は、無い知恵を絞った結果彼女の周囲の環境から崩していく戦法を取った。

――聞けば、力の源は自然であり水……ならばその湖から手をつけよう。

「あたしをどうにかする方法としては……ま、現実的だねぇ。あたし一人が相手ならね」

 その国が重ねた更なるミスは、自分達の相手が世間で言う“正義”の属性だったこと。
犯した湖が彼女一人のものではなく、その周辺すべての地域の資源だったこと。
結果、一人を狙ったはずの水源を襲った“猛毒”は想像を遥かに超えた被害を生み出し……
戦地から離れて眠っていた彼女を起こしてしまった。

「隠居した身で、この戦争に加担するのはどうかと思うけど……手を出したのはそっちだよ」

 この地に再び平穏を取り戻すため、争いの中に再度飛び込む。
今も昔も変わらない、世のため人のため。

「……しかし久々すぎてどうも、準備運動しなきゃね」

 アイドルとファンタジーは親和性が高いのでしょうか?
既に先に連載されていたものや、後発として出てきた作品も少し見かけるようになりました。

 モバマスにファンタジーと名のつくものや異世界冒険モノの作品は目を通しているのですが、
レス数や更新速度、つまるところの勢いというものがこちらより数段上で、
あの更新速度を見習うつもりです……作品を書く速度と投稿数、どうやったらあんなに早く……

おつおつ、
モバマスはキャラが豊富だから役割を分担させやすいってのがいいんじゃね
同じく大量にいる東方なんかと違って一般人から貴族まで違和感なくモバマスキャラで揃うし

3は早苗さんかな…?2が誰だかわからん
1が見たいですお願いします(懇願)

あ、希望書いてなかった
このハイレベルで低レベルな争いしてる相手がわからんので1かな

>>275
2は金髪だっていうからライラさんだと思う

3で

若い子ばかりだからねたまにはおばさんがいいよね
3で

まて、3は少女って言ってるぞ!?
早苗さんじゃないだろ、さすg(首が折れる音)

3は狐しゅーこだと思った

ので3

2も1も気になる…うーん…1かなぁ

モバマスはキャラが何やっても違和感ない感じがするからファンタジーとか能力バトルが似合うんだろうなぁと思う
そしてその結果超長いシェアww…いやなんでもない

違うだろうけど、万一の可能性に賭けて2で。
亜子ちゃんかも知れない……

>>281
なんか「wwww」ってなって煽ったみたいになったけど誤字です…そんなつもりじゃないんです…

>>275 >>276 >>277 >>278 >>280 >>281 >>282
①①③③③①②で、先に三票目が入っていた③で進行致します。
告知が遅れて申し訳ない、そして更新は深夜か明日になってしまうと思います、重ねてお詫びします。

導入部分、この人物が誰だったのかという場面だけでも急いで仕上げます。

暑いからむりしないでなー

どうでもいいが後発のファンタジーものが気になる

内容良いし、好きなペースで頑張ってくれー

魔女っ子藍子の登場を心待ちにしておこう(棒)

 意図せず分断されてしまった、経典を元に行動する三人組。
ウヅキが単独で新たな指令を受け取り、ミレイと共に解決に向かう。

 見事ランコ、ヤスハ、ハルナの三人を引き合わせる事に成功し、
誰一人欠けることなく事態を治める。
自力ではなく他力により解決でも、その過程と経験は重要だった。

 一方、元の場所に残されたリンとミオはたった一つの手がかりである
アキハからの通信に従い、ウヅキが移動した先と思われる未来区へ向かい先を急ぐ。





未央「道なりって……思いっきり獣道だよ」

凛「さすがに一日では到着しないとは思ってたけど……中継の街も見当たらないとは思ってなかったね」

未央「どれくらい走って、どれくらい歩いたかな? もう三時間くらい?」

凛「陽が落ち始めてるのに三時間は無いかな、もしかして倍くらい経ってるかも」

未央「そんなに? 私、武闘派だけど体力派じゃないから休憩は必須なんだよね」

凛「それを言うなら私も。とはいってもこんな森の中じゃ休むのも無理だよ」

――チチチチ……

未央「人の声、なーんて聞こえないかぁ」

凛「一番怖いのはルートを逸れてる事だけど、確認出来る?」

未央「しまむー……は、居ないんだよね。そういえばどうやって確認するの?」

凛「……太陽の方向を基準に」

未央「太陽は動いてるから基準には向いてないと思うけど……」

凛「……大丈夫、そんなにズレてないはず」

未央「考えてなかったかー……」

――ジー……

凛「…………」

未央「暑っ……陽は傾いてるんじゃなかったの……」

凛「今日がたまたまそんな日だっただけだよ」

未央「しぶりーん、急ぐのも分かるけど休憩したいー……」

――ガサッ

凛「……ミオ」

未央「なにー?」

凛「休憩、できそうな場所」

未央「本当!?」

――ガサガサッ

未央「おおー……森の中に突然の開けた空間、と……」

凛「湖もあるね。これは、休憩場所よりも大きな収穫かも」

未央「どういう事?」

凛「大きな水源だし、近くに村があるかも知れないって事」

未央「なるほど、名誉挽回できたね」

凛「……?」

未央「ま、とにかくきゅーけいきゅーけい! 私へとへとだよ……」

未央「本当はバッとシュッとどっぽーんしちゃいたいけど、まだ先は長いかもしれないから我慢する!」

凛「やめてよみっともない……」

――タッタッタッ

未央「飛び込まない飛び込まない、でも喉が渇いてしょうがないから、いっただっきまーす」

凛「走って転ばないようにね、なんだかゴミが多いから」

未央「平気平気、今までの森の中の方が足場は悪かったからね!」

凛「そうだけど、見た目より足場が悪いって事を言ってて……」

――コツン

凛「痛っ……ほら、こんな感じに……注意してても当たっちゃう……」

未央「その隙に! いえーい一番乗り! 今度こそいっただっきまーす!」

凛(……どうしてこの周りだけこんなに足場が悪いんだろう)

――ピキュッ

凛「ん……何の音……?」



――パタッ

凛「鳥が……倒れ……!?」

未央「ぷはーっ! ん? どうしたのしぶりん」

凛「ミオ!! そこの湖に近づいちゃ……!?」

――ガシャン

凛「っ!? また何か蹴った……いったい何……が…………」

未央「石……じゃないの?」

凛「違う、細長くて……もっと白い……!」

未央「それにしては大きい……まさか?」

凛「骨…………!」

凛(それも、一つや二つじゃない……!? よく見ると、あちこちに固まって積まれている……!?)

未央「な、なんでこんな場所に固まって置かれてるの!?」

凛「形的には動物のだけど……骨だけじゃない……!」

未央「わっ!? よく見たら……湖の周りに、まだ新しい……動物の死骸が……?」

凛「ミ、ミオ……!」

未央「あれ、これって……」

未央「……私、ヤバい?」

――ぐらり



――ガシッ

凛「ミオっ!!」

未央「うわー……やっちゃったなぁ……もっと確認すればよかったなぁ……」

凛「ちょっと! しっかりしてよ!」

凛(湖……! 目を凝らせば、こんなに違和感……森の中なのに生物がまるで見えない……!)

未央「おぉ……しぶりんが三人くらいに見える」

凛「駄目! 正気を保って! ウヅキに会いに行かなきゃ駄目なんだよ!?」

未央「いや、体はどんどん力抜けていくんだけど……気分だけは妙に落ち着いててさぁ……」

凛「本当にまずい状況になってる……! どうしよう、こんな時にウヅキが居たら……!」

未央「せめて最期は胸の中で……」

凛「ミオ!? ミオ!! 目を閉じちゃ駄目だってッ! 誰か、誰か!!」



――ザッ

??「はい、これ飲める?」

凛「えっ? あ、え……」

??「呼んだのに驚く事ないじゃん……それより早くしないと、お友達でしょ?」

未央「あーうあー……」

凛「ミオっ!!」

??「心配しなくても、解毒剤だよソレは。その湖の毒は即効性だけど即死じゃないから、それでも急いだ方がいいけどね」

凛「聞いた!? これ飲んで! 口開けて!」

未央「げほっ! がぼっ!?」

??「いや、やりすぎやりすぎ……遠目に君は冷静な人に見えてたけど、焦ったら崩れるタイプ?」

凛「ミオ! 大丈夫!?」

未央「待って待って! 大丈夫だから! きいてる!? しぶりーん!!」

――コトン

未央「死ぬかと思った」

??「実際死の淵だったけどね、あたしが帰ってこなかったらさ」

未央「いや、その後の話……」

凛「…………」

??「友達思いな結果だね、何にせよ二人とも落ち着くまでここにいていいよ、飲み物くらいしか出せないけど」

未央「こんな森の中で、毒の湖の隣に小さな家を建ててまで何をしているんです?」

??「いや、つい数日前まで普通の湖だったんだけどね。この辺りに攻めてきた国がさぁ、色々やってくれたせいで」

凛「こんな場所にも戦火が?」

??「言う程の大きさじゃないよ、あたしにちょっかいかけてきただけ」

??「……そのせいで、二人みたいな被害が周りの人や動物、植物、生態系に出ちゃったけどね」

未央「えっと、とにかく……改めて助けてくれてありがとうございます」

??「一言アドバイスするとしたら、二人は旅人か冒険者だよね? 緊急時の備えが無さすぎるとは思うよ」

??「解毒剤か、それに近い治癒魔法を覚えておくべきだね」

未央「えーっと……実は居るんだけど」

凛「諸事情でここにはいない、が正しいかな」

??「……?」



未央「…………というわけで、とにかく未来区へ行けばいいんです!」

凛(隠して説明するのも毎回大変だね)

??「そのウヅキって子が、普段はカバー出来るんだね? しかし未来区ねぇ……」

凛「そうだ、ここから未来区への最短距離はどれくらいですか?」

??「近くも遠くも無いね、その気になれば半日かな」

未央「じゅうぶん遠い……これから夜だし、どうする?」

??「お友達が気になるのは分かるけど、夜の森を出歩く事はないよ、ここで一旦泊まっていけばいいって」

未央「いいんですか?」

??「二人くらい大丈夫だよ、久々の来客だし……解毒剤の謝礼を少し聞いて欲しいからね」

凛「あ、そういえば」

未央「謝礼を、聞く?」

??「絶対やって欲しいってわけじゃなくて、あたしの友達に会った時に名前を出して欲しいだけだよ」

??「ここしばらく会ってなかったからね、あたしが引きこもってたから」

凛「会えるかどうかは分からないけど……それでも?」

??「いいよいいよ、むしろ会える方が少ないと思うから数打とうと思ってさ」

未央「それで、相手のお名前……というより、そもそもお姉さんの名前は?」

??「ありゃ、言ってなかったっけ……それにしてもお姉さんと呼ばれる年齢……うーん、そんな歳に見えるかな」

??「あたしの名前はカイ=ニシジマ。そして、伝えて欲しい相手の名前はアイリだ」

未央「……あれ?」

凛「アイリ……さん?」

櫂「ありゃ、もっと驚いてくれると思ったのに反応が薄いね? もしかして気づいてた?」

未央「そ、そうじゃないですって! ちょっとしぶりんこっち!」

凛「うん、私も集まりたかった所……」

――ササッ

未央(アイリさんの友達……って、事はだよ、もしかするともしかしちゃうの?)

凛(名前、聞き覚えがある。本当に本人なら、そういうことになる)

未央(じゃあ何、私は過去のヒーローにお世話になっちゃったって事?)

凛(だってこんな所に居ると思わなかったし、言われるまで全然気付かなかったよ)

未央(えーっと……世界の人口って何人?)

凛(どうしたの急に……そんなの知らないよ)

未央(その中に、かつて英雄と呼ばれた人は何人?)

凛(文献によるけど……私が見たのは五人。発祥区出身が四人で旧都区が一人……)

未央(私たちがこの短期間に、そのうちの二人に会う確率は?)

凛(知らないよ! ミオ大丈夫? まだ毒残ってるんじゃ……)

櫂「何? 解毒剤必要?」

未央「けっこうです!!」



櫂「しかしさっきのリアクションだと……アイリを知ってるような素振りだね、しかも名前だけじゃなく……実際に会ったよ

うな」

櫂「もしかして、居場所を知ってたりしないかい?」

凛(……どうする?)

未央(知ってるとも知らないとも言いにくい……)

櫂「……もしかして、あたしが本物のカイ=ニシジマか疑ってる? とはいえ証明するものなんて無いし、困ったね」

未央「ああいやいや! めっそーもない!」

凛(ほら、時間かけてるから誤解されちゃった……どうする?)

未央「といってもアレの話をしていいものかどうか……」

凛「ああっ、声が大きいって!」

櫂「アレ? ……あー、そっか、もしかしてアイリに会ったのって……経典かな」

未央「あ、えっと」

凛「その、うん、あの……」

櫂「……言っちゃまずかった、って事はないはずだけどそうかそうか、今度の所有者は君達か」

櫂「ふんふん、なるほどねー……」

未央(どうしよう、私すっごい緊張してきた)

凛(落ち着いて……そうだ、一旦冷静になろう、ちょっと外の湖に行ってくる)

未央(しぶりーん!!)

櫂「ああその、なんだ、アイリが決めた事だからあたしは何も言うつもりはないから……リラックスしてよ」

櫂「で、話をけっこう戻しちゃうけどお友達に会いにいくって言ってたね」

未央「そ、そうだったね! じゃあ私達早く行かなきゃしまむーが大変な目に遭ってるかもしれないし……!」

櫂「それなら大丈夫、経典はその子が持ってるって事でしょ? アイリがいるんだ、何が起きても大抵は大丈夫さ」

凛「え? それはどういう意味なの……?」

櫂「これを言うとアイリに怒られそうだけど……経典を持ってる人を、アイリは見殺しにしないよ」

櫂「さすがに与えた試練に怠慢で、その結果追い込まれたとなれば放っておくけど不慮の事故なら紛れは絶対に起きない」

櫂「いざとなればルールなんてぶっ壊してでも守ってくれるさ」

未央「…………」

凛「…………」

櫂「危機感が無くなるから、言わない方が良かったかい?」

未央(しまむーの安全は保証されたけど)

凛(こっちの雲行きが怪しく……)

櫂「試練の途中なら、ちょっとはあたしも協力してあげないとねー」

凛(無理難題が来たらどうする?)

未央(来ない事を祈るよ)

櫂「今日はここに泊まっていけばいいとして、明日……よっと!」

――ドサッ

未央「……?」

凛「この袋は?」

櫂「さっき体験したと思うけど……湖含む、この近辺の自然には毒が回っている」

櫂「周辺の村に解毒剤の材料を届けにね、少しばかり手伝ってもらうよ」

未央「届けるだけ……・?」

櫂「荷物は多いけどね。……なんでそんな意外な目であたしを見てるの?」

凛(もっと無茶苦茶言われると思っていたなんて言えない……)

櫂「ご覧の通り、自然の変化に敏感な動物すらも巻き込んでる毒だ、気づかずに巻き込まれてる人は多いかもしれない」

未央「私みたいに」

櫂「そういう事。これ以上被害が増える前に慈善活動って奴だよ」

凛「……でも、毒は外部の人間が広めたなら、その元を絶たなきゃ意味がないというか」

櫂「大丈夫、ついさっき潰してきたから」

未央「へっ?」

凛「え……?」

櫂「当たり前だよ、元凶を放っておくわけないからね」

未央「えーっと……毒の被害が出始めたのは?」

櫂「昨日かな」

凛(一日で……相手を特定して、壊滅させた?)

未央(見た目からそんな気は感じないのに、やっぱり凄い人?)

櫂「さ、明日は重労働だよー、早く寝た寝た」

未央「……私、熟睡できる自信が無いよ」

凛「ウヅキが無事と聞いて、緊張がほぐれた瞬間に締め付けられちゃったからね……」

櫂「さーて、あたしは荷物の準備をしますかっと」

まさかの人選wwwwそして強い…



・・

・・・


――チュンチュン

――バサァッ!

未央「うにゃっ!?」

凛「んうっ!?」

櫂「ほら起きた起きたー、出発するよー、朝ご飯食べなきゃ強くなれないよー」

未央「あ、そっか……カイさんところの家に泊まってたんだった……」

凛「朝の割に……外が薄暗いけど」

櫂「お昼までには仲間と合流できるように、って配慮ね」

未央「んー、ありがたいようなまだ寝ていたいような……」

櫂「旅は始まったばかりなんでしょ? ここから楽を選んでちゃ駄目だよ、苦労はしなきゃ」

凛「……ま、経典の指示と思えば」

未央「頑張れますかねぇ……」



――タッタッタッタッ



――タッタッタッタッ



――タッタッタッ



――タッタッ……

未央「多い!!」

櫂「そりゃそうだね、水場は皆の思っているより遠くまで広がっている、その分届ける村も多いって事」

櫂「でも二人とも、運んでいる荷物はずいぶん小さくなったでしょ?」

凛「今までの分配の割合だと……あとひとつ?」

未央「やっとかー……最初は山登りでも行くのかー、ってくらいにとんでもない量だったけどね」

凛「さすがに……疲れたかな」

櫂「うんうん、それでこそ鍛錬だよ」

櫂(……かなりの量を持たせたはずだけど、疲れたの一言だけとはね)

未央「それで、最後の村は一体どの程度歩けば?」

櫂「おっと、そうだったね。……って言っても、実は次の行き先は村じゃない」

凛「……じゃあ、街?」

櫂「ほぼ正解、次の目的地は二人の行くべき場所」

未央「未来区!?」

櫂「当たり。昨日話して貰った情報を聞く限り、場所もだいたい分かったからね、このまま案内するよ」

凛「じゃあ、この最後の荷物は?」

櫂「……ここで開けてみて」

――カサッ

凛「……?」

未央「手紙? 文面は?」

凛「えっと……“挑戦状”だって」

未央「誰に挑戦するの?」

櫂「目の前にいるじゃん」

凛「……え?」

未央「んー……ん?」

櫂「……ありゃ、もっとリアクションは? 人が寝床で必死に考えたサプライズなのに」

凛(なんかこの人……すごい、独特)

未央(私は初日から感じてたよ)

櫂「せっかくアイリにも鍛えてもらってるんだ、あたしからも何かしたいじゃん、と思ってね」

櫂「今しがた、二人の評価もあたしの中で変わったし。なかなかの体力と精神力、ちゃんと働けたし」

凛「……試してたの?」

櫂「遠まわしに、ね」

未央「それで、挑戦させてくれるって事?」

櫂「そう。仮にも有名なあたしだから、いい経験にする自信はあるよ? どう?」

未央「……どうするのしぶりん?」

凛「突然過ぎて……よくわからないけど、私達はもっと経験が必要とは言われた」

櫂「そう、基礎と才能はアイリが選んだだけある、あとは回数を重ねるだけ」

凛「なら、これはいい経験かもしれない」

――ザッ

凛「…………この挑戦状、預かっておく」

未央「えっ?」

櫂「ほう?」

凛「今は多分……いや、絶対に勝てないし、学ぶための基礎すら無いと思う」

凛「旅は始まったばかり……経験が大事とは言われても、まだ私は実力がそもそも圧倒的に足りないと思っている」

凛「だから、せっかくのお誘いだけど……自分に自信がつくまで保留で、いいかな」

櫂「……あっはっは! なるほどねー、そう来たかー……いいよ、楽しみにしておく」

未央「え、え? いいの? どっちも……それで?」

凛「本音を言うと、英雄の実力は見てみたかったけどね」

櫂「そうだよ? 今からでも撤回する?」

凛「しない」

櫂「そっかー、あたしの戦う姿なんて今では滅多に見れないよ? 引きこもってるせいで誰もちょっかいかけてこないから」

未央(……昨日、そのちょっかいかけてきた相手を潰したって言ってたけど)

櫂「そもそも対等に勝負できる相手なんて、それこそあたしの仲間くらいだし……自画自賛かな?」

凛「実力が伴っていたら問題ない……と思うよ」

櫂「違いないね。でも、楽しみが増えたね……さーてと、言ってる間に目的地が近づいてきたよ」

凛「え、そんなに近くだった……?」

櫂「楽しい話をしていると時間が早く過ぎるね、さてさてラストスパート……」

――ジッ

櫂「……!?」

凛「あれ……まだ何か?」

未央「ちょっと遠目に見えている、あのでっかい建物がそうだよね?」

凛「高層ビルって奴かな……改めて見ると圧巻、カイさんも?」

未央「見慣れてるんじゃないかなー、私達が世間知らずなだけで、ね?」

櫂(…………視線、だけど何か変だね)

凛「……?」

櫂「ああ、ごめんごめん、見えてるならさっさと行こうか」

未央「あ、うん、そうだね」

櫂(見てるだけ……かな?)



??「……大きな気配が近づくと思ったら、なるほど」

??「しかし、あなたがこの地に足を踏み入れることは……控えてもらう」

――カチャッ

??「いざとなれば……」



櫂「……ちょっとストップ」

――ザッ

凛「何か……?」

櫂「誰か知らないけどこの先、あたしに敵意を向けている人物……とにかく、誰かが居る」

未央「えっ? ……私は何も感じないし、この距離から?」

櫂「二人には特に敵意は向いていない、あたしだけ。ま、とりあえず本人が言うんだから信じなよ」

凛「……攻撃してくるの?」

櫂「そのつもりならとっくに仕掛けてきているとは思うよ、気づかれてからじゃ遅い」

未央(私としぶりんじゃ気づきもしなかったって事かぁ……)

櫂「一応、今更攻撃はしてこないと思うけど、念のため構えておくように、以上」

凛「分かった」

未央「警戒大事……っと」

おつおつ
鷺沢さんか、道理で主だったキャラで検索しても見つからんわけだ、ありがとう

――ザッ ザッ

櫂「…………」

凛「……?」

未央「なんだか……会話が無くなったね」

凛「真面目になった……」

櫂「聞こえてるよ。別段ふざけてたわけじゃないんだけどね」

凛(わざわざ手書きで挑戦状なんて書いてたのに)

――ザッ ザッ

凛「…………誰か居る?!」

未央「一人だけ、私にも見えた……知らない人だね」

櫂「……困った」

――ザッ ザッ

未央「え、困ったって……何が?」

凛「まさか、昔の強敵とか……?」

櫂「その真逆……まったく知らない相手だよ、心当たりが無い」

――ザッ ザッ

櫂「そうなると、理由が見当たらないよね。この敵意の根本は何か……」

凛「く……なら、私達も構えた方が……」

??「……まだ手は出さない」

未央「どうする……!?」

櫂「……まずは名乗ってくれないと、応対はできないね」

??「私の役目は、この国を守る事。あなたが国に足を踏み入れるのは避けるべきだと警鐘が鳴っている」

??「NoA……それが私の名前」

櫂「この国を? おかしいね、この国には既に優秀な人材が豊富だよ」

櫂「人望が厚く科学者としての技術も一級のアキハを筆頭に……領土内の警備だけでも三人は居るはずだよ」

のあ「…………」

櫂「なんなら、名前を挙げようか? 全員知った顔だよ……ハルナ、チナツ、ケイトだ」

凛(……今の人のうち、ウヅキが接触した人が居るかも知れない)

未央(私達へのヒントかな……? 経典の行動の結果、この国に訪れたのなら……会うべき人がこの中に?)

櫂「外部担当の三人の名前も挙げようか……ナホ、ミヤビと――」

――ガッ!

凛「……!?」

未央「消え……えっ!?」

のあ「外部の者の前で、国の情報を漏らさない」

櫂「随分なご挨拶だね、いきなり急所に貫手はないでしょ?」

のあ「黙りなさい」

――カシャン

櫂「おっ?」

未央「うげっ!? 腕が外れて……!?」

凛「違う! あれは……!」

のあ「ここは領地内よ」

――ドガァン!!

凛「手からっ……ほ、砲弾……!?」

未央「魔法か何かなの!? と、とにかくこっちにも衝撃が……わああ!?」

――シュゥゥゥ

櫂「……ったー、危ない危ない。至近距離で人間に撃つものじゃないってそれは」

のあ「その割にずいぶん平気そうね」

櫂「鍛えてるから」

のあ「……そう」

――シュッ  ドシュッ!

のあ「……!」

櫂「とりあえず、物騒なものは仕舞ってもらえるかな」

のあ(発射口に……)

櫂「あたしを知ってるなら、これも知ってるよね」

のあ「……戦場を、たった一本の槍で乗り越えた。縦横無尽、人波を漕ぎ渡る……まさしく“櫂”ね」

櫂「槍だってば」

――バキッ!

のあ「っ……」

櫂「機械なら、腕の一本や二本問題ないよね。直す人がいるはずだから後で頼めばいい」

のあ「……修復は自己で行う」

櫂「ん、よく出来た機械だ……さて、あたしを襲った理由は?」

のあ「二度言う必要はない。あなたがこの国に足を踏み入れる、という事象を避けるべきと私が判断した」

櫂「…………ほう」

未央「カイさん! 大丈夫で……うわっ!?」

凛「けほっ……土埃が……どうしたのミオ」

未央「い、いや、機械だったねこの人……腕がバラバラで転がってたから驚いちゃった」

凛(……確か、この人の武器は槍だったはず)

凛(それでこの壊れ方……私達が見えない一瞬の間に、ミオが気づかない程の静かさで?)

櫂「驚いている所悪いけど、あたしはちょっと用事を思い出しちゃった」

未央「えっ? そんな急に……荷物運びなら手伝うよ?」

櫂「そういう理由じゃないんだなー、それに二人はお友達に会う用事があるんでしょ?」

未央「あ、そうだ! ウヅキと早く合流しないと!」

のあ(ウヅキ……!)



のあ「そこの二人は……もしかしてリン=シブヤとミオ=ホンダかしら」

凛「……私は確かにリンだよ、それをこの場所で聞くってことは」

未央「ウヅキを知ってるの!?」

のあ「ええ……私自身が送ったわけではないけど、あなた達に伝言を飛ばして、ここに来てもらうように仕向けた」

のあ「……予想よりも随分早い到着だったわね」

凛「かなり急いで来たし……休憩は挟んだけどカイさんについて来たから迷う事もなかったよ」

のあ「そう……なら、今からでも問題ないわね。早速だけど、ついてきてもらえるかしら……ウヅキが待っている」

未央「おお、早く会わないと! あ、でもカイさんは……」

のあ「大丈夫……彼女なら、もうここを去った」

凛「え? い、何時の間に……!」

未央「お礼も言えなかった……でも、今はウヅキと早く会わないと……!」

凛「…………」

――カサッ

凛(……いつかは、私も追いつけるのかな。その時に、この挑戦状は返そう)



・・

・・・


櫂「……おっ」

――…………

櫂「音も無く出てきたね」

愛梨「私に用事があるように見えました、久しぶりですね」

櫂「相変わらず、実体の掴めない体してるね」

愛梨「これが実体です、今の私は灰姫の経典そのもの……所有者は、聞いていますよね」

櫂「聞いてる聞いてる。で、アイリから見てどうなの?」

愛梨「……原石です」

櫂「ふーん……いつもの返しか、早く宝石を作って欲しいもんだね」

愛梨「……文句を言いに来たのですか?」

櫂「そんな野暮な事はしないよ……あたしも、興味持ったし」

愛梨「興味、ですか。しかし彼女達が従う経典は私そのものです、介入する余地はありません」

櫂「ところがどっこい、ちょっかい出すのは出来るんだよ。……あたし、こういうのは好きなんだ」

愛梨「自分がされるのは嫌いなくせに」

櫂「硬いこと言わない」



櫂「いつも思うけど、アイリは安全な橋を渡らせすぎだと思うんだよね。挙句、自分で窮地を助けちゃうし」

櫂「そんな過保護だと、世の動きに追いつけないよ」

愛梨「……戦乱を泳ぎ切った人物が言うと説得力はありますね。ですが、私は変えるつもりはありません」

櫂「だから、強引にやることにした」

愛梨「どのように? 経典の制作時、柄じゃないと協力を拒んだでしょう、制作には関わっていないはず」

櫂「制作にはね、ただし細工はしているんだな実は……ごく小さな」

愛梨「……有り得ません、失敗を避けるために他者による改竄の可能性は製作者全員で調べました」

櫂「あたしは仲間だろ? だから見つからなかったんだよ」

櫂「……ま、安心して。一連の願いに一箇所しか加筆修正できない程度の小さなものだから」

愛梨「その一文のせいで……危機に見舞われたらどうするつもりですか!」

櫂「崖に突き落とされたと思ってもらうしかないね、自力で這い上がってこそだよ……!」



・・

・・・


凛「ウヅキ!!」

美玲「え? ウヅキなら隣の部屋……って!?」

未央「あれ? ミレイ……ちゃん、だったっけ? どうしてここに?」

美玲「それを言うならオマエらもだぞ!? 伝言が伝わってたのはいい知らせだけど、早くないか!?」

凛「早かったら悪い事があるの?」

美玲「いや、特にないけど……そうだ、オマエらがいない間に経典が一回更新されてたぞ」

凛「え? じゃあ、早く解決しないと……」

美玲「それは大丈夫だぞ、なぜなら……」

――バンッ!

卯月「既に! 解決済みだよ!」

未央「しまむー!!」

卯月「よかった! 届いていたんだね! 二人がいなくても私頑張ったよ!!」

凛「無事で何よりだよ、よかった」

未央「ほんとに! 本当に! 心配したんだから!!」

――…………

卯月「……という経緯があって」

未央「ミレイちゃんと一緒にランコさん、ヤスハさん、ハルナさんと接触できた……と」

凛(ハルナ……さっき聞いた名前。てことは、この国の幹部級に早くも接触できている、しかもいい形で)

卯月「で、二人が到着するまで待機だったんだけど……思ったよりも早く再会できてよかった!」

未央「うんうん、頑張ったからね私達、ね?」

凛「え、ああ……そうだね」

未央「どーしたのしぶりん、カイさんの事気にしてる?」

凛「してないと言えば嘘になる……かも」

卯月「そっちにも収穫があったの? 話を途中で切っちゃったけど、そのカイって人が……」

愛梨「……カイは私と同じ、共に戦った仲間です」



卯月「わっ!」

愛梨「カイ=ニシジマ、どこにでもいるような槍戦士……に見えますが、その内に秘めた実力は随一です」

凛「知ってる……五人の中で、武器の扱いには最も長けてるって」

愛梨「仮に武器がなくとも、純粋な肉弾戦なら一番か二番の実力です」

卯月「うーん……会ってみたかった、かなぁ」

未央「いや、意外と難しい人だから会わない方が……特にしまむーは」

凛(どこまでもついて行っちゃうからエスカレートしちゃうだろうし)

凛「それで……直接出てきたのは、また重要な案件?」

愛梨「……少し、予定が乱れるかもしれない案件です」

卯月「予定……?」

愛梨「最初の指示を覚えていますか? 旧都区、未来区、発祥区……三つの地域を巡回しろという指令です」

卯月「ああ、そういえば……あれってまだ継続中?」

未央「私は三つのうちどこかに進めばいいと思ってたけど……」

愛梨「どのみち回ることになるので、重要視する指示ではなかった……とにかく村を出発するという示唆の元選んだ指示です



愛梨「しかし現在ここ未来区は中心部で、発祥区も飛び地というやや珍しい体験をこなしました」

未央「じゃあ残るは……主要都市を訪れていない旧都区?」

愛梨「そうなります、というわけで次の指示は私が選んだ国……」

――スッ

凛「……四?」

愛梨「ええ、四つの国の情報を与えて……そのうちのひとつを選んでもらう嗜好だったのですが」

――スッ

未央「うん? もう一つ……?」

愛梨「諸事情で……その、カイが勝手に経典の文章に介入を計りました」

凛「そんなことが可能なの……?」

愛梨「こちらも想定外ですが、事実……私が選んだはずの四つに加えて、一つの国の詳細が書き加えられていました」

卯月「それは、どんな国ですか?」

愛梨「……実は、私も先ほど独自に調べてようやく分かったような国です」

凛「国が分からない? でも、旧都区だったらちゃんと地図に名前も載っているはず……」

愛梨「ええ、国名は分かります……ですが、詳細が一切分からない国であるはずだったんです」

未央「えっと、要するに?」

愛梨「……はっきり言いましょう。その国は、ひどく劣悪な環境です。駆け出しの冒険者が向かうには、あまりにも裏の深い



凛「大丈夫なの?」

愛梨「どちらかと言われれば……行くべきではないです」

未央「じゃあ書き加えられていようが、教えてくれたら候補から外すよ?」

愛梨「……ですがその反面、簡単には切り捨てられない事情もあります」

卯月「候補から外せない理由……?」

愛梨「その国は……周囲からは『内部がまったく伺えない国』と言われています」

愛梨「入口は開け放たれている、しかし不気味なほど内部情勢は見えない……」

愛梨「隠せない闇が漂う一方、その元締めがまるで掴めない。私も、この情報を得ていたので真相が掴めました」

卯月「じゃあ……今から教えられる情報は、他の国が一切掴んでいない独自の情報……?」

凛「だったら尚更……他に伝えた方が、ちょうどこの国には優秀な人がいるんでしょ?」

愛梨「……経典に書かれていなければそうします」

未央「あ……もしかして」

凛「何か気づいたの?」

未央「経典に、私達がやるべき事として書かれたなら……他が代わりに制圧すると……よくないんじゃない?」

愛梨「……そうです。他の人物がこの情報の元、その国へ侵攻を行った場合……綺麗に解決されないか」

凛「もしくは、侵攻が失敗するか」

卯月「うわ……とっても責任重大なことになっちゃった……」

愛梨(受けた情報は、この世界単位で重要なほど大きなモノ……誰も掴めなかった国のトップを掴んだ)

愛梨(そんな重要な鍵を……カイはこの三人に託した)

未央「わ、私達に……出来るのかな?」

愛梨「出来ます、すぐにとは言えませんが……いずれは。彼女も、そう思っているからこそ授けた……と思っておきましょう



凛「カイさんが……か」

愛梨「そのいずれ解決できるかもしれない事案を……今、引かないように……」

卯月「そ、そうだ、その五つの中に危険な国があるなら教えてもらっても……」

愛梨「いいえ……三人が選ぶ事に、意義があります」

愛梨「その代わりに、情報は出し惜しみしません。可能な限り、提示します」

愛梨「これも試練なのでしょうかね……」



愛梨「今から……五つの国、その頂点と重要情報を伝えます……!」

愛梨「その中に一つ……今の三人が向かうべきではない国が混ざってしまっている」

愛梨「……選んでください、その一つ以外を!」

---------- ----------
今回は分岐アンケートが早く訪れました。
強い同行者を得たおかげでスムーズに合流、すぐさま次の場面へ!
①~⑤の番号で、集計はいつも通り最多票を採用で、同数の場合は先に入った方です。
ひとつの選択肢に五票か、夜頃に締切を設定します。

作中でこの中に危険なエリアがあると書かれています。
彼女たち三人にとっての“ハズレ”は既に決定していますが、別にそこを選んでいただいても
バッドエンドなどにはなりませぬ、今回は名前も一部が判明しているので
お好みで、もしくは三人のために安牌を選んであげてください。
---------- ----------
①:サエ=コバヤカワ
閉鎖的な環境にも守られた旧都区の極所を収めている国家。
民衆と接触の少ない上層部、軍団ではないごく少数が国を統括している。
少なくとも三人以上の幹部級が確認されており、そのうち名前が確認できたのはナナミ、ユウの二名。
厳しい規律と規約の元、目立った騒乱が起きないことも注目されている。

②:ホタル=シラギク
旧都区で最も勢力を伸ばしている、名実ともに名の知れた国家。
規模ゆえに戦火に晒されている地域が多いが、国内でも有数の実力者である幹部二名、
アキとヒトミを筆頭に諜報員一名を含む優秀な人材を抱えている。
国の代表含む、すべての上層部構成員が戦闘員も兼ねている希少な国。

③:アンズ=フタバ
非常に優れた戦闘指揮能力を持つアンズと、それを補佐する構成員で築かれた国家。
規律や制限がほとんど敷かれていないため一般市民の交流が活発で自由に動いている、
その反面強固に守られた主要都市とアンズの居城からは情報がまるで手に入らない。
唯一、重戦士・魔術士とクラス不明の幹部三名が確認されている。

④:コハル=コガ
僻地の小さな国家の三代目、コハルが統治する国家。
初代が築き、二代目が受け継いだ国家だが二代目を若くして失い、形式的に引き継ぐ事になった。
上層部に波乱はあったものの、幸い民衆や国家内部に大きな混乱は無く、穏やかである。
幼き彼女を導くのは各技術を極めた専門家の一族、初代からこちらも長き間補佐役を勤めている。

⑤:アリサ
旧都区を中心に外部への交易を主な活動源として侵略行為を行わない国家。
現状で目立った活躍や活動は無いが中規模の雇われ兵団も所有、一団の指揮は一名の代表が執り行っている。
主に人員は外交官に割かれており、確認されているのはミサキ、ナツミ、マヒロの三人。
吸収合併を繰り返す国の性質上さまざまな文化が混じり、中には巨大な金銭が動く施設も存在する。

3が見てみたいな

4かなー

4で

2で、お願いいたします。

3かなぁ
きらりは確定として、魔術師が気になる

4で

3がドボンの気がするので4かなぁ
2も捨てがたいんだが

2かなー 諜報員…一体誰なんだ(棒)

>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320
③④④②③④④②、かなり早くアンケートが埋まったので少し予定を早めて④の小春で続行します。
ちょっと予想外だったりします、④か……

本編が進行する前に、それぞれの陣営のサイドストーリーをご紹介。
ここで改めて、登場人物はコメントを見て追加した事は実はありますが変更や削除したことはありません。
今回はヒントも何もあったものではないので予想は無茶でしたが、名前隠しのアンケートの際は
うまく『意外な人選』や『そういう事だったのか』といった反応がとれたらいいな、の元、ストーリーを考えています。

Side Ep.13 悪寒

――嫌だ! 私は働かないぞ!

 だから私は自分で動くんじゃなくて、人を使うことにした。
高みの見物、こんなにいい身分はないと思った、ちゃんと報酬も貰える、指示するだけ。
失敗すると面倒だから、事細かに状況を把握して不測の事態にも最短の道を教えて……
ちょっと頭は使うけど、体を使うより数段楽だから我慢する。

――で、気がついたら

 一番上までたどり着いてしまった。
まぁ、私のために国のみんなが動いてくれるし、地位を利用して好き放題できるから悪くはないけど。
でもさ、みんなして私を持ち上げすぎ。私は自分が動きたくないから軍師してるだけで、
稀代の天才なんて呼ばれる筋合いは無いよ、ただの面倒くさがり屋。

 この地位を守るための努力は惜しまない。
仲の悪い国なんて作らないし、民衆が反乱を起こすような環境も作らない、全ては自由フリーダム。
それでも起きる小さな暴動に関しては、私の代わりに三人が働いてもらう。

「ただいま帰りました!」
「おかえりー……あ、いつもの呼んどいて」
「かしこまりましたよ。……今日はどうしました?」
「あー、最近勢力伸ばしてきたところが近づいてるのが気になってね」
「西方の……しかしその方面には彼女がいるのでは? そうだ、念の為占っておきましょうか!?」
「別にいいよ……」

 星占術師なのに的中率はほとんど信頼できない、だから評価されずに埋もれていた。
でも私は、彼女……トモの本質は別にある、忠誠心を見抜いたから一番近い位置に置いた。
ここを通せば、アンズの適当な指示でも的確な指示へと早変わり……

 とはいえ問題点は他にもある、今しがた話題になった西方の新興勢力。
戦は情報が大事、真っ先に担当を向かわせて……成果はどうだろう、成功はするけど。

「では、ミサトから通知が届いていますが」
「それは聞いておかなくちゃね」
「送信された内容は……例の国家、トキコ率いる発祥区の新勢力についてです」

・この国に向けて侵攻準備を始めた様子
・侵攻部隊に一名の幹部級を確認
・隣国のホタル率いる国家と内通者がいる模様

「こっち来るの?」
「そのようですが、如何しましょう?」

 ……私の国はいい所だけど、私に頼りすぎな気がしないでもない。
特にトモは私に依存しているレベル。……もちろん他に手は打ってある、
残りの二名、その内一人はこうして相手国家に派遣するミサトという人物、
仕事上その場の応用力が試される職だからね、私に依存なんてしないだろう。
最後の一人も、私が指示を出すまでもないくらい強い、最大戦力。

「……西からなんでしょ? じゃあ大丈夫、そこにはうちでも最大戦力が居るから」
「既に想定していましたか! さすがですね!」

 偶然だっての。とはいえ新たに策を考えなくていいのは楽だね、あの重戦士は簡単に落ちないよ。
念の為相手の幹部級の情報だけでも最後に聞いておこうかな、隣国の内通者は……別にいいや、
ホタルの国とはそんなに仲良くする義理は無いし……あそこの幹部さん方は苦手だし。

「相手の幹部……たしかシズクとカナ、だっけ? どっちが来たの?」
「それがどうにも、聞いた事のない名前で……国家規模拡大による新たな幹部のようです」

 新しい? それは聞いておいて良かったね。
何度も言うけど情報は大事、聞いた事のある歴戦の兵士の名前だったら、即座にうちの重戦士をぶつけてやる。

「名前は……キラリ=モロボシと言うそうです」

 ……あれ、なんでだろう?
聞いた事のない名前のはずなのに、私の手が大好きな飴を取りこぼすくらい震えてるぞ……?

Side Ep.14 玩具

 開け放たれた大きな窓、まるで童話のような明るい外装の城の内部、
これまたおよそ城内とは思えない奇抜なデザインの廊下を抜けた先、王の広間。
そこに鎮座するのは女性の王、つまるところ女王……アリサ。

――ここを中心に、誰も悲しまない、楽しく過ごせる国を築く。

 彼女は知っている、私欲で乱暴に、野蛮に他国を侵略した国の末路を。
だから自衛以外の武力は持たない、全ての交流は相手の益を尊重した取引のみ。

 彼女は知っている、あらゆる自由が奪われ、生きる気力を無くした民衆の住む国家を。
この国には必要以上に民を縛る律が無い、最低限のモラルとマナーが立っているだけ。
老若男女、分け隔てのない……安心と安全、娯楽と自由を提供する国でありたいと願った結果。

 彼女は知っている、自身の理想の元、協力してくれた国家と人材が居る事を。
零から始まった建国に真っ先に手を貸した三人、ミサキとナツミとマヒロ。
今でも東奔西走してアリサの理想を現実にするための努力を惜しまない。
その働きを見て、共に歩む国家も増えた。

――そして今、理想は現実になろうとしている。 あと数歩で、この国は世界の理想郷になる。

 彼女は知らない、自身の理想がどれだけ尊く儚いものであるか。
手を出されてはいない、それは彼女への共感からではない、ただの後回し……

 彼女は知らない、戦場の現実を。
目の当たりにしたことがない、それだけは避けてきたから。
今までは回避ができた、小さな国家故の小回りが効いた……今はどうだろう?
理想を纏い過ぎた国家は、現実から逃げ切ることができるのか?

 彼女は知らない、既に侵食が始まっていることを。
全てを受け入れすぎた、そして信じて疑わなかった、誰も彼もが慈善活動を行う聖人ではない。
潤沢な非武装国家……内部から貯蔵庫を食い荒らされるに値する材料は揃いすぎている。



 所詮、理想を固めて作った城など玩具に過ぎない、突かれればあっさりと崩れ去る。

今は無事な御伽の国、虚像を追って歩む先には現実が口を開けている。

その事に気づかない幹部と、とっくにそれを知る部下達。

――目覚めの鐘は、誰も鳴らさない。

Side Ep.15 死活問題なんです!

「コハルはみんなのお姫様になります~」

 ……驚く程、大きなトラブルは起きなかった。
民の適応力に感謝すべきか、王女の実際の行動力や人望に感謝すべきか、
先代と二代目の残した教育や地盤に感謝すべきか。

「コハルは一人じゃほとんど何も出来ません~、みんなの協力のおかげです~、特にお姉さん方の~」

 お姉さん……私はそんな年齢に見えるかな?
いや、王女と比べたらこの内部のほとんどの人物は年上だから仕方がない……かな。

「小さな、とは聞きましたけど、コハルにとっては大きな大きな国なんです~」

「コハルと一緒に、守ってくれますか?」

 愚問です、絶対に……何が起きても私達が王女をお守りします。
一族の誇りにかけて、二度と失態は起こしません。

「そうじゃないですよ~、コハルじゃなくて、受け継いだこの国をです~」

「大きくすることはできませんが、途切れさせないようにはします~」



 あの言葉に返す答えは『両方』だっただろうか?
内容を把握する前に、思わず口から……王女の安全が第一ですと答えてしまいましたが。
なんにせよ、私達が守る対象は変わらず全て、国も王女も民衆も……
小さな国家だから、私達以外に戦える人はいない。いや、私達ですら全員は戦えない。

 ……いや、悲観的に考えちゃダメ、私がしっかりすれば大丈夫!
だからこうして領地内を警備しているし、不審な人物が居れば捕まえればいい!

――ダダダッ

 街はいつも通り、別段変わったことは無い。
じゃあ門の外を最後に見て、今日は館に帰ろうかな。

――ダダダダッ

 ……へ? なんかすごい走ってくる人が――

――ガシッ

「今ここに! ボクみたいな白い羽を纏ったヘンな人が着ませんでしたか!?」



 あなたも充分変な人です……という言葉は、驚きすぎて声になりませんでした。
とりあえず、落ち着いて、ね? そんなボロボロになるまで何してたのかな、この子……

Side Ep.16 昇華

 刃が、拳が、剣が、それぞれ敵と定めた対象を打ち倒す。
そこには三人しか居ないはずなのに、進撃を止める事の出来る実力者は現れない。

「出会え出会えー! 一騎当千アタシの後ろに敵は残さず!」
「三人寄ればなんとやら、我々の快進撃を止めるなど不可能であります!」

 互いの名誉のため、相互に補足を行う。
攻め込まれている国が相手をしているのはたったの三人だが、安易に止まるはずはない。
なぜなら、国どころか地域まるまるを一括りにしても上位に食い込む屈指の実力者三人が相手であるからだ。

 身の丈の倍はあろうかという獲物を振り回し、一騎当千を体現するのはヒトミ。
それに続いて拳一つでこれまた猛進を貫くのはアキ。
少し後方から二人に続くのが、国のトップであるにも関わらず第一線を退かない、
場所に相応しい働きをこなす戦う大将、ホタル=シラギク。

「小さな国相手に、何をしているんだと言いたげな様子ですね」

 三人が襲撃を掛けた国は決して巨大な国ではない、
最も、ホタルの一団と比較してしまうと大半は小さな国になってしまうが、部下を連れていないそれを抜きにしても
幹部が全員で攻めるにはあまりにも過剰な侵攻。

「最近、私の国に……集団で移民が訪れました、どうやら近隣国で耐え難い悪政があったとか……」

 対峙する両国の頂点。しかし、同じ頂点でもまるで釣り合わない事はよくある。
支える土台の根本が違えば、当然頂きの高さも異なる、この両者では雲泥の差。

「心当たりは、ありますか?」

 侵略は、仕方の無いことと割り切っている。
平和を得る前段階で戦乱の世は回避できない、しかし手の届く範囲にある恨み辛みの欠片は全て拾う。
行動を起こしたくてもそれが叶わない人がいるなら、行動できる人がやるべきだ。

「勝手ですが……これが私の選んだ道です。全ての不幸は私が背負います、それでも前へ」

 通った跡に無念怨嗟は残らない、全て彼女が拾って進む。
そして、その不幸に潰されないだけの仲間と力がある。
いつしか旧都区最大勢力と呼ばれるまで、そう時間はかからなかった。

「……この問題は解決しました、次の問題は?」
「新興勢力の台頭……気を見てこちらから仕掛けるべきです」

 ホタルの呟きに、この場にいる二人、アキとヒトミではない誰かが答える。
いや、最初からその場にいたのだが戦闘には参加していなかった、彼女は戦力としてここにいるのではない。

「相手はトキコ、シズク、カナの三人……既に詳細は調査済み」
「やっぱり、その相手を警戒するべきなのかな……印象はどう? マキノ、あなたから見て」
「ええ……確実に対処すべき、この世界に対して脅威となる」

「ならば早急な対応が先決ですな! このアキ、いつでも出陣可能であります!」
「アタシもいつでもいいよ、面白そうな国取り合戦だね!」
「……調査は引き続きお願いします、情報が揃ってから動きます」

 木に潜む影が無言でその場を去る、それを気配で感じ取ったホタルは踵を返す。
今は戻ろう、元の……幸溢れる民衆と国のもとへ。

Side Ep.17 問いかけ

 どうれすか? ここは人の賑わいも盛んで、独自の物流ルートをもって、
拠点を動くことなく外部へと貿易を行うことも可能なんれす~。
ですから、ぜひぜひ我が国家に販売拠点を移してみてはどうれすか~?

――…………

 あたしは他の国には迷惑かけちゃったんだよねー。
役職柄しょうがないんだけどー、割と危険な生物とか道具を扱うことがあってね?
ひどいんだよ? あたしの大事なペットを邪魔だから、危ないからって武器を持って襲って来るの。
ま、それくらいで負けちゃうこの子達じゃないんだけどね?
どう? 話し相手に一匹置いていってもいいよ?

――…………

 ……どうでしたか? 少しはリラックスできましたか?
静かすぎる空間では気分も落ち込みます、底抜けに明るいのはご遠慮しますが……
少しでも前を向いて、しっかりと意思表示しなければ機を逃すのみです。
イエスかノーか、その一言で何かが変わるかもしれませんよ?
それでは私はこれで……あ、これから何度もお会いすると思うので、また今度、でしょうか?

――…………

 うわっ、汚いなぁ……ちゃんと掃除してよ、なんで私がこんなこと……
ああ、気にしなくていいよ、無視してて? 今日は私の順番ってだけだから、まったく。
何も喋らなくていいし、私もこれが終わったら何も言わない、それでいい、分かった?
……ふぅ、ここに来て何日? もしくは何週間? もしかして何年?
ここには色んな人が来るからね、出身も所属も人種もバラバラ……あなたはどこから来たの?
そもそも……どうしてここに来たの? ふふっ、何を根拠に、ここに来たの?
ねぇ、答えてよ? こんな場所に、何の光を見たの? ……ふふふ、面白いなぁ、本当に。

――…………

 ~♪
…………気になる? 私、見てるだけで楽しいから、気にしなくていいよ?
あなたがそこにいるだけで、私は楽しい。 誰かに言われたかもね、同じ事、どう?
反応がないなー、私が聴いてるんだから答えてよー?
ふーん、黙り? そんな事してると私怒っちゃうよ? その中に居たら何もされないと思ってる?
だとしたら大きな間違いだよ、ほら? 入れないわけじゃないんだよ?
何もできないわけじゃないんだよ? むしろなんでも出来ちゃうんだよ? これでも何も言わないの?
……あ、そっかー。 ……もう、喋れない程になってるんだ?

――…………

 おはようさんどす~、お元気してはりました?
あらあら随分と……やつれてしもて、ほんま無茶しはりますわぁ。
でも安心しなはれ、もう何も我慢する必要はあらへんのです。
ここも、そない多くの人を泊めておける空間は確保しておりません、
早くにここに住む人は、出て行ってもらうことになってるんどす。
……珍しく反応がありましたなぁ、てっきり何事にも無関心で、沈黙を決めとるものかと思っとりました。
ではお帰りはあちらどす、この階段を上って外へ行けば晴れて自由の身です。

 ……どうされました? 早うその空間から出たいんと違いました? もしかして、そこが気に入りました?
そんなわけあれへんという顔してはりますなぁ……なんせ、そこは檻の中ですもんなぁ。

 鍵が開いてへん? おかしな事いいはりますなぁ、そないな事したら体が外へ出ていってしまいます。
うちは外へ道案内しに来た訳やありまへん、この場所を開けてくれ言うとるんです。
……鈍いどすなぁ、この役目はうちが率先してやることにしとります、意味がわかりますか?
外へ出られへんのは、その体が邪魔なんとちゃいます? ……うちが軽くしてあげましょか?

 カイの引率により、ウヅキ達は事の大きさと巻き込まれたトラブルにも関わらず迅速な合流を可能にした。
次に向かうのは旧都区に構えられた国家のうち、アイリによって直々に提示された五つの選択。
他者、カイの介入により本来四つだった選択肢に不要な一択が紛れ込んだが……

 とにかく、その中から一つを選び、次の目的地とする事を決定した。
ウヅキ、リン、ミオが選んだ選択は……



卯月「ここです……!」

愛梨「……コハルの統治する、国名は『エプリング』です」

凛「それで……ここはどうなの? もう教えてくれてもいいんじゃない?」

愛梨「この国は……大丈夫です、私が選びました」

未央「ほっ……よかった」

愛梨「ですが、一筋縄では行かない問題も抱えています。まず第一に、内部は平和ですが外部はそうもいかない」

凛「確かに、不意の代替わり直後の弱小国家なら……周りがどう動くかなんて分からない」

未央「守るって事? その、コハルって人を」

愛梨「間接的にですが、そうなります」

卯月「直接じゃないんですか?」

愛梨「少し波乱はあったとしても、波乱は頂点のみに発生した国です。周りの優秀な人材は変わらず留まっています」

愛梨「よほど強大な組織が来ない限りはしばらく安泰でしょう」

卯月「じゃあ……何から守るんですか?」

愛梨「そうですね……過度な緊張、でしょうか?」



・・

・・・


??「名前は……サチコさんですか?」

幸子「そうです! あのですね、ボクは話を聞いて欲しいだけであって決して入国のための審査を受けに来たわけでは……」

??「そうは言っても、中に入る為には身元を調べないと……」

??「しかもその過程で……名前以外はまったく手がかりが無い、身元不明の人と分かったから」

幸子「ですが保護の必要はありません!」

??「こんな場所まで一人で走ってきて、何か事情があるに決まってます」

幸子「だから人を探していると言ってますよね!?」

??「でも特徴が姿だけじゃあ調べようがないですけど……それに、なんでしたっけ?」

幸子「この羽みたいな派手な出で立ちをしてる人です! 見たら印象に残るので見ていたら覚えてますよね!?」

??「でも見覚えは無いですね」

幸子「じゃあここには来てないって事です、ボクを帰してくれませんか?」

??「いや、今度は身元不明の不審者としてあなたを監視します」

幸子「それは困ります! ボクにだって用事が……」

??「こちらもルールがありまして」

幸子「だったら!」

――バッ

??「……!?」

幸子「…………あれっ?」

??「な、なんですか?」

幸子(何も起きない……!? これは、いよいよ時間が無い……!)

幸子「くっ、ならば普通に走って行きます!」

――ガッ

幸子「あだっ!」

??「ほらほら逃げないで、逃げたら本格的に追うハメになっちゃうので……とりあえず本部まで同行してください」

幸子「ちょ、離して、引き摺っていかないでください!!」

――ザッ ザッ ザッ

卯月「意外と、近い場所にあるんだね」

未央「それでも一日くらい歩いた気はするけどね……」

凛「あれが『エプリング』…………未来区を見てたからかな、ちょっと小さく見えちゃう」

未央「それは私も同感かなー、普通はこんな感じなんだけどね」

卯月「城は見えないから、本当に小さな国……というより、街? それがそのまま国になったって雰囲気……」

未央「とりあえず、この道を下ればすぐに到着だね、まずは宿を探さなきゃ」

――タタタッ



未央「思ったよりも綺麗な宿だね、それどころか……」

卯月「かなり整った建物、随分生活基準が高い国だね……宿代が高いわけでもないのに」

凛「この国に、問題があるようには見えないね」

卯月「……そっか、平和に見える国でも裏はそうじゃないんだ」

未央「そうとも限らないよ? 中は本当に平和かも」

凛「じゃあどうしてここに私たちが来る必要が?」

未央「うーん……外からの問題?」

卯月「でもアイリさんは侵略から守るわけじゃないって言ってたよ」

凛「……予想は難しい、か」

――…………

未央「そういえば、ミレイちゃんは?」

卯月「え?」

未央「あの子、結局どうしたの?」

卯月「ああ、えーっと……『ウチも暇だからついていく』って言ってたけど、さすがにそれは……」

凛「ミオは見てなかったっけ、その後族長らしき人に連れてかれてたよ」

未央「おぉう、大変だったんだね」

卯月「それに、私達三人でやらなきゃ……! まだ経典は更新されてないし、今は休憩しよう!」

凛「来るべき課題に向けてね」

――ジーッ

小春「……へぇ~」

幸子「あの、珍しいのは分かりますけどあまり触らないで……」

??「こらコハル、一応は身元不明の不審者の可能性があるからあまり近づくんじゃないぞ」

小春「大丈夫です~、この人からは悪い心は感じませんから~」

幸子(なんでこうなったんでしょうか……国の本部? に連れてこられて、いきなりトップと面会とは)

幸子(それにしても……ボクが言うのもなんですが、警戒心がなさすぎます!)

――グイッ

??「君も離れなさい、目の前にいるのは王女だ」

幸子「なんですかさっきから! 勝手に連れてきて勝手に触れ合わせて勝手に引き剥がして!」

??「さっきから? いや、私がここに来たのはついさっきだが」

幸子「えぇ? ……あー、出で立ちが似てたので勘違いしました、別人でしたか」

幸子「じゃあ改めて、ボクはこの国に今の所用事がないので帰してくれませんか?」

??「ではこちらからもう一度問おうか、君は何者だ?」

幸子「だからボクは……人を探していて」

小春「賞金稼ぎですか~?」

幸子「そんな物騒な事はしてません! ボクは……そうです、天使なんです!」

小春「天使さんですか?」

幸子「地上とは縁がない場所に住んでいるんですけどね、訳あってこうして降り立っているのです」

小春「へ~……」

??「あのな、馬鹿にしているのか?」

幸子「ほらもう! 絶対そんなリアクションすると思ったから言わなかったんです!」

??「天使だと? そんな種族がいてたまるか」

幸子「どうして地上人は亜人や獣人、果ては悪魔族までいるというのに天使だけは認めないんですかね!」

小春「確かに見たことはありませんね~」

幸子「二回目ですけど、普通は地上と関連のない遥か上空で過ごしてますからね」

??「……厄介だな、その主張を貫くなら身元の証明など不可能じゃないか」

幸子「そうなりますね」

小春「どうするんですか~?」

??「……変わらずだ、この国に敵意がないと判断できるまでここを動かないでもらう」

幸子「はぁー……やっぱりそうなるんですね?」



・・

・・・


――ジリリリ カチッ

凛「ん……朝か……」

未央「あと五分ー…………」

凛「……ま、いっか。予定があるわけじゃないし」

――カサッ

凛(経典も……盗られてないし、更新も無い)

卯月「ふぁあ……おはよう…………進展は?」

凛「無いみたい」

卯月「そっかぁ……今日はどうする?」

凛「散策かな。なるべく一緒に行動しよう、もう別れるのは嫌だからね」

卯月「うん、そうしよっか……ミオちゃん起きてー」

未央「あと十分……」



――スタスタ

卯月「普通の町並みだね」

未央「食べ物も美味しい」

凛「規模の割に、とっても賑わっている……」

卯月「なんだか安心するね」

未央「それにしても、使命を持って訪れたにも関わらず出会いが無いってのが気になるよ」

凛「確かに、今までは何らかの形で新しい人物と接触した……ミレイやカイさん然り」

卯月「まだ動きもないけど……こっちからアクションを起こしてみる?」

凛「具体的には?」

卯月「うーん……散歩がてらに情報を仕入れるとか」

未央「現在進行形だねー」

――スタスタ

卯月「というわけで、気になった場所と言えばここかな?」

未央「おっきい建物……もしかして、城がない代わりに国の代表の家とか?」

凛「当たりかもね……でも、自由に立ち入りこそできないものの厳重に守られてる雰囲気はしない……」

凛「かなりフランクな、住民と近い位置にある建物だよ」

卯月「という事は、この国は本当に平和で信頼が築かれた……いい所なんだなぁ」

――バタン!

未央「おっ?」



幸子「フフーン! そうと分かれば今のうちにスタコラサッサですね!」

??「ま、待ってくださーい! まだ許可は出てません!」

幸子「そんなものを待っていたらボクが手遅れになります!」

――ダダッ

凛「誰か出てきたね、しかもなんだかワケありっぽい……」

卯月「変な格好してる人と……すごい普通な人、関係者かな?」

未央「普通って卯月が言うと説得力があるというか、なんというか」

卯月「……?」



??「あ、あの! その人を捕まえてください!」

凛「……捕まえる?」

未央「ほう、なんだか……」

卯月「穏やかじゃない言葉が」

幸子「どいてください! ボクにはやるべきことがあってここで立ち止まるわけには……!」

幸子「邪魔をするなら実力行使で通り……ま、す…………」

卯月「いっ……」

凛「せー……」

未央「のっ!!」

――ドゴォン!!!

幸子「フギャー!!?」



・・

・・・


幸子「ボクは天使ですから大丈夫ですね!」

??「……と言って聞かないんだ」

凛「重症だね」

卯月「意識改変なんて魔法は使えませんけど……」

未央「叩いたら治るかな……」

幸子「初対面に言う言葉じゃないでしょう? もう信じる信じないはどうでもいいので開放してください」

??「そうは行かないな、現に私の代わりの見張りを振り切って逃げたとか」

幸子「反省してますよ、おかげでボクの全身はズタボロです」

卯月(……逃亡犯かな、と思って全力でやっちゃったけど)

凛(本気を三人でぶつけたにも関わらず)

未央(普通に回復してる……どうなってるのかな)



――ガチャ

小春「あれ、お客様が増えてます~」

??「駄目じゃないか、勝手に入ってきては……一応この四人は何の身分証明も済んでいない」

小春「大丈夫ですよ~、万が一の時には守ってくれる人がいますから~」

??「……それは私の事かな、コハル」

小春「そうですよ~?」

卯月(コハル……!)

未央(アイリさんから聞いた……国の代表!)

凛「ねぇ、今さっき身分証明がって言ったけど」

??「……ああ、誰と繋がりがあるかわからないからな、最低限の証明はしてもらいたい」

凛「名前や出身がわかっただけで、それが嘘か本当かも、それ以外の情報も分かるの?」

??「分かる、とだけ断言しておこう」

凛「ふぅん……私達は隠すようなやましい事はしていない、名前はリン=シブヤ」

卯月「ウヅキ=シマムラです」

未央「ミオ=ホンダ、三人とも旧都区『アルトラ』から来てるよ」

??「『アルトラ』……あまり聞かない名だな、後で調べておく」

凛「こっちが名乗ったんだから、一応そっちの名前も聞きたいんだけど」

小春「コハルはコハルですよ~」

幸子「……そういやボクも名乗ってませんね、名前はサチコです、種族は天使ですからね!」

卯月(天使って、実際にどうなの?)

未央(さぁ……少なくとも私は聞いた事ないねー)

??「私か……申し訳ないが名乗る事は出来ない」

凛「……どういう事? 何か大事な機密事項だったりするの?」

??「いや、決してそういうわけではないんだ。説明が難しいな……」

??「そうだ、先程外でこの逃亡犯を追っていたもう一人の女性がいただろう」

幸子「逃亡犯呼ばわりですか」

未央「もう一人……? ああ、居た居た」

卯月「その人と何か関係が?」

??「私含む彼女もそうなんだが、我々は国……今はコハルを守るために先の代から役目を引き継いでいる」

??「専門知識と技術だけを、国の為に捧げる……そういう一族だ」

小春「でも、みんないい人なんですよ~」

??「コハルはこう言うが、私はその役目しか持たない、存在意義がそれだけなんだ」

凛「……ずいぶん重い理由だね、それで、名乗れない理由は?」

卯月「リンちゃん……別に絶対に名前が知りたいわけじゃないし、そのへんでいいんじゃない?」

??「いや、こちらも礼儀がある、素直に言えたらいいのだがな……」

??「……私には、名前が無い」

未央「名前が無い……え? そんなわけないじゃん、生まれた時に名前で呼ばれるでしょ?」

??「そうだが、その名前で呼ばれる事はこの国では有り得ない」

卯月「じゃあ、普段からいったい何て呼ばれてるんですか?」

小春「お姉さんはお姉さんですよ~」

??「……ご覧の通り、一族全員がこの呼ばれ方だ」

未央「お姉さん、だと私達が呼びにくいなぁ……」

幸子「ボクの場合は生きた年月が違いますからね! お姉さんとはボクが呼ばれるべきです!」

卯月「じゃあ便宜上の名前とか……今からでも考えますか?」

??「遠慮しておこう、名は後世に残るものだ……私はそんなものを残す必要はない、役目は一つなのだから」

小春「国を守るのも大事ですけど、もっとご自由に動いてもいいのに~」

??「自由に自主的にこの道を選んでいるからな」



??「だが、名前で呼べないのは外部と接触するに辺り、やはり不便か」

凛「名前を持ちたくないのなら、他に代用できるものは?」

卯月「例えば役職だったり」

??「役職……そうだな、一応それで区切りは可能か。あとは適当にキャリアの差でつければいいだろう」

未央「キャリア?」

??「ああ。さっき言ったように、私と同じように名前を持たない者が他にも居る、私を含めて四人だ」

??「後で客人に対してはこの名前を名乗るように伝えておこう」

??「国を監視する、鍛える、保護する……二番目のキャリア、私の名前は……『ベテラントレーナー』といった所かな?」

小春「お姉さんはこれからベテランのトレーナーさんなのです~?」

ベテトレ「呼びにくいなら、コハルは今まで通りで構わないよ」

卯月「うーん……あまりに名前というか肩書きっぽいというか、もうちょっと名前らしい風には出来ません?」

ベテトレ「記号だからこそ、名前とは違うんだよ。これで区別は出来るから構わないだろう」

凛「ですけど……」

幸子「じゃあベテランさんに質問ですが、改めてボクが解放されるのは何日後ですかね?」

ベテトレ「断言は出来ないが、外部と明確な接触が無いと判断できる最速は三日だな」

幸子「……ふーん、予想より早いんですね? それだけの期間で調査が可能ということですか?」

幸子(まぁ、三日だとボクの用事はどの道手遅れですけどね)

ベテトレ「専門知識と技術を捧げると言っただろう、戦闘要員も居れば調査員もいるという事だ」

幸子「優秀な諜報員をお持ちで」

小春「お急ぎのところごめんなさい~」

幸子「本当にお急ぎなんですけどね、こうなったら仕方がありません……」

――ガタッ

ベテトレ「また逃げるのか?」

幸子「逃げても追いかけるんでしょう? せっかくなので観光です」

ベテトレ「ちなみに、一人で歩いていたとしても監視はしっかりしているからな」

幸子「そうですか。じゃあ行きますよ」

卯月「……?」

幸子「ボクを一人で行かせるつもりですか? どうせ暇なんでしょう!」

凛「なんで私達が」

幸子「全員じゃなくてもいいです、ただ話し相手が欲しいだけなんですからね! 借りて行きますよ!」

卯月「へ? 私? あわわわわ」

――バタン

未央「……しまむーが天使に拉致されちゃった」

ベテトレ「まぁ……万が一の時は私達がなんとかするから、ついでだ、協力してくれ」

凛「協力?」

ベテトレ「見ての通り。監視は可能といえば可能なのだが、人手不足は否めない」

ベテトレ「外部の者に頼むのは恐縮だが、逆に言えばここまで深くこちらの内部事情を知っている人でもある」

未央「トントン拍子に話が進むけど……こんな内部に関わってて大丈夫なの? 私達」

ベテトレ「構わない、君達には敵意がなさそうだ」

凛「どうして分かるの?」

ベテトレ「名前と出身が分かれば、ほぼ全てを調べる事が出来る」

未央(どういう原理?)

凛(……分からない、この人たちが持っている専門知識、って奴かな?)

ベテトレ「技術は教えられないし、教えて出来るものではないとは言っておこう」

ベテトレ「では、長く拘束してしまったが……自由に観光してくれ」

凛「はい……ミオ、この後どうする?」

未央「しまむーを追う、かなぁ」

ベテトレ「彼女を追うなら建物の裏手だ、急がずとも追いつくだろう」

未央「あ、どうも……」

――ゴソゴソ

卯月「えっと、なんで私を……もしかして天界へ拉致ですか?」

幸子「そんな事しません、そもそもこのままだとボクは帰れません!」

卯月「帰れない? お空には帰るつもりなんですか?」

幸子「元の場所ですからね、さて……あなたを連れてきたのは他でもないです」

幸子「さっき聞いていた通り、ボクは時間がありませんが手軽に移動できる状態でもなくなりました」

卯月「その時間が無い、っていうのはなぜです?」

幸子「……天使には力の源があります、それぞれが所有するエネルギーの供給体のようなもの」

幸子「ですがその……上から見ている時にですね、ちょっと……」

卯月「……落としたんですか!?」

幸子「声が大きいです!!」



幸子「まぁ、そういうわけでして直ぐにボクも地上へ降り立って、落し物を見つけて帰るはずだったのですが」

卯月「ですが?」

幸子「少しの差で、既に他の人にボクの天使の源が拾われた後だったんです!」

幸子「もちろん元々ボクの物ですからね、どこにあるかはだいたい分かっています、というわけで拾った当人を見つけたので

すが」

卯月「じゃあ返してもらって終わり、じゃないんですか?」

幸子「いや、それが……ボクも驚いたんですけど、なんとボクの力の源を一瞬で使いこなして……反撃されたわけです」

幸子「いくらボクが天使でも、相手が所詮偽物の自称天使でも、力が補給されない状態では全力が出せません」

幸子「何度か追いかけましたがそのどれもを撃退されてしまい……」

卯月「うわぁ……」

幸子「その内、ボクの本来の源が……その拾った主に適応を始めてしまいました!」

幸子「このままではボクが天使として力を失ってしまいます! 徐々に源の場所も感じなくなってきました!!」

卯月「うわわ! 肩を掴まないでください! 危ないです!」

幸子「そうして時間がない時にこの仕打ちです! 万事休すです!」

幸子「……そこで最後の希望です。この国周辺で僅かに感じるボクの力の源を、自由に動けないボクの代わりに!」

卯月「見つけて欲しい……と?」

幸子「そうです! 見たところ特に目的もなさそうで、初対面のボクを問答無用で吹っ飛ばしたあなた方なら!」

卯月「一言多いです! 事実ですけど……うーん」

幸子「お礼はしますから! ボクは天使なので!」

卯月(そういう問題じゃなくて……経典、はここで確認できないけど)

卯月(もしかしたら、話の流れ的に私たちがやるべき仕事はこれなのかな?)

幸子「どうなんですか! イエスと言ってくれませんか! ボクは何でもしますから!」

卯月「ま、待ってください! 私も他の二人に聞かないと……!」

――スタッ

未央「本当にここに居た、話は聞いたよ!」

凛「ウヅキ、別に私達は決まった事以外はやっちゃいけないわけじゃないし……困ってる人がいるなら助けようよ」

未央「人じゃなくて天使だっけ?」



幸子「本当ですか!?」

卯月「そうなったみたいです……えっと、確かにこの国の中なんですか?」

幸子「元々は“この近く”だったのですが、さっき館で話している間に少し気配が近くなりました」

幸子「もしかして身を隠そうとこの国に入ったかもしれません、ボクが先に到着している事を知らずに!」

凛「そうだとしたら、ベテランさんのところでしばらく拘束されていたのはラッキーだったかもね」

未央「その間に、力を拾った人が街を調べ上げて、ここは安全だとして身を潜めてるかも!」

幸子「確かに、国のトップの住居内までは調べてないでしょうし……フフン! ここに来て運が向いてきました!」

卯月「じゃあその人を探すにあたって……特徴は?」

幸子「ボクの力を奪ったはずなので、同じく天使の力を持っているはず……見た目がそのままなら分かり易いのですが」

凛「さすがに街中で羽も生やさないし輪っかがついてたりはしないよね」

未央「天使なんでしょ? すごい力で個人を特定とかできないの? 一目見るだけで名前が分かったりとか」

幸子「どちらかといえば天使より死神の力ですねそっちは、ボク達天使は地上に介入するための力なんて持ちません」

幸子「地上人の想像する、羽や光に関する力は持っていますけどね、フフーン」

幸子「だから身体特徴と、ボクが見た実際の雰囲気だけが情報です」

凛「身体特徴……背の高さとか性別とか?」

幸子「ボクより少し背が高く、ボクと同じ女性です。他の特徴は……」

幸子「天使の力に憧れていたというか、特殊な力を持ってはしゃいでいたというか……」

未央「んー……あまり参考にならないなぁ」

幸子「ノリノリで使いこなしてましたね、そんなに簡単に扱えるものではないはずなんですけどね」

幸子「もしかして、普段からちょっとヘンな人なのかもしれません」

卯月「ちょっとヘンって言われても……知ってる人とかじゃないし、手がかりにはならないよ」

幸子「そうですか? うー、困りました……」

未央「そんなに印象に残ってるの? 立ち振る舞いとかが」

幸子「だってそうでしょう? 普通、いきなり天使の力が拾ったもので手に入ったら驚きますよ」

幸子「それを『ついに念願叶った』みたいな風に使いこなされたら……普段からそんな妄想してる人なんでしょうか?」



凛「確かに、私がそんなもの拾ったら……使ったりするかもしれないけど、そこまで使いこなしはしないかも」

卯月「確かに想像できないね」

未央「しかしねー……このままじゃ手がかりがなさすぎてどうにもこうにも……」

幸子「ボクが探しに行くと姿でバレますからね、申し訳ありませんが三人でどうにかしてもらうしか」

卯月「努力はしますけど……本当に他に特徴は?」

幸子「うーん…………見た目だったので、おそらくとしか言いようがないですが」

幸子「人間族です。亜人獣人の出で立ちでしたが、アレは装飾品ですね」

卯月(……ミレイちゃんから聞いたミクさんと同じパターン? 種族を偽っている?)

未央「それも着替えられちゃおしまいだからね……」

凛「でも、いい手がかりかもしれない。服装に特徴があるなら、この国の服を扱う店を回れば……」

未央「おお、しぶりん頭いいね、じゃあ早速見てみようか!?」

卯月「この国自体が小さな街だからこそ出来る捜査だね、よし行こう!」

幸子「なるべく早くお願いしますね!」



・・

・・・


小春「賑やかな人でしたね~」

ベテトレ「そうだな……しかし、名前が分かっても身元が調査出来ないとはどういう事だ……偽名なのか?」

小春「あの天使さんの事ですか~?」

ベテトレ「……これでも身元調査に関しては専門だったのだが」

小春「お姉さんは名前一つから全て調べ上げてしまいますからね~」

ベテトレ「そういう役だからな……こう見えて頭脳派なんだ、直接戦ってコハルを援護出来ないのは不本意だ」

小春「そんな事はないです、国を支えるには必要なお力です~」

小春「ところで、他のお姉さん達は?」

ベテトレ「いつも通りだよ、内政と待機……おっと、一人だけ違う指令を受けた人物は居るな」

ベテトレ「監視、だな」

幸子「しかし……探してくれる間ボクは何をしましょう?」

幸子「身を隠すためにも、あの館内で大人しくしていた方が……?」

――ゴソゴソ

??「…………」

??「あれが、今回の要監査対象……なんていうか」

幸子「それにしてもどうしてボクがこんな目に……」

??「気配が全然違う……いい意味でも、悪い意味でも」

??「魔力でもない、なんだろう……ただ、潜むにしては自己主張の激しい……」

幸子「それももう少しの辛抱ですね! ……良い終わり方をするとは限りませんが」

??「情報では人探しの為……その人が、いったい誰なのか分からず……」

??「うーん、早く目的を達成するためなら、そっちを探すべきじゃないかな……姉の考えも分かりません」

幸子「さてと…………」

??「あ、移動する……追いかけなきゃ」

幸子「…………」

幸子(な、なんですかこの人……隠れてこっちを見ているのに……心の声が全部口から出てますけど……)

??「どこに向かうのかな、さっきの三人は市街地に向かったけど……」

幸子(じゃあ市街地に行きますか……この人、もしかしてあのベテランさんの言ってた一族の方?)

幸子(国の守りがこれなら……あのベテランさんはしっかりしていましたが、こっちはちょーっと心配ですね)

トレーナー「同じ方向……じゃあ先回りしよう」

幸子(……行き先変えましょうか?)

卯月「見た目に特徴のある人……と聞いても、手がかりは無しかぁ」

凛「当たり前かもしれないけど、これが最善だから仕方ないね……」

未央「せめてもうちょっと情報が欲しかったねー……むしろ、街中で不審者捕まえた方が早いかも?」

凛「不審者って……そんなに簡単に見つかるものじゃない――」

――トタトタトタ

トレーナー「あ、あれっ? 市街地に向かうって言ってたのに……!」

トレーナー「見失っちゃった……もう、いったいどこに……!」

――トタトタトタ

凛「……今の、何かな」

未央「さぁ? 国側の関係者さん?」

小春「今の人もお姉さんの一人ですよ~」

卯月「という事は、やっぱり国側の人で……って」



小春「どうなされました~?」

未央「わっ!? 当たり前のように登場!?」

小春「コハルは自由なのですよ~」

卯月「自由って、国の中とはいえコハルちゃ……さんは、代表で王女様だから危ないんじゃ……」

小春「お姉さん方が守ってくれます、コハルは大丈夫です~」

小春「あとは、コハルは皆様より歳を重ねていないのでお気軽に呼んでもらってもいいんですよ~」

凛「そう言われても……」

未央「立場の差が、ね?」

卯月「守ってくれてる、って、さっきのベテランさん?」

??「違うな、直接の護衛は私一人だ」

卯月「えっ!?」

――ザッ

??「対面は初めてだな、私は……そうだな、ベテランと名乗るには先駆者がいる」

マスター「全ての指揮を執らせてもらっているから、マスタートレーナーと名乗ろうか?」

小春「お姉さんはいつでも私を見ています~」

凛「なるほどね。対面は初めてとは……?」

マスター「館内で私は君達四人……ああ、一人はここに居ないか。とにかく全員を見ていたよ」

卯月(ベテランさんと話している時……?)

未央(隠れてる気配なんて感じなかったけど……)

マスター「気づかなった事を悲観する必要はない。護衛に関しては専門家だ、守っている事を悟られてはいけない」

マスター「時と場合により、護衛をアピールした方が効果的な場合もあるが……いや、詳細は控えよう」

凛「私達に姿を見せたのは、安全を証明するため?」

マスター「特に隠す必要も無い事だ、護衛が私なのは国で周知の事実だからな」

未央(あれ、守っている事を悟られてはいけないんじゃ……?)

マスター「だから君達は魔が差したとしても、襲撃など考えない事だ」

卯月「大丈夫です、絶対にそんな事はしません」

小春「なら安心ですね~」

マスター「しかしあの自称天使の理由は分かるが、君達は特に目的も無くどうしてこの国へ?」

凛「明確な目的は無い、自由な旅だからね」

小春「何も娯楽は提供できませんが、ゆっくりしていってくださいね~」

卯月「今はサチコちゃんのお手伝いですけどね」

小春「お手伝い?」

卯月(あ、っと……サチコちゃん、コハルちゃんには言ってなかった……隠してるのかな?)

マスター「コハルには伝わっていないが、彼女はこの三人に依頼したそうだ」

マスター「自身の力の源……だったか? とにかく、人探しだ」

未央「あれ?」

マスター「調査が専門の妹と、監視が専門の妹からの情報だ。誰もいない誰も見ていないと思っていると、筒抜けだぞ?」

凛「案外……怖い国なんだね」

小春「そうですか~?」



卯月「もう知られてるならいっそ……サチコちゃんの探している人ってのを見つけられないんですか?」

凛「つい最近入国した人からなら調べられるんじゃ……」

マスター「結論から言えば可能だ、それに……おそらく該当の人物の目星もついているとの妹からの報告だ」

未央「本当!? じゃあ……」

マスター「しかし直接こちらから動く事はしない、こちらにとってはその人物も君達と何ら変わり無い一般人だからな」

卯月「確かに、それはそうですね」

マスター「場所も手がかりも……申し訳ないが伝えるわけにはいかない、個人情報だからな」

未央「うーん、結局進展無しかぁ……」

マスター「代わりと言ってはなんだが、その人物が国を出た際には連絡をしよう」

凛「それだけでも十分、その連絡が来る前になんとかしないと……」

マスター「健闘を祈るよ」



・・

・・・


??「何気ない日常、いつか理想の自分になるために日々の努力……!」

??「ついに、叶う時が来たんです! 思えば、きっかけはたった一日前……」

??「その時空から不思議な光が降りてきたのです!」

??「光はやがて手に収まるほどの小さな結晶になりました」

??「すると……理想像にぴったりの、人間とは異なる素晴らしい力がこの手に!」



??「ようやくこの日が……」

??「ナナは新生、新たな一族ウサミン星人としてこの名を世に広めるんです!」

菜々「まずは、あのヘンな天使さんをどうにかしないといけませんね!」

菜々「同じ力を持つ者は、ナナだけで十分です……!」

菜々さん…

菜々さん何してるんですか

菜々「……そのためにまずは」

――ガサガサ

菜々「逃げるつもりだったのですが、そういうわけにも行かなくなって……」

菜々「打って出ようとしたら敵が増えました……」

菜々「さて、どうしましょう? ナナは考えますよ」



幸子「良い知らせか悪い知らせか分からない報告があります」

卯月「えっ?」

幸子「ボクの天使としての力の流出が止まりました」

未央「お、ってことはもしかして問題解決?」

幸子「勘違いしないでください、止まっただけで戻ったわけではありません!」

幸子「さらに言うと、ボクが天使として存在できるギリギリの場所で止まったとも言えます!」

凛「下限いっぱい……でも、止まったのなら一応はいい知らせ?」

幸子「ボクとしては流れ出た力が十だろうが九十九だろうが一緒なんです! どのみち天界に帰る力としては足りません!」

幸子「問題はボクの力を奪った人が、これからどういう行動を取るかです」

小春「百の力が欲しい人が、直前で止まった場合どうするか、という事ですか~」

卯月「まず間違いなく……」

凛「本人を狙いに来る」

幸子「ボクがこんな状態ですからね! ……ただ、こうなってしまっては、ここに居る事が幸いです」

小春「確かに、ここでは襲われることはないでしょう~」

幸子「しかし時間切れの心配は無くなったものの、むしろ長引いて非常に厄介です」

幸子「さすがに相手の寿命まで隠れるつもりはありませんよ? ボクは長生きですけどね!」

凛「……で、私たちはやる事は変わらないけど」

未央「相手もこっちを狙っている可能性がある、って事?」

幸子「そうです、付け焼刃の偽物二番煎じとはいえ元はボクの力ですからね、しっかり警戒してください!」

未央(ねぇしまむー、この依頼って経典の内容じゃないよね?)

卯月(だけど……人助けと思って、ね?)

未央(うーん、イマイチやる気が出ない……)

幸子「……なんだかリアクションが薄いですね? 天使のお手伝いなんて滅多に経験できませんよ!?」

小春「そうですよ~、これも人助けだと思って~」

幸子「ボクは天使ですけどね!」

凛「はぁ……」



卯月「どうする?」

未央「どうするって、相手が逃げるだけじゃなくて向かってくるようになったって事は探しやすくなったかもよ?」

凛「実際は、相手が分からないからそれほどいい情報ではないけど」

卯月「そっかぁ……結局、サチコちゃんを誰が狙っているかが分からなきゃ意味ない、か……」

未央「うーん…………」

卯月「…………」

凛「……あのさ」

未央「どしたのしぶりん」

凛「提案があるんだけど」

未央「おっと……後出しだけど、実は私も……」

卯月「え? そんな提案があるならもっと早く言ってよ! 内容は?」

凛「ミオが先に言っていいよ、私のは……ウヅキが何か言いそうだから」

未央「ありゃ、私もなんだけど……これ、もしかして……」

卯月「……?」

未央「サチコさん、呼ぶ?」

凛「……呼ぶ」

卯月「あれ? 二人の意見は同じっぽいのに私が蚊帳の外……」

幸子「なるほど、それでボクの所に戻ってきたと」

幸子「特定出来ない未知の相手を確実に見つけられる方法……」

幸子「確かにこの方法ならボクが自分で確認できますからね、確実に判断ができます」

――ギチッ

幸子「だからといって広場にボクを縛って放置するのはどうかと思いますけどね!!」

幸子「おかしいですよね! 守ってくださいって言いましたよね!?」

未央(大丈夫、私達ずっと見てるから!)

幸子「そういう問題じゃないです! なんでボクがこんな状況なのにこの国は平常運転なんですか!?」

小春(これはお魚釣りと同じ方法ですか~?)

凛(餌があれば釣れるんだよ)

幸子「今完全にボクの事を餌って言いましたね? あなたの国で障害事件が起きています! 取り締まってください!」

ベテトレ(選択肢としては大きく間違ってはいないが……)

卯月(サチコちゃんが危険です!)

幸子「ですよね!? 常識人が三人を抑えてくださいよ! ボクにも人権があります! 天使ですけどね!」

凛(じゃあ大丈夫)

幸子「何がですか!?」



――…………

小春「来ませんね~」

凛「いい方法だと思ったんだけど……」

未央「狙ってる相手が無防備なら来てもおかしくはなかったよね」

幸子「もう隠れるのも止めてるじゃないですか。そもそも怪しすぎて罠だと即気付きますって」

――ギチッ

幸子「ところでいつになったら解いてくれるんですか?」

小春「ちょっと思いましたが、仮にここで天使さんが狙われたとして、ここで戦うのはちょっと~」

凛「そっか、他に迷惑がかかる可能性もあるから……場所を変えようか」

未央「だね、そうと決まれば移動移動、もしかしたら相手の人も遠慮してたのかもねー」

幸子「……相談したボクが馬鹿でしたよ」

ベテトレ(止めるべきか?)

卯月(ご迷惑なら……)

小春「天使さんを狙う人が見つかればいいですね~」

ベテトレ(私が言うのもなんだが、迷惑であって欲しかったな。無理矢理にでも止められたからな)

卯月(中途半端でごめんなさい)

凛「じゃあ、移動だね」

未央「おー!」

――ザッ ザッ

――…………

菜々「……は、はぁ?」

菜々(意を決して勝負を挑みに来たら、取り巻きがさらに増えてました)

菜々(それに加えて状況がさっぱり掴めません、なんで既に捕まってるんですか……!?)

菜々「ナナも街中でドンパチする気はないので移動してくれたのはありがたいですが……」

菜々「これ、ナナが行く必要もないんじゃ……」

――ガサッ

菜々「いや、怪しすぎても理想のためには勝負が必須です、どうにかして……」

菜々「あの場に一、二、三……どうやらターゲット含めて八人も取り巻きが、これは手強い……」

菜々「しかし、それだけでウサミン星人を止められると思わないでくださいね!」




・・

・・・


――ザンッ!

未央「目標はここだぞー!」

幸子「さっきよりボクの状況がひどくなってます! なんですか!? ボク処刑されるんですか!?」

凛「天使の羽に十字架は映えるね……」

幸子「引っ叩きますよ!?」

小春「美しいです~」

卯月「天使と名乗るだけあるなぁ」

ベテトレ「私は何も言わんぞ」

幸子「こんな状況でもボクは画になりますね! ……じゃなくて!!」

幸子「自由に動けないって言いましたよね? ついさっきの会話ですけど、ボクが探すとバレるとも言いましたよね?」

凛「状況変わったんだよね? どうせ相手から来るなら私達の知らない場所で襲われるよりかは」

未央「こうした方がいいかなーって」

幸子「第一、こんな開けた場所に堂々と相手が来るわけないじゃないですか」

凛「でも相手はここに来なきゃいけない、はずなんでしょ?」

幸子「ええ来ますとも、付かず離れずの距離を保っているからには来るはずですが……」

――ヒュー……

幸子「ボクの天使の力を持っている相手です、まっとうな方法で来るはずがないんですよ! それは警告しましたよね?」

卯月「大丈夫です! 東西南北全方位見てますから!」

ベテトレ「わ、私も見るのか?」

卯月「ご協力お願いします!」

――ゥゥゥ……

ベテトレ「加勢出来る程の腕は持ち合わせていないが……」

小春「お姉さんに代わります~?」

ベテトレ「いや、表にわざわざ呼ぶ訳にも……」

凛「今の所怪しい人影は無し、まだ大丈夫だね」

――ウウウ……

幸子「……なんだか明るいですね?」

未央「まだ夕方になりかけだから明るいよ?」

幸子「そうではなく……強い光と……音?」

卯月「そういえば音が鳴ってますね? いったい何の……え!?」

――カッ

凛「なっ!?」

未央「上ぇ!?」

卯月「危ない! 逃げ……あっ」

小春「ふわぁ!?」

――ドガァン!! フギャー!?



卯月「こ、こんな場所から……」

未央「真上なんて聞いてないし……!」

凛「それより無事なのかな……?」

小春「わぁ……びっくりしました」

ベテトレ「上から爆撃など規格外にも程がある……彼女は大丈夫なのか?」

――ガラッ

幸子「だから言ったじゃないですか!!」

未央「セーフッ!!」

幸子「そんな事言ってる場合ですか! 空から来たという事は……!」

――ゴオオオ

幸子「まだまだ来るはずです!」

凛「あの規模の攻撃が何度も……!」

小春「お星様が降ってきました!?」

卯月「あんなの止められない……! 皆避けて!!」

ベテラン「避けるだけでもギリギリだな……」

――ドゴォッ! ドガァン! バキッ!

凛「っ……落ちてきたのはピンポイントでサチコの元居た場所だけ、か……」

幸子「冷静に分析してる場合ですか……あれに狙われてるボクなんです!」

卯月「でもこれは……思っていたより数倍厄介な相手……!」

未央「ふざけてる場合じゃないね……!」

幸子「今ふざけてるって言いました? ふざけてたんですか?」

凛「気のせいだよ。相手……姿は見せない、いったいどこに……」



小春「わぁ……地面が穴だらけです」

マストレ「随分派手に暴れているじゃないか……確かに街中でなくて良かったよ」

ベテトレ「止めに行くんですか?」

マストレ「それは私の仕事じゃないな、こちらに危害を加え始めたら……だな」

小春「お助けしないんですか~?」

マストレ「コハルを守るのが仕事だからな」

小春「それは、わかっていますけど……」

幸子「いいですか、よく考えてください! あれで十割じゃないんです、もしも全ての力が一般の地上人に渡れば……」

卯月「確かに……これは、なんとしても止めなきゃ……」

凛「どうする? 相手はこちらに近づくつもりはなさそうだよ」

幸子「さすがにここまで近ければ……攻撃の方角はあちらからですね」

卯月「……街の方だね」

未央「よし、じゃあ一気に距離を詰めて――」

凛「駄目!」

――キランッ

未央「ん? なんだか光が……」

――ザシュッ!!

未央「わあっ!?」

卯月「ミオちゃん!」

凛「今はこの地面の穴に隠れるしか……遠くからこっちは丸見えだよ」

未央「痛ったた……光線?」

幸子「ボクの力ならそれくらい造作もない事です」

卯月「そういう情報は事前に欲しかったよ……」

幸子「方角は割れているんです、遠距離ならこちらも対抗できます!」

未央「遠距離……」

凛「遠距離……?」

卯月「遠くから…………」

幸子「え、なんですかその反応……まさか、まさかですか?」

凛「私達……あんまり遠距離戦は想定してないっていうか」

未央「三人で競うように戦ってたら」

卯月「みんな似たような成長をしたというか、あはは……」

幸子「旅の人って聞いていますが、旅する割にバランスひどくないですか?」

卯月「友情と努力でなんとかします!」

幸子「勝利が行方不明ですね?」



――ドォン……

菜々「空から降るだいたい十個くらいの星です、これで周りは無力化もしくは本体の撃破が達成できていれば……」

菜々「……甘くはないですか」

菜々「ですが反撃が来ないという事は、射程距離ではナナが勝っていますね?」

菜々「ここから持久戦です……!」

幸子「追撃が来ません……持久戦ですか……」

凛「分かるのは方角だけ? 正確な場所は?」

幸子「場所……距離としてはおそらく街の外れから狙われているので百、いや百十か二十前後……」

卯月「遮蔽物が何もない平原を、遠くから攻撃できる相手の迎撃をかいくぐって接近……」

未央「こりゃ無理だね……どうしよう?」

凛「上手く三手に分かれて狙いを絞らせないとか」

幸子「三つくらいなら全て迎撃されますし、そもそも三人が出て行ったらボクがガラ空きです!」

未央「そんな事言っても、元からあんな規模の攻撃からは守れないって!」

幸子「ボクが居なくなると向こうが目的達成です! それすなわち負けなんです!」



菜々「……あそこに居るのは分かってるんです、分かってるんですが」

菜々「ナナは力が欲しいだけなんです、他の人を巻き込む必要はありません!」

菜々「あの天使さんはナナにとって最初で最後の犠牲になってもらいます……」

菜々「…………だから、取り巻きの方は早く逃げ出して欲しいのですが」

菜々(派手に攻撃しすぎたせいで安全圏から出てこなくなっちゃいました)

幸子「……分かりました、もうこれ以上手間をかけるのはよくないです、一発勝負にしましょう」

卯月「一発……って、何する気ですか?」

幸子「なんだかんだで元々お手伝いを頼んだのはボクですからね、ボクが動かなくちゃいけませんよね!」

幸子「これでも天界オンリーワンのボクが見事に状況を打開してみせましょう!」

未央「打開って、一人で出ていけば狙われるってさっき……!」

幸子「だからですよ、その代わり……三人とも全力であちらの方角へ向かってくださいね?」

――スッ

幸子「さて、ボクの力が全て戻るか失うか、勝負です……!」

卯月「だ、駄目です! そんな賭けをしなくてももう少し待てばきっと――」

凛「ウヅキ! 危ない!」

――ザシュッ!!

卯月「きゃっ!」

幸子「ほら危ないですよ! 三人は今のうちに!」

――ザッ

幸子「ほらほら、天界一カワイイ的はこっちですよ!?」



菜々「動いた……なるほど、他人を巻き込まないために一人で出てきましたね?」

菜々「なら、ありがたく狙いを定めて……あれ?」



卯月「遅れちゃダメ、行くよ!」

凛「うん!」

未央「任せて!」



菜々「三人も出てきた? ……反対方向に動いて避難、ってわけではなさそうですね?」

菜々「向こうがこっちの場所を把握していてもおかしくないですからね……ただし!」

――ビシュン!

卯月「こっちに攻撃が!」

未央「待って、この軌道ならこっちまで届かない! 少し前の地面に当たるはず……!」

卯月「失敗したのかな……?」

凛「手前の地面に……いや、違うよ!」

――ズドドドドッ!!

卯月「うわっ!?」

凛「土埃がっ……!」

未央「向こうが見えないよ!」

卯月「でも、方向はわかってるから無理矢理にでも!」

凛「駄目! 視界が悪い中攻撃されたら回避なんて出来ない! 到着は遅れるけど回り込まなきゃ……!」

未央「その代わり、この視界の悪さは向こうもこっちは狙えないんじゃ?」

――ピシュン!

幸子「くぅ!?」

卯月「サチコちゃん!」

幸子「ボクの位置が分かれば向こうは十分なんです! それに、視界が悪くても近づいてくる人くらいはわかるはずです!」



菜々「視界が開けるまでこっちは安全でしょう、今のうちに……単独の天使を討ちます!」

卯月「やっぱり無茶でもここを突破した方が……!」

凛「だから危ないって言ってるでしょ!?」

卯月「それ以外に方法が……!!」

未央「はいはいストップストップ!」

――カチャン

卯月「でもっ……!」

凛「ミオ、ミオも同じ事言うの?」

未央「一応、身の危険と危機的状況が釣り合ったら……私も突破する派かな」

卯月「ほら、ミオちゃんもこう言ってるし……」

未央「でも、他に方法があるならそっちを選ぶね!」

――チャリン

凛「他の……? 私達は遠距離攻撃を持たないから近づかないと……」

卯月「リング……いくらミオちゃんとリングの力でもここからはさすがに届かないんじゃ……」

未央「そうだね、私の攻撃は届かない……へへ、これはもっと特訓して慣れてから披露しようと思ってたんだけど!」

――スッ

未央「さぁ構えて、攻撃方向はあっち……!」

凛「ミオ! 威力は高くても土埃を吹き飛ばすのは打撃じゃ無理……!」

未央「違う! 私の目標は視界の確保じゃないよっ!」

未央「『向こうにいる人物』そのもの!! でりゃあああ!!」

――バキンッ!

卯月(腕を振り抜いた勢いでリングが発動、ここまではいつも通り……!?)

未央「とりゃあッ!!」

――ビュッ ゴオッ!!

相変わらずの幸子の扱いェ

菜々「うう、ちょこまかと攻撃を避けて……さすがにナナの力の元の持ち主だけあって……」

――ィィィ……

菜々「……? 何か音が――」

――ヒュッ バキィッ!!!

菜々「なーー?! あ……ぇ……!?」

菜々(ナナの体の横スレスレを……何かが通った……!?)

菜々「そんな、今更飛び道具……誰も攻撃してこなかったのは対処する人がいないからじゃ……」

――ダダダッ!!

菜々「……はっ! しまっ……土埃の方向から足音が三つ……!」

――ザッ ザッ ザッ

凛「リングを射出……そんな芸当が出来るならもっと早く言ってよ……」

未央「秘密兵器はとっておくものじゃん? なんにせよ、ぶっつけ本番に近い形だったけど成功して良かったよ」

卯月「……二人とも、あそこを見て!」

――コォォ……

菜々「……あはは、なんですかそれ。見れば見るほどインファイターじゃないですか」

菜々「天使を守る地上の門番は三人ですか? ナナの夢にどうして立ち塞がるんです?」

凛「ただの人助け……かな」

未央「何にせよ人のものを盗んじゃ駄目だよ」

菜々「盗んだんじゃないです、これはきっと運命なんです、ナナの理想は目の前なんです!」

卯月「…………」

凛「今回は、誰か明確な被害が今の所不確定だからね、うまく説明できないけど」

未央「力を失った……とは聞いてるけどホントのところ、正しいかも分からないし?」

凛「だから、その『理想』以外の理由があるなら、聞くよ?」

菜々「……なるほど、交渉の余地はあると?」

卯月「はい、だから……今すぐ攻撃は――」

――カッ

未央「うわ……!?」

凛「くっ!?」

菜々「こっちにはありませんね……ナナの目的は最初から今まで一つです」

菜々「別にあなた達三人には関係ないことです、邪魔をしないならこっちも邪魔はしませんが!」

菜々「……妨害するなら、容赦しませんよ?」

――キィィン

卯月「避けて!」

未央「言われなくともっ……!」

――ドガァン!!



――バサッ

卯月(……!?)

卯月「今……! このタイミングで……!」

菜々「余所見している暇ですか!」

凛「ウヅキ! 一旦隠れるよ!!」

――ゴオオッ!!



菜々「……はっ、三人に気を取られている間に肝心の対象を見失いました!」

菜々「むむむ……いつの間に街の方向へ? 感じる気配が急に途切れましたね……ずいぶん遠くに逃げたようで」

菜々「そして三人の姿も……あれ? これまた感じなく……んー?」

菜々「……とりあえず、騒ぎになる前にナナは一度退散しましょうか?」

――ファサッ

菜々「ウサミンウイング! さぁ天使の姿となって夜空を飛翔しましょう!」




・・

・・・

??「……無事ですか?」

幸子「ボクは大丈夫ですよ」

ベテトレ「嘘つけ、傷だらけじゃないか……よくあの猛攻で無事だったな」

幸子「ボクは天使ですから」

卯月「っ……あ、あれ? ここは?」

凛「建物……の中?」

??「いえ、わたしの領域内です」

未央「領域……?」

小春「説明します~」

卯月「あれ? コハルちゃん……途中から姿が見えなかったけど、どこに?」

小春「ずっとこのお姉さんの部屋にいました~」

小春「お姉さんは自分専用のお部屋を持っているんです~」

凛「……?」

ベテトレ「お姉さんというのは私ではないぞ? 妹の事だ」

??「初めまして、わたしは……そうですね、一族の最も末なので『ルーキートレーナー』と名乗りましょうか?」

ルキトレ「わたしは好きな場所から、この部屋に人物や物をご招待できます」

ルキトレ「他の人が武器の収納などに使用する力を極限まで習得した結果です」

卯月「収納……ってことは、これは空間魔法……こんな大規模な……?」

ルキトレ「専門ですから、ね」

幸子「ボクがあちら側の気配を感じないという事は、向こうもこちらを見失ったところでしょう」

幸子「安全な場所ですが、人の能力である以上ここにずっと留まる訳にもいかず……」

ルキトレ「機を見て外へどうぞ、出口はあちらなので」

幸子「……少し、滞在しますね」

ルキトレ「構いませんよ」

凛「……私達は、助けてもらったのかな」

未央「あの攻撃の中……ご迷惑おかけしました」

ベテトレ「いや、領地内で起きたトラブルに対応しただけだ……義務的にな」

卯月「……あ、そうだ」

卯月(さっき反応したのは……間違いなく経典!)

――ガサッ

ベテトレ「何だ? 何か落し物か?」

小春「……わぁ、おっきい本ですね~」

未央「それを取り出すってことは……もしかして?」

卯月「勘違いじゃなければ……!」



~ 天使の力が幻惑を呼ぶ、狙われるのは三人目 ~



未央「へ? なにこの……指令?」

卯月「よくわからないけど、一見して内容が読み取れなくなってるんだよ……でも、すぐに分かる事もある!」

凛「天使……どちらかが絶対に関連している……もしくは、争っている事がそもそも駄目?」

ベテトレ「……その本は」

ルキトレ「もしかして、いやそんな……」

幸子「妙な力を感じますね、天界でもそんなに凝縮された力は見た事がありませんが……?」

未央(今更だけど、隠さなくてよかったの?)

凛(……だね、全員が知らない前提で今まで進んでたけど)

卯月「……えっと、どう説明しよう?」

小春「?」

――ペラッ

卯月「……という経緯がありまして」

ベテトレ「いや、その本……違うな、経典が本物と分かった段階で予想はついたが……」

ルキトレ「本物……ほかの秘宝を実際に見た事はありますが……これは初めてです」

凛「他の?」

ルキトレ「はい、わたしは『栄光の聖剣』と『創造の歯車』を見た事があります」

未央「しまむー聞いた事は?」

卯月「えっと……たしか栄光の聖剣っていうのはどこかの国が保管、展示しているって聞いた事が」

卯月「所有者に試練と成長を与える剣……とも聞いた事があります」

ルキトレ「その通りです、展示品なので自由に見れるものとしてあまり希少価値はありませんが……」

卯月「もう片方の創造の歯車は、たしか組み込んだ機械に使用者の理想とする機能を発揮する、でしたっけ?」

未央「へぇー……なんだかとんでもないマシンが作れそう?」

凛「アキハさん? に渡したら喜びそうだね」

ルキトレ「……え?」

ルキトレ「会った事があるの?」

卯月「はい、紆余曲折あったのですが……実際に対面して話した程には」

ルキトレ「……それで、歯車は?」

卯月「……?」

ルキトレ「創造の歯車の持ち主は、その人ですよ?」

未央「え? それ、しまむー聞いてた?」

凛「実際に会ったのはウヅキだけだよね?」

卯月「ええ? わ、私はそんなの聞いてないよ? 教えてくれなかったし!」

ルキトレ「誰かに盗られたりしないよう、常に身につけているはずです」

卯月「うーん……そういえば歯車みたいなものは持ってたような持ってなかったような……」

ルキトレ「あくまで人の手に渡る事を危険視して持ち歩いているらしいですけどね」

凛「それってどういう事?」

ルキトレ「本人は使う気が無いという事です。自らがその筋の専門家ゆえに頼りたくないのでしょう」

未央「自分の手で作るのが目標って事かぁ……凄いなぁ、あんな人型ロボットまで作っちゃうんだもん」

凛「ロボット……?」

卯月「そっか、二人は知らなかったっけ? 二人が案内してもらったノアさんがそうなんだよ」

未央「……あ! そうだった、カイさんがボロボロにしちゃってたけどアキハさん直せたのかな?」

ルキトレ「あれ? ちょっと待ってください……ロボット?」

卯月「はい、ノアさんっていう名前の」

ベテトレ「変だな、人型の自律志向を持っているかのような言い方だが……その技術は完成していないはず……」

小春「お人形さんですか~?」

ベテトレ「私の専門は情報だ、自律志向ロボットを製作できる技術が整っていたら、何らかの情報が得られたはずだ」

凛「でも現に私達三人ともロボットである彼女に会っているし、機械であることも確認しているよ」

ルキトレ「どのような形でですか?」

未央「目の前で部位的に壊れて、中身が見えたよ」

幸子「それは本格的にロボットですね、展開には機械という技術がありませんから詳しくないですが」

卯月「私はノアさんが直々に中身の構造を見せてもらって……あっ!!」



卯月「その時……見ました、中に歯車のような部品があるのを……!」

小春「という事は、その歯車を使って作られたお人形さんなんですか~」

ルキトレ「え? 歯車が使われてた……? そんなはずは……」

ベテトレ「ああ、妙だ……あのアキハという人物は決して作品には使用しないと……」


幸子「なんだか考察が進んでいるようですが、今なんとかしないといけないのはこっちなんですよ?」

小春「もう一人の天使さんは一時撤退したようです~」

凛「そうだったね……でも、それに加えてこっちの経典の指示もある……」

未央「天使の力が幻惑を呼ぶ……幻惑ってのはあのナナって言う人の事かな?」

幸子「偽物という意味なら解釈としては間違ってませんね」

ベテトレ「問題は……この『狙われるのは三人目』か」

凛「心当たりは?」

ルキトレ「え、っと…………」

卯月「…………」

卯月(歯車……自分でロボットを作る事を目標にしていた人が、普段使わないと決めたモノを使ってまで……)

卯月(……よく考えたら、そのお話をして以来一度も会ってないや。今度ちゃんと会いに行こう)

ベテトレ「はっきり言おう、心当たりはある」

卯月「え? 本当ですか!? じゃあ早速……その人を私達が天使の争いに巻き込まれないように……」

ベテトレ「その件だが、もう手遅れの可能性が半分ある」

卯月「はい? 半分とは……?」

ベテトレ「私達の一族は、現在四人体制でコハルと国を警備している……そして、三人目というのが……」

凛「四人の中で三番目……」

ベテトレ「その三番目が上と下どちらから数えるかで変わるのだが、仮に下から数えた場合の三番目は私だ」

ベテトレ「つまるところ、既に巻き込まれていると言えるだろう」

幸子「という事は残りの半分は、まだ巻き込まれていない『上から数えた場合の三人目』という事ですね?」

未央「じゃあ、早くその人の所にも……」

ルキトレ「一つお聞きしますが……行って、話して……その後はどうするつもりなんですか?」

卯月「それは勿論、内容を話した後は経典の通りに……狙われる事を防ぐために――」

ルキトレ「その三人目がどちらだろうとお姉ちゃん達にはお仕事があります、国のための」

ベテトレ「……私は表立った動きを毎日こなしているわけではないから構わないが、もう片方はそうもいかない」

小春「お姉さんは見回りを毎日してくれています~」

ルキトレ「警戒が必要な現状に、その業務に支障を起こすのはかえって危険です」

卯月「でも、狙われる可能性が高いんですよ!」

ベテトレ「元々そういう仕事柄だからな……あまり私達には関係のないことだ」

ベテトレ「その経典の指示通りに動く事を目的としている三人には悪いが……こちらからそれを踏まえて変わる気はない」

幸子「お国のため、って奴ですか?」

ベテトレ「古い考えだと思うか?」

幸子「いいえ、ボクには関係ないことですが」

卯月「駄目です! 関係ない事なんてありません!」

凛「守る者が居るなら、それこそ最後まで守り通そうと思わないの?」

未央「回避出来るかもしれないなら、避けるべきだよ!」

幸子「……この三人は説得出来ませんよ? それともう一人」

――ギュッ

小春「お姉さん……居なくなっちゃうんですか?」

ベテトレ「……いや、決まったわけじゃない。もちろん決まっていようが消える気は無いが」



ルキトレ「こちらの意見は先程の通りです……時間も時間ですから、今は……」

未央「そうだね……いったん帰ろうか」

凛「明日もナナっていう人が来る可能性もあるからね」

幸子「ボクは今出て行くとややこしいのでここにいますね!」

卯月「じゃあ……一旦解散です。動きを買えない理由は分かりましたし、無理に変えてとは……事情があるので言いません」

卯月「ただ、気をつけてください……ね?」

ベテトレ「ああ、全員に伝えておくし私も注意しておこう」




・・

・・・

菜々「昨日は気配が薄れたのでそのまま帰ってしまいましたが」

菜々

「よくよく考えれば全ての気配が同時に消えたというのは違和感があります、何か変です……」

菜々「というわけで、もう一度あの国へ向かいましょう……昨日実際に会った人のうち、誰かに当たれば確認できます」

――ザッ ザッ

菜々(今回は目立たない方がいいですね、力は隠してあくまで普通のウサミン星人として……)

――ザッ

トレーナー(気をつけてとは言われても……あのサチコという人は妹の部屋に居る、注意すべきはもう片方……)

トレーナー(ひと目で目立つから分かる、と言われましたからね。目下のところ大丈夫でしょう!)

――ザッ

??(ふう、ようやく到着しましたっ)

??(未配信の情報を信じてここに来ましたけど、今のところは反応なし……)

??(ひとまず、宿を取りましょうっ)

――ザッ

??「んー、地図やとこの場所で間違いないはず、けどなー」

??(一人は聞いた情報と同じ、元々アタシが会いに来た候補やけども)

??(二人、三人……いや、他にも感じるわ……)

??(この国、弱小の割には……強すぎる気配多すぎひん?)

――ジリリリ カチッ

凛「……時間通りには起きれたかな」

未央「おはよー! もうご飯出来てるよー」

凛「もう起きてたの?」

未央「正確には私もしまむーもぜんぜん眠れなかったかな、あはは……」

凛「駄目じゃん……体が資本なんだから、ちゃんと体力回復しないと」

未央「だって昨日の今日だからぜんぜん緊張しちゃってさ」

凛「それでも横になるだけで回復できるんだから、ほら今からでも寝た寝た!」

――ガチャッ

卯月「リンちゃんおはよう! あれっ?」

凛「ウヅキも寝てないんでしょ? もう一回ベッド、ほら」

未央「昨日と逆だよー!」

卯月「……なにごと?」



――バタン

凛「……朝から疲れた」

凛(昨日もそうだけど、私達と共に動いたり、相手になるのはほとんどが格上……)

凛(ウヅキが私とミオが居ない間にこなした指令も、直接の戦闘とは言い難い)

凛「…………」

愛梨「お邪魔します」

凛「……聞いてた?」

愛梨「ええ。心中察するに、自分達が『本当に強くなっているのか』と言いたそうです」

凛「ちょっと違う、強くなんて一瞬ではなれないと分かってるから……」

凛「私が怖いのは『今まで会った人みたいな強さになれるのか』って事」

愛梨「強さは人それぞれです」

凛「そのそれぞれの強さが、私は他の人の為になるような方向に伸びるかな?」

愛梨「現状では不安ですか?」

凛「当然……昨日はミオが打開してくれた、それ以前はウヅキがきっかけを作った」

凛「まだ私は何もしてない」

愛梨「経典を取り戻したのはあなたですよ」

凛「ミレイの事? ……あれは同格の戦い、二人とはそもそも戦いの基準が違う」

愛梨「……どうも自身を過小評価しすぎています、次の改善点はそこですね」

凛「自信に溢れている方がいいって事?」

愛梨「一長一短です。大事なのは正しい位置を見極めること、前線で全力でぶつかる役目には向いていません」

凛「そうだね……私の役じゃない、ミオがやってくれるよ」

愛梨「同時に、後方で皆の着火剤になる……周囲を奮い立たせる役でもありません」

凛「……それもウヅキの役、私じゃ皆の役には立てないからね」

愛梨「そこまで分かっているなら、もうやるべき事は一つじゃないですか」

凛「……?」

愛梨「では私はこれで……ああ、ついでに一つだけ」

愛梨「経典の指示ですが、今回は……確実に最低でも一つの被害が出ます」

凛「……え!?」

愛梨「誰の何に対してか……それは行動次第です」

凛「ちょっ……そんな重要な事……!?」

愛梨「望まない形にならないように……慎重に行動をお願いします」

愛梨「新たな登場人物は、二人……」

――フッ

凛「う……一つの被害……三人目の事? それとも、一人とは言っていないから何らかの物に……!?」

>>257 防御癖 → 防御壁
>>355 名前表記がベテトレではなくベテランになっていました。

お詫び
毎日更新を目指していましたが、19日の更新が間に合いませんでした。
本日も深夜帯に更新が間に合わなかった場合、次の更新が水曜日の遅くになる可能性が高いです。
待たせる事になって申し訳ありません。

乙乙

体調にはお気をつけてー

蒸し暑いからね、仕方ないね



・・

・・・


小春「お姉さんお姉さん~」

ベテトレ「呼んだかな?」

小春「お姉さんもですけど、お姉さんのお姉さんを呼んでいます~」

ベテトレ「というと……」

マストレ「私の方か? 直接用件とは珍しいが」

小春「昨日のウヅキさんのお話は聞きましたか~?」

マストレ「ああ、妹から聞いたが……それが私に何の用件かな」

小春「なら……あのお話が解決するまで街の見回りを変わって欲しいんです~」

マストレ「変わる……妹とか? 私が代わりに、と?」

小春「そうです~」



小春「お姉さん達はこのままでもいいかもしれませんが、コハルは困るんです」

小春「……コハルの前から、もう誰もいなくならないで欲しいんです」

ベテトレ「…………」

マストレ「そういう事なら仕方がない、数日だけだが業務を入れ替えよう」

小春「本当?」

マストレ「ああ、館内なら流石に大丈夫だろう。妹達の無事を祈るよ、勿論二人ともを含める」

小春「お姉さん……」

ベテトレ「……分かっている」

マストレ「では早速だが、既に外へ出ている妹の元へ向かうとしよう……」

マストレ「もう巻き込まれている、なんて事にならない内にな」

トレーナー「へくしっ……寒くはないはずなのに……」

トレーナー「きっと王女が噂してますね、自分の身は守れますとも……」

――ザッ ザッ

トレーナー「今日も変わらず平和です、うーん」

――ザッ ザッ

トレーナー「……あの天使さんが来たせいでしょうか? 国の雰囲気が変わったというか」

トレーナー「いろいろな場所から大きな気配を感じます、敵意は感じませんけど」

――ポンッ

トレーナー「ひゃっ!」



マストレ「……呑気だな」

トレーナー「あ……あれ? どうしてここに?」

マストレ「コハルから伝令だ。これから数日の間、私と仕事を変われ」

トレーナー「仕事? 変わる?」

マストレ「そっちの担当である巡回と、私がコハルの護衛をする事を変わるという事だ」

マストレ「昨日の経典に書かれた内容を警戒している」

トレーナー「経典……?」

マストレ「何だ? 妹から連絡を通してなかったのか? 珍しく怠慢だな……後で叱ろう」

トレーナー「もしかして……その経典とは」

マストレ「ああ、詳しくは館に帰ってから聞いてくれ。今想像しているものでだいたい間違ってはいないと思うが」

トレーナー「……分かりました、私は戻ればいいんですね? その経典はどこに?」

マストレ「昨日館に招いた三人組の所有物だったらしい、珍しい所の話ではないな」

トレーナー「本物……」

マストレ「とにかく、今は早く戻るんだ。護衛が居ない時間帯を作ってはいけない」

トレーナー「分かりました、では私はこれで」

――スッ

マストレ「ああ。……なんだ、随分早いな?」

マストレ(しかし見回りの仕事など数年振りだな、勝手を覚えているだろうか?)

――スタスタスタ

トレーナー「……あれ、街中で姿が見えるなんて珍しいですね?」

マストレ「なんだ、まだ居たのか。ちょうどいい、さっきの話の続きなのだが」

トレーナー「さっき? 私は今初めてここに来ましたけど……」

マストレ「いや、つい数秒前までここで私と話していたじゃないか」

トレーナー「……?」

マストレ「どういう……事だ……!?」



??「ふーん……『灰姫の経典』ですか……」

??「まさかこんな場所で秘宝の一つに会えるとは思っていませんでしたっ」

??「目標変更ですね、さてさて三人組というのはどこの誰なんでしょう?」




・・

・・・

――ジリリリ

卯月「……はっ!?」

卯月(リンちゃんに押し込まれるがまま二度寝しちゃった)

未央「うーん、あと五分……」

卯月「もうお昼になっちゃうよ! 起きて!」

未央「むがー……」



卯月「……起きた?」

未央「ばっちり、ところでしぶりんは?」

卯月「部屋に居なかった?」

未央「そう見えるけど、トレーナーさんの所に行ったのかな?」

卯月「かもね、朝ご飯もなくなってるし……今の所、警戒すべきはあのナナさんだけ、少し落ち着いたら動こうよ」

未央「私達も見回りだね、よーし気合い入れなくちゃ!」

この口調は……!?

――ガチャッ

マストレ「コハル!」

小春「あれ?」

ベテトレ「……まさか、なにかあったのか?」

マストレ「いや、もしやと思っただけ……何も起きていないか?」

トレーナー「はぁ、はぁ……姉さん早いです……」

小春「お姉さん達は無事でしたか~」

ベテトレ「しかしそんなに急いで……本当に何もなかったのか?」

マストレ「何もなかったのは無かったのだが、どうにも拭えない違和感があった」

ベテトレ「違和感?」

トレーナー「私が聞いた覚えのない事を、既に私に話したって言うんです」

小春「忘れた……ではなくてですか?」

マストレ「ものの数分も経っていない、忘れるにしては早すぎる」

ベテトレ「……確かに、それが事実なら妙だ」



ベテトレ「考えられるのは、外部からの攻撃だが」

マストレ「攻撃を受けた認識はない、それは確かだ」

トレーナー「私もです」

小春「侵入者ですか?」

トレーナー「昨日の一件から警戒心は高めています、不意打ちも受けません」

ベテトレ「記憶を消す、体感時間を飛ばす、偽物を用意する。この状況になりそうなのはこれくらいか」

マストレ「だが何度も言うように、少なくとも私は絶対に何かをされた認識はない」

マストレ「こればかりは譲れない、攻撃に関する専門だからだ」

小春「お姉さんが言うなら間違いないですよ~」

ベテトレ「なら、攻撃が加えられていない以上理由は分からないが……偽物か?」

トレーナー「しかし、いくら精巧な偽物でも姉さんが間違える事は……」

マストレ「当たり前だ、似せただけの人物や複製品など軽く見破れる」

ベテトレ「……最後に一つだけ可能性がある、専門家だろうと認識を間違う可能性が一つ」

ベテトレ「最も、これはこれで問題があるのだが」

トレーナー「問題……?」

ベテトレ「そもそも認知を誤魔化せば欺く事も可能……『本人と思い込む』、『偽物と思わない』等だ」

小春「どういう事ですか~?」

トレーナー「誤認させる……という事?」

ベテトレ「見破られないように振舞うのではなく、根元から『疑う事を忘れさせる』と完璧だ」

マストレ「ちょっと待て、確かにそこまで根幹から偽装されると見破るのは困難だろう……」

マストレ「だが、そもそもそんな事が可能なのか? 認識を変更させる魔法や道具など聞いた事がない」

ベテトレ「私の情報では、不可能ではないとの事だ……ただし、方法は分からない」

小春「お姉さんでも、分からない事があるんですか?」

トレーナー「姉さんが……存在確認が出来ても方法が分からない、という時は……」

ベテトレ「ああ、可能だが『方法が世間的に認知されていない』時だ。私の情報網は認知されている事しか調べられない」

マストレ「人の名前は周囲に認知されている、だから人名だけでも事細かに詳細が調べられるんだったな」



ベテトレ「つまり……世間に認知されていない方法、まったく未知の技術を使った敵がこの領地内に……」

トレーナー「居る可能性がある、と……?」

マストレ「いったい何が目的で……それに認識を変えるなどと、さすがに対処の仕様がない……」

マストレ「極論を言えば、この中の誰かが“本人ではない”可能性もあるのだろう? 我々が認知出来ないだけで」

ベテトレ「……そう、なるな」

――…………

小春「大丈夫です、お姉さんはお姉さんです~」

小春「コハルの周りに、怖い人は来ないって信じてますから~」

トレーナー「…………」

マストレ「そうだな、我々が恐れていては仕方がない……せいぜい、いつも通り頑張るとしよう」

ベテトレ「……コハル、気を使わせてすまないな」

小春「いえいえ~、でもお姉さん二人は本当に気をつけてくださいね~」

トレーナー「私は今日は館内にいるので大丈夫です、それにいざとなれば妹もいますし」

ベテトレ「それでも警戒は怠らないようにな」

――スタスタ

凛「……そろそろ起こしに戻ろうかな、少しくらいは睡眠も取れただろうし」

凛「今日の動きを全員で相談しないと……あれ?」

未央「よし、これでバッチリ……!」

凛「ミオ、もう起きてたんだ」

未央「へ? あー、おかえり、どこに行ってたの?」

凛「二人が寝ている間に散歩。ついでに街中を警戒しつつ歩いてみたけど、余計なお世話だったかな」

未央「大丈夫大丈夫、やるやらないで言ったらやった方が絶対いいって! ところで、例のアレどうなった?」

凛「例の……? ああ、もしかして昨日の事? サチコさんならまだ会ってないし、トレーナーさんとも会わなかったから」

未央「進展なしかぁ……じゃあ次、私達どう動くの?」

凛「ウヅキが起きてから決めよう、天使の力の奪い合いを解決すべきか……経典の指示を先に解決すべきか」

――ガチャッ



卯月「あれ? なーんだ、もう合流してたんだ、置いていくなんてひどいよー!」

未央「あはは、ごめんごめん……ふらりと外に出たら先に合流しちゃった」

凛「今ミオと話してたところだけど、次の動きをどうしようかと相談していたんだ」

卯月「それはもう、経典の方がいいんじゃないかな……たぶん、この問題にはどっちも同時に解決出来る鍵があるはず!」

凛「……それなんだけど、私からも少し話したい事があるよ」

未央「お、新しい情報?」

凛「さっきアイリさんに会った、その時に教えられたんだけど……」

――…………

未央「被害?」

卯月「少なくとも一つの……」

凛「今の所、候補は経典を全員で見た時と変わらず……トレーナーさんのうち……」

卯月「どちらか、だね」

凛「どうする? 私達も応援に行く?」

未央「向こうもこっちから話したんだし、それなりに対策はしてくれてるはず……むしろ私達がいると邪魔かもしれないよ」

卯月「かといって放っておくのも……」

未央「じゃあ分担してやるのはどう? 一人だけでも向こうの状況を把握しておくと動きやすいかも」

卯月「うーん……分かれた結果うまく行った事がないからなんとも……」

凛「私も、分かれるのは反対かな」

未央「そう? んー……じゃあ、どうする?」



凛「そうだ……もう一つ、言い忘れてた事があったよ」

凛「最後に小さく……『新たな登場人物は二人』って」

卯月「二人、新しくこの事件に関わる人が?」

未央「味方? 敵?」

凛「分からない、とにかく二人は事件に加わるはず……同じ人同じ相手だけを見ていたら、こっちを見逃す……!」

凛「そういう意味でも、私は分かれるのに反対する。情報はなるべく共有したい……」

未央「でも、その二人を早く特定するためにも分かれた方がいいとも思うよ?」

卯月「どっちにする?」

凛「……これじゃ、決まらないね」

――ザッ

凛「折衷案として、全員で捜索する……結局、これが一番かな」

卯月「はい! しっかり私が責任持って経典を持ちます!」

凛「……大事なものを運んでいるアピールはほどほどにね」

卯月「そっか!」

未央「ごめんごめん遅れたよ、ただいま」

卯月「おかえり! じゃあ行こっか、見回り兼警備……!」

未央「お、そっちに決まったんだね? よーし行こう行こう!」

凛「見回りも警備もほとんど一緒だって……まず注意すべきは気配」

卯月「怪しい動きしている人をマークして」

未央「警戒を強めるよ!」

――ザッ ザッ



マストレ「目立ってしょうがないが……彼女達が堂々と警備し、私が忍んで警備すればどちらかには掛かるだろう」

マストレ(……今の所、私と妹どちらの網にも何も目立った反応は無い)

マストレ「油断は禁物だが……さて、どうなる?」

――ガコォン

幸子「っと……ようやく天が見える場所へ出てきまし……なんだ、屋内じゃないですか」

ルキトレ「直接外は危ないかと思いまして、ここは館内です」

幸子「という事は」

小春「あ、お姉さんと天使さん」

幸子「またお会いしましたね、おおよそ一日ぶりです」

ルキトレ「一日は経過してませんけどね」

幸子「そんなもの誤差です誤差、ボクにとっては秒も分も時間も日もたいして差はありません」

ルキトレ「元々あんま差がないような……」

幸子「ああもう細かいですね! とにかく、あなたのお仲間が安全というから出てきたわけですが、本当でしょうね?」

小春「お姉さん達は嘘つきませんよ~」

幸子「だといいですけどね。ま、ボクの力が反応していないので本当にいないんでしょうけども」

幸子「念の為、館内に居座らせてもらいます、構いませんか?」

ルキトレ「どうぞ、ただし変な気は起こさないように……お姉ちゃんが見張っていますからね?」

幸子「無論です、天使も空気は読みますよ」

ルキトレ「確かに聞きましたよ、では……」

――ガコォン

――……ガチャッ

幸子「ふーん」

小春「扉は普通の扉ですよ~」

幸子「どの扉からでも自分の場所に移動できるというのはとんでもない能力ですね」

ベテトレ「能力ではないよ、前にも説明した気がするが……これはただの魔法だ」

幸子「それにしては高度すぎませんか?」

ベテトレ「専門だからな」

幸子「専門って……」

ベテトレ「あまり詮索するんじゃないぞ? 私が見張っているからな」

幸子「変な気ってそういう事ですか? はいはい、大人しくしておきますから……」

小春「お茶でもいかがですか~」

幸子「頂きましょう」




・・

・・・


菜々「……ピピッ、久しぶりに受信しましたよ?」

菜々「突然すぎて妙ですが、感じたのならナナの目的のために……討伐せねばなりません!」

菜々「どうにも監視が昨日より数が多く質も上がっています、警戒が強いですが……こっそりーと……」

マストレ「こっそりと、何処へ行くのかな」

菜々「はわっ!?」

マストレ「昨日は随分暴れていたな、ずっと見ていた」

菜々「見ていた……むむ、やはり感じた気配は間違ってませんでした!」

マストレ「隠す必要もなかったと思ってな、今はこっそりと近づかせてもらったが」

菜々「確かにナナの力でもまったく感じませんでした、が……!」

菜々「前回は見ていながら介入してきませんでしたね? 部外同士の戦いには割って入らないのが普通と思いますが?」

マストレ「普通はな、だがこのまま進むのなら部外者ではなくなる」

菜々「……もしかして、匿ってます?」

マストレ「違う、客人として招いているだけだ」

菜々「建前は、ですか?」

マストレ「喧嘩を売るなら覚悟しろ」

菜々「滅相もない、ナナは平和に解決したいだけなんですよ」

マストレ「平和ね……あの様でか」

菜々「被害は出てませんよね?」

マストレ「これからも出ないとは限らない」

菜々「出しません、信じてくださいよ」

マストレ「確証が持てないな……とにかく、これ以上先に進むなら――」

菜々「進むなら……むむっ!?」

――スタスタ



幸子「ああ、見つけましたよお姉さん、少し要件があるんですが構いませ……あ!」

――ピシュン!

幸子「うわっと!?」

菜々「これは棚からぼた餅です、ここであったが二日目!」

幸子「ななな、あれっ? 間違えましたか!?」

マストレ「来るタイミングは完璧にな……!!」

菜々「ウサミンパワーで完全勝利です!!」

――ドゴォン!!

卯月「今の……!?」

未央「うぇえ、反対の方角だ……間に合うかな?」

凛「とにかく急ごう……! サチコかナナかトレーナーさんか、それとも第三者か……!」

卯月「街中だから応援もすぐに来るはず! 早く私達も……!」

――ダダッ



小春「はわぁ……?」

ベテトレ「何だ!? すぐ近く……ではないが、街中には違いない……!」

トレーナー「姉さんがいるはずなのに……! と、とにかく私達も向かった方が!」

――バタン!

幸子「なんですか今の音は! ……む、この感じ……またあの自称天使が来たみたいですね!」

トレーナー「そこで事を起こしているのも当人か分かりますか?」

幸子「そこまでは分かりませんが、こんな事をするのは彼女だけでしょう?」

ベテトレ「どちらにせよ、警戒を強めるんだ、いいな?」

幸子「……増援は出さないのですか?」

トレーナー「護衛が居なくなり、ここが襲撃される方が危険です」

幸子「なんというか……役目に忠実ですね? 融通が利かないとも言いますが」

ベテトレ「それは部外者が言う事ではない」

小春「…………」

幸子「はいはい、分かりましたよ、ボクは引き下がります」

小春「……でも、お姉さんが危ないなら助けて欲しいです」

トレーナー「私達より、王女を守る方が最優先です」

小春「コハルにとってはコハルもお姉さんも、どっちが優先すべきなんてないんです」

小春「……コハルはここで天使さんと待ってますから」

ベテトレ「それは、いくらコハルでも聞き入れられないな……」

ベテトレ「彼女はこれでも部外者だ、そしてその人物と二人きりにするなど出来ない」

小春「そう、ですか」

幸子「…………」



幸子「あー、ここの国は平和ですけど、窮屈ですねぇ」

ベテトレ「……何かな、急に」

幸子「凝り固まってるという意味ですよ、天使なボクがありがたいお説教してあげましょうか?」

幸子「こんなに自分の考えを持っている王女様を、過保護すぎます」

ベテトレ「なら、危険に晒してもいいという事か?」

幸子「ま、覚悟があるならそれでも構いませんよ――」

――ダンッ!

ベテトレ「…………」

幸子「……流行りの壁ドンですか? ボクが前に進めないので、どけてくれませんか?」

ベテトレ「コハルの前だから多くは言わないが……これ以上、私達は守り損ねるわけにはいかないんだ」

幸子「それはあなた方守る側の理屈でしょう、守られる側の気持ちは考えた事は?」

幸子「自分は守られて、周りがどんどん居なくなるってのは中々に辛いものですけど」

ベテトレ「十分承知している……しかし、方法がないのも事実だ」

幸子「その辺がカタいんですよ、いくらでも方法があるでしょう?」

トレーナー「方法なんて……人手は不足していて……」

幸子「人手が足りないなら天使でもなんでも使えばいいじゃないですか、よいしょっと」

――バタンッ

ベテトレ「おい! ここでしばらく身を潜めるのが目的だろう!?」

幸子「しょうがないじゃないですか、あなた達が動かないならボクが動くしかないでしょう」

――バサッ

小春「わぁ……!」

トレーナー「これは……そ、そこは窓ですよ?」

幸子「ですね、ちょっと小さいですけど通れるでしょう……っと!」

ベテトレ「その光、羽……本当に、魔法で得たものではなく天使の素質なのか……?」

幸子「ボクは天使ですから!」

ベテトレ「……もう否定のしようがないな。だがそこまでの具現化が出来て、本当に力が失われているのか……!?」

幸子「そうですね、本調子じゃないです」

トレーナー「最初からその力で……奪い返せばよかったのでは!?」

幸子「ボクが盗まれたのは力の供給源です! だから力を出そうと思えば出せるんですよ」

幸子「ただ……供給源が無いという事は、まぁ、大方皆さんの想像通りです」

――バッ!

小春「天使さん!」

幸子「はいはいカワイイ天使はここですよ、何かボクにお願いですか?」

小春「……大丈夫、なんですか?」

幸子「心配無用です! 力が尽きる前に取り戻せばいいんですからね、確かに最初からこうすればよかったかもしれません」

幸子「で、それだけですか……?」

小春「天使さん……お姉さんを、もしもの事があったら……コハルの代わりに助けてください!」

幸子「フフン、お安い御用です、では様子を見てくるので少々お待ちを王女様!」

ベテトレ「…………」

幸子「あ、そうそう……お姉さん方に一言だけ」

トレーナー「なんですか……?」

幸子「ボクがわざわざ出向いてあげるんですから、その間にここが襲われたなんて後で聞きたくないですよ?」

ベテトレ「……当たり前だ、この命賭けても守り通してみせる!」

幸子「それが分かってないって言ってるんですよ、まったく……」

幸子「あなた一人の命じゃないんですからね!」

――バサッ キィィン……



トレーナー「飛んでいっちゃいましたが……」

小春「天使さん……本当に天使さんです~」

ベテトレ(あなた一人の命じゃない……か)

ベテトレ「……ここは守るぞ」

トレーナー「はい、言われなくとも……」

小春「お姉さん……ずっと一緒に居てくださいね~」

ベテトレ「ああ、勿論……あの天使には、帰ってきてからしっかりと礼をしなければならんな」



幸子(……なんてカッコつけて出てきちゃいましたが)

幸子「見栄に全力しすぎてボクの天使としてのエネルギー残量が危険水域です!」

幸子「第一、最初からこうすればいいなんて言っちゃいましたが、出来る程残ってるわけないじゃないですか!」

――ヒュー……

幸子「数秒前のボクの馬鹿!」

――ドガァン

かっこいいのか悪いのかwwww

ていうか誰かが「いる」のはわかるが、話がこんがらがってきたぜ…

菜々さんが相手してる幸子が偽物なのか
それとも今落っこちた幸子が偽物なのか

――パラパラ……

幸子「いや申し訳ない、空から天使が降ってきたらビックリしますよね!?」

幸子「……なんだ、ただの倉庫でしたか。じゃあ失礼して、外へ出ましょう――」

――ガタッ

??「わあっ!?」

幸子「おっとっと……ここは壁が崩れてて危ないですよ、ほら外へどうぞ」

??「あ……間が悪いなぁ……」

幸子「何の事ですか? それとも初対面にいきなりそんな言葉遣い駄目じゃないですか、ボクは天使ですけど」

――ドゴォン!!

??「っと!」

幸子「うわっ!? なんですかもう!?」

――コロン

??「あっ」

――サッ

幸子「……ん? 今あなたが落とした物…………待ってください!」

??「はい? 何でしょう? 私、急いでるんで手短にお願いしますっ」

幸子「それ……元々ボクの物です、大事な物なので返してくれませんか?」

幸子「……ついでに、それは奪われたものなんですよ。どこで手に入れましたか?」

??「盗られた物なんですか?」

幸子「過程ですけど、とにかく……」

??「じゃあ私がとりかえしましたから私のものです」

幸子「……はぁ?」

??「盗まれた物を、さらに盗って所有物にするのは暗黙の了解ですよね?」

幸子「ちょっと何言って――」

――ガラッ……

菜々「このっ……返しなさ……あれっ!?」

幸子「このタイミングでさらにややこしい人に会いました……!」

菜々「……ナナは天使の力を手に入れましたが、そんな効果は知りませんよ!?」

幸子「んん?」

菜々「どうして、まったく同じ姿をした人が二人……どういう仕組みですか!」



幸子「まったく同じ……? ボクは分身なんて出来ませんよ!?」

幸子「それに、ここに居る人はいたって普通の人に見えますが……?」

??「……普通? 私の姿が、普通に見えますか?」

幸子「おかしな事を言う人ですね! 背丈は高いですが規格外ではないですし、普通の人間族でしょう?」

??「変だなぁ……どうして効果が及んでないんでしょう……」

菜々「同じ顔が、同じ声で会話して……あれ、あれれ……?」

??「もうっ、あなたが何故か私をちゃんと認識しているせいで、この人まで効果が解けそうじゃないですかっ!」

幸子「……? ……?」

――ダダダッ ザッ

卯月「到着しまし……わっ!? ど、どうなってるんですか!?」

凛「これは……マスタートレーナーさん、状況の説明を……!」

未央「敵は!? む、そこにナナさんが居ますね! 街で襲撃をかけるなんて、さすがに温厚なミオちゃんも怒るぞ!」

幸子「マスター……? ここにその人は居ませんよ!? 皆して一体誰の何を見ているんですか!?」

凛「居ないって……その隣に居るのが見えてないの?」

幸子「隣にいる人はボクの知らない人です!」

??「あー……もう駄目、これじゃ誤魔化し切れませんっ」

??「さっさと予定変更に限ります、ちょうどもう一つのお宝も近くにある事ですし……!?」

――ドゴォン!!

幸子「っわぁ!? また壁が崩れました! 今度はなんですか!!」

凛「壁から腕が突き抜けて、マスタートレーナーさんの首元に……!」

未央「……あれ? でもあのちょっとだけ見える腕って――」

??「うわっと」

マストレ「逃がさん……!!」

――ゴシャァッ!!

凛「ふ、二人目……? どうなって……あれ……!?」

卯月「さっきまでトレーナーさんだと思ってたのに……だ、誰!?」

幸子「だからさっきから言ってるじゃないですか! ボクの知らない人だって!」

――グッ

マストレ「私が上、お前が下だ……! 捕まえた、もう逃がさんぞ……」

??「そう見えます?」

マストレ「話は後で聞こうッ!」

――メキッ! ガシャン……

マストレ「……!?」

未央「うわっ……え!?」

幸子「思い切り力を込めたように見えた瞬間……岩になって砕けた……?」

??「私を捕まえたと思ってただけですよ、私は最初からこっちにいますからっ」

マストレ「くっ!」

卯月「いつの間に……!」

菜々「ナナの天使の力、返しなさい!」

幸子「元々ボクのですってば!」

マストレ「お前は誰だ、何が目的だ」

??「私はしがない収集家ですっ、今日はとある情報を頼りにこれを頂きに来たのですが」

――シャラン

幸子「ボクの力の源!」

菜々「ナナの力の源!」

幸子「だからボクのですって! あなたのものでもあの人のものでもないです!」

??「とまぁこれは手に入ったので置いといて。そこの三人の方、なにやら凄い物を持っているそうですねっ」

未央(……!)

卯月(まさか、私達の事をどこで……?)

凛「……私達は普通の旅人だよ? もしかして、この宝石でも狙ってる?」

??「あはっ、それもいいですけど……もっと素晴らしい“秘宝”を持っていませんか?」

未央「さぁね……もしかしてミオちゃんの武器をご所望か、なッ!!」

――ギュン!!

卯月(昨日披露したリングの発射……!)

未央「先手必勝!!」

??「わぁ」

――パァン!!

未央「お、おぉ……?」

マストレ「奴が……割れた? まるで風船のように――」

??「不思議ですか?」

凛「なっ……!?」

――ザザッ!

菜々(いつの間に真横にっ……!?)

卯月「移動が早い……目で追えてないっ……!」

??「違います、早いわけじゃないです。ただ皆さんが“あの場所に私がいる”と勘違いしてただけなんですよ」

凛「くっ!」

――ヒュッ ドゴッ!!

凛(感触はあった……でもっ……!)

幸子「蹴った像が……消えた!?」

??「もうっ、ちょっとは説明させてくれてもいいじゃないですか」

??「とにかく、私は危害を与える目的ではなくお宝を集めているだけなんですよっ」

??「……今なら平和に事が済みますけど、出してくれませんか? ……お持ちの“灰姫の経典”!」



卯月「……嫌です!!」

??「ですよねっ。では仕方ありません、実力で頂きますよっ」

――ザッ……

マストレ「来るか……!」

幸子「ボクのも返してください!」

菜々「もちろんナナにです!」

卯月「経典は渡しません!」

未央「来るならどこからでも来い! こっちはこんなに人数がいるんだ!」

凛「じゃあここから攻撃するね」

――バキッ!!

未央「っぐぇ……!??」

――ドカッ ズザッ

卯月「……えっ? リンちゃ、なにして――」

マストレ「ウヅキ!! それはリンじゃない!!」

卯月「……!?」

幸子「なっ、何ですかこれ――」

凛(?)「遅いよ!」

――ドゴッ!

幸子「げほっ!?」

卯月「サチコちゃん!?」

幸子「顔は駄目でしょう顔はッ!」

マストレ「大丈夫か!?」

幸子「ええ、ボクは天使ですからこれくらいは大丈夫――」

――ザクッ

マストレ(?)「ならばしっかりと追撃しなきゃな」

幸子「ごふ…………あ、れ?」

卯月「っ……!?」

凛「サチコっ!!」

マストレ「くそっ! 何だこれは……まずは固まれ! いつ我々の中に紛れ込むかも知れない!」

菜々「来ないでください! そもそも、本物を装ってナナに攻撃する気でしょう!? そうは行きません!」

??「皆さん何しているんですか? 私はここから一歩も動いていませんよ?」

マストレ「嘘を言うな! 誰かに化けて同士打ちを狙おうという魂胆だろう!?」

??「どうでしょうね、本当かもしれないし嘘かもしれないですよっ」

??「ここにいる私が本物かもしれません、狙ってみてはどうですか?」

菜々「言われなくとも……! ナナの力を返してください!」

凛「駄目! まだ対処も分かっていない相手に無闇に攻撃したら――」

――ザクッ!

菜々(手応え……!?)

??「ハズレです。本物は、すぐ隣でしたね、惜しい惜しいですっ!」

??「ちなみにあなたが刺したのは少し前に手に入れた不発弾です、お宝だと思ったんですが扱いに困っていまして」

菜々「……!?」

??「差し上げますっ♪ あ、もう刺しちゃってます? もしかして衝撃で爆発するかも」

??「あ、この場所にいると私も巻き込まれちゃいますね、じゃあ私も偽物です、惜しくなかったですねっ」

マストレ「くっ、全員伏せろーッ!!」



――……ドガァンッ!!

小春「…………!」

ベテトレ「おいおい……なんだこれは……!」

トレーナー「あっちで何が起きているんですか……」

小春「コハル、見に行きます……」

ベテトレ「駄目だ! 彼女が代わりに行ってくれたんだ、お前は絶対にここから出さない!」

小春「天使さんもお姉さんと代わりないです! コハルは絶対に助けに行きます!」

ベテトレ「駄目だと言って……いるだろう!!」

トレーナー「姉さん!」

小春「っ!」

――ガシッ

小春「っ…………はぁっ……はぁっ」

トレーナー「…………もう、離してもいいですか?」

ベテトレ「すまない……私もどうかしていた」

トレーナー「王女様、無礼を許してください」

小春「……はい」

小春(コハルは……やっぱり弱いです。誰も自分の手で守りにいけません)

――ガラッ……

卯月「けほっ、けほっ……!」

卯月(吹き飛んだのはこの倉庫だけ……街に被害はない、けど……!)

??「んーと、直撃していらっしゃいましたけど、大丈夫ですか?」

菜々「げほっ……かはっ……!」

――ドサッ

??「あれ、お返事はありませんか……さてと!」

卯月(来る……!)

??「もう一度私とお話しましょうかウヅキさ――」

――ガシャッ!

凛「ウヅキに!」

未央「触んなッ!!」

??「地面から……!?」

――ズドッ! バキィッ!!

??「げほ……ッ!?」

――ガシャン! ドガッ!

未央「よし! 今度こそ手応えアリ! しまむー大丈夫!?」

卯月「う、うん、なんとか……ほかの人は!?」

凛「分からない、分からないんだけど……今は目の前で手一杯だよ……!」

卯月「二人は……うん、今相手を攻撃したから本物だよね……!」

未央「連携が取れるギリギリまでは互いに離れた方がいいかもね」

――ガラガラッ

??「痛いじゃないですかっ、私は戦闘は得意じゃないんですよ……」

凛「苦手でもなさそうだけどね」

未央「……こんな事が出来て、ただの収集家なわけないよね。いったい誰?」

??「名前は教えません、だって教えたらトレーナーさん達に私の素性がバレるじゃないですか」

??「知ってますよ、既にさっき調べましたから」

――ガツンッ

マストレ「ほう……いつの間に? 情報を閉じているつもりはないが、一朝一夕で集まる情報でもないはずだが」

卯月「大丈夫でしたか!?」

マストレ「私はな、だが……姿が見えないのもいる」

??「瓦礫の下でも探せば見つかりますよっ、それで情報の集め方でしたっけ?」

??「嫌だなぁ、あなたとそこの……リンさんとウヅキさんですか? 私に直接教えてくれたじゃないですかっ」

凛「……!?」

??「きっと私を『知っている人物』だと勘違いしたんでしょう、ねっ?」

マストレ「なるほど……ようやく合点が行った、そういう事か……」

未央「私……は違うの?」

卯月「てことは……私達がミオちゃんと思って話してたのが……!?」

凛「どの時か分からないけど、つまりそういう事らしいね……経典も、どこかで言ったかもしれない」

??「……さて、そろそろいいですか? 私の素性がバレないうちに事を済ませたいんですが」

マストレ「いや、それは無理だな」

??「どういう事でしょうか」

マストレ「我々の連携を舐めてもらっては困るという事だ」

――ガチャッ



ルキトレ「お姉ちゃん!」

――ヒュッ パシッ!

??「……?」

マストレ「ご苦労、巻き込まれないうちに帰るんだ」

ルキトレ「はい、気をつけて……!」

――バタンッ

卯月「ルーキーさん……が、何を渡したの?」

マストレ「別に名前だけが情報源ではないという事だ、実際に数分間のやり取りからでも情報は手に入る」

マストレ「ふむ…………これがただの収集家か? 冗談は程々にするものだ」

??「いつでも本気ですよ」

マストレ「名前は……『ユウキ=オトクラ』、収集家は本当のようだが?」

マストレ「集める物は随分と偏重があるとの事だ、そのサチコの天使の源にしろ経典にしろ……」

悠貴「価値あるものを集めたがるのは収集家の癖ですっ」

悠貴「せっかく集めても、今みたいに使っちゃうので数は減るんですけどね」

卯月「ユウキ……」

未央「しまむー知ってる?」

卯月「いや、ぜんぜん聞いた事のない名前……でも、今は明確に敵なんだよね?」

悠貴「そうなっちゃいましたね。とにかく、その経典は是非ともいただきたいのですが……」

悠貴「ここで遊んでいると、私の情報がどんどん流出しちゃいますっ」

――バンッ

凛「逃げる……いや、そう見せかけて別の場所から?」

悠貴「安心してください、ごく普通に撤退ですよ。元々の目的はこれでしたからね」

卯月「あっ! サチコちゃんの……!」

悠貴「では、また今度お会いしましょう。出来れば私が困らない場所で――」

――ボコッ ガシッ

悠貴「わっ」

未央「うわ!? 地面から手が!」

――ガシッ

凛「もう一人……あ、いつの間に……!」

菜々「それはナナのですよ……どこに持っていくつもりですか……ね!?」

――ガラガラッ

幸子「だからボクのですって……!」

悠貴「わぁ、天使が地面の下から出てきました」

幸子「誰のせいだと思ってるんです……かッ!」

――ギリッ……!

悠貴「痛っ!」

幸子「掴んでいるのが本人とは限らないので加減はしますが……」

菜々「当然、返してもらわなきゃ全力で行きますよ?」

悠貴「それは困りますっ……!」

――ブンッ!

菜々「あっ、ちょ……!」

幸子「投げるなんて乱暴に扱わないでください!」

――ダダッ

マストレ「待て! せっかく捕まえたのに離す馬鹿が居るかッ!」

幸子「あっ」

悠貴「助かりましたっ」

菜々「知りません! とにかくこれはナナのものですっ!」

――パシッ



菜々「ふふ、おかえりなさいませ!」

――バサッ

菜々「さて、ナナを怒らせた罪は大きいですよ……覚悟してください!」

悠貴「うーん、ややこしいなぁ」

菜々「問答無用です! 全力全開のウサミンパワーで!」

――キイン!

悠貴「うわっと」

凛「ナナ……さん!」

菜々「ナナが敵対するのは理想を阻む者だけです!」

悠貴「都合いい正義感ですね……!」

菜々「ウサミンウイーング!」

――ガシャーンッ!

悠貴「よっ、それはやっぱりハズレの私です」

菜々「まだまだっ!」

――ピシュン! ズバッ! ザシュッ!

菜々「当たりが来るまで数打てばいいんです! これが大人の戦略ですよ!」

悠貴(うーん、別に無視して逃げてもいいけど……奪い返せるならそれに越したことは)

――ザッ

幸子「隙あり!」

悠貴「っと!」

菜々「邪魔しないでください!」

悠貴「共闘ですかっ?」

――ガキィン!!



幸子「……思いっきりボクごと攻撃しましたね?」

菜々「ナナはどっちに当たっても構いませんから」

幸子「本当に都合のいい正義ですね!」

悠貴(遠慮ない攻撃……やっぱり、ここから反撃は無茶かな? ならば!)

――ダンッ!

マストレ「!?」

卯月「トレーナーさん!」

悠貴「情報のこれ以上の流出は避けるために、失礼――」

――ビシュッ

悠貴「っう!?」

――フッ……

菜々「む、やっぱり偽物。ウサミンレーザー不発です」

幸子「当たりはしましたが消えたのならそのようですね」

マストレ「……すまない、こちらで対処すべきだったが」

悠貴「よいしょっと……うーん、本当に仲悪いんですか?」

幸子「当たり前です、誰がこんな盗人なんかと」

菜々「ナナを盗人呼ばわりとは何ですか、元々ナナに希望を持たしたのはそっちですよ?」

幸子「不可抗力です」

菜々「紛失は自己責任でしょう」

悠貴「……ふっ――」

――ビシュン!



菜々「動かないでください、打ち抜きますよ」

悠貴「……関係ありませんね」

――ダッ ビシュッ!

幸子「あっ!」

悠貴「無駄ですと」

――ビシュン

悠貴「さっきから」

――バシュッ!

悠貴「言ってるじゃないですかっ」

――ドシュッ!

未央「ね、ねぇしまむー……私、まったく頭が追いついてないんだけど、私がヘンなのかな?」

卯月「大丈夫……だと思う。私も、全然わからない……」



菜々「埒があきませんがこれが確実です」

悠貴「堅実ですが確実ではありませんよっ」

――バッ

マストレ「無駄だ!」

悠貴「お互い様ですねっ」

マストレ(くそっ、手数が違いすぎる……!)

菜々「危ない!」

悠貴「貰いましたよ……っ!?」

――ドガッ!

凛「分からないけど、とにかく攻撃すればいいなら手伝える!」

菜々「ちょっと、もうここは危ないですからナナに任せてもらっても――」

悠貴「まだまだ……」

未央「久しぶりの直接全力攻撃ッ!」

――ブンッ!

悠貴「危ないっ」

卯月「てやぁ!」

――ドンッ

悠貴(……いくらこっちが消耗しないとは言え六人も相手にするのは)

悠貴(それに……)

マストレ「…………!」

悠貴(これ以上、どんな方法かは分かりませんが情報が漏れると私がこれから動きにくくなります)





悠貴「ふぅ、今日は骨折り損です、何も得る物がないので帰りますっ」

凛「帰さないよ、ここで逃すと……私達の経典に用があるんでしょ? どこから来るかもわからない相手を……」

未央「チャンスだよ、勝負!」

悠貴「丁重にお断りしますねっ」

――フッ

卯月「また消えた……!」

マストレ「誰かに紛れた……なら、まだマシだな」

幸子「どういう事ですか?」

マストレ「……そもそも、既にここから撤退しているかもしれない。足から手を離した瞬間にな」

凛「そこに居たと思い込んでただけ、って事?」

マストレ「かもしれないというだけだ……もしかすると、そう思わせるのも作戦で、まだここに居るかも知れない」

幸子「過程の話をしていても議論が終わりません、とにかく……今は危機は去ったという事で」

卯月「…………」

未央「私達の場合、危機が逃げた……のが正しいかもね」



・・

・・・

小春「大丈夫でしたか!?」

幸子「ボクは天使ですから! さっきまでは半分天使でしたが今は全開天使ですよ!」

菜々「ナナは不機嫌です、ウサミンパワー枯渇です」

トレーナー「……えっと、増えてませんか?」

マストレ「かなり間接的だが、一応は貢献者だ」

ルキトレ「それにサチコさんと違って、ごく普通の一般人ですから怪我の治りも……」

菜々「ナナはウサミン星人です」

ベテトレ「そんなものはない」

菜々「無いとはなんですか無いとは」

――ガチャッ

卯月「…………」

凛「…………」

未央「んー……」

小春「……何かありました~?」

ルキトレ「『灰姫の経典が発見される』、ですか」

凛「情報電報だったっけ……」

未央「これは、あのユウキって人が流した情報だね……うーん、詳しくは省かれてるけど動きにくくなっちゃうよ」

ベテトレ「確かに、これを期に調べ始める者も出てくるだろう」

卯月「あの人……経典が目的なら、どうして公に情報を流したんだろう……」

菜々「それは簡単ですよ」

卯月「あ……大丈夫なんですか、怪我」

菜々「ばっちりです。それで、情報を流す意味ですが」

菜々「どうもあの人は物の奪取に長けています、それにあの力……一対一なら防ぎようがありません」

ルキトレ「わたしの憶測ですが、三人から誰かが経典を奪う可能性を高めて、その人物からさらに……」

凛「奪う……か」

未央「捉え用によっては、私達が三人固まってたら奪いに来ないって事だよね?」

幸子「そうとも考えられます!」

小春「いろいろ大変そうですね~……」

卯月「これからは大変だけど……それは十分に考えてた、だから覚悟はしてます」

卯月(……それよりも、一つの事案が解決したはずなのに)



~ 天使の力が幻惑を呼ぶ、狙われるのは三人目 ~



卯月(幻惑はユウキさんの事だとして、三人目……被害……?)

凛「……あんな事があってすぐだけど、街を散歩してきていいかな」

未央「えっ?」

ベテトレ「大丈夫なのか? ここなら私達の警戒網があるから落ち着いて休憩ができるとは思うのだが」

凛「休憩したいのは山々だけど……ウヅキとミオも気づいてる? 経典の内容が、解決していない」

ルキトレ「……まだ、何かが?」

トレーナー「でも昨日聞いた内容以外に何かありましたっけ?」

凛「ん、別件もあるかな……とにかく要約するともう一人、誰かに会わなきゃいけないはず」

未央「それも兼ねて散歩ね、じゃあ私も行かなきゃね」

卯月「も、もちろん私も!」

ベテトレ「そうか……ではひとまず入口まで見送ろう、一度は帰ってくるだろう?」

小春「コハルも付いていきます~」

幸子「ちょっと、勝手に出歩くと危ないですってば、じゃあボクも行きます!」

――ドタドタドタ

??「……なんや平和な国と思ってたのに、いきなり爆発して何事かと思ったわ」

??「そのせいで瓦礫の処理やらなんやら手伝って、結局こんな時間……まだ居てるかな?」

――バタン!

凛「ちょっと、ただ外を歩くだけなのにこんな大所帯は……」

幸子「つい数時間前にあんな事がありましたからね、この国の護衛じゃ彼女を守るのは不足ですから!」

ベテトレ「なんだそれは、私への苦情か?」

小春「お姉さんも天使さんも守ってくれるなら安全です~」

未央「そーいう問題じゃなくて!」

卯月「に、賑やかだね……」



??「お、居った!」

――ダダッ

幸子「ん?」

??「見つけたで!」

凛「誰か来る!?」

未央「こんなに急に……構えて!」

??「ああっとストップストップ! ちょっとお話だけお願いしますわ!」

小春「……ここにいるという事はコハルにご要件ですか~?」

??「それも魅力的ですけど用事があるのは王女様と違いますねん……そのお隣!」

凛「隣……?」

――チラッ

幸子「……ボクですか?」

??「んー、逆。そちらのお姉さんですわ」

ベテトレ「……私か?」

悠貴ちゃんが悪役(?)的な位置とは
このリハクの目をもってしても見抜けなんだ

それにしてもこの菜々さん、クズである

世界観の問題もあるけど、基本的に苦労人キャラの菜々さんが
クズというか、完全に利己的なのはいいなぁ

??「アタシ、アコ言います。しがない旅の商人兼用心棒兼その他資格とか、一通り心得てます」

ベテトレ「……どうやら本当らしい。アコ=ツチヤ、経歴と技術を述べるとひどく時間が掛かるので割愛する」

亜子「そう! その情報量! いやー、名前しか言ってないのにホンマ驚きですわ」

幸子「なんですかねこの人」

亜子「いやいや、実は数週間後に控えた大きな仕事があるんですわ、それに関してご協力を仰ぎたいんですが」

ベテトレ「何故私なんだ」

亜子「またまたご謙遜を、アタシこう見えてそれなりに強いんですがいかんせんパートナーがおりません」

亜子「特に前線と後衛、世の中一人じゃ上手く回れませんねん」

未央(……ちらっ)

卯月(私たちはほら、全員が横一列に分け隔てなくだから……)

ベテトレ「……勧誘なら随分と唐突で失礼なものだな」

亜子「アタシもそれは百も承知です、ただし……得るものは大きいですよ?」

亜子「なんと……アタシが狙ってるのは『栄光の聖剣』っていう世にも珍しい秘宝の一つです!」

卯月「!?」

未央「聖剣……!」

凛「それって……ウヅキ!」

ベテトレ「……妙じゃないか、あの秘宝は国が管理しているはずだろう? どうして手に入る算段がある」

亜子「あれ、情報通でお馴染みの姉さんがご存知ない? 一丁調べてみたらいかがです?」

ベテトレ「……お望みとあらばだな」

――…………

ベテトレ「どうやら……本当のようだ、しかし突然だな」

未央「まさか盗まれた?」

ベテトレ「いや、いたって公式の……公に広まった情報だ、盗みや資金で手に入れるつもりではないらしい」

ベテトレ「戦火の拡大に伴う、一種の起爆剤としての聖剣の使用を試みる……」

亜子「そうですねん。で、国が誰に剣を授けるか、っていう事なんですわ」

凛「……少しでも強い人材が欲しい、だからこそ国は実力者を集めるために声明を出して、あなたはそれに乗ったと」

亜子「その通り! それにあたってアタシのパートナーは是非とも」

ベテトレ「断る」

亜子「うわぁ」

ベテトレ「……そもそも戦闘員じゃない私をどうしてここまで当たってきたのか」

亜子「言うてますやん、頭脳派募集中って」

亜子「最低でも二人の組まないと参加すら出来ません、というわけで手当たり次第冒険してますけど」

ベテトレ「ここには手を貸せる人材は居ない、当たるなら他を当たってくれ」

亜子「残念やけどそうみたいで。……じゃ、他の方々はどうです?」

凛「突然過ぎて、話についていけないね」

卯月「私もちょっと……」

亜子「なんや勿体無い。チャレンジ精神が足りませんなー、チャンスは捕まんと転がり込んで来えへんよ?」

未央「今会ったばかりの他人には言われたくないね」

亜子「アタシは努力してますけど、現にこうして」

卯月「方法が悪いと思うけど……」

幸子「知り合いに当たるべきなんじゃないですかね普通」

亜子「旅の商人は取引先以外の交友はありません、っと言う事ですわ」

小春「お一人なんです?」



凛(……もう一人、この人の事かな)

卯月(でも、これがどういう事なのかさっぱりだよ?)

亜子「消極的な人が多いですなホンマ、さてアタシはどないしましょ」

――スタスタスタ

菜々「ちょっと、館内に響くくらいの声で何してるんですか、ナナはゆっくり休憩したいんですけど」

亜子「……おろ、どこかで見た顔」

菜々「へ? ……誰ですか? ナナは存じ上げませんが」

亜子「ああ思い出しました、この街に入った瞬間にすれ違ってました」

幸子「そんなの覚えてるんですか?」

亜子「客商売もやっていると顔を覚えるのが当たり前ですねん、それでその怪我は……」

菜々「大怪我じゃないですよ、ほら歩けますし」

亜子「もしかしてあの爆発の現場に居たとか、となるとそこで戦ってた、つまり強いという訳や!」

亜子「おねーさん、アタシと一緒に夢掴みに行きませんか!」

幸子「ロクでもないから相手にしない方がいいですよ」

菜々「……?」

――…………

菜々「はぁ、それで人を」

ベテトレ「フットワークの軽いものだ……」

亜子「悪い話と違いますけど?」

菜々「うーん、ナナは他に欲しいモノがあるので」

亜子「ほう? 秘宝より欲しいモノとは」

菜々「それは……コレです!」

幸子「……え? あれ? あれ!?」

――バッ ササッ

幸子「ちょっ、いつの間にまた奪いました!?」

菜々「さぁ何時でしょう? ウサミン星人再び降臨!」

幸子「返してください! それがないと――」

菜々「近くにあれば大丈夫なんでしょう? それに、返すと天に帰っちゃうんですよね?」

幸子「もちろんです! 早くボクは静かな天界に帰るんです!」

――ワーワー



亜子「……なんやアレ」

ベテトレ「気にするな、熱が出るぞ」

亜子「強そうな人材はたーくさん見つかりましたが、どうも手綱握れそうにありませんわ」

ベテトレ「うむ、それが正しい判断だ……」

菜々「ウサミンダッシュ!」

幸子「返してくださいってば!」

――ビュン

小春「~♪」

卯月「……? なんだか楽しそうだね?」

小春「コハルは賑やかなのが好きなんですよ~」

ベテトレ「……はぁ、元凶に頼む事になるとは思っていなかったがな」

未央「うん? どういう事?」

小春「コハルは天使さん、お姉さんと一緒に楽しく過ごしたいんですよ~」

ベテトレ「……だがまぁ彼女の言い分では天界とやらに変える目的があるそうだな」

小春「そこで……ちょっと強引ですが、ナナさんにご依頼しました~」

――ガチャッ

ルキトレ「出来るだけ支援する代わりに、彼女をここへ留めてくれないか……と、だそうです」

凛「……え、何? じゃああの力の源をもう一回盗んで、サチコをここに貼り付けてるの?」

ベテトレ「…………」

卯月「そこまでしなくとも……頼めば留まってくれるんじゃないかな?」

亜子「いい話ですやん」

未央「ちょっと物理入ってるけどね……」



幸子「ぜぇ……ぜぇ……」

小春「疲れました~?」

幸子「いや、全然! ……と言いたい所ですが一時休戦です! ボクはもう不貞寝しますからね」

菜々「あれー? ナナ、このまま持って行っちゃいますよ? いいんですか?」

幸子「……出来るものならそうしてみてください、では!」

――バタン

菜々「んー……まぁ、ナナはこれが手元にあるだけでいいんですけどね」

卯月「しっかり館内に戻っていったよ」

凛「……これ、サチコも自分が求められてるってわかってるんじゃ?」

ベテトレ「……かもな。今度、改めて話し合わせてもらう」

菜々「ナナは平和に事が運べばなんでもいいんですよ」

未央「よく分かんないけど、こっちの問題は既に解決してたってことで?」

卯月「……うーん、解決しない。いったい何が三人目で何が被害なの?」

凛「被害……これは勝手な解釈だけど経典に書かれたわけじゃない、アイリさんが伝えた情報だから」

凛「間違っている、は無いとしても……もっと考えているより軽い被害で軽い意味かも」

未央「軽い?」

卯月「でも被害って言われると、やっぱり大きい事故とかを考えるけど……」

凛「いや……今回の流れを纏めて、強引に結びつけると一つの結論も出る」

凛「よく考えると三人目がイコール被害を受けるとは聞いていない……」

卯月「あ、そっか。……じゃあ何が三人目? 狙われる、なら被害だと思うけど」

未央「もしかして最後にちょっと出てきたアコさんがベテランさんに言ったのが? そんなのわざわざ……」

凛「そう、そんな小さな事をわざわざ経典が記さないとは普通思うけど」

凛「私達が今回『理想通りの動き』が出来ていて、起きる可能性のある被害を極限まで回避していたとしたら?」

卯月「……?」



凛「被害は、せいぜいサチコが天界へ帰れない程度……程度、にしては大きいけども」

凛「それを被害と思わないほどに、私達がコハルとサチコを上手く結び付けられたって事かも」

卯月「……! じゃあ、ベテランさんが受けるべきだった被害も?」

未央「全て回避出来ていたから、狙われるにしても障害でもなんでもない、勧誘に行き着いた?」

凛「……都合のいい解釈だけどね、でもそれだけじゃない、これが本当なら一つの可能性が見つかる」

卯月「経典に悪い事が載っても……私達の動き次第で、確かに回避できるって事!?」

未央「あはは……こりゃまた、やる気の出る結果じゃない!」

愛梨(……そう、今回は模範解答を完璧に追随した)

愛梨(コハルと交流を持った、サチコと共に歩んだ、ナナを招き入れた)

愛梨(一つ一つの問題を丁寧に解決し……最後、訪れるはずの危険因子を回避……)

愛梨(結果、本来会ってしまうはずの人物の代わりにアコが訪れた、彼女は特に不幸は齎さない、むしろ……)

愛梨「栄光の聖剣……その情報を得ましたね」



愛梨「……今回は、まさに理想。これからもこの動きに期待しましょう」

愛梨(成長も伺える……彼女達には何より実績と達成感が成長の糧になる)

愛梨(……次に与える指示を考えなければいけません)

愛梨「そろそろ、しっかりと自らの力で道を作る指令など……どうでしょうか?」

愛梨「ヤスハ、ハルナ、サチコ……今まではこれらの人物を結びつける行動力を見ていました」

愛梨「次は……そう、ユウキのような明確な相手を……!」



――バサッ

卯月「……!」

未央「経典が……!」

卯月「更新された……ってことは!」

凛「やっぱり先の指示は終わり、私達の解釈で間違ってなかった」

卯月「よ、よし! 完全クリアーです! 頑張りました私達!」

未央「いえーい!」

卯月「じゃあ……次の、私たちがやるべき……」

凛「道の選択を」

未央「選ぼう……!」

----------- * -----------
小春編はギリギリ99KBで収まりました、次の分岐。
①~③番号でお選びください、毎度のように一番多かったもの、そして同数の場合は
同数票が先に入った方を採用します。
アンケートの選択肢ですが、これを書いてる途中にミスが発覚したので
少しだけ間をあけての投稿になります。
---------- * ----------

:コハル=コガ(古賀 小春)
 旧都区の小さな国家『エプリング』の若き三代目女王、先代と二代目を早くに亡くしている。
民衆に慕われ、よく一般の居住区にも訪れているなど行動力がある。
敵対勢力への危機感や、王女という自覚なしに自分勝手に動いているというわけではなく、
国と自身を守る一族に対する絶対の信頼からなる行動である。


:サチコ(輿水 幸子)
 存在を認知されていない、他とは異なる大きな力を持った天使の一族。
不注意から力の源を地上へ紛失、他者に拾われたことにより力を失いかける。
その後は力を失った状態でもあり補給が途絶える事もないという微妙な状態、
周囲から異様に好かれるため、特に居心地の悪くないコハルの元で滞在する事に。


:ベテラントレーナー(ベテラントレーナー)
 コハルを護衛するトレーナーの一族の二番目の古参であり本部の護衛。
調査の専門として、僅かな情報から人物や事象、遠方の出来事から物質にまで、
その知識と検索能力はずば抜けている。


:ルーキートレーナー(ルーキートレーナー)
 コハルを護衛する一族の末席、その真価は他の全ての才能を注ぎ込んで生み出した空間制御術。
外部と遮断された空間を作り、扉を介して自由に行き来することができる。
特別な力ではなく魔法の延長線上の技術ではあるのだが、他者が真似をすることは不可能だろう。


:トレーナー(トレーナー)
 コハルの護衛であり、国家『エプリング』の市街地を毎日警備している。
最も民衆と触れ合う立場であり、コハルも直接民衆と触れ合うためあまり機能はしていないが
国と民を繋ぐパイプ役、また上官であるマスタートレーナーには劣るが戦闘能力が高く、
近接戦闘技術に非常に長けている。


:マスタートレーナー(マスタートレーナー)
 コハルを常に護衛する、トレーナー一族の最上位。
あらゆる戦闘技術を身に付けた専門家で、その力量は小国の護衛にするには大きすぎるとも言える。
彼女達の支えによりこの国家は成り立っていると言っても差し支えがない。
かつて一族は全員がコハルを王女として、国として守っていたが、ここ数日の心境の変化で
強固さは変わらずに彼女を一人の人間として守るように務めている。


:ナナ(安部 菜々)
 ひょんな事から天使の力を得た人間族、独創性のある力を求めていた夢見る一般人。
幸運と才能が重なり理想通りに事が運ぶ一方で、約一名の天使が犠牲になっている。
が、その人物以外には極力犠牲を出さない、それどころか力を用いて守る事を目標としている。
ベクトルがやや飛び抜けているだけで、彼女もまた正義と良心に従って動く一名にすぎない。
現在は依頼を受けて仕方がなくといった建前で、当のサチコ含むコハルの元でトレーナー達を手伝っている。


:アコ=ツチヤ(土屋 亜子)
- NO DATE -


:ユウキ=オトクラ(乙倉 悠貴)
- NO DATE -

Side Ep.18 暴動者

 村を離れた幼き戦士がたどり着いたのは、大きな建物が立ち並ぶ鉄の空間。
時刻は夜、薄暗い道を恐る恐る小さな灯りを頼りに進む。

「ここが未来区って奴ね、確かここ出身の……誰だっけ、とにかく話は聞いたはずよ!」
「……そうそう、魔法がそんなに発展してないって。その代わり科学技術が発展しているんだった?」
「確かに灯りは魔法じゃない、電気が勝手に点いてる……ったく、もうちょっと強い光にしなさいよ」

 公共設備に文句を言いながら歩みを進めると、大きな十字路に遭遇。
特に行き先を決めているわけでもない彼女はどちらに進むべきかを一瞬迷って

「怪しい気配は……こっちね!」

 特に根拠のない決定、しかし求めるのは“怪しい気配”だそうだ。
なぜ彼女がこの場所で徐々に薄暗い、人通りが少ない方向へ進んでいるのかというと――

「見てなさい、アタシが一気に名を上げる方法、完璧な作戦よ……」
「答えは至極単純……強い相手を倒せばいいのよ! なんて簡単なのかしらねッ!」
「でもただ強い相手を倒すのでは駄目、世間が恐れている……誰も捕まえられない奴を倒してこそ意味があるのよ!」

 ……彼女は人助けのために動いているわけではない、結果的にそうなっているかもしれないが
自身の名声のため、自分中心に動いている。
ここにはそんな彼女の作戦にピッタリな役者が居る、との噂を聞き入れたためこうして捜索している訳だ。

「フンッ、にしてもアタシをあんな空間に閉じ込めておくなんて、もう二度と帰る事はないわね」
「教わった魔法の知識はアタシの組織旗揚げの礎にしてあげるわ! 感謝しなさい!」

 路地に反響する高笑い、誰かが見ていたら間違いなく不審人物に扱われるだろう。
……いや、実際に一人、この様子を見ている人物がいた。

 その人物は彼女の行く先、前方からゆっくりと歩いて彼女の方向へ向かっていた。
互いに気づいて居ない? いや、先の高笑いで存在には気づいているだろう……
もしかすると、それよりも先に気づいているかもしれない。

「ゲホッ、ゲホッ……」

 そしてこちらは完全に気づいていない、声を張り上げた反動で咳き込んでいた。
次第に縮まる距離、十メートル、五メートル……そして一メートルに差し掛かろうとした瞬間……

「…………あーっ!!?」

 ビクッ、と影が反応した。
目の前の人物が咳き込んでいたと思えば顔を上げて突然の絶叫、まさかと影が身構える。
……しかしそれまで、互いに動かない。

「……あれ? 誰アンタ」

「ああ、アタシ? 大丈夫よ、アンタには関係ないから……忘れ物を思い出しただけ」
「アタシが秘密裏に開発した秘密兵器をあろう事か元家に忘れてくるとは……!」

「で、アンタは? その獲物を見る限りアタシと同じ?」
「同じってのは、ここら辺に世間を騒がす通り魔が出没すると聞いたわ、そいつを倒しに来たのよ!」
「これだけ話題になってて未だに確保されないって事はよっぽどの悪人よ」
「そこから学……じゃなくて、アタシが倒して力を証明するのよ!」

「せいぜいアンタもやられないように気をつけなさいよ。ま、アタシが倒すんだけどね!」
「……ところで、さっき何でその獲物を構えてたの?」
「ああ、アタシが叫んだから……もしかして通り魔が出たと思って構えた?」

「それは残念、ここには誰も来てないわね」
「……ん? アンタ、アタシの前から来てたよね? それで、アタシの方向に獲物構えてた?」
「普通、アタシが前を向いて叫んだらアンタは後ろ向いて構えない?」

「なんでこっち向いて構えてたの? ……それで、なんでまだ構えてるの?」
「ねぇ……答えなさいよ、ちょ……冗談……いやそんな、え? え!?」

Side Ep.19 追走者

 はぁ……逃げた?
ふぅん、全員じゃない? ごく一部のみ?
あのね……そのごく一部の中に重要な人物が! 居る事が! 致命傷だと言っているの!



 ……使えない。他は全てカモフラージュで、どうでもいいにも関わらず?
雑兵を捕まえたところで本命を逃がしちゃ意味ないでしょう?
いいかしら、どんな手を使っても……いや、そもそもこんな時の為に用意していたアレはどうなのかしら?
あら、ちゃんと機能しているじゃない、早く言いなさいまし。

 随分と離れた所まで逃げていますわ? まったく、本当に真剣に警備していらして?
あの秘宝はいずれ大きな武器になる、所有者も自覚していない秘密兵器ですわ。

 逃亡先は……あら、ちょうどいいわ、ここの国なら問題ありませんこと。
戦争仕掛けようが周りは何もしない、むしろ嬉々として便乗してくるはず……都合のいい逃亡先。
即刻準備なさい、あ、勘違いしてはいけませんことよ? 戦争しに行くわけではありませんわ。
ただ、目標の確保を最優先に。国が匿うようなら、何をしても構わないという事。



 しかし、いったい何があってあの収容所が壊されましたの?
周囲に誰も国や村がない、空き地をわざわざ切り開いて作ったのに、誰に襲われまして?
へぇ……はぁ? たった一人? 所属も分からない? 得体の知れない? 叫んでた?
要するに何も分かっていないと? まったく、わたくしの為に少しは調べる努力をしてはいかが?

Side Ep.20 逃走者

――ガシャン!

――ジリリリリ!

――ドタドタドタ……



 静寂の闇を切り裂き鳴り響く警報と、それに反応して目を覚ます照明、続く足音。
逆に、その喧騒から逃れるように動く影もひとつ。

――逃がすな! 追え!

 遥か眼下から聞こえる声が彼女の元にたどり着くのは暫く時間が掛かるだろう。
その間にも、迫る足元と反対側……上へ上へと壁を器用に伝って逃げる。
階段をジグザグに一段一段、駆け足とは言え折れ曲がって上へと進むよりも
直線で滑るように壁を進むのならば、後者の方が早く進む。 ……当然、相応の技術は必要だ。
もちろん壁を登る人物には心得があった、軽快な足取りで瞬く間に屋上へ到達。

 しかし、天高く聳える建造物から他の場所へは逃げる事ができない。
道路を挟んで対面の建物は数十メートルの距離と、その倍以上の高低差……
上空は、文字通り暗く染まった星空があるのみ、まさかここから階段で降りるわけにも行かない。

「……景色は最高と」

 逃げていたにも関わらず、やけに落ち着いて待機する。
もちろん彼女が待機しても追手は先程と同じペースで追いかけて来て差を詰める。
既に彼女が屋上へ到達した情報は届いているはず、ならば一直線にここへ来るだろう。

――バァン!

 扉が開いた。
これで、完全に下へ通じる道は無くなった。
大勢の警備が彼女を端へと追い詰める、お決まりの定型文……逃げ場はないぞ、などと勧告しながら。
当の本人はこの状況でも変わらず冷静である。すぐ後ろは空中、一歩踏み出せば遥か下の地上に激突……
仮に、無事に地上に降り立つことが万が一可能だとしても、地上に警備が居ない訳ではない。

「団体様、ね……」

――ジャラッ

 鳴った音は武器ではない、彼女は戦う事が不得手ではないが専門ではない。
取り出したのはこの建物から盗んだ金銀財宝……典型的な“金目の物”である。
それをかき集めて一纏めにした袋から乱暴に、中身を掴み、投げ飛ばす。

「はっ!」

 さすがに金銭的に価値のある貴金属類が無造作に投げられると、一斉に目線が集中する。
……その隙に、飛び立った。 文字通り、空中に体を投げた。
驚きの声も静止の声も届かぬ間に屋上から逃れた彼女は重力に従い地上へ――

 だが、その手には何かを掴んでいた。
目を凝らさなければ分からない、数十メートル離れた向かいの建物から伸びた細いロープ。
下に落ちてはいるが、同時に前にも進んでいる、これで地上に衝突の心配はない。
しかし次に危惧すべきは向かいの建物の壁面、下手をすれば正面からの激突で命はない。

「頼むぜ……そらよッ!!」

――ガシャアンッ!! ドサッ

 計算された長さ、計画していた場所、正確に飛び込んだ窓ガラスには先に一人の人物が待っていた。
彼女が飛び込んでくる窓の先に、怪我を防ぐためのマットを敷いて。

「……よっ」
「おかえり!」

今回は比較的わかりやすいかな?3で

3縺九↑

イケメンなシーフが見たいから③で

1で

一人はまぁわかるとしてちゃま、なつきちかな?
三属性が揃ってるとしたらダブっちゃうから
なつきちじゃなくて涼さんの可能性ありか

まぁどのみち3

締切時間設定を忘れていました……
3と書いていますが……文字化け? の可能性を考慮して現在は③③①③として、
改めて本日の正午に締切を設定させていただきます。

 訪れた小さな国家で遭遇した天使と、その力を奪取する者。
当人同士の争いは規模が大きくなり、やがてウヅキらを巻き込み(巻き込まれ?)発展した。

 天使同士? の不思議な力に導かれてか、アイリが告げた新たな登場人物二人。
その内一名、ユウキは短いながらも共同戦線を張ったウヅキらを圧倒し、十分な衝撃を与えてその場を去る、
次はその経典を入手するとだけ言い残して。

 しかしその一方で得たものもあった。
既に決定された事項であろうと、その程度を変更することは出来る。
結果、起きるはずの被害は被害とも言えない規模に、訪れたもう一名も全てが終わったあと、
帳尻合わせの形での登場となった。




卯月「次……これは?」

~ 平和を妨げる事件の解決 ~

凛「見ての通りだけど……“何処”の“何の事件か”が書いてないね」

未央「どこでもいいって事?」

卯月「さすがにそれは……それなりに大規模なものじゃないと駄目だよ」

凛「でも、ついに明確な事件の解決……本格的だよ」

ベテトレ「どうかしたか?」

卯月「……次の目的地を調べようとしているところです」

小春「もう出発しちゃうんですか?」

菜々「ナナは目的達成ですが、旅のお方は旅の目的があるから移動しているんですよ」

ベテトレ「……しかし短い間だが、君達は我々が変わるきっかけを与えてくれたからな」

凛「きっかけだなんてそんな、私はほら、特に何もしてないし……」

小春「そんなことはないですよ~」

卯月「……そうだ、ついでで申し訳ないのですが、このあたりで最近起きた事件なんかご存知ですか?」

ベテトレ「特別調べていたわけではないが、その手に関しては専門だからな……あのアコという者が言っていた通り」

ベテトレ「結局、すぐに彼女は次の候補に向けて移動したが……あの調子ではな」

凛「もう出て行ったの?」

未央「本当に、私達に情報を渡しただけだったね……また会うかな?」

卯月「目的は違うけど、いずれは会うだろうね……秘宝繋がりだし」

ベテトレ「……それで、事件を調べているんだったな、どの種類のだ?」

卯月「いえ、比較的大きな物や話題のものならなんでも」

ベテトレ「話題性の大きなものなら……私が調べるよりも、ちゃんとした情報機関で調べた方がいいかもな」

――スッ

未央「あ、新聞、じゃなくてえーっと」

凛「情報電報、だっけ。確かに世間的に認知された話題ならそっちの方がいいかも」

卯月「えーっと……じゃあ早速。どこ見ればいいのかな?」

ベテトレ「大きな話題ほど前面にある」

――バサッ



未央「どれどれ……三つほど掲載されてるみたいだけど?」

凛「個人所有の住居襲撃に、被害が続く襲撃事件……穏やかじゃないね」

ベテトレ「明るい話題が目的なら、その隣の記事はどうだ」

卯月「隣? ……盗賊団? 泥棒?」

未央「明るいかなぁ、これも穏やかじゃない話題に見えるけど……」

ベテトレ「表向きはな、確かに物盗りではあるが、内容は少し特殊なものだ」

ベテトレ「当然、意図や目的は私は分かっているが……それを私から聞くのが目的ではないだろう?」

卯月「はい、自分達で!」

未央「解決するのが目的です!」

凛「……記事によると、なかなかに知名度が高い盗賊団らしいけど」

ベテトレ「ああ、ここ最近は話題に上らなかったがようやく動いたか」

未央「なんだか嬉しそうだけど、どういう事?」

ベテトレ「その盗賊団は、ただ略奪強奪を行う他の団とは違う」

ベテトレ「標的は主に悪評蔓延る権力者、今回も例外ではない」

凛「へぇ……じゃあ良い人なの?」

ベテトレ「気分のいい話ではある、が、相手が誰であろうと盗賊業には違いないから難しいところだ」

卯月「盗んだ品はどうするのかな」

未央「結局私物化するなら、やっぱり他の盗賊団と変わりないかも」

凛「……そうでもないみたい、ほらここの記事」

卯月「えーっと……『恒例の二度目の“仕事”に向けて、全力で対応する模様』……?」

未央「二度目? また盗みに入るの? しかも予告付き? 本当に大泥棒って感じ……」

凛「いや、ちょっと違うみたい……盗むじゃなくて……返す?」

ベテトレ「そこが最も他の盗賊と違う所だ」



凛「返すって、盗んだ意味は……」

卯月「違うみたいだよ? ほらここ、返すのは本人にではなく……その周辺の地域、一般民衆にだって」

未央「へー、随分な慈善活動だね。義賊って言うんだっけ」

ベテトレ「盗む、分ける、ここまでが一連の彼女達の仕事だ」

卯月「凄い人たち……あれ? 彼女?」

ベテトレ「おっと、言わない方がよかったか? いや、直に知る事だから構わないか」

ベテトレ「盗賊団というと男のイメージだったか、しかしこれは違う」

凛「……この一件だけで、盗賊のイメージが何から何まで変わるよ」

ベテトレ「返すと言っても、権力者がそれをさらに回収に向かう事もあるのだが……」

ベテトレ「ま、盗みに入られる上に一般民衆から、元の所有者とは言え強引に返却を求める姿は良く映らない」

未央「そりゃあそうだね……じゃあやっぱり盗まれる側にとっては痛手なわけだ」

卯月「じゃあ一番最初に仕入れた情報という事で、これを解決する……解決?」

凛「……解決していいのかな、これって悪いとは言い切れないし」

ベテトレ「君達の次の仕事はコレなのか? また、微妙な所を教えてしまったな」

卯月「でも、ここまで明確な情報があるから、接触は楽かもしれないよ」

未央「そうだね、しかも都合の良い……良い? かは分からないけど、盗みが入ったのは未来区の一部」

凛「未来区なら私達はほぼ自由に動けるからね」

ベテトレ「……上層部との繋がりがあると便利だな」

卯月「もしよろしければご紹介しますが?」

ベテトレ「いや、我々は旧都区の住人だ……別の区と統合はできないからな、遠慮しておこう」

小春「もう出発するんですか~?」

未央「そうだね、事件が昨日なら……すぐに返す動きが来てもおかしくはないだろうし」

凛「話題が収まって情報が入らなくなる前に現地入りしようか」

小春「お達者で~。いつでも気軽にお越し下さい~」

菜々「ナナがいる限り大丈夫ですけどね!」

未央(この人が居ると不安だなぁ……)

卯月「じゃ、行こっか!」




・・

・・・


――ガヤガヤ……

卯月「また未来区に戻ってきたけど……」

未央「何? この人だかり……行列?」

卯月「すいませーん、通してくださーい!」

――ガヤガヤ

凛「……駄目だね、まさか入国に規制が掛かっているとか」

卯月「ええ? どうしてそんな……あ、そっか」

未央「例の盗賊団を警戒して? 確かに国外に逃げたのなら、もう一度侵入を防ぐ為にこうするのは分かるけど」

卯月「入れないと、接触も何も……なんとか中と連絡が取れないかな?」

凛「通信手段が無い、諦めよう」

未央「でも本当に入れないなら諦めるもなにもどうにかしないと……」

卯月「うーん……集団の先頭に行けば誰か居るかもしれない、移動しよう」

――タタタッ

??「駄目デス」

凛「中に知り合いがいるから、説明してもらって入る事は……」

??「上の指令で現在、内部と外部は完全に隔離するように言われてマス。例え証明の為の連絡だろうと不可能デスネ」

卯月「困ったね……じゃあこの場の人に証明してもらうしか……」

未央「そんな事言っても、そもそもそんな人は居ないしミレイちゃんやミクさんがここに偶然来るわけもないよ」

??「申し訳ありまセンガこの検問を通過できるのは関係者及び内部と連絡、証明が可能な商人のみデス」

凛「こうなると分かってたら……手の打ちようがあったかもしれないけど……」

未央「今からコハルちゃんの所にも、ツバキさんの所にも遠いよ?」

凛「……完全に後手になるけど、事件が終わってからなんとかするしかないのかな」

未央「それは無茶じゃないかな……だってここまで話題に上がってる盗賊団で、捕まってない人達だよ?」

凛「だけど中には入れないならそうするしか……」

卯月「…………ん? あそこに居るのは……!?」



春菜「はーい、関係者である事を証明できる方はこちらへどうぞー」

卯月「ハルナさん!」

春菜「おや、以前はどうも。というよりどうして外へ? つい先日お会いしませんでしたか?」

卯月「いろいろあちこち周っているもので……この検問は?」

春菜「電報読みました?」

卯月「ええ……じゃあ、やはり?」

凛「ウヅキ、その人は……?」

春菜「おや、お友達ですか? 私、ハルナと申します。まずは眼鏡でもどうぞ」

凛「あ、ありがとう……ございます?」

凛(じゃあ……ウヅキが言ってた“既に会った幹部”の人……)

未央「ねーねー似合ってる?」

春菜「ええ、ばっちりです! それで、もしかして中へ入る予定ですか?」

卯月「そうだったんですけど……こうなってるとは知らなくて立ち往生です」

――ザッ ザッ

??「ハルナ、お疲れサマ。……もしかして、知り合い?」

春菜「あなたも忙しそうですね、そしてその答えはイエスです、少し前の学校の騒動でご協力してもらった人です」

??「ああ、あの? でもおかしいデスネ、そのお話ではヤスハ以下二人と聞いていマスガ」

春菜「一人は彼女ですよ、間違いなく。後の二人はお友達でしょう?」

凛「リンだよ」

未央「ミオです」

??「……ハルナの知り合いなら、確かに証明にはなりマスガ、この場合どうなるんデショウ?」

卯月「私達、この中に用事があって……それも急ぎの」

春菜「また事件に首突っ込む気ですか? 別に私の管轄外なので何しようと構いませんけどね」

春菜「ただし、今回は状況がややこしいので興味本位なら控える事をおすすめしますよ」

凛「この検問を見ても、ずいぶんと力を入れてる事が分かりますが」

??「力を入れてるのは私達じゃないケドネ」

未央「え? でもこれは国の人が動いて敷いた検問じゃ……」



春菜「敷いてるのは私達ですが、命令したのは私でもアキハでもありませんよ」

??「チョット、それは言っても大丈夫ナノ?」

春菜「いいんですよケイト、別に減るもんじゃないし」

ケイト「ソウ?」

卯月「じゃあいったい誰が?」

春菜「実際に盗みに入られた被害者……ま、自業自得ですけどね? いい噂は感じないグループですから」

春菜「……とはいえ、資金の援助をそのグループが行っている手前、こちらとしても断れないんですよ」

ケイト「上下関係がある組織ではよくある事デス」

凛「そのグループが、盗賊を捕まえるために命令したって事?」

未央「こりゃややこしい事に……」

卯月「アキハさんが、そんな悪評が噂される人と関係が?」

ケイト「アキハが繋げた関係じゃないネ、今は何処行ったか分かりまセンガ、チナツが連れてきた相手ネ」

春菜「……とまぁこちらの内部事情は置いといて、とにかく不本意な警備体制ですよ」

――ガヤガヤ

凛「……? 人だかりがこっちに?」

春菜「おやおや、噂をすればご本人登場ですか? 私達が応対するので少し通して下さい」

ケイト「で、中に入りたいのデシタ? 今のうちに通っちゃって下サイ、ハルナが責任トリマス」

春菜「こっそり押し付けました? まぁいいですけど」

卯月「じ、じゃあ失礼して――」

??「……む、ちょっとそこの貴女達!」

――ドドドド

??「国の警備の担当者でしょう? そこの三人は商人には見えませんが、どうして通したのですか?」

春菜「私の知人ですよお嬢様、関係者です」

??「証明は出来るのですか?」

未央(わぁ……なんというか、急いだ方が正解だったかな?)

卯月(この人が、盗みに入られた人?)

凛(見た感じは悪い印象がないけど……義賊に狙われる程なら、そういう事?)

Side Ep.21 原点の長

 旧都区に存在する小さな村『アルトラ』、ここは経典を手にした三人の生まれ育った起点の地。
人口はほどほど、未だ大きな戦火には晒されていない恵まれた立地。
もちろん害が訪れる事が皆無というわけではない、今までも小さな火の粉は侵入していた。

 その都度、村を守る立派な戦士が火の粉を振り払う。
だが現在、力になっていたうちの三人が成長の旅へ一歩踏み出し、内部の戦力は欠けている状態。
いきなり戦力がゼロになったわけではないが大きな欠損には変わり無い。
……しかし村は以前変わらず平和である、約一名の奔走のおかげで。

「……経典が発見される、か、大丈夫かしらあの子達?」

 この方が勝手がいいからと、普段の大きく構えられた家から村の入口、小さな小屋へと寝床を変えた。
最低限の品以外は何も置かれていないシンプルな部屋の完成。
かつて“村長”と呼ばれ……もちろん今も呼ばれているが、その生活スタイルは一見して村長とは
判断がつかないだろう。

「ま、私の自慢の子達だからね、むしろこれくらいの逆境は乗り越えてくるわよね?」

 その時、不意に小屋の扉が開く、急いで駆け込んできたのは村の住人だ。
入ってくるなり襲撃です、近くの小さな野盗集団が、迎撃の準備を、村長、と口々に叫ぶ。

「はいはい分かったから、別に私を通さなくても個人でやっちゃってもいいのよ?」

 別に村長一人しか戦える者が居ない訳ではない、彼女が居なければ苦戦するわけでもない。
だが、その絶対の安心感と、住民達の律儀な報告がこの状況を生んでいるだけ。

「……あと、今の私は村長じゃなくてただの村の番人みたいなものよ?」

「だから名前で呼んでくれても構わない、その方が対等な感じがするでしょ?」

「……そうそう。いつも村長って呼ばれてたから新鮮、自分の名前を久々に呼ばれた気がするわ」

「じゃあ改めて……マリナお姉さんがお仕事頑張っちゃいますか」

Side Ep.22 頂点

「躰を疲労が蝕む……」
「歩き通しで疲れましたか?」

 旧都区のとある地域に大きく構えられた巨大な城とも神殿とも取れる……いや、教会が適切だろうか?
それほどの神秘的な空間、ここは魔法魔術協会の本部である。
ヤスハが引き取った形になったランコは事情を知る彼女とハルナの計らいで
在籍する学校から席を外さずに休学という形でヤスハの元へ旅立っていた。

 最も、学校側にとってランコは一生徒であり失った所で痛手にはならない、
その折に魔術協会幹部が彼女に目をつけたとあればそれ相応の無茶は通るだろう、
学校にとっては思わぬ所からのコネ完成である。

「ですが早めに全員と顔を合わせておかないといけません、私だってここの人とはあまり仲が良いわけではありませんから」

 後々難癖を付けられても困る、それならば先手を打って認めさせてしまえの一念。
同行するランコの立場が悪くならないようにだけを狙ったこの立ち回り。

「我らが従うまだ見ぬ君主は……?」
「絶対に会わなければならないのは……あとは最高位、現在のトップです」
「残すは頂点のみ? むう、緊張の糸が張る」

 最上階、見るからに豪華な装飾の施された扉を開けると……
さすが魔法協会の最高位が君臨する部屋というべきか、前後上下左右どこを見渡しても
魔術に関連する書籍や道具、そして大凡一般人には理解のできない複雑な数式の書かれたボードも転がる。

「ここが桃源郷か?」
「確かにここには未来区の図書館の比ではない程の魔術に関する知識が詰まっているでしょう」

 そんな本棚を両脇に、一本の通路を抜けるとこれまた豪華で大きな机が鎮座した、
少し開けた空間にたどり着く、ここが実際の“魔術協会最高位”の席なのだろう。

「……やぁ! 魔術協会最高位に何の用かな!」

 その席に座る人物から軽く、そして明るい声が二人に掛けられる。
ランコは緊張でヤスハの小さな影に身を隠す、が、その隠れた影の当人ヤスハは何やら複雑な表情。

「ありゃヤスハ、久しぶり!」
「…………何故あなたがここに?」
「いんや、近くを通ったついでに現会長にご挨拶と思って」

 この発言から察するに、最高位の椅子に腰掛けながらも彼女は最高位ではない、という事だ。
だがヤスハはそれを咎めない、いや、むしろ咎める事の出来る人物など居ない。

「そ、其方は……」

 恐る恐るランコが席に座る彼女を覗き込み、記憶の中の“現会長”と異なる姿を目視する。
と同時に、記憶の中のとある人物とその姿が合致してしまう。

「しかし我の知る賢者と気配が異なる……!」
「賢者とは随分な評価だね」
「……どうしたんですかその口調は、また気分の変化ですか?」
「んなことはないよ、この椅子に座ったら真面目なお堅い言葉じゃないと駄目かなー、って」
「どのあたりが堅い口調なのか……説明いただいても?」
「あーもー分かった分かった、いつも通り喋るから……!」

 指摘にうんざりといった様子で席を立つ。
机の影で見えなかった装いは、今度こそランコの想像とピッタリと合致する。
現会長ではない、魔術協会を“設立”した三人の偉大な魔術師のうち一人。

「それじゃ改めてヤスハちゃん☆ そのお隣のお友達は誰かな♪」
「……長き年月に培われし愛の秘術!」
「ん、何かよく分かんないけど貶された気がしたぞ☆ ちょっと本棚の裏へ来い☆」

Side Ep.23 妥協許さず

 見事にフラれてしまいましたわ、はい。
こっちの要望通りの相手でも、向こうの要望を満たせるとは限りませんのや。

 アタシ、本業は商人のアコ=ツチヤいいます、この度はご縁がなかったということで。
しかし諦めへん、粘り強く運命の相手を見つけるんや、そしたら中衛のアタシが指揮して
前衛がドドっと攻めーの後衛がバシバシ守りーの、完璧や。

 必然三人組がベストという事に、しかし前衛も後衛も心当たりは少ないんですわ。
このままじゃアタシの聖剣手にして大儲けの算段が捕らぬ狸の皮算用、
無い袖は振れません、机上の空論、絵にかいた餅、それは何としても避けなアカン!

 でも理想のハードルは下げない!
計画性だけは自画自賛出来る! このアタシの考えた戦略理論を展開できる人材を集めさえすれば!
絶対、絶対に勝てるんや、だからこそ妥協はしない、絶ーっ対にスカウト成功させたる!
さてさて次は誰の所に向かうべきやろか?

 確か電報で未来区が今ややこしい言うてたような気がする、ならば足止め食う前に移動や移動、
発祥区……はアカンな、手がかり無さ過ぎて時間が勿体無い。
それなら旧都区のどこへ行きましょ? 風の噂で旧都区の小さな農村にえらい腕利きの姉さんが居るって
聞いたような気がします、これはいい手がかりやね、早速村の位置を調べましょ。

蘭子ちゃん、歳の話は辞めよう(提案)



春菜「……!」

春菜(もしもしお三方、入国を急ぐ理由はやはり事件関連なのですか?)

卯月(えーっと……)

凛(言っていいの、かな?)

春菜(関連しているなら、少々強引ですが内部へスムーズに入る方法があります)

未央「え、本当!?」

ケイト「声が出てマスガ」

??「とにかく厳戒態勢を敷いているので安易な判断は――」

春菜「えーとですね、お嬢様が秘密裏に募集をかけていた“担当者”の件ですが?」

??「……あら? そのお話はしていないはずですが?」

春菜「人の口に戸は立てられません、そこで僭越ながら私がお呼びした人材です」

??「ほう……?」

ケイト(一応、話は合わせマスカ)

ケイト「確か“侵入者”に対して“抵抗力”を付けるための募集と聞きマシタ」

凛(言葉を選んで強調してるけど、この警戒態勢から察するに人員を集める理由は一つ……)

凛「……はい、私達でお力になれると聞いてご協力に伺いました」

??「あら、そうでしたの? 気が利くではありませんか」

未央(あれ? 話進んでる?)

卯月(ハルナさんが上手く事を運んでくれてる……なら、私もリンちゃんに合わせて!)

卯月「お仕事の内容をお伺いしても構いませんか! なんでもしますよ!」

??「そういうことでしたら説明しますわ、ただしここで話すにはあまりにも野次馬が多い……」

ケイト「中にお部屋を用意しまショウカ?」

??「ではそこへ移動しましょう、道を開けなさい!」

春菜「はいはい、それでは案内変わりますね」

ケイト「……デハ、ついて来て下サイ」

ケイト(この厳戒態勢を敷いておいて、自分の周りは本当に無警戒デスネ)

未央(あっさり入れちゃったけど大丈夫……?)

??「何しているんですか? 早く行きますわよ」

卯月「は、はい!」

春菜(それではご武運を! くれぐれも私に責任を回すような事は控えていただくと)

凛(分かってます……たぶん)

――ガチャ

卯月「お邪魔します」

ケイト「空家デスヨ」

??「ずいぶんと埃っぽい部屋ですが、いいでしょう。どの道待機場所は必要ですわ」

??「決行日までこの家を借り受けます、構いませんね?」

ケイト「手配しておきマス」

??「それと彼女を呼んでおいて頂戴」

ケイト「彼女、と言いマスト?」

??「最初に会わせたでしょう? そこらの部下に言えば伝わりますわ」

ケイト「……分かりマシタ」

――バタン

凛「…………」

未央「えっと、それで……」

??「どこで仕入れた情報かは存じ上げませんが、確かな情報ですわ」

??「私の屋敷に無礼にも盗みを働いた罪、見過ごしはしませんこと」



??「他にも数人の腕利きを雇い、あの盗賊団を一網打尽にしてやりますわ……!」

凛(なるほど、その討伐隊に私達を紛れ込ませてくれた訳か……)

卯月(まだ経典の続きが来ていないから何をどうするかは分からないけど)

未央(堂々と事件に関われる立ち位置は確保できたね)

??「……さて、そういえば名前を聞いていませんわ? 三人はどこの誰かしら?」

卯月「えっと、私達は――」



・・

・・・


――コト……

??「ただいま! ルート確保終わったよ!」

??「あれ、居ない? ……じゃないね、まだ作業してるのかな」

――ガチャッ!

??「たーだーいーま!」

――ガシッ

夏樹「聞いてる聞いてるっての、作業中だからあんまり騒がないでくれよだりー」

李衣菜「まだ仕分けてるの?」

夏樹「ああ、予想以上に盗ったモノの価値がバラバラだったからさ、不平等にならないようにこうしてな」

李衣菜「いいじゃん別に、盗って他に渡す事が目的でしょ? その比率なんて向こうが勝手にやってくれるよ」

夏樹「どの道そうなるとしても、先にアタシがやっても問題ないだろ?」

李衣菜「でもー」

夏樹「でもじゃねーぞ、今回はちゃんと寝とけよ? いつもなら普通にバラ撒くだけで終わるけどな」

夏樹「やたら確保に力を入れてるグループらしいからな」

李衣菜「見てきたよ、検問まで敷いちゃって。まぁ私にかかれば中に入るのは余裕だけど」

夏樹「油断すんなよ? 簡単に済む仕事じゃなくなって来たからな」

李衣菜「それだけ私達が有名になったって事だよ」

夏樹「ただの求道者なんだけどな、世間的には大泥棒だの義賊だの言われてるようだけど」

李衣菜「何言ってんの! 正義の義賊だよ!? カッコいいじゃん! すっごいロックだよ!」

夏樹「モノを盗んでおいて今更正義語る気はないっての、せめてもの普通に生活してる相手からは盗まないだけだ」

李衣菜「やっぱしなつきちはロックだね!」

夏樹「なんでもその言葉で片付けるのが好きだなだりー」

李衣菜「で? で? ルートは決まったけど今度はどう動くの!?」

夏樹「分かった分かった、お前は頑張ったから……明後日くらいにやるから今は寝ろって……」

李衣菜「うっひょー! なつきちの勇姿降臨は明後日ですかーっ!」

夏樹「旅行前じゃねぇんだから……」




・・

・・・

卯月「……というわけで、ハルナさんのご紹介で」

未央(ほぼ嘘だね)

凛(でも辻褄は合うから大丈夫、ウヅキってこっちの才能あるのかな)

??「私の元で働いた功績はいずれ役に立つでしょう、結果次第では報酬も弾みますわよ」

凛「そのお話は置いといて……まずお名前を聞いても?」

??「あら、てっきり他から聞いた上で仕事を引き受けたものだと思っていましたわ」

??「相手の素性も調べずに引き受けるなんて、随分無用心ですわよ」

未央(そっちも私達に関しての情報をロクに持たずに警備敷いてるというか……)

??「でもご安心を、私はそんじょそこいらの貴族位とは違います。他とは比べ物にならない権力と地位と――」

卯月「えーっと……それでお名前の方は?」

??「……人の話は最後まで聞くものですが、いいでしょう、私の名前はコトカ=サイオンジです」

琴歌「この周辺を根城にするのならば、いずれは耳に入る名前です、覚えておくといいですわ」



未央(……誰か分かる?)

卯月(うーん……貴族位、聞いた事が有るような無いような……)

琴歌「……ふむ、とにかく私の手となり足となり働く以上、力を惜しまぬよう」

琴歌「明日か明後日、奴等が動くまでは自由に動きなさい、その代わり目標が姿を現したら容赦なく叩く事」

卯月「盗賊の動く日は分からないのですか?」

琴歌「これまでの傾向では一、二日で再び姿を現す……警戒を怠らぬよう」

凛(あまり下調べが出来る時間は無いかな)

卯月(逆にここまで部外者に対して警戒網を敷かれるとミレイちゃんやミクさんに応援も難しいね)

未央(他に、さっきのハルナさん以外に協力を仰げそうな人に心当たりは?)

卯月(それこそ……アキハさんやノアさんだけ、さすがにそんなに上の位? の人の所には……)

琴歌「……それにしても遅いですわね」

未央「誰か待っているんですか?」

琴歌「一人を呼ぶのにいくら時間をかけるつもりなのでしょう?」

凛(さっきのケイトさんかな)

卯月(誰を呼べとも言われてないから該当者を苦労して探してる最中なんだろうな……)

――スタスタ……ガチャッ

ケイト「戻りマシタ。コトカさん、恐らくご指名の人物は現在他の用事があるとの事デシタ」

ケイト「それで代わりにこの子……を連れて行けと言われマシタガ……」

――ジャラッ

??「…………」

琴歌「……代わりを連れてきたのは気が利きますね、人選は兎も角」

未央(首の鎖……輪……ってことは)

凛(……なるほど、義賊一団がコトカを襲撃した理由が分かったかもね)

卯月(こんな小さな子が……傷だらけで、服もボロボロで……)

琴歌「これから数日に渡って滞在するかもしれません、綺麗に掃除しておくように」

??「…………」

ケイト「……掃除程度なら手を貸しマスガ」

琴歌「外部の者を使うと何が起こるか分かりません。それに、私の荷物に傷でもつけたら責任は取れますの?」

ケイト「……デハ、私はこれで」

琴歌「ああ、最後に一言……最初に呼んだ相手は他の用事があるって言ったの?」

ケイト「ええ」

琴歌「もう一回伝えておきなさい、すぐに来なさいと言っていたと」

ケイト「……分かりマシタ」

――バタン

卯月「あの、お掃除ならその子一人じゃなくて私達も……」

琴歌「貴女方の労働は掃除ではありませんよ、それにせっかく買ったのなら使わないと損でしょう?」

凛「買った、って……」

琴歌「本命を手に入れる為の抱き合わせですけどね、掃除の一つくらいは出来るはずです」

未央「…………」

琴歌「誰かの手を借りたい時はお使いになってください、あまりお勧めはしませんけどね」

――ガタッ!

凛「ミオっ!」

未央「っ……!」

琴歌「あら、何か? お手洗いでしたら入口の方で見かけましたのでそちらへどうぞ」

卯月「いやいや、なんでもないです! 大丈夫です! だよねリンちゃん!?」

凛「うん、大丈夫……私は」

琴歌「不思議な方ですね? それでは私は二階の方も見てきますので」

――スタスタ……ピタッ

琴歌「私が二階に移動するんですから、掃除は二階からでしょう?」

??「…………!」

――トコトコトコ……

卯月「……行った?」

凛「みたいだね、あの子も一緒にだけど」

未央「ねぇしまむー、しぶりん……私達、あの人の下で動かなきゃ駄目なのかな?」

未央「相手は盗賊とはいえ悪い人からしか物は盗まないってベテラントレーナーさんも言ってたよ」

卯月「…………」

未央「私達、立場を間違えてない? このままで大丈夫なの?」

卯月「でも経典が更新されない限りは……」

未央「元々が事件の解決なんだよ? 事件が盗賊の事を指してるとは限らないとも私は思ってる……」

凛「それはそうだけど、ここで中途半端に騒動を起こせば……無関係のハルナさんやこの国自体に迷惑がかかる」

未央「……それは、そう……だけど!」

凛「この世界の悪しき習慣とは思うけど、これも文化の一部だから……今は耐えて」

卯月「あの鎖と首輪は……やっぱり、そういう事なんだね……?」

乙です
よっしゃ!予想通りだりなつだった!
…奴隷の子は誰なんだろうか、ロリ組だとは思うけど…

――タンッ、タンッ、タンッ

琴歌「上階は必要ないですわ、物置にでもしましょう。……あら、まだいらしたの?」

卯月「……もう解散ですか?」

琴歌「ええ、これからこの部屋は大掃除が始まるので出て行ってもらえると助かりますわ、荷物も広げますし」

未央「じゃあ準備のために私達も出よっか! 行こ行こ!」

凛「あ、ちょっと押さないで……」

卯月「お邪魔しましたー!」

――バタンッ

未央「……はぁっ! とりあえずどうする!?」

凛「決める前に出てきちゃったから何も決めてないよ」

卯月「まずは現状把握かな……私達がどこまで自由に動けるか確認しないと」

ケイト「それなら問題ないデスヨ」

卯月「あっと……ケイト、さん?」

ケイト「ハァイ、お望みの結果は得られマシタカ?」

未央「うーん…………」

ケイト「……おや?」

――ザッ ザッ

ケイト「……その気持ちは分からないでもないデスガ」

未央「同じ人なのに間違ってるよ……」

ケイト「しかし昔から存在する仕組みである事も間違いないデス」

ケイト「この制度を止めろというのナラバ、それこそこんな場所で議論しても意味がアリマセン」

凛「今は解決出来ない、それこそカイさんレベルにならないと……」

ケイト「かつての英雄でも力不足だとは思いマスけどネ」

卯月「……ケイトさん、今は自由に移動していますけど立ち入り禁止の区域などは?」

ケイト「警戒は外部のみデス、内部は必要以上の警備は敷かれて居マセン」

未央「……中は無防備?」

ケイト「皆さんのような“雇われ”が徘徊しているせいで、結果的に封鎖状態のような人通りになっている程度デス」

凛「なるほど、巻き込まれる事を恐れて……確かに、民衆の危険なんて気にしないだろうね」

未央「でも変な話、一般人の通行は規制しておいて、そのあたりはまるで無警戒なんて」

ケイト「元々私達は好き好んで仕事を受けているわけではありまセン、守れと言われた部分だけ守リマス」

卯月「それはハルナさんから聞きましたね」



凛「じゃあ、あの人が雇った……私達みたいな人は他に誰が?」

ケイト「さぁ? その情報は私達が調べる事は出来マセン、おかげで警備が面倒デス」

卯月「分からない、かぁ……」

未央「でも私達をその場で即採用したということは数が変わろうがあまり関係ない作戦なんだろうね」

凛「もしくは多ければ多いほどいい、かもしれないよ」

ケイト「気をつけて下サイネ? 一応、味方ごと殲滅するような作戦では無いと思いマスガ」

卯月「ケイトさんは、ハルナさんの知り合いですか?」

ケイト「この地位についてからの知り合いデス、他に対等な立場の人と会う機会が少ないので必然仲良くナリマス」

未央「あまり他の人と会わないの?」

ケイト「その通りデス、皆あちこちで好き勝手やってマス」

卯月「なんだか、ややこしいんだね……平和に見えても」

未央「本当、表面上だけなんだね」

凛「そうだ……あまりにも衝撃が強かったから今の状況に対しての情報しか集めてないけど……」

凛「元々の目的だった『盗賊団』の事、調べなくて大丈夫?」

未央「……忘れてたね、あまりにも色々あって」

卯月「でも有名だって言ってたし、すぐにでも分かる事が多いかも。現に今もそれなりの情報は……」

ケイト「やはりそちらも調べるのデショウカ?」

凛「まだ私達がやるべき事を決めかねている状態なので、念の為です」

ケイト「それなら人並みの情報だけデスガ、私がお伝えシマショウ」

卯月「いいんですか?」

ケイト「この程度なら問題アリマセン」



卯月「……やっぱり、事前に聞いた通りだね」

未央「悪い人から盗んで、他の人に渡していくんでしょ? 絶対に良い人だって!」

ケイト「民衆から見れば良い人、国から見れば邪魔な存在、という立ち位置デスネ」

凛「その二人が主要人物?」

ケイト「リーダーと言った肩書きとは少し遠い位置デスネ、ナツキという人物に自然と人が集まった組織デス」

ケイト「その取り巻きの中の代表、いや……最も実力者がリイナという人物にナリマス」

未央「ぜひ行動理念や目的をお話したいね、立派なもんだ、うんうん」

卯月「どうしたのミオちゃん、今日はブレブレだよ……?」

凛「いろいろなものを一度に見過ぎたんだよ」

ケイト「昨日の今日で来るとは限らないデスガ、ナツキのグループと対峙するのが目的なら休んだ方ガ……」

卯月「どうする?」

未央「私は気持ちの整理がしたいかなー……」

ケイト「ハルナの知り合いなら本部に案内しまショウカ? 寝床くらいは提供出来マスガ」

卯月「いや、大丈夫です、入った事も代表の方とお会いした事もあるので……」

ケイト「オゥ? まさかそこまで既に交流があるとは思っていませんデシタ、何者?」

卯月「ただの旅人ですよ。……詳しくは、アキハさんかハルナさんに聞いてください」

――スッ……

ケイト「ン?」

凛「……どうしたの?」

ケイト「……その物陰に、誰かが居たように見えマシタ」

未央「まさか敵襲? あ、いや、敵襲だとして盗賊団がもうこんな場所に?」

卯月「私見てきます!」

ケイト「ストップ! ここは警備の内側、仮に侵入されていたらコッチの不手際ネ」

ケイト「ここは本来の担当に任せて下サイ」

――バサァッ

未央「わっ!?」

ケイト「もしも隠れているなら出て来ナサイ!」

卯月(えらく大きな装飾の付いた……槍? というより、旗みたいな……)

凛(マントみたいな布が付いてるけど邪魔じゃない……?)

??「…………」

未央「あ、見て! やっぱり誰か居る!」

??「攻撃は止めて貰える? 怪しい者だけど戦える人じゃないもの」

ケイト「……?」

――パシャッ

卯月「っ……な、なんですか?」

??「記念に一枚よ。国の幹部さんとほぼ初対面でここまで親密になってるなんて、どういった関係かしら?」

凛「写真……?」

??「商売道具よ? 安心して、今は載せたりはしないからね」

ケイト(載せる、写真……それに、警備が敷かれた状況でもこんな場所マデ……)

未央「職業は戦場カメラマンか何かなの?」

??「戦場に出る時もあるわよ? 話題はスピード命、面白そうなお話があれば東奔西走」

ケイト「ナルホド……新聞記者デスカ」

??「今はそう呼ばない。一度は見た事があるでしょう? 情報電報という機器の名前」

凛「……!」

卯月「じゃあ……記者さん!?」

??「世界へ情報をいち早く届けるお仕事、今日もここが面白い話題の宝庫に感じたから来たまで」

??「今はこの写真を使わない、でも貴女達はいずれ面白い事をしそう……また会うかもね?」

――サッ

ケイト「……そっちは行き止まりデスヨ」

??「そうかしら? 記者は神出鬼没なのよ」

卯月「あの! もう一度会うっていったいどういう事……!」

??「そのままの意味よウヅキちゃん」

卯月「……あれ? なんで私の名前!?」

??「覚えてないのかしら? 私の作った端末に無理矢理アクセスした例のあの人が、あなたの名前を言ってたわよ」

卯月「アキハさん……あの時!?」

??「そんな人と繋がりがある駆け出しの冒険者なんて、話題の宝庫に違いないわ」

未央「邪魔する気!?」

??「いいえ、でも情報は流しちゃうかも? ウヅキちゃんが大事に持っているソレとか」

卯月「っ!?」

凛「このっ!!」

――ヒュッ!

未央「しぶりん!?」

ケイト「チョット! ここで戦うのは――」

??「何もすぐに名指しで言うとは言ってないじゃない? これから話題作りに貢献してね?」

??「……じゃないと、本当にバラしちゃうから」

卯月「あなたは……誰なんですか!? 何が目的で……!」

??「目的は一つ、私が話題の提供者で有り続けるためよ。大したことじゃない、勝手な自分の目標よ?」

??「私の名前は……はい、プレゼントよ」

――シュッ フッ



――パシッ

卯月「え、名刺……あれ?」

ケイト「消えた? ここは行き止まりに違いないハズ……」

凛「一瞬目線を外した瞬間に……魔法の気配も何も無く……!」

未央「でも本当に情報電報が配信するお知らせの記者なら……世間の敵ではないはず?」

ケイト「さぁドウデショウ? 現に皆さんは釘を刺された訳デスガ? 隠しておくべき何かがあると?」

卯月「そこは……ハルナさんにも秘密の部分です、深くは詮索しないで下さい……」

ケイト「……ま、いいデショウ、秘密は誰にでもあるものデス」

ケイト「ただし悪い事なら、発覚した時に覚悟して下サイネ?」

卯月「それは絶対に大丈夫です! 安心してください!」

未央「しかし私達も有名に……なった覚えはないんだけど、色々と注目されるハメになるのかぁ……」

凛「ウヅキ、そこには何て書いてる?」

卯月「……『情報電報 記者兼開発者』」

未央「だけ? 名前は?」

卯月「書いてある、その下に……『ミズキ=カワシマ』って」

すげぇ、こんなかっこいい川島さん、久々に見た



・・

・・・


――ドサッ

琴歌「荷物はこれで全部ね、綺麗に収納しておきなさい」

??「…………うん」

――トコトコ……

琴歌「ふぅ、狭っ苦しい部屋でも休憩はできますわ」

琴歌「しかし呼びに行けと言ったにも関わらず一向に帰ってきませんわね」

琴歌「まったく、どこで油を売ってるのかしら」

――ガチャッ

ケイト「失礼シマス」

琴歌「……あら、今度は何の用で?」

ケイト「お嬢様の仮住まいのお掃除デスヨ」

琴歌「さっきの話、聞いていなかったのかしら? 万が一の時は――」

ケイト「責任を取るなら構いませんヨネ?」

琴歌「……ふふ、一人で取り切れるつもりですか?」

ケイト「取る状況にならなければいいのでは無いデショウカ?」

琴歌「……ええ、そうなるように願いますわ」

??「んっ……」

――ガッ

??「!」

――パシッ

ケイト「おっと、足元はちゃんと見ないと危ないデスヨ」

??「…………ありがとう」

ケイト「ノープロブレム、お仕事ですから問題なしデス」

琴歌「……ところで、あの子は何処を彷徨いているのでしょう? 先程、呼んで来いと伝えたはずですが?」

ケイト「そちらの子もお忙しい様子でしたカラ、代わりに私が来マシタ」

琴歌「あら、ご迷惑をおかけしましたわね? あの子達は使われる事がお仕事ですのに」

ケイト「一つの体で二箇所のお仕事は出来マセンヨ」

琴歌「終わらせていないのが問題とは思いませんか?」

??「…………!」



――ギュッ

ケイト「オゥ?」

??「駄目…………帰って……」

ケイト「大丈夫デスヨ、勝手に手伝いに来ているだけデス、終わればすぐに帰りマス」

??「今……危ない……ここ……」

ケイト「おやおや、私の心配は無用デスヨ。荷物引っくり返そうが逃げ切って見せマース」

琴歌「聞こえていますわ」

ケイト「おや失礼。冗談です、イッツジョーク、ハハハ」

琴歌「……やっぱり帰っていただけません?」

ケイト「お断りシマース、お掃除も得意デス」

琴歌「じゃあ、終わったらさっさと帰って下さいね」

ケイト「勿論、ではお嬢様の邪魔にならないようにお隣の部屋から掃除しますか、カモーン」

琴歌「ちょっと、勝手にそれを連れて行かないで――」

ケイト「私がお掃除の仕方を教えますから、そこに座っていて下サーイ」

――タタタッ

――ガチャッ バタン

ケイト「……ふぅ、キャラに無い態度をしてしまいマシタ」

??「…………」

ケイト「警戒しなくても、この国のそこそこ偉い地位の人なんで大丈夫、不審者ではアリマセン」

ケイト「あの三人と話をしていたら、やっぱり戻ってきちゃいマシタ。あまりいい待遇ではアリマセンネ」

??「私……大丈夫……だから」

ケイト「本当デスカ~? 大丈夫な見た目には到底思えマセンヨ?」

??「…………」

ケイト「とりあえず名乗りマス、私はケイト。アナタは?」

??「…………ユキミ」

ケイト「いいお名前デス、もしよろしければ――」

琴歌「無駄話はそれくらいに、お掃除しに来たのでしょう?」

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/25(月) 12:02:40.25 ID:l0sedzFUO
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0

73 :ドライさん :2014/08/25(月) 12:06:58.65 ID:l0sedzFUO
自分のうんちを舐める(笑)
38.20 KB Speed:14.1 [ Video Game The Last of Us Remastered ¥ 6,372 Amazonで発売中!]
--------------------------------------------------------------------------------
↑ VIP Service SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々) 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示

ケイト「……勿論デス、ただコミュニケーションくらい構いませんヨネ?」

琴歌「ええ、ですが手も動かしていただけると」

ケイト「おっと失礼、そうデシタ」

雪美「…………」

琴歌「……後でお話の内容をお聞きしますわ」

ケイト「私も混ぜてもらって構いマセンカ?」

琴歌「良い訳ないでしょう? 私達、内部のお話です」

ケイト「では結構デス、お話の後でこの子をお借りしシマスネ?」

雪美「……?」

琴歌「あら、勝手に人の持ち物を持っていかれると困りますわ」

ケイト「いえ、手続きの関係上仕方のない事デス、何せお伺いしていませんでしたカラ」

ケイト「我が国の入国手続きを、この子は済ませてマセン」

琴歌「首輪が見えませんの? それは手続きを踏まえなくても構わないはずよ」

おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]
おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]
おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]
おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]
おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]
おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]
おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]おねショタマジ[ピーーー]

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/25(月) 12:02:40.25 ID:l0sedzFUO
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0

73 :ドライさん :2014/08/25(月) 12:06:58.65 ID:l0sedzFUO
自分のうんちを舐める(笑)
38.20 KB Speed:14.1 [ Video Game The Last of Us Remastered ¥ 6,372 Amazonで発売中!]
--------------------------------------------------------------------------------
↑ VIP Service SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々) 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示

ケイト「ええ、この子の階級は普通、どの地域にも手続きは不要デスガ……」

ケイト「今、言いましたね? 内部のお話と」

琴歌「……?」

ケイト「お嬢様がこの子を“内部”、つまり一族の一人と見なすなら、立派な個人デス」

琴歌「……揚げ足取りも甚だしいですわ」

ケイト「では外部の子なら、お話に参加しても構いませんよね?」

ケイト「万が一、侵略計画などを企てられるとこちらが困りマス、監視として……」

琴歌「先程から無礼ではなくて? 私が何故侵略計画などする必要が?」

ケイト「可能性のお話です。……そちらこそ、どうして話に私を弾こうとするのデショウ?」

琴歌「…………」

雪美「……? ……!」

琴歌「聞かれたくない事も……ありますわ」

ケイト「ほう。……では、話は聞きません、デスガ手続きは行いマス」

琴歌「勝手にしてください、手続きでもなんでも……」

ケイト「……ソレデハ、お話をどうぞ。私は外で待っています」

ケイト「私がいない間にユキミが“部屋で事故”を起こして“傷が増えている”ことの無いよう、願っていマスヨ?」

琴歌「……!」

――バタン

雪美「…………」

琴歌「……くっ!」

――ガシャン!!

――……ガチャ

ケイト「……オヤオヤ、大事な荷物では無かったのデスカ?」

琴歌「帰りなさい!!」

ケイト「帰りマセン、すぐ外で待っていますカラ」

雪美「…………!」

ケイト「ユキミ、また後デネ」

――バタン

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/25(月) 12:02:40.25 ID:l0sedzFUO
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0
86:トライさん[]
自分のうんちを見せる
2014/08/20(水) 14:05:14.22 ID:XRBBC/4w0

73 :ドライさん :2014/08/25(月) 12:06:58.65 ID:l0sedzFUO
自分のうんちを舐める(笑)
38.20 KB Speed:14.1 [ Video Game The Last of Us Remastered ¥ 6,372 Amazonで発売中!]
--------------------------------------------------------------------------------
↑ VIP Service SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々) 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示


琴歌「……気持ちを切り替えてきますわ、片付けておいて」

雪美「…………」

琴歌「それが終わったら手続きとやらに行ってきなさい……私は二階に行く、別について来なくて構いませんから」

――スタスタスタ……

琴歌(私らしくもない……ただの一人が気に入らないだけで……)

琴歌「はぁ……強気に見せるのも苦労しますわ」

??「あら、作っていたのかしら?」

琴歌「!?」



瑞樹「支援金寄付の記事以来のご対面ね」

琴歌「あなた、どこから……いや、それよりも!」

瑞樹「独り言は誰もいない時に言わないと独り言にならないのよ」

琴歌「居るとは思っていませんでしたもの」

琴歌「それより、何の用でしょう?」

瑞樹「私は話題の中心にしか出没しないわよ、面白そうなら何処へでも何処にでも」

琴歌「ここに話題はありません」

瑞樹「私にとっては人の存在が話題の種」

瑞樹「お会いしたついでに取材させて貰っても? その振る舞いは何に影響されて?」

琴歌「私は私ですわ!」

瑞樹「……あら、そんな大声出して。やっぱり変わった?」

琴歌「あなたに何が――」

――トン トン トン

瑞樹「ほら、大声出すから呼ばれたと勘違いした子が来ちゃったわ」

――スッ

琴歌「クローゼット……の中へ?」

瑞樹「さようなら♪」

――バタン  ガチャッ

雪美「…………?」

琴歌(すぐに開けた……のに、影も形もありませんわ)

琴歌「……何しているの? 呼んだ覚えはありませんわ、片付けは終わったのですか?」

雪美「終わった……」

琴歌「……そう、ならわざわざ報告せずに早く手続きに行きなさい」

雪美「…………」

――トタトタトタ

琴歌「…………今更考える事ではありませんね、何を揺らいでいるのでしょう?」

琴歌「私は私……つまらない情は不要ですわ、ふふ」



・・

・・・


ケイト「連れて来マシタ」

春菜「なぜです」

ケイト「良心の“カシャク”デス」

春菜「気持ちは分かりますよ? そして人道的にも正解かもしれません、ただし立場的にアウトです」

春菜「ありもしない規律を持ち出して人様の、しかもこの状況を作った本人から拝借したとは」

ケイト「駄目デシタ?」

春菜「私がその立場なら、連れてきますね」

ケイト「それを聞いて安心シマシタ」

雪美「……?」



ケイト「ユキミの為に説明すると、あのお嬢様から一時的に距離を置かせたかっただけデス」

ケイト「あまりいい待遇には見えませんデシタノデ」

春菜「さすがに引き抜くのは無理ですね。貴族をお金で上回るには眼鏡がいくらあっても足りません」

ケイト「下手すれば首が飛ぶネ、物理的に」

雪美「あの…………」

春菜「なんでしょう、私達に出来る事があれば出来る程度で。お風呂入ります? それとも眼が」

雪美「私……居なくなると……駄目……」

雪美「早く、戻らないと…………」

春菜「……おやぁ?」

ケイト「何故デス? 戻ってもお仕事するだけデショウ? 少しくらい休憩も必要デス」

春菜「まぁまぁ落ち着いて、何やら訳ありかもしれません、眼鏡をどうぞ」

雪美「……元は私のせい、だから…………少しでも、しないと」

ケイト「ウェイト、ウェイト! ストップ! そんな急いで戻る必要はないデショウ!」

春菜「うーん、もしかして連れてきちゃマズかったのでは?」

ケイト「でも賛成してくれたじゃないデスカ」

春菜「そっちの意味ではなく、彼女にとってです」

春菜「これは、善意の押し付けだったでしょうか?」

ケイト「……よく分からない、どういう事デスカ」

春菜「それは本人に聞かないと。ユキミちゃん、急いで戻らなきゃならない理由は何ですかね?」

雪美「…………それは――」

――ガチャッ

??「ただいま戻りました」

琴歌「遅い。呼んだらすぐに来るようにと最初の最初に言いましたよね?」

??「えっ……? ……失礼ですが、私は先程終わらせた物資の運搬以外に承っていません」

琴歌「そんなはずはないわ、この国の警備の者にあなたを呼ぶように伝えた」

琴歌「そして“他の用事がある”と断られて帰って来たと聞いていますわ」

??「……身に覚えがありません。お呼びの声が掛かれば真っ先に伺うように常日頃心がけています」

琴歌「じゃあこれはどういう事なの? ……いや、もういいですわ」

琴歌「今はあれが居ないの、色々難癖付けられて連れて行かれた所」

??「連れて行かれた……国の警備に?」

琴歌「あら、勿論用事が終われば帰って来ますわよ? 私達のところに……」

琴歌「もしかして没収されたと思った? 思ったでしょう? そして、そうあって欲しいとも思ったでしょう?」

琴歌「残念ながら、逃がすつもりはありませんわ」

??「逃げる気など……」

琴歌「ないでしょうね、少なくともあなた単体では」

琴歌「お世辞じゃなくあなたは優秀、何を任せても期待以上の動きをしてくれますわ」

??「……ありがとうございます」

琴歌「その枷を持っていながら、過去に何度監視の目を掻い潜って追っ手を逃れたのでしょう?」

??「…………」

琴歌「私からも逃げ切るのかしら」

??「そんな事は――」

琴歌「その場合、あなたのお仕事が他に回るだけよ」

琴歌「あなたは優秀、何でも出来ますわ。頭脳仕事も精神仕事も肉体労働も……」

??「いいえ、全て私が……!」

琴歌「分かっていますわ、あなたのお仕事ですもの」

琴歌「ですから、存分に私の為に働いてくださいね」

――ガチャッ バタン



??(私の為ですって? ……誰があなたの為になんて)

??「……明言はしなかった、でも恐らく国側があの子を連れて行った」

??「サイオンジ……彼女からあの子を引き離すのは容易ではないはず」

??(無理矢理にでも離した、離してくれたのなら……その人物は信用できる)



琴歌「これほどの技術、力量、知識を持ってどうしてその地位にいるのかしらと疑問に思いましたわ」

琴歌「ですが少し調べれば納得……ま、私には関係ありません」

琴歌(主人に反抗、逃走の常習犯。そんな彼女にも負い目がある、その鍵を握るのがあの少女、ユキミ)

琴歌「ふふ……貴族位の優等生が家元に追い出され、その理由が一人の少女を養う為?」

琴歌(ならばその人物を縛れば、手綱は握れる)



??「ユキミ=サジョウを、この家から逃がさなくては」

琴歌「私は絶対にあれを手放しませんわ」



・・

・・・


――ウィーン

卯月「こんにちは……?」

未央「しまむー、ここ本当に本部なの? 誰もいないように見えるけど……」

凛「入った事があるんだよね? 私達が来た時は入口付近しか見てなかったからウヅキ頼りだよ」

卯月「おかしいなぁ……ミレイちゃんもミクさんも、どこに行ったんだろう」

凛「……さすがに、悪い事態に巻き込まれてるなんてことは無いよ」

未央「そうそう、本部だからね」

卯月「うーん……一応は部外者だから、この事件が収まるまでどこかに隔離されてるのかな」

のあ「いいえ」



卯月「わっ!?」

未央(あの時の……! あ、直ってる)

凛「ノア……さん、でしたっけ」

のあ「ミレイ、ミク、以下村の住人は現在この国にはいない」

卯月「いない? 出て行っちゃった……?」

のあ「いいえ……追い出したつもりはない、そして頼んだ覚えもない」

のあ「本来、この国の幹部がやるべき仕事。しかし、その人物はここ数日姿を見せない」

未央「職務怠慢だね」

のあ「……とにかく、その仕事を勝手に見つけて実行している。退屈だったのでしょう」

凛「それは……お気の毒というか、大変だったと言うべきなのかな」

卯月「と、とりあえず元気で良かった……何の仕事を持ち出したんですか?」

のあ「一般民衆が巻き込まれている、無差別な通り魔よ」

未央「それはまた難儀な……」

凛「でも、こう言うと元も子もないのは分かってる……ただその手の事件はよくある話では?」

卯月「世の中が物騒だから……いくら傷害事件も国が管理するほどなんて」

のあ「普通ならその通り、ただし普通ではない事情もある」

のあ「……この話は長くなる、あなた達は翌日に備えて休息をとりなさい」

未央「そうだ、私たちは明日の為に英気を養わないと……あれ?」

凛「明日?」

のあ「ええ、今しがた直々に送られてきた……『明日、在るべき場所へ在るべき物を』と」

卯月「ナツキ……から?」

未央「律儀だねー、やっぱり礼儀は大事だよ」

凛「これは犯行予告に近いと思うけど……」



卯月「結局、今日会った人以外に頼るのは無理だね」

未央「ハルナさんとケイトさん、それにノアさん?」

凛「協力を求めるというより支援を仰ぐ相手だね」

卯月「明日……それまでに今日、見つけた情報は?」

未央「あまり成果は無いかな……あの貴族? の人と、付き添ってたあの子!」

凛「ついでに記者の人もね」

卯月「直接盗賊団と関係ある情報じゃなさそう……このままだとぶっつけ本番かな……」

凛「そういえばあのコトカって人は誰かを“雇ってる”って言ってたよね」

凛「私達が結果的に情報を知って、内部に入れたのもこれのおかげ」

未央「感謝はしないけどねー」

凛「そうじゃなくて、他にも居るんでしょ……?」

卯月「他にも数人って言ってたね、でもあまり期待しちゃ駄目かも……」

未央「そうそう、私達だけでなんとかしないと。そしてあわよくばあの子を奪ってでも助ければ!」

凛「ちょっと、気持ちは分かるけど話が飛躍しすぎだよミオ」

――…………

卯月(経典は変わらない……今回はヒントも何もない。何処の、何を、どの順番で解決すればいいのかな……)

凛(問題が多すぎる。でも事件、解決すべきは事件……だから、ミオには悪いけどあの子は関係がないはず)

未央(良い人だから何をやってもいい、そんな訳はないけど。盗みよりも、助けたい人がいる)



のあ(……反応する脅威は思ったよりも多い。取り零しは、なんとしても避ける)

春菜(まったく、私はどれから手をつければいいんでしょうね? この眼鏡を通してもまるで見えません)

ケイト(良識か任務か立場か。私は人間デスカラ、二つの手しかアリマセン。一つは、取れマセンネ)



琴歌(私の読み通りならば、仕込んだ起爆剤が盗賊団を焼いているはず。ふふっ、予告の日が楽しみですわ)

??(考えるのよ……私が明日、やらなければならない事……サジョウの為に、今使わないで何時この頭を使う……!)

雪美(……私は代わり、私は枷。私が居ると、二人で逃げ切る事は出来ない)



瑞樹(あらあら、いろんな意図思惑が混ざりすぎて凄い事になってるわ。どんな変化をもたらすのかしら?)



夏樹(明日か……まったく、今回はそんなに大きなヤマじゃなかったはずなんだがな、作業が多いぜ……)

李衣菜(明日! この目にしっかりと焼き付けますよー! うおー! 眠れない!)




・・

・・・

――翌日

琴歌(……まだ、目覚ましも鳴っていない)

琴歌「目が覚めてしまいました……まだ薄暗い、もう一眠り……」

琴歌「……いいえ、せっかくの早い目覚め、この時間を使って何かをしろという暗示ですわ」

――ガチャッ

??「失礼します」

琴歌「ふふ、いったい何を感じ取って来たのでしょう?」

??「…………」

琴歌「企業秘密よね。それで早速ですが支度を、いつも通りお願い」

??「分かりました」

――バタンッ

琴歌「……囲っているのに、こちらが見張られている気分になりますわ」



琴歌「さて……今日を指定したのは盗人側ですわ、まさか仮にも正義と奉られる組織が約束を違えるなど?」

琴歌「お互い、妙なレッテルを張られると自由に手が届かなくなりますわね」

――……ピッ ピッ

琴歌「……ええ、私ですわ。昨日の件はどうなりまして?」

琴歌「そう、上手く行った? ……意外? 私が直接交渉を行った事が?」

琴歌「チアキを使わなかった理由? ……ふふ、気まぐれですわ」

――ガチャッ

千秋「準備が整い……失礼しました」

――バタン

琴歌「……ええ、なんでもありませんわ、当の本人が来ただけ」

琴歌(この交渉ばかりはチアキに任せられませんわ)

琴歌(なにせ、彼女がこの事件中に“行動を起こさせない為の”人員確保の交渉ですもの)

琴歌(少し問題があるとすれば……私自身が“裏稼業”の人脈に深くない事)

琴歌(ですので、指令は出せても指定は出来ない……こればかりは人任せ)

琴歌「それで何人? ……そう、二人? いいえ上出来ですわ、ゼロも危惧していましたから」

琴歌「これで……今回の為に収集出来た人数は七人……」

――ガチャッ

千秋「失礼します……あの、お聞きした覚えのない二人組がお嬢様に呼ばれて来た、と……」

琴歌「あら……先の二人と違ってちゃんと顔見せに来てくれたのでしょうか」

琴歌(チアキが居る時に来るのはどうかと思いますが仕方ありませんわ)

琴歌(最悪、配置替えも視野に入れておきましょう)

千秋「追い返しましょうか?」

琴歌「早まらないで、私が直々に招待した相手です。あなたは次の仕事……警備を叩き起して来なさい」

琴歌「朝早くには盗人が動かないとは限りませんからね」

千秋「分かりました」



――スタスタスタ

琴歌「……チアキはこれで数十分は帰ってこないはず」

琴歌「今のうちに、作戦会議と行きましょうか……?」

琴歌「どうぞ、お入りになって」

――ガチャッ

---------- * ----------
 二人、誰が入ってきたか?
この書き込み以降に書き込まれたキャラが二人まで採用です。
リクエスト募集はしないと冒頭で言ってしましたが、決行します。

※注意
・シンデレラガールズ登場アイドルのみ、そして765や事務員は禁止。
・採用優先は先着ですが『既に登場している』もしくは『既にこちらが登場シーンを決めてしまっている』場合は
 申し訳ありませんが不採用になります。
・再掲になりますが性格・役職・行動がイメージと異なる場合があります。
・キャラリクのみでレスが多く埋まる事を回避するため、例え採用が二人出ていなくとも
 リクエストが十人を超えた段階で締切。
・お一人一名でお願いします。
---------- * ----------

予想通りのメイド姉妹かww

リクは服部さんでオナシャス

裏の組織っぽいのか
リクエストは拓海で

藍子ー

雫でお願いします。

恵磨

由愛ちゃん!

---------- * ----------
>>492 >>493 思ったより適役が選ばれて内心ホッとしています。
>>494 >>496 今回は先に採用が通ったので申し訳ありません。
>>495 >>497 その二人は既に作中で名前が出ているor名前は出てないが登場しています。
---------- * ----------

雫が登場済み……!?

琴歌「お名前、トウコさんとタクミ=ムカイさんで間違いはありませんか?」

瞳子「ええ。まさかこんな立場の人から声が掛かるなんて思っていなかったわ」

拓海「まったくだっての……自由人捕まえて何やらかすつもりだ?」

琴歌「上に立つ者ほど歩ける範囲は狭いのですわ」

瞳子「色々あるのね、それで早速だけど」

琴歌「勿論説明は行います、簡単なお仕事ですわ」

琴歌「……ただ、予定は少し変える必要が出てきましたね」

拓海「何だ? 呼んでおきながら仕事を変えるってか?」



琴歌「いいえ、元からご依頼はうちの労働要因の監視ですわ、いたって普通の」

瞳子「監視? それも自分の配下を?」

琴歌「最良は気づかれずに、そして怪しい動きを起こそうものなら即刻確保……」

拓海「部下が怪しい動きなんて穏やかじゃねぇな」

琴歌「念の為ですわ」

拓海「そうかい……で、予定を変えるってのは」

琴歌「予想より有名で、潜むには向いていないお方が見えたもので」

拓海「……悪かったな?」

琴歌「そういうわけで、別のお仕事をご提示してもよろしいですか?」

琴歌「ちょうど盗人に襲撃を受けて、そちらの警備も頼もうかと思っていたところです」

拓海「そうしてくれ、アタシも人の監視するよりかは気が楽だ」

琴歌「ではそのように。トウコさんには……このままお願いしますわ」

瞳子「別に問題はないけど、一人かしら?」

琴歌「いえ、既に雇用している別件の人員と入れ替えを行います」

拓海「他にも居るのか?」

瞳子「監視と迎撃に、よほど力を入れているのね」

琴歌「そこは深く詮索せぬよう」

瞳子「勿論……知り過ぎは身を焦がす」

拓海「アタシらは内容が何だろうと、受けた指示に従うだけだよ」

琴歌「ふふ、結構です。では詳細についてですが――」




・・

・・・

――ガチャガチャ

夏樹「ふー……駄目だ」

李衣菜「どしたの?」

夏樹「最後の仕事に回してたんだけどな」

――ガチャン

李衣菜「おっ、宝箱ですか?」

夏樹「んなもんある訳無いだろ、意味的には近いけどな」

夏樹「中身は……振ると音がするから貴金属だとは思うけど、肝心の鍵がな」

李衣菜「よし! 私の出番!?」

夏樹「あんまり張り切んなよ? 本番はこの後だぞ?」

李衣菜「大丈夫大丈夫! なつきちが出来ない事は任せてよ!」

夏樹「分かったって押すな押すな……」



――カチッカチッ

夏樹「しかし盗賊してるって感じがするな」

李衣菜「私達盗賊だよ?」

夏樹「アタシは実感がない、だりーみたいに技術があるわけじゃないからな」

夏樹「そっちのグループが盗賊団で、アタシの下に付く……今でも訳わかんねぇ……」

李衣菜「惚れ込んだんです! その生き様! 私が追い求めてたロックがここに!」

――ズイッ

李衣菜「なつきちが出来ない事は私がやる! 手助けする! だからその後ろ姿、最後まで追いかけさせて!」

夏樹「はいはい、いつも勝手にしろって言ってんだろ? 止めもしないし駄目とも言ってないだろ……」

夏樹(なんでこんなキラッキラした目をした奴が盗賊やってたんだろーな……)

李衣菜「はい、空いた空いた……わぁ」

夏樹「おっと……仕事増えちまったな、こりゃ大物だ」

――キラッ

李衣菜「見て見て! お金持ちのセレブ!」

夏樹「おいおい……そんなにいっぱいデケー宝石ついた指輪、趣味悪いから外しとけって」

李衣菜「気分だけでも、ほらほら」

夏樹「だいたいアタシにそんな華やかなモノは似合わねぇって」

李衣菜「そんなことないよ!!」

夏樹「うお……いや、そこを力説されてもだな……」

李衣菜「でも確かに大きい装飾は合わないかも、もっとシンプルで機能的な指輪が似合うよ!」

夏樹「機能的な指輪とか初耳なんだけど」



李衣菜「こんなにいっぱいあるんだから、似合うものもあるって!」

夏樹「あったとしてもコレは返すモノだからさ……」

李衣菜「ひとつくらいいいじゃん! こんなにいっぱいあるんだから!」

夏樹「一個でも、実際に私物化すりゃ盗んだと同義さ」

李衣菜「んー……じゃあ私が盗む! それでなつきちにプレゼントする!」

夏樹「あんまり意味ねぇだろ……」

李衣菜「一度経由する事でなつきちの心労が軽減される」

夏樹「減る前に増えてるんだよな」

夏樹(まぁ……一つくらいって意味じゃなくて、だりーがそんなに真剣なら別にいいか……)

――ゴソゴソ

李衣菜「むー」

夏樹(思ったよりも数があるみたいだから並行して作業してるけど)

李衣菜「これでもない、こうでもない」

李衣菜「こう、ズギャーンって、ティンとくるような、そんな品と巡り会いたい!」

夏樹「どっちだよ……無いなら無いでいいだろ?」

李衣菜「ダメダメ、ワンポイントのオシャレって大事なんだから!」

夏樹「そうか? じゃあなるべく早く――」

――カランッ

夏樹「……お?」

李衣菜「あれ、あんな箱あった?」

夏樹「いや、見てない……この箱の中にさらに入ってたのかもな」

李衣菜「鍵はかかってないね」

――カパッ コロコロコロ

李衣菜「あっ」



夏樹「おいおい、何か落ちたぞ?」

李衣菜「あれ? あれ? どこいっちゃった?」

夏樹「ソファの下か……よっと」

李衣菜「何が転がっちゃった?」

夏樹「その箱が指輪のケースに見えるから指輪……っと」

――ガシッ

夏樹(よし、取れた――ん?)

――ズズッ

夏樹「う!?」

李衣菜「何!?」

夏樹「いや……何も、今指輪が指を通り抜けたように見えて……あれ?」

李衣菜「おっ、その指輪シンプルでカッコいい!」

夏樹(手に取っただけだ……付けたつもりはない……)

夏樹「錯覚じゃない……」

李衣菜「それいい! 私も私も!」

夏樹「あ、ああ……外すから待って……あれ?」

――グッ グッ

夏樹「外れねぇ……」

李衣菜「無理矢理付けたら外れない事あるよねー」

夏樹「いや、そんな感じじゃない……やべぇぞ……何か――」

――ズンッ

夏樹「うお……ッ!?」

李衣菜「え、あ、なつきち!?」




・・

・・・

ケイト「…………おや」

雪美「チアキ……」

千秋「……随分長い手続きね」

ケイト「ええ、ご迷惑おかけシマシタ。……あなたがチアキさんデスネ?」

千秋「そうよ。早くユキミを返して」

ケイト「勿論です、が、本当にいいんデスカ?」

千秋「不都合は何もないわ」

ケイト「本当に?」

千秋「……しつこいと嫌われるわよ」

ケイト「もう手遅れデスヨ、今まで散々お偉い様を怒らせた事がありマス」

ケイト「何故でしょうか? 核心を突くと人はこちらに刃を向けマス」

千秋「分かっていないようね……私はユキミを迎えに来ただけ、あなたと話す為に来ていない」

千秋「帰りましょう、私達の居場所に」

雪美「…………」

雪美「帰る……何処……?」

千秋「コトカの下に、よ」

雪美「違う、あそこは駄目……チアキ、あそこに居ちゃ駄目……」

千秋「……何を今更。でも、私達はあの場所以外に行く所が無いのよ」

千秋「あなた、ユキミに何か変な事を吹き込んだ?」

ケイト「何の事デショウ」

千秋「……国の優秀な幹部の特技は人の神経を逆撫でする事?」

ケイト「オンリーワンで素敵デショウ?」

千秋「話にならない……!」

――グイッ

雪美「あ……」

千秋「行くわよ……帰るのよ。あなたも、中途半端な手助けなら要らない」

千秋「私達を哀れに思うなら、その身を削って助けなさいよ……!」

ケイト「…………」

千秋「それが出来ないなら、最初から同情しないで!」

――ガシッ

雪美「っ…………」

千秋(誰も助けは来ない、だから私が一人で……!)

雪美(近いようで……同じ目標に向かっているように見えて……ズレてる……)

――ザッ ザッ

ケイト「……行ってしまいマシタ」

春菜「随分重症ですねぇ、眼鏡はいかがです?」

ケイト「人の思いが見える素敵な眼鏡を所望シマス」

春菜「残念ながらお取り扱いしていません」

ケイト「デショウネ」

春菜「あの子も彼女も、鎖から逃げる願望と目標と努力は同じなのに」

ケイト「考え方は合わないようデス」

ケイト(ユキミは、それはひどく困難な道デスガ……二人で共に……)

春菜「努力を知らないのでしょうか? 眼鏡の為に努力は惜しまない私を見習って欲しいです」

春菜(それとも、努力が実った事がないのでしょうか?)

春菜(だからこそ、可能性を信じずに安易で確実な……自己犠牲を選ぶのかもしれません)

雫とゆめちゃんは選ばなかった国とか、序盤の子供5人組とかかなぁ?
名前出るのが楽しみだ



・・

・・・


卯月「昨日と打って変わってすごい人通り……」

凛「仕方ないよ、盗品とはいえタダで手に入るかも知れないって事でしょ?」

未央「おこぼれを頂こうって魂胆かー、わかるけど、そうじゃなくて」

瑞樹「あら、こんなところで油売ってていいのかしら」

卯月「ミズキさん……でしたっけ」

瑞樹「覚えていてくれたの? 感激だわ」

未央「あれだけ釘を刺されて忘れてる方がどうかしてるよ、今日は何の用?」

瑞樹「用事があるわけではないのよ、姿を見たから話しかけただけ」

凛「この人の波の中で?」

瑞樹「目はいい方なのよ」



卯月「私達、今日の準備で忙しいんです」

瑞樹「準備ね、それは何のかしら?」

凛「答える必要は無いよ」

瑞樹「意地悪ね」

未央「そもそも自分で調べるのが仕事でしょ?」

瑞樹「趣味よ。それに、一番確かな情報源があなた達だから何も聞く相手を間違ってはいないでしょう?」

瑞樹「……じゃあ交換情報、きっとあなた達の知らない情報を教えてあげる代わりに、どう?」

凛「交換?」

未央「相手にしなくていいんじゃない?」

瑞樹「情報通の助言は聞くものよ? サービスしてあげるから」

卯月「変な客引きみたいになってますよ……?」

瑞樹「昨日、新しく二人がこの国を訪れたわ。もちろん通りすがりや物乞いじゃない、例のお嬢様が呼んだ」

卯月「……!」

凛「それって――」

瑞樹「おっと、名前は聞いちゃ駄目よ? 黙って聞く、分かった?」

瑞樹「……これで例のお嬢様の下にはあなた達含めて七人、今日この日の為に集めた人員がいる」

未央(七人……?)

凛(この警備網を敷いておいて、たったそれだけ……)

瑞樹「冷静に考えるとイレギュラーなあなた達を除いて四人、元々居たのは二人……」

瑞樹「ナツキとリイナにぶつける相手としては、些か人数不足に見えるわね」

卯月「つまりどういう事なんですか?」

瑞樹「あら、聞いちゃうの?」



卯月「教えてくれないんですか?」

瑞樹「いいえ、お望みならば真相から意図まで、全て話してもいいわよ」

瑞樹「ただし目の前にいるお姉さんは、これでも世界レベルの情報屋である事を忘れちゃ駄目よ」

凛(ウヅキ、聞くのはほどほどにね)

卯月(え? でも教えてくれるって言ってるよ?)

凛(対価は払えるの?)

瑞樹「私、安い女じゃないのよ」

卯月「……じゃあ、勝手にミズキさんが話しているぶんだけ聞きます」

瑞樹「そういう事。私も、ルーキーが秘宝を手にするだけでどれだけの動きが出来るか気になるのよ」

瑞樹(今後の参考にね……?)

瑞樹「あなた達以外の四人は先行した二人、後発の二人で異なる指示を受けたみたいだけど」

瑞樹「特に重要なのは後発二人が受けた……チアキ、ユキミの監視」

未央「もしかして」

瑞樹「ええ、あのお嬢様が抱える二人」

未央(二人も居たんだ……)

瑞樹「……どうも、彼女の手から逃れる為の工作を行っているみたい」

凛「逃げる準備……?」

未央「おお、これで問題解決?」

瑞樹「そう簡単に行くかしら? 監視の任務を与えたという事は、お嬢様は勘づいている」

瑞樹「むしろ直接警告しない辺り……現場を抑えて今度こそ逃げられないように仕向ける算段かも」



――スッ

瑞樹(……あら)

卯月「コトカさんはユキミちゃんとチアキさん? を、どうしたいんだろう」

未央「そりゃあ手足としか考えてないんじゃないかな」

瑞樹「じゃあ本人に意図を聞いてみましょう、あそこ」

凛「……? ……!」

未央「あれ? あそこに居るのは……!」

卯月「あの時の、ユキミちゃんと……あれがチアキさん?」

――ザッ ザッ

雪美「良かったの……?」

千秋「あのまま話を続けていても、進展はしないわ」

雪美「違う……ケイト、助けてくれた……強引だったけど」

千秋「そうね……」

雪美「…………助けて、って……言わないの?」

千秋「……!」



雪美「悪い人じゃない…………」

千秋「……人に頼っちゃ駄目、私が全部やってみせるから安心して」

雪美「ここから逃げる……?」

千秋「ええサジョウさん……こんな利用されるだけの場所からは、逃がしてみせる」

雪美「…………」

雪美(一緒に……じゃないの?)

――スッ

千秋「……?」

未央「あなた、チアキさん?」

千秋「ええ……そういうあなた達は、お嬢様の集めた監視役かしら?」

千秋「もう隠しても無駄なら、堂々と動くから見失わないようにせいぜい――」

卯月「あの、違うんです! 私達はお二人の真相を聞きたいんです!」

雪美「…………」

千秋「真相? そんなものはないわ」

凛「じゃあ経緯を話して欲しい。……内容次第で、私達が“解決すべき事件”が変わる」

千秋「事件、あなた達は探偵か何かかしら」

未央「違うよ、ただのお人好し、ね?」

雪美「…………ん」



千秋「残念だけど話す義理はないわ」

卯月「待って! これはお互いの為で――」

千秋「互いの為……?」

雪美「……あ、駄目……!」

――グイッ

卯月「へ? うわ――」

凛「ウヅキ!?」

――ドサッ

卯月「痛っ……くない、あれ?」

千秋「それなりに武術の心得もある、とはいえ齧っただけの私に……あっさりとね」

未央「ちょっと!」

――バッ

未央「いきなり投げ飛ばす事ないじゃん! 何か気に障ったの!?」

千秋「別に……試しただけ」

凛「試す?」

千秋「協力を求めるか、ただ興味本位や偽善で私に絡んだのなら、さっさと手を引いて」

千秋「私に並んでもいないのに、コトカを相手にしようと思わないで」

雪美「大丈夫……?」

千秋「ええ、衝撃は与えていない……行くわよ」

卯月「あ、待って……待って下さ――」

――ワアアアアア

凛「!?」

未央「え!? 何!?」

千秋「……仕事よ、本来の。私に絡むより、向こうの相手をしてあげたら」



――ダダダッ

凛「うわっ……! 凄い人の盛り上がり……!」

未央「まだお昼になる直前なのに……まさか、もう!?」

雪美「……あっ」

卯月「チアキさん!」

千秋「また後で……互いに無事ならね」

――スッ


卯月「まだお話は終わって……!」

凛「ウヅキ、あの人も心配だけど今は……こっち、あそこの建物の上……!」

未央「眩しくて影しか見えないけどっ、あの大荷物とこの注目なら……」

李衣菜「…………今は急いでるんだよ。一番大事な、仕事を早める程度には」

李衣菜(会わなきゃいけない人がいるからね)

――バッ



――ジャラジャラジャラ……

未央「うわ、豪快だね」

卯月「宝石の雨だよ」

――ゴツッ

凛「痛っ……小物だからいいけど、もう少し考えてくれないかな……」

未央「お、何が当たった? 金の延べ棒とか?」

凛「死んじゃうよ……」

卯月「あの屋上にいるのが……ナツキ?」

未央「いや、うっすらしか見えないけどケイトさんから聞いた特徴と違う……たぶんリイナさんの方」

凛「でも騒ぎはここにしか起きてないと思うよ、いろんな方向から人が集まってくる」

卯月「じゃあ……一人で来てるの? いや、そんなはずは……」




・・

・・・

---------- * ----------
 用事が入ったため、本日分の残り更新が日付が変わる頃になります、申し訳ありません。
役目は決めてるけどシーンにたどり着いていないキャラなどは、早めに出せたらいいと思っています。
---------- * ----------

乙乙

藍子は傭兵役向かなかったかー

琴歌「おや、外が騒がしいですね……ずいぶんとお早い降臨で」

??「はぁー……」

琴歌「どうなさいました?」

??「いや、本来あたしはあの場所に居たはずなのよ、それを配置替えなんて酷な」

琴歌「ごめんなさい、どうにも不向きな人物だったので」

??「知ってる。それにあたしの方を変えた意味も分かってる」

??「じゃないと逃げちゃうから」

琴歌「そこまでご存知なら、深く説明しなくても大丈夫でしょうか?」

??「そりゃ知ってるわよ、だってあたしがやったからね」

??「でも向こうも悪いと思うわ、周りに負傷者の山で一人武器持って構えてたんだから」

琴歌「それで……タクミさんを撃ったんですか? サナエさん」

早苗「なによー、でも悪い事してなかったから生きてるじゃない」

琴歌「いくら特殊な弾とはいえ、いきなり銃弾で頭部を撃ち抜かれたら誰だってトラウマになりますわ」

早苗「以来、顔を合わせるたびに避けられる」

琴歌「仕方ありませんね」

早苗「あたしとしては仲良くしたいんだけどね、見た目より良い人って分かったし」

早苗「正義は集まってこそ力を発揮するのよ」

琴歌(……ずいぶんと凝り固まった正義感をお持ちで)

琴歌(普通、問答無用で急所を狙撃するのは正義のやる事ではありませんわ)

早苗「あ、今変な事考えてたでしょ、分かるわよ」

――チャキッ

早苗「あたしの弾丸は悪しか貫かない、正義に効果は無い」

早苗「だから弾が当たれば敵よ。代わりに、反応が薄ければすべてあたしの味方」

琴歌「つまり撃つのはその為の判断材料と」

早苗「わかる?」

琴歌「相手の心情を考えなければ最良の選択ですわ」

早苗「でしょ? やっぱり善悪の判断はこの子に一任するに限るわー♪」

琴歌(聞いていませんわね)

琴歌「……それで、監視対象は今どこに?」

早苗「トウコちゃんが張ってるわよー、あたしは待機だけどこのままお仕事終わっちゃうかもしれないわ」

琴歌「確かに、契約は盗人が去るまでですから」

早苗「ねぇねぇ物は相談なんだけど、あたしも前線行っちゃ駄目? ナツキとリイナはあたしが狙ってるのよ」

琴歌「もう既に二人も向かっていますわ」

早苗「多い方が良いでしょ?」



早苗「あたしだって賞金稼ぎとか言われてるけど、それはついでよ? 悪人捕獲が動力源なのよ」

早苗「こんな銃弾を持っているのはあたしだけ、ならあたしがやらなくちゃ」

琴歌「ナツキとリイナの確保が目的?」

早苗「そう! 行っていい?」

琴歌「なら、ここに居た方が賢いですわ」

早苗「……?」

琴歌「ナツキかリイナ、どちらか分かりませんが……絶対に私の元を訪れるはずですもの」



・・

・・・


夏樹「っはぁ……ちくしょう」

――パサッ

夏樹「だりー一人で大丈夫かよ……自分がこんな状況で言えるわけねぇけど」

夏樹「さて……“コレ”が何か分かったのはいいとして……結局外れねぇのか」

――ギュッ

夏樹「……駄目――うお」

――バキッ! ガタンッ!

夏樹「痛ってぇ……ベッドの足が壊れちまった……」

夏樹「……もう一人じゃ立ちも出来ないか、地面は固いなぁ」

――ミシッ

夏樹「指輪が外れないのは、古い魔法だ……今は装備を紛失しないよう、戦場で落とさないように使われている固定魔法」

夏樹「だけど元々は呪いの装備とかに使われてるんだってな……おかげで外れねぇ」

夏樹(解除は術式を組んだ本人か、もしくは解呪の専門家ね……たかが泥棒にそんな聖職者の知り合いが居る訳ねぇだろ)

夏樹「それで……この指輪は……“重力石”っつー取り扱いが危険な物資で作られていると」

夏樹「生物が触れている時間に比例して重力の影響を強める、か」

――ズシッ

夏樹「……こんな指輪、普通は絶対に作らねぇし」

夏樹(触れたら装着ってのも、完璧に……アタシらを狙って用意しやがったな)

夏樹「ま……最初に触ったのがアタシでよかったか」




・・

・・・

早苗「ふーん、それで固定魔法の術者は?」

琴歌「もちろん私ですわ」

早苗「なるほどね、なら盗人の誰かが被害に遭っているなら、片方もしくは両方がここに来る可能性があると」

早苗「そうと分かればあたしはここ……いや、あんたのそばを動かないわ」

琴歌「ご苦労様です」

琴歌(事前の調査で、盗品の鑑定を行うのはナツキ本人……しかし彼女には盗賊のスキルは無い)

琴歌(全ての品はチェックする、しかし鍵で閉じられた箱がひとつだけ……なら、リイナが開けるはず)

琴歌(そして二人で共に確認、どちらかが罠の餌食になり、それを眼前で目撃する……!)

早苗「あら、悪い顔してる」

琴歌「そうでしたか? 気づきませんでしたわ」

早苗「でも撃たないわよ? 悪を捕まえるための策だからね?」

琴歌「……そう、これは策ですわ」

――ガチャッ

千秋「戻りました……そちらの方は?」

琴歌「客人です、お茶でもお出しして」

早苗「あー、いらないいらない、あたしの為に苦労しなくていいから」

琴歌「そうですか? では取り消します。まず報告なさい」

千秋「警備には指令を伝えました、逃走を防ぐための警戒網を張れと」

千秋「現在、賊のうち姿が確認できたのはリイナ一名のみです」

早苗「おっと……?」

琴歌(……という事は、最善の動きですわね)

――ガタッ



千秋「どちらに……?」

琴歌「建物の屋上。同じような高さか、少し高い建物に囲まれた立地がいいわね」

千秋「それなら……ここからすぐ北上した位置にある建物が条件に当てはまりますが、何故?」

早苗「あんた優秀な子ね……地図も頭に入ってるの?」

琴歌「自慢の召使いですわ、ふふ」

千秋「…………」

琴歌「理由は知る必要がありません、ただし私がそこに行く事を残りの六人にも伝えて」

早苗「え? あたしだけで大丈夫でしょ?」

琴歌「保険は必要でしょう」

早苗「そう言われちゃ納得するしかないかなー、ちぇー」

琴歌(……ふふ、せいぜい私を見つけて、誘き出されなさいリイナ)




・・

・・・


春菜「当人が来たにも関わらず、そこへは警備を寄せないとは」

春菜「ケイトも同じようですね……あくまで“自分達の力で賊を捕らえた”としたいのでしょうか?」

春菜「その功績は確かに認められそうですね」

――ダダダッ

凛「はぁっ、はぁっ……あれ?」

未央「こっちは他に道が無いよ! 警備が敷かれて……あっ!」

春菜「おやおや皆さんお揃いで、何事ですか?」

卯月「こっちにチアキさんが来ませんでした!?」

春菜「朝早くにはお会いしましたがそれ以降は見ていませんね、それでどうしました?」

未央「連絡だけ寄越してすぐに帰っちゃったんだよ」

凛「コトカが行動を開始する、拠点から北上した位置の建物上にリイナをおびき寄せるって」

卯月「それだけ伝えて……すぐにこっち側へ」

春菜「うまく撒かれましたね? それにしてもおびき寄せるとはどういう事でしょうか」

春菜「相手は返しに来ただけです、別にコトカさんに会いに行く必要は無いと思われますが?」

凛「そこは何も聞いていない、けど……何かがあるから誘き寄せる事が可能と判断してるかも」

春菜「何かあるといえば気になっているのは……どうして一人なんでしょう?」

卯月「一人? チアキさんがですか?」

春菜「いいえ、話題のお方ですよ。リーダーのナツキは何処へ?」

凛「……来てないの?」

春菜「目撃情報はありません、おびきよせる対象が隠れているナツキというならば分かりますがそうではないと」

卯月「私はリイナを、としか……」

未央「そういえば見てないまま話が進んじゃって、そのリイナさんは今どうなってるの!?」

春菜「現場は一般市民の殺到でパニック状態です、情報が回ってくるなんて状況ではありませんよ」

春菜「ですが徐々に落ち着いている様子、騒ぎの音も小さくなっていますからね」

凛「つまり、仕事は終わった……?」

春菜「そのようですね。これから彼女を逃がさないように地上は引き続き警備を行いますが……」

卯月「あれ、この警備網……入ってきた時はリイナは何処を通って……?」

春菜「どこで突破されたのやら……あまり期待はしないでください」



未央「ねぇ、返却が終わっているなら次は逃げるはず……でも、おびき寄せるんだよね?」

卯月「そう聞いてるけど……」

未央「目的の場所に私達がうまく誘導しろって意味か、それともリイナさんが寄らなければならない理由がそこにあるか」

未央「……どっちだと思う?」

凛「前者なら、私達に意図を伝えてくれないのはおかしいよ」

卯月「じゃあ建物に何かあるの?」

未央「……目標は建物じゃないかもしれない」

未央「ナツキさんが居ない、じゃなくて来れない……もしくは、そこにいるって可能性は?」

卯月「え? それってどういう事……?」

凛「人質?」

春菜「それは有り得ませんね、確保済みならば現地入りしている情報屋が騒ぎ立てるはずです」

凛「……納得する」

未央「じゃあ、ナツキさんはここにそもそも来てない、来れない……と思うんだよ」

春菜「確かに単独で……それもリイナだけという例は聞いた事がありませんが」

春菜「どうしてそう思うのでしょう?」



未央「普通に考えたらそう思った……捕まえるにしては集める戦力や警備が薄いんだよ」

未央「しかもこういう行動って本来ならこっそりとやるべきじゃないの?」

春菜「それには同意しますが、世間にアピールする為ならこれも仕方ないかと」

未央「じゃあ、警備が薄い理由はそうとして……で、本当に確保する手段は何かって事」

卯月「……この警備網と人員じゃ物足りなさ過ぎるよね」

凛「何か他の策があるって気づいたの?」

未央「いや、勘も勘……予想の域を出ないんだけどね」

未央「リイナさんがその場所に行かなきゃならない理由が、既にもう作られてるとしたら」

未央「それが、ここに居ないナツキさんと関係してたら……!」

春菜「面白い推理ですが、手段や動機の証明が困難ですねぇ」

卯月「盗賊の確保とそれによる功績じゃ薄いの?」

春菜「なんと言いますか、いくら相手が世界的な盗賊一団だとしても……方法が回りくどいんです」

春菜「陰湿、と表現しましょうか? もっとストレートで確実な方法もあると思いませんか?」

未央「う、確かに……」

凛「出撃も出来ないような痛手を負わせる事に成功しているなら、わざわざおびき寄せる必要もない……?」

春菜「しかし考え方を変えると……何か因縁のようなものも感じる現状です」

春菜「おびき寄せる……我々警備を退けて、直接対決したいような節でしょう?」

卯月「コトカさんとナツキ両者の間で……因縁?」



春菜「聞いた事もありませんが、可能性はその程度です」

卯月「……因縁があるという事は、過去に何かあったって事」

凛「まさか、事件って……そんな過去の事も?」

未央「でも本当にそこが解決すべき点なら……どこから絡まった糸を解けばいいの?」

卯月「分からない、けど……因縁を断ち切るのがコトカさん側かナツキ側か……どっちがいいと思う?」

未央「そりゃあナツキさん達の方が……!」

凛「いや、違うよミオ……答えは“どっち側からも切ってはいけない”だよ」

春菜「互いに険悪なら、第三者が仲裁すべきですね」

卯月「じゃあ見つけなきゃ……どっちの言い分も抑えられる人を……」

凛「もしくは、互いに譲歩させるきっかけを掴まなきゃ……」

未央「どっちも切れちゃ駄目、存続させなきゃいけないのか……まいったね」

凛「不本意?」

未央「本音を言うと、だね……でも、残さなきゃいけないなら――」

――バサッ

未央「……しまむー、それ!」

凛「今、更新……? なら、やっぱり正しい結論……ようやく、事件が見えたね」

春菜「何事ですか?」

卯月「あ、えーっと……ち、ちょっと失礼します!」

――ササッ



卯月(内容……)

未央(なるべく分かりやすく、対処しやすい内容なら!)



~ 五者五様の束縛を解放せよ ~



凛「五……?」

卯月「五人も新しい人に会ったっけ……?」

未央「いや、既に会った人かもしれないよ」

卯月「じゃあ別の言い方で……ナツキは捕まってるの?」

凛「束縛……きっとそういう意味じゃないと思う、たぶんだけど……」

未央「例えば……コトカに行動を縛られてるユキミちゃんやチアキさんみたいな、って事?」

卯月「なるほど、という事は……その二人と、後は……?」

春菜「事情は把握出来ませんが、何かに縛られている人をお探しで?」

春菜「それなら今、現場で暴れている彼女もある意味縛られていますよ」

凛「リイナが?」

春菜「ええ。私達やお嬢様の敷いた包囲網に……たいした束縛ではありませんけどね」

卯月「逃がしてあげる必要が?」

未央「かもしれない……でもそうすると……」

春菜「私的に、あなた達がナツキ側に肩入れされると非常に立場が危ういのですけど?」

卯月「で、ですよね……」



春菜「だから、仮にやんごとなき事情で相手側に協力するにしても、なるべくバレないようお願いしますね?」

凛「……止めないんですか?」

春菜「既にうちのケイトが、一度お嬢様からユキミさんを強奪してくるという事案が発生してます」

未央「わお」

春菜「というわけで人の事を言えない状態ですね、しっかりチアキさんに釘刺されました」

卯月「……ユキミちゃんとチアキさんに加えてナツキ、リイナに……あと一人は?」

未央「あの記者さんは?」

凛「束縛から一番遠い人だと思うけど」

未央「……確かに、常識でも縛れそうになかったよ」

卯月「となると……あと一人、いったい誰?」



・・

・・・


琴歌「…………風が心地よいですわね」

琴歌「あなたもそう思いません? お仕事は終わりましたか?」

――ザッ

李衣菜「……聞きたい事があるよ」

琴歌「ええ、私も。まずはこちらから話しても構いませんか?」

李衣菜「……聞くよ、ただしその後の話に答えてもらえると約束してから」

琴歌「了承しました。私は他と違って約束は守る主義です」

琴歌「ではこちらの質問です、過去に盗みに入った先を全て覚えていますか?」

李衣菜「なつきち単独の頃はさすがに把握していないよ、でも私が入った先は覚えてる」

琴歌「結構です、では……ほぼ一年前、恐らくあなたが最初にナツキと侵入した貴族は覚えていますか」

李衣菜「当然だよ、記念だからね……その後こっぴどく怒られたけど」

琴歌「でしょうね……今のあなた方には考えられない程野蛮な襲撃でした」



李衣菜「まだ盗賊の気分が抜けてなかったんだよ、なつきちに『これじゃ強盗と変わらねぇ』と言われたっけ」

琴歌「その後はご存知?」

李衣菜「その後……?」

琴歌「ええ。あの義賊がここまで徹底的に襲撃を行うなんて、よほどの悪行を行っていたんだ……」

琴歌「ふふ、根も葉もない悪評が広がり……最後には内部分裂の末、トカゲの尻尾切り」

琴歌「悪い噂を数名に集約し、貴族位から追い出した」

李衣菜「……それはご愁傷様」

――ダンッ!!

琴歌「……私の一族ですわ」

琴歌「あなたがナツキに肩入れし、共に行動し、私の家系が所属する一団を狙った結果……」

琴歌「その偶然が! 私の未来を奪いました!」

李衣菜「……災難だったね、でもまた貴族位に復活してるでしょ?」

李衣菜「それに、またなつきちに狙われるくらいの所業もしているって事だよ」

琴歌「この地位だけは手放せません……! ご先祖様に顔向けできませんわ……!」

李衣菜「逆恨みは止めてよ」

琴歌「黙りなさい! 私は何もしていない、ただあなた達の気まぐれと偶然が重なっただけでこの仕打ち!」

琴歌「並大抵の報復では、この復讐劇は終わらせませんよ……!」



李衣菜「……ふぅ、終わり? じゃあ次はこっちの番」

琴歌「プレゼントは気に入って下さりましたか?」

李衣菜「厄介なモノが届いたよ……思惑通り?」

琴歌「盗人も、盗品に殺されれば本望でしょう?」

李衣菜「装備固定の魔法は、術者の解除が一番手っ取り早いらしいけど……誰が術者?」

琴歌「当然私ですわ、この為だけに習得しました」

李衣菜「……そっか」

琴歌「ふふ、どうしますか? 術者が私と分かれば――」

――ピッ

――カランッ

琴歌「攻撃はでき……ま…………」

――ツー……

琴歌「え、あ、痛……?」

李衣菜「じゃあとりあえず……償って」

琴歌「ぁ、え? ま、待ちなさい! 私が解除しなければナツキは……!」

李衣菜「黙っててよ……うるさいなぁ」

琴歌「ひっ?!」

――キィン!!



琴歌「あ、あ……?」

早苗「穏やかじゃないわね……!」

李衣菜「誰? 邪魔しないでよ、その人を懲らしめなきゃいけないんだからどいてよ」

早苗「あたしが退いたら何するか分かんないでしょ……っと!!」

――ギィン!

早苗「あーあー、ナイフを銃で受け止めさせるとか……傷入ったらどうしてくれるのよ」

李衣菜「割って入ったのはそっちだから知らないよ」

早苗「とにかく、そこで足を止めなさい。じゃなないと次は撃つわよ」

李衣菜「分かった……じゃあ、ここから狙うね」

――ジャラッ



李衣菜「普通の片手銃なら装填数は多くても二桁に届くか程度だよね」

早苗「ちょっとちょっと……冗談じゃないわ」

――グイッ

琴歌「ひぐっ!」

早苗「階段降りるわよ! さっさと動く!」

李衣菜「じゃあ倍以上投げたらどれかは届くと思うなッ!」

早苗「どっから出したのよあのナイフ!」

――ビュンッ!!

――……カランッ

早苗「はぁ……はぁ……」

早苗(間一髪……下の階に逃げたわ……何十本どころじゃないわよあんなの……)

琴歌「そんなまさか……こ、攻撃してくるなどと……」

早苗「最初に一人で待ち構えるって提案した時はどうかと思ったけど……そういう事だったのね」

早苗「ナツキに仕掛けた罠の解除をあなただけが持つ、命を奪えば永遠に解除方法が断たれると……」

琴歌「魔術や呪術は術者が死んでも消えない……だから、狙ってくるはずなど……!」

早苗「仲間の犠牲など知ったこっちゃないって訳ね……ただ報復だけに来たと」

――ジャリッ

李衣菜「違うよ。なつきちがあの状態のままで良いわけない」

早苗「追いかけてくるか……」

琴歌「でしたら! どうして私を攻撃して……!」

李衣菜「方法は後から探すよ、その前に……自分は安全だと、うまく作戦が進んでいると勘違いしてる……」

李衣菜「お前を刺しに行く」

琴歌「……っ…………!」

早苗「悪人を常識で測っちゃ駄目って教訓! とにかく逃げるわよ! 他と合流しなきゃあたし一人じゃ……」

李衣菜「逃がさない!」



――ビュッ

李衣菜「!?」

拓海「おらよッ!!」

――バキィッ!

李衣菜「っぐう!?」

――ドガァン!!

拓海「何だ何だァ? いったいどうなってやがる……全面戦争するなんて聞いてねぇぞ?」

早苗「するとは言ってないのよ、するつもりも無かったみたいよ?」

拓海「……お前とは顔合わせたくねぇなぁ」

早苗「水に流しなさい、今はそれどころじゃないのよ!」

拓海「分かってるっつーの! 依頼主守れねぇなんて馬鹿な話があるかよ……」

――ガラッ

李衣菜「けほっ……次から次に……なつきちの仇討ちを邪魔しないでよ」

拓海「死んだワケじゃねぇだろーが……んなことしてもお前の頭は喜ばねーぞ」

李衣菜「好かれようと思ってやってる訳じゃない、好かれたい思いはあるけど」

李衣菜「ただの自己満足と、許せない気持ちで動いてるだけ!」

――ダッ

早苗「あたしが守っておくから、こっちに影響が出ない場所で暴れなさい!」

拓海「はぁ!? つってもここは建物のほぼ最上階だ! 行くところなんて……」

早苗「はい」

――ポイッ



李衣菜「!?」

拓海「おい、コレ――」

早苗「下に降りろって言ってんのよ。あ、耳塞いでて」

琴歌「え?」

――カッ



・・

・・・


――ドゴォンッ!!

凛「うわっ!?」

未央「んなっ!?」

卯月「きゃあっ!?」

――ドンッ

未央「う、わぁ……建物の上の方がいきなり吹っ飛んだ……!?」

凛「外は崩壊はしてない……でも崩れる音が聞こえる、きっと中の階層が下に落ちたんだ!」

卯月「遅れて到着してよかった……もしあの集合場所の建物に入ってたら巻き込まれてたよ……」

未央「言ってる場合!? あそこが集合場所なんだよ!? てことは既に……」

卯月「そ、そっか、もう戦いが始まってる……あれ?」

凛「……戦闘が起きてるの?」

未央「そりゃあんなに騒ぎが起きてたら……ん? なんで戦いが起きてるの?」

卯月「おびき寄せて、ナツキに関係する取引が目的なんじゃ……」

凛「交渉が上手くいかなかったのか、それとも別の何かが起きたか……なんにせよ、どうする?」

未央「中に入るには……危ないよ?」

卯月「様子を見るしかない……かな」

凛「とりあえず、建物の周囲を見よう……誰か巻き込まれてるかもしれない……!」

――パラパラ…… ドカッ

拓海「あンの野郎……生身の人間にほぼゼロ距離で爆発物投げる奴があるかよ……!」

早苗「生きてるー?」

拓海「……ちゃっかり上階に留まってやがる。五階ぶんくらいは下に落ちたか? 登るのは無理だな」

早苗「あたしはここで待機するから、ちゃっちゃとその子片付けちゃいなさーい」

早苗「余裕が出来たら上から援護するわよー」

拓海「止めろ! 上から撃つな!」

早苗「遠慮しなくていいのよ、あんた巻き込まれる心配ないでしょ?」

拓海「そういう問題じゃ――」

――ガシャッ!

李衣菜「ふッ!」

拓海「危っぶね!?」

――ヒュン!



――ザッ

李衣菜「……離されちゃったか」

拓海「登るのは無理だぜ、アタシは事情は分かねぇけど……仕事なんでな、覚悟しろよ」

李衣菜「こっちが用事あるのは上の人だけだよ」

――ダッ

拓海「逃がすか!」

李衣菜「捕まらないよ」

早苗「ここからじゃ狙えないわね……穴から見える隙間は狭いのよ」

拓海「……おいおい、壁際に自分から追い込まれるのか?」

李衣菜「用事があるのがこっちだからね」

――ガシャン

拓海「お、おい! ここ何階か分かってんのか……!?」

――ダンッ!

李衣菜「逃げ帰るロープだったんだけどね、ちょうど屋上に繋がってるからこれで登るよ」

拓海「用意周到だなオイ……!」

李衣菜「追いかけてきたら、ロープ切るからそのつもりで」

拓海(クッソ、ここから落ちるのはマズいな……かといって遠距離武器なんて持ってねぇし)

拓海「オイ! 外から上にアイツが登ってる! 上にいるのはお前だけだからそっちで対処しろよ!」



早苗「何簡単に逃がしちゃってるのまったく……」

琴歌「の、登ってくるのでしょうか?」

早苗「みたいね。道を塞いだつもりで追い詰められちゃったわね」

早苗(あたしはまだしも、彼女が安全に降りる方法がない……)

琴歌「こんな、まさか……ありえないですわ……」

早苗「……ロープを切るには間に合わないわね、今のうちに隠れて奇襲の準備よ」

琴歌「は、はい……」



――カッ カッ カッ ザッ

李衣菜「…………下の階かな、隠れて待ち構えてるはず」

李衣菜(見張りは一人居たけどコトカが着いている、なら大きく動くのは無理)

李衣菜「よいしょ――」

――……ビシッ

李衣菜「っ!?」

李衣菜(狙われた……? 地面に銃痕……さっきの銃を武器にしてた人の攻撃……!)

李衣菜「……ここは遮蔽物がない、隠れて撃てる訳が無いし気配がない?」

李衣菜(雇われは兎も角、コトカは戦闘する人じゃない、ただの貴族権力者……気配を隠すなんて無理のはず)

――…………

――ヒュゥゥゥ……

??「……丁度良かった」

――ガチャッ

??「同じく銃を武器にする者がいたから、この狙撃も同一人物によるものだと誤認している」

??「屋上に至る扉に警戒を向けた……当然ね」

――スッ

??「でも、私が居る場所はあなたの向いた方向と逆よ」

??「距離にして……約、七百」

??「……射程距離よ」

――カチッ



――パァン

李衣菜「え……」

――ズドッ!!

李衣菜「うあぁッ!?……がっ……!?」



――…………

??「……音に瞬時に反応したわね、惜しい」

??「でも命中はした。……ナイフは最初、右で持っていたなら利き手ね? 当たったのは右肩……」

??「次は警戒されて、直接命中させるのは難しいでしょうけど」

??「狙う場所は決めている」



李衣菜(撃たれた……! 後ろから、誰もいないのに……っ!)

李衣菜「う、ぐっ……近くの建物から狙撃……でも、誰も見当たらない……」

李衣菜「くうっ……!」

??「当然、屋上から身を隠す……撃たれた方向と反対側、ちょうど建物の影になって安全な……」

??「今登ってきたロープを伝って、逃げるわね」

――ジャキッ

??「確かに本人は狙えないわよ……ただし」

??「ロープの結び目なら……撃てる」

――ズガァン!!



李衣菜「はぁ、はぁ……! また銃声……! この位置からでも狙ってくる……!?」

――プツッ ガクン

李衣菜「なぁ……!?」

李衣菜(しまっ――)



――…………

??「……私が出来るのはここまで。後は近場で待機している組に任せましょう」




・・

・・・

卯月「どんどん人が集まってきた……ここが盗品の拡散場所と思われてるんだ……!」

卯月(戦闘が起きてるのは間違いない、でも内部に侵入するには危険で……外の様子見も難しく……)

――ガンッ ガシャッ!

卯月「っ! ……な、何の音?」

卯月「……この、建物の隙間から聞こえた?」

卯月「行ってみよう……かな? いや、誰か呼んだ方が……あ!」

卯月(今、人影が……誰か居る!?)

――ダダッ



――ガサッ ガサッ

卯月「ゴミが多い……うえっ、服が汚れちゃう……」

卯月「よいしょっ、やっと奥まで入れ……た……!?」

李衣菜「っ……!?」

卯月「わ、わぁ?! だ、大丈夫ですか!?」

李衣菜「触らないで!! ……痛っ!」

卯月「そ、そ、そんなことより……肩! 血が……それに、足もそんな……変な……!」

李衣菜「ぐぅ……!」

卯月「……!」



卯月(この人、もしかして……あの時見えた……じゃあ……!)

卯月「まさか……あなたがリイナ?」

李衣菜「……どうする? 怪我してる泥棒だよ……? 国に突き出すかい……?」

卯月「…………」

李衣菜「はぁ……しくじったなぁ……調子乗りすぎちゃった……」

李衣菜「でも、抵抗するから覚悟し――」

――ガシッ

李衣菜「痛たたた!!」

卯月「待ってください! 今すぐ助けますから!」

李衣菜「ちょ、何すんのさ――」

卯月「お話は後で聞きます! まずはその怪我治しましょう!」

李衣菜「そんな事言って、国に突き出す気なんでしょ……!」

――ザクッ!

卯月「痛っ……だ、大丈夫です!」

李衣菜「この、離せっ……!」

卯月「離しませんっ! それと、コトカさんにも突き出しません……!」

李衣菜「コトカ……?! あんた、コトカの事知って……」

卯月「詳しく説明は後で……まずは怪我を治して!」

卯月「誰だろうと、傷ついてる人を放っておくなんてしませんから……!」

李衣菜「……ぅ……っ」

――スウッ



卯月(気を失った……)

卯月「私も、後の事なんて考えずに助けちゃったけど……ううん、今はこれでいいはず」

卯月「まだ何に縛られてるかも分からない、誰が本当に敵かも分かってない……!」

卯月「どこに連れて行くのがベスト……? コトカさんやハルナさんじゃ駄目……」

卯月「と、とにかく……リンちゃんとミオちゃんと合流しよう! ……こっそりと移動して」

――ダダッ



――…………ザッ

拓海「アイツから聞いた場所はここだが……」

拓海「ったく、ゴミだらけだな……薄暗くてよく見えねぇが人の気配は無いな」

拓海「とっくに逃げちまったか、元気なこった……」

――Prrr…… ガチャ

拓海「ああ、今確認した……誰もいねぇよ」

拓海「ただし撃ったのは確実だってよ、手負いなら国に潜伏してるはずだ」

拓海「警戒網は外さない方が賢明だと思うぜ」

――ガチャン

Side Ep.24 英雄の休息

――バシャン

 あー、生き返る。
やっぱり数日掛けないと浄化されないか、でもようやくまともになったよ。
まだ生き物は帰ってきてないから完全元通りとはなってないけどね。

 で、あたしに何の用かな?
……ごめん、冗談だってば、忘れてないよ、忘れるわけないじゃん。
本当に久々だね? 他の二人は結局会う事が多いし、あんたと同じで長く会ってなかったアイリはこの間会った。
あんたが最後の一人ってわけだ、あたしが再開した順番。

 しかし皮肉だね、魔法でもない技術でもない科学でもない……あんた固有のその力。
戦時中は最強の攻撃要員として持て囃されたのに、少し平和になったら今度は恐れられるとはね。
今も……あたしがギリギリ感じ取れる程度の気配、厄介な監視がついてるじゃん?
どう、ちょっと掃除してこようか?

 ……ちょ、ま、止めてってば! 冗談冗談!
ふぅ、やっぱその力怖いよ、監視も致し方なしって。ま、当の本人あんたが気にしてないならいいんだろう?
原理不明の力を持つゆえに監視される、本当に皮肉だねぇ。

 今は何してるの? へー、旅人?
あんたらしいや、自由気ままだね……そうだ、アイリが見つけた三人が面白くてさ、
特にリンって子が有望株だよ、今度会ったらしっかり見てあげてよ。

Side Ep.25 

「……で、何の話だっけ☆」

「会長へご挨拶です」

「ぐおお……我が片翼が断裂……」

「折ってねぇよ☆ で、あの子なら知らないぞ☆」

「留守ですか?」

「偶然の行き違い……」

「トップに立つと忙しいんだよ? 三人でも辛かったし☆」

「残る賢人は何処?」

「知らね☆」

「元々、あなたにも会う予定は無かったので……偶然会えたのはむしろ幸運でしたね」

「そして我等が君主は?」

「この時刻ならば滞在しているはずなのですが……緊急会議でしょうか?」

「さぁねー? 呼んでみようか?」

「口寄せが可能か?」

「いや、無理に呼ばなくても……そもそもどうやって呼ぶのですか」

「魔法使いは何でもできるんだぞ☆ ってのは冗談で、あの子には実験で癖つけたから」

「何してるんですか」

「教え子で実験は皆やってるぞ☆」

「…………」

「いや、私はしませんから……」

「ほっ」

「それで、一定の魔法に対して反射的に体が反応するようにしたから、ちょっと遠くからサーチすると――」

――ピッ



「なあああ!?」

――バタンッ! ガシャッ! バタバタバタ……

「あっ」

「あ」

「何」



「扉を開けて入ってきた瞬間と、その“反応する所作”が重なったせいで」

「……派手な転倒であったが……無事?」

「……てへっ☆ やっちった☆」

「そもそも本棚が倒れて部屋が若干崩れるほどの魔力を一気に放出する癖なんて開発して、いつ役に立つんですか」

「さぁ? そのうち役に立つっしょ☆」

「な、なんですか!? 何事ですか!?」

「おっす☆ 魔術協会現会長☆」

---------- * ----------
 土曜日から月曜日までの三日間、諸事情で本編更新できません。
携帯端末を利用してのキャラ紹介……程度の更新になります、
待たせる事になりますが申し訳ありません。
---------- * ----------

アニサマかな?



・・

・・・


李衣菜「はっ……痛っ!?」

未央「うわっと!? 落ち着いて落ち着いて! 怪我してるんだから寝てて!」

李衣菜「誰……それに、ここは?」

卯月「とにかく、怪我をしていたので運びました……でも、あなたは警備に見つかってはいけないし、通る手段も無い」

凛「だからとっさにだけど、警戒網の中で出来るだけ目立たない場所に運び込んだ」

李衣菜「……それで、ここは」

卯月「少し事情があって、この部屋の主は居ません。そして、ほかの人が入ってくる事もないはずです」

未央「未来区の中央、警備の網のギリギリ内側……魔術学校一般寮」

李衣菜「学校の寮? なんでそんな場所に入れたの? もしかして、生徒とか……」

卯月「ちょっとした縁で知り合った相手の“つて”です」

李衣菜「……確かに学園内に潜伏なんて、相手は思いつかないだろうね、各部屋には主しか知らない鍵が掛かってる」

李衣菜「匿ってくれたのは感謝するけど聞きたいことも山程ある」

凛「なぜ庇ったか」

未央「事情を知っているのか」

卯月「目的は何か……?」

李衣菜「……ま、そんなところ。それとも、何か取引でも迫るつもり?」

卯月「そんなことは……でも、こちらもお聞きしたい事があります」

李衣菜「先に言っていいよ、ただし質問次第では……」

――チャリン

卯月「……?」

凛「?」

未央「え? あ! 私のリング!」

李衣菜「返すよ」



――パシッ

李衣菜「……これくらい出来るからね?」

凛(手強いね)

卯月(それは、そうだけど……)

李衣菜「怪我しても、ここから逃げる自信はある。今、大人しくしているのは私も情報を得るため」

凛「……じゃあ一つ目、あの場所で怪我していたのは誰にやられたの?」

李衣菜「……それを聞くの?」

凛「ナツキの事を聞くと逃げるでしょ?」

李衣菜「逃げはしないよ、話をするとも言えないけど」

李衣菜「で、怪我してた理由……理由ね」

李衣菜「答える為に、こっちが一個だけ聞かなきゃならない」

未央「何?」

李衣菜「あんた達はコトカの何?」

卯月「えっと……味方でも敵でもなくて……ただ、目的の為に利用させてもらっただけというか……」

凛「とにかく“起きるはずの事件”と関わる為にこの国へ入る必要があった」

凛「その過程で、検問を抜けるにはこの雇われの部隊が都合良かっただけ」

李衣菜「……嘘は言ってない?」

未央「本当」

李衣菜「起きるはずの事件、私のなつきちのお宝のお零れ? それとも奪い取る、もしくは捕まえるつもりだった?」

卯月「いや、ついさっき分かった事だったのですが……事件は――」



李衣菜「束縛……なにそれ」

卯月「とにかく指示なんです、それを解決しろって……」

未央(納得してもらえるかなぁ)

凛(それは当然)

李衣菜「……ふざけてんの?」

凛(駄目だろうね)

李衣菜「確かに私に不利な事はない、それが本当でも嘘でも」

李衣菜「だとしても、もう少し何かあるじゃん。何が指示なの、そんなに信頼できる事なの?」

卯月「あ、えっと、その……」

李衣菜「予知や予言が出来る知り合いでもいるの? そうじゃないなら、それに従うのは止めといた方がいいよ」

卯月「心配してくれるんですか?」

李衣菜「……違うよ、無駄なだけ」

卯月「わざわざありがとうございます、でも、信じられるものなんです」

李衣菜「そ、じゃあ勝手にすればいいよ」

卯月「はい。……では、このついでに私達にとっての本題です」

卯月「……この、今私が言った“束縛”されている人に心当たりはありますか?」

李衣菜「本気? 仮に居たとして、解決するつもり?」

卯月「それが役目です!」

凛「……こんなのだけど、本気なんだ」

未央「遠慮なく! 困った事があれば是非!」

李衣菜「……ふーん」



李衣菜「じゃあ私だ、今……あんた達三人の雇い主であるコトカの放った刺客に追われてる」

李衣菜「……少なくとも三人、もしかしたらそれ以上……逃げる道を、足を束縛されてる」

凛「三人……」

李衣菜「この傷で、一対多数は……いや、万全の状態からこの様になったんだ」

――チャキッ

李衣菜「私の束縛を解くために……早く逃げ切るために、コトカを裏切ってくれる?」

卯月「それで、リイナさんは解放されるんですね?」

李衣菜「え? あ、うん、まぁ……そうだけどさ」

李衣菜(……承諾があっさりすぎる、絶対に罠だと思ってたのに)

李衣菜(あの貴族の性格から、上辺だろうが何だろうがこの手の発言は控えさせるはず……)

凛「冗談半分で言ってるかもしれないけど、何度も言う通り私は本気」

未央「やれと言われたら……まぁ、出来るかどうかは置いといて、頑張るから!」

卯月「お互いの為、私達はやるべき事が見つかる! リイナさんは助かる! やって損はないんです!」

李衣菜「……じゃあ、頼もう……かな」

卯月「任せてください!」

――ザッ

李衣菜「あれ? ちょっ……全員行くの?」

未央「あ、ここで潜伏するにあたってお手伝いが居た方がいいかな……」

凛「確かに、この部屋にある食べ物とかは量が決まってるし……」

李衣菜「そうじゃなくて……逃げるよ?」

卯月「誰がですか?」

李衣菜「私!」

凛「いや、逃げられるならそれに越したことはないんだけど……」

未央「逃げられないと言われたからお手伝いするよ!」

李衣菜「……? ……?」

李衣菜(え、これ私が変なの?)

李衣菜(私を逃がしていいはずがない……見張りは誰か隠れている?)

――チラッ

李衣菜(でも、ここは本当に学校の一室。学校は協会が仕切ってるはず、いくら貴族級でも介入なんて……)

李衣菜(それに一番の問題……見張りの気配を感じない、本当に存在しない)

未央「どうしたの?」

李衣菜「……いや、本当に三人で行くの?」

卯月「私達、仲間ですから」

李衣菜「そ、う…………」

凛「じゃあ……何も不都合が無いなら、行くけど」

李衣菜「行ってもいいよ……私は、好きにする」

卯月「分かりました! 必ずいい結果を持ってきます!」

――バタン



李衣菜「……ホントに行った」

李衣菜「あれ、どういう事……まさか、本当に?」

李衣菜「私、置いて行かれた……監視がいない、逃がさない状態でもない……」

李衣菜(ただのお人好し……?)




・・

・・・

琴歌「……警戒網は抜けられていない」

瞳子「ただし、警戒エリア内を探してもリイナ本人が見つからない」

早苗「もう逃げちゃったんじゃない? 警備は最初、知らない間に突破されてたんでしょう?」

拓海「いーや、今回はダメージ与えたんだろ? 同じように突破は無理だってよ、つーか当の本人は何処だ」

瞳子「彼女は来ないわよ」

拓海「何でだよ、特別扱いか?」

瞳子「視野が違うのよ、足並みを揃える必要がないという事」

早苗「協調性の無さは問題だけど、それで見つけてくれるならそれに越したことはないわよ、ね?」

琴歌「ええ……早く不安要素を改善できるなら、越したことはありませんわ」

琴歌(ナツキが罠に掛かったなら、相手はリイナ一人……間接的な人質が居るにも関わらず、どうして私が……)



早苗「……ま、狙われてると分かれば不安なのは分かるわよ」

拓海「おい何処行くんだよ、あんたも自由行動か?」

早苗「あたしが出るって言ってんの、ちゃっちゃと泥棒捕まえてあげる」

瞳子「指針はあるの?」

早苗「国側は虱潰しに調べてるんでしょ? じゃあ、国が調べられないところをあたしが調べる」

拓海「んなトコあるのかよ?」

琴歌「……分かりました、くれぐれも――」

早苗「大丈夫大丈夫、責任は取るから」

拓海「なんだよ、アテがあるなら教えてくれてもいいだろ」

早苗「あんたが行くと暴れるでしょ、そういう戦法が向いてる場所じゃないのよ」

早苗「それにあたしの代わりに依頼主の護衛が必要でしょ」

拓海「そんなもん……一人で十分だろ」

早苗「二人なら確実でしょ」

拓海「けどよ」

琴歌「いいえ、恐らく向かう場所は……タクミさんでは不向きです」

拓海「そうなのか? いったいどこに行くつもりだよ」

早苗「あの大きな建物よ。わかりやすく言うと……国が管理していない大きな施設、学校」

拓海「おぉ…………」

瞳子「留守番、する?」



・・

・・・


夏樹「…………まだ、まだ大丈夫」

夏樹「しっかし……アイツ、一人になった途端ね……アタシより色々やってた過去がある癖によ」

――ゴロン

夏樹「大丈夫だろ、アタシもだりーも……ただ、最低限大丈夫なだけで……」

夏樹「一人じゃ切り抜けられねぇ、アタシもだりーも……」

夏樹「そして助けに行けねぇとか……なーにやってんだかな、ここで寝てるだけか」

――ガシッ

夏樹「…………外すか、壊すか、無効化するか、どれが現実的だろうな」



・・

・・・


卯月「……意気込んで出てきたけど」

未央「いつものパターン? 見切り発車?」

凛「でも、信用を勝ち取るにはベストだったよ。例え、今から私達が動くことであの人が逃げられるなら……」

卯月「それはそれで大丈夫?」

凛「そういう事、問題があるとすれば……私達自身の身の安全、リイナ側に着くことと同じだから」

未央「なるほど……国も別に守ってもらえるわけじゃない」

卯月「万が一は、自力……」

凛「ハルナさんやケイトさんと敵対……は、無い、と思い込んでおこう。そうじゃないと、進めないからね」

未央「怖くて?」

――ザッ ザッ ザッ



――スッ

早苗「ねぇ」

凛「……私?」

早苗「そう、あんた達部外者だよね? ここは自由に入っていいのかしら?」

未央「おっと……しまむー、ここって許可は?」

卯月「入ることに関して許可は必要ないはず……」

早苗「そ、よかった。ところであなた達は何しにここへ?」

卯月「え? えーっと、お友達に会いにです」

早苗「普通に授業のある日なのに、仲がいいのね」

卯月「まぁ、ええと、そうですね」

早苗「でも気をつけなさいよ、ここに手配中の賊が逃げ込んでる可能性がある」

卯月「……!」

凛(リイナの事……なら、この人は追いかけている内の一人?)

未央(まだ分からないよ)

卯月「ここに、ですか? でも、隠れる場所なんてどこにも」

早苗「一般寮があるでしょ」

凛「部屋はそれぞれ鍵が……」

早苗「相手は逃走中の犯人よ、鍵が物理式だろうと魔法式だろうとそれくらい開けるでしょ」

未央「でもそもそもここは国の直轄じゃないから警備の人は入れないんじゃ……」

早苗「だからこそ隠れ場所には最適でしょ? あたしは個人で調べてるから無関係ね」



凛(まだリイナを見つけて、目が覚めて……一時間程度しか経ってないのに)

未央(行動の速さから本当に個人で動いてるかも……ただし)

凛(動きは個人でも、後ろに繋がりが無いとも限らないし、どちらにせよ敵の可能性が高いね)

未央(かといって……止める手段は無い)

――キーンコーンカーン……

早苗「あら、鐘が鳴ったという事は……ちょうど寮に帰る人も多いってワケね」

早苗「あなた達、少し暇なら案内を頼んでもいいかしら?」

卯月(んー……動向を見張る的な意味でも、ついていった方がいいかもしれない?)

卯月「分かりました、知っている範囲だけになりますけど」

早苗「それでいいわよー」

――ザッ

早苗「さっすが魔術を教える場所ね、あちこちから素質ある魔力を感じるわー」

未央「そういうの、分かるの?」

早苗「当たり前よ? 気配の察知くらい出来なきゃ仕事やってられないもの」

凛「……仕事?」

早苗「あれ、言ってなかったっけ。お姉さんは悪者を捕まえる正義の味方よ? どこにも所属してないから自称になるけど」

早苗「誰にも指図されず、自身の、この手で捕まえるのよ」

未央「泥棒だけど……義賊なんでしょ?」

早苗「……! ええ、そうね。そういう人も居るわよ、ただし良い事をする為に悪い事をするのは駄目」

早苗「一度ついたマイナスは、プラスじゃ打ち消せないのよ」



卯月「……それで、リイナさんを探すんですか?」

早苗「さん?」

卯月「あ、えっと……」

早苗「あー、別に咎める為に指摘したわけじゃないのよ? 実際に義賊と認識されてるからそう呼ぶ気持ちもわかるわ」

早苗「ただしあたしみたいな捕まえる側の人の前では、止めた方がいいかもね」

未央「ですよねー……でも、実際にどうやって探すの? こんな大勢の中にいるかどうかも分からないのに……」

早苗「いいえ、確実に居る。さっきまでは可能性だったけど、今は確実と言えるわよ」

凛「それは……どうして?」

卯月「魔力の気配だけで、確信できるんですか?」



早苗「いーや、それは無理。似た気配があってもあくまで確証持てないし、実際に対面したとはいえ詳細に覚えてないもの」

早苗「だけど……今は別の確証がある、ここにいるという確信……だから“似た気配”というだけで、あたしは動く」

――ジャキン

卯月「え、銃……? こ、ここは学園内ですよ!?」

早苗「分かってるけど先手取る為よ、扉の奥から該当する気配を感じたら問答無用で撃つ」

未央「ちょっとちょっと! そんなことしてもし間違ってたら……!」

早苗「大丈夫、あたしの銃は特別でね? 相手が“悪者”でない限り、弾の威力は極端に落ちる、怪我もしない程度にね」

凛「だからって、気配だけで撃つのは……!」

早苗「あーもーうるさいわね!」

――スチャッ

卯月「……えっ」

凛「な……!」

未央(こっちに銃口……くっ!)

――スッ バァン!

未央「わっ!?」

凛「ミオ!」

未央(リングが……! 弾かれた……!)

卯月「何するんですか!」

早苗「動くな」

凛(完全に狙いをこっちに……)



早苗「何するかって、これからやる事の邪魔をされない為。あんた達、リイナの居場所知ってるわね?」

未央「な、何を根拠に!」

早苗「お姉さんは一度もリイナを追いかけてるとは言ってないけど?」

凛「……だとしても、今の話題ならリイナと考えるのが普通だよ」

早苗「はい嘘、今の話題なら? それは変ね……あんた達本当に今の話題見てないでしょ」

早苗「情報操作……今は元締めのナツキを燻り出すために『リイナは確保した』と情報が流れてるのよ」

卯月「え……っ!?」

未央「……!」

早苗「そんな中、最初に“義賊”という、リイナに繋がるワードを出したのは、そっちの子よ」

未央「く……」

早苗「大方、怪我したリイナをここに運んだってところかしら」

凛「…………」

――ダッ!

――ギィン!!

卯月「リンちゃん!?」

早苗「あら……攻撃したわね?」

凛(止められた……! 蹴りを銃身だけで!)

早苗「……じゃあ今度こそ確定。実はお姉さんひとつだけ嘘言ってたわ」

早苗「情報操作なんてしてないのよ」

凛「……え?」

早苗「いいわねその反応……お姉さんと騙し合いなんて百年早いわよ」

――ガッ ブンッ!

早苗「せやぁあ!!」

凛「うわ――」

――ドスッ!!

凛「かはっ……!」



早苗「……お友達は今の隙に逃げたわね、薄情なお仲間」

凛「けほっ……!」

凛(いや、こちらの目的や素性がバレた以上……逃げるのが正解……!)

凛(私は真っ先に捕まって、この人も強い……なら、リイナを逃がすか、この状況を伝える為に逃げて……!)

早苗「ちょっとだけここで寝てて頂戴、あたしはリイナを捕まえる必要があるから」

凛「……仮にこの学校内に居たとして、どこにいるかなんて分からないでしょ」

早苗「それがそうでもないのよ? ここは魔法の学校、あちこちから魔力の気配を感じる」

早苗「お姉さんは気配を読むのが得意なのよ? 魔力も感じる、この大勢の魔力の中でひとつだけ……」

早苗「この近く、質の違う魔力……ほら」

凛「……!」

早苗「……なーんてね、そんな些細な事は分からないわよ」

凛「じゃあ……」

早苗「ただし! 人の嘘や心理を読むのは本当に得意よ?」

早苗「さっき反応したわね? 質の違う魔力、という言葉……この近く、という言葉で!」

凛「ぐ……!」

早苗「なら、この一般寮に潜んでいるはず。それであの二人が逃げたという事は、逃げても連絡が間に合う位置!」

凛(全部読まれてる……!)

早苗「この階層では無くとも、別の棟ではない……すぐ上かその更に上あたりが候補」

――ガッ!

凛「ぅ……!」

――バタッ

早苗「怪我人と仲間を両方救って、あたしから逃げ切れるかしら……?」

――ダダッ

未央「はぁ、はぁ……よし、ひとまずリイナさんにこの事を言わなきゃ!」

未央「しまむーとは離れちゃったけど、ここへ来るのは間違ってないはず……!」

未央(ここは一般生徒も多い……武器は使いにくいはず、なら追いつかれる前に……)

――ザッ

未央「よし、到着……リイナさ――」

――ガチャガチャ

未央「……? …………あっ」

未央「私、部屋の鍵の開け方知らない……!」

早苗「……さてと、まずやるべきはやっぱり一般生徒の避難ね」

早苗(とはいっても学校側に繋がりなんてないし、ここを隔離するのは普通は無理……だけど)

――スッ

早苗「寮エリアの出入り口は下に二箇所、中ほどに一箇所、上に二箇所……カバーしきれないなら」

早苗「全部閉じちゃえばいいのよ」

――ピ ピ ピ

早苗「……ああもしもし、あたし。申し訳ないけど一人か二人、戦闘要員じゃなくてもいいわ、人手が欲しい」

早苗「ええ…………へぇ、そう? 姿を見せなかった一人もここを捜索してるの?」

早苗「じゃあそっちに掛けてみるわ、番号教えて?」

――Prrr……

早苗「……もしもし、あたしよ、サナエ。初めまして……かしら?」



??『初めまして、ね。今私は学校の外、なるべく中に入るのは控えたい』

早苗「いや、好都合、外で待機とひとつだけ工作をお願いしていい?」

??『……内容を』

早苗「そんな難しいことじゃないわよ、この一般寮から人を逃がさないように」

早苗「もちろん生徒は巻き込まないように、よ?」

??『……了解よ、意図は把握した。つまり私はその後“避難先”で張っていればいいのね』

早苗「理解が早くて助かるわ、こっちは任せて頂戴」

――ガチャ

――ガヤガヤ

卯月「…………」

卯月(リイナさんの場所に戻るのも大事……でも、リンちゃんが……!)

卯月(逃げるにしても、三人で逃げるより四人の方が何かと便利なはず、なら私は先に……こっちを助ける!)

卯月「人が多くなってきた……そりゃあこの時間帯だし、この流れに乗れば攻撃されないかも」

卯月「……よし! 移動しよう、人の波に乗じて――」

――ジリリリリリリ!!



未央「え? 何事!?」

――ガラララッ

未央「シャッター……!? え、どういう事、本当に何……?」



『一般寮エリアにて可燃ガスの発生を確認しました、生徒は不要な魔術を行使せずに速やかに退避を』



未央「……? 実験のミスか、ガス漏れ? それで空間を閉鎖して……って、避難も何もこれじゃ出られないよ?」

――ゾロゾロ……

未央「……でも、ここに居る生徒は同じ方向に歩いてる……? 何かあるのかな?」

――バシュン!

未央「わっ!」

未央(魔法陣……そっか、ここは魔術学校、移動の術式が既に避難用として設置されてるんだ……!)

未央「だから先に閉鎖を行っても問題ない……これ、便乗すべき……?」



――ササッ

卯月「駄目……私やミオちゃん、リンちゃんは通っても大丈夫だけど……!」

卯月(リイナさんが通れない……移動先に何人いるかも分からないけど、リイナさんを知ってる人がゼロなわけない……!)

卯月「たぶん、警報の内容は嘘……じゃないと銃は撃てないだろうし」

卯月(でも、これで人はどんどん減っていく……しかも道は閉鎖されて逃げられない……)

卯月「……どうする、どうしよう……?」

――シン……

早苗「なかなかいいアイデアね、気体漏れの封鎖なら窓も扉も通路も封鎖できる」

早苗「予想以上のお仕事してくれたわね、なら……応えるのがあたしの役目」

――ジャキッ

早苗「えーと、まずは……よいしょ」

凛「っ…………」

早苗「まだ寝てるわね。ひとまず他人に見つかって騒ぎになる心配はなくなったから」

早苗「放置でいいわよね」



――タッタッタッ

未央「リイナさんの所にも外にも行けないなら……しぶりんの元に戻るべき……!」

未央「まだあの人と居たらこっそりと監視、しぶりんだけ放置なら助ける!」

――サッ

未央「そーっと……!」

凛「…………」

未央(しぶりん! 周りには誰もいない、かな……?)

未央「よし……!」

――ダッ!

凛「……っう」

未央「大丈夫!? 何もされてない!?」

凛「あ、ミオ……っ、あの人は!?」

未央「ここには居ないみたい、上の階に行ったのかも……」

凛「先にリイナの元にたどり着かれたらピンチだよ、早く追いかけ――」

――パァンッ!

未央「っう!?」

凛「銃声! すぐ近……く……」



早苗「駄目じゃない、もっと警戒しないと」

未央「痛ぁ……ぐぅ!」

凛「ミオっ!!」

早苗「次はそっちよ」

――パァン! キインッ!!

凛(ミオと同じ、足を狙ってる……! ただ、それなら……)

早苗「あら、えらくごつい装甲ね……足だけ?」

凛「私の武器! 弾丸程度なら通さない!」

――ダンッ!

早苗「なるほど近接ね、でも!」

――ギィン!

凛「くっ!」

早苗「あたしも得意、喧嘩上等よ?」

凛(銃身で受け止めているなら、ちゃんと体に当てたらダメージは入るはず!)

――ヒュッ! ガッ!

早苗「読んでるわよ!」

凛(両足とも……!)

――バシッ ググッ……

早苗「さぁ、両手両足とも抑えたわ。あたしは右手が自由だからこっちが有利ね」

凛「っ……」

未央「しぶり……っう……」



早苗「足を撃たれて立てる訳ないでしょ? こっちの子も武器を抑えたら無力化ね」

早苗「今ならまだ痛い目見ずに済むわよ、リイナは何処?」

凛「さぁね……自分で探せば……?」

早苗「そう、じゃあ」

――パァン!

凛「っあ!?」

未央「ちょっ……!」

早苗「あたしは正義だけど善人であるつもりはないわ、悪に荷担するなら遠慮しない」

早苗「今は左手を撃った。次は右手、その次は」

未央「この……っ!!」

未央「離れろおおっ!!」

早苗「お……っと!」

早苗(驚いた、打ち抜いたはずなのに立ち上がって……攻撃までしてくるなんて)

未央「痛った……!」

早苗「でも負傷は事実、満足に動けないようね? 痛みを気にして余所見してる暇はないでしょ?」

――ジャキン

未央「く……!」

凛「余所見はそっちも……!」

早苗「んっ?」



――ガツッ!!

凛「っ~!」

早苗「痛っった!?」

未央(うわっ! しぶりんが思いっきり頭突きするなんて……武器以外で?)

凛「ミオ! ごめん! 後で戻ってくるから今は……逃げる!」

早苗「このっ、逃すとでも……」

未央「いーや追いかけさせない!」

未央(一発! それだけ打てれば……!)

――キィン!

早苗(なっ……この力の集約は、まずいわ!)

未央「喰らえええええ!!!」

早苗「間に合わ――」

――ドッ ガァンッ!!

早苗「がっ、ふ……!?」

――ガシャンッ!!

未央「よしっ……! 入った!」

未央(直撃すぎて……逆に怖いところもあるけど、隣の部屋まで壁突き抜けて行ったし……)



未央「はぁ、はぁ……」

――キラッ

未央「う!?」

早苗「効いたわ」

――パスッ

未央「弾丸……じゃない、針……う……」

早苗「無力化は実弾でやると面倒ね……別に殺しが趣味じゃないし、麻酔弾よ」

早苗「ま、一時間くらい寝たままになるけど、構わないわよね」

未央「っう…………」

――ドサッ

早苗「……げほっ、いや本当に効いたわ……吐きそう」

早苗「この子達何者かしら……こんな実力があって、あたしが知らない訳がないんだけどね……」

早苗さんつえー

早苗さん戦いの年季が違うな



・・

・・・


卯月「リイナさん! ……居ない……!」

卯月「先に脱出している……いや、それはむしろ危ない……!」

卯月(非常口の移動先は確実に誰かが張ってる……別のところから逃げるにも、警報によって封鎖されてる)

卯月「…………よし!」

卯月(決めた、まずはリンちゃんの居るかもしれない下の部屋に戻って)

――カンッ カンッ

卯月「えっ?」

卯月(足音……リンちゃんかミオちゃん……なら、もっと急いでてもおかしくはない)

――カンッ ガチャガチャ…… カン カン

卯月(部屋を調べながら歩いてる……なら、ますます場所を知っている二人の動きじゃない……!)

――カンッ カンッ カラカラカラ

拓海「……守りより攻めるのが向いてるのは分かってんだろ?」

拓海(あんな正義バカでも、直感だけは本物だ……アイツがここに目をつけたって事は、ここにいるんだろ)

拓海「さっきは上手い事逃げられたが……決まった範囲内ならアタシのが強ぇぞ」

――スタスタスタ……

卯月(……増援! どこから入ってきたか、いつ来たのかは分からないけど……今は通り過ぎた)

卯月(見えたのは紫の服と木刀? 明らかな近接タイプなら……どうする?)

――タッタッタッ……

凛「っう……とにかく一度体制を立て直して――」

??「その必要はないわ」

凛「なっ!?」

瞳子「私はトウコ、コトカから依頼を受けてナツキとリイナの一団を確保する様に言われている」

凛(てことは……私と同じ立ち位置!)

瞳子「サナエと交戦中のようね……ここに敵以外は居ないと聞いているから」

凛「私と……戦う気?」

瞳子「そうね……他の二人が好戦的すぎるから、私だけでも穏便に済ませたいのだけれど」

凛「……申し訳ないけど、私は捕まる気は無いよ」



瞳子「捕まえる……必ずしもそれはやるべきではないのよ」

凛「……?」

瞳子「リイナの確保は依頼だから実行する、ただあなた達に関しては無関係」

瞳子「もちろん妨害を行うなら対処は行うけど基本は何もしないわ」

凛「なら……どうして私に姿を?」

瞳子「万が一逃がしても、姿を確認しておけば後から追いかけられるでしょう」

凛「それならそっちが姿を見せる必要が……」

瞳子「潜伏は不得手、下手に隠れて気づかれるより最初から攻撃の意思は無いと言った方が安全」

凛「……ふぅん」

凛(逃げる前提? じゃあ、放置しても問題ない?)

凛「……そんなわけ無いよね」

――タンッ タンッ

瞳子「…………」

凛「ふぅ……私達の行動が他に知られると迷惑が掛かる人が居る」

瞳子「手を貸しているリイナにかしら?」

凛「いや……もっと前、この地区に入らせてくれた協力者にだよ」

瞳子「他にも協力者が? なら、そっちもどうにかしないと駄目ね」

凛「させないよ?」



――ザッ

凛「ここで倒す」

瞳子「……いいのかしら、私は無害よ」

凛「この場で無害なだけでしょ?」

凛「私達が……こちらに着いていると、漏らしたくはない」

瞳子「そう、なら……仕方ないわね」

凛(来る……!)

――クルッ

凛「!?」

瞳子「なら私が逃げるわ。喋りすぎよあなた、どうやら情報を持ち帰るだけでもあなた達が不利益を被るみたい」

瞳子「無理に戦わなくてもいいなら、それに越したことはない……!」

凛「しまった……!」

――ダダッ!

凛(戦う想定はしていたけど、相手が先に仕掛けておきながら逃げるなんて……!)

瞳子「でも私も体力に自信があるわけじゃないし足も速くない」

瞳子「まっすぐ逃げても追いつかれるし、撒いたとしても非常口に先回りされるわね」

凛「逃がさない!」

瞳子(それなら……他の二人の居る場所を目指すのが賢明ね)

――タタタッ

――パチッ

早苗「あー痛たたた……お昼の親子丼が出ちゃう、抑えて抑えて」

早苗「直接打ち込まれたお腹も痛いけど、壁と部屋のクローゼットで思いっきり背中ぶつけたからそっちも痛いわ……」

早苗「筋力あるようには見えなかったのに、どこにこんな力を持ってたのやら……」

――…………ガリッ

早苗「!?」

早苗(今、動いた? いや……数分で意識が戻るわけなんて無い、気のせいよ)

早苗「……なーんて、気のせいで済ませるわけないでしょ」

早苗「万が一を考えて当然、例えば刺さりが甘かったとか」

――スッ

早苗「もう一発……いや、いくら麻酔でも二発も打てば危険よ、それは止めておいて……」

早苗「拘束しておきましょうか、さっきの子と一緒……誰か助けに来た時の餌に!」



早苗「そうと決まれば……よいしょっと、腕を後ろに」

未央「…………」

早苗「ちょっと届かない……」

――ギュッ

早苗「よし、これで結べ――」

未央「ふんっ!!」

――ゴッ!!

早苗「あがっ!?」

未央「しぶりんに習って一撃!」

早苗「っ~!?」

早苗(この子、効いてない……いや、効いていたけど目覚めるのが早すぎる……それに……!)

――グラッ

未央「顎から行っちゃったから、かなり視界が揺らめいてると思うけど……!」

早苗「こんの……!」

――ジャキッ パァン! パァン!!

未央「なんのっ!!」



早苗(どうして効きが浅かったかは……考えても結論が出ない! もう体質か偶然かと考えるしか!)

未央「狙いが甘いよ!」

早苗「そう言うそっちも、寝起きと怪我で動きが緩慢よ……っ!」

――ビシッ!

未央「っう! ぐ、まだまだぁ!!」

――ダンッ!

早苗(あの一撃を二度受けるのは流石にお断りよ)

早苗「近接戦闘は苦手じゃないとは言ったけど……これは退くに限るわね!」

未央「離される程こっちが不利、当然追いかける!!」

早苗「当然ね……でもその足であたしに追いつけるかし――」

――ガクッ

早苗「っあ!」

未央「チャンス!」

早苗(何……あの子よりあたしのがダメージ受けてるの……!?)

早苗「ま、まだ!」

未央「撃ってくる!?」

早苗「たかが一発や二発でのされてちゃカッコつかないでしょ……!」

未央(距離は詰まった、でもあと少し足りない……! なら、ここで使う!!)

――ダンッ!!

未央「足のリングで、地面を蹴って……!」

早苗「これはっ……さっきのとんでもない衝撃……! 拳じゃなくても使えるのね!?」

未央「専売特許だよっ!」



――ギュイン

早苗「早い――」

未央「これが私のとっておき、全力だああ!!」

早苗「なるほどね……でも、あたしだって秘策はあるのよ!?」

――ジャキッ!

未央「構えた? でもこのチャンスに何発撃たれても怯まないよ!!」

早苗「麻酔でも普通の弾でも無いわよ? 貴重なんだから覚悟して喰らいなさい!」

――パァン!

未央「くうっ!! 当たったけど、この勢いは止めずに――」

――ピリッ

未央「……ぅ!?」

早苗「あたしが正義を名乗ってるのは、この弾丸の影響よ」

早苗「盗賊という悪の加担しているあなたは間違いなくあたしの敵、ならば当然……」

――パリッ バリッ

早苗「悪のみを打ち抜く弾丸は大きな威力を発揮する!」

未央「あ、うぁ……!?」

未央(着弾点から、電撃みたいな痛みが広が……!?)

――バリィッ!!

未央「うあああっ!!?」



早苗「ふふっ……使うに値する相手と思ったから使ったのよ……受けた痛みは自身の日頃の行いを恨みなさい……!」

未央「がは……っう!!」

――ガシッ

早苗「はっ?!」

未央「えへへ……めっちゃ痛い、すっごい痛いよ……でも」

早苗「な、おかしいわよ、なんで立ってられるの!? そもそも……意識を保ってることすら……!」

未央「使う相手を間違ったみたいだね……!」

早苗「そんな訳……あんたアイツの味方してるんでしょ!? なら完全に――」

未央「正義を説くほど偉いつもりはないし……良い悪いを主張するつもりはないけど」

未央「その弾によると、私はそんなに悪い事してないらしいよ……?」

早苗「あ、え……嘘よ、そんな、あたしが間違ってるって言うの!?」

未央「さぁ、分かんないけど……今、私がやる事は一つ」

未央「そっちの切り札は終わって、距離はほぼゼロ……これなら外さないよ」

――チャリン

早苗「さっきの……!」

未央「パワーリング、装着すると瞬間的な威力を得る……お姉さんは一つじゃ足りなかったみたいだし」

早苗「ひっ!?」

未央「二つおまけしておく……よッッ!!!」

――ガッ……ドガァァン!!!



――ガシャァンッ!!

早苗「かっ、は…………!!?」

――ドサッ



未央「……っ~~!」

――ペタッ

未央「倒した…………はぁーっ……!」

未央「……疲れた…………三つは余計だったかな……?」

――…………

拓海「おいおい……誰だよ派手に暴れてんのは……」

卯月(今の音、もしかすると誰かが戦ってる……いや、もしかするとじゃない、絶対に!)

卯月(なら、この人をその方向へ向かわせる訳には……かといって真正面から止めるのは絶対に不利!)

拓海「どっちかっつーと下から聞こえたな……なんだよ、通り過ぎてたのか」

卯月(……よし!)

――ガチャン!

拓海「んっ!?」



――ギィィ……

拓海「扉が勝手に開いた……いや、誰か居るな? 入って来いって事か、上等だよ」

卯月(意識はこっちに寄せた、直ぐにでも来るはず……)

卯月(そして次にどう私は動くべきか? それは当然、迎え撃つための準備!)

拓海「先に警告しておくけどな、部屋の中にいるのがただの一般人ならさっさと出てこいよ」

拓海「アタシは部屋に入った瞬間、誰だろうとブチのめす準備は出来てるからな?」

――ザッ ザッ

拓海(……反応無し、だが誰かは中に居るはずだ……部屋には鍵が掛かってて、勝手に開く代物じゃねぇ)

拓海(中で待ってるものが罠だろうと誰だろうと関係ねぇ……!)

卯月(……と、思っているはず、なら!!)

――バッ!

拓海「あァ!?」

卯月「先手!! 一撃、魔力放出!!」

拓海「チッ!」

卯月「いけぇっ!!」

――ドガァン!!



卯月「不意打ちでも一発だと……まだまだ!」

拓海「なんだテメェ! アタシの敵でいいのか!?」

卯月「すいませんけど、ここにいるならそうですよね?」

――キィィン

拓海「またデケェの撃つつもりか! させねぇ!」

卯月(さっきのは全力じゃない……控えめにまずは当てる事!)

卯月「もう一発!」

拓海「へっ、アタシ相手に二回も同じ事が通用するかよ!」

――ダッ!

卯月(当然、接近してくる! そしてさっき当てた一発目が効いてくる……!)

拓海「覚悟しろよ!」

卯月(近接主体の人が相手の攻撃に対して何をするか……大抵、完全に回避するか受け止めながらも攻撃か!)

卯月(この人は不意打ちに対して防御を選んだ、回避主体ならすぐに距離を取っているはず)

卯月(なら、今の私の“渾身の不意打ち”に大した威力が無いと知った上で二発目を打つと言ったら?)

拓海「そらよッ!」

卯月「もう一回、はああっ!!」

拓海「そんな攻撃は効か……!?」

――シュィィィ カッ!!

卯月(わざわざ避けずに突っ切ってくるはず!!)



――ドガァン!!

拓海「うぉお……っつ!?」

拓海「な、なんだ!? クッソ、一発目は随分加減してやがったみてーだな……!」

卯月(……! 直撃はさせた、でも……威力が足りない!)

拓海「不意打ちの本命は二回目ってか? だがそれでもその程度なら……」

――ブンッ!

卯月「わ!」

拓海「次はこっちの番だな? 行くぜ!」

卯月「く……! でもこっちだって近接なら!」

――ガキィン!!

卯月「っう?! 重……っ!」

拓海「小細工なんて知らねぇ、アタシはこれ一本だけで歩いてきたんだ」

拓海「魔法だか何だか色々やってこようが、近づいたら勝ちだ、このッ!!」

――ギィン!

卯月「しまっ……」

拓海「防御弾いたぜ? オラッ!!」

――ドゴッ!

卯月「かはっ!?」



拓海「ただの蹴りだよ、本命は――」

卯月(木刀!? 避けなきゃ……!)

拓海「こっちだッ!!」

卯月「横に、転がって!」

――ドカァン!!

拓海「チッ!」

卯月(地面に穴が……!? 武器とはいえ生身でミオちゃんの一撃と遜色ない威力……!)

拓海「やっぱ駄目だな、アタシが来ると色々壊しちまうもんな……大人しくしておくべきだったか?」

卯月「あなたもリイナの確保が目的……!?」

拓海「そういうお前はリイナの味方だろ? 今更違いますは通じねぇぞ」

卯月「もちろん……!」

卯月(ただ、正面からは何をおいても分が悪い……武器持ちの近~中距離を相手にするには中~遠距離が最適……)

卯月「……居ない!」

拓海「は? 何がだよ……?」

卯月「すいませんこっちの話です」

拓海「何か……調子狂うな、お前本当にアタシが相手していいのか? 自分で言ってて分かんねー……」

卯月「出来れば私も交代したいのですが……そういうわけにも行かないみたいです!」

拓海「……アタシもよ、仕事でこっちについてるんだ」

卯月「と、言うと……?」

拓海「倒すべき敵には感じねぇ。いつもアタシが相手してる畜生みてーな奴とは違う、説明しにくいけどよ」

拓海「……義賊に関しても同じだ、あんなに依頼主が敵意を向ける意味が理解できてねぇ」

卯月(依頼主……たぶん、コトカさんの事……)

拓海「まず、目の前のアンタが……悪者には見えねぇ、しかしアタシの敵側についてるんだ」

卯月「……それを、私に話す理由は?」

拓海「なんだろうな……別に変わり身の為に言ってるわけじゃねぇぞ、それだけは確かだ」

拓海「こっちの立場が危うくなったとしても、寝返るための保険なんざ掛けねぇよ」



拓海「強いて言うなら……確認しておきたかったのかもな」

卯月「私に?」

拓海「ああ。……そっちについてるのは、誰の意思だ? もし脅されて仕方なくそっちにいる、ってならアタシが助ける」

拓海「アイツじゃねぇけどよ……正義側の仕事だろ? アタシだってそうだ」

拓海「それで、どっちなんだ?」

卯月「……申し訳ありませんが、私は自分の意思でこちら側についています」

卯月「だから、今から私達の為に……あなたを倒さなきゃ……!」

拓海「そうか……あと、言い忘れてたけどよ、アタシはタクミ=ムカイって名前だ」

卯月「……私はウヅキ=シマムラです」

拓海「よし、覚えた。さて、続きか……悪りぃけど、何度も言う通りアタシも仕事だ」

拓海「もしかして良い奴と思っても、加減はしねぇ」

卯月(加減? ……さっきより、気配が鋭くなってるように見えるんですが)

拓海「……どっちが正解かアタシには分かんねぇ、なら」

――チャキッ

拓海「自分貫くしかねぇよな?」

卯月「結局こうなりました……か!」

拓海「休戦解除だ!」

――ガァン!



卯月(状況は変わらない、身体能力はこちらが劣ってる……かといって!)

卯月「はっ!」

拓海「ぐっ……効かねぇ!」

卯月(魔法では効果が薄い!)

――タンッ!

拓海「距離を離すか?」

卯月「そのつもり!」

拓海「逃げる方向が分かってんなら追いつくのは簡単だ!」

拓海(ここから廊下の左右、どっちに走られてもアタシなら追いつくし攻撃されても押し切れる!)

――バンッ!

卯月「飛び込むっ!」

拓海「っ!? しまった、部屋ン中……!」

――バタンッ!

拓海「くっそ……そういやこの中から出てきたんだったな、そりゃあ鍵の開け方も知ってやがる……!」

拓海(壊して入るか? いや、壊した瞬間に攻撃を重ねられると避けようがねぇ)

拓海(二発目の攻撃程度なら耐えられない事はない……ただ、アレが全力って証拠も無ぇな……)

拓海「チッ……こうなりゃこの中に居るってのは分かってんだ……根比べだ」

――スッ



拓海「アタシは扉の前から動かねぇぞ……」

――キィン

拓海「……?」

――ズンッ!!

拓海「おっ……!?」

拓海(地震!? じゃねぇ……何かを壊した衝撃だ……!?)

拓海「そうか、閉じ込めたと思ってたのはアタシだけか!!」

――ヒュッ ドガァンッ!!

拓海(アタシと同じように壁でも床でも天井でもぶっ壊せるなら、部屋から逃げられる!!)

――バキッ!

拓海「扉は壊した、中はどうなってやがる……くっ!」

――パラパラ……

拓海「床に穴……チッ、下の階に逃げたか……逃がすか!!」

――ダンッ!




・・

・・・


卯月「…………行った?」

――ガチャッ

卯月(……部屋に入って、地面に穴を開けた)

卯月(警報によって外部と寮エリアの間には結界が敷かれたけど、寮同士の空間に強化式は無い……!)

卯月「そして……」

卯月「穴だけ開けて、私は部屋に隠れた……!」

卯月(あの人は私を探し続けるはず……一度逃げられたからと言って、この閉鎖空間からは逃げられない)

卯月(なら撤退より追撃を試みる、あの性格ならそうする……こっちの情報は直ぐには漏れない!)

卯月「……今のうちに、策を考えるか他の皆と合流しよう!」

戦闘の描写が凄く良い

---------- * ----------
>>509
 『名前が出てないこの子は誰だろう』と予想で盛り上がっていただけたら、
それも楽しみ方の一つに……している、つもり、です。

>>590
 ありがとうございます、戦闘描写が一番の不安点でした。
台詞と効果音のみで臨場感その他諸々を演出できていたら幸いです。

 全員登場が目標ではありますが、やはり立ち位置に差が出るのは否めません。
次回のアンケは今までの方式と少し異なる予定です、今までが
・(冒険先) →名前を伏せた場面から選択肢
・(新規登場) →登場していないアイドル名
だとすると、次は(再登場)です、残念ながら既出全員が対象にはなりませんが……
---------- * ----------

智香の再登場は、なるか……。
楽しみ!

――ガシッ

卯月「……えっ?」

拓海「甘ぇぜ、気配の隠し方が下手だな」

拓海「アタシのが上手く隠れてたろ? 下に行ったフリをして……な?」

卯月「くっ!」

拓海「おっと、もうゼロ距離だ。暴れても無駄だっての」

卯月(油断した……! 私が思いついた作戦を、相手も使わないとは限らないのに……!)

拓海「さて……アタシと一緒に一旦部屋出るか、というか学校出るか……どうも落ち着かねぇなココはよ」

卯月(それは駄目……まずい……この現状がコトカさんの耳に入るのは何としても――)

――シュッ



――グイッ

卯月「んっ! な、何……」

拓海「おい……一瞬だが気配を感じた、まだ仲間が近くに居るのか? 答えろよ」

卯月「わ、分からない……! 私は途中で別行動に……」

拓海「……じゃあ誰だ、アタシの仲間……じゃねぇな、気配を隠す必要なんか無ぇもんな」

拓海「つーことはそっちの仲間だ。出てこいよ、アタシと勝負し――」

――ダンッ!!

卯月(真正面……え? この人影……!?)

拓海「うお……! どっから出てきや……って、そうかお前が――」

――ザンッ!!

拓海「っう!」

卯月(……今だ!)

――ドスッ!

拓海「あいっ……!?」

卯月「全体重っ、足の甲!!」

――バッ!

拓海「畜生っ! 痛ってぇ…………なんだなんだ、やっぱアイツの直感はマジだな」

卯月「逃げてなかったんですか!?」



李衣菜「……私の為に動いてるのに、私だけ逃げるのはフェアじゃない」

拓海「久しぶりだな、一時間くらいか?」

李衣菜「一時間も気を失ってたのか……迂闊だよ」

拓海「へへ、じゃあ手負いの所悪いが一戦、あの時の続きだ!」

李衣菜「気が早いね?」

拓海「そういう性格だからな、そらッ!」

――ギン!!



李衣菜「……っ」

拓海「そんな怪我でも受け止めやがるか……ただ、傷には響くみたいだな?」

李衣菜(押し切られる……!)

拓海「力比べなら負けねぇ――」

卯月「やっ!」

――ゴンッ

拓海「ごっ!!」

卯月「……眼中に無いって感じだったので、思わずやっちゃいましたけど」

李衣菜「意外とえげつない事やるねアンタ、そんなでっかい瓦礫で」

卯月「そうですか?」

拓海「お、おおお…………」

李衣菜「……ずいぶんタフだね、気絶しててもいいんじゃない?」

拓海「それが取り柄だからよ……」

李衣菜「ふぅん、でも回復されると厄介だから……ほいっと」

――カランッ

拓海「チッ……!」

李衣菜「武器は手放してもらうし、事が済むまでここで柱でも抱いててもらおうかな、手伝って」

卯月「あ、はい……でもロープは?」

李衣菜「常に携帯してるから大丈夫、暴れないでね?」

拓海「んな無様な真似しねーよ……」



――ガタンッ!

李衣菜「っ!?」

卯月「誰か来……あっ!」

凛「はぁ……はぁ……二人、と一人……!」

拓海「まだ居たのか……せっかくの増援だけどよ、アタシはもう制圧された後だよ」

凛「それは幸い……でも、私が来た理由はそうじゃない……!」

――パシャッ

卯月「え?」

凛「っ!」

李衣菜「今の……カメラ?」

拓海「何だ? 状況掴めねぇぞ?」

――ザッ

瞳子「決定的ね、証拠は多い方がいい」

李衣菜「何の真似? 私が人を拘束してる写真で何が脅せるの?」

瞳子「残念だけどあなたは写っているだけでいいの、それだけで仕事は終わりよ」

李衣菜「……?」

卯月「どういう事……」

凛「ウヅキ! その人、逃げる気なんだ! このままだとコトカの所に……!」

瞳子「そういう事!」

――シュタッ



李衣菜「なるほどね、逃がさな――」

拓海「把握したぜ!」

――ガッ

李衣菜「うわっ!」

拓海「足一本ありゃあこれくらいワケないぜ……!」

凛「くっ! 追いかけよう!」

卯月「う、うん!」

瞳子「素直に追いかけさせると思う? 先に準備は済ませてあるのよ」

凛「廊下なら一直線、見失わないから追いつくはず!」

――ガシャアン!!



卯月「えっ!?」

凛(窓が勝手に割れた……!?)

――バシッ! コロコロコロ……

瞳子「ふふ、ナイスタイミングよ」

卯月「なにこれ、ボール……?」

――カチッ

凛「……! ウヅキ! 離れて!」

卯月「な、何か音が……!」

――カッ!!!

凛「ううっ!?」

卯月「眩しっ……!!」

瞳子「閃光弾よ、数十秒で視力は回復するから安心して」

瞳子「その間に私は逃げるけどね」

凛「くっ! 見えなくても方向くらいは……!」

――ガッ ドンッ!

凛「うっ?!」

卯月「きゃっ!」

瞳子「逃げるけど、邪魔してからね」

凛(しまった、方向を見失った……!)

瞳子「……じゃあね、さよなら」

――タタッ

卯月「ど、どっちに逃げたの?」

凛「分からない、これじゃあもう追いつけない……!」



――…………

李衣菜「近く……いや、直ぐにでもこの事は伝わる」

凛「まずいね」

李衣菜「確かに、今ここには居ないけど……あの子含めて三人の立場は非常にまずくなった」

拓海「合計で結局四人も居たのかよ、姿を見せてねぇって事はさっきの衝撃の発生源か……」

拓海(アイツ……サナエはあんなに地響き起こすほどの攻撃手段は持ってねぇ、なら……戦ってる相手が起こしたはずだ)

拓海(つーことは、考えにくいが……負けてっかもな)

卯月「いや……私達の立場はこの際二の次です」

李衣菜「?」

凛「国に入るにあたって、協力してくれた人が居る……その人は、本来国側なんだ」

拓海「何だよ、ずいぶんややこしい事になってやがんなこの国は」

李衣菜「……その人物は、本来誰の味方? 国に紛れたスパイ?」

凛「スパイじゃない、はず。元々から国側で私達に何かと協力してくれた人……」

卯月「コトカさんにこの情報が伝わると、間違いなくその人に被害が……」

李衣菜「……それはもう、今更避けようがない。逃げられた段階で回避は不可能だ」

李衣菜「でも先に謝罪でもなんでも、傷を広げたくないなら……連絡することだね」

――ヒュッ パシッ

卯月「これは……?」

李衣菜「通信機。なつきちと交信する為のものだけど国内程度なら他にも連絡できるはず」

李衣菜「連絡先が分かってるなら掛けてあげたら?」

凛「ウヅキ、番号は分かる?」

卯月「確か覚えているので合ってるはず……つ、使うね?」

李衣菜「いいよ。……私やこいつに聞かれて困る内容なら、部屋の外でね」

卯月「は、はい!」

――ピッ ピッ…… Prrr……




・・

・・・


――Prrr…… Prrr……

琴歌「後にしなさい」

春菜「……私に直接掛かっている通信です」

琴歌「後にしなさいと言っているでしょう?」

ケイト(緊急連絡なら全員に通信がくるはずデス、ハルナだけに掛かっているなら緊急ではアリマセン)

春菜(そりゃ分かってますけどねぇ……)

――ピッ

千秋「…………」

春菜「おやおや、人の通信機の電源を勝手に切るとは教育がなってませんよ」

琴歌「いいえ、よくやったわ。本題に入ってもよろしいかしら?」

ケイト「何かご連絡デスカ?」

琴歌「連絡……というより追求ですわ。写真をこちらに」

千秋「どうぞ」

――パサッ

ケイト「ほう……」

琴歌「つい先ほど、私の元に送られてきた写真……写っている人物に見覚えは?」

春菜「そうですねぇ、例の盗賊団でしょうか?」

琴歌「ふざけないで。リイナは当然で、捕まっているのはこちらの陣営ですわ……問題は!」

――ダンッ

琴歌「この拘束に加担している二人は……あなたが用意した人員ですわね? ハルカ部隊長?」

春菜「その通りですが、何か?」

琴歌「開き直るつもり? この写真を見れば明らか、リイナに加担する悪党ですわ」

春菜「写真自体が捏造という可能性も考えられますね」

琴歌「この期に及んでそんな戯言を……! いいですか? これは国が悪に加担したという立派な証拠!」

琴歌「……出す場所を選べば、あなた方の首を飛ばす事など容易」

ケイト「あれ、私もデスカ?」

琴歌「当たり前でしょう! これは国全体の私に対する裏切りですわ、止められなかったあなたにも責任があります」

ケイト「オゥ、ハルナ、私の分も纏めて責任取って下サイ」

春菜「いやいや、私一人で死ぬ気はないので」



琴歌「……事の重大さが分かっていないようですね?」

春菜「いいえ、ただ首を飛ばしに来たのならわざわざ報告には来ないでしょう?」

春菜「何か目的があるんじゃないかなーと、それをお話してもらえます?」

千秋「あまり軽率な口を――」

琴歌「止めなさい。……確かに、目的はありますわ」

琴歌「この写真を元に、三人を裏切り者として手配しなさい」

春菜「ほう?」

琴歌「リイナに加担した者は全て悪……本来ならばあなた達も問答無用ですが、譲歩してあげますわ」

春菜「それは寛大な処置で」

ケイト(なんでこの人はこんなに余裕なんデスカ)

春菜「しかし手配となると必要な情報が足りませんね」

琴歌「まだ駆け引きを打つつもりですか? 身元などあなたが一番よく知っているはずでしょう!?」

春菜「そういう意味ではありません、例えばこの写真の真偽など、確認すべきことが多いんですよ」

春菜「後は……私は三人お嬢様にご紹介しました、ここに写っているのは二人だけですね?」

ケイト「手配するには写真が一名ぶん足りマセン」

琴歌「…………手配するつもりはあるのね?」

春菜「ええそりゃあもう、お嬢様からのご依頼ですから、眼鏡をどうぞ」

琴歌「……なら、早く取り組みなさい。遅くなるなら催促しますよ」

春菜「それは怖い、では行きましょうかケイトさん」

ケイト「では失礼シマシタ」

――ガチャッ バタン



ケイト「……で、どうするんデスカ?」

春菜「無視ですよ」

ケイト「なんというクソ度胸」

春菜「とはいえ表面上は協力しなければ、今度はアキハの首が飛びます」

ケイト「それは困りマス、という事は?」

春菜「手配写真の確保を言い訳に……捜査開始自体を引き伸ばして、さらに他の部隊には連絡しないでおきましょう」

春菜「要するに事情を分かっている我々二人のみの捜査です」

ケイト「また難しい注文を……捜査は怠慢捜査でいいデスカ?」

春菜「ここまで工作しておいて捜査も適当では駄目です、我々は真剣にやりましょう」

ケイト「……それは、万が一遭遇した場合は?」

春菜「申し訳ありませんが、確保です。出会わない様に動くしかないですねぇ」

ケイト「普通そこを適当にすべきじゃないデスカ?」

春菜「私達に監視がつくと厄介ですから、そこはね」

ケイト「……では写真を言い訳に引き延ばせる時間が勝負デスネ」

――ガチャッ

瑞樹「面白そうなお話ね……写真なら用意出来るわよ?」

ケイト「…………」

春菜「おや新聞記者さん、今日は何の御用で?」

瑞樹「今言った通りよ、世話焼きに来たの。三人の写真なら用意できるわ、もう撮ってるもの」

春菜「それはご苦労様ですが別に必要ないですよ、借りは作りたくないので」

瑞樹「つれないわね……早く取り組まないと立場が危ういんでしょう? どうしてそこまで庇うのかしら?」

春菜「何故ですかねぇ、強いて言うなら眼鏡にかなったと言っておきましょうか」

瑞樹「気に入ったの? ふふ、巨大国家の幹部に気に入られるなんて素敵ね」

瑞樹「でも私がその気になればこの写真一枚でどうとでも出来るのよ、だからこの写真――」

――シュパッ



――カシャンッ

瑞樹「…………え?」

ケイト「……落ちましたよ、カメラ」

瑞樹「落ちたって……あなたが斬ったんでしょ!?」

春菜「すいませんうっかり、私の剣技はうまくシャッターに捉えられましたか?」

瑞樹「……滅多に剣を出さない貴女が、珍しいものを見たわ」

瑞樹(商売道具を壊されたのに、一瞬気づきもしなかった……これはフレームに収めるなんて無理ね……)

ケイト「ゴミ、拾って帰って下サイヨ?」

瑞樹「……邪魔したわね、今度はちゃんとお話が出来る時に来るわよ」

春菜「いつお伺いしても構いませんのに」

瑞樹「私が一刀両断されちゃいそうで怖いのよ」

春菜「面白い冗談で」

瑞樹(目が笑ってないわよ)

――バタン

ケイト「何しに来たんデショウ」

春菜「特に理由はないと思いますよ、面白そうなら一瞬でもどこでも何にでも首を突っ込む人なんで」

ケイト「……で、結局どうシマスカ?」

春菜「どうしたもんでしょうか…………おっと、そういえば――」

――Prrr……

春菜「……噂をすればなんとやら、さっき出ておけばよかったですねぇ」

ケイト「誰からデスカ?」

春菜「出てみればわかりますよ、だいたい検討は付いてますが」

――ガチャッ



春菜「はいこちら眼鏡の専門店です」

卯月『言ってる場合ですか! それよりも大変なんです!』

春菜「存じています、いろいろやらかしてくれましたねぇ。くれぐれも慎重に行動をお願いしますよ?」

卯月『……すいません』

春菜「謝罪は結構ですが、こちらも手放しで現状を無視できない立場なので……簡潔に申します」

春菜「たった今お嬢様、要するにコトカさんからあなた方の指名手配を頼まれました」

卯月『っ……!』

春菜「まぁ、でも安心してください、広報はなるべく遅らせるつもりです、数日は粘れるでしょう」

卯月『ありがとうございます……あの、私たちはどうすれば……』

春菜「おや、私に聞きますか? 自分達でどうにかしてくださいよ」

卯月『そ、そうですよね、すいません!』

卯月『……え? あ、うん……すいません、リンちゃんに代わります』

春菜「どうぞ」

――ガチャッ

凛『……代わりました、ハルナさん』

春菜「はいはい、こちらハルナです」

凛『そこには誰が居る?』

春菜「私とケイトです、二人だけ。同時に、この手配の概要を聞いたのも国側では二人だけです」

凛『……手配を取り下げるにはどうすればいい?』

春菜「それは私に質問ですか?」

凛『国の仕組み、規約に関する質問』

春菜「それならお答えできます。簡単には、手配した本人に撤回させるか……より上の立場の人物に取り消しさせるかですね



ケイト「お嬢様は貴族位ですから、それより上となると数は少ないデス」




・・

・・・

春菜『……誰が、とはいいません。そこは自力でお願いします、ではこれ以上話す事はありません』

ケイト『盗聴怖いからネー、切りマスカ?』

春菜『切ります、お達者で……あと、手配は遅らせますが……私は本気で追いかけますよ?』

春菜『くれぐれも撤回を早く伝えてくださいね……?』

――プツッ

凛「…………」

卯月「えっと……?」

李衣菜「あんた、えらいの敵に回したね」

拓海「あそこの部隊長二人とか……頼まれたって勝負しねぇよ……」

凛「立場上、追いかけてくるのは仕方ないね……で、本題!」

李衣菜「通信機は使っていいよ、深刻なんでしょ?」

卯月「ありがとうございます! で、で……ミオちゃんも呼んでこないと……!」

凛「それは私が探す……たぶん、さっきから音はしないし誰も探しに来ないから大丈夫だとは思うけど……」

凛「その代わり、ウヅキはこの状況を打開できそうな人に連絡を取って……!」

卯月「う、うん!!」

――タッタッタッ



李衣菜「……貴族より権力が上の人に心当たりなんてあるの?」

拓海「んな人脈持ってんのか?」

卯月「連絡先……調べれば直ぐに分かる人なら大丈夫……」

卯月(櫂さんやのあさんなら大丈夫だと思うけど……連絡先が分からない……)

卯月「今の状況を打開できそうな人……!」

---------- * ----------
 アンケートです。
以下の条件にあてはまる人物名をコメント一つにつき一名挙げてください、最も多い数が挙がった名前に連絡します。
同数の場合は、先に票が入った人物に決定します(三票同数なら、先に三票目が入った方)。

・作中に既に登場した名前
・卯月、凛、未央いずれかが遭遇した人物
・権力者、またはその人物へ連絡手段を持っている

 連絡手段が確立されているかどうかは深く考えなくて結構です。
一応私は該当候補者六人で考えていますが、それ以外だとしても理由が思いつけば採用します。
---------- * ----------

若林智香。

小春ちゃんにペロペロ外交してもらおうか

小春しか出てこない

泰葉

小春しか思いつかん
一応国家元首だし

立場的に考えれば、小春ちゃんしかいない

連絡がつくかという点では俺もヤスハ(経由でもっと上と渡りをつける)かコハルしか浮かばないかなぁ

櫂くんは卯月は確かあってない、よな?

---------- * ----------
>>606-612
小春さんに頼みます。 この手のアンケートはもう少し登場人物が増えて、選択肢が広まってからやるべきでしたね。

 他の場所でも言われている通り、ファンタジークロスのモバマスが増えてきました、見てます。
同じ登場人物が出た際に『なるほど、こう使ったか』とか『やっぱりこうですよね』みたいな
作者目線の感想が出てしまうのは……ご勘弁を。
そういえばココにはちひろさんが出てきていません、悪のリーダーでもコンピューターでも無いです。
プロデューサーに該当する人も、これは絶対に出てこないので違う点ですね。
---------- * ----------

 立場が真逆、相手側であるリイナと共闘していたことがトウコの手によりコトカに伝わる。
これにより味方であったハルカとケイトが避けるべき相手に、
そして何よりも、国がこれまでと異なり敵として位置するようになってしまった。

 だが、これはあくまで一時的。
コトカの手配は独断による決定ゆえ、撤回訂正は十分に可能だと最後にハルカが告げる。
彼女は貴族位、それよりも上の人物に……この現状を伝えて、改善しなければならない。

 リイナから借り受けた通信機、記憶の中の番号と人物の顔を思い浮かべ、
心当たりの人物へ救援を求める。



卯月「通信先……とにかく今まで会った皆を思い出そう、その中から条件に当て嵌る人……!」

卯月(まず連絡先が分からないカイさんやノアさんは省く、そしてハルナさんとケイトさんも駄目……)

卯月「トモカさんとツバキさんは……話も通りそうだけど、さすがに国に働きかける力は無い……」

卯月「国……? そうだ……!」

――Prrr……



――カチッ

ベテトレ「こちらエプリング、そちらは誰かな」

卯月『えっと、その声は……ベテランさんですね!』

ベテトレ「何? 私をそう呼ぶのは……どうした、何か忘れ物か?」

小春「ウヅキさん、お久しぶりですね~」

卯月『少し……重要なお話です、お時間大丈夫ですか?』

小春「重要? コハルが聞いていても大丈夫ですか~?」

ベテトレ「……それは武力か? そうだとしたら、協力は断る」

卯月『違います! 実は私達、この国で――』




・・

・・・

愛梨「……選択肢としては間違ってはいない、これで貸しも返されて相互にゼロ、平和です」

愛梨「ですが、今回の事案の解決に……切るカードとしては大きすぎましたね?」

愛梨「別に非難するつもりはありません、もしかするとこのカード以外では解決出来なかった可能性もあります」

愛梨「結果は神のみぞ知る。……蛇足になりますが、改めて人脈を確認しましょうか」

愛梨「彼女達が助けを求め、解決が出来た人物……」



愛梨「トレーナー姉妹に助けを求めていたら、結果的に今回と同じ……コハルにたどり着く」

愛梨「そうした場合の結末は今現在を見守りましょう」

愛梨「次に……ヤスハは? 彼女も、権力こそ国という単位に劣りますが口実がある」

愛梨「貴族の権力及ばない地であるはずの学校に侵入したのはどちらでしょう?」

愛梨「他、アキハやノアには連絡手段がありませんが……その人物と接触が容易な人物はよく知っていますね?」

愛梨「同時にこの国に対して大きな権力を得ているミレイとミク、少し距離は遠いですけど」



愛梨「……私から話を始めましたが、Ifの話をしても仕方がありません」

愛梨「肝に銘じていただきたいのは……次回、この国に助けを求めた場合の対価でしょうか?」

愛梨「友情だけではこの世は渡れませんよ?」

愛梨「……ああ、皆様は別に深く考えなくて結構。お好きな道を示し、選ぶのが使命ですから、ね?」




・・

・・・

卯月「どう、ですか? 力を貸して頂けませんか?」

ベテトレ『…………二つ返事は難しい、ただし不可能ではない、とだけ答えよう』

ベテトレ『その手配を下げる為にやるべき事は、君達の正当性を証明するのみだ』

小春『コハルじゃ力不足ですか?』

ベテトレ『いや、そういう訳ではない……国ではなく個人への介入なら少しは可能性がある』

卯月「えっと、つまり……」

小春『なんとかできるんですか~?』

ベテトレ『君達を通して間接的な関係だが、強引に出来ない事もない……しかし証拠写真は本人へ伝わったのか?』

卯月「伝わってしまった、とは思います……」

ベテトレ『そうか……手配の流布はどうなっている? 既に広まっているのか?』

卯月「い、いいえ! ハルナさんとケイトさんが引き延ばしてくれています、発行される前になんとかしろと……」

ベテトレ『ん……? その二人は先の説明で聞いた名前だな……本人が助言して、同一人物が延ばしているのか?』

卯月「そうですけど……?」

ベテトレ『……待て、少し話が変わってくる』

卯月「ど、どういう事ですか!?」

ベテトレ『話を纏める。その二人は手配を先延ばしにする、代わりに自らは積極的に動くと言っている』

ベテトレ『そして時間を稼いでいる間に対策を考えろと君に告げた』

卯月「そうです……何かおかしい点がありましたか!?」

小春『その対策として、コハルが協力できないのですか?』

ベテトレ『……これは予想だが、恐らく当たっていると思う』

ベテトレ『二人の真意、言葉を意味を考えた』

卯月「意味? 意味なんてそのまま……対策を考えろって事では?」

ベテトレ『わざわざ君達を追う戦力は自分達二人だけだと言っているんだぞ……?』



小春『コハルにも分かるようにお願いします~』

ベテトレ『つまり…………二人は自身を倒せと言っている』

卯月「えっ……!?」

ベテトレ『手続きの全件を担っている二人、手配が通る前にそこを壊して止めろ、そう言っていると私は察した』

卯月「そんな訳……! じゃあどうして権力者なんて言葉を……」

ベテトレ『少なくとも、貴族位が敷いている警備を抜けて手助けが可能な人物は権力者だ』

ベテトレ『今度こそ総括するぞ……二人は、二人を倒せる人物を期間内に集めろと言っている……!』

小春『強い人を探すのですか?』

ベテトレ『……だからこそ、この要求はこちらでは飲めない』

卯月「武力介入……援護は国からは出せないという事ですか?」

ベテトレ『すまない……こちらにも立場がある、未来区と戦争する気は無い』

卯月(戦争の口実になってしまうから他国には協力を求められない)

卯月(……かといって、ただの一般人では国に訪れる事もできないなんて!)

卯月(誰に助けを求めたら正解なの?)

――ザッ ザザーッ……

卯月「あれ、ノイズが……もしもし?」

小春『え――てん――――ん――』

ベテトレ『こら、勝――の――奪う――』

卯月「……?」

――カチリ

小春『すいませ~ん、ちょっとお姉さんが喧嘩中です~』

卯月「は、はぁ……」

小春『えっと、お姉さんはああ言ってますがコハルは皆さんにご協力したいんです』

卯月「でも、さすがに国が動くにはデメリットが多いってさっき……」

小春『だからコハルは考えました~、まったく関係ない人に頼めばいいんですね~』

小春『コハルと繋がりが無い人にお願いすればいいんです~』

卯月「確かにそうすれば問題は解決しますが……」

卯月(時間が無い……警備を抜けるためにコハルさんの書状を持って、例えばトモカさんに頼むとする? 絶対に時間が掛か

る……)

卯月(それに、トラブルが起きた際に迷惑が……コハルさんにも、頼んだ本人にも……)

卯月「今からそんな人は見つかりませんよ!」

小春『確かに今からそんな人を探すのは難しいです~』

――ガチャッ

幸子『じゃあ天使のボクが向かいましょう!』

菜々『ウサミン星人もです!!』

ベテトレ『国の通信を勝手に部外者が受けるんじゃない!』

卯月「……? ……??」

小春『え~っと、要するに国に関連性のない、天使さん達に向かっていただきます~』

幸子『その節はお世話になりましたね! ボクが居れば百人力ですよ!』

菜々『おかげさまでナナは立派なエンジェルです!』

幸子『半分ボクのおかげですけどね!』

卯月「い、いつの間にか仲良さそうですね……」

幸子『ボク達が到着するまで、耐えてくださいね! 直ぐに向かいますから!』

卯月「ありがとうございます! ……でも、いいんですか? 聞いていたと思いますが、相手は――」

幸子『ボクは天使ですからね、人間の相手など容易いものです! では時間が惜しいんで切ります!』

小春『お達者で~』

ベテトレ『……まぁ、なんだ、とても変則的な形になったが…………察してくれ』

――ガチャッ

卯月「……よし!」

李衣菜「連絡は取れた?」

卯月「バッチリです……!」

李衣菜「どっちを選んだ?」

卯月「……?」

李衣菜「手配の公開を止めさせる方針か、手配の根本を潰す方かって事」

卯月「…………後者です!」

李衣菜「へぇ……あんたも大概悪人だね、恩人を倒す気?」

卯月「それは……」

拓海「仕方ねぇだろ、それが一番手っ取り早いんだ。アタシだって……やりたくはねぇけどやるしかねぇだろ?」

李衣菜「ふーん、それであんたはどっちの味方?」

拓海「腕出せねぇぶん口くらい出させろ」



李衣菜「でも悪い選択肢ではない、権力でねじ伏せるには余程の条件が整わないとキツいよ」

卯月「時間が無いと思ったので……アドバイスも受けましたが、これが私の答えです」

李衣菜「うん、そうと決まったら……あの二人を倒す算段を立てなきゃね」

拓海「マジでやんのか?」

李衣菜「やるって決めたらしいし、あんたも部外者だけど賛成でしょ?」

拓海「アタシがそっちの立場ならって話だよ、それに……出来るならやりたくねぇよ、言ったろ」

李衣菜「意外に慎重だね?」

拓海「当たり前だろ、国に喧嘩売るんだぞ」

卯月「ですが……互いに了承して、これが最善ならそれもやむ無しです」

拓海「案外、そっちの思い込みかもしれねぇぞ? 向こうは権力者っつったんだからよ」

卯月「う……」

李衣菜「それ以上決断を惑わせない、黙った黙った」

拓海「へいへい……」

李衣菜「じゃあこっちも纏めよう、この手配から逃れるためにやるべき事」

卯月(手配……ふと思い出したけど私達は五つの束縛から逃すために行動してるんだよね……)

卯月(もしかして……五つの中に手配、私達のグループが含まれている……?)

李衣菜「……大丈夫? 上の空だけど」

卯月「は、はい! 大丈夫です!」

李衣菜「ハルナとケイトを倒す、二人に対してこちらの戦力は私を含めた四人と?」

卯月「もう二人です」

李衣菜「戦力としては?」

卯月「詳しく知っているわけではないですが……数えてもいいはずです」

李衣菜「都合六人……持ち込めて三対一か……」

――ザッ

凛「……纏まった?」

未央「ただいま! よいしょっと!」

早苗「んー!」

拓海(マジか)

卯月「ミオちゃん! かなり怪我してるよ!?」

未央「無傷はさすがに無理だったよ……でも、ここにも一人いるみたいだし……後は逃げられた一人だけ?」

凛「いや……もう一人いるはず、建物の外から援護している人が……」

李衣菜「……その人を倒せたのは手柄だね、でも三対二になる可能性も出てきちゃったか」

早苗「……? ……?」

拓海「アタシらはもう退場組だよ、大人しくしておこうぜ」

早苗「んー?」



李衣菜「応援が来るまで潜伏する必要がある……学校に留まるのは駄目、場所を変えないと」

未央「でもここ以外にどこへ行けば……」

李衣菜「ひたすら移動、だね」

凛「限られたエリア内で……二人から?」

卯月「本当に二人で良かった……」

李衣菜「その二人が極端に厄介な相手だけどね、とりあえず応援が到着するまで逃走……合流したら、遊撃……」

凛「……で、こっちの二人は?」

拓海「もう手出ししねぇよ……大人しくアタシらは帰る」

早苗「んー!!」

未央「その人はそのつもり無いみたいだけど……すっごい睨んでるし」

拓海「見苦しいっての……今回は諦めろよ……」

あー、ヤスハは全く思い浮かばなかった…
それ以外は連絡できるか分かんなかったしなぁ

そういえばバトル系ならシェアワもあるな、あれは見てるのだろうか



・・

・・・


春菜「……というわけで、準備が整うまでに一日だけ期間を頂きたく」

琴歌「どうして直ぐに取りかかれないのかしら?」

ケイト「説明した通りデス、それに公布が明日というだけで本日から作業と捜査を私達が同時進行シマス」

琴歌「二人だけで? 二つの仕事を掛け持ちで?」

春菜「他の部隊は警備で手一杯、こちらの都合も考えていただけると」

ケイト「明日の深夜までには完成サセマス」

琴歌「深夜? それでは意味ないでしょう、せめてお昼にしなさい」

ケイト「デハ夕方」

琴歌「……いいでしょう、ただし絶対に遅らせない事! 私は失礼します、次に不祥事を起こせば首が飛ぶと思いなさい!」

――バタンッ

春菜「……ナイスです、朝一番も覚悟していましたが夕方まで延ばせましたね」

ケイト「それでも一日は一日デス、それに肝心な部分を伝えてませんが大丈夫デスカ?」

春菜「手続きですか?」

ケイト「違いマス、通信相手の三人の事デス」

春菜「ああ、それなら大丈夫ですよ、どういう手段で来ようともとにかく口実が出来ればいいのです」

ケイト「口実……一つだけ質問、本当はどの手段で来て欲しいデスカ?」

春菜「そりゃあ権力者が抑え込んでくれたら万事解決ですよ」

ケイト「本音は」

春菜「ありません」

ケイト「おっと……珍しい返しを受けマシタ、思ったより冷静なんデスネ?」

春菜「それが一番というのは確かです、しかし……直接言う訳には行きません、察して頂かないと」

春菜「こちらから全て誘導すると彼女達のためにならないでしょう?」

ケイト「……どうしてそこまで肩入れするんデショウ?」

春菜「気に入ったから、ではダメですか?」

ケイト「うーん…………そういう事にしまショウ」



・・

・・・


――ガチャ

瑞樹「ただいま」

??「あら……ふふっ、ここはミズキさんのお宅ではありませんよ。そもそも、ご自宅はあるのですか?」

瑞樹「失礼ね、ちゃんと仕事場が自宅よ」

??「またそんな事言って……今日は何かご用事ですか?」

瑞樹「ここに来る用事は一種類よ」

??「そうでしたね、では現像が終わり次第……」

瑞樹「……いや、用事は一種類だけど常に同じ一つとは限らないわ」

――カタン

??「わ……これ、どうしたんですか?」

瑞樹「ちょっと迂闊な事をしたのよ、直せる?」

??「直す……これはもう、新しいカメラを用意した方がよろしいかと」

瑞樹「やっぱり? じゃあ同じ型のものを作ってちょうだい、ついでに……フィルムの復元が可能ならそれも」

??「綺麗にフィルム部分が切れてますね……恐らく無理だとは思いますが……善処しますっ」

瑞樹「迷惑かけるわね。ここに私が来る前に誰か来た?」

??「いいえ、今日はお会いしていませんね」

瑞樹「もう、たまには顔出せばいいのに」

??「ミズキさんが滅多に帰ってこないんですよっ」

瑞樹「あら、そうだったかしら?」

小春かトレーナー系列しか思い浮かばなかった
そっかさすがに影響力が大きすぎる

とは言え、晶葉の首すら危ういような表現もあったから、生半可な権力じゃな~と思ってた

??「私が全て連絡を受けるのも大変なんです」

瑞樹「ごめんごめん、今度何かお礼するからアイコちゃん」

藍子「……お礼なんて受け取れませんよ、お手伝いできているだけでも光栄なんです」

瑞樹「ただの記者よ」

藍子「でも今や世界的な有名人です、その方がご贔屓にしているというだけで私は」

瑞樹「もう、その話はおしまい、いつも謙遜しちゃって延々ループしちゃう」

――ガチャ

藍子「あっ! もう行っちゃうんですか?」

瑞樹「ええ、カメラが無いなら無いでやれることはあるのよ」

瑞樹「次は真っ二つにならないような強度もお願い、じゃあね」

――バタン

藍子「行っちゃった……」

藍子「……斬れないようにですか。……あれ、カメラって頻繁に切れるものでしたっけ?」



・・

・・・


幸子「任せてください! ボクがお手伝いに向かいましょう!」

小春「わぁ、助かります~。どうやら緊急のご用件のようで、なるべくお早めに~」

トレーナー「警備の検問は、この国から要人への使者だと伝えてください、何かあったら連絡も」

菜々「心得ました! ぜひナナにお任せ下さい!」

ベテトレ(打ち解けすぎではないか?)

トレーナー(いい方向に考えましょう……これでも根本は変わってないんです)

菜々「この力があれば敵なしです! でも半分だけです、本当は百パーセントの力を出せるのに」

幸子「その目線はやめてください、ボクだって百パーセントあれば……フフン!」

小春「全力ではないのですか~?」

菜々「はい、ナナは心ない天使によってリミッターを掛けられているのです」

幸子「ボクの台詞ですね!?」

菜々(ナナが力を持つのは当然ですが、手放してしまうとサチコがここに留まる理由が無くなって……)

幸子(まぁ、頭数が減ってしまうとこの国には宜しくないですね)

菜々(なんだかんだでお世話になりましたし、迫る驚異も多いです……)

幸子(ボクは留まりますが、あの自称天使が力を得るといつ姿を消すか分かりません!)

菜々(だからこそ力を半分だけ奪い取って……)

幸子(ですから優しいボクは自分の力を餌に……)

菜々(サチコを国から逃がさない!)

幸子(ナナさんを国へ取り込んでやります!)



ベテトレ「……思考が透けて見えるようだ」

小春「お二人共仲がいいですね~」

トレーナー「良くはないかもしれませんけど……」

幸子「それでは行ってまいります!」

菜々「でも何かあった場合は直ぐに言ってくださいね! ナナ、音速で戻ってきますから!」

幸子「それならボクは亜光速ですね!」

ベテトレ「部外者に心配されるほど我々では戦力不足と言いたいのか?」

幸子「滅相もない、万が一の話ですよ……あ、それと」

ベテトレ「まだ何かあるか?」

幸子「……ボクは部外者ですか?」

ベテトレ「何だって?」

幸子「……いいえ、聞かなかった事にしてください! では出発します!」

菜々「あっ! 先を越されました! むむっ、ウサミンパワーでメルヘンウイーングッ!!」

――ギュンッ!

トレーナー「わぁ……早い」

小春「あれなら一日も掛からずに駆けつけられますね~」

トレーナー「それどころか陽が落ちる前に到着しそう……安心ですね」

ベテトレ「ん? あ、ああ……あちらはもう私達の管轄外だ、彼女らに任せよう……」

小春「お姉さん、どうかしたんですか?」

ベテトレ「いや……何もないよ。さ、部屋に戻るとしよう」

トレーナー「私はこのまま見回りに行きます」

小春「またお夜食の時に~」

ベテトレ「…………」



――キィィィン

幸子「…………で、二人きりになりましたが」

菜々「おっと、ナナに質問ですか?」

幸子「そうですね、まずはあなたが未だに国に留まっている理由を聞いていいですか?」

菜々「それはもちろんこの力を全て得るためです!」

幸子「では今からボクを襲いますか?」

菜々「そんなに空気の読めないナナじゃないです、今は他の目的があるじゃないですか」

幸子「ずいぶん親切ですね、どういった心境の変化ですか?」

菜々「ナナは何時でも自分に正直ですよ」

幸子「…………そうですか」

菜々「では逆に質問ですが、サチコさんはどうして国を出ないんですか?」

幸子「出る為の鍵を握り潰しているくせに聞きますか?」

菜々「では今からナナを襲いますか?」

幸子「そんな野蛮な事はしません、ボクは天使ですから」

菜々「……ふふっ」

幸子「何がおかしいんですか?」

菜々「いやいや、サチコさんは天使だなぁって」

幸子「さっきからそう言っているでしょう?」

菜々「そうでしたそうでした。でもその姿勢、崩さないでくださいね?」

幸子「……?」

菜々「ナナは天使じゃなくてウサミン星人ですから」

幸子「はいはいそうですね」

――キィィィン……

---------- * ----------
>>614
ハルナをハルカと誤記してしまいました、天海さんは出ていません。

>>628
現状どのような行動を選んでも、特にこの序盤、出番が消滅してしまう死亡判定は出さないつもりです。
緊張感が無くなってしまう可能性がありますが登場機会を大事にする方針なのでこれは変更しません。

アンケートによる決定は安価スレほど強い影響力を持っているわけではありません、
実際、結果を見てから続きを執筆しているのでどれが正解や不正解などは用意しておりません。
『このキャラが好きだから推す』や『出番が少なそうだから推す』、『これを選ぶと面白そう』程度の
お気軽なもので構いません、期待に添えるように等しく、努力を惜しまないつもりです。

毎回、感想もありがとうございます。 質問疑問はなるべく回答します。
---------- * ----------

藍子だあああああ



・・

・・・


李衣菜「……リイナ」

卯月「えっ?」

李衣菜「私はリイナ=タダ。なつきちことナツキ=キムラを慕って集ったうちの一人」

未央「えっと、突然……なに?」

李衣菜「自己紹介、してなかったと思ってね……仲間として」

李衣菜「こんなに手伝ってもらって、今更私だけ反発するのはロックじゃない」

凛「…………協力、していいの?」

李衣菜「もう断る段階は超えたでしょ、それに勝手に進めてたじゃん、私の姿を見失っても」

卯月「それは、そうですけど」

李衣菜「……はい、おしまい。さんざん助けてもらって……もう一つだけ頼んでもいい?」

未央「もう一つ?」

李衣菜「うん……私一人だけがここに居る理由、聴いてる?」

凛「ナツキが居ない事と関係している?」

李衣菜「関係どころか……ずばりその通り、なつきちは今動けない……コトカの罠だよ」

卯月「コトカさんが……?」

李衣菜「盗品の中に仕掛けてあったんだよ、盗賊の技術ではどうしようもないものが」

未央「魔術の罠?」

李衣菜「半分正解、実際には……自然の資源、だからこそ人の手ではどうしようもない、この手じゃなつきちを助けられない」

卯月「魔法なら私が……あ、駄目、そんなに得意じゃないです……」

凛「せめて何があった結果ナツキが動けないのかを説明して欲しいな」

李衣菜「もちろん言うよ。まず魔法の方だけど、装備固定っていう術式」

卯月「……あれ? それって有益なものでは?」

未央「どういう内容? しまむー説明して」

卯月「うん……間違ってなければ、戦場で自身の武器や装備を奪われたり紛失したりしないように固定する魔法」

凛「聞く限りでは……たしかに障害にはならなさそうだね」

李衣菜「使われ方がまずい、その術式によって固定されている“装備”が問題なんだ」

李衣菜「装備は指輪、その指輪の原材料の名前を『重力石』という代物」

未央「じゅうりょくせき? なにそれ、なんだか重そうな石だね」

李衣菜「一部の魔法道具に必要らしいけど、そんな事はどうでもいい」

李衣菜「間違いなくこんな材料では普通、指輪なんて作らない……明らかに狙って作ったものだよ」

凛「その重力石は、何か作用が?」

李衣菜「生物が触れると、受ける重力の影響が加算されていく……時間に応じて強力にね」

李衣菜「分かりやすく言うと、触れている間どんどん体が重くなるって事」

卯月「そこに装備固定……!」

未央「うわぁ……それは、確かにまずい……」

李衣菜「なつきちはどこにでもある重力に今、縛られている状態……お願い、これを解くために協力して!」

卯月(……!)

凛(これは、間違いなく……経典の内容!)



未央「も、もちろん! でも何をどうすれば?」

李衣菜「解決方法は分かっている、でもその方法を私じゃ用意できない」

李衣菜「まず一つ目、装備固定の術式を解く方法!」

凛「ウヅキ、出来る?」

卯月「装備固定は本来自分に掛けるもので、戦闘中に相手が解除行使出来ないように術者のみが鍵を持つはず……」

未央「じゃあ術者を倒せば……!」

卯月「駄目! 魔法は術者を倒せば解除されるとは限らないよ、下手すれば呪いの域に昇華されちゃうかも……」

未央「そ、そうなの? じゃあ駄目だ……」

凛「そもそも術者が誰か分からないから何を狙えばいいかも分からないよ」

李衣菜「術者は……コトカだよ」

卯月「えっ……!?」

凛「……駄目だね、この方法は私達が実行するには難しすぎる」

李衣菜「じゃあもう一つの手段だけど、こっちも望み薄でね……」

凛「指輪を壊すとか……?」

李衣菜「指輪が壊れたとしても重力石が装備とみなされてしまったら無意味、むしろ状況が悪化するから駄目だね」

卯月「単純に石の数だけ増えることになりますからね……じゃあ他の方法はいったい……?」

李衣菜「石の効力を無効化すること、これが可能なら指輪を外す必要がなくなる」

未央「なるほど! ……で、それはどうすればいいの?」

李衣菜「…………ごめん、方法は存在するらしいけど、それが何かは分からない」

李衣菜「私は盗賊であって学者じゃないんだ……価値は分かっても歴史や知識なんて上辺だけ」

凛「……これも駄目となると、厳しいね」

李衣菜「こればかりは本物の専門家が必要だけど、ただの盗賊の私にそんな人脈は無い……」

卯月「専門家……? それは装備に関してですか?」

李衣菜「違う、この場合は……この重力石の効果を消す知識を持っている人……」

李衣菜「なんて、自分で言っておきながらそんなピンポイントな専門家なんて――」

卯月「はいっ! リイナさん!!」

李衣菜「わっ!? な、何さ?」

卯月「魔法道具の原材料としての専門家は知りませんが……石に詳しい人なら知ってます!!」



・・

・・・


琴歌(リイナの協力者……あの一団のスパイが紛れていたとは、それも国の内部から送られてきた刺客……)

琴歌(これは偶然? それとも、何か別の真意が……)

雪美「…………」

琴歌「あら、居たの? 用件はチアキに頼むわ、今は勝手にしておきなさい」

雪美「はい…………」

琴歌(あの三人組がナツキとリイナに加担する理由が分からない……何か目的があるはず)

琴歌(……いや、深く考えないでおきましょう、どうせ盗品か技術を狙っているに違いありません)

――ガチャッ

千秋「失礼します」

琴歌「状況はどうなってるの?」

千秋「仰られた通り……ハルナ、ケイトの両名はそれぞれ共に捜査に当たっています」

琴歌「ほう……口だけではなかったのですね、それで?」

千秋「他……タクミ様とサナエ様が敗北、現在はリイナの手によって拘束されている模様です」

琴歌「写真で見た通りですわね……それは誰に聞いた情報かしら?」

千秋「トウコ様から直接」

琴歌「……その当人は?」

千秋「現状をお伝えすると、そのまま準備が必要と移動を行いました」

琴歌「また勝手に……いや、構いません……その代わりにもう一度伝えてきなさい、次は彼女を討てと」

千秋「……かしこまりました」

――バタンッ

雪美「…………」

琴歌「……通信機、持ってる?」

雪美「あ……持ってく、きます…………」

――トタトタトタ

琴歌(……嫌な予感がする、少なくともこちらの戦闘員四人のうち二人を既に退けているのは事実ですわ)

琴歌(もうこれ以上後手に回る前に……)

雪美「これ……」

琴歌「貸しなさい…………もしもし、ハルナとケイトの両名に繋いで頂いても? コトカからと伝えてください」



――ピッ

春菜「……また方針転換ですか」

ケイト「次は何デスカ?」

春菜「手配がどうせ遅くなるなら先に行動しろと」

ケイト「またそんな無茶ナ……うん?」

――ガチャッ

瞳子「やっと見つけた。ハルナ、ケイトさんで間違いはないかしら、私はトウコよ」

春菜「自己紹介どうも、確かコトカさんが呼んだうちのお一人でしたね?」

瞳子「その通り。それで単刀直入に言うわ、あの四人を討つ為に、私では力不足」

瞳子「どうせ同じような命令を受けるはずよ、あなたも私も。なら共同戦線よ」

――ザッ

千秋「……皆様お揃いで、コトカ様から追加の伝令があります」

春菜「おや、あなたの予想通りですね?」

瞳子「むしろ予想と違っていたら権力者としての実力を疑うわよ」

千秋「……?」

ケイト「構いマセン、どうぞ内容を」

千秋「はい……伝令は『これ以上相手側の準備が整う前に討て』という事です」

春菜(うーん……せっかくの時間稼ぎがコレですよ)

ケイト(とはいえ反対するには理由が……薄いデスネ)

瞳子「予想した通り……これで正式に同行をお願いしても大丈夫ね?」

春菜「そう……ですね、いやぁ、ご協力感謝しますよ。お近づきの印に眼鏡をどうぞ」

瞳子「……遠慮しておくわ。で、戦線の話だけど……相手は四人、こちらも四人よ」

ケイト「ここには三人しか居まセンヨ?」

瞳子「最後の一人を口説くのに時間が掛かってね……さっき足早に去ったのはその為、ごめんなさいね」

千秋「いえ、お気遣いなく……」

瞳子「とにかく四人目……入ってもいいわよ、ここにいる人物は味方よ」

春菜(うーん、複雑な気持ちです)



――ガチャッ

??「……錚々たる顔ぶれね」

ケイト「おやおや……これは意外な仕事人が現れマシタ」

春菜「私は存じ上げませんね」

??「知っているなら……自己紹介は簡単に済ませようかしら、私はメグミ=イジュウイン」

惠「本来はここより遠方の地域で……汚れ仕事を受け持っているわ」

春菜「おやおや……」

惠「この国では取り締まる対象かしら」

春菜「あまり推奨されるお仕事ではありませんね」

ケイト「……記憶違いがなければ、あなたは遠距離専門デショウ?」

惠「そうね、近接戦闘は戦力外と思っていただいて結構よ」

瞳子「私が判断する限り、相手の四人に遠距離攻撃を持つ人物は居ない」

瞳子「武器も装備型……肉体による近距離武闘派が多いと見たわ」

惠「近接に遠距離は不利ね」

瞳子「あなたの腕なら接近を許す前に仕留められるでしょう?」

惠「努力はするわ。……でも、要はそこの二人、近距離に対して相性がいい武器持ちの中距離でしょう?」

春菜「えぇ? あ、まぁそうですけども」

瞳子「そう、近距離に間合いを取りつつ有利な距離で立ち回れる二人が今回の鍵」

春菜「緊張しますねぇ、あははは」

ケイト「あのデスネ……」



惠「二人対二人に分散させる事が肝かしら」

瞳子「そうね、総戦力で入り乱れての戦いは遠距離のあなたが苦労するし三人で前線は抑えきれないもの」

ケイト(……話、纏まりそうデスガ?)

春菜(口出し出来るレベルではありませんね……なるようになるとしか)

ケイト(しかし困りマシタ、これでは到底あの三人は何か手を打っていても間に合わせる事は無理デショウ)

春菜(うーん……今となっては手配の撤回は無意味です、こちらが先に動く方針になってしまいましたから)

ケイト(……ハルナが『選んでいて欲しい』選択と、逆を選んでいる事を祈るしかありまセンネ)

春菜(それはそれで問題が……うーん……)

瞳子「――という方針で、構いませんか?」

ケイト「……? オウ! 大丈夫デス!」

瞳子「そう、ならば早速行動に移りましょう。チアキさん、何か情報はあるかしら?」

千秋「……警備を数名、潜伏場所の学校周辺に配置しています。あの場所から動いていれば目撃情報があるはずです」

瞳子「なるほど、じゃあ警備に聞き込み開始ね、行きましょう」

惠「ええ」

春菜「あれ? そういえば私達はどちらと共に行動をすればいいのでしょうか?」

惠「…………?」

瞳子「……聞いていなかったのね?」

春菜「おや? すいません、考え事をしている間に話していましたか……」

瞳子「今度はちゃんと頭に留めて頂けると助かるわ、いいですか?」




・・

・・・

菜々「ほら! 早くしないと置いていきますよ!」

幸子「飛ばしすぎです! 到着してからの体力が残っていなければ本末転倒ですよ!?」

菜々「温存しすぎで到着が間に合わない事こそ本末転倒です!」

幸子「一日は猶予があるって言ってたじゃないですか! もっと落ち着い――」

――ドンッ

幸子「むぶっ!」

菜々「あ、すいません」

幸子「急に止まると危ないじゃないですか……落ち着いてとはいいましたけども……んっ?」

菜々「……ちょっと先に行ってて下さい」

幸子「おっと、それならボクも。ナナさんこそ先にどうぞ」

――…………

菜々「時間は取りませんから、これくらい構わないですよね?」

幸子「ですね、むしろ見過ごす方が無情です」

――ヒュンッ

――ガサガサッ

幸子「……人、ですね」

菜々「同族だと思いましたか?」

幸子「まさか。ですが随分と衰弱している様子……こんな森の中で一人で、どちら様でしょうか?」

菜々「こんな小さな子供が一人、絶対に訳ありです」

幸子(……子供?)

菜々「とにかく森の中に放置は駄目です、巻き込まないように……ひとまず目的地にまで運んで……」

幸子「その後は国の人に預けるか、宿でも確保して寝かせてあげましょう」

菜々「よし……じゃあナナが運びますね、よいしょっと!」

――ギリッ

??「っう…………」

幸子「ちょっと、引っかかってますよ! 苦しそうです!」

菜々「あああごめんなさい! 草に服が引っかかって……あれ、服じゃないですね、なんですかこれ?」

幸子「アクセサリにしては……無骨で野蛮な、鎖ですか?」

菜々「でも何にも繋がってません」

幸子「うーん……とにかく運びましょう、ボクが持ちますから」



・・

・・・


李衣菜「……少し騒がしくなってきたね」

凛「追手?」

李衣菜「いや、学校自体が警報を誤報……実際は虚報だけど、とにかく安全と分かったから生徒を戻したんだね」

卯月「じゃあ人波に紛れて外へ出ましょう!」

李衣菜「それが一番だね、じゃあ一旦隠れよう。人がいないはずの隔離空間から私みたいな人が出てくるのはまずい」

未央「この二人は?」

拓海「アタシが言うのもなんだけどよ、縛られたまま放置されると問題が起きると思うぜ」

凛「だね、かといって解くわけにもいかないし……」

李衣菜「お手洗いの個室にでも放り込んでおこう、鍵掛けて。後は勝手に抜けるでしょ、縄くらい」

拓海「雑に扱いやがるなぁ」

未央「ごめんね」



――ガヤガヤ……

凛「……よし、行こう」

卯月「うん、とにかく外に向かって……」

李衣菜「私さ、変装しすぎて浮いてない?」

未央「大丈夫! 帽子サングラスマスクくらいなら普通!」

卯月「なんだか人気アイドルを守ってるボディーガードの気分……」

李衣菜「やめてよ恥ずかしい、そんな人材じゃないって私は!」

凛「静かに、この階段を降りれば一階……んっ」

未央「どしたの?」

凛「…………警備が多い」

卯月「まさか増援?」

李衣菜「いや、私を追うための警備じゃないはず。権利の関係が複雑だからね、そう簡単には追手は大挙して来ない」

凛「そういえば元々それが理由で選んだ隠れ場所だったね」

李衣菜「恐らく警報による事故の可能性を危惧して呼んだんだろうけど……ま、あまり通りたくはないかな」

未央「どうするの? しまむー、ここって他に出口ある?」

卯月「わかんないけど……学校って裏門があったりしない?」

未央「それだ! じゃあUターンして裏門から外に出よう!」

――タタタッ



卯月「……うん、さすがに騒ぎの場所から離れてたから警備は居ないね、今のうちに出よう!」

未央「おーっ! でも一歩外に出たら普通の警備が巡回しているんだよね?」

李衣菜「裏路地だから少ないはずだけど、くれぐれも警戒は怠らないように」

凛「……左右に道があるけど、大通りに出るのはどっち?」

卯月「たぶんあっちだけど……うーん、人が多すぎて誰が警備か分からないよ」

未央「じゃあ人が少なそうな方向に行こう、いい隠れ場所も見つかるかも!」

――ザッ ザッ

未央「うん、順調だね! そもそも人がいないし、ここなら隠れるところも多い!」

卯月「分かれ道がいっぱいあったけど、さすがに裏通りだから封鎖されてる道や荷物が積まれてて通れない道も多いね」

李衣菜「そんなものだよ、私となつきちもこんな感じの所にひっそりと構えてるから」

凛「やっぱり居住区からは離れた場所に? 見つからない為?」

李衣菜「それもあるけど、一番はアジトに踏み込まれた時、他に被害を出さない為だよ」

李衣菜「思い切り暴れる事になるからね、住宅地でそれはまずいでしょ?」

卯月「なるほど…………それって、ここでも同じ事が言えますね?」

――ジャリッ

凛「……ねぇ」

未央「しぶりん、私も同じこと考えてるかも」

李衣菜「……いや、そんなはずは……ここには確かに誰も」

??「確かに誰も居ませんよ、私達以外は」

卯月「っ!? そ、その声……!」

――ザッ

春菜「いやぁ、申し訳ない。時間、稼げませんでした」

未央「ハルナさん!?」

李衣菜「お久しぶりです、まぁまぁ眼鏡を――」

――キィン!!



李衣菜(先手……っ!)

春菜「ちょっと、刃物を乱暴に扱うと危ないですよ」

凛「どうしてここが……!」

李衣菜「あの警備、隙間をわざと作ってたね……!?」

春菜「はい、さすがに人が多いところで暴れられると困りますので」

未央「手配は……もう広がったんですか?」

春菜「いいえ、広めるのが遅れるなら直接行けと言われてしまいまして」

春菜「こうして姿を見せたわけですがっ!」

――ドンッ!

李衣菜「っぐ!?」

卯月「リイナさん!?」

春菜「まずはお話するので一旦離れてください」

李衣菜(傷を狙って……! なるほど、遠慮しないって事ね……)

春菜「……で、困ったことに――」

――ガッ!!

李衣菜「このっ!!」

春菜「……むぅ」

未央「リ、リイナさん! ハルナさんが喋ろうとしてるから攻撃は――」

李衣菜「何言ってんの……普段は仲が良いかもしれないけどね、今目の前に現れたこいつは間違いなく敵だ!」

李衣菜「路地裏に誘い込む警備、そんな作戦も立ててた相手の喋りを聞く必要はない! 時間を奪われるだけ!」

凛「っ……!」

春菜「バレました?」

李衣菜「最初からバレてる!!」

――ザンッ!!



春菜「あらら」

李衣菜(しかし直接、こんな早くに動くなんて……!)

李衣菜「先に相談してた通り動くよ! 周囲を警戒!」

卯月「や、やるしかないの……!?」

凛(相手は私達を分断させたがるはず、そして向こうの人数は四人と分かっている……)

未央(完全遠距離が一人とハルナさんケイトさんの近距離……そしてイマイチ把握できてない人が一人……!)

李衣菜「……一人、なわけないよね?」

春菜「はい、ツーマンセルです」

凛(予想通り……! 問題は、誰とハルナが行動しているか……)

卯月(この入り組んだ路地で遠距離の人と組んでるとは考えにくい……なら、もう片方のトウコって人が来てる?)

春菜「メグミさんという方が援護にピッタリだったのですけど、あいにく今回の場では運用が難しいので」

李衣菜「……名前までバラすの?」

春菜「来ていない方の名前を出しても構わないでしょう?」

李衣菜「じゃあついでに相方のトウコとやらのお話もしない? お話したいんでしょ?」

春菜「……あれ、何か勘違いなされてませんか?」

李衣菜「何を……」

春菜「私は二人で来ましたが、どうしてその二人のうち一人を連れてきていると思ったんですか?」

李衣菜「じゃないと、あんたがこの三人のために職務怠慢するでしょ!? 監視が必要だ! だから絶対に――」

――ピッ

李衣菜「っう!」

春菜「お言葉ですが私は職務怠慢する気はありません、仕事には全力で取り掛かる主義です」

李衣菜(熱線……! またそのよくわからない眼鏡……!)

春菜「仕事を完遂するためにはこの相方が一番ですよ、ね?」

――ザッ

ケイト「……ハァイ、お久しぶりデスネ」

卯月「ケイトさ……!」

李衣菜「…………これは……滅茶苦茶、駄目な展開……!」

---------- * ----------
 用意していた原稿が少し気に入らなかったので修正します、
中途半端な所で切ってしまいますが申し訳ありません。
---------- * ----------

ケイト「早速デスガ!」

――ヒュンッ!

未央「っ!」

凛「早……! ウヅキ!!」

卯月「わあっ!」

――ガシッ ダンッ!!

卯月「うぐっ!?」

李衣菜「一息で壁まで押し切られてる……!」

ケイト「静かに、ネ?」



――ボソッ

卯月「……わ、わあっ!?」

――ブンッ!

ケイト「おっと危ないデス」

凛「大丈夫!?」

卯月「う、うんっ……平気」

李衣菜「あんた意外と丈夫なんだね、壁に叩きつけられてたように見えたけど」

春菜「傷は無くともの実力差は明確です、私も知った顔と戦うのは控えたいんですよ、大人しくして頂けませんか?」

春菜「もしくはあまり私と交流がないことですし、あなたが戦いますか?」

李衣菜「御免だね、御免なんだけど……ま、そうするしかないかな……」

――シャキン

卯月「待って下さい!」

未央「そうだよ! いくらなんでも一人じゃ……」

春菜「そうですね、一人では心細い。かといって四人でも不安ですよね? 何人くらい、集めますか?」

凛「…………」

卯月「……ふ、二人なら!」

春菜「なるほど…………なるほど、二人なら私とケイトさんと同じ人数、平等ですね」

未央「そうだね! ……そうなの?」

ケイト「おっと、お静かにお願いシマス」

李衣菜(……この流れは、まさか?)

凛「二人だけじゃないよウヅキ、私達は……例え相手が誰だろうと、いつだって全員で全力……!」

卯月「リンちゃん……!」



春菜「ほう、全員でも構いませんよ? しかし心の……準備は整ってますか?」

凛「もちろん……!」

卯月「い、いや! ちょっと待って、下さい!」

凛「……ウヅキ? どうしたの?」

卯月「その、準備は……もうちょっと、整いかけてるというか……です!」

春菜「ふむ……?」

李衣菜「ふん……準備なんて、ちゃんと整えようとしたら何時になるかわからない、さすがに今日中には出来るけどね」

ケイト「……!」

李衣菜「でしょ?」

卯月「は、はい! その通りです!」

李衣菜「いくつか確認の念押し……本当に二人だけ?」

春菜「嘘だと思いますか?」

李衣菜「……別の質問に変えようかな。ここで待ち構えてたみたいだけど、私達がいつ来るかなんて分かってないでしょ?」

春菜「うーん…………言われてみればそうですね、その質問の意図はわかりませんが」

李衣菜「今はだいたい夕方の……六時あたりかな? いつから二人は行動を共に?」

春菜「ほうほう……おおよそ六時間前、ちょうどお昼ご飯からですね、これでいいですか?」

未央「結構一緒に居るんだね……」

卯月「本当に六時間前ですか?」

ケイト「ハルナ、もしかしたら三時間前かもしれまセンヨ、途中で一度別れたノデ」

李衣菜「ふーん…………確かに、よーくわかった」

凛(……ミオ、何か分かる?)

未央(えーっと……随分熱心に待ち構えてたって事くらい?)

凛(…………そう、だよね)

ケイト「……これでお話は終了、ではお仕事デス」

凛「来る……!」

春菜「最後に私から……せっかくですので、全力でお相手しましょう」

――チャキッ

李衣菜「……珍しいものをみたような気がするよ」

春菜「最近よく使わざるを得ない状況になるんですけどねぇ、ですが自主的に抜いたのは久々です」

卯月「ハルナさん……!」

春菜「ご安心ください、狙いはそちらではないですから……ちゃんと受け取ってくださいね? 行きます!」

――シュッ! ガキィン!!

李衣菜「っう……!」

未央「リイナさ……! う、止めてる……!」

凛(私は見えすらしなかった……! それを、ナイフ二本でなんとか止めてる……!)

春菜「ほう……やりますね?」

李衣菜「こっちもビックリだよ……っと!」

――キンッ!



春菜「あわわ眼鏡が」

卯月「リイナさん! 大丈夫ですか?」

李衣菜「うん、全然…………皆固まって、両側から挟まれるからバラバラになっちゃ対応できないよ」

未央「わ、わかった!」

凛「どうやって打開するか……!」

ケイト「そう簡単には逃がしマセンヨ?」

李衣菜「そうだね、普通では逃げられない……けど?」

――スッ

未央「リイナさん、それは?」

卯月「小さな……あっ!」

李衣菜「最終手段だけど、使っちゃおうかな……転移の魔法!」

凛「転移……!?」

李衣菜「だから近寄って欲しかったんだよ、このまま全員で……!」

――シュイン!!

――ヒュォォォ…………

春菜「……ありゃ、逃げられちゃいました」

ケイト「魔力の結晶に移動魔法を仕込んでいたとは予想外デシタ」

春菜「さて……どうします?」

――ザッ

瞳子「……大した奥の手ね、この状況から逃げるとは」

ケイト「私達が前線、お二人がバックアップについた完璧な作戦だったんデスガ」

瞳子「そうね、悪い点は無かった……奥の手ね、こんなに追い込まれるまで抱えていたなんて……」

――カランッ

春菜「おっと?」

ケイト「何デスカ?」

瞳子「……それは!」

――カチッ……ドォンッ!!!

――…………

瞳子「……間に合ったわね…………間に合ってるわよね?」

ケイト「…………」

春菜「…………」

瞳子「私は戦闘能力が皆無よ、代わりに……こうして防御、守備、護衛に関しては専門のつもり」

瞳子「どうして二人がうつ伏せで地面に倒れ込んでるのかは分からないけど……今の爆発で傷一つないでしょう?」

――スッ

ケイト「ええ……無事デスネ……」

春菜「避けるまでもなかったんですか……」

瞳子「そんな至近距離の爆発で、しかも屋外で……伏せる意味なんでないでしょうに」

春菜(上手い置き土産だったんですけどねぇ……そうですか、こういうタイプの人でしたか……)

ケイト(今ので負傷したと言い訳できるはずだったのデスガ)



瞳子「……結晶による移動魔法なら、警戒網の外側までは転移できていないはず、せいぜい短距離移動が関の山」

瞳子「この路地裏から……そうね、周辺の建物にアジトがあってもおかしくないわね」

ケイト(ちょっと、読まれてマスガ)

春菜(私のせいではないでしょう)

瞳子「相手の裏をかく、四人で襲撃を掛ける事は二度通用しない……次は私が潜んでいる事もバレるでしょう」

ケイト(今もバレてましたケドネ)

瞳子「まずは虱潰しに近くの建物を捜査しましょう」

――……シュンッ

未央「うわっ!」

卯月「あいたっ!」

李衣菜「……ふぅ、罠じゃなかった」

凛「転移魔法……そんなものがあるなら最初から学校の脱出に使えばよかったんじゃ……?」

未央「最終手段だから隠してたんだよきっと」

李衣菜「いや、違うね……これはあの騎士から盗んだ……いや、受け取った、かな?」

未央「え……? ハルナさんから?」



卯月「……さっきの、伝わったでしょうか?」

李衣菜「たぶん大丈夫、だからこうして時間稼ぎの材料を受け取れた、転移魔法は蜘蛛の糸だったよ」

凛「伝わった……? ちょっと、さっきから話が見えないんだけど」

卯月「リンちゃん、ハルナさんは……まだ私達の味方です!」

未央「え? で、でもさ、こっちに攻撃してきたよ? もう上から命令が来て敵側に回ったんじゃ……」

卯月「うん、確かに攻撃されたしケイトさんには壁まで追い詰められたけど……その時に小さな声で言ってくれたんだよ」



ケイト「ご安心下サイ、まだ味方デスヨ」



凛「……いや、それでも分からない事は多いよ、本当なの?」

卯月「うん……現にこうして逃げ切れてるんだよ? あの二人が本当に捕まえに来てたなら……たぶん逃げきれてない」

凛「それは結果論で……」

李衣菜「この転移魔法、これが無かったら逃げきれてない。で、これを受け取ったのは……ハルナ、彼女からだよ」

未央「それ! 確かにそれをしてくれたなら味方かも……でも、いつの間に?」

李衣菜「最後の攻撃、あれは本当に驚いたよ……“受け取って”と言ったから何かを渡される事はわかったけど……」

李衣菜(……剣を抜いたなら、恐らく存在する見張りに不自然に思われないようにこっちも武器を構えて!)

春菜「行きますよ!」

――ヒュンッ

李衣菜(うわ! 早――)

――ギィン!!

李衣菜「……っ!?」

春菜(武器を構えて頂いてありがとうございます、これで違和感は打ち消せましたね?)

李衣菜(……私の構えに合わせて剣撃を? 確かにこれなら私が剣を止めたように見える)

春菜(今のうちに、剣の持ち手に結んである転移魔法結晶を盗んでください)

李衣菜(……! 分かった!)

――ヒュッ

春菜「ほう……やりますね?」

春菜(さすが盗賊、しっかり括りつけていたのに一瞬で)

李衣菜「こっちもビックリだよ……っと!」

李衣菜(思わぬところから逃走ルートが確保できたね……!)

未央「あの一瞬で……?」

凛「ちょっと待って……見張りの存在? あの場所にはハルナとケイトの二人しか居なかったんじゃ……」

未央「そ、そうだよ! それに、ハルナさん達は私達が応援を呼んでると知らないから今の戦力に合わせた戦略を立ててくる

よ?」

卯月「大丈夫! 応援が来ることはたぶん伝わってる……はず!」

凛「あの二人が来る事を? いつの間に?」

卯月「えっと、誰が来るとは伝えられてないけど……」

李衣菜「結局のところ正確にはあの二人を倒す必要はないんだよ。負傷の言い訳を作れる程の八百長が組めればそれでいい」

李衣菜「ハルナと三人はよく知った相手として上……コトカに伝わってるはず」

李衣菜「なら、互いに戦法を理解しているはず。実力差が明らかだから万が一でも負傷の言い訳は作れない」

凛「悔しいけど……その通りだね」

未央「どういう事?」

凛「手配が出来ない程の負傷を、よく知っているはずの格下相手にどうやって付けられたのか? って話……」

卯月「もしそれで話を進めると、私達がとんでもなく強いって事になって、今以上の戦力を注ぎ込まれるかも……」

李衣菜「そうなると……逃げ切れない、絶対に」



李衣菜「だからこそ、あの二人を倒す役は外部の応援に任せるべき」

李衣菜「突然の第三者の加入で、不意を受けて負傷しました……理由としては自然だね?」

未央「なるほど……で、その応援が来る事をいつ伝えたの?」

卯月「途中の会話の中で!」

李衣菜「伝わったからこそ、こうして時間稼ぎの道具を貰えたと考えればちゃんと伝わっているはず」

春菜「そうですね、一人では心細い。かといって四人でも不安ですよね? 何人くらい、集めますか?」

春菜(誰か助けは呼べましたか? そしてそれは何人ですか?)

卯月「……ふ、二人なら!」

春菜「なるほど…………なるほど、二人なら私とケイトさんと同じ人数、平等ですね」

春菜(二人……最低ラインですねぇ……)

春菜「ほう、全員でも構いませんよ? しかし心の……準備は整ってますか?」

春菜(姿が見えませんが、今からここに来て私と交戦してくれますか?)

卯月「その、準備は……もうちょっと、整いかけてるというか……です!」

春菜「ふむ……?」

李衣菜「ふん……準備なんて、ちゃんと整えようとしたら何時になるかわからない、さすがに今日中には出来るけどね」

李衣菜(まだ整ってない……でも、今日中には来るはず……!)

ケイト(なるほど、移動中デスカ……)

凛「じゃあ、上手く事は運んでいるんだね?」

未央「それで、じゃあ相手が二人だけじゃないって事も聞き出してたの!?」

李衣菜「当然……私達と繋がってるかもしれない人物だけで組ませるわけないからね、どこかで見張りがいると考えた」

李衣菜「途中で不自然ながらも……話題を“時間”に切り替えた」

凛「そういえば……言ってたね」

李衣菜「六時を基準に、二つの時刻が返ってきた……昼と三時間前、つまり十二時と三時」

李衣菜「私にはこう聞こえたよ、ここから“北”と“東”に一人づつ……!」

卯月「なるほど……」

李衣菜「どこにいるかわからない相手を探すのは大変だけど、方向が分かっていたら少しは簡単」

李衣菜「まず北側……ハルナの背後に確かに人の気配があった」

李衣菜「次に東側、こっちは気配を何も感じなかったけど……その方角には大きな建物が見えた」

凛「あの遠距離攻撃を加えてきた人が……居る可能性が高いね」

李衣菜「だから建物の影になる位置に移動してから転移を使った……これは蛇足だけどね」



李衣菜「最後に、負傷の言い訳にしてくれたらと思って転移魔法と交換で爆弾を置いてきたけど」

卯月「えっ!?」

未央「私が気づかない間にこんな色々な事が起きてたんだ……」

凛「その爆弾、時限式で二人を狙って?」

李衣菜「いいや、あわよくば四人とも巻き込んで欲しかったから安全ピンのついた手榴弾のようなもの」

李衣菜「ハルナがうまく“リイナに仕掛けられた”とか言って、全員集合したタイミングで使ってくれれば御の字」

未央「確かに……それなら一網打尽だね!」

卯月「もしかしたらもう目的は達成してるかも?」

李衣菜「だといいけどね……ま、可能性の話をしても仕方がない……ここから次の行動を考えよう」

卯月「はい! サチコちゃんとナナさんが来るまで……!」



・・

・・・


 ウヅキたちがリイナと出会い、警戒網の中で襲い来る資格を退けている時……
同じ未来区、しかし中央からは少し離れた位置を歩く二人の姿があった。

 暇を持て余した結果、国の本部に放置されていた“ある事件”の解決に動いている、もちろん独自で。
誰の制止もない――国も他の案件でそれどころではない――ため、勝手な捜査は徐々に進行した。

 そして捜査開始から三日目……
ついに事件の被害を目の当たりにする。



みく「…………時代の闇にゃ」

美玲「大通りじゃないけど……人が死んでるってのに、誰も騒ぎもしてないぞ……!」

みく「確かに争いの絶えない世の中とは思うけど……この光景は見慣れるものじゃないにゃ」

美玲「……最初の二日は嘘だと思ってた、でも実際に目の当たりにすると」

――ペラッ

みく「無差別に行われる『通り魔』、目撃情報も手がかりも一切掴めない……謎の人物」

美玲「謎が多すぎて存在すら疑われ始めた……『妖の殺人鬼』とも呼ばれてるとか?」

みく「人が死ぬのは……あまりこう言うべきじゃないかもしれないけど珍しい事じゃないにゃ」

みく「国同士が争えば被害も出る、武力が大きな力を持つ以上仕方がないにゃ」

美玲「そんな決して死が珍しくない世界で、ここまで特異な恐怖を生んだのがこの事件……」

みく「……平和の為の一歩、解決すべきにゃ」

美玲「ウチは何をすればいい?」

みく「まず……こういう時は手がかりを探すのが大事にゃ」

美玲「調べる……この、人を?」

みく「それしか材料がないにゃ……傷の状況だけでも確認させてもらって――」

――ザッ

??「あーっ!!!」

みく「にゃっ!?」

美玲「うわっ?!」

??「じ、事件です! 事件の匂いがします! もしやあなた方が事に及んだのですか!?」

美玲「違うぞ!? ウチが来る前からもうこうなってたんだぞ!」

??「嘘か真か、真実はいつも私の片手に収まっています! その言葉の真実を調べてみせましょう……!」

――スチャッ

みく(武器……! ではないにゃ……道具?)

美玲「な、なんだそれ、ウチと戦う気か!?」

??「静粛に! 今、このレンズを通して真実を見ています……!」

――ジーッ……

??「…………む、死亡推定時刻は現在ではなく昨日の夜、いや……深夜ですね」

みく「分かるのかにゃ?」

??「このレンズは物事の真実を見抜きます、例えばお二方の場合は……」

??「ふむ、ミレイさんとミクさんですね? そして……おや?」

みく「……みくの顔になにか付いてる?」

??「その装いと口調、身体能力……ですが、あなたは獣人族ではありませんね?」

みく「にゃ…………え?」



??「あなたの種族は――」

みく「待つにゃ待つにゃ、え? 何? みくは正真正銘」

??「いいえ嘘です、私の目に狂いはありません!」

美玲(……確かに、長は獣人族じゃない……ウチらに合わせてくれてるだけ、でもどうして一発で見抜いたんだ?)

みく「と、とにかく……それはみくのアイデンティティに関わるにゃ、言い触らすのはちょっと」

??「分かりました! 私もお二方が加害者じゃなくてよかったです!」

美玲「ひと目で全部が分かるのか?」

??「いいえ、隠された真実を見通す事が出来るのみ、そこからは私の推理の出番です!」

??「この方は……何か鋭利な刃物で斬られている、時刻は夜、そしてこの場所……これはまさしく」

みく「妖の殺人鬼……?」

??「むむっ? どうしてその名前を?」

美玲「ウチらもその殺人鬼を追ってる……平和な国にする為に」

??「おお、素晴らしいです!」

みく「あんたもそうかにゃ?」

??「んー……言っても大丈夫でしょう、その通りです!」

??「迷宮に片足を踏み入れたこの事件を解決するのは私以外に考えられません!」

みく「なるほど、その目は確か……ひとつ提案があるにゃ」

??「なんでしょう?」

みく「みく達と協力しない? 人手は多い方がいいにゃ、実際二人だと厳しい事が分かったし……」

美玲「だいたいウチが難しい事を考えるのが苦手だから……」

??「そういう事でしたらぜひ協力します! 私は頭脳でお二人をサポートします!」

??「この役職には相方が必要不可欠……よきパートナーに出会えました!」

美玲「よろしくな! ウチの名前は……って、さっきもう知っちゃったか、でも一応もう一回、ウチはミレイだ!」

みく「みくだにゃ」

??「よろしくお願いします! 私はミヤコ=アンザイ……探偵です!」

都が有能だと違和感があるなw



・・

・・・


都「むむむ……このファイル、一体何処で? 私が調べた内容よりも遥かに詳しい記述ですね……」

美玲「入手したはいいんだけど、ウチにはさっぱりなんだよ」

都「では要点を纏めますと……事件はここ一年以内に発生し、被害は老若男女無差別」

都「逆に共通しているのは被害者の損傷。抵抗の無さ、そして大凡の犯行時刻、主に深夜帯です」

みく「抵抗がない? 襲われたのなら少しは抵抗しているはずにゃ」

都「つまり、気づかないうちにザックリというわけです。よほどの潜伏能力を持つか、暗殺技術です」

都「もちろん犯人像が特定されていないという点もあるでしょう! 顔が割れていなければ警戒は困難です」

美玲「確かにそうだけど、深夜にそういう奴がうろついてるって広まってるんだろ?」

みく「……夜でも灯りがついててそれなりに明るいのに、人通りが少なくなるのはこのせいかにゃ」

みく「でも、犯人探しの為にみく達みたいな人が出てもおかしくないでしょ?」

都「お二方のように善意で動いている方には関係ありませんが、この手の人物を討とうとする者は大抵懸賞金目当てです」

都「ですがこの殺人鬼には手配が出ていないのです」

美玲「なんでだ!? こんな奴、放っておいていいはずないだろっ!?」

都「落ち着いてください! 少し語弊がありました!」

みく「語弊?」

都「正確には、懸賞金が出ていたものの撤回された、が正しいのです」

美玲「なおさら意味が分からないぞ? なんで取り下げたんだ?」

都「多額の懸賞金が、正体不明の殺人鬼に掛かっていたんです。少し頭脳派の悪党が、どういう行動を取るか推理できますか?」

美玲「……?」

都「適当な人物を見繕って賞金を受け取ろうと、多数の人物が殺人鬼に仕立て上げられました」

みく「…………手配が無い理由が分かったにゃ」

都「ですが被害は続いている以上、取り下げは私も否定派、本来も下げるべきではないはずです」

美玲「そうだそうだ!」

都「私は国が手間と賞金を惜しんで捜査を打ち切ったと判断しています」

みく(んー……そういう訳ではないはずにゃ、現に国の本部にここまで精巧に纏められた資料があった……)

みく(ま、教える必要もないにゃ、みく達が国のほぼ一員と知られるのもよくないはず)

都「ですからお二方のような、本当に事件の解決に向かって捜査する人物と出会えたのは幸運です!」

美玲「褒めたって何もでないって、へへん」

みく「……それで、この資料を見た結果何をすればいいにゃ」

都「む、そうでしたね……確かに詳細な資料ではありますが、これは事件の内容をまとめたファイルに過ぎません」

みく「というと、どういう事にゃ」

都「決定的な犯人に繋がる手がかりとしては……役に立ちませんね」

美玲「なんだ、結局駄目か……」

みく「それじゃ逆に聞くけど、何を見つければ犯人の特定に繋がる?」

都「それは…………夜、現場を目撃する、が一番確実で唯一の方法かもしれません」

美玲「えっ、それしかないのか?」

都「ここまで推理が困難で、まるで見当がつかない事件は初めてです……私一人ではなすすべもなく斬られますが」

都「……私のために、ご協力願えますか?」

みく「護れ、って事?」

都「探偵が推理を放棄するのは恥ずべき事と思っていますが……無駄に足を止めるわけにもいかないのです」

都「危険でも確実な方法があるなら、そしてこの出会い……見たところ実力者なお二人」

美玲「えへへ」

都「覚悟を決めろと言われている気がします……!」

みく「……そこまで覚悟してて、みく達が断るわけにもいかないにゃ」

美玲「おうっ! 任せろよなっ! 相手が誰だろうと絶対に守ってやる!」

都「本当ですか!?」

美玲「ウチは頑丈だからな、ちょっとやそっとじゃ負けない!」

都「では……恐らく今日も深夜に動くでしょう、この資料によるとここ数日は連続して事件が起きています」

都「たまたま今日は国の対応が遅く、こうして……被害者の遺体が残っています、しかし本来はこうなりません」

みく「確かに昨日はどこにも見つからなかったにゃ、でも事件は起きてた……」

美玲「誰かが片付けたのか?」

都「どの道、事件が発生しているのは確かです、それは調査済み……」

都「夜まで待機しましょう、本腰を入れるのはそこから……!」



・・

・・・


??「なんでこっち向いて構えてたの? ……それで、なんでまだ構えてるの?」

??「ねぇ……答えなさいよ、ちょ……冗談……いやそんな、え? え!?」

――ヒュンッ!!

??「うわっ!?」

??(こいつ……本物よ、間違いない……!)

??「くっ、何か言いなさいよ! アタシがわざわざ来てやったんだからっ?!」

――ブンッ!!

??「っう! このっ、問答無用ね……ならそっちも覚悟しなさい! 今までの雑魚とアタシは違うのよ!」

??「バズーカは忘れたけど、それだけじゃないのがレイナサマの真骨頂、喰らいなさい!」

――ヒュン ドガァン!!

麗奈「ゲホッ、ゲホッ……火力強すぎたわ……でも直撃ね、どうよレイナサマ特製ば――」

――ザンッ!

麗奈「くだ……は?」

麗奈(効果なし!? そんなはず……いや、それよりも……!)

麗奈「か、掛かったわね! この距離ならこの武器も外さないわよ!? 喰らいなさ」

――ビシッ!

麗奈「あ!!」

麗奈(あ、これヤバイ……ここまで接近されて、頼りの武器が尽きてる?)

??「……終わりですか?」

麗奈「何よ……ちゃんと喋れるじゃない……!」

??「では遠慮なく……」

――スチャッ



麗奈(まずい、まずいわ……え? アタシ死ぬの? こんな所で?)

麗奈(やる事があるのよアタシには……! 勝ちたい相手もいるし成し遂げてない事もあるのよ……!)

――カチャン

麗奈「!?」

??「ん……?」

麗奈「わ、忘れてたわ、アタシにはこれがあるじゃない……!」

麗奈「またあそこに戻るのは癪だけど、命の方が大事よ!」

――カチッ

??「何――」

麗奈「アーッハッハッハ! これでアタシはここから脱出よ!」

麗奈(……アタシ自身しか転送できないから、武器や装備はここに置いてけぼりになるのが欠点ね)

??「逃がさない」

麗奈「残念、これはアンタより数段上手の実力者が作った特別製の緊急移動術よ!」

麗奈「ひとたび発動すれば身の安全は保証される、その後時間を置かず脱出!」

――シュイィン! バシュンッ……

??(…………顔を見られた、初めて討ち逃した……)

??「転移魔法? にしては…………」

――ペラッ

??「服、装備の一部、そしてあの玩具のような武器の数々……それが放置されたまま……」

??(それに、あの小さな媒体から……移動の軌跡を見る限り、恐らくかなりの長距離の移動)

??「運搬を身体のみに収めた代わりの、正真正銘の脱出。これはあの子供が作ったものではない」

??(尋常じゃない魔法技術が使われている…………そして、その人物の元に帰ったと見るべき)

??「…………好ましい状況ではない――」

――ダダダッ

??「!?」




・・

・・・

――ズズンッ……

美玲「な、なんだ!?」

都「地鳴り……衝撃!?」

みく「現れたのかにゃ?」

都「ここまで派手な衝撃が起きるような手口ではないはず……という事は、誰かが犯人を発見して交戦中の可能性が!」

美玲「本当か!? なら、その現場に踏み込めば……!」

都「はい! 現行犯です! ついに尻尾を掴める可能性があります……急ぎましょう!」

みく「任せるにゃ!」

――ダダダッ



美玲「……音が続かないぞ」

都「早くしなければ、殺人鬼が逃げおおせてしまいます……!」

みく「静かにゃ……もしかしたら、もう事件は終わった可能性が」

美玲「くっ! ウチが全力で現場に向かう!」

みく「待つにゃ! 万が一犯人だけがそこに残っていた場合危険にゃ! 三人で行動が最善手!」

美玲「うう……けど!」

都「私も現場は抑えたいですが、それにより協力者に被害が出てしまうのは避けたいんです! 私も頑張って走りますから!」

美玲「わ、分かった……!」

――ドシュンッ!

みく「ん!?」

都「何ですかあれは……! まさか、移動魔法!?」

美玲「もしかして犯人が逃げたのか!?」

都「い、いや、まだ分かりません……前例はありませんが交戦していた人物が存命のまま逃げ切った可能性も……!」

みく「どちらにせよ、その場に犯人が留まっている確率がどんどん低くなってるにゃ、急ぐよ!」

――ダダダッ

――ザッ

都「ついに見つけましたよ殺じ…………う!?」

美玲「どうした!? やっぱり、誰もいなかった……あっ!」

??「待って! あたしは違う!」

??「……ここに到着した時には、既にこの状況でした」

??「じゃあここに最初に来たのは私ね? 音が聞こえたから例の事件と思って駆けつけたのよ」

??「これは……どういう状況ですか!? 被害者は居ないようですが、その転がった武器と服はなんですか!?」

??「すとっぷ! 後から来たみたいだけど、君達だーれ?」

みく「これは……」

美玲「な、なんだ? ここにいるのは犯人と、そいつと戦ってる人物じゃないのか!?」

都「被害者は……見たところ居ない、ですがこれは……!」

都「先に……五人も人が!?」

美玲「こ、この中に……居るのか?」

みく「犯人が……?」

都「い、今はなんとも言えませんが……可能性はゼロではない、です!」

??「あなた達は誰ですか、もしや殺人鬼というのは複数人だったりしますか?」

美玲「待った待った! ウチはその事件を追ってここに来たんだ!」

??「そんなもの私だって同じです……何者ですか?」

都「私はミヤコ=アンザイ! 探偵です! この事件の全貌を暴くために……まずは一瞬だけ静粛に!」

――ジーッ

みく「……何してるにゃ?」

都「まずはこの五人の真実を見抜きます……! このミヤコの目にかけて!」

??「んー、なにしてるのー?」



都(犯行は常に刃物で行われている……ならばこの方々の獲物を調べるのが定石!)

都「嘘を言っても分かりますからね、正直に答えてください……あなた、名前と……ご自身の武器はなんですか?」

??「え……? あ、あたし、ただの一般人です! 戦いなんて出来ません!」

都「……嘘をつくと立場が悪くなりますよ……私は失礼ながら、あなた方の中に事件の犯人が居ると考えています……!」

??「ちょっと! 突然出てきてなんなんですか!? 事件って……ここには何も……」

都「ここ数ヶ月続く通り魔、殺人鬼……このシチュエーション、確実に犯人は紛れている!」

??「随分乱暴な推理ね? ……そもそも、私達を事件の容疑者として拘束する権力なんてあるのかしら?」

??「そうです、私も事件を追っていますが……協力する気はありません、ただ自己満足の推理なら私は帰ります」

都「あ、ちょっと!?」

――ズイッ

??「……何ですか?」

みく「まぁまぁ、みくも推理はちょっと無茶だと思うけども……一瞬だけ付き合って欲しいにゃ」

??「必要がありません、義務もありません」

みく「んー……じゃ、ちょっとだけ……強制していいかにゃ?」

――スッ

みく「これ……実は黙ってたけどみくはこの国の機密幹部にゃ」

??「……!」

美玲(え? あれ? そんな手帳……貰ってないぞ?)

みく(無理言って作ってもらった奥の手、これで大抵の相手は指示に従うにゃ)

みく(……実際に権力としては存在しないけどね)



みく「別に一、二日監視するわけじゃないにゃ、たった一瞬だけ身元を確認させて欲しいにゃ」

??「…………分かりました、あなたが国の幹部というなら」

みく(素直にゃ)

都「……じーっ」

美玲「ん?」

都(ミレイさん……私の目には、虚偽の手帳が見えますが)

美玲(えっ、あ、違うのか!? 嘘なのか!?)

都(むむむ……偽装の権力とは……いや、ここは目を瞑りましょう、私では五人を引き止めるのは無理です……)

みく「ほかの四人も、こっちが勝手に身元を調べるから、少しだけ待って欲しいにゃ」

都「……そういう訳で、今から確認を行います。私の勘と、この現場が犯人はここにいると告げている……!」

??「どうやって身元を調べるつもりですか?」

都「このレンズに虚偽は映りません、真実のみ見抜く事が可能……」

都「だから、あなたが戦闘能力が無いという発言は嘘ですね……ノリコ=シイナさん」

法子「う……!」

美玲「なんで嘘言ったんだ? もしかしてオマエが犯人か!?」

法子「ち、違います! そもそも犯人って何の事ですか!? あたしは何も知りません!」

??「事件……この未来区で発生する無差別通り魔、私もそれを追っています……これは真実です」

都「……確かに、言葉に偽りはありませんね」

??「私の名前は……当ててみて下さい、本当に真実が見えるのかどうか」

都「ええ、あなたが言わなくても当てられます、チヅルさん」

千鶴「…………どうやら本物のようですね、下手な嘘は立場を悪くしますよ」

美玲「へへ、そういう事だけど……オマエ、正直すぎるな? 裏をかいて犯人か?」

千鶴「疑うのは勝手にしてください、私は追う側なので」

??「……じゃあ私も隠し事は出来ない訳ね、先に自己紹介しようかしら?」

??「私はレイよ、そこのお二人と一緒の獣人族、この現場には一番最初に到着したわ」

都「……どうしてここに駆けつけたのですか?」

礼「宿で眠っていたらね、大きな音が聞こえたの……何かあったのかと思って飛び出したのよ」

美玲「ん? 宿で寝てたのに一番最初についたのか? 怪しいな?」

礼「これでも運動神経はあるのよ、試してみる? ふふっ」

??「えっと……」

美玲「オマエは見るからに怪しいぞ、その武器でやったのか!?」

??「な、珠美の剣を侮辱するつもりですか!?」

美玲「犯人は毎回刃物で犯行に及んでる! なら剣持ってるオマエが怪しいぞ!」

珠美「通り魔、確かにそのような噂は聞いておりますが断じて違います!」

都「タマミ=ワキヤマさん……ですがミレイさん、刃物を持っているイコール犯人であると結ぶのは軽率です!」

美玲「そ、そうか?」

都「それに……刃物なら先の三人も持っています」

法子「……!」

千鶴「…………」

礼「ふふっ……」

珠美「ほら! ならば珠美だけ怪しまれるのは不本意です!」

みく「じゃあほかの三人は隠しているって事かにゃ」

千鶴「……武器を表に出すのは威嚇が目的です、実戦では隠した方が効果的ですから」

礼「私は刃物に心当たりはないけど、この爪が刃物に匹敵すると言ってくれたなら、褒め言葉ね?」

美玲「オマエも持ってるのか?」

法子「えっと……その……」

――チャリン

みく「なんか、変な形の刃物にゃ」

都「これは……チャクラムですね、また随分と珍しいものを」

法子「……育ちの都合で、戦闘技術を学びました」

法子「でもっ! あたしはそんな事より……やりたい事があるんです!」

都「何か隠していますね……」

みく「ミヤコチャン、嘘をつくぐらい隠しておきたい事もあるにゃ、ここで言うのはちょっと」

都「そうですか……?」

みく(この雰囲気……家から逃げてるかもしれないにゃ、だとすると身元を喋るのは控えるのが当然)

みく(今はスルーするのが吉にゃ)

都「では、そこには触れずに進みます!」



美玲「で、最後は」

??「はいっ! あたしはとらべるの途中で立ち寄ったこの国で事件が起きてるーって聞いて、お手伝いにきた!」

美玲「なんだなんだ、何だって?」

??「そらちんだよ☆」

美玲「……お、おぉ」

都「……ソラ=ノノムラさん、今仰った通り……旅の途中、事件を知って活動中と」

そら「そうだよ☆ あんはっぴーな事件をばしっと解決そらちん!」

美玲「なんで途中で訪れた国で初めて知った事件の解決なんてやろうと思ったんだ?」

そら「んー、なんとなく!」

美玲「あのなぁ……怪しいとか怪しくない以前なんだけど……」

都「ワケありですか!?」

そら「おぅいえーす!」

都「なら深くは追求しません!」

みく(……なんか不安になってきたにゃ)

千鶴「……つまり、現段階であなた方二人は全ての情報を提供しないのですね」

礼「ワケあり、ね……」

都「そういう理由なら仕方ありません!」

珠美「……それで、珠美はずっと気になっているのですが、これは一体?」

――バサッ

みく「おもちゃ……に見えるけど、よく見たら一個一個がちゃんとした武器にゃ」

都「ふむ、私の目にも武器と映ります。そしてこれは……なんの変哲もない上着ですね、なぜ服が?」

礼「待って……その上着、この部分」

法子「あっ……破れてますね」

そら「それも、ちょっとだけ色が変わってる。うーん、もしかしてこれって?」

都「……間違いない、ここで事件が起きた証拠です!」



都「改めて……事件が起きたと確信します!」

美玲「犯人が分かったのかっ!?」

都「いえ、それはまだですが……見てください、この現場」

みく「……裏路地、道は少し先が十字路にゃ」

美玲「ウチらはこっち……南から来たね」

都「道は分岐しているようにみえますが……この道を上から見るとカタカナの『カ』のようになっています」

法子「えっと……じゃあこの道の先、十字路は北と西に曲がっても行き止まり?」

都「高層の建物に囲まれています、ちなみにこの一帯の建物は未だ営業中のため侵入すれば大騒ぎ……中へは逃げられません



礼「その地理に従うと、私は東の通路から回ってきたことになるわね」

千鶴「私は二番目に到着した、裏路地を歩いていて行き止まりの西方向から駆けつけました」

珠美「珠美は三番目です、通路の南側から……声のした方向を探している途中で……」

法子「通りを歩いている時に声が聞こえて、何事かと思ってそっちに走って行ったらタマミちゃんが居たんです」

珠美「そうしてノリコ殿と合流し、声が聞こえた方向は北側と聞いて共に駆けつけました」

そら「そらちんあんかー! たぶんこっちから来た! みなみ!」

都「……それぞれ嘘は言ってませんね」

都「そして皆さん、ここに来る途中で空を見ましたか?」

そら「あいまいみー?」

都「いえ、そうではなく……スカイ、空です」

そら「すかい? いえす! そういえば何か見えた!」

珠美「確かに……光の筋のようなものが空に伸びて行きました!」

法子「光の筋……たしかに空が少し明るくなったような気がします」

千鶴「……私は見覚えがありませんが」

礼「私もよ、たぶん建物の影になってたのね。現場から光の筋が伸びていたなら……ええ、見えないわ」

みく「確かに現場は十字路から少し南、つまり西と東からここに来た二人には見えないにゃ」



都「光の筋、現場から伸びたそれは……恐らく移動魔法です」

都「毎回抵抗の隙を与えずに仕留める殺人鬼が、今回は何故か爆発音を起こす程手間取った相手……」

都「そして逆に隙を突かれて……初めて、取り逃がしてしまったのでしょう」

そら「えすけーぷ成功? 助かってよかった☆」

都「喜びもつかの間です。その後、殺人鬼は何を思うでしょう? 今まで、一度もバレなかったその顔……」

礼「そうね……私なら、逃がした相手を探すわ。移動魔法なら大した距離は移動していないはず」

千鶴「正体が割れる前に口を封じます、となると……」

珠美「……まさか?」

都「そう、仮にここに犯人が居たとしましょう……ならば内心、今すぐにでもその逃げた相手を追いたいはず!」

美玲「ここから逃げようとした奴が犯人か!? ならオマエか!?」

千鶴「私は確かに帰ろうとしましたけど、現にここに留まっているでしょう?」

法子「じゃあ……もし、ここで解散しちゃったら……」

みく「逃げきった人物が、再び危機に晒されるにゃ」

そら「むむ! それはのーせんきゅー、阻止しなきゃ!」

珠美「しかしその推理はここに犯人がいると過程した故……もし加害者も被害者も共にこの場を離れた後ならば!」

法子「そうです……それなら、逃げた人か追いかけている人のどちらかを見つけるために解散すべきです!」

都「一理あります、ですが……その心配は無用です、なぜなら……この真実を先に見通していたからです!」

――ザッ

美玲「……なんだ? 指さしてるけどそこには何も落ちてないぞ?」

礼「いいえ……なるほど、足跡ね」

都「ご名答、ここは裏路地で舗装されていません、そして行き止まりの袋小路……普通、人は来ません」

都「今調べた結果、ここには九人分の足跡がありました」



美玲「ここには八人しか居ないぞ? じゃあひとつ多いのが犯人の足跡!?」

みく「違うにゃ、移動魔法で逃げた人物の分にゃ……要するに……」

法子「この路地には……あたし達しか入っていない?」

千鶴「…………」

礼「あらあら……これは……」

珠美「まさか、そういう事なんですか!?」

そら「あーゆーすたー? そらちんそんな事はしないよ!」

都「犯人は…………この中に居る!!」



・・

・・・


??「……推理に穴は多い、適当に反論すれば直ぐにでも解放の隙も逃走の隙もある」

??「でも、駄目。自分ひとりが居なくなればあっさりと特定されてしまう」

??「消すのは……全員、しかしその方法は?」

??「あの逃げた一人に関しては実は問題じゃない、確かに顔は割れた」

??「ただ、その顔を知った人物が子供という事実は誰も知らない」

??「なら……たかが子供の戯言と聞き流すだろう」

??「緊急脱出の式を持たせる程なら、親の過保護かよほど無茶をする子供と見える」

??「あの性格なら……間違いない、後者。そんな子供の話など、誰も真摯に受け止めない……!」

??「今、やらなければならないのはここの七人を……仕留める事」




・・

・・・

珠美「あの……提案があるのですが」

美玲「犯人がわかったのか!?」

みく「提案だから違うにゃ、で?」

珠美「先ほど、ミク殿は国の幹部だと仰っていましたか?」

みく「にゃ、にゃははは……そうだにゃ」

珠美「では、国の本部の方に応援を呼んで頂けませんか?」

みく「にゃ…………」

千鶴「……なるほど、名案です」

礼「そうね、数時間だけここに大人しくしていれば」

法子「あたしたちの疑いも晴れる……!」

珠美「犯人が居れば、取り押さえも可能でしょう」

そら「もしそれまでにえすけーぷした人がいたら、その人があうと! ないすあいでぃあ!」

美玲「おお、なんか名案っぽいぞ!」

都(……名案、名案ですが…………)

みく(……やばいにゃ、みくは応援を呼ぶ通信機なんて持ってないにゃ!)

都(大丈夫です、この時間帯では緊急無線以外は元々通信出来ません、そして緊急連絡には該当しない事項です!)

みく(な、なるほど……もともと通信は使用できなかったのね、危にゃい危にゃい)

みく「も、申ーし訳ないけどこの時間帯は緊急の連絡以外の通信は繋がらないにゃ」

珠美「むむ……しかし、これが最も手っ取り早い潔白の証明だと思うのですが……」

みく「通信出来ないものは仕方がないにゃ……」

法子「では……少し酷なのですが、本部に直接戻って頂くことは?」

みく「にゃ……」



礼「別にいいわよ、時間が多少かかっても」

そら「おっけーおっけー! そらちんいつまでも待つ!」

千鶴「……逃げた人が国に情報を伝えるのを待つより確実で早い、私も賛成します」

珠美「そうです、逃げた人が情報を広めてくれるとも限らないのです! これが確実!」

法子「大きな事件なんですよね? ここで解決しちゃった方が国のためとも思うんです!」

みく「あわわわわ」

美玲(長が本格的にヘルプの目線をウチに)

都「うーん……」

――ポンッ

都「ミクさん、走りましょう」

みく「…………はい」



・・

・・・


みく(……いや、幹部を騙ったとはいえみくには権力が無いことは無いにゃ)

みく(本部に戻ってしまえば、アキハでもノアでも誰でもいいにゃ、みくが命令すればいいにゃ、応援を頼むと)

美玲「じゃあ、頑張って……!」

みく「まさかミレイに心配される日がくるにゃんて……はぁ、なるべく急ぐにゃ、エージェント夜を往くにゃ……」

――ダダッ

都「……では、少々ご迷惑をおかけしますが、皆様はここで待機してください」

美玲「この裏路地から外へ出る道はウチとミヤコが見張ってるからな!」

千鶴「逃がさないでくださいね、その犯人は私が追っている人物でもありますから」

美玲「任せろ! ……で、さっき言ったことは本当なんだろうなそこの人!?」

礼「そこの人じゃなくてレイよ。……そうね、いくら私でもこの建物を登りきって通路以外から逃げるのは困難ね」

珠美「大丈夫です! どの道いなくなった人物が居ればそやつが犯人なのですから!」

法子「ですね! 間違ってもふざけて隠れたり、出ようとしたりすれば七人が顔と名前を覚えているんですから!」

都「名前と顔は全員真実です! 私の目に狂いはありません!」



――…………

美玲「ふぁあ……とは言っても、一人で座ってるだけじゃ暇だなぁ」

美玲「…………はっ、寝ちゃ駄目だぞ、ウチは見張りだからな……」

美玲「んー……遠くて暗くて姿だけしか見えないけど、あっちで立ってるのがミヤコだな?」

美玲「全然眠そうじゃないなぁ……何か食べてるっぽいけど、それだけでこの時間帯にうとうとしてないとか凄いぞ」



――パクッ

都「もぐもぐ……ごくん、忍耐力も探偵には必須です」

都「この目が黒いうちは、何事も見逃しません……!」

都「……げほっ!んーっ!」

都「っ…………ごくっ」

都「ぷはっ…………あんパンが喉に」

――コツ コツ

法子「さすが裏路地です……十字路に小さな灯りがいくつかありましたが、行き止まりまで来ると真っ暗……」

法子「いや、行き止まりじゃなくても……途中の通路も薄暗くて、よく見ないと瓦礫やゴミに引っかかっちゃう……」

法子「……建物、お店だけど光は漏れてこない」

法子「壁一枚隔てるだけで……全然違う」



――チャリン

千鶴「…………」

千鶴(この中に、私が追っていた殺人鬼が居る可能性が高い……)

千鶴(私が賞金稼ぎとして名を挙げるには、私が捕まえなければ……応援が来てからでは意味がない)

千鶴「……せめて、誰が怪しいか、目星をつけなければ」



――スッ

礼「私は夜目が利く方だから、多少薄暗くてもよく見えるわ」

礼「そうね……建物、これは本当に登るのは無理ね……未来区の建物はとっかかりが無いから滑ってしょうがないのよ」

礼「他に気になる点……表通りはあんなに綺麗なのに、ここはゴミも掃除されないで……」

礼「ノリコちゃんとソラちゃんはあっち、チヅルちゃんは……何してるのかしら? で、タマミちゃんは――」



――ヒュッ ザンッ!

珠美「むむ……薄暗い中での鍛錬など普段は行わないものですから……思ったよりも狙いがつけにくいものです」

珠美「しかしこの世の中何が起きるかわかりません、今回この様な事態に陥ったのも初体験!」

珠美「ならば、それを少しでも糧に、珠美は剣の腕を上げるのです!」

珠美「この暗闇を活かした特訓! ……の前に、今斬ったゴミを片付けましょう、散らかしすぎました……」



――ガサッ ガサッ

そら「おっと、いいもの発見ー! これはお手頃ばんぶーそーど!」

そら「びゅん! びゅん! めーんっ☆ 武器は現地調達これ基本!」

そら「万が一、そらちんはみんなを守る使命があるのだ! これなら守るも攻めるもおっけー☆」

そら「さてさてさて、ぶれいくたいむが続くよう、そらちんぱとろーるすたーと!」



・・

・・・


――カツン

千鶴「……どれくらい時間が経ったか、まだ帰ってくるには早い?」

千鶴(十字路……南は大通りが見える、でも他の三方は暗くてよく見えない、動いている影は辛うじて分かる?)

千鶴「一、二……あれ? ああ、そうか……東の道は途中で曲がるのでしたね」

千鶴「あちらで何をしているのか……不穏な動きをしていないか、確認です」



――ストン

珠美「よいしょ……ふぅ、疲れました……」

珠美「同じ事を繰り返すと、体力の消費は徐々に抑えられるはず、慣れです!」

珠美「だから常日頃から剣を振るうこと、これが鍛錬です!」

珠美「……おや、手を振っていますね? なんでしょうか、向かってみましょう!」



――トントン

都「そういえば、ソラさんだけが何も武器を持っていませんでした」

都「この事件の解決の為に動くと言っていた割に、あまりに無用心ですね……?」

都「もしや素晴らしい格闘術の達人とか?」

都「……おっと、こちらに近づいてくる人影が。ちょうどいいです、ソラさんを呼んでもらいましょう!」

――ウロウロ

美玲「暇……駄目だ、ウチは止まってると死ぬ……動きたいタイプの生き物なんだ……」

美玲「早く帰ってこないかな……せめて話し相手が欲しいぞ……!」

美玲「ん、あれは、うっすらとしか見えないけど誰か居る!」

美玲「おーい! ウチは暇だー! ここでトークタイムしよう!!」



――パタン

法子「よいしょ……これでここにあった服と玩具……じゃない、武器は全部かな」

法子「それじゃ、ここは暗くてなんだか落ち着かないし……外に出なければいいんだよね?」

法子「せめて少しでも明るい大通りの方に歩こう!」

法子(……それにしてもあの服、思ったよりサイズが小さかったなぁ)



――ゴシャッ!

そら「べりーぱわふる! さいこー! これ愛用しちゃう☆」

そら「さてさてさてさて、両手にうぇぽん予備にもうぇぽん、そらちん武装完了!」

そら「ぱとろーる続行☆ まずはここを直進! そして右!」

そら「出口が見えたらゆーたーん! そして今度は左とぅ左!」




・・

・・・

美玲「というワケだ!」

珠美「ほうほう、ミレイ殿は大変な旅をして来たのですね……」

千鶴「……あれ?」

美玲「お、いつの間に? でも丁度いいや、ウチと一緒にトークしよう、暇で仕方がないんだ」

珠美「チヅル殿も休憩ですか? いや、他にする事などほとんどありませぬが!」

千鶴「……ここに他に人は?」

美玲「居ない、ウチら三人だけだぞ?」

千鶴「そんな馬鹿な……では外に誰か出しましたか!?」

美玲「ウチが見張ってるからそれは無いぞ、ここからは誰も出てないし、入ってもいない!」

千鶴「…………!」

――ダッ!

そら「おおっと? そんなに急いでどこへ行くー?」

千鶴「ソラさん……」

そら「すまいるすまいる! 固くなってちゃ会話がはずまなーい☆」

千鶴「すいません、急いでいますから!」

――ダダッ

そら「おー……ろんりーそらちん……よし、ここでゆーたーん! 追いかける!」



――ザッ

そら「おう? 十字路にて目標ろすと、どっちに行ったかな?」

そら「むむ……微かに人影、全速だーっしゅ!」

そら「方角南! あの光射す大通りまで!」

――ダダダダッ

法子「……きゃっ!」

そら「おっとそーりー! こんな場所でうずくまってなにごと?」

法子「あ、あの、なんでもないです!」

そら「そう? それじゃあそらちんチヅルちゃんを探してるから後で――」

――カンッ

そら「?」

法子「あっ、と……」

――パシッ

そら(最初に見た武器? なるほど、落としちゃったのを探してた!)

そら「ごめんね! ちょっと蹴っちゃった☆」

法子「い、いいえ……こちらこそ」

――カサッ

都「呼んでもらうつもりでしたが……先に本人が来ちゃいましたね」

そら「何の事ー?」

都「いや、ソラさんは武器をお持ちではなかった……という質問をしようとしたのですが今どうなってるんですかこれ」

そら「そらちん武装モード!」

都(一見、いや二見三見してもガラクタをいっぱい装備しているようにしか見えませんが……)

そら「あたしはなんでもいい! むしろなんだろうと使いこなせる必要がある! これぞはっぴー!」

都「り、理屈は分かりませんがとにかくなんでも扱えるのですね……?」

そら「いぇす!!」

――スタスタ

珠美「よろしいのですか?」

美玲「一本道だから大丈夫、最初からこうすればよかったよ」

美玲(東の道の、何も先端で見張ってなくても話し相手が多い十字路の東側で見張っておけばよかったってね)

美玲「でも逃げるのは無理だぞ? ウチは暗くても視えるからな?」

珠美「逃げるなんて滅相もない、疑われるだけで珠美は何も得をしません」

美玲「だよねー……あれ?」

――ザッ

千鶴「……!? どうしてここに……?」

美玲「あ、いや、見張りは何も端でやる必要ないなって思って……大丈夫、誰も見逃してないぞ」

珠美「珠美も確認しておりました!」

千鶴「本当ですか?」

美玲「バッチリだ!」

千鶴「なら…………レイさんは何処へ?」

珠美「……えっ?」

美玲「あの、ミヤコの方へ行ったんじゃないのか?」

千鶴「私が今さっき確認しました、あちらには三人しか居ません」

珠美「では……こちらの行き止まりの方角では?」

千鶴「そもそも、姿を消す事が不自然です! このような状況、ふざけている場合では……!」

千鶴「……いいえ、それよりもっと簡単な判断方法がありましたね」

珠美「まさか……」

美玲「この建物を登れないって、嘘だったのか!?」

千鶴「では彼女が……! 道は絶対に誰も通していないんですね!?」

美玲「お、おう、絶対だ!」

千鶴「となればどこかの壁面を登っているはず……急げば間に合う!」

――ダッ



――……ザッ

千鶴「どうしたんですか!? なぜ立ち止まって――」

珠美「いや……なぜ追うのですか?」

千鶴「何故って……逃げたという事は」

美玲「確かにそうだけど……今、つまりウチらは潔白が証明されたと同義だろ?」

珠美「犯人は逃げても我々が顔と名前を、帰ってくるミク殿と応援に告げれば良いのです!」

千鶴「それでは意味がありません!」

美玲「……何でそんな頑なに標的を追うんだ?」

千鶴「く……分かりました、この話はこれまでです! 私は一人で逃げた彼女を探します!」

美玲「あ! 待てって! ここから出ちゃ駄目だぞ!」

千鶴「逃げません、探すだけです!」

――タッタッタッ

珠美「…………深い理由がありそうですが」

美玲「そう言われてもなぁ……ウチだって、悪い奴が逃げるのはどうかと思うけど……」

美玲(無茶して良い事が、無かった……いつも裏目を引くのはウチが暴走した時だ)

美玲(なら、長が帰ってくるのを平穏に待って、後の決定に従えばいいんだよな……)

珠美「……どうなされました?」

美玲「あ、いや、考え事考え事……ウチは見張り場所をこの曲がり角に変えるから、ついでにミヤコに伝えてくれよな」

珠美「承りました! では珠美はこれで」

――ザッ



――…………

都「なるほど、分かりました。その場所なら問題はないでしょう」

そら「ぱとろーるえりあ縮小! そらちん見張りらくちん!」

法子「まだ見張りは続けるんですか? その、レイさんが居なくなったのなら……」

珠美「チヅル殿も範囲を出ない程度に捜査を行っている様子……逃げた犯人が現場に戻る理由など思いつきませぬが……」

都「うーん…………」

都(変です。この状況で、確かに時間だけが過ぎれば彼女が事件の本人だとして……応援が来るまで待機は不利でしょう)

都(しかし全員に顔も名前も確認された状況で逃走? そんな事をすれば一発で自身が疑われ、手配が進む……)

都(そもそも私達に気付かれずにこの袋小路から騒ぎ無く消えたという点が不自然!)

都「……この建物、屋上まではどの程度の距離でしょう?」

そら「そらちん百人くらい?」

法子「うーん……目測ですが、百あるかないか程度だと思います」

都「この壁面、どの程度の準備があれば登れますか?」

珠美「ちょっと……経験が無い故、珠美は準備があっても不可能かと……」

そら「みーとぅー!」

法子「上からロープが垂れてたりしていれば……何もなしでは辛いです……」

都(やはり不可能……いや、彼女は獣人族でしたね、それも運動神経には自身があると)



美玲「ウチが?」

法子「はい、一度可能か試してくれとミヤコさんが……」

美玲「木登りは得意だけど、この建物は無理っぽいぞ……一応やってみるけ、どっ!」

――ガッ

美玲「んっ、意外と行けるな……よいしょっと」

――ボロッ

美玲「うわわ!?」

法子「大丈夫ですか!?」

美玲「ととと! だ、大丈夫だぞ……思ったより壁がボロくて、掴めるところは多いけど壊れやすくて……」

美玲「この高さまでなら、まぁ行けそうだけど……屋上までは…………うん、無理だ」

法子「なるほど……」

法子「……だそうです」

都(壁は登れない…………じゃあ、どうやって姿を消したのでしょうか?)

そら「ぼろぼろ、これじゃ散らかるのも当然?」

都「散らかる……?」

珠美「先程から建材の端くれなどを鍛錬のために斬らせてもらっていますが!」

そら「ちゃんとまとめたかー?」

珠美「勿論です! きちんと後片付けはしています!」

都「……その建材、というより何処へ纏めました?」

珠美「それは、通路の横ですが……あ、ちょうどあの様な形です!」

法子「いっぱい木が積まれてます、余って放置された木材なんでしょうか……?」

都「……!」



――ガラガラガラ

そら「ちょっとー! 散らかしちゃいけないんだぞ☆」

都「…………これ、気づいていましたか?」

そら「ほわっと?」

珠美「おや……えらく派手な……何ですかそれ?」

都「この名称は……いや、モノが重要な訳ではありません」

都「奇抜なデザイン、配色の目立つオブジェがここにあったという事に、気づいていましたか?」

法子「いいえ……その木材の影に隠れてて気づきませんでした」

珠美「しかし面妖な……このような人形? は、珠美には心当たりがありませんが」

都(……物の影に隠れられたら、この薄暗い路地……見逃してもおかしくはない)

都(とはいえ隠れたままでは私とミレイさんの警備は突破できないはず……いったいどうやって?)



・・

・・・


――ガサッ……

??「…………!」

??「……? ……?」

――ガンッ!

??「……!?」

――ガッ ガッ

??「…………」

――グッ……

??「……ッ!!」



・・

・・・


そら「はぅあーゆー☆」

千鶴「……何ですか?」

そら「ろんりー行動ダメ絶対! 危ないからそらちんと一緒に行こう☆」

千鶴「武装しすぎな方と一緒にいる方が怖いですし……それに、例の相手が来るなら来てもらって結構です」

そら「んー?」

千鶴「私を襲ってきたら、その人物が噂の殺人鬼です」

千鶴「それがあのレイという人だとしても、私は喜んで迎え撃ちます」

そら「……どうして?」

千鶴「手っ取り早く名を挙げる功績が欲しいんです、私にとっては閉鎖されたこの現状は歓迎だったのですが……」

千鶴「あろう事か、黒濃厚の逃げた人物を誰も追わない……呆れました」

千鶴「しかし追うと余計に妙な疑いを持たれる、だから私は可能性は低い方に賭けます」

そら「可能性?」

千鶴「低いといっても相対的にです、充分確率は高いはず……まだ、この近くに殺人鬼が潜んでいる可能性は!」

そら「どうしてそう思う?」

千鶴「このまま逃げ去った場合のリスクが高いからです」

そら「ふむふむ?」

千鶴「……正体不明を貫き通していた人物が、誰か確定していないとは言え顔を見られている」

千鶴「なら、そう考えるのは至極当然だと思いますが?」

そら「でもでも、なおさらろんりーはダメ! 危ない人がうろついてるかもしれないんでしょ?」

千鶴「大丈夫です。私は故郷で戦闘技術、知識においてトップの成績を収めていました」

そら「……学校?」

千鶴「全国的にも有名な、文武両道を掲げる……いえ、私の過去はいいじゃないですか」

そら「んー……訓練と実戦は違うよ?」

千鶴「ではあなたは実戦経験が豊富だと? ……あの自己紹介の時、うまく誤魔化したつもりでしょうけど」

千鶴「あなただけ、何も詳しい説明がないまま話が終わりましたね」

そら「むむ、確かに☆」

千鶴「…………とにかく、誰も白の確証がありません。ならば一人で動くのが定石です」

――ザッ ザッ

法子「なんでこんなところに捨ててあったんでしょうこの人形」

珠美「偶然でしょう、それにしても……その、なんでしょうね?」

――ツンツン

都「…………もしや」

都(警戒しながらとはいえ、ミレイさんが移動して警戒場所を変えた時がありました……!)

都(仮に、その移動中の道に潜んでミレイさんをやり過ごしたとしたら?)

都(……いや、それはそれで問題があります)

法子「何かのマスコットでしょうか?」

珠美「それにしては見てくれが悪いというか……」

都(逃げた人物が一人では、先に言った通り真っ先に疑われてしまう)

都(だから何人か巻き込んで……“誰が真犯人として逃げたか”をかく乱してからでも遅くはない)

都(ちょうど……こういうのも何ですが、ミレイさんとタマミさんを不意打ちする程度の実力はあるはず)

都(それをしなかったという事は? 逃走を第一に考えたから? ではない……はず!)



――ボーッ

美玲「…………」

美玲(こっちに来ても、皆思い思いの場所にいるからやっぱり暇だぞ)

美玲「ま、視界に誰かは居るからまだマシかな。えっと……暗くて人影しか見えないけど行き止まりの場所に二人」

美玲「そしてミヤコが居る南の方は……明るいから人の判別もできるな、タマミとノリコも居るぞ」

美玲「という事は、行き止まりに居るのはソラとチヅルかぁ、何してるんだろ……」

――ガンッ!

美玲「んなっ?!」

――…………

美玲「今、なんかウチの背後で何か聞こえたような……いや、こっちには誰もいないはず、誰も通してない……」

――ガッ ガッ

美玲「ひぇっ!? な、なんだ誰だどこのどいつだ!? 姿を見せろよっ! 引っ掻くぞ!?」

美玲(まさか見逃した!? 誰も気配なんて感じなかったぞ!?)

美玲「……来ないならこっちから行くぞ? たぶんそこの影に居るな……?」

――スッ スッ

美玲「音はここから聞こえた……ぞっ!! ……あれ?」

美玲「おかしいぞ、確かにこの近くから」

――ドンッ!

美玲「っう!? …………え?」

美玲(これ、大きいゴミ箱だけど…………この中から?)

美玲「どういう事?」

――ガサガサ



――……ガサッ ヌッ

美玲「うわっ……何か手についたぞ、ばっち……っえ!?」

美玲(あ、赤……しかも……!?)

――バサッ! ガサゴソ

美玲「まさか、まさか……!」

??「げほっ!」

美玲「う、うわあああ!?」

――…………!

法子「えっ……!?」

珠美「い、今の声は!?」

都「まさか! すぐに向かいます!!」

法子「はいっ!」

珠美「ま、待って下され! 珠美を置いていかないで!!」

――ダダダッ



美玲「ま、待ってろ! すぐ……と、とりあえずこれを外すぞ! レイさん!?」

礼「ぷはっ……! くぅ……!」

美玲「逃げたんじゃなかったのか!?」

礼「不覚よ……油断していたら、後ろからね……」

美玲(……背中に傷が! それに、頭からも血が!)

礼「でもごめんなさい……相手の顔は見ていないわ、斬られた拍子に頭も打って、気がついたらこの状態……!」

美玲「しゃ、喋ったら体力を使うぞ! ウチが運んでやるから――」

千鶴「どこへ運ぶのですか?」

礼「あら……」



美玲「ちょ、ちょうどよかった! レイさんが!」

千鶴「……襲われましたか?」

礼「ええ、そうなるわね……」

千鶴「犯人を見ましたか?」

礼「…………見てないわ」

千鶴「収穫なしですか……」

――ザッ

美玲「ちょ、何処へ行くんだ!?」

千鶴「襲われた人物が居たという事は、確実にこの中に黒が潜んでいます……私はそれを突き止めるだけ」

千鶴「あとまさかとは思いますが、見張りを放棄して外へ彼女を運ぶつもりではないですか?」

美玲「当たり前だろっ! 怪我人だぞ!!」

千鶴「そんな事をすれば野次馬が集まります……人ごみに紛れて黒が逃げ果せてしまう」

美玲「なっ、オマエなぁ!!」

礼「いいのよ……私は普通の人と違って怪我には強いから……こうして、犯人も私を仕留めたと思って勘違いしたみたいだし」

礼「私も、誰が犯人か突き止めなきゃね……ここまで凶悪な無差別とは思ってなかったわ」

――ダダダッ

都「ミレイさ……こ、これは!?」

法子「レイさん!?」

珠美「レイ殿!?」

――ザッ

そら「どうしたの!? その怪我!?」

礼「……全員揃ったのね? じゃあ単刀直入に……後ろから斬られたわ、恐らく例の殺人鬼ね」

法子「えっ……!?」

珠美「そんな馬鹿な……」

そら「でもここには誰も入ってきてないよ!? だよね!?」

美玲「お、おう! そうだぞ!」

千鶴「では……結論が出ましたね」

都「やはりこの中の……誰かが!?」



・・

・・・


千鶴「殺人鬼は逃げてなどいない」

都「……被害が出てしまった以上、確実ですね……!」

法子「犯人の顔は……」

礼「何度も言ったけどごめんなさい、確認できなかったわ」

そら「怪我、大丈夫?」

礼「ええ……治りは早いのよ、安心して」

千鶴「…………集まっているところ悪いですが、私は行きますね」

美玲「おい! 逃げる気じゃないだろうな!」

千鶴「逃げる? 今更それはないでしょう、ここに目的の人物が居ると分かったのですから」

千鶴「そもそも被害が明確に出た今、逃げる者は犯人以外の何者でもないです」

千鶴「……命が惜しくて逃げたとしても、本物の犯人がわからないまま、一方的に殺人鬼から追われ続ける」

珠美「そ、それは……!」

千鶴「どうですか? 元々、ここから逃げる選択肢は誰も持っていません」

礼「その通りよ……逃げていい事は一つもない、逆に留まる事が良いとも言えないけど」

法子「犯人を見つけるしかない……?」

千鶴「もしくは、犯人以外の全員が死ぬまでです」

そら「…………」

美玲「……ウチとミヤコは大丈夫だな? 長……ミクと知り合いだから、国の幹部と知り合いなワケないもんな?」

珠美「申し訳ありませんが……お二方の間では信頼出来ても、珠美にはそれが本物か確かめる術は……」

千鶴「殺人鬼が一人と思い込んでいるだけかもしれません。例えばあなた方三人が殺人鬼というグループなら?」

法子「……応援を呼んだフリをして、あの人があたし達を……?」

美玲「ウチらはそんな事しないぞ! 長は今、皆の為に全力で……!」

都「ミレイさん、悔しいですが彼女達の言う通りです……私達には証拠も無い……!」

千鶴「では私はこれで」

そら「すとっぷ! ろんりーダメ! そらちん追いかけるよ!」

――ダダッ

都「むむ……身元の証明ですか、これは難題……」

礼「……でも、私は信じるわ。じゃないと始まらないもの」

珠美「珠美は……えっと……」

法子「……あれ?」

美玲「ん、どうかしたか?」

法子「さっきまで剣、背負ってませんでした?」

美玲「……そういえば、どこに行ったんだ?」

珠美「へ? あ、しまった! 慌ててこちらに来てしまったのでさっきの場所に忘れてしまいました……!」

礼「ちょっと……自分の武器を置いていくなんて」

珠美「珠美を置いていく勢いで全員が急に走り出したからです!」

都「有事でしたので……では先ほどの場所に戻りましょう」

――ザッ ザッ ザッ

珠美「な、無い!? そんな馬鹿な!!」

礼「本当にこの場所?」

珠美「もちろんですとも! そこの奇妙な人形がその証拠!」

礼「ぴにゃこら太のこと?」

法子「そういう名前だったんですか? ……とにかく、見間違えはしません、この場所です」

美玲「じゃあなんで無くなってるんだよっ!?」

珠美「珠美が聞きたいくらいです!!」

都「……全員があの場に集まっている隙に消えたとなると、不自然ですね」

法子「あ、でも……あたし達がこっちに来る前にチヅルさんとソラさんがここを通ってるかもしれません」

珠美「おおっ! ならばどちらかが拾ってくださっているかも!」

美玲「そういやソラは色々武器になるものを拾ってたな! じゃあもしかしたら!」

珠美「今すぐ聞いてまいります!」

法子「あっ! 一人は危ないですよ!? あたしもついて行きます!」

――ダダッ

都「……念の為、私達も探しましょう、この近辺の死角に落ちているやもしれません」

礼「そうね、単に見落としかもしれないもの」

美玲「…………」

礼「あら、その人形気に入ったの?」

美玲「いや、ブサイクだなぁって……」

礼「でも人気なのよ?」

美玲「嘘だぁ、こんなのが?」

礼「主にストレス発散用として」

美玲「えっ?」

都「……世の中、何が流行するか分かりません」

美玲「そのストレス発散用って、人形に変な恨みが溜まって殺人鬼として徘徊してるとかそんなオチじゃないよな?」

都「いいえ、この目が正真正銘それは『ただの人形』と言っています、それはないです」

礼「なら気にしないで行きましょう、無事にここを抜けた暁には持って帰ってあげなさい」

そら「おろ?」

法子「あれっ?」

そら「チヅルがどこに行ったか、見てなーい?」

法子「タマミちゃんがこっちに来ませんでしたか?」

そら「……おろ?」

法子「あれれっ?」

そら「こっちには誰も来てないよ?」

法子「じゃあ……十字路で来る方向を間違っちゃったかな……そうだ! 何か新しく拾いませんでした?」

そら「拾う? んー、そらちん武装ひゃくぱーせんとだからこれ以上なにも集めないよ!」

法子「という事はチヅルさんの方かな……」

そら「何かあったっぽい?」

法子「ええ、実は――」



――キャアアアッ!!!

そら「んっ!?」

法子「なっ……!?」

そら「今の声……チヅル!!」

――ダッ!!

法子「すぐ近く! もう一方の行き止まりの方向!?」

――ダッ!!



千鶴「あ、あ……!」

そら「そらちん参上! もしかして真犯人が現れ……!!」

法子「大丈夫です……か……!?」

――ダダッ

美玲「このっ! ウチが相手だ!! …………うわぁっ!!?」

礼「これは……!」

都「くっ! 私が居ながらこんな……!」



千鶴「た、タマミさんが……ここに来た時には……血まみれで倒れて……!」




・・

・・・

法子「武器が無いと知られた為に狙われたのでしょうか……」

そら「それでさっきあたしに聞いてきたんだね……?」

礼「……随分派手に斬られたわね、正面から勢いよく……恐らく武器から正体がバレないように彼女の剣を使ったんでしょう」

都「では、武器が無いと知ってる人だけが怪しいという訳では無くなります」

美玲「なんでだ? 武器が無いと知ったからタマミを狙ったんじゃ?」

礼「……その事を知らなくても、あの大振りな剣が落ちてたら彼女の物とすぐに分かるわよ」

美玲「なるほど……じゃあ犯人にとっては一石二鳥、標的が分かって武器が手に入って――」

千鶴「ちょっと……! どうしてこんなに冷静なのですか!?」



礼「……あら、今まで一番冷静だったのはあなたよ?」

千鶴「それは……それはこれと別です! 私が言いたいのは……そこのお二人です!!」

法子「えっ?」

そら「みー?」

千鶴「私が……私がここまで、お、驚いている状況なのに……どうしてそれだけ自然体で居られるのですか!?」

美玲「……そういやそうだな?」

礼「重傷の人を見慣れてるの? ……そういえば、自己紹介のような場で詳しく何も聞いていないわね、お二人とも」

都「先程は深く詮索しませんでしたが……状況が状況です、お話いただいてもよろしいですか?」

法子「それは、他言しませんか?」

都「実は犯人でした、という類の返事でなければ」

法子「……分かりました」

礼「あなたもよ。いったい何者なのかしら……?」

そら「そらちんはそらちんだよ☆」

そら「……でも、あたしも昔話はしてなかったね、おっけーおっけー、あまり面白くない話だけどれっつとーく☆」

法子「あたしは、物心ついた時から戦闘技術を学びました」

法子「家族ぐるみでとある国家の専属の諜報員、そして隠密の戦闘員を受け持っています」

千鶴「……だから、慣れていると?」

法子「見慣れた、見慣れちゃったんです……皆さんの予想想像より、あたしは色々と染まっています」

法子「でも、こんな生活が嫌で……家を出ました」

礼「……そして今に至るの?」

法子「いや……家を出たのは何年も前です、その後は一人で……人には言えない事もしました」

法子「そんな時、ある人と出会ったんです! あたしの見てくれに何も言わず、ただ……」

法子「『これでも食べて元気出して』って……その時に食べたお菓子は今でも忘れられません!」

美玲「何を貰ったんだ?」

法子「後で調べたところ、ドーナツだったんです。それで今は……作る側に回ろうって」

法子「それで有名になって、当時のあたしみたいな子にドーナツを配って回るのがあたしの夢です!」

そら「いい話じゃんっ……そらちん前が見えないよ」

都「その通りです、なぜあの場面で口を噤んだのですか?」

法子「まだ……会って間もない時、この状況で“戦闘技術がある”という一面だけ見られるのが怖かったのと……」

法子「もしかして、家や国と繋がりがある人が居るんじゃないかって……連れ戻されるかもって思ったの」

美玲「それは……なんとなく話したくなかった訳が分かったな……」

千鶴「今の話に虚偽はもう含まれていませんか?」

法子「はい、正真正銘あたしの全てです……!」

都「ところで……家というのは名前のシイナ、でよろしいですか?」

法子「間違いありません、そして国は“オプス”という名前です、ずいぶん帰っていないのですが……」

千鶴「……えっ?」

都「なんと…………」

礼「……?」

美玲「な、なんだ? 何かある国なのか?」

――サッ

美玲(そんなに驚くような国なのか? ウチは全然世界の事は知らないから説明してくれ)

都(いいえ……国自体は特に大きく小さくもなく、問題も抱えていない国ですが……)

都(私の記憶違いでなければ……その国家はつい昨年、他勢力の侵攻により……!)

美玲(……え、そ、それってもしかして……?)

都(彼女にとって……吉報か凶報か、分かりかねます……今は触れないでおきましょう)

美玲(わ、分かった)

都「その国は……申し訳ないですが心当たりがありませんね」

千鶴「…………ええ、私も、気のせいでした」

礼「お姉さんは地理に疎いの、ごめんなさい」

法子「いえ、お気遣いなく、小さな国家でしたから知らなくて当然です」

そら「……じゃあ、いい話の後ではーどるあっぱーだけど、言うよ?」

そら「といっても、あたしの昔話は感動はっぴーえんどでもなんでもないよ?」

千鶴「そんなお話を求めている訳ではありません、ただ真実を知りたいだけです」

そら「そう? じゃあ結論から! あたしは元ぐらでぃえいたーだよ!」

そら「おっきなりんぐの中で、勝つまで出られないばとるをする人!」

都「……ちょっと待って下さい! それは、つまり闘技場ですか?」

そら「のんのん、本物のころしあむ、しょーたいむの方!」

千鶴「有り得ませんね、例えあなたが奴隷階級であろうと人同士の生死に関わる戦闘行為を見世物には出来ない」

礼「確かに、それは世界単位で決定されているルールよ、存在するはずがない……」

そら「でもでもそらちん嘘言ってない☆ そこで戦ってた!」

美玲「戦ってたって、負けたら死ぬのか!? そんなところでどうやって生きてたんだ!?」

そら「だから戦ってた、そらちん全力で全勝、あいむすとろんぐ!」

美玲「じゃあ無茶苦茶強いのか?」

そら「のーまるだよ?」

礼「話が事実なら普通どころじゃないわよ」

法子「事実、なんですか?」

そら「それはいえすだよ!」

都「……言葉に嘘は見受けられませんが」

礼「じゃあその国家が問題ね……いったいどこの国?」

そら「心配ないよ、もう滅んじゃった☆」

千鶴「……はぁ?」

そら「だから、ある日訪れた正義の英雄が突然現れ、ずばーんずどーん! あえなく悪い国は成敗された☆」

法子「む、無茶苦茶ですけど……本当なんですよね……?」

そら「そらちん嘘つかないよ!」

都「むむむ……いや、嘘は感じられない、確かに事実なのでしょう……!」

千鶴「俄かに信じがたい……でも、その経緯なら確かに納得……」

礼「……どう? 学校や訓練で習ったことより、現実は恐ろしい?」

千鶴「なっ! こ、このような状況で不謹慎です!」

礼「そうね、彼女は……確かに、ここで攻撃を受けた。それがいったい誰なのか……?」

美玲「……ゴメン、ウチが一番近くにずっと居たのに!」

都「ミレイさん……」

美玲「……長が帰ってくるまで、絶対に犯人を見つけてやるっ……!」

法子「見つける事も大事ですけど……安全を確保するために全員で固まった方がいいと思います」

千鶴「私は反対です。固まろうが躊躇いなく全員を相手取る実力が相手にあると考えるべきです」

千鶴「いや、それよりも……犯人と近くで行動するなど愚の骨頂、私は別行動を取ります」

都「チヅルさん、その状況でその選択肢は……」

千鶴「何も言わないでください、大丈夫ですから」

――スタスタ

そら「だから一人で動くのは……!」

都「いや、大丈夫です、彼女が一人で動いても我々が固まればどの道彼女は無事な計算です!」

美玲「ウチらが固まっていれば、チヅルに手を出す人は居ないぞ!」

そら「……そう、だよね! 逆転の発想!」

礼「タマミちゃんの傷も、回復は幸い早いみたいだけど浅いわけじゃないわ」

都「我々で見張らねば、それに……どなたか治療が可能な人は?」

美玲「ウチは詳しくないぞ」

そら「あたしも専門外!」

礼「なぜ得意気なの……そう言う私も、知識は無いわ」

法子「応急処置程度ならあたしが」

都「ではお願いします、とにかくこれ以上衰弱しないように……」



・・

・・・


美玲「…………」

法子「大丈夫ですか?」

美玲「ん、ああ、ウチは全然……」

礼「この子も命に関わる状態じゃない……不幸中の幸いね」

美玲「いや、そうじゃなくて……もちろんそれも心配だけどさ」

そら「ミレイも? あたしも心配、チヅルちゃんろんりー」

都「……いや、我々がこの場に居る以上、彼女の安全は保証されます」

礼「彼女が犯人だった場合は」

そら「すとっぷすとっぷ、決めつけよくない!」

都「ソラさんの言う通りです……確証がない段階で決定は尚早!」

礼「疑う事は否定しないの?」

都「それは……仕方のない事です」

そら「……むっ!」

――スタッ

美玲「どうしたんだ?」

そら「やっぱり心配! ここに戻ってくる様にチヅルに言ってくる!」

都「待って下さい! 気持ちは分かりますが分断は得策ではありません!」

法子「そうですよ! せっかくあたし達は纏まって動こうって決まっていたんですから!」

そら「でも、そらちん心配……」

美玲「……そもそも何処へ行ったのか知ってるのか?」

そら「ん……あっちかそっちかこっちかどっちか!」

礼「分かってないのね……」

都「中途半端な分断は危険です、考えたくはありませんがお二人のどちらかが真犯人だった場合……!」

法子「……そうだ、これは極論なんですけど」

法子「いっそ全員で動いてはどうでしょう?」

そら「みんなで?」

法子「もちろんタマミちゃんを置いて動くわけにもいかないので、見張りはお一人必要ですけど……」

法子「チヅルさんを残りの四人で探せばいいんですよ」

美玲「ん? どういう事だ?」

礼「……この十字路の中心から四方向に道、それぞれ一人ずつ探すの?」

そら「それなら絶対見つかるね!」

法子「それに、犯人が居たとしても……これならチヅルさんが当たってしまう可能性も低いと思います」

都「確かに……この状況で一番怖いのはチヅルさんの場所に犯人が単独で行ってしまうこと」

法子「だからじゃんけんでもクジでも、探す場所を決めて一人ずつ向かえば比較的安全かと」



礼「四分の一、いいえ……待機も含めて五分の一、妥当ね」

都「……ですが、この案は不安です! 効率は良くなりますが個人の安全に不満があります!」

そら「そらちんは大丈夫だよ!」

都「そういう話ではなく……過程に過程を重ねてしまいますが、仮に犯人がここへ残った場合!」

美玲「ミヤコ、確率を今更百やゼロにするのは無理だぞ……どこかで妥協点を見つけないと」

都「ですが…………いや、その通り、です……」

法子「じゃあ、どっちに誰が探しに行くか、じゃんけんで決めましょう」

――ガサッ

千鶴「……瓦礫の下、確かにここなら姿を隠せる」

千鶴(私達とは別、第三者が居るとしたら……案外、可能性は高い?)

千鶴「……!?」

――ザッ

千鶴(誰か来る……私を探しに来た?)

千鶴(ちょうどいい、試しにここへ隠れて、見つかるかどうか……)

千鶴(これでバレなければ、姿を隠した第三者の可能性を疑えるかもしれない)

――スタスタ

美玲「……ウチは南側かぁ、ぶっちゃけ暗い所の方がウチは適任だと思うんだけどな、よく見えるし」

美玲「ま、じゃんけんで決まったし、しょうがないか。……これ以上向こうは明るくて調べる意味はないな」

美玲「……戻ろっか」



――タッタッタッ

都「ううむ、一人は心細いですね、申し訳ありませんがチヅルさんとは出会いたくない……」

都「……いや、決めつけは良くないと自身で言ったばかりではありませんか!」

都「こちら北側、距離は短いです、さっさと調べ終えて待機している方の元へ戻りましょう!」



――タタタッ

法子「西側は暗くて距離が長いです……時間を掛けると申し訳ないので急いでチェックしましょう!」

法子「にしても、タマミちゃんはいつの間に……」

法子(ソラさんは違うはず、あたしと一緒に居たから……先に居たチヅルさんか、後から来た三人か……)



――ザッ ザッ

礼「……そもそも、どうしてあんなに単独行動したがるのかしら?」

礼「単独行動中に襲われた私が言うのもなんだけど……危険なのは分かっているはず」

礼「この暗がりに加えて、随分と不意打ち奇襲が得意な相手……心構えのぶん、こちらが圧倒的に不利……」

――…………ガサッ

千鶴「……やり過ごせた」

千鶴(という事は、物陰に身を隠して潜伏している人物が居る可能性が?)

千鶴「いや、そもそもどうして私を探しに来たのでしょう? 全員で固まっていると先程言ったのでは?」

千鶴「集合場所、少し戻ってみる事にしましょう、他の全員が残っていれば……今通った人物は……」

千鶴(私を、狙いに来た可能性が……!)



――ストン

そら「むー、おるすばん☆」

千鶴「……お二人だけですか?」

そら「おおっ、チヅル帰ってきたー! ……あれ? 誰にも会わなかった?」

千鶴「ちょっと実験がてらに、やり過ごしました」

そら「ふーん、色々やってるんだね! とりあえず座って座って!」

千鶴「いや……確認しに来ただけ、戻ってきたわけじゃない」

そら「でもでも、心配してるんだよ☆」

千鶴「…………まだ安心できないので、それにどうして私を引き止めるんですか」

千鶴「私が白の確証もないでしょう?」

そら「関係ないよ☆ どっちだろうとそらちんと一緒にここではっぴーはっぴーしよう!」

千鶴「意味がわかりませんが」

そら「へい、かもん!」

千鶴「……遠慮します」

そら「何が不安? おっ、この装備? じゃあ捨てちゃう! ぽーい☆」

千鶴「ちょっ……!」

――ガシャンッ

千鶴「何してるんですか! それは自衛の手段でしょう!?」

そら「でもでも、これを持ってたらチヅル来てくれないんでしょー?」

千鶴「武装が怖くて近づかないわけではありません!」

そら「え、じゃあ……きゃすとおふ?」

千鶴「だからいい加減にしてください!!」

――…………

千鶴「……はぁ、どうしてこんな事に」

そら「暗いよ? もっとあかるくえなじーに!」

千鶴「無茶言わないで下さい……ああもう、散らかってますよ」

――ガチャッ

千鶴「……そういえば他の四人は、武器を探してなのですか?」

そら「ううん、チヅルを探して!」

千鶴「全員で? それはまた大胆な……んっ?」

そら「もうそろそろ帰ってくると思うんだけどー、ちょっと見てくるねー?」

千鶴(…………さっき投げ捨てた武装の中、あれは?)

そら「んー、よく見えないなー」

千鶴(柄……もしかして、剣?)

千鶴(確かタマミが無くしたのは……)

そら「あ、そういえばさっき拾った中に使えそうなものがあったね☆」

――ダンッ!

そら「……んー?」

千鶴「止まってください! その場で……後ろを向いて!」

そら「な、何? そらちんそこの道具を取るだけで――」

千鶴「動かないで!!」

そら「っ……!」

千鶴(見えたのは剣……! ここで二人きり、無理矢理にでも私は引き止められた……!)

千鶴(そして今、一瞬は解除した武装の元へ自然に……!)

そら「ど、どこに持ってたの? その、刃物は危ないよ?」

千鶴「お互い様でしょう……! いいから、そこから離れて!!」

そら「わ、分かったから、それを下ろして、ね?」

――ザッ…… カンッ

千鶴「え!? 後ろ……!?」

千鶴「……違う、いったい――」

そら「とおっ!」

千鶴「っえ!?」

――ドサッ!

そら「冷静になろっ! くーるだうん! そんなものは手放して!」

千鶴「このっ……! 物音を立てたのはあなたですか……!」

そら(チヅルはこの空気にちょっと慌ててるんだよ! 一度みんなで落ち着いて話し合わなきゃ!)

そら「えいっ!」

千鶴「っく!」

――カラン カラン

そら「ふぅ、これで安心」

千鶴「安心……? ふふ、体が抑えられても……!」

――ドスッ!

そら「おうふっ!」

千鶴「元々私は体術で戦うスタイルです……! どいてください!」

そら「ひゅわっ!?」

――ドンッ

千鶴「やられる前に……!」

そら「んんっ! またそんなもの拾って……! あっ、素手じゃちょっと受け止められな――」

千鶴「取らせない!!」

――ザシュッ!!



そら「……っあ? れっ……?」

千鶴「えっ……!?」

――ドサッ

そら「けほっ……うぇ…………」

千鶴「は、はぁっ!? どういう事……!? まだ、まだ私は…………」

千鶴「まだ……攻撃してな――」

――ザンッ!!

――…………

??「……まだ仕留めない」

??「死んでしまったら疑いの範囲が狭くなる。生きていれば、まだ殺人鬼の可能性がある」

??「あの応援を呼びに行った一人が帰ってきた時、その場に誰もいなければどうなる?」

??「ここに残った全員が候補、もしくは第三者の可能性も……」

??「後はそれぞれが勝手に動いてくれればいい、逃げてもいい、捕まってもいい、どの道犯人の正体は判明していない」

??「これで殺人鬼の正体は煙に撒かれる……!」




・・

・・・


都「そ……そんな馬鹿な! だって、だって……全員がそれぞれの方向へ向かったはず!!」

礼「私が帰ってきた時……既にこの状態だったわ、そして私はチヅルとすれ違ってはいない」

都「チヅルさん! それに、ソラさんも!!」

礼「またしても一閃ね、かなりの手練よ……改めてね。後の二人はまだ帰ってきてない?」

都「ノリコさんとミレイさんは十字路から距離があります、少し時間がかかるでしょう……!」

都(現場は……ソラさんをタマミさんの保護に、そしていつの間に、どういうわけかチヅルさんが増えている……)

都(他の二人が帰ってきていないという事は、誰にも会わずにここに訪れたという事、どうやって?)

都「それに……」

――ガサッ

都(どうして、ソラさんの武装が外れている? 常に身につけていた、このたくさんの武器とも言えない装備を何故?)

――ザッ

法子「戻りました、こっちにはチヅルさんは居ませ……えっ……!?」

美玲「よっと、こっちにも誰もいなか――うわぁっ!?」

礼「おかえり……と言いたいところだけど、事態はさらに深刻になったわ」

法子「な、何があったんですか!?」

都「お二人共! 本当にチヅルさんには道中お会いしなかったのでしょうか!?」

美玲「お、おう! 途中で会っていたら一緒に帰ってきてるぞ!?」

法子「あたしもそのつもりでしたよ!」

礼「じゃあ……いったいどうやって?」

美玲「んなことより! 二人もいっぺんにか!? ど、どういう事だよっ!?」

礼「相手がよほどの実力者って事よ……」

美玲「……も、もう、誰がいったい……オマエなのか!? もう被害を受けてないのはオマエだけだぞ!?」

法子「違います!! それを言うなら……ミレイさんもミヤコさんも、あたしには確証がありません!」

都「落ち着いて! ここで混乱を招き溝を深めるわけには……!!」

――ガシッ

千鶴「っう……!」

礼「気がついた……!?」

美玲「生きてるか!? 大丈夫か!?」

千鶴「はい……なんとか……しかし、そんなはずは……!」

法子「犯人を見たのですか!?」

千鶴「いいえ……その、状況に飲まれて……不覚です」

礼「……手がかりは増えないわね」

都「ちょっと待って下さい、状況に飲まれて……とは?」

都「あたかも“パニックになるような状態が起きていた”といった口振りですね……?」

美玲「……?」

法子「それって……」

都「もしかして、目の前で不測の事態が起きたという事ですか? だとするとそれは……ソラさんですね?」

美玲「そ、そりゃあそうだろ!? 目の前で仲間が攻撃されたら誰だって驚くし慌てるぞ!」

都「しかし相手の顔は見ていない……その後、自分も攻撃されたにも関わらず」

礼「仕方ないんじゃない? 私だって、確認する暇なんてないわよ」

都「ですが……これはなんでしょう?」

――チャリン

法子「小さな……ナイフですか?」

都「これはチヅルさん、あなたのものですね?」

美玲「ソラのじゃないのか?」

都「彼女は決まった武器を持たない……だからこそ、何故か放置されていますが自衛の道具は現地調達のようです」

都「しかしこのナイフ、この路地裏で手に入るものとしては綺麗すぎる、恐らく誰かの決まった所持品……!」

都「ならば、私達が居た頃には落ちてなかったこのナイフはあなたのものです!」

千鶴「ええ……私のもの……それがいったい――」

都「武器、構えてるじゃないですか?」

法子「……あっ!」

美玲「うん? どういう事?」

都「ソラさんが攻撃されて、一度冷静になって武器を出しているではありませんか……!」

都「まさに不意打ちで目の前で攻撃された人が居る時、武器を持つほど思考が進んだにも関わらず……顔を見ていない?」

都「あなたの犯人確保の熱意から考えれば、最優先で特定に動きそうなものですが」

千鶴「それは……」

都「まさかとは思いますが……武器は先に取り出していた?」

千鶴「っ……!」



美玲「おいちょっと待てっ! なんでソラとタマミしか残ってない、他よりも明るいこの場所で武器なんて出してたんだ!」

礼「犯人が居て警戒していた、というのなら顔は見ているでしょう?」

法子「……誰かを攻撃しようとしていた?」

都「そしてその相手は犯人に対してではないという事は……」

千鶴「ちょっと待っ……誤解です!」

礼「誤解が生まれそうな単独行動が多かったからね、釈明には……」

法子「武器を出していた理由は、なんですか?」

美玲「犯人も居ないのに、なんでだ!?」

千鶴「そ、それは……」

都(武器は先に取り出していたとする、そしてこの状況……不測の事態、ソラさんの武装解除……)

珠ちゃん死んだふりか。

都(……チヅルさんは単独で、少なくとも一人をやり過ごしてこの場に来たはず!)

都(どうして会う事を避けた? それは当然……警戒していたから! 犯人が自分を探しに来たと思ったから!)

都(なら、ここにいたソラさんにも、同じような目線で警戒していたはず)

都(ソラさんはきっと、その警戒を解くために武装解除して…………あっ!?)

――ガサガサッ

美玲「な、なんだ? どうしたんだ?」

都「このソラさんの装備の中……今見えました、これは……!」

――ズッ

都「剣……あれっ?」

法子「えっと……竹刀、ですね?」

礼「そんなものも落ちてたの? 本当に色々捨ててあるのね」

千鶴「え……竹刀……いや、そんな……」

都「むっ!? その反応……!」



美玲「何かわかったのか!?」

都「分かりそう、という状況です……竹刀という単語を出して、妙な驚き方ですね?」

都「まるで“思っていたのと違った”という風な!」

千鶴「あ、いや、そんな馬鹿な……!」

都(…………剣の盗難は知っていた、そして現状、もしや?)

都「チヅルさん」

千鶴「……な、何?」

都「あなた…………ソラさんを、剣を盗んだ人物と勘違いして攻撃しましたか?」

法子「!」

礼「……なるほどね」

千鶴「あ、いやっ……私は……!」

都「それならば全て合点が行く……疑心暗鬼の末、暗がりで確認できた剣のようなもの」

都「事前の情報と照らし合わせたらそう考えることも分からないでもない……ですが」

千鶴「ひっ!?」

都「迂闊な暴走は……全員を危険に晒します。 今回も、たまたま双方は背後からの不意打ち、重傷には至りませんでしたが」

都「タマミさんのように、大きな傷を負ってからでは遅いのですよ……!」

千鶴「だ、だって……私を、狙う気だったのでは……」

礼「それを望んでいたんじゃ無かったの? ……駄目ね、意思が一貫していないわ」

法子「チヅルさん、あたしが言うのもなんですけど……訓練と実戦は大きく違います、まずは覚悟を決めてからです」

千鶴「……っ」

美玲「まぁ……勘違いだったんなら、全然良くはないけど、とにかく後で謝ってな?」

千鶴「しかし……ここに誰か敵が居ることは事実で――」

――カランッ

美玲「んっ!?」

礼「何の音?」

法子「……あたしですか? え、何もしてませんけど?」

――カランカラン……

都「それは……えっ!?」

法子「これは、タマミちゃんの……!?」

礼「ちょっと、いったい何処から出てきたの? さっきまでそんな場所には何も――」

千鶴「知れた事っ……!!」

――ダンッ!

美玲「あっ! おいっ!!」

千鶴「あなたが隠し持っていたんでしょう!」

法子「えっ!? 違――」

千鶴「ではどうしてあなたの場所からその剣が!!」

――ギィン!!

法子「っ~! 落ち着いてくださいっ!」

千鶴「止められた……ならこれは――」

――ガンッ!

千鶴「っぐ……!?」

礼「何考えてるの!? いい加減正気を取り戻しなさい!!」

千鶴「邪魔をしないでください!」

法子「えいっ!」

――ドッ ドサッ

千鶴「かはっ……!?」

法子「…………気絶させてよかったですか?」

礼「ええ……ナイスよ。この子、いくら成績が良くても……精神面がダメね、耐性が無さ過ぎるのよ」

都「いいえ……こんな状況ですから、一歩踏み外せば誰だってこうなる可能性はあります……」

美玲「で……話、戻して大丈夫なのか?」

都「……戻したくはありませんが、それ以外に話題は何もありません」

礼「この中に、居るの? 私は実害を受けたのに、未だに信じられないわ……」

法子「あたしもです……もしかして、あたし達は存在しない相手と戦ってるんじゃ……?」

都「それではチヅルさんがソラさんを攻撃し、その後倒れていた説明がつきません」

美玲「落ちてた服と武器も、あの光と音も、絶対にここでなにかあった証拠だしな……」

都「……少し、表の様子を見てきます。ミクさんが帰ってくるかどうかの確認と、気分のリセットです」

礼「お供しましょうか?」

都「いいえ……南側へ向かうので、少し一人で考える時間を頂きたいだけです」

美玲「そっか、じゃあここから見ておくからな、ウチがずーっと見張ってるから大丈夫だぞ!」

都「ありがとうございます、では一瞬だけ……」



・・

・・・


――ザッ

都「何か矛盾点、推理の穴は……このままでは本当に……私とミレイさんを除き二人……」

都「レイさんは最初の被害者、その後はミレイさんが気づくまで拘束され動く事は出来なかったはず……」

都「彼女が犯人なら、最初に姿を隠した段階で再び全員の前に戻ってくる必要はない……いや、あえてその逆?」

都「そしてもう一人……ノリコさんは過去の経緯に嘘偽りはない、それはこの目にかけて本当……!」

都「……しかしよく考えると何一つ現在の証明にはなっていないのでは? いやいや、そんなはずは」

都「それに目立った行動も起こしていない、加えて彼女の武器ではタマミさんの被害のような大きな傷は不可能」

都「奪った武器……にしては、あの場面で剣を落とすなど馬鹿な事は……!」

都「そうだ、そもそもどうして剣があの瞬間に現れたのか……それを考えていませんでした!」

都「結果、千鶴さんの警戒心を暴走させ……討論は打ち切られてしまった」

都「何かから気を逸らした? いったい誰が、どんな方法で?」

都「他……今気絶している三人も様態が心配です、タマミさんソラさんそしてチヅルさん……」

都「もし後者二人が真犯人なら、事件はこれでひとまず収まるはず」

都「ですが……もし違った場合は?」

都「……そうなると、最初に光となって逃走したという人物に賭けるしかなくなる、事件の真相を知る人のはず!」

都「くっ……私がついていながら何も事件の解決に力になれないとは……!」

都「いや……まだ希望は捨ててはいけません、もしかしてあの場に残っていた服や武器がメッセージかもしれません!」

都「そうです、服が脱ぎ捨ててあるなど異常です……そうと決まればすぐに引き返して……」

――…………

都「武器……?」

都「あれは、武器ですよね? 一見するとパーティグッズにしか見えない、玩具のような武器……」

都「そもそも、どうして私は武器と思ったのでしょうか?」

都「光の筋にしても……気づいたのは遥か遠方で全貌を見たため移動魔法と判断しましたが……」

都(私達より早く現場に向かっていたら、この高層建造物の間で光を移動魔法と判断がつくでしょうか……?)

都「…………引っかかります、なにか重大な糸口を見逃しているような……!」

――ザッ

都「……ずいぶん明るくなりましたね、それにしても……さすがに徒歩移動だと長いですね」

都「しかし、もうこれ以上は絶対に人員を分割しません。今まではチヅルさんの単独行動があり不可能でしたが……」

都「今から全員に目を離さず一箇所に留まれば……被害は出ないでしょう」

都「そうと決まれば早く帰りましょう……おっと、明るくなったおかげか、ここからでも十字路がうっすらと見えますね」

都「しかし人影までは見えない、見えない? おや、おかしいですね……確かミレイさんがこちらを……見ていると……」

都「見ている、と…………」

都「…………はは、そんな馬鹿な……そんな馬鹿な……!?」

――ダッ!!

――ザッ!

都「ミレイさん! レイさん!? ノリコさん!!」

都「あの一瞬で……なんで、誰もいないんですか!?」

都(ソラさんも、チヅルさんも、タマミさんも……私が一人で動いた瞬間、一人の私じゃなく……残りの全員に!!)

――カリッ

都「っ!?」

都(誰もいない、静かだからこそ……小さな音まで聞こえる……!)

都「く……私一人では迎え撃つも何も……とにかく、探さなくては……」

――…………

都「っ……今、少しだけ声が聞こえたような、北側から…………う!?」

都「あれは……今行きます!!」

――ズザザザッ

都「ミレイさん!? その傷、いったい誰にやられたんですかッ!!」

美玲「うぐ……っ……!」

都(まだしても……“背後”から、それもこの大きな傷……全てに置いて共通……)

都「……いや、喋らなくて結構です。安静にしていて下さい……もう、犯人は分かりました」

――ザッ

都「…………なるほど、ミレイさんを囮に、この袋小路に追い詰めたと」

??「もう、あなたが最後の一人です」

都「その声……やっぱりあなたでしたか」

??「途中で気付きましたか?」

都「途中も何も、恥ずかしながら今です……最後にひとつだけ、どうしてわざわざ囮を?」

??「三人一斉に狙ったものの、運が悪かったようで」

??「まとめて斬りきれませんでした、少し顔を見られてしまって」

都「……それで生かすのではなく?」

??「よく考えればお二人はあのミクという人物の知り合い、なら生かしても殺人鬼の候補にはなりませんなあ」

??「では仕留めても変わりません、もちろん骸は処分させていただきますが」

都「なるほど…………」



??「それでは最期にこちらの正体の答え合わせといきましょうか?」

都「いいえ、最後くらい……探偵に見せ場を頂いても構わないでしょうか?」

??「ほう」

都「違和感、おかしい点は最初でした……いや、今改めて最初がおかしいとようやく感じた程度ですが」

都「むしろそれ以降は自然も自然……道理で途中で推理を始めても何も見つからなかったわけです」

??「それは褒めているのでしょうか?」

都「こちらとしては、負けです」

??「それは良い事を聞きました、まだまだ演技力も捨てたものではありませんなぁ」

都「おかげでこちらは窮地ですけどね……!」

美玲「ミヤコっ……余裕してる暇はないぞっ……!?」

――グッ

都「ミレイさん!」

美玲「ウチはこれくらいで……倒れないからなっ!!」

??「おや、頑張りますね?」

美玲「なんとか時間は稼ぐから、その隙に長を呼んできてくれ!!」

都「駄目です! 無茶をしては――」

??「その通りです!」

――ザンッ!!

美玲「げほ……っ!?」

都「ミレイさん!!」

美玲(な、んだ……ウチ、いつ斬られた……!? あいつ、剣なんて持ってない……のに……!)

――ドサッ

??「時間を稼ぐとは何だったのでしょうなぁ? しかしまだ生きています」

都「く……!」

??「答え合わせを聞いていませんから、もし機嫌を損ねたら後学の為の証拠隠滅講座が閉店するやもしれませぬ!」

??「さぁ、この舞台の演技指導を……この珠美に教えてはくれませぬか?」

都「……あなたが正体不明の殺人鬼で間違いありませんか?」

珠美「その通りですが、例え録音していたとしても処分するつもりですので」

都「く……」

珠美「おやおや図星ですか? 駄目ですよ、そんなにすぐ反応を返しては、裏表は分けねばなりませぬ!」

都「説得力のある言葉ですね……」

珠美「しかし最後の最後といえど珠美の正体に気づくとは、どこかでそのような失敗を犯しましたかな?」

都「先程言った通りです……最初にお会いした時――」



――――これは……どういう状況ですか!? 被害者は居ないようですが、その転がった武器と服はなんですか!?



都「服は分かります、しかし……私には転がっていた物が武器には見えなかったんですよ」

都「どう見ても外見は玩具のそれ、しかし開口一番あなたは武器と言った!」

都「つまり武器だと知っていた、交戦していた相手が武器として使ったんです!」

珠美「……あーっはっはっはっ! なるほどなるほど、それは立派な失敗ですなぁ! 珠美がうっかりしておりました!」

珠美「初めて獲物に逃げられて動揺しておりました、その後も一度は身を隠して違和感なく合流したつもりでしたが……」

珠美「そうですかそうですか、珠美も修行が足りませぬなぁ!」

都「……次に、その後の証言についてです」



珠美「珠美は三番目です、通路の南側から……声のした方向を探している途中で……」

法子「通りを歩いている時に声が聞こえて、何事かと思ってそっちに走って行ったらタマミちゃんが居たんです」

珠美「そうしてノリコ殿と合流し、声が聞こえた方向は北側と聞いて共に駆けつけました」



都「大通りと通路、近い位置にいるあなたが声の方向を探している途中なのに……」

都「より遠くにいたはずのノリコさんの方が声をはっきり聞いている」

都「さらに私達も遠くでしたが、声の方角は分かっている。近くにいたはずのあなたが何故理解できていない?」

都「それは当然、知らないフリをして、後から来る誰かと違和感なく合流するため……!」

珠美「その通りです、共に現場に駆けつければ短いながらもアリバイが生まれますから」

珠美「しかし爆発音が思ったよりも遠くにまでしっかりと聞こえているというのはうっかりでしたね、いやはや」

都「……そして次」

珠美「まだありますか? うーむ、珠美も反省点は多いようです」



――――確かに……光の筋のようなものが空に伸びて行きました!



都「光の筋、それは移動呪文の事でしょう」

珠美「勿論です、だからこそ他人も知っている知識だろうと判断して発言しましたが?」

都「私は少し遠くから見ていたので光を筋として目視する事はできていました」

都「が、現場のすぐ近く……高層建造物に囲まれた位置で爆発音の特定すら出来ていない人物がですよ?」

都「一瞬で飛び去る光を、筋としてはっきり認識できるかと言われれば……」

珠美「おぉ……それは無茶な要求ですな、違和感丸出しではありませぬか、まるで現場を見たかのような!」

都「実際見ていたのでしょう?」

珠美「あははは、そうでしたそうでした!」

珠美「……終わりですか」

――シャキンッ……

都「っ!? 剣が……!」

珠美「剣ではありません、珠美の学んだ場所では刀と呼んでいました」

珠美「どうですかこの美しい直線、刃の光沢、切れ味……!」

――ザクッ

都「っ!」

珠美「触れるものを全て……この珠美の指にすら赤い線を走らせます……あはははっ!!!」

珠美「白い光が赤い閃光を走らせる姿はもはや芸術と言えるでしょう! アートですよ!」

珠美「人は脆いもので、ひとつの線を引いただけで崩れてしまう儚いものです! ですが!」

――ヒュンッ

珠美「散り際が最も美しいのは華も同様、摂理です!」

珠美「世の中物騒だと、自衛の意識が高まり簡単に事が運ばなくなった時期もありました……」

珠美「しかし帯刀していなければ、この体格ゆえ疑われる事無く接近が可能!」

都「……なるほど、その武器は“物”ではなく“具現化”したものだったと」

珠美「ご名答! 大正解ですよ! 皆が皆、武器を持っていないというだけで迂闊に懐を曝けすぎですぞ!!」

こんなにかっこいい都と珠ちゃんははじめてだぜ…!

都「途中、わざと襲撃されたフリをしたのは……」

珠美「チヅル殿が暴走したのは予想外ですが、結果的にプラスです」

珠美「腹を斬った刀も元は珠美のもの、見た目よりも浅いダメージしか負いませぬ!」

都「そうして倒れた演技で、こっそりと全員を……!」

珠美「珠美は演技派ですからなぁ!!」

都「そうして私に正体を……!」

珠美「これから斬る相手です! いくら話そうが関係ありませんな!」

都「そうして……これからも!」

珠美「変わりませぬ! 珠美はこの腕さえ自由に振るえれば何も必要ありません!」

珠美「では雑談は終わりです…………覚悟!!」

都「っ!」

――ガッ

珠美「……おやおや、その手はなんでしょうか?」

都「あっ……!」

珠美「まったく、もう少し帰ってくるのが遅ければ刀の錆になる必要はなかったというのに」

――ゴシャッ!!

珠美「がふっ!?」

――ガンッ! ズザザザッ……

珠美「……ひどいですなぁ、会うなり顔に拳を叩き込むなど。短い間でしたが共に行動した仲間ではありませぬか」

??「いーや、こんな人でなしの知り合いは居ないにゃ」

都「ミクさん……!!」

みく「ふーん……あんたがこの街の殺人鬼かにゃ?」

珠美「ええ、悪くない結末でしょう?」

みく「そうだにゃ……とりあえず、よくもミレイをそんなにしてくれたにゃ!!」

――ダンッ!!

珠美「おっと」

みく「にゃああッ!!」

――ビュンッ!

珠美「当たったらどうするんですか」

みく「ふざけんにゃああ!!」

――ザシュッ!

都「ミクさん!?」

みく「っう!!」

珠美「そんなに乱暴に腕を振り回していては……斬ってみたくなるではありませぬか!」

みく(言うだけあるにゃ……この体格のどこからこんな腕力と速度が!)

みく「斬れるものなら、斬ってみろにゃ!!」

珠美「それでは遠慮なく!!」

――ヒュンッ

――ザシュッ

みく「ぐぅ!?」

珠美「お、っと……」

都「相討ち!?」

みく「いいや、このままこの隙に――」

珠美「このまま何をするつもりですかなぁ!!」

――ドンッ!

みく「にゃっ!? しまっ……」

珠美「隙というのはこうして作るんですよ!」

都「危な……!!」

――ザクッ!!



都「あ、あ……!」

みく「っ……かはっ!?」

珠美「かつての侍は決着がついた時に、つまらぬものを斬ってしまったと言い放つそうですが」

――ズシュッ ドサッ

珠美「つまるものとは何でしょうな? 世の万物みな等しく珠美は斬るべき対象として見ていますゆえ、違いが分かりませぬ」

都「う…………!」

珠美「それで、もう話す事はありませぬな? 正真正銘最期の言葉として、何か一言ございますか?」

都「ミクさん……ミレイさん……!!」

珠美「おやおや、人の心配よりも自分の心配をした方がよろしいのでは?」

都「いいえ…………時間は稼げましたよ」

珠美「ほう?」

――ザザッ

珠美「む、何か大勢の気配がしますね」

都「当然です……元々ミクさんは応援を呼びに行っていたのですよ……!」

珠美「たしかにそうでしたが、これは有り得ませんぞ? 応援に向かった段階ではそもそも珠美の正体どころではない」

珠美「この場に“居るかどうかも分からない”という段階だったはず、ここまで多くの兵は呼べませぬ」

都「その通りです……しかし、これはどうでしょう?」

――スッ

珠美「…………?」

――カチッ



都「……あなたが正体不明の殺人鬼で間違いありませんか?」

珠美「その通りですが、例え録音していたとしても処分するつもりですので」



――…………

珠美「……それがどうしましたか? 応援の部隊が大勢だろうが少数だろうが、情報は渡っていません」

珠美「通信が本部に繋がらないという点は珠美も存じています、時間帯が時間帯ですからね」

珠美「仮に近くまで応援が来ていようと、ここへ来るまでにあなたを仕留めて証拠を消して、珠美は消えればいいのです」

都「本当にいいのですか?」

珠美「くどいですなぁ、それ以外に何の心配が……」

都「通信機は確かに本部に繋がりません、しかし……ずっと繋がってはいたのですよ?」

珠美「……?」

――ゴソゴソ……

珠美(いったい何を探して……!?)

都「通信先は……ここ……!」

珠美「ミク殿の懐から……通信機!?」

都「……もうお分かりですね? これらが導く真実は一つ!」

珠美「録音は囮……!? 実際は、この様子を常にミク殿が聞いていた……!?」

珠美(確かに彼女がここに駆けつけた際、珠美は普通に応対したはずなのに問答無用で攻撃された……)

珠美(その理由は珠美を既に犯人と知っていたから……そして駆けつける前に知っているという事は……!)

都「ふふ、どうしますか……? ここで私達を仕留めて、証拠の音声を消しますか?」

都「最も……既にミクさんが応援部隊に伝えていますけどね……!!」

珠美「こっの……貴様ぁぁ!!!」

――ギィンッ!!



都「…………へへ」

珠美「その余裕がカンに障ります……珠美が少し腕を引けば、その首を胴体と分かつのは簡単ですぞ!!」

都「どうぞ……! 大挙して押し寄せる応援部隊の準備が整うまでの時間を与えてもよろしければ……!」

珠美「ぐぅ、うう……このっ……!!」

――ダンッ!

珠美「この屈辱は、いずれその首で償ってもらいます……どの道正体が知れたなら同じ事!!」

珠美「まずはこの場を切り抜ける事に全力を傾けます、それまで……その命は預けましょう!!」

――タタタッ

都「…………!」

都「よ、よしっ…………まずは急いで……」

――ヒュンッ タンッ スタッ

珠美(とんだ無駄話……! よく考えれば時間稼ぎが見え見えだったではありませぬか……!)

珠美(しかしあの場で退かなければ状況がさらに悪化したのは確か。この大勢の気配、囲まれても逃げ切る自信はありますが)

珠美(万が一、幹部級を動かす権力が……そうなるとまずい、整う前に退散が最善手!)

――ザッ

珠美「……!?」

――ガヤガヤ

珠美(なるほど……時間は早朝といえど、ここまで国の応援部隊が動けば野次馬も集うでしょう)

珠美(これほど大勢の人が集まれば気配が察知出来ませぬ……しかし、珠美なら野次馬に紛れて脱出は容易!)

――スッ

珠美(刀は収める、これで見た目には問題なし……!)

珠美(後はこの野次馬の中に居るはずの本当の応援部隊に勘付かれないうちに、この場を去る!)

――ザッ ザッ ザッ スッ

珠美「……えっ?」

珠美「…………集団を、抜けた?」

珠美「いや、そんな馬鹿な……正体不明の殺人鬼を追う一団と野次馬が、これほど少人数なわけ……!」

珠美(……何? まさか!?)

珠美「少し失礼します! 通してくだされ!」

珠美(人は集まっている、しかしこの集団……よく見れば路地裏へ視線が向いていない!)

珠美(視線は隣、この建物……!?)

――バッ

珠美「これは……!?」

――ゴオオオオッ

珠美「し、失礼しますが殿方! この集団はいったい……」

――ああ、朝っぱらから火事だってよ。 ついさっき見つかって国の兵隊が消火と救助に忙しいんだってさ。

珠美「な…………っ!?」

――ダダッ!!

――……ザッ!

珠美「くそっ! 何が応援だ、何が通信機ですか、何が珠美は包囲されているですかッ!!」

珠美「もう路地裏には誰もいない……! 気絶させたまま隠した他の四人も、ことごとく……!」

珠美「…………はは、あはははは!! 何が真実を見抜く探偵ですか!」

珠美「あなたの言葉が……嘘偽りだらけではありませぬか!!」

珠美「あはは、あーっはっはっはっはっ!!!」




・・

・・・


都「はぁっ、はぁっ……!」

美玲「大丈夫か!? もう一人ウチが持とうか?」

都「いいえ、ミレイさんこそ傷が深いのでしょう、私は何も協力できませんでした、だからこれくらい……」

美玲「そんな事ない! 現にこうしてアイツを騙して逃げる隙を作ったじゃないか!」

都「……少々、他人に迷惑をかけましたが」

美玲「これを見越して先に火事を起こしたのか?」

都「危機的状況が起きているという事は通路を折り返す前に感じていましたから……人が集まるかどうかは賭けでしたが」

都「野次馬を上手く大挙してきた応援と誤認させれば、後は口八丁でどうにでもなります……!」

美玲「分かんないけど、分かんないけどさ、ウチには分からない凄い事やってたんだな!」

都「ですがこの先、真剣に命を狙われかねません……名を伏せて遠くに逃げる必要があります」

美玲「ウチはそういう訳にもいかないんだよな……」

都「申し訳ありません……非常に面倒事に巻き込んでしまって……!」

美玲「いやいや、ウチが自分で協力したことだよそれに対策なんて後で考えれば――」

みく「大丈夫だにゃ」

美玲「うわっ!? 起きてたの!?」

みく「さっさと降ろすにゃ、みくも手伝う……」

都「すいません、怪我しているのに手伝わせてしまって」

みく「構わにゃい……それで、対策についてだけど応援を呼んだのは確かにゃ、別口で後日って事になるけど」

都「というと……?」

みく「正直……非常に申し訳にゃいけど、今この瞬間は誰も呼べなかった」

美玲「うおぉ……って事は、あの状況から逃げるにはこの選択肢しか無かったって事か……ミヤコ、お手柄だぞ!」

都「そ、そんな事を言われましても……そ、それで応援というのは?」

みく「顔と名前が分かっているかどうかだけ心配だったけど……それは問題ないにゃ?」

美玲「ああ、アイツが正真正銘例の殺人鬼だ!」

みく「じゃあ大丈夫、顔と名前さえ分かれば……その人物が後は全てやってくれるにゃ」

都「それほどの人物……いったい誰に応援を頼むことになったのですか?」




・・

・・・


みく「応援? 今すぐには無理なのかにゃ!?」

のあ「今すぐの必要はない……」

みく「そんな訳ないにゃ! もしかすると帰る頃には――」

のあ「私には危険性こそ感じても、緊急性は感じない、心配しないで」

みく「むむ……でもそれだと」

のあ「もちろん対策を打たない訳ではない……顔と名前、必要なものはそれだけ」

みく「にゃ?」

のあ「彼女は悪人に対しては……特に、誰も手が付けられない問題児に対しては、強い」

みく「……? ……?」

のあ「あなたは早く戻った方がいい……対策は、私が取る」

みく「よ、よくわかんにゃいけど、任せていいんだね? じゃあみくは急いで全速力で帰るにゃ!!」

――ダッ!!




・・

・・・

美玲「はぁ? 結局誰かは分かんないのか?」

みく「しかし有名な人というのは確かみたいだにゃ」

都「……悪人、問題児?」

みく「心当たりは?」

都「恐らく賞金稼ぎの有名どころの事だとは思うのですが、いかんせん多すぎて絞りきれません……」

都「正体不明の殺人鬼、この情報を与えて快く協力を承諾する人物……かなり物好きではあるでしょう」

美玲「でもこれからは正体が広まるからもっと積極的になるだろ?」

都「……不用意に討伐を狙って返り討ちに遭う人物が増えなければいいのですが」

美玲「それは……仕方ないだろ、ふつーの人が襲われるよりマシだって」

みく「とにかく、今は逃げてる途中、うまく撒いたみたいだけどもう少し走るにゃ」

都「ええ、落ち着いて休息出来る場所まで……事件は解決までは行かなくても、重要な手がかりは得ました」

都「しかし私達では……ここから先は力不足」

みく「専門家に任せるにゃ……じゃ、さっさと本部に帰って一部始終の説明にゃ」

美玲「…………力不足かぁ……」

---------- * ----------
ちょっと番外、視点を変えて美玲とみく側のお話でした。
もちろんキャラは使い切りではないので今後も出てきます。

>>571-572
早苗さんはキャラ上、どうしても頼りがいのある味方、という印象が強かったので実力もアッパー気味に。
ただ、このお話では少々自己中心的な立ち振る舞いをする厄介な人になってきました。

>>592
既に構想している後に使う予定の話にも出番があるので、出番終了ではありません。

>>667
完結までお答えできませんでしたが、ご覧の通り決めるところは決めますが
見落とし量が割と半端ないという形です。 その嘘を見抜く眼力の使いどころはおかしい。

>>738
頑張って目立たないように隠したつもりでしたが……
ヒントというより手がかりは、確かにそれと分かればあからさまですかね。

>>754
ギャグに走りがちな二人なので、かなり重い設定と真面目な設定を盛り込みました。
特に珠美の方は担当Pに斬られても文句言えませんが。
---------- * ----------

:ミヤコ=アンザイ(安斎 都)
 家系の単位で探偵という職業に就き、事件や依頼をこなして生活する。
よく想像される殺人事件の犯人を突き止めるといったタイプの探偵ではない、
人の死が稀ではない世界の為よほど重要人物の殺人でなければその手の仕事は舞い込まない。
今回は“国が捜査を放棄した”と思い込みから正体不明の殺人鬼を追う。
途中、戦闘技術がない自分に協力してくれるミレイとミクと合流、以降行動を共にする。


:ノリコ=シイナ(椎名 法子)
 パティシエ志望の家出少女、そしてその正体は幼い頃から鍛えられた戦闘技術と知識の塊。
娯楽も希望も見つからない生活から家を飛び出し、一人旅の途中で出会ったとある人物に受け取った
ひとつの食べ物に感動し、この道を選ぶ。 以降家どころか国にも帰ってはいない。
持つ力と技術は本物だが滅多にその力を振るうことはない、むしろ露見を恐れてひたすらに隠す。
学習能力や知識の吸収は非常に早く、既に菓子作りの技術に置いてもトップクラスである。


:レイ(篠原 礼)
 その日暮しの流浪の旅人、ミレイ同様獣人族である、出身は異なる。
夜行性の体であるが行動はもっぱら昼で、人間と同じく夜は睡眠、休憩である。
視力、聴力など五感に優れ、身体能力も非常に高い。今回の場合は宿で休憩中に音を察してしまったから
事件に巻き込まれたとも言えてしまうが、すぐに何事かと駆けつけるほど正義感は持っている。


:チヅル=マツオ(松尾 千鶴)
 成績優秀、実力もお墨付きで故郷から送り出された新進気鋭、まだ無名の賞金稼ぎ。
数多くの期待と責任感から迅速に名を挙げようと今回の標的を選び、そして巻き込まれた。
自身が周囲に劣っていた経験が無く、実戦の経験が無かった為、精神の動揺から成果を残すことはできなかった。
しかし落ち着いた状態であれば知識実力は成績に違わず非常に優れた能力を発揮する。


:ソラ=ノノムラ(野々村 そら)
 元拳闘士、敗北イコール死の世界で育ち生き残った実力者。
人同士で生死が関わる決闘という違法行為を行う国に対してある一人の人物が侵略を行い、壊滅させた、
その国解体に紛れて自由の身に、そしてその人物を陰ながら追いかけ、当人のやたらと明るい性格が形成された。
過去は触れたがらない、だが過去の経験上戦闘技術や武器の扱いには非常に長けている。
現在、自主的な慈善活動を行い生活している、一部では名は知られていなくてもその姿と口調は有名である。
 

:タマミ=ワキヤマ(脇山 珠美)
 遥か遠方の故郷から剣術修行として未来区に移り住み、その鍛錬に励んでいる。
その正体は長らく手がかりすら掴めなかった『妖の殺人鬼』本人であり、数多くの人をその手にかけている。
自身の名前を漢字で表記し名乗るのは武士という一族の名残、本名が漢字であるわけではない。
刀は本物ではなく具現化したもの、出し入れが可能。手ぶらを装い事に及ぶことが多かった。
現在は正体が露見したため、まだ世間には公表されていないものの万全を期して今の居住区と狩場を離れた。

名前と顔がわかれば全情報を調べられるといえば1人思い浮かぶけど、その人なんだろうか・・・

>>768
今回は 顔と名前を元に“それ以外の分からない情報を調べる”というわけではないので恐らくその人の出番ではないです。
描くのはもう少し後になると思いますが、新規の登場人物です。

珠ちゃんがシグルイの絵柄で再生される…

 ハルナから受け取った移動式を使い、難を逃れた四人。
目標は変わらず相手陣営の撃破であるが……一時の休息が訪れたおかげか、冷静に会議が進む。

 撃破とはいえ、正面から相対するべき相手ではない、内部では味方だったのだ。
そうと分かれば問題は次、現状どうすることも出来ないと思っていた人物の解放への足がかり。



李衣菜「……こんな時だからさ、落ち着いて話せるタイミングだから改めて聞くけど」

卯月「なんですか?」

李衣菜「さっきの話、本当?」

未央「さっき? あ、そういえばしまむー言ってたね」

卯月「あっ、石に詳しい方ですか?」

李衣菜「あの時は詳しく聞けなかったけど、今は少し余裕がある、聞いてもいい?」

――ガチャッ

未央「そういや確認してなかったけど、ここは場所的にどこになるんだろ?」

凛「ちょっと、窓を開ける時は少しくらい警戒して……」

未央「あれっ……ずいぶん人が多い……」

李衣菜「なんだって?」

卯月「これ、もしかして……」



凛「……ちょうど、警戒網の境目にある家」

李衣菜「なるほどなるほど……へへ、これはまた嬉しい話だね」

未央「なんで?」

卯月「内側にも外側にも移動できるからね、立ち回りの中心になると思うよ」

凛「でも問題もある、この建物の入口は警戒網の内側にしか付いてない」

李衣菜「だから外へは窓から飛び降りでもなんでもすればいいけど、外から内はちょっと」

未央「ああー……目立っちゃうか、逆はともかく」

卯月「どうします? いっそ全員で警戒網の外へ抜けて安全を確保すれば――」

凛「逃げちゃったら手配はどうやって止めるの?」

卯月「あ、ああー……」

李衣菜「それは止めときなよ、警戒網を潜って全員が脱出したとなれば、やましいことしてますと自供してるようなもんだよ」

未央「じゃあどう動くのが正解?」

李衣菜「話を戻すよ? 私はなつきちの為に、その人と交渉がしたい」

卯月「私が案内します!」

李衣菜「それは頼むとしても……“全員逃げた”と思われて、手配が撤回しようがない段階まで進むと困るでしょ?」

未央「うんうん」

李衣菜「だから……二人には、適度に内部で応援が来るまで逃げてもらわなくちゃならない」

凛「……大役だね」

未央「私としぶりんで確定?」

李衣菜「もしかして、応援の人と面識がなかったりする?」

凛「いいや、大丈夫。知り合いだよ」

李衣菜「じゃあ……特に理由がない限りはそのままにしよう」

未央「纏めると、しまむーとリイナさんは外へ、私のしぶりんは内側に」

卯月「たぶんそういう事」

凛「戦力の分散は危険と思ってたけど、向こうの二人が内部的にはこちらの味方ってわかったから大丈夫だね」

李衣菜「やっぱり人脈って大事だよ、私なんてなつきち以外誰も知り合いなんていない」

李衣菜「……だからこそ、絶対に助けたい」

卯月「分かります! 絶対に、なんとかしますから!」

未央「そうと決まれば早めに動いた方がよくない? この場所に潜んでいたらしばらくは大丈夫だと思うけど」

凛「私たちは相手側の行動を見てから動く……でも、二人は早く行った方がいいんじゃない?」

李衣菜「出来ればそうしたい、けど大丈夫?」

未央「任せて! さっきの学校での攻防も、私は一人で戦ったパワフルな戦士だよ!」

凛「…………」

未央「あ、その、みんなが何もしてないなんて言うつもりはないんだよ? ねぇってば!」



卯月「じゃあ、私達は出発するけど……本当に大丈夫?」

凛「心配してくれるの?」

未央「そこは大丈夫です! って返すのが礼儀でしょ?」

凛「誰に……」

李衣菜「ここにずっと潜伏してちゃ駄目だよ? ハルナの移動式で来た場所だから当然ハルナは知ってるからね」

未央「そうそう、しばらく経過したら移動しなきゃ……でも、どこに行く?」

凛「それなんだけど……さっき考えた結果“あの場所”に行こうと思ってる」

卯月「……?」

未央「あの場所?」

凛「うん。灯台下暗しって言うでしょ?」



・・

・・・


琴歌「おかしい」

雪美「…………?」

琴歌「移動式で逃げたのなら近距離のどこかに潜伏しているはず」

琴歌「だというのに……あれから何の成果も無く……」

千秋「翌日……現在時刻はちょうど正午ですね」

琴歌「どういう事なの!?」

雪美「隠れた……か、逃げた…………」

琴歌「そんな事は分かっていますわ! 問題は、それをどうして見つけられないかという話ですわ!」

千秋「捜査は先日より変わりなく――」

琴歌「変わりなく? それでは駄目です! 強化するのが当たり前でしょう!」

雪美「もう……充分……」

千秋「ユキミの言う通り……これ以上動員しても効率上無駄が出るだけでしょう」

琴歌「く……いったいどこに!?」

千秋「…………少し、席を外します」

琴歌「ええ……一人で考える時間が欲しいわ」

――スタスタスタ

――カンッ カンッ

千秋「二階……ここは使わないと宣言した、散らかったまま……」

千秋「…………」

――トントン

??「入ってまーす」

千秋「……ふざけてるの?」

――ガチャッ

未央「やぁ」

凛「お邪魔させてもらってるよ」

千秋「私はコトカ側の人間、すぐ下の彼女に報告に行ってもいいんだけど」

未央「信じてるよ!」

千秋「…………私の、いったい何を?」

凛「本当はどちら側の人間か」

千秋「……前に言ったでしょう? 興味本位で私に関わるくらいなら――」

未央「ところが興味本位じゃない、本気で取り組んでいる」

凛「話してくれてもいいんだよ。いや、話さなくてもいい……私達が、勝手に察する」

千秋「勝手に話を進めないで!」

――……ちょっと? 二階で何をしているの?

凛「!」

未央「やっば!」

――バタンッ

未央「あっ」

凛(閉められた……!)

――カンッ カンッ

琴歌「……ここで何をしているの?」

未央(コトカ……!)

千秋「……掃除です」

琴歌「しなくて結構と言ったでしょう? 珍しいわね、命令に背いて」

琴歌「それとも、色々な事案が重なりすぎてど忘れしちゃったのかしら? なんにせよ、この部屋の掃除は結構」

千秋「…………」

琴歌「それよりもさっさと警備の指揮を強化するように言いなさい」

千秋「……警備を、強化。ではハルナとケイト両名を北部へ、残り二名のトウコ、メグミを南部へ送ります」

未央(!?)

琴歌「確認は結構、あなたの自由にしなさい。それだけの権限を持たせていますからね」

千秋「はい……私が、指揮の全権を……」

――カンッ カンッ

凛「…………聞いた?」

未央「うん……それよりも、私達の居場所バラさなかったね」

凛「チアキさんも何か理由があってあの人についてるはず、というのが分かったね」

未央「そりゃそうだよ、あんな立派に考えがあって動いてる人が……自主的に協力しているわけないよ」

凛「……理由の考察は全員が合流してから……で、聞いた?」

未央「うん……! ハルナさんとケイトさんが、北部へ移動するって」

未央「だったら……実際の敵である残りの二人が固まる、そこへ……」

凛「応援の二人と、攻めに行けばいい!」

千秋「お話している所悪いけど」

未央「ひゃあ!?」



千秋「……そんなに驚かなくても」

凛(階段で一緒に降りたはずじゃ……)

千秋「別に庇ったわけじゃないわ、この場でバラしたら私達の責任になる」

未央「え、どういう事?」

千秋「居住空間に侵入されているのよ、そしてここの警備を受け持っているのは――」

未央「あああっ! ごめん! 出て行く! すぐ出て行くから!」

千秋「……出るの?」

凛「迷惑かけるなら出て行く。それに今、情報も聞いたからね」

千秋「私が嘘を言っている可能性は?」

未央「ここに隠れてるのが分かってて、捕まえようとしないのに嘘を言う理由はないと思うけど」

千秋「そうかしら?」

未央「ま、とにかく信じるから! それに、中途半端な気持ちで介入しようとも思ってないから!」

未央「何かあったらこのミオちゃんを頼ってね!」

凛「ミオ、早く行くよ!」

未央「了解っ!」

――ダッ

千秋「…………」

――ガチャ

雪美「……チアキ……呼んでる」

千秋「ええ、分かった……」

雪美「……誰か、敵が居たの?」

千秋「いいえ……ここには誰も居なかったわよ」

千秋「少なくとも、私達の敵らしき影は」

雪美「じゃあ…………行こう……」

千秋「そうね、呼ばれているなら行くわ、その前に……警備に指示を伝えなければ」

雪美「……?」

――ピッ

千秋「もしもし……こちらコトカの使いの……ええ、チアキです」

千秋「ハルナさんですか? …………今から警備の配置を変えます、言う通りにお願いします」

千秋「たった今から……メグミさんを連れて南部へ移動してください。そしてケイトさんは、トウコさんと北部へ」



・・

・・・


李衣菜「ついた! ……ついた? あれ?」

――ザッ ザッ

卯月「ぜぇ……はぁ……は、早い……」

李衣菜「ご、ごめん、いてもたってもいられなくて」

卯月「気持ちは分かります……で、でも……私の体がついていかなくて……!」

李衣菜「本当ごめんって! 休んでて! 私が後は交渉するから!」

??「あら……?」



椿「お友達、ですか?」

卯月「ツバキさん!」

李衣菜「この人?」

卯月「じゃない、ですが……ツバキさん、まだトモカさんはお店にいらっしゃいますか!?」

椿「トモカちゃんは常にお店に居てくれますよ、呼んできた方がいいですか?」

李衣菜「いいえ! こちらから向かいます! えっと、店どっち?」

卯月「あっち!」

李衣菜「じゃあ私は先に行く! 後から迎えに来て! 絶対話纏めてくるから!」

――ダダッ

椿「とても賑やかなお友達ですね」

卯月「ああ、まぁ、なんです、はい……」

椿「トモカちゃんに何の用事ですか?」

卯月「ちょっと複雑な事情があって、知識を借りに来たんです」

椿「しばらく留守にしなきゃいけないかしら?」

卯月「あ、それはないと……思います、すいません、まだなんとも」

椿「……あの人の急ぎ様、ずいぶん大事ですか?」

卯月「そうなんです……」



――カランッ

智香「いらっしゃいませー!」

李衣菜「あなたがトモカさん?」

智香「はい、そうですけど……アタシに何か」

――ガシッ

李衣菜「助けてください!」

智香「……は、はい?」

李衣菜「鉱石や宝石に……ぞーしが深いとウヅキから聞きました!」

智香「ウヅキちゃんから……? ……そう言われたら、詳しく聞かないと駄目だなぁ、アタシに出来る事なら」

李衣菜「はい! 実は――」

――…………

智香「それは……ずいぶん非道い話だね……」

李衣菜「お願いします! 解除の方法、いや、手段だけでも……なんならヒントだけでもっ!」

智香「お、落ち着いて落ち着いて! 問題なのは一つだけだから!」

李衣菜「問題があるんですか!? 必要なものがあれば何でも持ってきます! 盗ってきます!!」

智香「そうじゃないそうじゃない!」

李衣菜「じゃあ報酬ですか! 後払いになりますけど何でも言ってください!」

智香「報酬なんて、もう十分すぎるほどウヅキさんたちから貰ってるので結構ですよ!」

李衣菜「え?」

智香「あ、ちょっと前の話なんだけどね、大きすぎる恩は貰ってるから……」

李衣菜(色々やってるんだなぁ……)

智香「……で、問題は準備や報酬じゃなくて……その石を身に着けてから一日ほど経過しているって事実」

李衣菜「っ……」

智香「普通は身に着けるものじゃない、ってのはだいたい分かってると思う」

智香「そして数時間でも、体に重圧を掛けるのは危険」

李衣菜「じゃあ…………」

智香「こればかりはその人がどれくらいの体力と、精神力があるかによるね」

李衣菜「精神力も?」

智香「休憩も睡眠も、移動も、食事すら満足に取れないはず……」

李衣菜「…………」

智香「こんなに長時間、身を危険に晒すのは……前例が無いから、何とも言えない」

李衣菜「……それで、重力を切るにはどうすれば?」

智香「石は指輪の形に加工されているんだよね?」

智香「それなら大丈夫なはず……重力石は魔法道具の一部に使われたりする鉱石」

智香「その効果を抑えるための方法も確立されてる」

李衣菜「本当!?」

智香「重力石は一定の環境では、その効果を発揮しない……その環境とは、本来重力石が取れる場所の環境」

李衣菜「……?」

智香「もともと採掘出来る場所で、この効果が垂れ流しになってたら大惨事になる、でもそうなってないって事は?」

李衣菜「採れる段階では、重力は発生していない?」

智香「そう、だからその状況を再現……というより、その採掘場所に共に存在している土、水、空気……いずれかがあればいい



李衣菜「あ、集めてくる! 場所は!?」

智香「まだ話は途中ですよ? 当然、現地から取って来てもいいですが……時間、無いんですよね?」

李衣菜「う……で、でも! 私全速力で行くから!」

智香「その全速力は、この村からあなたの相方に会いに行く時に使ってください」

――トンッ

李衣菜「……え? これは?」

智香「ちょうどアタシは持ってます、これが同じ場所で採取出来る鉱石です」

智香「これをその重力石と触れ合わせれば、次第に効果が薄くなりますよ」

李衣菜「で、でもこれ……貰っていいの?」

智香「大丈夫ですよ。 …………もともと、ウヅキさんからもらったものですから」

李衣菜「えっ……?」

智香「だからお礼はウヅキさんにどうぞ、アタシは渡しただけ」

李衣菜「……ありがとうございます! きっとお礼しに来ます!!」

――ダッ! バタンッ



智香「…………間に合うといいけど」

智香「それにしても……イメージと、ずいぶん違う人だったなぁ」

――パサッ

智香「……警備網が敷かれている、厳戒態勢をあっさりとくぐり抜けてこんな場所まで、さすがだね」

智香「知らないフリしてたけど、それでよかったかも」

智香(意外な一面だったし、ウヅキちゃんも凄い相手とどんどん知り合いになっていくね……)



・・

・・・


李衣菜「ただいま! 戻ろう!」

卯月「えっ!? 早っ!」

椿「あら……別れてから十分も経ってないのに」

卯月「それで、どうでした?」

李衣菜「助かったよ! ありがとう!」

卯月「へ? わわ、お礼ならトモカさんに――」

李衣菜「いいや! 私はウヅキにお礼がしたい! ありがとう!」

卯月「う、うーん……?」

椿「もう出発するの?」

李衣菜「はい! 一分一秒が惜しいんで!」

卯月「また全速力!?」

李衣菜「そうだけど……ゆっくり帰ってきてもいいよ、私は二人の所に戻るわけじゃないから……」

卯月「あ、そっか」

李衣菜「もちろん用事が終わったら、もう一回合流する」

李衣菜「場所は……特に何処とは決めないけど、ウィキの中で落ち合おう」

卯月「さっきまで居た国だね? でも私も、リンちゃんとミオちゃんに早く合流しなきゃならないから、それなりに急ぐよ!」

椿「今度また、ゆっくりお話しましょう」

卯月「すいません、突然お伺いして」

椿「今度はトモカちゃんとも、ね」

卯月「はい、それでは! 行きましょうかリイナさ……あれ?」

椿「……せっかちな方ですね?」

卯月「は、早い……もしかして往路では全速力じゃなかったのかな……」



・・

・・・


――ササッ

未央「……クリアー!」

凛「いや、そこまで警戒しなくても」

未央「何言ってるの! 警戒し過ぎて駄目って事はないから大丈夫!」

凛「そうとも言い切れないけどね」

未央「えっ」

凛「警戒が相手に伝わると、どうしてここまで警戒されてるのか、もしかして情報が漏れた……なんて考えに至るかも」

未央「そ、そっか、じゃあそれなりに留めて進むよ」

――ザッ ザッ

凛「……ここに二人が居る事は分かってる、それも内訳まで」

未央「ハルナさんやケイトさんじゃないなら遠慮なく……!」

凛「できれば応援が駆けつけるまでに、あの二人に倒して欲しい人以外は排除しておきたい」

未央「積極的だねぇ」

凛「今回、私は余り活躍してない気がするから」

未央「えっ? またまたご冗談を」

――…………

惠「……笑えない冗談ね」

春菜『いやぁ申し訳ない、上からの指令が二転三転するものでこちらも困惑しています』

惠「それで、その上は何と言ってるの?」

春菜『本来は私があなたと共に行動して賊を迎え撃つ形だったのですが、次は私が単独で警備の強化に迎えと』

惠「……要するに、この場は私が一人でやれと?」

春菜『そうなりますねぇ、文句は私ではなくコトカさんにお願いしますよ?』

惠「指揮系統は彼女じゃないわ」

春菜『では指揮担当の方に直訴をお願いします、私はこれで』

――プツッ

惠「……このタイミング、ちょうどターゲットが射程距離に足を踏み入れた瞬間に援護が消えたとは」

惠「でも……私単独だろうと、不可能な仕事ではない」

――ジャキン

惠(この距離なら、一方的に狙える……!)

――……グッ

凛「それは……皮肉?」

未央「とんでもない! しぶりんは何時だってクールに振舞ってもらわなきゃ」

凛「……?」

未央「落ち込んでちゃ駄目! って事! ここから大活躍MVP!」

凛「努力はするよ……んっ」

未央「ん? どうしたの?」

凛「何でもない、ちょっと眩しかっただけ……」

未央「眩しいって、ここ日陰だよ?」

凛「日陰でも太陽は見えるよ、ほら」

未央「あー、建物の窓ガラス……でも、直接じゃないからそんなに眩しくはないよ?」

凛「そう? でもあんな大きい建物から光が反射…………大きな建物……?」

凛「……! ミオっ!!」

未央「えっ? なに――」

――チュンッ

凛「っ!?」

未央「へ? あ、痛っ!?」

凛「やっぱり……ミオ! 私達、もう狙われてる……あの建物だ!」

未央「嘘っ! この距離で!? 今!? よく気づいたね……」

――サッ

凛「……さっきの一瞬の強い光、きっと太陽の光じゃなくて」

未央「スコープを通した光とか? いや、それは無茶じゃないかな……この距離だよ?」

凛「そうじゃない……全然専門でも何でもない知識だけど、レーザーポインタとか、その類かもしれないって事」

未央「レーザー? ……よくわかんないけど、狙われてるのは確かって事で大丈夫?」

凛「…………要約するとね」



――カチャッ

惠「……一流が聞いて呆れる。一度の仕事中に外しすぎね、鈍ってるのかしら?」

惠(しかも今、失敗をカバーする協力者が居ない……距離は十分に離れている、逃げる時間は稼げる)

惠(……外した時の事を考えるなんて心構えがなってないわね、よし)

惠「次は……当てる」

――ジャキッ

惠「少なくとも、今身を隠している物陰……そしてその公園、広場から外には出さない」

未央「つまり光の直線上にいると撃たれる……?」

凛「あくまで可能性……狙撃銃にレーザーポインタは相性がよくないって話だったけどね」

未央「じゃあ何で装着してるの?」

凛「例えばだけど、銃自体が何らかの特殊効果があるかも」

凛「光線を遮った人を確実に捉えるとか……例えばの話だけど」

未央「つまり光はただの標準じゃない可能性があると……」

凛「どの道、気づいても撃たれちゃ意味がない」

未央「狙われてるのが確かなら……どうする?」

凛「……正直、今はどうしようもない、根比べだね」



惠「……警戒している、当然ね」

惠「でも何時まで隠れるつもりかしら?」

惠「勿論、痺れを切らして体を覗かせたら……撃つ」

惠「それが何秒後か、何分後か、何時間後か…………何日後でも」

惠(……撃つ前にこちらの攻撃がバレたのは失敗ね、恐らく気づいたのはこちらの光源のせい)

惠(でも、この線が私の主力を支えている……)

惠「名誉挽回、させて貰おうかしら」



・・

・・・


未央「そーっ…………」

――チュンッ

未央「あたっ!? ……うーん、物陰から少し出るだけで撃ってくる、鏡壊れちゃった」

凛「例えゆっくりじゃなくても!」

――ヒュンッ カンッ   パキィン!

凛「遠くに投げた空き缶でも撃つ、とにかくこちらのアクションは全て封じてくる」

未央「とっさに隠れたけど、そもそも遮蔽物が無いこの場所で隠れようとしたのが失敗かな……」

凛「足止めされているだけ……隠れている以上は向こうから手は出せないけど」

未央「私達がここから動けないと、この後が続かないよ!」

未央「ねぇ、いっその事一、二の三で同時に飛び出してみない?」

凛「……却下。この射撃制度、最初の一発を避けられたのは本当に偶然、どちらかは絶対被弾する」

凛「そして運よく一人が先に進めても、次の遮蔽物から動けない可能性もある……それに……」

凛「相手は遥か遠くに見える建物のどこか、姿も分からない……捕まえられる?」

惠「……手配の手続き完了は夕方と聞いている」

惠「それまで下手な行動を起こさせない、ここで磔よ」

――スチャッ

惠「さて、動くかしら?」

惠「…………あら?」



未央「……あ」

凛「え? どうしたのミオ……あっ」

――スタスタ

幸子「フフーン」

凛「…………」

未央「…………」

幸子「~♪」

凛「…………」

未央「…………」

幸子「なんと運がイイ事でしょう! ジャンケンにも勝ちまして、適当に歩いただけで早くも合流ですよ!」

未央「……今かぁ~」



惠「部外者……いや、知り合い? たまたま遭遇しただけ……?」

惠(国内に協力を求める人材が居るなら、こんな時間場所場合で会う必要はないはず)

惠「かといって、国外から応援を呼ぶのも不可能、警備は敷かれたまま……」

惠「……戦力にならない知り合いか、彼女が商人や取引の為に偶然訪れ、偶然ここで出会ったか……?」

惠「判断が付くまで……撃つわけには……」

惠「いや……仲間という段階で、やるべき?」

凛「もう一人は?」

幸子「それが聞いてください、道中で行き倒れの子供を見かけまして、今適当な宿へナナさんが送り届けている途中です」

幸子「もちろんそんな事もありましたがこうして素早く到着しました!」

未央「早いのはいいんだけど!」

幸子「何か問題が? それにさっきからどうして隠れているんですか、見逃すところでした」

凛「それには理由が……とにかくこっちに!」

――グッ

幸子「わわっ」



――チュンッ

未央「危なっ! というかサチコさんも……狙った?」

幸子「なんですか! 乱暴ですね!」

凛「言ってる暇はないよサチコ……いい? あの建物から、私達は狙われてる!」

幸子「あの建物? うーん……ああ、確かに物騒な武器でこちらを狙っていますね」

未央「そう、だからどうにかしてあの……ん?」

凛「……狙ってる、って?」

幸子「へ? ボク何か変な事言いました? あそこから狙ってるんでしょ? あの人でしょ?」

凛「あの人って、この距離で――」

幸子「見えますよあのくらい、普段もっと高い所から地上を見てますからね。昼間なら特に見えます」

未央「じゃ、じゃあ相手は何人!? どんな感じの人!?」

幸子「そうですね、一瞬しか見えなかったのでもう一度覗いて――」

――ビシッ

幸子「あ痛ぁーっ!」

凛「サチコっ!!」

幸子「ボクの天使のようなじゃなくて天使そのものの顔がっ!」

未央「よかった、なんとか軽傷で済んだ……」

幸子「顔です! 頬を横一文字!」

凛「それで、見えた?」

幸子「今聞きますか!? 見えてる訳ないでしょう!」

未央「……もう一回?」

凛「いや、止めておこう……それで、どうやって近づくかだけど」

幸子「確かに遠いですね、よくもまぁ銃一丁でこんな距離を……」



惠「……人数は増えても、追い込めば同じ事」

惠(目があった気がしたけど、まさかね)

惠「さて、こうなった場合の相手が選ぶ行動は同じ……」

惠「複数人が、同時に物陰から飛び出る。でも……」

惠「私の前では、その戦法は無意味」

――ジャキッ

惠「木の裏側に二人、通路を挟んで反対側の花壇の裏に一人……」

惠「同時にバラバラに飛び出しても、到達点が分かっていれば狙い撃ちは容易いのよ?」

惠(広場の出口は二箇所、近い方と遠い方……まず木に隠れた二名は必ず左右に分かれる、なら片方で待ち構えていればいい)

惠(その後は、二つの出口に残りの二名が分かれる……近い方に照準を定め、次に遠い方と順番に撃つ)

未央「じゃあ、一斉に飛び出すんだね?」

凛「三人居れば、全員を一度には狙えないはず……!」

幸子「で、敵はあの人物という事でいいんですか?」

凛「まずこの場に居るのは一人……のはずはないんだけど」

幸子「ですが周囲にはまるで強い気配は感じません」

未央「じゃあ一人だけ? 聞いてた情報と違うけど……」

凛「居ない人は居ないと思っておこう……嬉しい誤算だね」

幸子「では一二の三で、ボクとリンさんは木から、ミオさんはその花壇から……打ち合わせ通りですね?」

未央「よし、行くよ……いち」

凛「二……」

幸子「さんッ!!」

――ダンッ!




惠「迂闊な選択……え?」

――グッ

惠(飛び出したのは……二人だけ? 木の外側から誰も出てこなかった……読まれた?)

惠「いや、慌てるのは早い……木の内側と花壇からは二人が飛び出して……」

――ササッ

惠「……えっ?」

凛「飛び出すのは一瞬!」

未央「私達は直ぐに、互いの位置を入れ替えるだけ!」

――ザッ

凛「撃ってこなかった……のはラッキーだったね」

未央「うん、多少は覚悟してたけど……向こうは少しでも動揺したはず、この隙に……!」

幸子「さぁ、行きますよ! 文字通り……あの位置まで一直線に!」

――ヒュンッ!



惠「……! 何かが来る? まさか、あの三人目はこちらと同じ射程距離……?」

――キィィン

惠「……じゃない……!?」

惠「あれは……直接こちらに……!?」



幸子「ボクは天使ですからね! 距離が離れていようと、道が複雑だろうと……!」

幸子「空も飛べるんですから!」



惠「……冗談じゃないわ、空中を進んでくる? いったい何者……?」

惠(撃ち落とす……いや、あの移動速度で前後上下左右に自由に動けるのなら、無茶ね)

惠「逃げる、にしても私の体力では空から追われるとどうしようもない……」

惠「なら……」

――ヒュンッ

――……スタッ

幸子「……おや? 妙ですね、確かにこの場にこちらを狙っていた人が居たのですが」

幸子(気配は変わらず、近くに居るようですが? ……この建物の屋上には身を隠す場所はありません)

幸子「というと、建物内部に逃げたのでしょうか。 いや、それは……遠距離武器を殺すようなもの」

幸子「ではいったいどこに?」

――カチッ

幸子「む!?」

――ヒュンッ!

幸子「っ~……危ない、とっさに振り向いたおかげで弾は顔を掠めたようです、というよりまた顔ですか」

幸子「よほど腕に自信があると見えますが……ボクはそう簡単に狩れると思わないでくださいね!」

幸子「と、同時に……おやおや、いつの間にお隣の建物の屋上へ移動したのでしょう、なかなかフットワーク軽いですね?」



――…………

惠「……どういう事?」

惠(空を飛んでくる段階で、常識外の行動だけど……今、完全に不意をついたはずの狙撃を……撃った瞬間に反応した?)

惠(いくらなんでも銃声が聞こえた段階から回避なんて間に合う訳ない、でも今のは確実に……)

――カサッ

惠「……使う事なんて無いと思ってたけど、備えあれば憂い無し、ね」

惠(移動式……ごく短距離を移動可能……これで戦線離脱とまでは行かなくとも、近接戦闘から離脱に使うつもりだった)

惠(ただ、今は隣の建物の屋上に移動……逃げ切る為ではなく攻撃に使う事になるなんて)

惠「どうせ逃走成功が望み薄なら、これを使って攻める」

――タンッ キィィン

幸子「……まさかボクみたいに空を飛べたり? いやいや、普通の人間では有り得ません」

幸子「しかし建物間を移動する何らかの手段は持っているようで……」

幸子(やはりこちらの建物にも姿は見えません、となると?)

幸子「いち、に、さん…………少し低い中央の建物と、その周囲に六棟……屋上に立ち入る事が出来る建物があります」

幸子「……さて、武器を使う相手なら魔法の心得はないはず、ならこの移動は道具によるもののはず」

幸子「道具は有限です、ボクはそれが尽きるまで……付かず離れずの距離を保てばいいわけですね!」



惠(残る移動式は……三つ。かなり頼りないわね、これを使い切る前に……少なくとも、彼女は討ち取る)

惠「……あの異常とも言える反応速度を掻い潜って命中させるのは、難しいわね」

惠「でも……私も、精一杯やってみせるわ」

――ジャキッ

惠(…………知恵比べよ)

やった! 智香再登場!!!



・・

・・・


幸子「……撃って来ませんね? 撃てば位置がバレるから当然ですが」

幸子(しかしその度に移動すればいいだけのはず……それをしないという事はつまり、移動回数が限られていると)

幸子「フフーン、それなら余裕ですね! 無論、ボクが先に相手を特定するのもアリですが!」

幸子「しかし弾の回避だって楽ではありません、近い距離で撃たれると間に合わないでしょう」

幸子(万が一、相手の準備が万端な状態で同じ建物に降りてしまった場合……危険です)

幸子「まぁ……移動手段が枯渇するまでボクは落ち着いて警戒しましょう」



惠「……あの時回避された狙撃は隣接した建物ではなく、一つ間を空けた隣の建物からだった」

惠「その距離でギリギリ反応された……という事は、それよりも近い距離で気づかれずに狙撃できれば、当たる」

惠「…………ふふっ、当てる為に標的に接近しなきゃいけないなんて、初めてだわ」

惠(私が今居る位置からでは標的に遠い……移動式を使って、標的の隣の建物に移動する?)

惠(いや……無駄遣いは厳禁、向こうが動くのを待つ……)

幸子「…………分かりやすく状況を見てみましょうか」

幸子「建物は七棟。中央の少しだけ低い建物が①として……ほぼ等間隔に周囲を囲む六つの建物」

幸子「北側から時計回りに②、③……そして⑦まで」

幸子「ボクは今②番に居ますね!」



惠(番号を振ったとして……標的が滞在しているのは②番)

惠(移動式では①から⑦、どの建物にも移動できる……今、私が居るのは⑤番、最も遠い)

惠(②番の標的を反応されずに撃つには……①か③か⑦の建物が好ましい、もちろん②も含まれる)

惠(ただし移動は三回だけ。移動を気づかれると……厳しい)

幸子「……埒があきません、移動しましょうか?」

幸子「ボクの相手が一人とは聞いていません、ボクがここで一人相手をしている以上あの二人は自由に移動できますが」

幸子(それでも、早めに応援に向かった方がいいはず、なら……早く決着を付けた方がいい?)

幸子「撃たれてもボクなら回避できると向こうは知ったはず、しかしさっきはギリギリでした」

幸子「単純に、ボクを撃つなら回避できない距離まで近づく必要があるはずですね!」

幸子「そしてこうして隙を見せているボクを撃ってこないという事は、その射程距離より外の建物にいるはず」

幸子(ここだと……④、⑤、⑥のいずれかが可能性アリですね)

幸子「ボクが接近すると撃たれますが……撃たせないと逃げてくれませんからね」

――タンッ



惠「動いた……移動先は②から③……このまま一周するつもりかしら?」

惠(まだ射程外、ただ……射程内の④に来た瞬間に撃てば、当たるかも知れない反面……)

惠(警戒中の彼女なら、避けかねない。距離の見極めが難しい……④に来た瞬間か、⑤に移動する瞬間か)

惠(もちろん、それまでにこちらの潜伏が見抜かれる可能性もある……!)

幸子「……③の建物には案の定いませんね、では次は④へ移動しましょう」

幸子「撃ってくるとしたら、ここからのはず……慎重に移動――」

――タァンッ!

幸子「へっ!? あ……いや、大丈夫、撃たれてません! 完全に不意をつかれました……危ない」

幸子「……外した? そんなはずは……おっと!」

――サッ

幸子(こういう場合は、わざと外して動きを止めて、その隙を撃つという芸当を聞いたことがあります!)

幸子(なら、ひとまず身を隠す! 音がした方向は恐らく……⑤か⑥の建物からのはず)

幸子「さてさて……先程は顔を覗かせた瞬間に撃たれましたので、反対側から覗き込むとしましょう」

――スッ

――…………

惠「…………」

幸子「おや……?」

――ヒュンッ

幸子「狙撃手が、姿を現して堂々と立っているとは何事ですか?」

惠「姿を隠しても……どの道私にはチャンスが少ない」

幸子「……?」

――スチャッ

惠「三回よ」

幸子「それは?」

惠「私が建物を移動できる回数。……これに嘘偽りは無いわ」

幸子「……どういった風の吹き回しですか?」

惠「特に何も……強いて言うなら今まで遭遇した事のない、面白い相手だもの」

惠「正々堂々なんて言うつもりはないわよ? ただ……この逆境を、遊んでみたくなったの」

幸子「……人間の考える事はわかりませんが、嘘じゃないんですね?」

惠「ええ」

――ジャキッ

惠「勝負よ」

幸子「いいでしょう!」

――ドンッ! シュイン

幸子(至近距離! ですが、真正面なら見てから反応できます!)

幸子「……さて、今のが一回目の移動、という訳ですか?」

幸子(どこに移動したかは分かりませんね……まずは隣接する建物を警戒です!)



――…………

幸子「目視ですが……この建物、⑤を射程距離内に収める①、④、⑥にはこちらを狙う影はありません」

幸子「もちろん、⑤にも誰もいません。同じ建物上なら見逃す事はないでしょう、では……」

幸子(移動先は反対側……②か③か⑦……)



――ジャキッ

惠「どういう風の吹き回し、ね」

惠「確かに、仕事上今の暴露は戦法でもなんでもない、ただ私に不利なだけ」

惠「……でも、それを乗り越えてこそじゃない?」

惠(これは、私の勝負よ)

幸子「まず①は無いですね、少し建物の位置が低いので、ここからでもよく見えます」

幸子「万が一、ここに居た場合は全ての位置が射程圏になりますから……よく見ておかないと」

幸子「で、移動先は……あえてまっすぐ直線で②に向かってみましょうか?」

幸子「どの位置からでも撃たれる可能性はありますが、撃たせて避ければいいんです」

幸子「ただの移動として油断しているフリをして……警戒しながら飛ぶ」

幸子(ならば、迂闊な一撃をさせることも可能!)



惠「しっかりと固定して……照準がズレないように……」

惠「弾を込める、そして構える……そして……」

――ジャキッ

惠「…………よし、行きましょう」

――グッ

――タァンッ!

幸子「おっと!?」

幸子(まだ移動してませんよ!? でも、もう撃ってきた!? しかも……!)

幸子「真正面っ!!」

――ヒュンッ!

幸子「っ……と、危ない……しかし真っ直ぐとは、という事は②から撃ってきた? 思い切った事を……!」

――キィィン!

幸子「まだ銃は……構えられている! なるほど、ボクがそっちに移動するまで……撃ち続けると!」



惠「②の建物からの銃撃……そして、まだ構えたまま……続いて狙撃」

惠「彼女がこちらに向かって移動を行う……無論、正面からの銃撃を最大限に警戒して」

惠「だから、命中させるのは非常に困難…………でも」

――ジャキッ

惠「狙う……ここで当てる……」

――タンッ! タンッ!

幸子「さすがに移動している対象には当てられないようですね! さぁ、ボクが接近するとボクの勝ちですよ?」

幸子「で、一度逃げるでしょう? そうなると残り移動回数は一度のみ!」

幸子「それにしても、遠くからこちらを撃つなんて無茶な事を……それに、全然逃げませんね?」

幸子「あと……同じ場所ばかり撃ってませんか? 加えて……何か違和感が」

――タンッ!

幸子「……そうそう、音がよく響いてますね……銃、何丁も持っているという事でしょうか?」



――キィィン

惠(あと三秒……二秒……一秒……!)



幸子「……はっ!」

惠(撃つ!)

――グッ

――キキィッ!

惠「!?」

――ヒュンッ!

幸子「っ~!!」

惠(ギリギリで停止した……!)

幸子「……器用なものです! そこですね!」

――ギュンッ!



惠「くっ!」

幸子「移動しますよね? 後一回です……!」

惠「そうね……じゃあ、次こそ当てる……!」

――シュンッ



幸子「……銃は固定されていた。あの場所、②の建物には誰もいなかった!」

幸子「さすが、狙撃手は銃を複数用意する決まりでもあるのでしょうか? いや、こんな芸当は普通は無理ですね」

幸子(②の建物へ移動して、まっすぐ⑤に向けた銃を一つ構えさせて固定……)

幸子「その銃を、やたら音が鳴っていたこの銃……これも固定されていますね、そして照準は……」

幸子「やはり、②の建物へ向いています。この銃は殺傷能力のあるものではないですね?」

幸子「つまり……この①の建物から②の建物の引金を狙って撃ったと……そんな無茶苦茶な」

幸子「で、前だけ警戒していたボクを真下、至近距離から狙撃すると!」

幸子「途中で気づいてよかったですね……さすがボクです!」

幸子「さて、次はどこへ移動したんでしょ――」

――ザシュッ!

幸子「……うぁ!?」

幸子(しまった……! このど真ん中の建物に留まってたら……そりゃあ撃たれますって!)

――ギリッ

幸子「後ろから……背中ならまだ大丈夫です! いったいどこか――!」

惠「迂闊に一息ついているから、隙だらけだったわよ」

幸子「はは、そんな堂々と立っていていいんですか?」

――ダダッ

幸子「負傷してもボクは正面から飛ぶ弾程度、避けられます!」



惠「私も……負傷した相手を仕留められない程、狙撃の腕は悪くない」

幸子(最初に⑤、そして②へ移動してすぐさま①へ連続して移動。現在は⑤に……つまり!)

幸子「そこにたどり着けば、ボクの勝ちです!」

――ギュンッ!

惠「早い……! でも!」

――パァンッ!

幸子「っう!!」

惠「接近する程当てやすい……銃を奪われる前に撃ち落とせば、私の勝ちよ」

幸子「フフン! 仮に落ちたとしてもボクは死にませんけどね! もっと上空から落ちたこともありますから!」

惠「面白い冗談ね……!」

幸子「くうっ! 地上の武器もなかなか威力がありますね!」

惠(致命傷は与えていないとはいえ、何発打ち込めば止まるの……?)

――ジャキッ!

幸子「的確にボクに当てるのはさすがですが、その武器は乱射できるものではなさそうですね!」

惠「狙撃銃よ……当たり前じゃない」

幸子「その分接近する時間があります!」

――ヒュンッ!

惠「くっ……!」

――パァンッ!



幸子「い…………っと!」

――ダンッ!!

惠「……脱帽ね」

幸子「ハァ……ハァ……カワイイボクが穴だらけです」

惠「いったい何者? もしかして、著名な魔法使いだったりするの?」

幸子「ボクは天使ですから!」

惠「……?」

幸子「はいはい、またこのリアクションですね。それは置いといて……もう移動は出来ませんね?」

惠「ええ、でも攻撃は出来るわ……!」

――タァンッ!

幸子「おっと……その銃、至近距離で扱うのは向いていないようですね、見え見えですよ?」

惠「仕方ないわ、この銃は近くの相手に使うものではないから」

幸子「ですが構えるのを止めない?」

惠「これしか武器が無いのよ」

幸子「なるほど、ならその武器を奪えばいいと!」

――ダッ!

惠「タイミングを測って……ここ!」

――パァンッ!

幸子「当たりません!」

――ガッ!

惠「っ……」

――カシャンッ カラカラ……

幸子「最後の一発も外して、銃は手放した……これでボクの――」

惠「いいえ……外したわけではないわ」

幸子「何を――」

――ドッ

幸子「っう!? かは……!」

――ドサッ

幸子「な……えっ……!?」

惠「ふふ…………当てたわよ、ついにしっかりと」

幸子(背後から……!? いや、そんなはずは、そんな馬鹿な!)

惠「一度見せた、一度使った後の戦法でも……魅せ方を変えればもう一度使えるのよ」

幸子「既に使った……まさか!!」

惠「気づいた?」

幸子「ここから……真ん中の建物に固定して放置していた銃の引き金に……!」

幸子(そういえば、銃声が違った……こちらの攻撃に撃った銃とは違う!)

惠「その通り、そしてその銃が固定されて狙っていたのは……ちょうど反対側、あの建物に固定した別の銃よ」

幸子「最初にボクを誘導した……!」

惠「どう? なかなか面白いと思うわよ、考えに考えたもの」

幸子「なるほど……知恵比べ……ボクの負けです……!」

惠「褒めてくれて光栄よ。それじゃあ…………」

――ジャキッ

幸子「くっ……!」

惠「…………ふふ、なんてね」

――スッ

幸子「撃たないのですか?」

惠「撃っても無駄よ、弾だって値が張るの」

惠「確かに当てた、そうしてあなたは倒れている、知恵比べには勝った。でも……ダメージはまるで受けてないでしょ」

幸子「…………」

――ストンッ

幸子「そうですね、ボクは天使なので……この程度の攻撃では特に何も」

幸子「撃ってきたら、飛び起きてカウンターするつもりでした」

惠「ふふ、怖い。最初の数発、あなたに当てた段階で……私の攻撃力がまるで足りないと悟った、これは勝てないって」

幸子「でも撃ってきたじゃないですか」

惠「一矢報いたかったの、プライドの問題」

幸子「……それに関しては負けました」

惠「そういう事よ。勝てなくてもただ負ける、逃げるのはちょっとね」

惠「それで、一矢報いたご褒美といっては何だけど、私にこれ以上攻撃しないで欲しいわ」

幸子「……正直ですね」

惠「被害を最小限に留めたいの、万が一にでもこの銃と両手は失えない。近距離戦なんてしたくない」

惠「もちろん、どうあがいても私の負けだから……これ以上この仕事であなた達のグループに関わらないと誓うわ」

幸子「……嘘ではありませんか?」

惠「交渉で嘘はつかないわよ」

幸子「では……今すぐ、通信でもなんでも……この場でそれを上官に伝えてください!」

惠「それならあなたが連絡して」

幸子「……は?」

惠「あなたが“メグミを捕らえた”と連絡して。私はどの道、ここを去るからその後にでも」

――パシッ

幸子「わわっ」

惠「仕事を受け持っていながら、その標的の一人に対して言う事じゃないと思うけど……楽しかったわ」

幸子「あ、まぁ、はい……そりゃあボクですから」

惠「……あと一人よ」

幸子「へ?」

惠「あの子達の増援で来たのでしょう、なら倒すべき相手は私のような敵対勢力」

惠「四人のうち、私含めて三人は既に退けた。あと一人よ」

幸子「もう一人……!」

惠「私は南側、そして彼女は……反対側、北にいるわ」

幸子「北……ん? 確か……」




・・

・・・

まさかの組み合わせでなんてかっこいい勝負なんだ…

瞳子「私一人、単独で出来る事はゼロと言ってもいい程……誰かと合流しないと……」

瞳子(しかし……配置替えで移動してから相方がここを再度離れるとは……)

瞳子(まるで意図的に孤立させられたような……いや、指示は国からではなくチアキさんから、その可能性は……)

――ドンッ

瞳子「あっ」

菜々「きゃっ!」

瞳子「ごめんなさい、怪我は?」

菜々「ナナは大丈夫です! よいしょっと」

瞳子「……その子は?」

菜々「えっと、話すと長くなるんですけど……」

――…………

瞳子「保護で連れてきたと」

菜々「はい! 駄目だった……なんてことはないですよね!」

瞳子「それは勿論よ、放っておいていいわけがないわよ」

瞳子(ただ……少し、ややこしいかもしれない)

菜々「それで、近くに休憩させるお宿か何かがあればいいなと」

瞳子「宿に泊めるの?」

菜々「ナナは用事があるのでこの子だけ置いて行くことになりますが……」

瞳子「しかも一人だけ? ……それなら、止めておいた方がいいと思うわ」

菜々「えっ! 駄目ですか!?」

瞳子「……推奨はしないわよ」

――ジャラッ

瞳子「最近、この鎖をよく見るわね……何故かしら」

菜々「流行っているんですか?」

瞳子「そんなわけないじゃない……あなた、これを知らないの? 出身は?」

菜々「ナナはウサミン星ですけど」

瞳子「……? 知らない国ね、よっぽど田舎か新生国?」

菜々「ご存知ない!?」

瞳子「こっちの台詞よ。この鎖は誰かの所有物……つまり彼女は一般の人ではない」

菜々「一般じゃない? ほうほう、それは?」

瞳子「……元の持ち主がいるはずなのに、近くに見えなかったという事は、逃げてる途中かもね」

菜々「さっきから持ち主とか、この子は人ですよ? モノじゃないですよ」

瞳子「そう言われる立場の子……って事よ、察しなさい」

――Prrr……

菜々「むむっ! 電波を受信!?」

瞳子「通信機がね、ちょっと失礼するわ」

――ピッ

瞳子「もしもし?」

??『…………』

瞳子「聞こえないわ、誰?」

??『……上層部の方ですか?』

瞳子「上層……? 通話先を間違えているんじゃないかしら?」

??『これは……どこに繋がっていますか?』

瞳子「ただの戦闘員よ、私はトウコ。そっちは?」

??『……なるほど、あなたが敵ですか』

幸子『ボクがこの発信機の持ち主、メグミさんを仕留めました! 次はあなたです!』

瞳子「……!?」


瞳子「誰……? どういう事……?」

幸子『ボクの名前はどうでもいいじゃないですか。そんなことより使い方はこれで合ってたみたいですね』

幸子『メグミさんから聞いた情報では、他にもう一人倒すべき相手がいると聞いて』

幸子『それがあなたですね?』

瞳子「……何? 何なの?」

瞳子(彼女を倒した? つい一時間ほど前まで普通に接していたのに、この短時間で?)

瞳子「しかし……!」

――ピッ

瞳子(通信元……確認していなかったけど、確かにメグミの所持していた通信機から……)

瞳子(じゃあ、倒したというのは本当……?)



幸子『どうですか、腕に自信があるならボクと一対一しませんか?』

瞳子「あなた……リイナの仲間?」

幸子『リイナ? どこかで聞いた名前ですね?』

瞳子「とぼけないで……何が目的?」

幸子『それはもちろん、手助けですよ! ボクは優しいので!』

瞳子「……やっぱり仲間なのね?」

幸子『で、場所を教えてください。すぐにでも飛んでいきますから!』

瞳子「私と勝負がお望み?」

幸子『ええ。どの道、あなた方の目的もボク達含む邪魔者の排除でしょう?』

瞳子「その通りね」

幸子『では現在地をどうぞ』

瞳子「……断るわ」

幸子『はれぇっ!?』

幸子『いや、なんでですか! 目的一致! 利害一致でしょう!?』

瞳子「目的は確かに一致している、でも利害は一致しない」

幸子『どういう意味ですか』

瞳子「相手にならない、一方的な勝負になるわ」

幸子『ほーう? ボクはそんなにヤワじゃないですよ? なぜならボクは天使ですから』

瞳子「大した自信だけど、そういう意味じゃないのよ」

瞳子「私が負けるからよ」

幸子『……ん? 聞き間違いでしょうか、もう一回お願いします』

瞳子「メグミを倒した程の相手、私が敵うわけないのよ」

幸子『ずいぶん自己評価が低いんですね……』

瞳子「いいえ、私の役目じゃない……自分を良く知っているという事。戦闘は専門外よ」

幸子『ですが……ボク達を倒すために呼ばれたのでは?』

瞳子「元の標的はリイナよ? それプラス、私は護衛として呼ばれていたの」

幸子『護衛ならやはり戦闘が可能でしょう』

瞳子「いろいろ理由があるのよ、とにかく私はあなたと戦うつもりはない」

幸子『あ、ちょっと!』

――プツッ

瞳子「……面倒な事になったわ」

瞳子(他の三人が既に敗北を喫しているという事は、私は誰からの補助も受けられない……)

瞳子(ハルナ、ケイトは国側……協力を申し込むには難しい)

瞳子「潮時かしら……」

菜々「えーっと、今の通信は?」

瞳子「あら、無視してごめんなさい、重要な連絡だったの」

菜々「お仕事ですか?」

瞳子「そんなところ。それより、あなたは宿を探している途中だったわね?」

菜々「ええ、そうです! でも、ちょっと予定が変わりました!」

瞳子「そうね、宿で寝かせるよりその子の場合他の場所を――」

――ドシュッ!



菜々「……えっ?」

瞳子「えっ?」

――パキィン

瞳子「なっ……! 何をするの!?」

菜々「効いてない!? むむっ!?」

瞳子(いきなり……いったい何で攻撃された!? 何故攻撃された!?)

菜々「ウサミンビームが確かに通りましたが……変ですねぇ」

瞳子「ビーム……?」

瞳子(身代わりの式が壊れた……危ない、保険でいつも装備していて良かった……!)

瞳子(でも、二度は無い、次の攻撃は……! いや、そもそも攻撃は続く!?)

菜々「じゃあ別の攻撃です!」

――キィン!

菜々「ウサミンウィン……グ、あれ?」

瞳子「……一から説明を要求するわ、何が何だか分からないもの」
 
菜々「もしやナナの技術が奪われた? 何もない空間を遮る遮蔽物が!」

菜々「先程言ってたじゃないですか! 戦闘向きではないと! というのにビームは耐えるわウイングは防御すると!」

瞳子「私の専門は護衛とも言ったじゃない、攻撃はできないけど防御は出来る」

――ズンッ

菜々「わっととと……壁ごと押されちゃいました」

瞳子「……それで、私を攻撃した理由は?」

菜々「いやいや、ナナは何と運がいいんでしょう。実はこの国に来たのは知人の手助けに協力するためなんです」

瞳子「手助け、に協力?」

菜々「知人が仲間の為に奮闘する様子を隣から協力する立場です」

瞳子「なんだか回りくどい事をしているのね……という事は、今の通信を境に攻撃したあたり……」

菜々「お察しです!」

――ヒュンッ!

瞳子「厄日が続くわね……!」

菜々「あっ! 逃げる気ですか!」

瞳子「当たり前よ、今の話聞いてた?」

――ダッ

瞳子(ここは普通の市街地……でも)

菜々「逃がしません! ウサミンパワー全開!」

瞳子「くっ!」

――キンッ!

菜々「む! 数打てば当たると思いましたが全部止められた!?」

瞳子「全部止めないと街が壊れる……! 見境無しなの!?」

菜々「知ったこっちゃありません!」

瞳子「自分が正義側についてるつもりはないけど……! あの子も大概よ……」

――ザッ

瞳子「……追ってきていない、撒いた?」

瞳子(しかし私を追っているなら当然まだ探しているはず、そしてあの仲間も居る……増援が来ないとは言い難い)

瞳子「仕方ないわね……依頼主じゃなくて国側に頼らざるを得ないわ」

――Prrr……ガチャ

ケイト『ハァイ、何事ですか?』

瞳子「今、襲撃を受けてる……援護を頼みたいのだけど、どこに居るのかしら」

ケイト『私は先程招集を受けたので、あなたと離れた直後デスガ』

瞳子「それは分かってる……このエリアから本部に向かうどのルートを行っているのか聞きたいのよ」

ケイト『ずいぶん急いでマス? 襲撃とは、誰からデスカ?』

瞳子「さぁね……顔は見たけど、私が聞いていた誰でもないわよ……何か聞いてる? 心当たりは?」

ケイト『誰でもない……第三者?』

瞳子「そうよ、そして攻撃の正体が掴めない、かなりの手練」

瞳子「私じゃ相手できないから援護を頼みたいの」

ケイト『ナルホド……では私も引き返しマス、大通りを通れば分かりやすいデスカ?』

瞳子「そうしたいのは山々だけど、あの子の攻撃は範囲攻撃で見境がない、周囲に被害が出るわ」

ケイト『オゥ……トンデモない人物を寄越しましたね』

瞳子「だから合流は急ぐけど、場所は裏通りの方が好ましい、道は大通りから一本東側の――」

菜々「見つけましたよーっ!」

瞳子「!?」

――ヒュゥゥゥ ドンッ!!

瞳子「上……!?」

菜々「ウサミングライダー! からの、シュートっ!」

――ガリッ!

瞳子「しまっ……」

菜々「むー、またそうやって結界を張る! ですが通信機は壊しました! 誰に連絡してたんですか?」

瞳子「こっちの勝手でしょ……!」

――ダダッ!

瞳子(通路を警戒していたら上から来たなんて……完全に不意だわ、これで連絡手段が途絶えた……)

瞳子「道は伝えた、合流まではこの通路を進めば問題ない!」

――チラッ

瞳子「裏通りは入り組んでいるから、ちょっとやそっとじゃ追いつかれないはず――」

菜々「待てーっ! ウサミンレーザー!」

瞳子「飛んで……る!?」

――ドォンッ!!



瞳子「……空から探されちゃ、撒くのは無理ね、いったい何者?」

菜々「ナナはウサミン星人ですよ」

瞳子「さっきも聞いたわね……!」

菜々「それしか言うべき事はないです!」

瞳子「じゃあこれ以上、問答は無用……」

菜々「おっと、戦いますか?」

瞳子「いいえ、逃げるわ」

――シュイン

菜々「わっ!」

瞳子「結界を逆向きに……あなたを閉じ込めた!」

菜々「器用な事をしますね……? ですが、これくらいなら突破してみせます!」

瞳子「そう、私の手を離れた結界は強度が落ちる……だから、捕らえている間に距離を離す為……」

――キィン!

菜々「二重に!?」

瞳子「まだまだ重ねるわよ」

――キンッ シュイン!

瞳子「三枚、四枚、五枚……!」

菜々「なんのっ……ウサミンパワーで障害物は破壊です! 除去です!」

瞳子「今の内!」

――ダッ!

瞳子「五重に重ねても、所詮強度が落ちた結界……耐えて数十秒……!」

菜々「ふんっ! このっ! こんなものパリンですパリン!!」

――パリィン!

瞳子(……数秒が限界のようね!)

菜々「あと一枚!」

瞳子「くっ……!」

――パァンッ!



菜々「よし! ナナ脱出! ……逃げたのはあっちですね!」

――ダダッ

菜々「しかし防御のみで攻撃手段は無いというのはどうやら本当みたいですね、変わった人です」

菜々「ですがつまり、護衛と援護の専門には違いありません! 他と合流されると……厄介ですね!」

菜々「ま、ナナが相手ならよっぽどの人物と組まれない限り負けませんけど!」

――キィィン

菜々「今はウサミンパワーも全開です! 枯渇寸前だった以前とは違いますよー!」

瞳子「……身代わりをもう一枚組む暇は無いわね」

瞳子「こんな長距離を必死に移動する羽目になるなんて……」

瞳子(途中に罠を仕掛けるにも、空中から接近してくるなら無意味……いや、そもそも)

瞳子「空中を……? 浮遊は魔法として存在するけど、飛行までは確立されていないはず……本当に何者?」

――ヒュンッ

菜々「だから何度も言ってるじゃないですかっ!」

瞳子「ええそうね……! これも何度繰り返せば……」



菜々「ピピッ、誰かこっちに来ていますね……?」

菜々「んー、なかなかの気配かつ……こちらに一直線とは?」

瞳子「……!」

――ピシッ

菜々「また結界ですか? ですがその壁は何度も壊したじゃないですか!」

瞳子「次はどうかしら?」

菜々「お望みとあらば! 怪我しても知りませんよ! ウサミンビームっ!」

――ピシュン! キィン!

菜々「あれっ?」

瞳子「直接の結界よ、強度が違うわ」

菜々「しかし、その場で固まっているだけでは何も解決しませんよ?」

瞳子「そうとも限らないわ……!」

――ザッ

ケイト「……なかなか、理解しがたい状況デスガ」

菜々「むむ、何者?」

ケイト「あなたこそ何者デスカ? 当たり前のように空中を飛行していますが、普通人間は地上を歩くものデス」

菜々「ナナはウサミン星人ですから」

瞳子「……今の内!」

――シュッ

菜々「おっと……なるほど、通信相手の方ですか? ずいぶん早い合流で」

ケイト「ようやく待ち望んだ増援デス、そりゃあ急いで来ますヨ」

瞳子「……これで私も戦線に立てるわね」

菜々「むむ……確かに、その結界と防御壁で援護に回られると。それに、そこの方がずいぶんお強いようで」

ケイト「腕に自信はありマス」

瞳子「そういう事……特に恨みはないけど、倒さないといけない相手なら……」

ケイト「そうそう、今私がやるべき事は……」

――ガンッ!

菜々「っ!」

ケイト「…………さて、ちょっと通信しますので、待ってて下サイ」

――Prrr……

ケイト「ハァイ、こちらケイトです。ハルナですか?」

春菜『なんですか? 重要な案件以外は連絡しないと先程言ったばかりではないですか』

ケイト「その重要な案件だから通信シマシタ。どうやら、到着したみたいデスヨ」

春菜『ほう……? 現在地は? 説明は済みましたか?』

ケイト「今から情報を共有するところデスネ、少し時間が掛かると思ったので後回しにしています」

ケイト「場所は北部、裏通りの……です、間違えないように」

春菜『了解、すぐに向かいますとも』

――ピッ

ケイト「さて……」

菜々「あの……どういう事ですか?」

ケイト「説明しますよ、の前に……よいしょっと」

瞳子「っう…………」

菜々「お仲間なのでは?」

ケイト「聞かれるとまずい事もアリマス」

菜々「は、はぁ……?」

ケイト「気絶している間に、そしてハルナが来る前にあらかた説明シマス」




・・

・・・


菜々「では、ウヅキちゃん達のお仲間!」

ケイト「一応はそうなりマス、そして……そちらが聞いている通り、彼女達は今ピンチです」

菜々「はい! それで、ナナ達はここに来て一緒に敵を倒せと聞きました!」

ケイト「その敵の内、一人が彼女デス」

菜々「なるほど。で、ナナが倒さなくても良かったのですか?」

ケイト「第三者と合流できるだけで構いません、あなたが直接手を下さなくても無問題デス」

ケイト「『正体不明の増援により、我々が行動出来る状態』で無くなればいいんですから」

菜々「……?」

――ザッ

春菜「よいしょっと……要するに、一応こちら側についている六人を倒した事にすれば問題ないんですって」

菜々「新手!?」

ケイト「味方デス、私と同じ立場の」

春菜「説明は受けたと思いますが、既にサナエ、タクミ両名は制圧されて残るは四名ですが……」

ケイト「ここにトウコが」

菜々「そういえば通信先でサチコちゃんがメグミっていう人を倒したと」

春菜「おや? なんだ、全て解決済みじゃないですか」

菜々「あれ、でも二人まだ残っていますよ?」

ケイト「その二人は私達デス。……今、あの三人と連絡は取れますか?」

春菜「いいえ、ですが大丈夫でしょう、確認を取る必要はありません」

菜々「えーっと、ナナは結局何をすれば? 大したことはしていないのですが……」

春菜「とんでもない、条件を満たした上で私達と合流できた事が功績です」

ケイト「……これ、通信機で連絡してください」

菜々「通信機……誰に何を連絡するんでしょうか?」

春菜「私達の指揮を執っている今回の……元凶とは言い過ぎですね、まぁ敵なんですよ」

ケイト「その人物に『六人とも制圧した』と伝えてください」

菜々「なるほど、これでナナの任務は完了ですか?」

春菜「あのお嬢様も護衛が尽きれば動きにくくなるでしょう、逆にあなたのお仲間は動きやすくなります」

ケイト「何が目的かは分かりませんケドネ」

菜々「そういうことでしたら喜んで!」



・・

・・・


――Prrr…… ガチャ


琴歌「誰? 何かしら?」

菜々『えっと、そちらはコトカさんで間違いありませんか?』

琴歌「……どちら様? この通信機に繋がる媒体は少ないはずですが」

菜々『そのうちの一つで通信しています。あ、勘違いしてもらっては困るのですが持っているのは一つじゃないですよ』

琴歌「イタズラなら切りますわよ」

菜々『では切られる前に単刀直入に。ナ……ごほん、私は増援です』

琴歌「……?」

菜々『誰の味方とは言いませんが、確実にあなたの敵です』

琴歌「へぇ……それで、何をするつもりかしら? どこから今の情報を手に入れたか存じ上げませんが――」

菜々『現在、あなたの下についている六人は私が全て制圧しました』

琴歌「……面白い冗談ですわ」

菜々『では確認してください、一度切りますね』

――プツッ

琴歌「……今の通信は、ケイトの所持していた通信機から……盗まれたか、落としたか」

琴歌(ああ見えても、この国随一の実力者達……冗談だとは思いますが、現状を聞くついでに確認がてら連絡しましょう)

――Prrr…… ガチャ

琴歌「コトカですわ。そちらの現状はどうなっていまして?」

菜々『嫌ですねぇ、さっき言ったじゃないですか』

琴歌「えっ……!?」

菜々『通信先は間違えていませんよ? 確かにここに通信機がありますから』

琴歌「っ!」

――プツッ Prrr…… ガチャ

琴歌「こちらコトカですわ!」

菜々『はいはーい、こちらウサミン星人です!』

琴歌「くっ……!? なぜ、どうしてあなたが全員の通信機を……!」

菜々『だから言ってるじゃないですか、全員制圧しましたと』

菜々『あ、他の通信機にかけても私の仲間が出るか、もしくは誰も出ないかの二択です。あなたのお仲間は出ませんよ?』

琴歌「増援……ナツキの仲間!?」

菜々『ナツキ? どちら様ですか?』

琴歌「ふざけないで! それ以外考えられませんわ!」

菜々『ああ、もしかしてナナが協力すればいい人ってその人の事かなぁ、じゃあ覚えておかないと』

琴歌「……ナナ?」

菜々『あっ』

琴歌「……どうやらあなたの言い分は確かなようです、ですが私も駒が尽きたわけではありません!」

菜々『え? でも確か六人って聞きましたけど……』

琴歌「外部の応援はという事ですわ、元から内部に……使える駒はありますもの!」

琴歌「それで、名前は覚えましたわ……この忙しい時期に、新しい火種を放り込んで……!」

琴歌「覚悟しておいてください!」

――プツッ

――ガタンッ

琴歌「入って来なさい、聞いているんでしょう!?」

千秋「今の通信は……?」

雪美「…………?」

琴歌「ナナと名乗った新たなナツキ側の刺客でしょう。既にこちらの四人と、例の国の幹部二名を制圧したと」

千秋「全員を……? 俄かには信じ難いですが……」

琴歌「それを確かめなさいと言っているんです!」

雪美「ナナ……?」

琴歌「その人物の事も当然一緒に、どこの出身で何者なのか! それだけで構いません!」

千秋「……所属は?」

琴歌「調べるまでもありません! 他の国からの援護など有り得ませんわ、必ずナツキに関連する人物のはず……!」

??「いや、知らない名前だねぇ」

琴歌「……!?」

千秋「何……!」

雪美「二階から……」

――カンッ カンッ カンッ スタッ

千秋「誰!?」

琴歌「……誰も何もないでしょう、この状況で現れるのは……一人よ」

琴歌「贈り物は気に入っていただけたかしら……最も、気に入らなかったからここに来たのでしょうけど……!」

――……ガチャッ

夏樹「いいや? なかなか珍しい体験が出来たからな、面白かったぜ」

夏樹「それに、名のある貴族から贈呈されたモノを捨てるなんて、勿体無ぇよな?」

――キラッ

雪美「指輪……?」

琴歌「……!? なっ、どうしてそれを持っているのですか!?」

夏樹「なんでってお前……アンタがアタシに贈ったんだろ?」

琴歌「そういう意味ではなく……何故効果が発動せずに……!?」

夏樹「さーて、何でだろうな? デザインはアタシ好みだし、愛用させてもらうぜ?」

琴歌(あのような盗賊風情にそのような知り合いなど……!)

琴歌「……腕の一本でも奪えると思っていたのですが、不服ですわ」

夏樹「盗賊の大事な腕を盗めると思うなよ?」

千秋「…………ふっ!」

――ヒュッ

雪美「あっ……!」

夏樹「おっ?」

――キィンッ!!

琴歌「チアキ!」

千秋「……ちっ!」

李衣菜「舌打ちまでして、何してんの?」

千秋「お嬢様の敵が居るなら、排除する」

夏樹「……遠慮のない攻撃だね、でもアタシにまでは届かない」

李衣菜「私が通さない!」

千秋「それでも、通す!」

――ガッ!

李衣菜「うおっと!?」

千秋「退きなさい!」

――ドンッ!

李衣菜「きゃっ!」

夏樹「おっとマジかよ……!」

千秋「覚悟!!」

――ドスッ!



雪美「っ……!」

琴歌「や、やったの……!?」

李衣菜「なつきち!」

千秋「……えっ!?」

夏樹「りーなもアタシが手に負えないくらい強いんだけどな……一瞬で転ばせて無力化か」

千秋「いつの間に……!」

夏樹「メイドがナイフ振り回したら危ないだろ? アタシが預かっとくよ」

千秋「返しなさい!」

夏樹「断る、よっと!」

――ダンッ!

琴歌「逃げる気……! いったい何なの!? 何が目的でここに来たの!?」

夏樹「まだ目的は済んでないんだよな。ま、一つ目は指輪の礼だよ」

琴歌「嫌味を言いに来たのね?」

夏樹「これでもアタシは感謝してるんだよ、こんな指輪は世界中探しても見つからねぇって」

李衣菜「私は許さないけどね、絶対に」

千秋「ナイフ……!」

夏樹「大事なモノか? じゃあ仕方ない、返すよ。で、返すついでにこれも受け取ってくれるか?」

――ヒュン パシッ



雪美「……手紙?」

琴歌「手紙なんて、言いたい事があるなら直接言いなさい。それとも誰か別の人からの手紙かしら?」

李衣菜「いーや、正真正銘私達からだよ」

夏樹「それは証明用だ、ちゃんとアタシの口からも言う」

琴歌「証明?」

夏樹「つい数日前にも別件でアンタに送ったけどな。珍しいだろ? 今回は手渡しだ」

千秋「……まさか」

夏樹「ああ、お察しの通り……予告状だ。また盗みに入らせてもらうよ」

琴歌「これ以上、何を盗むつもりなの!?」

千秋「今まで二度も、それにこんな短期間に連続で盗む事は……」

夏樹「無かったけどな。ちょっと命の恩人に頼まれちまったから、断るわけにも行かなくてね」

琴歌「命の……やはり、その指輪の解除に外部の人間の力を借りたと……!?」

夏樹「ああ、苦労したんだからな?」

李衣菜「私が頑張りました!」

琴歌「余計な事を……!」

千秋「それで、その人物が要求したのは……お嬢様の命ですか?」

夏樹「ああ? んな物騒なモノ盗らねぇって」

李衣菜「お望みならやってみようか?」

千秋「やるというなら、止める……!」

夏樹「ふーん、止めるか……それは本心で言ってるのか?」

千秋「何を……」

夏樹「居なくなった方が、好都合なんじゃないのか?」

琴歌「チアキ! そんな盗賊の言う事に耳を貸す必要はありません!」

夏樹「アタシも返答は求めてないよ、そもそも彼女の前じゃ言いにくいだろうしな」

琴歌「当たり前ですわ! 私の前で私を不要などと言った日には……」

夏樹「……いや、アンタの事じゃないよ。な?」

李衣菜「ね?」

雪美「…………?」

千秋「……では一体何を?」

夏樹「何、アタシは価値あるモノを盗んで、求めている人に受け渡すのが仕事だからさ」

――スッ

千秋「……?」

琴歌「なっ……!」

雪美「…………え?」

夏樹「明日だ、アタシの指定する日は」

李衣菜「絶対に盗んでみせる、なつきちが言うんだから確かだよ」

夏樹「ま、その辺の詳細は予告上にも書いてるよ、ちゃんと読んどけよ?」

琴歌「まさか……私から奪うというのは…………!?」

李衣菜「そのまさかだよ。ね? なつきち」

夏樹「ああ、間違ってねぇよ」

夏樹「明日…………チアキ=クロカワと、ユキミ=サジョウを盗ませてもらうぜ?」



・・

・・・


―― 一時間前



卯月「ぜぇ……ぜぇ……」

凛「よく一日も掛からずに移動できたね」

未央「疲労が凄い事になってるけど」

卯月「はぁ……はぁ……だ、大丈夫……それだけ私たちが……成長……おえっ……」

幸子「じゃあそちらの事項は全て解決していると?」

未央「うん、だから最後……重要なお仕事は二人で――」

――ザッ

李衣菜「その仕事も、既に終わってるみたいだよ、本当に凄い運と凄い仲間が居るんだね」

凛「リイナ? ウヅキ、先にナツキの元へ向かったって言ったんじゃ……」

卯月「そ、そのはず……別の場所……ナツキさんを直しに行くからって先に……」

李衣菜「それなら、もう終わってる……!」

――ザッ

夏樹「……初めまして、になるかな」

凛「あんたが……ナツキ?」

夏樹「はは、意外にオーラが無くて拍子抜けしたか?」

未央「いやいやそんな……私達、お役に立てました?」

夏樹「役に立ったどころか命の恩人だよ、あのまま野垂れ死んでてもおかしくはない状態だったからな」

李衣菜「今度絶対お礼するから! あ、とりあえず……置いてっちゃってゴメン、これでも飲んで」

卯月「いえ……えっと、これは?」

李衣菜「疲れが早く回復するよ」

卯月「じゃあ……いただきます」

夏樹「よしと……さて、礼が簡単に終わっちゃったけど、次に行く所があるからな」

凛「もう出発するの?」

李衣菜「いや、礼の続きがあるんだよ」

幸子「有名人は大変ですね!」

李衣菜「そう……だね」

卯月「じゃあ次に会うのは、当分先ですか?」

夏樹「いや、そう遠くはないはずさ。今は用事があるけども、必ずちゃんと礼に来るからな」

夏樹「そうだな……何か欲しいモノがあったら、届けてやるよ」

未央「……!」

夏樹「っつっても、あんまり無茶な指定や特定の個人のモノは……ん?」

未央「それ、今すぐ頼めますか!?」

李衣菜「もう欲しいモノが決まってる感じ?」

夏樹「今すぐ……場所が場所なら時間と準備が……」

卯月「ミオちゃん、それってもしかして……?」

凛「ミオ……それは、いくらなんでも……」

未央「でも、こうでもしないときっと……どうにもならないよ!」

李衣菜「…………?」

夏樹「へぇ……なんだかワケありで、盗むのが難しいような言い方だな?」

夏樹「いいよ、言ってみな? 出来ないとは言わない、やるかやらないかをアタシが決めるから」

未央「……じゃあ、言うよ? 盗んでほしいのは――」




・・

・・・

――ガヤガヤ ワイワイ

瑞樹「さて! 予告の時間まで十、いや九分を切りました! こちら現場の記者ミズキです!」

瑞樹「今日は特別に、新技術を用いた現場の生中継を全端末に送信しています!」

瑞樹「ご協力いただいた技術者兼、カメラ担当はアイコちゃんです」

藍子「ど、どうも……あの、お手伝いってこれの事……?」

瑞樹(ゴメンね? 部下がたまたま都合つかなかったのよ……)

藍子「構いませんけどっ……重い……」

瑞樹「……改良点は分かったわね」

瑞樹「さて、今日の予定……この中継の内容を説明致しますと……?」

瑞樹「つい先日、例の義賊一団であるナツキとリイナ両名の被害を受けたコトカ=サイオンジさんですが」

瑞樹「なんと二度目の予告状が届いたとの事です、その前代未聞の情報を手に入れた我々は、こうして会場に向かいました」

藍子「会場になってるんですね」

瑞樹「そうです! この広場一帯を特別会場として、今回の義賊一団を迎え撃つとの事です!」

藍子「今まで予告を出された方々は警備の強化を行いましたが、逆に広くオープンにする新しい試みですね?」

瑞樹「むしろ防衛策としては有効かもしれません、さて時間が迫ってきたところで……おっと?」

藍子「あっ、コトカさんが来たみたいですが?」

瑞樹「移動しましょ、インタビューよ」

藍子「うんしょ……私が持つならもう少し軽く作ればよかったです……」

千秋「…………」

琴歌「ここまで大勢の人の前だと緊張するかしら?」

千秋「まさか……」

琴歌「今回、あなたは“盗まれる対象”に含まれてるのよ? しっかり自衛しなさい」

千秋「……分かっている」

琴歌「外部の人間は信用できないと、前回高い授業料を払って学んだわ」

琴歌「なら、あなたが自分を自身で守りなさい。……確認しておきましょうか、万が一あなたが――」

千秋「言わなくても、分かっている」

琴歌「確認と言っているでしょう、肝に銘じなさいと言っているのよ」

琴歌「万が一……あなたがナツキとリイナに“盗まれる”自体が発生したならば……」

琴歌「私の名誉の為、二つ目の盗まれる対象である……ユキミを殺す」

千秋「…………」

琴歌「その為に中継の映像なんてモノを許可した、遠くからあなたを隠れて観察するため」

琴歌「逃げ出したり、あわよくば盗まれて自由の身になろうとしたら」

千秋「分かっていると言っているでしょう!」

琴歌「あらあら……じゃあせいぜい頑張って頂戴、お互いの為に」

――スタスタ

琴歌「……ふふ」

瑞樹「はいはい、ご機嫌いかがですかコトカさん」

琴歌「あら、私は上機嫌ですわ、そちらはどうでしょう?」

瑞樹「いえいえ、この瞬間に立ち会えるなんて記者冥利に尽きます」

琴歌「ご協力出来て光栄ですわ。今日はしっかり中継を頼みますよ、決して私の“部下”から目を離さぬよう」

瑞樹「もちろんです。しかし“部下”であるチアキさんを盗む対象と宣言された時のお気持ちはどうでしたか?」

琴歌「一度ならず二度までも、私から盗みを働くなど言語道断ですわ。簡単には盗みを成功させませんわ」

瑞樹「彼女はしっかりと自衛するようですが、その実力は?」

琴歌「折り紙付きですわ、気合が入っているようなので、それがますます盗みを困難にさせています」

藍子「えっと、ミズキさん……五分前です」

琴歌「もうそんな時間? では私は行く所があるので」

瑞樹「ここで部下を見守らないのですか?」

琴歌「盗まれるモノは一つではありません、もう一つの様子を見に行く必要もあるのです」

瑞樹「なるほど、分散させて警備しているのですね? それで、もう一人は何処に?」

琴歌「極秘よ、私だけが知っている……私自らが警備にあたります」

瑞樹「コトカさんが自ら、これは相当な気合……それだけ予告阻止に力を入れていると!」

琴歌「そうですわね。……あなた達はここでチアキの勇姿をしっかり捉えてくださいね?」

――スタスタスタ

瑞樹「それでは、お時間まで少し休憩です! 端末の前で映像の再配信まで暫くお待ちを!」

藍子「…………はい、中継切れました」

瑞樹「ふぅ……ごめんなさいね、大仕事手伝わせて」

藍子「それはいいんですけど……これ、実際はどうなんですか?」

瑞樹「というと、どの事かしら? 心当たりが多すぎて答えきれないわね」

藍子「じゃあ時間もありませんから……二つだけ」

藍子「彼女、チアキさん……確かに実力はあると聞いていますが、それにしても」

瑞樹「警備が少ない、って事?」

藍子「はい……一度阻止に失敗しているなら、もっと強化すべきでは……」

瑞樹「そこは……ちょっと答えにくいわね。とにかく色々あった結果、今回の舞台が完成したの」

藍子「舞台、この会場ですか?」

瑞樹「いいえ、この二度目の盗みと、その盗む対象……その段階からよ」

藍子「複雑ですね……じゃあもう一つ。 ……ミズキさんは、この舞台を見てどう思いますか?」

瑞樹「最悪ね」

藍子「えっ……? そ、それは警備や警戒の薄さって――」

瑞樹「いいえ、そんな表面上の事じゃないわ」

藍子「じゃあ……」

瑞樹「裏。このカメラに捉えきれない、彼女達の心の中と……物理的に捉えられない他の場所、舞台裏……」

藍子「…………」

瑞樹「でも、介入してはいけない。どちらが本当に正しいかなんて、分かってるはずなのにね」

瑞樹「私はこの目で見たものを伝えるだけ……それが仕事で、役目なんだけどね?」

藍子「ミズキさん……」

――ピピピピッ

藍子「あっ……カメラ回ります……十秒……」

瑞樹「さて、私情は終わり、ここからは仕事よ」

藍子「はい。…………このお仕事、楽しいですか?」

瑞樹「あら、今聞いちゃう? 楽しいわよ、もちろん」

藍子「そうですか……私は、ちょっと辛いです」

瑞樹「……嫌な事に付き合わせちゃって、ごめんなさいね」

藍子「いや、これも私が選んだんです、手伝わせてください」

瑞樹「じゃあお願いしちゃう、カメラお願いね」

藍子「はい……三、二、一……!」



・・

・・・


――バタン ガチャ

琴歌「……施錠は完了」

瑞樹『予告の時間まで残すところ三分を切りました』

琴歌「端末もトラブルなく動作、そして……」

雪美「…………」

琴歌「逃げずに大人しくしていたかしら。最も、その小さな体で鎖を壊すことなんて出来ないでしょうけど」

雪美「逃げない……見る……」

琴歌「そうね、チアキの事は気になるでしょう? その為の中継と端末、そしてこの隔離された小屋」

――スチャッ

雪美「……!」

琴歌「たかが最下層の人間が一人死のうが、気づかれないシチュエーションだと思わないかしら?」

雪美「……チアキ」

琴歌「そう、祈っておきなさい。彼女が抵抗を諦めるか、その抵抗ごと制圧されたら……!」

雪美「私じゃ……脅しにならない……チアキは、一人でも…………」

琴歌「一人でも? ええ、一人でも何ら問題なく生活出来るし生きていけるでしょう」

琴歌「ただ、あなたはどうかしら?」

雪美「……出来なくても、いい」

琴歌「一丁前に覚悟はあると?」

雪美「…………!」

琴歌(そう……でも、あなたは自分の結末に覚悟があっても、彼女があなたの覚悟を見届けられるかは別なのよ?)

琴歌(恩など、さっさと切り捨てればよろしいのに)

瑞樹『残り一分……さぁ、この見通しの良い開かれた会場に二人は姿を現すのでしょうか?』

琴歌「来るに決まっていますわ……ですが、今回の警備に穴はありません」

琴歌「警備はたった一つ……盗まれる対象が、自身で行いますから」

雪美「チアキ……」

琴歌「奇襲など有り得ません、確実に衝突する……さぁ、見事その盗賊を退けなさい……!」

――バァンッ!

瑞樹『おっと……何やら爆音と共に……あれは!』

藍子『えっ!?』

琴歌「来た……!」

瑞樹『姿を現しました! あの一段高い建物にシルエットが! しかし……?』



・・

・・・


夏樹「よぉ…………盗みに来たぜ」

??「…………」

??「…………」

??「…………」

??「…………」



瑞樹「一名は確実に、ナツキ本人です! しかし、その周囲を取り囲む……四人!?」

藍子「全身マントではっきりと容姿……顔は確認できません……カメラは尚更です」

瑞樹「これはどういう事でしょう! 右腕であるリイナを隠すための行動でしょうか?」

夏樹「……えらくウェルカムな会場だな、そして?」

千秋「ナツキ……!」

夏樹「昨日会った時よりも……顔色悪いぜ?」

千秋「あなたには関係ない、それよりも……来なさい、勝負よ」

夏樹「ややこしい事になってやがるな、いいぜ。……だけど、まだ準備がある」

千秋「……?」

――バサッ

瑞樹「ついにナツキと正体不明の四人が…………いや、これは!?」

??「…………」

??「…………」

??「…………」

??「…………」

??「…………」

藍子「五人とも……?」

千秋「なるほど、正面から堂々と不意を突くつもり?」

瑞樹「これでは誰が誰だか判断つきません!」

千秋「でも……関係ないのよ、私は全て……退けなくちゃいけない」

――ダンッ!

??「ふっ!!」

??「たあっ!」

千秋「加減はしないわよ……!」

――ワァァァ

琴歌「ついに現れた……ナツキ、そしてリイナもあの中に居るはず」

琴歌「姿を偽に紛れ込ませようとも関係ありませんわ、チアキの言った通りどのみち全て倒さなければね」

瑞樹『さながらこの盛り上がりは劇団の一幕を見ているかのよう!』

琴歌「違いないですわ、あの舞台はまさしく演舞……私にとってはその通り」

琴歌「ですが、周りの人や当人……役者達はどうでしょうか?」



――キンッ! ガキィン!

??「先に聞いてたけど……強い!」

??「気をつけて!」

千秋「さっきから攻撃が……遠慮がちね?」

――ガシッ

??「あっ!」

千秋「こっちは遠慮しないと言っている、姿を隠していないで見せなさい」

??「わわっ!」

――バッ

未央「あわわっ!」

千秋「……!? あなたは……」

瑞樹(なるほど……誰に応援を頼んだかと思えば。知らないフリ知らないフリ……)

藍子「だ、誰? リイナの傘下の人……?」

瑞樹「手元には資料がありません、いったい誰なんでしょうか?」

千秋「何をしているの!?」

未央「あ、えーっと……わ、わー、ここはどこだー、昨日からの記憶がないぞー」

千秋「ふざけないで!!」

瑞樹「一般人を操って偽物に仕立て上げていたという事でしょうかー」

未央「はい!」

千秋「はいじゃないでしょう!」

??「ふっ!!」

千秋「じゃあこっちの覆面にも……道理で五人なわけね……!」

――ドスッ!

千秋「っ……捕まえた」

??(受け止められた……!?)

千秋「ひ弱に見えたかしら? これでも充分に鍛えてるわ……よっ!」

――グイッ ビタァン!!

??「かはっ!!」

千秋「さて、正解かしら?」

――バッ

凛「っ!」

千秋「違ったみたい、でも残りはもう一人と……正解が二人のはずね?」

??「たあっ!」

??「てやあっ!」

千秋「同時……なら、あなたにしようかしら」

――ガシッ

??「今です!」

――キィン!

千秋「魔法……なら、違うわね。結局最後まで外しちゃった、運が悪いのね……」

??「効いてない!?」

千秋「避けただけ、当たったように見えてもね」

――バサッ

卯月「あうう」

??「…………」

??「むむ……」

千秋「じゃあ、最後に残ったあなた達がナツキとリイナね? 次は本人、今度こそ遠慮はしない」

瑞樹「カメラ寄るわよ!」

藍子「は、はいっ!」

千秋「姿を見せなさい!!」

――ダンッ!!

??(速っ……!)

??(それに、本当に全力で攻撃動作を……このままだと……!)

――ザシュッ!!

瑞樹「ナイフが二人を捉えた……! いや、これは?」

藍子「布だけです! 中身は!?」

??「……ちょっと、戦線離脱が早いんじゃないですか?」

??「そっちこそ、あからさまに無理のある脱出です!」

??「でも上以外に避ける方向は無かったでしょう!?」

千秋「なっ……!?」

瑞樹「浮いてる……? へぇ、思わぬところで面白いモノを見ちゃったわね」

幸子「あのままボクが地上に居れば、確実に真っ二つです!」

菜々「ですが時間を稼げと言われたばかりですよね! ナナより優れているなら耐えてください!」

幸子「こんな時だけボクを持ち上げるのは卑怯です!」

千秋「だ、誰……!? いや、そんなことより…………!」

瑞樹「リイナは分かる、でも確かにナツキは姿を一度見せたはず……」

菜々「さぁ、どこでしょうね! ナナは役目を終えたので帰ります! それではまた会う日まで!」

幸子「あっ! ずるい! ボクも朝食がまだなので帰りますね! それでは!」

――ヒュンッ

千秋「飛行……ずいぶん得体の知れない仲間が居たのね……!」

千秋(……どこから来る? 動揺している隙を狙うなら、この瞬間のはず……私は決して油断しない……!)

藍子「ミ、ミズキさん……どうします?」

瑞樹「カメラは切らなくていいわよ……模倣犯じゃない、これは確実にナツキの一団の仕業だから」

瑞樹(……この三人がリイナと繋がりがあると知っているのは私だけ、詳しくは説明できないけどね)

藍子「分かりました……では、予告の時間を間違えたのでは……?」

瑞樹「いいえ……確実に盗みには来るはず、だけどいったい何処に潜んで……」




・・

・・・

――ガタンッ!

雪美「……!」

琴歌「な……誰でもない、ですって……!? そんな馬鹿な!」

琴歌(あの顔、三人がまたしても邪魔に入ったと思った……でも、チアキはそれを簡単に制圧……)

琴歌(ならば残る二人が本物であって然るべき……! が、その中身は全くの別人……!)

雪美「盗み……チアキに、行かない……?」

琴歌「そんなはずは……予告を違える事はしないはず……絶対に、チアキの元へ来るはずなのよ!」



――……コンコン



琴歌「…………え?」

雪美「お客さん……?」

琴歌「そんな訳がないわ……ここは、私が特別に用意した場所、来客など訪れるはずが……!」

――コンコン

雪美「でも……扉……ノック」

琴歌「まさか……この場所は秘密裏のはず……!」

――……ガチャッ ガッ

??「おいおい、わざわざ丁寧にノックしてやったのに……無視するなよ、悲しいじゃねぇか」

琴歌「いったいどうやってこの場所を嗅ぎつけてきたの……!?」

夏樹「企業秘密だ。でも最初に言っておく、内通者は居ねぇよ、アタシが自力で探した」

李衣菜「あと私もね」

夏樹「泥棒に、隠し事は出来ねぇぜ」

琴歌「くっ……! 来なさい!」

雪美「あぅ!」

――ギラッ

夏樹「おいおい、アタシが盗むモノを傷つけようとすんなって、綺麗なまま盗みたいんだよ」

琴歌「それ以上こちらに近寄ると……刺しますわ!」

夏樹「……滅多な事口にすんなよ。その気になれば扉ぶっ壊して数秒経たない間にその小刀、盗めるんだぜ」

李衣菜「そのチェーン、外す?」

琴歌「近寄ろうとしないで!! では、扉に触ることも許可しません! 大人しく踵を返しなさい!」

夏樹「分かった分かった、そうカッカすんなって、扉は閉めるしこれ以上近寄りもしないさ」

雪美「大丈夫……私、だから……チアキを……」

琴歌「あなたも黙って!」

夏樹「…………なるほどね、こりゃ本腰入れて盗むべきモノだな」

琴歌「まだ言いますか? 私は本気です! その扉から手を離さないと」

夏樹「離す離す、じゃあ閉めるぞ?」

李衣菜「バイバイ♪」

琴歌「二度と見たくありませんわ!」

夏樹「そいつは無理な相談だ、最低でも後一回は顔見せしなきゃならないからよ」

琴歌「……!」

――バタンッ

琴歌「……ふ、ふふ……ここは窓もない、扉は入口一つ、他から侵入は出来ませんわ!」

――バキッ!

雪美「っ!?」

琴歌「な、何の音!? 壁を壊すのは不可能……いや、よしんば壊せたとしても一撃では不可能!!」

――バキッ!

琴歌「……かといって、何度も試みるようならば、この腕が首を貫くと――」

夏樹「ああそうだ、壁は壊れねぇけどよ……急ごしらえのシェルターだから、作りがずいぶん甘いんだよな」

琴歌「いったい何の……!」

――ギィィィ

琴歌「な…………!?」

夏樹「小屋、シェルターっつっても天井と床と壁に分厚い鉄板六枚が組み合わさっただけの箱だ」

李衣菜「だからこうして……接合部をちょっといじってあげれば」

夏樹「立方体の展開図の完成だ」

琴歌「か、壁が……外側に倒れて……!?」

――バタァンッ!!

瑞樹「何の音!?」

藍子「あっちからです! ……あっ、あれは!」

千秋「あんな場所に……ナツキ! リイナ! それに……!」

卯月「コトカさんと」

未央「ユキミちゃんが!」

凛「上手く行ったみたいだね……!」

千秋「最初から……あっちが目標だったのね!」

藍子「か、カメラ向こうに行きますか?」

瑞樹「なるほど、そういう事ね……私は先に行く、アイコちゃんはゆっくり来てね」

藍子「ゆっくりって……カメラはここですよ!?」

瑞樹「大丈夫、ちょっとくらい差が出ても構わないわ」

――ダダッ!

琴歌「くっ……!」

夏樹「なぁ、いつまで子供の首に刃物構えたままでいるつもりだ?」

琴歌「あなた方が去るまでですわ!」

李衣菜「じゃあここから動かない。扉にも触れてないし、近寄ってもないからいいよね?」

夏樹「だけどよ……ずっと構えてて、本当にいいのか?」

琴歌「何のことかしらね、何も不都合はないわ!」

瑞樹「本当かしら?」



琴歌「……邪魔しに来たのかしら?」

瑞樹「いいえ、最初に言われた通り……一部始終をカメラに収めに来たわ。カメラは遅れているけど」

琴歌「なら黙って見届けなさい、手出しは無用……!」

瑞樹「それは当然……だけど、いいのかしら? カメラが来るのよ?」

琴歌「それがなんですか! 私が命令した以上何も不都合は……………………っ!?」

夏樹「……ようやく気づいたか?」

藍子「ひぃ……重い……ミズキさん早いです……」

未央「手伝おうか?」

卯月「私達、もう何もする事がないので……」

藍子「だ、大丈夫です……よいしょ、よいしょ……」



夏樹「貴族位の人間が、所有物とはいえ子供を人質にして立て篭ってるなんて……中継していい代物じゃねぇだろ」

琴歌「な、なら映像の接続を止めればいい話です! 配信を命令したのは私、停止するのも――」

瑞樹「断るわ」

琴歌「なっ!?」

瑞樹「ここで映像を切るなんて、情報配信者として失格よ。真実をありのままに伝えるのが私の仕事」

夏樹「よく言うぜまったく、でもその通りだ」

李衣菜「どっちがいい? 中継が繋がる前に観念するか、それともこの膠着状態を続けるか」

琴歌「……う、あぁぁああ……!」

夏樹「それとも……」

琴歌「またしても……また私の道を邪魔しますかっ!!」

――ダンッ!!

夏樹「聞く前に来るんじゃねぇって」

琴歌「せめて一太刀でも浴びさなければ気が済みません!!」

雪美「危ない……!!」

――ザンッ!!



凛「今、向こうで音が……!」

未央「大丈夫なの!?」

卯月「分からない、でも私たちも念の為向かおう!」

藍子「ああっ、間に合わない……!」

未央「こっちを手伝った方がいいんじゃ……」

――……カランッ

琴歌「う…………刃が……」

李衣菜「折れたのが武器でよかったね……私一人なら、腕ごと折ってた」

夏樹「物騒な事言うなって、謝礼は指輪で貰ったんだから怪我させんなよ?」

李衣菜「そんな謝礼で許すわけないじゃん……」

夏樹「アタシがいいって言ってるんだからよ、いいだろ?」

瑞樹「…………終わりね」

――……ザッ!

千秋「ユキミ!!」

雪美「チアキ……!」

夏樹「おっと、感動の再会か?」

千秋「……礼は言わないわよ」

夏樹「当然だよ、アタシが決めた仕事じゃないし……そもそも仕事も終わってねぇ」

李衣菜「盗みに来たんだよ、まだ何も盗んでない」

千秋「……あくまで仕事は続けるのね? …………いいわ」

――シャキッ

夏樹「何構えてんだ?」

千秋「見えないの?」

夏樹「そういう意味じゃねぇって、なんでナイフ構えてるんだ?」

千秋「それは、当然自衛の為よ……盗むんでしょう?」

李衣菜「…………ふーん」

夏樹「盗むけどよ、なんで盗まれたくないんだ?」

千秋「何でって……」

琴歌「ありえない……そんな馬鹿な……」

夏樹「そこの茫然自失してるお嬢様の命令だからか?」

千秋「……そうね」

李衣菜「なんで命令に従ってるの?」

千秋「今更それを聞くのかしら。私は見ての通り、コトカの支配下なのよ、当然じゃない」

夏樹「その鎖があるから、従ってるんだろ?」

千秋「そう言ったつもりだけど」

夏樹「原動力なわけだ、正か負かは置いといて」

千秋「だったら何なの……?」

――ザッ

卯月「チアキさん! ……と、えーっと」

未央「ナツキさん!」

凛「あれ……知らない体裁で話を進めるんじゃなかったの?」

卯月「カメラは通ってないのでセーフ!」

藍子「は、はい、今ちょうど到着しました」


李衣菜「本当にギリギリセーフだよ」

千秋「……別に、この様子が世界に繋がろうが関係ないわ、私は意思を変えない」

夏樹「そっか、じゃあ……無理矢理にでも変えるか」

――ダンッ!

千秋「来る……!」

――……カシャンッ

雪美「……!」

琴歌「なんですの……?」

瑞樹「あら? これは……」

千秋「っ……!?」

夏樹「予告通り……“コトカの所有物であるチアキとユキミ”は盗んだぜ?」

李衣菜「さっすがなつきち!」

千秋「ま、待ちなさい!」

夏樹「嫌だね、アタシは仕事を終えたし逃げるぜ」

李衣菜「撤収!!」

――バッ

卯月「早いっ!」

藍子「追いきれませんって!」

瑞樹「フレームに収めるだけでいいわ、もう仕事は終わりみたい……盗みは成功ね」

雪美「あ…………」

未央「よしっ!」

――ザッ……

夏樹「じゃあな、これは二つとも頂いていく」

李衣菜「返さないからな! そして、返すのは……持ち主にちゃんと返す、壊してからだけどね」

――ジャラッ

藍子「あれは……」

瑞樹「……中継先の方、今何が起きたか理解に手間取っている事でしょう」

瑞樹「私の隣に確かに居るチアキ、ユキミの両名……まだ盗まれていませんが、仕事は終わったとナツキは言いました」

瑞樹「一体何を盗んだのか……? それは、これです。アイコちゃん、カメラ、ほら」

藍子「は、はい」

雪美「チアキ…………私……」

千秋「……私もよ」

――カランッ

凛「ナイフ……落ちたよ」

千秋「……今は必要ない。戦う理由が、消えたから」

琴歌「何を……あなたは私の配下としてその武器を――」

千秋「悪いけど、今はもうあなたの配下じゃない……繋ぎ止めていた鎖は、盗まれたわ」

琴歌「はあっ……!?」

瑞樹「首輪と鎖……ナツキが盗んだのはそれね……」

琴歌「そんな馬鹿な! 簡単に開錠など不可能な代物のはず!」

未央「そんなものでも盗めるナツキさん本当に優秀~」

琴歌「第一、他人の奴隷を無断で解放するなど、重罪ですわ!」

凛「何を今更……ナツキは盗賊だよ」

卯月「その権力は通用しない!」

あーもう、藍子は可愛いなぁ!!

なつきちと千秋さんがイケメン

夏樹が頼りになりすぎてイタチみたいだったww

琴歌「ぐっ……!」

未央「さぁ神妙にお縄につけーい!」

瑞樹「ちょっとちょっと、何する気かしら?」

未央「それは当然……」

瑞樹「言っておくけど、そこのお嬢様は別に何も罰せられるような事はしていないのよ」

卯月「……あれ?」

瑞樹「その鎖は所有を表すモノ、もちろん最低限の人権はあるけど一般とは異なる扱いも数多い」

瑞樹「……その行為を行う許可証でもある、大抵の所業は許される」

凛「だから、違法でもなんでもないって?」

瑞樹「そうなるわ」

未央「でも今は鎖はないじゃん!」

瑞樹「だとしてもよ? これまでの行いは“あった時”のもの、何ら違法性は無い」

卯月「じゃあ、現状は何も変わらないの?」

琴歌「……ふんっ、ですが私の顔にまたしても泥を塗ったのは事実……次こそは捕らえますわ!」

瑞樹「はい、コメントありがとうございます。では本日の特別中継はここで終わりになります」

藍子「……切断します、おしまいです」

凛「あ、まだ回ってたんだカメラ……」

琴歌「もう関係ありませんわ、終わってしまったもの。……では私は帰還します、二度と会う事はないでしょう!」

未央「お疲れさまでーっす!」

卯月「ミオちゃんちょっと」

――ザッ ザッ

琴歌「…………」

――クルッ

未央「うぇっ」

卯月(ほら、怒っちゃったかも)

凛(自己責任だから謝ってね)

未央「え、ええ? あ……」

琴歌「…………」

――スッ

未央「……通り過ぎた?」



琴歌「……帰還する、と言ったのが聞こえませんでした?」

千秋「聞こえてたわよ」

琴歌「では何故先導しないの?」

千秋「聞く必要があるの?」

琴歌「なっ……。 何か勘違いしていませんか? 鎖は盗まれても、あなたが現在の地位から解放されたわけではありません」

琴歌「私は権利を放棄した覚えはありません、だから所詮無駄な行為だった――」

千秋「関係ない。私は元々、何度も逃走は繰り返している、今更ひとつくらい前科が増えても気にしない」

琴歌「はぁ? ……ああ、確かにあなたは度重なる逃走の常習犯でしたわね」

琴歌「ですが……その逃走の妨げが、ユキミよ」

卯月「ユキミちゃんが?」

雪美「…………違う」

琴歌「違わない。薄々気づいているでしょう? チアキがあなたに執着する理由」

凛「姉妹?」

琴歌「ではない、赤の他人……まったく、赤の他人が問題児を繋ぎ止める鍵になるとは私も思いませんでしたわ」

琴歌「チアキは脱走、逃亡の常習犯。だからこそ各地を転々と一人で周り……アテが無くなれば鎖の根元へ戻ってくる」

琴歌「なまじ万能だから、処分も免れるしそれが決定しても逃走を試み、逃げ切る……ですが」

琴歌「一度、大きな失敗を犯して重症に陥ったことがあるのよ」

凛「重傷、怪我……?」

卯月「そんな跡は見えないし……もしかして病気?」

琴歌「逃走を試みる直前に移送された地が、流行病の発生源……そこで病気を貰ってきたんでしょうね」

琴歌「脱走後ちょうど一人の時に発症して、治療も施されずに倒れた」

未央「でも……チアキさんは」

千秋「ええ、生きてるわ。……彼女のおかげで」

雪美「……私、看てただけ」

千秋「そうだとしても、私は現に助かっている」

琴歌「……気まぐれで、鎖の知識も無かったからこそあなたに普通に接したのでしょうね」

卯月「でも、どうしてそのユキミちゃんが、その時しか繋がりがなかったのに今現在こんな事に……?」

琴歌「逆ですわ。その時、彼女にしか、過去いくら遡ってもチアキと繋がる人物が居ないのよ」

琴歌「少なくとも……チアキが恩を持っている相手は」

凛「恩……その、病気の看病?」

未央「他に誰もいないって……」

千秋「…………居ないわけではない、ただ」

琴歌「ただ、私が手を掛けられる人物が居なかった」

卯月「手を掛けられる? え、でもコトカさんは貴族で相当階級としては上じゃあ……」

琴歌「そうよ、私は貴族階級……でも、チアキの知り合い……親族身内もまた、同じ階級よ」

未央「チアキさんが……」

凛「貴族の出身?」

千秋「昔の話よ」

千秋「貴族は複数の家が纏まって一つの団体になっている事が多い」

千秋「ある時、急な資金の枯渇により私の家が含まれる団体が纏めて危機に陥った」

凛「…………」

千秋「察しの通り、優秀と言われて評価も高かった私を“売る”事で団体は持ち直したわ」

未央「そんなのひどいよ! どうしてチアキさんに全部押し付けて……!」

琴歌「いいえ、早とちりしてはいけません。彼女は、その判断を自分で考え自分で下したのですわ」

卯月「え……?」

千秋「……ちょっと、どうしてその事を? 何故知っているの?」

琴歌「なぜ知っているかを教える前に……私の話を聞きなさい」



琴歌「ナツキとリイナ……あの二人を最初に見たのは、一度目の襲撃ですわ」

卯月「昨日……じゃない、そのまた昨日?」

琴歌「いいえ? ほぼ一年前、一度目の襲撃……同時に、あの義賊共の一度目の仕事」

琴歌「……いや、あの時は義賊ではない。ただの強盗ですわ」

瑞樹「一年前……ちょうど、ナツキとリイナが出会った一度目の義賊活動よ」

未央「知っているんですか!?」

瑞樹「当たり前よ。確か……あの義賊がここまで徹底的に襲撃を行うなんて、よほどの悪行を行っていたんだと」

琴歌「あなたも同じ事を? 情報屋が正しい情報を見つけていないとは、聞いて呆れますわ」

瑞樹「間違っていると?」

琴歌「大間違いですわ」

瑞樹「どうして間違いだと言い切れるの?」

琴歌「被害者だからよ」

瑞樹「…………何ですって?」

琴歌「第一の襲撃……標的は、私達だった」

千秋「…………達? いや、それよりも――」

琴歌「まだ私が喋っていますわ、黙ってなさい!」

瑞樹「……これは、なるほど…………そういう事、完全に見落としてたわね」

藍子「ど、どういう事ですか?」

未央「昔から襲撃されるほど悪い事してたの!?」

卯月「いや、私達って事は……貴族位はグループ、もしかして集団の中の誰かの家に入られたという事かな?」

琴歌「なかなか理解が早いですわね。その通り、直接ではなく間接の被害」

琴歌「とはいえ貴族の集団には一部の被害も大きい、それはあなたも分かっているでしょう?」

千秋「…………ええ」

瑞樹「そして間違っているとはいえ、先の……あの義賊が徹底的に、という報道がマズかった」



琴歌「結果……私達の家系がそのグループから全ての負債を任されて、切られた」

凛「切られた? じゃあ貴族じゃなくなったって事……でも、現に今は」

琴歌「そこは私が自力でこの地位を再び得ました、苦労しましたが」

琴歌「元居た集団よりは劣った状態でしたが……ようやく悲願は達成しましたわ」

未央「もともと所属していた……」

琴歌「そう…………貴族位、クロカワが率いる貴族グループから外された私は、現在それを上回った」

瑞樹「やはりね」

千秋「あなたが…………私の傘下だった……?」

琴歌「大きなグループの末端の事は覚えていませんでしたか? ですが確実に同じ所属ですわ」

琴歌「その証拠が、ナツキとリイナの襲撃の被害。……あちらの二人は覚えていませんでしたが、あなたの事も私の事も」

卯月「じゃあチアキさんがこの地位に落ちたのは……ナツキさんが原因?」

千秋「いや、違う……それとこれは違うわ!」

琴歌「ところがどっこい根元は同じなのよ!」

千秋「なっ……!?」

琴歌「最初の襲撃の皺寄せは私、それは確か。だからあなたが身を売るキッカケになった事件とは違いますわ」

千秋「なら……」

琴歌「ですが、その後の資金難が発生した原因は……ナツキの襲撃でもあるのよ」

琴歌「もちろん直接ではなく間接ですが」

雪美「…………?」



琴歌「資金の傾きを扇動したのは……私ですもの」

千秋「なんですって……!」

琴歌「あなたに直接恨みは無くとも、その一族により私は集団から落とされた」

琴歌「……同じように、あなたを落としてみたくなった」

卯月「そんなの……逆恨みじゃないですか!」

琴歌「逆恨み!? では私は何に地位の喪失という甚大な被害への怒りを押し付ければよかったのですか!?」

千秋「…………それで私を落とす為に工作して、この階級に落として」

千秋「落として尚、私は普通に生きていたから……自分の傘下に加えた」

雪美「…………?」

千秋「わざわざ……部外者を巻き込んで」

琴歌「縁を外部に作ったのが運の尽きだったわね」

凛「じゃあさっき、なぜ自分で判断を下したかを知っていたのは」

卯月「そうなるようにあなたが工作したから……!」

未央「ちょっと! これは正真正銘悪いことなんじゃない!?」

藍子「ミズキさん……その通りかもしれませんよ……?」

瑞樹「私に振らないで頂戴、別に法に従う裁判官でもないんだから私は、しがない情報屋」

琴歌「その通り、ここで話しても痛くも痒くもない」

琴歌「ただ気に入らないのは、この真相を話しても……考えを改めないチアキよ」

千秋「…………」

琴歌「あなたが従わなければユキミがどうなるかは何度も伝えているのに、今の今、どうして彼女を無視するの?」

千秋「無視なんてしていないわ」

琴歌「でも私に従わないなら、そう捉えてもおかしくない」

琴歌「鎖に繋がっているモノの持ち主は、鍵を持つ者だけよ」

凛「鍵?」

瑞樹「鎖を実際に外す鍵の事、今回はナツキが勝手に開けたから使われてないけど」

琴歌「他人が開けるのは重罪よ、そしてそれによって開錠されても鎖から逃れたわけではない」

未央「う……知ってたら、そっちを盗んでもらってたのに」

琴歌「無駄ですわ、その鍵は私の手元にあるわけではありません、本家の屋敷に保管されています」

琴歌「ここから幾つもの国を跨いだ先、昨日今日で盗みに迎える場所ではありませんわ」

琴歌「そして鎖が盗まれた今、新たな鎖であなた達を繋ぎ止める。仮に今から鍵を盗もうと、その鍵は無意味!」

卯月「じゃあ……この鎖を盗んだのは……!」

琴歌「ええ、まったくの――」

千秋「……なるほどね」



琴歌「…………?」

千秋「この会場に立つ前……あの盗賊から受け取ったこの鍵は、そういう事……?」

――チャリン

瑞樹「それは……!」

卯月「え、まさか!?」

未央「ここから離れて無理って言ってたのに……」

琴歌「な、なんで……どうしてあなたがその鍵を!?」

千秋「使う前に、不要になったとはいえ……鍵の所有者が鎖の所有者になるなら――」

瑞樹「鍵の所有者は……自身が鎖に囚われていない限り、可能……!」

未央「……もしかして、今その鍵を持ったって事は?」

凛「多少屁理屈だけど……鍵を持っているから、鎖には縛られない……?」

琴歌「冗談じゃないですわ! それに、その鍵がそこにあるはずが……あるはずが……!」

――ガサッ

琴歌(まさか……気づかない間に、ナツキが盗んだ!?)

千秋「……!」

――ガチャッ

琴歌「この鍵を……盗…………え?」

卯月「え!? ま、また鍵が出てきた!?」

藍子「鍵が……本物は屋敷にあるって……!」

琴歌(屋敷の警備も信用できない……だから実際はこうして私が肌身離さず――)

――ガンッ!



千秋「……迂闊ね」

琴歌「あ……!?」

凛「箱が!」

――パシッ

千秋「……これが、私とサジョウさんの鍵ね」

琴歌「騙したわね!?」

千秋「賭けだったけど、あの義賊が私に言った台詞の意味が分かったわ」

千秋「『盗んでと頼まれたのは鎖だけだ、鍵はお前がコトカから奪え』って……」

千秋「そしてもう一言……『このニセの鍵を、本物に変えろ』とも言われた」

未央「ナツキさん! やるぅー!」

雪美「チアキ……!」

琴歌「ま、待ちなさい! 鍵を盗むなど――」

千秋「くどい……! 私は今更罪を重ねても問題ないと言ってるのよ、そして盗んだのは私よ」

――ダッ! グイッ

雪美「……!」

千秋「行きましょう……こんな場所に留まる必要はもう無い!」

雪美「…………うん……!」

琴歌「ちょっ……嘘、嘘よ! こんな小さな綻びから私の一年が……!」

――ザッ

琴歌「……なぜ道を塞ぐの!?」

瑞樹「私の知らなかった情報を提供してくれた代わりに……面白い話をしてあげるわ」

琴歌「そんなものは後です! 今はあの二人を追わなければ……!」

瑞樹「一年前、サイオンジという家系をグループから落とす為の計画の全貌よ」

琴歌「…………は?」

藍子「えっ? あの、今コトカさんがお話した通りなのでは……」

未央「ナツキさん達の襲撃が原因って」

琴歌「そうですわ……それ以外の何物でも――」

瑞樹「確かにそれが切っ掛けではあるけど……仮に襲撃が無くとも、結果は変わらなかったとしたら?」

琴歌「何が言いたいの!?」

瑞樹「襲撃の一ヶ月……いや、もっと前から……あなたの所属していたグループは、あなたを蹴落とすつもりだった様よ」

琴歌「……え?」

瑞樹「あなたは有能……その実力は一度貴族から落ちた身にも関わらず一年も経過しないまま同じ階級に復帰する程」

瑞樹「追い抜かれる事を危惧したのでしょう、そしてその計画の首謀は――」

――ボソッ

琴歌「…………な……」

――スタスタスタ

瑞樹「……さ、お話は終わった、問題は解決したでしょう、解散解散」

藍子「えっ……?」

卯月「コトカさん……固まってますけど?」

瑞樹「お礼よ」

凛「また変な事吹き込んだんじゃ……」

瑞樹「信用ないわね? ちょっと過去を間違って解釈してたから、その誤解を解いてあげただけよ」

瑞樹「着眼点が間違えている……その固定観念を縛っていた真相をね?」

未央「縛る……解いた? あれ、どこかで聞いたような……」

卯月「私も聞いたような……それに、とっても重要な事だったような…………あっ!?」

――バサッ! ドンッ

藍子「あいたっ!」

――ガシャン

卯月「あっ! すいません! 荷物取り出そうとしてて!」

藍子「だ、大丈夫です。ああ! カメラ!」

瑞樹「落としたくらいで壊れないわよ、大丈夫大丈夫」

藍子「そうですけど……やっぱり機械を落とすのは怖いですよ」

凛「……で、きょうて……ごほん、本の内容は……!」

未央「そうだよ! 五人を縛るなんたらかんたら!」

~ 五者五様の束縛を解放せよ ~

卯月「まず……リイナさんを手配から逃れさせて」

未央「次にナツキさんを重力から……!」

凛「で、鎖からチアキとユキミを解放した」

卯月「終わり?」

凛「じゃない。……さっき、ミズキさんが……誤解を解いた? 何かを話したんだよ」

未央「内容は分からないけど……あの反応、とても重要な何かだったみたいだね」

卯月「てことは……これで五つ?」

――バサバサッ

卯月「わっ……!」

凛「どうやら、この話はこれで終わりみたい……休憩する間もなく、次だよ」

未央「ナツキさん達は普段通りに戻って、チアキさん達はこれから自由……」

卯月「コトカさんは……分からないけど、何か大事な事を教えてもらったらしいし……」

未央「そこは復讐劇かもしれない……私達が関わらない方がいいよ、というか……ごめん、あんまり関わりたくない」

凛「好き嫌いは仕方がないよ」

卯月「それより、今はこの更新を見届けよう……いったい何が書かれて――」



~ 明日、三つの単独行動から得られるものは一つ ~

――ジー……

藍子「あっ」

瑞樹「どうしたの? まさか壊れた?」

藍子「いや壊れないように作ったので、その点は大丈夫だったのですが……」

藍子「今、落とした衝撃で中継のスイッチが入っちゃってたみたいで」

瑞樹「あらら……ま、でも何も不都合な事は映ってないわよね?」

藍子「はい、あそこで本を読んでいる三人が映った程度で」

瑞樹「なら全然だいじょ……はっ? え? 何て?」

藍子「えっと、あそこの三人が……地面に広げて本を見ている――」

瑞樹「あーあー……私知らない……」

藍子「え? え? 何か問題が?」

瑞樹「帰りましょ、さっさと」

藍子「あ、ちょっと! 待ってくださいっ!」



琴歌「…………」

琴歌(あの情報屋は嘘はつかない……じゃあ、今の話は?)

琴歌(真に恨むべきは……あの四人の誰でもないの?)

琴歌(じゃあ、今までの……私は何?)

琴歌「……ふふ、ここで落ち込むなんて私らしくありませんわ」

――バッ

琴歌「新たな敵が出たのなら今まで通り……この地位に再び上り詰めた時のように、進むだけですわ!」

琴歌「ここで立ち止まっているわけには行きませんもの……!」

――ザッ

琴歌「ふふ……隣に誰も居ないのも新鮮ね……!」

---------- * ----------
 ここまでで区切り、そしてついにもうすぐで1スレ目を完走出来そうです。
久しぶりの分岐アンケートになります、回答はいつもの通り
この後に投下する①~③のいずれかを選択する方式にします。
CuCoPaに分かれているのもいつも通りです、同数の場合は先に同数の票が入っていた方で進行します。

 イベントのシルエットを当てるような感覚で、気軽にどうぞ。
---------- * ----------

Side Ep.26 ウヅキとお菓子、それと執念

 一日置いて自由……単独行動、何をすればいいか本当に分からないよ……
リンちゃんやミオちゃんはすぐに『行きたい所がある』みたいな事を言ってたけど私は何も無いし。
とにかく賑やかな所を歩いてみたら、何かに当たるかもしれない!

「おひとつどうですかー!」

 活気があるなぁ、さすが出店が並ぶだけある……これ、お菓子ですか?
なんだか甘い香りがしたのですが、こんな輪っかの食べ物は見たことなくて。

「これはドーナツって言って、とっても美味しいですよ! よかったらどうぞ!」

 あっ、ありがとうございます! じゃあお言葉に甘えて……はむっ。
ん……美味しい、食べたことない食感と味、手作りのオリジナルですか?

「いや、これはかくかくしかじかで――」



 へぇ……思い出の品なんですね、ノリコさん。
このドーナツにそんな深いお話が……

「さん付けなんてそんな、あたしの方が歳下なんですからウヅキさん」

 じゃあ、ノリコちゃん。
これ、美味しいから皆にも買って帰ろう、おいくらですか? できれば三つ……いや、四つにしようかな?

「ありがとうございます! あたし、しばらくここに居るので気に入ったら買いに来てくださいね」

 もう半分以上気に入ってるようなものだから、これからしょっちゅう買いに来るかも。
それじゃあ美味しいドーナツありがとうござ

――ガシャアンッ!!

「えっ!?」

 あっちの大通りから大きな音が!
ま、まさか誰か暴れて……敵襲!?

「いや……あの通りは大型機械が走行している交通の道です、もしかしたら事故かもしれません」

 大変! 早く助けないと!

「ウヅキさん! 危ないですよっ!」



「うぅ……」

 大丈夫ですか!? わっ……!

「まだ意識はある……でも、走行中の機械に接触したら大怪我だよ!」
「ああ……意識がー……」

 しっかりしてください! すぐに……えっと、回復を!
ああっ! 私回復魔法使えません! ノリコちゃんは!?

「あたしは……駄目、応急処置くらいしか」
「いや、必要ない……自分の事はあたしが一番よくわかってる……」

 諦めちゃだめです! 絶対になんとかしてみせますから!

「せめて……最後に……」
「……最後に?」

「…………最後に、その体をあたしに寄越せっ!!」
「へっ!?」

Side Ep.27 リンと狼と優等生、そして荒廃した屋敷

 ……こっちのエリアには全然足を踏み入れてなかったからね。
見て回れる内にこれから拠点になるかもしれないこの国を見ておかないと。
単独は……少し不安だけどね、私じゃなくて二人が。

 ここは住宅街……にしては、少し雰囲気が違う。
未来区なのにまるで旧都区にいるみたい、高層建造物なんかに縁がない空気。
……わ、今にも崩れ落ちそうな館もある……でも、すごい大きな……ん?

「今から調べます。いいですか? 後手を踏んではダメなんです、先の事件で経験したでしょう?」
「あれとこれは話が別よ、今回はハッキリと情報があるのよ、何も今調べる必要は……」
「だからこそ今です、夜になってターゲットが到着する前に仕掛けを打つ」

 屋敷に……入ろうとしている? もしかして、ボロ家に見えるけど誰か貴族の別荘とか……
で、あの二人は……もしや不法侵入? 正面の門じゃなくて塀を乗り越えようとしてるし。

――ザッ

 ねぇ。ここで何をしてるの?

「あっ……違うのよ、この子が屋敷を調べるって話を聞かないのよ」
「そもそもレイさんでしたか? 私があなたの話を聞く必要はないんですよ」
「だからって一人で行かせたら心配なのよ。チヅルちゃん、前もそうやって……」
「あの話を蒸し返さないでください」

 ……何、この人たち。
こんな屋敷に何か用事があるの?

「ええ、ですが譲りませんよ」

 譲る? やっぱり何かはあるんだ。

「この中に、夜になると誰かが潜んでいると情報があったらしいの」
「わざわざこのような人の寄り付かない地区、建物に潜伏するのはワケありの人だけです」

 なるほど……賞金稼ぎね。
……それにしても、ここは人が寄り付かない地区なんだ。 ……何か得るには、こんな場所の探索もアリかもね。

Side Ep.28 ミオとポジティブ、そして情熱

 以前の失敗を踏まえて、今日はご飯を食べる前にお金の確認!
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……よし、この束がもう一つあるから大丈夫!

――ガチャ

 さてと……わぁ、満席だ。 さすがこの周辺で一番の人気店、どこかに空いてる席は……
お、テーブルの片方が空いてる席を発見、ちょっと相席させてもらおっ。
すいませーん、ここ座っていいですか?

「ん? いいよ! 相席相席ー☆ あたしそらちんだよ! あーゆーねーむ?」

 私はミオ! なんだか元気な人だなぁ。それじゃ失礼して、私もお腹いっぱい食べる!
ねーねーそらちん、いっぱい食べてるけど美味しいものあった?

「すいーつ! 食べればはっぴーだよ!」

 甘いものもいいねー、でも私はちょっとしっかり食べたいかな?
デザートにオススメはいただくとして、まずは……んーと?



「ごちそうさまでした!!!」

 おっと、あっちの席からも元気な声が……って、皿多っ! すっごい食べてる!
そしてそして? なんだか最後に食べてたお肉の塊が美味しそうに見えた! 私もそれひとつ!

「では、私はこれで!! ご飯美味しかったです!! また来ま……え?」



 ん、さっきの人、何か店員さんと話してるね。
ふむふむ……聞き耳聞き耳。

「お金? ほう! それはなんですか!! 美味しいものですか!!!」

 ……何か、少し前の私達を見ているような。
あれれ~? デジャヴかな? なんだか、あのまま見てたら大変な事になるような……

「私、ひとつもお金は持ってませんけど! あ、ご飯は美味しかったです! え? 代金とは!?」

 ストップ! 食事中だけどちょーっと待った! 一旦こっちに来て!
えーと……店員さん、その人私の友達です。 代金は私が払うのでどうか、はい……
代金はいちじゅうひゃくせん……あ、結構食べてるのね? 払います、払えます、よかった。

1の最後がわからない分気になるな…

師匠かなーとか思ってるんだけど、どうかなー

3かなー

3で

一人称あたしのCuで、ちょっと過激(?)な感じになるのは
師匠、みちる、志希かな?

まぁ個人的に最近お気に入りの千鶴がいるみたいなので2を選ぶぜ

師匠っぽいなどうも・・・この手の騒動が好きなので1で

みちるなら2だ!

---------- * ----------
①③③②①②、全部同数とは思っていませんでした……確認した段階で2票目が先に入っていた③で進行します。
蘭子(Co)→櫂(Pa)→小春(Cu)→夏樹(Pa)→③(Pa)と、案外バランスよく各属性を消化できています。
Cu:43 Co:41 Pa:43
---------- * ----------

:リイナ=タダ(多田 李衣菜)
 元は盗賊団のトップ、現在はナツキの生き方に惚れ込み、自主的に下についたナツキの補佐役。
日常と仕事中で大きく印象が変わる為、経歴を知らずに接している相手も多い。
だが実力と技術は本物、その気になればナツキを上回るとも言われているが、定かではない。
 

:ナツキ=キムラ(木村 夏樹)
 権力者相手に盗みを行う、世間からは義賊と呼ばれる一団の実質リーダー。
本人はグループを率いているつもりはないが、元々グループを率いていたリイナが彼女の下についた為にトップとなった。
以降も基本方針は変わらず活動を行っていて現在、チアキとユキミの鎖を盗んでから姿を隠している。


:コトカ=サイオンジ(西園寺 琴歌)
 アキハの一団に資金援助と人員提供を行う貴族位で、その功績による表向きの評判はそれなり。
権力と一族の繁栄に重きを置いて行動し、邪魔者は排除する。チナツを介して資金援助による取引を行い
国へ介入する権利を得た。 身の回りの雑務や管理を下層民であるチアキ、ユキミに任せている。
しかし今回の一連の騒動により、配下から二名が離れる。
現在、ミズキから得た新たな情報を元に、真の敵を捜索する活動に取り組む。


:チアキ=クロカワ(黒川 千秋)
 コトカの配下で、あらゆる知識技術を持った万能人、その正体はコトカと同系列の元貴族位。
自身を最下層に落とす事により一族を救い、落ちたにも関わらず自分を貫き、凌いでいた。
現在はナツキの協力によりその地位から脱出、そして共にコトカの配下に縛られていたユキミと逃走、
コトカの追走は今のところ無く、別の地域に逃げ切った模様。


:ユキミ=サジョウ(佐城 雪美)
 チアキが逃げ込んだとある地域の住人、流行病が蔓延する地で倒れたチアキを看病していた。
両親は行方不明で、一人で生活している所を保護という名目でコトカが自身の配下に吸収、チアキに対しての人質となる。
謎が多い人物ではあるが特別な戦闘能力を持つわけでもない、至って普通の子供。
コトカの配下から逃れた以降はチアキと行動を共にしている。


:ミズキ=カワシマ(川島 瑞樹)
 世界的に普及している情報電報システムの開発者であり、自らもその情報を収集して配信する記者。
端末の存在を知っている、もしくは利用している人物でさえも彼女が開発者であり総責任者と知っている人物は案外少ない。
数多くの情報をごく少数の人員で処理、配信、収集している方法や、度を越えた神出鬼没の移動源など、謎も多い。
唯一、愛用する写真機材を求める際に必ず訪れる店に張り込めば、彼女と遭遇できるかもしれない。

:ケイト(ケイト)
 未来区中心部を拠点に活動する一団の部隊長、ハルナの同僚であり、仲も良い。
真正面から堂々と暴走して我を通すハルナと違い、一見何も考えていなさそうで非常に頭が回る。
立場上実力はかなりのものだが本業は最前線より一歩引いた位置からの指示系統、指揮能力である。
ナツキの騒動の途中、突然姿を消したが数日後、ハルナと共に何事も無く帰ってきた。


:サナエ=カタギリ(片桐 早苗)
 愛銃片手に賞金首を追う、善悪にうるさい賞金稼ぎ。
間違ってはいないが融通の効かない性格のため、トラブルが頻発するが腕は確かで功績も大きい。
相手が重ねた罪状により威力が変化するという原理不明の不思議な射撃手段、本人によるとその効果を持った弾丸を持つ。
今回の一件であまり活躍できなかった為に満足いかない形で仕事を終えた、その後は元々別の依頼で追いかけていた
約二名の人物を探して国を後にした。


:トウコ(服部 瞳子)
 戦闘能力皆無を自称する、防御・結界・護衛の専門家。
慎重、大胆、臨機応変など戦場で生き残る術を常に心得ていて、今回もその力を買われてコトカの協力についた。
彼女に協力を依頼する人物は、彼女が常に計画の全貌を聞いた上で勝算ありなら仕事を引き受けるため、
計画を客観的に見てもらう指標として扱われる事も多い。


:タクミ=ムカイ(向井 拓海)
 単独で活動する賞金稼ぎ、世間ではそれなりに名は通っている。
好戦的かつ肉体派のため悪い印象で囚われがちだが性格が悪いわけではない。
同業者であり得意距離の都合上、よくサナエとペアになってしまうが当人は過去のトラウマから同行したくはない。
一方でサナエからは大変好かれている、しかし好いている理由がタクミのトラウマに直結するので
どうしても関係は一方通行である。


:メグミ=イジュウイン(伊集院 惠)
 サナエと同じ銃を使用する人物だが戦法は大きく異なり超遠距離からの狙撃専門家、仕事人。
通常の狙撃による射程距離を大きく上回るそれは彼女の活動する地方において一級品と讃えられているが、
過去に戦場で遭遇し、唯一負けた狙撃手を仕事を通して探している。
結果的に“自身を敗北させてくれる相手”を探していることにならないが、満更でもないらしい。
つい最近、狙撃でもなく正面から敗北を喫した為、その反省を踏まえて修業中のようだ。


:アイコ(高森 藍子)
 未来区ウィキの端で撮影に関する機材を取り扱う小さな店を開いている。
宣伝を行っていない趣味の店のため知名度は低いが技術は確かで、ミズキが贔屓にしている。
初の中継を行った機材を開発し、各端末に配信できるように構築したのも彼女、
配信の間にミズキがその事について彼女の名前を出した為、少し注目され始めたようだ。

 経典の指示により、ウヅキたちは騒動の翌日、それぞれ単独で国内を散策している。
ウヅキはあてもないまま、とりあえず賑やかな出店が立ち並ぶエリアへ。
リンは逆に、一度も向かわなかった人通りの少ない静かなエリアを散策。

 そしてミオはいつの間にやら手に入れた案内冊子を片手に、休暇に近い形で別行動を消化しようとしていた。
前回の反省を活かし、しっかりと所持金を持ち、いざ食事処へ。
満員の店内に見つけた相席、ソラ=ノノムラと食事中、一人の人物がかつての自分達と同じミスを犯していた。



??「ありがとうございます! 代わりに払っていただいて!」

そら「ミオお金持ち? すっごーい☆」

未央「これから食べ歩き計画が中断になっちゃったけどね……いいもん、ここでいっぱい食べるから」

そら「おすそ分けー」

未央「ん、食べる、美味しい」

??「はい!! 美味しいですね!!」

未央「まだ食べるんだね」

??「ええ! なにぶん久々のご飯なもので!!」

??「少し前までは森が広がっていて、適当になんでも食べていたんですけどここは建物ばかりでご飯がないです!」

そら「分かる分かるよ! 森にはいろいろなでぃなーが転がってるよ☆」

??「植物でもキノコでも木の実でもなんでも大丈夫です! お腹壊した時もありましたけど!」

未央「さすがにそこまではしてないかな私達……というかそらちんもなの? 第一印象とちょっと違う実態だね」

そら「さばいばる!」

未央「でもお金が無いまま店で食事したのは昔の私と一緒だなー、って事は私と一緒で小さな国出身とか?」

??「はい! けっこう遠くから走ってきました!」

そら「あたしも遠くから! でも今はいろんな旅をしてるから慣れたよ!」

未央「意外にも境遇が似てた」



未央「私は……まぁ、さらに強くなるための修行みたいなものだけど、二人は?」

そら「旅の理由? そらちんは皆にはっぴーお届け☆」

未央「……? ……? よ、よく分かんないけど慈善活動とか?」

そら「そうとも言う!」

未央「へぇー、立派だなぁ。で、えーっと……あ、そうだ、名前聞いてなかったけど」

??「アカネです! 私もミオちゃんと一緒で、修行です!」

未央「ほうほう、修行ということはいろいろ戦わなくちゃ駄目なんだね」

そら「今はじえーしゅだんが大事! 鍛えておいて損はないよ!」

未央「で、何で戦うの? ちょっと小柄に見えるし武器も無いし、もしかしてど派手な魔法使ったり?」

茜「分かりません!!」

未央「分からない?」

茜「はい! あ、でも私は魔法使えません! からっきしです!」

未央「え? え? それじゃあ物理攻撃主体だけど、その割に武器も無いの? って私が言えないけどさ」

茜「ですね! ダメですか!?」

そら「じゃあじゃあ、なんでも使いこなせるっぽい? 決まった武器がない? そらちんみたいに!」

茜「道具も使った事がないですね! でも狩りで動物と喧嘩したことならあります!」

茜「それで村からは『自分にあったスタイルを探してこい』と送り出されました!!」

未央「えらく物騒な送り出し方をされたんだね」

茜「でも私は村一番と言われてるので! ここまで無事に来ました!」

そら「んー、動物と人間は違うよ? もっとちゃんとした訓練しなきゃ!」



茜「でも私は教わる相手がいません! どうすれば!」

未央「どうすればって……うーん……」

そら「難しいよー?」

茜「うーん……あっ! いい事を思いつきました!」

――ダンッ!

未央「わっ!」

茜「ミオちゃんも修行と聞きました! ですが私と違って既にご自分の戦法がある模様です!」

未央「んー、確かにそうだけど」

茜「では私にその戦い方を教えてください!!」

未央「……え? あ、いや、確かにそれは自分の戦い方を広めたいって願望はあるけど、あるけどね」

茜「あるけど、なんでしょう!」

未央「うーん……」

――ジーッ

茜「……?」

未央(体格……しまむーより小さいし、戦闘経験も乏しいって事は……使えるかなぁ?)

未央(いやそもそも、魔法が全然ダメならリングも作れないし直せないし……)

茜「ダメですか!?」

未央「あ、いや、駄目ってわけじゃないけど……」

茜「ではお願いします! 他にアテもないんです!」

そら「そらちん手伝うよ! いっしょにはっぴーになろっ☆」

未央「んー……いいや、その後の事は分からない、後で考えよう! まだ習得できるかもわからないし!」

未央「そうと決まれば早速ご飯を平らげて外へ行こう!」

茜「はい!! あっ、セットもうひとつ追加で!」

未央「まだ食べる!?」



・・

・・・


茜「それで、強くなるにはどうすればいいんですか!」

未央「よく食べてよく運動して健康な体を!」

茜「大丈夫です!!」

未央「だろうねっ!」

そら「何をするにも素手じゃ駄目駄目! 何か持ってた方が強くなれるよ!」

――ガシャンッ

そら「へい! せれくとゆあー!」

未央「どこから出してきたのそれ!?」

そら「そらちんのひょーじゅんそーび☆」

茜「たくさんありますね、どれが何ですか!?」

未央「え、そこから?」

茜「詳しくないもので!」

茜「これはなんですか?」

そら「拾った棒きれだよ!」

茜「ではこちらは!」

そら「拾った工具セットだよ!」

茜「こっちは!」

そら「拾った――」

未央「まともな武器は!?」

そら「そらちんでふぉるとで現地調達! なんでも使えなきゃ生き残れないよ!」

茜「なるほど!」

未央「そうかもしれないけど今は何かひとつ決めるだけでいいんじゃないかな……」

茜「ではこの中から!」

未央「いや、もうちょっと普通の……何か無いの?」

そら「あたしにとっては全部武器!」

未央「んー……だけど……」

茜「ではミオちゃんの武器はなんですか!」

未央「私の……うーん、あんまり参考にならないというか、そもそもたぶん使えないと思うけど」

そら「使えない? のんのん、そらちんの手に掛かればなんでもおっけー!」

茜「棒ですか! それとも鈍器ですか!?」

未央「どっちでもないんだなコレが……というか私も含めてだけど、皆話が勢い良すぎてすっごいテンションに見える」

茜「ありがとうございます!!」

未央「褒めてはない……いや、褒めてるのかなぁ、分かんなくなってきた」

――チャリン

茜「これは? ソラさんなんですか?」

そら「んー、投げるとか?」

未央「ノーノー、投げる違う、これ投げない」

茜「分かりました! 持って叩けばいいんですね!」

未央「痛いっ! 違うよっ! これはね、武器は武器でも身体強化!」

そら「という事はー? この輪っかを何かにつける?」

未央「何かに、じゃなくて体に通すんだよ。腕でも足でも、基本は腕だけど」

茜「腕に通すんですか?」

未央「そうそう、で……まずは普通に!」

――シュッ

未央「……どう?」

そら「うん! なかなか力の入った右ぱんち!」

茜「私も出来ます! せいっ! どうですか!」

未央「ふむふむ、まーそんな感想だよね、じゃあこのリングを“使って”みると」

茜「変わるんですか!」

未央「まー見てて! いくよー……たあっ!」

――ゴオッ!!

そら「……!」

茜「おお……なんだか、よく分かりませんけど凄かった気はします!」

未央「えへへ」

そら「すごいよ! それ手作りなの? 作れるの? そらちん使ってみたい!」

未央「作り方は置いといて、使う分にはいいよ! ただ、どうかなぁ……」

未央(この前しぶりんとしまむーはすっごい筋肉痛になってたし)

そら「ちゃれんじちゃれんじ! いっつしょーたいむ!」

未央「はいコレ」

そら「そーちゃく! それでそれで、使い方は?」

未央「使うって意識して腕を振ればいいよ」

そら「よーっし! そらちんぱーんち!」

――ヒュンッ!

――ゴキッ

そら「いぎっ!?」

茜「やっぱりすごい迫力です!」

未央「その前に何か変な音が鳴った! 駄目なタイプの音!!」

そら「おぅ……か、肩……」

未央「大丈夫!?」

そら「そらちんへーき……ちょっとびっくりしちゃっただけ!」

未央「驚いたって、肩!」

そら「慣れっこ慣れっこ☆ でもこれは安心してそらちん使えないかなー」

未央「あー、やっぱり?」

茜「では次は私が!!」

未央「……やるの?」

茜「はい!!」

そら「大丈夫? ちょっと危ないよ? このりんぐ」

茜「経験です!!」

未央「じゃあ渡すよ?」

茜「はい! これで全力で振り抜けばいいんですね!」

そら「あんまり全力でやると危ないよ!」

茜「大丈夫です! では……おっと、ちょうどいいところに捨てられた大きな鉄の缶がありますね!」

未央「えっ? あー、そんな最初から何かを攻撃しなくても――」

茜「トラーーーーーイッ!!!」



――ガンッ!! ゴオッ!!

そら「ひょわっ!」

未央「うわっち!?」

茜「ボンバー!!」

――ヒュゥゥ……

茜「おお! これは凄いですね! まさに一撃の破壊力を秘めています!!」

そら「大丈夫? あっちもこっちも」

茜「こっちは大丈夫です! あっちってどっちですか!」

未央「ほんとに大丈夫? 私が自分で使ってるから言えた口じゃないけど、割と皆怪我するから……」

茜「とんでもない! 凄い使いやすくてカッコイイですね!」

未央「そ、そう? えへへ」

そら「あたしもちゃんと使えたらなー」

茜「でもこの感じ! ぐっと来ました! やはり自身の肉体が敵を打ち倒すのが素晴らしいですね!」

未央「おお、分かってくれるかな!」

茜「もちろん武器の華麗なる扱いも魅力的ですが、なにぶん不器用なもので!」

そら「自分にあったものを探すのがべすと! ピンと来たなられっつごー!」

茜「はい! では早速トレーニングです! 具体的には!? 鉄塊でも引きずりますか!?」

未央「アリっちゃアリだけど、そんな都合よく引っ張れるものなんてないでしょ?」

そら「さっきほーむらんしたドラム缶は?」

茜「なるほど! 回収しましょう!」

未央「あー、ちょっとヘコんでそうだけど使えるね、的にもなるし……あれ?」

未央「…………そういえば、どこまで飛んでいった?」



・・

・・・


??「……遅い! もう、お使いにいくら時間かけてるの!」

??「一人で待つのは退屈よ、もう一時間は経ってるんじゃ……あれ? な、何よ、まだ五分しか経ってないの……」

??「いや、五分だって無駄に出来ないわ! アタシ達には時間がないんだから!」

??「……道に迷ってるのかしら、確かに複雑だけどこの近くは」

――ガンッ!!

??「いっ!? ……何の音? こんな街中で喧嘩? まぁアタシは関係ないけど……」

――ヒュゥゥ……

??「……音は一回で終わったけど、なんだか変な感じがするわね?」

??「そもそも単体で大きな音って何よ、交通事故? このあたりはクルマっていう移動する機械があるそうじゃない」

??「それにぶつかったとか…………じゃあこの音って、モノが飛んできて」

――ガァンッ!!

??「キャアアア!!?」

――ブンッ!

茜「モノが無ければトレーニングは出来ません! しかしこれでも十分ですね!」

そら「すうぃんぐ!」

未央「軽く振り回すものじゃないと思うな、そのサイズの剣……剣かなコレ」

そら「拾った!」

未央「落ちてるって事実にびっくりだよ」

茜「これは豪快ですね! やはり勢いがある武器は頼りがいがあります!」

未央「完全に素手は便利な反面応用が利かないからね、武器がなくて戦えないって事はないけど」

そら「そらちんみたく何でも使えるワケじゃないなら手放しちゃ駄目!」

茜「分かりました! ならこの特大サイズの武器を常に持ち歩いて」

未央「不審者って思われそう」

――ダダダダダッ

そら「んー?」

未央「あれ、どうしたの?」

そら「誰かこっちに来るよ?」

茜「知り合いの方ですか!」

未央「いや……知らない人に見えるよ、むしろ二人の知り合い?」

そら「のんのん、そらちん知らない」

茜「私も存じ上げませんが!」

未央「じゃあいったい誰?」

??「ちょっと!!」

――ガシャンッ!



未央「あっ」

??「ぜぇ……ぜぇ……」

茜「さっき私が吹っ飛ばした鉄缶ですね! わざわざご返却ありがとうございます!」

そら「でもベコベコに凹んじゃっててもう使えないかも」

??「ちがーう! わざわざこんなガラクタ返しに持ってこないわよ!」

茜「まだ潰せるんじゃないですか!?」

未央「そうじゃないって」

??「これ! こっちから飛んできたんだけど! 何考えてんの!? 直撃するところだったじゃない!」

茜「どこまで飛んで行きましたか?」

??「あっちよ! アタシがひとつ向こうの通りで座ってたら目の前にガーンって!」

茜「一つ向こうですか! どうですか! 初めてにしては上出来だと思います!」

未央「そうだけどまず謝って! すいませんすいません!」

??「なんで街中でドラム缶吹っ飛ばしてるのよ、何してるの?」

茜「修行です!」

??「せめて森の中でやりなさいよ、この調子でガンガン遠投されちゃいつか死人が出るわよ!」

未央「たまたま当たらなかったからよかった……」

??(……武器が一杯転がってるけど、修業中? 修行する段階の強さで、ドラム缶をこんなになるまで飛ばしたの?)

そら「へいゆー☆ 一つ向こうの通りって完全に裏通りだけど、一人で何してたの?」

??「アタシ? あー、大きい街だったから店のひとつくらいあるだろうって、買い物に行かせたのを待ってたのよ」

そら「しょっぴんぐ? なら、ここから店は結構離れてるから時間かかるよ?」

??「げ、そうなの? 五分……いや、十分経っても帰ってこないのはそのせいね」

未央「十分じゃかなりキツいと思うけど……そもそも店の場所も分からないならもっと掛かるかもね」



――タッタッタッ

??「悪い、思ったより店が遠くて……って誰だ?」

そら「そらちんだよ!」

茜「アカネです!」

??「いや名乗られても……」

??「ちょっと来なさい!」

――サッ

??(かくかくしかじかで、文句言ってたのよ)

??(ドラム缶が隣の通りからぶっ飛んできた? 幻覚じゃね?)

??(現に飛んできたのよ! 急いでこっちに来たら謝ってきたし、確実よ!)

??(あの三人が? ……いや、どう遠慮がちに見てもパワーファイターには見えないけどよ)

??(原理は知らないけど、とにかくそうなの!)

未央「えーっと……二人共迷子とか?」

??「どこをどう捉えたらそうなるの!」

そら「でもでもこんな場所に子供ふたりで居るとそう見える?」

??「慣れてるけどさ」

??「子供だからってバカにして! 痛い目見せてやる!」

??「待て待て待て待て……」

茜「元気いっぱいですね!」

??「キーッ!」

未央(分かって言ってるのか天然で言ってるのか……)



??「……なーんか、見た事あるんだけど、気のせいかな」

そら「そらちん?」

??「じゃなくて、えーっと……そこの人」

未央「えっ? 私? いやいや、そんな有名でも何でもない人だよ」

??「名前は?」

未央「ミオ=ホンダだよ、しがない旅人」

??「……うーん、やっぱり覚えがないな。気のせいだったかもしれない」

未央「ありゃりゃ……ちょっとは有名になったかなって思ったんだけどね」

茜「何か成し遂げたんですか?」

未央「あ、いや、別に何もしてなかったよ、あははは」

??「関係ないわ! ギタンギタンにする!」

茜「勝負ですか! 任せてください!」

未央「だから煽らないのー!」

??「油売ってる場合かっての……さっき一緒に魔道書に関する本の店探してきたから、行くぞ行くぞ」

??「引きずるなー!」

そら「仲良しだね!」

茜「ですね!」

未央「違うと思うな!」

そら「違うの?」

未央「なんというか……苦労人っていうか、言いにくいけど」

――ピラッ

??「……本…………」

??「何よ、突然立ち止まって。やっぱりあの三人は倒すべきよ! 死ぬところよアタシが!」

??「じゃなくてさ……本、本か……やっぱりそうだ、見た事あるハズだったよ」



――クルッ

??「お、やっぱりやる気になったのね! さすがよ!」

??「違げーし……いや、やる気なのは違いないけどよ」

茜「……? 戻ってきましたよ?」

そら「忘れ物かな?」

未央「いや、何も置いていってないし……そもそも雰囲気も少し違うような」

――スッ シャキッ

そら「んー……?」

??「……昨日の放送、思い出したか?」

??「ああ……ああ! 言われてみれば……なるほどなるほど、これはラッキーだわ!」

茜「何か取り出しました! あれも武器ですか?」

未央「そ、そうだね……でもなんで? なんで武器もってコッチに――」

??「行くぜー」

――カッ!!

――ドオンッ!!

茜「おーっ!?」

そら「危ないっ!」

未央「爆発……!?」

??「あれ、避けられた」

茜「魔法ですか! てことはあの武器は杖ですか!」

そら「だけど! その前に……」

――ヒュンッ!

未央「危な……うっ!?」

――キィンッ!

??「あら、アタシの攻撃を見切るなんて、思ったよりデキるのね?」

未央「この武器……!?」

――ガッ! スタッ



??「さすが、これは本物の可能性がさらに高まったっつーことで」

??「アタシが文句言いに来た甲斐があったわね!」

??「結果論だけどな」

茜「なんですか? あれも武器なんですか?」

そら「ただの装備品にも見えるよ!」

未央「いや……あれは立派な武器だよ。同じものを装備してる友達が居るから、確信する」

??「あら、同じ武器? ふーん、でもアタシの方が強いんだから!」

未央(確かに……見た目は一緒に見えるけど、何というか……)

そら(あの二つの武器、なんだかとんでもなくびっぐなぱわーを感じるよ!)

未央「やっぱり珍しいんだ、その……靴、ブーツ」

??「そのお友達っていうのは、もしかして残りの二人……ここに居ない二人のどちらかかしら?」

未央「二人……どうして私達が三人って知ってるの? それにいきなり攻撃してきて! 怒るよ!?」

??「怒られるのは承知だぜ、でもこっちも色々事情があってさ」

??「持ってるんでしょ? 出しなさいよ!」

未央「だから何を!?」

??「……意外と鈍いんだな……それとも、もしかして話題沸騰な事に気づいてないって感じか?」

??「なら好都合よ、尚更早く奪っちゃえばいいのよ!」

――キィイイン

茜「また来ます! 大きな光弾です!」

??「この杖はスゲー爆発力を生み出す光弾を発射する、直撃したら消し飛ぶぜ?」

――ヒュンッ



そら「避けるよっ!」

茜「はい!!」

――ドゴォンッ!!

未央「くうっ! 衝撃が――」

??「そしてアタシのブーツは!」

未央「この! 私だって戦えるもんね! カウンターだ!」

――ヒュッ バシィン!!

未央「っ……うあっ!?」

??「説明の手間が省けたわね?」

未央(蹴りに合わせて攻撃したら……私の腕に一方的に衝撃が……!)

??「属性は『反射』よ? 物理攻撃だろうが、魔法攻撃だろうが相手にお返しする優れモノよ!」

??「子供だからって手加減した? もっと強く攻撃してたら、腕が吹っ飛んでてもおかしくないわよ!」

未央(リング使ってたら本当にヤバかったかも……!)

――ダンッ!

茜「大丈夫ですか!?」

未央「うん……腕はジンジンするけど、致命傷じゃない」

そら「本格的にこっちを狙ってるよ? ミオは心当たりは?」

未央「無い……でも……」

未央(奪う、で心当たりがひとつだけ……どこからバレた!?)

??「距離を取ったわね? でも、こっちには遠距離攻撃があるのよ、それも強烈な!」

??「こっち任せかよ……ま、それが仕事ならやってやるって」

茜「また来ますよ!?」

未央(こっちには遠距離は……無い。近づく必要があるけど、あのブーツの反射は凄い厄介……!)

そら「逃げる? そらちんだっしゅする?」

未央「いや……逃げない、迎え撃つ!」

??「お、やる気だな」



未央(理由は分からないけど、私達が……経典を持ってるのがバレてる?)

未央(しかも、見ず知らずの相手に! これは、どこかから情報が伝わっちゃった……!?)

未央(名前は割れてないみたい……じゃあ本当に、どうして? もしかして人を通して漏れた……?)

未央(でも誰から……経典の事を知ってる人は絶対に味方だし、意図的に漏らすような人達じゃない……)

そら「迎え撃つ? ふぁいとする?」

未央「うん……巻き込んでゴメン、でもここで逃げると……私にとって大変な事になるかもしれない!」

茜「そういう事なら助太刀します!」

そら「うん! そらちん頑張る!」

??「相手が何人だろうと関係ないわ! 全員倒せばいいのよ!」

未央「行くよ……!!」

世界が敵に変わる

??「来るか、じゃあ……そらよっ!」

未央(まずこの衝撃弾! 威力はとんでもないけど、突破しなきゃ近づけない!)

――ヒュンッ ドォン!

茜「すごい衝撃ですっ……!」

??「一発が重いだけじゃなくて、ちゃんと数も打てるからな!」

未央(ただ、少し狙いが甘い……これなら掻い潜って近づける!)

そら「危ないよ!」

未央「えっ?!」

――ヒュンッ ヒュオッ!

茜「二発、いや……いっぱいです!?」

未央「聞いてないって!」

――ドォンッ! ドガァンッ!!



??「…………逃げちったかな」

??「派手にやりすぎよ!」

??「仕方ねーだろ、加減できる代物じゃねーんだから。そっちだってそのブーツ使いこなせてないんだろ」

??「ばっ、失礼ね! ばっちりよ!」

??「だといいけどさ」

――ヒュッ

そら「へいっ!」

??「うわっ!?」

??「危ないわ!」

――キンッ!!

??「アタシを物理攻撃だけの脳筋と勘違いしてもらっちゃ困るわ!」

そら「ばりやー? 止められた!」

??「それっ!」

そら「んんっ! 押し返されるっ」

??「前線も援護も出来るアタシは完璧ね!」

茜「今ですっ! ボンバー!!」

??「へっ!? ちょ、さっきの壊れたドラム缶!?」

茜「全力投球ーッ!!」

――ビュンッ!



??「まって結界二枚目は無理よ!」

??「危ねぇ! っと!!」

――ガァンッ!!

茜「わぁっ!? け、蹴り返されました……!」

??「光弾だけじゃなくて、体も鍛えてんだからな?」

??「や、やるじゃない! 褒めてあげるわ!」

??「んな事言ってる場合かって、数も不利だしこの人達本当に強えーよ」

未央「…………何だろう、この違和感……!」

そら「あの武器がすごいんだね!」

??「そうよ、これは全世界を探しても同じ水準のものは存在しない特注品よ!」

茜「やはり武器は偉大ですね……!」

??「さぁ、アタシ達の強さが分かったら大人しくその――」

未央「作戦ターイム! 集合!」

??「は?」

茜「なるほど! 一旦戦略を練って立て直すと!」

そら「連携大事! そらちん一人が多かったからそれはよくわかるよ!」

――タタッ

未央「じゃあ一度詳しく説明するけど、あの武器は確かに厄介だよ」

??「……あの」

未央「あ、ごめん、ちょっと待ってて、アカネちんに説明しなきゃ駄目なんだ」

??「あっ、うん……」

??「……敵同士だよな」

茜「それで私に説明とは?」

未央「うん、いいところに反例が見つかったから解説するね」



未央「ソラさんは本当に何でも使えるの?」

そら「いえす! ちょっと色々あってそうしなきゃ駄目な環境だったの!」

茜「ほう、では私もそれを目指して万能なファイターになりたいです!」

未央「でも、それはあんまり推奨できないかな……いや、ソラさんが駄目ってワケじゃないんだよ?」

茜「というと?」

未央「アカネちんは普通の環境なんだから、多芸より一芸に秀でた方がいいよ。多様な技術より一つの事を伸ばすべき!」

そら「わざわざ難しい事をしなくてもいいんだよ? 扱い方を覚えるより一つを極めた方がべりーいーじー!」

茜「なるほど! ですがそれこそコレだという武器が見つかるまで適当に色々試すべきでは!」

未央「そこであの二人を見て?」

??「……?」

??「何よ! 終わったの?」

??(待つのは待つんだな)

茜「……見ましたが、何か?」

未央「私の直感、いや……たぶん合ってると思うんだけどね?」

未央「その前にソラさんから、あの二人どう思う? 援護も出来る前衛と、前にも出れる後衛について」

そら「んー、パートナーの不足点をとっさに守れるからいい感じ?」

茜「実際にさっき隙を狙ったつもりでしたが阻止されました!」

未央「うんうん、そう取ることも出来るけど……」

茜「違うんですか?」

未央「というより……あの武器があるから今は形になってるけど……なんというか」

未央「逆、じゃないかな? って思うんだ」



茜「逆?」

未央「うん。……近距離に対応できる遠距離、遠距離に対応できる近距離、一見バランスがいいけど」

未央「本来の距離には対応がつたないというか、雑っていうか」

そら「んー……確かにそう見えたかも?」

茜「私にはよくわかりませんが?」

未央「だって、あれだけ威力の高い魔法が打てて、数も打てるのにこっちには決定打が飛んでこない、命中率が悪い」

未央「そして反射なんてとっても豪華な付与効果があるのに結界を張る、そして二方向からの攻撃に対処できない」

そら「確かに? 投げたモノを打ち返しちゃえばよかったんだね☆」

茜「なるほど、という事は私は危険な事をしましたか?」

未央「かもね。それで、ここで最初に話を戻すことになるんだけど……武器を選ぶ直感は大事だけど」

茜「合わない物を使うべきではないと」

未央「そう、だから今ここで絶対にコレと決めるのは良くないと思う。これからを通して、慎重に選ぼう!」

茜「分かりました! 慎重になります! 間違うといけませんからね!」

――…………

そら「がんばれ! そらちんは応援してるよ☆」

茜「頑張ります!!」

未央「これにて一件落ちゃ」

??「待ちなさいッ!! なんだったの!? 黙って聞いてたら色々言ってくれたわね!?」

??「なんで黙って聞いてたんだよ」

??「待っててって言ったからよ」

??「ああそうかよ……」

未央「さてさて、それを踏まえて……」

未央(隙というか、欠点は見つけたものの……あの武器が厄介な事には変わりないよ)



そら「その武器をとっちゃえば大丈夫かな?」

??「はっ、残念だけどアタシの武器は装着型よ! 簡単に外せはしないわ!」

茜「靴ですからね、難しそうです! ならあちらの杖は?」

??「それも無理だ。武器固定だから奪われたところで、すぐに手元に戻ってくるようになってる」

そら「こてい?」

未央「とにかく武器は奪えないと……固定の正しい使い方をされたね」

??「間違った使い方なんかあるのか? コレしか思いつかないけどよ」

未央「君達は知らなくていいよ、でもどうする……?」

そら「取れないなら、直接懲らしめるしかないね?」

茜「ファイトです! デュエルです!」



??「……もういい?」

未央「お待たせ! さぁばっちこーい!」

??「なんなのよこれ! よく考えたらちゃんちゃらおかしいわよ!」

??「いや考える前にずっと思ってたけどさ」

茜「では最初にこの大きな鈍器から! せやああ!!」

――ビュンッ! ガキィン!

??「ちょっと! 斧は投げるものじゃないわよ!」

茜「そうなんですか? 投げやすい形状だったもので!」

??「無いことはないけどそのサイズの斧はそう使うものじゃないって!」

そら「あのばりやー厄介だね!」

未央「ところで……二人は何者? 私を狙う理由は?」

??「まだ気づかないの? 狙われるに充分な理由があるでしょ?」

??「この前の中継で、映ってたろ?」

そら「中継? 映像?」

茜「私は最近まで森の中だったもので見てませんね!」

未央「映ってた……たぶんミズキさんのカメラ、でもだからって狙われる理由には……」

??「最後。なぜか地面に横倒しになった状態で配信された映像」

未央「……? 何のこと?」

??「その様子じゃ気づいてなかったのか、道理で反応が薄いと思ったよ」

??「以前あの情報電報で配信された中にあった……教典だったかな、例の秘宝が発見された情報」

未央「それは……」



茜「きょうてんとは何ですか?」

そら「そらちん知らない」

??「はぁ? 一般教養よ? 世界に存在する十の秘宝! そのうちの一つ……『灰姫の教典』!」

未央「やっぱり……でも、何時その事が!?」

??「本っ当に気づいてなかったのか……あの中継、最後の最後にたぶん配信ミスなんだろうな」

??「さっき言った横倒しの映像、そこに映ってたのが……本を取り囲む三人のグループ」

未央「……私達、だね。でもそれがどうして教典に繋がるの!?」

??「裏社会は広いんだぜ? 読んでた本のデザインから特定したらしい、解析班の受け売りだけどさ」

未央「でも本物かなんて……!」

??「ちょっとちょっと、仮にも世界的に有名なナツキ一派の手助けをしてたんでしょう?」

??「そうなると、普通に一般人なワケないよな」

未央「なぜ協力してると見抜かれた!」

??「いやバレバレだろあんなの……」

未央「てことは……」

??「表には広まってないけどよ、もう三人とも顔写真と経典の存在は……裏では有名なんだよ」

??「でも気づいてないって事はアタシ達が最初に発見したのね!」

未央「じゃあ、奪うつもり!? それに、世間にバラすつもり?」

??「いや、全体にバラしはしねぇって。経典がここにあるなんて情報流したら全世界の秘宝狙いがここに来るからな」

??「アタシ達一派で独占のために、流すのは一部だけよ!」

未央(一派……てことは、何かの組織の一部なんだこの子達は……!)

そら「なんだかよくわからないけど……何かを奪うつもりならそらちん許さないよ!」

茜「私も援護しますよ! 投げます! いっぱい投げます!」

そら「すとっくなら任せろー! いっぱいあるから使っちゃって!」

未央「……このままだと二人もマズいかも」

??「仲間がいるんだよな? いや、そもそも教典もアンタが持ってるのか? 違うだろうな、荷物無いし」

??「じゃあとっ捕まえて吐かせましょう!」

??「だな、じゃあ行くぜ? 戦闘再開だ!」

茜「来るみたいですよ!」

そら「おっけい! 任せろー!」

未央「ゴメン! 手伝ってね!」

茜「ご飯代のお礼です! とりゃー!」

??「また投げてきた!? ちょっとハルっ!」

晴「分かってるって、今度は何だハンマーか? よっと!」

――ドオンッ!



茜「今度は魔法で撃ち落とされました!」

そら「次弾そうてーん! ほいっ!」

茜「ほう、なんですかコレは!」

そら「ぶーめらん!」

茜「投げやすそうですね! 気合入れてとりゃーっ!!」

晴「おい、一回くらいやっとけって」

??「そうね! この反射の力と、アタシことリサの身体能力があればこの程度の小さい武器は!」

――カァンッ!!

梨沙「跳ね返せるっ!」

茜「ひゃあっ!? 投げたブーメランが戻ってきました!」

未央「そういう武器だって! いや、違うけどさ! ああもうややこしいなー!」

そら「でも小さいものが跳ね返されるなら、びっくさいずなら大丈夫!」

茜「しかし大きすぎると魔法で落とされます! どうしましょう!?」

未央「簡単簡単……いっそ近づけばいいんだよっ!」

そら「しんぷる! そらちん了解!」

茜「私も続きますよ!」

やっぱり男口調の方は治ちんだったか

未央「まずは……近づけば有利、遠距離をどうにかする!」

晴「オレの方か? ただ簡単には近づけさせねぇからな」

梨沙「アタシが許すと思って?!」

そら「それをそらちんも許さないよ! とおっ!」

――ビュンッ!

梨沙「ふんっ! そんな棒きれでアタシが止まると思って? 返り討ちよ!」

茜「蹴りで応戦してきました!」

――バキッ!

未央「折れた!」

梨沙「どんなもんよ、反射で衝撃をそのまま送り返したら当然、そんな棒きれは真っ二つよ!」

そら「一回目でダメなら二回! まだまだ他の物もあるよ!」

――ヒュンッ!



梨沙「もう片手に! くうっ!」

――ギンッ!

晴「おい! それも跳ね返せって!」

梨沙「無茶言わないで! ブーツ以外にこんな鉄塊が当たったら折れちゃうわよ!」

晴「だからって横から振られた攻撃に、一枚しか張れない結界使ったら……!」

そら「真正面ガラ空き☆」

梨沙「あ、っ!?」

そら「きーっく!」

――ドカッ!

梨沙「っつう!?」

晴「リサ!」

茜「こっちですよ! そぉいやっ!!」

晴「なん……デケぇ!?」

茜「なんでしょうか! わかんないですけどこれだけ大きい丸太なら大丈夫でしょう!」

晴(光弾で潰す……いや、外すと終わりだ、じゃあ……)

――ガッ! ビシイッ!

晴「ぐっ……!」

茜「杖で防ぐとはやりますね! ですが手元から離れたようです! 飛んで行きました!」

晴(飛んでいったけど、すぐに手元に戻ってくる!)

――ザッ!

未央「アカネちんナイス! これでガラ空きだね?」

晴「げっ!?」

未央「子供だけど、敵なら攻撃するよ? でもオマケして一個だけにしてあげるか……らっと!」

――キィイン!

晴「うっ!? これヤベぇぞ! 杖っ、早く――」

未央「遅いっ!!」

――ヒュッ バキィンッ!!

晴「~~っ……!?」

未央「…………」

梨沙「あっ……!」

茜「あの太い丸太が拳だけで真っ二つに……!」

――ペタン

晴「あ、ぁ……な、何だよソレ……化物かよ……」

未央「やっぱり相手の事情もよく知らないと、子供でも攻撃出来ないよ」

――カランッ ガッ



未央「乱暴に杖を踏むけど、こうしないと戻るんだよね手元に」

梨沙「っ、ちょっとハル! 攻撃されてないなら応戦しなさい!」

晴「無茶言うなって……あんな攻撃まともに喰らったら間違いなく再起不能だっての」 

未央「次は当てるよ、それももっと強く」

茜(あれでも全力でないとは……!)

梨沙「な、ならアタシが今からそいつを倒せば」

そら「へい! しっとだうん!」

――ピッ

梨沙「へ? あっ、痛っ!」

そら「糸って強いものだとすぱーんって斬れちゃうから、暴れると危ないよー?」

梨沙「ちょっ……止めて! 痛い痛いっ!」

そら「座って座って☆」

梨沙「分かった! 分かったから離しなさいよっ!」



・・

・・・


そら「……その教典っていうのは、とにかく奪われちゃいけないもの?」

茜「強くなるための秘伝の書ですか!」

未央「ちょっと違うけど、だいたいそんな感じ。とにかく失くしちゃいけないもの、大事なもの」

茜「ですが、それは他の人も求めていて、持っている事もバレてしまったと?」

未央「だね……幸い、まだこの付近に溢れかえるほど刺客が迫ってるって訳じゃないみたいだけど」

――ギュッ

梨沙「このロープ解きなさいよ!」

茜「仲間の人が来るまでここで大人しくしててくださいね!」

晴「仲間って、オレら幹部でも何でもないから誰も助けに来ないって……」

茜「じゃあ自力で抜けてください!」

梨沙「冗談じゃないわよ! こんな裏通りの汚い所で!」

未央「んー……それもそうだね、子供二人で放置とか何されるか分からないし」



梨沙「さっさと――」

未央「よし、アカネちん二人背負って」

茜「二人をですか? 大丈夫です!」

晴「お、ちょっと、何処連れてく気だよ!」

未央「どこかの組織の一員なのは間違いないんだよね、でも情報がない」

そら「知ってる人探す?」

未央「いや、人じゃなくてそういう情報が全部集まる場所……国の本部に行こう!」

梨沙「え?」

晴「は?」

そら「本部……って、入れるの?」

茜「偉い人じゃないと入れないのでは! もしかしてミオちゃんは偉い人なんですか!」

未央「違う違う、本当にただの冒険者で旅人だから」

梨沙「じょ、冗談よね? そんなしがない冒険者が国と繋がってるわけないわよね?」

未央「ところが本当なんだな、というよりそっちが持ってる情報の中にナツキさんと繋がってる話があるんでしょ?」

晴「……ど、どうすんだよ」

梨沙「アタシに言われても分かんないわよ! そもそも大人しく捕まる段階からダメダメよ!」

そら「喧嘩しなーい、ぴーすぴーす☆」

未央「でも……狙われてる、か」

茜「さっき聞こえましたが、他にも二人お仲間が?」

そら「すぐ近く? なら、同じように襲われてるかもしれない! へるぷ?」

梨沙「…………」

未央「かもしれないけど、まだ大丈夫のはず……」

そら「どうして?」

未央「この二人、組織だけど幹部でもなんでもないって。てことは下っ端の戦闘員だよね?」

晴「そうだよ……悪かったな」

未央「でも良い組織にはどうしても見えないし非合法な集団だと思う、そんな集団がこの国では動きにくいはず」

茜「ここは平和ですからね!」

未央「てことは、そんなに大人数では動かない……はず、ここに来ても少人数のはず」

未央「もちろん映像の手掛かりから、大勢来ててもおかしくはないけど」

そら「さすがにいっぱい怖い人がいたらわかる?」



茜「そこのところどうなんですか!?」

晴「……オレみたいな末端じゃないと顔が割れてるから一発で騒動になる、だからそんなに来てねぇよ」

未央「ふーん」

梨沙「ちょっと! 言っていいのそれ!?」

晴「調べたらどの道すぐにバレるからさ……」

そら「保身?」

晴「聞こえ悪いけど、そうかもなー」

梨沙「ちょっとちょっと!?」

未央「来てない……か、だといいけど」

未央(もしこの発言が本当でも、例えば……他の組織が居ると、安心できない)

未央(たまたまこの組織が、少数作戦を選んだだけで……小さな組織が総力戦で来ていたら……)

未央「……しまむー、しぶりんは……大丈夫かな?」



・・

・・・


――コツ コツ コツ

凛「……ねぇ」

千鶴「何ですか」

凛「こんな放置された屋敷に、本当に何かあるの?」

礼「あるらしいのよ、それも夜なんだけど」

凛「夜? 今は昼だよ、夜って情報があるならその時間帯に向かった方がいいんじゃないの?」

礼「私もそう言ったんだけどね」

千鶴「夜になる前に先手を打つ事が大事です」

凛「でもしばらく探索してても何も見つからないよ」

千鶴「分かりませんよ、屋敷は広いので部屋は数多くありますから。次はこの部屋を開けます」

――ギィィッ……

礼「あら……?」

千鶴「何か?」

礼「音……この部屋から音が聞こえる」

凛「そういえば……聞こえる、何かの楽器?」

千鶴「どうやらそのようです、ここには楽器が保管されているみたいですね」

礼「……変ね」

凛「誰もいないのに、音が?」

礼「ええ、それもそうだけど……私、耳はいい方なんだけどね?」

千鶴「そういえばあの時も遠くから音を聞きつけたと言っていましたね。それで、違和感とは」

礼「音、私達が来る前から鳴ってた? どうも、扉を開けた瞬間に聞こえたように感じたわ」

凛「開ける前は鳴ってなかったね」

千鶴「ではここに誰か潜んでいる……にしては、わざわざ部屋に侵入した直後に音を鳴らし始める意味は無い……」

礼「……それにしても、ちょっとホコリが被ってて状態が悪いけど、いっぱい楽器があるわね」

凛「このうちどれかが鳴ってる?」

千鶴「自動演奏……出来ないことはないですが、必要性を感じません。まったく……」

礼「……あら?」

千鶴「また何か?」

礼「ここにある楽器……種類は分かる?」

千鶴「種類ですか? あまり詳しくありませんが……トランペットなどの金管楽器、バイオリンなどの弦楽器程度なら」

凛「打楽器もちょっとだけあるけど、それが?」

礼「鳴ってる音…………この音色は、ここにある楽器の音じゃないわよ」

千鶴「……?」

凛「ここに、ない楽器? え、じゃあどうして鳴ってるの……?」

礼「…………さぁ……」

千鶴「無い楽器、と言うと……?」

礼「楽器は詳しくないのよ。でも、ここにあるものではないとは分かる」

凛「別の部屋から聞こえているとか」

礼「いいえ、確かにこの部屋……方角は…………そっちから?」

千鶴「そっち……」

凛「…………不自然に、空間がある舞台……?」




・・

・・・

卯月「ま、待てー!」

??「待たないっ!」

法子「結局なんだったんですか? あの、怪我してるようには見えない勢いで逃げてますけど!」

卯月「分かんないけど、とにかく追いかけてるよ!」

法子「何かされたんですか?」

卯月「いや……盗まれたりはしてないんだけど」

法子「けど?」

??「この手に残るお山の感触のために毎日頑張ってるからー!」

法子「何のこと……?」

卯月「とにかくあの子を放っておいたらまずい気がする……いやむしろ手配すべきじゃないかな」

法子「何があったんです?!」

卯月「とにかく待てーっ!」

??「あたしはまだ見ぬ宝の山を目指して今日も走り回る!」

法子「また交通の道の方に!」

――ゴオオッ!

卯月「きゃ! 駄目だよ、ここは機械が通るところで危ない……!」

??「あたしには関係ないよ! せいっ!」

法子「ちょっと! そっちに行ったら……」

――ブーン

卯月「あっ!!」

??「お?」

――ガシャンッ!! ドンッ ドゴッ

卯月「あ……ああ……」

法子「ぶ、ぶつかって……こっちの通路まで戻ってきました! 戻ってきましたけど……!」

卯月「大丈夫!? いや、大丈夫なわけないよ! うう……! 私が追いかけたから……!」

法子「とにかく飛ばされた場所に……無事かもしれません!」

卯月「でもその、落ちた場所もぶつかった先も普通の壁だよ! 衝撃を和らげるものなんて何も……!」

法子「万が一があります! 無事を祈って向かいましょう!」

――ダダッ

??「…………」

法子「大じょ……! こ、これは……」

卯月「う、あ……あ!?」

法子「…………ち、ちょっと……言葉に出来ない程……」

卯月「ああぅ、私がちょっとしたセクハラに怒っちゃったせいだよ! 追いかけなければ逃げなかったかもしれないのに!」

??「本当?」

卯月「そうだよ……こんな事になるなら少しぐら……え?」

――ギュムッ

卯月「にゃあぅ!?」

法子「えっ!?」

??「許可が出たなら安心して起きちゃうぞ! うひひひ、アツミちゃんといいことしよ~?」

卯月「ちょ、まって! なになに!? 状況はどうなってるの!?」

法子「意識があるなら安静に! そんな重傷じゃ迂闊に動くと――」

愛海「そーそー重傷者を迂闊に動かすと駄目なんだよー、だから大人しくうへへー」

法子「重しょ……重傷?」

卯月「な、なんて執念……っ! こんな、辺り一面真っ赤っ赤になるほど……なのにっ!」

愛海「お山の為ならこれくらい安いもの~」

卯月「ひぃー……」

法子「……えいっ」

――ゴンッ

愛海「あうっ!? ちょ、あたし重傷なんだけど」

法子「もしかして嘘ですか? そんな元気なのは、傷が嘘だからじゃないですか?」

卯月「えっ!? で、でも確実に目の前で……」

法子「何か特別な術かも……とにかく、何かが普通じゃない、怪しいです!」

卯月「怪しいのは同意だけど怪我なんて誤魔化せないんじゃ――」

愛海「むむ、そっちのお山は警戒心が強い、となれば!」

――バッ!

卯月「わっ!」

法子「あっ! 逃げます!」

卯月「走って……え、走れるの!?」

愛海「さらば~! またいつか登頂してみせるからね~!」

――ダダダッ

法子「…………」

卯月「……な、なんだったんだろう?」



・・

・・・


小春「教典?」

トレーナー「……本当ですか?」

ベテトレ「裏ではその話題で持ちきりだそうだが……」

小春「その『教典』というのは、大事なものではありませんでしたか~?」

ベテトレ「だからこそ……今度は国の問題ではない、悪意ある人物の手に渡るのを阻止すべきだ」

トレーナー「ですけど、守りは疎かにできません! 姉達が出払うとここは……」

ベテトレ「分かっている。……二人が出払って、帰ってくるまでにこの情報が広まるとはな」

小春「天使さん達が助けに行けませんか?」

ベテトレ「連絡手段が無い。残念だが……私達は無事を祈るしかないか」

小春「……無事だといいのですが~」

――…………

ほたる「教典?」

マキノ「少し前に話題になった秘宝の所有者が判明したわ」

ほたる「……捜査を頼んだ覚えはありません」

マキノ「でも事が有利に運ぶのは確かな材料、それに他の国だって狙っているはずよ」

マキノ「後手を踏めば、戦況は不利に傾くばかりだと思うわ」

ほたる「念のため……聞きます、場所は?」

マキノ「未来区、アキハの統治する国」

ほたる「そこは……私達のような戦争国が向かう場所じゃないです」

マキノ「だからといって放置すべき問題でも無いはずだけど?」

ほたる「そちらに裂く人員は……いえ、分かりました。ではマキノさん、あなたが向かってください」

マキノ「私が?」

ほたる「構わないですよね?」

マキノ「……そうね、あの二人に向かわせるわけにもいかない、適任は私ね? 分かったわ、すぐに向かう」

――…………

紗枝「教典? それは如何なもんどす?」

??「昔の偉ーい人が作ったものらしいれす~ なんでも願いが叶うと、夢のような道具れすね~」

紗枝「まぁ、そない素晴らしいものが見つかったって事ですか、でもなぁ」

??「でも何れすか?」

紗枝「嫌やわぁ、手に入れたいのは当然どす。でも誰が探しに行っても、騒ぎが無い未来が見えまへん」

??「ごもっとも~ ナナミも静かに事を収める自信はありません~」

紗枝「せやからもう少し経って、事が大きくなって違和感が無い頃に参戦するとしましょか」

七海「漁夫の利れす~」

紗枝「ちょっと違いますなぁ、別に漁夫を狙うわけではありまへんのよ?」

七海「分かってます~」

紗枝「時が来たら堂々と頂きましょか、その経典とやらを~」

――…………

亜里沙「経典? それは、あの経典?」

美紗希「確かめる為に何度も調査しましたけど、どうも本物みたいですよぉ?」

亜里沙「本物……なら、同じように情報を手に入れた人物が奪還に向かうかもしれません」

美紗希「ですねぇ、そしてよからぬ人物の手に渡っちゃうかも?」

亜里沙「……こっちは部外者ですが、それは阻止しなければいけません」

美紗希「だねぇ、この国ひいては世界で危機が訪れるかもしれませんからぁ」

亜里沙「では早速準備を」

美紗希「ちょっとちょっとぉ、国のトップが離れちゃいけないよぉ」

亜里沙「でも」

美紗希「まぁまぁ、先生はここで皆を守るのが使命ですからぁ、ミサキや他の仲間が頑張りますからぁ」

亜里沙「……そうね、アリサ先生はここで皆を守るのが仕事。任せても、いいかしら?」

美紗希「それは勿論ですぅ♪ じゃあ今すぐ、あまり迷惑をかけないように少人数でぇ」

亜里沙「経典の持ち主を……探し出して、援護して下さい」

美紗希「はぁい♪」

――…………

杏「教典!? そ、それってアレだよね!? アレだね!? わわわっ」

朋「落ち着いてください! 確かにそのアレですが、どうするつもりですか?」

杏「決まってんじゃん! 取る! 取ってこの生活からオサラバ……じゃなくて、もっと住みやすい環境にする!」

朋「ま、なるほど……? ですが同じように考えている国も団体も多いはずです」

朋「それに、今まさにあたし達は抗争中です……今は拮抗している状態になっていますが」

杏「むぅ……そ、そうだね。じゃあ仕方ない、仕方ない……うう」

朋(凄い残念そう……)

杏「…………ねぇ、確か抗争中の場所って今のところ一方面だけだよね」

朋「そう聞いていますが……西の地域ですね」

杏「で、確か幹部級は向かってないんだよね、互いに戦力を割いてない抗争だったはず」

朋「……ですね」

杏「閃いた!! 集合! 全員集合!! これより作戦会議を始めーる!」




・・

・・・


愛梨「…………ここからが、正念場です」

---------- * ----------
 ほぼ完走するまでモチベーションを保てるとは思っていませんでした。
このスレはここで終了です、次はPart2として新たなスレになると思います。
前回500付近でキャラクターのリクエストを行ったので、また新しく500を積み上げた今、
もう一度リクエストの受付になると思います。

 このスレの残りはリクエストでアイドルの名前を1レスにつき一名お書きください。
多数の採用はできませんが、最低でも二~三人は確保します。
依頼は1000まで埋まるかPart2が建った段階で行います、それまでは上記の通りリクエストか、
もしよろしければ感想でも雑談にでもお使いください。
---------- * ----------

藍子の再登場とか大丈夫ですかね…?

もりくぼ!

桐生社長っていける?

ヒョウくんさんお願いね

アーニャ

どんどんいろんな思惑が…楽しみだなー

リクエストは夕美ちゃんお願いしますですよ

奏お願いします。
間に合ってないかも

智絵里!

ひじりんとこひなたんに期待します

あずきちをお願いします!

既に登場してる娘の、再登場リクエストはあり?

>>978 >>988
 再登場リクエストに関して、今は登場機会がまだのキャラに譲ってあげてください。
挙がった名前に関しては努力はします、出番の偏りが生まれない程度に。

>>981
 最初に彼女を登場させた時、完全に失念していましたね……

>>979 >>980 >>984 >>985 >>986 >>987
 まだ出番も配役も決まっていないキャラだったので、早めに登場を試みます。

>>982
 役は決まっていましたが出番を決定していなかったので、こちらも早めに試みます。

>>983
 彼女は既に名前もしくは台詞で登場しています。


 劇中で誰かを登場させる際に優先的に、という意味でも出された名前は参考にさせて頂きますので埋まるまではどうぞ。
トレーナー含むアイドル200人+ちひろさんですが、765組とちひろさんは使いどころを慎重にしたいので除外……

AS組も出す予定なんですか

相葉ちゃん、台詞あったのか!?どれだろう…

はるちんをリクエストしたいと思っていたらもう出てしまったでござるの巻

忘れてた、沙紀お願いします

智香の再登場を、よろしくお願いいたします。

大和軍曹出たっけ?

次スレを設置しました、次回からはこちらに更新させていただきます。
島村卯月「この世界で平和の為に冒険する」Part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412172732/)

>>990
765組はそもそもモバマスというグループにおいて微妙な立ち位置ではあるので、
登場予定は非常に難しいところですが、現状使わない方向に傾いているかもしれません。

>>992
前レスと同じく、善処します。

>>994
登場済みです。

書き込み後、依頼を出しますのでリクエストは以上になります。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom