アイドルマスターシンデレラガールズのキャラクターをファンタジー世界で活躍させてみた。
異世界ワープものではなく、まさに直接その世界に彼女達がいる設定です、
イメージと異なる役職、若干の性格改変、言動があります。
・世界観が異なる故のオリジナル設定があります。
・ルート分岐でアンケートを求める場合があります。
・キャラクターが大きな負傷を負う可能性もあります。
・Pに該当するキャラやオリキャラはモブを除き、絶対に主要人物になりませんし登場もしません。
・以上の都合上、一部キャラが大きな『悪役』を担う可能性があります。
・サイマスとグリマスのキャラクターは登場させません、申し訳ありませんがこれはシンデレラガールズ準拠です。
・登場させたからには、キャラの出番は一度で終わらせません。
・エログロは皆無とは言い切れませんが、メインに据えたり濃密に書くつもりはありません。
・この注意事項は増減添削される可能性があります。
現段階でも、後の追加でも、納得できないもしくは気に入らない、許せない点がある場合は
申し訳ありませんがブラウザバックを推奨させていただきます。
200+1名中、現在名前も台詞も登場したのが60名弱。
作中に名前もしくは名前が判明していないまま台詞で登場したのが20名弱。
・前スレ <島村卯月「この剣と魔法の世界に平和を取り戻す」>
島村卯月「この剣と魔法の世界に平和を取り戻す」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405913544/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412172732
あらすじ
突如現れたアイリ(十時 愛梨)から、願いが叶う秘宝“灰姫の経典”通称シンデレラを譲渡されたウヅキ(島村 卯月)。
その夜に村が野盗に襲われ、なんとか親友のリン(渋谷 凛)とミオ(本田 未央)と協力し、撃退したものの力不足を痛感。
経典に“皆を守る力”が欲しいと願った彼女達は、世界各地を周り成長の道へと進む事に。
~第一幕~
最初に訪れた地で、小さな喫茶店を経営するツバキ(江上 椿)と、同居するトモカ(若林 智香)と出会う。
さらに、偶然遭遇したミレイ(早坂 美玲)に一度は経典を奪取されるが、見事に取り戻し和解。
故郷が危機に見舞われている彼女のために奔走、その過程で集落の長であるミク(前川 みく)と出会う。
結果、暫定の黒幕であるユイ(大槻 唯)と交戦、しかし奮闘虚しく集落は陥落。
脱出も危うい状態であったがユイの所属する組織の最高位であるアキハ(池袋 晶葉)の手により
ギリギリの所で脱出、その後謝罪を経て和解するも脱出の経緯でウヅキがリン、ミオと離れてしまう。
孤立したウヅキはユイの上官であるチナツ(相川 千夏)の存在を知るが、同時期にアキハと共に消息を絶つ。
代わりに現れた、アキハの手により制作された機械構造を持つ人物、NoA(高峯 のあ)と出会い、
彼女の協力を経てリン、ミオと連絡を取り、ウヅキは合流のために待機する。
~第二幕~
数日では合流できない距離を移動していたウヅキは仲間が到着するまでにアキハの治める国を散歩する。
打ち解けて友人と呼べる程になったミレイと共に訪れたのは魔術学校、
そこに臨時講師として訪れていたヤスハ(岡崎 泰葉)と出会い、突然の事件に巻き込まれる。
校内の暴動? に介入すべきとの経典の指示により、国の幹部であるハルナ(上条 春菜)と共に現場へ。
そこで杖の力により暴走する一般生徒、ランコ(神崎 蘭子)を発見、ヤスハと共にこれを鎮圧する。
杖を封印し、支配下に置いたヤスハがランコと共に引き取り、事件は解決した。
~第三幕~
ウヅキと合流するために急ぐリンとミオが訪れた休息地の泉で、
旧戦火時代の英雄の一人と称されるカイ(西島 櫂)と出会い、国までの道を案内するとともに、
同じく英雄と称されていたアイリの選んだ二人を品定め。
その眼鏡に適い、期待を受けて二人は送り出される。
しかし大きな期待の一環として、次に取るべき彼女達の行動に地雷を仕込まれる。
~第四幕~
合流した三人が、アイリから提示された四つの国+カイが混ぜた地雷、合計五つの選択肢から一つの国を選ぶ。
先代を早くに失ったコハル(古賀 小春)が、各種の専門家である四姉妹(トレーナー、ルキトレ、ベテトレ、マストレ)と
治めるごく平和な国であるそこに、天使を名乗るサチコ(輿水 幸子)とウサミン星人を名乗るナナ(安部 菜々)が訪れる。
二人が争う中、三人の経典を狙って近づく新たな人物ユウキ(乙倉 悠貴)が襲撃をかける。
なんとかこれを退け、友情?が芽生えた二人は以降もこの国に住み着いた。
最後の最後、全てが終わった後に訪れたアコ(土屋 亜子)は、まだ見ぬ仲間を探して冒険中、
特に収穫が無いと悟った彼女は静かにその場を離れた。
~第五幕~
事件の解決という抽象的な指示の元、ベテラントレーナーから仕入れた事件の情報を元に
再度アキハの治める国『ウィキ』へと戻る。 入国の検問をハルナの知り合いであり同じ幹部階級であるケイト(ケイト)の
協力により突破、今回解決すべき事件を同じく解決を試みるコトカ(西園寺 琴歌)の配下として潜入。
事件の元凶は盗賊団のトップとその補佐であるナツキ(木村 夏樹)とリイナ(多田 李衣菜)。
だがコトカの振る舞いと、その下につかされているチアキ(黒川 千秋)、ユキミ(佐城 雪美)に対する扱い、
そして予想よりも善人と認識したナツキなど、本当にこの“側”へついていていいべきかと悩む。
末の結論は、ナツキ側へ寝返ること。 全てを裏から観測する新聞記者ミズキ(川島 瑞樹)との出会いを経て、
コトカから送られた刺客のタクミ(向井 拓海)、サナエ(片桐 早苗)、メグミ(伊集院 惠)、トウコ(服部 瞳子)を
今までに出会った仲間と協力して撃破を試みる。
~第六幕~
一方その頃、ミレイとミクが暇を持て余した末に、国で発生する通り魔事件の解決を試みる。
同じ事件の解決のために活動していたミヤコ(安斎 都)と出会い、ついに事件の現場に遭遇する。
被害を受けたレイナ(小関 麗奈)は、その犯人の顔を見て離脱、以降姿を消す。
現場に残った五人であるノリコ(椎名 法子)、レイ(篠原 礼)、チヅル(松尾 千鶴)、タマミ(脇山 珠美)、ソラ(野々村 そら)、
この中に犯人が居ると結論づけて捜査が始まった。
次々と被害が増え、閉塞した空間に残すところ一人となったミヤコが犯人、タマミを突き止める。
戦闘技術を持たない彼女が機転により彼女を退け、全員が生存したまま窮地から脱出。
一度も公に姿や名前の情報を漏らさなかった通り魔の情報を見事持ち帰る。
~第七幕~
応援に駆け付けたサチコとナナの協力もあり、刺客を全て制圧、そしてナツキが復活して万全の態勢。
コトカとの全面対決。ミズキとアイコ(高森 藍子)が見守る会場にて、チアキとユキミの解放を掛けて実質の勝負が行われる。
結果、機転奇策不意を重ねたナツキが二人を解放、そしてコトカは過去の真相を知り、新たな敵を探し出す。
解決後、経典の新たな指示を確認している際に事故によってその様子が映像として中継されてしまう。
名前は流出しなかったものの映りこんだ本が経典であること、そしてウヅキたち三人の姿と顔はしっかりと流出。
当人が知らないまま全世界の、経典を狙う人物のターゲットとなる。
~第八幕~
個別行動として三人がバラバラに動く。ウヅキ、リンがそれぞれノリコ、チヅルとレイに出会い、一瞬だけ行動を共に、
同時にウヅキがアツミ(棟方 愛海)と一騒動起こすが、逃走される。
そしてミオが飲食店にてソラとアカネ(日野 茜)に出会い意気投合? して広場で盛り上がる。
そんな矢先、ミオが例の映像を元に経典を狙って動いた組織の末端である
リサ(的場 梨沙)、ハル(結城 晴)と交戦。ソラとアカネ両名の援護もあり、これを制圧するが事の重大さを把握、
急いで仲間と合流し、今後の行動指針を決定すべく話し合う。
本編投下は次回からになります。
愛梨「この経典を持つ者に必然訪れる、不特定多数の第三者に狙われるという試練」
愛梨「奪還される……可能性は無きにしも非ず」
愛梨「ですが、見事切り抜けてくれると信じています」
卯月「……リンちゃんは、何か成果はあった?」
凛「新しい人物に知り合ったという意味なら、あったね」
未央「私も! でも、それ以上に大変な状況というのも分かった」
卯月「さっき聞いた通りだね。私たちが、教典の持ち主と知られちゃったって……」
凛「それで、こうなったと?」
梨沙「いつまで連れ回すのよ……」
晴「オレは連れ回された方がいいかな……この後本部なんだろ、やだよ」
卯月「ねぇ、二人はどこの所属?」
梨沙「あー、あー、聞こえないわねー」
晴「…………」
卯月「そりゃあ言ってくれないよね。分かってるのは、何かの組織の末端って事?」
凛「そしてそれが何処かを調べる為に、本部に向かってる途中?」
未央「だねー。で、二人を運んでくれてるのが」
茜「アカネです! どうも!」
卯月「どうも」
凛「よろしく……よろしく?」
卯月「話を戻すと、次の行動についてなんだけど……」
凛「どうする? この場所に既に追手がいると分かった以上……留まるのはどうだろう?」
未央「でも反面、ここに居れば予想をはるかに超える大事にはならないかも」
凛「知ってる顔が多くなったから……でも、本当に味方のままで居てくれるかな」
卯月「……仮定でも、そういう話は止めようよ」
凛「ごめん、ただ絶対に無いとは言い切れないし……欲以外の理由もあるかもしれない」
卯月「それ以外の理由?」
凛「例えばミオはさっき、国を巻き込む大事にはならないっていったけど、それも全然仮定の話」
凛「なる可能性があるなら、元凶である私達を国には留まらせないはず」
未央「それってつまり……追い出されるってこと?」
凛「これも仮定だけどね、でもつまり味方が敵になるってのはその可能性も含まれている」
卯月「い、今は何も言われてないし、大丈夫じゃないかな……?」
凛「だといいけど……むしろ、こっちから先に聞いてみる?」
卯月「先?」
未央「この状況を踏まえて、私達をどうしますかって聞くの? うーん……それって無茶苦茶怖いんだけど」
凛「だよね……でも早く行動する為には聞いておかなきゃいけないかも」
卯月「どのみち本部だよ、聞くか聞かないかは……歩いてる途中で考えよう!」
茜「では出発ですか! 行きましょう!」
梨沙「嫌ー!」
晴「やっぱり結果は変わんないのか……」
・
・・
・・・
のあ「……多い」
のあ(余所からこちらへ向かってくる気配、その中でも特に強いものが……三、いや四……)
――ピッ ピピッ
のあ「止められるとは思わないけど、可能性があるなら手を打つ」
のあ「……幹部級へ通信。これより指定の位置に向い、警戒を行う」
のあ(そして私は……一番強い気配を感じた方角へ。侵入を防ぐため……)
――ガシャンッ ザッ
――…………ピッ
春菜「指定の位置、さて私は交通が最も多い場所の警戒を任されましたが」
――ガヤガヤ ワイワイ
春菜「ちょっと……私単独で警戒するには人通りが多すぎて難しいですね?」
春菜「命令は『可能なら阻止』でしたが、任されたからには全うしたいのが性ですよね? しかしこれはなんとも……」
春菜「とにかく、気合いを入れてアンテナ張るしかないですね、今から来ると分かっている人を特定するだけなんですから」
――……スッ
??「…………」
春菜「さて、探しますか……まずはこの瞬間から国に訪れようとしている人を警戒しましょう」
――スタスタスタ
春菜「どれほどのものか……」
??「…………ふふっ」
――ピッ
ケイト「……丁度いいデスネ、そういう訳で上からの命令によりお話をお伺いしてもよろしいデスカ?」
??「ダー、そう言う事なら」
ケイト「とはいっても……わざわざ改めて聞くまでもないデスカ? 魔術協会幹部のアナスタシア……さんデシタカ?」
アナスタシア「ニェート、違います」
ケイト「アレ?」
アナスタシア「元、です。今はただの一般人です」
ケイト「いったい何が?」
アナスタシア「一身上の都合、と答えましょうか」
ケイト「勿体ない。……という事は私の知っているメンバーでは無いのデショウカ、現在の協会は」
アナスタシア「多少の差異はありますね」
ケイト「なるほど、では今は」
アナスタシア「ただの一般人……通っても?」
ケイト「ええ、ですが今はデリケートな時期と状況デス、騒ぎはくれぐれも」
アナスタシア「分かっています、では」
――スタスタスタ
ケイト「……この時期に、何の用デショウネ?」
ケイト「しかし一番激しい場所こそ回避しましたが、ここも人の往来が激しいデスネ」
ケイト「この中から、不審者と思わしき人物を探す……いや、無理デショウ?」
――ピッ
??「警備と言われましても~……」
??「普段の私は内政治安担当ではないので、勝手がわかりませんよ~?」
??「……ですけど、こうなったからこそ都合のいい出来事もありますね~、でしょう?」
――ザッ
千夏「……直接会うのは久しぶりね」
??「お久しぶりです~、突然いなくなっちゃったので心配したんですよ?」
千夏「そうね、あまりユイ以外と連絡が付く状況じゃなかったから」
??「いったい何をしたんですか~? もしかして、ついに反逆ですか~? なーんて」
千夏「それに近い事はしたわ」
??「……本気ですか~?」
千夏「勿論、手は抜かない主義なの。で、混乱に乗じて再度ここを訪れたわけだけど」
??「内部事情と情報ですね、では立ち話もなんですし……あちらで」
千夏「毎度助かるわ」
――ザッ ザッ
――……サッ
マキノ「……噂は耳に入っているはずなのに、こうも警備が手薄だと心配ね」
マキノ「私としては、潜入に手間取らないぶん助かるけど」
マキノ(当面の目的は対象の発見、そして潜伏を悟られない事……)
マキノ「余裕があれば奪取まで。さて、どうでしょうね?」
――ザッ
のあ「……大きな災厄の気配はこっち」
のあ(ここは直接発祥区に繋がる森林地帯……奇しくも前回のカイが訪れた方角)
のあ「まさか、もう一度侵入を試みている? いや、理由がない」
のあ「ならば新たな……侵入者のはず」
――…………
のあ「……!」
――ダンッ! ジャキッ
??「ひっ!?」
のあ「名乗りなさい、そこで隠れて何をしていたの?」
??「あ、あのっ、あの……住んでるところを不可抗力によって追い出されたので……避難です」
のあ「そう。で、名前は」
??「ひっ、その物騒なモノを向けないで……もりくぼはもりくぼです……ノノです……」
のあ「あなた人間?」
乃々「違いますけど……しがない獣人ですけど……」
のあ「苗字は?」
乃々「あ、いえ、勝手に名乗ってるだけで姓名じゃないんです……すいません謝ります、だからそれを下ろして……」
のあ(……確かに感じた大きな気配。でも、この子とは違う)
乃々「あの……通っちゃ行けない場所だったのなら帰りますから、もりくぼを離して……」
のあ(もしかして、私が感じ取れていないだけ? だとしたら、このまま帰すわけには)
乃々「……帰りますね」
のあ「いいえ……追い出されたのなら行くアテもないでしょう」
乃々「あ、あのっ、本当に構わないので私は大丈夫なので」
のあ「……来なさい」
乃々「え……は、はい……あの、怖いんですけど」
のあ「何もないと分かれば解放する」
乃々「解放って……もりくぼ捕獲されちゃうんですか」
のあ「悪く思わないで、厳戒態勢なの」
乃々「…………えー」
・
・・
・・・
卯月「留守でしたね……しかも、見事に全員」
凛「もう既に対処に回ってるかもしれない、だとすると……」
卯月「もしかしたら私たち、追い出される事は無いとか?」
凛「だといいけど、それより大きな敵の襲来なんて羽目は勘弁してほしい……かな」
未央「まだ私達がこの国の味方に置いてくれてるなら、協力した方がいいんじゃない?」
卯月「でも狙いが私達なら大人しくしておくべきかも……」
凛「かといって守ってもらうだけ、という訳にはいかないよね」
茜「割って入りますが、この二人はどうしましょう!」
梨沙(どうするの……ここガチで本部よ?)
晴(んなコト言われてもよ……動けないし武器も無いし、どうしようもねぇって……)
凛「さすがにずっと連れて歩く訳には……目立つし」
卯月「誰か居ませんか……? もしくは、帰ってきてくれませんか?」
――ザッ ザッ
のあ「その子供は誰?」
乃々「あの、ここ……偉い人しか入っちゃいけない建物じゃ……」
卯月「ノアさん! えっと、じつはかくかくしかじかで」
のあ「……そう、襲撃。もう内部に潜んでいたなんてね」
のあ(数が多すぎて、小さな脅威を把握し切れていない……敵は外部だけではなく、既に内部にも)
卯月「えっと……ノアさん?」
のあ「……とにかく、その子は預かる」
梨沙「誰よあんた!」
未央「……国のトップ代行」
晴「え、あれ? この国のトップって確か……」
のあ「あなたが詳しく知る必要はないのよ。受け取るわ」
茜「はい! どうぞ!」
――…………
凛「特に、何も言われることなく四人に戻ったわけだけど……」
卯月「何も言われないと、かえって不気味だね」
茜「どうしますか!? この建物だと安全なんですか?」
未央「ひきこもるのは性に合わないけど、状況が状況だからねー」
卯月「経典だけ隠すのも預けるのも、アテなんて無いし……」
未央「おっと、手元から離すなんて怖いことしちゃダメだよ? 私達で守ってこそだよ!」
凛「当然。だけど指示も変わらない、まだ個別に行動するという文章が残ってる」
茜「では個別に動けばいいんですか!」
卯月「いやいや……さすがに今バラバラに動くと無茶だよね?」
未央「だねぇ、でもここに留まるのも……」
茜「では全員で動きましょうか!」
・
・・
・・・
乃々「…………」
梨沙「何よ」
乃々「いや、何か悪い事したんですか……と思って」
梨沙「捕まってるのよ! 助けてくれる?」
乃々「あ、いや、勝手に私が判断するのは良くないと思います、はい……」
梨沙「ぐぐぐ……せっかく見張りが居なくなってチャンスなのに!」
晴「でも武器も取られたし、出て行ったところで何処に行けるんだよ」
梨沙「それは……か、帰るしかないでしょ?」
晴「特注の武器奪われて成果無しの報告をしにか? オレは嫌だよ」
梨沙「でもそうするしかないでしょ……」
乃々「大変そうですが……」
梨沙「そうなのよ大変なのよ! だから協力しなさいって!」
乃々「むーりぃー……」
――ガチャッ
のあ「…………」
晴「帰ってきちゃったな」
梨沙「もう、作戦失敗よ!」
乃々「勝手に加担させようとしないでほしいんですけど……」
のあ(手元の成果はこの三人だけ、しかしこの三人を止めた所で……他の警戒は異常なしが続く)
のあ(先の連絡で驚いたのはアナスタシア、彼女がこのタイミングで何故ここに?)
乃々「……あの」
のあ「何かしら」
乃々「あの二人が……その、ここから出たがっているというか、その」
のあ「無視して構わない、解放して良い事はないから」
晴「ひどい言われ様だよ」
梨沙「国に危害を加えるつもりなんてないわよ! そもそも無理よ!」
のあ(……確かに、この二人……いや、仮に三人だとしても国が傾く事態にはなりえないでしょう)
のあ(ならいっそ、泳がせてみる……?)
・
・・
・・・
茜「もう一ついただきますね!」
未央「私も!」
卯月「腹が減ってはなんとやらです!」
凛「気持ちは分かるけど……」
未央「しぶりんも今のうちに食べておこうよ? これから忙しくなるかもしれないんだからさ」
凛「うん、分かってる……でも普通の店で、しかも見通しが良すぎる場所だから目立って仕方がないと思って」
茜「いただきます!!」
未央「食べるぞー!」
凛「これだもん」
卯月「あはは……」
卯月「でも、こんな一般の人が居る場所で暴れることはないと思うよ。相手だって目立ちたくないだろうし……」
凛「その考えが甘いかもしれないよ、何せ私達の持つのは願いが叶うと言われている経典なんだから」
卯月「そう……だよね」
凛「だから突然、食事中だろうと睡眠中だろうと攻撃を受けてもおかしくはない」
卯月「う、怖い……」
凛「まさに今が油断している時、この隙を狙って――」
――ガシャンッ!!
凛「えっ!?」
茜「なんでふか!?」
未央「はへはほひほんへ!」
卯月「食べてから喋って! だ、誰!?」
凛「知らない人……でも、外から攻撃されて飛び込んできた? なら、私達と関係のない外部の問題?」
――ザッ
マキノ「けほっ……!」
マキノ(潜入は問題なしだった……ただ、街中で最初に遭遇した相手は最悪ね)
マキノ「突然人に攻撃するなんて、無礼だと思わないかしら」
??「一般人相手なら、その通りだけどよ」
――ヒュンッ
拓海「お前、他国の諜報員だろ? こんな所で何してやがる」
マキノ「攻撃指針を役職だけで判断するなんて……噂通り乱暴なのね、タクミ」
拓海「絶賛戦闘中の国家の諜報員が他国に居る段階で妙なんだよ」
マキノ「お店の客も迷惑してるんじゃない?」
拓海「後で詫び入れるから問題ねぇ、幸い客も大勢は居ねぇみたいだから――」
卯月「あっ!」
凛「……あ!」
未央「え? 誰?」
拓海「…………マジか」
マキノ「あの三人は……これはいい偶然ね、一人知らない人物が居るけど」
――ダンッ!
拓海「あっ! 待ちやがれ!」
マキノ「最優先事項よ」
茜「き、来ますよ!? どうしますか!?」
未央「誰なの!? 誰か説明して!」
卯月「えっと……ど、どこから説明すれば!」
凛「それよりも攻撃されるなら守って!」
拓海「やっぱ狙いはコレか……! ったく面倒だな!」
卯月「とにかく逃げなきゃ!」
マキノ「待ちなさい!」
――ザンッ!
未央「っ……あれ?」
茜「攻撃されて……ませんね?」
マキノ「戦闘しに来たわけじゃないのよ、まずは話をしても構わないかしら?」
拓海「……な、何だ?」
マキノ「第三者の早とちりのせいで、いかにも乱暴な印象を与えてしまったけど……危害を加えるつもりはない」
凛「……罠?」
卯月「じゃあどうして私達を探して、話をしているんですか? やっぱり……」
マキノ「結論は確かにその一点よ。ただ、今は話をしたいだけ……私はマキノ、諜報員よ」
未央「諜報員?」
茜「強そうな名前ですね!」
拓海「実質スパイだろ? それも戦争国家の、大将から秘宝奪取の命令か?」
マキノ「いいえ、これは私が提案して私が動いている事案。ホタルは関係ない」
卯月(ホタル…………?)
凛(あのアイリから提示された選択肢の中に……見覚えがある名前)
拓海「関係ねぇっつってもよ、お前の元締めなワケだ。ゴーサイン出したのはそいつだろ?」
マキノ「そうね、私の提案に私が駆り出されたわけ……あと一つ訂正があるわ、奪取が目的じゃない」
拓海(駆り出されたねぇ……諜報員がか?)
卯月「じゃあ、何の話をしに来たんですか?」
マキノ「これから私が何もしなくともあなた達は他の大国や大きな組織に狙われる」
凛「だから奪われる前に奪いに来たってこと? どのみち譲る気はないけどね」
未央「お? 勝負? する?」
茜「私も頑張って投げます! あれ、投げるものがないです! あれ? そもそもソラさんは?」
卯月「ソラ……?」
未央「あれぇっ? そういえば居ない……あれー?」
マキノ「誰の事かは知らないけど、話を戻すわよ」
マキノ「率直に、私達の国家の配下にならないかと勧誘に来たのよ」
拓海「なるほどな、元の国家の力があるから出来る戦法だ。下手に争いを起こさず効果的に取り組もうってか?」
マキノ「今言った通り、私の所属する国家は世界的にも力があると自負している、ご存知かしら」
卯月「いや……詳しくは全然です」
マキノ「そう。国家名『カルアラ』、旧都区の最大戦力国家であり代表のホタルと幹部二名、そして私が仕切る国家よ」
凛「……四人だけ?」
拓海「国が四人で回せんのか?」
マキノ「四人で回せる程優秀と考えて頂戴。それで返事はどうかしら、悪くないと思うけど」
未央「断ったら?」
マキノ「断るつもりなの?」
卯月「まだ……信用も何も出来ません、すぐに返事は無理です」
凛「いや、駄目だよ。大きな国家が経典を持った私達とこのタイミングで接しに来たのは、狙いが見え見えだよ」
未央「私達は自分の為に持ってるんだよこの経典を。他人の、ましてや国の為に使う予定は無いね!」
マキノ「それが答え?」
――スッ
拓海「断った瞬間に力づくになるなら、相手になるぜ?」
マキノ「あら、一匹狼のあなたがこの三人に加担するの?」
拓海「多少は縁があったからよ。にしても気持ち悪いな、一方的に知られているだけっつーのは」
マキノ「仕事だもの、木刀は降ろして、私は戦闘員じゃないから断られたら断られた事を告げに帰るだけよ」
凛「あっさり引き下がるんだね」
マキノ「そうね……こう言うと悪いけど、遅かれ早かれ経典は奪われるでしょう、それをさらに奪うだけよ」
未央「失礼するなー、大丈夫だって」
マキノ「その自信に期待するわ、せめて面倒な相手に奪われないように努力してね」
――ザッ
卯月「……本当に帰っちゃった?」
茜「潔いですね!」
拓海「しっかしデケー国に絡まれたもんだな? ま、当然か……そんなモン持ってたのかオメー等」
凛「奪うつもり?」
拓海「要らねぇよ、今で満足してるからよ」
未央「私たちは今に満足出来てないから持ってるんだよ、強くなるために!」
卯月「うん……だから、絶対に手放せない……!」
拓海「まぁ、その、なんだ、お前らの努力とかは分かったけどよ、実際どうするつもりだ?」
卯月「何をですか?」
拓海「だからよ、これから間違いなく交渉挟まず問答無用の奴等が来る、全部退けるつもりか?」
凛「そうする他ないんだけど、既に最大戦力が来てると分かってから……少し怪しくなってきたね」
未央「旧都区最大勢力って、結構とんでもなく強いところだったり?」
拓海「当たり前だろ、そこらの小さな国じゃ絶対に歯が立たねぇよ」
拓海「なんせ幹部どころかトップすら最前線に出向く国だ、好戦的ってレベルじゃねぇ」
拓海「……けどな、評判は悪くねぇんだなコレが」
卯月「戦う国なのにですか? 戦争してる国じゃあ……」
凛「平和な国で評判がいいのは分かるけど、何故?」
拓海「さぁな、やっぱり実力があるからだろ。そんな実力ある国からこれから睨まれるんだぞ?」
卯月「全部が全部、さっきみたいな交渉で始まるとも限らない……」
凛「でも現状、協力して対抗できる味方なんて居ないし」
未央「やっぱり自衛するしか!」
茜「ファイトです! 気合です!」
拓海「じゃなくてよ……今の交渉みたいにどこかの国の傘下で庇護受けるべきなんじゃね?」
拓海「それこそお前、ここの幹部と知り合いなんだろ?」
卯月「うーん…………」
凛「安易に私達の問題に対して、助けを借りていいものか……」
拓海「知らねぇけど、全部が全部自分達で出来ると思うなよ? アタシだってずっと一人だったわけじゃねぇんだから」
拓海「協力者が居ねぇと、いつか詰むぞ。……じゃあな、色々小言を言っちまったがアタシは去る」
――ザッ ザッ
茜「……いい人ですね!」
未央「今、私達はアカネちん含めて四人……」
凛「相手は多すぎるし分から無さ過ぎる……どう? 心許ない?」
卯月「でも、私達が頑張れば大丈夫だよ! 絶対大丈夫!」
凛「ウヅキがそう言うなら、大丈夫だね」
未央「よし! で、未だに次の指針が定まってないけど……何する?」
卯月「まだ経典の『個人で動く』が有効なのかな……」
凛「そうだね……ここまで変わらないと、まだ履行出来てないって事かも」
茜「分かれますか!?」
卯月「うーん……もしかしてこれ、三人ともが何かに巡り合わないとダメなのかも」
凛「じゃあ私とウヅキが、まだ達成できていないという事……?」
未央「その考えで行くと私はもう個別で動かなくていいね、アカネちんと待機!」
茜「はい! 二人でそのお宝を守ります!!」
凛「じゃあ任せた……早く目的を達成して」
卯月「合流して、次の指示を待ちましょう!」
・
・・
・・・
――ピッ ピッ
マキノ「……もしもし、こちらマキノです」
マキノ「定期より連絡が早い理由は……既に対象と接触したからです」
マキノ「はい……ええ、断られましたが」
マキノ「場所は最初の目撃情報とそう離れていない、店が並ぶ通りの飲食店です」
マキノ「この周辺に配備を、連絡をお願いします」
――ピッ
マキノ「…………さて、巻き込まれる前に退散しましょうか」
――ダンッ
茜「美味しいですね!」
未央「私は、一瞬だろうと喧嘩が起きそうだったこの店が普通に営業を続けてるのが驚きかなぁ」
茜「他に人が少なかったから幸いですね!」
未央「そういう話……そういう問題かなぁ?」
茜「そういう問題にしておきましょう!」
未央「んー……」
――ガサッ
未央(今は私が経典を持ってる……ちょっと心細いけど、守らなきゃ)
茜「それにしても、ソラさんはどこへ行ったんでしょうね?」
未央「あ、そういえばさっき気づいたんだよね……どこ行っちゃったんだろう?」
茜「用事を思い出したんでしょうか? だとしても一言言ってほしかったですね!」
未央「そうだね……でも、そのうちまた会うかな?」
茜「そうです! それよりも今です! 騒ぎを聞きつけて誰か新しい人が来るかもです!」
未央(……冷静に考えたら、ここに留まるのは失敗だったかな?)
――ガチャッ!
そら「見つけた!」
未央「あれっ!? どうしてここが!? いや、それより……」
そら「ごめんね☆ 途中で怪しい人を見かけたんだけど」
茜「不審者ですか!」
そら「追いかけたらいつの間にかいなくなっちゃって、その人もみんなも!」
茜「ここへはどうやって?」
そら「賑やかだったから!」
未央「うーん……合流できたのは結果オーライ?」
そら「今は何してる? らんち? 食べていい?」
茜「どうぞ!」
未央「まぁ、待機中。下手に動かない方がいいものか、さてどうする……」
――ガチャッ
茜「また誰か入ってきましたよ?」
未央「せめて変装しとこうかな……二人は大丈夫でも私はあんまり大丈夫じゃないかも」
そら「あ、それじゃあこれあげちゃう!」
未央「これは?」
そら「買ったけど着なかった服とあくせさりー☆」
未央「じゃあお言葉に甘えて……向こうで着替えてくる!」
茜「お金あったんですか?」
そら「現金カードを拾った☆」
未央「それ拾っちゃダメ!?」
――ダダッ バタン
茜「で、入ってきた人はどちらに?」
そら「あっち。でも誰かなんて分かる?」
茜「さっぱりです!」
そら「だよねー」
茜「では本当に食事に来ただけの一般の人の可能性が?」
そら「むしろそっちのが可能性高いかも?」
――…………
アナスタシア(……とても見られていますが、誰でしょう?)
アナスタシア(あまり目立ちたくはないので人がほどほどの店を訪れましたが……妙です)
アナスタシア(微かに、強力な気配を感じます)
未央「おまたせ!」
茜「わぁ、なんだか怪しい薬売りみたいです!」
未央「突っ込むタイミングかもしれないけどそんな見た目なら大丈夫だよねきっと、バレない!」
そら「もう少し早く来てたら皆にも渡せたのに、残念!」
未央「それはしょうがないけど、確かにしまむーとしぶりんにも渡したかったな……」
茜「これならしばらく留まっていても大丈夫ですね! 目立ちません!」
そら「ばっちし!」
未央「むしろしっかり目立っている気もしないでもない……ま、一見してわからないからいいか!」
茜「それで店に入ってきた人が居ましたが……あっ、もう一人増えてますね?」
未央「むむ、警戒はしておかなきゃ駄目だね、誰だろう? 知ってる人かな?」
そら「そんな頻繁に知ってる人には会わないよー? ただの普通のお店だし!」
未央「だよねー!」
――ガチャッ
亜子「おじゃましまーす! 適当にオススメ一品お願いしますわ!」
未央「……知ってる人だ」
亜子「いやいや、こんな美味しそうな雰囲気する店構えなのに空いててラッキーですわー、ん……?」
茜「……?」
そら「んー?」
未央「…………」
亜子「あれ? おたくどこかでアタシと会いました?」
未央「いぃや……知らねーかなぁー……」
亜子「いやいや冗談です、ちゃんと覚えてますわ、ミオさんでしょ? 何してはりますの」
茜「お知り合いですか!」
未央「一瞬会っただけなんだけどなぁ……」
亜子「じゃあ席お邪魔しますわ、それで今何やってますの? お友達変わりました?」
そら「そらちんだよ!」
茜「アカネです!」
亜子「アタシはアコいいます、旅の商人やってますー」
――…………
未央「かくかくしかじか……」
亜子「それアタシに話してよかったん?」
未央「よくは無いけどすっごい聞いてきたじゃん……私が折れた」
亜子「それはすんません。しっかし厄介ですなぁ、秘宝手に入れるのも考えものですわ」
そら「でも今の話だとアコも狙ってるんでしょー?」
茜「剣ですか! 強そうです!」
亜子「それとこれとはちゃいます、もちろんそっちも魅力的ですけど」
未央「奪わないの?」
亜子「考えときますわ、少なくとも今本人の目の前で堂々と奪う宣言は無茶ですわ」
未央「……味方じゃない?」
亜子「だから考えとくって言うてます、アタシ自分の立場が固定されるのは好まないんで」
そら「どっちつかず?」
亜子「……せやけど、何でココを潜伏場所に? わざわざ変装までして」
未央「それはまぁ、色々あって……」
亜子「ちょっと耳貸してもろていいです?」
未央「……?」
亜子(警戒せんとって下さいね、気づかれてドンパチはアタシ避けたいんで)
未央(何がいいたいの?)
亜子(客……数人居ますけど、なかなかの有名人というか、厄介な人が混ざってますわ)
未央(え……?)
亜子(まず左端の奥側、ほんま何で居るのか分かりませんけど……魔術協会の元幹部さんです)
未央(協会……もしかしてしまむーが言ってたヤスハさん?)
亜子(また別の人ですわ、というかエプリングの一件といい人脈広すぎひん? 羨ましいわ……)
未央(あはは……不可抗力かも、または運が良かったというか)
アナスタシア「…………美味しい」
茜(偉い人ですか?)
亜子(今は普通の人ですわ、辞めた理由は知りませんけど)
そら(もしかすると、もしかしちゃう?)
亜子(有名な人ですから、こんな争いには巻き込まれに来ないとは思いますけど。要するに偶然って奴ですわ)
未央(偶然怖い、で他の人は?)
亜子(もう一人……反対側、あの位置に居てはる人知ってます?)
未央(いや、全然……)
亜子(あの方は――)
――ガチャッ
美紗希「すいませーん、お聞きしたいことがありますぅ」
――…………
そら「また誰か入ってきた?」
亜子「いや、ほんま偶然にしては偏りすぎですって……」
未央「また知ってる人?」
亜子「知ってる言うか……有名というか、割と近くの国の幹部さんですわ」
未央「へー……じゃあもしかすると?」
亜子「情報を聞いてまわってるみたいですし、聞き耳たてときましょ」
美紗希「……というわけでぇ、この三人を探してるんですけどぉ、ご存知ないですかぁ?」
美紗希「んー…………今見た限りでも居ませんし、知りませんかぁ」
未央(変装しておいてよかった)
アナスタシア(三人……例の三人でしょうか)
美紗希「では何かありましたら連絡くださぁい、連絡先はこっちの――」
??「ちょっと」
美紗希「……はい、なんでしょうかぁ?」
亜子(おっと……?)
??「横で話聞いてたら、えらく堂々としてんだね、隠す気ない感じ?」
未央(あ、さっき聞きそびれた人、えーと結局誰?)
亜子(誰なんて使ったらあきません、超金持ちの偉いさんですわ)
美紗希「隠す気?」
??「とぼけても意味ないっしょ? この国で三人組探してるって言えば一つだろ」
??「アタシもそれ、欲しいんだ。だから直々に来た、邪魔すんな」
美紗希「えーっと、何か勘違いしてませんかぁ?」
??「今更違いますで通らねぇだろ?」
そら(なーんだか穏やかじゃない感じー?)
茜(これ喧嘩始まりませんか? 止めますか!?)
亜子(いやいやいや無茶やって、アタシ知ってる限りでかなり実力者なんで割って入ったら怪我しますわ、社会的にも)
美紗希「誰ですかぁ?」
??「そっちの国は情報担当が居ない感じ? アタシ知らないとかどうなってんだよ」
美紗希「知りません。誰ですかぁ?」
つかさ「アタシはツカサ、ツカサ=キリュウだ。いろいろ大国渡り歩いて取引してるんだよ、有名なわけよ」
美紗希「記憶に無いですねぇ、本当ですかぁ?」
つかさ「弱小国から利益は引き出せないんで、そこんところよろしく」
美紗希「喧嘩売ってますかぁ?」
つかさ「もしかして気づいてなかった感じ?」
美紗希「すいませぇん、面倒な人とは関わらないようにしていたのでー」
つかさ「あっそう、アタシ面倒か?」
美紗希「ですねぇ」
つかさ「…………」
美紗希「まだ話しますかぁ?」
――バキィッ!!
つかさ「くぅ!?」
美紗希「あうっ!?」
――ガシャンッ!!
未央「わー!? どうしてそうなるの!? もー!!」
亜子「綺麗に攻撃が交差して吹っ飛んだわ……」
茜「どうしますか!?」
未央「どうって、割り込みたくない! 大人しく逃げる!」
そら「でも逃げるって店の入口はあっち、まだ二人がいる方角だよ?」
未央「あー……駄目だ、出れないやー」
――ガラッ
つかさ「やっべー、問答無用で顔面狙ってくるとか半端ねぇ、つれーわー」
美紗希「問答はこれ以上ないくらいに交わしたと思いますけどー、服が汚れちゃいますねぇ」
つかさ「服なんて腐るほどあるっしょ、それより一つしかない体心配した方がいいんじゃね?」
美紗希「あなたも立場とか評判とか世間体とかを気にするべきと思いますねぇ」
つかさ「そんなコロコロ変わるモノに振り回されるより、アタシの直感に従った方が早いだろ?」
美紗希「なるほどわかりやすいですねぇ」
つかさ「そういう事、だよ!」
――キンッ!
美紗希「……あなたは結局どこかの国の戦闘員ですかぁ?」
つかさ「国には縛られてないっての」
美紗希(その割に、ずいぶんしっかりと……重い攻撃じゃないですかぁ)
つかさ「言い忘れてたけどアタシ武器商人でもあるから」
――ジャキッ
美紗希「!?」
つかさ「さっき弱小国って言ったけど撤回、アタシの攻撃止めてるなら合格」
つかさ「今度取引に行くからさ、気に入ったものあれば覚えとけよ、実践すっから」
美紗希(服の内側から……!)
――ザシュッ!
茜「わっ!? 明らかに長い剣が出てきましたけど!」
未央「どうなってんの!? 服の内側に隠すには明らかに……可能なの?」
そら「あんなに大きいと持ち歩くならまだしも、隠すのは無理っぽい?」
美紗希「っう……武器の格納術式でも使ってましたかぁ?」
つかさ「ハズレ、てかアタシ魔法使えないんで、未来区出身不憫だわマジで」
――パタンッ
美紗希「剣が折れた?」
つかさ「便利っしょ、かなり小さく隠せるから誰でも不意打ち上等だよ」
美紗希「確かに便利そうですー、でもぉ……あたしは必要ないかなぁ?」
つかさ「へぇ、よさげな武器使ってるなら教えてくんない?」
美紗希「じゃあお披露目ですよぉ」
――キランッ
つかさ「……なんだそれ?」
美紗希「短刀ですけどぉ」
つかさ「デコりすぎじゃね?」
美紗希「愛用品ですからぁ、とっても使いやすいですよー?」
つかさ「アンタはそうかもしんないけど――」
美紗希「じゃあこれはお礼ですぅ」
つかさ「お……?」
――ヒュンッ サクッ
つかさ「痛って!? ちょ、それ投げんの?」
美紗希「そうですけどぉ」
つかさ「愛用品って言ったじゃん……わざわざ一個ずつ作ってる系?」
美紗希「投げるとは思われないんですよねぇ、こうしておけば」
つかさ(まぁ不意突かれたけどよ)
Side Ep.29 埋め合わせ
やっちゃった、どうしましょう?
中継が終わった後は完全に電源ごと落としておくべきだったかしら。
だから事故でこんな事態に……情報を配信する側が火種を作ってどうするのよ。
「あら、トラブル?」
私がトラブル起こしたわけじゃないんだけどね?
いや、でもほとんど原因は私かしら……それにしても私欲の情報は回るのが早い早い、
もう拡散完了、デマ流す暇もありはしないのよ。
「……なんだか深刻ね?」
ちょっと聞いてよ、この前映像配信したでしょ?
その時に流れちゃったのよ、もうだいたい察してると思うけど、例のアレ。
「ああ、え? もしかして秘宝の発見の話? 何よ、情報源が出ないと思ったらあなただったの……」
しかも都合よく……いや、この場合悪く、ね。
この間タレコミの裏取りで灰姫の経典……願いの叶う秘宝の発見を報じちゃったでしょ?
だから余計拡散が早くて、もうお手上げよ。
「……中立で平等が信条じゃなかったの、どうするつもり?」
謝罪して済む案件じゃないから、本っ当にどうしようか迷ってるの、
どうしたらいいと思う? 古い文献では記者会見とかいうものがあったそうよ、どう思う?
「実行しない事を推奨する……その文献には恐らく同時に、会見が上手く行った例も少ないと書いてたはずよ」
ああ、そう……?
……はぁー、やっちゃった、どうしましょう?
Side Ep.30 愉快犯
んー……ちなったん、なんでゆいを連れてってくれなかったんだろ?
確かにゆい達が国に戻るのは危ないけど、ゆいだって協力できるんだから。
ザクッ、と……うん、今日も絶好調! このまま辺り一帯の木から葉っぱがなくなりそう!
――ガサッ
「あっ、ま、街だ……」
あれ? 誰?
森の方向から誰か出てきたよ? ふーん、変なカッコ。
「フヒ?」
こっち見た、ゆいはゆいだよ!
そんなところで一人で何してるの?
「……同じ……ぼっちか……?」
ゆいにはちなったんが居るもん、今は居ないけど。
居ないって、ここに居ないって意味ね?
「なんだ……じゃあやっぱり私だけぼっちか……フヒヒ」
よくわかんないけど一人? 誰も居ないの?
森から街に向かってるってことは、故郷から出てきた感じ?
「追い出された……だ、だから……とにかく適当に歩いてる……」
じゃあ行き先も決めてないの? うーん……よし!
ゆいと一緒に行こう! ちなったんも今、人手が足りないって言ってたし!
それに何か感じる、秘めたるパワーって言うのかな?
「つ、連れてってくれるのか……フヒ、ぼっちは、寂しい……からな」
うん、ゆいが頼めば大丈夫!
住んでるところを追われるなんて大変だねー、でもゆいとちなったんも似たような感じ、
仲良くなれそうだね! 後で名前教えてもらっていい?
Side Ep.31 舞い戻る
はぁ……はぁ……はぁ……
死ぬかと思ったわ……やっぱり持つべきものは保険ね……!
だけど……その代償として、せっかく出て行ったこの場所にもう一度帰ってくる事になるとはね……
でも、今は誰も居ないみたいだし、すぐにもう一度出て行ってやるわよ!
「ごきげんよう、一週間ぶりですね」
あっ。
……い、居たの? この時間帯なら下の部屋で皆集まってるはずじゃあ――
「もちろん普通はそうですけどね、レイナちゃん」
「あなたが出て行った後、皆が順番に後を追いかけたからここには誰も居ませんわ」
は? 何よ、じゃあアイツら四人ともここに居ないの?
人をさんざんこの家に留めようとしておいて、結局アタシが居なくなったらこのざまよ!
「そうかしら、心配して追いかけたように見えた……けれど?」
「でも無事で帰ってきて何よりですわ、一番最初に帰ってくるのがレイナちゃんとは意外ですわ」
帰って……! そう! アタシ死にかけてたんだった!
まさかあの通り魔があんな……ほとんどどころか子供でしょアレ、アタシより背が低いし。
「……今、何と言いました?」
へ? あ、いや、ち、違うわよ!? 危険な事はしてない! 何もしてない!
名を上げるために賞金首探してたとかそんな事はしていないわ!
「通り魔……まさか? その正体を見たのですか?」
み、見たといえば見たわね……名前は知らないけど。
アタシより身長が低い、でもって剣よ、それで他には――
「今、ここには誰も居ませんわ。なら好都合……誰も見ておく必要はない」
……? え、ちょっと、何言ってるの?
なんでさっさと準備してるの?
「今まで正体が掴めていなかった……お手柄ですわ、場所は何処? 今すぐ向かいましょう」
はぁ!? いや、死にかけた場所に行くのは御免よ!
後の四人が危険かも知れないって、そんなの知ったこっちゃないわよ!
「大丈夫、私はレイナちゃんに心配されるほど、弱くはありませんから」
いや…………そ、それはそう、ね?
そりゃあ負けるなんて……仮にもちょっと前まで何か凄い呼ばれ方してたんだっけ?
じゃあ……そう、そうね! アタシをここまで追い込んだヤツにリベンジよ!
次は負けないわ! 何せ強力な味方がいるから! アーッハッハッハッ……ゲホッ!
「あらあら」
未央「ど、どうしよう?」
茜「やっぱり止めに行きましょう! 喧嘩駄目です!」
亜子「いや勿論それが出来たら満点ですけど」
そら「でもあのぴりぴりした空気に入るのはあたし怖いかなーって」
茜「じゃあ私が行きます! 何か武器下さい!」
そら「危ないからすとっぷ! それに武器なんてそんな都合よく持ってないから、今はえすけーぷ!」
未央「それがいい! あ、でもこのお店確か他にも人が居たような……」
――スッ
つかさ「ネタバレしてから当たるわけねーじゃん?」
美紗希「不意打ちが基本戦法と分かれば当たる事はないですよぉ?」
つかさ「それだけじゃねーし」
美紗希「投げるだけがナイフじゃないですけどぉ」
つかさ「言うじゃん? でもアタシだって本番はここから――」
アナスタシア「もし、すいませんが」
つかさ「ん?」
美紗希「……あれぇ? もしかして」
アナスタシア「元です、先に言います」
つかさ「は? 何の元なんだよ、知り合い?」
アナスタシア「ニェート、ヤー……ただ食事をしに来た客」
つかさ「……どこの言葉? ニュアンスだけで予想するけどさ、アタシに何か文句ある感じ?」
アナスタシア「文句? ただ注意しに来ただけです、ここは広場じゃなくて店です」
美紗希「あたしは理解してるんですけどねぇ、手が早い人が居ましてぇ」
つかさ「さりげなく責任押し付けるとかないわー、つーかアタシも別にここでやる必要はないっつーか」
アナスタシア「では外でお願いします……食事中なので」
美紗希「……だそうですよぉ、外に行きます?」
つかさ「外で製品見せびらかす真似なんて出来ないっしょ」
美紗希「じゃあ、喧嘩やめますぅ?」
つかさ「それアリ。……ただし、アンタが宝を諦めたらの話」
美紗希「それは無理ですねぇ、でもあたしは別に奪う為に来たわけじゃないんですよぉ」
美紗希「保護ですよー、悪い人の手に渡る前に守る為に来ましたぁ」
つかさ「悪い人じゃねーっしょ? 自分に都合の悪い人、の間違いじゃね?」
美紗希「違いますぅ」
つかさ「どっちにしろ諦める気配ないって事で、決裂決定」
アナスタシア「ああもう……」
つかさ「誰か知らないけど巻き込まれて困るなら下がってるが正解だよ、アタシはもう一度前に行く」
美紗希「平和に事は運びませんねぇ」
――シャキンッ
未央「……駄目っ、あの人が来てくれて一瞬平和に終わると思ったけど!」
亜子「んんっもう、元だろうが幹部だった訳やし、無理にでも制圧してくれると思たけど……駄目みたいやね」
茜「やっぱり私が止めに行きますか!?」
そら「すとっぷ! 本当にすとっぷ!」
亜子「ほかの客は……期待したらアカンな、そんな気配感じひんし……そもそもこの状況下で呑気に食事なんか……」
未央「逃げる流れに便乗しておけばよかった!」
アナスタシア「もっと冷静にですね」
つかさ「頭は冷静だから大丈夫、考えた上でこの結論、一過性のプッツンじゃないから口じゃ止まんないよ」
美紗希「らしいですよぉ」
つかさ「それこそ、腕ずくで止めてみろって感じ」
アナスタシア「腕ずくですか……」
つかさ「出来ないなら続き、やる?」
美紗希「不本意ですが、そういう事なら遠慮しませんよぉ」
アナスタシア「…………」
未央(どうして止めないのっ!)
亜子(そんな事より本気で小戦争始まりますて……大国の幹部と有力集団のトップが衝突ですわ)
茜(やっぱり私が)
そら(すとっぷ!)
つかさ「それじゃ開始の方向で……」
美紗希「後悔してもしりませんよぉ……」
――……コトッ
つかさ「っ!?」
美紗希「え……?」
アナスタシア「…………!」
つかさ(誰……っつーか……さっきからずっとそこで静かに食事してた奴っしょ……?)
美紗希(並の気配しか感じてませんでしたけどぉ……急に?)
??「いい加減……他の客に迷惑だし、怯えているだろう」
未央(だ、誰? 知ってる?)
亜子(アタシに振られても……さっきから居った人ですわ、しかもごく普通に何でもないような気配で)
そら(それにしちゃあ、急にこんなぴりぴりした空気……)
茜(な、なんでしょうか? ぞくぞくします!?)
??「……何かな? 私の顔に何かついているか?」
つかさ「んなテンプレのやり取りは破棄、それより……誰よ? 結構強そうじゃん?」
??「強く見えるかな」
美紗希「……乱入ですかぁ?」
??「いや、二人の争いに興味はないが、さっき言った通りだ」
つかさ「じゃあ店の用心棒か何か?」
??「ある意味そうなるかな……静かにするつもりは?」
美紗希「心がけますけどぉ、あっちが暴れる分には保証できませんねぇ」
つかさ「以下同文ね」
??「では戦うつもりは?」
つかさ「衝突が回避出来る議題じゃないっしょ」
美紗希「以下同文ですぅ」
??「そうか」
未央(ドキドキ……)
亜子(どうなりますんやろ)
美紗希「…………」
――ジリ……
つかさ「……フッ!」
??「むっ」
美紗希「後手なので正当防衛ですよぉ♪」
――ヒュンッ!
そら「二人とも投擲武器!」
茜「間に立ってると危ないです!」
亜子「あ、いや……ちょうどすり抜けて交差するように飛んでますわ」
つかさ(そんなに貫通力が無い武器だから仕方ないっしょ)
美紗希(部外者に当てる訳には行きませんからねぇ)
??「仕方ないな」
――パシッ
??「これはナイフと……ふむ、針か」
美紗希「えっ?」
つかさ「ちょ、仕込み針掴むとかマジ……」
??「何、この程度なら少し努力すれば可能だよ、その面白い武器を開発する頭脳があれば尚更だ」
つかさ「それとこれとは別っしょ――」
??「違わないさ」
――ガシッ!
つかさ「っ、離せって!」
??「そして君もだ」
――グンッ
美紗希「ひゃう!?」
??「こちらに当たらないように投げる技術は目を見張るものがある、ただ……その装飾は不要かな」
美紗希「痛っ……で、でもあたしのアイデンティティーなんですよぉ……」
??「その技術だけで十分だ、さて……もう大丈夫だが?」
アナスタシア「スパシーバ。……ハラショー、見事なお手際で」
??「それほどでもないよ、おっと暴れないでくれ」
つかさ(ヤベーわ、全然ビクともしねぇー……)
美紗希(二人して動けないなんて何ですかぁ)
未央「お、おぉ……カッコいい」
茜「凄かったですね! パシっとしてグッとしてダンッ! です!」
そら「びゅーてぃふる☆」
??「話を聞いている限り……何かを巡っての喧嘩のようだが」
つかさ「……話聞いてたなら知ってるっしょ?」
??「すまない、心当たりが無いな。教えてくれるか?」
美紗希「世間の裏で盛り上がってる、秘宝についてですよぉ。あたしは本当に奪うつもりはなくてー」
つかさ「奪うつもりがないのに来るワケ……あ、いや…………」
つかさ「所属の国……たしかアリサって奴の」
美紗希「アリサ先生ですぅ、呼び捨ては駄目ですよぉ?」
未央(アリサ……? どこかで聞いたような)
つかさ「あー……失念してた、アタシともあろう者が迂闊だったわ、っべー」
つかさ「てことは奪うつもりがないってのはマジっぽいなー」
美紗希「さっきからそう言ってますよぉ」
??「……和解したのなら離そう」
つかさ「和解じゃないけどさ、仕留める意味は無くなったわ」
茜(どういう事ですか? その人の部下なら信用があるんですか?)
亜子(いやー……コレは言っていいべきか悩みますけど、うーん……)
未央(いい、教えて! もしかしたら私はそれを聞いておかなくちゃいけない気がしてきたから)
亜子(そうですか? じゃあ話しますけど)
亜子「アリサって言う人は国家『キルト』のトップですわ」
亜子「一切侵略を行わない、交渉合併だけで巨大国家を作ったというなかなかのやり手です」
そら「戦わない?」
未央「それは凄い。確かにそんな平和主義の人の部下が、奪うつもりは無いと言ったらその通りかも」
亜子「まぁ……初期から国を支えてる幹部の言葉は確かに全面的に信用して大丈夫ですわ」
茜「安心ですね!」
亜子「全部が全部そうならどれほど良かった事か」
未央「……ワケあり?」
亜子「アリっちゃアリですわ」
未央「どんな?」
亜子「それは――」
アナスタシア「そこの方々……もう大丈夫ですよ?」
茜「あっ、呼ばれてますよ! はい! 私は大丈夫ですが!」
そら「すごいすごい!」
つかさ「……ま、狙わないと言質取ったから、アタシ帰るわ」
美紗希「どうぞぉ、絶対に奪いはしませんからねぇ」
??「他所でも騒ぎは起こさないように」
つかさ「子供じゃねーし。でもやると決めたらやるからそのつもりで、これ信条」
つかさ「……邪魔したね、食事代と修理費置いとくんでよろしく」
――バタンッ
未央「嵐のような人だったね……」
亜子(その人から狙われてますねんけど)
未央(あっ、そうだった……わぁ、怖い……)
美紗希「ご迷惑おかけしましたぁ、あたしミサキって言いますぅ」
茜「アカネです!」
そら「そらだよ!」
アナスタシア「ミーニャ、ザヴート……アナスタシア、です」
亜子「いやいや存じてますよー、アタシはアコ言います、以後お見知りおきをー」
??「先程のお嬢様は誰かな」
亜子「ツカサさんの事?」
アナスタシア「知り合いですか」
亜子「ちゃいますちゃいます、新進気鋭の同業者なんでよーく知ってるだけですわ」
??「商人か、その割には随分と活動的だったが」
亜子「何言うてますのん、自分の足で動いてこそですわ。それが極端に凄いって事なんですけど」
アナスタシア「それで……そこの、個性的な装いの方は」
未央「個性……あっ、私? えーっと……」
未央(名前は割れてないって言ってたし……大丈夫かな)
未央「ミオです、お友達です」
アナスタシア「そうでしたか」
亜子「ところでアナスタシアさん? こんなところで何してはりますのん、本業は?」
アナスタシア「……知っていたのですか?」
亜子「辞めた理由とかは知りませんけど、名前と顔は知ってます。アタシ、記憶力いいんで」
アナスタシア「特に……ここに居る理由は無いです、観光です」
そら「おっきい都市、見るところいっぱい!」
茜「それでそれで! さっきのどうやったんですか!? 私、修業中で強くなろうとしてます!」
??「……ん、私か? いや、特に特別な事はしていないが」
そら「普通はそんな器用ですぺしゃるな事は出来ないよー」
未央「キミも武器の扱いに関しては特別かと……」
そら「そうだっけー?」
――Prrr……
茜「何か音が鳴ってます!」
アナスタシア「通信……ですね、私は持っていないので、皆さんですか?」
そら「あたしのじゃないよ!」
未央「私も持ってないので違います」
亜子「アタシのは……鳴ってないですわ」
??「すまない、私のだ、迷惑にならないように失礼するよ」
茜「あっ! まだ聞きたいことが!」
??「それは申し訳ないが、私も連絡を待っていた身だ、用事があるのでね」
――ガチャッ バタン
未央「んー……いろいろな人と会ったけど、これから大変だなぁ」
アナスタシア「大変?」
未央「あー、いやいやこっちの話です!」
アナスタシア「……何にせよ、自分の出来る事以上の仕事は受けてはいけませんよ」
未央「ああはい、それはもう」
亜子「ふーん……なるほど?」
未央(出来る事、かぁ……でも、経典に従っている限り、大きな間違いは起こさないなず)
未央(その点だけをみても、選択を間違わないという意味で他の人より恵まれてるはず……!)
・
・・
・・・
――ピッ ピッ
??「……やぁ、遅い応答で済まないね」
??「出るのが遅かった? すまない、取り込み中だったからな」
??「誰と会ったか、か? 誰が重要かは把握していないから全員挙げるが、構わないか?」
??「……ツカサ、ミサキ、アナスタシア、アカネ、ソラ、アコ、ミオと名乗っていた、七名だ」
??「あ、いや、待て……その七名の前にも、名乗っていた人物が数名居たな」
??「……遭遇した人物が多すぎる? それは私も思っていたが、それだけこの国に集まっているのだろう?」
??「私も急に前線からこんな場所に来て、こう見えても戸惑っているんだが」
――Prrr…… ピッ
??「……遅い、たかが通信に出るまで時間がかかりすぎでしょう?」
??「新しい連絡よ、要注意人物がそちらに向かったわ」
??「私の動きを読んでるのかしら、それとも私欲むき出しで戦力をつぎ込んだ結果の偶然かしら?」
??「どちらにせよ……目撃情報、アンズのところの幹部が動いている、例のアレよ」
??「あなたを奴とぶつけない為にそっちに回したのに……結局衝突よ、笑えないわ」
??「そうなった以上、可能なら仕留めて。困難なら予定通り、経典の奪取よ。……忘れてないでしょうね?」
??「……はぁ? 今何て言った? 一回遭遇した……? ッ、じゃあさっさと奪ってきなさいよ」
??「場所が悪かった? そんなの関係ないでしょう、第一あなたはどこだろうと関係ないでしょ?」
??「分かったら……通信を切る、勝手に倒れるんじゃないわよ」
――ピッ ピッ
杏「あー、もしもし、出るの遅かったね、何してたの?」
杏「……ふーん、そう、順調? あとついでに何か気づいた事あったら教えて教えて?」
杏「えーっと……うんうん、うんうん……分かった」
杏「頼むよ? アンズの夢と理想と希望は全てそっちに掛かってるんだから」
杏「……ごめんごめんって、それじゃあねバイバイ」
――ピッ
??「にゃっほーい! こちらきらりだよ☆ 以前ばっちし! 問題なーし!」
きらり「うんうん、それでちょーっとだけ寄り道したけど到着するよ! 時間は守るにぃ☆」
きらり「でねでね? 道の途中で怪しい人と二人すれ違ったの、それでにょわーってどっかんしちゃったんだけど!」
きらり「最初の人はすっごいの! 全然壊れなかったの! きらりんパワー通じなかったにぃ……」
きらり「でもでも? 二人目の人は言われたモノを持ってた気がしたの! 教えてくれた本? が見えたにぃ☆」
きらり「森の中だったから見失っちゃったけど、こっちに行ったのは間違いないの!」
きらり「だからきらり、頑張るにぃ☆ 応援ばっちし? 応援ちょーだい?」
きらり「うん! いーっぱい頑張ってくる! にょわー☆」
・
・・
・・・
卯月「会いにいく……って、そうそう都合よく誰かに会えるわけ無いよ……!」
卯月(一番頼りになる……いや、頼りすぎてるかもしれないけど、やっぱりハルナさんとケイトさんを……)
卯月「……でも、今そこを頼ろうとして、誰も居ない事を教えられたばかりなんだよね」
卯月(どうしよう、とはいっても何かを見つけなきゃ……何か行動しないと!)
卯月「とにかく人通りの多い方向に行こう……どっちに向かえばいいだろ?」
――ザッ
つかさ「ツれぇー……筋肉痛なるわー」
卯月「あ、すいません」
つかさ「ん……?」
卯月「ここから人の多い通りに向かうにはどっちに行けばいいですか?」
つかさ「人の多い? それ聞いて何すんの、テロ?」
卯月「へ? あ、いや、別にそんなんじゃ……」
つかさ「あれ、もしかして……?」
卯月(……?)
つかさ「なるほどなるほどなー、そっか、そうか」
つかさ「人通りの多い場所だっけ? アタシ案内する、ちゃんと遅れないように来いよ」
卯月「ありがとうございます! ……わっ、歩くの早い!」
――スタスタスタ
――ザッ
卯月(近道なのかな……どっちかと言うと裏道みたいなところを通ってるけど)
つかさ「…………」
卯月「えっと、この先ですか?」
つかさ「知らねぇ」
卯月「……はっ?」
つかさ「別にどこでもいいんだ、人目につかないところならさ。ついでに狭くて暗いと満点」
卯月「あの、何言って――」
つかさ「鈍いね、それでも経典の持ち主かよ」
――キランッ
卯月「う!?」
――ヒュンッ!
卯月「危な……っ!?」
つかさ「避けた、やるじゃん」
卯月(どこから武器が……じゃない、そもそも……!)
卯月「敵襲!」
つかさ「敵? 今更? アンタの周りに仲間以外の味方が居ると思うなよ?」
卯月「そんなこと……ないですっ!」
つかさ(切り替え早っ、あっさり反撃してくるね)
卯月「敵なら、倒します!」
つかさ「そうそう敵だよ、だから遠慮なく来な、そしたら……」
卯月(距離が近いなら、このまま直接攻撃する!)
――ヒュンッ!
――ザクッ!
つかさ「アタシも反撃しやすい」
卯月「痛ったっ……!」
卯月(服の内側から、何!?)
つかさ「防御も優秀、同時に反撃かつ日常でも着れるデザインの服とか最強だろ?」
卯月「っう……完全にカウンターを想定した装備、なら!」
――キィィン!
卯月「中距離なら衝撃が届くはず……久しぶりに!」
つかさ「魔法は管轄外だし!」
卯月「行けえっ!!」
――ゴオッ! ドオンッ!
卯月「当てた……! でも!」
つかさ「……いいね、いい魔力衝撃の実験台になりそうじゃん? どう? アタシの所で働かない?」
卯月「お断りします……!」
つかさ「そりゃそーか、対立してるもんね現在進行形」
卯月(効果はゼロじゃないけど、決定打でもない。このままだと平行線……!)
つかさ「先に聞くけど、三人の内経典持ってるの誰? もしかしてアンタ持ってたりする?」
卯月「…………」
つかさ「黙り? どのみち一人捕まえたら芋づるだから関係ないけどさ」
卯月(誰かが来てくれるまで逃げる……のはよくない、むしろ時間をかけると……)
つかさ「とにかくササッと終わらせるよ、せっかく裏通りなのに時間かけて野次馬集まると鬱陶しいっしょ」
卯月「困るのはお互いです……!」
つかさ「賛成、じゃあ早くケリつけるわ!」
――ダンッ!
つかさ「競争相手が増える前に倒れてくれるとありがたいんだけど?」
卯月「っ……そうは、いきません!」
つかさ「おっと、根性あるね? さっきの防護服見てからまだ手、出してくる?」
つかさ「それとももしかして間接攻撃が無い感じ? なら……」
――タンッ
卯月「退いた?」
つかさ「距離を置いただけ、安全な射程にさ」
――スッ
卯月「……?」
つかさ「さっきは止められたけど、アレは相手が悪かったと思っとくわ」
――ピシュンッ
卯月「痛っ!? は、針? どこから――」
つかさ「袖口、アタシ全身凶器だから。どこからでも武器は出るからよろしく」
卯月「いや……来ると分かればこの程度……!」
つかさ「ま、不意を打つような武器だと単発の威力は弱いけどさ」
卯月「まだ私は全然やれ……ま……あ、あれ…………」
――ドサッ
卯月(う……こ、この感じ……まさか……!?)
つかさ「これも新製品だから、気に入ったら買いに来ればいいじゃん」
つかさ「無力化には最適だと思うし、全然力入らないっしょ? そういう新種の麻痺毒らしいよ」
卯月「く、ぅ……!」
つかさ「あー、無駄無駄。新種の毒素に解毒は効かないって知ってるから、無駄な抵抗マジ無駄だよ」
つかさ「さて……一人捕まえたけど、この感じだと持ってないっしょ、後の二人をどう確保すっかな」
つかさ(手配すると呼びたくも無い第三者で溢れかえる、となると……)
つかさ「うん、やっぱ口割らせるしか無いか。じゃあ覚悟しろ……よ?」
――…………
つかさ「……おいおい、何処行った? 冗談っしょ? なんで動けるっつーか逃げられるだけ回復早いんだよ……!」
つかさ(どんな人物だろうと初見のトラブル回避できる術式なんて速攻で組めないのが常識だろ……!?)
つかさ「…………マジでか」
――タッタッタッ……
卯月「はぁ、はぁ、はぁ……!」
卯月(やっぱり……ミレイちゃんの使った毒と同じ……! なら、初めてじゃない!)
――ザッ
卯月「あの時……ちゃんと復習で解毒の式を試しに組んでてよかった……!」
卯月(でも、偶然見かけただけの人が……私は知らなくても、向こうは私を知ってる……!)
卯月「もう個別に動いてられない……ミオちゃんとリンちゃんに合流しなきゃ……怖い……」
卯月(……人通りが多い道は避けて、どうにか裏道だけ辿ってさっきの店に戻らなきゃ!)
――タッタッタッ
・
・・
・・・
??「は~い、大人しくしていましたか?」
梨沙「さっさと出しなさいよ!」
??「分かりました~」
――ガチャ
梨沙「…………えっ?」
晴「ん、どうした……ってなんで扉開いてんだ」
??「出せと言ったじゃないですか?」
梨沙「いや言ったけど、それはお約束というか決まり文句って言うか……い、いいの? 出るわよ本当に!?」
??「どうぞ~……ただし、ちょっとお話したい人が居るので、いいですか?」
晴「話?」
??「すぐ済みますし、答え辛い内容なら拒否しても構いませんよ? では……」
千夏「こんにちは、あなたがリサとハル?」
梨沙「……ちょっと、なんでここにいるの?」
晴「確か……姿を消したって聞いてたけど、それに何の前触れもなく除籍されてるとも聞いたぜ」
梨沙「もしかして嘘っぱち? 本当は所属してたってオチ? 幹部の……チナツ、ね?」
千夏「いいえ、除籍は本当よ、そして理由も当然の措置よ」
??「いきなりいなくなって大変だったんですからね?」
晴「ますます訳わかんねぇ……除籍って国追い出されたんだろ? どうしてこんな中核に居るんだ?」
千夏「内通者は残ってるのよ、内部の情報と現状を教えてくれる……ね」
??「は~い、私です」
梨沙「……この国も末期ね」
千夏「で、単刀直入に……あんた達、どこの所属で誰の配下?」
梨沙「何よ、結局尋問?」
千夏「別に答えなくてもいいと言ったじゃない、本当に聞きたい事だったらこんな回りくどい事しないわよ」
晴(回りくどいって……普通の会話が回りくどいのか)
千夏「……先に質問の意図をこちらが話すべきかしら」
??「その方が話は早いかもしれませんが、大丈夫ですか?」
千夏「構わない、隠すような事は何もないから」
梨沙「隠す?」
千夏「ええ、私は協力者を探してるの」
晴「協力ぅ? ……おい、もしかして所属を聞いたってのは」
千夏「勿論。あなた達、なかなかいい力を持ってるじゃない」
梨沙「そ、そう?」
千夏「ええ、人を見る目は確かなつもりよ」
晴(……確か、国のトップのアキハだったり、幹部の何人かもこの人がスカウトして来たんだよな)
梨沙(じゃあアタシ達を評価してくれてるって事? ちょっと、玉の輿よ?)
晴(それって使い方違うくね?)
千夏「それにあたって、無所属なら……私の協力者になって欲しいの」
??(いつもの言い方ですね~……傘下や部下とは絶対に言わないんですから)
晴「いや、光栄だけどよ……」
梨沙「無所属……じゃないのよね私達」
千夏「そう……」
??(目的は違いますけど、ごく自然に“どこかの所属で、命令を受けてこの国に来た”とは聞き出しましたね~)
梨沙「そもそも、協力って何するつもりなのよ? 生半可な目的の為ならお断りよ!」
晴(何でそんなに強気なんだよ)
千夏「目的は、奪還よ」
梨沙「奪還? それって例の経典の事? まるで元々持ってたのに奪われたみたいな言い方ね?」
晴「その目的なら……断るな」
晴(手伝っても、どうせオレらの物になるわけじゃねーし)
梨沙(危険を冒して立場を変えなくても、どのみち今も目的は同じだし)
千夏「早とちりしないで、経典は関係ないのよ。私が取り戻すのは……立場よ」
千夏「……ちょっとぼかし過ぎたわね、もっとストレートに……私はこの国を追われた、分かる?」
梨沙「さっき自分で言ったじゃない」
千夏「理解できてるならいいわ、要するに……私はアキハと、その賛同者を全て討つつもりよ」
??「考えることが違います~。理想の場所から追い出されたから、奪い取ろうなんて」
梨沙「……は? え、何? もしかして……未来区に喧嘩売ろうって?」
晴「豪快な裏切りっつーか……規格外すぎねーか? だって国潰そうとしてる輩がこんな内部まで……」
梨沙「そもそもどうやって、こんな大規模な国……どこから切り崩せば――」
千夏「アキハは既に仕留めている」
晴「…………いや、それは流石に嘘だろ? だってごく普通にこの国は機能してるじゃねぇか」
??「それは違いますね~、突然現れた代理の人が仕切ってます」
梨沙「代理? ……あ、もしかして」
千夏「もう会ったかしら……アキハが完成させた人工知能を持った機械、ノアよ」
晴「じゃあこの国……え、どうなってんだ?」
??「名目上は、ノアがアキハの指令を仲介するという形で今まで通り国は動いています~」
千夏「その真相……アキハが遺した秘宝『創造の歯車』により作られた彼女が国を継いでいる」
??「凄いですよ~、誰にもバレてないんですよ? こんな国が傾く大事件なのに」
千夏「ただし、手を掛けた本人は流石に感じるわよ? なぜ急に姿を消して、代理を送り込んだか、その理由……」
晴「掛けた本人……」
梨沙「…………」
千夏「ま、そんな大きな計画は、今の人数では個人が強くても数がやっぱり不足してるのよ」
梨沙「他にも賛同者が……?」
??「はいは~い、私です~」
晴「予感してたけどよ……ガチじゃねぇか、既に内通者が居るとか」
千夏「だから無謀な計画ではないと思ってる……そしてあなた達の力も借りたい」
千夏「成功した暁には、ちゃんと国を引き継いでいきましょう」
梨沙「ア、アタシも?」
千夏「もちろん……内政要員も探さないといけないわね、でも協力者にはそれなりの地位はあるわよ」
晴「…………」
梨沙「……ど、どうする?」
晴「オレに決めさせるなよ……卑怯だっての」
梨沙「そんなのアタシだって分からないわよ! 決めきれないのよ!」
??(この子達は今、立場は低そうですから……地位というワードには敏感ですね?)
千夏「すぐに決めなくてもいいわよ、相談してもいい、どうせここには聞き耳を立てる人は居ないもの」
??(決めなくていい、ですか~……国の本部に捕まってる人に言います?)
??(早く決めないと寝返るにしても断るにしても、立場が悪くなるに決まってるじゃないですか、ふふ)
千夏「その力、私達の為に使ってくれない? ぜひ頼りにしたいわ」
千夏(…………その武器が、だけどね)
・
・・
・・・
凛(私が先の単独で得た情報は、二人と遭遇して……館には特に何もなかったという情報だけ)
凛「やっぱり人通りが少ない場所には相応の情報しかない、ここは……」
――ザッ
凛「大通り……ここなら誰かに出会うはず」
凛(知ってる人なら、味方なら尚更いい……)
凛「……そんなにすぐ誰かが見つかるわけもないか、でもミオの所に戻るには早いし――」
??「ミオ?」
凛「えっ?」
??「ねぇ今ミオって言った? もしかして、知りあい?」
凛「……誰?」
そら「そらちんだよ?」
凛「いや、だから……誰?」
そら「ちょっとね? ミオとアカネっていうふれんずとはぐれちゃってあんはっぴーなの☆」
そら「そんな時に聞き覚えのある名前! もしもしふれんず?」
凛「ちょ、ちょっと……グイグイ来るね……」
そら「ついさっき知り合ったばかりなんだけどね?」
凛(怪しいけど……こっちの名前は知ってるみたい、じゃあ本当に……ミオの知り合い?)
凛(いや、それは信用しすぎだよね……)
凛「……違う、知らない」
そら「そっか! そらちんはやとちり☆ じゃあばいばい!」
――タッタッタッ
凛「行っちゃった……本当に行っちゃった……?」
凛(ミオの名前は知ってる、でも私の顔と名前は分かってなかった……)
凛(という事は例の放送以外で知ったという事? ……もしかして、早まった?)
凛「……追いかけよう、こっそりと」
そら「~♪」
凛(きょろきょろしながら走ってる……目立つなぁ)
そら「うーん、居ないっ」
凛(隠密する気がないという事は……やっぱり違うのかな)
そら「ろんりーそらちん……でもはぐれたとはいえ挨拶もなしにばいばいするのはダメだよね!」
そら「せめて最後にお別れの一言! もしくは合流! そら、がんばる!」
――タッタッタッ
凛(……ソラ? さっきはそらちんって名乗ったけど、自称がちょっと複雑なだけ?)
凛(ソラ……あっ)
凛「聞いた事ある……いや、聞いた事があるなんてもんじゃない、さっきミオがチラっと言ってた……!」
凛「ちょっと待って!」
そら「んっ? あ、さっきの人? はろー☆」
凛「ミオ……探してたよ、たぶん」
そら「あれっ? さっきは……あ、思い出したのかな! おっけーおっけーそらちん行く行く! 何処にいるの?」
凛「その前に、私はリン。……ミオに関して知り合いだと証明できるものはあったりする?」
そら「証明、んー……あ! 面白い武器見せてもらったよ! あのすっごい輪っか☆」
そら「使わせてもらったけど、そらちん怪我しそうになったよ……」
凛(リングを知ってる……これは、中継の時に使ってないから実際に会っていないと知る事の出来ない情報)
そら「その後その後、アカネと一緒にハルとリサって子をれっつおしおき☆」
凛「うん……分かった、本当に会ってるみたいだね」
そら「おぅいえーす☆」
そら「あっ、でもでもまだそらちんが心配なら連絡取ってくれてもいいよ?」
凛「連絡?」
そら「ミオのところに戻って、聞いてきてからでもいいよ! もしくは通信でも」
そら「そらちんここで待ってるから☆」
凛「それもアリだけど……戻るまで時間がかかるし、通信の手段は無い……あ、いや」
凛(リイナの通信機……返してなかったような。なら、ウヅキかミオのどっちかが持ってるかも)
凛(仮に返していたとしても、国内通信に留まるはずだから……リイナに返されてるなら通信できないはず)
凛(迷惑は掛からないよね)
凛「通信機、持ってるの?」
そら「拾った☆」
凛「ど、どうも……通信機って落ちてるものだっけ……」
そら「使えそうなものは、りさいくる!」
凛「よく見つけたね……でも、遠慮なく借りるよ」
そら「おっけー! でも古い型だから便利な機能は無い☆」
凛「その方がいい、中に盗聴とか録音とか逆探知とか……仕掛けられないから」
――Prrr……
・
・・
・・・
未央「ひゃう!?」
茜「どうしました!?」
未央「な、なんか震えて……あっ!」
――ピッ
未央「うわっ……リイナさんに返すの忘れてた……」
茜「震えてますね! なんですか?」
未央「通信機だけど……ここに掛かってくるって事はリイナさん宛てだよね」
茜「出ますか?」
未央「いや、他人の通信を受けるのはちょっと……ん! でも待てよ?」
未央「確かナツキさんと連絡を取る専用って言ってた……じゃあナツキさんから?」
未央(でも、リイナさんと既に一緒にいるはずだし、通信機を渡したままって事も知ってるはず、だよね?)
茜「どうしますか? ずっと震えてますが!」
未央「よーし! 出ちゃえ! 面白そうだし!」
茜「誰でしょう!?」
凛『ミオ?』
未央「あれっ、しぶりんだ、なんで通信してきたの?」
茜「その声はさっきお会いしましたね!」
凛『ちょっと聞きたい事があって、今は大丈夫? ほかに誰か聞いてる人が居る?』
未央「いいや? 私とアカネちんだけ」
未央「あとは店に何人か名前だけ分かった人は居るけど……遠くだから聞こえてないよ」
――…………
アナスタシア「……おや」
美紗希「通信中ですかぁ?」
亜子「なら聞き耳たてときましょか」
美紗希「人の連絡を盗み聞きはダメですよぉ」
アナスタシア「静かにしてあげて下さい」
亜子「ちぇー、面白くないですわ。……しかしえらい小さい通信機やね」
美紗希「便利そうですぅ、どこで作られたものか後で聞いておきましょうかねぇ」
亜子「あ、それいいですやん、アタシも欲しいわー」
未央「……で、何?」
凛『ソラ、って人はミオの知り合い?』
茜「ソラさんですか?」
未央「うん、そうだよ。といってもついさっき会ったばかりなんだけどね」
茜「私と一緒です!!」
凛『そっか、良かった……これで収穫があったよ、今から戻る』
未央「そらちんがどうしたの?」
凛『通りで会ったんだ、なんだか途中ではぐれたって言ってたよ』
茜「あー、そういえば途中で居なくなってました! なるほど、はぐれたんですね!」
未央「なるほどなるほどー…………うん?」
凛『今から一緒に向かうから、待ってて』
未央「えっ、ちょっと待って待って待ってしぶりん待って?」
凛『何?』
未央「今……どこに誰と居るの?」
凛『えっと……この場所の名前、分かる?』
そら『めいんすとりーと! 名前は分からない!』
凛『……ごめん、名前は分からないけど戻る道は分かるから安心して』
未央「ストップ! え、そこに居るの?」
凛『誰が?』
未央「そらちん本人!!」
凛『居るけど……何か不都合あったかな』
未央「居る……って……?」
――バッ!
亜子「あんな細かい通信機作る技術は並じゃありませんて、きっと凄い知り合いが居てはるんですわ」
アナスタシア「技術屋で有名なのは……ここの代表でしょうか?」
美紗希「アキハの事ですかぁ? 確かに優れていますが、さすがにそんなツテは――」
そら「おっ、何の話~?」
亜子「いやいやソラさん、あの通信機に関してなんですけどね」
そら「あの? アレが通信機? すっごい小さい!」
――…………
茜「……あれれ? あそこにもソラさ――」
――ガバッ!
未央(ストップ! アカネちんストップ! 声出さないで!!)
茜(んー! えっ、なんですか? なんでですか?!)
未央「か、確認だけど本当にそこに居るんだね……?」
凛『居るよ、間違いなく』
未央「…………う、嘘だぁ……」
未央「しぶりん……この会話を聞いてる人……一人?」
凛『だからソラさんが居るって』
そら『そらちんだよ☆』
未央「そ、そら……さん? ちょーっとだけしぶりんと二人で話していい?」
そら『おっけー! じゃあ離れて耳塞ぐ! んー』
凛『あ、いや、そんなに離れなくても……まぁいいや、で……なんで私とだけ?』
未央「…………驚かないで、リアクションせずに聞いてね?」
未央「そら……は、こっちに居るんだ」
凛『……?』
未央「もう合流して……今は近くの別の人と話してる」
凛『えっ? でもここにも――』
未央「知ってる……声も同じ、たぶん本人だけど……こっちにも“居る”んだ」
凛『…………』
――クルッ
凛「…………」
そら「終わったー?」
凛「いや……もう少しだけ待ってて」
そら「おっけー☆」
凛「…………ミオ」
未央『しぶりん……』
凛「……どっちが、だと思う?」
未央『う…………そ、そんなの……』
凛「ミオしか確認できる手段を持ってない」
未央『でも露骨に確認したら……』
凛「だから、さりげなく確認する方法を考えて」
未央『そんなのすぐに思いつかないよ!』
茜『とりあえず押さえ込んでからじっくり調べては?』
凛「こっちは私一人、それは難しい……」
未央『じゃあ本人しか知りえない情報を……』
凛「会ってそんなに経ってないんでしょ? そんな質問あるの?」
未央『だ、駄目かぁ……』
凛「……く、タイミングが悪い……せめて単独行動じゃなかったら――」
そら「あいたっ!?」
凛「えっ?」
――ドンッ
卯月「痛たたた……すいませ……あれ?」
凛「ウヅキ!?」
未央『えっ? しまむー?』
そら「おぅ……地面に倒れこみそらちん……」
卯月「すいません! 前を見てなかったんです!」
そら「そーりーそーりー……こっちも目を瞑って耳塞いでたから気づかなかった……」
卯月「そ、それは本当に何してたんですか……?」
凛「…………」
未央『しぶりん? しまむーが来たの?』
凛「……チャンス!!」
――ガッ!
そら「おぅふ!?」
卯月「ちょ、ちょっとリンちゃん!? いくらぶつかったからって押さえ込むのは――」
凛「ウヅキ!! 説明は後!! ソラさん抑えて!!」
そら「えっ? えっ?」
卯月「へ? ど、なんで?」
凛「いいから!! もしかしてミオが危ないかもしれない!!」
そら「えっ!? ミオぴんち!?」
凛「ミオを助けたいなら大人しくしてて!」
そら「う、うん、わかった、そらちん大人しくする……」
卯月「何がどうなってるの!?」
凛(無抵抗……いや、まだ分からない!)
凛「ミオ! こっちは偶然だけど抑え込めた! でも抵抗はしない……」
未央『も、もう実行したの!?』
茜『じゃあこっちも実行しますか!? ボンバーッ!!』
未央『あ、え!? いいの!?』
――ダンッ
茜「そらさーんっ!!」
そら「呼んだ? って」
――ズザーッ!!
そら「にゃー!?」
美紗希「わぁっ!?」
アナスタシア「わっ……」
亜子「うわっち!?」
茜「確保ーっ!」
未央「え、えらく豪快に……でもナイス!」
凛『出来たの?!』
未央「大丈夫! でもまだ分からない、今から調べるよ!」
そら「な、何事!?」
茜「ちょっとそのままで居てください!」
亜子「な、なんやなんや!? 何事ですのん!?」
アナスタシア「戯れ、ですか?」
美紗希「そうには見えませんけどぉ」
未央「ちょっと協力してください!」
そら「きょ、協力っていったい何!?」
未央(ええと……前の時は何が起きて元に戻った?)
未央(……そうだ! 二人が、同じ場所に居ると私が認識した時!)
――ピッ!
未央「しぶりん! そらちんに繋げて!」
凛『分かった……!』
亜子「そら……って、この人の事と違いますの?」
そら「えっ!?」
――ピッ
そら『代わったよ! そらちんだよ!』
美紗希「……あれ? 通信先から同じ声が聞こえますけどぉ」
アナスタシア「同じ声……?」
亜子「へ? あ、いや、ここに居てますやん? ……じゃあ通信先は、誰なんです?」
そら「……? ……?」
そら『同じ声? ところでこの通信なーに? 何を話せばいい?』
未央「二つを同時に見たら……おかしいって分かるよね?」
美紗希「あれれ……何か、変ですよぉ……?」
茜「ん……ソラさん? こんなに体格が細っそりしていましたっけ?」
亜子「いやいや体格なんてそんな瞬間的に変わりませんて……え、あれ?」
アナスタシア「体が変わって……? いや、そもそも……」
未央「…………見たことある顔だね、久しぶり」
――シュッ
茜「誰……ですか? あれ? 私はソラさんを抑えていたのでは?」
未央「いい、そのまま抑えてて!」
凛『……どうだった?』
そら『おっけー?』
卯月『えっと、何事?』
亜子「ありゃ、全員居りますやん、何事ですの」
未央「何事なんてものじゃないよ……」
凛『じゃあそっちが、だったんだね?』
未央「うん」
美紗希「説明、ありますかぁ?」
未央「もちろん。……さて?」
――ガシッ
悠貴「……ひ、久しぶりですねっ」
未央「コハルちゃんのところ以来だね……ユウキ、だったっけ?」
悠貴「あはっ、光栄ですねっ……覚えていてくれました?」
アナスタシア「変装……にしては、不可解な解除でしたが……これは……」
美紗希「顔も声も……それどころか体格や気配まで……どんな術ですかぁ? 便利そうですねぇ」
悠貴「企業秘密ですねっ……それより、苦しいんですけどっ……」
茜「我慢してください!」
亜子「変装言うレベルちゃいますてこんなん……もはや――」
未央「認識を変える……それがこの人の力」
美紗希「認識? それって誤認させるって事ですかぁ? そんなの――」
未央「有り得ないけど……本当なんだ、一度体験してる」
悠貴「私凄いですよねっ、だから離してくれませんか?」
茜「駄目です!」
未央「絶対に抑えててね! 一度離したら……絶対にもう捕まえられない……!」
悠貴「あははっ、そんな事ないですって。こんなに人が居るともう」
未央「…………」
アナスタシア「誤認……いや、まさか……」
アナスタシア「失礼ですが……少し調べさせてもらっても」
茜「えっ? ……ミオさん、どうなんですか?」
未央「うん? 調べる? えっと……何を?」
アナスタシア「少し……心当たりがあります」
アナスタシア「ユウキ……でした? その、両腕を見せて下さい」
悠貴「……!」
美紗希「腕ですかぁ? んー……特に変な感じはしませんけどぉ」
亜子「なんにもあらへんで、強いて言うならホンマ細い腕ですわ」
悠貴「変なところはありませんってば……!」
アナスタシア「見た目はそうですが……失礼します」
――スッ ススッ
未央「……何もやっぱりなさそうだけど」
アナスタシア「いえ……見えていないだけ、のはずです。これがあれば説明できます」
茜「見えていない?」
アナスタシア「ダー、私の知る認識の改ざんが可能な道具は……腕に付けますから」
――ピタッ
悠貴「離して下さいっ」
アナスタシア「あった…………」
――カチッ ……カランッ
美紗希「あ、落ちましたよぉ。……あれ? そんなのどこにありましたっけ」
亜子「なんや遺跡から発掘されたみたいなデカいボロっちい……」
未央「これは?」
アナスタシア「……ユウキ、これをどこで手に入れましたか?」
悠貴「嫌だなぁ私物ですよっ」
アナスタシア「これは……今、世間を賑わしている経典と同系列のモノです」
美紗希「というと……願い?」
亜子「いやそっちじゃないですって……コレが? 十大秘宝なんですか?」
茜「なんですか? ソレは!」
亜子「そない言われましても……アタシだって知りませんわ、経典と剣と歯車しか存じてません」
アナスタシア「名前を『幻惑の腕輪』……過去に魔術式が葬られた誤認の魔法を唯一宿す道具です」
アナスタシア「腕輪自体に特殊な加工や材料は使われていませんが……」
美紗希「その魔術が珍しいもの、という事ですかぁ?」
亜子「珍しいなんてモンやありませんて、それが本当なら……」
未央「腕輪、没収ー」
美紗希「……するのはいいですけどぉ」
亜子「誰が持ちますのソレ」
茜「壊しますか?!」
未央「いやいや責任取れないから駄目! とはいっても確かにどうしよう……」
悠貴「出来れば返してほしいですね……」
アナスタシア「…………それは無いにしても、どうします?」
美紗希「迂闊に国に渡しちゃ駄目ですよぉ? 勢力図を崩壊させかねない代物ですからぁ」
未央「う……そうか」
亜子「じゃあどうすればいいんです?」
アナスタシア「……どうしようも、ないですね」
美紗希「誰も候補が出ないなら、あたしが持って帰ってもいいですけどぉ」
亜子「いやいやついさっき自分で言ってたやありませんか、勢力図壊れるって」
美紗希「悪用しませんよぉ、それよりも他の人の手に渡らないように監視ですぅ」
未央「信用は……?」
アナスタシア「ダー、彼女の言葉は信用できますが」
茜「できます、けど?」
アナスタシア「……内部が心配です」
美紗希「それはうちの国に対する苦情ですかぁ? 幹部は立派でも部下はダメだと言いたいんですかぁ?」
アナスタシア「そういう訳ではなく……」
未央「と、とにかく! ここで話し合うと長くなるから場所変えよう! そうだね!?」
茜「移動ですか! じゃあ立って下さい! 変な動きはしないで!」
悠貴「痛い、痛いですって! 力が有る方じゃないんですからあまり強くしないでくださいっ!」
・
・・
・・・
そら「にせもの?」
卯月「それって……」
凛「途中で通信が切れちゃったけど、直前の会話で予想する限りは……ユウキ、違いない」
卯月「やっぱり……忘れたころに突然!」
そら「どんな人?」
卯月「移動中に説明する……とにかく戻ろう? きっと経典も何かが変わってるはず」
凛「だね……今はミオが持ってるから、早く合流しよう」
そら「おっけー☆ そらちん出撃!」
――ドンッ
そら「おうふ」
??「ああ、すまない……おや?」
卯月「すいません! ちょっとソラさん前を見ないと……」
そら「そーりーそーりー……気分あっぱーで盛り上がっちゃた、てへ☆」
??「確かソラ、だったかな? 私を追いかけてきたのか?」
そら「……? そらちん知ってるの?」
??「知っているも何も……先程店で会っただろう、君と他にも何人かと」
凛「あ……えっと、それはちょっと複雑な事情が」
――…………
卯月「と、言うわけで……それはソラさんじゃなくてユウキって人なんです」
??「……世界には色々な術があるという事か、それに関してはすまないが専門外なんだ」
凛「いや、解決したに近い事例で、極端な例だから気にしなくとも……それと、ミオと会ったの?」
??「ああ、といっても話した程ではないが。顔くらいは覚えているだろう」
そら「じゃあふれんずのふれんず! そらちんはっぴー☆」
卯月「この国には何をしに来たんですか?」
??「多忙な君主の変わりを務めにね」
凛「君主?」
??「ああ、これでも他国に所属している身だよ。で、目的だが……まぁ、色々とね」
卯月「教えてはくれないんですか?」
??「あまり口外すべき事じゃないと思ってくれ」
卯月「ふーん……そうなんですか」
そら「それで、お店戻る?」
卯月「……だね。上手く押さえ付けた……って聞いたけど、大丈夫か分からないし」
??「あの店も災難だな」
凛(確かに凄い迷惑をかけたような……)
卯月「それじゃあ私達はこれで」
??「ああ、また後程」
そら「ばいばい!」
――ザッ
??「…………むっ」
卯月「あれ? どうかしましたか?」
??「……やはり目立つな、しかしどうしてここに」
凛「え?」
――ヒュウゥ……
きらり「見ーつーけーたーにぃ☆」
凛「知ってる人?」
卯月「あ、こっちに来ますよ?」
そら「おっきーい!」
??「やれやれ」
――ドドドド
卯月「こっちに来……あれ……」
そら「ち、ちょっと一直線すとれーとすぎる?」
??「さて、私は逃げるから……君達も友達の所へ戻った方がいい」
卯月「え? え?」
きらり「逃げる? 駄目ー!」
――ガッ!
――グッ……メキッ!
凛「地面が……!」
そら「壊れた!?」
卯月「じゃない! めくり上げたんだよ! ……す、素手で」
きらり「そぉ……れっ!」
――ゴオッ!
??「避けろ!」
凛「危ないっ!」
卯月「ひゃあっ!?」
――ガシャァンッ!
そら「……大丈夫?」
卯月「なんとか……い、いきなり何?」
??「こちらの客だよ、ちょっと長い付き合いなんだ」
凛「人間……?」
きらり「きらりだよ☆ 一緒にはぴはぴしよ?」
卯月「素手の力じゃない、何か強化式があるかも……敵?」
??「敵といえば敵だろう」
??(……道は豪快に塞がれたが、さて)
きらり「久しぶりだにぃ☆ 一緒に遊ぼ? きらり追いかけてきちゃった☆」
??「ここまでわざわざ追いかけてきたのか……」
きらり「てへ☆」
きらり「マナミときらりはお友達☆ 初めて会った時の衝撃は忘れられないにぃ」
きらり「あの最前線で、きらりんパワーを逃げずに受け取ってくれた二人目の人☆」
凛「最前線?」
きらり「そうだよ? 一番前! 皆を連れて先頭を歩く、重要な役なんだよ?」
そら「それは強い☆ そらちんびっくり!」
きらり「でしょでしょ? お役にたつため頑張ってるにょわー☆」
卯月「それって……どこかの戦場ですよね? じゃあ……マナミ、さん?」
真奈美「……ああ、私の名前だが」
卯月「マナミさんは……戦争国家の所属ですか?」
真奈美「そう、だな。否定はしない」
卯月「じゃあ……そんな国の構成員がここに訪れる理由は――」
真奈美「先に言っておくが、この国を落とすつもりはない。……今は、としか言えないがね」
凛「上の命令次第って事?」
真奈美「そうなるな」
卯月「ならいったい何の理由が――」
真奈美「来るぞ!」
きらり「てやーっ!」
そら「マナミちゃん危ないよ!」
――ダッ
きらり「にゅわ?」
そら「喧嘩駄目! あたし仲裁!」
卯月「ソラさん!」
きらり「むぇー、危ないよ?」
――ヒュンッ …………ドガァンッ!!
凛「えっ!?」
卯月「あっ!? あれ!?」
きらり「にょわー☆」
卯月「向こうの……反対側の通りの壁が急に崩れて……!」
凛「違う!」
――ガラガラ……
そら「がっ……げほっ……!?」
卯月「そらさん!?」
きらり「きらりんアタック絶好調にぃ☆」
凛(強化していたとしても……腕力だけであんな衝撃!?)
きらり「次はー?」
真奈美「ここで争うつもりか?」
きらり「場所は関係ないよー、いつでも臨戦すたんばーっ!」
凛「避けて!!」
真奈美「言われなくとも」
――ヒュンッ! バキッ!
きらり「避けちゃ駄目ー!」
卯月「っう! また衝撃だけで地面が……!」
真奈美「数日ぶりに目にしたが相変わらずだな」
きらり「きらりはいつでも元気いっぱいにぃ☆」
真奈美「前線はどうなっている、君が居なければ兵は進めないだろう」
きらり「それはマナミちゃんも同じ! 今はアンズちゃんもトキコちゃんも休戦☆」
凛「アンズ……聞いた事のある名前だね……!」
卯月「あの時のアイリさんの……もしかして……」
凛「五つ、その中に一つだけ問題がのなら……そろそろ来てもおかしくはないかな」
卯月「どうする!?」
凛「とにかくソラさんをまず助ける」
卯月「そ、そうだね!」
きらり「にょわー!!」
真奈美「くっ!」
――ザザザザッ!
凛「危な……!」
卯月「わっ! た、盾!?」
きらり「やっぱりきらりのが力持ち! でもその盾が壊れないのはなんでー?」
真奈美「愛用品だから壊すわけにはいかない」
きらり「むぇー?」
卯月「ま、マナミさん!」
真奈美「巻き込まれるぞ?」
凛「かといって置いて行くわけには……!」
真奈美「それより今、攻撃をまともに受けた彼女を助けた方がいいのではないか」
凛「……! ウヅキ、私が見てくる!」
卯月「うん、わかった!」
――ドンッ!
真奈美「ふっ!」
きらり「あれっ?」
真奈美「まずは落ち着こうか、ここは戦場じゃない……少しくらい会話があってもいいだろう?」
真奈美「ここに来た要件は? まさか本当に私を追ってきたのか?」
きらり「もちろん☆ ……と思ってたけど、そういえば違ったにぃ」
卯月「違う……?」
きらり「えっとねー、探し物! なんだっけ、そうそう! なんだか凄い本を持ってきてって!」
卯月「……!」
きらり「んー……あれ? よく見れば、何だか先に見せてもらったお顔と似てるような――」
真奈美「なんだそういう事だったか、ならば」
――ガッ!
きらり「にいっ?」
真奈美「目標が私じゃないなら、こちらは目標を変えよう」
卯月「ま、まさかここで戦うつもりですか?!」
真奈美「別に構わないだろう、それに騒ぎを聞きつけてくれた方がこちらとしては仕事がしやすい」
きらり「遊んでくれるの?」
真奈美「取り巻きが居ない一対一だと不安かな?」
きらり「全然! きらり準備ばっちし!」
卯月「待ってください! わ、私も!」
――ザッ
きらり「むぇー? 邪魔する?」
真奈美「私が言うのもなんだが、戦う理由がないだろう?」
卯月「そういうわけにも……!」
卯月(一瞬あの……大きな人が、私を見て何かに勘づいた! なら、経典を奪いに来ている可能性が……!)
卯月(それに、大きな国みたいだからここで騒ぎを放置するのもハルナさんあたりに迷惑がかかるはず)
真奈美「まぁ構わないが……君を守りながら戦う訳じゃないことを了承してくれ」
きらり「んー、とにかく全開! にょわー!」
卯月「重圧……!」
きらり「思い出した思い出した! ウヅキちゃんだっけ? 本を持ってる人?」
卯月「……そうです!」
卯月(今は私が持ってるわけじゃないけど……)
真奈美「理由は今出来たみたいだな、何か訳ありか」
きらり「でもまずはマナミちゃん! お相手するにぃ☆」
真奈美「ああ、私もここで相手の主軸を一つ潰せたと報告できた方がいい知らせになる……!」
――Prrr……
きらり「にょわ?」
真奈美「むっ」
卯月「え、あれ? 今完全に今から戦いますって雰囲気……」
――ピッ
きらり「はーい! きらりだよ☆」
真奈美「……こちらマナミだが」
??『今はどういう状況?』
杏『はーい、こちらアンズー、そっちどんな状況?』
卯月「……? ……?」
真奈美「そっちはトキコか?」
きらり「アンズちゃんだにぃ! おっすお久しぶりー!」
杏『げっ、何か聞こえた』
時子『……何? 何で遭遇してるのよ、戦闘中?』
真奈美「まぁ、聞いての通りだ」
杏『……目標はどうなってるのー?』
時子『肝心の本題はどうしたのよ』
真奈美「そちらも順調だ」
きらり「ばっちし☆」
時子『ならいいわ、で、そこに例のアレが居るのね?』
杏『そうなの? じゃあ問題ないね、信用してる。 ……で、目の前に誰が?』
真奈美「キラリ=モロボシが居る」
きらり「マナミちゃんが居るにぃ☆」
時子『…………支障が出ない程度に、潰しなさい』
杏『うっわ……じゃあ、もうそっちもやっちゃって? それじゃあアンズはもう一回寝るから……』
きらり「おっすおっすばっちし☆」
真奈美「承った」
――ピッ
卯月「…………えーっと?」
グランブルーにブーツが武器のキャラがいるから一瞬期待したけど普通に剣でした、はい。
というより三人とも『グランブルーの世界に居る住人』ではなく本当にアイドルやっててこっちの世界に……?
どういう原理で戦っているのやら……
何か記念にやろうと思いましたが、逆輸入してみたいにも関わらず既に登場済み三人だった。
蘭子の武器が鎌にしか見えません。
真奈美「というわけだ、指令が変わった」
きらり「それは奇遇にぃ☆ きらりもこれ以上、目標は変わらないよ!」
卯月「お二人は……アンズと、もう一人……トキコ……? の国の所属ですか?」
卯月(後者は誰だろう……アンズ、この人はアイリさんが言ってた名前)
卯月(コハルちゃんのところは平和、それとホタル……って人の国は、タクミさんが悪くはないって……)
卯月(残り三つ……その内、絶対に良くはない所は一つ残ってるはず)
真奈美「所属は、そうだな」
きらり「間違ってないよ☆」
卯月(止めるために割って入ったけど、これはどっちに味方すれば……)
真奈美「では……」
――ガシャンッ
卯月「わっ……な、なんですかそれ?」
真奈美「重装備にもならざるを得ないさ、生身で受ける打撃じゃない」
きらり「うぇへへ☆」
真奈美「だから先程直撃した彼女を本気で心配しているのだが……済まない、今はこちらに集中する」
卯月「動きにくくないですか……?」
真奈美「体力は高い方だと自負しているよ」
きらり「そんなカッコで戦う人って何て言うんだっけ?」
真奈美「さぁな……戦士より重装備だから重戦士でいいんじゃないか」
卯月(本当に男の人の見た目……)
真奈美「よし……では!」
――ダンッ!
卯月「わっ! 早……」
きらり「わぁ凄いすごぉーい!」
――ガシッ!
きらり「でもでも、きらりのが力はあるんだよ?」
真奈美「だろうな、真正面からは分が悪い」
きらり「受け止めてー☆」
卯月「危ないっ! 攻撃が!」
きらり「パワー!!」
――ガシャンッ!
きらり「……むぇ?」
卯月「あっ……! 鎧だけ……!?」
きらり「どこ行っちゃった――」
――ギシッ
真奈美「こっちだ!」
卯月「後ろ!?」
真奈美「背後なら直ぐに反応できないだろう!」
きらり「別に後ろを見なくても……!」
――ヒュンッ
きらり「一帯まるごと……どーんってしちゃえばいいよ!」
卯月「振りかぶった、けど……その位置では当たらない――」
真奈美「ウヅキ! 地面だ!」
卯月「へ!? 地め――」
きらり「きらりん……ぱわー☆」
――ドゴォオンッ!! ズンッ
真奈美「くっ!」
卯月「うわ……地面が!?」
きらり「あれぇー? 下に空間があるなんて知らなかったにぃ……」
――ヒュウウッ
――ドサッ! スタッ ズゥンッ
卯月「痛っ!」
真奈美「くっ……ずいぶん落ちたがここは――」
きらり「ここは分からないけど、これなら逃げないよね?」
真奈美(……!? いつの間に――)
きらり「プレゼントにぃ!」
――ズドッ!!
真奈美「かっ!?」
卯月「あっ……! マナミさんっ!!」
きらり「なかなか広い空間にぃ」
――ドガッ
真奈美「けほっ……」
真奈美(脱着して放置したのはマズかったか……)
――ダッ!
きらり「一回当てたくらいじゃ倒れないのは知ってるにぃ☆」
真奈美「念入りだな……!」
真奈美(普段なら被弾した瞬間に撤退を視野に入れるが……場所が悪い!)
きらり「行くよ――」
卯月「駄目ですっ!!」
きらり「にょわ?」
卯月「巻き込まない程度に、全開放っ!!」
――キィン! ドゴォッ!!
きらり「わぁー!」
――ズザザザッ
卯月「さすがに一回じゃ倒れない……!」
真奈美(魔術か……しかし、弱くない一撃だが)
きらり「っ~……あちち……」
卯月「じゃあもう一回……!」
きらり「それじゃきらりは止まらないよ!」
――パァンッ!
卯月(突っ切って来た……!)
きらり「おじゃましたウヅキちゃんはおしおきにぃ☆」
真奈美「遠い……!」
卯月「避ける……受け止める……いや!」
――ダッ!
きらり「わわ?」
卯月「接近する!」
真奈美「なっ! 無茶だ!!」
卯月「やっ!」
――ドンッ!
きらり「ひゃうっ……!」
卯月(少しだけど、バランスは崩せた……!)
きらり(真っ直ぐ向かってくる人なんて滅多に居なかったから反応が……!)
真奈美(あの火力を見て、それでも向かって行くとは強気だな……単に、相手の力量を測りきれていないか?)
真奈美(それとも、普段から見慣れてるのか?)
きらり「で、でもこれくらいならダメージは――」
卯月「だから追撃しますっ!!」
――キィィン!
きらり「ふえっ!?」
真奈美「さっきのが全力じゃないのか!」
卯月「下方向になら、背後が地面なので受け流せませんよね!」
きらり「にぃっ……!」
――ドガァンッ!!
真奈美「ぐっ……! 衝撃がこちらまで……!」
真奈美(腕力による破壊力じゃない……魔力か? しかしこれだけの量だと……!)
――パラパラ……
真奈美「……どうなった?」
――ビュンッ
真奈美「うっ?! ……っく!」
卯月「きゃっ!?」
――ガシッ
真奈美「大丈夫か?」
卯月「あはは……ありがとうございます」
真奈美(ダメージは……無さそうだ、という事は)
きらり「うー……けほっ、げほっ……!」
卯月「なかなか効いていたように見えたのですが……追撃する前に距離を離されちゃいました」
真奈美「投げ飛ばされたのか」
きらり(変にぃ……いつもならこれくらい、そんなに痛くないのにぃ)
きらり「何か変な事、した?」
卯月「えっ……?」
真奈美(……魔力による打撃を受けた経験がなかったせいか、想像以上にダメージを与えているようだ)
真奈美(それは当然か……本職の格闘、物理の専門家が歯が立たない相手に、遠距離主体の魔力持ちが接近して戦うものか)
真奈美「君は彼女となかなか相性がいいみたいだな」
卯月「そうです……か?」
きらり「変な衝撃が響くにぃ……」
卯月(衝撃……もしかして、魔力による攻撃は意外と通る人が多いのかな?)
卯月(あのランコちゃんの時も、私の攻撃だけちゃんと届いたし……なら!)
――ダンッ
きらり「また……!」
卯月「近づけば勝機は――」
真奈美「待て! さっきは不意を付いたものの奴は元々近接が主体だ!」
きらり「真っ直ぐ来るなら……返り討ちするにぃ!!」
卯月「なら射程外から攻撃するだけです! ここで発射……!」
――キィン! ドゴォッ!!
きらり「にいっ!? ……ちょっとびっくりしたけど、効いてないよ!」
真奈美「やはり打撃を伴った魔力じゃないと……距離を置いた魔法攻撃には慣れている!」
きらり(こっちなら大丈夫! 大丈夫と分かったら、今度は突っ切って攻撃すれば――)
――スタッ
卯月「隙が一瞬でもあれば!」
きらり「あっ!?」
真奈美「効かないと分かって……まだ接近していたのか!?」
きらり「怖くないのかにぃ!?」
卯月「逃げてばかりだったから、少しくらいは勇気出さないと!」
きらり「に、にょわー!」
――ブンッ!
――ガッ!!
きらり「っう!?」
卯月「げほっ!?」
真奈美「当てた……が……!」
真奈美(たまたま振りかぶった手にも被弾している……! 偶然とはいえ威力は……)
――ドォンッ!
真奈美「っ……大丈夫か!?」
卯月「痛たた……げほっ! ごほっ!」
卯月(たぶん苦し紛れに腕を振っただけで、偶然当たっただけなのに……!)
――ズキッ
卯月「ううっ……!」
真奈美「だが有効打を取れたはずだ……まったく大したものだが……」
――ザンッ
きらり「軽いのに……軽いのに、なんでこんなに痛いの……?」
真奈美「しっかり入っていたように見えるが……それでも軽いか?」
きらり「ううん……! 不思議、不気味ー……」
卯月「まだ……痛ぅ!」
真奈美「焦るんじゃない、その状態で戦うのは得策じゃない」
真奈美(とはいえ……退くには)
――ヒュオォォ……
真奈美(……高い、登れないな。しかしこの地下空間はいったい何なんだ?)
きらり「怪我してるにぃ? なら、その子と勝負は終わるよ? 次は……」
真奈美「そうだな……正直、軽く負傷しているから遠慮したいところだが」
きらり「ちょうど逃げられない場所にぃ、最後まで勝負すゆー?」
真奈美「そうなるか……ちょうど、それに近い指令も出たことだ」
きらり「きらりもだよ☆」
――スッ
真奈美「私の所属する国家の代表、アンズからの指令だ」
きらり「トキコちゃんから、将来邪魔になるマナミちゃんを倒しておけって指令だにぃ☆」
卯月「…………んっ?」
真奈美「大丈夫か? 軽傷でも安静にな、もしくは脱出の方法があるなら早めに」
卯月「じゃなくて、あれ? なんで勘違いしてたんだろう……逆?」
きらり「にぃ?」
卯月「えっと、マナミさんがアンズの……きらり、さんが……トキコの?」
きらり「だよ?」
真奈美「……何の話か分からないが、その通りだよ」
卯月(あれぇ……? なんで間違えて認識したんだろう、なんで思い込んだんだろう?)
真奈美「とにかく……対立は変わらないよ、いざ勝負だ」
きらり「望むところにぃ!」
――……カッ
真奈美「む……?」
きらり「ゆ?」
卯月「今、何か音……あ、光が……」
――カタンッ カタンッ
卯月「遠くから光が二つ……?」
きらり「あれれ? 行き止まりじゃなかった? 追い詰め作戦失敗ー?」
真奈美「通路が前後に伸びていたのか……それが分かっただけでも収穫だが」
卯月(逃げるにしては……一直線すぎて駄目、そしてあの光は何?)
――ガタンッ ガタンッ
きらり「どんどんこっち来ゆー?」
真奈美「心当たりは……?」
卯月「い、いえ、さっぱり……ですが……!」
――ガタン ゴトン
卯月「通路の真ん中に立ってると、とっても危ない気がしますっ……!」
――ゴオッ!!
真奈美「何だこれは……!?」
卯月「真四角の箱……が、すごい速度でこっちに……!」
きらり「わわわっ!?」
真奈美「避けるぞ!」
卯月「は、はいっ!」
きらり(もしかしてマナミちゃんの味方が居て、援護攻撃かにぃ? なら……)
きらり「きらりんぱわー……」
卯月(避けない!?)
きらり「全開! にょわー!!!」
――ガッ ガシャアンッ!!
きらり「にゅわああっ!」
卯月「きゃああっ!?」
真奈美「あの速度で迫ってきた鉄塊を……!」
卯月「ですが、さすがに反動で弾き飛ばされましたよ!?」
真奈美「当たり前だが、普通なら弾き飛ばされるどころか即死しかねない勢いで飛んできた鉄塊だ……!」
――ズンッ! ドガンッ!
卯月「わっ?! ま、まだ鉄の塊が突っ込んできます!」
真奈美「いくつも連なっていたのか……! だがこれで奴はこちらを見失っているだろう、今のうちだ!」
卯月「は、はい! ですが、この通路を進むとまた鉄塊が飛んでくるのでは……」
真奈美「どうやら通路の端には届かないようだ、それに見たところこの地面に沿った不自然な溝」
卯月「確かに溝が……」
真奈美「これに沿って鉄塊は動いていたらしい……ならば機動は常に同じだ」
卯月「なら……避けやすいですね、行きましょう!」
真奈美「ああ。地上の君の知人とは少し離れてしまうが、仕方ないと思ってくれ」
卯月「はい!」
――タッタッタッ
――…………ガシャンッ
きらり「ぷはっ……んー、無茶苦茶になっちゃった、てへ☆」
きらり「このおっきい箱は何かにぃ? すっごいばびゅーんって飛んで来た?」
――コンコン
きらり「普通の金属だにぃ……変なところは無さ気ー?」
きらり「んー……分かんない時はトキコちゃんに聞くのが一番! ぴっぴっぴっ、やっほー?」
きらり「って通信機壊れてゆー? さっきの衝撃で真っ二つ? 分裂ー?」
きらり「それじゃあ仕方ないにぃ、おにゅーの指令が来ないなら、今を続行すゆー☆」
きらり「マナミちゃんどこ行ったのー? 遊んでー? きらり寂しいにぃ……」
――ザッ ザッ ガシャンッ
・
・・
・・・
→: New Game
: Load Game
: Exit
・キャラメイキング 完了
あなたの職業『ハンター』
何をハントするかは自由です、希少生物を捕らえても賞金首を捕らえてもかまいません。
あなたのスキル1『データ』
他人の情報を自身と比較して閲覧する事が可能です、
また、一部の物の存在を保存、読み込みが可能です。
保存場所は五つ、上書きや読み込みは何度でも可能です。
あなたのスキル2『パーティ編成』
状態を保存した人物のコピーを制作し、あなたの味方として作り出します。
同一人物を複数作る事は不可能、さらにパーティは自身を加えた四人が限界です。
コピーとオリジナルが遭遇した場合、同時にパーティに編成されている全てのコピーが消滅します。
術者本人以外の手によってコピーが破壊(前述の消滅含む)された場合、再制作には一日の待機が必要です。
??「……はっ!」
??「ここは……真っ暗、どこだろ?」
??「でもコレもありがちだよね、異世界に飛んだ瞬間は右も左も分からずとにかくウロウロ……」
??「……あ、その前に待って!」
――ブンッ スタスタ…… ヒュッ……
??「動ける……あたし、ちゃんと動いてるよ……!」
??「なら、これでようやく……世界を見て回れる、冒険できる!」
??「念願の夢が叶ったよ! やっほー!!」
――カンカンカンッ ガチャ
??「騒がしいなぁ…………あれっ?」
??「あっ、初めましてだね! ふー、誰も居ないなんて事が無くてよかった……第一村人?」
??「……?」
??「あ、別に何も言わなくても大丈夫! あたしはそれを調べられるはずだから……」
――ピッ シュイン
??「んー……なるほど、アズキさんで合ってる?」
あずき「えっ?」
??「本名『アズキ=モモイ』、この小さな農村『クラトラ』で呉服屋? 意外と裕福な土地なのかな……」
あずき「え、名前なんで……それに、ここがお店ってどうして……!」
??「あれ? 公表してない店? ってことは隠れた名店? それとも一見さんお断り的な……」
――ザッ ザッ
??「ん、外から足音? 誰だろ――」
あずき「あっ! こっちに来て!」
??「ひゃあっ!?」
――誰も居ない、気のせいだった。
――そこは無人の家だ、探索しなくていい。
あずき「……行ったかな」
??「おー……畳の下に隠し通路、それっぽい!」
あずき「これ秘密ね? ……バレるとまずいから」
??「何か訳あり……?」
あずき「うん……そもそも、監視されてるはずなのにどうやってこの村に?」
あずき「昼間に来た人が全員出て行ってからじゃないとあの人たちは動かないし、夜は警備が……」
??「ちょっと説明できないかな……あたしもよく分かってないもん、仕様を」
あずき「仕様? ……とにかく、外は危ないからこの下に隠れて」
――カンカンカン……
??「地下も広い……わっ、すごい!」
あずき「上に置いておくと、見つかったら持って行かれちゃうから隠してるんだよ」
??「勿体無い、絶対に買ってくれる人が居るのに。こんな綺麗な着物、あたしはちょっと似合わないかもしれないけど……」
あずき「そ、そうかな? でも似合わないなんて事はないよ?」
??「そうかなー」
あずき「そうだよ、大丈夫! ……でも、どうしてここが呉服屋だってわかったの? それにあずきの名前も」
??「それはー……そういうスキルで能力持ちだからとしか言えないなぁ」
あずき「スキル?」
??「あれ、スキルで通じないのか……どういう世界観だろう」
あずき「もしかして、詳しく知らないけど魔法の事?」
??「おっ、魔法はある? じゃあソレ! ……このスキル、マジックポイントとか使うのかなぁ」
あずき(分からない単語が多いけど……遠くの国の人?)
??「そういえば自己紹介がまだだった! あたしは……えっと、ここではどう名乗ろう……」
??「決めた! 世界の雰囲気的にこうかな? あたしは『サナ=ミヨシ』だよ!」
あずき「サナちゃんって言うんだね? あずきは……もう知ってるんだよね?」
紗南「うん、何故かって言われると、とりあえずそういう魔法を使ったって事でよろしく!」
あずき「オッケー! で、互いに紹介し終えていきなりだけど……」
あずき「こんな村に……何をしに?」
紗南「いや、あたしも特に理由はなくてたまたまここに着いただけっていうか」
あずき「じゃあ、気づかれないうちに早く逃げた方がいいよ」
紗南「おっと……ちょっと詳しく聞いていい? その理由を」
あずき「何も知らない……?」
紗南「新参なもので」
あずき「ふぅん……でも昼まで時間があるし、いいよ、あずき説明する」
あずき「数日前、この村に突然小さな組織が訪れた」
紗南「組織? もしかして野盗?」
あずき「近いけど、ちょっと雰囲気が違う……もちろん略奪はしたけど、それで終わりじゃなかったんだよ」
あずき「この村は小さいけど、交通の都合上人が少なくはない……商売が盛んだよ」
紗南「確かにこんな綺麗な着物を売るにはうってつけかも」
あずき「で……その一団はここにひっそりと住み着いて、村を潰さず生かさず……定期的に襲うようになった」
紗南「……収益だけ奪ってるって事? でも人が多く訪れるなら助けを求めても」
あずき「それが駄目、その一団は昼間も夜間もしっかりと見張りがいる、隙間が無いんですよ」
紗南「なるほどなるほど……よくある村ごと裏で操ってる、ってタイプだね」
あずき「よくあるの?」
紗南「あ、えーっと、そんな気がしただけだよ、続けて?」
あずき「……それで、あずきは運良く見つかっていない、そうしてこっそりと商売してる」
あずき「皆のお店は売上も盗られちゃうから、今はあずきだけがこの村で収益を出せる」
あずき「……あずきがあの一団に見つかると、皆が生活出来なくなっちゃう」
紗南「え? このお店だけで村全体を? それ普通に凄いんじゃない?」
あずき「元々先代から少し知名度があったから、今でもこっそり買いに来てくれる人が居てくれるよ」
あずき「でも大っぴらに店を出せないから……」
紗南「売上も減るし、生活も苦しくなってるって訳だね……これはなんとかしないと……!」
あずき「それでサナちゃん、ここに留まっていたら危ないよ」
紗南「理由は分かったけど……それを聞いてそうですかと逃げる訳にはいかないかな!」
紗南「まだ勝手は分からないけど、この村に住み着く悪党を根絶やしにする! あたしに任せて!」
あずき「えっ? で、でも……たぶん外で見つかっただけで危ないよ?」
紗南「大丈夫! あたし自身も何が出来るかは分からないけど、やってみるから!」
あずき「……? ……?」
紗南(これはきっとチュートリアル! 難易度は低いはず! 断る必要はないね!)
紗南「もしあたしに何かあっても、無関係な人って言ってね?」
あずき「それは……いいの?」
紗南「いいよいいよ、勇者は見返りを求めないのが当然! あ、今のあたし勇者じゃなくてハンターだった」
紗南「じゃあハンターらしくさっさと潜入? あれ、ハンターって何するんだっけ……何が得意だっけ?」
紗南「とりあえず今、あたしがどれくらい強いかとかチェックするために……外、出よっか」
あずき「あっ! 危ないよ!?」
紗南「大丈夫大丈夫! 最初のザコ敵にやられるほどあたしは弱くないはず――」
――……カッ!
あずき「きゃっ!? 光……!?」
――…………
あずき「……あれ? サナちゃん? サナちゃん!?」
あずき「消えた……? でも外への通路の扉は鍵がかかったまま……外に出てない?」
あずき(でも地下から外へ行く道なんて他には無いし……)
あずき「……もしかして、幻覚だったのかな? あずき、疲れてるのかも……今日は寝よう、休憩だよ」
・
・・
・・・
紗南「…………ん」
――ピピピピピ
紗南「あ……朝かな……でも外は暗そう――」
――グッ
紗南「……あっ!」
――ガタンッ
紗南「っう……痛…………そっか」
紗南「今日は終わりかぁ……うん、ゲームは一日一時間……は、短いよ!」
紗南(一時間じゃあ大した冒険も何もできない……)
――ゴロン
紗南「……今日の分は終わり、早く明日にならないかなぁ」
・
・・
・・・
えっ紗南は別の世界からアクセスしてるってこと?
>>131
お察しが早い、彼女だけかなりイレギュラーな存在です。
ただし、そこから別世界の話を膨らませる可能性は無しの方向です。
突然、本家世界のキャラとかPとかは出ません。
――ザッ ザッ
あずき(昨日の……何だったんだろう)
あずき「気のせいにしては鮮明すぎて……それに」
――チラッ
あずき(今日は土埃が散らばって……まるで誰かが歩いたような)
あずき「やっぱり昨日のは……」
紗南「おはよう!」
あずき「ひゃう!?」
紗南「……あれ?」
あずき「あ、き、昨日の……本当だったんだ」
紗南「何のこと? あ、それよりも……チェックしなきゃ」
――ピッ シュイン
あずき「わ……何? 文字が浮かんで……」
紗南(んー……昨日調べてなかったから違いが分からないけど)
――ピッ
紗南(ステータス……あたしの項目が全部ゼロ、何も増えてる状態じゃない)
紗南(そしてこのセーブとロードの能力、もしかして自分にも使える?)
紗南「てことはもしかして……時間切れになる前に、保存しなきゃ次回、続きから出来ない?」
あずき「保存……続き?」
紗南「あ、ごめん、こっちの話!」
紗南(とりあえず一回保存してみよっか、あたしに対象を合わせてっと)
――ピッ セーブ0%
――1% 2% 3% 4%
紗南「遅いっ!!」
あずき「えっ、どうしたの?」
紗南「あ、あははは……こっちの話、ごめん。しかしこんなに長いと、ちょっと待つしかないかぁ」
――6% 7% 10% 15%
紗南(……おっ? 急に早くなった……?)
あずき「数字、溜まるまで待つんですか?」
紗南「そうだけど……どういう原理で早く溜まるか分からないんだよ」
――18% 20% 21% 22%
紗南「あっ、また遅くなった……どういう事ー? 保存するのに重くなるほどプレイしてないよー」
あずき「あずきとお話していると遅くなってる?」
紗南「……あ、そういう事か、他の動作を一緒に行うと遅くなるんだ。じゃあ……黙って目を瞑って力を抜いて……」
――25% 38% 52% 70%
あずき「すごい溜まってるよ!」
――100% 完了
紗南「……ふぅ、これでオッケー」
あずき「ところでこれは何だったの?」
紗南「セーブだよ、保存」
あずき「……?」
紗南(でもこれは……戦闘中とか移動中に保存は間に合わないね、安全な場所で無防備になるほど早い、かぁ)
紗南(それに、五つしか保存できないのにあたしが自分で一つ埋めちゃう)
紗南「それよりもっ……! あたしには時間がないっ!」
あずき(忙しい人だなぁ)
紗南「レベル1のハンター見習いが何かできるか! 否! じゃあどうするか!」
紗南「読み込みと保存のもう一つのスキル、使うっきゃないよね!」
紗南「……でもこれ、保存した本人とコピーが出会っちゃ駄目なんだよね」
紗南(という事は、この村の人じゃ駄目、たまたま訪れた誰かじゃないと……それに、強いかどうかも見なきゃ)
紗南「ああっ! それだけじゃない! 保存が遅いってさっき知ったばっかじゃん!」
紗南「てことは協力的な人じゃない限り手当たり次第って訳にもいかない、あああ難しいよ意外と!」
あずき「とりあえず落ち着いて? 冷静にならなきゃ話は進まないし……」
――ザッ
??「何の話だよ?」
あずき「わっ!?」
紗南「ん? 誰?」
??「誰って、むしろそっちが誰って感じなんだけどさ、村の人じゃないだろ?」
紗南「うん、そうだよ! あたしただの通りすがりの冒険者!」
紗南(っていう当たり障りのない回答があたし的には正解だよね)
??「ふーん……通りすがりの人なのに随分仲がいいな?」
紗南「コミュニケーション力高いでしょ?」
??「違いないや、面白いなぁあんた、名前は?」
紗南「サナだよ!」
??「で、そっちの人は確かアズキさんだっけ? 一人なのに随分デカい家だなー、しかも広いし」
あずき「そうですか? これでも有意義に使っているよ?」
??「その割にはスペース空いてるよな、もっといい家具でもおけばいいのにさ」
あずき「それは……」
紗南(あ、そっか、元々お店だから地下に収納してる服が普段は飾ってあるんだ)
??「人の好みだし、自由だとは思うけどね、気になったから言ってみただけだよ」
紗南「あたしも広い家に住んでみたいなー」
??「広い家かー、この村とか人の通りが多いし、それなりに土地あるんじゃないか?」
あずき「そうだね……向こうの通りとか?」
紗南「あっち? ふーん、気になるから後で見に行こうっと」
??「いや、今の話をしてたらどんなもんか気になったなー、大きい家とか気になるしさ」
――スタスタ
??「行ってみる、そっちは?」
紗南「あたし? うーん……」
あずき「ちょっとお手伝いしてもらう事があるから、後でだね?」
紗南「へ? あ、何か手伝うことあったっけ? でもまぁそういうことなら、ごめんね」
??「いいよいいよ、また次に会う時があったらよろしくな?」
紗南「ばいばーい」
あずき「…………」
紗南「で、お手伝いって?」
あずき「ごめん、何もないんだよね」
紗南「あれ、そうなの?」
あずき「ただ……ごく普通に、当たり前のように接してきたけど……今のがあずき達の監視」
紗南「……なんだって?」
あずき「名前も分からないけど、村の人じゃない。それでもあたかも住人のように溶け込んで潜伏している」
あずき「表向きは仲良く、でも実際は監視と警備……そんな作戦にあずき達は引っかかってる」
紗南(……いざ対面すると、悪い人かどうかなんて、分からないものなんだね)
あずき「規模も正体も分からないと、相手の大きさも分からないから現状……迂闊に手も出せない」
あずき「……そもそも、対抗できる人なんて居ないんだけどね」
紗南「なるほど……ついでに、ちょっと実験してみよう」
――ピッ
紗南(人のデータを見る事は可能だった、現にアズキさんの情報は直ぐに閲覧できたけど)
紗南(さっきの人……もうこの場にいない人の情報も見れるのかな?)
――ピーッ
紗南「……駄目かぁ」
あずき「また何か調べてたの?」
紗南「ちょっとね」
あずき「それで何か分かった? もしかして弱点とか解析して一瞬で片付けちゃったり……」
紗南「そんなチートな力は持ってないよ! でも、それくらいしないと危機は脱出できないのかな……」
紗南(よく異世界チートにはハーレムがつきものだけど、この場合あたしは自由なコピーでって事?)
紗南(いやでも……チートっぽさは未だに体感できてないし)
紗南「そもそもセーブロード必須の活動限界一時間程度っていうのがもう……」
あずき「やっぱり、あずき達は放っておいて逃げた方が……」
あずき「ほ、ほら、確かに迷惑を被ってるし生活も怖いけど……今すぐ危険ってわけじゃないし?」
紗南「それじゃ駄目! いずれはあたしも世界を救う勇者になりたい! 今はハンターだけど」
紗南「そのために、これはなんとかしなきゃいけないんだ!」
紗南(でもレベル1のあたしが出来ることなんて限られてる……じゃあ、勇者らしくはないけど……)
紗南「ハンターとして、誰かの強さをお借りしにいくべきだね」
あずき「他に助けを求めるの? でも、出入りした人は真っ先に警戒されちゃうから接触は難しいよ?」
紗南「大丈夫大丈夫! 借りるのは力だけど人手じゃないからね」
あずき「どういう事? さっきから聞いてばかりで申し訳ないけど……」
紗南「あたしにも実はよく分かってないから、実験……みたいになっちゃってごめんだけど」
あずき「いいよ、少しでも事態が好転するなら!」
紗南(とにかく……さっきの人は敵? でもリーダーとは限らないし、今重要なのは……)
紗南「……あたしと会って、どれくらい時間が経った?」
あずき「え? 時間? うーん……そんなに長くは経ってないはず、五分か十分か……」
紗南「なら大丈夫……! アズキさん、あたしが動くのはたぶん明日か明後日になっちゃうと思う」
紗南「でもそれまでに、なんとか探してくるから……!」
あずき「探す? それって……一団の長を?」
紗南「それプラス、あたしの力になってくれる一員を!」
紗南「見てて! 直ぐに作ってみせるから! 勇者サナとその御一行を!」
---------- * ----------
紗南が遭遇した人物をコメントでどうぞ。
:条件:
・既に作中、登場した人物に限ります。
・現在地が明確に判明している人物(卯月や凛、未央など)は採用できません。
・1つの書き込み、IDにつき一名でお願いします。
・採用基準は登場回数や、こちらでストーリーが浮かんだ順になります。
---------- * ----------
・
・・
・・・
――ザッ
紗南(とはいったものの、まず条件に合う人を探さなくちゃならない)
紗南「その一、村にたまたま寄った人である。その二、ちゃんと強い人である。その三、協力的な人である」
紗南(三に関しては、最悪こっそり保存でもいいかな……時間掛かりそうだけど)
紗南「とにかく絶対条件は、こっちがいざ戦う時に本人が来ないように、たまたまこの村に来た人であること!」
紗南「つまり村の中心じゃなくて、交通が多くて出店も多い通りに来たよ」
――ガヤガヤ……
紗南「……虱潰しに情報を見てみよっか?」
紗南「ふーん……数値じゃなくて、あたしと比較したグラフ? しか出ないのかぁ」
紗南「……これ駄目だ、そもそもあたしが弱いからぜんぜん比較にならない」
――スッ
紗南「……うわっ!?」
――ビィィ……
紗南「……グラフ、全面埋まってる……いくらあたしが弱くても、これは?」
紗南「誰に反応してるんだろう……方向はあっち?」
――ササッ
櫂「Zz……Zz……」
紗南「木陰で寝てる……でも、確かにこの人に対する反応が高い」
紗南「声を掛けてみる……じゃなくて、寝てるみたいだし、ややこしくなるのもアレだから無断で……」
紗南(手荷物も多少あるみたいだし、旅行者でしょ?)
紗南「じゃあ失礼して……」
――ピッ 4% 8& 10%
紗南「……遅いなぁ」
櫂「何が遅いって?」
紗南「うわっ!?」
櫂「何かしようとしてて、あたしの反応速度でも調べてたのかな?」
櫂「で……それ、何? あたしが全然知らない術式なんて、今時珍しいけど」
紗南「あー……っと、これは……」
櫂「その数字が溜まったら、どうなるのかな?」
櫂「もしあたしに不利な事が起きるなら……全力で阻止しなきゃいけないけど」
紗南「その…………違う、けど説明しにくい……」
――…………
櫂「この村が? んー……確かに、たまたま訪れただけとはいえちょっと違和感あったけどさ」
櫂「なんでこんなに見回りが多いと思ったらなるほど、そういう事」
紗南「それであたしがなんとかしようとして……」
櫂「しかし面白い力持ってるね? あたしも知り合いに意味が分かんない力持ってるのが一人いるけど、それより数倍不思議だ
よ」
櫂「複製を作ってねぇ……で、あたしに目を付けたと」
紗南「そうなる……かなぁ」
櫂「ぶっちゃけるとあたしが何とかしてもいいんだけど、いろいろあってさ」
紗南「いろいろ?」
櫂「これまた別の知り合いにね?『あなたが出しゃばると他の人材が育ちません』とか『大人しく引きこもっててください』と
か言われるんだ」
紗南(強い人は強い人で大変なんだね……)
櫂「で、力を貸す分には全然問題ないんだよね」
櫂「そりゃあコレでも名は売れてるし……本当に複製出来るなら、使えるとは思うよ、威嚇だろうと」
紗南(自信がすごい)
櫂「その代わり、やっぱり素直に貸してあげるんだから少しくらいこっちから頼んでもいい?」
紗南「頼み事? それはもちろん頑張って受けようとはするけど、活動が短時間だったり複製と本体が出会えなかったり……」
紗南「そもそもあたし自身がそんなにまだ強くないから出来ない事もあるかも」
櫂「いやいや、大きな頼み事じゃないよ、その複製で遊ばせてもらおうかなと思って」
紗南「このスキルで? 遊ぶ事なんてあったかなぁ」
櫂「あたしの知り合いの、複製を持って帰ってきてほしい」
紗南「……また妙なお願いだね? なんで?」
櫂「一度でいいから本気でやりあってーって頼むんだけどね、毎回断られるんだよ」
櫂「で、じゃあ同じ実力の複製なら遠慮なくそっちの命令次第で動いてくれるかなと思ってさ」
紗南「なるほど……? なんだか凄い変な使い方も出来るんだねこの力」
紗南「で、さっき済ませた自己紹介から予測するけどその動機とその知人ってもしかして」
櫂「想像で間違いないと思うよ? あたし以外の四人だ」
紗南「やっぱり? ……うーん、どうやって探してどうやって交渉すれば」
櫂「交渉は苦労しないと思うよ? 代わりにあたしが以降ちょっかいかけなくなるって言ったら喜んでくれるって」
紗南(普段どれだけ押しかけてるんだろう……)
櫂「……というわけで、交渉成立でいい?」
紗南「うん、分かった! で、注意なんだけど」
櫂「分かってるよ、あたし本人が居ちゃマズいんだよね? んー、見れないのはつまらないけどそれなら仕方ないや」
櫂「元々たまたま訪れただけだし、あたしは去るとしますかねー。 いい知らせを待ってるよ」
紗南「あんまり期待しないでね?」
――…………
紗南「さて……意外とあっさり大当たりを引いた感じ? あたしって幸運のステータス高い?」
紗南(スロット五つのうち、自分の保存用が一つとカイさんの分が一つ、そして空白が三つ)
紗南「新しい人を探すのも当然だけど……一旦、どんなものか見てみたいよね?」
――ピッ
紗南「アウトプット……ってコレ試してなかったけど保存データを読み込んだら元が破棄されるとかそんなオチは」
櫂「無いよ、大丈夫。ただ、あたしが倒されるか本人と遭遇した場合はデータごと消えるけどね」
紗南「わっ!? カイさ……じゃない、もしかしてこれが?」
櫂「そ、本物と何ら見劣りしない、正真正銘あんただけのカイ=ニシジマだよ」
紗南「おぉ……凄い! これで百人力!」
櫂「百人で済むつもりはないよ、オリジナルはそのあたり何も言ってなかったけど、あたしは強いからさ」
紗南「それはあの振り切ったグラフでだいたいわかってるよ」
櫂「まぁまぁ、でも実際に目で見た方が分かりやすいでしょ?」
紗南「そりゃあそうだけど」
――ギュンッ
櫂「じゃあやってみるしかないね?」
紗南「わ、槍……? どこから出したの?」
櫂「オリジナルに聞けばいいよ」
――スタスタ
櫂「ちょうどいい木があるじゃん?」
紗南「さっき本人が寝てた木だね? ……え? なんで構えてるの? その木結構大きいから――」
櫂「これくらいなら大丈夫!!」
――ザンッ!!
紗南「うわっ!?」
櫂「ほら、全然余裕!」
――ドオォンッ!!
紗南「槍……で、斬った? 斬れるの? とにかく凄いのは凄いけど……」
――ダダダッ
あずき「何があったの!? 大丈夫!?」
紗南「あー、誤解が凄い事になりそう……いや、アズキさん違うんだよ、これあたしじゃなくて……」
あずき「木が……! これ、サナちゃんが?」
紗南「違う違う! ここにいるカイさんが……あれっ!?」
――…………
あずき「誰もいないよ?」
紗南「勝手に消えてるっ?!」
あずき「……サナちゃん、あずきが思ってたより凄い人?」
紗南(自由気まますぎるよ……全っ然制御できない……やりたいことやって勝手にどこか行った感じ)
あずき「でもあんまり目立つような事は……」
紗南「そ、そそそそうだね、あたし注意するから、ごめんごめん……」
――スタスタ
紗南「結局変な騒動になって時間喰っちゃった……」
紗南(あれから飛び抜けた反応も無いし、これは翌日に延期かな?)
――ピッ
紗南「ん……? 全カンストとはいかないけどそれなりな数値……」
紗南「よし……それなりってのが一番だよね? 高すぎるとさっきみたいに制御出来なくて困るなんて事もあるかも」
――ペラッ
蘭子「太陽が頂から世を照らす刻、待ち人現る……」
蘭子(もうヤスハさんに言われた時間は過ぎちゃったけど……ここで間違ってないよね?)
――チラッ
蘭子「刹那、姿を消す供物は未だ影を残しているというのに……!」
紗南「……異国語は難しいなぁ」
櫂「いや、アレは普通に解読できないタイプの言葉だって」
紗南「わっ!? 今度は勝手に出てきた!?」
櫂「勝手に出たり戻ったり出来るってどうなんだろうね? あたしを格納しきれてないって事?」
紗南「かもしれない……カイさん重い……顎乗せないで……」
櫂「ごめんごめん。……で、あの子?」
紗南「あの子。見立ては?」
櫂「価値が出るか分からない段階の原石」
紗南「……褒めてるか貶してるか微妙なラインだね」
櫂「ま、雰囲気は普通じゃないから面白いかもね」
紗南「じゃあちょっと交渉に……」
――ガシッ
櫂「いや、その能力ってどうなの? あたしが言うのもなんだけどさ」
紗南「何が?」
櫂「別に交渉なんてしなくても、相手に不利益なんてほとんど無いし、勝手に貰っちゃえば?」
紗南「えぇ? それって何か悪くないかな? こっそりしなきゃならない状況でも相手でも無さそうだし」
櫂「いいっていいって、毎回『偽物ですー』って名乗ればいいじゃん?」
紗南「そりゃそうだけど……うーん、じゃあテストプレイということで」
――ピッ
紗南「気づかれずに複製は完了するのかチェック……」
櫂「行っちゃえ行っちゃえ」
――…………
蘭子「賢者は何処へ……」
紗南(やっぱり休憩してる対象だから複製が早いのかな)
櫂「順調じゃん?」
紗南(それとも自分自身やこの人が例外過ぎたのかな……)
櫂「終わりそう?」
紗南「ねぇ、これ何の気無しに複製してるけど、あの人がそもそも村に留まっちゃまずいよね」
櫂「んー……だね、本体と遭遇したらあたし達は消えちゃうから」
紗南「交渉してないと、こういう時に不便だし……そもそも今から交渉しても」
櫂「待ち合わせっぽいからね、こっちの都合で出て行ってはくれないでしょ」
紗南「……止めとこうかな」
櫂「おーっとセーブ中の切断は駄目だよー」
――ピピッ
紗南「あ、そうこうしてたら終わった」
櫂「じゃあもういいんじゃない? 早く次の人探そー、ねー?」
紗南(この人、自分が複製と戦う気満々じゃないかな……さすがというか)
櫂「あたしくらいの人をパッパっと見つけて艦隊並べよう?」
紗南「いやいや、もうあたしのコントロールの効かない味方を増やす気は無いから!」
櫂「つまんないねー。……ん?」
紗南「……どうしたの?」
櫂「サナちゃんそろそろセーブした方がいいんじゃない?」
紗南「えっ?」
櫂「そろそろ活動時間の限界だよ」
紗南「え? もう? ちょっと……まだ二人しか用意できてないよ? まだもう二人集めれるのに!」
櫂「でも保存しておかないとさ、微量とは言え今日の経験点がパーだよ」
紗南「……そりゃあ困る、レベル1縛りプレイしてるわけじゃないし、ここは大人しくするよ」
櫂「翌日に持ち越しだね」
紗南「……で、引っ込んでくれないの? また勝手に出てくるの?」
櫂「出れるんだからしょうがないね」
紗南「あっそう……じゃあセーブ完了、今日のあたしの冒険譚はここで中断っと……」
櫂「また明日~」
――……シュンッ
??「…………どこから来たかと思えば、何なんだ今の奴?」
??「こりゃ監視にも引っかからないわけだ。仲間も一緒に自由に移動できるなんてな」
??(このまま出て行ってくれてるなら問題ない……ただ、万が一、この村の現状を知られたなら……)
??「……確か、あのデカい一軒家の人と喋ってたような?」
??(もう一回……ちゃんと調べるか、どうもあの家は違和感しか無いし)
――ザッ
??「あたし心配性だからさ、気になったらとことん調べる……さて、どっから漏れちゃったんだろうか?」
・
・・
・・・
――シュイン
紗南「よっと! ログイン遅れた! ……わぁ、夜だ。これは他に人なんて居ないんじゃない……?」
櫂「戦力増強出来そうにない感じ?」
紗南「当たり前のように勝手に出てくるね」
櫂「いいじゃん、それより今日の動きは?」
紗南「データに空きがあるから埋めておきたいね……と思ったけど、その前に確認かな?」
櫂「お? 出しちゃう? どんな子だろう?」
紗南「急かさないでってば、あと戦おうとするのも駄目」
櫂「分かってる分かってる」
――ピッ
蘭子「問おう! 汝が我の契約者か!」
紗南「まともに対面すると……意外と言葉は分かるね。初めまして、かな……」
櫂「読み取れなきゃ意味ないからね」
蘭子「未だ修行中の身、力不足は否めぬがこの力、存分に振舞おうぞ!」
蘭子(とにかく頑張ります!)
紗南「オプションで翻訳機能もあるのかな」
櫂「違うと思うけどね」
蘭子「して、この漆黒の刻に兵の欠片は集うのか?」
紗南「えーっと、こんな時間にあたしの望むような人が見つかるのかって? うーん、望み薄かも」
紗南「とはいえ来ちゃったものは仕方ないし、とにかく探すしか……」
――……ダッ!
紗南「んっ?」
蘭子「危ない!」
櫂「おっと?」
――ボウッ! ギィンッ! ……ドサッ
紗南「……え? え?!」
櫂「警戒が足りないよサナちゃん」
蘭子「灼熱の業火!」
紗南「本当に魔法が撃てるんだ……じゃなくて!」
紗南「……あたし、攻撃された?」
蘭子「この程度なら造作無く退けられる!」
櫂「それには同意だけど、何だかな。……夜に出歩く人を問答無用なのか、それとも――」
紗南「……あたしだから、攻撃されたの?」
櫂「昨日、変に目立っちゃったからマークされたかもね」
紗南「誰のせいなの!!」
蘭子「お、落ち着くのだ! 混乱は何も産まぬ!」
櫂「やっちゃったモノはしょうがないかな」
紗南「あたしまだ何も心の準備ができてないよ!」
蘭子「心配無用! この偉大なる魔術師……の弟子が主を護衛する!」
櫂「お、なんか有名なところの弟子さん? 話聞かせて聞かせて」
紗南「後にしてよっ!」
櫂「仕方ないねー。……でさ、本気でどうするの?」
蘭子「増援は見込めぬ、その上この襲撃。既に刺客が一行を囲んでいるやもしれぬ!」
紗南「それはまずいけど……気配とか、そんなので分かったりしない?」
櫂「言うと思ってたから先に調べてたけど、すぐ近くには誰もいないね」
櫂「代わりと言っちゃあなんだけど、あっちの方が少し騒がしいね」
蘭子「深夜の喧騒……」
紗南「あっち……って、もしかして!?」
蘭子「あの方角はもしや……呉服屋!」
櫂「一日猶予を与えただけで速攻仕掛けて来るなんて優秀な賊だねぇ!」
紗南「あたしが関わったからだ……! 何か大変な事が起きてるかもしれない! すぐに行くよ!」
櫂「当然っ!」
蘭子「いざ降臨す!」
――ダダッ
・
・・
・・・
あずき「……夜遅くに、なんですか?」
??「いや、確認したい事があってよ。……昼間、外れの木が薙ぎ倒されたの覚えてる?」
あずき「その場にいたからね? それで、他に何か?」
??「木を倒した当人とやけに親しかったみたいだけど、どういう関係?」
あずき「関係って……会ったばかりだよ」
??「本当にか? 隠し事されると困るんだけど」
あずき「隠してることなんて……何もないよ?」
??「そうか、なら別にいいけど。……じゃあ別の質問、どっちかというとこっちが本題」
あずき「……?」
??「夜間は完全監視、昼間でも可能な限り潜伏して監視してるこの村……まぁ、立場は今更って話だよな」
??「ありがたく搾取させてもらってるけどな?」
あずき「……嫌味?」
??「冗談だって、ははは」
あずき(…………)
??「でな? そんな感じに適度に反発してくるんだよ、どう思う?」
??「仮にもあたしみたいな余所者が、村ごと囲ってるっていうのに……落ち着きすぎ、冷静すぎ、余裕ありすぎだろ?」
あずき「そう見える? ……いつ刺されるかなんてビクビクしてるよ」
??「本当にビビってたらそんな言葉は出ないって」
??「じゃあ何故余裕があるかって考えたんだよ」
??「供給を絶ってる、救助の可能性も絶ってる、武力も無い事を確認した……はずなんだよなぁ」
あずき「…………」
??「でも、立派なものでいとも簡単にこの村は普通に回ってる……おかしいんだよな」
??「そこにあの、まったく察知できずに侵入された……あ、名前分からないな、誰だっけ?」
あずき「サナちゃんって言ってたよ」
??「サナ? ……やっぱり知らないなー、どこの誰なんだか?」
あずき「…………」
??「…………」
――ドンッ
あずき「わっ……!」
??「まだ黙る気?」
あずき「何の事っ……!」
??「どっからか救援呼んでるだろ? 物資も援助も増援も……正直に言った方が身のためだぞ」
あずき「知らないっ……! あずきは人に助けなんて求めてないよ!?」
??「じゃあ物資は何かそれ以外のツテがあるって事だろ?」
――ヒュンッ! ガシャンッ!
あずき「あうっ?! ……っう!」
??「広い家は便利だよな。外に気づかれず、中で全部話が終わるからさ……」
あずき「しょ、証拠なんて何も」
――ギリッ
??「証拠? そんなの、まともに議論する時にしか使わねーって。あたしは話し合いに来たんじゃない」
??「疑わしい点を切り捨てに来たんだ」
――グググ……
あずき「っ……う……!」
??「でもあたしだって鬼じゃないから、即断即決はしない。ここらへん甘いとか言われるんだけどよ」
??「この村が成り立ってるのはどういう原理だ? 誰に救援を頼んだ? もしくは本当はあんたが実力者?」
あずき「ひ……」
――スッ
??「……棚?」
あずき「そ、その下……」
??「ふーん、何かあるんだな?」
――ズズッ…… ガチャ
??「へぇ、地下か……」
あずき「そこで……商売、生計立てて……」
??「あちゃー、地下と来たか……もしかして他の家も可能性あるな、チェック甘かったなー」
あずき(ごめん……皆……!)
??「何があるか調べるから、取り巻きは同じように村を全部チェックだ」
――ザザッ
??「……ああ、ついでに言っておいて、『村の住民から流出情報があった』ってよ」
あずき「えっ……!?」
??「別に名前も出していいからな。……はは、これじゃもうこの村に住めないし、外でも商売できないだろうな」
??「手間取らせてくれた礼だから、遠慮なく受け取ってくれよな、この悪評も」
あずき「あ……ぅ……」
――スタッ
??「なかなか金目のモノがあるじゃん」
??「しかもかなり上等品だ。これ、あの人が作ってるならいい稼ぎ手になりそうだなー」
??「というより……そうするか、金はいくらあっても困らないからな」
??(それに、こうやって店や財産を隠してる家があるって分かったからな、一気に収入が増えそうだ)
??「さてと……一団総動員だ、仕事仕事」
――カン カン カン
??「よし、方針決まった……ん?」
――…………
??(……もう行ったのか? 誰も居なくなっちゃったけど)
??「部下も優秀になったなー」
櫂「いやぁ、手緩かったけど」
??「はっ?」
――ザンッ!
??「ぅ!? 痛って……!?」
櫂「手際と潜伏能力は素晴らしいよ。だって本物の方のあたしがこの村の近くに一度来てるのに、全然気付かなかったし」
櫂「……あ、違和感とは言ったけど明確に感じれなかった段階であたしを欺けてるからね」
??「やっぱり応援呼んでたか……どこの誰だよッ!」
櫂「……もしかしてあたしを知らない?」
??「知らないね……!」
――ヒュンッ
――ザンッ!
櫂「おーっと……」
??「動くな! 動くと撃つからな?」
櫂「弓か? 槍とは相性悪いかな」
??「ボウガンだっての……相性は変わらないけどな!」
櫂「知ってる知ってる、冗談だって」
??「無駄口を……あんたが助っ人?」
櫂「その通り、あと無駄口はただの無駄口じゃない」
??「……?」
櫂「どうもその魔法使いさんは修行中らしいから、あたしが隙作ってあげないと唱える時間が確保できないんだってさ」
??「魔法……っておい!」
蘭子「もう遅い! 灼熱の豪華に焼かれよ!!」
――ゴオオッ!!
紗南「あっ!」
??「くうっ?!」
櫂「熱っつ!!」
――ガシャンッ!
あずき「きゃっ!?」
櫂「あ、ごめん、店の扉外れちゃった」
あずき「い、いや、それより今の炎……大丈夫!?」
蘭子「広報も筆の誤り!」
紗南「いいよもう! そんなに気にしなくても! カイさんなら大丈夫だって!」
櫂「熱いものは熱いんだけど!」
??「このっ……なんなんだお前らっ!」
紗南「それはこっちの台詞。この村を裏から牛耳る悪質な賊が居ると聞いて、勇者が駆けつけたよ!」
蘭子「勇者の行脚! 悪は滅びよ!」
??「悪ね……自覚してるけどよっ!」
――ダンッ!
あずき「あっ……!」
??(三人相手は辛いな、って事で……!)
蘭子「逃走!?」
??「こんな美味しい拠点を捨ててあっさり逃げ帰らないっての!」
――パチンッ
??「取り巻きは多い方なんだよっ! 質より数で勝負だ!」
あずき「潜んでた野盗が……!」
蘭子「くっ! 数多の雑兵の群れ!」
櫂「団体様の到着だね」
紗南「こんなにたくさん潜んでたなんて……!」
??「悪いな、けどよ。変な正義感であたし達の拠点を潰そうとする方が悪いんだよ」
??「今なら考え直してやらない事も――」
――トンッ
??「……?」
櫂「よーし……あたし頑張っちゃうぞー」
蘭子「いずれ目指す座に向けて、これしきの試練!」
紗南「んー……負ける気しないというか、先にあっちがフラグ建てたというか」
??「なんだその余裕、この数だぞ?」
あずき「そうだよっ……! いくら自信があってもこの数じゃ……」
??「その通りだって、多勢に無勢ってもんだよ」
紗南「あんまり喋らない方が……その、建てすぎというか」
??「うるさい! 話に応じる気がないなら、残念だけど潰しちゃうしかないだろ? っつーことで……」
――バッ
・
・・
・・・
――カランッ
櫂「弱い」
蘭子「闇に飲まれよ!」
あずき「え……え? あれっ……?」
紗南「言わんこっちゃない」
??「は……ちょっと待て! なんだ!? 何が起きたんだよっ!」
紗南「ほら、もう詳しく説明するまでもないくらい負けフラグだったから……」
??「ふ、フラグ? なんだ!? 何かの呪文か!?」
紗南「ある意味そうかも」
蘭子「残るは大将のみ!」
櫂「潜伏は評価してあげたんだからさ、戦闘面でも満足させて欲しいかなって」
??「冗談きついって……! なんだよ本当にお前ら!!」
紗南「あたし達は……いや、あたしはいずれ勇者になる!」
紗南「今は駒を動かすだけの、ただの纏め役だけどね」
??「わ、訳分かんないって……取り巻きのが強いじゃねーか!」
紗南「悔しいけど今はそう。でもその内、この世界でも指折りの勇者になってみせるよ!」
櫂「……というわけで、その第一歩」
蘭子「我の主の礎として、悪党を断罪する!!」
??「う、わ……止め――」
――ピピーッ
櫂「あ」
蘭子「むっ?」
紗南「…………何の音?」
??「な、何だ?」
――シュイイン
紗南「あっ!? これって!?」
櫂「ごめん、伝えるの忘れてたよ。……あと数秒で限界かなー」
紗南「このタイミング!? 絶妙に駄目な瞬間!」
蘭子「時に縛られるも勇者の定!」
紗南「そんな事言ってる場合!? 数秒でもセーブしなきゃデータが――」
――ピッ
櫂「あっ! そんなあと数秒で落ちる時に保存始めちゃ駄目だって!」
紗南「そっか!? でもこれ中断とか出来ないよね?」
蘭子「記憶を妨げる事は不可!」
紗南「ですよねー!」
――パシュンッ
あずき「…………あれっ?」
??「消えた……何か、消える間際にいろいろ意味不明な事を言ってたけど……」
あずき(いつも時間ピッタリに居なくなる……? それでも、ここまで村に住み着いた賊を一蹴したし……)
??(あたしに対する嫌がらせか……? こんな、一人で無事に取り残すとか、下手に捕まるより苦しいっての……!)
あずき「……こ、これが救援を頼んだ一時間勇者の力です! 作戦成功ですっ!」
??「なんだそりゃ!?」
あずき「決まった時間しか活動できませんが、こうして立派にお仕事をしてくれます!」
あずき「……まだ被害の日は浅かった、だからあなただけは見逃します! この村に、二度と手は出さないで!」
??「くっ……!」
あずき(……って、適当にごまかし大作戦?)
??(嘘か本当かなんて分からないけど……あんな化物が襲ってきたらあたし一人じゃどうしようも……)
??(せっかくいい所、見つけたと思ったのになぁ……)
??「……くそっ!」
――ダダッ……
あずき「……よ、よく分からないけど……とりあえず、この村は人知れず平和に?」
あずき「本当に短い時間だけで解決しちゃった、勇者みたいな子だったね」
あずき「お礼も言えずに消えちゃったけど……次の日には来てくれるかな?」
・
・・
・・・
??「サナ……そしてその取り巻き、いったい何者なんだよ……」
??「たった数日で、借りた部隊が全滅だって笑えないっての……」
――ピッ
??「あー、もしもし? こっちノルマ達成できそうにない、ごめん」
??「……マジ? そっちは良いなー、目標より数倍の? なら大丈夫か、焦って損したよ」
??「でさ、ちょっと調べて欲しい人が出てきたからいつもの所に頼んでおいてくれよ」
??「……何かさ、勇者を自称する変な子供で……おい、ふざけてないって、本当なんだよっ!」
??「だからそいつに妨害されて……ああもう、いいよ! あたしが自分で頼みに行くから!」
??「じゃあ会う予定だけセットしておいて、名義は……あたしが受けるからさ」
??「あたしの名前……ナオで受付通しておいてくれ」
:サナ=ミヨシ(三好 紗南)
一日一時間、どこからともなく姿を現し、勇者を名乗り実在する人物を引き連れて行動する謎の人物。
急に現れた未知の人物である事、人助けを積極的に行うこと、幅広いを通り越えた人脈を持つ彼女に
世間の注目が訪れるまで、そう時間は掛からなかった。
現在、たった一時間だけ現れる彼女を追いかけて取材班が奔走しているとか。
:アズキ=モモイ(桃井 あずき)
交通の中継地点として物流の盛んな地『クラトラ』にて呉服屋を営む少女。
村が野盗に支配され監視されていた中でも村全体の生活のために危険を顧みず隠れて商売を行った。
商売に関しては、今まで通は知っている程度の知名度だったにも関わらず、
勇者の一件で話題に上がり、正当な技術を評価された為に大きく繁盛しているようだ。
:ナオ=カミヤ(神谷 奈緒)
(NO DATA)
・
・・
・・・
――人間ではない。
――危ない、危険な目に遭わせるな。
――この村に近づくな。
――……パチッ
きらり「ん……寝ちゃってた?」
きらり「そっか、マナミちゃんとウヅキちゃんを見失って、しばらく歩いたけど何も見つからなかったから?」
きらり「うーんダメダメ、すやすやする場所も時間も違うと上手くいかないにぃ!」
きらり「早く見つけて一緒にはぴはぴすゆ?」
――グッ……
真奈美「駄目か」
卯月「扉はいくつか見つかりましたけど……鍵がかかっていますね」
真奈美「破壊する事も可能だが、大きな音をたててわざわざ逃げた場所を晒すのも危険だ」
真奈美「扉がすぐに破壊可能か、そもそも扉が先に繋がっているかも分からないというのに」
卯月「ですね……幸い、それなりに短い間隔で扉はあるみたいです、探しましょう!」
真奈美「そうだな……おっと、また来るぞ」
――ガタン ガタン
卯月「どういう原理で動いているんでしょうね、この鉄の箱……」
真奈美「先程見つけた看板によると、人や物資を輸送するために運用する予定だそうだ……名称は『鉄道』らしい」
卯月「へぇ~……これもこの国の技術なのでしょうか?」
真奈美「魔力を介さなくていいという点で、そうだろうな」
卯月「これに乗って移動……なんだか想像できませんね」
真奈美「こればかりは体験してみないと分からないからな。……さて、端に寄るぞ」
卯月「はい! 当たると危ないですからね」
――ガタンガタン ガタン……
真奈美(……何だ?)
――ガシャン!
卯月「きゃっ!? ガラスが……?」
真奈美「危ない!」
――ガシッ!
真奈美「な……腕が――」
きらり「見ーっけ☆ 捕まえたにぃ!」
卯月「な、中に乗ってた……!?」
真奈美「ぐっ……!」
――ガタンガタン
真奈美(箱の中で移動しながら……そして、すれ違いざまに強引に掴みに来た……!)
卯月「マナミさんっ!!」
卯月(……駄目! 走っても全然追いつけない!)
きらり「この乗り物すっごいよ☆ すごいびゅーんって速度でぐるぐる回ってるにぃ☆」
真奈美「移動する乗り物から腕を出してはいけないと教わらなかったか……!」
きらり「ごめんね? きらり、そんな事を教えてくれる人と会った事が少なかったから――」
――ゴオッ……
真奈美(っ……! 看板が……! このままだと衝突する――)
――ドガァンッ!!
きらり「痛ったーい!」
真奈美「ぐうっ……あのな、普通は痛いで済むはずが無いんだ……!」
真奈美(先に看板に衝突したのがキラリの腕だったおかげでこちらには衝撃が少し緩くなったか……だが)
――ズキッ
真奈美(……左腕が直撃だったか)
きらり「いじわるな看板ー、それにそういうマナミちゃんも頑丈ゆー?」
真奈美「君と比べるな……こっちは生身だ」
きらり「それはきらりも同じー!」
――グイッ ドサッ!
きらり「ご乗車ー! うきゃー☆」
真奈美「狭い空間で一対一か……出来れば避けたいシチュエーションだ」
真奈美「……乗り心地はそれほど悪くはない、面白い乗り物だ」
きらり「でしょー?」
真奈美(飛び降りるのは……危険すぎるか。間近が壁のうえ、それなりに乗り物の速度がある)
きらり「にょわー☆ マナミちゃーん!」
真奈美「かといって……!」
――ガシャアンッ!!
真奈美「まともに応対していたら体が持たないな」
きらり「大丈夫大丈夫! マナミちゃん頑丈なの、きらりが知ってゆー☆」
真奈美「それ以上に私が私の事を知っている……!」
――ガシッ!
きらり「むえっ?」
真奈美「君が降りろッ!!」
――ドガッ!
きらり「乗り物の壁、凹んじゃったにぃ……」
真奈美「さすがに鉄素材の壁面は貫通できないか……!」
きらり「じゃあきらりがやってみるにぃ☆」
――ミシッ
真奈美「ぐっ!」
きらり「せー……のっ!!」
――ガシャンッ!!
真奈美「かはっ……!?」
きらり「あれれー? ガラスが割れただけにぃ……思ったより頑丈ー?」
真奈美「この……いい加減に……!」
――バッ
きらり「あっ! どこ行くにぃ!」
真奈美(距離を離したいが……空間が狭すぎる、ならこの乗り物を止めるべきだ……)
――ガチャッ
真奈美「ここが操縦席か? だが……」
真奈美(想像とずいぶん違う……一見して減速装置など分かると思ったのだが、これでは……)
きらり「止めちゃ駄目ー!」
真奈美「ちっ!」
――ガシャッ!
真奈美「おいおい壊すことは無いだろう……君も降りれなくなるぞ?」
きらり「それは後で考ゆー! 今は勝負勝負! ばっちし!」
真奈美「あくまで私か……仕方ない、覚悟を決め――」
――ダンッ
??「たああああっ!!」
きらり「えっ?」
真奈美「何……?!」
――ガシャアンッ!
――ガンッ!
卯月「痛っ!」
きらり「あっ、ウヅキちゃん? どこから入ってきたのー?」
真奈美「正面から飛び込んできたのか!? 無茶をするな!」
きらり「そもそもどうやって追いついたにぃ?」
卯月「はぁ、はぁ……さっきキラリさんがぐるぐる回ってるって行ってたから……この乗り物は巡回してると思って……!」
真奈美「逆走してわざわざ飛び込んできたのか……危険な真似はやめろ!」
卯月「大丈夫です! 一緒に戦いに来ました!」
きらり「きらりは二人でもいいよ! 一緒にはぴはぴすゆ?」
真奈美「二人でも容易な相手ではない……それに君は私より不利だろう」
卯月「不利でもなんとかします! その為にいろいろ見てきましたから……!」
きらり「乗り物から外には逃がさないよー? ここで勝負すゆー!」
卯月「逃げはしません! マナミさん! しっかり掴まっててくださいね!」
真奈美「何をする気だ!?」
きらり「行くよー!」
卯月(確か……これのはず!)
――グイッ
――キキィィィッ!!
卯月「わあっ!?」
真奈美「ぐっ……! これは……」
きらり「ひゃあぅ!? わ――」
――ドンッ! ドサッ
きらり「あうっ!?」
卯月「緊急の停止装置……あの後、さっきの資料を読み返してきました」
真奈美「急停止の勢いで外へ吹っ飛ばした……だが、乗り物は停止したままだ、すぐに戻ってくるぞ!」
きらり「痛たた……びっくりしたにぃ!」
卯月「ですから! ここからが大事です……!」
――グッ!
――ガタンッ……
卯月「ちょっと壊れてますが……大丈夫!」
真奈美「な、まさか……」
きらり「にょわ?」
――ガタンッ ガタンッ!
きらり「動いてる!?」
きらり(まだ体制が整ってない……押して止める? いや、この場所だと踏ん張れない?)
卯月「そこのレバーをお願いします!」
真奈美「分かったが……まさか、実行するのか?」
卯月「はい! このまま……跳ね飛ばします!!」
きらり「にいいっ!!」
――ガシィッ!! ザザザザ……
真奈美「また止めるか……!」
卯月「ですが徐々に速度は上がっています! 押せているならこのまま行きましょう!」
きらり「むううう!?」
きらり(ちゃんと立ててない状態で押し返すのは……!)
卯月「このまま……全力です!!」
きらり「にぃ……っ!」
――バッ!
真奈美「横に避けた!」
卯月「なら障害は消えました! 全速力で発車です!」
――ゴトン ゴトン ゴトン
きらり「にいっ……行っちゃった……!」
きらり(逆走しても……止め方を知ってるなら途中で降りて逃げちゃうにぃ)
きらり「むぇー、逃げられちゃったー…………」
・
・・
・・・
晴「分かったよ……どうせ口ではそう言ってても、やるって言わないと出してくれないんだろ?」
梨紗「ちょっと本気?」
晴「なんだよオレに決めさせたんじゃなかったのかよ」
梨紗「分かってるわよ! 確認よ確認!」
千夏「助かるわ。じゃあ早速……と言いたいけど、まだ信用も信頼も勝ち取れていないからね」
??「開けますよ~?」
――ギィィッ
千夏「これは肌身離さず持っていて」
梨紗「何これ、通信機?」
千夏「プラス、非常用よ」
晴「非常用?」
千夏「何かあった時のためにね。それ以外は通信機よ、普通の」
梨紗「ふーん……どうせ発信機とかついてるんでしょ?」
晴「で……オレ達に何させる気なんだよ」
千夏「別に、今すぐに頼む予定は何もない」
梨紗「そうなの? じゃあアタシがそのまま逃げるとか考えないの? この通信機も捨てて……」
千夏「私を信用できないなら、そうしてくれても構わないわよ」
??(一度“やる”と言わせてから、もう一回裏切るなんてことはないでしょうけどね~)
晴「じゃあ……今はコレ、ただ解放しただけになるんじゃねぇか?」
千夏「その通りよ」
梨沙「……目的は何なの?」
千夏「だから言ってるじゃない、協力して欲しいだけよ」
晴「気前が良すぎるというか……条件がこちらに有利すぎるだろ?」
千夏「頼む側なのに対等でどうするのよ」
梨沙「そうだけど……だけどねぇ」
千夏「とにかく、すぐに見返りを求める事はしない。連絡の時にでも返事の続きを聞くわ」
??「でも私が協力した事は他言されると困るので~」
――…………
晴「……マジに自由?」
梨沙「監視は居ないわね……どうする?」
晴「どうするって……どうすんだよ」
梨沙「分からないから聞いてるのよ!」
晴「つっても……今更報告に戻るってのもさ、武器はちゃんと返ってきたけど」
梨沙「どのみち目的のものは手に入ってないのよ」
晴「だから困ってんだけど」
梨沙「標的が確認できたという事実で……なんとか誤魔化す?」
晴「まぁ……成果として数えてもギリギリ大丈夫か?」
梨沙「決まりよ、なら早く連絡しま…………」
晴「ん? なんだよ、急に固まって」
梨沙「…………ハル、通信いつから確認してない?」
晴「通信? ああ、元々オレが持ってた方? そうだな……買い物の途中で確認したのが最後?」
梨沙「その後は……?」
晴「捕まってたからそれどころじゃなかったって、そっちもそうだったろ?」
梨沙「……だから気づいてなかったのね、コレ」
晴「コレ? コレっていったい何の…………あっ」
――ピッ
晴「受信五件……こ、これって確認だけど誰からだ?」
梨沙「バカ! こっちの通信機に掛けてくる相手なんて一人しか居ないでしょ!?」
晴「だけどよ! え、本当に五件か?」
梨沙「そうよ……そして最後二件は伝言付きよ」
晴「マジ?」
梨沙「マジよ、再生するから」
――ピッ
??『通信……出ませんけど、何かありました……?』
??『連絡が出来次第、折り返してくださいね』
晴「これが入ったのが……どれくらい前?」
梨沙「ちょうどハルが帰ってくる一瞬前」
晴「……あ、やべぇ。確かにあの時鳴ってた気がする」
梨沙「気づいてるじゃない! なんで忘れてたのよ!」
晴「あの後いろいろあったし、仮に思い出しても応答出来ない状態だっただろ!?」
梨沙「だとしてもマズいわよ……これ、ここから少し時間が経ってから二通目も来てるのよ?」
晴「……聞かなきゃ更にマズいだろ」
梨沙「当たり前よ! いい? 押すわよ……」
――ピッ
??『…………そっち、向かいますね……?』
――ガチャッ
晴「……おいおい」
梨沙「来てる……そ、それは……」
晴「どうすんだよ! 実際に対面したらもう何も言い訳出来ねぇって!」
梨沙「そんなこと言われても……! こうなったら急いでさっきの人を探して経典を――」
??「まだ持ってないんですか……?」
――…………
梨沙「え、っ……」
晴「ちょっ……」
??「交戦中か……経典を奪う工作中で応援に来たつもりだったのですけど……」
??「何も、起きてませんね……? これは、どういう事ですか……?」
晴「…………」
??「まさか……無視していたんですか……?」
梨沙「い、いや、これには訳があって……! そう、捕まってたから応答できなかったの!」
??「ついさっき……誤魔化すとか、忘れてたとか……言ってませんでしたか……?」
晴(……聞かれてた)
??「せっかくの武器を持って、捕まって…………いったい、何をしていたんですか……?」
梨沙「あ、あのあのあの……」
晴「ちょっ……落ち着いて……」
――メキッ バキッ!
梨沙「ひいっ!?」
晴「通信機……! 壊れ……」
??「…………この機械みたいに、壊しちゃいますよ……?」
梨沙(……ハル)
晴(たぶんオレも同じ事考えてる)
――……カチッ
晴(助けてチナツさん……!)
・
・・
・・・
――ピピピピッ
??「鳴ってますよ~」
千夏「予想通りね」
??「傍受した伝言、彼女たちの上官でしょうか?」
千夏「そりゃあそうでしょう、だからこその早い段階で来た緊急通知よ」
千夏「もちろん今から私が向かう」
??「あなたの部下は頂いた、とか言っちゃうんですか?」
千夏「火種を放るつもりも煽りに行くつもりもないわよ」
千夏「しいて言うなら……角が立たないように協定を結びに行く、かしらね」
――ザッ
千夏「何事?」
梨沙「早っ!?」
千夏(ずっと尾行していたからね)
??「……どういう事ですか?」
晴「いや、えっと」
千夏「あら、さっきの子じゃない。お手伝いありがとう」
梨沙「……へ?」
??「手伝い?」
千夏「あなた、お友達?」
??「……そうです。連絡がつかなかったので心配して」
千夏「それはごめんなさいね、ちょっと仕事に協力してもらってたのよ」
千夏「本部に人手が足りなくてね、協力を買って出てくれたのよ、ね?」
梨沙「え、あ、そうそう手伝い手伝い……」
??「何のですか?」
千夏「荷物の運搬よ、倉庫に移すだけ。でも、そこらの人に頼むと盗みとか働く輩がいるから」
千夏「……子供だとそんな心配はないでしょ?」
??「へぇ……そうでしたか」
千夏「これから少し滞在するみたいだし、宿も提供するから少しの間手伝ってもらっていいかしら?」
??「……! あの、私もいいですか……?」
千夏「お友達も?」
晴「あ、ああ! いいだろ? 三人の方が効率がいいからさ!」
千夏「そう? ならそうさせてもらうわ」
千夏「……失礼、少し連絡が入ったから一旦席を外すわ」
――クルッ
梨沙(……とりあえず乗っかったけど、どういう事?)
晴(いや、乗っからないとヤバかったと思う)
――ガッ
梨沙「いっ!?」
??「心配して得しました……ふふ、いいお仕事していたんですね」
梨沙「……? ……?」
??「あの人、国の幹部の方ですね……その内部に取り入るなんて、考えましたね」
晴「……倉庫に入れたら、その過程で国の内部に入れるし、情報も手に入ると考えてさ」
??「その通りです、相手も……子供だからと油断しましたね、ふふ……」
梨沙(どういう事?)
晴(だからさ……オレ達がチナツさんの事を上手く騙して内部に潜入できたって事にしてるんだよ)
晴(これなら通信出来なかった理由も誤魔化せるし、チナツさんとこれ以降会う事に疑問も持たれないだろ)
梨沙(ああ……そういう事だったのね、なるほど……)
――スタスタ
??「こんにちは~」
千夏「紹介するわ、彼女“も”この国の幹部よ」
??(私“だけ”ですけどね~実際は)
千夏「知ってるかもしれないけど、一応紹介するわね。ナホよ」
菜帆「は~い、よろしくお願いしますね~」
梨沙「リサよ」
晴「ハルだ」
菜帆「さっきも会いましたね~。それで、そちらの子は?」
晴「ああ、この人は――」
??「ハルの友達の……チエリです」
智絵里「よろしくお願いします……!」
菜穂「はい、よろしく~…………」
菜穂(……裏がありますねぇ)
千夏(そりゃそうよ。この子達が萎縮してるもの、見た目に惑わされちゃ駄目)
千夏(もしかすると、種族で幼く見えるだけかもしれないわよ?)
菜穂(そういえばそうですね? ちょっと聞いてみましょうか?)
千夏(怪しまれない程度に)
菜穂「みんなお友達? どこの出身?」
智絵里「どこに見えます……?」
菜穂「うーん……」
智絵里「えへへ……」
菜穂(……言うつもりはなさそうですね?)
智絵里(チナツ……ナホ……確かにここの幹部に違いないはず……)
梨沙(このまま潜入って事でオッケー?)
智絵里(さっきも言いましたが、情報が一番早く来る所……なら、これでいいはずですね?)
晴(ふぅ……なんとかどっちも立てたまま話が進んだな)
智絵里(……?)
晴(あ、いや、任務の貢献とリサの機嫌取りって意味で!)
梨沙(そんな事考えてたの)
智絵里(ま……どっちでも、いいですけど……)
智絵里(これで私達が他のグループより一歩先に進みます……中心の中心に取り入るわけですから……)
千夏(……と、思ってるでしょうね)
菜帆(あれあれ? 引き離すのが目的だったんじゃないですか?)
千夏(そうだったけど、別の使い道が見つかったわ)
菜帆(どんなですか?)
千夏(秘密よ。意地悪でも信用してないわけでもない、ただし私の心中に留めておきたい使い道)
菜帆(きっと素晴らしい起用法なんでしょうね~、期待しています~)
千夏(褒め言葉として受け取っておくわ)
菜帆(モノは使い様ですからね)
千夏「……じゃあ、さっそくだけど内部に案内するわ」
千夏(情報は餌。この子達が漁れる情報なんて、たかがしれているもの)
智絵里「はい、お願いしますっ……」
智絵里(残念ですけど……あなたは私を見誤ってますから……ね?)
――ザッ ザッ……
梨沙「…………」
晴「怖ぇえわ、オレ。両方の裏側を知った上であの場所を見ると」
梨沙「奇遇ね、アタシもよ」
・
・・
・・・
亜子「これが世界で十指に入る貴重なもんですって」
茜「記念撮影しましょうか?!」
悠貴「それはあなたのものじゃないですっ……」
未央「あなたのものでも無いからね?」
亜子「しかしどうしますのコレ、アタシらが持ってるとほんまに持て余しますわ」
茜「後のお二人は?」
未央「アナスタシアさん? は、元々の予定をこなすためって別行動したよ」
亜子「あのミサキさん言う方は、国の幹部が私事で他国の中心に向かうのはよろしくない言ってましたわ」
未央「というわけでこっちも別行動……私達は四人で本部についたわけだけど」
茜「また誰もいません! 留守が多いですね?」
未央「しょうがないね、ちょっと待機しようか」
――ドンドンッ!
亜子「うわっ!? な、なんですの、アカネさんですか?」
茜「私静かにしてますよ?!」
亜子「いやでも、思いっきり壁を叩いたような音が鳴りましたけど」
未央「ちょっと、何かした?」
悠貴「なんでも私のせいにしないでくださいっ」
――ドンッ
亜子「今のは……そっちから聞こえましたけど」
未央「でもそっちの面は壁だよ」
亜子「だから壁から音が聞こえましたって言ってますやん」
茜「誰か居るのでしょうか!」
悠貴「本部の壁の裏にですか? 隠し通路でもあるかもしれませんね」
茜「なるほど!」
未央「なるほどじゃなくて、怪しいよ」
亜子「でも音は事実ですし……収まったみたいですけど」
茜「そういえば聞こえなくなりましたね?」
――ドガッ!
未央「うわっ!?」
亜子「んなっ……壁が壊れ――」
――バタンッ
真奈美「地上か……?」
卯月「いや、ここは……国の本部のはずです。見覚えがあって……」
未央「しまむー!? え、なんでそんな場所から!?」
卯月「あれ? ミオちゃんこそ……っ!」
悠貴「やぁ、お久しぶりですねっ」
茜「お知り合いですか! でも捕まえてますから大丈夫です!」
真奈美「……何人か店で会った顔だな」
卯月「あの地下が本部に繋がってるって事は、アキハさんやノアさんが用意した施設だったのかな……」
――…………
未央「じゃあそっちは、新しい国の人に攻撃されていたと」
真奈美「正確には国じゃないが、実質同じくらいの戦力を揃えているよ。代表の名はトキコだ」
卯月「その一団のキラリって名乗った人と戦ったんだけど……」
真奈美「彼女が居たから軽い負傷で済んだ」
卯月「そんな、私は少しお手伝いしただけで……」
亜子「軽い負傷には見えませんけど……それにお宅はどちら様? 初見やないですが、アタシには聞き覚えありませんのよ」
亜子「これでも有名どころの人は全員頭に叩き込んでるはずなんですわ」
真奈美「私か? しがない戦闘員の一人だよ、所属は『キュズム』だ」
亜子「ああ、その国……って、それって……」
真奈美「代表の名はアンズだ」
亜子「ああ、やっぱり名高い国やないですか……」
卯月「というわけでマナミさんです。……それで、そっちは?」
未央「ご覧の通りだね」
茜「ユウキさんからコレを!」
卯月「……輪っか? ミオちゃんの持ってる武器と似たようなもの?」
未央「私のと比べるとレベルが違いすぎるよ、以前の……認識を狂わせた元凶らしい」
卯月「あの現象の?」
未央「さっきまで一緒に居たアナスタシアさんの話だと、これは……経典や歯車と並ぶ、秘宝の一つだって」
卯月「これが? ……じゃあ、何か特別な力が? って、その例のアレがそういう力なんだね」
亜子「アタシ達はとりあえずこの人と道具をどうにかしようとここへ来たわけですが」
卯月「また誰も居なかったんだね」
――ガチャッ
菜帆「お客様ですか~?」
茜「誰ですか?」
亜子「あーっと……この人は確か……ちょっとお二人さん、知り合いと違いますか?」
未央「申し訳ないけど……」
卯月「初対面です……でもハルナさんやケイトさんの知り合いなら……」
菜帆「はい、聞いていますよ~。私はナホと言います、同じく幹部を任されてますよ」
菜帆(……聞いたのは、チナツさんからですけど)
真奈美「幹部か……」
菜帆「そうですよ? そう見えませんか?」
真奈美「いや、そういう意味ではないよ」
菜帆「不思議な人ですね~」
卯月「それで本題なんですが……ハルナさんかケイトさんに会えませんか?」
菜帆「うーん……」
菜帆(可能ではありますが……本音を言うと、あの二人が呼ばれると厄介ですね~)
菜帆(すぐ上階に、追い出されたはずのチナツさんも居る事ですし)
茜「あれ、国の人に頼みに来たんですよね? じゃあこの人でもいいのでは?」
亜子「この人て。アカネさん、この方は幹部なのでそういう口の利き方は……」
菜帆「別にいいですよ~。で、国に何かご用なら多忙なお二人に変わって私がお仕事しますが?」
未央「一番信頼出来たとしても、同じ幹部の人なら大丈夫じゃない?」
卯月「うーん……じゃあ、ナホさん、一つ頼んでいいですか?」
悠貴「っう」
卯月「この人を、拘留して欲しいんです」
菜帆「それはまた、何がありましたか?」
未央「ちょっと厄介な人なんです、私達にも世間全体にも」
悠貴「大げさですよっ」
卯月「とにかく、かくかくしかじかで……詳しい話はハルナさんにも伝えますから」
菜帆(ん~……理由は詳しく話しませんね? やっぱり信頼されてないんでしょうか?)
菜帆(幹部が信頼されてないのはチナツさんのせいですよ~、怒りますよー……)
茜「あっちはどうしますか?」
卯月「例のアレは……さすがに渡せない」
亜子「でもアタシらが持つには重大だって」
菜帆「……?」
卯月「だから、専門の人に後で詳しく聞く」
亜子「専門て……これ何回目かわかりませんけど、人脈広すぎますてホンマ」
未央(専門?)
卯月(アイリさん)
未央(ああ……)
茜「ではユウキさんだけお届けすればいいですね! お願いします!」
菜帆「事情は深く分かりませんが、お二人が言うならそうさせて貰います~」
菜帆(事実、ウヅキさん含む三名の名はよく聞きますし、従うべきですね?)
悠貴「私は無実ですよっ」
菜帆「……こう仰られていますが?」
卯月「無視して下さい」
茜「どうぞ! 暴れますけど!」
菜帆「はいはい承りました」
悠貴「……ふんっ!」
――ゴンッ
菜帆「あうっ」
悠貴「そう大人しく捕まりません……!」
茜「あっ!」
悠貴「素で戦うなんて久々ですけど――」
――ガシッ
菜帆「……暴れないでください~。鼻、打っちゃったじゃないですか」
未央「っ……お、抑えてる?」
卯月「一瞬逃げそうだと思いましたけど……さすがに、抑えてる? さすが、ハルナさん達と同じ位の人……」
――グッ
悠貴(外せない……やっぱり私、力が無いからですかねっ……!)
菜帆「問題児という事は分かりました~、しっかり拘束させてもらいますね~……鼻血出ちゃったじゃないですか」
未央「大丈夫ですか?」
菜帆「これくらいなら~」
茜「では私達は行きましょう! ……あれ、どこに行くんでしたっけ?」
亜子「専門の人に心当たりあるそうなんで、そっちに行きましょか」
卯月「そうだね」
卯月(別に移動しなくてもいいけど……人目に付くところは避けないと)
真奈美「私は同行しない方がいいか?」
卯月「いや、大丈夫ですよ、それに怪我してる時にまたあの人と会ったら……」
未央「私が何とかするから! しまむーと共同戦線してくれたお礼!」
真奈美「……そうか、なら素直に受け取らせてもらうよ」
真奈美(隠していても負傷は目に見えるか……)
卯月「じゃあ、お願いしますね」
菜帆「はいは~い、お達者で~」
悠貴「…………」
――バタンッ
菜帆「…………えいっ」
――ベキッ
悠貴「あぎっ!? 痛だだだだっ!?」
菜帆「頭突き、痛かったんですからね~?」
悠貴「あああ!? う、腕っ……! 離して――」
――グッ
菜帆「両手ともやっちゃってもいいんですよ~」
悠貴「いっ……うぐ……」
――……トン
千夏「何やってるのよ」
菜帆「あれ? 降りてきちゃっていいんですか?」
千夏「駄目に決まってるでしょ。でもこんな声が聞こえたら、そりゃあ降りてくるわよ」
菜帆「だって痛かったんですよ、ね?」
千夏「もう……今すぐさっきのグループがここに戻ってきたら、どうするつもりだったのよ」
菜帆「その時はその時で」
千夏「はぁ……で、あなた、腕大丈夫?」
悠貴「大丈夫じゃないですよっ……!」
千夏「その様子なら大丈夫そうね。とりあえず普通の対応をしておいて頂戴、ただしこれ以上怪我させないように」
菜帆「は~い、じゃあ連れて行きますね。チナツさんはお菓子でも食べて待っていてください~」
千夏「頂いておくわね」
悠貴(……とんだ災難ですよっ、まったく)
・
・・
・・・
――カツン カツン
アナスタシア「……保険は掛けておくものですね」
――カチッ パァア
アナスタシア「懐中電灯……妙な気分ですね、明かりなど自分で灯せたのに」
アナスタシア「ですが、こんな状態じゃないと訪れる事が出来ない場所もある……必要なものもある」
アナスタシア「魔力を感知すると辿り着けない最深部……そこに存在する」
――ザッ
アナスタシア「…………このあたりのはずですが」
アナスタシア「場所を間違えた……ニェート、そんなはずは……ここは最奥のはずです」
――コツン
アナスタシア「ん……台座……」
アナスタシア「おかしい……この位置にあるはずでは? …………ブリュンヒルデの杖が」
・
・・
・・・
凛「三人とも……いったい何なの? この地下の空間は……降りて、私も援護に?」
凛(いや、それよりも……!)
――シン…………
凛「こんなに、地面に大穴が開くほどの衝撃と音で……静かすぎる……!」
そら「…………はっ」
凛「あ、気づいた? 大丈夫?」
そら「出来れば手をぷりーず……吐きそうだよー」
凛「分かった」
そら「あの二人と一人は? ……って、わぉ、おおきい穴?」
凛「気づいてなかったの? ああ、気を失ってたから……」
そら「のんのん、意識は手放してないよ? 少し回復の為に静かにしてただけ」
凛「起きてたの?」
凛「……じゃあ、何で今更驚いてるの?」
そら「さっきまで穴なんて無かったよ? いつ開いた? そらちん気づいてない?」
凛(やっぱり変だ、こんなに近くに居たソラも気づいてない……大きな音と衝撃、周りに伝わってない?)
凛「…………」
そら「ねえってば! あいたた……」
凛「わっ!? ……急に大声出さないでよ、叫んだら傷に響くよ?」
そら「さっきから話しかけてるよ? 聞いてないのはそっちだよ?」
そら「もしかして聞こえてなかった? こんな近くで。そっちも体調悪くしちゃった?」
凛(……そうだ、同じ。この距離でも気づいてなかった……地面に穴が開いた音を)
凛「もしかして……いや、でも」
――クルッ
そら「……?」
凛「この近く、誰か気配は感じる?」
そら「気配? もしかして、まだ誰か隠れちゃってる?」
凛「分からない……仮に居たとしても、その理由も分からないけど……もしかしたら、ね?」
そら「むっ、新手? だとしたら出てこーい! そらちんが相手にな……あいたたたっ」
凛「大丈夫じゃなさそうだけど……」
――ガサッ
凛「っ!?」
乃々「あの、で、出ますから攻撃しないで……」
そら「……だれー?」
乃々「ノノですけど……偶然通りがかったノノです、はい……」
凛「何が狙い?」
乃々「あ、本当に通っただけです……何も目的とか、恩を売ろうとも思ってませんから……」
そら「変なのー?」
凛「恩……? 今、私達に何かしてるの?」
乃々「その……迷惑なら直ぐに解除します、はい……」
凛「待って、その前に何をしてるのかを言って?」
乃々「えっと……もりくぼは静かな環境じゃないと息苦しくなるので、静かに暮らしてます……」
乃々「ですけど、静かな場所って滅多に無いもので……」
凛「それが……要するに?」
乃々「…………」
そら「……?」
凛「…………」
乃々「今みたいな状態です……聞こえました? いや、聞こえないとは思うんですけど……」
凛「えっ?」
乃々「音です……もりくぼは静かな環境を手に入れるために音を消します……」
そら「音? 声とかも?」
乃々「そんな感じです……勝手にしましたすいません」
そら「すごーい! 隠密とかに向いてそう!」
乃々「あの、そんなに凄い技術じゃなくて……その、むしろ弱いというか……」
凛「音を消す……確かに、そんな効果のある魔法はあった気がするね」
凛「ただ……ウヅキから聞いた話だから詳しくは知らないけど、今はほとんど使われていないはず」
そら「そうなの? 便利そうだよ?」
乃々「あのっ……昔は、よく知られているように他の術者の詠唱を封じるみたいな使われ方だったんですけど……」
乃々「対象を指定ではなく範囲指定の術式なので……戦場では味方にも影響が……」
そら「おぅ、なるほど?」
乃々「後は……見ての通りなんですけど、今の魔法に詠唱は必要ないので……」
そら「そういえば……でも潜入とか隠密に使えるでしょ?」
凛「使えないこともないだろうね。……やたら静かな空間が出来上がって、違和感を持たれなかったらね」
そら「あっ」
凛「それに探知の術だって発達してるはず。今では滅多に使われない理由は分かった?」
そら「うん、ばっちし☆」
乃々「そういうわけなんでもりくぼは別に凄くもなんともないです……これしか使えませんし」
乃々「今、これを使ったのは……騒ぎが広がれば人がいっぱい来ちゃうので……」
凛(それで外に音が漏れてなかった、だから誰も聞きつけてこなかったんだね)
凛「助かった、のかな? これ以上、追っ手が集うと余計な疲労が溜まるからね」
乃々「追われてた……もしかして賞金首さんですか……」
凛「違う。手配されてるような悪人じゃないつもりだよ、私達は」
そら「ぴーす! そらちん善良な一般市民!」
乃々「知りませんけど……じゃ、じゃあもりくぼはお家帰るので……あ、家は無いんでした……」
凛(でもどうしてここに? ……このまま帰して大丈夫かな? なんだか、怪しい)
凛「待って」
凛「……ここで何してたの? どうして私の所に?」
乃々「あの、特に理由はないんですけど……そのっ」
凛「音を消すけど……最初から使ってないと、大穴を開けた音は消せないよね?」
凛「まさか見てから使った、なんて訳ないよね」
そら「そういえば? 全員が居た段階から音を消していないと騒ぎは広がるね?」
乃々「それは普段……最初から展開してるからです……常に使ってます、はい……」
乃々「常に使っている式の効果範囲を広げるくらいなら……それほど苦労せずできます、もりくぼでも……」
凛(理由は……それが本当なら、ありえなくもない、か。……考え過ぎかな)
乃々「あの、帰っていいですか……」
そら「どうする?」
凛(出来れば、新しく関わった人の事は詳しく知っておきたい……まだ何も得てないからね、この人から)
凛「……特に用事がないんでしょ? しばらく付き添ってくれない? こっちには、怪我人も居る」
そら「あたし?」
乃々「……そういう事なら……怪我が治るまでですけど」
――キュイン
凛「……えっ?」
そら「んんっ? ……あっ、怪我治った?」
凛「いや……冗談でしょ? そんな直ぐに治るわけないって」
そら「いやいや? そらちん完全回復? ほら、びゅーんって腕もぱわふるでどーんって!」
凛(確かに……さっきまでの負傷の影は無さそう……だけど、どうして?)
凛「もしかして……?」
乃々「違いますけど……回復魔法なんて使えませんけど……」
乃々「そもそも怪我を直ぐに治すレベルの術式は適性が厳しくて……覚えようとしたけどむーりぃー……」
凛(違う……じゃあ、誰が?)
――スタスタスタ……
??「……こんな街中で、ここまで重傷の人は初めて見たわよ」
凛「あなたは…………?」
??「もしかして、あなたも噂の真相を確かめに? じゃないと、そんな怪我しないでしょう?」
そら「噂? 真相?」
??「『灰姫の経典』……知らないはずは無いでしょ? その争奪戦に参加しているか巻き込まれたか」
凛(……じゃあ、回復こそしてくれたものの……この人は私の敵になり得る?)
乃々「怪我が治ったのならもりくぼは帰ります……」
そら「そらちん違うよ? お宝はんたーじゃないよ」
??「地面に大穴開けて……むしろ、違ったのならここで何があったの?」
そら「正当防衛だよ☆」
凛「……回復魔法、あなたが?」
??「ええ、私の少ない長所。……でも、他の戦闘能力は低くて、もっぱら補助担当」
??「そんな私が経典の奪取戦になんて参加できるわけがない、だから……ここに来た理由は違う」
凛「違うの?」
??「ここへ訪れる人は実力者が多い……その中からパートナーを探すの」
そら「仲間を? どうして?」
??「野蛮な争奪戦を介さずに、同価値のものが手に入る……とある大会に出ようと思ってね」
凛(……大会、もしかして)
??「二人か三人か……相方を探しているの。私は後方支援としては優れているつもり、でも前線は駄目」
??「だから前衛と中衛、その実力者を探している」
凛(確定かな……これは、アコの言っていた『栄光の聖剣』の事……!)
そら「協力者? なら、そらちんお手伝いしよっか?」
??「残念だけど……既にここにあなたより強い可能性を持っている人物が居る、お断りするわね」
そら「誰か心当たりー?」
??「戦って負傷したんでしょう? それに、地面に大穴……明らかな攻撃型の人が居たはず」
??「その人の所に向かうとするわ」
凛「止めた方がいいと思うけど。相手が素直に大会の景品を分けてくれるの?」
??「その点は問題ないわ、勝つだけでいいもの」
凛「……勝つだけで? 聖剣は不要なの?」
??「聖剣……知ってたの?」
凛「一応ね」
??「ふーん……とにかく、理由は伏せるけど私は勝つだけでいい、商品は奪われようが構わないわ」
そら「変なのー?」
凛(……優勝の肩書きだけ? 自分を売り込むとか、そういう事?)
??「じゃあ、私はこれで。次に会う時、また怪我人と術者という関係じゃない事を祈るね」
凛「待って。……名前、聞いてもいい?」
??「私の? どうして?」
凛「…………大会、出るんでしょ? もしかして有名な人になるかもしれない」
??「相乗りする気?」
凛「いいでしょ? もしかしたら、ここで会った縁でいいパートナーと会えるかもね」
凛「私はリン=シブヤ。そして彼女はソラさん」
そら「そらちんだよ!」
??「……私の名前が役に立つ状況になる事を祈っててね」
そら「もしそうなったとしたら、優勝おめ?」
??「そうね。……私はイズミよ、イズミ=オオイシ」
泉「また会った時はよろしくね」
凛「うん、覚えておく……じゃあソラさん、私達も戻ろう」
そら「戻る? 穴、追いかけない?」
凛「……地下か」
凛(ウヅキの無事も確認したいけど……ここは思い切る。私は私で、他の事をやる!)
凛「うん、戻る。……それも、ミオが待ってる場所じゃなくて」
そら「違うの?」
凛(食いついてくるはず……!)
凛「国の本部に、一旦戻ろう……!」
――ピタッ
泉「……国の、本部?」
凛(協力者を探している? ……なら、より強い協力者を求めて)
泉「そのお話……聞いてもいい?」
凛(貴重な回復魔法適正の人材……恩を売っておいて損は無いよね?)
・
・・
・・・
美紗希「あたしがずかずかと入り込む場所じゃないですねぇ」
――スタスタ
美紗希「でもぉ、入口の近くで待機してるだけなら入っても変わりなかったかもねぇ」
美紗希「今のうちにアリサ先生にお電話しておきましょうか……」
――ウィーン……
亜子「中、入ります?」
美紗希「大丈夫ですよぉ、お気遣いなく。それで、どうなりましたぁ?」
亜子「ちゃんと受け持ってくれましたわ、もうすぐ降りてくる思いますけど」
美紗希「本当に広い人脈を持ってる人たちですねぇ、ぜひあたし達の国とも交流を持ちたいかなぁって」
亜子「もう十分関わったんとちゃいますか? ま、人脈うんぬんの点は大いに同意しますけど」
美紗希「ところでアコさんでした? あの三人とはどうして関わったんですか?」
亜子「あー、それは偶然が重なった結果ですねん、今となってはラッキーでしたけど」
美紗希「どうも偶然が重なりますね、あの人たちの周囲では」
――ザッ
そら「とうちゃーく☆」
泉「本当に繋がりはあるの? ここで不法侵入で捕まったり……笑えないけど」
凛「大丈夫。……知らない幹部の人と会わなければね」
泉「ちょっと不安。入口の前に二人いるけど、両方知ってる人?」
亜子「おっとリンさん、さっきぶりですわ。……で、隣の人は今度は本物ですか?」
そら「そらちんだよ!」
凛「大丈夫、本物」
美紗希「さっきは色々とありましたねぇ、ですがお友達が頑張ったので今は安心ですぅ」
亜子「無事ミオさんとアカネさんが送り届けましたわ、幹部のナホさんに」
凛(……初めて聞く名前かな、ハルナさんとケイトさんと並ぶ人、今度会わなきゃ)
凛「そこの人は?」
美紗希「もしかしてあなたは通信していた人ですかぁ? あたし、ミサキって言いますぅ」
亜子「掻い摘んで言いますと他の国の幹部さんです」
凛「ふーん……詳しい事は後で聞くよ、ミオから」
亜子「逆に聞きますけど、そちらの方は?」
泉「私はイズミ。流れを切るようで申し訳ないけど、大きな地位に就いているような人じゃない」
凛「こっちでもあの後トラブルがあって、解決は……ウヅキに任せてるんだけど」
亜子「それ大丈夫ですの?」
凛「……非情かな?」
亜子「いやいや、効率重視なら別行動もアリです。何のトラブルか存じませんけども」
そら「そらちん大怪我しちゃったから、治してくれたよ! ばっちり☆」
亜子「治したって、お医者さんですか?」
泉「まさか。回復関連の術式に精通してるだけよ」
亜子「ほうほう、なかなか珍しいものをお持ちで」
泉「それしか取り柄がないとも言われるわね」
亜子「いやいやご謙遜をー、アタシの方も単独だと限界があるくらいの立ち回りしか出来ません」
美紗希「そういえば、さっきの話の続きですけどぉ」
亜子「あ、まだ途中でしたか。といってもご本人が居ますし、どうです?」
凛「……?」
美紗希「アコさんと、リンさんでした? お二方がどういう経緯で出会ったのかを聞こうと思っていましてぇ」
凛「出会いも何も……たまたま目に留まった、かな?」
亜子「だいたい合ってますわ、その通り」
そら「目と目が合うー?」
亜子「本当は別の目的があったんですけどね? 本命の勧誘が失敗したんで手当たり次第、数撃ちまして」
泉「勧誘?」
凛「……そういえば、協力者を探しているんだったね」
亜子「なかなか手間取ってますけどね? ま、聖剣目的の勧誘なんで多少の厳しい判定には目を瞑って」
泉「聖剣……?」
美紗希「ああ、そんな募集も掛かってましたねぇ」
亜子「お、興味あります?」
泉「ええ……私も、同じ目的だから」
亜子「ほう……それはそれは、どっちです? アタシと同じ、相方探してる人かそれともアタシのライバルか」
泉「まだ前者、もしかすると後者になるかもしれない」
そら「なにごと?」
美紗希「あれあれ? 目的が同じなら、このご縁で協力したらどうですかぁ?」
凛(……引き合わせたのは、収穫なのかな?)
亜子「ちょーっと向こうでお話してもいいです?」
凛「……私は別に。元々、絶対の理由があってついて来てもらったわけじゃないし」
泉「目的は、協力者探し。……アコ、私もあなたと少し話がしたい」
亜子「決まりですわ、じゃあまた短い間でしたけどアタシはこれで」
そら「ばいばい!」
凛「気を付けてね。この辺りには、面倒な人が多いから」
美紗希「……面倒な人、それに関しても聞かないといけませんよぉ」
美紗希「さっきも驚きましたが、すでに追われているんですね?」
そら「誰だっけ?」
凛「ミオの方でややこしいのはユウキ。……捕まえたみたいだけどね」
美紗希「もう片方の人は誰? その、ソラさんを怪我させたと言っていたのは」
凛「名前は……キラリ、と名乗っていたはず。……それと同時に、トキコという人の名も聞いた」
そら「すっごいぱわーだった!」
美紗希「トキコ……ふぅん……困りましたぁ」
凛「困るのは私達だけど?」
美紗希「元々あたしはお三方のサポート目的ですよぉ、あなたの危機はあたしの危機ですぅ」
凛「なんでそこまで肩入れするの? あなたも、奪う気?」
美紗希「疑うのはご自由ですが、あたし達はそんな気毛頭ありませんよ」
美紗希「ただ、悪用する人物から経典を守らせていただきますよぉ」
凛(随分皆から信用されてるみたいだけど……やっぱり、怪しい)
美紗希「ですが、ちょっと事情が変わっちゃってぇ」
美紗希「援護が目的でもぉ……相手が多すぎてあたし一人だと、どうにも判断が難しくて」
そら「八方美人?」
凛「八方塞がりね。……そんなに深刻?」
美紗希「いえいえ、四面楚歌程度ですよぉ、まだ斜めに抜けられますぅ」
そら「頭いい!」
凛「……それで、具体的には?」
美紗希「申し訳ありませんけど、一旦離れるという形でぇ」
凛(離れる……? 自分から、身を引くの?)
そら「どうして?」
美紗希「言った通り、あたし一人だと荷が重すぎて無茶しかねないので」
美紗希「ここは一旦こちらの本部にとんぼ返りですぅ、あ、もちろんピンチの時は連絡してくれて構いませんよ?」
――パチッ
美紗希「見たところ、通常の通信機は持っていなさそうなので、差し上げますよぉ」
凛「……どうも」
美紗希「でも重要な情報を通信で迂闊に話さないようにお願いね? いつ盗聴されるか分からないし?」
凛「それは、うん」
美紗希「では、あたしはこれでぇ」
――タッタッタッ
凛「……本当に行ったね」
そら「行っちゃ駄目だった?」
凛「そういう訳じゃないけど……いや、なんでもないよ」
そら「そう? じゃあ一旦中に入ろっ? 他にも人が居るみたいだし☆」
凛「だね。ウヅキも心配だけど……」
――ウィーン
卯月「あっ、リンちゃんおかえり!」
凛「居るじゃん」
卯月「あ、そうだった! 実はかくかくしかじかで――」
真奈美「落ちた先で奴を撒いて、そのまま通路がここへ繋がっていたんだ」
未央「合流完了? おかえり!」
凛「何だ……全員無事だったんだね、心配して損しちゃった」
卯月「そ、損って事はないよね?」
凛「冗談だってば」
卯月「あれから大変だったんだよ? すごい乗り物も運転しちゃったし……」
凛「……本当に何してたの?」
茜「お疲れ様です!! ようやく皆さんは合流ですか!?」
未央「アカネちんは? あと、そらちんもこれからどうする? というか、私達は次どうするの?」
凛「ウヅキ、経典は?」
卯月「持ってるのはミオちゃんだよ」
未央「あ、そうだったそうだった……んー、変化なしかぁ」
卯月「でもさすがに単独行動で新しく何かを得る事はもうないと思う……」
凛「じゃあ、次は私達が決めろって事かな」
そら「ふりーだむ、自由な道?」
卯月「難しいです……選択も困ったけど、道しるべが無さ過ぎるのも困るんだね……」
未央(そういう意味では本当に助かってるね、この経典は)
卯月「……他の皆はこのあと、どうするの?」
凛「私は……ウヅキと一緒に動くから、当然だね」
未央「同じく」
そら「そらちんは特に予定はないよ? 同行する?」
茜「私もミオちゃんについていきますね!!」
真奈美「……この国に、標的が居るなら私は留まるべきだが、この体たらくでは辛いかな」
凛(さっきのイズミさんに頼めばよかったかな……いや、でもアコと二人でどこかに行っちゃったし)
卯月「どうするんですか?」
真奈美「本調子でもないのに、彼女と対面したくはない。……帰らせてもらおうかな」
卯月「じゃあ、それにしましょう!」
そら「それ?」
茜「どれですか?!」
卯月「私も助けてもらいました、恩は返させていただきます」
卯月「マナミさんを、本国までお送りします!」
未央「え? しまむー、ちょっと待って!」
凛「ごめん、会議させて」
――ササッ
未央「理由はあるの?」
卯月「それはもちろん……もちろん、助けてもらった恩もあるけど」
凛「もしかしてアイリの言った選択肢に含まれてる国だったから、って言うつもり?」
卯月「駄目かな?」
凛「駄目じゃないけど、あの五つの中に行くべきではない一国があって……」
卯月「分かってるけど、他に指針も無いし……行ってみようよ。それにさっきも言ったけど、ちゃんと恩もある」
卯月「助けてもらったし、なにより怪我してる状態のまま追われてるなら……危険だよ」
未央「そうだけど……」
真奈美「本心を言うと助力の申し出には感謝しているが、会議しなければならないほどなら別に構わないぞ?」
卯月「大丈夫です! 私達頑張りますから!」
そら「目的決定?」
茜「お手伝いですか! こっちも頑張りますね!」
真奈美「……そこの二人は、それで構わないのか?」
未央「元々対抗案も無いし?」
凛「直感で選んでみるのもいいかな、って……」
真奈美「迷惑を掛けてすまない。案内はさせてもらう、ちゃんと上にも伝えるよ」
真奈美「そのぶん、道中は頼る事になるかもしれないな……すぐに向かうか?」
卯月「またあの人と遭遇する前に、出ましょう!」
未央「えっ、今から!?」
卯月「もちろん!!」
真奈美「そうか……では、出発しようか」
未央「ねー、しぶりん大丈夫かなぁコレ」
凛「たまにはウヅキに舵を任せてみようよ」
未央「転覆しないようにしようね」
凛「そうなったら船が滅びる前に、舵を奪い返すよ」
未央(……しぶりんの実力行使の手前で私がなんとかしなきゃ)
:リサ=マトバ(的場 梨沙)
経典を狙う、とある一団の下っ端戦闘員の一人で、ハルとペアを組んでいる。
なかなか成果が挙げられない二人に配られた強力な補助武器によってミオ、ソラと交戦したものの
無事に鎮圧され、本部へ送り届けられる羽目に。
だがそこで国に離反したチナツに説得され、協力する道を選んだ。
:ハル=ユウキ(結城 晴)
経典を狙う、とある一団の下っ端戦闘員の一人で、リサとペアを組んでいる。
同じく配られた武器により戦果を上げようとするものの鎮圧され、同じく本部送りに、
後にチナツに説得され、リサと同じく複数組織に所属する形に。
:アナスタシア(アナスタシア)
元、魔術協会幹部。現在はその地位を若くに退いている、理由は不明で突然の辞退だったそうだ。
後に世界各地を放浪しているとの目撃証言が寄せられ、行方不明になったわけではないと世間を安心させた。
ひとつ不思議に思われているのが、幹部地位を退いて以降、一度も魔力の行使を目撃されていない点である。
全盛期では同期に右に出るものは居ないとまで言われた腕前であるにも関わらず、だ。
:ナホ=エビハラ(蛯原 菜帆)
チナツによってスカウトされた未来区巨大都市『ウィキ』所属の幹部、ハルナやケイトの同門になる。
ただし同門の彼女二人どころかアキハに対してもたいした交流を持たず、常にチナツに従っている、
それは彼女がこの国を去る前も、去った後もである。
実質、国を去ったチナツが内部に留めたスパイであり、本命もチナツ側である。
:ミサキ=エトウ(衛藤 美紗希)
経典を守るため、という善意の元ウヅキ達を訪問した、国家『キルト』の幹部。
アリサの部下として国家設立当初から共に歩んだ仲で、根っからの善人かつ実力者である。
やたらと手持ちの武器をおおよそ戦闘には向かない方向へカスタマイズするが、
本人談では使いやすいとのこと、投げナイフだろうが一本一本丁寧に装飾する。
:キラリ=モロボシ(諸星 きらり)
現在、最も好戦的と言われている新進気鋭の一団の最前線で戦う戦闘員のうちの一人。
ごく一般の人間族でありながら、規格外の力を宿している。
なにより不可思議なのは、その破壊力が強化術式の影響ではなく生身の肉体から繰り出されている事であり、
過去を振り返っても例が無い、極めて不気味な存在である。
:マナミ=キバ(木場 真奈美)
アンズ率いる巨大国家『キュズム』所属の戦闘員。たかが戦闘員といえど、その実力は破格である。
身に纏うには窮屈な重装備で最前線を指揮する、本来なら比類なき活躍をするはずであったが、
衝突した相手がこれまた同じく規格外の人物であるキラリだったため、苦戦を余儀なくされている。
また、キラリ側も自身とまともに交戦できた数少ない人物として、やたらと目をつけられて追われている。
:ノノ(森久保 乃々)
森の中で静かに暮らしていた、ごく普通の獣人族であったが、極端に騒ぎを嫌う為に独学で消音魔法を取得、
平穏ライフを堪能していたがある日突然、一夜にして森が大規模な火災に見舞われて住処を追われる。
騒ぎを避けながら森を放浪している途中、特別警戒中の国家『ウィキ』に接近、
国に敵対する脅威と誤解されて半ば強引に入国させられる。
:イズミ=オオイシ(大石 泉)
- NO DATA -
:チエリ(緒方 智絵里)
- NO DATA -
---------- * ----------
前回、話が一区切り付いたので、また分岐したいと思います。
いつも通り、選択肢は三つで中心人物がCuCoPaで分かれています。
①、②、③のいずれかで、最も多く票が入ったルートで進行します、同数の場合は先に最後の票が入っていた方が優先されます。
番号でお気軽にどうぞ、安価スレではありませんが一種の作者側の娯楽として取り入れている選択肢制度です、
ルートごとの登場人物の予想でもしながらレスと番号をどうぞ。
選択肢の内容は以下です。
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Side Ep.32 隠された才能
「ぜひ紹介したい知人……ですか?」
如何にも! 我と共に切磋琢磨、艱難辛苦、呉越同舟!
学園を並び歩いた盟友よ!
「途中から意味が間違っている気がしますが……とにかく、お友達ですか?」
「……ですが、既にあなたを引き抜いている時点で、私にはこれ以上の人材は不要です」
なんと……同じ環境、境遇で競り合った仲、是非に我が師の眼前に迎えたい!
……なにより、特異級のみが蔓延るこの地に私が馴染めぬ。
「知らない間にプレッシャー、感じてた?」
(確かに……ここは協会の真ん中、同じような力量の者は居ない。萎縮している?)
(とはいえ、同じ境遇の友人となると……素のランコと同等?)
無理にとは……この地に席を置ける位のみで私は恵まれている、
今更求めるものも――
「いえ……考えておきましょう、というより会いに行きましょう」
真か! 直ぐに地上界へ舞い降りる儀式を行う!
必ずや我が師の眼鏡に適う、幸恵まれた魔術師をご覧に入れよう!
――タタタッ
「今からとは行っていませんが……もう準備に向かいましたね、やはり一人では厳しいのでしょうか」
「……ただ、興味はある。あの競争率の激しい魔術学校で、努力家にも関わらず下層に位置している人材」
(入学できる程の応用力、実力がある……しかしその成績という事は、まだ隠された才能があるかもしれない)
Side Ep.33 偽られた才能
武器の扱い、接近戦の心得、遠距離戦の対処、基礎魔術、応用魔術……
全てにおいて合格点、満を持してわたしは送り出されましたぁ!
優勝間違いなしとか、絶対に勝てるとか、褒められすぎて恥ずかしい点もありますけどぉ、
それよりも前にわたしが解決しなきゃならない問題がひとつ。
最初に才能を見出され、スカウトされて訪れた大きな国……
そこで修行に明け暮れて、ようやく送り出された今日ですけど、わたしには知り合いが居ません。
もっと言うなら、この国から外に出るのが久しぶり。
だから、二人以上でなきゃ出場できないこの大会、このままだと勝利は確実と言われながら
エントリーできずに不戦敗という事になってしまいます、それはいけませんっ!
というわけで……あてもなくフラフラと、迫る〆切に追われながら冒険してまぁす。
誰かわたしと一緒に組んでくれる人は居ませんかぁ……?
Side Ep.34 溢れ返る才能
はーいこちらアンズだよー、そっちどんな感じ?
うん、うん……あ、もう向かってるの? てことは……え?
ふーん……そういう方法で? 賢いというか、期待以上というか、よく頑張ったね、ソレ。
――コトン
ん……ああ、ごめんごめん、食事の時間、静かに食べたいから切っていい?
報告? そんなの後で良いって、切羽詰ってないし…………ああもう分かった分かった、
じゃあ適当にトモに伝えといてよ、後で聞くから……切るよ? 切っていい? いいや、切る、ぷちっ。
さーってと……ありゃ、もう帰っちゃった?
料理運ぶだけがお仕事じゃないぞー、アンズの為にお話してくれてもいいんだよ?
……ダメだ、今日は本当に帰ってる。せっかくマナミからの通信を切り上げたのに、残念。
かといってかけ直さないけどね、私は孤独にグルメを嗜むのだー、いただきまーす。
――…………
いつも通り、おいしい。いったいどこからこんな食材手に入れてくるんだか、
それとも食材はちゃんと用意しろって命令したから? したっけ? 覚えてない、どうでもいいや、
とにかくうまい飯と布団と話し相手が居たらアンズは満足します、ノット戦争、でも逃げられない、
じゃあ早く終わらせたいんだけどね、相手が強いとしょうがないや…………
……あれ、メモが挟まってる、気がつかなかった。
どれどれ、わざわざ通信中だったから書いて残してたのか、細かいねぇ、パサっと。
『夜食は大人数と聞いたので、早く準備します』
なるほど、だから早く帰ってたのね。
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①③①②①①、という事で①のストーリーで進行します。
グラブル要素は、混ぜこんでも違和感は無さそうですが既に該当者三人が登場してしまっていた……惜しい。
元からプレイしていたので余裕を持って全アイテムを交換して強化もできました、凛強い。
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ランコの提案? により、同じ魔術学校からもう一名の引き抜きを試みる。
まだ杖を入手する前、他者に実力で劣っていた当時の親友が居るとのこと。
ヤスハはその提案を受ける、もちろん彼女を思ってもあるが、
仮にも在学する条件が厳しい学校で、陽の目を浴びない努力家は大きな才能を持っている事が多い。
その才能の使い方を、知らないだけかもしれない。
自身の知識を授ける相手は多い方がいい、才能は発掘されるべきだ、
その考えの下、ランコとヤスハの二人は再び未来区『ウィキ』を訪れる。
泰葉「それほど間を空けたつもりはありませんが……随分と変わりましたか?」
蘭子「なにゆえ、溢れ返るこの雑踏」
泰葉「確かに……人が多いのは、何か心当たりがありますか? 例えば、年間行事がある等」
蘭子「その様な催しが決行されるとは、この耳に入った事が無いゆえ、存在せぬかと」
泰葉「…………」
泰葉(ただ人が多いだけなら、まだ分かる……しかしそうではない)
蘭子「……?」
泰葉「ところどころ、一般人ではない気配を感じます。……比較的強い、程度に留まりますが」
蘭子「何と、まさか他国による水面下の侵略が?」
泰葉「国を相手取るには粗末すぎます、恐らく違う」
泰葉「しかしそうなると……賞金首の目撃証言でもあったのでしょうか?」
蘭子「そう言えば……この国には妖の殺人鬼と呼ばれる賞金首が居るとの伝聞が」
泰葉「なるほど、色々大変な国で……気をつけましょう」
――スタスタ
泰葉「……あなたは」
春菜「おやおや、お久しぶりですが眼鏡をどうぞ」
泰葉「それよりお聞きしたい事が、構いませんか?」
春菜「連れないですね、受け取ってくれてもいいのでは? ……はいはい、そんな事よりなんですか?」
蘭子「この多すぎる雑踏は何事か」
春菜「ん? 言われてみれば多いですが、それが何か?」
泰葉「単純に気になっただけです」
春菜「ならば気のせいです、偶然ですよ」
蘭子「変わりなき平和?」
春菜「いたって平和、何も起きていませんよ。ではこちらの質問、あなた方は何故ここへ?」
泰葉「それは」
蘭子「それは我が盟友を師と巡り合わせるために降臨した!」
・
・・
・・・
――カサッ
??「……今日も大丈夫、問題あるような成績じゃないみたいです」
――ヒソヒソ……
??「…………」
??(ランコちゃんが居なくなってから、少し寂しいかな)
??「……気分転換に、少し散歩しましょう」
――スタスタ
――ヒソヒソ……
??(私を見ている、視線が多い。でもそれは喜ぶべき注目じゃなくて)
??(二人なら頑張っていけたけど、やっぱり一人じゃ心細いですね……)
??「……あっ」
――キラッ
??「落し物……じゃない、小さな魔石……こんなところにどうして」
――スッ……
??(どうしよう、届けた方がいいかな――)
――ヒュンッ
??「……えっ?」
――パシッ
泰葉「……道を歩く人に石を投げるなんて、ここの風紀も乱れていますね」
??「石……私に?」
泰葉「その物陰に居た生徒が投げましたね? 待ちなさ……」
――ガシッ
??「いいんです、慣れてるので……」
泰葉「……いい訳ないでしょう、立派な傷害事件です。こんな石ころでも、当たれば怪我をします」
??「大丈夫です、それくらいで怪我なんてしません」
泰葉「そういう問題じゃ……現に、まったく反応できていなかったじゃないですか、私が止めなきゃ――」
??「止めてくれた、じゃないですか?」
泰葉「それは、そうですが……こんなもの、偶然です。とにかく教員に伝えてきます、あなたの名前は?」
??「伝える? それは困ります、これ以上ひどくなるような事は」
泰葉「駄目です、そんな考えがあるからこの流れは止まらないんですよ」
??「そもそも……この学校の人じゃないですよね?」
泰葉「臨時講師をした事はありますから大丈夫です。……今の生徒の名前も調べなければ」
――ガシッ
泰葉「……あくまで止めますか?」
??「はい。そんなの、無駄な労力です。私は大丈夫なので」
泰葉「…………いつからですか?」
??「入学して数ヶ月が経った頃から、でも被害は無いので」
泰葉「そんな訳ないでしょう、現に今だって」
??「ええ、ですが……運良く、深刻な被害にはならないんですよ」
??「……だからこそ、どんどんエスカレートはしますけどね。それでも、私には被害は及ばないんです」
泰葉「大丈夫には思えませんが。……とにかく詳しい話を――」
――ザッ
蘭子「……!」
??「あれ……?」
泰葉「ああ、ランコさんですか。今少し待ってもらってもいいですか? これからやる事が出来たので」
蘭子「……久しいな、我が盟友!」
??「あれれ? しばらく学校を離れるって……え、じゃあもしかしてランコちゃんの言ってた……」
蘭子「その通り、彼女こそ我が師であり救世主、ヤスハ=オカザキぞ!」
泰葉「盟友……もしかして、あなたがランコの言ってた友達?」
??「それじゃあ、あなたがランコちゃんが言ってた師匠様?」
泰葉「師匠……そこまでの器は未だに持っていませんが、そうは呼ばれています」
??「そんな方がどうしてここに?」
泰葉「……単刀直入に。ランコさんから盟友、つまりあなたを……一緒に引き取って欲しいとお願いされて」
蘭子「共に参ろう!」
??「私を……ですか?」
泰葉「ただ、少しは品定めさせてもらいますが……」
泰葉(この人が……確かに、大きな力も感じない、いたって平凡な……)
??「一緒に行っていいんですか? それは、是非ともお願いしたいです……!」
泰葉「まぁお待ちください、まだ決定事項ではありません」
蘭子「……駄目か?」
泰葉「そういうわけでもありませんが……ランコさん、在学中に他者から嫌がらせを受けた事は?」
蘭子「それは……」
??「大丈夫です、私が一緒なら被害は受けません」
蘭子「う、うむ……」
泰葉(被害には遭遇していますが、実害は出ていない……?)
泰葉(それは、彼女が並外れた力で防いでいる。にしては……彼女から、何の大きな力も感じない、何故?)
蘭子「とにかく、ここは些か同類の目が集う、居城へ参ろう!」
??「そうですね、立ち話もなんですから……ヤスハさんも、どうぞ」
泰葉「ええ……詳しい話はそこで。その前に、ひとつ構いませんか?」
??「はい?」
泰葉「あなたのお名前は……?」
??「私ですか? 私の名前はカコです、カコ=タカフジと申します」
・
・・
・・・
――スタスタ
蘭子「して、共に活気溢れる路へ舞い降りたが」
茄子「あまり外に出ないので、久しぶりです。ランコちゃんと一緒となると、初めてかも?」
蘭子「ならば私が光を差し導かなければなるまい、我に続け!」
茄子「あ、でもここで走り回ると……」
――ドンッ
蘭子「きゃうっ」
茄子「人とぶつかる……ちょっと遅かった?」
蘭子「不覚っ……幼子よ怪我は無い……か?」
美玲「誰が幼子だっ! 引っ掻くぞ……って、オマエは」
蘭子「ミレイちゃん?」
茄子「知り合いですか? 偶然ですね」
美玲「あの小っちゃい先生と一緒に協会とかいう場所に行ったんじゃ?」
蘭子「暫しの再臨よ」
美玲「……えっと、相変わらず何て言ってるか分かんないぞ」
茄子「私を一緒に連れて行ってくれるかもしれないと、ヤスハさんに説得してくれたらしいんです」
美玲「誰だ? ウチはミレイだけど」
茄子「カコといいます、ランコちゃんのお友達です」
美玲「友達? でもあの事件の時は……」
茄子「事件?」
蘭子「あの騒動は、事故である。……との形で、ヤスハさんとハルナさんがどうにか」
美玲「そうだったの?」
美玲「まぁ、ウチは難しい事分からないからさ、とにかくいろいろあって広まってないんだな」
蘭子「真相は当人だけが知る……!」
茄子「……?」
美玲「それで今は?」
蘭子「一時の休暇よ、そして先を繰り返す、我が盟友を城下に招き入れようと」
茄子「ヤスハさんに認められたら、ご一緒させていただく予定です♪」
美玲「ああ、さっき言ってたなー。じゃあ今は散歩か、ウチも一緒するぞ」
蘭子「喜んで!」
美玲「そうと決まれば、ちょうど今からウチが行こうとしてた店があってな!」
茄子「あ、そんなに走ると……」
――タッタッタッ
蘭子「危ない! ぶつかる!」
美玲「おおっ……とっ!」
――サッ
茄子「避けた?」
蘭子「さすが、人並み外れた反応速度よ!」
美玲「ウチ人間族じゃないけど」
蘭子「些細な事よ」
茄子「お店というのは?」
美玲「おお、そうだった、美味しいデザートの店! 最近出店の通りに来た人でさ」
蘭子「甘美なる宝石!」
茄子「それは楽しみですね」
美玲「普段はそんなに混んでないこの通りにも人が溢れてるから、早く行かないと……」
蘭子「時を喰らう蛇に巻き込まれる……!」
茄子「長蛇の列、ですか?」
美玲「ここまで人が多いと、知ってる顔に会ったりしてな! ウチとオマエみたいに!」
――……スッ
美玲「…………んっ……?」
蘭子「む? 忘れ物か?」
茄子「早く行かないと駄目でしたら、お金は私が出せますが」
蘭子「財を封ずる憑代……」
美玲「いや……今の、まさか?」
――タタッ
茄子「あっ、どこに行くんですか?」
蘭子「近道かもしれぬ! 私達も続くべき?」
茄子「あっちは出店のある方向じゃないですけど、とにかく追いかけましょうか……?」
美玲(一瞬だった、服装も違った、けど……もしかすると……!)
・
・・
・・・
輝子「人、多い……慣れてない、ボッチだったから、フヒ」
唯「だからそんな暗くなっちゃったの? もっと明るい所出よ?」
輝子「く、暗いのは、後からかな」
唯「ふーん? で、ちなったん遅ーい、ナホさんに会いに行くだけじゃなかったのー?」
輝子「何か、失敗……キノコもよく見ておかないと、気づかない時も……」
唯「そう! ちなったんがもしかして危ない目にあってるかもしれない! だからゆいは乗り込んできた!」
輝子「潜伏……!」
唯「あ、そうだね、ゆいたちはもう国所属じゃないから、元幹部さんに見つからないようにしなきゃ」
唯「潜伏大事! でもこの通りの警備はナホさん担当って聞いてるし、たぶん大丈夫!」
輝子「安全? じゃ、じゃあ安心だな……あ、私は関係ないのか」
唯「んー、そういえばそっか? じゃあゆいだけ気をつけるね」
輝子「私はただの通行人、フヒ」
――ダダダダッ
唯「ん?」
――ザザッ
輝子「おっ……どちら様……」
――クルッ
美玲「…………!」
唯「…………?」
輝子「知り合い……? ど、どうも……私は――」
――ガキィンッ!!
美玲「くうッ!!」
唯「っう!?」
輝子「フヒッ!?」
――ズザザザッ!
蘭子「何事!?」
茄子「ミレイちゃん!」
輝子「あっ、どうしよう……」
蘭子「白昼の騒乱、起源は何刻!」
茄子「止めた方が……」
――ザッ!
美玲「止めないで! ウチは因縁がある、よくもその顔をウチが居る場所に出せたなッ!!」
――ギィン!
唯「まだ居着いてたんだ、驚いた……邪魔しないでよ」
美玲「このっ……! ここに何しに来た!」
唯「何しに来たって、帰ってくるくらい良いでしょ?」
美玲「ここにオマエが帰ってくる場所なんて用意してない! アキハが言ってたぞ!」
唯「アキハじゃなくて、ノアがでしょっ!」
――ヒュンッ!
美玲「くっ!」
唯「避けるね? ゆいの攻撃、止められないのは覚えてたんだ、獣のくせに」
美玲(あの細剣の貫通力は脅威……ただ、避ける事は出来る!)
唯「目立っちゃうけど仕方ないよね? 行くよっ!」
――ヒュッ
美玲「来た……! 今だッ!」
唯「……避けた?」
――キンッ!
美玲「防がれ……もう突いた剣を戻して!」
唯「届かない届かない、突くのが早かったら戻るのも早いんだよ?」
唯「そんでもって……!」
――ザシュッ!
美玲「うぁっ!?」
唯「もう一度攻撃するまでも早い……うん?」
蘭子「灼熱の太陽ッ!」
――ゴオッ!
唯「あっ、ちょっ、ゆいに魔法は駄目っ! 熱っ!」
蘭子「効果は抜群ね!」
唯「くぅ……普段はちなったんが下調べして相性の悪いところの派遣はパスしてくれるのに……」
美玲「今だ! 隙あり!」
――ドスッ
唯「あぐっ! ……このっ!」
美玲「!?」
――バッ
唯「避けたね……ちゃんと斬ったのに、まだ動けるんだ、そんなに軽快に」
美玲「ウチは頑丈だからな……!」
蘭子「何者……ミレイ、無事か!」
茄子「怪我が……僅かですが、回復系は使えるので……」
唯「取り巻きが前より増えたね……さて、どうしよっか?」
蘭子「事の真相は分からぬ……だが!」
茄子「敵対しているようなら……私達も」
唯「どうするもこうするもないね、全員叩っ斬ってあげる!」
美玲「卑怯なんて言わせないぞ……これでもウチの気は済まないッ!」
茄子(過去にいったい何が……?)
蘭子(ここまで嫌うという事は、よっぽどの事があったはず……じゃあ、遠慮はしない!)
蘭子「新たな術式の初舞台よ! さぁ……!」
唯「来る……!」
蘭子「…………」
唯「……?」
蘭子「闇の力が足りぬ、暫し待たれよ……!」
美玲「なんだよソレっ!」
唯「身構えて損したよっ……と!」
――ヒュンッ!
茄子「危ないっ!」
唯「反応いいね? でもさっき言った通り、一度避けた程度なら!」
――ガッ ヒュンッ!
茄子「きゃっ!」
唯「あっ、ちょっと! 突然転ばれると当たらないじゃん!」
美玲「……! 今だ! たああっ!」
――キィンッ!
唯「あっ!?」
美玲「そんな軽い武器じゃウチの攻撃は止められないぞ! 覚悟!」
唯(やば……!)
美玲「皆のカタキっ!」
――ザクッ!
唯「ぎっ!? ……っう!」
唯(まだ浅い、けど反撃する手段が……とにかくこの反動で距離を取らないと――)
――ドゴッ!
唯「あぐぅ!?」
蘭子「簡単に逃がしはせぬ! 背後から迫る、荒れ狂う地龍!」
美玲「前にもちょっと違う形のを見たぞ? なんにせよ、これでもう一回……!」
唯(後ろから押されてっ……!)
――ヒュッ
輝子「危ない……!」
美玲「う、うわっ!?」
――ガッ ザンッ!
輝子「っう!」
唯「ショーコちゃん!」
茄子「お仲間の人が……!」
美玲「な、なんだ! 邪魔するのかッ!」
輝子「フヒ……邪魔する……初めての親友だから……」
唯「危ないから退いてて……! ゆいは大丈夫だから!」
蘭子「ど、どうすればいい?」
美玲「関係ない人も来ちゃったけど……これくらいでウチは止まらないぞ……」
美玲「そいつを庇うなら、容赦しないぞ! 今ならまだ、これ以上は手出ししないから、どけよっ!」
輝子「……こ、断る」
美玲「こ、この……」
唯「…………!」
――ダッ
蘭子「逃走を試みるか!」
唯「違うよ! 目的は、弾かれた剣を……!」
――ガンッ!
唯「痛っ! か、壁……!?」
茄子「薄くても、結界は結界です……!」
美玲「いいぞ! ……このっ、通してくれっ!」
輝子「立ち入り禁止……駄目……」
唯「せっかく止めてくれてるのに、この壁……邪魔だよっ!」
――ガンッ! ピキッ
唯「……あれ? 脆い?」
茄子「く……!」
唯「これなら、えいっ!」
――パリンッ
蘭子「砕けた!?」
唯「弱い結界だね! よし、ここから反げ――」
――パァンッ!
唯「あっ……!?」
茄子「なら、その剣を遠くに飛ばします……!」
――ザクッ!
唯「壁に刺さっ……ちょ、高いって……!」
美玲「よし! これでもう反撃の心配は無い! ……引っ捕えてやる、皆のところに引きずり出す!」
美玲「ただその前に、ウチ個人の怒りはぶつけさせてもらうからなっ!」
唯「こ、来ないで……!」
美玲「来ないで? ……来てくれとも頼んでいないウチの集落を、勝手に落としたのは誰だよっ……!」
――ガッ
美玲「…………」
輝子「駄目……」
美玲「離せっ! オマエが知らないみたいだから言うけど、あいつはウチの住む場所を滅ぼした奴なんだよっ!」
輝子「そうなの……? ユイ、本当?」
唯「…………」
美玲「だからあいつは悪い奴なんだよっ!」
輝子「でも……私を気味悪がらずに、接してくれた親友……これ以上、駄目……」
美玲「う……で、でもウチだって……ええいっ!」
――ドンッ
輝子「あうっ」
蘭子「ミレイちゃん!」
美玲「悪いとは思うけど、ウチだって分かってやってるんだ! ウチを止めたきゃオマエも力づくで止めろよっ!」
輝子「フヒ……」
――ガッ
美玲「……ウチの肩を、まだ掴んでるって事は……その気なんだな? でも……これくらいまた跳ね除けて――」
――グッ……
美玲(…………あれ?)
――グッ グッ……!
美玲「え、あれ……は、離せよっ!」
茄子「様子が変です……?」
蘭子「何事か?」
――ミシッ
美玲「あぐぅ!?」
輝子「フヒヒ……力づくで?」
美玲(な、何だっ!? さっきまでこんな力強く無かった……!)
唯「……ショーコちゃん?」
輝子「言い出したのはそっちだからな? なぁ親友」
唯「え? ……そ、そうだよ! ゆい達は何も言ってない!」
輝子「そういう事なら仕方ないな! 今から絶賛正当防衛タァァイムゥ!!」
――ガッ
美玲「うわぁっ!?」
輝子「引っかき傷のお返しだ! お仲間にプレゼント・フォー・ユゥゥゥウッ!!」
――ゴオッ!
蘭子「なっ!? 片手で――」
茄子「ミレイちゃんが……!」
――ドンッ
美玲「うぎゃっ!」
茄子「くっ……!」
蘭子「投げ飛ばされて……大丈夫か!?」
美玲「なんとか……止めてくれたから――」
――ジャラッ
美玲「ん? なんだこれ――」
輝子「フィィィッシュ!!」
――グンッ
美玲「うあっ!?」
蘭子「ミレイちゃん!」
美玲(なんだこれ! 鎖!? 引っ張られ……!)
輝子「ヘイッ!」
――ドンッ!
美玲「あぐぅ!?」
輝子「これが本当の足蹴にする、フヒ」
唯「ショーコちゃんナイス! これで面倒なのは捕らえた……! 今のうち剣を!」
蘭子「……! 盟友! もう一度あの剣を吹き飛ばし!」
茄子「距離が離れてて無理です……!」
唯「鎖借りるよ、よいしょ」
輝子「ウォールクライミング……届くか?」
唯「大丈夫、それよりちゃんと抑えててね、暴れると面倒だから」
輝子「も、問題ない……足、全体重……」
――ギリッ
美玲(両手が鎖に巻き付いてて……力が込めにくく……)
茄子「ランコちゃん……助けないと……!」
蘭子「し、しかし、あれほど接近した状態では……」
美玲「ウチは巻き込んでもいいから! こいつらを逃がしちゃ、また悪い事する!」
唯「はい時間切れ! 形勢逆転!」
――ドスッ
美玲「うっ……」
輝子「お、危ない……もうちょっとで地面じゃなくて顔に……」
唯「刺さない刺さない、でも~? 態度次第じゃ遠慮なく手が滑る準備はあるよ?」
蘭子「く……ミレイを離せ!」
唯「正直なところ、今回は完全にただ絡まれただけだから離してもいいんだけどね? ちなったんも居ないし……」
唯「ただ、これからも絡んでくる相手を素直に離すのもねぇ?」
輝子「また会うたび喧嘩……それは、困るな……」
茄子(これは、話し合いが長く続くほどこっちが不利になります……どうにか、出来ませんか?)
蘭子(でも……あの鎖で抑えてる人を単独で打ち抜く精密さは私には……)
輝子「シャラップ! 黙って突っ立ってればいいんだよォ!」
唯「というよりそれ以外方法が無いんだよねー、こういう場合どうすればいいと思う?」
美玲「これはウチの問題だ……! あの二人は関係ないだろっ!」
唯「出た出た常套句、そんなの通るわけないじゃん? と思ったけど、今回は本当に関係ないし?」
輝子「え、じゃあ突っ立ってなくていいのか……? 解放する?」
唯「そうでもなくて……ん?」
――ダッ
蘭子「一か八か……いでよ灼熱の太よ――」
輝子「ストォップ!」
――ビュンッ バシィッ!
蘭子「痛ぅ!?」
輝子「落ちてた鎖だけど使い易いな……ジャストフィット!」
――カランッ
唯「……んー?」
蘭子「あっ! 返して!」
唯「なんだか豪華な杖、それに……ゆいは魔法よくわかんないけど、それでも何かを感じる」
輝子「お、お宝……?」
美玲(この杖は確か……!)
美玲「止めろ! ウチだけで十分なんだろ!?」
唯「急に焦ってるねー、もしかして本当に凄いお宝だったり? じゃあ……お詫びとしてこれ、貰っていこうかな」
蘭子「それはヤスハさんから授かった大切な――」
唯「うるさいよっ!」
――ゲシッ
蘭子「きゃう!?」
茄子「ランコちゃん!」
唯「杖を持たない魔法使いは怖くないよ。じゃあショーコちゃん、そいつ適当にしといて」
輝子「オッケェイ!」
――ブンッ!
美玲「うわぁ!?」
茄子「あ、危ない……!」
――ガシッ
美玲「っう! あ、ありがとう、でもあの杖が……!」
唯「ちなったん、褒めてくれるかな?」
輝子「お値打ち品だと……いいな」
茄子「くっ……ま、待ってください!」
唯「ん? ……何? せっかく怪我してないのに、歯向かう気?」
輝子「今なら二対一だな……フヒ、形勢逆転……」
茄子「それでも……それはランコちゃんの大切なものです……!」
蘭子「カコちゃん……!」
唯「最初の武器弾き飛ばしは上手くいったみたいだけど、結界の感じから……弱そうだね、君」
茄子「…………」
唯「それでも、向かってくる?」
茄子「お友達の為……です!」
輝子「フヒ、分かる」
唯「いい話だね、でも大切な人を守るには力が伴ってないと駄目なんだよ、じゃないとっ!」
――ダンッ!
茄子(近づい――)
――ピタッ
茄子「う……っ!」
唯「見えてた? そもそも、目を瞑っちゃ見えてないでしょ?」
――ガッ
茄子「あっ!」
唯「ほいっと、地面にうつ伏せ。……どう? これでもまだ抵抗する?」
蘭子「盟友!」
茄子「まだ、ですっ!」
茄子(ここまで近ければ、当たる!)
唯「……!」
――ボウッ!
唯「おーっと……火の玉? でも、思ってたよりも小さいね、簡単に避けれたよ」
茄子「そんな……!」
唯「それで、抵抗を続けたって事は……もう何されても文句言えな――」
――ボッ
輝子「ヒッ!? 熱っ……!」
蘭子「炎が!」
美玲「チャンスだ! 今のうちにっ!」
――ダッ
唯「っ! ショーコちゃん!」
美玲「遅いぞっ!」
輝子「フヒッ!? 視界に靴が」
――ドゴッ!
輝子「おうっ!?」
美玲「返せっ! それはウチらのものだ!」
蘭子(元は私のでもないけどっ……!)
――パシッ
美玲「よし、取り返した――」
唯「させないよ!」
――キンッ!
美玲「いっ! ……ま、また!」
茄子(杖が飛んだ方向は……!)
輝子「痛た……ん、杖が近くに……」
唯「ショーコちゃん! それ取って! そんでもってさっさと退散するよ!」
輝子「お? わ、分かった……」
蘭子「盗られる……!」
――パキッ
輝子「お……あれ、足……フヒッ!?」
美玲「凍ってる!? まさか……」
蘭子「カコさん!」
茄子「足止めです……!」
輝子「で、でもこれくらいなら……力を込めれば……」
――パリンッ!
美玲「もう壊された……くっ! まだウチが届かない距離……!」
唯「所詮弱い魔法ならゆい達の敵じゃないよ!」
茄子「っ……やっぱり、間に合わない……!」
輝子「もらった……!」
――ガッ
輝子「……? ……!? か、壁……?」
唯「どうしたの!? 早くその杖を!」
輝子「いや、壁があって……手が届かない……」
唯「壁!? またそいつの結界? なら叩けば壊れるよ!」
輝子「叩いて……壊れそうにない……硬い」
唯「そんな強度……!? まだそんな奥の手を!」
美玲「オマエが張ったのか?」
蘭子「違う……私は杖がないとこんな術は使えない……」
茄子「じゃあ誰が……」
――ザッ
泰葉「ギリギリでしたが……何事ですか? そして、どなたですか?」
唯「……誰なの?」
泰葉「その杖の所有者は、私の教え子です。……あなた方は?」
唯「さぁ、誰だと思ってる?」
美玲「あっ! あの時の!? そうか、一緒に行ってたんだったな!」
蘭子「ヤスハさん! その人はミレイちゃんの敵です!」
泰葉「……この杖に目を?」
唯「そうじゃないけど、成り行きでね? ショーコちゃん準備は?」
輝子「オッケェイ! レッツバインドォ!」
――ジャラララッ
泰葉「……!」
茄子「腕に鎖が……!」
輝子「そんな離れてないで、こっちにカモォォン!!」
泰葉「ぐっ!?」
美玲「引っ張られて……!」
唯「あの変な魔法使いさんの師匠? なら、厄介な事をされる前に接近戦!」
輝子「ヒャーッハァ! チェーンデスマッチィ!」
泰葉「っ……とにかく敵意がある事は十二分に把握しました」
蘭子「ヤスハさん!」
輝子「その綺麗な身体にシュートォ!」
――ドスッ!
唯「……えっ?」
輝子「おっ……え、あれっ? 痛、ヒッ?」
泰葉「職業柄、日の目は浴びませんが……別に格闘戦が苦手な訳ではありません……ふっ!」
――グイッ!
輝子「オァーッ!」
唯「ショーコちゃん!?」
泰葉「繋がっているという事は、こちらが引っ張っても構わないという事ですね?」
蘭子「……今のうちに!」
――パシッ
蘭子「フッ! 黒の魔術師の再誕!」
唯「取り返された……なら、せめて……!」
泰葉「……!」
――バキィン!
輝子「わっ」
泰葉「鎖が切断され……」
唯「やっぱりこの国、ゆいと相性悪いよ。そうと分かれば……行くよ! ショーコちゃん!」
輝子「撤退だな……フヒ、あれ? 元々何しに来たんだっけ……」
美玲「待てっ! ここで会ったが最期にしてやる! 逃がすかっ!」
唯「待たないよ! でもゆい達もずっと追われるのは嫌いだから、その内決着付けに戻ってくるから!」
輝子「この勝負預けた、なんちゃって……フヒ」
――ダダッ
・
・・
・・・
蘭子「……ふぅ、なんとか我が神器を失わずに済んだか」
美玲「けど、アイツ等は逃げちゃったか……くそっ、頻繁にココを出入りしてるともっと早く知っておけば!」
泰葉「知っておけば、一人で戦っていましたか?」
美玲「……実力差は分かってる、けどウチは」
泰葉「分かってるなら無理はしちゃ駄目です、たまたま間に合ったからよかったものの……あなたもです」
蘭子「しかし……」
泰葉「行動を起こす事が悪いとは言いませんが、最初から衝突する手段を選んだのは無茶です」
蘭子「すまぬ……」
泰葉「……あなたもです」
茄子「でも、私だって……他に頼れる人も居ません。友達が危機なら、助けます」
泰葉「…………」
泰葉(……問題点は、実力不足なだけではない)
茄子「私は大丈夫です、今までもそうだったので……それに今回だって、こうして無事に――」
泰葉「何がですか?」
茄子「え? ……ほら、こうして三人とも無事で」
泰葉「何をした結果、全員が無事だったかと思いますか?」
美玲「全員協力できたから……ま、まぁ火種はウチみたいなもんだけど」
蘭子「共に協力したからこそ、難敵を退けたのだ!」
泰葉「……違いますよ」
茄子「違う……?」
泰葉「はっきり言いますが……あの二人に、あなた達はまるで対抗出来ていません」
泰葉「率直に、三人が無事に被害なく事が済んだのは……私が偶然この場に間に合ったからです、驕りではなく」
美玲「はぁ? ……確かにギリギリだったけど、抵抗は出来てたろっ!?」
泰葉「ここに到着した段階で、相手にまるで消耗の気は見えませんでした、方やあなた達は……」
泰葉「武器を奪われ、攻撃は大したダメージを与えられず、挙句回避され」
茄子「ですけど……その時間稼ぎが功を奏したからヤスハさんが――」
泰葉「…………はぁ。……なるほど、分かりました」
蘭子「む?」
泰葉「カコさん……あなたは、確かに問題児のようです」
茄子「えっ……?」
蘭子「な、どうして! 現に盟友は我より遥かに多くの式を用いてその才を――」
泰葉「少し黙ってください、それにその点に関しては確かに認めますが……それは基礎の基礎、当然のことです」
泰葉「もっと言うと、平均を大きく下回るあなたより、彼女のが平均に近いだけで、優れているわけではありません」
蘭子「く……しかし!」
泰葉「あなたの長所は、その幸運です」
美玲「運? そんなもの、測れるものでもないだろ?」
泰葉「そう、その基準が無い“何か”があなたの才能」
蘭子「才能ならば文句はないだろう!」
泰葉「長所ですが、同時に短所でもあります。……その幸運に頼りすぎている」
泰葉「努力の方向も、まずその幸運を前提に考えているせいで、正しい道は一切歩めていません」
茄子「私はそんな……」
泰葉「広く浅く……一つ一つはまるで基準に到達していません、が、そのどれもが最低限、状況に合わせて行使……」
泰葉「その結果、基準に満たない式でも効果を発揮する」
蘭子「なら問題は……」
泰葉「無い、というはずがありません。自身の魔法が結果を好転させているわけじゃないんですから」
泰葉「行使した後に起きる“都合のいい事”に頼っているだけです。……今回の場合、私の到着ですね」
茄子「そんなの……頼っていない、といえば嘘にはなりますけど、ちゃんと努力はしています、それは嘘じゃないです!」
泰葉「……だからこそ余計に、質が悪い……この質は、あなたのせいではありませんが」
蘭子「何だ……結局、盟友に非はないのか?」
泰葉「難しいところです……あと一歩、ですね」
茄子「……お願いします、もう直球で言ってください。私は覚悟は出来ています」
泰葉「言われなくても、言うつもりですよ。……まず、努力は認めます、しかしその努力は、まだ正確には実っていない」
泰葉「実る……きちんと正規の成果を得る前に、一定の報酬を受けてしまう」
美玲「持ち前の運がか?」
泰葉「人からすれば……面白くないでしょうね。格下のあなたが、どういうわけか偶然のみで周囲と競り合っている」
茄子「私……知らない間に皆にそんな想いを……?」
蘭子「しかしこれは不可抗力だ! 悪意があったわけでは無い!」
美玲「けどさ……相手に悪意がなくても、結局どう受け取るかはやられた方次第なんだぞ」
蘭子「だが……!」
泰葉「自分にのみ効果がある幸運は、周囲からすればそんなものです」
茄子「…………」
美玲「……どうすればいいんだ?」
泰葉「解決は簡単です。今まで偶然の成功に頼っていたものを、通常の水準まで引き上げればいいんです」
蘭子「してその方法は……? 変わらずの努力か?」
茄子「今までと同じ、だと、そんなの……分からないです」
茄子「少なくとも私は、今までも手を抜いていたつもりなんて毛ほども――」
泰葉「だから、普通の道は困難です。既に飛び抜けている幸運が、それを邪魔します」
美玲「どうすることもできないのか? それはあんまりだぞ……」
蘭子「策はあるはず……! この我を引き上げたその手腕、もう一度発揮してはくれぬか!」
茄子「私も……お願いします!」
泰葉「…………私にも、出来る事と出来ない事があります」
蘭子「では……駄目なのか?」
泰葉「知識を授ける事は出来ますが、私にも扱えないものではどうしようも……」
茄子「……幸運は幸運で抑えきれません、か」
美玲「わざと不運にするとか……そんな術はないのか!?」
泰葉「そんな術は存在しませんよ。そもそもこのような事例が類を見ないので」
蘭子「…………」
泰葉「ですが……放っておくわけにも行きませんね」
茄子「……!」
泰葉「私が救わなければ、どうしようもない……と言えば、失礼でしょうか」
泰葉「とはいえ、色々と御託は並べましたが。……カコさんでしたか?」
茄子「は、はい!」
泰葉「……助ける、とは言いましたが正直、私の手には負えません」
茄子「それは……」
泰葉「ですから、私が頼りにしている……元上官の方に紹介します」
美玲「上官? ってことは、もっと偉いさんか? なら大丈夫だな!」
茄子「本当ですか……?」
蘭子「い、いや、少し待つのだ! 元上官というと、先の時に偶然遭遇したあの……」
泰葉「そういえば、現会長のご挨拶の時に一度お会いしていましたね」
蘭子「……大丈夫なのか?」
美玲「え? 心配しなきゃ駄目な相手なのか?」
茄子「私を受け入れてくれない……という事でしょうか? 確かに、パッと出の取り柄のない私なら――」
泰葉「いや、その点に関しては問題ありません。幸運を集めすぎる者、あの人が興味を持ちそうです」
美玲「じゃあ何が問題なんだ?」
蘭子「愛の秘術を習得した歴戦の魔術師……しかしその真の姿は……」
泰葉「いえ、そんな大層なものでは……ただ、少しチャレンジ精神がありすぎて」
茄子「……?」
泰葉「教え子に、妙な事を仕込むのが得意なので……私もその一人です」
泰葉(……“振り分ける”のも、慣れましたけどね)
美玲「え? 何、改造されるの?」
泰葉「比喩です、本当に人体実験されるわけじゃないですよ」
茄子「……大丈夫です、私は……今を好転させられるなら、覚悟はあります」
蘭子「ならば……何も言うまい。我と共に行こう! そして、願わくば大魔導師として名を馳せようぞ!」
泰葉「盛り上がっているところ悪いですが、出発は今すぐではありませんよ、どうせ手続きに時間が掛かります」
茄子「ところで、そんな簡単に学校の手続きが……」
美玲「この人は教会の偉いさんだからな、融通が効くんだってよ?」
茄子「ですけど……」
泰葉「その辺りは皆さんが心配しなくてもいいんですよ、それよりも説明だけ済ませてください」
蘭子「承知! 盟友、かつて魔術協会を設立した三人の賢者を存じているな?」
茄子「はい…………もしかして、その一人なんですか?」
蘭子「その通り。この我が師は、偉大なる三賢の愛弟子である」
泰葉「大勢の中の一人ですけどね」
茄子「凄い……そんな人と会えるなんて……それで、いったい私は誰と……?」
蘭子「うむ、かつて術式の開発という分野で名を轟かせた……真名は伏せる、またの名を」
蘭子「……シュガーハート」
:カコ=タカフジ(鷹富士 茄子)
その大きすぎる幸運により自身の器を越えた成果を残し、その結果周囲から孤立、
さらに正しく自身の実力を把握できないという逆の不運に見舞われる。
友人のランコの伝でヤスハを紹介され、その体質から普通の道へと歩むことを決意するが……
:ショウコ(星 輝子)
森で静かに暮らしていたところ、火災に見舞われて住処を追われるという、誰かとよく似た境遇の人物。
実はその放浪中、世間知らずと一触即発の性格が災いしてあちらこちらで問題を起こし水面下で手配が進められている、
しかしその手配が完了する前にチナツの一団であるユイと接触、気が合う彼女の旅に同行する。
身体能力や奇妙な紋様が一瞬で変化する様は、人間族のそれではない。
ウヅキら三人にアカネとソラを加えた一行は、
追手のキラリから逃げるマナミに同伴し、彼女の所属する国家『キュズム』へと向かう。
移動は足早に、決定後に即行動に移したために日を跨ぐ事無く、陽が沈んだ直後に到着した。
遠目からでもわずかに見えていた国家の中心、その居城は城下に到着した一行を見据える。
案内するよというマナミの言葉に、城内へ足を踏み入れた。
そら「おっきい!」
茜「広いですね! 走り回れます! 雨の日でも運動できますね!」
未央「さすが……国が大きいと拠点も大きいね」
卯月「でも私達が勝手に入ってよかったんですか?」
真奈美「別に構わない、普段はしっかりと閉鎖しているが今は特別だ」
凛「…………」
凛(普段は閉鎖している、本当だろうね……入口以外、どこも外へ通じる道がない)
そら「でもこんなに広いのに、他に誰もいないよ? そらちん寂しい?」
真奈美「出払っているんだろう。私が居ないぶん、多く戦力を投下してくれているのだな」
茜「戦力?」
未央(……そういえば、戦争国家だっけ?)
卯月(覚えてないけど……今の時代、ここまで大きい国を築いていて、戦いと無縁なんて事は……)
未央(うーん、そっかぁ)
茜「それって喧嘩中という事ですよね? いったいどこの人と?」
真奈美「……最近、やたらと力を伸ばしている、数時間前にも口にしたと思うが、トキコ率いる一団だ」
凛「そのグループは強いの?」
真奈美「キラリもその一員だ、そう言えば分かるかな?」
そら「むむむ、お腹がキリキリ……」
卯月「確かに……あのクラスの実力者が所属しているとなると、大規模かな?」
未央「でもさ、幹部級だけが強くても……ただの一組織と、こんな大きな城も構えている国とじゃ兵力の差が……」
真奈美「それが不思議なもので、どこからか彼女達の下には人が集まる、不可解だよ」
真奈美「さらに……調査を進めたところ、幹部というクラスは奴の組織に存在しないらしい。あの実力でも彼女は戦闘員だ」
そら「あのぱわーで? それはおっかない」
茜「他にも同じくらい強い人が居るんでしょうか!」
真奈美「我々が幹部級だと思っていた……ま、危険視している戦闘員は彼女含めて三人だ」
真奈美「まず一人が実際に見ただろう、キラリ=モロボシという人物だ」
卯月「あの力の源は……? あんなに強い力、強化式でも身体が持たないよ!」
真奈美「……分からない、ただ驚異的であるという一点だけさ、身を持って知っているのは」
そら「絶対に秘密がある! とっぷしーくれっと!」
凛「他には……? その人の情報も、他の人の情報も」
真奈美「移動しながら話そう、階段を上がるぞ」
――スタスタスタ
未央「これはどこに向かってるの?」
卯月「一応代表の人にはご挨拶した方がいい、からリーダーの人に会いに行ってる?」
凛「だとすると……アンズ、って人?」
真奈美「その通りだ。それで二人目だが……名をシズク=オイカワというらしい、彼女もほぼ同じだ」
茜「同じと言うと! またしても強大なパワーファイターですか?!」
真奈美「ああ、破壊力という点がキラリなら、彼女は純粋な馬力だがな……」
未央「どう違うの?」
真奈美「上手く説明できないが、とにかく食い止めることも困難なんだよ」
凛(……実際に会わないと分からない、か)
卯月「あと一人居るんですよね? やっぱり、最前線でどんどん押してくるような人なんですか?」
真奈美「いや、彼女は少し事情が違うらしい。一度見たきり、二度目は会っていない」
未央「らしい? どういう事?」
真奈美「聞いたわけではないからハッキリとは言えないが、これは予想だ」
真奈美「カナと名前が判明した彼女は、魔術師だ。ただ……」
卯月「ただ?」
真奈美「どうにも強力すぎたんだろう、扱う術式がな」
凛「術が強すぎる? それなのに戦場に出てこないなんて、何故?」
そら「おぅ、それってもしかして……ばーさーく?」
真奈美「何というか見た印象は普通の人物だが……どうなっているかも分からない術式が、見境なく全て巻き込むんだ」
卯月「それって……」
茜「巻き込む?」
凛「強力すぎて、同士討ちしてるって事?」
真奈美「こちらからはそう見えたという事さ……さて、話半分だが目的地だ」
凛「……ここが、王の広間?」
そら「謁見! 謁見!」
卯月「ちゃんとした作法とか分かんないけど……」
真奈美「別に、突然攻撃を仕掛けるような事をしない限りは大丈夫だ、むしろ……」
――ギィィ……
杏「……Zz」
真奈美「こちら側の方が失礼するかもしれない」
そら「すりーぴんぐ?」
未央「まぁ、夜だから……にしては早いけど」
真奈美「帰還すると連絡は入れたはずなのだが……」
??「あーっ! おかえり! 早かったね?」
そら「どちら様? あたしはそらちんだよ!」
??「そらちん……?」
真奈美「報告より人数が増えたが、敵ではないよ。負傷した私をここまで送ってくれたんだ」
??「えっ? マナミさん怪我したんですか!?」
杏「えっ? ……あ、おかえり」
真奈美「起きたか」
――…………
杏「アンズだよ」
卯月「改めまして……ウヅキです」
杏「あ、自己紹介は別にいいよ、後でマナミに聞くからさ……それより、お礼しなきゃダメだから」
未央「いやいやそんなおかまいなく」
杏「そうは言ってもうちの貴重な戦力なんだ、失わずに済んだのは大きいから……トモ?」
??「え? あ、はい、何?」
杏「準備に時間が掛かるし、どうせこんな夜間に城下に追い出すのもなんだから部屋」
朋「了解したよ! それじゃ旅のお客様こちらに!」
卯月「え、なんだか悪いなぁ」
未央(こういう好意……受け取った方がいい? 怪しい?)
凛(さぁ、現状は何とも言えないし……下手にこちらの警戒を悟られない方がいいかも)
未央(じゃあ……しまむーは普通に接してるし、素の対応は任せておく?)
凛(その裏で、ちゃんと私達で警戒。二重のチェックだね)
朋「不明な点は言ってくださいね? では、ご案内しますよ」
卯月「きっと豪華な部屋なんだろうなぁ」
茜「聞いたことがあります! ホテルって言うんでしたっけ!」
――スタスタスタ
――…………
杏「……行った?」
真奈美「そのようだが」
杏「じゃあいくつか質問。私の命令と違うよね、経典取ってこいって言ったよね、連れてきちゃってるけど」
杏「しかも味方として和解した状態で。……で、何? 負傷したって?」
真奈美「ああ、怪我か? これは別に大したことは無いよ」
杏「だと思った。……ぶっちゃけ、負傷するわけないじゃん、あんたがさ」
真奈美「買いかぶり過ぎだよ、私も人の子だ」
杏「……怪我は嘘、この国にあのグループを招く為の口実?」
真奈美「ああ、そうだ。……命令と違ったから、処罰するかな?」
杏「…………こっちの想定の遥か上の成果を毎回持ってくるね、そんなの怒れるわけないじゃん……」
真奈美「なら良かった。敵対して奪ってくるよりも、平和に解決した方がいいだろう?」
杏「そりゃそうだよ、こっちもそのつもりで指令飛ばそうと思ったんだけど……」
杏「競争相手が多い中最低限、経典をロクでもない所に奪われるくらいならこっちが奪ってやろうって」
杏「そう思った結果の奪取命令だけど……いとも簡単に和解して、違和感なく招待してきたね」
真奈美「この位置なら、恩恵も受け易いだろう。それに、直接の奪い合いにも一歩退いて接することが可能だ」
杏「……だね。仮にこの近辺で争奪戦が始まっても、私達は無関係だもんね、ギリギリ」
真奈美「だが結局のところ、我々は彼女達を利用させて貰う事には変わらないさ」
真奈美「ならば少しでも、利用されているという自覚なしに扱う事。そして、利用する部分以外は、きちんともてなそう」
杏「寝床食事くらいならお安い御用だよ~、用意するのは私じゃないし」
真奈美「……そういえば、その食事を作る彼女はどうした?」
杏「ああ、今頃厨房で大忙しじゃない?」
真奈美「やはりな、一人か?」
杏「じゃない? 手伝いなんて頼みそうもないし」
真奈美「そうか……しばらく席を外す」
杏「あいよー、いつもの事だもんね」
真奈美「ああ、まったく、少しくらいは頼ってくれてもいいんだがな」
――スタスタスタ
杏「……経典かぁ。願いが叶うねぇ、立派だけど……持ってる人は大変なんだろうな」
杏「追われて狙われて、そう考えるとマナミが奪わずに招いただけってのは、本当に僥倖かなー」
杏「さてと……次はどうしよう、まずは……説明の順序を考えるかなぁ」
・
・・
・・・
朋「それは大変だったね、怪我とかは?」
卯月「私は大丈夫ですけど、マナミさんが……」
朋「マナミさんが? へぇー……珍しいなー、ふーん」
凛「どうして嬉しそうなの?」
卯月「怪我したのは私のせいです! すいません」
朋「あ、そういう意味じゃなくてね? いつも完璧な人でも、やっぱり普通の人なんだなって」
朋「あたしなんてアンズさんに迎えてくれるまでは何やっても駄目だったから、羨ましくて」
未央「そうなの? そうには見えないけど?」
朋「もちろん今は大丈夫、聞いて聞いて! あたしもうすぐ協会の幹部生になれるかもしれないって!」
茜「協会?」
卯月「ええっ? それは凄い……要するに、魔術に関する事柄全ての総本山の偉い人」
茜「それは凄いですね!」
朋「でも失敗が多くて、自信なかったんだけど……誰でもミスはあるものなのね、安心した!」
未央(その立ち直り方は、あまり評価できない気もするけど……)
朋「さ、身の上話は置いといて、今日はうちの料理長さんが頑張ってくれてるからね」
そら「ごーじゃすなでぃなー?」
未央「おっ? ……って、まだ机はガラガラだね」
朋「もう少し待っててもらってもいい? 様子を見てくるから!」
――ダッ
凛「食事か……こんな国なら、歓迎というかもてなしもそうなるかな」
卯月「楽しみだね!」
凛(…………どうしよう、古典的すぎるけど、可能性はある)
未央(考えすぎかもよ?)
茜「お金は払わなくて大丈夫なんですか?!」
卯月「こういう場で食べるお食事は遠慮しなくていいって聞いた事があるよ!」
未央(……あんな感じだし)
凛(いや、少なくとも一人くらいは……)
未央(でもなー、高級な料理を前に食べないって選択肢はなぁー)
卯月「こんな食事をする部屋も広いなんて、いいなぁ……わっ!」
――ゴッ ガシャン
卯月「あわわわ!」
凛「ちょっとウヅキ!?」
そら「ロッカー倒れちゃった!」
未央「わーっ! ちょっとしまむー! 中に割物とか入ってたらどうするの!」
卯月「わわわ、と、とりあえず持ち上げます!」
茜「手伝います! せいやっ!」
――ガタンッ
凛「……ふぅ、とりあえず割れたような破片は出てきてないし、大丈夫かな」
卯月「怖かった……ごめんなさい」
茜「あ、でも何か落ちてますよ」
そら「そういえばなんでこんなところにこんな棚が?」
未央「さぁ、とりあえず落ちてるものは中から飛び出たものなんだろうね、直しておこうよ」
凛「袋……ジャラジャラ音が鳴ってるけど」
そら「まにー?」
凛「そんな重さじゃない……んっ?」
凛(この形……布越しだけど、どこかで見たような……?)
――ガサッ
未央「え? 開けちゃう?」
卯月「リンちゃん大丈夫なの?」
――ジャラッ
凛「……!」
卯月「えっ……?」
未央「あ、それは!?」
凛「これ……見覚えがあるね?」
茜「なんですか? 鎖ですか?」
卯月「それは……下層の位を表す枷、だけど……」
未央「繋がれてるはずの人が、居ないね? どういう事?」
そら「そらちん聞いた事あるよ、首についているちぇーん、あんまりいい知識じゃないけど……」
卯月(チアキさんと、ユキミちゃんもつけていた鎖……)
凛「誰も繋がってないのは幸いと見るべきか、もしくは……誰かを繋げようとしているのなら」
未央「しぶりん! それ処分しようよ!」
茜「えっ? 勝手に捨てちゃっていいんですか?!」
未央「そりゃあ駄目だとは思うけど、そんなものがある段階で……ちょっと、怪しいよ」
凛「あながち予想は間違ってないかもね……」
卯月「予想? え?」
未央「とにかくそれは、この国にもその階級の人が捕まっていたかもしれないという事実と……」
凛「もしくは、誰かを繋ぎ止めようとしている、そんな可能性が……!」
そら「繋ぎ止める……誰を?」
凛「……一番悪い予想をすると」
茜「もしかしてですか?」
――バタンッ!
??「あーっ!!」
凛「っ!?」
未央「見つかった!?」
??「おま……それから手を離――」
――スッ
そら(……武器!)
凛「先手……!」
――パシッ
??「うわっ!」
凛「……!?」
――ドタンッ
??「痛たた……急にこっちに来られるとびっくりする……」
凛(……接近しただけで転んだ? 敵意は、なさそう? あれ?)
未央「えっ、と、とにかくコレを……」
??「あっ! 返して!」
――ピタッ
凛「……返す?」
??「それはあたしの大事なものだよ、勝手に持っていくのは許さんね……!」
茜「所有者ですか?」
卯月「それは……この鎖で繋ぎ止めている人の主、という意味でですか?」
??「違うね、そこに本来繋がれてるのは、正真正銘あたしよ」
凛「……妙な事を言うね? これが何か分かってるの?」
??「もちろんっちゃ、でもそれがあったからこそアンズさんと出会えたけんね」
未央「…………」
??「疑っとる? でも、その鎖にはちゃんと名前も書いとるよ。あたし、アオイという名がね」
茜「あ、裏に小さく書いてありますね?」
葵「どう? モノには名前を書くのが常識と」
凛「……本当に、あなたのもの?」
葵「しつこいっちゃ」
――タッタッタッ
真奈美「何事だ?」
葵「あ、マナミさん、別にお皿運んでくれなくともよかとよ?」
卯月「マナミさん! ……少し、聞きたい事が!」
真奈美「ん、なんだ? ……ああ、その事か」
葵「あたしは別に嘘偽りは言ってないよ?」
未央「……とは、本人の弁だけど。……本当の本当は、どうなの?」
茜「まさかやましいことを考えてたりしますか?!」
真奈美「やれやれ……これは私の口から説明しても大丈夫なのか?」
――ガチャッ
杏「いいよ、説明しなくて。……私が伝えるから」
そら「おおっ、ご本人登場?」
杏「……食事も兼ねてね。やっぱり説明は後回しにするべきじゃなかったよ、ややこしくなるから」
凛「説明はあるんだね? 問答無用で、襲ってきたりはしない?」
杏「それに関してもちゃんと言う。こっちに疑いの目が来るのは、百も承知だし」
凛「…………」
未央(どうする?)
凛(……今は、従うかな。でも常に、構えておいた方がいいかもね)
卯月「分かりました。ちゃんと聞きます……ご飯と一緒に」
凛「ウヅキ?」
・
・・
・・・
杏「その鎖がアオイ本人の物というのは認める、しかも私が用意した……人材、というのも認める」
葵「でもさっきから言ってる通り、あたしはこれっぽっちもここに来た事を後悔はしてないっちゃ」
杏「ま……そのあたりは置いといて、期間を設けてその後はちゃんと解放するはずだったんだけど」
朋「ここから離れず、まだお手伝いしてくれるんですよ!」
未央「……どうしてここに残ってるの? もう自由の身なんでしょ?」
葵「そんな勿体無い事出来んと、ここには食材も器具も……恩もあるっちゃ」
葵「あたしは根っからの料理人、腕を振るう場所としてここは理想郷ね」
杏「こっちとしてはありがたいから、勝手にさせてるんだよ」
茜「お上手ですね! これなんてどこのお料理ですか!」
そら「これぞ高級りょーてー? の味!」
卯月「どこでこんな調理技術を? 私なんて包丁を持っても投げるしか出来ないよ」
真奈美(投げ……聞き間違いか?)
杏「鎖は持ってても意味ないから捨てろとは言ってるんだけど」
葵「過去は辛くとも、とにかくこれはあたしがここにたどり着くきっかけ! なら、捨てられんね」
朋「あたしも捨てた方がいいって言ってるけど……占いによると、それは災いを呼ぶ!」
そら「占い?」
朋「あ、言ってなかったね? あたしは星占術師だよ!」
卯月「あれ? でも魔術協会って……」
朋「そっちは副業、メインはこっちだよっ!」
杏「……私が『魔術のが向いてる』って言ってるのに、聞かないんだよ」
朋「聞いてますよ! だから約束したじゃない、幹部まで行けたら自由にしていいって!」
杏「まさか本当に到達するとは」
凛(あっさり笑い話にしてるけど、それって……相当、だよね)
卯月(幹部生……もしかしてヤスハさんとランコちゃんの事も知ってるかな)
杏「で、アオイの事は理解してもらえたと思うけど……ここからが本題」
卯月「……どの、議題ですか?」
杏「単刀直入に、経典の話。あんた達を国に招いて、一晩泊めようとして、そのお宝を知らないとは言わない」
凛「やっぱり、これが目当て?」
未央「じゃあ……怪我も?」
真奈美「騙して悪いが、大した負傷ではないよ」
凛「……そう」
卯月(怪我してない……あんなに、攻撃を受けてたのに?)
杏「それと。……結果的に今は変わった、けど当初は……奪うつもりだった」
未央「……!」
杏「私がマナミにそう命令した、でも」
真奈美「……私が独断で変更した。どう変更したかは、ご覧の通りだ」
凛「騙して連れてきた、自分達の根城に」
朋「それは違う! マナミさんは一緒に協力を考えて――」
杏「マナミはそうかもしれない、でもどうあれ代表が一度は奪えと命令したんだ、否定はしない」
凛「……今の方針、一応聞いていい?」
卯月「リンちゃん……国の、本拠地でそれは……」
凛「私の今の裁量だと、目の前の組織は敵」
杏「……そう取られるのは仕方ないし、今からの発言に説得力は何も無いけど、誓って言っておく」
杏「奪うつもりは無い、必要が無くなったから」
凛「それは経典の本体が来たからだよね? 仮に私達がここを出て行くと言ったら?」
茜「今から出発するんですか!?」
凛「仮にだってば。……ここを出て行くと言ったら、止める?」
杏「止めるよ、建前半分の本音半分」
真奈美「この時間帯、暗い森、追われる立場の者が歩いていい時ではない」
朋「それと……より厄介な相手に、奪われる事を危惧して」
卯月「…………私達は、扱いやすいと?」
杏「全部本音で話すよ、その通り。言い訳を考えるのも面倒だし、ありのままの方がこっちの考えは伝わる」
未央「ストレートすぎて……納得は出来ても全然理解が出来ない!」
そら「結局どうする? 残るか出るか?」
卯月「私は……ここまでまっすぐに話してくれると、返って信用できます」
凛「ウヅキ」
卯月「もちろん馬鹿正直といわれるかもしれませんし、単純とも思うかもしれませんが……」
杏「…………」
卯月「全て話してくれて、それを無下にするのは……出来ないです」
杏「信じてくれるなら、こっちとしてはありがたいけど」
葵「あたしが保証するね! アンズさんは悪い人じゃなか!」
朋「もちろんあたしも!」
卯月「こう言ってるし……ねっ?」
未央「私はしまむーがいいならいいけど」
凛「……疑うのは私の役、でも決定するのはウヅキだよ」
卯月「な、なんだか責任重大……でも、二人がそう言うなら決めました」
杏「そう?」
――カチャッ
卯月「お食事、続けましょう? 冷めちゃいますよ」
杏「……残るの?」
卯月「ずっと、という訳には行かないけど……経典で、何をするつもりだったんですか?」
杏「聞いてどうするの?」
卯月「一度、あったんです。願いを叶えるために経典を求めてきたけど、本当は頑張ればこなせる課題だった、って事が」
凛(……ミレイかな)
卯月「だから、もしかすると私達が協力すれば……叶えられるかもしれない」
杏「……本気?」
卯月「もちろんです……! いや、本気どころじゃなくて最近は……」
卯月「こうして“願いを叶えたい人”の所に向かって、協力してあげる事が経典を持ってる人の使命だと感じてます」
凛「ウヅキ…………」
未央「しまむー」
卯月「……えへへ、勝手な考えかな?」
未央「ううん、気づかないうちにカッコよくなっちゃって……泣きそうだよ」
凛「立派になったね」
卯月「あれ……なんだか二人が遠い、あれ?」
杏「そう……なら、薄々察してるとは思うけど……聞いてくれる? 願いを叶える使命を持った……勇者さん?」
卯月「はい……!」
茜「私も居ます!」
そら「あいまいみーまいん! そらちんもだよ!」
杏「自慢じゃないけどこの国は大きい、だから問題も多い」
杏「目下のところ……説明した通り、ひとつの国と敵対してる」
卯月「トキコ、ですか?」
杏「うん。……もう何を言うかは分かってると思うけど――」
凛「その前に一つ、いい?」
杏「ん、いいよ、何?」
凛「……私達は経典の指示に従って動いている、自身の成長という願いの下」
真奈美「指示?」
未央「それ言っちゃう? なら、ちょっと話が……」
朋「経典……あたし達の知らない機能が?」
――…………
杏「……ははは、なるほど。努力の方向を示すだけで、願いは実際には叶わない、と」
卯月「叶うのは叶います、絶対に!」
杏「…………期待はずれだなぁ」
卯月「えっ?」
杏「いや、こっちの話……そう、じゃあ新しい指示とか出てるの?」
凛「確認する?」
未央「しておこう! もしかするとアンズちゃんに協力することが次の目標かも!」
朋「それなら万事解決! さてさて?」
卯月「……項目が増えてる、という事は!」
~ 翌日の情報を、万全の状態で待て ~
そら「あれ?」
杏「なにこれ、どういう事?」
卯月「さぁ……とにかく、明日?」
凛「明日、何かがあるという事?」
未央「でも肝心の“何があるか、何に備えるか”は全然分からない……んー?」
真奈美「待て、これは明日に更新される確証はあるのか?」
卯月「それは……わかりません」
真奈美「では、この経典を作った本人とやらは……この“翌日の出来事”は把握しているのか?」
未央「さ、さぁ……?」
凛「でも“問い”の答えは持ってるよね? 今回の場合どういう状態で待つか、という事かな」
真奈美「なら最悪の方向で考えておくべきだな」
杏「……トモ」
朋「はい、今すぐ!」
――タッタッタッ
葵「何が始まるっちゃ?」
杏「最悪の結果だと……私には『明日、戦争が起きるから備えておけ』と読み取れる」
卯月「それは……!」
凛「いや、可能性はあるよ……ただ、そんな大きな出来事を、アイリが隠しておくかな?」
未央「って言ってもミレイちゃんの集落の時だって十分大きな――」
愛梨「失礼します」
杏「……!?」
真奈美「何……」
――ダンッ!
卯月「わっ!?」
愛梨「……お見事」
真奈美(止められた……か)
愛梨「ですが、敵ではありません」
真奈美「勿論だ……こちらこそ済まない、咄嗟に反射でな、アイリ=トトキ」
愛梨「ご存知ですか?」
真奈美「知らない者など居ないよ」
卯月(……本当に有名なんだ)
杏「英雄に喧嘩売るつもりは毛頭ないよ」
愛梨「私も大国に自分から勝負を挑む気はありません」
杏(落とす力はあるくせに……)
愛梨「それで、リンさんの発言に私から補足を」
凛「私の?」
愛梨「この各伝令は私が意図しているものと、そうでないものがあります」
愛梨「今回は後者……ですから“次に”何が起きるかは私にもわかりません、未来予知の技術ではありませんから」
真奈美「もっともだな」
愛梨「翌日までの時間をどう過ごすかの答えを私は持っていますが、肝心の翌日に起きる出来事はわかりません」
杏「経典も大したことないね」
真奈美「…………」
卯月「ただ、その肝心の明日までに何をするかは私たち次第……?」
愛梨「そうです。……ただ、この答えは非常に難しい」
杏「……!」
愛梨「……私の口から、答えを言えない事が嘆かわしいんです」
真奈美「伝える事は出来ないのか」
愛梨「大きな力に制約はつきものです」
茜「何が起きるかわからないなら、待つしかないですね!」
杏「こっちはこっちで万全を喫するつもり、もちろん意見は言ってくれてもいい」
真奈美「君達は自身で、他の事をしてくれたまえ」
卯月「……どうする?」
凛「肝心なのは明日、その日に何かが起きるなら……」
未央「今は十分な休息かな? 私は少し起きてリング作るけど、いっぱい」
卯月「じゃあ……明日、何が起きてもいいように……」
凛「そうだね……解散かな」
そら「そらちんも?」
卯月「二人は……ここに泊まる?」
茜「そうですね! 他に行くところもないので!」
そら「あたしはどうしよう、ちょっと外が気になるかなー?」
凛(……一人くらいは別行動の方が、まだ疑うわけじゃないけど安全かな)
凛「外、大丈夫?」
杏「いいよ別に。ただ、もう一度城に入る時は連絡してね、警備はかなり強いから」
そら「おっけー☆」
卯月「じゃあ……また明日!」
愛梨「……明日、ですか」
愛梨「長く経典を見てきましたが……指示が“備える”だけというのは謎です」
愛梨「いったい何が……起きるのでしょうか?」
愛梨「それに……私が持つ“今日の間にやっておく最適解”も、気になります……」
――シュイン
愛梨「……最適解、今日のうちに…………国家『ケイジン』へ移動する」
愛梨「こんな、目立った戦力も持たない僻地……あの三人も場所や名前すら知らない、この国へ何故……?」
愛梨「何かが起きる、この国で……? そして、現地に居なければ間に合わない事態が?」
・
・・
・・・
卯月「……んっ」
――シン……
卯月「ベッド……広い部屋、あっ!」
卯月(そっか、昨日はアンズさんのところで……)
卯月「……経典!」
――バッ ガサガサ
卯月「ある……それに、他の持ち物にも変化はない……」
卯月「杞憂だったね……これで一安心――」
――バンッ!
朋「大変です! ……あれ?」
卯月「うひゃっ!? な、何? 何があったの?」
朋「経典……無事でしたか?!」
卯月「え? う、うん、確かに本物を持ってるよ……?」
朋「…………そうですか……では、寝起きのところ申し訳ありませんが、すぐにアンズさんの部屋へ」
卯月「えっ?」
――ガチャッ
凛「ウヅキ、経典は?」
卯月「大丈夫、持ってるよ? さっきもトモさんに聞かれたけど、何があったの……?」
杏「今から説明する……前に、最後にもう一度、それは確かに本物?」
卯月「はい!」
未央「確実にこの場所にある……紛れもない本物」
杏「……じゃあ、これは何だろうね」
――ピッ
卯月「それは?」
杏「電報、件の新聞記者が用意したモノ、それで今日の一面が……」
真奈美「君達が確かに持っているはずの経典について……『本日正午、発見された経典を公開する』だそうだ」
卯月「えっ……!?」
杏「……何だと思う? というより、どれだと思う?」
朋「ただ、適当な本を勘違いしただけか」
真奈美「イタズラの虚偽の情報か」
杏「それとも……今から本物を奪いに来る、という事かもね」
卯月「ここに……その人が奪いに来る……?」
杏「うちの居城に簡単に侵入は許さないけどね、仮に来るとしても」
真奈美「だがどの道、矛盾の意味は判明しない」
凛「ここに確かにある、経典が……」
未央「やっぱりガセ情報じゃないの?」
凛「だといいけどね」
朋「そうなると一つ、また新しい矛盾が生まれます」
未央「どういう事?」
朋「正午の公開、再び映像による中継が入るって。これがガセ情報なら、中継までして偽物って事になる」
卯月(あのミズキさんが、そんなミスは確かにしなさそう……?)
杏「裏取りが出来ているからこそ、こんな大々的な中継をするんだと思う。なら、事実で嘘はない、本物の経典って事に」
卯月「でも……じゃあ私の持っている経典は……!?」
真奈美「それが分からないから問題なんだよ。弘法も筆の誤りで済むといいんだが」
朋「この場合、広報かもね」
杏「くだらない事言ってないでさ、真剣に考えた方がいいかもよ」
杏「手元の経典は本物、しかしあと二時間もしないうちに“本物の経典”が世界に中継される」
朋「ただし場所は不明! そりゃそうか、横取りしようって輩が集まるからね」
未央「こっちから手出しは出来ないかぁ……」
凛「一番危険な想定をすると“経典を持っている人物の下へ来て、奪う”だね。……その場合は?」
杏「中継の打診なんてされてないし、もし勝手にやるようなら阻止させてもらう」
卯月「なら……大丈夫、だね」
真奈美「しかし話は振り出しに戻る。やはり、意図が読めない」
凛「……アカネは?」
朋「呼んだ方がよかった?」
凛「いや、後で話すからいいよ。とりあえず城内に居るのが確認したかった」
真奈美「ついでに、ソラ君なら城下で姿を確認している、両名とも特に目立った行動はしていない」
凛(……不穏な気配は共に無し、やっぱり手がかりは無いか)
卯月「指示……明日に備えろ、だったね?」
未央「あ、そうだ! この情報を踏まえて対策を打て、って事?」
卯月「でも対策って…………?」
杏「……ヒントがなさ過ぎて、考えるだけ無駄だと思うな」
杏「国レベルなら色々と考えられるけど、権力も人手も足りない個人で出来る事なんて、無いよ」
卯月「…………」
真奈美「思う所はあるだろうが……大挙して経典を奪いに来るような事態にはならんさ」
朋「そうだよ! あたしも居る、マナミさんも居る!」
杏「護衛……居る? それくらいなら回せない事もないけど」
凛「いや、借りは作らないよ、もう遅いかもしれないけど」
杏「ちぇっ、作れる時に作ろうと思ったのに」
卯月「……特定の対策が取れないなら、昨日と同じ、それぞれの状態を整えるしかないよ」
未央「だね……なら、私は昨日の続きだよ」
凛「私は続報をここで待つよ、一緒に経典も見ておく、その代わりにウヅキは……」
卯月「城下……ソラさんと合流する」
朋「バラバラ? 大丈夫?」
凛「私はアカネも居るし、城内は安全なんでしょ?」
杏「それが懸命だと思うよ」
卯月「そうと決まれば……時間は少ない、直ぐに動きます!」
・
・・
・・・
――ガヤガヤ
卯月「賑やか……やっぱり、本拠地がある国は活気があるね」
卯月「戦争国家って聞いてた気もするけど……例外も、あるって事かな」
卯月「……えっと、そうだった、ソラさんを探さないと――」
そら「はろー☆」
卯月「あっ……すぐ近くに居たんだね?」
そら「昨日の夜からちぇっく完了! 本日は計画通りの見回り!」
卯月「そう、準備は終わったのかな? というより、何か準備をしていたのかな?」
そら「そーりー! そらちんは特にやることがないから城下をえんじょい?」
卯月「あはは……」
――…………
そら「正午? あと一時間ちょっとだね?」
卯月「その時に何かが起きる……といっても本当に奪いに来るか、偽物でしたってオチになるかは分からない」
そら「うーん……そらちん分かんない、でも盗みに来るなら撃退!」
卯月「まさかこんな大国の本拠点、真ん中に居る私達に攻撃はしてこないとは思うけど……念の為ね」
そら「おっけー! 備える!」
――スタスタスタ
卯月「よく考えたら……情報の出処のミズキさんは、私達が経典を持っている事を知ってる」
卯月「それでも“経典を公開する”という情報の配信に踏み切っている……偽の情報なんて、掴みそうにない人が」
卯月「じゃあ偽じゃなくて本物の経典……でも、この本物の経典は限りなく奪う事は不可能」
卯月(…………偽物じゃない、本物……まさか、両方とも?)
――……カチッ
そら「あいるびーばっく!」
卯月「戻りました!」
凛「おかえり、何もなかった?」
卯月「……怖いくらいに、何もない」
真奈美「では結局、時間まで経典は紛失することが無かったか」
杏「……分かんないなぁ、もはや物理的に不可能だ、経典を今から奪うことに関してはね」
未央「あと何分で配信開始?」
真奈美「直に映像が届くはずさ、それまで……最後の警戒だ」
朋「もっとも、この場所に乱入してくる人なんて居ないと思うけどね」
茜「そうですね! 虎穴に入らずんばとはいえ、虎は多すぎる程居ますから!」
そら「そらちんたいがー!」
凛(確かに、ここには戦力が塊でひしめいてる……こんな場所に今から奪いには来ないはず)
未央(しかも中継がある、ってことは……仮に、仮にだよ? アンズさんが結局グルだったとしても……)
卯月(ミズキさんは絶対に中継は切らない、となるとこの国の略奪行為が公になる)
凛「……この経典が奪われる事は、ありえない!」
茜「安心です!」
卯月「でも……じゃあ、どうしてこの中継は何事もなく始まるのか……ミズキさんは、何を考えてるの?」
凛「分からない、けど……考える間もなく、答えが出るよ」
未央「あと数秒……さて、何が映るかな?」
杏「偽情報でしたって謝罪会見が始まったら、大笑いしてやるからね」
真奈美「その方がありがたいのだがな、杞憂で済んで喜ぶべきだ」
朋「私の占いでも、そんな愉快な結末が見えました!」
――……ヴンッ
そら「お、反応あり?」
真奈美「少し乱れているが……ここは室内か、建物の様子を見る限り旧都区か発祥区だな」
朋「街ではなく村ですか、どこかの田舎ですね?」
卯月「見覚えはない……どこだろう」
凛「…………!? ウヅキ! ミオ!」
茜「へ? どうしたんですか?」
杏「ん? ……あれ?」
真奈美「机は、取材用だろう……だが……」
未央「……!? あれ! 机の上……何か乗ってる!」
朋「え、ど、どれ?」
卯月「あれは……そ、そんな……!?」
杏「ほら! 確認! どうなの!?」
――バッ!
凛「……“ある” ここに確かに、経典は私達の手元に!」
未央「間違いない……これは昨日から、いや、もっと前から持ってた経典だよ!」
杏「じゃあ……あれは何さ」
――ザザッ
そら「ん、音声が?」
――ガガッ
瑞樹『……中継、繋がりました』
瑞樹『さて、映像をご覧の方には見覚えがある人も居るでしょう、こちらが……噂の十大秘宝の一つ』
瑞樹『灰姫の経典ですね?』
卯月「……中継先にも、経典が……!?」
真奈美「…………」
未央「なんで……?」
凛「そんな、有り得ないよ……そんな――」
愛梨「そんな馬鹿な……!」
杏「……!?」
卯月「アイリさん!?」
愛梨「灰姫の経典は……決して複数存在する物ではありません……!」
真奈美「本人が言うなら、間違いはないだろう」
朋「じゃ、じゃあアレは偽物……だよね?」
愛梨「そのはずです、そうに違いないのですが……」
瑞樹『……と、首を縦に振った方もいらっしゃるでしょう、しかし?』
瑞樹『これは実は、本物の経典ではありません』
卯月「……えっ?」
杏「はぁ?」
愛梨「…………当然です、本物は私の一冊のみ……!」
凛「じゃあ……何? これは、何の中継なの?」
真奈美「ただ偽物の紹介をするには、大層な中継だが」
愛梨「…………」
瑞樹『しかし、ただの偽物の経典に留まる訳ではありません』
茜「まだ続きがあるみたいです!」
未央「ただの偽物じゃない……?」
瑞樹『これは……本物の経典を、限りなく“再現”した……作られた秘宝です』
凛「再現……!? って事は――」
愛梨「有り得ません……同じものを作ったなどと、そんな訳は……ですが……!」
杏「ねぇ、映像を通してだけど……さすがに作者なら分かるでしょ? あの偽経典……どうなの?」
愛梨「ですが…………!」
愛梨「……恐ろしい事に、私の経典と……類似、酷似する気配を感じます……!」
卯月「経典が……複製された?!」
杏「……解明不能の技術が、暴かれたって事?」
そら「それは世紀の大発見!?」
未央「発見はいいけど、これってもしかするとよくないんじゃないの!?」
真奈美「当たり前だ……願いが叶う技術が量産など、手がつけられないだろう」
卯月「そ、そのあたりどうなんですか!?」
愛梨「今解析しています……!」
瑞樹『ご存知の通り、この経典は願いを叶える力があるとされていますが――』
愛梨「…………!?」
朋「何か見つけた!?」
茜「失敗している点がありましたか?!」
愛梨「いいえ…………“願いを叶える”に相当する部分の記述は、おおよそ……酷似しています」
真奈美「……では、あの経典は本物と同じように、願いを叶える事ができるのか?」
愛梨「ですがその一方で…………私が最大限に苦労した部分、ある一点が……まるで手付かずです」
凛「欠陥があるって事……?」
そら「じゃあ経典は使えない? という事は問題なっしんぐ?」
愛梨「いいえ、先に言った通り……願いを叶えるという点に不備はありません」
杏「じゃあ何が問題なのさ? 一番力を入れたところなんでしょ? 願いを叶える以外に重要な事ってあるの?」
愛梨「当然です……! あの経典は……最も危険な点を、無視しています……!」
愛梨「強大すぎる、願いを叶える力…………その代償の矛先です」
卯月「えっ……? でもこの経典に願いを叶える代償なんて」
愛梨「存在しませんよ、そのように作りましたから……ですが」
杏「……それって結構ヤバめじゃん? アレに願ったら、何を支払わされるか」
愛梨「いえ……すぐには何も起きないでしょう、ですが……確実に、溜め込んだ代償が許容範囲を超える」
愛梨「そうなった場合の被害の大きさは……測りかねます」
真奈美「すぐに欠点、欠落が判明しないのか」
朋「遅行性の毒だね……気づいた時には手遅れってパターン?」
茜「じゃあ今のうちになんとかしなければいけませんね!」
凛「……壊すの?」
愛梨「いえ、それは製作者に……失礼でしょう、改良点を説明するだけでも十分です」
杏「説明するだけ? 教えていいの? そもそも、話なんて聞いてくれるの?」
愛梨「…………」
瑞樹『本日は所在を伏せる条件のもと、製作者の方にもお話を伺う予定です』
未央「……製作者?」
卯月「映るの……?」
杏「へー、顔出すんだ、勇気あるね」
愛梨「この経典の……再現を試みた人物……」
朋「もしかして心当たりが?」
愛梨「いいえ、まったく…………」
真奈美「意外だな。てっきり商売敵が居るのだと思っていたよ」
愛梨「真似できる物ではないと思い込んでいたのが……驕りだったかもしれません」
そら「元は同じ、誰でもひゅーまん☆」
凛「……! 見て、誰かもう一人映ってるよ」
卯月「この人が……製作者?」
真奈美「…………ほう」
朋「え、この人が? もっと年季の入った老人みたいなイメージだったけど……」
愛梨「……彼女が、作ったという事ですか」
瑞樹『ではご紹介します、彼女が経典の複製に成功した――』
瑞樹『えっと……フミカ、さんですね?』
文香『……どうも』
そら「思ったより、あたし達と同じくらいの?」
愛梨「……制作するに辺り、知識と発想さえ備わっていれば、後は外部の協力次第で可能です」
瑞樹『早速ですが、どういった質問まで可能ですか?』
文香『……技術や方法は伏せます……後は、この経典は私一人の力で制作されたものではありません』
瑞樹『なるほど、では協力者は? 差支えがなければご紹介したいところですが』
文香『……注目を浴びたい人達ではないので、遠慮しても』
瑞樹『そういう事なら、仕方ないですね』
卯月「やっぱり一人で最初から最後まで作ったわけじゃない……」
凛「しかも“達”だって。二人でもない、大勢の人が関わっている可能性もあるね」
杏「そりゃ全員説得して、欠点を話して改良なんて完全に無理だね」
朋「ですね、絶対に数人はそんな事は知るか、我々の作品だ! って聞かない人が出ますよ」
愛梨「…………」
文香『……途中、大きな犠牲もありました』
瑞樹『具体的には……?』
文香『……大きな力の代償を、防ぐ手段を確立する前に力を行使した結果、受けた被害です』
真奈美「やはり反動はあったみたいだな」
未央「防ぐ手段を確立、って、今も実は確立したと思ってるだけで中身は駄目なままなんでしょ?」
杏「これで気前よく全員の願いを叶えますなんて行脚された瞬間、とんでもないことになるよ」
文香『……色々と魅力的に思える内容を並べましたが……もちろん、少し不便な点もあります』
瑞樹『へぇ? それは、願いに関してですか?』
文香『……内容は問いません、ですが……すぐに叶うわけではないんです』
瑞樹『と、言うと?』
文香『……まず、経典を扱えるのが私限定という点と、その願いを経典に反映する……時間が必要です』
杏「ん? なーんか、雰囲気変わってきたね? 雲行きが怪しいよ」
卯月「……?」
瑞樹『全員が使えるわけではない?』
文香『……いえ、少し語弊がありました、私だけが“経典を動かせる”だけです』
瑞樹『全員が使えるわけではない場合と、どういう違いが?』
文香『……先の代償の一つに、私は経典に関する物事に拒否権を失いました』
文香『どんなに非倫理的で、断りたい内容でも……伝えられた願いを私は“経典に記さなければならない”んです』
瑞樹『なるほど……? 要するに、仲介役ね?』
文香『……間に私が入っても、結局は断れないので全員が扱えるのと同義です』
未央「んー……? よ、要するに?」
朋「経典とフミカって人が、一緒に居ないと駄目で……」
凛「こっそりと願いを叶える事は無理、絶対にフミカに内容を説明して伝えなきゃならない」
卯月「……割と、良し悪しだね」
真奈美「拒否権が無いなら抑止力にはならないがな」
文香『……そして聞いた願いを、私は経典に記し、叶えます』
瑞樹『それは一瞬で終わるもの?』
文香『……いいえ、およそ数日掛け継続して記す必要があります』
卯月「辛そう……」
茜「一日以上、本と対面するんですか! 大変そうです!」
愛梨「いや……光明です」
凛「いったい何が?」
愛梨「継続して、叶える願いを記述する必要があるなら……」
瑞樹『そうなると……例えば、願いを記している途中でフミカさんが経典から離れた場合は?』
文香『……あまり考えたくはありませんが、当然願いは阻止されます、と同時に』
瑞樹『同時に……? まさか、リスクが発生する?』
文香『……いえ、叶える側には何も起きません、その点は……大丈夫です、とにかく願いは反故になります』
卯月「途中で、強引にだけど阻止が可能……」
杏「願いを叶えた方が逆にリスクがある、ってのも皮肉な話だね」
愛梨(代償は起きない……叶える側には……ですか)
卯月「アイリさん……私たちは、どうすればいいですか?」
凛「あの経典を、使わせちゃ駄目なんでしょ?」
未央「なら使えない状態に追い込むか、ちゃんと正しく直せばいいんだよね?」
茜「二つを引き離せばどうでしょうか! そしてその間に経典の方を直せば!」
そら「ないすあいであ!」
愛梨「……それが一番の理想形ですが……私がこの経典と同調している経験上、少し危惧すべき点も分かっています」
朋「まだ問題が?」
愛梨「今、私の身体は経典と言っても間違いありません。その経典を、他人の手によって改造されると……」
卯月「でもっ……アイリさんなら大丈夫ですよね?」
愛梨「……不可能とは言いません。ただ、外部からの横槍が入ると……事態は悪化する可能性が」
真奈美「なるほど。経典の改造など一朝一夕では不可能だろう、それに精密な作業を要する」
杏「その感、経典を求めて襲ってくる賊から逃げなきゃならないんだ、結局厄介だね」
愛梨「正直……改良は今すぐに行いたいですが、仮に今日のうちに取り掛かったとして……」
卯月「私たちが……守る……」
凛「しかもこんな全国放送があった直後、当然のように他の人も狙ってくるだろうね」
未央「…………失敗すると、さらに大惨事に……?」
愛梨「まだ、やるべき事じゃない……保証がなさすぎる」
卯月「かといって放置する問題でも……!」
愛梨「分かっています!」
そら「でもどうして放送なんてしたんだろうね?」
茜「確かに、どうしてでしょう?!」
朋「そりゃあ……凄いの作った、って自慢するため?」
杏「翌日、全世界から狙われるんだよ? 私はお断りだね」
真奈美「確かに妙だ、まるで襲われるのを望んでいるみたいじゃないか」
愛梨「何か、目的はあるんでしょう……しかし詮索している暇はありません」
愛梨「それに、こちらが手を加えられるようになれば、一緒に解決します!」
卯月「そ、そうですね!」
凛「でも……正直、私たち三人じゃ心許無い」
杏「こっちだって無理だよ、人手は多くても内部で魔が差すのを監視なんて出来ないし」
真奈美「当然、現在進行形で戦っている相手からも目が離せない」
愛梨「……くっ」
卯月「すいません……私達が力不足なばかりに……」
愛梨「いえ、皆さんのせいでは……むしろ、私がこんな事態を想定していなかったのが悪いんです」
真奈美「想定ね……」
そら「結局そらちんはどうすれば?」
愛梨「皆さんは、まだ動けません……わざわざ激戦区、渦中に飛び込むこともないでしょう」
杏「この中継先がどこか知らないけど、その道専門だったり本気で経典を奪うつもりの相手なら一発でバレるだろうし」
朋「しばらくは奪い合いになるでしょう!」
凛「じゃあ……希望的観測だけど、しばらくは大丈夫かな」
未央「その間に、私達は頑張らなきゃ!」
卯月「いつもの調子だね……それが一番重要だけど!」
茜「普通が一番ですね! で、何をすればいいんですか!?」
真奈美「指示とやらはどうなんだ?」
愛梨「更新はありません、私からも……特に伝える事はありませんが、少しだけこちらの用事があります」
卯月「アイリさんが?」
愛梨「……私の身体は経典に依存しているといいましたが、離れる事も可能ではあります」
――スッ
杏「……!」
真奈美「む……」
愛梨「…………実体を持った身体は久しぶりですが」
卯月「わっ……普段のドレスみたいな恰好じゃなくて」
未央「普段着? なんだか……普通の人、みたい」
愛梨「私も人の子ですよ!」
凛「わざわざ離れて……何をしに?」
愛梨「皆さんがわざわざ移動の苦労を掛けさせないために、私が単独で……私事を済ませます」
卯月「え? 大丈夫ですよ? 経典ごと持って移動しますから……」
愛梨「いいえ、元の指示は備える事なら、この国で何かを成す事が重要なはず」
愛梨「それに時間が惜しい現状、私だけで出来る事はこうしてバラバラにすべきです」
杏「ま、正論だけどいいの? 経典の本体を置いていくことになるけど」
愛梨「この状態では経典の力は私についています、その本に大きな力は今はありません」
未央「かといって無くさないようにはします!」
愛梨「それはお願いしますね? 私の帰る場所が無くなっちゃいますし……願いは継続中ですからね」
卯月「はい、しっかり肌身離さず持ちます!」
愛梨「では……すぐに帰ってきます、それまでに準備をしっかりと整えてください」
未央「了解っ!」
杏「あのさ」
愛梨「なんでしょう?」
杏「私事って何? 念のため聞いておいていい?」
朋「えっ? でもアンズさん……あたし達には関係ないことだし……」
杏「そうとも言い切れないんだよね、この国の領土に……英雄クラスの人間がどんどん集まるのは怖いからね」
愛梨「安心してください、確かに知り合いに会いに行きますがこちらには呼びませんよ」
杏「そ、安心した」
真奈美「下手に暴れられると困るからな……分かってくれ」
愛梨「もちろんです」
凛「……そのレベルの人に、会いに行くの?」
愛梨「はい、協力……ではなく、裏から探ってくれとお願いしにいくだけですが」
卯月「誰なんですか?」
愛梨「それは……秘密です、ですがそのうち会いますよ、きっと」
凛「ふーん……」
・
・・
・・・
――ザッ
卯月「準備……か」
そら「長旅?」
凛「さぁね、とにかく……止めなきゃいけない事案には違いないよ」
未央「かといって場所も相手も人数も、方法も私達の地力も……全っ然足りないよ」
茜「そのための準備です! 何にしますか!?」
卯月「実は何も用意をしてない……目標が分からなさすぎて、皆目見当が……」
凛「当たり前だね、経典も今は頼れない」
茜「私達で何をするか考えるんですね! 気分を改めるためにご飯にしますか?!」
未央「……どうする? アリだとは思うけど」
卯月「うん……一旦、落ち着く?」
そら「ぶれいくたいむ☆」
茜「じゃあさっそく行きましょう! ……っと?」
凛「どうしたの?」
茜「いや、少しフラついただけです! 大丈夫です!」
未央「ちゃんと寝た? 私みたいに夜通し城を探検してて寝不足なんて……ふわぁ」
凛「そんな事してたの?」
未央「いやぁ、準備って言われたから道筋だけでも確認しておこうかなぁって……」
茜「目が半開きです! ミオちゃんこそ寝た方がいいかもしれません!」
未央「そ、そうだねぇ……んー……」
――トスッ
茜「あわわ?」
凛「ちょっ……こんな通りの真ん中で力尽きないでよ!」
未央「私は寝るぅー……」
茜「……背負って移動しますか?!」
凛「だね、疲れてるみたいだし……ウヅキ、ソラ、手伝って――」
そら「んぅ…………」
卯月「すー……すー……」
凛「ウヅキ……?」
茜「皆さんお疲れですか? 大丈夫です! 三人くらいなら背負えますから!」
凛「じゃないよ! と、突然……どうしたの?!」
茜「確かにそうですね! こんな所で寝てたら風邪ひきますよ?!」
凛「だから違……」
――グラッ
凛「……!?」
凛(な……急に……瞼が…………!?)
茜「あれっ?」
――ドサッ
茜「……どうしましょう! 四人は大変です!」
茜「とにかく城へ戻りましょう! えっと、誰か手伝ってくれる人は……」
――ザッ
??「あら……どうしました?」
茜「ちょうどいいところに! お友達が突然倒れちゃったので、私が背負って帰りたいのですが協力してくれませんか!」
??「……お友達? この場に居た?」
茜「はい! 私に乗せてくれるだけで大丈夫なので! お願いします!」
??「……変ですね、この場に居たなら一緒に眠っているはずですが」
茜「えっ?」
??「それじゃ仕方ありません……私はそこの三人に用事があるだけなので」
茜「……! ミオちゃんの敵ですか!?」
??「そうですか、その人はミオと言うんですね?」
茜(名前も知らない……でも、確実に襲ってきている? なら、ここは私がなんとかしましょう!)
――ダンッ!
茜「……あ、あれ?」
??「とても元気なお方……健康体には睡眠は効かないと、聞いたことがあるような気がしたので」
茜「う、動けませんっ……!?」
??「麻痺なら効果はあるようですね、それでは失礼します……よいしょっと」
――ドサッ
茜「あっ……! さ、三人をどこへ連れて行くつもりですか……!」
??「どこでもいいじゃないですか」
茜「駄目です……! 駄目ですよっ……!」
??「…………ふぅ、麻痺なのにこちらに寄って来るとは、とても不思議です」
茜「うぎぎぎっ……」
??「うーん……見られた人は処分する予定でしたが、この三人を抱えて国を出る方法を考えてませんでした」
??「じゃあ、この二人に協力してもらいましょう」
茜「嫌です!!」
??「許可は求めていません」
――スッ
茜「何をするつもりですか!?」
??「さすがに、国の大通りに重傷の人物が二人も倒れていれば……警備もそちらに集中するでしょう」
――ザクッ
茜「あうっ!? ぐぅ!?」
??「格闘は出来ませんが、動かない相手なら大丈夫です、ほら」
茜「っう!?」
??「目立つように真っ赤に……あ、まだ気絶しないでくださいね? そうして……」
――ザシュッ!
茜「あ、うぐぅ!?」
??「……では、私は三人を連れて反対側へ移動します」
??「ふふ、早く大通りに出て、怪我してる自分を見つけてもらった方がいいですよ?」
茜「あっ……ぐ……」
??「じゃないと、今から同じように刺す彼女も助かりませんから」
茜「う……そ、ソラさん……!」
??「ふふ……えいっ」
――ドスッ
・
・・
・・・
――ガヤガヤ
朋「離れて! 今はそれぞれの家に戻って! ちゃんと鍵掛けてね!」
真奈美「…………唐突だな。二人は大丈夫なのか?」
朋「命に別状はないと思う……けど、こんな事件が国の、中心で起きるなんて……」
真奈美「決して警戒は薄くはないはずだ……要注意人物が入国した痕跡はない」
朋「だとすると……例の?」
真奈美「いや、その通り魔すら最近は情報が出始めている、もちろん警戒はしていたよ」
真奈美「要するに……突発的な犯行か、公に出回っていない新たな脅威か」
朋「なら……警戒を強めないと! その加害者が国内に潜伏しているかも……」
真奈美「もちろん可能性はあるが……恐らく目的は違うな」
朋「え?」
真奈美「…………被害は二人だ、では連れはどこだ?」
朋「連れ……あ!」
真奈美「一時間前ほど、城下に向かったとは聞いた、この二人も共にだ」
朋「でも……居ない、どうして?」
真奈美「どうして、と言われると予想は一つだ……」
――ザッ……
愛梨「っ…………」
真奈美「……早かったな?」
愛梨「経典……この国から、反応が消えた……!」
朋「な、なるほどね……経典が目当てね?」
愛梨「三人は、どこへ行きましたか!?」
真奈美「さぁな……だが、私達は関与していない、と言っておこう」
愛梨「……本当なんですね?」
真奈美「ああ……ただ、国内で起きたトラブルだ、こちらも対処できなかった事は詫びよう」
愛梨「反応……経典がある方角は、ここから南側です……その方向には、何がありますか……?」
真奈美「南……? 西側ではないのか?」
朋「西だと、ちょうどトキコの軍勢が居る方角……じゃないの?」
愛梨「では……トキコ率いる軍勢がやったわけではない……ですね?」
朋「他の国? いやそんな馬鹿な、こんな絶賛警備強化中の国に、誰が攻めてくるの!?」
真奈美「南だと、何がある?」
朋「そっちには……大国はないです!」
真奈美「無い? ……という事は、大きな組織による犯行か? だが、それなら警備に引っかかるはずだ」
愛梨「見逃したのではありませんか?」
真奈美「有り得ない、優秀な諜報員が居てな。大国や巨大な組織の人員は把握している」
愛梨「……じゃあいったい何が?」
朋「大国は無い、ですが……国が無いことはないです」
愛梨「……南側、現在も移動中……どこですか? この国を直進で南下すると、どこにたどり着くんですか!?」
朋「お、落ち着いて! 服引っ張らないで!」
真奈美「何をそんなに焦っている……気持ちは分からないでもないが、あなたのせいではないだろう」
愛梨「いいえ……私が効率を、私事を優先したばかりに……!」
――…………
真奈美「南側に国など存在したか?」
朋「かなり離れています、それに他国と連携があるわけでもない……孤立した国が」
愛梨「孤立……」
真奈美「……そうか、あそこか」
愛梨「まさか……その国は……」
真奈美「外部に人が出てくるのは極めて珍しい……というよりも、構成員がまるで把握できていないのが問題だ」
朋「だから、気付かなかった……!」
・
・・
・・・
――ガタッ ガタンッ
卯月「ぅ……」
卯月(音がする……揺れてる? ここは……どうなったんだっけ……!?)
――ガタンッ
卯月「っ……んんっ……!?」
卯月(真っ暗……!? それに、狭い……しかも、体も動かない……!)
卯月(声も、何も出せない……あの時、突然意識が飛んで…………)
――ガッ ガッ
卯月(箱みたいな中……少しぶつかった程度では壊れない……)
??「あら……?」
卯月「……!?」
??「お目覚めですか? ですが……」
卯月(誰……!? 箱の外から聞こえる……!)
??「まだ到着していません、道中でも騒がれると困るので……」
卯月(くっ! 脱出しなきゃ……! このっ! えいっ!)
――ガンッ ガンッ
??「ふふ……大人しくしてくれないと、上手く効果が出ないので、静かにしていただけませんか?」
卯月(効果? ……もしかして、突然意識が途絶えたのは何かされたから……!?)
卯月(なら、止まっちゃ駄目! 小さくても抵抗を続けなきゃ――)
――ドスッ!
卯月「っ~~……!?」
――ギラリ
卯月(は、け、刃物が……め、目の前……に!?)
??「……大人しくなりましたけど、もしかして刺してしまったのでは?」
??「大丈夫れす~、この位置にはお頭はありませんよ~、それよりもー……」
??「ああ、そうですね、今のうちに……ふふ」
――シュンッ
卯月(っ……ま、また……意識が……)
――…………
??「静かになりましたね」
??「鮮度が命れすから~」
――Prrr……
??「あら……連絡ですね」
――ピッ
??「もしもし?」
??『どうなりました?』
??「無事に護送中です。途中、警備が厳しかったのでお連れの二人を陽動に処分しましたが」
??『あら、大丈夫ですやろか? 手がかりは残してまへんか?』
??「大丈夫ですよサエさん、私の名前と顔なんて、知っている人は居ません」
紗枝『そういう問題やおまへん、いうても相手は過去の偉人どす』
紗枝『少しでも隙を見せようものなら、根元から潰されます』
??「……そうですね、肝に銘じます」
??「ですが所詮は過去の人です」
紗枝『……その言葉、ほんま頼りになるわぁ』
??「ええ、私達なら大丈夫です。……この前の槍術士と同じように、退ければいいんです」
??「カイと名乗っていましたね~、なかなか魅力的な方だったのれす~」
紗枝『本音言うと、もうあんな方とはお会いしたくありまへんわ、心臓に負担がぎょうさんかかります』
??「なら、これで最後にしましょう。それが可能なモノが、手元にありますから」
紗枝『そうしましょ。ほななぁ、道中お気をつけて』
――ピッ
??「……ふふふ、あと時間はどの程度ですか?」
??「一時間もせずに到着しますね~」
??「では……急いで戻りましょう、私達の国に」
??「はい~」
二冊目の経典として突如世間に広まった情報、そこに秘められた欠落。
このまま第二の経典が願いを叶え続けると、いつか支えきれなくなった代償が大きな災いを齎す。
宛もなく、手段も見つかっていないままとにかくそれだけは阻止しようと、
経典の改良修繕を目指す旅の準備……そんな時、突如現れた一人の刺客。
その場を離れていたアイリを残し、ウヅキら三人はサエ率いる国家に拉致される。
自身のミスで窮地に陥った三人を助けるためにアイリが奔走する。
愛梨「…………」
櫂「先に言う……断る」
愛梨「そう、だよね」
櫂「あたしの責任にはしないよね? それに、協力してとも言わないよね?」
櫂「そういうつもりなら、断る」
愛梨「……大丈夫、私がやる」
櫂「なら別に止めない、代わりに情報は渡すよ」
愛梨「……ありがとう」
櫂「ったく、引き篭って変なモノ作ってるから人脈が少ないんだって……毎回あたしだね?」
愛梨「それは分かってるけど……」
櫂「はいはい、その話は後で聞く、まずはあたしが実際に見た説明から」
櫂「国家名『コドライブ』、代表の名はサエ=コバヤカワ……以上だよ」
愛梨「……他には?」
櫂「構成員、規模、生活水準……まるで不明だよ」
愛梨「一度内部へ潜入したんじゃ……」
櫂「ああ、そうだね……で、それっぽい人にも遭遇した、けど……」
櫂「なんというか、確かに変な強さと不気味さはあった……ただ、統率者じゃないね」
愛梨「人を率いる人材じゃない、どういう事?」
櫂「そのままの意味だよ」
愛梨「だからどういう意味で――」
櫂「とにかく、あたしは行かないし説明する事も少ない」
愛梨「……何があったの?」
櫂「ただのワガママ……戦っていて、そこそこ強い相手なのに……つまらない」
愛梨「つまらない……? カイさんが?」
櫂「そう」
櫂「……ま、せっかく頼りに来て手ぶらで帰るのも、だから話すのは話すよ」
櫂「あたしが会った人物が、幹部とは限らないけどね」
愛梨「どんな情報でも……今は必要です」
櫂「じゃあ……あたしは三人と一人に遭遇した。一人ってのは、トップのサエだね」
愛梨「会っていたのですか?」
櫂「もちろん。ただ……恥ずかしい話、国の本質を知る前に出会ってたからね」
櫂「完全に、騙されてたよ」
愛梨「攻撃されたの?」
櫂「真逆……いたって普通に、国の主のあるべき対応、発言だった。……見抜けなかったね」
愛梨「…………」
櫂「後の三人は名前も分からない、ただ見敵必殺しようとしてきた輩だよ」
愛梨「内訳は?」
櫂「んー……たぶん、近接が二人に中距離っぽいのが一人」
愛梨「たぶん?」
櫂「だから変な輩だったんだよ、戦闘員にすら見えない獲物に気配に立ち回りに……」
櫂「でも、倒せなかった、見事に……追い出されたよ」
愛梨「……まだ謎は解明できません、いったい何が?」
櫂「さぁね……このモヤモヤの意味は、行ってみたら分かるよ」
愛梨「行ってからじゃ遅いんですが……」
櫂「なら行った瞬間に分かればいいさ、とにかく急いだ方がいいんじゃないか?」
愛梨「あ……そうですね……早くしないと……!」
――スタッ
愛梨「では、私はこれで。……無事に帰って来れたら、また会いましょう」
櫂「もっと自身持ちなって、肩書きが泣くよ?」
愛梨「技術、知識、魔力の高さが実戦の力量に比例しているわけではないんです」
櫂「よく言うよ」
愛梨「…………」
――ザッ
櫂「…………はぁ、ワガママ通すのも考えものかな?」
櫂「でも、アイリには悪いけど絶対に同行する気は無い」
櫂「……あんなに精神的にクるのは初めてだよ」
――スッ
櫂「とはいっても……まったく協力しないのもアレだからね、あたしは手伝いしないけど……」
櫂「よっと、通信機って使い方こうで合ってたっけ……ん、繋がった?」
――ピピッ
櫂「……よっ、数日ぶりだね。その前は戦場以来だったけど、今回は早く再会できそうだ」
櫂「再会ついでに……ちょっと一つだけ頼まれてくれない?」
櫂「アイリが、ある国に侵入するために人手を欲してる……悪いけど、あたしはいけないから手伝ってあげて?」
---------- * ----------
ようやく前スレの選択肢五ヵ国を消費……?
今更感もありますが、これからかなり黒い属性の役を与えられた人物も出てきます。
時子一党は、もう少し先なんです。
多くキャラが出てきましたが、このあたりになると『序盤で出たきり姿を見せてない』という人物も居るはず。
なるべくそうならないように出番を拾っているつもりです、極端に登場が少ない人物が居たら常に回収を試みています。
卯月一行のメインの進行の合間、先の泰葉のようにサブで進行という形にはなりますが……
今のところ意図的な一名を除き、一度登場してから長い期間が空いているキャラはいないはず?
しかし漏れはあると思うので、気づいた時に『○○どこ行った!』とか言ってくれたら幸いです。
---------- * ----------
晶葉ちゃんまだー?
>>321
目を覚ませ、晶葉は...もう、いないんだ...
ところでレイナサマの上司って智絵里?
それとも未登場キャラ?
---------- * ----------
>>321 >>322
意図的に登場させれらない一名が晶葉だったりします。先に再登場のストーリーを組んでしまった結果。
ただ、最初に名言した通り出番終了は絶対に無いので後に登場はします。
麗奈と智絵里は現在関連がありません、上司に該当する人物は、台詞が出ていますが名前は登場していません。
---------- * ----------
・
・・
・・・
卯月「……はっ!」
卯月(ここは……部屋? じゃない! 部屋だけど……私、攫われた……?)
卯月「……当たり前だけど、経典も無い……! 早く、探しに行かなくちゃ……」
――ガタンッ
卯月「わっ……!」
??「寝起きで体調も整ってないうちに、慌てて立ち上がると危ないよ?」
卯月「…………誰ですか?」
??「私? 名前はユミ、あなたはウヅキさんだっけ?」
卯月「はい……ここはどこですか? 目的は……分かりますけど」
夕美「ここは『コドライブ』拠点内の一室、目的はそっちの思ってる通りだと思うよ」
卯月「……聞いた事の無い国です」
夕美「そう? ま、小さい国だから仕方ないけど」
卯月(部屋は窓と扉……他は普通の家具が配置してあるだけ……)
夕美「一応言っておくけど、結構上の階だから窓から逃げると落ちちゃうよ」
卯月「……忠告ありがとうございます」
夕美「いいよいいよ、ちなみに扉から外へ出るのはお勧めしないよ?」
卯月(そう言われても、大人しく待ってるわけには……リンちゃんもミオちゃんも姿が見えないし)
夕美「まぁ座ってお話しよ? さっきそっちが質問したから次はこっちの番」
夕美「……経典についてなんだけど、アレは本当に本物?」
卯月(疑ってる……? でも、確認なんてすぐに可能なはず……)
夕美「中身を調べてる担当者が居るんだけど、どうも力を感じないの一点張りでね?」
卯月(……もしかして、ちょうどアイリさんが離れていたから、本来の力が薄れている?)
夕美「色んな情報を頼りに見つけたあなた達だけど、これも偽物って話なら……うーん」
卯月(……これは、下手に競り合うより偽物と思い込ませた方が?)
夕美「ま、私は関係ないから? 今の状態でもやりたい事は出来てるし」
夕美「上手く行けばプラス、行かなくてもプラマイゼロ。サエちゃんの努力に任せるよ」
卯月「サエ……?」
夕美「あ、私達のリーダーさんだよ♪」
卯月(……まさか、あの時に聞いた五つの国の中で最後の……?)
卯月(だとすると……カイさんが危険信号を飛ばした国に違いない……!)
夕美「でもあなた達を連れてきたのは私じゃないからね? 勝手に皆が連れてきたんだから」
卯月「…………」
――コト
夕美「喉渇いたでしょ? 飲む?」
卯月「……結構です」
夕美「ええっ? 結構珍しいもので作ったハーブティーだよ?」
卯月「突然誘拐しておいて……経典について聞こうとしている人からは何も受け取りません!」
夕美「あ、もしかして毒とか入ってると思ってる? もー……じゃあ貰うね?」
――ゴクッ
夕美「はぁ~……ふふっ♪」
卯月「…………」
夕美「趣味の都合上、この部屋は室温も高いし、脱水症状になると危ないよ?」
卯月(確かに蒸し暑い……けど、出されたものは……極力、避けた方が……)
夕美「それに私は言った通り経典に興味ないし、本当に口割らせるなら本格的に準備もするよ」
夕美「中身が毒と疑ってるなら私が飲むよ、何回でも。あ、ティーカップのフチとかも危ないんだっけ?」
卯月「……そこまで、言うなら」
卯月(話が進まなさそうだし、本当に……室温で、喉は乾いてる……)
夕美「他では飲めない味、どう? どう?」
卯月「……普通、です」
夕美「あらら……じゃあ私はもう一杯」
卯月(特に、何も起きない……警戒しすぎたのかな)
夕美「でね? 聞いて聞いて? 私はこの国で植物や花の研究調査をしてるんだけどね?」
卯月(話題も……経典に関することじゃない……なんだろう?)
夕美「あ、そうだ、他の二人の事も心配だよね?」
卯月「……! リンちゃんとミオちゃん!?」
夕美「あなたと一緒だよ、それぞれの人と好きな事をしていいって」
卯月「そ、そう……え、二人? ……そうだ、ソラさんとアカネちゃんは?」
夕美「え? 私が教えてもらったのはさっきの二人だけだよ?」
卯月「そんなはずは……私達は五人で一緒に――」
夕美「あ、もしかして囮に使ったって言ってた人かな?」
卯月「おと……? それは……」
夕美「ま、いいでしょ? とにかくお友達はそれぞれの場所に居る、いい?」
卯月「そこで……何を?」
夕美「私達と一緒、それぞれ久しぶりのお客様だから……楽しんでるよ」
卯月「楽しんで……?」
夕美「ふふ♪」
――シュルシュッ……
卯月「なっ……!? え?」
夕美「どうしたの? ……何か“見え”たの?」
卯月「植物のツタ……!? が……やっぱり、私を攻撃するつもりですか!?」
夕美「ふーん……ツタかぁ、なるほど」
――スッ
卯月(立ち上がって……体に植物を纏いながら……!)
夕美「私に絡まってる?」
卯月「何を……! 見ての通りじゃないですか! そういう魔法は……聞いた事はありませんが、可能なはず!」
夕美「うーん、実際にあるかもしれないならインパクトは薄いかぁ」
卯月「さっきから何を呟いて――」
夕美「ところで、ツタに絡まってるのは私だけかな?」
卯月「……えっ?」
夕美「もしかしたら、もう自分も絡まってるかも……?」
――シュル
卯月「えっ……あっ!? いつの間に……じゃない!?」
――グッ
卯月「こっ……え……!」
卯月(さっきまで何もなかったのに……!? 足どころか腕、体……ぜ、全身に……動けない!?)
夕美「ふふ、次は……絡まってるのは自分だけじゃないかもしれない」
夕美「何もかも、全部、そう思うと見えてくるんじゃないかな?」
卯月「っ……う!?」
――ガサガサガサッ
卯月「な……!? へ、部屋が……全部……!?」
卯月(机も椅子も、壁にも天井にも……と、扉も窓も……そんな、さっきまで何も――)
夕美「次は何かな……ツタだけじゃないかもしれないね」
夕美「植物には、何が集まってくるかな……?」
――ゾクッ
卯月「痛っ……!? な、何が……」
――ゾゾゾ
卯月「ひいっ!?」
夕美「あれ? 未来区出身じゃない人は大丈夫なんじゃないの?」
卯月「見慣れてる……けどっ!」
――ザザザッ
卯月「あ、えっ、多……わ、わああああ!?」
――ガシャンッ!
夕美「あっ、机が……もう、暴れないでよ」
卯月「そんな事言ってもっ……!」
卯月(虫……!? 体のあちこち……!? な、何これっ……!)
卯月「あっ……ああっ! うああ!?」
夕美「やっぱり初めてだと衝撃強いよねー、どう? 美味しいでしょ?」
卯月「っ、う……!?」
卯月「やっぱりっ……何か飲み物に……!?」
卯月(じゃあこれは、幻覚……! この植物も、虫も……!)
夕美「私なんか慣れちゃって、どんどん強いのを探してたんだけど」
卯月(……そういえば、この人は私と同じものを飲んだはず!?)
卯月「ど、どうして……っく! そんな何とも無い……!?」
夕美「あはっ、どうしてだと思う?」
卯月「やっぱり……飲んでなかった……!」
夕美「いや? しっかり堪能したよ? でも……私には弱すぎるかな?」
夕美「だって、初めてでも平気そうじゃん? ウヅキちゃんも足りないでしょ? ……ふふ」
卯月「何の事――んっ!?」
夕美「ほら、こっちは特別性、最近作ったんだよ♪」
――ゴクッ
卯月「……けほっ! な、何を!?」
夕美「ちょっと強めのティーだよ、一緒に楽しも?」
――ゾクッ
卯月「あ……ぇ……!?」
卯月「う、あ!? 嫌っ!? ああ!? 何っ……こ、ああっ!?」
夕美「ねぇ聞いて? 聞けるかどうか分からないけど」
夕美「私は植物を育てる……でも、公に作っちゃ駄目な花なんだって?」
夕美「なんでも強すぎる、効果が大きすぎるらしいからね。だから追い出されちゃった、国を」
夕美「そんな私を拾ってくれたのがサエちゃんなんだけど」
卯月「あ、ぁ……う!」
夕美「ここでも少し孤立してて、一緒に楽しんでくれる人は少ないんだよ」
――ガッ
夕美「ほら、たくさんあるから飲んで♪」
卯月「嫌……やめ……」
夕美「ふふふ、遠慮しなくていいって? ほら、ほら、ほら、ほら? ほら!」
卯月「あぐっ!?」
夕美「他の友達も、一緒に遊んでくれてるよ? 私みたいな人ばかりだけど……!」
夕美「だから私と一緒に、時間が尽きるまで遊ぼう? 女の子二人で、ちょっと過激なティータイムだよ」
卯月「だっ……あ、んぐっ!?」
夕美「駄目駄目、ここは本拠地なんだから逃げたって無駄だよ?」
卯月「来ないで……! 飲ませないで……た、助け――」
・
・・
・・・
――ドガァンッ!
凛「くっ……! この!」
――グチャッ
凛「脆い、けど……」
凛(この生き物、いや、生きてるの? 少なくとも私が知っている動物じゃない!)
――ゴオオッ
凛「数が多い……ここは地下みたいだけど、出入り口が……」
凛(変な生き物は高い天井の穴から落ちてきてる……壁には窓一つ無い、そして床は……)
――ズルッ
凛(格子の入った溝……壊せば通れそうだけど、死骸の回収口なら……入りたくはないね)
凛「それにしてもっ!」
――ドゴッ
凛「本当に……何? まるで動物が……混ざったような、変な塊り……!」
――ヒュンッ!
凛「っ!?」
――ドガァンッ!
凛(こんな脆くて不定形な生き物でも……攻撃の威力はとんでもない!)
凛「どうす……え?」
――ガラガラ……
凛「壁が薄い? ここから外へ出られる!」
――バシャッ バシャッ
凛「外……まだ地下だった……人工的な、水路……?」
凛(迷路みたい、それに私が部屋を出たように他も追いかけてきてるはず……!)
――……ガガッ
凛「何……?」
――ピッ……ザーッ
??『マイクのテスト中だよー、聞こえてる?』
凛「スピーカーからの声……こんな場所に、わざわざ設置?」
??『まずは初めましてかなー? ようこそ、あたし達の本拠点へー☆』
凛「ようこそ? ……勝手に連れてきたのはそっちでしょ?」
??『そうだっけ? あたし聞いてないから分かんないや』
??『とりあえず自己紹介から、あたしはユウだよぉ』
凛「……どこに居るの?」
優『そんなに遠くないところ、近くの出口のひとつ♪』
凛「出口はあるんだね……? すぐに向かう、そして……皆を返してもらう」
優『皆? あ、お友達も居たっけ? 大丈夫大丈夫、同じようにオモテナシされてるから』
凛「じゃあ尚更急がなきゃね……!」
――ドスッ!
凛「…………」
優『ちょっとー、少しくらい反応してあげてもいいんじゃない?』
凛(この数相手に、いちいち反応する方が面倒!)
優『久しぶりに投入してみたけど、やっぱり駄目っぽいねー』
優『ふむふむメモメモ』
凛(何か、私を通して調べてる……?)
凛(そうだとしたら、戦うと余計に面倒だね、ここは逃げるが勝ち)
――バシャッ
優『もー、つまんないよー?』
凛「つまらなくて結構!」
凛「こっちは……行き止まり? じゃない、あれは扉!」
優『あ、見つけるの案外早かったね、どうする?』
凛「どうするも何も、さっさとここから出る!」
――バタンッ!
凛「階段……出口かな? それと…………誰、って聞く必要は無いかな」
優「はぁーい、ご対面♪」
凛「……通してくれる? 私はウヅキとミオに会って、ここから出て行くつもり」
優「んー……じゃあ駄目かな? まだ逃がすには遊び足りないしー」
凛「遊ぶ? あの変な生き物の事?」
優「アレはあたしの目標の途中で出来た副産物だよぉ」
優「ちゃんとカワイイお友達はあたしのお部屋に居るから安心して?」
凛「かわいい、ね……せめて犬とか猫とか普通の生き物にして欲しいよ」
優「大正解ー♪ 今連れてきてないけど、至極フツーのワンちゃんだよ」
凛「…………」
優「でも、こんな世の中じゃ普通の生き物は長生きできないんだよねー」
凛「それがこの状況とどんな関係があるの? 長話するつもりなら……通してもらうよ!」
――ダンッ!
優「だから、他の強い生き物を作ったり混ぜてみたり……うん?」
凛「はっ!」
――グチャッ
優「あっ……」
凛「えっ!?」
――ドサッ
凛「崩れ……!? 嘘、強くは攻撃したけど……!」
優「……混ぜて、いいとこ取りしようと頑張ってるんだけどね?」
凛「っ!?」
――ズズッ
優「あたしそんなに頭良くないから、行き当たりばったりで……」
優「自分に色々やってたら……こんな体になっちゃった、あは♪」
凛「生きて……!? ど、どうなってるの?!」
優「死んじゃいないけどぉ、やっぱり痛いっていうか?」
――スッ
凛(攻撃してくる……!? 駄目、よく分からない相手と正面から対峙するのは……!)
優「これ以上あたしが変わっちゃう前に、完成させなきゃ駄目なのー」
優「だから頂戴♪ 何をとは言わないけどぉ」
凛「……他の道を探す!」
――ダッ
優「あっ、ちょっとぉ」
凛(通路には変な生き物が埋まってるけど、出口は他にもあるはず、ならそっちを……)
――バシャッ
優「あ、そういえば今は水路に出ない方がいいかも?」
凛「とにかく別の道を――」
優「たしか電気ビリビリしてる危ないのがさっき落ちてきてたからぁ……」
優「通路って水場だったよーな? あぶなーい☆」
――ピリッ
凛「っ……なに――」
――バリィッ!!
凛「っが!? ……は……!」
――ズルッ
優「だから言ったのにー……うーん、歩きにくい、ちぎれちゃったからねぇ」
優「早く部屋に戻って適当にくっつけなきゃ駄目かなぁ」
――ガシッ
優「色んな生き物を合わせてると、たまに変なものも出来るんだよー、例えば……」
凛「ぅ……」
優「あれ? まだ起きてた? すっごーい!」
凛「何処へ……行く気……」
優「最初は作品のお披露目会だったんだけど、なかなか面白くて強そうな人だったから予定変更しちゃう☆」
優「最終目標は、人型を作る事なんだけど……いい材料になりそう♪」
凛「私を、どうするの……!」
優「大丈夫大丈夫、別に死にはしないって♪」
――ボトッ
優「あっ、また取れちゃった」
凛「……!?」
優「ま……あたしみたいになる可能性はあるけど……いいよね?」
凛「良くはない……かな……っ」
――ガクッ
・
・・
・・・
未央「ん…………!」
――グッ グッ
未央「ここ何処……!? なんで何も見えない……手も動かない……」
??「あれれ~? お目覚めれすか~?」
未央「声……誰!? ここは何処なの!? みんなは!?」
??「ここは七海のお部屋れす~、他の皆さんはそれぞれお部屋にご招待されてます~」
未央「ナナミ……? 誰? それにどうして私はこんな状態……」
未央「そ、そうだよ! 私は他の皆と城下を歩いてたはず!? 何で!? ここは何処!?」
七海「だからナナミのお部屋れすよ~」
未央「そうじゃなくて……場所は!? 国は!?」
七海「『コドライブ』と呼ばれていますね~、代表のお頭はサエさんれす~」
未央「サエ……! ど、どこかで聞いた事が……!」
七海「そうでしたか~、サエさんも有名になっちゃいました~」
――カチャカチャ
未央「……何の音?」
七海「お静かに~、動くと危ないれす~」
未央「私に何かする気? ……へへ、何をされても何も話す気はないよ!」
七海「いえいえ~、何もお話してくれなくて構いませんよ~、むしろ黙っていた方が安全れす~」
未央「…………?」
未央(状況は相変わらず意味が分かんないけど……私“達”が標的なら、きっと経典のはず……)
未央(でも、喋る必要はない……かといって解放されてるわけでもない……?)
七海「でも黙っていると緊張しちゃいますね~、やっぱりお話しましょうか~」
七海「お手持ちの武器を拝見しましたが、なかなか強烈なものれすね~」
未央「へ? あ、うん、ていうか勝手に取らないでよ!」
七海「失礼しました~」
七海「あの衝撃を受け止めるなんて、かなり鍛えているに違いありません~」
未央「もちろん!」
七海「というわけで、その中身を見せてもらっています~」
未央「うん。…………うん?」
七海「私事ですが~、七海はお魚が大好きで~。料理するのも食べるのも育てるのもれす~」
七海「どれも繋がっています~、大きく育てて手際よく調理して、そしていただきます~」
未央「う、うん……」
七海「ただ、その途中のお料理がどうにもうまくいかなくて~」
七海「苦手ではないれすけど、一流には遠いれす~」
未央(……な、何の話?)
未央「料理は……練習すればいいんじゃないかな」
七海「駄目れす! 七海の半端な腕でお魚さん達を無駄にするわけにはいかないのれす」
未央「じゃ、じゃあもう知らないよ、他ので練習すれば?」
七海「……その通りなんれす! もっと難しいもので練習すれば、お魚さんも上手に捌けます~」
七海「鮮度が命~。昔聞いた事があります~、捌かれた状態で何不自由なく泳ぐお魚さんの話を~」
七海「お魚さんは切られた事も認識していません~、当然鮮度抜群れす~」
未央「ねぇ……さっきから、何の話なの?」
七海「おやおや~……? これは七海も少しは腕が上がったという事れしょうか~」
未央「だから、いったい何が……? もう、離す気が無いならこっちから強引に……!」
七海「あっ、それは駄目れす~!」
――ピンッ
未央「ん? 何か外れた……?」
七海「ああ~…………」
未央(でも、体を抑えてる拘束が外れたわけじゃない……あれ? そもそも、私って何に縛られてるの?)
――グッ
未央「……! 腕が動く!」
七海「七海が言うのもなんれすけど~、じっと動かない方がいいと思います~」
未央「ふんっ、動けるとわかったらさっさと出て行くよ! まずはこの目を覆ってる布を――」
――ズキッ
未央「いっ……え?」
七海「素肌に布が触れると痛いれすよ~?」
未央(今、触れた手のひらに……変な痛みが……?)
未央「いや、それも目隠しを外せば分かる!」
七海「駄目れす~!」
未央「このっ! 離して!」
――ガンッ
七海「あうっ」
未央「痛っ!? ……も、もう! 何この痛みは……!」
未央(触れた所が痛い? でも硬いものを叩いたわけじゃない……ええい、とにかく見れば分かる!)
――バッ
未央「よしっ! …………え?」
七海「痛いのれす~……服が真っ赤になっちゃいました~」
未央「ちょ! 怪我してる!? なんでそんなに……全身……真っ赤で……? 私そんなに強く殴って――」
七海「料理中にモノを捌いていたら、こんな風になっちゃいます~」
未央「……? ……?」
未央(よく見たら……この赤の汚れはナナミって子からじゃない、地面に広がって……え、でも全体じゃない?)
未央(周囲に広がってるけど、中心は……私の寝ていた台……?)
――ポタポタ
七海「もしかして~、まだお気づきになっていませんか~? これは、大きな進歩れす~」
七海「当人が気づいていないまま、ここまで作業が進んだのは初めてれすね~」
――……ギラリ
未央「……え…………」
七海「お魚さんがかわいそうなのれす~、だから代わりに……あなたのような頑丈な方で練習するのれす~」
未央「あ、え……なにこれ……私、今どうなって……!?」
七海「ようやく認識されましたか~? なら、そこからは早いれすよー……」
七海「自分が切られていると分かった瞬間に~、一度に痛みはやってくるのれすよ~」
――ズキッ ズキッ
未央「あ、あ、あ!?」
七海「ほとんどの方は~、放っておくと大変なことになってしまうのれす~」
未央「傷……! どころか、な……見え……どうなってぇ……!?」
七海「えいっ」
――ゴンッ
未央「うぐ!?」
七海「おやすみなさいませ~、なかなか上手くいったのれす~」
七海「でも~、ちょっと中身が溢れすぎました~、早く治さないと二度目の練習が出来ません~」
――ザッ
??「またですか? 次は大丈夫なんでしょうか?」
七海「七海には分かりません~、でも直せるのはユカリさんだけれす~」
ゆかり「直す……確かに、私は元に戻すだけですから……」
七海「どうして昔の不十分な術式ばかり好んで使うのれすか~?」
ゆかり「さぁ、どうしてでしょう……? 未完成という点に惹かれるのかもしれません」
七海「やっぱり分かりませんね~、というわけで早く修理を~」
ゆかり「ええ、この傷を直して……もう一度、ですね?」
――カッ
七海「七海は二度とユカリさんの手は借りたくないれすね~、ただの切り傷が大惨事れす~」
ゆかり「でも、直ったじゃないですか?」
七海「元には戻りましたけど~」
――パァァ
未央「……っう!? あっ! なに……うああ!?」
ゆかり「あらあら、急に飛び起きてどうしました……?」
未央「あぐぅ!? な、何か変な……入って……!?」
ゆかり「入るのは当然ですよ、だって“元に戻して”いるんですから……?」
ゆかり「そこらに“出て行ったもの”を、直接元に……ふふっ」
七海「修復と治療の順番が逆れす~、無理矢理詰め込んでから回復すると、それは痛いに決まってますね~」
未央「あ、がっ……!?」
ゆかり「では私はこれで……それと、二度目の練習はしない方がよろしいかと」
七海「え~? どうしてれすか~?」
ゆかり「先ほど新しい情報が入ったようで……ユミさんが聞き出したそうなんですけど」
ゆかり「どうも経典は、付き添いであるアイリが居ないと機能しないらしいです」
七海「そうなんれすか? でも、そんな人は見てませんね~」
ゆかり「だから、ちょうど離れてた隙に私達が五人纏めて襲っちゃったんですよ」
七海「なるほど~……道理で上手くいきすぎたと思ってました~」
ゆかり「策略を阻んでくるはずの英雄が離席中だった、という事です」
七海「で、それが七海の練習と何の関係が~」
ゆかり「そのアイリが、こちらへ来るそうです。以前のカイに関しては追い返すことに成功しましたが……」
七海「ん~……そう言われると~、その人がここへ踏み込んできた時に三人が無残な姿だと~」
ゆかり「ふふ、逆鱗に触れて私達は仲良くお陀仏かもしれませんよ」
七海「それは困りますね~、まだ海の藻屑にはなりたくないれす~」
未央「あ……が……」
ゆかり「とりあえず、私はこのまま他の二人の所へ向かって、壊れていた場合は元に戻してきます」
七海「それは急いだ方がいいれすね~、お気をつけて~」
ゆかり「何を気をつけるのでしょう?」
七海「出された飲み物とかでしょうか~」
ゆかり「ふふ、確かに……ではナナミさんも、ここで待機しててくださいね」
七海「はいれす~」
――バタンッ
未央「はっ……はっ……た、助かったの……なにが……起きたの……?」
七海「おや~? 目が覚めました~? というより、起きているとは~。七海は二日ほど寝込みましたのに~」
未央「うっ……! な、何が目的なの……!」
未央(さっきの話……ここにアイリさんが向かってる……なら、自力の脱出も試みるけど、時間を稼がなきゃ……!)
未央(私達を処分するつもりはなさそう、人質にするつもり……?)
七海「という事は先ほどの話も聞いていますね~、英雄さんが助けにきますよ~」
未央「アイリさんに頼らなくても……自力で脱出してみせるよ……!」
七海「強気れすね~、味方が頼もしいのはいいことれす~」
――ドスッ
七海「もしかして~、今の話を聞いて自分はこれ以上何もされないと思っていますか~?」
未央「あいっ……!? え、なんで……!」
七海「ユカリさんには後で謝っておきます~、もう一回捌いちゃいました~、てへっ、と~」
――ザシュッ!
未央「あ、わああ!?」
七海「動くと痛いのが増えますよ~……あ、動かなくても直す時にもう一度痛いれすね~」
未央「う、ぐぅ……!? ま、また……!?」
――ギラッ
七海「それ~、お魚さんに代わっての解体ショーれす~」
未央「ひ……!?」
――……!
――…………!!
――……!? ……!!
ゆかり「…………まったく、人の話を誰も聞いてくれません、ふふ」
常に口半開きだし、動物への愛情が一方通行だし、呂律が回ってない
そりゃこんなキャラにもなるさ(言い過ぎましたごめんなさい)
支援
一応閲覧は自己責任で
http://i.imgur.com/Yvyh4Ae.jpg
ところで
クラシカルキューティーマイエンジェルほたるの出番はまだですか?
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>>352
うわお、なんだか素敵な、素敵な? 背筋にクるイラストをどうもありがとうございます!
まさかイラストが届くとは思ってもいませんでした、とても感謝しています。
ほたるは、今のところ登場させたものの……予定が空白の状態です、そのうち……
今回の更新は、もう少し後で。
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・・
・・・
紗枝「ところで、誰がこのアイリはんがこっちに向かってはるという情報を?」
??「さぁ、風の噂……かな」
紗枝「えらい適当どすなぁ。とはいえ偽情報でも、そのうち来ることは間違いありまへん」
??「だから、怒らせる前に止めに行かせたの?」
紗枝「手遅れやろか」
??「あの三人に任せたなら、そうなってるかもね……表向きは治せるけど」
紗枝「治し方が荒々しいからなぁ、物理的に治せても精神的にどうやろか?」
??「大丈夫なの? 私、前みたいなとんでもない相手と戦いたくないんだけど」
紗枝「なるようにしかなりまへん、その時はその時どす」
??「もう……っ、ちょっとごめん」
紗枝「またいつものどすか? 難儀な体してはりますなぁ」
??「好きでこうなったんじゃないよ……あ、無くなっちゃった……後でユミの所行かなきゃ」
紗枝「よう確認しいや? また前みたいにえらいもん渡されるかもしれまへんよ」
??「だね……じゃ、制止がてらに行ってくる」
紗枝「お達者で~」
――バタンッ
紗枝「いうても、色々と手遅れやなぁ」
紗枝(ほんまは全部丸め込んで終わり、その予定が一番大事なもん見逃すとはなぁ)
紗枝「……前の方は、侵入させる前に止めよう思たけど、結果被害は増えるわ最奥まで来られるわ……」
紗枝「そや……いっそ最初から招待したらええんと違いますやろか?」
紗枝「こっちにも一応は三つカードがありますし、やる価値ありますわぁ」
紗枝「……なんにせよ、必要以上に壊してない事を祈っておきます」
――…………
夕美「えー?」
優「えー?」
七海「痛いれす~」
ゆかり「三人共やりすぎです、加えてナナミさんに関しては一回止めろと言いましたよね?」
七海「湧き上がる探究心が抑えられません~」
ゆかり「他の人で良かったじゃないですか、どうしてわざわざ私が止めた人で実行するんですか」
夕美「私は一緒にお茶してただけでー、あうっ」
ゆかり「抗体が無い人に飲ませるお茶じゃないですね」
優「ねーねー、あたしは何もしてないでしょ?」
ゆかり「“まだ”ですね、あと数分遅れたら完全に取り返しのつかない所まで行ってましたね?」
優「ひどーい、せっかくもうちょっとで初めて“作れた”かもしれないのにー、ねー?」
七海「れす~」
ゆかり「その代償に私まで巻き込まないでください、迷惑です」
夕美「何作ってるんだっけ?」
優「忘れてたのー? ひどーい」
ゆかり「いちいち他の人が何をやっているかなど、把握していませんよ」
優「じゃ、もう一回説明するー♪ あたし達ってさ、下に誰もいないじゃん?」
七海「下ってなんれす?」
優「部下が居ないというかー、手軽に動ける人がいないじゃん?」
夕美「別にいいんじゃないかな、不便してないし」
ゆかり「そもそも他に出る機会がないともいいます。ま、今回のような例外の時は面倒ですけどね」
優「でしょー? 城内は適当な失敗作でもいいけどねー」
ゆかり「……あのよく分からない生き物も、なるべくなら控えて欲しいですが」
夕美「そう? 前衛的なデザインだと思うよ?」
七海「出来の悪い粘土細工に見えるのれす~」
優「あれあれ不評ー? なにそれー、人が頑張って作ったのにー」
ゆかり「さっき失敗と言ったじゃないですか」
優「とにかく、ついに完成しそうなの! これであたし達がわざわざ出迎えしなくてもよくなるよ?」
七海「それは便利れす~、で、進歩はどうれす?」
優「だからー、ユカリちゃんがストップかけちゃったから頓挫中?」
ゆかり「私のせいですか……傷つけてはいけない相手に実行しようとしていたから止めただけですよ」
優「じゃあ続きしていい? “あたし達の代わり”を作るんだから、元は多い方が良かったんだけどねー」
夕美「科学者みたいな事して、楽しい?」
優「得意分野じゃないけどぉ、あたし自身のため? お化粧するのと一緒かな」
優「いつまでも強く綺麗でいたいしぃ? なら、ちょっと道は外れないと駄目かなーって♪」
夕美「あ、分かるかも? 私もそんな感じかなっ♪」
七海「七海にはよくわかりませんね~」
ゆかり「放っておきましょう、とにかく……いずれ侵攻してくるアイリに、不利な条件を増やしたくはない」
ゆかり「……以上です」
夕美「はーい」
・
・・
・・・
――ピクッ
凛「う…………」
凛(また別の場所……今度は何?)
凛「……まだ、体が変……とにかく現状を把握しないと」
――ガシャン
凛(特に拘束されてはいないけど、扉は当然鍵が掛かってる……窓はあるけど小さすぎて通れない)
凛「武器……衣服とみなされたのかな、ブーツは履いたまま」
凛(でもさっき、これで戦ったところはあのユウって人が見てたはず……なら、わざと外していない?)
凛「…………はっ!!」
――ドガッ!! ガシャンッ
凛「随分舐められてるね、確かにここまですんなりと連れ去られちゃったわけだけど……」
凛「これで閉じ込めたと思っているなら、甘いよ……!」
――ザッ
凛「……他にも部屋がある、もしかして!」
――スッ スッ
凛(多い、でも私がこの場所に入れられてたなら、ウヅキかミオもこの近くに……!)
凛「それにしてもこんなにたくさん……怪しいね」
――スッ
凛「……ミオっ!」
未央「ん……いっ……あれ、ここは……」
凛「大丈夫!? 今鍵開けるから!」
――ガチャッ
未央「あ、しぶりん……大丈夫?」
凛「私よりミオは? 見たところ怪我は無さそうだけど……」
未央「あはは……怪我はしてない、うん……しぶりんこそ、怪我してる……」
凛「私は大丈夫。……何かされたの?」
未央「ううん、何でも……よ、よし、さっさとここから逃げないとね!」
凛「逃げる前に、経典を取り戻さなきゃ……! それに、ウヅキも見つけないと」
未央「あ、そうだったね……よし、じゃあさっそ……おっと!」
凛「ミオ!?」
――ガシッ
凛「……やっぱり、大丈夫じゃないでしょ? 何があったの?」
未央「まさにまな板の上の鯉だったかなぁ……」
凛「それ……かなり――」
未央「あっ、こっちの部屋に誰か……!?」
――バンッ!
未央「しまむー!」
凛「えっ? ウヅキ! そこにいる!?」
卯月「ぅ…………」
未央「どう? 私分かる!?」
卯月「…………」
凛「かなり疲弊してる……ねぇ、ウヅキがこんな状態になってるなら、ミオも何か――」
未央「平気平気! それにしぶりんだって元気じゃん?」
凛「そうだけど…………」
――ガタッ
凛「……!」
未央「外からだよ! 誰か来るかも!」
凛「隠れるところ……無い、そもそも死角が何も……」
未央「いったんお互いの居た部屋に戻ろう! 鍵は掛けずに!」
凛「それがいいね……よし、戻ろう」
――バタンッ ガシャンッ
凛(留め金は壊れてるけど……来た人が注意深く見なければ大丈夫……!)
凛「さっき会った人か、それとも別の人か……!」
――コツ コツ コツ
未央(大丈夫……動ける、あれはきっと悪い夢とかなんだよ!)
未央(じゃないと、生きてるはずなんて無い……きっとそう、だから……)
――コツ コツ ……ギィィ
夕美「ここの……どの部屋だっけ?」
凛(違う、誰か分からないけど……敵には違いないはず)
未央(どうしよう? 飛び出して抑える……でも、食器運んでる、食事係?)
夕美「んー、せっかくお茶の続きにしようと、もっと美味しいの持ってきたのになー」
未央(…………?)
凛(見落としたけど、他に人が居た……? その人と、こんな場所だけどお茶しにきた……?)
夕美「ふぅ、とりあえず端から見ていこうかな、どこかなー」
未央(端からならしまむーが最初に見つかる……万が一なら)
凛(飛び出して、抑える……それ以外は、まだ捕まって目が覚めていないフリ)
――コツ コツ
――……ガチャ
夕美「おっ、見つけた見つけたー、おはよー、起きてー」
卯月「ぅ…………」
夕美「あれれ、まだ夢の中かな。じゃあ失礼して、これ飲めば目も覚めるよー、そーっと……」
――コクッ……
卯月「…………!? げほっ!!」
夕美「わっ!? あれれ、溢れちゃった……」
卯月「けほっ、ごほっ……な、何……急に……誰っ――」
夕美「おはよっ♪ ねぇねぇ、ティータイムの続き、しよ?」
卯月「ひっ!? ユ、ユミさ……!? じゃあここは……!」
夕美「名前覚えてくれた? 嬉しいなぁ、それじゃ私達はお友達♪ ほら一緒に飲も、たくさんあるからさぁ」
卯月「やめてっ! 近づかないでください! 誰かっ――」
――ダンッ!!
――ドガンッ!
夕美「っ!?」
卯月「きゃっ……」
凛「やあっ!」
未央「このおっ!」
――バキィッ!
夕美「うぐっ……!?」
――ガシャンッ パリィン
卯月「リンちゃん! ミオちゃん! ……本物?」
凛「大丈夫、ちゃんと私はここに居る。ウヅキ、出るよ!」
未央「とにかく見つかったも同義だからね、さっさと目的を達成するに限る!」
卯月「う、うん! 早く逃げよう……!」
凛「経典を探し出してからね」
――ダダダッ
――カチャ カチャ
夕美「…………割れちゃったね、お気に入りだったのに」
夕美「それにしても……面白いなぁ、あの三人」
夕美「もう少し、一緒にお話してみたいなー…………っ!」
――ヒュッ パリィンッ!
夕美「……いけない、足りない、割れちゃったから」
夕美「部屋に戻って続き……喉が渇くなぁ……」
――ズキッ
夕美「あ……破片、いいや……放っておこ……」
夕美「次は何にしようかなぁ、新しいお花も育てなきゃ……新しい……」
夕美「じゃあ、新しい何かを見つけないと……ふふっ♪」
・
・・
・・・
愛梨「私一人じゃ、カイすら退けた国に対抗は難しい……かといって協力者なんて……」
愛梨(ウヅキさん達の知り合い……だと、戦力の差が激しすぎる、何より危険な目に合わせるのは……)
愛梨(それに相手は形だけの可能性はあっても国という形式を取っている)
愛梨(なら……力になってくれそうな人物でも、国に所属している身では厳しい)
愛梨「となると、実力と立場を考えるのならば……例の、コトカの一件で会った人達、ですが……」
愛梨「当然、連絡先など知る由もなく……把握にも収集にも時間がかかる……!」
――ザッ
愛梨「……けれど、じゃあ他の人はどうなの……?」
愛梨(私は……昔の日々は戦場と経典にしか費やしていなかった……だから、こんな時に頼れる人は……)
愛梨「っ、駄目。昔の事を悔いても……今はウヅキさん達を助けに……」
愛梨「誰も手伝ってくれなくても、私は……大丈夫、だから――――」
――ゾクッ
愛梨「……!?」
愛梨(今……気配を……)
愛梨「しかも、近い? ……まだ領地には遠いはず、こんな早くに刺客が……? いや、それよりも……!」
愛梨(ここまで接近されるまで、まったく気付かなかった……そんな馬鹿な……)
愛梨「……とにかく相手の位置を割り出さないと、そして力量も……探知!」
――パァッ
愛梨「…………!? こ、これは……! 大き……嘘……!?」
愛梨「こんなの……カイと同じレベル――」
――メキッ! バキッ!
愛梨「っ! 木が……!?」
愛梨(周り、一帯の木が地面から離れて……! 浮いてる……?)
――ピタッ ……ゴオッ!!
愛梨「全てが、こっちに……! くっ!」
――ズガガガガッ!
――…………
??「……まさか、これで終わりじゃないですよね?」
愛梨「ええ……随分手荒な挨拶でしたが……」
――ゴオッ!
??「うえっ! あっ、熱い! 熱いです! 燃えた木の破片がこちらにもっ! 消火! 消火です!」
愛梨「何をしてるんですか……みっともない」
??「はっ! そうですね、ちゃんとしっかりします!」
愛梨「……私が上手く術式を使えたからよかったものの、ブランクで鈍っていたらどうするつもりだったんですか?」
??「いや、そうは言いつつも周り全部から持ってきた木を一瞬で燃やすほどの魔術、さすがですアイリさん!」
愛梨「私が大怪我するところでしたよ!」
??「あははは……でも、今から戦地に赴くんでしょう? そんな心構えで大丈夫ですか?」
愛梨「……何故知っているのですか?」
??「カイさんからご連絡がありました!『アイリを手伝ってやれ』と!」
??「昔のお友達が危機なら……この私、世界中のどこからでもすっ飛んで来ます!」
愛梨「カイさん…………ふふっ、何だかんだで、助けてくれるんだ」
??「しかしどうしてカイさんは来ないのでしょうか!」
愛梨「一度向かったけど、追い払われたそうです」
??「ほう……? それはまた耳を疑いますが……」
愛梨「その国に、私が経典を授けた三人が拉致されました、見ていない隙に」
??「なるほど……それは一大事です、ぜひ救出しましょう!」
愛梨「……万が一、私のせいで灯が消えていたなら……容赦はしません」
??「あれっ? では無事だったならどうするんですか? ちょっと不謹慎ですけど」
愛梨「その場合……経典に一度は書かれた、この国の問題の解決事項があります」
愛梨「三人に向けて出された課題を私が行ってはいけない……そういう事です」
??「……分かりません! 要するに我々はその三人が無事なら窮地だけ助ければいいと!」
愛梨「その通りです、過剰な手助けは……出来ません」
??「了解しました! では早速……走りましょう!」
愛梨「え? その、移動は目的地が決まっているので魔法で――」
??「駄目です! こういう時は自らの足が大事です! 普段特殊な力に頼っている人は、こんな時こそ人力です!」
愛梨「特殊な力……って、あなたは特殊も特殊ですが私は魔力なので……」
??「関係ないです! 時間は惜しいとは思いますが、走りましょう!」
愛梨「……分かりましたよ、でも急ぎますからね? 森は木が多くて走りにくいですから強化式で――」
??「ああ、その点は抜かりないです! 今から道を作ります!」
愛梨「作るって……」
??「行きますよー……むむむ……せいっ!!」
――バキィッ!!
??「……ふうっ、これで一直線、全部木は薙ぎ倒しました!」
愛梨「相変わらず……原理のまったく分からない力です。魔法でも、そんなデタラメなパワーは出ませんよ?」
??「魔法、マジックじゃないです! これは私が持つ超能力……サイキックです!」
愛梨「超能力……確かにその通りです」
愛梨(魔力でも物理能力でもない、前代未聞の謎のエネルギーを操る……私と同じ、英雄と呼ばれた一人……)
愛梨(カイさん、連絡を取ってくれてたんですね……? これなら、大丈夫です……!)
??「では行きましょう! この唯一無二のサイキッカー、エスパーユッコがご先導します!」
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本来の立ち絵を編集しただけですが、もともと格ゲーの妄想が派生して生まれた作品なので
某制限なしをイメージしてこんなものも作ってみました。 こんなの作ってたから本文短いです、すいません。
http://i.imgur.com/bhtuEKy.png
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・・
・・・
紗枝「えらい荒々しいどすなぁ」
ゆかり「荒いどころか……どうなって、一直線に道が?」
七海「海が割れたようれすね~」
ゆかり「さすが、戦地を退いてもなおこの破壊力……」
七海「目視も出来ない距離から撃ってきたんれす? 想像できませんね~」
紗枝「んー……これ、ほんまにアイリはんがやったんやろか?」
七海「違うのれす?」
ゆかり「確かに、言われてみれば魔力の気配などまるで感じません。これは別の襲撃……?」
紗枝「こんな辺境の地を好んで襲う国なんておりまへん、同じ人とは違いますけど別の人でもあれへんなぁ」
七海「どういう事れすか~」
紗枝「せやなぁ、簡単に言いますと……お仲間が増えたかもしれまへんなぁ」
ゆかり「仲間……アイリの仲間というと、他の四人という事でしょうか」
七海「それは一大事れす~、お一人でも大変でしたのにね~」
ゆかり「大事だという明るさではなさそうな声色ですが」
七海「気のせいれす~」
紗枝「これはもう、事前に止めるのは無理やろなぁ、大人しく降参しましょか?」
ゆかり「何を馬鹿な事を」
紗枝「半分冗談どす~」
七海「れす~」
ゆかり「……では残りの半分をお聞きしましょうか?」
紗枝「うちらはなーんにもしません、普段通り過ごす事にしましょか」
七海「普段通り、れすか?」
紗枝「ええもうその通りどす」
ゆかり「それは…………」
七海「なら七海はお部屋に戻ります~」
――タタッ
ゆかり「普段通り即ち、個人の自由ですが?」
紗枝「せやなぁ、皆さん自由に動いた方がええんとちゃいますか?」
ゆかり「勝手に動けば事態の収拾が付かなくなるでしょう」
紗枝「そうどすなぁ」
ゆかり「…………知りませんよ」
紗枝「これでうちらは小悪党の定型文の“部下が勝手にやった”が使えますなぁ」
ゆかり「悠長な事を言ってる暇はありませんよ? ……ま、面白そうですけどね」
紗枝「そう言うてくれはる思いました」
ゆかり「ただし最後はきちんと纏めなければ、四人とも外へ余波を広げかねませんが」
紗枝「最後の幕引きはー……ユカリはん、頼んでもよろしおすか?」
ゆかり「結局そうなりますか」
紗枝「頼りにしてますわー、ほんまおおきに」
ゆかり「では、私もこれで」
紗枝「どちら行きはりますか?」
ゆかり「そうですね……きっと下層で三人とも誰かに遭遇するでしょう、上階に向かいます」
紗枝「お気を付けてー、いい知らせをお待ちしとります~」
・
・・
・・・
凛「……よし」
――ザッ
凛(まだ落ち着かないウヅキと、付き添いのミオは下で待機……私が探索の役)
凛「この地下、思ったよりも広い……誰にも遭遇しないのは幸いかな」
凛(とはいえさっきから階段も何度か上り下りしてるのに、まったく新しい場所に出ない……どうなってるの?)
――バキッ
凛「あっ……何か踏んだ? これは…………ガラス、じゃない……」
凛(陶器の……なんだろう、破片が小さくて分からない)
凛「片付ける義理は無いし、目印として使わせてもらおうかな……じゃ、最初は向かってこっち側を」
――タッタッタッ
未央「……しぶりん! どう? 見つかった?」
凛「ミオ……いや、まだだよ。道を間違えたみたい」
未央「……?」
凛「とにかく、ここは思っているより複雑だよ、はぐれると危ないかもしれない」
卯月「じゃあ……一緒に動く?」
凛「その方がいいかもね、立てる?」
卯月「大丈夫、ちょっと頭が……フラフラしてるけど、なんとか」
未央(私やしぶりんより、極端に疲労してる……私も大概だったけど、後には引いてないから……)
凛(さっきの人……ユミって言ってたかな? その人と何かあった……のかな)
未央「とりあえず、さっさと移動しよう! またあの人に遭遇したら嫌だからね」
卯月「うん……よいしょっと……行こう」
凛「先導するね、といっても道は分からないけど……」
――ザッ ザッ ザッ ザッ
未央「……広すぎるよ」
卯月「地下に巨大帝国、なんてオチは……」
凛「いや、同じような構造の地下がここまで広がっているのは妙だよ、何か……」
――バキッ
未央「あっ! ……っと、なーんだ、もう割れてる破片かぁ。もしかして私が蹴っちゃって壊したかと――」
凛「え? ……さっきの破片」
凛(あれはかなり進んだ先にあったはず……いや、それよりも、それほど進んだ先から私はどうやってミオのところに?)
卯月「……あれ?」
未央「どしたの?」
卯月「今……そこの角に誰かいたような……!」
凛「ようやく敵襲? 構えて」
未央「もちろん! さて、誰が来る?」
凛(人、ならいいけど……!)
――…………
未央「来ないね……」
凛「見間違い、なんて考えるのは甘いかな。向こうも誘ってるのかも」
卯月「別の道もたくさんあるよ、あっちに行ってみる?」
凛「それもアリ……下手に何か危ない気配がする道を選ぶ必要はない、か……」
卯月「じゃあ反対側のこっちの道を――」
――シュル
卯月「……へっ? あ、あ……?」
未央「ん? どうしたの――」
――ドサッ!
卯月「きゃああ!?」
凛「ウヅキ!?」
卯月「足に、足に……! 引っ張られ……助け……!」
凛「……? ……?」
未央「足!? このっ、しまむーを離……ん?」
卯月「この……離して……!」
凛「ウヅキ! 足に何があるの?!」
卯月「さっきと同じ……! ツタが絡んで……!」
凛「ツタ?!」
凛(焦り方は本物だし、実際に引っ張られてる……? でも……!)
未央「しまむー?! その、ツタっていったい……どこに、どれが?!」
凛(足には何も絡んでいない……ように見える)
未央「と、とりあえずなんだか危ない気がする! ここを離れよう! こっちの階段を上がって逃げるよ!」
凛「かいだ……ミオっ! 前!」
未央「えっ? 何が――」
――ガンッ!!
未央「痛っ!? あうっ……!」
卯月「ミオちゃん! 大丈夫? ちゃんと前を見て歩かないと……!」
凛(階段……? その方向には道も無い、壁に正面からぶつかった……明らかに妙……)
凛「ウヅキ! さっきのユミって人に、何をされたの!?」
未央「しぶりん! 今はそれどころじゃないよ!」
凛「違う、もしかすると……同じ人に既に攻撃されてるかもしれない、だから攻撃手段が知りたい……!」
卯月「ユミ……は、私に……何度も変なものが見える飲み物を飲ませて……遊んでた」
未央「幻覚? じゃ、じゃあ……」
卯月「もしかしてそうかも……でも、幻覚と分かってても……駄目、対処が出来ないの!」
凛「直接受けたならそれも仕方ない……けど今は違うはず、いったい何が……!?」
――カツン
凛「…………もしかして」
凛(この破片は、さっきあの人が運んでた飲み物が入ってた……ティーカップじゃないのかな)
凛「ウヅキ、この破片に見覚えが――」
――ドロッ
凛「なっ!?」
卯月「え? リンちゃん呼んだ?」
凛(う、腕が……急に溶け……いや、ウヅキは何も反応していない……!)
凛「じゃあこれも幻覚……っ!」
――グチャッ
凛「あ、う……う!?」
卯月「リンちゃん? リンちゃん!?」
未央「しぶりん! まさかしまむーと一緒で……!」
凛(そうだ、既にこの地下に充満してたんだ……! 既に一度攻撃を受けてたウヅキは発症が早かった……)
凛(次に地下を……きっと幻覚でまともに見えてない、この空間を歩き回ってた私……!)
卯月「どうしよう! とにかく逃げるしか――」
凛「駄目! もう術中なんだ、下手に動くと危な……」
――シュルル
凛「んぐっ!?」
卯月「きゃあっ!?」
未央「え?! どうしたの二人とも!?」
凛「あ……がっ……」
卯月(ツタが口を……苦し……)
未央「やばい、まずい、ど、どうしよ……逃げるって、どこに……わ、わ……」
未央(まだ私は大丈夫でもそのうち毒牙が……かといって現状を変える方法なんて……!)
凛「っ…………」
凛(幻覚を振り払うのは、大きな衝撃で無理矢理起こすしか……なら!)
凛「多少の怪我は……んっ!」
――ヒュンッ グニャッ
凛(なっ……!? 壁が柔らか……?!)
卯月「っ!?」
未央「ちょ、しぶりん!?」
凛(しまった……! この壁すら正しく見えてない……自傷さえ出来ない)
卯月「う、あ、嫌……!」
未央「ああもう! 移動! 移動する! 私は強引に道を作るしかできない! とにかく走れば大丈夫なはず……!」
凛(違うんだよミオっ……! 完全に目覚めてからじゃないとダメ……動くのは危険……強い、衝撃が……)
――キラッ
凛「…………!」
――ガッ
未央「よし、とにかく地上に出なきゃ……ん?」
凛「……って」
未央「え? ど、どうしたのしぶり――」
凛「思い切り、私を殴って!!」
――……ズンッ
夕美「ん……何の音だろ、外で誰か暴れてるのかな」
――ポタポタ
夕美「さて、そろそろいいかな……地下組には目覚めのドリンクになっただろうね」
夕美「もちろん、地上に出てからも一緒にお茶会が始まるけどね♪」
――コツ コツ コツ
夕美「はーい、追加のお飲物でー……わっ、ずいぶん暴れたね」
夕美(壁に大きいヒビと、あちこちに足跡……かなり歩いたみたいだね、ぐるぐると無駄に)
夕美「えっと、ウヅキちゃんとミオちゃんと……あれ? もう一人は?」
夕美「もしかして逃げようとして運悪く窓から落っこちちゃったとか? あー、残念だなぁ」
夕美「ま、二人でもいいや、の前に……部屋に流し込んでばかりだったからね、ここで私も一杯♪」
――コポコポ
夕美「ちょっと時間空いちゃったから喉渇いちゃって、いただきま――」
――パシッ
夕美「…………?」
――グッ
夕美(幻覚の腕じゃない……そりゃそっか、飲むのを止める手なんて見たことないし)
夕美「じゃあこれは誰の――」
――ドガッ!!
夕美「っう!」
――……パシッ
凛「そんなの飲んでると体に毒だよ……初めまして、二回目だけど」
夕美「…………」
凛(この飲み物が元凶と見た……密閉されてるから大丈夫だけど、割れると厄介だね)
夕美「……して」
凛「少し視界が戻ってきた……なるほど、ここはもう地下じゃなくてかなり上の階層だったんだ」
夕美「ねぇ」
凛「ん……」
夕美「それ、返して」
――ゾクッ
凛「っ?!」
夕美「返して、なんで私から取るの? ねぇ、ほら早く、欲しいなら後であげるから」
凛「っ、止まって! これ以上近づかな――」
夕美「なんで……? どうして止めるの」
凛(奪い返されると何をするかわからない……なら!)
――ガシャンッ!
夕美「あっ…………」
凛「ここで壊すとこっちも危ない……なら、窓から……捨てる!!」
――ビュンッ!
夕美「私の……私の、私の……!」
――ドンッ
凛「わっ……あ、ちょっと……!」
――ダンッ
夕美「駄目っ!!」
凛(窓から! 何の躊躇いもなく……! 二階とか三階なんて高さじゃないのに……!)
――パシッ
夕美「あはは、お帰り……♪」
夕美「あは、あははははは!!」
――……ガササッ
凛「…………地上は森、なら万が一助かってるかも」
凛(落ちながら……ずっと笑ってた…………っ……)
未央「っ……はっ!」
凛「ミオ、ありがとう」
卯月「あ、ここは……」
凛「もう大丈夫、あの幻覚の元凶はここからひとまず退けた」
未央「うう、ちょっとだけだったけど頭が痛い……」
卯月「……ごめん、全然協力できなくて」
凛「仕方ないよ、運が悪かっただけ……それに何度も言ってるでしょ、気にしなくていいって」
卯月「うん……でも、何も役に立ってないような気がして」
未央「悲観しちゃ駄目! ポジティブポジティブ!」
卯月「が、頑張る……あれ?」
凛「どうしたの?」
卯月「その、アレは……?」
未央「窓?」
凛「ああ、大丈夫だよ、攻撃じゃなくて私が割った、外に捨てるための……」
卯月「じゃなくて……外の森、あれはどうなってるの……?」
凛「森? 特に何も…………!?」
未央「えっ!? い、一直線に……木が全部倒れてる?」
凛「道、にしては雑だね……」
卯月「なんだろう……気になるけど」
凛「外なら関係はないか、もしくは調べてる暇もないかもね」
未央「次はどうする? あの道を調べるなら下に降りるけど……」
卯月「降りるとユミさんに会うかもしれない……だよね?」
凛「そうだね……今は大丈夫だけど、正直接触するたびに不利になる相手、二度目の私はまだしもウヅキは……」
未央「じゃあ、このまま上に行っちゃおう、経典もたぶん上の階だし……」
卯月「私も……次こそ名誉挽回する!」
凛「決まりかな……このまま上に行こう、そして経典を見つける」
卯月(私だけ、何も出来てない……運とかじゃなくて、もっとしっかり……しないと!)
・
・・
・・・
――ガシャアンッ!
裕子「何事!」
愛梨「あそこ……窓が割れたようです」
愛梨(既に戦闘が行われている……いや、誘いかもしれない?)
裕子「誰か居るようですね? どうしましょう、直接向かいますか?」
愛梨「一人で行くつもりですか?」
裕子「あー……やっぱりナシで、一緒に行きましょう! 人体にサイキックは有害ですからね!」
愛梨(上階へ運んでもらう事は可能……ですが、有害とかそんな理由ではなく)
愛梨「私なら大丈夫です。でもユッコちゃんが私を運ぶのにどれくらいパワーが要るの?」
裕子「サイキックパワーは無限大です!」
愛梨「限界の話じゃなくて、今の状態の話」
裕子「すいません! 無理です!」
愛梨「やっぱり」
愛梨「自由に使ってもいいんじゃないですか?」
裕子「いやいや、リミッターとかあった方がサイキッカーっぽいですよね! 私は本気を残している、みたいで!」
愛梨「見栄を重視して本末転倒にならないようにだけは気をつけてくださいね」
裕子「もちろんです! 困った時は外させていただきます! でも今は困ってないみたいなので外しませんね」
裕子「というわけで窓ガラスは気になりますが歩いて向かいましょう」
――ダンッ
愛梨「……?!」
裕子「どうしました?」
愛梨「……三人じゃない」
裕子「ん? 何がありました? 三人って、あの三人ですか? でもそれどころか人影すら……」
愛梨「今、窓から一人が飛び降りました」
裕子「なんと? あの窓から飛び降り……って、なんでそんなに冷静なんですか! 人が落ちた!?」
――ガサッ
愛梨「三人の接触した相手は認識しています、その中に覚えがないという事は恐らく敵です」
裕子「でも万が一、新しい仲間とも考えられませんか、どうでしょう!」
愛梨「それを知る由も無いです、無視すべきかと」
裕子「いいえ、お友達なら助ける、敵なら後の奇襲を避けるべきに状態を確認しておくべきかと」
愛梨「……では、そちらは任せても?」
裕子「分担ですか! 承りました!」
――……ガゴン
愛梨「道中何事もなく……内部ですか」
愛梨(私が向かっていることなど、とうに聞き出しているか察しているはず、なのに何も無かった)
愛梨「という事は、万全の状態で待ち構えているのでしょう」
――ガチャッ
愛梨「この部屋は…………何ですか?」
愛梨(撥水性のある床、壁、そして低い温度と……鉄の箱。……調理場にしては、立地が悪い)
愛梨「それに、暗いですね……電灯も入口と部屋の中央に少しある程度――」
――ユラリ
愛梨「……!?」
――ガァンッ!
七海「避けちゃ駄目れす~」
愛梨「敵襲……はあっ!」
――パァンッ!
七海「うえっ」
愛梨(地面の影で気づけた……! あの巨大な刃物が武器ですか)
愛梨「ですが不意の一撃は避けました、これからは出せる限りの全力でお相手しま……す……?」
七海「きゅう~……」
愛梨「……まさか?」
――……スッ
愛梨「武器を奪っても……反応なし」
愛梨(一撃? ……仮にも、気配なく背後を取られた相手がそんな)
七海「うー…………」
愛梨(気絶、していますね……意識は無いようです)
愛梨「……ただのその他大勢の一人、だと思いましょう」
――スタスタスタ
――…………スッ
七海「痛いのれす~……あの方はどこへ行ったのでしょう~」
七海「……うーん、案の定包丁は無くなってしまいました~、持って行っちゃったのれすか~?」
七海「でも~、このまま見逃すのも勿体無いれす~」
――カシャンッ
七海「ゆっくり後を追いかけましょう~」
・
・・
・・・
――ギィィ
未央「これはまた……暗い部屋だね」
凛「気を付けて、何があるか分からないよ」
卯月「それなりに大きい建物の中だから、明かりのスイッチとかがあるかも……」
未央「入口の横……お、これかな? ほいっと」
――パッ
卯月「……わぁ」
凛「この部屋は……」
未央「生きてるの……? 動物が、見たことあるものからそうじゃないものまで……檻の中だけど」
卯月「檻というより、箱……?」
凛「何の部屋か調べない方がいいかもね」
未央「どういう事?」
凛(この雰囲気だと……私が会ったあの人が関係してる、間違いなく)
卯月「……あ、向こうにも扉が」
凛「早く次の部屋に向かおう、ここは不気味だよ」
未央「そうだね……どんどん生き物も見た事がないものになってきたし」
凛(見た事がない、というより……普通は存在しないはずの生き物のレベルだね)
卯月「開けるよ……ん、あれ?」
未央「どうしたの?」
卯月「開かない……鍵がかかってる――」
――ガシャンッ
凛「……! 扉に鉄格子が!」
未央「いや、それごと壊せば大丈夫……って、後ろ!」
卯月「えっ? あっ!?」
未央「さっきの変な生き物のいた扉が開いてる……!」
凛「やっぱりね……でも一匹一匹は強くないはず、罠を迎え撃つよ!」
卯月「よ、よしっ!」
――ガシャン ドタン
優「……やぁん激しい♪ ちょっとゼータクな使い方だけどぉ、いいよね?」
優「画面通しても、なかなかいい素体だとは思うなぁ……でも」
優(捕まえるのは無理でしょ? あたしは相手とその背景を見ない程、無謀する人じゃないしぃ)
優「だったら安全な情報収集で済ませるしかないよぉ……あれ、もう終わっちゃった?」
卯月「はあっ!」
凛「ふっ!」
未央「でりゃーっ! このっ、素手で触りたくないんだからね! この、このっ!」
卯月「ミオちゃん、その大きいのは?」
未央「あ、適当にそこら辺の柱を引っぺがして」
凛「部屋、崩れたりしないよね?」
未央「大丈夫……でしょ!」
卯月「それにしても……この見た事もない生き物は?」
凛「ユウ、私が会ったここの住人が“飼ってる”んだよ」
未央「えっ? しぶりん他の人に会ってたの!?」
凛「特に何もされてないけどね、ダメージは受けたけど……今は大丈夫」
卯月「無茶しちゃ駄目だよ」
凛「互いにね」
未央「……もう襲ってくる敵はいない?」
凛「油断しちゃ駄目、でも檻はあらかた開いてるし……この密閉されたガラスケースは別だけど」
卯月「こっちの生き物は……うぇぇ」
未央「こんな空間とこんな施設……」
未央(それに、私がされた事を合わせて考えると……嫌な予感がするよ)
凛(結局部屋の主と思われる人は来なかった……何の目的で私達を、特に苦戦する相手でもない生き物をぶつけたりした?)
凛(わざわざ部屋が荒らされる事も想定して、閉じ込めもしてる……)
――キラッ
凛「ん……?」
卯月「あ、それ……何か隠れてる?」
――ジーッ
未央「何ていうんだっけ……カメラ?」
凛「なるほど、映像を見てた……なら、ここに居ないことも分かるね」
――パリンッ
――ザーッ…… カチッ
未央『壊しきったのなら、部屋を早く出よう!』
凛『いや、その扉からは駄目……監視してたって事は、敵はこっちの次の動向を見ておく必要があるって事』
卯月『待ち構えてるって事?』
凛『かもしれない、だから別の場所……天窓でもいい、そこから脱出――』
――プチッ
優「ざんねーん、カメラは十数台どころじゃありませんでしたぁ」
優「とはいっても三人がこれからどうするかなんてあたしには関係ないしぃ、目的の戦闘映像は見れたからおっけーだよぉ」
優「さーて、あたしの試作傑作力作ぅ、念願の動かしやすい部下の第一号がー…………」
――…………
優「……あれっ? そこの檻に、あれぇ? えっと、取りあえず映像戻して」
――キュルキュル……ピッ
凛『檻が開いて……構えて!』
未央『何か武器、えーっと……この檻の柱でいいや! むんっ!』
――バキッ
優「あー…………これ、駄目だアレかもぉ」
優「まだ最後の調整終わってなかった気がするけどー……ま、いっか☆」
優「居なくなっちゃったものは、居なくなっちゃったって事で♪ そーれ起動!」
優「幸い指令うんぬんの部分はいじった後だから、部屋に居ればお仕事してくれるはずだねー」
卯月「うーん……上の窓から脱出」
未央「この、部屋の真ん中を貫いてる柱を登って行けば届くかな」
凛「そうしよう、じゃあ最初は――」
――ズズッ
凛「……ミオっ!」
卯月「危ない!」
――パァンッ!
未央「うわっと! ……まだ残党が残ってたんだね、ありがとしまむー」
卯月「もしかしたら仕留めたと思ってただけかも、まだ増援が?」
凛「扉は開いてない、ただの倒し損ないだよ」
卯月「だといいけど……」
――ザッ ザッ グルルル
未央「一匹だけじゃなかったみたい、もう一匹いたよ」
凛「大丈夫、それくらいならすぐに倒す」
――ダンッ! バキッ!
凛「……!?」
卯月「よし、もう大丈夫だね!」
凛(今の感触……何か変。硬い……? こんな不定形の生き物なのに、妙な抵抗を感じた)
未央「もうこれで全部かな……っと、まだ居た?」
――ザッ
未央「なら次はミオちゃんが頑張る! 一匹程度私の敵では――」
――ズボッ!
凛「ミオっ! それは今までの生物じゃない!!」
未央「えっ?」
――ガシッ!
卯月「なっ……!? な、中から……人の手!?」
凛「これも妙な生き物の一種……? 振り払って!」
未央「ふんっ……! つ、強い……今までの変な生き物は簡単に千切れ飛んだのに……!」
??「当然!」
凛「っ!?」
卯月「え?! 喋っ……?」
――ズルッ
??「変な生き物とは!」
未央「うえっ!? 中から人――」
――ビュンッ! ドガッ!
未央「ぐうっ!?」
凛「ミオ!!」
卯月『ミオちゃん!』
凛『くっ……どこかに潜んでいたんだ……行くよ!』
卯月『うん!』
――ジーッ……
優「潜んでいた、とは違うのよねぇ」
優「ついさっき産まれた……不可抗力だけどぉ、あたしの手となり足となり動いてくれる改造人間というと、お子ちゃまが喜び
そう♪」
優「ちょっと不安点はあるけどぉ、おおむね動作してるから気にしなくていいかなぁ」
優「今まで動物を合わせても、形が崩れちゃって使い物にならなくなる事が多かった、あたしみたいに、きゃは☆」
優「でもでもぉ、この子は“外部の生物”から力を取り込むから経済的♪」
優「しかもその部屋には肉体だけ弱くて、ポテンシャルは高い生物が多いからぁ……」
優「力を借りるだけでも、相当手ごわいはず、あは♪」
??「そいやぁっ!」
――ズボッ!
凛「死骸の下に隠れた……!?」
??「下じゃなかと、中たい!」
卯月「えっ!?」
――ガバッ
凛「う……!? い、一体化してる……どうなってるの?!」
卯月「これもここの生物の力……!?」
??「この生物の力じゃないけんね、ウチが後から付け足した能力たい!」
??「さらに!」
――ヒュンッ!
卯月「きゃっ! は、早い……!」
??「“外側”の力はウチのもんたい、ここには古今東西ありとあらゆる生物が詰まってるけんね……」
凛「ここのすべての生物が、合わさったアンタが私の敵?」
??「覚えときんしゃい、ウチはなんにでもなれる……試験名称スズホ、それが名前や!」
――ガシャッ ザー……
優「でもカメラ壊すのは止めて欲しいかなって思うわけよー?」
優「……ふーん、いい感じっぽい♪」
優(ちょっと気になるのが、紛れが起きるかもしれないから消しておきたかった諸々の思考能力とか記憶かしらねー)
――ザー ザー ザー
優「ちょっとぉ、ほとんど壊れちゃってる。様子が全然見えないじゃーん」
優「コレも駄目、こっちも、あっちも……あ、これは大丈夫だねー」
凛『ウヅキ! 後ろ!』
卯月『よし、そこです!』
優「……あれ? 善戦しちゃってる感じ?」
優(元のナマモノの速度は十二分に俊敏なはず、よくついていけるね)
優「……ますます気になっちゃう♪」
鈴帆「なかなか俊敏ばい! ウチは最初から全速力にも関わらずようやるたい!」
凛「早い……! でも!」
――バシャッ
鈴帆「次は翼もあるけんね!」
凛(纏った生物は元々脆い、そして剥がれた直後、素の状態は私たちと大差ない!)
卯月「合体してる間は素早くなるのかなっ……?!」
鈴帆「ハズレね? ウチは言った通り、元々の力を手に入れる事が出来るばい! つまり……!」
――バサッ
卯月「飛ん……!」
凛「上!」
鈴帆「翼があれば空だって飛べるばい! 覚悟しよっと!」
卯月「危ない!」
――ドガッ!
鈴帆「ん……屋内で下手に飛ぶもんじゃなかとね」
凛「隙ッ!」
鈴帆「あっ! 待ちんしゃい!」
――ドゴッ!
凛(軽い……!)
鈴帆「ふぅ危なか、ウチが離れたらそれはもうただの死骸けん」
卯月「なら本人を叩きます!」
――キィィン!
卯月「はあっ!」
鈴帆「ここで産まれたモノの特性は知りつくしとるばい、魔力には……!」
――キュイン!
卯月「……な、消えた?」
鈴帆「違うけんね、コレば魔力を餌に生き続けると、今の攻撃はしっかり吸収させてもらったばい!」
卯月「吸収……!」
鈴帆「ただ他の攻撃にはめっぽう弱いけん、さっさと出て行くに限る――」
――ドゴォンッ!!
鈴帆「うぼぁー!」
卯月「きゃっ!?」
未央「いつまでも寝てると思っちゃ駄目だぞー、どうだ今の一撃!」
鈴帆「なんばしよっと……」
卯月「今のうち!」
鈴帆「させん!」
――ゴォッ!
凛「っ! 炎……そんな生き物まで……!」
鈴帆「ユウしゃんの元には行かせんね!」
未央「え? 誰?」
凛「さっきチラっと言ったでしょ、私が会った相手……!」
鈴帆「辿り着きたいならウチをばどかして進めばいいたい、かかってきんしゃい!」
凛「そういう事なら尚更通らないとね……」
未央「三対一でも容赦しないよ!」
卯月「……待って?」
未央「え?」
卯月「経典とか、サエの元にじゃなくて……ユウへの道を塞いでるだけ?」
鈴帆「それが何か?」
卯月「私は経典を取り返しに来た、だから……そっちの守っているところに用事はないんだよ」
凛「……多分、そうだね。どうせここのリーダーが持ってるだろうし」
鈴帆「何とね? いや、でもウチはここを……ん……」
卯月「私たちは一人の為じゃない、三人の……いや、今まで会った人の願いも背負っています」
卯月「ミレイちゃんのように、直接私が引き継いだものも……そうじゃない、奪いに来た人だって」
未央「目的や願いが何であれ、私達が良いも悪いも願いを絶ったと言えなくもない、かぁ……」
卯月「私達が退けたから、直接は叶えられない……だから私達が代わりに、進んでいます」
鈴帆「それとこれとは話が違うと……でも、ウチが今止めてるのは何でか……」
卯月「私達が直接は関係ない人の元へ行かせないために道を塞いでるなら……そこを退いてください!」
鈴帆「そもそもウチは何で、そんな重い仕事の足止めを任されてるとね……?」
優「……! あれぇ、やっぱり完全に仕様が終わる前に開けちゃうからぁ」
優「制御は……なにぶん元々の人が単純で、下手に成熟してるから無理に操作できないしぃ」
優「素体は優秀だったから惜しいっていう感じ? んー……」
卯月『今から、そこを通ります……思うところがあるなら、ただ見ていてください』
鈴帆『変ね……ウチは、ここでいったい何ばしよっと? ……何しとった?』
――ザッ ザッ
優「どうなる? どうなる?」
優「……って、不安定な状態だから普通に無視かな? でもそうだと面白くないじゃん?」
優「そんな時どうする、簡単簡単♪」
優「こっちから動かせばいいと思わない?」
――キィン
鈴帆「んっ……!」
卯月「!」
未央「危ない……?」
凛「いや、相手も固まってる……上手くいくかもしれないから、今は刺激しないように」
鈴帆(何ね……どこからか声が聞こえとる気がするばい)
――気がする……じゃなくて、実際に飛ばしてるよ
鈴帆「……誰ね?!」
卯月「えっ?!」
凛「新手……? でも、誰も他には居なさそう、そもそも閉鎖される部屋だよここは」
未央「じゃあ、誰の事?」
――こらこら、下手に反応しちゃダメ、あたしはあなたを作った人なんだから
鈴帆「作った……? 何言うとるけん、ウチはウチばい……」
凛(……作る、か。確かに、あんな様子の人だとやりかねないかな)
――とにかくあたしの命令はぜったーいっ♪ だからさっさと……片付けて?
卯月「…………」
鈴帆「片付ける……?」
――スッ
未央「んっ!」
凛「動いた、そこから手を出すなら……!」
鈴帆「さっきから勝手に色々言いよるけん、いったい何者かね……」
――ガシッ
未央「っ! 拾った、また装着するつもりだよ!」
凛「決裂だね、予想はしてたけど!」
鈴帆「それに、体の芯から“従う必要がある”とウチが思ってるのが不思議で仕方なかと」
――ダンッ!
卯月「う……!」
凛「早い!」
未央「しまむー! くっ、またリング飛ばして――」
卯月「待って!!」
――ゴオオッ!
鈴帆「むうんっ!」
未央「な、何で止め……避けて!」
卯月「く……!」
――……ピタッ
鈴帆「…………」
卯月「っ……」
凛「止まった……?」
――スッ
鈴帆「頭の整理が追いつかんばい……どうなっとるけん」
凛「それはこっちの台詞……前に立ち塞がったり、急に襲ってきたり、そして突然落ち着いて……」
鈴帆「落ち着いてる訳じゃなかと、今でも頭ん中は攻撃を仕掛けようと躍起になっとるばい」
未央「じゃあ何で……いや、攻撃されても困るけど」
鈴帆「……声が響くばい。誰か知らない声がウチに命令してくると」
鈴帆「誰かも分からないのに、従わなきゃいかん気がしてくるばい」
凛「その声……名乗ってなかった?」
鈴帆「いんや、身に覚えが無いけんね。……いや、そもそも……ウチは何ね?」
未央「何……って」
鈴帆「よう考えるとウチは何でここに居るかも、なぜここで戦っとるかも知らんばい」
鈴帆「……ウチは、この聞こえる声を信じてよかと?」
卯月「私には……分かりません」
鈴帆「止める気はなかと? ウチがそっちに流れると、攻撃は再開される事になるばい」
卯月「……でも、止めてくれたじゃないですか」
鈴帆「そう、それが分からんたい。……いくら考えても、そもそも手を出す理由が見つからんと」
鈴帆「目的も立派たい、そう分かってるのに……衝動が抑えられんね……!」
――ヒュッ ドガァッ!
卯月「きゃっ……!」
凛「壁が……かなり頑丈そうに見えてたのに、突き破った?」
鈴帆「……頭はみんなを倒せ言うとるばい、でも……ウチが、ウチ自身が何か変やと囁いとる」
鈴帆「どう考えても、対立する相手には見えんとね……だから」
――ドォンッ!
未央「わっ……! 崩れちゃう!」
凛「外へは出られるけど……」
鈴帆「だんだん声が強くなっとるね……抑えられんようなる前に、ウチの前から消えて貰うと助かるばい……!」
卯月「スズホさん……」
鈴帆「ん、ウチの名前……実はそれも聞き覚えがなか、記憶がどうなっとるか分からんね」
鈴帆「ただ今の段階で、声じゃなくウチは自分を信じとる……間違った選択のつもりはなか」
卯月「…………」
凛「ウヅキ、行こう」
未央「なんだか……よく分からないけど、攻撃してこないなら今のうちだよ!」
卯月「……そうだね、行こう!」
――タッタッタッ
鈴帆「……色んな意味で、ウチは何しちょるか」
鈴帆(最初は指令に従っとったけん、何も考えずに動いとったばい)
鈴帆(ただ……思考を始めた途端、戦う理由も見つからん上に、考えれば考える程戦うべき相手には見えなか……)
鈴帆「じゃあこの……まるでウチの常識のように湧いてくる衝動は何ね……」
優「それは、そういう風にあたしが用意した人材だからかな」
鈴帆「……誰ね、ウチは考え中ばい」
優「誰って、分かってるでしょ? だからそんなに期限が悪そう♪」
――ダンッ! ……パシッ
鈴帆「……!」
優「あははっ、飼い主の手を噛んじゃいけないように躾てもらった覚えは無い?」
鈴帆「それは知らんとね、それに噛み付こうとはしてないけん」
優「じゃあ吹っ飛ばそうとしてたでしょー☆」
鈴帆「大当たりじゃけん!」
――ドガッ!
優「……あれれ」
鈴帆「気持ち悪か、何ねその身体……!」
優「お互い様♪ おかしいなー、攻撃出来ないように作ったのに」
鈴帆「さっきから作ったって、まるでウチが機械か何かと勘違いしとるばい」
優「似たようなものだよ? 有機物ってだけで」
優「……ま、あたしの記念すべき処女作はイマイチって事で」
――サッ
鈴帆「ん! 待ちんしゃい!」
優「反省点は、個体に思考の猶予を残した事かな……考える力は戦闘に役立つと思ったけどぉ」
優「同時に気づいてはいけない矛盾と、素の自分に戻ってしまう可能性ありと……メモメモ☆」
鈴帆「随分ウチの事を知ってるような口ぶりじゃけん……詳しく聞かせてもらうばい!」
優「えー? お断りしまーす♪ ほいポチっと」
――カッ ドガァンッ!
鈴帆「なんね!? 爆発……!」
優「サエちゃんが自由にしていいって言ったし、ここはもう十分遊びつくしたかなー」
鈴帆「煙でよく見えんね……どこ行ったばい!」
優「でもでもぉ、ちゃんと目標への道は進んだしぃ……“作れる”と分かっただけでも成果だねー」
優「次はもっと改良して、最後には……いつか、あたしが全ての成果になるよ、じゃーねー♪」
鈴帆「こんの……こげな状況でもウチには他から力を借りて――」
優「想定してるに決まってるでしょー」
鈴帆(……! 先の爆発で既に原型保ってる生き物が見つからん……!)
優「一人じゃ、ただのちょっと頑丈な一般人だよ? 力を借りる“相手”が居なきゃ話にならない」
優「大人しく……その相手をあたしにしておけばよかったのに……」
鈴帆「ぐっ、素体でもウチはやる時はやる女たい! どりゃあああ!」
優「バイバイ♪ そろそろ本命が爆発するし……ね?」
――……ドオンッ! ドガアンッ!!
・
・・
・・・
Side Ep.35 気になる三面
――スタスタスタ
都「……ここでいいはずですが」
都「まさかいつも情報を仕入れている場所の電報が壊れているとは」
都「そんなわけで……普段は訪れない店に来たわけです」
都(昔で言うところの、新聞を図書館に読みに来たという状況ですが)
――ズラッ
都「さすがに……人が多くて、失礼……これでは落ち着いて読書も難しいのでは」
――ザッ
都「ようやく棚まで辿り付きましたが……同じ考えの人が多いようで、ほとんど残ってませんね?」
都「とはいえせっかくここへ来たのですからひとつくらいは見てから帰りたいものです」
都「どれどれ……」
都「一つ目は……策略の末に仕組まれた荒野の決闘とは、まるで映画のタイトルのような……」
都「事の一部始終を目撃した武器商人から伝えられた、名捕物……ふむ、チェックです」
都「二つ目、こちらは……ミレイさんから聞いた覚えのある名前です、確かに取材の対象としてなりうる相手ですね」
都「そういえば名前だけ聞いて、どのような人物かは存じていません、気にはなりますね」
都「三つ目、この方は一度どこかで……ああ、そうでした、例の中継の時の」
都「彼女もその後どうなったのか、気になるというよりは前例が無さすぎてむしろ不安ですね」
---------- * ----------
今回は先に一名判明している状態でアンケートです。
番号をレスの方でお願いします、もちろん一名だけの登場ではありませんが、都は出ません。
①伊集院 恵
②ケイト
③黒川 千秋
---------- * ----------
---------- * ----------
ここまで均衡するとは。
ちょうど書き込んでいる段階で①③①③③①②②②③、3・3・4で③を。
①と②ですが、こちらもプロット組んでお披露目無しはもったいないので後に使うことは使う、予定です。
今までの選択肢も『選ばれると次がその話で決定』というだけで、
選ばれなかった話は後回しになるか唐突に書く事になるかの違いになります。
あと惠さんの漢字間違えてました、申し訳ない。
---------- * ----------
――ザッ ザッ
雪美「ふぅ…………」
千秋「疲れたかしら? 背中、乗る?」
雪美「大丈夫……歩ける……」
千秋「そう。なら引き続き、進むわよ」
雪美「うん……」
千秋(中継があったから、あの場で取り押さえられはしなかったけど……)
千秋(逃げた事実に関しては私が想像しているより大きく広まってしまったはず)
千秋(これから二人で生きていくのに、身元が割れない土地を見つけなければ)
雪美「チアキ…………難しい、顔してる」
千秋「そう見えるかしら、私は大丈夫」
雪美「…………」
千秋(今の状況、私以外生活の保証が何もない……不安なのかしら)
千秋(万が一にでも再び危険な環境に巻き込むわけには……失敗は一度で十分よ)
――ザッ
千秋「…………!」
雪美「どうしたの……?」
千秋「静かに……人の気配よ」
雪美「人……追いかけて、来た?」
千秋「だとしても私が絶対に守る。……でも、追手ではないみたい」
千秋(待ち構えているにしては、気配を隠している様子はない……つまり追手ではない)
千秋(だけどこんな森の中で感じるにしては、妙な気配ね)
雪美「もしかして……村がある……?」
千秋「……なるほどね、警備の気配なら、それも可能性としてはアリね」
――スッ
千秋(視界が悪いけど、明らかな集落や村があるなら道くらいはあるはず……)
雪美「どう……?」
千秋「まだ断定は出来ない、危ないかもしれないから……後についてきて」
雪美「うん……」
――ザッ
千秋(相手が気配を隠す気がないなら、こっちも隠さない……堂々と、構えながら進行する)
雪美「…………」
――グッ
雪美「……!」
千秋「なかなか……あちらも身構えているようね、注意から警戒に雰囲気が変わった」
――チャキッ
千秋「来るなら来なさい……!」
――……ダンッ!
千秋「そこね……!」
??「……!?」
千秋「待ち構えていた割にこっちの位置は掴めていなかったの? 随分粗末な準備ね」
??「はっ!」
千秋(素手、なら肉弾戦に自信アリと言った所、真正面から受けるのは分が悪い……? いいえ)
――ドガッ!
??「防がれた、なら……」
千秋(軽くはないけど、別段重いわけでもない!)
??「二撃目を――」
千秋「遅い!」
雪美「待って……!」
――ピタッ
千秋「…………どうしたの?」
雪美「襲ってきた……わけじゃない……」
??「……利口ね、その子」
千秋「何?」
??「あなた達、侵略者?」
千秋「返答次第ではそうなる覚悟よ。……そっちこそ、私を追うハンターかしら」
??「いいえ。……でも、あんな威圧感で迫ってこられちゃ、こっちも警戒したくなるでしょ?」
雪美「その人と、あっちの……村……怖がってる」
千秋「村……?」
??「……もういいかしら? 私は小さな村の長を勤めてる、あなたの敵ではない」
千秋「その証拠は?」
??「知り合いでしょ? ウヅキ、リン、ミオの三人と……ね? チアキちゃんとユキミちゃん」
千秋「……!」
雪美「この村……もしかして……」
??「私はマリナ、そしてここは『アルトラ』。……理解してもらえたら、武器を下げて欲しいかな」
千秋「…………分かったわ」
・
・・
・・・
麻理菜「綺麗な家でなくてごめんね? 私の都合しか考えてなかったから」
千秋「どうして村の中に家を構えないのかしら」
麻理菜「私が外からやってくる輩の相手をする事が多くなったからかしら、この方が都合がいいのよ」
雪美「……ごめんなさい」
麻理菜「あら、謝る必要なんて無いのに」
千秋「さっき聞いた話、それが本当ならここは三人の故郷……?」
麻理菜「知ってて訪れたか、ここを紹介されて来たのかと思ってたわよ」
麻理菜「あんなに敵意剥き出しのファーストコンタクトになるなんて予想外ね、恥ずかしい所見せちゃったかな」
雪美「迷惑……?」
麻理菜「そんな事は無いかな。それに……二人、ずいぶんややこしい状況でしょ?」
千秋「否定はしないわね」
麻理菜「元々あの三人が積極的に警備警戒はしてくれてて、今は居ないわけだけど」
麻理菜「かといって手薄になったつもりはないわね、ここは安全だと保証できるわ」
雪美「……チアキ」
千秋「ええ、良さそうな環境ね……ただ、こっちにも理想と目標はある」
麻理菜「ふーん……」
千秋「ただ安全だけを享受するつもりはない、恩は返す。仕事も何だってする、責任も負う」
千秋「そして……使われる以上は、見返りも最低限求めるつもり、もう実の成らない仕事はうんざりよ」
麻理菜「なるほどね、言い分は分かる。……でも、最低の保証と安全は提供できても、収入は提供できそうにない」
麻理菜「見ての通り外交が盛んな国じゃない、どちらかというと閉鎖的な国よ」
麻理菜「何か目標の為に蓄えを用意するつもりなら……ここでは大きな仕事は見つからないと思うわ」
千秋「そう……」
雪美「…………」
麻理菜「……一つ、世間話のつもりで聞いて? ウヅキたちは、どうだった? 元気にしてた?」
千秋「仲良く接した訳じゃないから詳しくは分からないわね、でも無事でしょう」
麻理菜「そ、よかった」
雪美「お礼……ありがとう……」
千秋「そうね……本人に伝えるのを、忘れていたわね」
麻理菜「今度三人が帰ってきたら伝えておく。大丈夫よ、分かってると思うし、三人も」
麻理菜「ところで差し支えが無いなら、二人は何の為に活動を再開しようと思ってるの?」
麻理菜「あの環境の後なら……もう静かに潜んでいるのが普通だと思うけど」
千秋「申し訳ないけど、私個人の事情に関わり過ぎてる質問よ、答えられない」
千秋「ユキミの為に、この環境は確かに理想だけど……もっといい条件で“私”を使える場所があるはずなの」
麻理菜「環境は認めてくれるんだ、嬉しいかな」
千秋「……そう、環境は」
雪美「ここじゃ駄目……?」
千秋「……一つ提案がある、いいかしら」
麻理菜「どうぞ?」
千秋「見たところ、人手不足でしょう? 私が手伝っても構わない……ただし」
麻理菜「ありがたい話ね。外から人を頼みにくいのよね、この村のあり方から……でも、ウヅキ達の知り合いならね」
麻理菜「それに、お仕事を頼む段階になれば当然対価は払う、それくらいの余裕はあるからね」
千秋「じゃあ――」
麻理菜「でも、その話は断らせてもらうわ」
千秋「…………私に何か至らない点があるかしら?」
麻理菜「心配しなくてもあなたの実力に不安はない、さっきも私は手も足も出なかったし?」
麻理菜「それに言った通り、対価を払う能力がこちらになかったり……信用の問題でもないわ」
千秋「じゃあどうして? これでも仕事には責任を持つ方なの、例え相手が誰だろうと――」
麻理菜「それよ。 それが、断る理由」
千秋「どういう意味かしら」
麻理菜「最初に会って、ここまでの経緯を話している間からうっすら感じてたけど……きっと無自覚ね」
千秋「私に何か落ち度があったかしら……?」
雪美「チアキ……悪い事してない……」
麻理菜「悪事を働くとかじゃなくて……そうね、仮に警備に就いたとして、あなたはどの程度私達を守る?」
千秋「どの程度?」
麻理菜「特別な回答をしようとしないで、普段通りにやると思う事を言っちゃって?」
千秋「……警備なら、まず指揮系統から。他に人手を借りる事が可能なら最大限に活かす」
千秋「万が一の場合も私が責任を持って止める、被害は絶対に負わせない」
麻理菜「はいストップ。今のが答えよ、分かる?」
千秋「指揮に不備があると?」
麻理菜「うーん…………ねぇユキミちゃん、何が悪いか分かる?」
千秋「ユキミはただの元市民よ、戦闘に関する知識は持っていないわ」
麻理菜「まぁまぁ」
雪美「…………チアキ」
千秋「私? 心配いらない、大丈夫だから」
雪美「大丈夫、じゃない……私、前から言ってる…………」
雪美「全部一人……一緒に、してくれない」
千秋「気持ちは分かるけど……だからといって二人で出来る事でもないのよ」
麻理菜「じゃあどうして二人で出来る事を探さないの?」
千秋「……それは、私だけで済むなら私だけで問題を終わらせた方が」
麻理菜「その考え方が駄目、全部一人で責任も任務も負うつもり?」
千秋「可能だから、効率的だからとしか言い様がない……それが、何か問題かしら……?」
麻理菜「単刀直入に……重いのよ」
千秋「……?」
麻理菜「たかが村の警備よ? それに警備の要でもない、中心は私、あくまでこちらから頼む手伝いのあなたが……」
麻理菜「この身を掛けて、一から全ての責任を負いますーなんて言われても、やりすぎよ」
千秋「警備にやりすぎなど――」
麻理菜「……どう思う?」
――ギュッ
雪美「…………」
千秋「ユキミ……あなたもそう言うの?」
雪美「うん……何があるか……分からない……」
麻理菜「お友達でしょ? ……守るんでしょ?」
千秋「当然よ」
麻理菜「なら、あなたが危険な目に遭っちゃ駄目でしょ」
千秋「…………でも」
麻理菜「実際大丈夫だとかじゃなくて、ね?」
雪美「うん……」
千秋「…………」
麻理菜「ま、要するにあなたの仕事に対しての力を受け止めるだけの器がこちらにないって事」
麻理菜「そちらに不満があるわけじゃないのよ、安心して」
千秋「安心していい内容なのかしら?」
麻理菜「ええ、でも受ける仕事はきちんと選んだ方がいいわよ、二人で相談して、ね?」
麻理菜「ここに仕事はないから、他を探す事にさせちゃうけど……息抜きに、村でも見て回ればいいわ」
千秋「……そうさせて貰うわ」
千秋(断れる、今までの私なら先に行動に移す……)
千秋(でも、たまには別視点の思考も必要かしら……自主的な時間の確保なんて、久しぶりね)
・
・・
・・・
――ザーッ……
雪美「川……綺麗」
瑞樹「そうね、偶然私の名前にも含まれているわね、情報は流れるものだから」
雪美「……!?」
瑞樹「あら、驚いた? でもさっきから私は二人共追いかけてたのよ?」
雪美「いつから……」
瑞樹「どこからだと思う? ま、邪魔はしないわよ、心配だから追ってきたというのもあるけど」
雪美「他にも、追いかけてきてる……?」
瑞樹「その事だけど心配する必要は無いわよ、少なくとも公には」
雪美「……?」
瑞樹「まずコトカだけど、あの後すぐに別件に取り掛かったから追手は用意していないみたいよ」
瑞樹「もちろん懸賞金を掛けている様子もない……ま、これは当たり前ね、あの中継の後にそんな事をすれば完全に悪人よ」
雪美「チアキ……安全……?」
瑞樹「公式にはね」
雪美「どういう、事……」
瑞樹「変に勘を働かせたり、深読みして暴走する輩はどこにでもいるもの」
瑞樹「公の場で逃がした部下の確保なんて指令は出せない、だから……自主的に確保して褒美を得ようとする人が居る」
雪美「変……何も、言われてないのに……私達、捕まえようとする?」
瑞樹「ま、コトカは本当は二人を取り返したいと思ってる……と、思い込んでる輩が居るのは確かよ」
瑞樹「実際そんなつもりはないコトカでもね」
雪美「また捕まるの……?」
瑞樹「どうかしら、向こうにその気がないなら解放してくれるかも」
瑞樹「ただ、アンダーグラウンドな繋がりも大事にする彼女だから……何度も捕まって褒美を渡して、解放……」
瑞樹「そうした結果“手元に置いた方が損害が少ない”と捉えられれば、また捕まるかも」
雪美「…………」
瑞樹「近づかなければいいのよ、まさか私も一直線にこんな場所まで来るとは思ってなかったけど」
麻理菜「こんな場所で悪かったわね」
瑞樹「あら……ご無沙汰?」
麻理菜「初対面だけどね。あの中継を映す機械、あなたが作ったんですって? 便利そうね」
瑞樹「この村には置いてないの?」
麻理菜「ええ、この前外泊した時に初めてお目にかかったわ」
瑞樹「あらあら、セールス不足かしら……じゃあウヅキちゃん達の縁という事で、はい」
麻理菜「いいの?」
瑞樹「これくらいなら安いものよ、これから弟子さんとは長い付き合いになりそうなのでね」
麻理菜「弟子ではないわよ、お姉さんそんなにモノを教える程秀でていないわ」
雪美「……追いかけてきてるのは、誰……?」
瑞樹「残念だけどそこは分からないわ、そもそも追いかけている人はいないかも……」
瑞樹「でも“見かけたら捕まえようとする”人はいるかもしれない、とだけ伝えるわ」
麻理菜「なんだかややこしそうね。……追っ手が居る可能性があるなら、一箇所に留まるべきじゃない」
麻理菜「早めに結論を出した方が、互いの為かもしれないわよ」
雪美「お互い……迷惑?」
瑞樹「それはどうかしら、考えすぎじゃない?」
麻理菜「悪い事を想定するのは普通よ?」
雪美「…………?」
――ザッ
千秋「また会ったわね、入れ知恵?」
瑞樹「取材よ」
千秋「記事になるようなものはあったかしら」
瑞樹「さぁ、どうかしら」
雪美「チアキ……もしかして、誰かが追いかけてくるかも……」
千秋「やっぱり、コトカが誰か差し向けてきたのかしら」
瑞樹「いいえ、彼女は別件でそれどころじゃない、違うと断言できるわ」
千秋「なら、おそらくコトカに恩を売ろうとしてるその他大勢ね、なら強敵は居ない」
千秋「そんな雑兵は全て退ける、私が守るから大丈夫」
雪美「違う……そう、じゃなくて……」
千秋「…………!」
麻理菜「……まだ、分かってないのかしら?」
雪美「チアキ……安全な場所に、私だけ……置かないで」
雪美「私と一緒に、安全になって……」
千秋「ユキミ……?」
麻理菜「あー、ちょっと横槍入れちゃうけど……今回の場合私達もかな」
千秋「どういう事?」
麻理菜「あなた、仮にここで追っ手と遭遇した場合、村の中で喧嘩する気?」
千秋「それは……」
雪美「私達、ここに居ると……迷惑……それに、危ない……」
麻理菜「迷惑とまでは行かないけどね……」
千秋「…………」
千秋(私が信用できないの……?)
千秋(……と、今までは思っていたでしょうね)
千秋「確かに、周りを見るというのは大事ね」
雪美「じゃあ…………」
千秋「ええ、早い出発だけど……大丈夫?」
雪美「うん……」
千秋「そう、なら出発しましょう。二人で安全な場所まで……どこまでも」
瑞樹「お気をつけて」
麻理菜「また落ち着いたらここに来てもいいわよ、歓迎する」
千秋「ええ。助言、ありがたく受け取ったわ」
麻理菜「それほどでも」
瑞樹「それじゃあ私も……」
千秋「追いかけてきたら斬るわよ」
瑞樹「えー? なにそれ、どうして追っかけちゃ駄目なのよ」
千秋「この後記事にするんでしょう、行き先がバレちゃ意味ないじゃない」
――ヒョイッ
雪美「……!」
千秋「一緒に行くとは行ったけど、今は私が道を決める。思い切り急ぐわよ、しっかり捕まって」
雪美「う、うん……」
――ダンッ!
麻理菜「あらら、騒がしい子…………もうあんなところまで、追いかけないの?」
瑞樹「追いつくのは簡単だけど、本当に私を撒く気の相手を追いかけても、話なんて聞けないでしょ、取材なんて尚更」
瑞樹「ここで記事は終わりね、ちょっと弱いかしら……?」
麻理菜「一人の成長が見えるなら、いい記事じゃない?」
瑞樹「そうかしら、経典の保護者のお墨付きを貰ったのなら編集頑張ってみましょうか」
麻理菜「……そうそう思い出したわ、あなた中継の最後の映像……アレは何?」
瑞樹「…………」
麻理菜「詳しく見てないけど、聞いた話では裏で随分話題になったとか……」
瑞樹「お邪魔しました」
麻理菜「待ちなさいよ」
瑞樹「不可抗力よ!」
麻理菜「あれのせいで意図せず大事に巻き込まれたらどうするつもりよ!」
――ザッ
瑞樹「ちょっと引っ張らないで……あら、お客様よ?」
――…………
麻理菜「……ええ、ここは『アルトラ』、間違いないわよ……えらく大勢ね?」
瑞樹「どうも、私も旅の人です」
麻理菜「…………旅の殿方は、こんな地に何の用事かな? そんな物騒な獲物まで携えて、狩りの途中かしら」
瑞樹「……あ」
麻理菜(また何かやらかしたのかしら?)
瑞樹(いや、確かに後ろから誰か来てるかなとか思ってたのよ)
麻理菜(……追っ手を寄越してるのはそっちじゃない、どう考えても)
瑞樹(失礼失礼……)
麻理菜「それであなた達は人探しかしら? はぁ……ふーん……」
麻理菜「この近くを、二人組の女性が通らなかったか、ね?」
瑞樹「何の事かしら、あはははは」
麻理菜(……決断を早めたから、この集団に接触しなかったと考えると、幸運ね)
麻理菜「ごめんなさい、該当が多すぎて一概にその人とは言えない」
麻理菜「村でそれぞれ探してくれるかな? あ、でも騒ぎを起こしたらお姉さん怒っちゃうからね」
瑞樹(明らかに“稼ぎ”を生業にしているような輩だけど、入れて大丈夫なの?)
麻理菜(その時はあなたが代わりに働いてくれると信じてる、先のミスの詫びで)
瑞樹(あー……私を働かせるなんて、高いわよ……?)
麻理菜(期待してるわよ。他の理由は、ここを調べてるうちにあの二人が遠くまで行ってくれることかな)
瑞樹(それには同感ね)
麻理菜「じゃあ……案内するわ、こっちに――」
・
・・
・・・
――パタン
都「……はっ、もうこんな時間です! 残りは後で読む事にしましょう」
都「とりあえず図書館なので、貸出が可能なはずです……過去のスクラップなど貸出期間も長いはずなので……む?」
――ガランッ
都「あれ……ここに二冊残っていませんでしたか……?」
都「もしや私がこの記事を読んでいる間に貸し出されてしまったのでしょうか!」
都「むむむ、ならば仕方ありません……返却されるまで待機しましょう」
都「幸い返却期限間際のものもあるようです、次に訪れた際には別の記事が閲覧出来るかもしれません」
都「というわけでこれはほとんど読み終えたので……返しておきましょう」
都「では帰りましょうか……昼食も採らねば……あれ、ここは飲食厳禁?」
――タッタッタッ
都「ふぅ、結局外で食事をする羽目に……食べ歩くわけにもいかず、店に入ったところしっかりと食べてしまいました」
都「片付けなければならない用事も残したまま……ここは裏、近道を通るのが定石!」
都「こういった普段と異なる行動をとれば、何か真新しいものが見つかるかもしれません」
都(事実、前回はこうしてミレイさんとお会いしましたし、やってみる価値はあります!)
都「ではこちらの狭い路地を右に、左に、またまた右に……」
――ズルッ
都「おうっ!?」
――ドテーン
都「痛……水たまりでしょうか、思い切り……ん……?」
都「ここ、建物の通路……天井がある、雨の水たまりじゃない……ではなぜ水が」
――……ポタッ
都「え……あ、あれ? わっ……!?」
――ササッ
都「これ……は…………いや、そんな、あの事件は既に対策が打たれたはずでは……!」
都「こんな、滴るほどの壁に……け、血痕が残っているのは……!?」
――ズルッ
都(……乾いていない、新しい……ですが、加害者も被害者も、どちらの姿も見えません……!)
都「引きずった跡……決して傷が浅いようには見えない事件です、という事は……犯人が相手を持ち去った、隠した……?」
都「では……先の通り魔と事例が異なります……新たな事件……!?」
都「…………」
都「いえ、私が力不足でも……目撃する必要がある、何が起きているのか……!」
――タッタッタッ
都「…………おかしい」
――タッタッ
都「途中から、引きずった跡が消えて……流れる血も減っている……」
都「犯人が相手を持ち運ぶ方法を変えた? その割には、段階的に変わっているのは妙です」
都「それに……最も不可解なのは、人が通った痕跡が最初から最後まで一つしかないこと!」
都(引きずっている時も、その跡がひとつあったのみ。そして途中からは一種類だけの足跡)
都「それも徐々に……血が減り、足跡の間隔も長く……」
都「あの流血から、歩いている間に治療が済んでいる? そんな馬鹿な……!」
――タッタッタッ サッ……
都「…………ついに、血痕が消えました……残るは普通の足跡のみ」
都(自然回復というレベルの負傷ではなかったはず、これはどういう事でしょう……?)
都「今は足跡を追いかけるしか……この角を左、次も……左、またしても左……?」
――ザッ
都「……また元の場所……? ……しまっ――」
――ガシッ
都「ひうっ!?」
愛海「あたしに何か用ー?」
都「あ、あなたは……?」
愛海「名前はアツミと言いましてー、ところでお嬢さんこんな薄暗いところを歩いていると襲われちゃうよー」
都「ぐ……で、ではさっきのアレは……」
愛海「そう、あたし……」
都「やはり……!」
愛海「びっくりしたよーもー、裏通りで喧嘩してる人がいたから割って入ったら思ったより過激な人でねー?」
愛海「うまいことまるーく収めようとしたんだけど、あのざまでもうボロボロ」
都「なんてひどい事……あれ?」
愛海「どしたの?」
都「……では、あの血痕は?」
愛海「あ、ごめん、片付けるのが面倒だったから……放置しちゃった、ごめんごめん」
都「そうではなく……あの負傷は、あなたものですか?」
愛海「うん」
都「いやいやいや……それはありえません! あの負傷で……今、傷一つないじゃないですか……!」
愛海「治りが早いっていうこと?」
都「早いどころの話では……!」
――スッ……
愛海「おや?」
都「……何ですか?」
愛海「今誰かそこに居たよう――」
――スカンッ…… ドサッ
都「お…………」
愛海「ありゃ?」
――ザッ
のあ「…………あなた、何者……?」
都「へっ? だ、誰……じゃなくて、もしかしてあなたは……!」
都「つい最近調べた一覧にありました、確か現行するこの国家の指揮代理を授かっている……」
のあ「代理じゃない、中継よ……それと、あなたの事を言ってるわけじゃない」
愛海「じゃあ、あたし? 困ったなぁ……そんなにあたしの事を知って何するつもり?」
都「た、たた確かに私は何もやましい事など……国の最高位に近い位置から受ける勅命など何も……って――」
愛海「ん? 何? あたしの顔何かついてる? こっちみて固まっちゃって……」
のあ「……当たり前のように話しているけど、機械じゃないわね?」
愛海「あたしが? どこからどう見てもフツーの人間でしょう?」
都「あ、アツミさん……? それ、どうなって……えぇ?」
――……ポタ
都「何か付いている、ではなく……ついていない、のでは……?」
愛海「え? あれ?」
のあ「……反応している、あなたがこの国にとって脅威であると」
のあ「それも今まで感じた事の無い程……まだ前例は少ないとはいえ、よ?」
のあ「驚異的な危険信号を、私は感じている……だから問答無用で攻撃した」
――ズルッ
愛海「あわわっ」
都「ひいっ!?」
のあ「……隙は多い、だからこそ気づかれぬ間に攻撃を仕掛けて、斬ることが出来た」
のあ「ただ、斬られた事に気付かない程の腕前など私は持っていない、攻撃された瞬間に察知されるはず」
のあ「なぜ普通に会話を続けられた?」
愛海「えーっと……それは……」
のあ「……斬られて、崩れ落ちて、体が分かれていて……なお普通に会話を……?」
愛海「あっ……」
愛海「…………」
愛海「ぐふっ、ばたり」
のあ「遅い」
・
・・
・・・
――ザッ ザッ ザッ
愛海「ねーねー」
のあ「…………」
愛海「ねぇってばー」
都「これは面妖な……なぜ……無事なのですか?」
愛海「無事ではないよー、痛いよー」
のあ「確かに斬った、それは見ていたわね」
都「は、はい、確かに……ですが今は」
愛海「あたしこういう縄でどうたらこうたらってのはちょっと……」
愛海「お望みなら付き合ってあげないこともないよ? でもあたしだってやりたい事があるわけでさぁ」
のあ(再生能力……? そんな魔術はデータに無い、良くて回復……体部位の蘇生など不可能なはず)
のあ(しかし…………)
愛海「どうお嬢さん、あたしと相互山登りしない? へへ~♪」
都「山……? な、何か存じませんがお断りします……」
愛海「その胸のふくらみがね、あたしの求める双丘として、これが唯一のあたしの安らぎで?」
都「胸の……変わった趣味嗜好で……」
のあ「あなた、この国へ来た目的は?」
愛海「え? 今言った通りだよ、あたしの趣味と生きがいはお山の探索だけだよ」
のあ「冗談はその程度にして、打ち抜くわよ」
都「ああ! 危ないです! 銃口は人に向けてはいけません!」
愛海「問答無用で切り捨てた人だよ、銃くらい向けるよね?」
のあ「答えなさい」
愛海「だからさっき言った通りだってば!」
のあ「……そう、なら次。どうやってこちらの攻撃を無効化した?」
愛海「無効? 何のこと? しっかりバラバラになったけど」
愛海「……あ、もしかして。じゃあそれを説明するには少しだけ――」
のあ「不審な動きをしないで、口頭で説明しなさい、従わなければ引き金を引く」
愛海「とはいってもこれが手っ取り早いし、よいしょっ」
――スルッ
都「あっ、縄が!」
愛海「脱出!」
のあ「警告はしたわ」
――ドンッ!
愛海「ぎゃー!」
都「わっ、うわぁ!?」
――ドサッ
都「……ほ、本当に撃って」
のあ「どのみちこうする予定よ、聞き出せるか聞き出せないかの違い」
都「し、しかしあまりにも問答無用すぎませんか!? まだ会って間もないじゃないですか!」
のあ「あなたに説明はできないけど、私が最も信用できる情報源からの“脅威”と認定された、それで十分」
愛海「そんな殺生な」
都「そうですよ……そんな突然撃たれた側の……え?」
のあ「……何?」
愛海「ん?」
――パァンッ!
愛海「すぐさま二発目っ!? 痛い! ストップ!」
都「ちょっ、止めましょう! いったん落ち着いて!?」
のあ「どうなっている……急所は狙っている」
愛海「踏まないで! せめて胸に手を置かせて! プラスマイナスゼロにさせて!」
――カチッ
のあ「…………」
愛海「……あ、弾切れ? よかった」
のあ「望みなら装填しても構わない」
愛海「ごめんなさい」
のあ(ただ……無駄でしょうね、どうなっている?)
都「大丈夫、なわけないですよね……早く治療を……」
愛海「あ、大丈夫大丈夫これくらいなら……というかこれくらいじゃなくても大丈夫なんだけど」
都「…………?」
のあ「強力な回復手段があるか、再生能力……? そんなものが存在すると?」
愛海「回復みたいな、それとはちょっと違うんだよね……よいしょっと」
都「あれだけの傷で……もうそんなに動けるのですか?」
愛海「なぁーにこの程度、昔に比べたら軽いよほれほれ」
のあ「昔……?」
愛海「そうだね、あれは今から数百年……は冗談だけど、けっこう前かな」
愛海「歩いてるだけで今みたいに撃たれる時代もあったもんだよ」
都「そんな治安が悪い時代など……それこそ私が生まれていないような、数十年も昔の……」
のあ「今の英雄と呼ばれる人物の全盛期。……あなた、種族は?」
愛海「種族? ああ、人間とかエルフとか悪魔とかの? それだけどあたしは自分でもよくわかってないんだよね」
愛海「なぜって言われると、同じ人と会った事がないから」
都(同じような年代の外見に見えますが……?)
のあ「勿体つけているようだけど、何か秘密があるのでしょう?」
愛海「秘密って言う程でもないんだよ? ただあたしは……何があっても倒れないだけ、この執念続く限り!」
のあ「執念? その下らない癖の事かしら」
愛海「あ、ひどい、一蹴」
都「…………」
愛海「ん? なにその虫眼鏡」
都「ルーペと言ってください、私があなたの真実を見通して見せます……!」
愛海「ふーん……期待しようかな」
のあ「そんな道具で判明するとは思わないけど」
都「いえいえ、私の観察眼と祖父の道具が重なれば……む……!?」
――…………
都「何も、出ない……?」
愛海「そりゃ残念」
のあ「……でしょうね」
都「いやそんなはずは、名前はアツミさんで間違いないと判明はしたのですが……」
愛海「ありゃ、名前は分かるの? じゃあむしろ何が出てないの?」
都「……年齢が、判明しません」
のあ「年齢……?」
都(……隣の方すら、製造年……いや、製造から何日といった……そして内部の、機密の情報まで判明するのですが)
都「どうして年齢だけ……」
愛海「それは年齢って概念があたしにはないからかもしれない」
都「年齢が存在しない? いや、それは妙です……生きている者には必ず年月が刻まれます!」
愛海「じゃああたしは最初から生きてないかもしれない、うん、そう考えると少しは納得も出来るかも……」
のあ「……何が言いたいの?」
愛海「あたしはね、比喩でもなんでもなく……死なないから」
都「はっ……?」
愛海「年月を重ねようとも、機械にひかれても、喧嘩の弾みで潰されようと、出合頭に切り刻まれようと、銃弾撃ち込まれよう
と」
愛海「試した事はないけどきっと粉々になっても全身燃え上がろうと、あたしは生きてる」
愛海「あ、でもさすがに気絶くらいはするけど」
のあ「…………ありえない、とは言っても」
――ジャキッ
のあ(実際に、目の当たりにすると……仕方ないかしら)
都「死なない、ですと……?」
愛海「そ。よく不死になると便利って思うでしょ? いやー、その通りだと思うよ」
愛海「なんせ未来永劫途絶える事無くあたしが楽しめる事が約束されてるし!」
愛海「というわけでお姉さんっ!」
のあ「……!」
――グッ
愛海「へへー……あれ?」
のあ「何をしているの?」
愛海「む……これは、もしかしてお姉さん改造人間? 感触に違和感が――」
――バキッ!
愛海「ぎょえへー!!」
都「アツミさん!?」
――ビタンッ
愛海「おぉ……死ぬ……死なないけど……ばたり」
のあ「…………」
・
・・
・・・
――……要観察
のあ(死なない……そんな種族も術式も、私の情報欄には存在しない)
のあ「見たところ害意は無い、放置しても問題ない……ように思える」
のあ「ただ……依然、彼女に対する私の警鐘は鳴ったまま……どうする?」
のあ(私には、彼女がこれから何の災厄を運んでくるのかが、理解できていない)
のあ(そして排除するにも……完全に遮断する方法がない、なぜなら彼女は撃退されるという概念がないから)
――ピッ
のあ「……死なない…………原理が、気にはなる。まったく未知の媒体として」
のあ「もしや……この考え方が、彼女が驚異と成り得る原因なの?」
――ガチャッ……
のあ「……機械は、壊れた場所を直せば修復できる」
のあ「生物はそうもいかない……しかし、彼女はその例外に相当する」
のあ「…………再度調べる必要がある」
・
・・
・・・
――ドォンッ
裕子「……爆発音? もしかしてアイリさんですか? ずいぶん張り切ってるみたいです、私も負けません!」
裕子「と、その前に……この辺りのはずなんですが、見つかりませんね?」
裕子「サイキック失せ物探しすればいいと? それは情緒が無いというものですよ」
――ガサッ
裕子「しかし、その爆発よりも早く落ちてきた人物というのは、いったい何があって窓から飛び出したのでしょうか?」
裕子「なるべく早く見つけた方が、ややこしい事態にならない気がしますね!」
――ヒュンッ ガシャン
裕子「む!」
裕子(攻撃……いいえ、そんな気配は感じません!)
――ガシャッ パリンッ
夕美「しっかり抱えてたのにな……ヒビ、漏れてる……空っぽ」
裕子「おや、無事ですか? 確か先ほど上階から転落していた様子ですが」
夕美「誰?」
裕子「おっと失礼! 私は世界を旅する気ままな超能力者エスパーユッ」
夕美「まぁどうでもいいや」
裕子「あらら……ところでその破片はなんでしょうか」
夕美「大切にしてた、でも無くなっちゃった」
裕子「それはお気の毒です。……素材を見る限り、お皿ですか?」
夕美「ティーポット」
裕子「なるほど」
夕美「……う」
裕子「どうしました? やはりどこか怪我して……」
夕美(水場は……近くにない)
――スッ
裕子「どちらに? お供しますが! この辺りは危険ですよー?」
夕美「他に誰もいないし……でも時間もない、たぶん弱くなるけど……」
――ザアッ
裕子「おや、それは? もしかして病気のお薬ですか?」
夕美「ううん、このままじゃ食べられないよ」
裕子「食べる?」
夕美「お花は育てないと」
――ヒュンッ
――パァンッ
夕美「……!」
裕子「おや、という事は種ですか……あれ? さっきまで手に持っていたソレはどちらに?」
夕美(咄嗟に避けられないほどの量と速度で投げた……でも、弾かれた? 何をした?)
裕子「……あ、もしかしてもう地面に撒いた後ですか!」
――ググッ
裕子「お、芽が出てきて……って早くないですか?」
夕美「そういう植物だから。種子が外気に触れると数秒で根を下ろす、そして種子自体はどこにでも付着できるような性質を持
つ」
裕子「ほうほう、地面でなくとも?」
夕美「……壁でも、天井でも……衣服でも、ほかの植物の上でもね」
裕子「なるほど、ためになります!」
夕美「ここまで成長が速いのは特別性だけど、そして花を咲かせる」
――……ハラリ
裕子「あれっ? でもこのお花、成長どころか枯れていませんか?」
夕美「地面では栄養が足りない、急激な成長には多くの栄養が必要」
裕子「……では、どうしてこの種をここに?」
夕美「足りないから」
――ガッ…… バサッ
裕子「わぷっ! ちょっ、何するんですか!」
夕美「ここまで近ければ避けようもない……事もないの?」
裕子「顔にはかかりませんでしたが服がちょっと粉っぽく……」
裕子「……ところで、これは攻撃ですか?」
夕美「どう思う?」
裕子「私は理解するのに少し時間がかかる性格なので、それに普段から“保険”を掛けているので」
裕子「間接攻撃の類は、私の体に届く前にサイキックバリアーが防いでくれます」
夕美(……それで種が届かなかった? 体内に入れば一発だったんだけどなぁ)
裕子「衣服だけが被害に合うことが多いのが難点ですけど……ま、種ですから」
夕美「種ごとき、って思ってる? さっきの花……見てなかった?」
裕子「とはいっても私には外部からの間接攻撃には、攻撃されていることに気づかない時があるレベルなので……」
――ドスッ
裕子「あいたぁーっ!」
夕美「……!?」
裕子「あれ? 左手がコレ何事ですかね!? 刺さってます! いっぱい刺さってます!」
――シュルッ
裕子「これは……むむ、考えましたね……あの種は人体にも花を咲かすんですか!」
裕子「確かにこれでは外部ではなく私自身と同化しているので……攻撃が通りまあっ、痛い痛い」
夕美「痛い……?」
裕子「こうなればサイキック力技! 引き千切っちゃいます! そぉおい!」
――ブチッ!
裕子「根は後で取りましょう!」
夕美「……もしかして、さっきの防御壁って一種類だけじゃないでしょ」
裕子「おや? ……どこで気付きました? 確かに数種類張り巡らさせてもらっていますが」
夕美「さっきの花は根を下ろす時に痛みなんてない、その代わりにいろんな毒素は注入されるけどね」
裕子「なるほど、ですが毒物の類は効きませんので……サイキックキュアーです!」
夕美「もう……面倒な人だね」
――スッ
夕美「直接攻撃なら届くんだね? あと、その面倒なバリアはどうやったら外せるのかな」
裕子「外れません! 私の目が黒いうちは!」
夕美「そ。……じゃあ」
――シュッ!
裕子「む! 防御!」
――パシッ
裕子「木の枝……伸びてますね?」
夕美「枝だけじゃない、実も蔦も葉も根も、全部全部私が動かす」
――ゴオッ
裕子「おっと木の幹が――」
――バシンッ!
裕子「あいたっ!」
夕美「……森林一帯、全部が私」
――サラサラ……
裕子「……ちょっと、それは食べ物では――」
夕美「足りないの、この際本体の実じゃなくて種でもいい」
――シュルッ
裕子「わ!? ちょっと大丈夫なんですか?! 本当に植物と一体になったように見えますが!」
夕美「見えるじゃなくて、その通りだよ……それっ!」
――ヒュンッ
裕子「早――」
――ズゥンッ
裕子「ローリングっ! 危機一髪! ユッコ一発です!」
夕美「避けても地面からは逃れられないよ、そして足がつく場所は全て私の一部」
裕子「はっ、そうでした!」
夕美「超能力者らしく空中浮遊でもしてみたら?」
裕子「リクエストにお応えしたいのは山々ですが浮遊にはそれなりに力が必要でして!」
夕美「ふーん……万能じゃないんだね」
裕子「自主的なリミッターですけども、なるべく従っています! サイキッカーにはプライドがありまして!」
夕美「奥の手があるなら……気軽に苗床には出来ないね、まずは全部見せてもらうところから……」
裕子「不穏な単語が聞こえました!」
――ギュンッ!
夕美「早く全力を出さなきゃ、潰しちゃうよ! あはははは!!!」
裕子「お、大きいまさに大木――」
――ドオンッ!!
――……ボリッ
夕美「美味しくなぁい、やっぱ自家製じゃ駄目だね」
――ペッ
夕美「生物に寄生して育ち、良くも悪くも強力な作用を引き起こす植物……私が欲しいのはその果実の方」
夕美「あの人に植えようと思ったけど防がれた、じゃあ自分で育てようと思ったけど……」
夕美「こんなぼろぼろの体じゃ、うまく育たないね」
――…………
夕美「でも、あの人はいい実をつけてくれそう……楽しみ……ふふっ」
夕美「問題はこれでペタンコに潰れちゃってないかって話だけど――」
――……ヒュンッ
夕美「……!」
裕子「サイキーック! 脱出! あっイリュージョン! いや貫通?」
夕美「……通り抜けてきた?」
――ダンッ
裕子「着地!」
夕美「……それがサイキック?」
裕子「いやいや、普通ならこれくらい自力でなんとかしなければいけないのですが……」
夕美「…………」
裕子「今は事を急ぐので、ユッコ一段階パワーアップです!」
夕美「そのベルトが制御なの? ふーん、思ったよりちゃっちいんだ」
裕子「ちゃ、ちゃっちいとは何でしょう! カッコいいでしょう! ですよね!?」
夕美「知らない。とりあえずもう一回……!」
裕子「む、また投げつけてきますか、性懲りもなく!」
――シュルッ
裕子「あ、っと?」
夕美「今度は逃げられないように足は止めるけどね」
裕子「なるほど、そういえば服にかかってもダメでしたね!」
夕美「ついでに腕も固めれば、今度は引きちぎるのも無理!」
――バサッ!
――ピタッ
裕子「なるほど理にかなってますが……今の私はパワーアップユッコなので……」
夕美「……! あれ?」
夕美(種子が全て空中で……制止してる?)
裕子「ごく小さな粉末であろうと、目指できなかろうと……サイキックの前では無意味!」
夕美「なにそれ……そんなの、卑怯じゃん」
裕子「そう言われると耳が痛いですが、これも勝負! むんっ!」
――ザアッ!
夕美「んっ……!」
裕子「お返しします!」
夕美「けほっ! ごほっ……! っうー」
裕子「お話によれば、その花は人間も栄養分にするほど凶悪な代物だそうですね?」
裕子「今……その種子が少なからず口から体内には入ったと思いますが」
夕美「あーあー……でも、楽しみでもあるかな……」
裕子「楽しみ?」
夕美「うん。……だって、何も介さない体内から直接だよ? 試した事のない、新しい――」
――ビクンッ
夕美「っう!?」
裕子「蔦……いや、これは……」
夕美「あはは、凄いよ、まるで私が花になったみたい……感情も体も……!」
――シュルルッ
裕子「また……とても凄惨な……」
夕美「あはっ、ひどい言い草、あなたがやったくせに……あはは、ははは!!」
裕子(しかし形容ではなく実際に……体内から植物が生えているといっても間違いない……)
裕子「このままだと……全部吸い取られますよ? 早く対処した方がいいのではないでしょうか?」
裕子「そしてその対処法が分かれば、以降あなたは無力化できます! ほかの人も安心!」
夕美「ないよ」
裕子「…………無い?」
夕美「うん。体内に入った種なんて、取り除けない」
――ドサッ
裕子「いやいや騙されませんよ、そんな誤って自身も吸引しかねない道具を何の保険もなしに使う訳……」
夕美「保険? なにそれ、ふふ、おかしい……あはははは」
――シュルッ
夕美「お花そのもの、これも楽しいんじゃないかな」
裕子「何を呑気な……! 本気で対処が無いとは……! サイキック物理救出です! とりあえず蔦を――」
――ガシッ
夕美「邪魔」
裕子「ちょっ、離してください!」
夕美「そっちこそ離して」
裕子「しかしこのままでは――」
夕美「離して」
裕子「っ…………!」
――スッ
夕美「ふふふ……初めてだよっ、私自身が……ふふ、あはははは……!」
裕子(もう、今から何をしても……本当に間に合わない……)
夕美「ははははは……ねぇ、何でそんなカオしてるの……?」
夕美「哀れみのつもりなら真逆、こんな、あはは、はははっ!」
夕美「ねぇ、私今最っ高だよ! こんなに気分がいい事だったなんて……一緒にどう?」
裕子「っ!」
――シュルッ パアンッ!
裕子「……何百本、その枝で攻撃しようとも全て叩き落とします」
夕美「じゃあ千本にしよっか……ふふふ、今なら絶好調だよ、なんでもできちゃいそう」
――ズンッ……!
裕子「おぉーっと……これは……四方八方なんという数で」
夕美「こんな事まで出来ちゃう、あは、あははは……げほっ! ごほっ!」
裕子「っ、そんな無茶をするから――」
――ドスッ!
裕子「危な……あくまで近寄らせませんか?」
夕美「……ふふっ」
裕子「来る……!」
裕子(数は問題ではないですが、が……ここに留まると――)
夕美「あははははっ!!」
裕子(私を倒そうとして、彼女のが先に力尽きるでしょう! ならば選択肢は一つ!)
――ダンッ!
裕子「サイキックテレポートっ!!」
――シュンッ ズドドドドドッ!
夕美「……あはは、居なくなっちゃった、ははっ、あははは!」
夕美「あー……楽しぃ、普段から頻繁に摂取してるせいかなぁ……私、この花に同類と見られたのかな」
夕美「だから成長も、こんな変な方向に……ふふっ、それはそれで……あははは……!」
夕美「……っ、ごほっ! かはっ!」
――ボロ……
夕美「あ……枯れてきちゃった……さっきの枝も……私も……」
夕美「そっかぁ、花は栄養が無くちゃ育たないもんね……げほっ」
夕美「……ふふ、花は育てた事があるけど……私は私を育てたことなんてないから、勝手が分かんないね」
夕美「とりあえず、同じ育て方……してみよっか……この花は生き物を糧に育つ……」
夕美「……ふふっ、あははは、あははははは、美味しい肥料はどっちかなぁ……あはははは!」
――…………シュンッ
裕子「とうっ!」
裕子「……駄目です、あの人は私の手に終えません! サイキック妥協です」
裕子「あの手の問題児は私の役目ではありません、心残りですが次に専念しましょう……!」
裕子「ところで適当に城内へ移動しましたが……テレポートは細かい制御ができないゆえ、場所が分かりません!」
裕子「っと、ベルト戻して……とにかく上に向かいましょうか、階段が……おっと?」
――ポタ……
裕子「……戦闘の跡、でしょうか?」
裕子「下に続いています……という事は応援の為に下るべきでしょうか!」
裕子「いやいや……さっき私は応援に向かって結果的に失敗です、ならば無視して上へ……?」
裕子「…………困った時のサイキック運任せ!」
――ビュッ! ガツッ
裕子「このスプーンが左右どちらか倒れた方へ進みま……あっ、壁に刺さった、これはナシです、えいっ」
裕子「カランコロンと……左です! という事は階段を上がりますね! サイキックダッシュです!」
――カンッカンッカンッ……
――……ドンッ
愛梨「はぁ……はぁ……」
愛梨(傷は浅い、それに攻撃を受けても治せばいい……ただ)
愛梨「どれもこれも不意ばかりで……心臓に悪いですね」
――ザンッ!
愛梨「っぐ!」
七海「見つけました~」
愛梨「まったく、神出鬼没です……!」
七海「逃げちゃだめれす~」
愛梨「逃げたくもなります、よ!」
――ボウッ
七海「ひゃ~」
――スッ
愛梨「……また消えましたね」
愛梨「さっきから一撃離脱を繰り返して……それでは私は退けられませんよ」
愛梨(さすがに何度も繰り返されると、精神的には辛いものがありますが)
――…………
愛梨「静かになりましたが……戻るべきでしょうか」
愛梨「私は上階へ向かいたいというのにどんどん下層へ……」
――ガタッ
愛梨「っ……!」
愛梨「……駄目ですね、体は正直です……過敏に反応しすぎ……!」
愛梨(気配も前兆もなく、彼女は突如現れる)
愛梨(戦闘経験で劣っているとは思いません、ただ……一対一の経験が私には無さすぎる)
愛梨「特定の暗殺者に狙われるような人でもありませんからね……それに狙われるのはカイさんやユウコさんです」
愛梨(そして経典も手元にない……行使できる術式は、おおよそ一般レベルのものだけ)
愛梨「さっきから単発の攻撃は避けられて……相手の攻撃は全て被弾しています」
愛梨「回復が可能なのは幸いですが……!」
――ヒュンッ!
七海「あれ~?」
愛梨「少し慣れました……!」
――ドスッ
七海「うっぐ」
愛梨「今のうち……!」
――タッタッタッ
愛梨「この階段から上へ、そして追いついてくる前に対策を……!」
――カン カン カン
愛梨(初撃を避けるのは確実じゃない、それに被弾してもダメージは少ない)
愛梨(なら、受ける覚悟で反撃するような術式の組み方で……)
愛梨「……駄目です、初級中級の術式しか扱えない今ではそれも困難、となると」
――ユラリ
愛梨「逃げ切るが早い――」
七海「お待ちしてました~」
愛梨「なあっ……!?」
――ビュンッ
七海「あれぇ~?」
愛梨「先回り……! 城内の構造は思ったより複雑のようですね……!」
七海「待て~待つのれす~」
――クルッ
愛梨「……逃げても無駄ですか、覚悟を決めましょう……!」
七海「バッサリしちゃうのれす~」
愛梨(近接も経験が浅いですが……たかが素人の腕の動きなど――)
七海「えいっ」
――ザクッ
愛梨「っぐ!?」
七海「お魚さんは“切られる”と分かったら萎縮しちゃいます~」
七海「だから七海はそれと悟られないように腕を振るうことだけを練習しました~」
愛梨「……理屈は分かりませんがなるほど、見えませんでした……っ!」
――ガシッ
七海「ほえ?」
愛梨「離しませんよ!」
七海「大丈夫れすか~? こっちに攻撃を加えると、どうしても自身には隙ができるものれす~」
七海「意識を七海の包丁から離した瞬間……捌いちゃいますよ~」
愛梨「なら離さなければいいんですね?」
――パリッ
七海「……おや~」
愛梨「本来は防護の膜を一枚隔てるのですが生憎……魔力の大部分は経典の方に残ってます」
愛梨「だから“膜の上に這わせる魔法”本体を直接纏いますけど、かまいませんか?」
七海「うーん……どちらかというと、遠慮したいれす~」
――グッ
七海「離してくれませんか~」
愛梨「駄目ですよ、いったん大人しくなりましょう?」
愛梨「私の周りの知人が強引な人ばかりなので、私も根性はあると思うんです」
――ピシッ
愛梨「水は電気を通すそうですが、感電した経験は?」
七海「ないれすね~」
愛梨「私もです♪ ……それじゃあお互い初体験ですね」
七海「冗談――」
愛梨「本気です」
――ガシッ
愛梨「では……!」
七海「禁止漁法れす~!」
――バリッ!!
愛梨「っう!!?」
七海「あああぅ!?」
――…………
愛梨「……こ、これはちょっと……キツいです……」
七海「ぁ……う……」
愛梨「ですが、流石にすぐに彼女も復帰して追いかけてはこないでしょう……」
愛梨「私よりタフには見えませんし……最初に出会った時もそうでしたが、ダメージには弱いようですね」
愛梨「……私もそんなに強い方ではありませんが……これならまだ動けます」
――ザッ
愛梨「とりあえず彼女は目覚めても動けないようにしておいて……先を急ぎましょう」
愛梨「もう最上が近いはず、それに先程からあちこちで騒ぎ。私達二人以外に誰がこの騒動を? となると」
愛梨「当然……あの三人のはず。彼女たちもそれぞれ動いている……!」
愛梨「なら、最後に辿り着くのは……経典のところです、そこを目指せば……」
――タッタッタッ
・
・・
・・・
――ガラッ
卯月「……!」
凛「誰か居る……一人?」
未央「待って! あそこ……!」
卯月「あれは、経典が机の上に!」
紗枝「おや……早かったどすなぁ、もっとゆっくりしはってもよろしいのに」
凛「……あんたが元凶?」
紗枝「ゆかりはん、うちはどうやと思います?」
ゆかり「少なくとも、申し上げている通りだとは思います。……お久しぶりですね」
未央「誰……なんて聞く必要は無いかな」
卯月「いや、聞いたことのある声……!」
ゆかり「ああ、そういえば輸送中にお話ししましたね、一瞬だけ」
ゆかり「私はユカリと申します、以後お見知りおきを」
凛「挨拶なんてする間柄じゃないでしょ。まずはその経典、返してもらうよ」
紗枝「ええ、どうぞ」
卯月「……あれっ?」
紗枝「どうなされました? この本、取り返しに来はったんでしょう?」
紗枝「手元に寄越してようやく分かりましたが、これはうちらには扱えまへん」
未央「何のつもり……? 大人しく返せば何もしないと思ってるの……!?」
紗枝「いいえ? むしろ……さっきから下で暴れてはるアイリユウコのお二人が、許しまへん」
凛「アイリと……ユウコ?」
卯月「来てくれてたんですね……? ということは、外の妙な跡は」
ゆかり「派手な宣戦布告を受けたものです」
凛「確かに……あの超能力者なら可能かな」
未央「じゃあ応援は完璧なんだ、といっても……!」
――ダンッ!
紗枝「あらあら」
未央「頼るまでもなく、奪い返してみせるけどね!」
凛「無抵抗でも、国と組織として見ると……部下が問題、なら上を抑えれば!」
卯月「一網打尽です!」
紗枝「うちがどうぞと言ってますのに、好戦的どすなぁ」
ゆかり「言ってる場合ですか? 私は不意を突くタイプなので正面からの戦闘は……」
卯月「やああっ!」
――ヒュンッ
凛「……! 待って! そこに誰かが隠れてる!」
未央「えっ!?」
――キィン!
??「……危ないでしょ? 何で抵抗しなかったの?」
紗枝「止めてくれる思うてましたからどす、カレンはん」
加蓮「頼られるのは悪くないけど、全部投げられるのはどう、かな!」
卯月「っ!」
未央「しまむー! このっ……あれっ!?」
ゆかり「一瞬でも隙があれば、一人を捕えるのは容易です。……そこから何かするのは苦手ですが」
凛「二人とも! ……くっ!」
加蓮「動かないで」
ゆかり「あなたの方が近接戦闘は得意だと思いますが、二人は同時に助けられないでしょう」
紗枝「素直に出て行ってくれたら、なーんもややこしい事せんでもよかったんどす」
紗枝「今は……こっちが有利やなぁ」
凛「っ…………」
――……パリィンッ!
凛「えっ……!?」
未央「また敵の増援……?」
加蓮「窓が割れた? ねぇ、何か企んでる?」
卯月「ち、違います! 私は何も――」
――ググッ……
ゆかり「……! これは」
紗枝「あらあら、お客さんが増えましたなぁ」
加蓮「ガラスの破片が浮いて……ちょっと、これは良くないんじゃ――」
――ヒュンッ!
ゆかり「くっ!」
加蓮「こっちに来た……!」
紗枝「お体借りますー」
未央「うわっ!」
卯月「ぐうっ!?」
凛「っ! 二人を盾に……! 危ない!!」
――ピタッ……
卯月「っ~……と、止まった……?」
未央「怖……全部刺さるかと思った……」
紗枝「止まった言うことは、そちらのお仲間さんのようどすなぁ」
加蓮「当たり前でしょ……こっちの戦力にこんな力持ってる人なんて居ないって……!」
――ザッ
裕子「止めましたが、いいですよね?」
愛梨「欲を言えば二人を避けて、背後に隠れたあの三名を打ち抜いてもらった方が」
裕子「そんな繊細なコントロールは出来ませんよ!」
卯月「アイリさん!」
愛梨「……無事でしたか。私がついていて、危険な目に合わせてしまいました」
紗枝「危険やなんて、散々な言われようどすなぁ」
加蓮「言われても仕方ないとは思うけどね。……で、どうするの?」
ゆかり「……どんな肩書を持っていても所詮過去の人物です、この前のカイという人物と同じ――」
裕子「カイさんもこの国に?」
紗枝「ええ、ちょっとお話しようと思たんですが、足早に出ていってしまいましたなぁ」
裕子「ほう……」
卯月「…………!」
――ガシッ!
卯月「っう!」
加蓮「どさくさで逃げようとしない」
紗枝「しっかり掴んどいてください、離したらうち等全員ガラス細工どす」
ゆかり「三人で五人の相手は辛いですが……」
裕子「どうしましょう? このままでは膠着して話が進みませんが?」
加蓮「もちろんそこの手が空いてる二人も、動かないでね」
愛梨「…………」
凛「く……!」
紗枝「このまま時間だけ過ぎるのも非生産的どすなぁ」
未央「だったらさっさと降参すればいいでしょ……!」
加蓮「口だけは達者ね」
紗枝「うーん……そうどすなぁ、そうしましょか?」
ゆかり「…………はぁ?」
未央「えっ?」
裕子「降参ですか! 確かに平和な解決です、これにて一件落着?」
加蓮「ちょっと、冗談でしょ?」
紗枝「嫌やわぁ、ならここからひっくり返せる妙案をぜひともお願いしますわぁカレンはん」
加蓮「丸投げしないでって……確かにすぐには思いつかないけど――」
卯月「はあっ!」
――ドスッ!
加蓮「ぐうっ!?」
ゆかり「ちょっとカレンさ――」
愛梨「隙を伺う術者が隙を作るのはどうかと?」
――パァンッ!
未央「……! 動ける!」
ゆかり「な……解除され……?!」
愛梨「誰を相手にしていると思っているんですか?」
愛梨「“所詮過去の人物”には……あなたのお得意な過去に失われた術も、身近なものです」
ゆかり「……納得しました――」
未央「それじゃ遠慮なく! 久々の正しい使い方! おみまいするぞーッ!!」
――ドゴォンッ!!
ゆかり「かっ……は!?」
裕子「……仕留めましたね?」
紗枝「乱暴どすなぁ、それでうちに何か用事ですか?」
卯月「この状況で……どうして余裕なんですか?」
凛「まず経典は返してもらう……罠なんて仕込んでないよね?」
紗枝「勿論」
愛梨「これは本物です、中にも……特に細工はされていません、もともと出来ないとは思いますが」
紗枝「うちにはさっぱりな仕組みどす」
未央「で……まず部下の人たちは?」
凛「放っておいたら何をするか分からない人達、それともあの人達を集めて……何かする気なの?」
紗枝「ただのお友達どす、悪意は何にもありまへん」
愛梨「悪意はない、ですか……」
――ガシッ グッ
愛梨「確かに悪意はありませんでしたが……どうにも無自覚で周囲に悪影響を与える人材が集っている様子ですね」
紗枝「っう……手、どけてくれまへんか? うちは体力無いから苦し……」
愛梨「答えてください、ここは何をするための国なんですか?」
紗枝「せやな……ぁ……みんなが好き勝手やる……自由な国どす……けほっ」
裕子「アイリさん、そろそろ」
愛梨「…………」
――キュインッ
卯月「っ……わ!」
愛梨「カイ、彼女がこの国に興味を失った理由が分かった気がします」
愛梨「あまりにも善悪の境界が無さすぎる、無自覚な国……」
紗枝「……えらい怖い魔力の塊が浮いてますなぁ、それをどうするつもり――」
――ピシュンッ ……ズゥンッ
凛「っ、衝撃が……!」
未央「見て! 外の森が……さっきの道みたいに一直線に……」
紗枝「……ほんま、お偉いさんの考える事は分かりまへん」
愛梨「あの更地のように、ここも無に還すべきです……!」
未央「ちょっ! そんな威力でここを攻撃したら私たちまで……!」
裕子「大丈夫です! そうなった場合は私のサイキックテレポートの出番です」
卯月「て、テレポート?」
裕子「とにかく安全は保障するということです! 万が一にもお友達を傷つけるわけにはいきませんので」
愛梨「……そういう事です。三人を盾に言い訳はさせません、覚悟はいいですか?」
紗枝「覚悟? うちがいったい何を覚悟しなければならないのでしょう?」
愛梨「この期に及んで……」
紗枝「自分で書いた事、忘れてるのと違いますか? うちはよーさん調べました」
愛梨「……?」
凛「書いたって、もしかして経典の事?」
未央「でも改ざんは出来ないってさっき……」
紗枝「その経典は、どうやら書かれた事をそこの三人が成すからこそ意味があるという話どす」
愛梨「ええ、ですがそれがこの状況と何の関係が――」
未央「……あっ!」
愛梨「え……?」
紗枝「なら三人がうちを捕まえる、国を潰す事がしっかり書かれてる以上……お二人が手を出している間のうちは安泰どす」
裕子「え? アイリさん、そんな事書いてたんですか?」
愛梨「いや……私はこの国の事など一度も書いた事は……」
紗枝「それは妙どすなぁ……この目でしっかりとうちは確認しました」
卯月「……! アイリさん! あの……カイさんが加えた分です!」
愛梨「…………ああ、理解しました」
紗枝「なんだか複雑な事情があったようどすなぁ、でも書いてあることには違いありまへん」
紗枝「うちはウヅキはんら、三人に倒される予定でしょう?」
未央「だから……そんな余裕だった?」
紗枝「アイリはん、ユウコはん……うちはお二人に敵いませんが、お二人に倒される義理はありまへん」
愛梨「…………」
紗枝「うちをほんまにどうにかしたいなら、三人が出向くのが筋やありまへんか?」
紗枝「その三人相手なら……目いっぱい抵抗させて貰う事にします」
卯月「だ……大丈夫です! 私達なら戦えます!」
未央「アイリさんが無理でもこっちは大丈夫!」
紗枝「みなさんやる気みたいやなぁ、どうします?」
愛梨「……三人が弱いわけではありません、それに援護も可能ですよ?」
裕子「その通りです、数も質も負けている私達に勝てる道理がありますか?!」
凛「手加減は……しないよ?」
紗枝「怖いなぁ、せやけどうちも何も考えなしに口八丁してるつもりはありまへん」
――スッ
卯月「……武器!」
未央「えらく長い獲物だね? 射程は長そうだけど……」
凛「全員を相手取るには、長すぎて小回りが利かないでしょ?」
紗枝「近づかせなければ、ええんとちゃいますか?」
裕子「私もサイキック援護します!」
愛梨「卑怯などとは言わせませんよ?」
紗枝「ええ、どうぞお構いなく」
卯月「……行きます!」
紗枝「ほなうちも……ま、この一撃でうちの仕事は終わりやけど……!」
――プツッ
愛梨「……! みなさん下がって!!」
紗枝「本丸には仕掛けがあるもんですわぁ」
――パカッ
未央「なあっ!?」
凛「地面が……!?」
裕子「なんのこれしきサイキック浮遊……あっ! ベルトつけたままでしたね! じゃあ落ちますね!」
紗枝「落ちても流れが速い川やから安心してくださってかまいません」
卯月「わあああ!!」
紗枝「さて……もともと後ろに居はりましたけど、よう反応して避けましたなぁ」
愛梨「こんな仕掛けが……」
紗枝「それで、どないします? せめてうちを仕留めてからみなさん追いかけますか?」
愛梨「それが出来ないと分かっていて……!」
紗枝「ああ、そうでしたわぁ、えらい申し訳ないどす」
愛梨「く……」
紗枝「早う追いかけた方がええんと違いますか? 底は川やけど、バラバラになる前に合流した方が賢明どす」
愛梨「…………あなた個人に対してこの言葉を贈るのは非常に不快ですが」
紗枝「なんでしょうか?」
愛梨「見事でした……いつか、三人ともう一度ここに来る事になるでしょう……!」
紗枝「それは楽しみどすなぁ……ほな、お達者で」
愛梨「ええ……」
――ヒュンッ
紗枝「…………はぁ」
加蓮「逃がしてよかったの?」
紗枝「なんや起きてましたの? ほな手伝ってくれてもよかったのと違います?」
ゆかり「嫌です。経典の解釈が及んでいるのはサエさんだけでしょう」
加蓮「私達は別に守られてない、出て行っても太刀打ち出来ないって」
紗枝「ほんま自分の事だけ考えてますなぁ」
加蓮「ま……あの状況をどう切り抜けるか、気になったってのもあるよ」
紗枝「見てくれてました? ほんま、こんな武器なんて持ったこともあらへんのに……ちゃんと作動してくれました」
ゆかり「糸を切る程度出来るでしょう……」
紗枝「世の中にはよーさん人が居ます、うちみたいなか弱い乙女をお二人と一緒に考えたらおまへん」
加蓮「誰が乙女……」
――ガラッ
七海「アイリさんはこちられすか~? あれれ、お部屋が吹き抜けれす~?」
ゆかり「落ちると大変ですよ、数キロ先まで流されます」
七海「へ~……」
紗枝「……ナナミはん、後のお二人はどうしはりました?」
七海「ユウさん達れすか~? 見ていませんね~」
加蓮「見てない? 何度かすごい音が聞こえたから、てっきり戦ってるものだと……」
ゆかり「そのうち帰ってくるでしょう、放っておいても勝手に何か企んでいる人達です」
紗枝「せやなぁ、ならこれで舞台は終了どす、結局大きな戦果はありまへんわぁ」
ゆかり「思っていた経典と違った、という事ですね」
加蓮「奪ったからってすぐに使えるわけじゃないなんてね……あ、そうだ……つい最近話題になったもう一つの方だけど」
紗枝「そういえば第二の経典とか言いはる情報もありましたなぁ」
加蓮「そっちもすぐに叶うわけじゃないけど……叶う過程を聞く限り、まだ現実味はあるよ」
七海「こちらは経典に加えてアイリさんがハードルれすか~」
ゆかり「その障害がフミカという人物に変わるわけですが、そちらは?」
加蓮「その点は大丈夫らしいよ、だからターゲットを変えるのもアリかも」
紗枝「何にせよ、うちは今日一日疲れましたなぁ」
ゆかり「ほぼ徒労でしたが、収穫は?」
加蓮「周りが二つの経典に右往左往してる間に、片方に集中できる情報はプラスじゃない?」
七海「七海はなんでもいいれす~」
紗枝「これからする事は一つやなぁ、あの三人がもう一度ここに来る前に、やる事やっておかなあきまへん」
加蓮「やる事って?」
紗枝「せやなぁ、いろいろありますけど……」
紗枝「今は夕食にしましょか~」
ゆかり「あのですね……」
七海「では七海が用意してきます~」
加蓮「待って、私が行くから、また得体の知れないもの持ってくるのは止めて」
七海「え~」
紗枝「ふふ、お気楽どすな~」
・
・・
・・・
――ザアアア……
未央「ぷはぁ!」
裕子「大丈夫ですか! 回収しに来ました!」
未央「他のみんなは……って、水の上歩いてる?」
裕子「サイキックの力です! 他の方はもう少し上流で待機中です」
未央「経典は……?」
裕子「こちらに、ちゃんと持ってきましたよ」
未央「ああ、よかった……わっとと」
裕子「水の上には立たせられないので、このまま引っ張って行きますが構いませんね?」
未央「お願い……今でも倒木にしがみついてるのがやっとで……」
裕子「予想の数倍、急流な川でしたね」
――ザパァッ……
卯月「……あっ! 大丈夫?」
未央「なんとか、そっちは?」
凛「大丈夫。経典も……ただ、今の数分でかなり流されたみたい」
未央「森の反対側は崖だったんだ……その隙間を流れる川に落とされたって事?」
裕子「壮大な仕掛けですね、なかなか驚きましたが……」
凛「こんなに流されたのは失敗かな……もっと早く陸に上がるべきだったかな」
裕子「いいえ、川の両側は岩場に囲まれていて、そこを登るのは危険でした!」
卯月「じゃあ……結局ここまで流されちゃうのは確定だったのかな」
未央「ぐぐぐ、結局何もできずに……そりゃあ最終的には全部返ってきたけど!」
卯月「……あれ? アイリさんは?」
――ヒュンッ
愛梨「ここです。……今回は、最初から最後までこっちの責任でしたね」
卯月「いや、そんなことないです! 私達がそもそも最初に自衛できていれば……」
未央「後は……さっきもちゃんと勝負に持ち込めてたら……」
愛梨「いえ、結局は私の適度な監視を怠ったから――」
裕子「はいはい、これじゃ話が進みません! とりあえずよかったじゃないですか、全員無事なので」
凛「……最低ラインの成果はあったよ」
裕子「命あってこその次ですからね。あ、私も頑張りましたよ?」
愛梨「正直助かりました、今回の件で私も自身の課題が今更見えたので」
卯月「……アイリさんにも、課題なんてあるんですか?」
愛梨「私だって、万能ではないですから……」
裕子「そーですね、近接格闘とか覚えたらどうでしょうか」
愛梨「考えてはおきます……」
裕子「さて……本来の私の目的は終わりました、皆さんはこれからどこへ?」
卯月「経典は……」
愛梨「……少し間が空くと思います」
愛梨「今は最後に訪れていたアンズの元へ、無事を伝えに戻るのが先決と思います」
未央「あっ! そういえば……私達、急に消えたことになってるんだよね?」
凛「この経典を求めて交戦中の国があったとして……姿が消えたなんて情報が伝わったら」
裕子「あまり好ましくないですね? 互いに“攫ったんじゃないですか?”と疑い始めて……」
卯月「もしかして、帰る頃には大変な事になってるんじゃ……」
凛「……そうだ、ソラとアカネは? ここにはいなかったみたいだし、どこに?」
未央「そういえばあの時一緒にいたはずだね、連れてこられてないのかな」
卯月「確認も兼ねて……私達は戻ります、ここからだと崖下になるので少し遠回りになりますが……」
愛梨「それがいいでしょう」
裕子「では私は旅の続きを! また何かあった時はいつでも連絡くださいね、いつでも駆けつけます!」
愛梨「そのお言葉はありがたいのですが、なら何時でも連絡が取れる状態にして欲しいですね……」
裕子「大丈夫です、サイキック危険感知しますから!」
卯月「ユウコさん、ありがとうございました」
裕子「いえいえ、みなさんもこれから大変だとは思いますが、頑張ってください!」
裕子「それでは私はこれで!」
――タッタッタッ
愛梨「……本当に助かりました。が、以降は私が私用で頼ることはないと思います」
凛「私達も、自分で解決出来るようにしないと」
未央「もちろん頑張ってはいるんだけど……難しいね」
卯月「特別な力があるわけじゃないし、努力でなんとか補うしかないよ、頑張ろう!」
愛梨「……特別な力、ですか」
卯月「あの超能力の事です、魔力ではない謎の力……特別ですよね」
未央「狙って習得できるものではないよね」
愛梨「彼女、ユウコさんは特に極端な“特別な力”を持っていますが、それを無闇矢鱈に使う人ではありません」
凛「……そうなの?」
愛梨「自身の力に、制御をかけています。理由は本人談ですが“特別”だけで生きていたくは無い、と」
未央「勿体無い、なんて考えるのは部外者で素人の意見かな?」
卯月「いや、それが普通だと思う……私も、特別な力があれば甘えちゃいそう……」
愛梨「常に驕らず向上心を持って、いろいろな局面に向かい、そして解決していく……」
愛梨「そういう意味では皆さんと同じ、努力の人です」
未央「ぜんぜんそうには見えなかったよ。上手く隠していて、まったく感じないのは凄いね……」
卯月「……やっぱり、一つの大きな武器を持たなきゃダメだね、長所を……!」
愛梨「心構えは立派ですが皆さんも……十分に特別な力は持っていますよ?」
凛「……私達が?」
愛梨「ええ、それは自覚がないだけかもしれませんが」
卯月「特別な力なんて……普通の魔法使いと」
凛「ちょっと変わった武器を持ってるだけ、しかも唯一ってわけでもない」
未央「私なんて近づく、叩く! しかしてないけど……」
愛梨「その基礎を普通と感じるか特別と感じるかは、別のお話です」
凛「そうなのかな、そんな問題……?」
愛梨「……ここからアンズの元へ帰るには少し時間がかかります」
愛梨「移動中、今一度よく考えて……悩む事も大事だと、よく聞きますよね?」
未央「あー……考えるのは得意じゃないんだけどなぁ……」
愛梨「なら苦手分野を消していきましょう。私も、そうした方がいいと今更分かりましたから」
卯月「……はい!」
――タッタッタッ……
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本日更新間に合いませんでした、申し訳ないです。
ピザ屋の警備員のアルバイトに難航したせいです、人形怖い。
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杏の所に戻って……から、話がうまくまとまらないので突発ですがアンケート。
一度他の場面転換で止まった筆を別方向へ進ませます、というわけで以下3つから、
今回は名前は出ません、そして三属性ちゃんとバラバラの新規三人です。
何も確定の情報を出していないのにアルバイトの内容が察されてました、現在四日目です。
あの風船持ってる子供は一度入室されると出て行ってくれないんでしょうかねぇ……
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Side Ep.36 確保依頼
――カタンッ
さて、今日もご依頼チェックの時間です。
イタズラ含めて大多数は毎日のように届きますが……これといったものはありません。
頼っていただけるのはありがたいのですが、もう少し……自主的な活動をしてもらっても構わないんですよ?
例えば……この依頼のように、ただ野盗からの盗品奪還など、私ではなくとも可能でしょう?
しかも国が依頼主ですか? はぁ……配下に恵まれていないのでしょうか?
他では解決できない重大な案件、もしくは危険が大きい案件には十分に力を貸しましょう、
ただし連日続く……小さなありふれた依頼は、それに足りません。
このような甘えた国家や依頼主に対しては私が直接お説教を……と言いたいところですが、
さすがに時間と体力が足りません、気力は溢れていますが。
これも、これも、これも……ん?
依頼者の名前が……普段見ているものと違いますね、始めて見る……アキハ?
確か国家の代表、それも非常に自治能力が高く……私と縁が無いはずの平和な国のはずですが……
内容は、確保依頼?
また不思議な依頼ですね、彼女は優秀な部下が多いでしょう、私に依頼しなくとも
国内の問題ならば容易に解決できるはず…………ふむ、なるほど……
対象が“国内”ではない、そういう事ですか。
普通、国外へ出て行った危険人物など放置しておく国家が多いこの時世に、
いつもは縁がない私に報告も兼ねて依頼を行ってくるなど……よほどの注意人物なのでしょう。
……なるほど、これは直々に追わねばならぬ人物のようです。
Side Ep.37 挑戦状
――ジリリリンッ ジリリリンッ
今日に限ってどういうこと? どうしてこんなに連絡が回ってくるの?
さっきから……ええ、内心では分かっていますわ、ついに動き出した……勘づいたと。
――ガチャッ
はい、こっちは……あら、お久しぶり、うっかりお仕事の口調で話すところでしたわ、
それで今日は何の用事ですの? いつもの援助なら今月も滞りなく……は?
はぁ? 今なんと? 話した? あなたが? だからこんなにお電話が?
……それは、恩を仇で返すつもりで?
そんな事はない? ではどうしてその秘密……いいえ、秘密というほどではありませんわ、
ただあちらが気づいていなかっただけ、それすらも見破れない、真相を捕まえられない未熟者ですわ!
何ですの? 『秘密というほどではないならいいじゃない』と?
……確かにそうですわね、なら答えを教えてあげただけ、なるほど問題はないですわ、
とはいえ少しはこちらの事情も考えてくださいまし、朝からあちこちの部署からコール音が
鳴り止みません、おそらく“奴”が、裏で工作を始めたに違いありませんわ、
そう、あの時のわたくしのように……ま、ここまで露骨に、分かりやすくはしていませんが?
ふふ、ならば受けて立ちますわ!
で……わざわざそれを報告したという事は、記事にする許可でしょう?
そんな事はお見通しですわ、もちろん許可します、わたくしの功績にまた一つ華が咲きますのよ……
Side Ep.38 無人の美術館
なぁなぁ、この建物……この近くだったりするか?
……え? そもそもこれは何かって? 知らないのか?
ここは知る人ぞ知る、隠れた名店……じゃなくて、実は美術館なんだけどな。
変わったところにあるらしいんだ、山奥にひっそりと……
昼間は門が開いて、中を自由に見ることが出来るんだけど、夜になると門が閉じる。
これだけだと普通だけどな? どうにも操作をしている人は誰もいない……全自動なんだ。
中も展示品が並んでいるだけで、しかも日によって並んでる品がちょっとずつ変わってる、
だから必ず誰かが居るはずなんだけど……ま、そんな不思議な内容は置いといて、
とにかくすごいんだって、聞いた話だけど。
ずいぶん昔に一度行ったことがあるって人に話を聞いて、
一回行きたいと思ってたんだけど……なにぶん古い記憶らしいから場所を覚えてないって、
とにかく地元じゃ案外有名らしいからこうして聞き込みを続けてるんだ。
だけど知らないっぽいし……じゃ、別の人にまた聞くよ。
え? 美術館には何が飾ってるって?
それは…………別にいいだろ? 知ってる人だけの特権ってヤツ、
気になるならアンタも調べてみれば?
---------- * ----------
③①①③①①なので①進行させていただきます。
更新はもう少し後です、ご協力ありがとうございます。
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・
・・
・・・
――ヒュンッ
珠美「…………どうもあの一件から、空気が変わりました」
珠美「別に調子が悪くなって取り逃がす量が増えたなどでは決してありませぬ」
――ガッ
珠美「ただ、この輩のように……自分から向かってくる者が増えたというのでしょうか」
珠美「珠美は別に構いませぬが、なんというか……手間がかかります」
珠美「こちらも無差別で切り捨てているわけではありませんから、そう大挙して押し寄せられると……」
珠美「……こうして、通路が通れなくなるほど屍の山が出来てしまうではありませぬか」
――ザンッ
珠美「以前撤回された懸賞金は復活したと見て構わないでしょう、あの探偵が……やってくれましたなぁ」
珠美「おかげで命知らずの集団が襲ってくる始末、もっと自身の立ち位置を弁えるべきだと思いますが」
珠美「珠美が言うのもなんですが、命を粗末にしては行けませんよと……」
――ダダダッ
珠美「……! 足音?」
――ザザッ!
??「これは……何事ですか!?」
珠美「わあっ!」
??「あっ、と、これは失礼……あなたは?」
珠美「こ、来ないで下さい! あなたはこの……屍の山を作った本人ですか!?」
??「いえ……このただならぬ殺気を感じて、駆けつけた者ですが」
??「私が来たからにはもう大丈夫です!」
珠美(……殺気を感じて? 珠美はその気配を出さないように最大限努力をしているはずですが)
珠美「えっと……」
??「随分と怯えて……武器が震えていますよ、確かのこの惨状ではそれもやむ無しですが」
珠美「あ……い、いえ、震えてなど……」
??「とにかく無事で何よりです、まだ犯人がうろついていないとも限りません、ここは私に任せて」
珠美「は、はい! そ、それでは失礼します!」
――タッタッタッ
珠美「……はぁ、突然介入してくる人物ほど心臓に悪いものはありませぬ」
珠美「こちらも木偶を装うのは神経を使うもので」
珠美(しかし……十二分に気をつけていたにも関わらず、かなり遠所からこちらを嗅ぎつけたのは気になります)
珠美「ま、屍の処理は任せて珠美は去りましょう…………」
??「あ、もう少しだけお話をしてもらっても?」
珠美「いいっ!? あ、あれ!?」
??「驚かせちゃいましたか? それは申し訳ない……ですが、現場のお話をもう少しだけ」
珠美(何……珠美はかなり距離を離すために走ったはずですが、いつの間に……)
??「ところで、ずいぶん鍛えているようで」
珠美「……は?」
??「いえ、走る速度もかなりのものでした、なかなか追いつけませんでしたよ」
珠美「え? ずっと追いかけていた……?」
??「そうですが」
珠美「えっと……もしかして、聞いていましたか?」
??「聞いていた? ああ、独り言を呟いていたとかですか? 大丈夫、聞こえていません」
??「プライベートなお話なら追求もしません、安心してください」
珠美「…………」
??「気になったのは、この惨状の犯人が誰か、です」
??「あなたもかなりの手練、しかしそこまで追い込まれて……よほどの強者と思われます」
珠美(この人物……かなりの実力者と予想できますが……)
??「何か手がかりを持っていませんか? 顔を見たなど……」
珠美(そこまで見抜いていて、どうして珠美を疑わないのでしょうか?)
珠美(やたらと不思議な脳内理論をお持ちのようです、恐らく放置しても無害でしょうが……)
――ヴンッ
??「いや、これ以上思い出させるのは酷ですね……すいません、わざわざ呼び止めてしまって」
珠美「いえいえ、こちらこそ力になれず申し訳ない……お詫びと言っては何ですが」
珠美(万が一敵に回った際の事を考えて)
珠美「これを受け取ってはいただけませんか」
――ザンッ!!
??「うぐっ!?」
珠美「……ほう、首を狙ったつもりでしたが」
??「な、何ですか! 私が何か気に入らない事をしましたか……!?」
珠美「いや、少し考えれば分かることでしょう? そもそもこの状況をもってしてもその発言ですか?」
??「いったい何の事……私はただこの騒動の情報を集めようと……」
珠美「喧しいですなぁ、もう黙っていただいても構いませんよ」
――ブンッ!
??「危ないでしょう!」
珠美「む、二度目は素直に受け止めていただけませぬか」
??「くっ……これ以上いたずらに剣を振るうならば抵抗しますよ!」
珠美「いたずらではありません、真剣に剣を振るっています」
――ヒュンッ!
??「っ……! そういえば、その剣はどこから……最初は持っていて、次は見当たらず、今は再び構えている……」
珠美「ほう、素晴らしい観察眼ですなぁ。確かにこれは常に携帯しているわけではありませぬ」
珠美「だから、こういった芸当も可能です!」
――ダンッ!
??「来る……!」
珠美「貰った!」
??「何度も素直に受ける気はありません! その武器は没収します!」
――フッ
??(……消えた!?)
珠美「驚いている暇はありません!」
――ザシュッ!
??「っぐ!? は、反対側から……! なるほど、武器は格納式ですか……!」
珠美「ご名答! この刀を奪えるものなら奪ってみせて下さい!」
??「その方式なら奪うのは無理です、しかし……惜しいですね」
珠美「ほう、惜しいとは?」
??「それほどの練られた戦略と実力は、乱暴に振るうものではないと思います」
??「私が気に入らないからといって振るうのは、勿体無いですよ」
珠美「……先程からどうにもズレがありますなぁ? もしやこれほど交戦した上で、気づいていないと?」
??「気づく……?」
珠美「そう!」
――ザンッ!
??「くっ……!」
珠美「ついに無抵抗ですか?」
??「……精神が不安定な人物に対しては、落ち着くまで下手に抵抗しない方が効率的です」
珠美「ならばそのまま切り捨てて差し上げましょう!」
――ザクッ!
??「っう……」
珠美「このまま何時まで無抵抗でいるか、試してみましょうか?」
珠美「しかし無抵抗の者を切るのは久々ですなぁ、あの一件以来……相手から襲ってくる場合が多かったですから」
??「久々……? まるで、過去にあったような言い方ですが」
珠美「おや、まさか本当に? 失礼ですが思考の方は正常ですか?」
珠美「この惨状もと珠美の獲物を重ね合わせて、まだ結論が導けておりませぬか?」
??「…………!」
珠美「気づきましたか? ですがもう遅い、本当に遅い……その体では満足に抵抗も逃亡も――」
??「ああ……その名前、なるほど……これは問題児ですね」
珠美「…………?」
??「最初は『力の振るい所を見つけられていない、多少やんちゃな人物』程度に思っていましたが」
珠美「おや、立ち上がれますか?」
??「片手間に更生させようと思いましが……片手間じゃなく、本気で向き合う必要がありますね」
??「なぜなら依頼対象が、あなただからです!」
――バッ
珠美「武器……いえ、違いますね? 何かの装備品ですか?」
??「いいえ、これは私が仕事中に付けるだけのアイテムですから気にしなくとも結構です」
珠美「ほう?」
??「まずは……対象をよく知ることです」
珠美「知るも何も、珠美がする事は一つです、そろそろ興味も失せたところで……倒れてください」
――ヒュッ ザクッ!
??「……なるほど、何の躊躇いもなく急所を狙って」
珠美「よく防ぎましたが、刀は一度止めても他の場所から再び狙えます!」
??「理解しています」
――キンッ!
珠美「おっと……!」
??「だいたい分かりました……ではプログラム開始です」
珠美「先程から何を言っているのでしょうか?」
??「私の所に来る依頼を突き詰めれば、ただの確保ではありません」
――ガッ
珠美「む……」
??「いえ、正確には確保依頼なのですが……私は確保して終わり、ではなく」
??「きちんと世の中に適合する人物に更正させる事が目標です」
??「だから、本当に問題児しか取り扱いません……よく言われる不良の更生と言ったところです」
――ギリッ……
珠美(離せない……?)
??「ま、最初は口で言っても分かりませんから……いろいろ弄りますが」
――キュイン
珠美「な……」
??「第一に他者へ危害を加えない、次に表と裏の性格を無くす、さらにその危害を加えるという衝動を――」
珠美「離してください!」
??「いいえ、あなたは私が最後まで面倒を見ます、それが仕事ですから」
珠美「両腕を抑えた程度で……! このっ!」
――ガシッ!
??「……その刀も、一旦捨てましょうか」
珠美(素手で押さえ込ん――)
――バキッ!!
珠美「なあっ!?」
??「これでよし」
珠美「っ、この刀は具現化によるもの! 一度折った程度で……あ、あれ?」
??「ああ、もう出せませんよ? 私は“抑え込む”事を生業としています」
珠美「珠美に何をしましたか!?」
??「まずその風紀的によろしくない性格面と攻撃性、それに伴う実力を封じますか」
――ギュンッ
珠美「あ、ぁう……!?」
??「次に……これは時間が掛かりそうですが」
珠美(な……何かが……意識に侵入してきます……!)
珠美「貴様……何者……っ!」
??「そういえば自己紹介がまだでした、私は全世界の風紀を乱す輩を構成させるために活動中の……」
??「キヨミと申します、以後……“あなた”は私にしか会う事は無いと思うので、長い付き合いになります」
珠美「な、どういう事……ぐぅ……!」
清美「理想の人格を作る事は、案外容易いのです」
清美「上書きしてしまえばいいんですから」
珠美「なっ、そんな事……! 人の人格を上塗りするなど……不可能で……ぐうっ!」
清美「確かに普通は無理ですが、人格を割り込ませるのは案外簡単なんです」
清美「これからあなたは“理想の人格”として、続きの生を過ごしてください」
珠美「そんなもの……断固拒否します!」
――ガッ!
珠美「っ……!」
清美「武器を持たない侍が何をするつもりですか? これでも色々な肩書きを持っているんです」
清美「懐かしいですね、結局私はカイを抑え込むことだけは出来ませんでしたが……彼女は彼女で大人しいですから」
――ズズッ
珠美「う、うぐ……!」
珠美(これは、大変まずい……こんな、馬鹿な……!)
珠美(珠美が……外から来る“何か”に潰されそうで……)
清美「まだ更生のプログラムは始まったばかりですよ、ですが安心してください」
清美「この超☆風紀委員が、最後まで面倒を見させて貰います!」
珠美「はは……まったく安心、できませぬ……なぁ……!」
4人目?
---------- * ----------
清美さんの一人称を完全に間違ってました、私じゃなくてあたしだったんですね……
>>505 四人目、愛梨と同列であるという意味では櫂と裕子を含めて四人目です。
驚きのPa率ですが、最後の一人はCuなので全員Paではないです…… Co? えっと……はい。
---------- * ----------
あれ、やっぱり清美さん一人称「私」かな……
モバマス呼称表が「あたし」になっているのが間違いなんでしょう、きっと……
・
・・
・・・
ケイト「よいしょ、と……ふぅ、しかし何デショウネ、急に倉庫の資料を調べるナンテ」
みく「何してるにゃ?」
ケイト「大掃除、デショウカ? とにかく上の指令でこの部屋を整理中デスネ」
みく「上って、ノアの事かにゃ。部屋って、どうみても物置にしか見えにゃいけど」
ケイト「ほぼ物置で間違いありまセンヨ」
みく「どうして中身全部ひっくり返しているのかにゃ」
ケイト「なんでも古い資料の整理……だそうですケド」
みく「けど?」
ケイト「使わなくなったからここに入れてるのであって、新しい情報なんて見つからないはずデスヨ」
みく「今更どうして探すことになったか、にゃ」
ケイト「気まぐれデショウ」
みく「一人で作業かにゃ」
ケイト「ハルナとナホは『飽きた』と」
みく「にゃあ……手伝う?」
ケイト「どこかに行く途中デショウ? 別に構いまセンヨ」
みく「まー、ちょっとそこまで散歩する程度にゃ、帰ってきてまだ作業中なら手伝うにゃ」
ケイト「それはどうも」
みく「じゃあ行ってくるにゃ――」
ケイト「あ、前危ないデスヨ」
――ドンッ
みく「にゃう!」
――ドサッ
ケイト「危ないと言ったデショウ」
みく「にゃ……前方不注意だったにゃ……」
ケイト「派手にぶつかりましたネ、拾ってあげてくださいヨ」
みく「分かってるにゃ、はいコレ落とした――――」
――カランッ
ケイト「もう一回落としてどうするんデスカ」
みく「…………にゃ」
ケイト「……?」
珠美「あいたたた……これはこれは申し訳ありませ……」
みく「…………」
ケイト「二人共固まってどうしたんデスカ、もしかして知り合い――」
――ドゴッ!
珠美「ごふっ!!」
――ガッ ガシャンッ!
ケイト「セイ! ストップ! 何デスカ急に!」
みく「離すにゃ! なんでお前がここに居るにゃ……!」
ケイト「誰か存じないデスガ……まず説明して下サイ!」
珠美「いえ、止めないで下さい……!」
みく「にゃ……」
ケイト「いや、止めマスガ……じゃないと攻撃するデショウ」
珠美「……攻撃されても文句の言えない立場ゆえ」
ケイト「ハァ……?」
みく「はぁ?」
珠美「珠美が過去に何を起こしたかは十分に承知しています……だからこそ、この仕打ちは当然で――」
ケイト「ちょっとちょっと待って下サイ、話についていけませんがどういう事ですミクさん」
みく「いや、待つにゃ……何? 今何て言ったにゃ?」
珠美「何度でも言いますとも、珠美は過去に大罪を犯しておりますゆえ、この仕打ちは当然で」
みく「お前誰にゃ!!?」
――ザッ
清美「お知り合いですか?」
みく「にゃ……誰にゃ?」
ケイト「おや……どこかで見たような顔デスガ……」
清美「私はキヨミと申しますが、失礼ですがあなたの事は存じませんね……」
ケイト「いやいや、そんな世界的に有名な者でもないのデ……名前はケイト、デス」
清美「ケイト? ああ、撤回します、私はあなたの事を存じていました。確かこの国家の幹部級の方ですね」
みく「その前に、そこのそいつはどういう事にゃ、あんたが連れて来たのかにゃ」
珠美「珠美の事ですか?」
清美「なら、その通りです。そして今日は報告に来ました」
ケイト「報告?」
清美「別に本人に会うつもりはありませんし、アキハさんに伝えていただくだけで結構ですよ」
ケイト「今は代理のノアという人物が指揮を取っているに近い状態デスガ」
清美「ならその方に伝えていただいても?」
ケイト「内容は?」
清美「ご依頼の人物は、こちらで確保して監視下に置きました、と」
みく「依頼……ノア、それに確保した……まさか」
ケイト「その言葉をそのまま伝えればいいのデスカ?」
清美「ええ、それで伝わるはずです」
みく「待つにゃ……もしかして、依頼って……そこのタマミの事かにゃ?」
清美「あれ? その事を知っているという事は、あなたも幹部の方でしょうか」
みく「いーや違うにゃ、ただ……そこの人物と大きな因縁があるっちゃあ、あるにゃ」
珠美「……珠美の正体が世間に知られた際に、共にその場にいた方です」
清美「なるほど……それは、大きな因縁です」
みく「で、その時にそいつをみくはよーく覚えてるにゃ、それが……今、どうなってるにゃ?」
ケイト「なんだか複雑デスガ」
清美「そういう事でしたら部外者の方でも、この依頼についてお話しなければなりませんね」
清美「まず、この国家の代表の方……つまりアキハから私の元に依頼が来ました」
清美「内容は『逃走した危険人物の確保』、要するに彼女でした」
ケイト「知らない間に色々と活動していたのデスネ」
珠美「そのうちに珠美はキヨミ殿と遭遇し……こうして確保されましたが」
みく「それにゃ、そこからいったいどうなったらこんな……お前誰? 状態になるんだにゃ」
清美「詳しくお話するには私の信念から説明しなければなりませんが……」
清美「とても簡潔に纏めると、私は『更生』させる事が目的です」
ケイト「立派な考えをお持ちで、出来ればうちのメガネ狂の性格を直してもらいたいデスネ」
清美「それは確かハルナさんの事ですね? しかしその人物は、私の範疇外です」
ケイト「違いは?」
清美「他者に害を及ぼすか、加えて私の手を借りずとも可能な事案ではないか、という事です」
みく「該当したからこそ、タマミを受け持ったと?」
清美「そういう事です、そして受け持ったからには責任を持って改心させます、本人が諦めるまで」
珠美「とは申しますが、珠美が一般の世界に復帰するには壁が多いので……まだ監視下で同行が限界です」
清美「とりあえず今は現状を伝えに来ました、こうして確保しただけですが」
みく「しただけ……にしては、変わりすぎじゃないかにゃ……?」
珠美「珠美は変われていますか?!」
みく「変わるも何も、本当にお前誰だにゃ……見た目しか一致しないにゃ……」
清美「成果が明確に伝わるお言葉、何よりです」
珠美「そんなに褒められましても……」
みく「断じてお前じゃないにゃ! ああもう調子狂うにゃ! 一発殴らせるにゃ!」
珠美「どうぞ……! 珠美はその覚悟も、理由もわかっています……! 一発などと言わずに……」
みく「止めるにゃ! 気持ち悪いにゃ!」
ケイト「まぁ落ち着いて下サイ……」
ケイト「要するに更生の途中で……しかもその成果はミクさんを見る限り?」
みく「十二分すぎるにゃ、いったいどんな方法で説得したんだにゃ……」
清美「これがお仕事と自負しているので」
ケイト「……ま、把握シマシタ。この更生と確保の経過を伝えればいいんデスネ?」
清美「お願いします」
ケイト「しかしそういう事なら……ノアに直接言いマスカ? その様子だとノアには会っていないみたいデスガ」
清美「いいえ結構、私が顔を出しても仕方ない事です」
ケイト「そうですか? デハ、今からでも伝えてキマス」
みく「みくも行くにゃ、なんだか散歩する気分じゃなくなったにゃ……」
珠美「それは申し訳ない……珠美が顔を見せたからこんな事に……」
みく「その雰囲気を止めるにゃ! こっちが悪者みたいになるにゃ!」
珠美「何を! 悪いのは十割いや百割こちらです!」
みく「にゃー! 黙れにゃ! しっ、しっ!」
――バタンッ
清美「……よし、報告は終わり。さて、次はどうしますかタマミさん!」
――ギィンッ!!
珠美「…………」
清美「私だって他人行儀な話し方は疲れますから、こうして二人きりの時は互いに素を見せましょう」
――ガギィッ!
珠美「死んでください」
清美「お断りさせて貰います」
珠美「斬ります」
清美「もう斬りかかっているじゃないですか」
珠美「黙れぇぇ!!」
――ガチャッ
ケイト「何事デスカ」
清美「あ、これは申し訳ありません、ご迷惑でしたか?」
珠美「むむむ……やはり通りませんね」
ケイト「白昼堂々決闘デスカ?」
清美「訓練も兼ねて、唐突に毎日行う組手のようなものだと思ってください」
珠美「不意はついたつもりなのですが……なかなか一本取れませぬ……」
ケイト「いやいやいや、それ真剣デショウ? 一本取ったら怪我シマスヨ」
清美「実践に限りなく近い方が鍛錬になります、それはご存知でしょう?」
ケイト「……そっちのやり方に文句は言いませんケドネ」
ケイト「ただ、いきなり決闘じみた真似をされるとこっちも何事かと思ってしまいマス」
清美「もう中へ入られたので大丈夫かと思ってしまいました」
ケイト「中に入っても外からそんな音が聞こえたら戻ってキマス」
珠美「中にいるにも関わらずそのような気を察知出来るとは、ケイト殿は素晴らしいですな!」
ケイト「褒めても何も出まセンヨ」
清美「とにかく、これは訓練ですから」
ケイト「なら二回目は出てこないようにシマス、邪魔しちゃ悪いデスカラ」
清美「手間を取らせてすいませんね」
――……バタンッ
――ガギィンッ!!
珠美「斬る」
清美「残念でした、届きません」
珠美「うるさい、斬ります」
清美「いい加減に諦めて、私と一緒に更生の道を進みませんか?」
珠美「黙ってください、不快です、斬ります」
清美「二人きりだと以前のように攻撃的なまま、と……」
珠美「そのように珠美を勝手に弄り回したのは誰だったか、覚えてないとは言わせません!」
――ヒュンッ!
清美「そう……私がやった、これが第一の拘束」
清美「タマミ、まずあなたの本来の人格は、『私以外の人物と対面する事が出来ない』」
清美「もし他の人物と対面すると、こちらが用意した『理想の人格』が表に出る」
清美「これで外に出しても恥ずかしくない、一人前のちびっこ剣士の誕生です」
珠美「本気で珠美を変えるつもりですか?」
清美「上辺は早急に取り繕いますが、根元から変えようとしているのは本気です」
清美「それにあたって第二の拘束……あなたの素晴らしい技術を、惜しいですがセーブさせます」
珠美「……やはりですか、先の歩行中の衝突だって、珠美なら即座に切り捨てる事も回避する事も可能なはず」
珠美「同様に、今も力を抑え込んで自身を守っているのでしょう?」
珠美「どういう仕組か分かりませぬが、あなたとだけ対面出来てしまう本当の珠美から逃れるために!」
清美「何か勘違いしているようですが“今のあなた”には特別何も制限はかけていません」
珠美「はは、負け惜しみですか? そんなわけは――」
清美「普通、このように人格を重複させたり適切な力量にまで抑え込んだり……相当大きな術式が必要ですが」
清美「その制限の恩恵を術者である私だけが“得られない”という事で解決しました」
珠美「……馬鹿な、そんな無謀な論理があってたまりますか、それ即ち――」
――ギィンッ!
珠美「凶悪犯を捕える為に、自身をその白刃の元に晒すという事でしょう? そう、この様に」
清美「周囲に迷惑が及ばないなら、最善の策だと思いますが」
珠美「体が持ちませんよ?」
清美「鍛えてますから……事実、あなたの言う白刃は私に届いていないようですね」
珠美「はっ、この程度を防いだところで珠美を全て知ったつもりですか?」
清美「では早く全てを見せてください、もし私を斬る事が出来れば拘束は外せます」
珠美「ほう……」
清美「ただし……あなたの全てを私が受け止める事が出来た瞬間、未来は固定されると思っていてください」
珠美「…………」
――キンッ
清美「刀を収めますか、諦めました?」
珠美「珠美とて馬鹿ではありませぬ、相手の力量くらい見定めます」
清美「……実に立派ですね。その力量は前歴さえ無ければとても賞賛されたでしょうに」
珠美「褒められようとして振るっている刀ではありません、もっと残酷なものです」
清美「でしょうね。さて、次はいつその刃を私に向けるつもりですか?」
珠美「そうですな……寝ている間というのはどうでしょうか」
清美「なるほど、ではこれから眠る時は警戒しておきます、いつでも飛び起きる事が出来るように」
珠美「ふーん……せいぜい気を張って寝床についてください」
・
・・
・・・
美玲「はぁ!? アイツが戻ってる!?」
みく「この目でしっかり確認したにゃ……でも」
ケイト「曰く『まるで別人』だそうデスヨ」
美玲「……いやいや、猫被ってるだけだろ?! あんな、ウチ含めて全員が死にかけてる相手なんだぞ!」
みく「もちろん分かってるにゃ……でも、見間違えるなんて事はないでしょ、いくらなんでも」
美玲「だけど、じゃあ何があってそうなったか説明がつかないぞ!?」
――ザッ
のあ「説明は可能よ」
ケイト「あ、ちょうどいい所に、ご報告が――」
のあ「おおよそ聞こえていた、それに内容も把握したわ。……キヨミ、彼女ならその理由も分かる」
みく「ああ、あの隣にいた人かにゃ」
のあ「彼女には私が依頼した、事後報告になるけど」
のあ「以前タマミという人物に対して『応援は依頼する』と言ったわね?」
美玲「ああ……え、じゃあ、ちゃんとした人なのか!?」
のあ「ちゃんとしたも何も、こと“確保”とその後の措置に関しては右に出るものはいないわ」
ケイト「ずいぶんと狭い専門家のようデスガ」
のあ「本職ではない、ただ、秀でているのは事実」
みく「専門家じゃないのに頼んだのかにゃ。本人を見たから力量はもう疑わないけど……」
美玲「そんな人に頼んでよかったのか? でもって本職ってなんだ?」
のあ「本職……そうね、役職ではないけど……かつて、英雄と呼ばれていたうちの一人」
みく「へぇー……にゃ?」
美玲「あれ、それってかなり……うん、アレじゃないのか?」
のあ「少なくとも、ここに居る誰よりも彼女を抑える術は持っているでしょう」
ケイト「現に抑え込んでいる途中かもしれまセンヨ」
みく「いや、表と裏はあったにせよあんなに善人の気配はしてなかったにゃ」
美玲「よっぽどなんだな……」
ケイト「つまり、改心させた後という事デスカ?」
みく「方法はさーっぱり分かんにゃいけど」
のあ「ここであれこれ悩むよりも、直接聞いてみればいい」
美玲「……会いたくはないけど」
のあ「なぜ? 個人に痛い思い出はあれど、あなたと同じく彼女を知る人は“別人のようだ”と言っている」
美玲「そういう意味じゃなくて、うー……分かった、一回見ないとわかんないから行く」
――ギィン!
珠美「……はっ!?」
清美「おかえり、という事は?」
みく「戻ってきたにゃ。……またやってる」
珠美「これはミク殿、説明は先ほどした通りゆえご心配なく」
清美「誰かが見ている間は空気が悪くなるから、周りに誰もいない時にやれと言っているので」
ケイト「ずいぶん切り替えのタイミングが素早いのデスネ」
珠美「訓練の賜物です!」
のあ「……彼女に会ってみたいという人が居る」
清美「ご自由にどうぞ?」
のあ「ただ、過去に彼女と接触した人物、かなり警戒している」
清美「……確実に安全と言い切れます、ご安心してください」
のあ「だそうよ」
美玲「…………」
珠美「おや……」
美玲「オマエ……本人か?」
珠美「はい、紛れもなく珠美は珠美です。……不躾ですが、何用でしょう?」
美玲「いいや、これはきっとよく似た別人とかだ……出来のいい妹とかだろ!」
ケイト「本人デショウ?」
みく「信じられない気持ちは分かるにゃ」
珠美「そこは……納得していただくしか……」
美玲「ほら、アレだっ! その剣だってずっと持ってるだろっ! 収納出来るんじゃなかったのか!」
清美「それは私が止めさせてます、使い方次第で帯刀禁止の場所にも持ち込めたりしますから」
美玲「じゃあ実際戦えば分かるな!? ウチぐらいなら突然襲いかかろうが!」
――ドンッ!
珠美「うわっ!」
みく「あーっと……ミレイ、それは止めとくにゃ、もう遅いけど」
珠美「あいたたた……」
美玲「軽……ほ、本気出せよっ!」
珠美「期待に沿えられず申し訳ありませんが……珠美はこれでも精一杯なのです……」
美玲「オマエ誰だよっ!?」
みく「ほら言った」
――…………
清美「その一連の事件は聞いてはいましたが、なにぶん名前が判明しなかったので」
珠美「……自身が加害者となっていながら、不覚です」
ケイト「ここに、現場にいた二人が居マスガ」
美玲「ウチはもういい……今更謝られても、そもそも謝ってもらっても困るし」
みく「他といえばミヤコチャンと……結局あの場に何人居たにゃ?」
のあ「あの時伝えられた人名は三人を除いてミヤコ、ノリコ、レイ、チヅル、ソラの五人よ」
清美「また期を見て伺うことにします」
美玲「止めておいた方がいいと思うけどな、ウチと一緒で……今更来られても困るし」
珠美「しかしそれでは……珠美も何をすればいいのか分かりません」
ケイト「保護者として、方針は決めているのデスカ?」
清美「別に、私は更生が終わるまで行動を共にするのみです」
美玲(これ以上どこを正すつもりなんだ……?)
珠美「その延長線上で各地に向かうつもりでしたが……避けるべきですか?」
みく「会ってからどうこうは別に止めにゃいけど、会いに行くのはどうだかにゃ」
珠美「そう、ですか……」
みく「…………なんか悔しいにゃ」
清美「何がでしょう?」
みく「一瞬とはいえ、交戦したにゃ、その剣とは違うものだったけど」
珠美「刀です」
みく「名称はどっちでもいいにゃ。それで、力量の差も分かってる、歯が立たなかったにゃ」
ケイト「一時期とはいえ、完全に手配対象だったので恥ずべきことではありまセンガ」
みく「それにしてもにゃ、苦労して何とか逃げただけの相手を……こうも数日で変えられるものかにゃ」
清美「…………」
美玲「変わってるだろっ! どこからどう見ても!」
みく「それは認めるけど……どう思うにゃ?」
美玲「……決着付けたいとか、やり返したいとかそんな気持ちじゃないけど」
美玲「あっさり変えられちゃうと、ウチとしては何か……自分の力不足が目に見えて、嫌だな」
珠美「なんと……」
ケイト「そんなものデスヨ、決意した時に相手が既に変わってる、なんてことはよくアリマス」
美玲「そうなのか?」
ケイト「エエ、身近に居ましたカラ」
みく「…………?」
のあ「先の発言、まだ過程なのでしょう、ここに留まっていて良いの?」
清美「目的があるわけではないので、目標はありますが」
のあ「その目標は、ここで達成できるのかしら」
清美「どうでしょうね。……早めに立ち去って欲しいなら、そうしますが」
美玲「立ち去れなんて言ってないぞ」
みく(……国の立場としては仮にも手配中の人物と、国家クラスの実力者は滞在させたくないのかにゃ?)
清美「そう感じたまでです、報告は終わりましたから確かに滞在する義務はありませんね」
珠美「出発ですか?」
清美「はい、準備は……特に無いですね」
のあ「気をつけて、なんて言う必要はないかしら」
珠美「努力します……」
――ザッ
――……ピタッ
清美「……あれ? どうしました?」
珠美「そちらこそどうしましたか、珠美と話す事など何もないでしょう」
清美「いつも場所や時刻問わず、元のあなたは斬りかかって来てたけど……これは私の成果でしょうか?」
珠美「断じて違うと答えておきましょう。ついでに、ただの緩急です、気を緩めた時が最期と思ってください」
清美「へぇ……私が油断した隙じゃないと、攻撃が通らないと判断したようですね?」
珠美「……挑発しようとも無駄です」
清美「いえいえ、斬らないなら結構です。私も受け止めてばかりでは腕が疲れますからね」
珠美(疲れる程度ですか)
清美「それにしても、私とした事が不覚でした」
清美「あなたと対面して、被害に遭った人が居るはずです」
珠美「三桁とまでは行きませんが、それなりに事には及びましたから当然でしょう」
清美「先程聞いた人以外にも居るはずです」
珠美「それは有り得ませんな、逃がした覚えはありませんゆえ」
清美「覚えがなくとも、そのうち遭遇するでしょう。だからこちらから可能性を増やすために、動きます」
珠美「……珠美が言うのもなんですが、こと効率や知識に関して……えらく雑な思考をしていますな?」
清美「何が言いたいんですか?」
珠美「さぁ、直接聞いてみてはどうでしょう? お得意の格闘術で珠美を打ちのめせばあるいは」
清美「なら結構です、一方的な暴力は好みではありませんから」
珠美「どの口が」
清美「いいえ、私は“防御”と“制裁”にしか拳は振るいません、今のあなたにその価値は無いですね」
珠美「えらく見下されたものですなぁ」
清美「ちゃんと清く正しい道に戻る事、これが先決です」
清美「力で押さえ付けても、無理矢理捻じ曲げては真っ直ぐになったとは言えません!」
珠美「…………」
清美「私のこの方針を、なぜか知人は否定派に回る事が多いですが……この考えを理解するには少々野蛮な人が多く――」
珠美(まぁ、最初から分かりきっていた事ですが……厄介な人物に目をつけられたものです)
珠美(世間的には賞賛されている人物でしょうが、どうも此奴はその中で……なんというか)
清美「とにかく、私は自身の信条に従います! あなたはその証明になればいいんです!」
珠美(珠美と別方向の、それでいて同類ではありませぬか?)
・
・・
・・・
文香「…………」
瑞樹「実行してから言うのもなんだけど、良かったの?」
文香「何が、でしょうか」
瑞樹「世間に広める事。そんな力のあるもの、公に広めるものじゃないと思うわ」
文香「そう思いますか? 私は……違います。これは私だけが占有するほどの、小さなものではありません」
瑞樹「ふーん……」
文香「広く使われてこそ、ですし……私では起動こそ出来ても、効果的な使い道がありません」
瑞樹「効果的、ね。いいの? あなたが効率を求めて行った広報は、邪な考えを持つ人を誘き寄せるわよ?」
文香「正義や悪はよく分かりません……ですが、同じだとは思うんです」
文香「経典を頼ってくる以上、経典によって叶えられる願いだと……私は判断します」
瑞樹「難しいものね。で、この中継先は直前に決めた場所、ほかに誰も知っている人は居ない」
文香「……そうですね、そう決めましたから」
瑞樹「でも、そんな工作なんてあっさりと突き破って、ここを特定する人物も居る」
文香「……でしょうね」
瑞樹「先に言うけど……手助けはしないわよ」
文香「何に対してでしょうか」
瑞樹「ここを即突き止められる人物は、並大抵の実力者ではない。もしも争いが起きた場合に――」
文香「それは大丈夫です」
瑞樹「……自信がある?」
文香「いいえ、運動は苦手なので……私自身、本物の経典を作ったような英雄と呼ばれる人物のような力はありません」
文香「たぶん……力勝負に持ち込まれて、すぐに制圧されます」
瑞樹「腕自慢には見えない、そうなるでしょうね」
文香「だからしっかりと伝えて貰いました、先に。……事実、私が居なければ経典は起動できない」
瑞樹「経典を盾にする気?」
文香「これが一番だと思いましたから」
瑞樹「間違ってはいないけど、正解でもないわね」
文香「…………?」
瑞樹「あなたはそんな気が無くても、無傷で済むとは思えないわ」
文香「その時は……考えたくありません」
瑞樹「無計画?」
文香「想定はしていません……」
瑞樹「そう……とりあえず、私の仕事は終わったから、さよならね」
文香「……ありがとうございました」
瑞樹「いえいえ、こっちも面白そうな話題だったから、いい話だったわ」
瑞樹「これからもお世話になるかも、ネタ探しに……ね?」
文香「またお会いしましょう……」
瑞樹「会いに行ける場所ならね?」
文香「……何処にでも、来ていただけるのでは?」
瑞樹「ええ、でも幽閉された地下なんて場所だったら遠慮するわよ?」
――バタンッ
文香「…………」
文香「本の……続きでも読みましょうか……」
――ペラッ……
文香「…………」
文香(情報は、広めました……後は、運です)
文香(この経典を使って、道を紡いでくれる人に出会えるか……)
文香「……さすがに、一時間では……無理でしょうか?」
――コン コン
文香「…………ご丁寧に、どうぞ」
――ガチャ
---------- * ----------
部屋を訪れた人物。 一人につき一名で、既に登場している人物は除きます。
そしてここに来た理由、何が目的か、どんな役職かとかも付け加えていただいて結構です。
もちろん名前だけ書かれても大丈夫です。
いつも設定をこちらで考えていて、他の意見を取り入れてみたくなった……と、
安価スレが楽しそうだったので、ちょっと一回だけ似たような事をしてみたくなりました。
※せっかくご提供いただいても、全てを使用する事が出来ない事をお詫びします。
---------- * ----------
一人だけなら確定です、少し難航しておりますのでお待ちください……
ところで幸子さん、天上に国は存在するのでしょうか?
三人くらい予定していたのですが、一名ピンポイントだったため残り二枠はこちらで決めちゃいました。
芽衣子「失礼しま……あれっ?」
文香「何か御用ですか……?」
芽衣子「誰も居ないんですか?」
文香「そうですね……私とあなただけです、お名前は?」
芽衣子「え? あ、私はメイコです、あなたが……間違ってなければ、フミカさんですか?」
文香「その通りです。映像を見てこちらに……?」
芽衣子「はい。本当はこんな小さなお願いなんて、わざわざ経典に頼む事じゃないと思うけど……」
芽衣子「たまたま見覚えのある場所、すぐ近くだったので……駄目元でお願いしに来ちゃいましたっ!」
文香「……いくつか質問しても、構いませんか?」
芽衣子「はい、なんでも!」
文香「荷物は多そうですが……武器は見当たりませんね」
芽衣子「いろいろな場所を旅行するだけの旅人なんです、そっちの方は得意じゃなくて……」
文香「危険とは思わないのでしょうか……? もしくはその不足分の力を補いに来たのでしょうか?」
芽衣子「そうじゃないんです、ただ、お願いしないと真偽も分からないお話なんです」
文香「それは願いに関わるお話ですか?」
芽衣子「はい。探しているのは、国と種族です!」
文香「国……?」
芽衣子「天使という種族を知ってますか?」
文香「言葉だけは……ですが、その聞いたことのある情報も、創作では……」
芽衣子「そうなんです! でも、私は世界のあちこちを辿って、辿って、そのお話がどうにも本当に思えてきたんです」
芽衣子「ただ、やっぱり“気がする”より先の情報は見つからなくて……」
文香「……天使の存在を、立証したいという事ですか?」
芽衣子「会ってみたいのもあるけど、私は……行ってみたいの!」
文香「行く、とは……その種族が住む集落、国家ですか?」
芽衣子「はい! 天使たちはお空の上に住んでいるそうです、そんな国なんてロマンチックですよね?」
芽衣子「ただ、私には空に向かう手段も、空に生き物が住む場所の確認も出来ません」
文香「その時に、この放送を見たということ……ですか」
文香(結論から言えば、どんな願いでも叶えられますが……)
文香「小さい、ですね……?」
芽衣子「え? あの、くだらないって意味です……か?」
文香「いえ、こちらの話です……経典は、願いを等しく叶えることが出来ます」
文香「もちろん願いの大きさにより、私が“起動”させる時間は増大しますが……」
芽衣子「短いってことかな?」
文香「そうですね……数分から数時間、長くても今日のうちに終わるでしょう」
芽衣子「よかった、私だとフミカさんを守れないから、これくらいのが良かったんだよ」
文香「ただ、望んだ結果と異なる……いえ、少しズレた解答を、私は提示するかもしれません」
芽衣子「えっ?」
文香「もし、天使の国というものが存在するならば……その地に向かう事は出来ます」
文香「しかし……国が存在しない、もしくは人間が訪れることが出来る環境ではない可能性があります」
芽衣子「う、それは分かっていますけど……」
文香「存在しない場合……“天使の国という存在”自体を生み出す願いとなり……」
文香「国が実在していても通常訪れる事が出来ない状態なら、訪れる為の指針を導く願いになります」
芽衣子「どっちになるかは、直前まで分からないんですか?」
文香「そう、ですね」
芽衣子「あー……どうしよっかなぁ……国を作っちゃうなんて、私が勝手にしても大丈夫なのかなぁ……」
文香「その後のことは……考えないでもいいんですよ」
文香「目の前にある経典は、全てを叶えてくれるものですから……」
芽衣子「ん……じゃあ、思い切って――」
――ガチャ
芽衣子「ん?」
文香「……!」
――ガチャッ ガチャッ
文香「鍵……閉めましたか?」
芽衣子「あ、駄目でした?」
文香「そういうわけではありませんが……」
芽衣子「えっと、開けますね?」
――ガンッ!!
文香「あ…………」
芽衣子「きゃっ!? な、なんですか?」
??「……おや、先客は一人だけっすか」
芽衣子「扉、壊わしちゃったんですか!?」
??「ああ、鍵掛かってたから無理矢理、こう……そんな事はどうでもいいっすよ」
??「先に自己紹介、アタシはサキっていいます」
文香「フミカです……それで、ご要件は――」
沙紀「聞かなくても、だいたい分かってるっす、よね?」
芽衣子「サキさんも、お願い事を?」
沙紀「んー……ま、似たような感じっす」
文香「なら……お時間は掛かりません、順番でお願いします」
沙紀「いや、願い事といえば願い事っすけど、ちょっと意味が違うんすよ」
芽衣子「違う? あ、もしかしてお急ぎの用事か、それともフミカさん本人にですか?」
文香「初対面です……」
沙紀「意外と近いっすよ? 本人に用事があるって意味っすけど」
文香「私本人……私に、何を求めますか?」
沙紀「もちろん、そのお宝っす」
芽衣子「……あれ? でもフミカさんに用事がって」
沙紀「正確には両方っす、まー口で説明するのも面倒なんで……」
沙紀「アタシ、目立つ事が好きなんすよ。注目される事と……それで優位に立つ感じが、っす」
文香「誰にでも向上心はあります」
沙紀「そーっすね。で、今まで思いついた事を成し遂げて、色々とアタシの存在は広まった感じっすけど」
沙紀「一石二鳥、いいお話を聞いたからには、ちょっと考えて見ることにしたっす」
芽衣子「いいお話ですか?」
沙紀「そうっす、主導権と……話題性、っすかね。ところで……」
――ズイッ
芽衣子「あ……ちょっと、近いですよっ」
沙紀「あんたは何しにここに来たっすか」
芽衣子「私? 私は……お願い事、です。行ってみたい場所があって」
沙紀「ふーん……それだけっすか?」
芽衣子「はい……駄目、ですか?」
沙紀「いやいや安心したっす、その程度なら障害にならないっすから」
芽衣子「そ、その程度って、私真剣なんですよっ……」
沙紀「真剣ってのはガチっすよ? その願い、絶対に叶えたいっすか?」
芽衣子「……で、出来れば」
沙紀「出来れば程度ならさっさと諦めた方がいいっす、じゃないと」
――ガァンッ!!
文香「……!」
――パラパラ……
芽衣子「……え、な、何」
沙紀「無理矢理横取りしようって、アタシみたいな連中と出会う事になるっす」
芽衣子(後ろの壁が、凹んで……!)
沙紀「男女間では理想のシチュエーションらしいっすけど、実際されてみてどうっすか?」
芽衣子「じょ……冗談ならやめてくださ」
沙紀「冗談? マジで言ってんすか? その戦い慣れてなさそうな体に同じようにブチ込んでもいいっすか?」
文香「サキさん……目的は分かりました、私が必要ですか?」
芽衣子「フミカさ……!」
沙紀「お察しです、まぁご覧の通りアタシは奪いに来た側の人間っす」
沙紀「こんなに先着で来てるとは思わなかったっすけど、ここは平和的に解決しましょうよ」
文香「平和……それは、一線を越えないうちに従えという事ですか?」
沙紀「そう言ったつもりっすけど」
沙紀「面白いじゃないっすか、こんなお宝はアタシだけじゃなく色んな人を引き寄せるっす」
沙紀「そんな人を寄せる経典をアタシがコントロール出来る、最高でしょ?」
文香「願いではなく、本当に経典が目的ですか……珍しい、想定していませんでした」
沙紀「でしょ?」
芽衣子「あの、それって……」
沙紀「ん、ああ、忘れてたっす。今からアタシは彼女を連れて出ていきますけど、阻止するっす?」
芽衣子「な、え?」
沙紀「さっき言ったっす、自分の為にアタシはガチっす」
芽衣子「そんなの、フミカさんが望んでないですよ!」
文香「……私が望む望まないじゃなくて、流れに従うだけです」
文香「盗みに来た人が居れば盗まれますし、願いを叶えたい人が居れば願ってあげます……」
沙紀「……だそうです、拒否はしてないみたいっす」
芽衣子「変ですよ! なんで抵抗しないんですか?!」
沙紀「抵抗しても関係ないっすけど」
――ジリッ
文香「…………」
沙紀「反論なさそうっすね、それじゃ平和的解決ルートっす」
文香「……どこへ向かいますか?」
沙紀「素直っすね」
文香「はい……傷は、負いたくありませんから」
沙紀「懸命っす」
芽衣子「フミカさん……!」
芽衣子(こんな、せっかく苦労して作った経典ごと無理矢理奪われるなんて、駄目!)
芽衣子(助けなくちゃ……フミカさんが攫われちゃう、でも私は戦えない)
――……ドタドタドタ
沙紀「ん……足お――」
??「ちょーっと待ったーーーっ!」
芽衣子「えっ!?」
沙紀「……ほら、モタモタしてるからどんどん集まって来ちゃったみたいっす」
文香「三人目……外からの声、です」
沙紀「よいしょ」
――バダンッ
沙紀「扉、形だけでも戻しておくっす。ただこの声の感じだと……中で何が起きてるか分かった状態で入ってくるはず」
沙紀「だから開けた瞬間に……ね」
芽衣子「っ! 扉から入っちゃ駄目です!」
沙紀「残念、外に声は届かないっす、扉は閉まってるっす」
――ドタドタドタ
沙紀(近い、来るっす!)
文香「…………!」
――ドガァン!
沙紀「んなっ!?」
??「ほとばしるパワーーー!!」
芽衣子「か、壁が!?」
沙紀「本当に一直線に来るなんて、予想外っす、でも!」
――ビュンッ
??「お?」
沙紀「無防備すぎるっす!」
――ドガッ!
??「おうっ、痛ったーい!」
芽衣子「大丈夫ですかっ!?」
沙紀「誰っすか、何が目的っすか? 返答次第でアタシは本腰入れるっす」
??「んん? 誰か何かと聞かれたら、答えてあげるのがSA・DA・ME☆」
??「アタシの名前はエリカだよ! 気軽にエリカちんって呼んでね? バッキュン☆」
沙紀「一挙一動が騒がしいっすね……!」
瑛梨華「賑やかなのはいい事だぞ! 明るさが足りないヘルプを聞き入れエリカ参上☆」
文香「…………」
瑛梨香「あれれ? 興味なさげ? エリカちんショック!」
――バサッ
芽衣子「あっ、落ちました……よ?」
文香「すいません、拾います」
瑛梨香「むむっ、落とし物?」
沙紀「……何すか、知ってるでしょう? それが目的でココに来てるはずっす」
瑛梨香「んー……ふむ、ふむ?」
沙紀「何をきょろきょろしてるんすか」
瑛梨香「あっ、なるほどRI・KA・I☆ ここ、あの中継先だ! わお!」
芽衣子「え……気づいてなかったんですか?」
瑛梨香「うっかり☆ なるほどなるほど、という事は今チラっと見えたのが」
沙紀「おっとストップっす、それ以上こっちに来ないように」
瑛梨香「へいゆー! そのお願い経典で何をするTU・MO・RI?」
沙紀「ちょっとした相互利益のビジネスっす」
瑛梨香「むむむむ、やっぱり危惧した通り! 悪用しようとするYA・KA・RA?」
沙紀「悪い使い方なんて存在するんですかね?」
瑛梨香「モチのロン! 八千点! 道具には意味があるYO!」
沙紀「アタシの使い方が駄目な理由を教えて欲しいっすね、決まりでもあるんすか?」
瑛梨香「決まりはない! でも、人が頼るには大きすぎる力! でしょう!?」
芽衣子「そう作られたものですから、それぐらいは……」
文香「確かに大きすぎる力かもしれません、で、それが何か……?」
瑛梨香「悪用する輩に渡る前に……止めなきゃ、でしょ!」
沙紀「御託並べて結局は奪うつもりじゃないすか、なら相手になるっすよ」
瑛梨香「そこを退くのDA!!」
――ヒュンッ ガシャンッ!
芽衣子「わああ! やっぱりこんな事にっ!」
瑛梨香「のうっ!」
沙紀「そんな格好で俊敏に動けないっしょ?」
瑛梨香「のんのん、エリカちん勝負しに来たわけじゃない」
沙紀「今更戦わないつもりっすか? いいやさせないっす」
瑛梨香「勝負じゃなくて遂行しにきたのYO!」
――ピンッ
沙紀「お……」
瑛梨香「そーれっ、受け取ってー☆」
芽衣子「えっ、アレって……」
沙紀「冗談じゃないっす!」
――ドガァンッ!!
――…………
瑛梨香「ぶいっ!」
沙紀「じゃねーっす!」
――ガラガラ……
瑛梨香「おっ、頑丈だねキミィ☆ エリカちんが褒めてあげるYO!」
沙紀「なんなんすか、接近戦の基本は爆発物でしたっけ? 違うでしょ、こんなパターンが多くて困るっす」
瑛梨香「いぇい、王道戦法!」
沙紀「しかし面倒なことをしてくれたっすね、これで騒ぎが広がって経典狙いの人が増えるっすよ?」
瑛梨香「問題なっしんぐ! 根本を絶てばオールO☆K!」
沙紀「根本ね、もしかして今の爆破といい、壊すつもりっすか?」
沙紀「だとしたら……阻止する必要があるっすね、あれはまだ利用価値があるっす」
瑛梨香「ほらそこ利用なんて、そんな輩が多く集まる! じゃあ破壊、バッキュン☆ おっけー?」
沙紀「了承はしないっす……って、アレ?」
瑛梨香「お、どうしたどうした? ……あれれ?」
沙紀「あのフミカって人はどこに消えたっす?」
瑛梨香「下敷きジ・エンド?」
沙紀「いやいや、そんな瓦礫に埋もれるようなデカい家じゃなかったっす」
沙紀(……そういえば、あの隣に居た人も消えたっす)
瑛梨香「おやおやー、見失っちゃったかなー」
沙紀「んな馬鹿みたいな事してるからっすよ、どうすんすかコレ」
瑛梨香「もしかして移動先で新しく絡まれてるかも! 阻止しなきゃ! だーっしゅ!」
沙紀「ダッシュって、どっちに行ったのかも……わ、早いっすね」
沙紀(しかし放っておくと、アタシの手元にいつまでたっても転がってこないのは確実っす)
沙紀「……地道に探すしかねーっすか、今度は手がかりないから苦労するっす」
・
・・
・・・
突如の襲撃を受け、拉致に近い形で経典を強奪された三人、
しかしアイリとユウコの救助、そして自らの力で経典を無事に奪還。
問題を解決しての完全な脱出ではなかったが、とにかくサエの陣営から逃げ出すことには成功した。
杏「……嘘だぁ」
そら「なになに? もしかしてばっど☆にゅーす?」
杏「いやいやいや、二人の事なんだけど」
茜「私達ですか? うーんと……何かありましたっけ!?」
そら「何もないよ! 元気なそらちんなう!」
杏「元気、元気かぁ……」
杏(治療班は確か、えらい重傷で全治数週間は免れないって言ってたけど……)
茜「……それで、三人はどうなりましたか?」
杏「え、ああ、ちょっと治療を進めてるとこ、会うのはまた今度で」
そら「もう数日経ったよ? 大丈夫?」
杏「だから数日で元気に快復してる方がおかしいんだって」
杏(アイリの進言で『二人を手負いのまま応援に向かわせないように、治療中と偽って』と言われたものの……)
杏(別に大丈夫だったんじゃないかな、これ)
そら「あれ? そういえばアンズちゃんおんりー?」
杏「ちゃん、って……ま、確かに今は一人だけど」
茜「トモさんとマナミさんはどこへ?」
杏「二人が寝てる間に、事件の騒動に便乗して攻めてきたからさ、対抗として出てもらってる」
そら「じゃあ城内に他の幹部さんは?」
杏「居ないけど」
茜「守りは大丈夫なんですか?」
杏「正直大丈夫じゃないけど、自分守ってて前線落としちゃ話にならないでしょ」
杏「効率だよ効率、これがベストだと思うし。ま、完全に誰もいないってわけじゃないし、その他大勢だけどね」
――ガチャ
葵「お目覚めかね! ご飯にするっちゃ!」
・
・・
・・・
時子「……遅い」
加奈「遅いですね……連絡、来ませんね」
時子「何か内部が騒がしいから、この隙をと思ったまではよかった……」
時子(なら手薄な部分を狙ってすぐに事が終わると思っていたのだけど)
――Prrr……
加奈「あっ!」
時子「……えらく待たせるのね、そっちの経過は?」
きらり『えっとねー、ちょっとお忙しい事になっちゃってるにぃ☆』
時子「忙しい? どうしてそんな事になってるのかしら」
きらり『それがね? トキコちゃん今は誰も居ないからだいじょうぶーって言ってたけどぉ』
きらり『向かった場所にマナミちゃんとトモちゃんが二人で待ってたにぃ』
時子「……はぁ?」
加奈「あれ……? 拠点の騒動で手が回ってないんじゃ……」
時子「……なるほど、まんまと乗せられたのね」
きらり『にょわ?』
時子「嘘の情報か、実際にこの隙を突いてくることを予見して回していたのか……どっちでもいいわ」
加奈「あれ、何を……」
時子「あなたはここで待機、絶対に動くんじゃないわよ」
加奈「分かりましたけど……トキコさん、何処に?」
時子「予想的中させて調子に乗ってる軍勢を叩きに行く」
加奈「ええっ!? 幹部が三人居る場所にですか!?」
時子「それが何なのよ、一番上が見本見せなきゃ下が分かる訳ないでしょ?」
加奈「でも一人でトキコさんを向かわせるわけには……」
時子「誰が一人で行くって言ったのかしら」
加奈「あれ? でも本部にわたし以外誰も残ってないのでは……」
時子「だからこれから連絡するのよ、シズクが居るでしょう?」
加奈「シズクさんですか……? で、でもシズクさんだって前線で」
時子「分からないの? だからそこへ向かう。キラリが二人相手してるなら、そっちは確実に薄いはずよ」
時子「もちろん薄いから狙うんじゃなくて……こっちも仕返しする」
――ピッ
時子「……今からそっちに向かう、状況だけは悪くしない事」
――今から向かう……
??「……これは要連絡だねぇ」
――ピッ
??「もしもしー、こちら現場のミサトですけどぉ」
杏『そっちから連絡? 珍しいの、でもちょっとこっちも立て込んでるからトモかマナミに通して――』
美里「重要事項なのでぇ」
杏『何? まさか新手?』
美里「そのまさかですぅ、ずっと通信傍受してたらトキコ本人の連絡が通りましてぇ」
杏『それくらいよくあることじゃん、こっちだって私がしょっちゅう連絡するし、大将が通信したくらいで――』
美里「出陣だそうですぅ」
杏『……え、出てくるの? うーん……チャンスかピンチか、どう思う?』
美里「こっちに聞かないでくださいよぉ」
杏『いや、このタイミングで出てくる理由が分かんないんだよ』
――…………ピッ
杏「何だってこんな、ねぇ……忙しい忙しい、あーもう嫌だ」
葵「ミサトさん?」
杏「うん…………」
葵「なんだか、深刻な状態さね?」
杏「そうなんだよね、ちょっと……大変」
――ピッ
杏「……もしもし、連絡。急ぎの、回して?」
杏「トキコの軍勢が本格的に隙狙いして来てる、対策……ん、待って」
葵「……?」
杏(そういえば……全員出払ってるんだったなぁ)
杏(ここから応援に出せる人材なんて残ってないし……私含めて)
杏「ねぇ、今出てるのは誰がどこに行ってる?」
葵「マナミさんとトモさんがそれぞれ、事前に来てた侵攻先に向かってるね」
杏「で、ミサトが敵地近く……んー……」
杏(応援出せない、連絡も繋がるか怪しい……ミサトに向かわせるにも片方が危険、かぁ……)
杏「くっそぅ、どうしよっかな……」
葵「……あの、お二人に頼んでみるっちゃ?」
杏「そうしたいのは山々だけど、怪我人の“はず”だから……」
葵「でも……相手は幹部級ね?」
杏「そうだよ、分かってるけど……他に頼めないのも分かってるけどさ」
――……タッタッ
杏「ん?」
葵「何ね……外、騒がしいっちゃ」
杏「……いや、まさかね、こんな本拠地に一瞬で攻めてくるなんて事はないよね」
葵「敵襲……!?」
杏「違うはず……侵入をあっさり許すほどの守りじゃ――」
――バンッ!
杏「……! …………えっ?」
葵「あれっ?」
卯月「お騒がせしました! ただいま戻りました……!」
杏「ちょ、今までどこ行ってたのさ!」
凛「後で説明する……それより、今大変なんでしょ」
未央「だいぶ説明は省くけど、まずはコレを見て欲しい!」
~ 戦場に赴いている二人を守る ~
葵「……! これ……ここに書いてたら、従った方がいいと?」
未央「そう、あんまり原理とか説明するとまた長くなるけど……」
杏「いや、いい……意味は分かる、ただ詳細は聞きたい……のも山々だけど」
杏「正直なところ、そんな細かい話を全部すっ飛ばして頼みたい事が一つあるよ」
卯月「なんでも……どうぞ!」
杏「大事な仲間なんだ、危機なのに応援が出せなくて困ってる」
杏「……見返りは出す。だから、私の代わりに二人、トモとマナミの場所に向かって欲しい」
卯月「はい……!」
・
・・
・・・
杏「これが一部始終……」
杏(経典の指令? で、協力を行うにあたって時間が少ないと感じた……だから)
――ガサッ
杏「姿を消していた間に何があったか、ね……こんな紙に纏めて」
杏(サエ……聞かない名前だね、こんな勢力もあったなんて初耳だよ)
――バタンッ!
そら「えくすきゅーずみー! 他のみんなが戻ってきてたってホントかな!」
杏「あー、ごめん言うの忘れてた。でも今は居ない」
茜「まさかもう出て行ったんですか! 置いていかれました!?」
杏「いや、もう一回帰ってはくるよ」
そら「どこに向かったの?」
杏「……トモとマナミのところ」
そら「……? あれ? それって」
茜「前線の方へ向かうとおっしゃってましたね!!」
杏「そ、前線……ちょっと、応援の協力を頼んだ」
茜「なら――」
杏「ストップ」
杏「手伝いに行く気? 自分の体見てから発言してよ」
そら「そらちん平気! 友達の危機にはそらちんもごーいんぐ!」
茜「ミオちゃん達も怪我から復帰したばかりで同じです!」
杏「あ、そっか……そう言ってたんだった」
そら「え? なんてなんて?」
杏「何でもない、とにかく……あ、そうだ、協力は応援を頼んだんだよ」
杏「で、二人にはその分警備が少なくなった、この本拠地を守って欲しい、重要」
そら「むむっ、それは大事なへるぷ……」
杏(とりあえずここに留まってもらわないと……本音半分建前半分)
杏(あの三人が安心して動くためにも)
杏(こっちの二人の怪我の様子を、現状は伝えてないけど内容だけ伝えて……案の定、匿ってくださいと言われた)
茜「分かりました、なら全力で! ここをお守りします!」
杏(私的にも、ここで誰か守りが居てくれた方が助かるし……相互利益だね)
そら「そうと決まれば把握開始! 探検れっつごー!」
茜「地理の把握は大事ですからね!」
――ドドドド
杏「…………元気だなぁ」
葵「……元気ね」
杏「あ、ちょうどいいところに……今日は緊張の糸張りっぱなしで疲れた」
葵「見て分かるっちゃ、元気出るご飯用意するけん、期待して待つと!」
杏「楽しみにしておくよ」
葵「~♪」
・
・・
・・・
――タッタッタッ
智絵里「ここが、あの三人の向かった国……」
梨沙「ぜぇ……ぜぇ……」
晴「おい大丈夫かよ」
梨沙(うっさいわね……! こちとら肉体疲労と心労が絶えないのよ……)
晴(オレだって一緒だっつーの)
智絵里「聞いてますか……? これから先の情報を元に……奪還します」
晴「情報……もう一回整理してもいい?」
智絵里「どうぞ?」
晴「チナツって幹部の人から引き出した情報、ここにウヅキ一行が経典を持って逃げてるって話だったよな」
梨沙(正確には教えてもらった、だけどね)
智絵里「はい……ふふ、聞くだけ聞いて、出てきちゃいましたけど……」
晴(これも正確には逃げきれてない、オレらが繋がってるからな)
智絵里「そして同時に、この国家が現在戦火の真っ只中という話も聞いています……」
智絵里「こうして薄い警戒網から自然に入国できたのも、裏付けです……!」
晴「恐ろしいくらい無防備だったな、人手不足か?」
梨沙「普通逆になるんじゃないのかしら、戦火なら警戒増やすって」
智絵里「ここの仕様……かな、とにかくこちらには関係のないこと、です……」
梨沙「で、アタシ達は都合どう動けばいいのかしら」
晴「明確な場所は分かってないし……城内まで入ってたらどうしようもないって」
智絵里「城内……」
智絵里(事前の調査で……かなり、厳重な国と知りました……)
智絵里(なら、部外者は入らせない……もしくは逆に、重要な人だから招く……?)
梨沙(……どうなると思う?)
晴(ま、探せって無茶振りだろ……? チナツさん何か情報持ってねーかな)
――ピピピッ
晴「うわっち!?」
智絵里「何の音ですか? ……ああ、もしかして先程のチナツさんという方から呼び出しですか?」
梨沙(音量切っときなさいよ!)
晴「せ、設定とか分かんねーって! えーと、出る……のはマズいよな」
智絵里「放っておきましょう……仮にも、お仕事は放棄しているので……」
晴「だよな……ん?」
――イドウチュウ ツウロ ロク
晴「……通路?」
梨沙「通路? 道の番号の事? ここって何番?」
智絵里「大きな通路として数えるなら、五番ですが……それが?」
晴(てことは隣の大きな通路が六……?)
――…………!
晴「ん……?」
梨沙「何……あっ!」
智絵里「あれは…………?」
――タタッ
茜「出てっちゃ駄目なんじゃないですか!?」
そら「のー! そらちんじっとしてちゃダメ!」
茜「それは同意ですけど、ここの守りを頼まれたのでは!」
そら「あたし分かるよ! ここの警備厳重! ちょっとやそっとじゃ崩れない!」
そら「でもってアンズちゃんも分かってる、信頼ひゃくぱーせんと!」
茜「ですけど、勝手に出て行くのは!」
そら「何か引き止める口実、にゅあんすが違った!」
茜「具体的には!」
そら「勘!」
茜「勘!!」
そら「でもでもそらちん勘は冴えてる! たぶん!」
そら「この違和感見逃しちゃダメダメ☆ 信じてへるぷしに行かなきゃ!」
茜「三人が向かった方角はどちらですか!?」
そら「城内の移動式は全部同じ方に向いてた! たぶんそっち!」
茜「なるほど!!」
そら「待ってて! れすきゅーそらちん!」
茜「頑張ります!!」
――ドドドドッ
・
・・
・・・
杏「……何故バレたし」
葵「怪我大丈夫かね……」
杏「わかんないけど、約束破っちゃったなぁ」
葵「これは仕方ないっちゃ」
杏「うーん…………うーん、どうしよう」
杏(本音を言うと増援が増えるのはありがたい……守りは特に不足してないから)
杏(ただ、約束の反故は美味しくない……そんな時に使えるカードは一つ)
――ピッ
葵「どこに連絡するっちゃ?」
杏「……ウヅキ一行。こんな時にやる事は一つ、正直だけ」
杏「もしもし……例の二人、そっち向かっちゃった……ごめん、勘付かれた」
杏「こうなっちゃしょうがないから……言っても止まらないだろうし」
杏「だからこっちの“願望”だけ伝える。断ってくれてもいい、ただお願いするだけ」
杏「助けは多い方がいい……どうか協力して、手伝って」
・
・・
・・・
杏『現状を纏めるッ!』
未央「ばっちこいっ! こっちは絶賛全速力移動中!」
杏『三人と二人、都合五人が現場に向かってる。目的地は把握できてる?』
凛「トモとマナミ、二人がいる場所」
卯月「私とリンちゃんでマナミさんのところに向かって」
未央「私がトモちゃんの所! で、一人だけだと心細いから……」
杏『現地で合流、そこにミサトって名前の味方が居る』
杏『その四人で対処するつもりだったけど、怪我の様態もわかんないのに……向かってくれたよ』
卯月「大丈夫……ですよね!」
凛「だから来るんだろうね、きっと」
杏『ソラがマナミと、アカネがトモと合流する動きを見せてるから、合わせてね』
未央「了解! ところで、今から対峙する事になるトキコの軍勢の情報は?」
杏『雑兵は無視、相手にするだけ時間の無駄。問題は助けに行く原因になってる、相手個人』
杏『まず確認できてるのはキラリとシズク、どっちに誰が居るかまでは把握できてない』
杏『ただ、どっちも似たようなパワー型だから立ち回りは変わらないはず』
凛「私達は撃退が目的? それとも援護で撤退戦なの?」
杏『状況に合わせて……って要求はしたいけど、とにかく無事ならそれでいいよ』
杏『大将が出てくるなら、討ちたいのは山々だけどね』
未央「可能なら……なーんて、可能な相手じゃないんだろうね」
卯月「その時はおとなしく、皆さんを助けて逃げましょう!」
杏『頼んでおいてなんだけど、無茶はしないでね』
未央「分かってるよっ! とりあえず全速力で移動!」
――ドドドッ
茜「指示された方角はこちらですね!」
そら「でもどうやって通信機の番号が発覚したんだろう?」
茜「それよりもソラさんが通信機を持っていたことに驚きですけどね!」
そら「途中でばいばいしなきゃ駄目? 二手に分かれてって!」
茜「なるほど! 私はどっちに行けばいいですか!?」
そら「んーと、あっち!」
茜「あっちですか! どれくらい離れてますか!?」
そら「ほどほど! そらちん反対側に向かう!」
茜「分かりました!!」
・
・・
・・・
――……ザッ
朋「ふぅ……! 息つく暇も……」
朋(あたしと相手だけで孤立には成功したけど……正直、対抗できそうには)
――……!
朋「いや、気配……近くにあたし以外の、これは……うん、応援が来てる!」
朋(ただ間に合うかどうか……こっちもそんなに余裕は……)
朋「このまま岩陰に隠れて時間を稼いで――」
――ズッ……!
朋「……?」
――ズズッ!
朋「わ……!? い、岩が動いて、違う!!」
朋(反対側から、押されてる!?)
――ズンッ!
朋「まず……! 隠れても、隠れた場所ごと制圧出来る力なんて……!」
朋(さっきまでは他の隊員と協力してなんとか軽減できたパワーをあたし一人で……は、無理……!)
朋「このままだと、逃げられな……」
――ガッ
朋「うっ!? 壁……! 駄目、このままだと……押されて……っ!」
未央「発見!!」
茜「今行きますよ!!」
朋「み、ミオさん……と!?」
茜「アカネです! せいっ!!」
――ガシッ!
朋「ちょ、こっち側に来ちゃダメじゃん! 反対側の相手を――」
未央「大丈夫! 力仕事なら」
茜「負けませんから!!」
朋「力で勝負しても敵わないの! 十数人かかっても止められなかった……」
――ズッ
朋「……えっ!?」
――ズズッ
茜「ファイトーーっ!!」
未央「よっし行くぞーーっ!!」
朋(押し返せてる……!? たった二人が増えただけで……!)
――ググッ!
未央「うわっ、と……また押し返して来た!」
茜「潰されはしませんが思い切り押し返せるわけでもなさそうです!」
朋「このまま……耐えるだけじゃ状況は変わらないって! 早く反対側の……」
未央「でも今でもギリギリだから離れられないよ!」
??「お強いですねー」
茜「……! 誰ですか!?」
朋「反対側の相手だよ……! 名前は、シズク」
未央「シズク……なるほど、私達が戦う相手だね?」
雫「初めましてー、岩の反対側から失礼しますねー」
雫「私、それなりに思いっきりぐぐーっと押してるんですけどー、凄いですねー」
未央「力勝負なら負けないからね!」
雫「なるほどー、自信ありですか? それじゃあ、もぉーっと押しちゃいますね?」
朋「えっ、それは……!」
雫「それーっ」
――ゴゴゴッ
茜「わわっ!!」
未央「うわっと! こ、これ本当に一人で押してるの!?」
雫「はいー、正真正銘私だけですよー」
朋「このままじゃ押し込まれて……!」
雫「三人纏めて――」
――シュッ ザンッ!
雫「っ!」
??「お邪魔しますぅ」
朋「……!」
茜「あ、軽くなりました!」
未央「チャンス! 今のうちに、そりゃーっ!」
――ゴオッ
雫「あ、っと!」
未央「押せ押せー! 押し返せーっ!」
茜「一気に行きましょう!!」
雫「んんっ……! 横槍が入りましたー、なら……」
――ビキッ
雫「一度立て直しましょーっ!」
朋「岩が!」
茜「ヒビが入ってます!」
――ビシッ バカンッ
未央「割れ――」
雫「もーっ!」
朋「そのまま突っ込ん……危ない!!」
未央「なんのっ!」
――ドガァッ!!
??「はいストップですぅ」
朋「ミサトさん!」
雫「痛いですー……頭に当たったらどうするんですかー」
美里「岩の破片とはいえ、結構大きいのを投げたつもりなんだけどぉ?」
茜「あなたがミサトさんですか!?」
美里「そうだよぉ、アンズちゃんから聞いてる感じ? なら……」
雫「三人ですかー、さて」
――ザッ
雫「私は元々、戦力を足止めする事が目的なのでー」
雫「皆さんが私と戦ってくれるなら万々歳ですー」
朋「数では勝ってるけど……」
茜「どうしますか!」
未央「……さっきの攻撃、ミサトさんが割って止めたけど」
未央(真正面からだと、さすがに分が悪い?)
雫「来ないのであれば、こちらからー」
――タンッ
雫「あれー?」
美里「足止め目的なら、逃げた方が利益大きそうー?」
朋「ですね、では撤退戦です」
雫「困りますー」
未央「大丈夫、ただ逃げるだけじゃなく……!」
――ドンッ!
雫「んんっ」
茜「……あんまり効いてませんか!」
雫「ああ、そういう事ですかー、逃げながら牽制です? それっ」
――ヒュンッ
茜「危ないっ! それでは!」
雫「外れましたー……あれ? 皆さんもうどこかに行っちゃいましたー?」
雫「えーっと……どうしましょー」
――Prrr……
雫「あ、はーい、今出まーす……もしもしー」
時子『トキコよ。交戦中?』
雫「あートキコさーん、ちょうどいい所にー。実はですねー、四人ほど見かけたのですが撤退されましてー」
時子『四人? ずいぶん多いわね、幹部全員相手にしてるの?』
雫「いえ、トモさんミサトさんは確認できましたがー、後の二人はどちら様でしょうかー」
雫「あ、でもその二人が応援に来た時、一瞬でしたが押されちゃって」
時子『押された? 力で? 小細工無しの?』
雫「はいー、強かったですよ」
時子『それで、今は居ないの?』
雫「ですねー、どうします? 全員は無理ですが、一人でも捕まえに行きますかー?」
時子『……いえ、追いかけても無駄。なら、さっさとこっちに合流して援護しなさい』
時子『その四人が、複数で来ないうちに……ね』
――場所は分かるわね?
美里「……合流するっぽいねぇ」
朋「という事はマナミさんの方へ、相手の戦力が集う事に。それは不吉です……!」
未央「しまむーとしぶりんも向かってるけど……それだけじゃ辛いね」
茜「ソラさんもです!!」
美里「あまり戦力が集いすぎると全面戦争になりかねないけどぉ」
朋「大将が出てきてるなら可能性アリです……しびれを切らした可能性も……!」
茜「決戦ですか!?」
未央「そんな大事になる動きなの?」
美里「予想外どころか不意ですねぇ、何をきっかけでこんな思い切ったことを」
朋「ですが向かわなければ……」
美里「……だねぇ、いくらマナミさんでも複数相手だと――」
未央「大丈夫! どの道私は両方行くつもり! 経典は戦場の二人……」
未央「マナミさんとトモさんを守る事!」
朋「確かに、もう助けられちゃったからね……あたし一人だと無理だった」
美里「なら、同じような状況のマナミさんを守りに行かないと」
茜「よくない事になるかもしれません! 行きましょう!」
未央「幸い、さっきの通信で場所も判明してる。あの人を追いかければ合流も簡単で監視も出来るよ!」
美里「…………そうしましょうかぁ」
――タッタッタッ
雫「急がないとー」
――……サッ サッ
美里(警戒されない間合いを取りながら……)
朋(合流のための最短距離、シズクを追いかける!)
茜(完璧ですね! ……ですか?)
未央(良いも悪いも、追いかけるだけだからね)
雫「えーと……あっちにしましょうかー」
朋(一応、追跡は警戒してる様子だね?)
茜(森が深くて、追いかけにくいです! 蹴散らしましょうか!?)
未央(そんな事しちゃ、バレちゃうよ!)
美里(お静かにお願いしますぅ)
雫「……よいしょっ」
――タンッ
未央(あっ、急いでるみたいだね向こうも)
美里(見失わないうちに追いかけますよぉ)
朋(こっちも速度を上げて――)
――キュッ
雫「どうもー♪」
美里「!?」
雫「えいっ」
――ドッ!
朋「かふっ!? え、なん……!?」
雫「最初から聞いてましたよねー? 通信内容も傍受していられるようでー」
美里「……!」
雫「だからお芝居をひとつー、最初から相手の戦力を減らす事が目標でしたので」
――ガッ
朋「うっ……!」
未央「あ! 離せっ!」
雫「貰っていきまーす。安心してくださいー、雑には扱わないのでー」
美里「安心出来ないですねぇ……! 逃がしませんよぉ、一人で三人を相手に――」
雫「あ、一人だけじゃないですよー?」
――シュルッ
美里「……!」
茜「トモさん今助けますよ!!」
美里「危ない! 何かそっちに――」
――ビンッ
茜「んうっ……!? あれ、何ですか?!」
未央「大丈夫!? ……足に、引っかかって?」
雫「ご到着ですかー?」
――ザッ
時子「不意を突くにはこれが一番でしょう? 初めましてね、大将よ」
美里「…………あー、そう来ますかぁ?」
時子「相手の予想しない箇所に、最大の一撃を叩き込んで……初めて欠片の戦力を削れるのよ」
時子「それだけの相手と私が評価してるの、光栄に思いなさい」
雫「だそうですー」
未央「アカネちんとトモさんを離せっ!」
時子「ええ返すわ」
――ヒュンッ
茜「わーっ!?」
未央「危な、わっ……!」
――ガシッ
美里「乱暴ですねぇ!」
時子「そう言いながら攻撃して来てるじゃない」
雫「させませんよー」
美里(トモさんを離す気は無さそうですねぇ……取り返したいですが)
雫「それーっ」
美里(かなり、不利……だねぇ)
――ドンッ!!
雫「……あれ?」
時子「……!」
未央「へへっ、ミオちゃんもパワー勝負なら負けな」
雫「もう一回そーれっ」
――ズンッ!
未央「わーっ!」
茜「ミオちゃーんっ!?」
美里「大丈夫ー?」
未央「な、なんとか!」
時子(やっぱり聞いた通り、あの経典組が加担しているようね)
時子(……ぐーたら指揮官が考え無しに応援に向かわせるはずがない、何かある)
雫「お強いですねー」
時子(それに目の前で確かに、シズクの一撃を全力ではないとは言え、止めたわね)
――シュルッ
時子「……目的は達した、彼女を連れて退くわ」
雫「え? ……んー、そういう事でしたら」
茜「逃げる気ですか!」
時子「邪魔」
――バシィッ!
茜「あたっ!?」
雫「通りますー」
時子「フン、遮る資格は無いわ」
美里「遮れなくとも邪魔はしますぅ」
――カッ
未央「わっ!?」
雫「っうー?」
時子「チッ!」
美里「即興の目くらまし」
未央「ま、巻き込まれた……!」
美里「緊急なのでぇ、木にぶつからないようにしてくださいねぇ」
雫「真っ白ですー」
時子「まったく面倒ね……!」
美里「見なきゃ的確に攻撃は当てられないでしょ?」
時子「……そうね、的確には無理」
――ヒュンッ
美里「!?」
時子「ただ、見境なく攻撃するのは可能よ」
――ビュンッ パパパァンッ!
茜「きゃうっ!?」
未央「あぐっ!」
雫「あうっ!?」
美里「くぅ!」
時子「……そこね?」
――シュルッ
雫「あーれー」
時子「見えなくても離脱は出来るでしょ? 連れていきなさい」
美里「巻き込みながら把握するなんて……!」
雫「ではー、適当に走りますねー、もー♪」
時子「転ぶんじゃないわよ」
――ドドドドッ バギッ ドゴッ
未央「っう……け、結局どうなった……」
美里「……もしもしアンズちゃん?」
杏『折り返しが早いね……よくない知らせ?』
美里「ですねぇ」
杏『逃がした?』
美里「それに留まればよかったんだけどぉ」
杏『…………だいたい察したよ、何人居る?』
美里「私と応援のお二人ですぅ、多少のダメージもあって……あと大きな報告がひとつ」
美里「こっちに、トキコが来たよ」
杏『……うん? 人数が合わないよ、合計でその場に四人いるはずじゃ?』
杏『あと、さっきのよくない知らせってコレのことじゃないの? 不意でトキコが来て負傷って』
美里「あー……」
杏『……何、私が想定しているより……ひどい状況、なの?』
美里「通信の傍受が見抜かれた上で放置されれて、誤情報をこちらに仕入れさせてました」
美里「その結果……トモちゃんが、トキコに」
杏『え? …………後で掛け直す』
美里「追いかける?」
杏『馬鹿な事言わないで……不意で襲われて逃がして、また不意食らうつもり……?』
杏『追いかけたら、今度こそ全員引っかかる。……もう片方、マナミの応援にそのまま向かって』
美里「……了解ですぅ」
――ピッ
杏「…………」
葵「お話、終わった? えっと、皆が帰ってくるまでに」
――ガンッ!
葵「へっ!?」
杏「…………驚かせて、ごめん。ただ、我慢できなかったからさ」
葵「何があったっちゃ?」
杏「知らなくてもいい事だよ、ただ私の為にご飯作ってくれたらいいからさ」
葵「……聞かなくて、大丈夫?」
杏「うん」
葵「じゃあ……皆が帰ってくるまでには用意するっちゃ」
――タッタッタッ
杏「…………」
――ピッ
杏「もしもし」
真奈美『連絡か、少し取り込み中だ、手短にお願いする』
杏「じゃあ簡潔に。そっちに応援の話はしたね? 予定より増えた、ミサトの方も加わる」
真奈美『そうか、助かる。……やけに早いな? あちらはもう終わったのか?』
杏「被害が一」
真奈美『……何?』
杏「やられた、見込みが甘かった」
真奈美『そうか。 ……倒されたのか?』
杏「攫われた」
真奈美『幸いだな』
杏「本当に。 恐らく向こうも想定外だったんだろうね、こっちにあの三人が協力してる事」
杏「だから、後の交渉……するつもりがあるかどうかはわかんないけど、最悪の印象を植え付けるのは止めたんだろうね」
真奈美『……願いを叶える相手が、仇討ちに来るのは避けたいだろうからな』
杏「結果的に助けられた。応援も何もない状態でトモが相手してたら、恐らく…………」
真奈美『よせ、今は助かっているんだからな。三人が味方のうちは、手出しもしないだろう』
真奈美『だが時間が経過すれば分からない、早めに救援には向かう事にする』
杏「救援で思い出した、合流できてる?」
真奈美『何? もう出発していたのか?』
杏「何だって? まだ合流してないの?」
真奈美『そういえば、トモの方には合流しているのにこちらに来ていないのは妙だ』
杏「……今日は冴えてないみたい」
真奈美『不調の時もあるだろう』
杏「切るね」
真奈美『ああ、だが背負い込むな? 私もミサトも残っている、最悪の事態にはならんさ』
真奈美『それに出来れば利用したくないカードだが……トモには立場と地位もある』
真奈美『交渉材料に使えば、無傷で取り返せるだろう。あっちも協会を相手にしたくはないはずだからな』
杏「そう、だね……希望は十分ある、ね」
――ガチャッ
杏「…………切り替える、大事……まだ諦めない」
杏「私はここから動かない。その代わり、ここから動かなくても出来る事には、全力だ」
――ピッ Prrr……
――Prrr……
美里「…………」
未央「駄目、しまむーと連絡取れない……」
茜「あちらには誰が居るんでしょうか!」
美里「こっちにシズクとトキコが来てるなら……キラリかカナのどちらかが居るはずですねぇ」
未央「その強い人が二人共来てて、交戦中で通信に応じる暇が無いとか!?」
美里「……可能性は否定できないねぇ」
茜「じゃあ早く向かいましょう! 人数が多い方が安全なはずです!!」
未央「そうだよ! 苦戦中なら早く追いかけないと――」
――ピッ
美里「ん……はぁいこちらミサトだけどぉ」
真奈美『すまない、アンズから話は聞いた』
未央「マナミさん!?」
真奈美『トモの件は、申し訳ないが後だ、こちらの問題が解決すれば直ぐにでも取り掛かる』
茜「問題があるって事は、戦ってる途中ですか!?」
真奈美『一度キラリを退けて、少しだけ時間が空いている。それよりも……応援が来ていない』
未央「しまむーとしぶりんが? 変だよ、同じくらいに向かったのに……!」
真奈美『ああ、だから妙なんだ。こちらの応援は後回しでも構わない、そっちも調べてくれないか?』
真奈美『何か企んでいるなら、阻止しなければならない』
美里「……わざわざ連絡ありがとうねぇ」
真奈美『こっちの都合さ、その代わり何かあったら頼むよ』
美里「何か、ねぇ」
真奈美『悪い方向ではないぞ? アンズにも言ったが、悲観的すぎると色々と“鈍る”からな……では切る』
――ガチャッ
・
・・
・・・
卯月「ソラさんは……!?」
凛「分からない……たぶん、引き離された」
卯月「……静かだね」
凛「そりゃあ騒いでは来ないよ」
――ドガァン!!
卯月「きゃっ!」
凛「……撤回する、隠れる気は無さそうだね」
卯月「堂々と攻撃してきて……それよりも、なんであの子達がここに……!?」
――ザッ
梨沙「なんで、ですって?」
晴「そりゃあ目的のモノがそこにあるからだろ」
卯月「ここがどうして……!?」
梨沙「はんっ! アタシ達が本気出せば、居場所くらいすぐに突き止めるわよ!」
晴(実際はチナツさんの情報だけどさ)
凛「ウヅキ、私達はマナミと合流しようとしてる……ここで足止めは」
卯月「分かってる……早く、どうにかしないと!」
梨沙「はんっ……! 隠れてないで出てきなさいよ!」
晴「もう一発打ち込むか?」
梨沙「あ、えーっと」
梨沙(応援が来るのよね? チナツから聞いた話だと)
晴(だな、誰が来るか聞いてないけど味方は味方だって……待つつもりか?)
梨沙(危険を冒したくは無いのよ、ずいぶん強いって分かったし……)
晴(けどよ、チエリが分断した相手……ソラだっけ? あっちを制圧して戻ってきたら?)
梨沙(う……確かに応援が誰であれチエリが接触するのはマズいわね……繋がり無いし)
晴(だから早めにこっちが制圧すべきだと思うぜ? ……もしくは、出来るだけあっちの戦闘から離れるかだな)
梨沙(後者にするわ、上手い事誘導するように攻撃しなさい!)
晴(難しい注文だよなぁ)
卯月「……いつ出る?」
凛「こっちは急いでるし、今すぐにでも……!」
卯月「じゃあ、せーので行こう。向こうも会話してて注意が薄くなってるみたい」
凛「分かった……せー、のっ!」
――バッ
梨沙「あっ! 出たわね!?」
晴「やべ、反応遅れた、けど!」
凛「来る!」
卯月「うん!」
晴「武器は返却された後だぜ、よっと!」
――ドォンッ!
晴「やったか?」
凛「残念」
晴「ちっ……!」
凛「一発は大きくても当たらなきゃ意味ないでしょ? はっ!」
――ガキィン!
凛「!」
梨沙「そうね、攻撃も通らなきゃ意味ないわね?」
凛「……同じ武器?」
梨沙「仲良くしましょ?」
凛「断る、かな」
梨沙「でしょう、ねっ!」
――ギンッ!
梨沙「あら?」
――ストンッ……
晴「お? 何だソレ……」
凛「あっ……!?」
卯月(あれは、ユウキから預かった腕輪!)
凛(そうだ、私が一旦持ってたんだった!)
梨沙「フン、させないわよ!」
凛「っ!」
――ギィン! パシッ
梨沙「はい、もーらいっと」
晴「何だよソレ、装備か?」
梨沙「……チナツが言ってたの、聞いてなかったの?」
凛(あの会話、もしかして腕輪の事を知ってる……!)
晴「……あ」
梨沙「分かった? 奪う価値ありでしょ?」
凛「させない!」
晴「こっちの台詞だっての!」
――ドォンッ!
卯月「っう! 近づけない……!」
凛「いや、一発は大振りなはず、この隙に――」
梨沙「アタシが装着する速度より早いわけないでしょ!」
凛(まずい……! あの腕輪の力が、相手に渡ると……!)
・
・・
・・・
そら「いだだだだ! すとっぷ! ふりーず!」
智絵里「ならそちらが先に離して……くださいっ……!」
――バシッ!
そら「ふうっ!」
智絵里「乱暴ですっ……!」
智絵里(目標と対面出来たのは運が良かった……でも)
そら「逃げる感じ?」
智絵里「まさか……仕切り直しです……!」
――フッ
そら「隠れちゃった。んー、そらちん孤立? それに……」
そら(やっぱり怪我がそんなに治ってない? おーばーわーく?)
そら「後は……さっき掴まれた腕が真っ赤! あれあれこれってもしかしてもしかする?」
智絵里「一旦隠れて……」
智絵里(あの三人の仲間、かな……でも、それにしては……知らない?)
智絵里(しかも……)
――ザクッ
智絵里「こんなに木の枝をたくさん、武器にする人は初めて見ました……」
智絵里(思ったよりも……的確に扱ってます)
智絵里「ただ……一瞬しか見えませんでしたけど……怪我、していましたね……?」
智絵里「なら…………」
――スッ
そら「ぎゅーっと……これでよし☆」
そら「後は見つけて捕まえるだ――」
――メキメキッ
そら「けえっ!?」
そら(木が倒れてきた! 避ける!)
――ドォンッ!
智絵里「えいっ……!」
そら「おーっと! 危ないっ!」
智絵里「これでも、避けますね……」
そら「当たると危ないからだよ☆」
智絵里「……反撃は、しないのですか?」
そら「のんのん喧嘩よくない、落ち着いて?」
智絵里(……言ってる事はよく分かりませんけど……一度も明確な攻撃はされてないです)
智絵里(怪我のせいか、本当に私を傷つけるつもりがないのか…………)
そら「それっ! なげなわー!」
智絵里「っう、こんなの……!」
――ブチッ
そら「ありゃりゃ……」
智絵里「次から次に……たくさん武器を持ってるんですね……」
そら「そらちん多芸?」
智絵里(この攻撃も、目的は捕まえる事……)
智絵里(私を倒す気がないなら……ちょっとだけ無茶しても大丈夫、かな……?)
――ザッ
そら「おっと接近? ダメダメ危ないからね?」
智絵里「じゃあ……止めてもらってもいいんですよ……?」
そら「そ、そう言われても?」
智絵里「ほら……もう手が届く距離に入ります……えいっ」
そら「なら、石の盾ばりやー!」
智絵里「そんなもので……」
――ザンッ!!
そら「わっと!?」
智絵里「止められませんよ……!」
――ダンッ
そら「そいっ!」
智絵里「まだ退くんですか……?」
そら「ちょっと距離を離して、すとーん☆すろー!」
智絵里(これも……牽制の程度を出ない攻撃)
智絵里「……そろそろ、いいですか?」
――ガガッ!
智絵里「っ……!」
そら(正面から!?)
智絵里「加減……してますよね?」
智絵里「そんな心構えで……止められるわけないじゃないですか……?」
――ガシッ
そら「あ……!」
智絵里「捕まえました……えへへっ」
――ギリィッ
そら「うあっ!?」
智絵里「私は力が強いわけじゃなくて……壊す事が出来るだけです……」
智絵里「叩いたり、押したり……チョ、チョップでも大丈夫……」
そら「離れ……ないよ……!?」
智絵里「でも一番上手に壊せるのは……こうやって直接握った時です……」
そら「締まる! 痛いよ! 腕壊れちゃうからすとっぷ!」
智絵里「壊そうとしているんですよ……?」
智絵里「でも……なんだか、余裕そう……ですね?」
そら「痛いのは嫌だけど慣れちゃってるから☆ かといって――」
――ギュッ……!
そら「好きではないあだだだだ!?」
智絵里「楽しそうで、何よりですっ……」
そら「そらちん、楽しくは……ないかな……!?」
智絵里「じゃ、じゃあ……私も次の目標を探しに行かなくちゃ駄目なので……えいっ」
――バキッ
智絵里「っ!?」
そら「うわっと!?」
――ドォンッ!
智絵里(木が倒れて……? でも……私がやったものじゃない……何もやってないのに倒れて……)
そら「ふーっ、ふーっ……そらちん危機一髪、いや二髪?」
智絵里「何か……しました……?」
そら「あたし? 特に何も! 木が勝手に倒れてきたよ! ずずーんって!」
智絵里(そんなわけ……私も、木を倒した時はちょっとだけ苦労しました……勝手には倒れないはず……)
――ガサッ
智絵里「!?」
そら「おろ? 人の気配?」
智絵里「なるほど……もう向こうが制圧されて……応援に来たんですね……?」
そら「応援? なるほど!」
智絵里(ただ、今の援護攻撃……もしかして、二人とも巻き込むつもり……に見えました……)
そら「はろーはろー! そらちんはココに居るよー! ……あれっ?」
――ガサッ……メキッ
智絵里「……!? え、だ、誰……ですか?」
そら「あ、っと……ここで!?」
――ガサガサッ
きらり「にょわー!! マナミちゃんに応援が向かってると聞いて、阻止しに来たにぃ☆」
智絵里「ま、マナミ……? それも誰、ですか……!?」
きらり「もんどーむよー! それーっ!」
――ボゴォッ!
智絵里「木を……! 根元から……」
そら「危ない気がするよ!」
きらり「行っくよー! ぜーんぶ薙ぎ倒しちゃう! うきゃー☆」
智絵里「そんな、無茶苦茶ですっ……!」
――ゴオッ……!
――バキッ! ガシャッ!
きらり「てややーっ☆」
そら「えすけーぷ!」
智絵里「っう!」
――ザザッ
智絵里(凄い力……私より、もっと分かりやすくて驚異的な……)
智絵里(敵対している……ように見えますけど……目的は違う……?)
そら「もし?」
智絵里「……!」
そら「静かに? そらちん、あの人ちょっと仲悪いの」
智絵里「見れば、だいたい分かってます……」
そら「で、今ちょうど二人共敵対しちゃった、三つ巴バトル」
智絵里「そうですけど……何ですか……?」
そら「一旦休戦、どう? 全員敵だけど目的がそれぞれ違う☆」
そら「なら……まずは一番危ない、この周辺で戦場を作ってるトキコ軍から倒す! どう?」
智絵里「トキコ……!」
智絵里(……だから、こんな強そうな人が突然出てきた)
智絵里「ここは……もうあっちの人たちの領域……」
そら「お互い消耗するより、お利口かな? どうどう?」
――ガサッ
きらり「隠れちゃ駄目にぃ!」
そら「あっ、見つかった☆」
智絵里(確かに首尾よく制圧しても……経典が手に入るわけじゃないです)
智絵里(ここで消耗するよりかは、いくらか……)
きらり「まーずーはー、ソラちゃんにあたーっく!」
そら「こっち来た! 一旦避けて……」
――ガクッ
そら「おうっ!?」
きらり「疲れてるにぃ? でもでも関係無しに、せーいっ!」
そら「あ、まず――」
――ドゴォンッ!!
きらり「……あれあれ?」
智絵里「分かりました……今は、共同戦線で……」
きらり(止めた? じゃなくて、掴まれてるにぃ)
智絵里「はっ……!」
――ギリッ……
きらり「んんっ!」
智絵里「っ、硬……!」
きらり「ぐぐぐ、やめるにぃ!」
そら「ちゃんす!」
――シュルル
きらり「むぇ? 何にぃこのロープ……」
そら「チエリちゃん、思いっきり!!」
智絵里「分かってますっ……えいっ!」
――グンッ!
きらり「にゅわっ!?」
そら「さすがに片足思い切り引っ張れば!」
智絵里「倒れます……よね?」
――ドシィンッ
そら「この間に捕まえ――」
きらり「させないよ!」
智絵里「わ……!?」
そら「チエリちゃんごと!?」
智絵里(抑えきれない……!)
きらり「ロープで繋がってるなら、こっちから引っ張り返せばいいよ!」
――グンッ ザシュッ
きらり「あっ!」
そら「なら切ればいいんだよ☆ 鈍器も刃物もお任せそらちん!」
智絵里「いいですよ……!」
そら「へいぱーす☆」
智絵里「これは……」
そら「武器はあったほうがよさそう!」
智絵里「次から次に……いろいろと用意できるんですね……やっ!」
きらり「なんのっ、こんなの折っちゃうにぃ!」
そら「でもまだまだいっぱいあるよ! ほらほら!」
きらり「むー……キリがないよ!」
智絵里(やっぱり、二人だと抑え込むのが楽です……)
智絵里(ただ……あんまり、大きなダメージは通っていないような……)
そら「逃がさないよっ!」
智絵里(いえ、逃がさない……じゃ、ダメです……倒さないと……)
智絵里(私は他に、応援が来ると困るんです……!)
きらり「……! ぼーっとしてると危ないにぃ!」
智絵里「え、っ……」
――パァン!
智絵里「ひぅ!」
そら「チエリちゃん!?」
きらり「加減はしたにぃ! 悪い子おしおき☆」
そら「何するのっ!」
きらり「これくらいできらりを止めようと思っちゃ嫌! はぁぁーっ……」
そら(むっ! 危ない気配! 守り切れるか分からないけど防御!)
きらり「ここなら穴が開くだけにはならない、にょわー!!」
――ドッ ガァン!
智絵里「っあう!?」
そら「わわわっ! 揺れ――」
きらり「よそ見してるとー……」
そら「あ、っと――」
きらり「纏めて吹き飛ばしちゃうにぃ!」
そら「ちょっ、すとっぷ!」
智絵里(真っ直ぐの攻撃……なら、少し耐えれば……!)
――ガッ
きらり「にょ……わ?」
智絵里「ただでは……攻撃は受けませんよ……!」
――ギリィッ
きらり「っう!? ……う、りゃーっ!!」
智絵里「さ、すがに止まらな――」
そら「あぶない!」
――ドッ!
――…………
そら「け、怪我に響くよ……」
智絵里「痛っ……はあっ……はあっ……」
きらり「むぐぐ、何したの……?」
智絵里「反撃くらい、します……!」
そら「だめーじ? ないすないすばっちし☆」
きらり「それはきらりの台詞だにぃ……!」
智絵里(……ただ、私もこんなに被害を受けて……それだけしか与えられていません)
そら「長期戦……長くなるよっ!」
――Prrr……
智絵里「?」
きらり「にょわ?」
そら「鳴ってる……?」
きらり「トキコちゃんからにぃ!」
智絵里「え、出るんですか……?」
きらり「連絡大事!」
智絵里(見習って欲し……いや、戦闘中に相手の目の前で通信を受けるのは……)
そら「とにかく隙――」
――ズッ
きらり「……お話中だよ? 邪魔しちゃ嫌にぃ」
智絵里「う……」
そら「な、何? なんだか……接近しにくい……?」
智絵里(……今更ですけど……私達二人で、この人を止めてたのは……たまたま、ですね)
――ピッ
きらり「はいほーい☆ こちらきらりだよ☆」
時子『……もしかして交戦中? マナミ?』
きらり「違うにぃ、あの本を持ってた人のお友達と!」
時子『そっちはそっちで、大きな相手と接触してるじゃない』
時子『ただ都合が変わった、経典の当人と戦ってるわけじゃないのね? その付き添いと?』
きらり「えーっと、名前は……ソラちゃんとチエリちゃん!」
時子『誰よ、知らないわよそんな名前』
そら「むっ」
智絵里「…………」
時子『とりあえず、一度帰ってきなさい。こっちの成果は挙がった』
そら「えっ?」
きらり「りょーかい☆」
時子『後……どうにも調子、悪そうね?』
きらり「そんなことないよ? きらり元気いっぱい!」
時子『嘘ね、それくらい分かる。もしかして、マナミ以外の相手で負傷したの?』
きらり「んー…………」
時子『ソラとチエリ?』
智絵里「……!」
時子『やってくれたわね? ……大事な対戦力、傷つけた事を後悔させてやるわ』
そら「そっちが攻撃してきたから、防衛したまでだよっ!」
時子『関係ない。今は私は退いている途中だから、命拾いしたわね』
時子『ただ、私は根に持つタイプなのよ』
智絵里「…………」
――ピッ
きらり「とゆーことでぇ、きらりはおうち帰るにぃ!」
そら「待って! 成果って何!?」
きらり「分かんない☆ でも、目的が達成されたならお仕事終了! うきゃー☆」
智絵里(経典、ではないはず……です。もしそうなら二人から何か連絡が来てるはずです……)
智絵里(なら別の目的……経典よりもあの国が優先している……?)
智絵里(一度、連絡します……!)
きらり「ばいばいにー☆」
そら「あ、帰っちゃった……でも退ける事には成功? 結果的に?」
そら「という事は……はっ!」
――…………
そら「……あれ? チエリちゃん? どこ行っちゃった?」
――ザッ
智絵里(私も、全快という状態じゃ……)
智絵里(あそこから勝負続行は、やっぱり疲れるので無理……です)
智絵里(負けはしません……ただ、その後に経典組三人が控えているとなると……)
智絵里「……それに」
――ツー…… ツー……
智絵里「また、連絡が通じない……」
智絵里「一体何をしてるんですか……?」
・
・・
・・・
梨沙(成り行きだけど、アタシの手に噂の秘宝があるのよ……!)
梨沙(聞いた話、認識を変化される魔術が仕込んであるとか? なにそれ、凄いわね)
梨沙(使い方は分からないけど、なんとかなるでしょ? 問題があるとすれば……)
凛「え……!?」
梨沙(アタシに向かって走ってきてるアイツが気になるけど)
――スッ
梨沙(数メートル先から走る動作と、アタシがただ腕に輪を通す動作、どっちが早いかは明確よね?)
梨沙「貰ったわ!」
晴「おい! 何やって……!」
梨沙「何って、勝負を決めるためよ!」
晴「違う! リサじゃなくて後ろの――」
梨沙「後ろ?」
――ドシュッ!
梨沙「……!? え?」
卯月「あっ!」
晴「お前……! なにしてんだ!」
悠貴「こっちの台詞ですよっ、人のものを勝手に使おうなんて」
凛「何でここに……!? 今は捕まってるんじゃ……」
悠貴「あれ? そうでしたっけ? きっと気のせいですっ、見間違いじゃないですか?」
悠貴(ま、本当は出してもらったんですけど、条件付きで)
――数時間前
悠貴『……何か用ですかっ?』
千夏『あなた、秘宝を持っていたそうね』
悠貴『数時間前までは、ですけど』
千夏『そう。あなた、経典について何か知ってる?』
悠貴『探しているものですね、教える事は何もないですけどっ』
千夏『じゃあ事情は知ってるのね? いいわ、問題なしよ』
悠貴『……?』
千夏『協力して欲しいの』
悠貴『それは、何に対してですか?』
千夏『あの三人と敵対すると分かった上で、こちらに協力してくれる人を探してるの』
悠貴『答えになってないですよっ』
千夏『今、私の仲間が交戦中なの』
千夏『私は直接動けない、代わりに向かって欲しいの』
悠貴『それに私が賛同しなければならない理由はなんですか? メリットは何ですか?』
千夏『断っても構わないけど、ここから出すのは先延ばしになるわ』
千夏『いや、あなたは危険人物かもしれない、二度と陽の光は拝めないかもね』
悠貴『……それは、困りますね』
千夏『協力といっても、そっちの益のが多いと思うわ』
千夏『ここから脱出して、経典に近づき、国と繋がりを持つ私と繋がりを持つ』
悠貴『ま、そうではありますけど』
千夏『最終目標が同じだから後で敵対かもしれないけど、過程の利害は一致するはずよ』
千夏『あなたの腕輪もそこにある、もちろん言った通り目当ての経典も』
悠貴『…………』
千夏『だから、現地に居る同じく私の協力者であるリサとハルに援護をお願い』
――…………
卯月「脱出してきた……!?」
悠貴「とにかくここに私の腕輪がありそうな気がしたので、来ちゃいましたっ」
悠貴「そしたら勝手に装着しようとしてる人が居たので」
梨沙「ぅう……な、誰よアンタは……!」
悠貴「お二人がリサとハルですか? 初めましてっ、私はユウキと言います」
晴「あ?」
梨沙「ハル……知り合い?」
晴「知り合いとか味方なら出会い頭に攻撃してこねぇだろ……!」
悠貴「腕輪が付けられてからだと遅いんですよっ、その前に阻止しないと」
晴「だからって……攻撃する事ないだろ!?」
悠貴「外せと言っても外してくれないと思ってっ」
卯月「何しに来たんですか!?」
悠貴「何って、ここに来れば腕輪と経典があると思いまして」
凛「白々しい……どうやってここを突き止めたの?」
悠貴「別にいいじゃないですかっ、なんでも。そしたら既に誰かが交戦中の現場に遭遇したんですよっ」
悠貴(最優先事項、腕輪は取り返したので、このまま逃げてもいいんですけど……)
悠貴「その人から経典を拝借したいので、あなたも敵対してるんでしょう?」
晴「だ、だけどよ……」
悠貴「じゃあ手伝ってあげますよっ。あ、なるべく狙わないっていう意味ですけどっ」
梨沙「っう……な、なるべく……?」
晴(マジかよ……応援ってこんなとんでもない人がかよ……)
梨沙(協力、じゃなくて目標が一緒ってだけね……! こっちが邪魔な動きをしたら、すぐにでも攻撃してきそう……!)
晴(じゃあ援護も何も期待出来ないし、しない方がいいか?)
梨沙(そうね……じゃあアタシ達が狙うのは……)
悠貴「えっと……経典はそちらの方が持っていましたっけ?」
卯月「っ、来る……!」
悠貴「ちょっと起動が久々なので、上手く腕輪が機能しませんけどっ」
――ヒュンッ
卯月「う……!?」
悠貴「こうやって惑わせる事くらいは出来ますよっ」
卯月(移動を私に感じさせなかったんだ……! だから、気づいた時には目の前まで移動した後だった……!)
――ギィンッ!
悠貴「……あれ?」
凛「させない」
悠貴(攪乱が効いてない……いや、反応で追いついた?)
凛「動きは異常でも、それ以外は並だね」
凛「一旦追いつけば力で私の方が勝ってる! はあっ!」
悠貴「っと……! その通りですねっ……!」
悠貴(今は完全に騙す程の力は使えない、誤魔化す程度……二人相手だと対処に限界がありそうですっ)
卯月「よしっ! リンちゃんが止めたところに私が!」
凛「……ウヅキ! 危ない!」
――ドオンッ!!
卯月「きゃあっ!」
晴「リサが動けないならオレが引き付けるしかねぇだろ!」
卯月「そうだ、この二人も居たんだった……!」
悠貴「ナイスですよっ」
凛「逃がさない!」
悠貴(とにかく一対一が理想ですっ、惑わせる対象が少なくて済みますからねっ)
卯月「リンちゃん! 一人じゃ危な――」
晴「そっちも一人だ! 手助けには行かせねーぞっ!」
――ドォンッ!
卯月「っう! ……ど、どっちにも近づけない!」
梨沙「アタシが動けたら有利になれるのに……! 何よっ! ちょっと装着しようとしただけで……痛っ!」
晴「動こうとすんなって! 今はオレがやるから!」
梨沙「アイツが来てなかったらアタシが無双してたのよ……」
悠貴(扱うのは簡単じゃないんですよっ、私だってちょっと間を空けただけでもうこんなに使いこなせなくなって)
悠貴(私が来てなかったら、確かに状況は悪化してましたね。腕輪が経典の元に……その場合、取り返すのに苦労したかもねっ)
悠貴「あの人に従ってよかったですっ」
凛「あの人……?」
悠貴「こっちの話ですよっ」
凛(裏に誰か繋がってる……? それが、脱出も手助けした?)
悠貴「私は彼女の相手をしますので、他は近づけさせないようにお願いしますね?」
晴「分かったよ、そらっ!」
卯月「危な……!」
凛「ウヅキ! そっちはそっちに集中して! 私は大丈夫!」
卯月「う、うんっ……!」
悠貴「余所見しない方がいいですよっ?」
凛「大丈夫、ちゃんとアンタを見てるからッ!」
悠貴「ふっ!」
凛「そんな遅い攻撃なら止められる」
――フッ
悠貴「残念、こっちで――」
凛「だから、止められる」
――ガッ!
悠貴「あれっ? なんで引っかかってないんですか?」
凛「偽物と混ぜた攻撃の事? ふふ、惑わせても意味ないよ、だって攻撃が遅いから……」
凛「すぐに反応し直せる」
悠貴「いやいやいや……そんなの無理でしょう?」
凛「貰った!」
晴「……! そらよっ!」
卯月「あっ!」
――ゴオッ ドォンッ!
凛「うわっ……!」
悠貴「っとと……」
晴「これくらい横槍は入れられるぜ?」
悠貴「……あはは、今のは助かりましたよっ」
凛(ハル……! あっちから攻撃が……)
卯月「そうか、ユウキの方にも援護が出来るんだ……!」
梨沙「ハル! こっちも止めなきゃ!」
晴「分かってるっつーの!」
卯月(私がこの二人を止めなきゃ、リンちゃんも安心して戦えない!)
卯月「とにかく接近して……」
晴「させねぇ!」
卯月「っ!」
――ドオンッ!
卯月(この威力、完全に防ぐのは無理……かといってリンちゃんみたいに避けて接近できるほど機動力は私に無い)
晴「来ないなら……いや、このままのがいいか」
梨沙「アタシに気使ってるなら別にいいわよ」
晴「そうもいかねぇだろ……」
卯月(あの位置から動く気はなさそうだけど……かといって、放置しておくと)
凛「そっち!」
悠貴「わっと。もうっ、なんで避けちゃうんですか!」
凛「そりゃ避けるよ、攻撃だからね!」
晴「せーのっ!」
凛「!」
――ドォンッ!
晴「あちゃ、外した」
梨沙「もっとよく狙って! 巻き込んだっていいわ!」
悠貴「聞こえてますよっ」
凛「狙いは甘い、でも威力は高い……!」
卯月(この前も、今も……私は目立って活躍出来てない……今も、リンちゃんがあんなに……)
凛「はあっ!」
晴「させねぇ! ああもう忙しいな!」
悠貴「なかなか援護がお上手ですねっ」
梨沙「いつもアタシの補助させてるからね!」
晴「慣れてきたからだよ!」
凛「っ、連携が整ってきた……!」
卯月(どんどん不利になる、前に……私がなんとか、ハルを止める!)
――ザッ
梨沙「こっちも来てるわよ!」
晴「うっせー! 見てるから大丈夫だっての!」
卯月(来た……! まず避けて……いや!)
――ドォンッ!
晴「よし! 当たったか?」
梨沙「やっとね」
凛「ウヅキ!?」
――……ザッ
卯月「けほっ、一気に……!」
晴「強行突破かよ! ただ一直線に向かってきてるなら当てやすいぜ!」
卯月「なるべく相殺して、こっちも魔力でぶつける!」
梨沙「はんっ! ハルの杖はそこらの魔力でかき消せる代物じゃないのよ!」
晴「その言い方だとオレじゃなくて杖だけ強いみたいな……事実だけど、よっ!」
卯月「今だ……はあっ!」
――ドガァンッ!
卯月「……ぷはっ!」
梨沙「ははっ! しっかり被弾してるわ!」
晴(いや……直撃で普通に向かってきてるぞ!?)
卯月(少しは軽減出来てる……! 行ける!)
梨沙「ハル! そのまま叩き込んじゃって!」
晴「お、おう!」
卯月「まだまだっ!」
――ドォン! ドガッ! パァンッ!
卯月「はああっ!」
晴「お、おいおい!」
梨沙「ちょっと!? 何してるのよ!」
晴「真面目にやってるっての! なんで一直線にこっち来れるんだよ!」
凛「ウヅキ……!」
卯月「よし! もう爆破は使えない距離だね……!」
晴「ちっ! けどよ、オレは近距離の戦いでも大丈夫だ! このっ!」
卯月(蹴り……! でも!)
――ヒュッ
卯月「リンちゃんのが早いよ!」
晴「おわっ! こ、この――」
卯月「はああっ!!」
梨沙「ハルっ!!」
――ガァンッ!
晴「ぐうっ!?」
卯月「まだまだ……一気に持っていく!」
晴「ちくしょ……がはっ!?」
悠貴「……!」
――ザッ
凛「行かせないよ……立場が逆になったね」
悠貴(助けに行く義理はないですけど……援護がないと正直辛い……かなっ)
凛「こっちの方が体術は上と見てるよ」
悠貴「正解ですっ……なら!」
――ダッ!
悠貴(不利になったので、さっさと逃げちゃいます!)
凛「逃がさない!」
悠貴「攻撃より撤退のが腕輪は機能しますよっ、と……!?」
――パァンッ!
卯月「逃がしません……!」
悠貴(っ……今度は相手側に援護……素直に逃げさせてくれません……!)
凛「いいよウヅキ、後は私が――――」
――キィィィィ……!
卯月「えっ!?」
悠貴「なんですかっ……!?」
凛「この魔力……!? ウヅキ?」
卯月「ち、違う! 私じゃない……!」
晴「けほっ……お、お前!」
――ゴオォォォ
梨沙「はんっ……! いつまでも大人しく倒れたままだと思わないでよ、ねっ……!」
凛「な、何これ……! こんな大きな……魔力の塊が……!」
梨沙「ハルっ! 杖勝手に借りたわよ!!」
晴「借りた……じゃなくて、どうやって……んなデケー魔力――」
梨沙「知らないわよ! とにかくあっちの邪魔しようと全力なの! いっ、けーー!!」
凛「くっ……!?」
卯月「リンちゃん!」
悠貴「あわわっ」
――ズドォンッ!!
――タッタッタッ
そら「な、なにごと!?」
そら(こっちから凄い音が聞こえたと思ったら……辺り一帯木が消滅?)
そら「隕石でも落ちたっぽい? ……!」
――シュゥゥ
卯月「……だ、大丈夫?」
凛「なんとか……ウヅキも、大丈夫?」
卯月「私は大丈夫!」
そら「二人共っ!」
卯月「あ、ソラちゃん……無事だった?」
凛「こっちは経典は無事だったけど……ユウキが乱入してきて、腕輪が取られちゃった……」
そら「そんな事より! ここで何があったのかぷりーず!」
――…………
卯月「……で、とんでもなく大きな攻撃で、なんとか耐えたけど逃げられちゃった」
凛「ウヅキが庇ってくれなかったら、危なかったよ」
卯月「そんな、私はそれくらいしか……」
凛「それだけじゃない、ちゃんとハルも止めてくれたでしょ?」
卯月「う、うん……」
そら(魔法……あの杖からだよね? でもあたしが体験したのはもっと小規模だったはず?)
そら(こんなおっきい衝撃を……一部とはいえ生身で相殺したの?)
そら「ウヅキちゃん……嘘じゃなくて? ほんとう?」
卯月「ほ、本当ですよぅ!」
――Prrr……
凛「鳴ってるよ」
卯月「あ、そうだ、忘れてた……私達、応援に向かったんだったよ!」
そら「急いで向かわなきゃ!」
――ピッ
卯月「はい、こちらウヅキです。 えっと、マナミさんですか?」
未央『しまむー?』
卯月「あれっ? マナミさんから通信じゃ……」
未央『大丈夫、こっちは終わってるよ。連絡がつかなかったから、私達が先に向かった!』
茜『臨機応変です!!』
真奈美『こちらに向かう必要は無いと伝えたのだがな、代わりに来てくれたよ』
卯月「ご、ごめんなさい! ちょっと立て込んじゃって……」
真奈美『構わないさ、窮地は脱した。目の前の、だが』
凛「目の前……?」
真奈美『とにかく、一旦アンズの元へ戻る、全ての礼はその時に言おう』
卯月「なんだろう……?」
凛「とりあえず、私達が手間取ったぶんのカバーをしてくれたんだね、ありがとう」
未央『困ったときはお互い様ー! で、そっちは何があったの?』
卯月「……ユウキと、ハルとリサが来たよ」
そら「あともう一人!」
未央『えっ、それって……相手の味方として?』
凛「いや、第三者……この争いに、私達目当てに割り込んできたみたい」
真奈美『……ややこしい事態だな、何にせよ相手も退いている、こちらも一度戻ろう』
卯月「分かりました」
――タッタッタッ
悠貴「巻き込む気ですかっ」
晴「痛ってぇ……仕方ねーだろ、使い慣れてる武器じゃなかったしよ」
梨沙「でも窮地は脱出したでしょ?」
悠貴「ま、私はそうですけど。ところでチナツさんが言っていましたが、お二人には本来のリーダーが居るのでは?」
晴「……あ、やっべ」
梨沙「そ、そういえばどこに行ったのかしら……?」
晴「分断してそれっきりか……」
悠貴「その時に私が居ると、話がややこしくなるから」
――ダッ
梨沙「あれっ?」
悠貴「では、またお会いした時はよろしくお願いしますねっ」
晴(なるべく会いたくねぇ)
梨沙「ちょっと! どうせチナツに助けてもらったんでしょ!? お礼とか言わないの!?」
悠貴「何のことでしょうか。というのは冗談で、そのうち向かいますよっ」
晴「……行っちまった」
梨沙「アタシ達はどうする?」
晴「連絡は…………げ」
梨沙「何よ、その『げ』って」
晴「…………急ごう、なるべく早く」
梨沙「え? どこに?」
晴「チナツさん所で、また通信応じれなかった言い訳考えねぇと」
梨沙「また!? ……依存しすぎじゃないかしら、アタシ達」
・
・・
・・・
杏「先に言うけど、謝らないでね」
美里「トキコがあの段階で退いたのは、ウヅキちゃん達がこっちに加担してると分かったから」
杏「あの場面で、こっちの人員しか応援に向かってなかったら、正直……被害はもっと大きかったよ」
卯月「でも……二人を守る事は出来てません」
真奈美「どうだろうな、もし手を打っていなかったら捕虜ではなくあの場で仕留められているかもしれない」
杏「そう、別に互いに交渉材料が欲しいわけじゃないんだ、相手の戦力を削れるならその場でだよ」
美里「それをせず、トモちゃんを連れて帰ったのは……ウヅキちゃん達が居たからだよぉ」
未央「私達が?」
杏「そっちと交渉するつもりなんだよ、うちの人員使ってね」
真奈美「長期化した争いも、経典を招いた方に勝率が傾くのは明白だ」
凛「……向こうは、私達がアンズに協力していると思ってるの?」
杏「でもご覧の通り、実際は同盟じゃない」
卯月「え?」
杏「……いや、今回は救援頼んだけど、一蓮托生になってもらう必要はないよ、というか――」
杏「これ以上、加担しない方がいいと思うよ」
未央「えっ? で、でもトモさんが……私達が協力してると分かってるから捕まえられたんだよね?」
凛「それで、経典と交換で手に入れようとしてる……じゃないの?」
卯月「私達が出ていけば……トモさんは」
真奈美「いや、取り返すくらいはどうとでもなるさ」
杏「それにね、ここまで深く加担すると私達が貸しを返せなくなっちゃう」
卯月「そんなの別に……」
杏「……国の建前としてさ、あんまり外部に頼りすぎるのはアレなんだよ」
杏「あと……私じゃ経典の責任も、部外者の命も責任が取りきれない」
未央「国って……そんなものなの?」
凛「だからって、目の前の危機を放っておくほどじゃないよ」
真奈美「……アンズの代わりに言うが」
真奈美「正直なところ、これ以上の協力はこちらの不利益が勝る……返せない責任ばかりが増えるんだよ」
卯月「そんなの……!」
杏「キツい言い方になるけど……その通りなんだよね」
美里「外部の、それも経典の力を借りなきゃ部下も取り戻せないなんて噂はよろしくないですねぇ」
真奈美「国というのは見栄も重要だからな……常に危ういバランスで成り立ってる」
杏「だから……互いのために、これ以上の干渉は控えよう」
未央「…………」
凛「ウヅキ、どうする?」
卯月「……迷惑なら、言う通りにします」
杏「うん。 ……気持ちだけ、貰うからさ」
卯月「ただ、本当に危ない時は言って下さい、協力しますから」
未央「こんなに気を使ってくれる人を見逃せないね! あ、一旦は下がるけどね?」
茜「ちょっといいですか!」
真奈美「何かな?」
茜「私達はミオちゃん達のお友達ですが、厳密には一緒のグループではないです!」
そら「そらちんもだよ!」
美里「ですねぇ、同行しているだけだもんねぇ」
茜「じゃあ、手伝いたくても手伝えないミオちゃん達に変わって、私達じゃ駄目ですか!」
そら「足りないのは人手、じゃないかな?」
凛「二人共……」
茜「駄目ですか!?」
杏「……いや、ほとんど変わらないよ、結局は部外者だし」
そら「のんのん、じゃあ元々内部の一員としてならおっけー?」
杏「……何? 参加するつもり? 正気?」
茜「元々向かう先なんてありませんから! 必要なところで、信頼できるところで協力したいものです!」
真奈美「人手不足は事実だからな。……なぁ、ここまで協力的な人材はそうはいない」
杏「分かったよ……これも断ったら、逆に恨まれかねないし」
杏「ただ、国の一員としては迎えないよ? あくまで、協力してくれる人として。だから、責任はちゃんと取る」
茜「構いません! あれ? 逆?」
そら「別に取らなくてもおっけーだよ? 自主的、まいぺーす!」
杏「そうは行かない、協力者だから」
美里「……とまぁ、ご協力により、少しは光が見えますぅ」
卯月「うん……私たちも、二人が居るなら連絡も早いですし」
凛「何もせずに去るよりいくらか気持ちが楽かな」
未央「困った時はすぐに呼ぶんだぞっ!」
茜「了解です!」
杏「じゃあ……これからは、こっちの話。三人とは、悪い方向で二度と会わないようにしたいね」
卯月「えっ?」
杏「次に会う時は、戦いの関連じゃなくて、普通に訪れて欲しいってこと」
凛「そう願ってるよ」
杏「ん……じゃあ、せめて外まで送ってあげて」
美里「分かりましたぁ」
未央「じゃあ、お世話になりました!」
杏「…………あ」
卯月「え?」
杏「次……どこに行くつもり? その経典の指示とやらが出てるの?」
未央「そういえば、確認してないかな?」
杏「見てみなよ、知ってる所なら紹介か説明だけはする」
卯月「じゃあ……確認しよっか」
~ 旧都区国家『サミスリル』へ向え ~
凛「これって……知ってる?」
卯月「あれ? どこかで聞いたことが……」
杏「サミスリル? ……うん、別に危険なところじゃないけど、時期が悪いね」
未央「時期が? どういう事?」
卯月「てことはやっぱり……」
凛「何か知ってるの?」
卯月「あの……アコさんが言ってた事、覚えてる?」
未央「なんだっけ?」
凛「……あ」
杏「知ってるなら、説明も手短に済ますよ。もうすぐ、あの国に全国から猛者が集まる、善悪問わずかもね」
杏「目的は、国が『荒れた世の中を正すため、保管されている秘宝を未来の勇者に授ける』という名目上行われる大会」
美里「それってアレですかぁ?」
真奈美「……『栄光の聖剣』だったか?」
杏「まぁ、暴動は起きないと思うけど、それくらい想定してるだろうし」
卯月「ここに迎えって事は、取ってこいって事?」
杏「ちょっとちょっと何考えてるの、危ないに決まってるじゃん」
真奈美「そうだ、迂闊に参加など考えない方がいい。……そもそも、妙だとは思わないか、なぜ今頃なのか?」
未央「たまたま都合がついたとか?」
真奈美「だといいがな」
杏「私の勝手なイメージだから真偽は分からないけどね、なんだかキナ臭いよ」
凛「注意しろ、って事だね」
杏「……とにかく、気をつけてね」
未央「お互いね! いいお知らせ待ってるよ、本気で!」
真奈美「期待に沿ってみせるよ」
卯月「はい! 私達も……何をすればまだわかりませんけど、頑張ります!」
Side Ep.39 気になる三面 その2
――スタスタスタ
都「以前訪れましたが、なんだか気に入りました!」
都「全ては確認できませんでしたが、いつも私が見ているようなものと違う情報が集まっていましたね」
都「さて本日も……ご盛況のようです、さすが世界規模で最大の図書館です!」
都「あの棚は、恐らく今日も貸出中が並んでいるはず、少しくらい残っていたら……」
――ザッ
都「むむ、また三つだけ……えっと、昔に見た記事も残っていますね……」
都「これを期に古い情報を手に入れるのもありです、新しい発見があるかもしれませんからね」
都「とにかく混んでますから、さっと確認して帰りましょう」
都「どれどれ……」
---------- * ----------
以前のアンケートと同じもの、選ばれ損なったものも投入してます。
番号でレス、同数の場合先に最多票になっていた方で進みます。
①桐生つかさ
②諸星きらり
③桃井あずき
---------- * ----------
執筆遅れています、申し訳ない。
・
・・
・・・
紗南「これ? ――で貰った!」
紗南「それは――から受け取った!」
紗南「ん? そっちの? それも――で……」
あずき(なんて、いろいろ言いながら各地を回ってるらしくて)
あずき「サナちゃん、まるで歩く広告塔……」
――ガヤガヤ……
あずき(あれ以来、元々多かったこの『クラトラ』は、さらに人気が多くなった)
あずき(で、あの時に会ったサナちゃんは、本当に各国で事件……大なり小なり、とにかく解決大作戦らしい?)
あずき「ついにあずき達の居たここが、かの勇者誕生の地なんて言われるほどに……?」
あずき「今日はえーっと、そうだそうだ、大きなお仕事!」
あずき(国の重役さんがわざわざ足を運んでくれる、くれぐれも粗相のないように!)
あずき「……でも、どうやって来るんだろう? ここは人が多いから目立って危ないんじゃ?」
あずき(一応『店、扉はちゃんと閉めておいて』と念は押されたけど、だったらどうやって入ってくるんだろ)
――シュイィン
あずき「この音……もしかして?」
紗南「ログインボーナスっ! よいしょ、久しぶり!」
あずき「サナちゃん! 一週間ぶりくらい? 久しぶりだね!」
紗南「たまには顔出した方がいいと思って、新しいフラグが眠ってるかもしれないし?」
あずき(相変わらず専門的? な言葉が多いなぁ)
紗南「さて、今日も一時間だけのあたしの冒険が始まる……はずなんだけど」
あずき「どうしたの?」
紗南「実は次の目標が決まってなくて、でもこっちに来ないと情報は入らないし……」
紗南「という事で、ようやく空いたこの期間、アズキさんに会いに来たよ!」
紗南「でね、聞いて聞いて! この前は凄いところに行ったんだよ?」
あずき「いつものお土産話? でも、もしかして内容知ってるかも?」
紗南「あれ? 誰かに聞いたの?」
あずき「そろそろサナちゃん有名人だよ、どこに行っても話題になるからね!」
あずき(あちこちに短時間滞在するせいで、追いかける方は大変らしいけど)
紗南「そっかー、サプライズにはならないかなぁ……じゃあ、つい昨日行った場所!」
紗南「昼に入ったんだけど、すっごい綺麗な建物だった! 人形がいっぱい!」
あずき「その情報は新鮮だね、まだあずきも知らなかったよ! それでどうだった?」
紗南「うん、あたしと皆の四人で!」
あずき「あずきもサナちゃんのおかげでお店が忙しくなったから、なかなか外へ出られないなー」
紗南「それは、ごめん……?」
あずき「いいよいいよ? 繁盛してこそのお店! それに今日は重要なお客さんが来るんだよ!」
紗南「もしかしてあたしが居たら面倒かな?」
あずき「そんなことないよ! 一緒におもてなし大作戦!」
――ガチャッ
あずき「あれ? 鍵は掛けてたはず……」
ルキトレ「こんにちは、約束通りお伺いしました」
紗南「この人が? ……ん? 扉閉まってるよね? どこから入って?」
あずき「どうも……?」
ルキトレ「驚かないでくださいね、これが普段の移動方法なんです……おや?」
紗南「へぇー、凄いなー……」
ルキトレ「もしかして?」
紗南「うん? あたし?」
ルキトレ「噂の勇者さんですか?」
紗南「サナだよ! 今日たまたま来ただけなんだけどね!」
ルキトレ「お一人ですか?」
櫂「いーや」
ルキトレ「わ……」
紗南「また勝手に!」
櫂「驚くほどでもないでしょ? 毎回、お供を変える勇者には驚くけど」
紗南「だってさぁ」
ルキトレ「噂、本当なんですね?」
櫂「噂?」
ルキトレ「実在する人物を召喚する、と聞いていますけど」
あずき(そっか、複製とは言っていないんだ?)
紗南「信用できる人だから安心してね」
ルキトレ「もちろんです、ただお互いに抑止力にはなるかもしれません、万が一の護衛も兼ねて」
ルキトレ「これからコハルさんをお連れします、こちらも護衛ありで」
あずき「大層……と思ったけど、これが普通だったね」
櫂「ま、重要人物だし」
ルキトレ「そちらも、仲間の方とご協力して頂けると」
紗南「おっけー!」
――パチンッ
蘭子「いざ参る!」
紗南「でもってカイさんは勝手に出てるから」
櫂「ごめんってば」
紗南「いいよ慣れたし、あたしの力不足があって、他で助けてもらってる事多いし……」
紗南「でもって、この前見つけた新しい人!」
幸子「フフーン! お仕事ですか!」
あずき「全員久しぶりだね!」
蘭子「しかしアズキ、我々は真の存在ではなく、当人と向かい合おうが一方通行の関係……」
あずき「それはそうだけど……あずきはここから動く事はほとんどなさそうだし」
あずき「本人に会う事なんてありえないから、大丈夫かな! あははは」
幸子「そうですね!!」
――ガチャッ
ルキトレ「お待たせしました」
小春「お邪魔します~」
幸子「よいしょっと、毎回不思議でなりませんけどね! こんにちは、ボクです!」
ルキトレ「彼女はこちらの一員ですのでお気遣いな……く?」
あずき「あれ……?」
櫂「お」
蘭子「?」
紗南「へ? ……ねぇアズキさん、お客様って」
あずき「お知り合い? 『エプリング』って国のコハルさん――」
幸子「あれれ? 大きな鏡がありますね、やっぱりボクはカワ」
――パァンッ
小春「ひゃっ!?」
あずき「わあっ! 何事!?」
紗南「熱っうぅ!? な、何?! あたしのメモリーカード……と呼んでる所が熱いっ!」
幸子「鏡が映しきれないほどという事ですね! 分かりますよ!」
――…………
幸子「じゃなくて!! なんですか今のは!? ボクが二人居ましたか!?」
小春「ふたり……?」
ルキトレ「同じ人物が複数……? まさか……!」
――ヒュッ
紗南「熱っつうー……え? あれ? 誰? あたし捕まってる?」
マストレ「すまない、質問がある」
あずき(え? どこから入ってきて……!?)
マストレ「私はコハルの護衛だから、攻撃しようとして抑えているわけではないのを分かってくれ」
紗南(動けない……? いや、抵抗する必要は……)
紗南「……聞きたいこと、あたしに?」
マストレ「一度、我々は『他人に化ける』に近い能力を持った相手と敵対した」
マストレ「今、サチコが二人存在したのは極めてその事例に近い……」
紗南「なら、違う……あたしは人に化ける能力者じゃないし、そんな能力持ってる仲間もいない」
マストレ「……二つ目の質問する」
櫂「ちょっとストップ」
マストレ「…………」
櫂「あたし達の主にずいぶん乱暴じゃない?」
マストレ「こっちも重要な事態なんだ、分かってくれるか?」
櫂「話なら対等に受けるべきだと思うけど?」
マストレ「では、君も武器を突きつけるのを止めてくれるかな?」
櫂「……こっちを見てないのに、武器を構えてるって?」
マストレ「どうせ構えてるだろう、理由は分からないが、ずいぶん好戦的だな」
櫂「強そうな人を見ると、気になる性分で」
あずき「ちょっと! ここで喧嘩は――」
小春「あの~」
ルキトレ「お姉ちゃんそんな突然……!」
小春「サチコさんがお二人、どこにですか~?」
幸子「いや、ボクの前に居ましたよ! 鏡かと思いましたが違いました!」
紗南「……質問には答えられるけど、このままじゃ証拠は出せないよ」
マストレ「証拠?」
紗南「……一応隠してるから、あんまり広めて欲しくないんだけどね」
紗南「あたしは人を召喚してるんじゃなくて、複製してるんだよ」
幸子「複製? ……なんですかそれ」
小春「知ってますか~?」
ルキトレ「いや……お姉ちゃんは?」
マストレ「私の専門じゃない、その知識は妹だ。……では君も偽物、になるのか?」
櫂「そ、だからあたしもホンモノじゃないってわけ」
紗南「ただ、制約があって……本人と対面したら消滅するって話だったはず」
マストレ「はず?」
紗南「今回が初めてだったから……」
マストレ「君自身の力なんだろう? どうしてきちんと理解できていない?」
紗南「深い訳があって……」
マストレ「……口頭で説明されても理解できないような代物か?」
紗南「あたしもイマイチ全部わかってるわけじゃないから」
あずき「とにかく! 過去に何があったかは分からないけど……サナちゃんはそんな事しないよ!」
あずき(そもそも聞いた話が本当なら、あのサチコさんを同行させたのは割と最近だったような……だから物理的に無理、かな?)
ルキトレ「わたし達も、今世間を賑わしている勇者さんがそんな人とは思ってませんが……」
マストレ「……少し過敏だったか、失礼した」
櫂「分かってもらえてよかった」
紗南(ややこしくしたのはカイさんのような)
幸子「だれかれ構わず使用していい力には思いませんが! ボクだからよかったものの!」
マストレ「同感だ、本人は気づかないみたいじゃないか」
マストレ「やろうと思えば、複製で悪評を広める事も出来る。……扱いを分かっていないから、尚更気をつけるべきだ」
紗南「……ごめんなさい」
・
・・
・・・
――ピッ
紗南「一緒にパーティ編成……あたしが呼び出していたランコさんも巻き込まれてるね」
櫂「ただ、直接接触じゃないから被害は少ない。すぐに出せないってだけで時間が経てば治るよ」
紗南「そう? よかった……」
あずき「ふぅ……あれ? 時間は大丈夫?」
紗南「あ、そっか、もうそんな時間か……」
あずき「気にしてるの?」
紗南「ちょっとね、今まで好き勝手に使いすぎた力かもしれない」
紗南「ただ、頼らなきゃならないのも事実だし、この力を使ってこそのあたしだとも思うから封印はしないけど……」
紗南「少しは先にお願いするってのも考えてる」
櫂「ん、いい事だよ」
紗南「だから次にここに来た時、あたしがする事が今決まったよ」
あずき「次の目標?」
紗南「うん。最初に仲間に加わった、ランコさんの本物を探す、そして謝ってからもう一度お願いする!」
櫂「問題は、彼女がどこの誰なのか完璧に分からない事だね」
紗南「実力は付いた気がするけど、調査には完全に向いてないから探すのは難しそう」
紗南「時間制限、手がかり無し、ヒント無し、こんなの無理ゲーだよ」
櫂「しばらく情報電報の一面が静かになるだろうね」
あずき「また会えない?」
紗南「時間をランコさんの搜索に全部使うから、ちょっと会えない時間が広がるかも?」
あずき「そっか……でも、あずきはいつでも待ってるから! お礼はいくらでも足りないほど!」
紗南「うん! あたしも頼りにしてるよ! またお話聞いてね!」
――シュィィン
紗南「おっと時間だ、それじゃこれで!」
櫂「ちょっと思ったんだけどさ」
紗南「何? 時間がないから手短に……」
櫂「ランコが誰か、普段何してるのか、複製に直接聞けばいいんじゃないかって……」
紗南「…………」
櫂「…………」
――シュイン
・
・・
・・・
――……バタンッ!
あずき「はぁっ、はあっ……」
あずき「し、質問攻めだよ……なんとか店内退避で事なきを得た……得てないか」
あずき(皆情報が早いよ! コハルさん達が来てた事だったりサナちゃんが来てた事まで……どこで情報仕入れてくるんだろう?)
あずき「今日は大きな予定も無いし、閉めちゃおうかな……でも、あと一回は戸締りのために外に出ないと」
あずき(うーん、でも質問攻めかなぁ、あずきも有名人? いやいやそんなことは)
あずき「よし、じゃあ一、二、扉をばーんっ!」
??「とおっ!」
――ザザザッ!
あずき「へっ?」
??「ふぅ、ようやく中に入れたよ、外は人が多くて、やっぱりみんな興味があるんだな!」
あずき「……誰?」
??「あっ! 店員さん? てことはもしかしてアズキさん?」
あずき「そうだけど……」
??「よかった! アタシはヒカル! よろしく!」
あずき「よろしく……えっとヒカルちゃん? お店は今日は――」
光「お店? ……あ、本当だ、お店だったんだ」
あずき(知らないで入ってきたんだ)
光「じゃあ何か買わないと……冷やかしはよくないからね」
あずき「ここに何をしに?」
光「そうそう、巷で話題のヒーローの原点だ! ここは是非とも来てみたかったんだ!」
あずき(サナちゃん目的かな)
光「来るだけだと思ったんだけど、人が多くて……やっぱり皆が一度は来てみたい場所なんだな、と思ったんだけど」
光「お店だったなら納得! アタシお小遣いは少ないけど少しだけなら――」
あずき「ああっ、無茶しなくていいよ! お話だけなら出来るから!」
光「えっ? 言われてみれば、なんだか高そうなお店……?」
あずき「手軽なお値段じゃないかも」
光「そうだね……くっ! 店と知らずに訪れて、挙句話だけ聞いて帰ろうなんてっ!」
あずき「そんなに落ち込まないで!?」
――…………
光「もともと、家を出て行った友達を探しにあちこち回ってたんだけど」
あずき「つい最近、サナちゃんの話題を耳にして」
光「ああ、カッコいい生き方だ、物事を解決して速やかにその場を去る、とってもヒーローじゃないか!」
あずき(実際は時間切れで大した自己主張も出来ないまま帰っちゃってるだけらしいけど……)
光「いつかは直接会ってみたいなぁ、でもどこに参上するかは本当にランダムらしいし」
光「ここに来てみたら何か分かるかもと思って訪れたら、アタシの調査不足で店なのに何も買わないで……」
あずき「それはもう大丈夫だってば」
光「すまない! アタシが英雄と呼ばれるほど強くなったら、絶対に戻ってくるから!」
あずき「そ、そう? 楽しみにはしておく……でも忙しいんじゃないの? お友達――」
光「ハッ、そうだ! アタシはみんなのところにレイナを帰さないといけないんだった!」
あずき「それはその子の名前? うーん、聞いた事はないかなぁ」
光「ここにも手がかり無しか……まったく、人に迷惑かけて、アタシが絶対に見つけてやる!」
・
・・
・・・
あずき「昨日は途中休業してシャットアウトしちゃったけど」
あずき「……今日は大丈夫、賑わいも冷めたかな? それとも誰か他から情報が入ったのかな?」
あずき(でも今後、サナちゃんと接触を試みて店に来る人も増えるのかな?)
あずき(ヒカルちゃんみたく、ただ会いたいってだけの人ならいいけど……)
??「失礼、店の人かな?」
あずき「え? あ、はいはい、あずきがそうだよ!」
??「この店の、なるだけ品質の良い布地をここにある数だけ用意してもらっても構わないか?」
あずき「えーっと、わ、結構多いね? 持って帰るの大丈夫?」
??「いや、一度に貰えないから何度か取りに来ることになるだろう」
あずき「そう? じゃあこっちも用意しやすいから大丈夫だよ」
??「それはありがたい、金銭は先に全て納めさせてもらう」
あずき「一回で? 取りに来るたびにでもいいよ?」
??「一度の方がこちらにとって都合がいいんだ、それに……先払いする必要もある」
??「この商品は購入させてもらうが、一つだけ結ばせて欲しい条件があってな」
??「一緒に“許可”も頂きたいんだ」
あずき「許可?」
??「ああ。私はとある遊技場の従業員なのだが、賞品として提供する品を探していてね」
??「このお店の品をご所望される方が多くてな、実際に伺ってみたわけだが……」
??「なるほど、これは優れた品だ」
あずき「ありがとう! あずき頑張ってるよ!」
??「しかし随分と明るい店内だ、店主のおかげかな……ところで話を戻すが」
あずき「賞品の話? 別に大丈夫だよ!」
??「む……普通、このような提案は断られると思っていたのだが」
あずき「必要な人が居るなら大丈夫! あずきの力が必要な人の所に届けばなんでもいいよ!」
??「そうか……てっきり断られると思って、いろいろと言い訳を用意していたが、助かった」
あずき「期待に沿えなくてごめんね? でも頼み事は先に話した方が心象マルだよ?」
??「今思えばそうだな、すまない」
??「業務以外で人と話すのは経験が乏しくてね、交渉は不得手なんだ」
??「気のいい店主で助かったよ」
あずき「どうも! ところで、遊技場ってどこ?」
??「……ああ、それも伝えていなかったか、てんで駄目な交渉人で済まない」
??「あまり公に構えられている施設ではないが国家『キルト』にて経営中だ」
あずき「キルト? それってここからかなり離れてるんじゃ?」
??「足を運んだ甲斐はあったよ、では名残惜しいがこれで」
あずき「うん! 暇があれば行ってみるね!」
??「次に会うのはどちらの店だろうな、では失礼するよ」
――スタスタスタ……
あずき「……うんうん、いろんな取り扱われ方をされるようになってきた、これもようやく実力で評価された結果かな?」
あずき「えーっと、次も取りに来るって言ってたよね? 用意しなきゃ……」
あずき「あれ? ……名前聞くの、忘れちゃってた!」
・
・・
・・・
あずき(さらに翌日)
――…………
??「ここがあの有名な店か」
あずき(お一人のお客様と、数十名の怖い護衛の方に囲まれててすごい怖いあずきだよっ)
あずき(昨日まで居た取り巻きと空気が違う! 真っ黒! 怖い!)
??「お主店のもんか?」
あずき「はいっ!」
??「ええ返事やのう」
あずき「それはもうっ!」
??「もしかして警戒しとるんか? 気を使わんでええ、うちのもんは厄介な気を起こさん限りは静かなもんじゃ」
??「下手な騒ぎも、ここは大人しい店聞いとる、心配せんでええやろ」
あずき「その通りでありますね! ささっと……」
??「……なんじゃこの間は」
あずき「き、気のせいだよっ! お客様と馴れ馴れしくするのは控えてるだけであります! あははっ!」
??「そうか? そういう仕組みなら文句は言わんが」
??「ええのお……」
あずき(こんなに……一昨日みたいな国家のトップの人ですら護衛は数人だったのに)
――ズラーッ……
あずき(多すぎない? そんなにすごい人なのかな?)
??「腕は確かなようじゃ、わざわざ寄り道した甲斐があったもんじゃ」
あずき「どうも……」
??「なぁお主、うちの所で専属の職に就かんか?」
??「うちの名前はトモエじゃ、これでもそれなりの組織の頭やっとる」
巴「悪い話やないと思うが?」
あずき「評価してくれるのは嬉しいけど、それでも遠慮させてもらおうかな……」
巴「ほう?」
あずき「専門だと、いろんな人にあずきが力になれないからね」
巴「店を構えとるのは、金が目的と違うのか?」
あずき「半々……いや、三・七くらいかな? 村のみんなのためでもあるよ」
巴「なら、その七のために、大金積んでも構わんうちの所で働くのは――」
あずき「逆だよ」
巴「……何がじゃ?」
あずき「割合が」
あずき「自分勝手だけど、皆のためが三で……あずきの為が七だよ」
あずき「好きでやってるんだよ、ここであずきがこうしてるのも!」
巴「志は分からんでもない、ならこの話は無かった事にしようか?」
あずき「……断ったら、拐うとか?」
巴「そんな小悪党みたいな真似はせん、正面から断られたら引き下がる」
巴「評価と勧誘は本物じゃ。うちの説得と求心力がアズキ、お主の“好きな事”を上回れんかった、それだけじゃ」
――トンッ
あずき「……え、これは?」
巴「餞別じゃ、釣りはいらん。心配せんでも、モノはきっちり貰っとる」
あずき「でもこれじゃ多いよ?」
巴「それだけ価値ある言う事にしといたる、店主の心意気にもじゃ」
巴「また今度、寄り道させてもらうからの」
――ザッ
あずき「…………」
あずき「見た目と雰囲気だけで、判断しちゃ駄目だね……?」
・
・・
・・・
・
・・
・・・
あずき「またまた翌日……」
あずき(今日は何も変な事は起きてない、かな?)
――ガラッ
あずき「いらっしゃいませー!」
??「ごめんなさい、客じゃないのよ。お話、伺ってもいいかしら?」
あずき「えーっと、その切り出し方という事は……サナちゃん関連かなぁ」
??「全部じゃないけどね、貴女の事も知りたい」
??「普段はミズキが一人で済ませちゃうんだけど、なんだか忙しいらしくて」
あずき「ミズキ? 新聞記者のお姉さん?」
??「そうよ、私も同僚……といっても、あんなに神出鬼没な真似は出来ないから、編集とかの方向のお手伝いだけど」
??「自己紹介は……した方がいいかしら?」
あずき「新聞記者さんって、あまり目立つと困るんだっけ?」
??「そうね、一応は隠しているから、一応ね? 私もミズキも他の人も」
あずき(でもミズキさんの名前を出したのはそっちが先なような……?)
??「手短に済ませましょう、構わない?」
あずき「じゃあ、店の奥で!」
・
・・
・・・
あずき(それから一日置きにいろんな人が来たよーな)
??「噂通り? これなら新しい衣装も完璧だろ☆」
あずき「そっちの布地より、こっちの方が保温性に優れてるよ?」
??「どういう意味だコラ☆」
あずき「……! ちょっとちょっと!」
??「なんでございますか?」
あずき「そんな格好で歩いてたら駄目だよ! ……ほらっ、これ着て!」
??「わぁ、これは綺麗なお着物でございます。ですが」
あずき「お金なんていいから! さすがに放っておけないって!」
あずき「これとかどうかな? でも大丈夫?」
??「いいんです! とにかく大きめの、身を隠せるような……」
あずき「何かワケあり……?」
??「私というより、一緒に行動してるもう一人が……世間に顔も広まっちゃってるから……」
??「……あっ! その、悪い人じゃないんですよっ!」
あずき「そ、そうなの?」
??「…………いいですなぁ」
あずき「気に入ってくれた?」
??「わぁっ! て、店主の方でしょうか?」
あずき「そうだよ! どうかな、あずきのお店?」
??「いやぁ憧れますなぁ、この着物ならばさぞ――」
あずき「演劇の衣装合わせ?」
??「本物です!!」
あずき「なんて、複数パターンがあったけど、今日はお休みの日だから誰も来ないよ!」
あずき「いつもより疲れちゃってるから、本当にお休みかなぁ」
あずき(普段は外に遊びに行ったり、材料調達! なんだけど、こんなに疲れたのも珍しいよ)
あずき「……これも、安心してお店を構えたり、そのお店を間接的にでも宣伝してくれたサナちゃんのおかげかなっ!」
あずき「よーし、やっぱり今日も一日頑張るよっ!」
――コンコン
あずき「……?」
あずき(今日はお休みだよ? でも、店の正面じゃなくて裏口のノック……誰だろう?)
あずき「はーい、どちら様?」
??「あのぉ~……ここはお洋服のお店ですかぁ~?」
あずき「ちょっと違う? お洋服じゃなくて和服? 着物?」
??「お着物でしたか~。 ……少し、お願いがあるんですがぁ~」
あずき「なになに? ……あれ、よく見たら」
??「そ、そうなんです~……このままじゃ風邪引いちゃうので……」
??「布の一枚でも構いませんから、お裾分けしてもらえませんかぁ~?」
旧都区国家『サミスリル』へ向え、という指示を経典に与えられたウヅキ一行。
目的地の所在は有名かつアンズによる地図の提示により迷うことはなかった、
途中の森林地帯は凶暴な獣も出没するが、一行には大した驚異にならず……
卯月「どう?」
未央「たぶん明日に控えて色んな人がここを通ってるんだね」
凛「もう、あらかた駆逐された後かもね」
未央「そこらじゅうに転がってるし……」
卯月「道中は苦労しなさそうだね」
凛「獣には、ね」
未央「どういう事? ここに野盗が居るなんて情報は……」
凛「私達と同じ参加者が、張ってるかもしれない」
卯月「参加者って、今から向かう国で行われる『栄光の聖剣』を取る為の?」
未央「明日が本番なのに、どうしてこんな森で張る必要が?」
凛「例えば、参加者が本番で戦う相手を減らす為とか……」
卯月「……!」
凛「もしくは、単純に集まってくる参加者を狙った物盗りとか……!」
凛「…………しっ」
未央「ん……何か音がしたような」
卯月「まさか、リンちゃんの言った通り……!?」
凛「可能性は……ある。警戒を緩めないで」
未央「ど、どこからでも来いっ……!」
凛(森の中、静かな空間だから音が大事……耳を澄ませば……)
――……ザッ
卯月「足音……!」
凛「人、だね」
未央「見て! あそこ!」
??「あれっ、こっちじゃなくてぇ……どこに行っちゃったんだろう」
凛「止まって」
??「二人……じゃない、三人?」
未央「あなたは誰?」
??「すいませぇん、この近くで……お二人と似たような人を見ませんでしたかぁ?」
凛「……私と?」
未央「私?」
??「色味が、ですけどねぇ?」
凛「残念だけど私達は私達以外の人と遭遇してない」
??「そうですかぁ……どこ行っちゃったんだろう」
未央「ここには何しに来たの?」
??「それはぁ、この先の国で始まる催しに出るためなんですよ! えへへ♪」
卯月(やっぱり目的地も同じ)
凛(ただ、本当に普通の参加者だね、こっちに敵意は無いかも)
未央(じゃあ大丈夫だね?)
卯月「えっと、それで――」
??「……! 危ない!」
――ガサッ
凛「ウヅキ! 後ろ!」
卯月「えっ?!」
??「てやぁっ! 一閃!」
――ザンッ!
凛「っ! ……倒した?」
??「大丈夫でぇっす!」
卯月「あ、ありがとう。ここら辺にはもう残ってないと思って油断してたよ」
未央「それにしても一刀両断だね、そんなに大きい剣でも小さな敵でも無かったのに」
??「鍛えてますからぁ♪」
――ガサガサッ
亜子「おー、やっぱり音のする方角へ向かったら見つかったわー」
泉「勝手にどんどん進んで……あれ?」
卯月「あれ? アコさんと……」
凛「イズミ?」
??「アコちゃん! イズミン!」
未央「知り合い? ……じゃない、もしかして?」
亜子「おー、またまたお会いしましたなー! 皆さんも、もしかしてもしかします?」
泉「怪我は大丈夫?」
凛「怪我?」
泉「あれから増えてない? って事。 危ない事件に関わってそうだから」
卯月「大丈夫、だよね?」
凛「一応はね」
泉「……ここでお会いしたのは、たまたま移動中だったからですか?」
卯月「そうだよ?」
亜子「なら早めに移動しましょ、森の中は今は危ないですわ」
未央「危ないの?」
亜子「ええ、そりゃあもう。大会参加は誰でも出来ます、それに安全と銘打ってます」
凛「それは知ってるよ」
泉「だからこそ、ちょっと失礼な言い方ではありますが……軽い気持ちで、自身の実力が釣り合わない人も夢を見て参加します」
亜子「そんな半人前を、監視が多いサミスリル本国じゃなくて、道中で狩ろうっちゅう輩がおるんですわ」
卯月「へぇー……そ、それは……」
??「んもう、だから早く行こうって言ったのに」
泉「さくらは早く行き過ぎなの」
未央「サクラ?」
さくら「はぁい♪ サクラ=ムラマツでぇす! 今はお友達のお友達、そのうちライバルですぅ!」
卯月「よろしくね、サクラちゃん!」
泉「宿の確保や準備が必要だから、早く向かうよ」
亜子「レッツゴーですわ! 六人も居たら道中恐るるに足らず!」
未央「出発!」
さくら「進行でぇす!」
――…………ザッ
奈緒「……多すぎるなぁ」
奈緒(同じ様な狙いの賊も多いっぽいし、あんまり美味しい狩りじゃなくなったな……)
奈緒「参加申請って、一人だったら無理なんだよなぁ……なんでこんなシステムにしてるんだろ」
奈緒「ま、現地に行けば新しい何かも見つかるかもしれないし……一旦離れるかー……」
――……ザッ
沙紀「ふーん……」
沙紀(良いも悪いも大集結、って感じっすね)
沙紀「あの経典組がこんな目立つ国に逃げ込みはしねーと思いますけど」
沙紀(それ以外の標的も見つかるかもしれないっす、なら行く価値は……ある)
沙紀「さて、問題は参加申請が通りそうにねーって事っすね」
沙紀(一人ってのも問題だし、アタシ自身もグレーな人っすからねぇ)
・
・・
・・・
卯月「到着、かな?」
さくら「すごい人の数ですねぇ!」
亜子「ん、何か妙ですわ、何回もここ来た事あるはずなんですけどね」
泉「人が多いけど、ここは目的地じゃないよ」
凛「目的地じゃない?」
泉「ええ、今日明日は特別に人が多いからこんな事も有り得るみたい」
泉「街に入れない人が、外まで溢れかえってる」
未央「……てことは、ここはまだ全然外なの?」
亜子「ああ、そういう事ですかー、道理で出店ばっかり……まるで祭りですなぁ」
卯月「お祭りはお祭りだけどね」
凛「ただ……さすがに前日だけあって、既に同じ目的の人が集まっているみたい」
さくら「分かるんですかぁ?」
卯月「微かにだけど……私も感じる? ピリピリしてるっていうか……」
未央「ここに居る人は、そういう人なんだよね?」
亜子「お三方、もしかしてご存知の方とかお知り合いの方が見つかるんとちゃいますか?」
卯月「探せば見つかるかも……」
さくら「お友達は一緒に歩く方が楽しいですよぉ!」
未央「そうだね! じゃあ探してみる?」
泉「さくら、それはライバルが増えるだけだからあんまり……」
卯月「あ、そっか! 私達はいいけど皆さんはそうでもないんだよね……」
泉「……私達はいい? 知ってる顔が多いほど、勝ちにくくなるんじゃないの?」
亜子「んー、よう分かりませんけど手の内分かってる相手って事とちゃいます?」
凛(私達は大会に参加はしても、勝つ必要はない……って意味なんだけどね)
卯月(心構えが違うと、うっかり発言しちゃいかねない……)
未央「でも探しても探さなくても、そのうち誰かに会いそうだね」
さくら「人、いっぱい居ますよ?」
未央「いっぱい居ても遭遇しちゃうんだなコレがー、惹かれあうって形で」
泉「そんな、能力者じゃあるまいし……」
――ザッ
卯月「……あっ!」
未央「おっと早速見た事のある顔が……どしたの?」
卯月「あの人……」
凛「どこ? 知ってる人が居たの?」
亜子「あー、お会いしましたなぁそういえば、さすがあのお方は商売熱心で」
未央「……あ、そっか、しぶりん会ってないかも? というかしまむーも会ってないよね?」
卯月「私は会った……言ってなかったけど、攻撃された」
凛「えっ?」
泉「アコ、あの人? 私も知ってるけど……攻撃するような人だった?」
亜子「さぁ……でもそう言ってはりますし……」
――…………
つかさ「やっべ、人多すぎでつれーわ、歩きにくいったらありゃしない」
つかさ「……っと、あんまり人と接触ヤバいからさ、アタシは物理的にキレる女だし」
??「あっ! ツカサちゃーん!」
つかさ「……アタシをそんな呼び方するのは誰だっての。ま、十中八九」
早苗「何々? そっちは成り上がり目的?」
つかさ「そっちはって何だよ、そっちだけっしょ」
早苗「人聞きの悪い、あたしは参加者側だけど監視も兼任よ?」
拓海「誰にも頼まれてない上に、頭数足りねーからってアタシ引っ張ってくんなよ……」
つかさ「ああ、噂の相棒?」
拓海「誰が相棒だ」
早苗「固いこと言わない。紹介するわよ、こっちがツカサちゃん、こっちがタクミちゃん」
拓海「ちゃん付けやめろっての」
つかさ「右に同じ、下に見られてる感あるね」
早苗「下になんか見てないわよ? 仲良くしましょうって事」
つかさ「……プライベートだといつもこんな感じ?」
拓海「もしかしてお前仕事中のコイツを最初に見たのか、なら今からでも遅くねぇ、縁切っとけ」
早苗「こらこらこら変なこと吹き込まない、頭ぶち抜くわよ」
亜子「声掛けに行かなくて結構なんです?」
卯月「うん……行こ?」
未央「タクミさんはいいけど……」
凛「他は関わると面倒、なの?」
泉「有名な人だから変な絡み方はされないと思うけど」
未央「もう今まさに変な絡みをツカサさんがされてる気もする」
さくら「仲が良さそうに見えますけどぉ……」
亜子「触れたらアカン奴らしいわ」
卯月「でもサナエさんが居るのは……」
凛「とことん正義の人だったからね、もしかすると……怪しい人や悪意ある人も集まってる、って事かな」
亜子「それは仕方ないっちゃ仕方ありませんわ」
さくら「お祭りだからねっ!」
卯月「そもそも、今までよく秘宝を守れてたかも謎……?」
未央「よっぽど強固な守りだったのかな」
卯月「それを、どうして今になって手放そうとしているんだろう」
??「手放すわけじゃない。今の世界の状態を見兼ねた新代表が、託す相手を募っているだけですわ」
未央「えっ? ……この声!」
泉「これは……」
卯月「コトカ……さん?」
琴歌「ここに来ているという事は、あなた達は秘宝目当てなのね?」
さくら「はぁい、そうです!」
亜子「そんな正直に答えんでも! ……えーと、もしかして」
琴歌「知らない顔ではありません、そちらの三人は? また賑やかなお仲間さんですか?」
凛「ただの……知り合いだよ」
琴歌「そうですか、ふーん……参加する側、でしょうね」
琴歌「これ以上の独占は控えたほうがよろしいのでは? ……ま、私には関係ありませんわ」
さくら「独占?」
未央(……秘宝の事は勘付かれてるね、当然だけど)
琴歌「そんな景気よく敵を増やす真似も避けた方がいいでしょうね?」
卯月「関係ない……? 参加か、奪いに来たんじゃないのですか?」
琴歌「どうやら大きな誤解があるようですわ、私は大会になど興味はありません」
琴歌「ただ、この会場に来ているはずの『とある人物』を探さなくてはなりません」
泉「ここに来ている……」
亜子「コトカさんの立場やと、運営側ですやろか?」
琴歌「それが誰かなどは知る必要はありませんし、仮に知っていたとしても答える必要はありません」
琴歌「助けを求めてあなた達と接触したわけではありませんからね」
亜子「……ごもっともですけど」
琴歌「では私はこれで。……ああそうですわ、もしも聖剣を手に入れたら、保護監視下に置いても構いませんよ?」
卯月「お断りしますっ!」
琴歌「そう? ではごきげんよう……」
さくら「行っちゃいましたけどぉ」
泉「知り合い……と言っていましたが、どういった経緯で?」
未央「ちょっとやんごとなき事情が」
泉「事情って……貴族位の人とそう簡単に顔見知り、しかも相手から話しかけて来るほどに……」
亜子「イズミ、この方達の人脈は突拍子も無い繋がり方するから深く考えん方がええで」
凛「偶然が重なっただけだよ、不本意な事もあるし」
卯月「でも、本当にいろいろな人が……他にもいるのかな?」
未央「あんな感じに遭遇するなら、なるべく潜んだ方がいいかなー……」
凛(どちらにせよ、あまり目立たない方がいいのは事実だからね)
亜子「せやったら早めに空いてる宿でも見つけましょ、同じところで構いませんか?」
卯月「……どうしよっか?」
凛「宿は必要だけど、無理に一緒の必要はないんだよ」
さくら「分かれるんですかぁ?」
凛「……逆に、無理に分かれる必要も無いとは言えるけど、二部屋空いてる宿を探すのも大変でしょ?」
泉「そうね、分かれるのには賛成。お互い、明日の対策会議もあるだろうし」
卯月「なら、一旦分かれましょう!」
さくら「はぁい! また明日お会いしましょうねぇ!」
亜子「明日会った時は下手したらライバルなんやけどなぁ……」
――…………
未央「ちょっと街の中心みたいな所に来たけど」
卯月「凄い人の数……!」
凛「荷物大丈夫?」
未央「ばっちり! でもこれじゃ本当に歩けないほど……」
凛「宿、空いてるかな……?」
卯月「とにかく片っ端から入ってみよう! 偶然空いてるかもしれないよ?」
凛「だといいけど」
未央「じゃあ一件目訪問で!」
――バタンッ
卯月「空いてなかったよ……」
凛「そっちも?」
未央「進捗ダメです」
卯月「事前の予約でいっぱいだって」
未央「私達は急にここに来ることを決めたからね……そりゃあ空いてないか」
凛「でも実際どうする? 前日に徹夜は辛いかな」
卯月「まだ頑張って探すしか――」
??「あれっ? ウヅキちゃんだ? それに他の二人も?」
未央「ん? あ!」
智香「お久しぶり? 最近色々あったらしいけど、大丈夫そうだねっ!」
凛「トモカさん? どうしてここに……いや、理由なんて一つしかないかな?」
智香「ほら、興味があるというか……そんなのじゃないんだけど」
智香「優勝とまではさすがに行かないけど、クリーンで安全なお祭り大会だから?」
卯月「お祭り……? この催しって、他の人にはそんなイメージなのかな?」
未央「気楽な感じにしないと、人が集まらない……って事?」
智香「お店もツバキさんが見てるし、アタシは楽しみに来ただけだよっ」
智香「で……この時間に荷物を持って三人が立ち往生、って事は」
未央「お察しです……」
智香「駄目だよ、こんなの予想できる事態なんだからね?」
凛「急にここへ訪れる予定が出来たから……」
未央「宿が確保できない事態に」
智香「うーん……料金追加になっちゃうし、元は二人部屋だから狭いけど――」
卯月「お願いしますっ!」
未央「早いっ! けど私からもお願いします!」
智香「了解っ、それじゃあちょっと離れてるけど宿に向かおっか」
凛「ウヅキ、もう向かって大丈夫?」
卯月「え? どういう事?」
凛「いや……特に用事がないなら向かってもいいけど」
智香「あまり出歩くと疲れが溜まっちゃうよ」
凛「……それもそうだね、じゃあご行為に甘えようかな」
――ガラッ
智香「すいませーん、鍵を受け取りに来まし――」
沙紀「いいじゃないっすか、減るもんじゃないし」
千鶴「私の空間が減ります」
沙紀「二人部屋に一人っすよね? じゃあ片方くらい宿無し人間に分けてもらってもいいじゃないっすか」
千鶴「そもそもあなたは誰なんですか? 見ず知らずの人にこんな要求をする、されるなんて」
沙紀「アタシはサキっす、気づいてると思いますけどあなたと同じ目的っす」
千鶴「はいそうですか、だからといって考えは変わりません」
沙紀「ケチっすね」
千鶴「いたって自然な応対と思っていますけど」
智香「ちょっと立て込んでそう……かな?」
未央「ややこしいお客さんだったり?」
凛「あれって……」
千鶴「時間を掛けるから他の客に迷惑が……ん?」
凛「……知らない顔じゃないね」
卯月「あれ? 知り合い?」
凛「そこまでじゃない、少しの間だけ一緒に動いた事がある程度……成果はあった?」
千鶴「あの屋敷についてなら、特に何も得るものはありませんでした」
卯月「屋敷? いつの話かなぁ……」
凛「私と初めて会った時の話、結局は何も見つからなかったみたいだけどね」
未央「それで今は何を? 受付の前でお話していたみたいだけど」
沙紀「おっと知り合いの方っすか、アタシはサキって言うんですけど聞いてくださいよ」
千鶴「ここで時間を無駄にするつもりはありません」
沙紀「またまたそんな」
卯月「何かお困りなんですか?」
沙紀「このままだとアタシ宿無しっすよ、そんな所に訪れた予約済みの一人客っす」
千鶴「混雑は予想出来て当然です、自業自得です」
未央「うっ、頭が」
智香「あははは…………」
沙紀「一人でしょ? どうせ用事もなさそうだし、いいじゃないっすか」
千鶴「用事はあると言っているでしょう……明日何があるか、知らないわけないですよね?」
沙紀「あれ? 参加する側なんすか?」
千鶴「当たり前でしょう。……名を広めるにはちょうどいい舞台です」
千鶴「それに……安全ですからね」
未央「……?」
卯月「えっと……」
凛「チヅル、だったね?」
卯月「その、チヅルさんは参加目的なんですか?」
千鶴「そう言ってるじゃないですか」
沙紀「んー……もしかしてと思うんすけど」
千鶴「何ですか、まだ私に言う事はありますか?」
沙紀「大会って身元保証と、優勝賞品の単独占拠を防ぐために最低でも二人組じゃなきゃ駄目なんじゃないすか?」
千鶴「…………はい?」
沙紀「へ? いや、二人組じゃないと駄目なんすよ?」
千鶴「どこの情報ですか」
沙紀「どこって……ずいぶん前から発表されてるんすけど」
智香「あれ? そうなの?」
卯月「どこかで聞いたような……?」
沙紀「え、なんすかその反応……そういうのって調べてから来るんじゃないっすか?」
千鶴「……待ってください、では私は?」
沙紀「いや知らないっすよ」
千鶴「何ということ……そんな、リサーチ不足なんて」
未央「ああっ! そこで落ち込まないでっ!」
卯月「私達も知らなかったからきっと他の人もそんなに知ってる人は居ませんよ!」
凛「それはそれで広報不足だと思うけどね……」
智香「でも困っちゃうな……それだとアタシも一人だね」
沙紀「本当に出場目指してるんすか皆は……なんというか……雑っすね」
千鶴「言わないでください……」
智香「ウヅキちゃん達の知り合いなんだよね?」
凛「正確には私かな」
智香「そう、悪い人じゃないみたいだし……もしよかったら明日だけでもアタシと、どう?」
千鶴「……いいんですか?」
智香「期待に答えられずに足引っ張っちゃうかもしれないけど」
千鶴「構いません……今はとにかく開始位置に立つ事が重要です……!」
未央「おぉ? なんだか纏まっちゃったみたい?」
沙紀「あれあれ、後出しに負けちゃったみたいっすね自分」
千鶴「条件が違いすぎます」
沙紀「一理あるっす、自覚ありましたから。ま、宿が取れないならアタシは別の所へ行くっす」
千鶴「無駄だとは思いますけど」
沙紀「やってみなきゃ分かんないっすよ、それじゃ――」
――バタンッ
沙紀「…………」
沙紀(ちょっと横道に逸れるのは仕方ないっすね、さっさとフミカとメイコって人を追いかけたいんすけど)
沙紀(人が集まるだろうからココに来たものの……よく考えると、逃げる相手がこんな人気の多い所には来ないっすね)
沙紀「ま、どの道参加は一人じゃ出来ないっす、それまでは……」
――スチャッ
沙紀「もうちょっとだけ、半人前相手に稼がせて貰うことにしますよっと」
・
・・
・・・
奈緒「……増えてる」
奈緒(さすがに二日も張ったら噂が立つし、標的が警戒するのは分かるけどさ)
奈緒「それにしちゃあ……減り方が妙、早すぎるっての」
奈緒「つまり……アタシ以外にもココで狩りしてる人が居る、でもって昨日より明らか増えてる」
奈緒(昨日はそれでも一旦離れたら回復したけど、もう獲物は期待できないっぽいし)
奈緒「アタシも街中入ってみるかな……今日はそこら辺で野宿かぁ、宿なんて空いてないだろうし」
奈緒「ま、幸い外で宿泊出来るような一式は狩れたし、これで一晩過ごすか!」
――…………
奈緒「……寒みぃ」
・
・・
・・・
卯月「うーん、おはよ……うわぁ」
未央「おはよう! もう外が朝から賑やかで騒がしいよー」
智香「起きた? もうそろそろ本番に向けて準備した方がいいよ」
卯月「もうそんな時間……リンちゃんは?」
凛「居るよ。会場はいつ開くの?」
千鶴「ちょうど正午です、移動に時間は掛かりませんがトモカさんの言う通り、準備は早い方がいいでしょう」
未央「準備万端! いつもより多めに取り出してるよ! ほれジャラジャラと」
凛「武器を見せびらかさない」
未央「はーい」
智香「元気なのはいい事だよっ☆ はい朝ご飯!」
卯月「わぁ! 頂きまーす!」
未央「おお、さすがお店のお手伝いさん!」
――……ガヤガヤ
凛「改めて……宿を出た途端に人の波の中だね」
未央「さすがお祭り当日……あいたっ!」
智香「あっ! ごめん! 足踏んじゃった、大丈夫?」
未央「なんのこれしき!」
卯月「方向はこっち……波に紛れていけば到着するかな?」
――ザッ
さくら「あ、昨日の! おはようございまぁす!」
亜子「よう眠れましたか? というより宿ありました?」
卯月「おはようございます。無事寝床は確保出来た、大丈夫です!」
泉「よかったわね、もっとこっちも手伝えればよかったけど……」
未央「いやいや、おかげで他の人にも会えたから良かったよ!」
智香「お友達? よろしくねっ☆」
さくら「こちらこそ!」
凛「それじゃ、行こっか」
亜子「行きましょ行きましょ、会場はあっちですわ」
未央「よーし、気合十ぶ……あいたたた!」
千鶴「あ、申し訳ありません」
未央「うむむ、幸先悪いなぁ……」
――ザッザッ
さくら「ここが入口ですねぇ!」
亜子「さすが大きい会場というか広場言いますか……何百、いや何千なんでしょか?」
泉「そこまで大規模かしら?」
凛「でも世界中から集まってるんじゃないの?」
泉「いいえ、確かに広い地域の人は集まってるけど全世界じゃない」
未央「そうなの?」
泉「だってあまりにも余所者に国の秘宝を渡すわけにはいかない、直轄地か同盟国あたりの人のみが参加できるはず」
智香「なんだか、思ったよりも規制が厳しいんだね?」
卯月「でも入場するところにそんなの調べてる様子は無さそうだけど……」
泉「きっと予選で弾かれる、試験なんてそんなものよ」
千鶴「……もっと公言すればいいのに」
さくら「でも、もしかしたらこういう事かもしれないですよぉ?」
さくら「『それくらいの情報を手に入れてない人は資格なんてない』みたいなぁ……」
智香「うーん…………」
千鶴「…………」
亜子「あっ、えらいすんません……この子天然なんですわ」
千鶴「いえ、事実は事実ですから……」
拓海「……お、見知った顔が居る――なんだ暗い顔しやがって、葬式会場じゃねぇってのここは」
卯月「あ、タクミさん!」
未央「……って事は?」
拓海「アタシ一人だよ……なぁ、そんなにアイツとアタシって一緒に行動してるように見えるか?」
未央「へ? あ、えっと、誰の事かなぁ?」
拓海「サナエだよ。アイツが居ないのに、いる前提で話したろ今」
卯月「あはは……な、仲が良さそう、に思ってるからかな」
拓海「あー……そう見えるかー、難しいもんだよな……」
未央(昨日一緒に居る所を見てたから、とは言わない方がいいのかな)
拓海「悪い奴じゃねぇってのは分かってんだけどよ……って、そんな事は今どうでもいいっての」
拓海「参加側なのか? そっち……は一部知らない顔だけどよ」
さくら「さくらでぇす!」
泉「イズミよ」
拓海「ん、ああ……わざわざ自己紹介させちまった、アタシはタクミだ」
拓海「……ちょっといいか?」
卯月「えっ?」
――サッ
拓海(お前らって経典持ってるんだよな)
卯月(えっと、そう……ですよ? 確か知ってましたよ、ね?)
拓海(その通りだけどよ、なんでわざわざ目立つこんな所に出てきたんだ? 二個も秘宝取るつもりかよ?)
卯月(えぇっとそれは……)
拓海(ああ、降りろって訳じゃねぇんだけど……アタシだって別に興味ないし、アイツの付き添いってだけだからな)
拓海(で、話戻す。なんだかお前らが絡むと異様に大きな“裏”と関係することが多くなる気がしてよ……)
拓海(コトカの一件でも、その後のミオと会った時もだ、予想よりずいぶんデケー組織が関わってる案件になっちまう)
拓海(今回も何か、ワケありか?)
卯月(それは……)
早苗「あー、居た居た!」
拓海「うお……っと、なんだお前か」
早苗「お前とは何よ、今はパートナーでしょ?」
拓海「今だけな」
早苗「えー? もう、いつまで拒絶するの……あら?」
未央「ありゃ」
早苗「三人お揃いで、昨日ぶりね」
卯月「えっ?」
早苗「え、何その反応、昨日は見たけどお話しなかっただけでしょ? もう、勿体ない」
凛(気づかれてた……?)
早苗「まぁ色々あったけど、あれは仕事だからね? 互いに恨みっこなしよ?」
亜子「何しはりましたん」
未央「えーと……」
早苗「私の不調の波の起点よ、もう最近何事も上手くいかなくてちょっと困ってたのよコレが」
早苗「ま、おかげで自分を見つめなおす機会にも、面白い相手にも出会えたし!」
拓海「見直してコレかよ……」
早苗「何か言ったかしら」
拓海「痛ってぇ! 踏むなっての!」
さくら「賑やかな人たちですねぇ♪」
智香「そうだね!」
千鶴「賑やか……?」
卯月「えっと、さっきの件ですけどタクミさん」
拓海「ん?」
卯月「まだ分からない……とだけお答えしておきます」
拓海「……そうかい、まぁ十分に警戒しておくさ。必要になったらいつでも使い走れよ、それくらいしかアタシはできねぇからよ」
卯月「はい、お願いします!」
早苗「何々? 内緒話?」
拓海「うるせぇ、じゃあアタシはこれで……と思ったけど、最後に」
――ガサッ
拓海「まだ貰ってないみたいだけどよ、この箱」
卯月「箱?」
亜子「あー、言われてみれば周りは結構持ってはる人おりますなー」
拓海「あっちで順番に参加一組につき一つ渡されてる。まだ開けるなとは言われてるけどよ」
智香「配ってるんですか?」
千鶴「用途は? 何にせよ、持っておくに越した事はないでしょうか」
拓海「これが参加証明書になるのか、それとも予選の課題なのか……どうだろうな」
さくら「これですかぁ? 貰ってきましたよぉ!」
智香「都合ここに四つの箱が集まったけど……中身、分かる?」
凛「振っても音はしない」
千鶴「手のひらに収まるサイズですが、特別魔力の類も感じません」
亜子「今は開きませんけど、上の部分が蓋になってますなぁ……プレゼントの包装と似たようなもんですわ」
拓海「奪い合いとかなら分かりやすくていいんだけどよ」
千鶴「そんな事をすれば暴動が起きます……!」
拓海「分かってるっての。けどよ、それじゃなかったらわざわざ配られたコレは何だって話なんだよな」
卯月「始まってみなきゃ分からない……もしかして爆発なんて」
亜子「そら勘弁してほしいところですわ」
千鶴「安全という触れ込みでそんな事は無いでしょう」
卯月「持っておけば大丈夫かな……もうすぐ時間だし、説明もきっとあります」
泉「そうね。……噂をすれば、見て」
――ザッ
拓海「アレが国家の重鎮さんか?」
千鶴「いや……この国の上層の人物とは違います、おそらくただの協力者の中の一人でしょう」
さくら「どこですかぁ? 見えませんっ」
未央「大丈夫、映像も出るみたいだし……声は聞こえるはず!」
??「皆様御機嫌よう、わたくしは当祭事を国家より任されたうちの一人ですわ」
??「ただの予選審査員の一部と思っていただいて構いませんことよ」
亜子「……やっぱり、さすがに大きな大会ですわ」
凛「子供……に見えるけど」
亜子「リンさん、この業界この世界は見た目で人を判断したらあきませんよ」
??「軽い自己紹介でも。わたくしモモカと申します、聞いた事がある人も居るとは思いますけども……」
桃華「任されたと言って、独断で仕切っているわけではないと断っておきますわ」
早苗「ふーん……じゃあひとまず安心かしら」
拓海「おい、どういう事なんだ?」
早苗「貴族位よ? 権力者よ? そんな人が“自身より下位の人物”に秘宝を渡す課題を決めたらどうなる?」
早苗「きっと無理難題が飛んでくるわ、もしくは誰か送り込んだ刺客を突破させるための課題を出すとか」
拓海「んな卑怯でめんどくさい事すんのか?」
早苗「さぁね、でも彼女が秘宝を手に入れる刺客を送っていなくとも、他は分からない」
拓海「他ァ?」
早苗「参加できない身分の人が代理を放ってる可能性なんて十分あるでしょ? それを蹴落とす為の課題も出せるのよ」
拓海「で……独断で仕切ってないっつーことは、そんな課題は出ねぇって事か」
早苗「そういう事」
桃華「では皆様……既に受け取っているものがあるはずですわ」
智香「さっきの箱かな?」
千鶴「そうでしょうね」
桃華「開けようと試みて失敗した人も、無理矢理開けた人も居るでしょう? ですが今はすんなりと開くはずですわ」
凛「ウヅキ、開けてみよう」
泉「さくら、開けて?」
さくら「はぁい♪ よいしょっと」
――パカッ
卯月「これ…………何?」
千鶴「もしかして……」
智香「何か分かる?」
千鶴「いえ、これが“何の”かは分かりませんが……」
桃華「中に入っているものは未来区の技術によって生産された“移動式を発動させる機械”ですわ」
亜子「何ですと?」
凛「何? どういう事……?」
千鶴「機械が移動式を……そんなもの今まで製造されていないはずでは?」
桃華「お静かに、ここにいらっしゃる方の大部分が同じ疑問を浮かべたはず……そんなものは存在しないと」
桃華「確かに魔法と科学は相反するもので、片方により片方を起動させるのは不可能……とされていますわ」
泉「……中身、機械だけど微かに魔力は感じる」
卯月「うーん……私は分からないかなぁ」
未央「しまむー魔力に敏感なのに」
卯月「うう、また役に立ってない私……」
桃華「では……予選に値する課題を発表しますわ」
――シン…………
桃華「不可能とされている科学と魔法の結合、しかし……実のところ、少し手間を掛けることで組み立てる事は可能……!」
桃華「ですが効率が悪く、一般運用には今ひとつとされていますの」
桃華「だから表には出回っていない……馴染みのない物体のはず」
千鶴「…………」
智香「まだ見てるの? 何か分かった事がある? これは移動式らしいけど……」
千鶴「分かった事……というより、気になる点があります」
千鶴「この機械と式は……あまりにも簡素すぎるような気がして」
千鶴(こんな簡単な式が、今まで不可能とされていた技術……?)
桃華「そろそろ勿体ぶらずにハッキリと言いましょう、その移動式は次の会場へ移動する為の式ですわ」
凛「次の……?」
未央「え? じゃあ予選って……何?」
亜子「……なるほどなぁ、そういう事ですか」
卯月「えっ? 分かったの?」
亜子「さくら、ちょっと貸してみ? ここはアタシの出番や」
さくら「アコちゃんもう何か分かったの? 凄ーい!」
亜子「次の会場へ行く為のキーがコレなら、起動させる事が課題やな! もろたで!」
凛「……そうか!」
亜子「移動式は当然魔術や、機械が色々取り付けられとっても魔力直接送れば……!」
――キィン…………
千鶴「……何も、起きない?」
さくら「失敗しちゃった?」
亜子「な、なんでや!? アタシこれでも三人の中で一番魔力ある方やで!?」
桃華「勘の良い方は早々に課題を把握したようでして……そして同時に気づきましたわね?」
桃華「その式には“欠陥”がありますわ、通常そのままでは使用に耐えない……失敗作!」
卯月「壊れてる……? そんなものをどうして配って――」
桃華「課題は単純、その“壊れた移動式”を活用し……陽が沈む前に次の会場へと到達する事!!」
桃華「そうですわね……陽は頂点、ここからなら六時間もしないうちに時間でしてよ」
――ドドドッ
未央「うわっと!?」
泉「っ……! 一斉に人が外に……!」
桃華「賢い選択ですわ、未知の道具をわずか六時間で理解して修復するには一刻も惜しいでしょう」
桃華「あなたは人脈、技術、知識、どれを用いて突破しますの?」
凛「機械の修復……?!」
未央「し、しまむー……しぶりん……そんなの私達じゃ無理じゃない?」
卯月「かもしれないけどっ……と、とにかく一旦宿に戻りませんか!?」
智香「そうだね……ここは人が多いし集中できないよ」
千鶴「……あの三人は?」
卯月「え?」
未央「アコちゃん達は……?」
千鶴「きっと解決手段があるんでしょう、そしてそれを見られたくないから」
凛「もう行動している……私達も動かなきゃ……!」
未央「で、でも何をするの!? 機械の専門家なんて私達の中には――」
凛「居ないなら聞けばいい……宿から通信で外に……!」
卯月「……そ、そっか!」
凛「片っ端から行くしかないけどね……!」
・
・・
・・・
桃華「ふぅ」
??「お疲れ様、あんなにいっぱいの未完成品を何に使うのかなと思ったけど、こういう事?」
桃華「そっちこそご苦労様としか言えませんわ、わたくしが言うのも何ですがどうやって用意しまして?」
??「一つ用意して、後は複製複製の鼠算だよ♪」
桃華「粗悪品を作る為に最先端技術を使う、驚きですの」
??「何事も効率、そう教わったからね? モモカちゃんに」
桃華「ええ、そうすれば間違いなどありませんわ、セイラさん」
聖來「……で、この試験はどうすれば合格なのかな?」
桃華「気になりまして?」
聖來「一応、ちょっとだけ♪」
桃華「とは言いましても、特別な事は何もありませんことよ? ただ“辿りつけばいい”だけですもの」
聖來「でも移動式が壊れているんでしょ?」
桃華「直せばいいでしょう?」
聖來「そんなの、機械の専門家じゃなきゃ無理じゃないかなぁ」
桃華「無論その通りですの、最も……専門家でも数時間という限られた時間では困難を極めますわ」
聖來「じゃあ一体どうやって?」
桃華「臨機応変な対応、柔軟な発想。得ようとしている秘宝は、この程度の障害を越えられない人に与える価値はありませんのよ」
聖來「んー……難しいなー……」
・
・・
・・・
早苗「壊れているわね」
拓海「んな事は分かってんだよ、そこからどうすんだよ?」
拓海「直すにしたって見た事も無い機械だし、移動式にも当たり前だけど詳しくないだろ?」
早苗「そうね」
拓海「じゃあ、どうすんだよ?」
早苗「直せばいいのよ」
拓海「だからよ……直すって、魔力と科学が混ざった機械なんて触ったことも――」
早苗「直すといっても、これが正しく機能するように直すわけじゃないのよ」
拓海「……はぁ?」
早苗「そもそもこの機械、ちゃんと起動するのかしら?」
拓海「いやいや、起動しなかったらどうやって会場に辿り着けばいいんだよ」
早苗「それを考えるのが今の私達の仕事でしょ?」
拓海「とにかく中を見ない事には構造も仕組みもわかんねぇ、案外シンプルかも……」
早苗「そんな簡単に解ける課題な訳ないでしょ、まずは念入りに外側から……ん?」
拓海「どうした?」
早苗「……この機械に、移動式を稼働させる効果は無い」
早苗(よく観察してみると……本当に、思ったよりもシンプルで、見た事のある機構が多い?)
拓海「外ばっかり見てていいのか?」
早苗「なーんか、理由は分からないけど外だけ見ても何となく分かる構造してたわ」
拓海「……てことは、直せるのか?」
早苗「それとこれとは話が別! ……でも変ね、見た事のある構造が多いから“何をする機械”なのかもボンヤリと掴めてきたけど……」
早苗「ココにあるのは、せいぜい内部の魔力が流れ出ないように抑えている程度……?」
拓海「そりゃそうだろうよ、てか今の技術がそれが限界なんだろ? 機械じゃ魔力を留められても行使は出来ないって」
早苗「……ちょっと待って」
早苗(という事は、この機械を迂闊に修理しようと機能停止させたら……中の式は失われるんじゃないの?)
早苗「……ははーん、どうやら相当性質の悪い人が考えた課題ね」
拓海「あ? 何か分かったのか?」
早苗「タクミちゃん、私達は今から待つ、待機よ」
拓海「はぁ!? 待機って、何を待つんだよ! 時間は少ないって言ったばかりじゃねぇか!」
拓海「だから少しでも早く解析とか進めた方がいいってお前も――」
早苗「それが罠。とりあえずバラしてみるなんて行動を取った瞬間、詰むわ」
拓海「……どういうこった?」
早苗「この機械は移動式を中に留めているだけ、という事は移動式自体は?」
拓海「……何も防護が無いって事か」
早苗「そう、そんなものを外気に晒すと?」
拓海「ああ……一瞬で崩れるな、それくらい何となく分かる」
早苗「分かった? 一組に一つしか配られていない、次の会場への通行手形がお陀仏よ」
拓海「つーことはアレか、もしかして他のグループの中には既に……」
早苗「あっさり壊しちゃった子も居るでしょうねー、怖い怖い」
拓海「……あのよ、それって結構なんつーか……問題が起きねぇか?」
早苗「でしょうね。例えばうっかり機械か術式が壊れて……二個目は受け取れない、さてどうなるでしょうね」
拓海「……ったく、どこが安全でクリーンな大会だよ」
早苗「そう? 運営側は戦闘を強要はしていないじゃない、最低限ね」
拓海「っつってもよ! そんな状況に陥った奴が取る行動なんて一つだろ!」
早苗「そうよね、じゃあそれを踏まえて私達が取る行動は……」
早苗「この機械を理由はどうあれ『奪い取っている』輩を探して、逆に奪取」
早苗「でもって機械の取り扱いが分かるグループの元へ交渉しに行く、これで正当防衛でしょ?」
拓海「……お、おう?」
・
・・
・・・
千鶴「機械の破損や不足点は分かりませんが、少なくとも内部に移動式がある事は確実ですね」
智香「司会? の人が言ってるならその通りだね」
千鶴「下手に分解するのは危険でしょう、術式が保護されているかどうかも怪しいと推測します」
千鶴「余計な加工を加えると術式が破損する恐れがあるという事です」
智香「じゃあ……この機械、直せないのかな」
千鶴「直す、ではなく完成させると言った方が正しい可能性があります」
智香「ええっ? ……これを? それはちょっと難しいかなぁ」
千鶴「可能な人は、その方法で課題をこなせという事でしょう」
智香「それが出来ない人は?」
千鶴「考える事が解決の一歩、です」
智香「うーん……ところで、ウヅキちゃん達と一緒に調べなくて大丈夫なのかな」
千鶴「知り合いではありますが、この課題に関しては別チームです」
智香「だけど解決策が無いなら協力した方が」
千鶴「解決策はあります、至極単純なものが。ただ、それを実行できるかどうかは……という段階です」
智香「もう考えてるの?」
千鶴「先程言った通り、この中には移動式があります」
千鶴「機械はその起動を補助するもの、だと私は推測しています……そして」
智香「その機械が壊れてるから、起動できない?」
千鶴「移動式にはそれなりの魔力が必要、しかしこの箱には欠片も魔力を感じない」
智香「確かに……この中に凝縮されてたらいくらなんでも感じるはずだよね」
智香「でも式が入っている以上、少しは感じないとおかしいんじゃないかな?」
千鶴「欠片も感じない魔力を増幅する装置がこの機械では、と思っているのですが……」
智香「ってことは、やっぱり凄い量の魔力が必要だね」
千鶴「そうなると次は、移動式を作動させるほどの魔力をどうやって集めるか、という話です」
智香「もし集める事が出来たら?」
千鶴「外部から無理矢理移動式を起動させる事が可能です、可能ですが……」
千鶴「申し訳ありませんが私に魔術の心得はありませんので……トモカさんはどうですか?」
智香「だめ、かも……」
千鶴「では移動式を直接起動させる方法は……取れませんね」
智香「はぁー……振り出しかなぁ」
・
・・
・・・
泉「調べてみた結果を簡潔に纏めると……完全に修理するのは非常に困難とだけ分かったかな」
さくら「それじゃあ私達はもう……?」
泉「落ち着いて、きっと方法があるはず」
亜子「とりあえず、起動せーへん理由があるんと違う?」
泉「ええ、それは当然ね。いくつか修復すべき点も見つかってる」
さくら「なぁんだ! もう直す場所が見つかってるんだねっ! それで完璧に直せば――」
泉「でも駄目、この六時間弱という短い時間じゃ、きっと修理は私達じゃなくても不可能……」
さくら「私達じゃなくても? それって……本当に課題をこなせる人が居るのかなぁ?」
亜子「いやいや無理やで、得体の知れないマシーンをポイと渡されてすぐ直せて無茶やって」
泉「そう、だから求められているのはもっと強引な解決方法だと思う」
さくら「強引? 思いっきり……えっと、力任せなら任せてくださぁい!」
亜子「任せる任せる言うても結局何も出来る事あれへん結論が今出たとこやで」
泉「ちょっと違うわね、完全な修復は無理でも……一部は直す事が可能な人もいるはず、ってこと」
亜子「一部ぅ?」
泉「一部分だけを直して、残りの不足している点は自力で補うか、手を加える……」
泉「例えば魔力を外部から自力で供給する、機械を外付けで加えて式を発動させる……とか」
亜子「いやいやいや、確かにそれは解決するええ方法やとは思いますけど」
さくら「駄目なの?」
亜子「肝心の機械を修復できる技術者も、移動式起こすほどの魔力供給の手段も持ってないでアタシら……」
泉「どちらかを持っている人は予選突破の十分な資格のひとつを満たしているって事ね」
さくら「資格? 技術か知識、って事かなぁ?」
亜子「せやなぁ、それが出来る人は強いで。……ただアタシらにはどっちもあれへん、どないしよイズミ」
泉「だから他の手段を見つけなきゃ駄目、何か良案は無いかしら?」
さくら「うーん……技術と知識以外でアピールするって事?」
泉「限られた時間で頼りになる人物を探し出せる捜査力とか、既に信頼できる技術者を呼べる人脈とか……?」
亜子「アカン、それも無理やわ……」
さくら「えっとぉ、今分かってる事はなんですかぁ?」
泉「機械の分解は危険、だから解析できない。そして術式は起動させる技術も手段も欠けてるってところね」
亜子「……なぁイズミ、中の移動式って保護されてない言うたな?」
泉「ええ、先に説明した通りよ」
さくら「だから分解して詳しく調べるのは難しいってイズミンが……」
亜子「いや、よー考えたらバラさんでも調べられるモノが中にありますわ……!」
泉「えっ?」
亜子「術式は確実にあるんやろ? なら任せとき、機械バラしたらアカンなら……アタシが移動式の方をバラしたる……!」
・
・・
・・・
卯月「…………」
凛「改めて、どうする?」
未央「機械ならスイッチを入れれば動くんじゃない?」
卯月「でもこれはどうみても箱だね……押すところは無さそう」
未央「じゃあ一体どうやって使うんだろうね……」
卯月「ぜんぜん見当も……」
凛「……アコの行動、覚えてる?」
未央「アコちゃんが? 何かしようとしてたっけ?」
凛「何か分かったと言って起動させようとしてた」
卯月「使おうとしてた……?」
未央「そういや直接起動させればー、とか言ってたね」
卯月「という事は、使い方が簡単に分かるもの……なのかな?」
凛「恐らく……というより、移動式である事は確定だから、機械といっても中身は魔術で動くカラクリのはず」
凛「それはアコも言ってた、だから……」
卯月「魔力を注いで起動しようとしてた……?」
凛「そう。 ……ただ、機械の問題が解決していないから起動しなかった、と私は思ってるんだけど」
未央「結局そっちをどうにかしないと結局駄目かぁ……そもそも修理なんて私達じゃやっぱり出来ないし」
卯月「誰かに頼んでみようよ!」
凛「誰に、どう説明出来る? 見た事もない仕組みで……分解の仕方も分からないのに」
卯月「う……」
未央「とりあえず……一旦分かれて取り組むことに決めちゃったけど、チヅルさんとトモカさんの方に行ってみる?」
未央「もしかしたら同じように困ってて、協力すればなんとか……」
凛「アリ、かな……全部頼るのは駄目だけど、何かきっかけでも掴めるかもしれない」
卯月「じゃあちょっと、お邪魔させてもらおっか?」
――コンコン
未央「進捗どうですかー!」
凛「……応答がないね」
卯月「もしかして、何か発見があって外へ探しに行ったのかも」
未央「でも出て行く音なんてしたっけ? 廊下は部屋の前も通ってるし、気づきそうなものだけど……」
凛「こっちもしばらく夢中だったからね、うっかりしてたかも」
卯月「うーん……失礼しまーす、なんて」
――ガチャ
卯月「あれっ? じょ、冗談のつもりだったんだけど開いちゃった……」
未央「じゃあ中に入ってるのかも? ちょっと失礼しちゃおっか?」
――シン……
凛「……?」
卯月「誰もいない?」
未央「荷物は置いたままだね」
卯月「やっぱり外に探しに行ったのかな?」
凛「探しに行った……なら、ちょっとは希望があるかな?」
未央「え? なんで?」
凛「すぐ探しに行けるもの、思いついたものでこの機械を何とか出来そうな方法が見つかったかもしれない、って事」
未央「おー、確かになるほど……?」
凛「当然、私達もそれにたどり着かなきゃ駄目だけど……何かヒントがあるかな」
卯月「思いつくキッカケのものが部屋の中に…………あれっ?」
未央「ん? どしたのしまむー……あれ?」
凛「二人ともどうしたの?」
未央「……見て! 機械がそこに置いてあるよ!?」
凛「え、置いてある……? なんで……?」
卯月「機械は部屋に置いたまま……持って行ってない?」
未央「なんで!? この機械について分かった事があるからこの部屋に居ないんじゃ……」
卯月「まさか……」
凛「いや、襲われたとかそんな事はないよ……静かなのはさっき言った通り、争った跡もない……」
凛「そして何より、襲われたのなら機械がここに残ってるはずがない」
卯月「そ、そうだよね……大丈夫だよね?」
未央「じゃあ何で二人だけがここに居ないんだろう……」
凛「分からない、けど……何か理由があるはず」
卯月「あれっ……? この機械、私達が貰ったものと同じだっけ?」
凛「そりゃあ同じ……いや、ちょっと待って」
未央「機械が違う? そんな事はないでしょ……ん?」
凛「これ……こんな感じだったっけ?」
未央「あれ、言われてみれば何か違うような……」
卯月「微妙に光ってる……じゃない!」
――キィィン
卯月「私達の持ってるものと違って……感じる程に魔力が溢れてる!」
凛「魔力が……? って事は……」
未央「もう既に“起動している”……!?」
凛「……ウヅキ、ミオ」
卯月「うん……私も多分同じ事を」
未央「私も、多分だけど……」
凛「起動してる機械、部屋に居ない二人……という事は、だよ」
卯月「中身は確か移動式……なら?」
未央「トモカさんとチヅルさんは、次の会場に既に向かってるって事かな……?」
卯月「まだ一時間ちょっとしか経ってないのに……もう既に……」
未央「でもこれは私達にとっても大きい収穫だよ!?」
凛「そう、一時間やそこらで用意できる技術か……二人の持ってる知識のうち、どちらかを使って起動が出来てる事実」
卯月「ええっと、二人が持ってて私達が持ってない技術は……」
凛「考えるのも大事と思う、ただ提案なんだけど……確認しよう、この中身を」
未央「えっ?」
凛「最悪壊しても大丈夫なはず、壊れて失格になるなら機械だけ残るはずがない」
未央「そ、そうじゃなくて! なんで分解するの!?」
凛「機械を専用の道具で修復する時間なんてなかったはず、せいぜいこの短時間じゃあ何か付け足す程度……」
卯月「そっか……! なら、中に何かがあるかも!」
凛「力任せでいい、ミオ!」
未央「い、いいの?」
卯月「大丈夫!」
未央「分かった……ぎぎぎ……ふんっ!」
――バキッ!
未央「よし、開いたよ!」
凛「ありがとうミオ、じゃあ目立って違うパーツが中に入ってないか――」
卯月「あれ……?」
――シュィィ……
卯月「ねぇリンちゃん……これ、もしかして」
凛「何か見つけた?」
卯月「魔力が漏れてる、んじゃないかな?」
未央「……あ! 本当だ!」
凛「漏れてる……? 私じゃ感じ取れない。ウヅキ、具体的にどうなってる?」
卯月「移動式が……消えちゃった……」
凛「消えた?」
未央「あ、一緒に……箱が光ってるのも……」
凛(光も消えた、そして起動していた箱が休止……開けた瞬間?)
未央「ど、どうしよう? 私のせい?」
凛「いや……開けた事が原因かもしれないけど、乱暴にしたから壊れたわけじゃない」
卯月「うん、だと思う……一点からじゃなくて全体から流れ出たから」
卯月「どこか壊したのなら、その壊れた場所からだけ流れ出てくるはずだよ」
未央「よかった~……」
凛「……だいたい分かったかも」
卯月「本当!?」
凛「この機械は壊れていて動かないんじゃなくて、ただ魔力を留めていただけなんじゃ……?」
未央「溜めてただけ? でも移動式があるって……」
凛「分かってる、移動式をこの中に留めてるだけって事だよ」
凛「機械には……式を起動させる機能は無いんじゃないか、って……ん?」
――キラッ
未央「どしたのしぶり……ん?」
卯月「……どうしたの?」
未央「いや……ちょっと部屋に不釣合いなものが気になって」
卯月「何? ……あっ」
――スッ
凛「本当、これは……石?」
卯月「魔力のこもってる石だね」
凛「知ってるの?」
卯月「あ、いや、ちょっとだけ魔力を感じる……かな?」
未央「魔力石? トモカさんの持ち物だね、きっと」
凛「ウヅキ、魔力石って……もっとこう、凝縮されてるんじゃないの? 魔力が」
卯月「そういえばそうだね……この小ささだからかもしれないけど、ほんのちょっぴりしか感じない……」
未央「とりあえずトモカさんの荷物に戻しておこうよ」
卯月「そうだね、きっと部屋で落としちゃった物だと――」
凛「待って……調べる事が見つかったよ」
卯月「え? 調べる?」
凛「トモカとチヅル、二人が居なくなっていて……恐らく起動させる事に成功した移動式」
凛「そして部屋に残されていた魔力の石」
未央「二つは関係あるの? ただの落とし物じゃ……」
凛「いや、部屋の中には目立ったものがコレしかなかった、って事は言い換えれば“それだけ”で機械は起動できる……!」
卯月「……本当?」
未央「でも試してみる価値はある?」
凛「今すぐ、分かる範囲でこの石の事を調べよう」
・
・・
・・・
――ドサッ
奈緒「コレが課題かー……って何だこりゃ、壊れてるじゃん」
奈緒「ふーん……あー、だいたい分かった分かった、こりゃ無理に開けたらこうなるな」
――ポイッ
奈緒「何であちこちで奪い合いしてるんだと思ったらそういう事か、コイツら全員開けるの失敗勢かよ……」
奈緒「機械は魔力を留めているだけ、課題はその“留めている魔力”が何か判断する、って感じか?」
奈緒「いや待てよ、もしかして中身の術式を使えばいいって事か? どっちだろうな」
沙紀「後者っすよ。 ……中に入ってるのは移動式っす、それを使って次の会場へ向かえば合格っす」
奈緒「なるほど、そういう事……って誰だ!?」
沙紀「ただの同じ穴のムジナっす、仲良くしましょうよ」
奈緒「勝手に仲間にすんなって!」
沙紀「仲間っすよ」
――ドサドサッ
奈緒「お……」
沙紀「壊れてない機械、持ってないすか? アタシが獲ったのは全部ぶっ壊れてるんすよ」
奈緒「これ……何個あるんだ!?」
沙紀「十から先は数えてないっすよ、捨てたのもありますし」
沙紀「チラっと見た感じですけど、機械にお詳しいっすよね?」
奈緒「詳しいって訳じゃないけどさ……」
沙紀「いやぁ、中身見て一発で何の機械かまで当ててるじゃないっすか、冗談キツイっすよ」
沙紀「で、ご自分の機械は持ってない様子っす、移動式の事は知らなかったみたいなんで……」
奈緒「確かに術式は知らなかったけどさ」
沙紀「けど? 参加してないのに機械は奪ってる、てことは相方が居なくて参加できなかったパターンっすよね?」
奈緒「……一人で悪かったな!」
沙紀「アタシと組みませんか?」
奈緒「はぁ?」
沙紀「互いに参加したかったけど参加できなかった、でもって参加出来てたら合格出来てた試験」
沙紀「今からでも遅くないと思うっすよ?」
奈緒「待て待て、後から参加なんて出来るのか?」
沙紀「別に出欠取られたわけでもねーっす、機械も誰に渡したかなんて識別出来ませんし」
沙紀「……そもそも、こんな奪い合いになりかねないシステムなら、乱入者を推奨しているようにしか感じませんけどね」
沙紀「話は簡単っすよ、別に出来なくとも文句は言いませんし」
沙紀「アタシが適当に無事な機械集めてくるんで、えーと……」
奈緒「……ナオだよ」
沙紀「ナオさん、が解析を試みてくれたらオッケーっす。……あ、アタシはサキといいます、自由人っす」
奈緒「何でアタシなんだ? もっと詳しくてちゃんと参加してる人も居るだろ? そこに混ぜてもらった方が」
沙紀「ナオさんに断られたらそうするつもりっすけど」
奈緒「……分かったよ、アタシも興味はあるし」
沙紀「決まりっすね、じゃあココの近くで待っていて下さい」
奈緒「何でだ?」
沙紀「決まってるじゃないすか、貰ってきますから待機しててくださいって」
奈緒「いいよ、アタシも行くから……」
沙紀「ほー? 今から何するか分かって言ってます?」
奈緒「少なくとも運営に予備下さいなんて言いには行かないだろ?」
沙紀「勿論っす、分かってるみたいすね、それでも手を貸すって事は? ……やっぱり仲間じゃないっすか」
奈緒「う、うるせーなっ、アタシだけ待ってる訳にも、アレだろっ?」
沙紀「はいはいありがとうございます、それじゃあ行きましょー、時間は有限っす」
・
・・
・・・
桃華「……さて、どうなっていまして?」
聖來「続々と、という程ではないけど来てる人は来てるよ」
桃華「あら……予想よりも優秀な方が多いようで、楽しみですわ」
聖來「思い切り削る予定とは聞いてるけど……予定とは違う?」
桃華「ある意味予定とは異なりますのよ、こんなに集まっているなんてね……」
――ザッ
桃華「もし?」
千鶴「はい? ……あれ?」
智香「壇上で話してた人?」
桃華「ええ、お察しの通り運営側の人間ですわ」
桃華「見事課題をこなしたあなた達を評価します、参考までに方法をお聞かせいただいても?」
千鶴「どうやって起動させたか、ですか?」
桃華「その通りでしてよ」
智香「えっと、機械は……正直ぜんぜん分かんなかったけど」
千鶴「とにかく式を起動させれば勝ちです、どうにかして起動させる方法を模索しました」
桃華「へぇ……手段はどうなされまして?」
智香「手持ちにあった魔力石を」
千鶴「ただ魔力を投入しても起動しない可能性があったので、塊を強引に投入しました」
桃華「なるほど、不足している魔力を石で補った形……合格ですわ」
智香「無理矢理起動したおかげでそのまま発動しちゃって、荷物とかはそのままになっちゃったけど……」
桃華「さて、そちらの方々は?」
拓海「…………」
桃華「おや?」
拓海「結果論だ」
早苗「いいじゃない、一石二鳥よ?」
拓海「石投げすぎだっての……どうすんだよコレ」
桃華「あらあら、機械は一つでよろしくてよ?」
早苗「二つ以上持ってきちゃ駄目とも聞いてないわ」
桃華「その通りですわ、しかしどうしてこれほどまで?」
早苗「返り討ちを繰り返してたらこんな事になっててね」
桃華「奪ったわけではない?」
早苗「当たり前よ、全部没収品。……ところで今の言い方だと奪う事は問題ないように感じるけど?」
桃華「あら、そう聞こえまして? この大会はサミスリルが主催するいたってクリーンな――」
拓海「どうだか……」
早苗「まぁそんな事はどうでもいいわね、何か用?」
桃華「参考までに、ここへたどり着いた経緯が知りたいの」
早苗「経緯ねー、話しても面白くないわよ?」
桃華「構いませんこと」
早苗「そう? じゃあ最初に、私達は魔術サッパリだから機械の解析に全力を注いだ」
拓海「アタシは機械も分かんねぇから、全部そっち任せだ」
早苗「結果、機械は魔力を留める……と、魔力を増幅させる効果がある事が分かったのよ」
早苗「ただし移動式と関連は全く無い、だからこれは未知の技術じゃなくて既存技術の組み合わせなだけ」
桃華「お見事、よく看破しましたわね」
早苗「となると解決する方法は二通り。まず一つ、移動式を外部から魔力を注いで起動させる方法」
拓海「ただアタシ達は無理だ、魔力なんて柄じゃねぇし」
早苗「てことは消去法、二つ目の方法……機械の増幅装置を修理して、強化する」
早苗「既存技術なら、ちょっと頭を使えば修理は可能、改良もね」
桃華「その場でこなしたとは、なかなか優秀でしてよ」
早苗「さすがに移動式を機械と融合、何度でも誰でも使用可能……って状態にはできないけど」
早苗「非効率ながら一回だけ、強制的に起動させる事は可能……!」
桃華「内部に残留している魔力を、修理・改良した増幅装置により移動式を一回起動できるほどの魔力にしたと?」
早苗「で、幸運な事に分解して調べられる機械の予備は一杯あるわ」
桃華「ここに既に大量にある機械よりも多い数を確保していた?」
早苗「そうね、後は回数こなしてそのうち一つが上手く行ったからここにいる」
桃華「なるほど、結構ですわ」
――シュイン!
聖來「おっと、もうそろそろ時間切れのタイミングで新規到着組?」
卯月「はぁ……はぁ……」
凛「……ここ、どこ?」
未央「分かんない、分かんないけど……!」
桃華「おめでとうございます、まだ時間切れではありませんわ」
未央「あ、さっきの……じゃない、あの時の壇上に居た人……」
桃華「モモカと申しますわ、改めておめでとうございますと言っておきますの」
凛「……じゃあ私達」
聖來「そ、予選突破♪ おめでと!」
卯月「……や、やったぁ!!」
桃華「喜んでいるところ申し訳ないですが、少しお聞きしても?」
凛「何か長いお話……?」
桃華「いいえ、あの機械をどう扱ってここへ来たのかに少し興味がありましてよ」
凛「それは全員に聞いている事?」
桃華「いいえ、一部の……わたくしの独断で声を掛けていますわ」
聖來「アタシ助手だよー、名前はセイラだよー」
卯月「どうも……ウヅキです」
聖來「あ、いいよいいよ、名前は聞かれて困る人も居るだろうし、聞かない事にしてるから」
未央「聞かれて困る?」
聖來「全員が全員、潔白な人が集まってるとも限らないから」
桃華「下手な身分の確認は集まりを阻害するの。誰でも自由に、人数さえ集まれば可能ですわ」
凛「例え手配中の人でも参加可能なの? それって、秘宝を授ける大会としてどうなの?」
桃華「だからこそ、この予選本選でわたくし達が“ふるい”にかけるのでしてよ」
聖來「適正、不適正を審査するのがアタシ達の役目!」
桃華「その参考がてらに皆にお聞きしているだけですわ、お話よろしくて?」
未央「でも私達、特にこれといって……何もしてない、よね?」
凛「……だね」
桃華「いえ、手段の大小は重要ではありませんことよ? ここに至ったという事は、何らかの力はあるという――」
卯月「えっと……私が、頑張っただけですけど……」
桃華「具体的に仰っていただいても? 機械の修復ならその手段、術式を作動させるなら道具や方法を――」
卯月「ですから……私が、ちょっと頑張って……はい」
桃華「……?」
卯月「移動式がある、とは知っていたので……思い切り魔力を込めて、起動させました」
桃華「……あなた一人で?」
凛「だね?」
未央「うん、しまむー一人。私としぶりんは介入する余地なんて無かったし」
桃華(いや、そんなはずありませんわ、この術式を起動するのにどれほどの魔力が必要か……)
桃華(機械の素材は……魔力を留めるために、魔力を透過しない素材で出来ているはず)
桃華(ですから先の魔力の石のような、物理的な外部の素材でなければ外から干渉など……)
聖來「……魔力の絶縁体を、貫通した?」
桃華「いや、そんな訳……きっと機械の部品に不備が」
――バタンッ!!
聖來「……あれ?」
卯月「あれは……!」
亜子「ギリギリ!」
さくら「間に合ってますよねぇ!」
未央「アコちゃん一行だ! ……でも、どうしてあっちから?」
泉「はぁ……はぁ……間違いじゃなければここが会場のはず……」
聖來「あなた達……どこから来たの?!」
凛「扉の外から? 私達は移動式で来たのに……」
亜子「ふぃー……あれ、皆さんどないしました?」
さくら「ここはゴールでいいんですよねぇ?」
桃華「ええ……確かにここは大会の予選の最終到達地点、ではあるわ」
さくら「あっ! あの会場に居た人ですねぇ!」
泉「ということは、ここが移動式で到着する地点で間違いないみたいね」
聖來「その通り! ……ただ、他の全員と違うルートで到着したみたいだね?」
桃華「驚きまして、まさか移動式本体を使わずにここに到着するなんて……どんな手段を?」
亜子「いやいやそんな高評価してもらわんでも、ちょっと二度手間な事をしただけなんですわ」
聖來「手間? それが外から来た事と関連が?」
亜子「アタシらは機械直すのも術式発動させるのも無理や思って、アプローチを変えてみました」
亜子「術式取り出すのは不可能ですけど、ちょっと手間掛けて……中身解析しましたんですわ」
桃華「中……?」
亜子「もちろん改変されんように術式上書きの対策はされてましたけど、見るだけなら無害……」
亜子「予想……願い通り、中を見ても術式削除みたいな事にはなりませんでした」
泉「……後はアコから受け取った“移動式の中身”を私が調整、似たような移動式を復元しました」
さくら「イズミンすごーい! 元々の式? よりもお手軽で、三人ともワープ出来るようなものまで用意してくれたよぉ!」
桃華「たった六時間……いや、その作戦を思いつくまでにもっと時間を要しているはず……」
桃華「五時間、いや四時間やそこらで移動式なんて複雑なものを作ったというの……!?」
聖來「……さっすがぁ」
亜子「ま……閲覧しただけでアウトな組まれ方してたら終わりやったんで、賭けに出たようなものですけど」
卯月「取り出せない発動できないから、同じものを自分で作った……」
凛「ウヅキ、それって可能?」
卯月「知識さえあれば……でも、この短時間でそもそも“機械を起動させる”って課題でそこまでたどり着くのは……」
智香「お疲れ様っ! こっちは色々あったけどなんとか来れたって感じかな」
未央「トモカさん、そうだ……はいコレ、チヅルさんも」
千鶴「それは?」
凛「余計なお世話かもしれないけど、最低限の荷物を纏めてたように見えた一式を持ってきてるよ」
未央「なんだか突然移動しちゃってたみたいだし」
智香「わぁ、ありがとう! 部屋、散らかっててごめんね?」
千鶴「……別にいいのに」
――ピッ
聖來「……そうこうしている間に時間かな?」
桃華「順次人は集まりつつある、ただ……さすがにこの時間まで移動を保留しているグループは少ないでしょう」
早苗「陽が沈む時間、ここから外は見えないけど進行役さん? あとどれくらい?」
桃華「そうですわね……」
――シュイン
聖來「あっ」
奈緒「……着いた?」
沙紀「みたいっすね、ん?」
千鶴「あなたは……」
沙紀「昨日ぶりっすね。ナオさん、ここが目的地で間違いないようっす」
桃華「ちょうどいいですわ、ならばこれにて……わたくしの提示した課題の最終通過者とします」
沙紀「お、滑り込みセーフみたいっすよ、お手柄っす」
奈緒「あぁよかった、これで間に合ってないとかだったらアタシどうしようかと……」
・
・・
・・・
聖來「えーっと、見事ここにたどり着いた……って、実はそれだけじゃない事も伝えなきゃいけないんだけど」
さくら「?」
拓海「どういうこった?」
聖來「説明の前に、この部屋に居る人物が少ないとは思わないかな?」
卯月「少ない? いや、でもこんなに大きな部屋が埋まるくらいの人数が……」
亜子「いやいや、あの機械配られた会場におった人数とえらい違いますて」
桃華「その通りですわ、いくら課題が難関でも桁が下がるほど脱落者が多いわけは有り得ませんこと」
聖來(一回でも失敗すれば壊れる機械を課題にしたから、じゅうぶん有り得るけどね)
早苗「じゃあ私達は優秀って事で?」
桃華「良い方に考える方、しかし真実はそうではありませんわ」
桃華「合格者が訪れる第二の会場……ここはその一部に過ぎませんのよ」
未央「一部?」
桃華「ここは地下の、“多数存在する”第二の会場のうちの一室」
桃華「ほかの合格者も、隣かさらに地下か……場所は答えられないですが、確かに存在しましてよ」
沙紀(会場が分かれてるって事すか)
凛「見知った顔が同じ所に来てるのは、偶然かな」
桃華「わたくしの案内は一つ目の予選で終わり、次からは――」
千鶴「一つ目? まるで次があるような言い方ですが」
桃華「あら、いつ予選が一つで終了すると言ったかしら?」
さくら「まだ続くんですか? 二つも、三つ以上続く……かも?」
拓海「あんまり長く拘束されるのは困るんだけどよ」
桃華「合格者の一部、おおよそここには二十、三十……それくらいの組が居る」
泉(組、という事は実質人数はそれ以上居るはず)
奈緒(しかも一部でその人数だろ?)
智香(全員合わせると……百も有り得る?)
桃華「一つ目は機械もしくは魔術という、触れる事が多いモノに関する専門の知識か適切な判断力を測る試験」
桃華「そしてこれより始まる二つ目の試験ですが……」
――ピン……
桃華「いい空気でしてよ。ただ、それをわたくしが見届けるのは不可能ですわ」
卯月「案内は終わりって言ってましたね」
桃華「そう、先に行った通りわたくしの案内はここで終了。次の課題は全員共通で……部屋ごとに差がある課題でしてよ」
亜子「部屋ごとに? 他の合格者が居る部屋とココで差がある言う事です?」
桃華「その通りですわ」
拓海「えらく不公平だな?」
未央「同じ成果でも、こっちは不合格向こうは合格、ってなる可能性があるの?」
桃華「可能性がゼロとは言えませんが仕方のないこと、それもそのはず次の課題は個々の能力をアピールする場でもあるから」
智香「なんだか面接みたい?」
桃華「部屋ごとに一人の案内人、その人物と戦っていただきます。見事勝利すれば合格、簡単でしょう?」
千鶴「戦う? ……失礼ですが、この大会は――」
桃華「もちろん、危険を冒す事や生命を脅かす心配のある課題を押し付ける事はありませんわ」
智香「でも戦うって……」
桃華「戦いは何も戦闘だけではありませんこと、戦う内容はあなた方が個人で決めてもらって構いません」
亜子「なんやそれ……じゃあアタシらが得意な分野で戦ってもいいと?」
桃華「構いません、純粋な戦闘でも知識勝負でも。道具が必要ならば限りはありますがそこで調達してくださいまし」
――ガシャンッ
凛「シャッターが……」
卯月「見て、いろんな……本当にいっぱいの道具が」
未央「こっちが勝負の内容を決められる、楽勝かな?」
拓海「勝つだけならな、楽勝だろうよ。……しっかし、そんな何でもアリな勝負を受け持つ案内人って、いったい何者だよ」
聖來「やっぱり気になる? 実は部屋を分けた理由もそれなんだけど」
桃華「そう、無理難題な勝負にも適応出来る人材など極々少数……その僅かな人を一度に合格者全員に相手取らせるのは……」
早苗「なるほどねー、いくら完璧な人でも捌ききれないだろうし?」
桃華「……まぁ、そのような内部の理由はよろしくてよ」
桃華「とにかく重要なのは、皆様方が次に進むには案内人に勝負を挑み、勝つ事ですわ」
拓海「あのよ、一つ質問がある」
聖來「どうぞ?」
拓海「勝負内容はこっちが決められるんだろ? 本当に何でもいいのか?」
聖來「うーん……部屋の中だけで簡潔する内容なら何でも」
拓海「要するに部屋の外は駄目っつーことか」
早苗「追加で質問、さっき個々の能力をアピールって言ったけど……勝負はペアじゃないの?」
桃華「あら、伝え忘れていましたわ。ここからはペア以上ではなく、勝負は個々になりますのよ」
亜子「何です? それやったら一つ目の予選で人を集めさせた理由は?」
桃華「協力が出来ない人物に秘宝は授けられませんことよ」
亜子「なるほどなー……いまいちスッキリ納得はしませんけど」
千鶴「追加の質問です。仮に“自分だけが答えの分かる質問”などを勝負内容にすることは可能?」
桃華「ええ。……ただし、課題と同時に独自の採点も行っている、とだけお教えしましょう」
千鶴「……なるほど、下手な勝利は評価に響くと」
智香「難しいなぁ……」
桃華「もう質問はありませんのね? それでは、わたくしは去ります、次からは彼女が受け継ぎますわ」
――ギィィ
卯月(今から来る人が、勝負相手……?)
泉「仮にも秘宝を得ようと集まってくる実力者相手に、どの勝負でも受ける人物なんて……」
早苗「面白いじゃない、どんな人が出てくるのかしら?」
??「いい顔ぶれね、さすが優れた能力を持つ人々」
亜子(……? 妙やな)
さくら「アコちゃんどうしたの?」
亜子「あ、いや……てっきり英雄クラスの有名どころが来る思てたんやけど……知らん顔や」
泉「アコも知らない?」
??「そこの貴女」
亜子「え、アタシ……?」
??「私を知らないのは当然、なぜなら貴女はこの狭い国と地方でのみその活動を行っている」
亜子「は、はぁ?」
??「もっと広い視野を持ちなさい、ここに辿り着く時点であなたは優れているのよ」
拓海「……よく分かんねぇけど、あんたが案内人で間違いないんだな?」
??「その通り、私ほどじゃないと任せられない責務だと聞いて、内容を説明されて納得したわ」
??「どんな難題でも受けてみせる、遠慮なくかかってきなさい」
凛「ずいぶん自信がある人みたい、でもそれも当然かな」
未央「こんな場所に来る時点でね……」
千鶴「説明された内容では、どんな勝負でも構わないと聞きましたが事実ですか?」
??「イエスと答えるわ。ただ、この私が相手をするのだから……生半可な勝負で来ない事ね」
千鶴「かなりの自身とお見受けしますが」
拓海「分けられてるっつってもこの人数だぞ? 体力持つのか?」
??「心配無用、たかが国家レベルの実力でしょう?」
拓海「たかが?」
凛「言うね、この人……」
??「貶しているわけではないのよ、十分に貴女達の実力は感じている」
??「それでも……世界レベルの前では微々たる差だと教えてあげる」
??「私の名はヘレン、貴女達がこれから世界に向かう時、嫌でも聞く名前よ、覚えておきなさい」
――スタスタ
聖來「ヘレンさんは、どう?」
桃華「国の偉い人には好評のようですわ」
聖來「モモカちゃん的には?」
桃華「評価は変わりませんこと、わたくしは言われた通りの人材をあなたに用意してもらったまで」
桃華「なぜそこまで優秀な逸材を用意する必要があるのかと思えば、こんな課題を用意していたなんて」
聖來「でもこれで評価の基準を作りやすいとか、言ってたような」
桃華「国側が、ですわ。……意図が読めませんこと、優秀な人材に秘宝を渡したいのなら、今集めた人に渡せばよろしいのに」
聖來「あ、そうだね? 今だったらヘレンさんに渡せばいいんだ、でもそれをしないのは?」
桃華「……上層部の考える事は理解出来ませんの」
聖來「複雑だねぇ……それで、どうなの?」
桃華「何がでしょう?」
聖來「ヘレンさんは案内人としてどう?」
桃華「そうですわね……わたくし、あの方にお会いして初めて“レベルが違う”という言葉の意味が分かりましてよ」
聖來「つまり?」
桃華「ご自分で確かめてくださいませ」
聖來「もう、意地悪」
桃華「……しかし、どこからあのような人材を?」
聖來「それは秘密♪ これからも頼りにしてくれる?」
桃華「ええ、ご協力感謝しますわ」
・
・・
・・・
ヘレン「特に私に言いたい事がないなら、もう始めても構わないわ」
卯月「じゃあ……」
凛「待って、何もトップバッターで出る必要は無いよ、様子を見ても」
ヘレン「懸命ね、まず相手を知る、情報を集めるのは大事よ、時間制限も……厳密には無い」
ヘレン「ただ、あなたの求める情報は待機していれば手に入る事かしら?」
未央「……?」
ヘレン「例えば何かの専門知識で勝負するとして、知識の底をどうやって測るつもりかしら」
千鶴「……それもそうですね、同じ勝負種目を選んでくれない限りは」
智香「でも時間がいっぱいあるなら準備もしたいし……」
さくら「使うかどうか分からないけど、あっちに道具もいっぱい?」
泉「何があるか調べる程度なら、時間を使ったって構わないはず」
亜子「いや、言うてもえらい沢山用意されてますわ、調べるだけでも結構かかりますけど」
ヘレン「下準備は大事、その中のものを使おうがなんだろうが、私と勝負ができる題材を見つけなさい、それが第一歩よ」
拓海「……色々説明されたけどよ、手っ取り早いのが一番だろ?」
ヘレン「もちろん! シンプルで力強い推しは世界への一歩だわ」
拓海「ならどうせ皆も知りたがってるだろうし……単純に腕前の勝負だろ」
ヘレン「もちろん構わない、ただし条件がある」
拓海「あぁ? 何でもいいっつったのはそっちだろ」
ヘレン「拒否じゃない、取り決めをしておきたいだけ」
ヘレン「負けを認めたら素直に勝負を終える事、そして周囲に被害を出さない事」
拓海「……んだよ、分かってるっつーの」
ヘレン「なら結構、それで?」
拓海「……それで?」
ヘレン「来ないの?」
拓海「行っていいのか? 合図してくれねぇと不意打ちみたいで嫌だからよ」
早苗「何甘い事言ってんのよ」
拓海「うっせぇ!」
ヘレン「いいわね、その精神、嫌いじゃないわ! ただ、ここでは実戦と同じように考えるべきよ」
ヘレン「勝つ、オッケー?」
未央「もうやる気だよ……?」
凛「タクミさんには申し訳ないけど……あのヘレンって人がどんなものか、見ておかなきゃ駄目」
卯月「頑張ってください!」
拓海「……やりづれぇ」
千鶴「それじゃあ私はあの道具類を物色しに行きます」
智香「んー……アタシも行こうかな」
奈緒「じゃあアタシも」
早苗「あれ? 相手の様子を見るのも重要と思うけど? 大事な初戦、見なくていいの?」
智香「全員が戦闘で勝負するわけじゃない、と思うな?」
奈緒「明らかに自信アリのやり手と真正面から戦うほど増長してないって」
沙紀「へー、ずいぶん消極的っすね皆さん。ここで勝負回避して合格したところでどうなるか、分からない訳ないっすよね」
ヘレン「大事なのは今、この瞬間! 後の事を考えて今を逃すのは愚の骨頂!」
拓海「そうだとも、じゃあ……行っていいんだ、なッ!」
凛「始まった……!」
ヘレン「接近の肉弾戦が好みかしら?」
拓海「ご覧の通りだ!」
卯月(攻撃は物理だけど、威力は本物……当たれば案外すぐに決着が!?)
――ヒュンッ!
ヘレン「なら、嫌ってあげるのが定石ね? もちろん受け止めてもいいのだけれど」
泉「さすがに真正面なら避けて当然……?」
亜子「しかしえらい勢いの攻撃ですな、あんなの一発で沈む自信ありますわ」
早苗(当てれば勝ちとまではいかなくても、一気に有利になる……)
拓海「だったら一回でも受け止めてみろ!」
ヘレン「挑発かしら? 相手を見て実行するのが吉よ」
拓海「そういう意味じゃねぇ!」
凛「互いに攻撃が当たってない……」
智香「でも攻撃を続けている分、こっちの人のが優勢に見えるよ?」
卯月「あれ? 帰ってきたんですか?」
千鶴「確認が一通り終わっただけです。特別なものは何もなく、成果はありませんでした……で」
――ブンッ!
拓海「そんな逃げてばっかりだと疲れるだけだろうが!」
ヘレン「急いては事を仕損ずるのよ」
千鶴「……最初からあの調子ですか?」
卯月「そんな感じですけど……」
さくら「そこです! 全力でぇっす!」
亜子「応援してどないすんの、気持ち分からんでもないけど」
ヘレン「逃げる相手に対して挑発するのは手段の一つね、回避主体の相手の足を止める事が出来る」
凛「足を止めた……!」
拓海「今度こそ小細工無しだなッ!!」
泉「近い……!」
――ビュンッ!
沙紀「おぉ、それも避けるんすか」
拓海「っテメェ! 真面目に戦う気あんのか!?」
ヘレン「今のは間違った選択の結果を表しただけよ」
拓海「あぁ?」
ヘレン「挑発した相手が、自分より近接に優れている可能性を考えていない……未知の相手に対して無用心よ!」
――ダンッ!
卯月「また下がった……!」
拓海「こんの……待ちやがれ!」
ヘレン「……かといって、反撃しなければ勝てないのは事実よ!」
未央「来る?! まだ攻撃方法が分かってないから……」
拓海「ビビってたら話進まねぇだろ、来るなら来い!」
ヘレン「遠慮なく!」
――ドンッ!
拓海「っ!」
早苗「あら……素手?」
さくら「防御してましたが、かなり後ずさりました!」
拓海「……重てぇな、ただこの程度なら!」
ヘレン「あなたの攻撃に比べて軽い?」
拓海「見て分かんねぇなら、見せたやりてぇところだが!!」
ヘレン「あら」
――ドガァンッ!!
沙紀「おー、地面が」
千鶴「ただの物理攻撃が、なんて威力……」
未央「さっすが! でもまた避けられて!」
ヘレン「威力は十分、ただあなた自身が活かしきれていないわね」
拓海「あぁ? なんだって?」
ヘレン「そして、相手の力量を早々に決め付けるのも悪い癖よ」
拓海「言いたい事言いやがって……だったらアタシに見せつけてみろって!」
ヘレン「証拠? なら見せてあげるわ」
――ヒュンッ
拓海(また同じ攻撃か……!)
沙紀「……おっと?」
早苗「ちょ、タクミちゃ――」
――ドガッ!
拓海「いいっ!?」
卯月「飛ん……飛ばされた!?」
未央「さっきと段違いの威力だよ! 飛んだ方向は……」
拓海「ぐうッ!」
ヘレン「一度目と同じ……いや、一度目より弱く構えていたでしょう?」
早苗「ったく……実戦で仕事中なら補助出来るのに……」
卯月「タクミさんっ!」
ヘレン「仕事は喧嘩屋かしら? 最低限の労力で体力を消耗しない技術には長けているようね」
拓海「チッ! 気のせいか前も見たなこのパターンをよ……!」
ヘレン「ただ、その考え方は雑魚相手に得をしても、同格かそれ以上の相手には非常によろしくない」
拓海「くっそ……だがこれくらいでよ!」
卯月「まだダメージは少ないみたいです! ここから切り返せば!」
ヘレン「ダメージを与えるために打った攻撃じゃないわ、あなたを壁際に寄せる事が目的」
ヘレン「今から二度目より強く、早く……少なくとも私が見切ったあなたの実力では止められない拳を打つ」
凛「……あれは」
さくら「はっきり違いが分かりますよっ!」
ヘレン「最初から全力を出してたでしょう? 駄目じゃない、防御は長期戦に向いた考え方なのに攻撃は短期決戦を目指している」
――ドンッ
拓海(やべ……退がれねぇ……!?)
早苗「ちょっと! 前見なさいよ!」
ヘレン「駄目よ? そこは攻撃的に動かないと、後ろが壁なんて分かっているでしょ?」
千鶴「致命傷でも決定打でもない……ただの“当てた”だけの一発でこうも状況が……」
沙紀「……あの人、なかなかやりますねぇ」
ヘレン「そこは恐怖を押しのけて前よ、来なさい!」
拓海「言われなくとも、このッ!!」
――キィン!!
ヘレン「……あら、これは」
拓海「っう!」
凛「危ない!」
――カァンッ!
未央「うわっ!? ……っと、ありがとしぶりん」
卯月「木刀がこっちに……」
ヘレン「私とした事が、外野に迷惑をかけそうになってしまったわ、無事?」
凛「武器……返した方がいい?」
ヘレン「どちらでも構わない。最も、武器を放した段階で決着はついたと思うけど」
拓海「っ痛ぇ……!」
ヘレン「ところであなた、いい反応ね」
凛「……どうも」
ヘレン「それに比べて、最後まで選択を誤ったまま……人の忠告には従うべきよ」
拓海「まだ説教垂れる気かよ……いいだろアタシが何しようとよ……」
ヘレン「私は前に出ろと行ったの、手を出せとは言ってない」
沙紀「前出てもあの状況ならもう無理っすよ、数手前で詰んでるっすよ」
拓海「あぁ? んなもんやってみなきゃ分かんねぇだろ!」
ヘレン「追い込まれて苦し紛れに出す攻撃なんて私じゃなくても見切れる、あなたは素手じゃなくて武器で戦ってるのよ」
凛「……これ、どうしよう」
未央「タクミさんの? 一応……返しておく? 今は返せそうにないから後で」
ヘレン「こうやって無力化されて、その危険性が分かったかしら」
拓海「…………分かったよ、負けだ」
ヘレン「結構、聞き分けがいいと好感触よ」
卯月「終わっちゃった……あっという間に……」
拓海「くっそ……いい晒し台じゃねぇかアタシ」
ヘレン「悲観する事はないわ、悪い素材じゃない」
亜子「はえ~……あっさり、とは言いませんけど」
泉「相手側に指摘を行えるほど余裕がある、なら……」
さくら「戦闘は現実的な試験突破方法じゃないって事ですかぁ……?」
早苗「ったく、弱気ね……」
卯月「あっ、サナエ……さん!」
ヘレン「何かしら?」
早苗「何もこうもないでしょ」
――スッ
早苗「はい、第二ラウンド開始の合図」
智香「ちょっ!?」
千鶴「それは幾らなんでも――」
――ダァンッ!!
未央「うわっ! そんないきなり……!」
ヘレン「……あなたはさっきの彼女のお友達ね?」
早苗「そうよ、というか結構余裕で避けたわね?」
ヘレン「いいコンビね、互いが両極端……大事にしなさい」
拓海「お前幾ら何でもそりゃねぇだろ!?」
早苗「勝ちゃあいいのよ、そもそもタクミちゃん負けたんだから何も口出さないの!」
さくら「正々堂々は大事ですよぉっ!」
亜子「急ごしらえの第二ラウンド……アタシら挟まる余地ありませんでしたわ」
凛(タクミさんには悪いけど、初戦で相手の実力の程度がほとんど見えなかった……)
未央「今度こそ……!」
早苗「私も忠告は多分聞かないと思うけど、性格は丸くないんでよろしく!」
ヘレン「遠慮のない攻撃は長所でも短所でもあるわ」
智香「あの人は……どうなのかな?」
未央「強い……うん、一度ちゃんと戦ったから」
泉「銃を持っているみたいだけど、ずいぶん接近してる……」
ヘレン「その武器は飾り? 中距離戦の利点を自ら放棄するとはね」
早苗「やってみなきゃ分からな……ああ駄目駄目、それじゃタクミちゃんと一緒じゃない」
――ザッ ザッ
早苗「私だって適当に聞き流してたわけじゃないのよ、さっきの戦闘」
千鶴「まだ接近する……?」
ヘレン(実力差は把握しているはず、なら……不意を狙ってくるつもりね)
ヘレン(ただ、銃で接近戦なんて分かりやすい意外性は求めていないのよ……がっかりね)
早苗「行くわよ!」
ヘレン「真っ直ぐ、なわけないでしょう? 企みを見せなさい!」
早苗「お望みなら見せてあげるわよ!」
――ダンッ!
卯月「跳んだ!?」
ヘレン「空中? ……フン、それは虚でも何でもない、ただの迂闊な選択よ」
早苗「どうかしら? 防御を考えなければ空中は利点が多いのよ?」
千鶴「確かに地上同士よりも上下の狙いが加わる分、遠距離同士では空中のが被弾しにくいですが……」
さくら「なら一方的だねっ!」
早苗「そっちは地上! 遠距離同士ならこっちのが当てやすいわよ!」
ヘレン「だから甘いのよ、既に遠距離戦と確定させて話を進めているのが二流!」
――ダンッ!
未央「向かっていった!」
ヘレン「遠距離に遠距離で付き合う必要はないわ。世の中には着地狩りなんて言葉があるように、着地点には隙が生まれるもの」
拓海「先に待ち構えるつもりか! この移動速度なら……まずいぞ!」
早苗「ま、半分予想通りね」
ヘレン「何ですって?」
早苗「空中で移動できないって思い込んでるのはそっち!」
――ドガァンッ!
ヘレン「真上に発砲?」
智香「天井が!」
泉「いや、今の衝撃で……空中の軌道が変わった」
――ヒュンッ!
早苗「ほら、足元よ!」
ヘレン「一瞬で地上に……」
亜子「早っ! あんな無理矢理な着地でそんな瞬時に攻撃……!」
凛「防御は……うん、あの不意の突き方なら……!」
――ドガッ!
卯月「当てた……!?」
未央「入った!」
ヘレン「なるほど、この私が一瞬でも気を逸らされるとは思っていなかった、立派な不意よ」
沙紀「……で、クリーンヒットしたのに何で会話は普通に進んでるんすかね」
ヘレン「でも駄目ね、強引すぎて肝心の威力が伴っていない」
早苗「痛った……ぁ!」
泉「攻撃が入ったんじゃないの……?」
沙紀「入った……ように見えたっすけど、逆にダメージ受けてるっすよ」
拓海「おい! 何があったんだよ!」
早苗「ちょっ、待って、あー痛たたた……」
ヘレン「簡単なこと、攻撃力を防御力が上回っただけ」
ヘレン「あの姿勢から狙ってくるのは足しかない、そう理解してから強化で防御を試みても十分な時間があったわ」
亜子「見てから防御壁張った言う事か……いやいやいや、術式使った痕跡なんて微塵も残ってないやないですか」
卯月「……ほんのちょっとだけ、魔力を感じる」
ヘレン「フフ……目立たないようにしていたのだけど、敏感ね?」
早苗「どうなってんのよ……真正面で戦ってる相手に気取らせないなんて……」
ヘレン「これが世界レベルの実力よ、あなたの想像も及ばない地点」
ヘレン「そして!」
――ダンッ!
智香「近づいた!」
卯月「でもさっきと同じ距離間だから状況は同じ……!」
凛「いや……“近づいた”と“近づかれた”じゃ天と地の差だよ」
ヘレン「近接は得意かしら?」
早苗「ええ、とってもッ!」
――ドガッ!
智香「相殺です!」
早苗「やるわね……!」
ヘレン「当然よ」
沙紀「真っ向から喧嘩っすね」
さくら「押し切りましょうっ!」
早苗「っと……このっ!」
ヘレン「……何を警戒しているのかしら、さっきみたいな防御壁? 気持ち、威力が落ちている」
早苗「どうかしらね」
泉(そうには見えない……いや、見ているだけでは分からない極微量?)
ヘレン「仕方のない事、もう“不意を突いても防御される”と経験した以上その気持ちは拭えないもの!」
早苗「だから何なのよ……そっちの攻撃も、タクミちゃんに色々と言ってたものの……」
早苗「実際はそこまで強くない、受け止められる程度の攻撃ね? 言葉巧みに誘導してさっきは勝ったみたいだけど!」
――ビュンッ
未央「んんっ! 惜しい!」
拓海「そうなんだよ……当たらねぇんだ、ギリギリで!」
早苗「避けてるのも、本当はあたしの攻撃を止められないからじゃない?」
ヘレン「どうかしら?」
早苗「当てれば分かるのよ!」
智香「頑張ってください! どこか一回でも!」
ヘレン「当たらなければ答えは闇の中……そうね、闇にしましょう」
――シュイン
亜子「あれは……!」
未央「魔術!? さっきまでずっと近接格闘だったのに!」
沙紀「あんな咄嗟に出されると……ま、避けようがないっすね」
早苗「っ! ここに来てそんな真似……」
早苗(視界が……黒い……!)
ヘレン「この部屋は暗くはない、でも極端に明るいわけではない。目に届く光の量を絞る、俗に言う“暗闇”ね」
卯月「暗闇……沈黙と並んで、今は使われてないのに……」
凛「その方向にも通じているんだね。やっぱり、強敵だ」
早苗「多少色味が失われたところで……明暗の差が分かれば――」
ヘレン「私の位置は分かると?」
卯月「サナエさんっ!!」
――バコッ!
早苗「うぶっ! ……な、何!?」
ヘレン「安心しなさい、ただの物置に落ちていた普通のボールよ。それでも、何が飛んできたか分からない状態で顔に当たれば」
――ザッ
早苗(足音が近――)
ヘレン「ヘイッ!」
――キィンッ!
早苗「あっ!?」
沙紀「さっきと同じパターンっすね」
千鶴「武器が手から離れましたが……近接格闘も嗜んでいるなら戦闘は続行可能なはずです」
拓海「……つっても、もう続けねぇだろ」
ヘレン「銃は手から離れた、武器がなくても戦える人だとは思っているけど、どうするのかしら?」
早苗「……まだまだ、と言いたい所だけど」
早苗「あたし一人が時間を取るのは不公平ね? 他の人が退屈しちゃうでしょ」
――スッ
早苗「負けた負けた、あたしは諦めるからパスよ」
ヘレン「そう、お疲れ様と言っておくわ」
拓海「……素直じゃねぇ奴」
ヘレン「それにしても……ここに居る全員、とても優秀よ」
沙紀「さんざんねじ伏せておいて、何のフォローにもなってないっすよ」
ヘレン「いいえ、私も驚いているのよ、ここまで調子よく動いたのは久しぶり」
さくら「二人が頑張ったからですねっ!」
泉「……だといいけど」
亜子「実際問題、かなり腕利きのお二人でコレならアタシらキツイですわ……」
ヘレン「他に挑戦は? ……聞くまでもないわね、皆が臨戦態勢、老若男女」
卯月「わっ……部屋中の人が……?」
未央「私達もこの流れ、乗った方がいい……?」
凛「いや、時間はあるらしいし、合格者に上限があるわけでもない。なら後の方が有利なはず」
沙紀「ふーん……腕自慢が多い見たいっすけど、体力もつんすか?」
ヘレン「この世界レベルに心配は無用、あなたが次の挑戦者?」
沙紀「いや、アタシはもっと後でいいっす。それよりも血の気の多い人達の相手が先じゃないすか?」
智香「ぞろぞろと……」
ヘレン「いいわ、ただし順番よ? かかってきなさい」
凛「…………」
凛「ウヅキ、ミオ、ちょっと……」
卯月「え?」
・
・・
・・・
---------- * ----------
ここで別ルート、いつも通りの三択です、それぞれCuCoPa。
その①~③までの三つのうち、多く番号のコメントを頂いたもので続きを書きたいと思います。
---------- * ----------
Side Ep.40 瞬間・早い
トキコさん早く帰ってこないかな……連絡があったけど、
それでも到着するまでに万が一があったら……
わたし一人だと……大丈夫、だよね?
こんな本部の真ん中、他にも人が居るし外部から人が入ってくることはないはず。
だから大丈夫……
――カタンッ
あ、帰ってき……あれ?
扉が開いただけ? もしかして……怪我してて扉がうまく開けられない?
待っててください! 今開けますから!
「……やあっ!」
――ヒュン!
わっ!?
……だ、誰!? 敵!? いや……?
「みんな……困ってる」
え……?
っと、とにかく危ないもの持っちゃ駄目だよ!
「ここに、一番悪い人が居るって……勝手にここを襲った、悪い人が……!」
っ……てことは、あなたはこの村の……
駄目! そんな手で武器なんて構えちゃ!
それにわたし達は……確かに勝手にここに来たけど――
「ぜーんぶ悪い人のせいなんだよっ!」
危ないっ……!
で、でもわたしが止めようとしても……うまく抑えられない……!
早く、誰か人を呼ばなきゃ!
Side Ep.41 瞬間・遅い
――コツン コツン
綺麗で、静かで……とても落ち着くんですけど。
ただ勝手に入っちゃってよかったのか……たぶん駄目です……
誰かこの家の持ち主にお会いしたら謝りましょう……
――ザァァァ
……こんな雨じゃ、外も歩けません……ずぶぬれになります。
だからせめて少しでも雨足が弱くなるまでここに……と思ったのですけど
なんでしょう、綺麗な人形がずらりと並ぶ……飾ってるんでしょうか、
でもせっかくの人形も灯りが灯されず、真っ暗な中に置いてあるとよく見えません……
……どの人形も目を瞑っています、もしかして眠っていることを表現するために
ここまで暗い廊下や部屋が続いて……わかりません。
見る側からすれば明るい方がいいですね……あのっ、私が明るい所好きなわけじゃなくて。
――…………
あれ……この人形だけ、目が見えないです……
どうしてでしょう、こんなにたくさんの人形の中で、これだけ気を惹かれました。
うーんと……あ、髪が長いだけです、目はその下に隠れているだけでした……
せっかくなので……人形でも前が見えないと可愛そうですから、こうやって横に避けて……
――ザァァァ…………
Side Ep.42 瞬間・ちょうど
「なんだコイツっ……!」
化物なんて酷い呼び方、私はただのお花畑なんだよ?
綺麗なお花を見つけたらお水をかけてあげるのがマルだよ。
「花なんて綺麗なものじゃないね……水で満足するようには見えないよ」
そう? なるべく地味にしていたつもりだけど……
あまり綺麗に飾ると毒があるように見えちゃうと思って。
「その風体で毒がないって、冗談でしょ?」
あはは、これでも栄養不足で全快じゃないんだよ。
だから不気味で毒があるなんて思っちゃうのかもね♪
大丈夫、栄養満点になれば、今よりもーっと綺麗な姿になれるから、きっと!
「……その為にこんな真似を?」
こんな真似? 真似って、どんな真似?
私が生きる為に、変な理由が必要かな?
人もお花も、生きなきゃ駄目、簡単に死んじゃ駄目なんだから。
「説得力なさすぎっつーか……さっきから会話出来てるようで出来てないね?」
あっ、かわいい蝶♪ あははっ、食べちゃいたいくらい。
でも駄目、どうせ取り込むなら小さな一匹より大きな一匹、
無闇矢鱈に収穫しちゃダメだよ、お花も一緒、絶滅しちゃうと元も子もないよ。
「……虫一匹と人一匹が釣り合うわけないと思うけど?」
同じ“1”だから変わらないよ、きっと!
せっかく見つけたお花畑、荒らされちゃって私は食べるご飯がなくなっちゃった。
……だから、みんなを頂戴♪
---------- * ----------
②で進行して〆ます、続きは少しお待ちください。
---------- * ----------
・
・・
・・・
春菜「おや……あれは?」
美玲「ん? どうしたんだ?」
春菜「いやいや、珍しい見知った顔がこんな場所で見つかるなんて」
美玲「こんな場所って、今は外交役が不足してるから代わりに向かってと言われたこの国の事か?」
春菜「ご説明ありがとうございます、お手伝いのミレイさん」
美玲「……で、ウチも知ってる人か?」
春菜「どうでしょう、その騒動の時には他の区へ居たので……ミレイさんが」
美玲「てことはタマミの件の時かー……じゃあ知らないかも」
――ザッ
春菜「やぁやぁお久しぶりです、眼鏡をどうぞ」
夏樹「プライベートだっての……」
李衣菜「あ、コトカの時の」
春菜「今日はどこのお宅へ立ち入る為の下見ですか?」
夏樹「あのな、四六時中盗賊業やってるわけじゃないんだけどさ……」
美玲「……誰だっけ?」
李衣菜「お隣は?」
春菜「彼女はミレイちゃんです、ワケあって国の特別なお客様です」
春菜「お二人には……ウヅキさん達のご友人、といった方が?」
夏樹「なんだ、それなら警戒も何もする必要なかったな……聞かされてるかどうかは分からねぇけど、アタシはナツキだ」
美玲「むむ……あれ、聞いた気はするぞ、詳しく覚えてないけど……」
李衣菜「覚えてなかったら覚えてないでいいよ? ただ、お礼は重ねて言っておこうかな」
夏樹「おいおい、感謝するのは当然だけど向こうもそろそろ困るんじゃねぇのか?」
春菜「ですねぇ、天下の盗賊団は大きな貸しを作ったようで」
夏樹「半分くらい返済したつもりだったけどな……」
美玲「盗賊……?」
李衣菜「誤解しちゃダメだよ? なつきちは義賊なんだ! 悪い人からしか物は盗らないし、盗ったものは他の人に渡すんだから!」
夏樹「……毎回言われると恥ずいだろ」
美玲「よくわかんないけど、ウヅキの知り合いなら……まぁ」
春菜「それで話を戻しますが、下見ではないなら決行日ですか?」
李衣菜「違うってば! 今日は噂の名所に観光! 私達だってそれくらいするよ」
春菜「冗談ですよ、私も管轄外で取り締まるわけにも行きませんから」
美玲「観光? さっきウチがあちこち歩いて回ったけど特別なものは何もなかったぞ?」
李衣菜「知らないの? この国『シオン』で有名な……博物館」
美玲「はくぶつかん……?」
春菜「簡単に説明すると、芸術品が展示されているおカタイ場所です」
夏樹「聞いた話だと、そこに展示されているのは“人形”だ」
美玲「人形?」
夏樹「そのモノ自体もスゲェらしいが、不思議なのは館と相まってる件……だそうだ」
李衣菜「ずばり、無人の博物館……ただ、その無人であるはずの博物館に、非常に出来のいい人形が人知れず増える……」
美玲「誰もいないのにモノが増えるのか?」
李衣菜「どう? 面白そうじゃない?」
春菜「それを盗むんですか?」
夏樹「所有者が居ないものは盗むなんて言わねーって。いや、別にそうでなくとも盗んだりしないって」
李衣菜「今日は普通に観光だってば、今日も明日もそれ以降も」
春菜「しかしそんなものがあるとは、事前にこの国については調べたはずですが」
李衣菜「あれ、てっきりこんな場所に来てるなんて同じ目的かと思ってたけど」
春菜「私は仕事ですから、働き者は辛いのですよ」
美玲「でもそんなに有名なら……ちょっと、見てみたいかな」
春菜「そうですねぇ、別に急いで帰る必要は……ありますけども、ケイトが居るから何か起きても大丈夫でしょう」
夏樹(信頼してるのか丸投げしてるのか)
・
・・
・・・
――ザッ ザッ
美玲「ホントにココにあるのか? どんどん森の奥深くに来てる気がするぞ……」
春菜「まさに獣道! といった風ですね」
李衣菜「大丈夫大丈夫、秘境にあってこそ無人の不思議な建物って感じがすると思うし!」
夏樹「心配してるわけじゃねーけど、本当に合ってるのか?」
李衣菜「もう、なつきちまでそんな事言ってー、合ってる合ってる!」
美玲「これじゃウチの住んでた森と大差ないぞ……」
李衣菜「この木々を抜けたところに、人気のない寂れた大きな館が、こうデュバーンって!」
夏樹「なんだその、やる気の抜けそうな効果音は……」
春菜「おや……少し開けている場所が見えますね」
李衣菜「ほらほらきっともうすぐ到着! 森を抜けるよ!」
美玲「お、光が……!」
――ガサッ ガヤガヤガヤ……
夏樹「おー……立派な建物だな」
李衣菜「あれれ?」
春菜「立派は立派ですし、確かに博物館と言っても差し支えのない規模に見えますが」
美玲「……無人?」
夏樹「観光客……だな。アイドルのコンサートでもやってるんじゃねぇかってくらい人が……」
李衣菜「そういえば無人の博物館だけど、有名っちゃ有名だから……人も溢れるかな」
美玲「なんだ? じゃあいったい何が無人なんだ?」
??「ここには観光客以外誰もいないってもっぱらの噂だよ」
美玲「ん……?」
夏樹「お、わざわざ親切にどうも。何回かここに来てる人か?」
??「こういうアタシも初めてだけどね、そっちも?」
春菜「成り行きで来る事になりました」
美玲「でも楽しみだぞ」
??「じゃ、初めて同士ちょっと連れになってもいいかな? アタシ一人より盛り上がるし、案内もできそうだよ」
夏樹「ははは、じゃあ一緒に行くか? 人は増えた方が楽しい、だろ?」
李衣菜「なつきちがいいなら何でもいいよ! 楽しも!」
美玲「ウチもそれでいいぞ!」
春菜「では、ご同行していただきましょうか? ……えっと、お名前は?」
??「まだ名乗ってなかったっけ……アタシはアヤ=キリノ、そっちは?」
美玲「ウチはミレイだぞ、よろしくな!」
夏樹「えーと……ナツキだ」
春菜「ハルナと申します、お近づきの印に眼鏡を」
李衣菜「私はリイナ、よろしく!」
アヤ「ん? リイナとナツキとハルナ……? なんか聞き覚えがある気がするような……」
夏樹「気のせいだって、聞いた事のある人がこんな目立つ所に普通居ないだろ?」
アヤ「そうか……そうだな」
春菜「お上手、では中へ向かいましょう」
李衣菜「おー!」
美玲(改めて……なんか、凄いぞここのメンバー……)
――…………
アヤ「……すげぇ」
春菜「これはこれは、人形の展示がどんなものか想像が付きませんでしたが」
李衣菜「数も凄いよ……ただ長い廊下みたいな部屋の端に並べられてるだけなのに」
美玲「その、何というか……思ってたのよりずいぶん迫力が……!」
夏樹「人形というより、ぬいぐるみって言った方が印象いい気がするけどな」
アヤ「そうだな、思ってたのと少し違うけどこれはこれでいいよ」
李衣菜「なつきちほら! すっごい綺麗! あれすごいって!」
夏樹「分かった分かった……綺麗だからさ……いやマジで」
春菜「素晴らしい数々ですがここに眼鏡を」
美玲「やめろッ!」
李衣菜「並びが、部屋が変わるたびに心に言いようのない気持ちが! うっひょー!」
夏樹「子供か!」
李衣菜「いつまでも子供の気持ちを忘れないっ!」
アヤ「ま、凄い所って分かってもらえたならアタシも紹介してよかったよ」
春菜「思わぬ副産物でしたよ、ただ仕事に来るだけではつまらないものですから」
アヤ「そう言ってもらえると嬉しいね、それじゃあアタシも」
美玲「ウチも!」
・
・・
・・・
――…………
アヤ「来た甲斐があったってもんだよ……こんな凄いところだったなんてさ」
夏樹「アタシも元はだりーに連れてこれらただけなんだけど、十分楽しめたよ」
アヤ「暑い暑い、曇り空なのに汗かいちゃって」
夏樹「人形だからとかじゃなくて、芸術とかよくわかんねー性格してたから楽しめるか微妙だったんだけどさ」
アヤ「わからない人に分からせる事ができる作品、すげぇと思うだろ?」
――ザッ
春菜「こちらでしたか、興奮冷めやりませんねぇ」
アヤ「館内をずっと見て回ってても楽しいけど……」
夏樹「普段はしゃぐキャラじゃないからさアタシ、疲れてんだ」
春菜「それで中庭ですか。確かにここは少し落ち着きますねぇ」
アヤ「目の休憩かな、アタシには眩しすぎる展示が多くて」
夏樹「それだけ凄いモノってのは分かるんだけどな」
春菜「盗んでみたくなりましたか?」
夏樹「えらくその話題を振りたがるんだな……」
春菜「他意はありませんよ」
夏樹「どうだか」
アヤ「……?」
李衣菜「あれ? なつきちは? というか皆は?」
美玲「さっきハルナが探しにいったぞ! 勿体無いなぁ、見る所なんてまだまだあるのに」
李衣菜「だね! すっごい綺麗でこれが芸術的って事なんだ! 私でも何となく分かるこの感じ!」
美玲「ウチもなんとなく分かるぞ! そのなんとなくってのが大事なんだと思う!」
李衣菜「この感じ、ロックな雰囲気!」
美玲「……? お、りーな! あっちに階段があるぞ! まだ上の階があるっぽい!」
李衣菜「ホント!? じゃあ私も……あ」
美玲「どうしたんだ?」
李衣菜「いや、他の人が触っちゃったんだろうね、落ちてる人形があるから直してから行くよ」
美玲「分かったぞ、じゃあウチは先に見てくる!」
李衣菜「あっ! ずるい! でも直してから行った方がいいよね、よいしょ……」
――ストン
李衣菜「あれ、この子……顔が見えないなぁ」
李衣菜「……そっか、顔に髪が掛かってて……こうすればいいかな」
美玲「何してるんだー?」
李衣菜「何でもなーい、すぐに行くから待っててー」
美玲「そーか? じゃあホントに見てくるぞウチは」
李衣菜「待ってくれてたんだ……よしっ、これでオッケー……あれ?」
李衣菜「……そういえば気にしてなかったけど」
李衣菜(ここにある人形って……全部目を閉じてるね? 眠ってるって事?)
李衣菜「これも無人とか人がいないとか、静かって意味を表してるとか? 凄い、そこまで考えられてる……」
李衣菜「くーっ! やっぱり来てよかった! 私も二階見に行く! まだ続きを見る!」
・
・・
・・・
夏樹「結構な時間が経ったけど……」
春菜「時が経つのを忘れるほど、というのはこの事ですね」
美玲「他に人も少なくなったし……帰るか?」
アヤ「そう思ってたけど……」
――ザァァァ
李衣菜「結構な雨だね」
夏樹「濡れて帰るのはな」
美玲「別に濡れてもウチは構わないけど」
アヤ「いや、一度森の中を抜けなきゃならないから雨で出歩くのは危ないよ」
春菜「眼鏡使いますか?」
アヤ「え……は?」
美玲「聞き流してくれていいぞ」
春菜「失礼な、撥水性は高いんですよ」
美玲「その効果必要?」
アヤ「……駄目かな、止む気配も無さそうだ、空は全域曇り」
夏樹「ま、急に急ぐ要件がないなら無理矢理雨の中帰る必要もないだろ?」
李衣菜「ちょっと雨宿りさせて貰お?」
アヤ「それがいいかな……どうせ他に誰もいないはず、休憩に使えそうな部屋を探すか」
春菜「それでしたら途中で休憩室のような部屋を見つけましたよ、簡単な寝具も」
美玲「誰もいない館なのにそんな設備があるのか?」
春菜「今は使っていなくとも過去に使っている可能性はありますからね」
李衣菜「掃除しなきゃダメかもしれないけど……」
――バサッ
美玲「ちょっとホコリっぽいぞ」
アヤ「設備があるだけマシだな」
春菜「ええ、これでも私が自室意外で眠る状況よりいくらかマシでしょう」
夏樹(国家の幹部が貧相な生活してやがるな……)
李衣菜「なんでベッドがここにあるんだろうね」
アヤ「分かんねぇけど、あるものは使わせてもらう事にしようぜ」
美玲「ところで普通に一泊する流れなのか」
春菜「雨が止むまで待機するなら寝てしまいましょう、そんな結論です」
夏樹「あるから使うってだけで別に起きててもいいよ、アタシみたいに」
李衣菜「なつきち寝ないの?」
夏樹「一人ぐらい起きててもいいだろ?」
李衣菜「でも」
春菜「おやすみなさいませー」
美玲「早っ」
――ザァァァ
春菜「Zz……」
李衣菜「くー……」
美玲「重……ん……」
アヤ「雨、収まらねーな」
夏樹「日付変わるかもしれねー、起きてて大丈夫か?」
アヤ「大丈夫だ。それに、ちょっとテンション高くなったからさ」
夏樹「分かるぜ、旅行前日の気分な、まさに旅行当日でもあるんだけど」
アヤ「……なぁ、会った時からずっと引っ掛かってたんだけどさ」
夏樹「何が?」
アヤ「ナツキとリイナって……」
夏樹「聞きたいのは職業か?」
アヤ「そう返すって事は、マジ?」
夏樹「どうだろうなー、ただのそっくりさんかも……」
アヤ「……ま、誰でもいいか。あんたが誰だろうと既に知った顔だよ」
夏樹「違いねぇな、プライベートでは仲良くしような」
アヤ「ビジネスでは?」
夏樹「やっぱ気になるか?」
アヤ「そういう言われ方したら、気になるだろ……」
夏樹「へへ、悪い悪い、それで――」
――…………
夏樹「……?」
アヤ「どうした?」
春菜「ん……」
アヤ「あ、起こしちゃったか? でも残念ながら雨は止んでない――」
春菜「雨音に混じって、何か聞こえましたね」
アヤ「え?」
夏樹「さっすが騎士様、寝てたんじゃなかったのか?」
春菜「眠っていましたが、不審な物音には反応しちゃうもので」
アヤ「……お、音? んなの聞こえたか……?」
李衣菜「Zz……」
美玲「うー……」
夏樹「わざわざ寝てる組を起こして見に行くほどじゃねぇだろ、アタシが――」
春菜「それには及びません」
春菜「じゃん、こちらの眼鏡をどうぞ」
夏樹「なんでそうなる」
春菜「ただの眼鏡じゃないんです、そもそも私が繰り出す数々の眼鏡はどれもがオンリーワンでスーパーな」
夏樹「分かった分かった……じゃあ見に行ってくる」
春菜「話を聞いてくれません」
アヤ「眼鏡……ハルナ……」
春菜「呼びましたか? というよりかは聞いてくれますか?」
アヤ「へ? あ、ああ……」
春菜「実はこの眼鏡には遠視、すなわち距離の離れた地点の様子を見る事が出来ます」
夏樹「なんだ先に言ってくれよ、便利なモノだな」
春菜「言おうとしてたのを止められたんですけどね」
夏樹「いつもこうなら見直すんだけどなぁ」
春菜「まるで普段は駄目と言いた気ですね?」
夏樹「周りに誰も言ってくれる人が居ないのならアタシが代わりに言ってやるよ」
春菜「はははは、斬っちゃいますよ?」
アヤ「ちょっ! ここで険悪になるなって! 外に出なくていいなら頼むよ!」
春菜「眼鏡を理解していただけたアヤさんが言うなら収めましょうか、こちらの眼鏡をどうぞ」
アヤ「こ、これは?」
春菜「ぜひプライベートで」
夏樹「遠視って妨害され易いんだろ? ちゃんと動くのか?」
春菜「短距離なら阻むものもないでしょう、では装着!」
アヤ「……どんな感じに見えてんだ?」
春菜「少しずつ視点を前方へずらしているところです、このまま壁を通り抜ければ外も見えるはず……」
――ギョロリ
春菜「うわっ!」
アヤ「どうした!?」
春菜「……あー、びっくりしました。壁を抜けた瞬間に、超至近距離で人形の真正面だったせいで」
夏樹「そうか、昼間は明るかったけど今は暗いからなぁ」
春菜「真っ黒な瞳を直視するとキますねぇ」
夏樹「おいおい大丈夫かよ、子供じゃねぇんだから……んな大きなリアクションしなくてもよ」
春菜「だーいじょうぶです、ハルナにお任せ」
アヤ(腕震えてる……)
――ジーッ
春菜「音の発生源はわかりませんねー」
夏樹「ちゃんと見てんのか?」
春菜「失敬な……っと」
アヤ「何か見つけたのか?」
春菜「いえ……」
夏樹「また人形と目でも合ったか?」
春菜「…………」
夏樹「おいおい……いちいちそれじゃ非効率だっての、やっぱり直接見た方が早くねーか?」
アヤ「アタシ見てきた方がいい?」
春菜「……そんなに言うならナツキさんがどうぞ、特別にお貸ししますから」
夏樹「お、使っていいのか? 自慢の眼鏡」
春菜「少しは気持ちが分かるでしょう」
夏樹「はいはい……っと」
――ジーッ
夏樹「ははっ、こりゃビビっても仕方ねぇってか?」
アヤ「どんな感じ?」
夏樹「黒い硝子の瞳が無数に、って奴か? 夜の館内もそれはそれで楽しそうだな」
春菜「ぜひお一人でどうぞ」
夏樹「……えっと、向きを変えるのはどうすんだ、あっちを向きたいんだ」
春菜「あっちとはどの方角ですか。とりあえず少し念じれば動きますから」
夏樹「お、楽しいなコレ。えーっと……音の方向はどっちだ」
アヤ「……アタシは聞こえなかったから」
夏樹「今も聞こえてるぜ? 眼鏡掛けたあたりから聞こえるように……もしかしてこの“視ている”部屋が音源か?」
春菜「それは遠視の眼鏡なので、現場の音は拾えませんよ」
夏樹「……? いや、でも今も微かに聞こえて」
――…………
アヤ「お?」
春菜「……聞こえているのはすぐ近く、って事ですか」
夏樹「どっから聞こえた? そこに合わせりゃいいんだろ?」
アヤ「えーと今の音は――」
李衣菜「んー……朝ぁ?」
夏樹「おうおはよう、だがまだ夜だ」
李衣菜「あれ、なんで眼鏡なんて……似合ってるよ」
夏樹「ありがとよ、ところで下のお友達が苦しそうだから退いてあげろ」
美玲「うー……」
李衣菜「あっ!」
春菜「よく寝てられましたねぇそんな状態で」
李衣菜「……今、どんな状態?」
夏樹「外から音が聞こえてな、外に出るのが怖い騎士に代わってアタシが確認中だ」
春菜「もうそれでいいです、で? 肝心の音源の特定は?」
夏樹「急かすなって。こっちの部屋か、それともさらに隣か……」
アヤ「……ところで大丈夫か?」
春菜「私ですか?」
アヤ「さっきからその……指摘しない方がいいかもしれないけど、手が、さ?」
李衣菜「……あれれ?」
夏樹「なんだよなんだよ」
春菜「いえ、これはその様な事ではなく……おかしいですねぇ」
美玲「ん……朝? じゃないな……えーっと、みんな何してるんだ? ウチは背中が痛い」
李衣菜「ごめんってば……今はね――」
夏樹「暗闇で驚いて、手がガタガタしてる人が居てな」
春菜「いいえこれは決してそのような……そうです、夜の冷え込みで体が」
夏樹「分かった分かった、隣の部屋に毛布とかあったから取ってこい」
美玲「ウチも行こうか?」
春菜「いえいえ大丈夫です、皆さんは音源の特定を」
李衣菜「音? ……んー、確かに聞こえるかも」
美玲「でも、音って言うより……声だぞ」
夏樹「声だぁ? こんな雨も降ってる夜中にいったい誰が居るんだよ」
美玲「ウチらとかかな」
アヤ「声……何か言ってるのか?」
美玲「会話してる感じじゃないぞ、ただ一言だけ呟いてるだけかも」
美玲「えーっと……よ……そ……『ようこそ』?」
――バタンッ
春菜「……はぁ」
春菜「いやはやこれは……どういう事でしょう?」
春菜「確かに驚きました、驚きましたけど……ここまで尾を引くものではないはずです」
春菜「なぜ、先程から手が収まらないのでしょう……」
春菜「いや、これは気温のせいです、そうに違いありません」
春菜「まったく、おかげでからかわれてしまいまし――」
――ポタッ
春菜「っ! ……冷たい。 もう! またこんな目に合うなんて……何らかの悪意が感じられます」
春菜「しかし立派な館なのに雨漏りとは……穴でも開いて――」
??「悪意…………間違ってない、かも」
春菜「え――――」
??「あなたは……綺麗に、なる?」
春菜「敵しゅ……!」
??「あ、駄目……」
――ピクッ
春菜(……っ! またしても、いや……全身……!?)
??「声……駄目……まだ早い……よ?」
春菜「っう……!」
??「不思議……? わからない? 不気味……?」
――カクンッ
春菜「あ、れ……?」
??「立てない、震える……次は……」
春菜「こんなの、立て直せば……!」
――ガタッ
春菜「……!」
??「焦点が合わない……見えないものも、無いはずのものも見えて……」
春菜「な、何ですか……! いったい、あなたは誰……何の目的で――」
??「目的……? そ、それは……――――が、悲しまないように……」
春菜「……え? な……何ですか? 今何と言いました……?」
??「分からなくても……大丈夫……ただ」
――ピタッ
春菜「ひっ……冷たい手ですね……触らないでください……」
春菜(いったい何なんですか……!?)
??「分からない……? 分からないのは、怖い……?」
春菜「だから何を――」
??「その……今の感情を……私に……!」
・
・・
・・・
夏樹「……分かんねぇな」
美玲「あれ以降声も聞こえなくなったぞ」
アヤ「気のせいじゃなくとも、発生源がどこか行ったなら問題ないか?」
李衣菜「じゃない? なつきちどんな感じ?」
夏樹「どうも何も、静かなもんさ」
美玲「んー……いい加減直接探した方が早いんじゃないか?」
李衣菜「外寒いー、暗いー」
夏樹「だってよ」
美玲「はぁ……」
アヤ「なぁ、ちょっと気になってるんだけどよ」
夏樹「何だ?」
アヤ「……ハルナは?」
李衣菜「帰ってきてないの?」
夏樹「あぁ? ……たかが隣の部屋だろ、遅せぇなぁ」
アヤ「出て行ったわけじゃないよな?」
李衣菜「荷物もあるし、帰ってくるはずだよ」
美玲「ウチが見に行くか?」
夏樹「いや、部屋が分かってるなら確認だけでいいさ、コレでな」
李衣菜「行き先は?」
夏樹「せいぜい隣の部屋だろ」
――カチャ
アヤ「……便利な代物だな」
美玲「いつもこんな感じだといいんだけどな……」
李衣菜「……?」
夏樹「ふー……居ねぇな」
美玲「え?」
李衣菜「他の部屋に向かったとか?」
アヤ「でもこんな時間に他の部屋に用事なんて……」
美玲「そもそも明かりついてる部屋って残ってるのか?」
夏樹「廊下挟んで反対のいくつかの部屋が……ん?」
アヤ「どうした?」
夏樹「見つけた」
美玲「ったく、人騒がせだなっ!」
夏樹「……けど、何でこの部屋に?」
美玲「どこの部屋だ? ウチが引っ張って帰ってくる」
夏樹「待てって。場所は昼間に何度も通った所だけどな」
李衣菜「てことは、裏の休憩エリアじゃなくて展示の場所?」
夏樹「ああ、見てみるか?」
李衣菜「これ見ればいいの? ……あ、本当だ、でも……寝てる?」
夏樹「だといいんだけどな」
李衣菜「……?」
夏樹「いくらなんでも直ぐに帰ってくるだろ、なのに……って事はだ」
美玲「ここより悪い環境の方が眠りやすいのか?」
夏樹「そんなオチを望みてぇが……これは憶測だし確証も何もねぇけど」
夏樹「もしかして……狙われてるのか?」
李衣菜「…………今?」
アヤ「お、おいおい、何を理由をそんな物騒な――」
夏樹「……さっきまで明言しなかったけどよ、いつどこで襲われても可笑しくねぇ立場なもんでな」
アヤ「んな事ずいぶん前から察してるって! なんで今なのかってことだ!」
李衣菜「どうだろうねぇ……あの騎士さんが居なくなったから、じゃない?」
アヤ「こっちを狙うためにあっちを襲った? んなワケ……」
夏樹「極論持っとかないと続かないビジネスなもんで、不安にさせたなら謝るよ」
美玲「なんだなんだ? ……ハルナが盗賊って言ってたの、聞き間違いじゃなかったのか?」
アヤ「……やっぱりそうなのか?」
夏樹「初めまして」
アヤ「よしてくれよ今更……アタシは態度変えるつもりもないし、元々悪い印象なんてなかったから」
アヤ「それに……あの人も、まさかとは思うけど本人じゃないか?」
李衣菜「本人? 強いて言うならお偉いさんかな」
アヤ「やっぱそうかよ……じゃあ尚更二人は良い奴ってことだ」
美玲「どうしてそうなるんだ?」
アヤ「手配者と一緒にいる国家重役なんて居る訳ねぇって、危険じゃないとわかってない限りさ」
・
・・
・・・
――じゃあ警戒しながら……
??(もう……誰かの介入を疑ってる、早い……)
??「あっ、外に……でも全員で……」
??(今までの人、気のせいと思ってくれた……でも違う)
??(この人達は……不測の、不意の事態に慣れてる……?)
――チャリン
??「……あっ、落としちゃった……拾わなきゃ」
??「名前……シラサカ…………あ、あの子と、同じ……」
小梅「……ふふ……いつもより、慎重に」
小梅「うふふ……あ、駄目……わ、私も……影響されてる……」
――ガチャッ
李衣菜「暗っ…………」
美玲「ウチは見えてる、先歩いたほうがいいか?」
夏樹「こんな大所帯で行く必要は無いと思うけどよ……」
アヤ「駄目だ、危ないなら人数は多い方がいいだろ?」
夏樹「……アヤは腕に自信あるか?」
アヤ「比べられると全然だって」
夏樹「駄目だぜ? そこは嘘でも“ある”って答えねぇと」
アヤ「……なんでだよ」
夏樹「下手に志半ばで手配犯と関わるとロクな事にならねぇぞ?」
アヤ「手配犯とじゃねーって、友達と関わってんだよ」
夏樹「嬉しいね」
李衣菜「んー……」
美玲「この部屋か?」
夏樹「そうだ、開けてくれるか?」
美玲「分かったぞ」
――ギィィ
夏樹「……遠視で見た様子と一緒だな」
李衣菜「あれ? 眼鏡持ってきてなかったの?」
夏樹「いや、すぐそこの部屋だから置いてきたけど……別にいいだろ?」
美玲「部屋は灯りがついてるぞ」
アヤ「……あそこだ」
――スタスタスタ
夏樹「よっと、起きてるか?」
春菜「ん……あれ?」
李衣菜「なんでここで寝てるの?」
春菜「…………あはは、ど、どうしてでしょうか……?」
夏樹「あのな……周りに心配させて何が『どうして』だよ」
夏樹「……誰かに襲われたか?」
春菜「……いえ……質問に質問で返してしまうのですが」
春菜「私はいつの間に……ここへ?」
夏樹「……はぁ?」
アヤ「確か隣の部屋に何か取りに行くって聞いたけど……」
春菜「それは覚えています、が……そこから先が何とも……」
夏樹「……?」
美玲「いったいどうしたんだ?」
李衣菜「分かんないけど、見つけて無事なら戻ろう?」
夏樹「……そうだな、話はそれからだ」
春菜「何かありましたか?」
夏樹「今まさに意味の分からねぇ事が起きてるが……ちょっと思う所があってな」
夏樹「アタシらを狙ってる輩が、また出てきたんじゃねぇかって」
春菜「ほう……? 賊の気配は感じませんが」
李衣菜「賊は私達な気もするけどね」
アヤ「気配なんてそもそも人すら感じないっての……」
美玲「雨の音がするだけだぞ」
春菜「……とにかく雰囲気、気配でそう感じたと?」
夏樹「それに巻き込まれた……と思ってたんだが、違うのか?」
春菜「襲われた……うーん……」
美玲「とりあえず……戻ってから話をして欲しいぞ」
李衣菜「だね、ここは少し寒いよ」
夏樹「……そうするか、急に冷え込んできやがった」
春菜「ですね、よいしょ……っと!?」
――ドサッ
夏樹「なんだなんだ次から次へと……」
美玲「転んだのか? 大丈夫か?」
春菜「怪我はありませんが……あの、手をお借りしても?」
アヤ「あ、ああ……」
――グッ
アヤ(……?)
春菜「よいしょ……」
春菜「わっとと……」
夏樹「風邪でも引いたか? んな所で寝るからだっての」
アヤ「震えてた……?」
李衣菜「なに?」
アヤ「あ、いや……何でもないって」
アヤ(確かにさっきから……気温は下がった感じがするけど、こんな震える程?)
春菜「何でしょうね……ちょっと先程から頭が働かなくて……」
夏樹「落ち着けって、なんだよ震えてたり寒がったり怖がったり、ここはお化け屋敷か?」
春菜「…………」
夏樹「図星か?」
春菜「怖い……この手ですか? いったいどうして……」
李衣菜「何? 話がちょっと読めないんだけど?」
春菜「なにか思い出せそうな……」
夏樹「ははっ、恐怖体験か?」
美玲「こんな綺麗で凄いところにそんなもの――」
――……フッ
春菜「っ!?」
李衣菜「あれっ!?」
美玲「灯りが……!」
夏樹「見えねぇ……! りーな!」
李衣菜「灯り、ちょっと待っ――」
アヤ「うわああああ!!?」
春菜「やっ……!?」
夏樹「!?」
美玲「アヤっ!?」
――ズズッ
美玲「二人が……何してんだ!?」
アヤ「ち、違っ! なんだこれ! 引っ張られ――」
春菜「離して、離してくださ……! 嫌っ!」
夏樹「何だ? 何が起きてんだ!? くそっ、暗くて見えねぇ……!」
李衣菜「……っわ!?」
夏樹「りーな!」
李衣菜「くうっ!? こ、こっちにも……」
夏樹(分からねぇ……! どこだ!? 何が起きてるんだ!?)
美玲「たあっ!」
――ザンッ!
アヤ「っと……は、外れた……」
李衣菜「ごめん、手間かけさせた」
夏樹「ミレイか!? すまねぇ……とにかくここは嫌な感じがする!」
アヤ「何なんだ一体……!?」
春菜「はあっ、はあぅ……」
――ズズッ
美玲「……そっちから来てるぞ!」
夏樹「よりによって入口からかよ……! りーな!」
李衣菜「分かってるよ!」
――ガシッ
春菜「ひえっ」
夏樹「アタシはハルナを連れてく、とにかく反対側から部屋を出るぞ!!」
アヤ「お、おう! で、ミレイ、ありがとな」
美玲「このくらい問題ないぞ、うまく引っ掻いて大丈夫な相手で良かったよ」
美玲「……ん?」
アヤ「どした? 今は隣の部屋に逃げないと――」
美玲(爪に、綿……? こんなの、いつ付いたんだ? ま……いいか)
美玲「うん……行こう!」
――バタンッ
小梅「……逃げた」
小梅(普通なら急に暗くなれば……驚いたりするものなのに)
小梅「好戦的……や、やっぱり慣れてる人……?」
小梅「でも、そんな人ほど……頼りになる……ふふ」
――…………
小梅「うん……分かってるよ……」
小梅「……こ、今週は…………二日連続、だね」
小梅「あの子も、喜んでくれる……かな?」
・
・・
・・・
美玲「……水でも飲むか?」
アヤ「ああ……」
春菜「どうしてですかね…………」
夏樹「知らねぇって、もしかして暗所恐怖症か?」
春菜「そのような診断を下された事はありませんが……」
――カシャンッ
アヤ「っ!?」
春菜「わっ!」
李衣菜「あ、ごめん、落としちゃっただけ」
夏樹「……えらく過敏に反応するな?」
春菜「さっきから……謎でして……」
春菜「物音や、不意の何かに大きく気を逸らされてしまうんです」
アヤ「アタシも……少し、そんな気がする」
美玲「……つまり?」
李衣菜「ふーん……えいっ」
――ガシャンッ!
アヤ「うおっ!?」
春菜「えひゃっ!?」
美玲「ちょっ! なんだ突然!?」
夏樹「何してんだよ……」
李衣菜「本当に神経質になってるんだねー、リアクション面白いよ」
春菜「人の気もしれず……玩具じゃないんですよ」
李衣菜「要するにビビりって事でしょ?」
アヤ「違うっての!」
李衣菜「夜の博物館ー、窓ガラスガシャーンっとー……」
夏樹「……妙だな」
美玲「何がだ? ってか、どれだ?」
春菜「妙なのは最初からですよ」
夏樹「いや、ごもっともなんだけどよ」
アヤ「妙って今更だよな……突然の灯りが消えた事といい、引っ張られた事といい」
夏樹「直接痛手を負った、ってよりかは……」
美玲「とにかくパニックだって……ウチも暗いのは慣れてるって言っても突然灯りが消えたりとかは……」
夏樹「不意で驚かせるのは戦法だよ、何もおかしくねぇ、それに実際効果を発揮してるみたいだしな」
夏樹「ただ……仮にもだ、そんなものでここまでビビる性格か?」
春菜「だから……困ってるんですよ」
――ガチャカチャ……
春菜「この状態だと命の次に大事な眼鏡も、手から零れ落ちかねませんね」
アヤ「手が、震えが止まらねぇんだよ……くっそ……!」
夏樹「大げさ、じゃなさそうだな……」
春菜「……これが攻撃でしょうか?」
夏樹「分かんねぇ、そもそも魔術撃たれた形跡も……こんな状態に陥る異常も知らねぇよ」
春菜「手の震え、と言うと確かに知りませんねぇ……ですが他には少し心当たりがあります、誠に申し上げにくいですが」
美玲「敵の攻撃なのか? もう交戦の構えでいいのか?」
李衣菜「相手が誰だろうと、目的が本当は私達じゃなくても、攻撃してきたら敵だよ」
春菜「……いいでしょうか?」
夏樹「ああ」
春菜「この攻撃の正体ですが……そもそもこれは攻撃でしょうか?」
アヤ「……アタシ達が勝手に変な状態になってるだけって事か?」
春菜「確かに接触されたり、このように動揺も誘われましたが……具体的なダメージではないです」
美玲「でも、変なコトにはなってるんだろ?」
夏樹「こっちを混乱させる目的がある……しっかし理由はなんだよ、アタシ等捕まえるなら手っ取り早い方法もあるだろ?」
春菜「何か他の目的、意図を感じますね」
李衣菜「ただそれが何かは分かんないんだね」
アヤ「結局何も手がかり無し……?」
春菜「それがこの収まらない精神とは関係があるか? と言われると閉口せざるを得ませんけどね」
春菜「目的はひとまず置いて、この攻撃……状態異常と呼びましょうか?」
春菜「久しい感情になりますが、これは“恐怖”だと思います」
李衣菜「何? やっぱり怖い?」
春菜「茶化す気持ちもわかりますが、意外と深刻な攻撃だと思いますよ」
夏樹「…………だろうな」
春菜「ご覧の通り、冷静に話しているように見える私ですが……内心、気が気じゃないです」
アヤ「アタシもだ……どこから突然攻撃にしろなんにしろ、アクションが来るかってさ……」
李衣菜「……平静じゃなく、こんな建物内ならそう思っても不思議じゃない、かな?」
春菜「問題は恐怖が全く収まらない、去らない点です」
美玲「収まってないのか? そうには見えないけど……」
春菜「いくら驚きや恐怖で精神状態を崩そうが、乱れ続ける事など不可能なはず」
夏樹「要するに、ここまで変に怖がるのは何か作用してるって事か?」
春菜「ですね、そしてここまで長く動揺が収まらない理由は、何らかの攪乱――」
――ガタンッ!
アヤ「うわぁ!?」
春菜「ちょっと! 今ですか!? 言ったじゃないですか!」
李衣菜「私何もしてないよ!?」
夏樹「つーことは……」
美玲「外だな!? ウチが見てくる!」
夏樹「待て! わざわざ相手の居る場所に出向く必要はねぇ! こっちにはコレがある……!」
アヤ「そ、そうだ、その遠視で中から見れば……」
夏樹「アタシ等の敵は誰だ……姿を見せやがれ……!」
――ギョロ
夏樹「うお……!?」
――ドクン
夏樹(やべぇ……! これ、二人と同じ状態だ……!)
夏樹(視た瞬間に恐らく“敵”と目が合った、それに“驚い”ちまった……!)
李衣菜「なつきち!?」
夏樹「若干分かったぜ……確かに怖えぇなこりゃ……いろんな意味でよ」
美玲「ど、どうした? やっぱウチが見てきた方が……」
夏樹(ずっと心臓鳴りっぱなしじゃねぇ、本当に少しづつだが収まってる……!)
夏樹「どういう理由かは分かんねぇが……相手の攻撃はこっちの“動揺”を長引かせる効果があるみてぇだ」
春菜「推測は当たっちゃいましたね」
夏樹「はっ、夜の博物館で肝試しか? とにかく、逃げるぞ!」
美玲「見に行くんじゃなくてか?!」
アヤ「最初からこうしておくべきだったか? 見に行くなんて温い事言ってねぇでよ!」
夏樹「出口はどっち方向か覚えてるか?」
李衣菜「そこらの窓から脱出した方が早いんじゃない?!」
夏樹「……くっそ、頭回ってねぇぞアタシ! 行くぞ!」
春菜「あ、待ってくださ……!」
美玲「ウチが運ぶ! これくらい大丈夫だ!」
・
・・
・・・
美玲「ふぎっ……!!」
――ガダンッ!
美玲「ぎゃっ!」
夏樹「……開かねぇか」
李衣菜「窓も……何の変哲もないはずなのに、ガンガンしても壊れないよ」
春菜「出られませんか?」
夏樹「らしいな……建物に強化式なんて感じねぇが……」
アヤ「……っ」
美玲「大丈夫か? ここはウチが見てるから、注意はしてるからな」
李衣菜「……建物自体は普通だよ、何も感じ取れないし反応しない」
夏樹「防御壁張ってるわけじゃねぇと……だったら何だよこりゃあ」
春菜「私も試しましょうか?」
夏樹「んなガタガタしてる状態で剣振れんのかよ」
春菜「いいえこの眼鏡で」
李衣菜「だったら尚更期待してないよ」
夏樹「盗賊が包囲網から出られないなんて笑い話じゃねぇか……よし」
アヤ「何か案があるのか?」
夏樹「ここから逃がさねぇように張ってる結界、と仮定して……実行犯は内部だろ」
春菜「確かにこの強度なら内部からのものでしょうが」
李衣菜「だったら簡単だね、結界張ってる人を倒せば解決」
アヤ「簡単に言ってるけどよ! この館内は広いぜ?」
夏樹「……さっき移動中にコレで館内を見たんだが」
美玲「遠視の眼鏡?」
夏樹「どこを見渡しても、誰も見つからねぇんだ」
春菜「そんなわけないでしょう、この結界の強度なら内部から誰かが張っているもののはずです」
夏樹「だけどよ」
李衣菜「私にも見せてー」
夏樹「ん…………」
――スチャ
李衣菜「えーっと……」
美玲「何か見えるか?」
夏樹「薄暗いけど人形は並んで見えるだろ? その中に人は居ねぇ、何度見てもな」
李衣菜「うーん……あれ?」
アヤ「どうした?」
李衣菜「……人、居るじゃん?」
アヤ「人が居た?」
夏樹「見間違いだろ?」
李衣菜「いや、人形は立ってないでしょ、道の真ん中に……」
美玲「そりゃあ……じゃあそいつを倒せばいいんだな!」
夏樹「見逃してたか……? 場所は?」
李衣菜「えっと、廊下があって窓が……うん、まっすぐ行った先の部屋」
春菜「出入口からまっすぐというと、ちょうど真ん中の部屋ですねぇ」
夏樹「よし……」
アヤ「行くのか?」
夏樹「当然だろ」
――スッ
夏樹(……誰も居ねぇな)
美玲「誰か居たのか?」
夏樹「静かにな、一応廊下には誰も居ねぇと思うけど……」
李衣菜「遠視で確認しながらだよ」
アヤ「両方で見る必要あるのか?」
夏樹「目視で通路、遠視で部屋の方……まだ見えてるみたいだし、逃げないようにな」
春菜「……見張ってる?」
美玲「そりゃ見張ってて当然じゃないか? ウチらが向かう前にどっか行っちゃったらまた探さないと駄目になるし」
李衣菜「真っ暗な廊下に部屋、見逃さないよー」
春菜「その、今から向かう部屋に居る、恐らく私達の敵である人物は……部屋の真ん中で立ち止まって何をしているんでしょうか?」
アヤ「何って……そういやそうだな」
春菜「こっちからは見えていますが、向こうはこちらを把握していないはず……」
美玲「……この部屋か?」
夏樹「え、ああ……りーな、中は?」
李衣菜「中は変わってないよ、この扉を開けて奥に進んだところに居るはず」
美玲「よし、開けるぞ……」
夏樹(……計画性なさ過ぎか? しかし他に方法がな)
李衣菜「……ん?」
――ガチャッ
美玲「え? なにその『ん?』って……」
アヤ「部屋の中に居るんじゃ……」
李衣菜「いや、確かに居たんだ……扉を開けてすぐの場所じゃなくて、部屋の中の角を曲がったところだけど……!」
春菜「居た? 居たって何ですか……?」
李衣菜「一瞬目を放した……じゃない、一瞬だけ映像が乱れて……」
アヤ「乱れて……」
李衣菜「もう一度見直したら、居なくなってた……」
――ギィィィ……
美玲「……居ない? 居ないって、何だよ!」
夏樹「りーな! その部屋にほかの出口は!?」
李衣菜「あ、あるよ! ただ……窓とか含めるといっぱい!」
夏樹「じゃあ周りの部屋探せ!! 見失うとやべぇぞ! アタシ等が一番気をつけなきゃならねぇのは不意だ!!」
春菜「な、何ですか何ですか何ですかっ!」
アヤ「またどこからか……!? くそっ!」
夏樹「ミレイ! アタシ等のすぐ近くはどうなってる!」
美玲「ち、近く? 廊下は……あっちもこっちも誰もいないぞ」
アヤ「この……姿を――」
――ガシッ
アヤ「うおぉ!?」
春菜「ひゃぁ!?」
夏樹「っ! 何だ!?」
アヤ「足……い、いや、何もねぇ……何も……っ!」
春菜「お、驚かさないで下さい」
夏樹(チッ! 悪循環だ……! 一回“動揺”すると状況が状況だけにどんどん悪化しやがる……!)
――カラァンッ……
春菜「何の音です!?」
夏樹「余計な音も、変な感触も気のせいだ! 気にすんなッ! 気にするほど悪化すんぞ!!」
李衣菜「うー……!」
夏樹「まだ見つからねぇか……移動した方がいいのか?」
美玲「ウチらは良いけど、二人はちゃんと移動できるのか!?」
アヤ「た、たぶん大丈夫だ……」
春菜「お手数かけますがっ」
李衣菜「なつきち! 居ないよっ! どこにも見当たらない!」
夏樹「んなワケねぇ! きっとどこか見落として……!」
??「……ふふっ」
――ガシッ
夏樹「うぁっ!?」
李衣菜「えっ?!」
小梅「えいっ……」
――ギュッ
夏樹「かっ……!?」
美玲「だ、誰だッ!?」
李衣菜「なつきち!」
夏樹(首……! やべぇ、大した力入れられてねぇのに……!)
小梅「……怖がってる……? そんなに震えて……?」
夏樹「ぐ……ぅ……!」
夏樹(手が、焦るなアタシっ! 頭で分かってても体が追いつかねぇ……!)
アヤ「あ、あっ、誰……!」
春菜「はぁっ……はあっ……!」
小梅「もう、恐怖が大部分を占めてる二人には……わ、私も何か“得体の知れないもの”に見えてる……」
夏樹「ぐ……やっぱ元凶が……居るか……」
小梅「そうじゃない……ほかの人だって、突然……対応できないはず」
小梅「考えを巡らす程……あ、悪化する……!」
夏樹(確かにコレはまずい……! 気を向ける程、余計な情報が入ってきて……)
小梅「さ、最終的にね、何も本当のものが……見えなく、聞こえなくなる……」
小梅「残る……きょ、恐怖だけ……!」
――グッ
夏樹「っう!」
小梅「力、私は弱いけど……外せないよね……?」
小梅「気が回らない、力が入らない……だから――」
李衣菜「離れろぉッ!!」
――ドガッ!
小梅「っ……あれ……?」
夏樹「かはっ! けほっ!」
李衣菜「離れるよ! ミレイ! 二人を!」
美玲「へ? あ、わ、分かったぞッ!」
小梅「……怖くない? ……違う、反射的に動いた……だけだね」
アヤ「あ、ぁ……」
美玲「行くぞっ! 掴まっとけよっ!」
春菜「あわわわっ」
李衣菜「なつきちも――」
小梅「だめ……」
――パシッ!
李衣菜「わっと……!?」
小梅(軽い……や、やっぱり……感じてるはず……)
夏樹「分断された……チッ、りーなはそっちから逃げろ!」
李衣菜「なつきちは!?」
夏樹「反対方向だ! アタシを持たなくていいから、代わりに二人のどっちか背負って、とにかく出口を探せ!」
李衣菜「……わかった!」
――タタタッ
小梅「あっ……」
夏樹(攻撃……駄目だ、通る画が見えねぇ……! 何もかも弱気になってやがる……)
――ダッ
小梅「あ、そっちも……待って……」
夏樹(移動速度はこっちがギリ上、なら気持ち落ち着けるまで逃げ切って……話はそっからだ!)
夏樹「もう少し動けよ足……!」
――タッタッタッ……
---------- * ----------
別件の企画が少し忙しいので更新が遅れます、申し訳ありません。
---------- * ----------
・
・・
・・・
李衣菜「これも、これも、こっちも……」
春菜「そちらの窓は……」
美玲「まず落ち着いて……そっちに窓は無いぞ」
アヤ「……アタシ、正しいもの見えてんのかな」
李衣菜「あの子供が敵で間違いない、目的も心当たりも、何にもわからないけど」
美玲「怖がっちゃダメ、ってことでいいのか?」
李衣菜「どうだろ……直接それがまずいかどうかは分からない、ただ」
春菜「揺さぶられると……私のように、こうなりますよ」
アヤ「くそ……」
李衣菜(脱出口を探すのも重要だけど……なつきちはどっちに……)
美玲「だけどさ、窓も出入口も開かないってどうなってるんだ?」
春菜「もしや建物自体が……罠?」
李衣菜「私も今考えたところ。だけどそれだと問題がある、こんな長い間……ここに建物があったのに」
アヤ「……誰も気づかないワケねぇよな」
美玲「結局、ここから出るには――」
春菜「一番考えられるのは、その子供を探す事でしょうか?」
李衣菜「ただ……出来るだけ接触しない方がいい、こっちが一方的に捕まえなきゃ」
アヤ「逆に不意打たれると、ドツボだよ」
春菜「しかし一度冷静に対面すれば普通の子供と思われます、なら今はむしろ接触しないように逃げた方が……」
李衣菜「なつきちが孤立してる、このままこっちだけ逃げるのは駄目」
アヤ「って言っても……どうやって逃げながら探すんだよ」
李衣菜「それは…………」
美玲「あの眼鏡、使えないのか?」
李衣菜「……そうだ、それがあった」
――スチャ
李衣菜「先に見つけなきゃ……!」
春菜「……纏めますと、ナツキさんを探しつつ精神を落ち着けながら……その子供を確保する、でよろしいですか?」
美玲「遠くを確認できるぶん、こっちが有利なはずだぞ」
アヤ「ただ頼りきって安心してると確認を怠って、こうなるからな……」
李衣菜「ここでもない、こっちも居ない…………あ!」
春菜「居ましたか?」
李衣菜「居た……けど……!」
――ズッ
夏樹「ハァ……ハァ……っく!」
夏樹(足も手も……満足に歩きも出来ねぇ……!)
夏樹「落ち着け、冷静に……」
――ガタンッ
夏樹「っ~! ……ハァ……ハァ、くっそ! こんなの落ち着けるワケねぇ……!」
夏樹(遠視も無い、警戒も人手不足……思ったより詰んでねぇか)
夏樹「……お」
小梅「…………」
夏樹(先に見つけたな……てかどうやって先回りしやがった)
――チャキッ
夏樹(握れる……手から武器が滑り落ちるなんてミスはしねぇ!)
夏樹「……行くぜ」
――ガシャンッ!
夏樹「んなっ!?」
夏樹「驚かし、にしちゃあ粗末なタイミングと……えらく遠いガラスが割れた音だ……ん?!」
――…………
夏樹(居ねぇ……!?)
夏樹「姿を消したなら……たいていは――」
――バッ!
小梅「あ……」
夏樹「後ろだよな……! 危ねぇ」
小梅(今のは……絶対に勘違いしていたはずなのに……さっきの音で持ち直した?)
小梅「割ったのは……ひゃっ」
――ヒュンッ!
夏樹「チッ、駄目か……当たらねぇな……」
小梅(攻撃して来た……でも、切った場所はズレてる、私を見間違えてる……)
小梅(なら、まだ術中……お、恐れなくても……)
小梅(それより、あっち……)
――タッ
夏樹「逃げる気か!」
小梅「ふふ、ふふふ……!」
・
・・
・・・
美玲「どうだ?」
李衣菜「うん……一旦は大丈夫」
アヤ「見えたのは、何もない空間を見つめてるナツキと、背後から迫る子供だって?」
李衣菜「きっと違うものが見えてて、後ろの気配に気づいてなかったんだ」
春菜「既に術中ですか……で、周りを警戒してもらうために」
美玲「館内は今のところ静かだからな、ウチが思いっきり割った……展示品だけど、いいよな?」
李衣菜「私が許すから大丈夫。で、一度は回避できたんだけど」
李衣菜「今度は子供の方が逃げて、それをなつきちが追いかけた」
春菜「一人で、ですか?」
アヤ「そりゃ無茶だぜ、誘ってるかも知れねぇんだ……」
李衣菜「だから早く行かなきゃ」
美玲「どっちの方向だ?」
李衣菜「反対側……」
春菜「ナツキさんが追いかけているんですね?」
アヤ「だから早くどうにかしないと……」
春菜「なら……上の階を通って先回りしましょう、挟み込めば事も上手く運ぶでしょう?」
美玲「お……そ、そうだな?」
――ギィィ ギシッ
夏樹「ここで見逃すと辛いぜ……!」
小梅(追いかけてきてる、のは問題ないけど……)
夏樹(この様子、誰でもいいから遠視で見てるハズだ、あの物音のタイミングといい……!)
小梅(足音が多い…………)
――ザッ
夏樹「……止まった?」
小梅「予定……変える……えへ」
夏樹「変える、だァ?」
小梅「バイバイ……」
夏樹「……ありゃあ……チッ!」
小梅「遅い?」
――シュイン
夏樹「移動式……!? チッ……」
夏樹(こんな予備動作無しで移動するなら短距離……探せば見つかるだろうが)
夏樹「暗闇であの相手には……止めておくか」
夏樹「が……これで一つハッキリしたぜ……移動式ならまともな生き物相手だ、決して物の怪じゃねぇぞ……!」
――タッタッタッ
夏樹「足音……そうと分かればビビらねぇ、上の階か?」
夏樹(脅しで鳴らしてる……っぽくねぇな、てことは実際の足音……)
――……シュイン
小梅「ふふ……先回りしようとしてる……?」
小梅(どうして、こっちの行き先が……あっちのグループに知られてるんだろう……?)
小梅(分からない……けど、挟まれると……都合が悪い……)
小梅「移動すると、つ、疲れる……でも、正解……のはず」
小梅「読まれてるなら……驚かせるのも難しい……から」
――タッタッタッ……ザザッ
小梅「足音……止まった……や、やっぱり……」
美玲「どうしたんだ? 急いで向かわないと危ないんだろ?」
アヤ「急に立ち止まって……」
李衣菜「見失った! 姿を消したよ!」
春菜「なんとまぁ……見ていても逃げられますねぇ、そう来ましたか」
美玲「消えた!? そんなの……本当に消えるわけないぞ! どこかにいるはずだろ!」
李衣菜「分かってる! 探してる! ただ、その間に――」
――カタンッ
アヤ「そっちか!」
李衣菜「って言った時が一番危ないんだよ!」
小梅「そう、だよ……!」
春菜「うわ……あっ!」
――ドタァンッ!
小梅「起き上がらないで……ね?」
春菜(立てな……い!)
美玲「このっ!」
――ガシッ
小梅「震えてる……」
美玲「んなっ! 離せよっ!」
小梅「離さない……こっち、来て……? ふふっ、ふふっ……!」
美玲「う、わあぁ!!」
アヤ「どうすりゃいいんだ!?」
李衣菜(ど、どうする? どうするって、そんなの……予期してない時に近づかれた段階で……)
小梅「あは、あははは……」
李衣菜「逃げ……戦……どうして……」
小梅「させない……選ばせない、から……!」
アヤ「リイナ!」
李衣菜「っ!」
――…………
李衣菜「…………?」
小梅「…………」
アヤ「ど、どうなった……? 動いてねぇ、のか……?」
春菜「助かって……るわけではないでしょう……!」
小梅(ほかの部屋から……音が聞こえてこない)
美玲「は……離せっ!」
――バシッ
小梅「んっ……!」
春菜「振りほどけた……なら、一旦離れましょうか……!」
李衣菜「う、うん!」
小梅(こっちは……放っておいてもしばらく揺れてる、かな……? 十分……揺さぶった……)
小梅「戻ろう……」
・
・・
・・・
夏樹「…………よし」
夏樹(集中だけに意識振ったら、なんとかなるもんだな……さて)
――ギィィ
夏樹「……響くな。これじゃ静かに移動しても駄目か」
夏樹(この隙、アタシが冷静になる“間”を貰っただけで十分な収穫だ、りーなが時間稼ぎしてくれたおかげ……と思うか)
夏樹「どこからでも来やがれ……」
――…………
小梅(落ち着いてる……早い……)
小梅(少し……本当に少しだけ目を離した間にここまで冷静に……)
小梅(ふ、普通の人は、居なくなった時は……逃げて……余計に、動揺する……のに……)
――ザッ
夏樹「暗い廊下なんて……泥棒稼業にはお似合いじゃねぇか……」
小梅(今驚かせるのは、難しい……ね?)
小梅(様子見……それとも、あっちに戻る……どうしよう……)
小梅(静かに、音の鳴らない床を……)
――…………
小梅「把握はしてる……これくらい、覚えないと……意表は突けない……」
夏樹「……来ねぇな、こっちの万全を察知されたか?」
夏樹「だがアタシも移動は魔術なら……向こうを察知できる。それを感じねぇって事は……」
夏樹(頻繁に使えねぇか……アタシ達よりも、ずっと静かに接近できるって訳だな)
夏樹「かといって油断しねぇぞ?」
・
・・
・・・
李衣菜「ふー……ふー……」
美玲「帰った……あいつ、本当に帰ったぞ……」
アヤ「見逃されたのか……それとも別の場所でナツキさんが何かやってくれたか……」
春菜「どちらにせよ……こんな無防備に放っておかれるほど、私達は“ぬるい”相手なんでしょうね」
アヤ「……現にこの調子だもんな」
李衣菜「じゃあなつきちが――」
美玲「友達を心配する気持ちも分かるけどさ……ウチ達の方が危ないぞ」
李衣菜「……今のうちに落ち着いて」
アヤ「さっきからそれの繰り返したよ……全然落ち着けねぇし打開策も見つからない……」
李衣菜「うう……」
――ギィィ
美玲「音が……これも気のせい、気のせい……」
春菜「相手はどうやら徒歩です……今まで考えもしませんでしたが、分担した方が安全圏は増える可能性が」
李衣菜「ここで分かれるの? いや……それくらい考えなきゃ駄目かな」
春菜「ただし、頼みの遠視はひとつなので、持ってない組は……さながら恐怖体験ですけども」
美玲「とりあえずさ……何をするにしても落ち着いて考えたいぞ」
アヤ「明るい部屋、休憩室に戻った方がいいんじゃねぇか?」
春菜「じゃあ……ゆっくりと、戻りましょうか……」
――ギィィ タッタッタッ ギギギ
アヤ「足音が……」
李衣菜「気のせいだ、気のせいって割り切らなきゃ……」
美玲「一つや二つ多く聞こえるだけで、何も無いっ! 大丈夫だ……!」
アヤ「そう、そうだよな……!」
――タッタッタッタッ
――ギィ……
夏樹「覚悟してりゃ、暗かろうが関係ねぇな」
夏樹「前後左右……上もな……」
――…………
夏樹「ん……?」
夏樹(少し、何か魔力気配がする……もしや移動式で接近してくる……)
夏樹「じゃねぇな、これは結界……となれば」
夏樹(丸裸だ、こりゃあ簡単に壊せるが……罠か?)
夏樹「いいや粗末な結界なら、解いても悪くはならねぇだ……ろっと!」
――パァンッ!
??「ひえっ……!」
夏樹「んん?」
乃々「な、なんですか……! 安全地帯を壊すのはいけないと思いますけど……!」
夏樹「誰だ? アタシはこの館から出ようと頑張ってる人だが」
乃々「……追っかけて来たんじゃないんですか」
夏樹「追われてるんだな? なら尚更アタシと一緒だ」
乃々「一緒……? 私は早々に追いかけっこは諦めましたけど……何時間いや何日もたぶんここで大人しくしてます……」
夏樹「そんな元気なら大丈夫だ、しかし同じ場所にいてどうしてあの子供に見つかってねぇんだ?」
乃々「子供……コウメちゃんでしたっけ……」
夏樹「名前知ってるのか?」
乃々「名乗られましたけど……名乗られてないんですか……」
夏樹「さぁな……何せ焦ってたからな、覚えてねぇだけかも」
夏樹「で? どうしてお前はここで見つかってねぇんだ」
乃々「ノノですけど……ずっと静かにしてたら無事です……」
夏樹「……もしかしてあの結界か?」
乃々「たぶん……あの円の中ならもりくぼは静かで大人しい生き物なので平穏に暮らしたいんですけど……」
乃々「あの中なら……静かですから」
夏樹「なるほど、無音空間……ちょっと使えるかも知れねぇ」
夏樹「コウメって奴は恐らく魔力の方の感知は得意じゃねぇが……他の感覚はえらく自信あるみたいだな」
夏樹(特に音か……だったらこの暗くて静かな館は絶好の罠ってとこか)
夏樹「さ、そうと決まれば行くか」
乃々「えっ、なんで私も行くことに……」
夏樹「ガッタガタ震えてるじゃねぇか、体力尽きる前に脱出するんだよ」
乃々「えー……びっくりするのは嫌いですけど……」
夏樹「アタシが居るだろ? さ、たぶん休憩室に戻ってるだろ……頼むぜ?」
――…………
乃々「あの、あの、急に飛び出してきたりは……」
夏樹「だったら好都合だな、今のアタシなら確保できる」
乃々「音が消えてると近づいて来るのが分からないから私は帰った方がいいと思いますけど……」
夏樹「消えてるのは二人の足音だけなんだろ? 現に会話できてるし」
乃々「えっと、その……」
夏樹「ん……」
――スッ
夏樹「……静かに」
乃々「えっ、何ですか……バッってくるんですか? ドッキリポイントですか……?」
夏樹「話し声が聞こえる」
乃々「話し声……? ……言われてみれば……声? が聞こえます」
夏樹「方向と距離的に休憩室で間違ってねぇ、やっぱり戻ってるな」
乃々「そんな事まで分かるんですか……」
夏樹「他に音が無けりゃな」
乃々「無くても分かんないんですけど……」
・
・・
・・・
アヤ「着いた……!」
春菜「明るい場所で落ち着くなんてねぇ……」
美玲「休憩室が本当に休憩できる場所だぞ……ふーっ……」
李衣菜(道中何も来なかったのは……緩急付けてる? それともなつきちが何かしてくれたか、もしくは……)
李衣菜「ううん、考える程危ない思考に入る……」
――…………
春菜「しかし合流もできず根本的な解決策も見つからないとは……疲労が溜まる一方です」
美玲「……椅子使うか? ウチは壁にでも立っておくよ、慣れてるし」
春菜「そうですか? では遠慮なく、お礼に眼鏡をどうぞ」
美玲「普通の?」
春菜「ですねぇ……遠視の数を増やしておくべきでしたか、次からは用意しますので」
李衣菜「たまたま使えただけで普段は持ち歩かなくていいから、遠視に限らず……」
アヤ「……危ない状況なんだよな? アタシ達って」
美玲「ちょっと余裕が出来たらすぐ“こう”なるんだなぁー……」
李衣菜「冗談交えないと落ち着かないってのもあるとは思うけど」
春菜「冗談じゃないですってば」
美玲「安全な場所だからこそ、今のうちに何か作戦立てないと――」
――ガシッ
美玲「いけなぁ――」
――ズルッ
春菜「え…………」
アヤ「あ……?」
李衣菜「……はっ? 壁に、え……消え――」
美玲「うわああああ!!!」
春菜「外!? で、では今のは……!」
アヤ「見間違いじゃねぇ! 壁に……引きずり込まれた!? これは……」
李衣菜「貫通……! そんなの、あったような無かったような……!」
アヤ「クソッ! じゃあ助けに!」
李衣菜「ちょっ! だから勝手に――」
――ガチャッ
アヤ「ミレイっ!」
美玲「けほっ……! げほっ!」
アヤ(倒れてる! 隣に……誰も居ない! なら行ける!)
春菜「違います! 後ろです!」
小梅「ここぞという時の……」
アヤ「っ!」
小梅「ゆ、幽霊の動きは……」
アヤ(早ぇえ! もう後ろに――)
小梅「今思ったこと……たぶん、合ってる……!」
――ガシッ
アヤ「冷て……ぐっ!」
小梅「首、喉に手が回されると……さすがに誰でも“怖い”って思う……力が入ってなくとも……」
春菜「アヤさん!」
アヤ「かっ、は……!」
小梅「そのうち、どんどん締まっていくような錯覚……」
李衣菜「ハルナ! いったん部屋に戻ろう! 暗いところで問答してちゃ話にならないよ!」
春菜「ですが彼女は」
小梅「大丈夫……一緒に、逃がさない……!」
李衣菜「くう! 早く!」
春菜「……わ、分かりましたよ! アヤさん失礼します!」
――バタンッ!
小梅「……閉じこもっちゃった?」
アヤ「う、あ…………」
小梅「見捨てられちゃった……? いや……ほ、ホラーで仲間を見捨てると……大変、だよ?」
アヤ(いや、アタシも……全員捕まるよりかは……この方がいい、よな……?)
小梅「…………ふふっ」
李衣菜「なつきちが帰ってくるまでは――」
春菜「保障がありません……残念ですが今のところは」
春菜「壁のどこからでも強襲出来るとなると話が変わってきます……扉どころか部屋の面に近づけませんよ」
李衣菜「根比べだ……! そうすればきっと」
春菜「それは何時までですか? 夜が明けるまでですか? そう考えると短いかもしれませんが……」
李衣菜「かも、何?」
春菜「私達の負けは『侵入されること』ではなく『精神が限界を迎えないこと』です、その条件でこの状況……」
春菜「果たして一時間と持ちますかね……?」
李衣菜「だからって打って出ろって? 状況もわからないのに? それこそ自殺行為だよ」
春菜「私が言っているのは――」
李衣菜「きっかけが掴めるまでは安全に耐えるのが大事だと、私は思う……」
春菜「私も先程の戻れという言葉に乗ってしまったので強く言えませんが、人手を失うのはそれだけで危険です!」
春菜「リイナさんの仰るきっかけを掴む可能性を狭めるかと」
――ギシッ
李衣菜「……! 何の音? どこから!?」
春菜「足元から……移動しましたか?」
李衣菜「いや、違う……! 本当に、下から来てる!」
――ガシッ!
春菜「うあ……!?」
小梅「ばあっ……! ふふふふふ」
李衣菜「床も通り抜け出来……」
小梅(ほ、本当は低い床下があるだけ……私が通れるのは薄い板一枚だけ……!)
小梅「でも……十分驚くよね……?」
春菜「は、ははは、あああ足元から床から足首掴まれようともそんなそんな驚きはしなくてですね」
李衣菜「落ち着いてってば!」
李衣菜(でも、安全と思ってた場所でこれは……辛い……!)
――ガタンッ!
小梅「……!」
李衣菜「また音が……っ! ど、どれから理解したら!」
小梅(違う……今の音は私じゃ、ない……)
――バンッ!
小梅「誰……!」
乃々「ひっ……ど、どこですか? 急に居なくなって……おいてかないでください……」
小梅(あれは……あの、居なくなってた人……)
李衣菜「また新手!」
小梅「どうやって隠れて……いや、どうやって近づいて」
夏樹「よう」
小梅「えっ……!?」
李衣菜「なつきち!?」
夏樹「待たせた、と同時に……」
――ガッ
小梅「あぅ」
夏樹「逃げられちゃ困るからな……他はどうだ?」
春菜「は、ははは……立てませんけど……気は保ってますよ」
夏樹「なら大丈夫だな……さて、いくつか聞きてぇ事があるぜ、コウメ……だったか?」
小梅「…………私を、どうする?」
夏樹「内容次第だ」
夏樹「まず目的を聞いてもいいか? こんな訪問者が多い無人の博物館で……何をやってたか」
小梅「……一人で行くのは、寂しいから」
夏樹「行く? 誰が、どこに」
小梅「……ここには居ない。行くのは、遠いところ」
春菜「それは……」
李衣菜「一人で行く、って自分が向かうような言葉なのに、ここには居ない人ってどういう事?」
小梅「あの子のお供に……一緒に、行ってもらうため……」
春菜「……ほう? それはもしかして。内容次第ではここは他国ですが、それなりの処置を取りますが?」
乃々「あの……さっぱりついていけないんですけど……」
夏樹「その誰かってのはは、友達か?」
小梅「うん……」
夏樹「友達は、ここに居るのか?」
小梅「えっと……う、うん……」
李衣菜「何処に? そんな気配はしないけど」
夏樹「まぁ待て。 その友達は……生きてるか?」
小梅「……!」
春菜「返答は」
小梅「…………」
夏樹「決まりか」
乃々「えっと……生きてない、人なんですか?」
李衣菜「ふーん……一人で“行く”には心細いからって」
春菜「それで私達を……となると」
夏樹「おいおい落ち着けって」
小梅「違う……襲ったけど、私は……これを作りたかった、だけ……」
――スッ
乃々「これ、って……そっちには何もないですけど」
夏樹「いいや、いっぱいあるだろ?」
李衣菜「人形だけしかない……もしかして、人形の事?」
乃々「これ……? 普通の、人形……ですけど、ここに飾ってるもの……」
夏樹「へぇ、アンタが作ってたのか」
小梅「…………」
春菜「これを作る事と、先のお友達の話と、私達が襲われた事の関係は?」
夏樹「さぁな? だが、本人が居るんだ、聞いていいだろ?」
小梅「…………わ、私は、私達は……こうやって、友達を見送るのが……決まり」
乃々「なんでそんな決まりが……巻き込まれて迷惑なんですけど……」
夏樹「そこは種族の差異だろ、大目に見ようぜ? ただ襲う事と目的は同じじゃねぇみたいだが」
李衣菜「私達が狙いじゃないの?」
夏樹「襲ったのは過程で必要なことだろ? 目的じゃない」
夏樹「本当に攻撃だけが目的なら、前にも言った気がするが回りくどすぎる。直接叩けばいいんだ、わざわざ脅さなくてもな」
小梅「あの子のお共……一人の旅は、寂しい……」
小梅「一緒に、い、“居なくなる”ものを……友だちにする……」
春菜「話が進んでいませんよ? 私達を居なくするという事は、解釈のしようでは――」
小梅「そうする人も……い、居る、けど……私は違う……!」
――ヒュイン
夏樹「ん……?」
春菜「術式? ……ではありませんね、魔力を感じない、その紋はいったい?」
乃々「何かの道具ですか……?」
小梅「人の……“感情”を固定……する……」
李衣菜「はぁ……?」
小梅「こ、固定した感情の……起伏を、意識から切り取る……それで、人形にする……」
小梅「道具じゃない……わ、私が、自分で……」
夏樹「よく分かんねぇけど、動揺させた相手から、この人形を作るって事でいいか?」
李衣菜(……そういう術ってあるの?)
春菜(いえ、まったく心当たりがありませんが……現に体感してますからねぇ)
――ガサッ
美玲「……あれ? え?」
アヤ「ここ……アタシらは休憩室で寝てたんじゃ……」
乃々「あ……起きたみたいですけど……」
春菜「お二人とも大丈夫ですか? ご心配なく、既に解決に向かっているところです」
美玲「……な、何がだ?」
春菜「彼女です、名をコウメさんと言うそうですが今回の現象は全て彼女が――」
アヤ「誰……だ?」
夏樹「……んん?」
春菜「大丈夫ですか? まだ気が動転してます?」
アヤ「あ、ああ……寝起きだけど大丈夫」
美玲「あのさ……なんでこんな、ウチらは休憩室で寝てただけだよな?」
李衣菜「…………あれ?」
小梅「覚えてない……はず」
李衣菜「覚えてない?」
小梅「今の出来事も……全て、切り取った感情の中……体験した、怖い感情も……」
小梅「私が……“恐怖”で揺らいだ感情の……波を、切った……」
春菜「……そんな術は――」
夏樹「なるほどな……だから、こんなデケー事してて誰も知らない、話題になってねぇわけだ」
李衣菜「切り取られた、極限まで追い詰められた体験は記憶に残らない」
乃々「えっと……ここで怖い体験をしても……忘れるって事でいいんですか……」
アヤ「……?」
李衣菜「その記憶から……人形が出来る? 不思議だね……」
小梅「この人形……私の力を、解除すると……消える……から」
夏樹「……この世から居なくなる、か」
小梅「これで、ひとりじゃない……よ……」
春菜「お友達の同行が人柱じゃなくて人形なのは健全ですねぇ、過程はこの際目を瞑って」
美玲「はー……それだけのためにウチ含めて全員が変な事に巻き込まれて……覚えてないけど」
小梅「ごめん……なさい……」
夏樹「友達を思って、か」
アヤ「じゃあ……そのためにアタシ達は、そんなことのために巻き込まれたのか?」
小梅「そんなこと……」
夏樹「おいおい、おかげで満足いく展覧会にも出会えたんだぞ? ま、二回目は体験したくは無いけどな……」
アヤ「だけど……」
夏樹「この世界、別に自分勝手な奴が珍しいわけでもないだろ?」
夏樹「巻き込まれるのはよくある事、今回はたまたま事情が事情の相手だったっつーことさ」
乃々「でも、これ以上は……やらない方がいいと思うんですけど……」
春菜「同意します。今まで長い間大丈夫だったかもしれませんが、こうして私達が捕まえたように」
夏樹「決して毎回成功するとは限らねぇ」
小梅「うん……ま、まだ少ないけど……終わる……あの子も、喜んでくれるはず……」
夏樹「頑張ったのなら数なんて関係ないぜ、思いは伝わる」
小梅「えへへ……じゃ、じゃあ」
美玲「あー……でもさ、終わらせる前に……解除する前に、ひとつだけ」
小梅「何……?」
アヤ「ああ、アタシもだ」
李衣菜「もしかしたら私も?」
夏樹「だろうな……最後に、全部が消える前にもう一度、この人形達を見せてくれ」
夏樹「これ以降は、ここに何も無くなる、消えるわけだ」
夏樹「最後の光景を特別にな」
・
・・
・・・
――…………
今日午前、『シオン』の無人博物館にて全ての展示品が消滅するという事案が発生
たった一夜の間に大きな騒ぎも建物の破損もない、極めて高度な事例である
博物館はいまだ解明されていない点が多く、これらの現象も謎の一部として
――プツッ
夏樹「無駄無駄、あそこをいくら調査したところで何もでねぇよ」
夏樹(肝心のコウメ本人が居ねぇからな)
李衣菜「盗まれたとかは報道されてないね」
夏樹「物理的にも魔法的にも無理な勢いだからな、それに元々よく解明されてねぇ謎だったみたいだし」
李衣菜「『不思議な博物館』の中に一緒にされて扱われたって事?」
夏樹「だな……」
夏樹(……しかし、腑に落ちねぇ部分は幾つも残ってる)
夏樹(結局、あの館の中で会話してた時は全員なんだかんだでパニックだったから正常な会話がほぼ出来てない)
夏樹(理解も追いついてなかったから流されちまったけど……あのコウメって奴の力は何だ?)
李衣菜「そういえば……言われてた事、調べたけど」
李衣菜「『人の感情を何かに具現化する』なんて……そんな術式は過去を幾ら遡っても噂すら出てこない」
夏樹「そっか……そうだろうな……」
夏樹(人形に人の感情を構築するなんて……どんな力だ? 魔法でもねぇ、かといって種族の固有能力なんてレベルの代物じゃない)
李衣菜「魔法じゃない超能力とか!」
夏樹「そんな第三の力とか存在……しない事は無いだろうけどさ」
李衣菜「だね、そんな力があるのは英雄クラスだよね」
夏樹「…………ああ」
夏樹(能力、か……)
李衣菜「いいなぁ、私も特別な力があればなつきちのサポートが出来るのに」
夏樹「今でも十分だっての……」
李衣菜「えっ?」
夏樹「何にも言ってねぇよ」
李衣菜「あ、ずるい! もう一回! ねぇ!」
夏樹「ちょ、危ないだろ! 落ちる! うおっ!」
李衣菜「十分が十二分になるように努力するから、もう一回!」
夏樹「聞こえてるじゃねぇか!」
栄光の聖剣を得る為の大会の予選一回戦を無事に突破した一行は
次の課題である『種目自由一本勝負』でヘレンと対峙していた。
真剣勝負にて大きな実力差を感じ取った三人は、何か勝利を勝ち取れる種目を考えていた。
ヘレン「疲労を期待しているなら浅はか、世界には想像の及ばない何かがあるのよ」
――ギィン!
ヘレン「あなたも私に攻撃を響かせる事は出来なかった、次は誰?」
卯月(もう、何十人も勝負を挑んでるのに)
未央(他の予選突破者だって決して弱くはない、と思うのに)
ヘレン「……そう、ようやく考える事を始めたのね、私は待つわ」
凛(結局、真剣勝負で挑んだ人は全部……)
ヘレン「でも素晴らしい、まさに原石。敗れはしたもののいい勝負だった、驚きよ」
早苗「フン……それだけ連勝しておいて……」
拓海「パワーでもスピードでも無ぇ、何が強さの秘密だ?」
ヘレン「知るには勝ちなさい、まだ機会の残されている者には資格がある」
――…………
卯月「どうする?」
未央「何で挑むか、って事?」
凛「いい案は? 私達が得意で、相手が苦手そうな物?」
未央「……分かんないよね」
凛「それと他に聞いておきたい事があるけど」
卯月「えっ?」
凛「今回……私達はこの国に向かえと言われただけで、この大会に出ろとは言われていない」
未央「……言われてみれば」
凛「特に、絶対に勝つ必要がある指示は出ていない……どうする?」
卯月「どうする、って……」
未央「決まってるよね?」
凛「……思ってる事は一緒だね」
卯月「うん……! なんでも、勝ちます! ここで止まるようじゃ駄目、どんどん前に……!」
凛「じゃあ……行こうか、勝つための何かを探しに!」
さくら「ウヅキちゃん達、倉庫の方に行っちゃったみたいです!」
亜子「アタシらも何か探した方がええんとちゃいます?」
ヘレン「時間制限は無い、存分に悩みなさい」
亜子「ほら、ああ言ってるみたいですし」
泉「……それも良いかもしれないけど、まずは何かキッカケを見つけなくちゃ、適当に探しても意味がない」
さくら「……?」
泉(こちらの得手を集めるよりも、何か弱点を探さないと……単純な勝負では隙なんて生まれない、この実力差……)
――……スッ
さくら「あっ……!」
亜子「えーとあの方は……ヘレンさんに歩み寄ってますけど、もしかして?」
ヘレン「……質問かしら?」
泉「馬鹿な……この流れで勝負を挑みに……?」
――コツン コツン
千鶴「……押して駄目なら引いてみましょう」
ヘレン「次は貴女かしら、種目は同じ?」
千鶴「いいえ……変えます」
ヘレン「へぇ……」
凛「……ウヅキ、あっち」
卯月「え? あ、チヅル、さんが……戦うの?」
凛「どうも違うみたいだよ」
未央「じゃあ何しに?」
凛「決まってる……勝負するんだ」
卯月「えっ? でも戦わないって……」
智香「チヅルちゃん! 武器、置いていってるけど……!」
千鶴「私は……ここの倉庫に本棚がある事を確認しました」
ヘレン「……ええ、確か用意してあるはずよ」
千鶴「その中に教育機関で使用されている教科書がありました」
卯月(本棚?)
凛(向こうにあるよ、けっこう大きな棚がいくつも)
千鶴「……という事は、戦闘以外の勝負も色々と想定されていますね?」
ヘレン「当然、最初に自由といった文言に嘘偽りは皆無よ」
千鶴「分かりました……では、その中の本を一冊使って勝負しましょう」
さくら「本を使ってぇ……?」
泉(…………なるほど、その方法が)
ヘレン「本……内容は決定しているの?」
千鶴「人物名鑑の棚がある事を確認しています、誰かその中から一冊を持ってきてください」
沙紀(……先に選んでおかないんすか、正々堂々っすね)
千鶴「その中に掲載されている人物を交互に答える、これが勝負です」
ヘレン「面白い勝負ね……勝負の詳しいルールは本が決まってからにしましょう、じゃあそこの貴女」
奈緒「……え? アタシ?」
ヘレン「棚から適当な一冊を持ってきて頂戴」
千鶴「倉庫の右奥、小さな区画に本棚があります。……くれぐれも、公平で常識的な物を」
奈緒「分かったよ……その中なら何でもいいんだな?」
――ザッ
奈緒(んー……あんまり分厚い本で時間かかるの嫌だからな)
凛「手伝おうか?」
奈緒「うわっ……! ビックリするだろっ! ……いいよ、アタシが言われたからアタシで探す」
凛「そう?」
卯月「じゃあ私達は見てるだけ」
未央「うわぁ、いっぱいあるよ、目が痛くなってきた……」
凛「こんな図鑑みたいな本、普段は見ないからね」
奈緒(選びづらい……ん?)
――パサッ
奈緒「……お、なんだこの本、凄いページ少ない……これでいいか」
卯月「それは?」
奈緒「何でも勝負に使う……って、知ってるだろ? さ、どいたどいた、アタシが他を待たせて目をつけられちゃ堪らないからさ」
・
・・
・・・
奈緒「持ってきたぞ」
千鶴「……タイトルは?」
奈緒「これは……『魔術協会構成員名簿』だ、ちゃんと最新だぞ?」
卯月(協会……!)
早苗(嫌な事思い出しちゃうわね)
拓海「あそこか……確かに数人は分かるけどよ」
ヘレン「いい題材ね、一般知識として十分に記憶しているでしょう?」
奈緒「あんまり分厚い本だと探すのも大変だろうからな……どうせ答え合わせもアタシだろ?」
千鶴「お願いします」
――ペラッ……
奈緒(しかし……ちょっと少なすぎたかな?)
奈緒「……名前が載ってるか、判定すりゃあいいんだろ?」
凛「ウヅキ、何人分かる?」
卯月「ええっ!? えーっと……」
未央「そもそも誰がどこまで載ってるか分からないって!」
智香「ページ数、少なそうですね」
沙紀「名簿っていう位なら、偉いさん方から紹介されてるはずっすよ」
卯月「じゃあ……幹部級?」
泉(知識勝負……今回の場合、これは『魔術協会』の重要人物を答える勝負のはず)
亜子(アタシが知ってるのは……あの人と、あの人とー……)
さくら「会長さんとかですかぁ?」
沙紀「こういう勝負の時って、外野で参加したくなるのは分かりますけど、黙った方がいいと思うんすよ」
智香「チヅルさん、とにかく頑張って☆ ファイトっ!!」
千鶴「……私からで構いませんか?」
ヘレン「どちらでも。テーマを選んだのは間接的に私、ならばそっちがそれ以外を決める権利がある」
沙紀(ねぇナオさん)
奈緒(ん? どうしたんだ?)
沙紀(その本、何ページあるんすか?)
奈緒(一番薄い奴を持ってきたんだけどな……ま、二十くらいはページあるだろ?)
沙紀(てことは……凄い人数少ないじゃないすか?)
奈緒(そこら辺はアタシが知ったこっちゃないからさ)
千鶴「では……一人目、最年少幹部昇格のヤスハ=オカザキさんです」
ヘレン「あら、そこから名前を挙げるのね?」
卯月「ヤスハさん……うん、会ったからさすがに覚えてるよ」
亜子「ホンマ人脈どうなってますのん」
奈緒「えーと……ああ、載ってるよ」
智香「なら一問正解ですね!」
――ペラララ……
奈緒「ふーん……こんな人なのか……結構詳しく書いてるなぁ」
千鶴「…………」
卯月「私達も後で見よ?」
凛「……今じゃなくてもいいでしょ」
ヘレン「それじゃあ私はセツナ、彼女の名を挙げるわ」
拓海「……知らねぇ名前だ」
奈緒「載ってるよ、つーことで正解だろ?」
千鶴「もちろんです」
早苗「知らないってアンタ」
拓海「悪かったな! 会った人しか覚えてねぇんだよ……」
さくら(どんな人ですかぁ?)
泉(本部に常に滞在している人、って印象が強いかな)
亜子(まぁ会長さん含めて自由な人が多い協会ですから、だいたい本部向かったら真っ先にお会いする方ですわ)
沙紀「事務担当に会う機会なんて皆無っすね、協会に向かう事がそもそも無いっすけど」
智香「アタシが知ってるだけでも二人よりかは多いはず、勝負はまだ続く?」
千鶴「当然……!」
ヘレン「三人目、どうぞ?」
千鶴「……ユキノ=アイハラ、最古参の幹部です」
凛「ユキノ……?」
亜子「えぇ? ……あの人幹部さんやったんか」
千鶴「……予想よりも妙な反応をされている方が多いですが、間違いではないでしょう?」
奈緒「えーと……あー、載ってるよ。 ……何かアタシも聞いた事ある名前だな、協会なんてほとんど関係無いんだけど」
早苗「相当古株なのね」
未央「しぶりん知ってるの?」
凛「……うん」
さくら「アコちゃん知ってるの?」
亜子「そりゃもう……協会の人物としてお会いした事はありませんけども」
さくら「……?」
卯月「えーっと……今は三人? あと……幹部の人……うーん……」
奈緒「次、四人目だけど」
ヘレン「……サオリ=オクヤマ」
卯月「あれ? その人は……」
ヘレン「幹部だけが掲載されているわけじゃないでしょう?」
奈緒「ああ。勝負はこの本に名前が書かれている人で勝負、だろ?」
千鶴「当然……現会長も掲載されているでしょう」
亜子「要するに一番偉い人ですなぁ、さすがに交流ありませんよね?」
未央「……私達?」
凛「その気になったら……ヤスハ繋がりで会えるかもね」
亜子「どないなってますのん」
沙紀「……ナオさん、あと出そうな名前何人すか?」
奈緒「言っちゃ駄目だろ! そっちで考えろって!」
卯月「でも……あんまり残ってないんじゃ……」
泉「残っていないどころか……」
千鶴「ですが会長の名前が挙がる事は想定しています、次に私が名前を上げるのはサトミ=サカキバラ、これで幹部は全員のはずですが」
泉(……確かに、これで幹部は全員?)
奈緒「ん? ……ああ、その名前も紹介されてるよ、合ってる」
智香「全員? じゃあ、もう回答できないの?」
早苗「残ってないなら、そうでしょうね」
拓海「あぁ? こんな短い勝負で決着かよ……マジか?」
未央「勝ってる……の?」
ヘレン「私がもう回答できないとは言っていないわ」
さくら「えぇ? でも、残ってないんじゃないですかぁ?」
ヘレン「いいえ、その本は最新でしょう? ごく最近、新たに幹部級になった人物も掲載されているはず」
卯月「最近?」
千鶴「……!」
ヘレン「会長含め五人、順当に答えていけば後攻の手番で人数が尽きる……」
未央「一、二、三……あ、本当だ!」
ヘレン「確実に掲載されているだろう人物の数を計算して先行を取ったのかしら? それなら知識不足よ」
亜子「でも他に幹部の人なんて居ました? アタシこれでも記憶力ええ方なんですけど……」
凛「ウヅキは? 詳しい?」
卯月「ええ? いや……あんまり……うん」
早苗「最新、いつ更新の本だった?」
奈緒「発刊日から一週間も経過してない、本当に最新だよ」
早苗(それじゃあ……本当につい最近の更新ね。もしかすると、新しく誰か任命された……?)
ヘレン「私は常に世界と対面している、些細な出来事も見逃さない」
千鶴「…………」
ヘレン「国家キュズムの団長、トモが協会の幹部生としてつい最近……幹部の位を受けたはずよ」
卯月「……あっ!?」
凛「そういえば……そんな事を言ってた気がする……!」
未央「言ってた言ってた! てことは……」
奈緒「ご名答、ちゃんと掲載されてる。さすがだよ世界レベルさん」
ヘレン「それは私の事かしら? そう呼ばれた事は無いけど、気に入ったわ、これから広める事にしましょう」
奈緒「どうも」
ヘレン「私は回答した、次はそちらの順番よ」
千鶴「……そう来ましたか」
卯月「これ、もしかして雲行きが怪しいんじゃ……」
凛「私達は知ってても、公にはそれほど広まってない情報だったんだ……もしくは、この本が発刊されてから広まるはずだった情報……!」
亜子(だからそういう情報を何で先に手に入れてはるんやろか)
智香「チヅルちゃん!」
――…………
早苗「六人ね」
拓海「何がだ? ……ああ、今名前が挙がった人数だな」
早苗「違うわよ……協会内で階位を持ってる人の人数が、よ」
拓海「……あぁ? そんな少なかったか? ってか、じゃあ残ってないんじゃねぇか……もう」
奈緒「…………」
千鶴「トモさんは……ええ、知っています」
ヘレン「知っている?」
千鶴「事前に申請は通っていた、しかし告知は遅れていた。確か……順当に事が運んでいれば二か三、前の名簿に載っていたはずです」
沙紀「ふーん……さすが、これで勝負を挑んだだけはあるっすね」
ヘレン「……それじゃあどうして後攻を選ばなかったのかしら」
早苗「六人なら後攻有利でしょ、計算間違えた?」
さくら「この勝負を決めた後に先攻を選んでました! じゃあ、あえて選んだんですかぁ?」
千鶴「何の本を持ってくるか、題材が何かは運任せでした」
――チラッ
奈緒「……?」
千鶴「本を見た瞬間ページ数が少ないとは思いましたが、それでも……その名簿なら内容はちゃんと書かれているはずです」
智香「大きい団体だから、そうだね」
奈緒(実際、かなり細かい文字で相当書かれてるからなぁ)
千鶴「ページをめくる動作を見たところ、先頭に紹介されているのは会長のサオリさんですが」
沙紀「そうなんすか?」
ヘレン「順当に考えて先頭か最後のどちらかね、今回は先頭だったというだけ。それで?」
千鶴「それ以降は五十音順の様子。ヤスハさんからページを前、後、前、後、さらに後と進めましたから」
奈緒(……そこまで見てたのか?)
奈緒「ああ……五十音順だよ、おかげで探しやすかった。先頭のサオリから最後のユキノまで――」
千鶴「ですが、一番後ろのはずのユキノさんのページよりも後にページが残っていますね?」
卯月「えっ?」
凛「……確かに、今開いてるのがユキノ……最後のページなら、それより後ろに残ってる」
千鶴「その量、後書きや注意事項にしては多すぎる……」
千鶴「目測ですが……およそ三人分?」
ヘレン「……!」
拓海「三人分だァ? でも……幹部もう居ねぇんだろ? 六人で現職は打ち切りって……」
早苗「……ははーん」
泉「魔術協会の名簿で……三人分の名前が書かれているなら……」
沙紀「なるほどねぇ、そういう事っすか」
拓海「……? ……なんかアタシだけ置いてかれてねぇか?」
さくら「大丈夫でぇす! わたしもよく分かってませんっ!」
千鶴「そこに紹介されているなら、別に会長でも幹部でも、位を持ってる必要は無いんです」
智香「所属してない……重要な役職でもないのに……名簿に紹介されてる人?」
千鶴「私の順番……挙げる名前は、シン……通称シュガーハート」
亜子「……ホンマですか」
千鶴「かつての会長に相当する、三名の最高位の名前です」
沙紀「これが載ってたら……話は変わるっす」
ヘレン「審判、どうなの?」
奈緒「誰が審判だよ……お見事、ちゃんと載ってるぜ」
千鶴「予想通りです、では次……あなたの順番ですが」
早苗「回答は二通りね?」
未央「三人のうち一人がチヅルさんの答えた人で……後の二人を向こうが知らなかったら!」
凛「いや……知ってても知らなくても……」
ヘレン「フッ、という事は……もちろん残りの二人も載っているでしょうね」
卯月「あとの二人……はぁとさん以外の二人……偶数」
千鶴「そう、もしあなたが残りの二人を答えたところで……再びそちらの順番です」
智香「じゃあ……!」
沙紀「……どう?」
奈緒「どうって、言う通りだよ。ここに紹介されてるのはたった九人、二人共全員答えられるなら」
沙紀「先行有利っすね」
ヘレン「どこから計算していたの?」
千鶴「そんなに用意周到な計算はしていません、ただ本が決まって……内容を予想したまでです」
ヘレン「予想……ね」
千鶴「後は他の人が言った通り、紹介されている人数から先攻を選んだだけ」
拓海「奇数なら……後に答える奴の方が先に答えが無くなるな」
早苗「正解、よく出来ました」
拓海「これぐらい分かるっての! 馬鹿にすんな!」
奈緒「……これもう決着ついたのか?」
千鶴「ええ、これ以上紹介されている人物は居ませんから――」
ヘレン「待ちなさい」
泉「……!」
ヘレン「予想と言ったかしら? 予想じゃ駄目よ」
――ザッ
ヘレン「予期……いや、確定させておかなければ、勝負はどうなるか分からない」
千鶴「どうなるも何も……答えが無い問題に回答は出ませんが」
ヘレン「いいや、勝負はこの本に書かれている人物を挙げる、だったわね」
奈緒「そうだけどさ……」
智香「もうページが無いよ?」
ヘレン「……そうね、たしかに幹部と関連人物の名前は全て挙がった」
千鶴「では――」
ヘレン「でも! その名簿は本人の経緯や周辺の説明も詳しく書かれているはず」
亜子「……確かに名簿言いながら過去のトップも紹介されてましたけど」
ヘレン「つまり現幹部以外の人物にも言及しているのよ」
奈緒「だけど……もう言っちゃうけどさ、他に誰も紹介されてねぇんだってこの本には」
ヘレン「紹介されている必要はない、名前があればいいのよ」
さくら「えーと……? どういう事?」
亜子「大丈夫、アタシも分からん……」
ヘレン「……確か、最近の事よ。といっても数週間前、その冊子の編集中でしょうね」
千鶴「…………」
ヘレン「ある幹部が一人の弟子を迎えた」
沙紀(……弟子? 協会の人は面倒っすねぇ)
奈緒(っつっても……誰か分かんないから調べようが……)
ヘレン「仮にも魔術協会の幹部を紹介する冊子、その事について触れていないはずがない……」
卯月「…………あっ!」
泉「また何か知っているような反応……」
亜子「もうツッコみませんて……またですかい」
未央「弟子……だっけ? でもそんな話をしてたような……しまむー!」
卯月「うん……! 知ってる、確かに……」
卯月(弟子とは違うかもしれないけど、そんな位置に居る人を私は知ってる!)
早苗「今度は私達じゃなくて向こうが分かってるみたい」
ヘレン「名前を答えるわ……ヤスハ=オカザキの項目の中から探しなさい、ランコ=カンザキの名前を!」
千鶴「な……そんなの……!?」
泉(誰なの……?)
沙紀(知らない名前っすね……)
早苗「で? ……そのお弟子さんの名前、紹介されてるの?」
奈緒「……分かりやすく書いてあったよ、見つけた」
千鶴「馬鹿な……」
奈緒「ランコ=カンザキ、ヤスハがここ数ヶ月の間に魔術学校から受け持った候補生だとよ」
拓海「そりゃあ……身の回りの事が詳しく書いてる本なら載っててもおかしくはねぇ、か」
奈緒「ご丁寧に何日に何があって出会ったとかも書いてるな……個人情報大丈夫か?」
さくら「秘密がバレちゃいまぁす!」
亜子「まぁ……大丈夫な事しか書いてない思いますけど」
ヘレン「さて、今のように名前の記述を推測できる可能性はある、ここからが本当の知識勝負よ」
智香「ここから……そう、ここからだよチヅルちゃん!」
千鶴「いや、そんな……」
泉(……私と同じ系統、しっかり計算してから勝負するタイプ)
泉(そういう人は……得てして想定外に弱いもの、私も分かってるつもりなのに)
ヘレン「……ちなみに、ヤスハにはもう一人弟子が居るそうよ、知っているかしら」
千鶴「っ……」
ヘレン「ユキノの同居人は? セツナの他国との交流先の相手は? トモが身を置く国家の関係者は?」
沙紀「そう考えれば随分手広く探せるっすね」
早苗「発想がそこに至るかが問題だけどね」
ヘレン「幾らでも想像が可能! 本はその薄い紙に、多大な情報を含んでいるのよ」
千鶴(少しくらいなら予想できる……ただ、実際に書かれているかどうかは……)
ヘレン「少し厳しくしておきましょうか、書いていなかった場合は負け……どう?」
奈緒「ま……そうしないと延々と続くからなぁ」
千鶴「……いいんですか? 自分も不利になるんですよ?」
ヘレン「構わない、それでも私は当てる。そうね……じゃあ次以降は確実に書いているはずの名前を挙げましょうか?」
千鶴「確実に……書いている名前……?」
ヘレン「本の著者名、発行社の代表名、編集者……この辺りかしら」
千鶴「あ…………」
拓海「……関係者の名前で勝負するならこっちも連想して名前を当てる事は出来るかもしれねぇが」
早苗「例えば?」
拓海「いや、例えばって言われても……そりゃあ、母親の名前とか? それを出されたら父親だって載ってるだろうよ」
早苗「そうね。でも著者名とかで勝負されちゃ……推理のしようがない」
ヘレン「文字通りの“知識勝負”よ。 ……続けましょうか」
千鶴「いや……もう……いいです……」
凛「……!」
ヘレン「諦めるの?」
千鶴「……引き際は、弁えているつもりです」
拓海「ま……仕方ねぇか」
千鶴「私が一つや二つ……絞り出しても、多分……間に合わない」
ヘレン「そう、それもまた良し、お疲れ様」
奈緒「結局まだ誰も勝てないか……どーすっかなぁ」
泉「でも参考にはなった」
智香「チヅルちゃん!」
千鶴「……駄目でしたね」
智香「ううん! 頑張ったよ! 最後も、潔いよ!」
ヘレン(使うところは、間違えている気がしないでもないわね)
ヘレン「さて、今の通り私は何でも勝負を受け付ける、別に本で括る必要もない……もっと絞り込んでも構わない」
智香「絞り込む……?」
沙紀「今の勝負で勝つつもりなら、公平とか気にせず自分が選んだ本で勝負すれば良かったんすよ」
早苗「ま……一理あるわね」
沙紀「もちろん先に読破して、覚えた状態で勝負を挑むって意味っすけど」
千鶴「……そんな勝ち方をしても」
泉「負けちゃ意味ないよ」
千鶴「…………」
凛「誰も、動かない? なら――」
智香「じゃあ、アタシと勝負しよう」
ヘレン「当然構わない」
千鶴「トモカさん」
智香「これでも一時期は鉱石と宝石商やってたから……その専門知識で!」
ヘレン「なるほど、受けて立つわ」
拓海「んー……どうなんだ?」
早苗「知るわけないでしょうよ……どっちがどれくらい詳しいのか知らないもの」
卯月「石……ナツキさんの件で確かにお世話になったし……」
泉(確かに、そこまで範囲を限定した勝負なら勝機が……!)
さくら「宝石綺麗ですよねぇ!」
亜子「アタシも大好物ですけど! もしかして実物見れたり!?」
智香「そ、そんな価値のあるものは持ち歩いてないけど……」
ヘレン「ただ一つこちらから質問、いったいどんな勝負方法にするつもり?」
智香「……?」
ヘレン「出題は誰が? もしくは互いに問を投げるような形式?」
奈緒「さっきの形だと……交互か? それで審判置いて――」
ヘレン「もしもそのつもりなら、正誤の判定は誰が受け持てるの?」
泉「そういえば……この知識勝負、誰が答え合わせするの?」
奈緒「……何でこっち見るんだよ! アタシは全然分かんないから無理だぞ!?」
亜子「好きですけど、合ってるか間違ってるか判定できるほどは詳しくありませんわ」
ヘレン「専門知識すぎて、勝負が成り立たない可能性がある」
未央「そんなパターンも……」
智香「……じゃあ、もう一度本を使いましょう! 私の荷物の中にあります」
千鶴「本はあるんですね? ……荷物、これですか?」
――ガサッ
智香「これで誰かに見て貰って――」
さくら「わたし、見ても分からないと思いますよぉ」
智香「あれ?」
早苗「まぁ……一般知識じゃないからね」
智香「じゃあ、少しでも分かる人は……」
沙紀「パスっす」
泉「さすがにこれは……」
ヘレン「……それよりも、お互いだけで勝負する方がいいわ」
拓海「互いだけ? 審判不在かよ」
ヘレン「図鑑があるなら、その本を見て……内容を出題する、これなら特殊な問題も出せない、どう?」
さくら「えーっと……本に載ってる問題しか出しちゃ駄目って事ですかぁ?」
亜子「じゃないと答え合わせ出来ひんからな。ま、勝負の場さえ成り立てば……もしかして行けるんとちゃう?」
智香「……要するに、図鑑の知識で勝負するって事だね?」
千鶴(トモカさんの私物なら……当人が知らないはずはない、その中から何を出題されても高確率で回答できるはず)
沙紀(それでも勝負を受けたのは……何か秘策有り、って事すか?)
泉(きっと苦手でも、極端に片方が有利でも受けざるを得ないんでしょうね。……なら、私達も希望がある?)
凛(こっちの得意より、相手の得意じゃないで探す方がいい、か……)
智香「分かった……!」
ヘレン「成立ね」
智香「じゃあ、どっちが先に出題するか……じゃない、そっちからだね!」
――パシッ
千鶴「……私と違って、有利不利がありませんからね」
沙紀「先攻渡しちゃうんすか」
早苗「そりゃそうでしょ? じゃないと……」
ヘレン「意外ね、てっきりそちらが先出しと想定していたわ」
智香「だって本の内容、見る時間が必要ですよね?」
拓海「だよな?」
ヘレン「……いいのかしら、貴女が先に出題すれば私は本の内容を知る前に答えなくてはならない」
智香「大丈夫ですっ! そんな方法で……勝とうと思ってません……!」
奈緒(勿体ないなぁ)
卯月「ファイトです!」
ヘレン「……随分甘いのね」
智香「女の子は甘い方が好きだよ。ね?」
ヘレン「確認するけど、図鑑に載っているものを出題しても構わないのね」
智香「どんと来いっ!」
亜子「問題作るってなった場合、どんな感じに出題されるんやろか」
早苗「計算とか……?」
拓海「あー……」
卯月「前の重力石みたいに、取り扱いの方法とか」
未央「そう考えると色々な問題が考えられそうだね」
千鶴(知識が無くても、作る側はそれなりに難しいものを選べる……)
智香(長い間勉強に使った本……今更何を問題にされても分かるはず!)
ヘレン「それじゃあ……『109ページに紹介されている鉱石または宝石の名前』が問題よ」
智香「…………えっ?」
ヘレン「どうしたの? 図鑑の内容に関する出題よ」
未央「ちょ、ちょっと待ってよ!? それは幾らなんでも無茶苦茶じゃない!?」
早苗「変化球どころじゃないわよ!」
ヘレン「私は確認もした、図鑑に載っているものを出題しても構わないかと」
沙紀「はぁ~…………」
ヘレン「それにいくら私が世界レベルでも、ここまで専門知識の問題は把握していない。なら、こうやって勝つのが唯一の道でしょう?」
拓海「けどよぉ!」
さくら「ちょっとずるいですよぉ!」
ヘレン「……まぁ、言い分も分からなくはない、少し譲歩するわ」
奈緒「寄っちゃうのか……別にいいんじゃないかな、良い問題だし……」
ヘレン「三問で勝負、その時に互いの正答数が同じなら引き分け、再戦を許可する」
智香「……リベンジ出来るんだね? 別の勝負で」
ヘレン「引き分けれたらね」
ヘレン「さて、答えは?」
智香「さすがに……それは、分からないよ」
ヘレン「残念、貴女の正解数はゼロのまま……次はそっちの番よ」
千鶴「目次が冒頭にあり、あの図鑑の大きさなら一ページに二つ……いや、一つしか鉱石の紹介なんて出来ない……あ行から順番に――」
拓海「真面目かよ」
卯月「こんな問題……」
凛「でも……それくらいの無茶苦茶な問題も出していいって事だよね? 目には目を」
未央「歯には歯を?」
智香(だったらこっちも……図鑑で答えられないような問題を出せば……!)
ヘレン「出題の時に中身は少し確認した」
智香(目次は今の間にしっかり記憶されたかもしれない、ページ数の出題は危険……?)
――ペラッ ペラッ
智香(何かいいものは……!)
早苗「……駄目ね」
拓海「駄目、だァ?」
卯月「えっ?」
千鶴「ですね……私が言えた事ではありませんけど」
拓海「な、何だよ……まだ始まったばかりだろ? どう転ぶかわかんねぇじゃねぇか」
未央「そうだよ! きっと幾らでも探せる中で難しいのを探して――」
早苗「どうして彼女は図鑑を漁ってるの?」
拓海「そりゃあ、ソイツが言った通り難しい問題探してんだろ? ったく、インテリ勝負が始まるかと思いきや二回連続でとんち勝負かよ……」
千鶴「二回連続…………に、してしまいましたね」
拓海「あぁ?」
凛「して“しまった”?」
早苗「空気に飲まれちゃったね、いつの間にか“そういう勝負”に引き込まれちゃってる」
千鶴「素直に……相手にさせておくだけにするべきでした、こちらから相手の土俵に上がる必要は無いんですよ……トモカさん!」
――ペラッ
智香(……! これは!)
智香(ページの折り目……アタシが目印に使ってたもの……!)
ヘレン「何か見つけたかしら?」
卯月(自信アリに見えます!)
拓海(さぁどうだ……!)
智香「よし……じゃあ、問題です!」
ヘレン「どうぞ」
智香「図鑑のページの端の……これはアタシが勉強中に付けてた目印だけど――」
ヘレン「33よ」
智香「…………え……?」
千鶴「…………」
早苗「ふー……」
さくら「えっとぉ……よく聞こえませんでした!」
奈緒「二人の勝負だからこっちが聞こえてる必要はないんだけどな……」
未央「……? ……?」
ヘレン「4・5ページ目、8・9ページ目、14・15ページ目……省略するけど、折り目の数は合計で33よ」
奈緒「……嘘だろ?」
亜子「えぇ……?」
泉(覚えてた!? いや、あの位置から本が見えてるの? それとも……)
ヘレン「目印の数でもページ数でも、そのページに書かれている内容でも答える」
智香「あ、えっと……え……」
拓海「……頭どうなってんだよ」
早苗「今のはミスよ」
拓海「だからそれがどういう事なんだよ! あの記憶力を想定しておけって事か!?」
千鶴「出す問題を間違えてます」
さくら「分かりやすくお願いしまぁす」
亜子「アタシに聞かれても……」
千鶴「せっかく相手が“専門の知識は把握していない”と言ってくれたんですから……」
早苗「真っ直ぐな問題出せば良かったのよ……だったら引き分けには出来たでしょ」
拓海「……?」
早苗「知らない知識の問題集を見て、中の問題で出題されるか、それとも“本に関して”出題されるか」
拓海「……ああ」
早苗「まったく知らないなら、後者の方が望みあるでしょ?」
泉(その小さな望みに賭けて、そんな小さな点まで記憶した……?)
千鶴「それに分かりやすい、折り目なんて……覚えれば済みますからね。場所はともかく、個数程度なら……」
拓海「いやいや……程度ってお前……」
・
・・
・・・
沙紀「何だかんだで最後の問題っすけど」
ヘレン「……私の回答は“分からない”よ」
智香「ですよね……」
卯月「……? ……?」
凛「いや、真面目に問題の答えを考えなくていいよ……」
智香「はあぁ……宝石の、それも有名な金・ゴールド関係の偽装に使われる手段と鑑定方法なんて基礎だよ……」
ヘレン「その、貴女の自慢の基礎知識で最初から勝負を挑んでいれば、可能性はあった」
亜子「アタシも知ってたなぁー」
さくら「アコちゃん物知り!」
智香「流されちゃったなぁ……あはは」
ヘレン「勉強になったわ、今後は私の前に偽の報酬を用意しても見抜いてみせるわ」
智香「や、役に立ったなら……まぁいいかな?」
ヘレン「さて、別方向からの切り口で勝負が二度続いたけど、次の相手は誰?」
奈緒「…………」
泉(勝負の題材の例は見つかった……でも、一度は“勝つ映像”を見たい……じゃなきゃ、想定が出来ない!)
沙紀(自分が“一人目の勝ち抜け”っていうのが想像出来ないっす、まだ待ちっすね)
ヘレン「そう、誰も居ないなら――」
凛「待って」
――トン、トン……
凛「……簡単にやってる人も居るけど、案外難しいね」
早苗「あら」
拓海「ボール?」
さくら「上手ですねぇ!」
凛「こう使うものかは分からないけど」
ヘレン「サッカーボール、遊戯の道具ね」
凛「そういう名前なんだ、サイズが丁度良かったから選んだんだけど」
――ポンッ
ヘレン「安心なさい、それは蹴って使うもの、今の勝負にはピタリと当て嵌る」
凛「まだ何の勝負かは言ってないけど……だいたい察してるみたいだね」
智香「ボール遊び?」
凛「私、脚には自信があるよ」
未央(三人でなんとか考えた戦法……!)
卯月(お互い慣れてないもの、でもこっちが大きく苦手じゃなくて……かつ、きちんとルールがある勝負!)
凛(それなら……さっきの勝負みたいに、反則手は使ってこないはず)
拓海「これってさ……」
凛「蹴る、止める、入る……どう?」
ヘレン「それはきちんと認められた競技としてのルールが存在する、それに則って勝負よ」
凛「……分かった。それで私と、勝負しよう」
ヘレン(広く知られたスポーツで勝負……競技を知らないように振舞っているけど、実際はどうかしら?)
ヘレン「まさか、経験者?」
凛「どう思う?」
早苗「どんなルール? 私よりそういうの詳しいんじゃないのタクミちゃん?」
拓海「サッカーだろ? で、二人って事はPKだよな……」
早苗「ぴーけー?」
拓海「……思い切り端折るけどよ、要するにボールを蹴って、決まったゴールの中に入れたらいいんだよ」
早苗「蹴るの?」
拓海「そういうルールなんだよ」
早苗「そうじゃなくて、ふーん……」
早苗(ま……苦手分野では有り得ないでしょうけど)
――カチャ
凛「……受けてくれる?」
ヘレン「当然よ」
ヘレン(あの足の装甲は……防具じゃない、武器ね。なるほど、自信アリ……警戒の必要がある)
泉「サッカー、ペナルティキック……枠から少し離れた所からボールを蹴って、ゴールを狙う」
亜子「もちろんガラ空きのゴールやなくて、守る……キーパーがおるわな」
さくら「誰が守るんですかぁ?」
卯月「それは!」
未央「もちろん……!」
ヘレン「……この勝負は一対一、貴女達の助力は不可能よ」
凛「勘違いしてるよ」
奈緒(そりゃあそうだよな……)
ヘレン「どちらが先に?」
凛「この勝負、先とか後とかは存在しないよ。はい」
――パシッ
ヘレン「……存在しない?」
早苗「ちょっと、ボールを蹴る位置とか相手に決めさせるの?」
拓海「いや、そんなルールは……無かったよな?」
泉「私の知る限りでは」
――ザッ
凛「よいしょ……準備出来た」
ヘレン「……貴女、もしかして」
亜子「先に守るんですかい?」
卯月「いいや、違うよ……!」
沙紀「違うんすか?」
凛「さて、いつでもいいよ」
ヘレン「私が……一方的に蹴る方なのね」
早苗「ええ? ……ず、ずっと、そっち側なの?」
未央「しぶりんは……きっとこっちのが、得意なはずだから!」
千鶴「どうして……そちら側で……」
さくら「どっちの方が有利なんですかぁ?」
亜子「そりゃあ……蹴る方が有利なんとちゃいます?」
拓海「当たり前だろ……何回やるか分かんねぇけど、ゴールの範囲は結構広いからな……」
奈緒(蹴るのが苦手って事?)
早苗「あの囲いの中に入るのを止めるわけでしょ? だいたい……横は七か八メートルね」
拓海「力あったからな、蹴って飛んでくるボールも結構速いぞ」
早苗「弾丸見切るよりマシでしょ、案外大丈夫じゃない?」
拓海「ワケが違げぇよ!」
未央「大丈夫大丈夫、大丈夫……でしょ?」
卯月(高さ……リンちゃんの倍くらい……!)
ヘレン「……一発勝負かしら」
凛「冗談でしょ」
――スッ
凛「……五回」
亜子「五!?」
ヘレン「五回……」
凛「全部止めたら私の勝ち、これでいい?」
さくら「全部ぅ?」
亜子「……大丈夫ですの?」
ヘレン「ひとつ誤解していたわ、交互じゃないのね?」
凛「さっき、そう言ったつもりだけど」
ヘレン「もう一度確認するけど私が蹴る一方、貴方は守る一方、そういう事?」
凛「間違いないよ」
――トンッ
ヘレン「ならルールの訂正を求める、五回じゃなくて三回でいいわ」
未央「ん?」
凛「……それは余裕だから言ってるの?」
ヘレン「いいえ、三回も止められる相手なら五回やっても入らない、実力を図るならこの回数で十分よ」
凛「なるほどね……」
奈緒「どんなものか……蹴るって素人には力だけで難しいって思うけどさ」
ヘレン(てっきり交互か、蹴る側で勝負してくると思ったけど……もしかして本職、だったりね)
――ザッ
ヘレン「どの道、下手な実力なら受け止めきれない、そんな一撃を!」
早苗「え? もう始めるの? 早くない?」
泉「開始は蹴るタイミング……!」
――ヒュッ ドッ!
ヘレン「フッ!」
拓海「これで入ったら終わりだぞ!」
亜子「左! 曲がって……」
ヘレン(ポストのギリギリ、飛び付かないと間に合わない距離よ)
凛「……!」
――タンッ
さくら「反応できてますよっ!」
沙紀「ギリギリ届くか怪しいっすけど……もっと思い切り飛びつかないと!」
智香「ファイトですっ!」
千鶴「この軌道なら手前で一度跳ねる……速度は落ちるはずです」
早苗「じゃあ間に合う――」
――ギュイン
千鶴「なっ!?」
早苗「地面で反対方向に跳ねた……!」
拓海「あの軌道で左から右に変わった!? マジかよ……」
未央「しぶりん!」
ヘレン(最初のボールの軌道で右に向かった身体じゃ反応できない、これは慣れている人ほど虚を突かれる!)
凛「だろうね」
――キュッ
早苗「初めてのボール蹴った軌道じゃないっての……!」
奈緒(いや、でも反応して――)
凛「ふっ!」
――パァンッ!
ヘレン「……!」
卯月「け……蹴り返した……!」
智香「と、言う事は!」
凛「ボール……私でも変だと感じるくらいに回転してたよ。それに、あの位置を狙って撃つなら普通……速度が大事だよね」
ヘレン「回転してた? 貴女、ボールは遅いといっても人が蹴ったモノよ? 何が見えているのかしら」
凛「別に、視界に映ってるものなら見えるでしょ? ……さすがに消える球とかは視えないけど」
泉「回転……でも、ボールなんて無回転の方が難しいんじゃ――」
凛「極端に回転した、って言ったでしょ。それに軌道はずいぶん下だった、手前で一度跳ねる強さ……」
さくら「えーっと……地面について、反対方向に向きが変わるくらい回ってたって事ですかぁ?」
凛「結果、こうなると思った」
ヘレン(回転の方向も見ていた、とでも言うつもり?)
亜子「……と、止めましたよあの人」
――タンッ
ヘレン(……玄人の動きじゃない、もし彼女がこの競技に優れているなら私の撃ったボールは間違いなく網を揺らしたはず)
千鶴「飛びつかなきゃ届かない距離のボールを……見た上で動かず……」
ヘレン(つまり、この勝負で挑んできたにも関わらず彼女は素人……! それを、反応速度だけで勝負しに来た)
凛「二回目……どうぞ」
ヘレン「下手な小細工は不要、なら!」
亜子「今度は思い切り構えてます! 二人とも!」
凛「……!」
ヘレン(!?)
――ドッ!
さくら「打ちましたよ!」
卯月「また隅!」
拓海「いや、それだけじゃねぇ! 今度は上だ!」
泉(今度は本当に、実力でも止めにくい場所だけど……!)
凛「はあっ!」
――パァンッ!
ヘレン「…………見事ね」
ヘレン(あの子……私が“蹴る前”に既に飛んでいた。既にその目で反応していたのね)
凛「あと、一回……!」
ヘレン「……さて、次が最後」
さくら「あと一回、一回ですよぉ……!」
早苗「ただのボール遊びが随分熱いじゃないの!」
ヘレン(直球勝負も変化球勝負も、放つ前に球種がバレてるなら無意味ね、なら……!)
――トンッ
奈緒「置いて……助走バッチリかよ……」
未央「頼むよーしぶりんー……!」
卯月「どきどき……」
ヘレン「狙いは、ここ!」
凛(……右!)
――ドッ!
拓海「止めろよ! 飛びかかってでも止めろ!」
早苗「黙って見れないのかしら! 気持ちは分かるけど!」
未央「しぶり……もう踏み込んでる!」
ヘレン(このまま撃てば勢いは十分、だけど……阻まれる!)
――キュッ
さくら「あっ!」
ヘレン(撃つ前に読まれるなら……撃った後!)
ヘレン(もう一度、蹴る……!)
凛(あの体勢で、蹴った後なのにまだ……)
――バシッ!
凛「っ……!?」
亜子「アカン! 逆……!?」
奈緒「ここで終わったか……?」
ヘレン(確か正式なルールでは二度蹴るのは違反だけど、厳密な違反を指摘する人物は居ない)
卯月「リンちゃん! そのっ、横の棒でも蹴って反対側にっ!」
未央「それは無茶だって!」
ヘレン(それに傍から見れば、振り抜いた足にもう一度ボールが当たったようなもの……!)
凛「……!」
――ザザッ!
智香「いや、立て直してます!」
卯月「リンちゃん! 急いで反対方向っ!!」
凛(間に合う? いや……!)
亜子「な、なんかよう分かりませんけどえらい駆け引きやったん!?」
泉「逆を突かれてるけど、軌道は下にズレてる……これなら間に合うんじゃ……!」
ヘレン(……無茶しすぎたようね、威力が足りない)
――…………
凛「…………」
拓海「な、何で追いかけねぇんだ……?」
卯月「まさか怪我したとか……!?」
ヘレン(動かない? 何故……このままボールが転がって枠内に入るのは――)
凛「私の、勝ち」
ヘレン「……!?」
亜子「勝ちって……まだボール跳ねてますやんか!」
――ガツッ
智香「あっ……!」
未央「えっ?!」
ヘレン(軌道が……?)
――ガッ
奈緒「お……」
さくら「ああっ!」
凛「たぶん、さっきから散々戦ってた人達の誰かがつけたんだろうね……」
拓海「どうなってんだ? 跳ねた時にえらく外側に転がったけどよ……また回転か?」
早苗「あの場所、地面に溝が……」
千鶴「ボールが、軌道が変わった!」
――タンッ タンッ カンッ……
さくら「外……ですねぇ……」
凛「地面の凹み、ここに跳ねたボールの向きは変わる……あの軌道なら、外に反れていく」
ヘレン「……さっきから大した目を持ってるのね、全部見えているの?」
凛「見逃さない、大事な勝負だからね……一挙一動」
――スッ
凛「まさか打った後に方向を変えられるとは思ってなかったけど」
未央「……?」
ヘレン(それにも気づいてたのね)
凛「ただ、さすがに強引だったみたいだね、その“先”を見てなかった……いや、見ていても調整する時間が無かったのかな」
凛「……これで三回だけど」
ヘレン「おめでとう、見事な動体視力だったわ」
卯月「じゃあ……」
ヘレン「このグループからは一人目の合格者よ」
凛「……よし!」
卯月「リンちゃん!!」
未央「しぶりんっ!!」
智香「おめでとう!」
早苗「あー、若い若い……いいわね、ああいうの」
拓海「んな歳でもねぇだろ……」
早苗「無粋ねー」
拓海「どっちがだよ……」
未央「凄かった! さっすが!」
凛「後は二人……行こう、一緒に……次のステージに」
卯月「もちろん!」
未央「任せて!」
――…………
泉「分かった事は……勝てるって事、前例が出来た」
凛「じゃあ私は、外で待ってるよ。……大丈夫?」
卯月「大丈夫! 私達も後から絶対!」
未央「問題は何で勝つかって……かな?」
泉(全てに通じているわけじゃない、そのどれも……戦闘でも知識でも“専門家”の虚を突いた勝ちだった……)
千鶴「別角度から勝負内容を決めるべきだった……いや、私の選択も間違っていないはず……」
智香「分析、真面目だねっ?」
千鶴「次に繋げたいですから」
智香「でも……結局は、まっすぐ勝負を挑んだリンちゃんが勝った」
千鶴「とはいえ、少し曲げた勝ち方もあるはずです」
泉(リンさんのように、裏をかかれても技術でカバー出来たりはする……!)
ヘレン「ようやく一号、次は誰かしら? 流れを重視する人にとっては大事な回でしょう」
早苗「波が来てるわね」
亜子「流れ大事やで、ここはアタシが」
奈緒「……そろそろアタシが」
泉「私が」
ヘレン「へぇ」
智香「人気だね……」
卯月「……出遅れちゃった」
未央「同時に、なーんて……」
ヘレン「全員同時は不可。順番に受け付ける、最初は誰?」
奈緒「……じゃあ遠慮しとくよ」
亜子「どうする?」
泉「……譲ってくれる?」
亜子「別にええけど」
泉「じゃあ、私が勝負する」
ヘレン「内容は?」
泉「私は回復術式の適正、心得がある」
拓海「珍しいな」
ヘレン「……察したわ、でも問題がある」
さくら「ええっ?」
智香「問題?」
泉「分かってる。……治療する被験者が居ないのが問題でしょ?」
卯月「……そっか、怪我してる人、ここにいないから」
未央「勝負が成り立たない?」
ヘレン「怪我人を用意するのはさすがにね、という事で変更してくれるかしら」
泉「何でも受け付けるというのは?」
ヘレン「同時に、危険な勝負は行わないとも伝えたはずよ。万が一重傷の患者を用意したとして、治療できなかった場合の責任は?」
奈緒「……不成立なら、アタシかそこの人の番?」
亜子「と、なりますけど」
ヘレン「代案が無ければ――」
泉「責任が取れたらいいんだね」
――ザッ
泉「…………」
沙紀「何するつもりっすか」
早苗「まさかとは思うけど……」
卯月「駄目だよ! ここで他の人を巻き込んじゃ!」
ヘレン「物の弾みというものがある、認められないわ」
泉「さすがに……そんな事しないよ、怪我させるわけない」
ヘレン「それだけじゃない、自身を傷つけるのも同じよ」
泉「自身、か。今から傷を作るわけじゃない……」
――スッ
さくら「あ、それは……!」
奈緒「あれは……」
泉「昨日、ちょっと森の中で怪我をしてね」
さくら(イズミン……怪我、治さなかったのはこれの為?)
沙紀(……ちょっと違和感があったのはこれっすか)
泉「ちょうど左右で同じような傷が残ってて、治せる?」
ヘレン「……用意のいい事ね」
泉「治せるか? と、聞いているのだけど?」
ヘレン「答えは知っているでしょう?」
泉「……どっちの意味?」
ヘレン「どちら? 一つしか無いでしょう? 回復の術式は適性が無ければ才能も何もない」
泉「だよね。私は治せる」
――ヒュイン
泉「……ふぅ、痛かった」
泉「私は治せた、あなたは治せなかった。優れたものを見せるなら、こんなものでもいいんでしょ?」
ヘレン「ええ、その通り」
早苗「……これ、勝負始まってたっけ?」
拓海「始まって……無い、と思ってたけどよ……」
泉「勝負を受け付けない御託は、詰まる所『本当に扱えない』からと思った」
千鶴「……万能の人ではないと」
ヘレン「素質や才能は努力で補えないこともある、持っているならそれは武器」
泉「武器で勝つ試験でしょ? 相手が持っていない、自分だけの武器で。なら、勝負を受けさせたら勝てる」
ヘレン「見事。 ……こんなに薄い内容でも、勝負は勝負よ」
未央「……お、終わっちゃった」
卯月(種目をうまく指定すれば、こんなにもすぐ……)
泉「合格でしょ?」
亜子「オッケーや! じゃあこのままアタシでもええやろ?」
ヘレン「……ええ」
亜子「よっしゃ! 勝負の内容はずばり、コレや!」
――ピッ
卯月「カード……?」
亜子「アタシの売りの一つでもある、記憶力!」
智香「裏側、模様がある?」
ヘレン「そちらが用意したカードなら、確認の必要があるわね」
亜子「もちろん……でも、確認は第三者がするんや」
卯月「どうして?」
千鶴「勝負の当事者が確認しても、細工の余地が残るからです。勝負の内容にもよりますが」
亜子「さっきからこっちの隙を突いて勝ってる様子が多かったからなー、イカサマ防止させてもらいますわ」
ヘレン「当然ね」
沙紀「じゃあアタシが見るっす」
亜子「じゃ、お願いしましょか」
――スッ
亜子「ま、何も細工はしてませんけど」
さくら「チェックでぇす!」
沙紀「今のところは何もないっす」
ヘレン(仮に細工していたとして、一見で分かるようにはしていないでしょうね)
拓海「で、そのカードでどう勝負すんだよ」
ヘレン「記憶力なら、もちろん……」
亜子「ずばり神経衰弱ですわ、ご存知?」
未央「聞いた事のあるような……」
早苗「あー、昔一回だけやったわね、誘われて。確かに記憶力よ」
亜子「同じ絵柄のカードを合わせる、簡単でしょう?」
智香「それで裏に模様が……全部違う絵?」
亜子「当然やで? まず全部表に返します、それで……覚える、引く、了解?」
ヘレン「……あなたが先攻ね」
亜子「へ? いや、ここは公平に――」
ヘレン「私が先に引けば、全て当てる。そうなると、運で勝負が決まるようなもの……だから、譲る」
亜子「簡単に言いますわそんなの……でも、ハッキリ言うと想定してました」
拓海「……出来るか?」
早苗「全部? 一回で?」
拓海「おう」
早苗「無茶言わないで」
千鶴「当然……無理ではないけど、困難には違いない」
智香「でも、だったら先攻をもらって有利なんじゃない?」
亜子(そう、だから先攻取れるかの五分五分勝負やったけども……)
亜子「……へぇ、そういう事なら勝負ちょっと変えましょ」
卯月「変えちゃうんですか?」
亜子「種目は変えない。ルールそのまま、アタシがストレートに全部引けたら……勝ちで、どうです?」
ヘレン「元より勝機はその一点よ」
亜子「上等!」
――ジッ
未央「えー……三十、四十枚くらいある?」
亜子「五十二枚です、まぁ見といてください」
卯月「こっちが丸であっちが四角……あれ? 四角ってどの四角だっけ……?」
奈緒「似た絵柄が多いってのも辛いな……」
亜子(常、自分売り込む時に使ってますけど……やっぱ緊張しますわ)
ヘレン「…………」
――…………
泉「さくら、ちょっと」
さくら「何?」
泉「私とアコは大丈夫、だけどさくらは何か策はある?」
さくら「うーんと……やっぱり堂々と戦おうかなぁって! わたし、自信ありまぁす!」
泉「……さくら、見てたよね? 今までの勝負」
泉「あの人に正面から勝負を挑むのは分が悪い、さくらは尚更」
さくら「……?」
泉「とりあえず……私の言う通りの勝負にしてみて」
さくら「……えっと、よく分からないけどイズミンが言うならそうする!」
・
・・
・・・
亜子「コレとコレ、でもって……えーと、そっちのソレとコレで」
――パサッ
智香「あと何枚かな?」
ヘレン「半分以上消化している、もう余裕かしら?」
卯月「全っ然覚えられない……」
亜子「言いましたやんか、アタシは記憶力が売りって」
千鶴「本当に記憶しているんですか?」
沙紀「たぶんそうだと思うっすね」
千鶴「多分? カードにイカサマが無いか確認したのはあなたでしょう?」
沙紀「してないっすよ、面倒なんで」
千鶴「はぁ!?」
沙紀(イカサマ見抜く眼なんて持ってないっすからねぇ……)
沙紀(後で発覚したら“あの時見逃した”とかで揺する気満々なのはあるっすけど)
ヘレン「…………」
亜子「えーと、あと……うーん、そっちと向こうと、えー……」
未央「悩んでるねぇ」
ヘレン「そろそろかしら」
――スッ
亜子「うーん……これやったような気が」
ヘレン「ストップ」
亜子「ほ?」
沙紀「何です? 中断っすか?」
さくら「そんな事してる間に忘れちゃいますぅ!」
ヘレン「心配無用。このまま唸って勝負が続くより、次の一枚で決着を付けましょう」
亜子「……?」
ヘレン「これ、私が持っているカードのペアを当てて欲しい」
拓海「あのよ――」
早苗「言っとくけど覚えてないから」
千鶴「…………」
拓海「諦めてやがる」
亜子「……構いませんけど、アタシは当てますよ?」
ヘレン「そういう勝負でしょう?」
亜子「そうでしたねー、ただちょーっとばかり卑怯やないですか?」
ヘレン「卑怯?」
亜子「場所変えましたね? 一部、カードの向きが変わってますわ」
――ザワッ……
沙紀「変えた? ……いつの間にっすか」
亜子「だいたい六枚ほど……なんですか? そういう感じで落としに来ますか?」
ヘレン「……覚えてるのね」
亜子「当然ですわ」
拓海「カードを変えるって、戦法的には」
早苗「遊戯のルールとしては好ましくないわね、記憶力の勝負で死角を突くとゲームが変わってくるでしょ?」
千鶴「じゃあこれは……」
亜子「どういう意図で変えましたん? アタシが見抜いた事で何か益があります?」
ヘレン「益ね。なら……合格よ、きちんと“記憶力”で勝負した」
さくら「……!」
卯月「え、こ、こんなに……」
未央「ちょっと簡単に話が進みすぎじゃない!?」
ヘレン「何もおかしくはない、勝負を行って審査基準を超えた、それだけよ」
奈緒「でも言い分も分かるだろ」
ヘレン「これは試験、監督は私。私が決めるの」
亜子「……なんや納得行きませんけど」
ヘレン「カード、十分イカサマの可能性はあった、私もそういう勝負で挑んできたと思った」
沙紀「そう思ってから立候補したっす」
ヘレン「だから私なりの、それとは別の“イカサマ防止”を講じたはずだった」
亜子「それがカード交換? セコいわぁ……小さいで」
ヘレン(ろくにチェックもしなかったあの人物といい、やけに長い思考時間といい、怪しい点は多かったけど)
ヘレン(とにかく仕掛けてくるなら目印かメモを取る等の方法のはず、だから私は一枚選んで当てさせる方式を取った)
ヘレン(何を取ったか分からない、裏にどのカードか分かる目印があったとしても見せない、そんな策を)
亜子「でも、頭の記憶と照らし合わせたらバッチリですわ」
ヘレン「まさかその違和感ごと覚えていて指摘されるなんてね」
奈緒「ここに来て勢いがやべぇぞ……」
亜子「勝負の自信はある言いましたやん? ……疑われたのは気に入りませんけど」
智香「おめでとう!」
早苗「優秀ね皆、それに比べて……」
拓海「お前もだろ! アタシもだけどよ!」
亜子「ま、ええですわ……ちょっとハードル下がってるんとちゃいます? 合格の基準」
ヘレン「いいえ、きっかけを作ってからの判断力が優れているのよ、優秀な貴女達」
卯月「じゃあ次こそ……!」
未央「私達が!」
さくら「じゃあ……次はわたしでぇっす!」
卯月「ってあらら……」
亜子「お、おぉ。さくら、もうちょっとアタシ余韻に浸りたかったな……一応でも腐っても合格なんやし」
泉「勢いのが大事よ、させてあげて」
亜子「おお、居ったんか……」
泉「準備してたのよ」
ヘレン「貴女達はグループね、最後の一人、何を見せてくれるの?」
さくら「えっとぉ……これでぇす!」
――シャキンッ
未央「武器……」
早苗「という事は?」
卯月「剣、だね。一度見たけど結構大きい、というより太い?」
ヘレン「直接戦闘がお望み?」
さくら「それもいいんですけどぉ、イズミンがやめておけって」
沙紀「ふーん……」
泉「……出来れば言わないで欲しかったな」
早苗「いいアドバイザーじゃない」
拓海「ま、そういう捉え方もあるか……」
さくら「力はありまぁす! これで、斬る勝負でぇす!」
ヘレン(剣は耐久力に優れている程度の普通のもの……純粋に技術勝負ね)
卯月「どういう勝負……?」
未央「一刀両断! とにかく武器で物を壊す勝負? 力自慢かな、負けない!」
拓海「勝負相手じゃねぇだろお前は……」
千鶴「斬る、ですか」
拓海(剣で斬るって一口に言っても、力任せとはまた違うからな……)
泉「もう、代わりに言っちゃうけど……勝負内容は“斬る”一点に重点を置いた内容」
奈緒「剣かぁ……」
泉「剣の心得は? 無くても構わないけど、まずはそっちが最初」
さくら「そっちの番からでぇす!」
泉「倉庫に剣くらいあるよね、それで“斬れる限界”を知りたい」
早苗「タクミちゃん、木刀じゃなくて普通の剣ならどれくらいが普通?」
拓海「どれくらいって……分かんねぇよ、使った事ねぇし。モノが何だろうが一刀両断って難しいぞ?」
ヘレン「斬れる限界を知ってどうするの?」
泉「うちのさくらが、それを斬るから」
さくら「でぇす!!」
ヘレン「なるほどね、私の限界と同じ結果を出せば……実力は十分」
――スッ
ヘレン「待ってなさい、適当な物を用意する」
泉「……分かった」
さくら「任せてくださぁい! えいっ! とおっ!」
・
・・
・・・
ヘレン「これよ」
――ズンッ
未央「わお」
早苗「普通に鉄塊じゃない」
ヘレン「鉄柱よ。特殊な剣でない、普通の武器ならこれが限界と想定したわ」
拓海「何センチくらいあんだコレ……」
ヘレン「実演した方がいいかしら?」
泉「ええ、その方がさくらの凄さがわかるから」
さくら「えへへ」
ヘレン「じゃあ、軽く」
――ゴトンッ
卯月「わっ……ほんとに軽い」
未央「音は重いから本当に鉄だよ」
ヘレン「こんなものよ。扱いが達人級なら、もう少し綺麗に落とせるのでしょうけど」
泉「十分」
沙紀「斧じゃなくて剣でやってるってのがさすがっすね」
ヘレン「さて、一度切断すると短くなって斬るには向いていない、新しいのを用意するわ」
――ガサガサ
ヘレン「一度に二つ持ってくるべきだったかしら」
ヘレン(でも……意外ね、もっと大きなものも“斬れる”と思っていたけど)
ヘレン(少し強い程度の斬れ味、今回はその程度……)
――ズズッ
ヘレン「こんなものかしら、さて――」
さくら「せぇのぉ……」
ヘレン「……?」
――ズガッ!!
ヘレン「!?」
ヘレン「向こうで……何の音?」
亜子「ひゅー……」
さくら「出来ました!」
――カランッ
ヘレン(……斬れている……だけじゃない)
拓海「ッ……なんだなんだデケー音――」
未央「ちょ、っと……これは」
泉「流石にやりすぎよ」
さくら「出来ましたけどぉ……台座ごとやっちゃいましたぁ」
奈緒「はぁー……はぁ?」
ヘレン「何をしていたの?」
泉「新しいものなんて必要ない、この厚さなら短かろうが……こんな感じに、数本纏めてでも斬れる」
さくら「はぁい!」
ヘレン「私が調達してくるまでに、さっきの私が斬ったものを再度?」
ヘレン(しかも破片の数から察するに、何個も纏めて……そして)
沙紀「まぁ豪快にやったっすね、テーブル真っ二つっすよ」
奈緒「テーブルっつーか普通に作業台だよ、あんな密度の台座」
ヘレン(……台座は鉄なんて硬度じゃない、武器で壊すのは困難な強度のはず)
ヘレン「本当に、剣だけで?」
奈緒「見てる限りは……」
沙紀「勝手に調べてたんすけど、その剣が特殊とか……サクラさんっすか? が、強化式使ったような感じじゃないっすね」
拓海「……それにしちゃあ腕力どうこうの威力じゃねぇだろ」
ヘレン(確かに強化式を使った気配は感じられない……これが技術のみで行われた行為なら……)
泉「で?」
さくら「何がですかぁ?」
泉「……これ、試験だよ、さくら」
さくら「あ、そうでした!」
ヘレン「最初に言った通り……同じものを、と思ったけど……さらに大きなものを切断したなら」
ヘレン「認めざるを得ない」
沙紀「なんか胡散臭いっすけど、反論も特に思いつかないんで」
卯月「うーん……本当に斬れてるなら凄いですけど」
智香「もっとちゃんと考えておけばなぁ……」
沙紀「終わった事色々言っても仕方ないっすねー」
千鶴「ですけど……」
泉「これで三人とも突破ね」
さくら「やりましたぁ!」
亜子「なら部屋出ましょか、お先に!」
卯月「あ、はい……」
さくら「行きますよぉ!」
泉「さくら! 剣直してから!」
――タッタッタッ
拓海「……細工してんじゃねぇのか?」
早苗「あら、挑戦?」
拓海「この台座、元々崩れやすいとか……そらッ!」
――パキィン
拓海「うお!?」
早苗「あっぶない! ちょっと!」
拓海「折れたわ……」
早苗「じゃあ本物なんでしょ威力は。まぁまぁ強いのね、雰囲気の割に」
拓海「……そうには見えねぇけどよ」
ヘレン「残っているのは?」
卯月「私と」
未央「私と?」
沙紀「アタシっすか?」
ヘレン「誰から勝負を挑む? 順番は問わない、同時でさえなければ」
沙紀「あれ……他にも残ってたような気がするんすけど」
千鶴「そういえば……サキさん、ペアの方は?」
沙紀「ペア?」
早苗「ペア? じゃないわよ、一緒に予選突破した人よ」
沙紀「あー、そういや姿が見えないっすね」
ヘレン「ここに居ない……?」
・
・・
・・・
――ゴソゴソ
奈緒「よっと」
奈緒(この建物内、きっと国の中枢部だ。って事は何か大きな情報がな……転がってるかもしれない)
奈緒「仕組みとシステムが分かれば今後も仕事しやすいし……」
奈緒「こっそり抜ける為に妙な所通っちゃったからな、それに見合う何かを見つけないとな」
――ピーッ
奈緒「こういうデジタルな鍵なら簡単に開けられるんだけどなぁ」
奈緒(南京錠とかは駄目、おかげで出入り口は通れないって言う、な?)
奈緒「これが国の詳細情報、へへっ」
――ガサガサ
奈緒「国家『サクラ=サミスリル』、旧都領で秘宝『栄光の聖剣』を……ん?」
奈緒「正式名称か? 知らなかったな、こんな名前の国家だったのか」
ヘレン「貴女」
奈緒「うえっ!?」
ヘレン「ここで何をしているのかしら」
奈緒「あ、いや、えーと……というかそっちこそ何でここに! 試験は!?」
ヘレン「いくつか妙な気配を感じていた、一つは貴女だったのね」
ヘレン「どうも秘宝を手に入れる、そんな意気込みから遠い人が何人も……」
奈緒「あはは……え? 何人も?」
ヘレン「そう、実力は確かでも意気込みが別の方向へ向いている、そんな気配」
ヘレン「案の定そのうちの一人が判明し、目的は何?」
奈緒「目的……いや、どっちかって言うとこれはついでだから……」
ヘレン「ま、私は警備員じゃない……仕事内容に侵入車の排除は任されていない」
ヘレン「貴女を確保する義務はない、ただ返答を聞きに来た」
奈緒「返答?」
ヘレン「試験、最後の一人よ。受ける?」
奈緒「は? 最後? え、少なくとも三人は――」
ヘレン「そうね、三人も残っていたから貴女は抜け出す事を決めた」
奈緒「まだアタシが抜けて……サクラって人が終わってから三十分も経ってないぞ!」
ヘレン「しかし想定外なのはこちらも、まさかあんな形で事が終わるなんてね」
奈緒「……?」
ヘレン「これよ」
――パシッ
奈緒「……これ、魔力の測定機か?」
ヘレン「協会で過去に使用された、魔力の貯蔵を簡単に測定する装置よ」
奈緒「でもこれ……壊れてないか? もしかして誰か壊したのか!?」
ヘレン「いいえ、私が壊した」
奈緒「……はぁ?」
ヘレン「壊れるのは想定外だったのよ」
奈緒「おま、加減しろって……」
ヘレン「加減は出来ない、いつでも全力よ」
奈緒「壊れるって分かってるなら――」
ヘレン「分からないのよ」
奈緒「……壊れるか分からない?」
ヘレン「私の実力は全て、私のものではない。あくまで一定の領域内の平均より高いだけ」
ヘレン「範囲を広げれば全世界の平均を超えた、まさに世界レベルと呼ぶ代物に」
ヘレン「一方今回のように、施設内に範囲を狭めれば……その中で適材適所、自身の個性で挑んだ人のみが平均上である私を超えられる」
奈緒「なるほどね……試験官には適任だよ、本当の話なら」
ヘレン「そして彼女は魔力の貯蔵で勝負を挑んだ」
ヘレン「平均より高い程度である私が装置を壊した、この意味が分かる?」
奈緒「……?」
ヘレン「分からないなら構わない、喋りすぎたかしら」
ヘレン「本題に戻る、こうして試験の最後になった貴女はどうする?」
奈緒「要するに、とんでもない人の集まりだろ? 嫌だよもう、アタシ降りるから……」
ヘレン「それも構わない」
奈緒「ま、知らない事も知れたからな……国の正式名称なんて小さな情報を始め、だけどさ」
ヘレン「……?」
奈緒「じゃあ……出口、どっち?」
ヘレン「この先よ」
奈緒「どうも。これ、返すよ、大した中身じゃなかったけどさ」
ヘレン「…………」
――パサッ
ヘレン「国家……サミスリル、だけではない……? 正式名称……?」
ヘレン「……私は、仕事相手を選ぶわ。隠された情報があると信用できない」
奈緒「だよなぁ」
ヘレン「だけど」
――ピッ
ヘレン「この機器……パスワードが掛かっている」
ヘレン(つまり、閲覧できない情報が入っている……なぜ?)
ヘレン「ナオと言ったわね……待ちなさい」
奈緒「え?」
ヘレン「貴女、このロックは外せる?」
奈緒「……おいおい、アタシに頼んでいいのかよそれ」
ヘレン「ここを一任されている私が、この施設で見れない情報があるのは有り得ない」
奈緒「内部事情は知らないけどさ、そんな事もあるんじゃないのか……?」
ヘレン「見られないなら、強引に見るまで」
奈緒「……あの、思ったより過激なんだな。でも、無理だよ」
ヘレン「理由は」
奈緒「これは準備なしに開けられる代物じゃないからさ」
奈緒「っていうかさ、仕事終わったんだろ? じゃあもうここに世話かける必要は――」
ヘレン「私が通してしまったら、誰も見る人は居なくなる」
奈緒「知ったこっちゃないだろ!?」
ヘレン「仕事には責任を持つ性格よ」
ヘレン「裏があるなら解明する、それだけよ」
ヘレン「そうね、試験を降りたのなら都合がいい、少し付き合いなさい」
奈緒「えー……?」
ヘレン「ここは試験会場、外部から人を呼ぶのは難しい」
奈緒(……面倒なのに捕まった気がする)
ヘレン「付き合うのも悪くないでしょう」
奈緒「……対価何か払ってくれよな」
ヘレン「結果次第よ」
――タッタッタッ
??「…………」
・
・・
・・・
凛「壊した?」
未央「私達じゃないよ? ヘレンさんがだよ!」
卯月「私とミオちゃんが測定するはずだった機械が……」
凛「何をするつもりだったの?」
未央「腕力」
卯月「魔力……」
凛「あっ、そ、そうなんだ……へぇ……」
未央「何その反応ー!」
凛「いや……真っ直ぐだな、と思って。壊れたのは、残念だけど――」
沙紀「ま、壊れたおかげでどういう訳かすんなり通してくれたんすけどね」
凛「……当たり前のように居るけど、何をして通ってきたの?」
沙紀「いやいや、お二人には感謝してるんすよ?」
凛「ウヅキ、サキさんは」
沙紀「試験とか面倒なんで、『そこの二人が合格したら通してくれ』って賭けたんす」
未央「そしたら不戦勝取っちゃった、って感じ?」
沙紀「したら、こうっす」
卯月「一緒にこっちに来ました!」
凛「……認められるんだ、そんなのも。じゃあ他の人は?」
沙紀「さぁどうでしょう、帰ったんじゃないっすかね? 落ちた人も、受かってない人も」
さくら「みなさぁん!」
泉「全員……じゃないみたいだけど」
亜子「何人かは姿見えませんなー、とりあえず突破おめでとうと言うことで」
――ピーッ
亜子「っと、何や何や……ご挨拶もできませんの」
さくら「あっち、映像が出てまぁす!」
卯月「……最初の時にも見た人だね」
――ザザッ
桃華「ご苦労、ここに居るのは二度のふるいを掻い潜った優秀な方々だと聞いていまして」
沙紀「豪華っすねぇ」
亜子「技術も進歩してますなぁ」
桃華「この施設は宿泊も可能、試験以外は外出禁止。個別の部屋は用意していますわ」
未央「おおおー……なんだか急に待遇がよくなった感じ?」
凛「宿泊? って事は、今日は夕方だけど……もう何もしない?」
桃華「翌日に備えて、ひと時の休息をどうぞ」
泉「これを伝えに来た」
凛「……だけ?」
桃華「次の試験まで外へ出る事をは禁止しますがそれ以外は何をなさっても構いませんわ」
・
・・
・・・
卯月「リンちゃーん!」
凛「どうだった? トモカさん達は?」
卯月「他の人達と一緒に外に出ちゃったみたいで……」
未央「やっぱり? じゃあこの辺りにいる人は別口から合格した人かな」
凛「この……地上か地下かも分からない空間だけど、思ったよりも広い」
未央「それだけ合格者が多いのかな」
卯月「……の割には、あまり多く人を見かけない?」
凛「だね。どういう事だろう」
未央「やっぱり難しいんだよ、内容がね? それで、予想より合格者が大きく下回ったとか」
卯月「かもしれない……あっ、そう言ってたら誰か居ました!」
凛「あれは……」
卯月「えっと、何してるんですか?」
亜子「おー、改めて突破おめでとうですわ」
未央「一人?」
亜子「そちらは三人お揃いで、アタシは探索中ですけど三人は?」
凛「特に目的は無いよ、散歩程度かな……それで、探索って?」
卯月「探検ですか?」
亜子「いやいや、実はアタシらご覧になった通り徒歩でこの施設に来たんですけども」
未央「そういえば違う方法で来てたねー」
亜子「徒歩言いましても、正確には近くまで移動してからです。でも確実に……このあたりから入ってきたはずなんですけど」
未央「扉っぽいのは無いよ?」
卯月「ただの壁……ですね……」
亜子「外出られへんように隠してるかもしれません、変に探し当てて失格喰らうのも勘弁なんで、詮索しませんけど」
卯月「イズミさんに聞いてみては? もしかしたら場所を間違えてるかも」
亜子「もう部屋で眠ってるみたいですわ、次に備えてとかで」
亜子「言うて何が待ってるか分かりませんし、それが正しいんでしょう」
卯月「そうだね……ちょっとだけ歩き回ろうかな、って思ってたけど」
未央「探検するにしてもそんなに色々ありそうな施設じゃないし?」
凛「明日に備えて、部屋もあるみたいだし休憩しようか」
亜子「それがいいと思いますわ、アタシもこの後部屋探しながら帰りますから」
未央「だねぇ、何もしてないけどこんな空気だと……」
卯月「いっぱい運動したわけじゃないのに疲れちゃったよ……」
凛「……部屋は? 決まってるんだっけ」
亜子「らしいですよ、部屋当ての順番分かります?」
未央「えーっと、確か試験の順番らしいから……あっ」
凛「どうしたの?」
卯月「そうだ、リンちゃんだけ早く抜けたから」
凛「そっか……じゃあ少し二人とは遠いかな」
未央「いや、しまむーとしぶりんは近いよ、ちょうど向かいの部屋かも」
卯月「あれ? それじゃあミオちゃんも……」
未央「私だけひとつ向こうの通路だよ……私としまむーの間が境目だったみたい」
卯月「あれれ……」
・
・・
・・・
――カチ カチ
桃華「……いい時間ですの」
聖來「かなり遅い時間だけど、大丈夫?」
桃華「今日くらいは確認をね? お昼の間に睡眠の時間は取りましてよ?」
聖來「睡眠時間は貯めておけないよ」
桃華「万が一にもトラブルが起きないように、気になりますの」
聖來「アタシがちゃんと見ておくから、寝よ?」
桃華「いや、眠くなんてありませんわ……大事な本番でして……」
桃華「まだ静まっては……」
聖來「いません。まだまだ廊下に人は多くて」
聖來「こっちの作業も、あまり大掛かりにやると察しちゃう人が居そうだからね」
桃華「全くですわ、事は穏便に進ませるのが一番でしてよ?」
桃華「その為にわたくしが、この目でちゃんと見届けなければ……」
聖來「んー……無茶していい事ないよ?」
桃華「……では準備だけでも確認しますわ」
聖來「うんうん。じゃあもう一度見直しだね、次に備えて」
桃華「連絡は?」
聖來「きっちり伝えたよ」
桃華「それでは、後は時間になれば……」
聖來「はいはいお休みなさいー」
・
・・
・・・
――タッタッタッ
卯月「私の部屋はここかな?」
未央「みたいだね、私だけあっちかぁ……」
卯月「部屋の内装は一緒かな?」
――ガチャ
卯月「お邪魔しまー――」
さくら「あれぇ?」
卯月「あれー?」
さくら「またお会いしましたねぇ!」
未央「ここ、しまむーの部屋じゃあ……」
凛「ミオ、今見直したんだけど、もしかして通路違うかも」
未央「ええ?」
卯月「あれれ……あ、じゃあもしかしてミオちゃんの部屋も……違う?」
凛「そうかも」
未央「に、荷物とってこないと!」
――ダダッ
卯月「……ってことは、ここは」
さくら「わたしの部屋、だと思うんですけどぉ」
凛「内装は一緒だね」
卯月「部屋によって差はないね、当たり前かもしれないけど……」
さくら「綺麗なお部屋ですねぇ!」
卯月「間違って入っちゃってごめんね? でも、普通に開いちゃったから……」
凛「鍵は?」
さくら「ありまぁす! でも、忘れてましたっ!」
凛「そ、そう」
――ダダダッ
未央「ただいまっ! 結局正しい部屋は?」
凛「もっと向こうの通路かも、移動しよう」
卯月「お邪魔しました!」
さくら「また今度!」
――ガチャ
卯月「ふうっ」
凛「今度こそ正しい部屋だね」
未央「それで、どうする?」
卯月「どうするって……さっき言った通り、今日は休むほうがいいかなぁって」
未央「あ、そんな話だったね……うっ、思い出すと疲労が」
凛「明日に何が来るかも分からない、体力の温存は大事だね」
未央「それじゃあ私は少し遠い部屋で一人寂しく就寝するよ……おやすみ」
卯月「お、おやすみなさい」
凛「どの道個室だから一人だよ」
未央「分かってるけどっ! 心の問題! じゃあねっ!」
卯月「あ、ミオちゃん……」
凛「……何か、悪い事したかな?」
卯月「うーん……」
・
・・
・・・
――カチ カチ
凛(何が来るか分からない、だから早く……でも)
凛「……眠れない」
凛「今は、もうこんな時間……皆は早く眠って休憩してるのに、私は――」
――…………
凛「ん……?」
凛「今のは……聞き間違い?」
凛(物音? こんな時間に、まだ外を歩いてる人が?)
――ザッザッザッザッ
凛「違う、足音……聞こえる、しかも……」
凛「……大勢?」
――…………
卯月「なんだろう……声は小さいけど、賑やか……」
卯月(確かこの部屋のすぐ外って、夕方にアコさんが言ってた『外から入ってきた場所』だったような)
卯月「そこから音がする?」
――スッ
卯月「窓からそーっと……」
卯月(やっぱり人が……それも、試験中に見覚えのない人ばかり……)
卯月「他の合格者かな? えーと……そうだ」
卯月「間違って入って来ちゃ困るもんね、鍵……は、大丈夫」
卯月「……どうしよう、出ていく必要は無いかな――」
――ガチャッ
卯月「!?」
卯月(鍵が……開いた? え?)
――ザッザッザッ
卯月「外の人、こっちに来てる……よく見たら同じ服装? 顔は……見えない?」
卯月(何? これ……何? 何が起きようとしてるの?)
卯月「と、とにかく部屋に閉じこもって……はっ! 鍵もう一回閉め……る時間がない!」
――ガチャッ
卯月(っ……!)
――…………
卯月(と、咄嗟に隠れちゃったけど……何で私隠れてるんだろう?)
卯月(部屋に入ってきた人、何か話し声が聞こえる……)
卯月(えっと……『ここには誰もいない』『合格者の人数によっては空室もある』……?)
――バタンッ
卯月「……出て行った」
卯月(今の会話、もしかして……この試験の運営の人?)
卯月「あの人達が入ってきたのは……アコさんが言ってた通路、本当にあったんだ……」
卯月「そういえば……あの壇上で喋ってた、モモカ……ちゃん、かな?」
卯月「休憩は『翌日に備えて』としか言われてない。次の試験に備えて、じゃない……!」
卯月「そしてそして……外に出るのは禁止だけど、試験で外に出るのは大丈夫みたいな言い回しだった!」
卯月「って事は、もしかして……」
――…………
卯月「これが、試験……ここから、脱出する事が……?!」
・
・・
・・・
凛「……絶対に違う!」
凛(これが運営側のやる事? 休憩してと言っておきながら、不意に対処する試験?)
凛「だったら、何をすればいいかくらいは教えてくれてもいいよね」
凛「つまりこれは…………良くない、不測の事態?」
凛(どうする? ここに留まっていても、その内部屋に入ってきそう……)
凛(待ち構えていたら、出口が一つしかない部屋で、その出口を抑えられた戦闘……不利だね)
凛「かといって出て行くタイミングは――」
――ガタンッ!
凛「え!? 外……!?」
卯月「だったら、早いうちに出た方がいいよね!」
――ガァンッ!
卯月「っ! 攻撃してきてる……やっぱり敵、勘違いじゃない!」
凛(ウヅキ!? 起きてたの? ……じゃない、真っ先に出て行って攻撃、されてる?)
凛(攻撃されているなら、ますます怪しい……こちらに何かの意図があって攻撃してきてるはず!)
卯月「出口はどこだろう、とりあえず……こっち!」
――ダダッ
凛「……ウヅキは出口を探してる、って事は……逃げようとしてるかもしれない」
凛「私も追いかけたほうが……!」
卯月「やあっ! っと、これくらいなら私でも――」
――ドカァンッ!
卯月「うわあっ!」
亜子「な、なんやなんや何事や!?」
卯月「あ、アコさん!」
亜子「夜中にえらい音したと思たら――」
――ジャキッ
亜子「えっ?」
卯月「危ない!」
亜子「ちょっ、何で狙われて――」
――ギィン!
亜子「うわっと!」
凛「ウヅキ! 大丈夫!?」
卯月「リンちゃん! あ、ありがとう!」
亜子「撃ってきた、撃ってきましたで!?」
卯月「すごい過酷っ!」
凛「待ってウヅキ、今何考えてる?」
卯月「えっ? これが試験なのかなって……この建物から出る事が……」
亜子「いやいやいやこんなの怪我じゃ済みませんわ!」
卯月「じゃあこれは――」
凛「考察は後! とにかく逃げるよ!」
卯月「本当に、外部の襲撃……?!」
――タッタッタッ
凛「さっきの通路以外に出口は?」
亜子「さ、さぁ……アタシは施設の探索なんてしてませんし……」
凛「じゃあ闇雲に走るしかないかな」
卯月「出口よりもリンちゃん……行くところがあるよ!」
亜子「行くところて、もしかして非常事態かもしれない時に――」
卯月「外の襲撃なら、ここに何か目的があって来たんだよね?」
凛「……それって」
卯月「目的って……きっと賞品の――」
亜子「せ、せや! それが盗られたら元も子もあらへん!」
卯月「探さなきゃ!」
凛「……ウヅキ」
卯月「どうしたの?」
亜子「モタモタしてたら取り返しの付かん事になりますて!」
凛「私達がここに来た目的は剣じゃない、それでも……」
卯月「行く!」
凛「……だよね」
卯月「もちろん! でも……」
凛「でも?」
卯月「場所はどこだろう?」
凛「……うん、だと思った」
亜子(それより目的じゃないって、本当に行動の指針が何か分かりませんなぁ)
・
・・
・・・
沙紀「無理っす無理っす」
さくら「わたしの! 剣でぇ!」
未央「ストップっ! 危ないってば! 今は逃げるの!」
沙紀「銃火器に剣で挑むとか時代錯誤甚だしいっすよ」
未央「そうそう今は走る……って!」
――ガラララ……
さくら「あれれっ?」
沙紀「シャッター!」
――ガシャンッ!
さくら「急に降りてきましたぁ!」
未央「うっそだぁ」
沙紀「どうするっす? 前の道塞がれたみたいっすけど」
さくら「任せてくださぁい!」
――シャキンッ
さくら「やあああ!!」
未央「剣でシャッターを……!」
――ギンッ
さくら「あいたっ」
沙紀「えっ?」
未央「…………?」
さくら「えへへ、駄目でしたぁ」
未央「ちょっとおお!!」
沙紀「普通に弾かれたっすね」
未央「試験の時みたいにズバっとしてくれないの!?」
さくら「調子が悪い、かもしれません!」
沙紀「団体さん、追いついてきたみたいっすけど」
未央「うーん……分かった分かった! 二人共下がって!」
――キィィン
さくら「わっ、何ですかそれ?」
未央「とりゃああ!!」
――ドゴォンッ!!
さくら「わあっ」
沙紀(拳一発で……なるほど、これで試験を受けるつもりだったんすね? 実際は不戦勝だったみたいっすけど)
未央「開けた、行くよっ!」
沙紀「無茶苦茶っすね、怒られても知らないっすよ」
未央「これで怒られるなら文句言っちゃうよ! もうっ、なんでこんな都合悪くシャッターが降りてくるの……」
沙紀「そうっすね…………」
さくら「どうやったんですか? 凄いですっ!」
未央「ふっふっふ、私の武器は専売特許なんだよ」
さくら「わたしも使えますか?」
未央「また今度ね! 怪我しても大丈夫な時に」
沙紀「怪我するような代物なんすか」
未央「ちょっと色々あってね……さて、シャッターも開けたことだし!」
さくら「進みましょうっ! わたしが先導しまぁす!」
未央「だから危ないよー! 待って待って!」
――ザッ
凛「こんな多人数が徘徊してるなんて、どこから来たの……?」
亜子「隔離された場所で試験思てましたけど、案外分かりやすい場所なのかもしれませんわ」
卯月「ここに入ってきた時、何か『この場所だ!』って、すぐに分かるような物を見たりは?」
亜子「さぁ……少なくとも歩いてきた通路は、ごくありふれた建造物だったんで」
凛「手がかり無しだね」
卯月「何かヒントがあれば……」
亜子「言うてアタシも着いてきただけなんで」
卯月「イズミさんに?」
亜子「そうですそうです、アタシ問い詰めても何も出ません」
凛「じゃあ、イズミに会いに行った方が把握は楽かな、建物の」
亜子「そういや二人は大丈夫なんでしょーか……気になりますわ」
・
・・
・・・
泉「ここが、こうで……こうすれば」
――ガラララ
泉「…………」
泉「よし……これで――」
――ガンッ!
泉「えっ?!」
泉(何で、こっちに物音が……!)
――ガシャンッ!!
泉(近い!)
未央「だりゃーっ!」
泉「ミオ……さん!?」
さくら「イズミン! ここに居たんだねっ!」
沙紀「なるほどね、閉まってたシャッターが順番に開いたのは」
未央「ここで開けてくれたんだね!」
泉「まだ全部は処理できてないけどね」
沙紀「操作パネルとか探すものなんじゃないすかね普通。これ、完全に基盤いじったタイプっすよね」
泉「……操作させない為にね」
未央「なるほどー、ここで操作したら敵さんが再び閉めるのは難しいと」
泉「まぁ、そんな感じ……」
沙紀「それで――」
さくら「出口はどっちですかぁ?」
泉「……出口?」
未央「うん! とりあえず逃げようって話になって……」
泉「そう……でも、逃げるより先にやっておくべき事がある」
さくら「えっ?」
泉「聖剣の、保護」
未央「……やっぱり、行っちゃう?」
沙紀「そうっすね、パッと出の誰かさんに盗まれるのは気分がいいもんじゃないっす」
――タッタッタッ
さくら「こっちですねぇ!」
泉「さくら、大丈夫だとは思うけどあんまり先に行くと……」
沙紀「お、またシャッター閉まってるっすよ? 開け忘れっすか?」
未央「よし! またミオちゃんが一肌脱いじゃう?」
さくら「今度は思いっきりでぇす! はああっ!!」
未央「ちょっ! また弾かれ――」
――ザンッ!
沙紀「おっと?」
未央「あれ?」
泉「さくら、オッケーよ」
さくら「行きましょう!」
未央「わっ、シャッターが……真ん中で横に斬れた……」
沙紀「出来るなら最初からやって欲しかったっすね」
さくら「調子悪かったんですよぉ」
――ザッ
亜子「えーと、こっちですわ!」
卯月「他の人……誰も会わないね」
亜子「敵っぽい方々にはよーさん会いますわ、おかげで手に入ったものもありますけど」
凛「適当に倒した相手が地図を持っててよかったね」
卯月「みんなどこに行ったんだろう……私と、リンちゃんとアコちゃんだけ……」
凛「…………」
卯月「うーん、やっぱりコレって試験じゃないのかな……? 相手を倒して地図を手に入れて脱出みたいな」
凛「いや、そんなはずは……」
亜子「……考えてませんでしたわ。という事は向かってるのは出口?」
卯月「この地図の印がきっと出口です!」
凛「でも」
亜子「心配性ですなぁ、とにかく印に向かえば同じ事考えてる誰かに会いますって」
凛「いや、そうじゃなくて、前見て!」
沙紀「お、あっちも無事みたいっすね」
さくら「アコちゃん!」
泉「アコ……!?」
未央「二人共!」
亜子「お、やっぱり二人も同じ考えですわ、合流出来ました!」
卯月「ミオちゃん! よかった!」
さくら「これで七人集結ですねぇ!」
未央「てことは、もはや敵なし!」
沙紀「だといいっすけどねぇ、相手の目的もこの場所なら向こう側も集まってくるっすよ」
凛「ますますこの……よく分からない集団が増えてる」
泉「敵の集団ね」
亜子「この程度なら軽いもんですわ!」
さくら「行きますよぉ!」
――ダッ
亜子「その他大勢は大人しく、本命を出さへんと!」
さくら「痛い目見ますよぉ!!」
――ドォンッ!
卯月「わっ!」
沙紀「ひゅー、大暴れっすね。で、そっちは?」
泉「ヒーラーは出番なし、代わりに」
沙紀「おっ、雑兵が来てるっすよ」
――ドガッ!
泉「ここを通さないのが役目」
凛「通路の先が本命?」
未央「守ればいいんだね? 任せなさいっ!」
沙紀「ところで、いつまで守ればいいんすかね? こんなの相手にしてると際限ないっすよ」
泉「それは――」
――バァンッ!
聖來「何事!?」
桃華「これは……予期していないお客様が居るようですわ」
卯月「あの人は……!」
聖來「この状況……どうして? なぜこの状態に……」
泉「話は後、でもこれで」
凛「確定。これは紛れもなく、トラブルみたいだね……!」
桃華「大きな音がしたと思ったら……まったく、予定とは思う通りに進まないものですわ」
聖來「そんな悠長な事言ってる場合じゃ、ないかもね!」
未央「あっ! そっちに誰か向かったよ!」
亜子「何ですと? 運営の方お気をつけて!」
――ヒュンッ
凛「っ! 危ない!!」
聖來「えっ――」
卯月(攻撃が向かった……!)
桃華「……!?」
さくら「はあああ……」
――キュィィン
さくら「これ、借りまぁす!!」
卯月「わっ! これは……」
亜子「魔力やない、ただ……え、さくら!?」
未央「持ってるのは――」
泉「さくら! 思い切り、その場で振り下ろすだけでいい!」
さくら「分かりましたぁ! やあああ!!」
――ズバァンッ!!
沙紀「うわっと!」
未央「やば、この場所でも……!」
泉「秘宝に数えられている剣、なら効果は普通じゃないはず……さくらが振れば」
――ドガァンッ!
桃華「っ~……こ、これは……」
聖來「一直線に、纏めてなぎ払って……勢いだけで……?」
泉「……こんなに一網打尽とは思ってなかったかな」
さくら「凄いですっ! えへへ」
沙紀「派手に全滅っすね……そこの二人、無事っすか?」
聖來「だ、大丈夫……」
桃華「これほどなんて……流石ですわ」
聖來「それは奥に保管していたはず……」
沙紀「騒ぎで金庫が壊れてたとかじゃないっすかね」
泉「どうやって持ってきたかはわからないけど、あれはまさしく」
桃華「今回、誰かに授ける予定だった……『栄光の聖剣』」
卯月「まさか緊急だったから、強引に取ってきてくれたの?」
さくら「落ちてましたよぉ!」
亜子「あらら……」
聖來「落ちてたって、そんな事は」
桃華「それよりもセイラ、早く連絡を。この侵入者共を回収しますわ……」
凛「…………」
泉「一件落着、かな?」
さくら「えへへ」
未央「案外弱かったね」
泉「さくらが一掃してくれたおかげ」
卯月「ですね!」
桃華「簡単に扱える代物ではないはず……やはり、言われるだけはありまして」
桃華「今はこちらの要件で手一杯になりますわ、連絡は翌日まで待ってくださる?」
未央「連絡?」
凛「試験の続きの事かな」
桃華「それも含めて……もっと大きなお話もですわ」
泉「……分かった、それじゃあ一日だけ間を空ける。戻りましょう、部屋に」
亜子「部屋に戻る。もう一回こんな事態にならんよう祈っておきますわ」
卯月「本当です……ふあぁ、眠気が……」
桃華「それでは」
――タタッ
凛「……行っちゃった」
泉「戻ろう、私達も。ね?」
沙紀「お礼の一つくらい言って欲しかったっすねぇ、あの運営さん方」
凛「うん。そうだね……」
・
・・
・・・
桃華「まずは……こちらの不手際で、試験中にも関わらず外部の侵入を許した事を謝罪しますわ」
凛「……謝罪なら、残ってた人全部に言った方がいいんじゃないの?」
桃華「いえ、あの場に居なかった人達は既に確保された後」
亜子「へぇー、意外と強かったんやろか? それともアタシらが運が良かったのか」
桃華「仮にも試験を実施する場、あの程度の乱入者に対処できない、協力していただけなかった人達には連絡など後で構いませんこと」
卯月「そういう問題……かなぁ」
沙紀「ま、下手な襲撃だったんで、アタシらじゃなくても止められたとは思うっすけど」
聖來「下手な襲撃? でも大多数の試験者はこうして取り押さえられて――」
沙紀「それが変なんすよ、なんでわざわざ控え室を制圧しに来たのか理解できないんすよ」
泉「どういう意味?」
さくら「うーん、でも確かにわたし達が眠ってたままだと気付かなかったかも」
未央「そういえば。私だって完璧に寝てたけどサキさんの騒ぎで起きたから……」
桃華「襲撃側が常に完璧な相手とは限りませんわ、今回はたまたま温い襲撃者だったという事――」
沙紀「後は、お二人が普通に現場に来れたあたり、無用心っす」
聖來「どういう意味?」
沙紀「まぁまぁ、文句言うわけじゃないっす、それこそお粗末な襲撃だなって思っただけっす」
凛「私もそう思うかな」
卯月「リンちゃんも?」
沙紀「剣を奪いに来たのに、運営側が現場に駆けつけてるんすよ? 普通はそっちを抑えるっすよ」
泉「そうね……あの人数の割に、攻撃目標は直接盗む目的にのみ裂かれてた……」
亜子「あとはアタシ等にもですわ」
沙紀「お二方がスムーズに到着したのは、誰にも会わなかったからっすか?」
泉「いや、もしかして……そちらには護衛が向かっていた?」
卯月「でも護衛なんて誰も……」
桃華「……セイラ」
聖來「えっと……あんまり心配かけちゃ駄目かなって」
桃華「わたくしの護衛は万全でしてよ」
泉「……どうやら杞憂みたいね」
卯月「ちゃんと撃退してたんですね!」
沙紀「なるほど、セイラさんっすか護衛の方は。納得しましたよ」
聖來「そういう事……そういう事?」
桃華「さて納得していただいたところで本題ですわ」
沙紀「本題があるんすか?」
桃華「先ほど仰った、なぜあなた方にのみこうしてわたくしが会っているかも関係しますのよ」
さくら「理由があったんですねぇ」
沙紀「あるなら言ってくれてもよかったんすよ」
卯月「それって試験に関してですか?」
リン「また襲撃されないように場所を変えるとか、そんな話でしょ?」
亜子「ああ、そういう事でしたか、なるほどなぁ」
桃華「実際に場所が割れてしまった以上、続行は困難……そこで相談がありますわ」
泉「相談?」
桃華「セイラ、例の物を」
聖來「はいはい」
――ガタンッ
卯月「あれ? これって……」
さくら「昨日見ました!」
未央「見たどころじゃなくて、実際に使ってたよね?」
聖來「本物だよ、正真正銘」
凛「……聖剣、こんなところで私達に見せて、何が目的?」
桃華「まず初めに、この剣についてどこまであなた達はご存知?」
未央「そういえば詳しくは知らないかな……」
凛「名前と、持っている力とかは聞いた事があるよ」
亜子「そりゃあもうアタシは当然」
卯月「えーと……何だっけ……」
桃華「所有者に試練と成長を与える剣、そう呼ばれていますわ」
卯月「試練と成長? なんだか、強くなれそうな剣ですね」
桃華「勿論、扱える程の腕を持っているならば強くなりますわ。扱えたら……」
沙紀「扱えたら、っすか」
桃華「生半可な者が持つと、課される“試練”に押し潰される」
聖來「効果だけが有名になりすぎて、過程がうまく伝わってないんだよね」
桃華「栄光の聖剣と呼ばれる前は、手にした者に災いが訪れる剣とも言われていましたの」
未央「それってつまり代償があるじゃん!」
凛「秘宝なのに、デメリットがあるの?」
桃華「なまじ秘宝に数えられてしまったからこそ、この剣に夢を見すぎている人物が多いのですわ」
亜子「いい事ばかりやないと」
桃華「国が保管ではなく、管理としているのもその為でしてよ」
沙紀「その剣を今になって手放す理由が――」
泉「理由……きっと秘宝の力が必要なほど、大事が起きる前兆かしら。それを見越して、適性者を見つけておく」
聖來「扱える人を探す為に、この試験は開かれたんだよ」
卯月「でもトラブルが起きて中断されちゃった」
桃華「いいえ、もう十分に目的は達成されましたわ。実際に扱っても、問題がなかった人物がここに」
未央「えっ?」
桃華「この……『栄光の聖剣』を、あなたに授けたい」
さくら「わたし……ですかぁ?!」
沙紀「……ちょっと待つっすよ」
桃華「何か言いたい事がありまして?」
沙紀「あるっすけど、多分思ってる事とは違うっすよ」
聖來「……?」
沙紀「自分賑やかしっすから、誰の手に渡ろうが関係ないっす」
桃華「てっきり『自分の方が資格がある』と抗議してくると思ってましたの」
沙紀「どうせ合格も運営の匙加減なんで、文句言うつもりはないっす」
泉「じゃあ何を?」
沙紀「ただ理由だけ聞きたいっすね。どうして一回、しかも勝手に触れて振るった人物に、渡す気になったのか」
亜子「……貰えるなら御の字ですけど、アタシも少し気になりますわ」
凛「たった一度、手にしただけで適性が?」
桃華「一回だけ? 一回で充分ですわ」
桃華「実際に見たでしょう? あの剣に対する適正と技術、威力、実際に窮地を切り抜けた――」
沙紀「言う程窮地じゃなかったっすけど……」
聖來「まぁまぁ、欲しくて抗議してるわけじゃないならここは一旦、ね?」
沙紀「他の人に譲る気は?」
桃華「その“他の人”は、ここに居ない方々?」
桃華「あの襲撃、結果的に過激ではありましたが審査にはなりましたわ」
桃華「他は制圧され、動けたのはここに居る方々のみと聞いていまして?」
沙紀「……ま、あの程度に抑えられてちゃ無理っすよね。ホントに予選通過してきた人達なんすかねぇ」
桃華「という事で、許可を求めるとしたら……そちらの三人のみ」
卯月「えっと……私たちは……」
凛「別に……」
未央(これ以上、秘宝なんて呼ばれる程大きなものを抱えても危ないだけだよね?)
桃華「なら……わたしくし達は、サクラさん」
さくら「はいっ!」
桃華「この一件を通して……あなたに賭けてみたいですわ」
泉「……どう?」
桃華「受け取ってくださる?」
さくら「えっと……」
卯月「こんなに簡単で、いいのかな……?」
亜子「いやホンマですわ。……そりゃあ、労せずして手に入るなら受け取りたいですけど」
泉「労せず? これからが大変なのに」
桃華「その通りですわ。もちろん援助はしますが、全ての火の粉を事前に払う事は出来ませんの」
――スチャッ
さくら「これが……わたしに!」
沙紀「ま、一応聞いておくべきだとは思うんすよ」
桃華「ここに居ない方々にも?」
沙紀「あの騒動はイレギュラーっすね? 実際の試験じゃない」
聖來「それは、こっちの不手際だけど――」
沙紀「なら、そんな状況でいつの間にか誰かの手に秘宝渡して……納得いってくれないと思うんすよ」
桃華「では納得して貰うために、わたくし達は何をすればいいと思いまして?」
桃華「わたくし、運営側の一存で決めて他に問題が?」
沙紀「そのサクラちゃんが、認めさせればいいと思うんすよ」
泉「……!」
桃華「……その必要は――」
さくら「大丈夫でぇっす! 絶対、認めてくれますよぉ!」
泉「ちょっ……さくら?」
亜子「ええんか? このまま許可出たんやからスーッと持って行ってもかまへんねんで?」
凛「ただ入手するだけならそれでいいだろうね」
亜子「いやむしろ、この方がバレへんから下手に盛り上がらん方が……」
凛「でも、持ち主として認めてもらうんだったら、どうかな」
未央「やっちゃっていいんじゃない? バラつきは多いけど、凄い時は凄いんだから!」
桃華「その場を用意するのも手間でしてよ、準備も必要ですわ」
沙紀「いいんじゃないっすか? 本人乗り気なんで」
泉「それは私達が決める! チームなんだから、話をややこしくしないで!」
沙紀「チーム? それにしては随分と情報の共有が少なくないっすか? それについてどう思います?」
亜子「共有? ……ありましたっけそんなの」
泉「何もない、伝え忘れている事なんて何も」
沙紀「ふーん……そうっすか、なら何も言わないっすよ」
沙紀「じゃ、アタシはこれで」
卯月「えっ? 帰っちゃうんですか?」
沙紀「ゴネても何も得る物なさそうなんで」
泉「納得してなさそうだけど」
沙紀「アタシが特に訴えなくても、持ち主の特定と抗議なんて幾らでも出てくると思いますし」
桃華「…………」
沙紀(それにしても)
さくら「……?」
泉「まだ何か?」
亜子「認めさせる、なぁ……なかなか難しいですわ」
沙紀(……怪しいのが居るっすね)
沙紀(この試験、裏が深そうっす。“彼女”がやたらと怪しい動きしてましたからねぇ)
沙紀(途中でナオさんが居なくなったのも何かに気づいたからっすね、一歩遅れたっぽいっす)
沙紀「暴いてみるのも一興っすかねぇ」
・
・・
・・・
卯月「国家……サミスリルが、正式に秘宝を特定の人物に譲渡する事を決定……」
凛「おはよう。 ……回ってきた情報?」
卯月「記事をそのまま読んでるだけなんだけどね、えーっと」
卯月「『優れた三名の人物、その代表に授けた』」
卯月「『この秘宝を用いて現在の』……えっと……」
凛「要するに、世界をいい方向に変えて欲しいって事でしょ」
未央「なるほどなるほど、そしておはよう! 昨日は色々あったね」
凛「……そんなに簡単に変わるのかな」
未央「暗く考えちゃ駄目! 代償が大きくても秘宝、私達みたいに良いように使えば大丈夫!」
凛「私達は私達の為に使ってるけどね。さすがに一日二日では変わらないだろうけど」
卯月「少なくとも、国としての構えは変わったみたいだよ」
未央「え? もう効果が?」
卯月「違うよ、大きいけど小さい変化、国の名前! 新進気鋭、この三人を補助する形に……代表者の名前を取って」
卯月「旧都区国家『サクラ=サミスリル』……まずは形から、ってね?」
凛「……まぁ、それも変化かな」
――シュンッ
亜子「あの日から一日そこらしか経ってませんけど、待遇は変わりましたなー」
泉「そうね」
亜子「立派なお城! とまでは行きませんけど、国の内部に直接関わる地位に就けるなんてねー……」
さくら「えへへ~」
泉「呑気ね……」
亜子「気張りっぱなしやと疲れますで? 今のところは何も問題ありませんわ、楽ーに過ごしましょ」
泉「そのアコは何をしてるの?」
亜子「そらもう、本業ですわ」
泉「商人? 今更何を、生活は保証されているのに」
亜子「あの三人組には敵いませんけど、人脈金銭その他諸々は持ってるつもりです。そういう商売をね、ちょっとだけ」
亜子「アタシにとってこの商売は生活の為でもありますけど、半分趣味みたいなもんもありまして、簡単には止めません」
泉「そう。でも変な事はしないでね?」
亜子「怪しいものじゃありません、いたって普通な……ま、広告塔も打ち出せたしこれから忙しなりますわ」
泉「広告塔? ……もしかして」
亜子「名を売るに相応しい肩書きですやん、世の中に十個しか存在してないうちの一つが手元に!」
泉「呆れた、そんな事の為に……売らないよね?」
亜子「当たり前ですって、あくまで道具の一つですわ」
亜子「それに……そんな事て、そっちと大して変わりませんやん? 確か自分売り込むためでしたね?」
泉「覚えてたの? 確かに私も自分を売る為、実力を見せる一興として付き合ったけど」
亜子「当たり前ですわ、細工なしで記憶勝負したのは誰やった思てますの」
亜子「ま……アタシ等が緩く過ごせるのも、割と受け入れ態勢が整ってたからかもしれません」
泉「どういう事?」
亜子「サキさんの言うてた通り、このご時世上手く隠しても、秘宝がアタシ等にあんな形で渡ったのは周知の事実らしくて」
亜子「でも、真っ先に暴動も起きず……試験参加者も納得していたとか」
亜子「アタシが言うのもなんですけど、よう試験参加者が納得したなぁ思いますわ、あんな理屈で……」
泉「ウヅキさん達みたいに、あまり興味のなかった人が多いってこと?」
亜子「もしくは……何やろ? この国家がキッチリ説得したとか」
泉「だといいけどね」
泉「…………」
さくら「はっ! とおっ!」
亜子「ちょっ、さくら! あんま勢いよく振り回したら!」
泉「……大丈夫かな」
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次からようやく別の視点に話が飛びます。
いつも通りそれぞれ①~③、三つの中から一つを選んで次の話に進みます。
1・2・3のうち、多かったもので進行です、キャラ当てと思ってお気軽にどうぞ。
今回はCuCo、CoPa、PaCuの新規二人ずつ、どれがどれかは伏せていますが。
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Side Ep.43 待ち続ける者
外は明るいというのに、暗い雰囲気に包まれた廊下。 いや、廊下だけではない。
白く塗られた清潔な外観に似合わないほど建物全体が静かで、閉鎖的だった。
「…………」
コツコツと施設内を歩く一人の女性、彼女もまた外観と同じく白の異装を身に纏う。
そして同じように、ただ無関心に、歩いているだけだった。
通り過ぎる扉の中には人の姿も見える、しかし接触は行わない、部屋に入っても変化が訪れないから。
今日も唯一“何かが変わるかもしれない”部屋を訪れる。
広い、ただ中心に一つのベッドが置かれているだけのとても大きな部屋。
人が住むには開放的すぎるこの領域こそが唯一の異端、特別。
「すー……すー……」
寝床に横たわる少女は夢見心地で、彼女が近づいても目を覚ます気配がない。
少し緩んだ口元から、いったいどんな世界へ旅立っているのだろうか想像がつく。
「今、夢のどの辺りにいるでしょうか?」
想像がつくのは、経緯を知っている彼女だから分かる事であり、
初めて少女の寝顔を目撃した人は間違いなく、予想と異なる解答に驚くことだろう。
「安らかなのは、安心ですね。……安心、してはいけないんですけど」
変わらぬ変化にほっと一息、今日も異常は無かった。
彼女は現実、少女は夢で待ち続ける、勇敢な仲間の到達を。
Side Ep.44 待ち望まれている者
「護衛? どうして私の所にそのような依頼が?」
「こっちで手配が間に合わないところに、そういえば以前人脈豊富な人が居たなぁ……なーんて思い出してね」
かつて脇に携えた二人の使用人が居ない広々とした一室で、
唐突に発信されてきたミズキの通話を書類片手に応対する。
「今忙しい時期だと思うけど、他に頼める相手も居ないのよコトカちゃん」
「分かっているなら切りますわ」
「待って待って、前みたいに信頼できる人を集めてもらうだけでいいのよ」
以前コトカはナツキの一件で数人の護衛チームを呼び寄せた、
結果的に敗れはしたものの短期間で優れた人材を用意することは出来ている、
それを見て今回、ミズキはコトカへ連絡を行ったのだが
「生憎ですが」
「断るの? せっかく大口に恩を売る機会だったのに」
「……後からそういう事を言うあなたは嫌いですわ」
一度は切ってしまおうかと考えた通信を続ける、
話を聞くと権力者ではないが支持層が大きく、それなりの知名度がある人物の護衛だそうだ、
用意する人数も少量で済む、ミズキ曰く“大きな仕事”だった。
「ひとつ問題があるとすれば、見返りがほぼゼロって事。でも、そんな仕事だから評価は貰えるわ」
「護衛を雇う金も無い、でも人気はある……不思議な人ですわ」
この世界で知名度がある人物は大抵どこかの国の要人か、世間を賑わす悪党のどちらか、
後者の中にも千差万別だが、いずれも資金に困っていない人物ばかりのはず、
だが今回の案件はそれに当てはまらない、だからこそミズキはコトカに依頼した。
「それで、もう依頼は分かりましたわ。本題……その護衛対象は、何をなさっている方?」
護衛の依頼斡旋はコトカにとってプラスが大きい。
資金は減っても痛くはない、成功すれば恩を売る、失敗しても護衛の責任。
受けても悪くないと判断したコトカは肝心要、護衛対象について話題を切り込んだ。
「彼女は……アイドルよ」
Side Ep.45 待ちに待った者
~♪
廃屋に響く音色、観客は誰もいない。
それどころか、ある日を境に人が訪れることなど数える程になってしまった。
つい最近の来客といえば、彼女に会う事ではない理由で偶然訪れた人物が数人。
「その人さえ……私とは接触せずに、帰ってしまった」
誰にも気づかれること無く、響く音にも気づかれず。
分かりきっている事、この音色が届く人は、きっと少ない。
その少ない機会を、さらに自身が逃げる事で失う。
「……何の為に私はここで」
「何かがあるから、こんな場所で練習しているんでしょ?」
気付かなかった。
いつもより集中していたせいか、それともこんな真夜中にここを訪れる人物など居ないと思っていたせいか。
「外で音が聞こえたから、来ちゃった。 ねぇ、あなたはどうしてこんな場所に?」
驚いた事に彼女は『外を歩いていたら音色が聞こえた』、ただそれだけの理由で
この音色の根源にまでたどり着いたのだ。 明かりも少ない、不気味な通路の最奥という場所に。
「私は……」
音ひとつに、ここまで興味を示す人物、彼女にとっても望んだ来客かも知れない。
だが、常日頃の対応と同じ行動を選んでしまった。咄嗟の反射、あまりにも不意すぎた来訪に。
「あれ? ……居なくなっちゃった」
まるで最初から何も、誰も居なかったかのように、部屋には風の音のみが聞こえる。
確かに目の前で話していた人物は姿を消した。
「明日も来るね」
そんな、会話という会話も交わしていない、互の一方的なコミュニケーション、
これが二人の初対面。
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②③①①③③③で、③で進みます。
まだスレは残っていますが新しいパートなので次スレに移行させていただきます。
建て次第誘導の書き込みをします。
最近バトル系の作品が増えてきたので楽しい。
こっちで長い間登場してないキャラが居ないか、
「しばらく出てないぞ」とか。
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島村卯月「この世界で平和の為に冒険する」Part3
島村卯月「この世界で平和の為に冒険する」Part3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423232909/)
次スレです。 この板は依頼出してきます。
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