魔法使い「魔王を倒す!」 勇者「心配だ…」(563)


国王「よくぞ来た、勇者よ!そなたも気づいているだろうが、近年復活した魔王の力が、より活性化し、最早見過ごせぬ状況にある」

国王「先日、大聖堂の街の司祭が神託を受けた…勇者よ、大聖堂の街へ行け。そこに集う仲間と共に、魔王を討ち取って参れ!」

勇者「は!必ずや、王の期待に答えてごらんにいれましょう!」

魔法使い「僕も!僕も頑張りまーす!!」

勇者「何故君がここに!?」


※僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」
 僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」 - SSまとめ速報
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 の補完&続編です。


魔法使い「僕も神託で、お姉ちゃ……とと、今は勇者様だね。勇者様の仲間に選ばれたんだよー!嬉しいなあ、勇者様と一緒に旅!僕、頑張る!」

勇者「いやいや。君の魔法の才能の凄さは、君を赤ん坊の頃から知っているから、よくわかるが…だからといって、こんな年端もいかない子供に何をさせる気ですか!神よ!」

魔法使い「子供扱いはやめてよ!もう僕だって戦えるんだ!学校でだって、成績優秀って褒められたし……」

兵士「勇者殿、魔法使い殿。王の御前にございます。雑談はお控えください」

勇者「す、すみません」

魔法使い「ごめんなさーい……怒られちゃったね」

勇者「君のせいだぞ」

魔法使い「勇者様が頭でっかちだからだよ!」

兵士「勇者殿!魔法使い殿!」

国王「よい、よい。勇者の気持ちもわかるでな」

国王「勇者と魔法使いは、同じ孤児院で暮らし、また、勇者は魔法使いが赤ん坊の頃から面倒を見ていたとの話を聞いている」

国王「ならば、お前の持つ心は、姉弟というよりも、親心に近いものであろう。心配になるのもわかる、余も王である事と同時に、人の親であるからな」

勇者「失態をお見せして申し訳ありません、国王様…」

国王「よい。しかし、神託に間違いは無かろう。魔法使いよ、そなたもまた神に選ばれし者。それを念頭に置き、勇者の力となるのだぞ」

魔法使い「はい!ありがとうございます!」

兵士「此方は、国からの支給品です。旅の手助けにと…どうぞ、お持ちください」

勇者「おお…100ゴールド、薬草、それに新しい長剣。これは有り難い」

魔法使い「僕の法衣と杖もある!」

国王「では、行け!勇者よ!そなたの活躍、期待しておるぞ!」

~大聖堂の街~

勇者「いいかい、魔法使い。何度も言うが、君の才能は素晴らしくも、まだ子供なんだからね?私から離れてはいけないよ」

魔法使い「どうしてわかってくれないのかなあ、勇者様は…僕だって戦えるよ!魔物だって怖くないよ?この間だってねえ、学校の試験で……」

勇者「うん、うん…」ニコニコ


勇者「……と、ここか。他の仲間がいるという酒場は」

魔法使い「仲間だって事は、どうやってわかるの?顔とか知ってる?」

勇者「神託によると、ただ近づくだけで、神から受けた力によって共鳴が起きるらしい。それで騙りなどを防げる、と…その共鳴とやらが、どのようなものかはわからないが…とにかく、中へ入ろう」

魔法使い「僕、酒場って入るのはじめて」ドキドキ

勇者「お酒は飲んじゃダメだよ?」

~大聖堂の街・酒場~

勇者「………」キョロキョロ

魔法使い「共鳴ってのがなんなのかわからないけど、それっぽい人、いないね」

勇者「まだ来ていないのかもしれないな。待とうか。魔法使い、お腹はすいているか?」

魔法使い「あ、僕、ちゃんと朝ご飯食べてきた!」

勇者「そう、偉いね。じゃあ軽食でいいか。すみません、店主。なにか軽くつまめるものと、それからジュースをください」

店主「はいよ、チーズの旨いのがあるからな、それとサラミをクラッカーに乗せようか。酒はどうだい?」

勇者「いえ、待ち人が来たらすぐ出発するので、酒は結構です」

店主「次は夜にも来てくれよ?それが本番だからな、酒場の。はい、クラッカーとジュースだ」トン

魔法使い「わーい、いただきまーす!」

勇者「ちゃんと噛んで食べるんだよ、最低30回だ」

男a「ええ、本当かよ、それ!?」

男b「ああ…生きづらい世の中になったもんだ、全く!」

魔法使い「あそこの人達、ちょっとうるさいね。勇者様」

勇者「シーッ…そんな事を言ってはいけないよ」

男a「隣村は毒消し草栽培で有名だったのにな、魔物に潰されては、毒消し草が手に入り辛くなる」

男b「近くの山にも山賊が住み着いているしな。この間もキャラバンが襲われて酷い騒ぎだったなー」

男a「そんな調子じゃ、またやられかねないね」

男b「ああ、こう言っちゃなんだが、もう終わったな。隣村は」

勇者「………」

魔法使い「…なんか……嫌だね。あの人達も強そうなのに、面白半分に話してさ…」

勇者「行こう、魔法使い。隣村と、付近の山へ」ガタッ

魔法使い「…勇者様!」

魔法使い「ま、待って!勇者様!他の仲間はどうするの!?」

勇者「それもあるが……しかし、困っている人達も見過ごせないよ。一分一秒早く行って、救われるものがひとつでも増えるなら…」

勇者「…魔物と山賊退治を終えたところで合流すればいいんだ。この辺りは基本、一本道だし…大聖堂の街に引き返したっていいんだしな」

魔法使い「もー…勇者様って昔からそうだよね、喧嘩があるとすぐ仲裁に入ったりさー」

魔法使い「…とにかく、僕の初舞台だ……き、緊張してきたかも…オシッコ行っておくべきだったかな」ブルッ

勇者「今のうちに行っておきなさい。…いいかい、魔法使い。君は後方に下がっているんだよ、危ないから前へ出ないように」

魔法使い「は、はい!後ろから、魔法で勇者様を援護するからね!任せてよ!」

~隣村~

村人「魔物を退治してくださり、ありがとうございます、勇者様…!」

村人「お礼がしたいので、せめて一晩でも泊まっていかれませんか。狭い場所で申し訳ありませんが…」

勇者「いえ、私は見返りを求めてはいません、お気持ちだけで充分ですので。安全確保のため、これから魔物の巣があるという洞窟にも行ってきます」

村人「しかし…」

魔法使い「…勇者様、僕、もうオシッコ限界…」モジモジ

勇者「だから出掛ける前に済ましておけと言ったのに。…すみませんが、この子にトイレを貸して頂けませんか?それがお礼内容という事で」

村人「そ、それは一向に構いませんが」

魔法使い「この事は内緒にしてね、オジサン!格好悪いし……早く連れてってー!漏れちゃうよー!」

村人「ああ、はいはい、こっちだよ」

勇者「…他の仲間達はまだ待ってくれているかな、少し気掛かりだ…だが急がないと」

~南の洞窟~

魔物「キシャー!」

勇者「やあッ!!」ザシュッ

魔法使い「火球呪文!!」ボウッ

魔物「ギャアアァ…」

魔法使い「はあ、はあ……ゆ、勇者様、魔物がまた住み着かないよう、洞窟を浄化していくね…」

勇者「大丈夫か?魔法使い。浄化作業なら私もできるから、君は休んでいなさい」

魔法使い「大丈夫だよ!これくらい、なんともないよ!」

勇者「ダメだよ。魔力も尽きかけているだろう?ほら、水を飲んで薬草を噛むんだ。少し元気になれるだろうから」

魔法使い「…僕、薬草嫌い」

勇者「……苦いからか?ふふ、そういうのを子供舌と言って…」

魔法使い「嘘!嘘だから!薬草好きだよ!!大丈夫!」モグモグ!!

勇者「いい子だね。さてと、浄化作業だ…まずは聖水で場を清めて……」

魔法使い「………うえぇ、苦い…」モグ、モグ…

勇者「たあぁッ!!」ズバッ

魔物「ギャァァー!」

魔法使い「勇者様、強いなあ……それに比べて僕は、もうヘバっちゃうとか情けないや」

魔法使い「…僕も頑張らなきゃ…!勇者様みたいに強くなるんだ!」グッ

魔物「ギー!ギィー!!」

勇者「っ魔法使い!危ない!」

魔法使い「学校で図鑑を見て勉強したから!この魔物は視野が狭いから…急いで横に回れば、反応が遅れるんだ!」

魔法使い「杖を食らえ!!えいっ!」ボカッ!

魔物「ギャッ!?」

勇者「せやぁ!!」ザク!

魔物「ギギャアア!」

魔法使い「やった!やったー!ほらね、魔法を使わなくても、強いんだよ!僕は!」

勇者「私が居なかったらどうなっていたか……まあ、今回は良しとしよう…」

魔法使い「あ、宝箱だよ、勇者様っ!ふふーん、宝箱って開けるのワクワクするなあ~……わーい、金塊ゲットだぜー!」

勇者と魔法使いの性別はよ

姉弟ってあったし、勇者女で魔法使い男じゃね?

お、続編来るの早かったね
期待

来てくれたか、期待( ´∀`)

wktk

読んでくださりありがとうございます!

性別は、女勇者と男魔法使いです。わかりにくくて申し訳ない。この先、もう少しわかりやすく書けるよう努力します。

前回よりも投下ペースが落ちる日が多々出てくるかと思いますが、のんびりお付き合い頂けたら幸いです。

勇者「誰かの持ち物か?近くに山賊もいるというしな…魔物がいるのをいい事に、隠し場所にでもしているのか…」

魔法使い「売ったら高いよね?いくらになるかな~、お金増えたら、お菓子も買ってね、勇者様」

勇者「……持ち主がわからない以上、頂いても良いか…いや、しかし……」

魔法使い「何をブツブツ言っているのさ?…勇者様、出口だよ!長いトンネルって感じだったね~、基本的に一本道だし」

勇者「出口も清めたら、このまま先へ進もう。隣村に報告はしたいが、また気を使わせても良くない。魔物さえいなくなればいいのだから」

勇者「しかし、根元である魔王を倒さねば、結局は気休め程度だしな……ううん」

魔法使い「勇者様は何事にも真面目すぎだと思うなー。もうちょっと楽しんでいこうよ、ね?」

勇者「君はこの旅がなんの旅かわかっているのか?遊びじゃないんだぞ、大体この前も…」クドクド

魔法使い「あ、これ長くなるパターンだ…」

~山道~

魔法使い「はあ…はあ……」

勇者「大丈夫か?魔法使い。すまない、気が急いて君に無理をさせてしまったな」

勇者「ほら。おいで、おんぶしてあげる」

魔法使い「だ、大丈夫だよ!!おんぶなんて、恥ずかしいし!…でも、ちょっと休憩はしたい……はあ…」

勇者「ごめんな、これからはもっと気をつけるから。…やはり2人旅には限界があるな…」

勇者「偵察や見張りを分担できる相手…疲労や傷を癒せる者…仲間と合流を先にすべきか……」

?「ハーッハッハー!!お困りのようだね、お2人さん!!!」

勇者「!?」ビクッ

魔法使い「な、なに!?誰!??」

?「君達のアイドルは此処さあ!最も目立つ!高い木の上が私のステージ!!ハーッハッハッハー!!とうっ」バッ

ビターン!!!

勇者「!?!?」

魔法使い「なんか変な人が落ちてきた!」

魔法使い「だ…誰?この変なお兄さん。勇者様、知ってる?」

勇者「いや、流石に知らないよ!…あ、あの、もしもし?大丈夫ですか?」

?「ノオォォウ!!美しい私の美しい顔に傷が!!…しかし、傷ついた私もまた美しい…そうだろぉ!?」ドクドク

勇者「額が割れて血が吹き出してますが」

魔法使い「美しいというより恐いよ!!」

スーパースター「美しさが故に目立つ私の名前は!スーパースター!!ンン~ッみんなのアイドルにして救世主さあ!!気軽にスターと呼んでくれても構わないよ!私は心が広いからね、ハッハッハ!!」ドクドクドク

勇者「あの、いいからまず血をどうにかしないと、そんなに興奮していては」

スーパースター「」ピタッ

勇者「」ビク

スーパースター「っふう……」パタリ…

魔法使い「あ、貧血で倒れた」

勇者「本当になんなんだ、この人は一体!」

スーパースター「ハッハッハ、いやあ君達はラッキーだね、スーパースターの私を介抱する機会だなんて滅多にないんだぞぅ?」

魔法使い「隣村でもらった貴重な薬草なのに、スターさんがみんな使っちゃった…」

勇者「貴方、一体なんなのですか?あんな高い木の上から飛び降りるなんて、どうかしていますよ!危ない事はやめなさい!」

スーパースター「こんなにも美しい私が目立たない世の中なんて、間違っている!!私は輝かなければならないんだー!その為ならば例え火の中水の中さー!」

魔法使い「何がそんなにも貴方を追い詰めるの」

スーパースター「麗しきお嬢さん!!健気な少年くん!!美しい君達に私は感動した!なので君達を助けようじゃないかあ!」

勇者「どうしよう、この人が何を言っているのかさっぱりわからない」

スーパースター「さあ!私のダンスを見て元気を出したまえ!!ハーッハッハー!!そーれハッスルハッスル!」ブシュー

魔法使い「そんなに暴れたらまた血が!」

スーパースター「ハッハッハー!!ハッスル!ハッスル!!」ブシャアァ

勇者「血を吹き出しながらも踊っている!?」

スーパースター「美しい私の美しいダンスで元気にな~ぁれぇ、ハッスル!ハッスル!!」ドブッシャアア!!

勇者・魔法使い「「ひいいぃぃー!!?」」

スーパースター「」ピタッ

スーパースター「っふう」パタリ…

魔法使い「ああっやっぱり倒れた!」

勇者「キリが無いな……もう一度だけ手当てをして、彼が気絶している間に先へ進もう。なんだか関わってはいけない気がする…」

魔法使い「勇者様にそう思わせるなんて。この人ある意味すごいのかも」

スーパースター「」ドクドクドク

魔法使い「あの人、本当に大丈夫かなあ…?」

勇者「気にはなるけど…あの調子じゃ延々続くだろうし…山賊退治を終えたらまた様子を見に来ようか…でもな…」

魔法使い「勇者様…嫌だったら無理しなくていいと思うの」

勇者「ところで魔法使い、疲れはもう大丈夫なのかい?息切れもなくなっているようだが」

魔法使い「あ、あれ?そういえば。ビックリしすぎて疲れが飛んだのかなあ?なんだか体が軽いや」

勇者「ふむ…その点は彼に感謝すべきなのか、な……?」

魔法使い「あ!勇者様……あそこ、あの人達!あれが山賊のアジト?」

勇者「む。……どうやらそのようだ。洞窟を根城にしているのか…見張りは……2人、中に何人いるかが知りたいな…」

スーパースター「山賊は全部で8人さ、さっき3人程、外に出て麓へ降りる話をしていたからね、中にはあと3人いると見て間違いはないだろう」

勇者「そうか、そのくらいの人数なら、上手くやればここの壊滅は難しくないかな」

スーパースター「ああ、まずは中にいる奴らに気づかれないよう、見張りを叩くべきだね!」

勇者「うむ……」

勇者「………」

魔法使い「………」

勇者「何故貴方がここに!?」

スーパースター「ハッハッハ!!活躍し目立てる場所ならばどこだって私のステージさあー!!」

魔法使い「傷はもう大丈夫なの!?あんなに血をいっぱい出していたのに!」

スーパースター「美しい私が死んでは、世界が破滅してしまう!故に私は不死身なのさ!大丈夫、ツバつけたら治った」

魔法使い「そんなレベルの怪我じゃなかったでしょう!?」

スーパースター「私の体液は美しすぎるが故に、傷をも治してしまうのさ!」

勇者「意味がわかりません!…も、もういいから静かにしていてください、山賊達にバレてしまう!」

勇者「素早い行動が鍵となるな。魔法使い、私が一人を叩くと同時に、もう一人へ攻撃魔法を撃つんだ」

スーパースター「美しい私は君達を応援するべく、美しいダンスを…」

勇者「しなくていいです!ジッとしていてください!頼むから!!」

見張り1「ふわあぁ…暇だなぁ…」

見張り2「こんな山奥で、見張りなんて必要ないんじゃねーか?ったく、お頭はよう…」

勇者「いち…」 魔法使い「にの…」

勇者・魔法使い「さん!!」バッ

見張り1「うわ!?」

見張り2「な、なんだっ!?」

勇者「せいっ!!」ドスッ

見張り1「ぐわぁっ!」

魔法使い「氷礫魔法!!」バコッ

見張り2「ぎゃあっ!」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!その鮮やかにして華麗な動き!美しいぃ!!これならバレずに中へと入れるな!」

勇者「貴方が騒ぐからバレそうですけどね!?」

勇者「やあッ!!」バキィッ

山賊a「ぎゃああっ!」

スーパースターは 陽気な踊り を 踊っている

魔法使い「氷礫魔法!!」バシィッ

山賊b「痛ェェ…ッ!!」

スーパースターは 鏡に映る自分に 見惚れている

スーパースターは

勇者「なんなんですか、貴方はぁぁ!!」ブンッ!

山賊頭「一本背負いぃ!?」ブワッ

スーパースター「スーパースターです!!!」ドゴス!!

魔法使い「勇者様が投げたボスとスターさんがぶつかった!」

勇者「ぶつけたんだ!!おとなしくしていろと言ったじゃないか、何をやっているんですか、緊張感のない!」

スーパースター「ハッハッハ、しかしテンションが上がって攻撃力が増したろう?これで山賊達は粗方片付いた、さあ彼らが起きないうちに縛るんだ、美しくね…!」ボタボタ

魔法使い「鼻血いっぱい出てるよ?」

スーパースター「美しい私は鼻血を垂らしても美しく耽美なのさ…!」

魔法使い「よいしょっ、と。…勇者様!山賊達全員縛ったよ!」

勇者「お疲れ様。さて…流石にこの人数を引き連れるのも大変だし、他にもいるみたいだし…一旦大聖堂の街に戻るか。兵士に通報して、それから仲間と合流を…」

スーパースター「それなら私に任せたまえ!!近くに山間の村がある、腕の立つ衛兵がいると有名だからね、彼に通報した方が早いだろうさ!」

勇者「そ、そうですか。ならお任せしますよ…もう」

魔法使い「じゃあ僕達は街に引き返して…」

スーパースター「おっと!山を行ったり来たりは体力を使うよ?反対側の砂漠方面へ真っ直ぐ行くのがいいんじゃないかなあー!?」

勇者「あの、いちいち顔を近づけて喋らないでもらえませんか。私達は仲間と合流しないと…」

スーパースター「さあ!さあさあさあ!!先を急ぎたまえよ!夜も更けてしまうからね、ハーッハッハー!」グイグイ

勇者「ちょ!ちょっとー!!」

やっとこ追い付いた
続きに期待

今回盗賊と僧侶と賢者は出ないんかな?

合流したあともあるだろ

ありがとうございます!

はい、今回は合流後の話も書こうと思います。

~山の温泉~

勇者「く、勢いに飲まれてしまった……私も修行が足りないな…」

魔法使い「勇者様の名前をたっぷり売ってくる!なんて言っていたけど、大丈夫かなあ?」

勇者「いいよ、もう。なんだか、とにかく関わりたくない。あの人は苦手だ…」

魔法使い「あ、勇者様!見て、すごい湯気だよ!僕、本で読んだ事がある。これって温泉っていうんだよね?自然界のお風呂!」

勇者「すっかり夜も更けたしな…今日はここで休もう。野外でも風呂に入れるのは、とても有り難いな…」

魔法使い「ふわあ~、やっと休めるんだ……一気に来たから、もうクタクタだよ…僕も早くお風呂入りたいや」

勇者「よし、まずは薪を拾って火を焚いておこう。魔法使い、あとひとふんばり頼めるかい?それから温泉だ」

魔法使い「はい!火種は任せてねっ!」


勇者「ふう…疲れが癒えるな、この解放感も最高だ」チャポン

魔法使い「わあー温泉って広いなあ、泳いじゃえ!」バシャバシャ

勇者「魔法使い、泳ぐばかりでなく、肩まで浸かりなさい。100数えて温まらないと、風呂の意味がないよ」

魔法使い「もう、いちいちうるさいなあ勇者様はー」

勇者「拳骨が欲しいのかな?……ん?ちょっと、こっちに来なさい」

魔法使い「え、え、やだよ、ぶたれたくないもん!」

勇者「ぶたないから!……これは…一体どうしたんだ?この、背中にある傷のようなものは」

魔法使い「え?…僕からは見えないけど…知らないよ、魔物にも背中はやられなかったけどな…」

勇者「…痣…いや、古傷のよう…薄くはあるが、こんなの、ついこの間までなかったのに」

魔法使い「別に痛くもないし、どっかでぶつけたとかじゃない?それよりもういいでしょ?流石に恥ずかしいよ…」

勇者「恥ずかしい?何がだ、背中を見るくらい普通だろう」

魔法使い「僕も勇者も裸じゃない!それで恥ずかしがらない方がおかしいよー!」

勇者「そんな事を気にして、別の温泉に入ったのか?風呂なんて、最近まで一緒に入っていたのに、今更だ」

魔法使い「それは僕が子供の時の話でしょう!?も、もういいよー!あっちの温泉に戻るからね!僕!」

勇者「あっ、こら!そんなに慌てたら危ないぞ!…まったく…今だって子供のくせに」

魔法使い「勇者様のバカ!いつまでも僕を子供扱いしないでよ!僕、男なんだよ!?女の勇者様と一緒のお風呂にはもう入らないから!」

魔法使い「もう、もう!絶対この旅で強くなって、勇者様をギャフンと言わせてやるから!」

勇者「ギャフン」

魔法使い「心が全然こもってないー!やりなおし!!」バシャバシャ

勇者「こら、湯をかけるな。あはははは…」

チュン チュン

魔法使い「ふわあぁ…おはよう、勇者様…むにゃむにゃ…」

勇者「おはよう、魔法使い。さ、朝御飯を食べよう、そこの川で顔を洗っておいで」

魔法使い「はあい…うーん……まだ眠いや…」

勇者「昨日は1日で頑張りすぎたからな。無理もない、私も少し疲れてしまったよ。…大半は気疲れだが…」

魔法使い「朝御飯はなんだろなー、…あ、美味しそう!!木の実と…これは山菜?へへー、勇者様の料理、僕大好きだよ!」

勇者「ふふ、ありがとう。よく噛んで食べるんだよ。…さて…あの変態がいない今がチャンスか、やはりここで引き返して、仲間と合流を…」

魔法使い「…?勇者様、あれ、なんだろう?あそこ、なんかくねくね動いているの……」

勇者「んっ?………!!!(あれは、昨日の変態!?踊っている…こ、こっちに来る!?)」

勇者「わ、わからない方がいい…!早くご飯を食べて、すぐ出発しよう!下山するんだ!」

~砂漠の入口~

馬屋「はいはい、いらっしゃい!砂漠を渡るには砂馬が一番!歩いて行ったら即ミイラ化だよ、悪いことは言わない、砂馬に乗って行きな!」

勇者「結局、仲間と合流できないまま、ここまで来てしまったな…」

魔法使い「これからどうしようね?勇者様。引き返す?」

勇者「引き返して、もしまたあの変態に会ったらと思うと…!」ブルブル

魔法使い「あああ…勇者様のトラウマが加速している…」

馬屋「勇者?あんたら、あの勇者様御一行なのかい?」

勇者「あ、はい。一応、そうですが…」

馬屋「…へえ!こりゃいいや、勇者様も利用したなんて言ったら、良い宣伝になるなあ!さあさあ勇者様!どうぞ、うちの砂馬をご利用ください!砂漠の王国まで安心安全にお届け致しますよ!」

勇者「えっ、いや、私達はまだ……」

馬屋「勇者様、お言葉ですが、今躊躇うのはよくないかと。近々砂漠の国が戦争を起こすという噂が流れているんでね、今のうちに砂漠を渡らないと、かなりの期間、ここらで立ち往生する羽目になりますよ」

勇者「…戦争?」

馬屋「砂漠の国は、唯一のオアシスを守る街に隣接した王国なんですがね。そのオアシスも、年々水が減り始めているんですよ」

馬屋「砂漠の中で孤立する国にとって、死活問題だ…だから他所の国へ戦争を仕掛けて、領土拡大を狙っているみたいで」

魔法使い「なんだか…嫌な話だね……」

馬屋「戦争の噂が本当なら、砂漠の国は近々封鎖されちまう。そこで休めないとなると、砂漠を真っ直ぐ横断するのは、かなり厳しいと思いますよ?砂漠は広いから」

馬屋「特に、そんな坊やを連れて歩くなら尚更だ。だから今のうちに砂漠へ入って、先へ進む事をおすすめします」

勇者「ううむ…どうしたものかな。仲間と合流したいんだが…先に進めなくなるのも困るし…戦争の話も気になる」

魔法使い「引き返しても、こう開けた場所じゃあ出会うのは難しいよね?伝言とか残して先に進む…?」

勇者「もしかして、仲間がまだ大聖堂の街にいたらどうする?ああ…勇んで飛び出さなければ良かったな…」

魔法使い「今更だよ、勇者様……勇者様は考えなしに突っ走る性格でしょう?らしくないよ!いっそ悩むくらいなら、先へ進も?」

勇者「魔法使い…励ましてくれて、ありが…ん?励ましてもらったんだよな?」

魔法使い「すみません、おじさん。お馬を貸してください。それと、もし此処に僕達を探す人が来たら、砂漠の国へ行ったと伝えてもらえませんか?」

馬屋「わかった、覚えておくよ。砂馬は2匹用意すればいいかな?値段は少しサービスするよ!勇者様相手だしね」

勇者「魔法使い、君は馬に乗れないだろう?」

魔法使い「うん。何回か、学校で乗馬授業はあったけど…その時は先生が一緒だったし、ちょっと自信ない…」

馬屋「砂馬は普通の馬よりもおとなしく優しいけど、坊やが一人で乗るのは少し危ないかもしれないね」

勇者「いいよ。私と一緒に乗ろう。もう一匹には荷物を乗せるか、そうすれば身軽になるから、もし魔物に会っても、すぐ対応できる」

魔法使い「ごめんなさい、勇者様」

勇者「馬の代金はこれで良いだろうか。換金する暇がなかったんだ…」

馬屋「わ、随分立派な金塊だねえ。充分すぎるくらいだ、お釣りが必要になるよ、これは。ちょっと待ってて、用意するから」

勇者「もし良かったら、水や食糧も分けて頂けませんか?」

馬屋「はいはい!お任せあれ!砂漠の国まで快適に着けるよう、たっぷり用意するからね!」

~砂漠~

魔法使い「うはあぁ……暑いー…!くらくらしちゃう…」

勇者「ちゃんとフードを被りなさい、こういうのは熱気以上に、日射しが怖いんだから」

魔法使い「うー、蒸れるよ~、お風呂入りたいよ~、水浴びがしたいよ~」

勇者「馬を借りて良かったな…ここをずっと歩くとなったら、いくら体力があっても続かないぞ…、……!」

砂馬「ヒヒィィーン!!」

魔物「ギシャアー!!」ドバァッ

勇者「魔物だ!砂の中に潜んでいたのか!」ジャキ

魔法使い「こいつ、魔物図鑑で見た!サソリが魔王の影響で魔物になったやつだ!」

勇者「弱点はあるのか!?見るからに装甲が硬い、剣が通りそうにないぞ」

魔法使い「尻尾みたいな部分だよ、勇者様!そこの関節が比較的柔らかいって、だからきっと剣でも斬れるよ!」

魔法使い「氷礫魔法!!」バシィ! バシッ!

魔物「ギシャアッ!?」

魔法使い「へへーんだ!ずっと乾いていたところに、いきなり冷たいのは凍みるでしょ!?」

勇者「距離を詰めるぞ!魔法使い、しっかり掴まってて!はあァッ!!」バシィッ

砂馬「ヒヒィィンン!!」ドドッ ドドッ

勇者「成程、回り込んで見れば関節部に少し肉が露出している…」

魔法使い「勇者様!気をつけて、そいつ、風の魔法も使うからね!」

魔物「シシャアアァ!!」スパパパッ!

勇者「ぐっ…!なに、このくらい……そよ風だ!!」

勇者「たあああぁッ!!」ズバァッ!!

魔物「ギィャヤアアア!!」

魔法使い「尻尾が落ちたところに……もう一回!氷礫魔法!!」バキィン!

魔物「ギャアアアー!!」

勇者「よし!スムーズに倒せた…ありがとう、魔法使い。君のおかげだ!」

魔法使い「へへー、褒められちゃった!」

勇者「しかし、君の才能は本当に素晴らしいな。いつも驚かされるよ、魔法だけじゃない、知識の量。ご両親からの賜物だね…」

魔法使い「…お父さんとお母さん…お父さんは魔法部隊に所属していたんだよね」

勇者「ああ。博識で、とても強いお方だった。お母様だって、私達の孤児院の聖母様と慕われていたよ?私は捨て子だったから…君が本当に羨ましい。亡き父母の事を知っているのが」

魔法使い「…勇者様にだって、いるでしょ?家族が。僕を忘れないでよね!」

勇者「忘れてなどないさ。ふふ、ありがとう。魔法使い」

魔法使い「僕、もっともっと勉強して、お父さんみたいに魔法部隊に入りたいな。隣の大地にある、魔法の街にも行ってみたい!魔法研究がすごく盛んだっていうし」

魔法使い「その為には早く魔王を倒さなきゃね!いつでも好きな時に行き来できるように」

勇者「ああ!頑張ろうな!」

~砂漠の国~

門番1「ここから先はオアシスの街、砂漠の国だ」

門番2「旅人よ、よくぞ参られた。道中大変であったろう、この街で渇きを潤し、疲れを癒すが良い」

勇者「ありがとうございます。…あの、この国が戦争を考えているという話は…本当なのですか?」

門番1「…うむ…民の不安を煽る故に、あまり口に出して欲しくはないが…致し方なし」

門番2「オアシスが干上がるかもしれぬ恐怖。旅人のお前達には、想像が難しいかもしれんが…我が王も大変悩んでおられる」

魔法使い「オアシスを守れたら、戦争は起きないのかな?どこからか水を汲んでくるとか…は、難しいのかな…」

門番1「しかし、あくまでまだ噂の段階」

門番2「我が王は何よりも民の安全を第一に置く、心優しきお方。そのお心は旅人のお前達にも等しく与えられよう」

門番1「さあ、我が国へと入られよ。我々はお前達を歓迎しよう」

門番2「この砂馬達は我らが癒し、馬屋に返しておく。砂漠から出たければ、我が国の馬屋を尋ねると良い」

魔法使い「ありがとうございます!お馬さんも、ありがとうね!お疲れ様!」

砂馬「ブルルル……」

勇者「砂漠の熱気でだいぶ疲労もしたしな…宿を取って休むか。防具なども新調したいところだが」

魔法使い「魔物から獲た皮や殼を売ったら、お金になるかなあ?」

・・・

門番1「む、最近は我が国に訪れる者が多いな」

門番2「よくぞ参られた、旅人よ。……お前、まさかこの広い砂漠を歩いて来たのか?そんな軽装で!?」

仮面男「………」

門番1「なんという剛の者か…信じられん…」

門番2「なんにせよ、早く街へ入られよ。我々は旅人を拒まぬ、道中の疲れを癒、せ……!?」

―― キイイィーン…

仮面男「誰彼構わず拒まずじゃあ、少し困るんだ……」キイィィン

門番1「あっ、あっ……?」

仮面男「これから傷を負った青年と、彼を支える少女が来る。いいか、そいつらだけは、決してこの国に入れるんじゃない。何がなんでも追い返せ、嘘を吐いてでもな」キイィィン

門番2「うああ、あ…あ……?」

仮面男「よしよし、イイコだ…さあ……門を閉じろ!!堅固にして!強固である!その門を!!」

門番1&2「はい……畏まりました…」

ゴゴォォンン…

仮面男「ふふふ……次は王だな…」

―――

僧侶「どうして!どうして入れてくれないんですかあ…!お願い、助けて…!盗賊さんが怪我をしているの、お願いします、助けてください…!」

盗賊「…いい。クソアマ……もういい、行こう…時間の無駄だ…」

僧侶「でも…!でも!盗賊さんんっ…!!」

―――

~砂漠の国・オアシスの街~

勇者「いい宿屋が見つかって良かったな。ベッドがすごく久し振りに感じる」

魔法使い「砂漠で孤立している、なんて言うから、正直寂れたところを想像していたけど…すごく賑やかな街だね!人もお店もいっぱいだ」

勇者「キャラバンも見かけたな。行商も積極的に受け入れているんだろう。孤立しているとはいえ、ここは広い砂漠の唯一の休憩地点…戦争など起こさなくとも、やっていける気もするが…」

魔法使い「王様が考え直してくれるといいね…」

勇者「ああ…叶う事なら、一度謁見したくもあるな…王のお考えを直に聞いてみたい」

勇者「ともあれ、体を休めよう。ここに滞在している間、仲間と合流出来ればいいが…。魔法使い、お風呂へ入ろうか」

魔法使い「お風呂は別々に入るからね!!」

勇者「む…もしやこれは反抗期か…?なんだか寂しい」

~大衆酒場~

魔法使い「ここのご飯、すごく美味しいよね!」

勇者「うん、いい味を出している。レシピが知りたいな、私も作ってみたい」

魔法使い「勇者様、料理好きだもんね。…ところでそんなにお酒飲んで大丈夫?もう一本空になっちゃうじゃん」

勇者「私にとっては水みたいなものだから。だが魔法使い、君は飲んじゃいけないからね?お酒は大きくなってからだ」

魔法使い「けち!」

勇者「ふふん、大人の特権だからね、お酒は」

ガシャーン!!

荒くれa「ふざけんなよ、てめえ!」

荒くれb「俺達の服に酒をぶっかけやがって!」

荒くれc「その態度も気に食わねェ、ぶっ飛ばしてやる!!」

魔法使い「な、なに?喧嘩?」

勇者「やれやれ。いくらなんでも一人を数人で囲むのは見過ごせないな。仲裁してくるか……」

魔法使い「…!ちょっと!勇者様、あれ、あの囲まれている人って!」

勇者「え?………、………な!?!?」

スーパースター「ハーッハッハッハー!だからこうして美しく謝っているじゃないか、許してくれたまえよ!ちょっとステップを間違えてしまったのさ、美しい私も時にはミスを犯すからね、美しく…!」

勇者「な!なんであの変態がここに!?」

スーパースター「おお!そこに居るのは麗しのお嬢さんに健気な少年くんじゃあないか!!」

魔法使い「なんで!?なんでここにいるの!?山でお別れしたのに!」

スーパースター「目立てるステージがあれば私はどこにだって参上するのさ!!うん、すっごい頑張って走ったら追いついた」

魔法使い「そんなレベルの距離じゃないでしょう!?あの砂漠も走ってきたの!?」

スーパースター「ハッハッハ!まさか!いくら美しい私でもそれは!私の華麗な乗馬技術が見たいのなら、いつでも言ってくれたまえよ!」

荒くれa「なんだてめえらは!こいつの仲間か!?」

勇者「いえ、まったく無関係の人です」

魔法使い「勇者様がついに見捨てた!!」

スーパースター「ハッハッハ!君達の前では例え美しくも失態は見せられないね!いいだろう、降りかかる火の粉を払ってみせようじゃあないかー!」

荒くれb「降りかかるっつーか、てめえが俺らに酒をぶっかけたんだろうが!!」

スーパースター「そう!華麗にして美しく足がもつれてしまったのだよ!!しかし謝っても許してくれないならば、黙らせるしかないだろう!?」バッ!!

勇者「ぎ、ぎゃああああ!!?」

荒くれc「なんなんだよてめえ!いきなり服を脱ぎやがって!」

スーパースター「喜べ!私の美しい、もっこりブーメランパンツ姿など、美しくない君達が見る機会は一生無かったはずなのだから!そして封印されし秘奥義が発動!!その名は…

―― "ラン・バーダ"!!」カッ!!!

チャーッチャチャララーチャラララチャララララー♪

スーパースター「ハーッハッハッハッハ!!」

荒くれa「ぎゃああああああああああ!?」

チャーッチャチャララーチャラララチャララララー♪

スーパースター「それそれそれぇ~!!」

荒くれb「やっやめろ!!股間を擦り付けんな!触るなあああ!!」

チャンチャララーチャララーラララー♪
チャラチャラチャラチャラチャラララー♪

スーパースター「はい!はい!!はいぃぃぃぃ!!」

荒くれc「んほおおおおおお!!?」

ジャンッ!!!


荒くれ達「」ピクピク…

スーパースター「ふう……今日もまた美しい私のファンが増えてしまった…」

魔法使い「あ、あわわ……踊りだけで倒しちゃった…」ガクガク

勇者「へ!!変態だー!!!」

兵士a「乱闘が起きたと通報があったのはここか!?」バターン

兵士b「荒くれ共と…そして変態半裸男!確保!」

スーパースター「おおう?異議ありだよ兵士殿…見たまえ!今の私は美しいパンツ一丁姿だ!ならば半裸ではなかろう、3分の2裸じゃないかね!?」

兵士b「わけのわからない事を言うな!さあ来い!」

兵士c「お前達もだ!」グイ

魔法使い「え!?僕達は何もしていません!」

兵士c「あの変態と親しげに話していたとの証言があるんだ!来い!騒ぎを起こした罪で、牢屋に閉じ込めてやる!」

勇者「え、冤罪だああああああ!!」

魔法使い「どうしよう、勇者様ぁぁー!!」

スーパースター「美しい私を独占したい気持ちを抱く事こそが罪ではないかね?私はスーパースター!みんなのアイドル、スーパースターだよ!ハーッハッハー!!」

続編か

ほう、仮面男か

ほう、ど変態か

なぜかキタキタおやじを思い出した。

支援

>>54
ああそれに近いなwwww

>>54
ソレだわwww

読んでくださりありがとうございます。

カセギゴールドの弱点は今も頭に残ってるww

~砂漠の国・牢屋~

魔法使い「牢屋に閉じ込められてから何日経ったのかなあ…兵士さん、僕達の話、全然聞いてくれないし…」

スーパースター「私の取り調べの時に、美しくアピールしておいたからね!君達は美しい私の美しい親友であると!」

勇者「親友っていつのまに、というか何をしてくれてんですか!貴方は!!私達は無実だー!」

兵士「うるさいぞ!静かにしないか!」

勇者「ううう…なんて事だ…牢屋に入れられるなんて、情けないにも程がある……国王様や仲間達に顔向けできないよ」

スーパースター「おおう…嘆く乙女というのも実に美しいねえ。その不安に満ちた表情!憂いを帯びた瞳!ひとつの芸術のようじゃないかー!!」

勇者「貴方のせいですよ!?だから何故そう呑気にしていられるんですか!理解できません!」

兵士「うるさいと言っているだろう!!」ダンッ

スーパースター「ハッハッハ、うるさいだなんて芸術のわからない兵士殿だなあ…乙女の悲痛な叫び!実に甘美な旋律だというのにねえ…」

勇者「許されるなら私が貴方に罰を下してやりたいですよ。もうやだこの人」

魔法使い「………」モソモソ

勇者「……?どうした?魔法使い。さっきから落ち着きがないけど」

魔法使い「うーん…なんか肩の後ろ辺りがムズムズするような感じがして…」

スーパースター「虫にでも食われたのではないかね?ここはとても不潔だからねぇ、虫などいくらも湧くだろう……」

スーパースター「だが!美しい私なら!例え暗く不衛生な牢屋でも、美しく輝けるのさー!!みんなを照らす太陽、その名はスーパースター!ハーッハッハッハー!!」

兵士「うるさい!!」ゴツ!

スーパースター「ぐはあ!」

勇者「よし!」グッ

兵士「…何故、仲間を殴られて満足気な顔をするんだ」

勇者「この変態が仲間かどうかはさておき、私達はいつになったら釈放となるのですか。そもそも私達は何もやっていません、巻き込まれただけです」

スーパースター「美しい私も美しいダンスを披露しただけなのだが?」

勇者「貴方は黙っていてください、できれば永久に」

兵士「……貴様らの釈放はずっと先になる、それだけは言っておこう。いいか、静かにしていろよ。騒ぐんじゃないぞ」

勇者「待って!待ってください!!私の話を聞いてください!」

魔法使い「兵士さん、行っちゃったね…」

勇者「くそ…!こんな事している場合じゃないのに!どうにかして無実だとわかってもらわないと…」

荒くれ「……あの兵士の言う事はマジだろうぜ?あんたらは暫く出られないだろうよ」

スーパースター「その声は…美しい私に絡んで来た、美しくない荒くれくんじゃあないか。隣の牢屋にいるのかね?」

荒くれ「兵士達の雑談を聞いちまったんだよな。あんたら、あの勇者御一行なんだろ?」

荒くれ「この国は近々戦争を起こすって噂があるんだが…勇者となればかなりの戦力だからな、その為に拘束しているんだろうって話だぜ」

魔法使い「そんな!勇者様を物か何かみたいに言わないでよ!」

荒くれ「落ち着けよ、俺が言ったわけじゃねぇんだから」

勇者「………」

スーパースター「ハッハッハ、しかしあり得ない話でもないねぇ。お嬢さん、君の強さは私もよく知っている。戦場に立てばまさに一騎当千。人間で今の君に勝てる相手など、隣の大地にある王国の聖騎士団くらいだろうさ!」

魔法使い「人間同士で争うなんて…勇者様を道具にするなんて、そんなのおかしいよ!」

勇者「…真意はどうあれ、ここに閉じ込められていてはどうする事もできないな…王と謁見叶えば良いのだが…」

スーパースター「それも難しいだろうね、今や私達は美しくさえずるだけの籠の鳥だ……ここから脱出するか、戦争が始まるかしないと、王との謁見は叶わないと思うよ」

勇者「脱出って…牢屋から勝手に出たら、それこそ刑期が伸びてしまうんじゃないですか?現実味のない…この頑丈な牢屋の錠前を見てから言ってくださいよ、開けられるわけがない」

スーパースター「ハッハッハ!私に任せたまえよ!こういう時は床を掘って抜け穴を作り、そこから脱出すればいいのさー!この瓦礫を使って、さあいくぞ!」ガッガッガッ

魔法使い「何十年かかるの、それ!出る頃にはおじいちゃんになっちゃうよ」

勇者「気が済むまでやらせておけ。……それよりも、魔法使い。もう肩を弄るのはやめなさい、首の辺りまで赤くなっているよ?かなり掻いたのか」

魔法使い「だって、ムズムズして仕方なくて…」

荒くれ「…脱獄したいってんなら、手伝ってやらねー事もないぜ?」

勇者「………え?」

荒くれ「お前らがいる牢屋にはな、秘密の抜け穴があるんだよ。一番端の、少し浮いている床板を調べてみろ」

魔法使い「………、………!ゆ、勇者様…!これ、誰かが掘った抜け穴みたい…」

勇者「なんと…!しかし、何故貴方がこの穴の存在を?」

荒くれ「俺は何度もここにぶち込まれてっからな。だが、何度だろうとその牢屋には当たらなかった…運命ってやつだろうよ」

荒くれ「その穴は昔そこに入っていた奴が掘ったって話だ、兵士らは知らない秘密の抜け穴よ。意外とザル警備なんだよな、ここ。それを通れば、牢屋の外に出られるぜ…」

魔法使い「勇者様、ここから出よう!僕、勇者様が戦争に駆り出されるなんて嫌だよ。ここから逃げようよ!」

勇者「し、しかし……脱獄だなんて、そんな事は…」

スーパースター「何を迷う必要がある?このまま無駄に時を過ごすより、断然いいじゃないか。ここは観客が少ないから、私も早く出ていきたいよ!」

勇者「こんな状況下にあるのは、そもそも貴方が原因だとわかっているんですか?」

魔法使い「おじさん、抜け穴の事を教えてくれてありがとうございます!」

荒くれ「なあに、構わねーよ。……俺はまた、あのダンスをやってもらえれば、それで…」ポッ

スーパースター「ハッハッハ、美しい私は美しく悪寒を抱く事にしようじゃないか!ちょっともうマジで早く逃げたい」

勇者「あんな踊りをしておいて、今更ですよ」

スーパースター「美しくないものに興味はないのでね、私は!」

勇者「私はやっぱり脱獄なんて反対だ。元々無い罪を重ねるわけにはいかない。きっと、訴え続けていればわかってもらえるよ」

魔法使い「わかってもらえないから、何日もここにいるんでしょ!?」

勇者「う……だが、しかし…」

魔法使い「こうしている間にも、他の仲間がどこかに行っちゃうかもしれないじゃない。魔王だって何をしてくるかわからないんだよ」

魔法使い「それに僕は、やっぱり嫌だよ!勇者様が戦争に連れていかれるかもしれないって思ったら、嫌だよ!ねえ、逃げよう?逃げようよ!勇者様!」

勇者「うう…」

スーパースター「ハッハッハ!まあまあ、まずは逃げてから先の事を考えようじゃないか!逃げてから、冤罪である事を訴え、脱獄の罪を償う何かを探せばいい!」

勇者「だからそもそも事の発端は貴方で……」

荒くれ「穴を抜けた先は兵士達の休憩所傍だ、気をつけていけよ、兄貴…」ポッ

スーパースター「ハーッハッハッハー!貞操の危機を感じるよ!ひしひしとね!さあ速やかに逃げよう!お願いだから!!」グイグイ

勇者「ちょっと待って、私は脱獄に賛成していない!!ちょっとー!」

勇者「あああ…最近流されっぱなしだ、こんなの私のキャラじゃない…」

魔法使い「狭いねー、この抜け穴…スターさん、まだ外につかないの?」

スーパースター「いや、出口が見えてきたよ。…あの美しくない荒くれくんが言った通りだな、兵士達がぞろぞろいる。息を潜めて目を盗み、華麗に脱出しなければ」

勇者「見回りの兵士が後ろを向いた瞬間を狙って動こう…物音を立てないよう、素早く向こうの物影に隠れるんだ」

スーパースター「ハッハッハ、あれだけ文句を言っていたわりには、随分乗り気じゃないか」

勇者「こうなったらもう、腹をくくりますよ!毒を食らわば皿まで…脱出したあとで、貴方には痛い目見てもらいますからね!」

スーパースター「何故だい!?君が怒る理由が私には皆目見当つかないよ!!」

魔法使い「あ、兵士さんがあっちに行った。今のうちだよ、勇者様!」

勇者「……よし、掻い潜れたな。次は…見張りが2人か……」

スーパースター「………」ウズウズ

魔法使い「どっちか片方だけでも動いてくれないかな…向こうに外へ行ける門が見えるのに~」

スーパースター「………」ウズウズウズ

勇者「焦るな、ここはじっと堪えて機会を待つんだ…下手に動いたら見つかって、また牢屋に戻されてしまうから…」

スーパースター「はああああん!!!」

勇者「!?」ビクッ

魔法使い「!?」ビクッ

兵士「だ、誰だ!?なんだ今の声は!!」

スーパースター「もう我慢の限界だよ!誰かの注目を奪われるなんて堪えられない!目立ちたい!注目されたい!暗くじめじめとした牢屋から脱出できた今!籠から脱出できた今、私は大空に羽ばたく美しい鳥なんだ!!外の空気が私を呼ぶ!歌えよ舞えよと呼んでいるー!!」

魔法使い「ちょ、ちょっと、スターさん!!落ち着いてよ!そんなに騒ぐから見つかったじゃんかー!!」

oh...

もう笑うしかないwww

バカwwww

読んで頂きありがとうございます

兵士a「脱獄だー!そいつらを捕まえろー!!」

勇者「何をやっているんですか、貴方はぁぁぁ!!」

スーパースター「あああ、兵士達の視線が私に注がれる…満たされるうう!!目立つ事こそ美しい私の美学!そう、私の名前はスーパースター!!」

兵士b「もっと火を焚け!辺りを照らせ、影を無くして、あいつらの逃げ場を無くすんだ!」

スーパースター「ハッハッハー!!闇夜の中でも輝く私はなんと美しいことか!!あああ!見て!見てくれ!美しい私をもっともっと見てくれたまえー!!」

勇者「貴方本当にぶっ飛ばしますよ!?」

魔法使い「どどどどうしよう勇者様!!兵士さん達がいっぱい走ってくる!」

勇者「く…仕方ない、あそこの建物に逃げよう!!周りは兵士だらけだ…中でやり過ごす!早く!こっちへ!!」グイッ

スーパースター「服の襟を掴まないでくれたまえ、首が絞まるよ!ハーッハッハッハ ぐぇぇ」

勇者「階段の他に部屋はなし…武器庫か何かか?ここは」

魔法使い「勇者様、こうなったら上に逃げようよ!外はもうダメだから!」

スーパースター「高い場所!より目立つ!!私のステーェジィィ!!」フンガー!!

勇者「この変態を階段から突き落とせば時間を稼げる気がするな」

スーパースター「おおう、何やら殺気を感じる。今日1日で私の寿命が儚くも美しく縮んだよ!!」

魔法使い「あ…階段を昇った先に、扉が!部屋かな?な、中に入ろう!」

ガチャッ

勇者「…っ、部屋ではないな……どうやら屋上に続く扉だったようだ…」

魔法使い「風が強い…隠れる場所がないよ、そんなあ、折角牢屋から出られたのに、また捕まっちゃうのかな…?」

スーパースター「この向かい風…美しい私の美しい髪を美しく靡かせる!!ポージングのしがいがあるねえ~ハッハッハ!!」

勇者「落ちろ!塔から落ちてしまえ、この変態!!」ゲシゲシ

スーパースター「ハッハッハ、ポージングの邪魔をしないでくれたまえ、お嬢さん!」

魔法使い「勇者様!こっちに何か変なものがあるよ?大きな籠に何かついている……」

魔法使い「これ…もしかして、気球かな……?本物を見るのは初めてだ」

勇者「気球?」

スーパースター「空を飛ぶ乗り物さ!砂漠の国は有事の際に気球を使うからねえ、これを使えばここから脱出できるぞ」

魔法使い「で、でも、動かし方がわからないよ?」

スーパースター「なあに、私に任せたまえ!気球の運転くらい容易い事だ!少年、君の魔法で火を出してくれるかい、熱気で気球を膨らませるのだよ」

勇者「冤罪から始まったのに、脱獄と今度は強奪ですか!?どんどん罪が重なっていく…!」

兵士c「こっちだ!逃がすな、追い詰めろ!!」

魔法使い「勇者様ー!早く籠に入って!気球が飛んじゃう!」

勇者「あああ…!国王様と仲間達になんと詫びればいいのか…!!」

バターン!!

兵士d「ここか!!…む、いない…?」

兵士e「空を見ろ!気球だ!気球をひとつ盗まれた!!」

兵士f「弓矢を持ってこい!気球を落とせー!!」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!気球は美しい私達が華麗に頂いたよ!さらばだ、兵士諸君!!ハーッハッハッハー!!」

魔法使い「うわあー、もうすっかりこっちが悪役だ…」

勇者「うう…何故こんな事にー!」

魔法使い「それにしても気球ってすごいなー、みるみる地上から離れていくや。鳥になったみたいだ!」

スーパースター「ハッハッハ、いい眺めだろう?みんなの注目を集めもできる、最高だね!だから私は気球が好きなんだ、運転も勉強したのさあ!」

勇者「これから一体どうなるんだろう…武器や荷物も宿屋に置きっぱなしだし…」

スーパースター「ははん、荷物はさておき、武器などは新たに買い直せばいいじゃないか」

勇者「ですが、国王様から頂いた剣もあるんです。それを置いて行くわけにはいきません…」

魔法使い「僕も、杖とかのちゃんとした媒介がないと困るな…媒介がないと、攻撃となる強力な魔法は使えないし」

スーパースター「ふうむ。では取り返しに行けばいいじゃないか!」

勇者「はい?」

スーパースター「罪人である私達の荷物は、兵士達が回収しているだろう。私も荷物を取り返したいしね。逃げ出した直後に再び戻ってくるなどとは、なかなか思われまい。取り返すなら今のうちだ」

魔法使い「う、上手くいくかなあ?」

スーパースター「ハッハッハ、私に任せたまえ!どれ、あの森の傍に一旦気球を降ろすとしよう。君達はそこで待っていたまえ」

~貿易大国付近・森~

魔法使い「スターさん、本当に大丈夫かなあ…?」

勇者「わからない…だが彼の言う通り、朝になっても戻らなかったら、この森を出よう。砂漠の国からそう離れてはいないし、追っ手が来る可能性もあるからな」

勇者「魔法使い、こっちへおいで。焚き火はあっても夜は冷える、風邪をひいたら大変だ。くっついていた方が暖かい」

魔法使い「え、で、でも」モジモジ

勇者「…私も寒いんだよ。だから暖めてほしいんだ。ね?お願いするよ。さあ、おいで」

魔法使い「……うん、わかった」ギュッ

勇者「ふふ、いい子だ。ありがとう、魔法使い」ギュ

魔法使い「なんだか誤魔化された気がするけど…、…勇者様、あったかい…」

勇者「まあ、こうでも言わなければ来てくれなかったろうからね」

魔法使い「あー、やっぱり!…でもいいや、もう……眠くなってきちゃったし…」

勇者「よしよし…寝ていいよ、おやすみ、魔法使い」

チュン チュン

勇者「……ん…、ふあぁ……もう朝か、いつの間にか寝てしまった…」

スーパースター「やあやあ!おはよう、2人共!!美しい朝だね、ハーッハッハッハー!!」

勇者「ぎゃああああ!?」

魔法使い「…んー…?……あ、スターさん…帰って来れたんだ、…ふわわあぁ……むにゃむにゃ…」

勇者「寝起きにビックリさせないでください!無事で良かったけれど……」

スーパースター「ハッハッハ!寝惚けてはいけないよ!さあ受け取りたまえ、君達の荷物だ!」ドサドサ

勇者「えっ。…ほ、本当に取り返してきたんですね」

スーパースター「当たり前だろう!?私を誰だと思っている、みんなの救世主にしてアイドル、スーパースターだよ!」

勇者「いえ、貴方は変態です。…ですが、ありがとうございます。ああ…良かった、国王様から頂いた剣も無事だ…」

スーパースター「ハッハッハ!もっと私を賞賛したまえ、ハーッハッハッハ!!」

魔法使い「僕の杖もある、…お金もそのままだ!良かったね、勇者様!ありがとうスターさん、荷物持ってきてくれて。意外とすごいんだね」

スーパースター「ハッハッハッハッハッハー!!もっと褒めて!褒めて!!テンションが上がるねえ、ハーッハッハッハ!!」

勇者「それにしても…これからどうしたものか。砂漠の国には戻れないだろうし、ここがどこだかもわからないし…」

魔法使い「気球に乗っていた時、向こうの方に街灯りが見えたよ?」

スーパースター「ああ、多分この辺りは貿易大国領だろうねえ。他国との交流を積極的に行っている金持ち大国だ。近辺には世界一の劇場やカジノを持つ街もあるのだよ?」

勇者「……そういった所なら、人の出入りも多そうだし、身を隠すにはうってつけかもしれないな」

魔法使い「カジノかあー、なんだか楽しそう!行ってみたいなー」

スーパースター「私は劇場に行きたいねえ、是非とも!」

勇者「寄り道をするつもりはないが、一時的にその街へ隠れるとしようか…」

魔法使い「でも、大丈夫かなあ?見つからないかな?」

スーパースター「ハッハッハ!安心したまえ君達!私はメイクテクにも長けているのだ!変装をすれば見つかる可能性もグッと下がるだろう!」

魔法使い「え、お化粧?男がお化粧するなんて変じゃない?スターさんは最初からゴテゴテにお化粧しているけど…」

スーパースター「つまり私が変だと言いたいのかね、無垢な少年くんんん!!化粧での美しさは老若男女等しく与えられるものだよ!まあ私は群を抜いて美しいのだが、ハッハッハ!」

勇者「成程…貴方の荷物とはメイク道具だったんですね。…まあ…こんな状況だ、変装していて悪い事はないだろう…では、お願いできますか」

スーパースター「任せたまえー!!君達をより美しく輝かせてみせるよ!!」

勇者「輝いたら見つかるんですよ!地味でいいです!!」

スーパースター「……よし!これで終わりだ、どうだい私のメイクテクは!素晴らしいだろう!?鏡で確認してごらん!」

戦士(勇者)「た、確かに……私より化粧が上手いなんて、少しショックだ…」

旅芸人(魔法使い)「わあ、なんか別人みたい!本当にすごいや」

スーパースター「あとは街で防具や服を変え、名前も別のものにすればいいだろうね!うーん、そうだなあ、戦士さんと旅芸人くん、とか」

戦士「私はとくに思いつかないし、それでいいです」

旅芸人「スターさんは?更にお化粧するの?」

スーパースター「私かい?そうだねぇ~より美しくなる研究にもなるし、新たな方向性のメイクをひとつ……」

戦士「…それよりも、化粧を落とすだけでいいんじゃないですか?そう厚化粧なら、落とすだけでバレなくなる気がしますよ」

スーパースター「ハッハッハ!お断りだよ!私のアイデンティティが無くなってしまうからね!」

ガシッ!!

スーパースター「おおう!?なんだね、お嬢さん…いきなり私を羽交い締めして、ハ…ハッハッハ……美しくも嫌な予感がするよ…」

戦士「魔法使い、やっちゃいなさい」

旅芸人「今の僕は旅芸人だよ、勇者様!じゃなくて、戦士様!……ふっふっふー、覚悟してね、スターさん!!」

スーパースター「ああ、なんという事だ…天使のような悪魔の笑顔が!今!!まさに!!ちょっ、やめて!マジでやめて、シャレにならない!やめて!ヤンメッテー!!」 アッー!

・・・

スター「うう……スッピンを曝す事になるなんて…生き恥もいいところだ…」シクシク

戦士「でも、化粧しない方が男前じゃありませんか?」

旅芸人「うん、こっちの方が格好いいよねー。むしろなんで化粧するの?って思うくらい」

スター「美しくありたいからに決まっているじゃないかあー!こうなったらもう、悲しみの舞を踊るしか、傷ついた心を癒す術なし!」

旅芸人「スターさん、キリのいいとこで踊るのやめてね?置いてっちゃうよー」

戦士「街につくまでは、一応フードを目深に被っておこう。ついたらすぐに衣服を買って着替えだ」

戦士「………」

旅芸人「? どうしたの?勇……戦士様」

戦士「いや……元々冤罪なのに、すっかり逃亡を受け入れている自分に気づいたら、なんだかもう…」グス

旅芸人「ま、まあまあ…きっと、無実だってわかってもらえる日が来るから…それまでの辛抱だよ」

スター「ハッハッハ!ハーッハッハッハッハッハ!!」クルクル クネクネ

旅芸人「スターさーん!本当に置いてっちゃうよー!?」

戦士「……今更だけど、彼は一体なんなのだろうな。突然現れて…あまりにも濃い印象だから、こういった疑問を抱く暇がなかった」

旅芸人「ひどい怪我をしてもすぐ治っちゃうし、かなりの距離を簡単に追いかけてきたし?」

戦士「ダンスの事はあまりわからないけど、脱獄や気球の事とか……いや、いけないな…こんな、疑ってかかるなんて」

戦士「妙な事ばかりする変態だが、こうして私達を助けてくれたのも事実だ。…そもそも彼が騒ぎを起こさなければ良かったんだが」

旅芸人「勇者様、じゃなくて戦士様、すごい迷ってるね…」

戦士「……傷は、きっと回復魔法が使えるのだろう。移動距離は、彼が言うように、走ってきたのに加えて、砂馬に乗ったんだ。…今は、そう信じよう」

旅芸人「………うん」

旅芸人「(勇者様…ちょっと騙されやすいところがあるからなあ…心配だけど……誰か他に相談できる人が一緒にいたら良かったのにな。僕だけじゃ…わからないや…)」

スター「…話は終わったかね?」

戦士「わ!?は、はい。すみません、待たせてしまいましたか」

スター「ハッハッハ!気にしないでくれたまえよ、男女が仲睦まじく密談をしている、そんな間を裂く程、無粋ではないからねぇ、わた…私は、ウグッ、ヒック」グスグス

旅芸人「寂しかったなら寂しかったって言ってよ!!ごめんね、ごめんね!?泣かないでスターさん!」アタフタ

戦士「(……やっぱり、考えすぎだ。この人はただの変態だ、それ以上も以下もない…誰かを疑うなんて、私の性に合わない。うん、よそう。正体について考えるのは)」

スター「フー…すまない、ちょっと取り乱してしまったようだよ、美しく。さあ!気を取り直して、出発しようじゃないか!!」

戦士「はい。確か…カジノや劇場のある街でしたっけ。そこへ行きましょう!」

旅芸人「どんなところかなあ~、楽しみ!」

~港のバザー~

旅芸人「いいものが沢山買えて良かったねー、戦士様!」

戦士「ああ、バザーの他にも商人が沢山いたしな……こんなにも人が多く、ひしめき合っている。これならば見つからないだろう」

スター「しかし油断は禁物だよ?ほら、あれを見たまえ。あの立て看板。私達は脱獄犯として指名手配を受けているようだ、ハッハッハ!」

戦士「笑い事じゃありませんよ!誰のせいだと思っているんですか!!」

旅芸人「よ、…っほ、あ、あわわ」ガシャン

スター「おやおや、少年くん?それはジャグリング・ナイフかね」

旅芸人「うん、面白そうだから、つい買っちゃった!練習用だから、当たっても痛くないし。でも上手くできないんだ、難しいよ」

スター「どぉれ、私に貸してごらん?……はい、はい、はいぃ!」ヒョイヒョイ

旅芸人「わ!?す、すごいすごい!すごいや、スターさん!!ジャグリング上手なんだね!」

ドヨドヨ ザワザワ

住人「なんだ?大道芸か?」

旅人「ほう、こりゃあ見事だ。おひねりをやろう」チャリーン

商人「はいはい、いらっしゃい!見物のお供に、串焼きはいかがですかーっ!」

ワイワイ ガヤガヤ

戦士「あっという間に人垣ができてしまった。真面目にやれば望む注目が集まるというのも、皮肉だな」

旅芸人「集まりに乗じて商売を始める人まで出てきちゃうし…なんだかすごい騒ぎだねー」

スター「ハッハッハ!私はみんなのアイドルゥゥ!!2人とも、私はこの心地好い空間に気の済むまで浸っていくから、先に行っててくれたまえ!」

スター「さあさあ!!お次は火を吹きながらのダンスを披露しようかな!?ハーッハッハッハー!!」

戦士「……確かに、これは長くなりそうだな…まほ、じゃない、旅芸人。行こう、食事でもしようか」

旅芸人「終わったら宿屋に帰ってきてねー!」

スター「ハーッハッハッハー!!」

少女「もう!なんですの、まったく見えなくなりましたわ!!…執事!」

執事「はい。肩車を致しますので、私にお乗りください。お嬢様」

旅芸人「ねえねえ、戦士様。あの女の子、すごく綺麗だね?」

戦士「ん?…確かに…よく手入れされた髪、透けるような肌…大きくつぶらな瞳、稀に見る美少女だな…溜息が出そうだ」

少女「…あら?貴方達、先程あの大道芸人と親しく喋っていましたわね。お友達ですの?」

旅芸人「え?あ、う、うん。友達というか…知り合いというか…」

少女「まあ!それは素敵ですわ!……執事!」

執事「お嬢様は貴方達との御歓談を希望されております。宜しければ、あちらのシーフードレストランで一緒に食事などいかがですか。勿論、代金は此方が支払わせて頂きますので」

戦士「ず、随分息が合っているんだな…構いませんよ、私達もこれから食事に行こうと思っていたので」

~シーフードレストラン~

旅芸人「美味しいー!僕、こんなに美味しいもの初めて食べた!」

戦士「下味のつけ方がしっかりしているな、いくらでも食べられそうだ…魚の油をここまで生かすとは、見事だ。素晴らしい…」

少女「うふふ。この店は私のお気に入りですの。喜んで頂けて嬉しいですわ」

少女「それで?貴方達は旅をしていらっしゃるんでしたわね」

執事「今の砂漠の国から、よく此方へと来る事ができましたね。タイミングが良かったのでしょうか」

戦士「…どういう事ですか?」

執事「数日前、砂漠の国がこの国に対して、戦争を仕掛ける意思を明確に表してきましてね。現在、砂漠の国は完全に封鎖されています。砂漠の民は国に閉じ込められ、余所者は一切国に入れないといった状態です」

旅芸人「え…そんな、僕達の時は、あんなに歓迎してくれたのに」

少女「運も良かったんですのね。この国も警戒体制に入っていますわ。砂漠の国が狙うのは、ここですから。豊かな領土に豊富な資金…それ以上に、砂漠の国が欲しがる物がこの国にありますし」

少女「お城の中も、すごくピリピリしていて、息が詰まりそう。嫌になりますわ!」

執事「……お嬢様」シーッ

少女「そ、そういった感じを受けただけでしてよ。王族というのも大変ですわね、と…」

戦士「……戦争が…」

旅芸人「どうにかならないのかなあ…?今は人間同士が争っている場合じゃないのに…」

少女「…砂漠の国が欲しがるものを渡せばいいだけとわかっているはずなのに、難しく考えてばかりですから、王族達は」

執事「王には王のお考えというものがあるのですよ、お嬢様。我々が立ち入る事ではございません」

戦士「……仲間達は無事だろうか…巻き込まれていなければいいが……」

少女「さ!難しい話はここまでに致しましょう?わたくし、もっと貴方達の事が知りたいですわ!もっと一緒に遊んでくださいませ!」

執事「滞在中だけで構いません。お嬢様にお付き合い頂けませんか?お嬢様は年齢の近い御友人がいらっしゃらないものですから」

少女「執事!一言余計でしてよ!」

執事「申し訳ございません。真実は時に人を傷つけるという事を失念しておりました」

少女「ムキーッ!!」

旅芸人「あははっ!いいよ、僕で良かったら友達になろ?僕も、君と友達になれたら、すごく嬉しいから!」

戦士「私もだ。国の情勢など、まだ聞きたい事もあるしな。よろしくね、少女さん」

少女「ありがとうございます!!うふふ、お友達……素敵な響きですわ!」

少女「でしたら早速、この街をご案内致しますわ!劇場やカジノだけでなく、世界一の図書館などもありますのよ?是非見て頂きたいですわ!さあ、参りましょう!」

支援

スターマジでなにもんだよwwww

ありがとうございます

・・・

~カジノ~

海賊「チクショウ!またスッちまった…もう金がない…なんで勝てねーんだ、面白くねー!」

仮面男「…金なら私がくれてやろう」

海賊「……あ?」

ドジャッ!!

海賊「!! な…なんだ、この大金は…!袋にギッシリ金貨が詰まっていやがる…!」

仮面男「その金は全てお前にくれてやる。ただし、ひとつだけ私の願いを聞いてもらいたい。その金を全てコインに換えたら、あのポーカーテーブルにいる青年と対戦しろ。ただそれだけでいい…」

海賊「そ…それくらいは構わねーが…マジでいいのか、こんなに……」

仮面男「…ふふ。今度は勝てるといいな。まあ…頑張りたまえ…」

―――

海賊「おうおう!次は俺の番だ、俺と勝負しろ、クソガキ!」

盗賊「誰がクソガキだ。ふん、いいぜ。かかって来いよ、雑魚が」

―――

・・・

~王立図書館~

旅芸人「すっ…ごい大きな図書館だったね!本もどれくらいあるかわからないし…全部読むとしたら何年かかるんだろう。面白かったー!」

少女「うふふ、旅芸人さんたら、目を輝かせていらっしゃいましたものね!ここは様々な文献や原本がありますから、学者様なども利用しますのよ」

戦士「絵画も沢山あったし、美術館とも呼べるな。芸術…人間が生む美の集大成、いい街だな」

執事「私達の街を褒めて頂き、恐縮です。さて…もう日が暮れて、暗くなりましたね。貴方達はどの宿屋に泊まっていらっしゃるのですか?」

戦士「ああ、街の中心にあった、一際大きな宿屋です」

少女「あら!わたくし達と同じ宿屋ですのね!嬉しいわ~。じゃあ共に帰りましょう!ねえ、夕食もご一緒にいかが?」

旅芸人「うん!一緒に食べよう?旅の話の続きも聞かせてあげるからさ!」

執事「お嬢様、そう早足では転んでしまわれます。お気をつけください」

少女「もう!いちいちうるさいですわね。わかっていますわ!」

執事「お嬢様…」

戦士「…そちらも大変ですね、反抗期といいますか…私も寂しい思いをしているんですよ」

執事「はい…お嬢様の成長は大変喜ばしく、そして私の生き甲斐でありますが…その成長の早さは確かに、時折寂しく感じられますね」

戦士「ふふ……」

戦士「…ところで……貴方達は、ただの貴族といったものでは無いようですね」

執事「………」

戦士「三人…いや、五人?隠れていたり、住人に扮していたり。私が気づいていないだけで、他にもいそうですが…貴方以外の護衛が隠れている」

執事「…お見事です。流石、修練を積まれた勇者様に隠し事はできませんね」

戦士「………私達の正体も」

執事「はい。ですが、どうぞご安心ください。正体を知っているのは我々だけです」

執事「勇者様、貴方がどういった理由で、そう変装していらっしゃるのかも知っています。失礼ですが、我が国の密偵に探らせましたので」

戦士「………」

執事「どうぞ、ご安心ください。我々は敵ではありません。勇者様のお力添えを願いにきたのです。ですが、勇者様の行動を妨げる事となるのならば、退かせて頂きます」

戦士「力添え?」

執事「はい。…我々は、この貿易大国、王家の人間。私は、執事ではなく従者です。そしてお嬢様は…この国の姫にございます」

執事「先程、レストランでお話した内容を覚えておられますか。…そう、今現在、我々は砂漠の国から宣戦布告を受けている。領土や資金も狙われる理由のひとつですが……かの国が特に欲するのが、"王家の鍵"…なのです」

執事「王家の鍵は、この世界に存在する4つの国家の協定、条約の証のひとつにございます」

執事「我が国、貿易大国が鍵を、砂漠の国は使用場所を、聖騎士の王国が宝物庫を、大聖堂の国が使用決定権を、それぞれ有しています」

執事「勇者様、貴方の出身地である大聖堂の国の王は…素晴らしき王です。我が国王もその手腕を認めております。何故、砂漠の国の王が、相談のひとつもなく、戦争を考えるのか…私共にはわかりませんが…」

執事「なんにせよ…協定を破る事は認められない。我々の間だけの話ではなくなる、4つの国全てを巻き込む大戦争に発展してしまいます」

戦士「…王家の鍵…宝物庫……宝物庫には一体何があるのでしょうか」

執事「我々人間が魔法文明を得るきっかけになった、数々の古代兵器や魔具が納められているとの話です。古代兵器の力により、かつて緑豊かな大地であった場所は、砂漠と化したとも」

執事「砂漠の国が戦争に踏み切ってまで……きっと、宝物庫の中にある兵器や魔具が真の目的なのかもしれません」

戦士「古代兵器…魔具、ですか」

執事「はい。しかし、兵器も魔具も、伝承通りであれば今はその力を失い、言ってはなんですが…ただの抜け殻なもの。そんな大海原の藁一本を掴もうとする砂漠の国は、我々が思う以上に、危機に瀕しているのでしょう」

執事「勇者様。我々は戦争など望んでいない。我らが王も、砂漠の国を説得する準備を行っております。その間だけでもどうか…王家の鍵を守って頂けないでしょうか」

執事「王家の鍵は、姫が持っているのです。勇者様がこの頼みに応じてくださいましたら、鍵をお渡しします。大聖堂の国王から使用許可も得ております、宝物庫にあるものが、勇者様の役に立つものであれば、自由に使っていいと」

執事「どうか我らを、姫を、世界をお守りください、勇者様。お願いします」

戦士「…わかりました。戦争は私も反対だ、防げる手立てがあるならば、是非お手伝いさせてください」

少女「遅いですわ、執事!もう宿屋に着きましてよ?」

執事「はい。申し訳ございません、お嬢様。今すぐそちらへ参ります」

執事「……勇者様、ありがとうございます。お力添えに心から感謝致します。お礼として、貴方達の保護をお約束致します」

執事「勇者様達は現在、砂漠の国から指名手配を受けておられますね。それは恐らく、勇者様達を戦争の道具として使う為…砂漠の国の策略でしょう。罪状はなんでもいい、ただ貴方達を拘束し手駒にできればいい…」

執事「我々は標的になっております。大聖堂の国も、砂漠の国に近い。そこで、勇者様を聖騎士の王国で保護するよう、我が王からの書状を預かっております。それを持って、聖騎士の王国へ渡ってください」

戦士「ありがとうございます。必ずや王家の鍵を守り通します、そして…私も戦争を止める手立てがないか、探してきます」

旅芸人「ねー、戦士様ー!まだお話終わらないのー?」

少女「わたくし、もうおなかがペコペコですわ!執事、早くいらっしゃいな!」

戦士「ああ、すまない。待たせてごめんよ、2人とも」

執事「お嬢様、お食事を終えましたら、お二人にあの話をお願い致します。僭越ながら、大体の説明は私が済ませておきましたので」

少女「え。……では、この方達が…そう、そうでしたのね……」

旅芸人「…なに?何の話?」

少女「…わたくし…やっぱり嫌ですわ……折角お友達になれましたのに、…そのお友達を危ない事に巻き込むだなんて……わたくしが行けば済む話なのに、なんで」

執事「お嬢様…お嬢様の父上、旦那様の気持ちを、どうかお察しください。旦那様は、お嬢様の事を一番に心配されているのです。それに、この方達に鍵を預けた方が、よっぽど上手く事が運ぶでしょう」

少女「……申し訳ない気持ちでいっぱいですわ…」

執事「旅芸人さん。…いえ、魔法使いさん。貴方にも後で、ご説明致します」

旅芸人「!! え…僕の事、なんで知っているの!?」

戦士「大丈夫、君は不安を抱かなくていい。とにかく今は宿屋へ入ろう。体も随分冷えてしまったしな」

ギイイィィ…

少女「……あら?灯りは点いていますのに…誰もいませんわ、妙ですわね」

戦士「いや……ちゃんといるよ。受付カウンターの裏に、人が倒れている!」

旅芸人「ソファーの陰にも人が…!大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

執事「…これは……みんな、深い眠りについている…?この宿屋の従業員は、全員我ら護衛部隊で固めていた…手練れ揃いの彼らを眠らせる薬か、魔法か…いや、こんなにも強力な昏睡魔法があるのか…!?」

戦士「…執事さん、お嬢様の傍にいてください。誰か、います。この臭い…魔物に近い何かが、この宿屋にいる……」

ギシッ… ギシッ…

旅芸人「…に…二階に誰か、いる……降りてくる…!?」

少女「怖いですわ…!」

執事「お嬢様、決して私から離れないでください。お嬢様は私がお守り致します!」

戦士「……誰だ!そこにいるのはわかっている、隠れていないで姿を見せろ!!」

ギシッ…

仮面男「………」

少女「え……人間…?人間ですわ、もしかして泊まり客の一人、とか…?」

戦士「いいえ、違います。どう繕っても隠しきれない匂い……彼は人間ではありません。友好的でもない…わざとらしく噴き出すその殺気、私達を挑発しているのか?」

仮面男「いや、挑発ではない。警戒しているだけだよ。私は戦いが苦手でね…ましてや、君が相手だなんて、命がいくつあっても足りないから。匂いも、殺気も…近づくなと警戒、警告しているだけだ。…勇者よ」

戦士「……!?何故。お前が私の事を知っている……」

仮面男「答える必要はない。それにしても…やれやれ…やっと城から出てきたと思ったら、既に出会ってしまっていたとは…」

仮面男「まず先に、王家の鍵を頂くつもりだったんだがなあ…その為に、この宿屋にいる人間全てを眠らせたというのに…少し遊びすぎたよ」

執事「…貴方が護衛達全員を眠らせたのですか…!」

仮面男「仕方ない。今は鍵を諦めよう。順番が狂ってしまったが、もうひとつの目的を果たすか…」カッ!!

戦士「く!?奴の手から不気味な閃光が……」

旅芸人「うわあああああああ!!!」

戦士「!?どうした、大丈夫か!?」

旅芸人「あ、あっ……あああ…あ…!!い…痛い……痛いよ…!背中が、肩が……腕が、痛い…熱い……!!ああああーっ!!」

戦士「貴様ぁっ!!この子に何をした!!」

仮面男「それも答える必要はない。気になるなら自分の目で確かめろ…」スウッ…

少女「き…消えやがりましたわ!!?」

旅芸人「あっあっ、あっ……!うああ、ああ…!!」ズキン ズキン

執事「…これは…まさか!すみません、失礼致します!!」ビリッ!

少女「ひ!…破いた服の下……背中に、肩に、首に、腕に……!!」

戦士「これは、温泉で見た古傷…いや、そんな生易しいものじゃない!色濃くはっきり浮かび上がっている、これは…!」

執事「…呪傷……呪いをかけられた痕です。これが今まさに旅芸人さんを苦しめている正体だ」

少女「この呪い……わたくし達人間が使えるものではありませんわ…もっともっと昔…人間が魔法文明を得るより昔に存在した呪いですわ!文献で見た事がありますもの!」

戦士「魔法使い!魔法使い、しっかりしてくれ!魔法使い!!」

旅芸人「うあああ……!!痛い、熱い…苦しい、…勇者様ぁ…っ!!痛いよぉ…!!」ブシィッ

戦士「ううっ!血が吹き出して…なんて酷いことを…!!あの仮面男、許せん!」

少女「…落ち着いてくださいまし!追いかけるつもりですの!?無駄ですわ、貴方も見ましたでしょう!?あいつが煙のように消えてしまったのを!!」

少女「それよりも、彼の体を抑えていてください!…執事!!」

執事「はい、お嬢様。聖水でございます」サッ

戦士「な…何をする気だ?」

少女「解呪は無理ですが、傷の痛みを少し和らげるくらいはできます。やり方をお教えしますから、しっかり覚えてくださいな。また呪い効果が出たら、対処できるように」

少女「さっきも言ったように、これは遥か昔に存在した呪いですわ……効果まではわかりませんが、この苦しみ方…生命力に影響を及ぼすものですわね…」

執事「勇者様。隣の大陸、聖騎士の王国へお急ぎください。あちらには魔法文明に詳しく、研究を進める街もあります。そこならばきっと、この呪いの事もわかるはずです」

戦士「わ…わかりました……だからどうか、どうかこの子を助けてください…!お願いします…!!」

少女「泣いている暇などありませんわ!しっかり手順を見て、覚えてください!!…わたくしはこの国から離れられないのです、また呪いの効果が出たら、彼を助けるのは貴方の役目ですのよ!?」

戦士「…!は…はい、すみません!…お願いします、ちゃんと覚えますから!!」

少女「よろしくお願いしますわ……では、いきますわよ」サッ サッ

戦士「………」

旅芸人「……う…うう、う……あ…」ズキン ズキン

執事「…先程まで、蠢くように脈を打っていた呪傷が……治まっていく…お見事です、お嬢様」

戦士「…助けてくれてありがとうございます…!」

少女「安心するのはまだですわ。ダメージが残っていますもの、手当てをしなければ。執事!」

執事「はい、お嬢様。回復魔法が使える者を、渾身の力をもって叩き起こしてまいります!」

・・・

執事「回復魔法を施しました。今のところ、落ち着いて眠っております。少し休ませておきましょう」

戦士「良かった…ありがとうございます…」

少女「目覚めたら、彼にも呪傷の痛みを和らげる方法を教えましょう。いざという時の為にも」

少女「戦士…いえ、勇者様。申し上げましたとおり、あの呪いは古代のもの。今のわたくし達ではどうする事もできません。解呪魔法も高等レベルのため、使える者は一握り…それですらも、呪いの進行を抑える程度ですわ」

少女「古代の呪いには古代の解呪魔法か…呪いをかけた相手を倒すか…それしか、彼を救う手立てはありません」

戦士「…っ、はい…。この子を救うため、私達はこれから聖騎士の王国へ行きます。…王家の鍵は……どうしたら…」

少女「あの仮面男はどうやら王家の鍵も狙っているようですし、お渡ししますわ。勇者様が持っていれば、奴が貴方達の前に現れる可能性も出るでしょう」

少女「執事」

執事「はい、お嬢様」スッ

戦士「…?短剣など、一体何を……」

ザクッ!!

戦士「な!何をなさるのです、自分で手のひらを斬って……血が!!」

少女「呪いの苦しみに比べたら、こんな傷。オナラのつっぱりにもならねーですわ!…王家の鍵とは、わたくしの体に流れる血の事。代々受け継がれた血の力が、宝物庫の扉を開けますの」

少女「だからこの国の王は、…わたくしのお父様は、躊躇い、悩み、いまいち踏み切れなかった。砂漠の国が出す条件を飲む事は、わたくしを矢面に立たせる事ですから」

少女「さあ。鍵を受け取ってください。……どうか、無事に帰ってきてください。お友達の貴方に重責を負わせて…本当に、ごめんなさい…」ギュッ

戦士「…血が、光って……私の手から、私の中に入っていく…?」ズズズ…

執事「鍵の受け渡しが完了しました。これで宝物庫を開けられるのは、勇者様、貴方です。ご武運をお祈り致します」

―――

仮面男「……王家の鍵が勇者に渡ったか…」

仮面男「…本当に、上手くいかないものだ。机上の空論とでも言うのか…運命とやらが邪魔をするのか。神のなせる仕業が…!」

仮面男「………」

仮面男「…いいや、違う」

仮面男「机上…チェスボードで舞うのはお前達だ。勇者も、神も、……魔王も、全ては私の手駒のひとつにすぎん!」

仮面男「勇者の仲間は遠ざけた…鬱陶しいが、魔将の馬鹿も使うか。あいつなら仲間どもを容易く仕留めるだろうしな。…宝玉を持たぬ勇者など、とるに足らん」

仮面男「そして、弱った勇者から鍵を…いや、勇者が宝物庫の魔具を手に入れたところで、横から奪うのもいいな。フフフ……ハーッハッハッハー!!」

―――

~昼過ぎ・港~

戦士「本当にもう大丈夫なのか?まだ休んでいた方が…」

旅芸人「大丈夫だってば!もう全然痛くないし、背中も見せたでしょ?傷が薄くなってたの。もうお昼過ぎているし、これ以上寝てらんないよ!」

戦士「それならいいが…でも、けっして無理はしないで。少しでもおかしいと感じたら、すぐに言うんだよ?お願いだから」

執事「勇者様。こちらが我が国の王より預かりました書簡です。これを聖騎士の王国に渡せば、貴方達を保護してくれる事でしょう。どうぞお持ちください」

少女「この船も船員も、皆全て私達の国が用意したものですわ。最近、海賊がこの辺りを彷徨いているというし、つい先程も何やら騒ぎがあったようですが、彼らなら海賊も撃退できましょう。道中、お気をつけて」

戦士「はい。ありがとうございます、王家の鍵は必ず守り通しますから、お嬢様…姫もどうかご安心ください」

旅芸人「色々ありがとう、1日だけだったけど、すごく楽しかったよ!絶対戦争を止めてみせる、魔王も倒すから…また遊ぼうね!」

少女「……戦争とか…魔王とか、もうどうでもいいですわ!わたくしは、貴方達が無事なら、それでいいの!だって、だって、わたくしの初めてのお友達ですもの……」

少女「どうかどうか、無事に帰ってきてくださいませ!そしてまた遊んでください、そっちの絶対の方が嬉しいですわ!巻き込んでしまってごめんなさい…本当に…!」

戦士「泣かないでください、姫。大丈夫、私達は必ず帰ります。約束しますから。ゆびきりげんまん、致しましょう?」

少女「うん…うん……」グスッグス

執事「…そろそろ船を出す時間です。いってらっしゃいませ、勇者様、魔法使い様…どうかご無事で…」

戦士「はい!ありがとうございます、いってきます!!」

旅芸人「わー、僕、船に乗るのって初めて!本で読んだ事しかないものを、どんどん体験できるのはすごく楽しいや!」

戦士「………」

旅芸人「どうしたの?ゆ…戦士様、なんか難しい顔して」

戦士「……いや…何かを忘れている気がするんだが……それがなんだったか思い出せなくて」

ハーッハッハッハー…

旅芸人「!? あ、スターさん!スターさんが波止場で踊ってるよ!!」

戦士「あ、そうだ。あの変態だ、忘れていたのは」

スター「ハッハッハー!!美しい私は!今まさに美しく置いてけぼりー!!悲しみに加えて、混乱と動揺のダンスを披露するしか術はなしー!!ハーッハッハッハー!!」

旅芸人「スターさーん!ごめんなさーい、忘れてたー!!元気でねー!」

スター「ハッハッハー!美しくも華麗に戦力外通告かあーい!!?」

戦士「まあ、あの変態なら、その気があれば追いかけてくるんじゃないか…すっごい頑張って海を泳ぐとかして」

スターおまえ……
盗賊たちとの合流楽しみにしてる

早く盗賊たちとのからみが読みたい
期待してる

追いついてまったー



ありがとうございます!!

~海・船上~

旅芸人「………」

旅芸人「…勇者様、は……よし、船長さんと話してる…今のうちだ」

旅芸人「…っ、うう……」

ズキン ズキン…

旅芸人「あのお嬢様から習った、呪傷を抑える術式……、…痛い…、早くしなきゃ…」

旅芸人「はあ、……はあ……」

旅芸人「…僕の体、どうなっちゃったんだろう。こんな事じゃ、勇者様のお荷物になっちゃう…頑張らなきゃいけないのに、……ううっ…勇者様の、邪魔になりたくない…嫌われたくないよ」

旅芸人「…はあ、…はあ…それにしても…なんだろ、なんか気持ち悪い。これって呪いのせいじゃないよね…?呪傷は落ち着いたのに…」

船医「……そこに誰かいるのか?」

旅芸人「!? あ、は、はいっ!います!」

船医「おお、こんなところで何やってんだ、坊主。この先は機関室だ、危ねェぞ」

旅芸人「ご…ごめんなさい、ちょっと、体調悪くなっちゃって。休んでました」

船医「体調が悪い?…どれ……目眩や吐き気はするか?」

旅芸人「は、はい…なんか、すごく気持ち悪い、です…」

船医「ふむ、……あー、こりゃあ典型的な船酔いだな」

船医「ほら、この薬を飲め、よく効くぜ。あとは部屋で休んでりゃあ回復するだろう。坊主と一緒にいた姉ちゃんを呼んでくっから、おとなしくしてろよ?」

旅芸人「は、はい。ありがとうございます…」ゴクッ

旅芸人「………」

旅芸人「………あ、本当だ。ちょっと気分良くなってきたかも…」


戦士「旅芸人!大丈夫か?船酔いだって?あんなにはしゃぐからだぞ、さあ部屋へ戻ろう。立てるか?」

旅芸人「ゆ…、戦士様……うん、大丈夫。ごめんなさい。でも、薬もらったから。おじさん、ありがとうございました」

船医「いいって事よ。聖騎士の王国まで、まだまだかかるからな。ゆっくり寝ていな。お大事に」

ドガガァン!!

旅芸人「うわああぁ!!?なな、なに!?なにー!?」グラグラ

戦士「ッ何事だ!?旅芸人、君はここで待っていろ!」

旅芸人「ううん!僕も一緒に行くよ、戦士様!!」


船員a「うわああああ!!ま、魔物だー!!」

船員b「ありゃぁこの海の主だ…普段は呑気に寝ているくせに、なんで襲ってきたんだ!?」

戦士「なんだ、このでかいイカは……普通のイカの何百倍あるんだ!?」

魔物「オオオオンン!!!」

仮面男「ふふ…さあ、奴らを殺せ。船ごと沈めてもいいぞ。勇者の手さえ奪えればいいのだからな、…王家の鍵が備わる手だけを…」

旅芸人「あいつ!昨日襲ってきたやつじゃんか!あのイカ、もしかしてあいつに操られているの!?」

戦士「貴様ぁっ!!卑怯だぞ、正々堂々戦え!!」

仮面男「言っただろう、私は戦いが苦手なんだ。だからこういう卑怯な手段が得意なんだよ。フフフッ」

魔物「オオオオ!!」ビュオッ

船員c「ぎゃああっ!!」バチィ!

戦士「足の攻撃に気をつけろ!間合いが広すぎる、一撃当たるだけで骨が折れるぞ!」

旅芸人「火球魔法!!」ボッ

魔物「ウオォォオーン!!!」

旅芸人「だ、ダメだ…体がでかすぎて、僕の魔法じゃダメージがない…!」

戦士「たあぁっ!!」ザグッ!

仮面男「…ふむ、やはりネックなのは勇者だけだな…あの剣技、力、この海の主でも押さえ込めない、か。化け物女め」

仮面男「……防御倍加魔法」パアァッ

戦士「せやあぁ!!」

ガキンッ!!

戦士「な!?急に固くなったぞ…剣が通らない!」

旅芸人「あいつ!魔物の防御を魔法で高めたなー!」

仮面男「ふふ。いくら神童と謳われようとも、所詮お前はただのガキ。おとなしく呪いによって生命を削れ…私はお前の死体も持ち帰らなくてはならないのだからな」

旅芸人「子供扱いするなー!バカにしたら許さないぞー!!」

旅芸人「僕だって!!戦えるんだ、たくさん勉強したんだから!! ―― 火炎魔法ッ!!」ゴオオッ!!

魔物「ギャオオオオーッッ!!」ジュウウッ

仮面男「ほう。火球魔法や氷礫魔法などの初級呪文しか唱えられないかと思っていたら。これはこれは、素晴らしい。その成長スピードに拍手を送ろう」

仮面男「だが!その程度では、この海の主は倒せんぞ!?攻撃倍加魔法!」パアアッ

魔物「オオオン…!!」バキバキメキ

船員b「主の野郎、この船を潰す気だ!!こんな海のど真ん中に放り出されたら、みんな死んじまうぞ!?やめろぉーっ!!」

戦士「……仕方ない…。少し荒療治になるかもしれないが、目を覚ましてやるか…!」グッ

仮面男「……!?なんだ、あの剣の構えは…、……マズい!奴の剣に闘気が集中している!何か来る!!」

仮面男「攻撃を防がねば…!幻惑魔――」

戦士「遅い!喰らえ、我が奥義!! ―― たあああぁぁーッッ!!」

ドガガガァァッ!!

魔物「ギギャアアアアアア!!!」バチバチバチ!!

仮面男「くっ!?ただの剣技だけではない…闘気がまるで雷光のように輝く…!こ、これは、これは……、…なんと素晴らしい…!」

仮面男「しかし!非常にマズい、このダメージは…私がかけた魅了魔法が解けてしまう!!」

魔物「…グオオオォ…ン……」バッシャアアア

旅芸人「やったあ!!やった、勇者様!魔物が気絶しちゃったよ!?すごいすごい!やっぱり勇者様は強いやー!!」

戦士「……こら。いくらこの船に乗る者が事情を知っているとはいえ、今の私の名前は戦士だ。間違えてはいけないよ、まほ……旅芸人」

旅芸人「はーい。…でも今、戦士様も間違いかけたよね。ふふっ!」

仮面男「…おのれ……こんな技を隠していたとは…」

戦士「さあ。次はお前の番だ。空に浮かんでばかりいないで、ここに降りてこい。お前には聞きたい事も、やってもらわねばならない事も山程あるのだからな」

仮面男「フ…、女性から誘いを受けて断っては、恥をかかせてしまう。だが…生憎と私は忙しくてな。スケジュールが詰まっているんだよ、申し訳ないね」

戦士「逃げるな!!この子にかけた呪いとやらを解けッ!!」

仮面男「お断りだよ、レディ。第一、その呪いをかけたのは私じゃあない。私は呪いの力を加速させているだけだ」

仮面男「呪いは既に第三段階まで進行している。その少年の命はあと僅か。死期が訪れた時には必ず迎えに来るよ、フフフッ…ハッハッハ!!」スウゥッ

戦士「逃げるな!!待てぇぇっ!!!……くそっ…死神め……!!」

旅芸人「…僕……死んじゃうの……?そんな……」

戦士「……魔法使い…」

戦士「………」ギュッ

旅芸人「わ…、な、なに?勇者様……いきなり抱き締めないで、恥ずかしいじゃんか…」

戦士「…魔法使い……大丈夫、大丈夫だ。君は私が守る。今までずっとそうだったじゃないか」

戦士「君が寂しくなってしまった時も、悔しくなった時も、怒る時も。どんな時も私は君の傍にいるよ、私が君を守る。…だから大丈夫だ、安心して。君は絶対死なせない。……そう、君のご両親と約束したんだから…」

戦士「君のご両親は私の事も、実の娘のように可愛がってくださった。彼らとの約束は必ず守る。君の事も必ず守るよ。大丈夫…大丈夫だから……」

旅芸人「………」

旅芸人「…今の僕の名前は魔法使いじゃないでしょ、戦士様。旅芸人だよ」

旅芸人「大丈夫…ちょっとびっくりしちゃっただけ。平気だよ!僕は呪いなんかに負けないから!!」

戦士「…魔法使い」

旅芸人「ほらーまたー!そんなんじゃ船から降りたらバレちゃうよ?まだ指名手配されてるんでしょ、僕達」

旅芸人「大丈夫だってば!戦士様も、僕も強いんだからさ!ね?聖騎士の王国に行って、力を借りて、えっとそれから…とにかくどうにかして!それで、仲間と合流して!」

旅芸人「そしてみんなで魔王を倒す!!ほら、やる事いっぱいじゃん!その間に呪いなんて、どっか行っちゃうよ。大丈夫だよ!」

旅芸人「…ねえ、だから泣かないで?戦士様…僕は泣かないのに、戦士様が泣くのはおかしいでしょう?泣かないで…」

戦士「すま……すまない…わ…私も、頑張るよ……大丈夫だ…」

戦士「(こんな、小さな子に無理をさせて…我慢させて……何をやっているんだ、私は……情けない…)」

戦士「(ご両親との約束だけじゃない…魔法使い、君は私が守る。絶対にだ。私が救ってみせる!)」

船員b「船の破損が酷いな。修理しつつやっていくしかないが……こんな調子じゃあ、聖騎士の王国に着くのはどれくらいになるか…」

船員a「怪我人も出ている、早ぇとこ着かないとヤバいぞ」

魔物「グルルル…」ザパァッ

船員a「うわあああ!?また、海の主が出た!!」

戦士「な、もう目覚めたのか!?タフな奴だ…まだ攻撃する気か!?」

旅芸人「待って、戦士様!さっきと様子が違うよ?目つきも穏やかになっているもの」

魔物「グゥルルル……」ザバァァ

船員b「うおっ!…ぬ、主の野郎……この船を引っ張って。この方角、まさか俺達を聖騎士の王国へ連れていく気か?」

旅芸人「暴れちゃったお詫び、とか?…ありがとう、海の主さん!こっちも酷いことしてごめんね…でも、助かったよー!」

魔物「グオオォーン!!」ザザザザ

戦士「ふ……本当に、目を覚ましてくれて良かった…」

スターが仮面男にしか見えなくなった

読んで頂きありがとうございます

~浜辺~

戦士「海の主のおかげで比較的安全にここまで来れたな。魔物を追い払ってもくれたし…」

旅芸人「うー…ん!はあ~、やっと地面に降りられたー。船は揺れなきゃ楽しいのになあ…」

船員b「この港町から南に行けば、聖騎士の王国があるぜ。北には魔法研究を進める街があるが、途中、酷い吹雪が起きている豪雪地帯が存在する。今はそっちに行くのは諦めた方がいいな」

戦士「吹雪…確かに、この地に近づくにつれて気温が下がっていったように思う……厳しい土地でも鍛練を怠らず、世界最強となった聖騎士の王国…か」

船員b「俺達はここで船を修理して、貿易大国に帰るよ。海の主も落ち着いたようだし、帰りはより安全だろう」

旅芸人「ここまで連れてきてくれてありがとうございました!帰り道、気をつけてくださいね!」

船員b「ああ、坊主も気をつけて、旅を続けろよ。それじゃあな」

戦士「さて。ここから南…か。あの大きな塔がそれだろうか…少し距離はあるが、歩いていこう。魔法使い、船酔いはもう平気か?」

旅芸人「勇者様ったら!また名前間違えたー!……うん、僕もだけど。へへ…」

戦士「ふふ。どうしても慣れないな、やはり。変装したままでは失礼にもあたるだろう、聖騎士の王国に着いたら着替えるか」

旅芸人「そうだね!あと、船酔いはもう治ったよー。あの船にいた、お医者さんがくれた薬が効いたみたい。まだ少し残っているけど、戦士様は船酔いにならなかったの?」

戦士「ああ、私は大丈夫だったよ。人によって慣れ不慣れというものがあるのかもしれないな」

旅芸人「備えあれば憂いなし、このまま持っているね、薬」

戦士「ああ。…この辺りは魔物の数も少ないようだな、北側は魔物の気配が強かったが……、…ん?」

旅芸人「あれ、人が踞ってる。どうしたんだろ?」

賢者「うおええ……ご、ごめんねー2人共…オッサンのせいで、足止めしちゃって…」

僧侶「だ、大丈夫ですか?賢者さん…。気にしないで、今は、体調を治す事だけ考えましょう…ね?」ナデナデ

盗賊「先を急ぎたくもあるが、オッサンがこの調子じゃどうしようもねーな……この辺で野宿するか?」


旅芸人「どうしたんだろうね?あの人達。大丈夫かな…?」

戦士「様子がおかしいな。急病人だろうか…困っているようだし、気にもなる。声をかけてみようか」ザッ

盗賊「…っ?」ドクン

戦士「…そこの人、大丈夫か?顔が真っ青だ。随分と具合も悪そうだが、急病人か?」

旅芸人「オジサンどうしたの?具合悪いの?大丈夫?」

僧侶「…んっ?」ドクン

戦士「(なんだ?2人共、やたらと目を丸くして驚いたような顔をして……変装の化粧が崩れでもしたのかな…?あとで鏡を見るか)」

戦士「随分と具合が悪そうだが、急病人か?」

盗賊「…いや、病人というより、船に酔っただけでな。仕方無いから、この辺で野宿して休ませようとしていたところだ」

戦士「船酔い?そうか。なら、良い薬があるから、それを飲ませてあげるといいよ。ま…旅芸人」

旅芸人「はいっ!この薬だよ!僕もここに来るまでに、船に酔っちゃったんだけど……でも、この薬を飲んだらすぐに治ったんだ」

僧侶「あ、ありがとう~!ありがとうございます、助かります!さあ、賢者さん、お薬ですよ!」

盗賊「…すまねえな、見ず知らずの俺達なのに、親切にしてもらってよ」

戦士「なに、性分というものでね。困っている人を見かけると、手助けしてしまいたくなるんだ。いきなり声をかけて悪かったね。それでは、お大事に」

盗賊「………。あ、ああ。ありがとよ…」

旅芸人「薬が役に立って良かったー!船酔いになるのも、そう悪い事じゃないんだね。…あ、船酔いのオジサンが手を振ってる。ばいばーい、オジサン!お大事にー!」

戦士「あの様子なら、心配なさそうだな。じきに動けるようになるだろう。ありがとうな、旅芸人。彼らに薬を分けてくれて」

旅芸人「ううん、僕はもう平気だし。船酔いの辛さはよくわかるもん、あのオジサンが元気になって良かったよ」

戦士「いい子だね。ありがとう」ナデナデ

戦士「………」

戦士「…ところで、旅芸人。私の化粧、崩れていたりするかな?そうそう、鏡でも確認しようと思っていたんだった」ゴソ

旅芸人「え?ううん、全然。戦士様、船を降りる前も、お化粧直ししていたじゃない。綺麗なまんまだよ」

戦士「ありがとう。…ふむ、確かにおかしなところはないな…なら、思い過ごしだったか…」

旅芸人「???」

~聖騎士の王国~

門番1「止まれ!我が国に何用か!?」

戦士「とある事情により、この国の王に謁見願いたく参りました。勇者と魔法使いという者です。大聖堂の国、そして貿易大国、それぞれの王から書簡も預かっております。どうかお伝えください」

門番2「勇者とな?確かに、我が王より勇者が尋ねてくる旨は聞かされているが……しかし、この似顔絵と顔が全く違う…」

旅芸人「あっ!そ、それは、ごめんなさい。砂漠の国から指名手配されているから、名前変えて変装もしていて……すぐにお化粧落としますから!」

門番1「…否。必要はない。例えお前達が本物だろうと偽者だろうと、我らは訪ねてくるものを拒まぬ」

門番2「我らがしきたりにて、ふるいをかければ良し。勇者はかなりの手練れと聞く、その皮被る偽者ならば、我らには敵わず零れ落ちるだけであろう」

門番1「王と謁見願うならば、戦え!勝利こそ真実なり!戦って真を示せ!!」

旅芸人「ええ~、そんなあ……確か、スターさんが言っていたよね…人間で勇者様に勝てるのは、この国の騎士様くらいだろう、って。勇者様…大丈夫なの?」

戦士「問題ない。私は必ず勝つ。それに……なかなかわかりやすい国で安心するよ、正直言うと、謁見だなんだと堅苦しい流れは苦手なんだ…肩の力を抜いていけそうでいい…」

戦士「…委細承知。では、私はどちらと戦えばいいのだろうか。それとも両方とか?」

門番1「否。戦うは我らにあらず。我らはあくまでも門番なり、門を守る騎士なり」

門番2「戦士、旅芸人。今はその名で呼ぼう。…余所者が門をくぐりたい場合は、その意思を持つ者同士戦い、勝った方だけが入れる掟。今は入国を待つ相手がおらぬ」

門番1「対戦相手が来るまで、戦いの準備も含め、そちらの小屋で待機しておれ」

旅芸人「そ、それって、誰も来なかったら、ずーっとそこで待たなきゃいけないのかな…?」

戦士「いきなり聖騎士と戦う、というよりは、ずっといいんじゃないかな。長く待たされては敵わないが…今は腰を据えるしかない」

旅芸人「…勇者様…なんか、変」

戦士「ん?…ああ、すまない。こんな状況なのに、少し浮かれていたか。気を引き締めよう」

旅芸人「…う、うん…」

旅芸人「(……浮かれているというより…ピリピリしているというか……冷静さが無くなっているような気がするけど、…気のせいかな…)」

戦士「これが準備小屋かな。…失礼します」ガチャ

バトルマスター「入国を希望する者よ。よくぞ参られた。貴殿の勇気を私は賞賛しよう。さあ、扱い易い武器を取りたまえ」

戦士「…ふむ。剣に槍に斧……全て木製、修練用の武器といったところか。しかし打ちどころが悪ければ、怪我を負ってしまうな…」

バトルマスター「命の奪い合いが目的ではない。入国を賭けての戦いでは、一太刀入れるか、相手に負けを認めさせた者を勝者としている」

戦士「あくまでも練習試合、か。……では私は剣を選ぶ」

バトルマスター「承知。この扉の先が試合場となっているが、まだ扉は開かれぬ。次の入国希望者、対戦相手が訪れるまで、この小屋で待機しておれ。相手が来たら試合場へ案内しよう」ガチャ

旅芸人「あ、行っちゃった…。あー、なんだか大変な事になっちゃったなあ…本当に大丈夫?勇者様」

戦士「どうした?君がそんなに不安を抱くのも、珍しいな。私は大丈夫だよ。…相手がいつ来るかわからないんだ、君もゆっくりしていなさい」

戦士「…私は必ず勝つから。勝って、この国へと入る。そして……魔法使いの呪いがどんなものなのか…調べなくては…」

旅芸人「ん?何か言った?後半、よく聞こえなかったんだけど」

戦士「……いいや、何も」

ガチャッ

バトルマスター「戦士と旅芸人よ。対戦相手が現れた。試合場へ案内しよう」

旅芸人「え!もう?良かったー!あんまり待たなくて済んだね!」

戦士「ああ。運が良かったな。…では、行こうか」

バトルマスター「試合場への扉を開く。貴殿の武運を祈ろう」


戦士「(!! 彼らは、さっき会った……また何やら不思議そうな顔をして、なんなんだ…?)」

旅芸人「あ、船酔いのオジサン達だ!元気になれたー?」

賢者「あれ~?そういう君は、薬をくれた少年くんじゃないの。あの時はありがとうね~、って……もしかして、入国を待つ対戦者って…君達なの?」

戦士「……奇遇、だね。君達も同じ道を目指していたのか。けれど、ごめんな。私達も、どうしてもこの国に入りたいんだ。手加減はしないよ」

盗賊「…なんなんだ?お前らは……」

戦士「(こっちが聞きたい)」

バトルマスター「僭越ながら、試合には私が立ち会わせてもらう。一太刀入れるか、負けを認めさせるか。勝った者を入国対象とする!では、試合始めぃっ!」

繋がったか(´・ω・)つ乙



ありがとうございます!

僧侶「盗賊さぁーん!頑張って、くださいー!!」

戦士「(相手の武器も剣、か……しかし、見るに我流か…もしくはあまり使いなれていないようだな)」

戦士「(だが、それをカバーする体勢は我流とはいえ、なかなか。反射神経は優れているように思える…)」

戦士「ふっ!!」シュッ!

盗賊「!?」バッ

戦士「私の剣を避けられるとは、驚いたよ。私もまだまだ修行が足りないな」

盗賊「……素早さを売りにしているもんでね、一応……」

戦士「やああっ!!」ビュン! ブンッ!

盗賊「と!うお!?危なっ!?」ガン! ガツッ!

戦士「(素早さ。素早さか、確かに。それに加えて、やはり反射神経が素晴らしい。武器が剣でなければ、彼のスピードを生かせる何か…例えば短剣であったなら、この勝負、もっとわからなくなっていたな)」

戦士「(きちんとした剣の修行をこなし、物にすれば化けるぞ、この男。それが勿体無い……じっくり手合わせしたいが…)」

戦士「(…私は、やらなければならない!!彼を倒し、この国に入らねばならない……!)」

戦士「…本当にごめん、君達もこの国に入りたいんだろうけど…私も同じなんだ。どうしても、一刻も早く…この国に入って力を借りなくてはならないんだ。あの子を守らなきゃ…!」

盗賊「あの子…?あの旅芸人のガキか?」

戦士「そうだよ。本来、一人の人間にこだわる事は、私にとって良くない事かもしれない。それでも、私はあの子を守りたいんだ。その為なら、この力の全てを注ぐ!!」グッ

戦士「(この奥義…人に向けて打つのは初めてだ。どこまで闘気を抑えられるか、……いや、迷っている暇もない!!)」

戦士「たあああぁぁーッッ!!」ドカァァッッ!!

僧侶「きゃああああ!!と、盗賊さんっ!!」

盗賊「ぐ……は、ァッ…!」ドサッ

バトルマスター「…そこまで!勝者は戦士と致す!行動を共にする旅芸人も含め、入国を許可しよう!!」

旅芸人「戦士様!戦士様が勝ったー!!」

僧侶「盗賊さん!盗賊さん!!大丈夫ですか!?盗賊さんっ!」

賢者「ダメだよ、お嬢ちゃん!動かしちゃ!…回復魔法!」パアァァ

戦士「(…良かった。回復魔法を使える者が一緒なら大丈夫だな。…でも、やっぱり…この技は人間相手に使うものじゃない。申し訳ない事をした)」

戦士「…形だけのものだったが…それでも剣に生きる者へ対する礼儀として、本気で打った。しばらく痺れが続くだろう、ごめんね。彼が起きたら、私が謝っていたと伝えてくれると嬉しいな」

旅芸人「本当は雷みたいのがビリビリもするもんね、やっぱり戦士様は強いや。さあっ聖騎士の王国に入ろう!オジサン達、ばいば~い!」

盗賊「……ま……待ちやがれ、………痛っつぅ…!!」

バトルマスター「この扉の向こうが聖騎士の王国だ。さあ、潜るがいい」ギィィ

―― バタン…

~聖騎士の王国・城下町~

旅芸人「ここが聖騎士の王国……なんだか、すごい。みんな強そうだなあ…」

戦士「ビリビリと肌に伝わる緊張感、武者震いともいうのか…体が震えてくる。…ここで、魔法使いの呪いの事も……」

戦士「…と、そうだ。やっとここまで来れたんだ、王に謁見する前に、この変装を解こう。宿屋を探して、着替えてから城へ向かうか」

スーパースター「宿屋ならば、あの通りの並びに良さそうなのが一軒あったよ?」

戦士「はい、ではそこで………せいやぁ!!」ビュンッ!

スーパースター「ハッハッハ!!危ないではないか、いきなり真剣を振っては!」グニャリ

旅芸人「後ろに仰け反って避けた!ってスターさん!!なんでここに!」

スーパースター「ハッハッハー!置いて行かれて悲しかったよ、私は!!だから頑張ってめっちゃ泳いだら追いついた」

旅芸人「そんな距離じゃなかったでしょう!?そろそろ来そうとは思っていたけど…」

スーパースター「ハッハッハ!!美しい私に不可能はなーい!まあ実際は、丁度すぐ出港する船があったのでね、それに密航する形でここまで来たのだよ」

戦士「密航って。……それにしたって、時間が…貴方もあの入国審査試合を受けたのですか?」

スーパースター「試合?なんの事だい?美しい私は美しく頑張ってあそこの塀をよじ登って入ったよ!」

旅芸人「あの、家よりももっともっと高い塀を!?頑張ったってレベルじゃないよ!しかもそれって密入国じゃない!!」

兵士1「見つけたぞ、貴様!!勝手に我が国へ進入しおって!」

兵士2「掟を破る者は、この国へ入る資格なし!追い出してやる!!」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!どうやら美しい私のファンが追いかけて来たようだ!スキャンダルはごめんだからねえ、私は美しく身を隠そう!さらばだ!ハーッハッハッハー!!」

戦士「…歩く犯罪者め…」

~宿屋~

勇者(戦士)「ふう……さっぱりしたな」

魔法使い(旅芸人)「僕もー!お化粧落とせて良かったよー、顔がムズムズして仕方なかったもん。だから本当に、落とせてホッとしたよ…あー、疲れたあー」

勇者「今日ばかりは休んでおいた方がいいかな…先に進みたいが、無理をしてもしょうがない。怪我を増やしてもいけないし…」

勇者「…休みながら、今後の事について考え、整理しよう」

魔法使い「お城へ行って、お手紙渡して…でも、お城に入るのも、なんだか大変そうだよね」

勇者「ああ。入国ですら、あの調子だったからな。試練はまだまだあるように思える。騎士達とも戦う事になるか…気合いを入れ直さねば」

魔法使い「スターさんは大丈夫かなあ?ちゃんと逃げられたかな」

勇者「奴ならば軽々逃げるかもしれんが…流石にここまでくると、怪しいというか不気味だな……」

魔法使い「………」ジー

勇者「………?どうした?そんなに見つめてきて、私の顔に何かついているか?」

魔法使い「…うん。眉間に皺が」ナデナデ

魔法使い「ねえ、勇者様……なんか勇者様、やっぱり変だよ。さっきの入国試合の時もそうだったけどさ。あのお兄さんに、すっごい技ぶつけたりとか」

魔法使い「確かにあれですぐに勝てたけど、あの技使わなくても、勇者様なら勝てたんじゃない?なんだろ…なんか、なんかいつもの勇者様じゃない気がして」

勇者「………」

魔法使い「…僕の事なら、そんなに気にしなくていいんだよ?呪いだって大丈夫なんだから、今は全然、落ち着いているんだしさ」

魔法使い「だから、その…うんと……上手く言えないんだけど…」

勇者「……いや…ごめんな、私が悪かった。確かに、私は焦っている…気が急いて、また冷静さを失っていたな……」

勇者「君に隠し事はできないね。言われて気づく事がたくさんある。心配かけてごめん」

魔法使い「…ううん。僕は平気だよ。でも、落ち着いてね、勇者様。いつも僕に言ってるじゃん!そんなに急ぐと転ぶよ、って。僕も勇者様には転んでほしくないから…」

勇者「…ふふ。これは一本取られたな。そうだね…頭を冷やさなきゃな。うん、今日はしっかり休む日だ。リフレッシュして、明日に備えるぞ」

魔法使い「うんっ!わかったよ、勇者様!」

勇者「風呂に入って汗を流そう。それからご飯だ。……魔法使い、お風呂は…」

魔法使い「一人で入ってね!!」

勇者「……寂しい…」グスン

魔法使い「この服も着替えちゃおう。僕はやっぱり法衣の方がいいや、着慣れているし…」ゴソゴソ

勇者「………!!魔法使い、それは…」

魔法使い「え?……うわっ!?な、なに、これ……腕に変な模様が…」

勇者「腕だけじゃない、背中にも首にも……全身に、刺青のようなものが広がっているぞ…」

勇者「これは、呪いが進行したという事なのか…?い、痛みは?何か体がおかしくなったりはしていないか?」

魔法使い「ううん、ちっとも……だけど、やだなあ、気持ち悪いよ…びっしり呪言みたいに浮かび上がってるんだもの」

勇者「………!」

魔法使い「…勇者様!ダメだよ、深呼吸して?大丈夫だから、僕は大丈夫だから…」

魔法使い「痛くはないけど、一応、呪傷を抑える術式を施すね…勇者様、手伝ってくれる?背中とかさ」

勇者「……あ、ああ…」

勇者「(…海で、あの仮面男と接触したからか…?呪いを加速させている、と言ったな……呪いをかけた相手は別、だとも…。くそ、必ずあいつを捕まえ、正体を聞かないと……!)」

―――

仮面男「………」スウウ…

魔将「……何をしに来た」

仮面男「そんなに邪険にするなよ。私達は仲間じゃあないか」

魔将「仲間?笑わせるな。魔王様に仕えているとはいえ、我は貴様を仲間と思った事はないわ」

仮面男「やれやれ…私も大概嫌われ者だな。魔竜にもだし、魔獣は魔王様にベッタリ……まあ、ベッタリと言ったら君もだけどな。聖騎士の事しか頭に無いんだからね」

魔将「何が言いたい」

仮面男「武人というのは皆そうなのか?一度惚れ込むと、どこまでも拘ってライバル視。…ふふ、まあいい。別に、雑談をしに来たんじゃない、報告だ」

仮面男「君の大好きな聖騎士……転生した者だが、奴がこの土地に来たぞ」

魔将「それはまことか!?」ガタッ

仮面男「ああ。いずれここに来るだろう。私に感謝しろよ、ここに来るよう導くのは苦労した」

魔将「…ふん。我は貴様に頼んだ覚えはない。故に感謝する義理もないわ」

仮面男「相変わらず素直じゃないな、お前は」

魔将「…影でコソコソ動き、けっして本音を出さぬ貴様に、素直だなんだと説かれる日が来るとは思わなかったぞ」

魔将「魔竜の奴が貴様をなんと呼んでいるか知っているか?…キツネだ。フハハ、貴様にぴったりではないか!!策略巡らせ、運命に干渉するだのと寝言をほざく貴様には、似合いの渾名よ」

仮面男「ハハ、どう呼ばれようと関係ないさ。私に名など必要ない。私の持つ姿は様々だからねえ」

仮面男「それより、その赤の宝玉をしっかり守れよ?聖騎士聖騎士と頭をいっぱいにしてないでさ」

魔将「貴様に言われなくとも…貴様こそ、青の宝玉はどうした。本来、お前が守るはずのものであろう。……なのに、何故。魔竜が持っていた、白の宝玉を貴様が…」

仮面男「……お前が気にする事じゃない。私はそろそろ行くから、後は頑張りたまえ」スウウ…

魔将「………」

―――

~翌朝~

バトルマスター「よくぞ参られた。勇者、そして魔法使いよ。貴殿らの願いは、我が王との謁見、助力であったな」

バトルマスター「しかし、我が王……聖王には、そう容易く会えると思うなかれ。我らは聖王に仕える者なり、我らは掟を守る者なり。力無き者が、聖王の姿を見る事は許されぬ」

バトルマスター「これより、5人の騎士との試合を行う。彼らに勝ち、その強さ示した時こそ、聖王の間に続く扉を開こう」

勇者「……委細承知。私の武器は剣のままで、いいのでしょうか?」

バトルマスター「扱いやすいもので良い。ただし真剣は禁止とする。勿論、此方も貴殿と同じく模造品を使う」

魔法使い「…王様に会うのも、やっぱり大変なんだなあ…僕も剣の練習しとくんだった…戦えたら、勇者様の負担を減らせたのに」

バトルマスター「試合では魔法の使用も禁ず。あくまで己が肉体を力に、武器にすべし。それが掟だ…」

バトルマスター「試合は1日一回。何度挑戦しても構わぬ。ただし、入国試合とは違い、今回は相手に負けを認めさせる事だけを勝利とする」

バトルマスター「では、第一の騎士よ!試合場に!!」

魔法使い「勇者様、頑張ってね!怪我しないように気をつけて!」

勇者「…ああ。…世界最強の戦士……聖騎士達…手合わせ願う!!」

バトルマスター「―― 試合、始めぃッ!!」

・・・

?「……勇者、か……」

?「…剣技の冴え、身のこなし、ふむ……やはり強いな…!なかなかのものだ。最近、騎士達の気の弛みが気になっていたが、これは良い刺激になる……」

?「…剣技もそうだが…なにより、美しい顔立ち…そう、あれは戦の女神だな…。……気に入った!」

?「誰か!誰か居るか!俺の武器を持て!…俺も試合場に降りる!!」

・・・

ガツッ!!

騎士「ぐあッ!!…ま、参った…!!」

バトルマスター「そこまで!勇者の勝ち!!」

勇者「……ふうっ…手合わせありがとうございました」

魔法使い「やったー!一人目クリア!!やっぱり勇者様は強いよー、これなら5人抜きなんてすぐだね!」

勇者「いや、慢心するつもりはない。一太刀も気の抜けない試合だった…やはり、強いな。この国の騎士は……」

バトルマスター「勇者よ、よくぞ勝ち抜いた。貴殿の勝利を祝おう。本日の試合はこれまで。次は翌日同じ時間に……」

?「待て。そう、まどろっこしい事はいらぬ。俺が直々に相手をしてやる……」

勇者「………?」

バトルマスター「な!王子!!何故、このような場へ!?」

魔法使い「え、え。お…王子様?この国の王子様?……筋肉すごー!!?」

王子「俺も一応、この国の頂点に立つ者の一人だからな。修練は絶えず積んでいる、その賜物よ」

勇者「王子ともあろうお方が……私に手ほどきをしてくださるのでしょうか?」

王子「少し違うな。…勇者、お前は聖王に会いたいと申しておるのだろう?」

王子「…聖王……俺の親父は、高齢の為に、最近は床に臥せる事の方が多い。故に俺は聖王代理として、責務に当たっている」

王子「勇者よ。お前の願い、聞いてやるぞ。5人抜きなどしなくてもいい、……俺に勝てたら、お前の望みを全て聞いてやる」

勇者「………!そ、それは本当ですか!?王子!」

バトルマスター「王子!なりませぬ、我が国の掟が……」

王子「黙れ。聖王代理の俺が良いと言っている。なんなら、新しい掟を作ってもいい。…俺の嫁候補は、俺に勝てば願いを叶えられる、そんなところでどうだ?」

バトルマスター「……はっ?」

勇者「今、なんと?」

魔法使い「……よ、よ……嫁!?勇者様が、お嫁さん候補!!?」

王子「ああ!その強さ、美しさ、俺はお前が気に入った!!だから嫁にしたい!」

王子「俺と戦え!勇者よ!お前が俺に参ったを言わせたなら、願いを聞いてやる。しかし、俺がお前に参ったを言わせたら…その時お前は俺の嫁となるのだ!!」

魔法使い「ちょっ、ちょっと待ってよ!そんなのダメだよ、勇者様が、勇者様が……お嫁に行くとか、やだー!!」

王子「何故だ?何が悪い。お前が騒ぐ理由が俺にはわからないんだが」

勇者「………私も何がなんだかわからないのですが。展開が急すぎて……なんだ?私は、話を聞かない唐突な男に好かれる運命でも持っているのか…?」

バトルマスター「……申し訳ない…王子は少々短絡的な部分がある故……口の悪い者は、王子の事を、真っ直ぐ馬鹿と呼んだりも……そんなところも慕われてはいるが…」

勇者「はい?なんです?マッスル馬鹿?……まあ、いい…時間は惜しいんだ、一人で済むというなら、有り難い話だ…」

魔法使い「だだだダメだよー!ゆ、勇者様が負けるとは思わないけど……そ、それでも、もしも負けたら……うわー!イヤだー!!」

勇者「落ち着け、魔法使い。私は大丈夫だ。例え一国の王子といえど、手を抜くつもりはない」

王子「大した自信じゃないか。既に俺に勝てる気でいるのか?ハハッ、そんなところも可愛らしいな。…俺もただ玉座でふんぞり返っているわけではない。この国がなんの国かというのを思い出せよ」

王子「バトルマスター!試合開始の合図を!」

バトルマスター「王子!ですが、勇者は本日の試合を既に終えております。王子との試合は翌日に……」

勇者「私は構わない。王子の気が変わらぬうちに、胸をお借りしたいと思うしな」

王子「だ、そうだ。さあ、合図を出せ。バトルマスター」

バトルマスター「……ぬぬ…、………で、では。これより、王子対勇者の試合…始めっ!!」

勇者「(王子の武器は……やたらでかいハンマーだな。あれを軽々肩に担ぐ筋力はすごいが…そのぶん、速さは落ちるだろう。そこを狙っていけば……)」

勇者「やあっ!!」ヒュッ!

王子「ふんっ!!」ガツン!

王子「…二回斬りつけてきたにも関わらず、一太刀にしか見えぬ技。素晴らしいな、まるでハヤブサの如き素早さだ」

勇者「見切ったのですか、私の技を。…王子、失礼ながら、私は貴方に驚かされました。成程確かに、聖騎士の王国、その王子なだけある…」

勇者「―― たああっ!!せやぁ!!」ヒュン! ブンッ!!

王子「ふっ!ふんぬっ!!」ガン! ガァン!!

バトルマスター「ふむ…今のところは、互いに様子見の打ち合いか…しかし王子の武器はハンマー。当たれば武器ごと砕かれる。勇者には少し不利かもしれぬな…神経を研ぎ澄ますのも、負担になろう」

魔法使い「勇者様ぁ!負けないで!!筋肉王子なんかやっつけちゃえー!!」

勇者「……武器の重さが枷となるかと思ったが、いやはや…お見事です、王子。その身のこなし、並大抵の修練で会得できるものじゃない」

王子「ハハッ、褒められてこんなに嬉しくなるのも久し振りだな!…なあ、勇者。お前が入国試合で見せた、あの技を打ってこいよ!!」

勇者「…そこから見ていたのですか?しかし、あれは……」

王子「人間に放つものじゃない、とでも思っているのだろう?勿体無いなあ!!加減がわからないのは、試す機会がなかっただけだ!何度もやればコツが掴めるさ!」

王子「あの技はまだまだ伸びる!技だけじゃない、お前もだ!!打ってこい!俺の事は気にするな、見ての通り、ヤワな男じゃないぞ!俺は」

勇者「……そうまで仰るのでしたら…失礼致します!!」グッ

王子「難しい事は考えるなよ!本気の本気で来いッ!!」

勇者「―― でやああぁぁぁぁ!!」ドガガガッッ!!

王子「ぬおおおおぉ!!!」ガツッ!! バチバチバチ!!

魔法使い「ゆ、勇者様の奥義を…ハンマーで受け止めた!」

バトルマスター「あの闘気の放出、目を見張るものがあるな…それを力だけで抑え込む王子も流石。拮抗しあい、互いの足が地面を削る程の勢い…」

王子「ぬおうりゃあ!!」バチィッ!!

勇者「!!」

魔法使い「剣が弾かれた!!」

王子「ふー…ふー……ハハッ、アハハハハ!!楽しい、楽しいなあ、俺が見初めた女だけある!こんなに気分が昂るのも久し振りだ!!」

王子「しかし、攻められてばかりでは男が廃るというもの。次は俺の番だな!」ヌウゥッ…

バトルマスター「!! 王子!なりませぬ、その技をここで放つのは!試合場が壊れまする!!おやめください!!」

王子「その時はその時だ!ぬおおおうりゃあああぁぁ!!」

ドッグアアァンン!!!

魔法使い「うわああああ!!?」

勇者「地面が、割れ砕けて……!!もう、馬鹿力ってレベルじゃないぞ!!?」

ゴゴゴゴゴ……

王子「……ふー…おや。ハンマーが壊れちまったか。木製はダメだな、やはり」

勇者「…ぷは!!なんという豪快な技だ、避けるのが一歩遅かったら、地割れに飲まれてしまったな……」

勇者「っ魔法使い!魔法使いは大丈夫か!?」

バトルマスター「……ここに」

魔法使い「バトルマスターさんが庇ってくれたよ~…ああ、びっくりしたあ……」

勇者「良かった……。…しかし、試合場が滅茶苦茶ですね。地面だけじゃなく、壁にまで亀裂が伸びている。こんな状態じゃあ使い物にならない、遅かれ早かれ倒壊する危険性がありますよ」

王子「ハハッ!すまんすまん!!つい、興奮しすぎたな!すぐに直させよう。それまで勝負はお預けだな!」

王子「しかし楽しかったなあ。鬱憤が晴れた思いだ。……おい、勇者。お前の願いを聞いてやる、書簡だったか?それを出せ」

バトルマスター「王子!?」

勇者「え、しかし…私は王子に負けを認めさせておりませんが……宜しいのですか?」

王子「いいんだ、いいんだ。楽しかったんだから!だけど、俺はお前の事を諦めたわけじゃないぞ。試合場が直ったら、また俺と戦え!勝ってお前を嫁にするからな」

バトルマスター「おやめください、王子!!…もしも勇者が王子の嫁になったら、この国がいくつあっても足りなくなる気がしてならん…!!」

勇者「(私が王子の起爆剤になってしまうようだな…はは、確かに…これ以上興奮させたら、国どころか大陸すら沈めかねん。少し勿体無い気もするが、試合場が潰れて決着が流れたのは幸いだったか)」

魔法使い「真っ直ぐ馬鹿の王子様かあ……なんか、嵐みたいな人だなあ…」

王子「ふむ……貿易大国の王から書簡か…」バサッ

バトルマスター「王子自ら掟を破るなど、歴代の聖王様に申し訳が立たぬ…!!」

魔法使い「ああ…バトルマスターさんの胃に穴が開きそうな感じ…」

勇者「こっちとしては、有り難く良い流れだけどね…」

王子「……あいわかった。勇者、それに魔法使い。お前達の身の安全は、俺達の国が保障しよう」

王子「それから、古代兵器の詰まる宝物庫……これは王家の遺跡の事か?難しい話は苦手なんだよなあ」

王子「確か、遺跡内部や場所に詳しい者がいると聞いた事があるが…」

バトルマスター「…現・聖王様ならば御存知でありましょう。が、王子の暴君ぷりが知られては、大目玉を食らう可能性がありますぞ」

バトルマスター「他には…魔法の街にいる研究者達が、その手の知識に長けていると聞きまする」

王子「別に、親父に叱られるくらいワケないさ。…魔法使い、お前は今、敵に古代の呪いをかけられているのだったな?なら、魔法の街に力を借りよう。古代魔法にも精通しているだろうからな」

王子「俺も親父に掛け合ってくる。現在、この国と魔法の街を結ぶ街道途中は、酷い吹雪が起きているとの話だ。使いを遣って、戻ってくるまで少し時間がかかるだろう」

王子「数日か、はたまた数週間か……なるべく早く結果がわかるよう努力する。それまで、魔法使い。お前は俺達の城にいる医療部隊が預かろう」

王子「魔法の街には劣るかもしれんが、うちもなかなかの粒揃いだぞ?…だから、すまんな、もう少しだけ堪えてくれ」

魔法使い「は、はい。ありがとうございます!」

勇者「王子…そのお心遣い、かたじけなく存じます」

王子「あー、やめてくれやめてくれ。堅苦しいのも嫌いなんだ、俺は。何事もわかりやすいのが一番だ!そうだろう?」

王子「さあ!そうと決まったら早速勇者と魔法使いの部屋を用意させよう。おい、バトルマスター!俺達は魔法の街へ向かう使いの選抜だ。手伝え」

バトルマスター「はっ!かしこまりました、王子!」

魔法使い「…勇者様をお嫁になんかあげないけど、それ以外なら…いい人だよね、うん」

勇者「…そうだな。前進できて安心したよ…これで、君の呪いがどんなものか探って…仲間との合流も視野に置ける」


―――

仮面男「………」

仮面男「ふ……稀代の馬鹿王子か。ならばこの手を使うか…」

ベキッ ベリ

仮面男「私の爪から生まれし使い魔よ…その蠱惑を持って、この国を潰せ。終わらぬ悪夢を奴らに見せてやるといい…」

淫魔「………お任せください…」ズズズ…

仮面男「ガキの呪いを最終段階に移す……私は暫く動けなくなるからな、頼んだぞ。淫魔よ…」

―――

~数週間後~

勇者「でやああっ!!」ビュン! ガッ!

王子「せぇい!!おりゃあっっ!!」ブン! ブォン!!

王子「……はあっ、いやあ、やはり強いな。お前は。よし、今日の稽古はここまでにしよう」

勇者「はぁっ、はぁ、はあ……あ、ありがとう…ございました……」

勇者「(強いのは、王子の方だ…ここ連日、共に稽古をしているが…王子は滅多に息切れを起こさない。対して私はどうだ?くそ……こんな調子で、魔王を倒せるのか…)」

王子「ほら、水だ。随分汗もかいたな、風呂の支度をさせよう」

勇者「あ…ありがとうございます。……時に、王子…聖王様は、まだ首を縦には振ってくださいませんか?」

王子「ああ…俺もそろそろおかしいなあと思っていた。昔から頑固な親父だったが、ここまで意地を張るのも初めてだ。まるで人が変わったように…」

王子「何より、お前達が困っている。誰かが困っている、そんな者を見捨てる親父じゃないんだがな…」

勇者「そうですか…」

王子「うーん、すまない。やっぱり俺のせいだろうな、勝手に色々やらかしたから」

勇者「そんな!王子は大変良くしてくださっております。私達は王子の力が無かったら、今此処に立っていられなかったでしょう」

王子「ありがとよ。…ま、親父を頼れないなら、他にも手はあるんだしな。悪いニュースばかりじゃあない。稽古が終わったら話そうと思っていたんだが…」

王子「先日どういうわけか、長らく続いていた吹雪がぴたりと止んでな。そこで足止めを食らっていた使いの者達が、魔法の街に着いたと報告が来たぞ」

王子「宝物庫の事も、お前達が抱える呪いの事も、街一番の研究者に伝えたそうだ。調べるのに時間がかかるようだが、まとまり次第、この城へ連れて来る事となった」

勇者「…それは本当ですか!?」

王子「ああ。俺もホッとした、これ以上お前を城に閉じ込めていては、我慢ならず飛び出して行きそうに思えたしな!」

王子「それから、いいニュースはまだある。…勇者、お前の仲間と名乗る奴らが、魔法の街に滞在している事がわかった」

勇者「―― !!!」

王子「本物かどうかは、俺達にはわからない。だからお前自身が会って見定めてもらう事になるが…」

王子「仲間と名乗る奴らは、一人は青年、一人は少女だそうだ。魔物にやられたのか、青年はかなりの深傷を負っているようで、現在療養中との事。回復次第、この城に来るぞ」

勇者「仲間が……私達の仲間が!ついに!…ありがとうございます、王子!!良かった…やっと会えるんだ……」

王子「色々あったようだが、ほら!急がば回れってやつだろうよ、きっと。もう少しの辛抱だ。…お前が旅立ってしまうのは惜しいと思うがな」

王子「なあ、勇者。やはりまだ、俺との結婚は考えてくれないのか?」

勇者「…王子…それは何度も申し上げましたでしょう。…お戯れを…」

王子「戯れなどではない。俺は自他共に認める馬鹿だが、自分の気持ちに偽りはない。勇者、俺はお前に惚れている。真剣に考えちゃくれないか?」

勇者「お、王子……」

魔法使い「………」ジーッ

勇者「はっ!まっ魔法使い!!いつからそこに!?」

魔法使い「さっきからー。…もう、王子様!ずるいよ、約束したじゃんか!勇者様に告白する時は、僕に教えてくれるって!」

王子「ハハッ!すまんすまん!ここぞって時を逃せなくてな!機嫌を治してくれよ」

魔法使い「イーッだ!!」

勇者「何をやっているんだ、君達は…」

勇者「王子…身に余る光栄でございますが、やはり…申し訳ありません、魔王討伐という使命を果たせていない今、そういった事を考える余裕など、私にはないのです」

王子「……お前も真面目な女だなあ。そこにますます惚れるというものだが…いいさ!折れぬなら、折れるまで攻めればいい話よ!!」

勇者「どうか、お手柔らかにお願いしますね。王子の力で攻め立てられては、私などすぐにも潰されてしまいましょう」

魔法使い「大丈夫!!僕が勇者様の盾になるからね!…勇者様をお嫁さんにするなんて、絶対絶対ダメー!!」

王子「ハハッ、まいったな。勇者、お前をオトす前に、乗り越えなければならぬ、小さな騎士がいるようだぞ」

勇者「も、申し訳ありません、王子。失礼をば……こら、魔法使い!王子に対してなんと失礼な口の聞き方だ!」ゴン!

魔法使い「痛っ!!……うううー…イーッだ!!」

王子「気にすんなよ!恋の前では、どんな男だって騎士になれるものだからな!」

侍女「……御歓談中、失礼致します。湯浴みの支度が整いました故、ご報告申し上げます」

王子「お、ご苦労さん。勇者、魔法使い。先に入っていいぞ。俺はもう一度、親父に会ってくるからさ」

王子「しっかし…まいったな、どうやりゃ親父の機嫌が治るのか……昔は酒を飲ませれば一発だったが、流石に寝込んでいる相手に、それはなあ…」ブツブツ

ドンッ!

侍女「きゃ!?」

王子「うお、っと!?……すまん、考え事をしていて気がつかなんだ!」ガシッ

侍女「い、いえ。私こそ申し訳ありませんでした、廊下の曲がり角にも関わらず、辺りをよく見もせずに…」

侍女「王子が抱き留めてくださらなければ、床に倒れておりました。ありがとうございます」

王子「気にするな。怪我が無かったならいい。時に、親父はまだ起きているか?」

侍女「いえ、先程お世話の為に聖王様の私室に入りましたが、もうお休みになられたようです。お訪ねになるのでしたら、翌日が良いかと思います」

王子「そうか、ありがとよ。起こしてまた機嫌を損ねてもしょうがないしな、…うん、明日にするか…」

侍女「では、私はこれにて。他の仕事もありますので、失礼致します」

王子「ああ。………」

王子「…いや、暫し待て。お前…見かけぬ顔だな?新しく入った者なのか?」

侍女「………はい。先日より、この城に仕える事となりました、侍女にございます」

王子「ふうん……いや、すまんな。仕えてくれる者の顔は全て覚えているつもりだったのだが」

侍女「…いえ。私は地味な女でございますから、王子の記憶に留まらなかったのは、致し方無い話にございましょう」

王子「地味?お前がか?そんな事を言っては、世の女性達が憤慨してしまうぞ。お前は美しい顔をしている」

侍女「まあ、王子……お戯れを」

王子「……いや、本当に。美しい…不気味なまでに美しい。……そう、人が作る事の出来ない美しさだ、…お前、一体何者だ?」

侍女「………ご冗談を。こんな顔、どこにでもありますわ。ですが王子にお褒め頂いた事は大変光栄です、ありがとうございます」

王子「………」

王子「…覚えがない、と言ったが……いや、俺はお前を覚えているぞ…どこかで……確かに……」

王子「……そう、そうだ、お前はさっき、稽古場にもいた…!何故、稽古場と真逆の位置にある、親父の部屋から出てきた?どうやって移動した?お前、何者……うぐ!!?」ガシッ

侍女「……チッ。何が馬鹿王子よ、意外と聡明じゃないの」

王子「ぐ…うぐ、ぐ……!!(口を手のひらで塞がれただけなのに…女の細腕で、これだけの力を…は、外せん……手を剥がせない、何故だ!?)」メキメキ

侍女「まさかアンタにバレちゃうだなんて。勇者にばかり気を取られていたら、まったく。とんだ落とし穴だわ」

王子「(こ……呼吸、が………)」

勇者「………?」クルッ

魔法使い「どうしたの?勇者様」

勇者「……いや、なんでもない。何か妙な気配を感じた気がしたが……、…気のせいだな」

魔法使い「それにしても、お城のお風呂って本当に広いよねー!前に入った山の温泉より広いんだもん、びっくりしちゃうよ。…御付きの人達が一緒に入ってくるのも、びっくりだけど」

勇者「あれには私も困るな。落ち着かなくて。風呂くらい一人で入れるというのに」

魔法使い「僕の気持ち、少しはわかった?勇者様!」

勇者「それとこれとは話が別だ。…ほら、もう部屋に着いた。身支度を整えよう。魔法使い、まだ髪が濡れているぞ?ちゃんと拭かなきゃ、風邪をひくよ」

魔法使い「はーい。今日のご飯はなんだろな~、早く呼ばれないかなーおなかすいたよー」ガチャッ

勇者「………」クンクン

魔法使い「えーと、タオルタオル……」

勇者「(なんだ?この甘ったるい匂い……集中しないと気づけぬ、しかし噎せ返る程に充満している…実に奇妙だ)」

勇者「(集中…そう、集中してみれば……この城全体が臭い。気分が悪くなってくる、この甘い匂い…体や頭の中に入り込んでくるかのようだ)」

勇者「…魔法使い……悪いけど、そこの窓を開けてくれないか?」

魔法使い「どうしたの、勇者様。湯中りでもした?顔色悪いよ」

勇者「そう、なのかもしれないな……少し休めば落ち着くだろう」

魔法使い「大丈夫?誰か呼んでこようか?…あ、あれっ。おかしいな、鍵は開いているのに、窓がびくともしないよ」グッグッ

勇者「なんだと?………本当だ、軋みすらもしないな。どうなっているんだ、一体」ググッ

魔法使い「えいっ!!」ガツンッ

魔法使い「椅子をぶつけてもダメなんて!力が足りなかったのかな…?」

勇者「まるでこの城に閉じ込められたかのようだ…魔法使い、部屋から出よう。聖王や王子が気掛かりだ、魔物の仕業かもしれない!」ダッ

魔法使い「う、うん!……あ、待って、勇者様!廊下の向こうに兵士さんがいるよ?」

兵士「………」

魔法使い「ねえねえ兵士さん、僕達の部屋の窓が開かなくなっちゃったんだけど、他の部屋も同じなんでしょうか?」

兵士「………」

勇者「…待て、魔法使い!何か様子がおかしい!そいつから離れろ!!」

魔法使い「え?…うわ!」ガシッ

兵士「………、……」ブツブツ…

兵士「……捕まえる…連れていく……捕まえる…逃がしてはならない……」ブツブツ

魔法使い「なっ、な、なに!?どうしちゃったの!?兵士さん!」

勇者「せいっ!!」ドスッ

兵士「うぐ…!」ドサ

勇者「当て身で気絶させた。…一体どうしたんだ、本当に。何かに憑かれたような目付きで…」

兵士b「…捕まえる……連れていく…逃がさない……」

兵士c「命令……命令…命令…」

兵士d「逃がさない…捕まえる……命令…命令命令命令命令……」

魔法使い「う、わわわ……なんか怖いよ!!」

勇者「数が多い…!もしや、魅了魔法か何かか!?この甘ったるい匂いの原因はそれか?仕方ない、ここは退こう!」

兵士e「逃がさない…逃がさない逃がさない」

兵士f「命令……命令……」

魔法使い「ま、まだ来る!?みんなどうしちゃったのさ!正気に戻ってよー!!」

勇者「あちこちに兵士達が潜んでいるぞ…!捕まらないようにしないと…」ダダダダ

魔法使い「攻撃はしてこないみたいだけど、不気味でしょうがないよー!」ダダダダ

勇者「ッここは……謁見の間か、鍵は…開いている。ここに入ろう!広いから身動き取りやすいだろうしな」

―― バタンッ

勇者「………!?」

魔法使い「あ……バ、バトルマスターさん!!大丈夫ですか!?」

バトルマスター「う…ぐぐ……お前達…この城から、逃げろ……王子が…乱心を…」ガクッ

魔法使い「バトルマスターさん!!」

勇者「…大丈夫、気絶しただけのようだ。彼を昏倒させる程の…、…王子と言ったな、王子もあの兵士達のようになっているのか?」

王子「………」フラリ

魔法使い「あ…、お、王子様…!!……バトルマスターさんを攻撃したのは…王子様、なの…?」

王子「……捕まえなければならない…この国を潰さなくてはならない……」ヌウウッ

魔法使い「なに!?あの、禍々しい、大きなハンマー!!めちゃくちゃでかいよ!!」

勇者「魔神が持つかのような邪気……王子、それが貴方の武器なのですか?」

王子「ぬうりゃあああ!!」ブォッッ!!

ドゴォン!!

魔法使い「うわあああ!!」

勇者「恐ろしいのは巨大ハンマーじゃない、それを易々と振り回せる王子の力だ!!止めなければ…しかし、王子を傷つけるわけには…!!」

魔法使い「魔法も使えないよ、当たったら怪我させちゃう!どうしよう、どうしたらいいの!?勇者様!!」

勇者「王子!正気に戻ってください!!王子!!」

王子「うがああああああ!!」ブゥン! ブォン!!

バキィ!! ドガン!!

魔法使い「わあっ!うわああー!!も、もう、めちゃくちゃだよー!!」

勇者「くっ…致し方なし!!王子、失礼します!!」

王子「があああああ!!!」ブオッン!!

―― ガキィィン!!

勇者「ぬっ、ぐ……ぐぐ…!!」ギリギリ

勇者「この盾では防ぎきれないっ!…盾が、砕ける……!!捨てるしかない…!―― でやあぁ!!」

王子「うぐっ!?」バシィ

勇者「柄尻での当て身……いや、浅かったか、王子はまだ落ちない…」

王子「おおおおおおお!!」

魔法使い「勇者様ぁ!!危ないーっ!!」


?「……テメーら!!目を潰したくなかったら、固く閉じていろ!!」

魔法使い「―― えっ?だ、誰っ?」

?「すっごい眩しく、なりますよ!目を瞑ってください!!」ブンッ

―― ピカアァァッッ!!!

盗賊・僧侶コンビ来たか!

興奮するな!

熱い展開になってきたな

 +   ∧_∧      +      +
    (0゚・∀・) ドキドキ    。
  oノ∧つ⊂)     +
  ( (0゚・∀・) ワクワク     。
  oノ∧つ⊂)     +   +    。
  ( (0゚・∀・) テカテカ     。
  oノ∧つ⊂)        。
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  ( (0゚・∀・) テカテカ      +
  oノ∧つ⊂)
  ( (0゚-∀-) ワクワク +
  ∪( ∪ ∪            。
    と__)__)


読んで頂きありがとうございます!

勇者「……!!な、なんだ、この光は…!!」

魔法使い「うわわわ…!目を瞑っても、まだ眩しい…!」

王子「うぐわあああ!!!」

―― ドクンッ!!

魔法使い「…え?なに、今の……なんか、疼く…」ドクン

勇者「こ、これは…?…き、君達は、まさか……!?」ドクン


盗賊「…っあー、チカチカするぜ…あのクソオヤジ、なんて魔法石を渡してくれやがんだ」

僧侶「で、でもっ、でも、目を瞑らなかった、あの人には、効果てきめんですっ!しばらく、物がよく見えなくなりますよ…攻撃が、防げますよ!」

勇者「…まさか……まさか、君達が…!?」

魔法使い「入国試合の時に会ったお兄さん達!!どうしてここに?」

盗賊「…話は後にしろ!今はあのデカブツをどうにかする事だけ考えやがれ!!」

僧侶「気絶しているバトルマスターさんを、回復させますねっ…!」パアアッ

王子「うぐっ…あああ……き、貴様らあああ!!」ブン! ブンッ!!

盗賊「やたらめったらハンマー振り回しても、当たらなきゃ意味ねえんだよ。……そらっ!」ガツッ

王子「ぐわっ!!」ドサ

勇者「足を引っ掛けて転ばせた…い、今だ!王子を押さえ込む!」

侍女「…そうはさせないよ!!速度倍加魔法!!」パアアァッ

王子「っぬ!!」バシィ

勇者「うわっ!!」

盗賊「チッ。スッとろい動きが素早くなりやがった。厄介だな。…おい、そこのカーテンに隠れている奴!出てこい、ちょっかいかけんじゃねえ!!」

侍女「…そうね。ここまで来たら、もう隠れる必要もなくなったわ…」

魔法使い「あ!貴方は…お世話をしてくれた、侍女さん…!」

淫魔(侍女)「ふふ。お芝居はもう終わりよ。私は侍女なんて者じゃないわ……淫魔と呼んでちょうだい。主人の命令に従い、お前達を潰しに来たわ!」ボワン

勇者「正体を表したか、魔物め……お前がこの城の者達を、王子を惑わしたのか!」

淫魔「うふふ…女日照りの続く彼らには、少し刺激的だったかもしれないわね」

僧侶「………で……で、」

魔法使い「………?お姉さん?どうしたの?」

僧侶「で…でかああい!!?ななな、なんですか、あれ!!あのおっぱい!!でかっ!?説明不要ですよう~っ!??」

魔法使い「お、お姉さん!?」

僧侶「ちょ、見てあれ!!でか!!なんなんですか、なんなんですか、あれ!!山ですよう、山乳です!!あああ有り得ない、有り得ない!反則だー!!」

勇者「………」

盗賊「すまねえ。アイツ、バカなんだ」

淫魔「おっほほほ…ありがとう、お嬢ちゃん。どう?触ってみる?」バイーン

僧侶「え、いいんですか?それはもう、是非とも」

魔法使い「お姉さん!!?」

盗賊「おい、そこのチビスケ。クソアマの頭をひっぱたいとけ」

勇者「王子を惑わしたのは、あの魔物で間違いないだろう。ならば奴を倒せば、王子は正気に戻るかもしれない」

勇者「王子は私が引き付ける。彼のパワーを押さえられるのは、今のところ私だけだ。あの魔物は君に任せても大丈夫か?」

盗賊「さて、どうだかね。あんまり俺の力を過信するなよ?…ま、努力はするさ」

王子「うおおおおりゃあああ!!!」ブォゥンッ

勇者「目が眩んでいるおかげだな、振りが雑になっている…これなら避けられる!あとは体術で凌ぐ…!!」


淫魔「氷結魔法!!」バキン! バキン!!

盗賊「魔法を放つ速度が遅ぇよ。お前も戦闘は得意じゃねーんだろ?……俺もだ」ヒョイッ


魔法使い「えいっ」ポカ

僧侶「あ痛!?……はっ、わ、私は一体何を…!」

盗賊「らああああ!!」ビュン! ブン!!

淫魔「くっ……!なんて、速い男なのかしら…いやらしいわね……」キン! キィンッ

淫魔「―― 魅了魔法!!」フワアァァ…

盗賊「ぐっ……!?」グラァッ…

僧侶「と、盗賊さん!!」

淫魔「うふふっ、さあ、淫靡な世界に堕ちるがいいわ…!貴方も私の虜となるのよ!!」

ザシュッ!!

淫魔「………!??が、はぁっ…!な……んで、すって…わ、私の魔法が……効かない……!?げほっ!!」

盗賊「悪ィな。巨乳派から転向したんだわ、俺」ドズッ!!

淫魔「ぎゃああああああー!!!」バサアァァ

盗賊「塵になって消えやがった。……なんだ、こりゃ。生爪が落ちてやがる…気持ち悪ぃ」

勇者「でやああああ!!」ブンッ!!

王子「ぬわあああ!?」ドカッ

魔法使い「勇者様の背負い投げが決まったー!勇者様、カッコいいー!!」

王子「うう……ぐ、ぐ…」シュウウゥ

勇者「王子!王子、しっかりしてください!!正気に戻ってください、王子!!」

僧侶「ゆ…勇者様、わた私に、任せてください…!魅了魔法も、解けた今…汚染された精神を、癒しますから!……回復魔法!!」パアァァッ

王子「うぐぐ………こ…ここは……俺は、一体…?」

勇者「王子!良かった、気がつかれましたか…!!」

僧侶「お…王子も、バトルマスターさんも…少し休ませる必要があります……あまり動かさないように、してくださいね」

魔法使い「お城の人達も大丈夫かな…みんな魅了魔法や昏睡魔法を受けていたみたいだし…」

盗賊「眠っているだけの奴らは、直に目覚めるだろうが…精神汚染からの回復はどうにかしねェとな。おい、チビスケ。手伝え、城を回って様子を確認しにいくぞ」

魔法使い「ねー、チビスケって僕の事?やめてよね!僕は魔法使いだよー!!」

~数時間後~

僧侶「…ふうっ。眠りから目覚めた人達にも手伝ってもらいましたが…皆さんに、回復魔法をかけてきましたよう~」

勇者「本当にありがとう……聖王様にも、魅了魔法がかかっていたようだ…先程正気に戻られ、今はお休みになられている。いつのまに、潜り込まれていたとは…不覚」

魔法使い「王子様は魔物に気づいたみたいだけど…隙を突かれちゃったって。あの禍々しいハンマーも、呪われた品みたい……安置所に移したよ」

盗賊「過ぎた事をクヨクヨ気にしてんじゃねーよ。それより、ここに来るまで腹減ったんだが。王族サマの豪勢な飯とか出ねーのか?」

勇者「………」

勇者「……その…君達は、もしかして……神託を受けたという、仲間なのか?」

魔法使い「…お兄さん達が来てくれた瞬間、なんか、何かが疼いた気がした。…あれが、仲間の証…共鳴なの、かな…?」

盗賊「…さあな、証拠といったら何もないが……」

僧侶「でも、でも……うわああん、勇者様~!お会いしたかったですぅ…!すみません、来るのが遅くなってしまって…!!」ギュッ!!

勇者「!!?」キィィーン…!

勇者「あ…あああ………い、今!今、はっきりとわかった!!君達が、神託を受けた仲間だと…!言葉にできない、だが、わかる…伝わる……これが、これが…共鳴…!!」

勇者「そうか。やっと、やっと会えたのか…やっと……!!」ギュウッ

盗賊「……恥ずかしい奴らだな。もしかして、触れりゃ伝わるんじゃねーか?チビスケ、頭借りるぞ」グシャグシャナデ

魔法使い「わ!?ちょっと、髪がぐちゃぐちゃにな…、………!!」キィィンン!!

魔法使い「ぼ…僕にもわかったよ……今、響いた!お兄さん達が、仲間だって伝わる…」

魔法使い「そっか…そっか、そうなんだ!!もう、遅刻だよ、遅刻ー!……えへへ、僕達も気づいていなかったから、おあいこだけど…」

盗賊「……俺にも響いたぜ。心臓とか頭とか、そんなものじゃない。何かもっと別のものが震えた」

僧侶「わ、私にもありました……けど、勇者様達と、私達…やっぱり、どこかで、お会いしていたんですかねえ?さっき、魔法使いくんは、入国試合の時に会ったって言ったけど」

魔法使い「……あ、そっか。あの時はまだ、僕達は変装していたんだっけ。ほら、入国試合の時に対戦した、戦士と旅芸人だよ!あれが僕達だったんだ」

盗賊「変装~?なんでまた、そんな面倒な事をしていやがんだ…」

勇者「話せば長くなるんだが……私達は、今現在、砂漠の国に指名手配を受けているんだ」

勇者「問題に巻き込まれてしまってな。情けない話なんだが、一時期牢屋に入れられてしまい……そこにいた囚人の手助けを受けて、脱獄してきた」

勇者「冤罪とはいえ、それを挽回すべく起こした罪。更には、捕まると戦争の駒にもされてしまう」

勇者「だから変装して、ここまで逃げて来たんだ。この聖騎士の王国に助力を願ってな。……ここに来たのは、もうひとつ理由があるが…」

僧侶「そんな……勇者様、そんなに苦労なされて…!」

魔法使い「でも、本当に良かったよ!合流できたんだもん、これで魔王もやっつけられるね!」

盗賊「気が早ぇよ、チビスケ。…まずはその指名手配を解除すんのが先だ。逃げ回りながらじゃ、動きづらくてしょうがないだろう」

魔法使い「だから僕はチビスケじゃないってばー!」

僧侶「勇者様は無実なんですよね?だったら、大丈夫ですよ!逃げちゃったのも、理由があるんだし……きっと、わかってもらえます…」

勇者「うん…でも、どうだろうな。私が訴えた時も、全く耳を貸してくれなかったから……よっぽどじゃないと、伝わらないと思う」

盗賊「……やれやれ。合流できても、休む暇はなさそうだな、こりゃあ」

追いついた!


今回はクソチビじゃないんだな
心境の変化か?

クソチビ……妖精達
チビスケ……魔法使い
一応使い分けはしてんだな

そっか妖精達がいたか

勇者のことは何て呼ぶんだろ?

ありがとうございます!
呼び名は警戒心とか印象とかで決定する感

僧侶「……でも…、やっぱり、なんか変ですよねえ……なんで、入国試合の時にも…思い返せば、この大陸に着いた時も私達は会っていたのに、仲間だって、気づけなかったんでしょうか…」

僧侶「……運命…これが、運命…なのかな……?」

盗賊「今はそこを気にしていてもしょうがねーだろ。指名手配の事を考えろ」

勇者「……指名手配の件に関しては、解決の糸口は見えなくもない。とにかく、今日は一旦落ち着こう…聖王様や王子が目を覚まされるのも待たねばならない、それに……君達の話も聞きたいからな」

魔法使い「…あ、バトルマスターさんだ!もう動いて大丈夫なんですか?」

バトルマスター「うむ……貴殿らには大変な迷惑をかけてしまい、申し訳ない」

バトルマスター「まだ城内も混乱している。貴殿らは部屋に戻って休んでいてくれ…食事は部屋に運ばせよう。落ち着き次第、呼びに行く」

~勇者達の部屋~

盗賊「うん、旨ぇ。流石王族サマだ、いい肉食ってんな」ガツガツムシャムシャ

魔法使い「いっぱい食べるんだねー、お兄さん…そのお肉、僕にも頂戴!」ヒョイパク

盗賊「盗賊でいい。っつか、俺の飯を横取りすんじゃねーよ、チビスケが」

魔法使い「魔法使いでいいっ!チビスケはやめてよ!!なんかやだー!」

勇者「……そうか…君達も、そんなにも苦労していたなんて…すまない、私が君達を待っていれば良かったんだ。本当にすまなかった……」

僧侶「や!やめてください、勇者様…!勇者様が、謝られる事じゃないです。こうしてお会いできたんだし……もう、いいじゃないですか。ね?」

盗賊「そうだそうだ。大体すんなり合流できていたらなあ、勇者サマ?お前もっともっと苦労していたぜ。何しろこのクソアマは、最初まったく回復魔法が使えなかったんだからな。何度肝が冷えたかわからねェ」

僧侶「も、もう!!盗賊さんっ、それは内緒にしてくださいって、言ったのに~…!」

勇者「……にわかには信じられないな…だってさっきは、あんなにもテキパキ動いていたのに」

魔法使い「うん。僧侶さんがいなかったら、今もみんな苦しんでいたかもしれないもんね!」

僧侶「え、えへへ。…レベルアップ、できましたからね……私も、回復魔法が使えるようになって、本当に良かったって…思います」

盗賊「………」モグモグ

勇者「頼もしい仲間が増えて、本当に有り難いよ。改めて、これからよろしくな。盗賊、僧侶」

僧侶「はい!よろしくお願いします…!私、頑張りますっ…!!」

魔法使い「僕も頑張るよー!!みんなで魔王を倒すんだ!」

盗賊「だから気が早ぇよ。もうちょいゆっくりさせろよな。…まあ、うん。……これからよろしくな」


盗賊 が 仲間に なった!

僧侶 が 仲間に なった!

~翌日・謁見の間~

盗賊「ふわあぁぁ……まだ眠ぃ…」

僧侶「もう、シャキッとしてくださいよう、盗賊さん…!王様の御前ですよ…!?」

魔法使い「…流石に昨日の今日じゃ、ここもぼろぼろのまんまだねー…王子様、すっごい暴れたもんなあ…」

聖王「…勇者、そして仲間達よ。本当にすまなかった、私が至らぬばかりに、御主らには迷惑をかけたな……まったく、私も歳を取ったものだ…魔物に魅了魔法をかけられていたとはな…」

勇者「勿体無い御言葉でございます。聖王が気に病まれる事ではございません、全ては我らの力が足りなかったせい…申し訳ありませんでした」

聖王「いや、私のせいだ。バカ息子の事も、すまなかったな。詫びとして、私はお前達の手助けをする事を約束しよう」

聖王「まず…呪いについては、解明に至らなかった…だが、お前達にかかる指名手配の件は、解除出来る手立てが見つかったぞ」

聖王「魔法の街より来たる、研究者よ。こちらに」

研究者「失礼致します、聖王様……、…って、なんだ。俺の話を聞きたいってのは、あんたらだったのか」

僧侶「あ!け、研究者さんじゃないですか!」

勇者「…知り合いか?」

盗賊「魔法の街で知り合ったクソメガネだ。すっとぼけちゃいるが、知識と実績は、まあ…そこそこだぜ」

研究者「えー…と、砂漠の国についてだが。今、あそこは貿易大国に対して戦争を仕掛けようとしている。何故か?理由は、砂漠の国唯一の水資源、オアシス枯渇の危険性から来るものだ」

研究者「オアシスが枯れてしまう事、イコール砂漠の国滅亡。それを避ける為の、領土拡大、戦争。勝つための駒を欲するが故の勇者拘束……表向きの流れはこんな感じだ」

研究者「まあ、簡単に言えば、根元であるオアシス、水資源をどうにかすりゃ戦争は防げるわけだ。そして、戦争を防げば勇者が狙われる事もなくなる、と」

研究者「そこで出てくるのが、王家の遺跡…この国が守る宝物庫。その中にある魔具だ」

盗賊「宝物庫」ピクッ

僧侶「…そこ、反応しないように!」

研究者「宝物庫、納められている魔具について、様々な文献をひっくり返して調べた結果…魔具のひとつに、永久に水を生み出す、神秘の水瓶というものがある事がわかった」

研究者「これは推測にすぎないが、砂漠の国が戦争を起こしてまで狙うもの。もしかしたら、この水瓶かもしれん」

研究者「誤った使い方をすれば、大陸ひとつ水に沈めてしまう、恐るべき兵器となるが…渇いた土地、砂漠の国で使えば、オアシス復活、いやそれだけでなく、かつてそうだったように緑豊かな土地へと甦るだろう」

魔法使い「…つまり…宝物庫に入って、その水瓶を持ってきて、砂漠の国に渡せばいいんだね?」

研究者「すんなりいくかはわからんが、な。なにせ太古の時代のものだ…伝承通りなら、ただの水瓶になっている可能性もある」

勇者「……貿易大国の執事も言っていたな、魔力が失われているかも、と」

勇者「しかし、今はそれしか手立てがないならば、行くしかない。これから私達は、宝物庫に向かいます。聖王…宝物庫に足を踏み入れる無礼を、どうかお許し頂きたい」

聖王「構わぬ。元より、そのつもりであった。我らは全力を持って、お前達の補佐に当たろう。勇者よ、我ら聖騎士団を率いて宝物庫に向かうが良い」

勇者「…いえ、我々だけで大丈夫です。騎士達は、この国の警備と城の修復に集中させてください」

盗賊「…おいおい……折角楽ができそうだってのに、何を言いやがんだテメーは」

勇者「これは私達の問題だ。これ以上、迷惑をかけられん。…なに、不安を感じてはいないよ。私には頼もしい仲間が三人もいるからね」

盗賊「あー…ったく!ふざけんなよな…この勇者サマはよォ」

僧侶「ふふっ。頑張りましょう、ねっ?」

魔法使い「僕も!勇者様の力になるからね!」

聖王「…では、勇者の意思を汲もう。しかし無理はするな。宝物庫…王家の遺跡周辺も、魔物が蔓延っている地帯。気をつけていくのだぞ」

勇者「はっ!ありがとうございます、聖王様!」

研究者「これは、ここの土地を描いた地図だ。宝物庫の場所に印をつけておいた、持っていけ」

研究者「伝承通り、水瓶の魔力が尽きていたら…人間の俺達では、それを復活させる事は出来ない」

研究者「魔具とは元々、エルフや神族が使っていたものという話もあったから…復活させるとしたら、そいつらの力を借りるしかないかもな」

魔法使い「エルフ…?そんな、おとぎ話に出てくるものを頼りにするってのも…」

僧侶「ううん…その点については、大丈夫…だと思うな。私達…ちょっとしたアテがあるから、ね!」

盗賊「地図を見てみたが、宝物庫ってのは、あの氷の洞窟近辺みてーだな。なら道順はわかる。面倒だが、支度したら出発すっか」

勇者「城下町で必要なものを買い揃えていこう。食糧や水も補充しないとならないしな」

王子「ま…待ってくれ!勇者…行ってしまうんだな」

勇者「…王子!?」

聖王「息子よ、まだ寝ていろと言ったではないか」

王子「挨拶したかったんだ…勇者、すまなかった。俺はまだ修行が足りなかったらしい…歴代の聖騎士達は、精神魔法など一切効かない、心の強さを持っていたってのに…あっさり操られて、情けないもんだよ」

勇者「そんな事ございません!王子、あれは仕方なかった事なのですから」

王子「ありがとよ。…だが、俺は反省したよ。こんなに弱いんなら、お前を嫁にするだのなんだの、言える資格はない…」

王子「体調が整ったら、また修行のし直しだ。本当にすまなかったな……気をつけて旅を続けろよ、勇者。そして仲間達よ。無事の帰りを願っているぜ」

勇者「王子……」

王子「自分で納得出来る強さになったら、改めてお前と向き合いたい。…それまでにお前が他所を向いちまったら、その時はその時だがな。…なっ?」

魔法使い「な、なんで僕を見るのさ…」テレ

王子「ハハッ!頑張れよ、若人!!」

勇者「………」


僧侶「……勇者様…、王子様に求婚されていたんですかねえ…。流石勇者様です…!」

盗賊「そんなお前はトロル野郎から求婚されたけどな」

僧侶「ひいいぃぃ!!!思い出させないで~っ!!盗賊さんのバカぁー!!」ガタガタブルブル


研究者「俺は街に帰って、引き続き研究を進める。古代兵器や魔法……意欲を刺激されたしな。気が向いたら、お前らが見聞きした事の話をしに来てくれ」

魔法使い「あ、是非!僕、魔法の街に憧れているんです!必ず行きますからっ!」

研究者「魔法を扱うならな、一度は来るべきと俺も思うぜ。待っているよ」

つ④

ありがとうございます!

~氷の洞窟近辺~

僧侶「はあぁ……合流前の旅が嘘のようですう…ここまで、すんなりと来れるなんて…魔物が出ても、皆さん強いからサクサク進行できます…」ジーン

魔法使い「そんなに大変だったんだ…」

僧侶「私が戦闘に出ると、いっぱい時間が、かかっちゃったし。賢者さんが仲間に入ってくれるまで、本当に大変だったんだよ~。一匹の魔物に対して、半日かかったりして…」

魔法使い「えー、そんなにー!?僧侶さん、可哀想。お疲れ様!でももう大丈夫だね、勇者様も盗賊のお兄さんも強いから!僕だって、僧侶さんを守ってあげるからね!」

僧侶「ううっ!ありがとう~魔法使いくんー!!」

盗賊「おいテメーら、呑気にお喋りしてんじゃねーぞ。本丸に着いたんだからよ」

勇者「地図によると、この辺りなんだが…それらしき入口が見当たらないな。洞窟の中なのか?」

盗賊「この洞窟には入った事がある。くまなく…とは言えないが、探索した限りじゃあ、宝物庫入口なんて見当たらなかったな」

勇者「しかし、周囲を見渡しても、目につくものはない…やはり怪しいのは、この洞窟くらいだぞ」

盗賊「そうさな…前は、この中にあった落とし穴の先に、目当てのものがあったし…それみてェに、隠し通路があったのかもしれねー」

勇者「よし…中に入ろう。魔法使い、僧侶、聞こえたか?今からこの洞窟に入る……」

―― ピカッ!!

僧侶「きゃあ!?」

勇者「な、なんだ…!?」

魔法使い「勇者様が洞窟の壁に触れたら、その手が光ったよ!?」

ゴゴゴゴゴ…

盗賊「……!?なんだ、こりゃ…幻か?洞窟の入口に重なるように…扉が現れたぞ!!」

勇者「……貿易大国の姫から受け継いだ鍵…それが反応したのか」

僧侶「わ…私でも、わかるくらい……強い魔力反応を感じます…この入口、こうやって、魔法で隠していたんですねえ…」

魔法使い「これなら、鍵を持っている人がいないと、どうやったって見つけられないもんね。すごいなあ…昔の魔法かあ……」

盗賊「…ただの引戸って感じなのに、びくともしねェ。おい、勇者。お前が鍵とやらを持ってんだろ?開けてみろよ」グッグッ

勇者「どれ。……ん、あっさり開くじゃないか。これも鍵の力か?鍵を持つ者にしか、扉は開かれないわけか…」ゴガララ…

魔法使い「だから砂漠の国は、貿易大国のお姫様……鍵を欲しがったのかあ…場所がわかっていても、現れず開かずじゃどうしようもないもんね」

盗賊「…中は…結構奥まで続いてんな。何かの気配も伝わる。テメーら、気をつけて進めよ」

僧侶「うう…薄暗いから、ちょっと怖いです……」

~王家の遺跡・宝物庫~

幻獣「ガアアァァ!!」

勇者「せやあ!!」ザンッ

幻獣「グオオオ…!」シュウゥッ

勇者「消えた……確かに手応えはあったのに。魔物とは違うな、…宝を守る番犬、といったところか…」

僧侶「でも、でも、受けた傷はそのままです…勇者様、回復しますから、腕を出してください」

勇者「いや、これくらい。どうって事ないよ」

盗賊「……小さい傷でも、侮ると致命傷に化ける事もあんだ。回復できる時にしておけ」

勇者「…そうかな?…じゃあ、お願いするよ。僧侶」

僧侶「はい、任せてください!…回復魔法!」パアッ

魔法使い「ねえ、お兄さん。この先、道が2つに分かれているんだけど…どうしよう?」

盗賊「侵入者を迷わせる為に、わざとグチャグチャに通路を作っているって感じだな…とりあえず右に進んでみっか。壁に印をつけておいて…違ったら、ここに戻ってこよう」

魔法使い「…なんか、先がまったく見えないんだけど……間違っていたのかな?この道…」テクテク

勇者「番犬も絶えず襲ってくる、どこかで休まないと、消耗するばかりだな」

盗賊「……仕方ねー、あの曲がり角辺りで一旦休憩を取るか…壁に印、と……」

僧侶「…!?あ、あれえ?盗賊さん、もう壁に印が、ついてますよう!?」

盗賊「な!?…確かに、こりゃあ俺がつけた印だぞ…どういうこった、真っ直ぐ歩いていたのに。封印の塔みてェに、幻惑魔法でもかかっているのか…?」

勇者「……一度引き返そう、あの分かれ道まで戻るんだ。今度は左側の通路を進んでみよう」

タタタタタ…

魔法使い「戻ってきたけど……左側も、さっきと似たような作りだよね。だ、大丈夫かなあ?」

盗賊「行ってみねーとわからんな。ちょっと偵察してくる、お前らはここで休んでいろ」

魔法使い「一人じゃ危ないよ!僕も一緒に行く!」

盗賊「俺一人でいいっつーの。足手まといだ、いいから休んでいろよ、チビスケ」

魔法使い「また番犬が出たらどうするのさ?一人じゃ倒しきれないでしょう、魔法でサポートするから!僕も行くよ」

盗賊「チッ、仕方ねーな……怪我すんなよ?しても捨てていくぞ」

勇者「2人だけで大丈夫なのか?全員で進んだ方が…」

盗賊「偵察だ、先が見えるんなら、ここに戻ってくっからよ。勇者サマはそのクソアマのお守りでもしていろや。じゃあ行ってくるぜ」

僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん、魔法使いくん!危なくなったら、無理せずに、戻ってきてください…!」


勇者「……なんというか、口の悪い男だな、彼は。クソアマって…君の事だろう?」

僧侶「…はっ!呼ばれるのに、慣れちゃってました…!は、早く正さないと…あわわ…」

勇者「…クソアマにチビスケ……私は、勇者サマ、か…なんだか一線引かれている感じがするなあ…」

盗賊「おりゃっ!」ザクッ

幻獣「ゴガアァァッ!!」

魔法使い「お兄さん、危ない!…火球魔法!!」ゴウッ!

幻獣「ギャアアア~!!」ジュオッ

盗賊「…すまねーな、助かったぜ」

魔法使い「えっへへー。やっぱり僕がついてきて良かったでしょう?……でも、そろそろヤバいけどね…魔法を使いすぎて、疲れてきちゃった……」

盗賊「そういや、いいものを持っていたな、俺。……ほら、魔力を回復させる聖水だ。飲んでおけ」ゴソゴソ

魔法使い「え、すごーい!ありがとう!…わー、本物だ、実物は初めて見たよ!どこで手に入れたの?」

盗賊「氷の洞窟の宝箱に入っていたんだ。使う機会を逃したから、いずれ売ろうと思っていたが、そうしなくて良かったぜ」

魔法使い「んぐ……、ぷはっ。…うん、力が湧いてくる感じ……これなら、また魔法が使えるよー」ゴクゴク

盗賊「そいつは良かったな。俺が楽になる。……曲がり角に来たぞ、ここで印をつけて…」

僧侶「…あれ?おかえりなさい、2人共。早かったですね?」

盗賊「!?」

魔法使い「え?…ええっ?なんで?なんでここに戻るの?こっちも一本道だったのに!」

勇者「……やはり、幻惑魔法がかかっているのか?」

盗賊「そうなのかもしれねーな…となると、厄介だぞ。どこかに仕掛けがあるんだろうが…それを見つけない限り、先に進めねー」

僧侶「封印の塔でも、聖騎士の城に入る時も…青の宝玉が光って、幻惑を解いてくれましたが……ま、また、光らないですかねえ…?」

盗賊「……今回は反応がねェな。テメーらで片付けろって事か…あー、疲れた!!俺も休む!!」

勇者「困ったな。仕掛けといっても、それらしいものは無かったぞ?魔法の事にはあまり詳しくないから、わからない」

魔法使い「媒体がどこかにあるんだろうけどねー…部屋とかもなかったし、ずっと通路が伸びていただけだもん…」

盗賊「くそっ、腹立つなあ。おい、クソアマ。お前のメイスを貸せ」

僧侶「え?な、何をするんですか?」

盗賊「ストレス発散だ!」ブンッ!!

僧侶「ちょっとー!!?ななな、なんで投げるんですかー!!投げるなら、その辺の小石とかでいいじゃないですかあ!!」

盗賊「がっ!?」ゴンッ!!

僧侶「きゃあ!?と、盗賊さん!?」

魔法使い「え、え、なんで?前に投げたメイスが、後ろから飛んできて、お兄さんの頭に当たったよ?」

勇者「………」ポイッ

カツン!

魔法使い「あ!勇者様の投げた小石も…!」

勇者「……もしかしたら…壁か、床に仕掛けがあるのか…?」

勇者「…注意深く調べてみると、成程確かに。他の床と色が違う床板があるな。これを避けていけば、先に進めるかもしれない」

僧侶「色の違う床板…い、いっぱいありますねえ……踏まないように、って…ジグザグに歩いていかないと…」

盗賊「……曲がり角のところなんか、ワープ床が一列みっちり並んでやがる。気づかない中で、これを踏まずに歩くのは無理ってもんだな」

魔法使い「せー、のっ!!」ピョンッ

魔法使い「……やったあ!戻らずに先に進めたよ!?」スタッ

勇者「…っ、と。こういう仕掛けだったのか…疲れて動けなくなる前に、気づけて良かったな」スタッ

僧侶「はう!!…痛たたた…」ベチャッ!

盗賊「何やってんだ、相変わらず鈍臭ぇ女だな…ほら、寝てないでさっさと起きろ」グイ

僧侶「はうぅ……す、すみません…鼻ぶつけたあ…」

勇者「角を曲がった先、は……なんだ、随分広い部屋だな…番犬もいないし、何もないのがまた不気味な…」

盗賊「!? 危ねぇ!後ろに下がれッ!!」

ジャキン!!

勇者「ッッ!!?……次の罠は、床から飛び出す鉄針か…!」

支援

ありがとうございます!

魔法使い「あああ……危なっ!!串刺しになっちゃうじゃんか!…だから番犬がいないんだね、このフロアには…」

盗賊「針の無い床もあるな…一度飛び出したら、引っ込むまで時間がかかるようだ。慎重に進めば、どうって事ねー」

盗賊「おい、クソアマ。ちょっと突っ走って鉄針全部出して来いよ。俺達が進みやすくなる」

僧侶「慎重、どこいったんですか!盗賊さんが行ってくださいよう!」

勇者「喧嘩はやめないか、まったく。…剣先で床を叩きながら進もう、みんな、私の後に続いてくれ。横に外れないよう、気をつけて」

ジャキン! ジャキン!!

魔法使い「うわ!…もー、この飛び出す勢い、何度見ても冷や汗かいちゃうよ……」

僧侶「番犬がいなくて、本当に良かったですねえ…こ、こんな緊張する中で、攻撃されたら……考えるだけで、寿命が縮みます…」

勇者「………よし、端についた……次のフロアへ入るぞ」

僧侶「こ…ここにも、番犬はいません、ね……でも、また無駄に広い…絶対何かありますよ~」

魔法使い「えいっ」ポイッ

バチバチバチ!!

魔法使い「うひゃああ…投げた小石が、電撃みたいなのに弾かれていくよ…」

盗賊「ダメージ床か……痛!痛ってぇ!!…歩けなくはねーが、体力はかなり消耗しそうだ」バチィッ!!

勇者「……ダメージ床の先に、スイッチレバーのようなものが見える。あれを倒せば、電撃を切れるのでは?」

僧侶「でも、でも、か、かなり、遠いですよ…?あそこまで行くのは、ちょっと無理ですぅ…」

盗賊「何か他に手はないか考えっか…こっちにもあのレバーが無いか探してみるとか」

勇者「やああああ!!!」ダダダダ!!

盗賊「!!?!?」

僧侶「ちょっ!?勇者様あー!?」

魔法使い「勇者様ー!?ダメージ床を無理矢理走っていったー!?」

勇者「うぐぐ……!!ま、負けるものかああ!!」バチバチバチ!!

盗賊「何やってんだ、バカァァ!!」

勇者「はあっ!!はあ!はあ……、よ、よし……ダメージ床を、突破した…あとは、レバーを…倒す……」ガシャンッ

シュウウウゥゥ…

魔法使い「あ…床の色が変わった……!」

僧侶「勇者様!!勇者様ぁっ!!大丈夫ですか!?すぐに回復しますから!!」パアアッ

勇者「痛たたた……あ、ありがとう、僧侶。…はあ、癒される……君の回復魔法を当てにしていたから、こうやってできたんだよ。ありがとう」

盗賊「こ……こ………」ワナワナ

勇者「…ん?」

盗賊「この、バカ!!テメーはイノシシか何かか!?バカッタレ!!危ねーだろうが!何を勝手に突っ走ってやがんだ!!イノシシ女!!」ゴンッ!!

勇者「痛あっ!!?イ、イノシシ女…!?」

魔法使い「ゆ、勇者様にゲンコツ落とした人なんて、初めて見た…」

勇者「し、しかし!!さっき君も言っていたじゃないか、僧侶に。突っ走っていけ、って……だから私は…」

盗賊「何を真顔でほざいてやがんだ!?あんなの冗談に決まってんだろうが!!バカか!お前はバカか!!無鉄砲バカか!!」ゴン! ゴン!!

勇者「痛い!!痛あ!?」

盗賊「勇気と無謀はまったく違ぇんだよ、覚えとけ!このバカイノシシ女!!…ああっ!たくよう、俺を焦らせやがって!クソが!!」

僧侶「ゆ、勇者様の前では、冗談は言えなくなりましたね……へへ、私は助かります、けど!」

勇者「ううう……無謀じゃないのに…僧侶~、頭をぶたれた痛みも回復してくれ…」グスッ

僧侶「は、はい!…回復魔法!……あ、あれ?」

勇者「………何も起きないぞ?痛いままなんだが…」

僧侶「す、すみません!わ、私、落ちこぼれで……時々、回復魔法を失敗しちゃうんですうぅ…!」

勇者「そんなあぁ~!!」

盗賊「クソアマ!!そいつを甘やかすんじゃねえっ!!仕置きにならねーだろうが、バカ!」

魔法使い「僕もお兄さんと同意見ー。勇者様、今のはすっごく危なかったよ!もうあんな事はしないでよね!怒られて当然だと思うなー」

勇者「ま、魔法使い!君まで!!……ううっ、頑張ったのに…」

僧侶「よしよし、勇者様、よしよし」ナデナデ

魔法使い「…あははっ!こんな勇者様の姿も初めて見たなあ。なんだかお兄さんってより、お父さんみたい。これからお父さんって呼んでいい?」

盗賊「ふざけんな!!俺はこんなでかいガキを持った覚えはねぇッ!お前も殴るぞ、チビスケ!」

魔法使い「チビスケじゃないよ、魔法使いだってばー!!やめてくんなきゃ街中でお父さんって呼ぶよ?」

盗賊「じゃあクソガキだ、テメーは!俺を脅してんじゃねーよ!…ったく、さっさと次に行くぞ!バカ共が!!」

魔法使い「次は、と……うわあっ!?が、崖!?道が途切れているよ…向こうに部屋の入口が見えるのに!」

盗賊「おい、イノシs……勇者。今度は勝手に動くんじゃねーぞ。この距離、ジャンプで届くようなもんじゃないからな」

勇者「今、イノシシって言いかけたな。……もうぶたれたくないし、やらないよ」ムスッ

僧侶「よしよし、勇者様!……でも、どうしましょう…この先に進めないのは、困りますね…」

盗賊「あれだけ罠続きだったんだ、どうせここも何か仕掛けがあるんだろうよ」

魔法使い「……あ…見えないだけで、床がちゃんとあるよ?ほら!」コンコン

僧侶「ひいいぃ…!こ、今度は、見えない床ですかあ…!!こんな高さの上を歩くだなんて~!こ、怖いですう!!」

勇者「道を踏み外したりしたら大変だ…摺り足で、ゆっくり進もう。見えないのが問題なだけで、ダメージなどはないようだしな」

幻獣a「ギャッギャッギャ!!」

幻獣b「ギェー!ギェェー!!」

僧侶「きゃー!!きゃああー!!おっお化けみたいな、鳥があ~!やめて、つつかないでー!!落ちちゃうー!!」

盗賊「クソアマッ!!…っこの、鳥野郎!あっちに行きやがれ!!」バッ

勇者「せいっ!!」ザン!

魔法使い「閃熱魔法!!」バシュッ!!

幻獣c「ギャアー!ギャー!!」

勇者「飛ばれているのと、この不安定な足場……攻撃を当て辛いな!みんな、目を突かれないように気をつけて!!」

盗賊「痛っ!!痛ェッ!!目だけじゃねー、どこを突かれても痛ェっての!鬱陶しいんだよ、チキショー!!」

僧侶「ごめ、ごめんなさい、盗賊さん…!私を庇って怪我を…!」

魔法使い「焼き鳥になっちゃえー!!火炎魔法!!」ゴオオォッ

勇者「は、早く……早く、向こう岸に着かないと…穴だらけにされてしまう…!」

ダンッ!!

勇者「つ、着いた…!みんな!!早くこっちへ!扉を閉めるから、早く中に!!」

盗賊「このクソ鳥が!しつけェんだよ!!」

僧侶「きゃああああ!!いやー!もう、来ないでー!!」

魔法使い「追いかけてくんなよ~っ!もう一回!火炎魔法!!」ゴオオウッ!!

幻獣d「ギャッギャッギャアア!!」

―― ゴゴン…ン!

勇者「…はあっ、はあ、はあ……な、なんとか、間に合ったか…」

魔法使い「ふへえ~……もうクタクタだあ…焦ったあ…」

僧侶「み、皆さん、今すぐ、回復しますからね……」

盗賊「待て、クソアマ。その前にテメーの手当てが先だ。結構突かれていたろ、傷を見せてみろ」

僧侶「え、えっ?わ、私は大丈夫ですよう……後ででいいです、から…先に皆さんの回復を……」

盗賊「いいから見せてみろ!バカ!口答えすんじゃねえ!」

僧侶「ああう……」

勇者「むう……なんだかんだ言って、彼は僧侶には甘いよな?なんだか不公平な気がする」ムスー

魔法使い「……え、なに?勇者様…もしかして、拗ねてるの?さっきぶたれたのを気にしてるの?…へえ~?」

勇者「拗ねてなんかないっ。僧侶、手当ては私がしてあげる!よしよしもつけるから、こっちにおいで!」

僧侶「えっ?は、は、はい!?わ、わかりました!」

盗賊「…なんなんだ、このイノシシ女は」

魔法使い「あっははは!勇者様ってこんなに可愛かったんだ、知らなかった~」

盗賊「バカばっかりかよ、はあ~っ……。…ん……この壁、何か掘ってあるな……文字か?」

魔法使い「なになに?僕にも見せて!……これ、古代文字だね…本で読んだ事があるよ。えと…掠れて読みにくいな。……た、か、ら……?宝?宝物庫のことかな!?」

盗賊「マジかっ!?なら、この先がついにゴールってことか!!」

勇者「この先に、宝が……扉は?開きそうか?」

盗賊「…ダメだな…ただの扉なのにビクともしねえ。テメーの出番だぜ。イノs 勇者」

勇者「また言いかけた!…扉を開くぞ。何があるかわからないから、みんな、気を引き締めておいてくれ…」ガガガララ


僧侶「……っ、わあ…すごい、祭壇の数……」

魔法使い「変な形の物がいっぱい飾られているね。何に使うのかさっぱりわからないや。これが古代兵器なの?」

盗賊「……なんかガッカリした。宝物庫っていうから、金銀財宝の山を想像していたのによぉ…ガラクタばっかりじゃねーか」

勇者「私達が必要とするのは神秘の水瓶だけだ。それらしきものを探してくれ」

僧侶「水瓶……ありますよ、勇者様…!ほら、あの宙に浮いているの…あれ、水瓶…ですよね?」

勇者「きっと、あれだろうな。よし、持って帰ろう…と、行きたいところだが。みんな、気をつけて。何か潜んでいる……嫌な気配がする」



乙乙

乙乙乙

乙乙乙乙

アリアリアリアリアリーガト・ゴザイマス!!(ありがとうございます)

魔法使い「魔物…?でも、どこにも姿が見えないよ。……うわ!?」ドテッ

僧侶「だ、大丈夫?魔法使いくん!転んだりして…血とか出てない?」

魔法使い「イテテ…大丈夫だけど、なんか足が引っ掛かって……って、うわあああ!!?」

幻獣「シュルシュル……」

僧侶「きゃああああ!!?や、やだー!何っ、これぇ~!?やだやだ!魔法使いくんを離してー!」

魔法使い「わわわ……蔓?触手?うわあっ、引き摺られる!たっ助けてえー!!」ズルルル

勇者「魔法使い!私の手に掴まって!!」

盗賊「チッ、絡まってほどけやしねェ……勇者!そのままクソガキを押さえとけ!蔓を斬り落としてやる」ザクッ ザシュ

勇者「魔法使い、火の魔法で焼いてしまえ、こいつらを!!」

魔法使い「ご、ごめんなさい、勇者様…さっき転んだ時に、杖を落としちゃって…あの蔓が持って行っちゃったんだ!」

僧侶「わわわ…つ、次から次に蔓が伸びてきますよう…!」

盗賊「キリがねーな…大本を叩かねェと。杖がありゃあ魔法が使えるんだな?取り返してくる!」

勇者「気をつけて!この蔓、再生スピードも早いぞ!!斬ってもすぐに復活する!」ザンッ!!

盗賊「くそ、鬱陶しいな…!!邪魔すんなっつーか、杖を返せよ、こいつ!」

盗賊「ほら、クソガキ!杖だ、さっさと焼いちまえ!」ブン

魔法使い「僕の杖!ありがとう、お兄さん!ようし…火炎魔法!!」ゴアッ!!

幻獣「シュシュウウウ…シャアアアア!!」

勇者「うん、やはり火には弱いようだな…このまま追い詰めて、一気に倒すぞ!!」

僧侶「蔓の量が増えてます~!お、怒ってるんだ!うわーん!気持ち悪いぃ、服の中に入ってくる~!やだやだ!!いやー!!」シュルルル

盗賊「この!…クソアマ、俺から離れるなボケ!!クソガキ、こっちにも火ぃよこせ!斬るだけじゃ追いつかねえ!」ザクッ ブチッ

魔法使い「火炎魔法!!……うう、もう魔力が…なくなっちゃう…!」ゴオォォ

勇者「あの蔓の塊を斬れば倒せそうなのに……!あそこまで、届かない!」

盗賊「そうだ…魔法剣だ!クソガキ、勇者の剣に火の魔法を放て!俺は以前、賢者のクソオヤジに、魔法を剣に乗せてもらった事があるんだ。魔法剣なら勝てる!」

魔法使い「ま…魔法剣?上手くいくかな……勇者様ーいくよー!?…火炎魔法!!」ゴッ!!

勇者「っ…!なんと……私の剣に、炎の力が…こ、これなら!!せやぁ!!」ザスッ ジュウウウ!!

幻獣「ギャアアア!!シャアアア~!!」

勇者「効いたッ!勝てる、いける!!」ザクッ ザシュ バシュッ!!

勇者「蔓の芯め、喰らえ!炎の魔法剣を!!―― だあああっ!!」ドズ!!

幻獣「ギャバアアァァァ…!!」ボジュウウウ

魔法使い「や、やった…蔓が引いていく……良かったあ…もう、魔力が空っぽだもん。疲れたあ…」

バサァァッ!!

僧侶「蔓も…全部消えていきます!よ、良かった……気持ち悪かったあ…」

盗賊「くそっ、俺ももうマジで疲れた……一歩も動けねェよ…」

勇者「…もう、番をする者はいなさそうだな……?水瓶を取ったら、ここで少し休憩しよう…このままでは、帰る途中で全滅してしまう」

僧侶「なら、聖水を使って結界を作ります、ね。そこなら…例え魔物が来ても、私達の姿は見えなくなるでしょうから…」

魔法使い「ねー、お兄さん。あの魔力回復の水、もっとないの?」

盗賊「あの一本だけしか無ぇんだよ。辺りは俺達が見張っていてやっから、少し寝ていろ。そうすりゃちょっとは回復するだろ?」

勇者「……これが、永久に水を生み出す…神秘の水瓶か…」スッ

勇者「…ヒビが入っているな。水など一滴もない、ただの壊れた水瓶だ。やっぱり、尽きているのか…魔力が…こうなると、周りにある兵器も同じなんだろうな」

僧侶「結界を作り終えましたよう~。勇者様も休んでください、怪我の手当てもしましょう」

盗賊「今のうちに飯食っとくか…クソガキが魔法を使えないとなると、途端にめんどくせーな、火を焚くの」

勇者「……そうして、便利な魔法に頼ってばかりいたから…人間は過ちを犯してしまったのだろうな……森を砂漠にしてしまう程」

僧侶「この水瓶で、元に戻せるといいですね。…勇者様、次はエルフの村に行きましょう?そこならきっと、この水瓶の事も教えてくれると、思います」

僧侶「私達…前に、エルフ村に立ち寄った事が、あるんです。エルフさんも、妖精さんもいたから、昔の事…知っている人がいるんじゃないかな、って」

勇者「エルフの村…そんなものがあるのか。すごいな、君達は。私よりよっぽど冒険している気がするぞ?…片や私は変態に追いかけられてばかりだったのに…」

盗賊「ほら、テメーら飯だ。パンに炙った干し肉を挟んだぞ。クソアマはこっちな、肉の代わりに木の実ジャムだ」

僧侶「あ、ありがとうございます、盗賊さん」

勇者「…なんで僧侶だけは別なんだ?」

僧侶「あ…わ、私、お肉苦手で……食べようと思えば食べられますけど、…勇者様も、ジャムが良かったですか?」

勇者「ううん、肉でいいけど…そうか、僧侶は肉が苦手…」

勇者「…無理もない話なんだが、私は君達の事をよく知らない。それがなんだか寂しく感じられて仕方ないよ。もっと君達の事が知りたい。話を聞かせてくれないか」

盗賊「……テメーは本当に、真っ直ぐ突っ走ってくるなあ…寂しいとかそんな事、ストレートに言うなよ。恥ずかしいヤツ。だからイノシシ女なんだよ、バカ」

勇者「またイノシシって言ったな!」

僧侶「うふふっ、私は嬉しいですよう、勇者様!魔法使いくんが起きてから、みんなで色々お話しましょうね!」

~数時間後~

魔法使い「ううん……、…ふああぁ…」ムクッ

僧侶「あ、魔法使いくん。おはよー、目が覚めた?大丈夫?」

魔法使い「ん…おはよ、僧侶さん……あれ、お兄さんと勇者様は寝ているんだ?僧侶さんだけ起きているの?」

僧侶「うん、今は私が見張りの番だから。私はもう休んだし。魔法使いくん、ご飯食べる?盗賊さんが魔法使いくんのぶんも作ってくれたよ、温めよっか?」

魔法使い「…ううん……なんか、あんまりおなか空いてないけど…食べておこうかな」

僧侶「そう?じゃあひとつだけ温めようね。残ったら盗賊さんが食べるって言ってたし…」

魔法使い「うん。……あ…僕、ちょっとあっちの物陰に行ってくる。すぐ戻るよ」

僧侶「えっ?だ、ダメだよ、結界から出たら危ないよ……魔物が来たらどうするの?何をしにいくの?」

魔法使い「え、えっと、えっと……その…トイレだよ!トイレ!」

僧侶「トイレ?えー、罰当たり~。でも仕方ないか…じゃあ、私も一緒に行くよ。近くで見張りしてあげるから」

魔法使い「ええっ!?い、いいよ~!ついてこないでよ!恥ずかしいじゃんか!!」

僧侶「だって、一人じゃ危ないでしょう?トイレなんて、より無防備になるんだし…誰かと一緒の方がいいと思うな」

魔法使い「………」

魔法使い「………ねえ、僧侶さん。僧侶さんは…聖騎士の王国で、王子様が暴れた時、呪われたハンマーの解呪をやっていたよね」

僧侶「え?う、うん。あれは、成功して本当に良かったな……初めてやったから…」

魔法使い「…そしたらさ、僕にも、あの解呪魔法かけてくれないかな?」

僧侶「……魔法使いくんのは、呪われた装備品じゃないでしょ?効果があるかどうかわからないよ…?」

魔法使い「それでもいいよ。…あと、この事は内緒にしてね。特に勇者様には絶対秘密ね?僕も、聖水使用の解呪法を一緒にやるから」

僧侶「え?で、でも……」

魔法使い「お願い!絶対秘密にして!…勇者様、心配性だから……この事を知ったら、大騒ぎになっちゃう。今、そんな騒ぎを起こしている場合じゃないしさ」

僧侶「……で、でも、でも…勇者様は、魔法使いくんの事を本当に大切にしているみたいだし……だったら、内緒にするのは…」

魔法使い「落ち着いたらちゃんと話すからさ!約束するよ。ね?……服の上からでいいから、背中に魔法をかけて。おなかとかは、自分でやるからね」

僧侶「う、……うん…わかった。でも、早めに話してね?勇者様に。心配かけたくないって気持ちもわかるけど、そういった事は内緒にしちゃダメだよ?」

魔法使い「大丈夫ーわかってる!じゃあ、よろしくね?終わったらご飯食べるから!」


勇者「……くー…すぴー……」

盗賊「………」

・・・

勇者「うう…ん、っと。ふう…少し休めたら、気が楽になったな」

魔法使い「これだけ仲間がいると、安心して休めるねー」

盗賊「…おい、クソガキ。小便しに行くぞ、ついてこい」

魔法使い「…あ、そういえば…行くの忘れてたや。うん、一緒に行くよー。でもクソガキはやめてったら!」

僧侶「…私の時はあんなに嫌がったのに~、男同士だからなのかな…?」

勇者「子供と思っていても、一丁前になあ…ふん、別に寂しくなんかないからな。女は女同士仲良くしよう、僧侶」

僧侶「はい!仲良くしますよう~、勇者様っ」

盗賊「……くだらねェ。バカばっかりか」

魔法使い「ねえねえ、これからどうするの?水瓶の力はもう無いみたいだけど…これじゃ砂漠の国は納得しないよね」

盗賊「そういや、お前は寝てたっけな。…ここから出たら、エルフの村に行く。そこで相談するんだ、糸口が見つかるかもしれねーからな」

~元・魔の吹雪地帯~

僧侶「勇者様が洞窟から離れたら、宝物庫の入口も消えちゃいましたね…」

勇者「仕組みがまったくわからない。古代の魔法は本当に不思議なものばかりだな。今の私達で再現する事は不可能に近い気がするよ」

盗賊「この先にエルフの村があるはずだ…あのクソチビ2号…妖精がふらついてりゃあ、わかりやすいんだが…」キョロキョロ

僧侶「偶然を待つのも、大変…ですよねえ。……目印とか、聞いておけば良かったな」

勇者「………魔法使い?顔色が悪いぞ、大丈夫か…?」

魔法使い「……ん…大丈夫……ちょっと、疲れた…だけだよ…」

盗賊「………」

盗賊「クソガキ。こっちに来い。おぶってやる」

魔法使い「え?で、でも。邪魔になっちゃう、でしょ…いいよ、大丈夫だから…」

盗賊「うるせえ、ゴチャゴチャ抜かすな。ガキがいらねー気を使ってんじゃねえ」

魔法使い「ご…ごめんなさい…お兄さん……」

勇者「……魔法使い…」

僧侶「あの、勇者様……魔法使いくんの呪い、やっぱり…かなり、進行しています……私じゃ、解呪できませんが…もう一度、休憩を取りませんか…?」

僧侶「気休めにしか、ならないかもしれないけど…解呪魔法、かけてみますから……」

勇者「………ああ。そうしよう、薬草もあるだけ使って、魔法使いの体力を回復させて…」

妖精「あら、妖精の匂いがすると思ったら。ちょっと、こんなところで何をやっているのよ。旅に出たんじゃなか ぐぇっ!」ガシッ!!

盗賊「よーし、よくふらついて来やがったな。つくづく運がいいぜ俺は。飛んで火に入るなんとやら、テメーらの村に連れていけよクソチビ2号」ギリギリメキメキ

妖精「火じゃなくて貴方の手じゃないの、入ったのは。やめてちょうだい、どれだけ作りたがるのよ、妖精の搾り汁」ギュウウウウ

~エルフの村~

勇者「なんと美しい……!まるで夢の中にいるようだ…こんな場所があったなんて……」

魔法使い「…すごい……ここにいると、少し楽になってくる感じ…さっきまで、あんなに苦しかったのに……」

盗賊「賢者のクソオヤジが言っていたな、居るだけで魔力が回復する、って。ここならテメーの呪いも癒されるかもしれねー」

妖精「呪い…やっぱりその子、呪われているのね?邪気が凄まじく溢れているわ。ここにいても、呪いを断たない限り、意味はないわよ」

僧侶「あの、この呪いを解く、解呪魔法…どなたか、使える方はいらっしゃいませんか?わ…私の魔法じゃ、解けなくて…」

妖精「残念だけど、ここにはいないわ。古代の呪いでしょう?それ。こう見えて、私達はまだまだ若いのよ。古代の呪いには古代の解呪法しか、対応できないわ…」

勇者「そんな……じゃあ、やっぱり呪いをかけた奴を倒すしかないのか…?」

盗賊「情けない事ほざいてんじゃねーぞ?どっかに居ないのかよ、呪いを解ける奴が。なあ?俺達困ってんだよ、助けちゃくれねーか、コラ」メキメキ

妖精「不思議ね、私には助けてほしいって頼む態度に思えないんだけど、気のせいかしら。私の体がますますくびれていくのも気のせいかしら」ギュウウウ

妖精「…解呪法の使える、長い時を生きる者。心当たりが無くもないわ。とりあえず、その子を一旦寝かせましょう。エルフのおうちに連れていくの、回復薬とかもあるから」

盗賊「だから俺の服の中に入るな……まあいい、エルフの家ってのはどこだ?案内しろよ」

妖精「貴方、本当に妖精の匂いが強くなったわね。落ち着くわ。……エルフのおうちは向こうよ、あの花畑の中」

僧侶「魔法使いくん、もうちょっとの辛抱だからね…!頑張って…!」

魔法使い「うう……う…」ズズズ…

エルフ「こんなに酷い呪いは初めて見たわ…刻一刻と、この子の命を削っている。結界を張って、進行を遅らせましょう。それから回復薬を。貴方、癒し手よね。手伝ってくれる?」

僧侶「は、はい!なんでもやります、教えてください…!」

妖精「…今は、彼女達に任せましょう。村長様に許可も頂いたわ、私達はこれから滅びの里に行くわよ」

勇者「滅びの里?」

妖精「私が産まれた里よ。元々は緑豊かな大地だったけど…現在は、砂漠と化しているわ。その里にいる長老が、この世でたった一人、古代から生き続けている者。長老なら、呪いの解呪法も知っているでしょうし」

妖精「…そして、貴方が持っている魔具も。直せるのは、神族以外では、長老だけよ」

勇者「!! 気づいていたのか…魔具を持っている事を」

盗賊「相変わらずスゲーな、テメーの勘っつーか嗅覚っつーか……おい、何をふんぞり返ってやがる。褒めてねーぞ」

妖精「さておき。滅びの里なら、私の移動魔法ですぐに行けるわ。準備はいい?」

僧侶「ま…待ってください!勇者様…魔法使いくんが、勇者様を呼んでます…」

勇者「私を?…すまない、少し待っていてくれ。魔法使いのところへ行ってくる」

妖精「…あ、私もちょっとエルフの所に行くわ」

僧侶「……ねえ、盗賊さん」

盗賊「あん?」

僧侶「勇者様の事、お願いします…勇者様、沢山の責任を背負っているけど……勇者様だって、女の子です。すごく辛い事に直面したら…勇者様を癒すのは、私達です…」

盗賊「………」

僧侶「わ、私も、勿論癒しますが…盗賊さんも…支えてあげて、くださいね。勇者様の事……、…ふぇっ?」ナデナデ

盗賊「………バカ女」ナデナデ

僧侶「あうあう、……???」

勇者「魔法使い!大丈夫か?待っていてくれ、私が必ず君の呪いを解いてみせる。もう少しの辛抱だからな」

魔法使い「……勇者様…」

魔法使い「………」キュッ

勇者「……魔法使い?手を握って…どうした」

魔法使い「…僕ね、勇者様を信じてる。僕は呪いなんかに負けないよ、勇者様もみんなもいるし。…僕だって、勇者様が思っているより、ずっとずっと強いんだから」

魔法使い「今は……悔しいけど、動けない…でも、僕は…絶対負けないよ。勇者様を守るんだ、その為に沢山勉強した……」

魔法使い「勇者様…僕は大丈夫だから。勇者様もみんなもいる……」

魔法使い「だから、…迷わないでね。勇者様。みんなを助けてあげてね。それが出来るのは、勇者様だけだからね?……そして…勇者様を助けるのは、僕なんだ……僕達なんだ…」

勇者「…魔法使い……」

魔法使い「いってらっしゃい、勇者様。気をつけてね」ニコッ

~滅びの里~

妖精「……はい、到着したわよ」

勇者「―― っ!?…すごい…一瞬にして、砂漠についてしまうなんて。海を飛び越えて?いや、本当に一瞬だった…これが移動魔法……」

妖精「人間が使うには、まだまだ研究不足でしょうけどね。結構魔力使うのよ?これ。さあ労りなさい、崇めなさい、私を」

盗賊「時間が勿体無ェんだ、さっさと事を進めるぞ」ギュウウウ

妖精「ふ、もう慣れてきたわよ、搾られるのも。…里の入口を開くわ。蜃気楼の向こう側へ行くわよ」ギュウウウウ

・・・

勇者「ここが…滅びの里。……砂漠の中に、鬱蒼とした森が…?」

盗賊「だが、実際はただの蜃気楼らしい。俺はここでほとんど寝ていたから、よくは知らねーが……家などは本物でも、木々は偽物だ」

女妖精「ッ人間!?貴様ら!!ここで何を、いや…どうやってここに入った!?」

男妖精「里に立ち入る不届き者が!殺す!!」

勇者「ま、待って!勝手に侵入した事は謝ります、しかし訳があるのです、話を聞いて頂けませんか!!」

男妖精「人間の話など、ましてや侵入者の話など、聞く耳は持たぬ!!」

女妖精「殺す!人間は殺す!!侵入者は殺す!!」

盗賊「持ってないなら今から持て、ボケ!頼むから落ち着け、俺達の話を……」

妖精「…私が彼らを連れて来たのよ。この人達の言うとおりだわ、少し落ち着いたら?相変わらず血の気が多いのね、アンタ達。いやんなっちゃう」ヒョコ

男妖精「!!?」

女妖精「…妖精……お前、今更どの面を下げて、この地へ帰ってきた。貴様の居場所はもうここには無い。去れ。人間と馴れ合う貴様の顔など見たくもない。虫酸が走る」

妖精「残念ね、そうもいかないのよ。アンタ達に用はないわ、そこをどいてちょうだい。私達は、長老に話があって来たんだから」

男妖精「婆様に?許可しない。するわけがない。去れ。この里から去れ!」

妖精「だから言っているでしょう、アンタ達に構っている暇はないわ。そこをどきなさい!」

妖精「明日を信じない、八つ当たりしかできない、殻に閉じこもるしかできないアンタ達なんて大っ嫌いよ!」

妖精「…この人達はね、魔具を持ってきてくれたのよ?わかる?長老の力が必要なのよ。もうこれ以上同じ事を言わせないでちょうだい。…そこをどいて!」

女妖精「…魔具だと…!?」

勇者「…これです。王家の遺跡、宝物庫より持ってきました。ですが、魔力が尽きており、水は枯れております。これを直して欲しいのです」スッ

男妖精「それは……!人間に奪われた、神秘の水瓶!!?…そんな…本物……?嘘だ、そんな事が…人間が…?」

妖精「はいはい、さっさとどく!アンタ達はずっとそこで呆けてなさい!あっかんべー、だ!!」

気になるとこでww



おっ

ありがとうございます!

妖精長「………」

盗賊「こいつが、長老……?随分若く別嬪じゃねーか。本当に一番の長生きなのか、信じられねえ」

妖精「…お久し振りです、長老」

妖精長「……その声は、妖精ですか。…それに、人間の男……まさか、二度会う事があるとは、ね…」

妖精長「…そして……この魂は、………そう。そうなのですか……」

妖精長「………」

勇者「…長老様。貴方の力をお借りしたく参りました。勝手に里へと立ち入った無礼は、心からお詫びします。私達は……」

妖精長「いえ。言葉で語らずともわかります。…私は遥か悠久の時を生きてきた者。この目は二度と光を映さぬ、しかし長く生きてきた故に、少しだけですが、人の心が読めます」

妖精長「貴方達が、何故この里へ訪れたか……約束…私達は約束を何よりも大切にする……貴方との約束も、今…果たしましょう……」

勇者「……約束…?」

妖精長「………」

妖精長「……水瓶の修復…解呪……どちらも、為し遂げたい…危機に瀕した時、助けると………私は、約束…した……」

盗賊「…おい。大丈夫か?お前……なんか弱々しくなっていってねえか?」

妖精長「……私達は…何よりも、約束を………大事にする…けれど、ごめんなさい……私の寿命は、もう…尽きる………」

妖精長「約束を…守れない……ごめんなさい…」

妖精長「…ひとつ……ひとつだけ、なら………どちらかひとつだけなら、できます…選びなさい…水瓶か…解呪か……どちらか、ひとつ…叶えて、あげます……それが…約束だから………」

勇者「………!!?」

盗賊「な…!どっちかって、両方はダメなのかよ!?」

妖精長「…無理……どちらか…ひとつ………選んで…早く……」

盗賊「そんな…、そんなの、解呪に決まってんだろ!?クソガキの命がかかってんだ!当たり前だろ、なあ!?」

勇者「………」

盗賊「天秤にかけるもんじゃねえ!わかりきってる!そうだろ、勇者!おい、しっかりしろ、聞こえたか!?解呪だ!解呪の方法を……」

勇者「―― 待てッ!!!」

盗賊「ッ!?…勇者……?」

勇者「………」

勇者「………そうだな。天秤にかけるものじゃない。答えはわかりきっている」

勇者「長老様。……水瓶を直してください」

盗賊「っはあ!!?何を言ってんだ、テメー!!クソガキがあんなに苦しんでんだぞ!?水瓶がどうこうじゃねえだろ!!」

盗賊「水瓶なんざ無くとも、指名手配をどうにかする方法なんざ、いくらでもある!!無視したって構わない、だったら解呪を…」

勇者「………水瓶の力を使えば、戦争を防げる。救える命が沢山ある」

勇者「水瓶の力を使えば……砂漠が、甦るんだ………だったら、…水瓶を、直してもらう」

勇者「長老様。水瓶をお渡しします。人間が犯した過ちを、心からお詫び致します…どうか、水瓶を直して頂けませんか」

盗賊「ばっ……バカ野郎…!!」

妖精長「………」

妖精長「………確かに…受け取りました……。この、形………私達の、水瓶…」

妖精長「…ああ………記憶の中でしか、見る事の無くなった森……生きているうちに、再び…会える、なんて……」

妖精長「ありがとう……貴方達、人間が犯した罪は、忘れない…けれど………謝罪の気持ちも…私は、忘れないわ……」ピカッ!!

勇者「う……?」

盗賊「水瓶が…長老が、輝いて……?」

―― ゴボゴボッ

妖精長「…甦れ、私達の森よ………その美しい姿を、また見せておくれ。踊りましょう、歌いましょう。私達は貴方を愛している。美しい木々よ、……愛しているわ………」

―― パアアアアァァッ…!!

男妖精「………!!?こ…これは……!!」

女妖精「あ…あああ……!!幻じゃない…樹が…川が……甦る…!あああ、これは、…これは…!!」

男妖精「…私達が愛した里が……甦る…!渇いた大地が、潤っていく……!!」

妖精「……綺麗ね…懐かしいわ、…赤ん坊の頃に見た姿そのまま……おはよう、貴方達。起こすのが遅くなってごめんなさい」

妖精「もう悪夢は見ない。これからは、毎日見られるのよ、安らかな夢を。ね?明日を信じて良かったでしょう。夜は必ず明けるのよ、明日は必ずやってくるのよ」

妖精「おはよう、…おかえり。愛しているわ、今日も明日も明後日も。これからもずっと、ずっと、愛してる」

妖精「……ありがとう…人間達……森を甦らせてくれて、ありがとう」

女妖精「うっ…うっ……うわあああん……!」

男妖精「………み…認めない…人間を、認めるわけには……く、…くそぉッ…!」

妖精長「―――」

勇者「……ありがとうございました、長老様…本当に、ごめんなさい。長く苦しめてしまって、ごめんなさい………どうか、安らかに…お眠りください」

盗賊「………」

勇者「…行こう、盗賊。妖精達に長老様の事を伝えねば。それから砂漠の国へ向かうぞ」

盗賊「………」ギリッ

盗賊「……テメー…良かったのかよ、これで」

勇者「………」

盗賊「迷いはなかったんだな?」

勇者「………」

勇者「………あの子は、…私達を…私を、信じてくれている」

盗賊「………」

勇者「あの子は強い。大丈夫だと言っていた、信じてくれている、迷うなとも言っていた…そう、迷うな、って。私は…私は、……迷っていられない。一人の人間に拘ってはいけない。みんなを守らなきゃいけないんだ」

勇者「魔法使いは私が救う。なに…呪った奴を倒せばいいんだ、ただそれだけの事だ…」

盗賊「………」

勇者「さあ行くぞ。時間は無いんだ、テキパキ行動しなければ」

盗賊「……おい、勇者。こっちを向け」

勇者「…うん?」

―― ゴンッ!!

勇者「!!?」

ゴン! ゴンッ!! ゴツッ!!

勇者「い…痛い!痛いっ!!やめてくれ!!何をする、いきなり頭を叩いて…!!」

盗賊「痛ェか?そりゃそうだろうな。力一杯やったからよ」

盗賊「痛いんなら、泣け。…今なら、その理由で泣けるだろ。今なら、……今のうちなら、泣けるぜ。俺のせいでな」

勇者「………!!?」

勇者「な…何を……私は、これくらいの痛みで、なんか……、……あれ…?」ポロッ

勇者「……どうして…なんで……?もっと、もっと痛くても…泣いた事なんか、なかったのに……どうして…」ポロポロ

勇者「…どうして……君に叩かれると、……涙が出るの…?」

盗賊「………」

盗賊「慰めたり励ましたり、抱き締めるのも、俺の全部は予約済だ。この先永久に続く予約だ」

盗賊「でも、予約した奴は、とんでもねェお人好しのバカだからよ。席を譲ってくれるらしいぜ?」

盗賊「今日だけ特別だ。…背中くらいなら貸してやる。背中だけな。……耳は塞ぐ、目も閉じる。何も聞かないし、何も見ねーよ」

盗賊「今のうち、だけだ。……泣けよ。俺は聞かないし見ない。俺に殴られたせいで、泣けよ」クルッ

勇者「………」

勇者「……う…うっ……ううう…っ!!」ギュッ

勇者「うわああああ……!!ごめん…魔法使い……ごめん…っ!!わ、私のせいだ…君を苦しませて、すぐに救えなくて、ごめんね……!!」

勇者「必ず……必ず、私が助けてみせるから…!君を守るから……!うわあああん!うあああああーっ…!!」

盗賊「………クソが……呪いをかけた奴、絶対許さねえぞ……」

・・・

男妖精「………そうか…婆様が……」

女妖精「だが、亡くなる前に…里を復活させられて、良かった。……私達は、忘れない。人間達を恨む。…だが…私達を救ってくれたのも、人間だ……」

勇者「…申し訳ない……」

妖精「…過ぎた事は、どうやっても取り返せないわ。けれど、償う事はできるの」

妖精「………お兄ちゃん、お姉ちゃん。私、アンタ達の事は嫌いよ。…体が大きくなる程、性が別れる程、長く生きたからこそ、その目に映ったものは、心についた傷は、想像以上なんでしょうね」

妖精「でも、それでも。大っ嫌い。後ろ向きのアンタ達なんか、大嫌いよ」

男妖精「………」

女妖精「…お前は、まだ若いから……明日を信じられるんだ」

男妖精「……俺達は……人間を憎む…認めるものか……」

妖精「…ふん。私の居場所はここじゃないわ。じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん。……そのウジウジが治ったら、また会いましょう」

盗賊「じゃあねっつって、さも当たり前のように俺の服の中に入るな。…つーかあいつらとお前、親族だったのか。あんなに冷たくしていいのかよ?」

妖精「あら、貴方がそんな事を気にしてくれるの?意外ね。いいのよ、…この森と、時間が、彼らを癒してくれるわ。その時が来たら…仲直りしてあげてもいいかもね」

妖精「さ、行きましょう。砂漠の国だっけ?ふふ、もう砂漠は無くなったけれどね。本当に、貴方達には感謝してもしきれないわ。ありがとう。……そして、ごめんなさいね…」

勇者「ううん。礼を言われる事も、謝られる事もない。あるべき姿を消してしまったのは、私達人間なんだから。…あるべき姿に戻しただけ、それだけだ」

勇者「そして、これから先、二度とこの姿を失わない為にも……行こう、砂漠の国へ」

盗賊「………ああ」

妖精「私は隠れているわね。大勢の人間に姿を見られたくないの。必要な時は顔を出すわ」モゾモゾ

支援
続きに期待

盗賊イケメンすぐる

>>278
俺みたいだな

読んでくださりありがとうございます!

>>279
(  ゚д゚)

( ゚д゚ )

~砂漠の国・王宮~

盗賊「流石に国中大騒ぎだな。無理もねーか、いきなり水が湧いて、砂漠が森になっちゃあなァ」

勇者「混乱の中で、王との謁見は不可能かな…しかし、日を改める時間も……」

側近「…勇者殿。謁見の許可が下りました、こちらへどうぞ」

勇者「…本当ですか!良かった……ありがとうございます」

盗賊「無駄足にならなくて良かったぜ…」

・・・

女王「アタシがこの国を統べる者、女王だ。話は聞いたよ。勇者、此度の働き、見事だった。ありがとう、全ての民を代表して、礼を言わせとくれ…」

盗賊「(砂漠の国の王って、女だったのかよ。はーん…この姉ちゃんが、あれだけの暴君っぷりを、ねぇ…)」ヒソヒソ

勇者「(こら、聞こえるぞ、盗賊。黙っていなさい)」ヒソヒソ

女王「…いいんだ。アタシが間違っていたのは事実なんだからさ」

勇者「……ほら、聞こえた…申し訳ありません、女王様。大変な無礼を働きました…」

女王「いんや。アタシは責められて当然の事をした。なのに…この国を救ってくれた事、心から感謝するよ……」

女王「言い訳にしかならないけど……アタシは、夢を見ていた。長く長く続く、とても酷い悪夢をね…」

女王「悪夢の外のアタシは…冷静な判断が出来ず、傍若無人に振る舞い…愛すべき民達に不安を抱かせちまった……まるで、見えない糸に操られていたかのように。自分自身が止められなかった…」

盗賊「……おい、もしかして、それって…」

勇者「…女王も……聖王のように、魅了魔法を……?」

女王「どんな理由であれ、原因であれ、民を傷つけた事に変わりはない。貿易大国もそう、…あんた達も、そうさ」

女王「本当に、すまなかったね…あんた達の指名手配は、すでに解除しといたよ。戦争も起こさない。アタシはこれから償っていく。民達に…各国に。本当にごめんな…」

勇者「女王様、ありがとうございます!…しかし、どうかご安心を。女王様は、魔物に操られていた可能性があります。私は、女王様のように乱心された方を幾度か見てきました」

勇者「各国の王達も、その理由を聞けば、納得してくれましょう。必要とあらば、私も証言致します。……ですから、女王様は民達の事を第一にお考えください」

勇者「魔具の力により、復活した大地は、民達に混乱を生んでいます。統治は、女王様にしかできない仕事です。早く民達を安心させてやってください」

勇者「そして…どうか二度と、この地が砂漠とならぬよう……お守りください。お願い致します」

女王「……ありがとうよ、勇者。アンタの優しさに甘えさせてもらう。迷惑をかけて本当にすまなかったね…」

女王「せめてもの旅の手助けにと、謝礼を用意した。こんなものしか渡せなくてすまないが、どうか受け取っとくれ」

盗賊「うおおっ…!すっげぇ大金!!ま、マジかよ……!」

勇者「こ、こんなに!?宜しいのですか、女王様」

女王「いいんだ。すぐに用意できるのが、金しかなくてね……金で解決だなんて、いやらしいけどさ…でも、旅の役には立つだろ?詫びの気持ちも込めて、ね」

女王「本当にありがとうな、勇者。アタシ達を救ってくれたように、魔王を倒して全てのものを救えるよう、祈っているよ。ありがとうな…これから先、気をつけて行くんだよ」

勇者「ありがとうございました、女王様。では、失礼致します。……ほら、盗賊!もう行くぞ、何をやっているんだ!!」

盗賊「ひーふーみー……ああっ、何度数えても堪らねーな…!金最高、お宝最高……!!こんな大金、初めて見たぜ!!」

勇者「盗賊!!行くぞったら!!」グイグイ

~エルフの村~

妖精「はーい、到着したわよ…ううん……むにゃむにゃ…」

盗賊「随分静かだと思ったら、人の服の中で眠りこけてやがって。ヨダレとか垂らしてねーだろうな」

勇者「………」

盗賊「おい、どうしたよ。さっきは俺をあれだけ引っ張ったくせに、何を立ち止まってやがる」

勇者「…うん……ごめん、今行くよ」

盗賊「しっかりしろや。テメーは突っ走るのが取り柄のイノシシ女だろ。突っ走って正解をもぎ取るのがテメーなんだから」

勇者「……そう、だな………でも、イノシシ女はやめてくれないか?名前で呼んでくれ」

盗賊「ケッ。さっさと行けよ、行かないうちはずっとイノシシ女だ、バカ」

妖精「ぐー……すぴー……」

盗賊「そして熟睡してんじゃねーよ、クソチビ2号め」ベシッ

妖精「ぎゃふ!!……うう………ぐぅ…ぐー……むにゃむにゃ…」

僧侶「おかえりなさい、勇者様!盗賊さん!…どう、でした……?」

勇者「…指名手配は解除できた。戦争も防げたよ……だが…解呪法は……」

僧侶「……そう、ですか…」

勇者「…あとでゆっくり話す。今は…魔法使いのところへ、行かせてくれ」

僧侶「あ……ゆ、勇者様…」

盗賊「…少しくらいなら大丈夫だろ?2人きりにしてやれ」

僧侶「盗賊さん……勇者様は、やっぱり…辛い目に、会われたんですね…」

盗賊「…それでも、進まなきゃならねーのが、アイツの使命なんだろうよ。俺達はそれを横から支えるのが使命だ」

盗賊「……だから、今はほっといてやれ。何があったかは俺が話す。こっちに来い、クソアマ」

僧侶「は……はい…盗賊さん。……勇者様、………」

勇者「………」

魔法使い「……はぁ…はぁ……」ズキン ズキン

魔法使い「………?…あ…勇者様、おかえりなさい……どこも、怪我してない?大丈夫だった?」

勇者「ただいま。……ああ、大丈夫だよ」

勇者「…だけど…ごめんな、魔法使い…解呪法は……手に入れられなかった…」

魔法使い「………そっか…」

勇者「で、でも!私は必ず君を守るよ!安心してくれ、解呪法がなくても、呪いをかけた者を探して倒せばいいんだ!!絶対に倒すから!君を助けるから……だから…!」

魔法使い「もう、何を一人で焦ってんの?だからお兄さんに、イノシシって言われるんだよー」

魔法使い「言ったでしょ、勇者様。僕は呪いなんかに負けないよ。勇者様を信じてる。大丈夫だよ」

魔法使い「勇者様は正しい事をしたんだよ。僕、すごく誇らしいや。そんな勇者様が大好き、みんなを守ってくれる勇者様が、ずっとずっと好きだった」

勇者「魔法使い……」

魔法使い「それでね、これからもずっとずっと、ずうーっと、勇者様が大好きだよ」

魔法使い「みんなを守ってくれる勇者様は、僕が守ってあげる。その為にいっぱい勉強したんだから。仲間に選ばれてすごく嬉しかった」

魔法使い「僕は負けないよ、大丈夫だよ。ずっと勇者様と一緒にいるよ。だから勇者様……迷わないで。僕は勇者様についていくから、勇者様は前を向いていてね」

勇者「……ごめ…ごめんな……魔法使い……もう、何が正しいとか…正しくないとか、わからないよ……」

勇者「けれど…私は、君を守る……それだけはわかる…君の為に頑張るから、君を…全てを守るから……だから、ごめん…」

魔法使い「…勇者様、泣き虫だったんだね。知らなかったよ。ふふ、僕ね、この旅がすごく楽しい。知らない事をたくさん知れるから、楽しいよ。もっともっと知りたいから…僕、頑張るからね」

勇者「………」フラリ

僧侶「勇者様……」タタッ

勇者「…大丈夫。大丈夫だよ。……呪いをかけた奴を倒す。そうすれば、解決するんだ。世界中駆け回ってでも、見つけてやる」

僧侶「そ、その事なのですが、勇者様。この村の、村長様が…力を貸してくださる、そうです…。村長様の家に行きましょう?」

勇者「…村長?」

盗賊「小人族のクソチビ初号機だ。ふざけた感じの奴だが、占いの腕前はピカイチでな。俺達も、奴の占いがあってこそ、お前らと合流を果たせたってくらいなんだぜ」

盗賊「だから、しらみ潰しになんかしなくとも、占いをしてもらえりゃあ…呪った奴を見つけられるかもしれねェ。行こうぜ、クソチビの家に」

勇者「そうなのか…。……わかった、行こう。村長様の家に」

妖精「……ふあぁぁよく寝た…あ、あら?どこに行くの?あら?あらあら?」

盗賊「お前どんだけ熟睡してやがんだ、空気ぶち壊してんじゃねーよ、クソチビ2号が」

勇者「こ…これが村長様の家、か?随分と小さいんだな」

僧侶「小人族ですからね…2人も入ったら、いっぱいいっぱいに、なってしまうんですよ。私達は…外で待っていますから、勇者様、中へどうぞ」

妖精「私が仲介をしてあげるわ。さ、いらっしゃい」

勇者「う、うん。じゃあ…いってきます」


村長「やあやあ、いらっしゃい~。こんにちは、はじめまして~。僕がこの村の村長で~す、よろしくね~?」

妖精「村長、勇者です。話は通っていると思いますが、村長に占いを頼みたいという事で、連れてきました」

勇者「よろしくお願いします」

村長「…え?君が勇者なの?」

勇者「……?はい、そうですが…何か…?」

村長「へえ~?……や、ごめんごめ~ん、気のせいだったかな~?うん、ちゃんとキラキラ輝いているしね~。あははっごめ~ん。改めて、よろしくね~勇者~」

>>280


そしてこっち見んなwww



ありがとうございますww
イケメン増えた!

村長「えーっと。お願いの内容は、あの男の子を苦しめる呪い…それをかけた奴を見つけるんだよね~」ゴソゴソ

村長「は~い、占いの水晶玉で~す。じゃあ、早速占いま~す。……ん~むむむ…」

勇者「………」

村長「……あれえ~?よく見えないなあ…あはは、こんな事、初めてだよ~……」ピシ! ピキッ

妖精「ちょっと!?村長、水晶玉にヒビが…」

村長「………静かに!!今、集中を解くわけにはいかないんだ!……むむむむ…」バキ! ビキ!!

妖精「村長!!」

―― バキャアァン!!

村長「うわああ!?…あ~あ……僕の水晶玉がぁ~」

勇者「真っ二つに割れた…!?大丈夫でしたか、村長!お怪我はありませんか!?」

村長「あははっ、平気平気~!…でも、ごめんね~…この呪いをかけた奴は、物凄い力を持っているんだね~。正体を探ろうとしたら、弾かれちゃったよ~。見つける事はできないみたい~」

勇者「……そんな」

村長「でもね、一瞬…ちらっとだけ、見えたものがあったよ~」

村長「物凄~く、たくさんの本の中に……ほら、前にここへ来たオジサン…賢者だっけ?彼がいたのが見えたなあ。あはは、ヒントなのかもしれないね~?よくわからないけど~」

勇者「…賢者……?合流する前に、盗賊達と共に行動していたという人物か…?」

村長「手がかりが無い今、彼に会いにいくのもいいかもね~」

村長「…呪いは、もうとっくに最終段階に到達しているよ。今は、この村の癒しと…妖精の回復薬で、無理矢理動いている状態だ。これから一時的に元気になるだろうけど、次に倒れたら、もうそれでおしまい」

勇者「!!!」

村長「回復薬をたくさん持たせてあげる。僧侶ちゃんにも、作り方を教えておいたからね。…時間は、もうとっくに切れているよ。急ぎな?」

勇者「……は…はい…!!ありがとうございました、村長…」

・・・

盗賊「……そうか…もう時間が……」

僧侶「勇者様…どうしますか…?魔法使いくんは、ここへ置いていくとか…わ、私達だけで、解呪法を探しにいきますか…?」

勇者「いや……魔法使いは連れていく。無理をさせたくないのもあるが…もし解呪法が見つかった時に、すぐに施してやりたい」

勇者「…それに、これは我儘だし、冷静な判断でないとわかっているが…あの子の傍にいたいから……」

盗賊「それにしても、賢者のクソオヤジか。沢山の本ってなんだ?あいつの家は本の山だったが…家に帰ってんのか?」

僧侶「で、でも…私達、賢者さんが船に乗るのを、しっかり見送りましたよね…?確か、あの船は……隣の大陸行き、だったような…」

勇者「隣の……、…沢山の本…?……もしかして、貿易大国にあった、王立図書館か?そこに彼がいるのだろうか」

盗賊「……行ってみる価値はあるかもしれねえな。すぐに船を手配しようぜ」

妖精「砂漠の国までなら、私が移動魔法で送ってあげられるわよ?移動魔法は、一度でも行った事のある場所へしか行けないの。直接送れなくてごめんなさい」

勇者「いや、充分だ!ありがとう、助かるよ」

僧侶「で、では、私はエルフさんから薬と、その材料を、もらってきますね…!」

盗賊「済んだらここに戻ってこい。クソチビの魔法ですぐに移動だ。…勇者、俺達はクソガキを迎えに行くぞ」

勇者「ああ…」

・・・

魔法使い「…あ、勇者様!お兄さんも、おかえりなさい!」

勇者「魔法使い……具合はどうだ?」

魔法使い「それがね、聞いて聞いて!薬のおかげで、すごーく元気になったんだよー!」

勇者「(…元気になっても、次に倒れたら、もう終わり…)」

盗賊「クソガキ。これから俺達は隣の大陸に移動する。テメーも一緒に行くんだ」

魔法使い「え?うん、わかった!すぐ支度するね!」

~王立図書館~

魔法使い「妖精さんの移動魔法、すごかったなー。貴重な体験をしたよー!」

勇者「魔法使い。あまり跳び跳ねるな、…その、君は病み上がりなんだから…おとなしくしていなさい」

魔法使い「だって、なんか力が溢れちゃってさー。でも、図書館に入るんだもんね。静かにする」

盗賊「ここにクソオヤジがいるのか…?つーか、…ああ~…苦手だ、この空気……本ばっかりで目がチカチカすらぁ、頭も痛くなってくるぜ」

僧侶「あ、あ、あの……スミマセン…ここに、賢者という男性が、来ていませんか…?私達、彼に会いに来たんですが…」

司書「…賢者さんですか?……ああ、その方なら…当館の一番奥、貸出禁止の書物を収めている、書庫にいらっしゃいますね。鍵を貸した記録がありますから、間違いありません」

司書「書庫に入るのでしたら、そこの本は持ち出さないよう、お願いします。原本ばかりなので、無くされたら困りますから」

勇者「ここが司書の言っていた書庫か…。う、これはまた……凄まじい本の数だな…あんなに背の高い本棚なんて、初めて見たぞ」

盗賊「おーい!!クソオヤジー!!いたら返事しやがれー!!!」

魔法使い「ちょ、ちょっと、お兄さん!図書館では静かにしなきゃ!」

僧侶「賢者さーん!賢者さあーん!!いますかー!?賢者さーん!!」

魔法使い「僧侶さんまでー!静かにしなきゃ、怒られちゃうよ!?」

賢者「………んー?なんだいなんだい、うるさいなあ~。館内で騒いじゃいけないよ、………っとおおお!!?」ドカドカドサ!!!

勇者「わっ!?人が、本と一緒に落ちてきたぞ!」

賢者「う…う~ん……た、助けてー……」

僧侶「わああ、賢者さんー!賢者さんが、本の下敷きに~!!い、今、掘り起こしますからあ~!!」バサバサ

盗賊「…ったく、相変わらずだな、このクソオヤジは……」

賢者「はあー…死ぬかと思った。…というか、兄ちゃんとお嬢ちゃんじゃないの。どうしたの、こんなところで」

僧侶「賢者さん!賢者さんがヒントなんですよね!?早く!早く教えてください!!」

盗賊「解呪法か、術者だ!!早く教えろ!時間がねーんだよ!!勿体振ってんじゃねーよ、このクソオヤジが!ぶっ飛ばすぞ!?」

賢者「はあああ!?ちょ、ちょっと、オッサンには何がなんだかわからないんだけど!?何、なんの話!?こら、ローブを引っ張らない!伸びちゃうでしょうが!」

勇者「す、すみません!一から説明しますから……こら、落ち着け2人共!彼が困っているだろう!?」

魔法使い「お兄さん、オジサンの首を絞めちゃダメだよー!オジサンの顔が変な色になってるよ、落ち着いてー!!」

司書「館内では静かにしてください!次に騒いだら、追い出しますよ!!」

賢者「…成程ね、古代の呪いか……や、申し訳無い。俺も古代魔法には興味あるが、流石にそれを使うとか、解くとかは…できないし、知らないな…」

勇者「そ…そうですか…」

盗賊「だったらなんで占いに出て来やがったんだよ。紛らわしいな、このクソオヤジが」

賢者「それはオッサン自身が聞きたいんだけど?……うーん、それにしても…何か引っ掛かるな。君達の旅の話…どこかで聞いたような……」

賢者「…あ、思い出した。遥か昔にあったという、冒険話だ」ポン

僧侶「冒険話…ですか?」

賢者「うん、実際あった英雄達の話を、物語として面白く描いた小説…みたいなものかな。今困っているのは、古代魔法…呪いなんでしょ?なら、先人の軌跡を辿ってみたらいいんじゃないかなあ」

賢者「ええっと…確かここに……ほら、あった。これがその小説の元となった旅の記録…冒険の書だよ」

盗賊「……難しくて読めねえ。説明しろ、クソオヤジ」

賢者「うーん、さくっと言えば…先人達は、妖精を助けたあと、人間を苦しめていた悪い竜を退治しにいったんだよ」

賢者「神や魔族、妖精の他に長生きといったら、あとは竜くらいだしねえ。竜が住む山、なんてのもこの近くに現存しているんだ、そこに行ってみたらどうかな」

盗賊「そんな、お伽噺に頼っている場合じゃ…」

魔法使い「でも、今までそのお伽噺に出てくるものに、散々会ったじゃない?長生きした竜は人語も話すっていうし……この助言が、ヒントなんじゃないの?」

僧侶「ど、ど…どうしましょう?勇者様…」

勇者「……魔法使いの言う通りだと私も思う。何より、行き先がまったく見当つかない中での、現れた選択肢だ…行こう。竜の住む山へ」

賢者「…本当に竜がいるとしたら、そのブレスは凶悪だ。皮膚も硬く、剣が通らないなんて話もある。気をつけていきなさいね。竜の住む山の地図があるから、書き写してあげるよ。ちょっと待ってて」

盗賊「どれどれ……うわ、やたら標高ある山だな…これは今の装備じゃ登れねー、買い出しが必要になるぞ」

僧侶「山の上は寒いでしょうし…防寒具もいりますね……と、盗賊さん、私達はお買い物に、行きましょう?この街なら、必要なものがすぐ、全部揃いますよ、お店、沢山ありましたから……」

魔法使い「僕は竜について調べたいな。予め知っておけば、もし戦う事になっても対策を取りやすいもん」

勇者「なら私は魔法使いを手伝おう。盗賊、僧侶、すまないが買い物は頼んだよ」

賢者「書き写すには少し時間がかかるから、ゆっくりでいいよ~。いってらっしゃい」

盗賊「ゆっくりしていられねーんだっての、クソオヤジが!速攻で書き写せ!!」

賢者「んもー、人使いの荒い兄ちゃんなんだからなあ。…わかった、丁寧に、且つ迅速に書き写すから」

勇者「…すみません…よろしくお願い致します、賢者さん」

やっぱり術者は今までに出てきた人物なのかねえ…

読んでくださりありがとうございます

~竜の住処~

僧侶「はあ…はあぁ……け、険しい…岩山ですねえ…はあ……」

盗賊「空気が薄くて、すぐ息切れするな……休み休み行かねェと、体力無くなっちまうぞ…」

勇者「地図によると…もう少し進んだ先に、休憩場がある。そこまで頑張ろう…魔法使い、大丈夫か?疲れていないか?」

魔法使い「うん、大丈夫!みんなも妖精さんがくれた回復薬、飲んだら?それのおかげで、こんなに元気なんだもん、僕」

僧侶「……ううん。薬は、魔法使いくんが飲んで?大丈夫だよ、私達なら…どうしてもっていう時には、もらうから。ね?」

魔法使い「そ、そう?いい薬なのになあ」

盗賊「俺も飲んだ事があるからわかるぜ。…そういやクソアマは、作り方を習ったんだよな?なら、今度作れよ。俺のぶん…」ニヤリ

僧侶「ひいいぃ……ぜぜぜ絶対いやですぅ!!あれを飲んだら、盗賊さんが鬼になっちゃう…」ガタブル

勇者「みんな、休憩場が見えたぞ!」

盗賊「はー!はーッ…あー、疲れた……!!やっと休める…!」ドサ

勇者「ふう…この辺りは、…中腹くらい、といったところか…?魔物の数も多いし…厳しい場所だな…」

僧侶「汗をかいても、体が冷えますね…この山、すごく寒い、です……スープを温めましょう、えと……火種、火種」ゴソゴソ

魔法使い「もー、それくらい僕に任せて?……はい、薪木に火をつけたよ!」ボッ

僧侶「あっ。……あ、ありがと、ね?魔法使いくん…」

盗賊「……クソガキ、そいつを甘やかすなよ。火ぃくらい自分でつけさせねーと、すぐグータラすっからな、こいつ」

僧侶「そ!そんなこと、ないですよう!!意地悪なんだから……」

勇者「ははは…。僧侶、私も手伝うよ。腹も満たせるスープにしよう、保存食だけでも上手くやれば、いい味が出せるからな」

僧侶「…勇者様、手際いいんですねえ。お料理得意なんですか?」

魔法使い「勇者様は、料理作るの大好きなんだよ~。作るものなんでも美味しいもん、僕、勇者様のご飯大好きなんだー」

盗賊「へえ。宝物庫じゃ俺が飯を作っちまったし、それ以外は店で食うか出されるか、だったもんな。得意ってんなら早く言えよ、サボれたのに」

勇者「サボると聞いたら、言わない方が良かったと思ってしまうんだが?」

魔法使い「僕も料理できるようになった方がいいかなあ」

僧侶「わ、わ、私も、もっと上手に、なりたいです!勇者様、私にお料理、教えてくれませんか?」

盗賊「おうおう、テメーら全員習っとけ。俺は出来た料理を食べる係な」

魔法使い「お兄さんのおなかをいっぱいにするだけの料理……どれくらい作ったらいいんだろうね?」

勇者「牛一頭平気で食べてしまいそうな勢いだもんな。…さあみんな、スープが温まったよ。火傷しないよう、ゆっくり飲んで」

僧侶「……ふう…暖まりますねえ……ホッとしますぅ~」

魔法使い「あちち、あち……」フーフー

盗賊「つーか、この調子じゃあ今日はここで一泊した方がいいかもしれねえな。思っていた以上に体力を削られる、無理しても余計なもんを招く感じだぜ」

勇者「…そうだな…怪我をしたり、山から落ちても事だ…もしも竜がいたとして、好戦的であったらと考えると…、…ここで休むのが得策か」

僧侶「なら、もう少ししたら、ちゃんとしたご飯を作りましょうか……」

勇者「よし。ならば此処にテントを張ろう」

魔法使い「勇者様!僕も手伝うよー!」

勇者「いや、魔法使い、君は休んでいなさい」

盗賊「……手伝わせてやれ。やりてェって事は、どんどんやらせるべきだ。悔いのないようにな」

勇者「………」

勇者「……わかった…じゃあ、手伝ってくれるか?魔法使い」

魔法使い「うんっ!任せて!」

~翌日~

魔法使い「はあ、はあ…ふう……、…うわ…これ、もう山道じゃないよ、壁みたい~…」

盗賊「だが登れなくもないようだ、形跡が残っている。杭を打ってロープを垂らそう。俺が先に行く、テメーらはそこで待っていろ」

僧侶「足を滑らせないよう、気をつけてくださいね…!」

盗賊「……よーし、一人ずつ来い、俺に掴まれ。まず先に、クソガキ。お前からだ」

勇者「私は一番最後でいい、僧侶、君は魔法使いの後に続きなさい」

僧侶「は、はい、勇者様!……こここ怖いけど…頑張らなきゃ…」ブルブル

魔法使い「お、お兄さん!離さないでね!!絶対手を離さないでね!?」

盗賊「そう念を押されると、逆に離したくなってくるわ。……っと。よし、クソガキは登れた。次!クソアマ、来い」

僧侶「ひいい……も、も、もう…どっからでも、かかってこいですうぅ!!」

勇者「落ちても私が受け止めてあげるから、頑張って!」

僧侶「あああぁ…の、登れたぁ…こ、怖かった~…」

魔法使い「頑張ったね、僧侶さん!偉い偉い」ナデナデ

盗賊「よし、最後はテメーだ、勇者。慎重に来いよ」

勇者「…大丈夫、足場がしっかりしているから、登りやす………うわ!!?」ガラッ!!

僧侶「きゃあ!勇者様ぁっ!!」

勇者「………!! ……あ、あれ、…落ちていない……?」

盗賊「…だから言ったろ、慎重に来いって。油断すんじゃねーよ、バカ」

勇者「!!!?」

魔法使い「よ、良かったー!お兄さんが勇者様を掴んでくれたから、落ちなくて済んだ…」ホッ

僧侶「岩で擦りむいたりしてませんか!?勇者様!」

勇者「あ、ああ。大丈夫だ……」

盗賊「このまま登っちまうからよ、テメーはそっちの杭に足を掛けて体を支えていろ。まずロープを巻きつけて……」グイッ

勇者「(み…密着しすぎて…いや、こんな状況だ、仕方ないんだ、…くそ、油断した私は本当にバカだ!)」

盗賊「……この吊り橋を渡った先が、頂上のようだな」

僧侶「つつつ吊り橋!?べ、べ、別に、こわ怖くなんかないですけどね!!宝物庫の、見えない床のが、もっとずっと怖かっ………ひいいぃぃ~っ!!た、高いよー!怖いよー!!」

魔法使い「か、風が強いなあ…吊り橋が揺れる……うわあ!?」バキャァ!!

盗賊「危ねっ!!……板が腐っている部分があるぞ、気をつけろよテメーら!」ガシッ

魔法使い「うわああ、こ、怖かった~…!あっありがとう、お兄さん!もう、無理無理ー!!こ、こんな高いところから落ちるとか、絶対嫌だあ……早く渡りきりたいよー!」

勇者「だが、吊り橋があるという事は、誰かがここまで来たという証拠だな…先人達、か……ここに来る目的…。今度こそ…!!」

僧侶「…わ、わ、…渡れたー!!あああ、私、私…もう、むしろ怖すぎて、高いところ、へっちゃらになれた気がしますよう~っ!!」

?「………なんだ、喧しいのう…。目が覚めてしまったではないか……」

魔法使い「はあ、はあ、は……、……え?誰?今の声、―― !!?!?うわああああっ!!」

盗賊「な、な、なっ」

勇者「で…でかい……!!まるで、もうひとつ山があるような…」

僧侶「あ……あ、貴方が……竜、なんですか…?」


魔竜「…ワシを訪ねて来たのではないのか?だとしたら、酔狂なものだの。こんな、何もない岩山に、わざわざ登りに来るとは…」

魔竜「如何にも。ワシの名は、竜……魔竜だ。人間がここまで来るとは、どれくらいぶりかの。ふむ……昨日から漂ってきた、旨そうな匂いは、お前達だったのか」

勇者「う…旨そう、って。食べる気か?私達を」

盗賊「……体の至るところに剣を打たれて、岩に縫い付けられている奴が、随分大きく出やがる。実際でかいんだけどよ。…つーか…剣、で?」

魔竜「バカも休み休み言え。魔獣ではあるまいし…ワシは人間など、不味い匂いのものは食わん。お前達、この山で食事を取ったろう?その匂いが、ここまで漂ってきたわ」

魔竜「とくに……そこの坊主。お前からいい匂いがするのう…その法衣のポケットに入れているものは、なんだ?」

魔法使い「えっ!?ぼ、僕!?……あ、おやつに買ってもらった、チョコレートの残り、だけど」

魔竜「チョコレート……甘いものか!!…すまん、ワシは甘いものに目が無くての……良ければ、食わせてくれんか?そのチョコレートを」

魔法使い「ええええ!!?……ち、ち、近づいて、大丈夫…かな……?たたた食べられたりしないかな!?」

僧侶「竜って、甘いものが、好きなんですか?…し、知らなかった、です」

魔竜「怖ければ、そこから投げてくれていい。口で受け止める、……さあ、早く食わせてくれ、チョコレートを!!」

盗賊「テメーの図体からして、チョコの残りとか…砂粒サイズじゃねーか。いいのか、それで」

魔法使い「ぼ…僕達を食べないなら、いいよ。あげる。……えいやっ」ポイ!

魔竜「ふむ」パク

魔竜「………う~む……まったりと口に広がる、この甘さ…ハアーッ、たまらんのォォ~」

ゴオオォォ!!

僧侶「きゃああああ!!?ぶっブレス!?ブレス攻撃ですか!?」

魔竜「あ、すまん。ついうっとりと溜息を吐いてしもうた」

勇者「溜息!?今のが溜息!?凄まじい風のようだったぞ!」

盗賊「テメー、溜息禁止にしろ!こんな切り立った場所で、洒落にならねーよ、吹っ飛ばされる!!」

魔竜「しかし、物足りんの。坊主、他には持っておらんのか。甘いもの」

魔法使い「え、えっと、鞄の中に、クッキーもあるけど……」

盗賊「ダメだダメだダメだ!!また溜息吐かれたら今度こそヤバいっつうの、甘味も禁止だ!!」

いつ盗賊が勇者のことをクソイノシシと呼ぶかドキドキしてるwww

ぼたん鍋は季節外れか

魔竜「ぬう……そうか、禁止か…」ションボリ

僧侶「あああ…ガッカリ項垂れちゃいましたよ、……な、なんか…可愛い方なんですね…?」

勇者「イメージが音を立てて崩れていくな…。……こほん。…すみません、魔竜殿。貴方は神族や妖精達と同じく、長寿であるとお聞きしました。私達は今、古代の呪いによって、苦しめられております。解呪法をご存知ありませんか?」

魔竜「…古代の呪い?」

魔法使い「あの…僕が、そうなんです。誰かに呪いをかけられたみたいで…体にも、こんな呪傷が出てきて…解呪法か、この呪いをかけた人を、知りたいんです」

魔竜「それは…!!……そうか、…お前達が……。…やれやれ、ワシも耄碌したものだ…この場に長く縫い付けられておったからの……」

魔竜「…ワシは…その呪いをかけた者を知っておる。…完全な解呪は無理だが、呪いの力を消す物の存在を知っておる」

勇者「ほ…本当ですか!?是非、是非、教えて頂けませんか!?」

盗賊「教えてくれたら甘いものをやるぞ!足りないなら、山を降りて買いに行ってやってもいいぜ!?だから教えてくれ!!」

魔竜「甘いもの!!!」ダパー

僧侶「わあ、涎がまるで滝のようです…」

魔法使い「いちいちスケールがでかいね、魔竜さん…」

魔竜「う~む……だが、しかし…いや、………もう、良いか。ワシはもう、充分に生きた…甘いものも食べられたしの…」

魔竜「…良かろう。話してやるぞ、人間達よ」

魔竜「その前に、改めて自己紹介をしよう。…ワシの名は魔竜。―― 魔王に仕えし四天王が一人……いや、ワシの場合は一竜、一頭…かの」

勇者「………!?」

僧侶「ま……魔王…!?四天王!?あ…貴方が……」

魔法使い「………こんな、強大な……それを操る魔王って、どれだけ凄いんだろう…」

盗賊「………」

魔竜「…そう身構えなくて良い。ワシはもう敵対する気も、戦う気もない。見ろ、ワシの情けない姿を。びくとも動けぬわ」

魔竜「そもそも、ワシは元から戦う気などなかった……魔王に大事なものを奪われてしまったからの、仕方無く仕えていただけよ」フー…

勇者「大事なもの…?あの、溜息は控えて頂けると、有り難いのですが…」

魔竜「まあ、そのような理由と、昔、人間に勝ちを譲った事もバレての。魔王の怒りを買い、ここに縫い付けられてしまったのよ」

僧侶「……魔竜さん…一体、どのくらいの、時間を…ここで過ごしたのですか……ずっと、一人で…?」

魔竜「さてのう。ワシは数を数える趣味はないのでな、わからん。寂しくはなかったよ、ワシの趣味は眠る事だからの」

魔竜「…坊主。お前に呪いをかけた者、その呪法を使える者……それは、魔王だ」

魔法使い「えっ!!?魔王が!?なんで、僕に……!?」

魔竜「何故かはワシの口から言えん。今の魔王は昔より寛大になったとはいえ…ある事に触れては、途端に始末されるからの…すまん」

魔竜「その呪いを解くには魔王を倒すか……もしくは、白の宝玉を手に入れれば、呪いの力を消せる」

盗賊「…宝玉?青や赤の宝玉と、同じものか……?」

僧侶「………」

魔竜「…遥か昔、魔王と対決した英雄達。彼らの魂が封印されている、4つの宝玉…そのうちのひとつ、白の宝玉は邪気を中和し癒す力を持つ」

魔竜「そう、白の宝玉ならば、例え魔王の呪いでも、癒す事ができるのだ。呪いの根っ子は残ってしまうだろうが…削られた生命も体力も、全て補い回復してくれるだろう」

勇者「その、白の宝玉とは!どこにあるのですか!?」

魔竜「……ワシが持っておったよ。魔王から守りたくての。しかし、すまん。奪われてしまったのだ、……あの、キツネめ…」

僧侶「キツネ……?」

魔竜「キツネ……四天王が一人、魔精。妖精でありながら、仲間を捨てて自ら魔王に魂を売った、愚か者よ。あいつの考える事はさっぱりわからん」

魔竜「奴は青の宝玉を守るよう、魔王から命じられていた筈なのに、それを放置して…ワシから白の宝玉を奪っていった。思うに、その呪いの対抗策であったから…だろうのう」

魔竜「…ワシはどうしても、白の宝玉を守りたい。だが、お前達が必要とするならば、……お前達ならば、宝玉を譲ろう。ワシの代わりに、魔精を倒してくれ。白の宝玉を取り返してくれんか」

魔竜「魔精の奴は、幻惑や魅了魔法をもっとも得意とする。…ワシの尻尾から、一枚、鱗を剥がしていけ。魔精の使う魔法を弾けるからの」

魔法使い「鱗を……い、痛くないの?剥がしても…」

魔竜「人間のお前達で表すなら、髪を一本抜く程度の事よ、ワシにとってはな」

魔竜「…ワシは、早く白の宝玉を休ませてやりたいのだ…宜しく頼む、人間達よ」

盗賊「鱗もやたらデケーな……ちょっとした盾だぜ、こりゃあ。なるべく小さめの、持ち運びやすいの……よし、剥がすぞ?」ベリッ

魔竜「うむ。その鱗に念じれば、直ちにこの場所へ戻って来られる。良かったら、宝玉を取り返した時…ワシにも見せてくれぬか」

魔竜「魔精の奴は今、貿易大国……カジノ街の大劇場に居る。奴の匂いはここまでプンプンと漂ってくるでの。人の姿に化けておるが、ワシの鱗を持っていれば、その術も破れる」

盗賊「便利な鱗だな。青の宝玉も時たま幻惑魔法とか消してくれるが、働かねー時があるしよー」

魔竜「ワシの鱗はレアだぞ、本当ならば大量の菓子と引き換えだ、と言いたいわ」

勇者「ふふ……いいですよ、良くして頂いた礼に、事が済んだらお菓子を持って、ここに来ますから」

勇者「魔王に仕えていたと聞いても……何故か、貴方は純粋で…綺麗なものが見える気がしてならないですし…信じて良さそうだ」

魔竜「…時が来れば、その理由もわかるだろうて。だが、今は魔精の事だけを考えろ」

勇者「…はい。ありがとうございます、魔竜殿」

魔竜「麓まで戻るのは大変だろう、ワシのブレスで送ってやる。皆、ひとつに固まっておれ」スウウゥー

盗賊「!? ちょっ、待て!!ブレスでって……吹き飛ばす気か!?やめろ!死ぬ!この高さからとか死ぬわ!!」

僧侶「えっ、えっえっ、ちょっと待って!待ってください、心の準備が!!」

魔法使い「いいよ、大丈夫だよ!僕達、歩いて降りていけるから!!ブレスはやめてーっ!!」

勇者「溜息であれだけの突風だったのに、ブレスとなったら、どれだけの……!」

魔竜「オオオオオ!!!」カッ!!

ゴオウウゥゥッッ!!!

魔竜「……ぷふーっ………頼んだぞ、人間達よ。……転生したお前達ならば、やり遂げられる…」

ブワアァァッッ

僧侶「ぎゃああああああ!!あああもう駄目!もう駄目~!!かっ神様ぁぁー!!!今そちらに参りますうぅ!!」

盗賊「クソアマ!!……あっのクソトカゲ、やめろっつったのに!ふざけんなああー!!」ギュッ

魔法使い「うわあああ!!!……あ、あ、………あれ?ちょっと待って…僕達、空を飛んでない…?落ちていくって感じじゃないんだけど…」

勇者「…勢いがどんどん失せて……まるで綿毛に包まれているような柔らかさを感じるな。これなら、地上に無事降りられそうだ…」

フワアッ…

魔法使い「わ……、…生きてる…い、生きてるよー僕達!!山のてっぺんから吹き飛ばされたのに!竜のブレスってすごーい!!」

僧侶「ひっ、ひ、ひっ」ガクガクギュウ

盗賊「寿命はマッハで縮んだがな……こういう事なら先に説明しろ、クソトカゲが!!菓子に辛子混ぜてやろうか、バッキャロー!!!」

魔法使い「……でも、ちょっと楽しかったかも!気球も使わず空を飛べたんだもん、鳥になったみたいだったよー!」

盗賊「はあ!?正気かお前!?……ったく、ガキは無邪気でいいよな…俺は金輪際ごめんだ、死ぬかと思った」

僧侶「あうあう、あああ……、…はっ!?あ、あれ、死んでない…生きている……。……ぎゃああっごごごごめんなさい、盗賊さん!!しっしがみついてたとか……あわわわわ!!」バッ

盗賊「…ふん。ビビって漏らしてなきゃいいけどよ?おい、クソガキ。俺の服、汚れてねーか?」

僧侶「漏らすとか!すごい怖かったけど、そんな事するわけないじゃないですか!バカ!!バカー!!」

勇者「………」

勇者「…とにかく。魔精を倒しに行こう、白の宝玉を取り返すんだ。それがあれば…魔法使いは助かる!行くぞ、みんな。貿易大国へ戻ろう!」

魔法使い「……魔王の配下…四天王か、……魔竜さんみたいに大きいのかな…」

~貿易大国・カジノ街~

盗賊「………どういう事だ、こりゃあ…前に来たときは、スゲー騒がしかったのに。ネオンも全て消えている…」

勇者「……街中全ての人間を昏睡魔法で眠らせたな。この手口、知っているぞ。……やはり、貴様なんだな…魔精というのは…」ギリッ

僧侶「…魔法使いくん。戦いの前に、お薬の時間だよ。回復薬飲んでおこう?ね?」

魔法使い「え、大丈夫だよ。まだまだ元気だもん、今はそんな場合じゃ……」

僧侶「ダメだよ、これからいっぱい大変な事になるだろうから、力をつけなきゃ。お薬はちゃんと飲まなきゃダメ。……はい、飲んで」

盗賊「…勇者。クソアマがさっき言っていたぜ、……あの薬で、最後だ。もう材料も尽きた」

勇者「…ああ……しかし、終わるのは薬だけじゃない。魔法使いの苦しみも、今日、ここで終わる。彼は助かる、私が助ける!!魔精……奴を倒すッ!!」

やはりスターが仮面か

>>328
やめろ!!バトルマスターさんかもしれないだろ!!

錦野旦「呼ばれた気がした」

>>330
お呼びでないです帰ってください

仮面の正体もっと無駄に深読みしてたが魔竜さんのネタバレで消え去った

読んでくださりありがとうございます。本物のスター召喚したの誰!

>>332
その深読み内容を聞いてみたい感ひしひしです

~大劇場・中央ホール~

勇者「本当に大きな劇場だな、椅子もどれ程の数があるのか…三階まであるなんて」

魔法使い「ここでお芝居を見たら、すごく楽しそう。戦いじゃなくて、そっちの目的で来たかったな」

僧侶「……勇者様、魔竜さんから頂いた鱗が…なんだか、光っています…」

勇者「…近くにいるんだ、奴が。―― 出てこい!!姿を現せ、魔精!!」

―― ピカッ!!

?「ハーッハッハッハー!!スポットライト、オンンッッ!!」

僧侶「!?!!?!??」

魔法使い「あ……貴方は!!」

盗賊「…知り合いか?なんだ、あの変態野郎。一人舞台で飛び跳ねてんぞ」

スーパースター「ハッハッハ!!ハーッハッハッハー!!美しい私を美しく照らすスポットライト!!美しく目立つ大舞台!!テンションが上がるねえぇ、さあ!美しい私を見るんだ!!美しい私を見てくれええっっ!ハーッハッハッハー!!」

魔法使い「あの人は…僕達に付きまとってきた、変な人だよ。暫く姿を見なかったけど、ここにいたんだ…」

魔法使い「貴方が…貴方が、魔精なの?スターさん!!」

スーパースター「ハッハッハ、美しい私はスキャンダルを避けたくてね。巻き込まれない為にも、色んな姿を持っているのだよ。私のメイクテクは、君達もよく知っているだろう?」

スーパースター「そう……ある時は、大聖堂の街、酒場の男b!!ある時は、美しいこの私、スーパースター!!そしてェ!!またある時は!」

スーパースター「ふふ……この仮面に見覚えはあるだろう?」スッ

勇者「!!!……貴方が…!」

魔法使い「その、仮面……僕達や、みんなを襲った、仮面男の……」

スーパースター「美しい私は様々な美しい姿を持つ!!その中のひとつが、魔王が配下、四天王の一人!魔精!ただそれだけの事だ、ハッハッハ!ハーッハッハッハー!!」

スーパースター「美しい私の美しい舞台演出は如何だったかな?ハッハッハ、楽しんで頂けたかい?…さあ!ラストダンスを始めようじゃないかー!」

勇者「!! 来るか!?」

スーパースター「若者達!私に続け!!踊りたまえ、両手を挙げて!足を踏み鳴らして!!」

僧侶「…え?えっ、えっ?」

スーパースター「さあ!ご一緒に!!ワーイ!」

魔法使い「わ、ワーイ?」

スーパースター「エムッ!!」

僧侶「え…エム?」

スーパースター「シーッッ!!」

魔法使い・僧侶「シー!!」

スーパースター「エ  盗賊「何やってんだテメーらは!!」ゴスッ!!

勇者「………よし!」グッ

盗賊「よし!じゃねーよ!!なんなんだこいつは、クソガキにクソアマもだ、つられて踊ってんじゃねーよ!バカ共が!!」

スーパースター「ふふふ……見たかね、私のダンスの威力を…」ドクドク

盗賊「鼻血スゲーぞテメー」

スーパースター「ハッハッハ!私は戦いが苦手でねェ。できる事といったら、この美しい肉体を披露するだけなのさ!」

勇者「…ふざけるのも、もう終わりだ。魔法使いにかけた呪いの効果を断つため…貴方が持っているという、白の宝玉を渡してもらおう」

スーパースター「ハッハッハ、白の宝玉、ねえ……これの事かい?」スッ

僧侶「…やっぱり……私達が持っている、赤と青の宝玉と、同じ……」

スーパースター「ハッハッハ!これには、かつて私達や魔王を追い詰めた英雄の一人……シスターの魂が封じられているのさ」

スーパースター「シスターは、まるで女神が地上に降りてきたと言われる程……美しく、優しく、清らかで。全てのものを癒していったさあ」

スーパースター「そう、あの魔竜すらも、ね…元々、不本意ながら魔王に従っていた魔竜は、シスターに癒される事で、反旗を翻す意思を持ったのだよ」

スーパースター「シスターの意識は消滅している。宝玉はただひたすらに周囲のものを癒すだけ…半永久的にね。その癒しの力は凄まじい、どんな傷も、呪いすらも、たちまち癒してしまう」

スーパースター「欲しいかね?この白の宝玉が」

勇者「その為に、ここまで来たんだ!それがあれば魔法使いの呪いを癒せる、彼を救える!!だから、その宝玉を……」

スーパースター「じゃ、あげよう」ポイッ

僧侶「……えっ?」

盗賊「な…、はあ?おい、こういう流れは普通、欲しかったら私を倒せー、とか、そういうもんじゃねーの?肩透かしがすぎるぞ!?」

スーパースター「ハッハッハ!美しい私の話を聞いていなかったのかい、凛々しい青年くん!美しい私は戦いが苦手なのだよ、美しくね!弱っちいんだ、スライム以下なのさあ!うん、チビりそうなくらいビビってる」

勇者「……相変わらず、何を考えているのかわからない、疲れる…不気味な男だな、貴方は」

魔法使い「……本当だ…この宝玉を持っているだけで、呪傷が消えていく……重くのし掛かっていたものが、なくなっていく」シュウウウ…

勇者「良かった……本当に、良かった!魔法使い…!!」ギュウッ

盗賊「マジで戦う意思はないんだな?四天王とやらなのに、これも罠とかじゃねーんだな?」

スーパースター「ハッハッハ!勿論だよ!だからその、私の喉元に短剣をあてがうのをやめてくれたまえ、美しくも縮み上がって中に引っ込んでいくよ、もう一人の美しい私が」

スーパースター「私は、もう目的を達成したからねえ。美しい私よりも美しい、あの森を…美しい彼女にもう一度、見せてやれたのだから。もう何もする気はない。少し…疲れた」

スーパースター「だから、その宝玉は君達へのご褒美といったところかな。ハッハッハ!言ったろう?私は救世主!みんなのアイドル!スーパースターさ!」

勇者「いえ、貴方は変態です。…普通に頼んでくれたら良かったのに」

スーパースター「ハッハッハ、常識で考えたまえよ!できるわけないじゃないか、私は魔王の配下だぞ?」

スーパースター「それに、人間は嫌いなんだ。君達は私の手駒にすぎない。本当によく働いてくれたものだ。神託の共鳴を封じても合流を果たし、滅びの運命を覆して」

勇者「貴方が常識を語るか、…いや、共鳴を封じていただと?」

僧侶「…あの…、赤の宝玉…魔導師さんが、言っていました。私達は抜け殻が転生した、って。私の過去は、魔導師さん…盗賊さんは、聖騎士さん…なら、…シスターさんも…?」

スーパースター「勿論さ、可愛らしいお嬢さん!力を奪われても英雄達は転生したよ。だがシスターだけは、」ヒュッ

勇者「…え?」

ズドッ!! ドスドスドス!!

魔法使い「うわああっ!?」

盗賊「なっ、……剣…!?どこから飛んできた!?一瞬で串刺しに…」

僧侶「あああっ…!!だ、大丈夫ですか、スーパースターさん!!い、今、回復をっ…!」

スーパースター「回復は必要ない。…お喋りが過ぎたというところだね。魔王がお怒りだ。魔竜を縫い付けたものじゃない、本気で殺しに来た程……怒らせてしまったねえ、逆鱗に触れたというやつか」

魔法使い「スターさん!スターさんっ!!」

スーパースター「しかしこの姿も美しいだろう?…なあ、君達。どうだったね?私の脚本、演出は。楽しんでくれたかな?」

勇者「何を…あ、貴方が、いらない事をしなければ…ただ、頼んでくれれば、こんな事には……まだ聞きたい事が沢山あるのに…!」

スーパースター「ふうむ。楽しくなかったかね、私もまだまだだな」

魔法使い「………」

魔法使い「…スターさんは…すごく変だったし、困る事ばかりして……みんな、嫌な思いをたくさんした。呪いも、辛かったな」

魔法使い「……でも、僕は………ちょっとだけ。ちょっとだけ、楽しかった。スターさんが好きだったよ。ジャグリング、教えてほしかった」

勇者「…魔法使い…!」

スーパースター「フフ…ハーッハッハッハー!!!」

スーパースター「いいだろう、健気な少年くん!受け取ったよ、君のアンコールを!見たまえ、この美しい私の姿を!!」

僧侶「だっ、ダメです!立ち上がっては、剣を抜いては……、っ!……盗賊さん…?」

盗賊「…いいから、やらせてやれ」

スーパースター「ハッハッハ!今宵は特別だ!ジャグリングに加えて、これぞ剣の舞といったところかな?ハーッハッハッハー!!」

魔法使い「……すごい…すごいよ、スターさん。血を吹き出しながら踊ってる……あはは、…出会った時も、そうだったよね…」

勇者「………」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!!」ゴウゥッ

僧侶「……スーパースターさんから炎が…!!これが…魔王の、力なの……?」

盗賊「……この踊り、知っているぞ…エルフの村で見た、妖精のダンスだ…」

―― バサアアァッ!!

勇者「…剣ごと、灰になって…散ったか……」

魔法使い「………」パチパチパチ

勇者「…魔法使い?拍手を……」

盗賊「………」パチパチパチ

僧侶「…とても、す、…素敵な……ダンスでしたよ…」パチパチパチ

勇者「………」

勇者「…こんな道を、貴方に歩かせてしまったのは、……私達人間なんだろうな…」

勇者「………」

勇者「………」パチパチパチ

魔法使い「…僕、貴方と友達になりたかったかもしれない。そしたら、きっと、もっとずっと、楽しかったと思うな」

魔法使い「さようなら、スターさん。……次は仲直りして、…また遊ぼうね。約束」


盗賊「…何はともあれ、クソガキの呪いも一段落ついたんだ……休もうぜ。ドッと疲れが出てきちまったよ」

勇者「……そうだな。ここまでずっと走り通しだった…少し、ゆっくり休もう…」

( ;人;)パチパチ…

>>344
きたねぇケツさらしてんじゃねぇよ

もっとおぞましい奴なのかと思ってた……スター乙
なんだかんだどのキャラも憎めないあたりがすてきだ。好みなssだ

でもなんでそこまでお膳立てする必要があったのか
ここまで謎な奴なのにあっさり死んだし

演出

ありがとうございます

~貿易大国・宿屋~

賢者「それでは、魔法使いくんの回復を祝って!カンパーイ!!」

盗賊「乾杯ー……って、何をしれっと混ざってんだ、クソオヤジ。お前今回何もしてねーだろ」

賢者「したじゃん!?助言したし地図書いたし!いいだろ、タダ酒ほど旨いものはないよーオッサンも仲間に入ーれーてー」

魔法使い「ふふっ、でも、賢者さんに助けられたのは本当だもんね。ありがとうございました、賢者さん!」

僧侶「皆さん、台所をお借りして、勇者様と私で、ご飯作ってきましたよう~。たくさん食べてくださいね!」

魔法使い「やったー!おなかぺこぺこだったんだ、いただきまーす!」

勇者「良かった、食欲も出てきたようで…白の宝玉の力は本物だったんだな、安心したよ」

僧侶「勇者様に聞いて、魔法使いくんの好きなものばかり作ったからね!いっぱい食べて?」

盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ

賢者「…うん、旨いっ!店出せるんじゃないの?2人共。やー、いいお嫁さんになれるねえ」

勇者「はは、それは褒めすぎではありませんか?ですが、ありがとうございます。嬉しいです」

僧侶「本当においしいですよう、勇者様のお料理!なんというか…すごくホッとするんですよね、料理のあたたかさだけじゃない……真心こもった愛情料理って感じです!癒されます~」

勇者「僧侶まで…やめてくれ、恥ずかしいよ…でも、喜んでもらえて良かった。僧侶の料理もとても美味しいよ、作り方をもっと詳しく教えてほしいな、メモしたい」

魔法使い「ね、勇者様の料理、美味しいでしょ?お兄さん!僧侶さんの料理も僕大好きー、僧侶さん、おかわりちょうだい!」

盗賊「ああ。なかなかイケるんじゃねー?クソオヤジの言う事は合ってると思うぜ」モグモグ

勇者「!!! …そ、そ、そうか……あ、ありがとう……」

・・・

勇者「ふう…いい湯だった」

賢者「おー、湯上がり美人は最高だねぇ、まったく!色っぽいよ、勇者ちゃん」

勇者「またそんな事を言って。…2人とも、何をしているんだ?」

魔法使い「今ね、賢者さんに魔法学を教えてもらってたんだー。賢者さん、すごいんだよ!?物識りで頭良くて、難しい問題全部解いちゃうの。わかりやすく教えてくれるから、すっごい楽しい!」

賢者「ははは、魔法使いくんの飲み込み早さはビックリだけどなー。よし、勉強はここまでだ!風呂に入って、疲れた頭をリフレッシュしよう」

魔法使い「僕、賢者さんと一緒に入る!大浴場まで競争しようよ!」

勇者「ふふ、すっかり賢者さんに懐いてしまったな、魔法使いったら」

賢者「やー、オッサンも可愛い息子が出来たみたいでとても嬉しいよ。よーし、競争しような!オッサンはまだまだ若い子に負けないぞ~?」

勇者「そんなに走って、転ぶなよ?魔法使い!」

勇者「……魔法使いは両親の事を知らないからな…賢者さんに会えて良かったかも。父親のぬくもりを教えてくれるのは有り難い」

勇者「…テラスにでも出て、涼むとするか……」スタスタ

ガチャッ

勇者「はぁ…涼し、………っ」

勇者「(…あれは、僧侶と盗賊……!)」サッ

勇者「(………あれ?なんで隠れてしまうんだ?私……)」

勇者「(………)」


盗賊「…あー……酒が旨ェ。暫く飲む機会無かったからなあ…しみるわー」

僧侶「もう…飲みすぎですよ、盗賊さん…。明日に響きますよ?また二日酔いになったら、どうするんですか~…」

盗賊「その時ゃテメーが薬もらって来い。いいだろ、今日は祝いの日なんだしよ?これくらい……ヒック」

僧侶「ダメです、あとで苦しむのは、盗賊さんですからね?その一杯で最後です。大体、ここにも酔い醒ましで来たのに…」

勇者「(………)」

盗賊「ふー……しかし、何度見てもスゲーな、カジノ街のネオンはよ。眠らされていた奴らが目覚めて良かったぜ、消しとくもんじゃねーわ、この輝き」

僧侶「夜空は星の輝きがいっぱい、街はネオンの輝きがいっぱい…キラキラして、眩しいくらいですね…すごく綺麗…」

盗賊「またカジノ行きてーなー、砂漠の国からもらった金をコインに代えてさ。あー、豪遊してえー」

僧侶「…折角雰囲気に浸っているのに、そういう事を言う~」

盗賊「ケッ。この俺が雰囲気だなんだ、守ると思うか?」

僧侶「…全然思いませんっ」

盗賊「よーしよし、よくわかってんじゃねーか。褒美に酒をもう一杯作っていいぞ」ナデナデ

勇者「(………!)」ズキン

僧侶「どんなご褒美ですか、それ~…盗賊さんへのご褒美ですよね…?頭撫でてくれても、お酒はもうダメです!」

盗賊「チッ。もう少し飲みてーのによォ…」

勇者「(……なんだろう……すごく、胸が痛い…モヤモヤする。なんだ、これ)」

勇者「(…あんな風に、笑ったりも……するんだな…)」


僧侶「大体盗賊さんは……、…あれ?…勇者様!どうしたんですか?そんなところで」

勇者「………!」ビクッ

盗賊「なんだ、いるなら声くらいかけろよ。テメーもこっちに来い、飲み比べしようぜ」

僧侶「だから、お酒はもうおしまいです!勇者様もなんとか言ってやってください~、全然言うこと聞かないんだからー…」

勇者「あ……ああ…」

盗賊「お前、勇者の飲みっぷり見てなかったのか?ありゃ凄かったわ、顔色ひとつ変えず水みてーにガブガブ飲んでよ。男勝りっつーか顔負けっつーか…女と思えないレベルだった」

勇者「!!!」

僧侶「デリカシーないんだから……気にしなくていいですよ、勇者様。こんな酔っ払いの言うこと!」

勇者「…う…うん……」

~深夜~

僧侶「……すー…すー……」

勇者「(…眠れない)」

勇者「(…魔法使いは、賢者さんや盗賊と一緒に、男部屋で寝ているし……僧侶とはベッドが別)」

勇者「(……なんだか、寂しいな)」

勇者「……水でも飲むか………」ムクッ

僧侶「……ううん…」モゾモゾ

勇者「(っ、と……ここじゃ、物音を立てたら起こしてしまいそうだ…ラウンジに降りよう…)」

勇者「(…起こさないように、……そーっと、そーっと……)」

僧侶「……むにゃむにゃ…」

・・・

勇者「…誰もいない…当たり前か、深夜だもんな」

盗賊「……あ?なんだ、テメーかよ。お前もよくフラフラしてんなー、イノシシから転職か?」

勇者「!? 盗賊…君こそ、こんな時間に…何をやっているんだ」

盗賊「どうしても飲み足りねーから、酒追加。クソアマには黙ってろよ?うるせーからよ、あいつ」

勇者「そ、そうか…しかし、彼女は君の事を心配して……」

盗賊「はいはい、テメーもうるせーな。説教なんざいいから、お前も飲めよ。どうせ眠れないから降りて来たんだろ?なら、付き合え」

勇者「そうやって共犯に仕立てるつもりか。…まあいい、眠れないのは確かだ。頂こう」

盗賊「よっしゃ。お堅いだけじゃねーんだな、お前。ま、一杯飲めば眠気も来る……かどうかはわからねーか、お前の場合。酒豪だもんなあ」ニッ

勇者「(…笑った!)」ドキッ

勇者「(…魔法使いは、両親のぬくもりを知らない……なら、私は………)」

勇者「(……私が…知らないことは…)」

勇者「(……いやいや。いやいやいや!何を不真面目な事を。両親がいないのは私もそうだろう!馬鹿馬鹿しい!!)」ブンブンッ

盗賊「…?何、首振ってんだ。飲まないのか?酒」

勇者「い、いや!頂く!飲むから!!大丈夫!!なんでもない!!!」

盗賊「お、おう…。……変な奴」

~宿屋ラウンジ・朝~

勇者「(結局一睡もできなかった)」

盗賊「あー……だっる。なんでこんなに朝早ぇんだよ、もっと寝ていてもいいじゃねーか…」

僧侶「今日は、魔竜さんにあげるお菓子を買いに行くって、みんなで決めたじゃないですか。…だから飲みすぎだって、言ったのに」

勇者「………」

魔法使い「…勇者様?どうしたの、ぼんやりして。勇者様も、二日酔い?」

勇者「あ、…いや、すまない。大丈夫だ、ただボーッとしていただけだよ」

勇者「………」

勇者「(…孤児院では同い年の子がいなかったし、院長様は、お優しい方だったけど、ご高齢で…)」

勇者「(スーパースターは…そもそも変態だし。貿易大国の執事は、気が合ったけど…それだけだ。聖騎士の王国の王子は快男子で好感が持てたが…どちらかといえば、尊敬での好意だしな…)」

勇者「(賢者さんの軽口は流せるのに……何が違うんだろう?)」

賢者「………」

盗賊「…あー…ダメだ、これ。クソアマ、水と薬……」

僧侶「もー…これに懲りたら、自制を覚えてくださいね?すぐ、もらって来ますから」

賢者「………」

盗賊「だりぃー、マジかったりー、気持ち悪ぃー、……頭痛ぇー…」

賢者「…ふっふふふ……いやはや、いやいや…兄ちゃん、兄ちゃん」ポンポン

盗賊「あぁ?」

賢者「……わっ!!!」

盗賊「!!!?? な…な、何しやがる!耳元で大声出しやがって、あ…頭痛ぇぇ…っ!!」キーン

魔法使い「だ、大丈夫?お兄さん!賢者さん、どうしたの、いきなり!こっちもびっくりしたじゃんか~!」

賢者「いや~、オッサンレーダーがね、こう…反応したっていうか。鉄槌を下せって聞こえた気がしたというか」

盗賊「な…何をわけのわからねー事を……!あだだだだ…!!」ズキズキ

勇者「(…考えすぎなのかな、私は。気が緩んでいる…まったく、自分が情けない)」

投下速度がイイネ

仮面が過去の勇者の記憶辺りとの絡みの何かだと思ってましたサーセン

そしてオッサンgj!!天然たらしもげてしまえ!!

スターの言うあの子って誰なんだろ?

>>362
シスターじゃない?

あれ?これ魔法使い涙目じゃね?

ヤングマンだと…??

どうか!どうかどちらも幸せに!!

読んでくださりありがとうございます。投下は今月中に終わらせたくて若干焦り気味。

>>361
成程~それの方が良かったな…ありがとうございます!

~貿易大国・商店街~

僧侶「あ、これ可愛いー。これなら魔竜さん、喜んでくれるかなあ」

盗賊「あのクソトカゲのサイズ忘れたのかよ、見た目より量じゃねーか?」

僧侶「お菓子は、味も重要だけど、見た目も、大切なんですよう?折角のお土産なんだし…ひとつくらい、こういうのがあってもいいと思います~」

盗賊「さっぱりわかんねー世界だ。たらふく食えるだけで有り難ぇだろうに」

勇者「(…改めて見ると、いつも自然と傍にいるんだよな……なんか、…いいなぁ…)」

魔法使い「ねえねえ勇者様!僕のおやつにこれ買って……勇者様?」

勇者「………」

魔法使い「勇者様、またぼんやりして。なんなの、最近変だよ。何を見て………」

僧侶「じゃあ、これと、これと……」

盗賊「結構金かかるな、菓子って。そんなに旨いんなら、俺にもひとつ……」

勇者「………」ポーッ

魔法使い「…お兄さん……?……。………!ま、まさか!!?」

賢者「……現実とは…青い春とは、時に残酷で非情なもの…気づいてしまったか、少年」ザッ

魔法使い「賢者さん!…いや、あれで気づかないのは勇者様くらいじゃ……わかりやすいな、勇者様…」

賢者「兄ちゃんとお嬢ちゃんもねー。兄ちゃんは、勇者ちゃんの事をからかえないくらい猪突猛進のところがあるし…お嬢ちゃんは常日頃からボーッとしているしなあ。荒れるぜ、この海…」

魔法使い「な、な、なんでなんで!勇者様、今まで誰かが好きとかそんな事、一切なかったのに!王子様の求婚にだって…」

賢者「それについては名探偵・オッサンが推理しよう…の前に、裁判長!此度の判決をお願いします!」

魔法使い「お兄さんは有罪だー!!有罪ー!!」

賢者「よーし、判決に基づき、刑を執行する!」


賢者「有罪キック!!」ビシッ

盗賊「痛った!!?…さっきからなんなんだ、クソオヤジィィ!!」

魔法使い「ぜー、はー…ぜー……お、お兄さん…めちゃくちゃ怒って追いかけてきたね…」

賢者「ひー、はー、…ひぃー……しかし、見たかオッサンの逃げ足の早さ…あ、もうダメ死ぬこれ…あれ、買おう……」

賢者「…はい、魔法使いくん。喉渇いたろ、ジュースだよ」

魔法使い「あ、ありがとう、賢者さん!…はー、美味しい…」

魔法使い「…それにしても、ズルいよ、お兄さん。僕だって、ずっと勇者様が好きなのにさ…そういう事、興味ないと思ってたのに…この前だってさ……」

賢者「ふむふむ…」

・・・

賢者「……ふうむ。聞いた話から察するに、アレだな。勇者ちゃんの春は確定なんだねえ……女の子は早熟だと思っていたんだが、いや~生真面目でウブな子だ…」

賢者「や、むしろ、過程すっ飛ばして親心というか…母性が開花したせいなのかなー?剣の道しか知らなかったところの春かあ、…若いっていいねぇ」

魔法使い「…王子様の時も、すごい焦ったのに……王子様、強いし優しいし、背も高くてカッコいいから…勇者様だって、王子様と一緒にいると楽しそうで…」

魔法使い「王子様が退いてくれてホッとしたと思ったら、なんでよりによって、お兄さんなのー!?どう見たってお兄さんは僧侶さんが好きなんじゃ…なんでわかんないのかな、勇者様はー!」

賢者「わからないのが、恋ってもんなんだよー、若者よ!」ドヤァ

賢者「そう……、勇者ちゃんは今、兄ちゃんが好きというより…恋に恋しているって状態が近いと思うなあ」

魔法使い「恋に……?」

賢者「そうそう。…今までまったく考えのなかったところに現れた異性だからねぇ」

賢者「王子の場合は、恋愛感情より先に、強さへの憧れとか身分の差とか使命とか…色々邪魔があったようだけど、兄ちゃんの場合はなー。仲間としての距離の近さ、年齢の近さ、諸々込みでフルスロットル」

賢者「魔法使いくんの場合は、異性として意識するより、家族としての意識が強すぎているんだろうね」

魔法使い「……でも、このままいったら勇者様、傷ついちゃうんじゃ…」

賢者「いやいや~。これはいい機会だと、オッサンは思うなあ」

賢者「心が成長する事も大事だからね。遅蒔きながら芽が出たんだ、ここは育てるべきと思うよ。まったく傷つかない成長なんて、紛い物にすぎない」

賢者「それにさ?恋愛感情が芽生えたって事は、魔法使いくんにもチャンスが来たって事じゃないか。魔法使いくんが頑張ったら、家族じゃなく異性として見てもらう機会ができたって事だろう?」

魔法使い「…そ……そうかな…?」

賢者「そうだよ。恋心ないままで来たら、王子だろうが兄ちゃんだろうが、みんなひっくるめて私の家族!兄弟!以上!終了!!……となっただろうしね。勇者ちゃんなら…」

賢者「だから、いっぱい勉強して、いっぱいご飯食べて寝て遊んで、たくさん成長しなさい」

賢者「そうすりゃー勇者ちゃんも、必ず君の事を見てくれるよ」

魔法使い「…本当?」

賢者「ああ、本当さ。それと、この先、勇者ちゃんが傷つく事があったら…その時は傍にいてあげるといい。傷ついた勇者ちゃんを癒せるのは、薬草でも回復魔法でもない、君なんだからね」

魔法使い「……うん…わかった。ありがとう、賢者さん」

賢者「焦らずゆっくり頑張りなさいよー、若いうちは長いようで短いからねえ」


勇者「……あ、こんなところにいた!2人共、そろそろ宿屋に帰るよ。買い物も済んだし。…なんだ、魔法使いったらジュースなんか飲んで。賢者さんに買ってもらったのか?お礼は言った?」

魔法使い「勇者様!」

勇者「すみません、賢者さん。あとで代金お返ししますから」

賢者「いや、いいよー、ジュースくらい」

~宿屋ラウンジ・夜~

勇者「…では、明朝に魔竜のいる岩山へ向かうという事で…」

盗賊「クソトカゲからもらった竜の鱗がちゃんと働くかね、働かなかった場合はまた山登りだろ、一応準備は整えとかねーと…」

僧侶「今日の買い物の時に、見つけたんですけど…魔力回復の聖水が…出発前にいくつか買っておいた方が…」

ワイワイ ガヤガヤ

魔法使い「………」

盗賊「下山途中、もう少し探索していってもいい気がするんだよ。資金源になりそうなもの、鉱石がいくつかあったしよ。地図を見てくれ、例えばここには……」

勇者「(……ち、近っ…いや、ダメだ、魔王討伐に向けて集中せねば…!でも…)」

盗賊「……それと…、……おい、勇者?俺の話をちゃんと聞いているか?」

勇者「あ、ああっ!?す、すまない!聞いている!大丈夫!!」

魔法使い「………」ムスー

賢者「焦らない焦らない、じっと見守る正念場だよー、ここは」

僧侶「あのブレスで帰るのは、できれば避けたいですもんねえ…すぐに降りられるけど、こ、こ…怖かったし……」

盗賊「俺もあれは勘弁願いてーわ。……んじゃ、出発前に足りない薬草の補充と、魔力回復の聖水を買って、と。食糧の方は大丈夫なんだな?」

僧侶「はい、今日お菓子を買う時に、一緒にまとめて買いました、から。盗賊さんが荷物を持ってくれて、助かりました。ありがとう、ございます!」

盗賊「…荷物運びの為に連れてきたクソオヤジが途中で逃げたからな~、ったく。肩凝ったっつーの」

勇者「だから私も手伝うと言ったのに…妙なところで、気を使うんだな」

盗賊「気ぃ使っているわけじゃねーよ。買い物で荷物持ちといったら男の仕事だろ。女は気にせず好き勝手あれこれ買ってろ」

僧侶「またー…そういう、捻くれた事ばかり言っていたら、口が曲がりますよう!?」

勇者「(…こんなに口が悪い男なのにな…)」

盗賊「…よし、まとまったな。そんじゃ、とっとと風呂入って飯食って寝ようぜ。明日に備えねーと」

勇者「なんだ?昨日とは違って真面目な事を。今日は飲まないのか?酒」

僧侶「盗賊さん、一応区切りはつけますもんねえ。つけない時の方が、圧倒的に多いんだけど……」

盗賊「そんなテメーは、いちいち一言多いんだよ。このクソアマが。別に、飲んでいいなら飲むが?」

勇者「いや、禁酒だ、禁酒。また二日酔いになられても困る」

僧侶「お酒って、そんなに美味しいですかねえ…?私は、よくわからなかったなあ…」

勇者「私は味のついた水としか思えないな」

盗賊「この女共は……。…つーか、クソオヤジはこれからどうするんだ。俺達と一緒に行くか?」

賢者「いや、オッサンはこの街に残るよ。悟りの書を探す為に、文献を調べている途中だからね。……さーて、風呂に入ろう、風呂に」

~大浴場・男湯~

盗賊「中途半端な時間だからか、利用者少ねーな。貸し切りみてェで気分いいわ」

魔法使い「………」ジロジロ

盗賊「……な、なんだよ。人の事をジロジロ見やがって…」

魔法使い「…別にー、なんでもない」

賢者「…身長も負け、肉体でも負け、アソコでも負け……スタートからして、デキレースなんだよねー」

魔法使い「ううう……」

賢者「しかし!そんな魔法使いくんでも、勝てる事があるっ!!兄ちゃん…勝負だ!」

盗賊「………はあ?一体なんの話だ…」

賢者「これは男を賭けた戦いなんだぜ…逃げる事は許されない!っていうか、面白そうだから逃がさないよ~。ふっふっふ」

魔法使い「…僕がお兄さんにどうやって勝てるのさ……あ、攻撃魔法使えばいいのか」

賢者「いやいや、兄ちゃん死ぬからね、それ。…風呂ときて男の勝負といったらコレしかないでしょ~、我慢比べだよ!!」

魔法使い「我慢比べ?」

賢者「湯船の中へ息が続くまで潜って、先に上がった方が負けだ。根性無しが負けともいう。これならいい勝負ができそうだろ?」

盗賊「なにがなんだかわからねーが、冗談だろ。クソガキに負けるわけねーじゃん、そんなもん。勝負にもならねェよ」

賢者「おやおや?誰かをお忘れでないかね、兄ちゃんさあ……知将たるオッサンが味方につくんだ、兄ちゃんの負けは確定だね」

盗賊「ほざけよ、このクソオヤジ。…いいぜ、テメーらが負けたら、飯を奢れよ?フルコースな」

魔法使い「じゃあ、お兄さんが負けたら、僕達が奢ってもらう!」

盗賊「ふん、だから俺が負けるわけねーっての、クソガキが」

賢者「よーし、ならオッサンが審判をやるからね。2人とも、頑張りなさい」

賢者「………」ヒソヒソ

魔法使い「…え?うん、……わかった!」

賢者「はい、それじゃあ…勝負、開始!」

ドボン! ドボン!

盗賊「(何をムキになってんだか、…馬鹿馬鹿しい。適当に付き合って、負けてやりゃあ…気も済むかね)」

魔法使い「………」トントン

盗賊「………?」

盗賊「!!??!?」ガボッ!!

ザバァッ!!

盗賊「げほっ!!げほ、ごほ!」

魔法使い「……っぷあ!はー、…はー……」

賢者「はーい、魔法使いくんの勝ち!根性無しの兄ちゃんは、俺達に晩飯奢るの決定~」

盗賊「ちょっと待て!!今のは流石にナシだろうが!このクソガキ、変な顔して見せて……あんなの、誰だって吹き出すに決まってんだろ!!」

魔法使い「へへーん、作戦勝ちだよー、だ!お兄さんに勝てるところ、ひとつ見つけた!僕達の方が頭いいもんねっ」

盗賊「頭いい奴が、あんな変顔するか!!待てコラ、泳いで逃げるな!クソガキ!!」

賢者「はっははは!!だから言ったろ、知将がついているって」

~大浴場・女湯~

勇者「……なんだか男湯の方が騒がしいな。他の客に迷惑にならないといいが…」

僧侶「………」ジーッ

勇者「……な、なんだ?僧侶…人の体をジッと見て……」

僧侶「…勇者様もおっぱい大きいんだなーと思って…普段、鎧で隠れているからわかりにくいけど……ううう、改めて見ると…反則だ~!!」

勇者「は、はあっ!?いきなり何を……恥ずかしい事を言わないでくれ!」

勇者「…そういえば、合流した時も、魔物の胸について騒いでいたか……そんなに気になるものだろうか。私は邪魔くさいとしか思わないが…」

僧侶「じゃあ、ください!くださいよう、そのおっぱい!!不公平だ~!あんまりですぅ、神様ー!」ムニィッ

勇者「!!? ちょっと!僧侶!やめろ、何をする!つ…掴むな!!」バシャ

僧侶「カジノの破廉恥お姉さんよりは小ぶりだけど……それでも手から溢れる…!うぬぬ~」ムニムニ

勇者「や……ちょっと、やめて…、んっ」

僧侶「くうっ、形も整ってますぅ…!究極か至高か、いやこれは究極にして至高…!鎧で潰れたりしないんですか?いいな、いいなっ!」ムニムニ

勇者「いや…、やっ、…やだぁ、本当に…やめてったら、くすぐったい…」

僧侶「……あれ?そういえば、こんなに長く揉むのは初めて…ご、御利益!御利益、あるかな…!これで私も究極に!?」ムニュムニ

勇者「んぁっ…!……も、もう!やめなさい!バカっ!!」ポカッ

僧侶「はう!?……はっ!わ、私は一体、何を……」

勇者「…はー…、はー……そ、僧侶…我を失う癖があるの……な、治してくれ…頼むから」

僧侶「あわわ……す、すみません、勇者様!…見ていたら、つい…」

勇者「もう見るなっ!あっち向いてなさい!…も、もう!困った子だ…!」

勇者「…そんなに気にしなくとも、綺麗な肌だし、柔らかそうで、女の子らしい体型だと思うんだがな……わからん…」

・・・

盗賊「………」グッタリ

勇者「………」グッタリ

僧侶「ど、どうしちゃったんですか?盗賊さん、すごい疲れきってますけど……」

魔法使い「ふふん、男の戦いをしたの!!結果は圧勝だったけどね、お兄さん弱かっ……あ痛っ!」ポカッ

盗賊「あんな勝負、無効に決まってんだろ!!そういう勇者はどうしたんだよ、顔が真っ赤じゃねーか。逆上せたのか?」

僧侶「いえ、私が勇者様の、究極にして至高のおっぱいを堪能し……あ痛っ!」ポカッ

勇者「だから!恥ずかしいから言わないでって言ったじゃないか!そういうものじゃない!!」

賢者「……いやいや~オッサンってば凄い勢いでお察ししちゃうんだけど…!若い女の子がキャッキャと戯れて…まさに花園…百合の花咲く園…!?」

勇者・僧侶「賢者さんって、気持ち悪いですね」

賢者「ハモった!!?」

~翌朝~

勇者「…さて!必要なものも買い足した、出発するぞ、みんな」

魔法使い「賢者さん、また勉強教えてね!いってきます」

賢者「ん、みんな、気をつけていってらっしゃい。…魔王の事に関しても、近づき始めているんだ。気を引き締めて行くんだよ。帰りを待っているからね」

僧侶「はいっ!が、頑張ります!!」

盗賊「つーかよ、このクソトカゲの鱗って…どうやって使うんだ?あいつのところまで行けるっていうけどよ…」

魔法使い「確か…魔竜さんは、念じればいいって言ってたよね…魔竜さんのところへ連れてって、って思えばいいのかなあ?」

勇者「どれ……やってみようか。………」

―― ピカッ

僧侶「あ…鱗が、光って……きゃっ!?」

バシュウッ…

賢者「…おー、……みんなが消えた。うーん、興味深いなあ…しかし、この場に研究者の奴がいなくて良かった。あいつが見たら、鱗をズタズタにしちゃうだろうし…」

~竜の住処・頂上~

シュン!!

僧侶「………!わ…す、すごい…一瞬にして、ここまで…!」

魔法使い「妖精さんの移動魔法みたいなものかな?場所限定の……」

魔竜「旨そうな匂いがああああ!!!」ギャオオス!!

盗賊「うおあああ!!?」

勇者「な…なんて大きな声だ、衝撃波まで生じるとは…!」

魔竜「あ。すまん、あまりにも旨そうな匂いがしたでの、興奮してしもうた」

盗賊「テメー!!ビビらせんな!興奮禁止にしろ、血圧上がるぞ!?」

魔法使い「魔竜さんっ!色々教えてくれて、本当にありがとう!宝玉のおかげで、僕、助かったんだよー!」

魔法使い「お礼にたくさんお菓子を買ってきたから、食べて?ほらっ」ドサドサ

魔竜「うおおおお甘いものおおお!!!」ギャオオオオス!!!

盗賊「だから!興奮させんな、クソガキ!!」

僧侶「ああう……み、耳が、耳が!破けちゃいそう、です~…!!」

魔竜「うむ……うむ……ワシは幸せ者だの…こんなにもたくさんの甘いものを食べられるのも、はて、どれくらいぶりか…見た目も綺麗に作られるようになったのだな…」モグモグ

僧侶「うふふ、喜んで頂けて良かった、です…でも、投げて渡さなきゃいけないのも、なんだか…寂しいですね…」

盗賊「…その、お前の体に刺さっている剣は……魔王がやったんだよな?」

魔竜「うむ。普通の剣ならばワシには効かぬが、この剣は魔王の力が形となって現れているもの。魔王が死なぬ限り、抜ける事のない封印よ」

魔竜「そしてそれは、坊主、お前の呪いも同じ事。いいか、その白の宝玉をけっして手放すでないぞ。宝玉が無くなれば、再び呪いの力が甦るぞ」

魔法使い「…白の宝玉は、魔竜さんの剣を消すことは、できないの…?」

魔竜「フフ。出来るのであれば、ワシは今ここにはおらぬよ。宝玉はただ傷を癒すだけ…生命を補うだけだからの」

勇者「そ、…それでは、宝玉を失った貴方の命は…」

魔竜「それ以上口にするな、娘。…構わんよ、これはワシへの罰でもあるでの。ワシは白の宝玉が救われれば、それで良いのだ…」

盗賊「………」

僧侶「…なら……それなら、魔王を倒せば…魔法使いくんも、魔竜さんも、助かるんですよね!」

勇者「…そして、世界も救われる。…魔竜殿、今一度助言を頂けませんか。私達は魔王を倒したい…魔王の事について、どうか教えてください!」

魔竜「………」

魔竜「…魔王は……この世界にはおらぬ。善悪の境目という場所にいるのだ」

魔竜「魔王の住む場所へは、普通の行き方では辿りつけぬ。英雄の一人が使っていた剣で、境目を斬り開かねばならん」

勇者「英雄の剣……ですか?」

僧侶「…魔導師さん達と一緒に戦った、過去の勇者様…でしょうか……」

魔竜「うむ。彼の使う剣は、技は、次元すらも斬り裂く…最強の英雄であった」

魔竜「その力を恐れたワシら四天王は、魔王が英雄達の魂を宝玉へ閉じ込める際に、剣を奪い、封印を施したのだ」

魔竜「…ワシはこの通り力を失った。赤の宝玉をお前達が持っているという事は、魔将も倒したのだろう?そして、魔精も死んだ…残る四天王は魔獣のみ。ならば封印の力も弱まっておろう」

魔竜「剣はこの世界の中心…海に沈む神殿にある。赤の宝玉を使え。赤の宝玉は、破壊の力。強大な魔力を持った魔導師の魂…奴なら弱った封印を破壊できよう」

勇者「…ちょっと待ってください、海に沈む神殿?そんな場所、どうやって行けば……」

魔竜「ワシのブレスでお前達を包んでやろう。暫くの間なら、水の中でも地上と同じく活動できようて。そうだの…半日程度は。……素早く行動すれば良い」

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

>>賢者「…おー、……みんなが消えた。うーん、興味深いなあ…しかし、この場に研究者の奴がいなくて良かった。あいつが見たら、鱗をズタズタにしちゃうだろうし…」

また気になるセリフを…( ゚д゚)

読んで頂きありがとうございます

盗賊「半日…か。神殿がどれ程の規模かわからねーが…まあ、やるしかねーか……」

魔竜「案ずる事はない、行けばすぐに見つかるだろうて」

魔法使い「…でもさ、剣を取れたとして…善悪の境目って、何?どこを斬ったらいいのかな」

僧侶「善と……悪………あれ?なんか…引っ掛かる。なんか…どこかで聞いた事があるような…」

盗賊「……神様の住む街に、悪党がぞろぞろ集う…善と悪、両方の揃う…」

勇者「……!!大聖堂の街か!?」

魔竜「………ご名答。そう、運命とは、1つの輪よ。ぐるりと廻り、原点に還るもの」

魔竜「剣を手に入れたなら、大聖堂の街へ行け。そこから先は、剣が導いてくれる」

魔法使い「…魔王……魔王と、対決……」ゾクッ

盗賊「…ここまで来たか…」

僧侶「……魔王を倒せば、世界は平和になる、……」

勇者「…倒してみせる。必ずや!」

魔竜「では、ワシのブレスでお前達を海底神殿へ送ってやろう」スウウゥー

盗賊「待て!ちょっと待て!!心の準備をさせろ!!クソガキ、菓子をクソトカゲに投げやがれ、あいつを止めろっ!」

魔法使い「魔竜さーん!甘いものだよっ、はい!!」ポイッ

魔竜「甘いもの!!!」パクッ

勇者「はは…コツが掴めてきたな……」

僧侶「ブレスで飛ばされて、海へ入って……剣を取ってきて。帰りは…魔竜さんの、鱗を使って、ここに戻って、……ああう…心臓によくなさそうな事が、目白押しですねえ……」

勇者「戻ったあとは、大聖堂の街へ行き…そして、魔王を倒す」

魔法使い「し…深呼吸、しとこ……」

魔竜「…心の準備とやらは、整ったかの?」

盗賊「……くそっ、金輪際ごめんだと思ったのによ…わかったよ!ブレスでもなんでも来やがれ!!」

勇者「海底神殿……どんなところだろうか…」

~海中~

ザバァァン!!

僧侶「ひいいぃ……な、何度やろうとも、やっぱり…慣れないです!ブレスで、飛ばされるのは…!!」

魔法使い「わー…海に深く潜っても、全然苦しくない。目も開けられるし、喋れるし」

勇者「体も濡れないな。泳ぎはあまり経験が無かったが…歩くように泳げる。竜のブレスの力…凄いものだ」

盗賊「あのクソトカゲ、本当に万能だな。味方で良かったわ、マジで……」

勇者「しかし、美しいな、海の中とは。こんな体験ができるなんて…」

僧侶「はい、とっても綺麗です…お日様の光がゆらゆらして、お魚さん達も楽しそう。…深く潜っていくごとに、暗くなるのも…なんだか、神秘的」

魔法使い「海の主さんは、どこでお昼寝しているのかなー。また会いたいな」

勇者「…ん。あれか?魔竜殿の言っていた、神殿とは」

盗賊「どうやらそうらしいな。ぼんやりと光っているわ、すぐに見つかって良かったぜ」

勇者「っと、………これか。英雄の剣とは」

魔法使い「わー…大きい水晶の塊。中に見えるね、剣があるの」

盗賊「…この水晶を割って、剣を取り出しゃいいんだな。砕いた欠片は売れるかねェ、…いや、四天王共が封じたんだったか、呪われそうだな。やめとくか…」コンコン

勇者「僧侶。君の持っている、赤の宝玉を出してくれ」

僧侶「は、はい。勇者様…。……大丈夫かな、魔導師さん…ずっと声が聞こえなかったし、他の宝玉みたいに、力を…出す事も、今までなかったから……」ゴソゴソ

盗賊「…もう、力が無くなっちまったとかじゃあねーよな…?」

僧侶「わ、わかりません…でも、これじゃないと……剣は手に入らないんです、よね…呼び掛けて、みます」

僧侶「……魔導師さん…お願いします。貴方の力が必要なんです。この水晶を割ってください…私達は、魔王を倒したい…救いたいものが、たくさんあるの……」

僧侶「……お願い…、…お願いします。力を、貸してください…」

―― ピカッ!!

魔法使い「うわ!…宝玉から、真っ赤な光が…!!」

勇者「…水晶に伸びていく……、ああ、亀裂が!」

盗賊「―― !!! クソアマ!やめろ、もういい!やめろ!!」

勇者「何故止める!?もう少しで水晶が割れそうなんだ、今止めたら…」

盗賊「バカ野郎ッ!!水晶じゃねえ、クソアマを見ろ!あの光、暴れてんじゃねーか!!クソアマが傷だらけになっている!!」

勇者「な…っ!!?」

僧侶「…ごめんなさい、苦しめてごめんなさい…でも、お願い!もう少しなの、お願い……私達を助けて、私達に力を貸して!!魔王を倒したいの!!」ビシ! バキ!

盗賊「やめろ!もういい!クソアマ!!身体中ズタズタに……やめろ!!やめてくれ、……僧侶ッッ!!お前が傷つく事ねーんだよ!やめろーッ!!」バツッ! バシ!

勇者「僧侶!!…止めに入った盗賊まで、傷が…!!」

僧侶「大丈夫……大丈夫!私なら、やれる!私なら、できる!!……私達なら、できるの!!」

僧侶「お願い!!貴方達を助けたい、もう悲しい事を終わらせたい!!……砕いて!あの水晶を!!私達なら、できるんだから!!」

―― バキャアアン!!

魔法使い「水晶が砕けた…!!勇者様!剣を!!剣を取って!落ちてくる!」

勇者「あ…ああ!」パシッ

勇者「これが、英雄の剣…!……僧侶!?」

僧侶「………」フラッ

盗賊「僧侶!!…っバカ女……!手も体も…顔まで…!!」ガシッ

魔法使い「お兄さん!白の宝玉を使って!僕、手に持ったままでいるから…僧侶さんにも、宝玉をかざそう!」

盗賊「俺より先に、クソアマに向けろ!頼む、白の宝玉…こいつを治してくれ…!」

勇者「僧侶!盗賊!大丈夫か、2人共!!」

僧侶「う……うう、……」シュウウウゥ

勇者「…よ、良かった……傷が、消えていく…治っていく」

魔法使い「暴走するなんて、知らなかったよ…赤の宝玉って、こんなに危ないものだったの…?」

盗賊「…赤の宝玉を見つけた時は、ここまでじゃあなかったんだ。俺達が魔物……魔将か?そいつに襲われた時、助けてくれたしよ。その時は、力を制御できていたんだがな」

盗賊「…青も、赤も、白も。封じられているっつう奴らが、消えてんのかもしれねえな…自我が無くなって、ただひたすらに力を使うだけ」

勇者「……白の宝玉も…考え方によっては、危ないかもしれないな。魔法使いや僧侶のように、瀕死の状態ならば頼もしいが…敵に、魔王に奪われたら……勝ち目が無くなってしまう」

盗賊「…クソガキ。白の宝玉はもう表に出さないように、肌身離さず持っていろ。クソトカゲも言っていたろ、それを手放せばテメーの呪いは再発しちまう。…守り通してくれ」

魔法使い「……う、うん…わかったよ、お兄さん…でも、お兄さんも傷を…」

盗賊「俺の傷は、どうって事ねーよ。宝玉を使うまでもない、いいからしまっておけ」

勇者「(…魔竜殿も、守りたいと言っていた。…魔王に奪われれば、勝ち目がない)」

勇者「(…魔竜殿から……それを奪ったのは……。…呪いの対抗策、以外に…?いや、考えすぎか。そんな事…まさか)」

盗賊「…おい、勇者。剣は取ったろう、ここにはもう用は無い。クソトカゲのところへ戻ろうぜ。…クソアマを休ませたいんだよ」

勇者「……あ。…ああ、そうだな。すまない、考え事をしてしまっていた…すぐに戻ろう」

勇者「………」

勇者「(私は……私は、何をやっているんだ?僧侶が傷ついていたのに、気づけなかった。2人が傷ついたのに、他の事を考えていただと!?)」

勇者「(…吐き気がする。なんて……最低な。私は、最低だ!!!)」

魔法使い「………」

盗賊「クソトカゲの鱗を使うぞ。テメーら、ひとつに固まれ」

~竜の住処・頂上~

魔竜「うむ。それは確かに、英雄が使いし剣。我らが封じたものに間違いない」

盗賊「こいつを使えば魔王のところへ行ける、か。…だが、悪ぃ。クソアマが負傷しちまったんだ、目覚めるまで動かしたくねェ、ここで休んでもいいか?」

魔竜「構わぬ。風が強かろう、ワシの傍で休むといい。岩に縫われようと、風避けくらいにはなれるでの」

魔法使い「ありがとう、魔竜さん!じゃあ、この辺りにテントを組み立てて、僧侶さんを休ませようね」

勇者「……ああ」

魔法使い「………勇者様?大丈夫?顔が真っ青だよ…?」

勇者「…いや、大丈夫だよ。すまない。緊張しているのかもしれないな。…すぐに準備しよう」

勇者「………」

勇者「(近頃、嘘を吐いてばかりだ…)」

勇者「(……私は…私は…何を、やっているんだ…)」

盗賊「おい、クソガキ。そっちを押さえていてくれねーか」

魔法使い「…あっ、うん。わかった」

~夜~

僧侶「…すー……すー…」

勇者「…良かった…安定したようだな、…寝息が穏やかになっている」

勇者「…ごめんな、僧侶。どうして、こう…周りを見ないのか、私は。…君達と共に戦いたいのに……気が乱れてばかりだ…」キュッ

勇者「…僧侶の手も、顔も……綺麗に治っている。良かった…本当に、良かった。……ごめんな…」

勇者「………」スッ

・・・

勇者「(…外に出たが…魔竜殿も眠っているな)」

勇者「……私は…私は、何を守りたいんだ…?」

勇者「…自分の事ばかりじゃないか。……魔法使いも、僧侶も、…大事なものを傷つけてばかりじゃないか。……もっとも守りたいものを、守れていない……」

盗賊「………何を一人でブツブツ呟いてんだ、怖ェぞ」

勇者「……盗賊!…なんだ…その、……君とは、よく夜中に出くわすな…」

おもすれ~

シスターに何があったのか気になる



ありがとうございます!

盗賊「そうか?ま、互いに夜行性なんじゃねーの。……ところでよ、クソアマの調子はどうだ」

勇者「大丈夫、落ち着いたよ。すやすやと眠っていた。傷も残っていない。……魔法使いは、もう寝たのか?」

盗賊「……そっか。…あー、傷の手当てさせろってうるさかったぜ、なんとか寝かしつけたわ」

勇者「…君の顔についた傷は…残ってしまったな。すまない、英雄の剣に気を取られていて、君達に気づけなかった…本当に、すまない」

盗賊「もういいっつーの。…どうしてこう、うちの女共はグズグズしつけーんだか。テメーは考えすぎなんだよ、真面目なのも大概にしろよな、ウザってェ」

盗賊「なんでもかんでも、ぐるぐる考え込んでちゃあ、そりゃ周りも見えなくなるわ。そうじゃなく、突っ走りすぎて見えないって方が、テメーらしいと思うぜ?イノシシ女」

勇者「…相変わらず口が悪いな……だが、以前…魔法使いにも似たような事を言われたよ…ふふ」

盗賊「ふん。……ま、いいんだよ、この傷は。残しておいた方が…戒めっつーか、さ」

勇者「…戒め?」

盗賊「なんでもねー。……まー、傷のひとつふたつ、ついていた方がハクがつくだろうし?けど、クソアマに見つかったら騒ぎそうだから、誤魔化す理由考えねーとな…」

勇者「………僧侶を……守れなかったから、…その…戒め?」グッ

盗賊「…さぁな、どうだか」

盗賊「つーかよ、丁度良かったわ。お前が起きていて。……ちょっくら、剣の稽古っつーの?それ、やらせてくれや」

勇者「………え?」

盗賊「お前、スゲー強いじゃねーか。手解きを受けたいんだよ、…これから魔王を倒しに行くんだろ?少しでも経験値積んどくかと思ってな」

勇者「……君らしくない言葉だな。そんな真面目な事を言うなんて」

盗賊「うるせーんだよバカ。…これから死地に向かうんだぜ?嫌々ながら。…死なない為にもってやつだ」

勇者「………」

勇者「……いいだろう。だが、聖騎士の王国とは違い、真剣しかないぞ。それでいいのか」スラッ

盗賊「構わねー。…魔王は剣を使ってくるようだからな、模擬戦としちゃ丁度いいだろ」ジャキッ

勇者「………いくぞ!!」ダッ

キィン! キンッ!! ガキッ!!

盗賊「おりゃぁッ!!」

勇者「(足払い!?…よし、避けた)」

勇者「(盗賊の武器は短剣……素早い彼なら、懐に潜り込まれたら終いだ…急所を突かれる)」キン! ガキン!!

勇者「(剣を絡め取られても終い、転ばされても終い。リーチの狭さを、早さと体術でよく補っている)」バッ

勇者「(……強くなっているじゃないか)」

勇者「(…対して、私は………雑念ばかり)」

盗賊「――― !」ズアッ

ガキィィン!!

盗賊「ぐ……ッ」ギリギリ

盗賊「(剣同士が噛み合って……力比べじゃ、こっちの体力が削られるだけだ。流すっきゃねェ…体勢が崩れたところを狙わねーと…)」

勇者「………」ギリギリ

勇者「…盗賊……君は、…僧侶の事が好きなのか?」

盗賊「………っ、はあぁ!?」

勇者「隙ありッ!!」ガキィッ

盗賊「!!!」バッ!

勇者「…ふふ。後ろに飛んで逃げたか。相変わらず、すごい反射神経だな」

盗賊「てめっ……いきなり何を!それでも勇者サマかよ!?」

勇者「動揺は命取りじゃないか?とくに君のスタイルでは。素早く仕留める、そう、暗殺術…というのか。自らを殺し、気配を殺し、そして標的を殺し、…盗む。命を狩り盗る。それが君の特性。…なのに、動揺してはいけないよ」

盗賊「………」

勇者「…私は、…気づかされた。迷ってばかりで、雑念に捕らわれて、周りを見ていなかった…」

勇者「迷いを捨てたい。雑念を捨てたい。勇気を持って、道を切り開き、みんなを希望の明日へ連れていく。…それが、私の使命!」グッ

盗賊「!! ちょっ…その構えは!」

勇者「たああああぁぁぁッッッ!!!」ドガガガガッッ!!

―― …… …

勇者「…ふー……、…おや。聖騎士の王国と違って、本気の本気で放ったのに…避けられてしまったな」

盗賊「……ッ、危ねぇ…!!」

勇者「私の奥義が避けられるくらい素早いなら…きっと、君は大丈夫だよ」

勇者「………」

勇者「…盗賊………」

勇者「私は、君が好きだよ」

盗賊「………は?」

勇者「………」ニコッ

勇者「粗野で乱暴な君だが、私は君が好きだ。大好きだ。初めてだ、こんな気持ちになったのは…」

勇者「滅びの里から…いや、きっと、出会った頃から惹かれていたのかな?もしも、すんなりと合流できていたら……そんな事すら、考えてしまうくらい。私は、…醜い。汚い」

盗賊「………」

勇者「…そして、盗賊と同じくらい、僧侶が好きだ。魔法使いが好きだ!」

盗賊「…勇者」

勇者「今まで出会った人達も、これから出会う人達も、みんなみんな、大好きだ!みんな、同じくらい大好きだ!」

勇者「私はみんなを守りたい。もう迷いは捨てる。みんなを守るために、魔王を倒す!!その為に、私は旅に出たんだ。魔法使いを守りたい、僧侶を守りたい、盗賊を守りたい…みんなを守りたい!」

勇者「………盗賊…君は?君は……私の事が、好き…か?」

盗賊「………」

勇者「………」

盗賊「………」

盗賊「………テメーは…どうして、そう真っ直ぐぶつかってくんだか…恥ずかしい奴。俺に言わせる気か?そんな事」

勇者「ああ」

盗賊「ふざけんな」

盗賊「………」

盗賊「………俺も、まあ、その…テメーの事は気に入ってるよ。じゃなきゃ、こんな面倒臭ぇ旅。とっとと逃げてるわ」

勇者「………」

盗賊「テメーも、クソガキも。出会った奴全員気に入ってる。……あー…ったく、恥ずかしいな……」

盗賊「………」

盗賊「だが、俺ぁテメーみたいにゃ出来ない。博愛なんざ馬鹿馬鹿しい、反吐が出るぜ。俺は俺がやりたいと思う事をやるんだ、自由によ。やりたい事をやる、欲しいもんを取る、自由に」

盗賊「俺がやりたい事は……クソアマ、…僧侶を守る事だ。生涯かけて」

勇者「………」

盗賊「後ろ向きのウジウジ女のくせに、ビビりながらも頑張って前を向こうとするアイツを、見ていてやりたい」

盗賊「ふらふらして、すぐ転ぶアイツを助けてやりたい。どっか行っちまわねーよう、走って追いかけられるよう、力をつけたい。傷つかないよう、守ってやりたい」

盗賊「神託とか過去とか関係なく、…俺が守りたいのはアイツだけだ。アイツが笑って過ごせる未来を作りたいだけだ」

勇者「………うん」

勇者「…耳まで真っ赤だな」

盗賊「うるせえな!!そういう事を言うなよ、バカ!!ここは普通、気づかないフリするだろ!?」

勇者「そうだったのか?それは知らなかったな」

盗賊「こっの……クソイノシシ女!!」

勇者「ああー、すっきりしたなあ。思い切り体を動かしたら、モヤモヤを吐き出したら、なんだか気分が良くなった。ありがとう、盗賊」

盗賊「俺はサンドバッグか何かかよ……」

勇者「さあ。もう寝よう?気合いを入れ直さねば。全ての決着をつけるためにも」

盗賊「……おい。テメーの寝るテントはそっちじゃねーだろ。そっちにゃクソガキが…」

勇者「私のテントはこっちだよ?私は魔法使いと寝るんだ。君は僧侶といなさい」

盗賊「なに、いらねェ気を回してんだ!?ふざけんな!!テメーがクソアマと寝ろよ!!」

勇者「気など回していない。…なんだ?何を意識しているんだ?」ニヤニヤ

盗賊「ぶっ飛ばすぞテメー!!」

盗賊「くそ………アイツの顔、見辛いんだっつーの…ちくしょう……」パサ

僧侶「…盗賊さん」

盗賊「!!! おまっ…寝てたんじゃねーのかよ!?」

僧侶「………んふふ~」ニッコリ

バシィッ!!

僧侶「殴って欲しそうでしたから」

盗賊「………おう」ヒリヒリ

バチィン!!

盗賊「往復!!?」

僧侶「勇者様の分です」

盗賊「……おぉ…」ズキズキ

僧侶「私へのものは、勇者様から頂きますね」

盗賊「はい」

僧侶「………あれ?盗賊さん、そういえば…顔の傷、どうしたんですか?私のビンタのじゃないですよね、これ!?まさか、赤の宝玉の時の…!?あわわわ…!」

盗賊「…気づくの遅ェー、このバカ…」

勇者「………」パサ

魔法使い「………」

勇者「あ。すまない、騒がしくして、起こしてしまったかな。さあ、寝よう。体力が回復しないよ」

魔法使い「…勇者様」

勇者「………」

勇者「………はは…」ポロポロ

魔法使い「………!」

勇者「私って、バカだな。突っ走りすぎて、周りを見てなくて」

勇者「君の前だと、泣けてしまうのにね。なんで忘れていたんだろ」

魔法使い「………」

魔法使い「勇者様は、汚くなんかないよ。とっても綺麗だと思う。真っ白で、純粋で、透明で。どんな色にも染まれるの。それが、僕はとても綺麗だなって思うよ」

勇者「……うっ…う……」

魔法使い「………」

魔法使い「(…苦しい。でも、勇者様は……もっと、苦しい)」

魔法使い「(賢者さん、僕、逃げちゃいたいよ……辛いよ。…でも……頑張らなきゃ…ダメだよね。逃げずに、傍にいなきゃ…)」

魔王が元勇者ではないと祈りたい

>>415

>>415
勇者「魔王倒したし帰(ry

読んでくださりありがとうございます!

>>417
本当に名作

~翌朝~

勇者「………」ザッ

魔法使い「ゆ、勇者様…」ハラハラ

魔竜「………」ハラハラ

勇者「おはよう、2人共!」

盗賊「お…おう。…はよーさん」

僧侶「おはようございます、勇者様!」

魔法使い「………」ホッ

魔竜「………」ホッ

魔法使い「……なんで魔竜さんが溜息吐くの。…起きてたんだ?…ちょっと。口笛吹いて誤魔化そうとしても、魔竜さんがやると超音波にしかならないからね?」

僧侶「では、勇者様っ」

勇者「ああ!」バシィッ!!

勇者「僧侶も!!」

僧侶「はいっ!勇者様!!」バチィン!!

魔法使い・盗賊・魔竜「!!!??」

僧侶「…痛ったぁ~……勇者様、力強すぎです…」

勇者「何を…僧侶だって、勢いよくて、首を捻るかと思ったぞ」

僧侶「……ふふふっ」

勇者「あはははっ!」

魔法使い「…た、楽しそうだけど……大丈夫なんだよね?変な仲直り…なのかな」

盗賊「……女って、怖ェよな…」

魔竜「ワシらにはわからぬ世界よの…」


勇者「よし!気合いも入った、行くぞ!!大聖堂の街へ!!」

魔竜「では、またワシのブレスで送ってやろう」

盗賊「寿命縮むからいいっつーの、歩いて下山すっから…」

僧侶「何を言ってるんですか~、送ってもらいましょうよ。もう何も怖くなんかないです、ねっ勇者様!」

勇者「ああ。時間短縮にもなるしな。まったく、情けない男だ」

魔法使い「さっぱり吹っ切れすぎでしょ、2人共…!逞しいなあ…」

盗賊「……もう、好きにしてくれ」

~大聖堂の街~

魔法使い「…帰ってきたね」

僧侶「ここに、魔王の居場所が……ど、どこにあるんでしょうかねえ…?」

勇者「英雄の剣が導くと聞いたな……鞘から抜いてみよう」スラッ

―― ズバッ!!

魔法使い「わ!?街の入口に……宙に、亀裂が!?」

盗賊「どんどん裂けていくぞ。…これが、次元を斬ったってやつか…?」

僧侶「中は…真っ暗ですね…星みたいなのが光っているけど、夜空って感じでもない……深くて、暗くて…果てしない……」

盗賊「……中に、入るか」

魔法使い「…うん!!」

勇者「行こう……魔王の元へ」

・・・

僧侶「…私達が入ったら、次元の口が閉じていく…」

魔法使い「これって、歩いているのかな?落ちているのかな?よくわかんない…上下左右ちゃんと正しいのかな?」

盗賊「おい、向こうに何かあるぞ」

勇者「……?なんだ?あれは…遠くて、よく見えないな。魔王なのか……」

僧侶「い、行ってみましょう…」ゴクリ

魔法使い「地面じゃないよ、空なのかもわからない、…ちゃんと近づけているのかなあ…?」

・・・

勇者「………!!?」

僧侶「ひっ……!」

盗賊「な…んだ、こりゃあ……バカでかい獣が…剣で串刺しに…!?」

魔法使い「う…うっ、……うわあああ…!!」

僧侶「酷い…酷い……!!こんな、酷いよっ…!おなかも、口も、顔も……体中裂かれて…なんで、こんな……」

魔獣「………ガ……グ………」

勇者「こ…こんな状態で……生きている…!!?」


?「ね。しぶといよね。ふふっ、まあ生きていてもらわなきゃ、困るんだけどさ」

盗賊「…?今、何か言ったか?クソガキ」

魔法使い「え……?ううん、なんにも言ってないよ…?」

勇者「しぶとい、と言ったじゃないか。なんて事を言うんだ、魔法使い…」

魔法使い「だから!そんな事も言ってないったら!!」

?「うん。僕が言ったんだよ?…善悪の境目は、初めて来たばかりだと動きにくいよねー。こっちだよ、こっち!」

僧侶「………!!?」

盗賊「な……、はあ…っ?だ……誰だ、テメー…」

僧侶「ま……魔法使いくんが………もう一人…?」

?「いらっしゃい、みんな。会いたかったよー!君達の冒険はずっと見てたからね、なんだか僕も一緒に旅をしていたみたいで、楽しかったなー」

勇者「魔法使い…魔法使いの姿だ…どうして!?幻術か!?」

魔法使い「じ、自分の姿が目の前にいるって…なんか、嫌だ…!」

?「同じ姿なのは、仕方ないんだよ。だって、君の力を奪っていったのは、僕なんだから」

?「少しずつ奪っていくのも面倒になってきて、魔精に呪いの加速を頼んだりもしたなー。そのお陰で、ここまで成長できたの!すごいでしょう?」

勇者「…呪いを……、…なら、お、お前…が…」

盗賊「……魔王…!?」

魔王「そうだよー。初めまして、そして、久しぶり。ふふ、よく来てくれたね!いらっしゃい!」

僧侶「…久しぶり……?」

魔王「…ここにいて、ちょっと退屈していたからなー。いいよ、みんなでお喋りしよっか!」

魔王「うん。僕と君達は、初めましてで、久しぶりなんだ。今現在は初めましてなんだけど……ずっとずっと、ずうっと昔、僕達は対決した事があったんだ。だから久しぶり、なんだよ」

僧侶「………私達の……過去……」

盗賊「………」

魔王「えっと。名前はなんだったっけ?…そうそう。僧侶さんは、魔導師の生まれ変わり」

僧侶「…や、やめて。魔法使いくんの姿で、声で……呼ばないで」

魔王「それからお兄さんは、聖騎士の生まれ変わり」

盗賊「………!」

魔王「そして、…魔法使いは、元勇者……彼の生まれ変わりだ」

魔法使い「!!?」

魔王「元勇者は、みんなと旅をしていた…僕を倒す為に、魔導師と聖騎士とシスターと、みんなで旅をしていた」

魔王「そして、僕のところまでやってきたけど…僕はね、元勇者を飲み込む事が出来ていたんだよ。僕の気持ちの方が、元勇者よりも強かったみたい。汚くて醜いこの世界を消してしまおう?って気持ちがさ」

魔王「…こんな世界、もういらない。消しちゃっていい、って。リセットして、世界の全てを消しちゃおう!!って気持ちがさあ!?」

僧侶「…こんな世界……、それ、その言葉、って…!?」

―――

魔導師『何故、勇者がそんな事を願ったかわからない。でも、取り引きの時に、勇者はこう言ったよ』

魔導師『こんな世界、いらない』

―――

魔王「こんな世界、いらない」

魔王「…こんな汚い世界、捨てちゃえばいいんだよ」

魔王「…そう。かつて、英雄だなんて持て囃された元勇者は、僕に負けた。僕の方が強かったんだ、僕の意識に飲まれちゃってさ。ふふふっ、元勇者に破滅を選択させてやった!」

魔王「僕自身、驚いたよー。僕をここまで追い詰めた元勇者に勝てたなんてね」

魔王「……元勇者の力はすごかったなあ。あいつの力を得て、僕はギリギリだったけど、生還できた」

魔王「その後、なんとか英雄達の魂を宝玉へ閉じ込める事はできたけど……元勇者はしぶとかった。自分の弱さに気づいて、挫折から立ち上がってさ」

魔王「僕から無理矢理逃げたから、ズレが生じて、他の仲間より遅く転生したみたいだけどね」

勇者「な……」

魔王「どういう事だろうね?一度僕に負けたくせに。まだ諦めてなかったなんて」

魔王「起きたらびっくりしたよー。飲み込んだ筈の元勇者がいないんだもん。仕方ないから、僕の力の結晶、黒の宝玉を媒体にして呪いをかけ、生命力を奪わせてもらったよ」

魔王「魔法使いが死んだら、その体に入って完全回復、準備完了。さあ世界を消そう、なんて考えてたんだけどなー」

魔王「魔精がいらない事ばかりするから。滅びの里を復活させたいとか、妖精長に見せてあげたいとか…そんな事を言ってたから、同情してやったのに。すっかり騙されちゃったよ」

魔王「……思えばアイツも僕の事を倒したかったのかな?人間も、僕も倒したかったのかな」

魔王「…ふふっ。でも、どうでもいいや。見ていて面白かったし!」

魔法使い「……なんで…なんで、スターさんを…魔精さんを、殺したの!?なんで!どうして!!」

魔王「なんでって。言ったじゃん、アイツはいらない事ばかりするからだよ。面白いなら構わないけど、ムカつく事を喋ろうとしたから」

盗賊「……シスターの事か?…俺が聖騎士、クソアマが魔導師、クソガキは元勇者……なら、…シスターって奴は」

魔王「それ以上言ったら怒るよ?」

勇者「………」

魔王「お前がシスターなわけないじゃん」

魔王「シスターは、こいつに殺されたんだ。…食べられちゃったんだよ。捕まえるだけで良かったのに、頭悪いんだからなー」ドズッ

魔獣「グガアァァ…!!」

僧侶「ひッ!!開いたままの、おなかを…剣で、刺した…!」

魔王「見たんだ。シスターが食べられちゃうところ。肉がぐちゃぐちゃいって、骨がバキバキ鳴って、零れた目玉もペロリって掬われて!」

魔王「僕、起きてからずっと探してたんだ。でも、どこにもないんだ。シスターがいないんだ。こいつの腹にいる筈なのに、いないんだよ」



ありがとうございます

魔王「シスターは、美しく清らかで…何よりも、癒しと再生の力に特化していた。それがさ、ひとつでも欠けたら、汚れたらダメなんだよ」

魔王「蘇生魔法で生き返してもダメなんだ。供物にならない。……あんなにぐちゃぐちゃになっちゃなー。ひとつも欠けちゃいけないのに。本当にもう、魔獣のバカめ」

魔王「力は白の宝玉に閉じ込めた…でも、それだけじゃ足りない。魔竜が持ち出したから、仕置きで串刺しにしたけど」

魔王「あいつもいらない事沢山するんだよなあ、元勇者達に味方したりさー。あいつの大事なもの…力の源を奪ったのは僕だって、忘れてんのかな?ふふっ」

魔王「シスターはもうどこにもいない。お前みたいな醜い奴が、シスターの生まれ変わりなわけないんだ」スラッ

ズバッ!!  ―― ドサ

勇者「―― !!?? …うあああ… あ、あ  あーッッ!!!」

魔法使い「うわああああああっ!?ゆ…勇者様ーっ!!」

盗賊「剣で、勇者の片腕を落としやがった…!!」

勇者「ああああ……あ…、……うああああーっ!!」

僧侶「勇者様!勇者様ぁっ!!………!?ど…、どういう、事…っ!?」

魔法使い「斬られた腕から…血がほとんど出ていない!?」

魔王「だから言ったでしょ。お前はシスターなんかじゃないって。魔獣が食べちゃったんだから」

魔王「……僕を倒す力を持った英雄達…君達を導く為に、足りない部分を補う為に、どうしたらいいんだろう?」

魔王「神様は考えました。そして、神様は創ったのです。…人形を」

勇者「――― !!」

魔王「やーい、偽者!人形!!お前は不完全な偽者だ、シスターじゃない、人間でもない!神の力が詰まる、僕を苛立たせる醜い人形なんだよ!」

魔王「ねえねえ、楽しかった?ただの人形のくせに、人間みたいに生きられてさ。楽しかった?…あはははは!!」

魔法使い「…やめろ……やめろよ…勇者様をいじめるな!!」

勇者「……っ、………っ」ガクガク

僧侶「勇者様…勇者様っ、しっかりしてください…勇者様…!!」

盗賊「胸糞悪ィ奴め…人間だ、人形だ、過去がどうのこうの関係ねーよ……コイツはコイツなんだからよ!!」

魔王「…っていうかさー、僕、そろそろ飽きてきちゃった。イライラする、気分転換しない?」

魔王「違う遊びをしようよ。そうだなあ…こういうのは、どう?」サラサラ…

魔法使い「な……何…?どこから?あいつの手元に、灰が集まっていく…」

魔精「………」ズズズ…

魔法使い「…ス……スターさん!!」

魔将「…聖騎士ィィ……!」ズズズ…

盗賊「な…!!あ、あいつは……封印の塔で襲ってきた、全身鎧野郎!!?」

僧侶「そんな!倒したのに……なんで!?どうして!?」

魔王「こんな事なら魔竜も殺しておけば良かったなー、ここに呼べたのに。まあ、いっか!」

魔王「…おい、魔獣。お前が行け。傷を回復してやるからさ、僧侶さんを食べちゃえ。好物なんでしょ?見境なくなるくらい。聖女の、生娘の肉が」パアアァッ

魔獣「…グゥルルル……!」

僧侶「ひ……、や、いや、……こ、来ないで!!いやああっ!…ううう、あ……」ドカッ!! ガチン!!

魔獣「ガウウウゥ!!」ギリギリ

魔王「あっははは!メイスを咬ませて防いだみたいだけど、いつまで耐えられるかなあ?」

盗賊「クソアマぁっ!!」

魔将「聖騎士ィィィ!!貴様の相手は、この我よ!あの女に邪魔はさせぬ、三度貴様を殺そうぞ!!フハハハハハ!!」ズドウッ

盗賊「!! こっの…どけよ!鎧野郎が!!クソアマが…クソアマが食われる…!!」

魔法使い「僧侶さん!お兄さん!!…あうっ!」ガシッ

魔王「邪魔しないでよ、いいところなんだからさー」

魔法使い「あ……ぁ、…う……ち…力が……吸い取られる…」シュウウウウ

魔精「………」スッ

勇者「………っ……、……」ガクガク

魔法使い「スター…さん、……勇者様に、何するの…!」

魔王「期待はしない方がいいよ?もう余計な事をしないように、ちょっと弄ったんだからさ。あいつはスーパースターじゃない、…僕の配下、魔精だよ」

魔精「……私は………」

魔精「戦いが苦手でね」ヒタリ

勇者「………」

魔精「代わりに、幻惑や魅了魔法が得意なんだ。そう、精神に影響を及ぼす魔法が、ね。……肉体は傷つけない、だが………心は破壊できるんだよ」フワアァァ

勇者「……っ、………あ…?」

勇者「……ああああああ!!!いやああああ、ああああああ!!!やめて!やめて!!いやああああー!!」

魔法使い「勇者様!!」

魔精「心を、精神を、記憶を…鷲掴みにされるのは気分が悪いだろう?退けたいだろう?でも、掴めないねえ……払い除けられないねえ、フフ…こんなに苦しいのに」

魔精「どんな悪夢を見ているのかね?フフ、子供の頃の優しい記憶?魔法使いと過ごした日々?僧侶との友情?それとも……大切に、大切にしたい、初恋の思い出かな?」

魔精「崩れていくだろう?砕けていくだろう?汚れていくだろう?目を逸らしても、振り払っても、奥へ奥へと入り込んでいく……逃げられないよ、精神とは、心とは、君の中にあるのだからねえ……フフフフ、ハーッハッハッハー!!!」

魔王「あはははは!!いい気味だ!壊しちゃえ、全部!全部だよ、いらないんだよ、こんな汚い世界なんかいらないんだからさあ!あはははは!あっはははははは!!」

僧侶「うう……っ、う…」ギリギリ

魔法使い「僧侶さん…」

盗賊「ぐああッ!…畜生……畜生ぉぉっ!!」ドズッ! ザシュッ

魔法使い「お兄さん…」

勇者「いやあああ…やめて、やめて……やめてえぇ……いやだあああ…!!」ガクガク

魔法使い「……勇者様…っ!!」

魔法使い「…やめろ……」

魔王「あっははは……、…ん?」

魔法使い「やめろよ!みんなをいじめるな!!」

魔法使い「勝手な事を言って、なんでみんなを巻き込むんだよ!!汚いとかなんとか、お前がそう思っているだけだろ!?」

魔法使い「お前は!お前だけは、絶対に倒す!!諦めるもんか、何度負けたって諦めない、倒してやる!」

魔王「…あのさあ。僕だって、最初は世界を作り変えようと思ってたんだよ。消すんじゃなく、破壊からの再生。その為にも供物としてシスターが必要だったけど…食べられちゃったしね?」

魔王「でも、起きてから一度は考え直したんだよー?やっぱり再生にしようかなって。だから今までシスターを探してたけど、結局見つからないし」

魔王「もう疲れた。面倒臭くなっちゃって。再生なんかもういいや、やっぱり消しちゃえば済む事だ。ね、そうだろ?その方が断然楽じゃん!」ググッ

魔法使い「うああ…あっ…!!」

魔法使い「ぼ……僕は…」

魔法使い「僕は……お前なんかに、負けない…もう、絶対に、負けない!!!」ボッ!!

魔王「!! 熱っ……火球魔法か…」

魔法使い「はあっ、はあ……、………僕は、お前とは違う…」

魔法使い「眠くっても、遊びたくても、我慢して…たくさん勉強した…勇者様を守りたかったから!勇者様が大好きだから、傍にいたくて、たくさん頑張った!嫌な事があっても、逃げなかった!!」

魔法使い「僕は弱っちいお前なんかとは違うんだ!!今度こそ、負けない!僕は強くなった、もう、負けない!勇者様を、みんなを守るんだ!」

魔王「…僕が弱い?笑わせるなよ。元勇者は剣の使い手だったけど、その力はもう僕のもの。一度僕が元勇者を飲み込んだから、その影響か、お前は魔法の才能を持って生まれたみたいだけど…」

魔法使い「違う!!…僕は、お父さんとお母さんの子供だ!!お前の影響なんかない!!」

魔法使い「お父さんがくれた魔法の才能なんだ!お母さんがくれた体と心なんだあっ!!」ゴオオオッッ

魔王「……極炎魔法!?」

ドゴゴゴォッ!!

魔法使い「僕達は、お前なんかに負けない!」

魔法使い「……ねえっ、そうでしょう!?僧侶さん!」

僧侶「………っ」

魔法使い「僧侶さんならできるよ!いつも頑張っていたじゃない、ずっと見てた!僕、見てたよ!?怖くても一生懸命、挑戦して、乗り越えたじゃんか!!僧侶さんなら、できるよ!」

僧侶「……そう…そうだ……、…そうだった。……できる…私なら、できる…私なら、できるんだ!!」

僧侶「…神様……どうか、私に力を!この試練を乗り越える事のできる、力をお与えください!!」

僧侶「―― 聖風魔法!!」ゴアッ!!

魔獣「ガッ!?グオオアアア!!」ブオワァッ

僧侶「はあッ、はあ、はあ……!わ…私に近づかないで!!風が貴方を吹き飛ばしちゃうんだから!」

魔法使い「…お兄さんを対象に、攻撃倍加魔法!!」パアアアッ

盗賊「クソガキ…!?」

魔法使い「お兄さん!早く、そんな奴倒しちゃって!お兄さんは強いんだから!!お兄さんは僕のライバルなんだ、そんな奴に負けない、そうでしょう!?」

魔将「聖騎士ィィィィィ!!」ズバババ

盗賊「…っらあ!!」ガキィン

魔将「―― 我の槍を弾いた…!?短剣で!?」

ヒュオッ

魔将「な…ッ!速……!!!いつのまに、背後に!」

盗賊「何度も訂正すんのは、もううんざりだからよ。その枯れて萎んだスカスカ脳味噌に刻んでやるぜ」

盗賊「……俺は聖騎士じゃねーよ、盗賊だ!!いい加減覚えやがれ!!」ドスッッ!!!

魔獣「ゴアアアアッ」ドウン!!

僧侶「火の玉なんか吐いたって、効きません!近づかないで!!…聖壁魔法!!」バキィン

盗賊「クソアマ!退いていろ!!―― だああぁっ!!」ザシュ!!

魔獣「ギャイィィンンン!!!」



ん?性癖魔法?

読んでくださりありがとうございます
オッサンがいる

魔将「ぬぐっ!!ぬうぅっ……き、貴様らぁぁぁぁ!!!」

魔獣「グアアアオオオオ!!!」

魔法使い「僕達は今を生きているんだ!!明日に向かって歩いているんだ!!何度転んだって、負けたって、立ち上がって、やり直す!!」

魔法使い「明日を信じて生きているんだ!怖くっても、絶望しても、僕達ならできるって信じている!!」

魔法使い「すぐに諦めちゃって、周りに八つ当たりしかできない、お前なんかに、僕達が負けるかぁーっ!!!」

魔王「…うるさい……うるさい!うるさい!!うるさい!!!」

魔王「もう、面倒臭いなあ!!消えろよ!!僕の前から消えろ!!」

魔王「みんなみんな、大嫌いだ!!こんな世界なんか大嫌いだ!!汚い!ずるい!!卑怯だ!!消せばいい!汚いものしか残らない…こんな世界なんか、消えてしまえーっ!!」ゴッ!!

魔法使い「…絶望の力で、仲間の回復を…!?」

盗賊「来るぞ!……僧侶!!」

僧侶「はい!防御倍加魔法!!」パアアアッ

魔将「おおおおおおッッ!!」ズドドドド

盗賊「…っ…!!…スゲー槍の突きだな?まるで豪雨のようだわ、……だが、悪ィな。全部避けちまった。俺の反射神経をナメんなよ」

魔将「速い!かすったとて、あの小娘の魔法が壁となっておるのか…小癪なぁっ!!」

盗賊「テメーの弱点は口の中だろ?いいのかよ、負け惜しみ吐いてちゃ丸見えになるぜ!!」ガシィッ

魔将「ぐっ!!我と体術で張り合う気か!?」グググ

盗賊「…テメーには言っておきたい事がもうひとつあったなー…そうなると、テメーに会えて良かったと思うわ」パアッ…

魔将「……?青い光…き、貴様は!貴様は!!」


盗賊「…テメーは、俺の女を泣かしやがった!!」

聖騎士『彼女を傷つける奴は、誰であろうと許さん!!』

魔将「…盗賊…貴様……!おおおお聖騎士ィィィィ!!」ドガアアアッッ!! ドズ!!

魔獣「グオオアアア!!」

魔法使い「こっちに来る!僧侶さん、下がってて!僕の魔法で……」

僧侶「…ううん。私は大丈夫だよ。魔法使いくんは、早く勇者様を助けにいってあげて!」

魔法使い「で、でも……」

僧侶「大丈夫!私ならできる、あいつを倒せるから!!」パア…

魔法使い「……赤い光が…?わ、わかった」タタッ


魔導師『…集中しな、破壊は創造主の意思に背く力。生命を産み出す祈りの力と反発しあい、膨れ上がっていく』

僧侶「魔導師さんの破壊の力、私の祈りの力、相反するものを無理矢理混ぜ込めば……」

魔導師『耐えきれなくなったそれは、爆発する!!』

僧侶「―― 極大爆発魔法!!!」カッ!!

魔獣「グオッ……ゴガアアアアァァァ!!」

ドグアアァァァンン!!!

僧侶「……ふう、…こ、こ、怖かったあぁっ……魔獣も、この魔法も…!」

魔精「………」フワアァァ

勇者「ひっ、ひ、ひっ」ガクガク

魔精「…最後の一欠片は、なかなか強固だな。それは何だ?私に見せてみろ。ほら……」

勇者「…いや……いやだ、いやだ、…もう、いやだ……あああぁっ…」

魔法使い「―― 勇者様!!」ダッ

魔精「!!!」

魔法使い「勇者様!負けないで!!勇者様は強いんだ、僕、知っているよ!だって、ずっと見てた…貴方とずっと一緒にいたんだから!」

勇者「………」

魔法使い「勇者様!僕の事を見て!僕、頑張るから!勇者様と一緒にいたいから、頑張る!だから勇者様も頑張ってよ、一緒に行こうよ!!」

魔法使い「背中を追いかけるんじゃない……勇者様の隣に立って、歩きたい!勇者様の手を引いて、先に進みたい!」

魔法使い「勇者様を守りたい…僕がいるよ、みんなもいる、勇者様、大丈夫だよ。貴方は一人じゃない!!そうでしょう!?ねえ、見てみてよ!!」

勇者「………」

勇者「…魔法……使い………?」

魔精「なんだと…!?砕いた筈の心が…甦った……!?」

魔法使い「勇者様!立ち止まっちゃダメだ!!突っ走るのが勇者様なんだから、あとの事は僕達に任せてよ!勇者様は道を切り開いて!立ち止まっちゃダメ!!走って!勇者様!!」

勇者「………みんな…。……みんなが…いる」

勇者「…わたし……私は………私は、負けない!!」バキィン!!

魔精「ぐぅっ!?……魔法が弾かれた…!」

勇者「私の色は、お前になど染められぬもの!!私の色はみんなの色だ!!お前に汚されて堪るか!!」グッ!!

魔精「その構えは…貴様の奥義!!」

勇者「片腕だからとて侮るな!足りぬものはみんなが補ってくれる!!私が走れるのは、みんながいるからなんだーッ!!」ドガガガガガァァッッ!!

魔精「ぎゃあああああああああーっっ!!」バシュウウ

魔王「………」

魔法使い「…あとは、君だけだよ」

盗賊「いつまで高見の見物気取りだ?かかってくんなら、さっさと来やがれ」

僧侶「もう、これ以上酷い事をしないで…お願い……!!」

勇者「貴様の蛮行、終わらせてみせる…!」

魔王「………」

魔王「バッカじゃないの。熱くなっちゃってさあ、くだらない」

魔王「どいつもこいつも弱いんだからなー、僕にやらせんなよ…めんどくさーい」スッ

勇者「……黒の宝玉…!!」

魔王「この黒の宝玉は、全てを飲み込むよ。元勇者だって、これに飲み込んでやったんだ。僕の力が詰まった結晶だ。…これでお前達も、世界も!全部を飲み込んでやる!」

魔王「みんなみんな!!消えちゃえ!!こんな汚い世界なんかいらない!!僕の前から消えろー!!」カッ!!

僧侶「きゃあああっ!?」

盗賊「ぐ…くっ、な、なんだ…これっ……」

勇者「引き摺り込まれる…飲み込まれる!!絶望の力か……!」

ゴゴゴゴゴ

魔王「みんなみんな、大嫌いだ!!」

魔王「汚いんだよ!うるさいんだよ!!ごちゃごちゃとさあ!!」

魔王「なんで僕ばっかり!なんで!どうして!!なんで僕が責められなきゃいけないんだ!!」

魔王「戦争を起こして、殺し合いをさせて、奪って汚して潰して、憎み合う!!そんななのに、僕を倒すだって!?僕が悪者だって!?なんでだよ!!何が正しいんだ、何が間違っているんだ、何が、何が!!」

魔王「わからない!わからない!!……何が正しいのか…何が間違っているのか……そんなの、誰にも決められないだろ!?」

魔王「逃げ出して楽になりたい、もう汚いものを見たくない、考えるのは疲れた……」

魔王「……もう面倒臭いんだよ!だから消してしまえばいい!人間も、神も妖精も魔族も!みんな消えろよ、何も無くなればいいんだ、消えろ!消えちゃえ!!消えてしまええぇー!!」

―― ドガァァン!!

魔法使い「…あ…諦めるもんか…!」ガガガガガッ!!

魔王「!!? 飲み込めない…?僕の力を攻撃魔法で押さえた!?お前が!?僕より弱い、お前が!?」ガガガガガ!!!

魔法使い「弱いのはお前の方だ!!…もう、二度と…飲まれはしない…諦めるもんか、お前なんかに、もう二度と負けるもんか!!!」カッ!!

元勇者『…何が正しいか正しくないか、それは誰にもわからない。魂の数だけ、正否は存在するんだ』

元勇者『だが、その中でも、はっきりした事はひとつある』

魔王「…元勇者…!お前!!」

元勇者『挫折しようと、絶望を味わおうと……諦め、投げ出し、先に進まぬ事、それが俺にとっての悪だ!!』

元勇者『一度は飲まれこそすれ、俺は諦めん!再び立ち上がり、犯した過ちを償う!!魔王、俺達は、お前を倒す!!』

魔法使い「勇者様!お兄さん!僧侶さん!みんな、負けないで!!僕達の力で、魔王を倒すんだ!!」バキィィン!!

盗賊「―― ッ!!?……クソガキ…」

僧侶「魔王の力を、弾いたの…?」

勇者「私達は…私達は、負けない!明日に希望を託す為にも、ここで立ち止まるわけには、いかない!!」

魔王「…うざったいなああ!!しつこいんだよ!!早く消えろよ、僕の前から消えろおおお!!!」ゴウッ!!

元勇者『……勇者!俺の剣を手に取れ!!』

魔導師『あたし達が、魔王を押さえつけている隙に!!』

聖騎士『君達全員の力で、奴を倒すんだ!!』

―― カッ!!

魔王「………ッッ!!?う…動けない…?なんで、お前らなんかに…シスターの欠けたお前らが、何故…!!」ギシッ ギシ

シスター『…いいえ。私はここにいる。みんなと共にいるわ!!』

魔王「!!! な…なんで……なんで?どうして!あんなに探したのに!あんなに呼びかけても、いなかったのに…どうして、お前がここに!!」

シスター『貴方は私達が止める…私達は、もう負けない!!』

盗賊「もがいて足掻いて、それでも俺達は、明日に希望を託す、未来を作る!!」

僧侶「転んだって立ち止まったって、どんなに怖くたって、勇気を出して前に進む!!」

魔法使い「失敗したら、やり直す!償う!!そうやって探していくんだ、正しいと思える事を!!」

勇者「諦め、投げ出す貴様などに、私達は負けない!!」

魔王「ちくしょう……お前らなんかに…お前らなんかに、この僕があああ!!!」

魔法使い「みんなの力を合わせて…勇者様!!魔王を斬り倒して!! ―― 聖雷光魔法!!!」カッ!!

盗賊「行けぇっ!!勇者!俺達がお前を支える!!」

僧侶「終わらせてください!この戦いを…貴方の剣で!!」

勇者「みんなの力を剣に乗せた、魔法剣を喰らえ!魔王!!覚悟ーッ!!!」

魔王「うわああああああああーーーッッッ!!!」

―― ズガガアアアアァァァッッ!!!

魔王「うあああああ!!…体が…体が、消える……力が消える、…僕が消える…!?そんな!そんなああ!!」

魔王「僕が消したいのは、この世界なんだ…こんな世界、いらないのに……汚い、醜い、嫌な世界なんか……消してしまえばいいんだああああ…!!」

元勇者『今だ!魔王を封じ込める好機!!みんな、もう一度力を、呼吸を合わせろ!!俺に続けーッッ!!!』

魔導師・聖騎士・シスター『おおおおおおッ!!!』


―― ビカァァァッッ!!


勇者「……ッ…、…あ…?」

盗賊「魔王も…元勇者達も、消えた…?」

―― カツンッ

僧侶「あ…か、代わりに…不思議な色の宝玉が、落ちていますよ…?」

魔法使い「これ…何色だろう?でも、きらきら光ってて、すごく綺麗だ…」

?「…その宝玉は英雄達、そして魔王…全員が救われた証。光の宝玉だ」バサァッ

勇者「……!あ、貴方は!?」

魔法使い「魔竜さん…?でも、すごく綺麗…光の宝玉と同じ、きらきら光ってる……」

聖竜(魔竜)「魔王が倒された事で、封印が解け、奪われていた力の源もワシに返ったでの……魔竜から、本来の姿に戻る事ができたよ。礼を言うぞ…ワシの名は、聖竜。神の遣い、聖竜だ…」

僧侶「か…神様の遣い、ですか!!?」

盗賊「だからあんなに万能だったってわけか。…勇者が言っていた、純粋で綺麗っつーのも……」

聖竜「…うむ。さあ、戦いは終わった。ワシはお前達を迎えに来たのだ。帰ろうぞ、元の世界へ。ワシの背中に乗るといい」

勇者「あ…、……英雄の剣が、砕けてしまったから…」

聖竜「そう。お前達の力に耐えられなかったようだの。フフ、本当によくやった。過去を乗り越え、魔王を倒し…強くなったのう、お前達」

バキィン!! ―― バサアアッ!!

盗賊「うおおっ!?すげぇ……次元を突き破って、あっという間に空へ…!」

勇者「ああ……空だ!真っ青な空が、眩しい太陽が…帰って来れたんだな!私達!!」

聖竜「光の宝玉は、神界に持っていこう。そこで魔王を休ませ、癒す……奴も苦しみ抜いた結果、ああも歪んでしまったのだ…癒してやらねば」

聖竜「…勇者よ。お前も本当によくやった。神はお前に褒美を与えると仰っておったぞ」

聖竜「お前が望めば、神の人形から、普通の人間になれる。魔王に落とされた腕も治してな。…または、神界に帰るという選択もあるが……」

勇者「……ありがとうございます、神様、そして聖竜殿。そのお言葉、有り難く頂戴すると共に……甘えさせてもらいます」

勇者「………」

勇者「私は……人形じゃなく、人間でありたい。大好きな人達と共に生きたい。どうか私を、人間にしてください」

魔法使い「……勇者様!!」

勇者「なんだ?そんな顔をして。私が神界に帰るとでも思ったか?」

勇者「…ありがとう、魔法使い。私達を助けてくれて。君がいなかったら、どうなっていたか…」

勇者「君はいつも私に力をくれるね。私を励まして、奮い起たせてくれる。君が傍にいてくれて、本当に…良かった。…ありがとう」ニコッ

魔法使い「………!!」

盗賊「…頑張った甲斐あって、良かったなあ?クソガキ」

僧侶「本当に!魔法使いくんのおかげだね、一生懸命頑張っている魔法使いくんからは、いつも勇気をもらえるもの」

魔法使い「う……うん!うんっ!!僕…僕、頑張った!みんなを守りたいから…たくさん、たくさん…頑張ったよ…!!」

魔法使い「ありがとう……ありがとう、みんな!……やったあー!!魔王を倒したんだ、僕達は世界を救ったんだー!!」バッ

勇者「あっ、コラ!急に立ち上がるな、危ないぞ!?…まったく、もう…」クスクス

聖竜「勇者よ、お前の願いを叶えよう。…人間になれば、今まで持っていた力は失われるぞ。まさに神がかり的な強さの全てをな」

勇者「構いません。また修行をすればいい事ですから!」

盗賊「…相変わらず、クソ真面目なイノシシ女だなー。もう平和になったっつーに、修行かよ…」

僧侶「ふふ。でも、それが勇者様ですからっ」

魔法使い「僕も!僕も一緒に修行するからね!勇者様!」

聖竜「では、一度みんなを神界に連れて行く!そこで勇者を人間へと治すでの。それからの行き先は決まっておるか?」

盗賊「んなの、全部の国に決まってんだろ!各国から魔王討伐の褒賞金を貰うんだよ!」

僧侶「もお~…盗賊さんったら…」

魔法使い「でも、みんなに会いたいのは僕も同じ!お願い、聖竜さん。各国へ連れてって!」

勇者「…ああ、楽しみだなあ。明日はどんな事があるんだろう!私達なら、なんだってできる!希望に溢れた明日に行けるんだ!!」

~神界~

僧侶「………!!す、す……すごい…すごいなんて言葉じゃ表せないくらい、すごい……」

魔法使い「ここが…神様の住んでいる世界なんだ。エルフの村よりも、もっとずっと、美しいものに溢れている…ああ、いるだけで、救われる気持ちになるよ……」

盗賊「…天国ってのも、こんな感じなのかね。神様かー……俺が神様とやらの近くに来れるたぁな…」

勇者「聖竜殿…神様は、どちらに…いらっしゃるのでしょうか」

聖竜「神はここだけでなく、いつもお前達の傍におるよ。…お前達の目で、その御姿を見る事はできん。姿形にとらわれぬ、唯一無二。それが神」

聖竜「故に、ワシや神職者という代行が存在するのだ。勇者よ……神はお前の功績を称え、お前の体を癒してくださる。神の代行人形から、人へと生まれ変わるのだ」

聖竜「そして、お前なりの正義を、幸福を模索し、歩むがいい。人生という短く長い旅に出るがいい」フワアアァァ

魔法使い「…聖竜さんのブレスが…勇者様の体を包んでいく」

勇者「…ああ……魔王に落とされた腕も、戻って…」フワアアア

盗賊「それ以外、特別変わった感じはねーよな…?」

勇者「いいや、わかる。人間になったのだと……上手く言えないが、何かが足りなくなった感じがする。…しかし、ブレスを受ける前よりも、とてもとても、満ち足りたものを感じる!」

僧侶「勇者様は勇者様です!それだけは変わりませんよ、勇者様は……私達の勇者様ですっ」

聖竜「勇者よ、そして仲間達よ。此度の働き、見事であった。皆を救ってくれた事に、感謝を捧げよう」

聖竜「お前達の過去…英雄達も、挫折から立ち直れた。お前達のおかげで救われたのだ。彼らもまた、この神界にて休ませよう…彼らの戦いは終わったのだ」

聖竜「過去を乗り越え、己を守り抜いたお前達の力、神は称えるであろう」

魔導師『本当にありがとう。…あんたがこんなに強かったなんて、びっくりしたよ。あんたなら、もう大丈夫だね』

僧侶「いいえ…魔導師さんが沢山の事を教えてくれたからです。お疲れさまでした…ゆっくり休んでくださいね」

聖騎士『自由を得た君なら、安心してこの先も任せられる。よろしく頼んだぞ』

盗賊「へいへい。ま、適当にやらせて頂きますよ。気の向くままにな」

元勇者『君は俺よりも強い。皆を導く事のできるその力と勇気。挫けぬ心を、これからも忘れないで。頑張れよ』ナデナデ

魔法使い「…もー、子供扱いしないでよ……近いうち、その身長だって追い越しちゃうからね!!」

パアアッ…

勇者「………!」

シスター『…本当にありがとう、みんなを助けてくれて。私も、呪縛を解く事ができた。神の下へと行く事ができるのは、全て貴方達のおかげだわ』

シスター『ありがとう、勇者達。本当に……ありがとう…』

元勇者『俺達は神の下へと帰る。…光の宝玉と共に』

元勇者『そして、再び魔王が目覚めるのを待つよ。大丈夫…次に目覚めた時は、彼と友人になれるだろう。必ずね』

元勇者『穢れを清め、癒された魔王は救われる。彼が償いを終えて来るのを、俺達はここで待っているよ』

元勇者『ありがとう。もう一人の俺達。本当に、ありがとう…』

―― パアアアァァ…

勇者「…消えた……」

僧侶「…皆様、本当に…お疲れさまでした…」

聖竜「……さあ、地上へ。お前達の帰る場所へと送ってやろう」

勇者「……あ。いえ、その前に。どうかもうひとつ、叶えて頂きたい願いがあるのです」

盗賊「………それって、もしかして」

僧侶「…勇者様っ!」

魔法使い「僕も…僕達も、是非!お願いしたいよ、……我儘かも、エゴかもしれないけど…」

聖竜「エゴかどうかは…確かめればわかる事だしの。その願い、言ってみろ、勇者よ…」



戦いは、終わった。

魔王討伐を果たした勇者達は、各国を回り、世界に平穏が訪れた事を伝えていった。

人々は喜び、また、反省し、明日に希望を託していく。


―― そして、魔王討伐から、数年の月日が流れた…


・・・

・・



おぃぃぃぃ!!
ここでお預けかよぉぉぉ!!

はよはよ

ここで切るのかよぉぉぉ( ゚д゚)

続きはよおおおおお

ありがとうございますううう!

~大聖堂の街~

盗賊「……はいよ。注文の品、巫女の冠だ」

衛兵「ありがとう。これで山間の村の祭りが盛り上がるよ。たまには君達も遊びに来てくれ、いつでも歓迎するからな?」

スライム「ピキー!」ヒョコ

盗賊「よお、お前もいたのか、温泉スライム。元気そうじゃねーか」

衛兵「この子も君達に会いたがっていたしな。…この子も、私も安心して村の外に出られるのは、全て君達のおかげだ。本当にありがとう」

盗賊「もういいっつーの、その話は。ま、近いうち遊びに行くから。飯を沢山用意しておけよ。あの山の幸料理は最高だ」

衛兵「はは、わかったよ。必ずな。では、私はこれで。行くぞ、スライム」

スライム「ピッキピー!」


賢者「…商売繁盛で何よりだねー。魔王討伐の褒賞金を元手に、その手先器用さを生かして、装飾品の店を出すとは。天職ってやつじゃない?」バサッ

盗賊「なんだ、起きていたのかよ。新聞被って静かにしてっから、寝ていたのかと思ったぜ。起きてんなら銀磨きを手伝え、注文はまだまだ山のようにあんだからな」

賢者「やーだよー。自分の事は自分でやりなさいね。オッサンは疲れてんだからさー」

盗賊「だからって俺の店を休憩所に使うな。このクソオヤジは……悟りの書が見つからないからって、ならテメーで作ってやるとか奮起していたと思えば、こうダラダラと…」

賢者「だっから休憩だってば、休憩~。休んだらまた頑張るしー?」

聖竜「か、か、匿ってくれええっ!!」バサバサッ

盗賊「うおっ!?聖竜じゃねーか!どうした…またそんな肩乗りサイズに変化しやがって。お前もちょくちょくこっちに降りてくんなァ、それでも神の遣いか?有り難みの無い」

賢者「匿って、って何事よ。……まさか…」

ドカアアァァン!!

聖竜「ひいいい!!き、来たああっ!!」

研究者「ごほっ!ごほ……移動魔法は、まだまだ研究の余地があるな…移動する度に爆発しては敵わん」ガラガラ

研究者「逃げるな、聖竜。俺が張った罠の菓子を食っただろう。代わりに、お前を調べさせろよ。ちょっと鱗を貰うだけだ、数枚でいいんだ!!」

聖竜「嫌だ嫌だ!!解剖される~っ!!菓子を食ったのは謝る!!だからこっちに来るなあー!!」バサバサ

賢者「あっはは、聖竜も何度だって騙されるんだからなー。いい加減学習しなさいよ」

盗賊「どうでもいいけどよ、店先を破壊すんのだけは止めてくれ」

聖竜「どうでもいいとは何事か!わああ、やめろ!!虫取網を振り回すな、ワシは神の遣い、聖竜ぞ!!?この罰当たり者がーっ!」

研究者「だからこそ調べたいんだ!おとなしくしろ!!逃げるな!痛くはしない、多分!」ブンブン

盗賊「ったく騒がしいな…あー、やめやめ。今日はもう店仕舞いだ」

賢者「そうだねぇ、ここまでみんな揃ってんだしさ。いっちょパアッとやりますか」

盗賊「酒は無しだからな?アイツに無理させるわけにゃいかねーしよ」

賢者「わかってるって。…やー、しかしお嬢ちゃんのおなかも随分大きくなったよねえ」

賢者「……悟りに一番近いのは兄ちゃんだと思ってたが、やる時はやるんだからなあ」ボソッ

盗賊「なんか言ったか?」ギロリ

賢者「いいえー、何も」


魔法使い「―― お兄さーん!貿易大国への配達、終わったよ!次はどこ?」タタッ

盗賊「おう、お疲れ。次は……あー、いいや。帰ってからにしよう、今日はもう店仕舞いだからな。飯食って休むぜ」

魔法使い「そっかー。どこだって行くからね、僕達に任せて……あ、賢者さんだ!来てたんだ、久し振りーっ!」パシン

賢者「よう、魔法使いくん。久し振りーのハイタッチ!」パシン

賢者「しっかし相変わらず人使いの荒い兄ちゃんなんだからなー、魔法使いくんと勇者ちゃんにお使いさせるなんて」

盗賊「人聞き悪い事言うんじゃねー、こいつらがやりたいって言うから俺はだな…」

魔法使い「うん!各国を回って、いい修行にもなるしね。お兄さんの品物配達は、その序でに?」

盗賊「序でにって。生意気言いやがって、このクソガキが」

魔法使い「あははっ。さ、帰ろう帰ろう!勇者はもう先に行っているんだ、僧侶さんの顔が見たいからってさ。片付け、僕も手伝うから」

賢者「おー。働け働け、若者達よ!早くオッサンに飯を食わせておくれ~」

盗賊「テメーもやるんだよ!タカり魔が!!」

盗賊「(……にしても…"勇者"か。いつからだったか、呼び捨てになったの)」

盗賊「……、一丁前になりやがってなあ」グシャグシャナデ

魔法使い「わ…何?何?いきなり人の頭撫でて…子供扱いはやめてよー!」

~盗賊達の家~

勇者「本当に大きくなったなあ。この中にひとつの生命がいるとは…なんとも神秘的だ」ナデナデ

僧侶「うふふ。勇者様ったら、私達よりもべったりなんだから。…もうすぐ産まれるんですよ」

勇者「とても楽しみだよ!早く会いたいなあ、すごく可愛いだろうなあ……名前はもう決まったのか?」

僧侶「いいえ、まだなんです。盗賊さんが考え込んじゃってて。私達がこの子に贈る事のできる、初めてのものだからー、って」

勇者「そうかぁ…どんな名前かも楽しみだな。すくすくと大きく育つんだぞ!君の両親はとても強い人達だ、負けないようにな!」ナデナデ

僧侶「……このおなかだけじゃなく…大きくなったものは、ありますよね?」

勇者「…うん。本当に、早いものだ。前は私の肩よりも下だったのに…今は軽く見上げる程身長が伸びて」

勇者「いつか置いていかれそうで、なんとなく怖くなる時もあるよ」

僧侶「大丈夫ですよ、勇者様。私達は、みんな貴方の傍にいます。私達は…仲間なんですから」

僧侶「でも、貴方の隣に立てるのは、」

バタンッ

魔法使い「ただいまあー!あー、おなかぺこぺこ!!お兄さん、早くご飯作ってよ!」

盗賊「誰だ、俺の事を人使い荒いなんつったのは。こいつの方がよっぽどじゃねーか」

賢者「はいはい、さっさと作る!オッサンの飯は、あっさりめで頼むねー。そろそろ油ものがキツいからさー」

勇者「…なんだなんだ、急に騒がしくなったな。まったく。僧侶のおなかに響いたらどうするんだ」

僧侶「いいんですよ、勇者様!賑やかな方が楽しいですもん」

魔法使い「勇者、こっちにおいでよ。次の配達先の行き方を調べよう、まだ行ったことのない場所なんだから」

勇者「ああ」タタッ

勇者「………」

勇者「………ふふっ」

魔法使い「? どうかした?勇者」

勇者「いいや。なんでもないよ、魔法使い。…ちょっと嬉しくなっただけだ」

勇者「(そう、私にはみんながいる。みんな、傍にいる)」

勇者「(でも、私の"隣"にいつも居てくれたのは……)」

勇者「…魔法使い。君だったんだよね」

魔法使い「うん??何?何の話?」

勇者「そのうち教えてあげるよ。……ゆっくりと、育てていきたいから」

勇者「だから…これからも傍にいて。私の手を離さないで、魔法使い」

魔法使い「よくわからないけど……大丈夫だよ、勇者。僕は君の傍にいる。ずっとだよ?」

魔法使い「小さな頃からそうだったでしょう。そして、これからも。小さな頃から、君が好きだった」

魔法使い「そしてこれからもずうっと、君の事が好きだよ!勇者!」

勇者「…ありがとう、魔法使い。君となら、私はどこだって行ける。君が私に勇気をくれるのだから!」

・・・

妖精「…ね?信じていて良かったでしょう。見てちょうだい。世界はこんなにも、美しい」

妖精「これから先も、ずっと、ずっと……守っていきましょう、私達ならできるわ」

スーパースター「…ああ!この美しい私がいるのだからな、美しく照らす私がいれば、世界はこんなにも輝けるのだ!ハーッハッハッハー!!」

妖精「調子がいいんだから、まったく。ちょっと、踊ってばかりいないで、貴方も手伝ってよね」

妖精「彼らの未来が明るいものであるように。妖精の加護を贈るんだから」

スーパースター「任せたまえ!美しい私が美しく華麗に手伝おうじゃないか!!」

妖精「はいはい。よろしく頼むわね、…救世主さん」プークスクス

スーパースター「救世主の部分で笑わないでくれたまえよ!美しい私の美しい硝子ハートに傷が!!ほら見て、涙目だろう!?なあ、待って!私を見てくれえぇー!!」


【おわり】


ベタベタでコテコテものを書こうと思いました。おかしな点があったらすみません。

読んでくださった方、本当にありがとうございました。

乙!

乙、前のやつから見てたが面白かったよ
ありがとう



まさか最後を飾るとは…

乙!!



たしかにベタベタでコテコテだな
だがそれがいい

滅びの里連中はどうなった?



面白かった
やっぱベタでコテコテな王道ものはいいね

乙でした(`・ω・)b

乙!とてもよかった!聖竜は俺の嫁

皆様ありがとうございます!
フォーチュンクエストのような雰囲気に憧れるけど、難しいものですね。


>>484
大魔王や次世代勇者が出る頃には、わだかまりも解けて力になってくれるとか、そんなベタベタ。

>>488
その物語に期待

これから読む



前スレから憑いてきてよかった(つд;*)

おっつん

おつおつ!
面白かったお(^ω^)


読んで頂きありがとうございました!

前作共々、まとめても頂いたようで、それもありがとうございました。
思いついたのもあり、スレもあまってますし、外伝()を書いてみましたので、投下します。短いものです。

生意気な事を言って申し訳なくもありますが、この外伝()部分はまとめへの転載不可でお願いします。

きたか!

~大聖堂の街~

僧侶「本当に本当に大丈夫?いい?怖い人に会ったらすぐに逃げてね?寄り道もしちゃダメだからね!パパが作った品を届けたらすぐに帰ってくるのよ!」ハラハラ

娘「もー、大丈夫だってば、ママ!私達ならできるから!心配しないで?」

盗賊「まあ…聖竜の奴がついているから、安心……完全じゃねーけど、安心するとして」

聖竜「ワシは神の遣い、聖竜ぞ?それを品物配達だ、子供のお守りにだと使うなど……なんと罰当たりな事かの!!」

盗賊「ほらよ、チョコレートだ」ポイッ

聖竜「なんなりと御命令を、ご主人様」パク

盗賊「…いいか?襲ってくる奴がいたら、聖竜に仕置きするよう言ってあるが、いざとなったらこれで自分の身を守るんだぞ」スッ

僧侶「…それ、なんですか…?盗賊さん…」

盗賊「何って。ダガーナイフだが」

僧侶「あああ危なっ!!??子供に何をさせる気ですかぁっ!!没収!没収に決まってますよう~!!」バッ!

僧侶「も、も、もうっ!!心配です、私は反対です!!やっぱりママ達と一緒に行きましょう!?」

僧侶「先方には、研究者さんが開発した通信魔法を使って、伝えておくから……」

娘「いーやーよーうぅ!!私達ならできるよー!私ならできるのー!!」ジタバタ

盗賊「(この頑固さ…僧侶似だな、こいつ)」

娘「…それに…パパが言った値段よりも若干イロつけて売って…その余ったお金は私がもらえば…ふふ、私のお小遣い貯金が増えるチャンス!お金!お金!!だから絶対私が行くっ!」

僧侶「(ああ…この部分が盗賊さんに似ちゃうだなんてぇ…!か、神様あぁ…!)」

娘「心配しすぎなのよ、パパもママも!大丈夫、私には頼もしい仲間がいるもの。聖竜がいるし!」

聖竜「いや、やはり下界に深く干渉しすぎるのは、良くない事と…」

娘「はい、クッキーだよ」ポイ

聖竜「人間と交流を深めるのも、良い事よの!うむ!」パクッ

娘「そして!…悟りの書を書き上げ、今や魔法学に携わるものなら誰しも憧れる、その賢者のオジサマの一番弟子!!」

娘「世界を救った、勇者のお姉ちゃんと魔法使いのお兄ちゃん!2人を親に持つ、この人がいれば!!私は無敵なのよ!!」バーン!

子勇者「…いや、ボクは家で留守番しながら勉強がしたいn  むぐっ!!?」ガシッ

娘「だから心配無用よ!時間が無くなっちゃうから、私達はもう行くわね!」

子勇者「むぐー!むぐぐー!!」ジタバタ

娘「さあ行くわよ聖竜!私達を背中に乗せて、いざ!お届け先の、聖騎士の王国へ!!……はい、キャラメルよ」

聖竜「心得た!!!」

バシュウウッッ!!

僧侶「ちょっと!娘ちゃん!!…ああ…行っちゃった…だ、大丈夫かしら…」

盗賊「子勇者、最後に何か言っていたような…しかし、もう追いかけられねー。無事に帰ってくるのと……失礼をやらかさないよう祈るしかねーな…」

~聖騎士の王国~

子勇者「もうっ、酷いよ、娘ちゃん!いつもそうなんだから、ボクよりちょっと年上だからって、キミの我儘に付き合わされるのは、もうウンザリ!」

娘「そういうアンタは、細かい事をぐちぐちと!私はそこにウンザリよ!」

娘「自分を試してみたいと思わない!?私達の親は世界を救った英雄なのよ、私達もパパ達みたいに冒険がしたいじゃない!」

子勇者「だからボクは別に……賢者様が出してくれた宿題をやりたかったのに」

娘「あー!あー!うるさいわねー、このガリ勉が!実際体験する方が、よっぽど勉強になるのに!」

聖竜「喧嘩はそこまでにせんか。…ワシは体を小さくして、肩に乗り、ついて行く。品物を届けたら、すぐに帰れば良かろう」

娘「うふふ、一国の王直々の注文かあ…うんと吹っ掛けられそう!お金!お金!!」

子勇者「はぁ……なんでこんな事に」

~聖騎士の王国・城内~

バトルマスター「そうか。君達は、あの英雄達の子供…大変感慨深いものだ」

バトルマスター「我らが王子は直接お前達との謁見を望んでおられる。もうすぐこの部屋に来る故、それまで茶でも飲みながら待っていてくれ。では、後程」バタン


子勇者「…王子様が直接、ボク達に会ってくれるなんて…謁見の間とかじゃなく、普通の客間で…?」

娘「これが親の七光りってやつなのかしらね…」

聖竜「おおう…この国の茶菓子もまた格別よのぅ…」ムシャムシャ

娘「それにしても、流石王族サマよねー。部屋にある物みーんな高そう!ひとつくらい持って帰ってもバレないかな?」

子勇者「バレるに決まってるでしょ!やめなよ、娘ちゃん!」

娘「冗談に決まってるじゃない、相変わらず頭でっかちで生真面目なんだから」

子勇者「冗談に思えないんだよ、キミの場合は……」

貿易大国・王女「……なんですの?何やら騒がしいですわね、客人かしら」

娘「……?貴方、だぁれ?」

子勇者「!!! こ、この御方は!バカっ娘ちゃん!失礼だよ!頭を下げて!!」グイッ

娘「きゃっ!?」

子勇者「この御方は、貿易大国のお姫様じゃない!知らないの!?以前、うちの国でも来訪歓迎パレードがあったのに!」

娘「そ、そうだっけ…?パレード……あの時は、たくさんの人が国に集まっていたから…便乗して、商品を売る事に躍起になっていたしな~」

王女「貴方達…どこかで見たような…誰かに似ているような……」

従者「姫。彼らは以前、姫から王家の鍵を継ぎ、そして使命を果たし世界を救った、勇者達の子供です」

王女「なんですって!?彼らの子供!?まあ…まあまあ!大きくなりましたのね…!!」

王女「赤ん坊だった頃に、一度会ったきりでしたものね…こんなに立派に成長していただなんて…!」

娘「え?え?姫様…私達の事を知っているの?」

子勇者「ボク達のお父さんとお母さんの事も……?」

王女「勿論知っていますわ!勇者達とわたくしは、お友達なんですもの!」

王女「わたくしも色々と忙しくて、なかなか彼らにお会い出来ず寂しい思いをしておりましたが…ああ、なんて素敵なのでしょう!」

王女「彼らの子供達に会えるだなんて!やっぱり、わたくし自ら交易に携わって良かったですわ~!こんな出会いがあるなんて!うふふ、旅って本当に素敵!」

従者「姫。だからと言って、味をしめぬようお願い致します。貴方は一国の王女、次期国王となる御方なのですよ?その点を弁えてくださらねば……」

王女「もう!いちいちうるさいですわね!お黙りなさい!」

娘「…なんだか、可愛い人なのね。姫様って」

子勇者「王家の人間って、思ったより気さくなんだなあ…」

聖竜「ふふ。お前達の両親が、どれだけ偉大なのか、知る事のできる良い機会なのかもしれんのう…」

王女「貴方様は…、神の遣いである、聖竜様ですわね。お会い出来て光栄ですわ」

聖竜「そう畏まらずとも良い、……ああ、何やら久しぶりな気がするのう…ペットや実験台や乗り物扱いでなく、神の遣いとして見られるのは…」ジーン

娘「パパ曰く、ただの甘いもの好きなクソトカゲ…だもんね~」

子勇者「ちょっと!娘ちゃんったら!」

王女「うふふっ、本当に会えて嬉しいですわ!ねえ、貴方達も、わたくしのお友達になってくださらない?色々とお話がしたいですわ」

子勇者「ええっ!?ボク達と!?そんな、滅相もない…!何か失礼を働いたら大変ですし、特に娘ちゃんが!!」

娘「アンタが一番失礼よ!!…いいよ、お友達になろ?私もパパ達の話が聞きたいもん、よろしくね!姫様!」

王子「ハハッ!なんだか賑やかだな、俺も混ぜてくれよ。…お、アンタも一緒だったのか。王女」

王子「いやはや待たせてスマンな。俺がこの国の、聖王代理を勤める王子だ。世界を救った英雄達の子供に会ってみたくってな、俺の我儘を聞いてくれてありがとうよ!」

子勇者「今度は王子様とか!!…ほら、娘ちゃん!早く頭を下げて!!」グイィッ

娘「ふぎゃ!?……痛たたた!テーブルに鼻ぶつけた!!」ガンッ

王子「あー、やめてくれやめてくれ、堅苦しいのは嫌いなんだ。普段通りに接してくれよ」

王子「それにしても、あの英雄達の子供かー…うん、親によく似ているなっ!2人とも本当に可愛い女の子じゃないか、将来美人になるよ、こりゃあ!」

王女「あら、王子は彼らに会った事がなかったんですの?」

王子「ああ、聖王代理の仕事もあったし、修行にも没頭していたからなあ。なかなかこの国から出る暇なくて」

王女「そうでしたの…ねえ王子、彼らは、」

バトルマスター「御歓談中、失礼致します!王子、討伐隊の選抜が終わりました故、認可印をお願いします」

王子「おっと。その仕事もあったっけ。すまない、ちょっと待っていてくれ」

娘「討伐隊って……何かあるの?」

従者「この国付近の森で、最近魔物が現れたという噂があるようです。悪さをしているのかも不明ですが、不気味な内容の目撃談も増え、その確認をもするべく、隊を結成したそうで」

従者「特に危害を加える様子がなければ、そのまま撤退…しかし攻撃性があるならば、討伐を…といったところのようですね」

聖竜「…魔王がいなくなったこの時代に、悪さをする魔物…?はて、そんな話はワシも聞いておらぬが…」

娘「……魔物…魔物ですって!?それって、冒険のチャンスなんじゃ…!」ウズウズ

 (´・ω・`)
(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

 \/     /
    ̄ ̄ ̄ ̄
 (´・ω・`)

( つ ミ  バタンッ
 \ ̄ ̄ ̄\ミ
    ̄ ̄ ̄ ̄
 (´・ω・`)
(   )  
 \ ̄ ̄ ̄\
    ̄ ̄ ̄ ̄
 (´・ω・`)  ……
(   )  
 \ ̄ ̄ ̄\
 (´-ω・`)   チラ
(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

 \/     /
    ̄ ̄ ̄ ̄


子勇者「ちょっと…娘ちゃん、勘弁してよね。首を突っ込まないでよ?魔物だなんて、ボク達が倒せるわけないんだから」

娘「アンタって本当に意気地無しねー。それでも勇者のお姉ちゃんと、魔法使いのお兄ちゃんの子供なのかしら」

子勇者「冷静に状況判断しただけだよ」

娘「うふふ…パパから聞いた事あるわ、魔物はお金に換わる品をよく持っているって…悪さをするような奴だったら、倒して…、一攫千金!」ニヤリ

王女「…冒険ですか、素敵なお話ですわね~…わたくしの知らない世界がまた見られそうな予感…!」

従者「……これは、何やら危険な予感がひしひしと致します」

聖竜「うむ…彼らが無茶をしないよう、見張りをつける方が良いな…」

王子「………」

王子「…さてさて。俺の仕事は今度こそ全部片付いた。つもる話は山のようだ、お前達!部屋を用意するから、今日はこの城に泊まっていけ!宴を開こう!」

~夜~

子勇者「………」スヤスヤ

娘「ねえ…子勇者…ねえったら。起きて!起きてよ!」

子勇者「…ううん…?娘ちゃん……どうしたの、トイレか何か?」

娘「違うわよ!行くのよ、冒険しに!魔物が出るって噂の森へ、これから行くわよ。だから起きなさい!」

子勇者「え、ええぇっ!!?何を言ってるの、無理だってば!危ないよ!」ガバッ

王女「しー!!お静かになさって!?従者達に見つかってしまいますわ!」グッ

子勇者「むぐぐぐ!?」

王女「うっふふ…わたくしの知らない世界を体験できる…ああ~ワクワク致しますわ~!」

娘「冒険!一攫千金!!お金、お金!!!」

子勇者「き、キミ達が何を言っているか全然わからないよ!!ちょっと、やめてよ娘ちゃん、引っ張らないで!聖竜さんは!?ボクだけじゃ止められない勢いだ、助けて……」

聖竜「zzz」

子勇者「聖竜さんー!!起きてー!!」

娘「無駄よ。さっき眠り薬を混ぜたお菓子を食べさせたもの。加えて、この真夜中。眠くなって当たり前だわ」

王女「神の遣いですから、薬の効果は期待できませんけれどね。ですから、素早くこの城から抜け出しますわよ」

子勇者「キミ達は神様の遣いになんて事をしているの!?うわわ、やめて!抱えないで、拉致られるー!起きて聖竜さん、助けてー!!」

王女「へい王子!子勇者さんを、パスですわ!!」ブンッ

王子「よしきた合点!!」ガシッ

子勇者「王子様!?貴方まで何をやっているんですか!!」

王子「俺も森に行きたかったんだが、バトルマスターの奴がうるさくてなァ。渋々討伐隊を結成させたが…いい機会だ。魔物退治!俺も参戦するぜ!」

娘「王子様の手引きがあれば、城からの脱出は簡単よ!いざ行かん、冒険の世界へ!待っていて、私のお金達ーっ!!」

子勇者「だからってなんでボクを巻き込むの!?誰かぁー!助けてー!!」

~聖騎士の王国・付近の森~

娘「わあー、こんな夜中に外を出歩くなんて初めて!なんだかドキドキする、朝昼とは空気が違うんだね」

王女「星も綺麗に輝いていますわ。お月様もまん丸で、なんだか吸い込まれそう…素敵ですわ!」

子勇者「もう、もう…!呑気なんだから…!!こんな事したら、みんなに怒られるに決まっているのに…!」

王子「大丈夫さ、俺が守ってやるから。そう心配すんなよ!こう見えて、強いんだぞ?俺は」

子勇者「…そ、それは頼もしいですけど……うう、そもそも外泊するって時点で怒られる要素満載だったのにぃ…」

王子「(この子が、あの勇者の子供か…母親にそっくりだなあ、すごく可愛いじゃないか…)」

王子「(歳はかなり離れているが…ああ、昔の想いが甦る!……よーし、こいつに俺の格好いいところを見せてやる!楽しむぞぉ!今夜の冒険を!)」

娘「ところで、魔物の噂ってどんなものなの?」

王子「ん、…夜な夜な、森の中で奇妙な光を見たとか、何か気味の悪い動きをしているものを見たとか…変な声が聞こえたとか、そんなものだな」

王子「明日、討伐隊を出す予定だったんだが…俺達がこの問題を片付けちまったら、バトルマスターの奴、引っくり返るかもなー!ハハッ!目に浮かぶようだ!」

子勇者「ボクは一応、攻撃魔法が使えるけど…もしも戦闘になったら、娘ちゃん、キミは後ろに下がっていてよ?危ないから」

娘「あら、意気地無しかと思ったら、随分頼もしいじゃないの。でも大丈夫よ、私だってパパから体術を習っていたし…剣も王子から借りたしね。私だって戦えるわ!」

王女「わたくしも、回復魔法や防御魔法など一通り使えますわ。蘇生などに関しては無理ですが…怪我をしたらすぐに仰ってね?」

王子「…よし、ついたぞ。ここが件の森だ……」

王子「流石に真っ暗だな、回りがよく見えない。子勇者、お前の魔法で全員ぶんの松明に火を点けてくれんか」

子勇者「はい、王子様」ボッ

娘「魔物~魔物~魔物ちゃん~、どこにいるのかなぁ~お金はたくさん持っているかなぁ~?ふふふふ…!」

王女「ドレスから軽装に着替えて正解でしたわ、足元がよく見えなくて、すぐに転んでしまいそうですもの」

王子「みんな、はぐれぬ為に、身を寄せるようにして慎重に歩けよ!」

王子「魔物の目撃談は、この森の中央で集中しているからな…よし、先へ進むぞ」

子勇者「あー…なんでこんな事に……」

ザッ ザッ ザッ …

王女「娘さんじゃないですけど、本当に…昼と夜とでは、雰囲気が違いますのね……ただの草すら、お化けに見えて気味が悪いですわ」

子勇者「魔物っていうのも、正体はそれなんじゃないの…暗がりで、草を見間違えたとか…」

娘「じゃあ、噂にあった変な声ってのはなんなのよ?」

子勇者「知らないよ、風の音とかそういうのじゃない?今だって、木々の間を通り抜ける風が、変な音に聞こえるしさ……」

王子「シッ!!……静かに…!風じゃない……何か、聞こえないか…?」

娘「…本当だ……これ、確かに風の音なんかじゃないよ。唸り声…?ううん、…人の声、みたいな……」

王女「この先から聞こえてきますわね…これが、魔物の声ですの?」

子勇者「ええぇ…本当にいたの?魔物なんか…!」

王子「……噂は本当だったようだな…!暗がりにぼんやりと光が…不気味な動きだ、あれが魔物か…!!」

王女「ど、どう致しますの?捕まえます?」

王子「そうだな…話が通じるかもわからん、とりあえず捕まえてみるか」

王子「子勇者、お前の魔法で牽制してくれ。隙を作ったところで、俺が押さえつける。娘と王女はここで待機して、もしも魔物が暴れるようなら、加勢を頼む」

王女「わかりましたわ。気をつけてくださいまし、王子!」

娘「魔物を傷つけないようにしてね?価値が下がるから」

子勇者「キミは一体誰の味方なの、娘ちゃん…」

娘「私はお金の味方よ!!」

・・・

王子「よし…縄も準備できた…行くぞ!子勇者!」

子勇者「はい、王子様!地面に向けて……石礫魔法!」ボスッ!

?「…!!?」ビクッ

王子「うおりゃあああっ!!」

ドターン!!

王女「やりましたわ!捕獲成功ですわね、さあっ神妙になさい!魔物め!」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!!ちょ 待っ……、一体これは何事だい!?美しい私の、新手のファンか何かかい!?」

娘「 」

子勇者「 」

王子「お前がこの森で不気味な行動をしていた魔物なんだろう!?」

王女「人の姿とは意外でしたけど…こんな夜中になんと不審な、怪しいですわ!…というか、貴方…どこかでわたくしとお会いした事がありまして…?」

スーパースター「だから一体なんの話だい!?ちょっと待ってそんなに締め上げないで、折れる折れる、美しい私の美しい腕がぽきりと華麗に折れるから」ジタバタ

娘「…お、」

子勇者「お、」

娘・子勇者「お前かよぉぉぉっ!!!」

王子・王女「!!?」ビクッ

スーパースター「ハーッハッハッハー!!そう!美しい私だ!みんなのアイドル、スーパースターさ!ハーッハッハッハー!!というかこのマッスル王子を退かしてくれたまえ、ちょっともう本当に腕が折れる」

・・・

王子「いやはや、すまない…まさかこの2人の友達だったなんて…」

娘「友達っていうか…ちょくちょく問題を起こしてくる変態っていうか…面白い人ではあるけど…うちのママ以上にトラブルメーカーなのよね」

王女「昔、街で見た大道芸人だったんですのね。あの芸は見事でしたわ」

スーパースター「ハッハッハ!お褒めにあずかり光栄だよ!しかし間違えないでくれたまえ、私は大道芸人などではない!みんなのアイドル、スーパースターだ!」

子勇者「こんなところで何をやっていたの…みんな怖がっていたんだよ?スターさんを魔物だと勘違いして、討伐隊まで派遣されるところだったんだから」

スーパースター「なんと!?何故私がそんな目に!?私はただ、君達に新しい歌と踊りを披露しようと思って、こうして健気にも夜な夜な練習を重ねていただけなのだが!暗いから、明かりは絶やさずに…」

何やってんだよ…スター

お前かよwwwww

さすがブレない

歪みねぇな

おつ

お前かよwwww

娘「…魔物の正体が判明したわね…もー!このトラブルメーカー!!ガッカリだわ!私の一攫千金のチャンスを返してよー!!」ガクガク

スーパースター「ハッハッハ!何がなんだかわからないままだが、そんなに揺さぶらないでくれたまえ!美しい私の美しい目が美しくも回って仕方ないじゃないか!」ガクガク

子勇者「はあぁ……なんだかドッと疲れた…緊張して損したよ」

王女「…うふふ、でもわたくしはちょっと楽しかったですわ!」

王女「魔物退治とか、派手な冒険ではありませんでしたけど…ワクワクと興奮に胸が踊りましたもの!」

王子「…そうだな……ま、いっか!他に悪さをする魔物もいなかったし、噂の正体もわかったんだしな!」

子勇者「さっぱりしすぎじゃありませんか、お二方…あー、眠い…スターさん、みんなが怖がるから、練習はエルフの村の中でやりなよね」

スーパースター「むう…仲間達に見られるのは少々気恥ずかしいものがあるのだが、また討伐隊を出されても困る!自衛といったところかな!」

娘「恥ずかしがる事があるの、貴方にも……」

王子「スーパースター殿、今度は俺の城にも来てくれよ!2人の友達なら、俺とも友達って事だ!アンタの踊りを見てみたいしな!」

スーパースター「!! ………」

スーパースター「…ああ!ああ!勿論だよ、任せたまえ!美しい私の美しい踊りに酔わせてあげようじゃないか!ハッハッハ!…詫びもしたいしね」

王女「ふわあぁ…、…夜も遅いですし、わたくしも眠いですわ……問題も解決致しました、お城へ帰りましょうか…」

娘「あーぁ…私の一攫千金が…冒険が……」

子勇者「平和が一番だよ。…じゃあ、ばいばい、スターさん。また村に遊びに行くからね」

スーパースター「ハッハッハ!楽しみに待っているよ!」

~聖騎士の王国・城内~

王子「…短時間で決着がついて良かったなー。あとは俺に任せてくれ、討伐隊派遣は取り止めにする。バトルマスターには上手く説明しておくからさ」

王女「従者にも見つからずに済みましたわね。…うふふ、この小さな冒険は、わたくし達だけの秘密に致しましょう?ね?」

娘「おっけー!…まあ、お金は手に入らなかったけど、ワクワクできたね!楽しかったなー!」

子勇者「秘密ってのは賛成だよ…。はあ、無事に終わって良かった…みんな逞しいんだから、ボクは怖くて仕方なかったよ…」

王子「おいおい、言ったろう?俺が守ってやるから!そんなに不安になる事はない!」

子勇者「は、はあ。確かに、王子様の動きは見事でしたけど…スターさんをあっという間に押さえつけちゃったし」

王女「…王子ったら、随分と子勇者さんがお気に入りですのね?ずうっと、べったりくっついて」

王子「え。…そりゃあなあ?自分に納得がいくまでと、謁見を断り続けていたし……昔、惚れた女の子供ってなったら…しかもこんなに可愛い女の子なんだしさあ、…ハハ、色々欲が出てきちまうっつーか!」テレテレ

王女「………女の子?」

子勇者「………」

王子「………」

王子「………えっ?」

娘「…王子様……子勇者って、しょっちゅう間違われるんだけどね………子勇者は、男の子だよ」

王子「 」

王子「………な、」

王子「なんだってえええ!!!??」

王女「…やっぱり、勘違いしていましたのね…わたくしは、彼が赤ん坊の時に会いましたから、知っていたけれど」

子勇者「なんでボクはいつも女の子に間違われるのかなあ…?」

娘「女顔だし、髪もふわふわだし、ナヨナヨしているからじゃないの。部屋にこもって勉強ばかりしているから、日焼けしなくて色白だし」

子勇者「だって、魔法学ってすごく面白いんだもん」

王子「そ、そ、そうなのか……外見は母親似、才能は父親譲りってか……」ガックリ

王子「………」

王子「………いや……別に、恋の前では、年齢だって性別だって、関係ないんじゃ!?」

王女「せいっ!!」ドッス

王子「下段蹴り!?」ドサッ

王女「何を拗らせてやがりますの、この馬鹿王子は!!さあさあ、2人共!早く部屋へお戻りなさい!王子が暴走せぬうちに!!」

娘「姫様って…強いのね…あの王子を一撃で倒しちゃった」

子勇者「ううぅ……なんでこんな事に~!」

王子「お…俺は諦めないぞぉー!今度こそ、実らせるんだ!俺の恋をぉ~!!」

王女「諦めなさいな!!貴方の野望はわたくしが食い止めます!この!この!!この、マッスル馬鹿王子!!!」ゲシゲシ

~寝室~

子勇者「はあ…やっと帰ってこれたぁ…わあ~、布団がすっごく気持ち良く感じるよー」ボフッ

娘「夜更かししたし、たくさん歩いたし……今まで出来なかった事をやって、流石に疲れたわね」

子勇者「………」

子勇者「…あのさ……キミには色々と困らされてばっかりで、ウンザリだなんて言ったけど…」

子勇者「ボクも…今日は、ちょっと…ううん、かなり楽しかったな……えへへ」

子勇者「出来れば、また…キミと、お姫様と王子様と、…みんなで、冒険するのも、悪くないかも……なんて」チラッ

娘「……すー……すぴー…」

子勇者「って、寝るの早いよ!娘ちゃん!もうっ…素直になって損した気分!!」

子勇者「ちぇっ、ボクももう寝よ……」

子勇者「………」

子勇者「…ボクだって、お父さんとお母さん…英雄にすごく憧れているんだよ。だからたくさん勉強しているんだから」

子勇者「…ふふ、今日の事はみんなの秘密だから、話せないのが残念だけど……いつか、お父さんとお母さんをびっくりさせるくらい、すごく強くなるんだー」

子勇者「……あーあ、2人共、今頃心配しているだろうなー。帰ったら反省文書き決定だよ、もう…娘ちゃんのバカ。…おやすみー」ゴロン



聖竜「………」

聖竜「………ふふ」

聖竜「例え小さな冒険でも、お前達の大きな成長となったようだの…」

聖竜「まったく、子供とは、知らぬ間に成長しているものだ…お前達なら、きっと素敵な未来を作れるのだろうのう…それを見るのが、ワシは楽しみだよ……」

・・・

~翌日・大聖堂の街~

勇者「……あ!あれ、聖竜じゃないか!?」

僧侶「もうぅ、心配かけて……!無事に帰ってきて良かった…でも、たっぷり叱りますからね!本当にごめんなさい、勇者様!魔法使いくん!2人の留守中に、子勇者くんを巻き込んでしまって…!」

魔法使い「えー?謝られる事なんかないけどなあ。僕だって、少年時代に魔王退治を成し遂げたんだしさ。若いうちに沢山冒険しておくべきじゃない?」

盗賊「…なんだ?一瞬お前とクソオヤジが重なって見えたんだが。影響力どんだけだよ、あのオッサン……」

勇者「………」

勇者「ふふっ。君達の目には、どんな素晴らしい明日が映ったのかな。聞かせてほしいよ…とても楽しみだ!」


娘「パパー!ママー!」

子勇者「お父さん!お母さん!」


娘・子勇者「ただいま!!」


おわりです。
読んでくださった方、ありがとうございました!

また昼頃、もう一本短いのを投下します。



待ってる





何気に王子が姫の尻に敷かれてるって言うねwww


~奴隷商・アジト~

奴隷商「―― おい!おいっ!いつまで寝ていやがる、起きろ!タダ飯食わせるつもりはねーぞ!!」

魔剣士「………」ムクリ

奴隷商「やっと起きたか…ったく、相変わらず不気味な野郎だな。ほら、テメーの仕事だ!」

奴隷商「この"商品"の護衛をしろ。いいか、こいつは金の生る木なんだよ…やっとの思いで買い付けたんだからな!逃がしたり、余所に奪われたりしねーよう、しっかりやれよ!」

歌姫「………」

―――

俺には生まれてから今までの記憶がない。

気がついたら、剣を握り、ただこの世界に立っていた。
特に目的がないので、なんとなく奴隷商の元に身を寄せ、ただ、ただ、ぼんやりと生きている。

俺には記憶も、目的もないが、たったひとつだけ、心に浮かぶものはあった。

"こんな世界、いらない" ―― この、たったひとつだけが。

魔剣士「………」

奴隷商「こいつはなァ、無口なテメーと同じく、他の事は一切語らねェ」

奴隷商「まあ、素性なんざ関係ないがな。要は金になるかならないか…それが一番重要だ」

奴隷商「見た目の美しさに加えて、語りはしない代わりに歌を歌う。その歌がまた最高なんだ……」

奴隷商「大金叩いて買ったんだからな、元手以上に稼いでもらうぜ!大金持ちになったら、へへ、俺もこの稼業からおさらばよ!」

奴隷商「いいか、次の街から興行を始めるからな…そいつを奪われねーよう、しっかり守れよ」

・・・

魔剣士「………」

歌姫「………」

魔剣士「(魔王がいなくなり、平和になったなんて言っても…所詮、こんなものだな。やっぱり、世界は汚い)」

魔剣士「(…まあ、俺には関係のない事だ…)」ゴロン

歌姫「………」キョロキョロ

魔剣士「…おい。勝手にふらつくな」

魔剣士「逃げようとは思わない事だな。俺は一度引き受けた仕事を投げる気はない。……おとなしくしていろ」

歌姫「………」

歌姫「………」トテトテ

ギュッ

魔剣士「………?」

歌姫【たいくつ】

魔剣士「(…俺の手のひらに、指で字を書いて…これがコイツの喋り方か?)」

魔剣士「知らん。おとなしくしていろ」

歌姫【なにか おしゃべり しよう】

魔剣士「喋れんくせに」

歌姫【こうしたら しゃべれる】

魔剣士「くすぐったいから、やめろ」

歌姫【あなたのこと おしえて】

魔剣士「知らん。おとなしくしていろ」

歌姫【じぶんのこと なのに しらないの】

魔剣士「………」

歌姫【あなたのこと おしえて】

魔剣士「知らん。俺に懐くな」

魔剣士「お前は商品。俺はその護衛。それ以上も以下もない」

魔剣士「仕事以外で商品に関わる気はない。いいか、何度も言わせるな。おとなしくしていろ。退屈なら寝ていろ」

歌姫「………」ムッスー

歌姫【たいくつ】

歌姫【たいくつ たいくつ たいくつ】

魔剣士「………おい」

歌姫【つまんない あそぼう おしゃべりしよう】

魔剣士「おい!俺の体や顔にまで指文字を書くな!手だけにしろ!!」

歌姫「………」ムスー

~移動中・馬車内~

ガラガラガラ

魔剣士「………」

歌姫【あなた ほとんど め つぶってる】

魔剣士「………」

歌姫【そら は みないの】

魔剣士「………」

歌姫【そら は きれい だよ】

歌姫【もったいない】

魔剣士「(…世界は、汚い、醜い。……なら、見なければ済む事だ)」

歌姫「………」

魔剣士「………」パッ

歌姫「!!」

歌姫「………」シュン

魔剣士「(いつまで俺の手を握っているつもりなんだか。…歌えるなら、普通に喋ればいいものを)」

ガラガラガラ

魔剣士「………」

歌姫【たいくつ】

魔剣士「………」

歌姫【うたいたい】

魔剣士「ダメだ」

歌姫【どうして】

魔剣士「敵に見つかるからだ」

歌姫「?」

魔剣士「お前の歌声は有名らしいからな」

魔剣士「一度歌えば、とんでもない大金が転がり込んでくるとか…奴隷商が話していた」

魔剣士「それだけのものなら、歌うと他の奴に見つかってしまうだろう。…ステージ以外で歌う事は許さん」

歌姫【たいくつ】

魔剣士「知らん」

歌姫「………」ムスー

歌姫「………」

魔剣士「…おい。いつまで俺の手を握っているんだ」

歌姫「?」

魔剣士「離せ」

歌姫【こうしないと あなたと はなせない】

魔剣士「その"はなす"じゃない。手を離せと言っている」

歌姫【だめ】

歌姫【あなたと はなせない】

魔剣士「………」

歌姫【みて】

歌姫【とり】

歌姫【たのしそう】

歌姫【わたしも うたいたい】

魔剣士「ダメだ」

歌姫「………」ムスー

歌姫【まだ まち つかないの】

魔剣士「………」

歌姫【たいくつ】

魔剣士「………お前は…」

歌姫「?」

魔剣士「何故、言葉を口にして語らないんだ?」

魔剣士「歌えるなら、話す事もできるだろう」

歌姫【わたしは】

歌姫【うた が すき だけど】

歌姫【ことば は すきなひとに あげたいの】

魔剣士「………」

歌姫【わたし の ことば を】

歌姫【きもち を】

歌姫【うけとって もらえたら】

歌姫【それは とても すてきなこと】

歌姫【だから それまで】

歌姫【わたし は うたう】

歌姫【わたし は ここに いるよ きづいて って】

魔剣士「………」

歌姫「………」ニコッ

魔剣士「(変人め)」

歌姫【うたいたい】

魔剣士「………」ブンッ

歌姫「!!」

歌姫「………」シュン

魔剣士「お前の考えはさっぱりわからないが、いちいち手を握られるのは鬱陶しい」

歌姫「………」ギュッ

歌姫【こうするとね】

歌姫【こころ が つたわる から】

魔剣士「………」

魔剣士「………何故だ」

歌姫「?」

魔剣士「俺に話しかけてきたのは何故だ」

歌姫「………」

歌姫【あなた が】

歌姫【ないて いたから かな】

魔剣士「………はぁ?」

歌姫「………」ニコッ

魔剣士「(わけがわからん)」

歌姫「………」

魔剣士「(…まだ、街に着かないのか)」

魔剣士「(………居心地が悪い)」

歌姫【て あったかい ね】

歌姫【あんしん】

魔剣士「………」

歌姫【ねえ】

魔剣士「………」

歌姫【ねえ ったら】

魔剣士「………なんだ」

歌姫【そら きれい】

歌姫【あなた も みてみたら】

歌姫【きれい だよ】

歌姫【そら って なにいろ かな】

歌姫「………」

魔剣士「………青、だろ」

歌姫「?」

魔剣士「空の色だ」

魔剣士「朝昼なら青、夕方は赤、夜は黒。見ればわかる」

歌姫【それは うそ】

魔剣士「………はあ?」

歌姫【そらは あおいろ じゃないよ】

魔剣士「今は昼過ぎだ。見ればわかるだろう。空は青い」

歌姫【みてない くせに】

魔剣士「見たままを答えたんだ。空は青い、一度見ればわかる」

歌姫【うそ】

歌姫【そらは あおいろ だけど あおいろ じゃないんだよ】

魔剣士「(何言ってんだコイツ)」

魔剣士「…子供がする謎解き遊びか何かか?」

歌姫【ちがうよ】

歌姫【そらは まいにち ちがうよ】

魔剣士「………」

歌姫【まいにち ちがう あおいろ なんだよ】

歌姫【きれい ね】

魔剣士「………」

魔剣士「………」

魔剣士「空は青色だ。雨が降ったりすれば変わるが、基本的に青色だ。一度見ればわかる」

歌姫【みてない くせに】

魔剣士「もう見た」

歌姫「………」

歌姫【みない あなたに そら の いろを つたえる には】

歌姫【どうしたら いいのかな】

魔剣士「見たと言っているのに」

歌姫「………」

歌姫【ねえ】

歌姫【そら きれい だよ】

魔剣士「………」

歌姫【せかい は】

魔剣士「………」

歌姫【きれい だよ】

魔剣士「………」

―― こんな世界、いらない

魔剣士「………」

魔剣士「(消してしまえばいい)」

魔剣士「(こんな汚く醜い世界、見なければいい…)」

歌姫「………」

歌姫【ねえ】

魔剣士「―― うるさいな!!」

歌姫「!!」ビクッ

魔剣士「………」

歌姫「………」

魔剣士「(……空は、青い)」

魔剣士「(ただの青色だ)」

歌姫「………」

~酒場・控室~

歌姫「………」

魔剣士「…あんなに歌いたがっていたわりに、浮かない顔だな?」

歌姫「………」

ギュッ

歌姫【あなた が ないて いたから】

魔剣士「………」

歌姫【ごめんね】

歌姫【なかないで】

魔剣士「よく見ろ。俺は泣いてなどいないだろう」

歌姫【うそつき】

魔剣士「………」

歌姫【あなた は うそつき ね】

魔剣士「………」

歌姫「………」スッ…

―― ガシッ!!

歌姫「!?」

魔剣士「(…何をやっているんだ?俺は)」

魔剣士「(思わずコイツの手を掴んでしまった)」

歌姫「………?」

魔剣士「………」

魔剣士「………空は…」

歌姫「?」

魔剣士「空は、やっぱり青かったぞ」

歌姫「………」

魔剣士「ちゃんと見た。見た上で、やっぱり青かったと思う」

歌姫【あした は なにいろ だろう ね】

魔剣士「…明日も、青色だ」

歌姫【ちがうよ】

歌姫【あした は なにいろ かな】

魔剣士「………」

歌姫「………」

歌姫【あなたに】

歌姫【あしたの そらを みせて あげたい】

魔剣士「(囚われの身のくせに)」

歌姫「………」ニコッ

魔剣士「空は青色だ」

魔剣士「…この世界は、汚い」

歌姫【ちがうよ】

歌姫【そらは あおいろ だけど あおいろ じゃない】

歌姫【ちがうよ】

歌姫【せかい は きれい】

魔剣士「………なら、…」

魔剣士「なら、見せてみろ」

歌姫「………」

魔剣士「俺に、空を見せてみろ」

魔剣士「この世界のどこが綺麗なのか、教えてくれ」

歌姫「………」

歌姫「………」ニコッ

魔剣士「………」


・・・

奴隷商「さあ歌姫、お前の出番だ……、……ん?ど、どこだ?おい!歌姫はどこに行きやがった!?」

奴隷商「見張りも倒されて……魔剣士の奴も居ないだと!?アイツっ…歌姫を連れて逃げやがったなぁぁ!!」

・・・

歌姫【にげて きちゃった ね】

魔剣士「ふん。そろそろ飽きも来ていたしな、いい機会だった」

歌姫「………」クスクス

歌姫【あした が たのしみ だね】

歌姫【きょう も あした も あさって も】

歌姫【そら は きれい】

歌姫【せかい は きれい】

魔剣士「………」

歌姫【みにいこう】

歌姫【わたしたち は じゆう なんだから】

歌姫【どこ だって いける】

魔剣士「………ああ」

歌姫【あした の そら は なにいろ だろう】

魔剣士「………楽しみ、だな」


おわりです。短いんで一気投下しました。

かつての敵が改心して助っ人になるとかも王道?
王道コテコテも考えすぎると何がコテコテなのかわからなくなってきますね。他に王道ってなんかある?状態です。
キャラ性格属性も大体メジャーなものは使えたかな。

読んでくださった方、ありがとうございました。



楽しかった!ありがとう( ´∀`)σ)∀`)




面白かった



乙乙

以前レスして以来、スターの姿が『腰ミノハゲヒゲおやじ』で再生され続けたwwww
こんなヤツ他にはいねーだろうけど…

にしても。あの『台本がないとろくに喋れない序盤の洞窟ボス』の弱点を覚えてるとは…
ま、なんにせよ

乙!!!

>>561
俺は途中からフォルゴレになった

乙!!!
こんなに面白いのは久しぶりだった
また来るのを楽しみに待ってる

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