僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」(307)


司祭「…というわけで、君には勇者の仲間である僧侶の護衛、及び勇者との合流を果たし彼の力となってもらいたい」

司祭「君もまた神の加護を受ける、勇者の仲間であると神託が降りた…それを忘れる事なく、心して任務を遂げるよう願う」

盗賊「………」

僧侶「よ、よろしくお願いしますぅぅ…」オドオド

盗賊「…なんで俺が…」

司祭「僧侶。道中気をつけて行くのだよ。くれぐれも盗賊さんの、そして勇者様のご迷惑とならぬようにな」

僧侶「は、はいぃ。頑張ります…うう、怖いけど…」

司祭「旅立つ2人に神のご加護がありますように」

盗賊「………」

盗賊「めんどくせェ…いきなり声がかかったかと思えば、それは大聖堂の司祭サマで、しかもガキのお守り、更には俺が勇者の仲間だぁ…?」

盗賊「盗みならばなんでもござれ、悪事に手どころか、この身どっぷり浸かって生きてきたこの俺が。寝耳に水の騒ぎじゃねーよ」

僧侶「わ、私…ガキじゃありません…そそ僧侶です…」

盗賊「あぁ?」ギロリ

僧侶「ひいぃ!!」ガタブル

司祭「勇者と合流し、その力となりて魔王を討ち取れば、国から報償金も出るだろう。勇者の生き方を見れば、君も自分の人生を見直せるかもしれんぞ」

盗賊「それはどうでもいいが、まあ、報償金てのは悪くない。魔王も宝を貯め込んでいるだろうしな…」

司祭「これは国から支給されたものだ。持っていきなさい」

盗賊「100ゴールド、薬草…と、それに武器か。ほう、真新しいダガーナイフ。こいつは有り難ェ」

僧侶「メ…メイス、重たいです…」ヨロヨロ

僧侶「はうっ!?」フラッ

盗賊「ぐがっ!?」ゴン!

 盗賊に かいしんのいちげき !

司祭「…おお盗賊よ、死んでしまうとは情けない……」

盗賊「死んでねえッ!!つーか何しやがる、このクソアマァッ!!」

僧侶「ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ~!!!メイスが…メイスが……!!」

司祭「大聖堂から出る前にこれとは…先行き不安すぎる…」

~大聖堂の街~

僧侶「早速薬草使っちゃいましたね…」

盗賊「誰のせいだと思ってやがる。司祭じゃねーが、この先不安で仕方ねーよ…あーあ、全く面倒なことになった」

僧侶「す、すみません…あと、メイス持ってくれて、ありがとうございます…」

盗賊「テメーに持たせたら今度こそ殺される気がするしな。さっさと勇者とやらと合流すんぞ。確か酒場に居るんだったな」

僧侶「は、はい…話によると、そうですね……」

盗賊「大聖堂のある街に酒場。神様の住む街に悪党がぞろぞろ。つくづく変な場所だよな、ここはよ」

僧侶「と…盗賊さん…は、やっぱり、そのう…暗黒街に…?」

盗賊「ああ、悪党や貧民が集う居住区の生まれだ。ったくよ、神様とやらがいるならば、何故俺達は救ってくださらねーのかねェ?」

僧侶「か…神様は…どのような方に、も、等しく……その御手を差し伸べてくださいます……と、盗賊さんも、祈りを捧げれば…救われることでしょう…」

盗賊「ケッ。どうでもいいやい、んなこたァ。祈りで腹が膨れるかよ、祈って金貨が空から降ってくんなら、いくらでもするけどな」

盗賊「明日のパンにも困るような生き方をしてきた俺達が…そんな暇も余裕もあるもんかよ。なんで俺が勇者の仲間とやらに選ばれたか、疑問でならねェな…全く…」

僧侶「き…きっと、それも…神様の試練、かと……貴方をお救いくださる試練…」

盗賊「試練だけに、そんな神様の気が知れん。そうこう言っているうちに、ついたぞ。酒場だ」

僧侶「…全っ然うまくなんか、ないですからね!」

~酒場~

盗賊「っはぁ!?マジで言ってんのか、それ!?」

店主「ああマジだ。そこのテーブルにいたんだがな、隣村に魔物が攻めてきたと情報が入って、すぐさま店を出ていったよ」

僧侶「そ、そんなあ!勇者様に置いて行かれちゃった…!」

盗賊「テメーがもたくさしてっからだ!チッ、すぐに追い駆けるぞ…隣村だったな、走りゃまだ間に合うだろう」

僧侶「わ、私、走るの遅いですぅ…!」

盗賊「知るかクソアマ!ゴニョゴニョ言っている暇があったら、とっとと走れ!」

僧侶「クソアマじゃないです、僧侶です~!うえ~ん、勇者様ぁ~!!」

盗賊「………」タタタタタ

僧侶「はあ、はあ、ふう」トテトテ

盗賊「…テメー、ふざけてんじゃねーぞ。マジに遅すぎる…歩いてんのかってレベルだ」

僧侶「す、すみません…、頑張っ、て、ますが……はあ、はあ、は、走るの……苦手で、ふう、はあ」

盗賊「大体荷物は全部俺が持ってやってんのによ、その俺より遅いって有り得ないだろうがっ!俺だってそんなに体力ねーんだぞ!?」

僧侶「すみません…すみません……ふう、ふう」

盗賊「ったく…、ん!?」

魔物「キシャー!」

僧侶「きゃー!?」

盗賊「チッ!魔物だ!!おい、クソアマ!そこから動くんじゃねーぞ!」

僧侶「は、はひぃ……というか、私クソアマじゃないです、僧侶ですぅ~!」

盗賊「どうでもいいんだよ、そんなこたぁ!うりゃあ!」ザシュ

魔物「ギギー!!」

盗賊「数は三体、残り二体……そらよっ!」ドシュ

魔物「ギァー!!」

僧侶「きゃああ!?」

盗賊「バカッ!ボケっとしてんじゃねえ!!」ザンッ

僧侶「ああ!私を、か、庇って…!盗賊さんが魔物の爪に腕を掻かれたー!!だだだ大丈夫ですか!?」

盗賊「クソ、血が…おいクソアマ、回復魔法とか使えねーのか?」

僧侶「す、すみません…!私、落ちこぼれで…まだ何も出来ないんです~!!」

盗賊「とことん使えねーなあぁテメーはよォー!!」

盗賊「ちくしょうーっ!張った張られたの博打は好きだが、自分の命をチップにするなんざ、金輪際ごめんだぜッ!!」ドシュッ

魔物「ギャアァー!!」

僧侶「か…勝った!勝ちましたよっ盗賊さん!」

盗賊「はぁ、はぁ……ケッ、ざまーみやがれってんだ…」

僧侶「あの、一旦街に戻りましょう…?血がいっぱい出てます、薬草無いですし……先程頂いたお金で薬草を買うとか…治療を受けるとか、した方が…」

盗賊「バカ、そうこうしている間にまた勇者に置いて行かれたらどうすんだ?俺はさっさと安全圏に引っ込みてーんだよ」

盗賊「勇者とやらなら、クソアマ、テメーのお守りも好き好んでやるだろうしよ。そうすりゃ俺は後方でぬくぬくしながら、報償金も楽に手に入れると…楽する為の前金と思えばどうって事ねェ、こんな傷」

僧侶「で、でも…!化膿したりしたら……」

盗賊「布できつく縛っておきゃ隣村まで持つだろ。つーかテメーが回復魔法を使えれば、問題はなかったのによ」

僧侶「す、すみません……」

盗賊「…まあ、経験を積めば、いくらなんでも覚えるだろうしな。それまでの辛抱ってこった…」

僧侶「ううう…が、頑張ります!レベ、レベルアップ、して…回復魔法を覚えますからあ~!」

 盗賊はレベルが上がった!
 僧侶はレベルが上がった!

 盗賊はレベルが上がった!
 僧侶はレベルが上がった!

・・・


盗賊「………」

僧侶「………」

盗賊「クソアマァァァ!!なんっでこれだけレベルが上がっても、ひとつも回復魔法を覚えやがらねーんだァッ!?」

僧侶「ひいいぃ!!?ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!わたっわた私、おおお落ちこぼれで~ッ!!」

盗賊「ものには限度があるだろうがァ!!ふざけんなよクソアマ、回復出来ないなんざ詐欺みてーなもんだろうが!どうすんだよ、どうすんだよコレよォ!この状況よォ!!」

僧侶「あ!あの!ひとつだけ…」

盗賊「あんっ?」

僧侶「私…私、クソアマじゃないです…僧侶ですぅ!」

盗賊「うるせえ!!回復魔法使えるようになってから寝言垂れろや、クソアマ!!」

~隣村~

盗賊「はあああぁ!?またすれ違っただとぉ!!?」

村人「は、はあ。勇者様は、魔物をすぐに退治してくださいましたが…ここから南の洞窟に、その魔物達の住処があると聞くと、そこに向かわれて……」

村人「お礼もありますし、せめて一晩でも休まれてはと、お引き留めしたのですが…礼など不要と、そのまま行かれてしまいました」

僧侶「はあ~、流石勇者様ですねえ…カッコイイです…」

盗賊「チッ!時間食いすぎたせいだ…さっさと追いかけるぞ!」

村人「貴方達は勇者様の仲間なのですね?ではどうか此方をお持ちください。何分、魔物に荒らされてしまい、こんなものしかご用意できませんが…薬草です」

僧侶「ああ!いえっすごく有り難いです…!本当に本当に有り難うございます…!と、盗賊さん!怪我の手当てをしましょう!」

村人「本当は毒消し草をお渡ししたかったのですが、この辺りの魔物はよく毒を持っておりますし…」

村人「しかし襲ってきた魔物に、毒消し草畑を潰されてしまいまして。申し訳ありません」

僧侶「いえ、とても有り難いです…!わ、私達が必ず魔物を、魔王を倒します、から!だからまた毒消し草の栽培に、打ち込めますよ…今度は安心して、平和に…!」

盗賊「回復魔法を使えないクソアマに言われても不安しかねーよ」

僧侶「ううう!」

村人「なんと…では余分に薬草をお持ちください。どうかお気をつけて…」

僧侶「有り難うございます、有り難うございます!さ、さあっ!いいい行きましょう、魔物の住処の、南の洞窟…洞窟……」ブルブル

盗賊「生まれたての子鹿みてーな足している奴が、随分偉そうに張り切り勇むじゃねーか…あー面倒くせェ」

村人「…大丈夫なんだろうか…この方達…」

~南の洞窟~

盗賊「さて、洞窟だが…いっこうに魔物が現れねーな…勇者が倒したのか?」

僧侶「」ビクビク

盗賊「暫く戦闘は勘弁願いてーしな、有り難いっちゃ有り難いが」

僧侶「」オドオド

盗賊「…つーかよ、クソアマ。俺のマントに掴まるんじゃねえ、重てーし動きにくいだろうが」

僧侶「ごめ……なさい、でも、わ、私…クソアマじゃないです…!……くっ…くっくっ、くっ……」

盗賊「何を笑ってやがる」

僧侶「違います!くっ…暗くて怖いんですう!!もぉやだあ~…早く外に出たいです…!!」

盗賊「お前なあ、勇者についていくって事は、この先こういった場所に死ぬ程入っていく事でもあるんだぞ?ぴーぴー泣いてんじゃねーよ!」

僧侶「だ!だって!だってー!!」

盗賊「だってもヘチマもあるかっ!!うるせえんだよ、クソアマ!!」

盗賊「出口か…洞窟というより地下道か。結局魔物は一匹も出なかったな。宝箱も空だったし、チッ、勇者の野郎、きっちり回収して行きやがって」

僧侶「はあぁ…やっと外に出られるんですね、良かったあ…怖かった…」

盗賊「おいクソアマ。今日は此処で一泊するぞ」

僧侶「はひぇ!?ななななんで!?なんでですか!?」

盗賊「外を見てみろ、もう日が沈む。魔物どもは夜行性だ、より凶暴化するだろうよ。そんな中をフラフラ歩いたら仲良く御陀仏だぜ?」

盗賊「先を急ぎてーが、だからって危ない橋を渡るわけにゃいかねえ。魔物のいないここは、今や良い休憩場所だ」

僧侶「でも、でもでも!洞窟は怖いです、暗いしジメジメしているし!」

盗賊「うるせえ!暗いなら火を焚きゃいいだろうが!その辺から薪木を拾ってこいっ」

僧侶「うえ~ん!勇者様ぁ~…!」

盗賊「………」

僧侶「……すぅ……すぅ……」

盗賊「…チッ、あれだけ騒いでいたのに、間抜けな面して寝やがって。臆病なのか図太いのか、どっちかにしやがれ」

盗賊「…このマントなら少しは寒さを凌げるか」パサ

僧侶「……すぴー…」

盗賊「………」

盗賊「………はあ…出だしの魔物にやられた傷から血が止まらねーな…こいつは出血毒か……」

盗賊「薬草……いや、これくらい、どうって事ねえ。いざって時の為に温存だ、俺もクソアマも戦闘職じゃねーしな…」

盗賊「大体クソアマが回復魔法を使えりゃいい話なのによ!腹立つなー、鼻にドングリ詰めてやる」キュッ

僧侶「ふが。……ふぐぐ……ひんっ!!」ポンッ!

盗賊「痛ッ!?鼻からドングリ吹き飛ばしやがって、クソアマ!」

僧侶「……すぴー…すぴー……」

盗賊「…ハハハ、間抜け面め…」

読んでくださりありがとうございます

チュン チュン

僧侶「……んむ…、…ふぁ、……あ…もう朝…?」

僧侶「あれ…盗賊さんがいない…!?………?このマント、盗賊さんの?」

僧侶「…あったかいなあ…どうしよう、どこに行っちゃったんだろう、盗賊さん……盗賊さんも…私を置いて行っちゃったのか…な……」ウトウト

盗賊「いつまで寝てやがる」ゲシッ

僧侶「きゃふ!…あっ、あっあっ!と、盗賊さん!!どこに行っていたんですか!?」

盗賊「朝からうるせえんだよクソアマ。起こすんじゃなかったぜ。ほらよ、飯だ」

僧侶「あ…り、林檎だあ。採って、きて…くれたんですか?有り難うございます……」

盗賊「テメーが魔物の肉なんざ食えないとか騒ぐからだ。ったく、何にしても面倒かけやがるな、クソアマ」

僧侶「し、仕方ないじゃないですか…戒律も、ありますし……そ、それに…脂身、苦手なんです…」

盗賊「…この先、贅沢言っていられる場合じゃなくなる事もあんだ。戒律?破っちまえよ、そんなもん。祈りや戒律なんぞで腹は膨れねェ」

盗賊「魔物肉だろうが、草の根だろうが泥水だろうが……食えるもんがあるという事は、有り難ぇ事なんだ。食えるうちに食っておかなきゃダメなんだ。有り難ぇ有り難ぇって思いながら」

僧侶「………」

盗賊「だから飯を食う前は"いただきます"、食ったあとは"ごちそうさま"って言うんだ。有り難ぇって気持ちを込めてな。それが生きるって事だぜ」

僧侶「………」

盗賊「…さっさと食え、食ったらすぐ出発すっからな」モグモグ

僧侶「………!」バッ

盗賊「あ!?テメー、それは俺の魔物肉だぞ!?」

僧侶「むぐ…!」モグモグ ゴクン

僧侶「うぇ…、けほ、ご…ごちそうさま、でした……」

僧侶「………ありがとう、ございました……うぷ」

盗賊「…ふん。食えるんじゃねーか」

僧侶「えへ……が、頑張らなきゃ、ですし…私も……」

盗賊「だが、どうしてくれんだよ。俺の朝飯」ゴンッ

僧侶「!?盗賊さんが私の頭をぶった~!い、いえ!ご、ごめんなさい!あの、この林檎、どうぞ!」

盗賊「当たり前だ、クソアマが」

僧侶「あ、あと…!マント、ありがとう、ございました…すみません…掛けて、くださったんですね」

盗賊「………寝惚けたテメーが俺のマントを剥いで奪っただけだ」

僧侶「はぇ!?ほほほ本当ですか!?それ!」

盗賊「おかげで凍え死ぬかと思ったねぇ」

僧侶「ああああう……!!恥ずかしい…!ごめんなさい、ごめんなさいぃ!!」

盗賊「…チッ」

魔物「キシャー!」

盗賊「洞窟から出た途端に戦闘かい…」

僧侶「うう…怖い、ですけど…!わ、私だって!レベル上がりましたからね!お肉も、食べましたし!!パワーアップ、もりもりなんですからねっ!」

僧侶「えいっ!」

魔物「ギュ!!」ボカッ

僧侶「悔い改めて、ください!えいっ、えいっ!!メイス攻撃!」ボカ ポカ

盗賊「おー、やるじゃねーかクソアマ。その調子で頑張れや~」

僧侶「僧侶ですぅ!っというか、盗賊さんも戦ってくださいよう~!!」

盗賊「俺は今までに散々戦ったろう。バトンタッチってヤツだ。お?魔物のくせに宝石なんざ持っていやがる、生意気な」ゴソゴソ

僧侶「ふえ~ん!勇者様ぁ~、私達どんどん罪深くなっていきますう…!」

僧侶「はぁ、はぁ……や、やっと、倒せました…はぁ……や、薬草、薬草…死んじゃう…」ヘロヘロ

盗賊「よぉーし、よくやった、クソアマ。やたら時間はかかったが、頑張りに免じて、クソアマはやめてやるよ」

僧侶「はぇ?ほっ本当ですか!」

盗賊「今からクソアマじゃなくクソって呼んでやる」

僧侶「最低じゃないですか!まだクソアマの方がマシですう…!どうしてそっちを取っちゃうんですか~!」

盗賊「楽して儲ける、全く最高だな。次の街でこの宝石や魔物の皮を売ろう、幾らになるか…楽しみだぜ」ホクホク

僧侶「悪意100パーセントですぅぅ…!!あの!私、クソアマでも、クソでも、ないですからね!?僧侶です!」

盗賊「武器はいいとして、防具を一新するのもいいかもな~」

僧侶「聞いて!聞いてくださいよう、盗賊さんの、バカぁー!」

~キャラバン休憩地点~

商人「勇者?いや、見てないな…見かけたらこんなところで油売らずに商品を売るしなー、勇者なんて最高のお客だしさ」

盗賊「とうとう足取りすらわからなくなったか…」

商人「あんたら、そんな状態で、よくあの南の洞窟からこの地に抜けて来たな?あの洞窟にゃ凶悪な魔物が巣を作っていたはずだが、見た目ロクな装備じゃないし」

僧侶「あ、あの…勇者様が、魔物を退治してくださった、んですよ……」

僧侶「洞窟、も…浄化作業、行われていましたから…もう、魔物が巣を作る、ことはありません、よ」

商人「へえ!?そいつは有り難い!これで大聖堂の街に行きやすくなる、いや~勇者様様だな!」

盗賊「その勇者がどこに行きそうかとか、検討もつかねーか?」

商人「うーん、もしかすると山越えの道を進んだんじゃないか?険しいが、近道でもあるしなー」

盗賊「山を越えた先にゃ何があんだ?」

商人「砂漠と、オアシスを守る国があるよ。山間にも村があるしな、こっちで見ないって事は、そのルートを通っている可能性が高い」

商人「だが、あんたらが山を登るのはやめときな。そんな装備じゃ自殺行為だ、砂漠にしてもな」

商人「という訳で……はい、いらっしゃいませ!装備を整えるなら我々にお任せを!武器防具に道具から食糧まで、なんでも揃っているよ!」

盗賊「チッ、商売人め」

僧侶「わあ、この旅で初めてのお買い物ですねえ~」

盗賊「浮かれてんじゃねーぞクソが。まあいい…まずは資金作りだ、宝石や魔物の皮を売る」

僧侶「ああああの!クソじゃないです、クソアマですう!………違いました!!僧侶でした!!ひ~ん!」

商人「ほう、こいつはなかなかのモノだねえ…じゃあこれくらいの引き取り値でどうだい?」

盗賊「いや、もうちょいイロつけてもらいてーな。こちとら死ぬ思いで手に入れた品なんだ、せめてこれくらいは……」

僧侶「…もうぅ、盗賊さんのオタンコナス!あの宝石は私が退治した魔物から奪ったやつじゃないですか…」

僧侶「………」

僧侶「…暇だなー、私、バカだから交渉とかできないし……邪魔になっちゃう、また怒られちゃうしなー…」

僧侶「それにしても、キャラバンって初めて見たなー…なんだかわくわくするなあ…」

商人b「いらっしゃい、お嬢ちゃん。あんたは何か買い物はしてくれないのかい?」

僧侶「はひぇ!?あ、あわわ、わわ……ご、ごめんなさい、私!お金、持たせてもらってなくて!!どうせ落とすから、って…」

商人b「そうかい、装飾品なんかも揃えているんだけどね~」

僧侶「わあ、綺麗ですねえ……ハッ!?いやいやいや!か、神に仕える者、質素で謙虚であれ!ぜ、贅沢は敵ですう~!!」

商人b「そんなお堅い事は言わずに。ちゃんと装備としても役立つ代物なんだよ?例えば、そうだな…ほら、この白銀のロザリオなんかも」ジャラ

商人b「海を越えた土地にある、聖騎士の王国で作られた、由緒正しい幸運の御守りなんだ。あっちの聖騎士様は、み~んなコレをつけているんだよ」

僧侶「へえ……すごく綺麗ですねえ…触れているだけで、何か落ち着きますし…大聖堂にいる時みたいな安心感が……」

商人b「どうだい?お金が無いなら、彼氏に強請って買ってもらいなよ」

僧侶「………………はひぇ?彼、氏?」

商人b「そうだよ。あっちにいる兄さん、あんたの恋人じゃないのかい?」

僧侶「!!?!!!?!?!?!!!???!?」

 僧侶は こんらんしてしまった!

僧侶「ちちち違いますようぅ~!!あ、あんな!意地悪で怖い人!そっそんなのじゃないですうう!!!」

僧侶「わわわ私!私は!!もっと優しくて素敵な人の方が!勇者様みたいな……いえ、まだ勇者様のお姿は見たことありませんが…そうじゃなくて!!?ひぇ~ん!!だから違うんですぅぅぅ!!!」ブンブンッ

商人b「わあああ!?あぶっ危ないよ、お嬢ちゃん!メイス振り回しちゃ!!」

僧侶「ひぇ~~ん!!!違うんですぅぅぅぅ!!!」

ガシッ

盗賊「違ってんのはお前の頭ん中だ、バカタレクソアマ。正気に戻れ」

商人b「あ、と、止まった……た、助かった~…」

僧侶「あ、あ…と、盗賊さ……痛い!」ボカッ

盗賊「少しもジッとしていられねーのかテメーは。まだ三歳児のがマシだぜ」

僧侶「ううう…ご、ごめんなさい」ズキズキ

商人b「いや、いいんだよ。商品さえ買ってくれりゃあね」

盗賊「転んでもタダじゃ起きない、ってか。ったくクソアマが、余計な買い物させるんじゃねーよ」

僧侶「……す…すみません……」

盗賊「ならコイツを貰おう」

商人b「まいどありー!」

盗賊「ほらよクソアマ」ポイッ

僧侶「へ?…あ、さ、さっきのロザリオだ!い……いいんで、すか?」

盗賊「何がだ?まあ本物でも偽物でも、テメーがつける装飾品としちゃ適当なモノだろ」

商人b「ちゃんとした本物だよ!失礼な!」

僧侶「………」

僧侶「………へへへぇ…嬉しい…あ、ありがとう、ございます……」

盗賊「気持ち悪ィ面してんじゃねーぞクソアマ」

商人c「た!大変だ!!山賊どもが山から降りてきたぞ!」

商人「なんだって!?急いで品物を片付けろ、襲われる前に逃げるんだ!」

盗賊「おうおう、忙しいな。まあいい、こっちも買い物は済んだし。俺達もとっとと逃げるぞ」

僧侶「で、でも!悪い人達を放っておいたら……商人さん達が危ないです…!」

盗賊「バーカ、だからって俺達に何ができるよ?山賊退治?藪をつついて蛇に咬まれるってんだ、そういうのは」

僧侶「ううう……ううう~…!!」ジィーッ

盗賊「………」

盗賊「………はぁーっ、俺達はさっさと勇者に追いつかなきゃならねーの、忘れてねーだろうな……このクソアマ」

盗賊「おい、商人ども。山賊から無事に逃げ出せたら、何か礼の品とかくれっか?」

商人「はぁ?あんた達が何かするってのか?冗談言っている暇はないんだ、邪魔しないでくれ!」

僧侶「わ、わた、私達だって!!勇者様、の、仲間です!神様の御神託を受けた、仲間です!!あなあなあなたたたちは私達が守りますぅぅ!!」ガクガクブルブル

商人「"た"が一個多いし、まるで地震でも起きているような震え方している子に言われてもねえ……」

商人「まあ…せめて、俺達が南の洞窟まで逃げる時間を稼いでくれるなら……そうだな、この剣をあげようか」

盗賊「前金だ」ヒョイ

商人「あっ!?」

盗賊「ほう、なかなかいい品じゃねーか。軽くて丈夫そうで…こいつは鋼か?よく磨かれているな」スラッ

商人「ウチの目玉商品のひとつだったんだが…仕方ない。とにかくあんたらも気をつけなよ!俺達はもう逃げるからな!」

山賊「オラァァ!!商人ども、金を出せ!」

山賊b「品物も置いていけ、暴れたらブッ殺すからな!」

山賊c「……あん?なんだ、テメーらは」

盗賊「面倒くせー事に巻き込まれた、善良な一般人だ」

僧侶「わ…悪いことは、やめてくださいっ!!」

山賊「邪魔すんじゃねぇ!!男は殺せ、女は捕まえて売り飛ばすぞ!」

僧侶「はわわわわ…」

盗賊「おい、クソアマ。俺から離れるなよ、ヤバくなったら薬草を投げてもらうから、準備しとけや」

僧侶「は、は、はいぃっ!!」

山賊「うおりゃあああ!!」ブンッ

盗賊「ふんっ!」ガキンッ

盗賊「…へえ、斧の一撃を受け止めてもビクともしねーな、この剣。あんにゃろう、こんなイイものを隠していやがって」

山賊「らあああ!!」

盗賊「遅いッ!!」ザシュッ

山賊b「あ!兄者!!この野郎ォ!!」ブンッ

盗賊「剣で受け止め……」ガキン

盗賊「ダガーナイフで仕留めるッ!!」ザクッ

山賊b「ぎゃああああ~!!」

盗賊「ふん…何回かやればモノにできるな、この流れ技は」

僧侶「す!すごいすごい、盗賊さん!とっても強くなってます…!」

盗賊「誰かさんのせいで、散々魔物と戦わされたしな。今更山賊くらい……って!クソアマ!!なんで倒した山賊どもを手当てしてやがる!!」

僧侶「だ、だって!!斬られて血がいっぱい出てますから!!」

盗賊「クソアマァァ!!買ったばかりの薬草がみるみる無くなっていくじゃねーか!!ふざけんなよテメ、……ッ!?」ガツッ!

山賊c「へへへ……俺を忘れてんじゃねーぞ、兄ちゃんよ」

僧侶「きゃー!!盗賊さん、盗賊さーん!!?」

盗賊「グ……ク……クソ…アマ……」ドサッ…

・・・

盗賊「………ぅ……」

衛兵「!! 気がついたか」

盗賊「…?誰だ、テメー…ここは……?」

衛兵「ここは山間の村。私はここの警備を勤めている。君達が山賊に捕まって、アジトに運ばれて行くのを見たのでな、助けてここに運んだのだ」

盗賊「…?どういう……、…!!クソアマ!?クソアマは!?」ガバッ

盗賊「ッッ痛~!!」ズキン!

衛兵「動くな、頭を殴られたんだ、暫くおとなしくしていなさい。君と一緒にいた女の子は無事だよ、ほら隣のベッドで寝ている」

僧侶「…すぴー……むにゃ……」

盗賊「………」ホッ

衛兵「勇者様が山賊のアジトを潰してくれたのもあるが、彼の報告を受けて様子を見に来たら、丁度君達が残党に連れて来られたところだったからな。いやはや運というかタイミングが良かった」

盗賊「ッ勇者!?勇者もここに来たのか!?」

衛兵「あ、ああ。もう旅立たれてしまったが、私達はあの山賊に手を焼いていたから。勇者様が粗方山賊を退治してくださったおかげで、様子を見に行くことも君達を助けることもできたんだ」

盗賊「それで、勇者は今どこにいるんだ!?どこに行っちまったんだ!?俺達は勇者を探してんだ、合流しなきゃならなくて…」

衛兵「山を降りて砂漠の方面へ向かわれたのではないだろうか。この山からは、そこしか道はないからな、周りは切り立った崖か、海だし…」

盗賊「そ、そうか…なら、俺達も早く……ぐぅっ」ズキズキ

衛兵「だからおとなしくしていなさい。そんな状態じゃ歩くこともままならないだろう?回復次第、山を降りるまでだが、私が送ってあげよう」

盗賊「……す、…すまねぇ……」

衛兵「君達の荷物はそこに置いてある。いいね、おとなしくしているんだよ。では後程…」バタン

盗賊「くそっ、近づいた掴めたと思えば、するりと逃げていきやがる…勇者の野郎……」

盗賊「少しくらいゆっくりしていてもいいだろうが、生き急ぐっつーか、死に急ぐっつーか……本当に追いつけんのか、コレ…」

僧侶「くー、…くー……すぴー…」

盗賊「……ったく、デケー荷物を背負い込んだものだぜ…このクソアマめ……いらねェことばかりしやがって、役立たずのくせに」

盗賊「…ドングリ無ェな、ならこのペンを鼻に突っ込んでやる」グイグイ

僧侶「ふご!……ふごー、ふごー……」

盗賊「あー…頭痛ェ、イビキが響くんだよ、クソアマが!まだまだ入るな、ペン追加っと」グイグイ

僧侶「ふごごご……ふご!!」プンッ!

盗賊「ぎゃっ!?」ドス

 盗賊に かいしんのいちげき!

盗賊「あだだだだ!!ペンが額に刺さった!こ、このクソアマ…どんだけ鼻の力強いんだ!?」

僧侶「むにゃむにゃ……盗賊さん…」

チュン チュン

衛兵「おはよう2人とも。昨晩はゆっくり休めたかな?」

僧侶「は、はい!あの、ありがとうございました、助けて頂いて……」

盗賊「………」ムスッ

衛兵「いいんだよ、気にしないでくれ。ふむ、君の傷も落ち着いたかな?コブが引いている……おや?この額の黒い点はどうしたんだ?」

僧侶「はれ?本当だ、盗賊さん…こんな傷、今までなかったのに…」

盗賊「テメーのせいだ、クソアマ!」ゴンッ

僧侶「はう!?ななななんで!?なんでぶたれたんですか、私~!?」

盗賊「うるせえっ!さっさと出発すっから支度しろ!!」

僧侶「うえぇ~ん!!盗賊さん、怒ってばっかり~!!」

衛兵「ま、まあまあ…落ち着いて、2人とも…」

盗賊「おい、助けてもらった礼をしてェんだが、何がいい?」

衛兵「礼?そんなものは必要ないよ。私達は穏やかに暮らしたいだけだから…山賊に立ち向かってくれた事が充分な礼だ」

盗賊「だが、俺達は…」

衛兵「彼女から話を聞いたんだ。キャラバンを逃がす為に山賊と戦ったんだろう?キャラバンには私達も世話になるからね、だからそれで充分なんだ」

僧侶「わ…私は、足手まといになっちゃいましたけれど…と、盗賊さんは、いっぱいいっぱい戦ってくれましたからね!」

盗賊「………」

衛兵「ありがとう、感謝するよ」

盗賊「チッ。格好悪ィな、俺は…」

僧侶「な、な、なんで?ですか…?」

盗賊「山賊を仕留められず、助けられといて、逆に礼を言われるなんざ……なんか複雑だぜ。勇者はきっちり仕置きして颯爽と旅立ってんのによ?なんだかなあ」

僧侶「い、今は勇者様は、関係ないですよ…!盗賊さんは、盗賊さんは……」

盗賊「おい。やっぱり礼はさせてもらわぁ。この金貨を受け取ってくれ」

 盗賊は 衛兵に 100ゴールドを 渡した !

衛兵「い、いいのか?こんな大金を」

盗賊「構わねェ。ありがとうよ、助けてくれて」

衛兵「しかしこれは…こんなには……」

盗賊「…多いってんなら、貸し付けだ。無期限の」

盗賊「いつか俺が強くなって、またこの村に訪れた時……何か美味いもんでも食わせてくれ。それで釣り合いが取れるだろ」

僧侶「わ!私も!私も、遊びに来たいですぅ!」

盗賊「テメーはダメだ、クソアマ」

僧侶「ななななんでなんでなんでー!??」

衛兵「…ふふ。いいだろう、任せたまえ。とっておきの山の幸を振る舞おうじゃないか。勿論、君も歓迎するからね。僧侶さん」

僧侶「あり、ありがとうございます!わあい、楽しみにしてますね、お料理~!」

盗賊「ケッ。甘やかさないでくれや、このクソアマを。すぐ図に乗りやがるからな」

読んでくださりありがとうございます。


衛兵「では、出発しよう。といっても、この山道は穏やかなものだからな。出てくる魔物も比較的おとなしい」

衛兵「だからこそ、山賊が拠点としてしまったのだが…麓まで送ろう、ついてきたまえ」

僧侶「よ、よろしくお願いしまぁす…」

盗賊「……おい、クソアマ。なんで俺のマントを掴んでやがる。動きにくいから離せ」

僧侶「い…いいんです、気にしないで、ください…」

盗賊「気になるわ!いいから離せ!洞窟みてーに暗かねーし、魔物だってあの衛兵が追い払ってんだ、怖かねーだろうがっ」バッ

僧侶「あっ!や!」ギュッ

盗賊「…なんなんだよテメーはよォ…!」

僧侶「い、いいんです、いいんです…!!」

衛兵「………ふふ」

衛兵「(私が僧侶さんを助けた時、取り乱して泣いていたからな…もう離れたくないよね)」

衛兵「ああ、川だ。ここで水を汲んでいくといい、砂漠に入ったらオアシスの街まで長いからね」

衛兵「山の神の加護を受けているから、浴びれば疲れも癒えるんだよ。ほら、手を洗ってごらん」

盗賊「どれどれ…成程、確かに。冷たくて気持ちが良いな、気分が晴れるようだ」バシャバシャ

僧侶「このお水で、お風呂を焚いたら…さっぱり、しそうですねえ…」

衛兵「ここから少し離れたところには、温泉も湧いているんだよ」

僧侶「温泉?」

衛兵「天然の風呂さ、温かくて気持ちが良いよ。山賊が居た頃はなかなか入りに行けなかったが、今なら皆自由に入りに行ける。本当に勇者様には感謝しなければ」

僧侶「わあ…!いいですね、温泉…!入ってみたい、です」

盗賊「そんな暇はねーってわかって言ってるんだな?」

僧侶「ううう…」

衛兵「まあまあ。いいじゃないか、少しくらいは。入って行きなさい」

衛兵「その温泉も疲れを癒し、病気や傷も治す力があるんだ。本来は定期的に浴びなきゃいけないけど…山賊との戦いで受けた傷に効くと思うから」

盗賊「……ったく。少しだけだぞ」

僧侶「わーい!わーい!お風呂嬉しいです~!どんなものかな~」

衛兵「……それに、君は絶対に温泉へ浸かった方が良い」ヒソヒソ

盗賊「…あ?」

衛兵「傷の手当てをしている時に、見てしまったんだ。君の腕の傷。魔物にやられたんだね?毒が回っている、早く適切な治療をすべきだ」

盗賊「!!」

衛兵「温泉で毒が抜けるといいのだが…何故、毒消し草を使わないんだ?」

盗賊「…使ったさ、キャラバンで買ってすぐにな。だが、効果がない…遅すぎたんだ、もう毒消し草じゃ間に合わねェらしい」

衛兵「そうか…なら教会での治療しかないか…彼女は毒消しの魔法を使えないのか?」

盗賊「あのクソアマはとことん使えないヤツでな。毒消しの魔法どころか、回復魔法すら使えねーんだ」

衛兵「なんと……」

盗賊「なのに、いらねェ事ばかりしやがるトラブルメーカーでな。早ぇところ、勇者と合流してアイツを押しつけねーと、俺がヤバいってなもんだ」

僧侶「あー!!湯気がムクムクですぅ!衛兵さん、盗賊さーん!これが温泉ですかあー!?」

衛兵「!! あ、ああ。そうだよ、これが温泉だ。さあ、2人とも入ってきなさい。私は危険な魔物が来ないよう見張っているから」

僧侶「すごいすごい、いっぱい穴があって、お湯が溜まってます~!私、こっちの広いほうに入ろうっと!」

盗賊「チッ、うるせえんだよ、風呂くれーでキャーキャー騒ぎやがって」

僧侶「盗賊さん、こっち見ないでくださいよう!」

盗賊「金払われても見るかよ、テメーの洗濯板なんてよ」

僧侶「せ!洗濯板だなんて!!」

盗賊「テメーこそ、こっち見るんじゃねーよ、クソ痴女ー」

僧侶「盗賊さんのバカぁー!!」

衛兵「ま、まあまあ…喧嘩しない喧嘩しない」

・・・

僧侶「…ふわあ、温か~い…気持ちいいなあ…髪も洗おうっと…」ジャブジャブ

僧侶「………」ムニィ

僧侶「………うん、ちゃんとあるもんねっ!洗濯板じゃないです!盗賊さんのバカバカ!!」

僧侶「………ぐすん」

スライム「ピキー!」ガサガサッ

僧侶「きゃ!ス、スライム!?」

スライム「ピキキー」ドボン

スライム「ピ~ピキピッキ~♪」プカプカ

僧侶「…あははっ、そっかあ、スライムさんもお風呂が好きなんだね」

僧侶「………」

スライム「ピキ~」プカプカ

僧侶「………」キュッ

スライム「ピキ!?」

僧侶「………これくらい大きくて柔らかかったらなあ……ぐすん」

スライム「ピキ~♪」デレデレ

・・・

盗賊「………」ザブザブ

盗賊「………」

衛兵「どうだ?傷の方は」

盗賊「ああ…完全とは言えないが、痛みが和らぐ。すまねェ、流れた血で湯を汚しちまった…」

衛兵「構わないよ。温泉は地下から湧き出て、土へと流れていくからな。時間を置けば、血も一緒にどこかへ流れていく」

衛兵「私としては、暫くの湯治を勧めたいが…どうしても行くのか?」

盗賊「ああ。こうしている間にも、勇者はどんどん先へ行っちまうからな…」

衛兵「そうか…オアシスの街には教会もある、そこへ無事に辿り着くよう祈ろう」

盗賊「祈りなんざいらねェよ。そんなもんで腹は膨れねーからな。それよか、無事に帰った時の山の幸料理だ。それを約束してくれた方が断然やる気が出るね」

衛兵「…ハハハ。わかったよ、必ず用意するからさ。気をつけて行くんだぞ?」

盗賊「へいへい。まあいざとなったら、あのクソアマを餌にしてトンズラするからいいんだが」

衛兵「………」

衛兵「君は素直じゃないな」

盗賊「っあ!?」

衛兵「なんでもない。さあ、私は見張りに戻るから。君は時間の許す限り浸かっていなさい」

盗賊「ちょっ!待ちやがれテメー!!何か聞き捨てならない事言っただろ!おいっ!!待てコラ!!」

盗賊「………チッ!!クソが!腹立つな、次にクソアマが寝たら鼻に小石詰めてやろう、そうしよう…」

僧侶「温泉すっごく気持ち良かったですぅ~!また来ましょうね、盗賊さんっ」ホカホカ

スライム「ピキー!」ホカホカ

盗賊「………おい、クソアマ。なんだ、その魔物」

僧侶「あ、一緒に温泉に浸かったんです、温泉友達ですよ、ねースライムさん!」

スライム「ピー、キ!」

盗賊「どうでもいいが、山に帰してやれよ。連れてはいけないからな」

僧侶「うう…そうですよねえ……また一緒に温泉入ろうね、スライムさん…」

スライム「ピッキキー」ガサガサ

衛兵「あのスライムは私達の村にもよく遊びに来るんだ、いいスライムだよ」

僧侶「へぇ~、そうなんですかあ…!だから人間に慣れていたんですね…」

衛兵「村でも人気者さ。……さあ、麓についたぞ。私が送れるのはここまでだ、村の警備に戻らねばならないからな…」

僧侶「送ってくださって、ありがとうございました…温泉も、気持ち良かった、です…!」

衛兵「この先を真っ直ぐ行けば、砂漠へ出るだろう。砂漠の中央に見える巨木を目指しなさい、それがオアシス、そして砂漠の国の目印だからね」

盗賊「何から何まで、すまねェな。世話になった」

衛兵「砂漠の昼は暑く、夜は芯まで冷える。フードをしっかり被って陽射しを避け、水が尽きる前にオアシスに行くんだ。気をつけるんだよ」

僧侶「ありがとうございました、ありがとうございました!行ってきますぅ~」


僧侶「衛兵さん、とっても親切な方でしたねえ…優しいし、強いし……素敵な人でした…」

盗賊「………」

僧侶「砂漠って、私、見たことないです。盗賊さんは、見たことありますか?」

盗賊「うるせえな、黙って歩けよクソアマ。あとマントを掴むな、邪魔だ」

僧侶「…盗賊さん、いっつもご機嫌斜めだけど……今とくに、怒ってませんか…?」

盗賊「うるせえっつってんだ!!黙ってろよ、クソアマ!!」

僧侶「あうう……」

~砂漠の入口~

馬屋「はいはい、いらっしゃい!砂漠を渡るには砂馬が一番!歩いて行ったら即ミイラ化だよ、悪いことは言わない、砂馬に乗って行きな!」

盗賊「おい、ちょっと聞きたい事があるんだが…ここに勇者が来なかったか?」

馬屋「勇者様?なんでまた」

僧侶「私達、勇者様の仲間で……勇者様と、合流しなくちゃならないんです…今、追いかけている最中、で」

馬屋「へえ~。いや、勇者様なら来たよ。砂馬を借りて砂漠の国に渡ったはずさ。うちの砂馬は利口だからね、砂漠の国に人を届けたら、ちゃんと自分で帰ってくるんだ」

馬屋「ほら、そこにいる二頭がそうさ」

僧侶「え?二頭?」

盗賊「勇者は一人じゃないのか?」

馬屋「ああ、2人組だったよ。一人が勇者様で、もう一人がその仲間だって。あれは魔法使い…さん、かな?若い男…いや、少年と、それから若い女の人だったね」

読んで頂きありがとうございます。
今日の投下は今回だけ、続きは翌日移行投下します。

僧侶「思えば、私達…勇者様のこと、なんにも知りませんでしたね…」

盗賊「ああ、こりゃいい情報を得たな。そうか、勇者は魔法使いと一緒にいるのか…それから若い男女。似顔絵でもありゃ最高だが、まあ、これで少し探しやすくなった」

馬屋「あんた達、本当に勇者様の仲間なの?…まあいいか、で?砂馬借りる?借りない?」

盗賊「その砂馬とやらに乗れば早く砂漠の国につけるのか?」

馬屋「早いだけじゃなく、徒歩より断然安心だよ!砂漠の魔物は狂暴だからね、しかも装甲の硬いヤツばかりだから。砂馬はおとなしく優しいけど、逃げ足はどんな馬よりもとびきり早いんだ!」

盗賊「…料金はいくらだ?」

馬屋「一頭でこの値段だね」

盗賊「……ギリギリ一頭借りられるくらいだな…おい、クソアマ。俺は砂馬に乗るから、テメーは歩け」

僧侶「えええ!?むむ無理ですう!!死んじゃいますよう~!!」

馬屋「なんなら、一番体の大きな砂馬を貸してあげるよ。お嬢さんは小柄だし、その砂馬なら2人乗れるだろうから」

盗賊「いいのか?」

馬屋「ああ。うちの砂馬がどれだけ立派かと見せられれば、客足に繋がるからね。宣伝も兼ねているってことで、サービスしよう!」

僧侶「あ、ありがとうございます…!良かったぁ…こんな、熱い砂の上を歩いたら…、すぐに干からびちゃいそうだし…」

馬屋「ただ、忠告しておくよ、お客さん。今の砂漠の国はなんだかキナ臭い話を抱えていてね。下手すると余所者は捕まって牢屋に入れられてしまうから、気をつけて!」

盗賊「はあぁ?…俺なんか特にヤバいじゃねーか…一体何が起きているんだ」

馬屋「噂だけど、近々戦争が起きるんじゃないかって話なんだよね。砂漠のオアシスも年々水が少なくなっているから…領土拡大っていうのかな」

僧侶「そんな…魔王がいるって時に、なんで人間同士で、争わなきゃならないんでしょうか…」

馬屋「遠くの恐怖より、目先の問題だよ。オアシスが枯れてしまったら、孤立している砂漠の国はあっという間に壊滅だからね…」

馬屋「せめてオアシスが枯れずに済むなら、戦争も起きないだろうけどねえ…苦渋の決断ってやつだろう」

盗賊「…頭の痛くなる話は苦手だ。なんにせよ、砂漠の国には行かなきゃならねえ。ほらよ、馬の代金だ。借りていくぜ」

馬屋「ああ、はい!まいどあり!気をつけて、いい旅を!」

盗賊「…砂漠の国を助けたい、なんて言い出すなよ、クソアマ。流石にこの案件はどうしようもならねえからな」

僧侶「ううう……どうにかならないのでしょうか…」

~砂漠~

盗賊「……っ、ふう…話に聞いた以上だ…暑すぎる…馬を借りて正解だな、こんなところ、ノコノコ歩いていたらマジに干からびるぜ」

僧侶「せっかく温泉に入ったのにぃ…汗でベタベタだし、砂ぼこりで髪もバサバサです~…」

盗賊「まだ汗が出るならいい方だ、水分が枯れてない証拠だしな。ほら、クソアマ。しっかり水飲んでおけ」

僧侶「あ…ありがとう、ございます……」ゴクゴク

僧侶「(盗賊さんとひとつの水筒を飲みっこするの、やっぱり恥ずかしいな…でも、お水ももうこれだけ、だし……うう、背中もぴったり、盗賊さんの体にくっついてるし……暑さ以外で茹で上がりそうです…!)」

僧侶「……と、盗賊さん、は…お水、ちゃんと飲んでますか…?」

盗賊「飲んでいる。つーか前を向いていろ、バランス崩れんだろうが」

盗賊「……ッ!!?」ズパッ

魔物「シャアアァァッ!!」ドバァッ

僧侶「きゃー!?砂漠の中から、でっかい虫みたいなのがー!!」

盗賊「魔物か!チッ、引っ掻かれた…おいっクソアマ!しっかり捕まっていろよ、振り落とされても助けねーからな!!」バシィ

砂馬「ブヒィィンン!」

僧侶「きゃー!?きゃー!!ゆっ揺れる、あわわ、落ちちゃうぅ~!!」

魔物「キシャアアア!!」

盗賊「このッ!!」ガキィン!

盗賊「ッ痛…!マジに硬ェな、剣じゃダメージ全然与えられん」

魔物「キシャアアアァァ!!」スパパパァッ

盗賊「ぐぅ、う…ッ!!こりゃ、風の魔法かっ!?」

僧侶「とっ盗賊さん!盗賊さんが!やだ!やだ!!い、今の魔法でズタズタに!!」

盗賊「前を向いていろ、クソアマ!!バランス崩れんだよ!!」

盗賊「硬いわ、魔法を使うわ…凶悪って騒ぎじゃねーよ…!!逃げられるのか、これ」

魔物「シャシャシャァア!!」

僧侶「やだやだ!追いかけてきますぅ~!!」

盗賊「チッ!しつけぇな!!おい、クソアマ!手綱握っていろ、あいつに痛い目見せてやる」

僧侶「えええ!?むむむむむ無理!無理ですよう、あわわわわ~!!」

盗賊「握っているだけでいいんだよっ、落ち着けクソアマ!!」

盗賊「うらぁぁああ!!」ザンッ

魔物「ギギィィィィ!!!」

僧侶「や!やった!尻尾が、落ちちゃい、ましたよっ!?」

盗賊「ふんっ、関節部分は比較的柔らかかったな。弱点はそこか。もう追ってくるんじゃねえ!今度は尻尾だけじゃ済ませねーぞ!!」

魔物「ギァ~!ギシャアア!!」

盗賊「…よし、逃げていったな…やれやれ、肝が冷えたぜ……」

盗賊「はぁ…はぁ……(しかし……腕の出血毒に合わせて、魔法裂傷…流石に血を出しすぎだ……)」

僧侶「と、盗賊さん……っ、大丈夫?大丈夫ですか?」オロオロ

盗賊「(………クソアマ)」

盗賊「…前を向いていろっつったろ。テメーは本当に言うことを聞かねーなぁ……うぜえんだよ、ボケ」

僧侶「でも、だって、だって!盗賊さん、血が……血が、出てますよう…ま、また、私を庇って……なんで、なんでですかあ…」グスグス

盗賊「だから、うるせえんだよ、静かにしていろ…。かすり傷だ、薬草塗るから平気だ。……ほら、衛兵の言っていた巨木だぜ…ここが、砂漠の国…オアシスを守る街、か……」

僧侶「ほ、本当だ!ありがとう、お馬さん……いっぱい走ってくれてありがとう!街に入ったらすぐ手当てしましょうね!ねっ!」

盗賊「……いや……どうなるかな、これ…門、閉まってんじゃねーか……」

門番1「止まれぇい!!この先は誰であろうと通すわけにはいかぬ!!引き返せ!!」

僧侶「そんな!おっお願いします!街に入れてください、怪我人がいるんですっ」

門番2「ならぬ!!これは砂漠の国の王直々の命令!街に入りたくば通行許可証を提示せよ!!」

僧侶「そんなの、持ってないです…!なんで、なんで入れてくれないんですか…!」

門番1「戦争の準備故に、民達の安全を確保する為の封鎖よ。砂漠の民ならまだしも、余所者を入れるわけにはいかぬ!」

門番2「速やかに立ち去れ!抵抗するならば投獄致す!立ち去れ、立ち去れ!!」

僧侶「お願いします、お願い……!!街に入れて…盗賊さんが怪我をしているの、お願いぃ…!」

盗賊「……いい、クソアマ…もういい、行こう…」

僧侶「盗賊さん!でもっ!!」

盗賊「あの雰囲気、泣き落としなんか効かねーよ…例えここで人が行き倒れていようとも、絶対に門を開けないって、強ぇ意思……時間の無駄だ」

僧侶「でも、もう薬草が……盗賊さんの傷が」

盗賊「ここで食いついて、捕まっても仕方ねえ…勇者は、中に入れたのか……?いや、それももう、今はいいか…早く、次の街に…行けば……」

僧侶「ううう……うううっ!ごめんなさい、ごめんなさい…わ、私、が……私が、落ちこぼれじゃなくって…ま、魔法……使えていたらっ盗賊さん、助けられたのに…」グスグス

盗賊「………」

盗賊「………」ナデ ナデ

僧侶「…っ、盗賊さん……?」

盗賊「そのうち使えるようにならぁ」

盗賊「いくらお前でも…使えねークソアマでも……そのうち、回復魔法だろうが、なんだろうが。使えるようになるさ…その時まで、ツケといてやる……」

僧侶「でも!使いたいのは今なんですよう!!今使えなきゃ意味ないです…!ごめんなさい、ごめんなさい…!!」

盗賊「…うるせえなー、泣くんじゃねーよ、鬱陶しい。かすり傷だっつってんだろ…」

盗賊「どーってこたーねんだよ、こんなの……大したこと、ねんだ………よ…」フラッ

ドサッ!

僧侶「盗賊さん!?盗賊さん、盗賊さん!しっかりしてぇ!!」バッ

盗賊「………」

僧侶「盗賊さん!お願い、しっかりして!!起きてください、また馬に乗って、街に……行かなきゃ、薬草、買って…傷治せば……!!」

僧侶「盗賊さぁぁん……!」

魔物「フシャアアァ!!」

僧侶「あ…っ?そ、んな…魔物……!」

ありがとうございます。続き投下します。

魔物「ギィィィ……」

僧侶「か…数が多い……わ、私だけじゃ無理…!」

盗賊「………」

僧侶「……う、ううん…無理じゃ、ないです!盗賊さんを守るの…!」グッ

僧侶「盗賊さんを守って、次の街に行って…盗賊さんを治すの、勇者様と合流しなきゃ……盗賊さんと一緒に!」

魔物「シャアアアア!!」バシッ

僧侶「痛ッ!!……くない、痛くない!!盗賊さんはもっと痛かった!私、守られてばっかりだ…私だって、私だって!!」カッキン!

魔物「シシャシャ……」

僧侶「っ硬い……、そ、うだ、関節だ…メイスじゃダメだ、盗賊さん、剣借りますね…!」

魔物「ッシャアアァーッッ!!」

僧侶「うわあああああ!!!」ブンッ

?「氷柱魔法!!」バキィン!

魔物「ギャアアア!!」ザクザクザク

僧侶「えっ!?」

?「喰らえ!!」

魔物「ギシャー!!」ドスドスッ

僧侶「か、関節に的確に弓矢を……だ、誰?」

男妖精「なんだ?人間がいる」

女妖精「こんなところで何をしている。街から随分離れているぞ、こっちは行き止まりだ、去れ、人間」

僧侶「エルフ…妖精?なんで砂漠に……?」

男妖精「去れ、人間」

僧侶「あの!お願いします、助けてください!怪我人がいるんです、お願いします!!」

男妖精「怪我人…?」

女妖精「……魔法裂傷は真新しいが…何だ、こいつ。こんなにも酷い毒の傷は久し振りに見たな」

男妖精「我々から奪った魔法文明を発達させたのではないのか?人間は。毒消し草を何故使わなかったのか」

女妖精「衰弱が激しい。近いうちに死ぬな、こいつ」

僧侶「そんな…!お願い、お願いお願い!!お願いしますっ助けてください!なんでもするから!!助けて!」

男妖精「知るか。我々は人間を憎んでいる。助ける義理はない」

僧侶「そんなあ……!!」

女妖精「………待て。この男、面白いものを持っているぞ。触れてみろ」

男妖精「ふむ…?これは……ほう」

僧侶「………?」

男妖精「お前もそうなのか?」

僧侶「へっ?」

男妖精「…確かに面白いな。婆様に話してみるのも良いかもしれない」

女妖精「人間。気が変わった。私達はお前達を助けよう。ついてこい」

僧侶「!! ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!よ、良かったあ……」

男妖精「我々の里は普段、蜃気楼の向こうに隠してある。居場所を他言しないと誓え。他言したら殺す」

女妖精「貴様の目玉をくり貫き、口を縫い付け、耳に焼いた銅を流し込む」

僧侶「めちゃくちゃ怖いですう!!言いません、言いませんから…!」

~滅びの里~

僧侶「…わあ…!!い、今までこんなの無かったのに…すごい……砂漠に深い森が…」

男妖精「…木に触れてみろ」

僧侶「え?手が…と、通り抜けちゃい、ましたよ!?」

男妖精「遥か昔の姿を、蜃気楼を使い再現しただけ。昔はここも、豊かな森だったのだ。慰めに過ぎぬが…再現する事で、あるべき姿を忘れぬようにしている」

女妖精「人間がこの森を焼き、開き、渇かした。やがてここは砂漠となった。我々にとって、魔王よりも人間の方が害悪だ」

僧侶「………す…すみません……」

男妖精「我々は人間を憎んでいる。本来ならば里にいれる事は勿論、助ける事など有り得ない。それを忘れるなよ」

僧侶「…はい…!それでも、助けてくれてありがとうございます…」

男妖精「治療にはこの部屋を使え。私は婆様に、貴様達の事を報告してくる」バタン

女妖精「私は貴様に、その男を助けるやり方を教えよう」

女妖精「ただし、やり方を教えるだけだ。男を癒すのは、貴様がやれ」

僧侶「はい!お願いします、教えてください…!」

女妖精「この男に回る毒は最早末期状態。ただ毒消し草を使ったり、毒消し魔法を唱えるだけでは癒えないレベルに達している」

女妖精「この薬は我々が栽培し調合した、妖精の毒消し薬だ。これを傷に擦り付け、塗り込む。強めにだ」

女妖精「すれば、血と共に毒が吹き出すので、それを患部を押すように拭え。また薬を塗り付け、出てくる毒血を拭う……その繰り返しだ。休まずにやれ。毒を全て搾り出すまで」

女妖精「血が出なくなったら、この回復薬を飲ませろ。体力が戻り、魔法裂傷が癒える。薬が効けば直に目を覚ますだろう」

僧侶「わかりました…ありがとうございます、私、やります!」

女妖精「忘れるな、我々は人間を憎んでいる。貴様らに手を貸すのは我らの独断であり、気まぐれということを」

女妖精「この里の長である、婆様の返事次第では、例え治療が途中でも貴様らをここから叩き出す」

僧侶「……っ、はい…でも、それでも…ありがとう、ございます」

女妖精「………」バタン


僧侶「盗賊さん…本当に、ごめんなさい……必ず治してあげますからね、もうちょっとの辛抱ですからね…」

僧侶「まずは服を脱がせなきゃ。…し、失礼しまーす…」ゴソゴソ

僧侶「う…!ひ、ひどい……腕がすごい色、膨れ上がっている…こんなのを、ずっと隠していたんですか…」

僧侶「………あれ?」

僧侶「盗賊さんも、ロザリオつけていたんだ。…キャラバンで買ってもらったのと、よく似てる……盗賊さんのは、すごく古いもののようだけど…」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「…うう……すごい、血が吹き出してくる…」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「盗賊さん……お願い、目を覚まして」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「ちゃんと名前を呼んでほしいけど……」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「少しくらいなら、いいですよ。クソアマって言っても」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「………だから、お願い……目を覚まして…」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「私…頑張りますから。もっと、盗賊さんが我慢しなくていいように…頑張ります、から…」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「盗賊さん……」グスッ

妖精長「………」

男妖精「報告は以上です。婆様、どう致しますか」

妖精長「…人間は憎い、それは私も同じです。しかし、私達は約束を守る。交わした約束は何よりも大事なもの。それが小さくとも大きくとも、等しく守らねばいけません」

妖精長「今が約束を果たす時ならば、それに従いましょう。けれど、これ以上の干渉は約束の内には入らない…このまま静観しなさい。ただし、彼の者が復活したならば、一度こちらに連れて来るのです」

男妖精「助からなかった場合は?」

妖精長「その時は死体を砂漠に投げなさい、共にいる者も同じく。そこまで関わる必要もなし……それから、里の出入口を閉じなさい」

男妖精「わかりました、婆様。そう致します」

・・・


 「助けてくれてありがとう。このご恩は絶対に忘れないわ」


 「私達は何よりも約束を大切にし、守るの。だからお礼に、約束をしましょう」


 「この先、貴方達に危険が迫ったら…私達が必ず力になると、約束しましょう」


 「助けてくれてありがとう……約束は必ず守るから。例え貴方達が人間でも。私達は、このご恩を忘れないわ」


 「ありがとう。ありがとう……」


・・・

僧侶「………」ゴシゴシ

僧侶「………血が、出なくなった…あとは、回復薬を飲ませて……」

僧侶「盗賊さん…飲んで。回復薬ですよ…」

盗賊「………」ゴクッ

僧侶「…!良かった、飲んでくれた…!!す、少しずつ、ゆっくり飲ませよう…零れないように、少しずつ……全部、飲んで…」

盗賊「………」

盗賊「ゲホッ!!ゴホ、ゴホッ!」

僧侶「きゃ!ご、めんなさい、大丈夫ですか!?」

盗賊「………」

僧侶「…盗賊さん……盗賊さん…」

僧侶「………お願い…お願い、目を覚まして……」

盗賊「………」

僧侶「お願いぃ……!」

ガチャ

女妖精「………」

僧侶「盗賊さん…回復薬、ちょっと吐き出しちゃった…です、…目を開けてくれません……」

女妖精「………」

僧侶「…お願……お願い、お願いします、もう少し、薬を分けてもらえませんか…」

僧侶「また、飲ませますから……上手に飲ませますから、わ、私がへたくそだったから、いけなかったの。殴られてもいいです、でも盗賊さんには治ってほしい」

僧侶「お願いします…薬を、分けて…ください…!」

女妖精「薬はもう必要ない。峠は越えたのだから」

僧侶「………え?」

女妖精「息遣いを聞け。微弱故に聞こえないか?大変穏やかなものになっている」

女妖精「この男、毒以外にも、ろくに睡眠を取らなかったり、砂漠でも水を飲まなかったりしたのだろう。衰弱していたのも、毒の回りを加速させた原因だ」

女妖精「里から出たら、栄養のあるものを沢山食べて力をつければよい」

僧侶「………!!」

女妖精「一昼夜、一時も絶えず休まず、よく頑張ったな、お前も。……少し見直したよ、人間」ニコ

僧侶「は、はい…!ありがとうございます、本当に、ありがとう…っ!!盗賊さん、盗賊さん……ううう、良かった…良かったあぁ…!」

女妖精「………」ジャラ

女妖精「(…この、古ぼけたロザリオ…)」

女妖精「………」

盗賊「……ぐがー…ぐがー……」

僧侶「あっ…い、いびき。ふふふ…そういえば、盗賊さんが寝ているところ、私はじめて見るや…いっつも、私が先に寝ちゃってたから…」

僧侶「…私、自覚足りていなかった。ごめんなさい、盗賊さん…いっぱい迷惑かけて、ごめんなさい…」

女妖精「婆様が呼んでいる。お前は婆様に会うんだ、行け」

僧侶「…い、今は…盗賊さんの傍にいさせてください…」

女妖精「婆様との謁見の間だけ、この男は私が看ている。行け。婆様の元へ。行かねば2人とも、即刻、里から出ていってもらうぞ」

僧侶「うう……」ガタ

男妖精「婆様の元へは私が案内する。ついてこい」

僧侶「盗賊さんのこと、どうかよろしくお願いします…」バタン


男妖精「謁見の間、無駄口を叩くことは許さない。婆様が問いを向けた時だけ口を開け。わかったな」

僧侶「は、はい」

男妖精「婆様に何かしようとしたら、即座に貴様を殺す。それも肝に命じろ。……この部屋に婆様はいらっしゃる。くれぐれも粗相のないように」ギィ…

男妖精「婆様。人間の女を連れて参りました」

妖精長「ご苦労様です」

僧侶「(婆様、なんて呼ばれているから、おばあちゃんを想像していたけど)」

僧侶「(すごい、若くて綺麗な人じゃないですか…?)」

妖精長「…ありがとう。妖精族は、長い時を過ごすもの。それ故に、外見も変化に時間がかかるのです」

僧侶「!?」

妖精長「ですが、私はこの里で一番の長寿。故に皆は、長、婆様、と私を呼ぶ。それだけのこと。長い時を過ごしたことで…人の心も少しですが、読めるのですよ」

僧侶「(び、びっくりしました…)」

妖精長「そう、私は…長い時を過ごしてきた。故に、外見に変化が表れた、…この目はもう光を映さない。記憶の中でしか、私の知る緑豊かな里を見られない…」

妖精長「そこにいる男妖精、彼をはじめとした若い妖精達が、まだ生まれたばかりの頃。この里は人間によって滅ぼされました」

妖精長「大人以上に、子供は傷つく。純粋が故に脆く、ついた傷は深くなる。彼らが何故、人間を酷く憎むか…覚えていてほしいのです。わかれとは言わない、けれど…覚えていてほしい」

僧侶「………はい」

妖精長「森を焼かれた時、大半の妖精は他の土地に逃げました。この滅びの里に残るものは、皆、里を、故郷を惜しむ亡霊達です」

妖精長「私達は、この里と共に…滅ぶことを選びました」

妖精長「…人間の少女よ。貴方は、人間は、何故争うのですか?聞かせてください。何故、戦うのですか」

僧侶「………」

僧侶「…私も、……痛いこととか、怖いこととか…嫌いです、いやです」

僧侶「戦争だって…起きないほうがいいって思います」

僧侶「でも……私も、人間誰しも…我儘だから。誰かを守りたくて、自分を守りたくて、戦うんだと…思います」

僧侶「だからって、争ったり、他のものを傷つけていい理由になんかならないです」

僧侶「大事なものを守る為に立ち上がる、それ以外で争うことのないように…そうする為に、私達は……勇者様は、旅に出たんです」

僧侶「…私、落ちこぼれで…回復魔法が使えなくて。守るどころか、傷つけてばっかりで、すごく、すごく……情けない」

僧侶「そんな自分が嫌だから…変わりたいから…私は、戦います…」

妖精長「…人間はエゴの塊。それは昔から変わらない…」

僧侶「………」

妖精長「……そして、私達も…そうなのでしょうね」

妖精長「少女よ。回復魔法が使えないと言いましたね」

僧侶「は、はい」

妖精長「魔法とは、誰しも使えるものではありません。攻撃魔法は知識の象徴です。膨大な知識を得て、経験を使い、媒介を通して産み出すものです」

妖精長「そして、回復魔法とは……祈りの力が源となります」

僧侶「……祈り…」

妖精長「神に、己に、癒したい相手に。祈り、自覚し、捧げる…癒したいと願う、強い心の力を。それが傷を癒す奇跡を生むのです」

妖精長「貴方に足りないものはなんですか?それを知った時、気づいた時…その時こそ起きるでしょう、奇跡が」

僧侶「………」

妖精長「人間の男は、明日にも目覚めるでしょう。今日はこの里で休みなさい。男が目覚めたら、ここを出て行くのです」

妖精長「私達は約束を果たしました。もう、悔いはない……さようなら、人間の少女よ。二度会う事は決してない、私達は蜃気楼と共に揺らぐ、滅びの里の民。行きなさい、貴方達の進むべき道へ戻るのです」

僧侶「………」

僧侶「……ありがとう、ございました…長様…」

男妖精「失礼しました、婆様」

バタン

妖精長「………」

妖精長「……これで…悔いは、思い残すことは…ない……。……昔も、今も…変わらないね。フフ……懐かしい…な……」

男妖精「婆様が仰ることだ。今日は泊まっていけ。貴様らが乗っていた馬も繋いで癒してある、彼に砂漠の出口まで連れていってもらうといい」

女妖精「男の容態も安定し落ち着いている。この調子なら明日には完全回復を果たすだろう」

僧侶「何から何まで、ありがとうございました…」

男妖精「勘違いするな。婆様が仰ることだからだ。馬に罪はないからだ。貴様らの為ではない」

女妖精「我々は人間を憎んでいる。それを忘れるな、礼を言われる筋合いはない」

僧侶「…ふふ。それでも…ありがとうございます」

男妖精「見送りはしない。我々は里の出入口を閉じるのに忙しい。日が昇ったらすぐにも出ていけ」ガチャ

女妖精「次はない。二度会う事もない。さようなら人間、せいぜい長生きできるよう努めるがいい」バタン

僧侶「…はい。私達は必ず魔王を倒して…世界を平和にします。この砂漠に再び緑が蘇るよう…頑張りたいな」

僧侶「…ふうっ、落ち着いて、安心したら……なんだかすごく眠くなってきた…疲れがドッと出た感じだなあ…」

僧侶「ベッド……ひとつしかない…もういいや、盗賊さん、一緒に寝ましょう…」ドサ

僧侶「………」

僧侶「…マントと一緒だ、盗賊さんの匂い……でも、あったかさは…マントと比べ物にならない……」

僧侶「すごく、落ち着くなあ……」

僧侶「………」

僧侶「盗賊さんの、心臓の音…ドキドキ、聞こえる……良かった…本当に………良かっ…」

僧侶「………」

僧侶「………」

僧侶「………すぅ…すぅ……」

盗賊「………」

盗賊「………んが……、………」

盗賊「……!?な、んだ?どこだ、ここ。砂漠じゃねーぞ。……ちょっ、何故クソアマが俺とベッドに!?」

盗賊「ふ、服……どこだ?まさか、こんな小便臭いガキに、まさか!?…い、いや……無い無い。有り得ない。落ち着け俺、そんなわけじゃない」

盗賊「クソアマは……服、きっちり着ているしな。俺だって下着もズボンもちゃんと履いてんだ、だ…だから大丈夫……だろ?大丈夫だよな、誰か教えてくれ…!!」

 盗賊は こんらんしている!

盗賊「なんか、やたらスッキリ晴れ晴れとした気分だしよ……あちこち痛かったのが嘘みてーにどっか無くなっちまったし…力が沸いてくるような……だから違……いや、確かに最近ご無沙汰だったけどよ…まさか…」

盗賊「………夢だ。これは夢だな、悪夢だ。ハハハ…寝直せ俺、早く目覚めろ俺、これはただの夢なんだ……」

 盗賊は 現実から 逃げ出した!

ありがとうございます!

~砂漠~

僧侶「本当に蜃気楼そのもの。あんなに深い森が一瞬で消えちゃった…」

盗賊「………」

僧侶「元気になって良かったですよう、盗賊さん~!妖精さん達には本当に、感謝してもしきれないくらいです……もう無茶しないでくださいね?約束ですよ!」

盗賊「お前が言うな!」ゴンッ

僧侶「痛い!!なんでぶたれるんですか、なんでなんで~!!?」

盗賊「傷が治っても寿命は縮んだぜ……いいかクソアマ、次にベッドがひとつっきゃ無いなら、テメーは床で寝ろ!わかったか!!」

僧侶「それは!ひっひどいですよぅ!盗賊さん!!」

盗賊「うるせえ!!」

盗賊「………まあ、その。悪かった、な…、手当てしてくれて、……ありがとよ」ボソボソ

僧侶「はい?何か言いましたか?盗賊さん」

盗賊「~~ッッッ、うるせえっ!!」ゴン! ゴン!

僧侶「痛い!痛い!?まさかの2連発!?」

盗賊「おらぁぁぁ邪魔だ邪魔だ!!退けェェッ!!」ズバ ドス

魔物「ギャァアア!!」

盗賊「ヒャハハハ!!死にたくなかったら砂に埋もれてろ、魔物どもぉぉぉ!!」

僧侶「あわわわわ……と、盗賊さん、なんかキャラ変わってませんか~ッ!?」

盗賊「妖精の薬って大したもんだな、次から次へと力が沸いてくるんだよ。なーんか攻撃力が二倍になっているような感じでよぉ~?今なら砂漠の魔物を一掃できそうだぜ!」

盗賊「毒が抜けたから腕を振っても痛くねーしな!つーかテメーは黙って手綱握ってろ!!」

僧侶「めちゃくちゃ好戦的ですぅ!!?誰この人!?」

魔物「キシャー!!」

盗賊「魔法なんざ撃たせるかよ!!」ズバァッ

僧侶「は、早っ!盗賊さん、すごい素早い!!出てきた瞬間、魔物真っ二つです…!?」

盗賊「ギャハハハハ!!」

僧侶「こ、怖い!盗賊さんが怖いよー!!よっ妖精さん、なんて薬出してくれたんですか、これ~っ!?」

~砂漠の出口~

馬屋「お?兄さんの馬がこっちまで来るのは珍しいな。道中大変でしたでしょ。お疲れさま、旅の人」

盗賊「兄さん?向こう側にいた馬屋と兄弟なのか、あんた」

馬屋「ああ、そうさ。いつもは砂漠の中央にある、砂漠の国で引き返してくるからね…兄さんの馬が真っ直ぐここまで来るのは本当に珍しいんだ」

馬屋「やっぱりあの噂は本当だったんだなあ…砂漠の国が戦争を起こす、って。他のお客もほとんど引き返して来るしさ。こりゃウチもそろそろ避難すべきかな…」

僧侶「本当、砂漠の国が封鎖されていたから、ひどい目にあいましたね…」

盗賊「そうかあ?俺は結果的にラッキーって感じだったがな。まだまだ力がみなぎっているしよ」

僧侶「ひいぃ」ガクブル

馬屋「じゃあ、この砂馬はウチが預かるよ。ちなみにここは宿屋も兼ねているんだ、休んでいくかい?」

盗賊「どうすっかな…まだ日も高ェし、距離によっちゃあ水と食糧を補充して、このまま進むのもいいが…」

僧侶「あのう。勇者様はどちらに向かわれましたか?」

馬屋「勇者様?いや、どちらも何も、いらしてないよ、そんなお方は」

僧侶「あれえ!?」

盗賊「……どういうこった、まさか追い越しちまったのか?じゃあここで待っていれば、ついに勇者と合流できる…!?」

馬屋「なんの話だい?」

僧侶「あの…私達、勇者様の仲間だと、神託を受けたものなのです…でも、勇者様とすれ違ってしまって…そ、それで今、勇者様を追いかけているんです」

盗賊「最後の消息が、あんたの兄貴から聞いた情報でな。砂漠の国に入った、と。だがここに来ていないって事は、まだそこに居るって事でもあるんだろ?」

馬屋「ふうん…まあ、確かにこの砂漠を渡るには、徒歩か砂馬かだけど…」

馬屋「だけどホラ、今、砂漠の国は戦争を考えているだろ?余所者にはすごく厳しいんだ、もしかして捕まっていたりしたら、出てくるまでにすごく時間がかかるだろうし」

僧侶「あわわ……勇者様…」

馬屋「それに、戦争となると砂漠を渡る方法は地上だけじゃなくなるからなあ。砂漠の国は有事の際に気球を出すから。それを使っている可能性もあるよ?」

盗賊「気球?気球って何だ?」

馬屋「ほら。空を見上げてごらんよ」

盗賊「……?なん、だ?ありゃあ…鳥にしちゃ変な形だ」

僧侶「太陽が眩しくて、よく見えないけど…なんだか丸いものが、いくつも空に浮かんでますね…」

馬屋「なんで空を飛べるのか、作りはわからないけど、ああいう空を飛ぶものなんだよね、気球って。あれには砂漠の国の兵士が乗っているんだ。今丁度演習中なんだろうね」

盗賊「あんな便利なもんがあるのかよ。あれを使えば熱い砂に苦労しなくてもいいじゃねーか」

馬屋「悪い方向に考えると、砂漠の国に捕まっているか…勇者様っていうくらいだから腕は立つんだろうし、もしかして戦争に駆り出されているかもしれない」

馬屋「勿論、いい方向に考えて、ここで待っていれば合流できるかも、だけどね」

盗賊「う~む。でけェ博打だな……砂漠の国に入れりゃ一番確実なんだが…」

僧侶「でも、あの門番さん達は絶対、中に入れてくれないですよね…」

馬屋「金を払ってくれればいくらでも泊めるよ、と言いたいところだけど…命あっての物種と言うしな。ウチもしばらくしたらここを引き上げて、兄さんと一緒に避難するからね」

盗賊「…ここから旅人が出発するとして、よく目指す場所の見当はつくか?」

馬屋「そうだなあ、いくつか小さな村があるけど……やっぱり一番は、カジノの街じゃないかな?」

盗賊「カジノ!?」ピクッ

馬屋「ああ、通称眠らない街。世界一大きなカジノや劇場、酒場のある街さ。一攫千金を夢見る人間が沢山集うんだよ。砂漠の国からもそこを目指す人は多いし、港もあるから余所の国からわざわざ遊びに来る人までいるんだ」

盗賊「よーし行き先決定!!カジノの街へ行こう!!」

僧侶「ええええ!?ちょっと、盗賊さん!勇者様はどうするんですか!?」

盗賊「知るか!いや違う、それだけ有名な街なら、勇者も立ち寄るんじゃねーか?どうせ待つならどこも同じ、なら楽しい場所で待っていた方が断然いいだろ!?もしかしたら博打で一山当てて大金持ちになれるかもしれねーしよ!?」

僧侶「本音だだ漏れですう!!?わっ私は反対ですよ!賭け事なんて、神様に叱られますよう!!」

盗賊「クソアマ……」グッ

僧侶「はぇ!?ななな、ななななんですか、肩なんか掴んで……そ、そんな真面目な顔しても、ダメダメ!ダメですからねっ」

盗賊「俺を信じろ、クソアマ。勇者だってそうさ、今まで無双って勢いで活躍していたじゃねーか…もし戦争に巻き込まれていても、あいつならきっと無事だ」

僧侶「あの、それとこれとは、話が別…」

盗賊「なあクソアマ。俺達すげー頑張ったよな?今まで頑張ってきたよ、本来表舞台に立つ事のねえ俺が、回復魔法の使えねー役立たずでトラブルメーカーで本ッ当どうしようもねぇクソ以下のクソアマが、ここまでよく頑張ったよ、マジで」

僧侶「私の事だけめちゃくちゃ辛辣ですう!?」

盗賊「頑張った自分への褒美ってやつだよ、コレはよ……いざ行かん、カジノの街!博打の女神が股開いて誘ってやがんだよ、俺を!淫乱女が!可愛がってやるぜー!!」

僧侶「封印しやがれですよ、そんな神様!!」

~カジノの街~

僧侶「ううう…こんな事している場合じゃないのにぃ……」

盗賊「あああ!すげー輝いてやがるな!!このネオンの光は世界一美しいわ!テンション上がるーっ!!」

僧侶「もー!もーっ!!忘れないでくださいね、盗賊さん!?勇者様と合流が最大の目的ですからね!?」

盗賊「はいはい、わかってるわかってる。すっごいわかってる超わかってる誰よりもわかってる」

僧侶「あんまり適当に返事してると、このメイスで神罰を下しますよ!」

盗賊「まずは砂漠の魔物や道すがら得た収穫物を換金だ。それから宿を確保して……カジノに劇場に酒場ぁーっ!!みなぎってきたぜェー!!」

僧侶「神罰ーっ!!」ブンブンッ

盗賊「久し振りに旨い飯も食いたいしよ~たっぷり稼がねーとなっ」ヒョイヒョイ

僧侶「ああん、もう!治すんじゃなかったです、こんな罰当たりな人~っ!!」

僧侶「うーっ、カジノってすごいうるさい……み、耳が壊れそう、です」

盗賊「お前の口の方がうるせーよ。いつもギャーギャー騒いでんじゃねーか。つーか、なんでついて来るんだよ?宿屋で寝てろよ」

僧侶「私の第六感が告げるんです!盗賊さんを一人にしたら魔物に食べられちゃう、と…金食い虫って魔物に!」

盗賊「まったく信用ならねーな。っと、姉ちゃん、この金を全部コインに替えてくれ」

バニー「はぁ~い、醒めない夢を堪能していってね!」ジャラジャラ

僧侶「あわわわわ……な、なんですか、あの破廉恥な衣装の人!?おっぱいでかっ!!おっぱいでかっ!!?」

盗賊「あれじゃね?触れば御利益あるかもよ。てめーの洗濯板も大きくなったりして…」

僧侶「」ムニュムニュムニュ

バニー「いやんっ何をしているの、お嬢ちゃん?」

盗賊「冗談だったんだが」

手に持って余るくらいの美乳がいいんじゃないかなあとぼくは思いました(小並感)

僧侶「ありえない…ありえない……何あのでっかいの…」

盗賊「まさかお前を羨ましく思う日が来るとは。さて…何から遊ぶかねぇ」

僧侶「あんまり長居しないでくださいよ?大事な旅の資金なのに、ほとんどコインにしちゃうなんて…信じられないですう…!」

盗賊「ったく、うるせえな。ほら、少しコインをやるから、おとなしく遊んでいろよ」

僧侶「わっ私は賭け事なんて…!」

盗賊「いいから、いいから。やってみたらハマるって、お前も。ほら、そのスロットなんかいいんじゃねーか?レバー倒してボタン押すだけだし、簡単だろ。バカなお前でもできるさ」

僧侶「酷っ!?うう…勇者様~!助けてぇー!」

盗賊「ここに描いてある絵柄が揃ったら当たりだ。俺は向こうのポーカー台で遊んでっからよ、コインが無くなったら、俺のところに来るか、宿屋に帰るなりしろよ。じゃーなー」

僧侶「あっ、と、盗賊さん…!行っちゃった……」

僧侶「もうっ!しょうがない…勿体無いから使うだけ使って、宿屋に帰ろう…」

僧侶「えっ、と。絵柄を揃えるんだっけ…?あ、スライムさんの絵もあるんだ、可愛い~。温泉スライムさんと衛兵さん、元気にしてるかなあ…」

僧侶「コインを入れて…レバーを倒して」ガシャンッ

僧侶「ボタンを押す…」ポチポチポチ

ピロリロリン!

僧侶「あ、絵柄揃った。…わ、わっ?コインが出てきちゃった!い、いいのかな…?」

僧侶「えと…今のはさくらんぼの絵が……と、とにかくコインを無くさなきゃ、宿屋に帰れない…」ガシャン ポチポチ…

僧侶「あう、今度は揃わなかった!一枚ずれてたら星の絵柄が揃ったのに~」

僧侶「………」ガシャン ポチポチ…

僧侶「………」ガシャン ポチポチ…

遊び人「ひっく。…ん~?世も末だな……僧侶のガキんちょがカジノで遊んでるなんて」

遊び人「よぉ、お嬢~ちゃん。こんなところにいていいのかい?僧侶様は教会にいるべきじゃねーかぁ~?」

僧侶「し、静かにしてくださいよう!!集中が途切れるじゃないですかっ」

遊び人「うお、見かけによらず怖いな~。つーか、ダメダメ。この台はハズレ台だから。いくらやってもでかい当たりはこないぜ?」

僧侶「…そ、そうなんですか?」

遊び人「ほら、こっちの台にしなよ。内緒だぜ、この台はそこそこ当たる稼ぎ台なんだ……ひっく」

遊び人「情報代な、コイン少しもらうぜ」

僧侶「あっ、私のコイン……」

パンパカパーン!!

僧侶「!? 絵柄が揃った…わ、わ!?コインがいっぱい!!」

遊び人「ここで遊ぶと100枚なんてすぐ消えちまうけどなあ。この台でまず枚数増やして、ポーカーやレースに注ぎ込むのが常套手段ってやつなんだよ」

パンパカパーン!!

僧侶「きゃーっ!きゃー!!スライムさんが揃いましたよ~!?」

遊び人「おー、やるじゃねーか、お嬢ちゃん。つーかよく黙々とスロットばかりできるなあ…飽きないの?」

僧侶「ううん、絵柄が揃うとすごく嬉しいです!コインがいっぱいになりました~!」

遊び人「はははっ、最初は鬼みたいな顔していたくせに、可愛いじゃねーか。よっし気に入った、一杯奢ってやろう!」

遊び人「バニーちゃ~ん、俺達に酒ちょうだい!このお嬢ちゃんにゃミルク多めにしてやってな」

僧侶「え!?私、お酒なんて……というか、私のコインですけど、それ!?」

遊び人「大丈夫だって、ほとんどミルクだからよ。酒なんかちょびっとしか入ってないよ、ちょびーっと!何事も経験だ、飲んでみなって!あ~旨い、タダ酒ほど旨いものはないね~」グビグビ

僧侶「も…もうぅ!なんだか盗賊さんがもう一人いるみたいです……」

盗賊「…こっちはスリーカード。俺の勝ちだな、コインはもらうぜ」

ディーラー「おめでとうございます」ジャラジャラ

盗賊「はい、どうもごちそうさま、っと」

盗賊「(へへ、ヌルい相手だなぁチョロいもんだ…暫くこいつで稼ぐとするか)」

盗賊「よし、もう一戦いく………ぞっ?」ドンッ

盗賊「な、なんだ?誰だ……」

僧侶「盗~賊さん~、見ぃ~つけたぁ~」ゲフー

盗賊「な!?クソアマ!?何してやが……うわ、酒臭っ!!」

遊び人「やー、なんていうか……ごめんね、あんまりいい飲みっぷりだから…調子にのっちゃって」

盗賊「誰だ、テメー……っつーかクソアマ!離れろ、なに膝に座ってやがるっ!!」

僧侶「ん~……気持ちいいです~…」ギュー

遊び人「あ、これ。お嬢ちゃんが稼いだコインだ、渡しておくよ。元々この倍はあったんだが…半分は酒に消えちまった、いや本当ごめーんねっ!」

盗賊「何してくれてんだ、テメー。…だが今のツキを捨ててたまるか。あとでクソアマもお前もブッ飛ばすからな!逃げんじゃねーぞ!?」

僧侶「んー…」スリスリ

遊び人「血の気の多い兄ちゃんだなぁ~。いいじゃん、おとなしい猫みたいになってんだしさー。大虎より子猫の方が断然いいでしょ?」

盗賊「るっせーな、黙ってろ!騒がれっとツキが逃げるだろうが!」

僧侶「ん~ふふふ」ポイポイ

盗賊「あっ!?てめっ、何してんだクソアマ!!勝手にカードを抜くな!」

ディーラー「お客様?いかがしますか、ゲームを下りますか?」

遊び人「あ、いやいや続けます、続けまーす。今切ったカードぶん、新しいのくださ~い」

盗賊「テメーらなあぁ……!」

遊び人「ほらほら兄ちゃん!青筋立てている暇なんかないよ~?集中集中!!」

盗賊「絶対ブッ飛ばしてやる……ん?んん!?…ま…マジ?マジかよ!!」

遊び人「なに、なになに?どーしたの?」

盗賊「ふ、ふ、ふ……フルハウス来たぁぁぁぁ!!!」

遊び人「うおおおい!?」

僧侶「んー…うるさいぃ……」ギュウゥ

盗賊「よ、よしよし!!よしよし、よくやった、クソアマ!テメーがカード抜いたおかげだ、褒めてやる!!」ナデナデ

僧侶「うへへへへ~」デレデレ

遊び人「俺も褒めてちょ~うだいよー、ゲーム続行させたのは俺じゃん?酒!酒飲ませてくれよーっ」

盗賊「チッ、調子のいい野郎だな。まあいい、俺も喉が渇いたし休憩すっか。おいディーラー、今勝ったぶんのコインをくれ」

対戦者「……調子こいてんじゃねーぞ、コラァ!!」ドガッ!!

遊び人「うわっ!?」

ディーラー「お客様、乱暴は困ります!」

海賊(対戦者)「うるせえっ!テメー!イカサマしてんだろ、ブッ殺すぞクソガキ!!」

盗賊「はあ?言いがかりはやめろよ、ちゃんとディーラーに配ってもらったカードで勝負してんじゃねーか」

僧侶「きゃははは、クソガキだって、クソガキ~クソアマとお揃い~」ケラケラ

遊び人「お、おい、兄ちゃん…よくよく見たら、こいつはヤバい相手だ……暴れ者の海賊集団の一人だ。関わるな、適当にゴマ擦って機嫌治そうぜ…」

盗賊「関係ねーよ。博打においてのイチャモンは白けんだよな、大体こいつ、雑魚も雑魚だぞ?見てりゃいいカードばんばん捨てたりしてよ、ルール自体わかってない素人じゃねー?」

海賊「こ、このガキ…!!」

遊び人「やめときなって、兄ちゃんさあ!」

海賊「ブッ殺す!!」シャキン

遊び人「ほらあぁ!短剣なんか隠し持ってるーっ!!」

盗賊「おい、このデカい荷物、ちょっと持っててくれ」

僧侶「やー…盗賊さんじゃなきゃ、やーだー!」

盗賊「はいはい、おとなしくしていろっつーか、そいつに懐いてろよ、うざってェ」

遊び人「兄ちゃん!やめときなって!!危ないから!」

盗賊「こんな雑魚、暗黒街でうんざりするほど相手にしてきたんだよ」

海賊「クソガキがぁぁぁぁ!!」ドドドド

盗賊「こういうバカはな、大抵考えなしに突っ込んでくっから…まず避けて」ヒョイ

盗賊「足を引っかけ」ガッ

海賊「おうっ!?」ドタァッ

盗賊「転んだところにのし掛かり、腕を逆向きに捻り上げる」メキメキ

海賊「ぎゃああああ~!!?」ジタバタ

盗賊「…ほらな?はい、ご退~場~。あとは怖ェ黒服さんとランデブーしてきなァ」

僧侶「きゃー!きゃー!!盗賊さん、強~い!」

遊び人「何者なんだよ、兄ちゃんは……」

盗賊「まあ色々あるんだが、表向き善良な一般人だ。おい、河岸を変えようぜ。白けちまったし」

遊び人「自分で善良とか言っちゃうの。まー俺は酒が飲めればいいけどさ……じゃあ隣の酒場に行こっか、劇場も併設されてんのよ?」

遊び人「今の時間だと、なかなか可愛い娘が揃ってんだよな~、……そう考えっと、お嬢ちゃんを酔い潰して正解かぁ。宿屋とか取ってないの?寝かせてきたら?」

僧侶「くー……すぴー……」

盗賊「行き来する時間が勿体無ェよ。こういうのはな、勢いが大事なんだ、勢いが。そいつ、一回寝たらなかなか起きないしよ。このまま行こうぜ」

遊び人「豪快なのかなんなのか…とりあえず、お嬢ちゃんは返しておくからねっ」

盗賊「返さなくていいっつーの、重てーなー、ったくクソアマが…」

僧侶「……すー……すー……」

読んで頂きありがとうございます

~酒場~

遊び人「うおおおーっ!踊り子ちゃーん!!こっち向いてー!あっあっ、見える、見える!もうちょい足上げろやぁ!!」

盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ

遊び人「なあ、兄ちゃんはどの娘がいいよ?俺は右の娘かな~、あの太腿!たまんないねっ!」

盗賊「そうさなぁ~…あの真ん中とかなかなか。今にも乳がこぼれそうじゃねーか、ぶるんぶるん揺れちまって。あー挟んでもらいてー」

遊び人「あらっ、兄ちゃん巨乳派だったのかよ。そんなお嬢ちゃん連れてっから、俺はてっきり……」

盗賊「てっきりなんだよ。こいつはただのデケー荷物だ、バカが。あーぁ、ガキのお守りなんざ最悪だぜ…発散する隙が全くねーからよ~溜まる一方なんだよなー」

遊び人「心中お察しします、てなもんだ。なんでそこまでして、その子と一緒にいるんだよ?嫌々言うわりにゃ大事にしているように見えるんだけど」

盗賊「あーっ、もううんざりだ。くだらねェ詮索が好きな奴が多いな……喰らえっ」

遊び人「そりゃなあ、冒険者とかパーティ組んでいるだけって感じじゃないし……痛っ!?ピーナッツが飛んできた!?」パチッ

僧侶「ふが、ふが…」

盗賊「こいつの鼻、武器になるかも」

遊び人「お嬢ちゃんの鼻にピーナッツ詰めて何やってんの、兄ちゃんは…」

盗賊「だが、残念なことにどちらもハズレだ。俺達は冒険者で、パーティ組んでいるだけ。あるものを追い探してんだが……なんだかなーこの街が楽しすぎっからよ~。もう旅なんざやめて、ここに定住したいぜ」

僧侶「だめですよぅ~!!ゆーしゃさまにあわなきゃあぁ~!!」ガバッ!

盗賊「!?」

遊び人「!?」

僧侶「むにゃむにゃ…すぴー……」

遊び人「ね、寝言…か?」

盗賊「鼻からピーナッツこぼしながら何をほざいてやがんだ、コイツ」

遊び人「にしても…何?あんたら、勇者様を目指してんの?探してんの?」

盗賊「チッ…ここじゃあ、その事を忘れて遊んでいたかったのによ…」

遊び人「へえ、へえー。いやあ…若いっていいなぁオイ。そうかー勇者かあ……俺もなあ、昔は冒険だ魔王退治だなんて憧れて修行したりもしたなぁ~」

遊び人「海を渡った隣の大地にはさ?聖騎士の王国や、魔法文明の研究が盛んな街とかがあるんだよ。俺はそこの出身でね……賢者になる為の悟りの書を探したりもしたんだよな~」

遊び人「でもダメだった…見つからないし、才能ないし、一緒にいた親友が魔物に殺されたりもして……気がついたらこんな事になっていたなぁ……」

盗賊「………」

遊び人「親友は俺を庇って死んだんだ。俺がもっと、魔法を勉強していりゃ…助かったかもしれないのに」

遊び人「……そうだなあ…忘れていたよ。ずっと。嫌な事から目を背けて、逃げて、閉じこもって……忘れていた」

遊び人「あいつは…教会での蘇生も間に合わなかった。遅すぎたんだ。何もかもが、遅すぎたんだ」

遊び人「兄ちゃんもさ?今は若いけど、でも、若いのは今だけだ。なんでもできるのは、今だけだから。それを忘れちゃあ、いけないよ。若いうちに、ひとつひとつの確認していかないと…」

遊び人「大事なもんを失って、取り返しがつかなくなる事がないように…失って初めて気づいて、でもその重さに堪えきれなくて逃げるなんて…ダメだ、それじゃダメなんだからね」

遊び人「……そうだなあ、思い出した…忘れちゃいけない事だったのになあ……」

盗賊「………」

遊び人「………」

遊び人「……いやいや、湿っぽくなったな!ごめんごめん!!酒が切れたんだな~これは、おーい、お姉ちゃーん!酒おかわりーっ!!」

盗賊「言っとくけどな……その金、俺が賭けに勝った金だぞ。なんなんだ、こいつはよ」

~宿屋・ラウンジ~

盗賊「痛つつつ……頭が痛ェ…昨日飲みすぎたな、こりゃ……」

僧侶「ふわぁ…おはようございますぅ……もう、お昼ですけど…」

盗賊「…お前は体調が悪くなっていたりしねーのか?」

僧侶「うーん…?寝すぎてダルさは感じますけど、とくにはないですねえ……盗賊さん、大丈夫ですか?お水とお薬もらって来ましょうか?」

盗賊「……酒、強いのか。あー、水は欲しいな。薬は、二日酔いに効くのがあったらもらってきてくれ」

僧侶「わかりました!もう、飲みすぎはダメですよっ!」

盗賊「…まさかあいつを羨ましいと思う日が来るとは。あれ?二回目か、これ」

?「やあやあ、おはよーう!!昼だけど!元気が無いぞー若人よ!」

盗賊「あー!うるせえ、頭に響く!!……って、あ…?遊び人?か、お前?」

賢者(遊び人)「そうだよ~、ふふん。見違えただろう?オッサンだって、まだまだ若いもんにゃ負けないってことさ!」

盗賊「ほー…無精ヒゲ剃って、髪を整えるだけでも随分印象変わるもんだな」

賢者「この装備も、若い頃に使っていたものだから、あちこちガタがきているけど……今日からは遊び人じゃなく、賢者って呼んでくれ!」

盗賊「偽名だったってわけか…?」

賢者「そんなところだね。悟りに到達していないから、モドキってレベルだけど…昔取った杵柄はまだまだ健在よ。ほら」ボウッ

盗賊「あちっ!?こんなところで魔法を使うな、ボケ!」

賢者「はっはっは!オッサンちょっと張り切っちゃった!ごめ~んねっ!!」

僧侶「お水とお薬もらってきましたよぅ~、……って、あ、あれ?盗賊さんのお友達、ですか?」

賢者「よーう、お嬢ちゃん!イケメンすぎてわかんなくなっちゃったかな?ほら~昨日一緒に酒飲んだオッサンだよ~」

僧侶「え?え!?あ、遊び人さん!?ななな、どうしたんですか!?その格好!」

賢者「遊び人とは世を忍ぶ仮の姿……しかしてその実態は!世界を救う賢者様なのだぁっ!!」

盗賊「モドキ、だけどな」

賢者「それを言っちゃあ~おーしまいよーっ、てね」

僧侶「へええ……昨日と別人ですねえ…びっくりしました…」

賢者「どう?オッサンもまだまだイケる?イケてる?付き合いたいってレベル?」

僧侶「え、あ、そ、そう、ですね。軽いところはどうかと、思いますけど……すごく格好良くなりましたよ!」

盗賊「」ムカッ

賢者「ハハハハ!!いやあ~こんな若くて可愛い女の子に褒められると、オジサン照れちゃうなぁ~」

盗賊「朝から本当に騒がしい奴だな…もうお披露目ご挨拶は済んだろ?さっさとどこかに行っちまえよ」

賢者「そんな冷たいこと言わないでよ~、これから長い付き合いになるんだしさ~?」

僧侶「へ?」

盗賊「は?」

賢者「…俺の目を醒ましてくれたアンタらに感謝してんだ。頼む!俺も一緒にアンタ達と旅をさせてくれないか!?途中まででいい、勇者とやらに会うまででもいい…もう少し見ていたいんだよ。アンタ達の生き方を」

盗賊「はあああ?いやいや、オッサン…まだ酒残ってんじゃねーのか?大体俺は勇者なんかもうどうでもよくて、ここに定住するって決めて…」

僧侶「神罰!!」ボカッ!

盗賊「ぐぅっ!?」ドサ

賢者「何もかも遅すぎた……でもよ、また少し頑張ってみたくなったんだよ。思い出せたから……これも何かの導きなのかなあって思ったら、なんとなく…アンタ達ともう少し、一緒にいたくなってさ」

盗賊「…いや、だからってそんな、急に言われても……」

僧侶「わ、私は…嬉しいです、けど。仲間が増えたら、旅も楽になるでしょうし……」

盗賊「バカ、神託とやらを受けていない奴と行動を共にするってアリなのかよ?俺らはこいつと一晩酒を飲んだだけの仲だぞ。テメーは半分寝ていたし。こいつの事、何も知らねェのに。警戒すべきだろ、ここは」

僧侶「う…で、でも、何も知らなかったのは、私達もそうじゃないですか…?」

盗賊「うぐ。…と、とにかくだ。勇者と会うまでっつったって、俺はこの街で勇者を待つつもりだからな。オッサンが期待するようなものは何もないと思うぜ」

賢者「あー、いいのいいの、それでも。オッサンはオッサンなりに色々考えるから。よし!なら仲間入り成立だな!これからよろしくね~」

盗賊「ちょっと待て、話はまだ終わってない!」

賢者が (無理矢理)仲間に なった!

賢者「よっしゃ!遅まきながら保護者の参戦ってところで、飯でも食うかぁ!俺が奢ってやるからさ~」

盗賊「あ、え!? ちょ、俺の財布!?いつのまに、ふざけんなよテメー!」

僧侶「お財布をスられる盗賊さん、って…」

賢者「子供に負けないのが大人ってもんなのよ~。旨い飯を出す店があるから、そこに行くか、それとも…」

盗賊「返せよ!俺の金だろうが!!聞いてんのか、クソオヤジ!!」

賢者「パーティの共有財産ってやつでしょぉ~こういうのはさー。お嬢ちゃん、何が食べたい?オジサン色々知ってっからね、リクエスト答えちゃうよ~」

僧侶「あああ……な、なんだか大変な事になっちゃったような気がしますう…!ゆ、勇者様ぁぁ~!!」

読んで頂きありがとうございます

~シーフード レストラン~

盗賊「だからなあ!俺はテメーが仲間になるとかそういう話は認めてないって」

賢者「ほらほら、折角の料理が冷めちゃうよ~。はい、お食べ」ガポッ

盗賊「むぐ!?……うん、旨い」ガツガツムシャムシャ

僧侶「賢者さんのことは一先ず置いておいて……これから、どうしましょう。勇者様が、どちらにいらっしゃるのか…わからないですし…」

賢者「そういう時はね~、頭じゃなく、足を使うんだよ、お嬢ちゃん。消息がわからなくなったのは砂漠の国からだったよね」

賢者「砂漠の国の戦争話はチラホラこっちにも届いている。何せ相手がこの街の傍にある王国だしな。貿易も盛んで金持ち大国となりゃあ、狙われるのは必然さ」

賢者「だから街をくまなく歩いて話を聞いていけば、勇者の話も入ってくるんじゃないかな~。保証はないけどさ~」

盗賊「」ガツガツムシャムシャ

僧侶「盗賊さん、お話聞いてます?」

僧侶「砂漠の国の門番さんは、通行証があれば入れてくれるって言ってましたけど…それを手に入れる、とかは?」

賢者「あー、砂漠の民が持っているものだね、多分。余所者なら、キャラバン…商人なんかも持っているよ。確かな身元証明があって、でかい国にある役所で申請すれば貰えるけど…」

賢者「砂漠の国みたいに戦争があってとか、そういう理由がある以外、滅多に使わないからなあ~。商人じゃない俺達だと、発行に時間がかかると思うよ」

僧侶「うう…じゃあやっぱり、情報集めからですね……早く勇者様にお会いできるといいんだけど…」

盗賊「おい、店員!この料理、あと3皿追加を頼む。それからフルーツジュースもだ」

僧侶「だから盗賊さんもお話に参加してくださいってばぁ!!」

賢者「兄ちゃんが賭けで稼いだ金もあるんだし、情報集めがてら、装備を一新してもいいんじゃない?ここは港もあるだけに、色々珍しい武具も揃っているからね~」

賢者「そんで、俺にも新しい装備買ってちょーうだいよ~?」

盗賊「そっちが本命なんじゃねーのか。タカり魔の不良中年とか、最悪すぎるぜ…」

僧侶「で、では、改めて…情報集めとお買い物。それでいきましょうか」

賢者「ん!それじゃあまずは港に行くか、小さなバザーが開かれているから、店もその周辺に集中しているし、人も多いしな」

賢者「もしも目ぼしい情報が無ければ、次は酒場だ。酔っ払いから冒険者まで、様々な人間がいる。色々話が聞けるだろう」

盗賊「酒場か…あの巨乳踊り子がまた見られるなら、悪くねェ」

僧侶「き、巨乳なんか!ただの飾りですからね!!大事なのは中身ですからね!?」

~港のバザー~

僧侶「わあ~、すっごいお店の数!街やキャラバンの何倍あるんですかねえ…!?」

賢者「杖にしようかな~弓がいいかな~、やっぱり男は黙って剣一択!?うーん迷っちゃう~」


盗賊「おい、ふざけてんなよ、クソオヤジ。お前の装備はテメーの金で買えよな」

賢者「兄ちゃんにはこのダガーとかどう?毒蛾の粉が刃先に塗られているから、魔物を痺れさせたりできるっていうしさ~攻撃力をカバーできる点は重要じゃないかな~」

盗賊「…いや、毒にはいい思い出がないからな…鋼の剣もあるし、武器よりは防具を…」

僧侶「(…盗賊さん、賢者さんに文句言っても流されて、いつのまにか引きずり込まれているの、気づいているのかな)」

僧侶「(…でも黙っていよう、教えたらなんだかぶたれそうな気がしますし)」

僧侶は レベルが上がった!
僧侶は 空気を読む事 を 覚えた!

盗賊「……はっ!?いつのまに!?金が、金がもう無ぇッ!」

僧侶「(やっぱり)」

賢者「宵越しの金は持つもんじゃないよ~、ぱーっと使って世界に貢献しなくちゃね!国を動かすのは王様じゃない、俺達さ~」

盗賊「………おい、クソアマ」

僧侶「は、はい。なんでしょう?」

盗賊「…お前がカジノで言っていた第六感…当たったな……金食い虫って魔物に襲われると」

僧侶「…け、賢者さん……」

盗賊「あいつは魔物だ。魔物だな。よし、倒そう」ジャキッ

僧侶「わあああ!?待って待って!おおお落ち着いてくださいぃ盗賊さ~ん!!」

盗賊「離せクソアマ!!あいつだきゃあ許せねェ、返せよ、俺の金ーっ!!」

賢者「ハハハハ、装備を一新したオッサンは強いぞお~?勝ってるっかな~?」

僧侶「賢者さんも、煽らないでくださいよう~!」

海賊「あ…ああああ!み、見つけたぞ!昨日のクソガキ!!」

賢者「んっ?」

海賊「お頭ぁ!!あいつですぜ、うちの海賊団に泥を塗りやがったのは!!」

僧侶「え、えっ?な、なな、なに?なに?誰ですか、何事ですか!?」

盗賊「お前、覚えてねーのかよ?あいつ…昨日、カジノで絡んできた雑魚じゃねーか」

賢者「あちゃ~、仲間ぞろぞろ引き連れてリベンジってか?だから言ったじゃないのさ~関わるなって~。早く逃げよう、人混みに紛れてさ」

海賊「おっと!逃がすかよ!へへへ…昨日はよくも恥をかかせてくれたなあ!?袋叩きにしてやるぜ!」

盗賊「ケッ、テメーで更に恥の上塗りしているのに気づけよ、バーカ」

賢者「こらこら!!だから挑発しないの~!いやあすみませんねェうちの子が迷惑かけてー、あとでよく言って聞かせますから…」ペコペコ

海賊「こ、の……クソガキがあああ!!絶対ブッ殺してやるーっ!」

盗賊「昨日も聞いたっつーの、それ」

僧侶「あわわわわ……な、なにやってるんですかあ、盗賊さんってばー!」

?「………フ……フ………」

盗賊「ん?」

賢者「は?」

僧侶「へ?」

船長「フォォーリンッラァァァァブゥゥゥ!!!」ドシン! ドシン!

賢者「ぎゃああああ!!?」

僧侶「なななななにぃぃ!??」

盗賊「ででで……でかっ!!でかい!!樽何個ぶんあるんだ!!?つーかそんな体でよく歩けるな、お前!?」

船長「うおおお、萌えええぇぇ!!君、可愛いねーっ!!決めた!今日から君は僕ちゃんのお嫁さんだよぉぉぉぉ!!」ビシィッ

僧侶「ええええ!?わ、私ですか~ッ!!?」

盗賊「…お、おい。良かったな、お前の憧れの巨乳じゃねーか…触ってこいよ、ご利益あるかもよ……?」

僧侶「巨乳ナメないでくださいよう!?あの破廉恥お姉さんのおっぱいの方がいいですう!!巨乳好きな盗賊さんが触ってくればいいじゃないですか!」

賢者「いやー…あれがダイナマイトボディーっていうのかなあ…想像と全く違うけど…本当、今にも爆発しそうに膨れ上がって………沈まないの?船」

海賊「てめーらあ!!お頭をバカにしてんじゃねーぞ!?」

盗賊「バカにっつーか、通り越して同情するわ」

賢者「少し痩せたほうがいいねえ、うん……オッサンも腹が気になるお年頃だけどさあ…健康には気を使わなきゃね…」

船長「フヒャヒャヒャ、聞ーこーえーなーいーぃ!それよりも、マイハニーちゅわ~ん!!僕ちゃんのところにおいでぇ~」バシュッ

僧侶「きゃあっ!?む、鞭!?」クルクル グイッ

賢者「あっ!お嬢ちゃんが釣られた!?」

海賊「ハハハーッ!すげーだろ、うちのお頭は!!ちょっとしたトロルキングサイズだが、れっきとした人間だからな!?」

賢者「ちょっとしたトロルキングってそれ、トロルキングだよね?」

僧侶「……へ…へへへ……トロルを何体集めたら、トロルキングになるんですかねえ……?」

僧侶は 現実から 逃げ出した!

船長「近くで見れば見るほど可愛いねえぇ~…ブヒヒヒヒ!!」

僧侶「いやあああああー!!?」

しかし 回り込まれて しまった!

盗賊「クソアマ!ふざけんなよ、このトロル野郎!!そいつを離せ!!」

船長「おいぃ、野郎ども!僕ちゃんは船に帰るよ!!この娘とイチャイチャしたいからね!すぐに船を出すから、さっさとその邪魔者を片付けろ!!」

盗賊「ちょっと待てぇぇ!!お前がイチャイチャしたら、クソアマがぺちゃんこになっちまうだろ!」

僧侶「た、助けてー!助けて、盗賊さん、賢者さーん!!」

賢者「ただでさえぺちゃんこの胸がもっとぺちゃんこになったら、悲惨だよね~…」

僧侶「死ね!クソオヤジ!!」

賢者「お嬢ちゃんがグレた!?」

海賊「やっちまうぞ、てめーらぁ!!」

子分「へいっ兄貴!!」

海賊は 仲間を 呼んだ!
子分a~e が 現れた!

盗賊「クソ野郎どもが…ッ!!」イライラ

賢者「早くこいつらを倒さないと、船を出されたら追いかけられなくなる…!」

ありがとうございます!

盗賊「あのトロル野郎だけは許さねー!!」

賢者「よしっ、目覚めてからの初バトルだ。オッサン頑張っちゃうよ~」

賢者「速度倍加魔法!!もひとつオマケに~攻撃倍加魔法!!」パアアァ

盗賊「うおおおりゃあああ!!」

子分a「なっ、速……ぎゃあっ」バキッ

子分b「げふっ!?あ、あ……意識が…」ドゴッ!

海賊「ひ、怯むな!囲んで全員で叩けぇっ!!」

賢者「街中で攻撃魔法を使うわけにはいかないしなぁ~。やれやれ、俺も肉弾戦に徹するしかないかぁ…」

盗賊「退けよ、クソどもがぁぁ!!」ブォンッ!

子分c「たっ、樽を投げるか!?普通!!ぎゃっ!」ドカッ

子分d「中身入ってんじゃねーか!死ぬだろバカ野郎!」

賢者「…いや、サポートに回る方がいいかもね、これ…ハハハ、兄ちゃん怖いなあ、もう…」

盗賊「この!」

子分d「へっ」ガシッ

子分e「うわっ!?」ガシッ

ドッガァ!!

海賊「こ、子分同士の頭をぶつけて倒しやがった!?」

盗賊「あとはテメーだけかぁ~!?大体テメーがいちゃもんつけてくっから!あのトロル連れてくっからこんな事になったんだろうがぁーっ!!」

海賊「ひ、ひぃぃぃ~っ!??」ガタガタ ジョバー

賢者「俺にも速度倍加魔法~」パアアア

賢者「もーいいよ、兄ちゃんさ。ほら、小便なんか漏らしてる奴に追い打ちかける事はないって…船まで走るぞ!!」グイッ

盗賊「ちょっ!!離せ、クソオヤジ!離せ!!あいつをブッ飛ばすんだよ!離せーっ!!」

海賊「あ…あわわわわ……」ヘナヘナ

~船上~

船長「よーし、錨を上げろ~。船を出せ、アジトに戻るぞ!!」

僧侶「いや!いやっ!離してくださいぃ~!!」

船長「ブヒヒヒィ、僕ちゃんのおうちに着いたら、た~っぷりと可愛がってあげるからねぇ~?ヒヒヒ、ヒヒヒッ…か、可愛いなあぁ~」

僧侶「いやああぁぁ…!と、盗賊さん、賢者さんん……助けてぇー…!」

船長「ち、ちょーっとくらいなら…あっあっ味見、してもいいかなああ!?」

僧侶「え?えっ?」

船長「こーんな物騒な防具なんか外しちゃいなよぉ?綺麗なドレスを買ってあげるからねえ…」ゴソゴソ

僧侶「ちょ!?なにしてんですか!!?やめてっ引っ張らないで!服が破れちゃいますよう!!」

船長「えー?脱がさなきゃ味見ができないじゃないかーっブヒャヒャ!!そんなウブなところも可愛いねぇ~!」

僧侶「ぎゃー!!ぎゃー!?いやあああやめて、やめてー!!盗賊さああーん!!いやー!」ボカボカ!

ワアアア! ギャアアア…

船長「ん~?なんだよもう、うるさいなーいいとこなのに…」

クソアマァー… オジョウチャーン…

僧侶「…っ…?あ、あの声…は……」

盗賊「クソアマぁぁぁ!!」ドカッバキ

海賊b「ぎゃあー!!」

海賊c「ひぃぃっ!!」

賢者「幻惑魔法~」フワァァ

海賊d「うっ!うわああ……ばっ、化け物があああ来るなぁぁ~!!」

盗賊「クソアマ!どこだ!!返事をしろ、クソアマー!!」

僧侶「と!盗賊さん!盗賊さーん!!ここです、ここー!!助け……むぐっ!うぐ…」ジタバタ

船長「静かにしなよぉ~!バレちゃうじゃないか…」ギュウウ

僧侶「(く、苦しい……抱き潰されちゃう…)」

盗賊「クソアマ…!?声が聞こえたぞ、どこだ、クソアマ!どこだ!?」

賢者「そこ!そこの船室だよ、兄ちゃん!!」

ドッガァ!!

盗賊「ここか………って、」

船長「ブフー……まったく無粋な輩だなぁ~。これからだったのに…ほら、ハニーちゃんのお着替え中なんだよ?出ていけよなぁ~っ」

僧侶「う…ぐ……ぅ」ギュウウウ

賢者「…嫌がる女の子に無理矢理乱暴するなんてさあ~、男の風上にもおけないよねー…」

盗賊「な……な、な!なにしてくれてんだぁぁああテメェェェッッ!!!」

盗賊「細切れ肉にしてやる、トロル野郎おお!!」ジャキッ

船長「もー、しょうがないなあ…ハニーちゃん、ちょっと待っててねぇ、僕ちゃん、お掃除してくるから!」

僧侶「げほっ!げほ!ごほ!」ドサッ

盗賊「死ねェッ!!」ブンッ!

バイィーン

盗賊「っ!剣が弾かれた!?」

船長「ブヒャヒャヒャ!!僕ちゃんのお肉は鍛えてあるからね!!そーんなヌルい力じゃ効かないんだよぉぉ!!」

賢者「おいおい、どんな肉だっての……本当にトロルなんじゃないの?あんた」

賢者「火はダメか、部屋が燃えちゃうしな……じゃあ、氷結魔法!!」バキン! バキン!

船長「んー、かき氷~?ヒャヒャヒャ、あとでシロップを持ってこさせるかなー」

盗賊「効いてねーぞ…マジで魔物なんじゃねーか?あいつ…」

船長「僕ちゃんは無敵なんだよお!大体お前ら何!?ハニーちゃんのなんなのさ、うるさいハエどもが!人の恋路を邪魔するなー!」バシィン!!

盗賊「ぐはっ!!」

賢者「だっ!?」

船長「ヒャハハハハ!!人の恋路を邪魔するやつは、僕ちゃんの張り手でブッ飛べぇ!!」

僧侶「と……盗賊さん、賢者さ…ん……」

賢者「痛つつつ……いや~、こいつはキツいなあ…もうちょっとオッサンを労ってほしいね…」

盗賊「………」ペッ

盗賊「………テメーがなんなんだ、ってんだよ」

船長「あぁ?」

盗賊「テメーがなんなんだっつってんだよ!!」

盗賊「そいつはなぁ!そのクソアマはなあ!!俺の、お――」

僧侶「!?!?」ドキドキ

盗賊「………」

盗賊「………とにかく!!」

賢者「あ、飲んじゃうの、そこ」

盗賊「うるせえな!!言い間違えただけだ、バカ!もとい!!とにかくだ!!なにがなんでも痛い目見せてやらあ、トロル野郎!」

賢者「う~ん、けれど剣でもダメ、魔法もダメ……かといって俺達は草食系男子だからなあー肉弾戦もあんまりなー」

賢者「力…力が足りない、か……倍加魔法はもうかかっているし…」

盗賊「うおおりゃあっ!!」ブンッ ドシュ

船長「効かない効かな~い、無駄なんだよお!」ブヨヨン

賢者「……そう、攻撃力をカバーできりゃいいんだよな」

賢者「兄ちゃんの剣を対象に、幻惑魔法!!」フワアアア

船長「ブヒッ!?」ブヨンッ

船長「ぎゃあああ~!?いっいっ、痛いぃ~!!?血!血があああ僕ちゃんの腕があああ!!」ドタン! バタン!

盗賊「な、なんだ?全然斬れてねーのに、暴れ出したぞ?」

賢者「今、兄ちゃんの剣に幻惑魔法が乗っているからね。斬られたような幻覚を見たんだろう…魔法剣、ってとこかなー」

賢者「ま、幻惑魔法が解けたら元に戻っちゃうけれど、本当に斬って人殺しになるわけにもいかないし、そもそも攻撃が効かないなら…こんなお仕置きが一番でしょ」

盗賊「………ほう。つまり生殺しってわけか…?斬れば斬るほど苦しむけど、互いに安全ってこったな?」ニヤリ

賢者「あー悪い顔だ…。うん、でもあんまりやりすぎるとね、幻覚から抜け出すのに時間がかかっちゃうから……」

盗賊「泣いて後悔しやがれ、トロル野郎ぉぉ!!」ビシバシ! ビシ!

船長「ぎゃあああ~っ!!」

賢者「…手加減してあげなさいね~…遅かったけど」

船長「あうああああ……」ブクブク

賢者「あーあ、気絶しちゃったか。一応、精神的負担が和らぐよう……回復魔法をかけておくよ」

僧侶「とっ盗賊さん!盗賊さあん!!怖かった…怖かったですよ~!うわああ~ん!!」

盗賊「クソアマっ!!大丈夫か、何もされてねーか!?」ギュッ

僧侶「うひょぅ!?は、は、はいぃ……す、少し、服は破られましたけど…」

盗賊「………良かった…」ホッ

盗賊「………」

盗賊「うおおわわわ!!?」ゴン! ゴンゴン!!

僧侶「痛っ!?痛い、痛ぁ!?まさかの三連発!?なんでぶたれたんですか、私!」

盗賊「こ…これは違う!違ぇーから!!あのクソオヤジの幻惑魔法が俺にも流れただけだ……違ぇから!!」

僧侶「正気に戻りたいなら自分をぶってくださいよう!!」

賢者「はいはーい、そのクソオヤジからひとつ質問があるんだけどね……」

賢者「あのさ…なんでこの船、どんどん街から離れていると思う?」

僧侶「それは、さっき船員の人達が錨を上げて、船を動かしたから……」

賢者「そっかー成程ねー。じゃあ仕方無いよね、陸地から離れるのは」

盗賊「おい、耄碌するには流石にまだ早いだろ…何をわかりきった事を聞いてんだよ」

賢者「あっははは、いや~ごめんごめん、ちょっと現実を受け入れられなくてさー、あっははははは」

僧侶「も~、賢者さんってば」

盗賊「ははは……」


賢者「………」

僧侶「………」

盗賊「………」



賢者・僧侶・盗賊「「「なにしてくれてんだあああ!!?」」」


ありがとうございます!

盗賊「お、おい!!起きろトロル野郎!船を戻せ、街に戻せ!!コラ、起きろぉぉ!!」

賢者「ちょっとちょっと、流石にダメだよ兄ちゃん!気絶したとはいえ、時間的にまだ幻覚が抜けていない、今起こしたら再び暴れ出すだけだ!」

僧侶「な、なら、他の船員さん達を、起こしましょうよ!」

盗賊「他のったって、大体ノビてんぞ…クソオヤジが何人かに幻惑魔法をかけていたしよ。そもそも、船ってどうやって動いてんだ?どれくらい起こせばいいんだ?」

賢者「え、えーっと、えーっと!あれ?オッサン誰に幻惑魔法かけたか忘れちゃったよ、あっははは……嫌だね~歳は取りたくないな~本当!!」

僧侶「じゃあじゃあ、どうすればいいんでしょうか!?うわああん、街があんなにちっちゃく見える~っ!さっきよりも流れが早くなってますよう~!?」

賢者「あー、むか~し本で読んだ事があるなあ……潮の流れってやつかしら、コレ」

~漂流中~

盗賊「あっちぃ……砂漠の次は海かよ、風が吹いていてもなんかベタついて気分悪ィ…オッサンよぉ、また氷出してくれよ…」

賢者「もう溶けちゃったの?出してあげたいところだけどね……こんなに長く船に揺られていると、気持ち悪くて、集中できな……うおえええ!!」ゲロゲロ

僧侶「だっ大丈夫ですか、賢者さん!?今どの辺りなんでしょうね……お水や食糧は積んであったから良かったけど、なくならないうちにどこかに船が着かないと……うう」

賢者「せ……背中擦ってくれて、ありがとうね…お嬢ちゃん………おうええぇ」

盗賊「おい、まだ陸地に着かねーのかよ!?」

海賊「へ、へい…なにぶん、気絶していた間にかなり流されてやして……調べちゃいますが、ここがどの辺りか検討もつきやせんもんで…」

盗賊「大体誰だよ、船を動かした奴はよ!なんで俺がこんな目に合わなきゃならねーんだ、チクショウ!!」

子分「りっ陸地が見えましたぜ、旦那ぁ!ありゃあ、聖騎士の王国です!!」

盗賊「聖騎士って……おい、隣の大地まで流されたのかよ!?」

子分「間違いないです、聖騎士の王国にゃ、聖騎士達が修行するバカでかい塔があるんですが……今しがた望遠鏡でソイツを確認しましたんで!」

賢者「も、なんでもいいからさ、船から降りようよ…オッサンもうダメ、このままじゃ内臓まで吐き出しそ………うえええ」

僧侶「賢者さん、しっかりしてくださいぃ…」ナデナデ

盗賊「仕方無ぇか……じゃあその陸地に船を着けてくれ」

盗賊「言っておくが、俺達がいなくなったからって、また悪さするんじゃねーぞ……あのトロル野郎にも言っておけ!何かしようもんなら、また仕置きに来るってよ!!」

海賊「は!はいぃぃぃ!!」

~陸地~

僧侶「海では太陽がキツかったのに、この辺りは涼しいんですねえ…」

賢者「あー…基本的に、この土地は寒冷地だからね……冬になると特に寒さが厳しくなるよ…うっぷ。まだ気持ち悪い」

盗賊「そういや、オッサンはこの土地の産まれだったか」

賢者「ああ…更に北の方にある、魔法文明を研究する街がある……俺の故郷がそこなんだよ、な、あ、ちょっとタンマ、……おええええ」

僧侶「あああ、賢者さんん…」ナデナデ

盗賊「先を急ぎたくもあるが、オッサンがこの調子じゃどうしようもねーな……この辺で野宿するか?」

?「…そこの人、大丈夫か?顔が真っ青だよ」

?「オジサンどうしたの?具合悪いの?」

盗賊「…っ?」ドクン

僧侶「んっ?」ドクン

賢者「うおえええ……」

戦士「随分と具合が悪そうだが、急病人か?」

盗賊「(若い女…戦士か?……それと、旅芸人らしき格好のガキ)」

盗賊「…いや、病人というより、船に酔っただけでな。仕方無いから、この辺で野宿して休ませようとしていたところだ」

戦士「船酔い?そうか。なら、良い薬があるから、それを飲ませてあげるといいよ。ま…旅芸人」

旅芸人「はいっ!この薬だよ!僕もここに来るまでに、船に酔っちゃったんだけど……でも、この薬を飲んだらすぐに治ったんだ」

僧侶「あ、ありがとう~!ありがとうございます、助かります!さあ、賢者さん、お薬ですよ!」

盗賊「…すまねえな、見ず知らずの俺達なのに、親切にしてもらってよ」

戦士「なに、性分というものでね。困っている人を見かけると、手助けしてしまいたくなるんだ。いきなり声をかけて悪かったね。それでは、お大事に」

盗賊「………」

賢者「はあ……いやあ、よく効くな~この薬。気持ち悪いのがかなり落ち着いてきたよ」

僧侶「良かった!親切な方にお会いできて、良かったですねえ~」

賢者「本当にねえ~、旅は道連れ世は情け。ありがたいことだなあ」

僧侶「…それにしても…盗賊さん、珍しく疑ったりしなかったんですね…?いつもなら、少しでも怪しんでから入るのに」

盗賊「………ん?…あ、ああ」

僧侶「盗賊さん?どうしちゃったんです…?ボーッとして……」

賢者「あれじゃないの?さっきの戦士の姉さん、なかなか胸大きかったし。見惚れたとか、そーいうの?」

僧侶「そ、そうなんですか!?盗賊さんっ!」

盗賊「なっ!?バカ!違ぇよ!!」

盗賊「………」

盗賊「(…気のせいか?さっき、心臓……いや、もっと何か、別のものが疼いたような感じがしたのは…何かに反応したような……?)」

~聖騎士の王国~

門番1「止まれ!我が国に何用か!?」

僧侶「ああ…この感じ、また味わうなんて~…」

盗賊「遭難して、この土地に流れ着いたもんでな。持ってきた食糧も尽きかけている、他に村や街も見当たらないし…困ってんだ。出来れば、この国に入れてもらいたいんだが…」

門番2「ふむ…それは難儀な事だな。困っていると言うならば、手助けするのが我らの志」

僧侶「…あれ?わりと好感触…?い、入れてもらえますかねえ…?」

賢者「いやいや~、忘れちゃダメだよ…ここが何の国なのかってことをさ…」

門番1「しかし旅人よ。我々は志と等しく、掟も大事にするものなり」

門番2「心、技、体!全てにおいての強さを認められた者だけが、この門をくぐる資格を持つ者なり!」

門番1「我らの国に入りたくば、戦え!旅人よ!」

盗賊「あー…そうくるか……」

盗賊「…オッサンは船酔いでフラフラだし、クソアマは役立たず……となると、戦うのは必然的に俺、か……はあ、面倒くせえ~…」

盗賊「…で?どっちと戦えばいいんだ?俺は」

門番1「否。戦うは我らにあらず。我らはあくまでも門番なり、門を守る騎士なり」

門番2「旅人よ、運が良かったな。余所者が門をくぐりたい場合は、その意思を持つ者同士戦い、勝った方だけが入れる掟。入国を待つ相手がいなければ、来るまで待ってもらうところだったが」

門番1「今丁度、一組。入国の為に対戦者を待つ者がいる。彼の者と戦うのだ」

門番2「戦いの準備をする小屋がある故、そこで支度を整えて参れ」

僧侶「だ…大丈夫ですか?大丈夫なんですか?盗賊さん……」

盗賊「大丈夫だと思うか?俺はあくまで非戦闘職の一般人なんだがな…死んだらどうしようかね」

賢者「俺も蘇生呪文は使えないから、危なくなったらすぐ試合放棄するんだよ?その時は遠いけど、食糧節約して何とか魔法の街を目指すしかないな」

僧侶「こ、これが準備小屋ですかね。失礼しま~す…」ガチャ

バトルマスター「入国を希望する者よ。よくぞ参られた。貴殿の勇気を私は賞賛しよう。さあ、扱い易い武器を取りたまえ」

盗賊「剣に槍に斧……色んな武器が揃っちゃいるが…みんな木製だな、これなら斬られても心配なさそうだ」

バトルマスター「命の奪い合いが目的ではないからな。入国を賭けての戦いでは、一太刀入れるか、相手に負けを認めさせた者を勝者としている」

盗賊「なら、俺は剣を選ぶぜ。本当は短剣の方がいいが、それは無いようだしな」

バトルマスター「承知。では、この扉の先が試合場となっている。貴殿の武運を祈ろう」

盗賊「ッ!!」ドクン

僧侶「う…?」ドクン

盗賊「(ま…まただ、あの疼きが、また!なんなんだ…?あの様子じゃ、クソアマも同じ感覚を受けている?)」

旅芸人「あ、船酔いのオジサン達だ!元気になれたー?」

賢者「あれ~?そういう君は、薬をくれた少年くんじゃないの。あの時はありがとうね~、って……もしかして、入国を待つ対戦者って…君達なの?」

戦士「奇遇だね、君達も同じ道を目指していたのか。けれど、ごめんな。私達も、どうしてもこの国に入りたいんだ。手加減はしないよ」

盗賊「………」

盗賊「…なんなんだ?お前らは……」

バトルマスター「僭越ながら、試合には私が立ち会わせてもらう。一太刀入れるか、負けを認めさせるか。勝った者を入国対象とする!では、試合始めぃっ!」

ありがとうございまウッ!
連休最終日だし一気に進めたいが…難しそう

旅芸人「ゅ………戦士様ー!頑張ってー!!」

盗賊「(相手の武器も剣か……本職に勝てるわけねーだろ、クソっ!)」

戦士「ふっ!!」シュッ!

盗賊「!?」

盗賊「(な…なんだ?今の…ギリギリ避けられたが……一度しか振っていないのに、太刀筋が二つに見えたぞ!?)」

僧侶「と、盗賊さん…!」

賢者「やー…かなり強いね、あの姉さん…隙がまるで無いよ」

戦士「私の剣を避けられるとは、驚いたよ。私もまだまだ修行が足りないな」

盗賊「……素早さを売りにしているもんでね、一応……」

盗賊「(詐欺くせぇー…あんな技があるとか、卑怯じゃね!?いや、俺も短剣を使った流れ技はあるが……その短剣が無ぇよ、バカが!)」

戦士「やああっ!!」ビュン! ブンッ!

盗賊「と!うお!?危なっ!?」ガン! ガツッ!

盗賊「(一太刀一太刀が鋭く重い…!もし、剣が木製じゃなかったら……いや、木製でも、喰らったら骨がイカれちまう!!)」

戦士「本当にごめん、君達もこの国に入りたいんだろうけど…私も同じなんだ。どうしても、一刻も早く…この国に入って力を借りなくてはならないんだ。あの子を守らなきゃ…!」

盗賊「あの子…?あの旅芸人のガキか?」

戦士「そうだよ。本来、一人の人間にこだわる事は、私にとって良くない事かもしれない。それでも、私はあの子を守りたいんだ。その為なら、この力の全てを注ぐ!!」グッ

盗賊「(なんだ?あの構え……来るッ!?)」ゾクッ

戦士「たあああぁぁーッッ!!」ドカァァッッ!!

僧侶「きゃああああ!!と、盗賊さんっ!!」

盗賊「ぐ……は、ァッ…!」ドサッ

バトルマスター「…そこまで!勝者は戦士と致す!行動を共にする旅芸人も含め、入国を許可しよう!!」

僧侶「盗賊さん!盗賊さん!!大丈夫ですか!?盗賊さんっ!」

賢者「ダメだよ、お嬢ちゃん!動かしちゃ!…回復魔法!」パアァァ

戦士「…形だけのものだったが…それでも剣に生きる者へ対する礼儀として、本気で打った。しばらく痺れが続くだろう、ごめんね。彼が起きたら、私が謝っていたと伝えてくれると嬉しいな」

旅芸人「本当は雷みたいのがビリビリもするもんね、やっぱり戦士様は強いや。さあっ聖騎士の王国に入ろう!オジサン達、ばいば~い!」

僧侶「………な…んなん、でしょう…あの人達……」

盗賊「…うぐ、ぐ……痛ッてぇぇ……」

バトルマスター「旅の者よ。残念ながら君達の入国は認められないが、旅の手助けは致そう。まずは怪我人を医務室へ運ぶ。治療は任せたまえ」

賢者「俺にも手伝わせてください。一応、保護者を名乗ってるんでね」

~医務室~

僧侶「うわわわ、めちゃくちゃ腫れてますよう!い、痛そう…」

盗賊「痛そうじゃなくて痛ぇんだよ!チクショー…全っ然太刀筋見えなかった…レベルどんだけだよ、あの女……」

バトルマスター「患部にこの薬を塗り、包帯を巻いて一時安静にすると良い。すまぬ、上着を全て脱いでくれるか」

賢者「お嬢ちゃん、俺が兄ちゃんの体を支えているから、服脱がせてあげてくれる?…どっこいしょ、っと」

盗賊「痛だだだだ!!も…も、もっと優しく、頼む…!」

バトルマスター「………む?貴殿……このロザリオは貴殿の物か?」ジャラ

僧侶「あ、それ……私も、気になってました…キャラバンの商人さんが言ってました、よね?確か、この国の聖騎士さんはみんな持っている、ロザリオだって…あの時買ってもらったのと同じ…」

賢者「でもすごく古いものだね~、長い時を過ごしてきたかのような感じで」

盗賊「あ?あー…これか、俺にもわからねーんだよ…物心ついた時にゃ首にぶら下げていたしな。俺は親がいねーから、これが形見なのかどうかもわからねーし」

盗賊「なんとなく……売る気も起きなくて、ただ着けているだけだ…そ、それより早く薬塗ってくれよ、痛ぇって…!」

バトルマスター「ああ、すまぬ。……しかし、気になるな。そのロザリオ」

バトルマスター「確かにこれは我が国のものだ。新しい王が誕生するごとに作り変えられる…そちらの女性が身につけているロザリオは、今の王が誕生した時に作られた真新しいものだが…」

バトルマスター「このロザリオは……詳しく調べてみないと、はっきりとはわからぬが…かなり古いものだぞ。百年、いや、もしかすると、それ以上かも知れぬ…その時代にロザリオが売買されていたという話はない筈だが…」

僧侶「そ、そんなにですか!?どっどっどういうこと、なんですかねぇ…?」

盗賊「なら盗品なんだろうよ。そんな古臭ぇもんが俺の手元にあるって事が証拠だろ…」

賢者「お、おいおい。お膝元で、そう不用意な発言をしないの…」

バトルマスター「否。我らは全てにおいての力をよしとする。どういう経緯があったかはわからぬが、そのロザリオが今ここにあるという事は、その持ち主がロザリオを守る力が無かった、そういう事であろう…」

盗賊「………」

バトルマスター「…さて。手当ては終わった。包帯が少しきついかもしれぬが、痛みが引くまでの辛抱だ」

僧侶「ありがとう、ございました…」

バトルマスター「貴殿らは戦いに負けた故に、我が国に入れぬが、ここより北に魔法文明を研究する街がある。水と食糧を渡そう、そこを目指したまえ」

バトルマスター「ただし、街に行く道の途中、何か魔力が働いているらしく、酷い吹雪が起きている箇所がある。気を引き締めて向かえ」

~魔の吹雪地点~

賢者「うおおお……さっ寒い、むしろ痛いぃ!腰に響くじゃないのさあ~!!」

僧侶「前が見えないくらい、酷い吹雪…!こんなの、初めてですう…!!」

盗賊「暑いの寒いの、両極端すぎんだよ!勘弁してくれ!!おいっクソオヤジ!なんなんだよ、この吹雪!!この一角だけ切り取られたみてーに、吹雪いてるぞ!?こういうもんなのか!?」

賢者「いやぁ~…オッサンがいた頃は、こんな事無かったんだけどなー。吹雪が起きても、こう酷くなる事は無かったし……」

賢者「この雪、あのバトルマスターさんが言った通り…魔力を感じるな。とすると、近くにこの吹雪を起こしている者か、魔力媒体がある…それをどうにかすれば止むだろう、けど…」

僧侶「こ、こんな調子で、魔法の街に着けるんですかねえ~!?……ふぎゃ!」ドサッ

盗賊「何やってんだ、クソアマ。転んでんじゃねーよ、ドジ」

僧侶「あうう……雪がすごくて、足が埋もれちゃいますぅ………あ、でも、なんだかあったかい…?」

盗賊「おい、クソアマ!バカか、お前!?こんなところで寝るんじゃねーよ、捨てていくぞ!コラ!!」

賢者「いやはや参ったね~、休むにしても、どこもかしこも雪だらけ……また遭難しちゃうなあ、これじゃ」

僧侶「…あれぇ…?……よ、妖精さんが手招きしてますよう…」

盗賊「バカを拗らせてんな、バカ!!起きろ!死因がバカとか流石にキツいもんがあるぞバカ!!」

僧侶「バカバカ言い過ぎですよ!盗賊さんのバカ!あそこ、ほらっあそこに妖精さんがいるじゃないですかあ!!」

賢者「………あれれ、本当だ。オッサンにも見えるんだけど、何これ?幻覚かな?それとも、あの世からのお迎え?」

妖精「…こっち。こっちに来て、早く。そこにいたら死んじゃうよ」

妖精「…不思議ね、貴方達からは、仲間の匂いがするわ。人間なのに……どうして?」

盗賊「…ま…マジかよ。俺にも見えるぞ?」

妖精「そっちのオジサンからは匂わないけど、貴方と貴方……とくに、お兄さんからは、強い匂いを感じるの。何か妖精が作ったものを、食べたり飲んだりした?」

僧侶「…あ、そ、そう言えば!砂漠の妖精さんに助けてもらった時……妖精の回復薬を飲みましたね、盗賊さん」

妖精「砂漠……もしかして、滅びの里の!?そう、そうなのね。彼らはまだ生きているのね…嬉しい。聞けて嬉しいわ」

妖精「ここにいたら貴方達、死んじゃうわ。助けてあげる、ついてきて。私達の村に来て」

賢者「なんだかよくわからないけど…ご好意にゃ甘えよっか、確かににっちもさっちもいかないしさぁ…」

盗賊「つくづく妖精に縁があるんだな、俺達は…」

~エルフの村~

僧侶「わあ…綺麗なところ……吹雪もないし、あったかくて心地好い…」

妖精「あの吹雪は魔力を使って起こしている、魔法の吹雪だから。この村は元々、人間に見つからないように結界が張られているの。それが吹雪も遮断してくれるのよ」

盗賊「…何をベタベタと木に触ってんだ?クソアマは」

僧侶「あの砂漠では、木とかほとんどが蜃気楼の幻でしたけど…ここのは本物なんだなーと思って…」

賢者「いやあ、こんな村があったなんて、オジサン知らなかったなあ。ただここにいるだけで、魔力が回復していくのを感じる……」

賢者「住人は……妖精より、エルフの方が多いんだね?ハーフエルフからハイエルフまで、うーん、素晴らしい。ハイエルフは文献でしか見たことなかった、話が聞きたいな…」

妖精「砂漠にある里が潰されたから、私達はこの村に避難し、住ませてもらっているのよ。だからここはエルフの村よ」

僧侶「あ、あの……失礼かもしれないけど…貴方は、私達人間を…憎んでいない、ですか…?」

妖精「……滅びの里で、何か言われたんでしょう?」

僧侶「は、はい…」

妖精「…哀しいことだけど、仕方ないわ……それが運命なら、従う事を選んだのが、この村に逃げた私達。滅びの里にいる仲間は人間を憎んでいるけど、私達は…まだ、人間を信じたいの」

妖精「いつか、戦いや争いがなくなって、みんなで歌ったり踊ったり…楽しく仲良く遊べる日が来るんじゃないかって。信じていたいのよ」

僧侶「……ごめんなさい…ありがとう…」

妖精「謝られることも、礼を言われることもないわ。私達も頑張らなきゃね、そんな日が来る為に。だからまずはこの吹雪をどうにかしたくって…身動きが取れないんですもの」

妖精「そこで休んでいて?私、村長様に貴方達の事を話してくるから」

僧侶「………」

盗賊「何へこんでんだよ、クソアマ。折角の暖けぇ空気が湿っぽくなるだろ」

僧侶「す…すみません……でも、なんか…申し訳なくって……」

賢者「………。 さて。いい機会だから、オッサンはちょっと村の中を見てくるよ、勉強になりそうだしさ。ぐるっと回ったらここに戻ってくるからね~」

盗賊「あ、ああ。行ってこい」

盗賊「………」

盗賊「…あの、よ。クソアマ。……そんなに気に病むこたぁ、ねーだろうが。さっきの妖精が望むような世界にする為に…勇者ってもんがいるんだろ?」

僧侶「…は、はい…そう、ですよね…」

盗賊「妖精が頑張るっつってんのに、テメーがウジウジしてどうするんだよ。へこむ暇があんなら、その分頑張れよな、お前も」

僧侶「ううう…!と、盗賊さあん…」

盗賊「……チッ。なんだかな、この村の空気は妙な気分にさせられる。穏やかすぎんだよな…らしくねー、この俺が……」

・・・

賢者「やー、ぽかぽかと気持ちのいい日溜まり……春って感じだねえ、外の吹雪が嘘みたいだ」

エルフ「あら?珍しい。人間だわ。こんにちは、いいお天気ね」

賢者「はい、こんにちは。お邪魔してますよー。……ふむ、文献とは違うなー、それともこの村のエルフだけなのかなあ~?すごく友好的だ、みんな」

賢者「…と、ここは行き止まりか。……おー、立派な祭壇じゃないの。でも、野晒しなのに汚れがひとつもない…ピカピカの新品みたいだ」

賢者「………近くにいるだけで、心が洗われるような……なんとも美しい祭壇だね~……聖母像もこれまた美しい…こんなにも穏やかな笑みの作りは見たことがない」

賢者「………いやあ……救われるねえ………」

?「……そこにいるのは……まさか…賢者……賢者なの?」

賢者「ん?誰だい?………!!?」

賢者「…そ…んな……まさか……まさか!君は!!」

武道家「や…やっぱり!賢者!賢者だ!!うそ…こんな事って…ああ……また、また貴方に会えるなんて!」

賢者「き、君は…君は…!お……俺を庇って死んだはずの…ま、幻?幻なのか?それとも夢か?」

武道家「賢者ぁ…っ!会いたかった!幻でも夢でもないよ、…ううん、幻といったら、それに近いけど…」

武道家「この村は妖精やエルフの他にも、精霊なども住んでいるんだよ。私は死んでしまったけど…理由があってね、霊体としてここに留まっているの」

賢者「………!れ…霊体……!?」

武道家「にわかには信じられないよね…でも、私…私は……貴方に会えて、本当に…嬉しいよ…」グスッ

賢者「………」

賢者「…幻でも、夢でも……霊体でも、いい…その喋り方、仕草……俺の前じゃ泣き虫なところ…全部、全部、あの時のままだ……俺も、会えて嬉しい…!」

武道家「け…賢者ぁぁ…!!」

賢者「泣くなって…貰い泣きしちゃうでしょーが。…ああ、本当に霊体なんだな…君が泣いているのに、頭を撫でてやる事も、抱き締めてやる事もできないなんて」

賢者「懐かしいなあ…君が泣いたら、すぐに頭を撫でてさ?それから抱き締めて、最後に口へ飴玉を入れてやる。それが君の涙を止める方法だったのに…もう、できないんだな……」

武道家「…ううん……ごめん、泣いちゃって…でも、私……貴方がくれる飴玉、今もひとつ持っているんだよ」

武道家「ほら。ふふ、すごく美味しいから、いつも一粒だけ取っておいて、持ち歩いていたの。溶けちゃう前には食べていたけど、この飴玉だけは……食べられなかった」

賢者「…すまない……俺が弱かったから…君を守れなかったから……」

武道家「違うの、ごめんね。貴方を責めているわけじゃないの、弱かったのは私だよ。ごめんね…貴方に辛い思いをさせて…本当に、ごめん…」

・・・

妖精「村長様が貴方達に会いたいって言っているの。来てくれる?」

僧侶「あ、はい。でも…まだ、賢者さんが戻ってきてないんですが…」

妖精「あのオジサンなら、村の端にある精霊の祭壇にいるのを見たわ。…今は取り込み中だから、邪魔しない方がいいと思うの。だから貴方達だけでも、来てくれる?」

盗賊「取り込み中?何やってんだか、あのオヤジは。…まあいい、それじゃ行くとするか」


エルフb「まあ、人間だわ。会うのは久し振り。私達の村へようこそ」

エルフc「いらっしゃい。外は大変だったでしょう?ここで時間の許す限り、体を癒してね」

僧侶「ありがとうございます~。…皆さん、優しいですねえ」

妖精「ここにいる者達の考えは、みんな同じよ。誰もが平和な世界を願っているの。勇者と、その仲間の為になら、いくらでも力を貸したいと……さあ、ここが村長のおうちよ」

盗賊「…やたら小さい家だな……よ、っと…クソアマ、頭ぶつけんなよ」

僧侶「はう!!」ゴンッ

盗賊「言ったそばから…ある意味、期待を裏切らないな。テメーはよ」

妖精「今の村長は小人族だから、おうちも小さいのよ。私には大きすぎるくらいだけど、人間の貴方達には小さいでしょうね。…村長、人間達を連れてきました」

村長「ありがと~。君はそこで待ってて~?…こんにちは~僕がこの村の村長です、よろしく~」

僧侶「わあ…可愛い!…あ、ご、ごめんなさい!失礼な事を……」

村長「あははっ。ううん~気にしないで~。君も可愛いよ、ありがとね~」

村長「えっと~、君達に頼みたい事があって、来てもらったんだよね~。外から来たなら知っていると思うけど、すごかったでしょ?外の吹雪」

村長「あれね、この近くにある氷で覆われた洞窟の中から、吹雪いているんだ~。どうやら、中に魔の吹雪を生む媒介があるみたいなんだよね~」

村長「僕達もすごく困っているんだ~…何度か取り除こうと、出かけたんだけど、洞窟の回りは魔物もいっぱいで、いっつも邪魔されて奥に行けないんだよ~」

村長「だから、君達にお願いしたいんだ~。吹雪を止める為に、手伝ってくれないかな~?このままじゃ何処にも行けないよ~」

盗賊「おい…なんだか面倒な話になって来たな…」

僧侶「で、でも、この吹雪をどうにかしなきゃ、困るのは私達もですよ…?止められる方法がわかっているなら、やりませんか…?」

村長「本当、お願いしたいんだよ~。折角、この地に勇者が来てくれたのに…この吹雪で外に出られないと、手助けができないよ~」

盗賊「っ!?勇者!?勇者がこの近くにいるのか!?」ガシッ

村長「うわあ!?あはは~、苦しいよ、やめて~潰れちゃう~」

盗賊「あ、す、すまんっ」パッ

村長「はあ~びっくりした~。あはは、うん、勇者はこの近くに来ているよ~。僕達はね、神様に勇者を助けてってお願いされたから、力になりたいんだよ~」

村長「君達は勇者の仲間でしょう~?なんで勇者と別々になっているの~?勇者に会ったくせに、変なの~」

盗賊「…はあ?」

僧侶「わ、私達が……勇者様に、会った?え?え?いつ?」

村長「え~、気づいてなかったの~?だって君達、キラキラしてるのに~。勇者はもっとキラキラ輝いているだろうけど、その光の粒が君達についているよ~?」

盗賊「ど、どこかですれ違ったのか!?いつだ、どこでだ!?そんな、それらしき者は……」

村長「あはは、勇者の事、あんまり知らないみたいだね~?じゃあこうしよう~っ!吹雪を止めてくれたら、勇者の事を教えてあげる~。どう?いい案でしょう~?」

盗賊「チッ…わかったよ、吹雪くらい、すぐに止めてやるぜ」

僧侶「つ、ついに、ついに勇者様に会える…!」

妖精「…お話は終わったかしら?」

村長「うん~終わったよ~。ねえ、妖精。この人達を、氷の洞窟に連れていってあげてくれる~?」

妖精「はい、わかりました。ありがと、お願いを聞いてくれたのね?とても嬉しいわ、よろしくね」

僧侶「こ、こちらこそ!よろしくお願いしますっ!!」

村長「洞窟の中もすごく寒いから、暖かい格好をしていくといいよ~。エルフ達に頼んで、防寒具を用意してもらうから、ちょっと待っててね~」

盗賊「おう、よろしく頼むわ」

村長「………」

村長「あははっ、ちょっと変更~。君に連れていってもらった方が早いよね~。ねえ、僕を肩に乗せて~?村の中央にある集会場に連れていってよ~」

盗賊「…俺を乗り物扱いすんなよ、クソチビめ」

僧侶「私は、賢者さんを呼んできますねっ」

僧侶「えっと、確か賢者さんは…村の端にある精霊の祭壇に……あ、いたいた」

僧侶「………!うわあ~…綺麗な祭壇…!聖母様の像も、とても素敵…神聖な力に溢れてる……」

賢者「………」

僧侶「賢者さん、迎えに来ましたよ~。あのね、吹雪を止める方法がわかったんです!これから原因のある洞窟に行くので、賢者さんも一緒に……あ、あの、賢者さん?」

賢者「………」

僧侶「賢者さん?賢者さーん!?」

賢者「…うわっ!?び、びっくりしたなーもう。お嬢ちゃん、いつのまに来てたの?」

僧侶「ついさっきですよ。どうしたんです?ボーッとして…」

賢者「ああ、うん。ごめん、大丈夫だよ。…いや、この祭壇があんまり綺麗なもんだから、見惚れていてね」

僧侶「あー、それは確かに、わかります!すごく、綺麗だし…神様の力に満ちていますから……見惚れるのは仕方ないですねえ~」

賢者「本当に、そうだねえ……」

賢者「………」

賢者「ねえ、お嬢ちゃん。悪いんだが、この祭壇に祈りを捧げてはくれないかな?オジサンも一緒に祈るからさ」

僧侶「え?は、はあ…祈るのは、別に構いませんけど…」

賢者「兄ちゃんを待たせたら怒られそうだもんねえ、今は手短にやろうか。じゃあ、よろしく頼むよ」

僧侶「は、はいっ」

賢者「………」

僧侶「………」

僧侶「(………お祈りに集中しなきゃ、だけど……)」

僧侶「(賢者さんがちょっと気になるな……目が赤い、…泣いていたの?賢者さん)」

賢者「………」

僧侶「(…あれ?聖母像が…今、微笑んだ…?)」

賢者「………ん。ありがとう、お嬢ちゃん。オジサンの我儘に付き合ってくれて。さ、兄ちゃんのところに行こっか」

僧侶「あ、は、はいっ」

~氷の洞窟~

僧侶「エルフさんから借りた防寒具のおかげで、吹雪の中もなんとか進めましたね!」

盗賊「おい、テメーなんで俺の服の中に入ってんだよ。自分で飛べよな」

妖精「この風じゃ私なんか、すぐに飛ばされちゃうわ。それに貴方は妖精の匂いが強いから、安心するのよね」

盗賊「あのクソチビもお前も、俺を乗り物扱いするなっつーの」

賢者「ん~、洞窟にはついたけど……氷の壁で入り口が塞がっているねえ」

妖精「あら?変ね、前に来た時は、そんなものなかったのに」

僧侶「でも、これ……壁というより、扉じゃありませんか?ほ、ほら…これも氷だけど、錠前がついてますよ…?」

賢者「うーん…氷を溶かすにしても骨が折れるな…魔力が空になるだろうし」

妖精「困ったわね。鍵がどこにあるかなんて、検討もつかないわよ」

盗賊「おいおいテメーら。俺を忘れてんじゃねえぞ」

盗賊「盗みならなんでもござれのこの俺に、こんなチンケな鍵で挑もうなんざ、百年早いんだよ」ガチャガチャ

盗賊「…ほらな、開いたぜ」ガチャッ

僧侶「わあ~!盗賊さん、すごーい!鍵いらずですねえ~」

盗賊「…どっかのバカのせいで、矢面に立たされてばかりだったが、俺の本職はこれなんだよ」

妖精「貴方、とっても便利なのね。一家に一台あると良さそうだわ」

盗賊「乗り物の次は道具扱いかコラ。潰すぞテメー」

賢者「うおおぅ……扉を開けたらもっと吹雪が酷くなったよ、さ、寒い…!!気をつけて進むんだよ、みんな~!」

僧侶「床も壁も、天井もみんなツルツルに凍ってますねえ…でも、氷が光を反射していて、中は暗くない……良かった、怖くなさそう…」

魔物「ガアアアア!!」

賢者「火炎魔法っ!!」ゴオオォッ!

僧侶「えい!えいっ!!メイス攻撃ーっ」ポカスカ

妖精「…ねえ、ちょっと。貴方は戦わなくていいの?2人に任せてばかりじゃない」

盗賊「宝箱を開けるのも、戦いのひとつなんだよ。クソオヤジの魔力が尽きたら俺も戦うさ。……お、この宝箱に魔力回復の聖水が。クソオヤジに飲ませよう」

妖精「もう。結局戦う気がないんじゃないの、困った人ね」

盗賊「別に、お前を服から引き摺り出して捨てていってもいいんだが?」

妖精「次の宝箱にまた役立つアイテムがあるといいわね。私の探索能力で宝箱を見つけてあげるわ。宝箱の鍵は貴方にしか開けられないんだもの、期待してる。さあ行きましょ、戦いは彼らに任せて、私達は私達にできる事をしなくちゃ」

盗賊「…お前の性格、そんなに嫌いじゃないぜ、俺」

僧侶「盗賊さーん!盗賊さんも戦闘に参加してくださいよう!魔物が多くて大変なんですからっ」

賢者「あっ、お嬢ちゃん!走ったら危ないよ、転……」

僧侶「ふぎゃ!」ツル スッテーン

賢者「…転ぶよー、と言うのも間に合わなかったな…」

盗賊「まったく、期待を裏切らないクソアマめ」

僧侶「痛たたた……あ、あれ?あれっ?か、勝手に滑っていく……」ツルルルル

賢者「ちょっと、お嬢ちゃん!?どこに行くの、一人じゃ危ないよ!」

妖精「いやだ、氷の床で滑っていくんだわ。…ねえっ落とし穴があるわよ!?踏ん張って止まらないと、あの子、穴に落ちちゃうわ!」

僧侶「はわわわわ!!」ツルルルー

盗賊「何やってんだバカ!クソアマ!!止まれっ!!」

賢者「氷柱魔法!!」バキン バキン

賢者「ダメだ、氷柱を立てて止めようと思ったけど…滑っていくのが早い!」

僧侶「きゃーっ!?」

盗賊「クソアマ!!うわあっ!?」

賢者「2人とも穴に落ちたー!?…も、もう、オッサン高いところ苦手なんだけどなあ…!!」バッ


僧侶「きゃーああああー!!」

妖精「この高さから落ちて、どうする気?人間の貴方達は空を飛べないでしょうに」

盗賊「てめっ!なに一人だけ服から出て、飛んでんだよ!!あとで潰すからな!」

賢者「兄ちゃん、お嬢ちゃんの事をしっかり掴んでなよ~?ちょっと勢いキツいと思うから」

盗賊「おいっ、何する気だ?オッサン!」ギュッ

僧侶「あわわわわ……だ、だだ抱き締められ…あわわわ」

賢者「上手くいくといいんだがね~。よし、あの氷の塊でいいか……一点集中、爆炎魔法!!」

ドゴォォンン!!

盗賊「っ!爆風で…煽って、落ちる勢いを殺したのか」ドサッ

賢者「あだっ!!……いたたたた、ケツが割れた!絶対割れたあ!いたたたた!!」ドスッ

妖精「無茶をするわね、人間って」

盗賊「このクソチビ2号!いつのまに、また服の中に逃げ込んで!調子がいいな、テメーはよ!」ギュー

妖精「待って待って待って、私を潰すのは気が早いわよ。本当よ。私も役に立つから、……全体回復魔法!」パアアァァッ

賢者「…っは…?あ、ケツが痛くない……おぉー、やるじゃないの、妖精ちゃん!」

盗賊「ほう?こりゃスゲーが……なんで今の今まで使わなかった、本当に調子いいな、お前」ギュギュウー

妖精「待って待って待って待って。潰れるわ。妖精の搾り汁ができちゃうわ。ほら、私を搾るよりも、その女の子をどうにかした方がよくないかしら?」ギュー

僧侶「」アウアウ

賢者「お嬢ちゃん……乙女なんだねえ…」

賢者「しかし、随分深いところに落ちたもんだなあ…どうやって帰ろうね?」

妖精「…この先。この先から、魔力の強い流れを感じる。吹雪を生む媒介があるかもしれないわ」

盗賊「一本道のようだしな…仕方ない、行くか。おらっ起きろクソアマ、寝てんじゃねーぞ」バシバシ

僧侶「痛い!痛たた!!…も、もうっ!もっと優しく起こしてくださいよう~」

賢者「んー……魔物の気配もないね…あ、まーた扉だ。兄ちゃん、鍵開けてくれる?」

盗賊「へいへい…」ガチャガチャ

ギイイィィ…

賢者「……おぉ~…これは、これは……」

僧侶「うわあ~…すっごい、綺麗……氷の柱に、光のカーテンが掛かっているみたい…」

賢者「これはオーロラっていうんだよ。でも何故こんな場所に……この空間だけ、人為的に作られたようだ…天井は吹き抜けだけど、高すぎるね」

盗賊「…台座に何か乗っているぞ。なんだ?こりゃ。宝玉か……真っ青でスゲー綺麗だな…売ったら高そうだ」

妖精「貴方、罰当たりね。…それよ、吹雪を起こす媒介!その宝玉を中心に、魔力が渦巻いているもの」

僧侶「じ、じゃあ、これを壊せば吹雪は止むんですか、ね?」

賢者「や、別に壊さなくていいと思うよ。こういうのは、場所も大事だからね。宝玉の位置を動かすだけでも、吹雪は止むはずさ」

僧侶「じゃあ、じゃあ転がすだけでも……あ痛!」ポカッ

盗賊「お宝に素手で触るなっつーの、クソアマが。動かすだけでいいなら、持って帰って売り飛ばしてもいいわけだな?いくらになるかねぇ~」

僧侶「声をかけてくれるだけでいいのに、すぐぶつんだから~…」

賢者「手のひらに乗るくらいの大きさか…いや~、こんな小さなもので、あれだけの吹雪を起こす魔力を込めるとは…実に興味深いなあ」

ありがとうございます

妖精「…宝玉を取り上げたら、魔力の流れが途切れたわ。これで吹雪も止んだはずよ」

僧侶「やったあー!…って、手放しで喜べないんですよねえ……ど、どうやって帰りましょうか…」

妖精「私、移動魔法も使えるわよ?天井がないここからなら、村までひとっ飛びで帰れるわ」

盗賊「ほほう、そいつは便利だな。……それを使えば、あんな吹雪の中を歩かずに、この洞窟まで飛べたんじゃねーか?」ギュウウウウ

妖精「待って待って待って待って待って。私を潰したら貴方達、一生ここに閉じ込められるわよ。最後の晩餐は妖精の搾り汁?あらあら、グルメなのね」ギュウウウ

賢者「結局さあ、この宝玉は持って帰るわけかい?いや、できれば研究したいけど…なんか、下手したら部屋の中でも吹雪いたりしそう」

妖精「それは大丈夫じゃないかしら。もう魔力反応を感じないもの。さあ、早く帰りましょう。私の体があちこちクビれないうちに」

~エルフの村~

村長「あはは、これが魔の吹雪を生んでいた宝玉かあ~。うん、確かに魔力の匂いがするね~」

盗賊「外を見たら、あの吹雪が嘘のように止んでいたしな。これで任務完了、ってわけだ」

賢者「…うーん、オッサンも話に混ざりたいなー、なー」

妖精「私が話し相手になってあげるから、いじけないで」

僧侶「私と盗賊さん、2人入ったらいっぱいいっぱいですもんね、このおうち…」

村長「本当に本当にありがとう~!これで外に出かけられるよ~。残っている雪もやがて溶けるだろうしね~」

村長「よ~し、じゃあお礼に、君達に勇者の事を教えてあげる~。…じゃじゃ~ん、占いの水晶玉~」コロン

盗賊「…俺には少しでかいビー玉にしか見えないんだが」

村長「僕はこう見えて占いが得意なんだ~。これで勇者が今いる場所から、会い方まで占ってあげるね~百発百中だよ~」

僧侶「…やっと……やっと、勇者様にお会いできるんだあ…」

盗賊「ああ……」

村長「ん~むむむ~……は~い、出ましたあ~」

村長「えっとね~、勇者は今、聖騎士の王国にいるよ~。聖騎士の証でも取りたいのかな~?あはは、それから、勇者と一緒にもう一人…魔法使いがいるね~」

僧侶「…え?聖騎士の王国、って…す、すぐそこじゃないですか!つい2、3日前に立ち寄ったばかりですよう!?」

盗賊「………」

村長「何か理由があるみたい~、それまではわからないけど…勇者は今、別の名前を騙っているね~。魔法使いもそう、2人して変装しているよ~」

盗賊「……聖騎士の王国…2人………変装……」

盗賊「………ま、まさか……?」

僧侶「じ、じゃあ!じゃあ、今からでも、聖騎士の王国に行けば、勇者様に会えるんですね!?」

村長「うん~、暫く滞在するみたいだからね~。……でも~…」

村長「今、王国に行ったら…君達は一生勇者に会えなくなるよ~?」

僧侶「えっ!?な、なんで?なんでですか?」

村長「運命。運命がそうさせるんだよ~、勇者と会うには、鍵が足りない…そう言えばわかるかな~?何度も機会はあったのに、すれ違いもしたのに…互いに気づかなかったのは、運命の仕業なんだね~」

村長「君達は勇者に会う前に、ここから先にある魔法の街に行かなきゃならない…そこには大きな塔があって…2人だけで昇らなきゃいけない。そしてそこで、君達は重要な選択を迫られるでしょう~」

村長「どの答えを選ぶかは、君達の判断に委ねられるけど…それを乗り越えた時にこそ、勇者と合流を果たせる。そして、勇者の悩みを、葛藤を打ち砕き、彼の力となり刃となり…魔王を倒す事が叶うだろう…」

村長「………と、占いに出ました~。あはは、どうだったかな~?」

盗賊「……悩み、か……」

僧侶「で、で、でも!その塔に、私と盗賊さんだけで昇って…選択っていうのもクリアしたら……勇者様に会えるんですね!?今度こそ!」

村長「うん~。あはは、順番を間違えずに行けば、必ず会えるよ~。勇者はね、今すごく悩んでいるんだ~。…だから、早く力になってあげて。君達にしか助けられないから……お願い」

僧侶「わ…わかりましたっ…!盗賊さん!魔法の街に行きましょうっ?」

盗賊「ああ。魔法の街はクソオヤジの故郷っつってたしな。あいつに話を聞けば、その塔とやらもわかるだろう」

村長「あ、そうそう~。吹雪を止めてくれた、あのオジサンにも、お礼をしなくちゃね~。さあ、僕を肩に乗せて~?外まで、れっつらご~」

盗賊「だから俺を乗り物扱いするんじゃねえッ!!このクソチビ初号機が!!」

賢者「あー、やっと出てきた。おかえり~、寂しかったよオジサンはさあー」

村長「こんにちは~、僕、この村の村長で~す。この度は吹雪を止めてくれて、どうもありがとう~」

賢者「わ、小人族!?いやはや……やっぱり文献だけじゃ得られないもんだな、知識ってのは…。いやいや、どういたしましてー。こちらこそ、防寒具を貸してもらったり、ありがとうございました」

村長「それでね~?君にもお礼がしたいなあって思うんだ~。急ぎたいだろうけど、吹雪を止めて村を救ってくれた君達に、ささやかながら宴の用意もしたんだよ~」

盗賊「宴……飯か?」ピク

僧侶「盗賊さん…」

村長「あははっ、勿論ご飯もたくさん作ったよ~、食べてって?一晩くらいはいいよね~、休んでいってほしいんだ~」

村長「なにより、オジサンへのお礼は宴と別にも用意してあるからさ~是非参加してね~」

賢者「なんだ?なんだろ、そこまでしてもらっていいのかな?」

~御礼の宴~

盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ

妖精「あ、その木の実のスープは私が作ったのよ。美味しいでしょう?ふふふ…これでいっそう妖精の匂いが強くなるわね、居心地も更に良くなるでしょうね」

盗賊「叩き潰すぞクソチビ2号。俺はテメーらの乗り物じゃねえっ!」

エルフ「さあ、たくさん食べてね。栄養もばっちり、体力がつくわよ」

僧侶「ありがとうございます、とっても美味しいです…!ヘルシーなのに、コクがあったり深い味わいだったり……不思議なお料理ですねえ…」

賢者「いや~この果実酒も旨いっ!こんなにも甘いのに、爽やかな口当たりで、いくらでも飲めそうだ…ひっく」

村長「あはは、喜んでもらえて良かった~。でもまだ酔い潰れないでね~?本番はこれからなんだからさ~」

賢者「本番?…そういや、オッサンにはまだ別のお礼があるんだっけ。これ以上、よくしてもらうとか、なんだか申し訳ないなあ」

村長「いいんだよ~。君の為だけでもないからね~、…あ、来た来た、お~い、こっちだよ~」

賢者「………ッ!!」

僧侶「…わあ、素敵……なんて綺麗な花嫁さんなんでしょう!」

盗賊「…確かに綺麗だが…エルフでも妖精でもねーぞ?人間…?いや、なんか透けてねーか……?なんだ?ありゃあ…」

武道家「……賢者…」

賢者「…あ……あ、あれは…彼女は……お…俺の、親友…だ……」

盗賊「!! …テメーを庇って死んだって奴、か?なら…ありゃ、亡霊か…?」

村長「彼女はね~死んだ時に、故郷のある、この地へ魂が飛ばされたんだけど……あの魔の吹雪のせいで、この村に閉じ込められちゃってたんだよね~」

村長「ねえ?彼女を天に、故郷に帰してあげて~?君の心の奥底に隠した本音を、彼女に渡して…送ってあげて」

賢者「………」

賢者「……なんつー礼を用意してくれたのかねぇ…年甲斐もなく照れちまうじゃんよ、オジサンは…」

武道家「賢者……ご、ごめんね。こんな格好で、似合わないよね。なんだか笑っちゃいそう、賢者とはいつも、ふざけあってたから…今更こんな…」

武道家「で、でも……私…私、どうしても、心残りがあって……吹雪のこともあったけど、その心残りが…私をこの世に繋ぎ止めていて…」

武道家「わ、私…私、……本当はね、…小さい頃から、ずっと、」

賢者「言うな」

武道家「………っ…、…そ、そうだよ、ね…ごめん、変な事、言いそうになっちゃった」

賢者「違うよ、武道家。…俺に格好つけさせてくれよ。その言葉は、俺が先に言うもんだ」

武道家「け、賢者…?」

賢者「俺はお前が好きだ。小さい頃からずっと、一緒にいたお前が大好きだ」

賢者「魔法を勉強する俺の邪魔をしてくる意地悪なお前も。魔法の才能がないからって、それを補おうと武の道に進んだ、努力家なお前も…そのくせ、俺の前でだけは泣き虫なお前も。みんなみんな、お前の全部が好きだ」

賢者「…守ってやれなくて、ごめん。痛かったよな…苦しかったよな…迎えに来るのが遅くなって、本当にすまなかった」

武道家「賢者…!」

賢者「お前が好きだ。俺と結婚してくれ」

武道家「………わ…私も、私も!賢者が好き!大好き!!でも、いいの?私…もう死んじゃってるのに……」

賢者「最初から決めていたんだよ。俺の嫁はお前、って。生涯でただ一人だけだ。結婚しよう、武道家」

武道家「賢者ぁっ……!あ、あ、…ありがとう……ありが、と…うわあああ~ん!!」

ありがとうございます!

妖精「おめでとう、オジサン!武道家!結婚おめでとう!」

村長「あはは、2人の門出に乾杯~」

エルフ達「おめでとう!お幸せにねー!」

盗賊「………」ニッ

僧侶「………」

僧侶「…透ける口づけ……でも、永遠の誓い……すごく、すごく…綺麗です、武道家さん。おめでとう…!いいなあ、私もいつか……」

武道家「あ、ありがとう、みんな…あっ、あ、そ、そうだ!えいっ」ポイッ

僧侶「…っ、あ」パサ

妖精「あら、良かったじゃない。花嫁の投げたブーケを受け取れて。次に結婚できるのは貴方ね」

僧侶「わ、わ、私ですか!?………そ、そそ…そうなんですかあ…えへへ」

盗賊「…ふん。まあ、良かったんじゃねーの?オッサンが幸せなら。つーか飯おかわりくれ」

妖精「貴方はもうちょっと色気を出すべきよね、食い気よりも。折角のチャンスなのn ふぎゃ!」ペシッ

妖精「指で弾かれるほどの事を言ったかしら、私…」

賢者「…やあやあ、まいったね~本当。照れるよもう、穴があったらそこに隠れたいくらいだ」

エルフ「その指輪は精霊の指輪。霊体の貴方も身に付ける事ができる特別製よ。……良かったわね、願いが叶って」

武道家「は、はい。ありがとうございます、こんなにも良くして頂いて……、あ」フワァァ

盗賊「…おい、体がさっきよりも透けていくぞ!?」

武道家「吹雪が止んだから、…願いが叶って満足したから、天に帰れるようになったのね」

賢者「…武道家。君に言ったものに偽りはないよ。君のところへ行くのは、まだまだ先になるが……必ず迎えにいくから。すまんな、また、もう少しだけ…待っていてくれ」

武道家「…大丈夫よ、ゆっくりでいいからね?貴方を見守っているわ。…でも浮気したら、貴方の股間に全力で正拳突きを入れるから」

賢者「おおぅ……うちのカミさんは怖すぎる」

僧侶「貴方に安らかな眠りが訪れますよう、祈りを捧げますね…」

武道家「ありがとう…貴方達の旅も、滞りなく進むように、見守っているわ」

武道家「それじゃあ……また、ね…」

……… …… …


賢者「………」

盗賊「…おい、オッサン。どうせこれからも飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ」

僧侶「あ!わ!私も!私もお付き合いしますっ!」

盗賊「テメーはダメだ、クソアマ」

僧侶「ななななんで!なんでえー!?」

賢者「ははは…ありがとうね、2人とも。よっし!!それじゃあ飲むとしますかー!」

村長「やった~、お酒のおかわり持ってきて~」


宴は盛り上がり、遅くまで続いた……

そして、夜が明けた !

賢者「うーん!あんなに飲んだのに、やたらスッキリしているなあ。まったく、何もかも不思議な村だ」

僧侶「何もかもが不思議で、……美しいものがいっぱいの村でした。夢の中ってこんな感じですよね」

村長「魔王を倒すまで、大変な道のりだろうけど、気をつけてね~。癒しが必要になったら、いつでも立ち寄ってよ~」

エルフ「これは私達が調合した妖精の回復薬よ。話を聞くと、既に飲んだ事があるようだから、効果は知っているだろうけど…傷を癒し、力を生んでくれるわ」

盗賊「お、こいつは有り難ぇ。助かるぜ、すまねーな。大事に使うわ」

僧侶「…あの薬を飲んだら、また盗賊さんが鬼に……ひいぃ」ガタガタ

妖精「短かったけど、貴方達と過ごした時間はとても楽しかった。こんな喜びがずっと続くように…魔王討伐、よろしく頼むわね」

妖精「魔王を倒したら、必ずうちの村に遊びに来てね?待っているから」チュッ

盗賊「お、おい。額に…」

妖精「貴方も」チュッ

僧侶「あら、うふふ」

妖精「オジサンにも」チュッ

賢者「はは、照れちゃうな」

村長「妖精のキスは幸運を招くんだよ~。貴重なものなんだからね~」

妖精「絶対、絶対よ?約束ね。私達は約束を何よりも大事にするんだから。必ず帰ってきてね」

僧侶「はい!約束です!」

エルフ「いってらっしゃい、人間達。神と精霊のご加護がありますように…」

村長「いってらっしゃ~い、気をつけてね~」


盗賊「ったく、最後に恥ずかしい事をしやがって」

僧侶「ふふっ、盗賊さんと妖精さん、まるで兄妹みたいでしたよ?」

盗賊「あんな妹、持った覚えはねーよ。バカ」

賢者「さてさて、魔法の街か~。何年ぶりだろうなあ」

僧侶「そ、そんなに長い間帰っていなかったんですか?」

賢者「まあね、若い頃旅に出たっきりだからさ。なんだっけ、魔法の街にある塔だっけ。それは多分、修行に使う封印の塔の事だろうな」

賢者「聖騎士の王国にある修行の塔と対を為す、魔法の街の封印の塔。この地のシンボルでもあるんだよ」

盗賊「塔にゃ一体何があるんだ?お宝か?」

賢者「修行に使う時は、大体修行する者の師匠が、塔の最上階に免許皆伝の証とかを置いて、途中途中に召喚獣を配置し、弟子の力を試すんだ」

賢者「けど、オッサンが街にいた頃から、見慣れない魔物が住み着き始めてねえ…塔から出てくることはないんだけど、危ないからって封鎖されたんだよなー」

盗賊「今更魔物にビビる事はねーが…何をやらされんだか、さっぱり想像つかねー」

~魔法の街・夜~

僧侶「着くまでに丸一日かかっちゃいましたね…」

賢者「うーん、懐かしいな~この魔法薬を煮込んでいるニオイ……臭っ!目にしみる!!ああ変わってない、なんにも!」

盗賊「あそこの家から、やたら煙が吹き出しているが…火事かってレベルだぞ?」

賢者「この街は大体みんなそうさ。どの家でも魔法薬を作り、実験を重ねる。魔法文明を研究し、発展させた街だからね」

ドッガァァン!!

僧侶「うわひゃあああ!!?いっいっ家が!家が爆発しましたよう~!?」

研究者「ゴホッ、ゴホッ!配分を間違えた……お?賢者じゃないか。帰ってきたのか」ガラガラ

賢者「よォ、相変わらず派手だな、お前ん家は。まあ日常、日常!ハッハッハ!」

盗賊「どんな日常だよ、ったく…長居してたら命をいくつも落としそうな街だな」

賢者「今日はもう遅いから、俺ん家に泊まっていきなよ。…まだ家があるといいんだがね~。とっくに爆発してたりしてなぁ」

・・・

盗賊「クソオヤジの家が残っていたのはいいが…スゲー散らかりすぎだろ!あちこちに本や得体の知れない瓶が転がって、歩き辛いったら無いわ!」

賢者「おかえり、風呂の湯加減どうだった?」

盗賊「クソアマの次だったからな、大分冷めていたぜ。もう一度沸かした方がいいだろう……つーか風呂にも本が積まれていたんだが。傷むぞ、あれじゃ」

賢者「置き場が無いから仕方ないんだよ。さて、それじゃあ俺もひとっ風呂浴びるとしますか」

盗賊「……おい、そのクソアマはどこに行った?」

賢者「無人だけど、教会もあるって教えたら、そこに行くって出ていったよ?」

盗賊「…どこが爆発するのかわからねーこの街で、フラフラ出歩くとか…バカ極まれりだな。チッ…迎えに行くか…」

賢者「あー、そうそう。いい機会だから、ちょっと聞きなさい、兄ちゃん」

盗賊「なんだよ?急に改まってよ」

賢者「…あのさー、兄ちゃんは、お嬢ちゃんの事、仲間とか利害関係とかそれ以上の…まあようするにだ、好きなのかな?嫌いなのかな?」

盗賊「………はあ?何べん言わせりゃわかるんだ、俺とクソアマはそんなんじゃないって……」

賢者「うーん、いや…オッサンもね~今までそうやって意地を張ったり、気持ちを押し込めたりしていたからさー。でも、あのエルフの村で漸く、素直になれたでしょ?……何もかも遅かったんだけどね」

賢者「兄ちゃんさ、人生ここぞってタイミングは逃したらダメだよ。若いからこそ、走る早さも力もあるから、通りすぎちゃう人間は多いけど」

賢者「兄ちゃんは、若い頃の俺に似ているからな。だからねぇ、なんとなく…お節介焼きたくなるんだな。…失ってからじゃ遅いって事を忘れちゃダメだよ。これから魔王と対決しようってんなら、尚更ね」

盗賊「………」

賢者「さてと。お節介はここまでだ、オッサンは風呂に入ってくるから、兄ちゃんは早くお嬢ちゃんを迎えに行ってやんなさい。もう夜遅いし」

盗賊「………ああ」

賢者「あ、そうそう」

盗賊「?」

賢者「…風呂から出たら、俺はさっき会った友人、研究者の家に行くから。キメるんなら、この家を使って構わないからさ?ご無沙汰が解消されるよう、まあ頑張んなさいよ」ニヤニヤ

盗賊「死ね!クソオヤジ!!お節介は終わったんじゃねーのかよ!!」

賢者「事が済んだら掃除と空気の入れ換えは忘れずにな、マナーだから、マナー」

盗賊「本当に死ね!!!」


盗賊「ったく、馬鹿馬鹿しい…どいつもこいつも。この俺が、あんな小便臭いガキに、あるかそんなん…」スタスタ

盗賊「………ふん、散らかり放題の街でも、花だけは綺麗に咲いてんだな」

盗賊「………」

ウマイッ! テーレッテレー♪
芋煮には牛すじを入れてください。

エロ投下してもいいものなのか…板的にじゃなく、需要的というか。
読んでくださる方々的にオーケーなら、全部書き終わったあとにオマケとして投下しようかとは思っています。

~教会~

僧侶「………」

盗賊「おい、クソアマ。寝るんならベッドで寝やがれ、マジにだらしない女だな、お前は」

僧侶「寝ているんじゃなくって、お祈りしてるんですよう!…明日じゃないですか…塔で為すべきことを終えたら、ついに勇者様とお会いできる」

僧侶「だから、失敗のないように、神様にお願いしていたのですよ。私達をお守りください、って。魔物もいるみたい、ですから…」

盗賊「ふん。姿形の見えないもんに祈るくらいより、自分の力を信じる方がいいと思うけどな」

僧侶「私、落ちこぼれですから……で、でも、魔物が出てきても、盗賊さんの邪魔にならないよう、頑張りますからねっ!?」

盗賊「いや、お前は絶対邪魔になるし足手まといになるね」

僧侶「ううう~っ!!」

僧侶「…でも、本当に、そうなんですよねえ……私、回復魔法も使えないし…戦いだって、全然だし…」

僧侶「こんな私なのに、なんで…勇者様の仲間だって、選んじゃったんでしょう、神様は……勇者様に、ご迷惑が…かかったらと思うと」

盗賊「バーカ。今まで散々俺に迷惑をかけてきた奴が言える台詞かよ」

僧侶「うう!」

盗賊「…忘れてんじゃねーよ、バカ。今まで何度も発破かけてやっただろ、右から左に流しやがって」

盗賊「いつまでもウジウジしてんじゃねえ、鬱陶しい。…言ったろ、回復魔法だって、そのうち使えるようにならァ。テメーが頑張らないでどうすんだよ?神様とやらを信じる前に、自分を信じろよな、自分を」

僧侶「………」

僧侶「………自分……」

僧侶「…神に、己に、癒したい相手に……祈り、自覚し、捧げる…自覚……」

盗賊「……ツケも溜まってっからな?テメーが回復魔法を使えるようになったら、まとめて返せよ。今までの苦労を」

僧侶「…ずうっと使えなかったら……どうなるんですかねえ?」

盗賊「……おい」

僧侶「あ、もう落ち込んでいるわけじゃないです!…盗賊さんは、乱暴だし意地悪だけど……たくさん励ましてくれたり、憎まれ口叩いても、守ってくれたり…すっごい感謝してる、ですよ」

僧侶「でも…この先も、ずっと、ずうっと何もできなかったら……私は、辞退した方が、ためになるんじゃないかなって…」

僧侶「そうしたら、盗賊さんにも、勇者様にも、ご迷惑かからないですし……賢者さんとかに、代わってもらうとか…その方が」

盗賊「落ち込んでんだろーが、このクソアマ」ビシッ

僧侶「痛ぁ!?いきなり、でこぴんしないでくださいよう!」

盗賊「ずっと使えないとかねーよ。絶対使える。俺はツケを許した相手を逃がした事はない、必ず払ってもらうぜ」

盗賊「テメーがテメーを信じないなら、信じられるまで、代わりに俺がお前を信じてやる」

僧侶「!! と、盗賊さん」

盗賊「バカでグズでドジでノロマでマヌケで、もうひとつおまけにトラブルメーカー、ウザいわ、すぐへこむわ、ギャーギャーうるせーわ、本っ当~に!どうしようもないクソアマだが」

僧侶「…あの、励ます時は励ますだけにしてもらえないですかねぇ…」

盗賊「…お前ならやれるさ。回復魔法だろーが、なんだろうが。できるって信じてやる」

盗賊「まあ、クソアマだからな。それでもどうしてもできなかった時は…」

僧侶「………」

盗賊「………」

盗賊「俺がお前を守ってやるよ。できるまで、ずっと」

僧侶「………」

僧侶「………ずっと?」

盗賊「ああ、ずっと」

僧侶「ずっと使えなくても?」

盗賊「テメーが使えない奴なのは、俺が一番よく知っている」

僧侶「………おばあちゃんになっても、使えなくても…?」

盗賊「お前が死んでも生まれ変わってもだ」

僧侶「………!!!」

盗賊「…ケッ。テメーの面倒は、もう俺にしか見られねーだろうしな。もし、奇跡が起きたとしても、まあ…ずっと守ってやるわ」

僧侶「あ!ああああの!あのっ!!そ、そっそっそっ……それ!それって、どどどどどどういう意味なんでしょうか!!?」

盗賊「どもりすぎだ、バカ。自分で考えろよバカ」

僧侶「ででででも!!でっできれば、できれば…盗賊さんの口から、聞きたいです…!」

盗賊「ウザってーな。サービスでヒントだけやる」スッ

僧侶「…!わあ……お花の指輪…?こ、これ、盗賊さんが編んだんですか?器用なんですね…」

盗賊「まあな。気が向いたら、本物を用意してやってもいい」

僧侶「…あ……あ、あり…ありがとう、ござ、います…!!ありがとう、ございます…!!」

盗賊「ただし。勇者がテメーを叱咤する時だけは庇わないぜ。…結構厳しそうだしな、勇者は」

僧侶「ううん!大丈夫です、勇者様を落胆させるわけにはいきませんっ!!私、頑張ります!」

盗賊「俺も落胆させんなよ?…ほら、帰ぇーるぞクソアマ。少しでも体を休めねーとだしよ」

僧侶「あ、あの、あの!ひとつだけ、お願いが!」

盗賊「あぁ?ウゼーな、手短にしやがれ」

僧侶「あの、もう、クソアマはやめて、名前で呼んでもらえないでしょうか…!?ひ、浸るに浸れないですし…」

盗賊「調子に乗るな、バカが」

僧侶「ううう~!盗賊さんの方がバカぁ!!」

盗賊「…まあ、ここぞって時になら、呼んでやってもいいけどな」

~翌朝~

賢者「やあやあ若人達よ、昨晩はよく眠れたかなー?元気ですかーっ」

僧侶「はい、元気ですぅ~っ!」

盗賊「なんだこの茶番劇」

賢者「………」ニヤニヤニヤ

盗賊「そしてあのクソオヤジの目をブッ潰したい」

研究者「よう。あんたら、あの封印の塔に入るんだってな。ならこれを持っていけ」

僧侶「わっ、新しいメイスですか?盗賊さんにも短剣がありますよ!」

研究者「俺は魔法武具にも興味があってな、色々作ってんだが…丁度良いテストになりそうだし。そのメイスは祈りの力に作用して攻撃力が増すはず。短剣は斬りつけるたびに魔力を奪う効果があるはずだ」

盗賊「いちいち"はず"ってつけんな、不安が加速するんだが」

賢者「俺からはコレを、爆破魔法を詰めた魔法石だよ。投げつければ爆発するから、気をつけて使いなさいね」

僧侶「武器に、魔法石に、回復薬!これで準備万端ですねっ、ありがとうございます~!」

賢者「なあなあ兄ちゃん」

盗賊「んだよ、クソオヤジ。馴れ馴れしく肩を組むな」

賢者「お嬢ちゃん、随分ご機嫌じゃない?女は誰しも精気を吸い取る小悪魔だからなあ……うんうん、オジサン色々お察ししちゃうんだけど!帰ったら話聞かs」バゴォォン!!

研究者「…魔法石はきちんと効果が出る事が証明されたな。他の魔法も詰められるか、更に研究するとしよう」

僧侶「けっ賢者さーん!?ダメですよ盗賊さん、賢者さんに魔法石投げたら~!」

賢者「」プスプス…

盗賊「いいからさっさと行くぞクソアマ!!あとそこのクソメガネ!その色ボケクソオヤジを埋めとけ!!」

研究者「…クソメガネって俺の事か?」

賢者「お前しかいないだろ。…2人とも、気をつけていってらっしゃいねー」

~封印の塔~

僧侶「はあ、ふう……はあ、…た、高い塔ですねえ…てっぺんにまだつかないなんて…」

盗賊「…外から見たらそうでもなかったのにな。もしかすると、幻惑魔法が塔全体にかかっているのかもしれねェ。元々修行目的の塔らしいしな…」

僧侶「あ、足が……足がパンパンです…ふう、ふう…」

盗賊「まいったな、この幻惑魔法を解除しねーと、いくら登っても、まさに無駄足だぜ。一旦引き返すか…?クソオヤジに魔法解除できる道具がないか聞くとか」

僧侶「………あれ?盗賊さん…盗賊さんの荷物が、なんか光ってますよ?」

盗賊「あ?なんだ?光るようなもんなんか持ってねーぞ、俺」ゴソゴソ

盗賊「………!?…氷の洞窟から持ってきた宝玉が、光ってやがる」

僧侶「で、でもそれって確か、もう魔力反応はないって、妖精さん、言ってましたよね…?」

―― パアアアアッッ!!

盗賊「うわっ!?」

僧侶「きゃあっ!ま、眩しい……」

・・・

盗賊「な…なんだ?今のすげえ輝きは……また光らなくなっちまったぞ、この宝玉」

僧侶「うう、目がチカチカしますぅ…、…あ、あれっ?あれえ?とっ盗賊さん!てっぺんが!天井がありますよ!?」

盗賊「な!?…この宝玉が幻惑魔法を解除したのか?…謎が多いな、こいつは。まあ、今はさておき。先が見えるんだ、さっさと進んじまおう」

僧侶「あんなに階段を昇ったのに、実際は一階ぶんくらいしか進んでなかったんですねぇ…もー、この疲れをどうしてくれるんですかあ~!!」

盗賊「……最上階だ、…扉があるな、鍵は掛かって…いる。ま、俺にかかれば子供騙しってところだ」ガチャガチャ

ギイイイィィ…

雰囲気か…そうですね、ナシの方向でいきます。
どちらにしろ、まずは本文を全部終わらせてからで。

ご回答ありがとうございました!

盗賊「………?なんだ…?やたら広い部屋に玉座が、……誰かいるぞ」

僧侶「ね、ねえ、盗賊さん…あの、玉座の傍にある台座……宝玉が置かれていますよ?あっちは、赤い宝玉ですけど…」

魔将「………来たか!」

僧侶「きゃ!?」

魔将「ついに!ついについについに!!来たかッ!!この日をどれ程待ちわびたことか!また貴様を殺せると思うと!この魔槍に貴様の血を吸わせられるのだと思うと!!我が身が喜びに震えるぞ、―― 聖騎士よ!!」

盗賊「……は、…はあ?俺の事かよ?何言ってんだコイツ…誰と間違えてやがる」

魔将「姿は変わっても、その魂の残り香は隠せぬものよ!しかし変わらぬな、貴様らは弱者同士、身を寄せ合う。貴様は邪魔をするでないぞ、魔導師!!」

僧侶「………え?はい?わ、私?私ですか?え?私が、魔導師?」

盗賊「マジに何を言ってやがんだ、この全身鎧野郎は」

魔将「オオオオッッ!!」ズバババッ

盗賊「うお!!」

僧侶「きゃあっ!!」

魔将「ぬうっ、我の槍を避けたか……相変わらずの身のこなし!何百年経とうとも、変わらぬな!!聖騎士よ!」

盗賊「だから俺はその聖騎士じゃねーよ!!なんなんだ、テメーはぁ!!」

僧侶「あ、あんなに大きくて、太い槍なのに…軽々振り回すなんて、お化けですぅ…!」

魔将「フハハハハ!!そら、そらそらそらぁぁぁっっ!!」ブン! ブォン!!

盗賊「チッ!話を聞けよ、この野郎!!…槍相手じゃ、俺達の武器だと不利だ……懐に入るなりして、距離を詰めねーと。勿体無いが回復薬で攻撃力を上げるか…」

盗賊「おい、クソアマ!クソオヤジから貰った魔法石だ!あれを投げて隙を作れ!!」

僧侶「ま、魔法石!魔法石!!えっと、えっと!!…あった!えいっ!!」ブンッ

魔将「ぬうっ?小石か?―― ぬお!?」ズガァァン!!

魔将「ぬうう……爆薬か…?なんと小賢しい真似を、……ハッ!?」

盗賊「爆薬じゃねーよ、オッサン印の魔法石だ!!」ガキィン!

ゴトンッ

魔将「ほう、懐に入るその速さ、我の兜を剥ぐ短剣の突き上げ……衰えてはおらぬようだな、聖騎士よ…」

僧侶「ひいっ!?」

盗賊「な……なんだ、テメー…その顔……ミイラじゃねーか!!」

魔将「何を驚いておる?我が死んだのは、とうの昔。聖騎士、貴様が生まれるよりも遥か昔の事」

魔将「しかし我は甦った、亡者として!魔王様の素晴らしきお力により、我は甦ったのだ、地獄の底から!!フハハハハ素晴らしい!魔王様のお力のなんと素晴らしい事か!!」

魔将「溢れる力は抑えられぬ!我は欲する、肉を!血を!!魂を!!聖騎士、我と戦え!その血を再び魔槍に注げぇぇぃぃ!!」

僧侶「まおう?魔王…、の、仲間なんですか?貴方は……」

盗賊「何を一人で盛り上がってんだか、勘違い野郎が。…おい、クソアマ。魔法石はあといくつある?」

僧侶「え、えっと、貰ったのは全部で5つなので…残りはあと3つです」

盗賊「んじゃ、もう一発投げろ。あの勘違い野郎が槍を振った時を狙え。テメー自身が槍に当たらないよう、距離は取れよ」

盗賊「魔法石、ひとつ貰うぜ」ヒョイ

僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん…!」


魔将「我にその血を捧げよ、聖騎士ィィィィ!!」ドウッ!!

盗賊「御免被る、ってんだよ!!」ドゴォォン!!

魔将「小賢しい!小賢しい、小賢しい!!魔法石とやらを床に投げて、煙幕を焚いたつもりか?二度は通じぬわ!」

魔将「そこだ!!」

盗賊「ぐえッ!!」ガシッ

魔将「フフハハハ…煙に紛れ跳躍し、我の顔をその短剣で刺そうとの試みか。悪くはない、しかし力が足りなかったな」

盗賊「ぐ……!首が…折れる……!!」メキメキメキ

僧侶「盗賊さんっ!!」

盗賊「…まだ、だ…まだ待て、クソアマ」

盗賊「……おい、勘違い野郎…俺の武器が短剣だけだと、思っていたら大間違いだぜ?」

魔将「ぬうっ?」

盗賊「…ッのやろ!!」ガツッ

魔将「!! 鎧の継ぎ目に…剣を突き立ておって!」

盗賊「硬い奴は関節が弱点、てな…深く刺さらずとも、首を絞める力さえ緩みゃ、手から抜け出せんだよ!」

魔将「聖騎士ィィッ!!」

僧侶「槍を突き出した…!い、今だ!えいっ!!」ブンッ

魔将「言った筈だ、二度は効かぬ!!」バシィ

ドゴォォォンン!!

僧侶「ああッ!は、弾かれて、見当違いのところで爆発しちゃった…!!」

盗賊「だが!小さくても、隙は隙なんだよ!!うおりゃああぁっ!!!」ザグッッ!!

魔将「グワアアァァァ~ッッ!!?我の!目があぁぁっ!!」

魔将「グオォォ……こ、これは…何だ…!力が抜ける……!!刺さる短剣が、我の魔力を吸い取る…!?」

魔将「小癪なぁっ!!」ズボッ ガシャン

盗賊「あのクソメガネ、やるじゃねーか。ちゃんと機能したぜ、あの短剣」

僧侶「魔王の力……魔力を吸い取ったから、ダメージがあったんですね…!」

魔将「ヌヌウウゥ……」

魔将「魔王様より頂いた力を…このようなナマクラに奪われるとは……不覚!」

魔将「まず狙うは聖騎士にあらず……ちょこまかと目障りな貴様からであったか、魔導師…」

魔将「まず貴様を仕留め、力の半減した聖騎士を次に殺すべきであったわ!!」グオォッ!!

僧侶「えっ?き…きゃあああ!!?」

盗賊「クソアマぁっ!!」

―― ピカッッ!

魔将「ぬ!?この光は!?」ジュウウゥッ

魔将「ギャアアアア!!ひ、光が!光が、我の体を焼くぅぅっ!!?」

盗賊「…台座の、赤い宝玉が……」

僧侶「光って……、……!?」キィィーン!

僧侶「な、なに?なに?あ、あ、頭が…頭の奥が、響く…」

宝玉『…あたしができるのは、ここまでだ。早く、あいつが捨てた短剣を拾って、もう一度、あいつを刺しな!』

僧侶「だ…誰?誰なの?誰か、いるの?」

盗賊「なんだかよくわからねェが、青も赤も便利だってこたァわかった…これはチャンスだ!もう一度顔面に喰らわせてやる!」ダッ

魔将「させるかあああ!!!」

僧侶「さ、最後の魔法石ですよ!」ブンッ

ドカァァン!!

魔将「ぐ…足下に!!」グラッ

盗賊「この短剣、イイ味してんだろ?正直言うと、俺も驚いてんだがな…」

盗賊「だから、おかわりをくれてやるよ!!しっかり噛み締めろや!!」ズドゥッ!!

魔将「グボアァッ…!!」ドザァッ…

盗賊「…へっ。口ん中に突き立ててやったぜ。お粗末さん、と」

僧侶「は……はああぁ…か、勝った…?ん、ですよね……こ、怖かった」ヘナヘナ

盗賊「貰った道具がなかったら、わけのわからないまま殺されていたな。…やれやれ…こいつが塔に現れた魔物なのかね」

僧侶「…魔王に力を貰った、って言っていましたね……魔王は、ずっと昔に死んだ人も、甦らせて、配下にできるんですね…」

僧侶「そ、そういえば、さっきの声はなんだったんだろ?他にも誰かいるのかな…確か、こっちの方から…宝玉の方から…」

盗賊「…おい、勘違い野郎の傍を不用意に歩くなよ、危ねーぞ……」

魔将「 」クワァ

魔将「―― こ゛の゛程度で、我が死゛ぬ゛か゛ぁぁぁぁ!!!」

僧侶「!!? き、きゃあああああ!?」




―― ドズッッ…






ボタッ!! ボタボタッ…


魔将「……ハハハハハ…血だ…血が……我を満たす…潤す……癒える…!」

魔将「温かい……温かいぞ、貴様の臓物の温かさ、柔らかさ、脈動!全てを感じるぞ、フハハハハ!!ハハハハハハ!!!」

魔将「昔も、今も!貴様は本当に変わらぬな…ちっとも変わってはおらんなぁぁ、―― その女を庇って、我に殺されるところ!!全く変わっておらぬぞ!!」

魔将「なあ、聖騎士!!我の腕に腹を貫かれ、溢れ出る貴様の血は、まるで滝の如しよ!ハーッハッハッハッハー!!」


盗賊「……ゴボッ!!げぼ、……っ………」ビチャビチャ


僧侶「いっ、」


僧侶「いやああああああああああ!!!!」

盗賊「ッ」ドサッ

僧侶「いやああああ!!ああああああああーっっ!!!」

僧侶「盗賊さん!!盗賊さん、盗賊さん盗賊さん!!いやあああっ!!」ガクガク

魔将「フハハハハハ!!昔も!今も!!これからも!!貴様を殺すのは我だ!!貴様は我の食糧だ、フハーッハハハーッ!!」


僧侶「――」プツッ


僧侶「………せ」

魔将「フハハ……、…む…?」

僧侶「………かえせ」グッ



僧侶「返せッ!!!」

僧侶「その肉は盗賊さんのだ!その血は盗賊さんのだ!!返せ!返せよ!!!」

僧侶「お前なんかに!一欠片も、一滴も、くれてやるものか!!返せ!盗賊さんの肉を!血を返せえええぇッッ!!!」ブォンッ!!

魔将「ぬ!?ぬうっ!!ぐ…!!?」ゴッ! ドゴ! ガツッ!!

魔将「な…なんだ、これは…!?こんな…小娘の力とは思えぬ……!どんどん、打つ強さが増してゆく!?」ガンッ! バコッ!

僧侶「うわあああああああ!!!」

僧侶「お前が!お前が!!お前が奪ったから!!お前があああぁぁ!!」

僧侶「肉を返せ!血を返せ!!盗賊さんを返せぇぇぇぇ!!!」

魔将「こ!こいつ!!」バシッ

僧侶「ぎゃっ!!」ガツッ

僧侶「げほっ!……ゆ…ゆるさない…許さない、許さない、許さない!!お前だけは許さない!!!」

僧侶「お前だけは、絶対に!!許さないぃッ!!!」ゴアッ!!

魔将「…!!そのメイスか…!まるで黒い炎が吹き出しているかのような……我への怒りや憎しみを、力と変えているのか!!」

僧侶「うわあああああああ!!!」ドッ!!

魔将「ぐおっ…!!」ドフッ

僧侶「ああああああ!!!」ガン! ガン!! ガンッ!!

僧侶「お前が!お前が殺したんだ!!返せよ!!盗賊さんを返せえぇ!!」ガンッ!! -- バキャッ!

魔将「ぐふっ…!メイスの、柄が折れたか……うぐ!!」ゴツッ!!

魔将「す、素手で!この我が!小娘ごときの素手で!!顔を殴られる、など…!!」ゴツ! バキッ!!

僧侶「うわあああああああーッッッ!!!」

魔将「(口に刺さっている短剣が…喉奥にめり込む!!)」ズグッ! ズブ!

魔将「なんたる、屈辱…!!この、我が……貴様ごときにぃぃぃぃ!!!」


グジャッ!!


僧侶「――……っはあ!はあ!!はあ…!!」

僧侶「う…うっ、う……うわあああん!!」

僧侶「返して…返してよおっ……!!盗賊さんの肉も、血も、命も……!盗賊さんを、返してよぉぉ…!!」

僧侶「うっうっ…うっ……、…」

僧侶「…だいじょうぶ…大丈夫、まだ、間に合う……」

僧侶「元に戻せば、大丈夫……」フラッ

僧侶「…盗賊さん…盗賊さん、盗賊さん」

盗賊「………、……」ゴポッ

僧侶「大丈夫…すぐ、戻してあげます、から…お肉も、血も、集めて、きましたから、ね?ねっ?」

僧侶「だから、大丈夫…大丈夫ですよ、元に戻せば、だいじょう、ぶ……?」ペタッ…

盗賊「………」ナデ ナデ

僧侶「…う、動いちゃ、だめ…!頭、な、撫でて、くれるの、嬉しいけど……今は、うごかないで…!」

盗賊「……、…、………」

僧侶「っあ……?」

盗賊「………」ニッ


―― "僧侶"。


僧侶「……ああああ……あああっ…!!う゛ああああああーっ!!!」

―― ピカッ…

宝玉『…なんてこった……あたし達の時よりも、魔力が多かった…あの一撃で死ななかったなんて……』

宝玉『魔王は、更に力を増しているの…?運命は、覆せないの…!』

僧侶「……っ、だれ…?」

宝玉『…ここだよ。あたしはここにいる。宝玉の中に、封じられた……』

魔導師『あたしは魔導師。あんたの昔の姿。遠く遠く…遥か昔の姿……』

僧侶「…!?宝玉から……人の姿が…武道家さんみたいな、……でも、赤い…亡霊…?」

魔導師『ごめん…あんなに強くなっていたなんて、知らなかったの。守ってやれなかった…あたしは……また聖騎士を守れなかったんだね』

魔導師『守りたくて……転生をも選んだのに…こんな、事って…!』

僧侶「な…なに……?何を、言っているの…?」

魔導師『…あたしは、あんたの昔の姿よ。あたし達は…あたしと聖騎士、シスター、そして勇者は、神託を受けて、魔王討伐に向かったんだ』

魔導師『昔、遥か昔の事だよ。…魔王とその配下、四天王と対峙し、対決し……そして、あたし達は負けた』

魔導師『あたし達のダメージも大きくて。最初に、みんなを癒せるシスターが殺された。次に、あたし達の盾になって、聖騎士が殺された』

魔導師『残ったあたしと勇者は、からくも魔王を追い詰めたけど……あたし達も…もう辛くて、…辛くて……』

魔導師『魔王は取り引きを持ちかけてきた。あたしはそれを飲んだ、次こそ聖騎士を守りたいって、癒したいって思ったから、取り引きに応じたよ』

魔導師『そして、勇者も……勇者は……取り引きを、突っぱねた。魔王を倒さず、明日に希望を託さず』

魔導師『勇者は、世界の破滅を望んだ』

魔導師『あたし達は…魔王に、負けたんだ』

僧侶「………そんな」

魔導師『何故、勇者がそんな事を願ったかわからない。でも、取り引きの時に、勇者はこう言ったよ』

魔導師『こんな世界、いらない』

魔導師『そう勇者が破滅を願った事で、絶望の力で、魔王を少しだけ回復させてしまった』

魔導師『あたし達の力は奪われ、宝玉に閉じ込められた。そして抜け殻だけが転生してしまったんだ。それが今のあんた達だよ』

僧侶「………」

魔導師『まあ…回復したといっても、微量ではあったから、魔王もそのまま眠りについたようだが』

魔導師『最近になって力を回復し、甦った。あんなにも…配下に強大な力を与えられる余裕まで持って』

魔導師『神はかつて魔王を追い詰めた、あたし達の抜け殻を探し、神託を与え、あたし達の力を得るべく導いたようだが…』

魔導師『……結局…ダメだった、ね……』

魔導師『あんた達、青の宝玉を持っているだろ?』

僧侶「……はい…と、盗賊さんが、……持って、ます」

魔導師『青の宝玉には、聖騎士が閉じ込められてんだ。…こんな時に、すまないけど…彼に会わせちゃくれない、かな』

僧侶「………」ゴソゴソ スッ

魔導師『ありがとう』

魔導師『…やっと会えた……ごめんね、あんたにばかり、傷を負わせて…痛かったろ』

魔導師『聖騎士……あの魔将に殺られたから、より魔の力に飲まれてんだね。自分が自分だとわかっていない…消えかかっている』

魔導師『ごめんね……あんたを守れなくて、癒せなくて、ごめんね。あたし……シスターが羨ましかったよ…あたしは、あんたの剣になるより……あんたの盾に、薬に…なりたかったよ…』

僧侶「………」

魔導師『……言ったように、今のあんた達は抜け殻だ。けれど、あたし達を受け入れれば、力を得る事ができる。あんたなら、すべての回復呪文を使えるようになるだろう』

僧侶「!! じゃ、じゃあ……盗賊さんを、生き返らせる…蘇生呪文も……!?」

魔導師『ああ。……さあ、どうする?あんたは、あたしを受け入れてくれる?』

僧侶「それは!それは勿論、………、……いえ、やっぱり…いいです。このままで……」

魔導師『なっ…?』

僧侶「………」

チュッ…

魔導師『! おや、まあ…』

僧侶「…へへ……盗賊さんと、キス、しちゃった…」

僧侶「………でも、よく…キスは、果実の味とか、いうけれど……あれ、嘘、だったんですねえ」

僧侶「だって、血の味でしたもん」

魔導師『………』

魔導師『………そう、だね。…あたしの時も、血の味だったよ』

~封印の塔・外~

賢者「………」ソワソワ

研究者「少し落ち着け。さっきから塔の入口前でウロウロとして。茶でも飲め」

賢者「イモリの黒焼き茶だろ?いらないよ…このゲテモノ好きめ」

賢者「…2人とも大丈夫かねぇ……やっぱり、こっそりと付いていけば良かったかな…」ウロウロ

研究者「保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う」

研究者「保護者なら、成長を見守る事を第一にすべきだ。可愛い子は谷に突き落とせ、と言うし」

賢者「混ぜちゃいけないものを混ぜるから、爆発するんだよ。お前はさあ…」

研究者「………?」

研究者「……なんだ?あれは……塔の最上階に、光が…」

研究者「………天使……?」

~封印の塔・最上階~

僧侶「盗賊さんは、私を信じてくれている」

僧侶「だから私も自分を信じます」

僧侶「いつか、使えるようになる。回復呪文が使えるようになる」

僧侶「溜まっているツケを返さなきゃ」

僧侶「それが……今なんだ!!」カッ

魔導師『―― この、力は…!』

僧侶「私なら、できる!私が盗賊さんを助ける!」

僧侶「私が盗賊さんを守る!祈りを捧げて……神様のような、奇跡を…神様の代行として、奇跡を」

僧侶「……私が、起こすんだ!!」

僧侶「神様…お願いします。志半ばに倒れた、この者に……再び立ち上がる力を、勇気を、お与えください!!」

パアアァァッ!!

魔導師『……!!抜け殻の、あんたが…蘇生呪文を……!?』

魔導師『………もしかして、あんた達なら…きっと……』


 『私は、みんなを守る力を得た』

 『だが、自らその力を捨てる事を選んだ』

 『みんなを守りたい。けれど、それ以上に、たった一人を守りたいと思ってしまった時から。欲を生んだ時から、私としての私は、弱くなったのだろう』

 『私は、自由が欲しかった』

 『掟や使命感に縛られず、たった一人を守れるだけの、自由が欲しかった。博愛ではなく、たった一人を愛せる自由を。彼女の傍へ飛べる翼が欲しかった』

 『だから…魔王に屈してしまった』

 『しかし君は私よりも強い。自由である事を選択し、それを得た君なら、きっとやれる』

 『魔将の呪いは私が引き受けよう。さあ…行きたまえ。幸運を手に、自由になったその身体で、……彼女を守り、勇者達を救い、魔王を倒してくれ!』


・・・・・


・・・


・・

~数週間後~

賢者「待たせたな、やっとお前の墓を立てられたよ。居心地はどうだ?」

賢者「…こんな事になるなんて、思わなかった。ってのが、本音だけどな……」

賢者「………」

ドゴォォン!!

研究者「げほっ!!ごほ!!おかしいな……分量は合っていたはずなんだが…材料が足らないのか…?」ガラガラ

賢者「相変わらずだな、お前は。こっちは感傷に浸ってんの~、静かにしてくんない?」

研究者「お前が体験したという、妖精の移動呪文の話をもう一度聞かせろ。いや…それよりも、実際に見て確かめた方が早いか?」

賢者「おい、まず俺の話を聞けよ?」

研究者「………墓か」

研究者「言ったろ、保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う、って」

研究者「なあ?……武道家ちゃん…」


墓碑【武道家、ここに眠る】

賢者「……お前の言う通りだな。格好つけてばかりで、意地を張っていたから、自意識過剰だったから……」

賢者「でも、だーいじょぶだー。彼女は俺の事を見守ってくれているしな。この指輪がそれを教えてくれるのさ」

研究者「…俺は魔法武具にも興味があって、」

賢者「この指輪を対象にしたら、すっごい怒るからね」


研究者「それで?旅立つのは今日だったか」

賢者「ああ。長年の夢と目標だった悟りの書を探しにいく。今度こそ見つけて、武道家に自慢してやるんだ」

僧侶「賢者さーん…!旅の支度、整いましたあー!!」

賢者「おーう、ありがとうねーお嬢ちゃん。じゃ、行ってくるよ。俺のいない間、墓の手入れはよろしく頼んだぜ」

研究者「わかってる。……友人直々の頼みを無下にする程、冷たくもないんだぜ、俺は」

賢者「それじゃあ行きますかー。と言っても、俺は途中の港でお別れだけどな。今も聖騎士の王国にいる、勇者とやらに会ってみたくもあるが……船の時間もあるし」

僧侶「途中まででも、ご一緒できるのは嬉しいですよう!さあ、行きましょ!」

賢者「あ、お嬢ちゃん、いきなり走り出すと、転……」

僧侶「きゃあ!!」ステーン!

賢者「…転ぶよー、と言いたかったが、ハハ、間に合わなかったなー」


 「ぐがっ!?」ゴン!!

―― 盗賊に かいしんのいちげき !

賢者「おお盗賊よ、死んでしまうとは情けな~い、マジ格好悪~い、信じられなぁ~い」

盗賊「死んでねえッ!!つーか何しやがる、このクソアマァッ!!メイスを吹っ飛ばしやがって!!」

僧侶「す、す、すみませんすみません~!!わわ私、ドジで!でも新しいメイスも重たくて……!」

盗賊「ごちゃごちゃ抜かすな!!うぜーんだよ!……いいから早く治せ、コブになっちまう!」

僧侶「は、は、はいぃっ!!回復魔法!……あ、あれ?」

盗賊「…おい、何も起きないんだが」

僧侶「すみません、すみません!私、落ちこぼれだから……まだ安定してないみたいで…!あっ、で、でも、盗賊さんが私の頭を撫で撫でしてくれたら、なんかできる気がするな~…なんて」

盗賊「よーし、撫でてやろう」ゴン! ゴンゴンゴン!!

僧侶「撫でると殴るは全然違う気が!!!つ…ついに、4連発……」ヨロヨロ

賢者「はいはい、夫婦漫才はそこまでにして、そろそろ行くよ~」

盗賊「誰が夫婦だ!!こんな使えねーバカクソアマ!!」

僧侶「盗賊さんの方がバカですよう!オタンコナスぅ!!」

・・・


 「………!!君達は…まさか……、………そうか。やっと、やっと会えたのか…」


 「もう、遅刻だよ、遅刻ー!……えへへ、僕達も気づいていなかったから、おあいこだけど…」


・・・




僧侶「勇者様達と…」



盗賊「合流できた!」



【おしまい】

ベタベタなものを短めに、サクサクやりたいと思いながら、少し長くなってしまいました。

もう少し考えて、広げた風呂敷をたためたら、勇者&魔法使いルートと魔王討伐の話も書こうと思います。


読んでくださった方、本当にありがとうございました。

ありがとうございます!

続編は、書く量によっては新スレを立てようかな、と思ってます。まだ何も書いてないんで、その辺も考えようかと。
もし新スレ立てるなら、ここのurlを貼って立てますので。

読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
それと、完結作スレに貼って頂いた方もありがとうございます。


ちょっとurl貼りテストを
僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1367421263/)


はい、やっぱり新スレ立てさせてもらいました。
魔法使い「魔王を倒す!」 勇者「心配だ…」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1368286581/)


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