男「惚れた相手は幼馴染の母親」 (64)
男「母ちゃん、なんで俺を四十年前に生んでくれなかったんだよ!」
母「四十年前に生まれてたら、あんたは私の子じゃないよ。私も生まれてないし」
男「齢三千の大妖がなに言ってやがる!」
母「大妖だったら面白かったんだけどねぇ。あんたの母ちゃんはただの人間で、残念ながら神通力はないんだ」
男「ちくしょう……」
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母「……はぁ。いい加減諦めなさい。確かに幼馴染ちゃんのお母さんは美人だけど、もう何年も前に結婚してるのよ?」
男「俺が四十年前に生まれてたら……正確には三十八年前に。そしたら、一緒に学校に通ったり出来て、そのまま……ムフフ」
母「あんたみたいな馬鹿が息子で、母ちゃん悲しいよ」
男「妄想くらい良いだろ! 妄想してないとやってらんねぇんだよ! 何年片想いしてると思ってんだ!」
母「もう十一、二年になるかねぇ。あんたが小学生になる直前にお隣さんが引っ越してきたから」
男「そうだよ! 十二年だよ! 出会って速攻、僕と結婚して下さい! って言ってから継続中だよ!」
母「どんだけ一途なんだい、あんた」
男「父ちゃんの息子だからな。母ちゃんみたいなビッチとは違うんだよ」
母「よし、歯を食い縛れ」
男「覚悟は出来てる。いつでも来い――グフッ!」
母「さっさとお風呂に入って来な、愚息」
男「風呂のお湯を全て俺の涙に変えてやる」
母「はいはい」
翌日
幼馴染「おばさん、こんにちは」
母「いらっしゃい、幼馴染ちゃん。で、早速だけど聞くね。幼馴染ちゃんが引きずってるゴミ、今回なにしたの?」
男「ゴミじゃないやい。幼馴染にタコ殴りにされてゴミっぽくなってるだけだもん」
幼馴染「土下座しながら、ペットとして飼って下さい、って私のお母さんに懇願し出したんですよ、このゴミ」
母「いつも迷惑をかけちゃって、本当にごめんね。責任持って、燃えないゴミの日に出しておくから」
幼馴染「よろしくお願いします。では、私はこれで」
母「ちょっと待って。渡したい物があるから」
男「幼母さんへのプレゼントなら俺を――ブヘッ」
母「この馬鹿の戯言は気にしないでね」
幼馴染「慣れてます」
母「助かるわ。じゃあ、すぐに取って来るから」
男「……最近、母ちゃんが俺の頭を踏む事に欠片も躊躇いがねぇ」
幼馴染「生かして貰ってるだけ感謝しなさいよ」
男「くそぅ、俺の味方はここにいねぇのか」
幼馴染「おばさんは凄く良い人なのに、なんで息子のあんたはそんなんなの?」
男「俺、実は川に流されてた所を拾われた養子でな」
幼馴染「早く鬼退治に行って、鬼ヶ島で一生暮らしたらいいんじゃない?」
男「幼母さんの顔が見えない土地なんて、絶対に行かん!」
幼馴染「近くにいても見るな」
男「お前にどんな権限があって、そんな事言えるんだよ」
幼馴染「私の母親だ」
男「娘さん、お母さんを下さい!」
幼馴染「黙れよ、もう」
母「お待たせ。それが変な事しなかった?」
幼馴染「実は川を流れて拾われた養子で、これから鬼退治に行くらしいです」
母「わかった。きびだんごだね? すぐ用意するよ」
男「それを幼母さんに渡して、旅の仲間に……ありだな」
母「ねぇよ。幼馴染ちゃん、はいこれ」
幼馴染「これ、箱から察するにケーキですか?」
母「そうよ。母友から分けて貰ったの。新作だから試食して欲しいってね」
幼馴染「本当ですか! うわぁ、嬉しいな。母友さんの新作を食べられるなんて」
母「ご両親の分も入っているから、分けてあげてね」
幼馴染「はい、ありがとうございます!」
母「お礼なんていいわよ。それより、手厳しい感想、よろしくね」
幼馴染「美味しいって思う意外に感想が浮かぶか心配です。人気店の店長さん直々のケーキなんですから」
母「冗談よ。心から美味しいって思ってくれたら、それはそれで母友は喜ぶからね」
幼馴染「任せて下さい」
母「でも、ちょっとイマイチかなって思ったら遠慮せずに言って。抽象的でも指摘があった方が直し易いって言ってたから」
幼馴染「了解です! では、早速家でお母さんと食べてみます。お父さんも食べ終わったら、電話かメールをしますね」
母「うん、お願い」
幼馴染「お邪魔しました」
母「また来てね」
幼馴染「はーい」
男「話しに入れずに疎外感マックスだったけど、母上よ」
母「なんだい、息子よ」
男「俺のケーキは?」
母「冷蔵庫に入れてるから食べていいよ」
男「母ちゃんはもう食ったの?」
母「お先に」
男「美味かった?」
母「私は結構好みだったかな。甘さも抑えてあったし、後味も悪くなかったから食べ易かったよ」
男「よし、幼母さんに俺の分をおすそ分けに行こう」
母「やめなさい」
男「止めるな」
母「止めるから。数分前の私と幼馴染ちゃんの会話、聞いてなかったのかい? 私はともかく、幼母さんは二つもあげたところで食べられないよ」
男「……仕方ねぇ。なら、母ちゃんにやるよ。美味かったんだろ?」
母「おや? どんな風の吹きまわし?」
男「糖分をたくさん摂取して太ってしまえ」
母「残念。糖分やらカロリーやらをなるべく抑えたものらしいから、二つじゃ希望に添えられるような体格にならないよ」
男「真面目に答えんな。本気でそんなこと考えてるわけねぇだろ」
母「あんたなら本気で考えてる可能性の方が高いけどね。でも、いいの?」
男「別に良いよ。ケーキは嫌いじゃないけど、煎餅とか葛餅とかの方が好きだし。代わりに棚の歌舞伎揚げ食うから」
母「今度、和菓子も作れないか、母友に聞いてみるよ」
男「よろしくな。んじゃ、着替えて風呂掃除しとくから、飯頼んだ」
母「任された」
翌日
母友「おっ、少年。こんなところで会うなんて、珍しいね」
男「あっ、母友さん。こんにちはです。あとお久しぶりです」
母友「お久しぶり」
男「昨日のケーキ、ありがとうございます。ウチの母ちゃん、喜んで食ってました」
母友「そりゃなによりだね。少年は美味しかったかい?」
男「いえ、美味いって言ってたから、俺は母ちゃんにあげちゃったもんで」
母友「孝行息子だねぇ。母のやつ、嬉しかったろうなぁ。私はちょいと残念だけど」
男「すみません」
母友「気にしないで良いよ」
面白い!
男「ところで、母友さんはどうしてこんなところに? まだお店の営業時間じゃありませんか?」
母友「良い小麦が出来たって話を聞いてね、早朝から地方行って、見て来たのさ。今は店に帰る途中」
男「お忙しそうですね」
母友「苦じゃないけどね」
男「羨ましいですね、苦じゃない忙しさを味わえるのは」
母友「少年も本当に好きな事を見つければ、出来るようになるよ」
男「もし少しだけ時間があれば、その好きな事でちょっと相談してもいいですか?」
母友「おっ、なんだい? お姉さんに言ってみな」
男「人妻ってどうやったら寝取れますか?」
母友「おっと、これまたぶっ飛んでるねぇ。まさかの寝取り話とは。もしかして、いつか話してた幼馴染ちゃんのお母さんの事かな?」
男「はい」
母友「諦めな。他人の幸せぶっ壊したところで、後味が悪くなるだけだよ」
男「でも先日、ペットにして下さい、ってお願いしたところ、お手、って笑顔で言ってくれましたよ? 手に触れる事が出来て、ドキドキしました」
母友「お手したんだ。幼馴染ちゃんのお母さんも、頭が緩そうだねぇ。幼馴染ちゃんの苦労が垣間見えたよ」
男「続いてお代わりをした後、チンチンって言われたので、チャックを開けようとしたところ、幼馴染にボコられました」
母友「うん、警察を呼ばなかった幼馴染ちゃんの優しさに感謝しようか」
男「こんなに深い関係になっても、無理ですか?」
母友「今の話のどこを聞けば深い関係なのか謎だけど、無理だよ。可愛がられているとは思うけどね」
男「でも、簡単に諦める事なんて出来ませんよ……」
母友「だろうねぇ。一番手っ取り早そうなのは、他に好きな子を作る事だと思うけど」
男「あり得ませんね。俺は幼母さん一筋です」
母友「吃驚するくらい一途だね」
男「当然ですよ。好きな人がいるのに脇見するような男じゃありません、俺は」
母友「それは感心。でもね、相手が悪かったよ。幼馴染ちゃんじゃダメなのかい? 血が繋がってるし、将来は幼母さんのようになるんじゃないのかな?」
男「幼馴染ぃ?」
母友「露骨に嫌そうな顔をされちゃったよ」
男「望みはあるかもしれませんが、今はあんなんですから期待値低そうですよ。あいつを選ぶくらいなら、母友さんの方がずっと良いです」
母友「おや? これは嬉しい事言ってくれるじゃないか」
男「そりゃ、こんなに美人さんで暴力も振るわず、性格も素敵な母友さんなら、好きにならないわけがありませんよ」
母友「じゃあ、私の婿さんとしてうちに来るかい?」
男「それは……すみません。俺には幼母さんがいますので」
母友「いや、冗談で言っただけだから。そんなに悲痛そうな表情されたら私が困るよ」
男「母友さんはどうして結婚してないんですか?」
母友「直球だね。すごく直球だねぇ。まぁいいけど」
母友「十代半ばから三十前半まで、お菓子作りやらお店の経営やらで青春ぶっちぎって走ってたからね。寂しい一人身になるのも仕方ないさ」
男「今は多少余裕があるんですよね? 遅くありませんよ。これから青春を謳歌しましょうよ」
母友「もう四十手前。拾ってくれるやつなんていないよ」
男「そんな事ないと思うけどなぁ」
素直にきもいと思える男だなwwwwww
母友「少年が拾ってくれるなら、抵抗せず手を握るけどね」
男「幼母さんと会っていなければ、喜んで手を差し出したのですが」
母友「まっ、そんな話は置いといてだ。私から少年に言えるのは、迷惑だけは掛けちゃ駄目だって事くらいだね」
男「無論です。幼母さんにはいつも笑顔でいて欲しいので」
母友「それなら良いよ。後は好きに生きな。少年の人生なんだから」
男「はい!」
帰宅
男「ただいま~」
父「おう、おかえり」
母「……おかえり」
男「父ちゃん、早いな。もう帰って来たのかよ。また社長さんが怒鳴りながら家に乗り込んで来るぞ?」
父「仕事は昼前に完璧に終わらせている。問題ない。怒るやつは放っておけばいいんだ」
男「さっきじゃなくて、昼頃にはもう帰って来てたのか」
母「……平然と会話してないで、父ちゃんが母ちゃんの腰にくっついてる事に疑問を持ちなよ、あんたは」
男「いつもの事じゃん。母ちゃんに甘えたいんだろ? 好きにさせてやれよ」
父「いい事を言った、息子。そういうわけだ、母ちゃん。まだしばらくはこのままで」
母「お昼食べてからずっとじゃない。いい加減離れなさい」
父「やだ」
母「夕ご飯、作れないでしょ?」
男「俺が適当に作るよ。ちょっと待ってな」
父「今度、特別に父ちゃんの財布から小遣いをやろう」
男「その金を使って、旅行にでも行けよ。夫婦水入らずでな」
父「立派な息子に育って、父ちゃん嬉しいぞ。母ちゃん、どこに行こうか? どこに行っても、くっついたまま離れないけど」
男「両親がいない事を口実に、幼母さんを家に招いて……グフフ」
母「もうやだ、この親子……」
男「そうそう。母ちゃん、帰り道の途中で母友さんに会ったよ。ケーキ美味しかった、って伝えといたから」
母「そう? ありがとね。他になにか言ってた?」
男「俺の人生だから好きに生きろって」
母「……あんた、母友となに話したの?」
男「人妻を寝取るにはどうしたらいいか、って」
母「……みっともなくて涙が出るよ」
父「男」
男「なんだよ、父ちゃん」
父「母ちゃんを悲しませると、息子でも容赦しないからな」
男「好きな人のために必死になる事のどこがいけねぇんだよ。事と次第によっちゃ、父ちゃんと拳を交える事も辞さない」
父「お前が誰を好きになろうと、父ちゃんは応援してやる。けどな、母ちゃんを困らせるな」
男「俺の好きな相手の事で母ちゃんは悩んでるんだ。なら、答えは一つだろ?」
父「いいだろう。拳を握れ、馬鹿息子」
男「かかって来いよ、糞親父」
母「……はぁ。近所迷惑になるから裏山でやって来な、馬鹿共」
父「そういうわけで、場所を移すぞ」
男「そこがてめぇの墓場だ」
父「ぬかしてろ。母ちゃん、ちょっと躾けて来る」
男「行って来ます」
母「二人とも、しばらく帰ってくんな」
学校(調理実習)
男「まっ、こんなもんだな」
幼馴染「中身がアレな癖に、なんで料理とかはこんなに上手なのよ? チキンライスに乗せるオムレツとか、見事過ぎて言葉が出なかったわよ」
男「婿入り修行の賜物だ」
幼馴染「私の家には入れないからね」
男「さて、仕上げにケチャップで、L・O・V・Eっと」
幼馴染「その愛は届かせない」
男「なんの。壁が高いほど愛は燃え上がるってもんだ」
幼馴染「灰になってしまえ」
男「それはそうと、お前のはなんだ?」
幼馴染「……おむらいす」
男「油でドロドロのケチャップご飯の上に、パッサパサでバッラバラで半分黒焦げのスクランブルエッグが乗ってんぞ」
幼馴染「……悪い?」
男「いい加減、家で料理くらいしろよ。幼母さんだけじゃなくて、幼父さんも喜ぶぞ?」
幼馴染「あんただって知ってるでしょ? あなたは学生生活に集中しなさいって言って、やらせてくれないんだもん」
男「勉強は中学の頃からずっと一位だもんな。運動だって、テニスの個人戦でインターハイ優勝。幼母さんがお前を自慢する気もわかるよ」
幼馴染「当然の結果だけどね」
男「でも料理は出来ない」
幼馴染「それはあれよ。ギャップ萌えってやつよ」
男「狙ってやってんのなら、あざといの一言だな」
幼馴染「頑張ってこんなのしか出来なかったの! ちゃんと練習すれば、もっと上手くなるの!」
男「はいはい。ほら、これやるよ」
幼馴染「あんたの、くれるの?」
男「交換してやるだけだ。ほら、そっちのやつ寄越せ」
幼馴染「で、でも、これじゃ……」
男「少し手を加えたら食えるようになるって。そんなわけで、フライパンにドバァ」
幼馴染「どうするの?」
男「水と余った生クリームも入れて、強火で沸騰させる。ついでに、浮いて来た油をなるべく取り除く」
幼馴染「おかゆ? でも、生クリーム入れたし……」
男「で、水分が少なくなったら、生クリームと同じく余ってるチーズを多めに投入。ほい完成」
幼馴染「あぁ、リゾットね」
男「どうせ、濃い目に味付けしたんだろ? 味を薄めるって意味で水、焦げの苦みを紛らわす意味で生クリームとチーズだ」
幼馴染「そういう方法で挽回出来るのね。勉強になったわ」
男「普通にオムライスが出来るのが一番だからな? とりあえず食えるってレベルなだけだし」
幼馴染「わ、わかってるわよ! ほら、さっさとお皿に移しちゃいなさいよ!」
男「失敗したやつが、どうして上から目線なんだよ」
幼馴染「家事の能力以外は、大抵私の方が上だし」
男「今はその家事の能力が問われる授業だけどな」
幼馴染「いただきます! うん、あんたのオムライスは普通に美味しいわよ!」
男「勢いで誤魔化しやがったよ、こいつ……。面倒だから良いけどさ。いただきますっと」
幼馴染「味の方は?」
男「やっぱりまだ苦味は少しあるけど、普通に完食出来そうだな」
幼馴染「そう……えっと、あのね?」
男「ん?」
幼馴染「その……あ、ありがとう」
男「礼なんていらねぇよ。一緒に調理実習する時の恒例だろ? 多めに材料を持って来たのはこのためだし」
幼馴染「私が失敗するのはわかってた、って言い方ね」
男「何年、お前と同じ学校に通ってると思ってんだ?」
幼馴染「ムカつく。ふんだ、いつかあんたに、私の料理が美味しいって言わせてみせるからね」
男「幼母さんと結婚させてくれたら、毎日お前の手調理を美味しいって言って食ってやるよ」
幼馴染「食中毒起こして今すぐ死ね」
男「俺が食ってるの、元はお前の料理って事、忘れてないよな?」
夜、俺の目は人生の中で一番冴えていた。
時計を見る。
二十三時五十分。
後十分。
たった十分で、俺は変わる。
婚姻適齢に達する、十八歳になるんだ。
眠れるわけがない。
けど、周りの連中の言葉がずっと頭に響く。
『いい加減諦めなさい』
『諦めな。他人の幸せぶっ壊したところで、後味が悪くなるだけだよ』
『母ちゃんを困らせるな』
『その愛は届かせない』
わかってんだよ。
馬鹿な俺だって、無理な事くらい。
でも仕方ねぇじゃん。
好きなんだから。
大好きなんだから。
諦められねぇんだよ。
誕生日まであと五分。
やけに時間がゆっくりと感じる。
落ち着いてるのか、緊張してるのか、正直自分でもわからない。
後者だとは思うけど、心臓の音は静かだ。
きっと、その理由は……。
いや、その事を考えるのは止めておこう。
決戦は明日の朝。
幼母さんは、夜明け前から玄関先を箒で掃除するのが日課だ。
そのタイミングで声をかけて言う。
あなたが好きです、って。
ずっと一緒にいて欲しい、って。
……いや、違う。
それじゃダメだ。
幼母さんに伝えるだけじゃ、ダメなんだ。
もう一人、ちゃんと伝えなきゃいけない人がいる。
その人も含めて、二人に言わないと。
怖いなぁ。
本当に怖い。
なんでこんなに鳥肌が立つんだろう。
なんでこんなに震えるんだろう。
なぁ、誰か温めてくれよ。
お願いだから……。
抱えていた膝に顔を押し付けて、俺は腕に力を込めた。
けど、なにも変わらない。
変わるわけがない。
深く吐息を吐きながら、俺は再度壁の時計へ視線を向ける。
五秒前だった。
四、三、二、一……。
男「ハッピーバースディー、俺! ヒャッホーイ! 来たぜ、俺の時代! I am my father!」
母「五月蠅い! 夜中に騒ぐな! あと私は私の父親ですって意味がわかんないから!」
父「母ちゃんの安眠を妨害する者、皆極刑に処す」
男「やってみやがれ糞親父! 今の俺は愛の力で無敵だぜ! ついでにこの前の借りも叩き返してやるよ!」
父「いいだろう。決戦の舞台である裏山に行くぞ」
男「おう!」
母「……寝直そっと」
父ちゃんに殴り倒された後、日が昇る前に山を降りた俺は、予定通り、掃除中の幼母さんに声をかけた。
自分で言うのもあれかもしれないけど、かなり珍しく声が裏返った。
幼母さんに首を傾げられ、様子が変ねぇ、なんて心配される始末。
これはダメだと思い、恥ずかし~、と言って大袈裟に顔を両手で覆うと、幼母さんはいつも通り微笑んでくれた。
でも、ふざけてばかりじゃいられない。
幼母さんに、幼父さんはもう起きているか確認すると、リビングで新聞を読んでるわ、と教えてくれた。
好都合だ。
幼馴染はまだ寝ているそうで、さらに僥倖。
お二人にお話したい事があります、と言うと、幼母さんはすんなり家の中へ通してくれた。
幼父さんとご対面。
俺の父ちゃんとは比べほどにならないほど真面目で、とても優しい幼父さん。
早起きだね、男君、と日が昇るより早く訪問した俺に嫌な顔一つ向ける事さえなく、笑顔を浮かべるほど。
そんな幼父さんに頭を下げる。
正座をして、床に額を擦りつけて。
これは俺がすべき義務なんだから。
そして言った。
初めて会った時から幼母さんの事が好きです! 結婚したいくらい好きです! 好きになってしまって、本当にすみません! って。
頭を下げているからわからないけど、きっと幼母さんは驚いているだろう。
おっとりしている普段からは考えられないほど目を見開いて。
告白した事自体にではなく、幼父さんに謝った事に、だと思うけど。
幼父さんはどうかな?
幼母さんと同じように驚いてる?
それとも、怒ったか?
なんでもいいや。
俺は、俺が言いたいから言っただけなんだから。
結果、俺がどうなっても、どう思われても。
少しして、顔をあげなさい、と幼父さんは言った。
恐る恐るだけど、俺は幼父さんの言葉に従って、床から額を離した。
そして俺が見た幼父さんの表情は――
登校中
男「よう、幼馴染。おはようさん」
幼馴染「おはようじゃないわよ、大バカ。お父さんとお母さんから聞いたけど、なに朝一で人の母親に告白してんの?」
男「いいじゃん。もう終わった事だし」
幼馴染「……思ってたより落ち込んでないわね。お父さんがちゃんとお断りを入れたって言ってたけど」
男「あの人だけには絶対に敵わないってわかったんだよ」
幼馴染「そりゃそうでしょ。私のお父さんよ?」
男「そうだったな」
男(あんなに真っ直ぐで、強くてやさしい顔、俺には出来そうもないもんなぁ……)
幼馴染「まっ、あんたにもいつか良い事があるわよ」
男「良い事かぁ……なんかないか?」
幼馴染「私に聞かないでよ。知らないから、そんなの」
男「無責任なやつめ」
幼馴染「責任を私に押し付けんな。自分で探しなさいよ、そんなの」
男「とは言ってもなぁ……うーん」
幼馴染「……あのさ」
男「うん?」
幼馴染「あんた、受験生でしょ?」
男「お前もな」
幼馴染「私はもう、テニスの推薦で大学はほぼ決まってるもんね」
男「あぁ、そうだったな。この勝ち組め」
幼馴染「勝ち組みよ? それがなにか?」
男「くっそ。普通に悔しい」
幼馴染「それはそれとして、あんたは受験まで勉強漬けになるわけでしょ?」
男「いや、これでも一応受験勉強はしてるんだけど……で、それがどうしたんだ?」
幼馴染「時には息抜きが必要でしょ? だ、だからね。その……時々、テニスにでも誘ってあげるわよ」
男「嫌だけど? 俺、テニスって好きじゃないし」
幼馴染「……」
男「あーあ、なんか良い事ないかなぁ」
幼馴染「死ね!」
男「なんで!?」
母友「やっ、少年。それに幼馴染ちゃんも。二人共、朝早くから元気だねぇ」
幼馴染「お久しぶりです、母友さん。先日、男のお母さんからケーキを頂きましたが、すごく美味しかったです」
母友「そりゃよかった」
男「こんな時間に会うなんて珍しいですね。お店の準備で忙しい時間帯なんじゃないんですか?」
母友「雇ってる連中が、偶には休めってうるさくてね。こうして休日になったってわけ」
幼馴染「どこかに行かれるんですか?」
母友「少年の家に向かってる途中なんだよ、母と遊ぼうと思ってね。これ、お土産の和菓子。多めに作ったから、二人はあとで食べな」
幼馴染「私の分もあるんですか?」
母友「勿論。君のご両親の分もある。安心していいよ」
幼馴染「ありがとうございます! すごく嬉しいです!」
母友「喜んでくれてなによりさ」
男「そうだった。相談に乗ってくれた母友さんには話しておきますね」
母友「ん? なにをだい?」
男「俺、幼母さんの事、諦めました」
母友「……そっか。うん、少年はまだ若い。きっと、良い人に出会えるよ。そうそう、遅れたけど、誕生日おめでとう」
男「覚えててくれたんですか?」
母友「勿論さ。お土産にはプレゼントも入れてるから、楽しみしてていいよ」
男「……」
母友「? どうかした?」
男「……俺、気付きました」
母友「うん? なにに?」
男「母友さん、俺と結婚して下さい!」
母友「いいよ」
男「ありがとうございます!」
母友「でも、ちゃんと大学も卒業して、立派に働く事」
男「俺、頑張ります!」
母友「うん、その意気その意気」
男「勉学に励むため、そろそろ学校に行きますね」
母友「車に気を付けるんだよ」
男「はい!」
幼馴染「………………えっ?」
終わり
読んでくれてありがとう
乙
一途ってそれだけで良いな
乙
…………………えっ
( ゚д゚)Σ(゚Д゚)(゜.゜)( ゚д゚ )( Д ) ゚ ゚
面白かったよ
幼なじみ置いてきぼりすぎw
幼馴染という存在はなかったことにされた……
そして幼馴染は男の嫁になれるわけでもないので、考えるのをやめた
イイハナシダナー
乙
乙
イイハナシダナー
後日談はよ!
まぁ幼馴染自身は攻略されてても、自分は攻略しなかったからな
乙乙!
続け
このSSまとめへのコメント
最高すぎるw