側近「勇者と魔王のABC」(135)
剣士「由緒ある正しい家の御令嬢」
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上記ssの前日談になります。
お付き合い頂ければ幸いです、よろしくお願い致します。
勇者「ぐ……」
勇者「がはっ、かはっ、はっ……」
勇者「ああ、ちくしょう、ちくしょう!」
勇者「なんでこんな……こんな」
勇者「私は無力……なんだ……」
少女は一人、振り絞る様に声を上げ、
どこかで二人の男が、がらんとした中に響く、乾いた声を発する。
王「さて魔王様」
魔王「はいはいなんでしょう王様」
王「勇者と魔王の決戦という一大イベントも終わった訳ですが、いかがお過ごしでしょうか」
魔王「そうですね、こちらも大分傷を負ったのですが、なんとか生き延びることが出来ました」
王「そうでしたね、ほっとしました」
魔王「ご心配をおかけして申し訳ない」
王「つきましては勇者のその後の処遇ならびに我々の今後について是非ご相談したく」
魔王「そうですね、いよいよと言った所でしょうか」
王「休戦条約を結ぶまでにやらなければならないことが、あれやこれやそれとどれ……」
王「まあ多めに見て半年を目安にするのがよろしいかと」
魔王「私もそのように思います」
王「では勇者についてですが」
魔王「ええ」
王「その間、牢の中というのもどうかと」
魔王「はい、ですので提案があるのですが……」
王「提案?」
魔王「……あのさあ、絶対笑わないって約束できる?」
王「ええ、何それ」
魔王「えー、ああ、どうしよっかな」
王「なんだいなんだい、かるーく言っちゃいな」
魔王「……」
魔王「あのさあ、俺ねえ ゴニョゴニョ」
王「……」
王「あーはっはっはっは!はっはっはっは!」
魔王「……だから嫌だったんだよなんとなく」
乾いた笑いがこだまする。
見た目には長身痩躯の青年と、銀の髪に角を生やした少女がいる。
魔王「どうだ、勇者の様子は」
側近「いえいえそれはもう大変でした」
側近「ドレスを着せられた時の顔と言ったら」
側近「こう、何かわたし目覚めたというか」
魔王「ううん、なんかわたしはお前が心配」
側近「こんな側近ですみません」
魔王「私は……会いに行ってもいいのだろうか」
側近「なりません」
魔王「そうなの?」
側近「仮にも本気で戦いあった相手ですよ?」
側近「そんなすぐに打ち解けられたら苦労はしません」
側近「何事も、確かな一歩から」
側近「焦ってはなりません、魔王様」
魔王「ぐぬぬ」
魔王「どうだ? その、勇者の、様子は」
側近「魔王様……彼女は……」
魔王「どうした側近、そんな、世界の終わりみたいな顔をしてからに」
側近「壊滅的に……」
側近「料理が……下手です」ウッウッ
魔王「……そうか、旅を共にしたかつての仲間たちの苦労が偲ばれるな」
魔王「胃が丈夫な者を手配しておく」
側近「お願いします」
魔王「文通?」
魔王「何ゆえその様なこっ恥ずかしいことを」
魔王「それに向こうの国の文法は苦手だ」
側近「ま、ま、そうおっしゃらずに」
側近「勇者の手紙がこれここに」
魔王「……」ガタッ
魔王「……どれ」
魔王「………」
魔王「………?」
魔王「……これは手紙とは言わん!手記ではないか!」
側近「でも勇者の気持ちがそれはもう赤裸々に」
魔王「とっととこっそり返してこい」
側近「あいさー」
ひとまずここまで、続きはまた書きます
魔王「………」
側近「………」
勇者「………」
魔王(き、きまずい……っ!!!)
魔王(これは実にまずい)
勇者「あの……」
魔王「……なんだ」
側近(魔王様その返し方は0点ですよ!)
勇者「わたしを生かしておく理由は……なんだ」
魔王「ふん……、貴様には関係のないことだ」
魔王(ああああ、つい素っ気なく返してしまったあ)
側近(ノー! 魔王様、ノー!)
勇者「……敗者のわたしが聞けることでもない……か」
魔王(あああ見るからにしょんぼりとしている……!)
支援
勇者「………」チクチク
側近「………」ヌイヌイ
勇者「あの」
側近「はいはい、どうしました」スイスイ
勇者「何ゆえ私は刺繍などやっているんだろうか」アイタッ
側近「………」グイーッ
側近「花嫁修業」ヌイヌイ
勇者「え?」
側近「貴女には、これから立派な花嫁になるべくあらゆる嗜みをお教えします」グイグイ
勇者「わたしが嫁入り?」
側近「ええ」キュッ
勇者「誰と?」
側近「魔王様」デキター
魔王「あのな側近よ」
側近「あれ……どうしたんですかその花束」
魔王「その、なんだ、勇者にどうかと、思ってな」
側近「ははあ」
側近「ご自分でどうぞ」
魔王「後生だ側近!」ガバ
側近「おことわりですー」
魔王「無理無理!気まずいもん!」
側近「……」
側近「自分で来ればいいのに……」
側近「勇者さん? 入りますよー」ガチャ
側近「………おう」
側近「脱走ってやつだね!」
側近「はいはい、えー、警護第一班から第三班は二の丸」ワーワー
側近「第四班、第五班は三の丸を中心に」ヤイノヤイノ
側近「精鋭班対応遅いよ、何やってんの」スミマセンー
側近「おーらいおーらい、はいそこー」ドッセーイ
側近「特務隊現場はいりまーす」ワッショイワッショイ
側近「申し開きは?」
勇者「……ないさ」
側近「罠にかかった今のご気分は?」
勇者「逆さ吊りで少々気分が悪い」
側近「……はあ、下ろしなさい」
ハーイ
側近「困ります、大事なお客人なのですから手荒なことはしたくない」
側近「ああ、これをどうぞ」
勇者「花束……?」
側近「魔王様からですよ」
側近「あの人、根は案外いい人かもしれませんよ?」
勇者「とか言いつつ、その日に逃げ出すとは思うまい……」
勇者「ざっと見た所、警備が手薄そうな場所があった、そこから行こう」
勇者「まずは魔法使い……、戦士、従者の安否を確認して」タッタッタッ
勇者「それから……」
勇者「どうする……」
勇者「花束……魔王……か」
ガアッ
勇者(魔物!? かなり大型だ!)
勇者「魔力……は戻らないか……!」
勇者「……っく! 手強い!」
ザクッ
勇者「……?」
魔王「……」シャー チン
魔物「 」
勇者「魔王……!」
魔王「……大事ないか」ポタ ポタ
勇者「お前っ、怪我をっ」
側近「魔王様!」
側近「無茶をされて……!」
魔王「側近、よい」
魔王「後は任せた」
勇者「魔王……」
魔王「弱者は……、ただ囲われていればいいのだ」
勇者「ぐっ……」
魔王(またやっちまったい!)
側近(格好よく決めるチャンスだったのに!)
魔王「む……その、なんだ」
魔王「大事な……体なのだからな」
魔王(わたしは何を言ってるんだ!)
側近(意味深! 意味深過ぎます魔王様!)
勇者「……」
勇者「……すまなかった」
しばらくの間、勇者と魔王の奇妙な共同生活は続いた。
勇者「魔王はこのところ、ずっと留守にしているんだな」
側近「? ああ、そうですねえ、お忙しい時期です」
勇者「戦いが……激化しているのか」
側近「そう捉えて頂いても構いません」
勇者(わたしにはもうどうすることも出来ないのか……)
ワー! シショクシタヘイシガタオレター! タンカタンカ!
勇者「そ、そんなに酷い出来だろうか……」ションボリ
側近「特訓しましょう」ニッコリ
魔王「側近、帰ったぞ」
側近「魔王様、さあさあどうぞこちらへ」
魔王「なんだなんだ、え? いや、ちょっと待て……」
側近「前回まではほんの序章! 今回は会心のフルコースです!」
魔王「つくったのは」
側近「もちろん勇者さんです」
魔王「すでに5回ほど倒れてるんだが」
側近「………」ニコッ
魔王「む……」
魔王「……!!!」
魔王「……はっ!」
側近「おお持ち直した」
魔王「……いや、まあ、今回はなかなかだった……」
側近(ううん、顔がまっちろけ)
勇者「ほ、ほんとうか……?」
側近(なにこの子可愛い)
魔王(そうか……)
魔王(本来ならまだ年端もいかない少女だったな)
魔王(んんっ、ここが正念場だ)
魔王「朗報がある」
側近「おお、では遂に」
魔王「ああ、待たせたな」
魔王「この戦いは終わりだ」
勇者「終わり……!?」
勇者「どっちが! どっちが勝ったんだ!」
魔王「勝ちも負けもないよ、休戦だ」
魔王「平和的な道のりだったとは言い難いが……」
魔王「それでも、もう、戦う必要はなくなった」
勇者「休戦……!?」
「わあ!」
勇者「うわあ!」
勇者「は? 貴方は……」
勇者「王様……? なぜこんな所に……!?」
王様「ははは」
王様「久しぶりだね、勇者」
王様「元気かな?」
勇者「……」グス
王様「あれ」
勇者「王様が無事で……よかった」
勇者「本当に、よかったよおお……」ウワアン
王様「あれー? どしたー」
魔王「側近……、湯を沸かしておけ」
側近「あいさー」
おお前日譚か
側近「おっとと」カチャカチャ
側近「お茶です、少しは落ち着きましたか?」コト
勇者「うん……、ありがとう」
勇者「本当に……終わったんだな」
側近「ええ、そのようです」
勇者「王様も、国も、無事だった」
側近「ええ、無傷、という訳ではありませんが」
勇者「そうか……そうだな」
勇者「それでも、終わった事は素直に嬉しいよ」
勇者「王様……」
王様「ああ、勇者、帰ってきましたね」
勇者「ご無事で、何よりです」
王様「ありがとう、貴女も」
勇者「はは、魔王には勝てませんでしたが……」
王様「貴方が無事であればそれでいいのです」
王様「本当に、よかった」
王様「そして私から貴方には謝らなければならないことがあります」
王様「魔王」
魔王「ああ」
勇者「魔王……」
魔王「私からも、お前に心から詫びようと思う」
勇者「……?」
王様「勇者、戦いは終わりました」
王様「先日休戦条約を結び、正式に両国は和解した」
王様「その意味では漸く数百年に渡る戦いに終止符が打たれたのです」
王様「しかし」
王様「……本当は、戦いはもう少し前に終わっていた」
王様「私と、魔王は、5年も前に既に出会っていたのです」
勇者「……!?」
勇者「それは……それは、私が旅立つ前から、ということですか」
王様「その通りです」
勇者「仰っている意味が……意味がわかりません!」
王様「私と魔王は、貴女が旅立つ前にもう出会っていた」
王様「その時、この戦いを終わらせる事を二人で決意した」
王様「そして漸く、ここに終わらせる事ができた」
王様「5年前から、私たちは戦いを終わらせるべく、協力し合っていたのです」
王様「決して無傷ではなかった、それでも休戦条約にまでこぎ着けた」
王様「……けれど、それでも貴女を旅立たせてしまった」
王様「貴女と魔王を戦わせてしまった」
王様「それが、謝らなければならないことです」
王様「本当に、申し訳なかった」
魔王「私からも謝らせて欲しい」
魔王「休戦条約を取り付ける為には、どうしてもお前と一度戦う必要があったのだ」
魔王「そしてその為に……、結果的にお前を傷つけてしまった」
魔王「すまなかった……、今はそれしか言えん」
勇者「………」
側近「お茶を、入れ替えましょうか」
翌日
側近「おはようございます、勇者さん」
王様「おはよう、勇者」
魔王「気分はどうだ、朝飯は食べられるか?」
勇者「おはよう……ございます」
勇者「王様と魔王は、私が旅立つ前に出会い、そこから戦いを終わらせようとしてきた」
勇者「その時、お二人の間でどんな決意が立てられたか」
勇者「どのように戦いを終わらせて来たのか、そこにどんな思いがあったのか」
勇者「私と魔王が戦うことに、どのような政治的意味があったのか」
勇者「それらは完全にはわかりません」
勇者「ただ……私の身を案じていてくれたこと」
勇者「それは、この半年間、魔王軍での待遇を顧みればわかります」
勇者「そして王様、私は貴方を信じていたい、いえ、何があっても信じています」
勇者「そして戦いが終わった事、それはやはりとても喜ばしい……」
勇者「その為なら、貴方達を信じていたい」
王様「そう、ですか」
王様「信じてくれて、ありがとう」
王様「……と、なれば」
王様「残る問題はひとつですねー」
魔王「そうだな、まったくだ」
側近「むしろこっちが本題というか」
勇者「は?」
側近「あれを」
「はっ」
ドサドサドサ
勇者「なんだ、手紙の束……?」
魔王「目安箱に届けられた投書だ、側近」
側近「はい、ええっと……」
「一国の王であろうお方が相手国の者を娶るなどと……」
「…理解できない行為です、結婚など…」
「政略結婚とは感心できません……」
側近「ええと、これが最近のか」
「……であるならば、両国の英雄が結ばれる事は平和の象徴として……」
「まったくもって素晴らしいです! 平和な時代が訪れたのでしょう」
「お妃様!万歳!万歳!」
「勇者ちゃん可愛い可愛い!」
「別嬪だぜ~、魔王様がうらやましいぜ~」
「わお! こいつあ驚きだ!」
魔王「……最後の方のはなんだ」
側近「はて」
勇者「なに……? 結婚? 平和の……象徴?」
勇者「私と……魔王が?」
魔王「どこから漏れたのかはわからんが、城下ではそのような噂で溢れているらしい」
勇者「馬鹿な、話だ……」
王様「それがなかなか馬鹿に出来ないんですよねえ」
側近「お二人の結婚はこの休戦への過程でなかば既成事実の様に扱われています」
側近「そしてそれは平和の象徴として、今回の休戦に有効に働いていることも否めません」
魔王「勇者よ」
魔王「私が……憎いか?」
勇者「何を、馬鹿な、お前」
勇者「……戦うまではそりゃあ憎い相手だった」
勇者「でもこの城に来てからのお前の姿は……少なくとも好意に値した」
魔王「そうか」
魔王「で、あるならば」
魔王「勇者よ、この場を借りてお前に言おう」
魔王「私と、結婚してくれないか」
魔王「私も、お前に少なからず好意を抱いている」
魔王「一国の王として、いや一人の男としてお前に申し込もう」
魔王「そしてそれは、確かな平和への一歩となろう……」
勇者「な、なにを……」
勇者「え? なにが……」
勇者「!? まさか側近、花嫁修業って、そういう意味か!?」
魔王「? 何を言って……」
魔王「側近よ、噂をふりまいたのはお前か」
側近「なんのことやら」
王様「勇者、今すぐ答えを出さなくても、気に病む事もありません」
王様「一方で、平和の象徴になる、それが確かな一歩になることは十分に考えられます」
王様「ただ、少しゆっくりと考えてみなさい」
夜
魔王「ふう」
魔王「漸く、か」
魔王「漸く戦いを終わらせる事ができた」
魔王「……これであの人を捜すことができる」
魔王「それまでは……」
翌日
勇者「……私がこれから出来る事なんてたかが知れています」
勇者「私は、風が吹く小さな村の孤児だったに過ぎません」
勇者「その私が、戦う事以外に恩返しが出来るとすれば……」
王様「そう…ですか、わかりました」
王様「魔王に少しは好意を持っているんでしょう?」
勇者「彼は……善い王だと思います」
勇者「尊敬は好意の裏返しなのかもしれません」
勇者「ゆっくり探してみます」
王様「魔王がろくでなしだったら、いつでも帰って来なさい、ね?」
勇者「あはは、ありがとうございます」
王様「私は帰りますよ」
魔王「ああ」
王様「なんて顔してるんですか」
王様「約束したでしょう、半年前に」
魔王「いや……、ああそうだったな」
王様「頼みましたよ」
魔王「ああ」
魔王「………」
勇者「魔王」コンコン
魔王「ああ、どうした、入るといい」
勇者「………」
魔王「………」
魔王(なんなのだこの空気は!)
魔王(なにか、なにか気の利いた一言を!)
魔王「お前は、綺麗だな……」
勇者「………」
勇者「………」マッカ
魔王(ぬおお、間違えた、これは、これは気恥ずかしい!)
勇者「……あ、ありがとう……」
勇者(……よく見ると格好いいかなあ)
側近(お二人とも……、初心です、初心過ぎます)ハラハラ
勇者「その……」
勇者「最近、よく私の国に出かけているんだな」
魔王「ああ、少しな」
魔王「まだまだやることが山積みだ」
勇者「そっか」
側近(も、もどかしい!)
魔王「?……天井裏に気配が……」
魔王「いや、気のせいか」
魔王「……茶を、茶でも持ってくるかな」ガタタッ パサッ
魔王「少し待っていろ」ソソクサ
勇者「魔王の部屋か、随分綺麗に整理されてるんだな」
勇者「実は几帳面な性格なのかしらん」
勇者「ん?」
勇者「なにか落ちている……、折り畳まれて……これは絵か?」
勇者「肖像画……?」
勇者「銀色の髪、深緑の瞳……」
勇者「女の人、綺麗な人だ……」
勇者「誰だろう……、城の中では見た事がない」
魔王「待たせたな」ガチャガチャ
勇者「あ、ああ大丈夫か?」
勇者「魔王の一族……の肖像画」
勇者「凄い、何代分あるんだろ」
勇者「でもあの絵の人は、ここにあるのとは違うみたいだ……」
勇者「ううん」
勇者「……私は何をやってるんだろう」
勇者「魔王が本当に私に好意を持っていようがいまいが、関係ないじゃないか」
勇者「それに、信じるって決めたんだろう」
勇者「はあ」
勇者「………」モヤモヤ
勇者「……むん」モヤモヤ
魔王「……どうしたのだろうか」
側近「はて……」
側近「これが噂のマリッジブルウと言うやつですかね」
魔王「なんだそれ」
側近「むこうの国の古い言葉ですよ、最近勉強してまして」
勇者「魔王……、魔王は家族はいないの?」
魔王「なんだ」
魔王「そうだな、父様も母様も既に亡くなられた」
魔王「あとは……もういないな、ひとりきりだ」
勇者「そっか……」
勇者「私にも……誰もいなかったな」
魔王「そういえばお前はこの城に一人で来たな」
魔王「仲間がいたのだろう?」
勇者「そうだね、うん、みんないい人だった」
勇者「私から別れたんだ、……危ない目に遭わせたくなくって」
勇者「仲良くなって、怖くなっちゃったんだ、みんながいなくなるのが」
勇者「戦士はお兄ちゃんって感じだったな、従者は年の近いお姉ちゃん」
勇者「魔法使いは……お姉ちゃん、というかお母さんみたいだったかな」
勇者「よく怒られたなあ、この馬鹿娘って」
勇者「まあ私に家族の記憶はないんだけど」
勇者「出来る事ならみんなにも、式に来てもらいたいな」
魔王「そうか……」
勇者「今頃、どこにいるんだろう」
魔王「検討はつかないのか?」
勇者「うーん」
勇者「魔法使いは王宮付き魔法使いだから、城にいるかもなあ」
勇者「戦士と従者は……村に戻っているのかも」
魔王「ふうむ……」
魔法使い「ちょっと、帰って来たの?」
魔法使い「あなた、そう、あなたよ」
魔法使い「他に誰がいるって言うの」
王様「まあ僕しかいないわな」
魔法使い「あの子は……、元気だった?」
王様「うん」
王様「元気だったよ、二人とも」
魔法使い「そう、ありがとう」
王様「ところでさ」
魔法使い「うん?」
王様「魔法使いっていつまで独り身なの? そろそろいい歳……うぎゃあ!」
魔法使い「黙ってなさい」
勇者「魔王は……まだまだ忙しいみたいだね」
側近「そうですね、どうも人探しもしているようでして」
勇者「人探し……?」
側近「私にもあんまり教えて下さらないんですよ」
側近「なんでもあなた方の国の人だとか」
側近「仮にも少し前までは敵国だったところに、探す人なんているのかどうか……」
勇者「うーん」
勇者「私の国で、人探し……」
勇者「そもそも魔王が戦いを終わらせたかった理由ってなんだ……?」
勇者「単純に国を思ってのこと以上に何か……」
勇者「あの綺麗な女の人……」
勇者「あの人に会う為に……」
勇者「いや、考え過ぎか」ブンブン
魔王「くそ、ここでも手がかりはなしか……」
魔王「一体どこにいるんだ……」
魔王「この国にいることは間違いないんだ……」
魔王「ひとまず別の方面を当たってみるか……」
勇者「魔王」
魔王「おお、どうした」
勇者「人探し……、してるんでしょう?」
魔王「どこでそれを……、側近か」
勇者「うん」
魔王「お前には関係のない……ことだ」
勇者「………」シュン
魔王(ああまたやっちまったあ! でもこれだけは……)
魔王「気にしなくていい、個人的な……、そうとても個人的なこだわりだ」
勇者「そっか……、うん、わかった」
魔王「むう……」
側近(なーにをやってるんですかあ魔王様!)ウズウズ
勇者「………」チクチク
側近「………」ヌイヌイ
勇者「………」グイー
勇者「……ふう」デキター
側近「おお、お上手です、上達された」
側近「何か……悩まれてるみたいですね」
勇者「……うん、そうなんだー…」
勇者「なんで自分でもこんなに気になってるのかわかんないけど」
側近「魔王様……のことですか」
側近「ふふ」
勇者「?」
側近「恋を……されてるんですね」
勇者「ええ!? 何? 何でそうなるの?」
側近「わかりますよ、顔、真っ赤ですよ」クスクス
勇者「うう、そうかなあ、わかんないなあ」
側近「大丈夫、あの人、普段は随分間抜けな所もありますけど」
側近「言っていることに嘘はありません」
側近「信じてあげてください」
某所
魔王「そうか……」
魔王「……ようやく、ようやくお会い出来た」
魔王「貴女……だったのですね」
魔王「黙っているなんて随分人が悪い」
魔王「ずっとお会いしたかった……」
魔王「………」
式前日
勇者(はあ、とうとう何もわからないままだったな)
勇者(魔王を信じる……か)
勇者「魔王」
魔王「なんだ?」
勇者「……魔王は、ほんとは……」
勇者「……いや、なんでもない」
勇者(信じよう、王様にそうであるように)
魔王「どうした」
勇者「……なんでもない」
魔王「そうか」
勇者「式……明日だね」
魔王「ああ」
勇者「王様は、来ないのかな」
魔王「そうだ、あいつめ、こんな手紙だけ寄越して来た」
魔王「お前宛だ」
魔王「言伝で、あとはよろしくー、ばいばーい、だそうだ」
勇者「わたしの威厳ある王様象が塵と消えたよ」
魔王「奇遇だな、わたしもだ」
勇者「どれどれなんて書いてあるのかな……」
………
魔王「……あのさあ、絶対笑わないって約束できる?」
王様「ええ、何それ」
魔王「えー、ああ、どうしよっかな」
王様「なんだいなんだい、かるーく言っちゃいな」
魔王「……」
魔王「あのさあ、俺ねえ」
魔王「なんか、どうも勇者のことが好きみたい」
魔王「戦ってみて、どうしようもなく気づいてしまった」
王様「……」
王様「あーはっはっはっは!はっはっはっは!」
魔王「……だから嫌だったんだよなんとなく」
王様「……ずっと前から知ってたよ」オナカイタイ
魔王「え?」
王様「いや、なんでもない」
………
勇者と魔王は手紙を読み終えた。
手紙には、勇者への謝罪と、彼女への想いが綴られていた。
そして、魔王の彼女への本当の想いも。
魔王「あの、あの阿呆め……」
勇者「ええ、魔王はずっと前から私のことが好きだったの?」ン?
魔王「……そんな前から見透かされていたとはな……」
魔王「そうだな、きっと結局はそれもあって、戦いを終わらせたかったんだな」
魔王「あいつにそれを気づかされるとは……」
勇者「……ん?」
勇者「じゃあ魔王は昔の恋人を探しに行ってたんじゃ……」
魔王「恋人? なんのことだそれは」
勇者「ええ? うーん、そっか」
魔王「私は潔白ですよ」
側近「うんうん」
側近「よかったよかった」グスグス
側近「まったく、なかなか進展しないんだから」ズビーッ
側近「……ええと、貴賓のリストは……と」
側近「……戦士さん、従者さん、そして魔法使いさん……」
側近「よく探し当てましたねえ、魔王様自ら動かれるとは」
側近「これで勇者さんも喜びますかねえ」
側近「まあ秘密にしてあったので驚くかもしれません」
側近「でも、バレバレでしたけどね、魔王様の気持ちなんて」
側近「いきなり花束とか、恋愛のイロハが少しもわかってません」
側近「まだまだ大変そうですねえ」
式当日
ワーワー
オキサキサマ、オキレイダー
ヘイワナジダイガキタンダー
勇者「…!…!…!」ワイワイ
魔王「…!…!…!」ワイワイ
ワー……
戦士「ううん、少し驚いたが、いい式だった」
従者「こんなことになってるなんて……いやはや」
戦士「魔法使い、もう帰るのか?」
従者「勇者さんに挨拶はしていかないんですか?」
魔王「ええ、よろしく言っといて」
間違えました
>90
戦士「ううん、少し驚いたが、いい式だった」
従者「こんなことになってるなんて……いやはや」
戦士「魔法使い、もう帰るのか?」
従者「勇者さんに挨拶はしていかないんですか?」
魔法使い「ええ、よろしく言っといて」
魔法使い「………」
魔法使い「あの子はやっぱり来なかったのね」
魔法使い「そんなに大事に思ってるなら尚更、来るべきでしょうに」
魔法使い「……でもよかった」
魔法使い「なんだかんだ言って幸せそうじゃない、あの子達」
魔法使い「よかった……本当に」
魔法使い「さ、行くとしますかね」
……………
少し昔
「ぐ……」
「がはっ、かはっ、はっ……」
「ああ、ちくしょう、ちくしょう!」
「なんでこんな……こんな」
「私は無力……なんだ……」
「私は、私にはまだやるべきことが……」ドサッ
「………」パチ
「ここは……」
「ああ、起きましたね」
「もう目を覚まさないかと思った」
青年「起き上がれますか」
青年「ああ無理はしない方がいい、随分傷が深かった」
青年「ここは城下町の外れにある泉のほとりの小屋ですよ」
青年「さ、どうぞ」
青年「遠慮しないで、食べさせてあげますよ」
青年「そうそう、いっちにー、さん、しー」
青年「随分歩ける様になりましたね」
青年「夜は出かけてきます、食事は置いていきますので」
「………」
青年「どうしました」
「私の……、身につけていた物はどこだろう」
青年「……んん」
青年「これの、ことですか」
青年「失礼ながら、拝見させて頂きました」
青年「……あなたは、この国の人間ではないようですね」
「………」
青年「この紋章、あの国の……人間ですね」
青年「それも随分地位の高い方のようだ」
「……くっ」ガタッ
ドサッ
青年「ああ、駄目ですよまだ動いちゃ!」
青年「そろそろ外に出てみますか?」
青年「……綺麗でしょう?」
「……とても澄んだ泉だ」
「どうして……私を助けたりしたんだ」
「私は、敵国の人間なんだ」
「軍に突き出すなりしたらいい」
青年「……ううん」
青年「どうしてでしょうね」
青年「そうだなあ、しいて言えば、ただの気まぐれですよ」
青年「それか、貴女が美しかったからかも」
「ふざけた事を……」ズキッ
青年「ああ、だからまだそんなに動いちゃ駄目ですって」
青年「大人しくしてましたか?」
「……そんなに暴れたりしない」
青年「はは、すみません」
青年「今日はお客さんを連れてきました」
「……!?」
青年「ああ大丈夫、身構えないでください」
青年「私の甥です、ほらご挨拶」
少年「は、はじめまして……」
「………」
少年「おじさま、どこでお知り合いになられたんですか?」
青年「ははは、秘密だよ」
青年「それとね、お兄さんと呼ぶ様に言ってなかったかな?」
少年「お綺麗な人ですね、お兄様!」
「……む」
「……そんなことはない」
青年「はっはっは」
「……彼とはずいぶん仲が良さそうだな」
少年「そうなんです! おじさまは色んなことを教えてくれるんです」
少年「父上とは少し折り合いが悪くて……」
少年「そんなとき、おじさまはよく色々な所に連れて行ってくれるんです」
少年「この前の夏は、風の村っていう所に行って……」
「少年が言ってたぞ」
青年「ええ、なんですか急に」
「素敵なおじさんだって」
青年「おじさん!? あいつめ……」
「……ふふ」
青年「あれっ、いま笑いましたか?」
「いや………ははは、ああ、すまない」
青年「いやあ、ははっ」
「……私にも弟がいるんだ、国に残して来た」
「少しだけ、思い出した」
青年「それはそれは……」
青年「彼も……ずいぶん大変なんですよ」
青年「兄の子なんですけどね、まだ幼いのに色々と期待されていて」
「弟もそうだったよ……」
「家を継ぐ為に、大変そうだった」
青年「それに比べれば私は随分、幸せなもんです」
青年「あなたみたいな人と出会えましたし」
「……っ!」
「何言ってるんだ……」
青年「ははっ」
青年「数日後に、大きな戦いがあります」
青年「私も行かなければなりません」
青年「貴女は城下に行くといい」
青年「知り合いがいます、その人を伝って行ってください」
青年「いいですか、貴女の荷物は処分しました、もう貴女をあの国の人間と知る人はいないでしょう」
青年「この国で、生きてください」
青年「あなたのいるこの国を、私は守ります」
「………」
「もう、何年経っただろうか」
「……君は、いつになったら帰って来るんだい?」
「少しだけ、待ちくたびれちゃったよ……」
ガチャ
「……ここに居たんですか」
「……青年!?」
「いや……青年、じゃない」
「君は……」
少年「あなたを迎えに来ました、一緒に城へ、来てくれませんか」
「随分大きくなった……」
「どことなく、彼に似ている」
少年「はは、そうですか」
「君は……一体」
少年「私は、……この国の王子です」
少年「おじさまは、青年は、先の戦いで死にました」
少年「彼はこの国の騎士団の団長でした」
「そう、そうだったのか……」
王子「あなたのことを随分探しました」
王子「彼の忘れ形見として」
王子「彼は、私にとってとても大切な人で、恩人でした」
王子「そして彼が愛していた貴女を、どうか見守らせて欲しい」
数年後
「王は……容態がよくないそうだな」
王子「ええ」
王子「もうのらりくらりと過ごすのもここまでですね」
王子「結局、あの村には行けなかった……」
「あの村……?」
王子「いえ、ただ、…また会う約束をした子がいまして」
「それは、会いに行った方がいい」
王子「いえ、もうそんな事を言っている時間はなさそうです」
王様「父上は亡くなられた、これからは私が王だ」
王様「魔王め」
「やあ」
王様「ああ、なんだ、どうしました」
「あまり、根を詰めるなよ」
「最近の君は少しばかり焦り過ぎな気がする」
王様「はは」
王様「必ず私の代で……勝ちます」
王様「私が……戦いを終わらせてみせます」
王様「貴女にも随分尽力して頂いた」
王様「騎士団・魔法兵団をここまでの組織にしたのは貴女です」
王様「……こうであれば彼が死ぬ事もきっとなかったでしょう」
「やめてくれ」
王様「すみません」
王様「……勇者、か」
王様「英雄信仰、偶像崇拝か、愚かなことだ」
王様「止められなかった私も、同じか」
王様「神託として選んだのは、あの村の、身寄りのない少女という話だが……」
王様「すまない……」
王様「約束したあの子も、家族はいないって言ってたっけな」
王様「結局、また会いには行けなかった」
謁見の場
王様「君が……、君が勇者として選ばれた子か」
勇者「はいっ」
王様(ああ、君は……)
王様(君は、あの、また会う約束をした……)
王様(なんてことだ……)
王様「……これは因果応報ってやつか」
王様「私はもう、彼女が旅立つのを止められない」
王様「私が、彼女を、選んだ」
「随分……、気を落としている」
「どうした」
王様「いえ、なんでも、ありませんよ」グイ
「あまり飲むのは体に障る……」
王様「そんなもの、これからあの子が味わう苦しみに比べたら」
「やめてくれ、君までいなくなってしまったら」
王様「……ごめんなさい、ありがとう」
王様「勇者はこれから城下で修行か」
王様「旅立ちまで……どれくらい猶予があるのだろうか」
バサッ
王様「誰だ!」
王様「ここを王の寝所だと知っているのか」
「………」
王様「お前は……」
王様「何者だ……」
魔王「……私は、お前達が言う所の 魔王だ」
王様「魔王だと……!?」
魔王「なあ」
魔王「この戦いを、終わりにしないか」
王様「明日が、勇者の旅立ちか……」
「寝れないの?」
王様「ああ、君か」
王様「うん、なんかね」
「あの子のこと、随分気に掛けているのね」
王様「そうかなあ、うん、そうかな」
「あのね」
「ひとつだけ、言っておきたかったことがあるの」
王様「うん? 何だろう?」
「私は、あなたのおじさまに、行き倒れていた所を助けられたの」
王様「……へえ、初めて聞いた」
「なんで、倒れていたんだと思う?」
王様「なんでだろう……」
王様「ああ、お腹が空いていたとか? あの頃は物が少なかったもんねえ」
「……ふふ、違うわ」
「戦って、やられちゃったの」
王様「誰にかなあ」
王様「そして、君は一体、どこの誰なんだろう」
「わたしは、勇者」
「あなた達の敵である、あの国の」
「そして、現魔王の姉」
「彼は……全部知っていたわ」
王様「そうか……」
王様「はは、それを言うなら、僕は君たちにとっての魔王だね」
「驚いた?」
王様「まあ、ほんの少し」
王様「君への信頼は少しも変わりはしない」
王様「それにね、それでよかった」
王様「教えてあげたいことがあるんだ……」
王様「実は僕と魔王はね……」
旅立ちの日
勇者「神託を受けしこの身に代えて、必ずや魔王を討ち果たしましょう」
王様「ああ、そうだ、仲間を連れて行くといい」
王様「彼女は魔法使いだ、とても強く、信頼できる」
勇者「はっ、ありがとうございます」
王様「……頼んだよ、魔法使い」
魔法使い「ええ」
勇者は旅立って行った。
そして2年後、休戦条約が結ばれた。
王様「はあ疲れたー」
魔法使い「ちょっと、帰って来たの?」
魔法使い「あなた、そう、あなたよ」
魔法使い「他に誰がいるって言うの」
王様「まあ僕しかいないわな」
魔法使い「あの子は……、元気だった?」
王様「うん」
王様「元気だったよ、二人とも」
式当日
魔法使い「勇者と魔王、二人が幸せになって……」
魔法使い「私はこれからどうしようかしら」
魔法使い「まったく、弟に王位を譲ってまでどこにいったのかしら、あの王様は」
魔法使い「忘れ形見か……」
魔法使い「それこそ、あなたは」
魔法使い「私にとって、彼の忘れ形見よ」
魔法使い「風の村……って言ってたわね」
魔法使い「世話かけさせるわ、ほんと」
勇者「あ、魔王」
勇者「これだよ、これ、この人!」
勇者「この人は誰?」
魔王「なに、なんだ、え、これか?」
魔王「……まあもういいか」
魔王「この人は、私の、姉上だ」
勇者「お姉さん……?」
魔王「ああ、小さい頃に生き別れてしまった」
魔王「姉上は……、この国から旅立って行った、勇者として」
魔王「それから……、しばらくして消息を絶った」
魔王「おそらく亡くなったのだと思われていたが……」
魔王「あるとき、彼女が、お前の国にいることがわかった」
魔王「ある、敵国の騎士の手記だった」
魔王「戦いが終わってから、私は姉上を探していた」
魔王「まあ、それで休戦後に必死で探してな、漸く会えた」
勇者「ええ、そうだったんだ……」
勇者「お姉さん、式に来てくれてたの?」
魔王「んー、お前もよく知ってると思うんだがな……」
勇者「え、誰?」
魔王「………」ゴニョゴニョ
勇者「な、なにー!? ま、魔法使い!?」
勇者「うええ、何それ! どうなってんだよー!」
魔王「私も本当に驚いた……」
側近「………」
側近「でも、どうやら」
側近「お義姉さんのお眼鏡には適ったみたいですよ」
側近「よかったですね、勇者さん」ホロリ
側近「勇者と魔王のabc」 おしまい
以上になります、ありがとうございました。
続き物って難しいですね。
乙
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