神谷奈緒「ケリをつけてやる…ペルソナ!」(151)
こんばんは。
こちら
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の続きでございます。
さて、いよいよ話も終盤になって参りました。
ここで一つ謝罪と訂正を。
前スレで指摘していただきましたが、前スレで「高峯のあ」の名前が「高峰のあ」となっております。
のあさん、まちがえてごめんなさい。
それと、別に話に絡むわけではないので良いのですが「桐条光悦」ではなく「桐条鴻悦」でした。
本スレからは訂正してあるはずなので、ご安心ください。
その他誤字などありましたら指摘していただけるとありがたいく思います。
えー、年代的な誤差は少し目をつぶっていただければ幸いです。
それでは、戦いの第十五話をどうぞ。
―――翌日、CGプロ第4会議室
「みんな、昨日はマヨナカテレビ、見たな?」
アタシの問いかけに、全員が頷く。
全員と言っても、菜々さんとあんきらはいない。
昨日の今日でなかなか全員そろうのは難しいよな。
「俺は初めて見たが、やっぱり目の当たりにすると驚くもんだな」
Pさんの発言にも頷ける。
昨日のは特に驚くだろう、なんせマヨナカテレビを連絡手段に使ってきやがったんだからな。
「これが最後の戦い、ってことになるんだよねっ」
未央は気合十分といった感じだ。
「私、頑張ります!」
隣で卯月も気炎を上げている。
「わざわざ私たち全員を名指しで呼んでるってことは、相手も相当自信があるってことなんだろうね」
「それでも、こっちにはいっぱい仲間がいるし、どうにかなるって」
凛は慎重に、加蓮はどこか適当に発言してるな。
相手がどう出るかはわからないけど、やつを、高峯のあを倒せば全部終わるんだ。
「やってやるさ!」
「みんな気合が入ってるようでよろしいんだけどな、その前にお前らはアイドルだ。スケジュールの話をさせてくれ」
アタシ達の様子を見ていたPさんが、プリントを取り出して配りながら話を始める。
これは…アタシたち全員の仕事の予定か。
「見ての通り、お前らはなかなかの売れっ子だ。当然仕事もそこそこある。今ここに菜々さんと杏ときらりがいないのが何よりの証拠だ。特にクリスマスが近い今は特番の収録なんかも入って来る…そうすると」
Pさんが、アタシ達に配ったものより一回り大きい紙を取り出して、机に広げる。
「やっこさんが何かを企んでいるらしいクリスマスの前に全員が綺麗に空けられる日ってのは…」
「十二月二十二日だけ、か…」
相当ギリギリだ。
けど、良いこともある。
「土曜日だね」
「あぁ、昨日マヨナカテレビを見てすぐに鳴上くんに連絡を取ったんだが…」
何時の間に連絡先なんて交換してたんだ…。
相変らず仕事が早いというかなんというか。
「鳴上くん自身は土曜日で問題は無いし、八十稲羽にいる仲間たちも恐らく大丈夫だろうとのことだ」
「ってことは…」
「決まりだな」
決戦の日は十二月二十二日。
本当ならもっと余裕を持って臨みたいところだけど、どうせ何度も挑戦することはできないんだ。
だったらここに賭ける方が良い。
「二週間くらい先かー」
「それまでは各自鍛錬だね、いつも以上に気合を入れてレッスンに取り組まないと」
凛の言うとおりだ。
今度の敵は、今までの様な暴走したシャドウ体じゃない。
アタシ達を苦しめ、事態を引っ掻き回した張本人、しかもペルソナ使いであるヤツが相手なんだからな。
「当日は、俺がなんとか事務所の人払いをしておく。幸い仕事をバンバン入れちまえる状況だしな!鳴上くんたちは、イベント手伝いの派遣スタッフとでも言っておくから、普通に事務所に入れていいぞ」
「ありがとう、Pさん」
「なーに、こんなことくらいしかできねーしな」
Pさんは、アタシ達が体を張ってるのに自分が戦えないと言う事を随分気にしているらしい。
だけど、こうしてこっちでアタシ達をバックアップしてくれる人がいるのはすごく心強い。
…この信頼に応えなきゃな。
「そうだ奈緒、お前なんか特にクリスマスはサンタのカッコでイベントやってもらうことになってるんだから、必ず勝って戻ってこいよ」
「は、ハァ!?なんでそんなことになってんだよ!」
「俺がそういう仕事を入れたから?」
「ふっざけんなあああ!」
…やっぱり、ちょっと世界が滅ぶのもアリだったり…ないか。
―――十二月二十二日、決戦当日、CGプロ事務所、第4会議室
「いやー、関係者のお墨付きがあると、ビクビクしなくていいから楽だわー」
花村さんがのんびりとした声を上げる。
「花村ぁ!アンタ、あたしたちが何のためにここに来たのか忘れてないでしょうね」
千枝さんのツッコミが冴えわたる。
「全く、お二人は緊張感に欠けると言いますか」
「先輩方、漫才しないといられねーんすか」
下級生の白鐘さんと巽さんが呆れている。
「まぁ、これも私たちらしくていいんじゃない?」
「なーんか締まらないってカンジだけどねー」
「今回の主賓は俺たちじゃない…彼女たちだからな」
「ヒュー、センセイかっこいー!」
おかしそうに微笑む天城さんに困った顔のりせちー、いつもいつでもクールな鳴上さんと花村さんに輪をかけて緊張感のないクマ。
今日のこの決戦の為に、アタシ達に力を貸してくれる特別捜査隊のみんなだ。
「みんな、今日は来てくれてありがとう」
「乗りかかった船だ。最後まで付き合うさ」
こっちを代表して礼を言うアタシに、向こう代表の鳴上さんが余裕の笑みで答える。
「十二月二十二日か…皮肉と言えば皮肉だな」
「確か、去年のこの日も俺らは決戦だったもんな!」
どうやら、鳴上さんたちが去年の事件の犯人と戦ったのも同じ日らしい。
「全員そろったみたいだし、行こうよかみやん!」
未央が軽くステップを踏みながら急かしてくる。
「焦りは禁物だよ、未央」
「そうですよ!これから戦う相手は、一筋縄じゃいかないんですから!」
そんな未央を嗜める凛と菜々さん。
「この日の為に、きらりいーっぱい力を蓄えといたんだにぃ!にょわああああきらりんぱわー☆ぜんかああい!」
「ちょ、ちょっときらりまだ暴れないで!杏が背中にのってるの忘れないで!」
杏ときらりは相変らずだ。
「どんな相手が来ても、私たちなら大丈夫だよ!ね、奈緒ちゃん!」
「なんか気合入った号令かけようとか余計なこと考えてないよね?いいからね、そういうの」
卯月はどこまでもまっすぐで、加蓮は相変らず一言多い。
みんな、大事な仲間だ。
そして、この先の世界にももう一人?忘れちゃいけない仲間がいる。
「…ここから始まったんだよな」
この、誰にも使われない会議室に置いてあった大型テレビ。
未央と二人で大騒ぎした挙句にこのテレビの中に落ちちゃったのが、まるで遠い昔の事みたいだ。
辛かったし、大変なことも多かったけど…今となっては全部大事な思い出だ。
おっと、感傷に浸るのはまだ早いか。
全部終わらせてからでも遅くない。
アタシは深呼吸をひとつして、ゆっくりとテレビの画面をくぐった。
―――テレビの中、入り口広場
「シショー!お待ちしてたウサ!」
最後に合流したのはウサ。
菜々さんの片割れで、友達で、アタシ達の仲間。
アタシの冒険は、こいつとの出会いと共に始まったと言ってもいいかもしれない。
「ついにこの日が来たウサね!」
「…あぁ」
黄色い霧につつまれた世界を見渡す。
ウサのくれた眼鏡がなければ、うろつく事すらままならなかった世界。
でも、今のアタシ達には、それを見通す力もある。
「杏、りせちー、頼んだ」
「任せて!」
「りょーかい」
「ペルソナッ!」
「ぺるそなー!」
杏とりせちーがそれぞれのペルソナを呼び出し、協力してサーチを始めた。
「…いるね」
「うん、隠す気もないみたい。むしろ…呼んでる?」
「けんかじょーとーってヤツだねー」
「場所は分かったのか?」
「うん、近いよ。あっち」
杏とりせちーが一方向を指さす。
この先にアイツが…。
「神谷さん」
「うん…みんな!」
鳴上さんとうなずき合って、アタシは皆に呼びかける。
「今日ここで、アタシ達の戦いに決着をつける!
『方舟』だか何だか知らねぇけど…ぶっとばしてやろうぜ!!
みんな、よろしく頼む!!」
「もっちろん!」
「おうよ!」
「当然、だね」
「足が鳴るよー!」
「やっちゃいますよ!」
「全開だにぃ!!」
「本気で行くよ!」
「それなりにねー」
「やる気出しなさいよもう!」
「頑張りますっ!」
「っしゃー、カチコむぞコラァ!」
「いっちょ気合い入れますか」
「撃ち抜きます!」
「クマの本気ぃ、みせたるクマ!」
「ウサも行くウサ!」
「行くぞ!」
アタシ達の戦いだ!
―――神秘の祭壇
杏とりせちーの案内に従って進んでいくと、途中から足元が石畳のようになってきた。
更に行くと石造りの建物がちらほら見えるようになり、古代の西洋の街を思わせる風景が広がっている。
そんな場所をひた走りぬけると、急に開けた場所に出る。
正面にはいかにもな祭壇があり、その天辺には誰かが立っている。
誰か?いや、一人しかいない。
高峯のあ、だ。
「…随分と、遅かったわね」
サイケデリックな色彩の着物をまとったのあが、ゆっくりとこちらを振り向く。
その瞳は、いつかのウサが暴走した時のように極彩色に輝いている。
「ふん、女は身支度に時間がかかるんだよ、アンタもそのくらいわかるだろ」
「虚勢を張る必要は無いわ…ここは神の祭壇…神の前では何人たりとも平等…」
相変らず要領を得ない言葉を吐く女だ。
「アンタのことは貴音さんから聞いた。高峯のあ!あの『方舟』って宗教団体の親玉らしいな!」
「親玉…その言い方は適切ではないわ…確かに私は導き手…しかし、私もまた神のしもべなのよ」
神。
まただ、こいつは初めて会ったときから神だのなんだのと言っている。
宗教に狂うとこうなっちまうのか?
「あなたはもう終わり、何を企んでるのか知らないけど、ここで私たちが止めるよ!」
「終わり?あなた達の様な小さな存在に…差しのべられた救いの手を払いのけるような者たちに…何ができるというのかしら」
凛の言葉を嘲笑うのあ。
「この世界は絶望に満ちている…人は皆救われたがっているわ…あなた達にそれを邪魔する権利があって…?」
「けっ、だぁれが救ってくれなんて頼んだよ!俺たちゃ、そんなこと言った覚えはねぇぞ!」
「愚かね…自分たちの考えが全てだと思い込んでいる…。
自分たちが世界の中心…傲慢でちっぽけな人間にありがちなことだわ…。
神は、この絶望に満ちた世界を綺麗になさるおつもり…。
偽りの聖夜に浮かれる人間たちは…皆、洪水に押し流され影となるのよ…。
その時に生き残り…新たな理想郷を作り上げるのは私たち『方舟』の同朋…。
それが私たち『方舟』の使命…」
花村さんの叫びも、のあは意に介さない。
「この世界が絶望に満ちているとか、人類が救われたがってるとか、好きにほざきやがれ!だけど、なんで凛たちをテレビの中へ落とした!そもそも、アタシに力を与えたのはアンタだろ!なんでそんなことしたんだ!」
「そうだよ!人類を救うとか言って、やった事と言えばしぶりんたちをテレビの中に落としただけじゃんか!そんなのの何処が救いだって言うのさ!!」
「………いいわ、教えてあげる」
アタシと未央の言葉を受けて、のあが祭壇をゆっくりと降りてくる。
「正直、あなた達がこうしてここまで来ることは予想外だった…本来なら、初期の段階から神谷奈緒は私たちのもとに来るはずだったのだから」
なんだって?
「どういうことだ!」
「渋谷凛や双葉杏をこの世界に落としたのも、北条加蓮の心を揺さぶったのも、あなたのプロデューサーをシャドウと融合させたのも…全てあなたの為よ、神谷奈緒」
「意味がわかんねーぞ!」
「あなたには、人を惹きつける何かがある…。
人は時にそれを…カリスマと呼び、スターと呼ぶわ…。
私はあなたが欲しかったの…神谷奈緒。
我が『方舟』の象徴として…人々を導く昏き北極星として…」
意味がわかんねぇ…。
やっぱり、頭のネジが外れてるんじゃないのか。
アタシの混乱を余所に、のあは話を続ける。
「私は…人の心に敏感なの…。
あなたに偶然出会った時…感じたわ…あなたの才能を。
あなたなら私以上の導き手になれる…。
そう思って力に目覚めさせ…絶望を与えようとした」
アタシに、絶望を与える…?
「…つまり、『方舟』により多くの人を乗せるために、神谷さんのアイドルとしての魅力を利用しようとした。そういうことか」
「あなたは察しが良いようね…流石は『真実に目覚めし者』なだけあるわ」
鳴上さんの言葉に、のあがうっすら微笑む。
今の鳴上さんの言葉をかみ砕くと…アタシは客寄せパンダにされそうだったってことか?
「私の描いた筋書きはこう…。
力に目覚めた神谷奈緒は…その力で真実にたどり着こうとする…。
しかし、真実などこの霧の中の何処を探してもありはしない…。
そして…ある時神谷奈緒は、大切な友人を失うことになる…。
それも、自身の力が及ばず目の前で…。
絶望に魅入られた神谷奈緒を救い上げるのは『方舟』…。
『方舟』との出会いによって…神谷奈緒は救われ…同時に人々を救う決意をする…。
そうして神谷奈緒は、絶望に満ちたこの悲しき世界を航海する『方舟』を導く昏き北極星となる…。
なかなかに凝った演出でしょう…?」
「…ってことは何か…アタシに絶望を味あわせるために、凛や杏を危ない目に合わせたってのか…!」
「何の因果か…あなたは目の前の絶望を乗り越え、希望を手にし続けてきたわけだけれど、ね」
今までの冒険を思い出して来て、腹の底からふつふつと怒りが湧いてくる。
どんなときだって、楽々に済んだことは一度もなかった。
下手をすれば死んでいたこともある。
今こうしてアタシが、みんなが二本の足で立っていられるのは、仲間のお陰と、何よりも運が良かったからだ。
どこかのボタンが掛け違っていたら、誰か一人が欠けるどころか全滅していた可能性だってある。
それを…全部この女が仕組んだってのか?
たった、アタシひとりだけの為に…!
「…ざっけんな」
「かみやん…」
「ふざけんなよ!
何が救いだ!
何が導きだ!
誰かを犠牲にして!
誰かに悲しい思いを背負わせて!
そんな救いがあってたまるかよ!!」
アタシは声の限りに叫ぶ。
これまでアイドルとしてステージに立ってきて、そこから見てきたファンの人たちの笑顔を思い出す。
「誰かを笑顔にするために、誰かを泣かせてちゃダメなんだ!
誰かの幸せの為に、誰かを不幸にしちゃ意味がない!
全員が全員幸せな世の中なんてのは無理かもしれない…それでも!!」
まじりっけない、本気の思いを叩きつける。
「アタシ達は!みんなの笑顔の為にアイドルやってんだ!!!!」
アタシの叫びに、みんなが頷く。
「青臭い理想論だって言われたっていい!
だけど、アタシ達はアタシ達を見てくれた人みんなが幸せな気持ちになれるようにと思ってステージに立ってる!
世の中が絶望に満ちてるからリセットする?
ほざきやがれ!
自分の思い通りにならない世界を、大勢の人巻き込んで作り変える?
そんなの、アタシ達は認めない!!」
アタシは刀を抜き放って構える。
みんなもアタシを追うようにして武器を構えた。
「自分の思うとおりになる世界が欲しいんだったら…家に引きこもって人形遊びでもしてやがれぇっ!」
「…そう…残念ね…あなた達のその言い分もまた、自分勝手であるということに気づいているのかしら…」
高峯のあの雰囲気が変わる。
やる気か…。
「『方舟』を支持する人は…着実に増えているわ…救いを求める声はやまない…。
けれど…あなた達は自分の感情以外にその考えを支えるものはあって…?」
「人間には選択権がある…確かに俺たちの意見は俺たちだけのものかもしれない。
だが、お前のやり方もまた、人間から選択肢を奪っている。
俺たちは…その選択権を取り戻す。
それだけだ」
「…そう」
高峯のあの気が膨れ上がる。
来る…!
「…ペルソナ…!」
青い光が迸る。
高峯のあの呟くような、しかし押し込むような声に応えて現れたのは、白髪に豊かなひげを蓄えた老人の姿をしたペルソナだ。
深くしわが刻まれた顔には悲しそうな表情を浮かべ、手には重そうな本を携えている。
「…せめて苦しまずに…彼らを死の安息に導いてあげなさい…ノア」
「これが最後だ!行くぞみんな!!」
『おう!!!!』
―――神秘的な祭壇
「そんじゃ手始めにいっくよー!ペルソナ!」
千枝さんが真っ先にペルソナを呼び出し、アタシ達の力を底上げする。
「…いつまでもそんな常套手段が通じるとは思わないことね…ノア」
しかし、高峯のあが自身のペルソナ、ノアに指示を送ると、ノアはなにやら呪文を唱えてアタシ達の強化をかき消してしまう。
「くっそー!でも、そんならもっかい…」
「よせ、里中。アレは精神力をずいぶん消耗するだろう。戦いは始まったばかりだ、今は温存しろ。それにどうせまたかき消されるのがオチだ。それよりも…陽介!」
里中さんを冷静に制した鳴上さんは、花村さんに合図を送る。
「あいよ!タケハヤスサノオ、マハスクカジャ!」
鳴上さんの意図を的確に汲んだ花村さんが、素早さ強化の呪文を唱える。
「これでまず、相手の出方を見るんだ」
「それじゃ、私たちの出番だねっ!よーちゃん!」
「おうっ!ってよーちゃん!?」
「え、陽介さんだからよーちゃん。マズかった?」
「い、いやいやいやいや!まさか現役アイドルからあだ名で呼んでもらえる日が来るとは…っ!うおっしゃああああ!燃えてきたァ!!」
気合十分で飛び出していく花村さんと、それを追いかける未央。
やっぱり二人は素早さで群を抜いてる。
「あー!ヨースケばっかり目立っちゃってズルいクマ!そうは問屋が卸さないクマよー!」
緊張感のかけらもないクマが、よくわからない対抗心を燃やしてペルソナを呼び出した。
「ペルクマー!カムイモシリ!マハラクンダクマー!」
相手の防御力を下げる呪文だ。
ノアをカムイモシリが放った光が包み込む。
「無駄よ…ノア、テトラカーン」
「ふーん、で、何が無駄なの?」
のあが物理攻撃を反射させる盾をペルソナに張らせようとしたところで、加蓮が反応した。
「せっかくこんな力手に入れたのになかなか使う機会なかったよね…ペルソナ!」
加蓮が呼び出したペルソナは、顔の中央が楕円にへこんでいる青い鬼。
「スイキ!テトラブレイク!」
加蓮のペルソナ、スイキが得物を振り上げるとノアが張った物理反射の盾は跡形もなく掻き消える。
「加蓮ちゃんナイスぅ!」
「かれりんさっすが!」
その隙を逃さず、花村さんと未央がノアに飛びかかる。
「おぉらっ!」
「てーい!」
二人の武器がノアにまともにヒットした!
ノアとのあは少しよろめいたようだ。
「く…やはり、力を付けている…」
吐き捨てるようにつぶやいたのあは、再び自身と同じ名を持つペルソナに命令を出した。
「ノア…この愚か者たちに、分という物を教えてあげなさい」
その言葉を受けたノアが手に持った書物を広げ、何事かを呟く。
これは…ウサが暴走した時にも使ってた…!
「『愚者のささやき』…!みんな聴かないで!ペルソナが封じられちゃう!」
りせちーが注意を飛ばしたものの、一歩間に合わずアタシ達の内の何人かはペルソナが出せなくなっちまった。
だけど、不思議とアタシは焦ってない。
だってこっちには。
「キャハッ☆そうそう同じ手は何度も食いませんよ!パールヴァティ、アムリタですっ!」
菜々さんの呼びかけに応えたパールヴァティが、花の香りと共に癒しの風を呼ぶ。
たちまちアタシ達にかけられたペルソナ封じは解除された。
「そう…搦め手はもう通じないのね…ならば少々本気で行くわ…ノア!」
再びノアがその手に抱える書物を広げ、精神集中を始める。
「力とは…こう使うのよ…マハラギダイン!」
ノアの呼び出した炎の嵐が、とてつもない勢いで放たれる。
未央や天城さんが撃つやつの何倍もでかい!
「炎がダメなヤツは身を守れ!…ミカエル!」
「はね返しちゃうもんね!」
「アタシもだ!ウリエル!」
「おわっと、あっぶねぇ!」
アタシと鳴上さんはそれぞれペルソナを呼び出し、未央と花村さんも炎の前に立ちはだかる。
「ううぅ…メディラマ!」
弱点属性だがなんとか直撃を避けた菜々さんが、すかさずみんなの回復にまわる。
炎が得意な天城さんは…。
「この程度の炎…見せてあげる、スメオオカミ!」
アタシ達がノアの炎を受け止めている間に集中していた天城さんが、ペルソナを呼び出し力を解放した。
「燃え尽きなさい!」
今ノアが放った炎に負けずとも劣らない、しかし華麗な焔がノアとのあに襲い掛かる。
「ふふ、なかなかね…でもこの程度…」
焔はまともに直撃したはずだけど、アイツらにはあまり効果がないようだ…。
「炎耐性…あるいは魔力に相当の耐性がありますね」
「じゃあ、試してみます!ドゥン!」
白鐘さんの言葉を受けて、卯月が炎を纏う虎を呼び出し、ノアに向かって吠えかからせる。
相手が火炎に耐性があるならこれでその守りを吹き飛ばせるはずだけど…。
「私が…ノアが…それしきの力しか持っていないなどと言うことが…あると思って?…マハブフダイン!」
いつの間にか精神を研ぎ澄ませていたノアが、今度は吹雪の魔法を叩きつけてくる。
「吹雪ならあたしがっ!」
「悪いけど、回復させてもらうから」
「ペルソナ!ニーズホッグ!」
「ヨホー!気持ちいシャワークマねー!」
「打ち返してやれぇ!パズス!」
迫りくる吹雪に、千枝さんとクマが躍り出て、その後に加蓮とアタシと鳴上さんが続く。
鳴上さんはともかく、アタシはこんなにペルソナを入れ替えて戦うのは初めてだ。
不思議と、今まで絆を紡いだ人たちの顔が浮かんでは、その時に力になってくれるペルソナが心に生まれてくる。
菜々さんが余波でダメージを喰らった人を回復させている。
ホントの総力戦だ。
「流石にそれだけ人数がいれば…弱点をかばいあうのも容易というわけね…」
「そうだ!お前一人で、アタシ達に勝てるもんか!」
「数の有利が…そのまま勝敗を決するとは必ずしも限らない…歴史が証明しているわ…なにより、本当の力の前には数など…無意味」
のあがカッと目を見開き叫ぶ。
「ノア、『孤高の瞳』よ…マハガルダイン」
ノアの瞳が怪しく輝き、暴風を呼ぶ。
「風なら私が…」
「ふふ…マハジオダイン」
風の呪文に反応した凛が飛び出したのをあざ笑いながら、のあが二つ目の呪文を唱える。
ウソだろ!?速すぎる!
「こんにゃろ!うがああああああ!」
「あうっ!」
凛より一歩遅れて飛び出した花村さんは、そのまま凛を庇うように雷の直撃を喰らう。
花村さんのおかげでクリーンヒットこそしなかったものの、凛もかなり苦しそうだ。
今の風と雷の連撃は、アタシらに相当な痛手になった。
くっそ、アタシも鳴上さんも、ペルソナをチェンジするのが間に合わないなんて…!
「崩れたわね…ほら、行くわよ」
「みんなダメだ!次のはヤバいよ!」
「遅いわ…メギドラオン」
ノアに集中した力を察知した杏が叫んだけど、ヤツの詠唱が速すぎて追いつけない…!
「みんなを守れ!ヤマトスメラミコト!!」
紫色の光がアタシ達を包み込んで炸裂する瞬間、白鐘さんの叫び声が聞こえた。
直後にまばゆい光が辺りを包み込んで目がつぶれそうになる。
爆発が治まり、何とか目を開けてみると、アタシ達の周りには金色に光り輝く盾が張られていて、白鐘さんが肩で息をしていた。
「はぁ…はぁ…間に合ってよかった…うっ」
息を荒くしながら片膝をつく白鐘さんに、天城さんが駆け寄り回復呪文を唱えている。
白鐘さんだけが使える、どんな攻撃も無効にしてしまえる防護呪文だ。
多分、さっきのが直撃したらマズイと無理やり発動させたに違いない。
威力や効果の強い技はそれだけ体に負担がかかる。
「チッ…直斗のヤロォ無茶しやがって」
少しイライラしたような口調でつぶやく巽さんの額には青筋が浮かんでいる。
相当キてるな…あれ。
「先輩方!特大の行くんで時間稼ぎ頼みます!!」
「了解だぜ完二!」
「任せろ」
巽さんの意図を正確に読み取った花村さんと鳴上さんがノアに向かって駈け出す。
「未央、アタシ達も!」
「オッケーかみやん!」
いつまでも防戦一方じゃやられる。
アタシも全力でノアにぶつかる。
「あらよっと!」
「はぁっ!」
花村さんと鳴上さんは、ノアの繰り出す物理攻撃を危なげなく避けながら隙を見て武器を振るっている。
「ゴフェル!ガルーラだ!」
「スルト!アギダイン!」
アタシと未央はその二人の邪魔をしないように少し離れたところから呪文で援護する。
あまり効果がないのはわかってるけど…今は巽さんたちを信じて時間を稼ぐしかない。
「ノア…阿迦奢の技を見せてあげなさい…」
「ヨシツネ、迎え撃て!」
ノアが放つ暗赤色の波動を、鳴上さんが呼び出したヨシツネが軽快に飛びまわりながら打ち消していく。
そのままの勢いで、ヨシツネはノアに乱撃を叩きこんだ。
「ヒュー!いつみても、お前の『八艘飛び』はおっかねーぜ!」
花村さんの感想もうなずける。
こんな戦い方もあるんだ…。
「オイ、デカ女ァ!気合入れてくぞコラァッ!!」
「きらりはきらり!デカ女じゃないにぃ!!にょわああああ!!」
「あたしも、いっくよー!!!」
巽さん、きらり、千枝さん。
アタシらの中でも特に物理攻撃に特化した三人がパワーを溜めている。
「デカ女ァ!先頭は任せんぞツッコめオラァ!!」
「りょーかいだにぃ!きらりんぱわー☆!ぜんかああい!!」
トリグラフと共に、パワーを限界まで貯めたきらりが特攻してくる。
「鳴上くん!きらりちゃん行くよ!」
「わかった!みんな下がれ!」
鳴上さんの合図で花村さんもアタシも未央もすぐさま飛び退いてきらりに道を譲る。
暴走特急と化したきらりは、地を蹴って飛び上がるとノアめがけて急降下の体当たりをかました。
「くっ…」
「っしゃあ!怯んだぜ!このまま行きますよ里中先輩!」
「任せときなって完二くん!」
きらりの体当たりによろめいたノアの隙を見逃さず、今度は巽さんと千枝さんが飛び上がる。
「喰らえやオラァッ!!」
「ゲンコツ喰らわすッ!!」
巽さんと重なるようにして現れたロクテンマオウと、千枝さんに重なるようにして現れたハラエドノオオカミが力を解放すると、巨大な握りこぶしが二つ現れ、ノアに叩きつけられた。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!
こんな威力の攻撃見たこともない。
衝撃で地面が揺れている。
まともに喰らったノアは倒れ伏し、のあもまた苦しそうに膝をついている。
「すごっ」
「どーよッ!」
目を丸くする未央と得意げな巽さん。
こんなもん喰らっちゃあ、いくらアイツでも…。
「…………流石は“真実にたどり着きし者達”ね…正直侮っていたわ…でも…それもここまで」
のあがゆっくりと立ち上がると、それに合わせたようにノアもまた立ち上がる。
「私が甘かったわ…圧倒的な力の差を見せつければ…今からでも目覚めさせてあげることができるかも、と…どこかで思っていた…思っていたみたい」
のあの瞳が再び怪しく輝きだした。
「最初からこうすべきだった…迷うことなく…戦う前に言ったように…“導いて”あげるべきだったわ…」
のあの背後から黒い影が湧き出し、爆発的に広がって、アタシ達の周囲を覆い尽くす。
何だコレ!?
影はアタシ達の足元から空へと広がっていき、アタシ達とのあは真っ黒な空間に閉じ込められた。
「どうなってやがんだコレは!」
「何をする気だ、のあ!」
「ここは…『絶望の世界』一切の光も届かない世界…そして…」
またものあの目が怪しく光る。
それと同時に何かがざわめくような音が聞こえだした…音?
「こんな『絶望の世界』は…一度綺麗に失くして新たな世界を作るべきなの…そう、それが『創世の導き』」
「何か来る…みんな身を守れぇ!!」
「…無駄よ…ノア!」
ざわめきが大きくなり、何かが迫っているのが感じる。
それは、のあの号令と共にアタシ達に襲い掛かってきた。
ざわめきの正体は…水だ!
とてつもない量の水が濁流となってアタシ達に襲い掛かり、押し流そうとして来たんだ!
「がぁっ!」
「うぷ…」
「………」
みんなほとんど悲鳴を上げることもできずに流れに飲み込まれる。
アタシも必死にもがきながら、何とか水が引くのを待った。
どれほどの時間水にもまれていたかはわからない。
けど、気付くと鳴上さんが荒い息で膝をついていて、他の皆は倒れている。
息はあるみたいだけど、ダメージがひどい。
「…動けるのはあなた達二人だけの様ね…鳴上悠、神谷奈緒…『愚者』は導ききれなかったということかしら…?」
…なんかの皮肉か?
くそっ…なんて力なんだ…。
「大丈夫か、神谷さん」
「あぁ、なんとか…鳴上さんは?」
「俺もどうにか大丈夫だ…みんなを回復させないと」
鳴上さんが回復の出来るペルソナを呼ぼうとしたが、のあはあざ笑うかのように両手を広げる。
「あなたがペルソナを付け替えるのと…私が瀕死のお仲間に一撃を与えるの…どちらが速いかしらね…?…どちらかが私の攻撃を受けとめるという選択肢もないのは…わかるわよね…?」
悔しいけどアイツの言うとおりだ。
ペルソナを付け替えるよりアイツの攻撃の方が速いし、特大を魔法二連続で撃ちだせるヤツ相手じゃ、どっちかが攻撃を受けきることもできない。
だったら…!
アタシと鳴上さんの結論は一緒だった。
互いに目配せし合うと、武器を握って飛び出し、のあに向かって振り下ろす。
「ゴフェルッ!!」
「イザナギッ!!」
同時に、アタシ達の相棒、ゴフェルとイザナギを呼び出してノアを抑え込む。
ギギィン!
アタシと鳴上さんの振り下ろした刀を素手で受け止めたのあは、少し驚いたような顔をしている。
てか、素手で刃の部分握って止めるとか、なんなんだよこいつは!
「…なぜ?」
「へっ…これなら…っ、余計な手出しできねぇだろ…っ?」
「ペルソナも…っ、押さえさせてもらう…っ」
「…わからないわ…確かにこうしてここであなた達が私を押さえていれば…その間はお仲間に手出しできない…けど…あなた達の内どちらかでも仲間を癒さなければ…この状況が好転することなどありえないというのに…」
くっ…二人がかりなのにびくともしない…!
ゴフェルとイザナギもなんとかノアを押さえているけど、それで精いっぱいって感じだ。
「…無駄な事をしたがるなんて…絶望を前に気が触れたのかしら…?」
「くっ…言ってろよ…!けどな…アイツらは…アタシの仲間は…あの程度でくたばっちまうほどヤワじゃねぇんだよ…っ!」
「確かにまだ死んではいない…けれど…それも時間の問題よ…命の灯火は確実に小さくなっている…彼女たちは死ぬの…すぐにね」
「俺たちも彼女たちも…っ、修羅場はくぐってきた…っ!俺は…みんなの底力を信じる…っ!」
「…愚かね」
アタシと鳴上さんの言葉に理解できないと頭を振ったのあが、両手に力を込める。
ぐぅぅ…押される…っ!
後ろで転がっている仲間たちは、相変わらず動きそうもない。
チックショオ…!!
こんなところで終われない!
アタシ達は、コイツを倒して帰るんだ!
未央たちへの想いが、アタシの口から溢れだす。
「いつまで寝てる気だ未央!
いつもカッコいいこと言ってたのは口だけか凛!
そんなんだから年だって言われるんだよ菜々さん!
きらり!きらりんぱわー☆はどうした!
普段サボってる分ここで踏ん張れよ杏!
ここが正念場だろ!頑張れ卯月!
加蓮!病弱キャラは卒業したんだろ!
みんな…みんな、目ぇ覚ましてくれよおおお!!」
「…だから無駄だと」
「…ふーん…奈緒は、そんな風に思ってたんだ…!」
「……!」
アタシの叫びが届いたのか、凛が震える体をなんとか起こしながら声をあげた。
「あてて…きっついよかみやぁん」
未央も、頭を掻きながらなんとか身を起こす。
続いて卯月が、きらりが、加蓮が菜々さんがどうにか立ち上がる。
「えへへ…ナナはまだまだ行けますよ!リアルJKですから…メディラマ!」
菜々さんの回復呪文が、みんなの傷を癒す。
全快には程遠いけど、どうにかみんな起き上がるだけの力は湧いてきたみたいだ。
「ほら!杏ちゃん!ちゃんと立つにぃ!」
「うえー、やられた振りしてれば寝てられると思ったのになー」
ったく、ふざけてんのか杏は。
だけど、みんなボロボロだけど、その顔には力が戻ってきつつある。
「…何故…『創世の導き』を受けて…まだ現世にすがりつくというの…?」
「なんていうか、アイドルになってから諦め悪くなってさー」
「まだまだ頑張れるのに、ここであきらめたらもったいないですし!」
加蓮も卯月も、目に力がこもっている。
言葉はそれぞれの性格が出てるけど、言ってることは同じ。
アタシも同じ気持ちだ。
「とりあえず、好き勝手言ってくれた奈緒には後でお仕置きするとして…」
「どんなカッコさせよっかねー」
「おい!なんなんだよお前ら!アタシはお前らがいつまでも寝てるから…」
「…やれやれ」
鳴上さんが苦笑まじりのため息を吐く。
「…何をふざけているの…?あなた達の不利は依然変わらないのよ…たった今私一人に殺されかけたのを忘れたわけではないでしょう…?」
のあは明らかに混乱している。
「…お前にはわかんねーよ。アタシは…アタシらは、お前なんかには理解できないし、お前なんかに負けたりしない!!」
「く…っ!」
思いっきり力を込めて、のあに止められていた刀を振り切る。
忌々しげな表情ののあに向けて、アタシと鳴上さんはしっかり武器を構えなおした。
「神様気取って!最初っから人間の可能性に蓋をしてるお前なんかに!アタシらが負けるもんか!!」
「そーだ!いいぞーかみやん!」
「私も同じ気持ち、かな」
「奈緒ちゃんの言うとおりですっ!」
「うきゃー、奈緒ちゃんかっこいいにぃ!」
「あついねー。ま、奈緒らしいけど」
「その通りだよ!奈緒ちゃん!」
「ま、そういうことだよね」
パリィン!!
―――我は汝・・・ 汝は我・・・
汝、ついに真実の絆を得たり。
真実の絆・・・それは即ち、
真実の目なり。
今こそ、汝には見ゆるべし。
”戦車”の究極の力、”フツヌシ”の
”刑死者”の究極の力、”アティス”の
”星”の究極の力、”ルシフェル”の
”月”の究極の力、”サンダルフォン”の
”太陽”の究極の力、”アスラおう”の
汝が内に目覚めんことを・・・
>諸星きらり『戦車』双葉杏『刑死者』渋谷凛『星』北条加蓮『月』島村卯月『太陽』と、確かな絆を紡いだ!
みんなへの信頼に、胸が熱くなる。
「これは…!」
「あ、あれれ?」
「にょわ!?」
「おやおや?」
「なんか体が…!」
「熱くなってきた…?」
未央以外のみんなから、ペルソナの光が溢れだす。
凛のガルーダが、菜々さんのパールヴァティが、きらりのトリグラフが、杏のヤツフサが、卯月のドゥンが、加蓮のスイキが。
光と共に現れ消えていき、新たなペルソナが生まれる。
「コレ、私の時と同じ…!」
「みんなの心の成長が、ペルソナを進化させたんだ」
未央の驚きに、鳴上さんが答える。
「へへっ…まったく、ちょっと寝てる間に面白そうなことになってんじゃんか」
遅れて、花村さんたちも立ち上がってくる。
「先輩として、後輩が頑張ってんのに転がってらんないよね!」
「鳴上くん、神谷さん、遅くなってゴメン」
「あぁ、チクショウ、体が軋みやがる」
「弱音はらしくないですよ、巽くん」
「そうだぞ完二、男のくせにー」
「くせにー」
「るっせぇぞ!クマ公も調子のんじゃねぇ!」
「みなさんまだ傷は治りきってませんよね?ならばナナにお任せです!ペルウサ!」
全員が立ち上がったところで、菜々さんが新たなペルソナを呼び出す。
「ハリティー!メディアラハン!」
赤いローブを纏ったペルソナが光を放つと、みるみるうちにアタシ達の体に力が戻ってきた。
「…何故…理解できない…さっきまでより強い力が…何故…?」
「言ったろ、お前には理解できないって。決着をつけてやる!!」
「…くっ…ならば再び導いてあげるまでよ…ノア!」
のあがノアを呼び、さっきと同じように影を広げ始める。
「もうその手は食わないよ!」
「『創世』したんでしょ?」
「なら、次は新しい世代に任せるべきだよね!凛ちゃん、未央ちゃん!」
未央と凛と卯月が飛び出し、叫ぶ。
「ペルソナ!」
「ペルソナッ!」
「ペルソナー!」
凛の新たなペルソナは、綺麗な鳥に乗った女神。
卯月の新しいペルソナは、雄々しい巨鳥だ。
「私のステージ、見ててよね♪スルト!」
「……手加減はしないよ、カルティケーヤ!」
「私、絶対負けません!スパルナ!」
三人が、ステージに立っているかのようにポーズを決める。
それぞれのペルソナの持つ力が集まり、眩い光を放った。
【新たなる世代】
「うっ…あぁっ…!」
のあが放った影は跡形もなく消え去り、苦しげに膝をつく。
「…まだよ…まだ」
「きらりー、これでいっちょ頑張ってー、ペルソナ!」
「うきゃー!杏ちゃんに応援されたら、きらりいつもの百倍頑張っちゃうにぃ!ペルにょわー!!」
「ヤツフサのが可愛かったんだけどな…ま、いいや、ヴァスキ!」
「にょわあああ!!力が湧いてきたにぃ!トールちゃん!!」
杏が呼び出したのは、手が何本も生えている人面の蛇。
きらりが呼び出したのはその手に巨大なハンマーを持つ巨人だ。
杏のペルソナがきらりのペルソナに力を注いで、力任せにノアにぶっ放した!
【輝きの萌芽】
「ああああああああああっ!」
ついにのあも、たまらず悲鳴を上げる。
もう少しだ!
「…許さない…塵と消えなさい…メギ…」
「させないっての!」
さっき白鐘さんが防いでくれた大爆発の呪文を、加蓮が武器を投げて中断させる。
「奈緒!凛!」
「わかってる」
「トドメ行くぞ!」
加蓮を中心に、アタシが左に、凛が右に立って叫ぶ。
「もう一度お願い…カルティケーヤ!」
「行こっ、私たちのステージへ、セト!」
「うん…いくよ…ゴフェル!」
加蓮の新たなペルソナは、真っ黒な巨龍。
そのペルソナに、アタシと凛のペルソナの力を乗せて、ノアに向けて放つ。
【至高の三和音】
アタシ達の完璧なコンビネーションが生み出したエネルギーが、ノアを、のあを打ちのめす。
でたらめにピアノを叩いたような、けれどどこか統制のとれているような。
そんな嵐が止んだ時、そこにあったのは、倒れた高峯のあの姿だけだった。
「…勝った、のか?」
「…勝ったね」
「勝ったんだよ!かみやん!!」
「勝った…勝った!勝ったぞ!」
未央が駆け寄ってきてアタシに抱きついた。
他の皆も走ってくる。
ついにやったんだ。
事件の黒幕を、高峯のあを、倒したんだ!
―――神秘的な祭壇
「なんとか、倒せたな」
「あぁ、多分…杏」
「うん、もうアイツからペルソナのエネルギーも感じない。やっつけたよ」
「やった…やったねかみやん!!」
「おう」
なんていうか、達成感と疲労感で言葉が出ない。
それぐらいすごい戦いだった。
倒れている高峯のあを見やる。
このままには…しておけないよな。
アタシはゆっくりとのあに近付いた。
良かった、息はある。
命がけの戦いをしておいてなんだけど、やっぱり死なれるのはなんか、な。
「…見事ね…完敗だわ…それだけの力があれば…絶望に満ちた世界でも生きていけるのでしょうね…」
相変わらず絶望だのなんだのって…コイツは、なんでそんな考えに取りつかれちまったんだろう。
「………神よ…お許し…ください…」
気を失った。妙な目の輝きもなくなったようだ。
アタシは、倒れているのあの体を引き起こし、肩で担いだ。
「捨て置くわけにゃ、いかねーもんな。なおちん、代わるぜ」
花村さんが申し出てくれた。
まぁ、男の人に任せるかな。
「いやいやいやいやすごい戦いだったウサね」
目を丸くしたウサがヒョコヒョコと近づいてきた。
そういえばこいつは、戦う力がまったくないから祭壇エリアの入り口付近で待ってることになってたんだっけ。
隠れて見てたのかな。
「ケガは…ベベチャンが治してあげたみたいウサね!でも、シショーたちみんな疲れた顔してるウサ!今日のところはとりあえず引き上げてゆっくり休むウサよ」
そうしたいな。
今日はよく眠れそうだ。
色々と話したいこともあったはずだけど、とりあえずアタシ達は黙って現実世界を目指すことにした。
―――現実世界、CGプロ事務所、第4会議室
「―――帰ってきたか!」
やっとこさっとこ戻ってくると、Pさんが出迎えてくれた。
きっと、事務所の人払いを済ませてからずっとここで待ってたんだろう。
「全員無事だな?…その顔だとケリはついたんだろ。お疲れさん」
「…おう」
「765の貴音ちゃんが来てるぞ…ってその女!」
「あぁ、色々聞きたいこともあるし、向こうに捨ててくるわけにもいかないだろ?」
花村さんと鳴上さんに抱えられたのあに気付いて驚くPさんに、簡単に事情を説明した。
…てか貴音さん来てんのか。
「みんな、よく頑張りましたね」
「わわっ!たかねっち!」
いつの間に部屋に入ってきたんだろう、相変わらずこの人は神出鬼没だ。
「共に戦えず申し訳ありませんでした」
「いいって、そっちもなんかやってたんだろ」
「はい…『方舟』の一団は、主だった幹部を捕え、その活動を停止しました」
アタシ達がテレビの中でのあと戦っている間、貴音さんは桐条の対シャドウ案件部隊と共に『方舟』の本拠地に突入していたらしい。
「本来であれば宗教団体を襲うような真似はできませんが…こと話がしゃどう関わっているとなれば別。やはり彼らは、そこの高峯のあの力を使い、人々をしゃどうに変えてしまおうとしていた様です」
人間をシャドウに…鳴上さんの予想は当たっていた。
とんでもないことを考える奴らだ。
「桐条がぺるそな使いを制御するために用いられていた薬も少量、教団の本拠地から発見されました。数年前ににゅくす教を率いていた『すとれが』という若者たちの残党でしょう…おそらく、人々をしゃどうに変えた後、自分たちが支配者として君臨するつもりだったのでしょうね」
「『人々を救う』なんてのは、嘘っぱちだったわけだ」
花村さんの言葉が、アタシの頭に微妙に引っかかる。
『方舟』の偉い奴らは知らないけど、のあは本気で人を救おうとしてるように見えた気がするんだけどな…。
考えても仕方ないか。
「詳しいことは、高峯のあに聞けばはっきりすることでしょう。さ、下に車を呼んであります。高峯のあは、桐条の病院で保護し、監視いたしますので」
「あ、あぁ、わかった。ほんじゃ運ぶぜ、悠」
「あぁ」
花村さんと鳴上さんが、のあを担いで出ていく。
その様子をちらっと見た貴音さんは、こっちに向き直って話を続ける。
「よくぞ高峯のあを連れて帰ってきてくれました。彼女が意識を取り戻したら、ご連絡いたします」
「うん、貴音さん、よろしくお願いします」
「では」
優雅に一礼すると、貴音さんは出て行った。
これで、ひとまず一件落着、か。
「はー!終わった終わった!」
「勝ったんだよね、私たち」
「そうですよ!ナナたちやったんです!」
「あたしもうお腹ペコペコだよー」
「帰りになんか食べて帰ろうか?」
みんな口々に感想を言い合う。
うん、今はとりあえず勝利を喜ぼう!
「ねぇ、奈緒ちゃん、千枝先輩、みんなで打ち上げしない?」
「打ち上げ?」
「いいねぇ!」
りせちーの提案に、アタシ達は首をひねり、千枝さんたちは大きくうなずく。
打ち上げか…。
「去年もやったんだけどさ、こういうおっきなことが終わった後は、やっぱり打ち上げじゃない?」
「いいかも…やろうよかみやん!」
「そうだな…盛大に打ち上げするか!」
「私も賛成だけど…場所とかどうするの?」
凛の言葉にアタシ達は考え込む。
そういえば、アタシ達は全員で十六人、それに打ち上げならウサも呼んでやりたいから十七人にもなる。
今からじゃちょっと準備が間に合わないよな…。
それにアタシ達は明日も仕事がある。
明後日からのクリスマスイベントの準備だ。
どうしようか…。
「おいおいお前ら元気だな、たった今戦いから帰ってきたってのに」
アタシのPさんが呆れたように笑う。
「今日は取り敢えずゆっくり休め。八十稲羽組は、親御さんに泊りがけだって連絡してあるんだろ?貴音ちゃんが良いホテル取っててくれてるらしいから」
え!?そんなことになってたのか…。
仕事を終わらせるのと、今日の決戦がいっぱいいっぱいで全然そこまで気が回ってなかった。
「そうですね…今日の戦いはかなり激しかったですし、僕らには休息が必要です」
「つってもどうすんだ?明後日は終業式だぜ」
「のあのヤツを運んできたぜー」
花村さんと鳴上さんが、アタシ達が話し合ってるところに帰ってきた。
「…どうした、難しい顔をして」
「いや、打ち上げしようって話になったんだけど、場所と時間がさ」
「なるほど」
流石に鳴上さんも、突然妙案は浮かんできそうになさそうだ。
悩むアタシらに助け船を出したのはPさんだった。
「だーから今日は休めっての。ウチのアイドル組は、明日からまた仕事だろ?そんで、八十稲羽組は明後日終業式だ。ってことは、お互い用事が終わってからあつまりゃ良い」
「どういうことだよ」
「お前ら、さては今日の事に気を取られて先の予定ちゃんと見てなかったな。どーせ打ち上げとか言い出すと思って、クリスマスイベント終わった次の日は全員オフにしてあんだよ」
へ?
驚くアタシ達に、Pさんがスケジュール帳を取り出して見せてくる。
…ホントだ。
確かに二十六日は全員オフだ。
「さすがに場所まではおさえてないけどな、あとは自分たちでなんとかしろ」
「Pさん…アンタやっぱすごいな」
「誉めんなって」
ニヤッと笑うPさんはなかなか決まっていた。
じゃあ、日にちはこれで決まりで良いかな?
「私も二十六は空いてるからいいよー」
「りせが大丈夫なら、俺たちは全員大丈夫だ」
後は場所だけか…。
そこで、みんなの視線が自然と天城さんに集まる。
「…ゴメン、夏の時はたまたま空いてたけど、さすがに今回は…」
「いや、まぁ仕方ねぇよな!毎回天城の世話になんのもワリィしさ!」
すかさず花村さんがフォローを入れる。
なんだろ、戦いに行く前より今の方が悩んでる気がするな。
「…仕方ない、叔父さんの家を使わせてもらおう」
結局状況を打開したのは鳴上さんの一言だった。
「え、でも大丈夫なのか?」
「そうだよ、この人数じゃ入れないって…」
「あの間取りのままだったらな。幸い、あの家は台所とリビングの間に壁がないし、家具の配置を変えればなんとかなるだろう」
「みんなで集まれる場所があるならありがたいけど…その叔父さんの許可は取れるのか?」
刑事だと聞いてるし、なんか厳しそうなイメージが…。
「なんとかするさ」
「んじゃ、そこは相棒にまかせるとすっか!あ、お菓子とかのお買物はぜひジュネスでどーぞ!」
特別捜査隊組はなんかあっさり乗っかっちゃってるけど、本当に大丈夫なんだろうか。
「打ち上げは八十稲羽でするんだな?じゃあ大奮発、翌日もオフにしておくから一泊してこい!」
Pさんも大盤振る舞いだ。
…たまにはいいか!
「さぁて、せっかく戦いも終わったのに、いつまでもこんなとこで考え込んでのもアホらしいだろ!外出ようぜ外!」
花村さんの一声で、皆で事務所を出た。
―――CGプロ事務所前
晴れている。
空は雲一つない快晴だ。
冬の澄んだ空気が感じられる。
「…終わったんだな」
「そうだよかみやん!」
未央がアタシの手を取る。もう半年くらい前になるのか。
最初からアタシと一緒に歩いてきてくれた未央。
「気持ちいいですねぇ」
実は向こうの世界の住人だった菜々さん。
「空、蒼いな…」
最初の被害者だった凛。
「うきゃー☆深呼吸したくなっちゃうにぃ☆」
まっすぐで力強いきらり。
「ちょ、きらり、落ちる落ちる」
普段怠けてるくせにこの事件関連では頼りになった杏。
「なんか、信じられないようなことの連続でした!」
どんなときでも明るさを失わない卯月。
「どーせ誰も信じないし、真実を知ってるのは私たちだけ、か」
ひねくれたように見せてるけどちゃんとアタシ達のことを考えてる加蓮。
「…君たちと共に戦えて、良かった」
鳴上さんの言葉にうなずく、頼もしい特別捜査隊のみんな。
「いいなー、青いなぁ、お前ら」
Pさんは笑ってる。
「え、蒼?」
「凛はそこで反応すんな」
「ねぇねぇ!円陣組もうよ!」
「またですか里中センパイ」
「なに、文句あるわけ完二くん」
「…いや、ないっす」
「ほらほら」と誘う千枝さんにつられて、みんなで円陣を組む。
この人数だとちょっとしたもんだ。
道行く人たちが何事かとこっちを見ている。
「ち、千枝、恥ずかしいんだけど…」
「私たち一応アイドルなのに、こんなに目立っていいわけ?」
「なんでもいいから誰か音頭とれよ!」
「そんじゃ行くよー!せーの、やったぜー!オー!」
「…え?」
千枝さんのタイミングも掛け声もわからない音頭に全員が凍りつく。
「な、なにさ!なんでアンタたちやんないワケ!?」
「ここまでおんなじだとむしろ笑えてきますわ」
「里中、お前、学習しろよな!前もおんなじことやったろ!」
「あ、アンタたちこそ、あたしが音頭取ったんだからそんくらいわかりなさいよ!」
「ち、ちーさん、今のは無理だって…」
「ちょっとちょっとー、これいつまでやるクマー?」
「流石にそろそろ視線が痛いんだけど…」
「…仕方ないな、神谷さん頼む」
「あ、アタシか!?」
全員の視線が一気にアタシに集中した。
いや、急に言われても…。
「そうだね、奈緒はリーダーだし」
「かみやん!いっちょバシッと決めてよ!」
「頼むなおちん!この場を収めてくれぇ!」
「え、えっと…じゃあ千枝さんので行くぞ!やったぜー!」
『オー!』
※作者でございます。
如何でしたでしょうか第十五話。
途中できるのもなんなので今回も一挙投稿です。
ね、ケリがつきましたね。
のあさんの服装は「寡黙の女王」のコスの感じでイメージしています。
もともと「ペルソナとのクロスでSS書きたいな、奈緒を活躍させたいな。てかのあさんはまり役ジャン
」
というところから始まったものなので、ようやく暴れさせられて良かったです。
さて、事件の犯人を捕らえたペルソナ使いの面々。
後は打ち上げをして、のあから真相を聞いたら終わり・・・?
まぁまぁ、続きの十六話は数日以内にこの後に投稿いたします。
ではでは、お暇な方はまたお付き合いくださいませ。
P4的には、のあさんは足立枠だから…
…四文字様とか来ないよね?(震え声)
おっつおっつばっちし☆
終わりとか嘘やろ?まだしゅーこが出てない気がするんだが...
おっつおっつ
のあさんはやっぱりトランセンドだった
これだけ揃い踏みしても苦戦するのあさんの強敵ぶりはすげえ。
そういやまだ、肇ちゃんや楓さんとかのコミュはない...よね?
こんばんは。
おや?スピード投稿。
それもそのはず、何でか知りませんが筆が進みに進みまして先ほど十八話を書き終わりました。
え?次投稿するの十六話じゃね?
細かいことはお気になさらず。
私に絵が描けたらモバマス勢の眼鏡絵でも合わせて投稿するんですが生憎と画力はムドオンカレー並みなのでご勘弁を。
では、まったりとした十六話をどうぞ!
―――クリスマスイヴ、とあるイベント会場
「いやさ、サンタの衣装着せられるのはわかってたぜ?」
「言っといたもんな」
「そんで、昨日のリハの段階ではパンツタイプの衣装で露出もそんな多くないし、アタシも結構気に入ったさ」
「わりと喜んでたもんな」
「それで…」
アタシはそこで大きく息を吸い、やるせなさと共にPさんへと声をぶつける。
「なんで今日来たらしれっとミニスカサンタ衣装まで置いてあんだよおおおお!!」
事務所の前で勝鬨をあげてから二日経った今日。
アタシはとあるイベント会場に来ている。
あれからとりあえず一旦みんな解散して休むことになって家に帰ったんだけど、帰宅したらなんか疲れが一気に出て結局夕飯も食べずに延々と寝てた。
それで昨日、今日と明日のイベントの為にリハーサルも兼ねた準備をしてたわけなんだけど…。
段取りに無い衣装をしれっと持ってくるなんてこの人はホントに何考えてんだよ!
しかもこんなみ、み、ミニのおおお!
「ン~、ナオ、どうしてそんなに怒る?それとっても可愛いヨ~♪」
褐色の肌に健康的な体。
今回のイベントで一緒になったナターリアは、ブラジルから来た十四歳でウチの外国人アイドルだ。
「アタシは怒ってるんじゃない!恥ずかしいんだ!」
「恥ずかし?大丈夫ヨ~、それ着たナオはとっても可愛いから恥ずかしがることないネ♪」
つ、通じない…。
てか、ナターリアはアタシなんかよりもっと凄いのを嬉しそうに着てる…なんだアレほとんど水着じゃねーか!
「か、可愛いけど…確かにちょっと恥ずかしいかもです…」
もじもじしてるのは小日向美穂。
アタシと同じ十七歳で、プロデューサーくんというぬいぐるみがトレードマークの女の子だ。
実際小日向Pさんとそのぬいぐるみは似てるらしいんだけど、アタシにはよく分からない。
まぁ穂乃香のぴにゃこら太の例もあるから、ウチのアイドルは独特なのかもしれないけど…そんなことより!
美穂の衣装も大概スカート短めだし、肩もでてるけど!
美穂は昨日もあの衣装だったじゃないか!
「なんでアタシだけこういう目に…」
「いやぁ、お前はそういう反応が売りなとこあるし、出来るだけその衣装になれてない状態でステージに上がってもらいたくってな」
「だからってなぁ!」
「あとぶっちゃけお前の慌てふためく姿が見たかった」
「職権濫用すんなよぉ!!」
「ここのところ街へ出るとよく思いましたけど、日本には色んなサンタ服がありますねぇ~。私の故郷より多いですぅ~」
これまた露出多めな衣装を楽しそうに着こなすこのイベントの二人目の外国人枠。
何と、本物のサンタクロースだという。その名もイヴ・サンタクロース。
この現代で追いはぎに逢って途方に暮れている所をウチのPさんの一人が発見して保護したらしいんだけど、一体全体どこまで本当の事なのやら。
でも、サンタクロースであることはマジらしい。
アイドルになった理由は自分のPさんへの恩返しとプレゼントを用意するための資金集めだって言うしな。
「大丈夫…奈緒さん、似合うから…」
イヴさんと並んで今回のイベントのメインを張るのはこの子。
神秘的雰囲気の十三歳、望月聖。
あんまり活発に動いてるところは見たことないけど、とにかく歌が上手い。
シスターアイドル(こうして考えるとウチってホント何でもアリだな)のクラリスさんと仲が良くて、前にレッスンで聞いた讃美歌は本当に心が洗われる思いだった。
でもな、聖、似合う似合わないの問題じゃないんだ。
さっきナターリアにも言ったけど、恥ずかしいんだって!
そんな聖は、暖かそうなモフモフのコートを着ている。
日本人離れした見た目も手伝って、外国の女の子みたいだ。
「あらぁ~、聖ちゃんそのお洋服、とっても可愛いですねぇ~」
「ありがとう…イヴさんも、素敵…」
ダメだ…この二人はポワポワ空間を発生させてツッコミきれない…。
「まぁ真面目な話、今日わざわざお前たちを見に来てくれてる人もいるわけだし、なんとか頑張ってこい」
それを言われちゃアタシも強くは言い切れない。
てかそれをわかってて言ってるPさんはずるい。
だけど、なんとなくPさんが言外に言いたいことが伝わっても来る。
世間は相変らず元気がない。
『方舟』がもたらした終末思想は、表面的にはどっかに行っちまったように見える。
実際、貴音さんが踏み込んで捉えた幹部たちは、少し形を変えて警察による逮捕として報道されている。
怪しい宗教団体の、怪しい主張は、幹部の逮捕というスキャンダルによって忘れ去られたと思われている。
だけど、厄介なことに『方舟』の思想に触れて元気が無くなっちまった人はまだまだそのままになっている。
Pさんは、そんな世間を、イベントで盛り上げてやれって言いたいんだろう。
言いたいことはわかる。
わかるけどだ。
「…やっぱりこの衣装はなぁ…」
アタシのこんな格好見て、ホントにみんな元気になんのか?
ため息が出るばかりだ…。
―――クリスマス、とあるイベント会場
少しばかり世間に元気がないとはいえ、クリスマスはいわゆる年中行事の中でも特に盛り上がるイベントだ。
ファンと一緒に歌って踊って、ついでにプレゼントを配るというこのイベントも、なかなかの盛り上がりを見せている。
ファンの方は勿論だけど、アタシ達にも日に二回のイベントの合間に何人かお客さんが来た。
「やっほ~、元気してたぁ?」
「ひ、日高さん!?」
「昔の名声って便利よねー、こういうところに顔パスで入れちゃうんだもん」
「それは日高さんが非常識なだけじゃ…」
「なんか言った?」
「いいえなんにもっ」
Pさん、軽口は相手を選ぶべきだって。
「さっきの回見たわ、奈緒ちゃん、あなた何か掴んだわね」
「つ、掴んだ?」
「んー、アイドルとしての目標?信念?そんな感じぃーのー!」
口調はおちゃらけてる日高さんだけど、目には確信がこもっている。
その言葉を聞いて、アタシは自分がのあに言った言葉を思い出した。
―――アタシ達は!みんなの笑顔の為にアイドルやってんだ!!!!
あの言葉は、のあへの怒りで感情が高ぶった拍子に出てきた言葉だ。
だけど、勢いに任せて言った無責任な言葉じゃなくて、本心からそう思える。
最初はなんとなくスカウトされた勢いと憧れだけでアイドルになってみたけど…こうやってイベントに参加したり、のあみたいな奴と戦う内に自分の中に根付いた想いだ。
「そうだなぁ…そうかも」
「でしょー?うふふ、この日高舞の目はごまかせないんだからっ!」
「別にごまかそうともしてませんけど…」
「あーあ、私も後五歳若かったら奈緒ちゃんたちとおんなじステージで戦えたかもなー」
と、とんでもない話だ。
あの日高舞とライブバトルなんてどんなバツゲームだよ。
「あぁっ!!すいません!!おかーさーん!!ちょっとどこ行ったのー!?!?」
「…まぁ、その夢はあの子に託すとしますかね」
遠くからでもはっきり聞こえる日高愛さんの声にクスクス笑いながらアタシにウインクする日高さん。
「奈緒ちゃんはまだまだ伸びるわー、他の子たちもね!楽しみにしてるから、またどこかのイベントで会いましょっ」
どうやらさっきの話をするためだけにわざわざアタシの所まで来てくれたらしい。
言いたいことだけ言うと日高さんは風のようにどこかへと去って行った。
パリィン!
―――我は汝・・・ 汝は我・・・
汝、ついに真実の絆を得たり。
真実の絆・・・それは即ち、
真実の目なり。
今こそ、汝には見ゆるべし。
”女帝”の究極の力、”イシス”の
汝が内に目覚めんことを・・・
>日高舞『女帝』と、確かな絆を紡いだ!
「…ありがとうございます」
理由はよく分からないけど、アタシは自然と日高さんが消えた方へ頭を下げていた。
他にはというと…。
「メリークリスマウス…ちゅうちゅう」
「メリークリスマス、奈緒さん」
「あ、楓さんと肇、メリークリスマス」
世界で一番有名なネズミの耳を模したものが付いたカチューシャを付けた楓さんと、肇が差し入れに来てくれた。
「メリークリスマウスですよ、奈緒ちゃん、ちゅうちゅう」
…アタシはツッコまないぞ…!
「ねーねー、奈緒ちゃん、クリスマウス…ふふっ」
何だ、この人酔っぱらってんのか?
いつもより絡み癖がひどいってかそのネズミはちゅうちゅう鳴かないだろ!
「肇はどうしてここに?」
「ちひろさんが差し入れに行くとおっしゃったので、ならばご…」
「奈緒ちゃーん…ハh」
「それ以上はダメだ楓さん!!」
全くこの人は…アタシにツッコませて満足そうだし。
「コホン…奈緒Pさん、ちひろさんが差し入れを持ってきてくださるそうです。今、駐車場に車を入れてらっしゃいます。あと、これは私たちから」
アタシと楓さんのやり取りを微笑ましげに見ていた肇が、用事を思い出したようにPさんに包みを渡す。
「お、スマンな、この匂いは…チキンか!」
「はい、せっかくなので」
これは嬉しい。
クリスマスのイベントなのに、楽屋にあったお弁当は何故か幕ノ内だったからな。
いや、チキン食べさせろとは言わないけど、クリスマスイベントなのに幕ノ内?ってちょっと思っただけだよ。
「オ!ハジメにカエデさん!応援に来てくれたのカ~?」
「おう!…ふふっ」
楓さん、もしかしてそれで洒落だって言わないよな?
なんなんだよホントにこの人!
「な、なぁ肇、楓さんさ…」
「え、えっと…実は出掛けに志乃さんからワインを勧められてるのを見ました」
やっぱり!…って。
「見たのは勧められてるとこだけか?」
「はい…なので何杯飲んだかまでは…」
既に二杯以上飲んだであろうことは確定で誰もツッコまない。
やれやれ…まぁいいか、楓さんだし。
「差し入れ、ありがとな」
「いえいえ」
「そうだ、肇はさ、クリスマスプレゼントに何が欲しいとかってあったか?」
この間まゆと話していた話題を思い出して、肇に聞いてみる。
「クリスマスプレゼント…ですか?…そうですね…今年は特に考えなかったですね」
「忘れてた感じ?」
「えぇ、それなりに忙しかったですし…あ、でもクリスマスプレゼントと言えば」
肇が何かを思い出したかのようにクスクス笑いだす。
どうしたんだ?
「小さい頃に、祖父がこんなことを言ってたんです。『クリスマスイブには一番気に入った器を窓の外に置いて置け』って」
「どういうことだ?」
「私の祖父、変なところで頑固で『日本でサンタにプレゼントを頼むなら靴下ではイカン!』なんて言い出して、自分の作った器の中からプレゼント入れてもらうものを選ばせたんですよ」
「まず日本でサンタにプレゼント頼んでることは良いのか?」
「えぇ、だからおかしいでしょう?結局、その時に頼んだクマのぬいぐるみは器に入りっこなくて、頭にかぶせてありました。ホントに、何のためにそんなことしたんだか」
思い出しては愉快そうに笑う肇。
おじいちゃんは多分、肇が自分の作った器でどれを一番気に入ってるのか知りたかったんじゃないのかな…可愛いな。
「クリスマスと言えばですよ~?」
「おわっ!楓さん!ちょっと抱き着かないで!」
「あら?奈緒ちゃん…もしや奈緒ちゃんてなかなかグラマー…」
「ひゃあっ!ちょっと、衣装の隙間に手を入れるなぁっ!楓さんってば!」
「あらあら、賑やかですね」
車を停めてきたちひろさんも楽屋に加わり、本格的に騒がしくなる。
その後アタシは、楓さんからちょっぴり大人なクリスマスの想い出話を、ちひろさんから少しビターな人生の話を聞いたり、差し入れのチキンに舌鼓を打ったりした。
残りのイベントも頑張るかな!
パリィン!
―――我は汝・・・ 汝は我・・・
汝、ついに真実の絆を得たり。
真実の絆・・・それは即ち、
真実の目なり。
今こそ、汝には見ゆるべし。
”隠者”の究極の力、”オンギョウキ”の
”節制”の究極の力、”ヴィシュヌ”の
”悪魔”の究極の力、”ベルゼブブ”の
汝が内に目覚めんことを・・・
>藤原肇『隠者』高垣楓『節制』千川ちひろ『悪魔』と、確かな絆を紡いだ!
―――十二月二十六日、昼過ぎ、八十稲羽駅
色々、ほんとーに色々あったクリスマスイベントから明けて今日、十二月二十六日は、待ちに待った打ち上げの日だ。
アタシたちは事務所の最寄り駅に集合して、八十稲羽に向かう。
なんと!今回はウサも一緒だ。
アイツもずっと一緒に戦ってきた仲間だからな。
道行く人は物珍しげに眺めてくるけど、こいつがキグルミにしか見えない見た目で助かった。
初めての外の世界に、ウサは興奮しっぱなしだ。
鳴上さんは、昨日の終業式が終わってすぐに向こうに発ったらしい。
みんなで四方山話に花を咲かせながら電車に揺られること数時間。
目指していた八十稲羽駅に着いた。
「わー!凛ちゃんたちだ!」
改札を出たアタシたちを出迎えてくれたのは、鳴上さんの従姉妹の菜々子ちゃんだ。
「ひさしぶり、菜々子ちゃん」
「うん!今日は打ち上げパーティーなんでしょ?今千枝お姉ちゃん達が準備してくれてるよ!」
「初めまして菜々子ちゃん、島村卯月ですっ」
「初めまして、北条加蓮だよ」
「わー!卯月ちゃんと加蓮ちゃんもいるぅー!…あれ?あなたは誰?」
「ウサはウサウサー!クマチャンたちのお友達ウサよ!」
「クマさんの!うわぁ、ふかふか!」
「…俺たちはお出迎えとご案内ってところかな」
駆け寄ってきた菜々子ちゃんの後ろから、ゆっくりと近づいてきた鳴上さん。
嬉しそうな菜々子ちゃんの頭を撫でながら微笑んでいる。
「鳴上さん、わざわざありがとう」
「いいさ、俺も楽しみにしていたからな」
「もう準備終わっちゃいそうかなっ?」
「いや、むしろこれからが本番かな?」
「よーし、それじゃあ私の腕もまだまだ奮い甲斐が…」
「加蓮、お前は静かにしてろ」
「えー」
あんだけ言って聞かせたのにまだこいつはわかってないのか!
アタシは、打ち上げすると決まった後、解散前のやり取りを思い出す。
―――パーティーってことはあたしたちも腕によりをかけてご馳走を作らないとね!
―――うん、今度はなにがいいかな!
―――待て待て待てお前ら!まさか、また恐怖のポイズンクッキングを始めようってんじゃないだろうな!
―――言うに事欠いてポイズンとはなによ!
―――自分たちのしでかしてきたことをよーく思い出してみやがれ!
―――あ、あれから上達したもん!ね!鳴上くん!
―――………そうだな。
―――なんだよ相棒、今の沈黙!
―――…里中、その…作るならお菓子だけにしておけ。
―――う…わかりました。
―――えっと…千枝さんたちって料理苦手?
―――苦手なんてもんじゃねー…あれは最早兵器だ…!
―――そんなにできないんだー。じゃあ私たちでつくろっか、奈緒、凛。
―――加蓮は座ってろ!
―――加蓮は座ってて!
―――なんでよー!
実際、千枝さんも天城さんもりせちーも、お菓子ならまぁ作れないこともないらしい。
天城さんに至ってはおうちの板前さんに教わってるようで、だいぶ上達したと鳴上さんが言っていた。
ただ、絶対に自由に作らせてはいけないらしい。
「まぁ料理はそれとしても、一日遅れのクリスマスパーティーを菜々子も楽しみにしている。飾り付けなんかも頼めるかな」
アタシと加蓮のやり取りを苦笑しながら見ていた鳴上さんが助け船を出してくれる。
…まぁ、鳴上さんもポイズンクッキングには苦い思い出があるって言ってたしな。
「だけど、本当にお家を使わせてもらって良かったんですか?」
「あぁ、なんとか入りそうだし、叔父さんも休めなくて菜々子と過ごせないのを気にしてたみたいで、賑やかなのは歓迎だそうだ」
「お父さんも、早めにあがれたらパーティーに参加したいって!」
「それはもう大歓迎だよっ!」
それから、鳴上さんの案内で今回の会場である堂島家へと向かうことになった。
―――堂島家
「お邪魔しまーす!」
「どうぞー!」
玄関のドアを開けると、そこにはすでに結構な数の靴が並んでいた。
これがアタシ達の分でまた倍になるんだよな。
「お、いらっしゃーい!」
「千枝、ここ人の家だけど、いらっしゃいでいいのかな」
「い、いいんじゃない?てかそんなに真剣に悩むほどの事でもないような…」
あ、相変らず天城さんのツボがわからない…。
「思ったより早かったじゃん」
「ちょうど駅に着いたところを捕まえられたからな」
「花村くんたちは、今買い出しからこっち戻ってくる途中みたい」
「ちょっとクマ!急に立ち上がらないで…」
「シショーチャンたちぃーいらっしゃいクマァー!」
アタシ達が来たのを聞きつけたクマがすっ飛んでくる。
まったくコイツは…。
「オヨ!オヨヨ!ウサチャン!遂にこっちへ出てきたクマね~!」
「クマチャン!会いに来たウサよ~!」
今日のクマは金髪碧眼の美少年風クマだから、ウサギのキグルミと抱き合う美少年というよく分からない構図が出来てるな。
「もう!クマったら、急に動くから危ないったらありゃしない…みんな、いらっしゃい!」
「おっす、りせちー」
「おっつおっつ☆」
「とりあえず荷物置こうよー」
やっぱりすごい人数だよな。
えっと…アタシはどうするかな。
「神谷さんと安部さん、渋谷さんは料理の方を頼む。俺も手伝うから」
「わかった…って鳴上さんも?」
「鳴上くん、料理もできるからねー。これで去年学校にお弁当作って持って来たりしてたから」
はー、ますます完璧超人だなこの人。
「食後のデザートはあたしと雪子でつくるから、メインをおねがいするわ」
「叔父さんが出前の寿司を注文してくれてるらしいから、軽いもので良いぞ」
「りょーかい」
「ナナも久々に腕を振るっちゃいますよ!」
「じゃあまずは何作ろうか」
アタシ達料理班以外のメンツは、部屋を片付けて飾り付けをしている。
結構本格的なクリスマスパーティーになりそうだ!
「あれ。千枝、クリームに塩っていれるっけ」
「え、えっと…スイカにかけるのは甘味が引き立つから、だっけ?そうなると」
「ちょ、ちょっとまったお二人さん!それはないだろ!」
「ただお野菜並べてサラダっていうのもさびしいですし、ポテトサラダにしましょう!」
「菜々さん、ポテトサラダ得意なの?」
「えぇ、昔お世話になったメイド喫茶のママさんの得意料理で…よく作ってもらったなぁ」
「ポテトは熱いうちに潰すのがコツなんですよね」
「流石鳴上くん!よくご存知ですね!」
「おーっす、いやー、在庫処分で何本かジュースおまけしてもらっちったぜー」
「それを、俺に、運ばすんだ、もんな、花村先輩は、よ」
「た、巽くん、大丈夫かい?やっぱり途中で代わった方が…」
「あ、あぁ!?んな余計な気なんか使う必要ねんだよ!こんなもんヨユーなんだからよ!」
「あはは、完二良いようにつかわれてんねー」
「アンタは働きなよ杏」
「うきゃー!加蓮ちゃんもだにぃ!」
「ウサチャン…これがいわゆるグラビアというものクマ」
「ウ、ウサッ!?これは…外の世界にこんなものが…!」
「なにバカやってんのよ二人して。良いから早く輪飾りつくんなさいっての!」
「あっはっは!ウサちんには全部が珍しいもんねっ!」
「どっちがいっぱい作れるか競争ですよ!菜々子ちゃん!」
「きょうそう~!あはは!」
みんなそれぞれの役割をこなして着々とパーティーの準備が進められていく。
飾り付けも料理もだいたい完成したところで、タイミングよく寿司の出前も到着した。
「準備整った感じか?」
「だねー!」
「始めようぜ!みんな、グラス持てグラス!」
「なーんでアンタが仕切ってんのよ」
「ここは、奈緒ちゃんに、ね」
「っとと、そーだな!なおちん、音頭頼むぜ!」
「あ、アタシでいいのか?…じゃあ。みんな、グラス持ったか?」
全員、溢れんばかりの笑顔を浮かべてアタシの方を見ている。
よし。
「えーと、色々お疲れ!あと、遅れたけどメリークリスマス!カンパーイ!」
『カンパーイ!』
打ち上げ兼クリスマスパーティが始まった。
なんていうか、終わったってのを実感するよな、打ち上げやると。
みんな楽しそうだ。
「完二ー、ちょっとそのサラダとってよ」
「あぁ?なんで俺がオメーの為に働かなきゃなんねーんだよ」
「これですか、双葉さん」
「直斗、人の世話なんか焼いてねーでオメーはもっと食えよ、んなだからちいせぇんだぞ。ホレ」
「あ、ありがとう巽くん」
「完二ってホントわかりやすいよねー」
「あぁ!?何がだよ!」
「それでね!この間、おとうさんにピアノ弾いてあげたんだー」
「えぇ!菜々子ちゃんピアノできるんだ!すごいなぁ」
「えへへ」
「そういえば、直斗くんもピアノ弾けるんだよ」
「去年みんなでバンドやったのは楽しかったよね!」
「みんな楽器できゆの?」
「ううん、全然だったんだけど、鳴上くんと直斗くんに教わりながら、ね」
「へー!ゆーちゃんてホントになんでもできるんだにぃ☆」
「ホント、こっちいる間も吹奏楽部とバスケ部兼部して、どっちもレギュラーだったし。先輩かっこよすぎっ」
「自慢のお兄ちゃんだねっ、菜々子ちゃん」
「うん!」
「ウサッ!外の世界にはこんなおいしい物がいっぱいあるウサねぇ…」
「まだまだクマよ~。今は冬だから、ちょっと季節外れになっちゃうけど、ホームランバーっていう至高のおやつもあるクマ!」
「ホホホ、ホームランバー!?」
「あー、ナナは最近食べてませんねぇ、そういえば…ハッ、これはセーフですよねっ!?鳴上さん!」
「大丈夫だと思います。完二もクマも良く食べてますし」
「なんだか、ナナが集めてた情報が少し古い物ばかりらしくて…こっちにきてずいぶん恥ずかしい思いをしました…」
「…そっとしておこう」
「ここでっ!俺はこの間の『生っすか!?SPECIAL』にてなおちんとひびきんの可愛いところを集めた映像集を出すぜっ!」
「はっ!?はは花村さん、何考えてんだ!?」
「うわー…もしかして花村、この間買ったとか言うレコーダーでそんなことしてたの?」
「あたりきよっ!あのレコーダーのおかげで、俺のアイドルウォッチングライフがだな…」
「ふっふっふ、よーちゃん甘いよっ!私はなんと!奈緒Pさん手ずから編集した未公開シーン入りのプロデューサーズカットバージョンが!」
「未央っ!?てかPさん何やってんだよ!!」
「なんとっ!?欲しい!!見たい!!未央ちゃん!お願いそれ見せてください!!なんでもしますから!!」
「ほっほーう、今何でもと言ったかねぇ?花村陽介くん…それではそのチキンを丸々私に寄こすのだー!」
「こ、これは俺が何時間も並んで買ってきた特別な…けどなおちんの映像は絶対に手になんか入らねーしここはっ」
「二人ともアタシを無視すんな!!」
「…未央も私たちと考えてること一緒だったね」
「だね」
「凛も加蓮も!なんでしれっとそのDVD持ってんだよっ!!」
「ただいまー、帰った…うお、相変わらずすごい靴の量だな」
「お父さんだ!」
玄関のドアが開き、男の人の声がする。
それを聞いた菜々子ちゃんが嬉しそうにすっ飛んで行った。
この家の主、鳴上さんの叔父さんが帰ってきたんだ。
『お邪魔してまーす!』
「あぁ…またずいぶんと多いな。模様替えも大変だったろう」
灰色がかったスーツに赤いネクタイの男の人がパーティー会場と化した居間に入ってくる。
短髪で厳しそうな顔をしたいかにも刑事って感じの人だ。
「お帰り、叔父さん。お邪魔してます」
「おう、悠。いや、こっちこそ菜々子を仲間に入れてもらって悪いな」
「えっと、本日はお家を貸していただいてありがとうございます。アタシ、神谷奈緒って言います」
「あぁ、普段は菜々子と二人だしな、賑やかなのは歓迎するさ。俺は堂島遼太郎、菜々子の父親でコイツの叔父だ。まぁゆっくりしていってくれ」
「堂島さん、お寿司、ありがとうございます!高かったんじゃないすか?」
「ん?はっは、せっかくのパーティなんだろ、たまにはこれくらいの贅沢もいいさ」
花村さんの言葉に笑顔で答える堂島さん。
なんていうか、特別捜査隊陣のお父さんて感じだな。
お邪魔させてもらってる身だし、ということでアタシらは一通り自己紹介をした。
全員分聞き終わったところで堂島さんが口を開く。
「みんなどこかで見たことあると思ったら、アイドルだったんだな」
「おいおい悠、お前、その辺の知識堂島さんに負けてるぞ」
「刑事なんて職業だと、あんまり世間に無知でもいられんしな…しかし渋谷凛か…確か…」
そこで堂島さんは顎に手を当てて記憶を探るように考え込む。
「…どうかしました?」
「いや…あぁ、そうだ、思い出した。確か、君はCGプロの所属だったな」
「はい…私はっていうか、ここに居るアイドルは久慈川さん以外みんな同じ事務所です」
「へー!事務所の名前まで憶えてるとか、堂島さんて、案外アイドル好きですか?」
「はっは、俺はあんまりそういう華やかなのには興味ないんだがな、片桐早苗って知ってるか」
千枝さんの言葉をやんわり否定した堂島さんの口から、わりと馴染み深い名前が出た。
「早苗さんですか?…一緒の事務所ですよ」
「結構仲良くしてるよね!」
杏が消えたあたりからちょくちょくお世話になってるしな。
「彼女が新人の時に世話をしたことがあってな」
「えぇ!早苗さんとお知り合いなんですか!」
「あぁ、警察は務めてからしばらくは地方勤務が通例で、そこから希望部署に移ったりするもんなんだが…女性ながらかなりの腕っぷしで、中央に行ってからもバリバリやってたらしい。警察を辞めてアイドルになったと風の噂では聞いていたが、彼女は元気でやってるか」
「イベントなんかでは、早苗さんにシメられたい!なんてファンがついたりして、楽しそうですよ」
「ははっ、そうか。懐かしいな、ここで刑事やってた頃も、ストーカーを締め上げたりとずいぶん活躍してたもんだ」
こんなところで早苗さんの昔の知り合いに会うなんて…世間て狭いな。
「お父さん、アイドルのお友達いるの?」
「あぁ、そうだな、そういうことになるな」
「へー!じゃあ、菜々子と同じだね!」
菜々子ちゃんはニコニコとアタシ達を見回す。
すっかり懐いてくれてるみたいだ。
「しかしまぁ…」
堂島さんがアタシ達を見回して呆れたような声をあげる。
「今時の高校生ってのはこんなに芸能人の友達が多いもんなのか?俺がガキの頃はそんなこともなかったが」
「あー、なんてーか偶々っすよ、偶々!」
「夏休みに、ウチの旅館に泊まりに来てくれたんです。その縁で」
「天城屋か…なるほど、俺はまたお前たちが余計なことに首を突っ込んでるのかと思ったぞ」
す、するどい…。
「そそそ、そんなことないですって!」
「あぁ!もちろんですともっ!」
千枝さんも花村さんも逆に怪しくないか?
「色々偶然が重なった結果さ…叔父さんが心配するようなことは何もないよ」
「…まぁ、そういうことにしておくか。特に悠、お前たちはあんまり余計なことしてる暇はないわけだしな」
「あぁぁ~、嫌なこと思い出したぜぇぇぇ…」
「そっか、鳴上さんたちは三年生か」
花村さんが頭を抱えだしたのを見て、アタシはピンときた。
受験…するのかな、みんなは。
「鳴上さんたちって、進路はどんな感じなんだ?」
「おぉっと、なおちんそれ聞いちゃう感じ?別にいいけどさ」
花村さんが大げさなリアクションを取って見せる。
「やっぱり、みんな受験?」
「あぁ、俺は首都圏の大学をいくつか受ける予定だ」
「あ、法学部とかでしょ?」
「よくわかったな。後は文学部もいくつか受ける」
「へー、文学部は意外かも」
「…創作物に登場する神やなんかの由来に、興味があるからな」
鳴上さんの意味ありげな微笑みにアタシ達は納得する。
なんでか心に芽生えるペルソナたちは神話に出てくる奴らが多いからな。
「俺も、あっちの方の大学を受けようと思ってんだ。一人暮らしってやつもしてみたいしな」
「花村君は、どの学部を受けるんですか?」
「経済学部。なんてーか、ジュネスの店長やってる親父見てると、やっぱああいうのは勉強しといたほうがいいのかなって思ってさ」
「そのままジュネスに就職しちゃえばいいのに」
「やとわれの店長にそんな権限なんてねーの!」
「千枝さんは?」
「あたしは一応警察官志望なんだけど、大学には行こうかなって。公務員になるための勉強がどうにも足んないからさー、大学通いながらダブルスクールってやつ?」
「へー!警察官ですか!」
「えへへ、なんだかんだこの町には愛着あってさ…ここを守れる仕事が良いなって。あ、堂島さん、またお仕事の話聞かせて下さいね!」
「ん?おう、時間のある時ならいつでも構わんぞ、勉強は教えられんがな」
「もう忘れた」と苦笑気味の堂島さん。
千枝さんが警察官か…うん、似合うけど早苗さんと似たような路線に行きそうだぞ。
「じゃあ、雪子さんどーぞー」
「私も首都圏の方に出ようかなって思ってるんだ。しばらく家から離れて暮らしてみたいって言うか…天城屋をもっと立派にするためにも、一度ここじゃないところで自分を磨きたいの」
「お、よーちゃんとは家を出る理由が違いますな」
「うっせー」
「ふふっ、私もそこまで具体的に考えてるわけじゃないけど…社会学部とか経済学部で、世の中の事を勉強したいなって。せっかくだから資格も色々取りたいし」
みんな、自分の進路についてちゃんと考えてるんだ…。
せっかくなので二年生組にも聞いてみる。
「りせちーたちは、将来の夢とかあるのか?」
「私は…とりあえずアイドルはもちろんだけど、女優とかやりたいなー。それで、綺麗なうちに結婚して引退!幸せな家庭っていうのに憧れる!」
「僕は、自分の探偵事務所を開くのが目標ですかね…そのためにもっともっと勉強しなくてはいけません」
「俺は実家継ぎてーからよ。まぁ天城先輩や花村先輩みてーに大学で世の中の事勉強すんのもありだし、そのままどっかに弟子入りして腕磨くのもありだし…考え中ッスかね」
考えてみれば、この人たちもバラエティ豊かだよな…十人十色ってことか。
特別捜査隊陣の話を聞いて、卯月がため息を吐く。
「はぁ…みなさん考えてますね。私や奈緒ちゃんも来年は三年生ですけど…受験かぁ、どうしようかなぁ」
「そうだよなぁ…考えなきゃな」
「でもでも、きらり大学っていうのには行ってみたいかなーって思うにぃ☆杏ちゃんはどーお?」
「どーもこーもないよ、杏はこのまま印税生活で逃げ切るのさ」
同じ十七才のはずなんだけどな…。
杏の態度にアタシは苦笑が漏れる。
「そうですねぇ、ナナは」
「あ、菜々さんはいいよ、アイドル一本だもんねー」
「聞いてくださいよぉ!」
杏の菜々さんに対するテキトーすぎる対応に、みんなの笑いが弾ける。
「あ、そーだ!ちーさんたちの受験終わったらさ、私たちのライブ見に来てよ!」
「ライブ?」
「そっか…765さんとの合同ライブって、確か春先だったね」
「それってもしかして…『生っすか!?』でやってた『the world is all one』いわゆる『ザワワンライブ』ってやつですかぁ!?」
花村さんが大きな声を出す。
そういえばそうだったな。アタシももちろん出番はあるはずだ。
「そのとーりだよ!よーちゃん!」
「…コンサートか」
「どうですか?鳴上くん!」
「良いと思う。夏の時もなかなか楽しかったしな」
「あ、でも、あの765とCGの合同だろ?チケットとれねんじゃねーかな」
「なに言ってんの、そんなのこっちで人数分用意するに決まってんじゃん」
「わーお!フェスは夏にいったけど、あたし、一回ああいうライブ行ってみたかったんだよねー…でも、いいの?あたしら全員てそこそこいるけど」
「大丈夫、ね、奈緒」
急に凛が話を振ってきたけど、まぁ大丈夫だろう。
「あぁ、アタシのPさんが多分統括やるだろうし、みんなの分くらいなら頼めば用意してくれるよ」
「うわー、お客としてライブ行くなんてめっちゃ久しぶりかも!」
「りせちーは事務所でチケット取れそうな気もするけど…まぁ多少厳しくなったら奈緒が奈緒Pにおねだりするから心配ないよねー」
「ちょ、加蓮!おねだりってなんだよ!」
「『そ、その…友達が見に来るんだけど…ダメ、かな?』とかー」
「おぉおぉ、お前ちょっとそこに直れ!」
「きゃー!奈緒が怒ったー」
アタシが真っ赤になったのを見て、みんなが笑う。
春先か…あと三か月くらいなんだよな…それを超えたら新年度。
どんな未来かわからないけど、せっかく勝ち取った未来なんだ。
精いっぱい生きたいな。
―――十二月二十九日、神谷宅、奈緒の部屋
『方舟』の影響はなんとなく残ってはいるものの、首領高峯のあを倒して安心していたアタシの元へ、一本の電話が入った。
着信は…貴音さんからだ。
「はい、もしもし」
『夜分に失礼いたします。四条貴音です』
「こんばんは、どうしたんだ?もしかして…高峯のあ?」
『えぇ、彼女が目を覚ましました。貴女方と話をしたがっております』
「わかった、アタシも色々聴かなきゃならないし、これからみんなに連絡取って二、三日中に…」
『いえ、急な話で申し訳ありませんが明日、なるべく早い時間にお越しください。他の方々にもこれからそのように伝えます。八十稲羽の方々には迎えも出しますので』
アタシの言葉をさえぎって貴音さんがそんなことを言い出した。
あ、明日!?いや、時間作れないことはないけど急だな。
「ど、どうしたんだ貴音さん、そんなに急がなくちゃいけないのか?」
『どうやらそのようです。詳しいことは私にも良くわかりませんが…高峯のあが早急に貴女方を集めろ、と』
のあが?
どういうことなんだ…あれだけ激しく争って、アタシ達はアイツを倒した。
恨み言でも言いたいってのか?
「それって、罠って可能性は…」
『断言はできませんが、ほぼありえないでしょう。彼女を祀り上げていた者たちは私たちが捕えましたし、ぺるそなの力も奈緒たちとの戦いでだいぶ消耗しています。…それに』
「それに?」
『本当に必死な人間の言葉は、互いがどんな立場であれ聞こえるものです』
のあが…必死?
なんだかわからないけど、アイツはアタシ達に何かを伝えたいらしいな。
妙な胸騒ぎを覚えながら、アタシは貴音さんに了承の旨を伝えて電話を切った。
※作者でございます。
珍しいことこの上ないスピード投稿です。
あと、少し短めなのでやっぱり一話丸々投稿です。
あとはもう最後まで一回の投稿で丸々一話になりますかね、途中で切りたくありませんし。
コミュ活動は当初の予定通りあっさりを貫きました。
これで、対個人のコミュは全部MAXなはず。
実際奈緒とまゆとか奈緒と小梅とか奈緒とほたるとかめっちゃ書いてみたいので、いつかそれ単体で読めるかつここのコミュ活動補足になるようなものを投稿したいものです。
いよいよ話は最終盤。
目覚めたのあは何を語るのか。
お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、事件はまだ終わっておりません。
次回十七話はまた近いうちにスレを立てますので。
そうですね。
神谷奈緒「今度こそ終わりだ…ペルソナ!」
で行きましょう、今決めました。
ではでは。
乙っす!!
書き溜めがいっぱいあるといけませんね、続きを投稿したくて仕方なくなる。
ということで本日の夜に新スレ立てます。
お暇な方はお付き合いください。
乙
今追い付いた
大人組みのペルソナ発動を見てみたかったです
何か楓さんだとあっさりシャドウを受け入れそうなイメージが…
感想くださったみなさまありがとうございます!
>>149
大人組かー、難しそうですねぇ
でも、大人の方がわかりにくい葛藤を抱えてそうで、そういう妄想をするのもなかなか悪くないですね
短編でイフストーリーでも書ければ…やめておきましょう皮算用は
でも、ひとつ考えると、楓さんなら例えば「他人に深く踏み込むことができない」みたいな感じでシャドウをかけそうですね
書きたくなっちゃうでしょーがっ!
とりあえずこちらをきちんと終わらせるのが先ですね。
今から更新いたします。
新スレ立てましてございます。
神谷奈緒「今度こそ終わりだ…ペルソナ!」
神谷奈緒「今度こそ終わりだ…ペルソナ!」 - SSまとめ速報
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