お嬢様「執事!お茶!」 (9)
とある世界のとある栄えている交易都市。
この交易が盛んな国の王の娘はほかの国からもわがままで知られている。
だが嫌われることはない。
困っている人がいれば助け、悪を見つければ成敗する優しいお方と言われている。
そんなお姫様が家のしきたりにより一人暮らし(召使一人同伴)をするお話。
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季節、春。
テレビを見ていたひとりのお嬢様はキャスターがいる場所に行きたくなった。
キャスター『ここ一週間、雨も降らずに太陽がさしていましたが、熱いだけでいいことの無い日が続きました、ですが今日、二週間早く咲いた桜に花見をしに来る人が大勢います、私も今その現場にいるのですが━━』
お嬢様「……」
煎餅を片手に紅茶を一口飲む、少し癖のついた茶色がかったショートヘアーの少女。
お嬢様「花見……いいわね」
執事「今日はお買い物に行くのでは?」
真っ白なTシャツに灰色のパーカー、下はジーパンを履いた青年はついさっきまで食べていた朝食の食器を洗いながら
後ろから話しかけられる声にこたえている。
お嬢様「バイトが休みだからって散財はできないわ…お金を使わず花見をしましょう」
執事「と、言うと?」
お嬢様「弁当作ってお昼までには桜の咲く公園へ、いざ!行かん!」
執事「弁当はだれが作るんですか?」
お嬢様「そんなの執事である貴方に決まってるじゃない」
執事「私はお嬢様の見張りとしてここに一緒に住んでるんですがね」
お嬢様「私は家計を稼ぐ、貴方は家事をする…働かざる者食うべからずよ!監視だけで飯が食えるなんて甘えるんじゃないわよ!」
執事「もっともであり、何か癪に障りますね…」
お嬢様「で、何作るの?」
執事「拒否権なしですか」
そんなわけで花見に行く事になった2人。
最初は嫌がっていた(?)執事もしつこい少女に言い押され、渋々弁当を作って午前十時、マンションから徒歩一時間の
公園へ二人で歩き始めた。
お嬢様「にしても最近雨どころか曇すら見えない晴天ね…今年は野菜が高くなりそうで怖いわ」
執事「そういうものですか?」
お嬢様「そういうものよ…今のうちに長持ちする物かって…いや、自家栽培もいいわね」
執事「あぁまた一人の世界に…」
八百屋「おう!執事さんに姫ちゃん、どこか行くのかい?」
この人はこの街でも有名な八百屋のオッチャン。値下げ交渉なんて初見でしてくれる優しい人だと評判の良いゲイだ。
お嬢様「今年は不作よ!」
八百屋「おおう、また自分の世界に入ってたのかい?」
お嬢様「あ、オッチャン!…今年は不作の予感だ…あまり値下げはしない方がいいかもよ」
八百屋「なにぃ!?…そりゃいけねぇ、今からでも倍値でうらなきゃな!」
お嬢様「そ、それは勘弁してよぉ」
八百屋「冗談だい、そうだ、今日取れたてのたまねぎ、持ってくかい?」
お嬢様「今から花見行くんだ…帰りに他のものと一緒に買いに来るよ」
八百屋「いいねぇ花見、いってらっしゃい!」
お嬢様「じゃーねー」
執事「では、また後程」
軽く腰を曲げ一礼してその場を後にした。
相変わらず元気なオッチャンだ。
八百屋に続きケーキ屋、パン屋、アイスの移動売りの人と話して店の無い、人けのない川沿いの森林道を
小鳥の囀りや草木が風で揺れる音を聞きながら歩いていく。
執事「そういえば、お嬢様最近国王様…お父様やお母様とは連絡取っているのですか?」
お嬢様「うん、さっきメールで花見行くって送っといた」
執事「返事は来たんですか?」
お嬢様「いや、来ても見てない、どうせ『大丈夫?人一杯で危険じゃない?大丈夫?危険じゃないよね?』とか同じことばっかの心配しかしてこないから」
執事(王…)
お嬢様「それよりそっちはいつも家でなにしてるのよ」
執事「私ですか…そうですね」
執事「午前中の内に掃除洗濯を済まし、昼食を軽く済ませ…夕食の買い物をするか……掃除…です」
お嬢様「…え?」
執事「以上です」
お嬢様「何もしてないじゃん…」
執事「あ、たまにお嬢様の仕事っぷり見に行ってますよ」
お嬢様「?!いつ!いつきたの!!?」
執事「昨日も行きましたよ」
執事「かわいかったです、お嬢様『いらっしゃいませー!』『ご注文はいじょうですか?かしこまりました』」
お嬢様「マネするな!…てかどこにいたんだよぉ」
執事「お客として」
お嬢様「嘘だ!いなかった!…いや、変装?…そうなのか!変装なのか!」
執事「普通の格好で見てましたよ」ハハハ
静かな道で二人で騒いでいると森林道を抜けた。
今までの道は二人が住む町と桜の咲く公園のある隣町の真ん中にある山の中にある。
その山を越えるとそこは全長十メートルの巨大噴水がシンボルの隣町だ。
桜の咲く公園は山を越え真っ直ぐいった丘の上にある。
お嬢様「ひ、人すごいわね…」
執事「ですね…これは座るところがなさそうな…」
お嬢様「力ずくでも座るわよ」
執事「力はダメですよ」
お嬢様「じゃあとうするのよ!」
執事「探しましょうよ…」
「あれ~?姫さま~?」
顔を真っ赤に少し涙目にして執事に怒鳴っているお嬢様の後ろからゆっくりとした口調で話しかけてきたのは
お嬢様のバイト先に居た黒髪でロングヘアーの眼鏡の女子だった。
半袖に白いシャツに水色のネクタイ。ショートパンツにレギンスを履いた姿で前かがみになりお嬢様を見て
「やっぱり姫さまだ~」と言って後ろに居た2人の男女を読んだ。
お嬢様「せ、先輩?…なぜここに」
先輩「たぶん姫さまと同じだと思うよ~、花見~」
お嬢様「おなじです、私も花見です!…でも座る場所無くて」
先輩「じゃあ一緒に来る~?今日は店長が席を取っていてくれてるんだよ」
お嬢様「本当ですか!いいんですか!?」
先輩「よかったらそちらのカレシさんも~」
執事は一瞬、目を細めて自分を見て「カレシ」のところで少し声のトーンが下がったのはたぶん聞き間違いだろう。と聞き流すことにした。
お嬢様「か、彼氏じゃないんですけど」
先輩「あ、そうなのぉ~…ふふ、ごめんね~」
お嬢様「いえ、それよりいいんですか?私はともかくコイツも」
先輩「いいんじゃない~?一人や二人~」
先輩「いいよいいよ~、じゃ、いきましょうか~」
そう言って先輩は執事の腕を掴み自分の胸にぴったりくっつける語りで抱きしめてせこせこと歩いていく。
その後を追うようにバイト先の先輩2人とお嬢様はちょこちょこ後ろを振り返る執事を見ながら早歩きで進んでいく。
五分ほど歩いて他の人の数倍の広さを取っているシートに着いた五人は先に居た四人に挨拶をして
シートの上に座った。
暫く九人で飲み食いしていると隣にいた酔った青年がお嬢様に話しかけてきた。
青年「ねぇねぇきみぃ…かわいいねぇえへへひぇひぇ」
お嬢様「よるな!酒臭い!」
青年「いいじゃん~、減るもんじゃないし~…そ、れ、に…僕君みたいのタイプなんだよねェ」
お嬢様「私は興味ない!消えろ!」
青年「っ!…んだよ、のりわりぃな」
そういって青年は自分の仲間の所へ帰って行った。
お嬢様「…たすけなさいよ」
執事「お嬢様ならなんとかできると信じてました」
お嬢様「意気地なし」
執事「……」
乙
乙
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