心と科学の生物学を始めましょう (239)
※関連スレ(現行)『女教師「♂と♀の性物学を始めよう」《女教師「♂と♀の性物学を始めよう」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428243001/)》』
※高校+α程度の生物学SSです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428330552
女教授「皆さんこんにちは♪今日から2時間目の生物学の授業を担当させていただきます、女教授ですっ!」
お嬢様「なんかユルい雰囲気の先生ね」
真面目「よ、よろしくお願いします」
天然娘「こんにちわぁ」
チャラ男「溢れ出る女子力wwwwどこぞの変態とは大違いだぜwwww」
女教授「それでは、これから皆さんと一緒に生物について学んでいきたいと思います。みんなよろしくね♪」
天然娘「はぁーい」
女教授「早速ですが、皆さんは"遺伝子"ってなんだと思います?」
お嬢様「馬鹿にしないでくれるかしら?そのくらい知っているわ。……えーっと、アレよ。私達の設計図みたいなヤツ」
天然娘「双子さんはいっしょの遺伝子だからそっくりさんなのぉ」
女教授「じゃあ、"ゲノム"はどうでしょう?」
真面目「えっ、ゲノムは遺伝子と同じではないのでしょうか……?」
チャラ男「俺知ってるぜwwww遺伝子のカッコイイ方の呼び方だろwwwww」ドヤァ
女教授「それじゃあ"DNA"はどうです?」
お嬢様「……うん?あのDNA鑑定とかのヤツよね?ならやっぱり遺伝子のことじゃないの……?」
チャラ男「それも知ってるぜwwwwゲノムのもっとカッコイイ呼び方wwwww」ドヤァ
天然娘「食べると頭が良くなる食べ物だよぉ」
お嬢様「それは多分DHAよ」
真面目「うーん……結局、全部同じ意味では?」
女教授「遺伝子、ゲノム、DNA……世間ではみんな同じ意味で浸透しているようですが、実はこれらは元々科学用語だったんです」
女教授「まずはゲノムですね。これは私達の設計図である、【32億の塩基対全て】のことなんです!」
天然娘「一番おおきいのぉー?」
女教授「そうですよ♪そして、この中でも【意味のある領域】を遺伝子と言うのです」
お嬢様「じゃあ、ゲノムの中には遺伝子じゃない所も有るわけ?」
女教授「もちろんです!むしろその部分の方が圧倒的に多いくらいで、遺伝子の部分はゲノム全体のたった2%しかないのですよっ」
チャラ男「2%とか少ねぇwwwwじゃあ残りの98%は何なんだよwwww」
女教授「残りの98%はゴミです♪」
チャラ男「」
真面目「ゲノムのほとんどはゴミなんだ……」
女教授「ただ、ゴミといっても不良品や包装紙、領収証やアンケート用紙など重要なものも少なくありませんが……」
女教授「それらを除いたとしても、ゲノムの半分以上はゴミクズ(ジャンクDNA)同然と言われてますっ」
天然娘「じゃあー、DNAってなぁに?」
女教授「はい♪やっと今日の本題に入りましたね!」
女教授「DNA……これは化学物質の略称で、略さずに正式名称で言うと『デオキシリボ・ヌクレイック・アシッド』と呼ぶんです」
真面目「デオキシ……?なんだかとても長い名前ですね」
女教授「そうですね。すごく長い名前と感じるかもしれませんが、実は3つの"パーツ"の名前をくっつけているだけなのですよ!」
お嬢様「3つのパーツ?」
女教授「ええ♪そのパーツとはつまり、『デオキシリボース』という【糖】、4種類の【塩基】、そして『リン酸』から成る【酸】の3つのことです」
天然娘「お砂糖とぉー……梅干しとぉー……レモン?」
チャラ男「めっちゃ体によさそうwwww」
女教授「と、遠からずと言ったところですね……」
女教授「このうち、塩基には【A(アデニン)】【G(グアニン)】【C(シトシン)】【T(チミン)】の4種類があります」
女教授「そして【AとTは腕(水素結合)を2本】、【CとGは腕を3本】持っていて、このペアがお互いに握手することで【二重螺旋】の構造を作っているのです!」
お嬢様「ふーん……まあDNAのことは大体分かったわ」
お嬢様「でも、どうやってDNAが私達に影響を与えてるのよ?」
女教授「そうですね……では突然ですが、人間の60%は何でできていますか?」
天然娘「やさしさ?」
お嬢様「それはバファリンよ」
真面目「水ですね」
女教授「そうです、人体の半分以上は水分でできています♪」
チャラ男「そんなもん誰でも知ってるぜwwww余裕余裕wwwww」
女教授「では、水分の次に多い成分は何でしょう?」
チャラ男「……やさしさ?」
お嬢様「あんた人のこと笑えないわね」
真面目「【タンパク質】ですね」
天然娘「お肉とかお魚さんにいっぱいなのぉ」
女教授「正解ですっ、人間の20%近くはタンパク質でできてんるんですね♪」
女教授「ではでは、タンパク質は一体何からできてるんでしょう?」
天然娘「やさしさ」
チャラ男「やさしさ」
お嬢様「あんた達、いい加減それから離れなさいよ……私も分かんないけど」
真面目「うーん……ビタミンとか、ミネラルとかじゃないですか?」
女教授「ぶっぶーっ、惜しいですがちょっと違いますよ~」
女教授「タンパク質は【アミノ酸】という物質がいくつも繋がった高分子なのです!」
女教授「肌や髪の色がちがうのは、ドーパミンからメラニン色素を合成するタンパク質の量が違うため」
女教授「お酒に強い人や弱い人がいるのは、アルコールやその代謝物のアセトアルデヒドを無害な酢酸に代謝するタンパク質の強さが違うため」
女教授「私達の顔つきが十人十色なのも、みんなタンパク質がちょっとずつ違っているからなんですよ~」
お嬢様「なるほどねぇ……だんだん察しがついてきたわ」
お嬢様「でもそれで結局、そのタンパク質の違いがDNAとどう関係があるのよ?」
女教授「そこで、さっきは"DNAは生物の設計図"と言いましたが、実は【遺伝子にはタンパク質のレシピが書いてある】のですよ!」
女教授「細胞の中にある核という"図書館"に、DNAの"レシピ集"が保存されてると考えてみてください」
女教授「あるところに、リボソームと言う名前の"コックさん"がお料理の参考にするために図書館に来ました」
女教授「しかし、この図書館は【持ち出し禁止】なのです……こんなとき、皆さんはどうしますか?」
真面目「内容を覚えます」
チャラ男「スマホで写メ取るぜwwwwwwww」
天然娘「その場でお料理するのぉ」
女教授「」
お嬢様「誰一人としてコピーを取るっていう発想はないのね……」
女教授(最近の子って怖い)
女教授「そうですね、すぐに捨てられるメモ用紙にコピーを取るのがセオリーな方法です」
チャラ男「でもスマホの方が速くてエコだぜwwwwwww」
お嬢様「あんた、それモラル違反だから控えなさいよ」
女教授「おほんっ……その時の壊れやすいメモのことを【RNA】と言うのですっ」
真面目「DNAと似てますね」
天然娘「親戚さんなのぉー?」
女教授「親戚というよりは、もっと近い兄弟みたいな関係ですよ♪」
女教授「RNAとは、略さずに言うと『リボ・ヌクレイック・アシッド』と言うのです」
天然娘「デオキシさんがどこかに行っちゃったのぉ」
女教授「良いところに目をつけましたね!『デオキシ』とは、さらに『デ』『オキシ』に分けられますっ」
女教授「『デ(無い)』『オキシ(酸素原子)』つまり【酸素原子が1つ足りないリボース】と言う意味なんですよ~」
お嬢様「たったそれだけで壊れやすくなるの?なんだか不憫ね」
女教授「ええ。実はDNAは奇跡のようなバランスで安定してるんです!」
女教授「DNAが安定している理由の1つに【π-πスタッキング】と言う現象があります」
チャラ男「なにそれエロい」
女教授「そ、そんな///おっぱいストッキングなんかじゃありませんよ///」
お嬢様「誰もそこまで言ってないわよ」
女教授「えーっと///……π-πスタッキングとは日本語で『芳香族平行相互作用』と呼びます」
天然娘「ほーこー?良い匂いがするのぉ?」
女教授「うーん……説明するのは難しいので実例を見てみましょう!」
_
〈´-`〉<僕、ベンゼンだよ。
↓ ̄↓
↑_↑
〈´`〉<俺、フラン。
O
天然娘「かわいいっ」キュンッ
お嬢様「ふ、ふーん!まあ悪くはないじゃないの?」チラッ
チャラ男「超イカしてるぜwwwwwwww」
真面目(か、かわいい……?イカしてる……?)
女教授「このように、輪っかの形でとある条件(ヒュッケル則)を満たした化合物を『芳香族』と言います」
女教授「このベンゼン君とフランさんはちょうど芳香族ですね♪」
女教授「そして図のように、芳香族の物質が平行に存在するとき静電的な力でとても安定化することをπ-πスタッキングと言うんです!」
真面目「DNAやRNAにも芳香族が含まれているんですか?」
女教授「正確には、A・T・G・Cの4種類の塩基が芳香族なんですっ」
女教授「CとTの【ピリミジン骨格】、AとGの【プリン骨格】が芳香族性を持ってるんですよ~」
天然娘「プリン?おいしーのぉ?」
女教授「あんまり摂りすぎると尿酸に代謝されて痛風になってしまうので、お勧めはしませんよ……」
女教授「そしてRNAでは、酸素原子が余分にくっついてしまっているので形が崩れて上手くπ-πスタッキングが働かず、不安定になってしまうのです」
女教授「さらに、DNAをRNAにコピーする際に少し文字が変わってしまうんですね」
真面目「文字が変わる?」
女教授「ええ。塩基の内、なんとTが【U(ウラシル)】に変化してしまうんです!」
チャラ男「面倒臭えwwwwwだったら最初からUでいいじゃんwwwww」
女教授「これには理由があって、Tだともし間違ってもちゃんと後で見直すときに分かりやすくなるからなんですよっ」
女教授「そして、このDNAをRNAにコピーする一連の流れのことを【転写】と呼びます!」
女教授「転写されたRNAは、【頭に帽子(5'-メチルGキャップ)】を被せられ、【お尻に尻尾(ポリAテール)】をつけられるのも特徴です♪」
お嬢様「帽子に尻尾……何だかあざといわね」
女教授「こうしてようやくコピーが完成するのですよっ。後はレシピ通りにリボソームさんがアミノ酸を繋げてタンパク質を作ります♪」
女教授「ちなみに、イメージとしてこんな感じになっていますよ~」
《★インスリンの作り方★》
①まずはメチオニンを水洗いします
②次にアスパラギン酸を千切りにします
③冷蔵庫からリシンを取り出まむずいかかるたとみぐじぞなのへみまよれふあぶるすこぶぶちまこすぼとるてすたてめこそつすろたもるすあおけすちなのへむゆるがごぜづびあおけすちあねでぱみとげびぞげげへえあずざびこげぜぐぶすれこそぬつはむへもおよわとぴふざぴぜすてよびほもふぽかきいぶぜみらけつるぺたようじよゆうていみやおうきむこうほりいゆうじとりやまあきらぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺもよもと
④トリプトファンを5分程煮立たせてダシを取ります
お嬢様「途中から意味不明じゃない!!」
真面目(最初から意味不明だと思う)
女教授「あっ、【スプライシング】について説明するのを忘れてましたね……」
女教授「スプライシングとは、上のようないらない部分を取り除くことなんですよ~」
女教授「この"レシピの部分"を【エキソン】、"いらない部分"のことを【イントロン】と言います!」
天然娘「じゃぁ、いらないところは何であるのぉ?」
女教授「一見ムダに見えますが、実はとーっても重要なんですよっ!次のイメージを見てください♪」
《★まな板の正しい使い方★》
①使用前には必ず水で流しましょう。
んああああああああああああああああああああああああああああああ
②使用後は洗剤や熱湯で消毒し、乾燥させましょう。
72727272727272727272727272727272727272727272727272727272
③あまりにも汚れや黒ずみが酷い場合は表面を削り取りましょう。
お嬢様「……くっ!」ギロッ
天然娘「?」タプーン
真面目「………」
女教授「このようにイントロンが2箇所以上あるとき、これらを取り除くときに間のエキソンも一緒に抜けてしまうことがあります」
女教授「この場合は『んああ』と『72』の間の②が……お嬢様さん、どうしました?」タユン
お嬢様「何でもないわよ!さっさと続けなさいよっ!!」ポロポロ
女教授「えーっと、つまりこの場合『①②③の完全なレシピ』のタンパク質と『①③のみのレシピ』のタンパク質の2種類が作られるわけです」
女教授「このイントロンがもっと多く挟まっていれば、指数関数的に作られるタンパク質の種類が増えることができるんですっ」
真面目「なるほど……短い配列でたくさんの種類のタンパク質を作ることができるんですね」
女教授「こうしてスプライシングにより色々なタンパク質を作ることを【選択的スプライシング】と呼ぶんですよ!」
お嬢様「手元にあるものを切ったり貼ったりして新製品って言うだなんて、遺伝子は以外とケチね」
女教授「こうしてようやく完成したメモを【m(メッセンジャー)RNA】と呼びます」
女教授「ヒトゲノムが解析された当時では『実際に作られるタンパク質に対して遺伝子の数が少なすぎ!』と物議を醸したものです」シミジミ
チャラ男「じゃあタンパク質はどうやって作れんだよwwwwwコンロとフライパンでも使うのかよwwwwww」
女教授「いいえ、"フォーク"を使います!」
真面目「フォーク?」
天然娘「まだ焼けてないよぉ」
女教授「フォークと言っても、バーコードリーダーの様なものですが…」
女教授「コックのリボソームさんは、レシピの写しであるmRNAをフォークの様な形をした【t(トランスファー)RNA】でツンツンしますっ」
チャラ男「なにそれ破廉恥」
女教授「このtRNAの3つの枝分かれ全てがピッタリな配列を見つけたとき、その配列にフォークがブスリと突き刺さります♪」
チャラ男「」ヒュンッ
お嬢様「おっかないわね……」
女教授「すると持ち手の先っぽにあるアミノ酸がタンパク質に繋ぎ合わされるので、どんどんタンパク質が伸びていくんですね~」
女教授「このように、3つの塩基配列が対応した1つのアミノ酸を指定することを【コドン】と呼ぶんですっ」
女教授「こうしてmRNAからタンパク質を作り出すことを【翻訳】と呼ぶんですね♪」
真面目「なるほど……つまり、【DNA→(転写)→RNA→(翻訳)→タンパク質】と言う風に一連の流れがあるんですね」
女教授「そうです!そして、その過程のことを【セントラルドグマ】と言う名前で呼ばれることがあります」
天然娘「かっこいい……!」キラキラ
チャラ男「ふっ……俺のパルスのファルシのルシがパージでコクーンだ……!」
お嬢様「なに厨二病を患ってるのよ」
女教授「さて……ずいぶん時間がかかってしまいましたが、今回の授業はこれで終わりです。何か質問はありますか?」
チャラ男「ハイハイwwwww俺メッチャ天才だから気付いたことあるんだけどwwwwww」ドヤァ
お嬢様「マトモな内容でしょうね?」
女教授「はいっ、どんな質問でしょう?」
チャラ男「セントラルドグマのさぁwwwwあの矢印って逆さまにならねーの?wwwww」
真面目「【タンパク質→RNA】、【RNA→DNA】ってこと?」
お嬢様「馬っ鹿ねー、そんなのあるわけ
女教授「ありますよ♪」
お嬢様「あんの!?」
女教授「ただし、人間の科学技術や一部のウイルス限定ですが……」
女教授「タンパク質からRNAを推定する方法は、【エドマン分解】と言う反応でタンパク質を端から1つずつアミノ酸にバラバラにしていき……」
女教授「アミノ酸からコドンを逆算し、RNAの配列を予測することを【プロテオゲノミクス】と言います!」
お嬢様「なんだか消費税が上がりそうな名前ね」
真面目「でも、RNAからDNAを作るなんてできるのでしょうか?」
女教授「もちろんです♪こちらはHIVウイルスやHTLVウイルス、B型肝炎ウイルスの持つ『逆転写酵素』が引き起こす【逆転写】と言う現象ですね」
女教授「このウイルス達は自分の遺伝子をDNAとしてゲノムに組み込んでしまうので、見つけるのが非常に大変なんですよ……」
天然娘「じぶんの書いた本をかってに図書館に直したらめっ!なのぉ」
キーンコーンカーンコーン
女教授「あら、時間みたいですね。それではこれで生物学第1回の授業を終わります。きりーつ、れいっ」
生徒達「ありがとうございました!」
―――――――――――――――…
今日はここまで。今更ながらスレタイミスりました
※補足:プロテオゲノミクスとは
女教授「アミノ酸は3つの塩基で決定してると説明しましたが、実は3番目の塩基はあやふやで実質ほぼ2つの塩基で確定しています」
女教授「例えば、『セリン→UC○』『プロリン→CC○』『トレオニン→AC○』といった感じですね♪」
女教授「4種類ある塩基が16個並んだ配列(4^16)は、全ゲノム(3.2×10^9)中に一回しか出てこないと予測されます」
女教授「すなわちタンパク質のアミノ酸配列が6個(6×3=18>16)判明すれば、ゲノム中のどこにコードされているか分かるのですよ~」
…―――――――――――――――
女教授「おはようございます♪今日は【相同染色体】についてお勉強しましょう!」
お嬢様「ふふん、今日はあの変態教師がちょっと教えてくれたからバッチリよ!」ドヤァ
女教授「わっ、それは頼もしいです♪」
真面目「確か遺伝子には、片方が壊れても大丈夫なように【スペア】があるんですよね?」
チャラ男「両方壊れてたらアウトなんだよなwwwwwww」
天然娘「せんせぇ写真集だしてるんだってぇ」
女教授「それでは一度、最初から順を追って説明しま……ちょっと待ってください写真集ってなんですか詳しく聞かせてください」ガタッ
女教授「オホンッ、それでは最初に【染色体】についてお話ししようと思うのですが……」
女教授「その前に……はいっ、これをあげます♪」スッ
お嬢様「ん?何これ……ぐちゃぐちゃに絡まった糸クズ?」
チャラ男「こっちのはヒモ巻く奴にグルグル巻きになってるぜwwwwww」
女教授「それではっ!今から競争してそれを一本の糸に戻してくださいっ!よーい、ドン♪」
お嬢様「え゙!?はぁ!?ちょ、そんなすぐ言われても……!」グシグシ
チャラ男「うぇーいwwwwww余裕余裕wwwwww」グルングルン
お嬢様「あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!こうなりゃヤケよっ!!」グチャグチャ
WINNER チャラ男!
チャラ男「まあww俺天才だからwwwwこれは仕方がないなーwww」ドヤァ
お嬢様「負けた……こんな奴に……」チーン
真面目(糸が所々引き千切られてる……)
天然娘「おめでとうなのぉ」パチパチ
女教授「さて、どうでしょう?何かに糸を巻き付けていた方が早く解けませんでしたか?」
お嬢様「当たり前よっ!あんなの卑怯じゃない!」ムキーッ!
チャラ男「あれあれwww負け惜しみは良くないなーwwwwww」
お嬢様「うっさいわねあんた!良い気になんないでよ!」
女教授「そう……長い糸は何かに巻き付けていた方が早く解けますし、管理もラクです」
女教授「この長い糸がDNAとしたとき、この糸巻きは【ヒストン】と呼ばれるタンパク質が役割を果たしています」
真面目「DNAはヒストンにぐるぐる巻き付けられているということですか?」
女教授「そうです♪そしてこの【ヒストンがたくさん集まったもの】を"染色体"と呼ぶんですよっ」
女教授「その名の通り、ある薬品に浸けると色が染まったことから発見されたんですね~」
天然娘「遺伝子さんもきれい好きなんだねぇ」
女教授「ところで、このヒストンには実はさらに重要な役割があるんですよっ」
お嬢様「まだあるの?もうぐちゃぐちゃの糸を解くのは嫌よ」ゲッソリ
お嬢様「大丈夫です、今度は巻いた状態でお渡ししますから♪」スッ
真面目「ところで……これはどんな細工がしてあるんですか?」ヌルッ
真面目「」ヌチョ
お嬢様「へっ!?そ、そっちのヤツは何がついてたの!?」ベタッ
お嬢様「」ベトーン
女教授「その糸巻きにはっ!女教師さんの鞄の中にあったローションとトリモチを付けてありますっ!」
お嬢様「イヤァアアアアッ!あいつ学校に何持ってきてんのよぉっ!?」
チャラ男「いったい何に使うつもりだったんだよwwwwww」
女教授「では、それをさっきと同じように解いてください!よーいっ、ドン♪」
真面目(すごく解けやすいのに、全然嬉しくない……)シュルシュルヌルヌル
お嬢様「……ッ!くっ……ふんぬぬぬぬぬっ!!」ベトー
天然娘「がんばれぇー」
チャラ男「あれあれwwwwやっぱりダメなんスか?wwwムリじゃないっスか?wwww」
WINNER 真面目!
お嬢様「」チーン
真面目「ええと、ほら……出来レースだったから……」
お嬢様「知ってるわよ。でもフォローは止めて……」ガクッ
女教授「同じように糸に巻いてる状態でも、このように別の要因で解けやすくなったり、逆に解け難くなったりすることがあります」
女教授「こうしてヒストンが修飾されることで、DNAのスイッチの入りやすさが変化を受けることを【ヒストンコード】と呼ぶんですね♪」
真面目「DNAの配列が変化しなくても、遺伝子の発現のしやすさが変わったりするんですね」
天然娘「それじゃあねぇ、双子さんでもちょっとちがうこともあるのぉ?」
女教授「そうですねぇ……その場合は【DNAのメチル化】と言う現象が影響してることがありますっ」
お嬢様「DNAの……メチル化?何それ」
女教授「DNAのメチル化とは、DNAに"メチル基"と言うものがくっついてしまうことです。化学式で書くと(-CH3)ですねっ」
チャラ男「あっ俺もうダメだwwwカガクシキとか読めないしwwww」
お嬢様「まだ早いわよ。それに化学の授業でメタン(CH4)ぐらい覚えたでしょ、あれみたいなものよ」
真面目「DNAがメチル化されると遺伝子はどうなるんですか?」
女教授「実はDNAがメチル化されると、もうその遺伝子はスイッチがオンにならなくなっちゃうんですよ~っ」
天然娘「電気が止められちゃうのぉ?」
女教授「はいっ、でもこれはとても便利な仕掛けでもあるんですよ♪」
女教授「例えばお母さんがとてもぽっちゃりさんの場合、その子供は"脂肪を蓄える遺伝子"のDNAがオフになってスリムな子になります」
女教授「北極近くなどの紫外線が強い国では、できるだけ光を吸収しないように色素を作る遺伝子がメチル化されて肌が色白になるんです」
女教授「この現象は1~3世代くらいの早いスパンで生じるので、臨機応変に環境へ対応できるんですよ~」
真面目「環境によって遺伝子の発現が変わるなんて、遺伝子はすごく柔軟性を持っているんですね」
チャラ男「じゃあさwwwww何食ったらどんな遺伝子がオフになるとか分かってんの?wwwwww」
女教授「いやぁ、それは難しいですねぇ……何しろ比較的新しい学門なので、まだ分からないことだらけなんですよー」
女教授「あっ、でもタバコはだめですよ?発癌物質の中にはところ構わずDNAをメチル化するものもあるのですっ」
女教授「このように、塩基配列が変わらなくても遺伝子のオンオフが変わってしまう"ヒストンコード"と"DNAのメチル化"」
女教授「この2つは【エピジェネティクス】と言う、現在非常に研究されている最先端の学門なのですよ♪」
真面目「へえぇ……すごく勉強になります」
お嬢様「で、それが"相同染色体"とすごく関係があるのね?」
女教授「………………。あっ」
女教授「すみません、脱線してましたね♪」アセッ
チャラ男「関係ねーのかよwwwwww」
女教授「さてと、いよいよ今日の題材【相同染色体】についてお話ししましょう!」
女教授「ところで皆さんは、ヒトの染色体が何本あるか知ってます?」
チャラ男「【100本】ぐらいwwwwww」
真面目「【46本】だよ……」
女教授「そうですっ!【常染色体22本×2】に【性染色体2本】ですね♪」
お嬢様「【X性染色体とY性染色体が1本ずつで男になる】のよね?」
天然娘「【X性染色体が2本で女の子になる】んだよぉ」
女教授「皆さん物知りですね♪それでは性染色体のことからお話ししましょう!」
女教授「女の子は"XX"男の子は"XY"の性染色体を持っています」
女教授「これはX染色体が"女の子になる染色体"と言うことではなく、Y染色体が"男の子になる遺伝子(SRY)を持っている"からなんです!」
お嬢様「えっ、じゃあどれだけX染色体を持っててもY染色体が1つあれば男になるの?」
女教授「はいっ!例えば性染色体異常症に【クラインフェルター症候群】と言うものがあります!」
天然娘「かっこいいお名前だねぇ」
女教授「この症候群の人は【XXY及びXXXY】の染色体を持ちますが、身体的には男性です。色白で手足が長く、体毛が少ないのが特徴ですね♪」
チャラ男「特徴もスゲェイケメンそうだなwwwwww」
女教授「それとは逆に、【ターナー症候群】と言う異常症もあります」
女教授「この方はX染色体が1つ欠落した【X-】の染色体を持ち、身体的に女性になります。二次性徴が遅く、身長が非常に低いのが特徴ですっ」
ガラッ
女教師「つまり合法ロリだッ!!」
ピシャンッ
真面目「………」
天然娘「………」
女教授「……………外に誰もいませんよ?」ニッコリ
お嬢様(絶対いたわ……存在が違法なヤツが)
真面目(何やってるんですかあの人……)
真面目「ちなみに『性同一性障害』も性染色体異常なんですか?」
女教授「あ、良く勘違いされてる方も少なくありませんが【性同一性障害は性染色体異常ではありません】。認知やホルモンバランスの疾患です」
天然娘「じゃあねぇ、【Y-やYYの子は男の子になるのぉ?】」
女教授「いえ、その場合は男の子にはなりません」
お嬢様「へっ?Y染色体を持ってたら男になるんでしょ?おかしいじゃない」
女教授「実は【X染色体には生命維持に必須の遺伝子を含む】ので、そもそもX染色体を持ってないと生まれることすらできないんですよ~」
チャラ男「じゃあ女ってX染色体のバックアップを持ってんのかよwwwwwそれってズルくね?wwwwww」
女教授「そうなんですっ!事実として、Y染色体は代を経る毎にだんだんX染色体に吸収されていってるんですよっ」
チャラ男「エッ」
女教授「ちなみに、バッタやトンボはもう完全にX染色体に吸収されてY遺伝子を持ってないのです」
お嬢様「なら、女は男よりも2倍の遺伝子が発現してるってこと?」
女教授「そうではないのですよ。2つあるX染色体の内、どちらかは【Xist】と言うRNAにグルグル巻きにされてぎゅ~っと固まっちゃいます!」
女教授「どちらが選ばれるのかはランダムで、メスの三毛猫ちゃんのぶち模様もこれによって決まるんですっ」
お嬢様「あっ!オスの三毛猫ってつまり【XXY】の染色体を持つからレアなのね!なるほど合点が行ったわ」
真面目「それじゃあ、2個セットで存在する常染色体もランダムに不活化されているという訳ですね?」
女教授「そうなんですっ!例えば1000個の細胞があったとすれば、だいたい500個はAの、もう500個はBの染色体がお仕事しているんですね♪」
チャラ男「でもよーwwwwどっちか半分壊れてたらスペアになんねーじゃんwwwww」
お嬢様「なんか、半分ダメになってたら効率も半減しそうなのだけど?」
女教授「ふむぅ……確かにそう考えるのも無理はありませんね」
女教授「それではいったん【酵素】についてお勉強しましょう♪」
天然娘「なんだかむずかしそぉ」
チャラ男「俺知ってるぜwwwwww酵素ってお肌がツルツルになるサプリだぜwwww」
お嬢様「あんたの家、マイナスイオンとか出る家電無いでしょうね……」
女教授「酵素とは、【反応を触媒するタンパク質】のことですっ」
女教授「つまり……食べても飲んでも、胃や腸でアミノ酸に分解されますっ!」※一部のものを除く
チャラ男「1ヵ月お試し期間で良かったぜ……」プルルルッ
女教授「特に『煮込んで濃縮』系はダウトです。ほとんどの酵素は1度熱を加えて形が変性すると、もう元には戻らないのですよ~」
真面目「で、でもCMでは効果があるって
女教授「薬事法に触れるので"効く"とは明言してないのですよ。『それっぽいワードを並べているだけで無関係』と言うスタンスなのです」
女教授「『二重盲検法』と言う統計データがなければ、あまりそのサプリは信用しない方がいいですよっ」
天然娘「うそつきさんなのぉ?」
女教授「『あくまで聞かれなかっただけで嘘はついてないよ!そのあとソ○ルジェムが真っ黒に濁ろうが自己責任さ!』ということですね」
天然娘「あこぎなお仕事なんだねぇ」
お嬢様「…………」ダラダラ
お嬢様「とっ……ところで!この酵素はどんな働きがあるのっ?」
女教授「例えば体内で有害物質のH2O2(過酸化水素)は、なにもしなくても同じものが2つくっつくことで水と酸素に分解しますっ」カキカキ
2H2O2(過酸化水素×2) → 2H2O(水×2) + O2(酸素×1)
女教授「この反応は少し遅いことが知られています。ですがここに【カタラーゼ】と言う酵素を入れると、猛烈な勢いで反応が進むのです!」
天然娘「けがしちゃったときに、消毒液をかけるとシュワシュワするのぉ」
真面目「オキシドールだね。これも過酸化水素が含まれていて、けが口の殺菌によく使われるんだ」
チャラ男「それって実はダメなんだぜwwwww湿潤療法ってヤツで、己の免疫力に任せた方が速く治るんだぜwwww」
女教授「微生物には免疫を過剰に反応させる毒素(スーパー抗原活性)を持つものもいるので、湿潤療法はあまりお薦めしませんよー……」
お嬢様「でも遺伝子が半分壊れてたら、この酵素も半分しか働かなくなるってことよね?やっぱり効率も半減するんじゃないの?」
女教授「酵素というのは、2倍あれば2倍頑張ると言う単純なものではないんです。この反応は【0.5次反応】と呼ばれますっ」
真面目「0.5次反応?」
女教授「要は『いっぱいあればサボりがちだけど、少なかったら頑張る』ツンデレさんですねっ♪」
天然娘「じぃーっ」
お嬢様「何よ」
女教授「この酵素反応のスピードは【ミカエリス-メンテン式】と言う方程式で表されるんですよ~」カキカキ
酵素の反応スピード=(MAXスピード×反応物質の濃さ)÷(ミカエリス定数+反応物質の濃さ)
※ミカエリス定数……酵素ごとに決まった値。小さいほど優秀
女教師「この式を変形した【ラインウィーバー・バーク】プロットを用いて直線回帰式に変換し、X軸の交点からミカエリス定数を求められます」
チャラ男「なるほど、よく分からないことがよく分かったぜ」キリッ
真面目「ええと……つまり、多すぎてもあまり意味がない……?」
女教授「はい、なので言い替えれば【酵素の量が半分になっても、十分量あればあまり問題ない】ことが多いんですね♪」
女教授「今まで"壊れた遺伝子"と説明していましたが、中には壊れていなくとも人によっては色んな種類の遺伝子が存在することがあります」
真面目「【対立遺伝子】ですね」
チャラ男「それ知ってるぜwwww【血液型】とかだろwwwww」
女教授「そうです!ABO式血液型は【A】【B】【O】の対立遺伝子ですね♪」
お嬢様「確かA型は真面目な性格、B型はガサツな性格になるのよね?」
女教授「あっ、それは99%ガセです。もしくは思い込みです」
お嬢様「」
チャラ男「今時マジで信じてるとかwww俺でも知ってるのにwwww」
お嬢様「」グサッ
女教授「血液型というのは、いわば『鍵と鍵穴』の関係に似ています」
真面目「A型の人はA型の鍵と鍵穴を、B型の人はB型の鍵と鍵穴をそれぞれ持っているということですか?」
お嬢様「あれ?でもO型の血液型の人はどの血液型に輸血しても大丈夫って聞いたんどけど?」
天然娘「AB型さんはどっちのカギをもってるのぉー……?」
女教授「そうですねぇ……では、この『鍵』とは何かについてお話ししますっ」
女教授「この『鍵』とは、私達の血液にいる赤血球にぶら下がっている【糖鎖】のことなんですよ~」
天然娘「おさとうのヒモ?」
女教授「O型の糖鎖は【全ての鍵の基板】の形をしていて、いわば『万能キー』なんです」カキカキ
-◆◆◆ ←O型の糖鎖
-◆◆◆
真面目「だから、他の血液型に輸血しても安全なんですね」
女教授「そしてA型の鍵には、O型の糖鎖に【N-アセチルグルコサミン】という糖がくっついてた形をしているんです!」カキカキ
-◆◆◆○ ←A型の糖鎖
-◆◆◆○
チャラ男「グルコサミンって健康にいいやつだぜwwwwコンドロイチンとセットでお肌にスゲー効くんだぜwwwww」
女教授「それも恐らくガセですよー」
チャラ男「もしもし消費者センターですか?」プルルルッ
お嬢様「…………」ダラダラ
女教授「次にB型の鍵には、O型の糖鎖に【ガラクトース】という糖が結合した構造をしているんですね~」カキカキ
-◆◆◆☆ ←B型の糖鎖
-◆◆◆☆
真面目「ガラクトース……乳糖の成分ですね」
天然娘「赤ちゃんのときに検査したよぉ。牛乳のんじゃうとあぶないんだってぇ」
女教授「【新生児マススクリーニング】テストですね♪ガラクトースをグルコースに変換できないと先天性の病気になってしまうのです」
チャラ男「ところでさぁwwwwもしB型の鍵使ってA型の家に入ろうとしたらどうなんの?wwwwww」
女教授「その場合は防犯システムが作動し、侵入者もろとも自爆しますっ!」
お嬢様「ええええっ!?そんなのゴキブリを殺すために家を破壊するようなものじゃない!どんだけ過激なのよ!」
女教授「赤血球の歴史からしてみれば、他の人の血液が侵入してくること自体が異常ですからねー……」
女教授「『エ○バの証人』という宗教団体など、血液を神聖視して輸血を禁止している思想も古くから存在するようです」
チャラ男「えっwwwwwじゃあ緊急事態のときとかどうすんだよwwww」
女教授「実際にそんなケースがあったみたいです。そのときは医者は裁判にかけられ負けてしまいましたが……」
チャラ男「まじかよパネェ」
女教授「おっと、脱線してしまいましたね。最後にAB型の鍵ですが、これはAとBの両方の鍵を持っているんですよっ」カキカキ
-◆◆◆○ ←A型の糖鎖
-◆◆◆☆ ←B型の糖鎖
真面目「逆にAとBの鍵穴を持ってるから、両方の血液を輸血しても大丈夫なんですね」
お嬢様「どんだけ防犯意識ガバガバなのよ……」
お嬢様「あれ……じゃあAB型の人がA型かB型に輸血するとき、片方の鍵を使えばいいんだから防犯システムは作動しないんじゃないの?」
女教授「いえ、その場合はとにかく手当たり次第に持ってる鍵を突き刺して回るのですぐバレちゃうんですよ♪」
お嬢様「どんだけアホなのよコイツ」
天然娘「ひどいよぉ……」←AB型
チャラ男「人を馬鹿にするのは良くないぜ……」←AB型
真面目「ぼ、僕はどうとも思わないけど……」←AB型
お嬢様「驚きのAB型率にビックリよ」←O型
真面目「でも、遺伝子ってアミノ酸の配列を決めてるんですよね?」
真面目「糖の配列が変わるって、どういうことなんでしょう?」
女教授「このABOの対立遺伝子は『鍵に糖をくっつける酵素』をコードしているんですね♪」
女教授「なので、この遺伝子が異なると別の糖がくっつくということですっ」
お嬢様「でもなんで遺伝子はそんな面倒な仕掛けを作ったの?」
天然娘「カギなんかつけなくても、みんないい人だよぉ?」
女教授「うーん……諸説ありますが、実は良く分かってないんですよね」
女教授「一応【三日熱マラリア】はA型とB型の鍵に引っ付くことで感染するので、O型の方は有利になったと考えられていますが……」
女教授「他にも様々な要因が関わっているだろうというのが現状での見解ですねえ」
女教授「対立遺伝子はABO型以外にもたくさんあります。ヒト白血球の血液型(HLA)などは1200以上の対立遺伝子が確認されているんですよっ」
女教授「このように、似ているけれど少しずつ違う遺伝子の種類を増やすことで人類は複雑に進化してきたんですね♪」
キーンコーンカーンコーン
女教授「それではこれで生物学第2回の授業を終わります。きりーつ、れいっ」
生徒達「ありがとうございました!」
―――――――――――――――…
今日はここまで。それではまた明後日更新します
※補足1:食べても壊れない酵素
女教授「経口摂取しても、一部のタンパク質は分解されずに体内で機能するものも少数ですが存在します」
女教授「代表的なものとして次の3つがあてはまりますよ~」
女教授「1つ目は【IgA】これは免疫の抗体タンパク質で、お母さんのぼ……母乳に含まれます///」
女教授「2つ目は【アマトキシン】毒キノコ(テングタケ類)の毒成分ですね。環状のタンパク質なので分解されにくいのです」
女教授「3つ目は【異常プリオン】狂牛病の原因タンパク質です。なんと熱、酸、塩基、圧力、分解酵素の全てに凄まじい耐性があるのですよっ」
※補足2:血液がサラサラになるDHA・EPA
女教授「よくサプリでDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が血をサラサラにしてくれるという謳い文句があります」
女教授「これ自体は間違いではありません。我々の体で作られる止血剤の【TXA2(トロンボキサンA2)】は通常アラキドン酸から作られます」
女教授「しかし、DHAやEPAを素材にするとTXA"3"などの『不良品』が造られるのです。これにより血液が固まりにくくなるのですよっ」
女教授「でも摂りすぎると脳出血のリスクが上昇します。エスキモーや日本人の脳血管疾患の割合が他国より非常に高いのはこのためです」
女教授「ここ数十年で日本の脳出血の死亡率が減少したのは、昔よりも魚を食べなくなったからと考えられています。食べ過ぎには注意ですよ~」
※補足3:発癌物質の種類
女教授「発癌物質には2種類あります。【発癌プロモーター】と【発癌イニシエーター】の2つです」
女教授「発癌プロモーターは癌細胞の増殖を促す物質で、これだけではあまり脅威ではありません」
女教授「一方、発癌イニシエーターはDNAを攻撃して細胞を癌化する物質です。ワラビの灰汁やお肉の発色剤などが相当しますっ」
女教授「そして発癌プロモーターと発癌イニシエーターの両方の性質を持つ物質を【究極発癌物質】と言うのです!」
女教授「タバコの煙はこれですね。こんなものを摂り続けていたら癌まっしぐらですよ~っ」
…―――――――――――――――
女教授「皆さんこんにちは!今日はゲームについて勉強しましょう!」
真面目「ゲームですか?」
お嬢様「生物学と関係あるとは思えないんだけど……」
女教授「えーっと……たまには息抜きも必要ということですっ」アセッ
天然娘「今日はどんなおはなしするのぉ?」
女教授「そうですねぇ……では今日は皆さんが好きそうな頭脳ゲームのお話しをしましょう♪」
チャラ男「俺パズルとかめっちゃ得意だぜwww余裕余裕wwww」
お嬢様「言っておくけど、スマホは禁止よ?」
チャラ男「別のゲームにしよう」キリ
真面目「諦め早いよ……」
女教授「それでは気分転換に、頭の体操のようなものをしてみましょう!」
女教授「まずは、この黒板の絵を見てくださいっ」カキカキ
①〈●〉②〈△〉③〈○〉④《○》⑤ ○
天然娘「なぁに?これぇ」
真面目「色んな図形が描いてありますね」
女教授「それでは問題ですっ!【この中で仲間外れは何番でしょう?】」
お嬢様「えっ?仲間外れって……」
チャラ男「ぱっと見、全部仲間外れに見えるけどなwwwww」
女教授「では、理由も添えてお答えください♪」
真面目「やっぱり①でしょうか?【これだけ色が違います】」
お嬢様「いえ、ここは④よ!【これだけ括弧の種類が違うわ!】」
チャラ男「いやいやwwどう見たって⑤だろwww【これだけ括弧がねーじゃんwww】」
天然娘「むぅー……②かなぁ?【これだけ三角形なのぉ】」
女教授「ぶっぶー!皆さん不正解ですよっ!【正解は③です♪】」
お嬢様「ええっ、なんで?これだけ何も仲間外れじゃないわよ!」
真面目「そうか……それだ」ハッ
天然娘「どーいうことぉ?」
女教授「③以外は【他と違うことがあるということが他と同じ】なのに対し、③だけ【他と違うことが何もないことが他と違っている】のです!」
チャラ男「よーするに、無個性なのが個性ってことかwwwww」
お嬢様「こんなのトンチじゃない!」
女教授「これは【図形のパラドックス】というクイズで、感覚的に答えてしまうと間違ってしまう有名な引っかけ問題なんですよ~」
真面目「理性的に考えることで、本当の答えが見えてくるんですね」
女教授「そうです♪それでは次の問題を考えてみましょうっ」
●囚人のパズル●
①3人の囚人が椅子に向き合って座っている
②最初に黒い帽子2つと白い帽子3つを見せられ、この中のどれか1つを被らされる(自分の帽子は確認できない)
③逃げてもいいが、黒い帽子を被っていた場合は射殺される
女教授「さて……ここで【3人の囚人さんに3つの白い帽子を被せたところ、皆さん一斉に逃げてしまいました】。一体なぜでしょう?」
お嬢様「うーん……逃げ出したってことは、自分の帽子が白だって確信したってことよね?」
チャラ男「勘じゃねwww1%のヒラメキwwww」
真面目「自分の命がかかってるんだよ?」
天然娘「あ、分かったのぉ」ピコーン
チャラ男「マジかよwwwwwww」
お嬢様「はいはい……まっ、聞くだけ聞いといてあげるわ」
天然娘「あのねぇ、まず【Aくん】【Bちゃん】【Cさん】とするよぉ」
天然娘「Aくんは自分の帽子が分からないから、とりあえず【自分は黒だ】って思い込むの」
天然娘「じゃあー、Bちゃんは【Aくんの黒とCさんの白】が見えてるってことだから……」
天然娘「黒い帽子は2つだけだから、もし【Bちゃん自身が黒い帽子をかぶってたらCさんはすぐに逃げるはず】なのぉ」
天然娘「でもー、Cさんは逃げなかったから【Bちゃんは自分の帽子が白いって気付いて逃げるはず】なのぉ」
天然娘「でもBちゃんは逃げなかったから、最初の【自分は黒だっていうのがまちがい】なのぉ」
天然娘「みんな、これに一斉に気づいて逃げたんだねぇ」
お嬢様「」ポカーン
女教授「素晴らしいですっ!100点満点、完璧な解答ですね♪」
お嬢様「えっ!?ちょ……えぇ!?」
お嬢様「天然娘、あんた……そんなに頭良かったの!?」
天然娘「頭を使うと眠くなるのー……」
真面目「僕に勉強教えてくれてるのは天然娘なんだよ?」
チャラ男「コイツ、テストで3桁以外取ったことないんだぜwwwww」
お嬢様「う、嘘ぉ……」
お嬢様(胸にばっか栄養行ってる訳じゃなかったの!?)ペターン
天然娘「?」ホヘー
女教授「論理的に物事を考えれば必ず最善の答えを見つけられる」
女教授「……しかし、現実ではそれに反する状況も時にはあるのです。次の問題を見てください」
●囚人のジレンマ●
①2人の囚人が別々の部屋にいて、互いに連絡を取ることは出来ない
②この囚人達は『信じる』または『裏切る』決断を迫られる
③『お互いに信じた』場合は2人とも懲役2年
④『片方が裏切った』場合、裏切った方は釈放
⑤『片方が裏切った』場合、裏切られた方は懲役10年
⑥『お互いに裏切った』場合は2人とも懲役5年
チャラ男「それ知ってるぜwwww名前だけなwwwww」
真面目「確か、どっちに転んでも裏切った方が得なんですよね?」
女教授「では【なぜ裏切った方が得になる】のでしょう?」
お嬢様「これは私でも分かるわよ。まず【囚人A】と【囚人B】がいるとして……」
お嬢様「囚人Aからしてみれば、囚人Bが『信じた』と仮定したときに信じる(懲役2年)よりも裏切った(懲役0年)方がお得よ」
お嬢様「逆にBが『裏切った』と仮定しても、信じる(懲役10年)より裏切る(懲役5年)方がいくらかマシよ」
お嬢様「だからBが信じようが裏切ろうが、Aは必ず裏切るわ。逆も同じよ」
お嬢様「結局のところ、お互いに裏切りあって仲良く懲役5年ってところね」ドヤァ
女教授「良いですね、その通りの答えですよっ」
お嬢様「ふふん、私にかかればそのくらい簡単なものよ!」
女教授「この理由には他にも期待値で考えられる方法があります。例えば……」
女教授「Aさんがもし『信じた』時の懲役の期待値は、(2+10)÷2=6年です」
女教授「でもAさんが『裏切った』場合、懲役の期待値は(0+5)÷2=2.5年となり、裏切った方が懲役の期待値も少なくてお得です」
真面目「どっちみち、論理的に考えた場合は『両方信じる』よりも悪い結果になってしまうんですね……」
女教授「このようにゲーム中に考えうる最大の利益よりも、論理的に得られる利益が低い状況のことを【ナッシュ均衡】と呼びますっ」
チャラ男「男には頭で分かっててもやらなきゃなんねー時もあるんだぜwwww」
お嬢様「あのねぇ……このゲームは"信じた方が馬鹿を見る"って証明されてんのよ?」
女教授「ですが、それは『たった1回だけ行う場合』に限ったことなんですよ~」
真面目「え?何回やっても同じでは……?」
チャラ男「全部裏切った方が一番得なんじゃね?wwwww」
女教授「何回も繰り返す場合、次の2通りが考えられます。すなわち『いつ終わるか分かるゲーム』と『いつ終わるか分からないゲーム』です」
女教授「まずは前者ですね。こちらは【有限回繰り返し囚人のジレンマ】といわれていますっ」
お嬢様「有限回繰り返し?」
女教授「例えば『10回目で終わる』と明言されたゲームですね。この場合の最適解は【すべて裏切る】です♪……なぜだか分かります?」
お嬢様「わ……分かんない。そうよ、天然娘!」
天然娘「………zzz」クカー
真面目「ダメみたいだね……一応僕が考えてみるよ」ユッサユッサ
真面目「えっと……多分9回目までお互いにすごく信用しあったとしても、【最終回の結果で勝負が決まる】んですよね?」
真面目「なら、【10回目の戦略は最も自分の利益が高い『裏切る』を選択するはず】です」
真面目「そうすると、【もう10回目の選択に余地はないから、実質上は9回目が最終回】になります」
真面目「そうやって同じように最終回が前に前になっていくと、【結局は全ての回で裏切るという戦略に固定される】のだと思います」
女教授「大正解ですっ♪何回やろうと予測される結果は変わらないということですね。この方法を【後退帰納法】と言うんですよ~」
天然娘「ふぁぁ……じゃあ、『いつ終わるか分からないゲーム』はどうなるのぉ?」
女教授「こちらは【無限回繰り返し囚人のジレンマ】といいます。そうですねぇ……こちらは説明が難しいので、実際にやってみましょう♪」
お嬢様「へっ……私達がやるの?」
女教授「ええ♪一番懲役が短い人が優勝です!あ、ゲームをする前に『自分の戦略』を決めておいてくださいねっ」
女教授「それでは今からX回、囚人のジレンマを行います。よーい、始めですっ」
―――――――――――――――
コ,コイツウラギリヤガッタッワネー!
――――――――――
ワケガワカラナイヨ
―――――
ナノォー
女教授「……ストップ!終了ですっ」
女教授「それでは成績を発表しまーすっ!じゃん♪」
1位…お嬢様(懲役164年)
2位…チャラ男(懲役190年)
3位…真面目(懲役197年)
4位…天然娘(懲役307年)
お嬢様「何この大悪党共」
天然娘「次はがんばるのぉー……」
お嬢様「ふふーん、まあ私にかかればこんなものね♪」
真面目「結構バラけてますね」
女教授「実はこの無限回繰り返し囚人のジレンマは、最初に決めた戦略によって成績の伸びが変化します」
女教授「皆さん、どんなルールを決めてゲームをしましたか?」
チャラ男「俺は【ずっと裏切ってた】ぜ!wwwww似たよーなヤツで一番勝てるって言ってたしなwwwwww」
真面目「僕は【最初の1回目は信じて、それ以降は相手が前に出した選択をやり返し】ていました」
お嬢様「私は【基本的には信じてたけど、一度裏切られたらずっと裏切り返してやった】わ!裏切り者は自業自得よ」
天然娘「んー……めんどーだったから【たまに裏切ってた】よぉ」
女教授「皆さんの戦略に名前をつけるとしたら【裏切り戦略】【しっぺ返し戦略】【報復戦略】【ランダム戦略】と言ったところですね」
女教授「この無限回繰り返し囚人のジレンマでは、お嬢様さんの選択した【報復戦略が最も最適解に近づける】ことが分かっています!」
真面目「有限回のゲームと違って、裏切り戦略よりも優れた戦略が存在するんですね」
女教授「ええ♪この『報復またはしっぺ返し戦略(条件により決定)が最も利益を得ることができる』ことを【フォーク定理】と呼びますっ」
女教授「ちなみに、『最初は信じる』行動をとる【気の良い戦略】はより上位の成績に入りやすくなりますよ~」
チャラ男「でも俺2位だぜwwwwww真面目より成績優秀だしwwww」
真面目「ぼ、僕が負けたのはたまたまだよ!」
女教授「ふふっ、あのままチャラ男君がゲームを続けてたらいつか追い抜かれてましたよ?」
チャラ男「マジかよwwwww……えっ、マジ?」
女教授「実は先生、ゲーム終了5分前ぐらいからメモを取ってました♪そこから1分辺りの懲役の上昇率を表したのがこちらですっ」ペラッ
★授業内ゲームのメモですよ~★
お嬢様さん 93/5≒19 (*・ω-)<good!
天然娘ちゃん 204/5≒40 ←かわいい~
真面目さん 118/5≒24 がんばれがんばれ!
チャラ男くん 127/5≒25 ←スゴイ♡
お嬢様(ヤバイぐらいきゃぴきゃぴしてるわ……)
真面目「えっ?どうして……」
チャラ男「途中から9ポイントも負けてんじゃんwww俺ダセェwwww」
女教授「長い目で見れば、裏切り戦略は安定ではないことが分かりますね♪」
天然娘「このゲームって、生物学にかんけいあるのぉ?」
女教授「はい!この無限回繰り返し囚人のジレンマの最適解が「基本的に協力」であるので、"生物の利他行動"を説明することができますっ」
チャラ男「なんか意識高い系な単語だなwwww」
お嬢様「あんたのはIQ低い系な台詞よ」
真面目「利他行動っていうのは、『誰かのためになる行動』ってことだと思うよ」
女教授「例えば【チイスイコウモリの与血行動】や【チンパンジーのノミ取り行動】などが当てはまりますよ~」
真面目「一見自分のためにならなくても、結果的には回り回って自分に返ってくることを経験的に知っているんですね」
女教授「そして、恐らくは利他行動をしない集団よりもする集団の方が上手に繁栄できたと考えられますね♪」
お嬢様「夢のない話しだけど、利他行動も突き詰めれば利己行動って訳ね……」
女教授「相手を信じると言うことは、一見すれば愚かな選択に思えるかもしれません」
女教授「しかし、長期的に考えれば裏切るよりも優れた選択であることは様々な生物が今もなお証明し続けています」
女教授「私達が他人を信じ、罪を罰するのは未だにその名残が残っているからかもしれませんね♪」
キーンコーンカーンコーン
女教授「それではこれで生物学第3回の授業を終わります。きりーつ、れいっ」
生徒達「ありがとうございました!」
―――――――――――――――…
ここまで
※補足:DNAコンピューター
女教授「最先端技術の中で、生物学と機械工学のハイブリッドである【DNAコンピューター】と言うものがあります」
女教授「増幅した数グラムのDNA、つまり100,000,000,000,000,000,000個以上のDNA分子が一斉に解答を作成し……」
女教授「正解の配列をデータに翻訳することで計算する"究極の並列コンピューター"なのです!あの『京』にだってひけをとりません♪」
女教授「ただ、とてもノロマなのがネックなんですよね……『1+1は?』という問題でも解くのに2日もかかってしまいます」
ヒストン関連もっとほしいよぅ…
バリアントとかクロマチンダイナミクスとか
>>88
書きたいのは山々なんですけど、一つ一つ詳しく説明すると量が増えすぎて>>1のキャパを越えてしまうので…
ここでは基礎的なことだけを紹介していきたいと思います、専門の方にはすみません
それでは本日の投下を始めます
女教授「おはようございます♪今日は【遺伝的近縁度】についてお勉強しましょう!」
真面目「遺伝子近縁度……遺伝子の近さ、ということですか?」
チャラ男「知ってるぜwww人間とサルの遺伝子って98%似てるんだぜwww」
お嬢様「あんたほどちらかと言うとサル寄りよね」
天然娘「うきゅー」
女教授「あ、人間に限った話ですよ。それとほとんどの人が持ってる遺伝子はカウントしないので0%からスタートします」
女教授「皆さんは、【フィッシャーの原理】というものをご存知ですか?」
お嬢様「あっ!それ前にアイツの授業でやったわ!確か……」
真面目「【オスとメスの産まれてくる比率は常に1:1になる】でしたよね?」
女教授「そうです♪ほとんどの生物はこの法則に従って、オスとメスが同じ数だけ産まれてくるんですね~」
女教授「しかし、様々な要因によって当然例外も起こります。では配布したプリントを見てみましょう♪」ペラッ
天然娘「ちょうちょさんだぁ」
チャラ男「テントウムシもいるぜwwwwww」
女教授「実は、この写真に写っている昆虫は【9割方がメス】として生まれてきます。なぜだか分かります?」
真面目「え……?オスとメスの数が偏って産まれることなんてあるんですか?」
お嬢様「そんなのおかしいわ!だって遺伝子が一番利益をあげるには、数が少ない方を産ませるはずよね?」
チャラ男「たぶん【メス同士で子供ができる】んじゃね?wwwww」
真面目「うーん……【オスが短命】だからでしょうか?」
天然娘「【だれかが女の子になれーって命令してる】のかもねぇ」
お嬢様「いや、流石にそれはないでしょ……」
女教授「すごいっ!大正解です♪」パチパチ
お嬢様「ぅええ!?そんなのアリなの!?」
天然娘「あたっちゃった……」キョトン
女教授「この昆虫達は【ボルバキア】という細菌に感染していて、メスが効率よく増えるように性別をコントロールしているのですっ」
チャラ男「ハーレム菌ってやつかwwwめっちゃ良いヤツじゃんwww」
女教授「このボルバキアは、主に【オス殺し】や【メス化】によってメスの数を偏らせるのです!」
チャラ男「」ガクガクガク
お嬢様「絶対オス殺すマンね……」
真面目「でも、どうしてメスの数を増やそうとするんですか?」
女教授「このボルバキアは母親の卵細胞を介して増えるので、メスが多い方が都合が良いみたいなんですよ♪」
女教授「ある昆虫では、ボルバキアを細胞の中に取り込んでいて共生しているものも存在するみたいですっ」
お嬢様「さ、細菌と共生!?気持ち悪いわね……理解できないわ」ゾワッ
女教授「あら?私達人間も全身の細胞内に細菌を住まわせているんですよー?」
お嬢様「ひぃいいいっ!わわ私の体はそそそんなのいないわよっ!」
女教授「ふっふっふっ……その細菌の名前は【ミトコンドリア】と言うのです!」
お嬢様「み、ミトコンドリアぁ?」
天然娘「このもんどころが目にはいらぬかぁ」ババーン
チャラ男「それは水戸黄門じゃね?www」
真面目「えっ……ミトコンドリアって細胞小器官の一つでは?」
女教授「実は細胞という"お家"をお貸ししているだけで、その実態はもともと細菌の一種なのですよ~」
お嬢様「な、なんだ……びっくりしたじゃないの」ホッ
女教授「私達の細胞に住まうミトコンドリアは、自分のDNAを大切に持っていて自分で増殖することができます」
女教授「ミトコンドリアもまた【母親からしか引き継がれません】。なのでミトコンドリアDNAの変異で系統樹を推定できるんですね♪」
天然娘「みとこうもんどりあさんは何をしてるのぉ?」
真面目(混ざってる……)
女教授「ミトコンドリアは、私達の身体の中で"エネルギーのお金"として使われる【ATP(アデノシン三リン酸)】を作っているんです!」
お嬢様「ふーん、つまり労働者階級の奴隷ってわけね」フフン
女教授「このミトコンドリアは、【クエン酸回路】や【脂肪酸β酸化】というお仕事でお金を作っているんですね~」
女教授「突然ですが問題ですっ!【お砂糖(スクロース)は何で出来ているのでしょうか?】」
真面目「えっと……なんでしたっけ?」
チャラ男「はいはいwwww【グルコースとフルクトース】だぜwwww」
お嬢様「はいはい、知ったかぶり乙
女教授「すごいっ!その通りですよ♪」
お嬢様「当たった!?あ、アンタなにか悪いものでも食べたんじゃ……」
チャラ男「あれから騙されねーように化学は猛勉強したんだぜ……wwww」
天然娘「チャラ男くんらしいねぇ」
女教授「お砂糖を食べると私達の細胞にグルコースが取り込まれ、これを【解糖系】というシステムで【ピルビン酸】2個に分解されます」
女教授「このピルビン酸はミトコンドリアに受け渡される時、炭素の数が3つの【アセチルCoA】という燃料に作り替えられるのです」カキカキ
グルコース(フルクトース)→Frc1,6-BP→ピルビン酸→アセチルCoA
チャラ男「汗散る声?wwwww」アイエエエ!
お嬢様「なんかむさ苦しそうね、それ」
女教授「そこで同じく炭素の数が3つの【オキザロ酢酸】とくっつくことで、炭素の数が合計6個の【クエン酸】になるのです!」
真面目「なるほど、だから【クエン酸回路】と言うんですね」
天然娘「そのあとはどうなるのぉ?」
女教授「そのあと炭素は酸素と共に【二酸化炭素】として出ていき、水素イオンは【NAD+】【FAD+】という物質に捕まえられてしまいます」
女教授「そして最終的にオキザロ酢酸となり、また次のアセチルCoAがやってくるのを待っているのですよ~」カキカキ
…→オキザロ酢酸+アセチルCoA→クエン酸→→→オキザロ酢酸+…
お嬢様「ミイラ取りがミイラになるみたいね……」
真面目「NAD+やFAD+というのは何でしょうか?」
女教授「NAD+は『ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドカチオン』、FAD+は『フラビンアデニンジヌクレオチドカチオン』の略ですっ」
チャラ男「クソ長ぇwwwwww」
天然娘「じゅもん?」
お嬢様「でも、それでどーやってATPを作るのよ?ただグルグル回ってるだけじゃない」
女教授「実は、【NAD+やFAD+が集めた水素イオンが膜の濃い方から薄い方に流れ落ちる】とき、ものすごーいエネルギーが発生するのです!」
天然娘「滝みたいだねぇ」
女教授「移動した水素イオンは酸素と反応して無害な水に変換されますよ~」カキカキ
4H+(水素イオン×4) + 4e- + O2 → 2H2O(水×2)
チャラ男「実験でやったことあるぜwwww酸素と水素を混ぜて火を着けたらスッゲー爆発するんだぜwwwww」
真面目「それ『爆鳴気』って言って、すごく危ない爆弾なんだよ?」
女教授「ミトコンドリアの中では、この水素の濃度勾配エネルギーを利用してATPを作るのです♪」
女教授「グルコース1個につき、およそ34個のATPが作られるのですよ~」
お嬢様「呼吸するのに酸素が必要なのって、そういうことやってるからなのね」
女教授「ちなみにやせ薬の『ジニトロフェノール』はこの膜を隔てた水素をこっそり手引きして、熱エネルギーに変えてしまうのですっ」
真面目「ATPを作るための水素の濃さがなくなってしまうんですね」
天然娘「じゃあー、もうひとつのお仕事はなぁに?」
女教授「【脂肪酸β酸化】の方ですね♪ATPの収入で言えば、こちらの方が"割りの良い"お仕事なんですよっ」
お嬢様「そ、そうなの?」
女教授「脂肪酸がミトコンドリアに入るとき、【カルニチン化】という下味を付けられて奥へ奥へと誘導されます」
チャラ男「注文の多い料理店かよwwww」
女教授「そこで脂肪酸はNAD+やFAD+に水素を奪われ、【大量のアセチルCoAへバラバラに分解】されてしまうのですよ~」
真面目「そうして作られたアセチルCoAは、さっきのクエン酸回路に放り込まれてたくさんのATPを獲得するんですね」
女教授「このように、ミトコンドリアは大量のATPを作る腕を見込まれて我々の細胞内で働いてもらっているのです♪」
天然娘「せんせぇ、また脱線してるよぉ」
女教授「あ」
女教授「と、とにかく!蝶や天道虫などの昆虫は細菌によって性別が偏ってしまうんですね♪」アセッ
お嬢様(強引に軌道修正したわね……)
女教授「ですが、この他に細菌の協力がなくとも性別が偏ってしまう生物が存在します。次の写真を見てくださいっ」ペラッ
天然娘「けんびきょーの写真なの」
お嬢様「ひっ、写真いっぱいに小さい虫がうじゃうじゃ……!」ゾワワッ
真面目「これは……ダニかな?」マジマジ
女教授「この【マダニ】は、父親と母親、または母親のみで子供を作ることができる【半倍数性性決定生物】と呼ばれる生き物なんですよ~」
チャラ男「子持ち処女かwwww」
お嬢様「ダニは卵生よ」
女教授「このダニは、お父さんがいるかいないかで性別が決定するのですっ」カキカキ
メスのダニ × オスのダニ → メスのダニ
メスのダニ → オスのダニ
真面目「片親しかいないのに子供ができる?どういうことですか?」
天然娘「キリストさまなの」
お嬢様「あんたの中でダニと神様は同列なの?」
女教授「実は、【メスのダニは2倍体】なのに対して【オスは半数体】なのです」
女教授「親が1匹だけだと子供は染色体数が半分のオスになってしまいますが、両親が揃っていると染色体2セットが揃ったメスになるんですね♪」
真面目「なるほど……ダニのメスが1匹いれば、たちまちダニが増殖してしまうんですね」
女教授「この性質のため、栄養状態が貧しいとオスとメスの比率は1:1から【メスの方に偏ってしまう】んですよ~」
天然娘「母はつよしなのぉ」
女教授「ちなみに、先ほど説明した細菌のボルバキアと共生する【フタトゲチマダニ】の場合は少し話が変わってきます」カキカキ
メスのフタトゲチマダニ × オスのフタトゲチマダニ →
メスのフタトゲチマダニ → メスのフタトゲチマダニ
お嬢様「ふーん……ん?良く見たらオスいらなくない?」
女教授「そうです!このダニの染色体は3倍体で、メスからメスが産まれる(単為生殖)ためにオスはほぼ必要ありません!」
女教授「またボルバキアの働きでオスは不妊症になってしまい、【オス:メスの比率は1:1500】と非常に偏った超ハーレムになります!」
チャラ男「ここが桃源郷か……」
女教授「もうひとつ性別が偏る例がありますが……その前に【血縁度】について説明しましょう♪」
真面目「血縁度?」
女教授「はい、これは親類間でどれだけ遺伝子が近いかを表す尺度のようなものです!例えば【親子は何%の遺伝子を共有してると思えます?】」
お嬢様「ふつーに【50%】じゃないの?」
女教授「正解ですっ!では【兄弟では何%です?】」
チャラ男「それも簡単だぜwww【50%】だぜwww」
女教授「はい♪じゃあ、【従兄弟は何%か分かります?】」
天然娘「えーっとぉ……」
女教授「【腹違いの兄弟では何%でしょう?】」
真面目「……わ、分かりません……」
女教授「実はこの血縁度(遺伝子の共有率)は、ある簡単な方法で求められることができるのですっ」カキカキ
①世代を1代遡るか、1代下る度に1/2倍
②共通の両親が存在する場合は2倍
(③)もしある遺伝子が確実に遺伝する場合、割合を加算
真面目「なるほど……つまり従兄弟は『自分→父親→祖父母→叔父→従兄弟』で、{(1/2)×(1/2)×(1/2)×(1/2)}×2=【1/8】ですね!」
お嬢様「なら腹違いの兄弟は『自分→父親→兄弟』で、(1/2)×(1/2)=【1/4】かしら?」
チャラ男「ジジイかババアと同じぐらい違うのかwwww」
天然娘「ふたごさんはおんなじ遺伝子をもってるから【1】だねぇ」
女教授「では、この概念を用いて【セイヨウミツバチ】の血縁度を考えてみましょう!」
お嬢様「働き蜂ってみんなメスなのよね?あと女王蜂がいたりもするわ。なんか明らかにオスが少なそうね」
女教授「このセイヨウミツバチはさっきのダニと同じ半倍数性性決定生物なので、少し人間のケースとは話が違ってきます」
女教授「この蜂のオスは半数体なので、【すべての遺伝子が子供に遺伝】するのですよっ」
真面目「えーっと……つまり?」
女教授「女王蜂とオス蜂から産まれた蜂は、ダニと同じで全てメスの働き蜂になりますよね?」
女教授「この時、この働き蜂の姉妹は母親の遺伝子を(1/2)×(1/2)=【1/4共有している】と考えられます♪」
お嬢様「でもオスは全ての遺伝子が子供に伝わるから……」
女教授「そう、この1/4に1/2を足した【3/4が働き蜂同士の血縁度】なのです!」
天然娘「人間よりも仲よしさんなのぉ」
チャラ男「じゃあ新しく産まれた弟の血縁度はどうなるんだ?wwww」
女教授「この女王蜂の無性生殖から産まれた弟と姉の働き蜂との血縁度は(1/2)×(1/2)=【1/4】で、姉妹よりも遠くなるんですね~」
お嬢様「ニートの弟よりも、同じ職場で同僚の妹の方が仲が良いのね」
女教授「働き蜂は生殖能力がないので、母親に新しい兄弟を産ませようとします」
女教授「さて、この働き蜂は【弟か妹どちらを作らせようとするのでしょう?】」
真面目「それはやっぱり【血縁度が近い妹】ではないでしょうか?」
女教授「その通りです♪【働き蜂は妹を産ませようとします】!」
女教授「では、【女王蜂から見ればどうです?】」
お嬢様「へっ?そりゃあ働き手が多い方がいいから【やっぱり娘を産ませようとする】んじゃない?」
女教授「ぶっぶー!女王蜂は血縁度1/4の娘よりも、血縁度1/2でより血縁度が近い【息子を産もうとする】のです!」
天然娘「おかあさんとおねえちゃんでケンカしてるのぉ?」
女教授「本来なら息子が多く産まれるはずですが、この働き蜂はそれに反抗して"メスを産ませる物質"を分泌します」
女教授「その結果、この蜂の巣では【オスとメスの比率が1:3】に偏ってしまうんですね~」
女教授「また、この血縁度の考え方を用いることで蜂の"利他行動"も説明することができるんです!」
天然娘「この前もべんきょうしたのぉ」
真面目「ミツバチが攻撃の時に1度針を刺すと、自分も死んでしまうような行動のことですか?」
女教授「ええ♪蜂や蟻の社会性昆虫がそのような利他行動を取るとき、次の【ハミルトン則】が当てはまるのですっ」カキカキ
相手の利益 × 血縁度 > 自分の損失
女教授「働き蜂は姉妹の血縁度が3/4でとても近いので、このハミルトン則を満たしやすいんですね~」
お嬢様「例えば『自分が5損して他の働き蜂が8得をする』ときは利他行動をするように進化するのね」
女教授「このように、姉妹の血縁度が近い働き蜂が利他行動をしやすくなることを【ハミルトンの3/4仮説】と呼ぶのですよっ」
女教授「他にも、生物は環境中の化学物質によってオス化やメス化したりすることがあります!」
真面目「【環境ホルモン】ですね」
女教授「例えば、船の底に塗ってフジツボがつかないようにする【TBT(トリブチルスズ)】はヨーロッパチヂミボラという貝をオス化させます」
チャラ男「オス化したメスならここにも
お嬢様「あ゛あ゛ん?」
女教授「他にも様々な生態系に影響を及ぼしたので、もう今はトリブチルスズは使われていませんよ~」
真面目「あの、この前ザクロジュースや大豆イソフラボンが女性ホルモンの分泌を促すってTVでやっていたんですけど……」
お嬢様「そ、それ本当!?はやく教えなさいよねっ!」
女教授「……。あー……何と言うか……その手の番組はうまい具合に清濁入り乱れていると言うか……」
チャラ男「いやだわもう立ち直れない」
お嬢様「あんた男でしょ」
女教授「……分かりました、詳しく教えましょう!」
女教授「まず大豆イソフラボンですね。このうち【ゲニステイン】と言う物質は、エストロゲンβ受容体に作用して女性化を促します!」
真面目「ほ、本当に効果があるんですね!」
女教授「ただしっ!このゲニステインは通常の女性ホルモン(エストラジオール)の僅か数百分の一程度しか効果がありませんっ!」
お嬢様「ええええっ!?そ、それじゃあほとんど意味ないじゃない!」
女教授「毎日3食が全部豆腐で、飲み物もすべて豆乳にすれば効果が現れる(かもしれない)ので嘘は言ってませんが……」
お嬢様「こ、こんなの詐欺同然じゃないの!」
女教授「そのうえ通常の女性ホルモンと競合して邪魔をしてしまうので、かえって女性化が妨げられることも……」
チャラ男「まったく正反対じゃねーかwwwww」
女教授「ちなみに、このゲニステインを改良した医薬品の【イプリフラボン】はちゃんと効果があるのですよ~」
真面目「じゃ、じゃあザクロジュースは大丈夫ですよねっ……?」
女教授「……。ザクロには女性ホルモン様物質のエストロンやエストラジオールが含まれていると触れ込みがありますが……」
天然娘「……ごくり」
女教授「残念ながら……そもそも検出すら……」
お嬢様「い、いやぁああああ!それってもう確信犯じゃない!」
女教授「数年前に『ザクロブーム』というのが流行ったことがあります。このとき多くのザクロジュースが女性ホルモンを含むと表記してました」
女教授「しかし不審に思った国民消費者センターが"抜き打ちテスト"を行ったところ、これらの物質が検出されたジュースは1つもありませんでした」
チャラ男「ま、マジかよwwwwそれって違法じゃねーのwwww」
女教授「ええ……ですからこれらのジュースが景品表示法に接触し、あえなくザクロブームは終了してしまいました♪」
お嬢様「……はっ!そうよ!ジュースが駄目なら直接食べれば……!」
女教授「残念ながら……以下同文です……」
お嬢様「き、キィイイイイッ!」
真面目「そ、それって流石にどうなんでしょうか……?」
女教授「産地によってはまったく検出されなかったのです。また、検出されたものでも数ナノグラムオーダーなのでほとんど無いも同然ですっ」
女教授「それでは最後に、せ……性転換のお話しをしましょう///」
お嬢様「何今さら恥ずかしがってるのよ」
真面目「クマノミが性転換するのは有名ですね」
チャラ男「あー、真面目が女だったら俺ハーレムなのになぁwwwwお前実は女だったりしねぇ?wwww」
天然娘「何言ってるのチャラ男くん。少しおかしいの」
お嬢様「引くわ」
女教授「………」ボタボタ
真面目「せ、先生鼻血が……」スッ
女教授「……ハッ、失礼しました」フキフキ
女教授「性転換を起こす種の特徴は『オスとメスの身長差が大きい』ということで、このことを【体長有利性説】と呼びますっ」
女教授「体長が大きいオス(メス)がハーレムを築き上げるように進化するので、この場合成長によって性転換が起こるのです」
お嬢様「チビのときはメスだけど、大人になったらオスになるのね」
チャラ男「ロリコンじゃねーかwwwwww」
女教授「もしくはショタコンです♪」
天然娘「どっちも危ないの……」
女教授「オスが成長してメスになることを【雄性先熟】といい、例えば【クマノミ】が有名ですね♪こちらはあまり多くはありません」
女教授「逆にメスが成長してオスになることを【雌性先熟】といい、【ハゼ科の魚】など、多くの硬骨魚類で良く見られます♪」
女教授「以上の理由から、生物はいつも性比が1:1で産まれるわけではありません」
女教授「様々な要因によってその比率は大きく偏ることがあります。しかし、それは生物達や遺伝子の知恵の賜物なのです」
キーンコーンカーンコーン
女教授「では生物学第4回の授業を終ります。きりーつ、れいっ」
生徒達「ありがとうございました!」
―――――――――――――――…
今日はここまで
※補足1:環境ホルモンの幻
女教授「環境ホルモン……これはマスメディアが作った言葉で、これらのほとんど全ての物質は人間に影響を与えません」
女教授「特にダイオキシンは酷いですね。動物実験でマウスの半致死量(600ng/kg)から『サリンの17倍の毒性!』とまで言われていました」
女教授「ウクライナ元大統領のユシチェンコ氏はその3300倍の量、つまり28人を殺すほどのダイオキシンを盛られましたが現在もご存命です」
女教授「人はつくづく身近な恐怖に操られやすいものですね」
※補足2:ペントース回路
女教授「我々の細胞の中では、『酸化』と『還元』を上手く使い分けるために2種類の"リサイクル電池"を持っているのですよ~」
女教授「酸化には主に酸化剤の【NAD+】が使われ、使用済みになると【NADH・H+】となり呼吸によってリサイクルされます」
女教授「一方で還元は【NADPH】という還元剤が使われ、使いきると【NADP+】となるんですっ」
女教授「解糖系ではATPの収量が1つ少なくなる代わりに、このNADP+を再生する【ペントース回路】というものがあるのですよ!」
女教授「私達のRNAを構成する糖の【リボース】も、このペントース回路で作られているんですね~」
…―――――――――――――――
女教授「おはようございます♪今日は私達の【免疫】メカニズムについてお勉強しましょう♪」
天然娘「めんえき?」
チャラ男「バカはカゼ引かねーんだぜwww俺は今日カゼ気味だけどなwwww」
女教授「免疫とは私達の体がバイ菌と戦う仕組みのことですよ~」
真面目「免疫力を高めるサプリメントなどよくテレビで宣伝してますけど、そういえば免疫ってどんな仕組みなのか考えたことはないですね」
お嬢様「というか免疫力って一体なんのことかしら?」
女教授「では、それも含めてこれから説明していきましょう!」
女教授「免疫には主に次の2種類があります。それは【細胞性免疫】と【体液性免疫】です!」
天然娘「めんえきさいぼーがバイ菌をパクパクたべちゃうのぉ」
女教授「そうです♪細胞性免疫では免疫細胞である【好中球】【樹状細胞】【マクロファージ】などが外からやって来た菌を食べてしまいます」
女教授「このように免疫細胞が細菌を捕食することを【貪食】と呼ぶんですね~」
お嬢様「そんなもの食べて、免疫細胞はお腹壊さないのかしら?」
女教授「免疫細胞に食べられた細菌は、スーパーオキシドラジカルなどの活性酸素や塩素酸できちんと消化されるので大丈夫なんですよっ」
天然娘「好ききらいがないなんて、めんえきさいぼーさんはえらいねぇ」
女教授「この他にも、細胞性免疫を助ける【補体】というものが私達の血液に存在します」
真面目「補体?免疫細胞とは違うんですか?」
女教授「補体とは肝臓で作られる小さなタンパク質です。普段はスイッチがオフの状態で血液の中をパトロールしていますが……」
女教授「病原体と出会うと次の【古典経路】【第二経路】【レクチン経路】という反応を経て、【C3】というタンパク質を分解します!」カキカキ
●補体活性化●
古典経路→→→↓
第二経路→→→→→C3転換酵素→C3加水分解→様々な反応!
レクチン経路→↑
お嬢様「『様々な反応』ってアバウトね……」
女教授「例えば細菌が貪食されやすくなるように『味付け』をする【オプソニン化】や解毒作用のある【毒素の中和】などのほか、」
女教授「細菌の表面に集まって穴を空けてしまう【膜攻撃複合体】などを作ったりすることで、免疫反応をサポートするんですね~」
チャラ男「じゃあ『体液性免疫』って何してんだ?wwwwこっちの方がなんか名前的に雑魚そうじゃねwwww」
女教授「とんでもない!免疫の本分はこの体液性免疫で作られる【抗体】や【抗原受容体】が大きな役割を果たしているのですよっ!」
お嬢様「抗体ってバイ菌を攻撃する奴よね?さっきの補体とかとどう違うの?」
女教授「抗体とは細菌の形にピッタリとくっつくことのできるタンパク質のことで、免疫細胞である【B細胞】が作り出すことができます」
女教授「抗原受容体は免疫細胞の表面にある、病原体を認識する部分なんです。抗体もこの内の一種なんですよっ」
天然娘「わるものさんを見つけられるんだねぇ」
女教授「このうちB細胞上にあるものを【BCR(B細胞抗原受容体)】、T細胞上にあるものを【TCR(T細胞抗原受容体)】と呼ぶのです!」
真面目「B細胞由来のものとT細胞由来のものの2種類があるんですね」
女教授「BCRは『Y』のような形をしていて、先っぽの2ヵ所が直接病原体にくっつくことで攻撃します。立体的に病原体を見分けるんですね♪」
女教授「このBCRが認識する部分を【不連続エピトープ】と言います。アミノ酸配列が飛び飛びなのでこんな名前なんですよっ」
天然娘「てぃーしーあーるの方はぁ?」
女教授「TCRは『∥』のような形で、こちらはバラバラに分解された病原体の一部を持っている【MHC】にくっついて認識するんですね~」
真面目「こちらはバラバラになった病原体を認識するから、中身の構造から病原体を判別することができるんですね」
女教授「はい♪このTCRが認識する部分は【線状エピトープ】と呼び、アミノ酸配列はいつも同じ並びなのです!」
お嬢様「ちょ……ちょっと待って!抗体ってタンパク質なんでしょ?そんな都合よくバイ菌にピッタリ合う形のものなんて作れるわけないわよ!」
女教授「ふふふ……実は1つだけその方法があるんですよー!それは日本人の利根川教授がノーベル賞を受賞した研究【遺伝子再編成】です♪」
真面目「い、遺伝子が書き換えられるんですか?」
女教授「はい♪これにより抗体を構成する3つの部分【V】【D】【J】の互換パーツ(κ/λ/H)の組合わせによってアミノ酸配列が変わるのです!」
女教授「するとタンパク質である抗体の形が変化するので、その中の1つぐらいはピッタリ合う形の抗体が見つかりますね♪」
チャラ男「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってかwwww」
お嬢様「そんな場当たり的な……だいたいバイ菌の数だって数えきれないほどいるんじゃないの?」
女教授「この遺伝子再編成で作られるBCRの種類は、計算上なんと50,000,000,000,000種類以上もあるんですよ~っ」
真面目「ご、50兆も!?」
女教授「驚くのはまだ早いです!これで作られるTCRの種類は、BCRよりも更に2万倍も多い1,000,000,000,000,000,000種類以上なんです!」
天然娘「ぜろがいっぱいだねぇ」
お嬢様「いち、じゅう……ひゃ、100京!?」
チャラ男「こんだけあればヨユーで見つかるなwwww」
女教授「これだけではありません。見事ピッタリな組み合わせの遺伝子をもつ抗体は、さらに高みを目指して"パワーアップ"します!」
天然娘「こーたいさんは頑張りやさんなのぉ」
女教授「ピッタリの抗体が持つ遺伝子は【体細胞高頻度変異】と呼ばれるプロセスにより自主的に突然変異が起こり、更に形が変わっていきます」
真面目「自分から突然変異が起こるなんて……」
女教授「具体的には【RAG複合体】と呼ばれるものが遺伝子をチョキンと開き、間に【Pヌクレオチド】や【Nヌクレオチド】がねじ込まれます」
お嬢様「あえて無駄な遺伝子を突っ込んで、抗体の形を改良してるのね」
女教授「BCRは更に【膜型】(B細胞の表面にあるもの)と【分泌型】(B細胞から放出されるもの)の2種類に分けられるのですよっ」
チャラ男「剣と投げナイフみてーなもんかwwww」
真面目「これも遺伝子再編成による変化ですか?」
女教授「いえ、こちらは遺伝子の【選択的スプライシング】によって『膜にくっつく遺伝子』が削られることにより切り替わるんです!」
お嬢様「1回目の授業のときにやった奴ね。こんな所でまたやるとは思わなかったわ」
天然娘「ふくしゅーは大事だよぉ」
女教授「この分泌型BCRは【Ig(免疫グロブリン)】と言い、次の【IgA】【IgD】【IgE】【IgG】【IgM】の5種類のクラスに分類できます」
女教授「Igのクラスごとに役割が異なっていて、遺伝子再編成によりクラスが変わることを【クラス・スイッチ】と言うんですね~」
真面目「免疫グロブリンはクラスが違うと機能も異なるんですか?」
女教授「例えばIgAは2人組で存在し、腸の【パイエル板】というリンパに存在します。お母さんの……お、おっぱいにも含まれるんですよ///」
天然娘「でないのぉ……」ムニュー
お嬢様「けっ、そんな無駄な脂肪の塊のどこがいいのかしら」イラッ
女教授「IgEは寄生虫に感染したときに生産される抗体で、血液中の濃度を測定した時に寄生虫に感染しているかどうかの指標になります」
女教授「【アレルギー反応】とは、アレルゲン物質を食べたときにIgEが『寄生虫に感染した!』と勘違いして起こってしまうんですね~」
真面目「花粉症もアレルギーの一種なんですよね?」
女教授「はいっ、IgEが【肥満細胞】に働きかけると『ヒスタミン』が放出されて涙や鼻水が止まらなくなっちゃうんですよっ」
お嬢様「そう言えば花粉症のお薬って『抗ヒスタミン薬』って言うのよね。あれ飲むと眠たくなっちゃうからあんまり好きじゃないかも……」
女教授「そしてIgGは主に【メモリー細胞】が生産する抗体で、体細胞高頻度変異によりパワーアップしたエリートさんなんです!」
女教授「また血液中の抗体はほとんどこのIgGですし、お母さんの胎盤を通して赤ちゃんを守っているのですよ♪」
お嬢様「じゃあIgMは何してるのよ?」
女教授「IgMは病気に感染してすぐに作られる抗体で、5量体……つまり5人組で手を繋ぎ、『かごめかごめ』のような形をしています!」
女教授「病原体と結合する部分が合わせて10ヵ所もあるのでとっても便利なんですね~」
真面目「へぇ……じゃあ最後のIgDはどんな機能があるんですか?」
女教授「…………」タラ
天然娘「せんせぇ?」
女教授「IgDは……その……一体何をしているのかは不明です」
お嬢様「えっ」
女教授「作られたばかりの『新人B細胞』の表面にあるということは分かっているのですが……正直、この子は何をしているんでしょうか……」
チャラ男「いや、俺らに聞かれてもwwwww」
女教授「と、とにかく!遺伝子再編成で作られたBCRやTCRのすべてが抗体になれる訳ではありません。厳しい試験に合格して就職できるのです」
お嬢様「抗体の世界でも学歴社会なのね……」
女教授「BCRは【重鎖】【軽鎖】の2つから成り、遺伝子再編成でまずは重鎖が作られた後【代替軽鎖】を持たされて『品質チェック』を受けます」
女教授「次に遺伝子再編成で軽鎖が作られ、これについても品質チェックを受けるんですよっ」
天然娘「しけんに落ちたらどうなるのぉ?」
女教授「出来損ないに生きる価値はありません。死あるのみです」ハンッ
チャラ男「酷ぇwww」
女教授「その後2つの試験に合格したBCRは、面接で【強くくっつけるか】【水に溶けないか】【いろんなものにくっつかないか】を問われます」
真面目「一次試験、二次試験のあとに面接まで……現実の入社試験よりも難しそうですね」
女教授「間違って自分の体を攻撃してしまうBCRももちろん不合格ですが、救済措置として一度だけ『再試験』を受けることができるんです!」
チャラ男「マジかよwwwwチョロいなwwww」
お嬢様「さ……再試験?どーやってそんなことしてんのよ?」
女教授「残念ながら面接で落とされてしまったBCRは、再び軽鎖の遺伝子再編成が起こりもう一度だけチャンスが与えられるのです♪」
天然娘「それもダメだったらどうなっちゃうのぉ?」
女教授「二度もヘマを冒すクズに生きる資格はありません。死あるのみです」ハンッ
チャラ男「」
女教授「TCRは【α鎖】と【β鎖】から成るので、まずβ鎖から作られて【代替α鎖】と共に品質チェックを受けるんですよ~」
女教授「TCRもBCRと同じように遺伝子再編成が起こりますが、こちらは更に『書類選考』と『最終面接』が追加されますっ」
お嬢様「ひぃぃっ!就職できるまでにどんだけ狭い関門なのよ!」
女教授「TCRの場合、【MHC分子(主要組織適合遺伝子複合体抗原)】という糖タンパク質にくっつけなければそれだけで弾かれちゃいます」
チャラ男「最終学歴のフィルターみてーなもんかwwww」
お嬢様「エグいわね……」
女教授「このMHC分子に結合できるかどうかの書類選考のことを【正の選択】と呼ぶのですよ~」
女教授「その後、最終面接ではどれほどこのMHCと強く結合できるのかが問われるのです!」
真面目「なるほど、MHC分子と強く結合できるTCRのみが選ばれるんですね!」
女教授「あ、いえ……逆です。あまりガッつきすぎてMHC分子と強く結合しすぎても落とされます」
お嬢様「つ、強すぎても駄目なの!?」
天然娘「てきどなきょりが一番なんだねぇ」
女教授「このTCRがMHC分子と程よく結合できるかどうかテストすることを【負の選択】と言うのですっ」
女教授「さてさて、ここで見事に入社試験で合格したエリートTCRを持つT細胞さんは社員研修として2つの部署を見学します」
お嬢様「社員教育まで徹底してるのね……」
真面目「2つの部署とは?」
女教授「1つ目は【キラーT細胞】の部署で、こちらのT細胞達は【CD8】という分子を発現していますっ」
女教授「もう片方は【ヘルパーT細胞】の部署で、こちらは【CD4】という分子を発現してるんですよ~」
チャラ男「よーするに、バリバリの営業部と裏方の経理部みたいな?www」
女教授「新入社員のT細胞さんは、入社してすぐはCD4やCD8分子を持っていない【ダブルネガティブ細胞】なのですが……」
女教授「やがて研修の一環として、CD4とCD8の両方を発現する【ダブルポジティブ細胞】となるのです♪」
お嬢様「個人のスキルを発見するために両方の部署の研修をさせるなんて……免疫システムは企業の鏡ね」
女教授「やがてT細胞はどちらかの部署に入部すると、選ばれなかった方のCD分子はなくなって【シングルポジティブ細胞】となります」
女教授「そしてようやく、T細胞を育成する本社(一次リンパ組織)から現場の支部(二次リンパ組織)へと転属されるんですね~」
真面目「本当に社会人の流れみたいですね……」
お嬢様「ところで、このキラーT細胞とかヘルパーT細胞って何?」
女教授「これらのT細胞は、特定の"病原体の破片"を持っているMHC分子の【アンカー残基】にくっつくことで免疫反応を担っているんですね~」
女教授「まず【キラーT細胞】は、全身の有核細胞の表面にある【MHCクラスⅠ】分子を認識して結合することができますっ」
天然娘「えむえいちしーくらすわん?」
女教授「感染した細胞内で悪さを働くウイルスや一部の寄生性細菌の"破片"を持っていて、キラーT細胞に非常事態であることを伝えるのです」
お嬢様「なるほど、それで助けるのね?」
女教授「敵もろとも殺します」キリッ
お嬢様「ちょ」
女教授「敵に無様な敗北を晒した負け犬に慈悲はありません」ハンッ
女教授「そして【ヘルパーT細胞】は、樹状細胞・マクロファージ・B細胞などの『抗原提示細胞』の表面にある【MHCクラスⅡ】に結合します」
女教授「クラスⅡは細胞の外にいる細菌などを貪食で取り込み分解した破片を持っていて、ヘルパーT細胞に情報を伝える(抗原提示)のです」
真面目「それで、情報が伝わったらどうなるんですか?」
女教授「それらの情報を元に、その病原体に有効な抗体を作る命令を出したり食作用を活性化したりと司令塔のような働きをするんですよ~」
天然娘「あのねぇ、ちょっと気づいちゃったんだけどぉ……きらーてぃーさいぼーさんは"一番はじめ"はどうやってわかるのかなぁ?」
チャラ男「質問が抽象的すぎて意味が分かんねーwwww」
女教授「そこに気づくなんて……素晴らしいですっ!」キラキラ
お嬢様「………。何が?」
女教授「実はT細胞は普段はだらけている【ナイーブT細胞】として存在しますが、免疫細胞による【抗原提示】【補助刺激】により活性化します」
女教授「どちらか片方がないと反応しませんし、特に補助刺激がないと【アネルギー】という沈黙状態になってしまうのですよ~っ」カキカキ
○ナイーブT細胞+抗原提示+補助刺激→【アクティベートT細胞】
×ナイーブT細胞+抗原提示のみ →【アネルギー】(不応答化)
お嬢様「さりげなーく流したけど、補助刺激って何よ?」
女教授「おっと失礼しました、補助刺激とは『免疫細胞が病原体と判断した証拠』のようなものです♪」
女教授「もし抗原提示だけで活性化してしまったら、私達の体の至るところで反応してしまい『自己免疫疾患』となってしまいます……」
真面目「なるほど、だから補助刺激がないと働かなくなってしまうんですね」
お嬢様「……ん?でもMHCクラスⅠはどうやって補助刺激を受けとるの?これじゃあキラーT細胞が活性化できないじゃない!」
女教授「そうです!そこで天然娘ちゃんの言った通り、キラーT細胞はどうやって活性化しているのかと言う疑問が残りますね?」
チャラ男「知ってるぜwwww生存本能が己の免疫系を活性化して、毒を焼き付くすんだぜwwwww」
お嬢様「漫画やアニメじゃないんだから……でも何でかしらね?」ウーン
真面目「……何らかの細胞が、自分からMHCクラスⅠを持ってキラーT細胞に近づいてる……?予想ですけど」
女教授「いい線ですよ!正解は【樹状細胞】という免疫細胞が外から侵入した細菌などを食べて、特別にMHCクラスⅠに提示できるのです!」
女教授「樹状細胞はいつも補助刺激を出しているので、これによりキラーT細胞を活性化できるんですよ~」
真面目「つまり、キラーT細胞は樹状細胞によって活性化するんですね」
女教授「このように、樹状細胞のみが特別に貪食によってMHCクラスⅠに提示することを【クロスプレゼンテーション】と呼ぶんですよ!」
女教授「ちなみに、T細胞の役割を簡潔にまとめるとこんな感じになりますよ~♪」カキカキ
キラーT細胞 →CD8→MHCクラスⅠ←細胞内の病原体(樹状細胞は例外)
ヘルパーT細胞→CD4→MHCクラスⅡ←細胞外の病原体
女教授「また、ヘルパーT細胞の中でも更に4つの「担当科」が存在するのですよ~」
お嬢様「ま、まだあるの!?免疫系はどんだけ縦社会なのよ!」
女教授「ナイーブヘルパーT細胞(Thp)は、その後【Th1】【Th2】【Th17】【Treg】の4つのプロフェッショナルに分化します!」
チャラ男「こ、こんがらがってきたぜ……wwww」
女教授「1つずつ理解すれば大丈夫ですよ♪まずはTh1とTh2についてお勉強しましょうっ」
女教授「Th1は細胞性免疫を強化するT細胞で、ウイルスや細菌に感染したときにThpから分化するのですよ~」
真面目「ウイルスや細菌は細胞内にいるから、MHCクラスⅠによってキラーT細胞が活性化されるのは細胞性免疫では利にかなっていますね」
女教授「ウイルスに感染すると樹状細胞が【IL(インターロイキン)-12】を生産し、続いてNK細胞が【IFN(インターフェロン)-γ】を作ります」
女教授「このIFN-γがThpと接触するとTh1に分化するんですね~」カキカキ
ウイルス感染→樹状細胞(IL-12)→NK細胞(IFN-γ)→Th1
天然娘「てぃーえいちつーはぁ?」
女教授「これに対しTh2は体液性免疫を強化するT細胞で、こちらは寄生虫などに感染したときに分化するんです!」
女教授「寄生虫感染によりNK細胞が【IL-4】を生産することで、Th2へと分化するんですよっ」カキカキ
寄生虫感染→NK細胞(IL-4)→Th2
女教授「Th17とTregは、『感染している』か『感染していない』かを分ける分岐点と言えます」
女教授「Treg(制御性T細胞)は、感染していないときに樹状細胞がいつも生産している【TGF-β】によりThpから分化します」
チャラ男「感染してねーときは頑張る必要はねーからなwww省エネだぜwww」
女教授「しかし、感染している時は樹状細胞がTGF-βに加えて【IL-6】【IL-23】を生産してTh17に分化してしまうのです!」カキカキ
・非感染時→Thp→樹状細胞(TGF-βのみ) →Treg
・感染時 →Thp→樹状細胞(TGF-β+IL-6+IL-23)→Th17
女教授「ちなみにTh17は好中球の貪食反応を促進したりして免疫を増強し、TregはTGF-βの生産によりナイーブT細胞の活性化を防いでいます」
お嬢様「えーと……普段はTregを作ってるけど、病気のときはTh17を作るってことね?」
女教授「またTh1は【IFN-γ】を生産してTh2とTh17への分化を妨害し、逆にTh2は【IL-4】【IL-10】でTh1とTh17への分化を妨害してるのです!」
真面目「お互いに邪魔し合って、どちらか片方のみが作られるように操作してるんですね」
女教授「最後に【メモリー細胞】のお話をして今日の授業は終わりましょう♪同じ病気にかかりにくいのはこの細胞のおかげなんですよ~」
お嬢様「たしか、パワーアップしたIgGを作ってやっつける免疫細胞だったわよね?」
女教授「ちゃんと覚えていて先生嬉しいですっ!B細胞の内、一度病原体と戦ったものはほとんどが短い寿命で死んでしまいますが……」
女教授「その中でも一握りはTh2の働きにより、とても長い寿命を持つメモリー細胞に進化するんですね~」
真面目「一度戦った相手に対して改良した抗体を生産できるので、二度目は効率的に撃退できるんですね」
天然娘「おばあちゃんのちえぶくろなのぉ」
女教授「免疫は『病原体という敵と戦う』というイメージから、自分の意思でコントロールできると思い込む人は少なくありません」
女教授「ですが私達が原始的な生物の頃から病原体との死闘は続いており、免疫システムはそれらから生き延びるための叡知の結晶なのです」
女教授「非常に綿密なシステムに私達が介入できることと言えば、精々暖かくして栄養を取り、お薬を飲んでぐっすり眠ること!ぐらいですね♪」
キーンコーンカーンコーン
女教授「もうこんな時間ですか、それでは生物学第5回目の授業を終わります。きりーつ、れいっ」
生徒達「ありがとうございました!」
―――――――――――――――…
ここまで
補足1:拒絶反応はなぜ起こる?
女教授「私達のT細胞の10%ぐらいは、【アロT細胞(同種異形MHC反応性T細胞)】と呼ばれるT細胞が存在します」
女教授「このT細胞は臓器移植などによってやってきた他の人のMHC分子にくっつくと、その臓器の細胞を攻撃し始めてしまうのですよ~っ」
女教授「このため、臓器移植にはどれだけドナーの方とレシピエントの方のMHC分子が似ているかがカギとなるのです!」
女教授「とはいえMHCは免疫システムの最重要遺伝子なのでとんでもなく種類が多く、相同染色体の両方が発現するので組み合わせはほぼ無数!」
女教授「MHCが完全に合致するなんて、一卵性の双子以外ではありえないんじゃないでしょうか……」
補足2:食べられない細菌
女教授「世界三大疾患の1つ【結核】の病原体である結核菌は、なんとマクロファージに食べられても逆にその中で寄生してしまうのです!」
女教授「細菌がマクロファージに食べられると、普通は酸性の【リソソーム】という消化器で消化されてしまうのですが……」
女教授「この結核菌は塩基性のアンモニアを生産して、リソソームを中和してしまうことで消化を免れているのですっ!」
女教授「更にマクロファージは奥の手の活性酸素で除菌しますが、結核菌はこの活性酸素を除去する【SOD】と言う酵素も持っているのです!」
女教授「免疫系の先陣に真正面から戦いを挑んでくるなんて、敵ながら見上げた根性ですね~……」
補足3 :免疫力を高める食べ物
女教授「今までのお話を聞いていれば分かりますが、免疫力という概念はいくつものパラメーターによって成り立っています」
女教授「免疫についてのガセネタが特に多いのは、この複雑なシステムをあまり理解していない方が多いことも理由に挙げられるでしょう」
女教授「ですが嘘の情報だけではありません。例えばプラズマ乳酸菌はその手のニセ科学ではなく、信憑性の高い論文が発表されています」
女教授「どうやらプラズマイド樹上細胞のToll様受容体-9に結合し、IFN類の分泌を促すことでNK細胞などの抗ウイルス作用を活性化するみたいです」
女教授「このように、免疫系を活性化する物質を【アジュバント】と呼ぶのですよ~♪」
このSSが面白いのか、それとも科学が面白いのか。
>>149
このSSで科学の面白さが伝われば幸いです
それでは本日の投下を始めます
…―――――――――――――――
女教授「おはようございます!今日は脳の中で働く化学物質についてのお勉強をしましょう♪」
真面目「の、脳ですか……」
女教授「はい♪私達の頭の中のお話です……興味ありませんか?」
チャラ男「あるあるwwww考えてること分かったらスゲー便利そうwww」
お嬢様「あんたの頭の中は覗かなくても分かりそうだけどね……」
女教授「さ、流石にそこまでは現代の科学を持ってしても分からないんですよー……」アセッ
天然娘「ちょっとがっかりなのぉー……」
女教授「では皆さんに質問です!【どうして人肉は食べちゃいけないのでしょう?】」
お嬢様「ぶっ!」ゴホッ
真面目「ま、まさか先生の口からそんな言葉が出るなんて……」
チャラ男「そーゆーのはエロ先生の担当だろwww」
天然娘「せんせぇ、こわい……」プルプル
女教授「え、えーと……私は特に食べたいとは思ってないですよ?」オロオロ
お嬢様「でも人の肉なんて、食べたいとかそんなおぞましいことはフツー考えないわよ!」
女教授「どうしてですか?生きてる人ならまだしも、死んだ人の身体は貴重なタンパク質のはずですよ?」
天然娘「たたられちゃうよぉ」フルフル
真面目「感情論抜きで考えれば……例えば、病気にかかりやすくなるからですか?」
チャラ男「そもそもどんな味するんだよwwww不味くて食えたもんじゃねーかもしれねーだろwwww」
女教授「報告によると、人のお肉は豚肉に似た味がするみたいですよ♪」ニコッ
チャラ男「ヒエッ」ガクガク
女教授「うふふ……日本人のお肉はとってもおいしいらしいですよぉー……♪」スーッ
チャラ男「キャアアアア」ガタガタ
天然娘「やめたげてよぉ」ヒシッ
女教授「人肉を食べてはいけない理由……それはある病気にかかってしまうことを回避するために死者を葬儀する風習が根付いたからです」
真面目「ある病気とは?」
女教授「1975年のことです。パプアニューギニアのフォア族という部族の女性や子供に、全身の震えや痴呆で死亡する病気が流行りました」
女教授「その病気の名前は【クールー(震え)病】。フォア族では女性と子供に死者の脳を食させる風習があったのです」
お嬢様「ひっ……死んだ人の脳を食べるなんて……!?」ブルッ
チャラ男「キメェwwwwカニバ○ズムとかレベル高すぎwwww」
女教授「フォア族の間では、死者の肉体の一部を自らに取り込むことで霊的な力を受け継ぐという思想があったようですね」
真面目「クールー病ってTVや新聞で聞いたことがあります。確か【狂牛病】と同じ症状が表れるとか……」
女教授「そう、クールー病と狂牛病の原因は同じ【プリオン】と呼ばれる病原体が引き起こします。ではプリオン病のルーツを辿ってみましょう」
女教授「今から約300年前、ヒツジやヤギに【スクレイピー(擦り付ける)】という病気が発見されました。全身が痒くなってしまう病気です」
お嬢様「羊の病気と人の病気が同じなの?」
女教授「ええ。このスクレイピーとクールー病の脳をサルに与えたところ、全く同様の症状が現れたのです」
女教授「後にヒトでも同じ症状の病気が発見され、これを発見者の名前から【CJD(クロイツフェルト・ヤコブ症候群)】と呼びました」
チャラ男「結局、脳ミソのプリオンってバイ菌がヤベーってことか?www」
女教授「いえ!このプリオンの正体は細菌でもウイルスでもなく、生きてすらいない【タンパク質】だったのです!」
真面目「えっ」
お嬢様「た、タンパク質って食べたら分解されるんじゃないの?」
女教授「このプリオンは非常に頑丈な構造をしていて、ありとあらゆる条件でも不活化しない恐るべきタンパク質なのです!」
女教授「元々【正常プリオン(PrP)】は私達の全身、特に脳に多く存在するタンパク質でもありますっ。何をしているかは分かりませんが……」
真面目「正常ということは、異常なプリオンも存在するということですか?」
女教授「はい♪狂牛病やCJDは【異常プリオン(PrPsc)】が正常プリオンを異常プリオンに変換することで感染・増殖をするのです!」
お嬢様「か、感染!?生物でもないのに?」
女教授「実はこの異常プリオンと正常プリオンを作る物質に違いはないのですよ。形が少し変わってしまうだけなのです」
天然娘「同じものでできてるのにせーしつがちがうのぉ?」
女教授「このような物質は何もプリオンに限ったことではありません。同じ物質で形と物理的性質が異なるものを【結晶多形】と言うのです♪」
女教授「例えば一度溶けたチョコは再び固まらせても、チョコの油脂は結晶形が溶ける前と違うので風味や食感が変わってしまいます」
お嬢様「なるほど、海外で買ってきたチョコのお菓子が向こうで食べた時よりこっちで食べた時の方がマズいのはそのためね」
女教授「他にも、エイズ治療薬【リトナビル】は時間が立つと結晶形が変化して効き目が半減してしまったり……」
女教授「結晶形の溶けやすさの違いを利用して、胃酸を止める【ガスター錠】は用途別に分けられていたりするんですよ~」
天然娘「かたまるかたちも大事なんだねぇ」
チャラ男「ヤバいプリオンとヤバくないプリオンはどー違うんだ?wwww」
女教授「正常プリオンは『水に溶けにくい部分』を内側に畳んでいるのですが、異常プリオンはその部分が外側に露出しているのですよっ」
真面目「つまり、異常プリオンは水に溶けにくい?」
女教授「そうです♪そして水に溶けにくいものは、放っておくと自然に集まって凝集してしまいます」
天然娘「みずたまりに落ち葉がいっぱいあつまってるのとおんなじなの」
女教授「この異常プリオンが凝集したものが脳に沈着すると、それらが邪魔になってもうそのニューロンは働かなくなってしまうんです!」
お嬢様「それでどんどん頭がおかしくなっちゃうのね……」
女教授「恐らく、我々の祖先には『共食いを認めている集団』と『共食いを認めない集団』あったとして……」
女教授「『認めない集団』は『認めている集団』よりもCJDにかかる可能性が低く、より繁栄することに優れていたと思われます」
真面目「そうやって生き残った方の伝統が引き継がれることによって、いつしかそれが当たり前のことになっていったんですね」
女教授「これは私個人の考えで、多少逆説的で強引ですが……このプリオンは『共食いを禁止するタンパク質』なのかもしれません」
女教授「死者を"単なる食料"ではなく"霊的で不可侵な何か"に昇華することで倫理観が生まれた……そう考えるととてもロマンチックですよね?」
チャラ男「なるほど分かんねぇwwww」
女教授「それでは次の質問ですっ!皆さんは【サイコパス】とは何かご存知ですか?」
真面目「最近よくニュースで目にします。【いつも嘘をついたり、犯罪や暴力行為を繰り返すような精神疾患】のことですね?」
お嬢様「ハタから見れば、すごいマトモか魅力的な人物に見えるって聞いたわ。医者や企業の社長にも多いみたいね」
チャラ男「犯罪係数が上がらないんだぜwwwww」
お嬢様「それはアニメの話でしょ」ハァ
女教授「ドキュメンタリーなどで誤解されてる方も多いようですが、サイコパスとは実は精神疾患ではなく【脳機能障害の一種】なんです!」
女教授「サイコパスの特徴として、『共感を感じない』『痛覚に無頓着』『嫌悪感を感じにくい』『社会規範を何度も逸脱する』などがあります」
チャラ男「聞けば聞くほどヤベーなwwww」
女教授「しかし1つ1つの成分を分析すると、これらはすべて脳の【傍辺縁系】と呼ばれる組織に異常があることが判明しました!」
天然娘「ぼうへんえんけい?」
女教授「傍辺縁系とは、次の6つの機能を持つ組織に分類できるのですよ~」カキカキ
●傍辺縁系組織●
①前帯状回…………共感・感情
②眼窩前頭皮質……報酬系・倫理
③扁桃体……………恐怖・感覚刺激
④後帯状回…………情動記憶・情動処理
⑤島皮質……………嫌悪・性衝動
⑥側頭葉極…………知覚統合・倫理
天然娘「いっぱいあるねぇ」
女教授「サイコパスの脳をfMRIで撮影したところ、これらの【傍辺縁系組織が異常に小さい】ということが判明しました!」
真面目「サイコパスは客観的に分かる病気なんですね……」
お嬢様「これじゃあ"自称サイコパス"とかは厨二病ってバレちゃうわね」プ
チャラ男「ぐああああ」ジタバタ
女教授「サイコパスかどうかを判断するテストは2種類あります。【嫌悪スケールテスト】と【情動単語反応速度テスト】の2つです」
チャラ男「俺ほかのやり方知ってるぜwwww殺人鬼が指差して階段数えてるように見えたらサイコパスなんだぜwwww」
お嬢様「あ、なんかそれネットで見たことあるわ。ダイレクトに『サイコパス診断』っていうのよね」
女教授「あの判別方法は再現性がありませんし、もう答えが一般に知れ渡りすぎて決定性に欠けます。今やせいぜい"血液型占い"止まりですよっ」
お嬢様「ちょっ……それってほとんど意味無いってことじゃない!」
真面目「あの、ところで"嫌悪スケールテスト"というのは?」
女教授「このテストは、島皮質が未発達のサイコパスの嫌悪感に対する感受性が低いことを利用して精神疾患を判別する方法です」
女教授「ただ、嫌悪感が異常な病気というのは『トゥレット症候群』や『脅迫性障害』などもありますので、こちらも確実ではありませんが……」
天然娘「もう1つのほうはなぁに?」
女教授「"情動単語反応速度テスト"とは『無意味な単語』『意味のある単語』『情動的な意味を持つ単語』への反応速度を測定するテストです!」
女教授「無意味な単語……例えば『るはどら』や『のんーひるみと』など、意味を持たない単語などに対して人間は反応速度が遅くなります」
女教授「しかし、正常な人では意味のある単語(かに)よりも情動的な意味を持つ単語(きずな)の方が速く反応できるのです!」
お嬢様「サイコパスの場合はどうなの?」
女教授「対照的に、サイコパスの方の場合はどちらの単語でも反応速度に違いはありませんでした」
真面目「なるほど……情動的な単語に対する反応速度の違いから、サイコパスかどうかを判断することができるのですね」
天然娘「こーたいじょーかいが小さいからにぶくなっちゃうんだねぇ」
お嬢様「でも共感能力が未熟なら、すぐにサイコパスだって見抜けそうだけど?」
女教授「甘いです!サイコパスの方は共感を『感じない』のですが、『理解する』ことはできるのです!」
真面目「"感じないのに理解できる"……?」キョトン
チャラ男「それって矛盾してねぇ?wwwww」
女教授「【白黒の部屋】という思考実験をご存知でしょうか?一度も赤色を見たことがないメアリーちゃんが赤色を勉強するお話です」
お嬢様「なんだか可哀想ね、それ」
女教授「メアリーちゃんは頑張り屋さんで、『赤色というのはリンゴや血と同じ色で、見ると心がドキドキする色なんだ!』という"知識"を得ます」
女教授「一度も赤色を見たことがないのですけど、その反面『赤色に関する知識』は普通の人よりもとても詳しいのです♪」
真面目「つまり、サイコパスにとっての共感はメアリーにとっての赤色なんですね……」
女教授「私達が色弱の方と同じ世界を見れなくても会話ができるのと同じで、サイコパスの方は共感を知識や経験で補っているのです」
チャラ男「でもよーwwwwそんなヤベーヤツらが医者とか社長になって成功するのはおかしくねぇ?wwww」
女教授「そうですねえ……ではここで皆さんに【トロッコの問題】というものを考えて貰いますっ!」カキカキ
●トロッコの問題Ⅰ●
①あなたがレバーを引けばトロッコのレーンが動き、トロッコの乗客5人は助かるが移動先の1人は引き殺される
②あなたがレバーを引かなければトロッコは崖から落ち、1人は助かるがトロッコの乗客5人は助からない
真面目「う……。1人を選ぶか5人を選ぶかですか……」タジッ
お嬢様「そんなの、数が多い方を助ける方がいいに決まってるわ!私ならレバーを引くわよ」
チャラ男「俺は悪くねぇwwwこんな所にレバーを置く奴が悪いんだぜwww」
天然娘「レバーを見てたら引きたくなるのー」
女教授「そう、まともな人ならまずレバーを引いて5人の乗客を助けようとするでしょう。これはサイコパスの方も違いはありません」
女教授「では、この場合ならどうします?」カキカキ
●トロッコの問題Ⅱ●
①あなたの目の前にいる人をトロッコのレーンに突き落とせば、トロッコの乗客5人は助かるが突き落とした1人は引き殺される
②あなたの目の前にいる人をトロッコのレーンに突き落とさなければ、トロッコは崖から落ち乗客5人は助からない
お嬢様「ええっ!?……じ、自分の手で突き落とさないとダメなの?」アセッ
真面目「それはちょっと……でも5人の命が……」ウムム
チャラ男「押すなよ!?絶対押すなよ!?」
天然娘「……」ウズウズ
女教授「どうです?先程との違いは間接的か直接的かの違いでしかありませんよ?」
お嬢様「で、でもやっぱり自分の手を汚すかどうかはデカいわよ……!」
女教授「そう。人間の脳では合理的判断を行う場と倫理的判断を行う場が存在しており、それらは互いに繋がって連絡を取り合ってます」
女教授「最初の問題では合理的判断を、この問題では倫理的判断を行う領域が働きますがサイコパスの方は躊躇なく突き落としてしまいます」
お嬢様「突き落とすか突き落とさないかじゃなくて、躊躇うか躊躇わないかがカギなのね」ゾクッ
女教授「優れた外科医や経営者に求められるスキルをインタビューしたところ、常に上位に入るものは『鈍感力』だそうです」
天然娘「どんかんりょく?」
女教授「曰く、『自分のライバルを蹴落としてもぐっすり眠れる能力が重要』だそうですよ♪」
お嬢様「うわぁ、ブラックね……」
女教授「サイコパスの方達が犯罪者や優れた能力者に多いのは、彼らだけが持つ独特の脳の構造がもたらす価値観によるものです」
チャラ男「じゃあサイコパスって遺伝しねーの?wwwww」
女教授「脳の構造というのは遺伝要因と環境要因によって作られます。親がサイコパスだからといって、子供もそうとは限りませんよ~」
女教授「それでは最後に【快楽】について勉強しましょう!皆さんは、【快楽とはどうやって生じると思いますか?】」
チャラ男「知ってる知ってるwwww【ドーパミン】ってゆーのが出ると楽しくなるんだぜwwww」
真面目「『快楽物質』ですね。他にも『β-エンドルフィン』などの脳内麻薬が快楽を感じさせると聞いたことがあります」
お嬢様「まあでも、ドーパミンが快楽物質なのは常識よね」
女教授「そうですね♪ドーパミンは脳で快楽を司っているんですね~」
お嬢様「ふふんっ♪まあ博識な私にかかればこんなの朝飯前よ」ドヤァ
チャラ男「えっwww答えたの俺なんですけどwwww」
女教授「違います。【ドーパミンは快楽物質ではありません】」バァーン
お嬢様「う、嘘ぉ!?」ガーン
女教授「そもそも脳とは『楽しくなる物質を入れたら楽しくなる』という単純なモノではないのですよっ」
チャラ男「でもさーwwwwウィキペディア先生だってちゃんと言ってるんだぜ?wwww」
女教授「ここ最近までは正しかったのですが、マウスの研究よってどうやら間違いであることが判明したのです!」
天然娘「ねずみさんのけんきゅー?」
女教授「マウスは美味しい食べ物を食べたときにペロペロと【舌舐めずり】行動をします。美味しい物ほどたくさん舌舐めずりするんですよっ」
お嬢様「ネズミのくせに好き嫌いがあるなんて、ちょっと可愛いとこあるじゃない」
女教授「さて……ここで遺伝子操作により『ドーパミンが沢山でるマウス』と『ドーパミンが少ないマウス』を作りました」
女教授「一体【どちらのマウスが多く舌舐めずりしたのでしょう?】」
チャラ男「ドーパミンがヤベーほど出るマウス……と見せかけて、ここは【ドーパミンが少ねーマウス】の方だぜwwww引っかけ乙www」
女教授「正解ですよ♪でもなぜかは分かりますか?」
お嬢様「美味しいほど舌舐めずりするのに、ドーパミンが少なかったら逆に回数が減りそうだけど?」
真面目「ドーパミンは快楽以外の何かの役割がある……?」
女教授「そう、ドーパミンは直接快楽をもたらす物質ではありません。ドーパミンの正体は【欲求】を司る物質だったのです!」
お嬢様「……へっ?何がどう違うの?」
天然娘「にてるけどちょっとちがうのぉ」
女教授「つまり、ドーパミンは『好き』ではなく『したい』という情動を生み出します」
女教授「ドーパミンが多くなるマウスは、過食症のような状態になるので『好きじゃないのに食べたい』ことにウンザリしているんですね♪」
チャラ男「贅沢なヤツだなwwwww」
真面目「つまり、快楽を感じるには【欲求回路】と【嗜好回路】の2つが別々に存在するということですか?」
女教授「ほぼアタリです♪正確には、欲求回路→嗜好回路のように連動して動いているんですね~」
女教授「欲求回路は脳の【腹側被蓋野】から【ドーパミン】系で始まり、次の様々な脳の部分にビビッ!と情報が伝わりますっ」カキカキ
●欲求回路●
・腹側被蓋野(ドーパミン駆動)
┗→『帯状皮質』
┗→『島皮質』
┗→『扁桃体』
┗→【側坐核】
┗→【腹側淡蒼球】
┗→【眼窩前頭皮質】
チャラ男「あれ?wwwなんで漢文の授業やってんの?wwww」
お嬢様(読めない)ダラダラ
天然娘「ふくそくひがいやさんは頑張りやさんだねぇ」
女教授「そして快楽の回路は下の3つ、【側坐核】【腹側淡蒼球】【眼窩前頭皮質】によって作られるのですよ~」
真面目「……えっと?すみません、もう一度……」
天然娘「そくざかく、ふくそくたんそーきゅー、がんかぜんとーひしつだよぉ」エッヘン
女教授「この側坐核と腹側淡蒼球は互いに特別な物質を利用してやり取りを行っています」
お嬢様「それが本当の【快楽物質】なのね!」
女教授「ええ♪その物質とは【エンケファリン】【アナンダミド】です!」
真面目「え、エンケ……?アナ…ダ……?」
チャラ男「平仮名が恋しくなるぜ……」
女教授「エンケファリンとアナンダミドは側坐核と腹側淡蒼球の連絡に使われる物質で、相互に放出し合うことで回路を形成しています」
女教授「特に腹側淡蒼球がないと喜びの感情を一切感じなくなってしまうので、とても重要な働きをしていると推測されてるのですよ~」
天然娘「でもおなかが空いたときにごはんを食べたらおいしく感じるのはどうしてぇ?」
女教授「【オレキシン】はお腹がすいた時に放出されるホルモンで、これがこの回路に作用することで食べ物が美味しく感じると推測されます♪」
お嬢様「空腹は最高のスパイスとはこのことね」
天然娘「じゃあー、がんかぜんとーひしつさんは何をしているのぉ?」
女教授「眼窩前頭皮質(特に中前部)は【快楽の本質】であると考えられていて、この部分に電流が流れると強い快感を感じるのですっ」
お嬢様「つまり、ここが快感を感じる部分なのね!」
女教授「ですが眼窩前頭皮質はずっとは機能しません。側坐核と腹側淡蒼球からの連絡を受けてすぐに沈黙してしまうのです……」
女教授「例えば、どんなに美味しい料理でも最初の一口より最後の一口の方が美味しさは劣ります。食べ終わる頃にはもう働かなくなるのですよ」
真面目「つまり、この領域を刺激すれば……」ゴクリ
チャラ男「ひらめいた」ティン
お嬢様「」プルルルッ
女教授「といっても1cm^3以下の小さな領域なので、その……えっちな目的に使うのは難しいと思います///」カアァ
お嬢様「本当むっつりね、このスケベ」ジトッ
女教授「チャラ男くん達を責めないであげてください!科学の発展には、そ……そういう推進力も時には必要なのです///」
お嬢様「アンタに言ってんのよ」
女教授「はうっ」
女教授「倫理とは、私達人間が人間らしく生きていくために先祖から受け継ぎ改良されてきた必要不可欠な要素です」
女教授「しかしその倫理を生み出す脳も我々人間の一部であり、化学的な側面を少なからず持ちます」
女教授「脳についての化学を考えることは、倫理について考えることと同義ではないか、私はそう思います」
キーンコーンカーンコーン
女教授「それではこれで生物学第6回の授業を終わります!きりーつ、れいっ」
生徒達「ありがとうございました!」
―――――――――――――――…
今日はここまで
補足1:全身麻酔薬キセノン
女教授「希ガスの【Xe(キセノン)】は、ガスにも関わらず単体で薬として働く非常に珍しい物質です」
女教授「長らく全身麻酔はどうやって作用しているのかは不明でしたが、どうやら【NMDA受容体】というものに影響を与えているようです」
女教授「この受容体は神経を興奮させる働きがありますが、キセノンはこれを抑えることで麻酔作用を示しているのですね~」
女教授「希ガスなので副作用も少なく、効き目も優れているのでとても優秀な麻酔薬なんですよ♪」
女教授「……ただしキセノン自体が物質的にも稀少なので値段が通常の麻酔薬の10倍も高く、実際に使われることはまずありませんが」
補足2:お酒で楽しくなるわけ
女教授「欲求や快楽のスタート地点である腹側被蓋野は、普段は別の神経細胞によって抑制されています」
女教授「しかし【モルヒネ】や【オピオイドタンパク質(モルヒネ様物質)】はこの抑制神経細胞の受容体に作用し……」
女教授「Gタンパク質を経由して【GIRKチャネル】を開放するのです。これによりK+が放出し、抑制神経細胞が抑制されて楽しくなるのですよっ」
女教授「お酒(エタノール)はこのGIRKチャネルに直接作用して腹側被蓋野を興奮させるので気持ちよくなっちゃうんですね~♪」
女教授「お酒に強い弱いというのは、単に肝臓のアルコール分解酵素の強さでは決まらないということですっ!」グビリ
女教授「……ふへへ///」ニヘラ
※補足:プロテオゲノミクスとは
女教授「アミノ酸は3つの塩基で決定してると説明しましたが、実は3番目の塩基はあやふやで実質ほぼ2つの塩基で確定しています」
女教授「例えば、『セリン→UC○』『プロリン→CC○』『トレオニン→AC○』といった感じですね♪」
女教授「4種類ある塩基が16個並んだ配列(4^16)は、全ゲノム(3.2×10^9)中に一回しか出てこないと予測されます」
女教授「すなわちタンパク質のアミノ酸配列が6個(6×3=18>16)判明すれば、ゲノム中のどこにコードされているか分かるのですよ~」
…―――――――――――――――
女教授「さて、この授業も残り少なくなってきましたね~。今日は【ウイルス】についてお勉強しましょうっ♪」
チャラ男「ウイルスって知ってるぜwww感染したらゾンビになったりするヤツだぜwww」ヴァイオハズァードゥ
お嬢様「それはゲームとか映画の話でしょ」
女教授「うーん……ゾンビはちょっとないかもしれませんが、私達に感染して風邪を起こしたり、研究や創薬の道具として使われてるんですよっ」
真面目「そもそもウイルスって何です?よく『生物と無生物の間』って言われてますけど、なんだかしっくり来なくて……」
天然娘「ろぼっとさんなのぉ?」
女教授「それでは、まずはウイルスの構造から説明していきましょう!」
女教授「ウイルスは細胞を持ちませんし、細菌でもありません。ほんの20~300ナノメートル程の【複製可能な粒子】と定義されます」
女教授「私達人間の細胞は10マイクロメートル程度、細菌でも1マイクロメートルぐらいなのでとーっても小さいことが分かりますね♪」
お嬢様「えーっと……1マイクロって何ナノだったかしら……?」
真面目「1マイクロ=1000ナノだよ。ウイルスは僕らの細胞の1/500ぐらいの大きさってことだね」
女教授「このウイルスは【1本鎖または2本鎖】の【DNAまたはRNA】と、【カプシド】というタンパク質の殻を持っています」
女教授「種類によっては【エンベロープ】という脂質の膜を持つものもいるのですよ~」
天然娘「まとりょーしかみたいだねぇ」
女教授「このエンベロープを持つウイルスは【エーテル感受性】があり、アルコール消毒で不活化するので覚えておきましょう♪」
女教授「カプシドには【正20面体立体対称型】のものと【螺旋対称型】の2種類があるのですよっ」
真面目「ダイヤモンドみたいな形のものと、グルグルの筒のような形をしたものがあるんですね」
女教授「そしてエンベロープには【スパイク】という突起を持つことがあります!」
天然娘「サボテンみたいだねぇ」
女教授「エンベロープの内側は【テグメント】と言って、この中にカプシドや遺伝子が入っているのですね~」カキカキ
[[[遺伝子]カプシド]エンベロープ]ースパイク
女教授「このウイルス粒子全体のことを【ビリオン】と呼ぶこともありますよ♪」
お嬢様「でも細胞がないのにどうやって材料を調達してくるの?」
女教授「ウイルスはATPを作り出すことができません。つまりATPが必要なDNAやRNA合成を自分一人ではできないということです」
女教授「なので別の生物の細胞にお邪魔してATPを貸してもらうのです!……返すことはありませんが」
お嬢様「それって横取りじゃない!」
チャラ男「ジャイアニズムかよwwww」
女教授「運悪くウイルスに感染してしまった細胞は、ATPと化学資源を使い果たされウイルスで溢れかえり破裂します」
お嬢様「恩を仇で返した!?」
女教授「次はウイルス別に説明していきましょう!まずは【DNAウイルス】についてです。このウイルスはDNAの遺伝子を持っています」
女教授「【ほとんどが2本鎖でカプシドは正20面体のものが多く、大体が細胞の核で増殖する】などの特徴があり、潜伏期間は長いことがあります」
お嬢様「な、なんかすごい曖昧ね……」
女教授「例外もたくさんあるので……DNAウイルスだけでも7科もあるんですよ~」
天然娘「科ってどのくらいちがうのぉ?」
女教授「例えばリンゴ(バラ目バラ科)とグミ(バラ目グミ科)ぐらい違うのですよ?」
チャラ男「えっ、グミって果物なの?wwww」
お嬢様「お菓子のグミじゃあないわよ……」
女教授「このDNAウイルスは、生物が元々持っている【DNA依存DNAポリメラーゼ】(DNA鎖を元にDNA鎖を作る酵素)で増えるのですっ」
女教授「まずは【ポックスウイルス科】ですね。この子は一番大きいウイルスで、あの【天然痘】を引き起こす痘瘡ウイルスのグループです」
真面目「天然痘ってワクチンで根絶した病気ですよね?」
女教授「そうです!天然痘に良く似た『牛痘』という病気の膿を注射したところ、天然痘にも耐性がついたのがワクチンの始まりとされてます!」
お嬢様「膿を注射って……ちょっとキモいわね。死ぬよりはましでしょうけど」
女教授「でも最近では親戚の『サル痘ウイルス』と言うものが突然変異を起こし、第二の天然痘になる可能性が危惧されてるんです……」
女教授「次は【ヘルペスウイルス科】です。この科のウイルスが起こす有名な病気に【水疱瘡】がありますよ~」
チャラ男「幼稚園のときにかかったことあるぜwwwそんときは真面目と天然娘に移して直したけどなwwww」
真面目「あー……そういえばあったね、そんなこと」
天然娘「チャラ男くんひどいのぉ……つらかったんだよぉ?」グスン
お嬢様(こ、この3人ってそんなに昔からの幼馴染みだったの!?)
女教授「このウイルスはとっても感染力が強いんですけど、症状は酷くありません。例えばヘルペスⅣは日本人の100%が抗体を持ってるんです!」
女教授「あ、ちなみに水疱瘡はヘルペスⅢで50%の人が抗体を持ってます。ヘルペスⅠとⅡは単純ヘルペス、ヘルペスⅣは伝染性単核症です」
お嬢様「ヘルペスウイルスの種類によって、かかる病気もバラバラなのね」
女教授「次に説明する【アデノウイルス科】はエンベロープのないDNAウイルスで、感染すると【プール熱】にかかってしまうのですよ~っ」
真面目「プール熱って何ですか?僕、体が弱くてプールに入ったことがないからかかったことなくて……」
天然娘「わたしあるよぉ。しょーがっこーのプールでねぇ、お熱がでちゃったチャラ男くんがひやせばなおるって……」
チャラ男「………」ダラダラ
お嬢様「あんた、どんだけ他人に病気移せば気がすむのよ!」
女教授「ちなみに『病気を移せば治る』というのはまったくのデマカセですよっ」
チャラ男「いやぁ……ははっ……偶然ですよ、偶然」ダラダラ
女教授「ちなみにこのプール熱は、アデノウイルスがプールの水を媒介して感染するのでこの名前がついたとされています♪」
真面目「そのまんまですね」
女教授「ところで女の子の方で、小さい頃に【子宮頸癌】のワクチンを接種しようという呼び掛けを聞いたことはありませんか?」
お嬢様「ああ、あの胡散臭いヤツね。副作用がニュースになってたから私は受けなかったわ」
天然娘「……受けようと思ったら、お母さんに止められちゃったよ」
真面目「僕は呼びかけられなかったので何とも……」
チャラ男「知ってるぜwwwネットで大炎上してたぜwwww」
女教授「えーと……ワクチンの効能は私には分かりかねませんが、この子宮頸癌は【パピローマウイルス科】のウイルスが起こします」
お嬢様「ええっ、ウイルスが癌を起こすなんてことあるの!?」
女教授「ええ♪このように癌を発症させるウイルスを【腫瘍ウイルス】といって、DNAウイルスに多く見られる特徴です!」
女教授「パピローマウイルスは、お、おち……///」
チャラ男「おち?」
女教授「おほんっ///……性器にイボができる【尖圭コンジローマ】などの特徴があり、性器の細胞に偏在すると考えられています」
女教授「なのでっ……オーラル、セッ……では……口腔癌にかかる可能性が非常に高まる危険性があるとされていますっ!」カアァ
お嬢様「……それって変じゃない?なんで性器に感染するウイルスが口にも感染するの?」
女教授「」 プツン
天然娘「せんせぇ?」
女教授「ク○ニです」
チャラ男「えっ」
女教授「もしくはフ○ラです」
真面目「」
女教授「……ハッ!すみません、先生ちょっとボーッてしてました。次は【パルボウイルス科】について勉強しましょう♪」
女教授「この子は最も小さいウイルスで、エンベロープもなく直径はたったの20ナノメートルしかありません!水素原子200個分ですね♪」
天然娘「ちっちゃいねぇ」
女教授「感染力は強くありませんが、小さい子供に感染すると【リンゴ病】という特徴的な症状が現れます。プリントの写真を見てくださいっ」
ペラッ
お嬢様「……!ふ……不謹慎だけどっ……」プルプル
天然娘「かわいい~っ♪」キュン
真面目「ふふっ……ちょっと、可愛らしいですね」ニコ
チャラ男「マンガみてーだなwwwほっぺた真っ赤じゃんwwww」
女教授「リンゴ病の正式な名称は『伝染性紅斑』といって、ほっぺたがリンゴのように丸く真っ赤に染まっちゃう病気なんですよ~」
女教授「少しの熱が出ることもありますが、この時期の子供はみんな平熱が高めなのであんまり問題にならないこともありますっ」
女教授「次は【RNAウイルス】について説明しましょう。このウイルスは遺伝的がRNAでできていますっ!」
女教授「ほとんどが【1本鎖で、細胞質で合成されるものが多く、潜伏期間は短い】ということが特徴ですかねぇ」
お嬢様「遺伝子がRNA?それって壊れやすいんじゃないの?」
女教授「壊れやすいということは、裏を返せば『突然変異が起こりやすい』と言うことです!インフルエンザなんかもこのRNAウイルスですよっ」
女教授「この1本鎖RNAウイルスは【+鎖型】と【-鎖型】の2種類があります。+鎖とは、そのままタンパク質を翻訳できる鎖のことです」
天然娘「あーるえぬえーういるすさんはどうやってふえちゃうのぉ?」
女教授「私達生物は【RNA依存RNAポリメラーゼ】(RNA鎖からRNA鎖を合成する酵素)を持っていません」
女教授「でもウイルスの遺伝子にこの酵素の作り方が書いてあるので、一度ウイルスがmRNAとして翻訳されてから増えるんですね~」カキカキ
・ウイルスの増殖(+鎖1本鎖RNAウイルスの場合)
ウイルスRNA(+)→RNAポリメラーゼ→ウイルスRNA(-)→ウイルスRNA(+)
お嬢様「ええと、つまり……生物に自分をコピーする機械を作ってもらって、それで2回自分を読み込めば増えるわけね」
女教授「ちなみにカプシドもRNAポリメラーゼを合成するときに一緒に作られるんですよ♪」
女教授「+鎖1本鎖RNAウイルスの代表的なものに、【ピコルナウイルス科】の【ポリオウイルス】があります。【小児麻痺】の原因ウイルスです」
女教授「この子は便口感染によって消化管の上皮細胞に感染したあと、中枢神経系に移行して麻痺を引き起こすのです!」
お嬢様「べべ、便口感染ってその……そういうこと?」
女教授「はい♪衛生環境の優れた日本では滅多にありませんが、発展途上国では飲料水に『混じってしまう』ことが少なくありません」
チャラ男「マジかよwwwwばっちいなwwww」
女教授「かつて小児麻痺のワクチンとして、このポリオウイルスを弱らせた『生ワクチン』の【セービンワクチン】が使われていました」
女教授「でもごく稀に毒性が復活してしまうことがあったので、ワクチンがウイルスをばら蒔くという本末転倒な事態が起こったのです!」
お嬢様「ええっ!?それ逆効果じゃない!」
女教授「今では生ワクチンではなく、ウイルスをバラバラにした『不活化ワクチン』の【ソークワクチン】が使われているので大丈夫です♪」
真面目「なんだ、良かった……」ホッ
女教授「ところがこのワクチン、注射型で凄くコストがかかっちゃうので現在でも経口型のセービンを使っている地域は少なくありません」
お嬢様「ええー……世知辛いわねぇ……」
女教授「他には【カリシウイルス科】の【ノロウイルス】も+鎖1本鎖RNAウイルスの仲間なんですよっ」
チャラ男「知ってるぜーwwww生のカキであたったらゲロ吐きまくるヤツだぜwwww」
女教授「一説によると、実際に発生するウイルス性食中毒の実に99%がこのノロウイルスによるものとされていますっ」
女教授「食中毒全体で比べても、細菌性の食中毒を抑えてダントツでノロウイルスの食中毒が1位なんですよ~」
真面目「す、すごく強力なウイルスなんですね……」
女教授「このウイルスは貝全般の内臓に好んで生息していて、十分な加熱を加えないと不活化しないんですよ~」
女教授「皆さんもカキを食べるときは、内臓を取り除いてたっぷり火を通してから食べてくださいね♪」
天然娘「そんなのカキじゃないよぉ……」ションボリ
チャラ男「カキは食いたし命は惜しし」キリッ
お嬢様「……まあ、その辺は自己責任よね」ゴクリ
女教授「ノロウイルスは非常に感染力が強く、吐瀉物の粒子(エアロゾル)を吸い込むことによっても感染することがあります」
女教授「残念ながらこのノロウイルスにはエンベロープがないので、次亜塩素酸ナトリウムなどでゆっくり静かに処理しましょう♪」
真面目(そんなの一般家庭にあるのかな……?)
女教授「あと、【トガウイルス科】の【風疹ウイルス】なんかは皆さんも定期ワクチンを打ってらっしゃる方もいるのではないでしょうか?」
天然娘「小さいときにうったことあるよぉ」
真面目「僕は先週、もう一度ワクチンを打ちました」
女教授「この風疹ウイルスはエンベロープを持つ+鎖1本鎖RNAウイルスで、【三日はしか】の原因ウイルスです」
女教授「また、お母さんの胎盤を通して赤ちゃんに感染し【先天性風疹症候群】を引き起こすこともあるのでワクチンを2度接種するのですよ~」
お嬢様「なるほど、ワクチンは打った本人だけじゃなくて赤ちゃんも守ってくれてるのね」
女教授「最後に【フラビウイルス科】のウイルスです。この子達はエンベロープを持っていて、主に脳に好んで感染するんです」
チャラ男「怖ぇwwwぜってーヤバそうなヤツばっかじゃんwww」
女教授「あの野口英世が研究した【黄熱病】や、最近では代々木公園で騒がれている【デング熱】」
女教授「少し前に日本で流行した【日本脳炎】アフリカで発見された【ウエストナイル熱】などがこの科のウイルスによって引き起こされます!」
お嬢様「殺意に溢れてるわね……」
女教授「次は【-鎖1本鎖RNAウイルス】についてお勉強しましょう。このウイルスはこのままでは翻訳されないのが特徴です」
真面目「?このウイルスはどうやって増えるんですか……?」
女教授「このウイルスはビリオンの中にRNA依存RNAポリメラーゼを持っているのですよ!なので一度+鎖に変換されてから増殖します」カキカキ
・ウイルスの増殖(-鎖1本鎖RNAウイルスの場合)
ウイルスRNA(-)→ウイルスRNA(+)→ウイルスRNA(-)
お嬢様「やってることは変わんないのね」
女教授「-鎖1本鎖RNAウイルスは【螺旋対称カプシドが多く、エンベロープを持ち、ほとんど細胞質で増殖する】のが特徴です♪」
女教授「またRNAが【分節】しているものと【非分節】なものに大きく分類されますよ~」
女教授「まずは【-鎖1本鎖RNA非分節ウイルス】ですね。有名なものに【パラミクソウイルス科】があります」
女教授「この子はスパイクに『膜融合タンパク質』が生えていて、エンベロープと細胞膜が融合することで浸入するのです!」
お嬢様「さ、細胞膜とエンベロープか融合?セキュリティがガバガバじゃない!」
天然娘「どんなびょーきになっちゃうのぉ?」
女教授「このウイルス科には【麻疹ウイルス】や【ムンプスウイルス】なとが属しています」
女教授「それぞれ【はしか】や【おたふくかぜ】など良く知られた病気を引き起こすんですよ~」
真面目「はしかと三日はしかって、ウイルスが違う病気なんですね」
女教授「はしかは空気感染で移り、口の中にブツブツ(コプリック斑)ができるのが特徴ですよっ」
女教授「おたふくかぜは顔がパンパンに腫れて、熱が出ることが特徴なんですね~」
チャラ男「命に関わるほどヤベーわけじゃねーんだなwww」
女教授「あっ、男性の場合は20%の確率で不妊症になります」
チャラ男「とんでもねーウイルスだぜ!」
お嬢様「手のひらを返す残像すら見えた気がしたわ」
女教授「次に【ラブドウイルス科】について説明しましょう。-鎖1本鎖RNA非分節ウイルスで、砲弾状のビリオンが特徴ですっ!」
女教授「例えば【狂犬病ウイルス】ウイルスですね。経皮感染でかかり、発症すればなんと【致死率ほぼ100%】の最強のウイルスですよっ」
お嬢様「ち、致死率100%!?」
女教授「わんちゃんに噛まれたあとすぐにワクチンを打てば大丈夫ですが、海外旅行に行く際に最も気を付けなければならない病気です!」
女教授「また非常に稀ですが、わんちゃん以外にもコウモリから直接感染するケースも報告されています。野性動物には注意ですよ~」
チャラ男「吸血鬼のモデルにもなってるんだぜwww」WRYYY!
真面目「それどういうこと?」
女教授「本当かどうかはやぶさかではありませんが……噛み傷から感染する、水が怖いなどの特徴は一致しますねぇ」
女教授「-鎖1本鎖RNA非分節ウイルスで今話題のウイルスは【フィロウイルス科】です。フィラメント状のビリオンなのが特徴ですよ~」
真面目「フィラメント状……?もしかして【エボラウイルス】もこのウイルスの仲間ですか?」
女教授「はい♪他にもマールブルグウイルスなども該当し、出血熱などの症状があらわれます。主に体液などの接触感染で移るんです」
お嬢様「ニュースでやってたわ。なんか感染したら体がドロドロに溶けちゃうんだって……」ゾクッ
女教授「エボラウイルスはコラーゲンが大好物なので、体を繋ぎ止めているコラーゲンが分解されると壊血症のような症状が現れるのです」
チャラ男「サプリ厨かよwww牛スジでも食ってろって感じだぜwww」
お嬢様「額からブーメラン突き出てるわよ……」
女教授「エンベロープを持つのでアルコールで殺菌できますが、たった数個で感染するほど強力なので近付かないことが一番です!」
女教授「続いて【-鎖1本鎖分節ウイルス】についてお勉強しましょう。代表的なのは【オルソミクソウイルス科】のウイルスです」
女教授「このウイルスのゲノムは6~8個にゲノムが分節していて、ビリオンは不定形です。【インフルエンザウイルス】が有名ですね♪」
お嬢様「去年お世話になったわ……ほんっとムカつく!誰よ学校にインフルエンザ持ってきたヤツ!」
真面目「学級閉鎖になって修学旅行が延期になっちゃったんだよね……」
天然娘「春休みがみじかくなっちゃったの……」
チャラ男「………」ダラダラ
女教授「このインフルエンザはA型とB型があって、スパイクの種類に違いがあります」
女教授「この子には【HA(ヘマグルチニン)】と【NA(ノイラミニターゼ)】というタンパク質を持っていて、この組合せで亜型が発生します」
真面目「亜型?」
女教授「A型のインフルエンザは16種類のHAと9種類のNAがあり、理論上16×9=144種類の亜型ウイルスが発生するのです!」
女教授「これに対し、B型のインフルエンザはHAもNAも1種類しかないので亜型は発生しません」
お嬢様「……ああ!亜型って新型インフルエンザのことね!」
女教授「あんまり『新型』という表現はよろしくないので……分かりづらくてすみません」アセッ
女教授「感染のメカニズムとしては、HAが人の細胞膜の【シアル酸】に結合して、細胞から出芽するときにNAがこれを切り離すんです」
女教授「元々は鳥さんの病気だったんですけど、鳥型レセプターに結合するものが人型レセプターに結合するように変異したんですよっ」カキカキ
・HA→シアル酸に結合
ヒト型レセプター→シアル酸―ガラクトース(α2-6結合)
トリ型レセプター→シアル酸―ガラクトース(α2-3結合)
真面目「インフルエンザにはたくさん種類があって、その中でも人のシアル酸に結合できるものが新型インフルエンザとして流行するんですね」
女教授「インフルエンザの抗体ができても亜型インフルエンザに対して無力なのは、手を変え品を変えHAとNAを取り替えているからです!」
女教授「ちなみにこのNAの作用を邪魔するのが【タミフル】というお薬なんですよ~♪」
チャラ男「タミフルwwwwそんなもん使いたくねーwww」
お嬢様「使うと頭がおかしくなっちゃうんでしょ?絶対イヤよ!」
女教授「むっ!それは悪質なガセです!タミフルは【BBB(血液―脳関門)】を通過できませんし、異常行動はインフルエンザの症状です!」
真面目「でも新聞やテレビ番組でも良くやってましたよ?タミフルは危険だって……」
女教授「いいですか?その事実を差し置いても、タミフルを使わなかったせいでインフルエンザで死んでしまったら元も子もないです!」
女教授「タミフルは今までに多くの人を救ってきた実績がありますし、研究データも極めて信用できるものですよっ!」プンスカ
女教授「そもそも統計学的にも発症率に差がありませんし、In vitroレベルの試験でも因果関係が全くないことは明確!」
女教授「何か言いたいことがあるなら論文を持ってきやがれですーーーッ!!」ムキーッ!
真面目(せ、先生が珍しく怒ってる!)
天然娘「せんせぇおちついてぇ」ワタワタ
女教授「お、おほん……とにかく!インフルエンザはHAが人のシアル酸にくっついて感染します」
女教授「しかし、豚さんはなんとヒト型レセプターとトリ型レセプターの両方を持っているのですよっ!」
真面目「つまり……豚は人と鳥の両方のインフルエンザに感染するということですか?」
天然娘「ぶたさんかわいそう……」
女教授「そうです。そしてこのために、人と鳥のインフルエンザのRNA分節が豚の細胞の中でミックスしてしまうのです!」
お嬢様「え、じゃあ……もしかして新型インフルエンザってコイツが元凶なの?」
女教授「そう、インフルエンザが次々と変異を起こすのはこの豚の中で【遺伝子再集合】が起こってしまうからなんですね~」
チャラ男「マジかよwww思わぬ真犯人だなwwww」
女教授「ちなみに今まで流行したインフルエンザは亜型であることが多く、豚の出荷時期に一致するとされていますっ」カキカキ
・A型インフルエンザの流行
1918年…スペインかぜ(HA1/NA1)
1957年…アジアかぜ(HA2/NA2)
1968年…香港かぜ(HA3/NA2)
1977年…ソ連かぜ(HA1/NA1)
女教授「最後のウイルスは【レトロウイルス科】です。エンベロープを持つ+鎖1本鎖RNAウイルスで、【逆転写酵素】を持つのが最大の特徴です」
真面目「逆転写酵素……エイズウイルスとかですか?」
女教授「あ、よく混同されてる方が多いですが【エイズ】は病気の名前、ウイルスの方は【HIV】という名前ですよっ」
女教授「この子は主にヘルパーT細胞のCD4分子に結合して感染します。セッ……性行為や血液汚染、母子感染などにより感染します」
真面目「保健の授業で習いました。スキンシップでは感染しなくて、唾液だとバケツ一杯ぐらい飲まないと感染しないって……」
チャラ男「バケツ一杯分の唾液とかwwwご褒美かよwwww」
お嬢様「あのねぇ……でもそう言えばCD4ってこの前の授業でやったわね」
女教授「HIVが細胞に侵入すると逆転写酵素によって-鎖DNAが作られ、その後【インテグラーゼ】により宿主のDNAに組み込んでしまうのです!」
天然娘「げのむの中にかくれたらあんしん、あんぜんだねぇ」
お嬢様「悔しいけど、ズル賢いわねコイツ……」
女教授「それから10年以上かけてゆっくりとプロウイルスが翻訳され、免疫系を少しずつ破壊していくのです」カキカキ
・ウイルスの増殖(+鎖1本鎖RNAレトロウイルスの場合)
ウイルスRNA(+)→ウイルスcDNA(-)→ゲノム組み込み→ウイルスRNA(+)
女教授「一度エイズを発症すると、免疫系が働かずに多数の日和見症候群にかかり死に至ってしまうのですよ~……」
真面目「エイズは直接の死因ではないんですね」
女教授「レトロウイルス科にはもうひとつ、【HTLVウイルス】というものがあります。【成人T細胞白血病】の原因ウイルスです」
お嬢様「成人限定?潜伏期間が長いのかしら?」
女教授「鋭いですね!このウイルスの潜伏期間はなんと50年です!」
チャラ男「50年って長すぎだろwww成人どころか中年のオッサンじゃねーかwww」
女教授「主に母乳感染で移りますが、性感染だと発症しないまま長寿をまっとうされる方も少なくありませんよ~」
女教授「このような性質をもつため、日本では実に100万から200万人のウイルス保持者が九州地方を中心に存在すると考えられていますっ」
お嬢様「ウイルス的にはそれでいいのかしら……」
女教授「このHTLVウイルスには【Ⅰ型】と【Ⅱ型】があり、Ⅰ型はCD4分子に、Ⅱ型はCD8分子に結合することができるのです!」
天然娘「てぃーさいぼーが大好きなんだねぇ」
女教授「レトロウイルスではありませんが、【B型肝炎ウイルス】も逆転写酵素を有するウイルスの1つです」
お嬢様「TVでやってたわ!確か赤ちゃんのときにワクチンを打つ病気よね」
女教授「このウイルスは2本鎖環状の不完全DNAを持っていて、まず宿主のDNA依存RNAポリメラーゼによって+鎖RNAが合成されます」
女教授「そして翻訳により逆転写酵素が作られると、これにより-鎖DNAが作られDNA依存DNAポリメラーゼで2本鎖鎖DNAが増えるのです!」カキカキ
・B型肝炎ウイルスの増殖
不完全2本鎖DNA→完全2本鎖DNA→+鎖RNA→-鎖cDNA→不完全2本鎖DNA
真面目「一度RNAに変換されてから、改めて逆転写酵素によってDNAに戻るんですね」
女教授「この子も母子感染して【肝炎や肝臓癌】の原因になるので、赤ちゃんを守るために妊婦さんは積極的にワクチンを接触してもらいます」
チャラ男「B型ってことはA型とかC型とかもあんの?wwww」
女教授「はい♪A型とE型の肝炎ウイルスは経口感染するエンベロープのない+鎖RNAウイルスですよ~。発展途上国への旅行で注意です!」
女教授「C型肝炎ウイルスの感染ルートはいまだに良く分かってませんが、どうやらお薬に紛れ込んでいるらしく薬害肝炎とも言われています……」
天然娘「でぃーがたはなぁに?」
女教授「D型肝炎ウイルスは変わったウイルスで、エンベロープを持つ-鎖1本鎖環状RNAのデルタウイルス属ウイルスです」
女教授「実はこの肝炎ウイルスは肝炎を起こしません!ですが、B型肝炎ウイルスを助けるヘルパーウイルスとして作用するのですよっ」
お嬢様「他のウイルスを助けるなんて、他力本願なウイルスもいたものね」
女教授「それでは最後に、私達のゲノムの中に生きるウイルスのお話をしましょう♪」
真面目「ゲ……ゲノムの中にウイルスがいるんですか!?」
お嬢様「ひぃっ……わ、私のゲノムにはそんな気持ち悪いのはいないわよ
!」ギュッ
女教授「正確にはウイルスではありませんが……私達のゲノムのほとんどはジャンク遺伝子というのは最初の授業で教えましたよね?」
チャラ男「ゲノムのほとんどはゴミなんだよなwwww」
女教授「その中でも、私達のゲノムの約46%は【トランスポゾン】というウイルスに良く似た性質の遺伝子で埋め尽くされています!」
真面目「人のゲノムの46%が、ウイルスでできてる……?」
お嬢様「そ、そんな………」カタカタ
女教授「トランスポゾンには、【トランスポザーゼ】によって自身が切り離されたり挿入されることで動き回る狭義のトランスポゾンと、」
女教授「逆転写酵素と【インテグラーゼ】などによって自身のコピーを無秩序に挿入して数が増え続ける【レトロポゾン】の2種類があります」
天然娘「れとろういるすさんのしんせきなのぉ?」
女教授「レトロウイルスの遺伝子に酷似しているので、もしかするとDNAに組み込まれたレトロウイルスが壊れた後なのかもしれませんね」
女教授「この動き回る遺伝子は、酵素をコードして自律的に移動するものと、酵素は持ちませんが便乗して移動する非自律的なものがあります」
女教授「トランスポゾンの非自律的なものを【MITE】レトロポゾンの自律的なものは【LINE】そうでないものを【SINE】というのですよ♪」
真面目「どうしてこんなものがあるんですか?」
女教授「例えばトランスポゾンが遺伝子のイントロンとして挿入されると、選択的スプライシングで作られるタンパク質の数が増えますよね?」
女教授「それに進化とは新たな遺伝子を獲得するだけではなく、古い遺伝子を壊すことによっても起こり得るんですよ~っ」
チャラ男「えwww壊れて進化って矛盾してるじゃんwwww」
女教授「そうですねえ……例えば私達人類はお猿さんと違って、ビタミンCを体内で合成できません」
女教授「これは本来私達のゲノムにあるビタミンCを作る遺伝子が、レトロポゾンのSINEである【Alu】によって壊されてしまったからなんです!」
天然娘「でもぉ、びたみんしーを作れるほうがらくちんだよぉ?」
女教授「想像ですが……きっとビタミンCを体内で作れなくなった私達のご先祖様は、他の仲間よりもアクティブにならざるを得なかったでしょう」
女教授「単純に、ビタミンCが作れなくてもそれほど困らなかっただけかもしれません」
真面目「ウイルスは進化の過程に一役買っているんですね……」
女教授「でもね、トランスポゾンが不必要に動き回って他の遺伝子を壊し始めると癌の原因になってしまうかもしれません」
女教授「だから一部の細胞を除き、普段はトランスポゾンが動かないようにメチル化などで抑制されてるんですよ~」
お嬢様「よ……良かったぁ……」ハァー
チャラ男「"一部の細胞"ってなんだよ?wwww」
女教授「生殖細胞、そして脳の神経細胞です!」
真面目「ええっ!?」
お嬢様「そ、そんな……――――んぐぅっ!?」パシッ
天然娘「だ、大丈夫?」タタッ
お嬢様「ひ…………ぅ………」プルプル
女教授「あら……お嬢様さん、どうしました?」
お嬢様「……ごめんなさい、ちょっと……気分が悪く、なっただけ……」
チャラ男「ま、マジで大丈夫か?www保健室行くか?www」
お嬢様「………なんで、あんた達は大丈夫なの?自分の体とか、頭の中がウイルスでできてるかもしれないのよ?」フルフル
真面目「お嬢様さん………」ギュッ
お嬢様「ぁ………」
真面目「もしもウイルスがいなかったら今の脳もなくて、このぬくもりも感じなかったかもしれない」
真面目「だから、『ウイルスのせい』じゃなくて『ウイルスのおかげ』って考えられないかな?」ニコ
お嬢様「そう、かな……ありがとう」ギュッ
天然娘「…………」ムスッ
お嬢様「うふふっ、真面目……あんた男のくせに体柔らかいのね♪」ギュー
真面目「………え」
お嬢様「何でもないっ!もう大丈夫よ!」ニパッ
女教授(…………ふへ、良い眺めです」ボタボタ
チャラ男「ティッシュまだあるぜ先生」スッ
女教授「脳でトランスポゾンが動き回るのは、神経細胞の遺伝子の【エンハンサー】となってタンパク質の量を増やすためと思われます」
女教授「生殖細胞のトランスポゾンも遺伝子の多様性を増やすため……トランスポゾンはまさに『進化の遺伝子』と言えるでしょう」
女教授「ウイルスは生物ではありませんが、生き残る技術については私達よりもプロフェッショナルなのです!」
キーンコーンカーンコーン
女教授「さて、生物学第7回目の授業はこれで終わりです。きりーつ、れいっ」
生徒達「ありがとうございました!」
―――――――――――――――…
ここまで
補足1:ウイルスベクター
女教授「ウイルスは病気の原因体ですが、よからぬことばかりではないのですよっ」
女教授「例えば細菌のゲノムに何か遺伝子を組み込みたい場合、ウイルスの中に目的のDNAを入れれば【ベクター(運び屋)】になります!」
女教授「他の方法だと専用の細菌(コンピテント細胞)を使わないと行けないので、時間と手間もかからずとっても便利な仕事仲間です♪」
女教授「お値段たったの100万円!」
補足2:かぜ薬
女教授「病気のかぜというのは、ライノウイルスを始めとする様々なウイルスが組み合わさって発症します」
女教授「タミフルのように特異的な抗ウイルス薬があるわけでもなく、市販のかぜ薬は解熱剤や咳止めなどの『気休め』でしかありません!」
女教授「また体温をむやみに下げてしまうとウイルスが失活しにくく、免疫系もうまく働きません。38度程度ならガマンした方が治りやすいです」
女教授「あと抗生物質!これは細菌に効く薬なので飲んでも意味ありませんよ!腸内環境を荒らして体調を悪化させるリスクもありますっ」
女教授「『何かあったら抗生物質』という日本のお医者様には困ったものです。耐性菌が出現したらどう責任を取るつもりなんでしょう?」プンスカ
…―――――――――――――――
女教授「おはようございます、皆さんと挨拶するのもこれで最後ですね~」
お嬢様「そうね……でも色んなことが学べて良かったわ!」
チャラ男「先生には色々と世話になったぜwwww」
天然娘「おもしろかったよぉ」
女教授「あ、あの……私は今日の授業も最後までガッツリ説明するつもりなんですけど……」アセッ
真面目「す、すみません……てっきりもう勉強することなんてやり尽くしたんじゃないかって思ってました」
女教授「とんでもない!私が今まで教えてきた事なんてまだまだ序の口ですよっ!本当はこの10倍でも20倍でも教えたいことがあるのですが……」
女教授「今日は私が教えてきた生物学でどんなことができるか、その叡知の結晶をお見せします!」
天然娘「えーちのけっしょー?」
女教授「最後の授業はズバリ!【薬】の科学です♪」
お嬢様「お薬の科学?」
チャラ男「血管から食べることでムキムキになるんだぜwwww」
天然娘「とーめーにんげんになれるのぉ」
真面目「人魚の爪から惚れ薬を……」
女教授「そっ、そこまで万能じゃないのですよっ!?」アタフタ
お嬢様「ええー……夢がないわねぇ」ガッカリ
女教授「良くも悪くも、お薬は私達の体の機能を強くするか弱くするかのどちらかだけなんですよ~……」アセッ
女教授「お薬のターゲットは大きく分けて4種類に大別されます。すなわち【酵素】【受容体】【DNA】【抗原】の4つですよ~♪」
天然娘「みんな今までべんきょーしたねぇ」
お嬢様「お薬って元気になる元が入ってるだけだと思ってたわ……」
女教授「お薬と一口にいっても何千種類もの物質があるので、今日は皆さんに身近なものを紹介しましょう!」
女教授「まずは【酵素】に効くお薬ですね~。まずはお薬の王様【アスピリン】について勉強しましょう!」
真面目「アスピリン?」
女教授「物質名は『アセチルサリチル酸』といって、バファリンの主成分なんですよ~♪」
チャラ男「えっwwwバファリンの半分はやさしさでできてるんじゃなかったのかよwww」
女教授「アスピリンは副作用で胃を荒らしてしまうので、あれは実は『半分は(胃に対して)やさしさでできている』ということなんです」
お嬢様「マッチポンプじゃない!」
真面目「ものは言いようですね……」
女教授「私達の体は炎症を起こす時に【COX(シクロオキシゲナーゼ)】が『プロスタグランジン』という物質をアラキドン酸から作ります」
女教授「アスピリンはこのCOXを邪魔してしまうので、もう炎症物質のプロスタグランジンが作られなくなってしまうのですよ~っ」カキカキ
・炎症のメカニズム
アラキドン酸→(COX)→プロスタグランジン・トロンボキサン
↑×アスピリン
チャラ男「なんでプロスタナントカってもん作ってんだ?www最初っから作んなきゃいーじゃんwww」
女教授「うーん……厳しい弱肉強食の世界で生き残るには、痛みや病気に敏感な方が生き残りやすかったんだと思いますよ?」
天然娘「とろんぼきさんってなぁに?」
女教授「トロンボキサンとは血小板を固まらせてカサブタを作る物質ですね。アスピリンを飲むと血がサラサラになります!」
女教授「だから手術の前はアスピリンを飲んではダメなんですよっ」
お嬢様「へぇ……血がサラサラになるってよく怪しい番組で紹介してるけど、アスピリンはちゃんと科学的な根拠があるのね」
女教授「アスピリンが薬の王様というのは、いまでもアメリカではものすごーく売れているお薬だからなんですよ~♪」
女教授「熱が出ればアスピリン、調子が悪ければアスピリン!……売れすぎて胃潰瘍で入院される人も桁違いですが」
真面目「本末転倒ですね……」
女教授「アスピリンは古代ローマから効能が知られていて、爪楊枝がヤナギから作られるのもアスピリンに似た成文を含んでいるからなんです」
お嬢様「爪楊枝ってヤナギの木から作られてたのね」
女教授「今では高校の実験室でも頑張れば合成することができるんですよっ。フェノール、二酸化炭素、無水酢酸……ありふれた材料です♪」
女教授「アスピリンは世界で最も売れている鎮痛薬で、ギネスにも乗ったお薬です。飲み過ぎなければきっといい相棒になるでしょう♪」
女教授「さて、次は【メバロチン】についてお勉強しましょうね~」
天然娘「めろん?」
お嬢様「いきなりすごい略し方したわね……」
真面目「このお薬はどんな薬効があるんです?」
女教授「メバロチンは物質名を『プラバスタチンナトリウム』といって、体の中でコレステロールが作られるのを邪魔するお薬なんです♪」
チャラ男「えっwwwwコレステロールってメシから取らなくても勝手に体の中で作られんのかよwwww」
女教授「私達か持つコレステロールの50%以上は体の中で合成されるんですよ?」
お嬢様「ええー……なんか必死にコレステロールを取らないようにしてきたのが馬鹿みたいじゃない……」
女教授「摂りすぎはもちろん駄目ですが、女性ホルモンの材料なので摂らなすぎも考えものですねぇ」タユン
お嬢様「!?」ガーン
女教授「コレステロールを作る工程で、HMG-CoAから『メバロン酸』を作る【HMG-CoA還元酵素】というものがあります」
女教授「メバロチンはこの酵素にストップをかけてしまうので、最終的にコレステロールが作られなくなっちゃうんですね~」カキカキ
・コレステロールの合成(途中)
…→HMG-CoA→(HMG-CoA還元酵素)→メバロン酸→…→コレステロール
↑×メバロチン
真面目「じゃあ、このメバロチンを飲めばコレステロール値が下がるんですね?」
女教授「……このお薬はとっても優秀ですけど、副作用がない訳でもありません。低頻度ですが【横紋筋融解症】を起こす可能性があります」
チャラ男「なにそれ怖い」
お嬢様「字面からしてヤバそうね……」ゴクリ
女教授「骨格筋が溶けて腎臓が詰まっちゃうのですよ。最悪、腎不全もあり得ます……軽い気持ちで手を出すことはないようにしてください」
天然娘「は、はぁい……」
お嬢様「むむむ……じゃあなんとかしてHMG-CoAってのを作らなくすればいいんじゃない?」
女教授「HMG-CoAは大元を辿ればアセチルCoAです。糖質も脂肪もアミノ酸も、全て一切摂らないと言うのは絶対に不可能ですよ?」
女教授「薬ではありませんが、【サリン】という物質は聞いたことがありませんか?」
真面目「サリン……オウム真理教が起こした『地下鉄サリン事件』の毒ガスですね」
お嬢様「本当に怖い事件だったわ……無関係の人をあんなに苦しませるなんて、頭がどうかしてるのかしら!」
女教授「そう、サリンは非常に危険な毒物です。このサリンがどのようにして神経系に作用するのかを勉強しましょう」
女教授「私達の自律神経は、活動的にさせる【交感神経】そしてリラックスな状態にさせる【副交感神経】の2種類があります」
天然娘「ねてるときはふくこーかんしんけーが頑張ってるのぉ」
チャラ男「運動してるときは交感神経が働いてそーだなwww」
女教授「交感神経は【アドレナリンやノルアドレナリン】で動き、副交感神経は【アセチルコリン】という物質で動いているのですよっ」
女教授「アセチルコリンは他にも運動神経でも分泌されていて、増えすぎないよう【アセチルコリンエステラーゼ】がすぐ分解してしまうのです」
真面目「この前に勉強した、脳の神経細胞でのグルタミン酸やGABAのような役割なんですね」
女教授「しかしサリンは、このアセチルコリンエステラーゼに強固にくっついて壊しちゃうのです!」
お嬢様「ええっ!?じゃあ神経がアセチルコリンで溢れちゃうじゃない!」
真面目「つまり……副交感神経や運動神経が暴走してしまう?」
女教授「そうです。実際にサリンに暴露された方は、全身の痙攣と意識障害に陥り、酷く苦しまれたと報告されています……」
女教授「特にアセチルコリンは脳でも一部の神経で使われていて、多くの方が『走馬灯』に似た幻覚を見続けた、とも記録されてるんです」ブルッ
天然娘「こわいねぇ……」
女教授「ですが作用が分かっていたので、迅速に対処することもできました。次は【受容体】に効くお薬を紹介しましょう!」
女教授「ところで今日はこんなお花を持ってきちゃいました♪」バサッ
お嬢様「わあぁ、おっきくて可愛いわねぇ……トランペットみたい」ウットリ
真面目「ピンクと黄色のグラデーションが鮮やかで綺麗ですね」ニコ
天然娘「おくすり?みたいな甘いにおいがするのー……」クンクン
チャラ男「なんかわかんねーけど……なんか不気味じゃね?www」
女教授「このお花は『エンゼルトランペット』といって、アルカロイドの『ヒヨスチアミン』を含んでいます」
女教授「ヒヨスチアミンには"左利き"(L体)と"右利き"(D体)の2種類があって、それぞれ鏡のような関係なんですよっ」
女教授「ヒヨスチアミンの左利きのことを【アトロピン】といいまして、副交感神経の【アセチルコリン受容体】に作用するのですよ~」
真面目「あの……受容体ってなんですか?」
女教授「受容体とは、細胞膜の表面にあるタンパク質のことで外からの情報を中に伝える機能を持っていますっ」
女教授「アトロピンはアセチルコリン受容体にくっつくと、本来アセチルコリンがくっつくのを邪魔してしまうんです♪」
お嬢様「つまり……えーっと、アトロピンはアセチルコリンを無駄にしちゃうから……副交感神経が動かなくなっちゃうの?」
女教授「そうです!サリンとは逆の作用を示すので、真っ先にこのアトロピンが投与されて解毒に使われたそうですよ~」
女教授「このヒヨスチアミンは『ベラドンナアルカロイド』という物質のグループに属していて、古くから目薬として使われてきました」
女教授「ベラドンナはイタリア語で『美しい婦人』。この草の汁を目に点すと副交感神経が抑制されて瞳孔が大きくなり、可愛く見えるのです♪」
お嬢様「今でもカラコンとかプリクラで黒目を大きく見せるのが流行ってるし、気持ちは分からなくもないわね」
女教授「しかしベラドンナは分量を誤ると猛毒で、摂取するとそれはもう大変なことになりますよっ!」
チャラ男「大変なことってwww逆に聞きたくなるんだけどwww」
女教授「リラックスさせる副交感神経が働かなくなるので……つまり衝動のリミッターが外れて、とてもハイってやつになります!」┣¨┣¨┣¨
お嬢様「そ、それってもう麻薬じゃない!」
真面目「そんな恐ろしい物質がこの花に……」ゾゾッ
天然娘「じゃぁー、こーかんしんけーにくっつくおくすりはなぁに?」
女教授「そうですねえ、例えば『マオウ』という植物から取れる【エフェドリン】という物質がアドレナリンに代わって交感神経を促進しますっ」
チャラ男「魔王?www」
女教授「か、漢字では『麻黄』ですよ~っ!気管支喘息や鼻炎のお薬などに入ってます。日本や中国では馴染み深い物質ですね♪」
女教授「……ちなみに!医薬品からメタノールなどを使って純度10%以上のエフェドリン類を精製すると【覚醒剤取締法違反で捕まります】!」
真面目「か、覚醒剤取締法!?なんでですか?」ビクッ
女教授「エフェドリンは覚醒剤【メタンフェタミン】の構造と酷似していて、エフェドリンからメタンフェタミンが作れてしまうのですよ!」
女教授「ネットに作り方が書いてあるからといって、絶対に作っては駄目なのですよーっ!」
お嬢様「そ……そもそも麻薬みたいな物質が薬に使われてるなんて信じらんないわ!」
女教授「結構あるのですよ?例えば咳止めの【リン酸コデイン】は、直接【モルヒネ】から合成されてます」
チャラ男「えっwww………え?マジで?朝飲んできたんだけど……」タラ
お嬢様「嘘……CMでもやってるのに……?」フルフル
女教授「と言っても、常識的な量では滅多に依存症なんかなりません!……たまにブロン(ジヒドロコデイン)を悪用する方も見かけますが」
お嬢様「モルヒネもどきが入ってたなんて……もう咳止め飲めない……」グスッ
女教授「で、でもモルヒネも立派な医薬品なんですよー?癌患者の激痛を抑えるのにとても有効な鎮痛薬として今でも使われていますっ!」アセッ
女教授「モルヒネは、人の神経細胞にある【オピオイド受容体】というものに結合することで鎮痛作用を示すのです」
女教授「オピオイドとは『モルヒネ様物質』という意味で、脳内麻薬とも言われる『βエンドルフィン』などもこのオピオイドですよっ!」
真面目「……もしかして、風邪薬って……」
お嬢様「覚醒剤とかモルヒネみたいなのが入ってるってこと……?」ブルッ
チャラ男「知りたくなかったぜ……www」
天然娘「なのぉー……」
女教授「み、皆さーん?用法と用量を守ればそんなに危険じゃないんですよーっ?」アワワワ
天然娘「じゃあー、せんせぇはかぜ引いちゃったときは飲んでるのぉ?」
女教授「………」
女教授「……………………」
女教授「飲んでます」
お嬢様(飲んでないわねコイツ……)
女教授「……お、おほんっ!では話を変えましょう。次は【DNA】に作用するお薬です♪」
真面目「DNA……?さっきの後だと何だか怖いです……」
女教授「そ、そんなことはないのですよっ!?DNAに作用するお薬は、主に【抗がん剤】などが多いんですよ~」
女教授「まずは【シスプラチン】について説明しますね。このお薬は白金を含む珍しいお薬なんです!」
チャラ男「プラチナの薬とかwwwセレブ感半端ねーなwww」
女教授「このお薬はDNAのプリン塩基、つまりAとGにくっついて細胞の分裂を邪魔して癌細胞が増えるのを抑えるんですよ♪」
真面目「それって、正常な細胞も分裂できなくなるんじゃあ……」
女教授「大人になってから分裂する細胞なんてたかが知れてますし、癌を抑えるなら小さいリスクです」
女教授「次に紹介するのは【フルオロウラシル】です。このお薬は2種類の作用でDNAの合成を抑えるのですよっ」
女教授「ひとつ目は、DNAのTの元を作る【チミジル酸シンターゼ】にくっついて邪魔をし、DNAの材料を減らす作戦です♪」
チャラ男「パーツが少ねーから完成しなくなるのかwwww」
女教授「そしてもうひとつは、ウラシルの代わりに間違って取り込まれることで癌の分裂を防いでいるのです!」
真面目「随分いい加減なんですね……」
天然娘「うっかりさんなのぉ」
女教授「このお薬は長らく人工合成されてきましたが、どうやら海綿という動物からも取れることが分かりものすごくビックリです」
女教授「では最後に【抗原】に効く……というより、人工的に合成された抗体【モノクローナル抗体】についてお話ししましょう!」
真面目「人工的に合成された抗体?抗体って、遺伝子が変化することで作られるから人工合成はできないのでは?」
女教授「確かに抗体はたくさんの種類があるタンパク質ですから、これを選りすぐって合成するのはとっても困難です」
女教授「ですが人類は諦めませんでした!なんと【ミエローマ】という癌細胞を使うことで、的確な抗体を精製することに成功したのですよっ!」
天然娘「みえろーま?」
女教授「血液の中には途方もない種類の抗体が流れています。ですが、元を辿ればメモリー細胞はたった1つの抗体しか作りません」
お嬢様「たくさんのメモリー細胞って、1つ1つが別々の抗体を作ってるのよね?」
女教授「ええ♪そこでメモリー細胞を取り出し培養しようとしたのですが、メモリー細胞は増えることができません……」
チャラ男「このままだとちょっとしか抗体とれねーなwwwダメじゃんwww」
女教授「なので、癌細胞のミエローマとこのメモリー細胞を電気ショックを与えて融合した【ハイブリドーマ】を作ることで解決しました!」
真面目「癌細胞とメモリー細胞を融合させるなんて……思いつきもしなかったです」
女教授「このハイブリドーマは不死ですし、抗体を生産しながら増えるのでとっても取り扱いやすいんですよ~♪」
女教授「その後は作成したハイブリドーマから目当ての抗体を生産するものだけを選び、作られた抗体にラベルをつけて完成です♪」
お嬢様「でも副作用とかないの?」
女教授「うーん……元々抗体は私達の体で作られるタンパク質ですし、半減期もとっても長いので特に副作用はありませんねぇ」
天然娘「すごいおくすりだねぇ」
女教授「あ、勿論人間のメモリー細胞を使うわけにはいかないのでネズミさんのものを使います。遺伝子改造でヒトと同じ抗体が作れるのです♪」
女教授「作るのにお金もぜんぜんかかりませんし、材料費も核酸やアミノ酸ぐらいなので非常に優れたお薬なんですよ~」
チャラ男「でも抗体ってタンパク質なんだろ?www食ったら壊れるじゃんwww」
女教授「そうなんです、唯一ネックなのが経口投与ができないので注射するしかないんですよね……」
真面目「う……注射はちょっと……」
女教授「それにハイブリドーマも生き物ですから、維持するのに結局たくさんのお金がかかってしまうのですっ……!」
女教授「しかし、近年ではハイブリドーマを使わない【ファージディスプレイ】という手法も確立されてきたようです」
真面目「ファージ?ってなんですか?」
女教授「そういえば前の授業で説明してませんでしたね……ファージとは細菌(大腸菌)だけに感染するウイルスのことですっ」
お嬢様「へぇー、物好きねぇ。細菌に感染するんだったら良いヤツなのかしら?」
女教授「メモリー細胞を持ってくる所までは同じなんですけど、このメモリー細胞が持つ『抗体を作るDNA配列』をファージの中に入れるんです」
女教授「するとカプシドに抗体がくっついたファージが作られるので、ターゲットの抗原にうまく引っ付くファージだけを選ぶことができます!」
真面目「なるほど……色々な抗体を持ったファージから、うまく抗原にピッタリと結合するファージだけを選びとることができるんですね」
お嬢様「……でも、使うのがハイブリドーマからファージに変わっただけでどう違ってくるの?」
女教授「このファージディスプレイ法では……なんと抗体が『自己進化』するのですよっ!」
チャラ男「ヤベえwww進化とか強そうwwww」
女教授「得られたファージを再び大腸菌に感染させて増やすことで、どんどん抗原により強く結合できるファージを選りすぐれるのです♪」
真面目「メモリー細胞が高頻度変異を起こして、免疫グロブリンを進化させるのと似てますね」
女教授「副作用もほぼなく、費用も少なく済み、より薬効が進化する抗体医薬品……次世代のバイオ製薬を担う最先端テクノロジーです!」
女教授「さて、私から教えられる生物学もここまでのようです。皆さんどうでしたか?」
真面目「自分の体のことや、色々な生物のこと……たくさんのことを学べてよかったと思います」
お嬢様「そうね。カガクってあんまり興味なかったけど、意外と身近な所でいっぱい使われててビックリしたわ!」
チャラ男「俺ほどの知能をもってすれば?この程度のベンキョーなんてたやすいことだけどなwwww」
天然娘「おもしろかったよぉ」
女教授「ふふっ、ありがとうございます♪」
女教授「それでは最後に先生からひとつ、覚えていて欲しいことがありますよ~」
女教授「私達は核酸やアミノ酸などの有機物と、少量の無機物からできています」
女教授「人のゲノムの役割やタンパク質の構造など……そういったものはあと数世紀も経てば完全に理解され尽くされるでしょう」
女教授「でもね……人の構造の中で、絶対に不可侵で理解することができない場所がたったひとつだけあります。それは『脳』です」
女教授「ある人は言いました。『この先人間は、力の大統一理論や超紐理論など究極の謎を解き明かすことができるだろう』」
女教授「『それでも、私が私であるという謎【意識のハード・プロブレム】は永久に解き明かすことはないだろう』」
女教授「私達は化学物質ですが、化学物質は私達ではありません」
女教授「心と科学は未来永劫に交わらない平行線……人間は科学的な存在であると同時に、メタ科学的な存在なのです」
お嬢様「つまり……『科学を理解したからって、人間を理解した気になるな!』ってこと?」
チャラ男「ついさっき似たよーなことを言われた気がするぜwww」
天然娘「わからないからたのしいんだよぉ?心がわかっちゃったら、きっとたのしくないとおもうのぉ」
真面目「でも、今まで勉強してきた科学の知識はきっとどこかで役に立つと思います!」
女教授「……ええ、この授業で皆さんにちょっとでも科学への興味が湧いたら先生冥利に尽きます♪」
キーンコーンカーンコーン
女教授「それでは……これで生物学の授業を終わりますっ!きりーつ、れいっ♪」
生徒達「今までありがとうございました!」
【女教授「心と科学の生物学を始めましょう」終わり】
参考文書
・第十六改正日本薬局方
・各参考書(出版:化学同人)
・Neuron、Nature、CiNii論文ほか
これで終わります
最後まで読んでいただきありがとうございました
HTML依頼だしてきます、それではまたどこかで
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