お嬢様「ヘリが欲しいわね」(32)
執事「ヘリコプターでございますか?」
お嬢様「ええ、通学に使いたいの」
お嬢様「プロペラの大きな音と共に私が登場すれば」
お嬢様「日常を退屈に感じている方々に、ささやかな刺激をプレゼントできるわ」
執事「かしこまりました。 早速チャーターの準備を……」
お嬢様「あのねぇ、私は"欲しい"と言ったのよ」
執事「ヘリコプターの購入でございますか」
お嬢様「建造よ」
執事「オーダーメイドですか」
お嬢様「そうよ。 古い使用人ではないわ」
執事「……」
お嬢様「……」
執事「しかし、一から作らせるとなると費用がかさみますが」
お嬢様「構わないわ。 お金は使うためにあるのよ」
お嬢様「執事、これを」
執事「このラクガキはなんですか?」
お嬢様「私が直々に書いた設計図よ」
執事「機械設計図というのはもっと詳細な……」
お嬢様「なら企画書と言ってもいいわ」
執事「企画書というのは」
お嬢様「ならラクガキでいいわ」
執事「左様でございますか」
お嬢様「このラキガキから実物を作らせなさい」
お嬢様「それと、あなたはヘリの免許をとっておくように」
お嬢様「期限は一週間よ」
執事「かしこまりました」
執事「お嬢様、車の用意が出来ました」
お嬢様「あら、もうそんな時間?」
お嬢様「ヘリさえあればあと5分はゆっくりできるのに……」
執事「お嬢様」
お嬢様「急かさないで頂戴。 すぐに行くわ」
ブロロロロ…
お嬢様「リムジンの醍醐味といえば」
お嬢様「無意味にたくさん積んである酒瓶よね」
ガチャガチャ
お嬢様「あら? 開かないわ」
執事「未成年の飲酒は禁止されています」
お嬢様「では明日からはオレンジジュースを入れておくように」
執事「かしこまりました」
執事「困ったことになりました」
お嬢様「どうしたのかしら」
執事「渋滞です」
お嬢様「仕方ないわね、歩くことにするわ」
執事「それがよろしいかと」
お嬢様「徒歩通学で遅刻しそうになる。 私って女子高生ね」
執事「はい、大変女子高生でございます」
お嬢様「お世辞を言うならもっと擬音で修飾してちょうだい」
執事「キャピキャピの女子高生でございます」
お嬢様「キャピキャピね。 悪くないわ」
友達「あ、おはよう。 今日は徒歩なんだね」
お嬢様「ごきげんよう。 渋滞でトホホだわ」
友達「……」
お嬢様「……」
友達「そういえばごきげんようの"よう"って不思議な言い回しだよね」
お嬢様「考えたこともなかったわ」
友達「そうなんだ。 遅刻しそうだし急ごっか」
お嬢様「そうね」
友達「なんとか間に合ったね」
お嬢様「遅刻ギリギリというのは完璧ね」
友人「ふたりともおっはよー」
友達「あ、友人ちゃんおはよう」
お嬢様「ごきげんよろしい」
友人「えっ?」
友達「その挨拶はちょっと変じゃないかな」
お嬢様「そうね」
お嬢様「慌てたからか喉が渇いたわね」
友人「あたしもカラカラだけどさ、あんまり無駄遣いできないんだよね」
お嬢様「それなら二人分用意するわ」
友人「え、いいの?」
友達「友人ちゃん、ちょっと期待して言ったでしょ……」
お嬢様「構わないわよ。 少し時間をもらうわね」
Prrr...
お嬢様「……もしもし? 私よ」
お嬢様「至急ティーセットを学校に運んで頂戴」
友人「……えっ?」
お嬢様「私はコーヒーも紅茶も飲めない? そうだったわ」
お嬢様「じゃあオレンジジュースをもってきて」
お嬢様「無いですって? すぐに買いに行きなさいな」
お嬢様「ジュースを買ってどうするの! オレンジを買って絞りまなさい!」
友人「待って待って! ごめんなさい!!」
友人「もういいよ! ほら、授業始まるし!」
お嬢様「では次の休み時間までに……」
友人「あーもう! あたしがおごるよ!」
お嬢様「そう? 悪いわね」
友達「わたしまでもらっちゃっていいの?」
友人「いいよ。 流れだよ流れ」
友人「みんなイチゴ牛乳でいい?」
お嬢様「構わないわ」
友達「うん、わたしイチゴ大好き」
お嬢様「イチゴは牛乳に合うという点でオレンジに優っているわね」
友達「オレンジ好きなんだね」
お嬢様「昔ね、オレンジの果汁が目に入ってすごく痛かったの」
友人「なんのこっちゃ」
お嬢様「オレンジは強いから好きよ」
友達「そういえば、来週は全校集会だね」
友人「あー、校長の話長いんだよね。 熱中症の子が出なければいいけど」
お嬢様「その日私は遅刻するわ」
友人「遅刻宣言!?」
友達「なにか用事があるの?」
お嬢様「私が用事になるのよ」
友人「なにそれ。嫌な予感がするなあ」
友達「よくわかんないけど楽しみにしてるね」
お嬢様「ええ、私は期待を裏切らないわ」
友人「おっべんと おっべんと うっれしっいなー っと」
友達「やっとお昼休みだね」
お嬢様「食事の時間というのは心躍るわね」
ドサッ
友人「おおう……重箱……!」
お嬢様「ベタだけど中身はおせちよ」
パカッ グチャァ…
友人「グロっ!」
友達「ちょっと走ったから寄っちゃってるね」
お嬢様「……」
お嬢様「食べてしまえば同じよ」
教師「で、あるかして――」
友達(……)
友達(ねむいよぉ……)
友達(おせちを分けてもらったからお腹いっぱいになっちゃった)
友達(でも、あの海老おいしかったなぁ……)
教師「では、今日は1日だから出席番号1番!」
友達(わ、わたしだ! どうしよう……聞いてなかった)
お嬢様「答えはだし巻き卵よ」
教師「間違ってるぞ」
お嬢様「あら失礼、1番というからつい答えてしまったわ」
教師「間違ってるぞ」
友人「あー授業終わったー」
友達「眠かったねー」
Prrrr...
お嬢様「もしもし? 私よ。車を出してちょうだい」
友人「今更だけど、かける側がもしもしって言うのはおかしいよね」
お嬢様「え?免許の勉強中? それは大変ね。頑張りなさい」
お嬢様「……帰りも徒歩になったわ」
友達「トホホだね」
お嬢様「そうね」
友人「さむすぎるよそれ」
お嬢様「私に対する侮辱かしら」
友人「なんで??」
6日後
お嬢様「ふぁぁ……」
執事「お嬢様、そろそろ起きてください」
お嬢様「起きてるわよ。 休日ぐらいゆっくりさせなさい」
執事「左様でございますか」
執事「お嬢様、朝食はいかが致しましょう?」
お嬢様「コーンフレークを山盛りで2杯……牛乳なみなみで」
お嬢様「イチゴも入れてちょうだい」
執事「かしこまりました」
お嬢様「今日の予定はなにかしら」
執事「本日は町内会長との会談が一件あるだけですね」
お嬢様「そう、ならその後ヘリの様子を見に行くわ」
執事「かしこまりました」
お嬢様「そういえば免許はとれたのかしら」
執事「おかげさまで収得することができました」
お嬢様「おめでとう。また一つ有能になったわね」
執事「恐縮です」
町内会長「では、この額で確定ということで」
お嬢様「そうね」
町内会長「まさか雨で中断した花火大会の残り物を買い取ってもらえるとは」
お嬢様「こちらもちょうど欲しかったところよ」
町内会長「一体何に使われるんです?」
お嬢様「楽しいことよ」
エンジニア「お、あんたが依頼主かい」
お嬢様「これが私のヘリ?」
お嬢様「どこかで見たような形ね」
エンジニア「そりゃ1から造ると骨だからね」
お嬢様「あの機能は付いているのかしら」
エンジニア「その点なら心配ないよ。あれぐらいならわけないさ」
お嬢様「ならいいわ。 明日までに完成させなさい」
エンジニア「無茶言うね」
ブロロロロ…
執事「本日の予定は全て終了です。お疲れ様でした」
お嬢様「ええ、疲れたわ」
お嬢様「……あら?」
お嬢様「車を止めなさい」
執事「かしこまりました」
お嬢様「奇遇ね」
友人「その車めっちゃ目立つからそうでもないよ」
お嬢様「いい自転車に乗ってるわね。今日はサイクリングかしら」
友人「あ、あはは……まあそんなところ」
お嬢様「あら、それはカメラかしら?」
友人「うぇ!? そ、そうだけど」
お嬢様「??」
お嬢様「よろしければ何を撮ったのか見せてもらえるかしら」
友人「ああー……」
友人「うん、いいよ」
お嬢様「これは……飛行機?」
友人「う、うん。いつもは鳥とか撮るんだけどね」
友人「たまたまなんかのイベントがやってたから」
お嬢様「イベント? 執事、知ってるかしら」
執事「そういえば、今日は航空ショーがあったとか」
お嬢様「飛行機雲で絵を描いているわ、すごいわね」
友人「えっと、そろそろ……」
お嬢様「航空ショー……面白そうね」
友人「え? ほんとう?」
お嬢様「家に滑走路はあったかしら」
執事「ありませんね」
お嬢様「そう、残念ね」
友人「開催する側で考えるんだ……」
翌日
友達「あ、おはよう」
友人「おはよー。 お嬢様は?」
友達「まだ来てないみたい」
友人「……まじで何かやるつもりか」
友達「楽しみだね」
友人「嫌な予感しかしないよ」
友達(全校集会……ねむい……)
校長『人生にはー……大事な袋が3つあります』
友人(それ結婚式とかで言うやつだろ……)
友人(あー、今回のも長くなりそう)
バルバルバルバル……
友人「んん?」
友達「ふぇっ?」
_
\  ̄ ̄ ヾ、
、、 丶 ` ' 、__
', i `丶 _ _ _ヾ、- 、 _
', i | || 7`"''¬''´
',i l || .,'
-=r, 、 ,r ‐─┸─ 、
i',`i ゙:、 / `ヽ ¬/,
i ',ヘ:: ゙:、 /7´ ̄ ̄ ̄`'r、 -- ─‐─-_= _
i ', ',::: ゙:.、_ // i i::i! ( フ´ヽ、`丶
i.ノ 〉=‐- -ニ¬─ヽ、___rriュ__U ヽ / ヽ ヘ
ー─── r‐''¬ュ ──、 ``'' L_ ,r、‐--、
/ `"' ` ‐ 、 _ _└ェェt'‐、ュコ-‐' ‐ - . ` -、/ 、`_、_ヽ
`└‐ュ‐__┬‐゙' ̄:::::: i ` 。 i :! l´|`!
└-------゙'-::..._ _,、 _-_‐ 、_.r ┴'
_ /´ ` ̄,ィ´ヤ、_‐_‐_- ! (≡≡=
`'‐-=..-_ ./ _ `_''¬‐ =ヾニィ_ニ'´'
`"''¬ ''
友人「コブラー!?」
ザワザワ ナンダナンダ?
友達「え? なに?」
友人「攻撃ヘリじゃん! やばいって!」
友達「あぶないの?」
友人「超危ない! ほらあそこ!ミサイル積んどる!」
友達「えっと、友人ちゃん?」
友人「あ、いや、その……」
『今日は私がこの朝会をすこしだけ盛り上げましょう!』
友人「い、今はあたしのことなんかいいでしょ!」
友人「とにかく避難しよう!」
友達「危ないことはしないと思うけどなぁ」
『ファイヤー!』
『かしこまりました』
友人「うったぁあああ!?」
ドドーン……
友達「あ、花火……」
友達「きれー……」
このあと、警察が来てお嬢様は連れて行かれました
――
お嬢様「こってり怒られたわ」
友人「そりゃねえ」
友達「逮捕されなくてよかったよ」
お嬢様「執事に相談したところ銃火器がまずかったみたい」
友人「相談しないとわからなかったの?」
お嬢様「そこで、今度は花の女子高生にぴったりの乗り物を用意したわ」
友達「そうなんだ」
友達「……」
友達「え?」
キュラキュラキュラ……
友達「……」
友人「……」
キュラキュラキュラ……
執事「お嬢様、お迎えに上がりました」
お嬢様「これで私も、キャピキャピの女子高生!」
友人「キャタピラじゃねーか!!」
おわり
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