月火「………なんで中に出したの」(341)
月火「いや、ちょっと待って、本当に何してるのお兄ちゃん、何してくれてるの」
暦「えっ………あ、いや、ごめん」
月火「ごめんで済んだら警察はいらないよ………避妊薬もいらないよ」
暦「本当にごめんって………ひ、避妊薬、とか月火ちゃんあらかじめ飲んでない?」
月火「飲んでない」
暦「………」
不味い展開だ。
これは―――不味い。
いや、不味い不味いと連呼するのはよそう。
それではまるで月火ちゃんが駄目みたいな言い方じゃないか。
そんな僕の表情を見かねてか、月火ちゃんは
月火ちゃん「なんなのその顔、もしかして不味かったの?」
暦「そんなことはないさ。 あんまり自分を卑下するもんじゃないぞ、月火ちゃん」
月火「―――私ね、ピル飲んでない」
暦「え、あ………ゴムは」
月火「だからゴムは外したでしょ? お兄ちゃんが自分で」
暦「………」
月火「自分で外して妹と行為に及んだんでしょ」
月火「中には出さないから、って約束でしたんだよね」
暦「………いや、最初は付けてただろ」
月火「―――まあ、そうだったけどさ、でも」
暦「その後。 その後―――うん、最初は覚えてるんだよゴム付けてたこと」
月火「何?記憶が飛ぶくらいの、その………テンションだったの? 妹に」
暦「うん」
徹頭徹尾そうだった。
隠すことは何もない。
月火「馬鹿じゃないの―――いや、なんだろう、もう―――馬鹿じゃないの」
さっきから枕で顔を隠し、目だけを覗かせている月火ちゃん。
暦「語彙が減ってるぜ月火ちゃん。 そんなテンプレートな返答しかできないようだったら
単にそこら辺にありふれた萌えキャラの一人にしかならない―――僕を
本気で糾弾する気はあるのかな」
月火「私は馬鹿に対して脳をフル活動したりはしないんです」
暦「………ふん、なんだよお前、いつも本気なんて出してねーぜ、20%の力しか使ってねーとか
言っちゃうタイプかよ、そうなのかもしかして」
月火「っていうか、そんなにものすごい勢いで妹に対して欲情していたの?
ホント有り得ない―――兄として有り得ない」
暦「だって月火ちゃん可愛かったし」
月火「っ、」
暦「………」
月火「な、なにそれ、意味わかんないんだけど」
暦「しがみついてくる月火ちゃん可愛かったし」
月火「繰り返すなっ!」 ばちーん!
暦「痛い!」
暦「痛いよ月火ちゃん」
月火「痛がれ。 ………っていうか、痛いって、何言ってるの」
睨みつけられた。
暦「え?」
月火「私のほうが痛いし」
暦「………ああ」
月火「わかるでしょ?ホント………責任とってよね。 処女だったんだから」
暦「そうだな―――結婚しよう」
月火「うん―――って、オイ!」
我ながら潔がいい。
また平手打ち来るか、と思ったがそうはならなかった。
暦「そういえば血が出てたな。 あまり見ないようにしてしまったけど」
月火「うん………いや、どんだけなのお兄ちゃん………妹に、妹の身体に
これだけのことをしておいて」
暦「えっ………でも月火ちゃんだって、」
月火「なによ」
暦「月火ちゃんが、してる時にさ………『いいよぉ』って、」
月火「!そッ」
暦「『もっとぉ』だったっけ―――色々あった気がするけれど、何回も」
月火「それはぁ………! お、お兄ちゃんが強引だからぁ!」
暦「何回も言ってたよね」
枕で顔を隠しながら、しかし片目だけ出して睨んでくる。
すごい形相だ。
すごい形相なのだろう。
月火「そ、それはだから、組み敷かれて………お兄ちゃんに覆い被されて、身動きができなくて」
暦「まあ………ね」
月火「お兄ちゃんに言い寄られて仕方なく」
暦「………『心配しないで、あんまり痛くないから』」
月火「」 ピクッ
暦「『思ったほど痛くないから、もっとちゃんと動いてもいいよ、お兄ちゃん、私の』」
月火「う―――うううぅ、うああああああああああああああああああああああああッ 」
ばちーん!
暦「ぶホおッ! ぼ、暴力反対!」
月火「ししし、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死ん
じゃえ、死んじゃえ、死んじゃえっ、しんじゃ
暦「言ってたじゃん! 言ってくれたじゃん!」
月火「ぼ、暴力だ………! 火憐ちゃんに言いつけてやる! それで真の暴力でねじ伏せてもらう!
暴力、いや破壊力、殲滅力でっ」
暦「いや待て待て! 死んじゃうってそれ!」
月火「いいもん! 亡き者にするもん!」
暦「全部、ちょ、火憐ちゃんに全部話せるのかよ!」
月火「!」
暦「言えるのかよ、何したか全部! 僕と何してたか」
月火「う」
月火「………何、なんなのお兄ちゃん。 私を脅迫する気………?」
暦「いや、そんなんじゃ………でもお前も嫌だろ?」
月火「………」
暦「………」
月火「嫌なのは、嫌なのはそれだけだから」
暦「え?」
月火「火憐ちゃんに、心配かけたくないだけだから。それ以外は、いいから」
暦「………」
月火「お兄ちゃんに、その………してもらったこと―――じゃ、ないから」
暦「………月火ちゃん」
月火「火憐ちゃんが帰って来る前に、片付けないと、色々」
暦「………ああ、そうだな」
月火「ていうかさ」
暦「うん?」
月火「いい加減、抜いてよ………お兄ちゃんにのしかかられたままじゃ、動けないじゃ」
暦「え、ああ―――ごめん」
抜いてやった。
暦「―――温かいんだな。 人間じゃないみたいに」
月火「………なにそれ。 意味わかんないっていうか、失礼じゃない」
暦「いや、独り言だよ、ごめん」
二人で、ベッドの上などを片付け中である。
暦「………」
月火「………」
暦「お前さ………、生理とか、今日どうなの」
月火「うわキモ。 本当にキモい。 妹の生理周期を把握していたい系? マジでないんだけど」
暦「いや、なんていうか、お兄ちゃんがキモいとか、それはもう―――」
不本意ではあるが、誠に不本意ではあるが慣れている、から。
暦「甘んじて受け入れるとしてさ、月火ちゃん、安全日だったりしない? 今日」
月火「………」
暦「あ、いや、いいんだ、悪い言いすぎたっていうか、別に言わなくていい」
月火「安全日だったら、どうするの」
暦「………え、いや、そのままの意味だろ。安全日だったら、大丈夫だよなって」
月火「安全日だったら、私をどうするの?」
暦「………?」
月火「何回も、するの?」
暦「!」
月火「気持ち悪い兄」
暦「………」
月火「片付け終わったね。 自分の部屋に戻るから、私」
暦「あのさ、月火ちゃん」
月火「火憐ちゃんには言わないでよ」
暦「言わねえよ」
月火「どうだか………言わなくても、お兄ちゃん嘘付いたりとか下手だから」
暦「………んなこと言いだしたら、火憐ちゃんなんてそれ以前だろ」
月火「まあ―――そりゃあ、そうか、そうだね」
暦「じゃ」
そう言って月火ちゃんは部屋に戻っていく。
自分の部屋に。
僕はそう言って―――すごく焦った。
月火ちゃんはそんな僕を見ずに部屋に戻っていく。
暦「………まあ、とりあえずはこれで部屋は良しと」
部屋の空気も入れ替えたし
火憐ちゃんはそもそも疑うことを知らないから
まあ大丈夫だろう。
しかし。
問題はないわけじゃない。
暦「………………言えない」
言えないのである。
言って、言って?
それで一体―――。
どうする。
どうする。
どうする。
暦「―――昨日は火憐ちゃんの中に出したなんて、絶対言えない」
今日はここまで
元ネタとかあるの?
最初曜日の擬人化か何かかと思ったけど違うっぽいし
>>19
化物語
wktk
猫と猿と蝸牛と蛇はまだかな?
蟹は要らないです
猫と猿と蝸牛と蛇はまだかな?
蟹は要らないです
>>19
知らなくても、その勘違いはおかしくないかな?
開く前にスレタイがゲツカだと思って開いたならそこまでおかしくないだろ。
となると、水木ちゃん、金ちゃん、土日ちゃんが後から出てくるんですね
わかります
金ちゃんだけぼっちにしてやるなよ、可哀想だろ
クズ過ぎんだろ暦お兄ちゃん
「―――やってしまったのう」
僕の、つまりは阿良々木暦の自室でそう呟いたのは、
僕ではない。
その口調、語尾からわかるとは思うが。
彼女は、その僕の生涯のパートナーはベッドに座る。
僕の隣に腰掛ける。
「いや、責めておるわけではないのじゃよ。
まあお前様ならいつかはやるじゃろうな、という
予感は毎日のように、いや毎秒、感じておった。
あとまあ、なんじゃろう―――そうじゃのう」
儂は―――。
儂は立場的に人間ではないからのう。
人間の行動すべてが他人事―――。
自分と違う生き物がどうなろうと―――まあ、どうでもいい。
どうでもいいというのは随分と辛辣、お前様から見れば、お前様からすれば
ショックを受けるというのは、あるのう。
しかしお前様よ、人間以外の交尾を見ても―――。
例えば、動物園というのかの?
檻の中で動物が繁栄行為をしておった。
それを見てお前様は「やめろ」と言って止めるのかの」
「まあ、そういうものなのだろう―――と、そう思うじゃろう。
いろんな感情を塗りつぶした後、そう結論づけるじゃろう」
「忍―――」
かつて怪異の王を名乗っていた、いや実際に怪異の王だった伝説の吸血鬼。
現在はただの幼女(のようなもの)である、僕の相棒。
吸血鬼の成れの果て、残りかす。
現在ではややイメージが柔らかくなりつつある―――
例えば一部の人間のあいだでは、単なるロリ奴隷として認識されているという
金髪幼女である。
「忍、殴りたきゃ殴ってくれ」
いろんな読者に変わって、ひっぱたいてくれ。
「お前様よ。 平手打ちもいいが、それは主にとってご褒美となってしまうのではないか」
「………………」
うん、言われてみれば。
意外と図星だった。
いや、自体はそんなギャグっぽい展開ではないのだが。
気違い染みているのだが。
普通に、しかし深刻に、マジキチ物語なのだが。
「………まあ」
「いやいや、お前様よ。 儂はそこまで主を責めはせん―――儂は」
「いや、でも」
「貞操観念の緩さで言えば、人間とは違う―――全く違う感覚の儂が
主に言えることなどない」
「主も言っておったじゃろう。
わしがお前様の影となって、もはや生活の一部、日常と化してからお前様の性格が
変わったような気がすると」
「………? 何の話かわからないが」
随分話題が変わった気がするが。
「関係ある話じゃよ、メインじゃ」
「クールキャラだった忍、お前が喋るようになったんだろ
要するに誇り高き貴族、キスショットから忍になった、なっていった―――」
変わったのは僕ではなく、お前だ。
「いい男じゃのう、主様は―――血も凍るほどに」
そう言って小さな頭を僕の胸に預ける忍。
ちなみに僕は、上半身裸である。
上着、どこにやったっけ。
多分ベッドの下に落ちてる。
「流石、儂と同じ血を流しているだけのことはある」
「………流石は伝説の吸血鬼、自分褒めだな」
「かかっ、あまりおらんしの。
主と同様、儂は友人が少ない―――有名だったのも昔の話じゃ。
その頃ならもう少しは―――いや、そんなことなどどうでもよい」
「なあ、忍」
「お前、見てたのかずっと、どこまでだ」
「むう?」
「可愛いなお前―――だから、月火ちゃんと、僕の………まあ、ちょっとは見てたんだろ」
「儂もそこまで野暮じゃないわ、安心せい」
「―――そう、か」
「儂は眠っとった。 まあ、時間帯的にそろそろ起きようかなという時間ではあったが」
「………」
「見ておらんかったが、感じないわけではない」
「ん………」
「見てはおらんかったがの、分かっておるじゃろう。
主の心情、心の高鳴り、心臓の音―――まあ、目をつぶっていても伝わるわけじゃ、儂には」
「や、やっぱり―――」
僕と忍は一心同体。
「髪を撫でろ、我が従僕よ」
「あ、ああ―――」
反射的に命令には従う。
罪悪感が為せる技である。
「まだ五月蝿いのう、心臓の音が―――」
「忍、そんなにくっつかなくても」
「儂はな、黙って、堪えていた―――先程までの、そして今もそうじゃ、
主の昂まりを感じておる」
「―――あの、さ」
「主よ。 あの様子では当分、小さい妹御は戻ってこない―――
恥ずかしさのあまり、碌に顔をつき合わせもしないじゃろう。
今、この部屋には二人っきりというやつじゃ」
「―――忍」
「主は、ここから先を女に喋らせる凡夫でもあるまい」
髪越しにも、忍の体温の上昇は感じられた。
それを抱き寄せる。
真に碌でもない人間は―――僕だった。
素晴らしい
後ろから刺されても、生首にされても死なないから大丈夫だな!
まあ、結論から言うと。
このあとめちゃくちゃ○○○した―――という風には、ならなかった。
残念ながら。
「兄ちゃん! なんで倒れてるんだよ!」
「あれ、お兄ちゃん―――本当どうしたの? 冗談にしてももう少し………」
妹たちの声が聞こえる。
ついさっきまで意識が飛んでいたらしい。
僕は気絶していたらしい。
が、しばらくは身動きができそうもない。
体をひねるだけで激痛が走るし、当然、忍も痛いだろう。
そう、忍―――忍だ。
問題は。
ではなぜこんなことになったか。忍が身体を寄せてきたところからだな。
身体を僕の胸に預けてきたところからだな。
とにかく、反芻開始。
記憶を呼び起こそうじゃあないか。
まあ、呼び起こすにしても―――思い出すのが怖い。
そういう記憶は、誰しも一つや二つ、あるものだ。
そして簡単に捨てられるものではなかったりする。
だから僕も頑張って思い出そうと思う。
「痛い―――痛い痛い!」
まずは忍が叫んだ。
忍の台詞である。
「大丈夫か?」
「うっ………くっ」
涙目の幼女というものは中々にそそられるものがあった。
頬っぺたが真っ赤で濡れている。
ぞくぞくする―――心臓を撫でられるような感覚、とでも言おうか。
「もう少し、我慢してろ、忍」
「痛たたいいた、たたったたい!」
行司というんだったか―――土俵の上での審判みたいな掛け声を喚きながら、
耐え切れず、忍が僕に平手打ちを入れる。
「痛いっつーとるじゃろうが!」
半裸の僕を踏みつけながら、八歳児は言う。
いや、いやしかし、忍さん。
「でも挿入るときはそりゃあ、痛いだろ―――言っちゃなんだが、忍」
「わかってる! わかってるって、はあ、、はあ、けどお前、お前様よ
その躊躇いもなく幼女の貞操を奪うっていう―――お前様よ、」
「いや、でも誘ってきたのはお前からだろ」
「八歳児にそんな太いのが入るわけがないじゃろ!
ちっとは頭を働かせたらどうなんじゃ!
鬼畜か!」
「………え~………」
えー………。
「いや、しかし忍」
「ああもう………まだヒリヒリする………怖い、痛い、怖い」
「一回入れればだんだん痛くなくなるらしいぞ」
「男という生き物が本当に嫌いになりそうじゃよ」
「僕以外の男はいくらでも嫌いになってくれ」
「お前。 お前様じゃなくてもう、『お前』………死ね」
「最近の幼女は辛辣だなあ」
「そんなに言うなら、お前様よ―――試してみるか?」
「うん? 試すって何を?」
「つまりじゃな―――まあ、さっきまでのお前様………お前の行動を見れば、
思い起こせば推測可能じゃ」
忍があげた、掲げた右手―――手のひらから何かが、不定形の物質が現れる。
それはアメーバかスライムのように動きながら、徐々に形を落ち着かせていく。
―――物質具現化能力。
吸血鬼のスキルの一つである。
今までに、数々の強敵と戦った際に、は刀となったり―――他に何に使っただろう。
まあ、戦闘シーンでかなり役立つ能力であったことは間違いない。
だが、今回の使用法はいささか趣が異なった。
「これくらいの大きさじゃったかな―――お主のものを参考にしたのじゃが」
「ちなみにじゃが、これ―――振動機能も付けておる。 付けてみた」
忍はもう一方の手をパチンと鳴らすと、顕現され屹立しているそれが
バイブレーション的な低い音で唸り始めた。
ヴヴヴヴヴ。
「バイブレーション的なっていうか―――まんまバイブじゃねえか!」
「その通りじゃ」
未だに信じがたい。
しかし、忍の能力を持ってすればこういう玩具は生み出せる―――そこは
それほど難易度が高いわけでもないだろう。
しかし壮絶な絵だ。
金髪幼女が振動するバイブを持ち、したり顔を見せている。
「さて、お前様よ―――儂の右手の、この男性器を」
「言っちゃったよ!」
男性器って言っちゃったよ!
せっかく頑張って抽象的にボヤけさせてきたのに。
「これを使ってみようと思うのじゃが」
「まあ―――幼女姿といえど、性的欲求はあるだろうから、僕はそれを咎めはしないよ。
………僕は廊下に出てるから、好きなだけ自慰行為を楽しめばいいさ」
「いや、じゃからの、これ、儂に入らないんじゃって」
「え、何それ」
「言ったじゃろ、お主のを参考に作ったと―――で、お主のは儂に入らんかったじゃろう」
僕は。
ゆっくりと振り返り―――幼女に背を向けて、走り出そうとした。
「待たんか」
忍が背後から組み付いてきた。
「同じじゃ―――さっき儂がやられたことと同じ」
「いやぁ! いやぁ―――あ、 ああっ、 やめてえっ お願ぁいっ 」
これ、僕の台詞である。
信じがたいといえば信じがたいが。
「心配せずとも、痛いのは最初だけじゃ」
「心配するわっ っていうかお前はその最初でギブアップしただろうが!」
必死である。
必死にもなる。
「なあ、『お前』よ―――この部屋には儂とお前、二人しかおらん。
二人きりなのじゃ。
そしてわしにはこの立派なものは入らない―――さて、残るはお前しかいないわけじゃが」
「ひっ ひいぃ!」
助けて、誰か、助けて。
忍にのしかかられても、かろうじて倒れずにいた僕だったが、耐えていた僕だったが―――
次の忍にセリフに反応し、地面に手を付き、四つん這いになった。
「あれっ………そこに落ちておるのは、妹御のパンツではないかの?」
「えっ―――どこどこ?」
どこにあるんだ。
僕の部屋に置いていったとか、だらしがなさすぎるぞ。
火憐ちゃんか月火ちゃんか、どちらだろう―――。
待てよ?
僕の部屋に下着を置き忘れていたとすれば、妹は今現在
ノーパンないしはノーブラ―――有り得る。
二人共、どこか抜けているところがあるから。
大事なことを簡単に忘れる。
ここは僕が直々に説教をしてやる必要性があるな―――。
妹の将来について真剣に案じていたため、隙が生まれた―――それを、
その隙を、忍は見逃さなかった。
ほとんど半裸状態だった僕のトランクスをずり下げ、問題の逸物を叩き込むように差し込んだ。
人間、本当に叫び声を上げたい時は、おかしい話ではあるが
声にならないことが多い。
僕もまた、絶叫を脳内で上げるものの、喉からは何も出なかった。
頭蓋骨の中で叫び声は反響し続け、身体はというとししは生まれたての子鹿のように
ぶるぶると震え続ける。
「お、入ったのう―――流石は高校生といったところか」
忍が学生に対して意味不明で狂気に満ちた賛辞を述べながら、右手を回転させる。
―――腸内が90度回った。
「っ………おっ」
「ええいっどうじゃ、これ―――前立腺ぱんち!」
そんなことを言いながら僕を攻める金髪幼女。
「お、おオオオオオオ―――ーッ!」
これ以上僕視点の感覚というか、僕の感じたあれやこれを描写しても、おそらく
需要はないので、割愛しよう―――それがいい。
とにかく―――。
まだ知らぬ快感の海に叩き落とされて、僕は溺れたのだった。
「お前様………
「お前様よ―――大丈夫か
「むう、少しばかりやりすぎじゃったか。しかしいい顔で倒れておるのう
廊下がにわかに騒がしくなった。
「む?」
というか、明確に走り回るような音が聞こえてきよる。
「兄ちゃーん、何だ今の声ー」
「むむう。妹御が来よった。お前様、起きろ、起き………ええい、これまでか。
とりあえずまずい展開じゃから、引っ込まねば。
儂は退散せねば」
こうして影の中に、儂は飛び込んだのだった。
ガチャ、とドアを開けて入ってきた二人。
「どうしたんだ兄ちゃん。断末魔みたいな声出して………うわっ!」
「どうしたのーお兄ちゃん。断末魔なら断末魔で、もっと考えて―――ちゃんとした声にしないと、
人生に一度しかないんだから―――って、うわぁ………」
「兄ちゃん、寝ぼけてベッドから落ちたか? うっわ、ベタっていうかなんていうか」
「いや、これはそういう雰囲気じゃない気が―――する、
そこまで安易じゃない何かがあったような―――けど、っていうか、
なんで脱いでるのお兄ちゃん」
「本当だよなー。 おーうい、兄ちゃーん、兄ちゃーん!」
ぺちぺち。
「どう?」
「駄目だ。死んでるみたい」
「ふむ………ドアは、いや、窓も閉まってるみたいだね」
ガチャガチャと揺らす。
「窓が閉まってる―――てことは?」
「密室だよ」
「み、密室、密室殺人!」
「いや、殺人じゃないよ………死んでないと思うけど、兄ちゃんは出口のない部屋で殺されたも同然 だよ………廊下から犯人が出入りしたなら私たちも気づきそうなものだし」
「あっ待って月火ちゃん。わかった!密室ってことはあれだろ?言わせてくれ」
「待って火憐ちゃん。一緒に言おう」
「せーので?」
「うん、せーのー、」
「「 犯人は、この中にいる!! 」」
「………決まった ?」
「決まったね。完全にファイヤーって感じだったよ」
………。
いろいろと心配な妹達じゃのう。
面白い
はよ
はよ
まだか
『前回までのあらすじ』
金髪幼女に前立腺を責められた。
え?
前立腺っていうのは何かだって?
自分で調べろ。
………責めるって漢字、こっちで合ってたっけ。
攻める、ではないよな。
水責めの責めだから―――こっちで合ってるか。
「栂の木二中の奴らじゃあ、ないよな」
呟いたのは火憐ちゃん。
ここからの心理―――というか心境は、
ファイヤーシスターズの参謀担当である私が務めさせていただくことにするよ。
だからここからの心の声は、可愛い可愛い月火ちゃんボイスでお送りされるよ。
「何ぶつぶつ言ってるんだ、月火ちゃん」
「えっと、ねえ―――火憐ちゃん、私ってキュート?」
「うん?なに言ってんのいきなり―――うん………
ああ、あたしが男だったら押し倒してるぜ、それくらいハートに迫ってくるものがあるな。
攻め込んで来るものがあるな」
「だよね」
それならよかった。
私は今日も可愛い。
前立腺は前と後ろから責めると、男でもアへ顔になるぐらい気持ちいいとか
二つの意味でかなりヤバい
「話を戻そう―――栂の木二中、つまりはあたし達の中学の連中?
―――が、お兄ちゃんを殺した犯人ではないんだな」
だから死んではいないんだよ、火憐ちゃん。
「仮死状態なんだな」
まあ―――気絶と仮死ってどう違うのか、私もそこまではよく知らないけれど。
「ううん、そうなると火憐ちゃん、私たちファイヤーシスターズに
敵対する勢力ってことになる、のかな?」
「ああ、そうなるな。そいつらがあたしたちの秘密基地こと
阿良々木家に侵入を果たして、そしてお兄ちゃんを半裸にした上に
暴行を加えたっていう線が、濃厚だけど」
火憐ちゃんは真顔でこの台詞を言い切っちゃうんだから、なんというか。
そんな理屈だと、もうどうしようもなく、治安が悪いよね。
田舎なのに。
いや、田舎だからこそかな―――。
彼女の心って、深夜のコンビニの前をたむろしているんじゃないかな。
本当に。
お兄ちゃんが日頃から心配していた理由がわかるよ。
コイツ早く何とかしないとヤバいって嘆いていた理由がわかるよ。
まあ火憐ちゃんがこうなったのは私の所為………みたいなところも大きいけどね。
「探偵役が二人っていうのは新しいよな」
「ううん、確かに解決するのは最終的に一人、主人公的な探偵になるのかもでけれど」
そういえば『二人はミルキィホームズ』という深夜アニメをやっていたなあ、
なんてことを思い出す。
お兄ちゃんはあれをひどく嫌っていた。
なんだか一期と比べてプリキュアのパクリみたいになって、すなわち
僕のプリキュアを侵食しに来た、許せない―――だとか
そんなことを言っていた気がする。
何なんだろう、いつ『お兄ちゃんのプリキュア』になったんだろう。
兄として、実に恥ずかしい存在だ。
「つまりこれは、かなりトレンドに乗っている感じだね。ふたりはファイヤーシスターズだね!」
「それこそただのプリキュアっぽいけど………」
っていうか話が進まない。
まずは現場検証だ。
「窓には鍵がかかっているね」
これは私も、少し前に確認した。
いや問題はそれよりも―――。
「お兄ちゃんは半分、パンツがずり下げられてるぜ」
「ううん………」
「月火ちゃん、これは………」
早くも問題にぶち当たる。
「月火ちゃん、これはつまり、何者かがお兄ちゃんのケツを狙っていたという線でいいのか?」
舌打ちしたくなった。
歯に布きせぬ物言いだ。
正直に思ったことを口に出すのが誠実であるかのように。
まあ、布を身にまとっていないのは目の前で転がっている兄ちゃんなんだけれど。
火憐ちゃんは何事も、いい意味でも悪い意味でもオブラートに包まない。
発言が全体的に。
ゴムで包まないでヤって妊娠しちまえばいいんだ。
「いやあ、しかし相変わらず筋肉質だなー、兄ちゃん」
そう言って、剥き出しになっている実の兄の臀部を撫でる火憐ちゃん。
それは私も思った。
本当に人間なの?と思うような瞬間もある。
「ねえ、火憐ちゃん、侵入者という線はないかもしれないよ、そもそも」
「え?」
「だって流石に、何も言わずに玄関に入って―――それで家の人、お父さんとお母さん
にも見つからずにここまで、お兄ちゃんの部屋にまで入ってくるなんて―――」
「ははあ、忍者かな、犯人」
「忍者は流石にいないか、中学生で忍者なんて、あたしの知り合いでもいなかったぜ―――」
「一人で足をもつれさせて―――服で膝のあたりがもつれて転んだ」
「兄ちゃんがそんなことをするって?」
「仮定の一つを言ってみただけだよ………流石に私もないと思うけれど」
この一石から何か派生して真実が浮かべば―――。
ううん、さすがに無理か
「ああ、でも兄ちゃんならやりかねねーな―――兄ちゃん、基本一人だし」
それは確かに、そうなんだよね。
「っていうかさ」
「うん?」
「そろそろお遊びは終わりにして。お兄ちゃん起こさない?」
「ええー………」
あからさまに拗ねた顔をする火憐ちゃん。
「月火ちゃん、そういうこと言うのか………もう少し兄ちゃんを使って、
兄ちゃんで遊びたいとか思わないのか」
「いや、あまり」
というか精神的にきついのだ。
実の兄がこんな格好で転がっていて、その真上で推理ごっこ。
兄の気絶原因はロクでもないことだろう。
自慰行為中に転倒して頭を打った―――なんていう話題で真剣に討論を始める前に
切り上げたい。
と、私が考えたところで。
「わかった! わかったぞ月火ちゃん! 兄ちゃんはベッドの上でオナニーをしている最中に、」
「お兄ちゃんを起こそう! ハイ起こそう! ハイ、はよ起こさないと可哀想だよお兄ちゃんが!
今は応急処置だよ」
「お、おう、」
急に元気になったな風な私を見て少し面食らってから、それでも火憐ちゃんは
気絶から目覚めさせるべく、お兄ちゃんの頬を叩き始めた。
―――スポットライトが眩しい。
僕は、リングの上にいた。
リングというのは、ボクシングのリングだ。
信じがたいけれど、おそらく僕はボクシングで使われるリング上で両手を顔の近くに
上げて、顎を守るような………ピーカーブーの構えをとっていた。
「―――あれ?」
困惑を声に出しても、それは観客の声援にかき消された。
左頬を、殴られる、衝撃。
「阿良々木くん!」
え?
委員長―――今日は、今はメガネを外していたが―――羽川?
羽川じゃないか。
なんでグローブつけてんの?
赤いグローブを両手につけた羽川。
「阿良々木くん―――自分が何やったかわかるってるの―――
実の妹に何をやってるの―――死んじゃえっ」
「う―――」
言うと羽川は、右手を振りかぶり、流石は万能委員長、
スポーツも決しておろそかにしていない―――とか
いや、「そんな意外とやるじゃん」というレベルではなく、それの遥か上、
そのフォームのなめらかさ、完成度
と言ったら、胸部の暴れ方が尋常じゃない点を除けば
日本全国の中学高校で使用される武道の教科書に乗せても誰も文句をつけられない
ほどの芸術的動作であった。
一閃。
右ストレート。
早い話がとにかく、ものすごく胸を揺らしながら僕を殴ったのである。
なに?
まだ文脈に余計な単語があるだと?
これ以上どう削れと言うんだ。
しかし女ボクサー姿というのも、なかなかに趣があるなあ、なんて思いながら、僕は、
「ぐはっ」
避けきれず、倒れる。
「最っ―――低っ」
「兄ちゃーん! 兄ちゃん起きろー!」
ダウンする僕に、声援が聞こえる。
テンカウントが始まりだした―――まだだ、ちょっと待って、今起きるから。
火憐ちゃんも、まだやれるから僕、まだ、まだ起きれるーーー、よ
う、うう。
「うう………羽か、わ」
「はねか、羽川………」
ピントがやや定まらない。
しかし起きた僕にまたしても赤いグローブが迫る。
「うっ!」
またしても喰らってしまった。
いいのをもらってしまった。
しかし―――さっきよりも攻撃が低い。
ボディを狙ってきたぞ、こいつ―――。
「起きてください! 阿良々木さん! こんなものじゃすみませんよ!」
「………!?」
「いい機会です。 いい機会だと思います………このロリコンを
リングの上で好き勝手殴りたいと思ったことは一度や二度ではないんです、
一度や二度ではあみません!」
「………あ、あれ」
「失礼―――」
攻撃が低いのではない。
背が低いのだった………羽川よりも。
「失礼―――噛みました」
「お、お前、」
「兄ちゃん! 兄ちゃん! 頑張れ!」
声援に後押しされるまでもなく、僕は耐える。
ツインテールの小学生、八九寺真宵の攻撃に。
「打つべし! 打つべし!」
「ぐあっ! やめろ八九寺!」
「やめろ―――やめろって何です、やめたほうがいいのに止まらなかったのは
妹さんとの過ちを繰り広げてしまったのはどこの誰ですか!」
言葉も、拳も刺さる。
ラッシュ。
激しいラッシュ。
小学生特有の跳ねるような、底抜けに元気なラッシュが続く。
僕はといえば、防戦一方である。
「ぐあっ!」
「私以外の年下に手を出すなとはどういった両肩です―――じゃないです、
了見です、仲がいいんですねえ!
確か妹さんとは仲が悪い、仲が悪いから私と―――てりゃ!
喰らえっ―――えいっ―――仲が悪いから私とお話してたんじゃあないですか!
公園で会った時言ってましたよね!」
「ぐう………」
「公園で―――私の身体を張ったカウンセリング、
マジ喧嘩!
あの日々は嘘だったんですか!
友達がいない上に妹とも仲が悪いという阿良々木さんのために行った、
私の行いは!
何ですか!
私は芸人ですか!
ギャグ―――あれ全部、私が一人で勝手に滑っていただけですかっ」
「そんなことない! って、カウンセリングだったのかよ、あれ!」
「ええそうです、根性を叩き直してやります!」
ただ耐える僕―――ではない。
何とかして、何とかしてこの現実離れした拳の乱打から活路を見出し。
掻い潜り、八九寺を捕まえて頬ずりをしなければならないと、
そういった調子である。
「気持ち悪いです!」
「ぐはっ!」
一発、いいのを顔にもらって僕は真上のスポットライトとにらめっこした。
光が熱い。
高そうな照明だ。
まだまだ負けない、と再び構えを直す―――
直して向き合った、僕と千石であった。
「暦お兄ちゃん………」
「―――せ、せんご、く!?」
ええっ!?
何それ!
千石ちゃんは卑怯だわ
こっちが手ぇ出せないもん
ボクシングにおいて、選手の入場時。
ローブというか、選手が羽織っている派手な外套があるのだが。
リングに上がるとともに脱ぎ捨てて肉体を露にする―――というのは
試合中継などでも行われているパフォーマンスの一種であろう。
千石はそれを羽織っていた。
が、その上着の隙間。
首元、襟部分からへそにかけて―――肌の色しか見えなかった。
あれ、上半身………あれ、布があるはずなんだが
変だな、見えないぞ。
「ボクサーパンツだけ履いて来ちゃった………」
「ドジっ子とかいうレベルじゃないぞ!」
「でも、男の世界だし」
「暦お兄ちゃん、覚悟!!」
地面を蹴る千石。
ああ、もう―――。
そんなバスローブだけみたいな格好で振りかぶったら見えるでしょう、色々―――と
全力で咎めたい気持ちになったが
とりあえず目をそらした。
くそう、神原の仕業だな。
時点で妹たち。
千石に色々間違った知識を吹き込みやがった。
そうでなければ千石が、こんな新型の痴女のような格好で
僕の目に立つわけがない。
「えいっ!」
思いのほか威力があった。
しかし参った。
直視するわけにもいかない。
「千石! やめろ―――」
「どうして!」
「服! 服を着ろ! ちゃんと!」
まずい。
目をつぶらないといけないから、当然の如くまともな防御ができない。
千石の衣擦れの音を聞いて、それで対応するしか………
できるわけがない。
端的に言うと、けっこう痛い。
「えいっ―――どうして? えいえいっ―――
私、『はじめの一歩』も、『明日のジョー』も読んだんだよ―――えいっ
だから―――」
「そういう問題じゃないんだよ!
服ぅ! 服ぅ!」
「フック?」
右下腹部に刺さった。
「ち、違ぁうぅ………」
違うよ千石………。
「暦お兄ちゃんなんて大っ嫌いだよォ!」
突然覚醒し、戦闘中に急激にパワーアップした千石が
僕の頭部をぶっ叩いた。
たまらず吹っ飛ぶ。
口からはマウスピース。
僕と一緒くたに吹っ飛んだ先には、頑丈なロープ。
リングの隅に叩きつけられた。
ドラゴンボールばりに吹っ飛んだ。
燃え尽きたぜ、なんて言ってられない。
身体中が痛い。
燃えるように痛い。
喉もカラカラだ。
リングを囲む頑丈なロープの弾力に身を預けて、体力を回復………できるだろうか。
「ぐ、ぐう―――」
「阿良々木くん、頑張るのよ」
「ぐ、うう………」
「阿良々木くん、新しいマウスピースよ………あらごめんなさい、これ
メリケンサックだったわ。
うふふ―――でもこれはこれで、阿良々木くんにはお似合いよね。
口の中に詰め込んであげるわ」
「も、もが………も、」
「文房具の方が良かったかしら―――でもここはリングの上だし
使うアイテムはそういうジャンルのほうがいいわね、
郷に入っては郷に従え。
大丈夫よ、私もそれくらいの空気は読めるわ」
一番空気の読めそうにない人が来ちゃった。
「歯を食いしばりなさい」
食いしばるも何も、だったらマウスピースを取るなよそのためのアイテムだろ、と
反論する前に、平手打ちを入れられた。
何が何でも殴られ続けるらしい。
パターンに入っている。
グローブとは違う質のダメージ、痛みが走る。
「ぐっ、あああ、あっ!!」
「あら、グローブを付け忘れていたわ―――いけないわ、私ったら」
リングの上での立ち姿が格好良い。 ヒール ヒール
我らがヒーロー………なわけがあるか、悪役中の悪役。
戦場ヶ原ひたぎさんである。
「しかしボロボロになって戦う男って、素敵よね。
惚れ直しちゃいそうだわ」
「だったら叩くのをやめろよ!」
「そうはいかないわ。
完全にこの流れは阿良々木くんを好き勝手にいたぶるパターンだから、
私だけが浮くわけにも行かないわ」
ガハラさんのボディーブローによって、身体が浮かされる。
「ぐはっ」
もう何回目かわからないが、宙に舞う僕。
「今よ―――、神原」
そう、戦場ヶ原のつぶやき。
「承知したっ―――申し訳ないっ 阿良々木先輩!」
滞空している僕の更に上で、待っていた。
舞っていた―――僕の可愛い後輩。
「一つ言い訳をさせてもらうならば、私は叩くよりは
叩かれる方が好きだ!」
「それ言い訳じゃなくてお前の性癖暴露だろうが!」
赤いグローブを、ダンクシュートのごとく叩きつけられた。
影縫さんだったら死んでたな
「いえーい、ピースピースー。
やあ、鬼のお兄ちゃん。
これはマウスピースとピースをかけた新型の持ちネタさ
すごいだろう、たった今思いついたんだ。
いえーい」
「え?うちもやるん?
なんや知らんけど、まあええか、殴っとこ」
童女式神と陰陽師のダブル攻撃を喰らった。
いや、コメントが………
もうお前ら、適当すぎるだろ。
僕はリングに突っ伏し、灰になった。
場所は変わって。
っていうか、現実に還って。
阿良々木家、お兄ちゃんの部屋にて―――。
「おーい、おーい兄ちゃん、起きろー」
ばっしんばっしんと。
もう百回くらい、火憐ちゃんはお兄ちゃんの頬を往復ビンタしていた。
結構勢いよく、手首のスナップを効かせた攻撃をしている。
火憐ちゃん、手加減がない。
お兄ちゃん、早く起きないとマズイと思うよ。
今日はここまで。
乙
ばっしんばっしん、と僕をビンタする火憐ちゃん。
ばっしんばっしん。
ばっしーん、ばっしーん。
痛い。
痛え。
かなり本気だこれ。
本気っていうか、これがこいつの、火憐のデフォルトのパワーなんだ。
そうなのだろう。
気絶し倒れている兄に対して全く手を抜かないあたり、その心のネジの外れ方
も含めて。
阿良々木火憐なのだろう。
にしてもこれはあんまりである。
僕の両頬が腫れ上がってしまう。
こんな調子では。
風を切る音まで聞こえるんだが。
幕之内一歩張りにラッシュを繰り広げてくる。
頬を殴られてるのに、衝撃が首、肩あたりまで及ぶ。
どんだけ振りかぶってんだよ。
なに?
なんか僕に恨みでもあんの?
「なんだっけ―――『汝、右の頬をぶたれたら左の頬を差し出せ』だっけ。
左の頬も差し出せってやつ」
「火憐ちゃん、その言葉はおそらくキリスト教の教えだったと思うけれど、でもそれ
お兄ちゃんを永遠に往復ビンタすればいいという意味では、決してないよ。
ないと思う」
「えー、じゃあどんな意味だっけ」
「何かやられてもやり返すな―――っていう意味なんじゃなかった?
報復しようという考えが間違い、とか。
でも解釈とか派生がいくつもあるらしいけどね」
「ふうん、あたしとは―――あんまり仲良くなれねーっていうか
ちょっとついていけねーところがあるな」
お前にこそついて行きたくねーよ。
危険すぎ。
なんでキリストに対して、主に対して超絶上から目線なんだよ
おかしいだろ。
月火ちゃんもこれにはにが笑いのようだった―――。
まあ僕はまだ意識がぼんやりと霞がかっていて。
半分寝たような調子だが、でも妹の表情って容易に想像がつくから
嫌になるくらい見てるから仕方がない。
ああハイハイ、わかったよ、と。
さっさと流したいくらい。
「私はキリスト教じゃないし。
クリスマスは好きだけど。
多くの日本人と同じで―――私も日本人気質っていうか、
宗教とか」
「兄ちゃんの方が詳しいかもな」
「えっ、そうかな」
「兄ちゃん最近よくわかんないことばっか言うから………ほら
怪奇現象だったか妖怪だったか」
「あー、そういうこと………。
そういえば確かに思い当たるところはあるけど
お兄ちゃんがおかしくて友達いなくて人間離れしてるのは
今に始まったことじゃないし―――」
「ああ、兄ちゃん自体がもともと人間離れしてるけどよ
ここ一年くらいは本当にすごいと思うよ。
誰かから教わってんのかな」
「さあ………確かに変な知り合いがいるとかそんな噂を聞いたこともあるけど。
っていうか金髪幼女とミスドにいたって話なんか
何度も聞いたよ」
やべえな、バレかけてんぞ、忍。
まあ風呂シーンのアレの影響もでかいのだろうが。
ていうか見られてたのかよ。
あの時。
たぶん貝木と会って影縫さんとか余接ちゃんの情報を聞いた時のアレだよな。
まあ―――見られてる、のだろう。
ミスタードーナツであんな目立つ奴らと話し込んでたら
そりゃあ噂にもなる。
「火憐ちゃん、次は何か別の方法をお兄ちゃんに―――心臓マッサージじゃないかな
そう、例えば心臓マッサージ」
「お、おおおう、そうか」
「あ………いや待って、私がやる。たぶんそのほうがいい。
私がやんないと死んじゃう」
「ん? まあいいけど―――え、あたし、ダメか?」
「ううん、強いて言えば消去法かな―――」
おそらく火憐ちゃんのパワーでは、武術的な要素を孕んだ本気パワーでは
僕の心臓がさらに痛めつけられることになりかねないという配慮だろう。
月火ちゃん優しい。
これほど優しい月火ちゃんは滅多にいない。
妹という生き物は、常に兄に厳しく面倒な
本当にどうしようもなく目障りなものだ。
まあ、しかし火憐ちゃんの攻撃が止むことについて
それには甘んじるとしよう。
もう僕の頬は、顔面はボコボコなのでこれ以上は無理………。
ダメージは避けたい。
ダメージを避けること以外考えたくないくらいの段階である。
ということで月火ちゃんは心臓マッサージをするべく
兄の、つまりは僕の上に跨がったのだった。
………跨がる必要はないと思うけどなあ。
おつ
「遅いよお兄ちゃん」
月火ちゃんは言う。
「いつまで待たせるの」
「おいおい月火ちゃん、だから兄ちゃんは今、気絶してるんだろ」
「わかってるよ。 でもお兄ちゃんはは気絶するならするで
もっとちゃんとすると思うけど―――なんていうか、私たちにボロを出すような真似はしないと
思うけど」
「いや、結構出してるぜ。 丸出しだぜ、尻とか」
「臀部ね」
「しかし締まってんなー。 やっぱ女のあたしよりいいケツしてるぜ、兄ちゃん」
「………」
「とにかく、蘇生だよ。 お兄ちゃん」
左胸に耳を押し付け、聴力検査―――じゃない。
心臓の音を聞く。
「うん、やっぱり動いてるよ」
「兄ちゃんのケツがか?」
「違う。 兄ちゃんの心臓が………なんでお尻にこだわるの」
「いやあ、鍛えれば拳法とか覚えれそうだなーって思ってさ
兄ちゃんやらないのかな」
「………確かに、腹筋とかすごいよね」
「確実にいやらしくなってるよね、お兄ちゃん
いっちょまえに、身体だけ成長しちゃって。
フェロモンバリバリ出しちゃって」
「やっぱ鍛えてんのかな」
「知らないけど………あれ、なにか忘れてるような」
「ん?なんだっけ」
「そうそう、お兄ちゃんの意識を戻さないと。
蘇生、行動。 救助活動」
「ああ、マッサージだな」
「そうそう」
心臓マッサージ。
月火ちゃんは心臓マッサージと言った。
僕は意識がおぼろげながら回復しつつあるし
心臓も動いているから―――月火ちゃんが言った通り、確認したとおり。
だからほおって置かれても実際は問題もないのだが。
さっきまでのように火憐ちゃんの連続ビンタよりは遥かにマシである。
その場限りの思いつき、断想であろうと有難い。
あやかろう。
月火ちゃんの発想に。
「胸のあたりを押せばいいんだよね―――いいんだっけ」
「ああ、両手でやったほうがいいぜ。
間違ってたら訂正するよ
道場で何回か―――年に一回くらい?
習ったから。
何かそういうこと、もしものことがあった時とかのためにさ」
「そっか、じゃあやるね」
と、月火ちゃんは僕の上に股がる。
学生時代に避難訓練をやったことがある生徒、児童は多いと思うけど
交通訓練も、小学生の頃はそういえば
毎年やっていたなあなんて思うけれど
こういうライフセーバー的な試み、救助活動を経験したものはどれだけいるだろう。
同年代の中では知識が豊富な月火ちゃんではあるけれど
「つ、これは、結構………」
何回か心臓を押してから、荒くなった息を吐く。
弱音も出てきそう。
「重労働じゃない、これ」
「んっ、んっ、んっ」
「もっと思いっきり、ぐいっと―――思いっきりでいいよ
やりすぎかもってくらいじゃないと、心臓まで届かないし」
と、火憐ちゃんのアドバイス。
「はあっ………、んうっ………」
息継ぎする月火ちゃん。
心臓だいじょぶなひとにやったら
心臓だいじょばなくなっちゃう
「んっ、んっ、んっ」
兄の上で、両肩と、頭部を上下させる妹。
救助活動だ。
なんの変哲もない。
心臓マッサージというものは、何しろ日頃からやる機会もないので疲れやすい。
月火ちゃんも例外ではなく、慣れない重労働に体力を削られるようで、すぐに息が上がった。
火憐ちゃんと違って、バリバリの文化系部員だしなあ。
へとへとになって僕の上に、くたりと倒れる。
髪が首筋に乗って。
くすぐったい。
月火ちゃんの熱い息が首と耳にかかる。
救助行動の過程で副産物。
纏わりつくものは、
先のベッドの上で感じた湿度と同じ。
僕はといえば、月火ちゃんの献身に対しての僕の態度はといえば、なんのことはない。
起きるタイミングを完全に失って、どんな顔をして妹に言い訳をすればいいか
考えるといろいろと怖い。
怖かったので、
だから一言で言ってしまえば、寝たふりである。
目を開けてないから断定はできないが、肩がはだけている。
着物なので致し方ない。
いつものあんな、乱れやすいですよと公言しているような服装で
運動をしていればだんだん脱げていくに決まっている。
当たり前と言えば当たり前である。
ファッションリーダーなんて気取っているからこういうことに、
と兄としては言わざるを得ない。
立場的に。
「あっ、そっか」
月火ちゃんが僕の耳元で囁く。
「人工呼吸、しないと………」
ワッフルワッフル
耳元で湿った吐息混じりに言うものだから、違和感、間違っている感を拭いきれない。
が、救助行動ではあるし、あまり言いたくもないが
僕の体調は、あまり―――というかかなり悪い。
起き上がるのは辛い。
おとなしく従おう。
仕方がないし、問題もない。
都条例にも引っかからずスルーできるだろう。
「待って、月火ちゃん」
と、いいところで口を出したのは火憐ちゃん。
「あたしさっきから、役に立ってないじゃん。何かしないと、あたしの気がおさまらねーぜ」
火憐ちゃんが水を差しやがった。
ファイヤーシスターズなのに水を差しやがった―――とか言いたくなるくらいには、
その程度には腹が立った。
「じゃあ火憐ちゃん、やる?」
「よっしゃあ、承った」
まあ、これはこれで………。
「っていうか月火ちゃんは、人工呼吸とか、実際やり方知らないだろ」
「まあ、そう言われると弱いかも、私、気道を確保するくらいしか―――」
「私がぐわーっと兄ちゃんの胃に、空気を、酸素を送り込んでやるよ」
「えっと………肺に送ろうよ、酸素は」
「おお、オッケー、バシっとひと思いにやってやるぜ」
「うん、私が人工呼吸をするとなんか都条例的にアレだしね」
「ん、何それ」
「誤解っていうのも変かな……ほら私、テクニシャンじゃない?」
「あたしよりは器用―――だと思うけどな」
「私の舌使いのスキルが凄すぎて、多彩すぎて多才すぎて、お兄ちゃんが
私に対して本気になるかもしれないじゃない?
誤解して本気になっちゃいそうじゃない?」
「なるほど。 一理あるな」
いや、なるほどって………あるのは恥くらいだろうよ
理性の欠片も感じないよ。
それにしてもすごい自信家だな。
確かに火憐ちゃんよりお前の方が器用なイメージはあるが。
えっ、何お前。
もしかして日頃から口元の貞操が緩いのか?
いや、僕に言われたくもないだろうが
お前が言うな、だろうが。
兄として心中穏やかではない。
なんでだろうな、いざ自分の身内がこうなると、こういうことを言い出すと
どうも無意識のうちに利き手を前に出して、肩をつかみたくなる。
そんな衝動に駆られる。
「確かに月火ちゃんのキスはすげーからなあ。
女の私でも、骨抜きにされそうだったぜ」
「でしょう?」
………。
多くは聞くまい。
拒絶だ。
脳が、あと良心が拒絶する。
「よーしそうなったらじゃあここは私が一肌脱ぐぜ。
月火ちゃんはもう肌蹴てるけど私も脱ぐぜ。
やってやる。
器用じゃないけど気付けにはぴったりだろ」
「いや、火憐ちゃんも駄目」
「なんで?」
僕からも聞きたい。
なんで駄目なの?
僕、火憐ちゃんとキスしたいよ。
「火憐ちゃんの貞操が奪われるのを我慢できない。
看過できない。
いや、今は看取っている立場ではあるんだけど、だからこそ、
行き過ぎないようにする」
「じゃ、あたしは誰とキスすればいい?」
「なんかマクロスのオープニングの出だしみたいだね」
僕もそれ思った。
まあこの歳から深夜アニメのオープニングなんて知ってるのは良くない傾向だろうが。
今更言うまい。
「間を取ろう」
「アイーダ?」
「私とキスしよう」
「おお、なるほどその手があったか」
「目、瞑って?」
「こう?」
「ん………いくよ?」
なぜそうなる……
ここで僕が、ああ妹が。
僕の妹は男性に対して無闇に唇を捧げるようなことをしなくてよかったなあ
女の子同士でキスくらい普通だよなあ―――。
なんてことを思うと思ったか。
んなわけない。
「何やってんだ、お前らは!」
がばっと起き上がった僕は妹二人にビンタをくれてやった。
ちょうど二人とも並んでいて、二人とも目を瞑っていたもんだから
意外と綺麗に入った。
「ぎゃあっ」
「わきまえろ! 桜トリックか!」
「お兄ちゃん、生きてたんだね」
「おお、ゾンビ―――じゃない、生き返った!」
感嘆する、しているらしい妹たち。
「お前らにはまだまだ言わなきゃいけないことがある
お兄ちゃんは、だから生き返る」
「言いたいこと?」
「キスはやめろ―――ああ、抱き合うな、ほら、やめろ目のやり場が………」
「お兄ちゃん、キスに関してお兄ちゃんが口出しできるところなんてどこにもないんだよ」
「そうだぜ兄ちゃん、なんか最近のアニメは百合押しらしいじゃないか、聞いたけど」
「変なテレビの影響を受けちゃいけません!」
都条例とかBPOだか、最近は厄介なんだよ。
お前らが生まれた頃は児童ポルノ法すらもなかったんだろうけどな。
「ていうかお兄ちゃん、お兄ちゃんのせいだよそもそもは―――
お兄ちゃんが変な断末魔だか鳩が豆鉄砲くらったような声を上げるから」
「そういえば兄ちゃんだったな、奇声もそうだし
ケツを出してたのも兄ちゃんだ」
「そ、それは―――」
さあてどうしよう。
「まあいつものことと言ったらいつものことだけど」
「やってないよそんなこと!」
「いいや、いつものことだね。
お兄ちゃん何かあったらすぐ脱ぐし」
「動きやすそうだよな」
「なっ―――」
これには素直に驚いた。
豆鉄砲を食らった。
僕はいつも、妹たちの家庭内での節操のなさを嘆いていたけれど
それの対応に苦慮していて
こんなでも異性ではあるからか、強く言えなかったけれど
実際のところ灯台下暗し。
自分のそれ、服装に関しては考えたこともなかった。
なんてことだ―――。
服を脱ぐ癖、まともに着ない癖
それらは全て僕から培われたものだったのか。
僕としては後悔を禁じえない。
こういうものは、仮に引っかかって逮捕されるとしても僕だけだろうと思っていたが
知らないあいだに妹に感染していたとは。
そして僕はといえば自分を棚に上げ、目も当てられないとか嘆息していたのだから
これはもう笑い話だ。
こうなると僕が何度言っても聞かないところは、当然の帰結にも思えてくる。
「いや、笑い話ならいいと思うよお兄ちゃん」
「そうだぜ兄ちゃん、笑えばそれ以上にいいことはないんだぜ」
子供は楽でいいよなあ。
「世の中は色々と嫌な事件が多いからね、とにかく今の日本には笑いが必要だと思うよ」
月火ちゃんの言うことはもっともだけど、時にはびしっと決めないといけないんだ。
「あたしは嫌なことがあったらとりあえず前蹴りの練習するけどなー
身体動かせば嫌なこと忘れるっつーか
どっかに置いていけるぜ」
発想がフィジカル中心である。
「ていうかお兄ちゃん、いろいろごまかしてるでしょ」
「え、何が?」
「だから、半裸で倒れていたこと―――その件だよ。
何か侵入者でもいたの?
この家に。
私たちの敵に、何人か心当たりがあるといえばあるんだけど―――」
「心当たりあるのかよ」
本当にこいつら、友達は多いらしいが
ちょっと考え直したほうがいい。
こいつらは極端だけど、友達が多ければ困ることだってあるのだ。
「いや、敵だよ敵―――心当たりっていうか
できればあんまり心の中に入れたくない連中ではあるね」
「今度こそ倒したいぜ。 スピンオフとか短編集とか、描かれないねーかなー。
ファイヤーシスターズの活躍」
「馬鹿を言うな。
僕でさえ、語りは毎回うまくいってるか伝わってるか
怖いところなんだ」
予告も予告に出来ない中学生に任せられるか。
さあて、それはそうと、僕が半裸で部屋に倒れていた事実に関してどう言ったものか
そう説明したものか
まさか忍のことを言うわけにもいくまい。
「あれは―――」
言わないと駄目かなあ。
なんでもいい。言え、言っちゃえ僕。
大丈夫だよ妹は馬鹿だから。
ぶっ飛んでるから。
何言っても信じるって。
と、考えても、半裸で―――あんな状況、そうそうあるまい。
パンツはいた方がいいのか?
「お兄ちゃん、敵はいたの?結局」
そろそろ妹たちにも教育が必要だ。
お前らが考えるような敵はいないと―――しいて言えばそんな
ふざけた考え方、自分が敵だと。
「敵はいない―――お前らが考えてるようなぶっ飛んだ話じゃないんだよ」
言ってから、ああこんなこと言うと火憐ちゃんなら
そいつらを突き止めて私がぶっ飛ばしてやる、などと言い出すんだろうなあ
そんなことを思いながら―――。
妹の思考回路はもう、毎日考えないといけないしな、大げさな言い方かもだけれど。
「別にいいよお兄ちゃん、言い訳なんて。
私はもう、お兄ちゃんの痴態について触れたくはないんだから」
「そうだぜ兄ちゃん。 兄ちゃんのケツになんて興味はもたねえぜ」
………。
半裸、裸ねえ。
「神原、の―――」
口に出してしまった。
「神原が言うところの、半裸健康法だ」
ごめんな神原。
持つべきものはやっぱりいいわけに使える友達、いや痴女だ。
「神原さんの?」
月火が思いのほか真っ直ぐな目の光を向ける。
「まさか兄ちゃん―――」
さらに続けたのは火憐ちゃんだった。
火憐ちゃんの方が神原との付き合いはいい―――というかもう
師匠と弟子のような関係になりつつあるはずだな、そういえば。
「兄ちゃんが、あの―――神原先輩が設立した『裸族の会』の
会員ナンバー00、最初期メンバーだっていうのか!
そうだったのか―――いま得心がいった!」
既にそんな会が作られていたらしい。
意外とうまく人に罪を擦り付けることができたようだが
いや、なんだよそれ………
やめてよホント、
なんでそんなのあるんだよ。
「神原先輩が誘ってくれたんだ」
「いや、僕は―――」
「なんだ、そういうことなの」
月火ちゃんも信じるのか。
神原の影響力、相当だな
「会員ナンバーで言えば後輩だけど、あたし、兄ちゃんに負けてばかりもいられねーぜ」
「お前も入ってんのかよ………」
神原先輩ぱねぇっすね
ちょっと入会手続きしてくる
保守せねば
深夜VIPは鯖落ちしてないのか
保守
なんか2ちゃん鯖落ちしているんだが
またチョンのF5攻撃か?
保守
ファイアーシスターズはおれの嫁
携帯電話が鳴る。
その着信音は、くぐもっていた。
多くの布に阻まれ、所有者がそれに気づくのに少し時間を要した。
音声が聞こえにくいのはポケットの奥に入っているから、というわけではない。
その程度のレベルではない。
携帯電話は、制服のスカートのポケットに入ったまま、部屋に敷かれた布団の
さらに下に無造作に放置されていた。
埋葬に近かった。
ひどく散らかった部屋だった。
阿良々木先輩の部屋ではない。
阿良々木家の部屋ではない。
阿良々木先輩は、この部屋を評価するにあたって様々な表現を使った。
まあ、私はどんな評価をされようが、今から片付けるんだからいいじゃないか、
くらいにしか脳の意識にかすっていなかったのだが。
阿良々木先輩は面倒くさそうに言う。
「片付けてくれる、な? モノの墓場だよな、この部屋って―――」
そうは言っても分別の手を止めないあたり、阿良々木先輩なのだが。
「モノの墓場?」
「そうだ」
阿良々木先輩の語彙は、やはり吸血鬼っぽくなってきているなあ、なんて。
そんなことを思った。
「ピラミッドなんかで、クフ王の埋葬されている部屋………王室みたいだな」
「たぶん玄室だな」
「そうそれ! 玄室のようなものだな!」
「お前の前向きさには呆れるよ、毎度毎度」
そしてなんでクフ王限定なんだよ、と先輩。
さてなんでだろう。
適当に言ったとしか。
そういえば棺に入っているイメージがあるな。
古代エジプトの王族も
吸血鬼も。
吸血鬼は棺桶か。
………同じか。
「まあピラミッドはたいてい墓場泥棒に荒らされている、研究者が訪れる前に
金目のものがなくなっている例が多いんだってさ。
そういうところ、確かにこの部屋に近しいものがあるな………」
私の先輩はそんなことをごにょごにょとつぶやくのだった。
「しかしどうだろう、阿良々木先輩。
自分の部屋で宝探しできるというのは、かなりのお得感が感じられないか?」
なんてことを言ってみたら
阿良々木先輩は力なくうなだれた。
そのあと何の話をしただろう。
先輩が元気になるような話題を私なりに考えたりしていたのだが。
そんな気がする。
例えば「吸血鬼」という設定は、BLでは結構あって
私も美味しい展開だと思っていて
合法的にオトコがオトコに優しく噛み付いたりできる展開なのだよ、といった
まあ雑学みたいな解説をしたりしなかったり。
「―――あった! よおし」
ようやく携帯電話を見つけたので、回想を終える。
布団の下からスカートごと引っ張り出す。
やれやれ、脚力には多少の自信があるが、こういうこと―――聴力となると
私もまだまだだな。
「エロ―――じゃない。 もしもし、エロ奴隷の神原駿河だ
「なに? 阿良々木先輩が? ふんふん、様子がおかしい―――いや、それは
「しかし月火ちゃん、
最近ちゃん付けで呼ぶようになった。
まあ年下の女の子なので、別段おかしいというほどでもない。
本人も「私の可愛さが際立つし」と、
前向きな姿勢で応じている。
「月火ちゃん、阿良々木先輩が常人をはるかに凌駕しているのは
前々からわかりきっていることじゃあないか
「私も先輩に習って、模倣って、聴力を鍛えるために―――ほら
先輩は前にも、100m先の幼女の喘ぎ声すらも―――
「なに―――倒れた?
「まさか命の危険が―――いや、先輩はああ見えて、死の危険とも何度か対面を、
それはもう百戦錬磨だ。
「場所を、状況は―――
「な、
「尻を?
「尻を?ケツの尻か? ケツの尻で合ってるか? 別の尻か?
「siriじゃない―――
「どんな出し方だ
「なっ―――ま、まて、触るな! 触らないでください! 現場保存!
「私が行くまで待って―――
「何者かに襲撃され半裸の状態で気絶、という状況で?
ああ、そうか?
うん?
うん、同人誌とかでよくあるアレな感じか?
うん、うん―――
「お、おおおおおおッ―――!」
「うおおおおおおっ」
纒流子の如き力強いシャウトを決め込んだ後、私は走り出した。
神原駿河、出陣である。
裸族の会、その会長であるところの私が向かわないわけには行かない。
この神シチュエーション。
ちなみに名誉会長は阿良々木暦氏だ。
今日はここまで。
ss速報見れませんね、私だけじゃなかったみたいです
どうしたんでしょう
書きかけあったのに。
外部攻撃を受けた
ハード交換するとか
暦お兄ちゃん特に何もせずとも名誉会長だった
物語シリーズ全部読んでなかったけど、炎姉妹には彼氏いなかったっけ?
彼氏がいても兄とエッチするぐらい普通だろ
兄ちゃんに似た彼氏だな。あと彼氏ができるまで告白は「兄ちゃんが好きだから」で断ってた
兄ちゃんに似た彼氏だな。あと彼氏ができるまで告白は「兄ちゃんが好きだから」で断ってた
連コメすまない
>>159
いるけど、どっちの彼氏も暦お兄ちゃん似らしいので、結局あの姉妹もブラコンなのよね。
素晴らしい
うむ
支援
>>164いるみたいだけど特徴と暦に似てるってところからして火憐と月火がお互いを彼氏って言ってるだけって説もあるらしいね。
>>168
それだと囮の月火ちゃんが完全にアレな娘になる
いや元からアレだけど
保守するぜ
「真面目な話をしましょう」
戦場ヶ原さんはふいに、呟いた。
何かに対して小言を言った風だ。
え、どういうことだろう。
「ごめんね戦場ヶ原さん、私の話、ちょっとおちゃらけていたよね―――
もうちょっと教養のある話をしましょうか。
じゃあ手始めに、私が最近読んだ本の話でも、どうかなあ」
「いえ、別に羽川さんが真面目じゃないというような突拍子もない話じゃあないのよ
ただ単に、もう少し真面目な話もいいかなあ、と」
「私が真面目なことが、突拍子もないっていうのは、ちょっと………」
「突拍子ないわ。 あなたが真面目じゃないなんてことになったら
全国の真面目くんが全員息絶えるわよ」
「それは、なんていうか………」
「それは買いかぶりすぎだよ………」
「絶滅よ、みんなメガネ割れて倒れるわ」
「私はウイルスか何かなの?」
「話を戻すけれど、羽川さん」
「戻すんだね、ストーリーが本筋に戻るのはいいことだよね」
「この地球上では今現在も戦争、紛争が絶えず、飢えて死ぬ人も多いわ
年端もいかない子供たちが戦争に駆り出され、泥沼のような環境に身を投じるのよ」
「そんな話してなかったでしょ!?」
どうしたんだろう、戦場ヶ原さん。
「どうしたの戦場ヶ原さん、何か嫌なことでもあったの?
慣れないSSで体調を崩したの?」
「慣れないSSという言い方がどうなのか………
ちょっとわからないけれど
確かに私が登場するSSは少ない気がするわ」
「物語シリーズモノがまず、少ないもんね」
「ねー」
「………で、本当にどうしたの?」
「別にどうもしないわ。 世界にはそういう面白くもないことのほうが多いっていうだけよ」
「………まあ」
「かと思えば、近親相姦やお尻の話ばかりしている連中もいるの」
「………」
「私はうんざりしているわ」
「た、楽しいのなら、まあいいじゃない」
「本当にそう思ってるの、羽川さん」
「考えすぎだよ戦場ヶ原さん、ちょっと、受験生だから、
ピリピリしているところがあるんでしょう」
とは言っても既に推薦が決まっている戦場ヶ原さんだ。
この台詞はファールかボールか、とにかくターゲットから逸れる形になった。
「あの子は私が育てた―――と、いうような台詞があるじゃない」
「………うん」
「あれって諸刃の剣よね。
育ててからいざ離れてみると、頭を抱えたくなることのほうが多いに決まっているわ
下ネタなんて教えなければよかった」
「………」
自業自得だと思う。
でも、それでも。
「私は、羨ましいよ………」
「え?」
「人のことを、後輩のことをそこまで想えるなんて」
私は、そういう後輩はいないから。
仮にいたとしても。
私は、人をうまく愛せないかもしれない、想えないかもしれない
いや。
かもしれない?
何を馬鹿なことを言っているんだろう。
確実にそうなんだ
「………羽川さん」
不意に、戦場ヶ原さんの視線、その焦点が私に合わさる。
いつもの、平坦な表情、何を考えているかを読み取らせないために作ったような
表情は、変わりはしないが
でも、空気が優しくなる。
「―――羽川さん、しよっか」
「え?」
え。
わろた
保守
えっ
3日以内に書く
放置して申し訳ない
はよ
「前回までのあらすじさん」
「僕の名前をハイライトみたいに―――えっと、あらすじみたいに言うんじゃない」
「失礼。 なんかもう、二つ合わせた方がいいんじゃないかって思って合体させました。
続けますよ人間のクズ」
「―――えっ急に辛辣、
原作の時点で以前から心配されていた妹さんとの一線を、SSであっさり超えてしまった
阿良々木さん。
あーあ。
あーあどうするんですかこれ
妹さんは妹さんで
ギャルゲーに出てくる子達みたいに
「最初はびっくりしたけどだんだん気持ちよくなってきたよ」
「お兄ちゃん大好き」
的なご都合主義を貫ら抜いています。
ゆけ、阿良々木暦!
都条例とかBPOとかをはじき飛ばせ!
大丈夫ですよああいった方々も、多分SS速報まではやって来ませんって
………やってきませんよね?
まあホラ………いけっ!
行けよ、手のうちようのない変態野郎が。
待ってた
「いや―――あのさ、八九寺」
「チッ」
「………」
舌打ちだ。
返事はない。
まあ、
舌打ちかあ。
女子児童の舌打ちか。
僕自身がランドセルを背負っていたあの頃に聞いていたら
ショックを受けて傷つくだけなのだろうけれど、
今はこれもアリかなって思えるのである。
貴重、レアリティはあるもんな
時の流れとは不思議なものだ。
「八九寺。 あらすじはいいんだけどさ」
「どうしたんですか。 一流のアラスジストたる私のアラスジズムに何か文句でも?」
「いや、文句っつーか………前回の続きから入るとするなら、戦場ヶ原か羽川が
出てくるところの話になるんじゃないか?」
「………わかってますよ」
「いや、絶対ってわけじゃないけど」
「わかってるっていうか、わかりすぎです。
なんで阿良々木さん、それ知ってるんですか」
「え?」
「戦場ヶ原さんと羽川さんのガールズトークを盗み聞きしてるんですか」
「………いや、」
「同級生のお二人のお部屋に盗聴器をお付け遊ばせてるんですね、わかります」
「そんなことしないって―――ってか殺されるじゃん、ガハラさんに!」
お前もあいつ怖いって、知ってんだろ。
「ああそうですか。 まあいいでしょう、ここは番外っていうか
アラスジスペースですから。
まあ阿良々木さんが妹に手を出した事実は動きませんけどね」
「なんかお前………粘るな。 ねちっこいな」
「粘りますよー。ほらナメクジの粘液のごとく!」
「ハイ! ここらであらすじ終わり! まあ行けるところまで行こうそうしよう!」
戦場ヶ原さんの現在住まうアパート、民倉荘は、こう言ってはなんだけど
かなりボロい。
言っては、というよりも設定としてそうなっている。
だから隠すも何も、ないけれど。
私はそれならそれで、
そういう状況でも物や場所は大切に扱えばいいだけというスタンスは崩さない。
分け隔てなく。
白も黒もなく。
そうするしかない。
それだけをひたすらやってきた、気がする。
病的なほど。
ただ、どうなのだろう。
こういうお部屋って、響くのかな。
大きな音とか立ててしまうと、隣の部屋に。
人の家でのトラブルは避けたいことなので、私も音を立てずに動こう。
具体的には、戦場ヶ原さんに押し倒されてマウントポジションを取られた際にも
床への衝撃をなるべく少なくし、おとなしく転がろう。
「………あら、抵抗しないの? 羽川さん」
「抵抗………は、しないけど」
いろいろと言いたいことはあるので言おうと思う。
「え、なんなの、戦場ヶ原さん」
「え、じゃないわよ。しよっか、キス」
「………」
「どうしたの羽川さん、その顔………そんな固まった表情はむしろ、私の芸風なんじゃないかしら」
「芸風、だったんだ………いやいや、そうじゃなくて!」
「ふふふ、芸風というよりも趣味嗜好かしらね」
「ごめんなさい羽川さん、なんかクレイジーサイコ的な何かをやらないと
私、ギャラがもらえないの」
「金の亡者にも程がある!」
「でも女の子同士でキスするだけの簡単なお仕事
ちょ、ちょっとマジかしら、こんなお仕事ある?
友達にキスを迫るだけでお金が、お金までもらえるのよ」
「や、やめて………ちょっ」
「先っちょだけ………! 先っちょだけだからあ!」
キスの先っちょて何なんだ。
その先っちょがダメなんでしょうに。
「嘘よ。ギャラなんてないわ。
彼氏も女ったらしだし後輩も変態だし
もう女子の唇を奪いでもしないとやってられないわ
キスしましょキス」
ダメだ戦場ヶ原さん、正気じゃない
というか、昨今のアニメ業界が正気じゃないのだ。
逸脱している―――逸脱すればいいんでしょう、という風潮が蔓延していて止められない。
しかし、転がされ、マウントポジションを取られる動き。
マズイ、動きが、プロのそれだ。
運動部に所属していた戦場ヶ原さんに、フィジカル的要素遅れを撮るのは、まあ仕方がないとして
しかしなんでこんなに人を拘束するのが上手いんだろう。
「女子を拘束することに関しては自信があるわ」
「女子限定なんだ」
「でも戦場ヶ原さん、キャラがブレすぎじゃない?」
「え、そうかしら」
「そうかしらって―――真面目な話をするとか、さっき言ってたじゃない」
「あんなのは建前よ―――建前っていうか、そうね
私も何を思って言ったのか
ストップかけるキャラが必要だと思っただけよ」
「それともこれはこれで真面目だとでも言うつもりなの?
世界各国の神話でも、同性愛や神どうしの近親相姦は珍しくないとか」
「いえ、そんなスケール大きいことはやろうとしてないわ」
「そう?」
「しないの? これはヨーロッパの方のお話だけれど
忍ちゃんの故郷ということになるのかな、神同士でも恋愛に関しては
ただしくない、禁忌を犯すような関係が―――」
「その方が人目は引けるけれど、ちょっと待って羽川さん。
お勉強会が始まるの?」
「え?はじめようか?」
「いや私はそんな」
その時、ドアが勢いよく開く。
いや、勢いよくは最初だけで、途中からは何かを思い出したようにドアが
減速したけれど。
「遊びに来たぞ戦場ヶ原先輩! いや、遊びに行くぞ先輩。
これから阿良々木先輩の家に行こうと思い、しかし独り占めもどうかと思ったので
ここは戦場ヶ原先輩にも一声かけておこうと思い………たったの、だが
「神原………ドアは静かに開けなさい。言ったでしょう」
「申し訳ない。 この前よりもゆっくり開けたつもりなのだが
何しろ精神が高ぶっている」
「………」
神原さんはここに何度か足を運んでいるのだろうか。
まあ、二人の仲からすれば、当然だろう。
「それでそれで、どういう状況なのか、これは。
お二人は随分とレズ………じゃない、百合っている最中に見えるのだが」
「意味同じじゃない」
マウントポジションを目撃された。
はやくドアを閉めて欲しい。
きょうはここまで
また近いうち書きます
ここ深夜だしsagaいらないぞ
ほしゅ
戦場ヶ原家のアパートの一室で百合が展開し始めていたその頃。
阿良々木家では家族会議ならぬ兄妹会議が始まろうとしていた。
議題は百合行為についてである。
「とにかくキスはいけない。 いけません」
妹二人を正座させ、僕は声高らかに常識を説いた。
「キス禁止。お前ら二人、キス禁止」
「でもお兄ちゃん―――」
「シャラップ」
反論が出る前に潰す。
僕の落ち度が持ち出される前に止める。
訪問販売に対して断固たる意思を持ち断るひとり暮らしの男性のように。
「でもお兄ちゃん。それって差別なんじゃないかな。
レズビアンやゲイの人に対して迫害を加える輩と、全然変わりないんじゃないかな」
「兄ちゃん、レズアニメは人気らしいぞ」
「どうしてそこまで雌同士のキスを正当化したがるんだよ………」
僕は兄として、妹同士のキスを止める責務がある。
義務とか権利とか、そういう制度から逃げ回るような不良っぷりを発揮している僕だが
まともな高校生とは言いにくい僕だが。
これだけは反射的に行える。
「妹どうしのキス禁止」
「「えー」」
えー、じゃあありません。
おお
終わり?
保守すればいいのか
「お兄ちゃん、今、大丈夫ー?」
と、言いながら月火が部屋に入ってきたのは一ヶ月後。
一ヶ月後である。
このスレのペースももはやスロー過ぎて月刊になりつつあるが
そこは今、突っ込まないでおこうと思う。
そういう話ではない。
僕はいつものように受験勉強をしている最中なのだ。
勉強しなきゃでSSも書かなきゃだと、正直やってられないよな。
やっていけないよな。
「あー、小さい妹、話くらいなら聞いてやるよー」
と、僕は答える。
まあ、そうは言っても。
妹が暇を潰しにやってきて繰り出す、よくわからない会話の相手など、してはいられないのだ。
妹とおしゃべりばっかしていたら
戦場ヶ原に睨まれるだろうし、また殺す殺すって言われるし
羽川の気分を損ねてしまうし、あわよくばお仕置きとかされたりする。
世の中そううまくいけばいいんだけど。
「なんだ、また敵対組織にクラスの子を人質に取られたりしたか」
「それはないよ」
「お兄ちゃん、私をなんだと思ってるの」
「ファイヤーなんちゃらだろ、この町のすべての不良グループよりもさらに激しい抗争を繰り広げて
いる、面倒くさい人たちだろ。
すべてのヤンキーを合わせても足りないくらいのトラブルメイカー、その片割れだろ」
「そんなことないって。 正義には悪が付随してくるだけで、私たち事態にはさほど問題はないよ。
むしろ真の元凶は現状、他にいて、だからそういう男こそ正義ヅラしていたりするんだよ」
「お前から正義ヅラってワードが出てきてもな………」
とことん説得力のない妹である。
まあいい、僕は問題集を消化するのみである。
友達がいない僕でも、最近は過去問という友人がいる。
極めて堅実な友人である。
「僕は今忙しいんだよ………。 作中でも描かれている通り、僕は受験生でな」
本当に、読んでいて正直、楽しいものではない―――。
目を逸らしたいというほどではないにしろ、砂を噛んでいるような気分にさせられる描写である。
僕だって胃がキリキリする………いや、そういうものなのだろうか。
生きていく時間の大半は、本来、そういうものなのだろうか。
読者のみなさんは僕が黙々と勉強しているシーンを見てどう思うのだろう。
なんだろうなあ、
正直エンターテイメントとしては下の下である。
ありえないといってもいい。
小説を単純にエンターテイメントとして考えるのならば、だが。
「勉強しないと怒られるんだよ、戦場ヶ原に………お前も知ってるんだろ、それくらい」
「でもお兄ちゃんが勉強しているシーンなんて面白くないよ」
そうは思わない?と首を揺らす妹。
奇しくも妹と意見がかぶるよ。
あーあ。
さあて、ここはなんとしても反論したいな。
粋がる妹をキャンセルしたいな。
「はあ………月火ちゃん、無駄な勉強なんてないんだよ―――」
いや、待てよ、普通に会話してもこいつは僕の話なんてろくに聞かないからな。
さあて、なにかビシッとしまる一言があればいいなあ
うーん………
「無駄に見える勉強、はあるかもしれないけれど、それは無駄に見えるだけで、思えるだけで。
いざという時に頼りになるのはやっぱり日々の繰り返しだよ。
―――羽川がそう言ってた」
「もう随分真面目っていうか、形式ばった型通りのことを言うようになったね。
うん、そりゃわかるよ、羽川さんが言うなら」
僕の話以外なら
ちゃんと居住まいを正して聞くんだよなあ、こいつ。
とりあえずは虎の威ならぬ羽川の威を借りるとしよう。
「僕はようやく真面目な人間になれたんだ、それもこれも
羽川のおかげだよ」
「でも文面で、全国の皆さんから見られている時にすることはないんじゃない?」
「そりゃまあ………」
「いや、これは違うか違うよね―――私の視界でするのをやめてくれない?」
思春期の妹のテンプレートみたいな台詞を。
こんなんばっか。
妹がいるという感覚って本当これ。
ドラえもんがのび太くんに対して辛辣にするのと同じ感覚、それに近い。
背は低いが、常に僕のことを見下してくる生き物が同じ屋根の下にいる―――だけ。
「………僕の部屋だぜ」
「そうだねー、お兄ちゃんが毎日一生懸命お勉強している部屋だねー」
「そうだよ。 アニメではインテリアがめちゃくちゃオサレな僕の部屋だよ」
「私の部屋の方がすごかったけどね」
………まあ、どっちもどっちである。
競いたがるなあ、こいつ
「一ヶ月後、だよね」
「ん―――ああ、でも言っとくが、後日談じゃないぜ、今回のオチ、じゃないぜ
まだまだ終わらないんだぜ」
「一ヶ月、ねえお兄ちゃん、一ヶ月って、人間何ができるだろうね」
「さあな………うん?
なんだよ、投稿ペースがもう、月ごとじゃねーかっていう文句を言いたいのか」
「それは別にいいでしょ」
「甘いな。前回の投稿が4月20日となっている。
今日は5月5日。
ああ、こどもの日か
つまりは15日しか経っていないぜ」
「リアルの話出さないでよ。 なんでちょっと必死なの」
「とにかく。 まあ何はともあれ、だ。
一ヶ月が僕にとって大切であることは確かだよ………昔よりはな。
勉強するようになってからというものの」
言いながら、僕はシャープペンシルを持ち直す。
意識を机の上に向ける。
「一ヶ月で何ができるって、僕にはパッと説明できないけれど―――でも
今までの、そうだな、勉強しなかった頃の僕と比べて
やっぱり価値が変わったぜ、時間の」
「随分立派なことだね」
「ああ。 なんで僕は、あんな無駄な時間を―――ってやつだ」
いい意味で、まっとうな意味で成長できた。
それも僕じゃなくて、羽川と戦場ヶ原の尽力の甲斐あって、なのだが。
はっはー、わかったぞ
この愚妹は、僕が更生したことに―――いい意味で変わったことに
まあ傍から見れば面白みがなくなってしまったわけだから、
一抹の悲しみを覚えて僕の部屋を訪れたというわけだ。
はは、可愛いやつじゃあないか。
はっはー、もう見透かしたもんね。
完全に見透かした。
忍野、あのアロハシャツの男はいつもこんな気分でヘラヘラ笑っていたというわけか
なるほどいい気分だな。
あいつはいつも僕のことを馬鹿にしているのだろうとそう思っていたが
なんだろう、そういうんじゃあ、ないな
あまりに平和さに―――感謝したくなる。
馬鹿にされる、か。
悪くないじゃないか
微笑ましいじゃないか。
笑いを取れるだけ上等だよ。
「お兄ちゃん、キモい笑い方やめて」
「キモい笑い方って………おっと、なんの話だっけ、一ヶ月?」
「一ヶ月かー。
一ヶ月で人間が何を出来るかなんてさ、すぐに説明できないけれど。
でも受験勉強を1ヶ月空白にしたら何が起こるか、どうなるか。
そんなのは羽川じゃなくてもわかるだろ。
火を見るよりも明らかだろう」
「そうだね………そりゃあそうか」
言いながら、月火ちゃんは。
歩いてきて、僕と問題集の間に割って入る。
僕を椅子にして座った。
「………おい」
「なに? 今更くっついても興奮もしないでしょう?
妹が密着しようとお兄ちゃんは平然と受験勉強できるもんね
できないとダメだよ」
「いかなる出来事が起きても集中力を維持できるようにならなきゃ。
そういうものが本番では必要になるんじゃない?」
「それよりもお前の後頭部が邪魔で問題が見れないんだよ」
問題が読めなきゃ勉強も試験もない。
「へー、お兄ちゃん妹と密着しているだけで興奮しちゃうんだ」
「………」
「ああ、でも服越しに乗っても、お兄ちゃんは興奮しないよね。
まるでしないよね。
だってもうお兄ちゃん、私のお尻の感触知ってるもんね、ナマで
だからこんなレベルの低いことで興奮しないよね」
「………」
「私のお尻を握ってたもんね、お兄ちゃん。
妹のお尻を。
だから今更、のしかかられたところで、足に座られたくらいで興奮とかしないよね」
「………僕は、問題解かないといけないから、用がないなら………」
「うーん、うん、あのね………用ならあるよ」
「そうかい………まあ、聞くよ、勉強しながら。
続き続き、この問題は、さてと」
シャープペンシルで、軽く問題分をなぞる作業を僕は止めない。
そんな、冷めた態度をとる僕に対して、月火ちゃんは言う。
「―――生理が来ないの」
今日はここまで。
阿良々木さんもここまでなのか。
月火ちゃんprpr
ほしゅ
チン☆⌒ 凵\(\・∀・) マダァ?
「うえええええん、助けて、のぶえもーん!!」
「うわ、ちょっと待てお前様よ」
月火ちゃんに座られて椅子にされて、あれから二言、三言、色々と話したはずなのだが。
その台詞はことごとく右から左に流れた。
何にも覚えてない。
脳の摩擦係数がゼロである。
月火ちゃんが部屋を去ってから、かろうじて対策を練ろうという気力が湧いてきた。
張本人から離れたことで、緊張から解放されたのだろうか。
とにかく、まずは伝説の吸血鬼の力を借りる。
それが僕の選んだ解決策、その糸口であった。
「いやお前様よ。 格好よく言っておるが、やってることは幼女に抱きつくことじゃろ
泣きつくことじゃろ。
いつもと変わらんではないか、こんなの」
「そんなこと言ったってぇえええ」
僕が今現在、自室で抱きついている金髪の幼女こそ。
怪異の王、吸血鬼。
いや、元・吸血鬼。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードその人である。
僕は今、その八歳児のような体躯に抱きついて妙案はないものかどうか
訊ねているわけである。
力をほとんど失って幼女になっているとは言え、伝説の吸血鬼の知恵である。
信頼できる………いや、わずかな期待を投げかける。
八歳児。
それは小学二年生くらいの女子児童に相当する。
小学二年生くらいの女子児童に相当するのだ。
「やめんかお前様、ひどい絵づらだということを自覚せいよ。
妹を孕ませた上に幼女に泣きつくな。
すがりつくな。
プライドが………お主にはプライドとか面子とかいう物がないのか、
まあないのじゃろうな」
「だ、だってえええ」
「いや、ここまで読んでこれば、このSSを最初から読めば一目瞭然
お前様が悪いじゃろ。
もうこれ、100パーお前様じゃ。
それと、のぶえもんと言うのもやめろ。
のび太くんを、儂ののび太くんを汚すな」
原作の時点でどことなくのび太くんリスぺクトの気があった忍。
どことなくという程度ではないのかもしれない。
いつからお前ののび太くんになったんだ。
あとなんだろう、その言い方ときたら
ジャニーズ好きの女子が『○○くん格好いい』とかいう時の言い方である。
「くぅ………本当に駄目なのか忍。 吸血鬼パワーで現実を捻じ曲げたりできないのか」
「ふうむ―――いや、儂も少し驚いておるところじゃ。
捻じ曲げるか………それはちょっとできんのう、流石に………
何に驚いているかって、儂にできないことがある、ということが、の。
しかもこんな身近で、お前様の家で起こったことを。
―――ああ、いや待て
お前様。
傾物語の時のように時間逆行すれば、あるいは………」
「それはもう勘弁だ。 うかつにできる選択肢じゃない」
「うかつはお前様じゃろうが、だから」
わっふるわっふる
これからの展開の進み方、それ次第では戦場ヶ原から殺されることは確実と言えた。
いや、殺されるっていうか見捨てられる―――いや、あの女は彼氏のこの行動を知り
自ら死を選ぶかもしれない。
「ううう、ごめん。
何に対してって、戦場ヶ原にもそうだけど、ごめんよ月火ちゃん」
「ふうん、まったく人間とは―――惚れたが悪いか、じゃな。
なんの小説じゃったか。
全く色恋沙汰はいつの世も滅ぼす。
人間の、その身を」
「滅びること前提かよ………それやめてお願いだから。 何か方法はないのかよ」
「うーん、国が」
と言いかけて忍は黙る。
「え、なに、国が? 国がなんだ?」
「いや、国が違えばまた話が違う、と思っただけじゃ、ほれ―――聞いたことあるじゃろ、一夫多妻制?」
「………ああ、聞いたことはね、あるけど」
「儂は人間の法律はよくわからんでな、色々と面倒じゃのう―――100キロズレるだけで
ダメだったことがオッケーになるとか。
人間というのは。
えっと、中東のあたりじゃったと思うが、
お前様が行きたいというのならば、飛ぶぞ、ジャンプで。」
「………」
一夫多妻制、まず例に出されるというか、引き合いに出されるのはイスラーム圏である
という話だと、僕も聞いたことはあるが、しかしなんとも行動力がある奴である。
重度のコミュ症だったのが嘘のようだ。
「その際はお前様よ、儂も娶るということになるじゃろうが」
「あー………その際は8歳児の姿でないのならなんとか」
あんまりロリだと捕まるからさ。
「ふむ、でもお前様よ。 国が違えば法も違うじゃろ。
8歳と結婚できるぞ」
「やめてくれ、ロリは愛でるもんなんだよ。
少なくとも日本に生まれて18年ほど経つ僕にとっては。
その価値観、完成しちゃってるんだ、もう揺るぎないラインだぜ、そこは」
「ふむ、立派な心構えじゃ」
「あれ、何の話だったっけ」
「はて、何の話じゃったかの」
「お前まで忘れるなよ―――ええと、忍と結婚するかどうかの話を妄想している場合ではなかったはず
だよ、少なくとも―――おい、ヘコむなよ忍、何をうなだれてるんだ、お前。
―――そうだ月火ちゃんだよ!」
どうするんだよ! 本当!
「それも心配じゃが、儂は投下速度の低下の方が深刻じゃと思うがのう―――」
「それはまだいいよ! 『明らかに冬っぽいスレッドタイトルなのに6月まで続いている、今更やめら
れないぜ』とか、そんな妙な雰囲気になったとかよりはマシだよ!」
「確かにそれよりは―――それは微妙な心境になるのう。
いや、それより何故そんな具体的な例を挙げてくる………」
「うああ! くっそう、忍の力を持ってしてもこの状況は打開できない!
で、でも………まてよ、まだ月火ちゃんの」
「はあ………お前様よ、儂がいて良かったのう」
「うん? 何言ってるんだ」
は、待てよ?
何かいい案があるのか?
まだ、何か。
「忍、なんでもいい、ミスタードーナツ奢るから。
100円セールの時に奢るから助けてくれ………。
いや、おこがましいのは百も承知だけど、打開案のヒントくらいはくれてもいいんじゃないか」
「セールの時にだけって………切羽詰っている時にもその、自身の金銭面を保護するスタンスは
流石というべきかどうかわからんが………まあ、助けるというわけでもないのじゃ
儂が助けるわけでもない」
「なんだよ、はっきりしない―――煮え切らないなあ!」
まさかお前、『助けない。 人は自分で勝手に助かるだけだ』みたいな
あのアロハのおっさんの口癖が感染ってしまったとでも言うのか。
「そうではないが―――」
「人の口癖をパクって使うほど虚しいものはないぞ」
「いや………じゃからな?」
忍はいよいよ説明を開始する。
「お前様よ。 お前様の両親は、『人間』なのじゃな」
「え? 何をいきなり………人間、うん、人間だろ。
当たり前じゃないか」
「そうじゃ、人間の親は人間。 決して別の類人猿でも哺乳類の何かでもない。
これは医学的にそうなっておる」
「………?」
「生物学的にじゃったかの? まあ、どちらでも良い」
「なあ忍、じゃから………」
「じゃから? 儂の口癖! パクったな!」
「いやごめん、噛んだ」
噛んだっていうか、つられただけだ。
「こほん。 ええとだな………だから今、僕は切羽詰まっていて………」
そこで僕は、すっかり緩んでいる忍の表情を見て取る。
さて、なんだか僕だけ必死になっている気がする。
しかし………いや、切羽詰まってるだろう。
なんだろう、なにか僕は勘違いをしているのか?
「儂はもはや、純粋な吸血鬼ではない」
ふいに、忍はそんなことを言いだす。
「そう―――だな」
今更何を。
「儂がいたおかげで、そのせいでお前様も人間をやめて、常識はずれの治癒能力を手に入れた。
それがなかったら今頃お前様は何度命を落としておったことか」
「ああ、それに関して、感謝はしてるよ」
と、言いながら僕は忍の言わんとしたことに気づく。
「然様じゃ。 お前様は半分、人間ではない。 半分というより―――まあ今回の場合で言えば」
お前様と妹御との過ちは。
人間同士の過ちではないのじゃ。
じゃから―――。
「なん………だと………」
はよ
ちょっと待て。
ええっと、すると………待て待て。
「え? ちょっと待て慶喜」
「確かにそれも読み方は『ちょっとまてよ、しのぶ』になるのじゃが―――
儂は徳川将軍か」
「待って! さっきは無理だっていう雰囲気出してなかったかお前!?
ちょっと待てよそうなるとあれがこうなって―――ええと」
「いやあ、失念しておったわ。
まあお前様の妹御が孕んだら、それはそれでアリじゃと思っておったが」
「………」
絶句するようなことを言うんじゃねえよ。
もっとツッコミしやすいボケをしろよ。
「許せ、妹御のことは………その心配は片付いたんじゃ」
「まて、待て待て待て………それはとりあえずお前の言うとおり
大丈夫として、でもこれから色々と問題があるだろうが!」
「何がじゃ?」
「っ………」
こいつ、わざと言ってるのか
「だから、要するにお前が言うにはその………『できない』んだろ。
そういう理屈だと。月火ちゃんに限らず、
僕はつまり………人間とはこの先」
「今のところはそうじゃ」
「今のところは?」
さっさと結論を言って欲しいという気持ちはあるが、
心臓がキリキリしすぎて辛いものがある。
ヤリ放題…だと…
「今のところはって、何だよ。
僕はなあ、その………僕のことを
めちゃくちゃ、それこそ病気みたいに愛してくる女がいるんだよ」
図らずに、語尾に熱が篭った。
熱血キャラだという自覚はないのだが、しかし譲れない点でもある。
「忍………僕はこれから先、その、子供を作れないのか」
「じゃから、今のところはそうじゃと言っておろう」
今のところは。
というと?
やっぱり無理なんじゃないか。
それとも未来のところだと、可能になるのだろうか?
「そこは原作を読み返せ、お前様よ。
あのアロハ小僧が言っておったろう。
お前様は本当に元の、素の人間に戻る方法があるという話じゃ
そう、儂が全盛期の儂に戻るという話じゃよ」
「………ああ」
確かに、その話はあった。
「儂は全盛期の吸血鬼。お前様は全盛期の単なる人間に戻り。
戻って………なんじゃ、その、儂は2時間でも3時間でも席を外すから、
ちょいとヨーロッパとかに帰ったりして適当にブラブラするから
マッハで帰ったりするから。
その間にお前様はあのツンデレ娘と、なんじゃ、ほら
ニャンニャンするなり、すればよかろう」
「おっさんみたいな思考回路だな、お前」
にゃんにゃんって。
まあ実際高齢者なんだけどな、こいつ。
「しかしなんじゃろうな、妹に手を出しておいて
そのうえ恋人まで気にかける
そのくせ恋人まで気にかける
お前様の心臓の太さには感服するわい」
「妹のことを気にかけるのは兄の務めだからな」
「………まあ、もうなにも言うまい」
ウブなしのぶちゃんカワイイ!!
全くもってどうしようもないへんたげふんげふん、どうしようもない奴だの。
「まあ、そういうわけじゃから大丈夫じゃ………大丈夫じゃと、思う」
「思うってなんだよ、おいおい―――困るぜ?
適当な考えで、今の話を言ってたのだとすれば」
「困るぞと言われてものう………お主はもう少し
痛い目にあったりすればいいのじゃ
そうじゃ、困れ
なんで儂が責められんといけないのじゃ」
「むう………そりゃあそうだけどさ、いい加減ストレスが溜まってよくないんだ。
いや、四六時中ペアリングされてお前と一緒なわけだろ、つまり」
「じゃから妹を襲ったのか」
「襲ってないよ、人聞きの悪い」
「襲ったじゃろ」
「愛があったよ、愛のある行為さ」
「愛があったとして、しかし問題がないことにはならんじゃろ
まあ、同情はするがのう。
確かにお前様とは風呂も一緒、トイレも一緒。
作中では描かれておらんものの―――アレしてる時も、
いや、流石にガン見はしてはおらんが」
「ガン見駄目、絶対。それどころかチラ見もご遠慮願いたいよ」
「でも幼女に見られながらすると興奮せんかの?」
「………まあするけどさ」
「―――いや、やっぱしないな。
お前の台詞で決定した。
今のお前の台詞で決定した。
見られて興奮しちゃってるんでしょう―――とか言ってしまったら
萎えるんだよ」
「えー、なんでじゃお前様、責められるの好きじゃろ?」
「お前さ、お前さあたぶん、僕の買った本読んだろ」
「………む?」
「正直に言ってみろ、あの安っぽいエロ本の記事を参考にしただろ」
「し、しとらんし」
「み、見ないし―――まあお主がハッスルして読書に勤しんでおれば
儂も何事かと思ってお前様の行動をチラ見したりはするかもしれんが」
「たぶんガン見しただろお前」
「しつこいのう―――そもそもああいった本に
8歳児の裸とかは出てこんじゃろ、儂によく似た娘っこは出てこなかったじゃろ?」
「当然だよ、日本はそこまでの自体には陥ってない。
っていうか見たんだなやっぱり」
「………いいじゃろ、どうせ隠し事をできるような関係でもあるまいし
いや、いいか悪いかじゃあなく不可能じゃろ、ほとんど
物理的に」
「まあ………」
「じゃからな………あっ。」
「え?」
「引っ込むわ、すまん」
すいっ、と床に落ちた影に吸い込まれる忍。
「
「ちょ、ちょっと待った、忍―――!」
言い終わらないうちに廊下から足音が聞こえ。
ガチャ、とドアが開いた。
「おうい兄ちゃーん、あたし生理が来ねえわー。
兄ちゃんのガキを妊娠したかもしんねー」
ガチャ、のあとにバタンが付いていないことに注目していただきたい。
このでっかい妹は今のセリフをドアを開け離したままで言ったのである。
僕は白目を向いて倒れそうになったが、妹を叱るのは兄の使命である。
「ドアを閉めろぉ! 廊下に丸々聞こえてるだろ!」
「え? いやあ、大丈夫大丈夫。
月火ちゃん今シャワー浴びるって言ってたし、父ちゃんも母ちゃんもいないんだよ、兄ち
ゃ………、 あー………
パ………『パパ?』」
「うああああああああ―――っ」
「パパ」
ものすごい勢いで脳が拒絶する。
幼き日に食卓に出たレバーを「身体にいいから」と食べさせられた時のような気分。
火憐ちゃんにまで手を出しておいて何故忍ちゃんには手をつけていないのかと小一時間
このまららぎさんなら、本気出せば>>41で痛がるしのぶちゃんをトロトロにできるはず
「と、狼狽えて叫んではみたが、火憐ちゃんよ」
「どしたんだい、パパ」
「改めろ、呼び方を。 僕は僕だ。 お前のお兄ちゃんだよ、厄介なことにな」
本当に。
実の妹でさえなければもっと早くに手を出せていたかもしれないのに。
まあ今はさて置き。
「心配はない。 お前は僕の子を産むことはない」
と、言ったところで火憐ちゃんが素早く僕の懐に入り込み。
つまりは間合いを詰めて、
正拳突きを入れてきた。
僕はかろうじて躱す。
まだ死にたくないので。
「なんでだよ今なんで殴るの!?」
「兄ちゃんが認知してくれないから」
「聞けよお前、人の話! 今から説明するから!」
とは言っては見たものの、どう説明すればいいのか。
先ほど忍から聞かされた理論を展開すれば、僕が吸血鬼だということは
バレてしまう。
「説明ぇ………?」
なあにそれ、といった具合に目を細める火憐ちゃん。
「説明じゃなくていい訳じゃないのか、兄ちゃん。
月火ちゃんが言ってたけど、男が『説明する』って言いだしたら
言い訳タイムが始まるから、信用しない方が為になるんだって」
「なんていうか、まず月火ちゃんも疑えよ………」
おそらくは火憐ちゃんが悪い男に引っかからないようにとの意図があっての
発言なのだとは思うが………。
そういう警戒心というか、心構えは本来なら喜ばしい。
兄の立場から見れば。
「っていうかよく避けたね」
「ん?」
「完全に腹に入ったと思ったのに………兄ちゃん、腕上げたね」
「………そりゃどうも」
吸血鬼の身体能力が役立ったというのはある、が
こいつがノーモーションで正拳突きというのは日常茶飯事なんだ、残念ながら
予想は出来るわい。
「とにかく火憐ちゃん、あれ、何の話だっけ。
………そうそう、お前は妊娠してない、安心しろ」
「ん、そっか。 たしかにつわりもないしなー」
「………」
「まあたまにはズレたりするんだろうな」
ろくに説明していないのに納得してくれたようだ。
こういうところが凄いよな、こいつ。
真似したいとは思わないけど。
「ああ、ズレたりっていうのはあたしの生理の話な。
私の拳はブレないぜ、未来永劫。
未来永劫ストレート。」
「別に補足しなくていいよ………」
っていうか経緯はなんにしろ妹の生理が止まった事実を報告されてしまった。
妹の生理周期を把握する系お兄ちゃんになってしまう。
妹二人の。
………いかん。
気持ち悪いな、問答無用で気持ち悪い兄だな。
どこのラノベにも登場できないぞ、こんな主人公。
火憐ちゃん早速信じちゃってるyo!!
「とりあえず落ち着こう、火憐ちゃん。ファイティングポーズもやめろ。
拳を降ろすんだ」
「ん、わかった」
と、三歩歩けばすべてを忘却したようである。
ベッドにぎゅっ、と座ってスプリングを軋ませた。
「他になんかあったっけ………いや、ちょっと待って、兄ちゃんを殴る用事は………」
「殴る用オンリーかよ………」
もう、めんどくさい奴だな。
「正義の血が騒ぐんだよー、沸騰石が必要だぜ。
私の80%は正義で出来てるんだ」
「残りは何なんだよ」
「んー? ………勇気!勇気20%!」
「えらく謙虚に聞こえるな、そこだけ聞くと」
落第忍者もびっくり。
「とにかくさー、兄ちゃん最近、悪いことしなかったー?」
「するわけないだろ、僕はそもそもそんな暇は………」
いや、していた。
読み返してみると僕の所業は凄まじかった。
可愛い妹を二人共手篭めにするという人間離れした行動。
伝説の吸血鬼、忍さん(500さい)もドン引き。
あ、598歳だったか。
「悪いことしなかったのか、兄ちゃん。
悪いことをした奴を見つけたって話でもいいぞ。
110番の代わりに、あたしに直電くれよ」
「そうかぁ? んー、そうだなー。
文房具を………文房具を使って僕を攻撃してくる女子がいるんだけど」
「わかった。そいつを倒せばいいんだなっ」
「ストップストップ!」
やめろ。
っていうかこの二人、意外といい勝負をして地獄絵図の死闘になりそうである。
ktkr
続きはよ
「なにか指令はないのかよ。 正義の指令。 クエスト受注したいんだよ、兄ちゃん
報酬もくれよ」
「そんなもん、そうそうあるかよ」
しかし火憐ちゃんの性格を考慮に入れると、何かをさせておくのは悪いことではない。
むしろこの状況はいいぞ?
普段何をやっているか、何の無茶をやっているかわからない妹たちの行動
(例:万引き常習犯の中学生を羽交い絞めにして捕らえ、その場で下着を脱ぎ取って盗まれた側の気持ちを理解させる等)
を僕がなんとかコントロールできる。
中学生がエネルギー過多なのはまあ、ある程度仕方ないとしよう。
何かやることを与えておくのはいいことなのだ。
「お前からもヒントをくれよ火憐ちゃん。
最近なにか、困ったことはないのか」
「んー、いま対応している事案だと………いややっぱりダメだ」
「何だ、どうしたんだ?」
「さっぱり。 目撃例がなくなってさ」
「?」
「ツインテールの女の子に………ほら、前に言っただろ兄ちゃんにも。
小学生の女子児童に襲いかかる、たぶん男子高校生」
「!」
僕はその場で号泣した。
※何でかわからない人は鬼物語を観よう!
「ど、どうしたんだ兄ちゃん、あたし、なんか悪いこと言ったか?」
「ううーーー………はちくじぃー! 畜生………」
「ハチクージ? な、なんだそれ、ラグラージじゃなくて?」
「僕がしっかりしておけばぁ………」
「おいおい、なんか、わからないけど、元気出してくれよ兄ちゃん。
あたしが相談する側だったのに………」
「うう………」
「だからな兄ちゃん、その事件? 事案?の高校生をとっとと拘束したいわけなんだよ」
「その高校生はもう現れない………現れないんだ」
「え? なんで?」
「なんででもない………とにかく彼はもう罪を重ねないんだ。
重ねることができないんだよ!」
「ん、んお?」
「大丈夫か兄ちゃん………なんか兄ちゃん、変だぞ、前から変ではあったけど」
「僕はマトモだよ、正当な人間だ………少なくとも火憐ちゃんよりもな」
「あたしは正義だぜ、正義の権化。 正義っていう言葉はあたしから生まれたんだぜ」
「なんていうか、『正義』と『まとも』って、違うんだなって最近思うよ」
常に狂ってるからな、我が妹どもは。
wktk
来てたか
期待
まだカナー
「なあ火憐ちゃん、ちなみにその目撃例ってのはどんなだったんだ?」
「ん? ああ、目撃例がいくつかあるのは、その男がこう………女子小学生に近づいて
捕まえて、それでほら、持ち上げて、胴上げみたいな襲い方をしていたっていう………」
「胴上げ………道端でだよな、するとああ、思い出したあの時か」
「え?」
「いや、なんでもない」
「大丈夫だ。 その事件は解決した………」
「本当にか、兄ちゃん」
「ああ」
解決するとは、ある意味悲しいことだ。
いや、いかんいかん。
あまりテンションを下げるのも考えものだ。
考えものだが。
「火憐ちゃん、ちょっと一人にさせてくれ。
というか、出かけてくる」
「え、ちょっと待ってくれよ兄ちゃん、家にいてくれないと、誰かいてくれないと
あたしこれからパトロールに行くんだから」
「なんだよそれ………アンパンマンかよ、お前。
いいよ、今日は僕がパトロールするから」
「えっ本当か」
「いやあ、兄ちゃんには任せられないよ。町を走って一周する程度だけど、それでも
最初はきついんだぜー。私も軽く筋肉痛になったし」
「本当にアクティブだなお前………大丈夫だよ、僕だって体力に自信がないわけじゃない」
「ん、そうかあ、そんなにやる気があるのか兄ちゃん!
じゃあお任せしちゃおうかな!」
「ああ、任せてくれ。僕がいる限り、この町の幼い女の子は安全だよ。
この町の幼女は全て僕がカバーしてみせるぜ。
まだ胸もお尻も膨らんでいない女の子の危機には全て駆けつけるよ。
この僕の性癖に賭けてな!」
「おお、頼もしいぜ兄ちゃん!
なんか怖いっていうか狂気を感じるけど、イチかバチか、任せるぜ!」
というわけで、パトロールを開始した僕であった。
なんのことはない。
ただの散歩である。
「正直、これ以上妹の相手をすると気が重いっていうのがあるからな………」
武闘派の火憐と
腹黒の月火。
怪異と関わらなくとも、もともと命がいくつあっても足りないのだ。
いや、心がいくつあっても足りないのだ。
「やっぱり現実の妹なんて、すごく駄目だな………駄目駄目だな」
「果たしてそうかな?」
「そうだよ………お前もリアル妹がいないから妹に幻想を抱いてるタイ………プ」
って、おい。
まさかの忍野か……?
「やあ、鬼のお兄ちゃん。 相変わらず性欲の強そうな顔をしているね」
「………余接ちゃん」
かつて僕が戦った(っていうか一方的にやられた)陰陽師の影縫余弦さん。
その式神、使い魔であるところの童女であった。
「いえーい、ピースピース」
「そのキャラまだ続けてるんだ」
「うん。流行るまでは、リピートしておくつもりだよ」
………流行るかなあ。
「あと余接ちゃん、僕は性欲が強いわけじゃない。
特別強いわけじゃない。
男子なんてそんなものだよ」
「おっと、ミスってセリフ一個だけになっちゃったね。
早漏なお兄ちゃんだ、いーけないんだ」
「むう、揚げ足とるなっての」
っていうか、女の子がそんな言葉使っちゃいけません。
「今更そんなこと言われても虚しいよ、お兄ちゃん。
それに僕ってほら、女の子と呼んでいいか微妙な立ち位置だし」
「え、でもほら、余接ちゃんスカート履いてるじゃん」
布の端を軽くつまんだ。
「やめろ変質者」
「ごめんなさい………」
すごい拒否力。
「今日はアイス買ってくれないの、鬼のお兄ちゃん」
「………今は金欠っていうか、そもそも僕はパトロール中なんだよ。
妹にそう宣言してきたんだ」
「パトロール? へえ、鬼のお兄ちゃんもそんなことするんだ。
アンパンマンみたいなことをしちゃうんだ。
そういえばアンパンマンも愛と勇気だけが友達だ、とか言っちゃうメルヘンな人だから
つまりぶっちゃけると、友達いないんだよね」
「そんな言い方無いだろ!? 平和とか守ってるだろうが!」
「キレないでよ………そんなにガチにならないで、ちょっと引く」
「お兄ちゃんがそんな芸風になっているんだとしたら、これはきっと
アレもやってくれるんじゃないかな、ほら、あのシーンだよ。
『お腹がすいてるのかい?僕の顔をお食べ』ってやつさ」
「やらないよ………っていうかやれないよ」
「あのシーン、冷静に考えるとかなり猟奇的だよね。
子供に見せていいのかな。
よくアニメ化できたなって思うよ」
「それは僕も思うけどな………」
パンだから問題ないのか。
「まあ、何にせよあのアニメが伝えたかったのは
小さい子はおやつをあげれば簡単についてくるっていう、性質についてなんだよね」
「一億円かけてもいいけど、違うなそれは」
まあいいや。
僕もそれほど鬼じゃない。
僕自身も、ちょうど小腹がすいたところだ。
妹たちへの対応で無駄に疲れたしな。
「この辺はスーパーが近いし、どうだい斧乃木ちゃん。
好きなお菓子を一個、買ってあげよう」
「へえ―――それって箱買いオーケー?」
「箱買いはダメだろ確実に………っていうか持ち帰れるのかよ」
「フィギュアコンプする分まで粘るっていうのは?」
「おまけをメインに据えるなよ………っていうか童女らしい発想をしてくれ。
それ完全に食玩にハマった大人だろ」
「物語シリーズ一番くじは?」
「それに関しては協力する………っていうか僕の立場だとそう言わないといけない」
「まあいい。 お菓子を買ってやるからありがたく思えよ。
最近は妖怪ウォッチのお菓子とかも出てるのかな?」
「いいや、やっぱり最近は暑いからね。
今年は冷夏だっていう話もあったようだけど、完全にガセネタだよ。
アイス一択だね。
ハーゲンダッツで結構だ、鬼のお兄ちゃん」
「私もそれでお願いします。 バニラで」
「おいおい、全くブルジョア思考なお二人さんだぜ。
子供の頃からそういうのに慣れておくとだなぁ、後々感動が薄れて………って、お、
い………」
「どうかしたんですか阿良々木さん。私の顔になにか付いていますか」
突然だが、これは後に斧乃木ちゃんに渡された手紙の内容だ。
どうも斧乃木ちゃんの今日の任務というか、僕にあった目的はこれが主らしい。
『やあ、こよみん。
私だよー、わたしわたし、臥煙伊豆湖。
君が好いている忍野メメの先輩をやらせてもらっているお姉さんだよ。
あ、顔をしかめたりした?今。
それとも頬が引きつってるだけかな。
何にせよ、君がまだ私のことを苦手としていることは、わかっているよ。
まあ、それはいいんだ。
『私も怪異の専門家だからね、こんな時でも色々やらないといけないのさ。
まあ、蝸牛―――八九寺ちゃんの事なんだけどね。
本来は無理なんだけど、
今回はSSだからっていうことで、色々とイージーモードだった。
方々に掛け合ってね。
いやあ、やっぱり原作よりも気楽でいいね。
その代わりお金は一銭も入らない―――と、貝木なら言うだろうけど。
とにかく、彼女を特別に連れてこれたっていうわけだよ。
道端で会えたら再会を喜ぶといい。
で、私に感謝して恩をしっかり返してくれると、お姉さん嬉しいな』
『これはP,S. 追伸になるけど、女遊びは程ほどにね。
いや、人の異性との付き合いに関しては、専門ではないから強く言えないけど。
正直、かなり引く。
後ろから刺されても私は知らないよ―――まあ私はなんでも知ってるんだけどね』
『あ、さらに追伸。
余接が近いうちにそっちに行くから、こよみんが度を超えた行動をした
場合は、強硬な手段で止めるよう言ってあるよ』
「八九寺ぃいいいいいい!!!!!!」
「ぎゃああああああああああ!!?!?!?」
僕と八九寺は再会の抱擁を交わしていた。
小学生の身体の感触を全身で楽しむ。
微笑ましい光景である。
そうなるはずだったが。
「その子から離れろ、変質者」
「ぶげらっ!?」
僕は斧乃木ちゃんに蹴り飛ばされた。
うん
はい
「いろんな方に挨拶に行こうと思っていたのですが、まさか
最初に出くわすのが阿良々木先輩になろうとは。
私としたことが予想を大きく外してしまいました」
「なんだよそれ、僕と会えて嬉しくないのか八九寺。
ちなみに僕は嬉しいぜ」
斧乃木ちゃんが何故か持っていた手錠で、僕は後ろ手に拘束された。
そして少女と童女が二人並んでアイスを食べている横に、僕は座る。
公園のベンチだ。
「え、なんで僕、手錠されてるの」
「それだけの危険性を持っているからだよ、鬼のお兄ちゃん」
「あ、阿良々木さん、アイスおかわりいいですか?」
「いや、良くないだろ。っていうか僕は食べてないんだぞ。
買ったけど、自腹で買ったけど手錠されたから食べてないんだぞ。
なんだよこれ………ひどくなーい?」
これ傍から見たら後ろ手に手錠された不審な男子高校生が公園のベンチに座ってるだけなんだよな……
「何なんだよ。僕が拘束されてるのに二人してペロペロペロペロ………。
アイス舐めやがって………僕を舐めろよ、舐めるなら。
お前ら仲いいよな、仲良くなってんな、いつの間にか……………年近いもんな」
「ううん、確かに見た感じ、ほとんど身長差はないようにも見えるけれど
そんなことはないよ。
あと、舐めないよ」
「そうですよ阿良々木さん。
調子に乗らないでください。
あれ、そういえば斧乃木さんって何歳でしたっけ。
私とタメじゃない気はしますが………」
「まあ僕も真宵さんも、ややこしいからねえ、色々」
「真宵さんって………さん付けされるのは初めてです」
「おそらく僕より10年くらい先に生まれているはずだよ。
先輩には敬意を払うタイプだよ、僕は………
礼儀っていうのもあるけど、やっぱり先々のことを考えると、他人は
立たせておく方がやりやすいからね」
嫌な童女である。
「なんだか年寄り扱いは嬉しくないですねぇ」
しみじみと言う八九寺。
「私。 ロリキャラで通っていますから。ロリキャラで売っていますから
先輩扱いされただけでもだめーじを受けるんですよ」
「………今のダメージって平仮名だったような」
「平仮名にするとなんだか可愛いですよね」
「それは確かに」
「『平仮名』と『ひらがな』だとかなり違いますし………
『阿良々木』と『あら☆らぎ』も別人みたいです」
別作品になりそうだな………。
他人を勃たせる…gokuri
「僕がいないあいだに二人で遊んだりすんの、お前ら」
「ええ。………LINEで知り合いました」
「さらっと怖いこと言うなよ」
と、言っては見たものの、斧乃木ちゃんの上司であるところの臥煙さんは
スマートフォンを多用していた覚えがある。
それが脳裏に過ぎった。
なんか嫌っていうか、心配になるな。
八九寺は………携帯持ってないだろうけど。
「ラインは冗談でも、私にも交友関係はありますよ、阿良々木さん」
「マジで?」
「なんだか………私が心配されているような気がしますが阿良々木さん、
私はもっと心配すべき人間を知っています。
私を含めても友人がせいぜい5人程度だとか、友達作ると人間強度が下がるとか
ほざいていらっしゃる高校生がいるそうです」
「僕はいいんだよこの際………僕はそれに、お前がいれば他の友人は
いなくてもいいくらいだぜ」
「重いです………それでいいんですか阿良々木さん。
私小学生ですよ。女子児童ですよ」
「望むところだな」
さすがロリリ木さん
そこに痺れないし憧れない!!
「まあ私も、幽霊として活動するようになってからは、限定が
解除されたといいますか………まあ、見かける方が増えたんです。
増えたのでしょうか。
体感だけど増えたと思います。で、幽霊の友達が増えました」
「ああ、幽霊の………」
なるほどそういうことね。
「ええ。 夜は墓場で運動会してます」
「そのオープニング、今の若い子知ってるかな………」
「ああ、もう通じないのかもしれませんねえ………」
素直に今の流行りを出せよ。
妖怪ウォッチ出せよ。
「妖怪ウォッチといえば、妖怪体操第一。でしたっけ」
「ああ、あのオープニング? エンディングかな。
結構話題になってるみたいだな」
「子供ウケしそうですねー。
私の歌うオープニングとタメを張るレベルです」
「お前のそういうブレない強さは好きだぞ」
「あ、小学生に告白はしないでください。 引きます」
態度が冷たい………。
「そういえば斧乃木ちゃんは?」
「もぐ?」
アイスに食らいついたまま首を傾げる童女。
思ったよりもアイスに夢中だった。
ちらりと覗く舌がバニラアイスの白に染まっている。
「いや、斧乃木ちゃんは歌とか、歌うのかなって」
「もぐもぐ………そうだね、ラストシーズンはまだアニメ化されていないし
そろそろオープニングの曲。
僕にお鉢が回ってきてもいい………って臥煙さんが言っていたよ」
「………」
あの人が言うとなんでも本当に聞こえるから困る。
まあこのシリーズ、後半になるほど斧乃木ちゃんの出番は増えて来ている気がするが。
「っていうか鬼のお兄ちゃんは?」
「え?」
「だからお兄ちゃんだよ。そろそろ歌ったらどうだい。
いつまで高みの見物をしている気なんだろう。
それとも眠れる獅子を気取っているつもりなのかな、このロリコンシンガーが」
「ロリコンでも歌を歌う権利くらいはくれよ、なんで今ロリコンが罵倒されたんだよ」
「いや、癖で言ったのと………あと鬼のお兄ちゃんが今、僕の口元を見て興奮していたような気がして」
「そ、そんなに興奮してないよ………舌がいいなって思っただけだよ」
「やはり手錠をかけておいたのは正解だったようだね。
そんなに舌が好きならタン塩でも眺めていればいいのに」
随分ひどいことを言う童女だ。
将来は立派なドSになるな。
斧乃木ちゃんが夜の運動会たと!?
ほしゅ
なんだか新展開が欲しいので、
突然だけど外伝やるよ
外伝っていうかパクリです。
『名探偵だよ!千石撫子!』
私の名前は千石撫子!
今をときめく中学二年生で探偵だよ!
撫子「身体は子供………頭脳は大人」
月火「それは怪しいね。確かにせんちゃんはロリだけど頭脳は大人じゃないよ。女子児童のそれだよ」
撫子「………」
この、少しパンチの効いたツッコミを入れてくる子は
同じ中学二年生の阿良々木月火ちゃん。
あららぎ、だから『ららちゃん』って呼んでいるんだ。
でも今は同い年じゃなくて、お姉さんみたいになってる。
撫子「そう。撫子は謎の悪の組織、 『黒ずくめの詐欺師』との因縁があって、身体が小さくなる『おまじない』を受けてしまったんだよ!」
月火「そして小学二年生くらいの身体になってしまって。
あーあ。ただでさえロリが多いのにー。
で、なんやかんやあって、今は私の家に居候しているんだよね?」
撫子「うん!」
設定はそんなところです。
平和だった町にパトカーの音が鳴り響く。
おや、今日もなんだか外が騒がしいね。
これは事件の匂いがするよ!
明確に血の匂いがするね!
吸血鬼的な意味合いじゃなく。
月火「大変だよ! 殺人事件が起きたよ!」
撫子「ええっ!? 本当なの、ららちゃん!? それはららちゃんが見た
幻覚とかじゃなくて?」
月火「うん、本当にだよ―――疑ぐり深いなあ、幻覚って」
………とにかく現場に急行しよう!」
撫子「わかったよ! 急ごう! 急げるよ!」
撫子「そうだ! 急ぐんならスケボー乗っていく? 撫子のスケボー」
撫子には今、探偵七つ道具が―――別に七つじゃないけど便利アイテムを
持っているのです。
風変わりな研究者、忍野博士が作ってくれました。
月火「駄目―――超、駄目。この前せんちゃんと二人乗りして死にかけた
じゃない。
っていうか今度こそ警察に捕まるよ、あんなあらゆる意味でギリギリな運転してたら」
撫子「そ、それは確かに………あれから撫子も練習したんだよ。
昨日までの撫子とは違うんだよ。今度こそ大丈夫だよ!」
月火「殺人現場に着く前に私たちが死んでたら世話ないよ………交通事故で。
センターラインとか中央分離帯とか三途の川とかいろいろ渡ってたじゃない………私が警部を呼んだから、警察の車で、パトカーで行こう」
その時、一台のパトカーが。
ブレーキを鳴らしながら二人の横に車体をすべり込ませる。
ららちゃんの髪がふわりと宙に乗って、
車のCMの撮影かと思った。
こんなに完璧なドリフトを決められる人はなかなかいないよ!
後ろの席のドアがバタン、と空いたよ。
―――あれ、どうやって開けたんだろ。
羽川警部「乗って!二人とも」
撫子&月火 「羽川警部!」
うわあ、女性警察官の制服すごく似合う。
アイロンがかかっている生地というか、折り目が整った服は全て似合うのかもしれません。
ううん、制服が似合うのかな。
そういえば暦お兄ちゃんも、以前からそう言っていました。
『羽川といえば制服だよな』
『制服が本体なのかもしれない。それくらい羽川は似合ってる』
という謎の台詞を残しています。
世界中のあらゆる制服が似合うのかも。
パトカーの中は取調室のようなものでした。
というのも、羽川警部からお説教を受けたからです。
羽川警部「というわけでスケボーは禁止―――もみ消すの大変だったんだ
からね!」
撫子「ご、ごめんなさい………」
もみ消してくれたようです。
警察組織の中で暗躍してくれたようです。
羽川警部「月火ちゃん、あなたも」
月火「わ、私? 後ろに乗っていただけですよ」
羽川警部「自転車の二人乗りは犯罪………まあ、タンデム自転車っていう
ものもあるけれど。でもスケートボードで交通量の多い公道を走るのは道路交通法違反よ」
撫子「そ、」
そうなんだ………じゃあコナン君の劇場版とか、あれ逮捕しないと。
羽川警部「何かあったら私を呼びなさい。パトカーで駆けつけるから」
「はい………で、でもそんな迷惑」
さながらタクシーのように利用するわけにも行きません。
「いいから………あ、もう着くわよ」
「はい………え?この辺りって、まさか」
羽川さんが車を止めたのは、阿良々木家の前でした。
今日はここまで
2日以内に書く
羽川「か、火憐ちゃん!」
現場に到着すると、本当にファイヤーシスターズの実戦担当、阿良々木火憐が倒れていた。
え、嘘………。
月火「あの火憐ちゃんを仕留めるとは、どれほどの手練か想像もつかないよ………」
撫子「ちょ、ちょっと待ってよ!本当に?」
月火 ボソボソボソ「せんちゃん、これSS………深いこと考えない………殺すよ?」
撫子「あ、えと………ご、ごめんなさい」
「心配せんでええ、気絶しとるだけやで、火憐はんは」
いつの間にかドア空いていて、壁に寄りかかっている女の子がいました。
撫子「えっ!? そ、その声は!」
八九寺「よお千石はん、久しぶりやなあ!
ウチが来たからにはもう解決やで!」
この子は八九寺真宵ちゃん。
関西の方で名探偵をやっているよ。
撫子のことをライバル視しているんだ!
撫子「わ、私に対してそういう捲し立て方はやめてよ………
撫子にライバルなんて務まらないよぉ。
そんな価値ないよ。
道端の隅っこの石ころみたいなものだし」
八九寺「自分腹立つなあ。自意識低すぎや―――まあええ。
まず状況を見てみいや、千石はん」
撫子「状況?」
撫子「そんなのもう見ているんだよ………」
八九寺「せやからお前は駄目にゃんや」
撫子「にゃんや?」
八九寺「ああ、しもうた、噛んでもうたわァ、こらあかん」
羽川「八九寺ちゃん、ただでさえ噛みキャラなのに、無理して関西弁も使わなくても………」
八九寺「そうはいきません。不肖、八九寺真宵、引き受けたキャラ付けは全力で表現いたします。
やり遂げるでぇー、ついてこいや千石はァん、儲かりまっかー?」
撫子「うん、うん―――そうだね! 儲かるんだよ!
羽川「………」
というか関西風の喋り方だったらあの、暦お兄ちゃんが言ってた
陰陽師の人の方が適している気がしますが。
『がえん』さんじゃなくて、『かげぬいよづる』さんでしたっけ。
まあ、八九寺ちゃんの元気な声は、関西キャラっぽくて
結構ハマっていますが。
ハマりキャラです。
はっきりした物言いも、共通点。
というか、波長が合うものがありそうです。
実は仲良いんでしょうか。
八九寺「ウチの影縫はん直伝や」
撫子「そ、そうなんだ………」
八九寺「大変やったでー。半端な覚え方するとすぐにド突かれるからなー
」
撫子「そ、そうなんだ」
八九寺「………それより推理や、推理。 早ぉせえ撫子はん」
撫子(………撫子はん)
八九寺「警部はん、遺体の様子はどうや」
羽川警部はいつの間にか、火憐ちゃんの横に座り込んでいました。
羽川警部「………うん、遺体じゃないね。呼吸はあるよ。
気絶してるだけみたい」
撫子「羽川さんがそういうんなら………良かった」
八九寺「なんやワレ、そりゃあウチの言うことは信用できん言うとるんかぁ?おぉ?」
撫子「ち、違うよぉ」
関西人というか、広島ヤクザみたいです。
今現在、撫子は小学二年生程度の身長。八九寺ちゃんは五年生の姿です。
つまりは、八九寺ちゃんの方が体が大きいので、圧迫感があります。
羽川警部「でも大問題といえば大問題だよ、撫子ちゃん、八九寺ちゃん。
あの火憐ちゃんが気絶している、気絶させられているというのは
下手をすれば一般的な人殺しよりも困難なんだから」
月火「確かにそうだねー」
えらく気楽そうに言う月火ちゃん。
まあ、生きてるからいいんですけどね。
でも羽川警部の言う通り。
白兵戦では軍隊に匹敵するとまで言われたファイヤーシスターズの
実践担当が地に伏している、倒れているというのは相当な事態です。
撫子「ららちゃん、わからない? 何か、手がかり」
月火「え?何言ってるの、せんちゃんもしかして、丸投げ?
一応名探偵はせんちゃんなんだよね」
撫子「そ、そうだけど………ほら、だって姉妹なんだよね?
第一発見はららちゃんだと思うし、気がついたことは
ないのかっていう………とにかく、聞き込みなんだよ。
聞き込んでるんだよ。
丸投げじゃないよ。やり込み勢だよ撫子は」
月火「いやあ、私はびっくりしてとっさに110番とせんちゃんに
連絡をしたまでで………」
細かいところは遠くに考えなかったらしいららちゃん。
………訂正なんだよ。
ろくに考えなかったらしいららちゃん。
八九寺「これは失礼、噛みました」
撫子「いや、撫子の心の声だよ、心情だよ今の………。
撫子がかんでいたわけじゃないって、変だよ。
八九寺ちゃんボイスじゃ辻褄合わないというか、おかしいよ。
変声機でも使っているのかな。
八九寺「なんにしろ、火憐はんはこりゃあ、親しい人間にやられたと考えて間違いないやろ」
撫子「え?」
八九寺「なあ、せやろ?工藤」
撫子「撫子は工藤じゃないよ」
八九寺「おぉすまんかった、ウチとしたことが………とにかく
阿良々木はんの妹、火憐ちゃんに敵意を持っとる誰かーーーというか
敵がやってきて火憐ちゃんを襲ったのなら、100パー返り討ちや。
火憐はんがウイナー。絶対勝つ」
撫子「そ、それは………」
確かにそうです。
ファイヤーシスターズの実践担当は伊達ではありません。
とりあえず彼女に勝てる人物は間違いなく有名になり、この街にその名轟
かせるでしょう。
限られてきます。
八九寺「せやからな? 犯人はもっとこう………火憐はんの隙をつける
身内、近しい人物やっちゅうことや………取っ組み合いで渡り合えな
くても、なにか薬品を使ったか」
撫子「………」
火憐さんと、よく取っ組み合いをする人物。
月火ちゃん情報ですが、お兄さん、つまり暦お兄ちゃんとはよく喧嘩をするそうです。
実際、暦お兄ちゃんへの文句を話してきたことはあります。
そしてそれが何だか、何故かはわかりませんが、お兄さんの悪口を言う月火ちゃんは、強く印象に残っているのです。
………まさかね。
そんなことはないと思いますが。
言われてみれば、思い出してみれば、ららちゃんはお兄さんの悪口を突発的に言い出し、暦お兄ちゃんもひたすら、『あいつをあんな性格のまま、あのまま成長させてはいけない』と言っていました。
私はでも、それを聞いて、その場にいない人への悪口を聞いて、そういうことは良くないよ、と思いました。
しかし、不思議と嫌な感じはしなかったのです。
何か、悪口が何もない空を通る感じといいますか。
どこかに消えていく。
正直、撫子には全部はわからなかったです。
阿良々木家について、理解などできないです。
しかし、暦お兄ちゃんが妹のららちゃんを大切にしていることはわかります。
………大切にしてるよね?
そう信じたいです。
悪い噂ばかり聞くので………
でも、噂は噂なはずで、真実とは異なるものなのです。
と、私が一人で考え込んで………そういうのは悪い癖だ、もっと周りを見なさいと
しょっちゅう注意されるのですが。
ふと、見れば。
八九寺ちゃんが火憐さんの上にかがみこんで………覆いかぶさるようにしていました。
いえ、具体的に描写すると、その特徴的なツインテールが火憐さんの顔にかかるくらいまで
近づいて………。
「ペロ、これは青酸カリ………」
八九寺ちゃんは言います。
………死なないでくださいね?
「ペロ。ペロ。」
もぞもぞと、火憐さんの上で不審な行動をする八九寺ちゃん。
「ちょ、ちょっと待って! ストップなんだよ!」
「はい?」
「色々と、いけないんだお!」
「だお?」
「いけないんだよ! 間違ったよ! 八九寺ちゃん、それは無しだよ!」
「なんでやねん」
「ん、なんでやねんって………」
しっかり関西弁で返してきました。
………というか、おかしいです、台詞がおかしいです。
火憐さんはちょっと気絶しているだけで。
その状態で。
だから、青酸カリなんていう猛毒が、その肌から検出されるわけがないのです。
まあ、毒物に関して詳しい撫子ではありませんが。
「で、撫子はん、じゃあなんの毒を使おたんや」
八九寺ちゃんは言います。
なんだか舞妓さんを呼んでいるみたいな言い方ですね。
「毒もなにも―――気絶してるんだから、当て身とかじゃあないかな」
「ん?」
「いや、なんでもないんだよ………麻酔、とかは?」
「おお! 眠らせたゆうとるんかお前さんは!
犯人は標的を眠らせてから殺そうとしたんやな!」
「いや、殺そうとしたかどうかは………」
ほしゅ
私と八九寺ちゃんがこれから推理を始めるためにっ状況捜査といいますか
そう、現場検証。
現場検証をしているいいところで、死体、いえ火憐さんが
「う、うーん………」
と、言いながら、もぞもぞと動きました。
お、起きる!
「なんや………、事件解決かいな。
あーあ、こっから結構面白くなるっちゅうところなんに
被害者が生き返ったら世話ないわぁ」
と、八九寺ちゃん。
「うん? な、なんだ? みんな集まって………あれ?寝ちゃってたか?
床で寝た覚えはないんだけどな………」
なんだか身体の動きがゆっくりというか、だるそうな様子の火憐さん。
暦お兄ちゃん曰く『野生動物のような俊敏さ』がありません。
様子を見て八九寺ちゃんは
「大丈夫かいな、まだ薬が残っとるのかもしれんな」
と口にして、ああそうなのかも、と心のなかで同意しました。
眠そうで、眼元もとろんとしている火憐さんに、ペットボトルの水を差し出しました。
「はい。お水だよ、これ飲んで」
「ん………、おおサンキュう撫子ちゃん、うう。 頭がぼんやりする………そうだ、私は眠くなって………それからどうしたんだ」
火憐さんが寝起きの水分補給を受け取ったのを確認してから、羽川さんに話しかけます。
「何か知ってますか、羽川さん」
「………え? 私?」
「知っていることは知っている、羽川さん」
「………なんだか変なキャラ付けされてるけど、」
「変? 変じゃないです。 事件が起きれば真っ先に解決しちゃう人といえば羽川さんだって、それ以外思いつかないって、暦お兄ちゃんが言ってましたよ」
「よしてよ………」
照れくさそうにする羽川さん。
「というよりも今回は探偵役が千石ちゃんなんだから、私が解決するのは違うでしょう」
「もしかしてもうわかったんか羽川はん」
と、八九寺ちゃんが興味津々。
「羽川はんって………まあ、絞り込んではいるけれど、」
「ほんまかいな!」
関西弁を使いこなす………いえ、必死で頑張って使ってる感がある八九寺ちゃん。
撫子でも違和感を感じます。
「うん、えっとね、まずは現場の状況から」
「ああ! 言わんでいい! ていうか解決するのはこの小学生探偵!
八九寺真宵や! 邪魔せんといて! これやから東京モンは………」
「………」
ちなみに私たちの住む町は田舎という設定です。
「このロリ探偵がすべてを解決してやるさかい。
人気も全部独り占めしたるから、たこ焼きでも食うて待っとれ。
電子レンジはどこや?」
言って、ピンクの巨大なリュックサックからだと思いますが、ひょいっとたこ焼きを出す八九寺ちゃん。
関西アイテム、小道具まで揃えてくるとは侮れません。
撫子はちょっと、たこ焼き、というよりたこが苦手ですが。
ちょっと食べにくくて。
おまけに甘いわけでも辛いわけでもなく。
「電子レンジって………私も知らないからなあ、月火ちゃんに聞いたら?この家のことなら………」
と、言ったところで羽川さんがある一点を見て、固まりました。
………この家のこと?
阿良々木家?
「火憐ちゃん………ッ!?」
羽川さんが驚いて声を上げます。
私も見れば、火憐ちゃんが近くにあった椅子に寄りかかり、そこから力尽きて、床に崩れ落ちるところでした。
がたん、と火憐さんが倒れる音、それだけが部屋に響きました。
すぐに月火ちゃんが駆け寄ります。
「火憐ちゃ………!」
羽川さんも追いかけて。
八九寺ちゃんは、追いかけるところを私が止めました。
「な、なんですか、なんや………どうして止める」
「八九寺ちゃん。この事件、解決したいんだよね」
「………も、もちろんや。やから今は火憐はんを」
「八九寺ちゃんか、私が解決する。
できれば私がいいよね。
探偵が解かないと、事件を。
それだったら、火憐さんが犯人を言うわけにはいかないよね。
火憐さんが、被害者が全部ばらしちゃったら事件が終わっちゃうよね。
それって、駄目だよね」
「―――何言って………いや、今そんな話」
八九寺ちゃんの耳元に、近づきます。
小学生の女の子の髪の生え際が近くて、少しドキドキ。
少し髪が細いです。
「―――睡眠薬』。さっき、水に。火憐さんに渡した水に入れておいたんだよ」
「………………そ、え、それ」
八九寺ちゃんが驚愕とも困惑とも言える表情になったその時。
がちゃり、とドアを開け、物語シリーズの主人公、暦お兄ちゃんが
「うおおおお! 火憐ちゃん無事かあ!? 僕の! 僕の火憐ちゃんが
ぁー! 無事か!?
どこだああ火憐ちゃん!」
声を張り上げながら、無我夢中、どこを見ているのかわからない、混乱した様子で飛び込んできました。
面白い
ほしゅ
ほ
ほ
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