月火「………なんで中に出したの」(341)

月火「いや、ちょっと待って、本当に何してるのお兄ちゃん、何してくれてるの」

暦「えっ………あ、いや、ごめん」

月火「ごめんで済んだら警察はいらないよ………避妊薬もいらないよ」

暦「本当にごめんって………ひ、避妊薬、とか月火ちゃんあらかじめ飲んでない?」

月火「飲んでない」

暦「………」

不味い展開だ。
これは―――不味い。

いや、不味い不味いと連呼するのはよそう。
それではまるで月火ちゃんが駄目みたいな言い方じゃないか。

そんな僕の表情を見かねてか、月火ちゃんは

月火ちゃん「なんなのその顔、もしかして不味かったの?」

暦「そんなことはないさ。 あんまり自分を卑下するもんじゃないぞ、月火ちゃん」

月火「―――私ね、ピル飲んでない」

暦「え、あ………ゴムは」

月火「だからゴムは外したでしょ? お兄ちゃんが自分で」

暦「………」

月火「自分で外して妹と行為に及んだんでしょ」

月火「中には出さないから、って約束でしたんだよね」

暦「………いや、最初は付けてただろ」

月火「―――まあ、そうだったけどさ、でも」

暦「その後。 その後―――うん、最初は覚えてるんだよゴム付けてたこと」

月火「何?記憶が飛ぶくらいの、その………テンションだったの? 妹に」

暦「うん」

徹頭徹尾そうだった。
隠すことは何もない。

月火「馬鹿じゃないの―――いや、なんだろう、もう―――馬鹿じゃないの」

さっきから枕で顔を隠し、目だけを覗かせている月火ちゃん。

暦「語彙が減ってるぜ月火ちゃん。 そんなテンプレートな返答しかできないようだったら
 単にそこら辺にありふれた萌えキャラの一人にしかならない―――僕を
 本気で糾弾する気はあるのかな」

月火「私は馬鹿に対して脳をフル活動したりはしないんです」

暦「………ふん、なんだよお前、いつも本気なんて出してねーぜ、20%の力しか使ってねーとか
 言っちゃうタイプかよ、そうなのかもしかして」

月火「っていうか、そんなにものすごい勢いで妹に対して欲情していたの? 
 ホント有り得ない―――兄として有り得ない」

暦「だって月火ちゃん可愛かったし」

月火「っ、」

暦「………」


月火「な、なにそれ、意味わかんないんだけど」

暦「しがみついてくる月火ちゃん可愛かったし」

月火「繰り返すなっ!」 ばちーん!

暦「痛い!」

暦「痛いよ月火ちゃん」

月火「痛がれ。 ………っていうか、痛いって、何言ってるの」

睨みつけられた。

暦「え?」

月火「私のほうが痛いし」

暦「………ああ」

月火「わかるでしょ?ホント………責任とってよね。 処女だったんだから」

暦「そうだな―――結婚しよう」

月火「うん―――って、オイ!」

我ながら潔がいい。
また平手打ち来るか、と思ったがそうはならなかった。

暦「そういえば血が出てたな。 あまり見ないようにしてしまったけど」

月火「うん………いや、どんだけなのお兄ちゃん………妹に、妹の身体に
これだけのことをしておいて」

暦「えっ………でも月火ちゃんだって、」

月火「なによ」

暦「月火ちゃんが、してる時にさ………『いいよぉ』って、」

月火「!そッ」

暦「『もっとぉ』だったっけ―――色々あった気がするけれど、何回も」

月火「それはぁ………! お、お兄ちゃんが強引だからぁ!」

暦「何回も言ってたよね」

枕で顔を隠しながら、しかし片目だけ出して睨んでくる。
すごい形相だ。
すごい形相なのだろう。

月火「そ、それはだから、組み敷かれて………お兄ちゃんに覆い被されて、身動きができなくて」

暦「まあ………ね」

月火「お兄ちゃんに言い寄られて仕方なく」

暦「………『心配しないで、あんまり痛くないから』」

月火「」 ピクッ

暦「『思ったほど痛くないから、もっとちゃんと動いてもいいよ、お兄ちゃん、私の』」

月火「う―――うううぅ、うああああああああああああああああああああああああッ 」 

  ばちーん!

暦「ぶホおッ! ぼ、暴力反対!」

月火「ししし、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死ん
 じゃえ、死んじゃえ、死んじゃえっ、しんじゃ

暦「言ってたじゃん! 言ってくれたじゃん!」

月火「ぼ、暴力だ………! 火憐ちゃんに言いつけてやる! それで真の暴力でねじ伏せてもらう!

暴力、いや破壊力、殲滅力でっ」

暦「いや待て待て! 死んじゃうってそれ!」

月火「いいもん! 亡き者にするもん!」

暦「全部、ちょ、火憐ちゃんに全部話せるのかよ!」

月火「!」

暦「言えるのかよ、何したか全部! 僕と何してたか」

月火「う」


月火「………何、なんなのお兄ちゃん。 私を脅迫する気………?」

暦「いや、そんなんじゃ………でもお前も嫌だろ?」

月火「………」

暦「………」

月火「嫌なのは、嫌なのはそれだけだから」

暦「え?」

月火「火憐ちゃんに、心配かけたくないだけだから。それ以外は、いいから」

暦「………」

月火「お兄ちゃんに、その………してもらったこと―――じゃ、ないから」

暦「………月火ちゃん」

月火「火憐ちゃんが帰って来る前に、片付けないと、色々」

暦「………ああ、そうだな」

月火「ていうかさ」

暦「うん?」

月火「いい加減、抜いてよ………お兄ちゃんにのしかかられたままじゃ、動けないじゃ」

暦「え、ああ―――ごめん」

抜いてやった。

暦「―――温かいんだな。 人間じゃないみたいに」

月火「………なにそれ。 意味わかんないっていうか、失礼じゃない」

暦「いや、独り言だよ、ごめん」

二人で、ベッドの上などを片付け中である。

暦「………」

月火「………」

暦「お前さ………、生理とか、今日どうなの」

月火「うわキモ。 本当にキモい。 妹の生理周期を把握していたい系? マジでないんだけど」

暦「いや、なんていうか、お兄ちゃんがキモいとか、それはもう―――」

不本意ではあるが、誠に不本意ではあるが慣れている、から。

暦「甘んじて受け入れるとしてさ、月火ちゃん、安全日だったりしない? 今日」

月火「………」

暦「あ、いや、いいんだ、悪い言いすぎたっていうか、別に言わなくていい」

月火「安全日だったら、どうするの」

暦「………え、いや、そのままの意味だろ。安全日だったら、大丈夫だよなって」

月火「安全日だったら、私をどうするの?」

暦「………?」

月火「何回も、するの?」

暦「!」

月火「気持ち悪い兄」

暦「………」

月火「片付け終わったね。 自分の部屋に戻るから、私」

暦「あのさ、月火ちゃん」

月火「火憐ちゃんには言わないでよ」

暦「言わねえよ」

月火「どうだか………言わなくても、お兄ちゃん嘘付いたりとか下手だから」

暦「………んなこと言いだしたら、火憐ちゃんなんてそれ以前だろ」

月火「まあ―――そりゃあ、そうか、そうだね」

暦「じゃ」


そう言って月火ちゃんは部屋に戻っていく。
自分の部屋に。


僕はそう言って―――すごく焦った。
月火ちゃんはそんな僕を見ずに部屋に戻っていく。

暦「………まあ、とりあえずはこれで部屋は良しと」

部屋の空気も入れ替えたし
火憐ちゃんはそもそも疑うことを知らないから
まあ大丈夫だろう。

しかし。
問題はないわけじゃない。

暦「………………言えない」

言えないのである。
言って、言って?
それで一体―――。

どうする。
どうする。
どうする。




暦「―――昨日は火憐ちゃんの中に出したなんて、絶対言えない」




今日はここまで


まあ、結論から言うと。
このあとめちゃくちゃ○○○した―――という風には、ならなかった。
残念ながら。

「兄ちゃん! なんで倒れてるんだよ!」

「あれ、お兄ちゃん―――本当どうしたの? 冗談にしてももう少し………」

妹たちの声が聞こえる。
ついさっきまで意識が飛んでいたらしい。
僕は気絶していたらしい。

が、しばらくは身動きができそうもない。
体をひねるだけで激痛が走るし、当然、忍も痛いだろう。

そう、忍―――忍だ。
問題は。



ではなぜこんなことになったか。忍が身体を寄せてきたところからだな。
身体を僕の胸に預けてきたところからだな。
とにかく、反芻開始。
記憶を呼び起こそうじゃあないか。

まあ、呼び起こすにしても―――思い出すのが怖い。
そういう記憶は、誰しも一つや二つ、あるものだ。
そして簡単に捨てられるものではなかったりする。

だから僕も頑張って思い出そうと思う。


「痛い―――痛い痛い!」

まずは忍が叫んだ。
忍の台詞である。

「大丈夫か?」

「うっ………くっ」

涙目の幼女というものは中々にそそられるものがあった。
頬っぺたが真っ赤で濡れている。

ぞくぞくする―――心臓を撫でられるような感覚、とでも言おうか。

「もう少し、我慢してろ、忍」

「痛たたいいた、たたったたい!」

行司というんだったか―――土俵の上での審判みたいな掛け声を喚きながら、
耐え切れず、忍が僕に平手打ちを入れる。

「痛いっつーとるじゃろうが!」

半裸の僕を踏みつけながら、八歳児は言う。
いや、いやしかし、忍さん。

「でも挿入るときはそりゃあ、痛いだろ―――言っちゃなんだが、忍」

「わかってる! わかってるって、はあ、、はあ、けどお前、お前様よ
その躊躇いもなく幼女の貞操を奪うっていう―――お前様よ、」

「いや、でも誘ってきたのはお前からだろ」

「八歳児にそんな太いのが入るわけがないじゃろ!
 ちっとは頭を働かせたらどうなんじゃ!
 鬼畜か!」

「………え~………」

えー………。


「いや、しかし忍」

「ああもう………まだヒリヒリする………怖い、痛い、怖い」

「一回入れればだんだん痛くなくなるらしいぞ」

「男という生き物が本当に嫌いになりそうじゃよ」

「僕以外の男はいくらでも嫌いになってくれ」

「お前。 お前様じゃなくてもう、『お前』………死ね」

「最近の幼女は辛辣だなあ」



「そんなに言うなら、お前様よ―――試してみるか?」

「うん? 試すって何を?」

「つまりじゃな―――まあ、さっきまでのお前様………お前の行動を見れば、
 思い起こせば推測可能じゃ」

忍があげた、掲げた右手―――手のひらから何かが、不定形の物質が現れる。
それはアメーバかスライムのように動きながら、徐々に形を落ち着かせていく。

―――物質具現化能力。
吸血鬼のスキルの一つである。
今までに、数々の強敵と戦った際に、は刀となったり―――他に何に使っただろう。
まあ、戦闘シーンでかなり役立つ能力であったことは間違いない。
だが、今回の使用法はいささか趣が異なった。

「これくらいの大きさじゃったかな―――お主のものを参考にしたのじゃが」


「ちなみにじゃが、これ―――振動機能も付けておる。 付けてみた」

忍はもう一方の手をパチンと鳴らすと、顕現され屹立しているそれが
バイブレーション的な低い音で唸り始めた。

ヴヴヴヴヴ。

「バイブレーション的なっていうか―――まんまバイブじゃねえか!」

「その通りじゃ」

未だに信じがたい。
しかし、忍の能力を持ってすればこういう玩具は生み出せる―――そこは
それほど難易度が高いわけでもないだろう。

しかし壮絶な絵だ。
金髪幼女が振動するバイブを持ち、したり顔を見せている。


「さて、お前様よ―――儂の右手の、この男性器を」

「言っちゃったよ!」

男性器って言っちゃったよ!
せっかく頑張って抽象的にボヤけさせてきたのに。

「これを使ってみようと思うのじゃが」

「まあ―――幼女姿といえど、性的欲求はあるだろうから、僕はそれを咎めはしないよ。
………僕は廊下に出てるから、好きなだけ自慰行為を楽しめばいいさ」

「いや、じゃからの、これ、儂に入らないんじゃって」

「え、何それ」

「言ったじゃろ、お主のを参考に作ったと―――で、お主のは儂に入らんかったじゃろう」

僕は。
ゆっくりと振り返り―――幼女に背を向けて、走り出そうとした。

「待たんか」



忍が背後から組み付いてきた。

「同じじゃ―――さっき儂がやられたことと同じ」

「いやぁ! いやぁ―――あ、 ああっ、 やめてえっ お願ぁいっ 」

これ、僕の台詞である。
信じがたいといえば信じがたいが。


「心配せずとも、痛いのは最初だけじゃ」

「心配するわっ っていうかお前はその最初でギブアップしただろうが!」

必死である。


必死にもなる。

「なあ、『お前』よ―――この部屋には儂とお前、二人しかおらん。
二人きりなのじゃ。
そしてわしにはこの立派なものは入らない―――さて、残るはお前しかいないわけじゃが」

「ひっ ひいぃ!」

助けて、誰か、助けて。

忍にのしかかられても、かろうじて倒れずにいた僕だったが、耐えていた僕だったが―――
次の忍にセリフに反応し、地面に手を付き、四つん這いになった。

「あれっ………そこに落ちておるのは、妹御のパンツではないかの?」

「えっ―――どこどこ?」

どこにあるんだ。
僕の部屋に置いていったとか、だらしがなさすぎるぞ。





火憐ちゃんか月火ちゃんか、どちらだろう―――。
待てよ?
僕の部屋に下着を置き忘れていたとすれば、妹は今現在
ノーパンないしはノーブラ―――有り得る。
二人共、どこか抜けているところがあるから。
大事なことを簡単に忘れる。
ここは僕が直々に説教をしてやる必要性があるな―――。


妹の将来について真剣に案じていたため、隙が生まれた―――それを、
その隙を、忍は見逃さなかった。

ほとんど半裸状態だった僕のトランクスをずり下げ、問題の逸物を叩き込むように差し込んだ。


人間、本当に叫び声を上げたい時は、おかしい話ではあるが
声にならないことが多い。
僕もまた、絶叫を脳内で上げるものの、喉からは何も出なかった。
頭蓋骨の中で叫び声は反響し続け、身体はというとししは生まれたての子鹿のように
ぶるぶると震え続ける。

「お、入ったのう―――流石は高校生といったところか」

忍が学生に対して意味不明で狂気に満ちた賛辞を述べながら、右手を回転させる。

―――腸内が90度回った。

「っ………おっ」


「ええいっどうじゃ、これ―――前立腺ぱんち!」

そんなことを言いながら僕を攻める金髪幼女。

「お、おオオオオオオ―――ーッ!」

これ以上僕視点の感覚というか、僕の感じたあれやこれを描写しても、おそらく
需要はないので、割愛しよう―――それがいい。
とにかく―――。
まだ知らぬ快感の海に叩き落とされて、僕は溺れたのだった。


「お前様………

「お前様よ―――大丈夫か

「むう、少しばかりやりすぎじゃったか。しかしいい顔で倒れておるのう

廊下がにわかに騒がしくなった。
「む?」

というか、明確に走り回るような音が聞こえてきよる。

「兄ちゃーん、何だ今の声ー」

「むむう。妹御が来よった。お前様、起きろ、起き………ええい、これまでか。

とりあえずまずい展開じゃから、引っ込まねば。
儂は退散せねば」

こうして影の中に、儂は飛び込んだのだった。


ガチャ、とドアを開けて入ってきた二人。

「どうしたんだ兄ちゃん。断末魔みたいな声出して………うわっ!」

「どうしたのーお兄ちゃん。断末魔なら断末魔で、もっと考えて―――ちゃんとした声にしないと、

人生に一度しかないんだから―――って、うわぁ………」

「兄ちゃん、寝ぼけてベッドから落ちたか? うっわ、ベタっていうかなんていうか」

「いや、これはそういう雰囲気じゃない気が―――する、
 そこまで安易じゃない何かがあったような―――けど、っていうか、
 なんで脱いでるのお兄ちゃん」

「本当だよなー。 おーうい、兄ちゃーん、兄ちゃーん!」
ぺちぺち。
「どう?」
「駄目だ。死んでるみたい」
「ふむ………ドアは、いや、窓も閉まってるみたいだね」
ガチャガチャと揺らす。

「窓が閉まってる―――てことは?」

「密室だよ」

「み、密室、密室殺人!」

「いや、殺人じゃないよ………死んでないと思うけど、兄ちゃんは出口のない部屋で殺されたも同然 だよ………廊下から犯人が出入りしたなら私たちも気づきそうなものだし」

「あっ待って月火ちゃん。わかった!密室ってことはあれだろ?言わせてくれ」

「待って火憐ちゃん。一緒に言おう」

「せーので?」

「うん、せーのー、」

「「 犯人は、この中にいる!! 」」

「………決まった ?」
「決まったね。完全にファイヤーって感じだったよ」

………。
いろいろと心配な妹達じゃのう。


『前回までのあらすじ』


金髪幼女に前立腺を責められた。

え?
前立腺っていうのは何かだって?
自分で調べろ。

………責めるって漢字、こっちで合ってたっけ。
攻める、ではないよな。
水責めの責めだから―――こっちで合ってるか。


「栂の木二中の奴らじゃあ、ないよな」

呟いたのは火憐ちゃん。
ここからの心理―――というか心境は、
ファイヤーシスターズの参謀担当である私が務めさせていただくことにするよ。
だからここからの心の声は、可愛い可愛い月火ちゃんボイスでお送りされるよ。


「何ぶつぶつ言ってるんだ、月火ちゃん」

「えっと、ねえ―――火憐ちゃん、私ってキュート?」

「うん?なに言ってんのいきなり―――うん………
 ああ、あたしが男だったら押し倒してるぜ、それくらいハートに迫ってくるものがあるな。
 攻め込んで来るものがあるな」

「だよね」

それならよかった。
私は今日も可愛い。

「話を戻そう―――栂の木二中、つまりはあたし達の中学の連中?
―――が、お兄ちゃんを殺した犯人ではないんだな」

だから死んではいないんだよ、火憐ちゃん。

「仮死状態なんだな」

まあ―――気絶と仮死ってどう違うのか、私もそこまではよく知らないけれど。



「ううん、そうなると火憐ちゃん、私たちファイヤーシスターズに
敵対する勢力ってことになる、のかな?」

「ああ、そうなるな。そいつらがあたしたちの秘密基地こと
 阿良々木家に侵入を果たして、そしてお兄ちゃんを半裸にした上に
 暴行を加えたっていう線が、濃厚だけど」

火憐ちゃんは真顔でこの台詞を言い切っちゃうんだから、なんというか。
そんな理屈だと、もうどうしようもなく、治安が悪いよね。
田舎なのに。
いや、田舎だからこそかな―――。

彼女の心って、深夜のコンビニの前をたむろしているんじゃないかな。
本当に。

お兄ちゃんが日頃から心配していた理由がわかるよ。
コイツ早く何とかしないとヤバいって嘆いていた理由がわかるよ。

まあ火憐ちゃんがこうなったのは私の所為………みたいなところも大きいけどね。

「探偵役が二人っていうのは新しいよな」

「ううん、確かに解決するのは最終的に一人、主人公的な探偵になるのかもでけれど」

そういえば『二人はミルキィホームズ』という深夜アニメをやっていたなあ、
なんてことを思い出す。

お兄ちゃんはあれをひどく嫌っていた。
なんだか一期と比べてプリキュアのパクリみたいになって、すなわち
僕のプリキュアを侵食しに来た、許せない―――だとか

そんなことを言っていた気がする。
何なんだろう、いつ『お兄ちゃんのプリキュア』になったんだろう。
兄として、実に恥ずかしい存在だ。

「つまりこれは、かなりトレンドに乗っている感じだね。ふたりはファイヤーシスターズだね!」

「それこそただのプリキュアっぽいけど………」


っていうか話が進まない。
まずは現場検証だ。

「窓には鍵がかかっているね」

これは私も、少し前に確認した。
いや問題はそれよりも―――。

「お兄ちゃんは半分、パンツがずり下げられてるぜ」
「ううん………」
「月火ちゃん、これは………」

早くも問題にぶち当たる。

「月火ちゃん、これはつまり、何者かがお兄ちゃんのケツを狙っていたという線でいいのか?」

舌打ちしたくなった。
歯に布きせぬ物言いだ。
正直に思ったことを口に出すのが誠実であるかのように。
まあ、布を身にまとっていないのは目の前で転がっている兄ちゃんなんだけれど。

火憐ちゃんは何事も、いい意味でも悪い意味でもオブラートに包まない。
発言が全体的に。
ゴムで包まないでヤって妊娠しちまえばいいんだ。


「いやあ、しかし相変わらず筋肉質だなー、兄ちゃん」

そう言って、剥き出しになっている実の兄の臀部を撫でる火憐ちゃん。
それは私も思った。
本当に人間なの?と思うような瞬間もある。

「ねえ、火憐ちゃん、侵入者という線はないかもしれないよ、そもそも」

「え?」

「だって流石に、何も言わずに玄関に入って―――それで家の人、お父さんとお母さん
にも見つからずにここまで、お兄ちゃんの部屋にまで入ってくるなんて―――」

「ははあ、忍者かな、犯人」



「忍者は流石にいないか、中学生で忍者なんて、あたしの知り合いでもいなかったぜ―――」

「一人で足をもつれさせて―――服で膝のあたりがもつれて転んだ」

「兄ちゃんがそんなことをするって?」

「仮定の一つを言ってみただけだよ………流石に私もないと思うけれど」
この一石から何か派生して真実が浮かべば―――。
ううん、さすがに無理か

「ああ、でも兄ちゃんならやりかねねーな―――兄ちゃん、基本一人だし」

それは確かに、そうなんだよね。


「っていうかさ」

「うん?」

「そろそろお遊びは終わりにして。お兄ちゃん起こさない?」

「ええー………」

あからさまに拗ねた顔をする火憐ちゃん。

「月火ちゃん、そういうこと言うのか………もう少し兄ちゃんを使って、
兄ちゃんで遊びたいとか思わないのか」

「いや、あまり」

というか精神的にきついのだ。
実の兄がこんな格好で転がっていて、その真上で推理ごっこ。
兄の気絶原因はロクでもないことだろう。
自慰行為中に転倒して頭を打った―――なんていう話題で真剣に討論を始める前に
切り上げたい。



と、私が考えたところで。
「わかった! わかったぞ月火ちゃん! 兄ちゃんはベッドの上でオナニーをしている最中に、」

「お兄ちゃんを起こそう! ハイ起こそう! ハイ、はよ起こさないと可哀想だよお兄ちゃんが!
 今は応急処置だよ」

 「お、おう、」

 急に元気になったな風な私を見て少し面食らってから、それでも火憐ちゃんは
 気絶から目覚めさせるべく、お兄ちゃんの頬を叩き始めた。



―――スポットライトが眩しい。

僕は、リングの上にいた。
リングというのは、ボクシングのリングだ。
信じがたいけれど、おそらく僕はボクシングで使われるリング上で両手を顔の近くに
上げて、顎を守るような………ピーカーブーの構えをとっていた。

「―――あれ?」

困惑を声に出しても、それは観客の声援にかき消された。

左頬を、殴られる、衝撃。

「阿良々木くん!」

え?
委員長―――今日は、今はメガネを外していたが―――羽川?
羽川じゃないか。

なんでグローブつけてんの?

赤いグローブを両手につけた羽川。

「阿良々木くん―――自分が何やったかわかるってるの―――
 実の妹に何をやってるの―――死んじゃえっ」

「う―――」

言うと羽川は、右手を振りかぶり、流石は万能委員長、
スポーツも決しておろそかにしていない―――とか
いや、「そんな意外とやるじゃん」というレベルではなく、それの遥か上、
そのフォームのなめらかさ、完成度
と言ったら、胸部の暴れ方が尋常じゃない点を除けば
日本全国の中学高校で使用される武道の教科書に乗せても誰も文句をつけられない
ほどの芸術的動作であった。

一閃。
右ストレート。

早い話がとにかく、ものすごく胸を揺らしながら僕を殴ったのである。

なに?
まだ文脈に余計な単語があるだと?
これ以上どう削れと言うんだ。

しかし女ボクサー姿というのも、なかなかに趣があるなあ、なんて思いながら、僕は、

「ぐはっ」

避けきれず、倒れる。

「最っ―――低っ」

「兄ちゃーん! 兄ちゃん起きろー!」

ダウンする僕に、声援が聞こえる。
テンカウントが始まりだした―――まだだ、ちょっと待って、今起きるから。
火憐ちゃんも、まだやれるから僕、まだ、まだ起きれるーーー、よ
う、うう。

「うう………羽か、わ」

「はねか、羽川………」

ピントがやや定まらない。
しかし起きた僕にまたしても赤いグローブが迫る。

「うっ!」

またしても喰らってしまった。
いいのをもらってしまった。
しかし―――さっきよりも攻撃が低い。
ボディを狙ってきたぞ、こいつ―――。

「起きてください! 阿良々木さん! こんなものじゃすみませんよ!」

「………!?」


「いい機会です。 いい機会だと思います………このロリコンを
 リングの上で好き勝手殴りたいと思ったことは一度や二度ではないんです、
 一度や二度ではあみません!」

「………あ、あれ」

「失礼―――」

攻撃が低いのではない。
背が低いのだった………羽川よりも。

「失礼―――噛みました」

「お、お前、」


「兄ちゃん! 兄ちゃん! 頑張れ!」

声援に後押しされるまでもなく、僕は耐える。
ツインテールの小学生、八九寺真宵の攻撃に。

「打つべし! 打つべし!」

「ぐあっ! やめろ八九寺!」

「やめろ―――やめろって何です、やめたほうがいいのに止まらなかったのは
 妹さんとの過ちを繰り広げてしまったのはどこの誰ですか!」

言葉も、拳も刺さる。


ラッシュ。
激しいラッシュ。
小学生特有の跳ねるような、底抜けに元気なラッシュが続く。
僕はといえば、防戦一方である。

「ぐあっ!」

「私以外の年下に手を出すなとはどういった両肩です―――じゃないです、
 了見です、仲がいいんですねえ!
 確か妹さんとは仲が悪い、仲が悪いから私と―――てりゃ!
 喰らえっ―――えいっ―――仲が悪いから私とお話してたんじゃあないですか!
 公園で会った時言ってましたよね!」

「ぐう………」


「公園で―――私の身体を張ったカウンセリング、
 マジ喧嘩!
 あの日々は嘘だったんですか!
 友達がいない上に妹とも仲が悪いという阿良々木さんのために行った、
 私の行いは!
 何ですか!
 私は芸人ですか!
 ギャグ―――あれ全部、私が一人で勝手に滑っていただけですかっ」

「そんなことない! って、カウンセリングだったのかよ、あれ!」

「ええそうです、根性を叩き直してやります!」


ただ耐える僕―――ではない。
何とかして、何とかしてこの現実離れした拳の乱打から活路を見出し。
掻い潜り、八九寺を捕まえて頬ずりをしなければならないと、
そういった調子である。

「気持ち悪いです!」

「ぐはっ!」

一発、いいのを顔にもらって僕は真上のスポットライトとにらめっこした。
光が熱い。
高そうな照明だ。


まだまだ負けない、と再び構えを直す―――
直して向き合った、僕と千石であった。

「暦お兄ちゃん………」

「―――せ、せんご、く!?」

ええっ!?
何それ!

ボクシングにおいて、選手の入場時。
ローブというか、選手が羽織っている派手な外套があるのだが。
リングに上がるとともに脱ぎ捨てて肉体を露にする―――というのは
試合中継などでも行われているパフォーマンスの一種であろう。

千石はそれを羽織っていた。
が、その上着の隙間。
首元、襟部分からへそにかけて―――肌の色しか見えなかった。
あれ、上半身………あれ、布があるはずなんだが
変だな、見えないぞ。

「ボクサーパンツだけ履いて来ちゃった………」

「ドジっ子とかいうレベルじゃないぞ!」

「でも、男の世界だし」


「暦お兄ちゃん、覚悟!!」

地面を蹴る千石。
ああ、もう―――。
そんなバスローブだけみたいな格好で振りかぶったら見えるでしょう、色々―――と
全力で咎めたい気持ちになったが
とりあえず目をそらした。

くそう、神原の仕業だな。
時点で妹たち。
千石に色々間違った知識を吹き込みやがった。
そうでなければ千石が、こんな新型の痴女のような格好で
僕の目に立つわけがない。

「えいっ!」

思いのほか威力があった。
しかし参った。
直視するわけにもいかない。

「千石! やめろ―――」

「どうして!」

「服! 服を着ろ! ちゃんと!」

まずい。
目をつぶらないといけないから、当然の如くまともな防御ができない。
千石の衣擦れの音を聞いて、それで対応するしか………
できるわけがない。
端的に言うと、けっこう痛い。

「えいっ―――どうして? えいえいっ―――
 私、『はじめの一歩』も、『明日のジョー』も読んだんだよ―――えいっ
 だから―――」

「そういう問題じゃないんだよ!
 服ぅ! 服ぅ!」

「フック?」

右下腹部に刺さった。

「ち、違ぁうぅ………」

違うよ千石………。



「暦お兄ちゃんなんて大っ嫌いだよォ!」

突然覚醒し、戦闘中に急激にパワーアップした千石が
僕の頭部をぶっ叩いた。

たまらず吹っ飛ぶ。
口からはマウスピース。
僕と一緒くたに吹っ飛んだ先には、頑丈なロープ。
リングの隅に叩きつけられた。


ドラゴンボールばりに吹っ飛んだ。

燃え尽きたぜ、なんて言ってられない。
身体中が痛い。
燃えるように痛い。
喉もカラカラだ。

リングを囲む頑丈なロープの弾力に身を預けて、体力を回復………できるだろうか。

「ぐ、ぐう―――」

「阿良々木くん、頑張るのよ」

「ぐ、うう………」

「阿良々木くん、新しいマウスピースよ………あらごめんなさい、これ
メリケンサックだったわ。
うふふ―――でもこれはこれで、阿良々木くんにはお似合いよね。
口の中に詰め込んであげるわ」
 
「も、もが………も、」

「文房具の方が良かったかしら―――でもここはリングの上だし
 使うアイテムはそういうジャンルのほうがいいわね、
 郷に入っては郷に従え。
 大丈夫よ、私もそれくらいの空気は読めるわ」

一番空気の読めそうにない人が来ちゃった。

「歯を食いしばりなさい」

食いしばるも何も、だったらマウスピースを取るなよそのためのアイテムだろ、と
反論する前に、平手打ちを入れられた。
何が何でも殴られ続けるらしい。
パターンに入っている。

グローブとは違う質のダメージ、痛みが走る。

「ぐっ、あああ、あっ!!」

「あら、グローブを付け忘れていたわ―――いけないわ、私ったら」

リングの上での立ち姿が格好良い。  ヒール   ヒール
我らがヒーロー………なわけがあるか、悪役中の悪役。
戦場ヶ原ひたぎさんである。


「しかしボロボロになって戦う男って、素敵よね。
 惚れ直しちゃいそうだわ」

「だったら叩くのをやめろよ!」

「そうはいかないわ。 
 完全にこの流れは阿良々木くんを好き勝手にいたぶるパターンだから、
 私だけが浮くわけにも行かないわ」

ガハラさんのボディーブローによって、身体が浮かされる。

「ぐはっ」

もう何回目かわからないが、宙に舞う僕。

「今よ―――、神原」

そう、戦場ヶ原のつぶやき。

「承知したっ―――申し訳ないっ 阿良々木先輩!」

滞空している僕の更に上で、待っていた。
舞っていた―――僕の可愛い後輩。

「一つ言い訳をさせてもらうならば、私は叩くよりは
 叩かれる方が好きだ!」

「それ言い訳じゃなくてお前の性癖暴露だろうが!」

赤いグローブを、ダンクシュートのごとく叩きつけられた。

「いえーい、ピースピースー。
 やあ、鬼のお兄ちゃん。
 これはマウスピースとピースをかけた新型の持ちネタさ
 すごいだろう、たった今思いついたんだ。
 いえーい」

「え?うちもやるん? 
 なんや知らんけど、まあええか、殴っとこ」
 
童女式神と陰陽師のダブル攻撃を喰らった。
いや、コメントが………
もうお前ら、適当すぎるだろ。

僕はリングに突っ伏し、灰になった。

場所は変わって。
っていうか、現実に還って。
阿良々木家、お兄ちゃんの部屋にて―――。

「おーい、おーい兄ちゃん、起きろー」

ばっしんばっしんと。
もう百回くらい、火憐ちゃんはお兄ちゃんの頬を往復ビンタしていた。
結構勢いよく、手首のスナップを効かせた攻撃をしている。
火憐ちゃん、手加減がない。
お兄ちゃん、早く起きないとマズイと思うよ。



今日はここまで。


携帯電話が鳴る。

その着信音は、くぐもっていた。
多くの布に阻まれ、所有者がそれに気づくのに少し時間を要した。

音声が聞こえにくいのはポケットの奥に入っているから、というわけではない。
その程度のレベルではない。

携帯電話は、制服のスカートのポケットに入ったまま、部屋に敷かれた布団の
さらに下に無造作に放置されていた。

埋葬に近かった。


ひどく散らかった部屋だった。

阿良々木先輩の部屋ではない。
阿良々木家の部屋ではない。

阿良々木先輩は、この部屋を評価するにあたって様々な表現を使った。
まあ、私はどんな評価をされようが、今から片付けるんだからいいじゃないか、
くらいにしか脳の意識にかすっていなかったのだが。

阿良々木先輩は面倒くさそうに言う。

「片付けてくれる、な? モノの墓場だよな、この部屋って―――」

そうは言っても分別の手を止めないあたり、阿良々木先輩なのだが。


「モノの墓場?」

「そうだ」

阿良々木先輩の語彙は、やはり吸血鬼っぽくなってきているなあ、なんて。
そんなことを思った。

「ピラミッドなんかで、クフ王の埋葬されている部屋………王室みたいだな」

「たぶん玄室だな」

「そうそれ! 玄室のようなものだな!」

「お前の前向きさには呆れるよ、毎度毎度」

そしてなんでクフ王限定なんだよ、と先輩。

さてなんでだろう。
適当に言ったとしか。

そういえば棺に入っているイメージがあるな。

古代エジプトの王族も
吸血鬼も。

吸血鬼は棺桶か。
………同じか。

「まあピラミッドはたいてい墓場泥棒に荒らされている、研究者が訪れる前に
金目のものがなくなっている例が多いんだってさ。
そういうところ、確かにこの部屋に近しいものがあるな………」

私の先輩はそんなことをごにょごにょとつぶやくのだった。

「しかしどうだろう、阿良々木先輩。
自分の部屋で宝探しできるというのは、かなりのお得感が感じられないか?」

なんてことを言ってみたら
阿良々木先輩は力なくうなだれた。




そのあと何の話をしただろう。
先輩が元気になるような話題を私なりに考えたりしていたのだが。
そんな気がする。

例えば「吸血鬼」という設定は、BLでは結構あって
私も美味しい展開だと思っていて

合法的にオトコがオトコに優しく噛み付いたりできる展開なのだよ、といった
まあ雑学みたいな解説をしたりしなかったり。

「―――あった! よおし」

ようやく携帯電話を見つけたので、回想を終える。

布団の下からスカートごと引っ張り出す。

やれやれ、脚力には多少の自信があるが、こういうこと―――聴力となると
私もまだまだだな。

「エロ―――じゃない。 もしもし、エロ奴隷の神原駿河だ

「なに? 阿良々木先輩が? ふんふん、様子がおかしい―――いや、それは

「しかし月火ちゃん、

最近ちゃん付けで呼ぶようになった。
まあ年下の女の子なので、別段おかしいというほどでもない。
本人も「私の可愛さが際立つし」と、
前向きな姿勢で応じている。

「月火ちゃん、阿良々木先輩が常人をはるかに凌駕しているのは
 前々からわかりきっていることじゃあないか

「私も先輩に習って、模倣って、聴力を鍛えるために―――ほら
先輩は前にも、100m先の幼女の喘ぎ声すらも―――

「なに―――倒れた?

「まさか命の危険が―――いや、先輩はああ見えて、死の危険とも何度か対面を、
 それはもう百戦錬磨だ。

「場所を、状況は―――

「な、

「尻を?

「尻を?ケツの尻か? ケツの尻で合ってるか? 別の尻か?

「siriじゃない―――

「どんな出し方だ

「なっ―――ま、まて、触るな! 触らないでください! 現場保存!

「私が行くまで待って―――

「何者かに襲撃され半裸の状態で気絶、という状況で?
ああ、そうか?
うん?
うん、同人誌とかでよくあるアレな感じか?
うん、うん―――

「お、おおおおおおッ―――!」

「うおおおおおおっ」

纒流子の如き力強いシャウトを決め込んだ後、私は走り出した。
神原駿河、出陣である。

裸族の会、その会長であるところの私が向かわないわけには行かない。
この神シチュエーション。

ちなみに名誉会長は阿良々木暦氏だ。

今日はここまで。

ss速報見れませんね、私だけじゃなかったみたいです
どうしたんでしょう
書きかけあったのに。

「ふむ、でもお前様よ。 国が違えば法も違うじゃろ。
8歳と結婚できるぞ」

「やめてくれ、ロリは愛でるもんなんだよ。 
少なくとも日本に生まれて18年ほど経つ僕にとっては。
その価値観、完成しちゃってるんだ、もう揺るぎないラインだぜ、そこは」

「ふむ、立派な心構えじゃ」

「あれ、何の話だったっけ」

「はて、何の話じゃったかの」

「お前まで忘れるなよ―――ええと、忍と結婚するかどうかの話を妄想している場合ではなかったはず
だよ、少なくとも―――おい、ヘコむなよ忍、何をうなだれてるんだ、お前。
―――そうだ月火ちゃんだよ!」

どうするんだよ! 本当!


「それも心配じゃが、儂は投下速度の低下の方が深刻じゃと思うがのう―――」

「それはまだいいよ! 『明らかに冬っぽいスレッドタイトルなのに6月まで続いている、今更やめら
れないぜ』とか、そんな妙な雰囲気になったとかよりはマシだよ!」

「確かにそれよりは―――それは微妙な心境になるのう。
 いや、それより何故そんな具体的な例を挙げてくる………」

「うああ! くっそう、忍の力を持ってしてもこの状況は打開できない!
で、でも………まてよ、まだ月火ちゃんの」

「はあ………お前様よ、儂がいて良かったのう」

「うん? 何言ってるんだ」 

は、待てよ?
何かいい案があるのか?
まだ、何か。

「忍、なんでもいい、ミスタードーナツ奢るから。
 100円セールの時に奢るから助けてくれ………。
いや、おこがましいのは百も承知だけど、打開案のヒントくらいはくれてもいいんじゃないか」

「セールの時にだけって………切羽詰っている時にもその、自身の金銭面を保護するスタンスは
流石というべきかどうかわからんが………まあ、助けるというわけでもないのじゃ
儂が助けるわけでもない」

「なんだよ、はっきりしない―――煮え切らないなあ!」

まさかお前、『助けない。 人は自分で勝手に助かるだけだ』みたいな
あのアロハのおっさんの口癖が感染ってしまったとでも言うのか。

「そうではないが―――」

「人の口癖をパクって使うほど虚しいものはないぞ」

「いや………じゃからな?」

忍はいよいよ説明を開始する。


「お前様よ。 お前様の両親は、『人間』なのじゃな」

「え? 何をいきなり………人間、うん、人間だろ。
当たり前じゃないか」

「そうじゃ、人間の親は人間。 決して別の類人猿でも哺乳類の何かでもない。
これは医学的にそうなっておる」

「………?」

「生物学的にじゃったかの? まあ、どちらでも良い」

「なあ忍、じゃから………」

「じゃから? 儂の口癖! パクったな!」

「いやごめん、噛んだ」

噛んだっていうか、つられただけだ。

「こほん。 ええとだな………だから今、僕は切羽詰まっていて………」

そこで僕は、すっかり緩んでいる忍の表情を見て取る。
さて、なんだか僕だけ必死になっている気がする。
しかし………いや、切羽詰まってるだろう。
なんだろう、なにか僕は勘違いをしているのか?

「儂はもはや、純粋な吸血鬼ではない」

ふいに、忍はそんなことを言いだす。

「そう―――だな」

今更何を。

「儂がいたおかげで、そのせいでお前様も人間をやめて、常識はずれの治癒能力を手に入れた。
それがなかったら今頃お前様は何度命を落としておったことか」

「ああ、それに関して、感謝はしてるよ」

と、言いながら僕は忍の言わんとしたことに気づく。

「然様じゃ。 お前様は半分、人間ではない。 半分というより―――まあ今回の場合で言えば」

お前様と妹御との過ちは。
人間同士の過ちではないのじゃ。
じゃから―――。

「なん………だと………」

なんだか新展開が欲しいので、
突然だけど外伝やるよ
外伝っていうかパクリです。

『名探偵だよ!千石撫子!』


私の名前は千石撫子!
今をときめく中学二年生で探偵だよ!

撫子「身体は子供………頭脳は大人」

月火「それは怪しいね。確かにせんちゃんはロリだけど頭脳は大人じゃないよ。女子児童のそれだよ」

撫子「………」

この、少しパンチの効いたツッコミを入れてくる子は
同じ中学二年生の阿良々木月火ちゃん。
あららぎ、だから『ららちゃん』って呼んでいるんだ。
でも今は同い年じゃなくて、お姉さんみたいになってる。


撫子「そう。撫子は謎の悪の組織、 『黒ずくめの詐欺師』との因縁があって、身体が小さくなる『おまじない』を受けてしまったんだよ!」

月火「そして小学二年生くらいの身体になってしまって。
  あーあ。ただでさえロリが多いのにー。
  で、なんやかんやあって、今は私の家に居候しているんだよね?」

撫子「うん!」

設定はそんなところです。


平和だった町にパトカーの音が鳴り響く。

おや、今日もなんだか外が騒がしいね。
これは事件の匂いがするよ!
明確に血の匂いがするね!
吸血鬼的な意味合いじゃなく。


月火「大変だよ! 殺人事件が起きたよ!」

撫子「ええっ!? 本当なの、ららちゃん!? それはららちゃんが見た

幻覚とかじゃなくて?」

月火「うん、本当にだよ―――疑ぐり深いなあ、幻覚って」
  ………とにかく現場に急行しよう!」

撫子「わかったよ! 急ごう! 急げるよ!」

撫子「そうだ! 急ぐんならスケボー乗っていく? 撫子のスケボー」

撫子には今、探偵七つ道具が―――別に七つじゃないけど便利アイテムを

持っているのです。
風変わりな研究者、忍野博士が作ってくれました。

月火「駄目―――超、駄目。この前せんちゃんと二人乗りして死にかけた
じゃない。
っていうか今度こそ警察に捕まるよ、あんなあらゆる意味でギリギリな運転してたら」

撫子「そ、それは確かに………あれから撫子も練習したんだよ。
昨日までの撫子とは違うんだよ。今度こそ大丈夫だよ!」

月火「殺人現場に着く前に私たちが死んでたら世話ないよ………交通事故で。
センターラインとか中央分離帯とか三途の川とかいろいろ渡ってたじゃない………私が警部を呼んだから、警察の車で、パトカーで行こう」

その時、一台のパトカーが。



ブレーキを鳴らしながら二人の横に車体をすべり込ませる。
ららちゃんの髪がふわりと宙に乗って、
車のCMの撮影かと思った。
こんなに完璧なドリフトを決められる人はなかなかいないよ!

後ろの席のドアがバタン、と空いたよ。
―――あれ、どうやって開けたんだろ。

羽川警部「乗って!二人とも」

撫子&月火 「羽川警部!」

うわあ、女性警察官の制服すごく似合う。

アイロンがかかっている生地というか、折り目が整った服は全て似合うのかもしれません。
ううん、制服が似合うのかな。
そういえば暦お兄ちゃんも、以前からそう言っていました。
『羽川といえば制服だよな』
『制服が本体なのかもしれない。それくらい羽川は似合ってる』
という謎の台詞を残しています。

世界中のあらゆる制服が似合うのかも。

パトカーの中は取調室のようなものでした。
というのも、羽川警部からお説教を受けたからです。

羽川警部「というわけでスケボーは禁止―――もみ消すの大変だったんだ

からね!」

撫子「ご、ごめんなさい………」

もみ消してくれたようです。
警察組織の中で暗躍してくれたようです。

羽川警部「月火ちゃん、あなたも」

月火「わ、私? 後ろに乗っていただけですよ」


羽川警部「自転車の二人乗りは犯罪………まあ、タンデム自転車っていう
ものもあるけれど。でもスケートボードで交通量の多い公道を走るのは道路交通法違反よ」

撫子「そ、」

そうなんだ………じゃあコナン君の劇場版とか、あれ逮捕しないと。

羽川警部「何かあったら私を呼びなさい。パトカーで駆けつけるから」

「はい………で、でもそんな迷惑」

さながらタクシーのように利用するわけにも行きません。

「いいから………あ、もう着くわよ」

「はい………え?この辺りって、まさか」

羽川さんが車を止めたのは、阿良々木家の前でした。

今日はここまで
2日以内に書く

羽川「か、火憐ちゃん!」

現場に到着すると、本当にファイヤーシスターズの実戦担当、阿良々木火憐が倒れていた。
え、嘘………。

月火「あの火憐ちゃんを仕留めるとは、どれほどの手練か想像もつかないよ………」

撫子「ちょ、ちょっと待ってよ!本当に?」

月火 ボソボソボソ「せんちゃん、これSS………深いこと考えない………殺すよ?」

撫子「あ、えと………ご、ごめんなさい」


「心配せんでええ、気絶しとるだけやで、火憐はんは」

いつの間にかドア空いていて、壁に寄りかかっている女の子がいました。


撫子「えっ!? そ、その声は!」

八九寺「よお千石はん、久しぶりやなあ!
     ウチが来たからにはもう解決やで!」


この子は八九寺真宵ちゃん。
関西の方で名探偵をやっているよ。
撫子のことをライバル視しているんだ!

撫子「わ、私に対してそういう捲し立て方はやめてよ………
  撫子にライバルなんて務まらないよぉ。
そんな価値ないよ。
  道端の隅っこの石ころみたいなものだし」

八九寺「自分腹立つなあ。自意識低すぎや―――まあええ。
  まず状況を見てみいや、千石はん」

撫子「状況?」

撫子「そんなのもう見ているんだよ………」

八九寺「せやからお前は駄目にゃんや」

撫子「にゃんや?」

八九寺「ああ、しもうた、噛んでもうたわァ、こらあかん」

羽川「八九寺ちゃん、ただでさえ噛みキャラなのに、無理して関西弁も使わなくても………」

八九寺「そうはいきません。不肖、八九寺真宵、引き受けたキャラ付けは全力で表現いたします。
やり遂げるでぇー、ついてこいや千石はァん、儲かりまっかー?」

撫子「うん、うん―――そうだね! 儲かるんだよ!

羽川「………」

というか関西風の喋り方だったらあの、暦お兄ちゃんが言ってた
陰陽師の人の方が適している気がしますが。
『がえん』さんじゃなくて、『かげぬいよづる』さんでしたっけ。
まあ、八九寺ちゃんの元気な声は、関西キャラっぽくて
結構ハマっていますが。
ハマりキャラです。
はっきりした物言いも、共通点。
というか、波長が合うものがありそうです。
実は仲良いんでしょうか。

八九寺「ウチの影縫はん直伝や」

撫子「そ、そうなんだ………」

八九寺「大変やったでー。半端な覚え方するとすぐにド突かれるからなー



撫子「そ、そうなんだ」

八九寺「………それより推理や、推理。 早ぉせえ撫子はん」

撫子(………撫子はん)


八九寺「警部はん、遺体の様子はどうや」

羽川警部はいつの間にか、火憐ちゃんの横に座り込んでいました。

羽川警部「………うん、遺体じゃないね。呼吸はあるよ。
    気絶してるだけみたい」

撫子「羽川さんがそういうんなら………良かった」

八九寺「なんやワレ、そりゃあウチの言うことは信用できん言うとるんかぁ?おぉ?」

撫子「ち、違うよぉ」

関西人というか、広島ヤクザみたいです。
今現在、撫子は小学二年生程度の身長。八九寺ちゃんは五年生の姿です。
つまりは、八九寺ちゃんの方が体が大きいので、圧迫感があります。

羽川警部「でも大問題といえば大問題だよ、撫子ちゃん、八九寺ちゃん。
 あの火憐ちゃんが気絶している、気絶させられているというのは
 下手をすれば一般的な人殺しよりも困難なんだから」

月火「確かにそうだねー」

えらく気楽そうに言う月火ちゃん。
まあ、生きてるからいいんですけどね。

でも羽川警部の言う通り。
白兵戦では軍隊に匹敵するとまで言われたファイヤーシスターズの
実践担当が地に伏している、倒れているというのは相当な事態です。


撫子「ららちゃん、わからない? 何か、手がかり」

月火「え?何言ってるの、せんちゃんもしかして、丸投げ?
 一応名探偵はせんちゃんなんだよね」

撫子「そ、そうだけど………ほら、だって姉妹なんだよね?
   第一発見はららちゃんだと思うし、気がついたことは
  ないのかっていう………とにかく、聞き込みなんだよ。
  聞き込んでるんだよ。
  丸投げじゃないよ。やり込み勢だよ撫子は」

月火「いやあ、私はびっくりしてとっさに110番とせんちゃんに
   連絡をしたまでで………」

細かいところは遠くに考えなかったらしいららちゃん。

………訂正なんだよ。
ろくに考えなかったらしいららちゃん。

八九寺「これは失礼、噛みました」

撫子「いや、撫子の心の声だよ、心情だよ今の………。
撫子がかんでいたわけじゃないって、変だよ。
八九寺ちゃんボイスじゃ辻褄合わないというか、おかしいよ。
変声機でも使っているのかな。

八九寺「なんにしろ、火憐はんはこりゃあ、親しい人間にやられたと考えて間違いないやろ」

撫子「え?」

八九寺「なあ、せやろ?工藤」

撫子「撫子は工藤じゃないよ」

八九寺「おぉすまんかった、ウチとしたことが………とにかく
  阿良々木はんの妹、火憐ちゃんに敵意を持っとる誰かーーーというか

 敵がやってきて火憐ちゃんを襲ったのなら、100パー返り討ちや。
 火憐はんがウイナー。絶対勝つ」

撫子「そ、それは………」

確かにそうです。   
ファイヤーシスターズの実践担当は伊達ではありません。
とりあえず彼女に勝てる人物は間違いなく有名になり、この街にその名轟

かせるでしょう。
限られてきます。

八九寺「せやからな? 犯人はもっとこう………火憐はんの隙をつける
  身内、近しい人物やっちゅうことや………取っ組み合いで渡り合えな

  くても、なにか薬品を使ったか」

撫子「………」

火憐さんと、よく取っ組み合いをする人物。

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