佐久間まゆ「アイドルたちの饗宴」 (25)

モバマスSSです。

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 コンコン。ガチャッ

まゆ「失礼します」


まゆ「あら……誰もいないんですかぁ」


まゆ(プロデューサーさんは今日は他の子の……ちひろさんは、トイレかな)


まゆ(……? テーブルの上に本が)」


まゆ「プラトーン、『饗宴』? なんだかむつかしそうな本ですねぇ……」


まゆ(でも、プラトーンって、どこかで聞いたような名前……)

 ガチャッ
文香「あ……」


まゆ「あ、こんにちは」


まゆ(たしか、この前入った、鷺沢さんでしたっけ)


文香「こ、こんにちは」


まゆ「今日はレッスンですかぁ?」ニコッ


文香「いえ、特に何もないんですが……」


まゆ「ですが?」


文香「その、なんというか……暇で」カァァ


まゆ(かわいい)

まゆ「わかりますよ。まゆもなんとなく来たりしますから」


まゆ(ま、プロデューサーさんの顔が見たいから、なんですけど……うふ)


文香「そ、そうですか」


まゆ「鷺沢さんのご実家は、古本屋さんでしたっけ……ひょっとして、この本」


文香「あ、そうです。すみません、ちょうど読んでいたもので」


まゆ「構いませんよぉ……なんだか難しそうな本ですね」


文香「あ、いえ。それほどでは……でも、そうですね。一般には、哲学書に分類されますから」

まゆ「ふぅん……なんだか、この作者さんの名前、聞き覚えがあるような」


文香「もしかして……プラトニック・ラヴのことでしょうか」


まゆ「あぁ、そうです、それ。道理でひっかかると思った」


まゆ(プラトニック・ラヴ……素敵な響きですよねぇ)


文香「佐久間さんは、恋愛小説などをよく読まれますか?」


まゆ「まゆでいいですよぉ」


文香「え、で、でも」


まゆ「できるだけはやく仲良くなりたいので。まゆも貴女のこと、文香さんって呼びたいですから」ニコッ


文香「あ……ありがとうございます」

まゆ「で、恋愛小説ですかぁ……中学生の時は、図書館で借りてよく読んでましたけど」


まゆ(そういえば、プロデューサーさんに出逢ってからは、全然読んでませんねぇ)


文香「そうですか……この本は、哲学の方面でこそよく知られていますが、私はこれを恋愛小説なのではないかと思っているんです」


まゆ「恋愛小説? テツガクの本が?」


文香「ええ。この本の中では、何人かの古代ギリシャ人たちが愛について演説をします。一番有名なのは、プラトンの師匠だったソクラテスでしょう」


文香「もちろん、議論だけではなくて、作中にはカップルも登場します。ただ、そのカップルというのが……」カァァ


まゆ「どうしたんですかぁ?」


文香「なんていうか、その……」


ガチャッ
愛海「こんにちはー!」

まゆ「あら、愛海ちゃん、こんにちは」


愛海「……! これはなかなか素晴らしい組み合わせ! とりあえず、いただきまーす!」モミッ


文香「はっ、えっ!?」


まゆ「あぁ、気にしないでいいですよぉ。いつものことですから」


愛海「はぁーん、まゆちゃんのはまるでオリュンポス山みたいに厳かで! それでいて愛の女神がたおやかな指先でそっと撫でてくれるように柔らかな! 何度揉んでみてもいいなぁ……」


まゆ「今日はいつにもましてわからないことを言いますねぇ……詩人にでもなったんでしょうか」


文香「あ、あの……まゆさん」


まゆ「はい?」


まゆ(名前で呼んでくれましたねぇ……ちょっと慣れてきたんでしょうか)


文香「その、なにも、か、感じないんですか?」


まゆ「平気ですよぉ。もう慣れましたから」


まゆ(それに、まゆの心にまで触れることができるのは、プロデューサーさんだけなので……うふ)

まゆ「で、さっきは何を言いかけたんですか?」


文香「あぁ、ええと、その、カップルとはちょっと違うかもしれないんですが、この饗宴に突然乱入してきた人物、アルキビアデスというのですが、この男性は、同じく男性であるソクラテスのことを愛しているのです」


まゆ「え?」


愛海「なになに? この本の話?」


文香「ええ……それだけではなくて、書の中で愛について語られる多くの話の一つで、壮年の男性が、年若く美しい少年と恋愛関係になることについて賛美がされたりも」


まゆ「つまり、同性愛と」


まゆ(これは、由里子ちゃんが好きそうな話ですねぇ)


愛海「はいはーい!」ピョコン


文香「はっ……な、なんですか?」アセアセ


愛海「それって、ひょっとして女の子同士ってのも書いてあったりするんですか?」


文香「あ……えぇ、記述は少ないですが」


愛海「もっとその話、ききたいなぁ~」


まゆ「まゆも、なんだか気になってきましたねぇ……ちょっと、お茶でもいれてお話しませんか?」


文香「あ、えぇ、構いません。それに……」


まゆ「それに?」


文香「ほ、本について話すのは、楽しいので……」キラキラ


まゆ(かわいい)


愛海(結婚しよ)

 コポポポポ
まゆ「はぁ、おいし……じゃあ、さっきの話。同性愛と、プラトニック・ラヴが、どうつながるんですか?」


愛海「なるべく簡単にお願いします!」


文香「それでは、かいつまんで……まず、同性愛について。登場人物の一人、アリストパネスは、遠いむかし人間の性別は三種族あったと言っています」


まゆ「三つ? 男と女と……」


文香「アンドロギュノス……男女両性者です。といっても、その人間というのは今日の私たちとは別の姿をしていたそうです。三種族とも、円い背、円筒状の横腹、四本ずつの手と足……」


愛海「うわ、なんだか想像できないねぇ」


文香「えぇ。さらに、彼らは首の上に二つの顔を持っていました。男性なら、男と男、女性なら、女と女、男女両性者は男女。これらが、人間本来の完全体だった、と」


まゆ「とすると……今の私たち人間の姿は、不完全ということですか?」


文香「ええ。その完全体というのが、簡単に言えば強すぎたんです。そのうえ傲慢だった。怒ったギリシャの神々は、さりとて彼らをすべて始末してしまうわけにもいかず、悩んだそうです。そこで神々が思いついたのは――」


愛海「ひゃんっ! あいたたた!」


まゆ「だめですよぉ……お話は最後まで静かにきかないと。それに、まゆ以外の子のは揉んじゃだめって、いいましたよねぇ?」


文香「えっ、あ、あの」


まゆ「すみませぇん、邪魔しちゃって……でも、手癖のわるい困った子猫さんがいたもので」


愛海「や、やだなぁ。ちょっとお山のいただきの具合を確かめ」


まゆ「何か言いましたかぁ」ゴゴゴ


愛海「ごめんなさいなんでもないです」


まゆ「どうぞ、続けてください」



文香「……それでは」コホン


文香「神々は、それぞれの人間の種族を二つに分割することにしました。そしてようやく人間は、今の私たちと同じ姿になったそうです。でも、そこで問題が一つ」


文香「二つに分かたれた人間たちは、じぶんの半身を探しもとめるようになりました。やっぱり、さみしかったんでしょうね。むかし男としての完全体だった者は、かたわれの男を。女は女を。男女両性者は、それぞれ片方の性別を想い焦がれました。出逢えた者は、おたがいを抱き合ってよろこび、出逢えなかった者は、そのままかなしみのうちに死んでしまったそうです」


まゆ「……」


まゆ(なんだか、切ないお話ですねぇ)


文香「かなり端折っていますけど、以上のことが同性愛の起源だった、というように読めます」


愛海「悟りました」キリッ


文香「!?」


まゆ「愛海ちゃん……?」


愛海「つまり、あたしが女の子のお胸を揉むのがだいすきなのは、むかし女の完全体だったからなんですね!! だから腕がかってに女の子のほうに伸びるのもしかたないことなんですね!! やったー!!」


まゆ「悟るどころか、だめさに磨きがかかっちゃったみたい……清良さんに治療してしまったほうがいいかもしれませんねぇ」

文香「あ、でも、そうとばかりは言い切れないところもあって……これは最初にお話した、プラトニック・ラヴに関わることなんですが」


愛海「ふぇ!?」


まゆ「どういうことですか?」


文香「またざっくりした説明になりますが、パウサニアスは、愛には二種類あると語っています。一つは、地上的な愛、もう一つは、天上的な愛。地上的な愛は、たとえば愛する者の富や名声などを目当てにした愛のことです。そしてこれには、相手の肉体を愛することもふくまれていて……パウサニアスはこのような愛を、くだらない、とるにたらないものとして片づけてしまいます」


愛海「なんとっ!?」


まゆ「天上的な愛っていうのは?」


文香「地上的ではないもの……つまり、愛する者の知性とか、精神とか、そういったものに対する愛です。このような愛は、地上的なもののように、老化や富の喪失によって愛が薄れてしまうことがない。つまり、永遠なものとしてあると語られています」


まゆ(永遠の愛……)


文香「だからこそ、そのような、いわば純粋な愛、愛される者のうちにある美そのものへの愛が……この書における一つの理想として、著者の名前にあやかって、プラトニック・ラヴと呼ばれるようになったそうです」


まゆ「素敵でした……ありがとうございました」パチパチ


文香「あ、いえ……長いことお話してしまって、すみません」


愛海「んんー、残念だけど、あたしはちょっと違う意見かなぁ。セーシンを愛するってなんだか立派だけど、それだけじゃ、つまんないし」


文香「そうですね。私も、愛というのは肉体も魂も両方含めてこそのものだと思います」


愛海「ねぇ。だから、あたしは自分を曲げずに、明日も女の子の胸を揉み続けるよ!!」


まゆ「この子にはどんなお薬もきかないみたいですねぇ」ハァ


ガチャッ
ちひろ「ただいま戻りましたー。あ、まゆちゃんに愛海ちゃん、来てたのね。文香ちゃん、留守番してくれてありがとう」


文香「いえ。お話できて、楽しかったです」


愛海「あたしもー!」


まゆ「まゆもですよぉ……あ、そろそろ帰りますね。鷺沢さん、また今度、お話を聞かせてください」


鷺沢「えぇ、ぜひ、また」


まゆ「それじゃ、お先に失礼しまぁす」
 ガチャッ


まゆ(……半身の話。プロデューサーさんとまゆが、むかしはひとつで、だけど二つに分かれてしまって、だから、まゆがこんなにプロデューサーさんのことが好きなんだ、って。考えちゃいますよねぇ)


まゆ(あとは、永遠の愛。まゆやプロデューサーさんが年老いても、それでも消えることのない、不滅の……)


まゆ「ふふっ」


まゆ(なんだか、明日からプロデューサーさんに会うの、楽しみになっちゃいますね!)





(完)

これにて終わりです。
ご読了ありがとうございました。

乙乙

おっつ
何気に鋭い師匠の感想にワロタ

最後鷺沢さん呼びに戻ってるのは何故?

ちっひが現れたらデフォルトに戻されるよ

鷺沢さんマジ女神

まゆの魂が迷わず半身に巡り会えますように おつ

みなさんコメントありがとうございます。

>>18
すみません、完全にミスりました。どうかそこは文香さんで補完を……

興味深いお話でした。

乙乙
Pが絡まなければとしっかりいわれているのに優しくてかわいいまゆゆが珍しく感じてしまう

おつー

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