後輩「あら、遅かったじゃないですか」 (56)

後輩「どこをほっつき歩いていたんですか?」

先輩「どこも何も自分の家からまっすぐお前んちにやってきたよ」

後輩「そうですか」

先輩「で、何か用か?」

後輩「用?私は何か用がないとあなたみたいなゴミを呼んじゃいけないんですか?」

先輩「人のことをゴミ扱いしちゃいけないんだぞ」

後輩「じゃあグミで」

先輩「意味がわかんねえよ」

後輩「私グミは好きなので」


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先輩「もっかい聞くけど何か用があるんだろ?」

後輩「ご飯ができたから呼んだんですよ」

先輩「お前は俺のお母さんかよ!」

後輩「彼女ですが」

先輩「この王道のくだりは何度やっても素晴らしいな」

後輩「彼女が手料理を振舞うために彼氏を呼ぶ、何か間違ってますか?」

先輩「いや間違ってはないけどさ、『先輩うちにご飯を食べに来ませんか?』みたいな一言があってもいいと思うんだ」

後輩「いわゆるあれですよ、サプライス」

先輩「それはお米食べるときにしか使えないな」

後輩「寒いので早く家の中へ舞い上がってください」

先輩「普通にお邪魔します」

後輩「私の作る料理は食べたくないですか?」

先輩「そんなことはない。後輩の料理は絶品だし、一人暮らしの身としてはこの上なくありがたい」

後輩「それはよかったです」

先輩「しかしだ」

後輩「何か問題でも」

先輩「俺の嫌いな食べ物知ってるよな?」

後輩「酢豚です」

先輩「その通り」

後輩「何年彼女やってると思うんですか」

先輩「さすが俺の彼女だ。ではこの目の前にある料理はなんだろうか」

後輩「酢豚です」

先輩「そうだ。寸分の狂いなく酢豚だ」

先輩「作ってもらっておいて文句を言う資格がないことは重々承知だが、なぜ今日は酢豚なんだ」

後輩「しっかり先輩の嫌いな食べ物を忘れていました」

先輩「わざとじゃねえか!忘れるならうっかり忘れろよ!」

後輩「そんなこと言う先輩にはがっかりです」

先輩「俺が悪いの!?」

後輩「そうです。こんなにおいしい酢豚の何が嫌いなのか私には理解できません」

先輩「その、あれだよ。甘酢あんっていうのがどうにも苦手で」

後輩「酢豚の醍醐味じゃないですか」

先輩「初めて食べた酢豚の甘酢が錆びたスプーンを舐めたような酸っぱさで、トラウマになっちゃったんだよ」

後輩「それほんとに錆びたスプーン舐めてただけじゃないですか?」

先輩「そんなわけあるか!」

後輩「私の酢豚はほどよい酸味で、むしろ甘いくらいだと思うのできっと大丈夫です」

先輩「そ、そうなのか…」

後輩「先輩も来年から社会人でしょう。どうするんですか?社食に酢豚しかなかったら」

先輩「俺の就職先は酢豚の会社じゃなかったはずだぞ!?」

後輩「そこはお前に作ってもらう!とか期待してましたが、そういうときのためにも食べられるようになりましょうよ」

先輩「ごめんな。まあ、確かにいつまでも食べられないってのも情けないし頂くとするよ」

後輩「はい、お口にばーんしますね」

先輩「あーんじゃなくて!?」

後輩「先っちょだけ、先っちょだけ」

先輩「ちょっと勢いありすぎストッ………」

後輩「どうですか、私の酢豚」

先輩「………酸っぺえ!!!」

後輩「実はそうなんですよ」

先輩「さっきそんなに酸っぱくないしむしろ甘いって言ったじゃん!」

後輩「世の中そんなに甘くないですよ先輩」

先輩「世知酸っぱい世の中だ!」

後輩「おいしくないですか?」

先輩「いや、この強烈な酸っぱさを除けば結構おいしい。驚いた」

後輩「それはよかったです」

後輩「ところで先輩」

先輩「なんでしょうか」

後輩「就職活動も無事終了したみたいですが、単位の方は大丈夫なんですか?」

先輩「…まあ…あと少し必要かな…単位…うん」

後輩「せっかく内定もらったのに、結局単位足りなくて卒業できませんでした、なんてことにはならないでくださいね」

先輩「さすがの俺でもそこまでのヘマはしないよ」

後輩「私なんてもう単位取り終えたんですから」

先輩「もう!?」

後輩「選べるだけ選んだ授業をしっかり受講すればだいたい3年生で必要単位は確保できます」

先輩「ちゃっかりしてるなあ」

後輩「しっかりしてるんです」

後輩「デザートもありますけど」

先輩「食べたいかも」

後輩「先輩、デザートにしますか?お風呂にしますか?」

先輩「このタイミングでそれかよ!」

後輩「それとも……」

先輩「それともなんだ!?果たしてなんだ!?ワクワクがとまらない!!」

後輩「そ れ が し ?」

先輩「だからなんなんだよ!」

後輩「特に思いつきませんでした。いとをかしですね」

先輩「趣の欠片もねえよ!」

ぱ…ぱいなぽーは入っているんですか…?

後輩「実家から送られてきた季節はずれのパイナップルです」

先輩「おお!とても甘い!」

後輩「今度酢豚にも入れてみましょうか」

先輩「それは本当に勘弁して」

後輩「そう言えばパイナップルの模様にはフィボナッチ数列を見ることができるそうですよ」

先輩「1つ前の数と2つ前の数との和からなる数列だっけ?」

後輩「そうです。1,1,2,3,5,8,…のような数列ですね」

先輩「パイナップルにそんな豆知識があったとは」

後輩「どうせ先輩はパイナップルの輪切りを見て『お、この穴入れてみたいな』とか考えてたんですよね?」

先輩「入ってたまるかよ!いやそこじゃない!」

後輩「もう!先輩ったらボナッチなんですから!」

先輩「実はお前それが言いたかっただけだろ!」

後輩「洗い物は私がするので先輩は向こうでひざまずきながらテレビでも見ていてください」

先輩「なんで身をかがめながらテレビ観なきゃいけないんだよ。俺にも手伝わせてくれよ」

後輩「もしかして裸エプロンとか期待しているのなら無駄ですよ」

先輩「俺の善意は報われないのか!」

後輩「でもあれですね」

先輩「あれ?」

後輩「こうやって2人で仲良く洗い物してると夫婦みたいですね」

先輩「ねえ後輩」

後輩「はい」

先輩「真顔で顔真っ赤にして照れるのってどんな気分なの?」

後輩「冬なのに暑…熱いです」

後輩「今日もお風呂入っていきますよね?」

先輩「ここ最近借りっぱなしだから一旦家で入ってからまた来るよ」

後輩「どうしてそんな面倒なことするんですか」

先輩「水道やガスもタダではないし、かといって俺の分の光熱費出しても後輩絶対受け取らないじゃん」

後輩「そんなのはどうでもいいんですよ。風呂に沈めますよ?」

先輩「こわいよ!わかったよ!今日もお借りするよ!」

後輩「あったかいうちに先輩入っちゃってください」

先輩「はいはい。お言葉に甘えちゃいますね」

後輩「湯加減どうですか」

先輩「ばっちりです」

後輩「それはよかったです」

先輩「ところで後輩さん」

後輩「なんでしょうか」

先輩「そこで何やってるんですか」

後輩「服を脱いでいるんですが」

先輩「俺今入っているんですが」

後輩「一緒に入るのはダメですか?」

先輩「いえ、喜んで」

先輩「タオルも何もないね。すっぽんぽんだね」

後輩「私の家ですし、先輩ですし」

先輩「まあなんというか」

後輩「なにか?」

先輩「絶景だなと思って」

後輩「私隠れ巨乳ですから」

先輩「隠れてないけどね」

後輩「泡とかで隠した方がいいですか?」

先輩「ボケたつもりなんだろうけど後でお願いするよ」

後輩「背中でも流しますよ」

先輩「至れり尽くせりで申し訳なく感じてきた」

後輩「いいんです。全部私が好きでやってることなんで」

先輩「なんか最近…というか俺の就職が決まってからやけに色々やってくれるよね」

後輩「先輩との余生を少しでも充実させようと思って」

先輩「先輩の人生これからなんですが」

後輩「冗談です。内心は留年してくれた方が私としても嬉しいんですけどね」

先輩「さっきは絶対留年するなよって言ってたくせに」

後輩「あんなの建前です。ずっと学生でずっと今日みたいに過ごしたいです」

先輩「みんなそう思ってるよ」

後輩「でも私はしっかりしていて、それは難しいとわかっているので今を全力で楽しんでいるのです」

先輩「うん。後輩は本当にしっかりしてるよ」

後輩「今度は先輩が私の背中流してください」

先輩「よしきた」

後輩「先輩は何かないんですか?私が彼女で最高にハッピーだぜ!みたいなあったか~い感じの話」

先輩「今の後半の『あったか~い』のニュアンスは自販機に書かれてる『あったか~い』と同じだな!」

後輩「なんでそんな自信ありげなのか疑問ですが、実は正解なので驚いてます」

先輩「それくらい些細なことでもすぐにわかるほど、後輩のことを熟知しているってことだよ」

後輩「まあ、ありきたりな褒め方をされるよりは何倍も嬉しいですけど」

先輩「ところで後輩、さっきから感動的でいい雰囲気なとこ悪いんだけどいい?」

後輩「はい」

先輩「喋りながら喘ぐなよ」

後輩「実は私背中弱いんです」

後輩「いい湯でしたね」

先輩「いい湯だったな」

後輩「先輩のゼラチンも元気でしたね」

先輩「俺の急所をグミの材料みたいに言うな」

後輩「あ、風呂上がりのCCレモンを切らしちゃってました」

先輩「別に俺はお茶でも水でも大丈夫だよ」

後輩「代わりにマジックリンじゃだめですか?」

先輩「そんなの飲んだら死ぬわ!」

期待

先輩「そんなに飲みたいならコンビニで買ってこようか?」

後輩「では私も行きます」

先輩「後輩は髪長いし、湯冷めして風邪引いちゃいけないからダメ」

後輩「じゃあ今から頭丸めます」

先輩「なにその犠牲も厭わない姿勢!?」

後輩「ついてきちゃダメなんですか?」

先輩「わかったよ。俺のパーカー貸すからちゃんと髪乾かしてフードもかぶってね」

後輩「このパーカー…すごく…大きいです」

先輩「男物だからな。それにしても女の子のパーカー姿って素晴らしい」

後輩「ココアおいしいですね」

先輩「結局寒くなってホットを買うという」

後輩「おごってくれてありがとうございます」

先輩「いいよこれくらい」

後輩「まだパーカー着てて大丈夫ですか?」

先輩「後輩さえよければもっと着てて」

後輩「私としてはこのまま貰いたいくらいなんですけど」

後輩「ここまできたら泊まっていきますよね?」

先輩「いいの?」

後輩「嫌ですか?イヤらしいですか?」

先輩「後者については否定はしません」

後輩「仕方ないから泊めてあげます」

先輩「顔超緩んでるよ」

後輩「これは変顔です」

先輩「可愛い変顔だな」

先輩「…………ぬあぁ……」

後輩「おはようございます先輩」

先輩「おはよう……なんでトッポ口に加えて佇んでるの」

後輩「なんか事後にタバコを吸う男性の真似がしたくなって」

先輩「そんなのどこで知ったんだよ」

後輩「先輩が隠していた秘蔵素人物DVDです」

先輩「………………」

後輩「今更寝たふりしても遅いですよ」

先輩「朝からなんて強烈なネタ振りしてくるんだよ!」

後輩「先輩、朝ごはんを食べますよ」

先輩「お、作ってくれたんだ」

後輩「当たり前です。朝飯前です」

先輩「普段自分の家では作らないから嬉しいよ」

後輩「朝ごはんは三食の中でも特に重要なんですよ?」

先輩「それはわかってるんだけど、寝起きはやっぱり食欲なくて」

後輩「それは昨晩私を食べ過ぎたからですか?」

先輩「後輩さん、最近元気すぎです」

後輩「盛りなので」

先輩「朝が1番テンション盛り上がるってすごいなほんとに!」

先輩「今日はどこか遊びに行かない?」

後輩「本当ですか」

先輩「うん」

後輩「どこに行くんですか?」

先輩「まあ、歩きながらフィーリングで」

後輩「え、歩きながらまた恋に落ないといけないんですか?」

先輩「それはフォーリンラブだな」

後輩「寒いですね」

先輩「寒いね」

後輩「あ、私としたことが」

先輩「どうしたの」

後輩「手袋を片方だけつけ忘れてきました」

先輩「それはまた器用な忘れ方したね」

後輩「どうしようもないので先輩の手を借りていいですか?」

先輩「どうぞ」

後輩「思った以上に温もりを感じるのでもう片方も借りていいですか?」

先輩「それやると前に進めなくなるかな」

後輩「とりあえず電車に乗りましたが」

先輩「うん。都会の方に出てみよう。色々あるし」

後輩「それはいい考えだと思います」

先輩「就活中はあまり構ってあげられなかったから、今日は後輩の希望を最優先するよ」

後輩「男に二言はありませんね?」

先輩「いや…めちゃくちゃ高価な物買って!とかはさすがに厳しいかもだけど」

後輩「そんなものねだりません」

先輩「え?あ、そうなの?」

後輩「一緒にいてくれたら私は最高にハッピーです」

後輩「とは言え、先輩にもプライベートがあります」

先輩「まあ、一応ね」

後輩「最近は私が先輩を独占していることに対する後ろめたさを心なしか感じています」

先輩「さっきも言った通り、就職活動中は遊ぶどころか会うことも少なかったから問題ないよ」

後輩「同級生の方とも交流を深めないと卒業式の後の飲み会に誘われませんよ?」

先輩「やめてそんなリアルな心配!」

後輩「私が言うのもおかしいですが、もっと友人との関係を優先してもいいんですよ?」

先輩「別にどちらかを優先してどちらかをおざなりにする気はないよ」

後輩「自然体で私と向き合ってくれているのならそれで問題ありませんが」

先輩「俺は基本的に楽しい方をとるからね」

後輩「今私どんな顔ですか?」

先輩「んー、変顔?」

後輩「照れてるんですよぶん殴りますよ」

後輩「本屋ですね。入っていいですか?」

先輩「いいよ。俺も行きたかったし」

後輩「なにかお目当てのものが?」

先輩「うん、買いたい新書があるんだ」

後輩「解体新書ですか?」

先輩「デートの初っ端に解剖図買うかよ!」

後輩「本屋の雰囲気、私は好きです」

先輩「わかるよ。本の独特な匂いと、ほどよい静けさがなんとも言えないよね」

後輩「最近は有名タイトルの映像化も少なくありませんね」

先輩「ファンとして嬉しいは嬉しいけど、やっぱり数百項を2時間程度に収めるのは無理があると思う」

後輩「どうしても削らなきゃいけない部分が出てきますしね」

先輩「本編にはいたって関係ない部分だとしても、ファンとしてはそのシーンが好きだったりする場合も多い」

後輩「挙句の果てに、結末がオリジナルだったり」

先輩「もう…それは残念の極みだよな」

後輩「私、冬の独特な匂いも好きです」

先輩「ああ、それもわかるかも」

後輩「何とも形容しがたいんですけどね」

先輩「鼻を突き抜ける、匂いというよりはツンとするような刺激?」

後輩「そんな感じです」

先輩「温まった室内から、寒空の下に出るときの寒暖の差もいいよね」

後輩「一瞬ですが心地よいですよね」

先輩「今年こそストーブかエアコンは買わないと」

後輩「毎年思うんですけど、先輩今までよく生きてこられましたよね」

後輩「町はクリスマス一色ですね。まだまだ先なのに」

先輩「ほんと流れてる音楽って毎年一緒だよな。俺だったらこの期を狙ってクリスマスソング作るけど」

後輩「最近の人はカバーばっかりしてるので自分の曲を作るのを忘れちゃったんですよきっと」

先輩「なるほど」

後輩「でも、昔ながらのクリスマスソングはやっぱりいいですね」

先輩「ついつい口ずさんじゃうよね」

後輩「きょうは~たのしい~クリスマス~♪」

先輩「ヘーイ♪」

後輩「最近の携帯ショップにはスマートフォンしか置いてないんですかね」

先輩「そんなことはないけど、新しいスマホはどんどん発売されてるよ」

後輩「私はまだパカパカ携帯です」

先輩「初めてのバイト代で買ったんだっけ?」

後輩「そうです。高校時代は特に欲しくありませんでしたが、先輩と電話したりメールしたりするために買いました」

先輩「それは嬉しすぎる購入目的だ」

後輩「大事に使ってるんでまだまだ使えると思うんですけど、やっぱりスマホの方がかっこいいですか?」

先輩「そんなことはないよ。物持ちいい人がかっこ悪いわけがない」

後輩「そう言ってもらえると嬉しいです」

先輩「俺としてもその携帯は大事にして欲しいと思うよ」

後輩「でも先輩」

先輩「なに?」

後輩「賞味期限が数ヶ月以上過ぎた食べ物をもったいないと思って食べるのは物持ちがいいこととは違いますからね」

先輩「……何も言い返せない」

後輩「先輩を買い替えることなんて絶対できないんですから、もっと健康に気をつけてくださいね」

先輩「仰せのままに」

後輩「とは言え、スマートフォンはなんだか色々できるそうですね」

先輩「確かに便利な機能はたくさん増えたよ」

後輩「ちょっと先輩のスマートフォンを触ってみたいです」

先輩「いいよ」

後輩「いつ見ても画面を触るだけで操作できることが不思議です」

先輩「もはや常識だけど、よく考えるとめちゃくちゃすごいよな」

後輩「いらないアプリを消すときはアイコンをデコピンすればいいんですか?」

先輩「なにその力技!?っていうか消さないで!」

今日の夕方頃までには残り(最後まで)投下します

こういう後輩彼女と大学生活を送りたかった


栗食べたい

可愛い(変顔)

後輩「少し早いですがお昼を食べましょう」

先輩「そうだね。まだどのお店もお客さん少ないだろうし」

後輩「私今日はハンバーガー食べたいです」

先輩「珍しいね。いつもはパスタとかオムライスなのに」

後輩「普段あまりジャンクフードは食べないのですごく食べたいです」

先輩「すぐ近くにある某有名店でいい?」

後輩「あの笑顔が100円のところですか?」

先輩「それドーナツのお店ね。今から行くお店の笑顔は無料だよ」

後輩「意外と空いてますね」

先輩「ナイスタイミングだったみたいだ」

後輩「なんでスマートフォン出してるんですか」

先輩「アプリで使えそうなクーポンを探してるんだよ」

後輩「笑顔が120円になるクーポンですか?」

先輩「それもドーナツだし値上がりしてるし」

後輩「みんな何事もなく食べていますが、とってもおいしいです」

先輩「今の時代ファーストフードでこんなに幸せそうな顔になれる女子大生は稀少だよ」

後輩「特にポテトがおいしいです。カリカリのところが」

先輩「確かにたまに食べに来るとすごくおいしい気がする」

後輩「小さい頃は両親があまりこういうお店には連れて来てくれませんでした」

先輩「へえ、珍しいね」

後輩「わりと厳しめ家庭だったので。こういうものは体によくない云々」

先輩「そんな家庭の両親がよく一人娘の一人暮らしを許したね」

後輩「一人暮らしをするまでの説得も大変でしたが、先輩の存在を知らせたときはもっと大変でした」

先輩「えっ?」

後輩「先輩のこと、いつか夜道で後ろから襲ってやると父は言っていました」

先輩「帰りに防犯ブザー買いに行こう」

後輩「さて、映画館に来ました」

先輩「観たい作品でも?」

後輩「あります。ちょうどよかったです」

先輩「映画館の雰囲気も嫌いじゃない」

後輩「私は大好きです。ワクワクします」

先輩「で、何の映画観るの?邦画?洋画?」

後輩「邦画というよりは、特撮ヒーロー物です」

先輩「後輩がそういうの興味あったとは意外」

後輩「私早起きなので、日曜の朝とかに何気なく観ていたらハマっちゃいました」

先輩「とは言え、やっぱり観客は小さな子供を連れた家族が多いな」

後輩「先輩は大きな子供なので勝ちですね」

先輩「惨敗じゃねえか!」

後輩「映画館のシアター内の雰囲気って、ロビーとはまた違った独特の雰囲気がありますよね」

先輩「ゆったりと腰かけて、さあ観るぞって気持ちになるね」

後輩「普段テレビで観るCMも流れますが、迫力は全然違いますね」

先輩「大音量の予告と予告の合間に流れる静寂が結構好きだったりする」

後輩「それと、本編開始直前の映画会社のロゴが登場するところもですね」

先輩「そしてなにより、上映開始とともに落とされる…」

後輩「照明ですね…」

後輩「想像以上に面白かったです」

先輩「うん。普段テレビ放送を観ていない俺でも楽しめた」

後輩「勧善懲悪、これに限ります」

先輩「シンプルで見やすかった。さすがは子供向け」

後輩「それに比べて最近のテレビ番組は何がしたいのかよくわかりません」

先輩「放送開始から半年を過ぎた頃から、番組名と全く無縁なことをやってる場合も少なくないからね」

後輩「真のゴールデンタイムは日曜の朝7時からだと私は思います」

後輩「今度は体を動かしたいです」

先輩「ボウリングでもする?」

後輩「え、さすがにデート中にドリルを使うのはちょっと」

先輩「それボーリングだから!なんで映画のあとに穴を開けなきゃいけないんだよ!」

後輩「あ、787ドリームライナーの方ですか」

先輩「それボーイング!次世代中型ジェット旅客機で一体何すりゃいいんだよ!」

後輩「ブーブー」

先輩「ブーイングするな。拾う身にもなれ」

後輩「イカリング食べたいです」

先輩「自由か!」

後輩「先輩が私の相手になれるんですか?」

先輩「今日こそは勝つ」

後輩「負けたら高級アイスおごってもらいます」

先輩「望むところだ」

後輩「約束ですよ?念のために指折りげんまんしておきましょう」

先輩「ボウリングどころじゃなくなるわ!」

後輩「というわけで、圧倒的勝利をおさめた私ですが」

先輩「はい、約束のアイス」

後輩「ありがたく頂戴します」

先輩「なんであんなよちよちした投げ方でストライクが取れるんだよ」

後輩「天性の才能ですよ」

先輩「それにしても後輩の後ろ姿は正面からとはまた違った可愛さがあるよね」

後輩「えっと、それはですね」

先輩「なんでポニーテールの匂いかいでるの」

後輩「恥ずかしいので顔を隠しているだけです」

先輩「丸見えだよ」

後輩「勝ったのに負けた気がします」

先輩「買ったのにもうけた気がします」

先輩「喉も乾いたし、どこかでお茶しない?」

後輩「グッドアイディアです」

先輩「何飲む?」

後輩「今日はレモンティーの気分です」

先輩「俺はカフェラテを飲もうかな」

後輩「ケーキも食べていいですか?」

先輩「俺も食べたいと思ってた」

後輩「種類がたくさんあって迷います」

先輩「そういうときは直感をたよれ」

後輩「じゃあ全部で」

先輩「景気のいい直感だな」

後輩「さすがに全部は食べられないのでガトーショコラを選びました」

先輩「俺はロールケーキ」

後輩「美味しいです」

先輩「美味しいな」

後輩「先輩のケーキも少しだけ丸ごともらっていいですか?」

先輩「それ全部じゃん」

後輩「惜しいです」

後輩「もう暗くなってきましたね」

先輩「この季節は日が落ちるのが早いからね」

後輩「先輩が迷子にならないようにもう少し近づきますね」

先輩「手繋いでるからその心配はないんだけどね」

後輩「そういう冷たいことをいうと心肺止めちゃいますよ」

先輩「肝を冷やしました」

後輩「寒いですね」

先輩「寒いね」

後輩「でもなんだかあったかい気持ちです」

後輩「イルミネーションがすごく綺麗です」

先輩「電気代すごそう」

後輩「先輩はマロンチックに欠けますね」

先輩「まださっきの店でモンブラン食べ損なったことを引きずってるのか」

後輩「栗スマスだけに」

先輩「夜ご飯もどこかで食べてく?」

後輩「いえ、晩ご飯はうちで鍋をしたいです」

先輩「いいねえ、鍋」

後輩「今日のデートはいつも以上に楽しかったです」

先輩「あんまり豪華なデートにはしてあげられなかったけど」

後輩「何度も言いますがお金の問題じゃありません。同じ時間を共有することに意味があるのです」

先輩「いいこと言うじゃん。嬉しいよ」

後輩「Time is moneyです」

先輩「ある意味お金の問題だな」

後輩「お金の問題ですね」

先輩「眠たいなら寝ていいよ?電車着いたら起こすから」

後輩「いえ…1秒も…無駄にはできないので」

先輩「無理しなくていいから」

後輩「…遊び疲れるなんて……まだ21なのに」

先輩「逆でしょ。あのはしゃぎっぷりは小学生だよ」

後輩「楽しくて……仕方なくて……………」

先輩「あ、寝た」

先輩「……普段クールな後輩にここまで楽しんでもらえたのなら」

先輩「先輩冥利に尽きるというものかな」

後輩「おはようございます」

先輩「あ、起きた?もう少しで家つくからね」

後輩「迷惑かけてすみません」

先輩「可愛い寝顔見れたし苦でもなんでもないよ」

後輩「先輩のそういう優しいところは本当に好きです」

先輩「おお、後輩のそういう直接的な表現は珍しいね」

後輩「これはちゃんと伝えておきたかったので」

先輩「こちらこそ大好きな後輩にそう言ってもらえて嬉しいよ」

後輩「さすがに駅から私をおぶるのは大変だったと思うので、胸を押し付けるご褒美です」

先輩「元気しか出てこない!」

後輩「先輩」

先輩「うん?」

後輩「これからも、末永くよろしくお願いしますね」

先輩「いえいえ、こちらこそ」


-fin-

乙でした
こういう雰囲気好きよ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月05日 (月) 21:34:06   ID: JnAGsoH0

こういう、ほのぼのしたのも良いね

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