先輩「不老不死になりました」 後輩「はぁ」 (117)

百合です

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先輩「よっと。よいしょ……」

先輩「よし……、こっちのがサバで~」

先輩「こっちのイカが、にぃ、しぃ、ろぅ、はち……」

先輩「アジにツブ貝にマグロ――……、……うん?」

先輩「……?」

先輩「ん~……?」

先輩「店長ぉ~、ちょっといいっスか店長~」

店長「はい、はいはい。はいよ、どうしたん?」

先輩「いやぁ、これなんですけど」

店長「これ?」

先輩「えぇ。なんかマグロのケースに、違うの混ざっててぇ」

店長「ありゃ。向こうの出荷ミスかな」

先輩「な~んスかね、これ。白身の……、何だろ?」

店長「あんたね、もうこの店も長いんだから。パッと切り身を見たら、これは何の魚だって、サッと言えるようにならんと」

先輩「はぁ……。で、何スか、これ?」

店長「これはね」

先輩「……」

店長「……」

先輩「……」

店長「……ん~~?」

先輩「ちょっと。ちょっと店長」

店長「いや~、何かしらね、これ。初めて見たかも……」

先輩「まあ、何でもいいんですけど。どうします、これ? お店には出せないっスよね」

店長「まぁねぇ……、何の魚か分からんもん、お客様に出すのは、さすがにねぇ……」

先輩「ですよね」

店長「う~ん……」

先輩「あ、じゃあこれ、私もらっちゃってもいいですか?」

店長「え。いいけど、どうするん?」

先輩「今日のまかないに食べてやろうと思って」

店長「うえぇ、本気で言ってんのあんた……。何か分からない切り身見て、よくそんな気起きるわねぇ」

先輩「もしかしたら、メチャクチャ美味しいかもしれないじゃないっスかぁ」

店長「はぁ……、好きにしたらいいけどさ。アタっても自己責任だよ。労災出ないからね」

先輩「分かってますってぇ。えへへ、ゴチでぇ~っす!」












先輩「……――ってな感じでな」

後輩「はぁ」

先輩「まぁ、あれが世に言う、人魚の肉ってやつだったんだろうなぁ……」

後輩「先輩……、留年しすぎて、ついに気まで〇っちゃったんですね」

先輩「うは、後輩ちゃん辛辣っ! いやいや! マジなんだって! 大マジのマジで!」

後輩「大マジの……不老不死?」

先輩「不老不死」

後輩「……お医者さん行きます? 心の」

先輩「少しは信じろよ~! すごいんだぞ~! 何かな、怪我とかしても、すぐ治っちゃうんだよ! ジュワワワ~ッってなって!」

後輩「ワインとステーキでも山ほどやったんですか?」

先輩「ビスケット・オリバじゃねーのよ、私は」

後輩「……じゃ、不老の方は?」

先輩「あ?」

後輩「キズが治るのは、もし本当なら、何となく不死? 感ありますけど……。不老なのは、どうやって分かったんですか?」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……なんか、若々しい気分になった、感じがする。気持ち的に」

後輩(バカだ……)

先輩「ま、人魚の肉をな、食べた当人には、何となく分かんのよ。感覚的に」

後輩「ちなみにお味は」

先輩「薄味のブリ?」

後輩「はぁ……。悪くもねぇ感じですね」

先輩「なんつーか、お前、アレだな。水族館とか行ったら、泳いでる魚見て『うわ~♪ 美味しそ~♪』とか言っちゃうタイプだな」

後輩「ほっといてください」

先輩「はぁ……。ま、やっぱり実際に目にしてみねーと、理解(ワカ)ってもらえねぇんだろうなぁ」チキチキチキ

後輩「うわっ、何してんですかちょっと! 何でカッターなんて持ってるんですか先輩っ!」

先輩「そりゃ、もしもの時の防衛手段だろ。乙女のたしなみだろうが」

後輩「そんな乙女いません」

先輩「いいか、よく見てろよ? カッターでちょっと指切ったくらいなら、あっという間に治っちゃうんだからよ」グッ

後輩「うゎ、わわ! や、やめましょうって、先輩ぃ……」

先輩「黙って見てろい! ちょっと指切ったくらいなら……」

後輩「う……」

先輩「ちょっと指を……」グ

後輩「……」

先輩「ちょーっと……」ググ

後輩「……」

先輩「……」ググッ

後輩「……先輩」

先輩「どわぁ!? バカお前っ! やめろよ! 急に声かけんなよなっ!」

後輩「どヘタレじゃねえか」

先輩「いや……まぁ、治るってわかっててもさぁ、いざ自分でやろうと思うと、ふんぎりがさぁ……」

後輩「だったらやらなきゃいいじゃないですか……」

先輩「あっ、そうだ! 後輩ちゃんやってよ!」

後輩「はぁ!? 何で私が!」

先輩「いいだろー! そもそもお前が信じようとしねえから、証拠見せてやるって言ってんじゃん! お前が疑ってかからなきゃ、こんなことしなくたっていんだからなっ! ほらっ、分かったら早く!」

後輩「何で私のせいみたいになってるんですか……。まったく……、分かりましたよ」チキチキ

先輩「ちょっとだからな! ちょっと切るだけでいいんだからな!」

後輩「はいはい。じゃ、せーのっ――……」グイッ

先輩「うわぁぁ!? バカバカ!」バッ

後輩「わっ! 何ですか! 暴れないでくださいよいきなり……」

先輩「いやお前……、お前なんでノータイムで人刺そうと出来るんだよ!? 怖ぇわ! シリアルキラーか! バッファロー・ビルか!」

後輩「先輩がやれって言ったんじゃん」

先輩「いや、せめて5カウントくらいからさぁ……、頼むよ……こっちにも心の準備ってもんがあるんだからよ」

後輩「うるさいなぁ、もう……。分かりましたよ。じゃ……5、4……」グッ

先輩「ぅぐ……」

後輩「3、2……」

先輩「……っ」

後輩「1」グイッ

先輩「ああああダメダメ!!!! やっぱちょっと待って!!!!」ジタバタ

後輩「何なんですか! 何なんですかマジでもう!!」

先輩「怖ぇぇぇ! マっっっジでおっかねぇ! うわぁ……、ちょっと……、やば……」

後輩「こんなクソダサい不老不死がいてたまるか」

先輩「いや、ごめんて……。ちゃんとやるから」

後輩「はぁ……、もう。次でラストですからね?」

先輩「ウ、ウス」

後輩「……そうだ。じゃあ、こうやって……、後ろから……」ギュ

先輩「え、いや……後輩ちゃん?」

後輩「こう……、身体を、先輩が逃げないように、押さえつけながらですね」ガシッ

先輩「いやっ、ちょっ、無理ムリこれ怖ぇ! 待って! 怖いから! 怖いからこれ!」

後輩「へっへっへ、そんな暴れても無駄ですよ……。大人しくしてくださいよ……」

先輩「うぅぅぅ~~~~っっ」ギュウッ

後輩「行きますよ、先輩……。イタいのは最初だけですからね」

先輩「こ、後輩ぃ……っ!」

後輩「……」チクッ

先輩「ひっ!」

後輩「……」チクチク

先輩「きゃひっ!……お前っ! お、おま、お前なぁぁ……っ」

後輩「はぁぁぁぁ……、先輩が私の腕の中で、小さくなって震えてる……。まるでいたいけな子犬の様に……、あの先輩が……」ゾクゾクッ

先輩「性癖イカツいんだよお前ぇ……!」


こんな感じで、何も起きません
今日の所はここまでです

後輩「……っ!」プツ

先輩「ぎゃっ」

後輩「あっ……!」

先輩「……」

後輩「すみません、ちょっと深くいきすぎ――……」

先輩「……」

後輩「ぁ……」

先輩「……」

後輩「血が……、止まって……」

先輩「……」

後輩「……傷、塞がってる……」

先輩「……」

後輩「嘘……」

先輩「……ふ。驚いたろ?」グス

後輩「半ベソじゃねーですか」

先輩「ほっとけ! それより! 見たな! 見ただろ後輩! 嘘じゃなかっただろーが!」

後輩「はぁ、まぁ……」

先輩「なー! これで信じるだろ! なぁ! 信じるだろ不老不死!」

後輩「まぁ……、さすがに実際に目の当たりにしちゃうと、信じないわけには……」

先輩「そーだろそーだろ! か~っ! 得ちゃったんだよなぁ~! 永遠に尽きない命! そして絶対に傷つかない体ってヤツをさぁ~~っ! かぁ~~~っ!!」

後輩(急にウザくなったな……)

後輩「絶対に傷つかな――……あっ」

先輩「あ?」

後輩「……」カプ

先輩「ふぁぁぁ!?」ビクン

後輩「……」チュゥゥゥ

先輩「~~~~~っっっ!?!?!?」バシッ

後輩「あうっ!」

先輩「ば、バカっ! や、やめろって言ってんじゃん首! やめろって! いっつもいっつもぉ!」

後輩「首筋、アホみたいに弱いですよね、先輩」

先輩「っ!」ゲシッゲシッ

後輩「あうっ! あっ、すみませっ、すみませんっ! 痛い!」

先輩「バーカ! バカ後輩! どうすんだよお前、また痕残ったら!」

後輩「残してるんですよ」

先輩「バカぁぁ! お前なぁ、人が毎度毎度、どうやって隠そうと――……あ」

後輩「……」

先輩「あ~……」

後輩「……」

先輩「……消えた?」

後輩「消えた」

先輩「……ぉーん」

後輩「……はぁぁぁぁぁ」

先輩「いやいや」

後輩「はぁぁぁぁ~~~~~~……」ガックリ

先輩「こんなことでそこまで萎える?」










~大学構内~


後輩「……」

後輩「……ふぅん」ペラ

後輩「……」


後輩(昔、ある漁村の娘が――……)

後輩(そうと知らずに、人魚の肉を食べてしまった――……)


後輩「……」ペラ

後輩「……」


後輩(以来、娘は不老不死の体となり――……)

後輩(八百年の歳月を生き、やがて八百比丘尼と呼ばれるようになった――……)


後輩「……はぁ」

後輩(八百年かぁ……)

後輩(言うほど永遠の命感はないな)

後輩(鶴は千年、亀は万年だぞ)


後輩「……」


後輩(まぁ、でも……)

後輩(八百年は……)

後輩(長い、かな……)


後輩「……」パタン

後輩友「おいっすー! なになに? 何読んでんの?」

後輩「ああ、友か……。別に、何でもないよ」

友「ん~?『人魚の民話』……、アンタ民俗学なんて取ってたっけ?」

後輩「何でもないったら。ただ、暇つぶしに読んでただけ」

友「ほぉ~ん? ま、いいや。今日道場行く?」

後輩「ああ。……行くよ」

友「んじゃ、一緒に行こー!」

後輩「はいよ」










後輩「あのさぁ」

友「ん?」

後輩「もしさ、不老不死になれるとしたら……、友、なりたい?」

友「は? 何じゃそりゃ」

後輩「いや、ただの世間話」

友「あぁ、さっき読んでた本の話? 人魚の肉ってやつでしょ?」

後輩「ま、そんなとこ」

友「ん~、どうかなぁ。そうだねぇ……。正直、私は絶対ノーサンキューって感じかな」

後輩「そう?」

友「そりゃそうよ。別に長生きしてまで、やりたいことないし」

後輩「意外とドライよね、友ちゃんさ」

友「ほっとけ。それにさぁ、人に知られたりしたら、絶対ヒドい目にあうでしょ」

後輩「ヒドい目?」

友「たとえばほら、怪しい研究機関にさらわれて、謎の人体実験されたり」

後輩「……」

友「カルト宗教の団体に監禁されて、謎の儀式のイケニエにされたり」

後輩「は、はは……、ま、まさか……」

友「カブトガニ工場みたいな目にあったり!」

後輩「カブトガニ工場……」

友「だって不老不死だよ? どんな手使ってでも研究したい、調べたいって人なんて、山ほどいるに決まってるじゃん」

後輩「……」

友「それ考えたらさぁ、ただの小市民として、分相応に生きてくのが一番……ん? どした後輩?」

後輩「……別に。何でも」

友「そう? ……あ」

後輩「ん?」

友「あそこ、駐車場に停まってるレクサス」

後輩「ゲ、今日師範いるんだ」

友「はぁ~。まーたシゴかれるよ。目ぇつけられてんのよ私、あのババアに」

後輩「ま、ドンマイ」

友「はぁぁ~……」










~剣道場~



後輩(人体実験……、儀式のイケニエ……)

後輩(……確かに、不老不死なんて知れたら、放っておかれるはずがないよな……)

後輩(先輩……)



正面に礼ー!

神前に礼ー!


アザッシターー!!!


後輩「あざっしたー」

後輩「……」


後輩(もし、先輩が……)

後輩(悪い連中につかまっちゃったら……)

後輩(それで、人体実験なんてされて……)










先輩『ひぃィっ……! な、何すんだよぉ! やめろよぉ!』

先輩『お、おい……、何だよソレ……。そんなドリルなんて、何に使――……うわぁぁっ!』

先輩『いやだ! いやだよぉ! カブトガニみたいなことしないでよぉ!』







後輩「……」


後輩(……先輩)

後輩(泣いちゃうだろうな。ヘタレだし……)


後輩「……」


後輩(それはちょっと……、可哀想だな……)

後輩「……」

友「おつ~……」

後輩「おつかれ、友」

友「あのババア、いつか絶対泣かす」

後輩「イジめられたね、今日は」

友「ほんとクソ。……あ、この後どうする? メシでも行く?」

後輩「あー、ごめん。今日これから飲み」

友「お、合コン?」

後輩「まさか」

友「じゃ、あの先輩さん?」

後輩「……ま、ね」

友「いやぁ~、ま~たですかぁ? おアツいことで、結構でございますなぁ! ヒューヒュー!」

後輩「うっさい。ヒューヒューは古い」

友「まったくぅ、いーっつも先輩さんじゃん。妬けちゃうわっ、もうっ」

後輩「何でちょっとオネエ入ったの今」

友「あのクールな後輩が、こんなにベッタリになる人がいるなんてねぇ……。高校の時の下の子たちが見たら、腰抜かすわよ」

後輩「別に、ベッタリってわけじゃ……」

友「はいはい。ま、たまには友ちゃんとも遊んでよねぇ?」

後輩「分かった分かった。じゃ、またね」

友「うい、おつかれ」










~駅前~


先輩「いつもんトコでいいか?」

後輩「ええ、はい」

先輩「おっし、行くかぁ」

後輩「……」


後輩(……先輩)


先輩「空いてっかなぁ、今日~」

後輩「……」チラ


後輩(もし、不老不死のことが、周りに知られたら……)

後輩(……うっかりバレちゃいそうだしな、先輩アホだし……)


先輩「なーんか」

後輩「へっ?」ビクッ

先輩「今日元気ねーね、後輩ちゃん」

後輩「そ、そうですか? 別にそんなこと……」

先輩「や、何となく」

後輩「……稽古が厳しかったんで、ちょっと疲れてるんですよ。それだけ」

先輩「ふーん? ま、無理すんなよ」

後輩「どうも……」


後輩(アホだけど……、優しいところもあるし……)

後輩(この人が、可哀想な目にあうのは……)

後輩(ちょっと……、いや、それなりに、結構……、だいぶ……)

後輩(……いやだな)


後輩「……」チラ

先輩「~~♪」

後輩(私が守らなくちゃ)

後輩(私が助けなくちゃ)

後輩(私が――……)


先輩「あっ! 待って、お金おろしてねぇ!」

後輩「ちょっとぉ……、コンビニ過ぎちゃいましたよ?」

先輩「ちょ、ちょい待ってて! すぐ行ってくるから」ダッ

後輩「もう……」


後輩(私が……、先輩を――……)





今日はここまでです






~居酒屋~


イラッシャイマセー

ラッシャッセー!!!


店長「いらっしゃー……って、なんだ、先輩ちゃんかぁ」

先輩「えっへっへ……、店長どうも。席あいてる?」

店長「ちょうどよかった! ちょっとあんた、手伝ってきなさいよ! 今日はもうてんてこまいなんよー!」

先輩「えぇ~~」

店長「いいじゃない、一時間だけでいいからさ、ねっ。どうせ暇してて飲みに来たんでしょ?」

先輩「やですよ、今日は客っス。ほれ、ツレもいるし」

後輩「ど、どうも」ペコリ

店長「あーらまあ、後輩ちゃんじゃない! 久しぶりー!」

後輩「ごぶさたしてます……」

店長「あっはっは、そんなにかしこまんないでぇ! ま、ゆっくりしてってよ」

後輩「は、はぁ」

先輩「この扱いの差よ……」

店長「当たり前でしょー! ま、後輩ちゃんが一緒ならしゃーないかー。はい、2名様ごあんなーい!」


ヨロコンデー

ヨーコンデェェイイ!!!










先輩「かんぱーい」カチン

後輩「かんぱーい」チン

先輩「……」グビグビ

後輩「……」グビグビ

先輩「……っぷはぁー!」

後輩「……っぷはぁ……」

先輩「はぁ……、シメサバ頼む?」

後輩「頼みます」

先輩「あとどうしよっかなぁ……」

後輩「っていうか、先輩」

先輩「あん?」

後輩「その後、変わりないです?」

先輩「え? あぁ、相変わらずよ。完全無欠の不死身っぷり」

後輩「そっかぁ……」

先輩「昨日なんかな、机のカドに、太腿ガツーンって、まあまあエグめにぶつけちゃったのに、アザもあっという間に消えちゃってさぁ」

後輩「バカ丸出しじゃないですか」

先輩「ほっとけ! いやぁ、しかし便利なもんだなぁ、不老不死ってのはさ」

後輩「不死はすごいですけど……、でも不老の方は、言ってもたかだか、八百年くらいなんでしょ?」

先輩「おん?」

後輩「屋久島の杉の木は千年ですよ、千年」

先輩「いや、屋久杉はすげーけどさ……、八百年って何よ」

後輩「ほら、八百比丘尼って」

先輩「……後輩ちゃんね」

後輩「はい?」

先輩「『八百』っつーのはさ、古い言葉だと『めっちゃいっぱい』くらいの意味よ?」

後輩「え、そうなの?」

先輩「そうだよ。ほら、あるじゃん。『八百万』とか、『ウソ八百』とか」

後輩「八百屋とか……?」

先輩「そう……、あ、いや、それは、どうだろ。分からんけど」グビ

後輩「でも、私の読んだ本だと、八百年生きたから八百比丘尼って……」

先輩「ま、諸説あります、って感じ?」グビグビ

後輩「じゃあ、八百年以上……先輩は生きるってこと?」

先輩「知らねぇよ。参考事例もねぇんだし」グビ

後輩「……そっかぁ」

先輩「つーか、いちいちそんなの調べなくても――……ん……?」

後輩「……どうかしました?」

先輩「……」グビグビグビ

後輩「ちょっと、そんな一気にいったら……、先輩弱いんだから……」

先輩「けふっ。……ん~~?」

後輩「先輩?」

先輩「これ、ビールか? 本当に」

後輩「そりゃそうでしょ」

先輩「いやだって、全然酔わない、これ。ノンアルじゃねーの?」

後輩「まさかぁ……。ちょっとください」

先輩「ほいよ」

後輩「……」グビグビ

先輩「あっ、飲みすぎ! おいっ」

後輩「けふっ」

先輩「……どうよ」

後輩「……どうって、普通にビールですね。普通の」

先輩「あっれ~? ……っかしいなぁ、普段なら一杯目から、まあまあ気持ちよくなるはずなんだけど……」

後輩「……あ。あれじゃないですか? 不老不死だから」

先輩「だから?」

後輩「毒が効きません、的な理屈で、アルコールにも耐性ができてる、みたいな」

先輩「あー」

後輩「とか」

先輩「なるほどね」

後輩「適当ですけど」

先輩「いや、それっぽい! ってことはあれか! 今ならシコタマ飲みまくっても、酔いつぶれねーし、二日酔いにもならないってことかぁ!」

後輩「い、いや、それは分からな――……」

先輩「いやっほう! いやー、前からやってみたかったんだよな! バカ強い酒を浴びるほど飲むやつ!」

後輩「ちょっと……、そんな、無理しない方が……」

先輩「すみませーん!」


ハーイ


後輩「もう、先輩……」

店長「はいはい」

先輩「お、店長。注文ね! シメサバとー、イカとー……」

店長「はいよ」

先輩「……あと、このジンを、ストレートで」ニヤリ

後輩「はぁ……、アホだ……」

店長「ちょっとあんた、こんなの頼んで大丈夫なわけ? いくら不老不死だからって……」

後輩「え」

先輩「だーいじょうぶ、だいじょーぶ! 酒の毒も効かねーの、不老不死だから!」

後輩「ちょ――……」

店長「いいけど、お店で吐かんでよ? ……あ、後輩ちゃんも、飲み物頼む?」

後輩「え、いや、え? あ、あの……」

店長「?」

後輩「……な、生で」

店長「はぁーい! ご注文いただきましたぁー!」


スタスタ

後輩「……ちょ、あの……先輩?」

先輩「大丈夫だっつーの! マジで全然酔わねえんだから!」

後輩「じゃなくて……。あの、なんで店長さんが、知ってるんですか。その……」

先輩「不老不死のこと?」

後輩「えぇ……」

先輩「なんでって……、言ったから」

後輩「は……はぁぁぁ!?」ガタッ

先輩「わっ、なんだよ」

後輩「ど、どういうつもりなんですか! どうしてそんな大事なこと、軽々しく他人に――!」

先輩「当然だろー、健康上の問題なんだから、勤め先の責任者には、一応伝えとくってのが一般ジョーシキだろ」

後輩「いやいや……」

先輩「何かあったら、お店にだって迷惑が掛かるんだしな。バイトっつっても、そういうとこはしっかりしねーとさぁ」

後輩「だ、だけど……、もし他の人にバレたり、噂が広まったり……」

先輩「そんなん、お前に話したのだって一緒じゃん」

後輩「そ、それは……、そう、です……けど」

先輩「だろー?」

後輩「……」

先輩「安心しろってー、話したのは店長と、あとお前だけなんだから」

後輩「……」

先輩「店長も、口カタい人だしな」

後輩「……」


後輩(……なんだ)

後輩(……私にだけじゃ、なかったんだ……)


後輩「……」

先輩「後輩ちゃーん? どしたのほんと。今日元気ねーね、マジで」

後輩「……何でも、ないです……」

先輩「そう?」

後輩「……それで、店長さんにも見せたんですか? あの傷がムニョムニョ治るやつ」

先輩「へ? 見せてないけど?」

後輩「え……」

先輩「いや~、やっぱそういうとこ、お前よりか大人だわ、あの人」

後輩「……」

先輩「私が一言、こういうことなんで―っ! って伝えたら、店長もはいはい了解ーっ! ってなもんでな」

後輩「そ――……」


後輩(そんなこと……)

後輩(そんなことって、あるか、普通……!?)

後輩(本気にしてない、にしても……)


後輩「……」


後輩(いや、そもそも……)

後輩(ただの飲み屋に、人魚の肉なんてものが、どうして届いた……?)

後輩(どうして店長さんは、先輩が食べるのを、強く止めなかった……?)

後輩(何の魚かも分からないものを――……)



後輩「……」

先輩「? ……後輩?」

店長「おっ待たせしゃーした~♪」

後輩「っ!」ビクッ

先輩「おっ、きたきた!」

店長「あんたはホント、ほどほどにしとくんよ?」

先輩「へいへ~い」

後輩「……」ジッ


後輩(わざわざ店長さんが、自分で注文を持って……?)

後輩(いったい、何のために……?)



後輩「……」ジー

店長「……」

後輩「……」ジー

店長「あたしの顔、なんかついてる?」

後輩「へっ!?」ビクッ

店長「いやぁ~、そんな情熱的に見つめられたら、オネーさん照れちゃうわあ♪」

後輩「いっ、いや! 別にっ、そういうわけでは……っ!!」ワタワタ

店長「あっはは、後輩ちゃんって、からかいがいあるよねぇ」

先輩「後輩ぃ~、ちょっかい出すのもいいけど、この人旦那さんいるぜー?」

店長「今は! バツ! イチ! だっての! ――って、何言わすのあんたは!!」ペシッ

先輩「ってぇ!」

後輩「あ、あはは……」

店長「あ~、あんたらと話してると飽きんわ、ほんと」ケラケラ

先輩「だからって店長、酒運んでまで遊びに来てたら駄目でしょー。真面目に働いてくださいよー」

店長「うっさい! 見に来たかったからいーの! あたしの店だからいいんだー!」ケラケラ

先輩「あっ、さてはまた飲んでやがるな、この人!」

後輩「……」ジー


後輩(店長さん、この人は一体……)

後輩(どこまでが本気なんだ……?)


店長「ごゆっくりどうぞ~♪」スタスタ

先輩「やれやれ、仕事中に飲むなよなぁ、まったく……」グビグビ

後輩「……」

先輩「……っくぅ~~! ストレートは効くなぁ~! 効かねぇけど!」

後輩「……」

先輩「……後輩?」グビグビ


後輩(冗談のつもりなのか……)

後輩(それとも、何か……)

後輩(何か裏が……、隠してるものが……?)

後輩(もし……、そうだとしたら……)

後輩(私は――……)



先輩「……後輩」

後輩「え? あ、すみません。ちょっとボーッとしちゃって……」

先輩「あのさ……」

後輩「は、はい?」

先輩「ちっとも酔わないのも、割とつまんないのね、お酒って」

後輩「でしょうね」





今日はここまでです






ダッダッダッ


後輩『はっ……はっ、はぁ……!』タッタッ

先輩『ハッ、ハッ、ハ……』タッタッタッ


こっちだー!

逃がすなー!


後輩『……っ! こっちです、先輩……!』ダッ

先輩『お、おい、後輩!』タッタッ


ダッダッダッ

ダッダッ










後輩『あっ――……』

先輩『うぉ……っ』


ザザーン

ザーン


後輩『……』ハァハァ

先輩『嘘だろ……』ハァハァ

後輩『……』

先輩『崖かよ……、行き止まりじゃねえか……』


ザッ


黒服1『追い詰めたぞ』

黒服2『さぁ、大人しくその女を渡してもらおう』

後輩『……』

先輩『はぁ……、くそ……っ』



ザザーン


後輩『……先輩』

先輩『あ?』

後輩『先輩ひとりなら……、ここから飛んでも、生きて逃げられますよね……?』

先輩『お、おい……、どういう意味だよ、後輩……』

後輩『ここは私が食いとめます』

先輩『なっ……!』

後輩『私は大丈夫です! だから、どうか先輩だけでも!』

先輩『馬鹿やろ……っ! お前な――……』



『お、いたいた』



後輩『へ?』

先輩『は?』

店長『おーい。先輩ちゃーん』

先輩『あれ、店長ぉー』

後輩『な……っ!?』

店長『何してんのよ、もう。そんな危ないとこいないで、こっち来んさい、こっち』

先輩『えぇ~? いやでもさぁ……、うぅん、まいったなぁ、もぉ』

後輩『せ、先輩! 駄目です! そいつらのところに行ったら……!』

店長『だーいじょーぶだってぇ。悪いようにはしないからさぁ』

先輩『うーん……、まぁ、店長がそういうなら……』スタスタ

後輩『先輩ぃ!』

先輩『悪ぃな、後輩。店長に言われちゃったらさぁ、ほら、しゃーないじゃん?』

後輩『そ、そんなぁ……!』

先輩『そんじゃな、後輩』

店長『そうそう、おいでおいで。あ、ついでに今日シフト入れる?』

先輩『え~、それは勘弁っスよ、店長~』スタスタ

店長『固いこと言わんでさぁ』スタスタ

後輩『せ……せんぱ……』ヨロッ


ガラッ


後輩『あっ!』


ガララッ!!


後輩『あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!』










ピピピピピピピピピピピピピピピ


後輩「~~~~~~~~~っっっ!!!」ガバッ

後輩「っっ!?!?」


ピピピピピピピピヒ


ピッ


後輩「……」

後輩「……」

後輩「……夢?」

後輩「……」

後輩「……」ハァ


~数日後・早朝 後輩のアパート~


後輩(何つー夢だ……)


後輩「……」ハァァァ

後輩(結局、あの日の店長さんの真意は……)

後輩(考えれば考えるほど、分からなくて……)

後輩(ずっと悶々とした挙句……、こんなしょーもない夢まで……)


後輩「……」


後輩(……いや、ありえないんですけどね、普通に考えて)

後輩(こんな陰謀論じみた妄想、真剣に悩んでる方が、アタマおかしいです)


後輩「……」

後輩「……ぅん」

後輩「……うぅぅん」


後輩(けど……)

後輩(そもそも不老不死なんて、ありえないことが起こっている以上、何があったって不思議とは言えないわけで……)


後輩「うぅ~~ん……」ブンブン

後輩「いやぁ~~……」ブンブンブン

先輩「お、起きた」

後輩「あっ! お、おはよう……ございます……」

先輩「何してんの、お前」

後輩「え? あー、いや……、朝の……体操……?」

先輩「へぇ。起き抜けから大変ね、剣道ガール」

後輩「あ、あはは……」

先輩「つーかお前、結構うなされてたぞ? 大丈夫か?」

後輩「え」

先輩「何か、明け方ずっと、カブトガニぃ~、って言ってた」

後輩「な、なな何ですかねっ!? 変な夢でも見たのかな!? あは、あははは……」

先輩「また変なストレス溜めてんじゃねーの?」

後輩「や、あの、別に、何ともないですから!」

先輩「そう?」

後輩「も、もちろん! 元気いっぱい! いっぱいいっぱい!」

先輩「いっぱいいっぱいなのかよ」



後輩(先輩……)

後輩(今、先輩に、妄想みたいな話をして……)

後輩(怖がらせたり、不安にさせたりするのは……)

後輩(それは……、いやだな……)


後輩「……」

後輩「って、ていうか、先輩、今朝は珍しく早いですね」

先輩「1コマ目出なきゃなんだよ、今日」

後輩「へぇ~、すごい。ついに卒業する気になったんですね」

先輩「シバくぞこの野郎」

後輩「はは……」

先輩「ったく……」

後輩「……あの」

先輩「ん?」

後輩「先輩、今日バイトあります?」

先輩「あー? おう、7時から」

後輩「私、飲み行っていいですか、今日?」

先輩「別にいいけど。相手してやれねーぞ。金曜だから混むしな」

後輩「え、えぇ。大丈夫です。普通に飲むだけなんで……」

先輩「ほーん……?」

後輩「……」





今日はここまでです…
エタらねぇぞ…






~夜・居酒屋~


後輩「……」ガラッ


イラッシャイマセー!

ラッシャッセェェーイ!!


後輩「……うーん」


後輩(本当に混んでた……)


先輩「いらっしゃ……うわ、お前、本当に来たのかよ」

後輩「はぁ、すみません……。席、空いてます?」

先輩「空いてるけどさ。……カウンターでいいよな?」

後輩「ええ、全然」

先輩「んじゃ、そこの席な」

後輩「どうも。……って、あれ。予約席?」

先輩「取っといてやったんだろが。お前が来るっていうから」

後輩「うわぁ、何か、すみません。ありがとうございます」

先輩「つーか、マジで相手してやれねーからな、今日は」

後輩「わ、分かってますって」

先輩「生でいいかー?」

後輩「お願いします」

先輩「はいよー」

後輩「……」


後輩(……なんか、気ぃ遣わせちゃったな)

後輩(……まあ、とにもかくにも)


後輩「……」キョロキョロ

後輩(店長さん……)

後輩(あの人の様子を探って……)


後輩「……」


店長「はい、これ4卓様ー!」


後輩(……いた)


後輩「……」ジッ


後輩(もし店長さんが、先輩のことに、何か関係してるとしたら)

後輩(何か、怪しい動きがあるはず……)

後輩(先輩をこっそり観察していたり……、妙な態度を見せたり……)

後輩(何か、不自然なところが……)


後輩「……」ジーッ

店長「……」

後輩「……」ジーー

店長「……?」ニコ

後輩「あ」

店長「……」ヒラヒラ

後輩「……」ペコリ

後輩(……うーん)

後輩(……普通だ)


先輩「なーにボケっとしてんだよ」

後輩「うひゃあ!」

先輩「変な声出すなバカ」

後輩「せ、先輩……。な、何ですかもう……」

先輩「お前が何なんだよ。ほら、ビール」

後輩「あ、どうも……」

先輩「それと、お通し」

後輩「わぁ……」

先輩「これが山芋のたまり漬け。こっちがつぶ貝の甘辛煮で、あと豆あじのマリネな」

後輩「また、こじゃれたものを……」

先輩「店長の趣味だよ。……じゃ、あとはごゆっくり。飲みすぎんなよー」

後輩「分かってますよぅ……」

後輩「……」


後輩(……ふぅ)


後輩「……」グビ


後輩(店長さんは……)


後輩「……」


後輩(相変わらず、忙しそうだけど)

後輩(別に変ったところは……)


後輩「……」

後輩「……」ジー

後輩「……」グビ

後輩「……」


後輩(……山芋)


後輩「……」パクリ

後輩「……」シャキ モグ

後輩「……!」


後輩(美味しい……!)

後輩「……」パクパク


後輩(ほのかに生姜の風味がきいてて……)


後輩「……」グビグビ


後輩(お酒にもよく合う……!)


後輩「……」プハ


後輩(……つぶ貝)


後輩「……」モグ


後輩(美味……っ)

後輩(柔らっかぁ……!)

後輩(どんな仕組みだこれ……!)


後輩「……」モグモグ

後輩「……」グビグビ

後輩「……」モグモグ

後輩「……すみませーん! 生ひとつー!」


ハーイ!!

後輩「……♪」


後輩(次は何頼もっかなぁ)

後輩(お揚げと漬物……)

後輩(いやいや、まずは刺身のお勧めの引いてもらって……)


後輩「……」ハッ


後輩(……って、違う違う!)

後輩(今日は店長さんの動向を、調べないと!)

後輩(そのために来たんだってば!)


後輩「……っ」ジー

後輩「……」

後輩「……」キョロ


後輩(……お勧めはホンビノスの酒蒸しかぁ……)


後輩「……!」ハッ


後輩(違うってば私ーーー!!!)










先輩「はい4卓様おかえりでーす!」


アリガトーゴザイマシター!

アリャーシタァァー!!


先輩「……ふぅ」

先輩「……お」


先輩(あいつ、まだ飲んでたんだ)


先輩「……」

先輩「……?」







後輩「……」

後輩「……」ジー







先輩「……」


先輩(何だ? 何かジッと見て……?)

先輩「……」ヒョイ


店長「またお越しくださーい、ありがとうございましたー!」ニコニコ

後輩「……」


先輩「……?」


先輩(……店長?)

先輩(何だってアイツ、店長のことなんてジロジロと――……)


先輩「……あ」


先輩(そういや、後輩……)

先輩(この前店に来た時も、店長のこと……)


先輩「……ほほーん」

店長「ちょっと先輩ちゃん! 何突っ立ってんの! 席かたしちゃって!」

先輩「あ、サーセーン」










~後日・大学~


キーンコーンカーンコーン


後輩「……ふぅ」


後輩(……あれから)

後輩(何度か、お店に行ってみたけど……)

後輩(これといった手ごたえもなく……)


後輩「……」


後輩(店長さんが先輩をジッと見ていることは、確かに何度となくあった)

後輩(でも、単なる仕事上の目配りと言ってしまえば、それまでで……)


後輩「……」


後輩(怪しむ理由にはなりませんよね)

後輩(でも、疑いを晴らすほどの根拠もありません……)

後輩「……はぁー」


後輩(これ以上、お店に顔を出しても、この状況が進展する気はしないし……)

後輩(そして何より――……)


先輩「おーっす後輩ー!」

後輩「あ……、先輩。どうもです」

先輩「あれ、お前、次この教室?」

後輩「法学棟ですよ。ちょっと疲れたんで、休んでただけです」

先輩「あっはは、飲み疲れだろ、どうせ」

後輩「ですかねー……」

先輩「そうだって。ここのとこ連チャンじゃん。おっさんかよ」

後輩「否定できないのがムカつく……」

先輩「んで? 今日はどうする? また一人で飲み来ちゃう?」

後輩「……――ません」

先輩「ん?」

後輩「行け、ません……。もう無理ですよ……」

先輩「何だよ」

後輩「お金ないんですよぅ……!」

先輩「あっはははは!」

後輩「笑い事じゃないんですよっ」

先輩「あははは!そりゃだって、お前、あんな毎晩あれだけ飲み食いしてりゃさぁ!」

後輩「お店のメニューが美味しいのが悪いんですよ……」

先輩「お前がアホなだけだろー?」

後輩「うっさいですっ!」

先輩「あははは」

後輩「……先輩、念のため聞きますけど……」

先輩「金なら貸さねーぞ」

後輩「ですよね……」


後輩(……まさかこの歳になって、親に仕送りの前借りを頼むハメになるとは……)

後輩(こうなっては、お店でこっそり探りを入れることもできません)

後輩(いったい、どうしたら……)

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……な、なぁ、後輩さ。お前さ、最近よく来るのって、やっぱ店長が――……」

後輩「……あ、はい? ごめんなさい、何です?」

先輩「い、いや、だからさ。お前、店長を――……」


キーンコーンカーンコーン


後輩「あっ、やば! 授業始まった! ……すみません! またです!」ダッ

先輩「あっ……」


タッタッタッ


先輩「……」

先輩「……ほーん」










~夕方・居酒屋~


店長「~♪」トントン

店員1「大根こっちオッケーでーす」

店長「あんがと~、そこ置いといてー」

店員1「うぃっすー」

店員2「店長~!」

店長「はいはーい」

店員2「お客さんですけどぉ~」

店長「へ? 私?」

店員2「あの何でしたっけ? 先輩ちゃんとこの……」

店長「……後輩ちゃん?」









後輩「……」


後輩(来てしまった……)

後輩(いや、でも……、もう探りを入れてもラチがあかない)

後輩(そもそも、もう懐も余裕がない)

後輩(だとしたら、もうこの際、仕方がない……)

後輩(イチかバチか! 直接聞いてみるしかない……っ!)


後輩「……」

後輩「……何やってんだろ、私……」


店長「あ~、ごめんごめん」

後輩「あっ」

店長「や!」

後輩「ど、どうも……」ペコリ

店長「どしたのー。まだお店開かないよー?」

後輩「す、すみません、忙しい時に……」

店長「いやぁ、いいんよいいんよ。それで? どしたん?」

後輩「……あの。実は、先輩の、ことで……」

店長「うん? 先輩ちゃん……?」

後輩「……へ、ヘンな話、なんです、けど……。あの、先輩が……、店長さんに……」

店長「うん」

後輩「……ふ、不老不死、って……」

店長「……」

後輩「あの話……、店長さんは、その、そ、率直に言って、どう思――……」

店長「……ぶっ!」

後輩「え?」

店長「あっっはははははっ! あはははははっっ!!」

後輩「あ、あの……」

店長「あははははっ! ひぃ……っ! ははっ、な、何もぉ! 後輩ちゃんもグルなん? あのしょうもないネター!」

後輩「え、あ……」

店長「ドッキリ……ってか、モニタリング? あの子もアホだよねー!『店長……、私、死ねない体になった……』ってさあ……クッ、クックク……」

後輩「ドッキリ……」

店長「ハイハイ、っつって流したけど、後輩ちゃんまで仕掛け人なのは……ぶふっ……あははは! あー、駄目だぁ、アホすぎて笑っちゃう!」

後輩「え、えっと……、あ、あー……、あははー、ば、バレてましたかぁー」

店長「あったりまえでしょー! 今時ね、もうちょっとヒネらないと! あんなん、小学生でも引っかからんよー」

後輩「で、ですよねー」

店長「後輩ちゃんもね、あのアホの子に付き合って、しょうもないことやってたらいけんよ? 冗談の通じない相手だったら、カーッていかれてんよ?」

後輩「ご、ごめんなさい」

店長「んっふふ……、私は大丈夫だけど! 面白かったから全然オッケー! はー、久しぶりにアホ見た」ケラケラ

後輩「……」


後輩(……やっばい)

後輩(めちゃくちゃ恥ずかしい……)

後輩(もう絶対、お店飲みに行けない……)

後輩「……はぁぁ」

店長「ま、アンタたちがこんな、仲良しカップルなのはね、お姉さん的にも見てて嬉しいけどね」

後輩「か、カップル……」

店長「あら、違った?」

後輩「違っては~……、いやまぁ、そういうのじゃ……、まぁ何か、腐れ縁……っていうかぁ、いやま、そのぉ……」

店長「……あ、へぇ。う~ん」

後輩「……え、何です?」

店長「ああ、ごめんね。後輩ちゃんね」

後輩「はい」

店長「好きでしょ? 先輩ちゃんのこと」

後輩「ぶっ!」

店長「違うん?」

後輩「違っ…………」

店長「……」

後輩「……く、ないです」

店長「……」

後輩「……好き、です」

店長「だーよねー! でさでさ、それって、ちゃんと先輩ちゃんにも言ってる?」

後輩「そ、それはぁ~……」

店長「……」

後輩「でも、わ、わざわざ言うこともないっていうか……。一緒に生活してますし、なんやかんや、いっつも一緒ですし、それも中学から一緒だし、それに――……」

店長「言ってないん?」

後輩「……えっと、あの……」

店長「……」

後輩「……」コクン

店長「あ、違うんよ。責めてるとか、駄目よって言ってるわけじゃ、なくてね?」

後輩「は、はい……」

店長「ただねぇ……。ほら、アホでしょ、あの子」

後輩「はい」

店長「まぁまぁのアホでしょ」

後輩「はい」

店長「だからね……。もし後輩ちゃんが、あの子のこと大好きで、大切に思ってても……」

後輩「……」

店長「近くにいるのが当たり前すぎるとね、その気持ちに気付けないことって、きっとあると思うんよ。……先輩ちゃんみたいな子は、特にね」

後輩「当たり前……」

店長「そう、当たり前。……一緒にいるのが当たり前だから、一緒にいるのか。好きだから一緒にいるのか……」

後輩「……」

店長「……同じ一緒でも、きっと、ちょっと違うの」

後輩「……」

店長「もし、あなたたちに何か、ちょっとしたトラブルが――……たとえば、たとえばよ?」

後輩「はい……」

店長「何かを試されるような、そんなことが起きたとして」

後輩「……」

店長「そのピンチを救ってくれるのって――……、きっと、そういうちょっとした違いだったりするんよね」

後輩「……店長さん」

店長「……なんてね。ちょっと説教はいっちゃった? ごめんね!」

後輩「い、いえ……」



後輩(……店長さん……)


店長「……、……バツイチの言葉は重いなって思ったでしょ」

後輩「お、思ってない! 思ってません!」

店長「あっはは! ……ね、後輩ちゃん」

後輩「はい……」

店長「私ねぇ、後輩ちゃんと先輩ちゃん、あなたたちのこと、本当に大好きなの」

後輩「……」

店長「二人にはずっと仲良しでいてほしいし、二人でずっとアホやって、笑っててほしいし、暇なときは二人で、私のお店に来て、そんで山ほど飲んでほしいわけ」

後輩「……」

店長「だからさ、二人が苦しそうだったり、気まずそうにしてるところは、見たくないんよ……」

後輩「店長さん……」

店長「……でもね、そんな風になっても、きっとあなたたちは、何やかんや乗り越えて……」

後輩「……」

店長「それで、またアホみたいに笑かしてくれるって」

後輩「……」

店長「そう思ってるよ、私は。本当に」

後輩「はい……」

店長「応援してるんよ、私。これでも」

後輩「……店長さん」

店長「……」ニッコリ

後輩「ありがとうございます」ペコリ

店長「んふふ、真面目よねぇ、後輩ちゃんは!」









~後日・大学~


先輩「……ふぁ、ねむ」ファー

先輩「……っ」ノビー

後輩「せーんぱいっ!」ダキッ

先輩「うわぁ! びっくりしたぁ!」

後輩「ふふっ、もう、ビビりすぎですよぉ」クスクス

先輩「やめろよ、お前……、心臓止まるかと思っただろ……」

後輩「おっ、不老不死ジョークですね? いやぁ、キレてますねぇ、今日の先輩!」

先輩「……今日は機嫌いいわね、後輩ちゃんよ」

後輩「え~、そうですかぁ? いつもと変わんないと思いますけどぉ」ギュー

先輩「めっちゃひっついてくるじゃん……」

後輩「えへへ……、当たり前ですよぉ」

先輩「当たり前なのかよ」

後輩「でも、当たり前じゃないんですよ」

先輩「……は? 禅問答か?」

後輩「……ふふ、あのね、先輩」

先輩「何だよ」

後輩「……あ、あー、でもやっぱり、今じゃない方がいっかぁ……。もうちょっと、やっぱり、雰囲気とか……、せっかくだし……」ゴニョゴニョ

先輩「あ、何て?」

後輩「な、何でもないですっ」パッ

先輩「……後輩?」

後輩「また今度、ちゃんとお話しします! ……とっても、大事な話」ニコニコ

先輩「……」

後輩「じゃ、先輩! またでーす」タッタッタッ

先輩「お、おー……」


先輩「……」


先輩(……どうしちゃったんだ、アイツ?)

先輩(近頃妙に、思いつめた顔してると思ってたら……)

先輩(急にアホ面で、ニヤニヤしちゃって……)


先輩「ほーん……」


先輩(とっても……、大事な話……)


先輩「ほほーん……」









~夜・居酒屋~


先輩「4卓オッケーでーす!」

店員2「ウェーイ」

先輩「洗いもん、手伝いますー」

店員2「ウェイ、サンキュー」

先輩「ウェーイ」

店員2「……」ジャブジャブ

先輩「……」ガチャガチャ

店員2「……」ジャブジャブ

先輩「……」

店員2「……あ、そういやさぁ」

先輩「はい?」

店員2「何つったっけ? 先輩ちゃんといっつも一緒のさ、あの子」

先輩「後輩?」

店員2「あ、そうそう。後輩ちゃん」

先輩「アイツ、どうかしました?」

店員2「何かさ、こないだお店に来てたよ」

先輩「あー、最近ちょくちょく来てますよね。一人で」

店員2「いや、そうじゃなくてさ。開店前に」

先輩「へ? 開店前? ……何スかそれ?」

店員2「それがさぁ、店長に話したいことがあるとか、何とかってさ」

先輩「……」

店員2「何か、真剣っつーか、こう……、思いつめた顔してて」

先輩「……な、何の用だったんすかねぇ~……?」

店員2「いや、話の内容までは分かんなかったんだけど」

先輩「……」

店員2「でもさ、店長、戻ってきたら妙にニコニコしちゃっててさぁ!」

先輩「……そっかぁ」

店員2「そっかぁ、じゃないでしょ。どーすんのアンタ」

先輩「どー、って、何をどうするんですか」

店員2「だってさぁ!」

先輩「だっても何も、別に私ら、付き合ってるわけでもねーですし」

店員2「えっ!?」ガッシャン

先輩「うわっ! ちょっ……!? 割れた!?」

店員2「割れてない割れてない! セーフ! ……セェーッフ」

先輩「ちょっとぉ……」

店員2「え、ていうか、真面目に? 恋人じゃないの?」

先輩「違いますって」

店員2「でも、同棲してんじゃん」

先輩「ルームシェアですって」

店員2「セックスだって」

先輩「!?」ガッシャン

店員2「あっ! ちょっ!?」

先輩「割れてない割れてない!!」

店員2「セェーフ……」

先輩「はぁ……」

店員2「……」

先輩「……何で知ってんスか」

店員2「だってアンタ、たまに首にキスマーク……」

先輩「うぁー……」

店員2「それで付き合ってないってのはさ、ちょっとアレでしょ」

先輩「アレですか」

店員2「アレだよー」

先輩「……でも実際、お互い告白とか、そういうのもしてねぇですし」

店員2「や、告白とかは、別になくてもいいっしょ」

先輩「恋人っぽいこととかも、まぁ、全然」

店員2「何それ、たとえば?」

先輩「えー? 何だろ……クリスマスデートとか?」

店員2「しないんだ」

先輩「しませんよ」

店員2「バレンタインは?」

先輩「あ、それは友チョコ的なのを」

店員2「あぁ、へぇ……」

先輩「……だから、アイツが店長とどうにかなったって、別に私に、とやかく言える筋合いはないってワケでしてね……」

店員2「そうかなぁ、筋とか別に、関係ないと思うけどなぁ……」

先輩「リーダー、実は割とイケイケですよね……」

店員2「えぇ~、そんなことないと思うけど~――……」


3名様ご来店でーす!


先輩「いらっしゃいませー」

店員2「ラッシャッセェェーッッ!!」

先輩「……掛け声イカつすぎません?」

店員2「そんなことないと思うけど~……」









先輩「お先失礼しまーす」


お疲れさまー

お疲れー


ガラララ バタン


先輩「……ふぅ」

先輩「……」


先輩(……後輩)


先輩「……そっかぁ」

先輩「……」

先輩(……ちゃんと)

先輩(言っとけばよかったなぁ……)

先輩(ちゃんと……、思ってること……)


先輩「……無理じゃんね、もう」

先輩「……死ねない身体なんかじゃ、ね……」

先輩「……」

先輩「……はぁ」

先輩「……」









~後日・後輩宅~


先輩「……」ペラ

先輩「……」


先輩(八百比丘尼は――……)

先輩(その長い生涯を経たのち……)

先輩(福井にあるお寺で、入定を果たしたという――……)


先輩「……」ペラ

先輩「……」

先輩「福井かぁ……」

先輩「越前ガニだな……」ペラ

先輩「……」パタン

先輩「よし」

先輩「準備オッケー」


先輩(……悪いな、後輩)

先輩(黙っていくなんて、申し訳ないけど……)


先輩「……」

先輩「これでいいんだ、これで……」

先輩「……行くか」スッ


ドタドタ ガチャン


後輩「ただいまです~! は~、疲れ――……」

先輩「あっ」

後輩「え?」

先輩「……」

後輩「……あの」

先輩「お……、おかえり」

後輩「はぁ。ただいまです。……お出かけです?」

先輩「あー……まぁ、その……」

後輩「ってか、何ですかその大荷物。旅行行くんじゃない……ん……で――……」

先輩「……」

後輩「……先輩?」

先輩「あー、コホン」

後輩「……」

先輩「んー、後輩」

後輩「はぁ」

先輩「店長と……、仲良く、な」

後輩「はぁ?」

先輩「じゃ」ピッ

後輩「ちょ、ちょっ、ちょ……っ! じゃ! じゃないんですよ! 何訳わかんないこと言ってるんですかアンタ」ガシッ

先輩「ふぎゃっ」ガクン

後輩「何なんですかいやマジで! 店長さんと仲良くって、どういうことですか! ってかそもそも、どこに行く気なんですかぁ!?」

先輩「ふ、福井……」

後輩「何で福井! 越前ガニでも食べ行く気なんですか! アホなんですかアンタは!」ガッチリ

先輩「うーるーせー! はーなーせー!!」ジタバタ

後輩「やーあーだー!!」


ドタバタ! ドタン! バタタン!!

ドスン!



先輩「ぎゃんっ」

後輩「はぁ……はぁ、ふー……、ふぅー……っ」

先輩「はぁ、はぁ、はぁ……」

後輩「先輩……」

先輩「ちょ……、退きなさいよ、重……」

後輩「どこに行く……つもりだったんですか」

先輩「……福井のお寺にな、八百比丘尼が最期をむかえたお洞があってな……」

後輩「な……」

先輩「……そこで過ごすのさ。この永遠の命が尽きるまで、ひっそりとな……」

後輩「アホじゃん」

先輩「んだとー!」

後輩「いやアホですよ! アホそのものー! そんなの先輩絶対無理ですから! 一人で一日もいられない寂しんぼのくせに!」

先輩「う、うるせーうるせー!」

後輩「お寺なんて、美味しいもんも何もないんですよ! お酒だって飲めないし!」

先輩「うっ……、飲めないのは……、うぅん……」

後輩「だいたい! 何のつもりでそんなアホなこと思いついたんですか。小学生の家出じゃあるまいし」

先輩「は……っ、定命の者には分からねぇだろうよ……。トコシエに生きる宿命の、その孤独なんて……」フッ

後輩「うっわ」

先輩「引いてんじゃねーこの野郎ー!」

後輩「……先輩、昔好きでしたもんね、そういう系の。ファンタジー? ラノベ? みたいなやつ」

先輩「やめろー! 昔の話はやめろー!」

後輩「なーにがジョーミョーノモノですか、アホのくせに賢ぶっちゃって……」

先輩「うるせっつーの! い、いいから、さっさとどけ! そんで店長のとこでも行ってこい!」

後輩「あ、それ!何なんですかそれ! なんで店長さんが出てくるんですか!」

先輩「いやだって、この間お前……、店来たんだろ? 開店前に。店長に会いに」

後輩「えっ、なぜそれを……」

先輩「で、言ったんだろ?」

後輩「へ?」

先輩「付き合ってください的なさ」

後輩「いえ?」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……告白……」

後輩「いやしませんし」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「え?」

後輩「え? 何で? 何でそうなるんです?」

先輩「い、いやだって、何か色々、雰囲気がこう……ゴニョゴニョ。……っつーか、だったらお前、何しに行ったんだよ、店長のとこなんて」

後輩「あ、そ、それは~……、黒幕的な、色々、雰囲気がこう……、ゴニョゴニョ……」

先輩「何で泣きそうなんだよ、そこで」

後輩「と、とにかく! 全然違います! そんな話、全然してないんです!」

先輩「じゃ、どんな話したんだよ!」

後輩「それは――……」

先輩「あ?」

後輩「……」

先輩「……?」

後輩「……あぁ、そうか」

先輩「ん?」

後輩「こういうことだったんですね、店長さん……」

先輩「……後輩?」

後輩「先輩」

先輩「お、おう」

後輩「私、先輩に、どこにも行ってほしくありません」

先輩「……!」

後輩「ずっと一緒にいたいし、もっと近くにいたいし、いっぱい二人の時間がほしい」

先輩「こうは――……」

後輩「一緒にいて当たり前、だからじゃなくて。私が、そうしたいから」

先輩「……」

後輩「先輩のことが、好きだから……」

先輩「……っっ」

後輩「だから……、どこにも、行かないでください、先輩……」

先輩「……バカ」

後輩「お願い……」

先輩「……私、多分死なないんだよ?」

後輩「……はい」

先輩「だったら、ずっと一緒なんて、いれないじゃん……」

後輩「……」

先輩「……だから。だから……、私に、お前の隣にいる資格なんて……」

後輩「関係ないんです。先輩が何歳まで生きたって。私が死んじゃったって」

先輩「……」

後輩「それでも、離ればなれになんて、なりたくないんです。好きだから……」

先輩「……こ、後は――……」

後輩「……」

先輩「……い……」

後輩「……」

先輩「……いいのか?」

後輩「……」コクン

先輩「……不老不死だよ?」

後輩「……」コクン

先輩「お前がお婆ちゃんになっても、私、ピッチピチだったりするんだよ?」

後輩「お婆ちゃんになっても、一緒にいてくれんですね?」

先輩「……お前」

後輩「本当です。先輩が不老不死でも、人間じゃなくても、カブトガニでも……。私、先輩のこと、好きだって言えます」

先輩「……あはは」

後輩「……」

先輩「カブトガニは、ちょっと無理だろ」

後輩「ふふ……、そうかも」グスッ

先輩「……泣くなよ」

後輩「だってぇ……」グスグス

先輩「……ごめんな、後輩。……ありがとう」

後輩「……」

先輩「私もね、後輩のこと、好き。大好き。たぶん、ずっと前から」












後輩「……」

先輩「はぁ……」

後輩「……」

先輩「水いるか?」

後輩「あ、はい」

先輩「ほい」ヒョイ

後輩「どうも」

先輩「……ってかさぁ」

後輩「はい?」

先輩「マジでさ。店長のこと。何の用だったん?」

後輩「いやぁ~……、別にその、本当、大したことじゃなくて……」

先輩「何だよもう」

後輩「いや何て言うか……、……あ! そう! 先輩のためだったんですからね!」

先輩「はぁ? 何で私?」

後輩「先輩のために、私がどれだけ骨を折っていたか! 身も心も擦り減らして、懐も散々寒くして……」

先輩「あー、はいはい。どうせまたしょーもないことで、空回ってたんだろ? アホくさ」

後輩「なっ……、アホにアホって言われたくありませんー!」

先輩「いや、あはは、どう考えてもアホじゃんお前さー」

後輩「2留の方がアホじゃん」

先輩「だから2留以下じゃん。下の下じゃん。アホレースの一等賞じゃん。優勝ー、後輩ちゃーん」

後輩「~~~~~っっ!!」ガブッ

先輩「ふぁぁぁっ!」ビクン

後輩「……」チュゥゥゥゥ

先輩「~~~~~っっ!!」バシッ バシッ

後輩「あうっ! あうっ!」

先輩「首は! やめろって! 言ってるだろが! いいか! 首はダメ!」ハァハァ

後輩「ちぇ……、いいじゃん、どうせ痕消えるんだし……」

先輩「あのな、そういう問題じゃ――……」

後輩「……え?」

先輩「おい、聞いてんのかよ。人の話をなぁ――……」

後輩「待って! 先輩ちょっとストップ!」

先輩「なーんだよ! 話逸らす――……」

後輩「痕!」

先輩「あと……?」

後輩「……あと、消えない……」

先輩「……嘘」

後輩「……」

先輩「……ちょっと、鏡ある? 見せて?」

後輩「……」スッ

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……え」

後輩「……」

先輩「……消えて、ない」

後輩「……」

先輩「元に……、戻った……?」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……あは」

後輩「……ぷっ」

先輩「あは、あっははははは!」

後輩「ふっ、ぶふ、ふふふふふ! ふふふっ!」

先輩「あははははっ! あーっはっはっはは!」

後輩「ふふふ! あはははは!」

先輩「はははっ! お前、どうすんだよこれー! また人に見られたら恥ずかしいだろー!」ケラケラ

後輩「クスクス……。もっといっぱい付けてあげます」

先輩「にゃろー! 仕返しだっ、この!」カプッ

後輩「ひぁっ! やっ、ちょっと、駄目ですって! もう、バカぁ!」

先輩「ふ、ふふっ。……なぁ」

後輩「何です?」

先輩「……愛してるよ、後輩ちゃん」ギュ

後輩「バカ……。……私もですっ」ギュッ

先輩「んふふ……」













~????~

プルルル

プルルル


店長「あー、もしもし? 私わたしー」

店長「うん、そうそう、その話。……ま、簡潔に言うね」

店長「『研究所』からのレポートよ。被験者№7は『不適合』」

店長「……そ。そういうこと。『教団』もすでに、彼女の監視を解いたわ」

店長「私たちも、早急に次のテストケースに移行すべきって、伝えといて」

店長「……」

店長「……ホッとしてる? 私が?」

店長「ふふっ……、どうかしらね。秘密よ、秘密」

店長「とにかく、次の『人魚の肉』は、早めに回してね。そうね、来週中にでも」

店長「『教団』にも、『研究所』にも、絶対に先を越されちゃいけないからね」

店長「『比丘尼計画』……、プロジェクトの主導権を握るのは私たち」

店長「……そう、我々『カンパニー』こそが、不死の謎を解き」

店長「そして、生命の真実を手に入れるのよ――……」

店長「ふっ……、ふふふ……っ! あーっはっはっはっはっは!!」






~おわり~


これでこのお話は終わりです
お読みいただいてありがとうございました

……間空いちゃったり、急ぎ足になっちゃったりですみませんでした
それでは

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