エレン「記憶のなまえ……」(16)
※マジネタバレ注意
※タロットのアルカナに沿ってエレンが数奇な運命を歩みます
※ペルソナは関係ないです
0. 愚者
始まりを意味し、無限の可能性を示唆。
運命の始まりを告げる。
アルカナの示す指針を辿り、
残酷な世界に淡い希望を望んで少年は旅人となった。
歩む旅路には何らかの目的があるのか。
あるいは…目的もなく、ただ彷徨い続け、全てを失い――絶望に身を委ねるのか……。
遠くで子供たちの笑い声が響く。
小鳥の囀り、吹きすさぶ風、照りつける太陽。
―――平和。
まるで、この世界には最初から“何”もなかったかのようだ。
川のせせらぎに眠気を覚えながら、エレンは思った。
「それでね…」
男にしては、中性的な顔立ち。
長い金髪を風に靡かせながら、輝いた目で本を捲り、話を続けている。
男の子の名はアルミン・アルレルト
――エレンにとって唯一無二の親友だ。
エレンはこの時間が好きだった。
――外の世界について想像するかけがえのないこの時間が…。
外の世界へ…
いつか一緒に行こう。――二人でした約束だ。
外の世界へ出る。
――泰平のこの世にそんな思想を持つ者を異端者と罵る者もいるが、
此処ではない何処かへ行きたいというエレンの想いを抑えることは何人たりとも
できなかった。
もう一人、エレンをいつも追い掛ける少女がいた。
艶のある黒髪、長い髪を束ねる赤いマフラーがよく映え、印象的な女の子だ。
漆黒の目は、放浪癖のあるエレンの後姿を見失わないように大きく見開いている。
ミカサ・アッカーマン――幼い頃、エレンに命を救われ、家族として共に暮らしている。
アルミンとミカサ。
――三人はどこへ行くにも、一緒だった。
日が暮れるまで遊び、家に帰ると暖かい食事と家族が迎えてくれる。
こんな幸せがいつまでも続くと思っていた……。
だが、世界は…あまりにも――無慈悲で……残酷だった………。
突如、大気が震え、けたたましい轟音とともにナニカが姿を現した。
50メートルほどある壁から頭だけを覗かせ、中の様子を観察しているかのようだった。
小石を蹴るように、左足を軸足に据え右足を大きく振りかぶり――蹴り上げる。
その動作だけで、壁は本来の壁としての役割を果たさなくなった。
「ヤツ…だ」
ナニカを認識する頃には、大量の巨人が我先に壁内へと雪崩れ込んで来た。
“巨人”――それは、人類がこの狭い壁内に囚われている元凶だ。
壁が破られた。
この事実を、受け入れる者。受けきれない者。
逃げ惑う者。恐怖に慄き、立ち尽くす者。蹲る者。
子供が泣喚き、徘徊しながら母親を呼んでいる。
……地獄絵図という言葉がよく似合う光景だ。
破片が無数の投石となって民家に降り注ぐ。
人々はそれをただ呆然と眺めていた。
大丈夫だ。…家に当たってるわけがない。
祈るようにエレンは力強く地を蹴り、駆け出す。
あの角を曲がれば…いつもの……
しかし、
エレンが目にしたものは……
「…母さん!!」
そこには、瓦礫に足を潰され、自由に動くことのできないカルラがいた。
ミカサより長い髪は振り乱れ、
エレンと瓜二つである黄金色の目からは光が失われていた。
二人は一直線に駆け寄り、瓦礫を退かそうとする。
――くそっ……。
巨人が目視できる距離にまで近づいてくる。
エレンの表情を察したのか、カルラが二人に逃げるように促す。
「一緒に逃げよう!!」
エレンは腕により一層の力を加え、嗚咽をもらしながら言った。
「二人は逃げて、生きて…」
薄れゆく意識の中でカルラは懇願する。
「やだ…」
頭を左右に振りながら、ミカサは拒絶する。
家族を失う辛さを誰よりも知っている彼女にとって、
家族は何ものにも代えがたいものだった。
――だからこそ、カルラを置いて逃げることなんてできるはずがなかった。
もう、終わり……
三人とも、助からない…
光明が閉じかけた瞬間、カルラは見知った顔を視界の端に捉えた。
その人物は、薔薇の刻印を背負い、立体機動装置を備えていた。
普段の軽薄な振舞いからは、想像できないような真剣な面持ちで
三人のもとへ近づいて来る。
「ハンネスさん…」
「エレンとミカサを…二人を助けて」
「私は…いいから……」
カルラは搾り出すような声で、言葉を紡ぐ。
「安心しろ…」
「三人とも助け出してやる…」
ハンネスは恐怖を隠すように、努めて明るく声を掛ける。
だが、現状この状況を変えるためには、
一縷の望みに賭け、巨人を殺し、三人を助けるか…
それとも、確実に……。
ハンネスは震える膝を鼓舞させ、巨人に立ち向かう。
巨人はにたにたと笑い、目の前の人間が眼に入っていないかの様に、
ただ、前進を続ける……。
彼らは捕食者として、この世界の食物連鎖の頂点に君臨している。
自身が狩られることなんて、微塵も思っていないかのように…
ただ、進撃を続ける……。
――無理…だ
ハンネスは歯をがちがちと鳴らしながら、掌に汗が滲むのを感じた。
――死にたくない。
思うが早いか、
踵を返し、ハンネスはエレンのもとへ戻ってきた。
「まだ、母さんが!!」
悲鳴にも似た叫びを上げるエレンとミカサを抱え、
ハンネスは飛ぶようにその場を去る。
「ありがとう…」
残されたカルラは三人をいってらっしゃいと見送るかのように
いつもの優しい笑みを浮かべ、呟いた。
ふいに脳裏に過去の記憶が現れる。――思い出すことは――…家族のこと……。
「…行かないで」
伸ばした手は届くはずもなく、虚しく空を切った……。
血飛沫が舞う。
人を人とも思わないかのように、
虫けらの様にへし折られ、喰われていく。
ぐちゃぐちゃと肉の潰れる音が響く…
ぱきぱきと骨の砕ける音が響く…
目前の惨劇を受け入れられないエレンは交錯する感情から、
やがて――…ある一つの思考に行き着く。
――母さんは…死んだ。
なぜだ……
――人類が弱いから
――オレに力がないから
なんで……
オレ達がこんな思いをしなくてはならない…。
弱ければ死に…強ければ生きる。
これが、この世界の真実だ。
わかっていた。――わかっていたはずだった……。
それでも…
オレはお前たちが憎い。
…コロス
“一匹残らず、駆逐してやる”
エレンは眼に火を、面に光を宿して言い放つ。
そこには、一切の甘えを捨て、覚悟を決めた一人の男がいた。
かねてから書きたかったSSです。
エレン「どこでも行ける、どこだって行ける」と併行して進めていくので
よろしく!!
期待
このSSまとめへのコメント
続きとかないのwww
続編あると良い。