春香「オワリはじまり」 (40)
【事務所 16:55】
小鳥「ふー、もうすぐ定時ね。今日はずいぶん仕事が捗ったわ。残業も……しなくてよさそうかしら」
小鳥「こんな日は夕方から思いっきり羽を伸ばして……といきたいところだけど」
小鳥「明日は大事な日だし、変に寄り道しないで早く帰りましょうか」
小鳥「っと、その前にちょっとアレを確認しないと……」
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・かりゆし58「オワリはじまり」を基にしたアイマスSSです
・ようつべやニコニコに公式でPVが上がっているので、それを聞きながら是非
・昨日あたり楽曲を題材にしたSSが上がっていたのを読んでティンときた 反省はしていない
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385007858
【レッスン室 17:30】
真「……よしっ、今日はここまでにしておこうかな」
雪歩「はぁ、はぁ……や、やっと終わったよぉ」
真「雪歩、大丈夫? やっぱり飛ばしすぎちゃったかな?」
雪歩「な、なんとか大丈夫……それに、一緒にレッスンしたい、って言い出したのは私だし」
真「そういえばそうだったね。でも、昔と比べて雪歩もずいぶん体力ついたよね」
雪歩「そ、そうかな……? 昔から真ちゃんのダンスにはついていくのがやっとだから……」
真「昔は一緒にやる時は、ちょっと抜いたりもしてたんだよ? みんなでやる時って合わせなきゃ意味ないし」
真「だけど、最近じゃボクがギアを上げても雪歩がついてきてくれるからね、前よりもっと楽しくなったよ」
雪歩「あ、ノド渇いたよね? はい、これお茶」
真「ありがと。動いた後はスポーツドリンクばかりだけど、雪歩のお茶もいいんだよね」
雪歩「う~ん、私が好きで淹れてきてるだけなんだけど、真ちゃんが喜んでくれるならそれでいいかな」
真「そういえば、今日はこうしてダンスレッスンに来たけど……雪歩の新曲ってそんなに激しい曲だったっけ?」
雪歩「え? いや、そういう曲じゃないんだけど……でも、なんだか体を動かしたくなっちゃって」
真「ふ~ん……ま、ボクも今日はそういう気分だったしね。なんだろう、初心に帰りたくなった、みたいな」
雪歩「明日、だもんね……」
真「……そうだね」
雪歩「私、本当に羨ましかったんだ。どんなことにも一生懸命で、いつだって前向きで……」
真「ダンスじゃボクとか響とかの方が出来るだろうし、歌ならあずささんや千早の方がずっと上手かった」
雪歩「人を惹きつける魅力だって、美希ちゃんの天性のものや四条さんの不思議なものが勝ってたかもしれない」
真「でも、どうしてだろうね……アイドルとして総合的にみると一番まとまっていて一番だったんだよね」
雪歩「だって、いつも頑張ってたから……歌も、ダンスも、他にもぜーんぶ」
真「確かに。そう考えると羨ましいなぁ、って思えてきちゃうなぁ」
雪歩「だから……ううん、なんでもない」
真「え? なに? 今何言おうとしたの? そこで止められると気になっちゃうじゃない」
雪歩「そ、そんな……い、言えないよぉ……」
真「顔が真っ赤だよ、雪歩……さてはプロデューサーのことかな?」
雪歩「!」
真「分かるよ、気持ちは。雪歩だけじゃない、ボクもそうだったし、たぶん他のみんなもそう。美希なんか特に分かりやすかったけどね」
雪歩「あ、あぅ……」
真「みーんな、プロデューサーのことが好きだった。それこそ、燃えるような恋をしていたのかもね」
雪歩「あ、あはは……やっぱり、みんなもそうだったんだ」
真「でも、そっちの方も一生懸命だったしね。ある意味じゃアイドルとしての仕事以上に一生懸命だったのかも」
雪歩「私には、そんな風に仕事でも恋でも全力で頑張れる、っていうのが本当に羨ましかった」
真「まぁ、ボクとしては負けて悔いなし、かな。そう思わせちゃうのは雪歩が言うみたいになんでも頑張ってたのを知ってるからかな」
雪歩「私も悔いは無い、かな。羨ましいけど、別に嫉妬しているわけじゃないし」
真「そういう気持ちも、みんな同じじゃないかな」
雪歩「……明日かぁ」
真「一生忘れられない一日になるかもね」
雪歩「そうだね」
【商店街 18:15】
やよい「~♪ 特売のお肉に、新鮮なお野菜も安く手に入りましたっ!」
やよい「そして、忘れちゃいけないもやし! やっぱりこれがないと……」
真美「あれ? やよいっちじゃーん。こんなところで何して……って見りゃ分かるか」
やよい「あ、真美! えへへ、ちょっと遠くまでお買い物に来てたんだ」
真美「この辺ってやよいっちの家から結構遠かったような……恐るべし特売パワー」
やよい「そうかな? 私にとってはいつものことだから気にならないかなー、って」
真美「ふむふむ、それにしてもいたいけなアイドルが両手に重そうな荷物を持っているのは……感心しませんなー」
やよい「えー? 大丈夫だよ、これくらい」
真美「いーから、いーから。片っぽ持たせてちょーだい」
やよい「いいの? それじゃ、お言葉に甘えて」
真美「よっ……と。お、け、結構重たいよ?」
やよい「うー……安かったからってつい買いだめしちゃったかも」
真美「うぎぎ……これ、やよいっちの家までもつかな」
やよい「え? ウチに来るの? だってここからじゃ、ウチより真美の家の方が近いんじゃ……」
真美「それがねー。今日は亜美は竜宮のライブで出ちゃってるし、パパもママも病院が忙しくてさ」
真美「オフだった真美が一人寂しく晩ごはんにしようと、外に出たところにやよいっちを見つけた、ってわけ」
やよい「そうなんだー。それじゃ、遠慮なくウチでごはん食べていこうよ。きっとみんなも喜ぶから」
真美「本当っ!? いやー持つべきものはやっぱり仲間だねー」
やよい「とか言って、荷物持ちやるって言った時からそのつもりだったんでしょ? 別に断る気は無かったけどね」
真美「それにしても……明日はいよいよ、だね」
やよい「そうだね……なんだか私たちの方が緊張しちゃってるのかも」
真美「かもねー。なんだろう、やっぱりこんなこと初めてだし」
やよい「千早さんの海外進出の壮行ライブも似たような感じだったけど……」
真美「でも、あの時とはやっぱりちょっと違うかなー。別に千早お姉ちゃんはあれで最後、ってわけじゃなかったし」
やよい「そうだよねー……でも、もったいないなぁ、って気もするなぁ」
真美「ま、理由が理由だしねー。それを出されちゃ、ちかたないね、って思っちゃうもん……おっとと」
やよい「真美、大丈夫? やっぱり両方持つよ」
真美「いーって、これくらいしないと。それにもうすぐやよいっちの家だし」
やよい「あっ、そういえばかすみや長介たちに真美が来ることまだ伝えてなかった!」
真美「えー、気にしなくていいっしょー? 今更そんなの気にする仲でもないじゃん」
やよい「でも、お片付けくらいはさせないと! ちょっと先に行ってるね、もうウチの場所は分かるよね?」
真美「あたぼーよ! ちゃんとこの袋は持って行くから、安心してちょーだい!」
やよい「ごめんね、それじゃ行くから」 タタッ
< タダイマー
< オカエリー
真美「おーおー、相変わらず賑やかだねー。こりゃ、今夜は退屈しないで済みそうかな?」
【響宅 19:30】
響「それにしても、いくらなんでも急すぎるぞ……ウチで昔のDVD見たいなんて」
美希「だって、ミキは実家暮らしだから夜通し、なんてなかなか許してくれないの」
貴音「わたくしはこういった機械は少々不得手ですので……」
響「ま、いいけどね。で? 何見るの? フェアリーのライブDVD? それとも竜宮? 千早の? それとも……」
貴音「響、冗談はそのくらいにしておきましょう」
美希「こんな日に見るのはもうアレしかないの!」
響「だよねー。今日は自分もそのつもりだったから、大歓迎だけどさー」
響「うーん、何度見てもこのPVは見入っちゃうぞ」
貴音「降りそそぐ木漏れ日がまたえも言われぬ雰囲気を醸し出しております」
美希「ミキはあっちの方が好きかな、あの花びらが舞い散る中歌ってたPV」
響「あー、それもあったなぁ。こうして昔から一つ一つ見ると甲乙つけがたくなってくるぞ」
美希「負けてるつもりはないけど、こういうの見てると本当にキラキラしてるなぁ、って思えてきちゃうの」
貴音「真に。まさにアイドルになるべくして生まれてきた、のかもしれませんね」
美希「でも、明日なんだよね……」
響「そだね……」
貴音「今にして思えば、これまで当たり前のように過ごしてきた、そんなありふれた日々ではありましたが……」
美希「……それも明日で一旦終わっちゃうの」
響「……なんだか湿っぽくなってきたぞ」
貴音「もちろん、門出を祝う気持ちは皆それぞれにあるのでしょうが……」
美希「当たり前なの。ミキは負けたからってそれをズルズル引きずるような女じゃないの」
響「じっ、自分だって! これからも頑張って欲しいとは思うけど……」
貴音「……それだけ、これまでのわたくしたちとの日々が輝かしいものだったのでしょう。だからこそ寂しいと感じる……」
美希「恋でもアイドルでも仲間だったし、ライバルだったと思うけど……いざこうなっちゃうと勝ち逃げされた感じかも」
響「……」
響「よしっ! 今夜はとことん映像を見まくってやるぞ! 昔っから、最新のまでだ!」
貴音「えぇ……今のうちにしかと目に焼き付けておかねばなりませんね」
美希「でも、今までのどんなものよりも、明日の方がずっとずっとキラキラしている、って思うな」
貴音「それもまた一興です。近くで見てきたわたくし達にはその成長の軌跡を容易に思い描けるはずでしょうから」
美希「そんなミキ達の想像なんて、いっつも斜め上に飛び越えていっちゃったけどね」
響「それじゃ、また最初っから見てくよ! 今夜は寝かさないぞ!」
美希「さすがにそれは自信がないの」
貴音「明日に備えて体力を蓄えておかねば……」
響「こ、言葉の綾ってやつじゃないかー!」
【ライブ会場 20:45】
<アンコール! アンコール!
亜美「うーん、今日もみんな盛り上がってるねー」
あずさ「本当、ありがたいことよね~」
伊織「最後の曲、バッチリと締められたからこれでもよかったけど……やっぱりアンコールには応えなくちゃね」
亜美「だねだねっ! アンコールはラストよりももっとバッチリキメればいいしねっ!」
あずさ「それじゃあ、もう一仕事いってきましょうか?」
伊織「そうね、やり残したことが無いってくらいに全てを出し尽くしていきましょ!」
<~♪ ワアアァァ!
亜美「みんなー、お待たせー!!」
< アミチャーン!
あずさ「まだまだ、張り切っていくわよ~!」
< アズササーン!
伊織「最後までついてきてちょうだいね!!」
< クギュウウウ!
伊織「ちょっと待ちなさいよ! 私だけおかしいじゃない!」
< ジョウダンダヨ イオリーン!
伊織「まったく……ま、いいわ。今夜はもうとことん行くところまで行ってあげるわ!」
亜美「大切なお友達と来ている人も!!」
あずさ「アツアツの恋人同士で来た人たちも!!」
伊織「そうでない人たちもみーんな! 今夜は一生忘れられないような夜にしてあげられるんだからっ!」
< ワアアァァ!
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亜美「いやー、終わった、終わった」
あずさ「お疲れ様~」
伊織「やっぱりアンコールに応えてよかったわね、最後まで納得いく仕事が出来た気がするわ」
あずさ「それにしてもビックリしたわ、伊織ちゃん」
亜美「そーそー、いきなりあそこで持ち歌じゃなくてカバー曲持ってくるんだもん」
伊織「にひひっ♪ でも、あずさも亜美もしっかりとついてきてくれたじゃない」
亜美「そりゃそーでしょ」
あずさ「あそこであの子の歌を出されちゃ、ついていけないなんて765プロの名折れよ?」
伊織「ファンのみんなも明日があの日だって分かってたしね。悔しいけど私たちの曲よりも歓声が大きかったかもしれないわ」
亜美「いやー、あれはやった!って歓声半分、ここでやるか!?ってどよめき半分ってところっしょー」
あずさ「何はともあれ、みんなに喜んでもらえたのなら嬉しいじゃない」
伊織「それもそうよね」
亜美「それにしても、いおりんもなかなか粋なことをしてくれますなー」
伊織「まあね。これが今後もアイドルやっていく私たちからの餞みたいなものよ」
あずさ「伊織ちゃんらしいわねぇ」
亜美「でも、亜美がリーダーでもこうしてたと思うよ? だって、明日はああいう日だし」
あずさ「私だってそうよ~? こんな風にエールを送れるなんて、こういう仕事してなきゃ絶対出来ないんだし」
伊織「一緒に頑張ってきた仲間を見送れるなんてそうそう無いことだからね」
あずさ「本当、今まで楽しかったわ~。かけがえのない時間を過ごさせてもらったんだから」
亜美「あーあ、今からでも撤回しないかなー?」
伊織「そこは決断を尊重してあげなさいよ。なかなかああいう決断だって出来るものじゃないんだから、ね?」
【ライブ会場 22:20】
律子「……ふぅ、ようやく終わったわね」
P「お疲れさん。相変わらず、いいライブだったよ」
律子「プロデューサー……いいんですか、こんなところにいて」
P「明日のことか? 準備は万端に整ってるからな、何も心配はしちゃいないよ」
P「それに、プロデュースは律子だが、竜宮だって同じ765の仲間だからな。こうして見に来たっていいじゃないか」
律子「まったく……ま、プロデューサーがそういうなら、明日のことは何も心配ないでしょうけれど」
律子「……」
P「……」
律子「私、ライブが終わってお客さんが帰った後の会場の雰囲気、って大好きなんですよ」
P「あー、なんだか分かる気がするな」
律子「アイドルやってた頃って、ライブが終わったら達成感に浸って、そのまま打ち上げでわー、ってなってましたけど」
律子「こうして裏方に回るようになって、全部片付いた後の余韻を楽しむのも、アリだな、って」
P「はは、両方を知っている律子が羨ましいな。俺なんか裏方としてしか関わったことないからな」
律子「……明日も、そんなこと思えるんですかね?」
P「……」
律子「そりゃ、私だって分かってますよ? 始まりがあれば終わりがあることだって」
律子「こうしている間にもトップアイドルを夢見て動き出す子もいれば、静かにその幕を引こうとする子もいるって」
P「かつての律子がそうだったもんな……ま、今でも年1でステージに上げさせられるのが恒例になっちゃってるけど」
律子「私のことはいいじゃないですか……でも、あの子の決意は相当固いですよ?」
P「一番いい時に、自分でこういう決断をしたんだから、そうなるとは思っていたけどな」
律子「話を聞く限り、私みたいにちょいちょいステージを披露する、なんてことはしなさそうですよ」
P「ま、それも一つの考え方だ。律子のあり方だって、別に悪くないと思うぞ? ファンだって望んでるしな」
律子「そうですかね……でも、あそこまでスパッと思い切れるのは、年下ながら羨ましいって思うかもしれません」
P「まぁ、売れない頃からこういう行動力というか、決断力というか……そういうのは凄かったもんな」
律子「それは仕事でも、恋でもそうでしたもんねー」
P「……なんだよ、からかおうってのか?」
律子「いーえ。なんだか、ご馳走様、って感じですね」
P「……ったく、言うようになったなー」
律子「アイドルとしての頑張りも、女の子としての頑張りも、近くで見てきましたからね」
P「……」
律子「……ちゃんと、ついていてあげてくださいね? そうでないと、私だけじゃない、みんな許しませんから」
P「分かってるよ。こんなに心配されて俺は果報者だなー」
律子「プロデューサーだけ、じゃないですからね?」
P「……俺"たち"は果報者だ」
律子「分かればいいんです。さて、いつまでもこんなところで余韻に浸ってないでそろそろ帰るとしますか、明日がありますし」
P「送っていくぞ?」
律子「……ついていてあげてください、って言いましたよね?」
P「今夜は俺の役目じゃないらしいしな。今頃久々に話に花を咲かせてるんじゃないか?」
律子「あー……そういうことですか。それじゃ、今日は助手席を借りるとしますか」
【春香宅 23:15】
春香「もしもし? 千早ちゃん? 元気にしてた?」
千早「えぇ、こっちは大丈夫よ? 春香の方こそ、大丈夫なの?」
春香「もうバッチリ! 体調管理をしっかりするのも仕事のうちだからね」
千早「それもそうね。で、大丈夫、ってのは体調だけじゃなくて時間も、なんだけど……」
春香「えーと、千早ちゃんのとこは今何時なの?」
千早「ニューヨークは朝9時を過ぎたところね。今日は午後からのレコーディングだから、午前中はゆったりできるわ」
春香「よかったー。こっちは今、夜の11時過ぎだね」
千早「夜の11時か……じゃ、もうすぐあの日になる、ってわけね」
春香「そうだね……」
千早「いいの? そんな最後の夜に私なんかと電話してて」
春香「千早ちゃんだから電話したんだよ、いろいろお話ししたいこともあったし」
千早「そう? 春香がそれならいいんだけど」
千早「でも……ごめんね、大事な明日のステージを見届けられなくて」
春香「ううん、いいの。今千早ちゃんはすっごく大事な時なんだから」
春香「でも、千早ちゃんってすごいなー、って」
千早「何が?」
春香「今はこうして海外を拠点にして頑張ってるじゃない。そうする、って決めた時は不安じゃなかったのかな、って思っちゃって」
千早「そうね……不安なことが何もない、と言えばウソになっちゃうけど」
千早「世界中の人たちに私の歌を届けたい、っていう夢のためだもの、それを思えば少しくらいの不安なんて吹き飛んじゃうわ」
春香「いやー、本当にすごいなー。尊敬しちゃうよ」
千早「あら、私は春香の決断だってものすごく重くて大きなものだと思うわよ?」
千早「さすがに日本ほど扱いは大きくなかったけど、こっちの日本人コミュニティでも話題になったんだから」
春香「そ、そうなの?」
千早「そうよ。人気絶頂のアイドルが電撃引退、なんてニュースなんて流れちゃ、ね」
春香「うわぁ……日本ならともかく、そっちでまでとは思わなかったよ」
千早「表向きは学業に専念したい、ってなってるけど、本当はアレなんでしょ?」
春香「やっぱり千早ちゃんには会っていなくても分かっちゃうかぁ」
春香「でも、勉強したい、って気持ちも本当なんだよ? あの人の夢を実現するのに少しでも力になりたいもん」
春香「今までは私がいっぱいいっぱい夢を見させてもらって、それを叶えさせてもらってきた……だから今度は、ね?」
春香「燃え尽きたとかなんとか言われてるけど……でも、私は好きなことをやり切った、って感じだからね、未練はないよ」
千早「春香はすごいわね……私がそんな未練なんてない、って言い切れるのはいつになるのかな」
春香「今はまだまだ夢の途中なんでしょ? それを全部叶えたらそう思えるかもしれないよ」
千早「本人がそういうならそうなのかもね」
春香「でもね……いざその日が近づくとどうしても今までのこと思い出しちゃって」
春香「ちっとも仕事が無くてレッスンしかしていなかった頃から……」
春香「だんだん売れるようになっていって、夢中で仕事をこなしていた頃に……」
春香「みんなが少しずつそれぞれの道へ進み始めた今までのことをぜーんぶ」
春香「お布団に入って目を瞑ると思い出しちゃうんだ」
千早「……気持ちは分かるわ。だけど、春香には言わなくても分かるかと思うだろうけど……」
千早「全部を思い出にしちゃうのは明日のステージが終わってからにした方がいいわよ?」
千早「まずは最後のステージを全力でやり切って、"天海春香"の最後をファンの人たちに見届けてもらって」
千早「最後のページに思い出を収めてから、振り返った方がいいわよ?」
春香「そうだよね……ゴメンね、頭では分かってはいたけど、背中を押してもらいたかったんだ」
千早「いいのよ、春香のことだからきっとそうやって考えちゃってるんじゃないか、って」
千早「でも、天海春香は最後の1ページにどんなものを刻むのかしらね」
春香「う~ん……感極まって泣いちゃうかもしれないけど……でも、最後は笑ってありがとうと、サヨナラを言えたらいいな」
千早「そうね。どうなったかを直接見られないのは残念だけど……ライブの映像は後で送ってもらって見させてもらうわ」
千早「泣き顔になったか、笑顔になったか、結果を見るのが楽しみだわ」
春香「うん、楽しみに待ってて。ゴメンね、大事なレコーディング前に」
千早「いいのよ。それじゃ、明日は頑張って」
【事務所 23:55】
社長「おや、こんな時間に灯りが……? 誰かいるのかな?」
ガチャ
小鳥「あ、社長……」
社長「誰かと思ったら音無君か。こんな時間までどうしたんだね?」
小鳥「いやぁ……ライブ会場で流す今までの春香ちゃんのビデオをチェックしてたんですけどね」
小鳥「見ているうちに懐かしくなっちゃって、気づけば資料室から今までのもの全部引っ張り出してきちゃいまして」
社長「そうこうしているうちにこんな時間になってしまった、と。音無君らしいな」
社長「なんにせよ、もうすぐ日付も変わって明日という大事な日だからね」
社長「くれぐれも天海君の門出を見送る時に寝てしまった、ということなどないようにしてくれたまえよ?」
小鳥「分かってますって。でも、なんだか寂しくなっちゃって……社長はそうじゃないんですか?」
社長「私かね? そりゃ、私だって寂しいに決まっているよ」
社長「だがね、私は常々こういうことを肝に銘じ、忘れないでおくことにしているのだよ」
小鳥「どういうことですか?」
社長「音無君はどうだね? 天海君が初めて事務所に来た時の事を覚えているかい?」
小鳥「覚えていますよ、それこそ昨日のことのように」
社長「私もだ、まだ落ち着きのなかった天海君を初めて見たのが昨日のことのように感じられ……」
社長「それを思うにつけ、時の流れの早さを感じたりもするのだよ」
社長「今回は天海君がそうだったが、他のみんなもいずれアイドルを止める日が来るだろう」
社長「そうなると、今までは当たり前だった日常が、実はもうそんなに残されていないんじゃないか、とね」
小鳥「社長……」
社長「人間の一生なんて宇宙レベルにすればほんの一瞬かもしれない、ましてやアイドルとしての一生なんてなおさらだ」
社長「そんな貴重な一瞬を我々は預かっているというわけだ」
社長「アイドルとしての命を燃やして、その一瞬を輝かせるために私たちは彼女たち以上の努力をしなければならない」
社長「寂しさに浸ることも必要だが、あまりそこに時間を使ってしまっては彼女たちの妨げにもなろう」
社長「だから、寂しさを程々に振り払って次なるアイドルの為に頑張ろう、とね」
小鳥「……そうですね。あまり寂しがってちゃ春香ちゃんも怒っちゃいますよね」
小鳥「私だけじゃなく、他のみんなのことも考えてあげて、って」
社長「まぁ、思い入れがあるのも重々分かってはいるとも」
小鳥「本当に。春香ちゃんにはかけがえのない時間をいっぱい貰えたような気がしますもん」
社長「私もだよ。今後ともそういう出会いがあればいいのだがね」
小鳥「……っと、そう言っている間に日付が変わっちゃいそうですね」
社長「おぉ、うっかりしていた。それじゃ、しっかり片付けて帰ってくれたまえよ?」
小鳥「はーい、ちゃんとやって帰りまーす」
【春香宅 23:59】
春香(……もうすぐ今日が終わる)
春香(私は明日、応援してくれたみんなに、かけがえのない時間を届けてあげられるのかな)
春香(最後だしね、精一杯頑張らないと)
春香(明日はアイドルとしてはオワリの一日だけど……)
春香(……天海春香としてははじまりの一日でもあるんだからね)
おわれ
曲をエンドレスリピートしながら書いてました
画才があれば、手書きPVとか作ってみたかったのですが
この後HTML申請も出しておきます
それではまたどこかで
乙
気持ちのいい春香SSナイス
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