のび太(31)「いらっしゃいませ。」 (209)
こんばんは。
以前、こちらでSSを投稿させていただいた者ですが、需要もないのにその続きを書いてみました。
大して面白くないですが、よろしければしばしお付き合い下さい。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1363527538
2013年 東京某所の靴屋
トコトコトコッ
新人「すいません、野比店長!」オロオロ
のび太「ん? どうしたの?」
新人「あの、いま私が接客してるお客様なんですが・・・」ヒソヒソ
のび太「うんうん。」
新人「こちらの靴をご希望なんです。」サッ
のび太「ローファーか。」
新人「普段は25.5センチだとおっしゃるので25.5をお出ししたんですが、それだと少しサイズがキツいみたいで。でも・・・・・・」
のび太「26だとちょっと大きいんでしょ?」ニコッ
新人「えっ? あっ、はい。そうなんです。えっ・・・なんで分かったんですか?」
のび太「ローファーはそういう物だからだよ。ローファーは前が浅いでしょ・・・・・・って、“前が浅い”って分かる?」
新人「・・・すいません、分からないです。」ショボン
のび太「良いよ良いよ。仕方ない。“前が浅い”ってのは、足を覆う面積が少ないって事さ。例えばスニーカーだったら爪先から足首の付け根までスッポリ覆ってくれるけど、ローファーは甲の部分までしか覆いがないでしょ?」
新人「はい。」
のび太「って事は、足を上げた時に引っ掛かる面積が少ないワケだから、スニーカーとかに比べると脱げやすいよね?」
新人「あっ、はい。」
のび太「尚且つ、ヒモも付いてないから締め付けを調節する事もできない。だからあらかじめ甲を低くする事で足を締め付けて、それで足が靴から抜けないようにしてるんだ。」
新人「なるほど!」
のび太「だから、あのお客様は25.5でサイズは合ってるよ。ローファーはちょっとキツめで履くのが正解なんだ。」
新人「分かりました! ありがとうございます!」ダッ
のび太「あっ、ストップ!」
お、懐かしい。靴屋のび太か。
前スレ結構好きだよ。がんばれ。
新人「はい?」クルッ
のび太「履き慣らしていけば革が少しずつ伸びてくるから後でもっと楽になりますってちゃんと伝えてね。それと、もしどうしても痛い時は機械を使って痛い箇所を伸ばす事もできますってね。」
新人「はいっ! 分かりました!」タタタタタッ
オキャクサマオマタセイタシマシター
コノオクツハカクカクシカジカデー
のび太「ふふふっ。」
のび太(思い出すなぁ。僕も初めてローファーを接客した時は面食らったっけ。)
野比のび太。
現在31歳。
靴屋の店長に就任し、1年の歳月が経過していた。
需要めっちゃあるで!
期待
その夜 しずかのダイニングバー
のび太「って事があってさぁ。」
しずか「・・・。」シャカシャカシャカ
のび太「あの新人の女の子、かなり見込みがあると思うなぁ。」
しずか「・・・。」シャカシャカシャカ
のび太「ちょっと気はキツけどすっごい真面目だし、何より仕事が好きって気持ちが溢れてるんだよね。」
しずか「・・・。」シャカシャカシャカ
のび太「・・・。」
しずか「・・・。」シャカシャカシャカ
のび太「・・・しずかちゃん?」
しずか「えっ? 何か言った?」クルッ
のび太「何かって・・・・・・聞いてなかったの?」
しずか「ご、ごめんなさい! シェイカーを振ってると周りの声が聞こえなくて!」アタフタ
のび太「あっ、そっか。耳元でそんなにシャカシャカ鳴ってたら当然だね。」
しずか「本当にごめんなさい。何の話だったの?」
のび太「いや、職場の新人の女の子がすごくやる気があって将来有望だって話なんだけど。ところで、何でシェイカー振ってたの?」
しずか「あっ、これ? これはね、新作カクテルの試作品よ。」
のび太「へぇ、新作かぁ。研究熱心だね。」
読むよ
しずか「それはのび太さんも一緒でしょ。そんなに靴に詳しい人が研究熱心じゃなければ何なの?」
のび太「はははっ。まぁ、仕事だからね。」
しずか「ふふふっ。のび太さん、良ければこの試作品、飲んでみてくれない?」
のび太「えっ? 良いの?」
しずか「えぇ。お客様の率直な感想を聞きたいのよ。もちろん、お代はいらないわ。」
のび太「ありがとう。喜んでいただくよ。」
しずか「助かるわ。はい、どうぞ。」トクトクトクッ
のび太「わぁ、綺麗な色だねぇ。いただきます。」グイッ
のび太「・・・。」
しずか「・・・どう?」
のび太「いや、サッパリしてて美味し・・・・・・辛っ!!!!」
しずか「ふふふっ。」
のび太「辛っ!!!! 何!!!? 何これ!!!? うぇっ辛っ!!!!」
しずか「あははははっ!」
のび太「辛ぁ!!!!」
しずか「あはははっ。はい、飲むヨーグルトどうぞ。」コトッ
のび太「!!」ガシッ
グビグビグビッ
のび太「ぷはぁ〜。あ〜、まだ辛い。何なのこれ?」
しずか「キッス・オブ・ファイアーっていうウォッカベースのカクテルよ。本来は甘酸っぱくて美味しいカクテルなんだけど、それは普通のウォッカじゃなくてトウガラシ浸けのウォッカを使ってみたの。」
しずかちゃんの経血ゼリーと黄金水入りのカクテル
期待している
のび太「な、何だってそんな殺人兵器みたいな物を・・・」
しずか「最近、若いお客様が増えてきたの。だから、若い人が集まって飲む時に何か盛り上がるようなメニューが欲しいなぁと思って。罰ゲームに使う時なんかにね。」
のび太「も〜。だからって僕を実験台にしないでよぉ。あ〜、舌痛い。」ヒリヒリ
しずか「ふふふっ。ごめんなさい。のび太さんだったら絶対に良いリアクションしてくれると思ったの。お詫びに何か一品おごるわ。何が良い?」
のび太「えっ? 良いの? ん〜、じゃあタコの唐揚げで。」
しずか「分かったわ。ちょっと待っててね。」スタスタ
ウェスタンドアをくぐり、厨房へと入ってゆくしずかの背中をのび太は黙って見つめていた。
のび太「はぁ。」
このところ、のび太には一つ気掛かりな事があった。
自分としずかはいつ結婚するのかという事である。
本来の未来では学業の成績が芳しくなく、就職にあぶれ、ジャイアンの圧力によってジャイ子と強引に結婚させられ、挙げ句起業した会社を火災で失うという惨憺たる生涯を送る事となる。
その未来を変えるべく、ドラえもんはやってきた。
実際、ドラえもんのお陰で自分は変われたと思う。
それは単に学業に関する事だけではない。
もとい、学業に関してドラえもんから受けた恩恵はそんなに多くなかったと言えなくもない。
確かに暗記パンのように学力を向上させる道具を借りて難局を乗り切った事はある。
しかし、それはあくまで幼少時代の話。
高校の頃から道具に頼らなくなって以降、大学受験で合格を勝ち取るにまで至ったその学力は、明らかに自らの努力によるものだという自負がのび太にはあった。
では、ドラえもんと出会い、一体何が変わったのか。
それは心ではないかとのび太は考えていた。
ドラえもんと共に過ごし、揺るぎない友情を共有した日々。
そこから得られた安息こそが、のび太を大きく変えた原動力だったのではないだろうか。
のび太は思った。
もしかすると、ドラえもんと出会わなかった本来の僕には友達らしい友達なんていなかったんじゃないだろうか。
例えば、今ののび太にはジャイアンとの間に確固たる友情がある。
ジャイアンも同じ感情を抱いてくれているという自信もある。
だから友達なのだ。
もし今、ジャイアンからジャイ子との縁談を持ち掛けられたなら、膝を付き合わせてじっくり話し合い、丁重に断るだろう。
男女の好意を持ち得ない相手との婚姻など、自分だけでなく相手をも不幸にしてしまう。
確かにワガママで強引なところのあるジャイアンだが、友達が心の底から発する本音を無下にあしらうほど愚鈍ではない。
だが、史実上ののび太はジャイアンの圧力に屈し、伴侶を選ぶ権利すら放棄している。
Noと言えない関係。
そんな関係のどこに友情があると言うのか。
期待
ドラえもんから学んだ心の豊かさ。
それがあったから、今の自分には友達がいる。
安らぎがある。
だから変わる事ができた。
のび太はそう思っていた。
しかし、自分にはまだまだ変えなければならない課題があった。
もとい、真っ先に変えなければならない最優先課題を、よりにもよって一番後回しにしてしまっていたらしい。
それがしずかとの関係である。
のび太「“さぁ、お前ならどうする。決して往復できない人生の洞窟。”」ボソッ
しずか「えっ? なぁに?」
のび太「あっ、いや。何でもないよ。独り言。」
徳島県出身のMC、CO-KEYの「WHAT'CHA GONNA DO?」の一節である。
ジャイアンのメジャーデビューシングルに背中を押されて以来、のび太は少しずつヒップホップを聴くようになっていった。
ある時、ジャイアンがブログでCO-KEYを絶賛しているのを目にし、彼のミニアルバムを購入した。
そこに収録されていたのが「WHAT'CHA GONNA DO?」である。
夢見る若者を応援しつつも、夢を叶えるまでの過酷さと挫折の恐怖を赤裸々に綴った同曲はのび太とお気に入りだった。
しかしここ最近、しずかとの関係に頭を悩ませていると、この曲のフックがのび太の心に重くのしかかってくるようになってきた。
『さぁ。お前ならどうする。決して往復できない人生の洞窟。幸福我で掴み取るか、降伏してなるのか敗北者。』
>>14
赤と黄色のコントラストが美しいですね、
ってないない(´・ω・`)
31歳とか急いで子供作らンとマズいよね
前の奴すごい好きだった
続編に出会えるとは嬉しい限り
これ褒め言葉にならんかもしれんけど、
前回は元ネタ差っ引いても、普通に読んでて面白かった
今回も期待してる
前のやつも面白かったし
今回もかなり期待してます
>>26
そうなんですよ。
前回書いた時は、そこまで深く考えずに書いてたんです。
ホントに年齢の設置を失敗したなぁと思いますorz
1週間後 東京某所の靴屋
のび太「いらっしゃ」
?「よぉ。」
のび太「!!」
?「久しぶりだな。」
のび太「す、スネ夫!!」
スネ夫「なんだよ、大袈裟だなぁ。僕の死亡説でも流れてたか?」
のび太「いや、そういうワケじゃないけど、急に来たらビックリするじゃないか!」
スネ夫「えっ? ここは靴屋だろ? いつから靴屋は完全予約制になったんだ?」
のび太「も〜。そういう意味じゃないってば。その減らず口、相変わらずだね。」
スネ夫「おいおい、客に向かって“減らず口”とは何だよ? 」
のび太「客? 客と言うからには何か買ってくれるんだろうね?」
スネ夫「何だとぉ? のび太のクセに」
のび太「生意気だってか?」
スネ夫「・・・。」
のび太「・・・。」
スネ夫「・・・プッ!」
のび太「プククククッ!」
スネ夫「ハハハハハハッ!」
のび太「アハハハハハッ!」
スネ夫「ア〜ハハハハハッ! はぁ〜、久しぶりだな、このやり取り!」
のび太「ハハハッ! ホントだねぇ。“のび太のクセに”とか、大概ひどい言葉だよね。」
スネ夫「まったくだ。子供って残酷だよな。」
のび太「はははははっ。いや〜、元気そうで何よりだよ。」
スネ夫「お陰さまで。のび太も元気そうだな。」
のび太「まぁね。あっ、そうだ。前にスネ夫のお母さんが来て下さったんだよ。」
スネ夫「あぁ。知ってるよ。あのダークブラウンのストレートチップの時だろ? 僕も母さんから聞いて顔を出したんだ。」
のび太「あっ、そうなんだ。」
スネ夫「母さん相手に靴の説明をバチッとキメたそうじゃないか?」
のび太「いやいやいや、そんな大した事は言ってないよ。訊かれた事に答えただけだから。」
スネ夫「いや、大したモンだ。うちの母さんはああ見えて実は財布のヒモが硬いんだ。自分が100%納得しなきゃ買わないタイプだからな。」
のび太「らしいね。お買い物のポリシーなんでしょ?」
スネ夫「そうだよ。その母さんを納得させるってんだから、ホントのび太のクセに」
のび太「生意気だ、ってもう良いよ!」
スネ夫「はははっ。」
のび太「今日はどうしたの? スネ夫はいま大阪に住んでるんだよね?」
スネ夫「あぁ。そうだよ。たまたま3連休がもらえたから、昨日実家に帰ってきたんだ。」
のび太「そうなんだ。」
スネ夫「で、そのついでにさ、のび太のアホ面を見がてら靴の相談もしたいと思ってね。」
のび太「はいはい、このアホ面で良ければ聞きますよ。で、なに?」
スネ夫「うん、この靴なんだけどさ。」ガサゴソッ
のび太「どれどれ? わぁっ! スウェードのドレス(ビジネス)シューズ? しかも革底! スネ夫、通だね!」
スネ夫「へへっ。前々からスウェードのドレスは一足欲しいと思ってたんだけど、なかなか気に入るのが見付からなくてね。だけど、こないだ出張に行った先でこれを見付けて、一目惚れしたんだ。」
のび太「分かるよ。シルエットも綺麗だし、何より手触りが全然違う。これは良い品だね。」
スネ夫「うん。だけど、一つ問題があって。」
のび太「問題? なに?」
スネ夫「歩いてるとさ、変な音が鳴るんだよな。」
のび太「変な音?」
スネ夫「うん。こう、キュッキュッて。」
のび太「子供のぴよぴよサンダルみたいな?」
スネ夫「そう! それ! まさにそんな感じ!」
のび太「あ〜、シャンクかぁ。」
スネ夫「シャンク?」
のび太「うん。えっとねぇ・・・・・・こっち来て。」
スネ夫の靴をレジカウンターに乗せる。
のび太「ほら、見て。ドレスシューズってさ、こんな風にヒールと前部分が地面に着いてて、土踏まずの部分は浮いてるよね?」
http://mup.vip2ch.com/up/vipper41056.jpg
スネ夫「そうだな。」
のび太「でも、もちろんこの浮いてる部分にも体重はかかる。って事はさ、歩いてる内にこの部分が少しずつ下に沈んでいって、しまいには靴全体がVの字にへしゃげてしまってもおかしくないと思わない?」
スネ夫「あぁ、言われてみればそうだなぁ。考えた事もなかったよ。」
のび太「じゃあ何故へしゃげないのか。それは底材の中にシャンクという芯が入ってるからなんだよ。」
スネ夫「芯?」
のび太「そう。鋼の芯。まぁ、たまにプラスチックや木を使ってるシャンクもあるみたいだけど、一般に流通してる物はほとんど鋼を使ってるね。」
のび太「そのシャンクが底材の中に仕込まれてるんだ。だいたい、ヒールから土踏まずの一番先に至るぐらいの長さなんだけどね。そのシャンクが体重の負荷に耐えてくれるから土踏まずが沈む事がなく、靴もへしゃげないで済むんだ。」
スネ夫「へぇ、なるほどぉ。」
のび太「だけどね、たまにそのシャンクが正しい位置に入ってなかったり、歩いてる内に本来の位置からズレちゃう事があるんだ。そうなるとシャンクが靴の中で擦れて、さっき言ったキュッキュッて音だったり、靴の中であちこちにぶつかってポコッポコッて音が鳴ったりするんだよ。」
スネ夫「それは何? 不良品だからか?」
のび太「まぁ、そうだね。5、6年履いてる靴だと染み込んだ汗や雨の湿気が接着剤を劣化させてシャンクがズレる事もあって、その場合は経年劣化だから有償修理になるんだけど・・・・・・この靴、ほとんど履いてないよね?」
スネ夫「まだ2回しか履いてないよ。2回目に履いた時に音が鳴り出したんだ。」
のび太「そっかぁ。じゃあ・・・うん、乱暴な言い方だけど、不良品だね。」
スネ夫「そうかぁ・・・・・・。」
のび太「とは言え、別に仕立ての悪いジャンク品って意味じゃないよ。靴は一足一足が手作りで製造されるから、どうしてもたまにミスがあるんだよ。接着剤の量が少なかったりね。靴屋の言い訳だと言われればそれまでだけど、所詮は人間のする事だから常に完璧というワケにはいかなくて。」
前のssとても良かったです。
今回の作品も期待してます。頑張ってください。
スネ夫「うん、それは分かるよ。そこまで難癖を付けようとは思ってないさ。けど、そういう事なら当然タダで修理してもらえるんだよな?」
のび太「そうだね。これは明らかにメーカーサイドのミスだから、買ったお店に持って行けばメーカーと連絡を取って無償で修理してくれるよ。」
スネ夫「買った店かぁ。さっきも言ったけど、その靴は出張先で衝動買いしたヤツなんだよ。その出張先ってのが福岡でさ。」
のび太「わぁ、遠いねぇ・・・・・・あれ?」
スネ夫「どうした?」
>>42
ありがとうございます(;Д;)
嬉しいなぁ、ホントに。
のび太「いま中敷きのロゴを見て思い出した。このブランドを生産してるメーカー、うちと取引があるよ。」
スネ夫「えっ?」
のび太「このメーカーは紳士靴と婦人靴合わせて5つブランドを展開してるんだ。うちはその中の婦人靴ブランドの1つで取引をさせてもらってるから、営業さんに話してこの紳士靴ブランドの担当の人に繋いでもらうよ。」
スネ夫「えっ!? 良いのか?」
のび太「うん。福岡のお店と連絡取って宅急便で送ったりするの、面倒でしょ? ちょっと待ってて。メーカーに電話するから。」ピポパポ
RRRRR RRRRR
のび太「お世話になります。△△シューズの野比です。山田さん、すいません実はカクカクシカジカでして。あっ、お願いできますか? 良かった、助かります。あっ、はい。では次に営業に来られた際にお渡しします。はい。はい、無理言ってすいません。ありがとうございます。失礼いたします。」ガチャッ
のび太「大丈夫だよ。無償修理してくれるって。」
スネ夫「うわぁ、ありがとう!! 助かるよ!!」
のび太「どういたしまして。それでね、シャンク不良の修理は底材ごと交換する形になるから、少し日にちがかかるんだ。スネ夫、1週間も2週間もこっちにはいないよね?」
スネ夫「そうだな。僕は明日の昼には帰るから。」
のび太「だよね。じゃあ、大阪のマンションに送るようメーカーさんに頼んどくから、この伝票に住所を書いてもらえるかな?」サッ
スネ夫「オッケー。」サラサラ
のび太「うん。じゃあ、この靴は僕が預かってメーカーさんに渡しとくね。」
スネ夫「悪いなぁ、のび太。まさか相談したその日に解決するなんて思ってもみなかった。ホントに助かるよ。」
のび太「いや、僕は別に何もしてないよ。たまたま取引のあるメーカーでラッキーだったってだけさ。」
スネ夫「そんな事ないよ。のび太に相談しなきゃシャンクの事とかも分からなかったし。ホントに大助かりだ。」
のび太「ちょ、やめてよ。スネ夫からそんな風に言われたらなんか・・・・・・気持ち悪い。」
スネ夫「なっ!? 失礼な! のび太のクセに生意気だ!」
のび太「そう、それそれ。スネ夫はやっぱり憎まれ口が似合うよ。」
ハハハハハハハッ
あの靴屋の話しか……懐いな
>>49
ありがとうございます。
確か去年の5月ぐらいに書いたように記憶してます。
約10ヶ月ぶりですね。
のび太「そう言えばお母さんから聞いたけど、すっごい怖い上司に鍛えられてるんだって?」
スネ夫「あぁ、大阪支社長だろ? もうそりゃあ厳しいよ。毎日怒られっぱなしさ。同期と『よし、今日は一回しか怒られてない! 今日は僕たち優秀だ!』とか、そんな会話をしてるレベルさ。」
のび太「大変だねぇ。何て言うか、スネ夫ってそういうスパルタ教育とは無縁な人生だったから、大丈夫かなって心配になるよ。」
スネ夫「はははっ。言ってくれるな。まぁ、確かに甘やかされて育った自覚はあるけどね。」
のび太「うん。だから・・・」
靴屋ののび太の人じゃあねーか
今スレも期待してる
スネ夫「ありがとう。でも、大丈夫だよ。あの人は絶対に間違った怒り方はしないからさ。」
のび太「間違った怒り方?」
スネ夫「うん。例えば僕が何かミスをするだろ? その時、ミスをした僕の事がムカつくからシメてやろうみたいな気持ちで怒る人ってさ、確かに正しい事も言うかも知れないけど、それよりも相手を嫌な気分にさせたり怖がらせる事が一番の目的だから全然心に響かないんだよな。わざと汚い言葉やいやらしい言い回しをするから。」
のび太「あぁ、そうだねぇ。それに、そういう人って大体ナルシストでしょ? 『スパルタな俺、素敵』みたいなさ。」
スネ夫「うん、そうだな。それも確かにある。」
スネ夫「その点、うちの支社長は『会社と本人の為に指導する』っていうスタンスで怒るんだ。僕のミスで誰に迷惑がかかって、どんな損害を被り得るのか。そうならない為には何をするべきなのか。そういった事を一つずつ順序立てて方程式を解くみたいに怒るんだ。もちろん『バカ』だ『ボケ』だなんて汚い言葉は使わずにだよ。」
のび太「うん。」
スネ夫「そうするとさ、やっぱり心に響くんだよな。『あぁ、しまったなぁ』って自ずと反省しちゃうんだよ。」
のび太「あぁ、分かるなぁ。うちの先代店長もそんな人だったよ。」
スネ夫「のび太も良い上司に巡り会えたんだな。僕もあの人になら一生ついていけるよ。」
のび太「そっか。なら安心だね。」
スネ夫「心配してくれてありがとな。けどのび太、他人の心配してるヒマはあるのか?」
のび太「えっ?」
スネ夫「しずかちゃんだよ、しずかちゃん。どうなんだよ?」
のび太「ど、どうって・・・何が?」
スネ夫「白々しい事言うなよ。分かってるだろ?」
のび太「それは・・・その・・・・・・」
>>52
ご無沙汰しております。
覚えていて下さって光栄です。
ご期待に沿えるか分かりませが、
最後まで投下したいと思ってます。
ちょっと中断します。
再開いたします。
スネ夫「何の進展もないのか?」
のび太「い、いや。そんな事はないよ。」
スネ夫「おっ、何だ? 何かニュースがあるのか?」
のび太「ニュースって・・・・・・しずかちゃんが一人でお店をしてるのは知ってる?」
スネ夫「あぁ。ダイニングバーだろ? まだ行った事はないけど。」
のび太「僕はそこの常連なんだ。」
スネ夫「おぉ!」キラーンッ
のび太「・・・。」
スネ夫「それで?」ワクワク
のび太「えっ? いや、それでじゃなくて、常連・・・なんだ。」
スネ夫「・・・。」ポカーン
のび太「ちょっと? スネ夫?」
スネ夫「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」ゲンナリ
のび太「な、何だよ!?」
スネ夫「のび太ぁ。歳いくつ?」
のび太「さんじゅうい」
スネ夫「知ってるよ! 同い年だから! そうじゃなくて、良い歳して何を奥手な大学生みたいな事やってんだって意味だよ!」
のび太「うっ!」グサッ
スネ夫「常連だから何なんだよ!? 経営者の知り合いが常連になるなんてどこにでもある話じゃないか!」
のび太「ぐはっ!」ドスッ
スネ夫「まったくもう。」
のび太「・・・・・。」チーン
スネ夫「しずかちゃんが経営してるからには、きっとオシャレでかわいい店なんだろ?」
のび太「うん、そうだね。」
スネ夫「って事は客の年齢層も若いんじゃないのか?」
のび太「あ、そうみたい。最近若いお客さんが増えたって。」
スネ夫「じゃあより一層チンタラしてられないな。そんな店にナンパ師が飲みに来たりしてみろ? 独身の美人バーテンダーなんて恰好の標的じゃないか。」
のび太「そ、そんな奴にしずかちゃんは引っ掛ったり・・・」
スネ夫「あぁ、あぁ、そうだな! 例えが悪ぅございました!」イライラ
スネ夫「じゃあ、相手がしずかちゃんに本気で惚れてる普通の男だったらどうだ? 体目当ての口説き文句じゃなく、真っ当な交際を目的としたアプローチを受けたとしたら?」
のび太「それは・・・」タジッ
スネ夫「ただでさえしずかちゃんはカウンターの中から逃げられないんだ。口説き文句でも真面目なアプローチでも、四方八方から受け放題じゃないか。そんな中にたまたま一人、しずかちゃんの心を射止める奴がいたって不思議はないだろ?」
のび太「う〜・・・・・・」タジタジ
スネ夫「はぁ〜。分かった? のび太、今けっこう崖っぷちなんだぜ?」
のび太「・・・・・・ど、どうしよう。」オロオロ
スネ夫「どうしようって・・・・・・映画とか誘えば?」
のび太「やっぱりそういうベタなやり方が良いのかな?」
スネ夫「いや、“良い”と言うより、のび太にはそういうベタなやり方しかできないだろ? それとも何だ? サプライズでヘリでもチャーターして東京の夜景をプレゼントしてみるか? 父さんのコネを使えばヘリぐらい用意できるぞ?」
のび太「そ、それは・・・・・・。」
スネ夫「冗談だよ。そんなやり方がのび太の性に合わないのは知ってる。けどとにかくさ、動け。スロースターターって言葉はあるけど、のび太はまずスタートさえしてないんだからスローも何もない。まずは動く。話はそれからだ。」
のび太「・・・はい。」シュン
スネ夫「よしっ! じゃあこの話は終わり! っと、それでいま時間は・・・」チラッ
スネ夫「6時か。良い時間だな。」
のび太「どこか行くの?」
スネ夫「あぁ。今日は両親と外食だよ。6時半に店を取ってるんだ。今から行けば5分前に店に到着だな。」
のび太「そっか。楽しんできてね。」
スネ夫「あぁ。シャンクの件は本当にありがとう。今度またこっちに帰ってきた時には一杯おごるよ。」
のび太「良いよ、そんなの。スネ夫こそ、厳しくも温かいアドバイスありがとう。」
スネ夫「ふふふっ・・・・・・のび太。」
のび太「なに?」
スネ夫「僕はいずれ会社を継ぐために東京に帰ってくる。その時までに良い報告が聞ける事を祈ってるよ。」
のび太「・・・・・・う、うん。」
スネ夫「がんばれ。」
のび太「・・・うん。」
スネ夫「ドラえもんをガッカリさせない為にもな。」
のび太「分かってる。ありがとう。」
スネ夫「じゃあな。」
のび太「またね。」
踵を返し、店の出口へと歩いてゆくスネ夫。
その左手の薬指には、美しく光る指輪が通されていた。
その夜 しずかのダイニングバー
しずか「そうなの。スネ夫さんが指輪を。素敵ねぇ。婚約者かしら?」
のび太「どうだろうね? 訊かなかったから分からないけど、普通の彼女って可能性もあるよね。」
しずか「あら? 普通の彼女と婚約者の違いってなぁに?」
のび太「えっ? それはやっぱり、結婚の約束をしてるかどうかで」
しずか「約束をしてなければ普通の彼女? でも、その普通の彼女にプロポーズをすればその日から婚約者よ?」
のび太「あぁ・・・・・・そっか。そうだね・・・」
しずか「だから彼女に普通も特別もありません。彼女はみんな特別なものよ。」
のび太「失礼いたしました。」
しずか「ふふふっ。よろしい。はい、ジャックダニエルのハイボール。」コトッ
のび太「ありがとう。」カラン
のび太(なんだか今日はやり込められてばかりだなぁ)トホホ
しずか「スネ夫さんって言葉はキツいけど根は優しい人じゃない? それにオシャレさんだし。そんなスネ夫さんの奥さんになる人だから、きっと素敵な人なんでしょうねぇ。」
のび太「だろうねぇ。」
スネ夫が来店してすぐ、のび太は指輪の存在に気付いていた。
日頃の接客の中でも相手の装飾品を誉める事で会話がスムーズに成り立つケースは多い。
その為、来店した人物のアクセサリーやバッグに目を向ける事は、すでにのび太の中で職業病として定着していた。
だが、スネ夫の左薬指に指輪の存在を認めても、のび太はその事に触れなかった。
31歳の独身男性の左薬指に指輪。
それは即ち、のび太の言う“普通の彼女”との愛の象徴ではなく、婚約者とのエンゲージリングである可能性が極めて高い。
のび太にもそれは分かっていた。
だからこそ訊けなかったのだ。
スネ夫の口から婚約者の存在を聞かされれば、それはとりもなおさずスネ夫と自分の間に強烈な対比を生み、挙げ句しずかとの間にある距離の大きさまでもが浮き彫りになるような気がした。
それが恐ろしくて、指輪を視界の外へと追い出していた。
情けない。
自分の情けなさに嫌気が差す。
あんなにも必死になって自分の恋路を応援歌してくれた友人。
そんな彼の幸せを祝ぐ余裕すらないだなんて。
のび太(友人失格だなぁ。)
しずか「どうしたの? さっきから渋い顔して。」
のび太「えっ? あっ、あっ・・・み、店の在庫の事考えてたんだ!」アタフタ
しずか「在庫?」
のび太「う、うん。今季中にアレとコレを売り切っとかなきゃ、来季にアレを入れる予算が厳しくなりそうだなぁって。」アセアセ
しずか「あぁ、分かるなぁ。今ある在庫をいかに無くしていくかって、死活問題よねぇ。」
のび太「う、うん。だよねぇ。」ヒヤヒヤ
のび太(ダメだダメだ! 気持ちの暗さが表情に出てる!)
しずか「スネ夫さんが結婚かぁ。良いわねぇ。」
のび太(スネ夫にも言われたじゃないか。映画だ。しずかちゃんを映画に誘うんだ。)
しずか「そう言えば去年出席したA美ちゃんの披露宴も素敵だったわぁ。」
のび太(今テレビでどんな映画のCMしてたっけ?)
しずか「ご両親への手紙が感動的だったのよ。」
のび太(えっと・・・・・・うわぁ、思い付く限りどれもドンパチ物ばかりだなぁ)
しずか「あっ、そうだわ。結婚式と言えば・・・」
のび太(あっ、そう言えばジャイ子ちゃんのラブコメ漫画が映画化されるんだった! あれは確か来週から公開だったな!)
しずか・のび太「「ねぇ。」」
のび太「えっ?」
しずか「あっ・・・」
のび太「ご、ごめん。どうぞ。」
しずか「いえ、こっちこそごめんなさい。のび太さん話して。」
のび太「いや、僕の話なんて良いよ。別に大した内容でもないから。で、何なの?」
しずか「あ・・・あぁ、じゃあお言葉に甘えて。」
のび太「うん。」
しずか「男の人が冠婚葬祭に履く靴って、どんなのがあるの?」
のび太「えっ? 冠婚葬祭?」
しずか「えぇ。例えば女の人だったら結婚式はアニマル柄、お葬式は金具付きがNGだったりするじゃない?」
のび太「そうだね。」
しずか「男の人の靴にはそういうルールってあるのかなぁと思って。男の人の靴ってよく分からないから。」
のび太「あぁ、男はもっと簡単だよ。黒のストレートチップかプレーントゥ。この2択しかないよ。冠婚葬祭全部の場面でね。」
しずか「ストレート? プレーン?」
のび太「あぁ、ごめんごめん。分からないよね。どっちもヒモ靴なんだけど、甲の部分に横一文字の線が入ってるデザインがストレートチップで、何の装飾もないツルっとしたデザインがプレーントゥだよ。」
のび太「ストレートチップが最もフォーマルなデザインで、その次がプレーントゥなんだ。まぁ、最近はその優劣もなくなりつつあるから、好みでどっちを履いても良いと思うけどね。」
しずか「その2つしかダメなの? 例えばヒモ無しでスポッと履くタイプの物とかは?」
のび太「スリッポンはダメだよ。スリッポンはあくまでスーツでオシャレする為の靴、遊びの靴だから。」
しずか「そうなの。」
のび太「とは言え、最近はそういった靴に関するフォーマルなルールもなくなってきてるみたいだけどね。お葬式や結婚式の会場で男の人を見てるとみんな色んな靴を履いてるよ。Uチップとかスリッポンとかキルトローファーとか。中には茶色の靴を履いてる人までいたなぁ。さすがにお葬式で茶色はドン引きしたけどね。故人に失礼だよ。」
しずか「そうなのねぇ。」
のび太「うん。っていうか、いきなりそんな事訊いて、どうしたの?」
しずか「えっ? あぁ、何でもないわ。ふと気になっただけよ。」
のび太「そうなの?」
しずか「えぇ。本当に何でもないわ。ところで、のび太さんは何を言おうとしてたの?」
のび太「えっ? あ、あぁ。あのさぁ・・・」ドキドキ
しずか「???」
のび太「あの・・・・・・今度、映画行かない?」ドキドキ
しずか「映画?」
のび太「う、うん。ジャイ子ちゃん原作のラブコメ映画。来週から公開だから。」ドキドキ
しずか「あっ、そう言えばテレビでCM見たわねぇ。」
のび太「あれ、面白そうじゃない?」ドキドキ
しずか「そうね。確かに見てみたいわ。けど・・・」
のび太「???」
しずか「ごめんなさい、しばらく予定が埋まってるの。」
のび太「あっ、そうなんだ・・・。」
しずか「ごめんなさい。また予定が空いたら言うから、その時一緒に行きましょ。」
のび太「う、うん。分かった。まぁ、もしその時にジャイ子ちゃんの映画が終わってたら、また別のを見れば良いしね。」
しずか「ごめんなさい。」
のび太「良いよ良いよ・・・・・・ちなみに、その予定って」
ガチャッ
しずか「いらっしゃいませ。」
女子大生「すいません、13人いけますか?」
しずか「13名様ですか? あ〜、テーブルとカウンターに別れていただければ。」
女子大生「あっ、それで全然良いです!」
ミンナー13ニンイケルッテー
のび太「忙しくなってきたね。僕はおいとまするよ。」ガタッ
しずか「ごめんなさい、お話の途中なのに。」
のび太「気にしないで。また会った時にゆっくり話そう。これ、今日のお代。これでちょうどだよね?」サッ
しずか「えぇ。」
のび太「じゃあね。」
しずか「ありがとう。おやすみなさい。」
のび太「おやすみ。」スタスタ
女子大生の団体とすれ違いながら、のび太は店を出た。
今を謳歌する若者達の楽しそうな笑い声を背中で聞く。
僕にもあんな時代が・・・
そう思ってすぐ、そんな時代がなかった事を思い出した。
彼女らほどの年代の時、のび太は引きこもりだったからだ。
取り戻せない過去への悔恨と、そこから立ち直った自身への誇らしさを同時に感じながら、のび太は家路を辿った。
のび太(映画作戦は失敗・・・ってほどでもないか。単に予定が合わなかっただけだもんな。また予定を合わせてゆっくり行けば良いや。)テクテクテク
のび太(しずかちゃんも忙しいんだな。当分先まで予定が埋まってるなんて。)テクテクテク
のび太(予定。予定かぁ。)テクテクテク
ピタッ
のび太(予定って何だろう?)
ざわめきを覚えた。
先ほどしずかと交わした会話が蘇る。
(しばらく予定が埋まってるの。)
(男の人の靴ってよく分からないから。)
(男の人が冠婚葬祭に履く靴って、どんなのがあるの?)
(結婚かぁ。良いわねぇ。)
のび太「なんで男の靴を?」
知り合いの結婚式が近く、共通の友人である男性が履いてゆく靴に悩んでいたからのび太に訊いた。
常識的に考えればこれが最も整合性のある推論だろう。
だが、不安に支配されたのび太の思考回路は悲劇作家のごとくネガティブな推論を構築してゆくのであった。
のび太(ま、まさか、結婚するとか!? 僕に訊いたのは彼氏に履かせる靴!? 予定ってのは式場の予約とか引出物の手配とかのアレコレ!?)
のび太(いやいや、それはない。だって半年前に『何か素敵な出会いはないかしら』って言ってたじゃないか。)
のび太(あっ、でも、その直後に出会いがあって彼氏ができてたとしたらどうだ? 僕は幼馴染みで常連だけど、所詮は他人だ。いちいち交際の報告をする義理なんかないと言われればそれまでじゃないか。)
のび太(現に世の中には交際3ヶ月で結婚するカップルだっている。彼氏がいるのなら、いつ結婚したっておかしくないんだ・・・・・・)
のび太(そ、そんな・・・・・・しずかちゃんが・・・結婚・・・・・・)
(のび太、今けっこう崖っぷちなんだぜ。)
この日、煩悶に明け暮れるのび太が眠りについたのは、夜空が退出の準備をし始めた午前5時頃だった。
今日はここまでといたします。
お付き合い下さった皆さま、どうもありがとうございます。
明日も引き続きよろしくお願いいたします。
おやすみなさい。
おつー
期待して待ってます
乙ー。期待すんでー
これは濃厚なNTR?(すっとぼけ)
乙でーす
期待して待ってまーす
乙、スネ夫が結婚か……こないだのア◯トーークがよぎって笑ってしまった(汗)
>>84
>>86
ありがとうございます。
今日もよろしくお願いいたします。
>>85
NTRじゃないです。
どうでも良い話ですが、僕はつい最近までNTRの事をずっと“乗っ取り”の略だと思ってましたwww
>>87
ア○トークですか?
すみません、見てないです(´・ω・`)
何か面白い企画があったんですか?
おはようございます。
今日は休みなのでWBC見てましたが、
残念でしたね(´・ω・`)
では、続きを投下してまいりますので、よろしくお願いいたします。
翌日 東京某所の靴屋
・・・ちょう
・・・・んちょう
のび太「・・・・・・。」ボケー
新人「てんちょー!!!!」
のび太「うわっ!!」ビクッ
突然大声で名を呼ばれ、のび太は我に返った。
見慣れた職場とライトグレイのスーツを身に纏った自分。
そして目の前にはメモとペンを持った新人女子社員。
のび太「えっ? あっ? えっ? なに?」キーン
新人「『なに?』じゃないですよぉ。大丈夫ですか? 朝からずっとボーっとされて。今も半分意識が飛んでたんじゃないですか?」
のび太「あぁ。ご、ごめん。」
新人「お疲れなんですか?」
のび太「いや、そうじゃないよ。昨日ちょっと・・・そのぉ・・・・・・ネトゲやり出したら止まらなくてね、ついつい明け方までやっちゃって。」
のび太(悩み事で明け方まで寝れなかったなんて言えないよ。)
新人「も〜。何ですか、それぇ。良い大人がゲームで寝不足なんて。仕事に響かない範囲でやって下さいよぉ。」
のび太「申し訳ない。で、何の話してたっけ?」
新人「ですからぁ、防水スプレーがなぜ必要なのかって質問にお答えいただいてたんじゃないですか。」
のび太「あっ、あぁ、そうだったね。」
新人「本当に覚えてらっしゃいます?」
のび太「うん、大丈夫。ちゃんと覚えてるよ。」
のび太(ごめん、ウソ。何にも覚えてない。)
新人「革は水を吸うと傷んでしまう。一口に傷むといっても、その症状は3つ。
�シミになる。
�ふやけて型崩れを起こす。」
新人「で、�の説明を始めた辺りから意識が飛び始めて、何を喋ってらっしゃるか分からなくなったんですけど。」
のび太「あぁ、うん。そうだね。ちょうどそこから再開しようと思ってたんだ。」
新人(ウソばっかり。)
のび太「えっとね、3つ目は“乾燥してヒビ割れる”だよ。」
新人「えっ? 乾燥ですか? 水を吸ってるのに?」
のび太「吸った瞬間に乾燥するワケじゃないよ。吸い込んだ水が蒸発する時に、革の潤い成分も一緒に蒸発してしまうんだ。ほら、僕ら人間もお風呂上がりって肌が乾くでしょ?」
新人「あっ、はい。」
のび太「あれも同じ事だよ。肌の潤い成分でナントカ酸とかってあるでしょ? 僕は美容方面の事はサッバリ分からないけど、ああいうのが水分と一緒に肌から蒸発していくんだよ。」
新人「なるほど。」
のび太「で、僕たちは生きてるから新陳代謝でまた肌に潤いが戻ってくる。けど、牛革はとどのつまり死んだ牛の皮膚だから新陳代謝は?」
新人「しません。」
のび太「正解。だから潤いが抜けるそもそもの原因を取り除いてあげなきゃいけない。その為に防水スプレーを振るんだ。」
新人「なるほどぉ。それって、毎日必要なんですか?」
のび太「いや、毎日じゃなくて良いよ。2、3滴水が付いたぐらいじゃどうって事はないからね。雨の日とか雪が積もってる日とか、そういう靴がズブ濡れになりそうな日に使うんだ。1回振れば24時間効果が続くよ。」
新人「はい。」メモメモ
のび太「お客様の中には防水スプレーを使う意味とか、革が水を含んだ時にどんなデメリットが生じるのかとか、そういう事を知らない人が結構多いんだ。だから、靴のお会計をする時に『防水スプレーはお持ちですか?』って声をかけて、今みたいな説明をすれば一緒に買ってもらえる事もあるよ。防水スプレーは1本800円だからね。800円の単価アップは大きいよ。」
新人「そうですね。積極的にお声がけしてみます!」
のび太「うん。その意気やよし・・・・・・っと、ふぁ〜」アクビ〜
新人「ちょっと店長。大丈夫ですか?」
のび太「あはっ。大丈夫大丈夫。でも、眠くて死にそうだよ。」ショボショボ
その後も睡魔は一切攻撃の手を緩める事はなかった。
ただでさえしずかの事で頭がいっぱいののび太にとって、この追撃はひとたまりもない。
当然、仕事にも支障をきたし、書類を書き間違える、メーカーへの発注連絡を忘れる、ディスプレイ用の鉢植えを倒すなど、散々な1日を過ごす事となった。
その夜 閉店後の東京某所の靴屋
ガラガラガラッ
ガシャンッ
のび太「よし。シャッター施錠OK。帰ろうか。お疲れさま。」
新人「お疲れさまでした。店長、今日はゲームしないで早く寝て下さいよ。」
のび太「はいはい、了解です。今日は色々と面倒起こしてごめんね。それじゃ。」
新人「はい。失礼します。」スタスタ
のび太の帰路と反対の方向へ歩いて行く新人の背中をしばし見届けると、のび太はバッグから音楽プレイヤーを取り出した。
イヤホンを装着して再生ボタンを押す。
シャッフル再生に設定されたプレイヤーが選んだ曲はShakka ZombiEの『空を取り戻した日』だった。
良い選曲だ。
気だるい頭と体にOSUMIの柔らかいフロウが染み渡る。
のび太は踵を返して歩き出した。
帰宅の道中に頭をよぎるのは、やはりしずかの事だ。
のび太(しずかちゃん、本当に彼氏できたのかな?)
のび太(それならせめて報告ぐらいしてくれても良いのに。)
のび太(って、別にまだ彼氏ができたと決まったワケじゃないか。)
のび太(いや、じゃあ昨日の結婚式の靴の話は何だったんだ?)
のび太(って、もう! 昨日からずっとこの堂々巡りじゃないか!)
昨夜もこの思考の迷路を死ぬ程さ迷った。
この調子では今夜もまた同じ事が起きると思われる。
今の疲れ果てた体なら昨日よりは早く眠れるだろう。
ただ、心地よい目覚めは期待できない。
やれやれ、明日は早番なのに。
そう思った次の瞬間、一滴の雫がのび太の額を叩いた。
のび太「えっ?」
ポツ ポツポツ サァァァァァァァァ
のび太(そっか。今日は夜から雨だっけ。折り畳み傘は、っと・・・)ガサゴソ
のび太(あちゃ〜。こんな時に限って入ってない。)
今朝の天気予報ではこれから夜中にかけて断続的に雨が続くと報じられていた。
一瞬、店に引き返して客の忘れていったビニール傘を拝借しようかと考えた。
だが、シャッターを開けて警備会社のセキュリティーを解除し、暗闇の店内を手探りで事務所まで進む、そしてその逆の手順を踏むといった手間を考えると気が萎えてしまった。
それよりすぐ目の前の交差点を左に曲がって全力で走れば駅まで1分で着く。
そこから電車に揺られて4つ目の駅で降りればのび太のアパートはすぐ目の前だ。
駅近の物件を選んだ自身の判断力に感謝しながらのび太は駆け出した。
しかし交差点にたどり着いた瞬間、もう一つの選択肢を思い付いてしまった。
交差点を直進して走れば3分でしずかの店にたどり着ける。
のび太「・・・。」ピタッ
思わず足が止まる。
左折か、直進か。
急に雨に降られたから傘を借りに来たが、せっかくなので一杯飲んでいく。
そんな言い訳が浮かんだ。
理にかなっていると思った。
そこから昨日の言葉の真意を聞き出す事だってできる。
その結果、本当に単なる好奇心からくる無邪気な質問だったと分かれば万々歳だ。
だが、もし単なる好奇心ではなかったら?
本当にのび太が予想している最悪のシナリオだったら?
そう思うと、足がすくむ。
真実を知るのが怖い。
のび太「・・・・・・。」
いたずらに過ぎ去る時間と共に勢いを増す雨は、のび太のライトグレイのスーツに次々と黒点を刻み付けてゆく。
行くか、行かないか。
直進か、左折か。
(まずは動く。話はそれからだ。)
のび太「・・・。」
のび太は駆け出した。
歩行者信号が点滅し始めた交差点を、脇目も振らずに突っ切る。
下らない言い訳なんかたくさんだ。
根拠のない妄想に取り憑かれてるヒマがあったら真実を知ろう。
しずかに会いに行こう。
職場から自宅までの道すがらに飲み屋は数え切れないほどに点在する。
その中からあの店を選んだのは何故か。
それはしずかがいるからだ。
かっこつけて飲めもしないウィスキーを飲むようになったのは何故か。
それはしずかがいるからだ。
しずかに会いたいからだ。
理由なんてそれだけで十分じゃないか。
最悪の答えが待っていたって、その時はその時だ。
僕は今、しずかちゃんに会いたい。
いよいよ勢いを増し、本降りとなった雨の中をのび太は走った。
しずかの店まであと約300メートル。
200
100
50
しかしここで、のび太は違和感に気付いた。
のび太(灯りが・・・着いてない?)
ついにのび太は店の前までたどり着いた。
肩で息をしながら呆然と立ちすくむのび太を、灯りの消えた無機質な建物が見下ろす。
のび太(定休日? いや、違う。定休日は明後日だ。じゃあ臨時休業? でも・・・・・・)
しずかはいつも、臨時休業を設ける時には最低でも2日前には店のドアにその旨を記した張り紙を掲示する。
しかし今、店のドアには何の張り紙もされていない。
ただドアノブにぶら下げられたCLOSEのプレートが力なく揺れているだけである。
窓から店内を覗き込むが、暗闇の立ち込める店内に人の気配はない。
のび太はしばし店の前に佇んでいた。
だがやがて、雨によって体温を奪われた体が身震いを覚え始めた頃、冷えきった両手をポケットに差し込んで静かに歩き始めた。
すれ違う人々が足早に家路を急ぐ中、傘も差さずにゆっくりと。
気が付くと音楽プレイヤーからはKM-MARKITの『Rainy Day』が流れ始めていた。
のび太(雨の日に『Rainy Day』なんて、できすぎだよ。しかもこの曲って・・・・・・)
別れの歌じゃないか。
『I'm still loving you,Baby. でも・・・。あの日には帰れない。』
2日後の休日 のび太のアパート
のび太(昨日もしずかちゃん、休みだったなぁ。)
今日は非番である。
あの雨の夜から2日が経過した。
のび太は昨日の夜も仕事終わりにしずかの店を訪れてみた。
しかし相変わらず店内に灯りはなく、昨夜同様ドアノブにぶら下げられたCLOSEの文字に淡い期待を打ち砕かれる結果となる。
ただ、どうやら一昨日の夜から昨日の夜までの間に、しずかは一度店に立ち寄ったらしい。
一昨日の夜にはなかった張り紙がドアに掲示されていた。
『誠に勝手ながら、しばらく休業させていただきます。申し訳ございません。 店主』
張り紙にはそう記されていた。
A4のプリンター用紙に黒のサインペンで手書きしただけの簡素な物だった。
幼少の頃から変わらない女の子らしい丸文字。
だが、そのかわいらしい文字を見たからといって心が和む事はない。
のび太は知っていた。
しずかはいつも張り紙をする時は色鉛筆を使う。
ターコイズ調のフレームや様々なイラストを全て色鉛筆で手書きし、その中央にお知らせを書き込むといった、見た目にも美しいカラフルな張り紙を作成するのである。
昨日のような殺風景な張り紙は見た事がない。
加えて、休業の理由や営業再開の予定も記されていない、見た目同様のシンプルな文面。
突発的かつ重大なアクシデントに見舞われ、趣向を凝らした張り紙を作成するヒマがなかったのではないか?
のび太にはそう思えてならなかった。
不安に思い、帰りの電車の中でメールを送った。
To 源静香
sub 張り紙見ました
何かあったの? 大丈夫?
“僕で良ければ力になる”とは書かなかった。
心配する事と、安全圏からトラブルに関わりたがる野次馬根性の違いぐらい分かっているつもりだ。
だが一夜明け、午後4時を回った現在も返信はない。
気が気でなかった。
一体何があったのか。
のび太の脳裏からしずかの結婚という疑念が完全に消失したワケではない。
だが3日前に比べると、脳裏におけるその占有面積は大幅に縮小していた。
それよりも、何か本当に良くない事が起こったのではないかという心配の方が遥かに大きい。
明らかにしずかの筆跡と分かる張り紙があった事から、犯罪に巻き込まれるなどの危険が及んでいるという心配はとりあえずなさそうだ。
となると、何か心が大きく傷付くような出来事でもあったのだろうか。
電話をしてみようかとも考えた。
だがそれではメールの返信を強要するかのようなニュアンスを含み兼ねないと思い、やめた。
もししずかが本当に何かに傷付いて、メールを返す気力もないほどに塞ぎ込んでいたとしたら、電話は単なる追い討ちにしかならない。
結局のところ、僕は何の役にも立てないんだ。
ドラえもんのおかげで変わる事ができたと付け上がっていたが、それは単に本来の未来を回避しただけじゃないのか?
理想の未来へと向かっていたワケではないんじゃないのか?
しずかちゃんと僕は、結ばれる事はないんじゃないのか?
西日に溶かされてゆく休日を見詰めながら、のび太はそんな事を思っていた。
のび太「・・・・・・。」
のび太「・・・・・・ドラえもん。」ポツリ
のび太「・・・・・・何か道具出してよ。」
(のび太くん。君はすぐそうやって道具に頼ろうとするんだから。)
のび太「・・・・・・良いじゃないか、減るもんじゃ無し。ケチ。」
(け、ケチとは何だ!)
のび太「・・・・・・ケチだからケチって言ったんだ。」
(分からず屋!)
のび太「・・・・・・タヌキ。」
(言ったな、このぉ!)
のび太「・・・・・・。」
のび太「・・・・・・。」
のび太「・・・・・・。」
のび太「・・・・・・頼むよ。ドラえもん。」
(・・・・・・もう。今回が最後だからね。)
ピリリリリリッ ピリリリリリッ
のび太「!!!!」ビクッ
着信音が静寂を突き破った。
弾かれたようにケータイに手を伸ばすのび太。
今の音はメール着信だ。
恐る恐る受信ボックスを開き、送り主の名を確認する。
源静香
しずかからの返信だった。
当然、今すぐメールの中身を見たいと思ったが、それと同時に見たくないと望む自分もいた。
見るのが怖い、と。
破裂しそうな程に高鳴る鼓動を感じながら、のび太は深呼吸をした。
そして、メールを開封した。
From 源静香
To Re:張り紙見ました
心配かけてごめんなさい。私は大丈夫です。明日、のび太さんのお店にお邪魔しても良いかしら?
のび太「ぼ、僕の店に?」
一旦中断します。
どうなるかな……
>>88
前々回のア◯トークがスネ夫にくめない芸人だったので。
>>88
原作のどこかでスネ夫の未来の奥さんがちらっと出てて、
「顎無し唇ブス」と呼ばれるほど特徴的な見た目をしてたのよ
それがこないだのアメトー○クの企画で出てきて笑ったという話
あれ最初にのび太が未来行った時にしずかちゃんと間違えてしまった人だよな
見てる
>>1は本職の靴屋さんなんだろうか
見てる
是非前スレが読みたい。
>>126ほれ
のび太(30)「いらっしゃいませ。」
http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1772853.html
ただ今帰ってまいりました。
>>120
>>121
>>122
情報ありがとうございます。
そんな企画があったんですねwww
すっかり年齢と共に夜更かしが苦手になりまして、
ア○トークとかもう2年近く見れてないですorz
>>123
>>125
ありがとうございます!
見て下さってる方がいると思うと、
やる気が湧いてきます。
あと少しですがよろしくお願いいたします。
>>124
その通りです。
前スレの頃からずっと靴屋で働いております。
>>126
すみません、そう言えば前スレを晒すのを忘れてましたorz
こちらがSS速報の前スレ。
こちらがSS宝庫にまとめていただいた分です。
http://blog.m.livedoor.jp/minnanohimatubushi/article/1772853?guid=ON
>>127
すみません。
お手数おかけいたしました。
ありがとうございます。
では、再開いたします。
翌日 東京某所の靴屋
のび太「え、えっと新人さん!」ソワソワ
新人「はいっ。」
のび太「そのパンプス、店頭の棚に移動しようか。」ソワソワ
新人「えっ? 良いですけど、これ昨日店頭の棚から移動したばかりですよ?」
のび太「い、いやぁ、やっぱりさぁ、季節感って大事だと思うんだ。今うちにある商品の中で一番季節感があるパンプスって、やっぱりそれだと思うんだよね。」ソワソワ
新人「はぁ・・・」
のび太「ほら、店頭ってお店の顔だしね。やっぱり店頭こそ一番オシャレにするべきだと思ったんだ。」ソワソワ
新人「わ、分かりました。移動します。じゃあ、店頭のスニーカーと入れ替えるって事で良いですよね?」
のび太「うん。それで良いよ。あっ、それからバイト君。」ソワソワ
バイト「はい?」
のび太「倉庫から脚立持ってきて。このスポットライトの向きが微妙にズレてる。」ソワソワ
バイト「えっ? あぁ、はい。」
バイト(そんなにズレてるかなぁ? 靴にバッチリ光当たってるし問題ないと思うけど・・・)
のび太「後は・・・あれ? この植木、ちゃんと水あげた?」ソワソワ
バイト「はい。さっきあげましたよ。」
のび太「ん〜、ちょっと葉っぱにハリがないなぁ。もうちょっとあげてみようか。」ソワソワ
新人「だ、ダメですよ! 根腐れしちゃいますから!」
のび太「えっ? そうなの? でも・・・」ソワソワ
新人「『でも』じゃないですよ! ホラ、土が十分濡れてるじゃないですか! この子はこれからちょっとずつ水を飲むんです! これ以上あげたら枯れちゃいますよ!」
のび太「あっ、そ、そうなの? うん、分かった。」ソワソワ
新人「もう!『植物だって生きてるんだから大切にしよう』っておっしゃったの、店長じゃないですか!」
のび太「ご、ごめんごめん・・・・・・あれ?」ソワソワ
新人「今度は何ですか!?」
のび太「この鏡、よく見たら指紋が付いてるなぁ。多分さっきの親子連れだな。子供さんがベタベタ触ってたから。ごめん、ちょっと乾拭き用の雑巾取って。」ソワソワ
バイト「どうぞ。」サッ
のび太「ありがとう。こういう些細な汚れに気付くか気付かないかでショップの命運は別れるんだよねぇ。」ソワソワ フキフキ
バイト・新人「「・・・・・・」」
のび太は朝から落ち着かない1日を過ごしていた。
普段から店長として店内の演出や清掃には最大限の注意を払っているつもりだが、今日はその何倍も気合いが入っている。
ほんの微細な汚れ、微妙なズレ。
その一つ一つが目につき、気になって仕方がなかった。
理由は言うまでもなく、しずかが来店するからである。
今までにも何度かしずかが来店した事はあるが、それらは当然ながら全てアポ無しだった。
しずかの接客に就く度、のび太は店内の様々なアラが目につき歯痒い思いをしてきた。
来るって分かってたらもっと念入りに掃除したのに。
だが今日は来る事が分かっている。
その為、いつしずかが来ても良いように、のび太は朝からフル回転で店内美化に従事していた。
のび太「ふぅ。こんなところかな。後は・・・」
新人「いらっしゃいませ。」
バイト「いらっしゃいませ。」
のび太「!!」クルッ
弾かれたように振り返るのび太。
その視線の先にはしずかが立っていた。
わずか2日間会わなかっただけだが、まるで数十年ぶりの再会であるかのような感覚がのび太を襲った。
しずか「こんにちは。」
のび太「し、しずかちゃん! いらっしゃい・・・あれ?」
のび太は気が付いた。
しずかの後ろに一人、初老の男性が立っている。
のび太は一見してその人物がしずかの連れ合いだと分かった。
何故ならその人物とは、
?「のび太くん。久しぶりだね。」
のび太「おじさん! ご無沙汰しております!」
しずかの父、源義雄氏だったからである。
義雄「覚えていてくれたのかい。嬉しいなぁ。」
のび太「もちろんですよ! 子供の頃、あんなに何度もご自宅にお邪魔させてもらったんですから! 忘れませんよ!」
義雄「はははっ。そうだね。のび太くんは本当にしずかと仲良くしてくれていたね。」
のび太「僕の方こそ、しずかさんには本当に良くしてもらって・・・・・・ところで、今日はどうされたんですか?」
義雄「あぁ。今日はね、僕の礼服用の靴を選んでもらいたくて来たんだ。」
のび太「礼服用ですか。」
義雄「あぁ。」
のび太(礼服用って・・・・・・まさか・・・)
のび太「どなたかご結婚なさるんですか?」
義雄「いや。そうじゃなくてね・・・・・・。」
のび太「???」
義雄「実はね・・・・・・僕の父が、もうあまり長くないみたいなんだ。」
のび太「えっ?」
しずか「のび太さん。私のお店の事で心配かけてごめんなさい。実は一昨日、祖父が危篤になったの。」
のび太「あっ、そ、そう・・・なんだ・・・ 」
しずか「ここ最近、ずっと体調が悪かったのよ。自宅にいても、ほとんどベッドから起きない日が続いて・・・」
しずかの店の臨時休業。
急ごしらえの張り紙。
丸一日返事のなかったメール。
礼服用の紳士靴。
当面の予定が埋まっているというしずかの発言。
のび太の中で、全てのピースが合致した。
体調の悪化した祖父との別れがいつ訪れるか分からない。
だから当面の予定が埋まっていると言ったのだ。
危篤ともなれば尚更だろう。
そんな状況下にあっては、凝ったな張り紙を用意する事はおろか、メールの返事を打つ暇さえあったハズはない。
そして、来るべき別れの日に備えて、礼服用の靴を新調しようとしている父親の為に、のび太に件の質問をぶつけたのだ。
義雄「前々から父は『こんな先のない命の為に無駄なお金は使わせられない。自分に何かあっても延命治療はするな。』と口癖のように言っていてね。だから今回、危篤となってからも言い付け通り、延命治療はしていないんだ。おそらく、もってあと2日だろう。」
のび太「2日・・・ですか・・・・・・」
義雄「厳しい父でね、子供の頃はそれはそれは怖かったものさ。だけど、一人の人間として尊敬できる人でもあった。」
義雄「そんな父がいよいよ旅立つからには、僕もできるだけ最良の形で見送りたいと思っているんだ。その為にはまず、僕自身の身だしなみを整えないとね。」
のび太「だから、しずかさんに・・・」
義雄「あぁ。お恥ずかしながら、冠婚葬祭の靴のマナーの事には全く無知でね。黒の革靴なら何でも良いと思っていたんだ。だけど、ふと気になってね。のび太くんに訊いてくれるよう、しずかに頼んだんだよ。」
しずか「黙っててごめんなさい。でも、祖父の事を話したら、きっとのび太さんは気を遣うと思ったの。」
肉親との別れがいつ訪れるか分からない。
そんな状況の中、笑顔を絶やさず働くというのは、一体どんな気持ちだろう。
前々から体調が悪かったというからには、多少の心づもりはできていた事とは思う。
だがそれにしたって、決して明るい気分でいられたハズはない。
それでもしずかは笑顔を絶やさなかった。
のび太の事を気遣い、悲しみの片鱗すら覗かせなかった。
それに比べて、自分のなんと小さい事か。
一瞬でもしずかの結婚を懸念し、不安にに取り憑かれていた自分が情けなくて仕方なかった。
本当に結婚であったなら、それはしずかにとっては喜ばしき事である。
それを自分の目線からのみ捉え、さも悲劇的な出来事であるかのように受け止めていた。
実際、しずかを襲っていた事態はそれとは全くの真逆の内容であったというのに。
何なんだ、僕は。
利己的にも程がある。
のび太「ごめんね・・・・・・何も気付いてあげられなくて・・・一番辛いのはしずかちゃんなのに、こんな僕の為に気まで遣わせて・・・」
しずか「気にしないで。私はただ、のび太さんには笑顔でいて欲しいの。のび太さんがお店に来てくれたら、すっごく嬉しいし楽しいの。だから暗い話題はあえて出さなかったのよ。」
返す言葉もなかった。
ますます自分が嫌になる。
だが、いつまでも自己嫌悪にばかり浸ってはいられない。
二人は靴を必要としている。
大切な人を見送る為の靴を。
そしてその為に、のび太の店を選んだ。
のび太が数ある飲み屋の中からしずかの店を選んだように、二人もまた、数ある靴屋の中からのび太の店を選んだ。
選んでくれた。
ならば、なすべき事は一つだ。
義雄「のび太くん。靴を、選んでもらえるかい?」
のび太「・・・・・・はい。お任せ下さい。」
のび太は義雄の手をチラリと見やると、踵を返して倉庫へと駆け込んだ。
義雄はスポーツブランドのウォーキングシューズを履いていた。
ソールが分厚く、ライニング(内張り)にも潤沢にクッションがあしらわれているウォーキングシューズは、全体的にゴツゴツしたシルエットになりやすく、外観からはどうしても足の正確なサイズを推測しかねる。
そんな時は手を見るのだ。
人の手の大きさは足の大きさと比例している。
例えば手が大きい人は足も大きく、手の甲が高ければ足の甲も高い。
入社初日に先代店長から教わった事だ。
あの手を見る限り、義雄の足のサイズは24.5センチだ。
加えて幅が細く、男性としては比較的スマートで華奢な足つきをしていると思われる。
その足の形に対応でき、その上で最高の身だしなみ、すなわちフォーマルを極めたデザインの靴。
のび太には既に答えが出ていた。
自店のドレスシューズのラインナップは百数十。
そして、それらにそれぞれ23.5〜27までのサイズストックがある。
故に、倉庫に眠る在庫の総数は千をゆうに超える。
だが迷う事などあり得ない。
その一つ一つの特徴や履き心地は全て完璧に把握している。
のび太は脇目も振らず、その一足を棚から抜き取った。
両手でしっかりと抱え、義雄の元へと駆け戻る。
のび太「おじさん。お待たせしました。」
義雄「これは?」
のび太「黒のストレートチップです。しずかさんからお聞き及びかと思いますが、昨今、冠婚葬祭における靴の制約はほぼ無くなりつつあります。黒のドレスシューズであれば何でも良いというおじさんの解釈は、決して間違ってはいません。」
のび太「ですが、おじさんは大切なお父様をお見送りなさる上で最もふさわしいお靴を求めておいでです。となれば、やはりストレートチップ以外はないと判断いたしました。」
義雄「ありがとう。僕もしずかから話を聞いて、是非ともそのデザインの靴が欲しいと思っていたんだ。」
のび太「本当ですか? なら、ご期待に沿えて何よりです。」
のび太「ですが、一口にストレートチップと言っても、実はその中にも更にフォーマルの序列があるんです。」
義雄「そうなのかい?」
のび太「えぇ。その基準となるのがソールとライニングの色です。」
義雄「ライニング?」
のび太「あっ、失礼しました。靴の内張りの事です。ドレスシューズのライニングの色は通常、色落ちによって靴下が汚れないようベージュが使用される事が多いんですが、黒いライニングを使用したドレスシューズもあります。」
のび太「この黒いライニングの方がベージュよりもフォーマルの度合いが高いんです。そして、ソールも同じく黒い物の方がよりフォーマルとなります。ですので、黒のストレートチップでライニングも黒、ソールも黒。そういったお靴こそ、本当に完璧なフォーマルシューズなんです。」
義雄「なるほど。」
のび太「当店のラインナップの中で、いま申し上げた条件に該当する靴は3つあるんですが、その中でも特にこちらのお靴は幅が狭く、また甲も低い構造となってますので、おじさんの細いお足をしっかり固定するには最適だと思いました。どうぞ、ご試着下さい。」
義雄「ありがとう。しずかから、のび太くんは人の手を見ただけで足のサイズや形が分かると聞いていたが、本当だったんだね。」スポッ スポッ
のび太「恐縮です。毎日意識して見る癖をつけてると、何となく分かるようになってくるんですよ。履き心地はいかがですか?」
義雄「・・・・・・うん。良いね。靴全体が足に寄り添って来る感じだ。少しキツい気がしないでもないけど、革靴は後で伸びるよね?」
のび太「よくご存知で。おっしゃる通り、革は持ち主の足の形に合わせて伸びます。伸びるという事はサイズが大きくなるという事です。ですので、最初は少しキツいぐらいでないといけません。痛くない程度にほどよく締まっている感触が理想的です。そのお靴なら、まさにそのような感触ではないかと思うんですが。」
義雄「あぁ。まさにその通りだよ。歩いてみても・・・」スタスタ
義雄「うん。靴と足が一緒になって動いてくれる。これは良いよ。僕が今まで履いてきたどの革靴より履き心地が良いかも知れない。」
のび太「光栄です。お足の形としっかり合っているお靴は歩きやすいだけでなく、無駄なシワも入りませんので見た目もすごくキレイなまま履いていただけます。フォーマルの要素を全て押さえていて、尚且つ見た目にも美しい。これが僕のお勧めできる、最高のお靴です。」
そう言ってのび太は言葉を切った。
もうこれ以上何か付け足しても蛇足になる。
先ほどの倉庫へ駆け込むまでの数秒間で、頭の中に自店のドレスシューズの全ラインナップを思い浮かべ、取捨選択と吟味を重ねた結果、この靴を選んだ。
今までに学んだ知識、経験、そして二人の期待に応えたいという想い。
全てを詰め込んだ末の選択だ。
この靴以外にありえない。
あとは、二人の判断に委ねよう。
義雄「しずか。どうだね?」
しずか「素敵だと思うわ。サイズが合っていれば見映えも良いっていう、のび太さんの言葉の意味がよく分かるもの。それに・・・」
義雄「それに?」
しずか「のび太さんが選んでくれた靴だもの。何の心配もいらないわ。」
のび太「しずかちゃん・・・」
義雄「そうだね。同感だ。のび太くんは本当に良い物を選んでくれた。のび太くん、この靴をいただくよ。」
のび太「ありがとうございます。では、22680円です。」
のび太「はい。では、320円のお返しです。」チャリン
のび太「すみません、おじさん。今、レジの調子が悪くてレシートが出せないんです。この手書きの領収証をレシートの代わりとさせて下さい。」
義雄「ありがとう。それで構わないよ。」
のび太「恐れ入ります。」
義雄「のび太くん、ありがとう。本当に良い靴を選んでくれたね。」
のび太「いえ、それは靴屋として当然の事ですから。」
義雄「これで胸を張って父を見送る事ができる。葬儀の後も、一生大切にさせてもらうよ。」
のび太「光栄です・・・・・・あの・・・」
義雄「ん?」
のび太「その・・・お悔やみ申し上げます・・・って、いま言うのは失礼ですよね。まだ亡くなってないのに・・・えっと・・・」
義雄「ふふふっ。ありがとう。その気持ちだけでも十分だよ。」
のび太「・・・・・・すいません。勉強不足で・・・」
義雄「やはり君は、他人を思いやる心をもった素晴らしい人物のようだね。」
のび太「いやいやいや、そんな! 滅相もないですよ! 僕なんて・・・」
しずか「のび太さん。」
のび太「なに?」
しずか「本当にありがとう。それとね・・・」
のび太「???」
しずか「さっきののび太さん、すっごくかっこよかったわ。」
のび太「!!!?」ドキッ
義雄「そうだね。やはり、プロが仕事をしている姿はかっこいい物だ。それに、営利目的ではなく、一個人として僕の為に真剣に選んでくれた真心が伝わってきた。それが何よりも嬉しかったよ。」
のび太「・・・・・・。」
義雄「さて、しずか。そろそろ行こうか。」
しずか「そうね。」
のび太「あっ、お出口までご一緒します。」
義雄「いや、ここで良いよ。のび太くん、重ね重ね、今日はありがとう。」
のび太「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。」
しずか「またお店を再開したら連絡するわね。」
のび太「うん。待ってるよ。」
しずか「それじゃ。」
義雄「失礼するよ。」
のび太「ありがとうございました。」ペコッ
二人の姿が見えなくなるまでのび太は見送った。
のび太「ふぅ〜。」
充足感に満ちた深い溜め息をつく。
上手くいった。
気付かれずに済んだ。
先ほどの接客の中で、のび太は一つウソをつき、そして一つ隠し事をしていた。
レジは不調などきたしておらず、レシートは普通に出てくる。
そして金額。
あの靴は確かに22680円である。
ただし、それは正規価格ではない。
のび太の社員割引を使った場合の価格だ。
あの靴の正規価格は37800円なのである。
あの靴は皮の腐敗や乾燥を防ぐ為のなめしと呼ばれる工程において、広く一般に流通している塩基性硫酸クロムを用いたクロムなめしではなく、植物から抽出したタンニンによるタンニンなめしを採用している。
そうする事によって型崩れしにくい頑丈さと、深みのある風合いが得られるのである。
しかし、タンニンは皮に浸透させづらい為、その工程には長い作業時間と高い技術が求められる。
当然、価格はクロムなめしの製品よりも高い。
だが、その事は二人には伏せておいた。
今後、葬儀の準備で何かと出費が嵩むであろう源家から、そんな金額を貰い受ける気にはなれなかった。
何より、この接客は利益目的のそれではない。
二人に要らぬ気を遣わせないよう、倉庫から持って来る際に箱の値札シールも剥がしておいた。
だが、そこまでしておきながらレジを打ったのでは、本来の価格が表示されてしまう。
だからレジの調子が悪いなどとウソをついたのである。
のび太は思った。
我ながら甘いな。
商売人の風上にも置けない甘っちょろさである。
だがそれで良い。
いつだったか、小学校の頃に担任の先生(せんじょう)先生に向かって『テストをして誰かが最下位の憂き目に遭うのなら、その役目は自分が引き受ける。』といった旨の発言をした事があった。
あの時は例によって自身の怠惰な学習態度を咎められた際の咄嗟の言い訳だったが、今になって振り返ってみると、あながち間違ってはいないように思える。
自動化、マニュアル化が高収益への近道とされている昨今にあって、靴屋はわざわざ対面接客で物を売らなければいけない難儀な職種だ。
人間が行う仕事だ。
ならば、そこに人情を差し挟んだって良いじゃないか。
他人の喜びを自身の喜びとする、そんな暑苦しい店が一件ぐらいあったって良いじゃないか。
引き込もっていた当時ののび太が、今のこんな自分を見たらどう思うだろう。
きっと『社畜だ』『オワコンだ』と嘲笑するに決まっていると思った。
いくらでも笑えば良い。
僕は未来の君だ。
君は遅かれ早かれ僕になるんだ。
そして君は知る事になる。
自分は所詮、こうやって誰かを喜ばせる事が大好きな面倒くさい人間なのだと。
だからこの仕事が合っている。
それは決してオワコンなんかじゃない。
何故ならその心を、優しさを教えてくれたのはドラえもんなのだから。
未来の高性能ロボットが教えてくれた事を、過去の世界の自分がどうしてオワコンだなんて言えよう。
ドラえもんが生まれた未来にも、こんな不器用で面倒くさい職業は残っているのだろうか?
残っていたら嬉しいな。
のび太はそう思った。
のび太「新人さん。バイトくん。」
新人・バイト「「はい。」」
のび太「今のお客様に社割り使った事、お願いだから他の人には」
新人「分かってますよ。」
バイト「ここだけの秘密にしときます。」
のび太「ごめんね。助かるよ。」
今日はここで打ち止めとさせていただきます。
ご支援下さった皆様、本当にありがとうございました。
明日の夜、また参上いたしますので、
またお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
では、おやすみなさい。
おつですー
タイトルの時点でもしかして?と思ったら続編で嬉しいです
乙ー
乙でーす
おつですー
楽天の三木谷にこののび太の爪の垢煎じて云々
前スレ見る前にこっち読んだけど、今から読んできますわ
専門の人が知識絡めながら書くのは読んでて面白いね。
楽しみにしてますー
おつ
俺も今から前スレ読んでくる
おつ
おつ
乙
次回作に期待している俺がいる
こんばんは。
>>166
どうもありがとうございます。
こちらこそこんなに好意的に受け入れてもらえて本当に嬉しいです(;Д;)
>>167
>>168
>>169
ありがとうございます。
今夜もよろしくお願いいたします。
>>170
50リットルぐらい飲ませないといけませんねwww
>>171
>>172
続編と謳っておきながら前スレ晒すの忘れてしまって、どうもすみませんでしたorz
思いっきり前スレから繋がってる話だから、きっと分からないトコとか沢山ありましたよね(´・ω・`)
>>173
>>174
>>175
ありがとうございます。
今夜もよろしくお願いいたします。
>>176
続編ですか。
すみません、すぐには無理ですね(´・ω・`)
前スレが終わって、今スレのストーリーを思い付くまでに10ヶ月かかりましたからf^_^;
こんばんは。
今夜も投下しに参りました。
よろしくお願いいたします。
1週間後の休日 のび太のアパート
午後5時過ぎ。
この日、のび太は正午からずっとPCに向かっていた。
明日の店長会議の資料作りである。
本当は出勤日である昨日、暇な時間を利用して店のPCで作ってしまうつもりでいたのだが、予想以上に来客数が多く、ほぼ1日接客に時間を割く事となった。
その為、こうして自宅に持ち帰って作らざるを得なくなってしまったのである。
のび太「あっ・・・・・・あ〜、やっと終わったぁ! ホント、いくつになっても宿題は大嫌いだぁ!」
体をのけ反らせて盛大に伸びをする。
そして椅子から立ち上がると、半ば倒れ込むようにしてソファに寝そべった。
のび太(あ〜、もう5時だよぉ。晩ごはん面倒くさぁ。卵かけご飯とかですませようかなぁ・・・)
のび太(って、ダメだダメだ。昨日も一昨日も卵かけご飯だったじゃないか。もうそろそろ、まともな物を食べないと。)
のび太(あ〜、でもホント面倒くさいなぁ。外に食べに行こうかなぁ。)
のび太(外に・・・)チラッ
カレンダーに視線を送る。
のび太(しずかちゃんの店、今日から営業再開だったなぁ。)
しずかと義雄がのび太の店を訪れた2日後、しずかの祖父はこの世を去った。
のび太はシフトの都合上、通夜への参列は難しそうだったので、翌日に半休を取って告別式に参列した。
人間の人望は葬儀の参列者の人数に表れるとはよく言ったものである。
厳格で尊敬できる人物だったと言う義雄の言葉通り、焼香を待つ人々が成す長蛇の列はセレモニーホールの外まで続いていた。
のび太もジャケットの内ポケットから数珠を取り出し、その最後尾に加わる。
のび太まで焼香が回ってきたのは、それから実に20分後である。
親族席で義雄は参列者の一人一人に深々と頭を垂れていた。
おろしたての黒のダブルスーツに、のび太が選んだ黒のストレートチップ。
その毅然とした立ち振舞いは、まさに喪主の模範例だとのび太は思った。
そしてその隣に、ワンピースタイプの喪服に身を包んだしずかが立っていた。
普段なかなか見る機会のない清廉な喪服姿のしずかに、不謹慎ながら見とれてしまった事は否めない。
焼香を済ませ親族席に礼をし、顔を上げた時、しずかと目が合った。
しずかは優しくのび太を見つめ、小さく笑った・・・ような気がする。
いや、気のせいかも知れない。
その後、のび太は店に出勤した。
のび太は普段から通勤靴と仕事靴を分けており、店で履くための仕事靴は全てスタッフ控え室に置きっぱなしにしている。
略礼装のブラックスーツなので、靴とベルトとネクタイをワインレッドの物に変えれば1日ぐらいはどうにかなる。
そして1日の仕事を終え、帰路についていた頃にしずかからメールが届いた。
明日と明後日は祖父の遺品整理と休暇を兼ねて引き続き休みを取り、明明後日から再開するらしい。
その明明後日というのが今日なのである。
のび太(・・・行こうかなぁ。)
のび太(でもなぁ・・・再開と同時にいきなり顔を出すなんて、何か必死すぎて引かれないかなぁ・・・)
のび太(いや、でも、やっぱりきちんと会ってお悔やみの挨拶をするのがマナーだよな。)
のび太(うん。やっぱり行こう。挨拶するのもそうだけど、何よりしずかちゃんに会いたい。)
のび太(だけど・・・)チラッ
時計に目を向ける。
時刻は5時5分だった。
のび太(6時にオープンだもんなぁ。まぁ、6時ジャストで行くのはさすがに迷惑だろうから、6時15分ぐらいに行けば良いか。となると、家を出るのは5時半ぐらいかな。あと約30分、何をして時間を潰そうか・・・)
のび太(録画してた番組を見るには中途半端だよなぁ。本も全部読み終えたのばかりだし・・・)
のび太(・・・)チラッ
PC(・・・・・・)
のび太「・・・・・・ネットかな。」ムクッ
のび太はゆっくりと起き上がり、椅子に腰掛けた。
ネットをする時は気を付けなければならない。
ついつい時間を忘れて没頭してしまう事があるからだ。
のび太「何か面白いスレは・・・おっ、新しいおっさんスレだ。どれどれ?」カチカチ
PC(彼氏が「お尻は英語で何?」って真剣に訊いてくる(´;ω;`))
PC(シリアス)
のび太「・・・・・・あっ、あ〜“尻ass”って事か。なるほど。」
のび太「『俺は評価するぜおっさん』っと。」カチャカチャ
のび太「さぁて、他は・・・・・・ん?」
PC(ZAKK Da GGGの新曲かっこよすぎワロチェケラッタwwwwwwww)
ZAKK Da GGG(ザック ダ スリージー)。
メジャーと契約を交わしていながらリア充やスイーツ()とは一切迎合しない本格派のラップを披露するMCとして日本のヒップホップシーンを牽引するカリスマであり、のび太の旧友ジャイアンその人である。
のび太「ZAKKの新曲? 発売は来週じゃ・・・あっ、そっか。今日からつべでPVが先行公開されるんだっけ。」
のび太「よし、早速つべに飛んでっと。」カチャカチャ
のび太「おっ、これだな。なになに? 新曲のタイトルは・・・」
『Gianism』
のび太「ジャイアニズム、ってヲイ!」
のび太「はははっ。まさにジャイアンって感じのタイトルだなぁ。きっとまたゴリゴリのヤンチャな曲なんだろうな。」
のび太「よし、再生。」カチッ
PC『It's all mine,Suga baby.俺の物。夢に見たSeventh Heaven手も届く。Yo! その声、瞳、髪も肌もすべて欲しいんだ、ありのまま。そうさ。金、地位、車、Bitch、酒。すべて手にしても足りねえ。俺に身預けて。No one.It's you.お前の愛が要る。だから手に入れる。これがGianism。』
のび太「えっ!? ラブソング!!!?」
ハイトーンのシンセサイザーが紡ぎだすメロウなトラックに、肩の力を抜いたスムースなフロウが舞い踊るレイドバックしたナンバー。
Gファンクの王道とも言うべきスタイルである。
ヒップホップを学んだ場こそニューヨークではあるが、ジャイアンは自身のサウンドに西海岸・東海岸といったこだわりは持たず、良いと思った物は何でも取り入れてきた。
その結果、プロとして活動する事になった現在、そのレンジの広いトラックメイキングのセンスは強力な武器となって多くのファンを掴むにいたった。
また、今回の新曲はリリックこそ甘美な愛の言葉で綴られてはいるが、安直にメロディを導入しないラップからは昨今のいわゆる歌物ラッパー達に対する強烈なアンチテーゼが感じられる。
常にヒップホップに対するリスペクトを忘れない芯の通ったスタンスも、彼の人気の一つなのである。
のび太「『Gianism』でまさかのラブソングだとは。でも、良い曲だなぁ。トラックがキレイだし、何よりジャイアンのラップって思わず聞き入っちゃう不思議な魅力があるんだよなぁ。」
のび太「・・・・・・“お前の愛が要る。だから手に入れる。”、か。」
『お前の物は俺の物』を座右の銘とするジャイアンらしい言い回しである。
しかし、その中身は意中の女性との愛に真っ向から向き合った、極めて実直な愛情表現に他ならない。
そのリリックに、本場ニューヨークで磨いたフロウが更なる説得力を加える事で、極上のラブソングに仕上がっていた。
のび太(そうだよなぁ。“手に入れる”物なんだよな。黙ってても転がり込んで来るような物じゃないんだ。手に入れなきゃ手に入らない。)
のび太(うん。やっぱり、今日しずかちゃんに会いに行くって決めて正解だったな。)
のび太「ははっ。またジャイアンに背中押されちゃったな。」
その後、のび太はジャイアンのメジャーデビュー曲『My name is G』他、数曲のPVを視聴し、家を出た。
6時15分 しずかのダイニングバー
ガチャッ
しずか「いらっしゃいませ。」
のび太「やぁ。」
しずか「あっ、のび太さん!」
のび太「一番乗りかな?」
しずか「えぇ。まだ開店から15分だもの。さっ、カウンターにどうぞ。」
のび太「ありがとう。しずかちゃん、この度は誠に御愁傷様でした。お悔やみ申し上げます。」ペコッ
しずか「ありがとうございます。色々お世話になりました。」ペコッ
のび太「お世話だなんて。僕は何もしてないよ。」
しずか「そんな事ないわ。最高の靴を選んでくれたじゃない。本当にすごく気に入ってたのよ。」
のび太「あぁ、それはね。まぁ、喜んでもらえたなら僕も嬉しいよ。」
しずか「それに、私の事を心の底から心配してくれたじゃない。」
のび太「あ、あぁ・・・・・・」
しずか「本当に嬉しかったわ。」
のび太「・・・そっか。」
しずか「告別式にも来てくれたでしょ?」
のび太「うん。」
しずか「実は私、あのとき少し気が滅入ってたの。ほら、お葬式って何だか『悲しみなさい』っていうような雰囲気が出るじゃない?」
のび太「分かる分かる。確かにそうだね。」
しずか「もちろん祖父が亡くなって悲しいし寂しいけど、何だか私が感じてる以上の悲しみを演じなきゃいけないような気がして。少し疲れてたの。」
のび太「うん。」
しずか「だから、のび太さんの顔を見た時、なんだかすごく心が軽くなったような気がしたわ。」
のび太「えっ?」ドキッ
しずか「お焼香の後、目が合ったでしょ? あのとき私、嬉しくて笑いそうだったの。もちろんお葬式の最中だからグッと堪えたんだけど。」
のび太「そうだったんだ。」
のび太(やっぱりしずかちゃんは笑ってたんだ・・・)
しずか「ありがとう。」
のび太「いや、別に・・・」
しずか「お礼に一杯おごるわ。何が良いかしら?」
のび太「えっ? 良いの?」
しずか「えぇ。遠慮しないで。」
のび太「じゃあ、ジャックダニ・・・いや、ワイルドターキー8年をロックで。」
しずか「えっ? ロック? 大丈夫なの? ターキーの8年はジャックより10度も高いのよ?」
のび太「良いんだ。何だか今日はガッツリ飲みたくなってきた。」
しずか「そうなの? 分かったわ。」
天にも昇る気持ちとはこの事だ。
しずかの力になれた。
しずかの心の中に自分の居場所はあった。
こんな日に飲まなくていつ飲むというのか。
しずか「はい。ターキー8年お待たせしました。」コトッ
のび太「ありがとう。」カラン
グビッ
のび太「!!」
のび太(キッツ!!)
しずか「大丈夫?」
のび太「えっ? う、うん。平気平気! ははっ。」
のび太(もうちょっと氷が溶けるまで置いとこう。)
しずか「もしキツかったらソーダを足してハイボールにするから言ってね。」
のび太「ありがとう。それにしてもさ、おじいさんのお葬式、すごい参列者だったね。」
しずか「そうね。若い頃から人望のある人だったとは聞いてたけど、まさかあれほどとは思ってなかったわ。」
のび太「変な言い方だけど・・・・・・羨ましいよね。あれだけたくさんの人に偲んでもらえたら。」
しずか「えぇ。最高の人生の終幕じゃないかしら。」
のび太「そうだね。」
しずか「私もあんな風に人生を終えられる人間になりたいわ。」
のび太「大丈夫だよ。しずかちゃんなら。少なくとも、その・・・」
しずか「???」
のび太「・・・もししずかちゃんが死んだら・・・僕はあの人数を全部足しても足りないぐらい泣いて偲ぶよ。」
しずか「のび太さん・・・」
のび太「って、縁起でもないね。ごめんごめん。この話やめ。」
しずか「ふふふっ。ありがとう。ところで、のび太さん。」
のび太「なに?」
しずか「のび太さんの次のお休みはいつなの?」
のび太「休み? あぁ、えっと、次は5日後だね。」
しずか「5日後? あっ、良いタイミングじゃない。」
のび太「えっ? 何が?」
しずか「5日後ならこのお店の定休日よ。」
のび太「あぁ、そうだね。」
しずか「そうなのよ。」
のび太「・・・。」
しずか「・・・。」
のび太「・・・。」
しずか「・・・・・・覚えてないの?」
のび太「えっ?」
しずか「ジャイ子ちゃんの映画。」
のび太「あっ!!」
しずか「一緒に行こうって約束したじゃない。」
のび太「ご、ごめん! すっかり忘」アセアセ
しずか「すっかり忘れる程度の用事なのね。なら行かなくても良いんじゃないかしら? 私一人で見てくるわ。」ツンッ
のび太「あわわわわっ! ごめんなさい! 死ぬほど大事な用事です! どうかご一緒させて下さい!」アタフタ
しずか「ふふふっ。冗談よ。一緒に行きましょう。」
のび太「う、うん! 行こう! 予定空けておくね!」
のび太(やった!)
のび太はグラスを引っ掴むとターキーを一気に飲み干した。
しずか「えっ!? ちょ、ちょっと!」
氷が溶け出して多少は味も薄まっているが、ハイボールに飲み慣れているのび太からすればキツい事に変わりはない。
だが今はそのキツさがむしろ心地よい。
しずかと二人で出掛ける約束をした。
天を昇り切って火星に頭をぶつけそうな気持ちだ。
今日は潰れるまで飲んでやろうとのび太は思った。
しずか「そんなに一気にあおって・・・」
のび太「おかわり!」
しずか「・・・大丈夫なの?」
のび太「大丈夫! 超大丈夫!」
明日は二日酔いだろうなと思った。
しかも地獄の店長会議だが、もうどうでも良かった。
どうにでもなるという自信もあった。
資料は作ってあるし、何より口八丁手八丁は幼少時代からの得意技だ。
それよりも今はこの時間をもっと楽しみたい。
しずか「あんまり無茶しちゃダメよ。」コトッ
のび太「平気平気〜♪」カラン
しずか「もう。」
のび太「えへへっ。でもアレだね、僕たちもすっかり良い歳になっちゃったね。」
しずか「嫌味?」ジロッ
のび太「あっ、ごめん! そういう意味じゃないよ! たださ、ホラ、お互いこうやって仕事も板についてきて、お酒も飲むようになって。空き地でサッカーとかラジコンとかやってた頃から、もうずいぶん経ったんだなぁって思ったんだ。」
しずか「そうねぇ。あの頃は自分が大人になるなんて夢にも思ってなかったわね。」
のび太「うん。何かずっとこうやって、毎日勉強して遊んでってのを繰り返すような気がしてたね。」
しずか「あら? のび太さんは毎日勉強してたのかしら?」
のび太「そ、それは・・・」ギクッ
しずか「ふふふっ。でもホント、あの頃からずいぶん時間が経ったわね。スネ夫さんも結婚するみたいだし。」
のび太「そうだね。」
しずか「たけしさんはどうなのかしら?」
のび太「えっ? どうとは?」
しずか「結婚よ。ラッパーの人ってモテないのかしら?」
のび太「そりゃあモテるんじゃないかなぁ? 特にジャイアンぐらい売れてれば尚更。」
しずか「そうよねぇ。たけしさん、彼女はいないのかしら?」
のび太「いるみたいだよ。確かギャル系雑誌のモデルさんだって。」
しずか「そうなの!?」
のび太「うん。PVに出てもらった事がきっかけで付き合ったんだって。メールでそう言ってたよ。」
しずか「あっ、たけしさんと連絡取ってるのね。」
のび太「半年前にジャイ子ちゃんからメアドを教えてもらってね。でも、ジャイアン忙しいみたいだから5通に1通ぐらいしか返事は来ないよ。」
しずか「プロの歌手だものねぇ。仕方ないわよ。それにしても、たけしさんとモデルさんかぁ。予想外の組み合わせねぇ。」
のび太「そうだねぇ・・・・・・ぷっ!」
しずか「ど、どうしたの?」
のび太「くくくくく・・・いや、10センチヒール履いたイケイケの女の子とB系の大男がさぁ、剛田家の居間で正座して結婚の挨拶してる場面を想像したら、もうおっかしくておかしくて! くふははははは!」
しずか「ぷっ! ちょ、ちょっと! くくく・・・失礼よ!」
のび太「Put your 結婚! Put your 結婚!」
しずか「あはははははは! もう! 言うワケないでしょ!」
のび太「はははははっ!」
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