アルミン「差し出した手」【進撃の巨人SS】 (248)

初SSです。

地の文多いです。
遅筆です。
ネタバレあり。

よろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377782491

「百年壁が壊されなかったからといって、今日壊されない保障なんかどこにもないのに」


 僕が呟いたこの一言を待っていたかのように、百年の安寧は唐突に、そして簡単に崩れ去った。
 僕達人類は再び思い知らされたのだ。巨人への恐怖と、狭い壁の中に囚われた屈辱を。
 超大型巨人の出現、開閉門の破壊、無数の巨人による陵辱。あの時の事を思い出す度に、恐怖で身体が震えてしまう。


 ウォールマリア陥落から五年、僕達は訓令兵を卒業し、明日からそれぞれの道を歩もうとしていた。
 その矢先の事だ。
 突然の轟音と衝撃に混乱していた僕に知らされたのは『超大型巨人出現時における迎撃作戦』だった。
 人類は三度の苦汁を舐めさせられようとしていた。

 立体起動装置のガスを補充しに来たが、身体が震え手がまるで別の意思を持つかのように言う事を聞かなかった。
 スパナを持つ右手が圧力弁を叩く不快な金属音が、延々とガス補給室内に響いていた。

エレン「大丈夫か、アルミン!」

 いつの間にか隣でエレンが作業をしていた。
 僕の打ち鳴らす不快な金属音を聞いて、様子を見に来てくれたようだった。
 そんな事にすら気付かなかったなんて。

アルミン「大丈夫だ! こんなのすぐ治まる!」

 言っては見たものの、僕の右手は未だに言う事を聞く気はないみたいだ。
 エレンがすごい顔で見ている、心配してくれているのだろう。
 いつもの様に振る舞い平気だと思わせないと。

アルミン「しかしまずいぞ! 現状ではまだ穴を塞ぐ技術は無い! 塞いで栓をすると言っていた大岩だって掘り返すことさえ出来なかった!」

 そうだ、穴は塞げないんだ。僕達はいつまで巨人を迎撃しなければいけないんだ? 穴を塞ぐまで? 不可能だ。

アルミン「……穴を塞げない時点でこの街は放棄される。ウォールローゼが突破されるのも時間の問題だ!」

 このままではシガンシナ区同様、鎧の巨人が現れてウォールローゼが……。
 その可能性を絶つための迎撃作戦だとしたら、要するに超大型と鎧の巨人を殺すまで終わらないのでは……。

アルミン「そもそも巨人がその気になれば……人類なんかいつでも滅ぼすことができるんだ!!」

 中へ中へと逃げたところで、巨人はその度に壁を破壊してくるのだろう。もう、人類は滅ぶしかないのか。
 言う事を聞かない右手が、機械的な動きで金属音を発し続けていた。

エレン「アルミン、落ち着け!」

 そう言い、エレンは自分の右手を僕の震える右手に、優しく包み込むように重ねてくれた。
 暖かい感触に僕の心は平静を取り戻していく。
 さっきまで言う事を聞かなかった右手も、今では大人しく従ってくれていた。

アルミン「ご、ごめん……。もう、大丈夫……」

 冷静さを取り戻すと、さっきまでの取り乱した姿を見られていた事が恥ずかしく、顔を上げることができなかった。
 そんな不甲斐なさと恥ずかしさに苛まれている僕とは関係無しに、作戦は開始されていった。

 作戦の説明通りに、僕達の班は中衛部の民家の屋根上へと移動した。
 最前線の街だけに、対巨人用の街造りをしている。シガンシナ区での教訓が生きているのだろう。
 シガンシナ区陥落の原因の一つに、立体起動装置を存分に使えないというものが上がっていた。
 今では、アンカーに耐えうる強度の壁、立体起動の速度を最大に生かせる様な配置の家々、他色々な工夫が施されていた。


 生ぬるい風が頬を撫で、否応無しに現実に引き戻された。これから僕は、この対巨人用の街で戦うことになるんだ。


エレン「……なぁ、アルミン。こりゃあ良い機会だと思わないか? 調査兵団に入団する前によ」

 そう話すエレンは巨人への恐怖からか、緊張した面持ちだった。いや、巨人を狩ることができる喜びからかもしれない。

エレン「この初陣で活躍しとけば、俺達は新兵にして……、スピード昇格間違いなしだ!」

 そうだろう? とでも言わんばかりに笑顔をこちらに向けてくる。
 その笑顔もどこかぎこちないけれど、僕を元気付けるためだと感じ、嬉しくなってしまう。
 エレンの意見を肯定する頃には僕も笑顔になっていた。恐怖もいくらか薄れ、エレンと一緒ならなんでもできる気がした。

ミーナ「言っとくけど二人とも、今期の調査兵団志願者はいっぱいいるんだからね!」

トーマス「さっきは遅れを取ったけど今回は負けないぜ! 誰が巨人を多く狩れるか勝負だ!」

 後ろから僕達の話しを聞いていた二人が話しかけてきた。
 卒業間近まで憲兵団に入りたかったと言っていた二人が今では調査兵団希望なんて。

エレン「言ったな、トーマス! 数をちょろまかすなよ!」

 軽口を返すエレン。君が放つ言葉一つ一つで勇気が沸いてくる。皆もきっとそうなんだろう。
 この二人も昨日の送別会でのエレンの演説が効いたんだろうね。


『オレには夢がある……巨人を駆逐してこの狭い壁内の世界を出たら……外の世界を、探検するんだ』

 嬉しかった、小さい頃にした僕との約束を覚えていてくれて。そうだ、僕は君の夢の手伝いがしたいから、調査兵団に入るって言ったんだ。



「34班前進!!」

 前方で指令班が合図を送る。僕達の班が呼ばれたみたいだ。

エレン「良し! 行くぞ!!」


 柄に刃を装着し抜刀する。いつもの訓練と同じ動作だ。何も問題ない。
 怖くないかと言えば嘘になるけど、逃げ出そうとは思わない。
 ありがとうエレン、君がいてくれたから僕は弱虫じゃなくなったんだ。

 絶対に、一緒に外の世界に行くんだ。死んでも足手まといにはならない!!

書き溜めは以上です。
こんな感じで書いていきます。
もっとこう書いたらいいよとアドバイスを言ってくれれば善処して頑張りたいと思います。

おやすみなさい。

少し投下します。
トリ付けときます。

 オレンジ色の瓦屋根が、眼下を流れていく。かなり前進してきたが他の班とはいまだにぶつからない。
 前方に巨人の姿が視認できた。あれは、中衛部隊が戦っている? 前衛は壊滅したって事なのだろうか。

エレン「オレ達中衛まで前衛に駆り出されている!?」

ミーナ「巨人がもうあんなに……」

ナック「何やってんだ、普段威張り散らしてる先輩方は……」

トーマス「まだ殆ど時間が経っていないのに、前衛部隊が総崩れだ……」

 皆も同様の事を思っていたらしく、口々に漏らしている。
 そろそろこの辺りにも巨人がいるだろう、最大の警戒をして進もうと提案しようとした時だった。
 前方の屋根から巨大な何かがこちらに、飛んできた。あれは……。

アルミン「奇行種だ!! 避けろッッ!!」

 即座に腰を反転させ近くの屋根にアンカーを打ち込み最大出力で巻き取る。
 巨人は飛んできた勢いのまま、物見櫓代わりの搭屋へと突っ込んで行った。

 巨人が顔を起こす。その口から、トーマスが上半身を出して信じられないといった顔でこちらを見ている。

トーマス「うわぁ……くっ……くそ!!」

エレン「ト……トーマス!」

 エレンが飛び出そうとした時、トーマスの絶望に染まった顔が、ゆっくりと巨人の口内へと沈んで行った。
 巨人の喉が何かを飲み込む動きをする。あそこを通っているのはトーマスだろうか。
 そうだ、トーマスは食われたのだ。巨人に丸呑みにされ、そしてゆっくり消化されるのだろう。
 ぞわり、と背中に冷たいものが走る。

 トーマスを食らい満足したのか、巨人は屋根を破壊しながら来た方向へと帰っていった。

エレン「ま……待ちやがれ!!」

 巨人の後を追うエレン、冷静さを失い闇雲に突っ込んでいく。
 駄目だ、エレン。行っちゃ駄目だ。

ミリウス「よせ! 単騎行動は――エレン!! 下にも一体――」

 死角からの一撃で、バランスを失い墜落する。
 瓦を弾き飛ばしながら転がっていき、ようやく屋根の棟部分に引っかかるようにして止まった。

 エレンは頭から血を流していた。瓦に激しく打ち付けていたからその時だろう。
 最初の一撃を食らった足は、膝から下が無かった。
 
 エレンの足が無くなっていた……? 無くなっている。足が無い、血が出ている。
 身体の力が抜け、その場にへたり込んでしまう。なんだろう、これは。何がおきているのかがわからない。

 下の方でエレンの足を食べた巨人が動き出していた。食べた……? エレンは足を食べられたのか。トーマスは……全身を? どういう事だ。巨人は人を食うんだった。僕達は巨人を殺すんだっけ。

ナック「お、おい……やばいぞ、止まっている場合か!!」

ミリウス「来るぞ!!」

ナック「かかれッッ!!」

 合図で三人が飛び出していった。

ミーナ「……この!!」

 ミーナは巨人の肩付近にアンカーを射出し、うなじを削ぐべく加速していく。
 暴れる巨人の腕がワイヤーを引っ張ったせいで、壁に打ち付けられ、ずるずると落ちていくミーナ。
 
 駄目だ、皆。逃げないと殺される。
 巨人は両手にナックとミリウスを握っている。
 ミリウスは両足を握り潰されている様だが必死に抜け出そうとしていた。

ミリウス「ちくしょう! 離しやがれ――」

 巨人がその大きい口を開けたと思った次の瞬間には、ミリウスは握られた両足だけになっていた。
 反対の手ではナックの断末魔と、何かが潰れて地面にこぼれ落ちる音、例えるならトマトを握りつぶし、その残骸が地面に落ちるような音だった。
 実際に巨人の手は、トマトを握りつぶしたかのように真赤だった。

 違う、二人は殺されたのだ。巨人によって食われ、巨人により潰された。
 駄目だ、思考が働かない。

 うずくまるミーナの元に、別の巨人が向かっている。
 巨人はミーナの顔を窺うかのようにしている。
 意識が覚醒したのか、巨人の存在に気付き悲鳴を上げた。

 巨人はミーナの両肩を掴み、持ち上げ、そして頭に噛り付いた。

ミーナ「ッ! ーーッ!!!」

 小型の巨人の為、口を大きく開けても頭半分ほどしか入らないらしく、ミーナのくぐもった悲鳴が続いていた。
 ミーナは手足をバタつかせ、巨人の口を掴み、必死の抵抗を続けていた。
 巨人が少しずつその顎に力をこめていく。ミーナの手足の動きは比例して激しくなっていく。
 巨人の口から鮮血がほとばしると同時に、ミーナの手足は動くのをやめた。その代わりに少しだけ痙攣していた。


 なんで僕は仲間が食われている光景を眺めているんだろう……。

 横から巨人が近づいてくる。逃げないといけないのに。
 僕の身体は動いてくれず、巨人に持ち上げられ、その口に運ばれていく。

アルミン「う、うあああぁぁ!!」

 ヌルリとした感触に我に返る。何をしていたんだ僕は。このまま食われて死ぬのか。恐怖のあまり涙が止めどなく出てきた。

 巨人の唾液が潤滑油代わりとなり、身体が下へと滑りだした。反射的に何かを掴もうと手を伸ばす。何もないのはわかっているけど、本能が生きようと必死に抵抗しているんだろう。 
 

 僕の伸ばした手を掴む人がいた。
 エレンだった。

 何で君がここに? そう思うのも束の間、掴まれた手を引っ張られ、巨人の口外へと投げ出される。

エレン「こんなところで死ねるか……」

 エレンは巨人の口内からこちらを見ている。
 早く出てこないと口が閉じられてしまう。エレン。早く。

 エレンが右手を伸ばしてきた。僕も精一杯手を伸ばすが届かない。もう少しだ、もう少しなんだ、頑張ってくれエレン。

エレン「なあ、アルミン……。お前が……お前が教えてくれたから、俺は……外の世界に……」

 巨人が口を閉じる前に早くこの手を掴んでくれ、エレン。

アルミン「エレン!! 早く!!」

 あと僅かで手が届く、勢いをつけて差し出した手が、何かに触れることは無く、エレンの姿は消えていた。

 巨人が口を閉じ、中のモノを嚥下する。
 その動きを見て、僕は能は理解した。
 エレンが、巨人に、食べられた。

アルミン「うあああああああぁぁぁ!!」

取り合えず書き溜めは以上です。
読みにくいよ、こう直してよ、と言ってくれれば善処します。
頑張ります。
次の投下は月曜のこの時間くらいです。
よろしくお願いします。

おやすみなさい。

少し投下します。

誤字がありました。すみません。


×→その動きを見て、僕は能は理解した。

○→その動きを見て、僕の脳は理解した。

アルミン「あああぁ!! うあああぁッ!!」

 叫び続ける僕の肩を、ドアをノックするかのように何者かが叩いた。
 顔だけ振り返りその人物を確認すると、若い男が屈伸する格好で、笑顔でこちらを覗いていた。

?「あぁ! やっと気付いてくれた、ずっと呼んでいたんだよ?」

 場違いに陽気な声で、男は続けた。

?「ちょとお取り込み中にすみませんね、今日は君に話があって来たんだ」

 何を言っているんだろう、状況が読めない。
 今の僕が置れている状況は、巨人に食べられそうになって、エレンに助けられて、そしてエレンが巨人に……。
 都合の良い事にさっきから巨人は動きを止めている。
 これはチャンスだ、エレンを助けないと。

?「やめといたほうがいいんじゃない?」

 男が何かを言っているが知った事ではない。僕は巨人の髭に掴みかかり、噛み合わされた前歯に蹴りを入れる。
 僕の貧弱な脚力じゃ無意味かもしれない、でもこの口を開けさえすればエレンは救えるんだ。
 僅かな希望を見つけ、僕はすがる気持ちで蹴り続けた。

?「もう良いかな、話聞いてくれる?」

 蹴りを入れ続けて数分が経過した。いや数時間かもしれないし数日かもしれない。
 時間の感覚が曖昧だった。

?「残念、正解は三十秒程さ」

 男がくすりと笑い指を鳴らす。乾いた音が響いた。
 そういえば周りの音がまったくしない、風の音も、遠くで鳴り響いていた大砲の音も、そして巨人を蹴る音も。

?「ごめんね、実は僕が時を止めてたんだ。驚いた? そろそろ実力行使させてもらうね」

 男が再度指を鳴らすと、世界に亀裂が入り、まるで蛇が這うかの如く、亀裂が僕の視界いっぱいになる。

 男が三度指を鳴らすと、まるでステンドグラスが割れ落ちるかの様に、世界は粉々に消え去った。 
 
僕と男だけが白い空間に残されていた。


 なんだここは、何もない。いや、なんだこれは。
 さっきまで見ていたものは何だったんだ。この白しか無い空間はなんだ。
 まさか死後の世界か? 僕は死んだのか?

?「大丈夫、君は死んでいないよ。僕が世界を壊したのさ。申し遅れたね、僕は神だ」

 壊した? 何を言っているんだろう。神って言ったのか。エレンはどこにいるんだ。
 僕の脳内を様々な疑問が駆け巡った。

神「エレン君はもういないんだ、さっき世界が砕けたでしょ? 一緒に消えちゃったんだよ」

 この男の言っている事が本当だとすると結論は一つ、きっとこれは夢だ。
 それもとびきりの悪夢だ。だっておかしいじゃないか。巨人が攻めてきて、エレンが食べられて。

神「まあ、悪夢と思ってくれてかまわないよ。むしろ都合が良いくらいだ」

 男はニコリと笑った。誰が見ても善意的で、安心感さえ覚えるその笑顔に、僕は薄気味悪さを感じた。
 男は気味の悪い笑顔で続けた。

神「今日は、訳あって君の願いを叶えてあげようと思って、やってきたんだ」

 願い? 叶える? 何を言っているんだこいつは。ほら、やっぱりこれは夢じゃないか。
 男の突拍子もない話で僕は確信を得る、これは夢に間違いない。
 世界と一緒にエレンが消える? バカじゃないのか?
 そもそも世界ってのは消えないだろ? こいつの言ってる事も一々胡散臭い。

神「お、おぅ、ひどい言い草だね。まあいいや、勝手に君の願いを叶えさせてもらおうかな」

 男が何かを言っているがもう気にならなかった。
 きっとシガンシナ区陥落の時から夢だったんだ。あんなにでかい巨人はいないよ。
 きっとお父さんもお母さんもお爺ちゃんも生きてて。

神「ふむふむ、なるほどね、幼馴染とね。ふむふむ、コンプレックスがね、うんうん、なるほどなぁ」

 何かを勝手に納得する男が、とても気味が悪く、無視する事にした。
 起きたらまたエレンとミカサといつもの日々を送れるんだ、早く覚めないかな、この悪夢。

神「良し、大体わかった。それじゃあ準備完了だから。いってらっしゃい!」

 男の言葉を最後に、僕の視界は暗転した。

以上になります。

読むのを楽しみにしているとか言われると嬉しいですね。
とても励みになります。

頑張ります。
おやすみなさい。

書き溜め分投下します。

 目を開くと石畳が視界に飛び込んだ。
 自分が今どのような状況かわからなくて、軽く混乱を覚える。

 どうやら石畳に倒れこんでいたようだ。
 ひんやりとした地面に熱を奪われたようで、軽く寒気がする。

 周りを見回すために身体を起こし座り込む。
 薄暗く、人気の無い路地裏だった。

 私の倒れこんでいた場所、要するに私が今座っているこの場所は、四段ほどの低い階段だった。
 ここから転げ落ちて気を失っていたのだろうか?
 
 しかしその可能性は、無傷で痛みも無いため否定された。


 では何故このような所に倒れていたのか。
 ふと足元を見ると、開かれたままの本が落ちていた。
 本を拾い上げ開かれていたページを読んでみる。
 外の世界について詳しく書いてあった。

 段々と意識が覚醒してくる。
 そうだ、祖父の書斎から新しい本を見つけたんだった。
 それでもまだ混乱が収まっていないようなので、軽く整理する事にした。

 自分は? アルミン・アルレルト。
 お爺ちゃんが名前をつけてくれた。
 だけど初めて会う人に名乗る度に、皆だいたい決まって同じ事を言う。

「かわいらしい名前だね」

 少し恥ずかしくなるけど、別にこの名前が嫌いって訳じゃない。
 むしろこの名前をお爺ちゃんが優しく呼んでくれると、とても嬉しくなる。


 ここは? 路地裏だ。
 石畳の通路で、この小さい階段を昇り、突き当りを左に進むとエレンの家がある。
 いつも通っている道なのに、さっきは本当に混乱していたみたいだ。


 今は? 845年の十月、そろそろ冬の足音が聞こえてきそうだ。
 路地裏には陽の光がわずかしか届かず、日中でも少し肌寒い。
 丁度この階段の辺りだけ陽が差し込み、ぽかぽかととても気持ちよくいられる。
 私のお気に入りスポットだった。

 思い出した。新しい本をエレンに見せようと持っていく途中に、ここでちょっとだけ一人で読んでいたら
寝ちゃったんだ。

アルミン「なにをしているんだか……」

 自分自身に呆れ、独り言をつぶやく。
 そういえば少しの睡眠なのに随分と長い夢を見ていた気がする。
 夢の中にエレンが出てきて、必死に何かを話してたけど。

 その時のエレンの顔を思い出そうとしていると、何かが頬を濡らしている事に気付く。
 頬を伝わりぽたぽたと落ちていき、手に持つ本に大きな染みが出来る頃に、ようやく自分が泣いているんだど理解した。

アルミン「なんだろう、これ……」

 拭っても拭っても、止めどなく溢れ出てくる涙にまたもや混乱する。
 こんな所をエレンに見られたら、また心配されちゃうな。
 夢の中での、必死なエレンの顔を思い出し、とても悲しく切ない気持ちになる。
 本当になんなんだろう……。

 その時だった。
 路地の向こうから良く見知った顔の、三人の少年が歩いてきた。
 三人の中で一番長身の少年と目が合う。少年は目を細めいやらしい笑顔で近づいてきた。

長身「おいおい! アルミンちゃんじゃねえか。こんなとこでなにやってんだ?」

 そう言うと三人は私を取り囲む。
 またこいつらだ。エレンとしょっちゅう喧嘩をしていて、外の世界を夢見る人を異端者と呼ぶ。
 面倒なので黙って脇を通り過ぎようとした。

 逃がさねえぜ? と狐目の少年が意地の悪そうな顔で道を塞ぐ。

 あまり一人の時には遭遇したくなかったな。

狐目「あ! こいつ本なんか持ってるぜ」

長身「ちょっと貸せよ!」

 強引に手元の本をかっさらわれる。そんな乱暴に扱うと破けちゃう。

アルミン「やめろ!! 返せ!」

 気がついたら私は長身の少年に掴みかかっていた。

長身「く、このっ! 離せよ!」

 長身の少年の平手打ちが私の頬を叩く。恐怖と痛みからか、しゃがんで縮こまってしまう。

狐目「おとなしくなったぜ。アルミンちゃんは一発叩くとすぐこうだよな」

 悔しい。こいつらの思うとおりにされているのも。自分に力が無いのも。
 そんな私をよそに、少年達は本の中身を見て騒いでいた。
 金髪の少年の言葉が、私の耳に留まった。

金髪「異端者め、両親も壁の外に行って死んだんだろ? バカみてー」

 怒りが恐怖に打ち勝ち、思わず叫んでしまう。

アルミン「父さんと母さんを侮辱するな! 人類はいずれ外の世界に行くべきなんだ!!」

 私に口答えされたのが腹立ったのか、三人は私の髪を引っ張り、顔を叩く。
 痛いし、怖い。けど言ってやるんだ。
 親を侮辱されて黙っていることなど不可能だった。

アルミン「そうやって……言い返せないから暴力に走るんだろ? それは降参したって事だ!!」

狐目「だまれ異端者が!!」

 突然、顔に衝撃を受け、地面に倒れてしまう。

 口の中から鉄の臭いがする。
 殴られた頬が熱く、唇も切れていた。
 痛い。なんでこんな事をするんだろう。
 涙が勝手に流れてしまう。

長身「おい、狐目。やりすぎだろ。アルミンちゃん泣いちまったぜ?」

狐目「はっ、生意気なのがわりーんだよ」

 下を向いて涙を流し続ける私の頭上で、二人がなにやら話をしていた。
 長身の少年がしゃがんで、私の顔を覗き込みながら喋りだす。

長身「ごめんなぁ。痛かったよなぁ。じゃあ、暴力がダメだってんならこんな方法もあるんだけど」

 何を言っているのかと顔を上げる。
 笑顔の少年の目には、残酷な光が宿っていた。

長身「狐目、アルミンちゃんを羽交い絞めにしろ」

狐目「わかったぜ」

 にやりと嫌な笑いをすると、私の腕を乱暴に掴み立ち上がらせる。
 抵抗はしてみたものの叶うわけもなく、長身の少年の言うとおりの状況に置かれてしまう。

アルミン「やめろ! 何をする気だ!」

 声を張り上げ目の前の少年を睨むも、これが虚勢だとバレているんだろう。
 長身の少年は腕を組み、ニヤニヤとこちらを見ている。
 背後から狐目の少年の荒い鼻息が聞こえてくる。さっきの抵抗で少し疲れたのだろうか。
 首筋に吹きかかる息がくすぐったく、気持ち悪かった。

長身「何をする気だと思う? アルミンちゃんの本に書いてあった事だよ」

  そう言うと長身の少年は、金髪の少年の方へ顔を向けこう言い放った。





長身「おい、アルミンちゃんのスカートを捲くれ」


とりあえず以上です。
また21時過ぎに戻ります。

 金髪の少年は嬉しそうに私のスカートに手を掛けた。
 このままではまずい。どうにかしないと。

アルミン「何するんだよ! 変態! 犯罪者め!!」

 足をバタつかせ、手を払おうと暴れる。
 しかし羽交い絞めの力が強まり、苦しくて動けなくなってしまう。

金髪「暴れんじゃねーよっと。オラ!」

 一気に腰上まで捲くられ、下着を露出させられてしまう。
 恥ずかしさと悔しさで、またもや涙が出てくる。
 ちくしょう、こんなやつらに……。

長身「この本には『魔女』ってのについて載ってるんだけどさ、アルミンちゃんわかる?」

 長身の少年が本に目を落としながら話してきた。
 魔女、別の本で呼んだ事がある。魔法を使ったり、使い魔を使役するという。
 物語の中の人物だ。それがどうかしたのだろうか。

長身「なんでも魔女ってのは異端者に多いらしくて、魔女かどうかを確かめる魔女裁判ってのがあったんだってさ」

 その本には実際にいた魔女の話が書いてあるのか。まだ読んでないからわからない。
 こいつの言いたいことはなんだ? 

長身「魔女ってのは悪魔と契約した印が身体のどこかにあるんだってよ。アルミンちゃん、もうわかったろ?」

 なんて事を言い出すんだ。私は魔女じゃない。異端者でも無い。
 少数派の人間だからといって、ここまで蔑まれるのか。

長身「その顔はわかったって事だな。良し、これより魔女裁判を始める」

 長身の少年が少しづつ近づいてくる。

長身「異端者のアルミンちゃんは魔女の可能性があるため、これより印の確認を行う」

 長身の少年は何かを真似た口調で喋り続ける。
 金髪の少年は私の下半身に注目している。
 羽交い絞めをしている少年の鼻息がますます荒くなる。

 もういやだ、なんでこんな目にあわないといけないの?



長身「それでは、まずはアルミンちゃんの一番大事な所から調べさせてもらおう」

 そう言いしゃがみ込むと、私の下着へと手を伸ばす。

 やだ、やだやだやだ。やめて。
 何をするの? そんなことして何になるの?
 異端者だから? いやだ、こんなのひどいよ。

 恐怖から喋り方を忘れてしまったのか、私の口からは何も言葉が出てこない。
 
 長身の少年の伸ばした手が、私の下着に触れる。



アルミン「ごめんなさい……もうやめて……お願いだから……」

 ようやく出てきた言葉はこんなにも情けない懇願だった。
 長身の少年は私の顔を見上げると、とても残酷な笑顔で言う。

長身「ダメだな」

 下着を掴む少年の手に力が入る。
 
アルミン「いやだああああぁ……!!」

 私はただ泣き叫ぶ事しかできなかった。



エレン「やめろ!! 何やってんだお前ら!!」

 声のした方を見ると、エレンが向かってきていた。
 私の下着から手を離し、少年は立ち上がる。

長身「チッ! あの野郎……良いところで!!」

 二人の少年もそれぞれエレンを迎え撃つべく、私から離れていく。

狐目「くそがっ! ぶちのめしてやる!!」

金髪「んっ!? あっ!!」

 少しずれた下着を直し、エレンのほうを見る。
 全力で駆けてくる鬼の形相のエレンの後ろに、本物の鬼がいた。
 鬼は餓鬼共を睨みつけ、地獄へ連れて行くべく疾走してくる。

 あ、違う。ミカサだこれ。


長身「駄目だ! ミカサがいるぞぉ!!」

狐目「逃げろっ!!」

金髪「うわああああ」

 少年達は脱兎の如く逃げていった。
 助かった……。絶望から安堵へ変わった涙が零れ落ちる。

 二人が私に駆け寄ってくる。

エレン「おぉ……あいつらオレを見て逃げたぞ!」

ミカサ「……」

 勘違いして嬉しそうなエレン、その横で少年達が逃げた方を睨み続けるミカサ。
 こんなに怒っているミカサは初めて見るかもしれない。
 


 緊張状態から開放されたからか、足の力が抜けその場に座り込んでしまう。
 
エレン「おい大丈夫か、アルミン。ほら、つかまれよ」
 
 私の状態を気遣って、手を差し出してくれる。
 ありがとう、と手を握ろうとした瞬間。

――――エレン!! 早く!!――――

 頭の中で声が響く。
 とても必死なその声に、握ろうとした手を止めてしまう。

 そんな私の様子を見て、不思議そうな顔をするエレン。

エレン「ん? どうしたんだよ、ほら」

 手を掴み身体を立たせてくれた。
 エレンの手を握り締め、私は良くわからない感情でいっぱいになってしまった。
 嬉しいんだけど悲しくて、とても切なくて。

アルミン「ありがとう……エレン。ミカサもありがとう」

 黙ってこちらの様子を見続けていたミカサが、こくんと頷いた。
 エレンは私の顔を見て、気にすんなよ、とニコリと笑う。

 繋いだままの手を見つめていると、俺の手がどうかしたのかとエレンに話しかけられる。
 
アルミン「……わからない。けど、エレンと手を繋げて嬉しいみたいで……」

 目から涙が零れ落ちる。

 君と手を繋げて良かった。
 君に出会えて良かった。
 君が居てくれて良かった。

 感情が涙と一緒に溢れ出す。
 先程から泣きっぱなしの私を見て、ミカサが頭を撫でてくれる。

ミカサ「アルミン、もう大丈夫。安心して良い」

 ミカサは優しく撫で続けてくれている。
 エレンは困った顔でこちらを見ている。

アルミン「ごめんねエレン。もうちょっとこのまま手を繋いでて……」

 この手を離したくなかった。
 


エレン「べ、別に良いけどよ……」

 頭を掻く仕草をして、ふいと顔を反らす。
 少し我侭言っちゃったかな。

 握る手に軽く力を入れてみる。
 エレンは驚いた顔をするものの、手を握り返してくれた。
 嫌がられている訳では無いとわかり安堵した。

ミカサ「……。アルミン、反対の手は私と繋ごう」

 差し出されたミカサの手は、私と変わらない位の大きさで、白くすらりと伸びた指がとても綺麗だった。
 爪の形も良くて羨ましく思う。
 
 ミカサは少し悲しそうに、差し出した手を戻そうとする。
 長く手を見すぎてたと気付いて、慌てて手を握る。
 ごめんね、と前置きをしてから見入ってた事を話す。

ミカサ「指……。綺麗……? あ、ありがとうアルミン」

 少し照れた表情で言う。
 時々出るミカサの女の子らしさが、可愛くて好きだった。
 それと、お礼を言うのは私の方だよ、ミカサ。

エレン「こんなとこにずっといてもあれだし、少し移動しようぜ」

 エレンの提案を聞き、ミカサと繋いでいる手に優しく力を込め歩き出す。
 ミカサは少し笑顔になり、私と肩を並べて歩く。
 エレンは私の手を引きぐいぐい進んでいく。
 右手にはエレン、左手にはミカサ。
 それぞれの手を握りしめながら思った。


 今度は離さないよ。

  

書き溜めは以上です。
もっと上手く書けるようになりたい。

少し投下。

 二人に両手を引かれ、いつもの場所へとやってきた。
 街の真ん中より少し外れた所を、縦断するように川が走る。舗装された川は、この街と他の街を繋ぎ、物や人を運ぶとても大切なものだ。
 昔、お爺ちゃんの本で読んだ事がある。川をずっと下っていくと、海に繋がっていると。
 私とエレンはここでぼんやりと、流れる水に外への思いを馳せながら過ごすのが好きだった。


アルミン「――それで、人類はいずれ外の世界に出るべきだって言ったら叩かれて……それからあんな事に……」

 私達は開けた場所を探して腰を落ち着ける。それから先程の一部始終を二人に説明した。
 下着を掴もうと太ももに触れる指、その感触を思い出すと、ぞわりと悪寒が走る。
 
 ミカサ「……本当に危ない所だった。奴等からは邪な気配が感じられた。あのまま何をされたかわからない」

 ミカサの言う通りだ。今までは軽く叩かれる程度で済んでいたけど、今日は少しおかしかった。
 あの本を読んでから? 魔女狩りとか言っていたし、少し内容が過激なのかもしれない。
 エレンに貸すのはやめておこう。

エレン「そういやスカート捲くられてたな。パンツなんか見て何がしてえんだか……」

アルミン「見てたの!? エレン!?」

 予想外の言葉に声が裏返りそうになる。
 


エレン「ああ、心配すんな。ちょっと見えた位だぞ。ウサギの絵がかかれてたな」

 ははは、と笑うエレン。
 笑い事ではない。
 恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかる。
 
 うつむき、何も言えない私の変わりに、ミカサがエレンを咎める。

ミカサ「……エレンは女の子に対してもっと丁寧に対応すべき、特にアルミンに対して」

 呆れた顔でエレンの事を睨む。
 もっと言ってやってほしい。
 
 エレンは、キョトンとした顔をして私を見る。

エレン「丁寧? 良くわかんねえけど誰よりも大切にはしてるぞ?」

 そうだろ? と、にかっと笑う。

 よくもまあ異性に対してこうも臭い言葉を吐ける。きっと私でなければ惚れているに違いない。
 それとも異性として見られていない? それはそれで少し悲しいかもしれない。
 うさぎぱんつを見ても笑うだけだし、エレンにはまだそういった感情は無いのかも。
 いや、うさぎぱんつが可愛いとかそんな話じゃなくて、何を考えているんだろう私は。
 ああ、なんか色々とダメで消えてしまいたい。


ミカサ「……はぁ」

 流石のミカサもため息をつくしかないようだった。
 



ミカサ「……奴等にはいずれ然るべき報いを受けさせよう。安心して、アルミン。」

エレン「おいミカサ、オレも協力するぞ。あいつらとはいつか決着をつけないとダメだと思ってたんだ!」

 一度、半殺しの目にあってから、少年達はミカサがいると逃げ出すようになった。

 ミカサがいなくてもエレンは私を助けようとしてくれて、三対一で喧嘩をしていた。
 一対一なら負けないのに、と涙を流すエレンが印象的だった。
 結局その時は、ミカサがあり得ない速度で走ってきて、一瞬で三人を動けなくしていたけど。

アルミン「ありがとうミカサ、エレン。でも実行はしないでね? 特にミカサは加減をしらないから……」

 ミカサは、心外だと言わんばかりに目を開いた。

 長く一緒に居て、最近ようやくわかったけど、ミカサが顔で受け答えをする時はふざけている時だった。
 もちろん、エレンはそんな事には気付く訳もなく、ミカサを不憫に思う時が多々ある。



ミカサ「それよりも、アルミン。あなたは自覚が足りない。だから、油断が生まれる、そして、危険な目にあう」

 ミカサの顔つきが変わった。この顔はお説教状態の時によく見られる。
 私、何かしちゃったのかな。
 多分さっきの事なんだろうけど。

アルミン「外の世界の事を話すのを、良く思ってない人がいる事は自覚しているけど……」

エレン「はっ! そんな奴等には言わせておけば良いんだよ」

 川に向かって手元の石を投げながらエレンは言った。
 
エレン「俺はいつかアルミンと外の世界に行くんだ! なぁ、アルミン!」

 初めて外の世界について書かれている本をエレンに見せた時の事、今でも覚えてる。
 目を輝かせて話す私の言う事を信じてくれて、二人で夢中で話したっけ。
 あの時の約束を今でも覚えていてくれて、とても嬉しかった。 

アルミン「う、うん。そうだね、いつか行けると良いね。ううん、絶対、一緒に行こうね」

エレン「おう!」

ミカサ「……」

 ミカサから無言の圧力を感じる。
 さっきエレンが、私と外の世界に行くと言った事で気を悪くしたのかな。
 自分だけのけ者にされてる気がするのかもしれない。

アルミン「も、もちろんその時はミカサも一緒だよ? 三人で探検しようね!」

 私の気遣いを感じ取ってくれたのか、ミカサからの圧力は弱まっていく。
 だけどミカサは、お説教の顔を崩さないため嫌な予感がした。

ミカサ「アルミン……、あなたは良い子。だけど勘違いをしている。私が自覚して欲しいのはあなたの自己認識」



ミカサ「アルミン、あなたは可愛い。とても可愛い。ので、誘拐されるかもしれない。きっと誘拐される」

 そんなこと無いよと言う私を一瞥し、やれやれといった風に首を振りミカサは続けた。

ミカサ「私は心配、とてもとても心配。あなたの可愛さは誰が見ても一緒。違わない? エレン」

エレン「ん? おぉ、そうだな。確かにアルミンは可愛いんじゃねえか? なんか守りたくなる感じっつうか」

 ここでエレンに振るとは、ミカサは私を殺す気なのかもしれない。
 この天然女誑しは、なんで何も感じずにこんな言葉を発するんだろう。
 私が変に意識しすぎなのかもしれない。意識しているのかな。好きか嫌いかで言ったら好きだけど。
 私の思考はミカサにより遮られた。

ミカサ「やっぱり、アルミンは可愛い。ので、これからは気をつけて欲しい。……わかった?」

 エレンから同意を得て少し得意げなミカサに迫られ、私は渋々承知するのだった

 普段は二人ともこんな事言わないのに、私が泣いていたから気を使ってくれているのかもしれない。
 私が困っているとどんな時でも助けてくれて、泣いていたら手を差し伸べてくれる。

 二人とも私の王子様だ。
 王子様といえば、囚われのお姫様を王子様が助けにくる物語があったのを思い出した。
 王子様はさっきのエレンみたいに手を差し出してくれてて。
 いつかエレンも、この狭い壁に囚われた私を、外に連れ出してくれるのかな。
 
エレン「――お前もそう思うだろ!? アルミン!」

アルミン「……えっ? ごめん、ボーっとしてて。何て言ったの?」

エレン「なんだよ、大丈夫か? 調査兵団に入るのを反対されて、自分の命だから良いだろって話だよ」

ミカサ「駄目」

 間髪いれずにミカサが却下をした。
 それは、聞き分けの無い子供に言い聞かせるようだった。
 ミカサにとって、エレンはきっとやんちゃな弟か何かなのだろう。

ミカサ「絶対駄目」

 追い討ちをかけるかの如く言うミカサの事を、渋い顔をしてエレンは見ていた。

エレン「親にもバラされちゃうしよ。お前、なんで言っちゃうんだよ!」

ミカサ「協力した覚えはない」

 ミカサの切り捨て方にぐうの音も出ないエレンは唇をかみ締めて、悔しさからか川に石を投げ入れる。
 エレンの癖みたいなものだった。おかげでこの辺りの小石はだいぶ減っている。そろそろ小石の島ができてもいい頃かもしれない。



アルミン「で、反対されたの?」

エレン「まぁな、すげえ怒られたよ……」

アルミン「そりゃあね……」

 私が自分の味方になってくれると思っていたのか、エレンは居心地が悪そうな顔をしている。
 
エレン「なんだよ……お前も反対するのか!?」

アルミン「気持ちはわかるよ……危険だもん……」

 外の世界には行きたいけど、実際には巨人という脅威がある。
 壁外調査から帰還した調査兵団の疲弊した姿、そして帰ってくる者の少なさを見れば、誰もが壁外は危険だと思うだろう。

アルミン「だけど、この壁の中が安全だと信じきってる人はどうかと思うな……」

 なんだか嫌な予感がする……。とても良くない事が起きるような。
 今日一日の不思議な既視感が強烈に襲ってきた。
 今までよりも一層強いソレは、次の一言を発するのを躊躇わせる程だった。
 それでも勝手に口は動いていき、私は言う。




アルミン「百年壁が壊されなかったからといって、今日壊されない保障なんかどこにもないのに……」




 突然の轟音、空に稲光が発し、地面から突き上げられるような衝撃を受ける。

エレン「な、なんだ!? 地震ってやつか!?」

 飛び起きて辺りを見回す。
 家と家の間から、表通りの方で何事かを喚いている大人達が見えた。
 皆同じように壁を見上げ、何かを指差し固まっていた。
 
 嫌な考えが浮かぶ、いや、まさか、あり得ない。
 一刻も早く、この不安の正体が知りたくて駆け出してしまう。

エレン「あ、アルミン!」

 後ろでエレンの呼ぶ声が聞こえたが構ってなどいられない。
 通りまで来ると、壁の裏から大量の煙が上がっているのが見えた。
 大砲でも撃った? 事故? ……何かがいる?

エレン「アルミン、一体何が……?」

 エレンに答えようとした時、私の目は異質なものを見つける。
 壁の上に何かが手を掛けていた。
 巨大な手からも煙が上がっていて、煙の正体はきっとこの手の持ち主なんだろう。

エレン「お、おい……、何が見えるんだよ!?」

 二人が駆け寄ってきて、私と同じように固まる。
 この場にいる全員が同じように見たことだろう。
 絶望と呼ばれるものが、ゆっくりとその頭をもたげる様を。

エレン「あ……ヤツだ……巨人だ!」

 あの壁から頭を出すなんてありえない事だった。
 五十メートルもある壁から頭を出す巨人なんて今までに一度も現れなかった。
 あんな巨人がいたらとっくに人類は滅んでいるだろう。
    
エレン「ッ!! 動くぞ!!」

 巨人が握る壁にヒビが入り、何かしらの動きをしているとわかる。
 何をしようとしている? まさか、壁を乗り越え――――。


 天が落ちたかと思うほどの爆音と地響きに私の思考は散っていく。
 

 空には土煙を上げながら、隕石のようなものが飛んでいた。
 それらが街の家々に降り注いだとき、私達は異変に気付く。

エレン「か……壁に……。壁に、穴を開けられた……!?」

 

今日は以上です。
おやすみなさい。

少しだけ投下します。

 大勢の人の叫ぶ声が聞こえる。
 迫り来る巨人から逃れるべく、我先にと駆ける人々が見えた。
 全員が全員同じ顔をして、私の横を走り去る。
 ふと目が合い気付く、無表情だった。
 
 無表情で私を見て、そして走っていく。
 何も言葉を発さず、ただ無表情で走っていく人々に戦慄を覚える。
 何人も、何人も。
 私の事を無表情で見ては通り過ぎていく。

 突然、肩に衝撃を受け尻餅をついてしまう。
 走ってきた一人の男と肩がぶつかったようだ。

「ひいいいいい!!」

 悲鳴を上げ走っていく男の顔には表情があった。

 はっと息を呑み我に帰る。
 恐怖のあまり脳が正常に作動していないようだった。

 ふと横を見ると、二人はまだ放心状態のままだった。 


アルミン「逃げるよ、二人とも!! 早くしないと巨人が――」

 言い終える前に、私とは逆の方向にエレンが走り出す。

アルミン「エレン!?」
 
エレン「破片の飛んでいった先に家が! 母さんが!!」

ミカサ「!!」

アルミン「ミカサ!!」

 エレンの言葉を聞いて、ミカサまで行ってしまった。
 駄目だ、そっちに行ったら巨人がたくさんいる。

 二人の小さくなっていく姿を見ても、私の足は後を追いかけようとはしなかった。
 怖い。手の震えが止まらない。

 私にはわかる。もう駄目なんだ。この街はもう巨人達に占領されてしまう。

アルミン「エレン……ミカサ……」

 二人の名を呼び、涙を流す事だけしかできなかった。
 



 泣いてる場合じゃない、なんとか二人を助けないと。
 エレンの家は正門の近く、早くしないと巨人の餌食に……。

 最悪の光景を思い浮かべてしまい、鳥肌が立つ。
 駄目だ、絶対にそんな事にはさせない。
 震える手を押さえつけ、二人を救う方法を考える。

 きっとまわりの大人は、混乱していて私の話なんか聞いてくれない。第一自分の命を守る事で精一杯のはず。
 この非常時に、私の言う事を冷静に聞いてくれて力がある大人……。

 一人だけ思いつく、私とも二人とも接点を持ち、強い力を持つ大人。 
 今日は門兵をしていると言っていた。
 この道なら内門から正門まで直線、必ずこの道を通るはずだ。

アルミン「ハンネスさん!!」

 大声を上げ、私は走り出す。



アルミン「ハンネスさん!! ハンネスさああぁあぁぁぁん!!!!」

 結構な距離を走った。もうすぐ内門が見えてきそうだ。
 声を上げ走り続けたせいで、心臓が早鐘を打っていた。
 満足に呼吸が出来なくて苦しい。そろそろ限界が近い。
 それでも走らないと、二人の命がなくなってしまう。

アルミン「ハンネスさ――」

ハンネス「アルミン!?」

アルミン「ハンネスさん!!」

 こちらに駆け寄ってくるハンネスさんの姿を見て、すがり付くように倒れこむ。
 ハンネスさんは私と同じ目線まで膝を折り、両肩を支えてくれた。
 
ハンネス「おう、無事か!? 二人は一緒じゃないのか!?」

アルミン「エレンが!! 家……!! おばさんを……! 早く……!!」

ハンネス「落ち着け! エレンがお母さんを探しに家に戻ったんだな?」

 息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。ハンネスさんは私の意図を理解してくれた。
 返事をする代わりに何度も頷く。涙がポロポロと零れ落ちる。
 ハンネスさんは私の頭を撫で付けて立ち上がった。

ハンネス「わかった。良く知らせてくれた、アルミン」

 頑張ったな、と言い残しハンネスさんは人混みに消えていった。

 二人とも、どうか無事でいて。

 あの日から二年の月日が流れた。
 ハンネスさんと別れた私は、お爺ちゃんと定期船まで避難した。
 二人はハンネスさんに連れられて遅れてやってきたけど、その中にエレンのお母さんの姿は無かった。
 エレンの表情から、なにがあったかは想像に難くなかった。
 
 鎧の巨人と呼ばれる巨人がウォールマリアを破り、人類はウォールマリアを放棄した。
 その為、私達はウォールローゼ内に避難民として送られる事になる。

 開拓地に移ってから一年、政府が『ウォールマリア奪還作戦』なるものを発案した。
 一般人であるウォールマリアの住民を引き連れて、巨人を殲滅するといった物だ。
 誰が考えても無茶だった。帰ってきた者は百人にも満たず、その中に私の家族は含まれなかった。

 自分達は内地でぬくぬくと肥え太り、私達に苦汁を飲ませる政策をする。
 そんな政府に怒りを覚え、自分に何ができるかはわからないけど、何か行動をしないといけないと思った。

 そして今――――。


キース「おい、貴様」

アルミン「はっ!!」

キース「貴様は何者だ!?」

 私達は訓令兵団に入団できる歳になり、ウォールローゼ南のトロトス区にある訓令兵団施設へと来ていた。
 荷物の搬入を済ませ、慣れない制服に着替え終わると、私達は一ヶ所に集められた。
 この施設での注意や規則、兵士としての心得や作法を教わる。

 一通りの説明が終わると、訓練担当教官と名乗る人物が現れた。
 名をキース・シャーディスと言い、凄みのある目つきで睨みを効かす。
 キース教官は一人一人罵倒し、順番に恫喝して回っていた。
 そして、私の番になった訳だけど。

アルミン「シガンシナ区出身!! アルミン・アルレルトです!!」

キース「そうか! 可愛らしい名前だな!! 親がつけたのか!?」

アルミン「っ!? そ、祖父がつけてくれました!」

 一瞬、この教官の言っている事が良くわからなかった。
 可愛いと言ったのか? 罵倒だろうか。聞き間違いかもしれない。

キース「アルレルト! 貴様は何しにここに来た!?」

アルミン「人類の勝利の役に立つためです!!」

キース「それは素晴らしいな!! 貴様には巨人の餌にはなってほしくないものだな!!」

キース「私が守ってやろう、どうだ! 愛人にならないか!」

アルミン「……!? え、遠慮しておきます!!」

 この教官、おかしい。
 以前ミカサが言っていた『ペド野郎』という者なのだろうか……?
 教官は少し落胆した様子で、そうか……と呟き、私の頭に手を伸ばし――。

キース「三列目、後ろを向け!」
 
 髪を一撫でして去っていく。
 私は全身が総毛立っていた。
 教官は次の訓令兵の前に立ち、恫喝を続ける。
 
キース「貴様は何者だ!!」

 この教官とは少し距離を取ったほうがいいかもしれない。
 私の中の何かが最大の警告を発していた。

 ミカサの視線に気付き横を向く。
 ミカサの目が『あいつには近づくな』と語っていた。
 素直に従おうと思う。



キース「――何のためにここに来た!?」

ジャン「……け、憲兵団に入って、内地で暮らすためです」

キース「そうか! 貴様は内地へ行きたいのか?」

ジャン「はい!」

キース「ふんっ!!」

ジャン「っぐ!!」

 ジャンと名乗る少年が教官の頭突きで座り込む。
 どうやら全員に対して優しい訳じゃないみたいだ。
 さっきから罵倒されてるのは男子か、言っては悪いけど顔の造形が良くない女子のみ。
 もしかしてこの人、訓令兵団とは名ばかりの、お気に入り愛人養成所にでもしようとしているのか……。
 身の危険を感じる、この人のいる施設に安全な所は無いのでは?
 でも無理強いはしなかったから……、いや、もしかしたら万が一があるかもしれない。

キース「――貴様の心臓は右にあるのか!? コニー?」

コニー「ぅぐっ……」

 いつの間にか教官が坊主頭を掴み持ち上げていた。
 坊主の少年は――確かコニーと呼ばれていた――口から泡を吹き白目を向きかけている。
 教官は何かに気付いて坊主頭を手放す。
 コニーは口から何か液体を出し、倒れていた。

 皆が教官の視線の先を見る。あれは――。

キース「……オ……イ……貴様は何をやっている……?」

サシャ「!?」

 芋を頬張る少女の姿が、そこにはあった。


 少女は自分が呼ばれたとは思ってないようで、辺りをきょろきょろと見回していた。
 私には理解ができなかった。
 もちろんこの場にいる全員が理解できていないだろう。

 少女は何事も無かったかのように、『食事』を再開した。

キース「貴様だ! 貴様に言っている!! 何者なんだ貴様ァ!!」

サシャ「!」

 流石の教官も、彼女の奇行を見過ごせる訳も無く、物凄い剣幕で迫っていった。

 だが、当の本人は口の中の物を必死に咀嚼する事に忙しいようだ。
 人と話すときは口の中のものを無くしなさい、と親に躾されたのかもしれない。
 いや、まともな躾を受けている人間が、このような場であんな愚行はしないだろう。

サシャ「ウォール・ローゼ南区、ダウパー村出身! サシャ・ブラウスです!」

 ようやく芋を飲み込み、心臓に芋を捧げる少女は、自分のことをサシャと名乗った。
 
キース「……サシャ・ブラウス。貴様が右手に持っているものは何だ?」

サシャ「蒸かした芋です! 調理場に丁度頃合いの物があったので、つい!!」

キース「貴様盗んだのか……、なぜだ、なぜ今……芋を食べだした……?」

サシャ「……冷めてしまっては元も子もないので、今食べるべきだと判断しました」

キース「!? いや……わからないな。なぜ貴様は芋を食べた?」

サシャ「それは……『何ゆえ人は芋を食べるのか?』という話でしょうか?」

 その場にいる全員が固まっていた。教官も固まって、困っているようにさえ見えた。

 しかし何を言っているんだろう、あの子。さっきから全然話が噛み合っていない。
 顔は可愛いのに、流石に『ペド野郎』の教官でも入団式で芋を食べるのは擁護できないみたいだ。



サシャ「……あ!」

キース「!」

 サシャは何かに気付き、手に持つ芋を二つに裂いた。
 そして教官にそれを差し出して言う。

サシャ「……チッ」

サシャ「半分……どうぞ……」

 なんか勘違いしてるみたいだった。
 教官も食べたいから文句をつけに来た訳じゃないのに。
 それに明らかにに半分じゃない。ひとかけら程度だ。
 教官も見るからに困惑している。

キース「……」

 教官が受け取った芋を食べた。
 やっぱりあの人はどこかおかしいようだ。

サシャ「……フゥー」

 ああ、すごい腹立つ顔をしている。
 でも教官も芋を食べてたし良いのか、私にはわからない。

 教官は芋を全部没収して、あの子を走らせた。
 何事も無かったかのように、教官は芋を食べながら次の人を罵倒していた。

 何なのだろうか。お腹が空いていたのだろうか。
 考えた所で変人達の行動は理解できる訳も無く。

 私、この先やっていけるのかな……。
 

今日は以上です。
読んでくれてありがとうございます。

おやすみなさい。

投下します。

 その後、何事も無く入団式は終わり、細かい当番や班決めが行われた。
 夕飯までに荷物を片そうと、多くの訓練兵が寮へと戻って行った。

ミカサ「アルミン。そろそろ食事をしにいこう」

 片付けの最中に本を読みふけっていた私は、ミカサの声ではっとした。
 全然片付けられていない……。私の悪い癖だ。

アルミン「うん、ごめんねミカサ。行こうか」

 ミカサのベッドを見ると、全てがきっちりと収められていた。
 昔からしっかりしていると思ってたけど流石だな。

 それに比べて私のベッドの上には着替えや本が散乱していた。
 帰ってきてからやろう。
 次は絶対に本を開かないんだ、と私は心に誓った。

 

 食堂に着くとエレンの周りに人垣が出来ていた。

アルミン「何を話しているんだろうね」

ミカサ「……これではエレンと食事ができない」

アルミン「ごめんね、私がもっと早くしていれば良かったんだけど……」

 ミカサは私を見ると、こくんと頷いた。
 別に気にしてないよ、と言いたい時に良くやる行動だった。

ミカサ「次からは先にエレンを誘う」

 そうだね、とミカサに相打ちを打ち、パンを齧るが歯が立たない。
 石みたいだ、歯が欠けるかと思った。
 なんとか引きちぎり、中の柔らかい部分を食べることができた。

アルミン「エレンがこのまま皆と打ち解けられて、たくさん友達できると良いね」

 ミカサはエレンの方を凝視しながら、パンをスープに浸していた。
 なるほど、柔らかくしちゃえば良いのか。
 私も真似をして食べる事にした。
 

ミカサ「少し寂しいけど、きっとそれがエレンには一番良い」

アルミン「ずっと男友達いなかったもんね、大丈夫かな?」

ミカサ「すぐに喧嘩するから、口より先に手が出ていた」

アルミン「そう……だね」

 ミカサの言う事も理由の一つだけど、きっと違う理由だと私は思う。
 異端者と呼ばれていた私と仲良くしていた為、エレンにはそういった友達ができなかった。
 私と知り合う前は、普通に男友達と遊んでいた事をミカサは知らない。
 私のせいでエレンは友達が減ってしまったのだ。

 軽く自虐的な思考をしていると、顔にも出ていたのかミカサが心配そうに様子を窺っていた。

アルミン「あ、ごめんね。少し昔のこと思い出してただけ」

 気にしないで、とミカサに笑顔を向けた時だった。


エレン「そりゃオレのことか?」

 エレンが椅子から立ち上がり、声を荒げていた。

ミカサ「……はぁ。言ったそばから喧嘩をしている」

 ミカサが立ち上がり、エレンの方へ歩き出そうとする。
 丁度、食事終了の鐘が鳴り響いた。

アルミン「あれ、もう時間なの? 全然食べれてないや」

 ミカサの食器を見ると、既に空になっている。
 周りを見渡すと皆食べ終わっているようで、食器の回収が始まっていた。

 エレンは茶髪の少年と握手のような事をしていた。
 喧嘩にもならず仲直りできたみたいで一安心といった所だ。
 このまま友達が増えると良いね、エレン。
 世話のかかる弟か息子を見ているようで、なんだかミカサの気持ちが少しだけわかった気がした。

ミカサ「アルミン、ごめん。エレンが行ってしまうから、私は先に行く」

アルミン「ううん、大丈夫だよ。こっちこそ待たせてごめんね」

 ミカサはこくんと頷くと、足早に出口へと向かっていった。
 出口に向かう途中で、茶髪の少年と二言三言話していた。

 なんの話だろう?
 そんな事より急いで食べてしまわないと。
 食事をしているのは私一人となっていた。
 



 ようやく食べ終わり、当番の人に謝って食器を片付ける。
 当番の人には悪い事しちゃったな、次からはもっと早く食べよう。

 あとは寝るだけなので、就寝時間まで本でも読もうかな。
 そう思っていた私はひとつの事を思い出す。
 私には寝るベッドが用意されていないという事を。
 これは、まずい。急がないと就寝時間までに片付かないかもしれない。

 寮に帰ろうと出口に向かうと、二人の少年が何やらもめていた。

コニー「何拭いてんだよ! お前!」

ジャン「人との……信頼だ」

 出口を塞ぐようにして話す二人を、無視する訳にもいかず、私は話しかけた。

アルミン「どうかしたの? 二人とも」

コニー「おお、丁度良かった! なあ、背中に何かついてないか!?」

アルミン「特に何かがついているようには見えないけど……」

 私に背中を向け、必死に喋っているこの少年は、確か……。

アルミン「君はコニーだったよね。何があったの?」

コニー「こいつが訳わかんない事言っててよー」


 遠くを見ていた茶髪の少年が口を開いた。

ジャン「こいつじゃねえよ。ジャン・キルシュタインだ」 

アルミン「あ、私はアルミン・アルレルト。よろしくね」

 私を見てジャンは片眉を上げ、小馬鹿にしたような口調で言う。

ジャン「……ああ。教官の愛人か」

 確かにジャンの言う通り『愛人にならないか?』と言われたのは私一人だった。
 だけどもっとひどい事を言われてた人もいたのに。
 ミーナという子は少し可愛そうだった。



キース『違うぞ! 貴様は豚小屋出身の家畜以下だ!』

ミーナ『はっ! 自分は家畜以下であります!!』

キース『違う!! 貴様はいやらしい雌豚だ!! 男を喜ばす事でしか役に立たない!!』

キース『どうだ! 私が具合を試してやろうか!? 気に入ったら飼ってやろう!』

ミーナ『……わ……私は人間であります……グス……』

キース『そうか……貴様は人間であったか。ならば修練に励め! 落第すれば即肉便器だ!!』

ミーナ『……はっ!!』



 あの後、あの子は寮で暫く泣いていて、さっき見た時は眼が赤く腫れてた。
 男子があの子を見る同情の眼差しが、また痛々しさを増していた。

 まあ、今はその話は良いとして。



アルミン「それは置いといて、コニーの背に何を拭ったの?」

ジャン「ああ、たいしたもんじゃねえよ」

コニー「なんか、人との信頼とか言ってただろうが」

 手についた信頼を拭う?
 もしかして、さっきのエレンとの仲直りの握手だろうか。
 考えていても仕方ない。直接聞いてみよう。

アルミン「もしかしてエレンが関係してるの?」

ジャン「あ、ああ、まあ、そうだな」

 ジャンは正解を当てられて驚いた顔でこちらを見ていた。
 エレンが関係すると言う事はミカサも関係しているだろう。
 そういえば、さっき出口に向かうミカサと何かを話していた。

アルミン「もしかしてミカサに何か言われた? 黒髪の子でマフラー巻いているんだけど」

ジャン「ミカサって言うのか……。って、ち、ちげえよ」

 ジャンはしどろもどろになっていた。

 これは、ミカサに一目惚れかな。
 ミカサの本質(圧倒的暴力)を見てないからだろうね。
 黙っていれば美人だし、口を開いても謎めいた感じで良いのかな?
 まあ、ミカサ自身はそんな事気にしてないんだろうけど。
 エレンのそばに居られればそれで良いと昔言ってたし。
 ということは外で二人の関係を見たのかな? ミカサ近いもんね。
 多分誤解しちゃったんだろう。

アルミン「ジャン、勘違いしないで欲しいから話すね」

アルミン「私は二人と幼馴染なんだ」

ジャン「ああ、シガンシナ区出身って言ってたな」

アルミン「うん、それで二人は姉弟みたいな関係で、同じ家に住んでたんだ」

ジャン「はあ? なんでだよ」

アルミン「ミカサの両親が不幸にあって、身寄りの無いミカサを、エレンのお父さんが引き取ったみたいなんだけど……」

ジャン「そ、そうか……。それは……」

 ばつが悪そうな顔でジャンが言った。
 私も、この事を人に言っていいのかはわからない。
 けどミカサならわかってくれると思った。
 エレンに友達が増える事を喜んでいたし、自分のせいでエレンに友達が出来ないと知ったら落ち込んでしまうだろう。
 だから私も出来る限りのことをしよう。



アルミン「これは私の勝手なお願いなんだけど……エレンとの信頼を無くさないで欲しいな」

ジャン「…………」

 ジャンは黙って腕を組み眉間に皺をよせていた。
 やってしまった事を攻められていると思っているのだろうか。
 だったらこっちにもまだ考えがある。

アルミン「コニー、ちょっとごめんね。背中向けてもらっても良いかな?」

コニー「ん? おう、良いけど何すんだ?」

 私はコニーには答えず、背中を撫でる。
 なにしてんだよ、とコニーが慌てているが、構わず撫で続ける。
 充分撫で付けた後、ジャンの方を向く。
 私のやっている事の意味がわからないらしく、怪訝な顔付きをしていた。

アルミン「ジャン、手を出してくれる?」

ジャン「はあ? 手なんかどうしようってんだよ」

 文句を言うジャンの手を無理やり奪い、両手でしっかりと握る。


ジャン「お、おい! なにしてんだよ!」

 コニーの背中を撫でた方の手を、ジャンの手の平に当てて、反対の手で逃がさないように包み込む。
 ジャンは手を引くが本気ではないらしく、私の力でも抑える事ができた。

アルミン「エレンは昔からあんな調子で、友達と呼べるものができた事が無かったんだ」

アルミン「さっきのエレンは、本音で言い合える仲間ができたようで本当に嬉しそうだったんだよ」

アルミン「だからこの信頼は拭わないであげて欲しい」

アルミン「お願い、ジャン。もう一度その手に信頼を戻してくれないかな」

ジャン「あ、ああ!! わかったよ!! 悪かったって!」

 私の説得に応じてくれたジャンは、素直に謝罪するのが恥ずかしいのか少し赤くなっていた。
 これで、エレンに友達が出来ると思うと自然に笑顔になってしまう。

アルミン「ありがとう、ジャン。コニーもありがとうね」

 感謝の礼を二人に笑顔で言うも、二人はボーっとしていた。
 昔から私は喋りだすと止まらない癖があり、二人は驚いてしまったのかもしれない。
 またもや私の悪い癖だ、直さないと。
 
 悪い癖で思い出した。やらなきゃいけない事があるんだった。

アルミン「だいぶ時間経っちゃったね。それじゃ私は帰るから、二人ともおやすみなさい」

 二人に挨拶をして私は駆け出す。

ジャン「……いい」

コニー「……だな」

 後ろの方で二人が何か言っていたけど聞いている暇はなかった。
 このまま聞こえない振りで走り去ろう。
 二人ともごめんね、と心の中で謝り、私は急いだ。
 
 その後、悪い癖が再発し、私は本に埋もれて眠るはめになるのだけど。



今日は以上です。
キース教官は好きです。

 次の日、立体起動の適正試験が行われた。
 これが出来なければ兵士としては役に立たない為、すぐさま開拓地に帰されるというとても重要な試験だった。
 運動が苦手な私は、落ちないか不安で仕方なかったけど無事終わらせる事ができた。
 ミカサも試験を合格し、残るはエレンだけとなった。 

キース「――何をやっているイェーガー! 上体を起こせ!」

 まさかの失敗だった。身体を動かすのは得意だったエレンが失格し、私が受かってしまった。

キース「今日出来なかった者は、明日再試験を行う! それまでに出来るようにするんだな!」

 試験が終わると自由時間となり、ミカサと私はエレンの自主訓練に協力する事にした。
 試験を通過できなかった者が数名、ちらほらと確認できた。
 皆、悲痛な顔で練習をしている。エレンも例に漏れず今にも泣きそうな顔だった。

ミカサ「上手くやろうとか考えなくて良い。前後のバランスだけに気をつけて」

アルミン「運動苦手な私でもできたんだから、落ち着いてやればできるよ」

 私達二人の助言を聞き、少し安心したような顔で言う。

エレン「なんだか、出来るような気がしてきた。上げてくれ、アルミン」

 エレンの合図でクランクを巻く。少しずつ足が浮いていき、つま先が地面から離れた瞬間だった。
 吊り上げられた腰ベルトを基点にして、綺麗な半円を描き、エレンの頭部は地面に叩きつけられた。

エレン「うぐぁっ!」

 奇声を発し動かなくなるエレンを、私達は呆然と見ていた。
 エレンの頭部付近の地面に、赤い液体が流れてきて、私達は事態の深刻さを理解する。

ミカサ「アルミン! エレンを下げて!」

アルミン「わ、わかった!」

 エレンを下ろし装置から外す。
 エレンは名前を呼びかけても、揺すっても返事をしない。
 最悪の事態を思い浮かべて、目に涙が溜まる。

ミカサ「アルミン、医務室に連れて行く。協力して」

 ミカサの言う通り、今は一刻も早く医務室に連れて行き治療をしないと。
 エレンの腕を私とミカサの肩に回して歩きだす。

アルミン「エレン、しっかりして!」

 再度名前を呼ぶが、エレンは口から涎を垂らし、白目を向いたままだった。
 エレンの頭部から垂れる血が、ミカサの服を赤く染めていた。

ミカサ「エレン、アルミン。もう少しだから、頑張って」

 ミカサも必死な顔をしていた。
 もしかしたらエレンが死んでしまうかもしれない。
 私達は不安からか進む足が速くなっていった。

 目指す医務室は、教官棟の中にあった。
 私達が入り口の階段を昇り、扉に手を掛けようとした時、扉が勝手に開いた。

 外に出ようとしていたキース教官と鉢合わせになり、私達は言葉が出なくその場で固まってしまう。
 教官は私達を一瞥すると、開けた扉をそのままに言った。

キース「……大体の状況はわかる。ついてこい」

 エレンを支える私達が通りやすいようにと、教官は扉を大きく開け通り過ぎるまで待っていてくれた。
 入団式時とは、雰囲気や言動が違う為に少し驚く。
 昨日の変態的とは打って変わって、今日はどこか紳士的だった。

 教官の後を追い私達は医務室に辿り着く。
 私達がエレンをベッドに寝かせると、教官が説明を始めた。

キース「消毒液はここだ、ガーゼや包帯はあちらにある」

キース「訓練には怪我が付き物だ。怪我の度に我々が処置をしていては全体の遅れに繋がる」

キース「その為、貴様らには軽い怪我等は自分達で処置をしてもらう」

キース「これは後日訓練が始まる時に言う予定だったのだが、まさか適正訓練でこんな怪我をするとはな」

 私達はエレンの血を拭き、消毒をしてから化膿止めを塗る。
 傷はあまり大きくなく、脳震盪を起こしているだけのようだった。
 ガーゼを当て、包帯を巻く。
 それでも目覚めないエレンを不安に思っていると、教官は優しい声で言った。 

キース「このような怪我は良く見てきたが、皆無事だった。安心するといい」

キース「それでは、イェーガーが目覚め次第、帰るように」

 教官は出口の方へと歩き出した。

ミカサ「教官、ありがとうございました」

アルミン「ご迷惑をおかけしました」

 私達の礼を聞き、教官は扉をくぐった所で顔をこちらに向けて言う。

キース「なに、構わん。貴様らは私の『可愛い生徒』だからな」

 にやりと笑い扉から消えていった。
 なんで『可愛い生徒』を強調したのかは考えない方が良さそうだった。



エレン「ん……ここは……?」

 日も暮れかけた頃、ようやくエレンは目を覚ました。
 医務室だという事、練習中に怪我をした事を伝えると、エレンは青ざめながら言った。

エレン「お、俺は……このままじゃ、開拓地行きなのか……」

 全身を震わせ涙が出そうな声を聞き、エレンの冷えた手を握る。
 エレンは私の方を見て何かを言おうと口をパクパクとさせているが、考えがまとまらないようだった。

アルミン「きっと大丈夫だよ……何か方法を探してみよう」

エレン「ああ……すまねえ」

 一番にエレンの心配をすると思ったミカサは、終始無言で何かを考えているようだった。
 外から食事の時間を知らせる鐘が鳴る。

アルミン「とりあえず食事をしながら考えようよ」

エレン「ああ……」

 足取りの重いエレンの手を引き、食堂へ向かう事にした。


食堂に入ると、好奇の視線が私達を襲った。

「おい、あいつ昨日巨人を皆殺しにすると言っていた奴だよな」

「ああ、姿勢制御で死に掛けたんだとさ」

「まじかよ、初歩の初歩じゃねえか」

「役立たずに食わす飯はねえんだから早く開拓地行けってんだよ」

「女に手を引かれて、随分良いご身分なこって」

ジャン「チッッ!!」


 周囲からの嘲笑でエレンはますます青ざめていく。
 エレンを椅子に座らせると、ミカサが私達全員分の食事を運んできてくれた。

アルミン「ありがとね、ミカサ」

 ミカサはこくんと頷き、席に座ると黙々と食事を取りだした。
 エレンは周りの声を聞いて食事の手が進んでいないようだった。
 
アルミン「エレン、ねえエレンってば」

 私の声も聞こえないらしく、ボーっと天井を見ている。
 横に座るエレンの肩を叩くと、ようやくエレンは気付いたようだ。

エレン「お、おお。どうしたアルミン」

アルミン「どうしたじゃないよ。ちゃんと食事を取らないと、今日の怪我で失った血は戻らないよ」

 そうだな、とエレンはようやく食事を始めた。

アルミン「周りの言う事を気にしても仕方ないよ。明日できるようになれば良いんだから」

エレン「明日……明日できなかったらどうしたらいいんだ」

アルミン「今は悩んでも仕方ないよ、出来る方法を探そう」

エレン「ああ、そうだな。……情けねえ、こんなんじゃ巨人を根絶やしに――」

ミカサ「もう、そんな事目指すべきじゃない」

 今まで黙っていたミカサが突然口を開いた。


 ミカサは正面からエレンを見据えて続ける。

ミカサ「向いてないなら仕方ない。ようやく出来る程度では無駄死にをするだけ」

エレン「な、何だって?」

ミカサ「兵士を目指すべきじゃないと言った。生産者になり人類を支える選択もある」

ミカサ「何も命をなげうつことだけが戦いじゃない」

 正論だ。エレンの事を本気で思っているんだろう。
 医務室からずっと黙っていたのはこの事を考えていたのか。
 ミカサなりに考え抜いた結論なんだろう。

エレン「俺はあの日あの光景を見たんだぞ? そんな理屈で納得できるか」

 あの光景、シガンシナ区から避難して数日がした頃、エレンが泣きながら教えてくれた。
 自分に力が無かったから、だからお母さんを助けられなかった。
 巨人をこの世から絶滅させる。そう語るエレンの顔は憎しみで染まっていた。

ミカサ「でも、その覚悟の程は関係ない。兵士になれるか判断するのはエレンじゃないから」

 正論だけど、その言い方だとエレンがふてくされてしまうよ。
 案の定、エレンは黙って食事をがつがつ食べだした。
 悔しいのかミカサの事を睨んでいた。
 ミカサはエレンの視線に気付きうつむいてしまう。

 食事終了の鐘がなる。
 今日は時間内に食べきる事ができた。

 うつむいていたミカサが何かを言い出すが鐘の音で聞こえない。

エレン「行こうぜ、アルミン」

アルミン「え? う、うん」

 そんなミカサを放って置いて、エレンは食堂を出ようとする。
 いくら喧嘩したとはいえあんまりじゃないかな。
 でも、今は少し距離を開けた方が良いのだろうか。

 私はミカサに行く事を伝えるも、何か一人で呟いて聞こえていない様だった。

アルミン「エレン、少しひどいんじゃない?」

エレン「別に良いだろ。いつも上から物言いやがって」

 私とエレンは外をブラブラと歩いていた。
 先程のミカサの事をエレンに言及しようとすると、フラフラとどこかへ逃げようとするから、私が付いて回る形になっている。
 
アルミン「ミカサなりにエレンを思っての事だよ? 可愛そうじゃないか」

エレン「だけど俺は! 俺は母さんの仇を取りたいんだ……」

 エレンは立ち止まり、拳を握り締めていた。
 ふと、何かを思い出した顔で私に語る。

エレン「そうだ、アルミン。医務室で言ってたよな。方法を探すって」

アルミン「考えてみたけど、あまり良い方法は浮かばなかったよ」

 そうか、とエレンは落胆して肩を落としてしまう。
 何か案を出さないと明日に影響してしまう。
 私が上手ければコツを教えられるけど、ミカサは言葉が少ないから伝わらないみたいだし。
 あ、なんだ。簡単なことを見落としていた。

アルミン「ねえ、上手い人にコツを聞いてみるのはどうかな?」

エレン「お、おお! そうか、そうしよう! 今は皆寮に戻っているかな」

 エレンは何でも良いからすがり付きたい気持ちでいっぱいなんだろう。
 結局他人頼り、こんな案しか浮かばなくてごめんね。
 エレンに申し訳ない気持ちになりながらも、私は帰る事にした。

アルミン「じゃあ、私はここで帰るね。明日、頑張ってね」

エレン「え? 一緒に聞いてくれないのか?」

 さも当たり前のようにエレン言った。
 私が男子寮に入るのは駄目だと思うんだけど……。
 その事をエレンに伝える。

エレン「いや、規則では就寝時間前に戻れば良いって言ってたぞ。泊まりは教官室なら良いとも言ってたな」

 どんな規則だ。
 心の中で吐き捨てる。
 
 それでも、私一人で男子寮に入るのは気が引けた。

エレン「頼むよ! アルミンがいると心強いんだ! お願いだ!!」

 エレンの必死なお願いに私は渋々頷くのだった。

 エレンの同室の人で、上手い人から聞いていこうということで、私達はエレンの部屋へ向かった。
 男子寮の造りは女子寮と一緒で、二段ベットがある八人部屋だった。
 部屋の真ん中にある机で、知った顔が二人なにやら話していた。

アルミン「あ、ジャンとコニー。こんばんは、お邪魔するね」

ジャン「あ、あ、アルミン!」

コニー「なんでここにいんだ!?」

 二人は目を丸くしてこっちを見ていた。
 やっぱりこういう反応されちゃうよね。

エレン「なんだ? 二人とはもう知り合いなのか」

アルミン「うん、そうなんだ。昨日食堂でちょっと話したんだよ。ね、二人とも」

ジャン「あ、ああ」

コニー「だな」

 二人は私から目を逸らし、気のない返事を返してくるだけだった。
 
ジャン「それよりもだ、何でアルミンがここに来るんだ? 何か用か?」

アルミン「ああ、それなんだけどね――」

ジャン「姿勢制御のコツだぁ?」

エレン「ああ、教えて欲しいんだ。頼む!」

 必死にお願いするエレンに、二人は少しにやつきながら言った。

コニー「コツねー。わり、俺天才だから『感じろ』としか言えん」

ジャン「俺は逆に教えて欲しいねぇ。あんな無様な姿を晒して正気でいられる秘訣とかをよぉ」

 予想外の返答が来た。
 この二人ならエレン為に何かしら教えてくれそうだったのに。
 エレンも少しカチンと来たらしく、食って掛かっていた。

ジャン「その前に、女と一緒じゃないと何も出来ない根性が気に食わねえんだよ」

ジャン「ミカサにしろアルミンにしろよぉ。いつまでも甘えてんじゃねえぞ」

エレン「それは関係ねえだろうがっ!」

ジャン「関係あんだよ! 羨ましい!!」

コニー「だな……」

 二人とも熱くなっていた。あまり騒ぐと教官が来てしまう。
 なんとか二人を止めないと。


 エレンと言い合うジャンに近づき、その手を握る。

ジャン「ちょ、な、なんだ!? 急にどうした!?」

エレン「アルミン!? 何やってんだ!?」

 二人は混乱しているようだけど言い合いは取り合えず収まった。
 私はジャンに静かに話しかける。

アルミン「ねえ、ジャン。私との約束忘れちゃったの?」

 握る手に少し力を込め、ジャンの手の感触を確かめる。
 
ジャン「ん? あ、ああ。覚えているよ。だからこうやって本音でだな」

アルミン「本音で言い合うのと、けなすのは違うよ?」

ジャン「……そうだな、悪かったよ。以後気をつけるから手を離してくれねえか?」

 彼氏が嫉妬してんぞ、とジャンは言った。 


アルミン「彼氏? 何のこと?」

 ジャンの言っている事の意味がわからない。
 ジャンが顎で指す方にはエレンが私達の繋いでいる手を睨んでいた。
 エレンの事? 嫉妬しているの?

ジャン「あれ? 間違ったか? お前ら食堂に手を繋いで入ってきたろ」

 あの時のが見られていたのか。
 勘違いだと否定しようとすると、エレンが先に口を開いた。

エレン「ちげえよ! アルミンとは幼馴染ナだけでそんなんじゃねえ!」

 胸の奥がチクリと痛む。
 そんなに否定しなくても良いのに……。

寝ます。
おやすみなさい。

書き溜め投下します。

ジャン「そうかよ、悪かったって。そんな怒鳴るんじゃねえよ」

エレン「そんな事より早く手を離せよ!」

ジャン「おお、そうだな。ってお前それ妬いてるんじゃねえのか?」

エレン「はあ!?」

 ジャンは私の手を離し、エレンとまた揉めそうになっていた。
 そんな二人をよそにコニーが聞いてきた。

コニー「てことは今アルミンは彼氏とかいないんだよな?」

アルミン「え? うん、そうだけど」

 今というか、出来た事もないよ。
 友達すらいなかったのに、恋人なんか出来る訳ない。

 二人はため息を漏らして、よかった、と呟いていた。



エレン「アルミンの事はもういいだろ、コツを教えてくれよ」

ジャン「ああ、コツねえ。俺は吊り上げられてるとは考えずに、何かに乗っかってるイメージでやってるけどよ」

エレン「そういうので良いんだよ! ありがとな、ジャン!」

 エレンに腕を掴まれ感謝されてるジャンはどこか気恥ずかしそうだった。
 別に良いよ、とエレンの肩をポンと叩くと、私を見て続けた。

ジャン「違う奴にも聞いといたほうが良いんじゃねえのか?」

アルミン「あ、うん。そのつもりなんだけど」

コニー「だったらあいつらも上手いって言われてたぜ」

コニー「ライナー、ベルトルト。ちょっといいか?」

 部屋の奥に向かって声を掛けると二段ベッドの上から手が上がる。

ライナー「ここだ、どうした?」


エレン「ちょっと話があるんだけどよ」

ライナー「おお、いいぞ。上がって来いよ」

 エレンはジャンとコニーに軽く礼を言うと、二段ベッドの梯子を上がって行ってしまった。
 私も後を追いかけないと。

アルミン「二人とも、ありがとね。とても助かるよ」

ジャン「別に良いって。それよりもどうしてそこまであいつの面倒を見るんだよ?」

 ジャンは不思議そうにたずねてくる。
 どうしてだろう。やっぱりエレンの手伝いをしたいっていうのが一番の理由だけど。

アルミン「えっと、私とミカサとエレンはいつも一緒にいたから、エレンだけ開拓地に戻るのはイヤだし」

アルミン「何より、エレンの泣きそうな顔を見ると放っておけないっていうか」

アルミン「うーん、あまり深く考えたことなかったよ。全部含めて友達だからって事じゃないかな」


 私の話を聞いていたコニーが、少し大きめの声で聞いてきた。

コニー「じゃあさ! 俺とアルミンはもう友達だよな?」

 エレンに友達が出来たら良いなとは思っていたけど、私に友達が出来るとは思わなかった。
 コニーの発言で嬉しくなってしまい、目が潤んでしまう。

アルミン「うん、私で良ければ友達になってほしいな」

ジャン「バカ、もう友達だって言ってんだろ? これから宜しくな」

 二人に差し出された手を握り締める。
 エレンが失敗したら一緒に開拓地に戻ろうと考えていたけど、せっかく出来た友達とも別れたくない。
 絶対にエレンが成功するように頑張ろうと私は心に誓った。


エレン「おい、アルミン! 何やってんだよ、早く来いよ」

 二段ベッドの上からエレンに呼ばれる。

アルミン「うん、今行くよ。それじゃ二人とも、ありがとね」

 二人に手を振ると、二人とも手を振り返してくれる。
 梯子を昇ろうと手をかけると、二人が中断された話を再開したようだった。



ジャン「……やっぱ最高だろ」

コニー「……だな」


 梯子を昇り、顔を出すと三人が出迎えてくれた。

アルミン「こんばんは、お邪魔するね」

 金髪の体躯の良い少年は、腕を組みあぐらをかいて、黒髪の長身の少年は膝を抱えて、それぞれ私を凝視していた。

アルミン「あ、あの、話すのは初めてになるね。私はアルミン・アルレルトって言うんだけど……」

 二人のどこか威圧的である視線に、私は少したじろいでしまう。
 金髪の少年がエレンの方へ、その鋭い眼光を向ける。

ライナー「……おい、これはどういうことだ?」

エレン「ん? 何がだよ」

 エレンも何を言われているのかわからない様子だった。
 すると、突然声を荒げる金髪の少年に、私は驚かせられる。



ライナー「この可愛い子はなんだと言っている! なんでこんなむさ苦しい所にいるんだ!!」

エレン「え? あ、ああ。こいつは俺の幼馴染で、俺が無理言って付いて来て貰ったんだけどよ」

 エレンの説明を受けて、金髪の少年は安心したような顔で言った。

ライナー「……そうか、驚いたぜ。俺はてっきり天使様が地上に迷い込んじまったのかと……」

ベルトルト「何を言っているんだ……ライナー。思ってても口に出さない方が良い事もあるんだ」

ライナー「そ、そうか。すまない……。あまりの可愛さに我を忘れてしまっていた」

 そう言うと私に向かって頭を下げた。
 どこか教官と同じ雰囲気を感じた。

ライナー「俺はライナー・ブラウン。よろしくな」

ベルトルト「僕はベルトルト・フーバー。よろしくね、アルミン」

 二人は握手を求めるように手を差し出す。


 よろしくね、とライナーと握手をする。
 ベルトルトとも握手をしようとするも、ライナーが手を離してくれなかった。
 困ってしまい、顔を窺うようにたずねる。

アルミン「あ、あの。ライナー?」

ライナー「ああ、アルミンの手は小さくて可愛いな……。俺が守る、守りたいその笑顔」

 笑顔じゃなくて困り顔をしているはずだけど。
 ライナーがいつまでも離してくれないので、どうしようか考えていると、ベルトルトが助けてくれた。

ベルトルト「ライナー! やめるんだ! アルミンが困っているじゃないか!」

 僕と握手が出来ないじゃないか! とベルトルトはライナーを揺すっていた。
 ライナーは気が付いたようで、すまない、と一言言うと手を離してくれた。
 改めまして、とベルトルトに手を差し出す。
 よろしく、とベルトルトは手を握るも、またもや離してくれなかった。

ベルトルト「君の為なら僕は全てを投げ打つ事ができるかもしれない……。いや、一緒に僕の故郷に帰ろう!」

 何を言っているのかわからなかった。
 どうしよう、この人も教官と同じ臭いがする。


エレン「おい、そろそろやめろよ。アルミンが困っちゃってるじゃねえか」

 エレンに言われ、二人ははっとした顔をする。
 ベルトルトも私の手を離して、ごめんと謝ってくれた。

エレン「そろそろコツの方を教えてくれよ」

ベルトルト「ああ、そうだね。だけどちょっと待って」

 エレンを手で静止するとベルトルトは奥の棚から枕を取りだした。
 ライナーが驚いた顔で言う。

ライナー「ベルトルト! やるんだな!? 今……! ここで……!!」

ベルトルト「ああ! 勝負は今!! ここで決める!」

 二人の物凄い気迫に少しびっくりしている私に、ベルトルトは枕を差し出しこう言った。


ベルトルト「これ、クッション代わりに使ったらどうだい?」

 たったそれだけの為にあそこまで気合を入れるとは、この二人は面白い人だ。
 でも頭を乗せる物をクッションにはできないから私は断ることにした。

ライナー「いや、使ってくれ。せっかく遊びに来てくれたんだから、もてなしの一つくらいさせてくれ」

ベルトルト「僕達の為だと思って、使って欲しいな」

 二人の説得に応じて、私は枕を受け取り、下に敷いた。
 もてなしが出来てよほど嬉しいのか二人は拳をこつんと合わせていた。

ライナー「あー、それでコツだっけ? ベルトの調整からしてみたらどうだ?」

ベルトルト「そうだね、何か見落としているかもしれないし」

エレン「おお、そうだな。ありがとな、二人とも。なんか他に方法ねえか?」

 エレンが更に質問をすると、外から就寝の鐘が響いた。


アルミン「あ、いけない。帰らないと。これ、ありがとね」

 私は枕をベルトルトに返し、三人におやすみを言い梯子を降りた。
 上から騒ぐ声が聞こえた。

ライナー「おい! ベルトルト!」

ベルトルト「これは渡さない!!」

エレン「なにやってんだよ……」

 部屋の真ん中の机ではジャンとコニーがまだ何か話をしていた。
 二人は上の騒ぎに顔をしかめるも、私を見ると顔を綻ばせた。

ジャン「お、アルミン。帰るのか」

アルミン「うん、もう鐘がなっちゃったからね」

コニー「そっか、また来いよ」

アルミン「うん、二人ともおやすみ」

 二人に手を振り、扉を開ける頃には上の騒ぎは更に増していた。
 教官が来なきゃ良いけど。


 廊下に出ると室内から大声が響いていた。

ベルトルト「ああああ!! くんかくんか!! いい匂いだなあ!!」

ライナー「ベルトルトオオオオオオ!!!!」

ベルトルト「すーはーすーはー!! ああ!! きゅんきゅんきゅい!!」

ライナー「オオオオオオオオオオオォォ!!!!」

エレン「なにやってんだよ!! お前ら!!」

ジャン「おい!! うっせえぞ!!」

 男の子は元気で面白いね。
 エレンに良い友達がたくさん出来たみたいで少し安心する。
 せっかく友達ができたんだから、明日の試験も合格すると良いね。
 エレンの合格を願い、女子寮に向かって廊下を歩き出す。
 室内からは何かが激しく動き回るドタバタといった音と怒号が響いていた。


 男子寮の扉をくぐると、キース教官と出くわす。

キース「おい、貴様。就寝時間の鐘は聞こえなかったのか?」

アルミン「はっ! 急いで戻ります!」

キース「待て」

 教官に呼び止められる。
 まずい所で出会った。
 もしかしたら教官室へ連れて行かれるかもしれない。

キース「アルレルト、貴様は自分の意思でここへ来たのか?」

 質問の意図が読めなかった。

アルミン「は、はい。人類の役に立つために――」

キース「いや、そうではない。ここと言うのはつまり『ここ』だ」

 教官は建物を指差して言った。
 ここというのは男子寮の事のようだった。

アルミン「はい、そうですけど……」

キース「そうか……。誰かに無理強いされたとかでは無いのだな?」

 エレンにお願いはされたけど無理強いはされてない。
 そんな事は無いと伝えると、教官は少し顔を緩めた。

キース「貴様は可愛いからな。どこの誰が狙っているかわかったものではない。」

キース「もし貴様に手を出す不届き者がいたら、私が殺してやろう」

アルミン「あ、ありがとうございます」

 まだ愛人にしようとしているのか、絶対にならないのに。

 教官は満足気に頷き、もう行きなさいと言い男子寮へと入っていく。
 やっぱり騒ぎが聞かれちゃってたみたいだ。


 女子寮に帰ると、ミカサが部屋の入り口で立っていた。
 何をしているんだろう。
 ミカサは私に気付くと駆け寄って、いきなり抱きしめてきた。

ミカサ「アルミン! 良かった!」

 ぐいぐいとミカサに抱き寄せられる。
 何事かミカサにたずねてみる。

ミカサ「心配した、あのハゲに連れて行かれたかと思って、教官室まで行った」 

 どうやら食事の時に、気付いたら私とエレンがいなかったので、色々と探し回っていたらしい。
 ハゲの教官とは、間違いなくキース教官の事だろう。
 私がミカサの立場でも、まず疑うのはあの人だ。
 就寝時間になっていた為、私達は廊下から部屋内に場所を移した。


ミカサ「アルミン、もう一人で出歩いてはいけない。一体どこにいたの?」

 部屋に入り、寝巻きに着替え終えた私にミカサは話しかけてきた。
 心配かけたことを謝り、エレンと一緒に男子寮にいた事を話す。
 男友達がたくさん出来ていた事、面白い人達だと言う事、元気を取り戻したと言う事。
 ミカサは安心したような顔つきになっていた。

ミカサ「良かった。明日成功したら、皆にも感謝を伝えよう」

 そうだね、と答える。
 どうか明日、エレンが上手くいきますように。
 ミカサはベッドに横になり、点いているのは私達のだけとなったランタンに手をかける。

ミカサ「今日はもう寝よう。全ては明日わかる。おやすみ、アルミン」

アルミン「そうだね、今はエレンを信じよう。おやすみなさい」

 ミカサがランタンの火を消す。
 窓からは月の光が煌々と輝いて見えた。


今日は以上です。
おやすみなさい。

少し投下していきます。

 運命の日が来た。
 試験場には人がまばらで、訓練兵全体の十分の一程度の人数しかいなかった。
 今日は午前に再試験、午後から各訓練の説明を行う予定だった。
 その為、昨日の試験に合格した者は、午後からの説明のみとなる。
 今この場にいる者は、再試験者の友人等だけだった。

 私もミカサと一緒に、エレンを見守る為にやってきた。
 
ライナー「おう、来たか」

ベルトルト「おはよう、アルミン」

 見物人が集まっている中に二人は居た。
 この二人は、他の訓練兵よりも頭一個抜けているから良く目立っていた。

アルミン「おはよう、二人ともエレンのために来てくれたの?」

ライナー「まあな、昨日相談を受けた身としては少し気になっちまってな」

アルミン「ありがとう、エレンも喜ぶよ」 

ミカサ「アルミン、その二人は?」

 後ろからミカサが尋ねてくる。
 ミカサがこの二人と話すのは初めてだった。

アルミン「この二人はライナーとベルトルト。昨日話した二人だよ」

ミカサ「ああ、エレンの友達になってくれた人」

 ミカサは二人に向かって、ありがとう、と頭を下げる。
 エレンと友達になってくれてありがとう、って事なんだろうけど。
 ありがとうと言われた二人の頭上には、疑問符が浮かんでいるようだった。

ミカサ「私はミカサ・アッカーマン。エレンの家族」

ライナー「俺はライナー・ブラウン。こっちはベルトルト・フーバー」

ベルトルト「ベルトルトです、よろしく」

 ミカサはこくんと頷くと、そのままエレンの方を向いた。
 私もエレンを見る、他の再試験者同様、不安でいっぱいの顔をしていた。

ミカサ「大丈夫、きっと上手くいく」

 そうであって欲しいと心の底から願った。

 私達が見守る中、試験は開始された。
 脱落者が立て続けに出てしまい、最悪な空気の中、エレンの順番が来た。
 ゆっくりと吊り上げられていき、つま先が地面から離れる。
 エレンはなんとか体勢を維持していた。

 これで合格できる。
 きっとエレンもそう思ったんだろう。
 エレンが笑顔をこちらに向けたその時だった。

 またもやエレンは綺麗な半円を描き、上下逆さまな状態でぶら下がっていた。
 教官に容赦なく下ろされ、脱落者宣言を受けているであろうエレンは、悲愴な顔つきで座り込んでいた。
 後ろでクランクを巻く係りをしていた少年が、エレンに何かを差し出す。
 どうやら腰ベルトの交換をしているようだった。

 そして、エレンは再度吊り上げられた。
 今度は微動だにせず、誰が見ても安定していた。

 エレンが両拳を上げる動きで、私達はエレンが合格したのだと確信を得られた。


アルミン「やった、合格だよ!」

ライナー「ああ、なんとかなったようだな……」

 ふう、と溜め息を洩らしライナーは言った。

アルミン「うん、一度はもうだめかと思ったよ」

ベルトルト「良かったね、アルミン。僕達も嬉しいよ」

 言いながらベルトルトは、私の方へ手の平を向け、ニコリと笑う。
 意図を理解して、ベルトルトの手の平を軽く叩くと、小気味良い音が響いた。
 
ライナー「ベルトルト……お前……羨ましい……」

 私は何かをブツブツと呟くライナーの方へ手の平を向ける。

アルミン「ほら、ライナーも」

ライナー「お、おお!」

 ライナーは嬉しそうに顔を輝かせると、私の手の平をポンと叩いた。



 ふとエレンの方を見ると、こちらに視線を送りながら拳を高く上げていた。
 視線に気付いた私は大きく手を振り、目を交し合い、おめでとうと以心伝心で伝えた。

アルミン「目でどうだって言ってるね」

 横ではミカサが、目を離している時間が惜しいと言わんばかりに、エレンの事を見つめていた。
 ミカサはその視線をエレンから離さずに、彼女らしい理論で語った。

ミカサ「いや違う、これで私と離れずに済んだと思って、安心している」

 愛しい者を見る眼でエレンの事を見続けるミカサは、どこか恍惚の色を顔に浮かべていた。
 そんなミカサに呆気に取られてしまい、何も言えないでいると、同じく呆気に取られた顔でライナーが聞いてきた。

ライナー「お、おい。ミカサは何を言っているんだ?」

ベルトルト「どう見ても安心したって顔じゃないのにね」

アルミン「ごめんね、ミカサはエレンの事になると昔からあんな感じで……」


 確かに昔から過保護ではあったけど、あそこまで依存的では無かった。
 ミカサが変わったのはシガンシナ陥落以降だった。
 どこに行くにも何をするにも、エレンの後を付いて行くので一度理由を聞いた事がある。

ミカサ『自分のこの命はエレンが与えてくれたもの』

ミカサ『この命の全てをエレンの為に使う』

ミカサ『亡くなったエレンのお母さんとも約束した』

ミカサ『私がエレンを守る。最後の家族だから』

 ミカサはそう語ってくれた。
 だけど私はその話を聞いて黙っていられなかった。
 少しだけミカサと言い争いをしたのを思い出す。

アルミン『エレンはそんな事されても喜ばないよ』

ミカサ『じゃあ、エレンには内緒でやるから平気』

アルミン『そういう問題じゃないでしょ?』

ミカサ『いや、そういう問題、エレンが喜ばないのなら知らせなければ良い』

アルミン『じゃあミカサはどうなるの?』

ミカサ『私? 私はエレンのそばに居られれば幸せ』

アルミン『エレンの為に死ぬ事になっても?』

ミカサ『エレンを守れるなら本望』

アルミン『駄目だよ、ミカサの人生もちゃんと歩まないと』

ミカサ『これが私の望んだ人生、アルミンには関係ないでしょ?』

アルミン『関係あるよ! 何でそんなこと言うの!?』

ミカサ『ア、アルミン。ごめん』

アルミン『ミカサもエレンも皆幸せにならないとダメだよ……』

ミカサ『…………』

アルミン『エレンのお母さんだって、二人の幸せを望んだんだと思うよ』

ミカサ『……わかった、善処する』

 ミカサと言い争いになったのは後にも先にも、あの時だけだった。
 昔のやり取りを昨日の事のように思い出していると、エレンが向こうから走ってくるのが見えた。


 その表情は嬉しさを隠しきれていないようでニコニコと輝いていた。

エレン「おい、お前ら見てくれたか! やったぞ、俺は!」

アルミン「良かったね、エレン。一時はどうなる事かと思ったよ」

ライナー「ああ、まったくだ。冷や冷やさせやがって」

ベルトルト「何はともあれおめでとう」

 私達三人から賞賛の声を浴びせられ、エレンは照れたように笑っていた。

ミカサ「エレン、良く頑張った。これで私と――」

エレン「うるせえよ、こんな時まで上からか?」

 エレンの顔からは笑顔が消えうせ、ミカサを睨みつけていた。

 私達の誰もがエレンの言動を理解できていなかった。
 気まずい雰囲気が辺りを包み込んでいた。

 唐突過ぎて事情が飲み込めないといった表情で、ミカサはエレンに質問を投げかける。

ミカサ「エ、エレン? 何を言っているの――」

エレン「はあ? お前、昨日開拓地に行けって言ってたじゃねえか!」

ミカサ「そ、それは力が無いなら仕方ないと言う事で……」

 ミカサは石のようにうな垂れてしまい、顔を伏せたきり口も利けないほど打ちひしがれていた。
 そんなミカサの姿を見ると、制止出来ない怒りに駆られ、爆発したかのようにエレンに向かって叫んでいた。

アルミン「エレン!! 今すぐミカサに謝って!!」

 私の突然の怒りに、エレンは目をパチパチとさせながら驚いていた。

エレン「な、なんだよ急に……。俺が謝る必要がどこにあるん――」

アルミン「あるでしょ!? 今の言い方はエレンが圧倒的に悪いよ!」

アルミン「開拓地に行けって言われた? そんな子供じみた理由でミカサにうるさいって言ったの? ねえエレン、いつまで拗ねてるの? さっきのミカサは本当に嬉しそうだったんだよ。エレンが合格できて、一緒に訓練兵をやっていけるってすごく嬉しそうだった。何? 上から目線? エレンが一番わかっているんじゃないの? ミカサは自分の気持ちを出すのが苦手ってわかってるよね。言葉が少ないのは昔からじゃない。それを自分が上手くできてなかったからイライラをぶつけるみたいにして卑怯だと思わないの? 男らしくないよ、エレン。ミカサが何も言わないからってそうやって調子に乗るから。そもそもミカサが何も言わないのが悪いんじゃないの? もっと注意するべきだと思うよ。エレンの為を思っているんだったら注意するべきでしょ。なんで注意しないの? 自分はエレンの言いなりが楽だから? そうやって自分を殺して生きていかないって前に話したよね? 私との約束なんかどうでも良いの? エレンさえ居れば良いの? 私はこんなに二人と一緒に居たいと思っているのに、二人とも私の事なんかただのお荷物程度にしか考えてないんでしょ。もう良いよ、もう帰る」

 言いたい事を言って少しすっきりしたので、私は寮に向けて歩き出そうとした。


ミカサ「待って! アルミン!」

 前に進もうとしていた足は、ミカサに抱き寄せられる事で後ずさってしまう。
 後ろから抱き締められているからミカサの顔は見えなかったが、鼻をすする音で泣いているんだとわかった。

ミカサ「ごめんなさい、アルミン……! もうしないから許して……!」

エレン「俺も、悪かった……! アルミン、行かないでくれ……」

 気付いたら私の前に、エレンが跪いて涙をポロポロと零していた。
 私の手を握り、涙で濡れた顔を上げ私の目を見てくる。

エレン「俺……アルミンに嫌われたら……どうしたら良いのかわからなくて……ごめん、ごめんな……」

 エレンは要領の得ない断片的な言葉を吐き出す。
 本当はもう怒りも薄れちゃっているから許してあげても良かったんだけど、二人が反省する良い機会だから放っておく事にする。
 エレンは私の手を握り、ミカサは私に抱きついたまま、涙を流し続けていた。

 そろそろ反省したかなと思った所で、様子を見ていたライナーが口を開く。

ライナー「なあアルミン、もう許してやってくれ。こいつらも悪気が合った訳じゃないだろ?」

アルミン「うん、そうだね。私も少し言いすぎたよ。ごめんね二人とも」

ミカサ「いい……、私の方こそごめんなさい……」

エレン「……ごめんな、アルミン」

 ライナーのおかげで簡単に二人と仲直りができた。
 そのライナーは二人の様子を見て、良かったなあ良かったなあと涙を流していた。
 強面だけど意外と涙もろいんだ、ベルトルトの事も気になったのでチラリと見ると、口に手を当て大粒の涙を流していた。
 この二人は情に弱いんだね、私達の内輪揉めに巻き込んでしまった形になり、少しだけ申し訳ない気持ちになる。

アルミン「それよりもエレン、謝る相手を間違えてない? 私じゃなくてミカサでしょ?」

エレン「あ、ああ、そうだな。ミカサ、悪かった。ごめんな」

ミカサ「良い、私ももう少し言い方に気をつける。ごめんなさい」

 お互いに謝り、二人の顔にも笑顔が戻った。
 良かった、これでまた三人で仲良くやっていける。

アルミン「良し、ちゃんと謝れた二人には頭を撫でてあげましょう」

 二人の頭をワシワシと撫でると、いつもは嫌がるくせに二人とも大人しく撫でられていた。
 涙が収まったライナーが赤い目をして鼻声で言った。

ライナー「ふう、これで一件落着だな。お前らあんまり喧嘩するなよ」
 
アルミン「二人とも頑固だから、仲裁する私の身にもなってほしいよ」

ミカサ「……一番頑固なのはアルミン」

エレン「ははっ。違いないな」

アルミン「もー、そんなことないよ」


 私達のいつもの掛け合いを見ていたライナーとベルトルトは二人で何か話していた。

ライナー「良いな……同郷ってのは……」

ベルトルト「ああ、アニだけ一人で大丈夫かな……」

ライナー「アルミンと友達になれればだいぶ救われるだろうがな」

 私の名前が聞こえたので、気になってしまい二人に尋ねてみる。

アルミン「何を話しているの?」

ライナー「あ、いや。まあそうだな。アルミンなら大丈夫か」

ライナー「なあ、アルミン。女子の中にアニ――」

キース「おい貴様ら!! こんな所で喋っていないで講義室に行け!! もう説明が始まる時間だぞ!!」

 遠くから教官に怒鳴られ、私達は全速力で講義室に走って行くのだった。


今日は以上です。
もっと早く書けるように頑張ります。

おやすみなさい。

少しだけ投下します。

 説明が行われた翌日から、訓練が開始された。
 最初の訓練は兵站行進と筋肉鍛錬から始まった。
この訓練について来れない者は、容赦なく開拓地へと移されていった。

 想像以上の辛さに、世間的な体裁を気にして入団してきた者の姿はほとんど見えなくなった。
 これが『篩い』なんだろう。網の目からこぼれ落ちて行くのは負け組みの脱落者と呼ばれていた。
 私だっていつ落ちるかわからない、必死に網から落ちないように頼りない細い糸を掴む毎日だった。

 数週間が経った頃の話だ。
 私は週に一度の休日を利用して、街の本屋さんに行くのが楽しみだった。
 一人で街の本屋さんをいくつも回っては、気になる本を立ち読みし、気に入ったら買うというのを一日かけて行うため、帰る頃には結構な大荷物だった。

 寮に帰り取り合えずベッド脇の棚に戦利品を重ねる。
 その中の一つに気になる事が書いてあったのを思い出した。本の題名は『神の手』だった気がする。
 なんでも手のみで人を別次元へと昇華できるとか。
 今日はもう遅いので、明日訓練が終わったら誰かに試してみよう。


 今日も厳しい訓練が終わった。
 泥のように重い身体を、なんとか引きずって食堂までやってきた。
 疲れ果てた身体に、いつもの食事は味気なく、皆同様に食が進んでいなかった。
 ただ一人を除いては。

サシャ「アルミン、もう食べないんですか?」

 私の横には、自分の分はもう食べ終わり、こちらの様子を窺うサシャが座っていた。
 相変わらず食べるのが早い。誰も取ったりしないのに、いつも必死に食べていた。
 過去に食関係で嫌な事でもあったのかな、そんな事を考えているとサシャがもう一度同じ言葉を繰り返す。

アルミン「うん……今日も食べれそうにないかも。悪いけど半分食べてくれる?」

サシャ「お安い御用です! でもダメですよー? しっかり食べないと身体に栄養が行きませんからねー」

 半分にちぎったパンを渡すと、サシャは幸せそうに嚙り付く。
 確かにサシャの言う通りなんだけど、一度無理して詰め込んだらその日の夜中に戻してしまい、もう無理はしないと心に誓っていたのだ。
 そうだ、サシャならあの本に書いてあった事を試させてくれるかもしれない。
 私は美味しそうにパンを食べるサシャにお願いをしてみる。

アルミン「あのさ、サシャ。話は変わるんだけどね」

 サシャはパンを噛りながら、首を傾げて返事をする。

アルミン「新しい本に書いてあった事を試してみたいんだけど、ダメかな?」

 渡したパンを全て食べきったようで、水をゴクゴク飲み干してサシャは言う。

サシャ「アルミンの頼みなら何でも聞きますよ! いつもパンを分けてくれますし」

 あ、でも、とサシャは思い出したかのように言う。

サシャ「痛いのとかはやめてくださいね」
 


 食堂での食事を終え、私とサシャは大浴場へと向かっていた。

 この訓令兵団で唯一良かったと思える点が、この大浴場だ。
 一度に五十人は入れる広さの浴場が二つ用意されていて、週変わりで男湯と女湯が交換されていた。

 今日入れるお風呂は、岩造りの露天風呂と木造りの内湯が一つの浴場に用意されている方で、女子には人気が高かった。
 もう一つのお風呂は、石造りの露天風呂のみで、三十人程が利用できる打たせ湯があり、跳ねるお湯のせいでいつも湯気で満たされていた。
 エレン曰く打たせ湯は取り合いになる事もあるらしいけど、女子にはそれほど人気じゃなかった。

 ちなみにユミルはこっちの方がが気に入っているらしく、露天風呂には入らず一時間ほど打たせ湯で打たれていたなんて事もあった。

ユミル「あ”あ”-。生きてるって素晴らしい事だと思わんかね」

 だらしない表情で語るユミルが印象的だった。


 なんで訓令兵団にこのような設備があるかと言うと、面白い理由があった。

 昔の訓練兵が井戸への水汲みが面倒なため、独自に開発した機器で――確か『ダウジング』と言っていた――掘り当てたらしい。
 その事を上に報告した所、ダリス・ザックレー総統直々に、大掛かりな浴場建設指令が発令されたらしい。
 噂では月一で足を運んでは、打たせ湯を堪能しているのだとか。

 ちなみに掘り当てた訓練兵に敬意を表して、打たせ湯の方を『ハンジの湯』、二つのお風呂がある方を『ゾエの湯』と呼ぶ。

サシャ「はあ、生き返りますねー」

アルミン「そうだねー」

 私とサシャは誰かが花びらを浮かせた内湯に浸かり、遠く前方に広がる満天の星空を眺めていた。
 花びらを浮かせる事とかは男湯の時には無いんだろうな。
 お湯で温められた花びらが発する甘い香りに、私の心身はより一層癒されていった。

サシャ「今日はお星様が良く見えますねー。そうだ、私露天の方へ行きますけど、アルミンはどうしますか?」

アルミン「私はここで良いよ、ごめんね」

 サシャは、では、と軽く手を上げ露天の方へ歩いて行った。
 そんな彼女に手を振りながら私は考えていた。
 一度露天風呂に入りながら、何気なく辺りを見回すと、教官棟の二階の窓の明りが見えた事がある。
 暫く凝視していると、窓の前を人が行き来しているかのように明りがちらついていた。
 私は嫌な想像をしてしまい、お風呂に浸かっていても寒気が収まらなかった。
 それ以降、こっちのお風呂では内湯にしか入っていない。


 そろそろのぼせそうになってきたので、縁に腰掛け足だけをお湯に浸けてサシャの帰りを待った。
 結構待っていたけどサシャは戻ってこないので、私は露天風呂に向かって声を上げた。

アルミン「サシャ-? 先に上がっちゃうよー。あとで部屋に来てねー」

 露天風呂の奥から、わかりましたー、とサシャの声がしたのでお風呂から上がろうと立ち上がる。

ユミル「なんだ、アルミン? 芋女に何か用事なのか?」

 ちょうどお風呂に入ってきたユミルとクリスタに出会った。
 五月になったとは言え、夜はまだ冷え込むため、私はまたお湯に浸かり説明する事にした。
 二人が軽く身体を流して肩まで浸かる。

ユミル「あ”あ”あ”ー。私はこの為に生きていると言っても過言では無いな」

クリスタ「ユミルったらおじさん臭いよ」

 くすくすと笑うクリスタに釣られて私も笑ってしまう。
 ユミルの気持ちはわかるけど、その声は出ないよね。

ユミル「おじさんでも何でも良いさ。私は今幸せなんだ。で、芋女がどうしたって?」

 ユミルに促されて、新しい本に書いてあった事をサシャに試すと伝えた。

ユミル「別の次元に昇華って、なんだそりゃ? お前神様にでもなったのか?」

アルミン「多分、比喩表現なんだと思うよ。言葉の意味的に気持ち良いって事だと思うんだけど」

クリスタ「気持ち良い事をサシャと二人でするの? なんだろう?」

ユミル「おいおい……そりゃお前……」

クリスタ「アルミン、私も行っても良い? 少し興味あるかも」

ユミル「何!? クリスタが行くなら私も行く。良いだろ、アルミン?」

アルミン「うん、人がいっぱい居た方がお互いにできるもんね。歓迎するよ」


 そろそろ上がろうとすると向こうからサシャが歩いて来るのが見えた。

サシャ「おや? アルミン上がったんじゃないんですか?」

アルミン「うん、二人と話してたんだ。もう上がるよ」

サシャ「そうですか、じゃあ一緒に行きましょうか」

クリスタ「あ、私達も行くよ、ユミル上がろ」

ユミル「もっと浸かってたかったけどなあ、仕方ねえ」

 まだ大丈夫だよ、と二人が立ち上がろうとするのを制止する。
 本に身体を充分に温めると効果が上がると書いてあった事を説明する。
 二人は再度、湯に身体を沈める。
 ユミルがクリスタの肩に手を乗せながら言った。

ユミル「ほーら、クリスタちゃん? 肩まで浸かって百数えましょうねー」

クリスタ「なによそれ!」

 じゃれあっている二人に別れを告げ、脱衣所へと向かった。


今日は以上です。
おやすみなさい。

投下していきます。

 脱衣所で着替えているとミカサが入ってきた。
 私のベッドとミカサのベッドは繋がっているため、少しの間借りても良いか聞いてみる。

ミカサ「良いけど、何をするの? 私はお風呂から上がり次第寝たいのだけど」

アルミン「あ、少しの間だけだよ。サシャとちょっとやりたい事があるの」

ミカサ「ヤリたい事!? そ、そう。わかった。今日は少し長湯をしてしまうかも、いや、するだろう」

 だからごゆっくり、とミカサはそそくさと行ってしまった。

サシャ「ミカサはどうしたんでしょうね?」

アルミン「うーん、たまに私でもわからない時があるんだよね」

サシャ「まあ、人の全てをわかるなんて無理ですもんね」

 そうだね、とサシャに返事をする。
 サシャはどこか寂しそうな顔をしていた。


 サシャと他愛ない話をしながら部屋に戻ると、アニがもう寝ていた。
 彼女は寝る事が好きなようで、毎日誰よりも早く寝始める。だけど起きるのは誰よりも遅かったりする。
 アニの睡眠の妨害をしないように、遅くまで本を読む時は気を使っていた。

 八人部屋なのに、私とアニとミカサしかこの部屋にはいなかった。
 ここにいない五人の内、二人が脱落し残りの三人は仲の良い子の部屋へ移ってしまったからだ。

 あまりうるさくしてアニを起こすとまずいので、毛布をカーテン代わりに囲ってしまう。
 カーテンの中は暗いので、ランタンを一つ二段ベッドの天板へ取り付ける。

サシャ「おお……、なんだか雰囲気出てますね」

 自分で言うのもなんだけど、私はこういうのを作らせたら上手いと思う。

アルミン「さ、サシャ。中に入って」

 サシャは、失礼します、と私のベッドの上にあぐらをかいて座る。
 私はわからなくなったらすぐに読めるようにと、壁に作られた棚に本を開いて置いた。
 この棚も元々無かったけど、あまりにも本が増え過ぎた為、急遽作ったものだ。
 中々良くできてると思う。


アルミン「じゃあ始めるね、ただのマッサージみたいなものだから安心してね」

サシャ「へえ、マッサージですか。楽しみですね!」

アルミン「あ、そうだ。これを使うから、上は全部脱いでもらっても良い?」

 私は棚に置いてあった小瓶を手に取り、サシャに見せる。

サシャ「これは、油ですか?」

アルミン「うん、オリーブのだよ」

サシャ「なんだかもったいないですね。このままパンにつけても美味しそうなのに」

 サシャは小瓶の蓋を開け、中身の匂いをクンクンと嗅いでいた。
 そのまま中身を飲もうとするサシャから、小瓶を奪い返すのは一苦労だった。


アルミン「それじゃ始めるよ、上着脱いでうつ伏せになって」

サシャ「ちぇー、ちょっとの味見のつもりだったんですけどねー」

 サシャは文句を言いながらも、寝巻き用のシャツを脱ぐ。

サシャ「なんだかちょっと恥ずかしいですね……。さっきまで一緒にお風呂入ってたんですけど」

 脱いだシャツを畳みながら顔をほんのりと赤くして照れていた。
 サシャが私のベッドの上で半裸になっている事は日常生活の上で有り得ないことだった。 
 薄暗く密室に近い空間が、非日常感を増幅させていった。

 ランタンの明りの下に晒された、サシャの形の良い乳房を私は凝視してしいた。
 私のは手の平に納まるが、サシャのは両手でも収まらない位の大きさだった。
 私の手が小さいってのもあるけど、そしたらその手に収まってしまう私のモノはなんなんだろう。
 無だ。無に等しい。

サシャ「あんまり見られると恥ずかしいですよ……」

 私の自虐的思考は、サシャの恥らう姿で離散していった。



アルミン「でもサシャの胸は私のと違って大きいね。肩も凝るでしょ?」

サシャ「うーん、まあ凝るといえば凝るんですかね? あまり気にした事ありませんでした」

 サシャは自分の乳房を下から持ち上げるように揺らしていた。
 ダメだ、悔しくて泣きそう。

 私はまだ成長期来てないだけだし、と誰にでもなく心の中でいい訳をする。

アルミン「そっか、それじゃそろそろ始めるね」

 お願いします、と言いながらサシャはうつ伏せになった。


 たくさん食べている割に、意外と華奢な背中に驚く。
 必要な肉は必要な箇所へついているのだろう。
 先ほどの揺れる二つの肉を思い出し、私との違いは何なのか考えてしまう。

サシャ「あの、アルミン? 始めないんですか?」

アルミン「ああ、ごめん。じゃあ始めるね」

 余計な事を考えてはダメだ。
 今は目の前の事に集中しよう。


 瓶を傾け、中の液体を背中へと垂らす。
 サシャの身体がビクンとはねた。

サシャ「わっ! ちょ、ちょっと冷たいです」

アルミン「あ、ごめん! ちゃんと手で暖めてからにすれば良かったね」

 手の平にオイルを垂らし、擦るように馴染ませてからサシャの背中にそっと手を置く。

アルミン「まずは背中全体から始めるね」

サシャ「アルミンの手、暖かくてこれだけでも気持ち良いですよ」

 ありがとうと言う代わりに、背中を優しく撫で上げた。


 背中全体にオイルを満遍なく馴染ませる。

サシャ「あー、良いですねー」

サシャ「極楽ですよ」

サシャ「眠くなってきちゃいます」

 撫で上げる毎にサシャは反応してくれる。
 オイルを足しては塗る動作を大分繰り返すと、サシャからの反応が無くなっていった。
 充分にオイルが馴染んだので、本格的にマッサージを開始する事にした。

アルミン「ちょっと失礼するね」

 力が入りやすい体勢になるべく、サシャのお尻に跨り、背骨に沿って親指を滑らしていく。
 少し強めに圧迫したせいで、サシャが目覚めたようだった。

サシャ「ふぁあ、すみません。ちょっと寝てました」

アルミン「ううん、良いよ。リラックスできてるって事だもん。それより重かったら言ってね?」

サシャ「はい? んん? このお尻に当たるフワフワしたものはもしかしてアルミンですか?」

サシャ「アルミンは軽いですねー、ちゃんと食事を取らないからですよー?」

アルミン「でも私が全部食べちゃったらサシャの取り分が無くなっちゃうよ?」

サシャ「アルミンが全部食べれた方が良いに決まってるじゃないですか」

 またもや意外な面を見せられた。
 きっとサシャは仲間よりも食事を選ぶだろうと思っていた。
 罪悪感を消すかのように、背中に沿わせた指に力を込めた。


サシャ「んっ、これは効きますねー、んんっ」

 背骨周りの筋肉を丹念に揉み解すと、サシャは気持ち良さそうに声を上げた。
 そろそろ次の段階に移ろう。
 
 背骨を沿わせた指を、肩甲骨に沿わせて内から外へ滑らせる。
 少し肩甲骨の下に親指を潜り込ませるようにやると効果的らしい。

サシャ「あっ、こっ、これは、んっ、やばいかも、んんっ! しれません、ふっ」

 こうかはばつぐんだ。



アルミン「サシャは肩甲骨も綺麗な形してるね。スタイルも良いし、憧れちゃうな」

 肩甲骨に沿って丹念に指を滑らせながら私は言う。
 どうやらサシャはここが弱点のようで、身体を仰け反らして逃げようとしていた。
 たまに背骨の方へ指を滑らすと、ビクンと身体がはねていた。

アルミン「くすぐったい? 痛かったりしたら言ってね?」

サシャ「あっ、んん、気持ち、んっ、良いんですけど。んんっ、ぞわぞわ、ふあっ、しますね、んっ!」

 指の動きに合わせて、喘ぎながらサシャは答えた。

アルミン「うふふ、サシャったら可愛い声出てるよ」

サシャ「だってぇ……アルミンが上手いんですもん」

 どこか甘ったるいその声に少しドキリとしてしまった。


 最後に背中全体を円を描くように、内から外へ手の平で擦り上げる。
 腰周りをマッサージするとオイルが撥ねそうだったので、シャツを脱いでおく。

アルミン「それじゃ腰の方へ行くね」

 手の平に充分垂らしたオイルを腰に塗りこむ。
 両手の平で、くびれを作るように肉を持ち上げる。

サシャ「んっふふふ、そこはくすぐったいですね」

 サシャが身をよじらせて逃げてしまったので仕方なく断念する。

アルミン「良し、これで背中の方は終わりだよ。仰向けになってくれる?」

サシャ「はーい、いやあ極楽でしたよ。ってなんでアルミンまで裸になってるんです?」

 起き上がり私の姿を見たサシャが目を丸くして驚いていた。


アルミン「だって服に染みができちゃうと嫌だもん」

 サシャは上気した顔で、そうですよね、と言いゴロンと横になった。

サシャ「はー。もう力が入りませんよ。アルミンはテクニシャンさんですね」

 ニコニコしながら言うサシャが可愛く思えた。

アルミン「もー、それで褒めてるつもりなの? っとまた失礼するね」

 下腹部の上へ跨ると、サシャは腕で顔を覆い、横を向いてしまった。

アルミン「あれ? 重かった? 膝立ちしてるからそんなでも無いはずなんだけど」

サシャ「い、いえ。重くはないんですけど……」

 サシャは顔を覆ったまま答えた。
 腕を少しずらし、チラリとこちらを見ると、またもや横を向いてしまった。


アルミン「なに? もう疲れちゃった? どうしたの?」

 サシャに質問を投げかけるけど、うーと唸るだけで答えてくれなかった。

アルミン「サシャ?」

サシャ「あー、すみません。ちょっと変だと思われるかもしれませんけど……」

サシャ「汗に濡れたアルミンを下から見上げてたら少し変な気分になってしまいまして……」

サシャ「ちょっと恥ずかしかっただけです……」

 半裸の状態で、半裸の友人が跨るなんて非日常な事に少しドキドキしてしまったんだろう。
 私もずっとドキドキしていた。
 こんなに人の身体を触った事は今までに無い。
 その事をサシャに伝える。

アルミン「大丈夫だよ、私もサシャの事触ってたらすっごいドキドキしてるもん。私たち一緒だね」


 サシャはフルフルと震えたかと思うと、いきなり飛び起き私の胸に抱きついてきた。

サシャ「う、うあああ!! アルミン! 好きや!!」

アルミン「あ、ありがと。私もサシャの事好きだよ?」

 サシャは急にどうしたんだろう。
 感情が昂ぶり過ぎてしまったのか。
 サシャは私の胸にぐりぐりと顔を押し付けながら続けた。

サシャ「なんでこんなに可愛いいんや!! こん小さい胸すら可愛い!!」

アルミン「小さいって言うな!!」

 サシャの事を引き剥がそうとするも、私の腰と背中にがっちり腕を回して、離してくれなかった。

サシャ「――――すみません、取り乱しました……」

 数分後、ようやくサシャは私を解放してくれた。
 サシャは仰向けに横になり、両手で顔を覆っていた。

アルミン「ふふ、サシャの必死な姿、可愛かったよ」

サシャ「言わないでください……」

 小さいと言われた仕返しに、少しだけいじめてみた。

アルミン「じゃ、そろそろ続きやるね?」

サシャ「はい……」

 だいぶ落ち込んでしまったサシャには構わず、私は中断されたマッサージを再開した。


 オイルを手に馴染ませる、この動きも手馴れたものだ。
 首筋から胸元へとオイルを塗りこんでいく。
 この辺りは肌が弱い部分のため優しく心がける。

アルミン「こうやって擦るだけでも気持ち良いでしょ?」

サシャ「そうですね、段々と暖かくなるのが良い感じです」

 サシャは目をつぶりリラックスした様子で答える。
 落ち込んでいたのは回復したみたい。

アルミン「それじゃ始めていくね。寝ちゃっても良いからね」

サシャ「それは悪いですよー。アルミンにばっかり――んんっ!」

 鎖骨をつまむように挟み込み、肩から首へと滑らしていくと、サシャが喘いだ。


アルミン「ここは胸を支える筋肉に近いのかな? サシャには効くみたいだね」

 外から内へ滑らせる動きを繰り返す。
 途中、三箇所ほど圧迫するように押すと、サシャは気持ち良さそうに顔をゆがめて声を漏らす。

 この動きをゆっくりと、時間をかけて行う。
 サシャは口を半開きにして、焦点の合わない虚ろな目で私の事を見ていた。

アルミン「ねえサシャ、すごく可愛い顔してるよ。気持ち良かった?」

サシャ「ふぇ? あ、アルミンはいじわるですね……」

サシャ「鎖骨は昔から弱いんですよ……、一生懸命耐えたのに……」

アルミン「あ、ごめん、無理させちゃったかな。次からは言ってね? ちゃんとすぐ止めるから」

 サシャは鎖骨を右手で摩りながら言う。

サシャ「いえ、とても気持ちよかったです……」


アルミン「ふふ、なら良かった。それじゃ次は首に行くね。首も弱い?」

サシャ「大丈夫だと思いますけど、アルミンに触られるとどこでも弱くなっちゃうかもしれませんね」

アルミン「んふふ、なにそれ。じゃあサシャは私に弱いってことね」

 言ってサシャの肩に手を置いてみる。

アルミン「あれ? 可愛い声出ないよ?」

サシャ「ふっふっふっ、いつまでも負けてられませんからね。耐えているのです」

 二人でくすくすと笑いあう。

アルミン「もう。始めちゃうからね?」

サシャ「はーい」


 サシャの首に手の平を当て、上下に優しくさする。
 サシャは声を抑えて、目をギュっと閉じて耐えているようだった。
 本来これはリラックスするためのものなんだから、我慢しなくても良いのに。

 首筋を滑らせ、耳裏を人差し指で優しく撫でるとサシャの腰が浮き上がる。

アルミン「ここはイヤ? 耐えなくて良いからイヤだったら言ってね」

 気遣って声を掻けるも、サシャは目を閉じたまま顔を横に振る。

サシャ「気持ち良いので……続けてください……」

アルミン「そう? なら遠慮なくいっちゃうからね」

 肩まで下がった手の平を、再度耳裏まで滑らせる。
 手を上へ下へと滑らせる毎に、サシャの腰も上下していた。
 サシャは必死に眼をつぶり、片腕を口に当て声を抑えている。
 もう片方の手はシーツを握り締めて、腰が上がる度に力が入っているようだった。


アルミン「これで終わりだよ。サシャ、顔が蕩けちゃってるね」

サシャ「こ、声は上げませんでしたので、私の勝ちで良いですかね……」

 いつの間にか勝負になっていたようだ。

アルミン「ええ、私負けちゃったの? じゃあ勝ったら何か貰えたりするのかな」

 私の質問にサシャはちょっと考えてから思い出したかのように言った。

サシャ「アルミンはやりたい放題出来てるんですから良いじゃないですか」

 確かにサシャの言う通りだ。
 私に付き合わせてしまいヘトヘトになっているサシャの姿を見ると軽く罪悪感を覚える。
 何かお返し出来ると良いんだけど。

アルミン「じゃあサシャは何か欲しいものはある? 耐えたご褒美に私にあげられる物なら何でもあげるよ」


 胸周辺のマッサージに取り掛かるため、手に広げていたオイルを指差しサシャは言う。

サシャ「じゃあ、それ舐めてみたいです。やっぱ味とか知っておきたいじゃないですか」

アルミン「ええ? もう、サシャはしょうがないなぁ。ちょっと待っててね」

 棚に置いた小瓶の方へ手を伸ばすも、サシャに掴まえられてしまう。

サシャ「んふふ、待てませーん」

 サシャはそのまま私の手を口元まで引っ張り、広げたオイルを舐め取る。

アルミン「さ、サシャ! ダメだよ、汚いってば」

サシャ「んっ、ほんなこと、ないれふよ」

 指の股の部分をサシャの赤い舌が動き回る。

アルミン「あ、そんなとこ舐めないでよぉ……」


 まるで蛇がチロチロと舌を出すような動きで、手の平全体を舐め回す。
 手の平が終わると指を一本ずつ咥えて、じゅるじゅると音をたてて吸い付いてくる。

アルミン「うぅ、変な音させないでぇ……」

 一通り私の手を蹂躙すると、満足したのかようやく解放してくれた。

サシャ「ふふふ、ご馳走様でした。ちょっと酸味が強い感じですね」

アルミン「もう、サシャの涎でべちょべちょになっちゃったよ」

サシャ「す、すみません。へへへ」

 横になったサシャに向かって、手をタオルで拭きながら言う。

アルミン「今は私がサシャにしてあげたいんだから、もうダメだよ?」

サシャ「ちぇー。美味しかったんですけどねー」

 名残惜しそうに、口から舌をチロっと出しながらサシャは言った。


アルミン「また今度ね、続きいくよ」

 手に馴染ませたオイルを胸の上部へと持っていく。
 喉から手の平二つ分下がったところから、円を描くように塗り広げていく。
 
 脇のお肉を胸に持っていくように、片方ずつ両手でしっかりと流していく。

アルミン「サシャは胸が大きいからね、念入りにやるよ」

 胸の下のお肉も胸に入れる感じで持ち上げていく。
 その際、サシャの乳房に軽く触れて気付いた事があった。

アルミン「サシャの胸ってフワフワしててとても柔らかいね」

サシャ「そうですか? 自分以外の胸って触った事ないからわかりませんね」

 そう言うと下から手を伸ばして、私の乳房(?)を『つまんだ』。

サシャ「アルミンのはプニプニって感じですねー、可愛らしいです」



 悔しいのと悲しいのと切ないのがない交ぜとなり、衝動的にサシャの乳房を鷲掴みにして揉みしだく。

サシャ「あっ、ちょ、ちょっとアルミン!? どうしちゃったんですか!?」

アルミン「これをするって本に書いてあった気がする。いや書いてあった。だから仕方ないの」

サシャ「そ、そうなんですか……。でももうちょっと優しくお願いしますね?」

 素直に信じてくれるサシャに申し訳ない気持ちになりながら、胸のマッサージを終わりにした。

アルミン「これで胸の方は終わり、これには胸を大きくする効果もあるみたいだけどサシャにはいらなかったかもね」

サシャ「そうですねー、これ以上大きいと邪魔になりそうですもんね」

 サシャの乳房を鷲掴みにして千切ってやろうとする衝動をなんとか抑えられた。


アルミン「ふう、サシャは悪くない。サシャは悪くない。」

 呪文のように呟いて心を落ち着かせる。
 そんな私の様子を見て不思議そうにサシャがたずねてくる。

サシャ「アルミン? どうかしましたか?」

アルミン「ううん、なんでもないよ。それじゃ次に移ろっか」

 さっきやった時は逃げられてしまった腰へと手を伸ばす。

サシャ「そ、そこはくすぐったいので止めませんか?」

 やはりサシャは嫌がる。
 無理にやる事もないので飛ばしてしまおう。

アルミン「そしたら上半身は終わりだね、次は下半身に移るよ」


サシャ「ええ? まだあるんですか?」

 サシャは驚いてキョトンとしていた。

アルミン「これからが本番みたいなものだよ?」

 開かれた本は、後半分以上ページを残している。

サシャ「これ以上はアルミンにも悪いですよ。疲れたでしょう?」

 私の事を気遣ってくれるサシャの優しさが嬉しかった。

アルミン「ううん、大丈夫だよ。それに足は酷使してるからちゃんとやらないと」

 毎日ブーツを履いているだけではなく、そのまま長距離を走らされたりもする。
 最初の頃は足の裏にマメが出来て、それが潰れるの繰り返しでとても痛かった。


アルミン「さ、早く下も脱いじゃって」

サシャ「は、はい」

 サシャはヨタヨタと身体を起こして寝巻きのハーフパンツを脱ぎながら言った。

サシャ「アルミン、本当に疲れませんか? また明日にした方が良いんじゃないですか?」

アルミン「うん、大丈夫だって。疲れよりも本に書いてある事が試せて嬉しい方が強いんだ」

 そう、昔から私はそうだ。本を読んではエレンとミカサに頼んで試させてもらっていた。
 二人は快諾してくれていたけど、結構ひどい状態になる事もしばしばあった。
 二人とも優しいから言わなかっただけできっと迷惑をかけていたんだろう。


アルミン「もしかして迷惑だったりする? 無理につき合わせてたりして」

サシャ「いえ、ぜんぜん! むしろ私ばかり気持ち良い思いして良いのかなーって感じです」

 脱いだハーフパンツを畳み終え、私に向かって正座をしながらサシャは言った。

サシャ「そうだ、私にもやり方を教えてくださいよ。アルミンにもやってあげたいです」

アルミン「ありがと、これを皆に覚えてもらえば訓練効率も上がるんじゃないかって思ってたんだ」

サシャ「そうですねー、疲れを残さないっていうのはとても大切ですもんね」

アルミン「それじゃ、まずはサシャの疲れを癒すとしましょうか。横になって?」

サシャ「わかりましたー」


 改めて下着だけになったサシャを見る。
 すらりと伸びた手足は無駄な肉が少なく、健康的に鍛え上げられている。
 腰にはくびれがしっかりとあり、その胸と相まって女性的な凹凸がしっかりと確認できる。

 続いて私の身体を確認する。
 どこまでも直線的で、申し訳程度に胸が膨らんでいる。
 肋骨が薄く浮き出ていて、手足も短く背も低い。サシャと比べると母と娘のようだ。

アルミン「私って女らしさ無いなぁ……」

 ついつい声に出てしまっていたのをサシャが耳ざとく聞きつけていた。

サシャ「何を言っているんですかアルミン! この訓令兵団で一二を争う美少女ともあろう者が何を言っているんですか!」

 サシャは熱く語った。

サシャ「良いですか? 今、男子の間では二大派閥が出来上がろうとしているんです」

サシャ「クリスタ派とアルミン派というのがありまして、それぞれものすごい支持を得ているんです」

サシャ「彼等は自分達の事を『クリスタ教の信者』と『アルレル党党員』と呼んでいまして――」

アルミン「あの、もう始めても良いかな? また横になってくれる?」

サシャ「あ、はい」

 その話はエレンとミカサから聞いていた。
 あまり聞きたい話でもないので、話の途中で割り込んでしまった。


今日は以上です。
おやすみなさい。

投下します。

 横になりながらサシャは続けた。

サシャ「まあ、それだけアルミンが可愛いって事です。女らしさなんて成長すればいくらでも出てきますよ」

アルミン「だと良いんだけどね。はい、この話はお終い。」

 サシャの足先へと移動して右足を膝から持ち上げ支える。

アルミン「これで見えるかな? 足の裏だと見えにくいから説明しづらいね。」

 軽く首を起こしながらサシャは頷く。

アルミン「まずは足の裏から行くよ、端部からやると足全体が温まるらしいんだ」

サシャ「へえ、確かに、んふ、温まって、んふふ、きたような、くふふふ」

 足裏を揉み、一本ずつ指の間を擦っていく。
 サシャはきっとくすぐったいのだろう、笑い声が漏れていた。

アルミン「足の裏が終わったら足首ね。この辺を優しく握る感じでやると良いよ」

 くるぶしの下らへんをギュッと握り、足首全体を揉んでいく。
 もう片方の足にも同じ様に施術する。
 やっぱり足の裏はくすぐったいらしくサシャは笑っていた。


アルミン「ふくらはぎから膝をやるよ。下から上に向かって溜まったモノを流す感じでね」

サシャ「溜まったモノ? なにか溜まるものなんですか?」

アルミン「うん、足のむくみの原因みたいなものらしいんだけどね」

サシャ「あー、それが消えてくれるとありがたいですねー」

 サシャのふくらはぎに手を滑らせながら答える。

アルミン「溜まったモノが流れれば、だいぶ細くなるみたいだよ」

サシャ「本当ですか? それは嬉しいですね。私の足大根みたいに太くなってきたからどうしようかと思ってましたよ」

 それはそれで美味しそうなんですけどね、と言うサシャは自分の足を食べる気だったのか。

アルミン「膝頭を鷲掴みにして、膝の部分だけ軽く擦るよ」

 サシャはなるほどといった表情で私の説明を聞いていた。

アルミン「次は太ももね、猫の手を作って外側を擦り上げるよ」

サシャ「あはは、アルニャンですね」

アルミン「え? 何言ってるの?」

サシャ「いえ……なんでもないです……」

 意味不明なことを口走るサシャは放っておき、足を念入りにマッサージする。


アルミン「明日になれば足がすごく軽く感じると思うよ」

サシャ「ありがたいですね、これで終わりですか? 次はアルミンの番ですよ」

アルミン「あ、ちょっと待って。まだ終わりじゃないんだ」

 起き上がろうとするサシャは私の言葉でまた横になる。

アルミン「この本によると太ももの内側を特に念入りにやった方が良いんだって」

サシャ「へえ、じゃあお願いします」

 たくさんのオイルを手に取り、親指が膝の裏側を触るようにして手の平を上へと滑らしていく。
 最後にお尻の肉に触れた親指を、下着のラインに沿わせて滑らせる。

サシャ「んっ、はぁ」

 サシャから声が上がる、気持ち良いって事かな。
 再度膝から上へと手を滑らせていく。
 膝頭から手の平一個分上がった所に少し膨らんだ所がある。
 本にはここと太ももの付け根付近を圧迫してあげると良いと書いてあった。

アルミン「痛かったら言ってね?」

 膝の部分だけ少し強めに圧迫しながら太ももの付け根へ向かって手を滑らせる。

サシャ「あっ、んん!」

 下着に触れるか触れないかの所を滑らす度にサシャは艶やかな声をあげていた。
 手を滑らせれば滑らせるほど、サシャの声量は増していった。

サシャ「あっ! ああ! んんんっ!」

 太ももの付け根付近にサシャの反応が違う所をみつけた。
 その反応が違う箇所を起点にして、指を滑らせお尻の肉まで到達したら下着のラインに沿って戻す。

サシャ「んっ! ふぁっ! んぅぅ!」

 自分の腕で口を覆い、声が漏れないようにしながらサシャは身悶えていた。

アルミン「どう、サシャ? 気持ち良い?」

サシャ「は、はい……なんだか、アルミンに触られてる所が、ジンワリと熱くって……」

 息も絶え絶えといった様子で、サシャは言った。


 薄暗いベッドの上には、二人の荒い息遣いと、時折上がるサシャの嬌声だけが響いていた。
 閉め切った空間内は、むわっとして蒸し暑い。
 狭い密室の中に、二人の汗の匂いとオリーブの香りが混ざり合う。
 更に、サシャから発せられる独特な香りがそれらに合わさると、頭がクラクラとするようだった。

サシャ「アルミン……気持ち良い……」

 サシャの潤んだ瞳と目が合うと、変な気持ちになりそうだった。
 太ももを撫で上げる毎に、私の下腹部は不思議な熱を帯びていった。



アルミン「……こ、これで足は終わりだよ」

 私の声が聞こえなかったのか、サシャはボーっとしていた。
 
アルミン「……サシャ?」

サシャ「あ……終わりですか……すみません、気付きませんでした……」

 心ここに在らずといった様子でサシャは力なく横たわったままだった。
 サシャに聞こえているかわからないけど、一応声をかける。

アルミン「次に移るよ? 大丈夫、サシャ?」

サシャ「ま、まだあるんですか……かなりハードですねこれ……」

 胸を上下に動かし、激しく呼吸するサシャに答える。

アルミン「うん、でも次で最後みたい、最後は下着を脱い――」

ユミル「わっ! バカ、押すな!」

クリスタ「きゃあ!」

 カーテンを引き剥がしながら、二人がベッドに倒れこんできた。



 外の明るさに目が眩みそうになる。
 新鮮な冷たい空気が、汗に濡れた肌に心地よい。

ユミル「お、お前ら……。まさか本当にヤってるとは……」

 ベッドに倒れこんだユミルが慌てて起き上がり、私達の様子を見て呟いた。
 クリスタはそのままベッドに座り込むと、赤くなった顔を手で覆い、指の隙間からこちらをちらちら見ていた。

アルミン「二人とも遅かったね、もうすぐサシャが終わるから次は二人にしようか」

クリスタ「わわわ、私はそういうのまだ早いかもっ」

サシャ「そんな事ないですよー、アルミンったらすっごく上手ですから、クリスタもすぐ気持ちよくなっちゃいますよ」

クリスタ「ええっ!? き、気持ちよく……」

ユミル「いいや、クリスタにはまだ早い。つうかサシャはもう別次元に行っちまったようだけど」

 満足気に横たわるサシャを横目で見てから、棚に置いてある本を指差し言った。

ユミル「それに書いてある事を試してんのか? なんて書いてあるんだよ」

 ちょっと見せてみろよ、と本を取りページをめくる。
 少し眉を寄せてからユミルが質問をしてきた。

ユミル「なあ、アルミン。お前この本全部見たか?」

アルミン「見てないよ。実際に試してから読みたかったんだ。それがどうかした?」

ユミル「そうか、じゃあこの開かれていたページまでしか読んでいないんだな?」

アルミン「うん、これからその続きをしようって所なんだけど」

ユミル「悪いがそれは却下だ。今日はここまでだ」

アルミン「ええ? なんでさ?」

 食い下がる私に、ユミルはそっと耳打ちしてきた。

ユミル「あとで一人で最後まで読んでみろ」


ユミル「と言う訳で今日は終わりだ。つうかサシャお前声でかいんだよ、外まで聞こえてたぞ」

サシャ「ええ!? お恥ずかしい所をお見せ……お聞かせしました……」

 意地悪そうににやりとユミルは笑っていた。

クリスタ「そういえばここってアルミンだけの部屋なの? 他に誰もいないけど」

アルミン「ううん、私とアニとミカサの三人部屋だよ」

 言って思い出す。

アルミン「あ、あまりうるさくしちゃうとアニが起きちゃうかも」

 ユミルが何かに気付いたような表情でニヤニヤとしている。

ユミル「ああ、それなら心配いらねえよ。さっき真赤な顔をしたアニとすれ違ったから」

クリスタ「うん、すごい勢いでミーナ達の部屋に入っていったね」

 私達がうるさくて途中で起きちゃったのか。
 それで怒りながら違う部屋に移ったのかな。悪い事しちゃったな。
 明日の朝、ちゃんと謝らないと。

ユミル「ほら、今日はもう終わりだ。お前ら汗だくの汁だくなんだからもう一回風呂行って来いよ」

サシャ「そうですね……って、ああ!! シーツがグチョグチョになってしまいました!!」

 いくらタオルを敷いていたとは言え、オイルと汗とが撥ねてしまいシーツに染みができていた。

アルミン「仕方ないよ、ちょうどお風呂行くから染みもそこで抜こう」

サシャ「そうですね、次からは何か考えないといけませんね」

ユミル「次もやる気かよ? まあ、しっかり本を読んでからやれよ?」

アルミン「うん、そうだね。もっときちんと正しいやり方を覚えてからやるね」

クリスタ「その時は私も呼んでね? 私にも出来るようだったらお手伝いしたいから」

アルミン「ありがとう、そうさせてもらうね」

 そうじゃねえんだけどよ、と額に手を当てやれやれと言った様子でユミルは呟いた。


サシャ「お風呂に行くのは良いんですけど、濡れた下着の上に寝巻きは着たくないですよね」

アルミン「そうだね、私もホットパンツ汗でベチャベチャだよ。下着も透けちゃってるし」

 かといって裸で大浴場まで行く訳にもいかない。
 寮から大浴場までは、一回外を歩かないといけないからだ。
 新しい服を出すのも無駄になるから嫌だし、どうしよう。

 一つの妙案が浮かんだ。

アルミン「そうだ、このシーツを身体に巻いていけば良いんじゃない? 洗濯もしなきゃだし」

サシャ「おお、流石ですねぇ! それじゃ私は代えの下着を取ってきます」

 言うが早いか、サシャはもう隣の自分の部屋へと行ってしまった。

ユミル「あのハゲ教官に見つかっても知らねえぞ? 最悪剥かれちまうかもな」

クリスタ「そうだよ、男の子も居るかもしれないんだから」

 二人は心配をしてくれているようだった。
 でも寮から大浴場まで大した距離じゃないし大丈夫だろう。
 その事を二人に伝えようとすると――。

サシャ「大丈夫ですよ! もし見つかったら逃げちゃいます!」

 開け放たれたままの入り口に立ち、代えの下着を握り締めながら、サシャは言った。


アルミン「あ、もう戻ってきた。それじゃあ行こうか」

 私のベッドとミカサのベッドからシーツを取り、胸から巻く。サシャも同様に巻いていた。

ユミル「ぶっ、ははは! こりゃまたセクシーだな、おい!」

 ユミルが愉快そうに笑っていた。
 サシャの背丈だとちょうど胸上から膝下位が隠れていたけど、私だと少し背が足りないらしく、引きずる事になりそうだった。

アルミン「ちょっと持ち上げていかないとダメかも」

サシャ「あちゃー、仕方ないですね。それじゃ行きましょうか」

 着替えを片手に持ち、もう片手でシーツをたくし上げる。
 これは、思ったより大変かも。

クリスタ「二人とも、本当に気をつけてね?」

アルミン「うん、ありがとう。それじゃまた明日ね」

サシャ「それでは行ってきますね」

ユミル「ああ、面白い話を期待しているぞ」

 二人に見送られ私達は廊下を歩き出した。


サシャ「誰にも会わないと良いですね」

アルミン「そうだね、この格好でも充分恥ずかしいもんね」

 サシャと肩を並べて廊下を歩いていると、寮の入り口から入ってくるミカサが見えた。
 ミカサのベッドのシーツも汚してしまったから説明をしないと。

アルミン「あ、ミカサー。ちょうど良かった」

ミカサ「あ、アルミン!? その格好は!? サシャも!?」

 まあ、私達の姿を見れば驚くだろう。
 ちょうど良いから説明をしてしまおう。

アルミン「あのね、ちょっとサシャとベッドを使ってたらシーツを汚しちゃって。これを洗いに行くところなんだ」

ミカサ「そ、そう。そんなに激しく……」

アルミン「うん、ちょっと夢中になっちゃって。私の悪い癖だよね」

サシャ「私はとっても気持ち良かったので全然構いませんけどね」

 驚いたように目を見開きながら、ミカサは笑顔で話すサシャを見ていた。


アルミン「えへへ、褒められると嬉しいなぁ。今度ミカサにもやってあげるね?」

ミカサ「わ、私に!? い、いえ、大丈夫。私はそういうのは別に……」

アルミン「遠慮なんかしなくて良いよ、ミカサにはいつもお世話になっているもん」

サシャ「それにミカサも溜まっているでしょうしね。かなり身体が軽くなりますよ?」

 ミカサは深く考え込んでから答えた。

ミカサ「そう、アルミンがそれを望むなら、私も覚悟を決めよう」

アルミン「あはは、痛くはしないから安心してよ」

アルミン「あ、そうだ。ベッドのシーツの代えをお風呂から上がったら持っていくからちょっと待っててね」

ミカサ「だ、大丈夫。私がやっておく。二人はゆっくりすると良い」

アルミン「ありがとう、ミカサ。今度たっぷりお礼するからね」

ミカサ「お、お手柔らかに……」

 うつむいてしまったミカサに別れを告げ私達は大浴場へ向かう。


サシャ「ひゃあ、この格好だと外は寒いですねー」

アルミン「うん、汗もたっぷりかいちゃったからね」

 肩もだいぶ露出されているため、五月の夜の風が容赦なく体温を奪っていく、。

アルミン「早くお風呂に浸からないと、風邪をひいちゃいそうだね」

サシャ「そうですね、急ぎましょう」

 サシャは駆け足で行ってしまった。

アルミン「ああ、待ってよー」

 シーツの裾を踏んでしまわないように気をつけてサシャの後を追った。


サシャ「アルミーン、遅いですよー。まだですかー」

 遠くでサシャが待っていてくれたようだ。

アルミン「待って、今行くよ」

 待たせるのも悪いので、走る足を早める。

アルミン「サシャ、お待た――」

ライナー「おい、お前ら何つー格好でいるんだ!?」

ベルトルト「どうしたんだい!?」

 大浴場からの帰り道を歩くライナーとベルトルトと出会ってしまった。


サシャ「あ、あははー、二人ともこんばんは。そしてさようならー」

 サシャは二人に手を――手に持つ下着を――振りながら後ずさり、私の腕を掴む。

サシャ「行きますよ! アルミン!」

 裾を持ち上げていた方の手を掴み、サシャは走り出す。

アルミン「あ、待って。引きずっちゃってるから、あっ!?」

 世界がゆっくりと動いているように見えた。
 私に踏まれたシーツは、胸元から頼りなくはだけ落ちる。
 転びそうになり、何かを掴もうと手を伸ばし、反射的にサシャのシーツを掴む。

 よろけたけど転ばずにすんだ私の目には、下着だけのサシャがその豊満な胸をさらけ出す姿だった。
 私も下着の透けたホットパンツ姿で、貧相な胸を二人へと向けている。

 何かが胸いっぱいに溜まり、吐き出されるのをまだかまだかと待っていた。


脱字訂正
×よろけたけど転ばずにすんだ私の目には
○よろけたけど転ばずにすんだ私の目に映ったのは




アルミン「い、いやああああ!!」

サシャ「ぎゃああああ!!」

 胸を手で隠してその場に座り込んでしまう。
 サシャは咄嗟にシーツを拾い上げ、それで身体の前を隠していた。

アルミン「見ないでええ!」

サシャ「早よあっち行けやあああ!!」

 私達がいくら叫ぼうとも男二人は動く気配すら見えなかった。

ライナー「……責任とろ」

ベルトルト「……ああ」


 叫び続ける私とサシャの間を一陣の風が吹いた。
 風かと思ったのはミカサだった。

 ミカサはボーっと立っているライナーの顎を正確に蹴り抜き、その回転を利用してベルトルトの鳩尾へと拳をめり込ました。

ライナー「うっ……ぐ……」

ベルトルト「……ひどい……」

 二人はその場に倒れこみ意識を失ったようだ。
 
ミカサ「……二人とも無事!?」

アルミン「ミカサァ……助かったよ……」

サシャ「うう、もうお嫁に行けません……」

 私達はミカサの護衛付きで大浴場まで辿り着くことが出来た。


書き溜めが終わったので今日の分は以上になります。

いつも乙と言ってくれる方々、とても有り難いです。
読んでくださる人がいるとわかるだけですごく嬉しいです。
読みやすい文章を心掛けているのですが、改行の仕方や変な日本語を多用してしまい申し訳ないです。
一行で何文字以内に改行した方が良いよとかありましたら是非教えて欲しいです。

それでは書き溜めが出来次第投下しますので、今日はこれでおやすみなさい。
雑文ですが読んでくださりありがとうございました。

全然投下できずにすみません。
書き溜めも少ないですが投下していきます。

ミカサ「帰り道も何かあるかもしれない。ので、私はここで待とう」

 脱衣所でミカサが提案してくれたので、私達は感謝の意を伝えて大浴場へと入っていった。
 中には誰も居らず私とサシャの貸しきり状態だった。
 それもそうだ、もうすぐ就寝時間の鐘が鳴る頃だろう。

 冷えた身体に軽くお湯をかける。
 温かい。やっぱりお風呂って良いな。
 しっかりと汗とオイルを身体から洗い流し、二人並んで内湯に浸かった。

 隣でうな垂れているサシャを励まそうと声をかける。

アルミン「サシャ、さっきの事は気にしても仕方ないよ。早く済ませちゃおう?」

サシャ「明日あの二人に会ったらどんな顔をすればいいんでしょうね……」

アルミン「だから気にしても仕方ないってば。見られちゃったんだから開き直るしかないよ」

サシャ「開き直れません……」

 だいぶ重症だ。確かに二人の目は私よりもサシャの大きな胸に注がれていた。
 私はあまり見られていないからこんな事言えるのかな。
 良かったのか、悔しいのか。
 なんとも言えない複雑な気持ちになってしまう。


アルミン「うーん、まあ明日あの二人に会ったら軽く謝ろうね」

 私達のせいでミカサに暴力を振るわれてしまったのは揺ぎ無い事実だ。
 お風呂上りなのに土に寝転がされて、尚且つ寒空の下放置されているのだ。
 具合が悪くなってしまうかもしれないけど、あの状況では何も出来なかった。

サシャ「まあ、そうですね……。あの二人に罪は無いですもんね」

アルミン「そうだね、少し可愛そうなことをしちゃったよね」

サシャ「でも、私達の裸を見たんだからしょうがないですよね」

アルミン「うん、そうだよ。しょうがないよ」

 ですよねー、とサシャの顔に笑顔が戻った。
 良かった、なんとか元気になってくれて。

アルミン「ミカサを待たせちゃってるし洗い物終わらせちゃおっか」

サシャ「オイルの染み残らないと良いですねー」

 お湯に浸けておいたおかげで染みは意外と残らなかった。
 それでも結構手間取ってしまい、身体がまた冷えてしまったので上がる前に軽く浴槽に浸かる事にした。

サシャ「ふー、生き返りますねー。アルミンのおかげで身体の調子も良い感じです」

アルミン「そんなにすぐ効果でるものなんだ、それなら毎日続けたいね」

サシャ「でも毎回シーツ洗うのは嫌ですよね。身体も洗わないとですし」

アルミン「そっか、それが唯一の欠点だね。どうしようかなぁ」

 お風呂に浸かった後にやると効果的だけど、またお風呂に入らないといけない。
 女子寮からここまでに身体が冷えてしまう、それならいっその事――。

サシャ「そういえばアルミンにやってあげられませんでしたね」

 お風呂でやってしまえば良いのでは? それなら身体が冷える事も無い。
 いや、だけどここにはベッドが無い。冷えた硬い床じゃ逆に身体を――。

サシャ「最後の足のやつ、すっごく気持ち良かったですよ。あれやってあげたいなー」

 痛めてしまうかもしれない。それに敷くための布という洗い物が出来てしまう。
 服を着なくて良いので、それは良い点か。必要なのは――。

サシャ「今ちょっとだけやってあげましょう! きっとアルミンも気に入りますよ」

アルミン「え? ちょ、なに!? きゃっ!」

 気付いたら背後から持ち上げられ、サシャの足の上へと座らされていた。


サシャ「アルミンはやっぱり軽いですねー。それになんだか良い匂いしますね」

アルミン「きゃあ! ちょっとサシャ! 急にどうしちゃったの!?」

 首筋を鼻でスンスンされ、くすぐったくて身をよじる。

サシャ「え? だからアルミンにもマッサージしてあげるんですよ」

 サシャの両手が、私の脇の下からにゅっと生えて、身体の前部分を撫で回す。
 こんな感じでしたよね、とお腹から首まで撫でくり回される。

アルミン「今やらなくても良いでしょ!? ってどこ触ってるの!」

サシャ「いやー、さっきの感触が忘れられなくて」

 サシャの両手が私の無い胸を揉んでいた。


サシャ「はぁ、このプニプニたまりませんね……」

アルミン「サシャだってプニプニの頃あったでしょ! 自分ので満足してよ!」

サシャ「いやー、私はまったくの無い状態から、朝起きたらこうなってましたから」

アルミン「絶対嘘だよ!!」

サシャ「へへへ、どうでしょうね」

 そんな事あってたまるか。そんな事例は人類史上一つも――。

アルミン「んっ! はぁ……。ちょ、ちょっと!!」

 サシャの人差し指と中指が、私の乳首をグイグイと押し込んでいた。
 背中にぞわぞわしたものが走る。

サシャ「アルミンは乳首も小さいですねー、可愛いです」

アルミン「だから小さいとか言うな!!」


 暫くサシャに胸を弄ばれた。
 胸全体をむにむにしたかと思いきや、いきなり乳首をつままれたりする。
 その度に変な声が出そうになり、抑えるのに必死だった。

 身をよじり逃げ出そうとするも、がっちりとお腹と胸に腕を回され固定されてしまう。

サシャ「逃がしませんよー。そうだ、足のやつやってあげますね」

 お腹に回していた手を、私の太ももの間へ滑らせていく。

アルミン「ちょっと、サシャ! もういい加減に、あっ!」

 太ももの間にあるサシャの手が奥へと潜り込んだ時、私の脳に痺れるような感覚が広がる。

サシャ「ここのラインに沿ってやってましたよね? ここ気持ち良かったんですよー」

 股ぐらへと沈めた手を、下着を穿いていたら在ったであろうラインに沿わせて――だいぶ内側だけど――滑らせてくる。

アルミン「だ、だめっ、これ、あっ、だめだよ……。あぁっ!」

 

 私の脳の痺れは背中を伝わり腰へと到達していた。
 サシャの潜り込ませた手が、私の大事な所へ触れる度に痺れるような感覚は増していった。
 浮きそうになる腰をサシャがしっかりと片手で押さえ、もう一方の手は私の股間へと滑らせた。

アルミン「あっ……なにこれっ……だっ、だめ! サシャ! も、うっ、あん!」

サシャ「おっほほー、可愛い声出しますねー。そんなに気持ち良いですか?」

 サシャの手の動きは激しさを増し、気付くとその動きに合わせて勝手に腰が動いてしまっていた。
 いつしか痺れは快感に変わり、更にその快感を求めようと、サシャの動く手に自分の秘部を押し付ける。
 
アルミン「あっ……あっ……あぁっ! んんぅ!」

 快感の波は下腹部から全身へ広がり、私の脳は快感を求める事だけに集中していく。

アルミン「もっと……! もっと内側こすって! お願い……んんっ!」

サシャ「こ、こうですか? アルミン大丈夫です? なんか様子おかしいですけど……」

 変に思われたら途中で止められてしまう。
 なんとかサシャに続けてもらわないと。

アルミン「サ、サシャがっ……上手だから……あっ! これ、気持ちいぃ……!」
 
 サシャの腕を両手で掴み、私の誰にも触れさせた事の無い場所へと導く。
 より密着した形となり、私の秘部から大波となった快感が押し寄せてくる。
 身体が勝手にビクンと震え、サシャの腕を持つ手に力が入る。

アルミン「あ、なんかっ、きちゃうかも! な、なんなのっ、これっ! んんんっ!!」

 どこかに飛んで行きそうになる感覚に、身体を縮めるようにサシャの腕をギュウっと抱き締める。
 いつしか大波は津波となり全身を駆け巡っていた。

アルミン「あぁ! だめっ! もうだめ!! あっ、ああぁぁ!!」

 その波が脳に到達した時、身体が大きく震え思い切り背中を仰け反らせていた。

 
サシャ「ふぎゃっ!」 



 快感の波に呑まれた意識は深い穴へと落ちていき、身体が脱力しきっている。

アルミン「……はぁ……はぁ……」

 脳内に白い靄が掛かり、思考が拡散していく。
 背中をサシャに預けて寄りかかると、肩に落ちてくる水滴に敏感に反応してしまう。

アルミン「あっ……なんか、すごく敏感に、あっ……なってるみたい……んっ」

 サシャから滴り落ちる水滴は、私の身体を定期的に跳ねさせる。
 動きを止め沈黙してしまったサシャを不思議に思い顔を上げると、両鼻から血を垂らして白目を剥いているサシャの姿があった。

アルミン「サシャ!? え!? ちょっとサシャ!! 大丈夫!?」

 慌てて飛び起きて肩を揺らすも、まったくの無反応だった。
 揺すったせいかサシャは横向きにゆっくりと倒れていき湯に沈んでいった。

アルミン「きゃあ!! サシャ!!」

 沈んだサシャの頭を抱え上げて必死に呼びかける。
 それでも意識は戻らず、顔の下半分が血で真赤に染まろうとしていた。

ミカサ「アルミン! 何があったの!?」

 脱衣所で待機してくれていたミカサが、浴場の入り口からこっちへ走りよって来る。

アルミン「わからない! 急に血を流して意識を失っちゃったんだ!」

ミカサ「そう、今は一刻も早くお湯から上げよう。止血もしなければ」


 ミカサの手を借りてサシャを脱衣所まで運び込み、ちり紙で応急処置をした。
 長椅子に寝かせたサシャは死んだように動かなく不安を覚える。
 とりあえず鼻からの出血は良いとして、未だに目を覚まさないサシャをどうするか私達は話し合った。

ミカサ「医務室に連れて行った方が良いと思う」

アルミン「うん、そうだね。何か意識に障害が起きちゃったのかもしれない……」

ミカサ「それじゃあ私はサシャに服を着せるから、アルミンも着替えると良い」

アルミン「あ、うん。すぐ着替えるから私も手伝うよ」

 びしょ濡れのサシャをミカサが拭いている間に自分の着替えを終わらせ、サシャの着替えの手伝いをする。
 ミカサが持ち上げて私が服を着せていく。
 その間もサシャの意識が戻る事は無かった。


少ないですが書き溜めは以上です。
また来週まで書き溜めてから投下します。
次は多く投下できるように頑張ります。
それではおやすみなさい。

書き溜め分少ないですけど投下します。

 なんとかサシャの着替えを終わらせた私達は、医務室へと急いだ。
 物みたいにサシャを肩に担ぐと、何も持っていない私よりも速くミカサは走っていった。

 ちょうど教官棟に付いた頃、就寝の鐘が鳴り響いた。
 どうやら教官は就寝の鐘を合図に見回りを始めるらしく、またしても入り口で私たちと鉢合わせになった。

キース「む……? いや、わからんな。まあ、ついて来い」

 サシャを担ぎ息を切らしているミカサと、その後ろに立つ私を交互に見やると、教官は中への扉を開けてくれた。
 


 しんと静まり返った医務室は消毒液の匂いが充満し、どこか非日常感を湧かせた。
 六床ある整えられたベッドの一つにサシャは寝かせられていた。

キース「のぼせたかしたのだろうが、万が一があるかもしれん」

キース「今日はこのままここで預かろう。明日の朝には回復しているだろう」

 未だに意識が戻らないサシャはスヤスヤと寝息を掻いているように見えた。
 気を失ってそのまま眠ってしまったのだろうか。
 ベッド脇に私と並んで立っていたミカサも心配そうにサシャを見つめていた。
 
ミカサ「教官、私もここで寝る事は可能でしょうか」

キース「何故だ? アッカーマン、訳を言ってみろ」

 ミカサが良くわからない提案をしていた。
 それだけサシャが心配なのだろうか。
 教官棟には医務官もいる事だし任せても良いのではないか。

 ミカサの答えを聞いて、私はそう考えた自分が少し恥ずかしくなる。



ミカサ「もし夜中にサシャが目覚めてしまったら混乱する、かと思いまして」

ミカサ「ので、私がすぐに状況を説明できるようにした方が良い、と思います」

 ミカサなりにサシャを心配しての事だろう。
 私だって気が付いていきなり見知らぬベッドの上だったら混乱してしまう。
 それに夜中の医務室で周りに誰もいないとなったら恐怖すら覚える。

キース「うむ。本来ならば健康な者をここで寝かす訳にはいかないが特別に許可しよう」

ミカサ「はい、ありがとうございます」

 それはミカサじゃなくて私の役目だ。
 私と一緒にお風呂に入っていてサシャは意識を失った。
 今晩だけでどれだけミカサに助けられたかわからない。
 これ以上ミカサに迷惑はかけられない。

アルミン「だったら私が残って――」

ミカサ「だめ」

アルミン「え?」

 私が喋り終える前にミカサにきっぱりと却下され、思わず変な声が出てしまった。


ミカサ「私がここで寝る。それが変わる事は絶対に無い」

アルミン「そんな、なんでなの? 理由を聞かせてよ」

ミカサ「アルミン、わかって。貴女は部屋に帰らなければいけない」

アルミン「わからないよ、それにサシャの責任は私にあるよ」

ミカサ「わかってちょうだい、アルミン。良い子だから帰りなさい」

 ミカサは急にどうしちゃったんだろう。
 これ以上押し問答をしてもミカサが折れる事はないだろう。

 仕方ないので私が折れて、サシャはミカサに任せる事にした。

アルミン「うん、じゃあ帰るけど。サシャの事宜しくね」

ミカサ「任せて。アルミン、気をつけて」

キース「もう良いか? ではアルレルトは見回りついでに送っていこう」

ミカサ「……! 私も行きます」

キース「何故だ? 貴様はブラウスの付き添いだろう」

ミカサ「ですが……」

 食い下がるミカサを教官は怖い目で見ていた。

キース「いい加減にしろ、アッカーマン。この場所での貴様の存在は何だ? 答えてみろ」

ミカサ「……訓練兵であります」

キース「そうだ。いくら訓練兵とは言え貴様も兵士の一員だ。ならば上官の言う事には従え」

ミカサ「……はっ。失礼しました」

キース「うむ。では行くとしよう」

 教官は私の肩に手を軽く乗せると、医務室の出口へと歩いていった。
 沈み込んでしまったようなミカサに顔を向けると目が合った。
 交差するミカサとの視線から『気をつけて』という意思が伝わってきた。
 心配ない、と言うように力強く頷く。

アルミン「それじゃあサシャの事はお願いするね。おやすみ、ミカサ」

ミカサ「任せて。おやすみなさい、アルミン。あと……」

 聞き取れるかどうかの小声で『ハゲに注意して』とミカサが言った。


 医務室から出ると廊下の先に、出口の扉を開けて待っている教官の姿が見えた。
 待たせてしまっては申し訳ないので小走りで向かった。

アルミン「お待たせしてすみません」 

キース「なに、構わんさ。男を待たせるのが女ってやつだからな」

 私の事を女として見ているというアピールだろうか。
 やはりミカサの言う事はいつも正しい。
 そうか、サシャを一人にしなかったのも教官から守る為だったんだ。
 私じゃ力が無いから二人まとめて教官の魔手に掛かるところだった。
 
キース「では行くとしよう。見回りは女子寮から開始するか」

 いつもの見回りのルートを変更して送ってくれるようだ。
 ランタンに火を点け歩き出した教官の後に続いて私は歩く。
 


キース「貴様は本を良く読むそうだな」

 女子寮への道中、教官はふと思い出したかのようにたずねて来た。

アルミン「そうですね。人よりは読む量は多いかと思います」

キース「そうか……」

 教官は空を仰いで何かを考えているようだった。
 なんだろう。本の読みすぎで体力が無いとか言われるのだろうか。

キース「今まで読んだ本の中に空に関する物はあったか?」

アルミン「空ですか? えーと、あったような気もしますが詳しくは書かれていませんでした」

キース「そうか、ならば夜空や星や月などは無いか?」

アルミン「すみません、ありませんでした」

 何が聞きたいのだろう。
 質問の意図を測りかねている私に教官は続けて言う。


キース「ここら辺で良いだろう」

 星明りが木々の葉で覆われてしまい、ここまでの道中はランタンの灯りだけが頼りだった。
 少しでも教官から離れてしまうとランタンの灯りが届かず、地面から飛び出した木の根に足を取られてしまい、仕方なくすぐ近くを歩いた。
 ようやく辿り着いたここは、開けた空間に大きな岩が一つ転がっていた。

 教官は岩へ登ると私に近くへ来るように言った。
 言われるままに岩を登り教官の横に立つ。
 何をするというのだろう。
 このまま襲われたらランタンを奪って走って逃げよう。
 獲物を確認する為に教官の手に持つランタンを見つめていた。

キース「よし、ちょうど良い事に今日は新月だ」

 教官はランタンを顔の位置まで上げ、ガラス蓋を開き火を吹き消した。
 辺りが漆黒に染まり慌ててしまう。
 ついに何かされるのか。
 身構えている私に一向に魔の手は伸びてこなかった。

キース「本の受け売りだが昔の人々は星と星をなぞり絵を描いていたそうだ」

 星明りに照らされた教官が満天の星空を仰いだまま言った。

キース「む? 両手を突き出してどうしたのだ?」

 振り向いて私の構えを見た教官は少し怪訝な声で言った。

アルミン「い、いえ。なにか虫が飛んでいたような気がしたもので……」

キース「ふむ、そうか……」

 我ながら苦しい言い訳だった。
 本人に『貴方に襲われるかと思ったからです』なんて言えない。


キース「私は夜空が好きでな。良く自分の部屋から本を片手に見上げている」

 周りの明かりを消すと良く見えて良い、と教官はニヤリと笑った。
 一度大浴場から見えた教官棟の窓の影は、星を見ていたと言う事なのだろうか。

キース「わかるか? あれが天秤の形であれがコップだそうだ」

 夜空を指で絵を描くように動かしながら説明をしてくれていた。
 少し興味が湧いたので、教官のなぞる指が何を指しているのかわかりやすい位置まで近づく。

キース「あれだ、あそこからあの少し大きい星に繋がってあっちに行くと天秤だ。わかるか?」

アルミン「……いえ、すみません。星が多すぎてどれの事だか……」

 申し訳なさそうに謝ってしまった私に教官は優しく肩に手を置いて言った。

キース「なに、気にするな。私も最初は本を片手に見なければわからなかったからな」

 ニヤリと片方の口の端を上げて教官は笑った。

キース「そんな事より貴様、少し震えているな。そういえば風呂上りだったか」

 言われてみれば少し肌寒い。寝巻きの格好だと足や腕が露出してしまってすっかり冷えていた。

キース「風邪を引いてしまうといかんな。これを着ろ」

 着ていたロングコートを脱ぎ私へと羽織らせてくれた。
 所々で出る紳士的な教官は大人な男性な感じで少しだけ格好良かった。
 こうやって少しづつ陥落していこうとしているのだろうか。
 教官の優しさを素直に受け入れられず、少しだけ罪悪感を覚える。


 教官のロングコートは私の足首まですっぽりと覆った。
 おかげで露出した手足に当たる風を防ぐ事が出来た。
 やはり教官には素直に感謝をしよう。

アルミン「ありがとうございます。とても暖かいです……」

キース「うむ。それよりもまずはわかりやすい星から見ていくか」

 教官は夜空へと視線を戻すと一つの星を指差した。

キース「あそこで他よりも一際白く輝いているのがスピカと言う名の星だ」

 教官の指を辿っていくと確かにあった。

キース「わかったか? そこからこちらに行くと少しオレンジ色のがあるだろう。アルクトゥルスだ。」

 教官の言っている星を見つけると少し嬉しくなった。
 たくさんの星の中から一つだけ見つけるのは宝探しみたいで面白い。

キース「わかったな? その二つと三角で結ばれているのがあれだ。二つと比べて少し輝きが少ないだろう」

 教官はその星の名をデネボラと教えてくれた。
 本の中身を全て記憶しているのだろうか?
 愛読していると言っていたけど、いつから読んでいるのだろう。
 星を見上げながら考えていると教官が続けた。

キース「この三つを結んだ三角形を昔の人は春の大三角と呼んだそうだ」

キース「ちなみにこの三つの星もそれぞれ獅子、乙女、牛飼いの絵の一部だ」

アルミン「へえ。昔の人々は想像力豊かなロマンチストが多かったんですね。私には大三角しかわかりませんでした」

 私の意見を聞くと教官は、私もだ、とあの笑顔を作って言った。

キース「すっかり遅くなってしまったな。これ以上は流石の貴様でも座学に影響が出るだろう」

 座学担当教官に小言を言われてしまうな、と教官はニヤリと笑った。
 あの顔は冗談を言う時に出る顔のようだ。

 教官が再びランタンに火を点すと私達は山を下りた。
 来る時の不安な気持ちはすっかり無くなっていた。


一週間かけてこれだけしかなくてすみません。
来週には多忙な時期が終わると思います。

また来週の日曜日位に投下します。
ありがとうございました。
おやすみなさい。

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