池袋晶葉「誕生日デート」 (10)


ピピピ……ピピピ……。

極めて電子的なアラームで目が覚める。いや、目は覚めているが意識は完全に覚醒はしていない。

いつもより朝が早いのもある。今日はPと出かける予定があるからな。

それ以上に昨晩の発明が捗りすぎてしまった事が原因かもしれない。きりのいいところまで進めてたらいい時間になっていた。

あー、眠いぞ。もう少しだけ寝ていたって変わらないだろ。少しばかりの二度寝を決めたときだった。


「うひゃあ!」


顔に目掛けて水が飛んできた。驚いてそちらの方向に目を向けると水鉄砲を構えたロボが一体。二度寝防止用ロボ『眠らせない君3号』だった。

誰だ、こんなロボを作ったのは! ……私だった。どうしてこんなものを……。いや、二度寝防止に対しては確かな効力を発揮しているけどな。


「うひゃあ!!」


考え込んでいると二射目が飛んできた。しかし、素晴らしい命中精度だな。さすが私だ。

起きる、起きればいいのだろ。三射目を今か今かと待ち構えている眠らせない君3号の電源を切りベッドから降りる。


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カーテンを勢いよく開けると眩しすぎる太陽が私の目に飛び込む。今日もいい天気だ、暑くなりそうだな。太陽も私のことを祝福してくれているのか。

今日は6月10日。私の誕生日で、私が我がままを言ってもいい日だった。

朝ごはんを食べて準備を終わらすとインターホンのチャイムが鳴った。お、来たか。


「おはよう、準備はできてるな」

「おはよう。ふむ……本当に迎えに来てくれるとは驚きだ、P。いや、問題ない。こういうのも悪くないものだな。では、行こう」

「その前にだな。晶葉、誕生日おめでとう!」

「ああ、ありがとう」


私達の目的地は秋葉原だった。

今やサブカルチャーの聖地ともなったこの街、しかし一本メインストリートから外れればまだまだ電気街だ。私にとっては宝箱のような街だ。

今日は資材調達に来たのだ!昨今ネットでもパーツは買えるがやっぱり自分の目で見ることも大切にしたい。


「やっぱりまずはここだな!電子部品はこの二店で事足りることも多い」


皆さんご存知の秋月電子と千石電商! 昔からの電子工作を嗜む人の社交場だ。今日も皿を持った人たちで溢れかえっている。


「そういえば秋月電子を応援しているアイドルもいたな」

「なにっ! そんな素晴らしいアイドルもいたのか」

「お向いさんの……眼鏡をかけてて……」

「ああ、名前繋がりか」


それならば私も千石電商の非公式応援アイドルに……。改めてPにお願いしてみるか。

そんなことを考えている横でPが子供のような目付きでパーツを見ている。


「なんか晶葉に付き合っていたら俺も興味湧いてきたな」

「なんと! ならばこの後はaitendoに行くぞ。電子パーツの他にキットも豊富で初心者のPでも楽しめるはずだ!」


ふっふっふっ! Pもこの魅力がわかってきたな。先輩として沼に落としてやろう。

それからPと色々なところを回った。キットも買ったし、ジャンク品はまさに宝の山だった。


「いやー、満足した。いつもは自分一人だから買う量も抑えなければならないが男手があるとやっぱりちがうな」

「満足いただけたなら幸いだよ。俺もついてきてよかった」

「ふむ、一通りまわったしこれからどうするか?」

「それなら、一足先に夏を体験しないか?」


Pが指差した先にあるのはリアル脱出ゲームと呼ばれるものだった。名前の通り脱出ゲームをそのままリアルの世界に再現したものだ。

私としてもこの天才的な頭脳を活かせる機会は悪くない。しかし、名前が……。少し遠慮したいような……。


「お化け屋敷からの脱出だってよ。肝試し気分でやってみようぜ」

「いや……、私は……遠慮しとこうかな」

「なんだよ、晶葉はお化けとかダメなのか?」

「実際の肝試しは怖くない。なぜならお化けは存在しないからな。しかし、お化け屋敷は別なのだ! 確実に怖がらせてくるじゃないか!」

「そりゃお化け屋敷だからな。なんだよ晶葉、ビビってるのか?」


挑発するようなPの表情。なにおう、そこまで喧嘩売られたら買ってやろうじゃないか!



「よし、P! この天才が最速の脱出を見せてやる!」

「いいねぇ、それでこそ天才ロボ少女池袋晶葉だ!」


早速中に入った私は後悔をした。たかが秋葉原のさほど大きくない店、それほど大掛かりなものでもないとたかをくくっていた。

しかし、私たちを待ち受けるは巨大遊園地さながらのお化け屋敷。しかも謎を解かなければならないから逃げも隠れも出来ない。


「素晴らしい出来映えだ。だが……いささか本格的過ぎるのではないか? 今日は資材調達だけだったはずでは……ヒェッ!?」

「お、おいおい。そんなんじゃ一生掛かっても脱出出来ないぜ……」

「Pだって声が震えてるじゃないか……。それに時間制限だってあるから時期に抜けられる」

「本当にそんなんでいいのか?」


二人してビビりながら、お互いに煽りながら気持ちを落ち着けてなんとか時間制限ギリギリに脱出出来た……。次やるなら怖くないのにしたい……。



日が長くなって来たとは言え、流石に遅い時間になると暗くなってきたな。しかし、電気街らしくそこらじゅうがピカピカとLEDでお化粧をしている。

その中でも一段と目を引くあれはなんだろうか。もう少し近づいて見てみよう。

「一体何個の電球を使っているのか。それにあの装置! ……ひらめいたぞ! P、早速明日から作業に取り掛かろう!」

「お、流石晶葉だ。なにをひらめいたんだ?」

「それは後のお楽しみだ!」


いやはや、資材調達だけのつもりだったが今日は充実した一日だった。

Pに私のラボまで荷物を持ってきてもらうといよいよお別れだ。そうは言っても明日には事務所で会うのだけどな。


「P、付き合ってくれたありがとう。今日は楽しかったぞ!」

「俺も色々と楽しかったよ。お化け屋敷で涙目の晶葉も見れたしな」

「泣いてなどいない! あれは……、液漏れだ!」

「それは不味いんじゃないのか? それと、改めて誕生日おめでとう!」

「うん! ねえ、P。来年もまたこうして祝ってくれる?」

「当たり前だ!」


Pは大きな手で私の頭を乱暴に撫でた。天才の頭だぞ! もう少し丁寧に扱って欲しいものだ。

しかし、こういうのも悪くない。もう少しだけ身を委ねてみるか。

また来年、来年も一緒に我がままを言わせてもらおうか。

以上で短いけれど終わりです。

誕生日コメントを見て大急ぎで書きました。全部盛り込みました。

晶葉、今年も誕生日おめでとう!

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